2025年3月23日 (日)

第510回:閣議決定された人工知能(AI)法案

 先月2月14日に「人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律案」(AI法案)が閣議決定され、国会に提出されている。

 この法案は知財とは直接関係するものではないが、今後の日本におけるAI関連政策検討に関して一定の意味を持つものと思うので、ここで取り上げておく。

 その概要としては、内閣府の国会提出法案ページ概要(pdf)に書かれている通り、総理大臣及び国務大臣を構成員とするAI戦略本部を設置し、AI基本計画を作り、国がAIに関する情報収集や情報提供などを行うというものである。

 法律案(pdf)要綱(pdf)も参照)から、特にポイントとなる部分を見て行くと、まず、第2条に人工知能の定義が以下の様に書かれている。

(定義)
第二条 この法律において、「人工知能関連技術」とは、人工的な方法により人間の認知、推論及び判断に係る知的な能力を代替する機能を実現するために必要な技術並びに入力された情報を当該技術を利用して処理し、その結果を出力する機能を実現するための情報処理システムに関する技術をいう。

 ここで、この定義について政府内でどの様な検討が行われたのかは不明だが、「人工知能関連技術」とは、「人工的な方法により人間の認知、推論及び判断に係る知的な能力を代替する機能を実現するために必要な技術」等とされている。この定義はほぼトートロジーと言えなくもないが、「人間の認知、推論及び判断に係る知的な能力を代替する」と、あたかもAIが人間の高度な知的能力を代替するものであるかの様な書き方がされた事には全く首肯できない。

 私は、現時点でAIが人間の知的能力を有すると思わせる様な定義をする事は踏み込み過ぎであろうと、パブコメで書いた意見の通り(第506回の追記参照)、「大量の計算リソースを使う機械学習を用いたものであって利用者側の簡単な指示の入力によって対応する情報の出力が可能なシステム又はサービス」といった、より限定的で人工知能の知的な能力について言及しない形の方が良いとなお思っているが、長期的に大きな意味を持つであろうこの法律上のAI技術の定義について再検討されそうにないと思われるのは非常に残念である。

 この点で、欧州連合(EU)のAI法の第3条第1項でも、

'AI system' means a machine-based system that is designed to operate with varying levels of autonomy and that may exhibit adaptiveness after deployment, and that, for explicit or implicit objectives, infers, from the input it receives, how to generate outputs such as predictions, content, recommendations, or decisions that can influence physical or virtual environments;

「AIシステム」とは、様々な自動化のレベルで動作するよう設計され、配置により適応性を示す事が可能であって、明示の又は暗黙の目的のために、それが受けた入力から、物理的な又は仮想の環境に影響を与え得る、予想、コンテンツ、提案、決定の様な出力をどの様に生成するかを推定する機械に基づくシステムを意味する。

と、比較的細かく、かつ、AIとはあくまで環境に影響を与え得る出力を入力から生成する自動機械に過ぎない事を念頭に置いた定義がされているのである。(EUのAI法の欧州議会可決版については第481回、最終施行版については第500回参照。なお、実質的にはそれほど大きな変更ではないと思うが、第481回で訳出した欧州議会可決版から、配置による適応や入力がある事、出力としてのコンテンツの明記がされるなどの細かな修正が入っているので、最終施行版の定義をここで念のためもう一度訳出した。)

 次に、第3条に基本理念が以下の通り書かれている。

(基本理念)
第三条 人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進は、科学技術・イノベーション基本法第三条に定める科学技術・イノベーション創出の振興に関する方針及びデジタル社会形成基本法第二章に定める基本理念のほか、この条に定める基本理念に基づいて行うものとする。

 人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進は、人工知能関連技術が、その適正かつ効果的な活用によって行政事務及び民間の事業活動の著しい効率化及び高度化並びに新産業の創出をもたらすものとして経済社会の発展の基盤となる技術であるとともに、安全保障の観点からも重要な技術であることに鑑み、我が国において人工知能関連技術の研究開発を行う能力を保持するとともに、人工知能関連技術に関する産業の国際競争力を向上させることを旨として、行うものとする。

 人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進は、人工知能関連技術の基礎研究から国民生活及び経済活動における活用に至るまでの各段階の関係者による取組が相互に密接な関連を有することに鑑み、これらの取組を総合的かつ計画的に推進することを旨として、行うものとする。

 人工知能関連技術の研究開発及び活用は、不正な目的又は不適切な方法で行われた場合には、犯罪への利用、個人情報の漏えい、著作権の侵害その他の国民生活の平穏及び国民の権利利益が害される事態を助長するおそれがあることに鑑み、その適正な実施を図るため、人工知能関連技術の研究開発及び活用の過程の透明性の確保その他の必要な施策が講じられなければならない。

 人工知能関連技術の研究開発及び活用は、我が国及び国際社会の平和と発展に寄与するものとなるよう、国際的協調の下に推進することを旨とし、我が国が人工知能関連技術の研究開発及び活用に関する国際協力において主導的な役割を果たすよう努めるものとする。

 基本理念は、AIを技術としてその開発及び活用を推進して行くとともにそのリスクも考慮するという極当たり前の事が書かれていて、特筆すべき事がある訳ではないが、この第3条の第4項で、著作権の侵害を助長する恐れがある事が書かれているのは少し気をつけておいても良いかも知れない。これは著作権との関係についての懸念の声が強かったという事を反映したものかも知れないが、ここで言おうとしている事は、AIの学習のための著作物の利用だけでただちに著作権侵害になるといった様な事ではなく、AIの出力を利用する場合、既存の著作物に対して依拠性と類似性を満たせば著作権侵害となり得る事に注意が必要というこれまでの整理通りの事だろう。(日本の文化庁によるAIと著作権の関係の整理については第492回参照。)

 また、今の日本の現状から見てこの様な一般的な協力義務で十分だろうが、事業者と国民の責務については第7条と第8条で以下の様に書かれている。

(活用事業者の責務)
第七条 人工知能関連技術を活用した製品又はサービスの開発又は提供をしようとする者その他の人工知能関連技術を事業活動において活用しようとする者(以下「活用事業者」という。)は、基本理念にのっとり、自ら積極的な人工知能関連技術の活用により事業活動の効率化及び高度化並びに新産業の創出に努めるとともに、第四条の規定に基づき国が実施する施策及び第五条の規定に基づき地方公共団体が実施する施策に協力しなければならない。

(国民の責務)
第八条 国民は、基本理念にのっとり、人工知能関連技術に対する理解と関心を深めるとともに、第四条の規定に基づき国が実施する施策及び第五条の規定に基づき地方公共団体が実施する施策に協力するよう努めるものとする。

 国の基本的施策としては、他にも研究開発の推進に関する条項などもあるが、第16条で情報収集や調査研究に基づき、活用事業者等に指導や助言を行うとしている。

(調査研究等)
第十六条 国は、国内外の人工知能関連技術の研究開発及び活用の動向に関する情報の収集、不正な目的又は不適切な方法による人工知能関連技術の研究開発又は活用に伴って国民の権利利益の侵害が生じた事案の分析及びそれに基づく対策の検討その他の人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に資する調査及び研究を行い、その結果に基づいて、研究開発機関、活用事業者その他の者に対する指導、助言、情報の提供その他の必要な措置を講ずるものとする。

 そして、ここがこの法案の最大の眼目とされる所だろうが、第18条で以下の様に総理大臣及び国務大臣を構成員とするAI戦略本部(ここでは省略するがその設置は第19条以下で定められている)でAI基本計画を決定するとしている。

第十八条 政府は、基本理念にのっとり、前章に定める基本的施策を踏まえ、人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する基本的な計画(以下「人工知能基本計画」という。)を定めるものとする。

 人工知能基本計画は、次に掲げる事項について定めるものとする。
 人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する施策についての基本的な方針
 人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関し、政府が総合的かつ計画的に講ずべき施策
 前二号に掲げるもののほか、人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する施策を政府が総合的かつ計画的に推進するために必要な事項

 内閣総理大臣は、人工知能戦略本部の作成した人工知能基本計画の案について閣議の決定を求めるものとする。

 内閣総理大臣は、前項の閣議の決定があったときは、遅滞なく、人工知能基本計画を公表するものとする。

前二項の規定は、人工知能基本計画の変更について準用する。

 私自身は、パブコメで書いた意見の通り(第506回の追記参照)、役所内の部署の統廃合を考えるべきと今でも思っているが、法案に特にその様な事は盛り込まれていないので、やはり役所の焼け太りとなるだろう懸念は拭えない。基本理念にしても、ここの基本計画にしても、現時点で取り立てて問題とするべき規制色が出ているという事がないのは良いが、何にせよ、AIに関する全体的な国の施策という事では、引き続きこのAI戦略本部とその事務局の検討を注視して行く必要があるのだろう。ただし、まず間違いなく知財本部も存続すると思うので、知財との関係については引き続き知財本部で検討されるものと思っている。

 上で書いた通り、定義についてなど多少残念な所はあるが、取り立てて大きな問題があるというものではなく、このAI法案は与野党が対立する様な法案でもないので、昨今の情勢を見るにつけどうなるか良く分からかない所もあるが、国内の政治情勢がよほど大きく荒れる事がなければ国会をじきに通過すると予想している。

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2024年12月29日 (日)

第506回:2024年の終わりに(文化庁によるブルーレイ私的録音録画補償金額の決定、AI制度研究会中間とりまとめ案とそのパブコメ開始他)

 今年も最後に今まであまり取り上げて来なかった各省庁の動きについてまとめて書いておきたいと思う。

 といっても、最初に書いておくと、今年の選挙の結果を受けて政治情勢がなお流動的となっていることも影響しているのか、各知財法の改正に関して検討が大きく進んでいる様子はない。

 まず、文化庁の文化審議会・著作権分科会では、その下で、政策小委員会法制度に関するワーキングチーム使用料部会が開催され、DX時代における対価還元、海外における権利執行や生成AIに関することなどについて引き続き検討されているが、ここで、この年末にかけて、11月29日の第4回使用料部会、12月17日から20日の持ち回りによる第71回著作権分科会、12月25日文化庁HPで報道発表と、超スピードの非公開審議でブルーレイに関する私的録音録画補償金の額が決定されるという卑劣極まる事が行われた。

 ブルーレイを私的録音録画補償金の対象とする政令改正の閣議決定が2022年10月21日なので(第467回参照)、そこから約2年経っているが、その間、結局パブコメの全結果が公開される事はなく、全関係者が参加する公開の場での議論がされる事もなく、文化庁は、私的録音録画補償金問題に対し、今までの経緯について何ら反省する事なく、公平中立かつ透明であるべき行政としてあるまじき態度で極めて偏頗かつ横暴な決定を積み重ねて来た。

 この様なやり方で納得してブルーレイレコーダーとディスクに対する私的録音録画補償金を支払う者が只の一人もいるとは思えない。私の意見は、前回載せた知財計画パブコメの(2)a)でも簡単にまとめているが、私的録音録画補償金制度は歴史的役割を終えたものとして完全に廃止するべきというものである。前提となっていた旧来の形の私的録音録画自体もはや完全に時代遅れになっているのであって、今の状況を踏まえて本当に公正中立に政策判断をするなら、廃止以外の結論はあり得ないと私は考えている。

 次に、特許庁では、産業構造審議会・知的財産分科会の下で、特許制度小委員会意匠制度小委員会が開催されており、それぞれ、ネットワーク関連発明における国境を跨いだ発明の実施、仮想空間におけるデザイン、生成AIの意匠制度への影響などについて議論がされているが、法改正の詳細について方向性が出ているという事はまだない。

 ここで、11月22日に意匠法条約が採択されているが(特許庁のリリース参照)、12月6日の第16回意匠制度小委員会検討資料(pdf)では、この意匠法条約について次回報告予定とされている。

 なお、知的財産分科会では、経産省で不正競争防止小委員会も開かれている。今の所、不競法改正の検討がされているという事はないが、営業秘密管理指針の改訂について議論されている。

 また、今回何故年末に知財計画パブコメを取ったのかは不明だが、知財本部では、今年も構想委員会などが開催され、知財計画2025の策定に向けた検討が始まっている。

 総務省では、去年から続いて開かれている研究会としてデジタル空間における情報流通の健全性確保の在り方に関する検討会安心・安全なメタバースの実現に関する研究会があり、それぞれ9月10日と10月31日に報告書がとりまとめられている(総務省のリリース1参照)。

 これらの総務省の研究会の報告書は民間の自主的な取組を中心とする基本理念を確認するものであって、その限りにおいて問題はないのだが、総務省では、この10月から新しくデジタル空間における情報流通の諸課題への対処に関する検討会がその下のデジタル広告ワーキンググループとともに開催されており、ここで誹謗中傷やなりすまし広告などに関する課題に対し、制度整備を含むその対処について検討が進められる事になっている。これについて議論そのものを止めるべきとまでは思わないが、今後過度に規制的な制度案が出される様な事がないよう十分注視が必要だろう。

 農水省では今年も農業資材審議会・種苗分科会が開かれ、品種登録における重要な形質の諮問が行われるなどしている。

 最後に、知財とは少し離れるが、政府全体を見ても今年の中心課題の1つと言っても過言でないだろう、生成AIに関する検討について、AI戦略会議AI制度研究会が、年末の12月26日に、以下の様な結論の中間とりまとめ案(pdf)を出している。

III.具体的な制度・施策の方向性

1.全般的な事項

 生成AIのようなAIは汎用性が高く、様々な分野で利用されており、リスクへの対応も様々である。個人情報や著作権の取扱い、偽・誤情報への対処といったリスクへの対応にあたっては、既存法等を中心とする対応が前提であるが、AIについては横断的な対応が必要なケースもあるため、全体を俯瞰する政府の司令塔機能の強化、戦略の策定、また、安全性の向上のため、透明性や適正性の確保等が求められており、必要に応じて制度整備することが適当である。

(1)政府の司令塔機能の強化、戦略の策定
 AIは、利用分野や用途の広がり、汎用型AIの登場等により、研究開発から活用に至るまでの期間が短い場合も存在し、その間の各段階における取組がほぼ同時並行的に行われ得るものである。このため、研究開発から活用に至るまでに介在する多様な主体や過程における取組が互いに密接に関連し、一体的・横断的に行われる必要があり、研究開発から経済社会における活用までの一体的な施策を推進する政府の司令塔機能を強化すべきである。
 AIは、政府・自治体での活用を含め、国民生活の向上のための様々な場面での利用だけでなく、犯罪への悪用の懸念もあるほか、デュアルユース技術の側面も持つため、司令塔機能の強化に際しては、広く関係府省庁が参加する政策推進体制を整備する必要がある。
 また、総合的な施策の推進にあたっては、司令塔が戦略あるいは基本計画(以下「戦略」という。)を策定する必要がある。AIについては、安全・安心の確保がAIの活用の促進、イノベーションの促進、安全保障リスクへの対応、犯罪防止等にとって重要であることから、AIの安全・安心な研究開発、活用の促進等に資する戦略とすべきである。国際的な協調を図りつつ、イノベーションの促進とリスクへの対応の両立を図るために政府全体で取り組むことが必要となる施策を当該戦略に盛り込むべきである。
 上記については、AIの司令塔機能の強化や、司令塔による関係行政機関に対し協力を求めることができる等の権限を明確化するため、法定化すべきである。

(2)安全性の向上等
 AIの安全性を向上させるためには、研究開発から活用までのライフサイクルにおいて、少なくとも透明性や適正性を確保していく必要がある。また、事業者が自主的に取り組む安全性評価や第三者による認証などを活用することも一つの有効な手段となると考えられる。さらに、政府が、進化の著しいAIの技術や利用動向等の実態を調査して情報提供を行うとともに、必要に応じて、関係各主体に対応を求めていくべきである。
 これらの実施にあたっては、事業者を含む関係各主体からの情報共有や協力が必須であることから、官民が協調して取り組むことが必要である。

①AIライフサイクル全体を通じた透明性と適正性の確保
(略)
 適正性の確保にあたっては、広島AIプロセス等の国際的な規範の趣旨を踏まえた指針を政府が整備等し、事業者に対し各種規範等に対する自主的な対応を促していくことが適当である。
 また、透明性の確保を含む適正性の確保については、調査等により政府が事業者の状況等を把握し、その結果を踏まえて既存の法令等に基づく対応を含む必要なサポートを講じるべきである。政府による事業者の状況等の把握や必要なサポートについては、事業者の協力なしでは成り立たないため、国内外の事業者による情報提供等の協力を求められるように、法制度による対応が適当である。
(略)

②国内外の組織が実践する安全性評価と認証に関する戦略的な促進
(略)
 また、国内における制度整備は、国際的な規範を踏まえ、かつ、制度の実効性も考慮し対応すべきである。AIの評価や認証を実施する場合には、利用者や利用目的に従ってレベルを設けることや、一定の安全性を確認するための利用者の負担が軽減する仕組みや評価・認証を実施する機関を認定する仕組みを構築できれば、より効果的で持続可能な制度となると考えられる。ただし、この仕組みを構築する際は、AISIやISO等の活動を前提にしつつ、どのような主体を巻き込み、どのような基準で評価を行っていくのか、詳細な検討が必要である。なお、AI安全性の確保のため、AISIには、関係省庁、関係機関と連携し、調査、分析、整理、情報発信などに引き続き取り組み、司令塔となる組織を支援することが期待される。

③重大インシデント等に関する政府による調査と情報発信
 上述のとおり、AIは近年急速な発展を遂げており、様々なリスクが増大している。このような中、AIのリスクに対処し、政府として適切な施策を実施するためには、技術及び事業活動の双方の側面から時々刻々と変化するAIの開発、提供、利用等に関する実態をまず政府において情報収集・把握し、事業者においてAIが効果的かつ適正に利用されるとともに、広く国民がAIの研究開発や活用の促進に対する理解と関心を深められるよう、企業秘密等に配慮しつつも説明責任を果たせるように、必要な範囲で国民に情報提供することが適当である。
 中でも、多くの国民が日々利用するようなAIモデルについては、政府がサプライチェーン・リスク対策を含むAIの安全性や透明性等に関する情報収集を行う。国民に対して広く情報提供されることで、利用者は安全性の高いAI事業者やそのAIシステムを認識・選択しやすくなる。また、基盤サービス等における AI導入の実態等に関しては、政府による情報収集が重要である。
 また、AIの利用に起因する重大な事故が実際に生じてしまった場合、政府としては、その発生又は拡大の防止を図るとともに、AIを開発・提供する事業者による再発防止策等について注意喚起を行っていく必要がある。すなわち、国内で利用される AIについて、国民の権利利益を侵害するなどの重大な問題が生じた場合、あるいは生じる可能性が高いことが検知された場合において、その原因等に関する事実究明を行い、必要に応じて関係者に対する指導・助言を行い、得られた情報の国民に対する周知を図るべきである。なお、事故が生じているといえるか否かについては、上記の情報収集・把握を通じて政府に蓄積された事例や知見をもとに判断していくことが重要である。
 この調査や情報発信は事業者の協力なしでは成り立たないため、国内外の事業者による情報提供等の協力を求められるように、法制度による対応が適当である。

2.政府による利用等

 我が国における、個人及び企業による AIの利用率は、他国と比較すると著しく低迷している状況である。AIは国民生活や経済活動の発展の基盤として、その利用の重要性が増していくことが見込まれる中、このような状況を放置すれば、我が国の国際競争力が損なわれるおそれがある。このため、まずは政府が率先して AIを利用し、国民による活用を促進することが考えられる。
(略)

3.生命・身体の安全、システミック・リスク、国の安全保障等に関わるもの

 医療機器、自動運転車、基盤サービス等、特に国民生活や社会活動に与える影響が大きい生命・身体の安全やシステミック・リスクに関わるものについては特に注力して対応する必要があると考えられるが、業界毎に各業所管省庁が既存の業法に基づき対応し、また、追加的な対応の必要性の有無を判断するため、AI技術の発展、利用状況について随時業界と対話している状況である。
 現時点においては、引き続き、各業所管省庁が既存の法令あるいはガイドライン等の体系の下で対応すべきであるが、今後、新たなリスクが顕在化し、既存の枠組で対応できない場合には、政府は、関連する枠組の解釈を明確化したうえで、制度の見直しあるいは新たな制度の整備等を含めて検討すべきである。システミック・リスクについては、将来的に、複数の AIシステムが連動する大規模な AIシステム群が社会システムを支える状況となる可能性があり、その際、当該 AIシステム群が予期せぬ挙動をした場合、社会全体に大きな混乱をもたらす可能性があるため、適切に対処することが重要である。
 また、CBRN 等の開発やサイバー攻撃等への AIの利用といった国の安全保障に関わるリスクについては、我が国の安全保障を確保するという観点から、関係省庁において、必要な対応をさらに検討していく必要がある。

 これは、具体的な施策としての内容はほぼないに等しいが、要するに、AIに関する政策検討を行うAI戦略推進本部を法定化するAI推進法案を提案するものである。この中間とりまとめ案が規制的な内容にならなかっただけでもよしとするべきなのかも知れず、全ては今後の検討次第となるが、おそらく同様の形を想定しているだろう知財本部の今の体たらくを見ても、法定化された所でAI本部で本当に戦略的に意味のある政策検討ができるのか、これも役所の焼け太りにしかならないのではないかと思えてならない。

 このAI戦略会議・AI制度研究会の中間とりまとめ案については既に1月23日〆切で意見募集が開始されており(電子政府の意見募集ページ参照)、意見を出すかどうか少し考えたいと思っている。

 それでは今年も同じ口上で締め括りとするが、政官業に巣食う全ての利権屋に悪い年を、そして、このブログを読んで下さっている方々に心からの感謝を。

(2025年1月19日の追記:わざわざ分けるほどでもないと思ったので、ここに追記しておくが、上のAI戦略会議の中間取りまとめ案について以下の様なパブコメを出した。

「AI戦略本部の法定化に反対はしないが、役所の焼け太りとならないよう、役割を終えていると考えられる内閣府及び官房の各種本部と事務局も含めた統廃合を行い、今以上の行政リソースの無駄な投入をしないようにすべきである。
 今後の検討では、国際動向に注意を払い、技術の発展を妨げる過度の規制強化は避けるべきである。問題となるのは、既存の法運用の明確化と周知で対応可能な著作権や特許等の知的財産との関係ではなく、個人のリスクとなる個人を特定・評価するAIの民間・政府利用と、安全保障の懸念である軍事利用である。これらには国内に留まらない国際的議論が必要である。
 立法時に重要となるAIの定義について、私は、大量の計算リソースを使う機械学習を用いたものであって利用者側の簡単な指示の入力によって対応する情報の出力が可能なシステム又はサービスというものを提案するが、この点でも国際的状況を参考にするべきである。」

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2024年6月 9日 (日)

第498回:知財計画2024の文章の確認、やはり空疎な新クールジャパン戦略他

 この6月4日に、知的財産戦略本部会合が開かれ、知的財産推進計画2024や新クールジャパン戦略が決定されており、その前の5月28日には、インターネット海賊版対策メニューの更新版やAIと知的財産権に関する報告書の最終版が公開されているので、ここで、それぞれの内容について気になる所を見ておきたいと思う。

(1)知財計画2024の文章の確認
 知財計画2024(pdf)知財計画概要(pdf)も参照)について、お題目の部分を全て飛ばして、以下、主に法改正に関わる施策の項目を順次見て行く。(知財計画2023の内容については第479回、私が知財計画向けに出したパブコメについては第493回参照。)

 まず、第8ページで以下のように今年の法改正であるイノベーションボックス税制について触れられている。(この税制については第494回でプロバイダー責任法改正のついでに極簡単に紹介した。)

・2024年度税制改正において措置された、特許権やAI分野のソフトウェアの知財から生じる所得に税制措置を適用するイノベーション拠点税制(イノベーションボックス税制)について、2025年4月の制度開始に向け、手続規定の整備を含めた執行体制の強化を行う。また、事業者が積極的に制度を活用できるよう、制度をわかりやすく解説したガイドラインの策定や制度の周知等を業界団体等とも連携して行うとともに、引き続き、税制の対象範囲については、制度の執行状況や効果を十分に検証した上で、執行可能性等の観点から、状況に応じ、見直しを検討する。(短期・中期)(経済産業省)

・イノベーション拠点税制(イノベーションボックス税制)における対象範囲の見直し検討や類似制度を導入している国における動向調査、知財・無形資産の非財務情報を含めた価値評価の在り方を検討することにより、研究開発成果としての知財・無形資産と企業価値の関連性の認識を促進し、イノベーションマネジメントの高度化につなげる。(短期・中期)(経済産業省)

 去年から今年にかけてのメインの検討項目と言って間違いないだろうAIと知的財産権の関係に関する方向性については、今までの各種検討を受けて引き続き検討するという形で、第17~18ページに以下の様に書かれている。

・生成AIについて、文化庁文化審議会著作権分科会法制度小委員会「AIと著作権に関する考え方について」に基づき、著作権制度等に関し、社会に分かりやすい形での周知啓発を行うとともに、好事例等の収集及び関係者への共有を行いながら、必要に応じた更なる明確化に向けた検討と、検討結果の周知を継続的に行う。(短期・中期)(文化庁)

・生成AIにおける俳優や声優等の肖像や声等の利用・生成に関し、不正競争防止法との関係について、考え方の整理を行い、必要に応じ、見直しの検討を行う。また、他人の肖像や声等の利用・生成に関し、その他の関連法についても、法的考え方の整理を行う。(短期・中期)(経済産業省、文化庁、特許庁、法務省、消費者庁)

・AI時代の知的財産権検討会「中間とりまとめ」等を踏まえ、AI技術の進歩の促進と知的財産権の適切な保護が両立するエコシステムの実現に向けて、各知的財産法とAIの適用関係や各主体に期待される取組例等について周知し、取組を促進する。(短期・中期)(内閣府(知財)、経済産業省、総務省、文化庁)

・生成AI及びこれに関する技術についての共通理解の獲得、AI学習等のための著作物のライセンス等の実施状況、海賊版を掲載したウェブサイトに関する情報の共有など、関係当事者間における適切なコミュニケーションを促進する。(短期・中期)(文化庁、経済産業省)

・2023年度の調査研究結果(「AIを利活用した創作の特許法上の保護の在り方に関する調査研究」)を踏まえつつ、2024年度も引き続き深掘り検討を行う。また、AI関連発明の国際的な議論を促進するために、2023年度に拡充・公表したAI関連発明の特許審査事例を含めた我が国の審査実務を諸外国に情報発信していく。(短期・中期)(特許庁)

・AI技術の進展による意匠分野でのAIの利活用の拡大を踏まえ、創作非容易性等の意匠審査実務上の課題やその他の意匠制度に生じる課題について諸外国の状況も踏まえて整理・検討する。(短期・中期)(特許庁)

 なお、何をしたいのかまでは分からないが、生成AIについては、特許などの産業財産権制度との関係で、以下の様な項目も第32ページにもある。

・生成AI技術の発達や仮想空間における取引の拡大によるビジネスの多様化が進むなど、企業活動におけるDXが進展する中、産業財産権制度にも新たな課題が生じている。また、行政手続の更なる利便性向上が求められている。これらを踏まえて、DX時代にふさわしい産業財産権制度の在り方について検討する。(短期・中期)(特許庁)

 また、今までなぜか全く触れられる事のなかった経済安全保障法に基づく新秘密特許(特許非公開)制度について以下の様な項目が第23ページに入っている。

・2024年5月に施行された経済安全保障推進法に基づく特許出願非公開制度について、損失の補償に関する考え方も含めて、事業者等の制度に対する理解を促進するための持続的な周知・広報及び情報提供に努める。(短期・中期)(内閣府(政策統括官(経済安全保障担当))、特許庁)

 更新版のインターネット海賊版対策メニューの内容については下でもう少し書くが、知財計画2024の海賊版対策関係項目としては、第25~27ページに以下の様なものが並んでいる。

・海賊版対策に係る民間及び関係府省庁の実務者級連絡会議を開催し、最新情報の共有等を図りながら、インターネット上の海賊版に対する総合的な対策メニューに基づく取組を官民一体となって進める。(短期・中期)(内閣府(知財)、警察庁、総務省、法務省、外務省、文化庁、経済産業省)

・海賊版・模倣品を購入しないことはもとより、特に、侵害コンテンツについては、視聴者は無意識にそれを視聴し侵害者に利益をもたらすことから、侵害コンテンツを含む海賊版・模倣品を容認しないということが国民の規範意識に根差すよう、関係省庁・関係機関による啓発活動を推進する。(短期・中期)(警察庁、消費者庁、総務省、財務省、文化庁、農林水産省、特許庁)

・検索サイト事業者における海賊版に係る検索結果表示の削除又は抑制など、海賊版サイトの運営やこれへのアクセスに利用される各種民間事業者のサービスについて必要な対策措置が講じられるよう、それら民間事業者と権利者との協力等の促進、当該民間事業者への働きかけ、権利行使を行う権利者への支援等を行う。(短期・中期)(総務省、文化庁、経済産業省、内閣府(知財))

・日本コンテンツのインターネット上の海賊版に係る被害実態について、継続的な把握を行う(配信先が国外向けか(日本への配信も含む)、専ら当該国内向けか等の類型別での被害額の算出が可能かの検討も含む)。(短期・中期)(内閣府(知財)、経済産業省、外務省、警察庁)

・世界知的所有権機関(WIPO)や二国間協議等の枠組み、国際会議等の場を活用し、海賊版対策の強化に向けた働きかけを行うなど、国際連携の強化を図る。海外海賊版サイトの運営者摘発等に向け、外国公安当局への積極的な働きかけ、国際的な捜査協力等を推進するほか、民間事業者との協力の下、デジタルフォレンジック調査の実施等の取組を進めるなど、国際執行の強化を図る。(短期・中期)(内閣府(知財)、警察庁、総務省、法務省、外務省、文化庁、経済産業省)

・インターネット上の国境を越えた著作権侵害等に対し国内権利者が行う権利行使への支援の取組の充実を図る。(短期・中期)(文化庁)

・インターネット上の違法・有害情報への対応として、削除対応の迅速化や運用状況の透明化を大規模プラットフォーム事業者に義務付けるためのプロバイダ責任制限法の改正(2024年5月)に基づき、省令等の制度整備や、ガイドライン等を通じ、どのような情報を流通させることが法令違反や権利侵害となるかの明確化、及びそれらの適切な運用を図るなど、プラットフォーム事業者に対する実効的な対策を推進する。(短期・中期)(総務省)

・海外の現地の人々に向けて日本のコンテンツを配信する海外の海賊版サイト等の巧妙化・多様化に対応し、在外公館等を通じた現地の言語での周知啓発、海賊版サイト等に関する情報提供のインセンティブ付与等の在り方の検討、海外市場における日本コンテンツの正規版の流通促進などの健全なエコシステムの促進に向けた取組を、官民一体となって推進する。(短期・中期)(内閣府(知財)、総務省、外務省、文化庁、経済産業省)

・CDNサービス事業者における海賊版サイトへのサービス提供の停止など、海賊版サイトの運営に利用される各種民間事業者のサービスについて必要な対策措置が講じられるよう、当該民間事業者への働きかけ等を行う。(短期・中期)(総務省、内閣府(知財)、関係府省)

・越境電子商取引の進展に伴う模倣品・海賊版の流入増加へ対応するため、2022年10月に施行された改正商標法・意匠法・関税法により、海外事業者が郵送等により国内に持ち込む模倣品が税関による取締りの対象となったことを踏まえて、模倣品・海賊版に対する厳正な水際取締りを実施する。加えて、善意の輸入者に不測の損害を与えることがないよう、引き続き、十分な広報等に努める。また、他の知的財産権についても、必要に応じて、検討を行う。(短期・中期)(財務省、特許庁、文化庁)

・海外における日本の農林水産物・食品のブランド産品の模倣品等の流通を防ぐため、外国とのGIの相互保護の枠組みづくり及び海外ECサイトの調査、農林水産物・食品の模倣品疑義情報相談窓口の運用等を通じた不正使用の侵害対策を推進する。(短期・中期)(農林水産省、外務省、特許庁)

 同時に、知財計画2024に向けた意見募集の結果も公表されている。その結果概要(pdf)を見ると、個人の意見は3千件を超えている筈だが、個人からの意見(pdf)では70件程度にまとめられてしまっている。この様な意見募集の結果の公表の仕方はかなり雑であり、恣意的なものとなっているのではないかと思える。時間が掛かるかも知れないが、今後全ての意見が公開される事を期待する。

(2)やはり空疎な新クールジャパン戦略
 同じ日に新たなクールジャパン戦略(pdf)クールジャパン戦略概要(pdf)も参照)も決定されているが、前回の2019年のクールジャパン戦略同様、その内容はやはり極めて空疎と言わざるを得ない。(2019年のクールジャパン戦略については第413回参照。)

 例えば、第18ページで、

◯ コンテンツの海外展開、インバウンド(訪日外国人旅行消費額)、農林水産物等の海外展開、ファッションや化粧品等の海外展開などクールジャパン関連産業において、経済効果として、2033年までに50兆円以上の規模とする。参考として、2028年までに30兆円以上の規模とすることを中間的な目標とする。

 また、第26ページで、

◯ 日本発のコンテンツの海外市場規模を、2033年までに20兆円とすることを目標値として設定する。参考として、2028年までに10兆円の規模とすることを中間的な目標とする。
 併せて、目標値の計測に必要な統計データ等の改善・整備について、検討を行う。
〔参考〕
・(一社)日本経済団体連合会の提言において、2033年に15~20兆円とされている。
【内閣府(知財)、関係府省】

と、海外展開について兆円単位で約5年で倍、約10年でさらに倍という威勢の良い目標数値が踊っているが、そのためにどうするかという点になると、今まで同様、甚だ具体性に乏しい検討項目が並んでいるに過ぎない。ただ、決して前向きな事ではないが、唯一見るべきは、コンテンツ規制に関する事が特に含まれなかった事なのかも知れない。

 政策的な話としては、第30ページに以下の様に書かれている、大手ITプラットフォーマーに対する独占禁止法・競争法の観点からのアプローチが非常に重要になって来るだろうが、日本の政府・与党がこの点を本当にどこまで理解しているかは分からない。

◯ 動画配信サービスに係る調査結果や著作権政策、情報通信政策等の各政策の動向を踏まえながら、公正かつ自由な競争の実現に向けて、海外プラットフォームとの対等な関係が構築されるよう、一方的なルール変更(不利益変更)の有無や透明性の向上に係る取組(視聴者数等のデータの公開)、収益配分、コンテンツの二次利用に係る権利設定等について実態の把握を進める。
【公正取引委員会、文化庁、総務省、内閣府(知財)】

 また、法改正に関するものなどはほぼ今年の知財計画の記載をなぞっているが、第30~31ページの2023年著作権法改正による新裁定制度に関する事はクールジャパン戦略だけに書かれている。(2023年著作権法改正については第473回参照。)

◯ デジタル時代に対応したコンテンツ創作の好循環を促し、クリエイターへの対価還元の拡大等にも資するものとなるよう、改正著作権法に基づく未管理公表著作物等の利用に関する裁定制度の円滑な運用に向けた必要な準備を行う。
 また、制度の施行に合わせて「分野横断権利情報検索システム」が構築・運用されるよう、権利者、利用者をはじめ幅広いステークホルダーの協力を得つつ、各分野のデータベースを保有する団体等との連携、可能な限りデジタルで完結できるシステムの設計・開発等に向けた取組を進める。
【文化庁】

 私がクールジャパン戦略のために出したパブコメは第489回に載せたが、10年前のクールジャパン提言で唯一意味のあった二次創作規制の緩和が再び書かれる事は今回もなかった。一応、第21ページで以下の様な記載が僅かにあるものの、残念ながら、この点についてさらなる検討が行われるまでにはまだ時間が掛かりそうである。(2014年のクールジャパン提言については第319回参照)

 また、近年においては、ユーザーによる二次創作、三次創作、・・・(まとめて「n次創作」という。)が活発に行われるようになり、例えば、Vtuberのファンコミュニティが世界中に形成されているが、n次創作された作品がファンコミュニティ内、コミュニティ間で流通・共有されることに伴い、日本の音楽の海外展開が進展するといったケースが見られる。このような動きは今後さらに広がっていくものと見込まれる。

 クールジャパン戦略に関する意見募集の結果も公表されているので合わせてここにリンクを張っておく。(なお、こちらは3千件以上の個人の意見がそのまま公表されているようだが、PDFファイルが印刷版の画像取り込みになっていて非常に見にくい。)

(3)更新版のインターネット海賊版対策メニュー
 5月28日には、インターネット上の海賊版に対する総合的な対策メニュー及び工程表(更新版)(pdf)も公表されている。

 これは2021年版(pdf)から3年ぶりの改定となり、3年間の著作権法やプロバイダー責任制限法の改正を受けて記載が改められたりしているが、それ以外では、2ページ目のメニューで、

  • 「被害の実態把握」として、「・日本コンテンツのインターネット上の海賊版に係る被害実態の継続的な把握を行う(配信先が国外向けか(日本への配信も含む)、専ら当該国内向けか等の類型別での被害額の算出が可能かの検討も含む)」
  • 「国際連携・執行等の強化」内に、「・海賊版対策情報ポータルサイトや相談窓口を通じた情報収集及び著作権者等の権利行使を促進する」
  • 「海賊版サイトへの広告出稿の抑制」内に、「・海賊版サイトに対する広告出稿の自主的な抑制に関し、権利者等と広告関係団体の合同会議を通じた海賊版サイトリストの共有、広告関係団体の自主的ガイドライン策定・普及の推進を図ることや、広告収入に係る法的整理等の検討を行う」
  • 「CDNサービス等の海賊版サイトへの悪用防止」として、「・権利者と通信事業者の合同会議を通じ、個々の海賊版サイトのリストの共有を図るとともに、著作権侵害コンテンツの流通を容易にするために不正利用されるクラウドフレア社などCDNサービス等について、必要な対策の推進を図る」

という事が新たに書き込まれている。これらはいずれも知財計画に書かれている事と同じで悪い事ではなく、地道に進められるべきものと思うが、同じページに注として、「ブロッキングに係る法制度整備については、他の取組の効果や被害状況等を見ながら検討」と書かれている様に、日本政府として完全にブロッキングを諦めたのではないと見える事には引き続き注意が必要だろう。

(4)AIと知的財産権の関係に関する報告書
 同じく5月28日に、AI時代の知的財産権検討会の中間とりまとめの最終版(pdf)も公表されている。

 内容は4月22日の案とほぼ同じだが(4月22日の案については第495回参照)、5月16日の東京地裁判決を受けて(この地裁判決については前回参照)、第84ページの注81に以下の様な記載が追加された。

 2024年5月16日、AIを発明者として否定する東京地裁判決(令和5年(行ウ)第5001号)が出され、裁判所は「知的財産基本法に規定する「発明」は、人間の創造的活動により生み出されるものの例示として定義されている」と指摘し、特許法には発明者が自然人であることを前提とした規定があると述べ、特許庁の判断は適法と認めた。本結論は、本中間とりまとめの考え方とも軌を一にするものである。
 他方、同判決では、「特許法にいう「発明者」が自然人に限られる旨の前記判断は、上記実務上の懸念までをも直ちに否定するものではない」点、また「我が国で立法論としてAI発明に関する検討を行って可及的速やかにその結論を得ることが、AI発明に関する産業政策上の重要性に鑑み、特に期待されている」とも付言されている。昨今のAIを巡る状況変化は目まぐるしく、今後のAI技術動向や国際動向、ユーザーニーズ、その他情勢を踏まえ、特許法とAIの関係については、特許庁における検討が期待される。

 知財計画に書かれている事と同じだろうが、ここでも書かれている様にAIと特許の関係については特許庁でさらに検討が進められるのだろう。

(5)統合イノベーション戦略とAI戦略会議での検討
 今まで取り上げた事はなかったが、今年はAIとの関係があるので、最後に少し触れておくと、統合イノベーション戦略推進会議での検討を経て、6月4日に、統合イノベーション戦略2024(pdf)イノベーション戦略概要(pdf)も参照)も閣議決定されている。

 その第7ページに、知財計画と同様の知的財産に関する検討と並んで、以下の様な項目が書かれている。

(偽・誤情報への対策)
・生成AIを利用したものを含め、ネット上に流通・拡散する偽・誤情報や、SNS上のなりすまし型偽広告への対応等について、国際的な動向を踏まえつつ、技術・研究開発の推進、ファクトチェックの推進、国際的な連携強化など、制度面も含む総合的な対策を進める。
・ネット上に流通するAI生成コンテンツを判別する技術の開発・実証等や、リテラシー向上等に取り組む。

 そして、少し前後するが、5月22日のAI戦略会議でこの項目に対応する検討が始まっている。

 なぜか日本では知的財産の関係に関する検討が先行していたが、AIについて本当に検討されるべきはここで言われている様に偽情報対策として何が考えられるかという事だろう。AI技術の開発や利用の促進といった観点もあり、それほど規制色の強い方向性が出て来る事は想定していないが、今後具体的に何が検討されて行くのか注意が必要である。

 最後に上で取り上げた事のまとめを書いておくと、知的財産に関する政策検討としては、今年も各省庁で続けられるAIとの関係に関する検討は引き続き最も注目すべきであろうし、海賊版対策に関する検討がそれに続くと思える。また、新クールジャパン戦略が空疎極まるものだったのは残念であり、さらに迷走が続くだろうが、規制的な事が書かれなかっただけでも良いとするべきなのかも知れない。そして、知財とは離れるが、AIに関する政策的検討として要注意なのが、AI戦略会議における偽情報対策としての制度面も含む検討に違いない。

(2014年6月17日の追記:6月22日〆切で図書館等によりメール送信等が可能な対象の追加に関する政令改正案に関するパブコメが募集されている。これに対し、対象が追加される事は良いが、法改正の趣旨を踏まえ、対象範囲を広げてはどうかという意見を出したので、念のため、電子政府の意見募集ページへのリンクをここに張っておく。また、上で気づいた誤記を直した(「合わせt」→「合わせて」)。)

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2023年11月12日 (日)

第486回:意見募集中の新秘密特許(特許非公開)制度関係府省令案

 新秘密特許(特許非公開)制度施行前のものとしては最後のものになるのだろうが、11月19日〆切で関係府省令案のパブコメが2つ出ているので、今回はその内容を見ておきたい。

 まず、1つ目の意見募集(電子政府の意見募集ページ1参照)の方の内閣府と経産省の共同府省令案(pdf)様式案1(pdf)も参照)の特許出願人側の手続きに関する主な部分を以下に抜粋する。(経済安全保障法による新秘密特許制度自体については第453回第461回、基本指針については第472回、政令については第480回参照。)

内閣府・経済産業省関係経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関する法律に基づく特許出願の非公開に関する命令

第一条(略:特許庁から内閣総理大臣への送付方法を規定)

(保全審査に付することを求める旨の申出)
第二条 法第六十六条第二項前段の規定による申出(以下この項において単に「申出」という。)は、次に掲げる事項を記載した様式第一による申出書によってしなければならない。
 申出に係る発明の内容及び法第六十五条第一項に規定する明細書等において当該発明が記載されている箇所
 申出の理由

(略:電子情報処理組織を使用して手続きができる事等を規定)

(送付をしない旨の判断をした旨の通知を求める申出)
第三条 法第六十六条第十項の規定による申出は、様式第二による申出書によってしなければならない。

 前項の申出書は、特許出願の日(特許出願が法第六十六条第四項の表の上欄に掲げる特許出願である場合にあっては、同表の上欄に掲げる区分に応じそれぞれ同表の下欄に掲げる日(当該特許出願が同表の上欄に掲げる区分の二以上に該当するときは、その該当する区分に係る同表の下欄に定める日のうち最も遅い日))から同条第一項に規定する政令で定める期間を経過する日までに提出しなければならない。

(略:前条第2~3項の準用等を規定)

第四条(略:第4条で出願の却下の処分の記載事項を規定)

(外国出願の禁止に関する事前確認)
第五条 法第七十九条第一項の規定による確認の求めは、次に掲げる事項を記載した様式第三による申出書によってしなければならない。
 法第七十八条第一項に規定する外国出願(次号及び第三号において単に「外国出願」という。)をしようとする者の氏名又は名称及び住所又は居所
 国若しくは国立研究開発法人(独立行政法人通則法(平成十一年法律第百三号)第二条第三項に規定する国立研究開発法人をいう。以下この号において同じ。)が委託した技術に関する研究及び開発又は国若しくは国立研究開発法人が請け負わせたソフトウェアの開発の成果に係る発明であって、その発明について特許を受ける権利につき産業技術力強化法(平成十二年法律第四十四号)第十七条第一項(国立研究開発法人が委託し又は請け負わせた場合にあっては、同条第二項において準用する同条第一項)の規定により国又は当該国立研究開発法人が譲り受けないこととしたものを記載した外国出願をしようとする場合にあっては、その旨
 国が委託した技術に関する研究及び開発の成果に係る発明であって、その発明について特許を受ける権利につき科学技術・イノベーション創出の活性化に関する法律(平成二十年法律第六十三号)第二十二条(第一号に係る部分に限る。)の規定により国がその一部のみを譲り受けたものを記載した外国出願をしようとする場合にあっては、その旨

 前項の申出書には、法第七十九条第一項の規定による確認の求めに係る発明(次項において単に「発明」という。)の内容を記載した書面及び必要な図面を添付しなければならない。

 前項の書面には、次に掲げる事項を記載しなければならない。
 発明の名称
 図面の簡単な説明
 発明の詳細な説明

 第二項の書面は様式第四により、同項の必要な図面は様式第五により作成しなければならない。

 第二項の書面に記載する事項及び必要な図面に含まれる説明は、英語で記載することができる。

 法第七十九条第六項に規定する手数料の納付は、第一項の申出書に、同条第五項に規定する政令で定める額に相当する収入印紙を貼って提出することによって行うものとする。

第六条(略:出願却下処分の謄本が送達される事を規定)

第七条(略:特許法施行規則の書面手続きに関する規定を準用)

 2つ目の意見募集(内閣府の意見募集ページ2参照)の方の内閣府令案(pdf)様式案2(pdf)も参照)からも特許出願人側の手続きに関する主な部分を以下に抜き出す。

経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関する法律に基づく特許出願の非公開に関する内閣府令

第一条(略:定義について規定)

第二条(略:書面による手続等について規定)

(保全審査における意見の聴取)
第三条 法第六十七条第一項の規定により保全審査をするに当たっては、明細書等に記載されている発明を公にすることにより外部から行われる行為によって国家及び国民の安全を損なう事態を生ずるおそれの程度及び保全指定をした場合に産業の発達に及ぼす影響その他の事情について、特許出願人の意見を聴くものとする。ただし、同条第二項の規定により特許出願人に対して資料の提出又は説明を求めることなく保全指定をする必要がないと判断できる場合は、この限りでない。

(保全対象発明となり得る発明の内容の通知)
第四条 法第六十七条第九項の規定による通知は、保全対象発明となり得る発明の内容及び明細書等において当該発明が記載されている箇所を記載した書面により行うものとする。

(法第六十七条第九項第三号の内閣府令で定める事項)
第五条 法第六十七条第九項第三号の内閣府令で定める事項は、同項第一号又は第二号に規定する事項に変更の予定がある場合における当該変更の内容とする。

(特許出願を維持する場合の手続)
第六条 法第六十七条第十項の規定による書類の提出は、様式第一によりしなければならない。

(保全指定の通知)
第七条 法第七十条第一項の規定による特許出願人及び特許庁長官への通知は、次の各号に掲げる事項を記載した書面により行うものとする。
 保全対象発明の内容及び明細書等において当該保全対象発明が記載されている箇所
 法第七十条第二項の規定により定めた保全指定の期間
 発明共有事業者に関する事項

(保全指定の期間の延長)
第八条 法第七十条第三項後段の規定により保全指定の期間を延長しようとするときは、あらかじめ、指定特許出願人の意見を聴くものとする。

(保全対象発明の実施の許可の申請書の記載事項)
第九条 法第七十三条第二項の内閣府令で定める事項は、次に掲げる事項とする。
 実施をしようとする者の氏名(法人にあっては、その名称及び代表者の氏名)及び住所又は居所
 実施をすることが必要な理由
 実施による保全対象発明に係る情報の漏えいの防止のために講ずる措置

(法第七十五条第一項の内閣府令で定める措置)
第十条 法第七十五条第一項の内閣府令で定める措置は、次に掲げる措置とする。
 組織的な情報管理に関する措置として次に掲げるもの
 保全対象発明に係る情報(発明共有事業者が講ずる措置については、指定特許出願人が取り扱うことを認めた保全対象発明に係る情報に限る。以下この条において「保全対象発明情報」という。)を取り扱う者を適正に管理するとともに、保全対象発明情報の漏えいを防止するための措置の適切な実施を一元的に管理する責任者(以下「保全情報管理責任者」という。)を指名すること。
 保全対象発明情報を取り扱う者の責務及び業務を明確にすること。
 保全指定の期間、保全情報管理責任者及び保全対象発明情報を取り扱う者並びにこれらであった者の氏名、実施の許可の状況その他保全対象発明情報を適正に管理するのに必要な情報を記載した管理簿を整備すること。
 保全対象発明情報を営業秘密(不正競争防止法(平成五年法律第四十七号)第二条第六項に規定する営業秘密をいう。)として取り扱うこと。
 保全対象発明情報の管理に関する措置を適切に講ずるため、保全対象発明情報の適正管理に関する規程の策定及び実施並びにその運用の評価及び改善を行うこと。
 発明共有事業者がホの規程を策定し、又はこれを変更しようとする場合にあっては、あらかじめ、指定特許出願人の確認を受けること。
 保全対象発明情報の漏えいが発生し、又は発生するおそれがある場合における事務処理体制を整備すること。
 保全対象発明情報の漏えいが発生し、又は発生するおそれがあると認めたときは、指定特許出願人にあっては内閣総理大臣に、発明共有事業者にあっては指定特許出願人に、直ちにその旨を報告すること。
 人的な情報管理に関する措置として次に掲げるもの
 保全対象発明情報を取り扱う者の範囲を必要最小限にとどめること。
 保全対象発明情報を取り扱う者を追加しようとするときは、あらかじめ、その者について、保全情報管理責任者に保全対象発明情報を漏えいさせるおそれがあるか否かについての確認を行わせ、そのおそれがあると認められる場合は、保全対象発明情報を取り扱わせないこと。
 保全対象発明情報を取り扱う者に対して、前号ホの規程を遵守させるための措置を講ずること。
 保全情報管理責任者に保全対象発明情報を取り扱う者に対する必要な教育及び訓練を行わせること。
 物理的な情報管理に関する措置として次に掲げるもの
 保全対象発明情報を記録する文書、図画、電磁的記録に係る記録媒体若しくは物件又は当該保全対象発明情報を化体する物件(以下この号において「保全対象発明情報文書等」という。)を取り扱う区域を特定し、その特定された区域(以下この号において「特定区域」という。)への立入りの管理及び制限をするための措置を講ずること。
 保全対象発明情報文書等の保管は、特定区域において適切な保管設備を用いて保全対象発明情報の
漏えいを防止するための措置を講じた上で行うこと。
 新たに保全対象発明情報文書等を複製又は製作しようとするときは、あらかじめ、その理由を示して、保全情報管理責任者の承認を得ることとし、その数は必要最小限にとどめること。
 保全対象発明情報文書等を特定区域から持ち出そうとするときは、あらかじめ、その理由を示して、保全情報管理責任者の承認を得ることとすること。
 保全対象発明情報文書等を廃棄する場合には、復元不可能な手段で行うこと。
 イからホまでに掲げるもののほか、保全対象発明情報文書等の盗難及び紛失を防止するための措置を講ずること。
 技術的な情報管理に関する措置として次に掲げるもの
 電子計算機において保全対象発明情報の処理及び閲覧をすることができる者を限定するための措置
を講ずること。
 保全対象発明情報を取り扱う電子計算機が電気通信回線に接続している場合、不正アクセス行為(不正アクセス行為の禁止等に関する法律(平成十一年法律第百二十八号)第二条第四項に規定する不正アクセス行為をいう。)を防止するための措置を講ずること。
 イ及びロに掲げるもののほか、電子計算機における保全対象発明情報の漏えいを防止するための措置を講ずること。

(発明共有事業者の変更の手続)
第十一条 法第七十六条第一項の規定による承認の申請は、次に掲げる事項を記載した様式第二による申請書によりしなければならない。
 新たに保全対象発明に係る情報の取扱いを認める事業者の氏名(法人にあっては、その名称及び代表
者の氏名)及び住所又は居所
 新たに保全対象発明に係る情報の取扱いを認めることが必要な理由
 新たに保全対象発明に係る情報の取扱いを認める事業者における情報の管理の予定

 法第七十六条第二項の規定による変更の届出は、様式第三による届出書によりしなければならない。

(補償請求書)
第十二条 法第八十条第二項の規定により補償を請求しようとする者は、次の各号に掲げる事項を記載した様式第四による請求書に、当該事項を疎明するに足りる資料を添えて、これを内閣総理大臣に提出しなければならない。
 補償請求額の総額及びその内訳
 補償請求の理由

第十三条(略:立入検査の証明書について規定)

 第480回で書いた通り、秘密とするかどうかの保全審査の対象となる技術分野は政令でかなり絞り込まれていると思うので、影響を受ける特許出願はかなり限定的なものになると思うが、内閣府と経産省の共同府省令案の第5条で規定される様に、外国出願のための事前確認の申出書は発明の内容について実際に出願をするのとほぼ同様の記載が求められる様である。その中で、その内容を英語で記載しても良いとしているのは、外国出願という目的から、出願人側の便宜を考慮したものだろうか。

 また、府令案の方の第10条を見ると、秘密指定を受けた保全対象発明について、特許出願人は、それを営業秘密として取り扱い、情報管理のための管理責任者、管理簿、規程、体制、区域、設備、漏洩防止措置を作り、報告するというかなり重い義務が求められる上、場合により立ち入り検査や改善命令を受ける可能性も出て来る。

 発明を秘密とするべきという保全指定を受けると、特許出願人はこの様な義務を含む各種制約を受ける事になるが、その際の大きな判断材料になるだろう補償請求については、府令案の方の第12条とこれに対応する様式で、「補償請求額の総額及びその内訳」と「補償請求の理由」を書き、当該事項を疎明するに足りる資料を添えて提出するとしているだけで、制度的に特許権の付与により保護範囲が確定される事もあり得ない中、これで本当に妥当な補償金額を決定できるのかは甚だ疑問である。

 上に書いた通り、指定の秘密とするかどうかの保全審査の対象となる技術分野は政令でかなり絞り込まれており、この制度の影響は限定的だろうと思えるので、この府省令案のレベルでどうこう言うつもりはあまりないが、これで施行後に何か指定対象が出て来たとして本当に妥当な補償金額の算定ができるのか、さらには、この制度のそもそもの存在意義からして私がなお疑問に思っている事に変わりはない。

(2024年3月16日の追記:1箇所語記を直した(「指定の秘密」→「秘密」)。)

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2023年6月18日 (日)

第480回:新秘密特許(非公開)制度に関する部分を含む経済安保法政令改正案に対する意見募集の開始

 既に報道などもされているが、先週6月12日に経済安全保障法制に関する有識者会議の第7回が開かれ、そこで示された資料、特許出願の非公開制度の運用開始に向けた検討状況について(pdf)参考資料(pdf)の通り、6月15日から7月14日〆切で新秘密特許(非公開)制度に関する部分を含む経済安保法政令案がパブコメに掛かった。(電子政府のHP参照。)

 この政令改正案(pdf)はその中にも書かれている様に、去年制定の経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関する法律施行令を改正し、以下の様な第3章、第12条から第16条までを追加するものである。

第三章特許出願の非公開

(内閣総理大臣への送付の対象となる発明)
第十二条 法第六十六条第一項の国際特許分類(国際特許分類に関する千九百七十一年三月二十四日のストラスブール協定(以下この項において「協定」という。)第一条に規定する国際特許分類をいう。)又はこれに準じて細分化したものに従い政令で定める技術の分野は、次に掲げる技術の分野とする。
 国際特許分類の項目を表示する協定第四条に規定する記号(以下この項及び次項において「国際特許分類記号」という。)B〇一D五九に該当する技術の分野のうち、ウラン又はプルトニウムに関するもの
 国際特許分類記号B六三B三/一三に該当する技術の分野
 国際特許分類記号B六三C七/二六に該当し、かつ、国際特許分類記号B六三Gに該当する技術の分野
 国際特許分類記号B六三C七/二六に該当し、かつ、国際特許分類記号F四一に該当する技術の分野
 国際特許分類記号B六三C一一/〇〇に該当し、かつ、国際特許分類記号G〇五Dに該当する技術の分野
 国際特許分類記号B六三C一一/四八に該当し、かつ、国際特許分類記号B六三Gに該当する技術の分野
 国際特許分類記号B六三C一一/四八に該当し、かつ、国際特許分類記号F四一に該当する技術の分野
 国際特許分類記号B六三Gに該当し、かつ、国際特許分類記号G〇一S一/七二、G〇一S一/七四、G〇一S一/七六、G〇一S一/七八、G〇一S一/八〇又はG〇一S一/八二に該当する技術の分野
 国際特許分類記号B六三Gに該当し、かつ、国際特許分類記号G〇一S三/八〇、G〇一S三/八〇一、G〇一S三/八〇二、G〇一S三/八〇三、G〇一S三/八〇五、G〇一S三/八〇七、G〇一S三/八〇八、G〇一S三/八〇九、G〇一S三/八二、G〇一S三/八四又はG〇一S三/八六に該当する技術の分野
 国際特許分類記号B六三Gに該当し、かつ、国際特許分類記号G〇一S五/一八、G〇一S五/二〇、G〇一S五/二二、G〇一S五/二四、G〇一S五/二六、G〇一S五/二八又はG〇一S五/三〇に該当する技術の分野
十一 国際特許分類記号B六三Gに該当し、かつ、国際特許分類記号G〇一S七/五二、G〇一S七/五二一、G〇一S七/五二三、G〇一S七/五二四、G〇一S七/五二六、G〇一S七/五二七、G〇一S七/五二九、G〇一S七/五三、G〇一S七/五三一、G〇一S七/五三三、G〇一S七/五三四、G〇一S七/五三六、G〇一S七/五三七、G〇一S七/五三九、G〇一S七/五四、G〇一S七/五六、G〇一S七/五八、G〇一S七/六〇、G〇一S七/六二又はG〇一S七/六四に該当する技術の分野
十二 国際特許分類記号B六三Gに該当し、かつ、国際特許分類記号G〇一S一五に該当する技術の分野
十三 国際特許分類記号B六三G八/〇〇、B六三G八/〇四、B六三G八/〇六、B六三G八/〇八、B六三G八/一〇、B六三G八/一二、B六三G八/一四、B六三G八/一六、B六三G八/一八、B六三G八/二〇、B六三G八/二二、B六三G八/二四、B六三G八/二六、B六三G八/二八、B六三G八/三〇、B六三G八/三二、B六三G八/三三、B六三G八/三四、B六三G八/三八又はB六三G八/三九に該当する技術の分野
十四 国際特許分類記号B六四に該当し、かつ、国際特許分類記号F四一H三/〇〇に該当する技術の分野
十五 国際特許分類記号B六四C三九/〇二に該当し、かつ、国際特許分類記号F四一に該当する技術の分野
十六 国際特許分類記号B六四C三九/〇二に該当し、かつ、国際特許分類記号F四二に該当する技術の分野
十七 国際特許分類記号B六四G一/五八、B六四G一/六二、B六四G一/六四又はB六四G一/六八に該当する技術の分野
十八 国際特許分類記号B六四G三に該当する技術の分野
十九 国際特許分類記号B六四Uに該当し、かつ、国際特許分類記号F四一に該当する技術の分野
二十 国際特許分類記号B六四Uに該当し、かつ、国際特許分類記号F四二に該当する技術の分野
二十一 国際特許分類記号C〇一B五/〇二に該当する技術の分野
二十二 国際特許分類記号C〇六D七に該当する技術の分野
二十三 国際特許分類記号F〇二K七/一四に該当する技術の分野
二十四 国際特許分類記号F〇二K九/〇八、F〇二K九/一〇、F〇二K九/一二、F〇二K九/一四、F〇二K九/一六、F〇二K九/一八、F〇二K九/二〇、F〇二K九/二二、F〇二K九/二四、F〇二K九/二六、F〇二K九/二八、F〇二K九/三〇、F〇二K九/三二、F〇二K九/三四、F〇二K九/三六、F〇二K九/三八又はF〇二K九/四〇に該当する技術の分野
二十五 国際特許分類記号F四一に該当し、かつ、国際特許分類記号G〇一S一/七二、G〇一S一/七四、G〇一S一/七六、G〇一S一/七八、G〇一S一/八〇又はG〇一S一/八二に該当する技術の分野
二十六 国際特許分類記号F四一に該当し、かつ、国際特許分類記号G〇一S三/八〇、G〇一S三/八〇一、G〇一S三/八〇二、G〇一S三/八〇三、G〇一S三/八〇五、G〇一S三/八〇七、G〇一S三/八〇八、G〇一S三/八〇九、G〇一S三/八二、G〇一S三/八四又はG〇一S三/八六に該当する技術の分野
二十七 国際特許分類記号F四一に該当し、かつ、国際特許分類記号G〇一S五/一八、G〇一S五/二〇、G〇一S五/二二、G〇一S五/二四、G〇一S五/二六、G〇一S五/二八又はG〇一S五/三〇に該当する技術の分野
二十八 国際特許分類記号F四一に該当し、かつ、国際特許分類記号G〇一S七/五二、G〇一S七/五二一、G〇一S七/五二三、G〇一S七/五二四、G〇一S七/五二六、G〇一S七/五二七、G〇一S七/五二九、G〇一S七/五三、G〇一S七/五三一、G〇一S七/五三三、G〇一S七/五三四、G〇一S七/五三六、G〇一S七/五三七、G〇一S七/五三九、G〇一S七/五四、G〇一S七/五六、G〇一S七/五八、G〇一S七/六〇、G〇一S七/六二又はG〇一S七/六四に該当する技術の分野
二十九 国際特許分類記号F四一に該当し、かつ、国際特許分類記号G〇一S一五に該当する技術の分野
三十 国際特許分類記号F四一に該当し、かつ、国際特許分類記号G〇五Dに該当する技術の分野
三十一 国際特許分類記号F四一B六に該当する技術の分野
三十二 国際特許分類記号F四一G七に該当する技術の分野
三十三 国際特許分類記号F四一H一一/〇二に該当する技術の分野
三十四 国際特許分類記号F四一H一三に該当する技術の分野
三十五 国際特許分類記号F四二に該当し、かつ、国際特許分類記号G〇五Dに該当する技術の分野
三十六 国際特許分類記号F四二B五/一四五に該当する技術の分野
三十七 国際特許分類記号F四二B一〇に該当する技術の分野
三十八 国際特許分類記号F四二B一二/四六、F四二B一二/四八、F四二B一二/五〇、F四二B一二/五二又はF四二B一二/五四に該当する技術の分野
三十九 国際特許分類記号F四二B一五に該当する技術の分野
四十 国際特許分類記号G〇一J一/〇二、G〇一J一/〇四、G〇一J一/〇六又はG〇一J一/〇八に該当する技術の分野のうち、量子ドット又は超格子に関するもの
四十一 国際特許分類記号G〇六F二一/八六又はG〇六F二一/八七に該当する技術の分野
四十二 国際特許分類記号G二一C一九/三三、G二一C一九/三四、G二一C一九/三六、G二一C一九/三六五、G二一C一九/三七、G二一C一九/三七五、G二一C一九/三八、G二一C一九/四〇、G二一C一九/四二、G二一C一九/四四、G二一C一九/四六、G二一C一九/四八又はG二一C一九/五〇に該当する技術の分野
四十三 国際特許分類記号G二一J一に該当する技術の分野
四十四 国際特許分類記号G二一J三に該当する技術の分野
四十五 国際特許分類記号H〇一L二七/一四、H〇一L二七/一四二、H〇一L二七/一四四、H〇一L二七/一四六又はH〇一L二七/一四八に該当する技術の分野のうち、量子ドット又は超格子に関するもの
四十六 国際特許分類記号H〇一L三一/〇八、H〇一L三一/〇九、H〇一L三一/一〇、H〇一L三一/一〇一、H〇一L三一/一〇二、H〇一L三一/一〇三、H〇一L三一/一〇五、H〇一L三一/一〇七、H〇一L三一/一〇八、H〇一L三一/一〇九、H〇一L三一/一一、H〇一L三一/一一一、H〇一L三一/一一二、H〇一L三一/一一三、H〇一L三一/一一五、H〇一L三一/一一七、H〇一L三一/一一八又はH〇一L三一/一一九に該当する技術の分野のうち、量子ドット又は超格子に関するもの
四十七 国際特許分類記号H〇四K三に該当する技術の分野

法第六十六条第一項の特定技術分野のうち保全指定をした場合に産業の発達に及ぼす影響が大きいと認められる技術の分野として政令で定めるものは、前項第二号、第三号、第五号、第六号、第八号から第十二号まで、第十三号(国際特許分類記号B六三G八/二八、B六三G八/三〇、B六三G八/三二及びB六三G八/三三に係る部分を除く。)、第十七号、第十八号、第二十三号、第二十四号、第四十号、第四十一号及び第四十五号から第四十七号までに掲げる技術の分野(同項第一号、第四号、第七号、第十三号(国際特許分類記号B六三G八/二八、B六三G八/三〇、B六三G八/三二及びB六三G八/三三に係る部分に限る。)、第十四号から第十六号まで、第十九号から第二十二号まで、第二十五号から第三十九号まで及び第四十二号から第四十四号までに掲げる技術の分野に該当する部分を除く。)とする。

法第六十六条第一項の政令で定める要件は、次の各号のいずれかに該当する発明であることとする。
 我が国の防衛又は外国の軍事の用に供するための発明
 国又は国立研究開発法人(独立行政法人通則法第二条第三項に規定する国立研究開発法人をいう。以下この号及び次号において同じ。)による特許出願(国及び国立研究開発法人以外の者と共同でしたものを除く。)に係る発明
 国若しくは国立研究開発法人が委託した技術に関する研究及び開発又は国若しくは国立研究開発法人が請け負わせたソフトウェアの開発の成果に係る発明であって、その発明について特許を受ける権利につき産業技術力強化法(平成十二年法律第四十四号)第十七条第一項(国立研究開発法人が委託し又は請け負わせた場合にあっては、同条第二項において準用する同条第一項)の規定により国又は当該国立研究開発法人が譲り受けないこととしたもの
 国が委託した技術に関する研究及び開発の成果に係る発明であって、その発明について特許を受ける権利につき科学技術・イノベーション創出の活性化に関する法律(平成二十年法律第六十三号)第二十二条(第一号に係る部分に限る。)の規定により国がその一部のみを譲り受けたもの

(内閣総理大臣への送付の期間)
第十三条 法第六十六条第一項の政令で定める期間は、三月とする。

(外国出願の禁止の例外)
第十四条 法第七十八条第一項の政令で定めるものは、次に掲げる特許出願とする。
 防衛目的のためにする特許権及び技術上の知識の交流を容易にするための日本国政府とアメリカ合衆国政府との間の協定第三条の規定により我が国で保全指定(法第七十条第二項に規定する保全指定をいう。)をされた発明を記載した特許出願をアメリカ合衆国においてした場合に類似の取扱いを受けるものとされている場合におけるアメリカ合衆国でされる当該特許出願
 民生用国際宇宙基地のための協力に関するカナダ政府、欧州宇宙機関の加盟国政府、日本国政府、ロシア連邦政府及びアメリカ合衆国政府の間の協定第二十一条3の規定により我が国以外の締約国における特許出願を妨げるために発明の秘密に関する我が国の法律を適用してはならないこととされている場合における当該締約国でされる当該特許出願
 平和的目的のための月その他の天体を含む宇宙空間の探査及び利用における協力のための日本国政府とアメリカ合衆国政府との間の枠組協定第九条Gの規定によりアメリカ合衆国における特許出願を妨げるために発明の秘密に関する我が国の法律を適用してはならないこととされている場合におけるアメリカ合衆国でされる当該特許出願

(外国出願の禁止の期間)
第十五条 法第七十八条第一項の政令で定める期間は、十月とする。

(外国出願の禁止に関する事前確認の手数料)
第十六条 法第七十九条第五項の政令で定める額は、二万五千円とする。

 この政令案の第13条の保全審査のための送付期間の3月、第15条の外国出願禁止期間の10月、第16条の外国出願の禁止に関する事前確認のための2万5千円はそれぞれ経済安保法で定められている上限一杯の期間又は額で特に何か目新しいものではなく、第14条も外国出願の例外として日米防衛特許協定など非常に特殊な条約に基づく場合がある事を規定しているだけなので、この政令案の最大のポイントは秘密指定を行う保全審査の対象となる技術分野を指定している第12条という事になるだろう。(経済安保法の条文については第453回参照、日米防衛特許協定については第450回参照。)

 この政令改正案の第12条第1項の各号は非常に読みづらいので、有識者会議の上の参考資料(pdf)の説明と対応させ、第2項で保全指定された場合に産業の発達に及ぼす影響が大きいとされる号に△、それ以外の号に●をつけ、一覧表にすると、以下の様になる。(下の表では、別の番号である事を示すため、参考資料の方の番号をローマ数字にした。)

●第1号:B01D59でウラン又はプルトニウムに関するもの((xx)ウラン・プルトニウムの同位体分離技術)
△第2号:B63B3/13((xii)潜水船に関する技術)
△第3号:B63C7/26かつB63G((xiv)音波を用いた位置測定等の技術であって潜水船等に関するもの)
●第4号:B63C7/26かつF41((ix)音波を用いた位置測定等の技術であって武器に関するもの)
△第5号:B63C11/00かつG05D((xiii)無人水中航走体等に関する技術)
△第6号:B63C11/48かつB63G((xiv)音波を用いた位置測定等の技術であって潜水船等に関するもの)
●第7号:B63C11/48かつF41((ix)音波を用いた位置測定等の技術であって武器に関するもの)
△第8号:B63GかつG01S1/72からG01S1/82まで((xiv)音波を用いた位置測定等の技術であって潜水船等に関するもの)
△第9号:B63GかつG01S3/80からG01S3/86まで((xiv)音波を用いた位置測定等の技術であって潜水船等に関するもの)
△第10号:B63GかつG01S5/18からG01S5/30まで((xiv)音波を用いた位置測定等の技術であって潜水船等に関するもの)
△第11号:B63GかつG01S7/52からG01S7/64まで((xiv)音波を用いた位置測定等の技術であって潜水船等に関するもの)
△第12号:B63GかつG01S15((ix)音波を用いた位置測定等の技術であって武器に関するもの)
△第13号:B63G8/00からB63G8/39((xii)潜水船に関する技術、(viii)潜水船に配置される攻撃・防護装置に関する技術、(viii)に対応するB63G8/28からB63G8/33は第2項の対象外)
●第14号:B64かつF41H3/00((i)航空機等の偽装・隠ぺい技術)
●第15号:B64C39/02かつF41((ii)武器等に関係する無人航空機・自律制御等の技術)
●第16号:B64C39/02かつF42((ii)武器等に関係する無人航空機・自律制御等の技術)
△第17号:B64G1/58、B64G1/62、B64G1/64又はB64G1/68((xv)宇宙航行体の熱保護、再突入、結合・分離、隕石検知に関する技術)
△第18号:B64G3((xvi)宇宙航行体の観測・追跡技術)
●第19号:B64UかつF41((ii)武器等に関係する無人航空機・自律制御等の技術)
●第20号:B64UかつF42((ii)武器等に関係する無人航空機・自律制御等の技術)
●第21号:C01B5/02((xxii)重水に関する技術)
●第22号:C06D7((xxiv)ガス弾用組成物に関する技術)
△第23号:F02K7/14((x)スクラムジェットエンジン等に関する技術)
△第24号:F02K9/08からF02K9/40まで((xi)固体燃料ロケットエンジンに関する技術)
●第25号:F41かつG01S1/72からG01S1/82まで((ix)音波を用いた位置測定等の技術であって武器に関するもの)
●第26号:F41かつG01S3/80からG01S3/86まで((ix)音波を用いた位置測定等の技術であって武器に関するもの)
●第27号:F41かつG01S5/18からG01S5/30まで((ix)音波を用いた位置測定等の技術であって武器に関するもの)
●第28号:F41かつG01S7/52からG01S7/64まで((ix)音波を用いた位置測定等の技術であって武器に関するもの)
●第29号:F41かつG01S15((ix)音波を用いた位置測定等の技術であって武器に関するもの)
●第30号:F41かつG05D((ii)武器等に関係する無人航空機・自律制御等の技術)
●第31号:F41B6((v)電磁気式ランチャを用いた武器に関する技術)
●第32号:F41G7((iii)誘導武器等に関する技術)
●第33号:F41H11/02((vii)航空機・誘導ミサイルに対する防御技術)
●第34号:F41H13((vi)例えばレーザ兵器、電磁パルス(EMP)弾のような新たな攻撃又は防御技術)
●第35号:F42かつG05D((ii)武器等に関係する無人航空機・自律制御等の技術)
●第36号:F42B5/145((xxv)ガス、粉末等を散布する弾薬等に関する技術)
●第37号:F42B10((iv)発射体・飛翔体の弾道に関する技術)
●第38号:F42B12/46からF42B12/54まで((xxv)ガス、粉末等を散布する弾薬等に関する技術)
●第39号:F42B15((iii)誘導武器等に関する技術)
△第40号:G01J1/02からG01J1/08までで量子ドット又は超格子に関するもの((xvii)量子ドット・超格子構造を有する半導体受光装置等に関する技術)
△第41号:G06F21/86又はG06F21/87((xviii)耐タンパ性ハウジングにより計算機の部品等を保護する技術)
●第42号:G21C19/33からG21C19/50まで((xxi)使用済み核燃料の分解・再処理等に関する技術)
●第43号:G21J1((xxiii)核爆発装置に関する技術)
●第44号:G21J3((xxiii)核爆発装置に関する技術)
△第45号:H01L27/14からH01L27/148までで量子ドット又は超格子に関するもの((xvii)量子ドット・超格子構造を有する半導体受光装置等に関する技術)
△第46号:H01L31/08からH01L31/119までで量子ドット又は超格子に関するもの((xvii)量子ドット・超格子構造を有する半導体受光装置等に関する技術)
△第47号:H04K3((xix)通信妨害等に関する技術)

 さらに、有識者会議の資料でも書かれている通り、F41とF42が武器や弾薬に関する分類という様に、上の表を大まかな技術分野に沿って整理し直すと、以下の様になるだろう。(●と△は上と同じ意味である。)

(1)●核・原子力関連:第1号、第21号、第42号~第44号
(2)●武器弾薬関連:第4号、第7号、第14号~第16号、第19号~第20号、第22号、第25号~第39号
(3)△潜水艦関連:第2号~第3号、第5号~第6号、第8号~第13号
(4)△航空宇宙関連:第17号~第18号、第23号~第24号
(5)△量子ドット・超格子構造を有する半導体受光装置関連ー:第40号、第45号~第46号
(6)△計算機保護・通信妨害関連:第41号、第47号

 この内、(1)核・原子力関連と(2)武器弾薬関連は全て秘密指定するかどうかの保全審査に送られる事になるが、(3)潜水艦関連、(4)航空宇宙関連、(5)量子ドット・超格子構造を有する半導体受光装置関連、(6)計算機保護・通信妨害関連は、デュアルユース技術分野として、政令案第12条第3項各号に書かれている、防衛・軍事技術開発、国の研究開発又は国の委託研究開発という条件にもあてはまる場合に保全審査に送られる事になる。

 私自身はこの新秘密特許(非公開)制度のそもそもの存在意義からしてなお疑問に思っているが、この政令案の技術分野は当初思っていたものよりかなり絞り込まれていると見えるので、ここで細かな技術分野についてどうこう言うつもりはあまりない。ただ、デュアルユース技術分野は、なぜか(3)潜水艦関連に多く集中し、(5)量子ドット・超格子構造を有する半導体受光装置関連と(6)計算機保護・通信妨害関連に非常に唐突感がある。政府内でどの様な検討が行われてこれらの技術分野が選ばれたのかは不明だが、今の防衛省の研究開発方針に合わせたのだろうか。

 次は、上の有識者会議の資料で、審査手続、意思確認時の提出書類、適正管理措置等に関する府省令案が夏頃から秋頃に掛けてパブコメが行われる予定とされている。この府省令案も新秘密特許制度の運用を定める重要なものであり、パブコメに掛かり次第その内容を見たいと思っている。

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2023年2月12日 (日)

第472回:新秘密特許(非公開)制度基本指針案に対する意見募集の開始

 経済安全保障法に含まれる新秘密特許(非公開)制度について、2月8日の経済安全保障法制に関する有識者会議基本指針案(pdf)概要(pdf)も参照)が示され、電子政府HPの意見募集ページに書かれている通り、この特許出願の非公開に関する基本指針案(pdf)が、3月12日〆切でパブリックコメントに掛かった。

(経済安全保障法における新秘密特許制度の条文や国会審議については、第453回第461回参照。米英独仏の秘密特許制度については、第456回第457回第458回参照。また、経済安全保障有識者会議の資料1(pdf)2(pdf)3(pdf)によると、この基本指針案の検討のために特許出願非公開に関する検討会合が2022年12月20日に非公開で開かれていた様である。)

 これは基本指針の名の通り、今まで議論されていた事を抽象的理念としてまとめているだけであって、追加で具体的な事が明らかになったという事はほぼなく、この基本指針のレベルで言う事は余りない。しかし、これも知財政策に関する重要なパブコメの1つであり、私が特に気になっている、秘密(保全)指定の対象、保全審査の範囲を決める特定技術分野、外国出願の禁止、保全対象となった場合の補償について書かれた部分の抜粋を下に載せておく。

 基本指針案で政令の策定や制度の周知等について書かれているが、上の有識者会議で示された概要(pdf)でも、3月以降、もう一度有識者会議で基本指針案に関するパブリックコメントを踏まえた審議をした上で、基本指針の閣議決定を行い、政省令を策定、制度を周知、Q&A等を作成・公表、2024年春頃に制度運用を開始すると書かれている。去年5月の法律の成立後、施行まで後1年位の今に至るも制度運用の詳細に関する検討の内容が明らかにされないのは残念な事と思うが、この日本の新秘密特許制度に関しては、より具体的な事を定めるこの政省令などの検討が特に重要なものになると私は思っている。

(以下、基本指針案抜粋)

特許法の出願公開の特例に関する措置、同法第三十六条第一項の規定による特許出願に係る明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明に係る情報の適正管理その他公にすることにより外部から行われる行為によって国家及び国民の安全を損なう事態を生ずるおそれが大きい発明に係る情報の流出を防止するための措置に関する基本指針(案)

(略)

第1章 特許出願の非公開に関する基本的な方向に関する事項

第1節 本制度の基本的な考え方

(略)

第2節 非公開の対象となる発明(保全対象発明)の考え方

 本制度による保全指定がされるのは、特許出願に係る明細書等に「公にすることにより外部から行われる行為によって国家及び国民の安全を損なう事態を生ずるおそれが大きい発明」が記載され、かつ、そのおそれの程度及び保全指定をした場合に産業の発達に及ぼす影響その他の事情を考慮し、当該発明に係る情報の保全(当該情報が外部に流出しないようにするための措置)をすることが適当と認められた場合である(法第70条第1項)。すなわち、本法は、機微性の要件(公にすることにより外部から行われる行為によって国家及び国民の安全を損なう事態を生ずるおそれが大きいこと)を満たすことを前提としつつ、その機微性の程度と保全指定をすることによる産業の発達への影響等との総合考慮により、情報の保全をすることが適当と認められた場合に保全指定をするものと定めている。

(1)国家及び国民の安全を損なう事態を生ずるおそれが大きい発明

 本制度で非公開の対象とする「公にすることにより外部から行われる行為によって国家及び国民の安全を損なう事態を生ずるおそれが大きい発明」とは、安全保障上の機微性が極めて高いもの、すなわち、国としての基本的な秩序の平穏あるいは多数の国民の生命や生活を害する手段に用いられるおそれがある技術の発明が該当する。

 これをより具体的にいうと、以下のような類型の技術が想定される。

①我が国の安全保障の在り方に多大な影響を与え得る先端技術

 その新しさゆえ、用いる者や用い方によって、国家及び国民の安全に対する重大な脅威となり得る技術がこれに該当する。例えば、武器のための技術であるか否かを問わず、いわゆるゲーム・チェンジャーと呼ばれる将来の戦闘様相を一変させかねない武器に用いられ得る先端技術や、宇宙・サイバー等の比較的新しい領域における深刻な加害行為に用いられ得る先端技術などが挙げられる。

② 我が国の国民生活や経済活動に甚大な被害を生じさせる手段となり得る技術

 その威力の大きさゆえ、我が国に対して用いられれば深刻な被害を防ぐことが容易でない技術がこれに該当する。例えば、先端技術か否かを問わず、大量破壊兵器への転用が可能な核技術などが挙げられる。

(2)産業の発達に及ぼす影響等の考慮

 前節でも述べたとおり、法第70条第1項は、「公にすることにより外部から行われる行為によって国家及び国民の安全を損なう事態を生ずるおそれが大きい発明」であっても、一律に非公開とはせず、「保全指定をした場合に産業の発達に及ぼす影響その他の事情」を考慮し、適当と認められる場合に限り、保全指定をすることとしている。

 ここでいう「産業の発達に及ぼす影響」の内容としては、前節(2)で述べたように、①特許出願人を含む当該発明の関係者の経済活動に及ぼす影響、②非公開の先願に抵触するリスクに関して第三者の経済活動に及ぼす影響及び③我が国におけるイノベーションに及ぼす影響という3つの観点から総合的に考慮する必要がある。

 特に、今後民生分野の産業や市場に幅広く展開され、発展していくような発明については、保全指定をして発明の内容の開示や実施を制限することが我が国の経済活動やイノベーションへ支障を及ぼしかねないことに十分留意する必要がある。

 なお、法第70条第1項の「その他の事情」としては、例えば、対象となる発明の管理状況等、保全指定の実効性に関わる事情が想定される。すなわち、国家及び国民の安全を損なうおそれが大きく、かつ、産業の発達に及ぼす影響が少ない場合であっても、情報が既に広く知られており、保全の実質的な意義が小さい場合には、保全指定をすることが適当とは認め難い。

第3節 その他の基本的留意事項

(略)

第2章 特定技術分野に関する基本的な事項

第1節 特定技術分野に関する考え方

(1)特定技術分野の位置付け

 「特定技術分野」とは、「公にすることにより外部から行われる行為によって国家及び国民の安全を損なう事態を生ずるおそれが大きい発明が含まれ得る技術の分野として国際特許分類又はこれに準じて細分化したものに従い政令で定めるもの」をいう(法第66条第1項)。

 最終的に保全指定の対象となるのは、特許出願に係る明細書等に記載された個々の具体的発明であるが、それは、前章第2節で述べたとおり、我が国の安全保障上極めて機微な発明を前提にしつつ、産業の発達への影響等も踏まえて選定されることとなる。そこで、そうした条件を満たし得る発明をあらかじめ技術分野という角度から類型化して国際特許分類(IPC=International Patent Classification)の形で示し、特許庁長官が行う第一次審査において定型的な形で審査を可能にさせるとともに、特許出願人の予見性を確保するのが、特定技術分野の役割である。保全指定の対象となる発明を選定するに当たり、年間約30万件に及ぶ特許出願の全てを内閣総理大臣の保全審査に付することとすれば、安全保障上の機微性とは関連しない発明も含め、全ての特許出願に係る特許手続を遅延させることになりかねないことから、法第66条第1項は、まずは特許庁長官において、特定技術分野に該当するものを定型的に選別し、選別されたものだけを内閣総理大臣に送付して保全審査に付すという二段階審査の仕組みを採用している。

 また、法第66条第1項本文によって保全審査に付される発明は、保全指定前における外国出願の禁止(以下「第一国出願義務」という。)の対象となることから(法第78条第1項)、特定技術分野は、第一国出願義務の範囲を絞り込む役割も担っている。

(2)特定技術分野を定める際の基本的な考え方

 特定技術分野を定めるに当たっては、真に保全指定の対象となる発明が含まれ得る領域を選定する必要がある。どのような発明が保全指定の対象となるかについては、前章第2節で述べたとおりであり、そうした発明が含まれ得る技術分野を特定技術分野として選定していくこととなる。すなわち、保全指定の対象が、経済活動やイノベーションへの影響を考慮して選定されることを踏まえて、特定技術分野の選定においても、国家及び国民の安全を損なう事態を生ずるおそれが大きい発明が含まれ得る技術分野であるかという観点だけでなく、経済活動やイノベーションへの影響も考慮する必要がある。

 特定技術分野は、特許出願人に明確な形でなければならず、かつ、特許庁長官による迅速な審査を可能にさせるものでなければならない。これらを踏まえ、法第66条第1項本文において、特定技術分野は国際特許分類又はこれに準じて細分化したものに従い定めることとしている。すなわち、国際特許分類は、国際的に統一された特許分類としてその定義が公表されているものであり、かつ、現行の特許実務上、特許出願が受理されると、まず、記載されている発明に国際特許分類を付与する作業が行われていることから、これを用いて特定技術分野を定めることとしている。

 国際特許分類をどの程度細分化した上で定めるかという点については、広く定めるほど、保全指定の対象となり得ないような発明が多く保全審査に付されるとともに、第一国出願義務の対象となり、多くの特許出願人に影響が及ぶこととなる一方、特定技術分野を詳細に細分化した上で示せば安全保障上の問題が生じ得るため、そのバランスに留意しながら個々の技術分野ごとに検討する必要がある。

(3)「国際特許分類又はこれに準じて細分化したもの」について

 国際特許分類は、安全保障上機微な発明の選別を意図して作られたものではないため、本制度における保全審査の対象となる発明の絞り込みという観点から、必要があれば国際特許分類に準じて細分化して定めることとする。この細分化は、国際特許分類と同様に、具体的で明確なものでなければならず、かつ、明細書等の記載から判断が可能で、特許出願人にとっても該当するか否かを判別できる形で政令において定める必要がある。

(4)特定技術分野の見直し

 先端技術は日進月歩で変わるものであることに鑑み、内閣総理大臣は、関係行政機関とも連携し、状況変化に応じて機動的に特定技術分野の見直しを行う。

第2節 付加要件に関する考え方

 法第66条第1項本文は、内閣総理大臣への送付事由、つまり保全審査に付する事由として、特定技術分野に属する発明という要件に加え、「その発明が特定技術分野のうち保全指定をした場合に産業の発達に及ぼす影響が大きいと認められる技術の分野として政令で定めるものに属する場合にあっては、政令で定める要件に該当するものに限る」という形で、一部の特定技術分野にのみ適用される付加的な要件を規定している。以下、ここでいう「政令で定める要件」を「付加要件」と呼ぶこととする。

 前章第1節で述べたとおり、安全保障上極めて機微な発明について保全指定をし、情報流出の防止に万全を期することは、安全保障を確保する上で重要なことであるが、その一方で、保全指定という措置は、経済活動やイノベーションへの影響を伴うものである。典型例としては、前章第2節(2)で述べたとおり、今後民生分野の産業や市場に幅広く展開され、発展していくような発明を保全指定の対象とすることの弊害が挙げられる。したがって、そのような発明は、仮に保全審査に付されたとしても、産業の発達に及ぼす影響との総合考慮の中で保全指定の対象から除かれることとなるが、そもそも一律に産業に与える弊害が著しく、最終的に保全指定をする余地のない発明のみが含まれる技術分野であれば、初めから特定技術分野として選定するべきではない。

 他方で、宇宙・サイバー等の領域における技術など、民生分野の産業や市場に展開される可能性を含んだ技術の分野であっても、例えば、当初から防衛・軍事の用に供する目的で開発された場合や、国の委託事業において開発された場合など、発明の経緯や研究開発の主体といった技術分野以外の角度からの絞りをかければ、軍事・防衛に特化した技術領域に近づき、あるいは民間の経済活動の制約という要素が一定程度軽減されること等により、保全指定をすべき発明が含まれ得る領域を限定的に抽出できるものもあると考えられる。そこで、技術分野以外の角度からもう一つの絞り込みを付加することにより、その条件を満たす場合に限って適用される特定技術分野を定める途を開くのが、付加要件である。

 すなわち、特定技術分野は、付加要件がないものと、付加要件があるものの2種類に分かれる。

 したがって、付加要件を定めるに当たっては、その条件を加味すれば、安全保障上の機微性が高まり、あるいは産業の発達に及ぼす影響が低下し得るなど、両要素のバランスが変化することで、本来であれば特定技術分野として掲げるのに必ずしも適さない技術分野が、その条件の下であれば特定技術分野として掲げられるようになると言い得る条件を見出して、これを定めることとなる。

 また、付加要件は、一定の特定技術分野に該当する発明について、それが保全審査に付されるか否かのみならず、第一国出願義務の対象となるか否かをも画するものであるから、特許庁にとっても、特許出願人にとっても、該当するか否かを明確に判断できる形で政令を定める必要がある。

第3節 有識者等からの意見聴取

 特定技術分野及び付加要件を政令で定めるに当たっては、行政手続法で求められている意見公募手続を行い、広く関係者の意見・情報を公募するとともに、有識者の意見を適切に参照する。

第3章 保全指定に関する手続に関する事項

第1節 保全審査

(略)

第2節 保全指定の期間の延長と解除

(略)

第4章 その他特許出願の非公開に関し必要な事項

第1節 保全対象発明の実施の制限

(略)

第2節 保全対象発明の開示禁止

(略)

第3節 保全対象発明の適正管理措置

(略)

第4節 発明共有事業者の変更

(略)

第5節 外国出願の禁止

 法第78条第1項は、日本国内でした発明であって公になっていないものが、法第66条第1項本文に規定する発明、すなわち、日本で出願すれば保全審査の対象となる発明である場合について、第一国出願義務を定めており、そのような発明については、外国で特許出願をするより前に、まず日本で特許出願をしなければならない。

 「日本国内でした発明」とは、特許出願人の本店所在地等がどこであるかにかかわらず、発明地が日本国内であることを意味し、複数国にまたがって研究・開発が行われた場合には、発明の完成地が発明地となる。

 「外国出願」とは、外国における特許出願及び特許協力条約(PCT=Patent Cooperation Treaty)に基づく国際出願をいい、政令で定めるものを除くものとされている。「政令で定めるもの」として、例えば、特定の外国政府との間で非公開の特許出願を相互に受け入れ合うことや、特定の条件下でなされた発明について、発明の秘密に関する自国の法律を適用してはならないこととする国際約束が締結されている場合における当該約束に従った当該国への外国出願などが考えられる。

 日本で出願せずに初めから外国で出願しようとする者は、出願書類に記載する発明がこの第一国出願義務の対象となる発明か否か自ら判断する必要があるが、法第79条第1項において、事前に特許庁長官にその確認を求めることができる仕組みが設けられている。さらに、この事前確認制度には、たとえ保全審査の対象となる発明であっても、内閣総理大臣が「国家及び国民の安全に影響を及ぼすものでないことが明らかである」と認めた場合には、禁止の例外として外国出願を許容する仕組みも設けられている。特許庁長官及び内閣総理大臣においては、制度の趣旨を踏まえ、迅速に回答するよう努める必要がある。

第6節 損失の補償

 法第80条第1項は、損失補償の相手を「保全対象発明(保全指定が解除され、又は保全指定の期間が満了したものを含む。)について、法第73条第1項ただし書の規定による許可を受けられなかったこと又は同条第4項の規定によりその許可に条件を付されたことその他保全指定を受けたことにより損失を受けた者」と規定していることから、同項の損失補償を受けられるのは、指定特許出願人又は指定特許出願人であった者である。

 また、補償の範囲については、「通常生ずべき損失を補償する」と規定されており、これは一般的に、相当因果関係がある損失を意味するものである。補償を受けるには、実際に「損失を受けた」ことが必要である。

 補償の対象となり得る損失としては、例えば、実施が不許可とされて保全対象発明を実施できなかったことにより回収できなかった開発・設備投資費用や通常得られるはずであったのに得られなかった利益等が想定される。損失の算定は、発明の内容や不許可とされた発明の実施の態様等によって様々であるが、請求人の予見性を高めるため、補償の対象となり得る損失例について、担当部局において別途Q&A等の形で示すこととする。

 損失補償を受けようとする者は、補償請求の理由や補償請求額の総額及びその内訳、算出根拠等を示し、その損失について補償を受けることの相当性を示す必要がある。例えば、実施の許可の申請時の事業計画等を基に補償を請求することが想定される。このとき、十分な根拠が示されていない損失については、補償の対象とならないこととなる。

 補償の請求を受けた内閣総理大臣が補償金額を算出する際には、その請求について、請求人から説明を受けるなど、十分に意思疎通を図ることが必要である。その上で、専門家の意見も聞きながら、客観性を持って妥当な金額を算出する必要がある。その際、内閣総理大臣は、請求人が過度な不利益を被ることのないよう十分配慮することが必要である。

第7節 政府内における情報の適正管理

(略)

第8節 本制度の周知・広報及び情報提供

 本制度の趣旨や内容、具体的な手続等については、担当部局において、Q&A等の策定を含め、特許出願に携わる関係者に対する十分な周知・広報及び情報提供に努めることとする。

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2022年6月12日 (日)

第461回:今国会で成立した経済安保法による新秘密特許(特許非公開)制度に関する補足

 今国会でほとんど出来レースの様な審議により経済安保法(正式名称は「経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関する法律」)が成立し、この法律により2年以内に新しい秘密特許(特許非公開)制度が実施される事になった。(衆議院の議案ページ、内閣官房の法律案ページ参照。)

 まず、衆議院内閣委員会の附帯決議から、秘密特許制度に関する部分を以下に抜粋する。

 政府は、本法の施行に当たっては、次の事項に留意し、その運用等について遺漏なきを期すべきである。

(略)

二 特定重要物資を指定する政令及び安定供給確保支援法人の指定に関する主務省令並びに特定社会基盤事業者の指定基準を定める主務省令は、関係事業者、関係事業者の団体その他の関係者の意見を考慮して制定するとともに、特定技術分野を定める政令は、安全保障の確保に関する経済施策、産業技術その他特許出願の非公開に関し知見を有する者の意見を考慮して制定すること。

三 特定重要物資、特定社会基盤事業者及び指定基金の指定並びに特定技術分野の選定は、客観的かつ公平に行うこと。

(略)

十 保全対象発明の選定に当たっては、産業への影響を考慮して対象をできる限り限定的なものとすること。その際、デュアルユース技術については、国費による委託事業の成果である技術や、防衛等の用途で開発された技術、あるいは出願人自身が了解している場合などを念頭に、支障が少ないケースに限定すること。

十一 特許出願の非公開制度の運用に当たっては、特許出願人が手続を円滑に行うことができるよう配慮すること。

十二 本法第八十条に基づく損失の補償に当たっては、特許出願人が過度な不利益を被ることのないよう十分配慮すること。

(略)

 参議院内閣委員会の附帯決議(pdf)からも以下に抜粋する。

 政府は、本法の施行に当たり、次の諸点について適切な措置を講ずるべきである。

(略)

十二 保全対象発明の選定に当たっては、産業への影響を考慮して対象をできる限り限定的なものとすること。その際、デュアルユース技術については、国費による委託事業の成果である技術や、防衛等の用途で開発された技術、あるいは出願人自身が了解している場合などを念頭に、支障がないケースに限定すること。

十三 特許出願の非公開に関する制度の運用は、イノベーションの意欲を削ぐことのないよう関係者の意見を聴いて、慎重に行うこと。

十四 特許出願の非公開に関する制度の運用に当たっては、特許出願人が手続を円滑に行うことができるよう配慮すること。

十五 保全審査を行う機関について、関係省庁及び外部の専門家の知見が十分に活用できるような仕組みを構築するとともに、保全審査に携わる職員の専門性の向上に配意すること。

十六 本法第八十条の規定に基づく損失の補償に当たっては、特許出願人が過度な不利益を被ることのないよう十分配慮すること。

(略)

 これらの附帯決議は、政府有識者会議の時から言われていた事を理念的に繰り返しただけで、具体的にどうするかという点で参考になる事は含まれていない。(政府有識者会議とその提言については第452回参照。)

 衆議院と参議院のそれぞれの内閣委員会(経済産業委員会との合同審査会含む)でも新秘密特許制度の具体的な運用について明らかにされた事は少ないが、その中でも比較的重要だったと思えるのは以下の質疑である。

・3月23日衆議院内閣委員会(議事録):

226 櫻井周
○櫻井委員 あと、ほかにもちょっといろいろな、これは現時点で塞ぎようのない穴かもしれませんけれども、例えば特許出願の中では、新規性の喪失の例外ということで、既に公開したものを特許出願することもできる。しかし、それがもし保全指定を受けるような内容のものだったらどうなるんだろうとか、そういうものを後で非公開にしても意味がないよなとか、ちょっといろいろな課題があるのではなかろうかというふうには思います。
 ただ、そうした事例は、まあ、そんなにたくさんあるわけじゃないよということかもしれませんので、ちょっと次に行かせていただいて、七十八条一項、それから八十条に関連する質問をさせていただきます。
 七十条の保全指定を受けると外国出願が事実上できなくなる、そうしますと、外国で特許を取得できれば得られたであろう利益について補償していただけるのかどうか、この点、端的にお願いします。

227 木村聡
○木村政府参考人 お答え申し上げます。
 特許出願の非公開制度の損失補償につきましては、第八十条の規定によりまして、保全指定を受けたことにより損失を受けた者に対して、通常生ずべき損失を補償することとさせていただいているところでございます。
 このため、国内での損失に限らず、外国で特許権を取得できれば得られたであろう利益につきましても、損失の発生及び保全指定により外国出願が禁止されたことと損失の相当因果関係が仮に認められるのであれば、補償の対象になり得るものと考えているところでございます。
 以上でございます。

228 櫻井周
○櫻井委員 対象になり得るということなんですが、相当関係があるとかといういろいろな限定がついちゃって、立証するのが大変で結果的に補償を受けられないとかになっちゃうと、これはまた出願人にとって相当不利益になってしまいますし、外国で特許ということになると幅が随分出てきそうなので、なかなかこれはまた難しい課題が残っているということを指摘をさせていただきます。
 それから、もう一つ七十八条一項関連で質問ささせていただきます。
 有識者の提言の五十三ページには、外国で出願をするには国内出願後おおむね六か月程度で明細書の翻訳等を発注しなければならないことから、その時点で二次審査、保全審査のことですけれども、の結論が出ていない場合、最終的に保全措置の対象となれば、外国出願が実現せず費用のロスを生じることとなる、こういう指摘があります。
 この費用のロスは、そんな十か月も待っていられないよということで外国出願の準備をして翻訳代とかいろいろかかったこの費用のロスは、補償対象になるんでしょうか。

229 木村聡
○木村政府参考人 お答え申し上げます。
 御指摘のありました費用のロスについてでございます。
 ケース・バイ・ケースになりますので、確たる御答弁を差し上げるというのは困難でございますけれども、仮に通常生ずべき損失として認められる場合には補償の対象となり得ますが、有識者会議でも御提言いただいておりますとおり、こうしたロスを少なくするためにも手続の迅速化に努めていくということが必要であると考えてございます。
 以上でございます。

230 櫻井周
○櫻井委員 いや、これはやはりちゃんと補償してもらいたいなと。
 領収書等、この部分についてははっきりロスの金額は分かるわけですから、是非お願いしたいなというふうに思いますとともに、今おっしゃられたとおり、迅速に保全審査をやりますということなんですが、ただ、特許出願、今は大分解消されておりますが、渋滞していて、審査請求してから二年間ずっとほったらかしみたいなことも過去にはあったわけですよね。今回は、何件対象になるか分からない、またここで渋滞しちゃったら十か月ぎりぎりになっちゃうかもしれない、そういう心配もあるものですから、確認をさせていただきました。
 それから次に、七十九条一項で事前確認というのがございます。
 外国出願をしようとする場合にこの事前確認ができるということなんですが、これは必ず外国出願をしなければいけないのか、また、出願済みの国内出願について事前確認することができるのかどうなのか、これも教えてください。

231 木村聡
○木村政府参考人 お答え申し上げます。
 法案第七十九条の事前確認は、外国出願をしようとする者が確認を求めることができるということを規定させていただいております。
 一方で、事前確認制度におきましては、外国出願の禁止に該当しない場合であっても外国出願をすることを義務づけるということまでは規定しておりません。
 以上でございます。

232 櫻井周
○櫻井委員 それから、この七十九条一項で、弁理士は外国出願をしようとする者の代理をすることはできるんでしょうか。

233 木村聡
○木村政府参考人 お答え申し上げます。
 第七十九条の事前確認制度における確認の求めは、特許に関する特許庁における手続でございます。弁理士は当該手続の代理をすることが可能であると考えているところでございます。
 以上でございます。

234 櫻井周
○櫻井委員 それから、八十条三項で、損失補償の金額の算定なんですが、特許権の侵害訴訟でも損害額の算出をするのは結構難しいわけなんですけれども、今回の場合は、特許になるかどうかも分からない発明について損失を算出するということになりますから、更に難しいということになります。
 これはどうやって計算するのか、また、申請の時期、いつまでに申請してくださいとかいうこともあるのかどうなのか、この点についても教えてください。

235 小林鷹之
○小林国務大臣 お答え申し上げます。
 補償が生じる典型的なケースといたしましては、発明の実施許可を与えず、製品の製造あるいは販売などができなくなるケースが想定されるところであります。
 この場合、特許出願人は、まず、保全対象発明の実施を行うため、実施に関する事業計画などを提示をし、保全対象発明の実施の許可申請をすることとなります。
 また、許可申請を受けた総理大臣は、特許出願人から計画の詳細を聞いて、実施によって保全対象発明の漏えいリスクが高まる場合には不許可とすることとなります。
 ここで保全対象発明の実施が不許可とされれば、その後、特許出願人は、許可申請時の計画を基に補償金額を算出をして、自己の受けた損失の補償を請求することが想定されます。
 このとき、請求を受けた側の内閣総理大臣は、特許出願人から説明を聞くほか、専門家の意見も聞きながら妥当な補償金額を決定する、そういうプロセスとなっております。

・3月25日衆議院内閣委員会(議事録):

169 櫻井周
発言URLを表示
○櫻井委員 立憲民主党の櫻井周です。
 おとといの質疑に続いて、前回通告したものの中からまだ質問できていなかったところもございますし、また、いただいた御答弁の中でちょっと疑問点や不明確なところもあったものですから、そういったところを質問させていただきます。
 まず、特許出願の審査について、つまり六十六条七項について。
 おとといの質疑で、最終的な査定の手前まで審査を進めることが出願人の保護に資するという観点から、出願公開及び最終的な特許査定又は拒絶査定の手続のみを保留し、それ以外の手続は終える、こういう御答弁をいただいております。直前のところまでいくということなんですが、査定の手前まで審査を進めるのなら、特許査定又は拒絶査定をすればいいのではなかろうかと考えるんですが、大臣の御見解をお伺いしたいと思います。
 この質問の背景なんですが、つまり、今回の法案はアメリカの制度を参考にして作られているようにお見受けしますが、例えばドイツでは、保全指定されても特許査定を受けることができるような作りになっております。ドイツのような制度の方が特許出願人の保護に資するのではないのか、こんなふうにも考えます。
 具体的に条文に即して申し上げますと、今回の法案の六十六条七項で特許法四十九条と五十一条を適用除外にしていますが、そうではなくて、六十六条を適用除外にする。六十六条は特許権の設定の登録です。こうすることによって、実施については七十三条で制限されておりますので、この辺は変わりはございません。また、特許法百九十三条の特許公報については特許権が設定登録されなければ発行されませんので、この点も問題はないというふうに考えます。
 ということで、大臣、いかがでしょうか。

170 小林鷹之
○小林国務大臣 お答え申し上げます。
 特許出願人の中には、保全指定中に特許査定の直前まで手続を進め、特許査定の見通しを立てるとともに、指定解除後直ちに特許を受けられる状態にしておきたいと考える方もあり得ると考えます。そのことは、実は有識者会議の提言でも指摘をされているところでございます。
 こうした出願人の要請に応えるため、出願人が実体審査を請求した場合には、これに応じて出願書類の補正のやり取りを行うなど、最終的な査定の手前まで審査を進める道を残し、出願の公開、そして最終的な特許査定又は拒絶査定の手続を留保する制度としたところでございます。

171 櫻井周
○櫻井委員 質問に答えていないんです。そこまでは前回の答弁だったんですよ。その先を聞いているんですよ。
 だから、査定直前までやるんだったら、もう特許査定したらいいじゃないですか、こういう提案を申し上げているんですよ。いかがですか、大臣。

172 木村聡
○木村政府参考人 お答え申し上げます。
 今回の制度でございますけれども、有識者会議の方で様々な御議論を賜ったところでございますが、特許の公開の手続、あと、先ほど大臣からも申し上げましたけれども、最終的な特許査定又は拒絶査定の手続を留保するという、アメリカ型といいますか、そういう手続を採用するということについて御提言をいただきましたので、それに沿った形で制度設計をさせていただいたということでございます。
 以上でございます。

173 櫻井周
○櫻井委員 いや、だから、その先、もう一歩進めたらどうですか。そんな、すんでのところで止めてじらしたりしなくてもいいじゃないですか。その方が出願人の保護につながるんじゃないですかというふうに聞いているんですが、一向にお答えいただけないですよね。
 ちょっと、法案の中身、ちゃんと御理解いただいているんですかね。もう一回答弁をお願いします。

174 木村聡
○木村政府参考人 お答え申し上げます。
 重ねての答弁になりますけれども、有識者会議の提言によりまして、出願の公開と最終的な特許査定又は拒絶査定の手続を留保するということで、特許の査定までは行わない制度とするという御提言に沿って制度設計をさせていただいたということでございます。

175 櫻井周
○櫻井委員 何でこんなことをねちねちと質問させていただいているかと申しますと、これは今日午前中の質疑でも河西委員から質問があって、損失の補償の公平性ということで、ここは担保されないといけませんよね、こういう質問がありました。
 おとといの質疑では、出願人は保全対象発明の実施を行うため、実施に関する実施計画などを提示し、不許可の場合には自己の受けた損失の補償を請求することができる、こういうことで、実施についての補償については御答弁いただいているんですよ。
 でも、河西委員が御指摘されたように、大企業だったら実施設備をいっぱい持っているから、製造設備を持っている、販売網も持っている、だから、いっぱい販売できたはずだから損失も大きいでしょうというふうに言えるわけなんだけれども、中小企業の場合はそうではなくなる、そこに不公平感が出るんじゃないですか、こういう指摘もあったわけですよ。
 ですから、中小企業の場合だったら、むしろライセンス料とかで、もしかしたら稼げる可能性があったかもしれない。でも、特許査定を受けていなかったら、ライセンス料の設定とかできないですよね。ですから、このライセンス料相当分についての損失補償を算出するためにも、やはり特許査定までいった方が出願人の保護につながるんじゃないですか。先ほど、条文の提案を申し上げましたけれども、そうしたところでは問題は起きないじゃないですか、こういう提案をさせていただいているんですが、いかがですか。

176 木村聡
○木村政府参考人 お答え申し上げます。
 中小企業の場合でありましても、実施についての許可を受けていただけないということになりますれば、中小企業の方からの請求に基づいて、しかるべき中身を精査させていただいた上で国として補償させていただく、こういうことでございます。
 以上でございます。

177 櫻井周
○櫻井委員 いや、質問に全く答えていただけていないですよ。
 実施については、この間、おととい答弁いただいた、でも、ライセンス料についてはどうなんですか、こういうふうに質問しているんですよ。ライセンス料については御答弁いただいていないですし、また、特許査定を受けていないんだったら、本来だったら特許査定を受けられるはず、しかも、すんでのところまでいって、特許査定を受けられるんだなと心証を持っている、そういう答弁をいただきましたよね。
 ですけれども、特許査定がなかったら、どうやってライセンス料に相当する損失補償を受けられるのか、こういう課題が残っているじゃないか。特に製造設備を余りたくさん持っていない中小企業の場合、特に大きな不公平感につながるのではなかろうかということなので質問をさせていただいているんです。
 再度の答弁をお願いします。

178 木村聡
○木村政府参考人 お答え申し上げます。
 重ねての答弁になって恐縮でございますけれども、中小企業の場合、工場等が小さくなるという御指摘ございましたが、そういった点につきましても、実施の許可申請について不許可になりますれば、きちんとした形で請求していただくことにより、中身を精査した上で、不許可になった場合の補償をさせていただく、こういうことでございます。
 以上でございます。

・4月26日参議院内閣委員会・経済産業委員会連合審査会(議事録):

077 岩渕友
○岩渕友君 資料一をもう一度見ていただきたいんですけれども、下のところに、日米防衛特許協定の第三条に線を引いています。ここにあるように、防衛目的のための技術が対象となるんですね。秘密指定解除後に公開をされた出願見てみますと、出願人がどういう企業かというと、ロッキード・マーチンだとかレイセオン・カンパニーなど軍事企業が名前を連ねています。今、小林大臣が答弁されたように、双務的ということなので、これからは日本からアメリカなどに秘密指定できるということになります。
 日米防衛特許協定の実績がどうなっているのかということを見ていきたいんですね。
 一九八八年以降、秘密指定解除によって公表された件数は九十九件なんです。資料二を見ていただきたいんですが、これは国際特許分類に基づいて集計をしたものです。石灰であるとかセメント、そして炭素などが一番多くなっているんですけれども、この日米防衛特許協定について、公表された九十九件のうち分類F40番台は何件あるでしょうか。

078 清水幹治
○政府参考人(清水幹治君) お答えいたします。
 委員御指摘の、日米協定に基づきアメリカにおいて秘密保持が解除され日本において公開された特許出願九十九件のうち、国際特許分類がF40番台の出願については、F41、武器が主分類として付与されている出願が八件、F42、弾薬、爆破が主分類として付与されている出願が一件であり、合わせて九件となっております。

079 岩渕友
○岩渕友君 資料二の右上の部分に今答弁いただいたことがまとめてあるんです。
 国際特許分類では、F41が砲ということなので例として大砲なんかが挙げられていると、で、F42が弾薬などの武器だということで、九十九件のうち九件ということですから、純粋な軍事技術は一割にも満たないということなんですね。九割以上が軍民両用技術、いわゆるデュアルユース技術だということなんです。だから、防衛目的だと言いながら、デュアルユース部分が大半だということなんですね。
 有識者会議の提言では、非公開の対象となる発明のイメージということで、核兵器技術及び武器のみに用いられるシングルユース技術のうち我が国の安全保障上極めて機微な発明を基本として選定すべきとしつつ、他方、デュアルユース技術について、これらの技術を広く対象とした場合、産業界の経済活動や当該技術の研究開発を阻害しかねないおそれがあるとして、デュアルユース技術を対象とする場合には、技術分野を絞るとともに、支障がないケースに限定するべきだとしています。
 参議院の参考人質疑で、経団連の常務理事の原一郎参考人が、民間開発の技術が軍事に転用され得るとなると企業が意図しない形で軍事に使われる、デュアルユースは全てだと言われるとビジネスは成り立たない、機微技術が何かを示してほしいと、こういうふうに述べています。
 このデュアルユース技術のうち保全指定される機微技術の判断基準について、大臣、お答えください。

080 小林鷹之
○国務大臣(小林鷹之君) お答え申し上げます。
 まず前提として、米国には、米国との関係なんですけど、米国には以前から特許出願を非公開とする制度がございますが、この法案が創設する我が国の非公開制度とは要件も手続も異なっているんです。したがって、その米国の制度でその秘密保持命令の対象とされる発明と同等の発明が我が国の制度においても必ず保全指定の対象となるというわけではないことは冒頭申し上げたいと思います。
 その上で、今委員からお尋ねのありました保全指定の判断基準についてでございますけれども、この特許出願の非公開制度は、安全保障上機微な発明でございましても特許出願されると一律に公開されてしまうというこの問題に対処をして、機微技術の拡散を防ぐことを目的とするものでございます。一方で、民生分野で幅広く活用されて発展していくことが期待される技術を非公開の対象とすると、我が国の経済活動やイノベーションを抑制して、逆にその先端技術の誕生や発展を阻害することになりかねない、そう考えています。
 したがって、この法案では、保全指定の対象となる発明を、まず公にすることによって外部から行われる行為により国家国民の安全を損なう事態を生ずるおそれの程度、そして発明を非公開とした場合に産業の発達に及ぼす影響などの事情、こうした点の総合考慮によって判断することを条文上明記しているところでございます。

081 岩渕友
○岩渕友君 判断基準の、その具体的にどうなるのかというのが余りよく分からないわけですよね。
 その技術分野絞ると言うんですけれども、この日米防衛特許協定を見ても民生技術に拡大をしてきたのが実態だと。で、結局、対象範囲を拡大していくことになるんじゃないかと思うんですけど、いかがでしょうか。

082 小林鷹之
○国務大臣(小林鷹之君) お答え申し上げます。
 この、今委員御指摘のその保全審査の対象となる技術分野についてですけれども、これも有識者会議の提言で言及されているんですが、先端技術が日進月歩で変わるものであることに鑑み、変化に応じて機動的に定める枠組みとする、そう言及されていて、その必要がございますため、政令で定めることとしております。
 すなわち、この法案上、公にすることにより外部から行われる行為によって国家国民の安全を損なう事態を生ずるおそれが大きい発明が含まれ得る技術の分野を国際特許分類によって定めることを明記しております。これによって、この保全審査の対象となる発明は、公になれば我が国の安全保障が著しく損なわれるおそれがある発明が含まれ得る技術分野の発明に限定されています。さらに、その範囲内で定められる特定技術分野の中で保全指定をした場合に今申し上げた産業の発達に及ぼす影響が大きいと認められるものにあっては、更なる絞りを掛けることもこれ法文上明記しているんです。
 なお、こうして政令で定めるその技術の分野に関する基本的な事項につきましては基本指針の中で定めることとしておりまして、この基本指針というのは有識者の方々の意見を幅広く聞いて定めることとしています。
 したがって、今委員が御懸念されておりますが、対象技術分野が例えば無制約に広がっていくような、そういう御懸念は及ばないと考えております。

083 岩渕友
○岩渕友君 今そういうふうにおっしゃるんですけれども、有識者会議の提言の中では、スモールスタートで運用状況を見極めながら検討するというようなことであったり、検討会合の中でも、小さく産んで大きく育てるということが大事じゃないかと、こういうような発言もあるんですよね。いろいろ絞っていくと言うんですけれども、対象範囲が拡大していくおそれがあるということだと思うんです。
 それで、秘密技術がデュアルユースに拡大するだけじゃなくて、保全指定がどのぐらいの期間になるかということも分からないわけですね。保全対象発明として指定をされると一年以内の保全指定が行われて、継続をする必要があるという場合は一年超えない範囲で期間延長できると、つまり一年更新で期間延長されるわけですよね。
 この期間延長の上限は何年になっているでしょうか。

084 小林鷹之
○国務大臣(小林鷹之君) お答え申し上げます。
 この法案では、保全指定をした場合に、最大一年ごとに保全指定を継続する必要があるか否かの判断するとしております、これは条文七十条に書いてあるんですが。期間延長の回数につきましては、上限は設けておりません。
 ただし、この法案の第七十七条第一項におきまして、保全指定を継続する必要がなくなった場合には内閣総理大臣は保全指定を解除することとなりますため、期間満了前に保全指定を解除することもあり得るところでございます。

085 岩渕友
○岩渕友君 今答弁にあったように、上限は設けられてないんですね。
 アメリカでも同じやり方が取られているということで、資料三を見ていただきたいんですけれども、日米防衛特許協定の例を見てみますと、一九八八年に出願をされた特許が秘密指定解除されたのは二〇〇八年というものもあるわけですね。二十年も秘密指定されていたということになります。日本でも、これ長期にわたって保全指定されたままということがあり得るということですよね。
 それで、指定特許出願人、保全対象発明の内容を特許出願人から示された者その他当該保全対象発明について保全指定がされたことを知るものは、保全対象発明の内容を開示してはならないというふうになっています。
 この開示というのは具体的にどういう行為のことなのか。例えば、学会で発表をするとか雑誌に掲載するとか、研究者同士で情報交換をするだとか、中小企業も含めて技術者と意見交換することなども含まれるのでしょうか。

086 小林鷹之
○国務大臣(小林鷹之君) お答え申し上げます。
 この法案の第七十四条第一項におきまして保全対象発明の開示を原則として禁止する規定がございますが、この開示という文言は、不特定多数の者への公開と特定の者への伝達、この双方を含む概念でございます。
 したがいまして、委員御指摘の学会での発表もここで言う開示に含まれることで、含まれるという理解でよろしいかと思います。

087 岩渕友
○岩渕友君 これ、開示をした場合に、二年以下の懲役若しくは百万円以下の罰金となるわけですよね。非常に重い罰、罪を科せられるということになるわけです。
 今お話があったように、私が紹介したようなことも排除していない、も対象だということなので、最新の技術をやっぱり学んだりすることや研究者同士で情報交換したりすること、議論をする中で新しいアイデアが生まれたりイノベーションの創出につながるんだというふうに思うんですね。そういったものをやっぱり阻害する危険性があるということだと思うんです。
 萩生田大臣に伺うんですが、秘密特許が学術や技術の体系全体にゆがみをもたらして、市民生活を公平で豊かなものとする本来のイノベーションを妨げるものになるのではないかと懸念があるわけです。この秘密特許の導入、やめるべきではないでしょうか。

088 萩生田光一
○国務大臣(萩生田光一君) 小林大臣もこれまで答弁をしてまいりましたが、今般の特許出願の非公開制度は、公にすれば国家及び国民の安全を損なう事態を生じるおそれが大きい発明が記載された特許出願について、安全保障の観点から公開等の手続を留保する制度でございます。これにより機微な技術の拡散を防止することとしたものと承知しています。
 当省としても、制度の設計や運用に当たっては、安全保障の要請と経済活動やイノベーションとの両立を十分に図ることが必要だと認識しています。こうした観点から国家安全保障局とも議論を行ってきたところであり、非公開とした場合に産業の発達に及ぼす影響が大きい技術分野を保全対象、保全審査の対象とする場合には、特にまさに絞りを掛けて、掛けることを法文上明記するなど、限定的に運用するものと承知しています。
 したがって、直ちにイノベーションの阻害になるための制度導入をやめるべきという御指摘は当たらないと考えています。

089 岩渕友
○岩渕友君 今日のやり取りの中では、その具体的な中身よく分からなかったわけですよね。特許法は、発明の保護及び利用を図ることによって、発明を奨励し、もって産業の発達に寄与するという目的持っています。産業の発達を阻害するおそれがあるこの秘密特許の導入はやめるべきだということを求めて、質問を終わります。

・4月26日参議院内閣委員会(議事録):

092 浜田昌良
○浜田昌良君 ありがとうございます。
 ウクライナ情勢でも早期の対応が必要でございますし、この重要技術の研究開発支援についても、本当にしのぎを削っているという大臣の答弁もありましたように、早急の対応が必要でございますので、是非問題意識を共有していただきたいと思います。
 続きまして、この四本柱の特許の非公開の問題についての議論をしたいと思っていますが。
 今回の法案、百条ぐらいの条文があって、原案を見せていただいて、割と幅広い罰則が二つあったんですね。一つが、いわゆる四十八条にあった、いわゆる特定重要物資サプライチェーンの、これを指定するための報告、資料提出のところがあって、これについては既に議論させていただきました。当初は罰則があったんですが、やっぱり比例の原則であったり内外の法律の関係からこれについては罰則を削っていただいたと。
 もう一か所これあるのが、第七十八条の外国出願の禁止なんですね。これが、直罰と言いまして、勧告とか公表とかなくてすぐに罰則が掛かっちゃうんですね、一年以下、五十万円以下の罰則が掛かるんですが、これが、そういう意味では対象がはっきりしていないと、直接罰ですから曖昧な運用はできないと思うんですが、この直接罰の範囲はどういう範囲の発明か、六十六条の条文に沿って政府参考人から御答弁いただきたいと思います。

093 木村聡
○政府参考人(木村聡君) お答えさせていただきます。
 御指摘ございました第七十八条第一項にございます「第六十六条第一項本文に規定する発明」とは、第六十六条第一項本文に規定してございます。条文に沿ってということですので、そのような形でお答えもさせていただきます。
 六十六条の本文でございますが、公にすることにより外部から行われる行為によって国家及び国民の安全を損なう事態が生ずるおそれが大きい発明が含まれ得る技術の分野として国際特許分類又はこれに準じて細分化したものに従い政令で定めるものに属する発明、このうち、その発明が特定技術分野のうち保全指定をした場合に産業の発達に及ぼす影響が大きいと認められる技術の分野として政令で定めるものに属する場合にあっては、政令で定める要件に該当するものに限るというふうに規定をさせていただいているところでございます。
 すなわち、保全審査の対象となります発明につきましては、原則としてまず我が国で出願をしてもらいまして、保全審査により保全指定の要否を判断すべきでありますことから、第一国出願義務の対象範囲は保全審査の対象範囲と同じという形にさせていただいているところでございます。
 以上でございます。

094 浜田昌良
○浜田昌良君 保全審査の対象と同じというのはいいと思うんですけど、これ、条文に政令が三回出てくるんですよね。その辺の規定ぶりがどうなるんだろうかと。それによってその罰則が、直罰に係る関係なんで、前回の委員会で最後に大臣にお聞きしまして、この国家及び国民の安全を損なう事態を生ずるおそれが大きい発明というのは安全保障上極めて機微な発明と同義ですよという御答弁をいただきました。
 これについて、具体的発明事例に基づいて分かりやすく政府参考人に説明していただきたいと思います。また、その発明分野、今ございましたように、ストラスブール議定書の国際特許分類、いわゆるIPC分類ではどのようなレベル、細分類で表現されるのかも併せて答弁いただきたいと思います。

095 木村聡
○政府参考人(木村聡君) お答え申し上げます。
 政令で定めます技術分野の具体的な内容につきましては、法案上、まずは有識者の意見を聞いて定める基本方針におきまして、その基本的な事項を定めるというプロセスを経た上で決めることとさせていただいております。
 したがいまして、現時点で個別の技術分野をお示しすることは難しいところでございますけれども、例えば、我が国に対して用いられれば深刻な被害が避けられない核技術や先進武器技術などの中から、それらに該当する国際特許分類、IPC分類を限定列挙することとなります。
 どの程度の粒度で定めるかにつきましても、同様に、現時点で具体的にお示しすることは困難でございますけれども、例えば、国際特許分類のうち、F41という分類は武器を、F42という分類は弾薬、爆破を表す大きなカテゴリーでありますところ、こうした上位の階層だけで定めますと、対象範囲が広くなり過ぎ、およそ国家及び国民の安全に影響しないような技術分野が多数保全審査や第一国出願義務の対象に取り込まれてしまうということが懸念されます。
 このため、実際にはF41やF42の下層に当たる国際特許分類の中から、安全保障上機微な技術が含まれ得るより詳細な分類を抽出し、対象を絞り込んでいく必要があると考えているところでございます。
 以上でございます。

096 浜田昌良
○浜田昌良君 IPCの特許分類のより詳細なところで限定列挙していただくという答弁がございましたので、それでしっかりと罰則の範囲が分かることを期待しているんですが、ちょっと例を挙げたいと思います。
 二〇〇四年夏に、我が国の電力会社が中心となった研究組合がレーザーウラン濃縮技術について特許庁に特許申請をしていましたが、その技術が、韓国の原子力研究所が極秘にそれを使ったウラン濃縮をやっていたということが発覚をして、その日本の特許の文献であったり、それに基づいた機器が見付かったということが一部報道がありました。この事案についての概要をまず報告いただきたいと思います。

097 木村聡
○政府参考人(木村聡君) お答え申し上げます。
 報道ベースの情報ではございますけれども、IAEAの元事務次長が取材に対して明らかにしたことといたしまして、二〇〇四年にIAEAが他国の極秘ウラン濃縮実験施設を査察した際、日本で開発されたレーザー濃縮技術の特許に関する資料が発見されたということが二〇一五年に新聞で報じられているものと承知しているところでございます。
 以上でございます。

098 浜田昌良
○浜田昌良君 報道ベースによりますと、この研究組合は百八十七件の特許を出願していたそうでございます。
 それでは、このレーザーウラン濃縮技術に関する発明は、先ほどのIPC分類又はこれに準ずる細分化したものに従えばどのように表現されるのか、お答えいただきたいと思います。

099 木村聡
○政府参考人(木村聡君) お答え申し上げます。
 レーザーウラン濃縮技術が特許出願された場合の対応でございますけれども、Bの処理装置及び運輸、そしてその下層のB01の物理的又は化学的方法又は装置一般、そして更に下層のB01Dの分離、更に下層のB01D59の同一化学元素の異なる同位体の分離に順次該当いたしまして、まとめて申し上げますと、B01D59/00と、こういう国際特許分類が付与されるものと考えられます。
 以上でございます。

100 浜田昌良
○浜田昌良君 順次、Bの処理というものから、一番細かいBの01Dの59の/00というもので特定されそうですが、これは、こういうことを政令で書けば、各発明者にとってこの技術はどれだということで、一目瞭然分かるもんなんですかね。

101 木村聡
○政府参考人(木村聡君) お答え申し上げます。
 特許出願人の方に明確に御理解していただけるように、私ども、国際特許分類に従った形で明確に政令で規定させていただきたい、このように考えているところでございます。
 以上でございます。

102 浜田昌良
○浜田昌良君 一応、弁理士の方、また特許庁の審査官に聞くと、これが正確に分からないと特許のいわゆる押さえ方なり事前調査の関係が幅広くなってしまうので、普通は分かるらしいんですね、私は全然分かりませんけれども。それを逆に認識しているということで、罰則の範囲が明確になるとおっしゃっていました。
 ただ、この法律上は、とはいっても疑義が生じる場合があるので、七十九条で事前確認という制度を設けています。つまり、自分の発明がこの罰則の対象なのか、つまり保全対象なのかそうでないのかを確認できるという制度があるんですね。逆に言うと、この事前確認を行わなかったことによる第一国出願義務違反は過失責任を負うことがあるのかどうなのか、これについても答弁願います。

103 木村聡
○政府参考人(木村聡君) お答え申し上げます。
 事実確認を行わなかった、あっ、事前確認を行わなかったことによる過失責任を負わないのかという御趣旨の御質問だと存じます。
 七十九条の事前確認制度は、外国出願をしようとする者は確認を求めることができるというふうに規定しておりますとおり、利用することを義務とはしていないところでございます。したがいまして、これを用いなかったことにより過失責任を問われるものではございませんし、外国出願禁止について過失犯処罰の規定もないところでございます。
 ただし、特定技術分野に掲げられている国際特許分類に該当する可能性を認識しながら、確認することもなく禁止に抵触する外国出願をいたしますれば、一般原則といたしまして行為責任を問われる場合があり得るものと考えられます。
 いずれにいたしましても、特定技術分野を政令で明確に規定し、特許出願人の方にとって予見可能なものにする必要があることは十分認識した上で対応していきたいと考えているところでございます。
 以上でございます。

104 浜田昌良
○浜田昌良君 過失責任は問われないという答弁でございました。
 そういう意味でも、この外国出願の禁止の範囲の明確な規定が必要なわけですが、こういうものを事前確認をしようとすると、一応手数料が書いてあるんですね。一件当たり二万五千円以下と書いていますが、お金が掛かる制度なんですね。
 逆に言うと、こういうものが規制対象かどうかというのを確認する制度は従来からありまして、産業競争力強化法の第七条の規定、つまりグレーゾーン解消制度ってあったわけですよ。これを今回は適用せずに、わざわざこの事前確認制度を設けたんですが、その趣旨は何なんでしょうか。

105 木村聡
○政府参考人(木村聡君) お答え申し上げます。
 本法案第七十九条の第七項で適用を除外しております産業競争力強化法第七条、いわゆるグレーゾーン解消制度は、実施しようとする個別の事業活動について法律上の規制の適用の有無の確認を国に求めることができるものとする制度であると、このように承知しているところでございます。
 これに対しまして、本法案第七十九条は、外国出願をしようとする者が、当該外国出願が第七十八条第一項の禁止の対象となるか否かについて確認できることを定めているところでございます。
 すなわち、この規定によりまして、産業競争力強化法第七条の権利はカバーされている上に、本制度の場合、外国出願禁止の対象となる発明に該当する場合であっても、内閣総理大臣が国家及び国民の安全に影響を及ぼすものでないことが明らかと認めた場合には禁止を解除するという、より相談者の保護に厚い制度となっているところでございます。
 したがいまして、本制度によって十分カバーされる産業競争力強化法第七条をここで重ねて適用する必要はないものと考えたところでございます。
 また、産業競争力強化法第七条を適用した場合には回答の内容を公表しなければならないということになっているわけでございますが、これは、本法案第七十八条第一項の外国出願禁止に係る確認にあっては、発明の内容をさらすことになりかねず、適切ではないと考えているところでございます。このために、本法案第七十九条第七項で産業競争力強化法第七条の適用を除外することとしたところでございます。
 以上でございます。

106 浜田昌良
○浜田昌良君 結論を言いますと、この産業競争力強化法の第七条の規定を使うと、回答そのものを公表しちゃうことになっちゃうんですね。そうすると、せっかくこの保全、特許の秘密、この特許の保全といいますか、出願の非公開をしようとしているのにそのことが無になってしまうということから、この制度に代えて今回の制度が設けられたと理解をいたしました。
 いずれにしましても、とはいっても、この産業競争力強化法第七条のグレーゾーン解消制度は無料なんですが、今回は一件当たり二万五千円掛かるというので、やはり余り幅広くこの規制の対象を規定していくことは適当ではないと思うんですね、負担が掛かりますし。
 とはいっても、やっぱり明確に書かないと、規制ですから、罰則は掛かるわけですから、そういう意味では、この直罰、一年以下、五十万円以下の対象となる国際出願の禁止の、外国出願の禁止の対象となる第六条の特定技術を定める政令の規定ぶりにつきましては、一つ目としては、発明者に疑義が生じない明確性、先ほど限定列挙とありましたIPC分類の、それが求められるとともに、第七十九条の事前確認は有料となることから、真に規制するべきものに限定して、発明者に事前確認の多大な負担を強いないものとすべきと考えますが、大臣の見解を聞いて、私の質問は終わりたいと思います。

107 小林鷹之
○国務大臣(小林鷹之君) 特定技術分野につきましては、保全審査、そして第一国出願義務の対象となる発明の範囲を画するものでございます。この第一国出願義務との関係では、罰則が掛かる範囲を画するものでございますので、その政令を明確に定める必要があるのは当然だと考えています。
 保全指定の対象は、最終的には産業の発達への影響も考慮して第二次審査において絞り込まれますけれども、その前段階にある第一次審査の対象となる特定技術分野を定めるに当たりましても、これが第一国出願義務の範囲を画するものになることを踏まえ、できる限り限定すべきであると考えています。
 今委員から言及いただきました限定、IPC分類を限定列挙することも含めまして、可能な限り、この出願者、発明者の方に多大な負担を強いないような形で運用をしていきたいと考えております。

 第453回で書いた様に、この法案で明確でないと思える部分の1つに外国出願禁止の範囲と事前確認の関係があるが、国会審議における政府答弁から以下の事は分かった。

  • 第一国出願義務の対象範囲は、秘密指定のための保全審査の対象範囲と同じで、政令の特許分類によって決まる。
  • 通常は外国出願について事前確認を行わなくても過失責任を問われる事はない。
  • ただし、政令の特許分類に該当する可能性を認識しながら確認せずに外国出願した場合は別。

 この対象範囲を決める非常に重要な政令はできる限り詳細に限定列挙するとも言っていたが、具体例は何一つ示されず、対象範囲が拡大される恐れが払拭される事はなかった。

 日米協定による日本への秘密特許出願について、1988年以降の公開件数が99件であり、F41の武器が主分類になっているのは8件、F42の弾薬や爆破が主分類になっているのは1件でシングルユースの軍事技術は9件、多くがデュアルユース技術となっている事が明らかになったが、日本の新秘密特許制度でも同じ様に範囲が拡大されて行く事もあり得るのではないかと思える。

 もう1つの大きな論点である秘密指定とその後の補償について、ほとんど新たに分かった事はないのだが、政府の想定は以下の様なものであるらしい。

  • 特許出願人がまず保全対象発明の実施の許可申請をし、申請を受けた総理大臣が実施によって保全対象発明の漏えいリスクが高まる場合には不許可とし、その後、特許出願人は、許可申請時の事業計画を元に補償金額を請求し、請求を受けた内閣総理大臣が妥当な補償金額を決定する。
  • 国内だけでなく、外国で特許を取得できたら得られたであろう利益についても相当因果関係が認められれば補償の対象となり得る。

 しかし、損失の補償は実施の許可不許可だけによるものではない上、特許権の範囲が確定していない中で(そもそもこの制度では特許査定も拒絶査定も保留されるので特許出願の状態を確定する事ができない)、どの様に妥当な補償金額を決められるのか謎としか言い様がない。国会審議でも各国の法制について触れられる事もたまにあったが、第456回第457回で取り上げた米英独仏の欧米主要国でも特許権の範囲の確定なしに補償を決める様な制度を取っている国はないのである。

 上で書いた通り、重要な点ではあるが、外国出願禁止の範囲が全てに及ぶ事はなく、秘密指定の審査対象となる特許分類による指定範囲と同じであり、事前確認をしなかったからと言って過失責任を負わない事が明らかにされた事を除けば、そもそも立法事実も不明の儘なら、具体的な運用の詳細も明確にされない儘、経済安保法は成立してしまった。

 それで違憲無効というつもりもないが、この様に政府だけで決められる政令で可罰範囲が大きく変わる法制というのは刑法の原則に照らして全く問題がないとは言えない様に私は思う。

 そして、政令による秘密指定審査の対象範囲の中から、幾許かの出願が秘密指定を受けたとしても、その根拠も良く分からなければ、出願が特許になるかも決められず、特許権の範囲が確定する事もないので、妥当な補償金額の算定ができずに最後行き詰まるのではないだろうか。

 この新制度の根本的欠陥は政省令によって解消され得るものではないだろうと私は考えているが、残念ながら、法律が成立した以上この新秘密特許制度が2年後までに施行される事はほぼ確実であり、次の問題は具体的な運用の詳細を規定する政省令の検討に移るのだろうとも思うので、まずはその政省令案をできる限り速やかに公開してもらいたいと思う。

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2022年4月17日 (日)

第458回:欧米主要国の秘密特許制度(その3:ドイツとフランス)

 今後の参考として、前々回前回に引き続き、今回はドイツとフランスの秘密特許制度についてまとめておく。

(1)ドイツ
 その秘密特許制度を規定しているのは、ドイツ特許法の以下の第50条から第56条である。(以下、翻訳は全て拙訳。)

§50

(1) Wird ein Patent fur eine Erfindung nachgesucht, die ein Staatsgeheimnis (§93 des Strafgesetzbuches) ist, so ordnet die Prufungsstelle von Amts wegen an, das jede Veroffentlichung unterbleibt. Die zustandige oberste Bundesbehorde ist vor der Anordnung zu horen. Sie kann den Erlass einer Anordnung beantragen.

(2) Die Prufungsstelle hebt von Amts wegen oder auf Antrag der zustandigen obersten Bundesbehorde, des Anmelders oder des Patentinhabers eine Anordnung nach Absatz 1 auf, wenn deren Voraussetzungen entfallen sind. Die Prufungsstelle pruft in jahrlichen Abstanden, ob die Voraussetzungen der Anordnung nach Absatz 1 fortbestehen. Vor der Aufhebung einer Anordnung nach Absatz 1 ist die zustandige oberste Bundesbehorde zu horen.

(3) Die Prufungsstelle gibt den Beteiligten Nachricht, wenn gegen einen Beschluss der Prufungsstelle, durch den ein Antrag auf Erlas einer Anordnung nach Absatz 1 zuruckgewiesen oder eine Anordnung nach Absatz 1 aufgehoben worden ist, innerhalb der Beschwerdefrist (§73 Abs. 2) keine Beschwerde eingegangen ist.

(4) Die Absatze 1 bis 3 sind auf eine Erfindung entsprechend anzuwenden, die von einem fremden Staat aus Verteidigungsgrunden geheimgehalten und der Bundesregierung mit deren Zustimmung unter der Auflage anvertraut wird, die Geheimhaltung zu wahren.

§51

Das Deutsche Patent- und Markenamt hat der zustandigen obersten Bundesbehorde zur Prufung der Frage, ob jede Veroffentlichung gemass §50 Abs. 1 zu unterbleiben hat oder ob eine gemass §50 Abs. 1 ergangene Anordnung aufzuheben ist, Einsicht in die Akten zu gewahren.

§52

(1) Eine Patentanmeldung, die ein Staatsgeheimnis (§93 des Strafgesetzbuches) enthalt, darf ausserhalb des Geltungsbereichs dieses Gesetzes nur eingereicht werden, wenn die zustandige oberste Bundesbehorde hierzu die schriftliche Genehmigung erteilt. Die Genehmigung kann unter Auflagen erteilt werden.

(2) Mit Freiheitsstrafe bis zu funf Jahren oder mit Geldstrafe wird bestraft, wer
1. entgegen Absatz 1 Satz 1 eine Patentanmeldung einreicht oder
2. einer Auflage nach Absatz 1 Satz 2 zuwiderhandelt.

§53

(1) Wird dem Anmelder innerhalb von vier Monaten seit der Anmeldung der Erfindung beim Deutschen Patent- und Markenamt keine Anordnung nach §50 Abs. 1 zugestellt, so konnen der Anmelder und jeder andere, der von der Erfindung Kenntnis hat, sofern sie im Zweifel daruber sind, ob die Geheimhaltung der Erfindung erforderlich ist (§93 des Strafgesetzbuches), davon ausgehen, das die Erfindung nicht der Geheimhaltung bedarf.

(2) Kann die Prufung, ob jede Veroffentlichung gemass §50 Abs. 1 zu unterbleiben hat, nicht innerhalb der in Absatz 1 genannten Frist abgeschlossen werden, so kann das Deutsche Patent- und Markenamt diese Frist durch eine Mitteilung, die dem Anmelder innerhalb der in Absatz 1 genannten Frist zuzustellen ist, um hochstens zwei Monate verlangern.

§54

Ist auf eine Anmeldung, fur die eine Anordnung nach §50 Abs. 1 ergangen ist, ein Patent erteilt worden, so ist das Patent in ein besonderes Register einzutragen. Auf die Einsicht in das besondere Register ist §31 Abs. 5 Satz 1 entsprechend anzuwenden.

§55

(1) Ein Anmelder, Patentinhaber oder sein Rechtsnachfolger, der die Verwertung einer nach den §§1 bis 5 patentfahigen Erfindung fur friedliche Zwecke mit Rucksicht auf eine Anordnung nach §50 Abs. 1 unterlasst, hat wegen des ihm hierdurch entstehenden Vermogensschadens einen Anspruch auf Entschadigung gegen den Bund, wenn und soweit ihm nicht zugemutet werden kann, den Schaden selbst zu tragen. Bei Beurteilung der Zumutbarkeit sind insbesondere die wirtschaftliche Lage des Geschadigten, die Hohe seiner fur die Erfindung oder fur den Erwerb der Rechte an der Erfindung gemachten Aufwendungen, der bei Entstehung der Aufwendungen fur ihn erkennbare Grad der Wahrscheinlichkeit einer Geheimhaltungsbedurftigkeit der Erfindung sowie der Nutzen zu berucksichtigen, der dem Geschadigten aus einer sonstigen Verwertung der Erfindung zufliesst. Der Anspruch kann erst nach der Erteilung des Patents geltend gemacht werden. Die Entschadigung kann nur jeweils nachtraglich und fur Zeitabschnitte, die nicht kurzer als ein Jahr sind, verlangt werden.

(2) Der Anspruch ist bei der zustandigen obersten Bundesbehorde geltend zu machen. Der Rechtsweg vor den ordentlichen Gerichten steht offen.

(3) Eine Entschadigung gemass Absatz 1 wird nur gewahrt, wenn die erste Anmeldung der Erfindung beim Deutschen Patent- und Markenamt eingereicht und die Erfindung nicht schon vor dem Erlass einer Anordnung nach §50 Abs. 1 von einem fremden Staat aus Verteidigungsgrunden geheimgehalten worden ist.

第50条

第1項 国家機密(刑法第93条)である発明に対して特許が求められる場合、審査部は、職権で、公開を保留する事を命令する。権限を有する連邦最高機関の意見が聞かれる。それは命令の発出を要請できる。

第2項 その命令の前提条件がなくなったとき、審査部は、職権で、又は、出願人権限を有する連邦最高機関、出願人又は特許権者の要請により、第1項に基づく命令を取り消す。審査部は1年毎に、第1項に基づく命令の前提条件が継続しているかどうかを審査する。第1項の命令の取り消しの前に、権限を有する連邦最高機関の意見が聞かれる。

第3項 審査部は、第1項に基づく命令の発出の要請を却下するか第1項に基づく命令を取り消す決定に対して不服期間(第73条第2項)(訳注:1月)に不服が申し立てられなかったとき、当事者に通知する。

第4項 第1項から第3項は、外国により防衛上の理由から秘密を保持され、連邦政府に、秘密保持を保障するというその同意とともに委ねられた発明にも準用される。

第51条

ドイツ特許商標庁は、第50条第1項に従い公開を保留するかどうか又は第50条第1項に従い過去の命令を取り消すかどうかの問題の審査について、権限を有する最高連邦機関に書類の閲覧を認める。

第52条

第1項 国家機密(刑法第93条)を含む特許出願は、権限を有する連邦最高機関によりそれについて書面による許可が与えられない限り、本法の管轄地外で提出する事は許されない。許可は条件つきで与えられ得る。

第2項 次の者は5年までの禁固刑又は罰金により罰される
1.第1項第1文に違反し、特許出願を提出したか
2.第1項第2文の条件に違反した者。

第53条

第1項 特許出願人にドイツ特許商標庁への発明の出願から4月の間第50条第1項に基づく命令が送達されない場合、(刑法第93条に基づく)発明の秘密保持が必要かどうかについて疑いを抱く限りにおいて、出願人又は発明について知る他の者は、秘密保持の必要がない事を導き出せる。

第2項 第50条第1項に従い公開を保留するかどうかの審査は第1項に記載の期間で終わらない事があり、その場合ドイツ特許商標庁は、第1項に記載の期間中に出願人に送達される通知により、最長で2月の延長ができる。

第54条

第50条第1項に基づく命令が出された発明に対し特許が付与された場合、特許は特別の登録簿に登録される。特別の登録簿の閲覧について第31条第5項第1文(訳注:秘密保持命令が出されている特許出願の書類の閲覧は極めて特別な場合にのみ許されるとする条項)が準用される。

第55条

第1項 第50条第1項に基づく命令を考慮し、第1条から第5条に基づき特許を受けられる発明の平和目的の利用を止められた出願人、特許権者又はその承継人は、損害を自身で負うべき事が要求されないとき、また、その限りにおいて、それによって自身に生じた財産的損害について、連邦に対する損害補償請求権を有する。

要求の判断において、特に、損害を受けた者の経済的地位、その発明又はその発明に関する権利の入手のために掛かった費用の多寡、費用の発生の際その者に分かる発明並びに利用に対する秘密保持の必要性の蓋然性の程度が考慮される。請求は特許付与後にのみ主張できる。損害補償は後に1年より短くない期間に対してのみ求める事ができる。

第2項 請求は権限を有する連邦最高機関にされる。

第3項 第1項による損害補償は、発明の最初の出願がドイツ特許商標庁に提出され、発明が第50条第1項の命令の発出より前に既に外国によって防衛上の理由により秘密に保持されていなかったときのみ、与えられる。

第56条

(略:権限を有する最高連邦機関を政府が規則で決められる事を規定。)

 この秘密特許制度について、ドイツ特許庁のHPに掲載されている解説(pdf)中に以下の様に書かれている。

Patente und Gebrauchsmuster fur Staatsgeheimnisse

Patent- oder Gebrauchsmusteranmeldungen zum Beispiel aus

- der Wehr- und Rustungstechnologie
- der Kerntechnologie
- der geheimen Nachrichtenubertragung

konnen Staatsgeheimnisse enthalten.

Diese Erfindungen unterliegen dann dem so genannten "Geheimschutz". Infrage kommen hier vor allem Anmeldungen von Unternehmen und privaten wie staatlichen Forschungseinrichtungen.

Geheimhaltungsverfahren

Alle beim DPMA eingehenden Patent- und Gebrauchsmusteranmeldungen aus bestimmten Klassen der Internationalen Patentklassifikation (IPC) werden zunachst dem Buro 99 zugeleitet. Hier werden dann die nicht geheimhaltungsbedurftigen Schutzrechtsanmeldungen in mehreren Schritten "ausgesiebt". Das DPMA arbeitet dabei mit anderen Behorden wie dem Bundesministerium der Verteidigung und dem Bundesministerium fur Wirtschaft und Technologie zusammen.

Ist die Anmeldung geheimhaltungsbedurftig, erlasst das DPMA - nach vorheriger Anhorung des Anmelders - eine Geheimhaltungsanordnung. Dabei uberpruft das DPMA jahrlich, ob die Geheimhaltung der Schutzrechte oder Schutzrechtsanmeldungen weiter fortbestehen muss oder ob die Geheimhaltung aufgehoben werden kann. Kann die Geheimhaltung aufgehoben werden, wird auch eine Offenlegungs- oder Patentschrift veroffentlicht.

...

Haufig gestellte Fragen zum Geheimschutz

Was sind Staatsgeheimnisse?

Staatsgeheimnisse sind Tatsachen, Gegenstande oder Erkenntnisse, die nur einem begrenzten Personenkreis zuganglich sind und vor einer fremden Macht geheim gehalten werden mussen, um die Gefahr eines schweren Nachteils fur die aussere Sicherheit der Bundesrepublik Deutschland abzuwenden (§93 Abs. 1 StGB).

Habe ich ein Staatsgeheimnis erfunden?

Anmeldungen aus folgenden technischen Gebieten konnen vornehmlich Staatsgeheimnisse enthalten:

- Wehr- und Rustungstechnologie z.B. Panzerungen, Sprengstoffe, Munition, Peil- und Messvorrichtungen
- Kernenergietechnologie z.B. Gasultrazentrifugen, Fusionsreaktoren, Plasma-Kerntechnik
- Wert- und Sicherheitsdokumente z.B. Wertpapiere, Banknoten, Ausweise
- Kryptologie z.B. Codier-/Decodiersysteme, Nachrichtentechnik.

Staatsgeheimnisse im Schutzrechtsverfahren gibt es ausschliesslich im Patent- und Gebrauchsmusterwesen. Marken- und Designanmeldungen konnen keine Staatsgeheimnisse enthalten.

...

Wer oder was ist das Buro 99?

Das Buro 99 ist die zentrale Stelle des DPMA fur Patent- und Gebrauchsmusterangelegenheiten, bei denen das Geheimhaltungsverfahren fur die Schutzrechte Patente und Gebrauchsmuster lauft bzw. die Geheimhaltungsanordnung vorliegt.

Wie melde ich ein Staatsgeheimnis an?

Fur die Anmeldung sind dieselben Unterlagen wie fur eine "normale" Patent- oder Gebrauchsmusteranmeldung zu verwenden. Wenn konkrete Anhaltspunkte vorliegen, die ein mogliches Staatsgeheimnis erkennen lassen, soll dies bereits durch den Anmelder bei der Anmeldung sowie auf dem Briefkuvert kenntlich gemacht werden. Dieses kenntlich gemachte Kuvert ist dann in ein weiteres nicht gekennzeichnetes Kuvert zu stecken und dem DPMA zuzuleiten.

Der aussere Umschlag darf nur die fur die Zustellung erforderlichen Angaben enthalten. Er darf keine Zusatze, die Ruckschluss auf den Inhalt zulassen oder auf eine Sonderbehandlung der Sendung hindeuten, aufweisen (§21 Abs. 6 der Allgemeinen Verwaltungsvorschrift zum materiellen und organisatorischen Schutz von Verschlusssachen - VSA sowie Anlage 6).

Die Ubersendung an das Europaische Patentamt ist nicht zulassig, da es sich um eine europaische Behorde handelt, die uber deutsche Staatsgeheimnisse keine Kenntnis erlangen darf.

Darf ich elektronisch anmelden?

Auch nach Einfuhrung der elektronischen Schutzrechtsakte besteht fur Staatsgeheimnisse keine Moglichkeit, diese auf gesichertem elektronischem Weg (weder Internet noch Telefax!) dem DPMA zuzuleiten. Anmeldungen mussen daher ebenso wie der dazugehorige Schriftverkehr stets in Papierform eingereicht werden.

国家機密に関する特許及び実用新案

例えば次の特許又は実用新案出願は国家機密を含み得ます。

・防衛及び軍事技術
・核技術
・秘密情報通信

これらの発明はいわゆる「秘密保護」を受けます。ここで企業並びに民間及び国家研究機関の出願が問題となり得ます。

秘密保持手続き

ドイツ特許庁に入って来た全特許及び実用新案出願は、国際特許分類(IPC)の特定の分類により、ビューロー99に運ばれます。そこで秘密保持の必要性のない出願は多段階で「ふるい分けられます」。ドイツ特許庁はそこで国防省及び経済技術省の様な他の機関とともに仕事をします。

出願について秘密保持が必要な場合、ドイツ特許庁は-事前の出願人の意見聴取の後-秘密保持命令を出します。それで、ドイツ特許庁は1年毎に、保護権又は出願の秘密保持がさらに継続されなくてはならないか又は秘密保持が取り消され得るかを審査します。秘密保持が取り消され得ると、公開又は特許公報が公開されます。

(略)

秘密保護について良くある質問

国家機密とは何でしょうか?

国家機密とは、限定的な者の間でのみアクセス可能とされた、ドイツ連邦共和国の対外安全保障に重大な不利益をもたらす危険を防止するため、外国権力に対して秘密に保持されなくてはならない、事実、対象又は知識です(刑法第93条第1項)。

私は国家機密を発明したのでしょうか?

次の技術分野の出願がとりわけ国家機密を含み得ます:
・防衛及び軍事技術、例えば、装甲、爆発物質、弾薬、測定機器
・核技術、例えば、ガス超遠心分離、核融合炉、プラズマ核技術
・有価及びセキュリティ書類、例えば、有価証券、銀行券、証明書
・暗号技術、例えば、暗号化/復号化システム、通信技術。

手続きにおいて国家機密との関係が出て来るのは特許及び実用新案のみです。商標及び意匠出願が国家機密を含む事はありません。

(略)

ビューロー99とは何なのでしょうか?

ビューロー99は、特許及び実用新案についての秘密保持手続きが行われ、場合によって秘密保持手続きを出す、特許及び実用新案の業務のためのドイツ特許庁の中心部署です。

私はどの様に国家機密を出願すれば良いでしょうか?

出願については、それ自体は「通常の」特許又は実用新案出願のための書類を用います。国家機密が含まれ得る事について知らせる事について具体的な根拠があるとき、その事は出願の際に出願人によって封筒においても分かる様にされるべきです。この分かる様にされた封筒を他の印のない封筒に入れ、ドイツ特許庁に送ります。

外側の包みは到達に必要とされる事のみを書く事が許されます。内容が推測できる様な事や送付における特別な取り扱いについてなどの追記は許されません(秘密事項の物理的及び機構的ほぼについての一般行政規定-VSA並びに補足6)。

欧州特許庁への送付は許されていません、それはドイツの国家機密について知る事を求める事が許されていない欧州機関によって取り扱われます。

私は電子的に出願する事ができるでしょうか?

電子的な書類の提出についても、国家機密について可能ではありません、それをセキュリティを確保した電子的手段(インターネットでもファックスでも!)でドイツ特許庁に出す事はできません。出願は、したがって、それに付随する書類のやり取りもまたそうですが、常に紙の形式で提出されなくてはなりません。

 ドイツ特許法の規定では、刑法の国家機密の定義をそのまま引用しているのが特徴と言えば特徴であり、もし特許が秘密保持の対象になれば、一般刑法の規制も受ける事になる。

 秘密保持命令が出されるまでの期間は通常4ヶ月で、最長でも6ヶ月までとされており、1年毎に継続するかどうかが判断される。不服申し立てについても規定されている。

 条文上、ドイツで出されるのは出願が国家機密と判断された場合の秘密保持命令だけだが、国家機密を含むとは到底考えられない出願についてまで一律外国出願禁止が課されているとは読めないのであり、この様な条文の書き方がされている事は重要だろう。

 補償についても、公開こそされないものの求められるのは特許付与後であり、その平和目的利用が止められた場合についてのみ補償するとされ、発明のために請求者に掛かった費用なども考慮するとされている。

 ドイツ特許庁は、国際特許分類(IPC)の特定の分類によって出願をふるい分け、さらに国防省の意見も聞きながら秘密保持命令を出すとしているが、秘密特許に対する統計情報の公開もなく、政府や軍が関与し元から国家機密を含むと分かっていて特別な形で出される出願以外にどれほどこの国際特許分類によるふるい分けによって秘密保持命令が出されているのかは分からない。

 この秘密保持命令とその補償について争われた様なケースは少ないが、昔のドイツ最高裁の判決として、秘密保持命令の取り消しの是非が争われた1991年1月12日の判決1977年2月3日の判決、国家予算による研究開発に基づく秘密特許に対する補償の必要性を否定した1972年5月4日の判決などがある。後者の1972年の判例が今も有効だとすると、政府や軍が関与している場合がほとんどだろう秘密特許に対して補償がまともに認められる事はまずないのではないだろうか。

 さらに、ドイツ特許裁判所の2015年12月15日の判決の様に、2010年の出願に対して秘密保持命令が出されたが、その後特許庁が出願をうっかり公開してしまったために、命令の取り消しが認められたという状況の中で、出願人が元の出願と秘密とされる部分を除いて出した分割出願の統合と特許料の返金を求めたという様なケースがあるのを見ると、今でもドイツの秘密特許制度は運用されていないという事はなさそうだが、その意義は大いに疑わしく思える。

(2)フランス
 フランスでは、その知的財産法の第612-8条から第612-10条に以下の様に規定されている。

Article L612-8

Le ministre charge de la defense est habilite a prendre connaissance aupres de l'Institut national de la propriete industrielle, a titre confidentiel, des demandes de brevet.

Article L612-9

Les inventions faisant l'objet de demandes de brevet ne peuvent etre divulguees et exploitees librement aussi longtemps qu'une autorisation n'a ete accordee a cet effet.

Pendant cette periode, les demandes de brevet ne peuvent etre rendues publiques, aucune copie conforme de la demande de brevet ne peut etre delivree sauf autorisation, et les procedures prevues aux articles L. 612-14, L. 612-15 et au 1° de l'article L. 612-21 ne peuvent etre engagees.

Sous reserve de l'article L. 612-10, l'autorisation prevue au premier alinea du present article peut etre accordee a tout moment. Elle est acquise de plein droit au terme d'un delai de cinq mois a compter du jour du depot de la demande de brevet.

Les autorisations prevues aux premier et deuxieme alineas du present article sont accordees par le directeur de l'Institut national de la propriete industrielle sur avis du ministre charge de la defense.

Article L612-10

Avant le terme du delai prevu au deuxieme alinea de l'article L. 612-9, les interdictions edictees a l'alinea premier dudit article peuvent etre prorogees, sur requisition du ministre charge de la defense, pour une duree d'un an renouvelable. Les interdictions prorogees peuvent etre levees a tout moment, sous la meme condition.

La prorogation des interdictions edictees en vertu du present article ouvre droit a une indemnite au profit du titulaire de la demande de brevet, dans la mesure du prejudice subi. A defaut d'accord amiable, cette indemnite est fixee par le tribunal judiciaire. A tous les degres de juridiction, les debats ont lieu en chambre du conseil.

Une demande de revision de l'indemnite prevue a l'alinea precedent peut etre introduite par le titulaire du brevet a l'expiration du delai d'un an qui suit la date du jugement definitif fixant le montant de l'indemnite.

Le titulaire du brevet doit apporter la preuve que le prejudice qu'il subit est superieur a l'estimation du tribunal.

第612-8条

防衛担当大臣は、特許庁において、秘密として、特許について知る権限を有する。

第612-9条

そのための許可が与えられない限り、特許出願の対象となる発明は開示も自由利用もできない。

この期間の間、特許出願は公開されず、特許出願を写したコピーは許可なく渡されず、第612-14条、第612-15条及び第612-21条の第1号(訳注:検索の結果報告、出願の変更、出願の公開に関する条項)は実行されない。

第612-10条の留保の下、本条の第1段落に規定された許可はいつでも与えられ得る。それは完全なものとして特許出願から5月内に手に入る。

本条の第1段落及び第2段落に規定された許可は、防衛担当大臣の意見を聞いた上で特許庁長官によって与えられる。

第612-10条

第612-9条の第2段落に規定された期間が終わる前に、同条の第1段落に規定される禁止は、防衛担当大臣の要請により、更新可能なものとして1年間され得る。延長された禁止は同じ条件の下でいつでも取り消され得る。

本条による規定の禁止の延長により、その受けた損害に応じ、特許出願の所有者に補償請求権が与えられる。和解的合意が成立しない場合、この補償は裁判所によって決定される。司法の全段階において、訴訟の審理は非公開の場で行われる。

前段落の補償の見直しは、補償の額を決定する確定判決の日から1年の期間が過ぎた後にのみ、特許権者によって持ち出され得る。

特許権者は、受けた損害が裁判所の評価を上回るものである証拠を提出しなければならない。

 上の法律の条文に対応するものとして規則第612-26条から第612-32条でさらに細かな規則が定められており、他にも防衛目的で政府が特許を利用する場合に関する知的財産法第613-19条とそれに対応する規則第613-34条から第613-64条もある。

 対応する罰則は第615-13条に書かれている。

Article L615-13

Sans prejudice, s'il echet, des peines plus graves prevues en matiere d'atteinte a la surete de l'Etat, quiconque a sciemment enfreint une des interdictions portees aux articles L. 612-9 et L. 612-10 est puni d'une amende de 4 500 euros. Si la violation a porte prejudice a la defense nationale, une peine d'emprisonnement de un a cinq ans pourra, en outre, etre prononcee.

第615-13条

それがあり得るときには、国家の安全補償を損なう事項について規定されたより重い罰に影響を与える事なく、第612-9条及び第612-10条に記載された禁止のいずれかに故意に違反した者は、4500ユーロの罰金を科される。その違反が国防に損害をもたらしたとき、1年から5年までの禁固刑がさらに科され得る。

 そして、フランス特許庁がそのHPで、以下の様な注意を書いており、軍事省、装備総局と連名で安全保障に関する事項における知的財産関係者の利用のためのガイド(pdf)も出している。

6 - L'INPI transmet ensuite votre demande pour examen a la Defense nationale

Cette etape est imposee par la loi pour verifier si l'invention ne presente pas un interet pour la nation justifiant que sa divulgation soit empechee ou retardee. C'est rarement le cas. Le ministre de la Defense dispose d'un delai maximal de 5 mois pour decider s'il met ou non le brevet au secret. En regle generale, l'autorisation de divulgation vous est adressee par courrier dans les 4 a 6 semaines suivant votre depot.

Il vous est possible de demander, des le depot, une autorisation exceptionnelle de divulguer et d'exploiter l'invention.

Attention : les demandes susceptibles d'interesser la Defense nationale, typiquement une invention deposee a l'occasion de l'execution d'un marche notifie par le Ministere de la Defense, ou relevant d'un domaine sensible, ou relevant du secret d'un gouvernement etranger doivent etre deposees par voie papier exclusivement et une note d'information doit etre emise a l'attention du Bureau de la Propriete intellectuelle de la Direction Generale de l'Armement :

6.フランス特許庁は次にあなたの出願を国家安全保障に関する審査に移します

この段階は、国家がその開示を止めるか、遅らせるかするべきと判断する内容を発明が提示していないかを確かめるために法律によって課されているものです。該当するケースは稀です。防衛大臣は、出願を秘密とするかどうかを決定するため最長で5月の期間を使います。一般的に、開示の許可は出願後4から6週間で郵便によって送られます。

出願した時から、開示及び発明の利用の例外許可を求める事ができます。

注意:国家の防衛に関わると考えられる出願、典型的には国防省の通知を受けた取引の実施の際に出された出願や、機密となる範囲に関する出願や、外国政府の秘密に関する出願は紙によってのみ提出されるべきで、情報に関する注意書きが装備総局の知的財産課の注意のためにつけられるべきです:

 フランスでは、開示許可(外国出願許可)または秘密保持命令を出すまでに最長5ヶ月を要するとしているが、通常4から6週間とかなり短い期間で開示許可を出している様である。フランス特許庁がどの様に運用しているのかの詳細は不明だが、これほど短い期間で開示許可を出しているという事は、政府や軍が関与している事から特別な形で出されるものを除き、全ての出願について形式的なチェックだけで開示許可を出しているのではないかと思える。そして、フランスで開示許可について何か問題が発生したという話も聞かないのである。

 違反の罰則についても、国防にまで影響が出た場合はともかく、それ以外の場合は罰金のみと書き分けられている事もポイントの1つだろう。

 また、フランス特許庁は秘密保持命令の件数について公開しておらず、特許出願に対する秘密保持命令とその補償について裁判で争われた様なケースも見当たらなかった。

 前々回前回に続き、今回で米英独仏の秘密特許制度について公開情報から分かる事を一通りまとめてみたが、外形的に見る限り、これらの欧米主要国においても、秘密特許制度が国の安全保障に本当に役立っているとは全く思えず、そもそもこの様な不透明かつ役に立つかも疑わしい制度をどうして今の日本で導入しようとしているのか私にはやはり良く分からない。

 そして、仮に似た様な制度を導入するにしても、米英独仏の欧米主要国の制度ですら一様という事はなく、それぞれ出願人に対して利便が図られている点や不利な点などを良く考えて注意深く制度設計を行うべきはずだが、日本政府は各国の制度に対する公開情報の分析も不十分な生煮えの検討の儘、経済安保法案の秘密特許制度(特許非公開制度)に関する条文を極めて拙速に作ったのではないかという疑念が拭い切れない。

 前に書いた通りだが、今の非常に不明確な条文の儘秘密特許制度が成立すると、導入時の混乱と恣意的な運用により、国の安全保障に役立たないのは無論の事、かえって国として本来促進するべき技術分野の研究開発、国内外での特許取得活動に大きな萎縮が発生する恐れがある。今からでも遅くはないので、外国と日本の現状を十分良く見た上で、今一度抜本的に条文レベルで見直しを行うべきであると、私は今もそう思っている。

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2022年4月15日 (金)

第457回:欧米主要国の秘密特許制度(その2:イギリス)

 今後の参考として、前回のアメリカに続き、今回はイギリスの秘密特許制度を取り上げる。

 その秘密特許制度を規定しているのは、英国特許法の以下の様な安全保障と安全に関する第22条と第23条である。(以下、翻訳は全て拙訳。)

22 Information prejudicial to national security or safety of public.

(1) Where an application for a patent is filed in the Patent Office (whether under this Act or any treaty or international convention to which the United Kingdom is a party and whether before or after the appointed day) and it appears to the comptroller that the application contains information of a description notified to him by the Secretary of State as being information the publication of which might be prejudicial to national security, the comptroller may give directions prohibiting or restricting the publication of that information or its communication to any specified person or description of persons.

(2) If it appears to the comptroller that any application so filed contains information the publication of which might be prejudicial to the safety of the public, he may give directions prohibiting or restricting the publication of that information or its communication to any specified person or description of persons until the end of a period not exceeding three months from the end of the period prescribed for the purposes of section 16 above.

(3) While directions are in force under this section with respect to an application-

(a) if the application is made under this Act, it may proceed to the stage where it is in order for the grant of a patent, but it shall not be published and that information shall not be so communicated and no patent shall be granted in pursuance of the application;

...

(5) Where the comptroller gives directions under this section with respect to any application, he shall give notice of the application and of the directions to the Secretary of State, and the following provisions shall then have effect:-

(a) the Secretary of State shall, on receipt of the notice, consider whether the publication of the application or the publication or communication of the information in question would be prejudicial to national security or the safety of the public;

(b) if the Secretary of State determines under paragraph (a) above that the publication of the application or the publication or communication of that information would be prejudicial to the safety of the public, he shall notify the comptroller who shall continue his directions under subsection (2) above until they are revoked under paragraph (e) below;

(c) if the Secretary of State determines under paragraph (a) above that the publication of the application or the publication or communication of that information would be prejudicial to national security or the safety of the public, he shall (unless a notice under paragraph (d) below has previously been given by the Secretary of State to the comptroller) reconsider that question during the period of nine months from the date of filing the application and at least once in every subsequent period of twelve months;

(d) if on consideration of an application at any time it appears to the Secretary of State that the publication of the application or the publication or communication of the information contained in it would not, or would no longer, be prejudicial to national security or the safety of the public, he shall give notice to the comptroller to that effect; and

(e) on receipt of such a notice the comptroller shall revoke the directions and may, subject to such conditions (if any) as he thinks fit, extend the time for doing anything required or authorised to be done by or under this Act in connection with the application, whether or not that time has previously expired.

(6) The Secretary of State may do the following for the purpose of enabling him to decide the question referred to in subsection (5)(c) above-

(a) where the application contains information relating to the production or use of atomic energy or research into matters connected with such production or use, he may at any time do one or both of the following, that is to say,
(i) inspect the application and any documents sent to the comptroller in connection with it;
(ii) authorise a government body with responsibility for the production of atomic energy or for research into matters connected with its production or use, or a person appointed by such a government body, to inspect the application and any documents sent to the comptroller in connection with it; and

(b) in any other case, he may at any time after (or, with the applicant's consent, before) the end of the period prescribed for the purposes of section 16 above inspect the application and any such documents;

and where a government body or a person appointed by a government body carries out an inspection which the body or person is authorised to carry out under paragraph (a) above, the body or (as the case may be) the person shall report on the inspection to the Secretary of State as soon as practicable.

(7) Where directions have been given under this section in respect of an application for a patent for an invention and, before the directions are revoked, that prescribed period expires and the application is brought in order for the grant of a patent, then-

(a) if while the directions are in force the invention is worked by (or with the written authorisation of or to the order of) a government department, the provisions of sections 55 to 59 below shall apply as if-
(i) the working were use made by section 55;
(ii) the application had been published at the end of that period; and
(iii) a patent had been granted for the invention at the time the application is brought in order for the grant of a patent (taking the terms of the patent to be those of the application as it stood at the time it was so brought in order); and

(b) if it appears to the Secretary of State that the applicant for the patent has suffered hardship by reason of the continuance in force of the directions, the Secretary of State may, with the consent of the Treasury, make such payment (if any) by way of compensation to the applicant as appears to the Secretary of State and the Treasury to be reasonable having regard to the inventive merit and utility of the invention, the purpose for which it is designed and any other relevant circumstances.

(8) Where a patent is granted in pursuance of an application in respect of which directions have been given under this section, no renewal fees shall be payable in respect of any period during which those directions were in force.

(9) A person who fails to comply with any direction under this section shall be liable-

(a) on summary conviction, to a fine not exceeding £1,000; or

(b) on conviction on indictment, to imprisonment for a term not exceeding two years or a fine, or both.

23 Restrictions on applications abroad by United Kingdom residents.

(1) Subject to the following provisions of this section, no person resident in the United Kingdom shall, without written authority granted by the comptroller, file or cause to be filed outside the United Kingdom an application for a patent for an invention if subsection (1A) below applies to that application, unless -

(a) an application for a patent for the same invention has been filed in the Patent Office (whether before, on or after the appointed day) not less than six weeks before the application outside the United Kingdom; and

(b) either no directions have been given under section 22 above in relation to the application in the United Kingdom or all such directions have been revoked.

(1A) This subsection applies to an application if-

(a) the application contains information which relates to military technology or for any other reason publication of the information might be prejudicial to national security; or

(b) the application contains information the publication of which might be prejudicial to the safety of the public.

(2) Subsection (1) above does not apply to an application for a patent for an invention for which an application for a patent has first been filed (whether before or after the appointed day) in a country outside the United Kingdom by a person resident outside the United Kingdom.

(3) A person who files or causes to be filed an application for the grant of a patent in contravention of this section shall be liable-

(a) on summary conviction, to a fine not exceeding £1,000; or

(b) on conviction on indictment, to imprisonment for a term not exceeding two years or a fine, or both.

(3A) A person is liable under subsection (3) above only if -

(a) he knows that filing the application, or causing it to be filed, would contravene this section; or

(b) he is reckless as to whether filing the application, or causing it to be filed, would contravene this section.

第22条 国家の安全保障又は公共の安全を損なう情報

第1項 出願が特許庁に提出され(本法又は連合王国が加盟する条約又は国際協定によるもので、施行日の前後のもの)、その出願が、その公開が国家の安全保障を損ない得るものであるとして国務大臣によって通知された記述の情報を含むと特許庁長官に見られる場合、特許庁長官は、その情報の公開又は特定の人若しくは人々の説明への伝達を禁止又は制限する命令を出す事ができる。

第2項 その公開が公共の安全を損ない得るものである情報を含むと特許庁長官に見られる場合、第16条(訳注:出願公開に関する条項)の目的のために規定された期間の終わりから3月を超えない期間の終わりまでその情報の公開又は特定の人若しくは人々の説明への伝達を禁止又は制限する命令を出す事ができる。

第3項 命令が出願に関して本条に基づき効力を有する間-

(a)その出願が本法に基づきなされたものであるとき、それは特許付与され得る事が整う段階まで進む事ができるが、それが公開される事はなく、その情報は伝達されてはならず、その出願によって特許が付与される事もない;

(略:第3項(b)と(c)はそれぞれ欧州特許条約と特許協力条約における出願の場合について規定。第4項は特許庁長官は欧州特許条約の義務である時に情報を欧州特許庁に送る事を妨げられない事を規定。)

第5項 出願に関して本条に基づき命令を出す場合、特許庁長官はその出願及び命令について国務大臣に通知し、次の規定がその時実行される。

(a)国務大臣は、通知を受けたら、出願の公開又は問題となる情報の公開又は伝達が国家の安全保障又は公共の安全を損なうかどうかを検討する;

(b)前の(a)に基づき、出願の公開又は問題となる情報の公開又は伝達が国家の公共の安全を損なうであろうと判断するとき、国務大臣は、下の(e)に基づき取り消されるまでその命令を続けるべき事を特許庁長官に通知する;

(c)前の(a)に基づき、出願の公開又は問題となる情報の公開又は伝達が国家の安全保障又は国家の公共の安全を損なうであろうと判断するとき、国務大臣は、(下の(d)の通知が前もって国務大臣によって特許庁長官に与えられていない限り)出願が提出された日から9月の期間及び12月の続く毎期間において少なくとも1度その問題を再検討する;

(d)どの時においても、出願の検討において、出願の公開又はそれに含まれる情報の公開又は伝達が国家の安全保障又は国家の公共の安全を損なわないか、もはや損なわなくなったと国務大臣に見られるとき、国務大臣は特許庁長官にその結果について通知する。

(e)その様な通知を受け取ったら、特許庁長官は命令を取り消し、(もしあれば)適切であると考える条件の下に、その時間が以前に過ぎていたかどうかによらず、出願と関連して本法により又はそれに基づき求められるか許される事をするための時間を延長する事ができる。

第6項 国務大臣は、前の第5項(c)に記載された問題を決める事を可能とする目的で次の事ができる-

(a)出願が原子力に関する製造若しくは利用又はその様な製造若しくは利用に関連する事項についての研究に関係する情報を含む場合、国務大臣はいずれの時でも次の事のいずれか又は両方をする事ができる、すなわち、
(ⅰ)出願及びそれに関連して特許庁長官に送付された書類を検査する事;
(ⅱ)原子力に関する製造若しくは利用又はその様な製造若しくは利用に関連する事項についての研究に責任を有する政府機関又はその様な政府機関によって任命された者に出願及びそれに関連して特許庁長官に送付された書類を検査する事を認める事;そして

(b)他の場合において、国務大臣は前の第16条の目的のために規定された期間の終わりの後(又は、出願人の同意を得てその前)のどの時でも出願及びその様な書類を検査できる;

そして、政府に指定された政府機関又は者が、その機関又は者に前の(a)に基づき実施する事を認められた検査を実施する場合、その機関又は(ケースにより)者は、実行できる限り早く国務大臣に検査について報告する。

第7項 発明に関する特許出願に関して本条に基づき命令が出され、命令が取り消される前に、規定の期間が過ぎ、出願について特許付与され得る事が整った場合、その際-

(a)命令が効力を有する間に発明が政府部局によって(その書面による認可又は命令とともに)実施されるとき、下の第55条から第59条の規定(訳注:政府利用とその補償に関する条項)が次のものとして適用される-
(ⅰ)実施が第55条によってなされ;
(ⅱ)出願がその期間の終わりに公開され;そして
(ⅲ)出願が特許付与され得る事が整った時に発明に対して特許が付与されたものとして(特許の期間はその様に整った時のその出願の期間として);そして

(b)特許の出願人が命令の効力の継続のために損失を受けているとき、国務大臣は、財務大臣の同意とともに、発明の価値及び有用性、それが設計された目的及び関連する他の状況を考慮して国務大臣及び財務省に妥当と見られるものとして(もしあれば)出願人に対する補償を支払う事ができる。

第8項 本条に基づき命令を与えられた出願により特許が付与された場合、その命令が効力を有していた期間に関して更新手数料が支払われる事はない。

第9項 本条に基づく命令に従わなかった者は次の罰を受ける-

(a)陪審のない判決により、1000ポンドを超えない罰金;又は

(b)陪審のある判決により、2年を超えない禁錮若しくは罰金又はその両方。

第23条 連合王国居住者による外国出願についての制限

第1項 本条の次の規定に従い、次の場合を除き、連合王国の居住者は誰も、第1A項が適用される出願であるとき、特許庁長官によって与えられた書面による許可なく、発明についての特許出願を連合王国外で提出するか、その様な出願が提出される事をもたらしてはならない。

(a)同じ発明のための特許出願が、連合王国外の出願より6週間以上前に(施行日の前後で)特許庁に提出され;そして

(b)連合王国内で出願に関して第22条に基づき命令が出されていないか、その様な命令が全て取り消された場合。

第1A項 本項は次の出願に適用される

(a)軍事技術に関係する情報を含むか、他の理由によりその公開が国家の安全保障を損ない得る情報を含む出願;又は

(b)その公開が公共の安全を損ない得る情報を含む出願。

第2項 前の第1項は、(施行日の前後で)特許出願が連合王国外に居住する者によって連合王国外の国に最初に出願された発明についての特許出願には適用されない。

第3項 本条に違反して、特許付与を受けるための出願をしたか、出願をもたらした者は次の罰を受ける-

(a)陪審のない判決により、1000ポンドを超えない罰金;又は

(b)陪審のある判決により、2年を超えない禁錮若しくは罰金又はその両方。

第3A項 前の第3項において、次の場合のみ罰を受ける-

(a)その者が、その出願の提出又は出願をもたらす事が本条に違反する事を知っているか;又は

(b)その者が、その出願の提出又は出願をもたらす事が本条に違反するかどうかについて無謀であるか。

(略:第4項は出願とは他の保護のための出願や条約に基づく出願も参照するものであると規定。)

 次に、イギリス特許庁の特許実務マニュアルの第22条の解説から、主な部分を以下に訳出する。

22.01

This section gives the comptroller the power to prohibit the communication of information disclosed in an application filed at the Office, specifies how such an application is to be dealt with by the Office, lays down how prohibition directions are to be reviewed by the Secretary of State, confers certain rights on an applicant where grant of a patent is prevented by such a direction, and finally specifies penalties for failure to comply with such a direction. S.22 applies to all applications filed at the Office, whether filed under the 1977 Act or filed at the Office in its capacity as a Receiving Office under the EPC or the PCT. It also applies to applications under the 1949 Act, except that where such an application was, on the date (1st June 1978) on which the 1977 Act came into force, already the subject of directions under s.18 of the 1949 Act, those directions continue in force; if and when directions on such an application are revoked any patent is published and granted under the 1949 Act (unless the application is withdrawn in which case it is neither granted nor, following paragraph 1 of Schedule 5 to the CDP Act, published). S.22 was amended by the Patents Act 2004 with effect from 1 January 2005, which substituted the original term "the defence of the realm" with "national security" throughout this section, without any intended change of scope. The 2004 Act also amended s.22(6) to remove references to the United Kingdom Atomic Energy Authority (UKAEA).

...

Every application filed at the Office, is, once it has passed through Document Reception and New Applications (or has been filed securely - see 22.07), scrutinised by an examiner in Security Section, who is supplied with a list of material, the publication of information about which might be prejudicial to national security. If such information is disclosed, the application is removed from the general stream of applications and directions are given under s.22(1) prohibiting the publication of the application and the communication of its contents. Similar directions are given under s.22(2) if the information disclosed is such that its publication might be prejudicial to the safety of the public. In this case no general guidance is given by the Secretary of State, and the decision as to what falls into this category is a matter for the comptroller.

...

22.05

s.97(1)(c) is also relevant

In neither case is there any appeal from a decision by the comptroller to issue prohibition directions.

22.06

Although prohibition directions initially impose a blanket prohibition against any disclosure of the patent application and information therein, permission may be sought from the comptroller for disclosure to specified persons. If granted such permission will impose conditions on the persons so specified; thus they should not without specific authorisation disclose the information to any other person. Permission must be sought for filing corresponding applications abroad see 23.04.

22.07

Although all applications are inspected by Security Section, anyone filing an application, knowing that a Government department or a foreign government wishes its contents to be kept secret, or the contents of which relate to a classified Government contract, should file the application at Room G.R70, Concept House, and not to the usual Front Office. Such applications may be filed by hand at the Newport or London office, in envelopes marked "For the attention of GR70", but only between the hours of 9am and 5pm. The receptionist should be informed that the application is for GR70 rather than the usual Front Office. Documents which might include information of relevance to national defence or security should not be filed by facsimile transmission. In respect of a filing connected with a classified Government contract the application should be accompanied by a notification of the number of the contract together with the name and address of the Government agency involved in the contract.

22.08

Documents involved in applications subject to prohibition directions under Section 22(1) must be despatched under security rules; Room G.R70 will always advise on this procedure. If such documents are being despatched to the Office, the envelope should be clearly marked "for attention of Room G.R70" and should be addressed to Room G.R70, Concept House, Cardiff Road, Newport, South Wales, NP10 8QQ.

...

22.09

For as long as prohibition directions are in force an application for a patent under the Act is dealt with by an examiner in Security Section. Search and substantive examination are carried out in the usual way for the period allowed for requesting substantive examination, see 18.02, but the application is not published, and at no stage is it mentioned in the Journal. When it appears to the examiner that the application is in order, a formal report indicating that the application complies with the Act and Rules is issued under s.18(4). The application does not however, proceed to publication and grant whilst the prohibition directions remain in force.

...

22.12

When directions under s.22(1) or (2) have been given with respect to an application the Secretary of State must be so informed, and must advise whether or not it should continue in force. Such advice will not be tendered in advance of the Secretary of State (usually, in practice, the Ministry of Defence) inspecting the application. This inspection is however done immediately if the application contains information relating to the production or use of atomic energy or research into matters connected with such production or use, and the Secretary of State may authorise a government body with responsibility for the production of atomic energy or for research into its production or use, or a person appointed by such a body to inspect the application. (See also 22.27-22.29). Otherwise the inspection cannot take place until after the expiry of eighteen months from the declared priority date or, where there is none, the filing date, unless the applicant gives permission for an earlier inspection. It is therefore advantageous, if early consideration for revocation of the directions is desired, to complete and return to Room G.R70 Concept House together with a copy of the specification the Form of Assent to Inspection which is despatched with the letter sent to the applicant stating that the order has been imposed. Even when early revocation is not being sought, it is desirable to acknowledge receipt of the letter imposing the directions.

22.01

本条は、特許庁に提出された出願において開示されている発明の伝達を禁止する権限を特許庁長官に与え、その様な出願がどの様に特許庁によって取り扱われるかを特定し、禁止命令がどの様に国務大臣によって見直されるかを定め、その様な命令によって特許付与を止められた出願についてある権利を与え、最後にその様な命令に従わなかった事に対する罰を特定している。第22条は、1977年の特許法に基づき提出されるか、欧州特許条約又は特許協力条約に基づき受理官庁の能力において特許庁に提出されるかによらず、特許庁に提出される全ての出願に適用される。出願が、1977年の特許法が施行される日(1978年6月1日)においてすでに1949年の特許法の第18条(訳注:旧法の禁止命令に関する条項)に基づく命令の対象になっており、その命令が効力を有し続けている場合を除き、これは1949年の特許法に基づき提出された出願にも適用される。その様な出願に対する命令が取り消されたとき、(特許が付与されず、1988年の著作権、意匠及び特許法のスケジュール5に従い、公開もされない場合において、出願が取り下げられた場合を除き)1949年法に基づき特許は公開され、付与される。第22条は2004年の特許法改正によって改められ、範囲を変更する意図はないが、本条について元の用語「領土の防衛」は「国家の安全保障」に入れ替えられた。2004年の改正はまた第22条第6項も改め、連合王国原子力当局(UKAEA)についての参照を削除している。

(略)

特許庁に提出された全ての出願は、書類受付及び新規出願部門を通ったら(又はセキュリティを確保して提出されたら-22.07参照)、情報の公開が国家の安全保障を損ない得る事項のリストを提供された安全保障部門の審査官によって精査される。その様な情報が開示されているとき、その出願は出願の通常の流れから取り除かれ、命令が第22条第1項に基づき出され、出願公開及びその内容の伝達が禁止される。その公開が公共の安全を損ない得るものであるとき、同様の命令が第22条第2項に基づき出される。この場合について、一般的なガイダンスは国務大臣によって与えられておらず、何がこの範疇に入るのかは特許庁長官が決定する事項である。

(略)

22.05

第97条第1項(c)(訳注:不服申し立てからの除外を規定している条項)も関係する。

どの様な場合においても禁止命令を出す特許庁長官の決定からの不服申し立てはない。

22.06

禁止命令は当初特許出願及びその中の情報の開示に対する包括的な命令であるが、特定の者への開示のため特許庁長官からの許可を求める事ができる。与えられるとき、その様な許可は特定された者に対する条件を課すであろう;彼らは特別な許可なく他の者に情報を開示してはならないといったものである。対応する出願を外国で提出する場合には許可が求められなければならない、23.04参照。

22.07

全ての出願は安全保障部門により精査されるが、政府部局又は外国政府がその内容を秘密に保つ事を求めているか、分類された政府計画に関係する内容である事を知り、出願を提出する者は、通常の出願窓口ではなく、コンセプトハウスのルームG.R70に出願を提出するべきである。その様な出願は、「GR70の注意のため」と書かれた包みに入れ、ニューポート又はロンドンオフィスに手で持ち込んで提出する事ができる、ただし、時間は午前9時から午後5時までである。国家の防衛又は安全保障と関連する情報を含み得る書類はファクシミリ通信で提出されるべきではない。分類された政府計画に結びついた出願に関しては、出願はその契約に関与する政府機関の名前と住所とともに契約番号の通知を伴うべきである。

22.08

第22条第1項に基づく禁止命令を受けた出願に関する書類はセキュリティ規則に基づき送付されなくてはならない。ルームG.R70はいつでもこの手続について助言する。その様な書類が特許庁に送付されるとき、封筒には常に「GR70の注意のため」と明記され、NP10 8QQ、南ウェールズ、ニューポート、カルディフロード、コンセプトハウス、ルームG.R70に宛てられるべきである。

(略)

22.09

禁止命令が効力を有する限り、本法に基づく特許出願は安全保障部門の審査官によって取り扱われる。検索及び実質審査は、実質審査を求める事が許される期間の間に通常のやり方で実行される、18.02参照、しかし、出願が公開される事はなく、どの段階でも公報で言及される事はない。出願が整ったと審査官に見られるとき、出願は法律と規則に合致している事を示す形式的な報告が第18条第4項に基づき出される。しかしながら、禁止命令が効力を有し続ける間、出願が公開及び特許付与へと進められる事はない。

(略)

22.12

第22条第1項又は第2項に基づく命令が出願に対して出されたとき、国務大臣はその事について知らされ、それが効力を持ち続けるべきかどうかについて意見を述べなければならない。この様な意見は、国務大臣(通常の実務において、国防大臣)による出願の検査に先立って出される事はない。この様な検査は、しかしながら、出願が原子力に関する製造若しくは利用又はその様な製造若しくは利用に関連する事項についての研究に関係する情報を含むとき、すぐにする事ができ、国務大臣は、原子力に関する製造若しくは利用又はその製造若しくは利用に関連する事項についての研究に責任を有する政府機関又はその様な機関によって任命された者に出願を検査する事を認める事ができる。(22.27-22.29も参照。)それ以外の場合、検査は、宣言された優先日又は、それがない場合、出願日から18月経過後までなされ得ない。したがって、命令の取り消しについての早めの判断を求めるとき、命令が課された事を記載した出願人に送られる通知書とともに送付される検査同意様式に記入し、明細書のコピーと合わせてコンセプトハウスのルームG.R70に返送するのが有利である。早めの取り消しを求めない場合であっても、命令を課す通知書の受け取りを知らせる事が望ましい。

 マニュアルの第23条の解説からも一部を訳出する。

23.02

Subsection (1A) was inserted by the Patents Act 2004 and came into force on 1 January 2005. The strictures of s.23(1) only apply to applications that contain information relating to military technology or other information whose publication might be prejudicial to national security or the safety of the public. A UK resident who wishes to file such an application abroad must therefore either file an application at the Office and then wait six weeks (after which, provided no direction has been given under s.22 (see 22.03), applications may be made abroad without further formality) or else must have written permission from the comptroller. Persons wanting such permission should apply direct to Room G.R70, Cardiff Road, Newport, South Wales, NP10 8QQ either by letter or, if more urgent attention is required, personally. A notice drawing attention to these matters appears prominently in every issue of the Patents Journal.

...

23.06

It should be noted that a failure to comply with the provisions of s.23(1) (or with a direction given under s.22) is a criminal offence. However, s.23(3A) limits culpability of the offence to where a person knows that filing an application or causing it to be filed would contravene s.23, or where they are reckless as to whether filing the application or causing it to be filed would contravene this section. Therefore, a person acting in good faith who mistakenly believes that the restrictions in s.23 do not apply to a patent application will not be guilty of a criminal offence.

22.02

2004年の特許法改正によって、第1A項が挿入され、2005年1月1日から施行されている。第23条第1項の構造は、軍事技術に関係する情報か、その公開が国家の安全保障又は公共の安全を損ない得る情報を含む出願のみに適用されるものである。その様な外国出願を提出する事を望む英国の居住者は、したがって、特許庁に出願を提出してから6週間待つか(第22条に基づく命令が出されない限り(22.03参照)、その後、それ以上の形式は必要なく出願は外国になされ得る)、特許庁長官からの書面による許可を得なければならない。その様な許可を求める者は、手紙によってか、もしさらに緊急の考慮が必要な場合は自ら、NP10 8QQ、南ウェールズ、ニューポート、カルディフロード、コンセプトハウス、ルームG.R70に直接請求するべきである。この事について注意すべき通知は特許公報のそれぞれの発行において目立つ様に掲載される。

(略)

23.06

第23条1項(又は第22条に基づく命令)に従わない事は犯罪である事に注意すべきである。しかしながら、第23条3A項は、違反の有責性を、その者がその出願の提出又は出願をもたらす事が第23条に違反する事を知っているか、その出願の提出又は出願をもたらす事が本条に違反するかどうかについて無謀であるかの場合に限定している。したがって、第23条における制限が特許出願に適用されないと間違って信じた、誠実に行動している者は犯罪として有罪とされないであろう。

 イギリス特許庁はさらにガイダンスとして黒塗りがされているものの対象となり得る様々な軍事技術のリストを示しており、統計情報として、秘密保持命令の数も示している。

 やはり数しか分からないが、命令の数は50件から100件程度で推移しており、2019年で51件、2020年で34件である。また、10年以上前なら通常の出願も数件くらい対象になっていた事がある様だが、ここ最近はなく、英国内からの出願で命令の対象となった出願はほぼ軍事企業の出願である事が分かる(英国内対象出願は2019年で48件、2020年で26件で、それぞれの年に対応する軍事企業出願件数はそれぞれ47件、24件である。なお、これも数件から20件程度とその数は多くないが、その他英国外からの出願として書かれている数は秘密特許に関する条約に基づくものではないかと思う)。

 上の条文等から分かる事をまとめておくと、イギリスも秘密特許制度では、特許庁が出願から6週間で秘密保持命令を出すかどうかについて判断し、秘密保持命令が出された出願について、基本的に国防大臣が1年毎に秘密保持命令を維持するかどうかの判断をして行く事になっている。

 前回取り上げたアメリカの様に条文上書き分けられているという事はないが、特許実務マニュアルに書かれている様に、政府が関与している軍事技術出願は始めから他の出願とは分ける形で特に注意書きをつけて出願するべきとされている。

 そして、イギリス特許庁でどの様な運用がされているかの詳細は分からず、私の推測でしかないが、特許庁が秘密保持命令を出すまでの期間が6週間とかなり短い事を考えると、全ての出願から軍事技術リストを使って選んだ出願についてさらにその内容を詳しく見て秘密保持命令の対象となるかを審査しているというより、始めから分かる形で提出される政府が関与してうる軍事技術出願と、その他政府や軍とともに軍事研究をしている企業や研究者が制度に気づかずに通常の出願をしている様なケースについてリストを参照しながら最低限のチェックをする事で処理しているのではないだろうか。

 私は日本で秘密特許制度を取り入れる事に全く賛成しないが、この様にイギリスで6週間で秘密保持命令が出せ、ほとんどの出願について外国出願禁止が解除され、それで何ら問題になっていないのであるから、例え日本で似た様な秘密特許制度を取り入れるにしても、やり方次第で秘密保持のための審査と外国出願禁止の期間は今日本政府が考えている3ヶ月よりさらに短くする事もできるだろう。

 具体的にどこまで制限になっているか分からない所もあるが、より多くの者が関係する外国出願禁止に対する罰則の適用は秘密保持命令違反より限定され、誠実に行動していた者には適用されないとしている点もイギリスの秘密特許制度のポイントの1つと言えるだろう。

 しかし、秘密保持命令に対して不服申し立てができないとされている事は全く不当としか言い様がない。

 また、アメリカ同様、出願は公開こそされないものの特許付与がされ得る所まで審査が進められ、その通知も出願人に出され、その様な状態になった事が補償のための前提となるが、政府や軍と関わりのあるだろう軍事企業の出願だけがほぼ対象になっているので争いになっていないのだろうか、補償について裁判になった様なケースは見当たらなかった。

 次回はこの続きでドイツとフランスの秘密特許制度について書くつもりである。

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2022年4月10日 (日)

第456回:欧米主要国の秘密特許制度(その1:アメリカ)

 4月6日に衆議院内閣委員会で、4月7日に本会議で、秘密特許制度(特許非公開制度)を含む経済安保法案が原案通り可決され、参議院に送られた。この法案は例によって今の形の儘成立する可能性が高いのだろうが、ネット情報がやはり充実しているとは言い難い海外の秘密特許制度に関する事も今後の参考としてまとめておきたいと思う。

 日本政府が特に参考として見ていただろう欧米主要国(米英独仏)の制度を取り上げたいと思うが、長くなるので分け、初回はアメリカの制度についてである。

 アメリカの秘密特許制度は、1951年の発明秘匿法によって導入された(発明秘匿法についての英語版Wikipedia参照)ものであり、アメリカ特許法の第2部第17章に規定されている。まず、その主な部分を訳出する。(以下、翻訳は全て拙訳。)

§181. Secrecy of certain inventions and withholding of patent

Whenever publication or disclosure by the publication of an application or by the grant of a patent on an invention in which the Government has a property interest might, in the opinion of the head of the interested Government agency, be detrimental to the national security, the Commissioner of Patents upon being so notified shall order that the invention be kept secret and shall withhold the publication of the application or the grant of a patent therefor under the conditions set forth hereinafter.

Whenever the publication or disclosure of an invention by the publication of an application or by the granting of a patent, in which the Government does not have a property interest, might, in the opinion of the Commissioner of Patents, be detrimental to the national security, he shall make the application for patent in which such invention is disclosed available for inspection to the Atomic Energy Commission, the Secretary of Defense, and the chief officer of any other department or agency of the Government designated by the President as a defense agency of the United States.

Each individual to whom the application is disclosed shall sign a dated acknowledgment thereof, which acknowledgment shall be entered in the file of the application. If, in the opinion of the Atomic Energy Commission, the Secretary of a Defense Department, or the chief officer of another department or agency so designated, the publication or disclosure of the invention by the publication of an application or by the granting of a patent therefor would be detrimental to the national security, the Atomic Energy Commission, the Secretary of a Defense Department, or such other chief officer shall notify the Commissioner of Patents and the Commissioner of Patents shall order that the invention be kept secret and shall withhold the publication of the application or the grant of a patent for such period as the national interest requires, and notify the applicant thereof.
Upon proper showing by the head of the department or agency who caused the secrecy order to be issued that the examination of the application might jeopardize the national interest, the Commissioner of Patents shall thereupon maintain the application in a sealed condition and notify the applicant thereof. The owner of an application which has been placed under a secrecy order shall have a right to appeal from the order to the Secretary of Commerce under rules prescribed by him.

An invention shall not be ordered kept secret and the publication of the application or the grant of a patent withheld for a period of more than one year. The Commissioner of Patents shall renew the order at the end thereof, or at the end of any renewal period, for additional periods of one year upon notification by the head of the department or the chief officer of the agency who caused the order to be issued that an affirmative determination has been made that the national interest continues so to require. An order in effect, or issued, during a time when the United States is at war, shall remain in effect for the duration of hostilities and one year following cessation of hostilities. An order in effect, or issued, during a national emergency declared by the President shall remain in effect for the duration of the national emergency and six months thereafter. The Commissioner of Patents may rescind any order upon notification by the heads of the departments and the chief officers of the agencies who caused the order to be issued that the publication or disclosure of the invention is no longer deemed detrimental to the national security.

§182. Abandonment of invention for unauthorized disclosure

...

§183. Right to compensation

An applicant, his successors, assigns, or legal representatives, whose patent is withheld as herein provided, shall have the right, beginning at the date the applicant is notified that, except for such order, his application is otherwise in condition for allowance, or February 1, 1952, whichever is later, and ending six years after a patent is issued thereon, to apply to the head of any department or agency who caused the order to be issued for compensation for the damage caused by the order of secrecy and/or for the use of the invention by the Government, resulting from his disclosure. The right to compensation for use shall begin on the date of the first use of the invention by the Government. The head of the department or agency is authorized, upon the presentation of a claim, to enter into an agreement with the applicant, his successors, assigns, or legal representatives, in full settlement for the damage and/or use. This settlement agreement shall be conclusive for all purposes notwithstanding any other provision of law to the contrary. If full settlement of the claim cannot be effected, the head of the department or agency may award and pay to such applicant, his successors, assigns, or legal representatives, a sum not exceeding 75 per centum of the sum which the head of the department or agency considers just compensation for the damage and/or use. A claimant may bring suit against the United States in the United States Court of Federal Claims or in the District Court of the United States for the district in which such claimant is a resident for an amount which when added to the award shall constitute just compensation for the damage and/or use of the invention by the Government. The owner of any patent issued upon an application that was subject to a secrecy order issued pursuant to section 181, who did not apply for compensation as above provided, shall have the right, after the date of issuance of such patent, to bring suit in the United States Court of Federal Claims for just compensation for the damage caused by reason of the order of secrecy and/or use by the Government of the invention resulting from his disclosure. The right to compensation for use shall begin on the date of the first use of the invention by the Government. In a suit under the provisions of this section the United States may avail itself of all defenses it may plead in an action under section 1498 of title 28. This section shall not confer a right of action on anyone or his successors, assigns, or legal representatives who, while in the full-time employment or service of the United States, discovered, invented, or developed the invention on which the claim is based.

§184. Filing of application in foreign country

(a) Filing in Foreign Country. - Except when authorized by a license obtained from the Commissioner of Patents a person shall not file or cause or authorize to be filed in any foreign country prior to six months after filing in the United States an application for patent or for the registration of a utility model, industrial design, or model in respect of an invention made in this country. A license shall not be granted with respect to an invention subject to an order issued by the Commissioner of Patents pursuant to section 181 without the concurrence of the head of the departments and the chief officers of the agencies who caused the order to be issued. The license may be granted retroactively where an application has been filed abroad through error and the application does not disclose an invention within the scope of section 181.

...

§185. Patent barred for filing without license

...

§186. Penalty

...

§187. Nonapplicability to certain persons

...

§188. Rules and regulations, delegation of power

...

第181条 特定の発明の秘密保持及び特許保留

政府が財産的利益を有する発明についての出願公開又は特許付与による公開又は開示が、関係する政府機関の長の意見によると、国家の安全保障を損なうであろうとき、そう通知された許庁長官は、以下に規定される条件の下で、その発明が秘密に保たれることを命じ、出願公開又は特許付与を保留する。

政府が財産的利益を有さない発明についての出願公開又は特許付与による公開又は開示が、特許庁長官の意見によると、国家の安全保障を損なうであろうとき、特許庁長官は、その様な発明が開示された出願を、原子力委員会、国防長官及び大統領によってアメリカ合衆国の防衛関係機関として指定されたその他の政府部局又は機関の長の検査に供する。

出願が開示される者は日付のある同意書に署名し、その同意書は出願書類の中に入れられる。原子力委員会、国防長官又は指定されたその他の政府部局又は機関の意見によると、出願公開又は特許付与による発明の公開又は開示が国家の安全保障を損なうであろう場合、原子力委員会、国防長官又は指定されたその他の政府部局又は機関の長は特許庁長官に通知し、特許庁長官はその発明が秘密に保たれる事を命じ、国家の安全保障が必要とする期間出願公開又は特許付与を保留し、その事を出願人に通知する。秘密保持命令の発行をもたらした部局又は機関の長が、出願の審査が国家の利益を危うくする事を適切に示した時には、特許庁長官はそれに基づき出願を機密状態に保ち、その事について出願人に通知する。秘密保持命令の下に置かれた出願人はその命令から商務省長官により定められる規則の下不服を申し立てる権利を有する。

1年以上発明が秘密に保たれる事を命じられ、出願公開又は特許付与が保留される事はない。特許庁長官はその終わりかその更新期間の終わりに、命令の発行をもたらした部局の長又は機関の長による国家の利益によりそう求められるという肯定的決定がなされたとの通知に基づき、1年の追加期間のため命令を更新する。アメリカ合衆国の戦争中、効力を持っているか、発行された命令は、戦争の続く間及び戦争の停止に続く1年間効力を持ち続ける。大統領によって宣言された国家の緊急事態の間、効力を持っているか、発行された命令は、緊急事態の続く間及びその後半年の間効力を持ち続ける。特許庁長官は、発明の公開又は開示が国家の安全保障を損なうものとはもはやみなされないとの、命令の発行をもたらした部局の長又は期間の長の通知に基づき命令を取り消す事ができる。

第182条 許諾を得ない開示による発明の放棄

(略:出願人が命令に違反して発明を公開又は外国に出願した時には発明は放棄したものとされる事を規定。)

第183条 補償を受ける権利

その特許がここで規定されている様に保留されている出願人、その承継人、譲受人又は法的代理人は、その様な命令がなければ、その出願はさもなければ認められる状態にある事を通知された日又は1952年2月1日のいずれか遅い方の日から始まり、それに基づき特許が発行された後6年で終わる、秘密保持命令によって生じた損害及び/又はその開示に起因する政府による発明の利用に対する補償を求める権利を有する。利用に対して補償を受ける権利は政府による発明の最初の利用の日から始まる。部局又は機関の長は、請求の提示に基づき、出願人、その承継人、譲受人又は法的代理人と損害及び/又は利用に対する完全な和解の合意に入る権限を有する。この和解合意はそれに反する他の法律の規定に関わらず全ての目的において確定的なものでなければならない。もし請求の完全な和解に至る事ができない場合、部局又は機関の長は、出願人、その承継人、譲受人又は法的代理人に、部局又は機関の長が損害及び/又は利用に対する正当な補償と判断する額の75パーセントを超えない額を報償として支払う事ができる。請求者は、アメリカ合衆国に対し、連邦請求裁判所又は請求者が居住する地方の地方裁判所に、支払いに対して追加された時に損害及び又は政府による利用の利用に対する正当な補償となる額を求める訴訟を提起する事ができる。第181条に従い発行された秘密保持命令を受けた出願に基づき発行された特許の権利者であって、上で規定された補償を請求しなかった者は、その様な特許の発行の日の後、連邦請求裁判所に、秘密保持命令のために生じた損害及び/又はその開示に起因する政府による発明の利用に対する正当な補償を求める訴訟を提起する事ができる。利用に対して補償を受ける権利は政府による発明の最初の利用の日から始まる。本条の規定の下での訴訟においてアメリカ合衆国は第28章第1498条(訳注:国に対する特許権侵害等の知財訴訟に関する規定)の下で起こされた訴訟において主張できる全ての抗弁を利用する事ができる。本条は、アメリカ合衆国の正規の勤務又はサービスに従事している間に、請求の基となる発明を発見、発明又は開発した者、その承継人、譲受人又は法的代理人に訴訟を提起する権利を与えるものではない。

第184条 外国における出願

(a)外国における出願-特許庁長官から得た許可により許諾された場合を除き、アメリカ合衆国においてなされた発明に関して、特許又は実用新案、意匠又はモデル登録のためのこの国への出願後6月より前に発明を外国に出願し、出願をもたらし又は許諾してはならない。第181条に従い特許庁長官が発行した命令を受けた発明に関し、命令の発行をもたらした部局の長及び機関の長の同意なく許可が発行される事はない。発明が外国において錯誤により出願され、その出願が第181条の範囲内の発明を開示していない場合には、許可は遡及的に付与され得る。

(略:(b)で出願に補正等が含まれる事を定義し、(c)で後の補正等の扱いを規定。)

第185条 許可を受けずにした外国出願に対する特許不付与

(略:外国出願の許可を受けずに外国出願をした場合元のアメリカ出願が特許を受けられない事を規定。)

第186条 罰則

(略:秘密保持命令を受けながら故意に発明を公開した者や禁止に違反して故意に外国に出願した者に1万ドル以下の罰金か2年以下の禁錮又はその両方が科される事を規定。)

第187条 罰則が適用されない者

(略:アメリカ合衆国の機関の権限の範囲内で行動する職員及びその許可の下に行動する者には罰則が適用されない事を規定)

第188条 規則、権限の委任

(略:各省庁が規則を定められる事を規定。)

 このアメリカ特許法第181条から第188条までに対応する規則はアメリカ特許規則の第1章第A副章第5部で、秘密保持命令を受けた出願の審査や秘密保持命令の取り消し請求、出願すると外国出願許可が自動的に求められ様になっている事、その他外国出願許可に関する事などが規定されている。

 アメリカの特許審査基準は、115国家の安全保障のための出願の調査及び財産権に関する事120秘密保持命令121秘密保持命令を受けた及び/又は国家安全保障マーキングのある出願の取り扱い130秘密保持命令ケースの審査140外国出願許可などで、アメリカ特許庁における運用について解説を加えている。

 上の法律の条文からも分かるが、このアメリカの特許審査基準のセクション115中に、以下の様に書かれている様に、防衛関係機関が国家の安全保障を損なうだろうと後から判断して秘密保持命令が出されるパターンと、国家機密として最初から指定されている情報を元にして行われた特許出願に対して秘密保持命令が出されるパターンがある。

If a defense agency concludes that disclosure of the invention would be detrimental to the national security, a secrecy order is recommended to the Commissioner for Patents. The Commissioner then issues a Secrecy Order and withholds the publication of the application or the grant of a patent for such period as the national interest requires.

For those applications in which the Government has a property interest (including applications indicating national security classified subject matter), responsibility for notifying the Commissioner for Patents of the need for a Secrecy Order resides with the agency having that interest. Applications that are national security classified (see 37 CFR 1.9(i)) may be so indicated by use of authorized national security markings (e.g., "Confidential," "Secret," or "Top Secret"). National security classified documents filed in the USPTO must be either hand-carried to Licensing and Review or mailed to the Office in compliance with 37 CFR 5.1(a) and Executive Order 13526 of December 29, 2009. However, the Office will accept such applications filed with the USPTO via the Department of Defense Secret Internet Protocol Router Network (SIPRNET) and consider them as filed via the USPTO's electronic filing system for purposes of 37 CFR 1.16(t) and 37 CFR 1.445(a)(ii). As set forth in 37 CFR 5.1(d), the applicant in a national security classified patent application must obtain a secrecy order from the appropriate defense agency or provide authority to cancel the markings. A list of contacts at the appropriate defense agency can be obtained by contacting Licensing and Review.

防衛関係機関が、発明の開示が国家の安全保障を損なうであろうと結論づけたとき、秘密保持命令が特許庁長官に求められる。特許庁長官は秘密保持命令を出し、国益により求められる期間、出願公開又は特許付与を保留する。

政府が財産的利益を有する出願(国家の安全保障に関係するとして分類されている事項を提示する出願を含む)について、秘密保持命令の必要性について特許庁長官に通知する責任はその利益を有する機関にある。国家の安全保障に関係するとして分類されている出願(特許規則第1.9条(i)参照)は、認められた国家安全保障マーキング(例えば、「コンフィデンシャル」、「シークレット」又は「トップシークレット」)の使用によって示される。アメリカ特許庁に提出される、国家の安全保障に関係するとして分類されている書類は、特許規則第5.1条(a)及び国家安全保障関係情報に関する2009年12月29日の大統領令に従い、ライセンス及びレビュー部門に手で持ち込まれるか、特許庁に郵送されなくてはならない。しかしながら、特許庁はその様な出願が国防省秘密インターネットプロトコル・ルータネットワーク(SIPRNET)を通じてアメリカ特許庁に提出される事を受け入れ、それを特許規則第1.16条(t)及び特許規則第1.445条(a)(ⅱ)の目的のアメリカ特許庁の電子出願システムを通じて出願されたものとみなす予定である。特許規則第5.1条(d)に規定されている通り、国家の安全保障に関係するとして分類されている特許出願は、適切な防衛関係機関から秘密保持命令を手に入れるか、権限を有する当局からそのマーキングの取り消しを受けなければならない。適切な防衛関係機関の窓口のリストはライセンス及びレビュー部門に問い合わせる事で入手可能である。

 そして、セクション120中に以下の様に書かれている通り、アメリカには3種類の秘密保持命令がある。

I. SECRECY ORDER TYPES

Three types of Secrecy Orders, each of a different scope, are issued as follows:

(A) Secrecy Order and Permit for Foreign Filing in Certain Countries (Type I secrecy order) - to be used for those patent applications that disclose critical technology with military or space application in accordance with DoD Directive 5230.25 "Withholding of Unclassified Technical Data From Public Disclosure," based on 10 U.S.C. 130 "Authority to Withhold From Public Disclosure Certain Technical Data."

(B) Secrecy Order and Permit for Disclosing Classified Information (Type II secrecy order) - to be used for those patent applications which contain data that is properly classified or classifiable under a security guideline where the patent application owner has a current DoD Security Agreement, DD Form 441. If the application is classifiable, this secrecy order allows disclosure of the technical information as if it were classified as prescribed in the National Industrial Security Program Operating Manual (NISPOM).

(C) General Secrecy Order (Type III secrecy order) - to be used for those patent applications that contain data deemed detrimental to national security if published or disclosed, including that data properly classifiable under a security guideline where the patent application owner does not have a DoD Security Agreement. The order prevents disclosure of the subject matter to anyone without an express written consent from the Commissioner for Patents. However, quite often this type of secrecy order includes a permit "Permit A" which relaxes the disclosure restrictions as set forth in the permit.

The Type I Secrecy Order is intended to permit the widest utilization of the technical data in the patent application while still controlling any publication or disclosure which would result in an unlawful exportation. This type of Secrecy Order also identifies the countries where corresponding patent applications may be filed. Countries with which the United States has reciprocal security agreements are: Australia, Belgium, Canada, Denmark, France, Germany, Greece, Italy, Japan, Luxembourg, Netherlands, Norway, Portugal, Republic of Korea, Spain, Sweden, Turkey and the United Kingdom. Please note that applications subject to a secrecy order cannot be filed directly with the European Patent Office since no reciprocal security agreement with this organization exists. Applications must be filed in the individual EPO member countries identified above. Applicant must arrange filing of such subject matter through the agency sponsoring the secrecy order.

The intent of the Type II Secrecy Order is to treat classified and classifiable technical data presented as a patent application in the same manner as any other classified material. Accordingly, this Secrecy Order will include a notification of the classification level of the technical data in the application.

The Type III Secrecy Order is used where the other types of Orders do not apply, including Orders issued by direction of agencies other than the Department of Defense.

A Secrecy Order should not be construed in any way to mean that the Government has adopted or contemplates adoption of the alleged invention disclosed in an application; nor is it any indication of the value of such invention.

Ⅰ.秘密保持命令の種類

次の通り、それぞれ異なる範囲を持つ、3種類の秘密保持命令が出される:

(A)秘密保持命令及び特定の国における外国出願許可(タイプⅠ秘密保持命令)-アメリカ法第10章第130条「特定の技術データの公開保留に関する権限」に基づく国防省指令5230.25「非分類技術データの公開保留」に従い、軍事又は宇宙に適用されるクリティカルな技術を開示する特許出願に用いられる。

(B)秘密保持命令及び分類された情報の開示許可(タイプⅡ秘密保持命令)-特許出願の所有者が現行の国防省セキュリティ合意を有している場合にセキュリティ基準に基づき適切に分類されているか適切に分類され得るデータを含む特許出願に用いられる。

(C)一般秘密保持命令(タイプⅢ秘密保持命令)-特許出願の所有者が現行の国防省セキュリティ合意を有していない場合の、セキュリティ基準に基づき適切に分類されているか適切に分類され得るデータなど、公開又は開示されたとき国家の安全保障を損なうとみなされるデータを含む特許出願に用いられる。命令は特許庁長官の同意書なく記載事項をいかなる者にも開示する事を禁止する。しかしながら、このタイプの秘密保持命令はその許可に定められる通りに開示規制を緩和する「許可A」を含む事が多い。

タイプⅠの秘密保持命令は、不適法な輸出をもたらすだろう公開又は開示を規制しつつ、特許出願における技術情報の広い利用を許す事を目的としたものである。このタイプの秘密保持命令はまた、対応特許出願を出せる国を特定する。アメリカ合衆国が相互安全保障協定を持っているのは次の国である:オーストラリア、ベルギー、カナダ、デンマーク、フランス、ドイツ、ギリシャ、イタリア、日本、ルクセンブルク、オランダ、ノルウェー、ポルトガル、韓国、スペイン、スウェーデン、トルコ及び英国。欧州特許庁(EPO)との間に相互安全保障協定は存在しないので、秘密保持命令を受けた出願はEPOに直接出せない事に注意して頂きたい。出願は上で特定した個々のEPO加盟国に出されなくてはならない。出願人は、秘密保持命令を出させた機関を通じてその出願の内容を整えなければならない。

タイプⅡの秘密保持命令の内容は、他の分類されたマテリアルと同じやり方で分類されているか分類され得る、特許出願として提示された技術データを扱うものである。したがって、この秘密保持命令は出願の技術データの分類レベルの通知も含むであろう。

タイプⅢの秘密保持命令は、国防省以外の機関の指示により発行される命令を含む、他の対応の命令が適用されない場合に用いられる。

秘密保持命令は、出願に開示され、主張する発明を政府が採用した事や採用を検討している事を意味するものといかなる形でも解釈されない。また、その発明の価値を示すものとも解釈されない。

 秘密保持命令が出された出願の取り扱いと審査については、セクション121中に、

Applications subject to Secrecy Order will be deleted from any image file system within the USPTO, converted to paper and held with Licensing and Review. The application will be transferred to an examiner designated by Licensing and Review for examination. Under the current Executive Order for Classified National Security Information, standards are prescribed for the marking, handling, and care of official information which requires safeguarding in the interest of security.

秘密保持命令を受けた出願は、アメリカ特許庁内のイメージファイルシステムから削除され、紙に変換され、ライセンス及びレビュー部門で保持される。出願は審査のためにライセンス及びレビュー部門によって指定された審査官に移送される。現行の国家安全保障関係情報に関する大統領令の下、セキュリティの利益の保障のために求められる、マーキング、取り扱い及び公的情報に関する注意のために基準が定められる。

と書かれ、そして、セクション130中でも以下の様に書かれている。

All applications in which a Secrecy Order has been imposed are examined in a secure location by examiners possessing national security clearances under the control of Licensing and Review. If the Order is imposed subsequent to the docketing of an application in another TC, the application will be transferred to an examiner designated by Licensing and Review.

Secrecy Order cases are examined for patentability as in other cases, but will not be passed to issue; nor will an interference or derivation be instituted where one or more of the conflicting cases is classified or under Secrecy Order. See 37 CFR 5.3 and MPEP §2306.

In case of a final rejection, while such action must be properly replied to, and an appeal, if filed, must be completed by the applicant to prevent abandonment, such appeal will not be set for hearing by the Patent Trial and Appeal Board until the Secrecy Order is removed, unless specifically ordered by the Commissioner for Patents.

When a Secrecy Order case is in condition for allowance, a notice of allowability (Form D-10) is issued, thus closing the prosecution. See 37 CFR 5.3(c). Any amendments received thereafter are not entered or responded to until such time as the Secrecy Order is rescinded. At such time, amendments which are free from objection will be entered; otherwise they are denied entry.

Due to the additional administrative burdens associated with handling papers in Secrecy Order cases, the full statutory period for reply will ordinarily be set for all Office actions issued on such cases.

秘密保持命令が課された全ての出願は、ライセンシング及びレビュー部門の管理の下、国家セキュリティクリアランスを所有する審査官によってセキュリティが確保された場所で審査される。他の技術部門に出願が記録された後に命令が課された場合には、出願はライセンス及びレビュー部門によって指定された審査官に移送される。

秘密保持命令ケースは他のケース同様に特許性を審査されるが、発行に移行する事はない。また、衝突するケースが国家機密として分類されているか秘密保持命令を受けている場合に、インターフェアランス又はデリヴェーション手続きは行われない。特許規則第5.3条及び審査基準セクション2306参照。

最終拒絶の場合、その処分に対しては適切に応答されなくてはならず、不服請求は、提出された場合、放棄を防ぐために出願人によって完了されなくてはならず、その様な不服請求は、特許庁長官によって特別に命じられない限り、秘密保持命令が取り除かれるまで、特許審判部によって口頭審理を設定されない。

秘密保持ケースが特許の許可が可能である状態にあるとき、特許許可通知(様式D-10)が出され、そこで審査手続きは止められる。特許規則第5.3条(C)参照。その後に受け取られた補正は、秘密保持命令が取り消されたといった時まで取り入れられるか、応答されない。その様な時、拒絶の理由のない補正は取り入られる。さもなくば、取り入れは否定される。

秘密保持命令ケースにおいて紙として取り扱われる事に伴う追加の管理負担のために、返答のため最大限の法定期間が、通常、この様なケースにおいて出される全ての特許庁の処分に対して設定される。

 これらの条文等から、アメリカの秘密特許制度では、出願が後から秘密と判断される場合と、元から国家機密とされていた情報を含むものとして出される場合の2つの場合があり、特許庁が特許出願をまず選んで原子力委員会や国防省に渡し、その意見に基づき、特許庁が秘密保持命令を出す事になっている事が分かる。また、その秘密保持命令は1年毎に更新される。許される内容に応じて秘密保持命令には幾つかの種類があり、秘密保持命令に対する不服申し立てについても規定されている。

 秘密保持命令を受けた出願は非常に特殊なケースとして特許庁で審査が進められ、特許付与による公開前の、特許許可通知まで出された所で止められるか、拒絶となった場合は、不服審判の開始の前で止められる事になる。

 補償を求める事ができるのは、この特許許可通知があった日からであり、政府による利用または秘密保持命令による損害について、秘密保持命令を出す元となった機関に請求するか、裁判所に訴訟を提起する事になる。

 また、外国出願が制限される期間は6ヶ月であり、外国出願許可は自動的に求められる様になっているので、対象とならなかった全出願について許可書が送られる事になっており、さらに後で許可を求める事ができるという救済手段も規定されている。

 このアメリカの秘密特許制度について、アメリカ科学者連盟が情報を集めてそのHPで公開している。その中の統計情報では、数しか分からないが、この10年程度は毎年100件前後で秘密保持命令が出され、2021年に出された新しい秘密保持命令が61件、効力を有する命令の数は全体5976件となっている。2021年の61件の命令を出させた政府機関は、陸海空軍で57件とアメリカ軍が大多数を占める。

 詳細は分からないが、この様な統計情報を見ると、特許出願された技術の安全保障上の評価などなおざりで、強大な権限を持つ軍が、もしかしたら特許が自分たちの活動に邪魔になるかも知れないという自分たちの都合だけでとりあえず秘密保持命令を出す様にしているだけではないかと私には思える。

 その事は公開されている判決を見ても透けて見える。アメリカでも裁判にまでなって公開されている秘密特許に関するケースは多くないが、補償がまともに認められているケースはほぼないと言っていいのである。

 中でも幾つか典型的と思えるものを紹介するが、1つは、1991年12月30日のクリフト対アメリカ合衆国事件コネチカット州地裁判決で、この事件では、出願人が1968年の出願の秘密保持命令に対する補償を求め、政府による利用について情報開示を求めたが、国家機密を盾に拒否され、1977年の地裁でこの拒否を許容してまず手続きが中止され、これは1979年控訴裁でも追認された。そして、11年後の1990年に政府からやはり開示不能との宣言書が提出された所で手続きは再開されるが、結局、裁判所は以下の様に政府の主張を全面的に認めて補償請求を却下した。

Thus, even if there is a limited waiver of privilege to determine only the extent of the Government's conceded use of a particular invention, as in Halpern, the Invention Secrecy Act should not be interpreted to waive the privilege in circumstances such as this case where the Government has denied use, and to determine the fact and extent of use would require scrutiny of the entire range of the Government's cryptographic technology. ... In view of the Claims Court's reasoning and this Court's interpretation of the limited impact of Halpern, the provisions of the Invention Secrecy Act will not be construed to waive the state secrets privilege so as to allow an in camera trial of this case. For that reason and for the reasons stated previously, this case must be dismissed.

This Court has considered the draconian result of dismissal without allowing the Plaintiff his day in court. ... In this case, the Plaintiff has expended a great deal of time and energy in pursuing his claim. And to the extent that litigants proceeding under 35 U.S.C. § 183 encounter the state secrets privilege so often that their claims are functionally barred in most cases, Congress and the President must repair the legislation in light of existing rules of privilege. Nevertheless, (i) because the state secrets privilege was properly invoked by the Government's demonstration that any discovery regarding the development, manufacture, design, and use of its cryptographic encoding devices would pose a reasonable danger to the national security; (ii) because the privilege, is absolute and removes the evidence completely from the case; (iii) because the privileged information lies at the core of this litigation and affects critically both the Plaintiff's ability to maintain a prima facie case (in the absence of reliable nonprivileged evidence of use) and the Government's ability to defend itself; (iv) because the necessary information will remain classified for the foreseeable future; and (v) because the Invention Secrecy Act does not waive the state secrets privilege to permit an in camera trial under the facts and circumstances presented here, this case must be dismissed.

この様に、1958年のハルペルン事件判決が述べる様に、政府が利用を認めた個別の発明の範囲を判断するためにのみ国家の機密特権を限定的に回避し得るとしても、発明秘匿法は、このケースの様に、政府が利用を否定し、その事実と利用の範囲を判断するために政府の暗号技術の全領域を精査する必要がある状況において、特権を回避できると解釈すべきではない。(中略)請求裁判所の理由づけ及び当裁判所のハルペルン事件判決の影響は限られているとの解釈を考えると、発明秘匿法の規定は、国家の機密特権を回避し、このケースのインカメラ審理が許される様には解釈されないであろう。この理由及び前記の理由により、このケースは却下されなければならない。

当裁判所は、裁判における日の猶予を原告に与える事なくこの極めて厳しい却下の結果にすると判断した。(中略)このケースにおいては、原告はその請求を追求するために多大の時間とエネルギーを費やした。そして、特許法第183条による訴訟審理が実に多くの場合国家の機密特権と衝突してほとんどのケースで請求が機械的に止められているのであるから、議会と大統領は特権に関する既存の規則に照らして立法を修復しなければならない。しかしながら、(ⅰ)国家の機密特権が、その暗号化機器の開発、製造、設計及び利用に関するいかなる情報開示も国家の安全保障に対して考えられる危険をもたらすだろうと政府が示す事によって適正に持ち出されたから;(ⅱ)この特権は完全なものであり、このケースから完全に証拠を取り去るから;(ⅲ)特権下の情報が、この訴訟の中心をなし、(特権下にない、利用に関する信頼できる証拠がない時に)疎明ケースを維持する原告の能力とその弁護をする政府の能力の両方に決定的に影響するから;(ⅳ)必要な情報は予見可能な未来に渡って機密に分類され続けるであろうから;そして、(ⅴ)ここで提示された事実と状況の下で、発明秘匿法は国家の機密特権を回避し、インカメラ審理を許す事はないから、このケースは却下されなければならない。

 もう1つは、2012年4月13日のリニック対アメリカ合衆国連邦賠償請求裁判決で、この事件では、出願人2002年の出願とその後の分割出願に対する複数の秘密保持命令に対して補償を求めたが、結局、以下の結論の通り、実際の損害が証明されていないとして補償は全く認められなかった。

The Court concludes that Mr. Linick has failed to show any entitlement to compensation. He has presented nothing more than speculative claims that because he successfully sold his technology in the past, he could have sold his current technology if not for the secrecy orders at issue. Other than his ipse dixit testimony, however, the record is devoid of evidence tending to show that Mr. Linick suffered any actual damage or that the secrecy orders at issue caused the damage he alleges. Accordingly, the Court enters judgement for the Government.

当裁判所は、リニック氏は補償に対する資格を示す事に失敗したと結論づける。彼は自分の技術を過去に売る事に成功したから、問題の秘密保持命令がなければ、今度の技術も売れたろうという推測の請求以上のものを提示しなかった。その自己主張の供述以外に、しかしながら、記録は、リニック氏が実際の損害を受けた事又は問題の秘密保持命令がその主張する損害を引き起こした事を示す証拠を欠いている。

 最近の(と言っても2015年だが)2015年9月22日のダムジャノビック対アメリカ空軍省事件ミシガン州地裁命令が、問題となった2007年の出願に対する秘密保持命令について、

"A motion to dismiss under Rule 12(b)(6) is disfavored and rarely granted." Nuchols v. Berrong, 141 Fed.Appx. 451, 453 (6th Cir.2005) ... With this in mind, the Court finds that Plaintiffs have alleged sufficient facts, at least at this point in the litigation, to support their just compensation claim. In the complaint, Plaintiffs assert that they suffered injury as a result of the imposition of the secrecy orders - namely, Plaintiffs assert that they have suffered damages resulting from not being able to sell their invention, and no longer being able to market their invention. ... Additionally, Plaintiffs assert that the secrecy orders led to profit loss because they ruined Plaintiffs' business opportunities and stripped Plaintiffs of their foreign filing rights. ... Further, Plaintiffs assert that Defendants have used their invention without providing just compensation for their use. ... The factual content provided is plausible and contains both direct and inferential allegations respecting all material elements of Plaintiffs' just compensation claim, and allows the Court to draw a reasonable inference that Defendants are liable for the misconduct alleged. Accordingly, the Court DENIES Defendants' motion as to Count. 1 of the complaint.

「連邦民事訴訟規則12(b)(6)に基づく却下の申し立ては有利なものではなく、認められる事はあまりない。」2005年のヌコルス対ベロン判決。(中略)この事を念頭に、当裁判所は、原告は少なくとも訴訟のこの点についてその正当な補償の請求を支える十分な事実を主張したと認める。訴状において、原告は秘密保持命令を課された結果として被害を受けたと主張している-特に、原告は、秘密保持命令が原告のビジネス機会を台無しにし、原告からその外国出願の権利を奪った事で利益損失をもたらしたと主張している。(中略)さらに、原告は、被告がその利用に対して正当な補償を与えずにその発明を利用したと主張している。(中略)提供された事実の内容は妥当であり、原告の正当な補償の請求の全ての要素に関する直接的かつ推論的な主張を含み、当裁判所はそこから被告は主張された不正行為に責任があるという合理的な推論を引き出す事ができる。したがって、当裁判所は訴状の論点1に対する被告の却下の申し立てを退ける。

と、当事者の主張や引用判例、裁判官にも依ったのだろうが、ほぼ唯一のものとして出願人に有利な判断をしている。ただ、これも、上のアメリカ科学者連盟のHPにその後の和解条項(pdf)が載っているが、アメリカ空軍は、これ以上訴訟を続けるのはさらに手間と費用がかかるだけと判断したのだろう、アメリカにおける訴訟費用などを考えると、出願人の出費を下回っているだろう水準の6万3千ドルの一括払いの和解で決着した様である。

 この様に、特許出願の公開が国家の安全保障を損なうほどの発明であると一方で判断しながら、他方で、政府、軍は、自らの利用に対する補償について、単に否定するだけで済み、インカメラ手続きで情報を提示する事すら国家機密を盾に拒否でき、損害に対する補償についても、秘密保持命令が課されている時点でどうやっても損害は推定とならざるを得ないだろうが、出願人に過大な立証責任を負わせ、実際の損害、実害が証明できなければ補償が否定される制度とは一体何なのだろうか。

 この様な現状を見ると、アメリカにおいても、今となっては、秘密特許制度は政府と軍が自分たちの都合だけで特許を恣意的に握り潰す手段としてしか機能していないのではないかと、本当に国の安全保障に役立っているのか極めて怪しいと私は見ている。

 アメリカ政府もどちらかと言えば特許を握り潰して補償も与えない方向に動いているのではないかという気がしているが、さらに言うなら、この様な制度は、政府と企業の間に癒着があれば、秘密特許に対する補償と称して幾らでも不透明な金の流れを作る事ができ、その事まで秘密とされて分からないという非常に危ない制度とすら言える。

 経済安保法案により新たに秘密特許制度(特許非公開制度)を作るにあたって(その条文と制度の内容については第453回参照)、政府が世界各国の中で最も参考にしたのはアメリカの制度だったのではないかと、上で書いた様な公開情報から分かる程度の事は日本政府内でも調べていたのではないかと思うが、それでなお、強大な権限を持つ軍がある訳でも、軍産学をあげての軍事研究が盛んな訳でもない今の日本で、全ての特許出願について二段階のスクリーニング審査を行い秘密保持命令を出すという、かかる社会的コストに見合う意味があるのか、まともに運用できるか分からないアメリカ型の制度をどうして導入しようとしているのか、私には良く分からない。

 今日本が導入しようとしている制度では、特許付与のための審査や裁判の進め方も良く分からないが、特許が付与されるかどうかも、特許の範囲も決まらない状態で、どうやったら補償を決められるのか、謎としか言い様がない。秘密指定(保全指定)を受けた出願人は、アメリカ以上に不透明な形で、大した補償は受けられないといった結果になるのではないだろうか。

 さらに、仮に似た様な制度を導入するにしても、アメリカで、外国の出願制限期間が6ヶ月とされている点、秘密保持命令が出されない限り全出願について外国出願許可が出され、外国出願をしてもいい事がその時点で明確に分かる様になっている点、後で外国出願許可を求める事ができるといった救済手段もある点など、まがりなりにも出願人に対して利便が図られている点を全て抜きにして日本で取り入れようとしている事に至っては極めて理解に苦しむ所である。

 衆議院内閣委員会の審議を見たが、日本政府は政省令について今後検討すると説明するばかりで、具体的な回答はほぼなく、この新しい秘密特許制度(特許非公開制度)の詳細についてどこまできちんと考えているのか私には分からなかった。

 秘密特許制度はその性質上一旦秘密にされると特許の存在自体が秘密となるのでどの様な形のものであれ不透明なものとならざるを得ないという事がその最も本質的な問題であるが、今の非常に不明確な条文の儘秘密特許制度が成立すると、導入時の混乱と恣意的な運用により、国の安全保障に役立たないのは無論の事、かえって国として本来促進するべき技術分野の研究開発、国内外での特許取得活動に大きな萎縮が発生する恐れがあるだろう。今からでも遅くはないので、外国と日本の現状を十分良く見た上で、今一度抜本的に条文レベルで見直しを行うべきであると、私は今もそう思っている。

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