2023年2月12日 (日)

第472回:新秘密特許(非公開)制度基本指針案に対する意見募集の開始

 経済安全保障法に含まれる新秘密特許(非公開)制度について、2月8日の経済安全保障法制に関する有識者会議基本指針案(pdf)概要(pdf)も参照)が示され、電子政府HPの意見募集ページに書かれている通り、この特許出願の非公開に関する基本指針案(pdf)が、3月12日〆切でパブリックコメントに掛かった。

(経済安全保障法における新秘密特許制度の条文や国会審議については、第453回第461回参照。米英独仏の秘密特許制度については、第456回第457回第458回参照。また、経済安全保障有識者会議の資料1(pdf)2(pdf)3(pdf)によると、この基本指針案の検討のために特許出願非公開に関する検討会合が2022年12月20日に非公開で開かれていた様である。)

 これは基本指針の名の通り、今まで議論されていた事を抽象的理念としてまとめているだけであって、追加で具体的な事が明らかになったという事はほぼなく、この基本指針のレベルで言う事は余りない。しかし、これも知財政策に関する重要なパブコメの1つであり、私が特に気になっている、秘密(保全)指定の対象、保全審査の範囲を決める特定技術分野、外国出願の禁止、保全対象となった場合の補償について書かれた部分の抜粋を下に載せておく。

 基本指針案で政令の策定や制度の周知等について書かれているが、上の有識者会議で示された概要(pdf)でも、3月以降、もう一度有識者会議で基本指針案に関するパブリックコメントを踏まえた審議をした上で、基本指針の閣議決定を行い、政省令を策定、制度を周知、Q&A等を作成・公表、2024年春頃に制度運用を開始すると書かれている。去年5月の法律の成立後、施行まで後1年位の今に至るも制度運用の詳細に関する検討の内容が明らかにされないのは残念な事と思うが、この日本の新秘密特許制度に関しては、より具体的な事を定めるこの政省令などの検討が特に重要なものになると私は思っている。

(以下、基本指針案抜粋)

特許法の出願公開の特例に関する措置、同法第三十六条第一項の規定による特許出願に係る明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明に係る情報の適正管理その他公にすることにより外部から行われる行為によって国家及び国民の安全を損なう事態を生ずるおそれが大きい発明に係る情報の流出を防止するための措置に関する基本指針(案)

(略)

第1章 特許出願の非公開に関する基本的な方向に関する事項

第1節 本制度の基本的な考え方

(略)

第2節 非公開の対象となる発明(保全対象発明)の考え方

 本制度による保全指定がされるのは、特許出願に係る明細書等に「公にすることにより外部から行われる行為によって国家及び国民の安全を損なう事態を生ずるおそれが大きい発明」が記載され、かつ、そのおそれの程度及び保全指定をした場合に産業の発達に及ぼす影響その他の事情を考慮し、当該発明に係る情報の保全(当該情報が外部に流出しないようにするための措置)をすることが適当と認められた場合である(法第70条第1項)。すなわち、本法は、機微性の要件(公にすることにより外部から行われる行為によって国家及び国民の安全を損なう事態を生ずるおそれが大きいこと)を満たすことを前提としつつ、その機微性の程度と保全指定をすることによる産業の発達への影響等との総合考慮により、情報の保全をすることが適当と認められた場合に保全指定をするものと定めている。

(1)国家及び国民の安全を損なう事態を生ずるおそれが大きい発明

 本制度で非公開の対象とする「公にすることにより外部から行われる行為によって国家及び国民の安全を損なう事態を生ずるおそれが大きい発明」とは、安全保障上の機微性が極めて高いもの、すなわち、国としての基本的な秩序の平穏あるいは多数の国民の生命や生活を害する手段に用いられるおそれがある技術の発明が該当する。

 これをより具体的にいうと、以下のような類型の技術が想定される。

①我が国の安全保障の在り方に多大な影響を与え得る先端技術

 その新しさゆえ、用いる者や用い方によって、国家及び国民の安全に対する重大な脅威となり得る技術がこれに該当する。例えば、武器のための技術であるか否かを問わず、いわゆるゲーム・チェンジャーと呼ばれる将来の戦闘様相を一変させかねない武器に用いられ得る先端技術や、宇宙・サイバー等の比較的新しい領域における深刻な加害行為に用いられ得る先端技術などが挙げられる。

② 我が国の国民生活や経済活動に甚大な被害を生じさせる手段となり得る技術

 その威力の大きさゆえ、我が国に対して用いられれば深刻な被害を防ぐことが容易でない技術がこれに該当する。例えば、先端技術か否かを問わず、大量破壊兵器への転用が可能な核技術などが挙げられる。

(2)産業の発達に及ぼす影響等の考慮

 前節でも述べたとおり、法第70条第1項は、「公にすることにより外部から行われる行為によって国家及び国民の安全を損なう事態を生ずるおそれが大きい発明」であっても、一律に非公開とはせず、「保全指定をした場合に産業の発達に及ぼす影響その他の事情」を考慮し、適当と認められる場合に限り、保全指定をすることとしている。

 ここでいう「産業の発達に及ぼす影響」の内容としては、前節(2)で述べたように、①特許出願人を含む当該発明の関係者の経済活動に及ぼす影響、②非公開の先願に抵触するリスクに関して第三者の経済活動に及ぼす影響及び③我が国におけるイノベーションに及ぼす影響という3つの観点から総合的に考慮する必要がある。

 特に、今後民生分野の産業や市場に幅広く展開され、発展していくような発明については、保全指定をして発明の内容の開示や実施を制限することが我が国の経済活動やイノベーションへ支障を及ぼしかねないことに十分留意する必要がある。

 なお、法第70条第1項の「その他の事情」としては、例えば、対象となる発明の管理状況等、保全指定の実効性に関わる事情が想定される。すなわち、国家及び国民の安全を損なうおそれが大きく、かつ、産業の発達に及ぼす影響が少ない場合であっても、情報が既に広く知られており、保全の実質的な意義が小さい場合には、保全指定をすることが適当とは認め難い。

第3節 その他の基本的留意事項

(略)

第2章 特定技術分野に関する基本的な事項

第1節 特定技術分野に関する考え方

(1)特定技術分野の位置付け

 「特定技術分野」とは、「公にすることにより外部から行われる行為によって国家及び国民の安全を損なう事態を生ずるおそれが大きい発明が含まれ得る技術の分野として国際特許分類又はこれに準じて細分化したものに従い政令で定めるもの」をいう(法第66条第1項)。

 最終的に保全指定の対象となるのは、特許出願に係る明細書等に記載された個々の具体的発明であるが、それは、前章第2節で述べたとおり、我が国の安全保障上極めて機微な発明を前提にしつつ、産業の発達への影響等も踏まえて選定されることとなる。そこで、そうした条件を満たし得る発明をあらかじめ技術分野という角度から類型化して国際特許分類(IPC=International Patent Classification)の形で示し、特許庁長官が行う第一次審査において定型的な形で審査を可能にさせるとともに、特許出願人の予見性を確保するのが、特定技術分野の役割である。保全指定の対象となる発明を選定するに当たり、年間約30万件に及ぶ特許出願の全てを内閣総理大臣の保全審査に付することとすれば、安全保障上の機微性とは関連しない発明も含め、全ての特許出願に係る特許手続を遅延させることになりかねないことから、法第66条第1項は、まずは特許庁長官において、特定技術分野に該当するものを定型的に選別し、選別されたものだけを内閣総理大臣に送付して保全審査に付すという二段階審査の仕組みを採用している。

 また、法第66条第1項本文によって保全審査に付される発明は、保全指定前における外国出願の禁止(以下「第一国出願義務」という。)の対象となることから(法第78条第1項)、特定技術分野は、第一国出願義務の範囲を絞り込む役割も担っている。

(2)特定技術分野を定める際の基本的な考え方

 特定技術分野を定めるに当たっては、真に保全指定の対象となる発明が含まれ得る領域を選定する必要がある。どのような発明が保全指定の対象となるかについては、前章第2節で述べたとおりであり、そうした発明が含まれ得る技術分野を特定技術分野として選定していくこととなる。すなわち、保全指定の対象が、経済活動やイノベーションへの影響を考慮して選定されることを踏まえて、特定技術分野の選定においても、国家及び国民の安全を損なう事態を生ずるおそれが大きい発明が含まれ得る技術分野であるかという観点だけでなく、経済活動やイノベーションへの影響も考慮する必要がある。

 特定技術分野は、特許出願人に明確な形でなければならず、かつ、特許庁長官による迅速な審査を可能にさせるものでなければならない。これらを踏まえ、法第66条第1項本文において、特定技術分野は国際特許分類又はこれに準じて細分化したものに従い定めることとしている。すなわち、国際特許分類は、国際的に統一された特許分類としてその定義が公表されているものであり、かつ、現行の特許実務上、特許出願が受理されると、まず、記載されている発明に国際特許分類を付与する作業が行われていることから、これを用いて特定技術分野を定めることとしている。

 国際特許分類をどの程度細分化した上で定めるかという点については、広く定めるほど、保全指定の対象となり得ないような発明が多く保全審査に付されるとともに、第一国出願義務の対象となり、多くの特許出願人に影響が及ぶこととなる一方、特定技術分野を詳細に細分化した上で示せば安全保障上の問題が生じ得るため、そのバランスに留意しながら個々の技術分野ごとに検討する必要がある。

(3)「国際特許分類又はこれに準じて細分化したもの」について

 国際特許分類は、安全保障上機微な発明の選別を意図して作られたものではないため、本制度における保全審査の対象となる発明の絞り込みという観点から、必要があれば国際特許分類に準じて細分化して定めることとする。この細分化は、国際特許分類と同様に、具体的で明確なものでなければならず、かつ、明細書等の記載から判断が可能で、特許出願人にとっても該当するか否かを判別できる形で政令において定める必要がある。

(4)特定技術分野の見直し

 先端技術は日進月歩で変わるものであることに鑑み、内閣総理大臣は、関係行政機関とも連携し、状況変化に応じて機動的に特定技術分野の見直しを行う。

第2節 付加要件に関する考え方

 法第66条第1項本文は、内閣総理大臣への送付事由、つまり保全審査に付する事由として、特定技術分野に属する発明という要件に加え、「その発明が特定技術分野のうち保全指定をした場合に産業の発達に及ぼす影響が大きいと認められる技術の分野として政令で定めるものに属する場合にあっては、政令で定める要件に該当するものに限る」という形で、一部の特定技術分野にのみ適用される付加的な要件を規定している。以下、ここでいう「政令で定める要件」を「付加要件」と呼ぶこととする。

 前章第1節で述べたとおり、安全保障上極めて機微な発明について保全指定をし、情報流出の防止に万全を期することは、安全保障を確保する上で重要なことであるが、その一方で、保全指定という措置は、経済活動やイノベーションへの影響を伴うものである。典型例としては、前章第2節(2)で述べたとおり、今後民生分野の産業や市場に幅広く展開され、発展していくような発明を保全指定の対象とすることの弊害が挙げられる。したがって、そのような発明は、仮に保全審査に付されたとしても、産業の発達に及ぼす影響との総合考慮の中で保全指定の対象から除かれることとなるが、そもそも一律に産業に与える弊害が著しく、最終的に保全指定をする余地のない発明のみが含まれる技術分野であれば、初めから特定技術分野として選定するべきではない。

 他方で、宇宙・サイバー等の領域における技術など、民生分野の産業や市場に展開される可能性を含んだ技術の分野であっても、例えば、当初から防衛・軍事の用に供する目的で開発された場合や、国の委託事業において開発された場合など、発明の経緯や研究開発の主体といった技術分野以外の角度からの絞りをかければ、軍事・防衛に特化した技術領域に近づき、あるいは民間の経済活動の制約という要素が一定程度軽減されること等により、保全指定をすべき発明が含まれ得る領域を限定的に抽出できるものもあると考えられる。そこで、技術分野以外の角度からもう一つの絞り込みを付加することにより、その条件を満たす場合に限って適用される特定技術分野を定める途を開くのが、付加要件である。

 すなわち、特定技術分野は、付加要件がないものと、付加要件があるものの2種類に分かれる。

 したがって、付加要件を定めるに当たっては、その条件を加味すれば、安全保障上の機微性が高まり、あるいは産業の発達に及ぼす影響が低下し得るなど、両要素のバランスが変化することで、本来であれば特定技術分野として掲げるのに必ずしも適さない技術分野が、その条件の下であれば特定技術分野として掲げられるようになると言い得る条件を見出して、これを定めることとなる。

 また、付加要件は、一定の特定技術分野に該当する発明について、それが保全審査に付されるか否かのみならず、第一国出願義務の対象となるか否かをも画するものであるから、特許庁にとっても、特許出願人にとっても、該当するか否かを明確に判断できる形で政令を定める必要がある。

第3節 有識者等からの意見聴取

 特定技術分野及び付加要件を政令で定めるに当たっては、行政手続法で求められている意見公募手続を行い、広く関係者の意見・情報を公募するとともに、有識者の意見を適切に参照する。

第3章 保全指定に関する手続に関する事項

第1節 保全審査

(略)

第2節 保全指定の期間の延長と解除

(略)

第4章 その他特許出願の非公開に関し必要な事項

第1節 保全対象発明の実施の制限

(略)

第2節 保全対象発明の開示禁止

(略)

第3節 保全対象発明の適正管理措置

(略)

第4節 発明共有事業者の変更

(略)

第5節 外国出願の禁止

 法第78条第1項は、日本国内でした発明であって公になっていないものが、法第66条第1項本文に規定する発明、すなわち、日本で出願すれば保全審査の対象となる発明である場合について、第一国出願義務を定めており、そのような発明については、外国で特許出願をするより前に、まず日本で特許出願をしなければならない。

 「日本国内でした発明」とは、特許出願人の本店所在地等がどこであるかにかかわらず、発明地が日本国内であることを意味し、複数国にまたがって研究・開発が行われた場合には、発明の完成地が発明地となる。

 「外国出願」とは、外国における特許出願及び特許協力条約(PCT=Patent Cooperation Treaty)に基づく国際出願をいい、政令で定めるものを除くものとされている。「政令で定めるもの」として、例えば、特定の外国政府との間で非公開の特許出願を相互に受け入れ合うことや、特定の条件下でなされた発明について、発明の秘密に関する自国の法律を適用してはならないこととする国際約束が締結されている場合における当該約束に従った当該国への外国出願などが考えられる。

 日本で出願せずに初めから外国で出願しようとする者は、出願書類に記載する発明がこの第一国出願義務の対象となる発明か否か自ら判断する必要があるが、法第79条第1項において、事前に特許庁長官にその確認を求めることができる仕組みが設けられている。さらに、この事前確認制度には、たとえ保全審査の対象となる発明であっても、内閣総理大臣が「国家及び国民の安全に影響を及ぼすものでないことが明らかである」と認めた場合には、禁止の例外として外国出願を許容する仕組みも設けられている。特許庁長官及び内閣総理大臣においては、制度の趣旨を踏まえ、迅速に回答するよう努める必要がある。

第6節 損失の補償

 法第80条第1項は、損失補償の相手を「保全対象発明(保全指定が解除され、又は保全指定の期間が満了したものを含む。)について、法第73条第1項ただし書の規定による許可を受けられなかったこと又は同条第4項の規定によりその許可に条件を付されたことその他保全指定を受けたことにより損失を受けた者」と規定していることから、同項の損失補償を受けられるのは、指定特許出願人又は指定特許出願人であった者である。

 また、補償の範囲については、「通常生ずべき損失を補償する」と規定されており、これは一般的に、相当因果関係がある損失を意味するものである。補償を受けるには、実際に「損失を受けた」ことが必要である。

 補償の対象となり得る損失としては、例えば、実施が不許可とされて保全対象発明を実施できなかったことにより回収できなかった開発・設備投資費用や通常得られるはずであったのに得られなかった利益等が想定される。損失の算定は、発明の内容や不許可とされた発明の実施の態様等によって様々であるが、請求人の予見性を高めるため、補償の対象となり得る損失例について、担当部局において別途Q&A等の形で示すこととする。

 損失補償を受けようとする者は、補償請求の理由や補償請求額の総額及びその内訳、算出根拠等を示し、その損失について補償を受けることの相当性を示す必要がある。例えば、実施の許可の申請時の事業計画等を基に補償を請求することが想定される。このとき、十分な根拠が示されていない損失については、補償の対象とならないこととなる。

 補償の請求を受けた内閣総理大臣が補償金額を算出する際には、その請求について、請求人から説明を受けるなど、十分に意思疎通を図ることが必要である。その上で、専門家の意見も聞きながら、客観性を持って妥当な金額を算出する必要がある。その際、内閣総理大臣は、請求人が過度な不利益を被ることのないよう十分配慮することが必要である。

第7節 政府内における情報の適正管理

(略)

第8節 本制度の周知・広報及び情報提供

 本制度の趣旨や内容、具体的な手続等については、担当部局において、Q&A等の策定を含め、特許出願に携わる関係者に対する十分な周知・広報及び情報提供に努めることとする。

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2022年4月17日 (日)

第458回:欧米主要国の秘密特許制度(その3:ドイツとフランス)

 今後の参考として、前々回前回に引き続き、今回はドイツとフランスの秘密特許制度についてまとめておく。

(1)ドイツ
 その秘密特許制度を規定しているのは、ドイツ特許法の以下の第50条から第56条である。(以下、翻訳は全て拙訳。)

§50

(1) Wird ein Patent fur eine Erfindung nachgesucht, die ein Staatsgeheimnis (§93 des Strafgesetzbuches) ist, so ordnet die Prufungsstelle von Amts wegen an, das jede Veroffentlichung unterbleibt. Die zustandige oberste Bundesbehorde ist vor der Anordnung zu horen. Sie kann den Erlass einer Anordnung beantragen.

(2) Die Prufungsstelle hebt von Amts wegen oder auf Antrag der zustandigen obersten Bundesbehorde, des Anmelders oder des Patentinhabers eine Anordnung nach Absatz 1 auf, wenn deren Voraussetzungen entfallen sind. Die Prufungsstelle pruft in jahrlichen Abstanden, ob die Voraussetzungen der Anordnung nach Absatz 1 fortbestehen. Vor der Aufhebung einer Anordnung nach Absatz 1 ist die zustandige oberste Bundesbehorde zu horen.

(3) Die Prufungsstelle gibt den Beteiligten Nachricht, wenn gegen einen Beschluss der Prufungsstelle, durch den ein Antrag auf Erlas einer Anordnung nach Absatz 1 zuruckgewiesen oder eine Anordnung nach Absatz 1 aufgehoben worden ist, innerhalb der Beschwerdefrist (§73 Abs. 2) keine Beschwerde eingegangen ist.

(4) Die Absatze 1 bis 3 sind auf eine Erfindung entsprechend anzuwenden, die von einem fremden Staat aus Verteidigungsgrunden geheimgehalten und der Bundesregierung mit deren Zustimmung unter der Auflage anvertraut wird, die Geheimhaltung zu wahren.

§51

Das Deutsche Patent- und Markenamt hat der zustandigen obersten Bundesbehorde zur Prufung der Frage, ob jede Veroffentlichung gemass §50 Abs. 1 zu unterbleiben hat oder ob eine gemass §50 Abs. 1 ergangene Anordnung aufzuheben ist, Einsicht in die Akten zu gewahren.

§52

(1) Eine Patentanmeldung, die ein Staatsgeheimnis (§93 des Strafgesetzbuches) enthalt, darf ausserhalb des Geltungsbereichs dieses Gesetzes nur eingereicht werden, wenn die zustandige oberste Bundesbehorde hierzu die schriftliche Genehmigung erteilt. Die Genehmigung kann unter Auflagen erteilt werden.

(2) Mit Freiheitsstrafe bis zu funf Jahren oder mit Geldstrafe wird bestraft, wer
1. entgegen Absatz 1 Satz 1 eine Patentanmeldung einreicht oder
2. einer Auflage nach Absatz 1 Satz 2 zuwiderhandelt.

§53

(1) Wird dem Anmelder innerhalb von vier Monaten seit der Anmeldung der Erfindung beim Deutschen Patent- und Markenamt keine Anordnung nach §50 Abs. 1 zugestellt, so konnen der Anmelder und jeder andere, der von der Erfindung Kenntnis hat, sofern sie im Zweifel daruber sind, ob die Geheimhaltung der Erfindung erforderlich ist (§93 des Strafgesetzbuches), davon ausgehen, das die Erfindung nicht der Geheimhaltung bedarf.

(2) Kann die Prufung, ob jede Veroffentlichung gemass §50 Abs. 1 zu unterbleiben hat, nicht innerhalb der in Absatz 1 genannten Frist abgeschlossen werden, so kann das Deutsche Patent- und Markenamt diese Frist durch eine Mitteilung, die dem Anmelder innerhalb der in Absatz 1 genannten Frist zuzustellen ist, um hochstens zwei Monate verlangern.

§54

Ist auf eine Anmeldung, fur die eine Anordnung nach §50 Abs. 1 ergangen ist, ein Patent erteilt worden, so ist das Patent in ein besonderes Register einzutragen. Auf die Einsicht in das besondere Register ist §31 Abs. 5 Satz 1 entsprechend anzuwenden.

§55

(1) Ein Anmelder, Patentinhaber oder sein Rechtsnachfolger, der die Verwertung einer nach den §§1 bis 5 patentfahigen Erfindung fur friedliche Zwecke mit Rucksicht auf eine Anordnung nach §50 Abs. 1 unterlasst, hat wegen des ihm hierdurch entstehenden Vermogensschadens einen Anspruch auf Entschadigung gegen den Bund, wenn und soweit ihm nicht zugemutet werden kann, den Schaden selbst zu tragen. Bei Beurteilung der Zumutbarkeit sind insbesondere die wirtschaftliche Lage des Geschadigten, die Hohe seiner fur die Erfindung oder fur den Erwerb der Rechte an der Erfindung gemachten Aufwendungen, der bei Entstehung der Aufwendungen fur ihn erkennbare Grad der Wahrscheinlichkeit einer Geheimhaltungsbedurftigkeit der Erfindung sowie der Nutzen zu berucksichtigen, der dem Geschadigten aus einer sonstigen Verwertung der Erfindung zufliesst. Der Anspruch kann erst nach der Erteilung des Patents geltend gemacht werden. Die Entschadigung kann nur jeweils nachtraglich und fur Zeitabschnitte, die nicht kurzer als ein Jahr sind, verlangt werden.

(2) Der Anspruch ist bei der zustandigen obersten Bundesbehorde geltend zu machen. Der Rechtsweg vor den ordentlichen Gerichten steht offen.

(3) Eine Entschadigung gemass Absatz 1 wird nur gewahrt, wenn die erste Anmeldung der Erfindung beim Deutschen Patent- und Markenamt eingereicht und die Erfindung nicht schon vor dem Erlass einer Anordnung nach §50 Abs. 1 von einem fremden Staat aus Verteidigungsgrunden geheimgehalten worden ist.

第50条

第1項 国家機密(刑法第93条)である発明に対して特許が求められる場合、審査部は、職権で、公開を保留する事を命令する。権限を有する連邦最高機関の意見が聞かれる。それは命令の発出を要請できる。

第2項 その命令の前提条件がなくなったとき、審査部は、職権で、又は、出願人権限を有する連邦最高機関、出願人又は特許権者の要請により、第1項に基づく命令を取り消す。審査部は1年毎に、第1項に基づく命令の前提条件が継続しているかどうかを審査する。第1項の命令の取り消しの前に、権限を有する連邦最高機関の意見が聞かれる。

第3項 審査部は、第1項に基づく命令の発出の要請を却下するか第1項に基づく命令を取り消す決定に対して不服期間(第73条第2項)(訳注:1月)に不服が申し立てられなかったとき、当事者に通知する。

第4項 第1項から第3項は、外国により防衛上の理由から秘密を保持され、連邦政府に、秘密保持を保障するというその同意とともに委ねられた発明にも準用される。

第51条

ドイツ特許商標庁は、第50条第1項に従い公開を保留するかどうか又は第50条第1項に従い過去の命令を取り消すかどうかの問題の審査について、権限を有する最高連邦機関に書類の閲覧を認める。

第52条

第1項 国家機密(刑法第93条)を含む特許出願は、権限を有する連邦最高機関によりそれについて書面による許可が与えられない限り、本法の管轄地外で提出する事は許されない。許可は条件つきで与えられ得る。

第2項 次の者は5年までの禁固刑又は罰金により罰される
1.第1項第1文に違反し、特許出願を提出したか
2.第1項第2文の条件に違反した者。

第53条

第1項 特許出願人にドイツ特許商標庁への発明の出願から4月の間第50条第1項に基づく命令が送達されない場合、(刑法第93条に基づく)発明の秘密保持が必要かどうかについて疑いを抱く限りにおいて、出願人又は発明について知る他の者は、秘密保持の必要がない事を導き出せる。

第2項 第50条第1項に従い公開を保留するかどうかの審査は第1項に記載の期間で終わらない事があり、その場合ドイツ特許商標庁は、第1項に記載の期間中に出願人に送達される通知により、最長で2月の延長ができる。

第54条

第50条第1項に基づく命令が出された発明に対し特許が付与された場合、特許は特別の登録簿に登録される。特別の登録簿の閲覧について第31条第5項第1文(訳注:秘密保持命令が出されている特許出願の書類の閲覧は極めて特別な場合にのみ許されるとする条項)が準用される。

第55条

第1項 第50条第1項に基づく命令を考慮し、第1条から第5条に基づき特許を受けられる発明の平和目的の利用を止められた出願人、特許権者又はその承継人は、損害を自身で負うべき事が要求されないとき、また、その限りにおいて、それによって自身に生じた財産的損害について、連邦に対する損害補償請求権を有する。

要求の判断において、特に、損害を受けた者の経済的地位、その発明又はその発明に関する権利の入手のために掛かった費用の多寡、費用の発生の際その者に分かる発明並びに利用に対する秘密保持の必要性の蓋然性の程度が考慮される。請求は特許付与後にのみ主張できる。損害補償は後に1年より短くない期間に対してのみ求める事ができる。

第2項 請求は権限を有する連邦最高機関にされる。

第3項 第1項による損害補償は、発明の最初の出願がドイツ特許商標庁に提出され、発明が第50条第1項の命令の発出より前に既に外国によって防衛上の理由により秘密に保持されていなかったときのみ、与えられる。

第56条

(略:権限を有する最高連邦機関を政府が規則で決められる事を規定。)

 この秘密特許制度について、ドイツ特許庁のHPに掲載されている解説(pdf)中に以下の様に書かれている。

Patente und Gebrauchsmuster fur Staatsgeheimnisse

Patent- oder Gebrauchsmusteranmeldungen zum Beispiel aus

- der Wehr- und Rustungstechnologie
- der Kerntechnologie
- der geheimen Nachrichtenubertragung

konnen Staatsgeheimnisse enthalten.

Diese Erfindungen unterliegen dann dem so genannten "Geheimschutz". Infrage kommen hier vor allem Anmeldungen von Unternehmen und privaten wie staatlichen Forschungseinrichtungen.

Geheimhaltungsverfahren

Alle beim DPMA eingehenden Patent- und Gebrauchsmusteranmeldungen aus bestimmten Klassen der Internationalen Patentklassifikation (IPC) werden zunachst dem Buro 99 zugeleitet. Hier werden dann die nicht geheimhaltungsbedurftigen Schutzrechtsanmeldungen in mehreren Schritten "ausgesiebt". Das DPMA arbeitet dabei mit anderen Behorden wie dem Bundesministerium der Verteidigung und dem Bundesministerium fur Wirtschaft und Technologie zusammen.

Ist die Anmeldung geheimhaltungsbedurftig, erlasst das DPMA - nach vorheriger Anhorung des Anmelders - eine Geheimhaltungsanordnung. Dabei uberpruft das DPMA jahrlich, ob die Geheimhaltung der Schutzrechte oder Schutzrechtsanmeldungen weiter fortbestehen muss oder ob die Geheimhaltung aufgehoben werden kann. Kann die Geheimhaltung aufgehoben werden, wird auch eine Offenlegungs- oder Patentschrift veroffentlicht.

...

Haufig gestellte Fragen zum Geheimschutz

Was sind Staatsgeheimnisse?

Staatsgeheimnisse sind Tatsachen, Gegenstande oder Erkenntnisse, die nur einem begrenzten Personenkreis zuganglich sind und vor einer fremden Macht geheim gehalten werden mussen, um die Gefahr eines schweren Nachteils fur die aussere Sicherheit der Bundesrepublik Deutschland abzuwenden (§93 Abs. 1 StGB).

Habe ich ein Staatsgeheimnis erfunden?

Anmeldungen aus folgenden technischen Gebieten konnen vornehmlich Staatsgeheimnisse enthalten:

- Wehr- und Rustungstechnologie z.B. Panzerungen, Sprengstoffe, Munition, Peil- und Messvorrichtungen
- Kernenergietechnologie z.B. Gasultrazentrifugen, Fusionsreaktoren, Plasma-Kerntechnik
- Wert- und Sicherheitsdokumente z.B. Wertpapiere, Banknoten, Ausweise
- Kryptologie z.B. Codier-/Decodiersysteme, Nachrichtentechnik.

Staatsgeheimnisse im Schutzrechtsverfahren gibt es ausschliesslich im Patent- und Gebrauchsmusterwesen. Marken- und Designanmeldungen konnen keine Staatsgeheimnisse enthalten.

...

Wer oder was ist das Buro 99?

Das Buro 99 ist die zentrale Stelle des DPMA fur Patent- und Gebrauchsmusterangelegenheiten, bei denen das Geheimhaltungsverfahren fur die Schutzrechte Patente und Gebrauchsmuster lauft bzw. die Geheimhaltungsanordnung vorliegt.

Wie melde ich ein Staatsgeheimnis an?

Fur die Anmeldung sind dieselben Unterlagen wie fur eine "normale" Patent- oder Gebrauchsmusteranmeldung zu verwenden. Wenn konkrete Anhaltspunkte vorliegen, die ein mogliches Staatsgeheimnis erkennen lassen, soll dies bereits durch den Anmelder bei der Anmeldung sowie auf dem Briefkuvert kenntlich gemacht werden. Dieses kenntlich gemachte Kuvert ist dann in ein weiteres nicht gekennzeichnetes Kuvert zu stecken und dem DPMA zuzuleiten.

Der aussere Umschlag darf nur die fur die Zustellung erforderlichen Angaben enthalten. Er darf keine Zusatze, die Ruckschluss auf den Inhalt zulassen oder auf eine Sonderbehandlung der Sendung hindeuten, aufweisen (§21 Abs. 6 der Allgemeinen Verwaltungsvorschrift zum materiellen und organisatorischen Schutz von Verschlusssachen - VSA sowie Anlage 6).

Die Ubersendung an das Europaische Patentamt ist nicht zulassig, da es sich um eine europaische Behorde handelt, die uber deutsche Staatsgeheimnisse keine Kenntnis erlangen darf.

Darf ich elektronisch anmelden?

Auch nach Einfuhrung der elektronischen Schutzrechtsakte besteht fur Staatsgeheimnisse keine Moglichkeit, diese auf gesichertem elektronischem Weg (weder Internet noch Telefax!) dem DPMA zuzuleiten. Anmeldungen mussen daher ebenso wie der dazugehorige Schriftverkehr stets in Papierform eingereicht werden.

国家機密に関する特許及び実用新案

例えば次の特許又は実用新案出願は国家機密を含み得ます。

・防衛及び軍事技術
・核技術
・秘密情報通信

これらの発明はいわゆる「秘密保護」を受けます。ここで企業並びに民間及び国家研究機関の出願が問題となり得ます。

秘密保持手続き

ドイツ特許庁に入って来た全特許及び実用新案出願は、国際特許分類(IPC)の特定の分類により、ビューロー99に運ばれます。そこで秘密保持の必要性のない出願は多段階で「ふるい分けられます」。ドイツ特許庁はそこで国防省及び経済技術省の様な他の機関とともに仕事をします。

出願について秘密保持が必要な場合、ドイツ特許庁は-事前の出願人の意見聴取の後-秘密保持命令を出します。それで、ドイツ特許庁は1年毎に、保護権又は出願の秘密保持がさらに継続されなくてはならないか又は秘密保持が取り消され得るかを審査します。秘密保持が取り消され得ると、公開又は特許公報が公開されます。

(略)

秘密保護について良くある質問

国家機密とは何でしょうか?

国家機密とは、限定的な者の間でのみアクセス可能とされた、ドイツ連邦共和国の対外安全保障に重大な不利益をもたらす危険を防止するため、外国権力に対して秘密に保持されなくてはならない、事実、対象又は知識です(刑法第93条第1項)。

私は国家機密を発明したのでしょうか?

次の技術分野の出願がとりわけ国家機密を含み得ます:
・防衛及び軍事技術、例えば、装甲、爆発物質、弾薬、測定機器
・核技術、例えば、ガス超遠心分離、核融合炉、プラズマ核技術
・有価及びセキュリティ書類、例えば、有価証券、銀行券、証明書
・暗号技術、例えば、暗号化/復号化システム、通信技術。

手続きにおいて国家機密との関係が出て来るのは特許及び実用新案のみです。商標及び意匠出願が国家機密を含む事はありません。

(略)

ビューロー99とは何なのでしょうか?

ビューロー99は、特許及び実用新案についての秘密保持手続きが行われ、場合によって秘密保持手続きを出す、特許及び実用新案の業務のためのドイツ特許庁の中心部署です。

私はどの様に国家機密を出願すれば良いでしょうか?

出願については、それ自体は「通常の」特許又は実用新案出願のための書類を用います。国家機密が含まれ得る事について知らせる事について具体的な根拠があるとき、その事は出願の際に出願人によって封筒においても分かる様にされるべきです。この分かる様にされた封筒を他の印のない封筒に入れ、ドイツ特許庁に送ります。

外側の包みは到達に必要とされる事のみを書く事が許されます。内容が推測できる様な事や送付における特別な取り扱いについてなどの追記は許されません(秘密事項の物理的及び機構的ほぼについての一般行政規定-VSA並びに補足6)。

欧州特許庁への送付は許されていません、それはドイツの国家機密について知る事を求める事が許されていない欧州機関によって取り扱われます。

私は電子的に出願する事ができるでしょうか?

電子的な書類の提出についても、国家機密について可能ではありません、それをセキュリティを確保した電子的手段(インターネットでもファックスでも!)でドイツ特許庁に出す事はできません。出願は、したがって、それに付随する書類のやり取りもまたそうですが、常に紙の形式で提出されなくてはなりません。

 ドイツ特許法の規定では、刑法の国家機密の定義をそのまま引用しているのが特徴と言えば特徴であり、もし特許が秘密保持の対象になれば、一般刑法の規制も受ける事になる。

 秘密保持命令が出されるまでの期間は通常4ヶ月で、最長でも6ヶ月までとされており、1年毎に継続するかどうかが判断される。不服申し立てについても規定されている。

 条文上、ドイツで出されるのは出願が国家機密と判断された場合の秘密保持命令だけだが、国家機密を含むとは到底考えられない出願についてまで一律外国出願禁止が課されているとは読めないのであり、この様な条文の書き方がされている事は重要だろう。

 補償についても、公開こそされないものの求められるのは特許付与後であり、その平和目的利用が止められた場合についてのみ補償するとされ、発明のために請求者に掛かった費用なども考慮するとされている。

 ドイツ特許庁は、国際特許分類(IPC)の特定の分類によって出願をふるい分け、さらに国防省の意見も聞きながら秘密保持命令を出すとしているが、秘密特許に対する統計情報の公開もなく、政府や軍が関与し元から国家機密を含むと分かっていて特別な形で出される出願以外にどれほどこの国際特許分類によるふるい分けによって秘密保持命令が出されているのかは分からない。

 この秘密保持命令とその補償について争われた様なケースは少ないが、昔のドイツ最高裁の判決として、秘密保持命令の取り消しの是非が争われた1991年1月12日の判決1977年2月3日の判決、国家予算による研究開発に基づく秘密特許に対する補償の必要性を否定した1972年5月4日の判決などがある。後者の1972年の判例が今も有効だとすると、政府や軍が関与している場合がほとんどだろう秘密特許に対して補償がまともに認められる事はまずないのではないだろうか。

 さらに、ドイツ特許裁判所の2015年12月15日の判決の様に、2010年の出願に対して秘密保持命令が出されたが、その後特許庁が出願をうっかり公開してしまったために、命令の取り消しが認められたという状況の中で、出願人が元の出願と秘密とされる部分を除いて出した分割出願の統合と特許料の返金を求めたという様なケースがあるのを見ると、今でもドイツの秘密特許制度は運用されていないという事はなさそうだが、その意義は大いに疑わしく思える。

(2)フランス
 フランスでは、その知的財産法の第612-8条から第612-10条に以下の様に規定されている。

Article L612-8

Le ministre charge de la defense est habilite a prendre connaissance aupres de l'Institut national de la propriete industrielle, a titre confidentiel, des demandes de brevet.

Article L612-9

Les inventions faisant l'objet de demandes de brevet ne peuvent etre divulguees et exploitees librement aussi longtemps qu'une autorisation n'a ete accordee a cet effet.

Pendant cette periode, les demandes de brevet ne peuvent etre rendues publiques, aucune copie conforme de la demande de brevet ne peut etre delivree sauf autorisation, et les procedures prevues aux articles L. 612-14, L. 612-15 et au 1° de l'article L. 612-21 ne peuvent etre engagees.

Sous reserve de l'article L. 612-10, l'autorisation prevue au premier alinea du present article peut etre accordee a tout moment. Elle est acquise de plein droit au terme d'un delai de cinq mois a compter du jour du depot de la demande de brevet.

Les autorisations prevues aux premier et deuxieme alineas du present article sont accordees par le directeur de l'Institut national de la propriete industrielle sur avis du ministre charge de la defense.

Article L612-10

Avant le terme du delai prevu au deuxieme alinea de l'article L. 612-9, les interdictions edictees a l'alinea premier dudit article peuvent etre prorogees, sur requisition du ministre charge de la defense, pour une duree d'un an renouvelable. Les interdictions prorogees peuvent etre levees a tout moment, sous la meme condition.

La prorogation des interdictions edictees en vertu du present article ouvre droit a une indemnite au profit du titulaire de la demande de brevet, dans la mesure du prejudice subi. A defaut d'accord amiable, cette indemnite est fixee par le tribunal judiciaire. A tous les degres de juridiction, les debats ont lieu en chambre du conseil.

Une demande de revision de l'indemnite prevue a l'alinea precedent peut etre introduite par le titulaire du brevet a l'expiration du delai d'un an qui suit la date du jugement definitif fixant le montant de l'indemnite.

Le titulaire du brevet doit apporter la preuve que le prejudice qu'il subit est superieur a l'estimation du tribunal.

第612-8条

防衛担当大臣は、特許庁において、秘密として、特許について知る権限を有する。

第612-9条

そのための許可が与えられない限り、特許出願の対象となる発明は開示も自由利用もできない。

この期間の間、特許出願は公開されず、特許出願を写したコピーは許可なく渡されず、第612-14条、第612-15条及び第612-21条の第1号(訳注:検索の結果報告、出願の変更、出願の公開に関する条項)は実行されない。

第612-10条の留保の下、本条の第1段落に規定された許可はいつでも与えられ得る。それは完全なものとして特許出願から5月内に手に入る。

本条の第1段落及び第2段落に規定された許可は、防衛担当大臣の意見を聞いた上で特許庁長官によって与えられる。

第612-10条

第612-9条の第2段落に規定された期間が終わる前に、同条の第1段落に規定される禁止は、防衛担当大臣の要請により、更新可能なものとして1年間され得る。延長された禁止は同じ条件の下でいつでも取り消され得る。

本条による規定の禁止の延長により、その受けた損害に応じ、特許出願の所有者に補償請求権が与えられる。和解的合意が成立しない場合、この補償は裁判所によって決定される。司法の全段階において、訴訟の審理は非公開の場で行われる。

前段落の補償の見直しは、補償の額を決定する確定判決の日から1年の期間が過ぎた後にのみ、特許権者によって持ち出され得る。

特許権者は、受けた損害が裁判所の評価を上回るものである証拠を提出しなければならない。

 上の法律の条文に対応するものとして規則第612-26条から第612-32条でさらに細かな規則が定められており、他にも防衛目的で政府が特許を利用する場合に関する知的財産法第613-19条とそれに対応する規則第613-34条から第613-64条もある。

 対応する罰則は第615-13条に書かれている。

Article L615-13

Sans prejudice, s'il echet, des peines plus graves prevues en matiere d'atteinte a la surete de l'Etat, quiconque a sciemment enfreint une des interdictions portees aux articles L. 612-9 et L. 612-10 est puni d'une amende de 4 500 euros. Si la violation a porte prejudice a la defense nationale, une peine d'emprisonnement de un a cinq ans pourra, en outre, etre prononcee.

第615-13条

それがあり得るときには、国家の安全補償を損なう事項について規定されたより重い罰に影響を与える事なく、第612-9条及び第612-10条に記載された禁止のいずれかに故意に違反した者は、4500ユーロの罰金を科される。その違反が国防に損害をもたらしたとき、1年から5年までの禁固刑がさらに科され得る。

 そして、フランス特許庁がそのHPで、以下の様な注意を書いており、軍事省、装備総局と連名で安全保障に関する事項における知的財産関係者の利用のためのガイド(pdf)も出している。

6 - L'INPI transmet ensuite votre demande pour examen a la Defense nationale

Cette etape est imposee par la loi pour verifier si l'invention ne presente pas un interet pour la nation justifiant que sa divulgation soit empechee ou retardee. C'est rarement le cas. Le ministre de la Defense dispose d'un delai maximal de 5 mois pour decider s'il met ou non le brevet au secret. En regle generale, l'autorisation de divulgation vous est adressee par courrier dans les 4 a 6 semaines suivant votre depot.

Il vous est possible de demander, des le depot, une autorisation exceptionnelle de divulguer et d'exploiter l'invention.

Attention : les demandes susceptibles d'interesser la Defense nationale, typiquement une invention deposee a l'occasion de l'execution d'un marche notifie par le Ministere de la Defense, ou relevant d'un domaine sensible, ou relevant du secret d'un gouvernement etranger doivent etre deposees par voie papier exclusivement et une note d'information doit etre emise a l'attention du Bureau de la Propriete intellectuelle de la Direction Generale de l'Armement :

6.フランス特許庁は次にあなたの出願を国家安全保障に関する審査に移します

この段階は、国家がその開示を止めるか、遅らせるかするべきと判断する内容を発明が提示していないかを確かめるために法律によって課されているものです。該当するケースは稀です。防衛大臣は、出願を秘密とするかどうかを決定するため最長で5月の期間を使います。一般的に、開示の許可は出願後4から6週間で郵便によって送られます。

出願した時から、開示及び発明の利用の例外許可を求める事ができます。

注意:国家の防衛に関わると考えられる出願、典型的には国防省の通知を受けた取引の実施の際に出された出願や、機密となる範囲に関する出願や、外国政府の秘密に関する出願は紙によってのみ提出されるべきで、情報に関する注意書きが装備総局の知的財産課の注意のためにつけられるべきです:

 フランスでは、開示許可(外国出願許可)または秘密保持命令を出すまでに最長5ヶ月を要するとしているが、通常4から6週間とかなり短い期間で開示許可を出している様である。フランス特許庁がどの様に運用しているのかの詳細は不明だが、これほど短い期間で開示許可を出しているという事は、政府や軍が関与している事から特別な形で出されるものを除き、全ての出願について形式的なチェックだけで開示許可を出しているのではないかと思える。そして、フランスで開示許可について何か問題が発生したという話も聞かないのである。

 違反の罰則についても、国防にまで影響が出た場合はともかく、それ以外の場合は罰金のみと書き分けられている事もポイントの1つだろう。

 また、フランス特許庁は秘密保持命令の件数について公開しておらず、特許出願に対する秘密保持命令とその補償について裁判で争われた様なケースも見当たらなかった。

 前々回前回に続き、今回で米英独仏の秘密特許制度について公開情報から分かる事を一通りまとめてみたが、外形的に見る限り、これらの欧米主要国においても、秘密特許制度が国の安全保障に本当に役立っているとは全く思えず、そもそもこの様な不透明かつ役に立つかも疑わしい制度をどうして今の日本で導入しようとしているのか私にはやはり良く分からない。

 そして、仮に似た様な制度を導入するにしても、米英独仏の欧米主要国の制度ですら一様という事はなく、それぞれ出願人に対して利便が図られている点や不利な点などを良く考えて注意深く制度設計を行うべきはずだが、日本政府は各国の制度に対する公開情報の分析も不十分な生煮えの検討の儘、経済安保法案の秘密特許制度(特許非公開制度)に関する条文を極めて拙速に作ったのではないかという疑念が拭い切れない。

 前に書いた通りだが、今の非常に不明確な条文の儘秘密特許制度が成立すると、導入時の混乱と恣意的な運用により、国の安全保障に役立たないのは無論の事、かえって国として本来促進するべき技術分野の研究開発、国内外での特許取得活動に大きな萎縮が発生する恐れがある。今からでも遅くはないので、外国と日本の現状を十分良く見た上で、今一度抜本的に条文レベルで見直しを行うべきであると、私は今もそう思っている。

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2022年4月15日 (金)

第457回:欧米主要国の秘密特許制度(その2:イギリス)

 今後の参考として、前回のアメリカに続き、今回はイギリスの秘密特許制度を取り上げる。

 その秘密特許制度を規定しているのは、英国特許法の以下の様な安全保障と安全に関する第22条と第23条である。(以下、翻訳は全て拙訳。)

22 Information prejudicial to national security or safety of public.

(1) Where an application for a patent is filed in the Patent Office (whether under this Act or any treaty or international convention to which the United Kingdom is a party and whether before or after the appointed day) and it appears to the comptroller that the application contains information of a description notified to him by the Secretary of State as being information the publication of which might be prejudicial to national security, the comptroller may give directions prohibiting or restricting the publication of that information or its communication to any specified person or description of persons.

(2) If it appears to the comptroller that any application so filed contains information the publication of which might be prejudicial to the safety of the public, he may give directions prohibiting or restricting the publication of that information or its communication to any specified person or description of persons until the end of a period not exceeding three months from the end of the period prescribed for the purposes of section 16 above.

(3) While directions are in force under this section with respect to an application-

(a) if the application is made under this Act, it may proceed to the stage where it is in order for the grant of a patent, but it shall not be published and that information shall not be so communicated and no patent shall be granted in pursuance of the application;

...

(5) Where the comptroller gives directions under this section with respect to any application, he shall give notice of the application and of the directions to the Secretary of State, and the following provisions shall then have effect:-

(a) the Secretary of State shall, on receipt of the notice, consider whether the publication of the application or the publication or communication of the information in question would be prejudicial to national security or the safety of the public;

(b) if the Secretary of State determines under paragraph (a) above that the publication of the application or the publication or communication of that information would be prejudicial to the safety of the public, he shall notify the comptroller who shall continue his directions under subsection (2) above until they are revoked under paragraph (e) below;

(c) if the Secretary of State determines under paragraph (a) above that the publication of the application or the publication or communication of that information would be prejudicial to national security or the safety of the public, he shall (unless a notice under paragraph (d) below has previously been given by the Secretary of State to the comptroller) reconsider that question during the period of nine months from the date of filing the application and at least once in every subsequent period of twelve months;

(d) if on consideration of an application at any time it appears to the Secretary of State that the publication of the application or the publication or communication of the information contained in it would not, or would no longer, be prejudicial to national security or the safety of the public, he shall give notice to the comptroller to that effect; and

(e) on receipt of such a notice the comptroller shall revoke the directions and may, subject to such conditions (if any) as he thinks fit, extend the time for doing anything required or authorised to be done by or under this Act in connection with the application, whether or not that time has previously expired.

(6) The Secretary of State may do the following for the purpose of enabling him to decide the question referred to in subsection (5)(c) above-

(a) where the application contains information relating to the production or use of atomic energy or research into matters connected with such production or use, he may at any time do one or both of the following, that is to say,
(i) inspect the application and any documents sent to the comptroller in connection with it;
(ii) authorise a government body with responsibility for the production of atomic energy or for research into matters connected with its production or use, or a person appointed by such a government body, to inspect the application and any documents sent to the comptroller in connection with it; and

(b) in any other case, he may at any time after (or, with the applicant's consent, before) the end of the period prescribed for the purposes of section 16 above inspect the application and any such documents;

and where a government body or a person appointed by a government body carries out an inspection which the body or person is authorised to carry out under paragraph (a) above, the body or (as the case may be) the person shall report on the inspection to the Secretary of State as soon as practicable.

(7) Where directions have been given under this section in respect of an application for a patent for an invention and, before the directions are revoked, that prescribed period expires and the application is brought in order for the grant of a patent, then-

(a) if while the directions are in force the invention is worked by (or with the written authorisation of or to the order of) a government department, the provisions of sections 55 to 59 below shall apply as if-
(i) the working were use made by section 55;
(ii) the application had been published at the end of that period; and
(iii) a patent had been granted for the invention at the time the application is brought in order for the grant of a patent (taking the terms of the patent to be those of the application as it stood at the time it was so brought in order); and

(b) if it appears to the Secretary of State that the applicant for the patent has suffered hardship by reason of the continuance in force of the directions, the Secretary of State may, with the consent of the Treasury, make such payment (if any) by way of compensation to the applicant as appears to the Secretary of State and the Treasury to be reasonable having regard to the inventive merit and utility of the invention, the purpose for which it is designed and any other relevant circumstances.

(8) Where a patent is granted in pursuance of an application in respect of which directions have been given under this section, no renewal fees shall be payable in respect of any period during which those directions were in force.

(9) A person who fails to comply with any direction under this section shall be liable-

(a) on summary conviction, to a fine not exceeding £1,000; or

(b) on conviction on indictment, to imprisonment for a term not exceeding two years or a fine, or both.

23 Restrictions on applications abroad by United Kingdom residents.

(1) Subject to the following provisions of this section, no person resident in the United Kingdom shall, without written authority granted by the comptroller, file or cause to be filed outside the United Kingdom an application for a patent for an invention if subsection (1A) below applies to that application, unless -

(a) an application for a patent for the same invention has been filed in the Patent Office (whether before, on or after the appointed day) not less than six weeks before the application outside the United Kingdom; and

(b) either no directions have been given under section 22 above in relation to the application in the United Kingdom or all such directions have been revoked.

(1A) This subsection applies to an application if-

(a) the application contains information which relates to military technology or for any other reason publication of the information might be prejudicial to national security; or

(b) the application contains information the publication of which might be prejudicial to the safety of the public.

(2) Subsection (1) above does not apply to an application for a patent for an invention for which an application for a patent has first been filed (whether before or after the appointed day) in a country outside the United Kingdom by a person resident outside the United Kingdom.

(3) A person who files or causes to be filed an application for the grant of a patent in contravention of this section shall be liable-

(a) on summary conviction, to a fine not exceeding £1,000; or

(b) on conviction on indictment, to imprisonment for a term not exceeding two years or a fine, or both.

(3A) A person is liable under subsection (3) above only if -

(a) he knows that filing the application, or causing it to be filed, would contravene this section; or

(b) he is reckless as to whether filing the application, or causing it to be filed, would contravene this section.

第22条 国家の安全保障又は公共の安全を損なう情報

第1項 出願が特許庁に提出され(本法又は連合王国が加盟する条約又は国際協定によるもので、施行日の前後のもの)、その出願が、その公開が国家の安全保障を損ない得るものであるとして国務大臣によって通知された記述の情報を含むと特許庁長官に見られる場合、特許庁長官は、その情報の公開又は特定の人若しくは人々の説明への伝達を禁止又は制限する命令を出す事ができる。

第2項 その公開が公共の安全を損ない得るものである情報を含むと特許庁長官に見られる場合、第16条(訳注:出願公開に関する条項)の目的のために規定された期間の終わりから3月を超えない期間の終わりまでその情報の公開又は特定の人若しくは人々の説明への伝達を禁止又は制限する命令を出す事ができる。

第3項 命令が出願に関して本条に基づき効力を有する間-

(a)その出願が本法に基づきなされたものであるとき、それは特許付与され得る事が整う段階まで進む事ができるが、それが公開される事はなく、その情報は伝達されてはならず、その出願によって特許が付与される事もない;

(略:第3項(b)と(c)はそれぞれ欧州特許条約と特許協力条約における出願の場合について規定。第4項は特許庁長官は欧州特許条約の義務である時に情報を欧州特許庁に送る事を妨げられない事を規定。)

第5項 出願に関して本条に基づき命令を出す場合、特許庁長官はその出願及び命令について国務大臣に通知し、次の規定がその時実行される。

(a)国務大臣は、通知を受けたら、出願の公開又は問題となる情報の公開又は伝達が国家の安全保障又は公共の安全を損なうかどうかを検討する;

(b)前の(a)に基づき、出願の公開又は問題となる情報の公開又は伝達が国家の公共の安全を損なうであろうと判断するとき、国務大臣は、下の(e)に基づき取り消されるまでその命令を続けるべき事を特許庁長官に通知する;

(c)前の(a)に基づき、出願の公開又は問題となる情報の公開又は伝達が国家の安全保障又は国家の公共の安全を損なうであろうと判断するとき、国務大臣は、(下の(d)の通知が前もって国務大臣によって特許庁長官に与えられていない限り)出願が提出された日から9月の期間及び12月の続く毎期間において少なくとも1度その問題を再検討する;

(d)どの時においても、出願の検討において、出願の公開又はそれに含まれる情報の公開又は伝達が国家の安全保障又は国家の公共の安全を損なわないか、もはや損なわなくなったと国務大臣に見られるとき、国務大臣は特許庁長官にその結果について通知する。

(e)その様な通知を受け取ったら、特許庁長官は命令を取り消し、(もしあれば)適切であると考える条件の下に、その時間が以前に過ぎていたかどうかによらず、出願と関連して本法により又はそれに基づき求められるか許される事をするための時間を延長する事ができる。

第6項 国務大臣は、前の第5項(c)に記載された問題を決める事を可能とする目的で次の事ができる-

(a)出願が原子力に関する製造若しくは利用又はその様な製造若しくは利用に関連する事項についての研究に関係する情報を含む場合、国務大臣はいずれの時でも次の事のいずれか又は両方をする事ができる、すなわち、
(ⅰ)出願及びそれに関連して特許庁長官に送付された書類を検査する事;
(ⅱ)原子力に関する製造若しくは利用又はその様な製造若しくは利用に関連する事項についての研究に責任を有する政府機関又はその様な政府機関によって任命された者に出願及びそれに関連して特許庁長官に送付された書類を検査する事を認める事;そして

(b)他の場合において、国務大臣は前の第16条の目的のために規定された期間の終わりの後(又は、出願人の同意を得てその前)のどの時でも出願及びその様な書類を検査できる;

そして、政府に指定された政府機関又は者が、その機関又は者に前の(a)に基づき実施する事を認められた検査を実施する場合、その機関又は(ケースにより)者は、実行できる限り早く国務大臣に検査について報告する。

第7項 発明に関する特許出願に関して本条に基づき命令が出され、命令が取り消される前に、規定の期間が過ぎ、出願について特許付与され得る事が整った場合、その際-

(a)命令が効力を有する間に発明が政府部局によって(その書面による認可又は命令とともに)実施されるとき、下の第55条から第59条の規定(訳注:政府利用とその補償に関する条項)が次のものとして適用される-
(ⅰ)実施が第55条によってなされ;
(ⅱ)出願がその期間の終わりに公開され;そして
(ⅲ)出願が特許付与され得る事が整った時に発明に対して特許が付与されたものとして(特許の期間はその様に整った時のその出願の期間として);そして

(b)特許の出願人が命令の効力の継続のために損失を受けているとき、国務大臣は、財務大臣の同意とともに、発明の価値及び有用性、それが設計された目的及び関連する他の状況を考慮して国務大臣及び財務省に妥当と見られるものとして(もしあれば)出願人に対する補償を支払う事ができる。

第8項 本条に基づき命令を与えられた出願により特許が付与された場合、その命令が効力を有していた期間に関して更新手数料が支払われる事はない。

第9項 本条に基づく命令に従わなかった者は次の罰を受ける-

(a)陪審のない判決により、1000ポンドを超えない罰金;又は

(b)陪審のある判決により、2年を超えない禁錮若しくは罰金又はその両方。

第23条 連合王国居住者による外国出願についての制限

第1項 本条の次の規定に従い、次の場合を除き、連合王国の居住者は誰も、第1A項が適用される出願であるとき、特許庁長官によって与えられた書面による許可なく、発明についての特許出願を連合王国外で提出するか、その様な出願が提出される事をもたらしてはならない。

(a)同じ発明のための特許出願が、連合王国外の出願より6週間以上前に(施行日の前後で)特許庁に提出され;そして

(b)連合王国内で出願に関して第22条に基づき命令が出されていないか、その様な命令が全て取り消された場合。

第1A項 本項は次の出願に適用される

(a)軍事技術に関係する情報を含むか、他の理由によりその公開が国家の安全保障を損ない得る情報を含む出願;又は

(b)その公開が公共の安全を損ない得る情報を含む出願。

第2項 前の第1項は、(施行日の前後で)特許出願が連合王国外に居住する者によって連合王国外の国に最初に出願された発明についての特許出願には適用されない。

第3項 本条に違反して、特許付与を受けるための出願をしたか、出願をもたらした者は次の罰を受ける-

(a)陪審のない判決により、1000ポンドを超えない罰金;又は

(b)陪審のある判決により、2年を超えない禁錮若しくは罰金又はその両方。

第3A項 前の第3項において、次の場合のみ罰を受ける-

(a)その者が、その出願の提出又は出願をもたらす事が本条に違反する事を知っているか;又は

(b)その者が、その出願の提出又は出願をもたらす事が本条に違反するかどうかについて無謀であるか。

(略:第4項は出願とは他の保護のための出願や条約に基づく出願も参照するものであると規定。)

 次に、イギリス特許庁の特許実務マニュアルの第22条の解説から、主な部分を以下に訳出する。

22.01

This section gives the comptroller the power to prohibit the communication of information disclosed in an application filed at the Office, specifies how such an application is to be dealt with by the Office, lays down how prohibition directions are to be reviewed by the Secretary of State, confers certain rights on an applicant where grant of a patent is prevented by such a direction, and finally specifies penalties for failure to comply with such a direction. S.22 applies to all applications filed at the Office, whether filed under the 1977 Act or filed at the Office in its capacity as a Receiving Office under the EPC or the PCT. It also applies to applications under the 1949 Act, except that where such an application was, on the date (1st June 1978) on which the 1977 Act came into force, already the subject of directions under s.18 of the 1949 Act, those directions continue in force; if and when directions on such an application are revoked any patent is published and granted under the 1949 Act (unless the application is withdrawn in which case it is neither granted nor, following paragraph 1 of Schedule 5 to the CDP Act, published). S.22 was amended by the Patents Act 2004 with effect from 1 January 2005, which substituted the original term "the defence of the realm" with "national security" throughout this section, without any intended change of scope. The 2004 Act also amended s.22(6) to remove references to the United Kingdom Atomic Energy Authority (UKAEA).

...

Every application filed at the Office, is, once it has passed through Document Reception and New Applications (or has been filed securely - see 22.07), scrutinised by an examiner in Security Section, who is supplied with a list of material, the publication of information about which might be prejudicial to national security. If such information is disclosed, the application is removed from the general stream of applications and directions are given under s.22(1) prohibiting the publication of the application and the communication of its contents. Similar directions are given under s.22(2) if the information disclosed is such that its publication might be prejudicial to the safety of the public. In this case no general guidance is given by the Secretary of State, and the decision as to what falls into this category is a matter for the comptroller.

...

22.05

s.97(1)(c) is also relevant

In neither case is there any appeal from a decision by the comptroller to issue prohibition directions.

22.06

Although prohibition directions initially impose a blanket prohibition against any disclosure of the patent application and information therein, permission may be sought from the comptroller for disclosure to specified persons. If granted such permission will impose conditions on the persons so specified; thus they should not without specific authorisation disclose the information to any other person. Permission must be sought for filing corresponding applications abroad see 23.04.

22.07

Although all applications are inspected by Security Section, anyone filing an application, knowing that a Government department or a foreign government wishes its contents to be kept secret, or the contents of which relate to a classified Government contract, should file the application at Room G.R70, Concept House, and not to the usual Front Office. Such applications may be filed by hand at the Newport or London office, in envelopes marked "For the attention of GR70", but only between the hours of 9am and 5pm. The receptionist should be informed that the application is for GR70 rather than the usual Front Office. Documents which might include information of relevance to national defence or security should not be filed by facsimile transmission. In respect of a filing connected with a classified Government contract the application should be accompanied by a notification of the number of the contract together with the name and address of the Government agency involved in the contract.

22.08

Documents involved in applications subject to prohibition directions under Section 22(1) must be despatched under security rules; Room G.R70 will always advise on this procedure. If such documents are being despatched to the Office, the envelope should be clearly marked "for attention of Room G.R70" and should be addressed to Room G.R70, Concept House, Cardiff Road, Newport, South Wales, NP10 8QQ.

...

22.09

For as long as prohibition directions are in force an application for a patent under the Act is dealt with by an examiner in Security Section. Search and substantive examination are carried out in the usual way for the period allowed for requesting substantive examination, see 18.02, but the application is not published, and at no stage is it mentioned in the Journal. When it appears to the examiner that the application is in order, a formal report indicating that the application complies with the Act and Rules is issued under s.18(4). The application does not however, proceed to publication and grant whilst the prohibition directions remain in force.

...

22.12

When directions under s.22(1) or (2) have been given with respect to an application the Secretary of State must be so informed, and must advise whether or not it should continue in force. Such advice will not be tendered in advance of the Secretary of State (usually, in practice, the Ministry of Defence) inspecting the application. This inspection is however done immediately if the application contains information relating to the production or use of atomic energy or research into matters connected with such production or use, and the Secretary of State may authorise a government body with responsibility for the production of atomic energy or for research into its production or use, or a person appointed by such a body to inspect the application. (See also 22.27-22.29). Otherwise the inspection cannot take place until after the expiry of eighteen months from the declared priority date or, where there is none, the filing date, unless the applicant gives permission for an earlier inspection. It is therefore advantageous, if early consideration for revocation of the directions is desired, to complete and return to Room G.R70 Concept House together with a copy of the specification the Form of Assent to Inspection which is despatched with the letter sent to the applicant stating that the order has been imposed. Even when early revocation is not being sought, it is desirable to acknowledge receipt of the letter imposing the directions.

22.01

本条は、特許庁に提出された出願において開示されている発明の伝達を禁止する権限を特許庁長官に与え、その様な出願がどの様に特許庁によって取り扱われるかを特定し、禁止命令がどの様に国務大臣によって見直されるかを定め、その様な命令によって特許付与を止められた出願についてある権利を与え、最後にその様な命令に従わなかった事に対する罰を特定している。第22条は、1977年の特許法に基づき提出されるか、欧州特許条約又は特許協力条約に基づき受理官庁の能力において特許庁に提出されるかによらず、特許庁に提出される全ての出願に適用される。出願が、1977年の特許法が施行される日(1978年6月1日)においてすでに1949年の特許法の第18条(訳注:旧法の禁止命令に関する条項)に基づく命令の対象になっており、その命令が効力を有し続けている場合を除き、これは1949年の特許法に基づき提出された出願にも適用される。その様な出願に対する命令が取り消されたとき、(特許が付与されず、1988年の著作権、意匠及び特許法のスケジュール5に従い、公開もされない場合において、出願が取り下げられた場合を除き)1949年法に基づき特許は公開され、付与される。第22条は2004年の特許法改正によって改められ、範囲を変更する意図はないが、本条について元の用語「領土の防衛」は「国家の安全保障」に入れ替えられた。2004年の改正はまた第22条第6項も改め、連合王国原子力当局(UKAEA)についての参照を削除している。

(略)

特許庁に提出された全ての出願は、書類受付及び新規出願部門を通ったら(又はセキュリティを確保して提出されたら-22.07参照)、情報の公開が国家の安全保障を損ない得る事項のリストを提供された安全保障部門の審査官によって精査される。その様な情報が開示されているとき、その出願は出願の通常の流れから取り除かれ、命令が第22条第1項に基づき出され、出願公開及びその内容の伝達が禁止される。その公開が公共の安全を損ない得るものであるとき、同様の命令が第22条第2項に基づき出される。この場合について、一般的なガイダンスは国務大臣によって与えられておらず、何がこの範疇に入るのかは特許庁長官が決定する事項である。

(略)

22.05

第97条第1項(c)(訳注:不服申し立てからの除外を規定している条項)も関係する。

どの様な場合においても禁止命令を出す特許庁長官の決定からの不服申し立てはない。

22.06

禁止命令は当初特許出願及びその中の情報の開示に対する包括的な命令であるが、特定の者への開示のため特許庁長官からの許可を求める事ができる。与えられるとき、その様な許可は特定された者に対する条件を課すであろう;彼らは特別な許可なく他の者に情報を開示してはならないといったものである。対応する出願を外国で提出する場合には許可が求められなければならない、23.04参照。

22.07

全ての出願は安全保障部門により精査されるが、政府部局又は外国政府がその内容を秘密に保つ事を求めているか、分類された政府計画に関係する内容である事を知り、出願を提出する者は、通常の出願窓口ではなく、コンセプトハウスのルームG.R70に出願を提出するべきである。その様な出願は、「GR70の注意のため」と書かれた包みに入れ、ニューポート又はロンドンオフィスに手で持ち込んで提出する事ができる、ただし、時間は午前9時から午後5時までである。国家の防衛又は安全保障と関連する情報を含み得る書類はファクシミリ通信で提出されるべきではない。分類された政府計画に結びついた出願に関しては、出願はその契約に関与する政府機関の名前と住所とともに契約番号の通知を伴うべきである。

22.08

第22条第1項に基づく禁止命令を受けた出願に関する書類はセキュリティ規則に基づき送付されなくてはならない。ルームG.R70はいつでもこの手続について助言する。その様な書類が特許庁に送付されるとき、封筒には常に「GR70の注意のため」と明記され、NP10 8QQ、南ウェールズ、ニューポート、カルディフロード、コンセプトハウス、ルームG.R70に宛てられるべきである。

(略)

22.09

禁止命令が効力を有する限り、本法に基づく特許出願は安全保障部門の審査官によって取り扱われる。検索及び実質審査は、実質審査を求める事が許される期間の間に通常のやり方で実行される、18.02参照、しかし、出願が公開される事はなく、どの段階でも公報で言及される事はない。出願が整ったと審査官に見られるとき、出願は法律と規則に合致している事を示す形式的な報告が第18条第4項に基づき出される。しかしながら、禁止命令が効力を有し続ける間、出願が公開及び特許付与へと進められる事はない。

(略)

22.12

第22条第1項又は第2項に基づく命令が出願に対して出されたとき、国務大臣はその事について知らされ、それが効力を持ち続けるべきかどうかについて意見を述べなければならない。この様な意見は、国務大臣(通常の実務において、国防大臣)による出願の検査に先立って出される事はない。この様な検査は、しかしながら、出願が原子力に関する製造若しくは利用又はその様な製造若しくは利用に関連する事項についての研究に関係する情報を含むとき、すぐにする事ができ、国務大臣は、原子力に関する製造若しくは利用又はその製造若しくは利用に関連する事項についての研究に責任を有する政府機関又はその様な機関によって任命された者に出願を検査する事を認める事ができる。(22.27-22.29も参照。)それ以外の場合、検査は、宣言された優先日又は、それがない場合、出願日から18月経過後までなされ得ない。したがって、命令の取り消しについての早めの判断を求めるとき、命令が課された事を記載した出願人に送られる通知書とともに送付される検査同意様式に記入し、明細書のコピーと合わせてコンセプトハウスのルームG.R70に返送するのが有利である。早めの取り消しを求めない場合であっても、命令を課す通知書の受け取りを知らせる事が望ましい。

 マニュアルの第23条の解説からも一部を訳出する。

23.02

Subsection (1A) was inserted by the Patents Act 2004 and came into force on 1 January 2005. The strictures of s.23(1) only apply to applications that contain information relating to military technology or other information whose publication might be prejudicial to national security or the safety of the public. A UK resident who wishes to file such an application abroad must therefore either file an application at the Office and then wait six weeks (after which, provided no direction has been given under s.22 (see 22.03), applications may be made abroad without further formality) or else must have written permission from the comptroller. Persons wanting such permission should apply direct to Room G.R70, Cardiff Road, Newport, South Wales, NP10 8QQ either by letter or, if more urgent attention is required, personally. A notice drawing attention to these matters appears prominently in every issue of the Patents Journal.

...

23.06

It should be noted that a failure to comply with the provisions of s.23(1) (or with a direction given under s.22) is a criminal offence. However, s.23(3A) limits culpability of the offence to where a person knows that filing an application or causing it to be filed would contravene s.23, or where they are reckless as to whether filing the application or causing it to be filed would contravene this section. Therefore, a person acting in good faith who mistakenly believes that the restrictions in s.23 do not apply to a patent application will not be guilty of a criminal offence.

22.02

2004年の特許法改正によって、第1A項が挿入され、2005年1月1日から施行されている。第23条第1項の構造は、軍事技術に関係する情報か、その公開が国家の安全保障又は公共の安全を損ない得る情報を含む出願のみに適用されるものである。その様な外国出願を提出する事を望む英国の居住者は、したがって、特許庁に出願を提出してから6週間待つか(第22条に基づく命令が出されない限り(22.03参照)、その後、それ以上の形式は必要なく出願は外国になされ得る)、特許庁長官からの書面による許可を得なければならない。その様な許可を求める者は、手紙によってか、もしさらに緊急の考慮が必要な場合は自ら、NP10 8QQ、南ウェールズ、ニューポート、カルディフロード、コンセプトハウス、ルームG.R70に直接請求するべきである。この事について注意すべき通知は特許公報のそれぞれの発行において目立つ様に掲載される。

(略)

23.06

第23条1項(又は第22条に基づく命令)に従わない事は犯罪である事に注意すべきである。しかしながら、第23条3A項は、違反の有責性を、その者がその出願の提出又は出願をもたらす事が第23条に違反する事を知っているか、その出願の提出又は出願をもたらす事が本条に違反するかどうかについて無謀であるかの場合に限定している。したがって、第23条における制限が特許出願に適用されないと間違って信じた、誠実に行動している者は犯罪として有罪とされないであろう。

 イギリス特許庁はさらにガイダンスとして黒塗りがされているものの対象となり得る様々な軍事技術のリストを示しており、統計情報として、秘密保持命令の数も示している。

 やはり数しか分からないが、命令の数は50件から100件程度で推移しており、2019年で51件、2020年で34件である。また、10年以上前なら通常の出願も数件くらい対象になっていた事がある様だが、ここ最近はなく、英国内からの出願で命令の対象となった出願はほぼ軍事企業の出願である事が分かる(英国内対象出願は2019年で48件、2020年で26件で、それぞれの年に対応する軍事企業出願件数はそれぞれ47件、24件である。なお、これも数件から20件程度とその数は多くないが、その他英国外からの出願として書かれている数は秘密特許に関する条約に基づくものではないかと思う)。

 上の条文等から分かる事をまとめておくと、イギリスも秘密特許制度では、特許庁が出願から6週間で秘密保持命令を出すかどうかについて判断し、秘密保持命令が出された出願について、基本的に国防大臣が1年毎に秘密保持命令を維持するかどうかの判断をして行く事になっている。

 前回取り上げたアメリカの様に条文上書き分けられているという事はないが、特許実務マニュアルに書かれている様に、政府が関与している軍事技術出願は始めから他の出願とは分ける形で特に注意書きをつけて出願するべきとされている。

 そして、イギリス特許庁でどの様な運用がされているかの詳細は分からず、私の推測でしかないが、特許庁が秘密保持命令を出すまでの期間が6週間とかなり短い事を考えると、全ての出願から軍事技術リストを使って選んだ出願についてさらにその内容を詳しく見て秘密保持命令の対象となるかを審査しているというより、始めから分かる形で提出される政府が関与してうる軍事技術出願と、その他政府や軍とともに軍事研究をしている企業や研究者が制度に気づかずに通常の出願をしている様なケースについてリストを参照しながら最低限のチェックをする事で処理しているのではないだろうか。

 私は日本で秘密特許制度を取り入れる事に全く賛成しないが、この様にイギリスで6週間で秘密保持命令が出せ、ほとんどの出願について外国出願禁止が解除され、それで何ら問題になっていないのであるから、例え日本で似た様な秘密特許制度を取り入れるにしても、やり方次第で秘密保持のための審査と外国出願禁止の期間は今日本政府が考えている3ヶ月よりさらに短くする事もできるだろう。

 具体的にどこまで制限になっているか分からない所もあるが、より多くの者が関係する外国出願禁止に対する罰則の適用は秘密保持命令違反より限定され、誠実に行動していた者には適用されないとしている点もイギリスの秘密特許制度のポイントの1つと言えるだろう。

 しかし、秘密保持命令に対して不服申し立てができないとされている事は全く不当としか言い様がない。

 また、アメリカ同様、出願は公開こそされないものの特許付与がされ得る所まで審査が進められ、その通知も出願人に出され、その様な状態になった事が補償のための前提となるが、政府や軍と関わりのあるだろう軍事企業の出願だけがほぼ対象になっているので争いになっていないのだろうか、補償について裁判になった様なケースは見当たらなかった。

 次回はこの続きでドイツとフランスの秘密特許制度について書くつもりである。

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2022年4月10日 (日)

第456回:欧米主要国の秘密特許制度(その1:アメリカ)

 4月6日に衆議院内閣委員会で、4月7日に本会議で、秘密特許制度(特許非公開制度)を含む経済安保法案が原案通り可決され、参議院に送られた。この法案は例によって今の形の儘成立する可能性が高いのだろうが、ネット情報がやはり充実しているとは言い難い海外の秘密特許制度に関する事も今後の参考としてまとめておきたいと思う。

 日本政府が特に参考として見ていただろう欧米主要国(米英独仏)の制度を取り上げたいと思うが、長くなるので分け、初回はアメリカの制度についてである。

 アメリカの秘密特許制度は、1951年の発明秘匿法によって導入された(発明秘匿法についての英語版Wikipedia参照)ものであり、アメリカ特許法の第2部第17章に規定されている。まず、その主な部分を訳出する。(以下、翻訳は全て拙訳。)

§181. Secrecy of certain inventions and withholding of patent

Whenever publication or disclosure by the publication of an application or by the grant of a patent on an invention in which the Government has a property interest might, in the opinion of the head of the interested Government agency, be detrimental to the national security, the Commissioner of Patents upon being so notified shall order that the invention be kept secret and shall withhold the publication of the application or the grant of a patent therefor under the conditions set forth hereinafter.

Whenever the publication or disclosure of an invention by the publication of an application or by the granting of a patent, in which the Government does not have a property interest, might, in the opinion of the Commissioner of Patents, be detrimental to the national security, he shall make the application for patent in which such invention is disclosed available for inspection to the Atomic Energy Commission, the Secretary of Defense, and the chief officer of any other department or agency of the Government designated by the President as a defense agency of the United States.

Each individual to whom the application is disclosed shall sign a dated acknowledgment thereof, which acknowledgment shall be entered in the file of the application. If, in the opinion of the Atomic Energy Commission, the Secretary of a Defense Department, or the chief officer of another department or agency so designated, the publication or disclosure of the invention by the publication of an application or by the granting of a patent therefor would be detrimental to the national security, the Atomic Energy Commission, the Secretary of a Defense Department, or such other chief officer shall notify the Commissioner of Patents and the Commissioner of Patents shall order that the invention be kept secret and shall withhold the publication of the application or the grant of a patent for such period as the national interest requires, and notify the applicant thereof.
Upon proper showing by the head of the department or agency who caused the secrecy order to be issued that the examination of the application might jeopardize the national interest, the Commissioner of Patents shall thereupon maintain the application in a sealed condition and notify the applicant thereof. The owner of an application which has been placed under a secrecy order shall have a right to appeal from the order to the Secretary of Commerce under rules prescribed by him.

An invention shall not be ordered kept secret and the publication of the application or the grant of a patent withheld for a period of more than one year. The Commissioner of Patents shall renew the order at the end thereof, or at the end of any renewal period, for additional periods of one year upon notification by the head of the department or the chief officer of the agency who caused the order to be issued that an affirmative determination has been made that the national interest continues so to require. An order in effect, or issued, during a time when the United States is at war, shall remain in effect for the duration of hostilities and one year following cessation of hostilities. An order in effect, or issued, during a national emergency declared by the President shall remain in effect for the duration of the national emergency and six months thereafter. The Commissioner of Patents may rescind any order upon notification by the heads of the departments and the chief officers of the agencies who caused the order to be issued that the publication or disclosure of the invention is no longer deemed detrimental to the national security.

§182. Abandonment of invention for unauthorized disclosure

...

§183. Right to compensation

An applicant, his successors, assigns, or legal representatives, whose patent is withheld as herein provided, shall have the right, beginning at the date the applicant is notified that, except for such order, his application is otherwise in condition for allowance, or February 1, 1952, whichever is later, and ending six years after a patent is issued thereon, to apply to the head of any department or agency who caused the order to be issued for compensation for the damage caused by the order of secrecy and/or for the use of the invention by the Government, resulting from his disclosure. The right to compensation for use shall begin on the date of the first use of the invention by the Government. The head of the department or agency is authorized, upon the presentation of a claim, to enter into an agreement with the applicant, his successors, assigns, or legal representatives, in full settlement for the damage and/or use. This settlement agreement shall be conclusive for all purposes notwithstanding any other provision of law to the contrary. If full settlement of the claim cannot be effected, the head of the department or agency may award and pay to such applicant, his successors, assigns, or legal representatives, a sum not exceeding 75 per centum of the sum which the head of the department or agency considers just compensation for the damage and/or use. A claimant may bring suit against the United States in the United States Court of Federal Claims or in the District Court of the United States for the district in which such claimant is a resident for an amount which when added to the award shall constitute just compensation for the damage and/or use of the invention by the Government. The owner of any patent issued upon an application that was subject to a secrecy order issued pursuant to section 181, who did not apply for compensation as above provided, shall have the right, after the date of issuance of such patent, to bring suit in the United States Court of Federal Claims for just compensation for the damage caused by reason of the order of secrecy and/or use by the Government of the invention resulting from his disclosure. The right to compensation for use shall begin on the date of the first use of the invention by the Government. In a suit under the provisions of this section the United States may avail itself of all defenses it may plead in an action under section 1498 of title 28. This section shall not confer a right of action on anyone or his successors, assigns, or legal representatives who, while in the full-time employment or service of the United States, discovered, invented, or developed the invention on which the claim is based.

§184. Filing of application in foreign country

(a) Filing in Foreign Country. - Except when authorized by a license obtained from the Commissioner of Patents a person shall not file or cause or authorize to be filed in any foreign country prior to six months after filing in the United States an application for patent or for the registration of a utility model, industrial design, or model in respect of an invention made in this country. A license shall not be granted with respect to an invention subject to an order issued by the Commissioner of Patents pursuant to section 181 without the concurrence of the head of the departments and the chief officers of the agencies who caused the order to be issued. The license may be granted retroactively where an application has been filed abroad through error and the application does not disclose an invention within the scope of section 181.

...

§185. Patent barred for filing without license

...

§186. Penalty

...

§187. Nonapplicability to certain persons

...

§188. Rules and regulations, delegation of power

...

第181条 特定の発明の秘密保持及び特許保留

政府が財産的利益を有する発明についての出願公開又は特許付与による公開又は開示が、関係する政府機関の長の意見によると、国家の安全保障を損なうであろうとき、そう通知された許庁長官は、以下に規定される条件の下で、その発明が秘密に保たれることを命じ、出願公開又は特許付与を保留する。

政府が財産的利益を有さない発明についての出願公開又は特許付与による公開又は開示が、特許庁長官の意見によると、国家の安全保障を損なうであろうとき、特許庁長官は、その様な発明が開示された出願を、原子力委員会、国防長官及び大統領によってアメリカ合衆国の防衛関係機関として指定されたその他の政府部局又は機関の長の検査に供する。

出願が開示される者は日付のある同意書に署名し、その同意書は出願書類の中に入れられる。原子力委員会、国防長官又は指定されたその他の政府部局又は機関の意見によると、出願公開又は特許付与による発明の公開又は開示が国家の安全保障を損なうであろう場合、原子力委員会、国防長官又は指定されたその他の政府部局又は機関の長は特許庁長官に通知し、特許庁長官はその発明が秘密に保たれる事を命じ、国家の安全保障が必要とする期間出願公開又は特許付与を保留し、その事を出願人に通知する。秘密保持命令の発行をもたらした部局又は機関の長が、出願の審査が国家の利益を危うくする事を適切に示した時には、特許庁長官はそれに基づき出願を機密状態に保ち、その事について出願人に通知する。秘密保持命令の下に置かれた出願人はその命令から商務省長官により定められる規則の下不服を申し立てる権利を有する。

1年以上発明が秘密に保たれる事を命じられ、出願公開又は特許付与が保留される事はない。特許庁長官はその終わりかその更新期間の終わりに、命令の発行をもたらした部局の長又は機関の長による国家の利益によりそう求められるという肯定的決定がなされたとの通知に基づき、1年の追加期間のため命令を更新する。アメリカ合衆国の戦争中、効力を持っているか、発行された命令は、戦争の続く間及び戦争の停止に続く1年間効力を持ち続ける。大統領によって宣言された国家の緊急事態の間、効力を持っているか、発行された命令は、緊急事態の続く間及びその後半年の間効力を持ち続ける。特許庁長官は、発明の公開又は開示が国家の安全保障を損なうものとはもはやみなされないとの、命令の発行をもたらした部局の長又は期間の長の通知に基づき命令を取り消す事ができる。

第182条 許諾を得ない開示による発明の放棄

(略:出願人が命令に違反して発明を公開又は外国に出願した時には発明は放棄したものとされる事を規定。)

第183条 補償を受ける権利

その特許がここで規定されている様に保留されている出願人、その承継人、譲受人又は法的代理人は、その様な命令がなければ、その出願はさもなければ認められる状態にある事を通知された日又は1952年2月1日のいずれか遅い方の日から始まり、それに基づき特許が発行された後6年で終わる、秘密保持命令によって生じた損害及び/又はその開示に起因する政府による発明の利用に対する補償を求める権利を有する。利用に対して補償を受ける権利は政府による発明の最初の利用の日から始まる。部局又は機関の長は、請求の提示に基づき、出願人、その承継人、譲受人又は法的代理人と損害及び/又は利用に対する完全な和解の合意に入る権限を有する。この和解合意はそれに反する他の法律の規定に関わらず全ての目的において確定的なものでなければならない。もし請求の完全な和解に至る事ができない場合、部局又は機関の長は、出願人、その承継人、譲受人又は法的代理人に、部局又は機関の長が損害及び/又は利用に対する正当な補償と判断する額の75パーセントを超えない額を報償として支払う事ができる。請求者は、アメリカ合衆国に対し、連邦請求裁判所又は請求者が居住する地方の地方裁判所に、支払いに対して追加された時に損害及び又は政府による利用の利用に対する正当な補償となる額を求める訴訟を提起する事ができる。第181条に従い発行された秘密保持命令を受けた出願に基づき発行された特許の権利者であって、上で規定された補償を請求しなかった者は、その様な特許の発行の日の後、連邦請求裁判所に、秘密保持命令のために生じた損害及び/又はその開示に起因する政府による発明の利用に対する正当な補償を求める訴訟を提起する事ができる。利用に対して補償を受ける権利は政府による発明の最初の利用の日から始まる。本条の規定の下での訴訟においてアメリカ合衆国は第28章第1498条(訳注:国に対する特許権侵害等の知財訴訟に関する規定)の下で起こされた訴訟において主張できる全ての抗弁を利用する事ができる。本条は、アメリカ合衆国の正規の勤務又はサービスに従事している間に、請求の基となる発明を発見、発明又は開発した者、その承継人、譲受人又は法的代理人に訴訟を提起する権利を与えるものではない。

第184条 外国における出願

(a)外国における出願-特許庁長官から得た許可により許諾された場合を除き、アメリカ合衆国においてなされた発明に関して、特許又は実用新案、意匠又はモデル登録のためのこの国への出願後6月より前に発明を外国に出願し、出願をもたらし又は許諾してはならない。第181条に従い特許庁長官が発行した命令を受けた発明に関し、命令の発行をもたらした部局の長及び機関の長の同意なく許可が発行される事はない。発明が外国において錯誤により出願され、その出願が第181条の範囲内の発明を開示していない場合には、許可は遡及的に付与され得る。

(略:(b)で出願に補正等が含まれる事を定義し、(c)で後の補正等の扱いを規定。)

第185条 許可を受けずにした外国出願に対する特許不付与

(略:外国出願の許可を受けずに外国出願をした場合元のアメリカ出願が特許を受けられない事を規定。)

第186条 罰則

(略:秘密保持命令を受けながら故意に発明を公開した者や禁止に違反して故意に外国に出願した者に1万ドル以下の罰金か2年以下の禁錮又はその両方が科される事を規定。)

第187条 罰則が適用されない者

(略:アメリカ合衆国の機関の権限の範囲内で行動する職員及びその許可の下に行動する者には罰則が適用されない事を規定)

第188条 規則、権限の委任

(略:各省庁が規則を定められる事を規定。)

 このアメリカ特許法第181条から第188条までに対応する規則はアメリカ特許規則の第1章第A副章第5部で、秘密保持命令を受けた出願の審査や秘密保持命令の取り消し請求、出願すると外国出願許可が自動的に求められ様になっている事、その他外国出願許可に関する事などが規定されている。

 アメリカの特許審査基準は、115国家の安全保障のための出願の調査及び財産権に関する事120秘密保持命令121秘密保持命令を受けた及び/又は国家安全保障マーキングのある出願の取り扱い130秘密保持命令ケースの審査140外国出願許可などで、アメリカ特許庁における運用について解説を加えている。

 上の法律の条文からも分かるが、このアメリカの特許審査基準のセクション115中に、以下の様に書かれている様に、防衛関係機関が国家の安全保障を損なうだろうと後から判断して秘密保持命令が出されるパターンと、国家機密として最初から指定されている情報を元にして行われた特許出願に対して秘密保持命令が出されるパターンがある。

If a defense agency concludes that disclosure of the invention would be detrimental to the national security, a secrecy order is recommended to the Commissioner for Patents. The Commissioner then issues a Secrecy Order and withholds the publication of the application or the grant of a patent for such period as the national interest requires.

For those applications in which the Government has a property interest (including applications indicating national security classified subject matter), responsibility for notifying the Commissioner for Patents of the need for a Secrecy Order resides with the agency having that interest. Applications that are national security classified (see 37 CFR 1.9(i)) may be so indicated by use of authorized national security markings (e.g., "Confidential," "Secret," or "Top Secret"). National security classified documents filed in the USPTO must be either hand-carried to Licensing and Review or mailed to the Office in compliance with 37 CFR 5.1(a) and Executive Order 13526 of December 29, 2009. However, the Office will accept such applications filed with the USPTO via the Department of Defense Secret Internet Protocol Router Network (SIPRNET) and consider them as filed via the USPTO's electronic filing system for purposes of 37 CFR 1.16(t) and 37 CFR 1.445(a)(ii). As set forth in 37 CFR 5.1(d), the applicant in a national security classified patent application must obtain a secrecy order from the appropriate defense agency or provide authority to cancel the markings. A list of contacts at the appropriate defense agency can be obtained by contacting Licensing and Review.

防衛関係機関が、発明の開示が国家の安全保障を損なうであろうと結論づけたとき、秘密保持命令が特許庁長官に求められる。特許庁長官は秘密保持命令を出し、国益により求められる期間、出願公開又は特許付与を保留する。

政府が財産的利益を有する出願(国家の安全保障に関係するとして分類されている事項を提示する出願を含む)について、秘密保持命令の必要性について特許庁長官に通知する責任はその利益を有する機関にある。国家の安全保障に関係するとして分類されている出願(特許規則第1.9条(i)参照)は、認められた国家安全保障マーキング(例えば、「コンフィデンシャル」、「シークレット」又は「トップシークレット」)の使用によって示される。アメリカ特許庁に提出される、国家の安全保障に関係するとして分類されている書類は、特許規則第5.1条(a)及び国家安全保障関係情報に関する2009年12月29日の大統領令に従い、ライセンス及びレビュー部門に手で持ち込まれるか、特許庁に郵送されなくてはならない。しかしながら、特許庁はその様な出願が国防省秘密インターネットプロトコル・ルータネットワーク(SIPRNET)を通じてアメリカ特許庁に提出される事を受け入れ、それを特許規則第1.16条(t)及び特許規則第1.445条(a)(ⅱ)の目的のアメリカ特許庁の電子出願システムを通じて出願されたものとみなす予定である。特許規則第5.1条(d)に規定されている通り、国家の安全保障に関係するとして分類されている特許出願は、適切な防衛関係機関から秘密保持命令を手に入れるか、権限を有する当局からそのマーキングの取り消しを受けなければならない。適切な防衛関係機関の窓口のリストはライセンス及びレビュー部門に問い合わせる事で入手可能である。

 そして、セクション120中に以下の様に書かれている通り、アメリカには3種類の秘密保持命令がある。

I. SECRECY ORDER TYPES

Three types of Secrecy Orders, each of a different scope, are issued as follows:

(A) Secrecy Order and Permit for Foreign Filing in Certain Countries (Type I secrecy order) - to be used for those patent applications that disclose critical technology with military or space application in accordance with DoD Directive 5230.25 "Withholding of Unclassified Technical Data From Public Disclosure," based on 10 U.S.C. 130 "Authority to Withhold From Public Disclosure Certain Technical Data."

(B) Secrecy Order and Permit for Disclosing Classified Information (Type II secrecy order) - to be used for those patent applications which contain data that is properly classified or classifiable under a security guideline where the patent application owner has a current DoD Security Agreement, DD Form 441. If the application is classifiable, this secrecy order allows disclosure of the technical information as if it were classified as prescribed in the National Industrial Security Program Operating Manual (NISPOM).

(C) General Secrecy Order (Type III secrecy order) - to be used for those patent applications that contain data deemed detrimental to national security if published or disclosed, including that data properly classifiable under a security guideline where the patent application owner does not have a DoD Security Agreement. The order prevents disclosure of the subject matter to anyone without an express written consent from the Commissioner for Patents. However, quite often this type of secrecy order includes a permit "Permit A" which relaxes the disclosure restrictions as set forth in the permit.

The Type I Secrecy Order is intended to permit the widest utilization of the technical data in the patent application while still controlling any publication or disclosure which would result in an unlawful exportation. This type of Secrecy Order also identifies the countries where corresponding patent applications may be filed. Countries with which the United States has reciprocal security agreements are: Australia, Belgium, Canada, Denmark, France, Germany, Greece, Italy, Japan, Luxembourg, Netherlands, Norway, Portugal, Republic of Korea, Spain, Sweden, Turkey and the United Kingdom. Please note that applications subject to a secrecy order cannot be filed directly with the European Patent Office since no reciprocal security agreement with this organization exists. Applications must be filed in the individual EPO member countries identified above. Applicant must arrange filing of such subject matter through the agency sponsoring the secrecy order.

The intent of the Type II Secrecy Order is to treat classified and classifiable technical data presented as a patent application in the same manner as any other classified material. Accordingly, this Secrecy Order will include a notification of the classification level of the technical data in the application.

The Type III Secrecy Order is used where the other types of Orders do not apply, including Orders issued by direction of agencies other than the Department of Defense.

A Secrecy Order should not be construed in any way to mean that the Government has adopted or contemplates adoption of the alleged invention disclosed in an application; nor is it any indication of the value of such invention.

Ⅰ.秘密保持命令の種類

次の通り、それぞれ異なる範囲を持つ、3種類の秘密保持命令が出される:

(A)秘密保持命令及び特定の国における外国出願許可(タイプⅠ秘密保持命令)-アメリカ法第10章第130条「特定の技術データの公開保留に関する権限」に基づく国防省指令5230.25「非分類技術データの公開保留」に従い、軍事又は宇宙に適用されるクリティカルな技術を開示する特許出願に用いられる。

(B)秘密保持命令及び分類された情報の開示許可(タイプⅡ秘密保持命令)-特許出願の所有者が現行の国防省セキュリティ合意を有している場合にセキュリティ基準に基づき適切に分類されているか適切に分類され得るデータを含む特許出願に用いられる。

(C)一般秘密保持命令(タイプⅢ秘密保持命令)-特許出願の所有者が現行の国防省セキュリティ合意を有していない場合の、セキュリティ基準に基づき適切に分類されているか適切に分類され得るデータなど、公開又は開示されたとき国家の安全保障を損なうとみなされるデータを含む特許出願に用いられる。命令は特許庁長官の同意書なく記載事項をいかなる者にも開示する事を禁止する。しかしながら、このタイプの秘密保持命令はその許可に定められる通りに開示規制を緩和する「許可A」を含む事が多い。

タイプⅠの秘密保持命令は、不適法な輸出をもたらすだろう公開又は開示を規制しつつ、特許出願における技術情報の広い利用を許す事を目的としたものである。このタイプの秘密保持命令はまた、対応特許出願を出せる国を特定する。アメリカ合衆国が相互安全保障協定を持っているのは次の国である:オーストラリア、ベルギー、カナダ、デンマーク、フランス、ドイツ、ギリシャ、イタリア、日本、ルクセンブルク、オランダ、ノルウェー、ポルトガル、韓国、スペイン、スウェーデン、トルコ及び英国。欧州特許庁(EPO)との間に相互安全保障協定は存在しないので、秘密保持命令を受けた出願はEPOに直接出せない事に注意して頂きたい。出願は上で特定した個々のEPO加盟国に出されなくてはならない。出願人は、秘密保持命令を出させた機関を通じてその出願の内容を整えなければならない。

タイプⅡの秘密保持命令の内容は、他の分類されたマテリアルと同じやり方で分類されているか分類され得る、特許出願として提示された技術データを扱うものである。したがって、この秘密保持命令は出願の技術データの分類レベルの通知も含むであろう。

タイプⅢの秘密保持命令は、国防省以外の機関の指示により発行される命令を含む、他の対応の命令が適用されない場合に用いられる。

秘密保持命令は、出願に開示され、主張する発明を政府が採用した事や採用を検討している事を意味するものといかなる形でも解釈されない。また、その発明の価値を示すものとも解釈されない。

 秘密保持命令が出された出願の取り扱いと審査については、セクション121中に、

Applications subject to Secrecy Order will be deleted from any image file system within the USPTO, converted to paper and held with Licensing and Review. The application will be transferred to an examiner designated by Licensing and Review for examination. Under the current Executive Order for Classified National Security Information, standards are prescribed for the marking, handling, and care of official information which requires safeguarding in the interest of security.

秘密保持命令を受けた出願は、アメリカ特許庁内のイメージファイルシステムから削除され、紙に変換され、ライセンス及びレビュー部門で保持される。出願は審査のためにライセンス及びレビュー部門によって指定された審査官に移送される。現行の国家安全保障関係情報に関する大統領令の下、セキュリティの利益の保障のために求められる、マーキング、取り扱い及び公的情報に関する注意のために基準が定められる。

と書かれ、そして、セクション130中でも以下の様に書かれている。

All applications in which a Secrecy Order has been imposed are examined in a secure location by examiners possessing national security clearances under the control of Licensing and Review. If the Order is imposed subsequent to the docketing of an application in another TC, the application will be transferred to an examiner designated by Licensing and Review.

Secrecy Order cases are examined for patentability as in other cases, but will not be passed to issue; nor will an interference or derivation be instituted where one or more of the conflicting cases is classified or under Secrecy Order. See 37 CFR 5.3 and MPEP §2306.

In case of a final rejection, while such action must be properly replied to, and an appeal, if filed, must be completed by the applicant to prevent abandonment, such appeal will not be set for hearing by the Patent Trial and Appeal Board until the Secrecy Order is removed, unless specifically ordered by the Commissioner for Patents.

When a Secrecy Order case is in condition for allowance, a notice of allowability (Form D-10) is issued, thus closing the prosecution. See 37 CFR 5.3(c). Any amendments received thereafter are not entered or responded to until such time as the Secrecy Order is rescinded. At such time, amendments which are free from objection will be entered; otherwise they are denied entry.

Due to the additional administrative burdens associated with handling papers in Secrecy Order cases, the full statutory period for reply will ordinarily be set for all Office actions issued on such cases.

秘密保持命令が課された全ての出願は、ライセンシング及びレビュー部門の管理の下、国家セキュリティクリアランスを所有する審査官によってセキュリティが確保された場所で審査される。他の技術部門に出願が記録された後に命令が課された場合には、出願はライセンス及びレビュー部門によって指定された審査官に移送される。

秘密保持命令ケースは他のケース同様に特許性を審査されるが、発行に移行する事はない。また、衝突するケースが国家機密として分類されているか秘密保持命令を受けている場合に、インターフェアランス又はデリヴェーション手続きは行われない。特許規則第5.3条及び審査基準セクション2306参照。

最終拒絶の場合、その処分に対しては適切に応答されなくてはならず、不服請求は、提出された場合、放棄を防ぐために出願人によって完了されなくてはならず、その様な不服請求は、特許庁長官によって特別に命じられない限り、秘密保持命令が取り除かれるまで、特許審判部によって口頭審理を設定されない。

秘密保持ケースが特許の許可が可能である状態にあるとき、特許許可通知(様式D-10)が出され、そこで審査手続きは止められる。特許規則第5.3条(C)参照。その後に受け取られた補正は、秘密保持命令が取り消されたといった時まで取り入れられるか、応答されない。その様な時、拒絶の理由のない補正は取り入られる。さもなくば、取り入れは否定される。

秘密保持命令ケースにおいて紙として取り扱われる事に伴う追加の管理負担のために、返答のため最大限の法定期間が、通常、この様なケースにおいて出される全ての特許庁の処分に対して設定される。

 これらの条文等から、アメリカの秘密特許制度では、出願が後から秘密と判断される場合と、元から国家機密とされていた情報を含むものとして出される場合の2つの場合があり、特許庁が特許出願をまず選んで原子力委員会や国防省に渡し、その意見に基づき、特許庁が秘密保持命令を出す事になっている事が分かる。また、その秘密保持命令は1年毎に更新される。許される内容に応じて秘密保持命令には幾つかの種類があり、秘密保持命令に対する不服申し立てについても規定されている。

 秘密保持命令を受けた出願は非常に特殊なケースとして特許庁で審査が進められ、特許付与による公開前の、特許許可通知まで出された所で止められるか、拒絶となった場合は、不服審判の開始の前で止められる事になる。

 補償を求める事ができるのは、この特許許可通知があった日からであり、政府による利用または秘密保持命令による損害について、秘密保持命令を出す元となった機関に請求するか、裁判所に訴訟を提起する事になる。

 また、外国出願が制限される期間は6ヶ月であり、外国出願許可は自動的に求められる様になっているので、対象とならなかった全出願について許可書が送られる事になっており、さらに後で許可を求める事ができるという救済手段も規定されている。

 このアメリカの秘密特許制度について、アメリカ科学者連盟が情報を集めてそのHPで公開している。その中の統計情報では、数しか分からないが、この10年程度は毎年100件前後で秘密保持命令が出され、2021年に出された新しい秘密保持命令が61件、効力を有する命令の数は全体5976件となっている。2021年の61件の命令を出させた政府機関は、陸海空軍で57件とアメリカ軍が大多数を占める。

 詳細は分からないが、この様な統計情報を見ると、特許出願された技術の安全保障上の評価などなおざりで、強大な権限を持つ軍が、もしかしたら特許が自分たちの活動に邪魔になるかも知れないという自分たちの都合だけでとりあえず秘密保持命令を出す様にしているだけではないかと私には思える。

 その事は公開されている判決を見ても透けて見える。アメリカでも裁判にまでなって公開されている秘密特許に関するケースは多くないが、補償がまともに認められているケースはほぼないと言っていいのである。

 中でも幾つか典型的と思えるものを紹介するが、1つは、1991年12月30日のクリフト対アメリカ合衆国事件コネチカット州地裁判決で、この事件では、出願人が1968年の出願の秘密保持命令に対する補償を求め、政府による利用について情報開示を求めたが、国家機密を盾に拒否され、1977年の地裁でこの拒否を許容してまず手続きが中止され、これは1979年控訴裁でも追認された。そして、11年後の1990年に政府からやはり開示不能との宣言書が提出された所で手続きは再開されるが、結局、裁判所は以下の様に政府の主張を全面的に認めて補償請求を却下した。

Thus, even if there is a limited waiver of privilege to determine only the extent of the Government's conceded use of a particular invention, as in Halpern, the Invention Secrecy Act should not be interpreted to waive the privilege in circumstances such as this case where the Government has denied use, and to determine the fact and extent of use would require scrutiny of the entire range of the Government's cryptographic technology. ... In view of the Claims Court's reasoning and this Court's interpretation of the limited impact of Halpern, the provisions of the Invention Secrecy Act will not be construed to waive the state secrets privilege so as to allow an in camera trial of this case. For that reason and for the reasons stated previously, this case must be dismissed.

This Court has considered the draconian result of dismissal without allowing the Plaintiff his day in court. ... In this case, the Plaintiff has expended a great deal of time and energy in pursuing his claim. And to the extent that litigants proceeding under 35 U.S.C. § 183 encounter the state secrets privilege so often that their claims are functionally barred in most cases, Congress and the President must repair the legislation in light of existing rules of privilege. Nevertheless, (i) because the state secrets privilege was properly invoked by the Government's demonstration that any discovery regarding the development, manufacture, design, and use of its cryptographic encoding devices would pose a reasonable danger to the national security; (ii) because the privilege, is absolute and removes the evidence completely from the case; (iii) because the privileged information lies at the core of this litigation and affects critically both the Plaintiff's ability to maintain a prima facie case (in the absence of reliable nonprivileged evidence of use) and the Government's ability to defend itself; (iv) because the necessary information will remain classified for the foreseeable future; and (v) because the Invention Secrecy Act does not waive the state secrets privilege to permit an in camera trial under the facts and circumstances presented here, this case must be dismissed.

この様に、1958年のハルペルン事件判決が述べる様に、政府が利用を認めた個別の発明の範囲を判断するためにのみ国家の機密特権を限定的に回避し得るとしても、発明秘匿法は、このケースの様に、政府が利用を否定し、その事実と利用の範囲を判断するために政府の暗号技術の全領域を精査する必要がある状況において、特権を回避できると解釈すべきではない。(中略)請求裁判所の理由づけ及び当裁判所のハルペルン事件判決の影響は限られているとの解釈を考えると、発明秘匿法の規定は、国家の機密特権を回避し、このケースのインカメラ審理が許される様には解釈されないであろう。この理由及び前記の理由により、このケースは却下されなければならない。

当裁判所は、裁判における日の猶予を原告に与える事なくこの極めて厳しい却下の結果にすると判断した。(中略)このケースにおいては、原告はその請求を追求するために多大の時間とエネルギーを費やした。そして、特許法第183条による訴訟審理が実に多くの場合国家の機密特権と衝突してほとんどのケースで請求が機械的に止められているのであるから、議会と大統領は特権に関する既存の規則に照らして立法を修復しなければならない。しかしながら、(ⅰ)国家の機密特権が、その暗号化機器の開発、製造、設計及び利用に関するいかなる情報開示も国家の安全保障に対して考えられる危険をもたらすだろうと政府が示す事によって適正に持ち出されたから;(ⅱ)この特権は完全なものであり、このケースから完全に証拠を取り去るから;(ⅲ)特権下の情報が、この訴訟の中心をなし、(特権下にない、利用に関する信頼できる証拠がない時に)疎明ケースを維持する原告の能力とその弁護をする政府の能力の両方に決定的に影響するから;(ⅳ)必要な情報は予見可能な未来に渡って機密に分類され続けるであろうから;そして、(ⅴ)ここで提示された事実と状況の下で、発明秘匿法は国家の機密特権を回避し、インカメラ審理を許す事はないから、このケースは却下されなければならない。

 もう1つは、2012年4月13日のリニック対アメリカ合衆国連邦賠償請求裁判決で、この事件では、出願人2002年の出願とその後の分割出願に対する複数の秘密保持命令に対して補償を求めたが、結局、以下の結論の通り、実際の損害が証明されていないとして補償は全く認められなかった。

The Court concludes that Mr. Linick has failed to show any entitlement to compensation. He has presented nothing more than speculative claims that because he successfully sold his technology in the past, he could have sold his current technology if not for the secrecy orders at issue. Other than his ipse dixit testimony, however, the record is devoid of evidence tending to show that Mr. Linick suffered any actual damage or that the secrecy orders at issue caused the damage he alleges. Accordingly, the Court enters judgement for the Government.

当裁判所は、リニック氏は補償に対する資格を示す事に失敗したと結論づける。彼は自分の技術を過去に売る事に成功したから、問題の秘密保持命令がなければ、今度の技術も売れたろうという推測の請求以上のものを提示しなかった。その自己主張の供述以外に、しかしながら、記録は、リニック氏が実際の損害を受けた事又は問題の秘密保持命令がその主張する損害を引き起こした事を示す証拠を欠いている。

 最近の(と言っても2015年だが)2015年9月22日のダムジャノビック対アメリカ空軍省事件ミシガン州地裁命令が、問題となった2007年の出願に対する秘密保持命令について、

"A motion to dismiss under Rule 12(b)(6) is disfavored and rarely granted." Nuchols v. Berrong, 141 Fed.Appx. 451, 453 (6th Cir.2005) ... With this in mind, the Court finds that Plaintiffs have alleged sufficient facts, at least at this point in the litigation, to support their just compensation claim. In the complaint, Plaintiffs assert that they suffered injury as a result of the imposition of the secrecy orders - namely, Plaintiffs assert that they have suffered damages resulting from not being able to sell their invention, and no longer being able to market their invention. ... Additionally, Plaintiffs assert that the secrecy orders led to profit loss because they ruined Plaintiffs' business opportunities and stripped Plaintiffs of their foreign filing rights. ... Further, Plaintiffs assert that Defendants have used their invention without providing just compensation for their use. ... The factual content provided is plausible and contains both direct and inferential allegations respecting all material elements of Plaintiffs' just compensation claim, and allows the Court to draw a reasonable inference that Defendants are liable for the misconduct alleged. Accordingly, the Court DENIES Defendants' motion as to Count. 1 of the complaint.

「連邦民事訴訟規則12(b)(6)に基づく却下の申し立ては有利なものではなく、認められる事はあまりない。」2005年のヌコルス対ベロン判決。(中略)この事を念頭に、当裁判所は、原告は少なくとも訴訟のこの点についてその正当な補償の請求を支える十分な事実を主張したと認める。訴状において、原告は秘密保持命令を課された結果として被害を受けたと主張している-特に、原告は、秘密保持命令が原告のビジネス機会を台無しにし、原告からその外国出願の権利を奪った事で利益損失をもたらしたと主張している。(中略)さらに、原告は、被告がその利用に対して正当な補償を与えずにその発明を利用したと主張している。(中略)提供された事実の内容は妥当であり、原告の正当な補償の請求の全ての要素に関する直接的かつ推論的な主張を含み、当裁判所はそこから被告は主張された不正行為に責任があるという合理的な推論を引き出す事ができる。したがって、当裁判所は訴状の論点1に対する被告の却下の申し立てを退ける。

と、当事者の主張や引用判例、裁判官にも依ったのだろうが、ほぼ唯一のものとして出願人に有利な判断をしている。ただ、これも、上のアメリカ科学者連盟のHPにその後の和解条項(pdf)が載っているが、アメリカ空軍は、これ以上訴訟を続けるのはさらに手間と費用がかかるだけと判断したのだろう、アメリカにおける訴訟費用などを考えると、出願人の出費を下回っているだろう水準の6万3千ドルの一括払いの和解で決着した様である。

 この様に、特許出願の公開が国家の安全保障を損なうほどの発明であると一方で判断しながら、他方で、政府、軍は、自らの利用に対する補償について、単に否定するだけで済み、インカメラ手続きで情報を提示する事すら国家機密を盾に拒否でき、損害に対する補償についても、秘密保持命令が課されている時点でどうやっても損害は推定とならざるを得ないだろうが、出願人に過大な立証責任を負わせ、実際の損害、実害が証明できなければ補償が否定される制度とは一体何なのだろうか。

 この様な現状を見ると、アメリカにおいても、今となっては、秘密特許制度は政府と軍が自分たちの都合だけで特許を恣意的に握り潰す手段としてしか機能していないのではないかと、本当に国の安全保障に役立っているのか極めて怪しいと私は見ている。

 アメリカ政府もどちらかと言えば特許を握り潰して補償も与えない方向に動いているのではないかという気がしているが、さらに言うなら、この様な制度は、政府と企業の間に癒着があれば、秘密特許に対する補償と称して幾らでも不透明な金の流れを作る事ができ、その事まで秘密とされて分からないという非常に危ない制度とすら言える。

 経済安保法案により新たに秘密特許制度(特許非公開制度)を作るにあたって(その条文と制度の内容については第453回参照)、政府が世界各国の中で最も参考にしたのはアメリカの制度だったのではないかと、上で書いた様な公開情報から分かる程度の事は日本政府内でも調べていたのではないかと思うが、それでなお、強大な権限を持つ軍がある訳でも、軍産学をあげての軍事研究が盛んな訳でもない今の日本で、全ての特許出願について二段階のスクリーニング審査を行い秘密保持命令を出すという、かかる社会的コストに見合う意味があるのか、まともに運用できるか分からないアメリカ型の制度をどうして導入しようとしているのか、私には良く分からない。

 今日本が導入しようとしている制度では、特許付与のための審査や裁判の進め方も良く分からないが、特許が付与されるかどうかも、特許の範囲も決まらない状態で、どうやったら補償を決められるのか、謎としか言い様がない。秘密指定(保全指定)を受けた出願人は、アメリカ以上に不透明な形で、大した補償は受けられないといった結果になるのではないだろうか。

 さらに、仮に似た様な制度を導入するにしても、アメリカで、外国の出願制限期間が6ヶ月とされている点、秘密保持命令が出されない限り全出願について外国出願許可が出され、外国出願をしてもいい事がその時点で明確に分かる様になっている点、後で外国出願許可を求める事ができるといった救済手段もある点など、まがりなりにも出願人に対して利便が図られている点を全て抜きにして日本で取り入れようとしている事に至っては極めて理解に苦しむ所である。

 衆議院内閣委員会の審議を見たが、日本政府は政省令について今後検討すると説明するばかりで、具体的な回答はほぼなく、この新しい秘密特許制度(特許非公開制度)の詳細についてどこまできちんと考えているのか私には分からなかった。

 秘密特許制度はその性質上一旦秘密にされると特許の存在自体が秘密となるのでどの様な形のものであれ不透明なものとならざるを得ないという事がその最も本質的な問題であるが、今の非常に不明確な条文の儘秘密特許制度が成立すると、導入時の混乱と恣意的な運用により、国の安全保障に役立たないのは無論の事、かえって国として本来促進するべき技術分野の研究開発、国内外での特許取得活動に大きな萎縮が発生する恐れがあるだろう。今からでも遅くはないので、外国と日本の現状を十分良く見た上で、今一度抜本的に条文レベルで見直しを行うべきであると、私は今もそう思っている。

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2022年3月 6日 (日)

第453回:秘密特許法案条文(経済安保法案特許非公開関連部分)

 2月25日に経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関する法律案が閣議決定され、国会に提出された(内閣官房のHP概要(pdf)要綱(pdf)法律案・理由(pdf)新旧対照表(pdf)参照条文(pdf)参照)。

 まず、長くなるが、秘密特許制度(特許非公開制度)秘密特許制度を規定している第5章第65条以降の主要な部分を以下に抜粋する。

第五章 特許出願の非公開

(特許出願非公開基本指針)
第六十五条 政府は、基本方針に基づき、特許法(昭和三十四年法律第百二十一号)の出願公開の特例に関する措置、同法第三十六条第一項の規定による特許出願に係る明細書、特許請求の範囲又は図面(以下この章において「明細書等」という。)に記載された発明に係る情報の適正管理その他公にすることにより外部から行われる行為によって国家及び国民の安全を損なう事態を生ずるおそれが大きい発明に係る情報の流出を防止するための措置(以下この条において「特許出願の非公開」という。)に関する基本指針(以下この条において「特許出願非公開基本指針」という。)を定めるものとする。

 特許出願非公開基本指針においては、次に掲げる事項を定めるものとする。
 特許出願の非公開に関する基本的な方向に関する事項
 次条第一項の規定に基づき政令で定める技術の分野に関する基本的な事項
 保全指定(第七十条第二項に規定する保全指定をいう。次条第一項及び第六十七条において同じ。)に関する手続に関する事項
 前三号に掲げるもののほか、特許出願の非公開に関し必要な事項

(略:特許出願非公開基本指針が閣議決定される事等)

(内閣総理大臣への送付)
第六十六条 特許庁長官は、特許出願を受けた場合において、その明細書等に、公にすることにより外部から行われる行為によって国家及び国民の安全を損なう事態を生ずるおそれが大きい発明が含まれ得る技術の分野として国際特許分類(国際特許分類に関する千九百七十一年三月二十四日のストラスブール協定第一条に規定する国際特許分類をいう。)又はこれに準じて細分化したものに従い政令で定めるもの(以下この項において「特定技術分野」という。)に属する発明(その発明が特定技術分野のうち保全指定をした場合に産業の発達に及ぼす影響が大きいと認められる技術の分野として政令で定めるものに属する場合にあっては、政令で定める要件に該当するものに限る。)が記載されているときは、当該特許出願の日から三月を超えない範囲内において政令で定める期間を経過する日までに、内閣府令・経済産業省令で定めるところにより、当該特許出願に係る書類を内閣総理大臣に送付するものとする。ただし、当該発明がその発明に関する技術の水準若しくは特徴又はその公開の状況に照らし、保全審査(次条第一項に規定する保全審査をいう。次項において同じ。)に付する必要がないことが明らかであると認めるときは、これを送付しないことができる。

 特許出願人から、特許出願とともに、その明細書等に記載した発明が公にされることにより国家及び国民の安全を損なう事態を生ずるおそれが大きいものであるとして、内閣府令・経済産業省令で定めるところにより、保全審査に付することを求める旨の申出があったときも、前項と同様とする。過去にその申出をしたことにより保全審査に付され、次条第九項の規定による通知を受けたことがある者又はその者から特許を受ける権利を承継した者が当該通知に係る発明を明細書等に記載した特許出願をしたと認められるときも、同様とする。

 特許庁長官は、第一項本文又は前項の規定による送付をしたときは、その送付をした旨を特許出願人に通知するものとする。

(略:外国語書面出願の様な特殊な出願の場合に関する読み替え規定等)

 特許庁長官は、第一項本文又は第二項の規定による送付をするかどうかを判断するため必要があると認めるときは、特許出願人に対し、資料の提出及び説明を求めることができる。

 特許庁長官が第一項本文若しくは第二項の規定による送付をする場合に該当しないと判断し、若しくは当該送付がされずに第一項本文に規定する期間が経過するまでの間又は内閣総理大臣が第七十一条若しくは第七十七条第二項の規定による通知をするまでの間は、特許法第四十九条、第五十一条及び第六十四条第一項の規定は、適用しない。

11(略:内閣総理大臣への書類送付後の出願の放棄や却下の場合の取扱い等)

(内閣総理大臣による保全審査)
第六十七条 内閣総理大臣は、前条第一項本文又は第二項の規定により特許出願に係る書類の送付を受けたときは、内閣府令で定めるところにより、当該特許出願に係る明細書等に公にすることにより外部から行われる行為によって国家及び国民の安全を損なう事態を生ずるおそれが大きい発明が記載され、かつ、そのおそれの程度及び保全指定をした場合に産業の発達に及ぼす影響その他の事情を考慮し、当該発明に係る情報の保全(当該情報が外部に流出しないようにするための措置をいう。第七十条第一項において同じ。)をすることが適当と認められるかどうかについての審査(以下この章において「保全審査」という。)をするものとする。

 内閣総理大臣は、保全審査のため必要があると認めるときは、特許出願人その他の関係者に対し、資料の提出及び説明を求めることができる。

(略:国の機関や専門的知識を有する者に協力を求める事ができる事等)

 内閣総理大臣は、保全指定をしようとする場合には、特許出願人に対し、内閣府令で定めるところにより、第七十条第一項に規定する保全対象発明となり得る発明の内容を通知するとともに、特許出願を維持する場合には次に掲げる事項について記載した書類を提出するよう求めなければならない。
 当該通知に係る発明に係る情報管理状況
 特許出願人以外に当該通知に係る発明に係る情報の取扱いを認めた事業者がある場合にあっては、当該事業者
 前二号に掲げるもののほか、内閣府令で定める事項

10 特許出願人は、特許出願を維持する場合には、前項の規定による通知を受けた日から十四日以内に、内閣府令で定めるところにより、同項に規定する書類を内閣総理大臣に提出しなければならない。

11 内閣総理大臣は、前項の規定により提出された書類の記載内容が相当でないと認めるときは、特許出願人に対し、相当の期間を定めて、その補正を求めることができる。

(保全審査中の発明公開の禁止)
第六十八条 特許出願人は、前条第九項の規定による通知を受けた場合は、第七十条第一項又は第七十一条の規定による通知を受けるまでの間は、当該前条第九項の規定による通知に係る発明の内容を公開してはならない。ただし、特許出願を放棄し、若しくは取り下げ、又は特許出願が却下されたときは、この限りでない。

(保全審査の打切り)
第六十九条 内閣総理大臣は、特許出願人が第六十七条第十項に規定する期間内に同条第九項に規定する書類を提出せず、若しくは同条第十一項の規定により定められた期間内に同項の規定による補正を行わなかったとき、前条の規定に違反したと認めるとき、又は不当な目的でみだりに第六十六条第二項前段の規定による申出をしたと認めるときは、保全審査を打ち切ることができる。

 内閣総理大臣は、前項の規定により保全審査を打ち切るときは、あらかじめ、特許出願人に対し、その理由を通知し、相当の期間を指定して、弁明を記載した書面を提出する機会を与えなければならない。

 内閣総理大臣は、第一項の規定により保全審査を打ち切ったときは、その旨を特許庁長官に通知するものとする。

 特許庁長官は、前項の規定による通知を受けたときは、特許出願を却下するものとする。

(保全指定)
第七十条 内閣総理大臣は、保全審査の結果、第六十七条第一項に規定する明細書等に公にすることにより外部から行われる行為によって国家及び国民の安全を損なう事態を生ずるおそれが大きい発明が記載され、かつ、そのおそれの程度及び指定をした場合に産業の発達に及ぼす影響その他の事情を考慮し、当該発明に係る情報の保全をすることが適当と認めたときは、内閣府令で定めるところにより、当該発明を保全対象発明として指定し、特許出願人及び特許庁長官に通知するものとする。

 内閣総理大臣は、前項の規定による指定(以下この章及び第八十八条において「保全指定」という。)をするときは、当該保全指定の日から起算して一年を超えない範囲内においてその保全指定の期間を定めるものとする。

 内閣総理大臣は、保全指定の期間(この項の規定により保全指定の期間を延長した場合には、当該延長後の期間。以下この章において同じ。)が満了する日までに、保全指定を継続する必要があるかどうかを判断しなければならない。この場合において、継続する必要があると認めるときは、内閣府令で定めるところにより、一年を超えない範囲内において保全指定の期間を延長することができる。

(略:延長審査の場合の保全審査準用規定)

 内閣総理大臣は、第三項後段の規定による延長をしたときは、その旨を第一項の規定による通知を受けた特許出願人(通知後に特許を受ける権利の移転があったときは、その承継人。以下この章において「指定特許出願人」という。)及び特許庁長官に通知するものとする。

(保全指定をしない場合の通知)
第七十一条 内閣総理大臣は、保全審査の結果、保全指定をする必要がないと認めたときは、その旨を特許出願人及び特許庁長官に通知するものとする。

(特許出願の取下げ等の制限)
第七十二条 指定特許出願人は、第七十七条第二項の規定による通知を受けるまでの間は、特許出願を放棄し、又は取り下げることができない。

 指定特許出願人は、第七十七条第二項の規定による通知を受けるまでの間は、実用新案法(昭和三十四年法律第百二十三号)第十条第一項及び意匠法(昭和三十四年法律第百二十五号)第十三条第一項の規定にかかわらず、特許出願を実用新案登録出願又は意匠登録出願に変更することができない。

(保全対象発明の実施の制限)
第七十三条 指定特許出願人及び保全対象発明の内容を特許出願人から示された者その他保全対象発明の内容を職務上知り得た者であって当該保全対象発明について保全指定がされたことを知るものは、当該保全対象発明の実施(特許法第二条第三項に規定する実施をいう。以下この章及び第九十二条第一項第六号において同じ。)をしてはならない。ただし、指定特許出願人が当該実施について内閣総理大臣の許可を受けた場合は、この限りでない。

 前項ただし書の規定による許可を受けようとする指定特許出願人は、許可を受けようとする実施の内容その他内閣府令で定める事項を記載した申請書を内閣総理大臣に提出しなければならない。

 内閣総理大臣は、第一項ただし書の規定による許可の申請に係る実施により同項本文に規定する者以外の者が保全対象発明の内容を知るおそれがないと認めるときその他保全対象発明に係る情報の漏えいの防止の観点から内閣総理大臣が適当と認めるときは、同項ただし書の規定による許可をするものとする。

 第一項ただし書の規定による許可には、保全対象発明に係る情報の漏えいの防止のために必要な条件を付することができる。

(略:許可審査の場合の保全審査準用規定)

 内閣総理大臣は、指定特許出願人が第一項の規定又は第四項の規定により許可に付された条件に違反して保全対象発明の実施をしたと認める場合であって、特許出願が却下されることが相当と認めるときは、その旨を特許庁長官及び指定特許出願人に通知するものとする。指定特許出願人が第七十五条第一項に規定する措置を十分に講じていなかったことにより、指定特許出願人以外の者が第一項の規定又は第四項の規定により許可に付された条件に違反して保全対象発明の実施をした場合も、同様とする。

 内閣総理大臣は、前項の規定による通知をするときは、あらかじめ、指定特許出願人に対し、その理由を通知し、相当の期間を指定して、弁明を記載した書面を提出する機会を与えなければならない。

 特許庁長官は、第六項の規定による通知を受けた場合には、第七十七条第二項の規定による通知を待って、特許出願を却下するものとする。

(保全対象発明の開示禁止)
第七十四条 指定特許出願人及び保全対象発明の内容を特許出願人から示された者その他保全対象発明の内容を職務上知り得た者であって当該保全対象発明について保全指定がされたことを知るものは、正当な理由がある場合を除き、保全対象発明の内容を開示してはならない。

 内閣総理大臣は、指定特許出願人が前項の規定に違反して保全対象発明の内容を開示したと認める場合であって、特許出願が却下されることが相当と認めるときは、その旨を特許庁長官及び指定特許出願人に通知するものとする。指定特許出願人が次条第一項に規定する措置を十分に講じていなかったことにより、指定特許出願人以外の者が前項の規定に違反して保全対象発明の内容を開示した場合も、同様とする。

 前条第七項及び第八項の規定は、前項の規定による通知について準用する。

(保全対象発明の適正管理措置)
第七十五条(略)

(発明共有事業者の変更)
第七十六条(略)

(外国出願の禁止)
第七十八条 何人も、日本国内でした発明であって公になっていないものが、第六十六条第一項本文に規定する発明であるときは、次条第四項の規定により、公にすることにより外部から行われる行為によって国家及び国民の安全に影響を及ぼすものでないことが明らかである旨の回答を受けた場合を除き、当該発明を記載した外国出願(外国における特許出願及び千九百七十年六月十九日にワシントンで作成された特許協力条約に基づく国際出願をいい、政令で定めるものを除く。以下この章及び第九十四条第一項において同じ。)をしてはならない。ただし、我が国において明細書等に当該発明を記載した特許出願をした場合であって、当該特許出願の日から十月を超えない範囲内において政令で定める期間を経過したとき(第七十条第一項の規定による通知を受けたとき及び当該期間を経過する前に当該特許出願が却下され、又は当該特許出願を放棄し、若しくは取り下げたときを除く。)、第六十六条第一項本文に規定する期間内に同条第三項の規定による通知が発せられなかったとき(当該期間を経過する前に当該特許出願が却下され、又は当該特許出願を放棄し、若しくは取り下げたときを除く。)及び同条第十項、第七十一条又は前条第二項の規定による通知を受けたときにおける当該特許出願に係る明細書等に記載された発明については、この限りでない。

 指定特許出願人に対する前項の規定の適用については、同項中「第六十六条第一項本文に規定する発明」とあるのは、「第六十六条第一項本文に規定する発明(第七十条第一項の規定による通知を受けた特許出願に係る明細書等に記載された発明にあっては、保全対象発明)」とする。

(略:外国語書面出願の様な特殊な出願の場合に関する読み替え規定)

 特許庁長官は、特許法第百八十四条の三第一項の規定により特許出願とみなされる国際出願を受けた場合において、当該特許出願に係る明細書等に第六十六条第一項本文に規定する発明が記載されているときは、その旨を内閣総理大臣に通知するものとする。

 内閣総理大臣は、特許庁長官が第六十六条第三項の規定による通知をした特許出願人(通知後に特許を受ける権利の移転があったときは、その承継人を含む。)が第一項の規定に違反して外国出願をしたと認める場合又は前項の規定による通知に係る国際出願が第一項の規定に違反するものであると認める場合であって、当該特許出願が却下されることが相当と認めるときは、その旨を特許庁長官及び特許出願人に通知するものとする。

 第七十三条第七項の規定は、前項の規定による通知について準用する。

 特許庁長官は、第五項の規定による通知を受けたときは、特許出願を却下するものとする。ただし、その特許出願が保全指定がされたものである場合にあっては、前条第二項の規定による通知を待って、特許出願を却下するものとする。

(外国出願の禁止に関する事前確認)
第七十九条 第六十六条第一項本文に規定する発明に該当し得る発明を記載した外国出願をしようとする者は、我が国において明細書等に当該発明を記載した特許出願をしていない場合に限り、内閣府令・経済産業省令で定めるところにより、特許庁長官に対し、その外国出願が前条第一項の規定により禁止されるものかどうかについて、確認を求めることができる。

 特許庁長官は、前項の規定による求めを受けた場合において、当該求めに係る発明が第六十六条第一項本文に規定する発明に該当しないときは、遅滞なく、その旨を当該求めをした者に回答するものとする。

 特許庁長官は、第一項の規定による求めを受けた場合において、当該求めに係る発明が第六十六条第一項本文に規定する発明に該当するときは、遅滞なく、内閣総理大臣に対し、公にすることにより外部から行われる行為によって国家及び国民の安全に影響を及ぼすものでないことが明らかかどうかにつき確認を求めるものとする。この場合において、当該確認を求められた内閣総理大臣は、遅滞なく、特許庁長官に回答するものとする。

 特許庁長官は、前項の規定により回答を受けたときは、遅滞なく、第一項の規定による求めをした者に対し、当該求めに係る発明が第六十六条第一項本文に規定する発明に該当する旨及び当該回答の内容を回答するものとする。

 第一項の規定により確認を求めようとする者は、手数料として、一件につき二万五千円を超えない範囲内で政令で定める額を国に納付しなければならない。

 前項の規定による手数料の納付は、内閣府令・経済産業省令で定めるところにより、収入印紙をもってしなければならない。ただし、内閣府令・経済産業省令で定める場合には、内閣府令・経済産業省令で定めるところにより、現金をもって納めることができる。

 前条第一項の規定の適用の有無については、産業競争力強化法(平成二十五年法律第九十八号)第七条の規定は、適用しない。

(損失の補償)
第八十条 国は、保全対象発明(保全指定が解除され、又は保全指定の期間が満了したものを含む。)について、第七十三条第一項ただし書の規定による許可を受けられなかったこと又は同条第四項の規定によりその許可に条件を付されたことその他保全指定を受けたことにより損失を受けた者に対して、通常生ずべき損失を補償する。

 前項の規定による補償を受けようとする者は、内閣府令で定めるところにより、内閣総理大臣にこれを請求しなければならない。

 内閣総理大臣は、前項の規定による請求があったときは、補償すべき金額を決定し、これを当該請求者に通知しなければならない。

(略:補償金額の決定における保全審査準用規定)

 第三項の規定による決定に不服がある者は、その通知を受けた日から六月以内に訴えをもって補償すべき金額の増額を請求することができる。

 前項の訴えにおいては、国を被告とする。

(後願者の通常実施権)
第八十一条(略)

(特許法等の特例)
第八十二条
(略:国内優先権主張出願の取扱いや存続期間の延長など)

 特許庁長官は、実用新案法第五条第一項の規定による実用新案登録出願を受けた場合において、当該実用新案登録出願に係る明細書、実用新案登録請求の範囲又は図面に保全対象発明が記載されているときは、同法第十四条第二項の規定にかかわらず、その保全指定が解除され、又は保全指定の期間が満了するまで、同項の規定による実用新案権の設定の登録をしてはならない。

(勧告及び改善命令)
第八十三条 内閣総理大臣は、指定特許出願人又は発明共有事業者が第七十五条の規定に違反した場合にお いて保全対象発明に係る情報の漏えいを防ぐため必要があると認めるときは、当該者に対し、同条第一項 に規定する措置をとるべき旨を勧告することができる。

 内閣総理大臣は、前項の規定による勧告を受けた者が正当な理由がなくてその勧告に係る措置をとらなかったときは、当該者に対し、その勧告に係る措置をとるべきことを命ずることができる。

 内閣総理大臣は、前二項の規定にかかわらず、指定特許出願人又は発明共有事業者が第七十五条の規定に違反した場合において保全対象発明の漏えいのおそれが切迫していると認めるときは、当該者に対し、同条第一項に規定する措置をとるべきことを命ずることができる。

(報告徴収及び立入検査)
第八十四条 内閣総理大臣は、この章の規定の施行に必要な限度において、指定特許出願人及び発明共有事業者に対し、保全対象発明の取扱いに関し、必要な報告若しくは資料の提出を求め、又はその職員に、当該者の事務所その他必要な場所に立ち入り、保全対象発明の取扱いに関し質問させ、若しくは帳簿、書類その他の物件を検査させることができる。

 前項の規定により立入検査をする職員は、その身分を示す証明書を携帯し、関係人の請求があったときは、これを提示しなければならない。

 第一項の規定による立入検査の権限は、犯罪捜査のために認められたものと解釈してはならない。

(送達)
第八十五条 この章に規定する手続に関し、送達をすべき書類は、内閣府令・経済産業省令で定める。

 特許法第百九十条から第百九十二条までの規定は、前項の送達について準用する。

第六章 雑則(略)

第七章 罰則

第九十二条 次の各号のいずれかに該当する場合には、当該違反行為をした者は、二年以下の懲役若しくは百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
(略)
 第五十二条第十項(第五十四条第二項及び第五十五条第三項において準用する場合を含む。)又は第八十三条第二項若しくは第三項の規定による命令に違反したとき。
(略)
 第七十三条第一項の規定又は同条第四項の規定により許可に付された条件に違反して保全対象発明の実施をしたとき。
 偽りその他不正の手段により第七十三条第一項ただし書の規定による許可又は第七十六条第一項の規定による承認を受けたとき。
 第七十四条第一項の規定に違反して保全対象発明の内容を開示したとき。

 前項第六号及び第八号の罪の未遂は、罰する。

 第一項第六号及び第八号の罪は、日本国外においてこれらの号の罪を犯した者にも適用する。

第九十三条(略)

第九十四条 第七十八条第一項の規定に違反して外国出願をしたとき(第九十二条第一項第八号に該当するときを除く。)は、当該違反行為をした者は、一年以下の懲役若しくは五十万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。

 前項の罪は、日本国外において同項の罪を犯した者にも適用する。

第九十五条 次の各号のいずれかに該当する者は、一年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
(略)
 第六十七条第八項(第七十条第四項、第七十三条第五項、第七十七条第三項及び第八十条第四項において準用する場合を含む。)の規定に違反して秘密を漏らし、又は盗用した者(第九十二条第一項第六号又は第八号に該当する違反行為をした者を除く。)

 前項第二号の罪は、日本国外において同号の罪を犯した者にも適用する。

第九十六条 次の各号のいずれかに該当する場合には、当該違反行為をした者は、三十万円以下の罰金に処する。
(略)
 第四十八条第五項から第七項まで、第五十八条第二項又は第八十四条第一項の規定による報告若しくは資料の提出をせず、若しくは虚偽の報告をし、若しくは虚偽の資料を提出し、又は当該職員の質問に対して答弁をせず、若しくは虚偽の答弁をし、若しくは検査を拒み、妨げ、若しくは忌避したとき。
(略)

第九十七条第九十八条(略)

 この秘密特許法案(経済安保法案特許非公開関連部分)は、政府有識者会議の提言をほぼそのままに、そのポイントとなる事項を全て政省令に落として条文化しているものであり、残念ながら、法案レベルでも制度の本質的な疑問や懸念に関する点が明らかになる事はなかった。(提言については前回参照。)

 この法案の第66条第1項で、特許庁による技術分野該当性の第一次審査の規定について、「特許出願を受けた場合において、その明細書等に、公にすることにより外部から行われる行為によって国家及び国民の安全を損なう事態を生ずるおそれが大きい発明が含まれ得る技術の分野として国際特許分類・・・又はこれに準じて細分化したものに従い政令で定めるもの」(特定技術分野)に属する発明が記載されているとき、「特許出願の日から三月を超えない範囲内において政令で定める期間を経過する日までに」、「当該特許出願に係る書類を内閣総理大臣に送付」するとされている。しかし、技術分野の指定が特許分類によるとされているだけでそれ以外の事は全て政令に落とされており、何が対象となるのか分からない。これは法律として十分な限定になっているとは言い難く、戦前の様に時の政府の恣意的な運用によって秘密特許の対象範囲が拡大されていく恐れもなしとしない。(戦前の制度については第450回参照。)

 この第1項の括弧内の「その発明が特定技術分野のうち保全指定をした場合に産業の発達に及ぼす影響が大きいと認められる技術の分野として政令で定めるものに属する場合にあっては、政令で定める要件に該当するものに限る」という条件がデュアルユース技術に相当するものなのだろうが、これも全て政令で決めるとしており、同じく対象範囲の限定として非常に危ういものである。

 第2項で、特許出願人の申し出がある場合も書かれているが、これも府省令で定めるところによりとされているだけで、具体的に何が対象となるのか不明である。

 第3項で、特許庁長官が特定技術分野の出願を内閣総理大臣に送付をしたときに、その送付をした旨を特許出願人に通知する事が規定されている。

 第67条第1項で、内閣府に新設されるのだろう審査部署における、秘密として指定するかどうかの第二次審査である保全審査において、「内閣府令で定めるところにより、当該特許出願に係る明細書等に公にすることにより外部から行われる行為によって国家及び国民の安全を損なう事態を生ずるおそれが大きい発明が記載され、かつ、そのおそれの程度及び保全指定をした場合に産業の発達に及ぼす影響その他の事情を考慮」すると書かれているが、具体的にどの様に審査が行われるのかやはり良く分からない儘である。

 第9項で、秘密指定(保全指定)をしようとする場合には、特許出願人に対し、保全対象発明となり得る発明の内容を通知するとともに、情報管理状況等を記載した書類の提出を求めるとしており、第10項で、この書類は14日以内に提出する必要があるとされている。しかし、この通知にはなぜその発明が公開されると国家及び国民の安全を損なう事態を生ずるおそれが大きいのかという理由や補償の目安が記載されるとはされておらず、これでは出願人にとって保全指定が妥当かどうか、その後どの様に対応するべきか判断できないだろう。

 そして、この通知に応答しないと、第69条に書かれている様に、弁明書の提出の機会は与えられた後に保全審査は打ち切られ、その旨が特許庁に通知され、特許庁により特許出願が却下される事になる。

 第69条の保全審査と第70条の保全指定の関係もあまり明確でないが、第67条で求められる書類が提出された後に保全指定の判断がされるという事になるのだろう。

 そして、第71条により、第一次審査の結果と異なり、秘密指定をするかどうかの第二次審査である保全審査では、保全しない事についても特許出願人に通知される事となる。

 最終的な秘密指定の効果として、第73条で保全対象発明の実施が制限される事が、第74条で保全対象発明の開示が禁止される事が書かれている。

 外国出願の禁止について、第78条に書かれているが、第66条第1項本文に依存する形で、「何人も、日本国内でした発明であって公になっていないものが、第六十六条第一項本文に規定する発明であるときは、次条第四項の規定により、公にすることにより外部から行われる行為によって国家及び国民の安全に影響を及ぼすものでないことが明らかである旨の回答を受けた場合を除き、当該発明を記載した外国出願・・・をしてはならない」と書かれており、また、この規定では、どこまで出願人自身で判断して良いのか、どこまで第79条の事前相談を必要とするのか曖昧である。

 同第78条同第1項中に、「ただし、我が国において明細書等に当該発明を記載した特許出願をした場合であって、当該特許出願の日から十月を超えない範囲内において政令で定める期間を経過したとき・・・第六十六条第一項本文に規定する期間内に同条第三項の規定による通知が発せられなかったとき・・・及び同条第十項、第七十一条又は前条第二項の規定による通知を受けたときにおける当該特許出願に係る明細書等に記載された発明については、この限りでない」というただし書きもある。しかし、これも、いつまでに外国出願が可能となるかという期間が「特許出願の日から十月を超えない範囲内において政令で定める期間」とやはり政令規定になっていて10か月というかなりの長期間になる事も想定される上、「第六十六条第一項本文に規定する期間内に同条第三項の規定による通知が発せられなかったとき」という場合も含まれているが、特許庁の第一次審査で通知が発せられなかった事が出願人にどの様にして分かるのか不明である。

 第5項には、第一次審査の通知を受けた後に第一項の規定に違反して外国出願をしたときには特許出願が却下される事があり得る事が書かれている。

 第80条に損失の補償について書かれているが、これも保全指定を受けた後に内閣総理大臣に請求する事は分かるものの、補償すべき金額はどの様に決定されるのか、増額の訴えもできるとされているが、保全対象となった特許出願についての裁判をどうするのか良く分からない。

 秘密特許関連の罰則についても一覧でまとめておくと、以下の様になるだろう。

○1年以下の懲役又は100万円以下の罰金(第92条、併科、未遂、国外犯あり):
・第83条第2項、第3項の保全対象発明の適正管理措置に関する命令違反(第1項第4号)
・第73条第1項、第4項の許可条件に違反する保全対象発明の実施(同第6号)
・不正の手段により第73条第1項の保全対象発明の実施許可、第76条第1項の他事業者の情報取扱い承認を受けたとき(第7号)
・第74条第1項違反の保全対象発明の内容の開示(同第8号)

○1年以下の懲役又は50万円以下の罰金(第94条、併科、国外犯あり):
・第78条第1項の規定に違反して外国出願をしたとき(第1項)

○1年以下の懲役又は50万円以下の罰金(第95条、国外犯あり):
・第67条第8項(準用の場合を含む)の保全審査において開示を受けた者等の情報漏洩、盗用禁止違反(第1項第2号)

○30万円以下の罰金(第96条):
・第84条第1項の規定による保全対象発明の取扱いに関する報告拒否等(第5号)

 これらの罰則の内、他は保全指定を受けた場合に科され得るもので、その場合における罰則として本当に適切かも疑問だが、外国出願禁止違反に対する罰則が最終的な秘密指定が出される前にも科される可能性がある事は特に注意する必要がある。

 第78条の外国出願禁止は、上で書いた通り、どこまで出願人自身で自身の発明が特定技術分野に属するか否かについて判断して良いのか、どこまで第79条の事前相談を必要とするのか曖昧であり、特許庁で出願から3か月以内になされる第一次審査で通知が発せられなかった事が出願人にどの様にして分かるのかも不明である(通知があった場合は第二次保全審査に入る事が分かるが)事を考えると、第94条の罰則には大きな問題がある。

 さらに念のため書いておくと、この法案は特許法を全く改正せずに新しい法律によって特許制度の運用に手を入れる形を取っているので、保全対象となった出願や分割された後の出願の特許審査が具体的にどの様に進められるのかも分からない。

 長くなったので、ここで、上で書いた事の概要を以下箇条書きでまとめておく。

  • 特許庁による第一次審査の技術分野の範囲について何が対象となるのか法律として分からず、今後政府によって恣意的に対象範囲が拡大されていく恐れもなしとしない。
  • 特許出願人の申し出がある場合についても、具体的に何が対象となるのか不明である。
  • 内閣府で行われるのだろう、最終的に秘密として指定するかどうかの第二次保全審査についても、具体的にどの様に審査が行われるのか良く分からない。
  • 秘密指定をしようとする場合の通知に、なぜその発明が公開されると国家及び国民の安全を損なう事態を生ずるおそれが大きいのかという理由や補償の目安が記載されるとはされておらず、出願人にとって指定が妥当かどうか、その後どの様に対応するべきか判断できない。
  • 外国出願の禁止について、どこまで出願人が自身の発明について特定技術分野に属するか否かを判断して良いのか、どこまで事前相談を必要とするのか曖昧であり、外国出願が可能となるまでの期間が10か月というかなりの長期間になる事も想定される上に、特許庁で出願から3か月以内になされる第一次審査で通知が発せられなかった事が出願人にどの様にして分かるのかも不明であり、その罰則にも大きな問題がある。
  • 保全指定を受けた後に内閣総理大臣に請求する補償について、補償すべき金額はどの様に決定されるのか、増額の訴えに関する裁判をどうするのか良く分からない。
  • 保全指定を受けた場合に科され得る罰則が本当に適切かも疑問である。
  • 保全対象となった出願や分割された後の出願の特許審査が具体的にどの様に進められるのかも分からない。

 後は前回書いた事の繰り返しとなるが、論文等の研究成果の公表は自由という前提と矛盾を来しているこの秘密特許制度の導入について、その根拠となる立法事実があるのか、「公にすることにより外部から行われる行為によって国家及び国民の安全を損なう事態を生ずるおそれが大きい発明」についてまともに判断できるのか、その様なものが今の日本で本当に出願されているのか、出願され得るのか、そもそも大いに疑わしいと私は思っている。

 この様に数多くの問題を含んだ条文により秘密特許制度が成立すると、国の安全保障に役立たないのは無論の事、かえってその恣意的な運用によって、国として本来促進するべき技術分野の研究開発、国内外での特許取得活動に大きな萎縮が発生する可能性すらあるだろう。

 この法案は他にも多くの問題を含んでいるのではないかと思うが、大体、この様なポイントとなる事項を全て政省令に落として条文化している乱暴かつ雑な法案は、法律としての体をなしていないと言って良い。今後の国会審議において、その本質的な問題まで踏み込み、条文レベルで抜本的な明確化をしてもらいたいと私は思う。それが不可能だというなら秘密特許に関する部分は全て削除してもいい位である。

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2022年2月 6日 (日)

第452回:新秘密特許制度に関する政府有識者会議の提言

 2月1日に経済安全保障法制に関する有識者会議の第4回が開かれ、経済安全保障法制に関する提言(pdf)が公開された。(なお、1月21日に開催されていたらしい第3回の特許非公開に関する検討会合の議事要旨(pdf)も同時に公開されており、また、この提言は総理大臣を議長とする経済安全保障推進会議の第2回、2月4日の資料としても提示されている。)

 この提言の第43~53ページに、以下の通り、「Ⅴ 特許出願の非公開化」として新秘密特許制度の概要が書かれているが、前回取り上げた骨子の内容に毛が生えた程度の薄い内容であって、残念ながら、制度の本質的な疑問や懸念に関する点が明らかになっているという事はほぼない。

Ⅴ 特許出願の非公開化

1 現状・課題

 政府は、「統合イノベーション戦略2020」(令和2年7月17日閣議決定)において、「研究開発成果のうち特許に関する取扱いについては、論文、学会発表、HP掲載等の他の媒体を通じた技術流出への対処方策との整合性・バランスや各国の特許制度の在り方も念頭に置いた上で、利用者の負担にも配慮しつつ、イノベーションの促進と技術流出防止の観点との両立が図られるよう、特許出願公開や特許公表に関して、制度面も含めた検討を推進」することを決定し、その後、「統合イノベーション戦略2021」(令和3年6月18日閣議決定)及び「経済財政運営と改革の基本方針2021」(令和3年6月18日閣議決定)において、「特許の公開制度について、各国の特許制度の在り方も念頭に置いた上で、イノベーションの促進と両立させつつ、安全保障の観点から非公開化を行うための所要の措置を講ずるべく検討を進める」と決定した。

 我が国の現行の特許制度では、出願された発明は、一定期間後に一律に公開されることとなる。このため、機微な発明が出願されていても、その公開を止めるすべがないことが国会等で指摘されている。

 もとより、論文等の研究成果の公表は自由であり、こうした形態による公表については自律的な研究倫理、契約等に委ねることが大前提である。その一方で、発明者が特許制度によって権利を確保しようとした場合に、公になれば我が国の安全保障が著しく損なわれる発明であっても国の制度を通じて一律かつ自動的に公開されてしまうという事態は看過できない。

 そもそも特許制度は、自己の発明した新しい技術を公開することの代償として、一定期間特許権という独占的な権利を与える制度であり、その趣旨は、特許権というインセンティブを与えることで、発明及びその公開を促し、もって産業の発達を図るというものであって、出願の公開が特許権付与の前提である。

 このような特許制度が、公開すべきでない発明、すなわち、公になれば我が国の安全保障が著しく損なわれるおそれがある発明の場合、特段の例外規定のない現状では、たとえ公開すべきでないとわかっていても、特許権を得るためには公開に供するほかないという好ましくないインセンティブを与えてしまっている状況にある。

 例えば、平成27年の報道で日本のレーザーウラン濃縮技術に関する特許公報やこの特許技術に基づく機器がIAEAの査察を受けた他国の極秘研究施設で発見されていた旨報じられ、機微な技術の特許制度を通じた公開の問題が注目されたが、このような事態を生じ得る我が国の特許制度の在り方は検討を要するといわざるを得ない。

 諸外国の多くは、特許制度の例外措置として機微な発明の特許出願について出願を非公開とするとともに、流出防止措置を講じ、もって、当該発明が外部からの脅威に利用されることを未然に防ぐ制度を有しており、G20諸国の中でこうした制度を有していないのは、日本、メキシコ及びアルゼンチンのみである。

 このように諸外国の多くが、インターネットが発達し、発明情報の公表が容易になった現在にあっても特許非公開制度を存続させていることは、今もなおこうした制度が必要とされていることを物語っている。

2 政策対応の基本的な考え方

(1)新しい制度の必要性

 上記の問題に対処するため、特許出願のうち、我が国の安全保障上極めて機微な発明であって公にするべきではないものについて、そうした状況が解消するまでの間、出願公開の手続を留保するとともに、機微な発明の流出を防ぐための措置を講ずる制度を整備する必要がある。

 すなわち、非公開の決定をした発明については、諸外国の制度のように、出願人等に情報保全を求め、発明の実施制限等を行う枠組みが必要である。

 さらに、このような制度を設ける以上、これと一体のものとして、後述する第二次審査の対象となる発明について我が国への第一国出願義務を定める必要がある。

 このような制度を新設することにより、公になれば我が国の安全保障が著しく損なわれるおそれがある発明について、そうしたおそれが解消するまでの間、出願公開による拡散や不用意な流出を防止することができる。

 さらに、これまで安全保障上の観点から特許出願を諦めざるを得なかった発明者に、特許法上の権利を得る途を開き、新たな出願ニーズや職務発明のニーズを掘り起こすことができるという効果も期待できる。

(2)対象発明を選定する際の視点

 非公開の対象となる発明の選定に当たっては、公になれば我が国の安全保障が著しく損なわれるおそれがある発明に限定することに加え、経済活動やイノベーションに及ぼす影響を十分考慮するべきである。

 機微性の程度としては安全保障上の機微性が極めて高いものを想定すべきである一方、我が国の安全保障に影響を及ぼし得る機微な発明であっても、それを一律に非公開とすることは、必ずしも最適とは限らない。例えば、いわゆるデュアルユース技術を幅広く新制度による非公開の対象とした場合には、経済活動が制約され、当該分野の研究開発も抑制されるほか、最悪の場合、我が国において発明を非公開としている間に、海外において外国企業にその発明の特許を取得されてしまうおそれもある。

 したがって、新制度においては、発明の機微性だけでなく、経済活動やイノベーションにどのような影響を及ぼすかも考慮して、非公開とする対象を十分に絞り込む仕組みとするべきであり、かつ、経済活動の予見可能性を確保するため、保全の対象となり得る発明の技術分野等を予見可能な形で示すべきである。

 ただし、要件や基準を細目化しすぎると、政府の問題意識を外部にさらすことになり、それを探ろうとする悪意の出願が行われるおそれもあるため、予見可能性の確保については、安全保障とのバランスを取ることも念頭に置く必要がある。

3 新しい立法措置の基本的な枠組み

(1)制度の骨格

 特許出願を非公開にする制度としては、アメリカ、イギリス、フランス等が採用する特許付与の手続を留保する制度(いわゆる審査凍結型)と、ドイツや中国が採用する非公開のまま特許権を付与する制度(いわゆる特許付与型)があるが、公開の代償として独占的な権利を付与するという我が国特許制度の本質に鑑みても、実務的な使いやすさという観点からも、手続を留保する制度を導入するべきである。

 すなわち、我が国の安全保障上極めて機微な発明であって公にすべきではないものが記載されている特許出願については、出願人としての先願の地位を確保しつつ、出願公開等の特許手続を留保するとともに、そのような発明の流出を防止する措置を講じ、機微性が低下した段階で通常の特許制度のプロセスに戻すということを可能にする制度を導入するべきである。

 非公開とする発明の選定手続は、年間30万件前後に及ぶ全出願について逐一本格的な審査を行うのはおよそ現実的でなく、特許手続全体の遅延を生じかねないことから、後述するように、あらかじめ第二次審査の対象とする技術分野を定め、まず特許庁においてこれに該当するか否かといった点を中心とする定型的な審査、すなわち第一次審査を行い、対象件数を極力絞り込んだ上で、新たな制度の所管部署が機微性や産業への影響等を総合的に検討する第二次審査を行うという、二段階審査制を採用するべきである。

 第二次審査において非公開の決定をした場合、諸外国の制度のように、出願人等に機微発明の情報保全措置を求め、発明の実施制限等を課す枠組みが必要である。また、国としてそのような制約を課す以上、その代償として損失補償をする仕組みも設けるべきである。

 さらに、このような制度を設けながら外国への出願を自由とすることは適切でないため、第二次審査の対象となる発明について我が国への第一国出願義務を定める必要がある。

(2)非公開の対象となる発明

① 審査対象となる技術分野

 第二次審査の対象となる技術分野を定めるに当たっても、前記2(2)のとおり、公になれば我が国の安全保障が著しく損なわれるおそれがある発明という観点に加え、経済活動やイノベーションに及ぼす影響を十分考慮するべきである。

 また、先端技術が日進月歩で変わるものであることに鑑み、変化に応じて機動的に定められる枠組みとするべきである。

② 具体的な対象発明のイメージ

 非公開の対象となる発明については、核兵器の開発につながる技術及び武器のみに用いられるシングルユース技術のうち我が国の安全保障上極めて機微な発明を基本として選定するべきである。これらの技術は、機微性が比較的明確であることに加え、開発者自身が機微性を認識し、情報管理を徹底していることが通常であり、かつ、一般市場に製品が広く出回るような性質のものでもないと考えられる。

 他方、いわゆるデュアルユース技術については、これらの技術を広く対象とした場合、我が国の産業界の経済活動や当該技術の研究開発を阻害し、かえって我が国の経済力や技術的優位性を損ないかねないおそれがある。また、発展が期待されるいわゆる新興技術を対象に取り込むことは、諸外国でも慎重な扱いがなされていると考えられ、国際的な研究協力にも支障を生じかねない。このため、いわゆるデュアルユース技術を対象とする場合には、技術分野を絞るとともに、例えば、国費による委託事業の成果である技術や、防衛等の用途で開発された技術、あるいは出願人自身が了解している場合などを念頭に、支障が少ないケースに限定するべきである。

 制度開始当初は第二次審査の対象となる技術分野を限定したスモールスタートとし、その後の運用状況等を見極めながら、対象技術分野の在り方を検討することが適当である。

(3)発明の選定プロセス

① 二段階審査制

 前記(1)で述べたとおり、まず特許庁において技術分野等の観点から件数を極力絞り込んだ上で、新たな制度の所管部署が機微性や産業への影響等を総合的に検討する第二次審査を行う、二段階審査制とするべきである。

② 審査体制

ア 第一次審査

 第一次審査は、全ての特許出願の受理官署である特許庁において行うべきである。

 特許庁による第一次審査は、できる限り件数を絞り込む必要がある一方で、迅速に処理することが必要であることも踏まえると、機微性の大小の判断には踏み込まず、前記(1)のとおり第二次審査の対象となる技術分野に該当するか否かといった点を中心に、定型的な審査を行うことが考えられる。

 大半の特許出願については、この第一次審査の段階で特許非公開の手続から外れ、通常の特許手続が進められるようにするべきである。

 後述するように、出願人の予見性を高めるため、第二次審査の対象とする技術分野については明示するべきであるが、その上で、出願人の予見性を更に高めるためにも、特許庁による第一次審査は短時間で遂げられるべきであり、通常の特許手続における分類等の作業を念頭に置くと、概ね特許出願日から3か月程度で第一次審査を終えるようにするべきである。

 なお、特許の出願書類には、特許を受けようとする発明、すなわちクレーム(特許請求の範囲)に掲げる発明以外に、添付された明細書に複数の発明が記載されることも少なくないところ、出願公開の際はこうした明細書も一律に公開されることを踏まえると、特許庁が行う第一次審査においては、特許を受けようとする発明だけでなく、明細書から把握される発明について、あらかじめ定める技術分野に該当するものがないかを確認する必要がある。

イ 第二次審査

 第二次審査を行う機関については、諸外国では国防機関が担うこととしている国もあるが、我が国では、前記2(2)のとおり、産業への影響も踏まえた総合考慮を要することを踏まえ、例えば内閣府に新たな制度の所管部署を設置し、防衛省や特許庁その他関係省庁がこれに協力する形で審査を行う仕組みを構築することが考えられる。

 第二次審査に当たっては、最先端技術の評価など、政府機関の知見だけでは不十分な場合も想定されるため、必要に応じて外部の専門家の助力を得ることができる枠組みとする必要がある。その際、当該専門家には公務員と同様の守秘義務を課すべきである。

 また、第二次審査により、非公開の対象とすべきではないと判断した場合には、速やかに出願人に通知し、外国出願制限を解除するとともに、通常の特許手続に戻すべきである。

 なお、第二次審査の判断については、安全保障に関わる機微な判断が含まれることから、一般的な行政処分の手続に従って処分理由が開示される制度とならないよう留意する必要がある。

ウ 審査体制の整備

 二段階審査の仕組みを機能させるためには、人員やシステムの整備が不可欠であり、そのための費用が通常の特許の手数料に転嫁されないよう、手当する必要がある。また、こうした体制整備は時間を要するものであることから、新制度の施行時期は、システム整備等に要する期間を考慮して決める必要がある。

③ 保全指定前の意思確認

 第二次審査において、発明情報の保全を決定するに当たっては、諸外国の制度のように、国が一方的に保全命令を発するという形も考えられるが、そのような方法は、出願人にとって処分の予見性が低く、産業界への影響が大きい。加えて、元々特許出願をしなければ利用も開示も自由であった発明が、決定後は後述のとおり、利用制限、開示禁止等の制約を受け、制度からの離脱も認められなくなる。これらの点を踏まえると、保全を決定する前に出願人に意思確認を行い、出願手続からの離脱の機会を設ける枠組みを採り入れることも検討するべきである。

④ 予見可能性の確保

 出願人にとっては、自己の出願が保全の対象とされることへの予見可能性が確保されることが重要である。

 他方で、政府の判断基準を細かく示すことは、それ自体が安全保障に悪影響を及ぼしかねないことに留意するべきである。

 このため、第二次審査の対象となる技術分野を明示した上で、個別の審査の過程で出願人とコミュニケーションを取りながら審査を進め、出願手続からの離脱の機会を設けるなど、予見可能性を確保するべきである。

⑤ その他留意事項

 前記②アのとおり、特許出願の提出書類に複数の発明が記載される場合も少なくないところ、その一部のみが高度の機微性を有すると判断される場合には、特許出願自体は全体として非公開としつつ、出願人の負担や産業界への影響を必要最小限にするため、保全の対象は当該機微な発明に限定するべきである。

 その上で、保全の対象とならなかった発明については、これを切り分けて分割出願することにより、その限度で通常どおり特許を受けられる道を残すべきである。

 なお、保全期間中は通常の特許手続が中断するというのが審査凍結型であるが、出願人の中には、保全措置が解除されたときに速やかに特許権を取得して権利行使したいと考える者もいると想定されるため、通常の特許手続を完全に中断するのではなく、保全期間中に審査請求をして査定の手前まで手続を進めるという選択肢も残すべきである。

(4)対象発明の選定後の手続と情報保全措置

① 情報保全の期間

 保全期間の上限を設けることは適切でないが、例えば1年ごとにレビューし、必要がなくなれば直ちに保全措置を終了させる枠組みとするべきである。

② 漏えい防止のための措置

 保全の対象となった発明については、出願人等による発明の実施を制限する必要がある。

 ただし、発明の実施については、一律の禁止ではなく、製品から発明内容を解析されてしまうなど情報拡散のおそれのある実施のみ禁止し、それ以外の場合は実施が許可される枠組みとするべきである。

 保全措置がとられている間は、外国出願は、二国間協定等がある場合を除き、禁止するべきである。

 発明内容の他者への開示は原則禁止とするものの、業務上の正当な理由がある場合には開示が許可される枠組みとするべきである。

 保全措置の決定後は、特許出願の取下げ等による保全措置からの離脱を認めることは適当でない。

③ 情報の適正管理措置

 保全の対象となった発明の情報は、出願人において営業秘密として厳格に管理するなど、適正な管理措置を講じる枠組みとするべきである。

④ 実効性の確保

 情報保全措置の実効性を確保するため、違反行為については罰則を定めるべきである。

(5)外国出願の制限

① 第一国出願義務の在り方

 安全保障上極めて機微な発明の流出を防止する制度を設けながら外国出願を自由とすることは適切でないため、第二次審査の対象となる発明については、何人も、外国に出願する前にまず我が国に出願しなければならないこととする我が国への第一国出願義務を定める必要がある。

 その範囲は、経済活動等への影響も考慮し、十分に限定された範囲とするべきである。

 また、特許出願の実務を踏まえ、第一国出願義務が掛かる発明は、発明地主義によるべきである。

 第一国出願義務に実効性を持たせるため、違反行為については罰則を定めるべきである。

 我が国で最初に特許出願をした場合、パリ条約により、当該出願から12か月以内に外国で出願をすれば、最初の特許出願の日を基準とする優先権を主張できることとされていることから、外国出願の禁止は、その優先権が失われる前、具体的には最大でも我が国での特許出願後10か月で解除されるべきである。

 なお、企業の実務上、12か月以内に外国で出願をするには、国内出願後概ね6か月程度で明細書の翻訳等を発注しなければならないことから、その時点で第二次審査の結論が出ていない場合、最終的に保全措置の対象となれば、外国出願が実現せず費用のロスを生ずることになる。こうしたロスが頻繁に生ずることのないようにするためにも、手続の迅速化や対象件数の絞り込みに留意するべきである。

② 第一国出願義務に関する相談制度

 我が国で出願せずに初めから外国出願しようとする場合もあり得るところ、そのような者が、第一国出願義務に抵触するリスクを冒さなくても済むように、第一国出願義務の対象に当たるかどうかを事前に国に相談できる枠組みを設けるべきである。

(6)補償の在り方

 国として出願人等に実施制限等の制約を課す以上、その代償として損失補償をする枠組みを設けるべきである。

 前回でも書いたが、要するに、この新秘密特許制度の骨子は、対象となる技術分野を明示した上で、特許庁がその技術分野に該当するかどうかの第一次審査を行い、新設の審査部署が関係省庁と協力して秘密として指定するかどうかの第二次審査を行い、この第二次審査の結果、秘密指定をされたら補償を受ける事はできるが、出願人には厳格な管理が求められ、義務に違反して公開や外国出願をした時の罰則まであるというものであり、かなり大掛かりかつ厳しいものになる事が想定されるのである。

 上で書いた通り、この提言はその前の骨子をほぼなぞっただけの薄い内容のものだが、骨子と比べて僅かながら加えられた情報を強いて抜き出すなら、第49~51ページに書かれている以下の点となるだろう。

  • 「特許庁による第一次審査は短時間で遂げられるべきであり、通常の特許手続における分類等の作業を念頭に置くと、概ね特許出願日から3か月程度で第一次審査を終えるようにするべき」
  • 「第二次審査により、非公開の対象とすべきではないと判断した場合には、速やかに出願人に通知し、外国出願制限を解除するとともに、通常の特許手続に戻すべき」
  • 「第二次審査の判断については、安全保障に関わる機微な判断が含まれることから、一般的な行政処分の手続に従って処分理由が開示される制度とならないよう留意する必要がある」
  • 「その一部のみが高度の機微性を有すると判断される場合には、特許出願自体は全体として非公開としつつ、出願人の負担や産業界への影響を必要最小限にするため、保全の対象は当該機微な発明に限定するべき」、「保全の対象とならなかった発明については、これを切り分けて分割出願することにより、その限度で通常どおり特許を受けられる道を残すべき」
  • 「通常の特許手続を完全に中断するのではなく、保全期間中に審査請求をして査定の手前まで手続を進めるという選択肢も残すべき」

 これらの点だけでも、特許庁による第一次審査が「概ね特許出願日から3か月程度」と言っても、程度というのがどの程度の期間まであり得るのか、この第一次審査の結果は何らかの通知によって分かるのか、また、新設の審査部署による第二次審査で「非公開の対象とすべきではないと判断した場合には、速やかに出願人に通知」と言っても、対象とするという判断がされた場合はどうなるのか、「一般的な行政処分の手続に従って処分理由が開示される制度とならない」とすると、出願人本人にとってすら特許出願を秘密とする行政処分の理由が分からず、理由に基づき不服を申し立てる事すらできなくなりかねないが、本当にその様な不適切としか思えない制度を作ろうとしているのか、保全対象となった出願や分割された後の出願の特許審査は具体的にどの様に進められるのか、どの様な制度設計を考えているのか、良く分からない点が多い。

 大体、骨子の時もそうだったが、この提言でも、新制度に関する現状と課題や必要性の記載に説得力はあまりない。

 この新秘密特許制度自体が「論文等の研究成果の公表は自由」という前提と矛盾を来しているのだが、この点に対する説明は説明になっていない。研究を特許出願に出さずに論文として公開される事があり得るにも関わらず、特許出願として公開されると途端に国の安全保障が著しく損なわれるというのは理解不能である。論文等による公表については自律的な研究倫理、契約等に委ねるべきというなら、公表手段としてはその内の1つに過ぎない特許出願による公開についても研究倫理、契約等に委ねるべきであって、それ以上でもそれ以下でもないだろう。

 「公になれば我が国の安全保障が著しく損なわれるおそれがある発明」あるいは「我が国の安全保障上極めて機微な発明であって公にするべきではないもの」というものが、今の日本で本当に出願されているのか、出願され得るのかも不明の儘である。

 例として、平成27年に、IAEAの査察で日本のレーザーウラン濃縮技術に関する特許公報やこの特許技術に基づく機器が他国の極秘研究施設で発見されたという報道があったと書かれているが、レーザーウラン濃縮技術自体はウラン濃縮のWikipedia英語版)に書かれているほど一般的なもので、この分野で日本の研究者が核兵器の容易な製造に直結するほど画期的な技術を開発したという話は聞かない。原子力技術の利用を考えるなら、どこの国であれ、研究者は可能な限り多くの公開情報を集めて試験や実験をするだろうし、この報道の話は、他の数多くの論文などの中に1つ日本の特許公報もあったというだけで、その特許技術自体は別に秘密とするほどのものではなかったのではないかと私には思える。(逆に、それほど画期的な技術を日本の研究者がおそらく国の研究予算を使って実現していたとしたら、なぜその様な技術を特許出願に出したのかという事から問題にするべきだろう。)

 政府の会議の提言として、この程度の報道についてその儘書くしかなく、他に大した例もなく、その例すらきちんと分析されているかどうか怪しいというのでは、新秘密特許制度の必要性からしてそもそも大いに疑問であると言わざるを得ない。もしかしたら、政府内ではより詳細に分析がされているのかも知れないが、技術情報に対して本当にこの提言レベルでしか情報分析力がないとすると、新制度が実際に導入された場合に、「我が国の安全保障上極めて機微な発明」に関する判断がまともにできるのか、非常に危ういとすら私には思える。

 諸外国の事も書かれているが、当たり前の話として、制度が存在する事はその制度自体を正当化しない。他の国についても、それぞれ秘密特許制度はどれほど利用されているのか、どれくらい本当に安全保障上役に立っているのかを見るべきだろう。秘密指定がされると特許が秘密になってしまうので調べるのが難しい事は確かだが、他の国でも批判はあるだろうし、かなり前に導入している国も多く、インターネットが発達し、情報流通手段が多様化している現在において、どの国であれ秘密特許制度の意義は今一度見直されなくてはならない筈である。

 他は、大体前回でも書いた通りだが、対象となるシングルユース技術のうち、「我が国の安全保障上極めて機微な発明」とは何か、デュアルユース技術について、どの様に技術分野を絞るのか、国の委託事業の成果を全て秘密にできたり、防衛等として一般的な関連技術まで広く秘密指定ができたり、出願人が希望したら特許出願を秘密にできたりする様な乱暴な制度は出願の公開を原則とする特許制度の根幹を揺るがすものとなりかねないが、どうなるのか、違反に対する罰則まで設ける事が果たして妥当か、事前相談はどこまでできるのか、場合によって10か月も外国に出願できるかどうか分からない状態が続くのは非常に辛いが、どう対処したらいいのか、新設の審査部署はどの様に第二次審査をするのか、補償金の額をどの様にして決めるのかなど、本質的な疑問や懸念に関する点で新たに明らかになった事はほぼない。

 政府は2月下旬にも法案を国会に提出する予定との報道もあったが、この提言を見ても、かなり拙速に準備が進められている様であり、さらに時間を掛けて検討すべき点はなお多いと私には思える。

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2022年1月23日 (日)

第451回:新秘密特許制度に関する政府有識者会議の提言骨子

 今回も秘密特許制度検討の話の続きである。

 1月19日の経済安全保障法制に関する有識者会議で、1月11日の第2回特許非公開に関する検討会合の検討資料(pdf)議事要旨(pdf)議事のポイント(pdf)とともに、以下の内容の特許出願の非公開化に関する提言骨子(pdf)が公表された。

1 政策対応の基本的な考え方
(1)新しい制度の必要性
(a)特許出願のうち、我が国の安全保障上極めて機微な発明であって公にするべきではないものについて、そうした状況が解消するまでの間、出願公開の手続を留保するとともに、機微な発明の流出を防ぐための措置を講ずる制度を整備する必要がある。
(b)非公開の決定をした発明については、諸外国の制度のように、出願人等に情報保全を求め、発明の実施制限等を行う枠組みが必要である。
(c)さらに、このような制度を設ける以上、非公開の審査対象となる発明について我が国への第一国出願義務を定めることが必要である。

(2)対象発明を選定する際の視点
非公開の対象となる発明の選定に当たっては、公になれば我が国の安全保障が著しく損なわれるおそれがある発明に限定することに加え、経済活動やイノベーションに及ぼす影響を十分考慮するべきである。

2 新しい立法措置の基本的な枠組み
(1)非公開の対象となる発明
① 審査対象となる技術分野
審査対象となる技術分野は、先端技術が日進月歩で変わるものであることに鑑み、変化に応じて機動的に定められる枠組みとするべきである。

② 具体的な対象発明のイメージ
(a)非公開の対象となる発明については、核兵器の開発につながる技術及び武器のみに用いられるシングルユース技術のうち我が国の安全保障上極めて機微な発明を基本として選定するべきである。これらの技術は、機微性が比較的明確であることに加え、開発者自身が機微性を認識し、情報管理を徹底しているのが通常であり、かつ、一般市場に製品が広く出回るような性質のものでもないと考えられる。
(b)他方、デュアルユース技術については、これらの技術を広く対象とした場合、我が国の産業界の経済活動や当該技術の研究開発を阻害し、かえって我が国の経済力や技術的優位性を損ないかねないおそれがある。このため、国費による委託事業の成果である技術や、防衛等の用途で開発された技術、あるいは出願人自身が了解している場合などを念頭に、支障が少ないケースに限定するべきである。
(c)制度開始当初は審査対象となる技術分野を限定したスモールスタートとし、その後の運用状況等を見極めながら、審査対象となる技術分野の在り方を検討することが適当である。

(2)発明の選定プロセス
① 二段階審査制
全出願について逐一本格的な審査を行うことは、経済活動等への影響に鑑みれば現実的でなく効率的でもないことから、特許庁において技術分野等により件数を絞り込んだ上で、専門的な審査部門が本審査を行う二段階審査制とするべきである。

② 審査体制
ア 第一次審査
特許庁による第一次審査は、非公開の審査対象となる技術分野に該当するか否かといった点を中心に、定型的な審査を、パリ条約による優先権を用いた外国出願の準備が開始できるように、短期間で行うことが考えられる。

イ 第二次審査
(a)新たな制度の所管部署を設置し、防衛省や特許庁その他関係省庁が協力する形で審査を行う枠組みを構築することが考えられる。
(b)審査に当たっては、最先端技術の評価など、政府機関の知見だけでは不十分な場合も想定されるため、必要に応じて外部の専門家の助力を得ることができる枠組みとする必要がある。その際、当該専門家には公務員と同様の守秘義務を課すべきである。

ウ 審査体制の整備
二段階審査の仕組みを機能させるためには、人員やシステムの整備が不可欠であり、そのための費用が通常の特許の手数料に転嫁されないよう、しっかりと手当する必要がある。

③ 保全指定前の意思確認
保全の対象として指定する前に出願人に意思確認を行い、出願手続からの離脱の機会を設ける枠組みを採り入れることも検討するべきである。

④ 予見可能性の確保
(a)出願人にとっては、自己の出願が保全の対象とされることへの予見可能性が確保されることが重要である。
(b)他方で、政府の判断基準を細かく示すことは、それ自体が安全保障に悪影響を及ぼしかねないことに留意するべきである。
(c)このため、審査対象となる技術分野を明示した上で、個別の審査の過程で出願人とコミュニケーションを取りながら審査を進め、出願手続からの離脱の機会を設けるなど、予見可能性を確保するべきである。

(3)対象発明の選定後の手続と情報保全措置
① 情報保全の期間
保全期間の上限を設けることは適切でないが、例えば1年ごとにレビューし、必要がなくなれば直ちに保全措置を終了させる枠組みとするべきである。

② 漏えい防止のための措置
(a)保全指定の対象となった発明については、出願人等による発明の実施を制限する必要がある。
(b)ただし、発明の実施については、一律の禁止ではなく、製品から発明内容を解析されてしまうなど情報拡散のおそれのある実施のみ禁止しそれ以外の場合は実施が許可される枠組みとするべきである。
(c)保全措置がとられている間は、外国出願は、二国間協定等がある場合を除き、禁止するべきである。
(d)発明内容の他者への開示は原則禁止とするものの、業務上の正当な理由がある場合には開示が許可される枠組みとするべきである。
(e)保全指定が行われた後は、出願人に対し、特許出願の取下げ等による出願手続からの離脱を認めることは適当でない

③ 情報の適正管理措置
保全指定の対象となった発明の情報は、出願人において営業秘密として厳格に管理するなど、適正な管理措置を講じる枠組みとするべきである。

④ 実効性の確保
情報保全措置の実効性を確保するため、違反行為については罰則を定めるべきである。

(4)外国出願の制限
① 第一国出願義務の在り方
(a)安全保障上極めて機微な発明の流出を防止する制度を設けながら外国出願を自由としたのでは意味がないことから、非公開の審査対象となる発明については我が国への第一国出願義務を定める必要がある。
(b)その範囲は、経済活動等への影響も考慮し、十分に限定された範囲とすることが適当である。
(c)第一国出願義務に実効性を持たせるため、違反行為については罰則を定めるべきである。
(d)パリ条約による優先権(12か月)が失われないよう、外国出願の禁止は、我が国での特許出願後最大10か月で解除されるべきである。

② 第一国出願義務に関する事前相談制度
初めから外国に出願したい者のために、第一国出願義務の対象に当たるかどうかを事前に国に相談できる枠組みを設けるべきである。

(5)補償の在り方
国として出願人等に実施制限等の制約を課す以上、その代償として損失補償をする枠組みを設けるべきである。

 この骨子の線が引かれている箇所を中心にポイントをさらにまとめると以下の様になるだろう。

  • 非公開の対象となる発明について:
    「核兵器の開発につながる技術及び武器のみに用いられるシングルユース技術のうち我が国の安全保障上極めて機微な発明を基本として選定するべき」
    「デュアルユース技術については・・・国費による委託事業の成果である技術や、防衛等の用途で開発された技術、あるいは出願人自身が了解している場合などを念頭に、支障が少ないケースに限定するべき」

  • 発明の選定プロセスについて:
    「特許庁による第一次審査は、非公開の審査対象となる技術分野に該当するか否かといった点を中心に、定型的な審査を、パリ条約による優先権を用いた外国出願の準備が開始できるように、短期間で行う」
    (第二次審査のため)「新たな制度の所管部署を設置し、防衛省や特許庁その他関係省庁が協力する形で審査を行う枠組みを構築する」
    「審査対象となる技術分野を明示した上で、個別の審査の過程で出願人とコミュニケーションを取りながら審査を進め、出願手続からの離脱の機会を設けるなど、予見可能性を確保するべき」

  • 対象発明の選定後の手続と情報保全措置について:
    「例えば1年ごとにレビューし、必要がなくなれば直ちに保全措置を終了させる枠組みとするべき」
    「保全指定の対象となった発明の情報は、出願人において営業秘密として厳格に管理するなど、適正な管理措置を講じる枠組みとするべき」
    「違反行為については罰則を定めるべき」

  • 外国出願の制限について:
    「非公開の審査対象となる発明については我が国への第一国出願義務を定める必要がある」、「違反行為については罰則を定めるべき」
    「パリ条約による優先権(12か月)が失われないよう、外国出願の禁止は、我が国での特許出願後最大10か月で解除されるべき」
    「初めから外国に出願したい者のために、第一国出願義務の対象に当たるかどうかを事前に国に相談できる枠組みを設けるべき」

  • 補償の在り方について:
    「その代償として損失補償をする枠組みを設けるべき」

 これによると、この新秘密特許制度の骨子は、対象となる技術分野を明示した上で、特許庁がその技術分野に該当するかどうかの第一次審査を行い、新設の審査部署が関係省庁と協力して秘密として指定するかどうかの第二次審査を行い、この第二次審査の結果、秘密指定をされたら補償を受ける事はできるが、出願人には厳格な管理が求められ、義務に違反して公開や外国出願をした時の罰則まであるというものであり、かなり大掛かりかつ厳しいものになる事が想定される。

 この骨子でも、出願人から見た時の予見可能性の確保の点で、技術分野の限定と明示、事前相談や出願手続からの離脱の機会などについて書かれている事について一定の評価はできる。

 しかし、ある技術について特許出願さえしなければ自ら公開する事に何ら問題はない中で、違反に対する罰則まで設ける事が果たして妥当か甚だ疑問である。特許庁による第一次審査の結果はいつどの様にして分かるのか、事前相談はどこまでできるのか、外国出願の禁止は最大10か月で解除されるとされているが、パリ条約による優先権が12か月である事を考えると、10か月も外国に出願できるかどうか分からない状態が続くのは非常に辛い。

 また、技術分野の限定と明示はこの新秘密特許制度の肝と言ってもいい部分だろうが、対象となるシングルユース技術のうち、「我が国の安全保障上極めて機微な発明」とは何か、果たして今の日本でその様なものが特許出願される事があり得るのかは良く考える必要があるだろう。

 デュアルユース技術についても、支障が少ないケースに限定するとは書かれているが、「国費による委託事業の成果である技術や、防衛等の用途で開発された技術、あるいは出願人自身が了解している場合など」とは非常に漠然としていて広汎に過ぎる。国の委託事業の成果を全て秘密にできたり、防衛等として一般的な関連技術まで広く秘密指定ができたり、出願人が希望したら特許出願を秘密にできたりする制度は極めて乱暴なものであって、出願の公開を原則とする特許制度の根幹を揺るがすものとなりかねない。ここも、本当にどの様なケースで本当に秘密指定が必要なのか、より具体的に検討がされなくてはならない点である。

 新設の審査部署はどの様に第二次審査をするのか、補償金の額をどの様にして決めるのかといった点もなお不明である。

 政府は2月下旬にも法案を国会に提出する予定との報道もあったが、この骨子を見る限り、さらに丁寧に検討すべき点はまだ多いと私には思える。

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2021年12月29日 (水)

第449回:2021年の終わりに

 今年もあまり取り上げて来なかった話を中心にざっとまとめを書いておきたいと思う。

 まず、文化庁の文化審議会・著作権分科会では、基本政策小委員会で拡大集中ライセンス制度が、法制度小委員会とその下の著作物等のライセンス契約に係る制度の在り方に関するワーキングチームで独占的ライセンスに関する差止請求権付与・対抗制度と裁判手続きの電子化に伴う権利制限への公衆送信等の追加が検討され、国際小委員会も開催されている。

 これらの検討はどれも実務的には重要だが、特に問題がある訳ではないので、ここでは以下内容を簡単に紹介するに留める。

 拡大集中ライセンス制度を含む新しい権利処理の仕組みについては、12月22日の著作権分科会(議事次第・資料参照)で中間まとめ1(pdf)概要(pdf)も参照)が取りまとめられ、「新しい権利処理の仕組みの実現に当たっては、これまでの審議においても意見があったように、法制的課題や国内法制・条約との関係など、詳細な議論が必要(中略)その実現に向けての法制的課題を、引き続き議論すべき」と引き続き検討とされた。

 同じく国際小委員会の検討に対応する中間まとめ2(pdf)もあるが、コンテンツの海外展開に関する現状のまとめだけで法改正に関する事項は含まれていない。

 法制度小委員会の検討については、12月26日まで意見募集がされていた独占的ライセンスの対抗制度及び独占的ライセンシーに対し差止請求権を付与する制度の導入に関する報告書(案)民事訴訟法の改正に伴う著作権制度に関する論点整理(案)とがある(文化庁のHP、電子政府のHP1参照)。前者は「登録対抗制度」により「独占的ライセンスの対抗制度及び独占的ライセンシーに対し差止請求権を付与する制度を導入することが適当」とするもの、後者は「著作権法第42条について、今般の民事裁判手続のオンライン化に対応するため、公衆送信等についても権利制限の対象とすることが必要」とするもので、特に問題はなく、賛同できる内容である。

 次に、特許庁の産業構造審議会・知的財産分科会では、6月28日に知的財産分科会が開催され(議事次第・資料参照)、財政点検小委員会が3回開催されているが、いつも法改正検討をしている各小委員会は開かれていない。

 ワーキンググループとして、唯一、特許制度小委員会の下の審査基準専門委員会ワーキンググループが12月15日に開催され(議事次第・資料参照)、特許の実務にそれなりに大きな影響がある話として、マルチマルチクレーム制限について(pdf)で書かれている通り、「マルチクレーム(2以上のクレームを択一的に引用するクレーム)が、他のマルチクレームの基礎となることを制限する」規則改正が提案されて了承されている。制度ユーザにしか関係しないのでここで詳しい説明はしないが、この規則改正については、1月21日〆切で意見募集も掛かっている(特許庁のHP1、電子政府のHP2参照)。

 なお、実務的な細かな話なので説明を省略するが、特許庁からは、料金値上げに関する政令の公布や(特許庁のHP2HP3参照)、その他細かな意見募集などもされている(特許庁のHP4参照)。

 産業構造審議会・知的財産分科会の不正競争防止小委員会は、12月9日に久しぶりの会合が開催されている(議事次第・資料参照)。その検討事項について(pdf)という資料によると、制度検討としては、「立証負担の軽減手法」、「損害賠償額算定規定の見直し」、「ライセンシー保護制度」、「国際裁判管轄・準拠法」といった論点について議論した上で、3月に中間整理報告書案をまとめるつもりらしいが、既存の他の知財法の検討結果を取り入れるだけならまだしも、これらの多様な論点について、3月までに報告書案を取りまとめられるのかは良く分からない。

 総務省では、インターネット上の海賊版サイトへのアクセス抑止方策に関する検討会が、これも久しぶりに、11月29日に開催されている(議事次第・資料参照)。今の所、初回のヒアリングが終わっただけで、今までの方針を踏襲して地道な取り組みをして行くのではないかと思えるが、来年5~6月頃までの検討について少し注視しておいてもいい様に思う。

 農水省では、4月30日に農林水産省知的財産戦略2025(pdf)がまとめられ、例年通り、農業資材審議会・種苗分科会で重要な形質の指定に関する諮問がされるなどしているが(12月9日の議事次第・資料参照)、特に新しい法改正の検討がされている様子はない。

 知財本部では、プラットフォームにおけるデータ取扱いルールの実装に関する検討会(これは新しくできたデジタル庁のサブワーキンググループになったらしい)と知財投資・活用戦略の有効な開示及びガバナンスに関する検討会が開催されていて、それぞれ、害はないと思うが、わざわざ作る意味がどこにあるのか良く分からないガイドラインの検討を続けている。読む価値はあまりないと思うが、前者に対応するガイドライン案について意見募集がされていたという事があり(電子政府のHP3参照)、後者に対応するガイドラインが今現在パブコメに掛かっている状況である(電子政府のHP4参照)。

 私の見た所、各省庁での検討は以上の通りだが、今までとは少し毛色の違った話として、秘密特許制度の検討がある。これは11月19日に第1回が開催された大臣を構成員とする経済安全保障推進会議の後、内閣官房の経済安全保障法制に関する有識者会議で11月26日から検討が始まったと見えるものである。

 そして、つい昨日、12月28日の第2回経済安全保障法制に関する有識者会議の資料として、12月6日に開かれていた第1回の特許非公開に関する検討会合の資料(pdf)議事要旨(pdf)議事のポイント(pdf)が公表された。

 これらの資料には、

論点①:制度新設の必要性・どのような制度の枠組みとすべきか
論点②:対象にすべき発明のイメージ
論点③:機微発明の選定プロセスの在り方
論点④:機微発明の選定後の手続と漏えい防止措置
論点⑤:外国出願制限の在り方
論点⑥:補償の在り方

という6つの論点が書かれていて、具体的な制度設計はなお不明だが、報道されていた通り、政府が安全保障上重要だと判断した場合に特許を非公開として、公開すれば得られたはずの特許収入を補償金という形で国が拠出する制度を検討している様である。

 外国の制度の形をどうにか真似て日本でも何かしらの秘密特許制度を導入できなくもないだろうが、誰がどの様にある特許を安全保障上重要だと判断するのか、今の日本で果たしてその様な事ができるのか相当疑問であり、よほど注意して制度を作らないと、特許制度全体の予見可能性・安定性を損ない、かえって真に必要な先端技術の国際的な保護ができなくなる懸念もある。

 今の日本の特許制度の考え方からするとかなり異質な制度を導入しようとしていると見えるこの秘密特許制度の検討が、来年の知財政策検討の中で最大の焦点となるのだろう。

 今年もこれで最後になるが、政官業に巣食う全ての利権屋に悪い年を、このブログを読んで下さっている方々に心からの感謝を。

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2019年12月29日 (日)

第418回:2019年の終わりに(文化庁第2回検討会のダウンロード違法化・犯罪化対象範囲拡大条文案他)

 もう年末年始に入り、今年も政策に絡むイベントは一通り終わったと思うので、文化庁のダウンロード違法化・犯罪化対象範囲拡大検討会の第2回資料に加えて、あまり触れて来なかった著作権以外の知財政策動向についてまとめて書いておきたいと思う。

 今年の知財政策における最大の論点はダウンロード違法化・犯罪化の対象範囲拡大の検討だろうが、文化庁は、11月27日に第1回の侵害コンテンツのダウンロード違法化の制度設計等に関する検討会を開催した後、12月18日に第2回を開催し(議事次第・資料参照)、次の第3回を年明け早々1月7日に開催するとしており(開催案内参照)、異常なハイペースで検討を進めようとしている。

 第1回の資料について前回書いた通りで、追加で多く書く事もないのだが、第2回の資料1(pdf)では、以下の様な、写り込みの権利制限の拡充と合わせて対象から軽微なものを除く条文案が示されている。(以下では、資料から条文案だけを抜き出し、順序を条文順に改めた。)

(私的使用のための複製)
第三十条 著作権の目的となつている著作物(以下この款において単に「著作物」という。)は、個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること(以下「私的使用」という。)を目的とするときは、次に掲げる場合を除き、その使用する者が複製することができる。
(略)
 著作権を侵害する自動公衆送信(国外で行われる自動公衆送信であつて、国内で行われたとしたならば著作権の侵害となるべきものを含む。次号において同じ。)を受信して行うデジタル方式の録音又は録画(以下この号及び次項において「特定侵害録音録画」という。)を、特定侵害録音録画であることを知りながら行う場合
 著作権を侵害する自動公衆送信を受信して行うデジタル方式の複製(録音及び録画を除く。以下この号において同じ。)(その著作物のうちその複製に供される部分の占める割合、その複製に供される際の表示の精度その他の要素に照らし軽微なものを除く。以下この号及び次項において「特定侵害複製」という。)を、特定侵害複製であることを知りながら行う場合

 前項第三号及び第四号の規定は、特定侵害録音録画又は特定侵害複製であることを重大な過失により知らないで行う場合を含むものと解釈してはならない。

3(略)

(付随対象著作物の利用)
第三十条の二 写真の撮影、録音、録画、放送その他これらと同様に事物の影像又は音を複製し、又は複製を伴うことなく伝達する行為(以下この項において「複製伝達行為」という。)を行うに当たつて、その対象とする事物又は音(以下この項において「複製伝達対象事物等」という。)に付随する事物又は音(複製伝達対象事物等の一部を構成するものとして対象となる事物又は音を含む。以下この項において「付随対象事物等」という。)に係る著作物(複製伝達行為により作成され、又は伝達されるもの(以下この条において「作成伝達物」という。)のうち当該著作物の占める割合、作成伝達物における当該著作物の再製の精度その他の要素に照らし当該作成伝達物における軽微な構成部分となるものに限る。以下この条において「付随対象著作物」という。)は、当該複製伝達行為が営利を目的とするものであるか否かの別、当該付随対象事物等の当該複製伝達対象事物等からの分離の困難性の程度、当該作成伝達物の性質と当該付随対象著作物との関連性の程度その他の要素に照らし正当な範囲内において、当該複製伝達行為に伴つて、いずれの方法によるかを問わず、利用することができる。ただし、当該付随対象著作物の種類及び用途並びに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。

 前項の規定により利用された付随対象著作物は、当該付随対象著作物に係る作成伝達物の利用に伴つて、いずれの方法によるかを問わず、利用することができる。ただし、当該付随対象著作物の種類及び用途並びに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りではない。

第百十九条(略)
(略)
 次の各号のいずれかに該当する者は、二年以下の懲役若しくは二百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
 第三十条第一項に定める私的使用の目的をもつて、録音録画有償著作物等(録音され、又は録画された著作物又は実演等(著作権又は著作隣接権の目的となつているものに限る。)であつて、有償で公衆に提供され、又は提示されているもの(その提供又は提示が著作権又は著作隣接権を侵害しないものに限る。)をいう。)の著作権を侵害する自動公衆送信又は著作隣接権を侵害する送信可能化に係る自動公衆送信(国外で行われる自動公衆送信であつて、国内で行われたとしたならば著作権の侵害となるべきもの又は著作隣接権の侵害となるべき送信可能化に係るものを含む。)を受信して行うデジタル方式の録音又は録画(以下この号及び次項において「有償著作物等特定侵害録音録画」という。)を、自ら有償著作物等特定侵害録音録画であることを知りながら行つて著作権又は著作隣接権を侵害した者
 第三十条第一項に定める私的使用の目的をもつて、著作物(著作権の目的となつているものに限る。以下この号において同じ。)であつて有償で公衆に提供され、又は提示されているもの(その提供又は提示が著作権を侵害しないものに限る。)の著作権(第二十八条に規定する権利を除く。以下この号及び第五項において同じ。)を侵害する自動公衆送信(国外で行われる自動公衆送信であつて、国内で行われたとしたならば著作権の侵害となるべきものを含む。)を受信して行うデジタル方式の複製(録音及び録画を除く。以下この号において同じ。)(その著作物のうちその複製に供される部分の占める割合、その複製に供される際の表示の精度その他の要素に照らし軽微なものを除く。以下この号及び第五項において「有償著作物等特定侵害複製」という。)を、自ら有償著作物等特定侵害複製であることを知りながら行つて著作権を侵害する行為を継続的に又は反復して行つた者

 前項第一号に規定する者には、有償著作物等特定侵害録音録画を、自ら有償著作物等特定侵害録音録画であることを重大な過失により知らないで行つて著作権又は著作隣接権を侵害した者を含むものと解釈してはならない。

 第三項第二号に規定する者には、有償著作物等特定侵害複製を、自ら有償著作物等特定侵害複製であることを重大な過失により知らないで行つて著作権を侵害する行為を継続的に又は反復して行つた者を含むものと解釈してはならない。

 この様な条文案に加えて、資料2(pdf)で、除外される軽微なものの基準は、その著作物全体の分量から見てダウンロードされる分量がごく小部分である場合や、それ自体では鑑賞に堪えないような粗い画像をダウンロードした場合などであるとしている。

 この様な条文案と基準によれば、文化庁が資料3(pdf)で示している通り、スクリーンショットで違法画像が付随的に入り込む場合や、ストーリー漫画の数コマ、論文の数行、粗いサムネイル画像のダウンロードの場合といった僅かな場合は除かれるだろうが、利用者が通常するであろうほとんどあらゆる場合のカジュアルなスクリーンショット、ダウンロード、デジタルでの保存行為が違法・犯罪となる可能性が出て来、意味不明の萎縮が発生するだろう事に変わりはないのであって、文化庁は国民の声・懸念に対し何ら聞く耳を持っていないとしか私には思えない。(ここで常々書いている通り、同じく問題のある現行の映像音楽に関するダウンロード違法化・犯罪化も本来なされるべきでなかったものであると私は考えている。)

 この資料では、さらに「二次創作作品・パロディなどのダウンロードを対象から除外」する場合として、国会提出を断念した条分案の刑事の第119条からだけでなく、民事の第30条についても「第二十八条に規定する権利を除く」という文言を追加する案も出されているが、これも同断であって、第28条に規定される2次著作物の利用に関する原著作者の権利が除外されるに過ぎず、2次創作・パロディのダウンロードが全て対象外となるものではない事は、文化庁が同じく資料3(pdf)で書いている通りである。

 第2回検討会での議論についての弁護士ドットコムの記事などを見ても、文化庁は、この案をほぼ既定路線として、著作権者の利益を不当に害することとなる場合をさらに除くかどうかという枝葉末節に議論を押し込め(追加すればそれなりにましにはなるだろうが、これも問題の本質的な解消には繋がらないものである)、雪辱とばかりに来年の通常国会に向けてダウンロード違法化・犯罪化の対象範囲拡大をごり押しするつもりであると知れるが、前回も書いた通り、本当に国民の声を丁寧に聞くというなら、この様な非常に危険かつ拙速な検討を中止して条文案から対応部分を削除するのみならず、録音録画についての現在のダウンロード違法化・犯罪化そのものの効果を検証し、その廃止・撤廃を速やかに検討するべきと私は思っているが、文化庁にそうする気が全く見られないのは日本の国益と文化にとって極めて不幸な事である。

 また、リーチサイト規制についても、運営行為に対する刑事罰を非親告罪から親告罪に変更すること以外は国会提出断念版の条文案のままにするとしている。これについても、親告罪とする事が一定の歯止めにはなるとは思うが、文化庁が、「公衆を侵害著作物等に殊更に誘導するものであると認められるウェブサイト等」、「主として公衆による侵害著作物等の利用のために用いられるものであると認められるウェブサイト等」といった条文案の定義から、海賊版対策とは無関係のものとして、パブコメで懸念するものの例としてあげられた、引用要件違反のまとめサイト、剽窃論文、ライセンス違反のスライド、GPL違反のソフトウェア、ツイッターの違法アイコン等へのリンク集及びこのリンク集におけるリンクは規制の対象外となるとしているが、これも文化庁の現時点での希望的観測という他なく、これらの例だけを取っても、通常リンク先が剽窃やライセンス違反である事を指摘するためにそう明記して作られるものが多いだろうし、定義から除外されると完全に言えるかどうか疑問である。第414回に載せた提出パブコメの通り、今後の定義の拡大の恐れもあり、脅しや嫌がらせが増え、インターネット利用のリスクが無意味に高まるのではないかと私はやはり懸念している。

 以下、その他の知財法を巡る動きについて書いて行く。

 特許法については、今年の特許法等の改正の後、特許庁で、産業構造審議会・知的財産分科会特許小委員会が開催され、二段階訴訟の話などが検討されているが、次の法改正がどうなるかという意味では特に方針が出ている訳ではない。また、法改正とは関係ないが、審査基準専門委員会ワーキンググループで、進歩性の審査の進め方に関する参考資料の作成の話がされている。

 商標法については、商標制度小委員会で、店舗の外観・内装の商標制度による保護の話が検討され、商標審査基準ワーキンググループでそのための商標審査基準の改訂が検討され、対応する商標法施行規則改正案と商標審査基準の改訂案について1月20日〆切でそれぞれパブリックコメントにかかっている(特許庁HPの意見募集1意見募集2参照)

 意匠法については、意匠審査基準ワーキンググループで、法改正を受けた意匠審査基準の改訂が検討され、その改訂案が1月9日〆切でパブリックコメントにかかっている(特許庁HPの意見募集3参照)。

 農水省では、種苗法について、優良品種の持続的な利用を可能とする植物新品種の保護に関する検討会が開催され、海外流出防止のため、登録品種の販売における国内利用限定や栽培地域限定の条件に反する行為への育成者権の行使を可能とする、自家増殖を含め登録品種の増殖は育成者権者の許諾を必要とするといった内容のとりまとめ(pdf)が出され、農業資材審議会・種苗分科会で報告がされている。また、来年はこの様な種苗法の改正案とともに、家畜遺伝資源保護法案も国会に提出される事になるのだろう、和牛遺伝資源の流通管理に関する検討会で、家畜遺伝資源の保護も検討されている。

 知財本部では、また名前を変えたくなったのか、今年は構想委員会なるものが2回開かれている。今の所およそ内容のない話しかしていないが、じきに募集されるだろう次の知財計画パブコメにもまた意見を出すつもりである。

 最後に少しだけ書いておくと、この12月19日に、ウェブサイトを通じた電子書籍の中古販売は著作権者の許諾を必要とする公衆送信であるとする、欧州司法裁判所の判決が出されている(欧州司法裁のリリース(pdf)も参照)。これは、第332回で取り上げたオランダの控訴審判決の続きの話で、欧州で電子書籍中古販売が合法(電子データに対するデジタル消尽あり)とされるのは難しいのではないかと思っていた通りなのだが、こうした国際動向についても時間がある時にまたまとめて書きたいと思っている。

 今年もこれで最後になるが、政官業に巣食う全ての利権屋に悪い年を、このブログを読んで下さっている方々に心からの感謝を。

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2018年4月 8日 (日)

第391回:政府与党の行政指導による著作権ブロッキングという最低最悪のネット検閲へと突き進む日本

 先週毎日新聞の記事で、政府が著作権ブロッキングを要請するということが報道された。この記事は、月内に犯罪対策閣僚会議を開催して決定するということまで具体的に書いており、政府がこのような方針で動いていることは間違いないのだろう。

 既にブロッキングの問題については、heatwave_p2p氏がP2Pとかその辺のお話Rで「滅びゆくのはマンガ文化か、出版社か、それとも表現の自由か」という長文の記事を書かれており、また、弁護士ドットコムがその記事で東大の宍戸教授の批判を取り上げており、そう追加で書くこともないのだが、ここでももう一度その問題点を指摘しておきたい。

 このような動きの背景には無論権利者団体のロビー活動もあるだろうが、海賊版サイトの問題は今に始まった話ではないので、この期に及んで著作権ブロッキングが導入されようとしていることは不合理極まるとしか言いようがない。2016年と2017年の知財計画でもサイトブロッキングに対する言及はあるが(第363回及び第378回参照)、政府として何をどのように検討して今回の方針を採用するに至ったのかは全く不透明である。

 今年2月16日の第3回知的財産戦略本部・検証・評価・企画委員会・コンテンツ分野会合(議事次第参照)で、インターネット上の海賊版対策について議論がされているが、この会合だけ非公開とされ、具体的に何がどう議論されたのかさっぱり分からない。(非公開にしたということはそれだけ政府として議論の内容に疚しいところがあったのだろう。)

 この知財本部の会合は資料だけは見られるが、知財事務局作成の資料1(pdf)の第5ページに

サイトブロッキング導入可能性の検討
・対象サイトへの対策として、代替手段がなく、かつ、適合した手段といえるか
・財産権侵害の特性を考慮した運用体制の在り方
(人格権侵害との差異(判断主体、費用負担))
・どのような制度上の対応が考えられるか
(諸外国においては、42カ国において導入され、著作権法等の規定に基づき、行政命令、または、裁判所命令により運用している(但し、今後、詳細な運用状況の把握が必要))
※なお、次世代知財システム検討委員会報告書(平成28年4月)において、ネットの基本理念と相容れない点、表現の自由との関係、無効化される術があるという実効性の限界のほか、運用体制、名誉棄損・プライバシー侵害など他の法益侵害とのバランスなどが課題として指摘されている。

と書かれ、第7ページに、諸外国におけるサイトブロッキングの運用状況として「2017年9月現在、世界42カ国で導入されている」と一覧表が載せられているが、この表は裁判所の差し止め命令としてのサイトブロッキングと行政機関によるサイトブロッキングをごちゃ混ぜにして、欧州を中心として裁判所によりインターネットサービスプロバイダー(ISP)に対して差し止め命令が出されている国があるからと言って行政機関によるサイトブロッキングまで正当化されるような悪辣な印象操作を含むものになっている。

 同ページにも書かれている、2001年5月22日の情報社会における著作権及び著作隣接権のある観点の調和に関する欧州議会及び理事会指令第2001/29号の第8条第3項は、

Member States shall ensure that rightholders are in a position to apply for an injunction against intermediaries whose services are used by a third party to infringe a copyright or related right.

加盟国は、第三者により著作権又は著作隣接権を侵害するためにそのサービスが使われる仲介者への差し止めを求めることを権利者に可能とすることを確保しなければならない。

という、裁判による仲介者に対する差し止めを可能とするだけのものであって、サイトブロッキングをまるごと合法化するようなものでは全くない。これは、日本でも著作権の間接侵害とプロバイダー責任制限法で対応可能な範囲を規定しているに過ぎない。(日本の間接侵害とプロバイダー責任制限法にも問題はあると思っているが、ここでは直接関係ないのでひとまずおく。)

 この点に関しては同じ会合に出されている文化庁国際課の資料7(pdf)の方が、サイトブロッキングについて、裁判所による差し止め命令を可能としている国があるが、効果について権利者、通信事業者双方から疑念が示されているということを書いているだけましである。

 知財本部の印象操作で使われている42カ国の内28カ国が欧州域内の国だが、これらの国では、実際には、第379回で書いたとおり、全体として見れば、欧州司法裁判所が「パイレートベイ」のようなサイトの提供・管理が著作権侵害であり得ると判断を示しているに留まり、本当に各国で差し止めとしてのサイトブロッキングが認められるかどうかすらまだ分からず、オーストリアではいたちごっこが続きその効果は疑問とせざるを得ない結果に終わっており、ドイツの最高裁は、権利者はISPに対してサイトブロッキングを求める前に、まずサイトを自ら直接提供している者に対して合理的な努力に取り組むべきであり、このようなことに失敗した場合に限り差し止めとしてのサイトブロッキングは考慮され得るという判断を既に示しており、ドイツで実質的に著作権侵害に対する差し止めとしてのサイトブロッキングが認められたケースはないというのが欧州域内における現在の状況である。

 なお、イギリスやフランスでも裁判所からサイトブロッキング命令が出されているのはその通りだが、IPKatのブログ記事やNEXTINPACTのネット記事(フランス語)にも書かれているように、これらも、あくまで公開される裁判の場で各法益の比較衡量の結果著作権侵害に対する差し止め命令として出されているものであり、しかもこれらの国でも具体的な効果が上がっているという話は全く聞かず、その効果はやはり疑問である。(サイトブロッキングをすればそのサイトに対するアクセスが減ること自体は当たり前のことに過ぎない。本当に問題とするべきは海賊版対策としての効果であるが、この点でサイトブロッキングが本当に効果を上げたという話を私は全く聞いたことがない。)

 カナダでも著作権サイトブロッキングの提案があるが、これには表現の自由から見て問題があるとの国連特別報告官の意見が出されている(P2Pとかその辺のお話Rの別記事参照)。

 要するに、世界的に見て、中国のようなイデオロギー・専制国家を別とすれば、日本政府が良く例として持ち出す欧米先進国で、政府与党の不透明な行政指導による著作権ブロッキングを実施している例は皆無である。上の42カ国云々というのは知財本部の今年のパブコメで日本国際映画著作権協会が同様の内容の意見を出していることからも分かるように(知財本部のパブコメ結果法人・団体からの意見(pdf)参照)、アメリカ映画協会(MPA)の主張をほぼそのまま取り入れたものだろうが、本当にこのようなコンテンツ業界ロビーの言うが儘に今の方針で著作権ブロッキングを導入したら日本はまた非民主主義的な国であることを自ら世界に発信して大いに恥を晒すことになるだろう。

 また、上の弁護士ドットコムの記事で東大の宍戸教授が批判している通り、日本国内の法的整理としても、著作権ブロッキングに緊急避難を持ち出すのが無理筋であるのは間違いない。

 児童ポルノブロッキングの際の検討の経緯は、上の2月の知財事務局作成の資料1(pdf)の第9ページに書かれているが、総務省の利用者視点を踏まえたICTサービスに係る諸問題に関する研究会の2010年5月18日の第6回会合で検討されており、その議事要旨(pdf)に以下のように書かれている取りまとめで、児童ポルノブロッキングの著作権ブロッキングへの濫用を戒めている。

<1  法的整理について>
 ブロッキングは、電気通信事業法第4条に規定する通信の秘密を形式的には侵害する行為であるが、ブロッキングは、①児童の権利等を侵害する児童ポルノ画像がアップロードされた状況において、②削除や検挙など他の方法では児童の権利等を十分保護することができず、③その手法及び運用が正当な表現行為を不当に侵害するものでなく、④当該児童ポルノ画像の児童の権利等への侵害が著しい場合には、その違法性は阻却されるものと考えられる。
 ただ、ブロッキングは、通信の秘密や表現の自由への影響が極めて大きいことや、技術的にはあらゆるコンテンツの閲覧を利用者の意思にかかわらず一律防止可能とするものであり、ブロッキングが児童ポルノ以外の違法・有害情報に決して濫用されないようにすべきであると考えられる。
 また、ブロッキングを実施するに当たっては、このほかにも、取り組むべき重要な課題があると考えられる。

<2  リスト作成・管理の在り方>
 アドレスリストにアドレスが掲載されると、インターネット利用者は当該画像等にアクセスすることができなくなる。また、インターネット利用者がインターネットを利用して自己の思想や信条などを表現する場合にも、アドレスリストに掲載されると、その人の表現行為が事実上阻害されることになる。このように、アドレスリストに掲載されるか否かは国民のインターネット利用に直接関係するものであり、アドレスリストは、透明かつ公正な基準によって作成されることが適当であると整理される。
 そして、ブロッキングの実施は、民間事業者による自主的な取組であり、アドレスリストの作成・管理は、「民間主導」による適切な管理体制の下で実施されることが必要である。

<3  技術的課題の検証>
 ブロッキングは我が国において前例のない取組みであり、実施に当たっては、オーバーブロッキングやネットワークへの負荷など、様々な問題が生じるおそれもある。従って、法的・技術的な問題を回避するためには、ブロッキングの手法に関する技術的な検証が必要である。ブロッキングを実施するISP側においては、実証実験や仮運用を行い、表現の自由への影響やネットワークへの負荷等を検証する必要があると思われる。また、実際にインターネットを利用する顧客への対応の在り方についても検討が必要と思われる。

 著作権ブロッキングについては、上の弁護士ドットコムで引用されている、民間側の安心ネットづくり促進協議会の法的問題検討ワーキンググループの当時の報告書(pdf)でも、

著作権侵害との関係では、著作権という財産に対する現在の危難が認められる可能性はあるものの、児童ポルノと同様に当該サイトを閲覧され得る状態に置かれることによって直ちに重大かつ深刻な人格権侵害の蓋然性を生じるとは言い難いこと、補充性との関係でも、基本的に削除(差止め請求)や検挙の可能性があり、削除までの間に生じる損害も損害賠償によって填補可能であること、法益権衡の要件との関係でも財産権であり被害回復の可能性のある著作権を一度インターネット上で流通すれば被害回復が不可能となる児童の権利等と同様に考えることはできないことなどから、本構成を応用することは不可能である。

とされており、上の今年2月の知財本部の会合の森弁護士の資料3(pdf)や木下准教授の資料4(pdf)でも同様の懸念が示されている。

 刑法第37条の緊急避難についても幾つかの学説があるものの、条文上、「現在の危難」「を避けるため、」「やむを得ずにした行為」(補充性)であって、「生じた害が避けようとした害の程度を超えなかった場合」(法益権衡)に成立するものであり、今までの官民の法的整理において、特に補充性と法益権衡の観点から緊急避難としての著作権サイトブロッキングが認められる余地はないのである。そもそも緊急避難かどうかは個々の事案に応じて個別具体的に判断されるべきものであって、犯罪対策閣僚会議のような不透明な政府会議で緊急避難かどうかを決定してブロッキングを要請(この場合の要請はほぼ政府の命令に等しい)するなど論外と言う他ない。(私自身はインターネットコンテンツセーフティ協会による今の児童ポルノブロッキングですら不透明であり、問題があると思っているが。また、毎日新聞の記事によると、ブロッキング要請予定の3つのサイトの内2つは他国で行政指導や捜査当局の摘発を受けたとしているが、日本国内からアクセスすると閲覧できる状況が続いているのでは、どこまでまともに権利行使をしたか良く分からず、残りの1つのサイトに至ってはその言及すらないことからすると権利行使以前にいきなりサイトブロッキングを求めているのではないかという疑念が拭えない。このような状況では、これが欧州域内の話であるとして、訴えたとしても裁判所から差し止めとしてのサイトブロッキング命令すら得られるかどうか怪しいと私は見ている。)

 このように著作権ブロッキングと称して不透明かつ不合理極まるネット検閲を導入することは日本における憲法と民主主義に対する愚弄に他ならない。政府与党としては今月の犯罪対策閣僚会議で著作権ブロッキング要請という名のネット検閲命令を出すつもりのようだが、これは断じて許し難い暴挙である。

 最後に念のため書いておくと、私は決して海賊版サイトを守るべきなどということを言っている訳ではない。海賊版サイトの提供・運営はサーバーの場所に関わらずどこの国であろうが今でも著作権侵害で違法なのは間違いないので、現行法で民事・刑事の両方から地道に速やかに対処するべきであって、それ以上に良い対策はなく、ブロッキングのようなネット検閲にしかならない最低最悪の手段を取るべきではないと思っているだけである。本来であれば表現の自由や通信の秘密に最も気を使うべきコンテンツ業界が政府与党に対するロビーでブロッキングの導入に安易に乗ったことは行く行く自分たち自身の首を締めることにも繋がるだろう。

(2018年4月9日夜の追記:幾つか誤記を直した(「今月の」→「月内に」等)。)

(2018年4月10日夜の追記:1箇所誤記を直した(「とう」→「という」)。)

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