2021年3月21日 (日)

第437回:閣議決定されたプロバイダー責任制限法改正案の条文

 今年の知財関連法改正案として、プロバイダー責任制限法改正案、著作権法改正案、特許法等改正案が閣議決定され、国会に提出されているので、その条文について順番に見ていきたいと思う。

 今回は、まず、私が一番問題が大きいと思っているプロバイダー責任制限法改正案の条文についてである。

 この法改正案の主なポイントは、総務省のHP概要(pdf)にも書かれているように、

  • 発信者の特定に必要となる場合のログイン時情報の開示の可能化
  • 発信者に対して行う意見照会において開示に応じない場合の理由もあわせて照会
  • 新たな裁判・非訟手続きによる開示命令、提供命令及び消去禁止命令の創設

という3点である。

 その条文(法律案(pdf)新旧対照条文(pdf)参照、要綱(pdf)も参照)には、第二条の定義条項において、「特定電気通信役務提供者」を「特定電気通信役務(特定電気通信設備を用いて提供する電気通信役務(中略)を提供する者」にし、「侵害情報」や「発信者情報」もここで定義した上で、「開示関係役務提供者」を「第五条第一項に規定する特定電気通信役務提供者及び同条第二項に規定する関連電気通信役務提供者」とするといったテクニカルな改正も含まれているが、ここでは、ポイントとなる部分である通常の発信者情報開示に関する部分と新しい裁判手続きの部分を取り上げる。

 法改正案の通常の発信者情報についての条文は以下の様なものである。(以下、下線部は追加部分。)

第三章 発信者情報の開示請求等

(発信者情報の開示請求
第四条第五条 特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害されたとする者は、次の各号のいずれにも該当するときに限り、当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者(以下「開示関係役務提供者」という。)に対し、当該開示関係役務提供者当該特定電気通信役務提供者が保有する当該権利の侵害に係る発信者情報(氏名、住所その他の侵害情報の発信者の特定に資する情報であって総務省令で定めるものをいう。以下同じ。)ののうち、特定発信者情報(発信者情報であって専ら侵害関連通信に係るものとして総務省令で定めるものをいう。以下この項及び第十五条第二項において同じ。)以外の発信者情報については第一号及び第二号のいずれにも該当するとき、特定発信者情報については次の各号のいずれにも該当するときは、それぞれその開示を請求することができる。
 侵害情報当該開示の請求に係る侵害情報の流通によって当該開示の請求をする者の権利が侵害されたことが明らかであるとき。
 当該発信者情報が当該開示の請求をする者の損害賠償請求権の行使のために必要である場合その他当該発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるとき。
 次のイからハまでのいずれかに該当するとき。
 当該特定電気通信役務提供者が当該権利の侵害に係る特定発信者情報以外の発信者情報を保有していないと認めるとき。
 当該特定電気通信役務提供者が保有する当該権利の侵害に係る特定発信者情報以外の発信者情報が次に掲げる発信者情報以外の発信者情報であって総務省令で定めるもののみであると認めるとき。
(1)当該開示の請求に係る侵害情報の発信者の氏名及び住所
(2)当該権利の侵害に係る他の開示関係役務提供者を特定するために用いることができる発信者情報
 当該開示の請求をする者がこの項の規定により開示を受けた発信者情報(特定発信者情報を除く。)によっては当該開示の請求に係る侵害情報の発信者を特定することができないと認めるとき。

 開示関係役務提供者は、前項の規定による開示の請求を受けたときは、当該開示の請求に係る侵害情報の発信者と連絡することができない場合その他特別の事情がある場合を除き、開示するかどうかについて当該発信者の意見を聴かなければならない。
 特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害されたとする者は、次の各号のいずれにも該当するときは、当該特定電気通信に係る侵害関連通信の用に供される電気通信設備を用いて電気通信役務を提供した者(当該特定電気通信に係る前項に規定する特定電気通信役務提供者である者を除く。以下この項において「関連電気通信役務提供者」という。)に対し、当該関連電気通信役務提供者が保有する当該侵害関連通信に係る発信者情報の開示を請求することができる。
 当該開示の請求に係る侵害情報の流通によって当該開示の請求をする者の権利が侵害されたことが明らかであるとき。
 当該発信者情報が当該開示の請求をする者の損害賠償請求権の行使のために必要である場合その他当該発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるとき。

 第一項の規定により発信者情報の開示を受けた者は、当該発信者情報をみだりに用いて、不当に当該発信者の名誉又は生活の平穏を害する行為をしてはならない。
 前二項に規定する「侵害関連通信」とは、侵害情報の発信者が当該侵害情報の送信に係る特定電気通信役務を利用し、又はその利用を終了するために行った当該特定電気通信役務に係る識別符号(特定電気通信役務提供者が特定電気通信役務の提供に際して当該特定電気通信役務の提供を受けることができる者を他の者と区別して識別するために用いる文字、番号、記号その他の符号をいう。)その他の符号の電気通信による送信であって、当該侵害情報の発信者を特定するために必要な範囲内であるものとして総務省令で定めるものをいう。

 開示関係役務提供者は、第一項の規定による開示の請求に応じないことにより当該開示の請求をした者に生じた損害については、故意又は重大な過失がある場合でなければ、賠償の責めに任じない。ただし、当該開示関係役務提供者が当該開示の請求に係る侵害情報の発信者である場合は、この限りでない。

(開示関係役務提供者の義務等)
第六条 開示関係役務提供者は、前条第一項又は第二項の規定による開示の請求を受けたときは、当該開示の請求に係る侵害情報の発信者と連絡することができない場合その他特別の事情がある場合を除き、当該開示の請求に応じるかどうかについて当該発信者の意見(当該開示の請求に応じるべきでない旨の意見である場合には、その理由を含む。)を聴かなければならない。

 開示関係役務提供者は、発信者情報開示命令を受けたときは、前項の規定による意見の聴取(当該発信者情報開示命令に係るものに限る。)において前条第一項又は第二項の規定による開示の請求に応じるべきでない旨の意見を述べた当該発信者情報開示命令に係る侵害情報の発信者に対し、遅滞なくその旨を通知しなければならない。ただし、当該発信者に対し通知することが困難であるときは、この限りでない。

 開示関係役務提供者は、第十五条第一項(第二号に係る部分に限る。)の規定による命令を受けた他の開示関係役務提供者から当該命令による発信者情報の提供を受けたときは、当該発信者情報を、その保有する発信者情報(当該提供に係る侵害情報に係るものに限る。)を特定する目的以外に使用してはならない。

 開示関係役務提供者は、前条第一項又は第二項の規定による開示の請求に応じないことにより当該開示の請求をした者に生じた損害については、故意又は重大な過失がある場合でなければ、賠償の責めに任じない。ただし、当該開示関係役務提供者が当該開示の請求に係る侵害情報の発信者である場合は、この限りでない。

(発信者情報の開示を受けた者の義務)
第七条 第五条第一項又は第二項の規定により発信者情報の開示を受けた者は、当該発信者情報をみだりに用いて、不当に当該発信者情報に係る発信者の名誉又は生活の平穏を害する行為をしてはならない。

 条文はややこしいが、特定電気通信役務提供者が通常のアクセスプロバイダー又はコンテンツプロバイダーで、関連電気通信役務提供者がその他ログイン時通信に関係するプロバイダーで、合わせて開示関係役務提供者として、ログイン時情報に相当する特定発信者情報とその他発信者情報に分けて、発信者の特定に必要となる場合のログイン時情報の開示の可能化を規定しようとするとこうなるだろうというものである。

 総務省令で特定発信者情報がどの様に規定されるのかが少し気に掛かるが、基本的にその他の発信者情報を有していない場合にのみ特定発信者情報を開示するという条文構成になっているので、この部分について大きな問題はないと思える。開示に応じない場合の理由もあわせて発信者に照会するという事も悪い事ではない。(上の条文は煩雑に過ぎ、今でも私は法改正ではなく解釈・運用と総務省令改正による対応で十分ではなかったかと思っているが。)

 次に、長くなるので途中を少し省略するが、発信者情報開示命令事件に関する裁判手続についての条文は以下の様になっている。

第四章 発信者情報開示命令事件に関する裁判手続

(発信者情報開示命令)
第八条 裁判所は、特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害されたとする者の申立てにより、決定で、当該権利の侵害に係る開示関係役務提供者に対し、第五条第一項又は第二項の規定による請求に基づく発信者情報の開示を命ずることができる。

(日本の裁判所の管轄権)
第九条 裁判所は、発信者情報開示命令の申立てについて、次の各号のいずれかに該当するときは、管轄権を有する。
 人を相手方とする場合において、次のイからハまでのいずれかに該当するとき。
 相手方の住所又は居所が日本国内にあるとき。
 相手方の住所及び居所が日本国内にない場合又はその住所及び居所が知れない場合において、当該相手方が申立て前に日本国内に住所を有していたとき(日本国内に最後に住所を有していた後に外国に住所を有していたときを除く。)。
 大使、公使その他外国に在ってその国の裁判権からの免除を享有する日本人を相手方とするとき。
 法人その他の社団又は財団を相手方とする場合において、次のイ又はロのいずれかに該当するとき。
 相手方の主たる事務所又は営業所が日本国内にあるとき。
 相手方の主たる事務所又は営業所が日本国内にない場合において、次の(1)又は(2)のいずれかに該当するとき。
(1)当該相手方の事務所又は営業所が日本国内にある場合において、申立てが当該事務所又は営業所における業務に関するものであるとき。
(2)当該相手方の事務所若しくは営業所が日本国内にない場合又はその事務所若しくは営業所の所在地が知れない場合において、代表者その他の主たる業務担当者の住所が日本国内にあるとき。
 前二号に掲げるもののほか、日本において事業を行う者(日本において取引を継続してする外国会社(会社法(平成十七年法律第八十六号)第二条第二号に規定する外国会社をいう。)を含む。)を相手方とする場合において、申立てが当該相手方の日本における業務に関するものであるとき。

 前項の規定にかかわらず、当事者は、合意により、いずれの国の裁判所に発信者情報開示命令の申立てをすることができるかについて定めることができる。

(略:第九条第3~7項(合意の形式、特別の事情による却下、管轄権の標準時等))

(管轄)
第十条 発信者情報開示命令の申立ては、次の各号に掲げる場合の区分に応じ、それぞれ当該各号に定める地を管轄する地方裁判所の管轄に属する。
 人を相手方とする場合相手方の住所の所在地(相手方の住所が日本国内にないとき又はその住所が知れないときはその居所の所在地とし、その居所が日本国内にないとき又はその居所が知れないときはその最後の住所の所在地とする。)
 大使、公使その他外国に在ってその国の裁判権からの免除を享有する日本人を相手方とする場合において、この項(前号に係る部分に限る。)の規定により管轄が定まらないとき最高裁判所規則で定める地
 法人その他の社団又は財団を相手方とする場合次のイ又はロに掲げる事務所又は営業所の所在地(当該事務所又は営業所が日本国内にないときは、代表者その他の主たる業務担当者の住所の所在地とする。)
 相手方の主たる事務所又は営業所
 申立てが相手方の事務所又は営業所(イに掲げるものを除く。)における業務に関するものであるときは、当該事務所又は営業所

(略:第十条第2~7項(その他専属管轄等))

(発信者情報開示命令の申立書の写しの送付等)
第十一条 裁判所は、発信者情報開示命令の申立てがあった場合には、当該申立てが不適法であるとき又は当該申立てに理由がないことが明らかなときを除き、当該発信者情報開示命令の申立書の写しを相手方に送付しなければならない。

 非訟事件手続法(平成二十三年法律第五十一号)第四十三条第四項から第六項までの規定は、発信者情報開示命令の申立書の写しを送付することができない場合(当該申立書の写しの送付に必要な費用を予納しない場合を含む。)について準用する。

 裁判所は、発信者情報開示命令の申立てについての決定をする場合には、当事者の陳述を聴かなければならない。ただし、不適法又は理由がないことが明らかであるとして当該申立てを却下する決定をするときは、この限りでない。

(略:第十二条(発信者情報開示命令事件の記録の閲覧等)、第十三条(発信者情報開示命令の申立ての取下げ))

(発信者情報開示命令の申立てについての決定に対する異議の訴え)
第十四条 発信者情報開示命令の申立てについての決定(当該申立てを不適法として却下する決定を除く。)に不服がある当事者は、当該決定の告知を受けた日から一月の不変期間内に、異議の訴えを提起することができる。

(略:第十四条第二~六項(管轄、決定の効力等))

(提供命令)
第十五条 本案の発信者情報開示命令事件が係属する裁判所は、発信者情報開示命令の申立てに係る侵害情報の発信者を特定することができなくなることを防止するため必要があると認めるときは、当該発信者情報開示命令の申立てをした者(以下この項において「申立人」という。)の申立てにより、決定で、当該発信者情報開示命令の申立ての相手方である開示関係役務提供者に対し、次に掲げる事項を命ずることができる。
 当該申立人に対し、次のイ又はロに掲げる場合の区分に応じそれぞれ当該イ又はロに定める事項(イに掲げる場合に該当すると認めるときは、イに定める事項)を書面又は電磁的方法(電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法であって総務省令で定めるものをいう。次号において同じ。)により提供すること。
 当該開示関係役務提供者がその保有する発信者情報(当該発信者情報開示命令の申立てに係るものに限る。以下この項において同じ。)により当該侵害情報に係る他の開示関係役務提供者(当該侵害情報の発信者であると認めるものを除く。ロにおいて同じ。)の氏名又は名称及び住所(以下この項及び第三項において「他の開示関係役務提供者の氏名等情報」という。)の特定をすることができる場合 当該他の開示関係役務提供者の氏名等情報
 当該開示関係役務提供者が当該侵害情報に係る他の開示関係役務提供者を特定するために用いることができる発信者情報として総務省令で定めるものを保有していない場合又は当該開示関係役務提供者がその保有する当該発信者情報によりイに規定する特定をすることができない場合 その旨
 この項の規定による命令(以下この条において「提供命令」といい、前号に係る部分に限る。)により他の開示関係役務提供者の氏名等情報の提供を受けた当該申立人から、当該他の開示関係役務提供者を相手方として当該侵害情報についての発信者情報開示命令の申立てをした旨の書面又は電磁的方法による通知を受けたときは、当該他の開示関係役務提供者に対し、当該開示関係役務提供者が保有する発信者情報を書面又は電磁的方法により提供すること。

 前項(各号列記以外の部分に限る。)に規定する発信者情報開示命令の申立ての相手方が第五条第一項に規定する特定電気通信役務提供者であって、かつ、当該申立てをした者が当該申立てにおいて特定発信者情報を含む発信者情報の開示を請求している場合における前項の規定の適用については、同項第一号イの規定中「に係るもの」とあるのは、次の表の上欄に掲げる場合の区分に応じ、それぞれ同表の下欄に掲げる字句とする。
|当該特定発信者情報の開示の請求について第五条第一項第三号に該当すると認められる場合|に係る第五条第一項に規定する特定発信者情報|
|当該特定発信者情報の開示の請求について第五条第一項第三号に該当すると認められない場合|に係る第五条第一項に規定する特定発信者情報以外の発信者情報|

 次の各号のいずれかに該当するときは、提供命令(提供命令により二以上の他の開示関係役務提供者の氏名等情報の提供を受けた者が、当該他の開示関係役務提供者のうちの一部の者について第一項第二号に規定する通知をしないことにより第二号に該当することとなるときは、当該一部の者に係る部分に限る。)は、その効力を失う。
一 当該提供命令の本案である発信者情報開示命令事件(当該発信者情報開示命令事件についての前条第一項に規定する決定に対して同項に規定する訴えが提起されたときは、その訴訟)が終了したとき。
二 当該提供命令により他の開示関係役務提供者の氏名等情報の提供を受けた者が、当該提供を受けた日から二月以内に、当該提供命令を受けた開示関係役務提供者に対し、第一項第二号に規定する通知をしなかったとき。

 提供命令の申立ては、当該提供命令があった後であっても、その全部又は一部を取り下げることができる。

 提供命令を受けた開示関係役務提供者は、当該提供命令に対し、即時抗告をすることができる。

(消去禁止命令)
第十六条 本案の発信者情報開示命令事件が係属する裁判所は、発信者情報開示命令の申立てに係る侵害情報の発信者を特定することができなくなることを防止するため必要があると認めるときは、当該発信者情報開示命令の申立てをした者の申立てにより、決定で、当該発信者情報開示命令の申立ての相手方である開示関係役務提供者に対し、当該発信者情報開示命令事件(当該発信者情報開示命令事件についての第十四条第一項に規定する決定に対して同項に規定する訴えが提起されたときは、その訴訟)が終了するまでの間、当該開示関係役務提供者が保有する発信者情報(当該発信者情報開示命令の申立てに係るものに限る。)を消去してはならない旨を命ずることができる。

 前項の規定による命令(以下この条において「消去禁止命令」という。)の申立ては、当該消去禁止命令があった後であっても、その全部又は一部を取り下げることができる。

 消去禁止命令を受けた開示関係役務提供者は、当該消去禁止命令に対し、即時抗告をすることができる。

(非訟事件手続法の適用除外)
第十七条 発信者情報開示命令事件に関する裁判手続については、非訟事件手続法第二十二条第一項ただし書、第二十七条及び第四十条の規定は、適用しない。

(最高裁判所規則)
第十八条 この法律に定めるもののほか、発信者情報開示命令事件に関する裁判手続に関し必要な事項は、最高裁判所規則で定める。

 この部分について、この様な条文に至るまで、政府内でどの様な検討がされたのかは不明だが、その点がよほど問題となったのか、裁判管轄に関する事項を第9~10条に書き込んでいる。日本の裁判管轄に関する原則から考えれば当たり前の話だが、申立てが裁判所に取り上げられるのは、基本的に、法人を相手方とする場合であれば、その主たる事務所又は営業所が日本国内にある場合に限られ、かつ、その主たる事務所又は営業所の所在地の地方裁判所に申し立てる必要があるという事である。

 そして、裁判・非訟手続きの原則から考えて、これも当たり前の話だが、相手方を記載して申立てを行う必要があるので(第11条参照、記載しないと却下となる)、コンテンツプロバイダーに対する申立てだけで、その後自動的に良く分からない立場でアクセスプロバイダーが同じ事件に巻き込まれる様な事もない。

 第15条のコンテンツプロバイダーからアクセスプロバイダーへの情報提供命令も、発信者情報開示命令事件が係属する場合であって、他の開示関係役務提供者としてアクセスプロバイダーに関する開示を受けた申立人がアクセスプロバイダーを相手方として発信者情報開示命令の申立てをした場合に裁判所が出す事ができるとされている。

 必要であれば裁判所は裁量によりさらにコンテンツプロバイダーに対する事件とアクセスプロバイダーに対する事件を併合して処理するかも知れないが、開示においてコンテンツプロバイダーとアクセスプロバイダーの両方が関係し、かつ、アクセスプロバイダーに対する発信者情報開示まで必要とされる場合は、今まで同様、両方に対して順次申立てが必要になるのであって、本当に1つの手続きでできる訳ではない。総務省が、法改正の概要(pdf)で、これについて発信者情報開示を1つの手続きで可能とすると言っているのは酷いミスリードである。

 また、第16条の消去禁止命令も現行でも可能なログ保全ための仮処分命令と何が違うのか良く分からない。

 さらに、第17条で、非訟事件手続法の第22条第1項ただし書の弁護士でない者による手続代理、事実の調査等の国庫による立て替え、第40条の検察官の関与の適用は明示的に除外されているので、実質的に通常の訴訟より手続き費用が安く済むといった事もない。

 この新たな裁判手続きにおける発信者の意見の照会や異議の訴え等について、その具体的な運用に関する事が非常に気になるが、これは第18条に書かれている最高裁判所規則に委ねられているという事なのだろう。裁判所が今までの通常の裁判による発信者情報開示事件と比べて偏った運用をする事はないだろうとは思うが、この様な重要な事項が裁判所の規則・裁量・運用に委ねられているという事はあまり良い事とは思えない。

 結局、この法改正案の新しい裁判手続きによる発信者情報開示は、今までの通常の裁判による発信者情報開示とほぼ同様の手続きを原則非公開の非訟手続きとして規定しただけのものであって、手続きの迅速化や合理化に資するものとは到底言い難いものである。この様な法改正が通れば、かえって発信者情報開示に関する手続きの不透明性や複雑性が増し、いたずらに今の状況を混乱させるだけで、発信者の保護はおろか権利侵害の救済にも繋がらないのではないかと私は懸念する。過去のパブコメ(第432回参照)でも書いたが、発信者情報の開示は、通信の秘密といった重要な国民の権利に関するものであるから、原則公開の訴訟手続によらなければならないものである。今後、国会でこの問題の本質にまで踏み込んだ議論がなされる事を私は期待する。

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2020年12月29日 (火)

第434回:2020年の終わりに

 今年は新型コロナウィルスの感染拡大が知財政策にも影響を与えるという類を見ない年だったと思うが、例によって、この年末に今まであまり取り上げて来なかった主に著作権関連以外の話をまとめて書いておきたいと思う。

 まず、特許法について、特許庁から、産業構造審議会・知的財産分科会・特許制度小委員会の報告書「ウィズコロナ/ポストコロナ時代における特許制度の在り方(案)」(pdf)が1月25日〆切でパブコメにかかっている(特許庁のHP1、電子政府のHP1参照)。ほぼ制度ユーザにしか関係しないので詳細は省略するが、この報告書案に含まれている法改正事項は、特許侵害訴訟における第三者意見募集制度(アミカス・ブリーフ制度)の導入、訂正審判等における通常実施権者の許諾の不要化、審判の口頭審理のオンライン化、災害の発生等権利者の責めに帰することができない理由による期間途過の場合の割増特許料等の免除、権利回復の判断基準の故意でない基準への緩和及びその場合の回復手数料の賦課である。

 商標法について、商標制度小委員会の報告書「ウィズコロナ/ポストコロナ時代における商標制度の在り方について(案)」(pdf)が1月18日〆切でパブコメにかかっている(特許庁のHP2、電子政府のHP2参照)。こちらの報告書案に含まれている主な法改正事項は、商標と意匠について海外の事業者を侵害主体として海外から国内に模倣品を直接送付する場合を新たに権利侵害とする事である。

 弁理士法について、弁理士制度小委員会の報告書「弁理士制度の見直しの方向性について(案)」(pdf)も1月21日〆切でパブコメにかかっており(特許庁のHP3、電子政府のHP3参照)、農林水産知財や第三者意見提出の相談業務等を弁理士法に規定する事や一人法人制度の導入などについて書かれている。

 特許庁では、それぞれの委員会の下のワーキンググループ、審査基準専門委員会ワーキンググループで特許関連の審査基準の修正が、意匠審査基準ワーキンググループで意匠関連の審査基準の修正が議論されているが、今年はさらに基本問題小委員会という委員会も立ち上げられている。

 この基本問題小委員会について、委員会ホームページで書かれている通り、「ウィズコロナ/ポストコロナ時代における産業財産権行政の在り方 とりまとめ骨子(案)」(pdf)が公表され、1月13日目途で意見募集がされている様だが、この骨子案を見てもどうにも漠然としていて今後具体的に何をどうして行くつもりなのかまだ良く分からない状況である。

 なお、経産省で、6月3日に不正競争防止章委員会も開かれているが(経産省のHP参照)、最近の取り組みの紹介のみで、不正競争防止法関連ですぐに法改正が提出されそうな様子はない。

 次に、総務省からは、12月22日に発信者情報開示の在り方に関する研究会「最終とりまとめ」(pdf)が公表され(総務省のHP1参照)、12月25日に「インターネット上の海賊版対策に係る総務省の政策メニュー」(pdf)が公表されている(総務省のHP2参照)。後者でのセキュリティ対策ソフトにおけるアクセス抑止は、多少注意すべき点はあるだろうが、事業者と協力が可能であればして良い事と思うが、前者の最終とりまとめでは、結局新たな裁判手続きについて最後までほぼ修正される事なく導入すべきとされてしまった。総務省としてはこのまま法改正案を提出するつもりなのだろうが、この発信者情報開示に関する新たな裁判手続きがまともに機能するのか、かえって危ない制度となりはしないか、今なお私は大きな懸念を抱いている。

 農水省関連では、この12月に種苗法改正が成立している(農水省のHP1参照、このブログでは第422回で取り上げた)が、他に大きな動きはない。なお、知財本部の知財戦略と別に出す意味が良く分からないが、2020年5月に「農林水産省知的財産戦略2020」(pdf)(農水省のHP2参照)なるものも公表されている。

 最後に、知財本部では、構想委員会の下で価値デザイン経営ワーキンググループやコンテンツ小委員会、デジタル時代における著作権制度・関連政策の在り方検討タスクフォースといった検討会が開かれている。知財本部のこれらの検討会の内容はほとんど意味不明としか言いようがないが、またじきに知財計画2021に向けたパブコメが開始されたら意見を出すつもりである。

 来年1月1日からダウンロード違法化・犯罪化の対象範囲の拡大が施行されるなど、今年も良い年をと言う気にはあまりならないが、別に私は諦めるつもりもない。今年もこれで最後になるが、政官業に巣食う全ての利権屋に悪い年を、このブログを読んで下さっている方々に心からの感謝を。

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2020年11月25日 (水)

第432回:総務省・発信者情報開示の在り方に関する研究会最終とりまとめ(案)に対する提出パブコメ

 12月4日〆切でパブコメにかかっている、総務省の発信者情報開示の在り方に関する研究会最終とりまとめ(案)(pdf)に対して意見を出したのでここに載せておく(意見募集について、総務省のHP、電子政府のHP参照)。非訟手続きに基づく新たな裁判手続きの問題については前のパブコメで指摘した事と全く同じ事が当てはまるので、提出パブコメの内容は中間とりまとめ案に出した意見(第428回参照)を最終とりまとめ案の記載に合わせて組み替えたものである。

(以下、提出パブコメ)

<第1章 発信者情報開示に関する検討の背景及び基本的な考え方について>
○3.検討に当たっての基本的な考え方
(該当箇所)第5ページ「3.検討に当たっての基本的な考え方」全体
(御意見)
 ここで、権利侵害に対する救済が必要なのは無論の事とは言え、制度改正が逆に行き過ぎれば、その濫用や悪用によって発信行為・表現が萎縮し、表現の自由の抑圧に繋がる危険性があるということをきちんと認識し、その間でバランスを取る事を基本的な考え方としている事は高く評価できる。この基本的な考え方を通して守るべきであり、以下第3章についての項目で述べる通り、原則非公開とできる新たな非訟手続きに基づく裁判手続きの創設のような、この基本的な考え方に合わない事は不適切なものであって、するべきではない。

<第2章 発信者情報の開示対象の拡大>
○2.ログイン時情報
○2-(1)発信者の同一性
(該当箇所)第8ページ「2-(1)発信者の同一性」全体
(御意見)
 ここで、「権利侵害投稿の通信とログイン時の通信とが、同一の発信者によるものである場合に限り、開示できることとする必要がある」としている点は賛同できるが、アカウントの共有や乗っ取りの場合を一絡げに例外として、「同一のアカウントのログイン時の通信と権利侵害投稿通信は基本的に同一の発信者から行われたものと捉えることができると考えられる」としている事は適切ではない。特にアカウント保持者への嫌がらせのために他の者がアカウントを乗っ取り書き込み等を行う事は十分に考えられるのであって、この様な場合にまでアカウント保持者の情報が開示され第一に責任を負うべきとする事は適切ではない。ログイン時情報の開示においては、「2-(2)開示の対象とすべきログイン時情報の範囲」に書かれている補充性要件に加え、権利侵害投稿の通信とログイン時の通信とが、同一の発信者によるものである場合に限るという条件を明示的に加え、ログイン時の通信の内容等からアカウント保持者以外の書き込みであると判断される場合は開示しない事とするべきである。

○2-(2)開示の対象とすべきログイン時情報の範囲
(該当箇所)第9~11ページ「2-(1)発信者の同一性」全体
(御意見)
 ここで、第9ページに、「侵害投稿時の通信経路を辿って発信者を特定することができない場合に限定すること(補充性要件)が適当」としている事に賛同する。

 そして、上記の「2-(1)発信者の同一性」の項目で書いた通り、この様な補充性要件に加えて、同一の発信者によるものである場合に限るという条件を明示的に加えるべきである。

 その限りにおいて、SMS認証に関する情報を追加しても良いと考えるが、上記の通りの限定がなされない限り、開示の対象は拡大するべきではない。


○2-(3)開示請求を受けるプロバイダの範囲
(該当箇所)第11ページ「2-(3)開示請求を受けるプロバイダの範囲」全体
(御意見)
 ここで、「ログイン時情報等を開示対象とした場合、当該情報に係る権利侵害投稿通信以外の通信(ログイン時の通信やSMS認証に係る通信等)を媒介したアクセスプロバイダや電話会社に対して、侵害投稿通信の発信者かつ権利侵害投稿通信以外の通信の発信者でもある者の住所・氏名の開示を請求することとなるが、当該開示請求を受けるプロバイダは、プロバイダ責任制限法第4条第1項に規定する『開示関係役務提供者』の範囲に含まれない場合もあり得る」と記載され、脚注17に「『開示関係役務提供者』は、プロバイダ責任制限法第4条第1項において『当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者』と規定されている。コンテンツプロバイダが投稿時のログを保有しておらず、発信者が複数の通信経路からログインを行っている場合、実際にどの通信経路から権利侵害投稿を行ったかわからないため、開示請求を受けたアクセスプロバイダが『『当該特定電気通信』の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者』に該当するか不明確となる場合があり得る」と記載されている。

 しかし、ログイン時情報の開示については、権利侵害投稿の通信とログイン時の通信とが同一の発信者によるものである場合に限るといった条件が付加されるべきであるから、ログイン時情報による開示請求を受けるプロバイダーは、プロバイダー責任制限法第4条第1項の、権利の侵害に係る「当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者」と言えるのであって、ログイン時情報等の開示請求で法律上の「開示関係役務提供者」の範囲に含まれない場合もあり得るとする解釈は厳格に過ぎ、この点で法改正は不要であると考える。

 また、コンテンツプロバイダが投稿時のログを保有していない場合であっても、脚注17の様に、投稿より前の複数の通信経路からの複数のログイン時情報を開示対象として想定する事は不適切である。権利侵害投稿の通信とログイン時の通信とが同一の発信者によるものである場合に限るといった条件の付加によって、基本的に投稿直前のログイン時情報のみを開示対象とするべきである。この様な法改正をしたいがためだけの理屈は全く納得の行くものではない。

○3.まとめ
(該当箇所)第11ページ「3.まとめ」全体
(御意見)
 上記の通り、同一の発信者によるものである場合に限るという条件を明示的に加え、省令改正によるログイン時のIPアドレス及びタイムスタンプ等の追加に賛同するが、これは省令改正で十分であり、それに留めるべきである。

<第3章 新たな裁判手続の創設及び特定の通信ログの早期保全>
○1.非訟手続の創設の利点と課題の整理
(該当箇所)第12~14ページ「1.非訟手続の創設の利点と課題の整理」全体
(御意見)
 ここで、第13~14ページに、発信者情報開示のための新しい原則非公開の非訟手続きについて、適法な情報発信を行う発信者の保護が十分に図られなくなり、手続が濫用される恐れが強く、判断の透明性の確保が図られなくなるとの問題が書かれている。

 これは全くその通りであって、この様な事から、引いては表現の自由の保護が十分に図られなくなる事になると考えられる。

 以下でも述べる通り、これは制度設計によっては解消できない極めて本質的な問題であり、この新たな裁判手続きの創設は不適切であって、なされるべきものではないものである。

○2.実体法上の開示請求権と非訟手続の関係について
(該当箇所)第14~17ページ「2.実体法上の開示請求権と非訟手続の関係について」全体
(御意見)
 ここで、現行の発信者情報開示訴訟における課題の整理・検討をなおざりに、一方的に結論ありきで、現行の請求権に「加えて」新たな非訟手続きを創設することが適当としていることは極めて不適切である。

 この点について、第16ページに書かれている、「表現の自由やプライバシーといった発信者の権利利益の保護に鑑み、開示判断については、非訟手続を創設するのではなく、現行法と同様に訴訟手続とする」べきという指摘は極めて妥当なものであって、この指摘の通り非訟手続きを創設するべきではない。

 今回のプロバイダー責任制限法に関する検討は、2011年の「利用者視点を踏まえたICTサービスに係る諸問題に関する研究会」における検討(その「プロバイダ責任制限法検証に関する提言」https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01kiban08_01000037.html参照)及び2015年の「ICT サービス安心・安全研究会」における検討(その報告書「インターネット上の個人情報・利用者情報等の流通への対応について」https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01kiban08_02000184.html参照)以来のものであって、本格的な検討としては2011年の研究会以来のものであると思うが、この研究会の提言の第41ページ(第3の4(8))で、第三者機関の創設等について、「取り扱う対象が通信の秘密といった重要な権利に関連することからすると、発信者情報の開示の当否は、通信の秘密といった重要な国民の権利に関するものであるから、このような実体的な権利を終局的に確定させる判断は(公開の法廷における対審及び判決という)訴訟手続によらなければならないと考えられ」るとしている。この研究会の提言の整理は今なお妥当するものであって、今般の検討においてもこの整理を守るべきである。

 新たな非訟手続きの本質的な問題点については以下でも述べ、この様な手続きはそもそも創設されるべきものではないと考えるが、仮に本とりまとめ案の様に、原則として何かしらの手続きを追加し、異議等により現行同様の訴訟に移行するものとしたら、さらに開示までの段階が増えてさらに手続きが煩雑になる事も考えられるであろう。

○3.新たな裁判手続(非訟手続)について
○3-(1)裁判所による命令の創設(ログの保存に関する取扱いを含む)
(該当箇所)第17~21ページ「3-(1)裁判所による命令の創設(ログの保存に関する取扱いを含む)」全体
(御意見)
 ここで、当事者構造などの問題をなおざりに、①コンテンツプロバイダ及びアクセスプロバイダ等に対する発信者情報の開示命令、②コンテンツプロバイダが保有する発信者情報のアクセスプロバイダへの提供命令、③アクセスプロバイダに対するコンテンツプロバイダから提供された情報を踏まえた発信者情報の消去禁止命令という、3つの命令についての手続きを創設する事が適当としているが、これも全く適切なものではない。

 インターネットの仕組みを考えれば、どうやっても、コンテンツプロバイダーに対する削除要求・情報開示・ログ保全、アクセスプロバイダーに対する情報開示・ログ保全、開示侵害者に対する損害賠償請求等という様に、情報流通経路を逆に辿って行くしかないので、侵害者の情報が被侵害者にあらかじめ分かっている場合や、コンテンツプロバイダーが侵害者の情報を直接保有している様な場合を除き、何をどうやろうが、一足飛びに、前もって分かり得ない後の手続きの当事者を前の手続きに巻き込むべきではなく、非訟手続きによればいいなどという事も無論ない。

 例えば、第18ページに、「具体的な手続の流れとしては、コンテンツプロバイダに対する開示命令のプロセスと、アクセスプロバイダの特定及びログの保全手続(提供命令・消去禁止命令)のプロセスは、同時並行で進められることが想定される。提供命令によりアクセスプロバイダを特定することができた場合、アクセスプロバイダ名の通知を受けた被害者がアクセスプロバイダに対する開示命令の申立てを行った場合には、速やかに当該アクセスプロバイダがコンテンツプロバイダに対する開示命令のプロセスに加わり、コンテンツプロバイダ・アクセスプロバイダが一体として開示命令を受けるという流れが想定される」と書かれているが、具体的にどの様な手続きが想定されるのか全く理解不能である。

 情報流通経路を逆に辿って行かなければならない事を考えれば、コンテンツプロバイダ及びアクセスプロバイダへの開示命令をまとめて出す事は考えられない。そして、発信者情報開示とは、コンテンツプロバイダ、アクセスプロバイダという別のプロバイダがそれぞれ自身が保持するものであって開示するべき情報をそれぞれの責任において開示するという事であって、それ以上でもそれ以下でもないにも関わらず、コンテンツプロバイダからの発信者情報のアクセスプロバイダへの提供によってアクセスプロバイダが手続きに加わりコンテンツプロバイダ・アクセスプロバイダが一体として開示命令を受けるとしている事など全く意味不明である。

 ここで、消去禁止命令、すなわちログの保存命令についても、それぞれの段階で、各プロバイダーに発信者情報消去禁止の仮処分の申立てをするしかない筈であり、新たな裁判手続きとの関係でどうこうという問題では全くない。現行の手続きにおいて、ログ保存に関して、何が問題で、具体的に何をどうするべきかという検討をなおざりにして、新たな裁判手続きの中で消去禁止命令についての手続きを創設するべきとしている事は全く適切な事ではない。

 開示要件については対応する項目で述べるが、第21ページで、さらに「これらの命令の発令要件については、現在の開示要件よりも一定程度緩やかな基準とすることが適当である」としている事など不適切の上塗りと言わざるを得ない。

 念のため、さらに指摘しておくと、第20~21ページに、「裁判所が特定作業を行うと想定した場合、専門委員や裁判所調査官等の活用など様々な方法が考えられるものの、現行法上の制度を活用する場合にはそれらの職員の職責上の制約がある一方、新たな制度を創設する場合には選任や確保を含む体制整備に時間がかかり、案件数の増加や地域特性により、必要とされる人材を確保できない等課題が多いと考えられる。したがって、アクセスプロバイダの特定作業は、コンテンツプロバイダが行うこととすることが適当である」としているが、単に裁判所の能力不足を理由にコンテンツプロバイダに新たな責務を負わせようとしている事も全く不当な事である。もし本当にそれほど裁判所の能力が不足しているとしたならば、現行の発信者情報開示訴訟における判断の妥当性にすら疑義が生じると言わざるを得ないだろう。

○3-(2)新たな手続における当事者構造
(該当箇所)第21~22ページ「3-(2)新たな手続における当事者構造」全体
(御意見)
 関わるプロバイダとしては、コンテンツプロバイダとアクセスプロバイダという複数のプロバイダがいるにも関わらず、ここで、単にプロバイダとだけ書いて、プロバイダが複数いる事をうやむやにしているのは、極めて悪質な言葉のごまかしであり、このごまかしを私は強く非難する。

 上記「3-(1)裁判所による命令の創設(ログの保存に関する取扱いを含む)」の項目についてで書いた通り、インターネットの仕組みを考えれば、どうやっても、コンテンツプロバイダーに対する削除要求・情報開示・ログ保全、アクセスプロバイダーに対する情報開示・ログ保全、開示侵害者に対する損害賠償請求等という様に、情報流通経路を逆に辿って行くしかないので、何をどうやろうが、それぞれコンテンツプロバイダー、アクセスプロバイダー、開示侵害者を順次相手方当事者として当事者構造は作られなければならない。

 さらに書いておくと、権利侵害を受けた者にとって1回の裁判手続きが望ましいのはその通りであろうが、望ましい事すなわち技術的、実務的に可能でああるという事ではない。1回の手続きで、各プロバイダーの情報開示を可能とし、権利回復を可能とするという事は、実質的に当事者不明の匿名裁判手続きを可能とするという事に等しいが、この事については、上で触れた2011年の研究会の提言の第41ページ(第3の4(9))で、匿名訴訟について、「民事訴訟法をはじめとする現行の民事手続法はそのような訴訟制度を前提としておらず、また、当該制度は訴えの提起から判決の効力までといった民事訴訟全般に関連するものであることからすると、当該訴訟制度の創設の是非に関しては、プロバイダ責任制限法においてのみ検討することができる問題ではなく、様々な立場の意見を広く検討し、訴訟制度全体の問題として検討されるべき」とされていた通り、また、中間とりまとめ案の脚注23にも記載されていた通り、法制的に多くの検討すべき課題があるのであって、日本におけるその導入は極めて困難である。

○3-(3)発信者の権利利益の保護
(該当箇所)第22~28ページ「3-(3)発信者の権利利益の保護」全体
(御意見)
 通信の秘密等の国民の基本的な権利に関わるものである事から、このような実体的な権利を終局的に確定させる判断は公開の法廷における対審及び判決という訴訟手続によらなければならないと考えられるのであり、原則非公開とされ、一般的なチェックが効かない非訟手続きによって開示を可能とする事自体、国民の基本的な権利の保護が図られなくなる恐れが極めて強く、この事は発信者の権利利益の保護に関する制度設計で解消されるものではない。

 これは制度設計でどうにかなる話ではないが、念のためさらに書いておくと、例えば、異議申し立てについて、第27ページで、「プロバイダは可能な限り発信者の意向を尊重した上で、個別の事案に応じた総合的な判断により異議申立ての要否を検討することが望ましい」としている事は、プロバイダとはどのプロバイダなのかという事についての記載のごまかしがある事に加え、原則非公開の非訟手続きの中だけでプロバイダの判断により訴訟に移行せずに開示請求を受け入れる事もあり得るとしている点で極めて不適切である。情報は一旦開示されてしまえば、取り返しがつかない性質のものであるという事を十分に踏まえる必要があるのであって、これが国民の基本的な権利に関わるものである事から、この様な新たな非訟手続きは創設されるべきではないものである。

○3-(4)開示要件
(該当箇所)第28~30ページ「3-(4)開示要件」全体
(御意見)
 ここで、第28ページに、「非訟手続の場合、原則として非公開で行われるため、裁判手続の判断に記載される理由の程度によっては、開示可否に関する事例の蓄積や判断の透明性の確保が図られない可能性がある」との指摘が記載されているが、これも本質的な指摘であって、訴訟への移行があり得るから良い、当事者だけで事例を蓄積できるから良いという問題ではなく、制度設計で解消されるものでもなく、原則非公開の非訟手続きを取る限り解消する事はできないものである。

 国民の基本的な権利に関わる事案においては一般にチェック可能な形で判断の透明性が確保されていなければならない。

○3-(5)手続の濫用の防止
(該当箇所)第30~31ページ「3-(5)手続の濫用の防止」全体
(御意見)
 手続きの濫用防止についても、単に当事者間の既判力による蒸し返しの防止が図られれば良いというものではない。一般にチェック可能な形で判断の透明性が確保され、裁判所による判断が公衆に分かる形で蓄積されない限り、濫用の懸念は常にあり得る事であろう。

○3-(6)海外事業者への対応
(該当箇所)第31~32ページ「3-(6)海外事業者への対応」全体
(御意見)
 発信者情報開示に関する諸外国の状況について、以前のパブコメで以下の様に書いた通り、また、発信者情報開示の在り方に関する研究会の第6回でも報告されている通りである。

 アメリカでは仮名(John Doe)裁判とそのディスカバリー手続きにおいて裁判所の強制令状(subpoena)に基づく情報開示が可能であるが、ディスカバリーなどのアメリカの特異な裁判手続きはその負担や濫用についての批判も非常に強いものであって、日本に持ち込むべきではないものである。欧州では、欧州司法裁判所が、2020年7月9日に、知的財産権執行指令の下で違法アップロードが行われたオンラインプラットフォーム運営者に権利者が要求できるのは関係するユーザの住所のみであってメールや電話番号は含まれないとする判決を出した所である事からも分かる様に、欧州全体でも、発信者情報開示については、このレベルでしか統一されておらず、今も基本的に各国法制による部分が多い。イギリスでは、裁判所のNorwich Pharmacal orderによる情報開示が可能であるが、これはそれぞれ情報を持っている者に対して訴えを提起して求めるものであって、1回の非訟手続きで各プロバイダーの情報開示を可能とする様なものではない。ドイツでは上記の欧州司法裁のケースで問題となった著作権法などとは別に2017年のネットワーク執行法(Netzwerkdurchsetzungsgesetz)によって通信メディア法(Telemediengesetz)第14条に扇動や中傷による権利侵害の場合の情報開示が規定されたが、この様なドイツの法制については今なおナチス思想を強力に取り締まっているドイツの特殊事情を考慮する必要がある事に加え、これも、裁判所への訴えにより、必要に応じて各プロバイダーに順次開示請求をする必要があるのであって、1回の非訟手続きで各プロバイダーの情報開示を可能とする様なものではない。フランスでは、2004年のデジタル経済信用法(Loi pour la confiance dans l'economie numerique)第6条等に基づき、仮処分に相当するレフェレ(refere)などにより、発信者情報開示を要求する事ができるが、これも同様に、必要に応じて順次開示請求をする必要があるのであって、1回の非訟手続きで各プロバイダーの情報開示を可能とする様なものではない。

 本とりまとめ案で、民事訴訟に関する2つの条約で申立書の直接送付などが認められていると書かれているが、これらの条約で単に文書を送付しても良いと書かれている事と、それに執行力が伴い海外プロバイダが従うかどうかは別の話である。外国における民事執行は基本的に相互主義であって、日本国内の手続きと同じ文書を一方的に直接送り付ければ良いという様な単純なものではない。非訟手続きによる新たな裁判手続きは、何をどう検討しようが、国際的にも極めて特異かつ異質な制度とならざるを得ないものであり、海外のプロバイダーがこの様な制度に基づく命令などに従う可能性は万に一つもない。

 ここでも、必要なのは、各国の法制に基づく訴え・申し立ての支援や訴状の送達の迅速化など、実効性のある方策の検討である。

 なお、念のため繰り返し書いておくと、7月24日〆切で意見募集がされていた「インターネット上の誹謗中傷への対応の在り方について(案)」にも記載されていた様に、フランスで、憲法裁判所が、2020年6月18日に、オンラインヘイトスピーチ規制法の主要部分を否定している事が典型的に示しているが、欧米においては、プライバシー・個人データ、情報・表現の自由をきちんと保護しようとする動きがある事も注目されてしかるべきである。

○4.まとめ
(該当箇所)第32ページ「4.まとめ」全体
(御意見)
 上記の通り、手続が濫用され、適法な情報発信を行う発信者の保護や表現の自由の確保が十分に図られなくなる恐れが強く、その点で完全にバランスを失しているものであり、国際的にも極めて特異かつ異質な制度とならざるを得ないものである、この非訟手続きによる新たな裁判手続きの創設に反対する。

 今後プロバイダー責任制限法について検討を進める場合には、基本的な考え方に沿い、現行のプロバイダー責任制限法の手続きの拡充や迅速化など実務的に実効性のある検討のみがなされる事を期待する。

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2020年8月 2日 (日)

第428回:総務省・発信者情報開示の在り方に関する研究会中間とりまとめ(案)に対する提出パブコメ

 前回取り上げた、8月14日〆切でパブコメにかかっている、総務省の発信者情報開示の在り方に関する研究会中間とりまとめ(案)に対して意見を提出したので、ここに載せておく。内容は前回書いた事を中間とりまとめ案の項目毎に分けて少し補足の説明を加えたものである。

(以下、提出パブコメ)

<第1章 発信者情報開示に関する検討の背景及び基本的な考え方について>
○3.検討に当たっての基本的な考え方
(該当箇所)第5~6ページ「3.検討に当たっての基本的な考え方」全体
(意見)
 ここで、権利侵害に対する救済が必要なのは無論の事とは言え、制度改正が逆に行き過ぎれば、その濫用や悪用によって発信行為・表現が萎縮し、表現の自由の抑圧に繋がる危険性があるということをきちんと認識し、その間でバランスを取る事を基本的な考え方としている事は高く評価できる。今後の検討においてもこの基本的な考え方を通して守るべきである。以下第2章2.についての項目で述べる通り、原則非公開とできる新たな非訟手続きに基づく裁判手続きの創設のような、この基本的な考え方に合わない検討は不適切なものであって、進めるべきではない。

<第2章 具体的な検討事項>
○1.発信者情報の開示対象の拡大
○1-(2)電話番号
(該当箇所)第8~11ページ「1-(2)電話番号」全体
(意見)
 現状の課題を踏まえ、現行の手続きにおいて、発信者情報の開示対象に電話番号を追加する事は問題なく、省令改正による電話番号の追加に賛同する。

○1-(3)ログイン時情報
(該当箇所)第11~15ページ「1-(3)ログイン時情報」全体
(意見)
 現状の課題を踏まえ、現行の手続きにおいて、権利侵害投稿の通信とログイン時の通信とが同一の発信者によるものである場合に限るといった条件を付加しつつ、発信者情報の開示対象として、投稿時だけでなくログイン時のIPアドレス及びタイムスタンプ(ログイン時情報)も含まれる事を明確化する事は問題なく、省令改正によるログイン時のIPアドレス及びタイムスタンプの追加に賛同する。

 ここで、第15ページに、「ログイン時情報をもとに特定されたアクセスプロバイダに対して、ログイン時の通信の発信者の住所・氏名の開示を請求することとなるが、当該開示請求を受けるプロバイダは、プロバイダ責任制限法第4条第1項に規定する『開示関係役務提供者』の範囲に含まれない場合もあり得ることから、請求の相手方となる『開示関係役務提供者』の範囲を明確化する観点から、必要に応じて、法改正によって対応を図ることを視野に入れ、具体化に向けた整理を進めていくことが適当である」と記載されているが、ログイン時情報の開示については、権利侵害投稿の通信とログイン時の通信とが同一の発信者によるものである場合に限るといった条件が付加されるのであるから、ログイン時情報による開示請求を受けるプロバイダーは、プロバイダー責任制限法第4条第1項の、権利の侵害に係る「当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者」と言えるのであって、ログイン時のIPアドレスとタイムスタンプによる開示請求で法律上の「開示関係役務提供者」の範囲に含まれない場合もあり得るとする解釈は厳格に過ぎ、この点で法改正は不要であると考える。

 また、第15ページには、「後述の新たな裁判手続の創設に関して具体的にどのような仕組みが設けられるのかといった点や、それに伴いログイン時情報に関してどのようなニーズの変化が生じるのかという点も踏まえつつ、その具体化に向けて引き続き検討を深め」とも記載されているが、どの様な手続きによろうと、発信者の特定のために必要となる情報自体に違いが出る訳はなく、この意味不明の記載は削除するべきである。

 上記の通り、省令改正によるログイン時のIPアドレス及びタイムスタンプの追加に賛同するが、これは省令改正で十分であり、それに留めるべきである。

○1-(4)その他の情報
(該当箇所)第15~16ページ「1-(4)その他の情報」全体
(意見)
 現状の課題を踏まえ、現行の手続きにおいて、発信者情報の開示対象に接続先URLを追加する事は問題なく、省令改正による接続先URLの追加に賛同する。また、接続先IPアドレスが現行省令で含まれているという解釈も問題はないと考える。

○2.新たな裁判手続の創設について
○2-(1)新たな裁判手続の必要性
(該当箇所)第16~17ページ「2-(1)新たな裁判手続の必要性」
(意見)
 ここで、一般的に、損害賠償まで、コンテンツプロバイダに対する発信者情報開示、アクセスプロバイダに対する発信者情報開示請求、特定された発信者への損害賠償請求訴訟を行うという、3段階の手続きを経る必要がある事から、裁判所が発信者情報の開示の適否を判断する非訟手続きによる新たな裁判手続きの創設の検討を進める事が適当であるとしているが、これは全く不適切である。

 インターネットの仕組みを考えれば、どうやっても、コンテンツプロバイダーに対する削除要求・情報開示・ログ保全、アクセスプロバイダーに対する情報開示・ログ保全、開示侵害者に対する損害賠償請求等という様に、情報流通経路を逆に辿って行くしかないので、侵害者の情報が被侵害者にあらかじめ分かっている場合や、コンテンツプロバイダーが侵害者の情報を直接保有している様な場合を除き、何をどうやろうが、一足飛びに、前もって分かり得ない後の手続きの当事者を前の手続きに巻き込む事はできず、もしそれができたら、それは不当と言う他ない。非訟手続きによればいいなどという事も無論ない。

 権利侵害を受けた者にとって1回の裁判手続きが望ましいのはその通りであろうが、望ましい事すなわち技術的、実務的に可能であり、検討の余地があるという事ではない。その事をきちんと認識してこの部分の記載は全面的に改め、非訟手続きによる新たな裁判手続きの創設の検討を進める事は適当ではないとするべきである。

○2-(2)新たな裁判手続の制度設計における論点
(該当箇所)第17~21ページ「2-(2)新たな裁判手続の制度設計における論点」全体
(意見)
 上記2-(1)についての項目で述べた通り、この新たな裁判手続きはおよそ実現可能とは思えないが、本当に発信者情報開示のために何かしらの新しい非公開の非訟手続きを定め、一般的なチェックが効かない中で開示要件を緩めたとしたら、第18ページに記載されている様に、適法な情報発信を行う発信者の保護が十分に図られなくなり、手続が濫用される恐れが強く、第21ページに記載されている様に、発信者の保護や表現の自由の確保が十分に図られなくなる恐れが強い。この点でも、この新たな裁判手続きの検討は不適切なものであって、完全にバランスを失しているものである。

 さらに書いておくと、1回の手続きで、各プロバイダーの情報開示を可能とし、権利回復を可能とするという事は、実質的に当事者不明の匿名裁判手続きを可能とするという事に等しいが、この事については脚注23に記載されている通り、法制的に多くの検討すべき課題があるのであって、日本におけるその導入は極めて困難である。

 今回のプロバイダー責任制限法に関する検討は、2011年の「利用者視点を踏まえたICTサービスに係る諸問題に関する研究会」における検討(その「プロバイダ責任制限法検証に関する提言」https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01kiban08_01000037.html参照)及び2015年の「ICT サービス安心・安全研究会」における検討(その報告書「インターネット上の個人情報・利用者情報等の流通への対応について」https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01kiban08_02000184.html参照)以来のものであって、本格的な検討としては2011年の研究会以来のものであると思うが、この研究会の提言の第41ページ(第3の4(8)及び(9))で、第三者機関の創設等について、「取り扱う対象が通信の秘密といった重要な権利に関連することからすると、発信者情報の開示の当否は、通信の秘密といった重要な国民の権利に関するものであるから、このような実体的な権利を終局的に確定させる判断は(公開の法廷における対審及び判決という)訴訟手続によらなければならないと考えられ」る、匿名訴訟について、「民事訴訟法をはじめとする現行の民事手続法はそのような訴訟制度を前提としておらず、また、当該制度は訴えの提起から判決の効力までといった民事訴訟全般に関連するものであることからすると、当該訴訟制度の創設の是非に関しては、プロバイダ責任制限法においてのみ検討することができる問題ではなく、様々な立場の意見を広く検討し、訴訟制度全体の問題として検討されるべき」としている。この研究会の提言の整理は今なお妥当するものであって、今般の検討においてもこの整理を守るべきである。

 発信者情報開示に関する諸外国の状況も、この研究会の提言に記載された2011年当時のものと大きく変わるものではない。アメリカでは仮名(John Doe)裁判とそのディスカバリー手続きにおいて裁判所の強制令状(subpoena)に基づく情報開示が可能であるが、ディスカバリーなどのアメリカの特異な裁判手続きはその負担や濫用についての批判も非常に強いものであって、日本に持ち込むべきではないものである。欧州では、欧州司法裁判所が、2020年7月9日に、知的財産権執行指令の下で違法アップロードが行われたオンラインプラットフォーム運営者に権利者が要求できるのは関係するユーザの住所のみであってメールや電話番号は含まれないとする判決を出した所である事からも分かる様に、欧州全体でも、発信者情報開示については、このレベルでしか統一されておらず、今も基本的に各国法制による部分が多い。イギリスでは、裁判所のNorwich Pharmacal orderによる情報開示が可能であるが、これはそれぞれ情報を持っている者に対して訴えを提起して求めるものであって、1回の非訟手続きで各プロバイダーの情報開示を可能とする様なものではない。ドイツでは上記の欧州司法裁のケースで問題となった著作権法などとは別に2017年のネットワーク執行法(Netzwerkdurchsetzungsgesetz)によって通信メディア法(Telemediengesetz)第14条に扇動や中傷による権利侵害の場合の情報開示が規定されたが、この様なドイツの法制については今なおナチス思想を強力に取り締まっているドイツの特殊事情を考慮する必要がある事に加え、これも、裁判所への訴えにより、必要に応じて各プロバイダーに順次開示請求をする必要があるのであって、1回の非訟手続きで各プロバイダーの情報開示を可能とする様なものではない。フランスでは、2004年のデジタル経済信用法(Loi pour la confiance dans l'economie numerique)第6条等に基づき、仮処分に相当するレフェレ(refere)などにより、発信者情報開示を要求する事ができるが、これも同様に、必要に応じて順次開示請求をする必要があるのであって、1回の非訟手続きで各プロバイダーの情報開示を可能とする様なものではない。

 また、7月24日〆切で意見募集がされていた「インターネット上の誹謗中傷への対応の在り方について(案)」にも記載されていた様に、フランスで、憲法裁判所が、2020年6月18日に、オンラインヘイトスピーチ規制法の主要部分を否定している事が典型的に示しているが、欧米においては、プライバシー・個人データ、情報・表現の自由をきちんと保護しようとする動きがある事も注目されてしかるべきである。

 上記の通り、手続が濫用され、適法な情報発信を行う発信者の保護や表現の自由の確保が十分に図られなくなる恐れが強く、国際的にも極めて特異かつ異質な制度とならざるを得ないものである、この非訟手続きによる新たな裁判手続きの創設に反対する。この部分の記載は全面的に改め、非訟手続きによる新たな裁判手続きの創設の検討を進める事は適当ではないとするべきである。

○3.ログの保存に関する取扱い
(該当箇所)第21~23ページ「3.ログの保存に関する取扱い」全体
(意見)
 ここで、権利侵害か否かが争われている個々の事案に関連する特定のログを迅速に保全できるようにする仕組みの検討について記載されているが、ログの保存についても、それぞれの段階で、各プロバイダーに発信者情報消去禁止の仮処分の申立てをするしかない筈であり、これは新たな仕組みを設けるかどうかという問題でも、上記の通りバランスを欠くものとなるだろう新たな裁判手続きとの関係でどうこうという問題でもない。

 現行の手続きにおいて、ログ保存に関して、何が問題で、具体的に何をどうしようとしているのか、全く理解する事ができないこの部分の記載は全面的に改めるべきであり、ログの保存についても現行の手続きを前提に問題点を洗い直し、その迅速化に資する検討に注力するべきである。

○4.海外事業者への発信者情報開示に関する課題
(該当箇所)第23ページ「4.海外事業者への発信者情報開示に関する課題」全体
(意見)
 上記2-(2)についての項目で述べた通り、非訟手続きによる新たな裁判手続きは、何をどう検討しようが、国際的にも極めて特異かつ異質な制度とならざるを得ないものであり、海外のプロバイダーがこの様な制度に基づく決定や命令に従う可能性は万に一つもない。ここでも、新たな裁判手続の創設に関する記載は削除するべきであり、各国の法制に基づく訴え・申し立ての支援や訴状の送達の迅速化など、実効性のある方策のみを検討するとするべきである。

<第3章 今後の検討の進め方>
(該当箇所)第25~26ページ「第3章 今後の検討の進め方」全体
(意見)
 上記の通り、現行の手続きにおいて、省令改正により、発信者情報の開示対象に電話番号と接続先URLを追加し、条件つきでログイン時のIPアドレス及びタイムスタンプを追加する事に賛同するが、今のところは省令改正よる改善に留めるべきであって、法改正のための法改正としか言いようがなく、濫用の恐れが非常に強く、その点で完全にバランスを失しているものである、非訟手続きに基づく新たな裁判手続きや仕組みの創設に反対する。

 今後の検討においては基本的な考え方に合った、現行のプロバイダー責任制限法の手続きの拡充や迅速化など実務的に実効性のある検討のみがなされる事を期待する。

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2020年7月19日 (日)

第427回:総務省・発信者情報開示の在り方に関する研究会中間とりまとめ(案)に対するパブコメ募集(8月14日〆切)

 Twitterで少し触れたが、総務省から、8月14日〆切で、発信者情報開示の在り方に関する研究会中間とりまとめ(案)(pdf)に対するパブコメ・意見募集がかかっているので、今回はその内容を見て行く。(総務省の意見募集ページ、電子政府のHP参照。)

 この中間とりまとめ案の第2ページにも書かれている通り、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(プロバイダー責任制限法)は2001年に作られたもので、そこで定められている、インターネット上の権利侵害に対するその発信者情報の開示手続きの概要、現状と課題について、第1章、第3~5ページに以下の様に書かれている。

2.発信者情報開示の概要

(1)プロバイダ責任制限法における発信者情報開示制度の概要

 プロバイダ責任制限法は、第4条において、権利侵害情報が匿名で発信された際、被害者(権利を侵害されたと主張する者)が、加害者(発信者)を特定して損害賠償請求等を行うことができるよう、一定の要件を満たす場合には、プロバイダに対し、当該加害者(発信者)の特定に資する情報の開示を請求する権利を定めている。

 具体的には、情報の流通によって自己の権利を侵害されたとする者は、①当該開示の請求をする者の権利が侵害されたことが明らかであるときであって、かつ、②発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるときには、プロバイダに対して発信者情報の開示を請求することができ(第1項)、これを受けたプロバイダは原則として当該発信者の意見を聴取した上で、開示をするかどうかを判断することとされている(第2項)。

 ここにいう発信者情報の範囲については「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律第四条第一項の発信者情報を定める省令」平成14年総務省令第57号。以下「省令」という。)で定めることとされており、現在、発信者の氏名又は名称(省令第1号)、発信者の住所(同第2号)、発信者の電子メールアドレス(同第3号)、侵害情報に係るIPアドレス(同第4号)、携帯電話端末等の利用者識別符号(同第5号)、SIMカード識別番号(同第6号)、タイムスタンプ(侵害情報が送信された年月日及び時刻)(同第7号)が列挙されている。

 なお、発信者情報の開示を受けた者は、発信者情報をみだりに用いてはならないとされ(3項)、また、開示の請求に応じないことにより開示の請求者に生じた損害について、プロバイダは、故意又は重過失がある場合でなければ、損害賠償責任を負わないこととされている(第4項)。

(2)発信者情報開示の実務の現状

 インターネット上で権利侵害投稿が行われた場合、一般的に、コンテンツプロバイダは、発信者の氏名・住所等の情報を保有していないことが多く、被害者が被害救済を図るためには、投稿時のIPアドレスを端緒として、権利侵害投稿の通信経路を辿って発信者を特定する実務が定着している。

 発信者情報開示の場面で、問題となる投稿が権利侵害に該当するか否かの判断が困難なケースなどにおいては、発信者情報が裁判外で開示されないことが多いため、多くの場合、①コンテンツプロバイダへの開示請求、②アクセスプロバイダへの開示請求を経て、発信者を特定した上で、③発信者に対する損害賠償請求等を行うという、3段階の裁判手続が必要になっている。

 具体的には、コンテンツプロバイダに対する開示請求は、仮処分の申立てによることが一般的であり、これにより、発信者の権利侵害投稿の際のIPアドレス及びタイムスタンプが開示される。また、アクセスプロバイダに対する開示請求は、訴訟提起によることが一般的であり、発信者の氏名及び住所が開示される。

(3)現状の発信者情報開示の実務における課題

 現行のプロバイダ責任制限法における発信者情報開示の実務においては、実務関係者等から以下の課題が指摘されている。

ア 発信者を特定できない場面の増加

 近年、投稿時のIPアドレス等を記録・保存していないコンテンツプロバイダの出現により、投稿時のIPアドレスから通信経路を辿ることにより発信者を特定することができない場合があるほか、アクセスプロバイダにおいて特定のIPアドレスを割り振った契約者(発信者)を特定するために接続先IPアドレス等の付加的な情報を必要とする場合があるなど、現行の省令に定められている発信者情報開示の対象のみでは、発信者を特定することが技術的に困難な場面が増加している。

 また、発信者情報開示の場面においては、被害者が投稿後、一定の時間が経ってから権利侵害投稿に気づく場合や、コンテンツプロバイダにおける開示手続に一定の時間がかかるケースでは、アクセスプロバイダが保有するIPアドレスなどのログが請求前に消去されてしまう場合がある等のため、発信者の特定に至らない可能性がある。

イ 発信者特定のための裁判手続の負担

 前述のとおり、権利侵害が明白と思われる場合であっても、実務上、発信者情報がプロバイダから裁判外で(任意に)開示されることはそれほど多くはないことが指摘されている。

 このため、裁判外で開示がなされない場合、発信者の特定のためは、一般的に、①コンテンツプロバイダへの仮処分の申立て、②アクセスプロバイダへの訴訟提起という2回の裁判手続が必要になることから、これらの裁判手続に多くの時間・コストがかかり、救済を求める被害者にとって大きな負担となっている。

 したがって、これらの課題を解決する方策について、以下、具体的な検討を行う。

 前提の理解が必要なのでこの部分を少し長く引いたが、要するに、プロバイダー責任制限法において、SNSの投稿などにおける発信者情報の開示について規定されているが、現状、

  • 他に接続先IPアドレス等が必要とする場合があるなど、現行の情報開示の対象のみでは、発信者を特定することが技術的に困難な場面があること
  • コンテンツプロバイダへの投稿時のIPアドレスの開示を求める仮処分の申立てと、アクセスプロバイダへの開示された投稿時のIPアドレスによる訴訟提起という2回の裁判手続が実際の発信者の情報開示に必要となり、時間とコストがかかること

という2つの課題があることが書かれている。

 さらに、第5~6ページに、

3.検討に当たっての基本的な考え方

 第2章において具体的な論点について検討を行うに当たっては、基本的な考え方として、以下の点について確認しておくことが重要である。

 まず、発信者情報開示請求に係る制度の見直しに当たっては、発信者情報開示請求権によって確保を図ろうとする法益は何か、を確認した上で、その実現のための具体的な方策の在り方について検討を深めることが適当である。

 具体的には、発信者情報開示請求に係る制度の趣旨は、裁判を受ける権利の保障という重要な目的を達成するために、発信者の表現の自由、プライバシー及び通信の秘密を制約する上で、当該制約を必要最小限度のものにとどめる必要性があるという前提を踏まえ、権利侵害を受けたとする者(「被害者」)の救済がいかに円滑に図られるようにするか、という点(被害者救済という法益)と、適法な情報発信を行っている者のプライバシー・通信の秘密をいかに確保するか、という点(表現の自由の確保という法益)の両者の法益を適切に確保することにあると考えられる。

したがって、具体的な制度設計に当たっては、常にこの観点に留意しながら検討を深めることが適当である。

と書かれている。ここで、権利侵害に対する救済が必要なのは無論の事とは言え、制度改正が逆に行き過ぎれば、その濫用や悪用によって発信行為・表現が萎縮し、表現の自由の抑圧に繋がる危険性があるということをきちんと認識し、その間でバランスを取る事を基本的な考え方としている事は高く評価できるだろう。

 その後、この中間まとめ案の第6ページからの第2章以下でプロバイダー責任制限法の改正提案がされているが、その主な内容をまとめると、以下のようになる。

  • 発信者情報の開示対象の拡大として、省令で電話番号を追加(第8~11ページ)
  • 発信者情報の開示対象として、投稿時だけでなくログイン時のIPアドレス及びタイムスタンプ(ログイン時情報)も含まれる事の明確化(第11~15ページ)
  • 発信者情報の開示対象として、接続先IPアドレスが現行省令で含まれているという解釈の提示、接続先URLの省令による追加(第15~16ページ)
  • 裁判所が発信者情報の開示の適否を判断する、非訟手続きによる新たな裁判手続きの創設の検討(第16~21ページ)
  • 権利侵害か否かが争われている個々の事案に関連する特定のログを迅速に保全できるようにする仕組みの検討(第21~23ページ)

そして、最後、第25~26ページに、

第3章 今後の検討の進め方

 インターネット上の情報流通の増加や、情報流通の基盤となるサービスの多様化、それに伴うインターネット上における権利侵害情報の流通の増加を踏まえ、本研究会では、プロバイダ責任制限法における発信者情報開示の在り方に関して、制度及び実務上の主要課題並びに課題解決のための方策についての全体的な方向性を中間とりまとめとして提示した。

 総務省においては、本中間取りまとめを踏まえ、発信者情報の開示対象の追加については、まずは「電話番号」を開示対象に追加するため、迅速に省令の改正を行うことが適当である。併せて、当該省令改正に関して円滑な運用が行われるよう、「電気通信事業における個人情報保護に関するガイドライン」(総務省告示)の解説を改訂することが適当である。

 次に、「ログイン時情報」については、開示対象となるログイン時情報及び請求の相手方となる「開示関係役務提供者」の範囲を明確化する観点から、省令改正ほか、必要に応じて法改正によって対応を図ることも視野に入れて、具体化を進めていくことが適当である。

 また、新たな裁判手続の創設、特定の通信ログの早期保全のための方策等については、本中間とりまとめを踏まえて、今後、被害者の救済の観点のみならず発信者の権利利益の確保の観点にも十分配慮を図りながら、様々な立場からの意見を幅広く聴取して、法改正により新たな裁判手続を創設することについて、創設の可否を含めて、検討を進めていくことが適当である。

 本研究会では、これらの課題に関し、さらに整理が必要な事項について引き続き議論を行い、最終取りまとめにおいて追加的に提言を行う予定としている。

と、今後の進め方について書かれ、この中間とりまとめ案の検討事項の内、省令による、発信者情報の開示対象に電話番号を追加はすぐにもされる予定であり(この部分に書かれていないが、第16ページの脚注21の接続先URLの追加もすぐにされるのだろう)、その他のログイン時情報の取扱い、発信者情報開示のための非訟手続の創設、ログの迅速な保全の仕組みはさらに具体化のための検討を進めて行く予定である事が分かる。

 現状の課題を踏まえ、現行の手続きにおいて、発信者情報の開示対象に電話番号や接続先URLを追加する事は問題ないであろうし、ログイン時情報についても、

  • 「権利侵害投稿の通信とログイン時の通信とが、同一の発信者によるものである場合に限り、開示できることとする必要がある」(第13ページ)
  • 「開示を可能とする情報が際限なく拡大すれば、権利侵害投稿とは関係の薄い他の通信の秘密やプライバシーを侵害するおそれが高まることから、開示が認められる条件や対象の範囲について、一定の限定を付すことが考えられる」、「開示対象の範囲が不明確であるために実務が混乱することのないように、開示対象となるログイン時情報を省令において明確化することが適当である」(第13~15ページ)

と書かれている様に、気をつけるべき点は幾つかあるものの、基本的に、権利侵害投稿の通信とログイン時の通信とが、同一の発信者によるものである場合に限るといった限定を付け加える事で、現行の手続きにおいて、省令改正により、ログイン時のIPアドレスとタイムスタンプを追加する事に大きな問題はないだろう。

 このログイン時情報については、

  • 「ログイン時情報をもとに特定されたアクセスプロバイダに対して、ログイン時の通信の発信者の住所・氏名の開示を請求することとなるが、当該開示請求を受けるプロバイダは、プロバイダ責任制限法第4条第1項に規定する『開示関係役務提供者』の範囲に含まれない場合もあり得ることから、請求の相手方となる『開示関係役務提供者』の範囲を明確化する観点から、必要に応じて、法改正によって対応を図ることを視野に入れ、具体化に向けた整理を進めていくことが適当である」(第15ページ)

とも書かれており、総務省内でプロバイダー責任制限法について何かしら法改正がしたいのかと思えるが、ログイン時のIPアドレスとタイムスタンプによる開示請求で法律上の「開示関係役務提供者」の範囲に含まれない場合もあり得るとする解釈は厳格に過ぎ、この点で法改正は不要だろうと私は考える。(今までも、平成23、27年の省令改正により、ポート番号やSIMカード識別番号などが追加されている(省令と当時の総務省の省令に関する意見募集ページ1参照)。)

 それ以上に、プロバイダー責任制限法について法改正のための法改正をしたい勢力がいるのではないかと思え、かつ、余りにも検討が生煮えで非常に大きな問題を含んでいると思える部分は、何と言っても、新たな裁判手続きの創設と迅速なログ保全の仕組みに関する部分である。

 インターネットの仕組みを考えれば、どうやっても、コンテンツプロバイダーに対する削除要求・情報開示・ログ保全、アクセスプロバイダーに対する情報開示・ログ保全、開示侵害者に対する損害賠償請求等という様に、情報流通経路を順に辿って行くしかないので、コンテンツプロバイダーが侵害者の情報を直接保有している様な場合を除き、何をどうやろうが、一足飛びに、前もって分かり得ない後の手続きの当事者を前の手続きに巻き込む事はできず、もしそれができたら、それは不当と言う他ない。非訟事件手続きによればいいなどという事も無論ない(非訟事件手続法参照)。

 関連して開示対象とすべきログイン時情報の範囲との関係でも、「後述の新たな裁判手続の創設に関して具体的にどのような仕組みが設けられるのかといった点や、それに伴いログイン時情報に関してどのようなニーズの変化が生じるのかという点も踏まえつつ、その具体化に向けて引き続き検討を深め」(第15ページ)などとも書かれているのだが、どの様な手続きによろうと、発信者の特定のために必要となる情報自体に違いが出る訳はなく、これも私にはさっぱり理解できない記載である。

 この新たな裁判手続きについては、具体的な制度設計が全く不明で、およそ実現可能とは思えないのだが、本当に何かしらの新しい非公開の手続きを定め、一般的なチェックが効かない中で開示要件を緩めたとしたら、第18ページの、

他方、訴訟手続に代えて非訟手続とした場合の課題としては、非訟手続においては、原告と被告という対審構造や裁判手続の公開が原則とはされていないこと、既判力がないことなどの特徴があることから、制度設計次第では、

①現行の発信者情報開示訴訟とは異なる当事者構造となることにより、あるいは、発信者側の主張内容が裁判手続に十分に反映されないことにより、適法な情報発信を行う発信者の保護が十分に図られなくなるおそれがあり得ること

②裁判手続の取下げや紛争の蒸し返しが比較的容易であり、また、それが外部から見えにくい等により、手続の濫用の可能性があり得ること

等が挙げられる。

という批判がそのまま該当する状況が現出するだろうと私は思う。(この新たな裁判手続きの案がよほど生煮えの儘ごり押しで通されたのだろう事は、7月10日の第4回研究会で構成員から慎重に検討するべきという意見(pdf)が出されている事からも分かる。)

 ログの保存についても、それぞれの段階で、各プロバイダーに発信者情報消去禁止の仮処分の申立てをするしかない筈で、それを如何に迅速化するかという話ならまだ分からなくもないが、現行の手続きで何が問題で、具体的に何をどうしようとしているのか、この中間まとめ案で、「早期に発信者情報を特定・保全できるようにする仕組みを設けることが考えられる」、「当該仕組みの導入に向けて、法改正を視野に制度設計の具体化に向けた検討を深めていくことが適当である」、「その際、前述の新たな裁判手続との関係にも留意が必要である」(第23ページ)などと書かれているが、私には全く分からない。

 この中間とりまとめ案は、プロバイダー責任制限法の発信者情報開示のあり方の検討にあたっては、片や権利侵害の救済、片やプライバシー・通信の秘密、表現の自由という重要な法益の間できちんとバランスを取る必要があるという事を正しく認識していながら、あたら法改正のために法改正をしたいとばかりに内容空疎な新たな裁判手続きや仕組みといった言葉を無意味に踊らせているものであって、その点で完全にバランスを失しているものである。私は現行のプロバイダー責任制限法の手続きの拡充や迅速化の検討自体はされて然るべきだと思っているが、濫用の懸念の強い非訟手続による新たな裁判手続きの創設に反対するとともに、ログの保存についても現行の手続きを前提に問題点を洗い直す様にするべきとの意見を出すつもりである。

 最後に、合わせ触れておくと、ごっちゃになりやすいが、総務省からは、インターネット上の誹謗中傷への対応の在り方について(案)(pdf)のパブコメも7月24日〆切でかかっている。(総務省の意見募集ページ2、電子政府のHP2参照。)

 こちらのインターネット上の誹謗中傷への対応の在り方について(案)は、発信者情報開示を除く一般的な誹謗中傷対策について記載しているものだが、総論で「対策の実施に当たっては、これまでも官民が連携し、(1)ユーザに対する情報モラル向上のための啓発活動、(2)事業者による取組や事業者団体による知見・ノウハウの共有、(3)国における環境整備、(4)被害者への相談対応、といった枠組によりそれぞれ取組を実施してきたところ、今後も、基本的には同様の枠組を踏襲しつつ、総合的な対策を講じていくことが重要」(第2ページ)と書かれている通り、既存の枠組みに沿って、ユーザに対する情報リテラシー向上のための啓発活動の強化や、プラットフォーム事業者における削除等の対応の強化や透明性の向上の促進などを進めて行くとするもので、特に問題のある事は書かれていない。

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2019年8月18日 (日)

第412回:インターネット海賊版対策としてアクセス警告方式の導入は法的にも技術的にも難しいとする総務省の報告書

 8月8日に総務省からインターネット上の海賊版サイトへのアクセス抑止方策に関する検討会報告書(pdf)が公表された(総務省のリリース参照)。この報告書は、インターネット海賊版対策としてアクセス警告方式の導入は現時点で法的にも技術的にも難しいという極めて妥当な結論を出しているものであるが、今後の政府検討の前提となると思うので、ざっとその内容を見ておく。

 この報告書では、第2ページ以下の第1章で、今までの経緯、出版広報センターからのヒアリング内容と、インターネットの特性やユーザーの意見も踏まえた検討を行うべきといった前置きを書いた後、第7ページ以下の「第2章 ネットワーク側におけるアクセス抑止方策(アクセス警告方式)」でアクセス警告方式の是非を取り上げている。

 まず、第2章の「4.アクセス警告方式の実施の前提となる法的整理」(第9ページ~)で、法的整理、通信の秘密との関係について書いているが、ここで、アクセス警告方式の様な通信の侵害となる方式の実施には原則として明確な個別の同意が必要であるとしながら、例外的に包括同意が許される条件を考えると「ISPが海賊版サイトへのアクセスを警告することを目的として、ユーザのアクセス先を検知し、警告画面を表示することについて、『一般的・類型的に見て、通常のユーザであれば承諾すると想定し得る』か否かが問題となる」(第11~12ページ)が、この様な方式の実施に対して慎重又は否定的なアンケート調査及びパブリックコメントの結果から、「現時点でのユーザの意識・意向を踏まえると、アクセス警告方式の実施について、『一般的・類型的に見て、通常のユーザであれば承諾すると想定し得る』とはいえないと考えられる。したがって、ISPは、ユーザから個別具体的かつ明確な同意を取得する場合にはアクセス警告方式を実施することは可能であるが、現状では、契約約款等による包括同意を有効な同意とみることは困難と考えられる。また、この点は、ダウンロード行為が違法とされる場合であっても同様に考えられる。」(第13ページ)というごく真っ当な結論を出している。

 次に、「5.アクセス警告方式の導入及び実施のための技術的な課題及びコスト」(第13ページ~)で、技術的な課題についても書いているが、ここで、

  • (a)DNS+プロキシ方式:ユーザが海賊版サイトにアクセスしようとした場合にDNSサーバ上で当該アクセスを検知し、アクセス先を海賊版サイトから警告画面を表示するサイトに書き換え、別のサーバ(プロキシサーバ)に誘導して警告画面を表示する手法
  • (b)プロキシ方式:ISPにおいて新たに用意するプロキシサーバを経由してユーザよるwebサイトへのアクセスを提供し、同サーバにおいて警告画面の表示や本来のコンテンツの表示の切替え等を行う手法
  • (c)DPI方式:ISPの管理するネットワークにパケットの中身を解析する機能(DPI装置)を実装する手法

の全てについて、技術的な課題及びコストの問題があり、さらに、海賊版サイトが暗号化通信に対応している場合、電子証明書のエラーから警告画面表示ができないが、「このような証明書エラーの問題を回避し、警告画面を表示させるためには、ISPが保有する警告画面表示用のサーバの証明書を『信頼できるルート証明書』としてユーザのブラウザに追加してもらう方法が考えられるが、そのような方法はセキュリティリテラシーの観点から適切ではなく、現実的な対応策ではないと考えられる。」としているのは当然の帰結である。

 この第2章の結論は、「7.アクセス警告方式に係る今後の検討課題」(第20~21ページ)で、次の通り、個別同意を前提とした試行的実施や技術の進展に伴うコストの将来的な低下などの記載に多少の未練が見られるものの、上で抜き出した部分をそのままなぞる形で書かれている。

 以上の検討を踏まえると、アクセス警告方式は、警告画面を表示させることで、多くのユーザが海賊版サイトにアクセスすることを思いとどまるものと見込まれることから、海賊版対策として一定の効果があると考えられるものの、アクセス警告方式の実施に係る法的整理に関しては、現時点でのユーザの意識や意向を前提とすると、ユーザから個別具体的かつ明確な同意を取得すればアクセス警告方式を実施することは可能である。しかし、現状では、契約約款等による包括同意によってユーザの有効な同意があるとの法的整理を行うことは困難である。また、ダウンロード行為が違法とされたと想定した場合についても、ユーザの意識や意向に大きな違いは見られないことから、同様の整理になるものと考えられる。
 また、アクセス警告方式を実現するための技術的な仕組みや関連機器・システムのコストの面でも、現状では、様々な課題があることが示された。しかしながら、例えば、既に関連機器やシステムを保有しているISPなどもあることから、個別同意を前提としたアクセス警告方式の試行的実施などの技術検証を進めていくほか、インターネットを取り巻く技術の進展は目まぐるしく、また、それに伴って、関連機器・システムのコストも将来的に低下していくことも考えられることから、今後とも海賊版の被害状況や総合的対策メニュー案に示された各施策の取組状況も踏まえつつ、引き続きユーザの意識や意向、技術動向・コスト動向などアクセス警告方式をめぐる状況把握に努めていくことが適当である。
 なお、前述のとおり、アクセス警告方式には海賊版対策として一定の効果が見込まれると考えられるところ、カジュアル・ユーザによる海賊版サイトへのアクセスを防ぐことによって著作権者の被害拡大を防止する仕組みは、ネットワーク側におけるアクセス抑止方策であるアクセス警告方式に限られず、端末側においてアクセス警告方式類似の対策の実装を図ることも可能である。したがって、アクセス警告方式に関する課題については、上記のとおり、引き続き技術検証や状況把握等に努めていく一方で、現状では、後述のとおり端末側でアクセス警告方式類似の方策をすでに実施しており、ネットワーク側ではなく、端末側においてアクセス警告方式類似の対策の実装を図ることがより即時性が高い方策であると考えられることから、上記ネットワーク側におけるアクセス抑止方策への対応と併せて、端末側におけるアクセス抑止方策を着実に促進していくことが適当である。
 意見募集においても、ネットワーク側よりも、端末側において実装を図る方が効率的又は本来のネットワークのあるべき姿に相応しい等の意見も多く寄せられたところであり、こうした声も踏まえて、次章では、端末側におけるアクセス抑止方策について検討を行う。

 報告書の端末側のフィルタリングによる対策について記載している部分は、ブロッキングやアクセス警告方式ほどの問題がある訳ではないので、ここでは省略するが、総務省は8月9日に青少年の安心・安全なインターネット利用環境整備に関するタスクフォース青少年のフィルタリング利用促進のための課題及び対策(pdf)も公表している(総務省のリリース参照)。

 随所にアクセス警告方式に対する未練が見られる点で全く難点がないとまでは言い切れないものの、アクセス警告方式の導入は法的にも技術的にも難しいとするこの総務省の報告書の結論は極めて妥当なものと思うし、パブコメを出したことも無駄ではなかったと思うが(私の提出パブコメは第407回参照)、これでインターネット上の海賊版対策に関する検討が大きな問題なく進められるとは行かないのではないかと私は危惧している。7月26日には、知財本部で検証・評価・企画委員会の第1回が開催され(議事次第・資料参照)、その場でブロッキング導入のための議論再開を求める意見が出されたとの報道もあった(時事通信のネット記事参照)。ダウンロード違法化の対象範囲拡大についてはまだ議題に上っていないようだが、8月9日には文化庁の文化審議会・著作権分科会・法制・基本問題小委員会の第1回も開催されている(議事次第・資料参照)。ブロッキングやアクセス警告についてもそうだが、国会提出が見送られた著作権法改正案(その内容については第406回参照)も巻き込んで、知財本部、文化庁、総務省など各官庁、与党・国会議員への権利者側のロビー活動が止む事はないだろうし、以前と同様ごり押しで秘密裏にロクでもない検討が進められる可能性はなお高く、これからも危ない状況が続くと私は見ている。

 サイトブロッキングにしても、アクセス警告方式にしても、総務省の報告書の最後(第34~35ページ)に参考として、

 サイトブロッキングに関しては、本検討会会合における構成員等からの意見として、例えば、「意見意見募集の結果を見ると、通信の秘密の侵害に対して強い懸募集の結果を見ると、通信の秘密の侵害に対して強い懸念が持たれているということを非常に強く感じる。ブロッキングを可能にする法律を作るにせよ、アクセス警告方式を可能にする包括同意の整理をするにせよ、いずれにしても、簡単にできることではないという指摘が多かったので、これらの点を今後の海賊版サイト対策全体を考える上でもこれらの点を今後の海賊版サイト対策全体を考える上でも心掛ける心掛けるべきべき」、「意見募集において、海賊版対策パッケージ全体として、通信の秘密を侵害する形で進めるべきではないという意見がはっきりと出てきており、アクセス警告方式のみならず、ブロッキングについても反対の意見が多いことにの意見が多いことに留意すべき」といったコメントがあった。

と書かれているコメントの通りであって、これらの様なユーザー・利用者の基本的な権利を侵害するものとならざるを得ない非道なネット検閲の検討より先になすべき事が山の様にあると思うが、今までの日本の政策動向を見るにつけ、政府・与党がその様な地道な取り組みのみを進めようとしないのは本当に残念でならない。

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2019年5月 2日 (木)

第407回:「アクセス抑止方策に係る検討の論点」に対する意見募集(5月14日〆切)への提出パブコメ

 去年のちょうど今頃知財本部を中心に著作権ブロッキングのごり押しの検討が進められいたと記憶しているが、今もその余波は続いていて、今度はアクセス警告方式が前面に押し出され、知財本部は今でも絡んでいると思うが、その検討のために、4月19日から総務省でインターネット上の海賊版サイトへのアクセス抑止方策に関する検討会が始まっている。

 その検討会の資料として、5月14日〆切で意見募集が掛かっている(総務省HP電子政府HP参照)、アクセス抑止方策に係る検討の論点について、私も意見を提出したので、ここに載せておく。

 その内容は下を見ていただければと思うが、意見募集対象の論点を見ると、サイトへのアクセスにおいて警告画面を表示するアクセス警告方式の導入ありきの検討をしようとしている気配が濃厚に漂うが、アクセス警告方式は利用者・ユーザが一応突破できる点でブロッキングよりは制約的でないと言えるかも知れないが、通信の監視・介入の点で本質的に違いはなく、ほぼ同等の大きな問題を抱えるものである。

 海賊版対策と称して、本来取り組まなければならないはずの送信側・アップロード側の対策そっちのけで、受信側・利用者・ユーザのアクセス制限というネット検閲の検討ばかりが延々と続けられている事には本当に辟易するが(大体、古今東西この手の検閲がうまく行った例はない)、この総務省のパブコメも重要なものの1つと思うので、関心のある方は是非提出を検討する事をお勧めする。

(以下、提出パブコメ)

《要旨》
 情報の自由や検閲の禁止、通信の秘密といった国民の基本的な権利を侵害するものとならざるを得ない、サイトブロッキングやアクセス警告方式の導入ありきの検討に反対する。インターネットにおける海賊版対策の検討においては、まず、アップロードによる著作権侵害に対する民事・刑事の権利行使においてどこにボトルネックがあるのかを明らかにした上で、そのボトルネックを解消するための地道な取り組みのみに注力するべきである。

《全文》
論点0:サイトブロッキング及びアクセス警告方式についてどう考えるか。

(左記論点に対する意見)
 「アクセス抑止方策に係る検討の論点」には最も基本的な論点が欠けているので、ここで、論点0として「サイトブロッキング及びアクセス警告方式についてどう考えるか。」を追加した。

 「アクセス抑止方策に係る検討の論点」に提示された論点を見ると、総務省は、アクセス警告方式の導入ありきでの検討を行おうとしていることが見て取れるが、私はこのような検討に反対する。

 2018年に知財本部において著作権サイトブロッキングについて導入ありきごり押しの検討がされ、幸いなことに、この検討は途中で止まったが、インターネット利用者から見てその妥当性をチェックすることが不可能なサイトブロッキングにおいて、透明性・公平性・中立性を確保することは本質的に完全に不可能である。このようなブロッキングは、憲法に規定されている情報・表現の自由(知る権利・情報アクセスの権利を含む)や検閲の禁止、通信の秘密といった国民の基本的な権利を侵害するものとならざるを得ないものであり、決して導入されるべきでないものである。

 アクセス警告方式は、利用者・ユーザが警告画面を一応突破できるという点でブロッキングよりは制約的でないと言い得るかも知れないが、全国民の通信を監視してその通信に介入するという点ではサイトブロッキングとアクセス警告方式の間に本質的な違いはなく、同様に、情報・表現の自由や検閲の禁止、通信の秘密といった国民の基本的な権利を侵害するものとならざるを得ないものである。アクセス警告方式においては、利用者・ユーザーが警告画面を一応突破できるとはいえ、突破したことが妥当であったのかは突破してみなければ分からず、通信の監視によって、利用者・ユーザが警告画面を突破したことについて不利な扱いを受ける恐れが強い状況下で、警告画面の表示は実質的にブロッキングと同等の国民の情報アクセス制限手段として機能することになる。

 また、いかなる形を取るにせよブロッキングの採用が有効な海賊版対策として世界の主要な流れとなっているとは到底言い難いことに加え、アクセス警告方式の導入例に至っては皆無であろう。

 インターネットにおける海賊版対策の検討においては、まず、アップロードによる著作権侵害に対する民事・刑事の権利行使においてどこにボトルネックがあるのかを明らかにした上で、そのボトルネックを解消するための地道な取り組みのみに注力するべきである。

 今後、このような一方的かつ身勝手な規制強化の動きを規制するため、憲法の「表現の自由」に含まれ、国際人権B規約にも含まれている国民の「知る権利」を、あらゆる公開情報に安全に個人的にアクセスする権利として、通信法に法律レベルで明文で書き込むことを検討するべきである。同じく、憲法に規定されている検閲の禁止及び通信の秘密から、サイトブロッキングやアクセス警告方式のような技術的検閲の禁止を通信法に法律レベルで明文で書き込むことを検討するべきである。

<検討・実施に当たっての基本的な考え方及び進め方について>

論点1:アクセス抑止方策の検討に際しては、インターネット上の海賊版の現状について関係者の共通認識のもとで議論を進めるべきではないか。

(左記論点に対する意見)
 私はサイトブロッキング及びアクセス警告方式のいずれの導入にも反対するが、あらゆる者の情報アクセスに広く影響を及ぼし得る、インターネット上の海賊版対策の検討にあたっては、権利者団体のみならず、個々の権利者、利用者・ユーザも含む形で、基礎となる事実をきちんと確認した上で議論を進めるべきである。ここで、権利者団体側の一方的な主張に基づく推定に推定を重ねたアクセス数に著作物の単価を掛けるような乱暴な被害額の試算など真摯な政策論の基礎とならないことをまず確認するべきである。

論点2:インターネットの特徴や役割を踏まえて、あるべきネットワークの姿は何かを考慮しつつ議論を進めるべきではないか。

(左記論点に対する意見)
 私はサイトブロッキング及びアクセス警告方式のいずれの導入にも反対するが、国民の基本的な権利である情報の自由を守ることを中心として、インターネットもこのような情報の自由を支える重要な基盤の一つであるという認識に基づいて議論が進められるべきであることは言うまでもない。

論点3: 具体的な方策の検討に当たっては、海賊版サイトにアクセスするユーザにとどまらず、多くのネットユーザにも影響があり得ることから、幅広いユーザの声に耳を傾け、ユーザの理解を十分に得て進めることが必要ではないか。

(左記論点に対する意見)
 私はサイトブロッキング及びアクセス警告方式のいずれの導入にも反対するが、あらゆる者の情報アクセスに広く影響を及ぼし得る、インターネット上の海賊版対策の検討にあたっては、利用者・ユーザの理解を幅広く得ることが必要であることは言うまでもない。ここで、単にこの論点についてのパブコメ結果が理解を得たことの証左とされてはならない。検討会の委員の過半数を利用者代表とすることや、検討会において消費者・利用者団体のすべてに意見を述べる機会を与え、かつ、最終的な報告書においてその意見をきちんと反映するなど、可能な限り利用者の意見を汲み取るようにするべきである。

論点4:アクセス抑止方策の実際の導入に向けた詳細調整・実施は、民間部門において主体的・主導的に進められるべきではないか。

(左記論点に対する意見)
 私は児童ポルノを理由とした、民間主導とされているサイトブロッキングにも反対している。児童ポルノ問題と知的財産権の侵害である著作権侵害問題は混同されるべきではないが、民間主導を建前としても、情報・表現の自由や検閲の禁止、通信の秘密といった国民の基本的な権利の実質的な侵害となるサイトブロッキングやアクセス警告方式は許されてはならないものである。今後、検討の過程において民間主導の話が出されることがあったら、通信関連法を所管する総務省から、そのようなことは民間主導であってもなされるべきではないと述べるべきである。

<アクセス警告方式の実現に向けた検討課題>

論点5:アクセス警告方式を何のために行うのか、どのような意味を持つのか等、実施の前提について議論すべきではないか。ユーザによる海賊版コンテンツのダウンロード行為が違法か違法でないかによって、違いがあるか。

(左記論点に対する意見)
 アクセス警告方式は、全国民の通信を監視してその通信に介入するものであって、情報・表現の自由や検閲の禁止、通信の秘密といった国民の基本的な権利を侵害するものとならざるを得ないものである。ここでは、ユーザによるダウンロード行為の違法性以前の問題として、総務省の過去の「利用者視点を踏まえたICTサービスに係る諸問題に関する研究会」において児童ポルノブロッキングの著作権ブロッキングへの濫用を戒める整理を敷衍し、アクセス警告方式についても、違法性阻却の余地はないと整理されるべきである。

論点6:アクセス警告方式にはどのようなメリット・効果があると考えられるか。

(左記論点に対する意見)
 アクセス警告方式は、利用者・ユーザが警告画面を一応突破できるという点でブロッキングよりは制約的でないと言い得るかも知れないが、全国民の通信を監視してその通信に介入するという点ではサイトブロッキングとアクセス警告方式の間に本質的な違いはなく、同様に、情報・表現の自由や検閲の禁止、通信の秘密といった国民の基本的な権利を侵害するものとならざるを得ないものである。アクセス警告方式においては、利用者・ユーザーが警告画面を一応突破できるとはいえ、突破したことが妥当であったのかは突破してみなければ分からず、通信の監視によって、利用者・ユーザが警告画面を突破したことについて不利な扱いを受ける恐れが強い状況下で、警告画面の表示は実質的にブロッキングと同等の国民の情報アクセス制限手段として機能することになる。すなわち、アクセス警告方式の導入にメリット・有利な効果はない。

論点7:アクセス警告方式の実施の前提としての法的整理に関し、個別の同意が必要か、あるいは、包括同意で足りると整理することが可能か。

(左記論点に対する意見)
 アクセス警告方式は、全国民の通信を監視してその通信に介入するものであって、情報・表現の自由や検閲の禁止、通信の秘密といった国民の基本的な権利を侵害するものとならざるを得ないものである。これは、良く理解もされないまま個々の利用者・ユーザの同意さえ得れば良いという問題ではない。通信事業者及び利用者・ユーザに追加のコスト負担が発生しないことを前提に、アクセス警告方式への不参加をデフォルトとして、不利な点も含めてはっきりと説明した上で、全利用者・ユーザから明確な同意が得られれば、アクセス警告方式の実施について同意を前提とし得るかも知れないが、全く非現実的である。

論点8:アクセス警告方式に関する技術的な課題はあるか。

(左記論点に対する意見)
 私はサイトブロッキング及びアクセス警告方式のいずれの導入にも反対する。アクセス警告方式は、全国民の通信を監視してその通信に介入するという点ではサイトブロッキングとアクセス警告方式の間に本質的な違いはなく、情報・表現の自由や検閲の禁止、通信の秘密といった国民の基本的な権利を侵害するものとならざるを得ないものであって、サイトブロッキングと同様の技術的課題がある。

論点9:アクセス警告方式の導入及び実施のためのコストについて、どのように考えるか。

(左記論点に対する意見)
 私はサイトブロッキング及びアクセス警告方式のいずれの導入にも反対する。導入及び実施のためのコストを通信事業者が負担する又は利用者・ユーザに転嫁するといった安易な議論に断固反対する。

論点10:その他、導入に当たって、法的・技術的課題以外に検討すべき事項はあるか。

(左記論点に対する意見)
 私はサイトブロッキング及びアクセス警告方式のいずれの導入にも反対する。そもそもこれはアクセス警告方式そのものの法的・技術的課題以前の問題であって、インターネットにおける海賊版対策の検討においては、まず、アップロードによる著作権侵害に対する民事・刑事の権利行使においてどこにボトルネックがあるのかを明らかにした上で、そのボトルネックを解消するための地道な取り組みのみに注力するべきである。

<その他アクセスを効果的に抑制するための方策に係る検討>

論点11:端末側での対応策にはどのようなメリット・効果があると考えられるか。

(左記論点に対する意見)
 完全に携帯端末におけるフィルタリングにより対応するのであれば、通信事業者及び利用者・ユーザに追加のコスト負担が発生しないことを前提に、フィルタリングの不使用をデフォルトとして、不利な点も含めてはっきりと説明した上で、明確な同意が得られれば、同意を前提として個々の利用者・ユーザに対して適用が可能であるかも知れないが、このようなフィルタリングのメリット及び有効性は非常に怪しい。加えて、この場合においても、フィルタリングの使用を強制するようなことがあればアクセス警告方式やサイトブロッキングと同等となることを良く認識した上で、個々の利用者・ユーザから明確な同意を取るようにするとともに、利用者・ユーザからいつでもフィルタリングの解除ができるようにしておくべきである。

論点12:フィルタリング等の端末側での対応策はどのような方法が考えられるか。

(左記論点に対する意見)
 海賊版サイトの主な収入が広告であり、携帯端末からのアクセスが主となっているのであれば、フィルタリングのような有効性の怪しい策より、携帯端末において広告を表示させないサービスを利用者・ユーザに提供することの方がまだ有効ではないかと考える。

論点13:端末側での対応策はどのような技術的課題があるか。

(左記論点に対する意見)
 個々の利用者・ユーザから明確な同意が得られれば、同意を前提としてフィルタリングの適用が可能であるかも知れないが、その有効性は非常に怪しい。加えて、フィルタリングにおいても、対象サイトのリストの管理の問題も発生する。仮に、携帯端末におけるフィルタリングにより対応することを検討するにしても、フィルタリングするサイトのリストは利用者・ユーザから確認可能であるようにするとともに、基本的に対応は端末に閉じるようにするべきであって、通信事業者が利用者・ユーザの特定のサイトへのアクセスを監視することがないよう厳に戒めるべきである。

論点14:端末側での対応策の導入及び実施のためのコストについて、どのように考えるか。

(左記論点に対する意見)
 端末側での対応策の導入及び実施のためのコストについても、通信事業者が負担する又は利用者・ユーザに転嫁するといった安易な議論は慎むべきである。

論点15:その他、端末側での対応策の導入に当たって、法的・技術的課題以外に検討すべき事項はあるか。

(左記論点に対する意見)
 そもそもこれは端末側での対応策の法的・技術的課題以前の問題であって、インターネットにおける海賊版対策の検討においては、まず、アップロードによる著作権侵害に対する民事・刑事の権利行使においてどこにボトルネックがあるのかを明らかにした上で、そのボトルネックを解消するための地道な取り組みのみに注力するべきである。

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2012年12月29日 (土)

第284回:2012年の終わりに

 総選挙を経て、この12月26日に第2次安倍内閣が発足した。その閣僚名簿(首相官邸のHP参照)を見るだけで、来年以降どうしようもなく辛い状況が続くのは容易く想像がつくが、今後もやれることをやって行くしかない。

 役所も休みに入り、もうこれで一通り年内のイベントは片づいたと思うので、今年も最後にブログのエントリとして今まであまり取り上げて来られなかった話を中心にまとめておきたいと思う。

 まず、制度ユーザーにしか関係ないのでつい後回しになりがちになっているが、商標法と特許法に関して、特許庁から2つパブコメが募集されている。

 1つ目は2013年1月16日〆切で募集されている、産業構造審議会・知的財産政策部会・商標制度小委員会の報告書「商標制度の在り方について」(案)に対する意見募集(電子政府のHP参照)である。前回の報告書からかなり時間が経っているが、この今回の報告書案(pdf)に書かれていることは、要するに、特許庁が、やはり動き、ホログラム、輪郭のない色彩、位置、音の商標といった非伝統的商標の保護を導入しようとしているということである。どう考えても今後さらに検討すべき実務的な論点は多いが、第8ページで「石焼き芋の売り声や夜鳴きそばのチャルメラの音のように、商品又は役務の取引に際して普通に用いられている音、単音、効果音、自然音等のありふれている音、 又はクラシック音楽や歌謡曲として認識される音からなる『音』の商標については、原則として自他商品役務の識別力を有しないものとする」と書かれている点は重要である。実際の運用次第だが、このように識別性の要件を厳しく取ることができれば音の商標の導入における混乱は多く避けられるだろう。他にもこの報告書案では、地域団体商標の登録主体の範囲を商工会等まで拡大することなども書かれている。

 2つ目は1月18日〆切で募集されている、産業構造審議会・知的財産政策部会・特許制度小委員会の報告書「強く安定した権利の早期設定及びユーザーの利便性向上に向けて」(案)に対する意見募集(電子政府のHP参照)である。こちらもマニアックな話だが、この報告書案(pdf)に書かれていることは、特許庁が、平成15年法改正で無効審判制度に統合され廃止された特許の異議申立制度を多少の手直しを加えて付与後レビュー制度と称して復活させようとしているということである。制度ユーザーとしてはほぼ元々あった選択肢が復活するというだけの話なので別に悪い話でもないが、ただ、新制度も10年間それなりに問題なく運用されていた中で、本当にこのような法律の再改正が必要かと疑問に思うところもある。この報告書案では、特許出願審査請求の手続期間徒過に対する救済の導入や国内外で発生した大規模災害の被災者の救済規定の整備などについても書かれている。

 これらの特許庁報告書案に対応する法改正はいつになるのか不明だが、次の国会には法案が提出されるのだろうか。

 文化庁に目を向けると、予想通りほぼどうにもなっていないが、文化審議会・著作権分科会・法制問題小委員会で引き続き、間接侵害やパロディの問題について検討が行われている。(cnetの記事も参照。議事要旨だけを公開されても何が検討されているのかさっぱり分からないが、パロディに関してはパロディワーキングチームで検討が行われている。)今年度はもうどうにもならないだろうが、来年以降は、TPPや出版社への隣接権付与の問題もあれば、最高裁での私的録画補償金裁判のメーカー側勝訴確定(時事通信の記事参照)を受けて権利者団体側が補償金制度に関する圧力を強めて来ることも予想され、文化庁での検討がまたかなり荒れ出すのではないかと思う。(なお、文化庁の資料であることを常に念頭において読まなければならないが、国際小委員会の資料も国際的な状況の一部を知る上では一読の価値がある。)

 知財本部では、今年度最初の知的財産による競争力強化・国際標準化専門調査会コンテンツ強化専門調査会とがそれぞれ12月21日と25日に始まっている。今のところ何をしようとして来るのかさっぱり分からないが、自公政権下でまたロクでもないことを言い出すかも知れず、今後の知財本部の議論も要注意だろう。

 今年の7月には、総務省の情報通信審議会・デジタル・コンテンツの流通の促進等に関する検討委員会が、B−CAS問題についてほぼ様子見を決め込む形でひっそりと幕を閉じている。ただ、B−CASがほぼ完全にクラックされたこともあり、不正ユーザーの逮捕で表向き小康状態が保たれているようにも見えるが、何かでまた騒ぎになるのは火を見るよりも明らかであり、総務省はそのうち何かしらの形でB−CAS問題に関する検討を再開することを余儀なくされるのではないかと私は予想している。また、総務省では、利用者視点を踏まえたICTサービスに係る諸問題に関する研究会も引き続き開催されている。

 農水省では、地理的表示保護制度研究会が開催されており、8月に「我が国において、特別(sui generis)な地理的表示保護制度を新たに導入し、地理的表示を活用して、多くの経済的・社会的効果が発揮されるよう取り組んでいくべき」とまとめようとする報告書骨子案(pdf)を作っている。地理的表示保護制度が本当に導入されれば知財政策的にかなり大きな話になるが、商標法での地域団体商標制度との関係を含めまだまだ整理すべき課題が多いのはこの報告書骨子案にも書かれている通りだろう。農水省もそう簡単に整理をつけられなかったのか、この研究会の取りまとめが行われたという話は聞かないが、いつか検討を再開するのだろうか。

 警察庁では、総合セキュリティ対策会議で「サイバー犯罪捜査の課題と対策について」という検討テーマを追加して、遠隔操作ウィルスによる冤罪発生事件を受けた検討を11月から開始している。第1回の議事要旨(pdf)を見ると、検討の視点は「民間事業者との連携」、「国際連携の推進」、「広報啓発」の3点ということで、即座にネット規制強化案が出て来るとは見えないのだが、警察庁のことなので、自公政権が成立したのをいいことに、冤罪事件の反省もどこへやら、ロクでもない規制強化に全力で突っ走ることも考えられ、恐らく直近で最も注意すべきは警察庁の検討ではないかと私は考えている。

 今年はダウンロード犯罪化を含む著作権法改正の可決・施行や海賊版対策条約(ACTA)の可決・批准を筆頭に日本の知財政策面では惨憺たる一年だったが、上で書いた通り、今後もちょっと考えるだけで、TPP問題や出版社への隣接権付与の問題、私的録音録画補償金問題など様々な問題で権利者団体の圧力が強まるのは間違いなく、残念ながら来年も極めて辛い年になるだろう。そのため、今年も到底良い年をと言う気にはならないが、政官業に巣くう全ての利権屋と非人道的な規制強化派に悪い年を。そして、このつたないブログを読んで下さっている全ての人に心からの感謝を。

 国内では当分どうしようもない状態が続くだろうが、国外に目を転じれば、欧州議会での海賊版対策条約(ACTA)の否決やオランダ議会でのダウンロード違法化計画再否決(TorrentFreakの記事参照)などに端的に表れているように、世界的に見れば行き過ぎた規制強化によって知財政策が大きな岐路に立たされているのは間違いない。細々とした話はtwitterでも書き留めているが、詳しく書きたい話も多くあり、今後もこのブログは続けて行くつもりである。

(2013年1月3日の追記:上で書き忘れていたが、知財関係としては、他にも特許庁の産業構造審議会・知的財産政策部会・意匠小委員会で、意匠の国際出願に関するハーグ協定ジュネーブアクトへの加盟と画面デザインの保護の拡充についての検討も進められている。この意匠に関する検討についてだが、かなりややこしい論点を含む話なので、どこか切りの良いところでもう少し補足を書きたいと思っている。)

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2011年11月 4日 (金)

第258回:総務省・利用者視点を踏まえたICTサービスに係る諸問題に関する研究会「青少年が安全に安心してインターネットを利用できる環境の整備に関する提言」

 この10月28日に、総務省から、利用者視点を踏まえたICTサービスに係る諸問題に関する研究会青少年が安全に安心してインターネットを利用できる環境の整備に関する提言~スマートフォン時代の青少年保護を目指して~」(pdf)概要(pdf))が公表された(総務省のリリース参照。)

 これまでの提言はかなり非道いものだったが、今回の提言は、総務省のリリースで、「本提言においては、主な内容として、青少年のインターネット環境整備について5つの基本方針を確立するとともに、スマートフォン等の多様なインターネット接続可能機器への対応等についてはフィルタリング提供義務規定を改正する等の法律による対応ではなく、民間による自主的な取組に期待するとされています」と書かれていることからも分かるように、全体的に表現の自由や通信の秘密を意識し、かなりまともで謙抑的な内容となっており、また、重要な論点を多く含んでいるので、ここでもざっとその内容を紹介しておきたいと思う。

 まず、この提言(pdf)の5つの基本方針は、以下のようなものである。(赤字強調は私が付けたもの。以下同様。)

1.リテラシー向上と閲覧機会の最小化のバランス
 青少年が安全に安心してインターネットを利用できる環境を整備するため、あらゆる機会を利用して、青少年のインターネットを適切に活用する能力の向上を図る施策を行う。これを補完するため、青少年がインターネットを利用して青少年有害情報を閲覧する機会をできるだけ少なくするための施策を行う。

2.受信者側へのアプローチ
 青少年がインターネットを利用して青少年有害情報を閲覧する機会をできるだけ少なくするための施策は、インターネット上の自由な表現活動を確保する観点から、受信者側へのアプローチを原則とする。

3.保護者及び関係者の役割
 青少年が安全に安心してインターネットを利用できる環境を整備する役割を担い、権利を持つのは、一義的にはその青少年を直接監護・教育する立場にある保護者である。ただし、保護者が単独でその役割を全うすることは困難なため、関係者は連携協力して保護者を補助する各々の役割を果たさなければならない。

4.民間主導と行政の支援
 青少年が安全に安心してインターネットを利用できる環境の整備に当たっては、まずは、民間による自主的かつ主体的な取組を尊重し、これを更に行政が支援する。

5.有害性の判断への行政の不干渉
 いかなる情報が青少年有害情報であるかは、民間が判断すべきであって、その判断に国の行政機関等は干渉してはならない。

 この5つの基本方針はごくごく当たり前のことを書いているに過ぎないが、この当たり前のことすら守れず、国でも地方でも、自分の気に食わない情報を勝手に有害として、この自分の気に食わない情報を潰すために情報統制・検閲を正当化しようと暴走する馬鹿な議員や官僚、首長が跡を絶たないのは本当に残念と言う他ない。

 以下、さらにいくつか興味深い記載をピックアップして行くと、例えば、否定的な側面についても書いてはいるが、SNSについて、

SNSに代表されるCGMサービスは、青少年の自由な表現活動の場やコミュニケーション手段を提供するものであり、表現活動等の体験を通じて青少年の健全な育成にも寄与し得ると積極的に評価できる側面を有している。(第3ページ)

と、肯定的な側面も強調している点は、最近の行政の報告書としては珍しいように思う。

 また、リテラシーが十分でない保護者への対応として、

 リテラシーが十分でない保護者によって、安易なフィルタリングの不使用/解除がなされているとの指摘がある。こういった状況に対応するため、保護者の判断の制限(フィルタリング解除理由の制限や解除理由書の提出等)が検討され、一部地方公共団体の条例で規定されているところ、法律でも規定すべきとの指摘がある。
 こういった取組は、フィルタリング普及に一定の効果をあげていると考えられる。しかしながら、基本方針に沿えば、まずは保護者の判断を尊重すべきであり、保護者が自らの教育方針等に基づきフィルタリング解除が適切と判断しても解除ができない場合があり得るというデメリットが生じることを斟酌すれば、当該取組は各地方の実態に鑑みた例外的な措置として捉えるべきである。なお、たとえ各地方の実態に鑑みた例外的な措置であっても、保護者の判断を完全に制限する取組(フィルタリング完全義務化)は、過度に保護者の判断を制限しており、行うべきではない。

 もちろん、リテラシーが十分でない保護者が、十分な判断材料に基づかずにフィルタリングの解除を安易に判断するリスクへの対策は積極的に検討されるべきである。実際、フィルタリングをかけない場合の危険性についての認識やフィルタリングをかけた場合にもカスタマイズ等の選択肢があることについての認識がない事例はかなり多いと考えられる。しかしながら、対策は、保護者の判断権を必要以上に制限するのではなく、各関係者が保護者による判断を適切にサポートすることによって図られるべきである。(第22~23ページ)

と、逃げ道こそ残しているものの、最近、地方の青少年条例改正案で良く見かけるフィルタリング完全義務化について総務省がかなり否定的な見解を示している点は重要である。(総務省は地方自治も所管しており、各地方のパブコメなどでこの提言について言及して行くのも1つの手である。)

 保護者による、青少年のインターネットの利用履歴の閲覧についても、

 保護者には、法第6条において、青少年のインターネット利用状況を把握する責務が課せられているが、特に携帯電話インターネットについてはそのパーソナル性から、外出先や個室での利用等、保護者が利用状況を把握することが困難な場合がある。これを容易にするために、青少年本人の同意を前提として、保護者に対して、ウェブサイトの閲覧履歴やメールの送受信履歴を簡便に閲覧できるツールを利用可能にすべきとの指摘がある。
 しかしながら、当該ツールは利用状況の把握に強力な効果を持つ一方、青少年の携帯電話インターネット利用に強い制約をもたらし、青少年のプライバシーへの強い制限となるため、当該ツールを直ちに利用可能とすることや、保護者に対して利用履歴の確認を奨励することは、適当ではないと考えられる。
そもそも、保護者によるインターネット利用状況の把握は、青少年との会話によって本人から説明させることや、インターネット端末を利用している様子を家庭内で見守ることを基本とすることが適切である。(第23ページ)

と、否定的な見解を取り、ミニメール確認について、

通信の秘密の重要性、また通信の秘密の侵害に対する通信当事者の意思が通信ごとに変更しうる可能性に鑑みれば、通信の秘密の侵害に対する同意は、当事者が予測可能な範囲に限って有効である。これをミニメールという通信の形態について当てはめて考えてみれば、当事者の意思がミニメール一通毎に異なる可能性があること及びミニメールの内容確認が表現の自由やプライバシーに及ぼす影響にも鑑みて、ミニメールの内容確認に対する同意は、原則として通信ごと(ミニメール送信ごと)に取得する必要があると考えられる。よって、CGM運営者においては、ミニメール一通毎に発信時の画面表示にて通信当事者の有効な同意を取得した上で、ミニメールの内容確認を行うことが必要である。具体的には、ミニメール一通ごとに、ミニメールの内容確認により通信の秘密が侵害される態様の概要につき分かり易く通信当事者に対して表示した上で、同意を取得し、ミニメールの内容確認を行うことが望ましい。(第43ページ)

と、内容確認のためには原則としてメール1通毎に通信当事者の有効な同意を取得する必要があることを強調している点も評価できる。(第2次提言の整理に基づくデフォルトオンでのミニメール確認には問題があると私は考えてはいるが(第224回参照)。)

 青少年ネット規制法そのものの是非についてまで踏み込めておらず、個人的に残念に思うところもない訳ではないが、上で抜粋した部分以外にも重要な論点が多く含まれているので、青少年ネット規制法問題について関心のある方は、この報告書も是非全文を読んでもらいたいと思う。

 省庁にもよるが、ネットに関して行政が比較的まともな内容の報告書も出すようになって来ていることは、ネットの重要性が相対的に増して来たことを示しているのではないかと私は考えている。ネットと規制を巡る問題についてはおよそロクな動きがないが、必ずしも悪い話ばかりではない。全てはまだこれからである。

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2010年8月14日 (土)

第235回:総務省・ICTの利活用を阻む制度・規制等についての意見募集に対する提出パブコメ(その2:一般的な情報・表現・ネット規制関連)

 前回の続きで、8月20日〆切で、総務省からかかっているパブコメの「ICTの利活用を阻む制度・規制等についての意見募集」(総務省のリリース、電子政府HPの該当ページ参照。internet watchの記事ITproの記事も参照)に対する提出パブコメを載せる。ここに載せるのは、下の目次で、(10)の出会い系サイト規制から(19)携帯電話事業者による差別的なダウンロード容量制限までである。

 良いニュースは何もないが、一緒に少し最近の話も紹介しておくと、「チラシの裏(3周目)」や「表現規制について少しだけ考えてみる(仮)」で取り上げられているように、男女共同参画会議が8月31日〆切で再びパブコメを募集している(内閣府のHP参照)。この会議もいい加減何をどうしたいのだかさっぱり分からないが、このパブコメについては私も出すつもりでいる。

 また、京都では府知事が児童ポルノ単純所持条例の検討をすると言い出すなど(共同通信の記事参照)、相変わらず地方自治体での危険な動きも止まるところを知らず、地方自治体絡みでも当分キナ臭い日々が続きそうである。

 次回のエントリは、リオ宣言の話か、海賊版対策条約の話か、上の男女共同参画会議の話か、書けたものから載せたいと思っている。

(目次)
(1)ダウンロード違法化
(2)DRM回避規制
(3)コピーワンス・ダビング10・B-CAS
(4)私的録音録画補償金制度
(5)著作権保護期間
(6)一般フェアユース条項の導入による著作権規制の緩和
(7)著作権の間接侵害・侵害幇助
(8)著作権検閲・ストライクポリシー
(9)模倣品・海賊版拡散防止条約(ACTA)
(10)出会い系サイト規制
(11)青少年ネット規制法・青少年健全育成条例・携帯フィルタリング義務化
(12)児童ポルノ規制・サイトブロッキング
(13)インターネット・ホットラインセンター・日本ガーディアン・エンジェルス・日本ユニセフ協会
(14)情報公開法
(15)国際組織犯罪防止条約・サイバー犯罪条約及びこれらの締結に必要な法改正・ウィルス作成罪
(16)公職選挙法
(17)天下り
(18)メール検閲・DPI技術を用いた広告
(19)携帯電話事業者による差別的なダウンロード容量制限

(以下、提出パブコメ)

(10)出会い系サイト規制
○項目
 出会い系サイト規制

○既存の制度・規制等によってICT利活用が阻害されている事例・状況
 出会い系サイト事業者の届け出の義務化を中心とする、出会い系サイト規制法の改正法が年の5月に成立し、同年12月から施行されている。その後、2009年の2月から3月にかけて、警視庁が、SNS各社に対して書き込みの削除要請をし、あるSNSでは内容の精査も無いまま「出会い」に関するコミュニティが全て削除されるということが起こった(http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0904/02/news085.html参照)。2009年5月には、やはり警視庁が、SNSサイトの年齢確認の厳格化を要請しており(http://japan.cnet.com/news/media/story/0,2000056023,20392643,00.htm参照)、2009年6月には、無届け出会い系サイト運営容疑で逮捕者まで出ている(http://journal.mycom.co.jp/news/2009/06/02/057/index.html参照)。

 警察による出会い系サイト規制法の拡大解釈・恣意的運用によって、ネット利用における不必要かつ有害な萎縮効果が既に発生していることは、一般サイト事業者に対する警察からの要請とその反応から明らかである。

 この出会い系サイト規制法の改正は、警察庁が、どんなコミュニケーションサイトでも人は出会えるという誰にでも分かることを無視し、届け出制の対象としては事実上定義不能の「出会い系サイト事業」を定義可能と偽り、改正法案の閣議決定を行い、法案を国会に提出したものであり、他の重要法案と審議が重なる中、国会においてもその本質的な問題が見過ごされて可決され、成立したものである。憲法上の罪刑法定主義や検閲の禁止にそもそも違反しており、表現の自由などの国民の最重要の基本的な権利をないがしろにするものである、今回の出会い系サイト規制法の改正については、今後、速やかに元に戻すことが検討されなくてはならない。

 既に逮捕者まで出ているが、出会い系サイト規制法は、その曖昧さから別件逮捕のツールとして使われ、この制度によって与えられる不透明な許認可権限による、警察の出会い系サイト業者との癒着・天下り利権の強化を招く恐れが極めて強い。出会い系サイト規制法を去年の改正前の状態に戻すまでにおいても、この危険な法律の運用については慎重の上に慎重が期されるべきである。

○ICT利活用を阻害する制度・規制等の根拠
 出会い系サイト規制法(正式名称は「インターネット異性紹介事業を利用して児童を誘引する行為の規制等に関する法律」)

○ICT利活用を阻害する制度・規制等の見直しの方向性についての提案
・出会い系サイト規制法を改正前の状態に速やかに戻す。

(11)青少年ネット規制法・青少年健全育成条例・携帯フィルタリング義務化
○項目
 青少年ネット規制法・青少年健全育成条例・携帯フィルタリング義務化

○既存の制度・規制等によってICT利活用が阻害されている事例・状況
 携帯電話におけるフィルタリングの義務化を中心とする、青少年ネット規制法が、2008年6月に成立し、2009年4月から施行されている。

 また、東京都等の地方自治体が、青少年保護健全育成条例の改正により、各自治体の定める理由によってしか子供のフィルタリングの解除を認めず、違反した事業者に対する調査指導権限を自治体に与え、携帯フィルタリングの実質完全義務化を推し進めようとしている。

 しかし、そもそも、フィルタリングサービスであれ、ソフトであれ、今のところフィルタリングに関するコスト・メリット市場が失敗していない以上、かえって必要なことは、不当なフィルタリングソフト・サービスの抱き合わせ販売の禁止によって、消費者の選択肢を増やし、利便性と価格の競争を促すことだったはずである。一昨年から昨年にかけて大騒動になったあげく、ユーザーから、ネット企業から、メディア企業から、とにかくあらゆる者から大反対されながらも、有害無益なプライドと利権の確保を最優先する一部の議員と官庁の思惑のみから成立した今の青少年ネット規制法による規制は、一ユーザー・一消費者・一国民として全く評価できないものであり、速やかに法律の廃止が検討されるべきである。

 フィルタリングに関する規制については、フィルタリングの存在を知り、かつ、フィルタリングの導入が必要だと思っていて、なお未成年にフィルタリングをかけられないとする親に対して、その理由を聞くか、あるいはフィルタリングをかけている親に対して、そのフィルタリングの問題を聞くかして、きちんと本当の問題点を示してから検討してもらいたいとパブコメ等で再三意見を述べているが、今に至るもこのような本当の問題点を示す調査はなされていない。繰り返しになるが、フィルタリングについて、一部の者の一方的な思い込みによって安易に方針を示すことなく、本当の問題点を把握した上で検討を進めるべきである。

 また、東京都等の地方自治体の推し進める携帯フィルタリングの実質完全義務化について、このような青少年ネット規制法の精神にすら反している行き過ぎた規制の推進は、地方自治体法第245条の5に定められているところの、都道府県の自治事務の処理が法令の規定に違反しているか著しく適正を欠きかつ明らかに公益を害していると認めるに足ると考えられるものであり、同じく不適切なその他の情報規制推進についても合わせ、総務大臣から各地方自治体に迅速に是正命令を出すべきである。

 なお、フィルタリングについては、その政策決定の迷走により、総務省は携帯電話サイト事業者に無意味かつ多大なダメージを与えた過去がある。携帯フィルタリングについて、ブラックリスト方式ならば、まずブラックリストに載せる基準の明確化から行うべきなので、不当なブラックリスト指定については、携帯電話事業者がそれぞれの基準に照らし合わせて無料で解除する簡便な手続きを備えていればそれで良く、健全サイト認定第3者機関など必要ないはずである。ブラックリスト指定を不当に乱発し、認定機関で不当に審査料をせしめ取り、さらにこの不当にせしめた審査料と、正当な理由もなく流し込まれる税金で天下り役人を飼うのだとしたら、これは官民談合による大不正行為以外の何物でもない。このようなブラックリスト商法の正当化は許されない。今までのところ、フィルタリングサービスであれ、ソフトであれ、今のところフィルタリングに関するコスト・メリット市場が失敗しているとする根拠はなく、かえって必要なことは、不当なフィルタリングソフト・サービスの抱き合わせ販売の禁止によって、消費者の選択肢を増やし、利便性と価格の競争を促すことだったはずであり、廃止するまでにおいても、青少年ネット規制法の規制は、フィルタリングソフト・サービスの不当な抱き合わせ販売を助長することにつながる恐れが強く、このような不当な抱き合わせ販売について独禁法の適用が検討されるべきである。

○ICT利活用を阻害する制度・規制等の根拠
 青少年ネット規制法(正式名称は、「青少年が安全に安心してインターネットを利用できる環境の整備等に関する法律」)
 各地方自治体の青少年健全育成条例の改正検討(東京都の条例の正式名称は、「東京都青少年の健全な育成に関する条例」)

○ICT利活用を阻害する制度・規制等の見直しの方向性についての提案
・青少年ネット規制法を廃止する。

・廃止するまでにおいても、規制を理由にしたフィルタリングに関する不当な便乗商法に対する監視を政府において強め、フィルタリングソフト・サービスの不当な抱き合わせ販売について独禁法の適用を検討する。

・東京都等の地方自治体における青少年保護健全育成条例の改正の検討に対し、その不適切な情報規制推進について、地方自治体法第245条の5に基づき、総務大臣から各地方自治体に迅速に是正命令を出す。

(12)児童ポルノ規制・サイトブロッキング
○項目
 児童ポルノ規制・サイトブロッキング

○既存の制度・規制等によってICT利活用が阻害されている事例・状況
 現行の児童ポルノ規制法により、「衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの 」という非常に曖昧な第2条第3項第3号の規定によって定義されるものも含め、児童ポルノの提供及び提供目的の所持まで規制されている。最近も、2009年4月に、アフィリエイト広告代理店社長が児童ポルノ規制法違反幇助容疑で送検され、、2009年5月に、児童ポルノサイトへのリンクを張ることについて、児童ポルノ公然陳列幇助容疑で2名が送検され(http://www.j-cast.com/2007/05/09007471.htmlhttp://internet.watch.impress.co.jp/cda/news/2007/05/09/15641.html参照)、2009年6月には、女子高生の水着を撮影したDVDを児童ポルノとして製造容疑でビデオ販売会社社長他が逮捕されるなど(http://www.47news.jp/CN/200907/CN2009071901000294.html参照)、警察による法律の拡大解釈・恣意的運用は止まるところを知らず、現行法の運用においてすら、インターネット利用の全てが極めて危険な状態に置かれている。

 このような全く信用できない警察の動きをさらに危険極まりないものにしようと、与党である自民党と公明党は、児童ポルノ規制法の規制強化を企て、「自身の性的好奇心を満たす目的で」という主観的要件のみで児童ポルノの所持を禁止する、いわゆる単純所持規制を含む法改正案を第171回国会に提出し、民主党はやはり危険な反復取得罪を含む法改正案を提出し、国会で審議が行われた。第171回国会の解散によって、これらの改正法案は一旦廃案となったが、自民公明両党によって再提出され、今なお継続審議とされているのであり、インターネットにおけるあらゆる情報利用を危険極まりないものとする法改正の検討が今後も続けられかねないという危うい状態にあることに変わりはない。

 2009年6月には、警察庁、総務省などの規制官庁が絡む形で、検閲にしかなりようがないサイトブロッキングを検討する児童ポルノ流通防止協議会が発足し、この協議会で児童ポルノ掲載アドレスリスト作成管理団体運用ガイドラインが作られ、さらに、警察庁からアドレスリスト作成管理団体の公募が行われ、2010年7月には、内閣府の児童ポルノ排除対策ワーキングチームと犯罪対策閣僚会議によって、2010年度中にサイトブロッキングを自主規制として導入するという目標を含む児童ポルノ排除総合対策がとりまとめられている。

1.単純所持規制及び創作物規制について
 閲覧とダウンロードと取得と所持の区別がつかないインターネットにおいては、例え児童ポルノにせよ、情報の単純所持や取得の規制は有害無益かつ危険なもので、憲法及び条約に規定されている「知る権利」を不当に害するものとなる。「自身の性的好奇心を満たす目的で」、積極的あるいは意図的に画像を得た場合であるなどの限定を加えたところで、エスパーでもない限りこのような積極性を証明することも反証することもできないため、このような情報の単純所持や取得の規制の危険性は回避不能であり、思想の自由や罪刑法定主義にも反する。繰り返し取得としても、インターネットで2回以上他人にダウンロードを行わせること等は技術的に極めて容易であり、取得の回数の限定も、何ら危険性を減らすものではない。

 児童ポルノ規制の推進派は常に、提供による被害と単純所持・取得を混同する狂った論理を主張するが、例えそれが児童ポルノであろうと、情報の単純所持ではいかなる被害も発生し得えない。現行法で、ネット上であるか否かにかかわらず、提供及び提供目的の所持まで規制されているのであり、提供によって生じる被害と所持やダウンロード、取得、収集との混同は許され得ない。そもそも、最も根本的なプライバシーに属する個人的な情報所持・情報アクセスに関する情報を他人が知ることは、通信の秘密や情報アクセスの権利、プライバシーの権利等の基本的な権利からあってはならないことである。

 アニメ・漫画・ゲームなどの架空の表現に対する規制対象の拡大も議論されているが、このような対象の拡大は、児童保護という当初の法目的を大きく逸脱する、異常規制に他ならない。アニメ・漫画・ゲームなどの架空の表現において、いくら過激な表現がなされていようと、それが現実の児童被害と関係があるとする客観的な証拠は何一つない。いまだかつて、この点について、単なる不快感に基づいた印象批評と一方的な印象操作調査以上のものを私は見たことはないし、虚構と現実の区別がつかないごく一部の自称良識派の単なる不快感など、言うまでもなく一般的かつ網羅的な表現規制の理由には全くならない。アニメ・漫画・ゲームなどの架空の表現が、今の一般的なモラルに基づいて猥褻だというのなら、猥褻物として取り締まるべき話であって、それ以上の話ではない。どんな法律に基づく権利であれ、権利の侵害は相対的にのみ定まるものであり、実際の被害者の存在しない創作物・表現に対する規制は何をもっても正当化され得ない。民主主義の最重要の基礎である表現の自由や言論の自由、思想の自由等々の最も基本的な精神的自由そのものを危うくすることは絶対に許されない。

 単純所持規制にせよ、創作物規制にせよ、両方とも1999年当時の児童ポルノ法制定時に喧々囂々の大議論の末に除外された規制であり、規制推進派が何と言おうと、これらの規制を正当化するに足る立法事実の変化はいまだに何一つない。

 児童ポルノ規制法に関しては、既に、提供及び提供目的での所持が禁止されているのであるから、本当に必要とされることは今の法律の地道なエンフォースであって有害無益な規制強化の検討ではない。児童ポルノ規制法に関して検討すべきことは、現行ですら過度に広汎であり、違憲のそしりを免れない児童ポルノの定義の厳密化のみである。

2.サイトブロッキングについて
 警察などが提供するサイト情報に基づき、統計情報のみしか公表しない不透明なリスト作成管理団体等を介し、児童ポルノアドレスリストの作成が行われ、そのリストに基づいて、インターネット・サービス・プロバイダー、検索サービス事業者あるいはフィルタリング事業者がブロッキング等を行うことは、実質的な検閲に他ならず、決して行われてはならないことである。いくら中間に団体を介そうと、一般に公表されるのは統計情報に過ぎす、児童ポルノであるか否かの判断情報も含め、アドレスリストに関する具体的な情報は、全て閉じる形で秘密裏に保持されることになるのであり、インターネット利用者から見てそのリストの妥当性をチェックすることは不可能であり、このようなアドレスリストの作成・管理において、透明性・公平性・中立性を確保することは本質的に完全に不可能である。このことは、このようなリストに基づくブロッキング等が、自主的な民間の取組という名目でいくら取り繕おうとも、どうして憲法に規定されている表現の自由(知る権利・情報アクセスの権利を含む)や通信の秘密、検閲の禁止といった国民の基本的な権利を侵害するものとならざるを得ないかということの根本的な理由であり、小手先の運用や方式の変更などでどうにかなる問題では断じて無い。現時点でこの問題の克服は完全に不可能であり、アドレスリスト作成管理団体のガイドライン、公募、これに対する血税の投入等を全て白紙に戻し、このような非人道的なブロッキング導入の検討を行っている各種検討会を全て即刻解散するべきである。

 さらに言えば、このように自主規制と称しながら、内閣府の児童ポルノワーキングチームや犯罪閣僚会議といった官主導の会議で実質的な検閲に他ならないブロッキングの導入方針を決めるなど、異常極まりないことである。政府にあっては、速やかに自らの過ちを認め、閣議決定等により危険かつ有害無益な規制強化の方針決定の撤回を行うべきである。

 政府において、児童ポルノを対象とするものにせよ、いかなる種類のものであれ、情報の単純所持・取得規制・ブロッキングは極めて危険な規制であるとの認識を深め、このような規制を絶対に行わないこととして、前国会のような危険な法改正案が2度と与野党から提出されることが無いようにするべきである。

 違法コピー対策問題における権利者団体の主張、児童ポルノ法規制強化問題・有害サイト規制問題における自称良識派団体の主張は、常に一方的かつ身勝手であり、ネットにおける文化と産業の発展を阻害するばかりか、インターネットの単純なアクセスすら危険なものとする非常識なものばかりである。今後は、このような一方的かつ身勝手な規制強化の動きを規制するため、憲法の「表現の自由」に含まれ、国際人権B規約にも含まれている国民の「知る権利」を、あらゆる公開情報に安全に個人的にアクセスする権利として、通信法に法律レベルで明文で書き込むべきである。同じく、憲法に規定されている検閲の禁止から、技術的な著作権検閲やサイトブロッキングのような技術的検閲の禁止を通信法に法律レベルで明文で書き込むべきである。

 なお、ブロッキングに関する広報・啓発を行う必要があるとすれば、現時点では、権力側によるその濫用の防止が不可能であり、表現の自由や通信の秘密といった憲法に規定された国民の基本的な権利に照らして問題のない運用を行うことが不可能であるという問題の周知にのみ努めるべきである。

3.プロバイダーのセーフハーバーについて
 警察の恣意的な運用によって、現行法においてすら児童ポルノ規制法違反幇助のリスクが途方もなく拡大し、甚大な萎縮効果・有害無益な社会的大混乱が生じかねないという非常に危険な状態にあることを考え、今現在民事的な責任の制限しか規定していないプロバイダー責任制限法に関し、刑事罰リスクも含めたプロバイダーの明確なセーフハーバーについて検討するべきである。

4.国際動向について
 児童ポルノの閲覧の犯罪化と創作物の規制まで求める「子どもと青少年の性的搾取に反対する世界会議」の根拠のない狂った宣言を国際動向として一方的に取り上げ、児童ポルノ規制の強化を正当化することなどあってはならないことである。児童ポルノ規制に関しては、最近、ドイツのバンド「Scorpions」が32年前にリリースした「Virgin Killer」というアルバムのジャケットカバーが、アメリカでは児童ポルノと見なされないにもかかわらず、イギリスでは該当するとしてブロッキングの対象となり、プロバイダーによっては全Wikipediaにアクセス出来ない状態が生じたなど、欧米では、行き過ぎた規制の恣意的な運用によって弊害が生じていることも見逃されるべきではない。アメリカだけを取り上げても、FBIが偽リンクによる囮捜査を実行し、偽リンクをクリックした者が児童ポルノがダウンロードしようとしたということで逮捕、有罪にされるという恣意的運用の極みをやっている(http://gigazine.net/index.php?/news/comments/20080323_fbi_fake_hyperlink/参照)、単なる授乳写真が児童ポルノに当たるとして裁判になり、平和だった一家が完全に崩壊している(http://suzacu.blog42.fc2.com/blog-entry-52.html参照)、日本のアダルトコミックを所持していたとして、児童の性的虐待を何ら行ったことも無く、考えたことも無い単なる漫画のコレクターが司法取引で有罪とされている(http://wiredvision.jp/news/200905/2009052923.html参照)などの、極悪かつ非人道的な例が知られている。単純所持規制を導入している西洋キリスト教諸国で行われていることは、中世さながらの検閲と魔女狩りであって、このような極悪非道に倣わなければならない理由は全く無い。

 しかし、欧米においても、情報の単純所持規制やサイトブロッキングの危険性に対する認識はネットを中心に高まって来ており、アメリカにおいても、2009年1月に連邦最高裁で児童オンライン保護法が違憲として完全に否定され、2009年2月に連邦控訴裁でカリフォルニア州のゲーム規制法が違憲として否定されていることや、2009年のドイツ国会への児童ポルノサイトブロッキング反対電子請願(https://epetitionen.bundestag.de/index.php?action=petition;sa=details;petition=3860)に13万筆を超える数の署名が集まったこと、ドイツにおいても児童ポルノサイトブロッキング法は検閲法と批判され、既に憲法裁判が提起され(http://www.netzeitung.de/politik/deutschland/1393679.html参照)、去年与党に入ったドイツ自由民主党の働きかけで、法施行が見送られ、ドイツは政府としてブロッキング撤廃の方針を打ち出し、欧州レベルでのブロッキング導入にも反対していること(http://www.welt.de/die-welt/vermischtes/article6531961/Loeschung-von-Kinderpornografie-im-Netz.htmlhttp://www.zeit.de/newsticker/2010/3/29/iptc-bdt-20100328-736-24360866xml参照)なども注目されるべきである。スイスにおいて最近発表された調査でも、2002年に児童ポルノ所持で捕まった者の追跡調査を行っているが、実際に過去に性的虐待を行っていたのは1%、6年間の追跡調査で実際に性的虐待を行ったものも1%に過ぎず、児童ポルノ所持はそれだけでは、性的虐待のリスクファクターとはならないと結論づけており、児童ポルノの単純所持規制の根拠は完全に否定されているのである(http://www.biomedcentral.com/1471-244X/9/43/abstract参照)。欧州連合において、インターネットへのアクセスを情報の自由に関する基本的な権利として位置づける動きがあることも見逃されるべきではない(http://europa.eu/rapid/pressReleasesAction.do?reference=MEMO/09/491&format=HTML&aged=0&language=EN&guiLanguage=en参照)。政府・与党内の検討においては、このような国際動向もきちんと取り上げるべきであり、一方的な見方で国際動向を決めつけることなどあってはならない。

 かえって、児童ポルノの単純所持規制・創作物規制といった非人道的な規制を導入している諸国は即刻このような規制を廃止するべきと、そもそも最も根本的なプライバシーに属し、何ら実害を生み得ない個人的な情報所持・情報アクセスに関する情報を他人が知ること自体、通信の秘密や情報アクセスの権利、プライバシーの権利等の国際的かつ一般的に認められている基本的な権利からあってはならないことであると、日本政府から国際的な場において各国に積極的に働きかけるべきである。

5.児童ポルノ排除対策ワーキングチームについて
 上で書いた通り、政府の会議で自主規制と称して実質的な検閲の導入方針が決定されること自体異常極まりないことであるが、このような危険かつ有害無益な規制強化の方針を含む児童ポルノ排除対策ワーキングチームは、ホームページなどを参照する限り、2回しか開かれておらず、議事録も不十分であり、有識者として呼ばれたと分かるのは、児童ポルノ規制について根拠無く一般的かつ網羅的な表現・情報弾圧を唱える非人道的な日本ユニセフ協会のアグネス・チャン氏1名のみである。その下のワーキンググループに至っては議事概要すら公開していない。児童ポルノ排除総合対策案に対するパブコメの期間も実質10日程度とあまりにも短く、到底国民の意見を聞く気があるとは思えない形で意見募集が行われている。パブコメの結果についても、運用以前の問題としてブロッキング等に反対する意見が圧倒的多数だったと思われるにもかかわらず、「運用面での配慮を求める意見が相当数寄せられた」と国民から寄せられた意見を勝手に歪曲し、結果概要にパブコメとは無関係の新聞記事を付けて印象操作を行うなど、到底許されざる恣意的操作を内閣府はパブコメ結果に加えた。

 このワーキングチームあるいはグループは議事録、議事の進め方、対策のとりまとめ方等あらゆる点で不透明であり、このような問題だらけのワーキングチームで表現の自由を含む国民の基本的権利に関わる重大な検討が進められることなど論外である。このような検討しかなし得ない出来レースの密室政策談合ワーキングチーム・ワーキンググループは即刻解散するべきである。

 このワーキングチームは即刻解散するべきであるが、さらに今後児童ポルノ規制について何かしらの検討を行うのであれば、その検討会は下位グループまで含めて全て開催の度数日以内に速やかに議事録を公表する、一方的かつ身勝手に危険な規制強化を求める自称良識派団体代表だけで無く、表現の自由に関する問題に詳しい情報法・憲法の専門家、児童ポルノ法の実務に携わりその本当の問題点を熟知している法律家、規制強化に慎重あるいは反対の意見を有する弁護士等も呼ぶ、危険な規制強化の結論ありきで報告書をまとめる前にきちんとパブコメを少なくとも1月程度の募集期間を設けて取る、提出されたパブコメは概要のみではなく全文を公開するなど、児童ポルノ規制の本当の問題点を把握した上で検討が進められるようにするべきである。

○ICT利活用を阻害する制度・規制等の根拠
 児童ポルノ規制法(正式名称は「児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律」)

○ICT利活用を阻害する制度・規制等の見直しの方向性についての提案
・違憲のそしりを免れない現行の児童ポルノ規制法について、速やかに児童ポルノの定義の厳格化のみの法改正を行う。

・児童ポルノを対象とするものにせよ、いかなる種類のものであれ、情報の単純所持・取得規制・ブロッキングは極めて危険な規制であるとの認識を深め、このような規制を絶対に行わないことと閣議決定する。

・憲法の「表現の自由」に含まれ、国際人権B規約にも含まれている国民の「知る権利」を、あらゆる公開情報に安全に個人的にアクセスする権利として、通信法に法律レベルで明文で書き込むこと、及び、憲法に規定されている検閲の禁止から、技術的な著作権検閲やサイトブロッキングのような技術的検閲の禁止を通信法に法律レベルで明文で書き込むことを検討する。

・プロバイダー責任制限法に関し、被侵害者との関係において、刑事罰リスクも含めたプロバイダーの明確なセーフハーバーについて検討する。

・児童ポルノの単純所持規制・創作物規制といった非人道的な規制を導入している諸国は即刻このような規制を廃止するべきと、そもそも最も根本的なプライバシーに属し、何ら実害を生み得ない個人的な情報所持・情報アクセスに関する情報を他人が知ること自体、通信の秘密や情報アクセスの権利、プライバシーの権利等の国際的かつ一般的に認められている基本的な権利からあってはならないことであると、日本政府から国際的な場において各国に積極的に働きかける。

・児童ポルノ流通防止協議会、内閣府の児童ポルノ対策ワーキングチーム等を解散し、サイトブロッキングの導入に関する検討を完全に停止する。

(13)インターネット・ホットラインセンター・日本ガーディアン・エンジェルス・日本ユニセフ協会
○項目
 インターネット・ホットラインセンター・日本ガーディアン・エンジェルス・日本ユニセフ協会

○既存の制度・規制等によってICT利活用が阻害されている事例・状況
 単なる民間団体に過ぎないにもかかわらず、一般からの違法・有害情報の通知を受けて、直接削除要請を行っている、インターネット・ホットラインセンターという名の半官検閲センターが存在している。

 同じく民間団体に過ぎないにもかかわらず、日本ガーディアン・エンジェルスという団体が、犯罪に関する情報を匿名で受け付け、解決に結び付いた場合に情報料を支払うということを行っており、この7月からネットでの受理まで開始している。

 また、日本ユニセフ協会は、「なくそう!子どもポルノ」キャンペーン等の根拠無く一般的かつ網羅的な表現・情報弾圧を唱える危険な児童ポルノ規制強化プロパガンダに募金を流用し、さらに、2009年6月26日の衆議院法務委員会でも、感情論のみで根拠無く児童ポルノの単純所持規制の導入を訴えるなど、寄付行為に書かれた財団法人の目的を大きく逸脱し、明白に公益を害する行為を繰り返し行い、インターネットにおけるあらゆる情報利用を危険極まりないものとしようとしている。

 サイト事業者が自主的に行うならまだしも、何の権限も有しないインターネット・ホットラインセンターなどの民間団体からの強圧的な指摘により、書き込みなどの削除が行われることなど本来あってはならないことである。このようなセンターは単なる一民間団体で、しかもこの団体に直接害が及んでいる訳でもないため、削除を要請できる訳がない。勝手に有害と思われる情報を収集して、直接削除要請などを行う民間団体があるということ自体おかしいと考えるべきであり、このような有害無益な半官検閲センターは即刻廃止が検討されて良い。このような無駄な半官検閲センターに国民の血税を流すことは到底許されないのであって、その分できちんとした取り締まりと削除要請ができる人員を、法律によって明確に制約を受ける警察に確保するべきである。

 日本ガーディアン・エンジェルスについても同断であり、直接害が及んでいる訳でもない単なる一民間団体が、直接一般からの通報を受け付け、刑事事件に関与して、解決に結び付いた場合に情報料を支払うということ自体異常である。インターネット・ホットライン・センターにせよ、この日本ガーディアン・エンジェルスにせよ、警察の本来業務を外部委託することがそもそもおかしいのであり、日本ガーディアン・エンジェルスに無駄に国民の血税を流すべきでは無く、その分できちんとした情報受け付けと事件の解決ができる人員を、法律によって明確に制約を受ける警察に確保するべきである。また、このようなことに手を染めている日本ガーディアン・エンジェルスは、特定非営利活動法人あるいは認定特定非営利活動法人の名に値するものでは無く、その取り消しが検討されるべきである。

 また、日本ユニセフ協会は、「なくそう!子どもポルノ」キャンペーン等の根拠無く一般的かつ網羅的な表現・情報弾圧を唱える危険な児童ポルノ規制強化プロパガンダに募金を流用し、さらに、この6月26日の衆議院法務委員会でも、感情論のみで根拠無く児童ポルノの単純所持規制の導入を訴えているが、日本ユニセフの寄付行為(http://www.unicef.or.jp/about_unicef/about_kifu.html参照)において、根拠無く焚書と表現弾圧を叫ぶことは、ユニセフの趣旨には入っていないと考えられ、このようなことが事業としてあげられている訳も無く、このような行為は寄付行為違反である。さらに、民主主義の基礎中の基礎である表現の自由等の精神的自由の重要性を考えると、寄付行為違反を超えて、このような行為は明白に公益を害するものである。「一般社団法人及び一般財団法人に関する法律及び公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律」第96条に基づいて、日本ユニセフ協会に対して、所管の外務省から改善命令を出すべきである。また、このような法人は、公益法人あるいは特定公益増進法人の名に値するものでは無く、新公益法人制度への移行申請において公益認定をしないとするか、あるいは、それ以前に、公益法人及び特定公益増進法人の認定取り消しをするべきである。(なお、日本ユニセフ協会は、そのHPhttp://www.unicef.or.jp/cooperate/coop_tax.htmlにおいて、募金の税法上の優遇について、特定公益増進法人への寄付が優遇措置を受けられると書いているが、公益法人改革の一環として、既に全ての公益法人に対する寄付に対して同等の優遇措置が認められているのであり(財務省HPhttp://www.mof.go.jp/jouhou/syuzei/koueki01.htmの注参照)、これもかなり悪質なミスリードである。)

○ICT利活用を阻害する制度・規制等の根拠
 特定非営利活動促進法
 租税特別措置法第66条の11の2
 公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律
 一般社団法人及び一般財団法人に関する法律及び公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律

○ICT利活用を阻害する制度・規制等の見直しの方向性についての提案
・インターネット・ホットラインセンターを廃止する。

・日本ガーディアン・エンジェルスにおける警察の委託事業を停止する。また、同時に、日本ガーディアン・エンジェルスに対して、特定非営利活動促進法及び租税特別措置法第66条の11の2に基づく特定非営利活動法人及び認定特定非営利活動法人の認定の取り消しを検討する。

・日本ユニセフ協会に対して、所管の外務省から公益を害する活動を止めるよう改善命令を出す。また、日本ユニセフ協会に対して、新公益法人制度への移行申請において公益認定をしないとするか、あるいは、それ以前に、公益法人及び特定公益増進法人の認定を取り消す。

(14)情報公開法
○項目
 情報公開法

○既存の制度・規制等によってICT利活用が阻害されている事例・状況
 政策決定に関わる重要文書・資料の保存義務とその義務違反に対する罰則が不明確である。さらに、曖昧な理由に基づいて行政機関等が文書の不開示を決めることが可能である上、その後の客観的な事後救済制度の整備も不十分である。

○ICT利活用を阻害する制度・規制等の根拠
 情報公開法(正式名称は、「行政機関の保有する情報の公開に関する法律」である。)

○ICT利活用を阻害する制度・規制等の見直しの方向性についての提案
・他省庁、議員、審議会等委員、関係団体とのやり取りに使用された政策決定に関わる文書は全て作成者と使用者の個人名と役職を付して最低10年保存を義務化し(メール、FAX、電話、面談等全てのやり取りの記録と保存を義務化するべき)、5年でHP上に全て自動公開されるシステムを法制化するべきである。

・全文書に適用される期限を法定し、それ以降は理由によらず必ず公開されるとするべきである。

・文書を廃棄する場合は、HP等による事前告知を義務化するべきである。

・文書管理責任者を明確にし、故意又は過失による廃棄又は虚偽主張に処分を加えられるとするべきである。

・開示の実施の方法は、原則として請求者の求める方法によらなければならないと法定し、オンライン開示、電子媒体による開示の促進を図るべきである。

・不開示情報である「公にすることにより、国の安全が害されるおそれ、公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれ等がある情報」かどうかの判断に、行政機関等の裁量を大きく認めるべきでない。

・国等における審議・検討等に関する情報で、それを公にすることにより、「不当に国民の間に混乱を生じさせるおそれ」がある情報についても、行政機関の裁量が大きく入る余地があるため、原則開示とすべきである。

・情報公開法6条1項から「容易に」とただし書きを削除し、可能な限り情報は切り分けて開示しなければならないと明確化するべきである。

・情報公開法5条1号ハに公務員の氏名を加え、公務員の個人名も原則開示にし、5条5号・6号二を削除・修正し、省庁の検討情報と天下りも含め人事に関する情報も後に原則開示されるとするべきである。

・開示請求から開示決定等までの期限を短縮する。

・特例としての開示の無期限延長を見直す。

・実費と利用者の負担の両方のバランスを考慮し、手数料の減額を検討する。

・不服申立てがなされてから審査会への諮問を行うまでの法定期限を導入する。

・情報公開訴訟を、原告の普通裁判籍所在地の地方裁判所にも提起できるようにする

・裁判所が、行政機関の長等に対し、対象文書の標目・要旨・不開示の理由等を記載した書面(いわゆるヴォーン・インデックス)の作成・提出を求める手続を導入する・

・裁判所が対象文書を実際に見分し、不開示情報の有無等を直に検討できるインカメラ審理手続を導入する。

・衆議院事務局は申し訳程度に規定を設けているようだが、それだけではなく、参議院事務局、会派又は議員の活動に関する情報を含め、各議員も含め国会全体におけるきちんとした文書保存制度と情報公開制度を整え、立法府についても保存年限に応じた文書の自動公開システムの法制化を行うべきである。

(15)国際組織犯罪防止条約・サイバー犯罪条約及びこれらの締結に必要な法改正・ウィルス作成罪
○項目
 国際組織犯罪防止条約・サイバー犯罪条約及びこれらの締結に必要な法改正・ウィルス作成罪

○既存の制度・規制等によってICT利活用が阻害されている事例・状況
 国際組織犯罪防止条約の締結には、共謀罪の創設が必要とされているが、現状でも大規模テロなどについてはすでに殺人予備罪があるので共謀罪がなくとも対応でき、その他、個別の立法事実があればそれに沿った形で個別の犯罪についての予備罪の適否を論ずるべきであって、広範かつ一般的な共謀罪を創設する立法事実はない。実行行為に直接つながる行為によって、法益侵害の現実的危険性を引き起こしたからこそ処罰されるという我が国の刑法学の根幹を揺るがすものである共謀罪は、決して導入されてはならない。組織要件の厳密化にしても、今現在国会に提出されている修正案のような、その目的や意思のみによる限定は客観性を全く欠き、やはり恣意的な運用しか招きようのない危険なものである。このような危険な法改正を必要とする国際組織犯罪防止条約は日本として締結するべきものではない。

 サイバー犯罪条約は、通信記録や通信内容等の情報の保全・捜索・押収・傍受等について広範かつ強力な手段を法執行機関に与えることを求めているが、このような要請は、我が国の憲法に規定されている国民の基本的な権利に対する致命的な侵害を招くものであり、この条約も日本として締結するべきものではない。前国会に提出されていた法改正案中でも、差し押さえるべき物がコンピューターである場合には、このコンピューターと接続されているあらゆる記録媒体とそこに記録されている情報を差し押さえ可能であるとされていたが、昨今のインターネットの状況を考えると、差し押さえの範囲が過度に不明確になる懸念が強く、裁判所の許可無く捜査機関が通信履歴の電磁的記録の保全要請をすることが出来るとしていた点も、捜査機関による濫用の懸念が強く、このような刑事訴訟法の枠組みの変更は、通信の秘密やプライバシー、正当な理由に基いて発せられ、且つ捜索する場所及び押収する物を明示する令状がない限り、侵入、捜索及び押収を受けることのない権利、といった我が国の憲法に規定されている国民の基本的な権利に対する致命的な侵害を招くものと私は考える。

 また、ウィルス作成等に関する罪についても、以前の法改正案の「人が電子計算機を使用するに際してその意図に沿うべき動作をさせず、又はその意図に反する動作をさせるべき不正な指令を与える」電磁的記録という要件は、客観性のない人の意図を要件にしている点でやはり曖昧に過ぎ、このような客観性のない曖昧な要件でウィルス作成等に関する刑罰が導入されるべきではない。

 留保・解釈を最大限に活用しても、憲法に規定されている国民の基本的な権利に対する致命的な侵害を招くことになるだろう、これらの条約は、日本として締結するべきものではないものである。前国会に提出されていた法案は廃案のままにするとともに、条約からの脱退を検討し、今後、ウィルス作成等に関する刑罰の導入を検討するのであれば、その要件が十分に客観性のあるものとなるよう、慎重の上に慎重を期すべきである。

○ICT利活用を阻害する制度・規制等の根拠
 国際組織犯罪防止条約(正式名称は、「国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約」)
 サイバー犯罪条約(正式名称は、「サイバー犯罪に関する条約」)
 刑法の改正検討

○ICT利活用を阻害する制度・規制等の見直しの方向性についての提案
・前国会に提出されていた、国際組織犯罪防止条約及びサイバー犯罪条約の締結のための法改正案は廃案のままにすると閣議決定を行う。同時に、条約からの脱退を検討する。

・ウィルス作成等に関する刑罰の導入を検討するのであれば、その要件が十分に客観性のあるものとなるよう、慎重の上に慎重を期す。

(16)公職選挙法
○項目
 公職選挙法

○既存の制度・規制等によってICT利活用が阻害されている事例・状況
 公職選挙法によって、選挙運動期間中にネットを選挙運動に用いることが完全に禁止されている。2009年7月21日に閣議決定された答弁書(http://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kousei/syuisyo/171/toup/t171234.pdf参照)により、twitterの利用まで公職選挙法違反であるという政府見解が示されている。

 選挙運動期間中の選挙運動に関するネット上の掲示は全て、公職選挙法の第146条で規制の対象となっている文書図画の掲示とされ、完全に禁止されているが、これは、インターネットにおける正当な情報利用を阻害する一大規制となっている。

 第148条で、選挙の公正を害しない限りにおいて新聞・雑誌に対し報道・評論を掲載する自由を妨げるものではないと明文で規定しているが、新聞紙にあつては毎月三回以上、雑誌にあつては毎月一回以上、号を逐つて定期に有償頒布するものであり、第三種郵便物の承認のあるものであり、当該選挙の選挙期日の公示又は告示の日前一年以来そうであったもので、引き続き発行するものと、ブログ等は無論のこと、大手ネットメディアですら入らない、あまりにも狭い規定となっている。第151条の3で放送についても同様の規定があるが、放送法を参照しており、当然のことながら、動画サイトなどは入らないと考えられる。

 紙媒体であろうが、ネットだろうが、実名だろうが、匿名だろうが、報道・批評・表現の本質に変わりはない。表現の自由は、憲法に規定されている権利であり、民主主義を支える最も重要な自由として、その代表を選ぶ選挙において、その公平を害しない限りにおいて、あらゆる媒体に最大限認められなくてはならないものであることは言うまでもない。もし、公職選挙法が杓子定規に解釈され、各種ネットメディアに不当な規制の圧力がかけられるようなら、公職選挙法自体憲法違反とされなくてはならない。

○ICT利活用を阻害する制度・規制等の根拠
 公職選挙法

○ICT利活用を阻害する制度・規制等の見直しの方向性についての提案
・第142条と第143条の認められる文書図画の頒布・掲示の中に、電子メール・ブログ・動画サイト等様々なネットサービスの利用類型を追加すること等により、公職選挙法第146条の規制を緩和し、ネット選挙を解禁する。

・公職選挙法第148条の規制を緩和し、新聞等に加えてネットにおける報道及び評論の自由も明文で認め、民主主義を支える最も重要な自由として、その代表を選ぶ選挙において、その公平を害しない限りにおいて、ネットメディア、動画サイト、ブログ等における表現の自由を最大限確保する。

(17)天下り
○項目
 天下り

○既存の制度・規制等によってICT利活用が阻害されている事例・状況
 2007年6月23日号の週刊ダイヤモンドの「天下り全データ」という特集で、天下りとして2万7882人という人数が示されている。中には他愛のない再就職も含まれているだろうが、2万5千人を超える元国家公務員が各省庁所管の各種独立行政法人や特殊法人、公益法人、企業などにうごめき、このような天下り利権が各省庁の政策を歪めているというのが、今の日本のおぞましい現状である。2010年8月に公表されたの内閣府の特例民法法人調査でも、このような特例民法法人だけで6千人を超える天下り理事がいるとしており、これで1割程度減っているというものの、以前の調査と合わせて考えると、様々な団体・企業になお数万人規模の天下り役人がいるのではないかと考えられる。

 しかし、法改正によって得られる利権・行政による恣意的な許認可権を盾に、役に立たない役人を民間に押しつけるなど、最低最悪の行為であり、一国民として到底許せるものではない。さらに、このような天下り役人が国の政策に影響を及ぼし、国が亡んでも自分たちの利権のみ伸ばせれば良いとばかりに、国益を著しく損なう違憲規制を立法しようとするに至っては、単なる汚職の域を超え、もはや国家反逆罪を構成すると言っても過言ではない。

 知財・情報政策においても、天下り利権が各省庁の政策を歪めていることは間違いなく、政策の検討と決定の正常化のため、文化庁から著作権関連団体への、総務省から放送通信関連団体・企業への、警察庁から各種協力団体・自主規制団体への天下りの禁止を決定するべきである。これらの省庁は特にひどいので特に名前をあげたが、他の省庁も含めて決定するべきである。また、天下りの隠れ蓑に使われている特殊法人、公益法人、特定非営利活動法人、特定非営利活動法人等は全廃をベースとして検討を進めるべきであり、天下りを1人でも受け入れている団体・法人・企業は各種公共事業の受注・契約は一切できないという入札・契約ルールを全省庁において等しく導入するべきである。

 また、大臣の承認を受ければ良いとするような迂回天下りや、嘱託職員として再就職するような隠れ天下りや、人事院の「公務員の高齢期の雇用問題に関する研究会」などにおいて提案されている、60歳を過ぎてから公務員の身分のまま公益法人などに出向するといった新たな天下りルートも許されるべきでない。

○ICT利活用を阻害する制度・規制等の根拠
 国家公務員法

○ICT利活用を阻害する制度・規制等の見直しの方向性についての提案
・閣議決定により、国家公務員法で規定されている再就職等監視委員会を凍結し、大臣の承認を受ければ良いとするような迂回天下りや、嘱託職員として再就職するような隠れ天下りや、公務員の身分のまま公益法人などに出向するといった新たに提案されている天下りルートも含め、天下りを完全に禁止する。

(18)メール検閲・DPI技術を用いた広告
○項目
 メール検閲・DPI技術を用いた広告

○既存の制度・規制等によってICT利活用が阻害されている事例・状況
 総務省の「利用者視点を踏まえたICTサービスに係る諸問題に関する研究会」の提言において、通常のメールと同様SNSサービス中の「ミニメール」の内容が通信の秘密に該当するのは当然のこととしても、メッセージ交換サービスにおけるメールの内容確認を送信者に対しデフォルトオンで認める余地があるかの如き整理がなされている。同じく、DPI(ディープ・パケット・インスペクション)技術を用いた行動ターゲティング広告について、現状でも基準等の作成により導入が可能であるかの如き整理がなされている。

 しかし、メッセージ交換サービスにおけるメールの内容確認を送信者に対しデフォルトオンで認める余地があるとすることは、実質、送信者が受信者しか知り得ないだろうと思って送る情報の内容について、知らない内に事業者に検閲されているという状態をもたらす危険性が極めて高い。受信情報のフィルタリングに関する要件を一方的に拡大解釈し、送信者に対するデフォルトオンのメールの内容確認の余地を認めることは、実質的にメール・通信の検閲の余地を認めるに等しく、憲法にも規定されている通信の秘密をないがしろにすることにつながりかねない極めて危険なことである。これはデフォルトオンでメールの内容確認を行う場面が限定的であるか否かという問題ではなく、総務省にあっては、実質的なメールの検閲を是とするかの如き通信の秘密に関する歪んだ整理を速やかに改めるべきである。

 この部分において、DPI(ディープ・パケット・インスペクション)技術を用いた行動ターゲティング広告についても、利用者の同意がなければ通信の秘密を侵害するものとして許されないのは当然のこととして、DPI技術はネットワーク中のパケットに対して適用されるものであり、一旦導入されてしまうと、その存在と対象範囲について通常の利用者は全く意識・検証し得ないものである。DPI技術についても、利用者が知らない内に通信内容が事業者に検閲されているという状態をもたらす危険性が極めて高く、実質的な検閲をもたらしかねない危険なものとして安易な法的整理はされてはならない。契約書によったとしても、それだけでは、明確かつ個別の同意が十分に得られ、利用者からDPI技術の存在と対象範囲について十分に意識・検証可能となっているとすることはできない。DPI技術の利用については、通常の利用者の明確かつ個別の同意を得ることは現時点では不可能であり、この部分の記載は、現時点で、法的課題を克服することは困難であり、基準等の作成もされるべきではないとされなくてはならない。

○ICT利活用を阻害する制度・規制等の根拠
 なし

○ICT利活用を阻害する制度・規制等の見直しの方向性についての提案
・総務省において、SNSサービスにおけるメール監視やDPI技術を用いた広告のような実質的な検閲を是とするか如き歪んだ法的整理を早急に改め、大臣レベルでその見解を公表する。

(19)携帯電話事業者による差別的なダウンロード容量制限
○項目
 携帯電話事業者による差別的なダウンロード容量制限

○既存の制度・規制等によってICT利活用が阻害されている事例・状況
 総務省の「利用者視点を踏まえたICTサービスに係る諸問題に関する研究会」の提言によると、一部の携帯電話事業者が、公式サイト以外のサイトからダウンロードできるファイルの容量制限を行っているとのことであるが、携帯電話事業者による、このような容量制限は、公平性の観点からも、独禁法からも明らかに問題がある。

○ICT利活用を阻害する制度・規制等の根拠
 なし

○ICT利活用を阻害する制度・規制等の見直しの方向性についての提案
・携帯電話事業者による公式サイト以外のサイトからダウンロードできるファイルの容量制限を排除する。

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