2024年9月 1日 (日)

第501回:人口知能(AI)によるデジタルレプリカ(ディープフェイク)に関するアメリカ著作権局の報告書

 先月末、7月31日にアメリカ著作権局が人口知能(AI)による報告書の第1部として、デジタルレプリカに関する報告書を出しているので、今回はこの報告書について取り上げる。

 この報告書第1部(pdf)は、米著作権局のリリースに、幾つかのパートに分かれて出されるものの第1部であって、AIと著作権法の関係に関する主たる問題である、生成AIによって生成されたマテリアルの著作物性、著作物に基づいて行われるAI学習の法的評価、ライセンスの考慮、あり得る責任の所在といった事項は全て次のパート以降に持ち越しとなっている。

 日本ではそれほど使われていない様に思うが、この報告書で言う所のデジタルレプリカとは、「Ⅰ イントロダクション」の第2ページで、

This Report uses the term "digital replica" to refer to a video, image, or audio recording that has been digitally created or manipulated to realistically but falsely depict an individual. A "digital replica" may be authorized or unauthorized and can be produced by any type of digital technology, not just AI. The terms "digital replicas" and "deepfakes" are used here interchangeably.

本報告書では、「デジタルレプリカ」という用語は、リアルだが偽って個人を描き出す様にデジタル的に作られたか操作されたものである動画、画像又は音声レコーディングの事を指す。「デジタルレプリカ」は許諾を受けている事もあれば許諾を受けていない事もあり、AIだけでなくあらゆるタイプのデジタル技術によって作り出され得る。デジタル用語の「デジタルレプリカ」と「ディープフェイク」はここで交換可能なものとして使われる。

と書かれている通り、実質的に個人を対象としてリアルに作られた偽情報を意味しており、日本でもそのまま使われている語としてはディープフェイクとほぼ同じ意味と考えて良いものである。

 話としては少し前後するが、この様にディープフェイク、偽情報対策を主眼に置いている事から、この報告書と著作権法との関係は必然的に薄くなっている。この点については、各法との関係を記載している部分の第17ページで、

Copyright protects original works of authorship, including the material - photographs or audio or video recordings - from which a digital replica might be constructed. The Copyright Act provides copyright owners with a bundle of exclusive rights, including the rights to reproduce a work and to prepare derivative works.

Digital replicas that are produced by ingesting copies of preexisting copyrighted works, or by altering them - such as superimposing someone's face onto an audiovisual work or simulating their voice singing the lyrics of a musical work - may implicate those exclusive rights. If the depicted individual is an owner of the copyrighted work, he or she could have a copyright claim for infringement of the work as a whole. Copyright does not, however, protect an individual's identity in itself, even when incorporated into a work of authorship. A replica of their image or voice alone would not constitute copyright infringement.

著作権は、デジタルレプリカががそこから作られ得るであろうマテリアル-写真、音声又は動画のレコーディングなど-を含む、著作者による独創的な著作物を保護するものである。著作権法は、著作権者が著作物を複製し、派生著作物を用意する権利を含む権利の束を持つ事を規定している。

既存の著作物のコピーを取り込むか、-ある者の顔を映像作品に入れ込む、その声に音楽作品の歌詞を歌わせる様にシミュレートするなど-それを作り変えるかする事によって事によって作り出されるデジタルレプリカは、この排他的権利と関係し得るものである。もし描き出された個人が著作物の権利者であれば、彼又は彼女はその著作物全体の侵害に対して著作権に基づく主張をし得るであろう。しかしながら、著作権は、それが著作者による著作物に化体している場合でも、個人のアイデンティティそれ自体を守るものではない。その画像又は声のレプリカだけでは著作権侵害を構成しないであろう。

と書かれている通りであって、著作権はあくまで創作的表現を守るものであって個人のアイデンティティそれ自体を守るものではないのである。

 さらに、著作権との関係については、第53ページからの「Ⅲ 芸術的スタイルの保護」で書かれている事もあるが、ここでも、その後半の第54~55ページで、

The Office acknowledges the seriousness of these concerns and believes that appropriate remedies should be available for this type of harm.

Copyright law's application in this area is limited, as it does not protect artistic style as a separate element of a work. As noted by several commenters, copyright protection for style would be inconsistent with section 102(b)'s idea/expression dichotomy. Moreover, in most cases the elements of an artist's style cannot easily be delineated and defined separately from a particular underlying work. Google and EFF both stressed that, as a policy matter, stylistic aspects of expressive content should remain freely available for later creators to develop and build on.

The Copyright Act may, however, provide a remedy where the output of an "in the style of" request ends up replicating not just the artist's style but protectible elements of a particular work. Additionally, as future Parts of this Report will discuss, there may be situations where the use of an artist's own works to train AI systems to produce material imitating their style can support an infringement claim.

Numerous commenters pointed out that meaningful protections against imitations of style may be found in other legal frameworks, including the Lanham Act's prohibitions on passing off and unfair competition. In its comments, the FTC stated:

[M]imicking the creator's writing style ... may also constitute an unfair method of competition or an unfair or deceptive practice, especially when the copyright violation deceives consumers, exploits a creator's reputation or diminishes the value of her existing or future works, reveals private information, or otherwise causes substantial injury to consumers.

著作権局は、これらの懸念の深刻さを認め、その適切な救済措置がこの種の害に対して入手可能とされるべきであると考える。

それが芸術的なスタイルを著作物から分離される要素として保護をしていない以上、この分野における著作権法の適用は限られている。何人かの意見で言われている通り、スタイルに対する著作権の保護は、アメリカ著作権法第102条(b)のアイデア/表現二分論と合致しないであろう。さらに、ほとんどの場合において、芸術家のスタイルの要素は、元の特定の著作物から分けて簡単に線引きし、分離する事はできない。グーグルとEFFはともに、政策的事項として、表現物のスタイル的な面は後の創作者が発展させ、積み上げていけるよう自由に利用可能な儘とされるべきと強調している。

しかしながら、著作権法はスタイルにおける要求の結果が芸術家のスタイルだけではなく特定の著作物の保護され得る要素も複製するに至った場合の救済措置を提供している。また、この報告書の将来の部分で検討する予定であるが、そのスタイルを真似るマテリアルを作り出すためにAIシステムを訓練するための芸術家の自身の著作物の利用が、侵害主張の支えとなる状況はあり得るであろう。

多くの意見で、スタイルの模倣に対する有意な保護は、パッシングオフ(詐称通用)及び不正競争に対するランハム法の禁止を含む他の法的枠組みに見つかると指摘されている。その意見において、連邦取引委員会は以下の様に述べている:

創作者の文体の真似も…特に、著作権侵害が消費者を騙すか、創作者の評判を利用するか、その既存の又は将来の著作物の価値を損なうか、個人情報を晒すか、その他消費者に対して実質的な害をなすかする場合に、競争における不公正な方法、不公正な又は欺瞞的な行為を構成し得る。

と、アイデア表現二分論から、表現とは分離された要素としてのスタイル(画風や文体など)に著作権法の保護は原則及ばないという極当たり前の事が書かれ、表現として保護され得る様な状況については今後の報告書で書く予定としているのである。

(ここで詳細に論じる事はしないが、アイデア表現二分論とは、著作権法で守られるのは著作物における表現であって、そこに含まれるアイデアには著作権法の保護は及ばないとする考え方の事である。アメリカ著作権法第102条(b)の様にわざわざそのための明文の規定があるといった事はないが、これは著作権法の世界における基本的な考え方の1つであって、日本の著作権法でも同様に通用する。なお、日本におけるAIと著作権法の関係整理については第492回参照。)

 それでは何が書かれているかというと、上で翻訳した部分でも他の法律について少し書かれているが、要するに、第8ページからの「Ⅱ 許諾を得ていないデジタルレプリカに対する保護」の「A.既存の法的枠組み」で、以下の様に、アメリカのコモンロー、州法、連邦法でデジタルレプリカ又はディープフェイクに適用可能なものをあげ、全て一長一短ある事から、統一的な連邦法の制定による対応が望ましいという事が言われているのである。

  1. 各州のコモンロー及び州法(第8ページ~)
    a)プライバシーの権利(第8ページ~、日本では通常個人がその私生活に干渉されない事を言うと思うが、アメリカでは偽情報の流布による個人の評判に対する重大な危害に対する保護も含まれる)
    b)パブリシティの権利(第10ページ~、日本と同様、アメリカでもパブリシティ権は著名な者に対してその名称等の商業的な利用を保護する)
    c)デジタルレプリカに対する州による新規制(第15ページ~、テネシー州、ルイジアナ州、ニューヨーク州の新法を紹介)
  2. 連邦法(第16ページ~)
    a)著作権法(第17ページ~、ただし、上で訳出した通り、デジタルレプリカと著作権法の関係は薄い)
    b)連邦取引委員会法(第17ページ~、当然の事だが、AI技術の反競争的な利用に対しては競争法の適用が考えられる)
    c)ランハム法(第19ページ~、ランハム法とは商標法の事だが、これは一部日本で言う所の不正競争防止法的側面を含み、登録商標に基づく商標権侵害だけでなく一般的に偽の表示による出所の混同なども規制している)
    d)通信法(第20ページ~、消費者を対象とする電話を規制している電話消費者保護法の適用が考えられる)
  3. 私的取り決め(第21ページ~、私人間のその名前等の利用に関する契約もあり得る)

 そして、その後の「B.連邦立法の必要性」で、各州のコモンローや州法の規定や解釈にはばらつきがある事、アメリカの国会でも幾つかの法案が提出される等しているが、その内容にかなりの差異があり、議論はまだ煮詰まっていない事、新しい法律における権利の考慮要素としてa)規制対象、b)保護を受ける者、c)保護期間、d)侵害となる行為((i)商業的利用に限られるか、(ⅱ)知っている事を必要とするか、(ⅲ)2次的責任(間接侵害)についてどの様に整理するか)、e)ライセンスや譲渡についてどうするか((ⅰ)期間について、(ⅱ)インフォームドコンセントについて(ⅲ)未成年との契約について)、f)アメリカ憲法修正第1条(表現の自由)に基づく懸念についてどの様に整理するか、g)救済措置、f)連邦法の優先(連邦法と矛盾する州法を無効とする法理)がある事をあげ、最後に第57ページの結論で、以下の通り締め括っている。

The Copyright Office agrees with the numerous commenters that have asserted an urgent need for new protection at the federal level. The widespread availability of generative AI tools that make it easy to create digital replicas of individuals' images and voices has highlighted gaps in existing laws and raised concerns about the harms that can be inflicted by unauthorized uses.

We recommend that Congress establish a federal right that protects all individuals during their lifetimes from the knowing distribution of unauthorized digital replicas. The right should be licensable, subject to guardrails, but not assignable, with effective remedies including monetary damages and injunctive relief. Traditional rules of secondary liability should apply, but with an appropriately conditioned safe harbor for OSPs. The law should contain explicit First Amendment accommodations. Finally, in recognition of well-developed state rights of publicity, we recommend against full preemption of state laws.

The Office remains available as a resource to Congress, the courts, and the executive branch in considering the recommendations in this Report and future developments.

著作権局は、連邦レベルでの新たな保護が喫緊で必要である事を主張する多くの意見提出者に同意する。広く利用可能となっている、個人の画像と動画のデジタルレプリカを容易に作る事ができる生成AIツールは、既存の法律と許諾を得ていない利用によって加えられ得る害について持ち上がっている懸念の間のギャップを浮き彫りにしている。

私たちは、許諾を得ていないデジタルレプリカのそうと知っての頒布から全ての個人をその生涯を通じて守る権利を議会が確立する事を推奨する。この権利はガードレール内でライセンス可能であるが、譲渡不可能であり、金銭的損害賠償と差し止めを含む有効な救済措置を伴うべきでる。2次的責任に関する伝統的な規則が適用されるべきであるが、オンラインサービスプロバイダーに対する適切に条件が設けられたセーフハーバーを伴うべきである。法は憲法修正第1条との明文の調整規定を含むべきである。最後に、十分発展している各州のパブリシティの権利を認め、私たちは州法に対する連邦法の完全な優先に反対の立場を取る事を勧める。

著作権局は、本報告書における推奨及び将来的な展開を考慮するに際し、議会、裁判所、行政機関に対してリソースとしてさらに利用可能である。

 上でも書いた通り、この米著作権局の報告書は、著作権法との関係は薄く、各州におけるコモンローや州法といったものがなくパブリシティ権等も最高裁の判例によって認めらている日本との関係で直ちに参考になるといったものではないが、デジタルレプリカ(ディープフェイク)に対する個人の保護に関するアメリカにおける現在の議論を簡潔に分かり易くにまとめたものとして非常に興味深いものである。この様な著作権法以外の法律を中心として立法に関してもかなり踏み込んだ見解が報告書が先にまとめられた背景には、米著作権局のパブリックコメントで著作権法以外の法律との関係が主として問題となるデジタルレプリカに対する懸念が多く提起されていた事、著作権局が議会の付属機関である事もあるだろう。

 また、最近のアメリカにおけるAI規制に関する動きとしては、日本でも報道されている様に(時事通信の記事や、朝日新聞の記事参照)、8月末にカリフォルニア州の議会を通過し、今現在州知事の署名を待つ状態になっている、1億ドル以上の開発費のAIモデルに対して安全対策を課すものであるカリフォルニア州法の先端人口知能モデルのための安全安心なイノベーション法がある。

 この儘知事の署名を得て成立し、IT企業が集中するカリフォルニア州の州法として一定の影響を与えて行く事になるかも知れないが、この州法のレベルでも賛否両論が吹き出している事には大いに留意すべきだろう。

 どこの国においてもAIに関する問題として本当に中心として議論すべきは、なぜか真っ先に取沙汰されがちな知的財産法、著作権法との関係ではなく、この様な偽情報対策だろうと私は常に思っている。ただ、上の米著作権局の報告書からも連邦レベルでの議論はアメリカでもまだ十分に煮詰まってない事が見て取れ、今年はアメリカの選挙年でもあり、本当の意味で国としてのアメリカのAI規制論の方向性がはっきりと出て来るのはもう少し先の事になるのではないかと私は見ている。

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2023年9月 3日 (日)

第483回:人工知能(AI)は著作者たり得ないとするアメリカ地裁の判決とアメリカ著作権局のAIに関する意見募集

 今回は、人工知能(AI)に関し、参考としてアメリカの動きを2つ取り上げる。

(1)AIは著作者たり得ないとするアメリカ地裁の判決
 アメリカでもAIと著作権の問題に関するものとしてはほぼ最初のものだろうと思うが、この8月18日にアメリカのコロンビア地裁が、AIは著作者たり得ないとする判決(pdf)を出した。

 このターラー対パールムッター事件は、第476回で取り上げたアメリカ著作権局の方針ペーパーでも言及されていたものであり、判決のポイントとなる部分を以下に訳出するが、コロンビア地裁はAI生成物は著作権登録ができないとするアメリカ著作権局の判断を全面的に支持した。(以下、いつも通り翻訳は全て拙訳である。)

... Human involvement in, and ultimate creative control over, the work at issue was key to the conclusion that the new type of work fell within the bounds of copyright.

Copyright has never stretched so far, however, as to protect works generated by new forms of technology operating absent any guiding human hand, as plaintiff urges here. Human authorship is a bedrock requirement of copyright.

...

The 1976 Act's "authorship" requirement as presumptively being human rests on centuries of settled understanding. The Constitution enables the enactment of copyright and patent law by granting Congress the authority to "promote the progress of science and useful arts, by securing for limited times to authors and inventors the exclusive right to their respective writings and discoveries." ...

The human authorship requirement has also been consistently recognized by the Supreme Court when called upon to interpret the copyright law. As already noted, in Sarony, the Court's recognition of the copyrightability of a photograph rested on the fact that the human creator, not the camera, conceived of and designed the image and then used the camera to capture the image. ... In all these cases, authorship centers on acts of human creativity.

Accordingly, courts have uniformly declined to recognize copyright in works created absent any human involvement, even when, for example, the claimed author was divine. The Ninth Circuit, when confronted with a book "claimed to embody the words of celestial beings rather than human beings," concluded that "some element of human creativity must have occurred in order for the Book to be copyrightable," for "it is not creations of divine beings that the copyright laws were intended to protect." Urantia Found. v. Kristen Maaherra, 114 F.3d 955, 958-59 (9th Cir. 1997) ... Similarly, in Kelley v. Chicago Park District, the Seventh Circuit refused to "recognize[] copyright" in a cultivated garden, as doing so would "press[] too hard on the[] basic principle[]" that "[a]uthors of copyrightable works must be human." 635 F.3d 290, 304-06 (7th Cir. 2011). The garden "ow[ed] [its] form to the forces of nature," even if a human had originated the plan for the "initial arrangement of the plants," and as such lay outside the bounds of copyright. Id. at 304. Finally, in Naruto v. Slater, the Ninth Circuit held that a crested macaque could not sue under the Copyright Act for the alleged infringement of photographs this monkey had taken of himself, for "all animals, since they are not human" lacked statutory standing under the Act. 888 F.3d 418, 420 (9th Cir. 2018). ... Plaintiff can point to no case in which a court has recognized copyright in a work originating with a non-human.

Undoubtedly, we are approaching new frontiers in copyright as artists put AI in their toolbox to be used in the generation of new visual and other artistic works. The increased attenuation of human creativity from the actual generation of the final work will prompt challenging questions regarding how much human input is necessary to qualify the user of an AI system as an "author" of a generated work, the scope of the protection obtained over the resultant image, how to assess the originality of AI-generated works where the systems may have been trained on unknown pre-existing works, how copyright might best be used to incentivize creative works involving AI, and more. See, e.g., Letter from Senators Thom Tillis and Chris Coons to Kathi Vidal, Under Secretary of Commerce for Intellectual Property and Director of the U.S. Patent and Trademark Office, and Shira Perlmutter, Register of Copyrights and Director of the U.S. Copyright Office (Oct. 27, 2022), https://www.copyright.gov/laws/hearings/Letter-to-USPTO-USCO-on-National-Commission-on-AI-1.pdf (requesting that the United States Patent and Trademark Office and the United States Copyright Office "jointly establish a national commission on AI" to assess, among other topics, how intellectual property law may best "incentivize future AI related innovations and creations").

This case, however, is not nearly so complex. While plaintiff attempts to transform the issue presented here, by asserting new facts that he "provided instructions and directed his AI to create the Work," that "the AI is entirely controlled by [him]," and that "the AI only operates at [his] direction," Pl.'s Mem. at 36-37 - implying that he played a controlling role in generating the work - these statements directly contradict the administrative record. Judicial review of a final agency action under the APA is limited to the administrative record ... Here, plaintiff informed the Register that the work was "[c]reated autonomously by machine," and that his claim to the copyright was only based on the fact of his "[o]wnership of the machine." Application at 2. The Register therefore made her decision based on the fact the application presented that plaintiff played no role in using the AI to generate the work, which plaintiff never attempted to correct. ... Plaintiff's effort to update and modify the facts for judicial review on an APA claim is too late. On the record designed by plaintiff from the outset of his application for copyright registration, this case presents only the question of whether a work generated autonomously by a computer system is eligible for copyright. In the absence of any human involvement in the creation of the work, the clear and straightforward answer is the one given by the Register: No.

...

(略)問題となる作品における人間の関与、そして、それに対する究極的な創作的コントロール、が著作物の新しいタイプが著作権の領域内に入るという結論を導く鍵だった。

しかしながら、ここで原告が主張しているように、著作権は、人間の手による導き抜きの技術的な実施の新しい形式によって生成された作品の保護まで拡張される事は決してなかった。人間の著作者が著作権の根本要件である。

(略)

人間である事と考えられる1976年著作権法の「著作者」要件は何世紀にも渡り安定した理解により続いている。憲法は、「著作者及び発明者に限られた期間そのそれぞれの著作と発見に関して排他権を保証する事により、科学及び有益な技芸を促進し、発展させる」権限を議会に与える事により、著作権及び特許法の法制化を可能としている。(略)

人間の著作者要件は著作権法の解釈が求められる場合最高裁によっても一貫して認められて来ている。既に記載した通り、1884年3月17日ののサロニー事件判決において、最高裁の写真の著作物性の認定は、カメラではなく、人間の創作者が、画像を着想し、デザインし、そして、カメラを使って画像を撮影するという事実に基づいていた。(略)これらの全ての事件で、著作者性は人間の創造性による行為を中心としている。

その通り、裁判所は一致して人間が関与する事なく創作された作品において著作権を認める事はなかった、例えば、主張された著作者が神聖なものである場合などにおいてである。第9巡回控訴裁は、「人間ではなく天上の存在の言葉を具現化したものと主張された」本に向かった時、その本が著作権の保護を受けるためには何がしかの人間による創作の要素があり」、「著作権法が保護の目的としているのは神聖な存在の創作ではない」と結論づけた。1997年6月10日のウランティア協会対クリステン・マアヘラ事件第9巡回控訴裁判決参照。(略)同様に、2011年2月15日のケリー対シカゴ公園区事件判決において、第7巡回控訴裁は、そうする事は「著作権の保護を受ける作品の著作者は人間である」という「基本的な原理に余りにも反している」として、整えられた庭園に著作権を認める事を拒絶した。「最初の植物の配置」について人間が計画を作り、それを始めたとしても、庭園は「その形式を自然の力に負っている」のである。最後に、2018年4月23日のナルト対スレーター事件判決において、第9巡回控訴裁は、「あらゆる動物は、人間ではないのであるから」著作権法における原告適格性を欠き、クロザルはこの猿が自身を撮った写真の被疑侵害に対して著作権法の下で訴えを起こす事はできないと判断した。(略)原告は裁判所が人間ではないものによって作られた作品に著作権を認めたケースを提示できていない。

疑いなく、私たちは、芸術家たちが新しい視覚的及びその他の芸術作品の生成において使われるそのツールボックスの中にAIを置くという著作権における新しいフロンティアに近づいている。最終作品の実際の生成から人間の創造性が減って行く事は、どれほどの人間の入力がAIシステムの利用者が生成された作品の「著作者」と認められるために必要なのか、得られた画像に対して手に入られる保護の範囲、システムが不明の既存作品により学習されたであろう場合におけるAI生成作品の創造性をどのように評価するか、AIが関係する創造的作品に対してインセンティブを与えるために著作権はどの様に使われるのが最適なのか等々について難しい質問を投げ掛けるだろう。例えば、トム・ティリス及びクリス・クーンズ上院議員からカティ・ヴィダルアメリカ特許庁長官及びシーラ・パールムッターアメリカ著作権局長への手紙、https://www.copyright.gov/laws/hearings/Letter-to-USPTO-USCO-on-National-Commission-on-AI-1.pdf参照(アメリカ特許庁及びアメリカ著作権局に、とりわけ、知的財産法はどの様に最も良く「未来のAI関連発明及び創作にインセンティブを与える」事ができるかを評価するために「ともにAIに関する国レベルの検討委員会を立ち上げる」事を求めている)。

この事件は、しかしながら、それほど複雑ではない。原告は、「指示を与えてそのAIを導き作品を創作した」と、「AIは完全にコントロールされていた」と、そして、「AIは導かれた様に動作しただけである」という新しい事実を主張する事によって、-原告が生成された作品においてコントロールする立場にあった事を示唆して-本件を変容しようと試みているが、この主張は行政記録と直接的に矛盾する。行政手続法の下での省庁の最終的な決定に対する司法審査は行政記録に限られる。(略)ここで、原告は著作権局にその作品は「機械によって自動的に作り出された」ものであり、その著作権に対する請求はその「機械の所有」という事実のみに基づくものであると伝えていた。すなわち、著作権局は、原告が修正しようと試みる事のなかった、その作品を生成するためのAI利用に際し原告は何の役割も果たさなかったという申請において提示されていた事実に基づきその決定をした。行政手続法に基づく司法審査の請求んために事実を更新し、修正しようとする原告の試みは遅きに失している。著作権登録のための申請の当初から原告によって示された記録に基づくと、この事件において問題となるはコンピュータシステムによって自動的に生成された作品は著作権の保護適格性を有するかどうかという質問のみである。作品の創作において人の関与がない場合において、明確かつ単純な答えは著作権局に与えられたものである:否。

(略)

 上で抜き出した部分に書かれている通りだが、AIと著作権の問題に関して、AI生成物に著作権が認められるためにはどれほど人間の関与が必要か、AI学習における既存の著作物の利用をどの様に評価するか、著作権が認められる場合に保護の範囲はどうなるか、AI利用創作との関係で著作権法はどうあるべきかという問題が発生しつつあるというのこの事件を担当したハウエル判事の指摘する通りであって、世界的にもこれらの点が問われているのは間違いない。

 ただし、この事件の判決では、AI生成物に対して原告の指示、管理があったというのは時宜に遅れた主張であって認められず、当初の主張に沿って機械が自動的に生成したものに著作権は認められないとした米著作権局の決定は異論なく正しいとしている事にも注意しておいてよいだろう。ハウエル判事が上で正しく指摘している所のより本質的な質問に対する判断は、控訴審か、恐らく他の事件に持ち越されたのである。(そのため、この判決は先例性のないメモランダムオピニオンとされているのだろう。また、行政訴訟においてどこまで主張や証拠の補足が認められるべきかという事は別の法的論点として非常に興味深いところだが、ここではひとまずおく。)

(2)アメリカ著作権局の著作権とAIに関する意見募集
 もう1つは、8月30日にアメリカ著作権局が、そのリリースの通り、第476回で取り上げた方針ペーパーでも言及されていたものだろう、パブリックコメント・意見募集を開始したという事である。

 その募集要項(pdf)から、意見募集の内容の概要について述べている部分を以下に訳出する。

IV. The Current Inquiry

Drawing on our prior AI Initiative work, including discussions with stakeholders, the Office has identified a wide range of copyright policy issues arising from the development and use of AI. These relate to: (1) the use of copyrighted works to train AI models; (2) the copyrightability of material generated using AI systems; (3) potential liability for infringing works generated using AI systems; and (4) the treatment of generative AI outputs that imitate the identity or style of human artists. The Office seeks public comments on these and related issues.

As to the first issue, the Office is aware that there is disagreement about whether or when the use of copyrighted works to develop datasets for training AI models (in both generative and non-generative systems) is infringing.(Note 34: In some cases, a non-generative AI model may be trained on copyrighted material. In other cases, the same AI model may be capable of being deployed in both a generative AI system and a non-generative one. The Office's consideration of training is framed broadly in order to encompass these and other situations.) This Notice seeks information about the collection and curation of AI datasets, how those datasets are used to train AI models, the sources of materials ingested into training, and whether permission by and/or compensation for copyright owners is or should be required when their works are included. To the extent that commenters believe such permission and/or compensation is necessary, the Office seeks their views on what kind of remuneration system(s) might be feasible and effective. The Office also seeks information regarding the retention of records necessary to identify underlying training materials and the availability of this information to copyright owners and others.

On the second issue, the Office seeks comment on the proper scope of copyright protection for material created using generative AI. Although we believe the law is clear that copyright protection in the United States is limited to works of human authorship,(Note 35: See Mem. Op., Thaler v. Perlmutter, No. 22-cv-1564, ECF No. 24 (D.D.C. Aug. 18, 2023) (affirming the Office's registration denial of AI-generated work).) questions remain about where and how to draw the line between human creation and AI-generated content. For example, are there circumstances where a human's use of a generative AI system could involve sufficient control over the technology, such as through the selection of training materials and multiple iterations of instructions ("prompts"), to result in output that is human-authored? Resolution of this question will affect future registration decisions. While the Office is separately working to update its registration guidance on works that include AI-generated material,(Note 36: For example, the Office has received questions about how to apply its guidance that applicants disclose more than de minimis amounts of AI-generated material in their works. See AI Registration Guidance, 88 FR at 16193 (explaining that "AI-generated content that is more than de minimis should be explicitly excluded from the application").) this Notice explores the broader policy questions related to copyrightability.

On the third question, the Office is interested in how copyright liability principles could apply to material created by generative AI systems.(Note 37: Some of these questions are currently before the courts in lawsuits that have already been filed over generative AI systems. See, e.g., J.L. v. Alphabet Inc., 3:23-cv-03340 (N.D. Cal.); Kadrey v.Meta Platforms, Inc., 3:23-cv-3417 (N.D. Cal.);Silverman v. OpenAI, Inc., 4:23-cv-3416 (N.D. Cal.); Tremblay v. OpenAI, Inc., 3:23-cv-3223 (N.D. Cal.); Getty Images (US), Inc. v. Stability AI, Inc., 1:23-cv-0135 (D. Del.); Andersen v. Stability AI Ltd., 3:23-cv-0201 (N.D. Cal.); Doe v. GitHub, Inc., 4:22-cv-6823 (N.D. Cal.).) For example, if an output is found to be substantially similar to a copyrighted work that was part of the training dataset, and the use does not qualify as fair, how should liability be apportioned between the user whose instructions prompted the output and developers of the system and dataset?

Lastly, in both our listening sessions and other outreach, the Office heard from artists and performers concerned about generative AI systems' ability to mimic their voices, likenesses, or styles. Although these personal attributes are not generally protected by copyright law, their copying may implicate varying state rights of publicity and unfair competition law, as well as have relevance to various international treaty obligations. (Note 38: See U.S. Copyright Office, Authors, Attribution, and Integrity: Examining Moral Rights in the United States 112-116 (Apr. 2019), https://www.copyright.gov/policy/moralrights/full-report.pdf (discussing how such interests are generally protected under state right of publicity laws).)

Ⅳ.本意見募集

利害関係者との議論を含む、私たちの当初のAIイニシアティブの取り組みから、著作権局はAIの発展と利用から生じる広い範囲の著作権政策事項を特定した。これらは次の事に関係する:(1)AIモデルの学習への著作物の利用;(2)AIシステムを利用して生成された物の著作権保護適格性;(3)AIシステムを利用して生成された侵害物についてあり得る責任;(4)人間のアーティストの特性又はスタイルを真似る生成AI出力物の取扱い。著作権局はこれら及び関係する事項についてパブリックコメントを求める。

最初の事項について、著作権局には、AIモデル(生成及び非生成システムの両方で)の学習のためのデータセットの開発への著作物の利用が侵害となるか、どのようなときに侵害となるかについて不一致があることが分かっている。(原注:幾つかの場合において、非生成AIモデルは著作物で学習される事がある。他の場合において、同じAIモデルは生成AIシステム及び非生成AIシステムの両方に配置され得るものである。著作権局の学習に関する考えはこれらの及び他の場合を含むべく広いものである。)本意見募集は、AIモデルの学習のためにこれらのデータセットがどの様に使われるのか、学習に取り込まれる物のソース、そして、その著作物が含まれるとき、著作権者による許可及び/又はのための補償が必要とされるのか又はされるべきかなど、AIデータセットの収集及び整理に関する情報を求めており、著作権局はどの様な種類の補償制度が実現可能で有効であると考えられるのかについてその意見を求めている。著作権局は、元の学習マテリアルを特定するのに必要な記録の保持とこれらの情報の著作権者及びその他の者に対する入手可能性に関する情報も求めている。

2つ目の事項について、著作権局は、生成AIを用いて創作された物に対する適切な著作権保護の範囲に関するコメントを求める。法律上アメリカ合衆国における著作権保護は人間の著作による作品に限られる事は明らかであると私たちは信じているが(原注:2023年8月18日のターラー対パールムッター事件コロンビア地裁判決(AI生成物に対する著作権局の登録拒絶を支持している)参照。)、人間の創作とAI生成コンテンツの間の線をどこにどの様に引くべきかという事について疑問は残っている。例えば、学習マテリアルの選択及び指示(「プロンプト」)の多くの繰り返しを通じて、生成AIシステムの人間の利用が技術に対して十分なコントロールを含み、人間の著作である出力をもたらす様な状況があるのか?この疑問の解決は将来の登録決定に影響する。著作権局は別途AI生成物を含む作品に関する登録指針の更新に取り組んでいるが(原注:例えば、著作権局は、申請人はその著作物における最小限度の量を超えるAI生成コンテンツを開示をするとしている指針をどの様に適用すべきかに関する質問を受け取っている。AI登録指針(「最小限度を超えるAI生成コンテンツは申請から明示的に覗かれるべきである」と説明している)参照。)、この意見募集は著作権保護適格性に関するより広い政策事項を調査するものである。

3つ目の事項について、著作権局は、著作権の責任の原則が生成AIシステムによって創作された物にどの様に適用され得るのかについて関心を持っている。(これらの質問の幾つかは現在生成AIシステムに関して既に提起された訴訟において裁判所に掛かるものとなっている。例えば、カリフォルニア北部地裁のJ.L.対アルファベット社事件;同地裁のカドレー対メタ・プラットフォーム社事件;同地裁のシルバーマン対オープンAI社事件;デラウェア地裁のゲッティ・イメージズ社対スタビリティAI社事件;カリフォルニア北部地裁のアンダーセン対スタビリティAI社事件;同地裁のドゥ対ギットハブ社事件参照。)例えば、出力が学習データセットの一部をなす著作物と実質的に同一となり、その利用が構成と認められない場合に、その指示により出力をもたらした利用者とシステムとデータセットの開発者の間で責任はどの様に配分されるべきだろうか?

最後に、私たちのヒアリング会合及びその他の呼び掛けの両方において、著作権局は、その声、肖像又はスタイルを真似る生成AIシステムの能力に対するアーティスト及び実演家の懸念の声を聞いた。これらの個人の属性は一般的に著作権法によって保護されるものではないが、これらの複製行為は、様々な州のパブリシティ権及び不正競争法に関わるものであり、様々な国際条約の義務に関係を持つものである(2019年4月のアメリカ著作権局報告書、著作者、帰属及び完全性:アメリカ合衆国における人格権の調査、https://www.copyright.gov/policy/moralrights/full-report.pdf(この様な利益が一般的にどの様に州のパブリシティ権法によって保護されるのかを議論している)参照)。

 さらに詳細な質問も作られており、関心のある方は是非元の募集要項全体も御覧いただければと思うが、上で抜き出した部分だけを見ても分かる様に、このアメリカ著作権局の意見募集は、AI学習のための著作物の利用、AI生成物の著作権保護適格性、AI生成物による著作権侵害と、AIと著作権の問題に関して考えられるほぼ全ての論点を網羅した包括的なものとなっている。

 この意見募集の〆切は10月18日であり(追加コメント期間は11月15日まで)、その取りまとめを受けてアメリカ政府又は議会でさらに検討が進められるのは来年以降になるのではないだろうか。

 今回のコロンビア地裁の判決も、意見募集ペーパーも特に何か新しい事を示すものではないが、どこの国であれAIと著作権の関係に関する論点は同じであって、これらはアメリカにおける法的議論の現在地点を示すものとして興味深いものである。

 意見募集の結果の取りまとめも注目に値するものとなるだろうが、現時点では、アメリカであっても、関係訴訟が多く提起されている中で何らかの立法的解決を図る事は難しく、判例による著作権法の合理的解釈を通じた解決が進んで行くのではないか、いずれの事件も最高裁まで行く可能性がある事を考えても、最終的に何らかの方向性が見えるまでにはまだかなりの時間が掛かるのではないかというのが私の予想である。AI技術の研究開発の中心であり、否応なく世界的に大きな影響を及ぼすだろう、アメリカの著作権動向については、ここでも折に触れ紹介して行きたいと考えている。

(2024年2月26日の追記:誤記を1箇所修正した(「構成s」→「構成」)。)

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2023年4月 9日 (日)

第476回:アメリカ著作権局のAI生成物の著作権登録を不可とする方針ペーパー

 この3月16日にアメリカ著作権局がAI生成物の著作権登録を不可とする方針を示す文書を公表した。

 この方針ペーパー(pdf)は、世界の主要な著作権当局が示したAI生成物の著作権法上の取り扱いを示した最初の文書であり、アメリカの主要な判例も含め良くまとまった非常に興味深いものと思うので、ここでその内容について取り上げたい。

 まず、かなり長くなるが、このペーパーから、AI生成物が著作権保護の対象となるかという事に関する実質的な判断に関する事を示した部分を以下に訳出する。(いつも通り、翻訳は拙訳。)

I. Background

...

One such recent development is the use of sophisticated artificial intelligence ("AI") technologies capable of producing expressive material. (note 5: The term "expressive material" is used here to refer to AI output that, if it had been created by a human, would fall within the subject matter of copyright as defined in section 102 of the Act. See id. at 102(a).) These technologies "train" on vast quantities of preexisting human authored works and use inferences from that training to generate new content. Some systems operate in response to a user's textual instruction, called a "prompt." (note 6: See Prompts, Midjourney, https://docs.midjourney.com/docs/prompts (noting for users of the artificial intelligence service Midjourney a prompt is "a short text phrase that the Midjourney [service] uses to produce an image"). To be clear, this policy statement is not limited to AI technologies that accept text "prompts" or to technologies permitting prompts of a particular length or complexity.) The resulting output may be textual, visual, or audio, and is determined by the AI based on its design and the material it has been trained on. These technologies, often described as "generative AI," raise questions about whether the material they produce is protected by copyright, whether works consisting of both human-authored and AI-generated material may be registered, and what information should be provided to the Office by applicants seeking to register them.

These are no longer hypothetical questions, as the Office is already receiving and examining applications for registration that claim copyright in AI-generated material. For example, in 2018 the Office received an application for a visual work that the applicant described as "autonomously created by a computer algorithm running on a machine." (note 7: U.S. Copyright Office Review Board, Decision Affirming Refusal of Registration of a Recent Entrance to Paradise at 2 (Feb. 14, 2022), https://www.copyright.gov/rulings-filings/review-board/docs/a-recent-entrance-to-paradise.pdf.) The application was denied because, based on the applicant's representations in the application, the examiner found that the work contained no human authorship. After a series of administrative appeals, the Office's Review Board issued a final determination affirming that the work could not be registered because it was made "without any creative contribution from a human actor." (note 8: Id. at 2-3. The Office's decision is currently being challenged in Thaler v. Perlmutter, Case No. 1:22-cv-01564 (D.D.C.).)

More recently, the Office reviewed a registration for a work containing human-authored elements combined with AI-generated images. In February 2023, the Office concluded that a graphic novel (note 9: On the application, the applicant described the work as a "comic book." See U.S. Copyright Office, Cancellation Decision re: Zarya of the Dawn (VAu001480196) at 2 (Feb. 21, 2023), https://www.copyright.gov/docs/zarya-of-the-dawn.pdf.) comprised of human authored text combined with images generated by the AI service Midjourney constituted a copyrightable work, but that the individual images themselves could not be protected by copyright. (note 10: Id.)

The Office has received other applications that have named AI technology as the author or co-author of the work or have included statements in the "Author Created" or "Note to Copyright Office" sections of the application indicating that the work was produced by or with the assistance of AI. Other applicants have not disclosed the inclusion of AI-generated material but have mentioned the names of AI technologies in the title of the work or the "acknowledgments" section of the deposit.

Based on these developments, the Office concludes that public guidance is needed on the registration of works containing AI-generated content. This statement of policy describes how the Office applies copyright law's human authorship requirement to applications to register such works and provides guidance to applicants.

The Office recognizes that AI-generated works implicate other copyright issues not addressed in this statement. It has launched an agency-wide initiative to delve into a wide range of these issues. Among other things, the Office intends to publish a notice of inquiry later this year seeking public input on additional legal and policy topics, including how the law should apply to the use of copyrighted works in AI training and the resulting treatment of outputs.

II. The Human Authorship Requirement

In the Office's view, it is well established that copyright can protect only material that is the product of human creativity. Most fundamentally, the term "author," which is used in both the Constitution and the Copyright Act, excludes non-humans. The Office's registration policies and regulations reflect statutory and judicial guidance on this issue.

In its leading case on authorship, the Supreme Court used language excluding non-humans in interpreting Congress's constitutional power to provide "authors" the exclusive right to their "writings." (note 11: U.S. Const. art. I, sec. 8, cl. 8 (Congress has the power "[t]o promote the Progress of Science and useful Arts, by securing for limited Times to Authors and Inventors the exclusive Right to their respective Writings and Discoveries.").) In Burrow-Giles Lithographic Co. v. Sarony, a defendant accused of making unauthorized copies of a photograph argued that the expansion of copyright protection to photographs by Congress was unconstitutional because "a photograph is not a writing nor the production of an author" but is instead created by a camera. (note 12: 111 U.S. 53, 56 (1884) (explaining that the defendant had argued that photographs were merely "reproduction on paper of the exact features of some natural object or of some person").) The Court disagreed, holding that there was "no doubt" the Constitution's Copyright Clause permitted photographs to be subject to copyright, "so far as they are representatives of original intellectual conceptions of the author." (note 13: Id. at 58.) The Court defined an "author" as "he to whom anything owes its origin; originator; maker; one who completes a work of science or literature." (note 14: Id. at 57-58.) It repeatedly referred to such "authors" as human, describing authors as a class of "persons" (note 15: Id. at 56 (describing beneficiaries of the Constitution's Copyright Clause as "authors," who are one of "two classes" of "persons").) and a copyright as "the exclusive right of a man to the production of his own genius or intellect." (note 16: Id. at 58; see also id. at 60-61 (agreeing with an English decision describing an "author" as the "person" who was "the cause of the picture which is produced" and "the man" who creates or gives effect to the idea in the work).)

Federal appellate courts have reached a similar conclusion when interpreting the text of the Copyright Act, which provides copyright protection only for "works of authorship." (note 17: 17 U.S.C. 102(a).) The Ninth Circuit has held that a book containing words "authored by non-human spiritual beings" can only qualify for copyright protection if there is "human selection and arrangement of the revelations." (note 18: Urantia Found. v. Kristen Maaherra, 114 F.3d 955, 957-59 (9th Cir. 1997) (internal punctuation omitted) (holding that "some element of human creativity must have occurred in order for the Book to be copyrightable" because "it is not creations of divine beings that the copyright laws were intended to protect"). While the compilation of the book was entitled to copyright, the alleged "divine messages" were not. Id.) In another case, it held that a monkey cannot register a copyright in photos it captures with a camera because the Copyright Act refers to an author's "children," "widow," "grandchildren," and "widower," - terms that "all imply humanity and necessarily exclude animals." (note 19: Naruto v. Slater, 888 F.3d 418, 426 (9th Cir. 2018), decided on other grounds.)

Relying on these cases among others, the Office's existing registration guidance has long required that works be the product of human authorship. In the 1973 edition of the Office's Compendium of Copyright Office Practices, the Office warned that it would not register materials that did not "owe their origin to a human agent." (note 20: U.S. Copyright Office, Compendium of U.S. Copyright Office Practices sec. 2.8.3(I)(a)(1)(b) (1st ed. 1973), https://copyright.gov/history/comp/compendium-one.pdf (providing example of shapes formed by liquid petroleum); see also U.S. Copyright Office, Sixty-Eighth Annual Report of the Register of Copyrights for the Fiscal Year Ending June 30, 1965, at 5 (1966), https://www.copyright.gov/reports/annual/archive/ar-1965.pdf (noting that computer-generated works raise a "crucial question" of whether the work "is basically one of human authorship").) The second edition of the Compendium, published in 1984, explained that the "term 'authorship' implies that, for a work to be copyrightable, it must owe its origin to a human being." (note 21: U.S. Copyright Office, Compendium of U.S. Copyright Office Practices sec. 202.02(b) (2d ed. 1984), https://www.copyright.gov/history/comp/compendium-two.pdf (explaining that as a result, "[m]aterials produced solely by nature, by plants, or by animals are not copyrightable"). It went on to state that because "a work must be the product of human authorship," works "produced by mechanical processes or random selection without any contribution by a human author are not registrable." Id. at 503.03(a).) And in the current edition of the Compendium, the Office states that "to qualify as a work of 'authorship' a work must be created by a human being" and that it "will not register works produced by a machine or mere mechanical process that operates randomly or automatically without any creative input or intervention from a human author." (note 22: U.S. Copyright Office, Compendium of U.S. Copyright Office Practices sec. 313.2 (3d ed. 2021) ("Compendium (Third)").)

III. The Office's Application of the Human Authorship Requirement

As the agency overseeing the copyright registration system, the Office has extensive experience in evaluating works submitted for registration that contain human authorship combined with uncopyrightable material, including material generated by or with the assistance of technology. It begins by asking "whether the 'work' is basically one of human authorship, with the computer [or other device] merely being an assisting instrument, or whether the traditional elements of authorship in the work (literary, artistic, or musical expression or elements of selection, arrangement, etc.) were actually conceived and executed not by man but by a machine." (note 23: Id. (quoting U.S. Copyright Office, Sixty-Eighth Annual Report of the Register of Copyrights for the Fiscal Year Ending June 30, 1965, at 5 (1966)).) In the case of works containing AI-generated material, the Office will consider whether the AI contributions are the result of "mechanical reproduction" or instead of an author's "own original mental conception, to which [the author] gave visible form." (note 24: Sarony 111 U.S. at 60.) The answer will depend on the circumstances, particularly how the AI tool operates and how it was used to create the final work. (note 25: Many technologies are described or marketed as "artificial intelligence," but not all of them function the same way for purposes of copyright law. For that reason, this analysis will be fact specific.) This is necessarily a case-by-case inquiry.

If a work's traditional elements of authorship were produced by a machine, the work lacks human authorship and the Office will not register it. (note 26: This includes situations where an AI technology is developed such that it generates material autonomously without human involvement. See U.S. Copyright Office Review Board, Decision Affirming Refusal of Registration of a Recent Entrance to Paradise at 2-3 (Feb. 14, 2022), https://www.copyright.gov/rulings-filings/review-board/docs/a-recent-entrance-to-paradise.pdf (determining a work "autonomously created by artificial intelligence without any creative contribution from a human actor" was "ineligible for registration").) For example, when an AI technology receives solely a prompt (note 27: While some prompts may be sufficiently creative to be protected by copyright, that does not mean that material generated from a copyrightable prompt is itself copyrightable.) from a human and produces complex written, visual, or musical works in response, the "traditional elements of authorship" are determined and executed by the technology - not the human user. Based on the Office's understanding of the generative AI technologies currently available, users do not exercise ultimate creative control over how such systems interpret prompts and generate material. Instead, these prompts function more like instructions to a commissioned artist - they identify what the prompter wishes to have depicted, but the machine determines how those instructions are implemented in its output. (note 28: One image-generating AI product describes prompts as "influencing" the output but does not suggest the prompts dictate or control it. See Prompts, Midjourney, https://docs.midjourney.com/docs/prompts (explaining that short text prompts cause "each word [to have] a more powerful influence" and that images including in a prompt may "influence the style and content of the finished result") (emphasis added).) For example, if a user instructs a text-generating technology to "write a poem about copyright law in the style of William Shakespeare," she can expect the system to generate text that is recognizable as a poem, mentions copyright, and resembles Shakespeare's style. (note 29: AI technologies do not always operate precisely as instructed. For example, a text-generating tool prompted to provide factual information may provide inaccurate information. One AI service describes this as the AI "mak[ing] up facts or 'hallucinat[ing]' outputs." ChatGPT General FAQ, OpenAI, https://help.openai.com/en/articles/6783457-chatgpt-general-faq. See also James Romoser, No, Ruth Bader Ginsburg did not dissent in Obergefell - and other things ChatGPT gets wrong about the Supreme Court, SCOTUSblog (Jan. 26, 2023), https://www.scotusblog.com/2023/01/no-ruth-bader-ginsburg-did-not-dissent-in-obergefell-and-other-things-chatgpt-gets-wrong-about-the-supreme-court/.) But the technology will decide the rhyming pattern, the words in each line, and the structure of the text. (note 30: Some technologies allow users to provide iterative "feedback" by providing additional prompts to the machine. For example, the user may instruct the AI to revise the generated text to mention a topic or emphasize a particular point. While such instructions may give a user greater influence over the output, the AI technology is what determines how to implement those additional instructions.) When an AI technology determines the expressive elements of its output, the generated material is not the product of human authorship. (note 31: See id. at 61 (quoting British decision by Lord Justice Cotton describing an author as the person "who has actually formed the picture").) As a result, that material is not protected by copyright and must be disclaimed in a registration application. (note 32: See Compendium (Third) sec. 503.5 (a copyright registration "does not cover any unclaimable material that the work may contain," and applicants "should exclude that material from the claim").)

In other cases, however, a work containing AI-generated material will also contain sufficient human authorship to support a copyright claim. For example, a human may select or arrange AI-generated material in a sufficiently creative way that "the resulting work as a whole constitutes an original work of authorship." (note 33: 17 U.S.C. 101 (definition of "compilation"). In the case of a compilation including AI-generated material, the computer-generated material will not be protected outside of the compilation.) Or an artist may modify material originally generated by AI technology to such a degree that the modifications meet the standard for copyright protection. (note 34: See Compendium (Third) sec. 507.1 (identifying that where a new author modifies a preexisting work, the "new authorship ... may be registered, provided that it contains a sufficient amount of original authorship"); see also 17 U.S.C. 101 (defining "derivative work" to include works "based upon one or more preexisting works" where modifications to the work "which, as a whole, represent an original work of authorship").) In these cases, copyright will only protect the human-authored aspects of the work, which are "independent of" and do "not affect" the copyright status of the AI-generated material itself. (note 35: 17 U.S.C. 103(b).)

This policy does not mean that technological tools cannot be part of the creative process. Authors have long used such tools to create their works or to recast, transform, or adapt their expressive authorship. For example, a visual artist who uses Adobe Photoshop to edit an image remains the author of the modified image, (note 36: To the extent, however, that an artist uses the AI-powered features in Photoshop, the edits will be subject to the above analysis.) and a musical artist may use effects such as guitar pedals when creating a sound recording. In each case, what matters is the extent to which the human had creative control over the work's expression and "actually formed" the traditional elements of authorship. (note 37: Sarony, 111 U.S. at 61.)

...

Ⅰ.背景

(略)

この様な最近の発展には、表現物を作成する事が可能な洗練された人工知能(「AI」)技術の利用がある。(原注:「表現物」という語はここで、人間によって作り出されたものである場合に、アメリカ著作権法第102条において定義される著作権の対象になるものを指すために使われる。同第102条(a)参照。)この技術は、既存の人間によって大量の創作された著作物を「学習」し、その学習からの推論を用いて新しいコンテンツを生成する。あるシステムは、「プロンプト」と呼ばれる、利用者のテキストによる指示に対する応答で動作する。(原注:ミッドジャーニー、プロンプトの説明、https://docs.midjourney.com/docs/prompts
(人工知能サービスのミッドジャーニーの利用者に対し、プロンプトは「ミッドジャーニー[サービス]が画像を作成するのに使う短い文章のフレーズ」であると注意している)参照。明確化として、本方針文書は、文章「プロンプト」を受け入れるAI技術又は特定の長さ若しくは複雑さのプロンプトを許容する技術に限定されるものではない。)得られる出力は文章、視覚的なもの、音声であり得、それはその設計及び学習されたマテリアルに基づくAIによって決まる。「生成AI」と良く書かれるこの技術から、それが作成するマテリアルが著作権によって保護されるかどうか、そして、それを登録しようとする申請者によりアメリカ著作権局にどの様な情報が提供されるべきかという質問が発生している。

アメリカ著作権局は既にAI生成物に著作権を請求する登録申請を受け、審査しており、それらはもはや仮定の質問ではない。例えば、2018年に、著作権局は、申請者が「計算機の上で実行されるコンピューターアルゴリズムによって自動的に作り出されたものである」と書いた画像に対する申請を受けた。(原注:アメリカ著作権局再審査部、天国への最近の入国の登録の拒絶を肯定する決定(2022年2月14日)、https://www.copyright.gov/rulings-filings/review-board/docs/a-recent-entrance-to-paradise.pdf。)申請者の申請における記載に基づき、審査官が作品は人間による創作を含んでいないと判断したため、申請は拒絶された。一連の行政不服の後、著作権局の再審査部は、「人間の参加者からの創造的寄与に全くよらずに」作られたものであるから、その作品は登録され得ないという事を肯定する最終決定を出した。(原注:著作権局の決定に対し現在ターラー対パールムッター事件として訴訟が提起されている。)

さらに最近、アメリカ著作権局は、AIにより生成された画像と組み合わされた人間により創作された要素を含む作品に対する登録を審査した。2023年2月に、著作権局は、AIサービスであるミッドジャーニーによって生成された画像と組み合わされた人間により創作された文章を含むグラフィックノベル(原注:申請において、申請者は作品を「コミックブック」と書いている。アメリカ著作権局、黄昏のザリヤ事件取り消し決定(2023年2月21日)、https://www.copyright.gov/docs/zarya-of-the-dawn.pdf参照。)は、著作権の保護を受ける著作物を構成するが、個々の画像自体は著作権によって保護されないと結論づけた。(原注:同上。)

アメリカ著作権局は、AI技術を著作者又は共同著作者の名にあげるか、申請の「作り出した著者」又は「著作権局に対する注意」の項目に作品がAIの補助によるか又はそれとともに作成された事を示す記載を含む他の申請も受けた。他の申請者はAI生成物が含まれる事を開示しないが、提出物の作品の表題又は「謝辞」の項目にAI技術の名前を言及していた。

この展開に基づき、アメリカ著作権局は、AI生成コンテンツを含む作品の登録に関し、公衆ガイダンスが必要であると結論づける。この方針文書は、どの様に著作権局が著作権法の人間による創作の要件を申請に適用してその様な作品を登録するかを記載し、申請者にガイダンスを提供する。

アメリカ著作権局は、AI生成物について本文書で取り扱わない他の著作権問題がある事を認める。この問題を広い範囲で探究するため局全体の取り組みを開始している。とりわけ、著作権局は、どの様に法律がAI学習における著作物の利用及び出力の結果の取り扱いに適用されるべきかなど、その他の法的及び政策的事項に関する公衆のインプットを求める調査の通知を今年の後半に公表する事を考えている。

Ⅱ.人間による創作の要件

アメリカ著作権局の考えでは、著作権は人間の創造性の作成物であるマテリアルだけを保護できるという事は良く確立されている。最も根本的な事として、アメリカ憲法及び著作権法の両方において用いられている「著作者」という語は人間でないものを排除している。著作権局の登録ポリシー及び規則はこの事に関する立法及び司法のガイダンスを反映している。

人間による創作性に関するリーディングケースにおいて、最高裁は、「著作者」にその「著作」に排他的権利を与える、アメリカ議会の憲法権限の解釈において、人間でないものを排除する言葉を用いた。(原注:アメリカ憲法第1条第8節第8項(議会は「著作者及び発明者にそれぞれの著作及び発見に対して限定された期間排他的権利を保障する事により科学と有用な芸術の発展を促進する」権限を有する。)。)ビュロー・ジル・リトグラフ対サロニー事件において、写真の無許諾複製の作成について訴えられた被告は、「写真は著作者の著作でも作成物でもなく」カメラによって作り出されたものであるから、議会による写真への著作権保護の拡大は違憲であると主張した。(原注:1884年3月17日のアメリカ最高裁判決(被告は、写真は単に「ある自然物かある人間の正確な特徴の紙の上の再生」であると主張したと説明している)。)最高裁はこれに同意せず、「それが著作者の独創的、知的着想を表現したものである限り」、憲法の著作権条項は写真が著作権の対象である事を認めている事に「疑いはない」と判示した。(原注:同上。)裁判所は、「著作者」を「何であれその起源を負う者;又は創造者;製作者;科学又は文学の作品を完成した者」と定義した。(原注:同上。)最高裁は、著作者は「人」の一種であると述べ、繰り返し、その様な「著作者」を人間として(原注:同上(憲法の著作権条項の受益者は「人」の2つの種類の内の1つである「著作者」と述べている)。)、著作権を「その才能又は知性の作成物について人に与えられる排他的権利」として言及している。(原注:同上(「著作者」は「作成された絵の起因」である「人」であり、作り出したかその着想をその作品に結実させた「人」であると述べたイギリスの判決に同意している)。)

連邦控訴裁判所は、「創作による作品」に対してのみ著作権保護を与える、著作権法の条文解釈において同様の結論に達している。(原注:アメリカ著作権法第102条(a)。)第9巡回控訴裁は、「人間でない霊的な存在によって創作された」言葉を含む本は、「啓示の人間による選択及び配列」がある場合にのみ、著作権保護を受けられると判示した。(原注:1997年6月10日のウランティア協会対クリステン・マアヘラ事件第9巡回控訴裁判決(「著作権法が保護する事を意図しているのは聖なる存在の創造ではない」のであるから、「本が著作権の保護を受けるためには何がしかの人間の創造性の要素が生じていなければならない」と判示している)。本の編集が著作権の保護を受けるのに対し、主張されている「聖なる通知」はそうではない。同上。)他の事件において、同控訴裁は、著作権法は著作者の「子供」、「寡婦」、「孫」及び「寡夫」-「全て人間を示唆し、必然的に動物を排除する」用語-について言及している事から、猿がカメラによって撮った写真において猿は著作権を登録できないと判示した。(原注:2018年4月23日のナルト対スレーター事件第9巡回控訴裁判決、ただし、これは他の理由により決定がなされた。)

とりわけこれらのケースに依拠し、アメリカ著作権局の既存の登録ガイダンスは、長く、作品は人間の創作による作成物である事を求めて来た。1973年版の著作権局の著作権局実務便覧において、著作権局は、その起源を人間の主体に負わないマテリアルを登録しないと注意した。(原注:アメリカ著作権局、著作権局実務便覧2.8.3(Ⅰ)(a)(1)(b)(1973年第1版)、https://copyright.gov/history/comp/compendium-one.pdf);及びアメリカ著作権局、1965年6月30日までの年度の第68著作権登録年次報告書(1966年)、https://www.copyright.gov/reports/annual/archive/ar-1965.pdf(コンピュータ生成作品が、その作品が「基本的に人の創作によるものである」かどうかについての「重大な問題」を生じさせていると記載している)。)1984年に公表された便覧の第2版は、「『創作性』という語は、著作権の保護を受ける作品はその起源を人間に負わなければならない事を示唆している」と説明している。(原注:アメリカ著作権局、著作権局実務便覧202.02(b)(1984年第2版)、https://www.copyright.gov/history/comp/compendium-two.pdf(結果として、「自然、植物又は動物のみによって作成されたマテリアルは著作権の保護を受けられない」と説明している)。また、これは「作品は人の創作性の作成物でなければならない」事から、人の著作者による何らの寄与なく機械的なプロセス又はランダムの選択によって作成された作品は登録され得ない」と記載している。同上503.03(a)。)そして、便覧の現在版において、著作権局は、『創作性』による作品と評価されるために作品は人間によって作り出されたものでなければならない」のであり、機械によってか、何ら人間の著作者による創造的入力又は介入なくランダムに又は自動的に動作する機械的プロセスによって作成された作品を登録しないと記載している。(原注:アメリカ著作権局、著作権局実務便覧313.2(2021年第3版))

Ⅲ.人間による創作の要件のアメリカ著作権局における適用

著作権登録制度を監督する主体として、アメリカ著作権局は技術によってかその補助を受けて作り出されたマテリアルなど、著作権の保護を受けられないマテリアルと組み合わされた、人間の創作性を含む、登録のために提出された作品の評価に関して幅広い経験を有している。著作権局はまず、「『作品』が基本的に人間の創作によるものであり、コンピューター[又は他の機器」は単に補助的道具であるのか、又は、作品における創作性の伝統的要素(文学的、芸術的又は音楽的表現又は選択、配列等の要素)は機械によってではなく実際に人によって思いつかれたか実行されたか」を検討する。(原注:同上(アメリカ著作権局、1965年6月30日までの年度の第68著作権登録年次報告書(1966年)を引用している)。)AI生成マテリアルを含む作品の場合に、著作権局は、AIの寄与が「機械的再生」によるものであるか、それとも著作者が「視認可能な形式を与えた自身の独創的、精神的着想」によるものであるのかを検討する。(原注:サロニー事件判決。)答えは状況により、特にどの様にAIツールが動作し、どの様にそれが最終的な作品を作り出すのに使われたかによる。(原注:多くの技術が「人工知能」として記述され、市場で提供されているが、その全てが著作権法の目的において同じ様に機能する訳ではない。この理由から、この分析は事実による。)これは必然的にケースバイケースの調査となる。

作品の創作性の伝統的要素が機械によって作成された場合、作品は人間による創作の要件を欠き、アメリカ著作権局はそれを登録しない。(原注:これは、AI技術が人間の関与なく自動的にマテリアルを生成する様に開発された状況を含む。アメリカ著作権局再審査部、天国への最近の入国の登録の拒絶を肯定する決定(2022年2月14日)、https://www.copyright.gov/rulings-filings/review-board/docs/a-recent-entrance-to-paradise.pdf(「何ら人間の主体からの創造的寄与なく人工知能によって自動的に作り出された」作品は「登録を認められない」と決定している)参照。)例えば、AI技術が単に人間からのプロンプト(あるプロンプトに十分創造性があり、著作権によって保護を受けられる事はあり得るであろうが、その事は著作権の保護を受けられるプロンプトによって生成されたマテリアルがそれ自体著作権の保護を受けられる事を意味しない。)を受け取り、応答として複雑な文章の、視覚的又は音楽の作品を作成するとき、「創作性の伝統的要素」は-人間の利用者ではなく-技術によって決定され、実行されている。現在利用可能な生成AI技術に対する著作権局の理解に基づくと、利用者は、どの様にその様なシステムがプロンプトを解釈し、マテリアルを生成するかについての最終的な創造的コントロールを行っていない。これらのプロンプトはどちらかと言えば委託されたアーティストに対する指示の様に機能する-それらはプロンプトを書いた者が描いて欲しいものを特定するが、機械がどの様にその指示を出力で実施するかを決定している。(原注:ある画像生成AI製品は、「プロンプト」は出力に影響を与えるが、プロンプトがそれを支配したり、コントロールする事を示すものではないと述べている。(原注:ミッドジャーニー、プロンプトの説明、https://docs.midjourney.com/docs/prompts (短い文章のプロンプトは「それぞれの語が強力な影響を」もたらすものであり、あるプロンプトに含まれるイメージは「最終結果のスタイルと内容に影響し得る」と説明している)参照。)例えば、もしある利用者が「ウィリアム・シェイクスピアの文体で著作権法に関する詩を書く」事を文章生成技術に指示したら、システムが、詩と認識可能で、著作権に言及し、シェイクスピアの文体に似ていると認識できる文章を生成する事を期待できる。(原注:AI技術は必ずしも指示した通り正確に動作しない。例えば、事実である情報を提供するようプロンプト入力された文章生成ツールが不正確な情報を提供する事がある。あるAIサービスはこれを「事実を作り出すか出力において『錯覚』するAIと記述している。ChatGPT一般質問、OpenAI、https://help.openai.com/en/articles/6783457-chatgpt-general-faq。また、ジェイムズ・ロモーザー、否、ルース・ベイダー・ギンスブルクはオーバーゲフェル事件において反対意見を述べているのではない-最高裁についてその他ChatGPTが間違っている事、SCOTUSblog(2023年1月26日)、https://www.scotusblog.com/2023/01/no-ruth-bader-ginsburg-did-not-dissent-in-obergefell-and-other-things-chatgpt-gets-wrong-about-the-supreme-court/。)しかし、この技術は韻律のパターン、それぞれの行の語及び文章の構造を決定するであろう。(原注:技術には機械に対して追加のプロンプトを与える事によりインタラクティブな「フィードバック」を提供する事を利用者に可能としているものもある。例えば、利用者は生成された文章をあるトピックを言及する様に又は特定のポイントを強調する様に改めるようAIに指示する事ができる。その様な指示は出力に対してより大きな影響を与え得るものであるが、どの様にこれらの追加の指示を実施するかを決定しているのはAI技術である。)あるAI技術が出力の表現要素を決定するとき、生成されたマテリアルは人間による創作の作成物ではない。(原注:同上(著作者は「絵を実際に形作った」人であると述べるコットン判事によるイギリスの判決を引用している)。)つまり、そのマテリアルは著作権によって保護されず、登録申請書において覗かれなければならない。(原注:便覧(第3版)503.5(著作権登録は「その作品が含み得る請求不可能なマテリアルをカバーせず」、申請は「そのマテリアルを請求から除くべきである」)参照。)

しかしながら、他の場合において、AI生成物を含む作品は著作権の請求を支持するのに十分な人間による創作を含むであろう。例えば、「得られた作品が全体として創作による独創的な作品を構成する」のに十分創造的なやり方で人がAI生成物を選又は配列する事があり得る。(原注:アメリカ著作権法第101条(「編集」の定義)。AI生成物を含む編集の場合、コンピュータ生成物は編集の外で保護されないであろう。)あるアーティストが、修正が著作権保護の基準に合致する程度まで、元々AI技術によって生成されたマテリアルを修正する事もあり得る。(原注:便覧(第3版)507.1(新しい著作者が既存の作品を修正する場合、「新しい創作は…独創的創作性の十分な量を含む限りにおいて、登録され得る」と記載している)参照;アメリカ著作権法第101条(1つ以上の既存の作品に対する修正が「全体として創作による独創的な作品を表す」場合の、既存の作品に基づく作品を含む「派生著作物」を定義している)も参照。)これらの場合において、著作権は作品の人間により創作された側面のみを保護し、この事はAI生成物自体の著作権状態とは関係なく、また、これにに影響を与える事もないであろう。(原注:アメリカ著作権法第103条(b)。)

この方針は技術的ツールが創造的プロセスの部分であり得ない事を意味するものではない。著作者は長くその様なツールを用いてその作品を作り出すか、その表現による創作を作り直すか、変形するか、適応させて来たのである。例えば、画像を編集するのにアドビのフォトショップを用いる視覚アーティストは修正された画像の著作者であり続け(原注:しかしながら、アーティストがフォトショップでAIによる助力を受けた特徴を使う程度に応じて、編集は上記の分析の対象となるであろう。)、そして、音楽アーティストは音声レコーディングを作り出すときにギターペダル様なエフェクトを使う事ができる。それぞれの場合において、問題となる事はどの程度人間が作品の表現に対して創造的コントロールを有し、創作の伝統的な要素を「実際に形作った」のかである。(原注:サロニー事件判決。)

(以下略)

 この方針ペーパーの背景に、アメリカでは著作権侵害訴訟を提起するにあたり著作権局での登録が必須とされているため、著作権の登録が強く求められ、他の国と比べて大量の著作権登録申請がされており、その審査が行われているという事があるのは注意しておく必要がある。(この事は、2019年3月4日のフォース・エステート・パブリック・ベネフィット社対Wall-Street.com事件最高裁判決(pdf)で最高裁レベルで確認されている。アメリカ著作権法のこの解釈・運用自体、無登録主義を前提とするべき著作権法のあり方として問題であると思っているが、その事はここではひとまずおく。)

 その事情から登録基準を示す必要に迫られたアメリカ著作権局は、このペーパーで、プロンプト入力のみにより機械が自動的に生成した文章や画像などの生成物(AI生成物)について著作権登録を認めず、結果としてAI生成物は著作権によって保護されないとする方針をはっきりと示しているのである。

 上の抜粋とその翻訳で辿ってもらってもいいと思うが、このペーパー中で引用されている判例等を時系列順に極簡単な概要ともに並べておくと、以下の様になる。

 今までの所、アメリカの判例と著作権局の決定が示しているのは、著作権の保護を受けるためには最終的な表現において人の創作的関与を必要とするという事であるが、これは妥当なものと私も考える。

  今後の技術の発展、人が最終的な表現を創作的にコントロールできるかという事にもよって、どこまで技術の利用者である人の著作権が認められるかについてさらに事例が蓄積されて行く事だろうが、人ではないものが自然に、機械的又は自動的に生成した表現が著作権保護の対象となり得ないという事は、著作権法の様な創作保護法における最も基本的な原理の1つであって、これは技術的に人の創作物と見紛う文章や画像が機械的に生成され得る様になっているという事によって左右されるべきではないだろう。

 また、著作権との関係では、AI生成物が著作権保護の対象となるかどうかという点とは別の重要な論点は、上のペーパーでも今後パブリックコメントを行う予定と書かれている、機械学習への著作物の利用と結果として得られる生成物の提供が著作権侵害となるかどうかという点である。アメリカ著作権局が予定するパブリックコメントも重要だろうが、この点についてはアメリカでも別の訴訟になっており、AI技術に対して大きな影響を及ぼすだろうその動向には私も大いに注目している。

 次は少し間が空くかもしれないが、現時点でのAI生成物と日本の著作権法との関係について私なりのまとめを書きたいと思っている。

(2023年4月10日夜の追記:上の抜粋と翻訳部分でも辿りやすいようリンクを追加するとともに、幾つか誤記を直し、少し文章を整えた。)

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2021年5月23日 (日)

第440回:JavaのAPI利用に関するアメリカ最高裁フェアユース判決

 前々回取り上げた特許法等改正案が、5月13日の参議院経済産業委員会で全会一致で可決され、14日の参議院本会議で可決・成立した。前回取り上げた著作権法改正案も、14日の衆議院文部科学委員会で全会一致で可決され、18日の衆議院本会議で可決されて参議院に送られ、20日の参議院文教科学委員会で趣旨説明がされた所なので、じきに委員会で審議され、本会議で可決・成立となるだろう。(それぞれ、衆議院のインターネット審議中継、参議院のインターネット審議中継参照。)

 その間に、4月5日に、アメリカの最高裁判所が、JavaのAPI利用はフェアユースであるとする判決を出した。これは、技術的な事も絡み、アメリカにおけるフェアユースの考え方とその広がりを見る上で非常に興味深いものと思うので、今回は、この判決について紹介する。

 まず、その判決(pdf)の最初の概要部分を以下に訳出する。

Oracle America, Inc., owns a copyright in Java SE, a computer platform that uses the popular Java computer programming language. In 2005, Google acquired Android and sought to build a new software platform for mobile devices. To allow the millions of programmers familiar with the Java programming language to work with its new Android platform, Google copied roughly 11,500 lines of code from the Java SE program. The copied lines are part of a tool called an Application Programming Interface (API). An API allows programmers to call upon prewritten computing tasks for use in their own programs. Over the course of protracted litigation, the lower courts have considered (1) whether Java SE's owner could copyright the copied lines from the API, and (2) if so, whether Google's copying constituted a permissible "fair use" of that material freeing Google from copyright liability. In the proceedings below, the Federal Circuit held that the copied lines are copyrightable. After a jury then found for Google on fair use, the Federal Circuit reversed, concluding that Google's copying was not a fair use as a matter of law. Prior to remand for a trial on damages, the Court agreed to review the Federal Circuit's determinations as to both copyrightability and fair use.

Held: Google's copying of the Java SE API, which included only those lines of code that were needed to allow programmers to put their accrued talents to work in a new and transformative program, was a fair use of that material as a matter of law. Pp. 11-36.

(a) Copyright and patents, the Constitution says, serve to "promote the Progress of Science and useful Arts, by securing for limited Times to Authors and Inventors the exclusive Right to their respective Writings and Discoveries." Art. I, §8, cl. 8. Copyright encourages the production of works that others might cheaply reproduce by granting the author an exclusive right to produce the work for a period of time. Because such exclusivity may trigger negative consequences, Congress and the courts have limited the scope of copyright protection to ensure that a copyright holder's monopoly does not harm the public interest.

This case implicates two of the limits in the current Copyright Act. First, the Act provides that copyright protection cannot extend to "any idea, procedure, process, system, method of operation, concept, principle, or discovery . . . ." 17 U. S. C. §102(b). Second, the Act provides that a copyright holder may not prevent another person from making a "fair use" of a copyrighted work. §107. Google's petition asks the Court to apply both provisions to the copying at issue here. To decide no more than is necessary to resolve this case, the Court assumes for argument's sake that the copied lines can be copyrighted, and focuseson whether Google's use of those lines was a "fair use." Pp. 11-15.

(b) The doctrine of "fair use" is flexible and takes account of changes in technology. Computer programs differ to some extent from many other copyrightable works because computer programs always serve a functional purpose. Because of these differences, fair use has an important role to play for computer programs by providing a context-based check that keeps the copyright monopoly afforded to computer programs within its lawful bounds. Pp. 15-18.

(c) The fair use question is a mixed question of fact and law. Reviewing courts should appropriately defer to the jury's findings of underlying facts, but the ultimate question whether those facts amount to a fair use is a legal question for judges to decide de novo. This approach does not violate the Seventh Amendment's prohibition on courts reexamining facts tried by a jury, because the ultimate question here is one of law, not fact. The "right of trial by jury" does not include the right to have a jury resolve a fair use defense. Pp. 18-21.

(d) To determine whether Google's limited copying of the API here constitutes fair use, the Court examines the four guiding factors set forth in the Copyright Act's fair use provision: the purpose and character of the use; the nature of the copyrighted work; the amount and substantiality of the portion used in relation to the copyrighted work as a whole; and the effect of the use upon the potential market for or value of the copyrighted work. §107. The Court has recognized that some factors may prove more important in some contexts than in others. Campbell v. Acuff-Rose Music, Inc., 510 U. S. 569, 577. Pp. 21-35.

(1) The nature of the work at issue favors fair use. The copied lines of code are part of a "user interface" that provides a way for programmers to access prewritten computer code through the use of simple commands. As a result, this code is different from many other types of code, such as the code that actually instructs the computer to execute a task. As part of an interface, the copied lines are inherently bound together with uncopyrightable ideas (the overall organization of the API) and the creation of new creative expression (the code independently written by Google). Unlike many other computer programs, the value of the copied lines is in significant part derived from the investment of users (here computer programmers) who have learned the API's system. Given these differences, application of fair use here is unlikely to undermine the general copyright protection that Congress provided for computer programs. Pp. 21-24.

(2) The inquiry into the "the purpose and character" of the use turns in large measure on whether the copying at issue was "transformative," i.e., whether it "adds something new, with a further purpose or different character." Campbell, 510 U. S., at 579. Google's limited copying of the API is a transformative use. Google copied only what was needed to allow programmers to work in a different computing environment without discarding a portion of a familiar programming language. Google's purpose was to create a different task-related system for a different computing environment (smartphones) and to create a platform - the Android platform - that would help achieve and popularize that objective. The record demonstrates numerous ways in which reimplementing an interface can further the development of computer programs. Google's purpose was therefore consistent with that creative progress that is the basic constitutional objective of copyright itself. Pp. 24-28.

(3) Google copied approximately 11,500 lines of declaring code from the API, which amounts to virtually all the declaring code needed to call up hundreds of different tasks. Those 11,500 lines, however, are only 0.4 percent of the entire API at issue, which consists of 2.86 million total lines. In considering "the amount and substantiality of the portion used" in this case, the 11,500 lines of code should be viewed as one small part of the considerably greater whole. As part of an interface, the copied lines of code are inextricably bound to other lines of code that are accessed by programmers. Google copied these lines not because of their creativity or beauty but because they would allow programmers to bring their skills to a new smartphone computing environment. The "substantiality" factor will generally weigh in favor of fair use where, as here, the amount of copying was tethered to a valid, and transformative, purpose. Pp. 28-30.

(4) The fourth statutory factor focuses upon the "effect" of the copying in the "market for or value of the copyrighted work." §107(4). Here the record showed that Google's new smartphone platform is not a market substitute for Java SE. The record also showed that Java SE's copyright holder would benefit from the reimplementation of its interface into a different market. Finally, enforcing the copyright on these facts risks causing creativity-related harms to the public. When taken together, these considerations demonstrate that the fourth factor - market effects - also weighs in favor of fair use. Pp. 30-35.

(e) The fact that computer programs are primarily functional makes it difficult to apply traditional copyright concepts in that technological world. Applying the principles of the Court's precedents and Congress' codification of the fair use doctrine to the distinct copyrighted work here, the Court concludes that Google's copying of the API to reimplement a user interface, taking only what was needed to allow users to put their accrued talents to work in a new and transformative program, constituted a fair use of that material as a matter of law. In reaching this result, the Court does not overturn or modify its earlier cases involving fair use. Pp. 35-36.

886 F. 3d 1179, reversed and remanded.

オラクルアメリカ社は、良く使われるJavaコンピュータプログラミング言語を利用するコンピュータプラットフォームであるJavaSEの著作権者である。2005年に、グーグルはアンドロイドを取得し、モバイル機器のための新たなソフトウェアプラットフォームを構築しようとした。Javaプログラミング言語に馴れ親しんだ数百万のプログラマーが新しいアンドロイドプラットフォームで働ける様にするため、グーグルはおよそ11500行のコードをJavaSEプラットフォームからコピーした。コピーされた行はアプリケーション・プログラミング・インターフェース(API)と呼ばれるツールの部分である。APIはプログラマーにその自身のプログラムにおける利用のために前もって書かれている計算タスクを呼び出す事を可能とするものである。長期に渡る訴訟経過の中で、下級審は、(1)JavaSEの権利者はAPIのコピーされた行について著作権を持ち得るか、(2)もしそうであるなら、グーグルのコピー行為はこのマテリアルの許される「フェアユース(公正利用)」となり、グーグルを著作権侵害責任から免除するかについて判断して来た。下の審理において、連邦裁判所は、コピーされた行は著作権保護の対象であると判示した。そして、陪審員がグーグルについてフェアユースとした後、連邦裁判所はそれを覆し、法律事項として、グーグルのコピー行為はフェアユースではないと結論づけた。賠償の審理のために差し戻すより先に、当裁判所は連邦裁判所の著作権保護対象性とフェアユースの両方に関する判断について再審理する事に同意した。

判示:プログラマーがその獲得した才能により新しく変形的なプログラムについて働く事を可能とするのに必要なものであるコード行のみを含む、グーグルのJavaSE APIのコピー行為は、法律事項として、そのマテリアルのフェアユースである。第11~36ページ。

(a)憲法は、著作権及び特許は「限定された期間において著作者と発明者にそれぞれの著作と発見について排他的権利を保証する事により科学と有用な芸術の進歩を促進するためのものである」と言っている(第1条第8節第8項)。著作物は他人が安価に複製可能なものであり得るが、著作権はある期間著作物を製造する排他的権利を著作者に付与する事によりその製造を促すものである。この様な排他性はネガティブな結果を引き起こし得るものであるから、議会と裁判所は、著作権者の独占が公益を害さない事を保証するために著作権保護の範囲を限定して来た。

本ケースにおいては、現行の著作権法における2つの限定が関係している。第1に、この法は、著作権の保護は「いかなるアイデア、手続き、プロセス、システム、実行方法、概念、原理、又は発見・・・」には及ばないと規定している(アメリカ合衆国法第17編(著作権法)第102条(b))。第2に、この法は、著作権者は他人が著作物について「フェアユース」をする事を止められないと規定している(第107条)。グーグルの訴えは、これらの規定を問題のコピー行為に適用する事を裁判所に求めるものである。本ケースを解決するのに必要以上の事を判断しないよう、当裁判所は、議論のために、コピーされた行は著作保護の対象であり得ると仮定し、グーグルのこれらの行の利用がフェアユースであるかに集中する。第11~15ページ。

(b)「フェアユース」の法理は柔軟であり、技術の変化を考慮に入れるものである。コンピュータプログラムは常に機能的な目的に使われるものであるから、コンピュータプログラムはある程度他の多くの著作物とは異なるものである。この様な違いのために、フェアユースは、コンピュータプログラムに与えられる独占をその適法な範囲に留める、文脈に基づくチェックを提供する事により、コンピュータプログラムに対して重要な役割を果たす。第15~18ページ。

(c)フェアユースの問題は事実と法律の混合問題である。再審査法廷は、陪審員による前提となる事実認定に適切に従うべきであるが、その事実からフェアユースとなるかの最終的な問題は法的な問題であり、判事が再審理する事ができる。ここでの最終的な問題は法律の問題であり、事実の問題ではないから、このアプローチは、修正第7条の陪審員による判断された事実の法廷による再審査の禁止に反するものではない。「陪審員による審理の権利」は、フェアユースの抗弁を陪審員が解決する権利を含むものではない。第18~21ページ。

(d)グーグルの限定的なAPIのコピー行為がフェアユースとなるかについて判断するため、当裁判所は、著作権法のフェアユース規定に定められた4つの主要要素を検討する:利用の目的及び性質;著作物の性質;著作物全体との関係で利用された部分の量及び本質性;並びに著作物の潜在的市場又は価値に対するその利用の影響(第107条)。当裁判所は、幾つかの要素が、ある文脈において他より重要なものと考えられる事を認めて来た(キャンベル事件判決)。第21~35ページ。

(1)問題となる著作物の性質はフェアユースに有利である。コピーされたコード行は、プログラマーに単純なコマンドの利用によって前もって書かれているコンピューターコードにアクセスする方法を提供する「ユーザインターフェース」の部分である。つまり、このコードは、コンピュータによるタスクの実行を実際に指示するコードの様な他の多くの種類のコードとは異なる。インターフェース部分として、コピーされた行は著作権保護対象を有しないアイデア(APIの全体的な構成)及び新たな創作的表現(グーグルによって独立に書かれたコード)と本質的に結びついている。他の多くのコンピュータプログラムと違い、コピーされた行の価値はその大部分がAPIシステムを学んだ利用者(コンピュータプログラマー)の投資に由来するものである。この様な違いがある事から、ここでのフェアユースの適用は議会がコンピュータプログラムについて規定した一般的な著作権保護を危うくするものとはならないであろう。第21~24ページ。

(2)利用の「目的及び性質」に関する調査は、多く、そのコピー行為が「変形的」であるか、すなわち、それが「さらなる他の目的又は異なる性質とともに新しい何かを追加する」かに帰着する(キャンベル事件判決)。グーグルのAPIの限定的なコピー行為は変形利用である。グーグルは、プログラマーが異なるコンピューティング環境において慣れ親しんだプログラミング言語の一部分を捨てずに働く事を可能にするのに必要なだけのものをコピーした。グーグルの目的は異なるコンピューティング環境(スマートフォン)のために異なるタスク関連システムを作り出し、その目標を達成して広める事に役立つプラットフォーム-アンドロイドプラットフォーム-を作り出す事にある。記録は、インターフェースの再実装によりさらなるコンピュータプログラムの開発が可能となる数多くのやり方を示している。したがって、グーグルの目的は著作権自体の憲法上の基本的な目的である創作的進歩と合致する。第24~28ページ。

(3)グーグルは、APIから、仮想的に何百かの異なるタスクを呼び出すのに必要な全ての宣言コードに及ぶ約11500行の宣言コードをコピーした。これらの11500行は、しかしながら、全体で286万行からなる、問題となるAPI全体の0.4%に過ぎない。本ケースにおける「利用された部分の量及び本質性」を考慮するにあたり、11500コード行は遥かに大きな全体の1小部分と見られるべきである。インターフェース部分として、コピーされたコード行は、プログラマーによってアクセスされる他のコード行と分離不能な形で結びついている。グーグルがこれらの行をコピーしたのは、その創作性又は美しさのためではなくそれによりプログラマーがその技能を新しいスマートフォンコンピューティング環境に持ち込む事を可能とするためである。「本質性」の要素は、ここでの様に、コピー行為の量が妥当なかつ変形の目的に結びついている場合には、一般的にフェアユースに有利に働く。第28~30ページ。

(4)第4の法定要素は、「著作物の潜在的市場又は価値」におけるコピー行為の「影響」に焦点をあてている(第107条第4項)。ここで、記録は、グーグルの新しいスマートフォンプラットフォームはJavaSEの代替市場ではない事を示している。記録は、また、JavaSEの著作権者はそのインターフェースの他の市場への再実装から利益を受けるであろう事も示している。最後に、この事実に基づき、著作権をエンフォースする事は公衆に対し創造性に関して害をもたらす恐れがある。これらの事を考え合わせると、これらの考察は、第4の要素-市場への影響-もフェアユースに有利に働く事を示している。第30~35ページ。

(e)コンピュータプログラムが主として機能的なものであるという事実は伝統的な著作権の概念をこの技術的な世界に適用する事を困難にしている。本ケースにおける独特な著作物に当裁判所の判例と議会の法制化によるフェアユースの法理を適用する事により、当裁判所は、プログラマーがその獲得した才能により新しく変形的なプログラムについて働く事を可能とするのに必要なもののみを取る、ユーザインターフェースを再実装するためのグーグルのAPIのコピー行為は、法律事項として、そのマテリアルのフェアユースとなると結論づける。この結論に至るにあたり、当裁判所はそのフェアユースに関する先例を覆したり、修正したりはしていない。第35~36ページ。

連邦裁判決は破棄され、差し戻される。

 今回のアメリカ最高裁判決のポイントは上の概要部分に良くまとめられているが、ここでコピーされたコード行と書かれているJavaのAPIは、判決の第7ページで以下の様に書かれている様に、Java言語プラットフォームの実行コードそのもの(プログラムと言う時に通常想定されるもの)ではなく、プログラマーがプログラムを書く際に利用する、宣言コードのみである事に注意が必要である。(以下で参考として一緒に付録Bのダイヤグラム表も引用しておく。)

Now let us consider the example that the District Court used to explain the precise technology here. Id., at 980-981. A programmer wishes, as part of her program, to determine which of two integers is the larger. To do so in the Java language, she will first write java.lang. Those words (which we have put in bold type) refer to the "package" (or by analogy to the file cabinet). She will then write Math. That word refers to the "class" (or by analogy to the drawer). She will then write max. That word refers to the "method" (or by analogy to the recipe). She will then make two parentheses ( ). And, in between the parentheses she will put two integers, say 4 and 6, that she wishes to compare. The whole expression - the method call - will look like this: "java.lang.Math.max(4, 6)." The use of this expression will, by means of the API, call up a task-implementing program that will determine the higher number.

In writing this program, the programmer will use the very symbols we have placed in bold in the precise order we have placed them. But the symbols by themselves do nothing. She must also use software that connects the symbols to the equivalent of file cabinets, drawers, and files. The API is that software. It includes both the declaring code that links each part of the method call to the particular task-implementing program, and the implementing code that actually carries it out. (For an illustration of this technology, see Appendix B, infra.)

Now we can return to the copying at issue in this case. Google did not copy the task-implementing programs, or implementing code, from the Sun Java API. It wrote its own task-implementing programs, such as those that would determine which of two integers is the greater or carry out any other desired (normally far more complex) task. This implementing code constitutes the vast majority of both the Sun Java API and the API that Google created for Android. App. 212. For most of the packages in its new API, Google also wrote its own declaring code. For 37 packages, however, Google copied the declaring code from the Sun Java API. Id., at 106-107. As just explained, that means that, for those 37 packages, Google necessarily copied both the names given to particular tasks and the grouping of those tasks into classes and packages.

ここで、地方裁判所が正確な技術について説明するのに使った例を考えよう。プログラマーが、そのプログラムの部分として、2つの整数のどちらが大きいかを決定したいとする。Java言語においてそうするために、プログラマーは、まず、java.langと書く。これらの語(私たちが太字にしたもの)は「パッケージ」(又は例えて言うならファイルキャビネットに相当する)を参照するものである。そして、プログラマーはMathと書く。この語は「クラス」(又は例えて言うなら引き出しに相当する)を参照するものである。そして、プログラマーは、maxと書く。この語は「メソッド」(又は例えて言うならレシピに相当する)。そして、プログラマーは2つの括弧( )を書く。そして、括弧の間にプログラマーは比較したい2つの整数、例えば4と6、を入れる。全体の表現-メソッドコール-は次の様になる:「java.lang.Math.max(4, 6)」。この表現の利用は、APIの手段によって、より大きな数を決定するタスク実行プログラムを呼び出す。

このプログラムを書くにあたり、プログラマーは、私たちが太字にした記号そのものを私たちが置いた順序通りに正確に利用する。しかし、記号はそれ自体では何もしない。プログラマーは、その記号を、ファイルキャビネット、引き出し及びファイルの等価物に繋げるソフトウェアも使わなくてはならない。APIがそのソフトウェアである。それは、メソッドコールのそれぞれの部分を個別のタスク実行プログラムに結びつける宣言コード及びそれを実際に実行する実行コードの両方を含んでいる。

ここで、私たちは、本ケースにおいて問題となるコピー行為に戻る。グーグルはサンのJavaAPIからタスク実行プログラムや実行コードをコピーしていない。グーグルは、2つの整数の内どちらが大きいかを決めるものや他の求める(通常はより遥かに複雑な)タスクを実行するものなどについて、自身のタスク実行プログラムを書いた。この実行コードはサンのJavaAPIとグーグルがアンドロイドのために作り出したAPIの大部分を構成している(地裁判決付録第212ページ)。その新しいAPIのパッケージのほとんどについて、グーグルは自身の宣言コードを書く事もしている。しかしながら、37のパッケージについて、グーグルはサンのJavaAPIから宣言コードをコピーした(同判決第106~107ページ)。今説明した通り、この事は、これらの37のパッケージについて、グーグルは必然的に個別のタスクに与えられた名前とパッケージとクラスにおけるこれらのタスクのグループ分けをコピーした事を意味する。

(付録Bのダイヤグラム表)

Javaapi_diagram

 さらに、上の概要の判示(a)の様に、ここで宣言コードは著作権保護対象と仮定してフェアユースについて判断するとして、宣言コードが著作権の保護対象か否かに関する明確な判示を避けている事にも留意が必要だが、その上で、アメリカ最高裁は、フェアユースの主要4要素についてそれぞれ判断し、特に、上の概要の(d)(2)の様に、第2要素の利用の目的及び性質について、プログラマーによる利用まで考慮して変形的利用であると、(d)(3)の様に、第3要素の利用部分の量及び本質性について、宣言コードは本質的なものとしてその変形的利用に結びついていると認め、(d)(4)に書かれている通り、第4要素の市場への影響について、APIの囲い込みが公衆の創造性を害する恐れも認め、この様な宣言コードのコピーはフェアユースであると判断しているのは、フェアユースについて一歩踏み込んだ判決と言っていいのではないかと思う。

 本判決のポイントは上記の概要だけでもほぼ掴めるのではないかと思うが、さらに補足として、第3要素と第4要素について書かれている本文から、それぞれキーとなる部分を抜き出して訳出しておくと、以下の様になるだろう。

We do not agree with the Federal Circuit's conclusion that Google could have achieved its Java-compatibility objective by copying only the 170 lines of code that are "necessary to write in the Java language." 886 F. 3d, at 1206. In our view, that conclusion views Google's legitimate objectives too narrowly. Google's basic objective was not simply to make the Java programming language usable on its Android systems. It was to permit programmers to make use of their knowledge and experience using the Sun Java API when they wrote new programs for smartphones with the Android platform. In principle, Google might have created its own, different system of declaring code. But the jury could have found that its doing so would not have achieved that basic objective. In a sense, the declaring code was the key that it needed to unlock the programmers' creative energies. And it needed those energies to create and to improve its own innovative Android systems.

We consequently believe that this "substantiality" factor weighs in favor of fair use.

私たちはグーグルがそのJava互換の目標を「Java言語で書くのに必要な」170コード行のみをコピーする事で達成し得たとする連邦裁判所の結論に同意しない(連邦裁判所判決第1206ページ)。私たちの考えでは、この結論は、グーグルの正当な目標を狭く見過ぎている。グーグルの基本的な目標は単にJavaプログラミング言語をそのアンドロイドシステムで利用可能とする事にあるのではない。それは、プログラマーがアンドロイドプラットフォームでスマートフォンのために新しいプログラムを書く時にサンのJavaAPIを用いていた時の知識と経験を利用可能とする事にある。原理的には、グーグルは宣言コードについて自ら異なるシステムを作り得たであろう。しかし、そうするのはその基本的な目標を達成するものではないと陪審員は判断しただろう。宣言コードはプログラマーの創作的エネルギーを解除するために必要なキーである。そして、自身の革新的なアンドロイドシステムを作り出し、改善するにはそのエネルギーが必要だったのである。

私たちは結果としてこの「本質性」の要素がフェアユースに有利に働くと考える。(第29~30ページ)

Finally, given programmers' investment in learning the Sun Java API, to allow enforcement of Oracle's copyright here would risk harm to the public. Given the costs and difficulties of producing alternative APIs with similar appeal to programmers, allowing enforcement here would make of the Sun Java API's declaring code a lock limiting the future creativity of new programs. Oracle alone would hold the key. The result could well prove highly profitable to Oracle (or other firms holding a copyright in computer interfaces). But those profits could well flow from creative improvements, new applications, and new uses developed by users who have learned to work with that interface. To that extent, the lock would interfere with, not further, copyright's basic creativity objectives. See Connectix Corp., 203 F. 3d, at 607; see also Sega Enterprises, 977 F. 2d, at 1523-1524 ("An attempt to monopolize the market by making it impossible for others to compete runs counter to the statutory purpose of promoting creative expression"); Lexmark Int'l, 387 F. 3d, at 544 (noting that where a subsequent user copied a computer program to foster functionality, it was not exploiting the programs "commercial value as a copyrighted work" (emphasis in original)). After all, "copyright supplies the economic incentive to [both] create and disseminate ideas," Harper & Row, 471 U. S., at 558, and the reimplementation of a user interface allows creative new computer code to more easily enter the market.

最後に、サンのJavaAPIの学習に対するプログラマーたちの投資があるとして、ここで、オラクルの著作権のエンフォースを認める事は公衆に害をなす恐れがあるだろう。プログラマーに対して似た訴求力を持つ代替APIを作成する事につき費用と困難性があるとして、ここで、エンフォースメントを認める事はサンのJavaAPIの宣言コードを新しいプログラムの未来の創作性を制限するロックとしてしまうだろう。オラクルだけがその鍵を持つ事になるだろう。この結果はオラクル(又はコンピュータインターフェースの著作権を有する他の企業)に高い利益をもたらす事だろう。しかし、この利益は、そのインターフェースで働く事を学んだユーザによって開発された創作的改善、新しいアプリケーション及び新しい利用から流入して来るものだろう。その限りで、このロックは、それ以上行かずとも、著作権の基本的な創作の目的を阻害する。コネクティックス事件判決第607ページ参照;セガ事件判決第152ページ参照(「競争する事を他者に不可能にする事によって市場を独占しようとする試みは創造的表現を促進するという法定の目的に反する」)。レックスマーク事件判決第544ページ参照(後のユーザが機能を育てるためにコンピュータプログラムをコピーした場合、それはプログラムの「著作物としての商業的価値」を利用したのではないと指摘)。結局の所、「著作権はアイデアの創作と普及[の両方]に経済的インセンティブを与える」(ハーパー&ロー事件判決第558ページ)ものであり、ユーザインターフェースの再実装は、より容易に市場に入る事を可能とする、新しい創作的コンピュータコードを可能とするのである。(第34~35ページ)

 このケースは、宣言コードは著作権保護対象でないとする事によっても同じ著作権非侵害の結論を出せたとは思うが(地裁判決ではその様な判断がされていた事もある)、そうしてしまうと、今度は自ら実行コードを書けば誰でもプログラミング言語の互換プラットフォームを提供できるという事になり、それはそれで逆の影響が大きく出かねないので、アメリカ最高裁は、著作権保護対象性についての判断を避け、グーグルのアンドロイドプラットフォームにおける部分としてのJavaAPIの宣言コードの利用についてフェアユースが適用されるとだけ言ってぎりぎりの解決を図ったものとも見られる。

 判決本文の細部や反対意見の訳出はここでは省略するが、この裁判が10年近くの長期に渡り裁判所間で行き来を繰り返している事や、一人の判事がその反対意見において同じ事実から真逆の著作権侵害の結論を導き出している事などからも、このケースはかなり微妙なものと知れる。その中で、この判決は、上で書いた通り、その部分だけを取り出して見れば、本質的な部分であるAPIの宣言コードの本来的な利用であるにも関わらず、ユーザ・利用者であるプログラマーによる利用まで考慮して変形的利用と捉え、APIの囲い込みが公衆の創造性を害する恐れも認めてフェアユースであるとした点で非常に興味深いものである。

 この判決が結論部分で述べている通り、確かに「コンピュータプログラムが主として機能的なものであるという事実は伝統的な著作権の概念をこの技術的な世界に適用する事を困難にしている」(上の概要部分の(e)又は本文第35ページ)のであって、そもそも著作権は、プログラミング言語のプラットフォームによる囲い込み、すなわち、プログラムやプログラマーそのものの技術的な囲い込みを正当化するべきものではなく、その点でアメリカ最高裁はフェアユースの意義から正しく解釈して結論を出していると私は思う。

 また、このケースはアメリカにおける大手ITプラットフォーマー間の限界紛争事例とも言え、その限りにおいて日本の法律問題に直結するとは思えないが、ひるがえって、日本法ではどうかと考えると、私自身は、この様なプログラム言語の宣言コードは著作物でないか著作権法第10条で著作権法の保護が及ばないとされているプログラム言語の一部であると考え、仮に保護を受ける場合でも第30条の4の思想感情非享受利用の権利制限の適用があると考えるが、それぞれ微妙な所があり、これらについて違う考えを持つ者もいるのではないかと思う。(第30条の4の権利制限の条文とその2018年の法改正経緯については第389回参照。)

 このケースのような限界事例のみをもって日本法についてどうこうと言うつもりは全くないが、日本においても、様々な判例からアメリカ型のフェアユースの意義に関する議論がさらに深められる事を、技術的な利用だけであれば今の第30条の4でそれなりの部分がカバーされているとも思えるが、そこに留まらず、より広く公正利用と考えられる変形利用やビジネス利用も含め著作物の公正利用を促すためにアメリカ型のフェアユースを導入する事が重要であるという考えが広く浸透する事を私は常に願っている。

(2021年5月25日夜の追記:幾つか誤記を直し、合わせ少し文章を整えた。)

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2016年2月21日 (日)

第358回:法定損害賠償制度の見直しを求めるアメリカ商務省の報告書

 先週金曜2日19日の衆議院予算委員会での民主党の福島伸享議員の質問によってにわかにTPP協定により導入を求められている法定損害賠償が話題となっているが(衆議院インターネット中継huffingtonpost.jpの記事ねとらぼの記事参照)、国会でのこのような議論を受け、場合によっては何かしらさらに国内でのTPP問題がややこしくねじれることもあるかも知れないと私は危惧している。

 アメリカでは、著作権法上の法定損害賠償として、その第504条第(c)項に著作物毎に通常750ドルから3万ドル、故意の場合はさらに15万ドルまで増額できるとして非常に大きな額が条文に書き込まれている(米著作権局HPの条文又は著作権情報センターHPの翻訳参照)。しかも、これは著作物一つあたりの額なので、多数の著作物が侵害される場合、個人には到底支払うことができない(恐らく企業であっても支払い難い)莫大な損害賠償額が請求され得るというのがその最大の問題である。

 その問題は私もパブコメ等で何度も指摘しているが、今まで前提をかなり飛ばして書いてしまっているところもあり、丁度良くつい最近の1月28日にアメリカ商務省の出したリミックス、ファーストセール及び法定損害賠償に関する白書(pdf)概要(pdf)リリース1も参照)はアメリカの制度とその問題を知る上で恰好の内容を含んでいるので、今回はこの報告書の内容を紹介する形で、その前提も含め、法定損害賠償の問題を取り上げたいと思う。

 なお、この報告書中のリミックスやファーストセールドクトリンの話も重要でないということはないのだが、それぞれ、リミックスについてはガイドラインを作るべきと、ファーストセールドクトリンについてはデジタル販売にまで拡張するのは時期尚早とそこまで踏み込んだ提言にはなっていないのでここでは省略し、一番大きな見直しを提言している法定損害賠償制度に関する部分のみ取り上げる。

 まず、この報告書の概要(pdf)から、法定損害賠償に関する部分を抜き出すと以下のようになる。(以下、例によって翻訳は全て拙訳。)

The Task Force is mindful that statutory damages serve a critical compensatory and deterrent function, and are particularly important in cases of online infringement, where the scope of the infringing use may not be ascertainable. At the same time, however, excessive and inconsistent awards can risk encouraging disrespect for copyright or chilling investment in innovation. The Task Force's inquiry focused on the appropriate calibration of statutory damages that may be assessed against individual file‐sharers and against online services, which can be secondarily liable for infringement of large numbers of works. It recommends the following three amendments to the Copyright Act to address some of the concerns presented:

  • Incorporate into the Copyright Act a list of factors for courts and juries to consider when determining the amount of a statutory damages award, providing a greater degree of predictability in infringement cases across the country. In considering what factors should be included, the Task Force drew upon existing model jury instructions as well as federal case law.
  • Amend the copyright notice provisions to remove a bar to eligibility for the lower "innocent infringement" statutory damages awards.
  • In cases involving non‐willful secondary liability of online services offering a large number of works, give courts discretion to assess statutory damages other than on a strict per‐work basis.

The Task Force also supports the creation of a streamlined procedure for adjudicating small claims of copyright infringement and believes that further consideration should be given to the proposal of the Copyright Office to establish such a tribunal. This could help diminish the risk of disproportionate levels of damages against individual file‐sharers.

タスクフォースは、法定損害賠償は重要な補償及び抑止機能を果たすものであり、侵害利用の範囲が不明確となり得るオンライン侵害の場合に特に重要であることに留意する。同時に、しかしながら、過大で一貫性のない賠償は著作権の軽視を助長したり、イノベーションへの投資を萎縮させたりする恐れがある。タスクフォースの調査は、個人のファイル共有と、多数の著作物の侵害について二次的な責任を負い得るオンラインサービスに課され得る法定損害賠償の適切な見直しに焦点をあてたものである。タスクフォースは、示された幾つかの懸念への対処として以下の3つの著作権法の改正を勧告する。

  • 法定損害賠償の額を決定する際に裁判所と陪審員が考慮するべき要素のリストの著作権法への導入、これは全国で侵害事件における予見可能性をより高めるものである。どのような要素が入れられるべきかを検討するにあたり、タスクフォースは既存のモデル陪審説示並びに連邦判例法を利用した。
  • 「罪のない侵害」の場合の法定損害賠償の減額に対する適格性の障害を除去するための著作権ノーティス規定の改正。
  • 多数の著作物を提供するオンラインサービスの故意でない時の二次責任に関する場合に、厳密に著作物数を基礎とする以外に法定損害賠償を評価する裁量を裁判所に与えること。

タスクフォースはまた著作権侵害の少額訴訟を裁定するための簡素な手続きの創設を支持し、さらなる検討がそのような裁定所を確立する著作権局の提案のために加えられるべきであると考える。このことは個人のファイル共有に対する不釣り合いな損害賠償の危険を解消することに役立つであろう。

 ここで、アメリカ商務省が「過大で一貫性のない賠償は著作権の軽視を助長したり、イノベーションへの投資を萎縮させたりする恐れがある」と認め、法定損害賠償を制限する方向への法改正を勧めていることの意味は大きいだろうし、この概要部分だけでも簡にして要を得ていると思うが、さらに詳しく見るために、報告書本文(pdf)から、ポイントとなるを抜き出して行くと、まず、個人によるファイル共有侵害との関係における問題について、70ページ以降に以下のように書かれている。

a. The Level of Statutory Damages

The Task Force heard differing viewpoints about whether the full range of statutory damages permitted under current law should be applied to individual file-sharers. Many commenters addressed the perceived fairness of enforcement activities vis-a-vis individual defendants generally, including whether the possibility of large statutory damages awards impedes individuals' ability to defend themselves or gives rise to abusive tactics. The Task Force also received proposals that addressed other concerns about litigation against individual file-sharers.

Much of the discussion focused on the only two such cases with reported trial verdicts, both of which resulted in high statutory damages awards that received considerable publicity.

Those favoring an adjustment of the permissible range of statutory damages pointed to the large jury awards in these cases as examples of the "unpredictability and irrationality" of the statutory damages regime. According to those commenters, individual file-sharers who infringe a handful of works for private, non-commercial purposes should not be required to pay damages that are disproportionate to the market value of the works. Nor, in their view, does it make sense to impose large damages awards on individuals who cannot pay anywhere near the amounts awarded. Some argued that the awards in these cases "exceed[ed] any rational measure of deterrence," noting potential due process concerns.

...

b. Inconsistencies in Application

A number of commenters asserted that because there is no specific set of factors or guidelines to be used in calculating statutory damages awards, troubling inconsistencies in their levels can arise. One commenter pointed out that damages are "untethered from anything." While few examples involving file sharing were offered, the four different verdicts in the two cases discussed above represent a wide array of awards based upon similar or identical facts.

Copyright owner groups as well as consumer advocates and other stakeholders suggested that it would be helpful to provide courts with guidance on factors to consider when setting statutory damages awards. Several noted that although some model jury instructions already exist, they are not being used in a consistent manner or in every circuit.

c. Litigation Abuse

Several commenters claimed that the potential high levels of statutory damages are linked to troubling enforcement tactics, often at the expense of individual defendants. In their view, the statutory damages regime has helped foster a "nationwide plague of lawsuit abuse over the past three years" by entities that they label "copyright trolls." They pointed to reports that attorneys representing copyright holders have filed hundreds of lawsuits against tens of thousands of anonymous Internet users, representing a substantial percentage of copyright suits filed in the federal courts in recent years. According to the commenters, these cases are rarely if ever litigated; instead, attorneys file "boilerplate complaints based on a modicum of evidence, calculated to maximize settlement profits by minimizing costs and effort" and use the courts' subpoena power to identify Internet users, often in multiparty John Doe actions. Then, commenters allege, they engage in a campaign of threats of high potential damages and harassment to coerce their targets into paying settlements of $2,000 to $10,000. This is a particular concern with respect to suits about copyrights covering adult content, where the TaskForce has noted a large number of settlements that may have been motivated in part by the defendants' desire to avoid having their names associated with such content. Such "predatory" enforcement may contribute to a negative public image of copyright.

This behavior was characterized as the product of a "litigation business model where a plaintiff uses copyright law ‘not to protect its property from unlicensed use, but rather to generate profit from use even in the absence of articulable harm to' the plaintiff." One commenter stated that"[h]olders of low-value copyrights in unsuccessful movies or low-cost pornography, and even invalid assignments of rights in newspaper articles, use the threat of statutory damages to turn litigation threats into a profit center." Another predicted that if statutory damages were calibrated to much lower levels, then this behavior would disappear.

...

a.法定損害賠償の水準

タスクフォースは、現行法において許されている法定損害賠償の全範囲が個人のファイル共有に適用されるべきかということについて様々な見解を聞いた。多くの意見は、巨額の法定損害賠償の可能性が個人の被告の自己弁護能力を阻害しているか、濫用戦略をもたらしているかについても含め、一般的に個人のファイル共有に対する権利行使について知覚される公平性に向けられていた。タスクフォースは、個人のファイル共有に対する訴訟に関する他の懸念に対処する提案も受けた。

議論は多く、ともに大きく喧伝されている、高額の法定損害賠償をもたらした、報告された判決のあったそのような2つのケースにほぼ集中していた。

彼らは法定損害賠償のあり得る範囲の適正化を支持し、法定損害賠償制度の「予見不能性と不合理性」の例としてこれらのケースにおける巨額な陪審員賠償をあげた。これらの評者によれば、私的に非商業目的で一握りの著作物を侵害する個人のファイル共有について、その著作物の市場価値と不釣り合いな損害賠償を支払うことは求められるべきではない。また、彼らの見解では、如何なる場合でもそのような損害賠償額をほぼ支払うことができない個人に高額の損害賠償を課すのは馬鹿げている。何人かは、これらのケースにおける賠償は「抑止の合理的な手段を超えている」と主張し、潜在的な適正な法的手続きに対する懸念を示した。

(略)

b.法適用における一貫性のなさ

数多くの評者が、法定損害賠償を算定するための特定の要素一式又はガイドラインがないことから、その水準における問題の多い一貫性のなさが生じ得ると主張している。ある評者は、損害賠償は「あらゆることから解き放たれている」と指摘している。ファイル共有がからむ例は多く提供されていないが、上記の2つのケースにおける4つの異なる判決が同様の又は同一の事実に基づく賠償の広い幅を示している。

著作権者のグループ並びに消費者の代表及び他の利害関係者は、法定損害賠償を決定する際に考慮する要素についてのガイドを裁判所に提供することが助けになると示唆している。何人かは、モデル陪審説示が既に存在しているものの、それは一貫性のある形であるいはあらゆる法廷で使われていないと注意している。

c.訴訟の濫用

何人かの評者は、潜在的に高い水準の法定損害賠償が問題の多い権利行使戦略に結びついており、個々の被告に被害を与えていることも多いと訴えている。彼らの見解では、法定損害賠償制度は、彼らが「著作権トロール」と名づける主体による「3年来の全国での訴訟の濫用の大発生」を助長して来た。彼らは、著作権者を代理する弁護士が何万人という匿名のインターネットユーザに対して何百という訴訟を提起し、これが近年連邦裁判所に提起された著作権訴訟のかなりの割合を占めている可能性があるとの報告があることを指摘している。これらの評者によれば、これらのケースにおいて訴訟が遂行されることはまれである。そうではあるが、弁護士たちは「費用と労力を最小化しながら最大の和解の利益を受けられると見込んで僅かな証拠に基づいて定型の訴えを提起しており」、インターネットユーザを特定する裁判所の召喚権限を用い、これは多数の関係者を含むジョン・ドウ(名なし)裁判によることも多い。すなわち、これらの評者の主張するところ、彼らはあり得る高額の損害賠償により脅迫し、嫌がらせによって相手を2千ドルから1万ドルの和解金を支払うよう追い込むキャンペーンに従事している。このことはアダルトコンテンツを含む著作権に関する訴訟に関して特に懸念される、タスクフォースは、そこではそのようなコンテンツと自身の名前が結び付けられることを避けたいと思う原告の望みがその動機の一部になっている多数の和解があると注意する。このような「人を食い物にする」権利行使は著作権の否定的なイメージの流布に寄与しているであろう。

この振る舞いは、「原告が『不正な利用からその所有権を保護するためではなく、どちらかと言えば、原告に明確に言える害が存在しない場合における利用から利益を生み出すため』に著作権法を利用している訴訟ビジネスモデル」が作り出したものとして特徴づけられる。ある評者は、「成功しなかった映画又は低費用のポルノグラフィーにおける価値の低い著作権の所有者が、また新聞記事の無効な権利譲渡によってすら、法定損害賠償による脅迫を利用して訴訟による脅迫をプロフィットセンターとしている」と述べている。他のある評者は、法定損害賠償が遥かに低い水準に補正されていれば、この振る舞いは消えるだろうと予測している。

(略)

 次に、二次的な責任、つまり、インターネットサービスプロバイダーの間接侵害責任との関係における問題ついて、79ページ以降に以下のように書かれている。

a. Chilling Effects

With respect to online service providers, the question posed by the Task Force was how statutory damages should be calculated in cases involving secondary liability where hundreds of thousands of works may have been infringed. In addition to concerns expressed about statutory damages generally, the comments most relevant to this question focused on whether potentially huge statutory damages awards have a "chilling effect" on innovation and investment.

Critics of the current statutory damages regime pointed to a number of lawsuits against technology companies, generally involving services offering methods of digital distribution that enable large-scale copyright infringement by third parties. In determining the responsibility of these companies for the illegal activities of the users, the courts have applied various theories of direct and secondary liability. Although many of these cases ultimately settled, the levels of potential liability have fueled headlines and commentary.

Technology companies and public interest advocates asserted that the magnitude of statutory damages awards available in such cases have had a chilling effect on innovation and investment. One commenter cited an amicus curiae brief to the Supreme Court by a group of venture capitalists arguing that statutory damages have "crushing implications for vendors of multi-purpose technologies, where damages from unforeseen users can quickly mount in the millions or even billions of dollars[,]" and that in this respect secondary liability for copyright infringement is "qualitatively different from most other sorts of business risks that investors can insure against or build into their business calculations." Another commenter pointed to a survey of investors in digital content intermediaries that it said confirmed "that uncertainty around liability risks deter[ring] investment in this field."

Commenters also pointed to innovative companies that they say were bankrupted by litigation even though they were ultimately found to be non-infringing. According to one commenter, potential statutory damages will deter some new business plans that rely on fair use from moving forward. At the same time, several noted that "[e]vidence for the innovation-chilling effect will ... usually not be readily apparent. In most cases, the public doesn't see and will likely never know about the innovations that don't happen and the features that aren't offered."

...

a.萎縮効果

オンラインサービスプロバイダーに関して、タスクフォースが出した質問は、何十万の著作物が侵害される二次責任が絡む場合にどのように法定損害賠償が算定されるべきかというものである。法定損害賠償について一般的に示された懸念に加えて、ほぼこの質問に関する回答は、莫大なものとなり得る法定損害賠償がイノベーションと投資に対し「萎縮効果」を有するかどうかということに集中していた。

現行の法定損害賠償制度の批判者は、一般的に第三者による大規模な著作権侵害を可能とするデジタル頒布手段を提供するサービスに関わるテクノロジー企業に対する数多くの訴訟があることを指摘している。これらの企業のそのユーザの違法な活動に対する責任を決定する際、裁判所は直接及び二次責任の様々な理論を適用して来た。これらのケースの多くが最終的に和解しているものの、あり得る責任の水準が見出しと論評に燃料を提供して来た。

テクノロジー企業と公共の利益の擁護者は、このような場合に適用され得る多額の法定損害賠償はイノベーションと投資に対し萎縮効果を有していると主張している。ある評者は、法定損害賠償は「予見できないユーザによる損害賠償が即座に何百万ドルか、何十億ドルかにも積み上がり得る、多目的技術の販売業者にとって破壊的な意味を持ち得」、この点で著作権侵害の二次責任は「投資家がそれに対して保険を掛け得るか、そのビジネス勘定の中に組み入れることのできる他のほとんどのビジネスリスクと質的に異なる」と主張するベンチャーキャピタリストのグループから最高裁判所へのアミカスブリーフを引用していた。他のある評者は、「責任リスクに関する不確実性がこの分野への投資を抑止している」のは確かであると言っているデジタルコンテンツ仲介者についての投資家の調査があることを指摘している。

評者は、イノベーション企業は最終的に非侵害であるとされたとしても訴訟で破産し得ると指摘している。ある評者によれば、あり得る法定損害賠償は、フェアユースに依拠する新たなビジネスプランを前に進めることを抑止することもあるであろう。同時に、何人かは、「イノベーションの萎縮効果についての証拠は…通常簡単に出て来ない。ほとんどの場合において、公衆は、起こらなかったイノベーションと提供されなかった機能を見ることはなく、それについて知ることも決してないであろう」と指摘している。

(略)

 最後に、これに対する解決策の提言としては、第85ページ以降に、以下のように書かれている。

1. Overview

In reviewing the positions and proposals set forth by stakeholders, the Task Force is mindful that statutory damages are intended to "provide reparation for injury" as well as to "discourage wrongful conduct." We agree that there is a need for effective enforcement tools, including meaningful statutory damages, to curb the online piracy that can undermine the value of rights and hobble the development of legitimate markets. At the same time, however, it is important to avoid excessive and inconsistent awards that risk encouraging disrespect for copyright law or chilling investment in innovation. And the abusive enforcement campaigns reported by commenters should not be tolerated.

Accordingly, the Task Force recommends three amendments to the Copyright Act to address some of the concerns presented and to better balance the needs of copyright owners, users, and intermediaries. First, we recommend incorporating into the statute a list of factors for courts and juries to consider when determining the amount of a statutory damages award. Second, we recommend changes to the copyright notice provisions that would expand eligibility for the lower "innocent infringement" statutory damages awards. We also propose that, in cases involving non-willful secondary liability for online services offering a large number of works, courts be given discretion to assess statutory damages other than on a strict per-work basis. Together, these changes should maintain the goals of compensation and deterrence that thestatutory damages regime supports while providing courts with improved tools to appropriately calibrate the awards.

2. Recommendations

a. Specify Factors in the Copyright Act to Consider in Assessing Statutory Damages

The Task Force recommends that Congress enact a new paragraph in Section 504 of the Copyright Act specifying factors that must be considered when determining statutory damage award amounts. The aim is to ensure a greater degree of predictability in copyright infringement cases across the country and address some other concerns raised in this proceeding. In considering what factors should be included, we have drawn upon existing model jury instructions as well as federal case law. The Task Force considered proposing federal model jury instructions, but concluded that a statutory set of factors would be preferable since they will be binding on all courts. We believe that litigants and courts would be well-served by requiring consideration of a uniform set of factors designed to result in an appropriate award based upon the facts of each case.

The nine factors listed below are those that will most often be applicable in a statutory damages determination. We believe that they should be non-exclusive, so that courts are not foreclosed from considering other factors that may be relevant in a particular case.

The Task Force proposes a new clause in subsection Section 504(c) as follows:

FACTORS TO CONSIDER -- In making any award under this subsection, a court shall consider the following nonexclusive factors in determining the appropriate amount of the award:

(1) The plaintiff's revenues lost and the difficulty of proving damages.

(2) The defendant's expenses saved, profits reaped, and other benefits from the infringement.

(3) The need to deter future infringements.

(4) The defendant's financial situation.

(5) The value or nature of the work infringed.

(6) The circumstances, duration, and scope of the infringement, including whether it was commercial in nature.

(7) In cases involving infringement of multiple works, whether the total sum of damages, taking into account the number of works infringed and number of awards made, is commensurate with the overall harm caused by the infringement.

(8) The defendant's state of mind, including whether the defendant was a willful or innocent infringer.

(9) In the case of willful infringement, whether it is appropriate to punish the defendant and if so, the amount of damages that would result in an appropriate punishment.

When calculating the total award, all of these factors should be weighed holistically, in the context of the entire case, to ensure that the overall award is appropriate. Below we explain various factors' relevance to the issues raised in the comments and roundtables.

...

1.概観

利害関係者が示した位置と提案を検討するにあたり、タスクフォースは、法定損害賠償は「侵害に対する補填を提供する」とともに「不正行為を阻止する」ことを目的としていることに留意する。我々は、権利の価値を下げ、適法な市場の発展を阻害するオンライン海賊行為を抑制するために意味のある法定損害賠償を含む、有効な権利行使ツールの必要性があることを認めている。同時に、しかしながら、著作権の軽視を助長したり、イノベーションへの投資を萎縮させたりする恐れがある過大で一貫性のない賠償を避けることは重要である。そして、評者の報告する濫用的な権利行使キャンペーンは許容されるべきでない。

したがって、タスクフォースは、示された幾つかの懸念に対処し、著作権者、利用者及び仲介者の必要性をより良くバランスさせるために3つの著作権法改正を勧告する。第一に、法定損害賠償の額を決定する際に裁判所と陪審員が考慮するべき要素のリストの著作権法への導入を勧告する。第二に、我々は、「罪のない侵害」の場合の法定損害賠償の減額に対する適格性の障害を除去するための著作権ノーティス規定の改正を勧告する。我々はまた、多数の著作物を提供するオンラインサービスの故意でない時の二次責任に関する場合に、厳密に著作物数を基礎とする以外に法定損害賠償を評価する裁量を裁判所に与えることも提案する。合わせ、これらの修正は、賠償を適正に補正する改善されたツールを裁判所に与えつつ補償と抑止の目標を維持するべきである。

2.勧告

a.法定損害賠償の評価において検討するべき要素の著作権法における特定

タスクフォースは、議会が、著作権法の第504条において法定損害賠償額を決定する際に検討されなくてはならない要素を特定する新たな項を立法することを勧告する。その目的は、全国での著作権侵害事件における予見可能性の向上を確保し、本手続きにおいて提起された他の幾つかの懸念に対処することにある。どのような要素が入れられるべきかを検討するにあたり、我々はは既存のモデル陪審説示並びに連邦の判例法を利用した。タスクフォースはモデル陪審説示の提案も検討したが、全ての裁判所を拘束するものとなることから要素一式の法定の方が好ましいと結論づけた。それぞれのケースの事実に基づく適切な賠償をもたらすよう適切に設計された統一的な要素一式の考慮を求めることは訴訟当事者と裁判所に非常に役立つことであろうと我々は考えている。

以下にあげる9つの要素は法定損害賠償の決定において最も良く適用されるだろうものである。個別のケースにおいて関係して来得る他の要素を考慮することを排除されないよう、これらは非排他的なものであるべきと我々は考えている。

タスクフォースは第504条第(c)項に以下のような新条項を入れることを提案する。

考慮要素 − 本項の賠償を課すにあたり、裁判所は賠償の適正な額を決定する際に以下の非排他的要素を検討しなければならない:

(1)原告の逸失収入及び損害を証明する困難性。

(2)被告の低減された費用、かすめ取った利益及び侵害から来る他の便益。

(3)将来の侵害の抑止の必要性。

(4)被告の経済的状況。

(5)侵害された著作物の価値又は性質。

(6)それが商業的な性質を持つかどうかも含め、侵害の状況、継続性及び範囲

(7)複数の著作物の侵害が絡む場合において、侵害された著作物の数及び課される賠償の数を考慮に入れ、損害賠償の総額が侵害によって引き起こされた害全体に釣り合っているか。
(8)原告が故意か罪のない侵害者であるかも含め、被告の心理状態。

(9)故意の侵害の場合に、被告を罰するのが適切であるかどうか、そうであるとして、適正な罰となる損害賠償額。

全賠償額を算定する際、賠償全体が適正なものとなることを確保するよう、これらの要素の全てが、総合的に比較衡量されるべきである。以下で我々は意見と討論で提起された問題と様々な要素との関係を説明する。

(略)

 なお、報告書の第71ページの注414に、個人が被告となり、大きく報道された訴訟における損害賠償額として、タンネンバウム事件の67万5千ドル(侵害されたのは30著作物で、1著作物あたり2万2千500)、3つのトーマス事件でそれぞれ22万2千ドル、192万ドル、150万ドル(1著作物あたりそれぞれ9千250ドル、8万ドル、6万2千五百ドル)といった巨額の数字もあげられており、第94ページの注559に、違法ファイル共有に対する法定損害賠償の額として1著作物あたり典型的には750ドルと6千500ドルの間になっているという数字もあげられている。またなお、同じ注414に、多くのケースにおいて訴訟が法定損害賠償額の決定まで行くことは少ないとも書かれ、和解金の範囲は大体3千ドルから5千ドル程度か2千ドルから1万ドル程度とも書かれているが、このような和解金ですらそれなりに大きな額だろう。

 このような報告書を読めば、アメリカの法定損害賠償制度が実際の損害としてはあり得ないほど巨額のデタラメな損害賠償請求を可能としており、著作権トロールによる訴訟の濫用を招き、社会的混乱の原因となっていることが分かるだろうし、インターネットサービスプロバイダーとの関係でイノベーションに対する萎縮効果が生じている可能性が指摘されていることも分かるだろう。アメリカにおいても、このような批判から、法定損害賠償制度について日本における填補賠償の考え方(損害賠償は実際の損害額を補填するものであるという考え方)に近づける形で見直すべきという提案が政府の省庁レベルで出されている状況にあるのである。(ただし、アメリカのことなので、日本と違って、政府省庁が報告書を作ったからと言ってそのまま法改正がされるようなことはほぼないが。)

 そして、TPP協定と法定損害賠償の関係についてだが、TPP協定の条文上、第18.74条の第6項から第8項により、「あらかじめ定められた賠償」すなわち法定損害賠償を選ぶ場合には、「将来の侵害を防ぐ目的も含め、侵害から発生した損害に対し権利者を十分に補償するであろう額として設定されなければならない」とされているのはその通りととは言え、この条文に解釈の幅があることも間違いない。(TPP協定の条文は第532回の私の部分訳か、TPP政府対策本部知財章全文仮訳(pdf)参照。)

 このTPP協定の規定上の「将来の侵害を防ぐ目的」も含む法定損害賠償が本当にアメリカ型の懲罰的かつ抑止的なレベルの法定損害賠償制度を必ず意味するとしたならば、日本の民法上の填補賠償の考え方に全く合わないのは確かである。(前回取り上げた2月10日の文化庁の法制・基本問題小委員会環太平洋パートナーシップ(TPP)協定に伴う制度整備の在り方等について(案)(pdf)でも引用されている萬世工業事件最高裁判決(pdf)がこのような懲罰的又は抑止的損害賠償の考え方を完全に否定している。)

 しかし、前回も書いた通り、今のところの文化庁の整理では、このTPP協定の法定損害賠償規定はそこまで強力な法定損害賠償制度の導入を求めているものではなく、上記の法制・基本問題小委員会の文化庁資料(pdf)においても、「(著作権法の)第114条第3項については、権利者が侵害行為により実際に生じた損害額や損害と侵害行為との因果関係の立証をせずに、侵害者に対して使用料相当額という一定の範囲の額の支払を求める制度であり、上記の『法定の損害賠償』の定義に該当するとして、我が国は同項によって『法定の損害賠償』を担保しているとする考え方も必ずしも排除されない」(第31ページ)、「TPP協定の求める趣旨をより適切に反映する観点から、第114条第3項等の現行規定に加えて、填補賠償原則等の枠内で、実際に生じる損害との関係について合理的に説明が可能な額を法定する規定を別途設けることが適当」(第32ページ)、「著作権等管理事業者の使用料規程により算出した額を同項の使用料相当額として請求することができる旨を法律上明記することが適当」とされている。このような条文の明確化が侵害の抑止に全く結びつかないということもなく、文化庁の今の整理は国際条約の解釈として完全に無理があるということもないだろう。

 2月19日の衆院予算委での、TPP協定で求められている法定損害賠償制度は日本の国内法の損害賠償の考え方(填補賠償の考え方)と合わないのではないかという、TPP協定の条文を普通に読むならば当然想定される民主党の福島伸享議員の質問に対する岩城法務大臣の回答は全く要領を得ず、一面正しいながら今の日本の国内法の整理では損害賠償は抑止効果を持たないとすら言ってしまっているのだが、どうして現職の法務大臣が政府の公開検討の内容すら十分に把握できていないのか正直かなり理解に苦しむ。

 最終的にアメリカから文句をつけられる可能性を排除できないとは言え、今ここでTPP関連法改正案をアメリカ型の強力な法定損害賠償制度に変更することは法案に極めて大きな問題を一つ追加することに他ならず、良いことは何もない。

 例えば、福島議員は質問の中で、通常の填補賠償の考え方に基づくと損害賠償が低くなる場合の例として同人誌が侵害された場合をあげているが、この法定損害賠償の議論と同人誌を守る守らないという議論はちょっと軸が違う話である。普通想定されるところの「同人誌」は一次創作(オリジナル)だけではなく二次創作(パロディ)も含むものだろうし、二次創作は親告罪であることがグレー化に役立っているものの著作権侵害側にも立っているので、本当に厳しい法定損害賠償を入れたらかえって二次創作にとって悪い結果を招くこともあり得るのである。(今更ながら、損害賠償が低くなる例としては、アメリカの報告書であげられているように、全く売れなかった低予算映画や小さな新聞記事などをあげた方が適切だったろう。)

 本当にアメリカ型の強力な法定損害賠償制度を導入したら、さらに違法ダウンロード・アップロード・ファイル共有やインターネットサービスにおける間接侵害との関係なども問題になり、日本でもアメリカ商務省の報告書で指摘されているような個人ユーザに対する巨額の損害賠償、著作権トロールによる訴訟の濫用、インターネットサービスプロバイダーの事業における萎縮効果などの問題が発生して来るに違いない。

 TPP協定そのものに私は反対だが、話を法定損害賠償に限るなら、今の文化庁の整理は悪くないと思っている。文化庁の法制・基本問題小委は次回2月24日に開かれる予定だが(文化庁のリリース参照)、国会での議論から変な方向にねじれて欲しくはない。法定損害賠償のようなかなりマニアックな問題がなかなか理解され難いのはやむを得ないこととは言え、前提と目的をはっきりさせた上で全体的なことを考えて政策判断はしてもらいたいと私は常に思っている。

 なお、単純化のために上では話を著作権法に限ったが、商標法についても同様に法定損害賠償の導入が議論されていることは要注意である(日経の記事参照)。特許庁の2月12日の産業構造審議会・知的財産分科会TPP協定を担保するための商標法改正について(pdf)によると、商標法における法定損害賠償について「商標の不正利用による損害の賠償を請求する場合において、当該登録商標の取得及び維持に通常要する費用に相当する額を損害額として請求できる規定を追加する」とされているところだが、TPP協定と特許法や商標法の改正検討案の関係についてはまた回を分けたいと思っている。

(2016年2月22日夜の追記:2カ所間違っていたリンクを修正し、合わせ少し文章を整えた。)

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2013年3月21日 (木)

第287回:保護期間短縮(登録型保護期間制度への移行)を含むアメリカ著作権局長の法改正提言

 既に84oca氏がガジェット通信で記事にしており、hon.jpでも記事になっているが、3月20日にアメリカ下院の法務委員会・知的財産小委員会でマリア・パランテ著作権局長が保護期間短縮(登録型保護期間制度への移行)を含む法改正提言を行った。アメリカで著作権局長レベルでこれほど大胆な提案がなされたことはある意味画期的と言って良く、その内容も非常に興味深いのでここでも紹介しておきたい。

 公表された著作権局長名の来るべき大著作権法(pdf)声明文(pdf)も参照)というペーパーは、「Ⅰ.導入」、「Ⅱ.何故今法改正なのか」、「Ⅲ.法改正事項」、「Ⅳ.政治プロセス」、「Ⅴ.著作権局の発展」、「Ⅵ.結論」という章立てになっている。(3月4日にコロンビア大学で行われた講演ペーパー(pdf)の内容もほぼ一緒である。)

 その中のⅡ章でいろいろと法改正が必要が理由が書かれており、様々な利害関係から抜本的な改正ができず法律が古くなっているとか、司法からの求めもあるとか、どれももっともな話なのだが、中でも、この部分の最後に書かれている、

Readability
Finally, we need a clearer copyright act for a rather simple reason: more and more people are affected by it. Because the dissemination of content is so pervasive to life in the 21st century, copyright issues are necessarily pervasive as well - from fair use in education to statutory licenses for new businesses, to the parameters of liability and enforcement online and in the home. Regulations and education could certainly help in some instances. However, if one needs an army of lawyers to understand the basic precepts of the law, then it is time for a new law.

可読性
 最後に、私たちがより分かりやすい著作権法を必要としているかなり単純な理由もあります:それは、より多くの人がそれによって影響を受けるようになったという事です。コンテンツの頒布は21世紀の生活においてとても広がっており、著作権に関する事も−教育におけるフェアユースから新ビジネス向けの法定ライセンスやオンラインと家庭における責任とエンフォースメントの要素まで−必然的に広がっています。規則と教育は確かにある程度までは確かに助けになるでしょう。ですが、法律の基本的な教示を理解するのに法律家の軍団が必要になるようなら、それはもう新しい法律が必要ということなのです。

と書かれているのは、アメリカ含め昨今の内外の著作権政策の錯綜と混迷を見るにつけ、かなり痛烈な皮肉になっているように思うがどうだろうか。

 それはさておき、Ⅲ章に書かれている具体的な改正提案から私が興味深いと思った部分を以下に抜き出してみる。

Enforcement
A 21st century copyright act requires 21st century enforcement strategies. These must respect the technical integrity and expressive capabilities of the Internet as well as the rule of law. It is possible and necessary to combine safeguards for free expression, guarantees of due process, and respect for intellectual property in the copyright law. As the Supreme Court recognized, "the Framers intended copyright itself to be the engine of free expression."

In short, the next great copyright act presents an opportunity. All members of the online ecosystem should have a role, including payment processors, advertising networks, search engines, Internet service providers, and copyright owners. These strategies can be a mix of legislative solutions and complementary voluntary initiatives, but where gaps in the law exist Congress should not be absent.
...

More globally, arguments abound on the subject of statutory damages, suggesting that they are either too high, too low, too easy, or too hard to pursue. Statutory damages have long been an important part of copyright law to ensure that copyright owners are compensated for infringement, at least where actual damages are unworkable. The Copyright Act of 1790 included a provision awarding the copyright owner fifty cents for every sheet of an unauthorized copy that was printed, published, or imported or exposed to sale. Statutory damages should remain squarely in the next great copyright act irrespective of section 412. However, there may be plenty to do on the edges, including providing guidance to the courts (e.g., in considering whether exponential awards against individuals for the infringement of large numbers of works should  a relationship to the actual harm or profit involved), and finding new ways to improve the public record of copyright ownership.

The Digital Millennium Copyright Act
...
During the last proceeding, concluded in 2012, the Copyright Office recommended, and the Librarian granted, six exemptions that ran the gamut of technological issues. These included exemptions for persons with print disabilities using assistive technologies like screen readers, as well as exemptions for teachers and documentary filmmakers accessing protected motion pictures in the course of their work.

When the Copyright Office has not recommended exemptions, it has been because the balancing of the factors set forth in section 1201 did not favor doing so - that is, because the legal or evidentiary standards (or both) had not been met. In the most recent rulemaking, the Office recommended against granting an exemption to permit "jailbreaking" of videogame consoles because the proponents did not establish that there were adverse effects stemming from the prohibition - namely because the record revealed myriad alternatives to achieve the proponents' intended purpose which did not require circumvention. In the context of unlocking cell phones, the Copyright Office was again asked to consider the exemption that it had crafted in two of the previous four rulemakings. It concluded that the exemption should continue for "legacy" phones, i.e., phones already purchased by consumers on or before January 26, 2013, but was unable to extend the recommendation to new phones in light of the evidentiary record, which demonstrated that carriers were offering unlocked cell phones in the marketplace, and that consumers could therefore choose to purchase them over the next three years. While the rulemaking process is necessarily narrow, it sits at a dynamic intersection of technology, emerging markets, the protection of intellectual property, fair use, and other nonfringing activities. It therefore often serves as a barometer for policy concerns and policy action beyond the confines of the statute.

Digital First Sale
...
More than a decade later, the doctrine of first sale may be difficult to rationalize in the digital context, but Congress nonetheless could choose to review it. On the one hand, Congress may believe that in a digital marketplace, the copyright owner should control all copies of his work, particularly because digital copies are perfect copies (not dog-eared copies of lesser value) or because in online commerce the migration from the sale of copies to the proffering of licenses has negated the issue. On the other hand, Congress may find that the general principle of first sale has ongoing merit in the digital age and can be adequately policed through technology - for example, measures that would prevent or destroy duplicative copies. Or, more simply, Congress may not want a copyright law where everything is licensed and nothing is owned.

Exceptions and Limitations
There are many discussions to be had about exceptions and limitations and their place in the next great copyright act. These include updating baseline standards for libraries and archives, crafting a digital age Chafee Amendment (for print disabilities), addressing the ecosystem of higher education institutions and markets, and possibly considering clarity in personal use activities. These issues should be viewed as complements to the fair use provision
...

Offsetting Copyright Term
Copyright term is a global issue and any discussion of U.S. term therefore should acknowledge international norms. Nonetheless, the current length of the term - the life of the author plus seventy years in most circumstances - is long and the length has consequences. One has to assume that Eldred v. Ashcroft is the last word as to whether life-plus-seventy is a constitutionally permissible term, however, from a policy perspective that is no longer the relevant question. The question now is how to make the long term more functional.

The Copyright Office is interested in pragmatic solutions in the next great copyright act. Thus the Office's 2006 orphan works proposal suggested limiting remedies when copyright owners are unlocatable - effectively freeing many works from the long tail of time. Similarly, the Office appreciates section 108(h), which allows libraries and archives to copy, distribute, display, or perform any published work in its last twenty years of protection, for purposes of preservation, scholarship, or research. Of course, other limitations on the law, including fair use, effectively offset term as well, albeit in limited circumstances.

Perhaps the next great copyright act could take a new approach to term, not for the purpose of amending it downward, but for the purpose of injecting some balance into the equation. More specifically, perhaps the law could shift the burden of the last twenty years from the user to the copyright owner, so that at least in some instances, copyright owners would have to assert their continued interest in exploiting the work by registering with the Copyright Office in a timely manner. And if they did not, the works would enter the public domain.

Making Room for Opt Outs
...
By contrast, opt-out systems reverse the general principle of copyright law that copyrighted works should be reproduced or disseminated only with the prior approval of the copyright owner. It has become clear, however, that opt-out systems might serve the objectives of copyright law in some compelling circumstances if appropriately tailored and fairly administered, and if created with oversight from Congress. One potential optout system is a form of licensing known as extended collective licensing. Extended collective licensing allows representatives of copyright owners and users to mutually agree to negotiate on a collective basis and then to negotiate terms that are binding on all members of the group by operation of law. It has the potential to provide certainty for users and remuneration for copyright owners (for example in mass digitization activities) but would provide some control to copyright owners wanting to opt out of the arrangement.

エンフォースメント
 21世紀の著作権法は21世紀のエンフォースメント戦略を必要とします。それは、法規則もですがインターネットの技術的総合性と表現能力も尊重するものでなければなりません。自由な表現の保障、法プロセスの保証と知的財産の尊重を著作権法において合わせ実現することが必要であり、そのことは可能なはずです。最高裁判所が認めている通り、「仕組みを作った者は著作権それ自体が自由な表現の原動力となることを目的としていた」のです。

 要するに、来るべき大著作権法は機会を提供するものです。支払いの処理を行う者、広告ネットワーク、検索エンジン、インターネットサービスプロバイダー及び著作権者など、オンラインエコシステムの全ての参加者が役割を持つべきです。この戦略は立法的な解決と補足的な民間の取り組みの混ざったものとなるでしょうが、法にギャップがあるところで議会の不参加はないでしょう。
(中略)

 世界的には、法定賠償を取り巻く議論から、それが高過ぎたり、低過ぎたり、追求することがやさし過ぎたり、難し過ぎたりしないかということが示唆されています。法定賠償は長い間、少なくとも実際の損害が評価できない場合に、著作権者が侵害に対する補償を受けられる事を保証する点で、著作権法の重要な一部でした。1970年の著作権法は、印刷されるか、出版されるか、輸入されるか、販売のために展示されるかした違法複製物について1枚あたり50セントを補償する規定を含んでいます。第412条はともかく法定賠償は来るべき大著作権法の中に真っ当に残ることでしょう。ですが、最先端でやるべきことは多く、裁判所にガイドラインを提供すること(例えば、多数の著作物の侵害に対して個人に課される莫大な賠償は実際の損害あるいは関係する利益と比べて本当に妥当なのかどうかを考察したものなど)や著作権の公的な記録を改善する新しい方法を見つけることなどがあり得るでしょう。

デジタルミレニアム著作権法
(中略)
 2012年に結果を出した前回の手続において、全技術範囲にわたる6つの例外を著作権局は勧告し、議会図書館は追認しました。これらには、画面リーダーのような補助技術を用いる視覚障害者のための例外や、その仕事において保護された映像にアクセスすることを可能とする教師とドキュメンタリー映像作家のための例外などが含まれています。

 著作権局が例外を勧告しなかったものもありますが、それは第1201条で規定されている要素のバランスを考慮するとそうしにくかったため−つまり、法的なあるいは実証的な(あるいはその両方の)基準に満たなかったためです。最近の規則改正では、著作権局は、ゲーム機の「脱獄」に対して反対する勧告をしました、というのも、その支持者がその禁止に不利な影響があることを示せなかったから−特に、支持者が主張した目的を技術的保護手段を回避することなく達成できる無数の代替手段があることが記録から明らかになったから−です。携帯電話のロック解除に関しては、著作権局は過去4回の規則改正のうちの2回で作った例外を再検討することを求められました。著作権局は、「過去の」携帯電話、すなわち2013年1月26日以前に消費者が購入した携帯電話については例外の適用が継続されるが、事業者がロックが解除された携帯電話を市場に提供しており、向こう三年間消費者はそれを購入することができるという確かな記録に照らして新しい携帯電話にはこの勧告は拡張されないということにしました。規則改正のプロセスはどうしても狭くなりますが、これは技術のダイナミックな交錯、新規市場、知的財産の保護、フェアユース及び他の非侵害行為に絡んでいます。そして、このことは、法定の限界を超える政策的な懸念や必要性を示すバロメータとしても間々役立つでしょう。

デジタルファーストセール
(中略)
 今後十年以上にわたり、ファーストセールドクトリンをデジタルの文脈に沿って合理化するのは難しいでしょうが、それでも、議会はそれを見直す選択をすることができます。一方で、特にデジタルコピーは完全なコピーである(価値の下がった劣化コピーではない)ことから、あるいは、オンライン取引におけるコピーの販売からライセンスの提供への移行がこの問題を消し去るだろうことから、デジタル市場において、著作権者はその著作物の全ての複製をコントロールしてしかるべきであると議会は思うかも知れません。他方で、ファーストセールドクトリンの一般原則はデジタル時代においてもなお利点があり、−例えば、再複製を防止あるいは破壊する手段のような−技術によって適切に管理することができると考えるかも知れません。あるいは、もっと単純に言えば、全てがライセンスされ何も所有され得ないような著作権法を議会は望まないのではないでしょうか。

例外と制限
 例外と制限及び来るべき大著作権法におけるその地位に関しては多くの議論があります。これには、図書館とアーカイブに関してベースラインとなる基準を最新の状況に合わせることや、(視覚障害者のための)デジタル時代のチャフィー修正や、より高度な教育機関や市場のエコシステムに合わせることや、個人利用行為の明確化を考えることなどが含まれます。これらの事項はフェアユース規定の補足として検討されなければなりません。

著作権保護期間の効率化
 著作権保護期間は世界的な問題で、アメリカにおける保護期間の議論は全て国際的な規範を認めた上でなされるべきです。それでも、今の保護期間−ほとんどの状況で著作者の人生プラス70年−は長く、この長さは様々な影響をもたらします。エルドレッド対アッシュクロフト事件判決が人生プラス70年が憲法上許される期間であるかどうかの最終判断とされていますが、政策的な観点からはもはやそれは問題ではありません。今の問題はこの長い保護期間をより機能させるにはどうしたら良いのかということです。

 著作権局は来るべき大著作権法における現実的な解決に興味を持っています。著作権局は2006年の孤児作品に関する提言で、著作権者が行方不明である場合に法的措置を制限すること−時間のロングテールから多くの作品を効果的に自由にすること−を提案しています。同じく、保護の最後の20年間において、保存あるいは学術研究のためにあらゆる公開著作物を複製、頒布、展示、あるいは公演することを図書館とアーカイブに可能としている、第108条(h)を著作権局は高く評価しています。勿論、フェアユースを含め法律における他の制限が、限定的な状況においてですが、保護期間の有効な埋め合わせとなっているでしょう。

 恐らく来たるべき大著作権法は保護期間に対して、それを下方修正するのではなく、その方程式に何かしらのバランスを導入するような新しいアプローチを取ることができるでしょう。さらにはっきりと言うなら、少なくとも、著作権者は時宜に即した形で著作権局に登録することにより著作物の利用からの収益の継続を明確に主張しなければならないというようにして、著作権法は最後の20年の負担を利用者から著作権者に移すことができるでしょう。

オプトアウトの余地の作成
(中略)
それに対して、オプトアウトシステムは、著作物は著作権者が先に許可した場合のみ複製され、頒布されるという著作権法の一般的な原則を反転するものです。議会の卓見により作られれば、そして、適切に整えられ公正に管理されれば、オプトアウトシステムはいくつかの必要な状況下で著作権の目的に役立つことでしょう。可能性のある1つのオプトアウトシステムは、著作権の拡大集中管理として知られるライセンス形式です。拡大集中管理は、著作権者と利用者の代表が集中管理に基づいて互いに合意を締結し、法の適用によってグループの全メンバーにその拘束力が及ぶとするものです。これには利用者に安定性を、著作権者に補償をもたらす可能性がありますが(例えば、大量のデジタル化行為などにおいて)、この合意からオプトアウトしたいと思う著作権者には何かしらそれを可能とするものです。

 他にも、排他権や過渡的複製、ストリーミングによる侵害、少額訴訟、ノーティスアンドテイクダウン、ライセンシング、議会図書館への献本の問題なども取り上げており、詳しくは元の資料を読んで頂ければと思うが、上で抜き出した部分だけでも、パランテ著作権局長が、かなり網羅的に今のアメリカの著作権法の問題を取り上げ、かつ、かなり大胆な提言をしていることが分かるのではないかと思う。

 特に、過去の保護期間延長の議論で学者から出されていた案ではあるが、ここで著作権局長が保護期間を原則50年とし登録することで20年延長するという実質的な保護期間の短縮を明確に提言したのは私も正直かなり驚いた。この提言の実現可能性はかなり微妙だが、本当に実現すればアメリカでも大部分の著作物は実質50年の保護期間となり、孤児作品の問題も含め著作権の問題はかなり軽減されることになるだろう。(私自身は著作権の保護期間は50年でも長過ぎるくらいであり、もっとはっきりと短縮するべきだと思っているが。)

 また、他にもこの提言は、アメリカの今の法定賠償制度が個人に過度の負担をもたらすものであるという問題や、デジタルミレニアム著作権法がDRM回避・デジタルロック解除に対して厳しいという問題、デジタルコンテンツへのファーストセールドクトリンの適用可能性のような問題を非常に的確に指摘している点でも高く評価できる。オプトアウトシステムとして、合意によるある種の法定ライセンスを提案しているのも面白い。

 資料中の様々な注を見ても分かるようにこの提言も一朝一夕で出て来た訳ではない。現時点ではロビイストに潰されるとは思うが、著作権問題はいよいよ無視できず、アメリカにおいても、それなりのレベルからこのようなかなり大胆な提言が出される段階に入っているということなのだろう。

 アメリカ下院での議論の様子はEFFLiveのツイート(あるいはハッシュタグ#copyreformのツイート)やUSTREAMの録画でも見ることができるが、今のところは単なるヒアリングに留まっている。この提言が今後どのような波紋を呼び、どのような影響を及ぼして行くかは未知数だが、アメリカで遅かれ早かれ炎上することが確実な著作権保護期間延長の議論に対するカウンターの意味もあるに違いない。TPPとの関係もあり、日本の政策動向に強く影響するアメリカの動きからは目が離せない。

(2013年3月22日夜の追記:少し文章を整えた。)

(2013年4月5日夜の追記:骨董通り法律事務所のHPにパランテ局長の声明文の全訳がコラムとして掲載されたので、関心のある方は是非リンク先をご覧頂ければと思う。)

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2012年6月10日 (日)

第271回:欧米主要国におけるダウンロード違法化・犯罪化を巡る現状

 この6月8日に衆議院文部科学委員会で内閣提出の著作権法改正案(内容については第266回参照)の主旨説明が再度行われ、来週(定例日とすると最も早くて6月13日(水)だろうか)には採決が見込まれている(internet watchの記事も参照)目下この内閣提出の著作権法改正案に対し自公がダウンロード犯罪化のための修正提案を行うことはまず間違いない情勢で、与党の民主党がこれにどう対応するのか私も本当に不安である。

 このダウンロード犯罪化問題について、先日MIAUあるいは津田大介氏が業界団体の議員向けロビー資料を入手し公開してくれた(MIAUのツイートあるいは津田大介氏のツイート参照)。既に海外の法制がどうとか言う次元の問題ではなくなっている気もしているが、この資料の海外の法制に関する記載には到底看過し難い歪んだ理解が多々見られるので、ここでざっと欧米主要国におけるダウンロード違法化・犯罪を巡る状況をまとめて書いておきたいと思う。

(1)アメリカ
 まずアメリカについてだが、単なるダウンロードがフェアユースや表現の自由などとの関係でどう考えられるかが判例まで含めて明確になっている訳ではなく、アメリカは明確なダウンロード違法化・犯罪化国とは言えない。

 アメリカのような判例法の国で、僅かな条文だけを取り上げてどうこう言うのは間違いの元でしかないが、念のため説明しておくと、確かにアメリカの著作権法(アメリカ著作権局の条文ページ参照)に以下のような刑事罰に関する条文がある。(以下、翻訳は全て拙訳。なお、著作権法情報センターの翻訳も参照した。)

第506条 著作権侵害罪
(a)著作権侵害罪
(1)総則−以下の場合に、故意に著作権を侵害した者は、アメリカ合衆国法典第18編第2319条の規定に従い処罰される:
(A)私的な経済的利益を得ること、あるいは商業的利得を得ることを目的として著作権を侵害した場合;
(B)180日間に、著作物の1つ以上のコピー又は録音レコード(合計で1000ドル以上の市価を有する場合に限る)を、電気的手段による場合も含め、複製あるいは頒布し、著作権を侵害した場合;又は
(C)そのような者がその著作物が商業的頒布されるためにあると知っているかそうと知っているに違いない時に、商業的頒布のために作成された著作物をコンピュータネットワーク上で公衆送信可能とすることで著作権を侵害した場合。

(2)証拠−本条の目的において、著作物の複製又は頒布それ自体は故意の著作権侵害を立証するに足らない。
(後略)

(なお、対応するアメリカ刑法第2319条(アメリカ政府印刷局の条文ページ参照)から量刑を見ると、この第506条(1)(A)の場合について、通常は1年以下の懲役又は罰金であり、これが合計2500ドル以上の市価を有する10個以上のコピー又は録音レコードの複製又は頒布による侵害の場合になると5年以下の禁固又は罰金(重い再犯の場合は10年以下)となっており、この第506条(1)(B)の場合について、やはり通常は1年以下の懲役又は罰金で、これが合計2500ドル以上の市価を有する10個以上のコピー又は録音レコードの複製又は頒布による侵害の場合になると3年以下の禁固又は罰金(重い再犯の場合は6年以下)となっている。)

 大体、この条文は1997年の電子窃盗対策法(アメリカ著作権局の解説ページ参照)により導入されたものだが、導入以来10年以上経ちながら、単なるダウンロードに対する刑事訴追例が1件もないという状況が、このような立法の持つ意味と効果を良く表しているだろう(なお、単なるダウンロードを訴えたケースは民事でもないはずである)。ダウンロード犯罪化がどうこう言う以前に、アメリカでは違法ファイル共有に対する大量訴訟の時点で全く上手く行っていないというのが正しい現状認識だろうが、本当にこの条文に基づいて単なるダウンロードを訴追した場合、フェアユースや表現の自由、故意性や証拠による立証の観点から極めて重大な問題を生じさせるに違いない。ついでに言っておくと、このアメリカの著作権侵害に関する刑事規定において小売価格によるクライテリアや立証に関する規定が存在していることも忘れてはいけないだろう。

(2)イギリス
 イギリスについては、著作権法にダウンロードを明確に違法・犯罪とする条文は存在しておらず、またこれを違法・犯罪とする判例も存在していない。

 業界団体のロビー資料にはイギリスでダウンロードが違法化されていると書かれているのは、イギリス著作権法(イギリス政府の条文ページ、著作権情報センターの翻訳も参照)の私的複製に関する権利制限の範囲が非常に狭いため、条文上ダウンロードが入らないように見えるということを言っているのだろうが、これも明確な判例が存在している訳ではなく、やはり判例法の国であるイギリスでダウンロードが明確に違法化されているというのも正しい理解とは言い難い。

 イギリスについては、第261回で紹介したように、私的複製の範囲を広げようとする動きがあるくらいであり、イギリスについて言及しながらこのような権利制限の拡充の動きを無視するのは不公正のそしりを免れないだろう。

 また、第222回で紹介したように、イギリス版ストライク法であるデジタル経済法の話もあるが、これもなお揉め続けており、いまだに実施されていない。(bbc.co.ukの記事参照。)

(3)ドイツ
 ドイツが、世界で唯一ダウンロード違法化・犯罪化を明確に行いかつそれをエンフォースしようとした国であるということは間違っていない。

 しかし、このブログでずっと書いてきているように(第13回第97回第255回など参照)、ドイツは、2007年に、ダウンロード違法化・犯罪化を世界に先駆けて行ったものの、刑事訴訟の乱発を招き、裁判所・警察・検察ともに到底捌ききれない状態に落ち入ったため、2008年に再度法改正を行い、民事的な警告を義務づけ、要求できる警告費用も限定したが、やはり情報開示請求と警告状送付が乱発され、あまり状況は改善せず、今なお消費者団体やユーザーから大反発を招いているという状態にあり、かつダウンロード違法化・犯罪化のお陰でCDの売り上げが伸びたなどということもない(「P2Pとかその辺のお話@はてな」のブログ記事も参照)。大体、ドイツのダウンロード違法化・犯罪化が上手く行っていたら、各地方議会で選挙がある度に海賊党が躍進するといったことがある訳がないだろう(例えば最近のノルトライン・ヴェストファーレン州議会選挙の結果についてrp-online.deの記事など参照)。

(4)フランス
 フランスは3ストライクポリシーの主導国であり、ダウンロード違法化・犯罪化の文脈で持ち出すことは適切ではない。

 ただし、念のために書いておくと、フランスの知的財産法(フランス政府の条文ページ参照)が、2011年12月19日にフランス上下院を通過した法改正(正式名称は、「私的複製補償金に関する法改正案」)により、以下のように、権利制限条項において私的複製のソースを合法ソースに限定する改正がされているのはその通りである。(下線部が追加部分。この最新の法改正は反映されていないが、著作権情報センターの翻訳も参照した。)

第122−5条 公開された著作物について、著作権者は以下のことを禁止できない:
(中略)
第2項 複製を行う者の私的利用に厳密に当てられ、集団的な利用を目的としない、合法ソースからなされる複製又はコピー、ただし、オリジナルの著作物と同じ目的のための利用を意図した美術の著作物のコピー、第122−6−1条第2項に規定されている条件でなされたバックアップコピー以外のプログラムのコピー並びに電子的なデータベースのコピー又は複製を除く。;
(後略)

第221−3条 本編の権利者(訳注:隣接権者)は以下のことを禁止できない:
(中略)
第2項
 複製を行う者の私的利用に厳密に当てられ、集団的な利用を目的としない、合法ソースからなされる複製;
(後略)

 しかし、まずこの法改正は、私的複製補償金に関する合理化の観点から出て来たものであり、ダウンロード違法化・犯罪化を直接的な目的としていないことに注意しておく必要がある。つまり、この法改正は、第105回で紹介した、私的複製補償金は合法の私的複製に対する補償に限られるとする2008年7月のフランス行政裁判所(コンセイユ・デタ)の判決や、第241回で紹介した、欧州指令における私的複製補償金規定の解釈を示した欧州司法裁判所の判決を受けたものであり、フランス議会の法改正ページ中の法改正の検討をざっと見ても、フランス議会の審議では、この条項と私的複製補償金との関係こそ議論されているものの、このような私的複製の範囲の限定と民事訴訟・刑事訴追との関係はほとんど何も議論されていないのである。大体、国としてネット上での海賊版対策についてはストライクポリシーで行くという決定をしている中で、条文のこの部分だけを取り上げてダウンロード違法化・犯罪化であるとあげつらうのはかなり難があるだろう。

(今回は補償金問題に関してはひとまずおくが、フランスでも2008年の判決から法改正に至るまでに3年以上の歳月を要しているということが洋の東西で変わらない補償金問題の難しさを良く示しているだろう。この法改正の詳細については必要であればまた別途紹介しても良いが、一言だけ書いておくとフランスにおける補償金問題はこの法改正後もなお全く落ち着いていない。)

 業界団体の資料では、過去2009年以降フランスでアップロードとダウンロードを一体で訴追したケースがあるということを述べている。しかし、まずアップロードとダウンロードを同時に行うP2Pを用いた違法ファイル共有の場合と単なるダウンロードの場合を混同するのは決して適切でなく、さらに、この間にはストライクポリシーの導入もあり、上の法改正が大統領の署名を受けて成立したのが2011年12月20日のことであることも考えると、2011年4月までの判例を持ち出してあたかもダウンロード違法化・犯罪化が昔からフランスでなされており、その訴追事例もあるかの如き印象操作をしているのは悪質極まりない。フランスについても、単なるダウンロードを訴追したケースは1件もなく、ネット上での海賊版対策はストライクポリシーを主としており、その効果はなお不明であると言う方が正しいだろう。

 なお、フランスにおける3ストライク法の対象は主としてP2Pにおける違法ファイル共有だが、到底上手く行っているとは言い難く、その対象をストリーミングや直接ダウンロードに対して広げようとする法改正の目論見も頓挫し、大統領選で主導者であったサルコジ氏が落選しオランド氏が当選した結果、フランスで3ストライク法そのものについて見直しの機運が高まっていることも見逃せない。(chizai.nikkeibp.co.jpの記事も参照。)

(5)オランダ・スイス
 オランダ・スイスについては、ダウンロードを合法化したというより、ダウンロード違法化の動きが止まったという方が正しい。

 スイスでダウンロード違法化が止まった要因の一つとして確かにスイスにおいては音楽市場の規模が小さく外国の著作物のシェアが高いこともあげられるだろうが、第260回で紹介したスイス政府の報告書にはっきり書かれているように、それだけが要因ではない。スイス政府は、ダウンロード違法化・犯罪化のような法改正にはプライバシーや訴追の限界の問題があること、このような抑圧的手段では効果が見込まれないこと、現行法で対処可能であることなどを正しく認識してこのような判断に至っているのである。

 オランダにおけるダウンロード違法化の動きもかなり複雑でかつ幸いにも止まった話なのであまり紹介して来なかったが、TorrentFreakの記事にも書かれているように、オランダ議会も、市場規模がどうこう言うより、ダウンロード違法化・犯罪化のようなやり方が自由でオープンなインターネットに反すること、プライバシーや表現の自由の観点から問題があること、告発・訴訟の乱発・濫用の懸念があることなどを正しく認識してダウンロード違法化・犯罪化をしないと決定している。(オランダに関することについて必要であればもう少し詳しく紹介しても良い。)

 スイスやオランダでダウンロード違法化・犯罪化の動きが止まったことについて、市場の規模やシェアの話だけを要因として強調するのも極めて悪質な印象操作であると言わざるを得ない。

 最後に、上で書いたことを表にまとめておくと、以下のようになるだろうか。

Download_table
 ダウンロード違法化・犯罪化のような動きについて国内外問わずずっとフォローして来ているが、海外でもこのような立法が成功した例は一つもないという状況には何ら変わりはない。第256回参照。さらにさかのぼってダウンロード違法化問題当時に第40回で書いたことからでもあまり変わっていない。)唯一明確にダウンロード違法化・犯罪化を行ったドイツはその混乱から来る反動が今なお続いており、反面教師としての参考にしかならないだろうし、かえってオランダやスイスのようにプライバシーや表現の自由の観点からの懸念や効果に対する疑問からダウンロード違法化・犯罪化を明確に否定する国も出て来ているくらいなのである。

 自公による修正提案が今国会でどのように扱われるか実に不安だが、例えダウンロード犯罪化が提案されたとしても、不透明極まる与野党談合によることなく特に慎重に審議し、長期に渡り禍根を残すに違いない有害無益なものとして否決されることを私は切に願っている。

(6月11日の追記:誤記を修正するとともに、フランスにおける権利制限規定の翻訳を増やし、一覧表を追加した。共産党の宮本たけし議員の6月10日の日記ページによると、民自公での与野党談合により実質審議なしでダウンロード犯罪化を通そうとしているようだが、宮本たけし議員の言う通り引き続き与野党の議員に対する働きかけは続けて行くべきだろう。)

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2012年1月18日 (水)

第263回:インターネットにおける表現の自由の保護強化を図るべきとする欧州評議会の宣言・オンライン海賊対策法案(SOPA)に対して疑義を呈する米ホワイトハウスの声明

 知財政策的にそれぞれかなり重要な宣言・声明が欧米の政府から2つ出されているので、資料としてここにその訳を出しておきたいと思う。

(1)インターネットにおける表現の自由の保護強化を図るべきとする欧州評議会の宣言
 一つは先月の12月7日に、欧州評議会(Counsil of Europe)の閣僚委員会で決定された以下のような宣言である。(念のために書いておくと、欧州評議会は、EU理事会(European Counsil)とは別物である。)

Declaration of the Committee of Ministers on the protection of freedom of expression and freedom of assembly and association with regard to privately operated Internet platforms and online service providers
(Adopted by the Committee of Ministers on 7 December 2011 at the 1129th meeting of the Ministers' Deputies)

1. Freedom of expression and the right to receive and impart information and its corollary, freedom of the media, are indispensable for genuine democracy and democratic processes. Through their scrutiny and in the exercise of their watchdog role, the media provide checks and balances to the exercise of authority. The right to freedom of expression and information as well as freedom of the media must be guaranteed in full respect of Article 10 of the European Convention on Human Rights (ETS No. 5, hereinafter “the Convention”). The right to freedom of assembly and association is equally essential for people's participation in the public debate and their exercise of democratic citizenship, and it must be guaranteed in full respect of Article 11 of the Convention. All Council of Europe member States have undertaken, in Article 1 of the Convention, to “secure to everyone within their jurisdiction the rights and freedoms” protected by the Convention (without any online/offline distinction).

2. People, notably civil society representatives, whistleblowers and human rights defenders, increasingly rely on social networks, blogging websites and other means of mass communication in aggregate to access and exchange information, publish content, interact, communicate and associate with each other. These platforms are becoming an integral part of the new media ecosystem. Although privately operated, they are a significant part of the public sphere through facilitating debate on issues of public interest; in some cases, they can fulfil, similar to traditional media, the role of a social “watchdog” and have demonstrated their usefulness in bringing positive real-life change.

3. In addition to opportunities, there are challenges to the effective exercise of freedom of expression and to the right to impart and receive information in the new media ecosystem. Direct or indirect political influence or pressure on new media actors may lead to interference with the exercise of freedom of expression, access to information and transparency, not only at a national level but, given their global reach, also in a broader international context. Decisions concerning content can also impinge on the right to freedom of assembly and association.

4. Distributed denial-of-service attacks against websites of independent media, human rights defenders, dissidents, whistleblowers and other new media actors are also a matter of growing concern. These attacks represent an interference with freedom of expression and the right to impart and receive information and, in certain cases, with the right to freedom of association. Companies that provide web hosting services lack the incentive to continue hosting those websites if they fear that the latter will come under attack or if their content may be regarded as sensitive. Furthermore, the companies concerned are not immune to undue interference; their decisions sometimes stem from direct political pressure or from politically motivated economic compulsion, invoking justification on the basis of compliance with their terms of service.

5. These developments illustrate that free speech online is challenged in new ways and may fall victim to action taken by privately owned Internet platforms and online service providers. It is therefore necessary to affirm the role of these actors as facilitators of the exercise of the right to freedom of expression and the right to freedom of assembly and association.

6. Interference with content that is released into the public domain through these means or attempts to make entire websites inaccessible should be judged against international standards designed to secure the protection of freedom of expression and the right to impart and receive information, in particular the provisions of Article 10 of the Convention and the related case law of the European Court of Human Rights. Furthermore, impediments to interactions of specific interest communities should be measured against international standards on the right to freedom of assembly and association, in particular the provisions of Article 11 of the Convention and the related case law of the European Court of Human Rights.

7. The Committee of Ministers, therefore:
- alerts member States to the gravity of violations of Articles 10 and 11 of the European Convention on Human Rights which might result from politically motivated pressure exerted on privately operated Internet platforms and online service providers, and of other attacks against websites of independent media, human rights defenders, dissidents, whistleblowers and new media actors;

- underlines, in this context, the necessity to reinforce policies that uphold freedom of expression and the right to impart and receive information, as well as the right to freedom of assembly and association, having regard to the provisions of Articles 10 and 11 of the Convention and the related case law of the European Court of Human Rights;

- confirms its commitment to continue to work to address the challenges that these matters pose for the protection of freedom of expression and access to information.

私的セクターにおいて運用されているインターネット・プラットフォーム及びオンライン・サービス・プロバイダーにおける、表現の自由並びに集会及び結社の自由の保護に関する閣僚委員会宣言
(2011年12月7日閣僚委員会において採決)

1.表現の自由、情報を受け、伝える権利及びその帰結、メディアの自由は、真の民主主義及び民主的プロセスに必要不可欠なものである。その厳しい監視を通じて、またその監視員としての役割を果たすことで、メディアは権力の行使をチェックし、それをバランスさせる。表現及び情報の自由並びにメディアの自由は、欧州人権条約(以下、「条約」という)第10条のあらゆる意味において保障されていなければならない。集会及び結社の自由も、等しく公的な討論及び民主的市民権の行使への人々の参加に必須のものであり、条約第11条のあらゆる意味において保障されていなければならない。欧州評議会の全参加国は、条約第1条において、(オンライン/オフラインの区別なく)その条約により保護される「この権利及び自由をその管轄下で全ての者に確保すること」を約束している。

2.人々、特に市民社会の代表、公益通報者及び人権活動家は、ますますソーシャル・ネットワーク、ブログサイトや他の集団コミュニケーション手段を用い、集合的に情報にアクセスし、情報を交換し、コンテンツを公開し、交流し、伝え合い、協力し合うようになって来ている。このようなプラットフォームは、新しいメディア・エコシステムに欠かせないものとなりつつある。私的セクターにおいて運用されているにもかかわらず、それらは、公益に関する討論を容易にしたことで、かなりの部分公的な場ともなっている。このような場合において、それらは、伝統的なメディアと動揺、社会的「監視員」の役割を果たし、実際に有益な変化をもたらしたことで、その有用性を証明した。

3.このような可能性を利用し、この新たなメディア・エコシステムにおいて、表現の自由と情報を受け、伝える権利の効果的な行使を試みようとする動きもある。新たなメディアの関係者に対する直接的あるいは間接的な政治的影響力あるいは圧力が、国内的なレベルだけではなく、世界的な広がりから、より広い国際的文脈の中でも、表現の自由と情報を受け、伝える権利の行使の障害となっている。コンテンツに関する決定も、集会及び結社の自由の権利と衝突するものとなり得る。

4.独立メディア、人権活動家、反体制派、公益通報者及び他の新たなメディアの関係者のウェブサイトに対してなされるサービス妨害(DoS)攻撃に対する懸念も大きくなっている。このような攻撃は、表現の自由と情報を受け、伝える権利の障害となり、ある場合には、結社の自由の権利の障害ともなる。そのコンテンツが政治的に微妙なものと見られる時にウェブサイトが攻撃にさらされることにウェブ・ホスティング・サービス提供会社が怯んでしまい、会社がそのようなウェブサイトをホスティングし続けるインセンティブが失われることもあり得るだろう。さらに言えば、この会社が不当な干渉を免れる事はない。そのサービス約款への合致を言い訳にしつつ、その決定が直接的な政治的圧力又は政治的な背景を持つ経済的強迫に由来していることも間々あるのである。

5.このような展開は、オンラインにおける自由な言論が新たな形の挑戦を受けており、私的に所有されているインターネット・プラットフォームの取る措置の犠牲となり得ることを示している。したがって、このような関係者の、表現の自由の権利並びに集会及び結社の自由の権利の行使の促進者としての役割を認めることが必要である。

6.パブリックドメインに公開されたコンテンツに対する、このような手段を使った干渉あるいはウェブサイト全体をアクセス不能とする試みは、表現の自由並びに情報を受け、伝える権利を保障するために作られた国際基準、特に条約第10条及び欧州人権裁判所の関連判例に反すると判断されなくてはならない。さらに、特定の利益共同体の交流に対する妨害は、集会及び結社の自由の権利に関する国際基準、特に条約第11条及び欧州人権裁判所の関連判例に反すると判断されなくてはならない。

7.よって、閣僚委員会は、
-私的セクターにおいて運用されているインターネット・プラットフォーム及びオンライン・サービス・プロバイダーに対して振るわれる政治的背景を持つ圧力によりもたらされる、欧州人権条約第10条及び第11条の侵害の重大性について、そして、独立メディア、人権擁護家、反体制派、公益通報者及び新たなメディアの関係者のウェブサイトに対する攻撃の重大性について、参加国に注意を呼びかけ;

-この文脈において、条約第10条及び第11条並びに欧州人権裁判所の判例を考慮し、表現の自由、情報を受け、伝える権利並びに集会及び結社の自由を守る政策を再強化する必要性を強調し;

-これらの事項から表現の自由と情報へのアクセスを保護するために必要とされる挑戦を積極的にし続けるという決意を示す。

 残念ながらこの宣言に法的拘束力がないが、閣僚レベルの宣言で、インターネットにおいても、情報アクセス権を含む表現の自由は完全に保護されるべきであって、ブロッキングのような手段が人権侵害たり得ることを認めている点は高く評価するに値する。

 すぐに直接的に著作権問題や児童ポルノ問題に影響して来るということはないだろうが、このようなまともな宣言を読む度に、大体児童ポルノ規制が絡むと欧州各国もどんどんトチ狂ったことをやり出して来るのが本当に残念でならない。

(2)オンライン海賊対策法案(SOPA)に対して疑義を呈する米ホワイトハウスの声明
 もう一つは、アメリカで揉め続けているオンライン海賊対策法案(SOPA:Stop Online Piracy Act)に対する請願を受け、この1月14日にホワイトハウスが出した以下のような声明である。

Combating Online Piracy while Protecting an Open and Innovative Internet
By Victoria Espinel, Aneesh Chopra, and Howard Schmidt

Thanks for taking the time to sign this petition. Both your words and actions illustrate the importance of maintaining an open and democratic Internet.

Right now, Congress is debating a few pieces of legislation concerning the very real issue of online piracy, including the Stop Online Piracy Act (SOPA), the PROTECT IP Act, and the Online Protection and Digital ENforcement Act (OPEN). We want to take this opportunity to tell you what the Administration will support―and what we will not support. Any effective legislation should reflect a wide range of stakeholders, including everyone from content creators to the engineers that build and maintain the infrastructure of the Internet.

While we believe that online piracy by foreign websites is a serious problem that requires a serious legislative response, we will not support legislation that reduces freedom of expression, increases cybersecurity risk, or undermines the dynamic, innovative global Internet.

Any effort to combat online piracy must guard against the risk of online censorship of lawful activity and must not inhibit innovation by our dynamic businesses large and small. Across the globe, the openness of the Internet is increasingly central to innovation in business, government, and society and it must be protected. To minimize this risk, new legislation must be narrowly targeted only at sites beyond the reach of current U.S. law, cover activity clearly prohibited under existing U.S. laws, and be effectively tailored, with strong due process and focused on criminal activity. Any provision covering Internet intermediaries such as online advertising networks, payment processors, or search engines must be transparent and designed to prevent overly broad private rights of action that could encourage unjustified litigation that could discourage startup businesses and innovative firms from growing.

We must avoid creating new cybersecurity risks or disrupting the underlying architecture of the Internet. Proposed laws must not tamper with the technical architecture of the Internet through manipulation of the Domain Name System (DNS), a foundation of Internet security. Our analysis of the DNS filtering provisions in some proposed legislation suggests that they pose a real risk to cybersecurity and yet leave contraband goods and services accessible online. We must avoid legislation that drives users to dangerous, unreliable DNS servers and puts next-generation security policies, such as the deployment of DNSSEC, at risk.

Let us be clear - online piracy is a real problem that harms the American economy, threatens jobs for significant numbers of middle class workers and hurts some of our nation's most creative and innovative companies and entrepreneurs. It harms everyone from struggling artists to production crews, and from startup social media companies to large movie studios. While we are strongly committed to the vigorous enforcement of intellectual property rights, existing tools are not strong enough to root out the worst online pirates beyond our borders. That is why the Administration calls on all sides to work together to pass sound legislation this year that provides prosecutors and rights holders new legal tools to combat online piracy originating beyond U.S. borders while staying true to the principles outlined above in this response.  We should never let criminals hide behind a hollow embrace of legitimate American values.

This is not just a matter for legislation. We expect and encourage all private parties, including both content creators and Internet platform providers working together, to adopt voluntary measures and best practices to reduce online piracy.

So, rather than just look at how legislation can be stopped, ask yourself: Where do we go from here? Don't limit your opinion to what's the wrong thing to do, ask yourself what's right. Already, many members of Congress are asking for public input around the issue. We are paying close attention to those opportunities, as well as to public input to the Administration. The organizer of this petition and a random sample of the signers will be invited to a conference call to discuss this issue further with Administration officials and soon after that, we will host an online event to get more input and answer your questions. Details on that will follow in the coming days.

Washington needs to hear your best ideas about how to clamp down on rogue websites and other criminals who make money off the creative efforts of American artists and rights holders. We should all be committed to working with all interested constituencies to develop new legal tools to protect global intellectual property rights without jeopardizing the openness of the Internet. Our hope is that you will bring enthusiasm and know-how to this important challenge.

Moving forward, we will continue to work with Congress on a bipartisan basis on legislation that provides new tools needed in the global fight against piracy and counterfeiting, while vigorously defending an open Internet based on the values of free expression, privacy, security and innovation. Again, thank you for taking the time to participate in this important process. We hope you'll continue to be part of it.

Victoria Espinel is Intellectual Property Enforcement Coordinator at Office of Management and Budget

Aneesh Chopra is the U.S. Chief Technology Officer and Assistant to the President and Associate Director for Technology at the Office of Science and Technology Policy

Howard Schmidt is Special Assistant to the President and Cybersecurity Coordinator for National Security Staff

オンライン海賊対策の強化とオープンで創造的なインターネットの保護

 今まさに、議会は、オンライン海賊対策法(SOPA)、知財保護強化法(PIPA)並びにオンライン保護及びデジタル執行法(OPEN)などのオンライン海賊行為に関する事項に絡むいくつかの法改正を審議しています。私たちはこの機会にあなた方に政府が何を支持して-何を支持しないのかをお話したいと思います。あらゆる法改正は、コンテンツクリエーターからインターネットのインフラを構築・維持するエンジニアまであらゆる者、幅広い利害関係者の意見を反映しなければなりません。

 この請願に署名下さったことについて感謝します。あなた方の言葉と行動の両方が、オープンで民主的なインターネットを維持する重要性を示してくれました。

 外国のウェブサイトによるオンライン海賊行為が真摯な立法的対応を必要とする深刻な問題であると私たち考えていますが、表現の自由を害し、サイバーセキュリティリスクを増大させ、また、ダイナミックで創造的でグローバルなインターネットを危うくするような法改正を私たちが支持することはないでしょう。

 オンライン海賊対策に関するいかなる努力も、合法的な活動に対するオンライン検閲の危険をもたらすものであってはならず、私たちのダイナミックな大小のビジネスによるイノベーションを阻害するものであってはなりません。世界を通じて、インターネットのオープン性がビジネス、政府及び社会におけるイノベーションの中心にますますなって来ており、これを守らなければなりません。この危険を最小限にするために、新たな立法は、狭く現在のアメリカの法の届かないサイトのみをターゲットとし、アメリカの現行法で明らかに禁じられている行為のみをカバーし、厳格適正な法的手続きにのっとり対象が犯罪活動に集中されるよう効果的に作られなければなりません。オンライン広告ネットワーク、決済処理あるいは検索エンジンのようなインターネットネット仲介者をカバーする規定は、透明で、起業者や成長しつつある創造的な会社の活力を削ぐような不当な訴訟を助長する過大に広い私的行為権を与えることがないように作られなければなりません。

 私たちは新たなサイバーセキュリティリスクを作り出すことを避け、インターネットの根本的なアーキテクチャを分断することを避けなければなりません。提案されている法律は、インターネットのセキュリティの基礎である、ドメインネームシステム(DNS)の操作によりインターネットの技術的なアーキテクチャに不正に手を加えるものであってはなりません。提案されているいくつかの法案における、DNSブロッキング規定を私たちが分析したところでは、それは、禁止品及び禁止サービスをオンライン上にアクセス可能な形で残したままにしておきながら、サイバーセキュリティに関して真のリスクとなるものであることを示唆しています。危険な、信頼できないDNSサービスを利用者に使わせることになり、DNSSECの展開のような次世代のサイバーセキュリティポリシーを危うくするような立法を私たちは回避しなければなりません。

 明確に言っておきますと-オンライン海賊行為は、アメリカの経済を害し、中間層の労働者のかなりの数の雇用を脅かし、私たちの国の最もクリエイティブで創造的な会社と起業家のいくばくかを損なっている本当の問題です。それは、努力するアーティストからプロダクションチームまで、そして、起業したばかりのソーシャルメディア会社から大きな映画スタジオまであらゆる者に害を与えるものです。私たちは知的財産権の強力な執行に力を注いでいますが、既存のツールは私たちの国境を越えて最悪の海賊を根絶やしにするほど十分ではありません。この回答において上で概略を示した原則に従いつつ、アメリカの国境外から発するオンライン海賊行為に対抗する新しい法的ツールを訴追者及び権利者に与える、妥当な法改正を通すよう政府が今年全ての関係者に呼びかけているのはそのためです。アメリカの法的価値の隙間に犯罪者が隠れることを私たちは許すべきではありません。

 これは単に法改正だけの問題ではありません。私たちは、コンテンツクリエータとインターネット・プラットフォーム提供者がともに協力することなど、全ての私的セクターの関係者が自主的な措置を採用し、オンライン海賊行為を減らすベストプラクティスを採用することを期待し、またそう促します。

 ですから、どのように法改正を止めるかということだけを見るより、ここから私たちはどこへ行くのかと自身に問いかけてみて下さい。何が間違っているのかということに意見を止めることなく、何が正しいのかを自身に問いかけてみて下さい。既に、議会の多くの議員がこの問題について市民の意見を求めています。私たちはこのような機会並びに政府への市民の声の提供に十分注意を払っています。この請願の提案者及び署名者からランダムに抽出した者がこの問題についてこの後すぐ政府の職員と議論するために電話会議に呼ばれることになります。私たちはより多くの声を聞くためにオンラインのイベントを主催し、あなた方の質問に答えたいと思っています。このことに関する詳細は、何日か後に出す予定です。

ワシントンは、アメリカのアーティストの創造的な努力と権利者で金儲けをしている犯罪者と、悪いウェブサイトとをどのように取り締まれば良いかについてのあなた方の最善のアイデアを聞くことを必要としています。私たちは皆、関心を寄せる全ての選挙民とともに協力して、インターネットのオープン性を危うくすることなく、世界的に知的財産権を保護する新たな法的ツールを開発して行くと明言します。この重大な挑戦に熱意とノウハウを持ち込んで下さることを私たちは期待しています。

さらに先に進むべく、自由な表現、セキュリティ及びイノベーションを基礎としてオープンなインターネットを強く保護しつつ、私たちは超党派的な視点で、世界的に海賊版と模倣品に対抗するために必要な新たなツールを提供する立法について議会と協力を続けて行きます。再度、この重要な手続きに参加して下さったことに感謝します。私たちはあなた方が参加し続けて下さることを期待しています。

ビクトリア・エスピネル(知財執行調整官(俗称「著作権皇帝」))

アニーシュ・コプラ(チーフ技術官、大統領補佐官及び科学技術政策技術部長)

ハワード・シュミット(大統領特別補佐官、サイバーセキュリティ及び国家安全スタッフ調整官)

 この声明で、ネット検閲の懸念があること、DNSブロッキングに問題があることなど、アメリカ政府が今のSOPAの問題点をかなり把握していること自体は良いとしても、実際のところは、知的財産権の保護強化のための法改正についてまだ色気をかなり示している点などかなり怪しく、アメリカの情勢もまだまだ予断を許さない。

 この声明を呼んだだけでも、これだけの騒ぎになりながら、ブロッキングのような技術的検閲とオープンなインターネットが両立しないということがアメリカ政府にもなかなか分からないと見えるのであり、アメリカの今後の動きには本当に要注意である。このSOPAの検討においてアメリカという国が建国以来最も重要視して来た自由そのものの扱いが問われていると言っても過言ではないだろう。(ここでまたブロッキングの問題点についてくどくどと書くことはしないが、これは対象を外国のサイトに限れば良いとかそういう問題ではない。)

 また、中韓台のフェアユースの話も書きたいと思っているところだが、その前に、今現在知財本部から「知的財産推進計画2012」の策定に向けた意見募集が2月6日〆切かかっているので(知財本部のHP参照)、次回はこのパブコメに関するエントリになるのではないかと思っている。

(1月22日の追記:この1月14日のホワイトハウスによる懸念表明の後、1月18日にはウィキペディアやグーグルなどによる一斉反対運動もあり、1月20日には上下院がそれぞれPIPA及びSOPAの審議の延期を表明するに至った(TorrentFreakの記事TechCrunchの記事CNNの記事、上院与党(民主党)代表ハリー・リード議員のPIPA議決延期声明、下院法務委員長ラマー・スミス議員のSOPA審議延期声明、「P2Pとかその辺のお話」の下院リリース翻訳記事参照)。ここまで来ると両法案ともひとまず廃案になりそうな様子ではあるが、上下院とも単に延期すると言っているだけであり、いつのことになるか分からないが、本質的に同じ問題を含む修正案が出されてまたぞろ騒ぎが繰り返されることになるのではないかと思う。)

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2010年10月 5日 (火)

第239回:アメリカ・デジタルミレニアム著作権法(DMCA)のDRM回避規制の影響

 世間的には知財どころではない雰囲気ではあるが、例によってあまり耳目を集めないながらも、知財について地味にロクでもない検討が続けられている。先週まで東京で開かれていた海賊版対策条約(ACTA)の交渉会合は、条文案についてほぼ合意したとの報道があり(経産省のリリース朝日の記事読売の記事各国政府の共同声明、外務省のリリース参照)、この条約交渉と歩調を合わせるように、文化庁で9月14日から著作権分科会・法制問題小委員会・技術的保護手段ワーキングチームが開催され(議事概要、「Copy & Copyright Diary」のブログ記事参照)、経産省でも、つい先日の9月30日から、産業構造審議会・知的財産政策部会・技術的制限手段に係る規制の在り方に関する小委員会が開催されている(開催案内議事要旨参照。hideharus氏のツイートも参照)。

 これらのDRM回避規制を巡る検討は、日本政府がACTA交渉で勝手にどれくらい譲歩したかでキャップがはめられてしまうというというどうしようもない状況にある。相変わらず交渉について人をバカにしたような概要しか日本政府は公表しておらず、現在のACTA条文案も公開されていない現状では、具体的には何とも言いようがないが、いつもの如く、アメリカがこのACTAを自国の制度の押し付けに使って来ているということがあり、日本政府が、日本の法体系に合わないアメリカの制度に沿った条文案を勝手に飲んでしまっている可能性は低くないと私は踏んでいる。

 この条文案次第で時期を逸した話になるかも知れないとは言え、今後募集さえるだろうパブコメなどの参考のために、今回は、DRM回避規制についてアメリカの制度は全く褒められたものではないという話をまとめて書いておきたい。

(1)アメリカ著作権法(DMCA)におけるDRM回避規制の概要
 アメリカ著作権法のDRM回避規制に関する第1201条以下そのものは、著作権情報センターの訳があるので、ここで繰り返して訳出することはしないが、およそ第1201条(a)(1)(A)でアクセスコントロール回避行為そのものを禁止し、また第1201条(a)(2)と(b)で、アクセスコントロールのようなDRMの回避のために主として設計又は製造された技術、製品、サービス、装置、部品などの製造、輸入、提供などを規制するという構成を取っている。(原文は、アメリカ著作権局のHP参照)

 およそ前回紹介した海賊版対策条約(ACTA)のアメリカ提案通り、アクセスコントロール回避自体や、技術・サービスなどまで含めて十把一絡げに規制をかけているが、第1201条(a)(1)(B)(C)でフェアユース的な要素を考慮して連邦議会図書館長がその例外を規則で定められることとし、さらに、第1201条(c)でフェアユースや表現の自由に影響を与えないとが、(d)で図書館や教育機関に対する適用除外が、(e)で政府の活動に対する適用除外が、(f)でリバース・エンジニアリングに対する例外が、(g)で暗号化研究に対する例外が、(h)で未成年用フィルタリングに関する例外が、(i)で個人情報保護のための例外が、(j)でセキュリティ・チェックのための例外が定められているなど、例外もかなり細かく多岐に渡って規定されている。

 どのような規制にもメリット・デメリットは必ずあるので、これだけいろいろと制限・例外を作っていても、アメリカのこの規制も様々な萎縮効果をもたらしている。

(2)電子フロンティア財団(EFF)の2010年2月のレポート「予期せざる影響:DMCA下の12年」
 このDMCAがもたらした萎縮効果については、EFFが2010年2月に「予期せざる影響:DMCA下の12年(pdf)」というレポートにまとめてくれているので、ここでざっとその内容の概略を紹介しておきたいと思う。(EFFのリリースも参照。)

 EFFのレポートにあげられている項目の訳を作ると以下のようになる(括弧内は簡単な事件の紹介)。

1.概要
・DMCAは表現の自由と科学研究を萎縮させている。
・DMCAはフェアユースを脅かしている。
・DMCAは競争とイノベーションを阻害している。
・DMCAは一般的なコンピュータ・アクセス防止法として濫用されている。

2.DMCAの立法経緯

3.表現の自由と科学的研究の萎縮
・Bluwikiを脅すアップル(wikiでの単なるiPodのリバースエンジニアリングの議論に対してアップルの弁護士が警告状を送ったという2009年の事件。この事件では、Bluwikiが利用者の言論の自由を守るためにアップルを逆に訴えたところ、アップルが脅しを取り下げたという2009年の事件。)
・SONY-BMGの「ルートキット」脆弱性に関する開示を遅らせたDMCA(有名な2005年のソニーのルートキット事件では、プリンストン大学の研究者による事実の公表がDMCAに関する法的問題のクリアのため数週間遅れた。)
研究者を脅すSunComm(プリンストン大学の研究者が、CDのコピー制限技術の脆弱性に関するレポートの公表について、DMCAに基づいてその開発会社に脅された2003年の事件。この事件では、批判を浴びて会社が脅しを取り下げた。)
・研究における萎縮効果について注意するサイバー・セキュリティ皇帝(2002年、ホワイトハウスのサイバーセキュリティチーフが、正当なコンピュータセキュリティの研究を萎縮させているとして、DMCAの改正を呼びかけたという話。)
・フェルトン教授の研究チームに対する脅迫(プリンストン大学の研究チームによるウォーターマークの除去に関する研究に対して、DMCAに基づく警告状が送られ、研究チームが学会での論文公表を断念したという2000年の事件。研究者が反対に訴えることで、ようやく脅しは取り下げられ、研究の一部が公表された。)
・SNOsoftを脅すヒューレット・パッカード(ヒューレット・パッカードのUNIX系OSのTru64の脆弱性を公表した団体が、DMCAに基づいて脅された2002年の事件。この事件でも、広く批判を浴び、脅しは取り下げられたが、なお研究団体は自己責任で脆弱性について公表するようにという嫌がらせのようなメッセージを受け取る。)
・セキュリティ研究者を脅すBlackboard(BlackboardのIDカードに関する脆弱性について学会で公表しようとした学生に警告状が送られ、その公表が妨げられた2003年の事件。)
・出版社から避けられたXboxハックに関する本(XBoxの脆弱性に関する研究者の本の出版計画が、DMCAによる訴えを恐れた出版社によって断念された2003年の事件。研究者は数ヶ月の交渉の後に本を自己出版、さらに過大な法律相談の後にこの本は出版された。)
・邪魔をされたフィルタリングソフトに関する研究(フィルタリングソフトの脆弱性に関するいくつかの研究がDMCAにより阻害されたという話。)
・Dmitry Sklyarovの逮捕(Adobeのe-Book形式をPDF形式に変換するAdavanced e-Book Processorというプログラムの開発に携わったとして、ロシアのプログラマーがアメリカの学術会議での講演の後で逮捕され、5ヶ月間拘留されたという2001年の事件。)
・科学者とプログラマーが研究を断念(多くの研究者がDMCAによる潜在的な理由により研究の公表などを断念しているという話。)
・外国の科学者がアメリカを忌避(プログラマーの逮捕などを受けて、プログラマーにアメリカへの渡航を取りやめるようロシアが呼びかけたという話や、アメリカ以外での開催を検討する学会が出てきたという話など。)
・DMCAと取っ組むIEEE(コンピュータ関連の学術雑誌を多く抱えることで有名な学会のIEEEも、DMCAに関する懸念を抱くに至っているという話。)
・雑誌「2600」の検閲(CSS回避プログラムのDeCSSへのリンクをそのサイトに載せていた雑誌が、映画会社によって出版を差し止められた事件。2001年に巡回控訴審が差し止めを認める下級審判決を支持したというもの。)
・CNETのレポーターが萎縮感を吐露(CNETのレポーターが、DMCAから萎縮を感じ、アメリカの交通安全局のサイト上の暗号化文書を匿名ソースからのパスワードを使って開けられなかったという2002年の話。)
・計算機愛好家を狙うテキサス・インスツルメンツ(テキサス・インスツルメンツの画像プロセッサのリバース・エンジニアリングの成功に関してコメントしたブロガーらが脅されたという2009年の事件。ブロガーらは一旦削除するが、EFFの支援を受けその内容を再掲。)
・スラッシュドットを脅すマイクロソフト(Kerberosという名の公開セキュリティ基準のマイクロソフト独自実装に関する情報を削除するよう、マイクロソフトがスラッシュドットに要求したという2000年の事件。)
・DMCAでセキュリティ研究者を脅かすGameSpy(GameSpyのオンラインサービスの脆弱性に関する詳細をそのサイトで公開したイタリアのセキュリティ研究者に対して、DMCAに基づく警告状が送られたという2003年の事件。)
・TiVoに関する議論を検閲するAVSforum.com(デジタル録画機TiVoからPCへのビデオのムーブを可能とするソフトに関する全ての議論が、掲示板AVSforum.comで検閲されたという2001年の事件。)
・iTunes Music Storeに関する議論を検閲するMac Forum(Macに関する掲示板が、iTMSで買った楽曲のコピー・プロテクト回避に関する全ての議論を検閲したという2003年の事件。)

4.囲い込まれるフェアユース
・コピーコントロールCDとオンライン音楽におけるDRM(DRMは、海賊行為を抑制するというより、楽曲を買った後も長く合法的な消費者を害しているだけだという話。)
・DVDコピーツールというフェアユースツールの追放(DVDリッピングソフトに関するアメリカの訴訟の話。なお、AV Watchの記事にある通り、この訴訟は2010年3月に和解で終わってしまっているため、DVDの私的なリッピングとDMCA・フェアユースとの関係の問題の決着は完全には付いていない。)
・Advanced e-Book Processorとe-Books
(ロシアのプログラマーが釈放された後、今度はロシアのプログラミング会社がこのソフトについて刑事告訴されたが、2002年に無罪の判断が下されている。)
・タイムシフトとストリーミング・メディア(2000年に、インターネット上のストリーミング・メディアをタイムシフトする製品に対する差し止めが認められたことがあるという話。)
・Agfa Monotypeとフォント(フォント中の埋め込みデータを変える、大学生の非商用プログラムや、AdobeのAcrobatをDMCAに基づきフォント会社が脅したという2002年や2005年の事件。対Adobe裁判で、埋め込みビットは効果的にアクセスをコントロールしておらず、Acrobatは主として回避のために設計されていないと裁判所は判断。)
・Load-’N-Goとスペースシフト(消費者が買ったDVDをiPodに移すというサービスを行っていた小さな会社を映画会社が訴えたという2006年の事件。2007年に和解。)

5.イノベーションと競争に対する脅威
・App StoreにiPhoneを縛り付けるのにDMCAを使うアップル(iPhoneのジェイルブレイクが違法であるという理由にアップルはDMCAを持ち出していたという話。)
・携帯電話をキャリアに縛り付けるのにまず使われ、それから携帯電話販売店を叩きのめすのに使われるDMCA(SIMロック解除を違法とする理由にもDMCAが持ち出されていたという話。)
・Psystarを狙ってOS Xをハードに結び付けるアップル(アップルのOSの合法コピーを仕入れて安いPCとともに売っていた会社がアップルに訴えられたという事件。2009年にアップルに有利な判断を裁判所が示し、後に両者は和解。)
・HarmonyについてRealを脅すアップル(Realがそのダウンロードストアからの楽曲をiPodで聞くことを可能とする技術を告知した時、アップルがDMCAを使って脅したという2004年の事件。)
・ゲーム改造を阻止するため訴えるテクモ(そのゲームソフトの改造コードを公開しているウェブサイトをテクモが訴えたという2005年の事件。サイトの削除後、訴訟は取り下げれられ、和解の交渉が行われた。)
・Adobeをブロックするニコンの生データ暗号化(2005年に、AdobeのPhtoshopの作成者が、ニコンがPhotoshopと互換性が取れないように生データの一部を暗号化しているということを公表。最終的にニコンとAdobeは取り決めを交渉。)
・独立サービスベンダーをブロックしようとするStorageTek(ストレージハードウェアの販売・メンテナンスサービスを行っていた会社が、自社のストレージの補修にはパスワードがソフトのパスワードが必要なはずと言って他の独立メンテナンス会社を訴えた2005年の事件。この事件では著作権侵害はないとして差し止めは認められず。)
・トナー・カートリッジについて訴えるLexmark(インクカートリッジの非正規詰め替え品に対する訴えにDMCAが使われた2003年の事件。最終的に控訴審で判決は修正されるが、19ヶ月の法廷闘争の間に非正規品は市場から駆逐。)
・ガレージの扉の開閉装置メーカーを訴えるChamberlain(ガレージの扉の開閉装置の非正規遠隔開閉装置に対する訴えにDMCAが使われた2003年の事件。最終的にChamberlainは敗訴。)
・ConnectixとBleemを訴えるソニー(プレイステーションのエミュレータを作成した会社をソニーが訴えた1999年の事件。対ソニー裁判の訴訟費用を出すことはできず、エミュレータ会社は製品を断念。)
・Aibo愛好家を脅すソニー(Aiboを踊らせる自己プログラムを公開した愛好家にソニーがDMCAを持ち出した事件。最終的には、批判を受け、ソニーがプログラムの一部の公開を認める。)
・プレイステーションの改造チップを攻撃するソニー(プレイステーションで正規ソフト以外のソフトの動作を可能とするModチップの販売者をソニーが訴えているという話。)
・bnetd.orgを訴えるBlizzard(正規のゲームソフト所持者にインターネット上でそのゲームのプレイを可能とした愛好家グループによるサイトが、ゲーム会社に訴えられた2005年の事件。ゲーム会社が勝訴している。)
・小売店での工夫に難癖を付けるアップル(Mac所有者に、アップルのソフトを修正するパッチを配布した小売店がアップルにDMCAに基づいて脅されたという2002年の事件。)
・アナログビデオのデジタル化についてSimaを訴えるマクロビジョン(ビデオのアナログ信号からのデジタル化を助ける製品を売っていたSimaが、アナログビデオのコピー制御で有名なマクロビジョンから訴えられた2006年の事件。最終的に和解。)
・World of WarcraftのGliderをブロックするBlizzard(オンラインゲームにおけるbotの使用が、DMCA違反とされた2009年の事件。控訴中。)
・DMCAとサイト上の利用契約で競争を抑止しようとする車のデザイン会社(ウェブサイトの利用契約が技術的保護手段であると主張して、車のデザイン会社が自社のウェブサイトに対する競合他社によるキャプチャソフトの使用を止めようとした2008年の事件。最終的に和解。)

6.コンピュータアクセス防止法と肩を並べるDMCA
・不正なネットワークアクセスだとDMCAに基づいて以前の契約プログラマーを訴えた会社(離れたところから仕事を行うために、会社のコンピュータ・システムへのアクセスにVPNを用いた契約プログラマーを、関係が悪くなり契約を破棄した後で、DMCAなどに基づいて会社が訴えた2003年の事件。)
・CAPTCHAの回避についてRMGを訴えるTicketmaster(歪んだ文字によるアクセス制限であるCAPTCHAを回避するサービスを行うサイトについて、DMCAに基づく訴えが通った2007年の事件。)
・ケーブルのデジタルフィルタをブロックするケーブル会社(ペイ・パー・ビュー信号をカットするフィルタについて、DMCAに基づく訴えが通るとされた2008年の事件)

7.結論

 詳しくはレポート本文をご覧頂ければと思うが、アメリカが訴訟社会であるという側面もあるとは言え、ここまで多くの問題が発生している理由としては、アメリカが立法時にあまり考えずに、著作権法でアクセスコントロールの回避そのものを規制してしまったことと、技術やサービスといった曖昧なものまで規制対象として、製造などまで規制するとしてしまったことが大きいだろう。

(3)アメリカ連邦議会図書館によるiPhoneのジェイルブレイク合法化
 また、「P2Pとかその辺のお話」でも取り上げられているが、法律上で連邦議会図書館が3年毎に定めるとしている著作権の例外について、ついこの7月にも新しい規則が出されている。

 アメリカの連邦議会図書館著作権局のHPに載っている、この新たな規則で例外の対象となる著作物は、以下のようなものである。(えらく長いが、同じページに載っている図書館の決定(pdf)勧告(pdf)も非常に興味深い。)

(1) Motion pictures on DVDs that are lawfully made and acquired and that are protected by the Content Scrambling System when circumvention is accomplished solely in order to accomplish the incorporation of short portions of motion pictures into new works for the purpose of criticism or comment, and where the person engaging in circumvention believes and has reasonable grounds for believing that circumvention is necessary to fulfill the purpose of the use in the following instances:
(i) Educational uses by college and university professors and by college and university film and media studies students;
(ii) Documentary filmmaking;
(iii) Noncommercial videos.

(2) Computer programs that enable wireless telephone handsets to execute software applications, where circumvention is accomplished for the sole purpose of enabling interoperability of such applications, when they have been lawfully obtained, with computer programs on the telephone handset.

(3) Computer programs, in the form of firmware or software, that enable used wireless telephone handsets to connect to a wireless telecommunications network, when circumvention is initiated by the owner of the copy of the computer program solely in order to connect to a wireless telecommunications network and access to the network is authorized by the operator of the network.

(4) Video games accessible on personal computers and protected by technological protection measures that control access to lawfully obtained works, when circumvention is accomplished solely for the purpose of good faith testing for, investigating, or correcting security flaws or vulnerabilities, if:
(i) The information derived from the security testing is used primarily to promote the security of the owner or operator of a computer, computer system, or computer network; and
(ii) The information derived from the security testing is used or maintained in a manner that does not facilitate copyright infringement or a violation of applicable law.

(5) Computer programs protected by dongles that prevent access due to malfunction or damage and which are obsolete.  A dongle shall be considered obsolete if it is no longer manufactured or if a replacement or repair is no longer reasonably available in the commercial marketplace; and

(6) Literary works distributed in ebook format when all existing ebook editions of the work (including digital text editions made available by authorized entities) contain access controls that prevent the enabling either of the book’s read-aloud function or of screen readers that render the text into a specialized format.

(1)回避に関わる者が、その回避が以下の場合の利用目的を満たすために必要であると考えるか、またそうと考えるに足る合理的な理由がある場合であって、動画の短い部分を批評又は注釈の目的で新たな著作物に組み入れることを実現するためにのみ回避を実行する場合の、合法的に作成・入手され、コンテンツ・スクランブル・システム(CSS)で保護されたDVD上の動画:
(ⅰ)大学教授と大学の映画・メディア研究学生による教育的利用;
(ⅱ)ドキュメンタリー映画の作成;
(ⅲ)非商用ビデオ。

(2)携帯電話端末におけるコンピュータ・プログラムとともに、アプリケーションが合法的に入手された場合の、そのようなアプリケーションの相互運用性を実現するためにのみ回避を実行する、携帯電話端末におけるソフトウェア・アプリケーションの実行を可能とするコンピュータ・プログラム。

(3)そのネットワークへのアクセスがネットワーク管理者によって許可され、無線通信ネットワークに接続するためにのみコンピュータ・プログラムのコピーの所有者によって回避が開始される場合の、携帯電話端末から無線通信ネットワークへの接続を可能とする、ファームウェア又はソフトウェアの形式での、コンピュータ・プログラム。

(4)以下の場合であって、セキュリティ上の欠陥又は脆弱性の、善意の検査、調査又は修正のためのみに回避が実行される場合の、合法的に入手された著作物へのアクセスを制限する技術的保護手段によって保護された、パーソナル・コンピュータでアクセス可能なビデオ・ゲーム:
(ⅰ)セキュリティ検査から得られる情報が主として、コンピュータ、コンピュータ・システム又はコンピュータ・ネットワークの所有者のセキュリティを向上させるために用いられる場合であって;
(ⅱ)セキュリティ検査から得られる情報が、著作権侵害が適用される法の侵害を助長しないような形で用いられ、保持される場合。

(5)誤動作又は損傷によってアクセスを制限する、廃れたドングルによって保護されたコンピュータ・プログラム。それがもはや製造されていないか、無理なく市場で交換又は修理を行うことが不可能である場合に、ドングルは廃れたものとする;そして

(6)その作品の全ての存在する電子ブック版(権利者によって入手可能とされた電子テキスト版を含む)が、その本の読み上げ機能又はそのテキストを特定の形式へ変更する画面リーダーの使用を不可能とするようなアクセス・コントロールを含む場合の、電子ブック形式で頒布された文芸作品。

 2006年版の規則(著作権局のHP参照)と比べてみると分かるが、特に新しいのは、(1)の教育を目的としたDVDリッピングの合法化、(2)の相互運用性を目的とした携帯電話のDRM回避の合法化と(4)のセキュリティ検査のためのDRM回避の合法化である。前からあるものではあるが、(3)でSIM解除が合法化されており、(6)で電子ブックのDRM回避が合法化されていることも注目に値する。このような教育目的でのDVDリッピングやiPhoneのジェイルブレイク合法化などは問題の多少の緩和には役立つだろうが、これだけではDMCAの問題がおよそ解決されるとするにはほど遠い。

 例によって条約などで自国の規制を押し付けようとしているアメリカも、DRM回避規制についてはご覧の有様であり、このようなアメリカの法制度は、良いものとは全く思えない上、そのまま日本に持ち込もうとした場合、ほとんど破綻するに違いないと私には思えるのである。アクセスコントロールの私的な回避自体を著作権法や不正競争法で規制することにはそもそもの法目的から来る無理が存在しているし、技術やサービスといった曖昧なものにまで規制対象を拡大すると対象範囲があまりにも広がりすぎ、本来正当なものとして認められるべき著作物へのアクセスまで阻害されることになるだろうし、製造まで規制されるとなると、必然的に企業や大学等における研究・技術開発まで不当に阻害されることになるだろう。

 一般的な形も含めて適正な制限・例外を随時作ることによる問題解決の可能性を完全に否定することはできないが、これだけ詳細に制限・例外を作っているアメリカにおいてすら、有効にそれが機能しているとは言い難い状態にある上、日本の文化庁や経産省などの役所における検討で広く一般的な制限・例外を作ることが極度に忌避されるという現状では、このような制限・例外による問題解決はほとんど不可能と私は考えている。今検討されている非常に狭い日本版フェアユース条項で、一般的な研究や技術開発が救われることなど無論なく、アメリカでは議会図書館がiPhoneのジェイルブレイク合法化を認める規則を作っているが、日本の文化庁がこのような規則を作ることなどその普段の振る舞いから考えて絶対にあり得ないと断言できる。

 文化庁の検討会にも、経産省の検討会にも、一応メーカー代表が参加しているので、新たな技術開発を完全に萎縮させるようなバカげた規制強化がすんなりと通るという可能性はそれなりに低いと思うが、メーカーも情報収集力などの点で頼りないところがある上、日本のメーカーの独特の論理で動くので、今後の検討の行方はかなり不安である。場合によっては、また不合理な規制強化で、長年に渡って日本の経済と文化の正常な発展が阻害されることになりかねないと私は強く危惧している。

 最近のニュースとしては、「P2Pとかその辺のお話」で取り上げられているように、フランスで司法判断を必要とするタイプの3ストライク法が予定を大幅に遅れてようやく動き始めたということや(関連エントリ参照)、欧州議会で知財保護の強化を訴えるギャロ・レポートが採択されたことなどがあり(関連エントリ参照)、また、ACTAについての記事も紹介されているので、興味のある方是非リンク先をご覧頂ければと思う。

 すぐにACTAの現在の条文案が公開されるようなら、また問題箇所の翻訳紹介をしたいと思っているが、そうすぐに公開される気もしないので、次回は、また別の話になるのではないかと思っている。

(2010年10月5日夜の追記:内容は変えていないが、少し文章を整えた。また、外務省からもACTA交渉会合に関するリリースがあったので一番上の参照リンクに追加した。)

(2010年10月7日の追記:バラバラにしておく意味はもうあまり無い気がするので、このブログにもtwitterのつぶやきを表示するようにしてみた。

 経産省から技術的制限手段小委員会の議事要旨が公開されたので、上の参照中にもリンクを追加した。また、twitterのつぶやきにも書いているが、公式公開より先に10月2日版のACTAの条文案がリークされたので(keionline.orgの記事、オタワ大教授マイケル・ガイスト氏のブログ記事参照)、次回も続けてACTAの話を書きたいと思う。)

(2010年10月9日の追記:10月6日付けで外務省HPに海賊版対策条約の現在の条文案(pdf)が載せられていたようなので、念のため、ここにもリンクを張っておく。よほど国民にとって不都合がことが書いてあるのか、人を心底バカにしているのか知らないが、今度の条文案公開には報道発表も概要もついていない。)

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2008年10月18日 (土)

第120回:アメリカで成立した知財改正法(PRO-IP法)

 前回の追記で少し書いたが、残念ながら、アメリカで知財法の改正が大統領の署名を得て成立してしまったので、今回は、このアメリカの法改正について突っ込みを入れておきたいと思う。(前回、WIREDの記事PC MAGAZINEの記事へリンクを張ったが、さらに日本語の参考記事として、CNETの記事AFPの記事IP NEXTの記事に、英語の参考記事として、ホワイトハウスのプレスリリースへのリンクを張っておく。)

 一番のトンデモ改正事項であった司法省(国家)に民事訴訟提起権を与えるという事項こそ削除されたものの、この改正法で創設される知財エンフォースメントコーディネーターが何をしてくるか得体の知れないところがあるのも確かに事実である。

 このPRO-IP法(正式名称は、"Prioritizing Resources and Organization for Intellectual Property Act"、直訳すれば、「知財のためのリソース・組織強化法」になるが、単なる語呂合わせで決めた名前だろう。原文はアメリカ著作権局のpdfファイルアメリカ議会図書館の改正法案ページなど参照。現行のアメリカ著作権法の条文も著作権局のHPで見られる。)の章立ては以下の通りである。

第1章 民事知財法の強化
第2章 刑事知財法の強化
第3章 知財侵害に対する連邦の取り組みの調整と戦略的プランニング
第4章 司法省強化プログラム
第5章 その他

 第1章では、民事事件において、著作権侵害品だけではなく、製造販売の記録なども押収できるとすること(改正法の第102条:著作権法の第503(a)条の改正)や、商標法の法定賠償額を倍額に引き上げること(第104条:商標法の第53(c)の改正。なお、去年最もトンデモ視されていた、著作権法における法定賠償額の計算方法の変更は入っていない。)、著作権侵害品の輸入だけではなく輸出も侵害とすること(第105条:著作権法第6章の改正)などが書かれている。

 また、第2章では、刑事事件における没収などについて、知財(商標・著作権)侵害品と侵害品を製造するための道具・デバイス・装置について可能と今まで割と限定的な書き方がされていたものを、侵害品と侵害品の製造・取引に使われるあらゆる物品などと漠然とした書き方に変え、侵害によって故意に人の死を引き起こした場合は終身刑まで可能とする(第202~206条:刑法における財産権侵害規定の改正)などの改正を加えている。知財侵害で故意に人の死を引き起こすなどという現実的にあり得るとも思えないケースを想定して最高刑を終身刑とすることもどうかと思うが、特に改正法の第206条の、以下のような、没収物件の規定の曖昧さは、刑事事件や行政事件において、ユーザーやネット事業者にとって相当致命的な運用を招く恐れがあるように私は思う。(アメリカのことなので、最終的には裁判で何らかのセーフハーバーが作られることと思うが、それまでかなりの運用の混乱が生じるのではないだろうか。)

(1) PROPERTY SUBJECT TO FORFEITURE.-The following property is subject to forfeiture to the United States Government:
(A) Any article, the making or trafficking of which is, prohibited under section 506 of title 17, or section 2318, 2319, 2319A, 2319B, or 2320, or chapter 90, of this title.
(B) Any property used, or intended to be used, in any manner or part to commit or facilitate the commission of an offense referred to in subparagraph (A).
(C) Any property constituting or derived from any proceeds obtained directly or indirectly as a result of the commission of an offense referred to in subparagraph (A).

(1)没収対象財産-次の財産は合衆国政府の没収の対象となる:
(A)この章(訳注:刑法)の第2318条、2319条、2319A条、2320条あるいは第90章、又は、第17章(訳注:著作権法)の第506条で禁止されている、あらゆる物品、及び、その製造あるいは取引をするあらゆる物品。
(B)どんな形あるいは部分であれ、、小段落(A)に記載されている犯罪行為をなすか、これを容易とすることに、使用されたか、使用されることを目的としたあらゆる財産。
(C)小段落(A)に記載されている犯罪行為の結果として、直接的であれ間接的であれ得られた利益を構成するか、そこから派生した財産。

 第3章には、知財エンフォースメントコーディネーターなどについて規定されているのだが、その第301条の規定に、

SEC. 301. INTELLECTUAL PROPERTY ENFORCEMENT COORDINATOR.
(a) INTELLECTUAL PROPERTY ENFORCEMENT COORDINATOR.-
The President shall appoint, by and with the advice and consent of the Senate, an Intellectual Property Enforcement Coordinator (in this title referred to as the "IPEC") to serve within the Executive Office of the President. As an exercise of the rulemaking power of the Senate, any nomination of the IPEC submitted to the Senate for confirmation, and referred to a committee, shall be referred to the Committee on the Judiciary.

(b) DUTIES OF IPEC.-
(1) IN GENERAL.-The IPEC shall-
(A) chair the interagency intellectual property enforcement advisory committee established under subsection (b)(3)(A);
(B) coordinate the development of the Joint Strategic Plan against counterfeiting and infringement by the advisory committee under section 303;
(C) assist, at the request of the departments and agencies listed in subsection (b)(3)(A), in the implementation of the Joint Strategic Plan;
(D) facilitate the issuance of policy guidance to departments and agencies on basic issues of policy and interpretation, to the extent necessary to assure the coordination of intellectual property enforcement policy and consistency with other law;
(E) report to the President and report to Congress, to the extent consistent with law, regarding domestic and international intellectual property enforcement programs;
(F) report to Congress, as provided in section 304, on the implementation of the Joint Strategic Plan, and make recommendations, if any and as appropriate, to Congress for improvements in Federal intellectual property laws and enforcement efforts; and
(G) carry out such other functions as the President may direct.

第301条 知財エンフォースメントコーディネーター
(a)知財エンフォースメントコーディネーター
 大統領は、上院の助言と可決を受け、知財エンフォースメントコーディネーター(以下、「IPEC」と略す)を大統領府に任命する。上院の規則制定権に従い、IPECの指名は全て、可決のために上院に送られ、委員会に付託されるが、付託先は司法委員会である。

(b)IPECの責務-
(1)一般的に、IPECは、
(A)段落(b)(3)(A)に規定される省庁横断知財エンフォースメント諮問委員会の委員長を務め;
(B)第303条の規定の下で諮問委員会によって作成される侵害対策戦略総合計画の作成を調整し;
(C)段落(b)(3)(A)で列挙されている省庁の求めに応じて、戦略総合計画の実施を支援し;
(D)知財エンフォースメント政策を調整し、他の法律と一致させるために必要な限度で、省庁の基本的な政策・解釈事項に対する政策的ガイダンスの発行に助言をし;
(E)法律に規定された範囲で、国内外の知財エンフォースメントプログラムに関する報告を、大統領と議会に対して行い;
(F)第304条に規定されているように、総合戦略計画の実施について、議会へ報告し、適切なときに、合衆国における財法とエンフォースメント努力に関する改善について提案を行う。

とあるように、権利の直接エンフォースこそ含まれていないものの、その権限はかなり漠とした形で書かれており、選ばれた人間の政治力次第ではかなりのことが出来ると思われる。特に、議会に直接報告・提言をできる権限は大きいだろう。(なお、この第301条の第(2)段落では、IPECは権利の直接エンフォースをしないことが、第(3)段落では、諮問委員会は知財関連の各省庁から代表が選ばれて構成されることが書かれている。)

 第303条で規定されている総合戦略計画の内容も、知財のエンフォースにおける構造的欠陥を指摘することなど、知財の保護強化のことしか頭になく、このようなコーディネーターや計画の創設は、アメリカを知財のさらなる保護強化へと闇雲に邁進させることにしか、今のアメリカにおける著作権戦争の混乱をなおさら助長することにしかつながらないのではないかというのが私の予想である。(日本の知財本部も保護強化を図ることしかほぼ考えて来なかったことを考え合わせて見ると良い。公正利用の権利制限などの知財規制の緩和が、日本政府内でそれなりの具体性とともに検討され出したのはごく最近になってからのことである。)

 どんな盾にも両面はあるので、知財の行き過ぎた保護強化に伴い生じている問題があるということもまた忘れてはいけない重要な点なのだが、アメリカでも、この認識は政治レベルにまでなかなか浸透しないと見えるのは非常に残念である。

 アメリカ国内だけでやっててくれる分だけなら好きにやっててもらっても良いのだが、国際的な知財エンフォースメントも含めて計画を作り、報告をするとされている点は特に気味が良くない。人によっては日本に対する知財保護強化の圧力が強まることも十分以上に考えられる。きちんとした合理的な判断が出来る人物がこのポストに選ばれることを私は祈っているが、アメリカの政策動向は引き続き要注意である。

(なお、第4章では、知財エンフォースのために各州へ助成金が出されることや、FBIの人員が増強されることなどが規定されている。)

 さて、去年から今年の夏にかけて大騒ぎとなった青少年ネット規制法の政省令案がパブコメ(総務省のプレスリリース電子政府の該当ページinternet watchの記事参照)にかかっているので、次回はこの話を。

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