2023年12月28日 (木)

第488回:2023年の終わりに(文化庁のAIと著作権に関する考え方の素案、新秘密特許(特許非公開)制度に関するQ&A他)

 今年は大きな法改正をしたばかりの所為か、特に年末年始に掛けて知財法改正パブコメがこぞって出されるという状況にはなっていないが、1年の終わりに各省庁の動きについてまとめて取り上げておきたいと思う。

(1)文化庁のAIと著作権に関する考え方の素案
 文化庁では文化審議会・著作権分科会の下で小委員会または部会として、法制度小委員会政策小委員会使用料部会の3つが動いている。

 使用料部会では権利者不明の場合の補償金額の決定などが行われている。まだ関係者ヒアリングの段階だが、私的録音録画補償金問題も含めた対価還元のあり方について議論するらしい政策小委員会の検討についても私は要注意だと思っているが、今年最大の検討事項は法制度小委員会で検討されているAIと著作権の関係の整理と言って間違いないだろう。

 その骨子案について前回取り上げたが、12月20日の法制度小委員会の第5回で、より具体的な内容を含むAIと著作権に関する考え方について(素案)(pdf)が示された。

 長くなるが、この素案の5.から特に重要な部分を以下に抜粋する。

5.各論点について

○ 著作権法の基本的な考え方と技術的な背景を踏まえ、生成AIに関する懸念点について、以下のとおり論点が整理できるのではないか。〔〕内は骨子案の項目との対応関係

(1)学習・開発段階
(中略:「ア 検討の前提」)

イ「情報解析の用に供する場合」と享受目的が併存する場合について〔骨子案:(1)イ、キ〕
(ア)「情報解析の用に供する場合」の位置づけについて
○ 法第30条の4柱書では、「次に掲げる場合その他の当該著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合には」と規定し、その上で、第2号において「情報解析(……)の用に供する場合」を挙げている。

○ そのため、AI学習のために行われるものを含め、情報解析の用に供する場合は、法第30条の4に規定する「当該著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合」に該当すると考えられる。

(イ)非享受目的と享受目的が併存する場合について
○ 他方で、一個の利用行為には複数の目的が併存する場合もあり得るところ、法第30条の4は、「当該著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合には」と規定していることから、この複数の目的の内にひとつでも「享受」の目的が含まれていれば、同条の要件を欠くこととなる。

○ そのため、ある利用行為が、情報解析の用に供する場合等の非享受目的で行われる場合であっても、この非享受目的と併存して、享受目的があると評価される場合は、法第30条の4は適用されない。

○ 生成AIに関して、享受目的が併存すると評価される場合について、具体的には以下のような場合が想定される。
≫ ファインチューニングのうち、意図的に、学習データをそのまま出力させることを目的としたものを行うため、著作物の複製等を行う場合。
(例)いわゆる「過学習」(overfitting)を意図的に行う場合
≫ AI学習のために用いた学習データを出力させる意図は有していないが、既存のデータベースやWeb上に掲載されたデータの全部又は一部を、生成AIを用いて出力させることを目的として、著作物の内容をベクトルに変換したデータベースを作成する等の、著作物の複製等を行う場合。
(例)以下のような検索拡張生成(RAG)のうち、生成に際して著作物の一部を出力させることを目的としたもの(なお、RAGについては後掲(1)ウも参照)
≫ インターネット検索エンジンであって、単語や文章の形で入力された検索クエリをもとにインターネット上の情報を検索し、その結果をもとに文章の形で回答を生成するもの
≫ 企業・団体等が、単語や文章の形で入力された検索クエリをもとに企業・団体等の内部で蓄積されたデータを検索できるシステムを構築し、当該システムが、検索の結果をもとに文章の形で回答を生成するもの

○ これに対して、「学習データをそのまま出力させる意図までは有していないが、少量の学習データを用いて、学習データの影響を強く受けた生成物が出力されるようなファインチューニングを行うため、著作物の複製等を行う場合」に関しては、具体的事案に応じて、学習データの著作物の表現上の本質的特徴を直接感得できる生成物を出力することが目的であると評価される場合は、享受目的が併存すると考えられる。

○ 近時は、特定のクリエイターの作品である著作物のみを学習データとしてファインチューニングを行うことで、当該作品群の影響を強く受けた生成物を生成することを可能とする行為が行われており、このような行為によって特定のクリエイターの、いわゆる「作風」を容易に模倣できてしまうといった点に対する懸念も示されている。このような場合、当該作品群は、表現に至らないアイデアのレベルにおいて、当該クリエイターのいわゆる「作風」を共通して有しているにとどまらず表現のレベルにおいても、当該作品群には、これに共通する表現上の本質的特徴があると評価できる場合もあると考えられることに配意すべきである。

○ なお、生成・利用段階において、AIが学習した著作物に類似した生成物が生成される事例があったとしても、通常、このような事実のみをもって開発・学習段階における享受目的の存在を推認することまではできず、法第30条の4の適用は直ちに否定されるものではないと考えられる。他方で、生成・利用段階において、学習された著作物に類似した生成物の生成が頻発するといった事情は、開発・学習段階における享受目的の存在を推認する上での一要素となり得ると考えられる。

ウ 検索拡張生成(RAG)等について〔骨子案:(1)ウ、(2)コ〕
○ 検索拡張生成(RAG)その他の、生成AIによって著作物を含む対象データを検索し、その結果の要約等を行って回答を生成するもの(以下「RAG等」という。)については、生成に際して既存の著作物の一部を出力するものであることから、その開発のために行う著作物の複製等は、非享受目的の利用行為とはいえず、法第30条の4は適用されないと考えられる。

○ 他方で、RAG等による回答の生成に際して既存の著作物を利用することについては、法第47条の5第1項第1号又は第2号の適用があることが考えられる。ただし、この点に関しては、法第47条の5第1項に基づく既存の著作物の利用は、当該著作物の「利用に供される部分の占める割合、その利用に供される部分の量、その利用に供される際の表示の精度その他の要素に照らし軽微なもの」(軽微利用)に限って認められることに留意する必要がある。RAG等による生成に際して、この「軽微利用」の程度を超えて既存の著作物を利用する場合は、法第47条の5第1項は適用されず、原則として著作権者の許諾を得て利用する必要があると考えられる。

○ また、RAG等のために行うベクトルに変換したデータベースの作成等に伴う、既存の著作物の複製又は公衆送信については、同条第2項に定める準備行為として、権利制限規定の適用を受けることが考えられる。

【著作権者の利益を不当に害することとなる場合について】
エ 著作権者の利益を不当に害することとなる場合の具体例について〔骨子案:(1)エ〕
(ア)法第30条の4ただし書の解釈に関する考え方について
○ 法第30条の4においては、そのただし書において「当該著作物の種類及び用途並びに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。」と規定し、これに該当する場合は同条が適用されないこととされている。

○ この点に関して、本ただし書は、法第30条の4本文に規定する「当該著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合」に該当する場合にその適用可否が問題となるものであることを前提に、その該当性を検討することが必要と考えられる。

○ また、本ただし書への該当性を検討するに当たっては、著作権者の著作物の利用市場と衝突するか、あるいは将来における著作物の潜在的販路を阻害するかという観点から検討することが必要と考えられる。

(イ)アイデア等が類似するにとどまるものが大量に生成されることについて
○ 本ただし書において「当該著作物の」と規定されているように、著作権者の利益を不当に害することとなるか否かは、法第30条の4に基づいて利用される当該著作物について判断されるべきものと考えられる。
(例)AI学習のための学習データとして複製等された著作物

○ 作風や画風といったアイデア等が類似するにとどまり、既存の著作物との類似性が認められない生成物は、これを生成・利用したとしても、既存の著作物との関係で著作権侵害とはならない。また、既存の著作物とアイデア等が類似するが、表現として異なる生成物が市場において取引されたとしても、これによって直ちに当該既存の著作物の取引機会が失われるなど、市場において競合する関係とはならないと考えられる。

○ そのため、著作権法が保護する利益でないアイデア等が類似するにとどまるものが大量に生成されることにより、自らの市場が圧迫されるかもしれないという抽象的なおそれのみでは、「著作権者の利益を不当に害することとなる場合」には該当しないと考えられる。

○ なお、この点に関しては、上記イ(イ)のとおり、特定のクリエイターの作品である著作物のみを学習データとしてファインチューニングを行う場合、当該作品群が、当該クリエイターの作風を共通して有している場合については、これにとどまらず、表現のレベルにおいても、当該作品群には、これに共通する表現上の本質的特徴があると評価できる場合もあると考えられることに配意すべきである。

(中略:「(ウ)情報解析に活用できる形で整理したデータベースの著作物の例について」)

(エ)学習のための複製等を防止する技術的な措置を回避した複製について〔骨子案:(1)コ〕
○ AI学習のための著作物の複製等を防止する技術的な措置としては、現時点において既に広く行われているものが見受けられる。こうした措置をとることについては、著作権法上、特段の制限は設けられておらず、権利者やウェブサイトの管理者の判断によって自由に行うことが可能である。
(例)ウェブサイト内のファイル"robots.txt"への記述によって、AI学習のための複製を行うクローラによるウェブサイト内へのアクセスを制限する措置
(例)ID・パスワード等を用いた認証によって、ウェブサイト内へのアクセスを制限する措置

○ このような技術的な措置は、あるウェブサイト内に掲載されている多数のデータを集積して、情報解析に活用できる形で整理したデータベースの著作物として販売する際に、当該データベースの販売市場との競合を生じさせないために講じられている例がある(データベースの販売に伴う措置、又は販売の準備行為としての措置)。

○ そのため、このような技術的な措置が講じられており、当該ウェブサイト内のデータを含み、情報解析に活用できる形で整理したデータベースの著作物が将来販売される予定があることが推認される場合、この措置を回避して行うAI学習のための複製等は、当該データベースの著作物の将来における潜在的販路を阻害する行為として、通常、法第30条の4ただし書に該当し、同条による権利制限の対象とはならないと考えられる。

○ なお、このような技術的な措置が、著作権法に規定する「技術的保護手段」又は「技術的利用制限手段」に該当するか否かは、現時点において行われている技術的な措置が、従来、「技術的保護手段」又は「技術的利用制限手段」に該当すると考えられてきたものとは異なることから、今後の技術の動向も踏まえ検討すべきものと考えられる。

(オ)海賊版等の権利侵害複製物をAI学習のため複製することについて
○ インターネット上のデータが海賊版等の権利侵害複製物であるか否かは、究極的には当該複製物に係る著作物の著作権者でなければ判断は難しく、AI学習のため学習データの収集を行おうとする者にこの点の判断を求めることは、現実的に難しい場合が多いと考えられる。加えて、権利侵害複製物という場合には、漫画等を原作のまま許諾なく多数アップロードした海賊版サイトに掲載されているようなものから、SNS等において個人のユーザーが投稿する際に、引用等の権利制限規定の要件を満たさなかったもの等まで様々なものが含まれる。

○ このため、AI学習のため、インターネット上において学習データを収集する場合、収集対象のデータに、海賊版等の、著作権を侵害してアップロードされた複製物が含まれている場合もあり得る。

○ 他方で、海賊版により我が国のコンテンツ産業が受ける被害は甚大であり、リーチサイト規制を含めた海賊版対策を進めるべきことは論を待たない。文化庁においては、権利者及び関係機関による海賊版に対する権利行使の促進に向けた環境整備等、引き続き実効的かつ強力に海賊版対策に取り組むことが期待される。

○ AI開発事業者やAIサービス提供事業者においては、学習データの収集を行うに際して、海賊版を掲載しているウェブサイトから学習データを収集することで当該ウェブサイトの運営を行う者に広告収入その他の金銭的利益を生じさせるなど、当該行為が新たな海賊版の増加といった権利侵害を助長するものとならないよう十分配慮した上でこれを行うことが求められる。

○ また、後掲(2)キのとおり、生成・利用段階で既存の著作物の著作権侵害が生じた場合、AI開発事業者又はAIサービス提供事業者も、当該侵害行為の主体として責任を負う場合があり得る。ウェブサイトが海賊版等の権利侵害複製物を掲載していることを知りながら、当該ウェブサイトから学習データの収集を行うといった行為は、厳にこれを慎むべきものであり、仮にこのような行為があった場合は、当該AI開発事業者やAIサービス提供事業者が、これにより開発された生成AIにより生じる著作権侵害について、その関与の程度に照らして、規範的な行為主体として侵害の責任を問われる可能性が高まるものと考えられる(AI開発事業者又はAIサービス提供事業者の行為主体性について、後掲(2)キも参照)。

(中略:【侵害に対する措置について】「オ AI学習に際して著作権侵害が生じた際に、学習を行った事業者が受け得る措置について」、「カ AI学習に際して著作権侵害が生じた際に、権利者による差止請求等が認められ得る範囲について」)

【その他の論点について】
キ AI学習における、法第30条の4に規定する「必要と認められる限度」について〔骨子案:(1)ク〕
○ 法第30条の4では、「その必要と認められる限度において」といえることが、同条に基づく権利制限の要件とされている。

○ この点に関して、大量のデータを必要とする機械学習(深層学習)の性質を踏まえると、AI学習のために複製等を行う著作物の量が大量であることをもって、「必要と認められる限度」を超えると評価されるものではないと考えられる。

ク AI学習を拒絶する著作権者の意思表示について〔骨子案:(1)ケ〕
○ 著作権法上の権利制限規定は、①著作物利用の性質からして著作権が及ぶものとすることが妥当でないもの、②公益上の理由から著作権を制限することが必要と認められるもの、③他の権利との調整のため著作権を制限する必要のあるもの、④社会慣行として行われており著作権を制限しても著作権者の経済的利益を不当に害しないと認められるものなどについて、文化的所産の公正な利用に配慮して、著作権者の許諾なく著作物を利用できることとするものである。

○ このような権利制限規定の立法趣旨からすると、著作権者が反対の意思を示していることそれ自体をもって、権利制限規定の対象から除外されると解釈することは困難である。また、AI学習のための学習データの収集は、クローラ等のプログラムによって機械的に行われる例が多いことからすると、当該プログラムにおいて機械的に判別できない方法による意思表示があることをもって権利制限規定の対象から除外してしまうと、学習データの収集を行う者にとって不測の著作権侵害を生じさせる懸念がある。そのため、こうした意思表示があることのみをもって、法第30条の4ただし書に該当するとは考えられない。

○ 他方で、このようなAI学習を拒絶する著作権者の意思表示が、機械可読な方法で表示されている場合、上記の不測の著作権侵害を生じさせる懸念は低減される。また、このような場合、上記エ(エ)のとおり、AI学習のための著作物の複製等を防止する技術的な措置が講じられており、当該ウェブサイト内のデータを含み、情報解析に活用できる形で整理したデータベースの著作物が将来販売される予定があることが推認される場合、この措置を回避して行うAI学習のための複製等は、当該データベースの著作物の将来における潜在的販路を阻害する行為として、通常、法第30条の4ただし書に該当し、同条による権利制限の対象とはならないと考えられる。

(中略:「ケ 法30条の4以外の権利制限規定の適用について」)

(2)生成・利用段階
(中略:「ア 検討の前提」)

【著作権侵害の有無の考え方について】
イ 著作権侵害の有無の考え方について
○ 従前の裁判例では、ある作品に、既存の著作物との類似性と依拠性の両者が認められる際に、著作権侵害となるとされており、生成AIを利用した場合にこれらが認められる場合については、以下のように考えられる。

(ア)類似性の考え方について〔骨子案:(2)ク〕
○ AI生成物と既存の著作物との類似性の判断については、生成AIをどのように利用したかといった制作過程ではなく、生成物そのものが既存の著作物に類似していると認められるかのみを判断すれば良いものであることから、原則として、人間がAIを使わずに創作したものと同様に考えられる。

(イ)依拠性の考え方について〔骨子案:(2)ア、イ〕
○ 依拠性の判断については、従来の裁判例では、ある作品が、既存の著作物に類似していると認められるときに、当該作品を制作した者が、既存の著作物の表現内容を認識していたことや、同一性の程度の高さなどによりその有無が判断されてきた。特に、人間の創作活動においては、既存の著作物の表現内容を認識しえたことについて、その創作者が既存の著作物に接する機会があったかどうかなどにより推認されてきた。

○ 一方、生成AIの場合、その開発のために利用された著作物を、生成AIの利用者が認識していないが、当該著作物に類似したものが生成される場合も想定され、このような事情は、従来の依拠性の判断に影響しうると考えられる。

○ そこで、従来の人間が創作する場合における依拠性の考え方も踏まえ、生成AIによる生成行為について、依拠性が認められるのはどのような場合か、整理することとする。
① AI利用者が既存の著作物を認識していたと認められる場合
▽ 生成AIをした場合であっても、AI利用者が既存の著作物(その表現内容)を認識しており、生成AIを利用してこれと類似したものを生成させた場合は、依拠性が認められ、AI利用者による著作権侵害が成立すると考えられる。
(例)ImagetoImage(画像を生成AIに指示として入力し、生成物として画像を得る行為)のように、既存の著作物そのものや、その題号などの特定の固有名詞を入力する場合
▽ この点に関して、従来の裁判例においては、被疑侵害者の既存著作物へのアクセス可能性、すなわち既存の著作物に接する機会があったことや、類似性の程度の高さ等の間接事実により、既存の著作物の表現内容を知っていたことが推認されてきた。
▽ このような従来の裁判例を踏まえると、生成AIが利用された場合であっても、権利者としては、被疑侵害者において既存著作物へのアクセス可能性や、既存著作物への高度な類似性があること等を立証すれば、依拠性があると推認されることとなる。
②AI利用者が既存の著作物を認識していなかったが、AI学習用データに当該著作物が含まれる場合
▽ AI利用者が既存の著作物(その表現内容)を認識しておらず、かつ、当該生成AIの開発・学習段階で、当該著作物を学習していなかった場合は、当該生成AIを利用し、当該著作物に類似した生成物が生成されたとしても、これは偶然の一致に過ぎないものとして、依拠性は認められず、著作権侵害は成立しないと考えられる。
▽ 一方、AI利用者が既存の著作物(その表現内容)を認識していなかったが、当該生成AIの開発・学習段階で当該著作物を学習していた場合については、客観的に当該著作物へのアクセスがあったと認められることから、当該生成AIを利用し、当該著作物に類似した生成物が生成された場合は、通常、依拠性があったと認められ、著作権侵害になりうると考えられる。
▽ ただし、このような場合であっても、当該生成AIについて、開発・学習段階において学習に用いられた著作物が、生成・利用段階において生成されないような技術的な措置が講じられているといえること等、当該生成AIが、学習に用いられた著作物をそのまま生成する状態になっていないといえる事情がある場合には、AI利用者において当該事情を反証することにより、依拠性がないと判断される場合はあり得ると考えられる。
▽ なお、生成AIの開発・学習段階で既存の著作物を学習していた場合において、AI利用者が著作権侵害を問われた場合、後掲(2)キのとおり、当該生成AIを開発した事業者においても、著作権侵害の規範的な主体として責任を負う場合があることについては留意が必要である。

ウ 依拠性に関するAI利用者の反証と学習データについて〔骨子案:(2)イ〕
○ 上記の場合は、被疑侵害者の側で依拠性がないことの反証の必要が生じることとなるが、上記のイ②で確認したように、生成AIを利用し生成された生成物が既存の著作物に類似していた場合であって、当該生成AIの開発に当該著作物を用いていた場合は、依拠性が認められる可能性が高いと考えれることから、被疑侵害者の側が依拠性を否定するためには、当該既存著作物が学習データに含まれていないこと等を反証する必要がある。

【侵害に対する措置について】
(中略:「エ 侵害に対する措置について」、「オ 利用行為が行われた場面ごとの判断について」)

カ 差止請求として取り得る措置について〔骨子案:(2)エ〕
○ 生成AIによる生成・利用段階において著作権侵害があった場合、侵害の行為に係る著作物等の権利者は、生成AIを利用し著作権侵害をした者に対して、新たな侵害物の生成及び、すでに生成された侵害物の利用行為に対する差止請求が可能と考えられる。この他、侵害行為による生成物の廃棄の請求は可能と考えられる。

○ また、生成AIの開発事業者に対しては、著作権侵害の予防に必要な措置として、侵害物を生成した生成AIの開発に用いられたデータセットがその後もAI開発に用いられる蓋然性が高い場合には、当該データセットから、当該侵害の行為に係る著作物等の廃棄を請求することは可能と考えられる。

○ また、侵害物を生成した生成AIについて、当該生成AIによる生成によって更なる著作権侵害が生じる蓋然性が高いといえる場合には、生成AIの開発事業者に対して、当該生成AIによる著作権侵害の予防に必要な措置を請求することができると考えられる。

○ この点に関して、侵害の予防に必要な措置としては、当該侵害の行為に係る著作物等の類似物が生成されないよう、例えば、①特定のプロンプト入力については、生成をしないといった措置、あるいは、②当該生成AIの学習に用いられた著作物の類似物を生成しないといった措置等の、生成AIに対する技術的な制限を付す方法などが考えられる。

【侵害行為の責任主体について】
キ 侵害行為の責任主体について〔骨子案:(2)オ〕
○ 従来の裁判例上、著作権侵害の主体としては、物理的に侵害行為を行った者が主体となる場合のほか、一定の場合に、物理的な行為主体以外の者が、規範的な行為主体として著作権侵害の責任を負う場合がある(いわゆる規範的責任論)。

○ そこで、AI生成物の生成・利用が著作権侵害となる場合の侵害の主体の判断に
おいても、物理的な行為主体であるAI利用者のみならず、生成AIの開発や、生成AIを用いたサービス提供を行う事業者が、著作権侵害の行為主体として責任を負う場合があると考えられる。

○ この点に関して、具体的には、以下のように考えられる。
①ある特定の生成AIを用いた場合、侵害物が高頻度で生成される場合は、事業者が侵害主体と評価される可能性が高まるものと考えられる。
②事業者が、生成AIの開発・提供に当たり、当該生成AIが既存の著作物の類似物を生成する可能性を認識しているにも関わらず、当該類似物の生成を抑止する技術的な手段を施していない場合、事業者が侵害主体と評価される可能性が高まるものと考えられる。
③事業者が、生成AIの開発・提供に当たり、当該生成AIが既存の著作物の類似物を生成することを防止する技術的な手段を施している場合、事業者が侵害主体と評価される可能性は低くなるものと考えられる。
④当該生成AIが、事業者により上記の(2)キ③の手段を施されたものであるなど侵害物が高頻度で生成されるようなものでない場合においては、たとえ、AI利用者が既存の著作物の類似物の生成を意図して生成AIにプロンプト入力するなどの指示を行い、侵害物が生成されたとしても、事業者が侵害主体と評価される可能性は低くなるものと考えられる。

(中略:【その他の論点】「ク 生成指示のための生成AIへの著作物の入力について」、「ケ 権利制限規定の適用について」、「コ 学習に用いた著作物等の開示が求められる場合について」)

(3)生成物の著作物性について
(中略:「ア 整理することの意義・実益について」)

イ 生成AIに対する指示の具体性とAI生成物の著作物性との関係について〔骨子案:(3)イ〕
○ 著作権法上の従来の解釈における著作者の認定と同様に考えられ、共同著作物に関する裁判例等に照らせば、生成AIに対する指示が表現に至らないアイデアにとどまるような場合には、当該AI生成物に著作物性は認められないと考えられる。

○ また、AI生成物の著作物性は、個々のAI生成物について個別具体的な事例に応じて判断されるものであり、単なる労力にとどまらず、創作的寄与があるといえるものがどの程度積み重なっているか等を総合的に考慮して判断されるものと考えられる。例として、著作物性の判断するに当たっては、以下の①~④に示すような要素があると考えられる。
①指示・入力(プロンプト等)の分量・内容
▽ AI生成物を生成するに当たって、表現と同程度の詳細な指示は、創作的寄与があると評価される可能性を高めると考えられる。他方で、長大な指示であったとしても表現に至らない指示は、創作的寄与の判断に影響しないと考えられる。
②生成の試行回数
▽ 試行回数が多いこと自体は、創作的寄与の判断に影響しないと考えられる。他方で、①と組み合わせた試行、すなわち生成物を確認し指示・入力を修正しつつ試行を繰り返すといった場合には、著作物性が認められることも考えられる。
③複数の生成物からの選択
▽ 単なる選択行為自体は創作的寄与の判断に影響しないと考えられる。他方で、通常創作性があると考えられる行為であっても、その要素として選択行為があるものもあることから、そうした行為との関係についても考慮する必要がある。
④生成後の加筆・修正
▽ 人間が、創作的表現といえる加筆・修正を加えた部分については、通常、著作物性が認められると考えられる。もっとも、それ以外の部分についての著作物性には影響しないと考えられる。

ウ 著作物性がないものに対する保護〔骨子案:(3)ウ〕
○ 著作物性がないものであったとしても、判例上、その複製や利用が、営業上の利益を侵害するといえるような場合には、民法上の不法行為として損害賠償請求が認められ得ると考えられる。

(4)その他の論点について
○ 学習済みモデルから、学習に用いられたデータを取り除くように、学習に用いられたデータに含まれる著作物の著作権者等が求め得るか否かについては、現状ではその実現可能性に課題があることから、将来的な技術の動向も踏まえて見極める必要がある。

○ また、著作権者等への対価還元という観点からは、法第30条の4の趣旨を踏まえると、AI開発に向けた情報解析の用に供するために著作物を利用することにより、著作権法で保護される著作権者等の利益が通常害されるものではないため、対価還元の手段として、著作権法において補償金制度を導入することは理論的な説明が困難であると考えられる。

○ 他方、コンテンツ創作の好循環の実現を考えた場合に、著作権法の枠内にとどまらない議論として、技術面や考え方の整理等を通じて、市場における対価還元を促進することについても検討が必要であると考えられる。

○ なお、著作物に当たらないものについて著作物であると称して流通させるという行為については、著作物のライセンス契約のような取引の場面においてこれを行った場合、契約上の債務不履行責任を生じさせるほか、取引の相手方を欺いて利用の対価等の財物を交付させた詐欺行為として、民法上の不法行為責任を問われることや、刑法上の詐欺罪に該当する可能性が考えられる。この点に関して、著作権法による保護が適切かどうかなど、著作権との関係については、引き続き議論が必要であると考えられる。

 上は抜粋と言ってもかなり長いので、ここで、私なりの概要を以下に作っておく。

(1)学習・開発段階

  • AI学習のための著作物の利用は原則として著作権法第30条の4の非享受目的利用の権利制限の対象となるが、意図的に、元の学習データの全部または一部をそのまま出力させる事を目的とする様な場合や、特別なファインチューニングによって学習データの元の著作物の表現上の本質的特徴を直接感得できる生成物を出力する事を目的とする様な場合や、機械可読な方法によって複製の禁止が示されている場合に複製をして学習データを作成する様な場合は対象とならない。
  • AIを用いた検索であって結果の一部を表示する様な場合は、著作権法第47条の5の軽微利用目的の権利制限の範囲内で許諾なく可能。
  • 海賊版サイトである事を知りながら、そこから学習データの収集を行って生成AIを開発した様な場合、その生成AIにより生じる著作権侵害について、その関与の程度に照らして、規範的な行為主体として侵害の責任を問われる可能性が高まる。

(2)生成・利用段階

  • AI生成物と既存の著作物との類似性の判断については、原則として、人間がAIを使わずに創作したものと同様。
  • 生成AIを用いた場合でも、AI利用者が既存の著作物を認識しており、既存の著作物の名称の様な特定の固有名詞を入力して出力を生成させるなど、既存の著作物と類似したものを生成させた場合や、利用者が認識していなかったとしても、AI学習用データに当該著作物が含まれ、類似した生成物が得られた場合などは、通常、依拠性が認められ、著作権侵害となり得る。
  • 利用者に対する差し止め等に加え、生成AIによって更なる著作権侵害が生じる蓋然性が高いといえる場合には、生成AIの開発事業者に対して、著作権侵害の予防に必要な措置として、特定のプロンプト入力による生成を禁止する、学習に用いられた著作物の類似物を生成しない措置の様な技術的な制限を求める事も考えられる。
  • その生成AIによって侵害物が高頻度で生成される場合や、既存の著作物の類似物を生成する可能性を認識しているにも関わらず、当該類似物の生成を抑止する技術的な手段を施していない場合などは、事業者が侵害主体と評価される可能性が高まる。

(3)生成物の著作物性

  • 著作権法上の従来の解釈における著作者の認定と同様に考えられ、生成AIに対する指示が表現に至らないアイデアにとどまるような場合には、当該AI生成物に著作物性は認められない。
  • 創作的寄与の判断要素としては、指示・入力(プロンプト等)の分量・内容、生成の試行回数、複数の生成物からの選択、生成後の加筆・修正が考えられる。

(4)その他

  • 今の所、著作権法において補償金制度を導入することは理論的な説明が困難。

 この素案に示されている考え方は現行法の解釈としておよそ妥当と言っていいものだが、細かな点で釘を刺しておきたい所もあるので、さらに来月の最終案を見た上でパブコメで意見を出す事を考えたいと思っている。

 前に書いた事の繰り返しになるが、ここで最も重要な事はAIの問題に絡めて権利者寄り・規制寄りに歪んだ著作権法改正をしようとしている様子が見られない事だろう。

(2)新秘密特許(特許制度)に関するQ&Aと管理ガイドライン
 第486回で取り上げた新秘密特許(特許制度)に関する府省令案について案が取れて12月18日に公布された事に合わせ(特許庁のHP1官報号外第265号参照)、内閣府の特許出願の非公開に関する制度のページ経済安全保障推進法の特許出願の非公開に関する制度のQ&A(pdf)損失の補償に関するQ&A(pdf)特許出願の非公開に関する制度における適正管理措置に関するガイドライン(第1版)(pdf)が公開された。

 これらの内、制度全体に関するQ&Aや適正管理措置に関するガイドラインは法令をそのままなぞって説明しているだけで新しい事が書かれているという事はほぼないので、ここでは、損失の補償に関するQ&Aから、特許出願を秘密とする保全指定を受けた場合の補償について各論として多少なりとも詳細化を試みているQ7~Q17を以下に抜き出しておく。

各論:補償対象・範囲について

Q7.保全指定期間中に、第三者が保全対象発明と同一の発明を国内出願せずに国内で実施している場合において、自身の特許権が留保されているため、特許権に基づく実施許諾料相当額の請求や損害賠償請求ができないことによる損失は補償の対象となりますか。

A7.例えば、第三者と特許権に基づく実施許諾契約を結んでいれば得られたはずであるが得られなかったであろう実施許諾料相当額や、損害賠償請求により得られたはずであるが得られなかったであろう第三者が実施により得た利益相当額について、保全指定を受けたことに起因し、かつ、保全指定を受けたことにより生ずることが社会通念上相当といえる損失であると認められる範囲で、補償の対象となり得ます。
 なお、一般的には、第三者の実施が判明した時点で保全指定の解除が検討される場合が多く、保全指定が解除されれば、特許手続が進み、出願公開されることとなります。その場合、特許法上、出願公開後は、保全対象発明と同一の発明を特許出願せずに国内で実施している第三者に対して、特許権の登録前の行為については、出願公開後、第三者に警告を発すれば、特許権の登録を待って、第三者に対して警告時に遡り補償金を請求することができますし(特許法第65条)、特許権の登録後の行為については、特許権を侵害するものとして、差止めや損害賠償請求ができます(特許法第100条・102条)。

Q8.保全指定期間中に、第三者が保全対象発明と同一の発明に関する特許権を外国で取得してしまい、外国で実施している場合において、外国出願が禁止されているために発生した損失は補償の対象となりますか。

A8.例えば、保全指定を受けなければ、当該国で特許出願をして当該第三者よりも先に特許権を取得していたと推認される場合にあっては、保全指定以後に、当該第三者より差止請求を受けて当該国における製品販売ができなくなったことによる逸失利益や、当該第三者が特許権を保有する状況下で当該国における製品販売を行うに当たり支払わなければならない実施許諾料相当額又は自身が当該国で特許権を取得していれば当該第三者に請求できたはずの実施許諾料相当額等から算定される逸失利益については、保全指定を受けたことに起因し、かつ、保全指定を受けたことにより生ずることが社会通念上相当といえる損失であると認められる範囲で、補償の対象となり得ます。

Q9.特許権に基づき発明の実施をすれば、市場独占や競合品との競争上の優位性により、通常より高い利益率の設定が見込まれるところ、保全対象発明について、実施は許可されたものの、特許権の留保により保全指定期間中における保全対象発明と同一の発明を特許出願せずに実施する第三者の市場参入に対抗できず、保全指定の解除後に当該第三者に対して権利行使をして競合品を排除するまでの間、通常より高い利益率を確保することができませんでした。結果、当初の計画では得られるはずだった利益が減少することになりましたが、この場合における利益の減少分は補償の対象となりますか。

A9.一般的には、第三者の実施が判明した時点で保全指定の解除が検討される場合が多いと考えられますが、競合品を排除するまでの間にかかる状況が生じた際、例えば、第三者が実施している状況下において確保できる利益率に基づく利益と、保全対象発明の実施が独占的であった場合に見込まれる利益率に基づく利益との間に差額が発生する場合には、その差額について、保全指定を受けたことに起因し、かつ、保全指定を受けたことにより生ずることが社会通念上相当といえる損失であると認められる範囲で、補償の対象となり得ます。

Q10.実施の許可で付された条件を満たすために、ブラックボックス化のための設計変更が必要になりました。設計変更により利益に差額が発生したことによる損失は補償の対象となりますか。

A10.設計変更により増加した経費の販売価格への反映状況等も踏まえながら、設計変更した後に得られる利益と、設計変更しなければ得られたであろう利益との間に差額が発生する場合には、その差額について、保全指定を受けたことに起因し、かつ、保全指定を受けたことにより生ずることが社会通念上相当といえる損失であると認められる範囲で、補償の対象となり得ます。

Q11.保全指定前に多額の開発・設備費用を投資して保全対象発明を生み出しましたが、発明の実施の不許可により製品販売をすることができず、あるいは、保全指定により特許権に基づく実施許諾料相当額の請求もできなくなったため、保全指定期間中、当該開発・設備投資費用を回収することができなくなりました。この場合において、保全指定期間中に回収不能となった開発・設備投資費用は補償の対象となりますか。

A11.開発・設備投資は、本来、製品販売や特許権に基づく実施許諾料等で利益をあげることによって回収が図られるものであり、回収できるだけの利益につながるかどうかは、製品の価値やその時々の需要、競合状況等に応じケースバイケースです。したがって、たとえ発明の実施が不許可とされたために、保全指定期間中に製品販売をすることができず、あるいは、保全指定を受けたために特許権に基づく実施許諾料相当額の請求ができなくなったとしても、開発・設備投資の額が直ちに「保全指定を受けたことによる損失」といえるものではありません。
 すなわち、補償の対象は、A2で述べたとおり、あくまで、保全指定を受けずに製造、販売できていた場合に比して失われた利益に係る損失や特許権に基づく実施許諾料相当額等を請求できないことにより失われた利益に係る損失であり、これらの額により開発・設備投資費用の一部又は全部が補償されることとなります。

Q12.競業者による特許出願(先願)が保全指定を受けて出願公開されていなかったため、先願の存在を知らずに偶々同じ技術を開発し、同一の発明を出願して保全指定を受けた場合、自ら(後願者)が当該技術の発明に要した開発・設備投資費用は補償の対象となりますか。

A12.先願が公開されていれば後願者が保全対象発明に費やすことがなかった開発・設備投資費用は、後願者が保全指定を受けたことに起因する損失ではないため、補償の対象とはなりません。
 なお、先願と同じ発明について保全指定を受けた後願者に対しては、以下の要件を満たせば、所定の範囲内において有償の通常実施権が認められます(法第81条)。
・法第66条第7項の規定により出願公開が行われなかったために、保全指定された先願の存在を認識せず、自己の発明が特許法第 29 条の2の規定により特許を受けることができないものであることを知らないで、先願の出願公開前に、日本国内において発明の実施である事業をし、又はその事業の準備をしていること
・自らの特許出願について拒絶査定又は拒絶の審決が確定したこと

Q13.外国出願をすることを前提に保全審査中に翻訳を発注していたところ、保全指定を受けたために、優先日を確保した状態での外国出願が出来なくなりました。この場合における翻訳費用は補償の対象となりますか。

A13.例えば、保全審査が終了するまでに翻訳の発注をせざるを得なかった事情や当該翻訳文の活用状況等を踏まえ、保全指定を受けたことに起因し、かつ、保全指定を受けたことにより生ずることが社会通念上相当といえる損失であると認められる範囲で、補償の対象となり得ます。

Q14.外国出願をすることを前提に保全審査中に外国代理人に手続を依頼していたところ、保全指定を受けたために、優先日を確保した状態での外国出願ができなくなりました。この場合における、外国代理人との手続に係る費用は補償の対象となりますか。

A14.例えば、保全審査が終了するまでに外国代理人に手続を依頼せざるを得なかった事情や手続費用の精算状況等を踏まえ、保全指定を受けたことに起因し、かつ、保全指定を受けたことにより生ずることが社会通念上相当といえる損失であると認められる範囲で、補償の対象となり得ます。

Q15.保全指定を受けたため、指定特許出願人が適正管理措置を講じるために要した経費は補償の対象となりますか。

A15.適正管理措置は、事業者が元来営業秘密等の社内秘の管理のために講じている措置の範囲内で対応できる場合が多いと考えられますが、例えば、事業者が元来講じている情報保全の措置では、適正管理措置には足りず、このために新たに機器の購入等を要した場合には、当該機器の保全対象発明以外への利用状況等も踏まえ、保全指定を受けたことに起因し、かつ、保全指定を受けたことにより生ずることが社会通念上相当といえる損失であると認められる範囲で、これに要した経費が補償の対象となり得ます。

各論:補償条件について

Q16.第三者から得られたであろう特許権に基づく実施許諾料相当額等を補償の対象として請求する場合には、保全指定の解除後に特許権を取得するのを待つ必要がありますか。

A16.保全指定を受けなければ特許権を取得していたであろうと認められれば、保全指定の解除前であっても請求は可能です。
 なお、保全指定期間中であっても、出願公開、特許査定及び拒絶査定以外の特許手続は留保されず(法第66条第7項)、審査請求(特許出願についての出願審査の請求)をして、特許査定の直前まで手続を進めることができるので、このような場合は、特許権を取得していたであろうと認められる確度が高まると考えられます。

各論:その他

Q17.保全指定前の事前意思確認の際に、補償金額を算定してくれますか。

A17.国による補償金額の算定は、損失が発生し、補償の請求を受けた後に行うものなので、国において、保全指定前にあらかじめ算定して提示することは難しいと考えています。

 この補償に関するQ&Aもかなり長く抜粋したが、概要としてまとめると、特許ライセンス料や損害賠償の請求ができない場合、第三者が保全対象発明と同一の発明に関する特許権を外国で取得した場合、第三者が特許出願をせずに同一の発明を実施した場合、保全対象発明のブラックボックス化のために設計変更をした場合、外国出願を準備していた場合などについて、保全指定と相当因果関係が認められる範囲内で逸失利益・損失・経費を補償すると言っているに過ぎない。

 また、保全指定を受けた後でも特許査定の直前まで手続きを進める事ができるといっても、あくまで直前までなので、出願が最終的に特許を受けられるかは制度上分かりようがないのだが、上の回答を見ると、特許権を取得していたであろうと認められる確度が何かしら補償金額の算定に関係して来るのかというさらなる疑問も湧く。

 そして、保全指定を実際に受けるより前に補償金額を示すのは困難という回答も予想通りだが、事前の意思確認の際に示してくれないと出願人としては指定を受けるかどうかの判断に困るのではないかと思え、本当にこの制度がまともに機能するのか甚だ怪しいように思える。

 結局、この新秘密特許制度では、特許権の付与によって権利の存在と範囲が確定する前に秘密とするべき保全指定がされてしまうので、その状態でどうやってどうやって保全指定と逸失利益との間の相当因果関係を示して具体的な額について決定するのか謎としか言い様がないが、これで予定されていたQ&Aなどは一通り出されたと見えるので、政府としてはこの点についてこれ以上説明をする事なく、2024年5月1日の施行まで突っ走るつもりなのだろう。

 もはや後は施行後の運用を見て行くしかないという状況にありながら、この制度ではその運用すら秘密になってしまうのでどうしようもないが、本当にこの制度が必要だったのか、今の形でまともに運用できるのか、私はいまだに大いに疑問に思っている。

(3)その他知財本部等における検討
 前回でも少し書いたが、他の省庁における検討についても取り上げておく。

 まず、知財本部では、かなり急ピッチで開催されているAI時代の知的財産権検討会に加え、知財計画2024に向けた検討を行う構想委員会の下に、コンテンツやクールジャパン戦略関連の検討を行うらしい、コンテンツ戦略ワーキンググループとCreate Japanワーキンググループという2つのワーキンググループが置かれ、12月22日に第1回の合同会議が開催されている。

 AIに関する政府検討という事では、AI戦略会議第7回が12月21日に開かれており、G7での国際指針の取りまとめの後、同じく特に規制的なものとなっているという事はないが、詳細なAI事業者ガイドライン案(pdf)概要(pdf)も参照)が示されている。なお、この新AIガイドライン案は、何故か経産省と総務省でともに会議が非公開とされているので詳細不明だが、経産省の方のAI事業者ガイドライン検討会と総務省の方のAIネットワーク社会推進会議で以前のそれぞれのAIガイドラインに基づき検討されていたものだろう。

 経済産業省・特許庁の産業構造審議会・知的財産分科会については、今年は各小委員会で制度改正の議論がされているという事はなく、不正競争防止小委員会で今回の法改正などを受けた限定提供データに関する指針や秘密情報の保護ハンドブックや外国公務員贈賄防止指針の改訂について、特許の審査基準専門委員会ワーキンググループでAI関連技術に関する事例の追加について、意匠審査基準ワーキンググループ商標審査基準ワーキンググループのそれぞれで今回の法改正などを受けた意匠審査基準の改訂について検討がされている。

 なお、各ガイドラインの改訂案は、内容としては特に問題なく法改正を反映したものなので、ここではその内容を細かく取り上げる事はしないが、丁度今現在、「限定提供データに関する指針(改訂案)」及び「秘密情報の保護ハンドブック(改訂案)」に対する意見募集が1月15日〆切で(電子政府のHP1参照)、「外国公務員贈賄防止指針(改訂案)」に対する意見募集が同じく1月15日〆切で(電子政府のHP2)、「商標審査基準」改訂案に対する意見募集が1月24日〆切で行われているので(電子政府のHP3参照)、ここで念のため紹介しておく。

 総務省では、前回取り上げた誹謗中傷等の違法・有害情報への対策に関するワーキンググループの上位検討会であるプラットフォームサービスに関する研究会も開かれており、12月12日の第51回で、ワーキンググループの報告書を取り込み、偽情報対策と利用者情報の取り扱いに関するモニタリング結果も含め、第三次とりまとめ(案)(pdf)が示されているが、これも特に問題がある内容が含まれているという事はない。なお、この取りまとめ案についても1月17日〆切で意見募集が行われている(電子政府のHP4参照)。

 また、どのように検討事項が切り分けられているのか、何か意味のある結果が出て来るのかいまいち不明だが、最近始まった総務省の有識者会議には、安心・安全なメタバースの実現に関する研究会デジタル空間における情報流通の健全性確保の在り方に関する検討会もある。

 そして、農水省では、新しい政策検討が行われている様子は見られないが、例年通り、地道に農業資材審議会・種苗分科会での種苗法における重要な形質の指定に関する諮問や地理的表示の申請登録などが行われている。

 知財政策に関して、生成AIの発展にともなう著作権法に関する議論と新秘密特許制度の施行準備が進められたという事が大きな動きとしてあり、今年はかなり慌ただしい一年だったと言えるだろう。

 最後に、いつもの口上となるが、政官業に巣食う全ての利権屋に悪い年を、そして、このブログを読んで下さっている方々に心からの感謝を。

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2023年11月12日 (日)

第486回:意見募集中の新秘密特許(特許非公開)制度関係府省令案

 新秘密特許(特許非公開)制度施行前のものとしては最後のものになるのだろうが、11月19日〆切で関係府省令案のパブコメが2つ出ているので、今回はその内容を見ておきたい。

 まず、1つ目の意見募集(電子政府の意見募集ページ1参照)の方の内閣府と経産省の共同府省令案(pdf)様式案1(pdf)も参照)の特許出願人側の手続きに関する主な部分を以下に抜粋する。(経済安全保障法による新秘密特許制度自体については第453回第461回、基本指針については第472回、政令については第480回参照。)

内閣府・経済産業省関係経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関する法律に基づく特許出願の非公開に関する命令

第一条(略:特許庁から内閣総理大臣への送付方法を規定)

(保全審査に付することを求める旨の申出)
第二条 法第六十六条第二項前段の規定による申出(以下この項において単に「申出」という。)は、次に掲げる事項を記載した様式第一による申出書によってしなければならない。
 申出に係る発明の内容及び法第六十五条第一項に規定する明細書等において当該発明が記載されている箇所
 申出の理由

(略:電子情報処理組織を使用して手続きができる事等を規定)

(送付をしない旨の判断をした旨の通知を求める申出)
第三条 法第六十六条第十項の規定による申出は、様式第二による申出書によってしなければならない。

 前項の申出書は、特許出願の日(特許出願が法第六十六条第四項の表の上欄に掲げる特許出願である場合にあっては、同表の上欄に掲げる区分に応じそれぞれ同表の下欄に掲げる日(当該特許出願が同表の上欄に掲げる区分の二以上に該当するときは、その該当する区分に係る同表の下欄に定める日のうち最も遅い日))から同条第一項に規定する政令で定める期間を経過する日までに提出しなければならない。

(略:前条第2~3項の準用等を規定)

第四条(略:第4条で出願の却下の処分の記載事項を規定)

(外国出願の禁止に関する事前確認)
第五条 法第七十九条第一項の規定による確認の求めは、次に掲げる事項を記載した様式第三による申出書によってしなければならない。
 法第七十八条第一項に規定する外国出願(次号及び第三号において単に「外国出願」という。)をしようとする者の氏名又は名称及び住所又は居所
 国若しくは国立研究開発法人(独立行政法人通則法(平成十一年法律第百三号)第二条第三項に規定する国立研究開発法人をいう。以下この号において同じ。)が委託した技術に関する研究及び開発又は国若しくは国立研究開発法人が請け負わせたソフトウェアの開発の成果に係る発明であって、その発明について特許を受ける権利につき産業技術力強化法(平成十二年法律第四十四号)第十七条第一項(国立研究開発法人が委託し又は請け負わせた場合にあっては、同条第二項において準用する同条第一項)の規定により国又は当該国立研究開発法人が譲り受けないこととしたものを記載した外国出願をしようとする場合にあっては、その旨
 国が委託した技術に関する研究及び開発の成果に係る発明であって、その発明について特許を受ける権利につき科学技術・イノベーション創出の活性化に関する法律(平成二十年法律第六十三号)第二十二条(第一号に係る部分に限る。)の規定により国がその一部のみを譲り受けたものを記載した外国出願をしようとする場合にあっては、その旨

 前項の申出書には、法第七十九条第一項の規定による確認の求めに係る発明(次項において単に「発明」という。)の内容を記載した書面及び必要な図面を添付しなければならない。

 前項の書面には、次に掲げる事項を記載しなければならない。
 発明の名称
 図面の簡単な説明
 発明の詳細な説明

 第二項の書面は様式第四により、同項の必要な図面は様式第五により作成しなければならない。

 第二項の書面に記載する事項及び必要な図面に含まれる説明は、英語で記載することができる。

 法第七十九条第六項に規定する手数料の納付は、第一項の申出書に、同条第五項に規定する政令で定める額に相当する収入印紙を貼って提出することによって行うものとする。

第六条(略:出願却下処分の謄本が送達される事を規定)

第七条(略:特許法施行規則の書面手続きに関する規定を準用)

 2つ目の意見募集(内閣府の意見募集ページ2参照)の方の内閣府令案(pdf)様式案2(pdf)も参照)からも特許出願人側の手続きに関する主な部分を以下に抜き出す。

経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関する法律に基づく特許出願の非公開に関する内閣府令

第一条(略:定義について規定)

第二条(略:書面による手続等について規定)

(保全審査における意見の聴取)
第三条 法第六十七条第一項の規定により保全審査をするに当たっては、明細書等に記載されている発明を公にすることにより外部から行われる行為によって国家及び国民の安全を損なう事態を生ずるおそれの程度及び保全指定をした場合に産業の発達に及ぼす影響その他の事情について、特許出願人の意見を聴くものとする。ただし、同条第二項の規定により特許出願人に対して資料の提出又は説明を求めることなく保全指定をする必要がないと判断できる場合は、この限りでない。

(保全対象発明となり得る発明の内容の通知)
第四条 法第六十七条第九項の規定による通知は、保全対象発明となり得る発明の内容及び明細書等において当該発明が記載されている箇所を記載した書面により行うものとする。

(法第六十七条第九項第三号の内閣府令で定める事項)
第五条 法第六十七条第九項第三号の内閣府令で定める事項は、同項第一号又は第二号に規定する事項に変更の予定がある場合における当該変更の内容とする。

(特許出願を維持する場合の手続)
第六条 法第六十七条第十項の規定による書類の提出は、様式第一によりしなければならない。

(保全指定の通知)
第七条 法第七十条第一項の規定による特許出願人及び特許庁長官への通知は、次の各号に掲げる事項を記載した書面により行うものとする。
 保全対象発明の内容及び明細書等において当該保全対象発明が記載されている箇所
 法第七十条第二項の規定により定めた保全指定の期間
 発明共有事業者に関する事項

(保全指定の期間の延長)
第八条 法第七十条第三項後段の規定により保全指定の期間を延長しようとするときは、あらかじめ、指定特許出願人の意見を聴くものとする。

(保全対象発明の実施の許可の申請書の記載事項)
第九条 法第七十三条第二項の内閣府令で定める事項は、次に掲げる事項とする。
 実施をしようとする者の氏名(法人にあっては、その名称及び代表者の氏名)及び住所又は居所
 実施をすることが必要な理由
 実施による保全対象発明に係る情報の漏えいの防止のために講ずる措置

(法第七十五条第一項の内閣府令で定める措置)
第十条 法第七十五条第一項の内閣府令で定める措置は、次に掲げる措置とする。
 組織的な情報管理に関する措置として次に掲げるもの
 保全対象発明に係る情報(発明共有事業者が講ずる措置については、指定特許出願人が取り扱うことを認めた保全対象発明に係る情報に限る。以下この条において「保全対象発明情報」という。)を取り扱う者を適正に管理するとともに、保全対象発明情報の漏えいを防止するための措置の適切な実施を一元的に管理する責任者(以下「保全情報管理責任者」という。)を指名すること。
 保全対象発明情報を取り扱う者の責務及び業務を明確にすること。
 保全指定の期間、保全情報管理責任者及び保全対象発明情報を取り扱う者並びにこれらであった者の氏名、実施の許可の状況その他保全対象発明情報を適正に管理するのに必要な情報を記載した管理簿を整備すること。
 保全対象発明情報を営業秘密(不正競争防止法(平成五年法律第四十七号)第二条第六項に規定する営業秘密をいう。)として取り扱うこと。
 保全対象発明情報の管理に関する措置を適切に講ずるため、保全対象発明情報の適正管理に関する規程の策定及び実施並びにその運用の評価及び改善を行うこと。
 発明共有事業者がホの規程を策定し、又はこれを変更しようとする場合にあっては、あらかじめ、指定特許出願人の確認を受けること。
 保全対象発明情報の漏えいが発生し、又は発生するおそれがある場合における事務処理体制を整備すること。
 保全対象発明情報の漏えいが発生し、又は発生するおそれがあると認めたときは、指定特許出願人にあっては内閣総理大臣に、発明共有事業者にあっては指定特許出願人に、直ちにその旨を報告すること。
 人的な情報管理に関する措置として次に掲げるもの
 保全対象発明情報を取り扱う者の範囲を必要最小限にとどめること。
 保全対象発明情報を取り扱う者を追加しようとするときは、あらかじめ、その者について、保全情報管理責任者に保全対象発明情報を漏えいさせるおそれがあるか否かについての確認を行わせ、そのおそれがあると認められる場合は、保全対象発明情報を取り扱わせないこと。
 保全対象発明情報を取り扱う者に対して、前号ホの規程を遵守させるための措置を講ずること。
 保全情報管理責任者に保全対象発明情報を取り扱う者に対する必要な教育及び訓練を行わせること。
 物理的な情報管理に関する措置として次に掲げるもの
 保全対象発明情報を記録する文書、図画、電磁的記録に係る記録媒体若しくは物件又は当該保全対象発明情報を化体する物件(以下この号において「保全対象発明情報文書等」という。)を取り扱う区域を特定し、その特定された区域(以下この号において「特定区域」という。)への立入りの管理及び制限をするための措置を講ずること。
 保全対象発明情報文書等の保管は、特定区域において適切な保管設備を用いて保全対象発明情報の
漏えいを防止するための措置を講じた上で行うこと。
 新たに保全対象発明情報文書等を複製又は製作しようとするときは、あらかじめ、その理由を示して、保全情報管理責任者の承認を得ることとし、その数は必要最小限にとどめること。
 保全対象発明情報文書等を特定区域から持ち出そうとするときは、あらかじめ、その理由を示して、保全情報管理責任者の承認を得ることとすること。
 保全対象発明情報文書等を廃棄する場合には、復元不可能な手段で行うこと。
 イからホまでに掲げるもののほか、保全対象発明情報文書等の盗難及び紛失を防止するための措置を講ずること。
 技術的な情報管理に関する措置として次に掲げるもの
 電子計算機において保全対象発明情報の処理及び閲覧をすることができる者を限定するための措置
を講ずること。
 保全対象発明情報を取り扱う電子計算機が電気通信回線に接続している場合、不正アクセス行為(不正アクセス行為の禁止等に関する法律(平成十一年法律第百二十八号)第二条第四項に規定する不正アクセス行為をいう。)を防止するための措置を講ずること。
 イ及びロに掲げるもののほか、電子計算機における保全対象発明情報の漏えいを防止するための措置を講ずること。

(発明共有事業者の変更の手続)
第十一条 法第七十六条第一項の規定による承認の申請は、次に掲げる事項を記載した様式第二による申請書によりしなければならない。
 新たに保全対象発明に係る情報の取扱いを認める事業者の氏名(法人にあっては、その名称及び代表
者の氏名)及び住所又は居所
 新たに保全対象発明に係る情報の取扱いを認めることが必要な理由
 新たに保全対象発明に係る情報の取扱いを認める事業者における情報の管理の予定

 法第七十六条第二項の規定による変更の届出は、様式第三による届出書によりしなければならない。

(補償請求書)
第十二条 法第八十条第二項の規定により補償を請求しようとする者は、次の各号に掲げる事項を記載した様式第四による請求書に、当該事項を疎明するに足りる資料を添えて、これを内閣総理大臣に提出しなければならない。
 補償請求額の総額及びその内訳
 補償請求の理由

第十三条(略:立入検査の証明書について規定)

 第480回で書いた通り、指定の秘密とするかどうかの保全審査の対象となる技術分野は政令でかなり絞り込まれていると思うので、影響を受ける特許出願はかなり限定的なものになると思うが、内閣府と経産省の共同府省令案の第5条で規定される様に、外国出願のための事前確認の申出書は発明の内容について実際に出願をするのとほぼ同様の記載が求められる様である。その中で、その内容を英語で記載しても良いとしているのは、外国出願という目的から、出願人側の便宜を考慮したものだろうか。

 また、府令案の方の第10条を見ると、秘密指定を受けた保全対象発明について、特許出願人は、それを営業秘密として取り扱い、情報管理のための管理責任者、管理簿、規程、体制、区域、設備、漏洩防止措置を作り、報告するというかなり重い義務が求められる上、場合により立ち入り検査や改善命令を受ける可能性も出て来る。

 発明を秘密とするべきという保全指定を受けると、特許出願人はこの様な義務を含む各種制約を受ける事になるが、その際の大きな判断材料になるだろう補償請求については、府令案の方の第12条とこれに対応する様式で、「補償請求額の総額及びその内訳」と「補償請求の理由」を書き、当該事項を疎明するに足りる資料を添えて提出するとしているだけで、制度的に特許権の付与により保護範囲が確定される事もあり得ない中、これで本当に妥当な補償金額を決定できるのかは甚だ疑問である。

 上に書いた通り、指定の秘密とするかどうかの保全審査の対象となる技術分野は政令でかなり絞り込まれており、この制度の影響は限定的だろうと思えるので、この府省令案のレベルでどうこう言うつもりはあまりないが、これで施行後に何か指定対象が出て来たとして本当に妥当な補償金額の算定ができるのか、さらには、この制度のそもそもの存在意義からして私がなお疑問に思っている事に変わりはない。

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2023年6月18日 (日)

第480回:新秘密特許(非公開)制度に関する部分を含む経済安保法政令改正案に対する意見募集の開始

 既に報道などもされているが、先週6月12日に経済安全保障法制に関する有識者会議の第7回が開かれ、そこで示された資料、特許出願の非公開制度の運用開始に向けた検討状況について(pdf)参考資料(pdf)の通り、6月15日から7月14日〆切で新秘密特許(非公開)制度に関する部分を含む経済安保法政令案がパブコメに掛かった。(電子政府のHP参照。)

 この政令改正案(pdf)はその中にも書かれている様に、去年制定の経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関する法律施行令を改正し、以下の様な第3章、第12条から第16条までを追加するものである。

第三章特許出願の非公開

(内閣総理大臣への送付の対象となる発明)
第十二条 法第六十六条第一項の国際特許分類(国際特許分類に関する千九百七十一年三月二十四日のストラスブール協定(以下この項において「協定」という。)第一条に規定する国際特許分類をいう。)又はこれに準じて細分化したものに従い政令で定める技術の分野は、次に掲げる技術の分野とする。
 国際特許分類の項目を表示する協定第四条に規定する記号(以下この項及び次項において「国際特許分類記号」という。)B〇一D五九に該当する技術の分野のうち、ウラン又はプルトニウムに関するもの
 国際特許分類記号B六三B三/一三に該当する技術の分野
 国際特許分類記号B六三C七/二六に該当し、かつ、国際特許分類記号B六三Gに該当する技術の分野
 国際特許分類記号B六三C七/二六に該当し、かつ、国際特許分類記号F四一に該当する技術の分野
 国際特許分類記号B六三C一一/〇〇に該当し、かつ、国際特許分類記号G〇五Dに該当する技術の分野
 国際特許分類記号B六三C一一/四八に該当し、かつ、国際特許分類記号B六三Gに該当する技術の分野
 国際特許分類記号B六三C一一/四八に該当し、かつ、国際特許分類記号F四一に該当する技術の分野
 国際特許分類記号B六三Gに該当し、かつ、国際特許分類記号G〇一S一/七二、G〇一S一/七四、G〇一S一/七六、G〇一S一/七八、G〇一S一/八〇又はG〇一S一/八二に該当する技術の分野
 国際特許分類記号B六三Gに該当し、かつ、国際特許分類記号G〇一S三/八〇、G〇一S三/八〇一、G〇一S三/八〇二、G〇一S三/八〇三、G〇一S三/八〇五、G〇一S三/八〇七、G〇一S三/八〇八、G〇一S三/八〇九、G〇一S三/八二、G〇一S三/八四又はG〇一S三/八六に該当する技術の分野
 国際特許分類記号B六三Gに該当し、かつ、国際特許分類記号G〇一S五/一八、G〇一S五/二〇、G〇一S五/二二、G〇一S五/二四、G〇一S五/二六、G〇一S五/二八又はG〇一S五/三〇に該当する技術の分野
十一 国際特許分類記号B六三Gに該当し、かつ、国際特許分類記号G〇一S七/五二、G〇一S七/五二一、G〇一S七/五二三、G〇一S七/五二四、G〇一S七/五二六、G〇一S七/五二七、G〇一S七/五二九、G〇一S七/五三、G〇一S七/五三一、G〇一S七/五三三、G〇一S七/五三四、G〇一S七/五三六、G〇一S七/五三七、G〇一S七/五三九、G〇一S七/五四、G〇一S七/五六、G〇一S七/五八、G〇一S七/六〇、G〇一S七/六二又はG〇一S七/六四に該当する技術の分野
十二 国際特許分類記号B六三Gに該当し、かつ、国際特許分類記号G〇一S一五に該当する技術の分野
十三 国際特許分類記号B六三G八/〇〇、B六三G八/〇四、B六三G八/〇六、B六三G八/〇八、B六三G八/一〇、B六三G八/一二、B六三G八/一四、B六三G八/一六、B六三G八/一八、B六三G八/二〇、B六三G八/二二、B六三G八/二四、B六三G八/二六、B六三G八/二八、B六三G八/三〇、B六三G八/三二、B六三G八/三三、B六三G八/三四、B六三G八/三八又はB六三G八/三九に該当する技術の分野
十四 国際特許分類記号B六四に該当し、かつ、国際特許分類記号F四一H三/〇〇に該当する技術の分野
十五 国際特許分類記号B六四C三九/〇二に該当し、かつ、国際特許分類記号F四一に該当する技術の分野
十六 国際特許分類記号B六四C三九/〇二に該当し、かつ、国際特許分類記号F四二に該当する技術の分野
十七 国際特許分類記号B六四G一/五八、B六四G一/六二、B六四G一/六四又はB六四G一/六八に該当する技術の分野
十八 国際特許分類記号B六四G三に該当する技術の分野
十九 国際特許分類記号B六四Uに該当し、かつ、国際特許分類記号F四一に該当する技術の分野
二十 国際特許分類記号B六四Uに該当し、かつ、国際特許分類記号F四二に該当する技術の分野
二十一 国際特許分類記号C〇一B五/〇二に該当する技術の分野
二十二 国際特許分類記号C〇六D七に該当する技術の分野
二十三 国際特許分類記号F〇二K七/一四に該当する技術の分野
二十四 国際特許分類記号F〇二K九/〇八、F〇二K九/一〇、F〇二K九/一二、F〇二K九/一四、F〇二K九/一六、F〇二K九/一八、F〇二K九/二〇、F〇二K九/二二、F〇二K九/二四、F〇二K九/二六、F〇二K九/二八、F〇二K九/三〇、F〇二K九/三二、F〇二K九/三四、F〇二K九/三六、F〇二K九/三八又はF〇二K九/四〇に該当する技術の分野
二十五 国際特許分類記号F四一に該当し、かつ、国際特許分類記号G〇一S一/七二、G〇一S一/七四、G〇一S一/七六、G〇一S一/七八、G〇一S一/八〇又はG〇一S一/八二に該当する技術の分野
二十六 国際特許分類記号F四一に該当し、かつ、国際特許分類記号G〇一S三/八〇、G〇一S三/八〇一、G〇一S三/八〇二、G〇一S三/八〇三、G〇一S三/八〇五、G〇一S三/八〇七、G〇一S三/八〇八、G〇一S三/八〇九、G〇一S三/八二、G〇一S三/八四又はG〇一S三/八六に該当する技術の分野
二十七 国際特許分類記号F四一に該当し、かつ、国際特許分類記号G〇一S五/一八、G〇一S五/二〇、G〇一S五/二二、G〇一S五/二四、G〇一S五/二六、G〇一S五/二八又はG〇一S五/三〇に該当する技術の分野
二十八 国際特許分類記号F四一に該当し、かつ、国際特許分類記号G〇一S七/五二、G〇一S七/五二一、G〇一S七/五二三、G〇一S七/五二四、G〇一S七/五二六、G〇一S七/五二七、G〇一S七/五二九、G〇一S七/五三、G〇一S七/五三一、G〇一S七/五三三、G〇一S七/五三四、G〇一S七/五三六、G〇一S七/五三七、G〇一S七/五三九、G〇一S七/五四、G〇一S七/五六、G〇一S七/五八、G〇一S七/六〇、G〇一S七/六二又はG〇一S七/六四に該当する技術の分野
二十九 国際特許分類記号F四一に該当し、かつ、国際特許分類記号G〇一S一五に該当する技術の分野
三十 国際特許分類記号F四一に該当し、かつ、国際特許分類記号G〇五Dに該当する技術の分野
三十一 国際特許分類記号F四一B六に該当する技術の分野
三十二 国際特許分類記号F四一G七に該当する技術の分野
三十三 国際特許分類記号F四一H一一/〇二に該当する技術の分野
三十四 国際特許分類記号F四一H一三に該当する技術の分野
三十五 国際特許分類記号F四二に該当し、かつ、国際特許分類記号G〇五Dに該当する技術の分野
三十六 国際特許分類記号F四二B五/一四五に該当する技術の分野
三十七 国際特許分類記号F四二B一〇に該当する技術の分野
三十八 国際特許分類記号F四二B一二/四六、F四二B一二/四八、F四二B一二/五〇、F四二B一二/五二又はF四二B一二/五四に該当する技術の分野
三十九 国際特許分類記号F四二B一五に該当する技術の分野
四十 国際特許分類記号G〇一J一/〇二、G〇一J一/〇四、G〇一J一/〇六又はG〇一J一/〇八に該当する技術の分野のうち、量子ドット又は超格子に関するもの
四十一 国際特許分類記号G〇六F二一/八六又はG〇六F二一/八七に該当する技術の分野
四十二 国際特許分類記号G二一C一九/三三、G二一C一九/三四、G二一C一九/三六、G二一C一九/三六五、G二一C一九/三七、G二一C一九/三七五、G二一C一九/三八、G二一C一九/四〇、G二一C一九/四二、G二一C一九/四四、G二一C一九/四六、G二一C一九/四八又はG二一C一九/五〇に該当する技術の分野
四十三 国際特許分類記号G二一J一に該当する技術の分野
四十四 国際特許分類記号G二一J三に該当する技術の分野
四十五 国際特許分類記号H〇一L二七/一四、H〇一L二七/一四二、H〇一L二七/一四四、H〇一L二七/一四六又はH〇一L二七/一四八に該当する技術の分野のうち、量子ドット又は超格子に関するもの
四十六 国際特許分類記号H〇一L三一/〇八、H〇一L三一/〇九、H〇一L三一/一〇、H〇一L三一/一〇一、H〇一L三一/一〇二、H〇一L三一/一〇三、H〇一L三一/一〇五、H〇一L三一/一〇七、H〇一L三一/一〇八、H〇一L三一/一〇九、H〇一L三一/一一、H〇一L三一/一一一、H〇一L三一/一一二、H〇一L三一/一一三、H〇一L三一/一一五、H〇一L三一/一一七、H〇一L三一/一一八又はH〇一L三一/一一九に該当する技術の分野のうち、量子ドット又は超格子に関するもの
四十七 国際特許分類記号H〇四K三に該当する技術の分野

法第六十六条第一項の特定技術分野のうち保全指定をした場合に産業の発達に及ぼす影響が大きいと認められる技術の分野として政令で定めるものは、前項第二号、第三号、第五号、第六号、第八号から第十二号まで、第十三号(国際特許分類記号B六三G八/二八、B六三G八/三〇、B六三G八/三二及びB六三G八/三三に係る部分を除く。)、第十七号、第十八号、第二十三号、第二十四号、第四十号、第四十一号及び第四十五号から第四十七号までに掲げる技術の分野(同項第一号、第四号、第七号、第十三号(国際特許分類記号B六三G八/二八、B六三G八/三〇、B六三G八/三二及びB六三G八/三三に係る部分に限る。)、第十四号から第十六号まで、第十九号から第二十二号まで、第二十五号から第三十九号まで及び第四十二号から第四十四号までに掲げる技術の分野に該当する部分を除く。)とする。

法第六十六条第一項の政令で定める要件は、次の各号のいずれかに該当する発明であることとする。
 我が国の防衛又は外国の軍事の用に供するための発明
 国又は国立研究開発法人(独立行政法人通則法第二条第三項に規定する国立研究開発法人をいう。以下この号及び次号において同じ。)による特許出願(国及び国立研究開発法人以外の者と共同でしたものを除く。)に係る発明
 国若しくは国立研究開発法人が委託した技術に関する研究及び開発又は国若しくは国立研究開発法人が請け負わせたソフトウェアの開発の成果に係る発明であって、その発明について特許を受ける権利につき産業技術力強化法(平成十二年法律第四十四号)第十七条第一項(国立研究開発法人が委託し又は請け負わせた場合にあっては、同条第二項において準用する同条第一項)の規定により国又は当該国立研究開発法人が譲り受けないこととしたもの
 国が委託した技術に関する研究及び開発の成果に係る発明であって、その発明について特許を受ける権利につき科学技術・イノベーション創出の活性化に関する法律(平成二十年法律第六十三号)第二十二条(第一号に係る部分に限る。)の規定により国がその一部のみを譲り受けたもの

(内閣総理大臣への送付の期間)
第十三条 法第六十六条第一項の政令で定める期間は、三月とする。

(外国出願の禁止の例外)
第十四条 法第七十八条第一項の政令で定めるものは、次に掲げる特許出願とする。
 防衛目的のためにする特許権及び技術上の知識の交流を容易にするための日本国政府とアメリカ合衆国政府との間の協定第三条の規定により我が国で保全指定(法第七十条第二項に規定する保全指定をいう。)をされた発明を記載した特許出願をアメリカ合衆国においてした場合に類似の取扱いを受けるものとされている場合におけるアメリカ合衆国でされる当該特許出願
 民生用国際宇宙基地のための協力に関するカナダ政府、欧州宇宙機関の加盟国政府、日本国政府、ロシア連邦政府及びアメリカ合衆国政府の間の協定第二十一条3の規定により我が国以外の締約国における特許出願を妨げるために発明の秘密に関する我が国の法律を適用してはならないこととされている場合における当該締約国でされる当該特許出願
 平和的目的のための月その他の天体を含む宇宙空間の探査及び利用における協力のための日本国政府とアメリカ合衆国政府との間の枠組協定第九条Gの規定によりアメリカ合衆国における特許出願を妨げるために発明の秘密に関する我が国の法律を適用してはならないこととされている場合におけるアメリカ合衆国でされる当該特許出願

(外国出願の禁止の期間)
第十五条 法第七十八条第一項の政令で定める期間は、十月とする。

(外国出願の禁止に関する事前確認の手数料)
第十六条 法第七十九条第五項の政令で定める額は、二万五千円とする。

 この政令案の第13条の保全審査のための送付期間の3月、第15条の外国出願禁止期間の10月、第16条の外国出願の禁止に関する事前確認のための2万5千円はそれぞれ経済安保法で定められている上限一杯の期間又は額で特に何か目新しいものではなく、第14条も外国出願の例外として日米防衛特許協定など非常に特殊な条約に基づく場合がある事を規定しているだけなので、この政令案の最大のポイントは秘密指定を行う保全審査の対象となる技術分野を指定している第12条という事になるだろう。(経済安保法の条文については第453回参照、日米防衛特許協定については第450回参照。)

 この政令改正案の第12条第1項の各号は非常に読みづらいので、有識者会議の上の参考資料(pdf)の説明と対応させ、第2項で保全指定された場合に産業の発達に及ぼす影響が大きいとされる号に△、それ以外の号に●をつけ、一覧表にすると、以下の様になる。(下の表では、別の番号である事を示すため、参考資料の方の番号をローマ数字にした。)

●第1号:B01D59でウラン又はプルトニウムに関するもの((xx)ウラン・プルトニウムの同位体分離技術)
△第2号:B63B3/13((xii)潜水船に関する技術)
△第3号:B63C7/26かつB63G((xiv)音波を用いた位置測定等の技術であって潜水船等に関するもの)
●第4号:B63C7/26かつF41((ix)音波を用いた位置測定等の技術であって武器に関するもの)
△第5号:B63C11/00かつG05D((xiii)無人水中航走体等に関する技術)
△第6号:B63C11/48かつB63G((xiv)音波を用いた位置測定等の技術であって潜水船等に関するもの)
●第7号:B63C11/48かつF41((ix)音波を用いた位置測定等の技術であって武器に関するもの)
△第8号:B63GかつG01S1/72からG01S1/82まで((xiv)音波を用いた位置測定等の技術であって潜水船等に関するもの)
△第9号:B63GかつG01S3/80からG01S3/86まで((xiv)音波を用いた位置測定等の技術であって潜水船等に関するもの)
△第10号:B63GかつG01S5/18からG01S5/30まで((xiv)音波を用いた位置測定等の技術であって潜水船等に関するもの)
△第11号:B63GかつG01S7/52からG01S7/64まで((xiv)音波を用いた位置測定等の技術であって潜水船等に関するもの)
△第12号:B63GかつG01S15((ix)音波を用いた位置測定等の技術であって武器に関するもの)
△第13号:B63G8/00からB63G8/39((xii)潜水船に関する技術、(viii)潜水船に配置される攻撃・防護装置に関する技術、(viii)に対応するB63G8/28からB63G8/33は第2項の対象外)
●第14号:B64かつF41H3/00((i)航空機等の偽装・隠ぺい技術)
●第15号:B64C39/02かつF41((ii)武器等に関係する無人航空機・自律制御等の技術)
●第16号:B64C39/02かつF42((ii)武器等に関係する無人航空機・自律制御等の技術)
△第17号:B64G1/58、B64G1/62、B64G1/64又はB64G1/68((xv)宇宙航行体の熱保護、再突入、結合・分離、隕石検知に関する技術)
△第18号:B64G3((xvi)宇宙航行体の観測・追跡技術)
●第19号:B64UかつF41((ii)武器等に関係する無人航空機・自律制御等の技術)
●第20号:B64UかつF42((ii)武器等に関係する無人航空機・自律制御等の技術)
●第21号:C01B5/02((xxii)重水に関する技術)
●第22号:C06D7((xxiv)ガス弾用組成物に関する技術)
△第23号:F02K7/14((x)スクラムジェットエンジン等に関する技術)
△第24号:F02K9/08からF02K9/40まで((xi)固体燃料ロケットエンジンに関する技術)
●第25号:F41かつG01S1/72からG01S1/82まで((ix)音波を用いた位置測定等の技術であって武器に関するもの)
●第26号:F41かつG01S3/80からG01S3/86まで((ix)音波を用いた位置測定等の技術であって武器に関するもの)
●第27号:F41かつG01S5/18からG01S5/30まで((ix)音波を用いた位置測定等の技術であって武器に関するもの)
●第28号:F41かつG01S7/52からG01S7/64まで((ix)音波を用いた位置測定等の技術であって武器に関するもの)
●第29号:F41かつG01S15((ix)音波を用いた位置測定等の技術であって武器に関するもの)
●第30号:F41かつG05D((ii)武器等に関係する無人航空機・自律制御等の技術)
●第31号:F41B6((v)電磁気式ランチャを用いた武器に関する技術)
●第32号:F41G7((iii)誘導武器等に関する技術)
●第33号:F41H11/02((vii)航空機・誘導ミサイルに対する防御技術)
●第34号:F41H13((vi)例えばレーザ兵器、電磁パルス(EMP)弾のような新たな攻撃又は防御技術)
●第35号:F42かつG05D((ii)武器等に関係する無人航空機・自律制御等の技術)
●第36号:F42B5/145((xxv)ガス、粉末等を散布する弾薬等に関する技術)
●第37号:F42B10((iv)発射体・飛翔体の弾道に関する技術)
●第38号:F42B12/46からF42B12/54まで((xxv)ガス、粉末等を散布する弾薬等に関する技術)
●第39号:F42B15((iii)誘導武器等に関する技術)
△第40号:G01J1/02からG01J1/08までで量子ドット又は超格子に関するもの((xvii)量子ドット・超格子構造を有する半導体受光装置等に関する技術)
△第41号:G06F21/86又はG06F21/87((xviii)耐タンパ性ハウジングにより計算機の部品等を保護する技術)
●第42号:G21C19/33からG21C19/50まで((xxi)使用済み核燃料の分解・再処理等に関する技術)
●第43号:G21J1((xxiii)核爆発装置に関する技術)
●第44号:G21J3((xxiii)核爆発装置に関する技術)
△第45号:H01L27/14からH01L27/148までで量子ドット又は超格子に関するもの((xvii)量子ドット・超格子構造を有する半導体受光装置等に関する技術)
△第46号:H01L31/08からH01L31/119までで量子ドット又は超格子に関するもの((xvii)量子ドット・超格子構造を有する半導体受光装置等に関する技術)
△第47号:H04K3((xix)通信妨害等に関する技術)

 さらに、有識者会議の資料でも書かれている通り、F41とF42が武器や弾薬に関する分類という様に、上の表を大まかな技術分野に沿って整理し直すと、以下の様になるだろう。(●と△は上と同じ意味である。)

(1)●核・原子力関連:第1号、第21号、第42号~第44号
(2)●武器弾薬関連:第4号、第7号、第14号~第16号、第19号~第20号、第22号、第25号~第39号
(3)△潜水艦関連:第2号~第3号、第5号~第6号、第8号~第13号
(4)△航空宇宙関連:第17号~第18号、第23号~第24号
(5)△量子ドット・超格子構造を有する半導体受光装置関連ー:第40号、第45号~第46号
(6)△計算機保護・通信妨害関連:第41号、第47号

 この内、(1)核・原子力関連と(2)武器弾薬関連は全て秘密指定するかどうかの保全審査に送られる事になるが、(3)潜水艦関連、(4)航空宇宙関連、(5)量子ドット・超格子構造を有する半導体受光装置関連、(6)計算機保護・通信妨害関連は、デュアルユース技術分野として、政令案第12条第3項各号に書かれている、防衛・軍事技術開発、国の研究開発又は国の委託研究開発という条件にもあてはまる場合に保全審査に送られる事になる。

 私自身はこの新秘密特許(非公開)制度のそもそもの存在意義からしてなお疑問に思っているが、この政令案の技術分野は当初思っていたものよりかなり絞り込まれていると見えるので、ここで細かな技術分野についてどうこう言うつもりはあまりない。ただ、デュアルユース技術分野は、なぜか(3)潜水艦関連に多く集中し、(5)量子ドット・超格子構造を有する半導体受光装置関連と(6)計算機保護・通信妨害関連に非常に唐突感がある。政府内でどの様な検討が行われてこれらの技術分野が選ばれたのかは不明だが、今の防衛省の研究開発方針に合わせたのだろうか。

 次は、上の有識者会議の資料で、審査手続、意思確認時の提出書類、適正管理措置等に関する府省令案が夏頃から秋頃に掛けてパブコメが行われる予定とされている。この府省令案も新秘密特許制度の運用を定める重要なものであり、パブコメに掛かり次第その内容を見たいと思っている。

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2023年3月19日 (日)

第474回:閣議決定された不正競争防止法等改正案の条文

 前回取り上げた著作権法改正案に続いて、今回は閣議決定された不正競争防止法改正案の条文についてである(経産省のHP概要(pdf)要綱(pdf)法律案・理由(pdf)新旧対照条文(pdf)参照条文(pdf)参照)。

 まず、上でリンクを張った不正競争防止法等改正案の概要資料から法改正内容の概要を抜粋する。

(1)デジタル化に伴う事業活動の多様化を踏まえたブランド・デザイン等の保護強化
登録可能な商標の拡充
他人が既に登録している商標と類似する商標は登録できないが、先行商標権者の同意があり出所混同のおそれがない場合には登録可能にする。【商4条等】
※併せて、上記により登録された商標について、不正の目的でなくその商標を使用する行為等を不正競争として扱わないこととする。【不19条】
・自己の名前で事業活動を行う者等がその名前を商標として利用できるよう、氏名を含む商標も、一定の場合には、他人の承諾なく登録可能にする。【商4条】

意匠登録手続の要件緩和【意4条等】
・創作者等が出願前にデザインを複数公開した場合の救済措置を受けるための手続の要件を緩和する。

デジタル空間における模倣行為の防止【不2条】
商品形態の模倣行為について、デジタル空間上でも不正競争行為の対象とし、差止請求権等を行使できるようにする。

営業秘密・限定提供データの保護の強化
・ビッグデータを他社に共有するサービスにおいて、データを秘密管理している場合も含め限定提供データとして保護し、侵害行為の差止め請求等を可能とする。【不2条】
・損害賠償訴訟で被侵害者の生産能力等を超える損害分も使用許諾料相当額として増額請求を可能とするなど、営業秘密等の保護を強化する。【不5条等】
・裁定手続で提出される書類に営業秘密が記載された場合に閲覧制限を可能にする
【特186条、実55条、意63条等】
※裁定:特許発明が長期間実施されていない等の場合に、特許権者の意思に関わらず他者に実施権を認める制度

(2)コロナ禍・デジタル化に対応した知的財産手続等の整備
送達制度の見直し【特191条、工5条等】
・在外者へ査定結果等の書類を郵送できない場合に公表により送付したとみなすとともに、インターネットを通じた送達制度を整備する。

書面手続のデジタル化等のための見直し【特43条、商68条の3、工8条等】
・特許等に関する書面手続のデジタル化や商標の国際登録出願における手数料一括納付等を可能とする。

手数料減免制度の見直し【特195条の2等】
・中小企業の特許に関する手数料の減免について、資力等の制約がある者の発明奨励・産業発達促進という制度趣旨を踏まえ、一部件数制限を設ける。

(3)国際的な事業展開に関する制度整備
外国公務員贈賄に対する罰則の強化・拡充【不21条等】
・OECD外国公務員贈賄防止条約をより高い水準で的確に実施するため、自然人及び法人に対する法定刑を引き上げるとともに、日本企業の外国人従業員による海外での単独贈賄行為も処罰対象とする(両罰規定により、法人の処罰対象も拡大)。

国際的な営業秘密侵害事案における手続の明確化【不19条の2等】
・国外において日本企業の営業秘密の侵害が発生した場合にも日本の裁判所に訴訟を提起でき、日本の不競法を適用することとする。

※不競法については、平成27年改正により追加された同法第35条の規定について同改正において手当てする必要があった規定の適正化を行う。【不35条】

※上記のほか、他法の例にならい、不競法において、法人両罰の有無による罰則規定の整理及び罰則の構成要件に該当する行為を行った時期を明確にする趣旨の規定の改正を行う。【不21条等】

 これらは産業構造審議会・知的財産分科会の各小委員会の報告書をその儘条文化したものであり(経産省の不競小委報告書、特許庁の特許小委報告書意匠小委報告書商標小委報告書参照、その内容については第469回参照)、特に問題があるものではないが、ここでは、中でも今回の法改正のポイントと考えられる、(1)不正競争防止法改正によるデジタル空間上の商品形態模倣規制の導入と損害賠償規定の見直しと、(2)商標法改正による自己の名前を含む商標の登録可能化とコンセント制度の導入について、その条文を見ておきたいと思う。

(1)不正競争防止法改正によるデジタル空間上の商品形態模倣規制の導入と損害賠償規定の見直し
 報道でメタバースにも不正競争防止法の規制を適用するといったご大層な書き方がされているのは間違いとまでは言えないのだが、これは、不正競争防止法の第2条を以下の様に改正し、現行の商品形態模倣規制を電気通信回線を通じた提供まで適用可能とするものであり、それほど大きな影響はないだろうと私は思っている。(下線部が追加部分。以下同じ。)

(定義)
第二条 この法律において「不正競争」とは、次に掲げるものをいう。
一・二(略)
三 他人の商品の形態(当該商品の機能を確保するために不可欠な形態を除く。)を模倣した商品を譲渡し、貸し渡し、譲渡若しくは貸渡しのために展示し、輸出し、又は輸入する輸入し、又は電気通信回線を通じて提供する行為
(第4号以下略)

 この商品形態模倣規制は、現行法の同じ定義規定の第2条の第4項、第5項で、

4 この法律において「商品の形態」とは、需要者が通常の用法に従った使用に際して知覚によって認識することができる商品の外部及び内部の形状並びにその形状に結合した模様、色彩、光沢及び質感をいう。

5 この法律において「模倣する」とは、他人の商品の形態に依拠して、これと実質的に同一の形態の商品を作り出すことをいう。

と、消費者等が通常の使用において知覚可能な商品の形状などの模倣を禁止するものと定義されている事と、上と同様の改正が入る適用除外規定の第19条で、

(適用除外等)
第十九条 第三条から第十五条まで、第二十一条(第二項第七号に係る部分を除く。)及び第二十二条の規定は、次の各号に掲げる不正競争の区分に応じて当該各号に定める行為については、適用しない。
(第1~5号略)
 第二条第一項第三号に掲げる不正競争 次のいずれかに掲げる行為
 日本国内において最初に販売された日から起算して三年を経過した商品について、その商品の形態を模倣した商品を譲渡し、貸し渡し、譲渡若しくは貸渡しのために展示し、輸出し、又は輸入する輸入し、又は電気通信回線を通じて提供する行為
 他人の商品の形態を模倣した商品を譲り受けた者(その譲り受けた時にその商品が他人の商品の形態を模倣した商品であることを知らず、かつ、知らないことにつき重大な過失がない者に限る。)がその商品を譲渡し、貸し渡し、譲渡若しくは貸渡しのために展示し、輸出し、又は輸入する輸入し、又は電気通信回線を通じて提供する行為
(第7号以下略)

と、適用があるのは商品を最初に販売した日から3年という期間に限られる事も合わせて考えられなくてはならないものである。

 現実の新商品の形を真似て仮想空間で売ろうとするといった事又はその逆も考えられない訳ではなく、この様な規制強化も全く意味のないものではないだろうが、第471回で知財本部メタバース検討論点整理案との関係で書いた通り、著作権による保護は現実空間か仮想空間かによらず及ぶ事、仮想空間におけるオブジェクトの利用は完全に自由で何をしても良いなどという事はない事に、より注意が必要だろう。

 また、前回取り上げた著作権法改正案との並びで見ておくと、不正競争防止法改正案の損害賠償推定規定も以下の様に改正され、これで全ての主要な知的財産法で侵害組成物の数量について生産販売能力を超えた部分についてもライセンス料を受け取れる事が明確化される事になる。

(損害の額の推定等)
第五条 第二条第一項第一号から第十六号まで又は第二十二号に掲げる不正競争(同項第四号から第九号までに掲げるものにあっては、技術上の秘密に関するものに限る。)によって営業上の利益を侵害された者(以下この項において「被侵害者」という。)が故意又は過失により自己の営業上の利益を侵害した者(以下この項において「侵害者」という。)に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、その者侵害者がその侵害の行為を組成した物を譲渡したときは、その譲渡した物の数量(物(電磁的記録を含む。以下この項において「譲渡数量」という。)に、被侵害者が同じ。)を譲渡したとき(侵害の行為により生じた物を譲渡したときを含む。)、又はその侵害の行為がなければ販売することができた物の単位数量当たりの利益の額を乗じて得た額を、被侵害者の当該物に係る販売その他の行為を行う能力に応じた額を超えない限度においてにより生じた役務を提供したときは、次に掲げる額の合計額を、被侵害者が受けた損害の額とすることができる。ただし、譲渡数量の全部又は一部に相当する数量を被侵害者が販売することができないとする事情があるときは、当該事情に相当する数量に応じた額を控除するものとする。
 被侵害者がその侵害の行為がなければ販売することができた物又は提供することができた役務の単位数量当たりの利益の額に、侵害者が譲渡した当該物又は提供した当該役務の数量(次号において「譲渡等数量」という。)のうち被侵害者の販売又は提供の能力に応じた数量(同号において「販売等能力相応数量」という。)を超えない部分(その全部又は一部に相当する数量を被侵害者が販売又は提供をすることができないとする事情があるときは、当該事情に相当する数量(同号において「特定数量」という。)を控除した数量)を乗じて得た額
 譲渡等数量のうち販売等能力相応数量を超える数量又は特定数量がある場合におけるこれらの数量に応じた次のイからホまでに掲げる不正競争の区分に応じて当該イからホまでに定める行為に対し受けるべき金銭の額に相当する額(被侵害者が、次のイからホまでに掲げる不正競争の区分に応じて当該イからホまでに定める行為の許諾をし得たと認められない場合を除く。)
 第二条第一項第一号又は第二号に掲げる不正競争当該侵害に係る商品等表示の使用
 第二条第一項第三号に掲げる不正競争当該侵害に係る商品の形態の使用
 第二条第一項第四号から第九号までに掲げる不正競争当該侵害に係る営業秘密の使用
 第二条第一項第十一号から第十六号までに掲げる不正競争当該侵害に係る限定提供データの使用
 第二条第一項第二十二号に掲げる不正競争当該侵害に係る商標の使用

(略)

 裁判所は、第一項第二号イからホまで及び前項各号に定める行為に対し受けるべき金銭の額を認定するに当たっては、営業上の利益を侵害された者が、当該行為の対価について、不正競争があったことを前提として当該不正競争をした者との間で合意をするとしたならば、当該営業上の利益を侵害された者が得ることとなるその対価を考慮することができる。

 前項第三項の規定は、同項に規定する金額を超える損害の賠償の請求を妨げない。この場合において、その営業上の利益を侵害した者に故意又は重大な過失がなかったときは、裁判所は、損害の賠償の額を定めるについて、これを参酌することができる。

(2)商標法改正による自己の名前を含む商標の登録可能化とコンセント制度の導入
 もう1つ良く書かれているのが、商標法改正による自己の名前を含む商標の登録可能化であり、これは、商標の不登録理由を規定する商標法第4条の第1項第8号を以下の様に改正するものである。

(商標登録を受けることができない商標)
第四条 次に掲げる商標については、前条の規定にかかわらず、商標登録を受けることができない。
(略)
 他人の肖像又は若しくは他人の氏名(商標の使用をする商品又は役務の分野において需要者の間に広く認識されている氏名に限る。)若しくは名称若しくは著名な雅号、芸名若しくは筆名若しくはこれらの著名な略称を含む商標(その他人の承諾を得ているものを除く。)又は他人の氏名を含む商標であつて、政令で定める要件に該当しないもの
十九(略)

2・3(略)

 第一項第十一号に該当する商標であつても、その商標登録出願人が、商標登録を受けることについて同号の他人の承諾を得ており、かつ、当該商標の使用をする商品又は役務と同号の他人の登録商標に係る商標権者、専用使用権者又は通常使用権者の業務に係る商品又は役務との間で混同を生ずるおそれがないものについては、同号の規定は、適用しない。

 細かな説明は省略するが、特許庁の商標制度小委員会報告書(pdf)などでも書かれている通り、従来商標法の他人の氏名にはあらゆる他人の氏名が含まれるという解釈で運用されていたため、普通の人の氏名だと商標登録が極めて難しかったという事があったのだが、マツモトキヨシの音商標を登録可とする2021年8月30日の知財高裁判決(判決文(pdf)参照)などを受けて今回の法改正に至ったものである。今後、他人の氏名に対する濫用的な商標登録を防ぐための他人の氏名を含む商標に関する政令に多少注意が必要だろうが、今までの法律とその解釈が厳し過ぎた事を思えば、これは妥当な法改正だろうと思う。

 また、これも細かな説明は省略するが、商標において商標権者の同意があれば類似商標であっても商標登録が可能になるという上の第4条第4項によるコンセント制度の導入も制度的には重要である。

 その他制度ユーザにしか関係しない事も多いが、どれも重要である事に違いはなく、今回のこの法改正は、不正競争防止法を中心としてかなり大きな法改正と言えるものだろう。

 次回は、twitterで少し触れた通り、知財本部で今年の知財計画パブコメが4月7日〆切で始まっているので(知財本部意見募集案内(pdf)参照)、提出次第その内容を載せたいと思っている。

(2023年4月2日夜の追記:条文の誤記を修正した(「この法律において「不正競争」とは、次に掲げるものを第二条この法律において「不正競争」とは、次に掲げるものをいう」→「この法律において「不正競争」とは、次に掲げるものをいう」)。)

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2023年2月12日 (日)

第472回:新秘密特許(非公開)制度基本指針案に対する意見募集の開始

 経済安全保障法に含まれる新秘密特許(非公開)制度について、2月8日の経済安全保障法制に関する有識者会議基本指針案(pdf)概要(pdf)も参照)が示され、電子政府HPの意見募集ページに書かれている通り、この特許出願の非公開に関する基本指針案(pdf)が、3月12日〆切でパブリックコメントに掛かった。

(経済安全保障法における新秘密特許制度の条文や国会審議については、第453回第461回参照。米英独仏の秘密特許制度については、第456回第457回第458回参照。また、経済安全保障有識者会議の資料1(pdf)2(pdf)3(pdf)によると、この基本指針案の検討のために特許出願非公開に関する検討会合が2022年12月20日に非公開で開かれていた様である。)

 これは基本指針の名の通り、今まで議論されていた事を抽象的理念としてまとめているだけであって、追加で具体的な事が明らかになったという事はほぼなく、この基本指針のレベルで言う事は余りない。しかし、これも知財政策に関する重要なパブコメの1つであり、私が特に気になっている、秘密(保全)指定の対象、保全審査の範囲を決める特定技術分野、外国出願の禁止、保全対象となった場合の補償について書かれた部分の抜粋を下に載せておく。

 基本指針案で政令の策定や制度の周知等について書かれているが、上の有識者会議で示された概要(pdf)でも、3月以降、もう一度有識者会議で基本指針案に関するパブリックコメントを踏まえた審議をした上で、基本指針の閣議決定を行い、政省令を策定、制度を周知、Q&A等を作成・公表、2024年春頃に制度運用を開始すると書かれている。去年5月の法律の成立後、施行まで後1年位の今に至るも制度運用の詳細に関する検討の内容が明らかにされないのは残念な事と思うが、この日本の新秘密特許制度に関しては、より具体的な事を定めるこの政省令などの検討が特に重要なものになると私は思っている。

(以下、基本指針案抜粋)

特許法の出願公開の特例に関する措置、同法第三十六条第一項の規定による特許出願に係る明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明に係る情報の適正管理その他公にすることにより外部から行われる行為によって国家及び国民の安全を損なう事態を生ずるおそれが大きい発明に係る情報の流出を防止するための措置に関する基本指針(案)

(略)

第1章 特許出願の非公開に関する基本的な方向に関する事項

第1節 本制度の基本的な考え方

(略)

第2節 非公開の対象となる発明(保全対象発明)の考え方

 本制度による保全指定がされるのは、特許出願に係る明細書等に「公にすることにより外部から行われる行為によって国家及び国民の安全を損なう事態を生ずるおそれが大きい発明」が記載され、かつ、そのおそれの程度及び保全指定をした場合に産業の発達に及ぼす影響その他の事情を考慮し、当該発明に係る情報の保全(当該情報が外部に流出しないようにするための措置)をすることが適当と認められた場合である(法第70条第1項)。すなわち、本法は、機微性の要件(公にすることにより外部から行われる行為によって国家及び国民の安全を損なう事態を生ずるおそれが大きいこと)を満たすことを前提としつつ、その機微性の程度と保全指定をすることによる産業の発達への影響等との総合考慮により、情報の保全をすることが適当と認められた場合に保全指定をするものと定めている。

(1)国家及び国民の安全を損なう事態を生ずるおそれが大きい発明

 本制度で非公開の対象とする「公にすることにより外部から行われる行為によって国家及び国民の安全を損なう事態を生ずるおそれが大きい発明」とは、安全保障上の機微性が極めて高いもの、すなわち、国としての基本的な秩序の平穏あるいは多数の国民の生命や生活を害する手段に用いられるおそれがある技術の発明が該当する。

 これをより具体的にいうと、以下のような類型の技術が想定される。

①我が国の安全保障の在り方に多大な影響を与え得る先端技術

 その新しさゆえ、用いる者や用い方によって、国家及び国民の安全に対する重大な脅威となり得る技術がこれに該当する。例えば、武器のための技術であるか否かを問わず、いわゆるゲーム・チェンジャーと呼ばれる将来の戦闘様相を一変させかねない武器に用いられ得る先端技術や、宇宙・サイバー等の比較的新しい領域における深刻な加害行為に用いられ得る先端技術などが挙げられる。

② 我が国の国民生活や経済活動に甚大な被害を生じさせる手段となり得る技術

 その威力の大きさゆえ、我が国に対して用いられれば深刻な被害を防ぐことが容易でない技術がこれに該当する。例えば、先端技術か否かを問わず、大量破壊兵器への転用が可能な核技術などが挙げられる。

(2)産業の発達に及ぼす影響等の考慮

 前節でも述べたとおり、法第70条第1項は、「公にすることにより外部から行われる行為によって国家及び国民の安全を損なう事態を生ずるおそれが大きい発明」であっても、一律に非公開とはせず、「保全指定をした場合に産業の発達に及ぼす影響その他の事情」を考慮し、適当と認められる場合に限り、保全指定をすることとしている。

 ここでいう「産業の発達に及ぼす影響」の内容としては、前節(2)で述べたように、①特許出願人を含む当該発明の関係者の経済活動に及ぼす影響、②非公開の先願に抵触するリスクに関して第三者の経済活動に及ぼす影響及び③我が国におけるイノベーションに及ぼす影響という3つの観点から総合的に考慮する必要がある。

 特に、今後民生分野の産業や市場に幅広く展開され、発展していくような発明については、保全指定をして発明の内容の開示や実施を制限することが我が国の経済活動やイノベーションへ支障を及ぼしかねないことに十分留意する必要がある。

 なお、法第70条第1項の「その他の事情」としては、例えば、対象となる発明の管理状況等、保全指定の実効性に関わる事情が想定される。すなわち、国家及び国民の安全を損なうおそれが大きく、かつ、産業の発達に及ぼす影響が少ない場合であっても、情報が既に広く知られており、保全の実質的な意義が小さい場合には、保全指定をすることが適当とは認め難い。

第3節 その他の基本的留意事項

(略)

第2章 特定技術分野に関する基本的な事項

第1節 特定技術分野に関する考え方

(1)特定技術分野の位置付け

 「特定技術分野」とは、「公にすることにより外部から行われる行為によって国家及び国民の安全を損なう事態を生ずるおそれが大きい発明が含まれ得る技術の分野として国際特許分類又はこれに準じて細分化したものに従い政令で定めるもの」をいう(法第66条第1項)。

 最終的に保全指定の対象となるのは、特許出願に係る明細書等に記載された個々の具体的発明であるが、それは、前章第2節で述べたとおり、我が国の安全保障上極めて機微な発明を前提にしつつ、産業の発達への影響等も踏まえて選定されることとなる。そこで、そうした条件を満たし得る発明をあらかじめ技術分野という角度から類型化して国際特許分類(IPC=International Patent Classification)の形で示し、特許庁長官が行う第一次審査において定型的な形で審査を可能にさせるとともに、特許出願人の予見性を確保するのが、特定技術分野の役割である。保全指定の対象となる発明を選定するに当たり、年間約30万件に及ぶ特許出願の全てを内閣総理大臣の保全審査に付することとすれば、安全保障上の機微性とは関連しない発明も含め、全ての特許出願に係る特許手続を遅延させることになりかねないことから、法第66条第1項は、まずは特許庁長官において、特定技術分野に該当するものを定型的に選別し、選別されたものだけを内閣総理大臣に送付して保全審査に付すという二段階審査の仕組みを採用している。

 また、法第66条第1項本文によって保全審査に付される発明は、保全指定前における外国出願の禁止(以下「第一国出願義務」という。)の対象となることから(法第78条第1項)、特定技術分野は、第一国出願義務の範囲を絞り込む役割も担っている。

(2)特定技術分野を定める際の基本的な考え方

 特定技術分野を定めるに当たっては、真に保全指定の対象となる発明が含まれ得る領域を選定する必要がある。どのような発明が保全指定の対象となるかについては、前章第2節で述べたとおりであり、そうした発明が含まれ得る技術分野を特定技術分野として選定していくこととなる。すなわち、保全指定の対象が、経済活動やイノベーションへの影響を考慮して選定されることを踏まえて、特定技術分野の選定においても、国家及び国民の安全を損なう事態を生ずるおそれが大きい発明が含まれ得る技術分野であるかという観点だけでなく、経済活動やイノベーションへの影響も考慮する必要がある。

 特定技術分野は、特許出願人に明確な形でなければならず、かつ、特許庁長官による迅速な審査を可能にさせるものでなければならない。これらを踏まえ、法第66条第1項本文において、特定技術分野は国際特許分類又はこれに準じて細分化したものに従い定めることとしている。すなわち、国際特許分類は、国際的に統一された特許分類としてその定義が公表されているものであり、かつ、現行の特許実務上、特許出願が受理されると、まず、記載されている発明に国際特許分類を付与する作業が行われていることから、これを用いて特定技術分野を定めることとしている。

 国際特許分類をどの程度細分化した上で定めるかという点については、広く定めるほど、保全指定の対象となり得ないような発明が多く保全審査に付されるとともに、第一国出願義務の対象となり、多くの特許出願人に影響が及ぶこととなる一方、特定技術分野を詳細に細分化した上で示せば安全保障上の問題が生じ得るため、そのバランスに留意しながら個々の技術分野ごとに検討する必要がある。

(3)「国際特許分類又はこれに準じて細分化したもの」について

 国際特許分類は、安全保障上機微な発明の選別を意図して作られたものではないため、本制度における保全審査の対象となる発明の絞り込みという観点から、必要があれば国際特許分類に準じて細分化して定めることとする。この細分化は、国際特許分類と同様に、具体的で明確なものでなければならず、かつ、明細書等の記載から判断が可能で、特許出願人にとっても該当するか否かを判別できる形で政令において定める必要がある。

(4)特定技術分野の見直し

 先端技術は日進月歩で変わるものであることに鑑み、内閣総理大臣は、関係行政機関とも連携し、状況変化に応じて機動的に特定技術分野の見直しを行う。

第2節 付加要件に関する考え方

 法第66条第1項本文は、内閣総理大臣への送付事由、つまり保全審査に付する事由として、特定技術分野に属する発明という要件に加え、「その発明が特定技術分野のうち保全指定をした場合に産業の発達に及ぼす影響が大きいと認められる技術の分野として政令で定めるものに属する場合にあっては、政令で定める要件に該当するものに限る」という形で、一部の特定技術分野にのみ適用される付加的な要件を規定している。以下、ここでいう「政令で定める要件」を「付加要件」と呼ぶこととする。

 前章第1節で述べたとおり、安全保障上極めて機微な発明について保全指定をし、情報流出の防止に万全を期することは、安全保障を確保する上で重要なことであるが、その一方で、保全指定という措置は、経済活動やイノベーションへの影響を伴うものである。典型例としては、前章第2節(2)で述べたとおり、今後民生分野の産業や市場に幅広く展開され、発展していくような発明を保全指定の対象とすることの弊害が挙げられる。したがって、そのような発明は、仮に保全審査に付されたとしても、産業の発達に及ぼす影響との総合考慮の中で保全指定の対象から除かれることとなるが、そもそも一律に産業に与える弊害が著しく、最終的に保全指定をする余地のない発明のみが含まれる技術分野であれば、初めから特定技術分野として選定するべきではない。

 他方で、宇宙・サイバー等の領域における技術など、民生分野の産業や市場に展開される可能性を含んだ技術の分野であっても、例えば、当初から防衛・軍事の用に供する目的で開発された場合や、国の委託事業において開発された場合など、発明の経緯や研究開発の主体といった技術分野以外の角度からの絞りをかければ、軍事・防衛に特化した技術領域に近づき、あるいは民間の経済活動の制約という要素が一定程度軽減されること等により、保全指定をすべき発明が含まれ得る領域を限定的に抽出できるものもあると考えられる。そこで、技術分野以外の角度からもう一つの絞り込みを付加することにより、その条件を満たす場合に限って適用される特定技術分野を定める途を開くのが、付加要件である。

 すなわち、特定技術分野は、付加要件がないものと、付加要件があるものの2種類に分かれる。

 したがって、付加要件を定めるに当たっては、その条件を加味すれば、安全保障上の機微性が高まり、あるいは産業の発達に及ぼす影響が低下し得るなど、両要素のバランスが変化することで、本来であれば特定技術分野として掲げるのに必ずしも適さない技術分野が、その条件の下であれば特定技術分野として掲げられるようになると言い得る条件を見出して、これを定めることとなる。

 また、付加要件は、一定の特定技術分野に該当する発明について、それが保全審査に付されるか否かのみならず、第一国出願義務の対象となるか否かをも画するものであるから、特許庁にとっても、特許出願人にとっても、該当するか否かを明確に判断できる形で政令を定める必要がある。

第3節 有識者等からの意見聴取

 特定技術分野及び付加要件を政令で定めるに当たっては、行政手続法で求められている意見公募手続を行い、広く関係者の意見・情報を公募するとともに、有識者の意見を適切に参照する。

第3章 保全指定に関する手続に関する事項

第1節 保全審査

(略)

第2節 保全指定の期間の延長と解除

(略)

第4章 その他特許出願の非公開に関し必要な事項

第1節 保全対象発明の実施の制限

(略)

第2節 保全対象発明の開示禁止

(略)

第3節 保全対象発明の適正管理措置

(略)

第4節 発明共有事業者の変更

(略)

第5節 外国出願の禁止

 法第78条第1項は、日本国内でした発明であって公になっていないものが、法第66条第1項本文に規定する発明、すなわち、日本で出願すれば保全審査の対象となる発明である場合について、第一国出願義務を定めており、そのような発明については、外国で特許出願をするより前に、まず日本で特許出願をしなければならない。

 「日本国内でした発明」とは、特許出願人の本店所在地等がどこであるかにかかわらず、発明地が日本国内であることを意味し、複数国にまたがって研究・開発が行われた場合には、発明の完成地が発明地となる。

 「外国出願」とは、外国における特許出願及び特許協力条約(PCT=Patent Cooperation Treaty)に基づく国際出願をいい、政令で定めるものを除くものとされている。「政令で定めるもの」として、例えば、特定の外国政府との間で非公開の特許出願を相互に受け入れ合うことや、特定の条件下でなされた発明について、発明の秘密に関する自国の法律を適用してはならないこととする国際約束が締結されている場合における当該約束に従った当該国への外国出願などが考えられる。

 日本で出願せずに初めから外国で出願しようとする者は、出願書類に記載する発明がこの第一国出願義務の対象となる発明か否か自ら判断する必要があるが、法第79条第1項において、事前に特許庁長官にその確認を求めることができる仕組みが設けられている。さらに、この事前確認制度には、たとえ保全審査の対象となる発明であっても、内閣総理大臣が「国家及び国民の安全に影響を及ぼすものでないことが明らかである」と認めた場合には、禁止の例外として外国出願を許容する仕組みも設けられている。特許庁長官及び内閣総理大臣においては、制度の趣旨を踏まえ、迅速に回答するよう努める必要がある。

第6節 損失の補償

 法第80条第1項は、損失補償の相手を「保全対象発明(保全指定が解除され、又は保全指定の期間が満了したものを含む。)について、法第73条第1項ただし書の規定による許可を受けられなかったこと又は同条第4項の規定によりその許可に条件を付されたことその他保全指定を受けたことにより損失を受けた者」と規定していることから、同項の損失補償を受けられるのは、指定特許出願人又は指定特許出願人であった者である。

 また、補償の範囲については、「通常生ずべき損失を補償する」と規定されており、これは一般的に、相当因果関係がある損失を意味するものである。補償を受けるには、実際に「損失を受けた」ことが必要である。

 補償の対象となり得る損失としては、例えば、実施が不許可とされて保全対象発明を実施できなかったことにより回収できなかった開発・設備投資費用や通常得られるはずであったのに得られなかった利益等が想定される。損失の算定は、発明の内容や不許可とされた発明の実施の態様等によって様々であるが、請求人の予見性を高めるため、補償の対象となり得る損失例について、担当部局において別途Q&A等の形で示すこととする。

 損失補償を受けようとする者は、補償請求の理由や補償請求額の総額及びその内訳、算出根拠等を示し、その損失について補償を受けることの相当性を示す必要がある。例えば、実施の許可の申請時の事業計画等を基に補償を請求することが想定される。このとき、十分な根拠が示されていない損失については、補償の対象とならないこととなる。

 補償の請求を受けた内閣総理大臣が補償金額を算出する際には、その請求について、請求人から説明を受けるなど、十分に意思疎通を図ることが必要である。その上で、専門家の意見も聞きながら、客観性を持って妥当な金額を算出する必要がある。その際、内閣総理大臣は、請求人が過度な不利益を被ることのないよう十分配慮することが必要である。

第7節 政府内における情報の適正管理

(略)

第8節 本制度の周知・広報及び情報提供

 本制度の趣旨や内容、具体的な手続等については、担当部局において、Q&A等の策定を含め、特許出願に携わる関係者に対する十分な周知・広報及び情報提供に努めることとする。

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2023年2月 5日 (日)

第471回:知財本部メタバース検討論点整理案他

 今回は、先週の知財本部のメタバース検討会の論点整理案についてと、合わせて私が出した2つのパブコメを載せておく。

(1)知財本部のメタバース検討会の論点整理案
 知財本部では、新しく設置されたメタバース上のコンテンツ等をめぐる新たな法的課題への対応に関する官民連携会議の下、知財権に関する第一分科会、アバター肖像に関する第二分科会、アバター行為に関する第三分科会がその下に作られ、この1月から2月にかけてかなり急ピッチで検討が進められている。

 第一分科会は1月13日に第1回が、2月1日に第2回が開かれており、この第2回で示された、現実空間と仮想空間を交錯する知財利用、仮想オブジェクトのデザイン等に関する権利の取扱いに関する論点の整理(たたき台)(pdf)は、たたき台とあるのでさらに検討を重ねるつもりなのだろうが、以下の様に、既にある程度の方向性が書かれている。

Ⅰ.仮想空間における知財利用と権利者の権利保護

(略)

課題1-1;現実空間のデザインの仮想空間における模倣、現実空間と仮想空間を横断した実用品デザインの活用

(略)

2.対応の方向性

①意匠法による対応については、クリエイターの創作活動に対する萎縮効果を生じさせる等の懸念もあることから、中長期的課題として慎重に検討することが適当である。

②現実空間の商品のデザインが仮想空間で模倣される事案への対応や、リアルとバーチャル双方で用いる実用品のデザイン保護への対応としては、まずは、不正競争防止法において、ネットワーク上の商品形態模倣行為を規制できるようにしていくことが適当である。

③仮想空間おいてアバターが使用する実用品等のデザインに対し、著作権による保護がどこまで及び得るかについては、応用美術の著作物性等に関する裁判例の一般的な傾向や実務の積み重ねを踏まえ、まずは考え方を整理し、その上で適切に周知を図っていくことが望ましい。

課題1-2;現実空間の標識の仮想空間における無断使用

(略)

2.対応の方向性

①仮想空間における商標の無断使用に対し、権利者側が講じることのできる実務上の対応策や、その際の留意事項等について、適切な周知を図っていくことが望まれる。

②政府においても、現実空間と仮想空間を通じた商品展開に適切に対応するよう、世界知的所有権機関(WIPO)における商品・サービスの国際分類の整備動向等を踏まえつつ、バーチャル版の商品表示に係る運用面の整備を進めることが期待される。

課題1-3;現実環境の外観の仮想空間における再現

(略)

2.対応の方向性

①現実環境の外観を仮想空間に再現しようとする場合の著作権・商標権の処理について、事業者が利用を希望する著作物・商標や利用形態について整理した上で、事業者が許諾の要否を判断する上での判断材料となるよう、現行法上の考え方等を周知していくことが求められる。

②特に、付随対象著作物の利用については、メタバース内では対象物に接近すると大写しになることとの関係や、現実環境の外観をディフォルメを伴って再現する場合の取扱いなどについて、実務や実態を踏まえつつ、まずは考え方を整理し、その上で、適切に周知を図っていくことが望ましい。

Ⅱ.メタバース上の著作物利用等に係る権利処理

(略)

課題2-1;メタバース上のイベント等における著作物のライセンス利用

(略)

2.対応の方向性

①メタバースユーザーによる著作物等の侵害利用の防止や適切な事後対応について、プラットフォーマーに求められる対応や、有効な方策等を整理し、わかりやすく示していくことが求められる。

②著作物の適切な利用について、メタバースユーザーの理解の増進を図るよう、現実空間で著作物を利用する場合との違い等も含め、留意すべき事項や必要となる手続き等について、周知・啓発等の取組を進めていくことが求められる。

③既存の仕組みがメタバースの実態に合わす、利用しづらいなど、メタバース空間内における著作物の利用や、その円滑な権利処理に関し、隘路となっている事項等がある場合において、これに適切に対応できるよう、関係者間の対話・協議の促進が図られることが望ましい。

課題2-2;仮想空間におけるユーザーの創作活動

(略)

2.対応の方向性

①クリエイティブコモンズライセンス等と同様に、メタバース内におけるUGCの利用についても、二次利用を認めるユーザーの意思表示を、当該UGCの利用条件と併せて、簡易にわかりやすく示せるような仕組みが整備され、普及されていくことが望ましい。

②著作権侵害防止化等のためにプラットフォーマーその他の事業者等が留意すべき事項や、UGCの創作活動の活性化を図る上で有効な方策(例えば、二次利用の可否をはじめ、プラットフォーム内におけるUGCの創作・利用に関するルールを利用規約で定めるなど)等について、周知を図っていくことが適当である。

課題2-3;NFT等を活用した仮想オブジェクトの取引

①仮想オブジェクトの「保有」

(略)

2.対応の方向性

①仮想オブジェクトをめぐる権利について、一般的な考え方の整理とともに、どのような法的位置付けの下に、誰が、どのような権利をもつのかを契約上明確化するなど、契約等に当たり特に留意すべき事項等について、ユーザーや事業者等へ周知していくことが求められる。

②将来的に、プラットフォームを超えた相互運用が実現した際には、仮想オブジェクトの取引をめぐるユーザー間のトラブル保護等について、プラットフォームの利用規約のみで対応できない問題等が生じ得ることも考えられることから、それらの問題への可能な対応方策(例えば、複数プラットフォーマーによる共通ルールの整備、複数プラットフォームを横断して利用されるサービスを介した対応措置など)について、相互運用性の実現に向けた国際的な議論の動向にも留意しつつ、検討していくことが必要である。

②NFT等を活用した仮想オブジェクトの二次流通等

(略)

2.検討の方向性

①UGCの利用条件を個々のクリエイター(一次創作者)に設定させるプラットフォームにおいては、その利用条件が二次流通以降の購入者に対し適切に伝わるようにするためにも、創作活動を行うユーザーに対し、例えば、クリエイティブコモンズライセンスやその他の意思表示の仕組みと連携する等により、著作物の利用条件の表示を簡易に行えるサービスを提供していくことが期待される。

②プラットフォームを超えた相互運用が実現した際に、複数プラットフォームを横断して起こる問題にどのように対応するかが課題となることから。相互運用性の実現を目指した民間事業者等による国際的フォーラムにおける議論の動向を適切にフォローするとともに、必要に応じ、我が国からも適切なルールの提案等を行っていく必要がある。

③一次創作者へのロイヤリティについては、プラットフォーム横断的なロイヤリティ収受には限界があること等を含め、クリエイター等に正しく理解されるよう、周知を行っていくことが求められる。

 ここで書かれている事は、要するに、新たな法改正による対応は不正競争防止法の改正により商品形態模倣規制をネットワーク上の仮想オブジェクトにも適用されるようにして行き、他の点については既存の法規制の周知などによるとするものである。

 この不正競争防止法の改正ポイントは、第469回で取り上げた、経産省の不正競争防止小委員会の報告書案で既に書かれていたものであり、想定通りと言えるものである。そして、この知財本部の論点整理案の注釈にも書かれている通り、1月30日に開かれた不正競争防止小委員会の第22回でほぼ原案通りのデジタル化に伴うビジネスの多様化を踏まえた不正競争防止法の在り方(案)(変更履歴有版)(pdf)が示され、とりまとめられている。

(不正競争防止法の改正については、この小委員会の下の外国公務員贈賄に関するワーキンググループも1月26日の第5回でほぼ原案通り外国公務員贈賄罪に係る規律強化に関する報告書(案)(変更履歴有版)(pdf)もとりまとめられている。)

 つまり、今年のメタバースに関する法改正による対応はこの不正競争防止法の改正に留まる事が想定されるが、知財本部のこの論点整理案にも書かれている通り、「著作権による保護は、著作物と認められるものであれば、基本的に、現実空間か仮想空間かの別を問わずに保護が及ぶこととなる」のであって、別に仮想空間におけるオブジェクトの利用は完全に自由で何をしても良いという事ではない事に注意すべきなのは無論の事である。

 この議論は、あくまで応用美術の実用品について著作物性が認められるかどうかについて微妙なケースが存在している事を前提としている。同じく、商標法においてもコンピュータプログラムの様なバーチャルな商品について指定が可能であり、商標権の保護も及び得る。これらの著作権法や商標法における例外・適用除外についても整理して良く周知して行くべきというのもその通りだろう。

 仮想オブジェクトの利用について現時点で契約に委ねるとしているのも妥当であり、ここでNFTについてどうこう言うつもりは全くないが、この論点整理案で以下の様に書かれている事は重要であり、この点の理解はもっと広められて良いと私も思う。

○仮想オブジェクトの「保有者」が持つ権利については、実態として捉えれば、
・当該仮想オブジェクトのデジタルデータにアクセスし、利用することのできる利用権が、その内容となるとともに、
・当該仮想オブジェクトのデザイン等が著作権の対象となる場合には、当該デザイン等を一定の条件内で利用できるライセンス(場合によっては、その著作権自体)が紐付けられている
ものと考えられ、仮想オブジェクトの取引等により、これらの権利が「保有者」に付与されているものと解される。なお、データの利用権は、契約に基づく債権であり、その効力は契約当事者間のみに止まる。

 他2つの分科会について、第二分科会は1月26日に第1回が開かれた所で方向性を含む論点整理案はまだ示されていないが、第三分科会の方は1月30日に第2回が開かれ、その仮想オブジェクトやアバターに対する行為、アバター間の行為をめぐるルール形成、規制措置等に関する論点の整理(たたき台)(pdf)たたき台の構成(pdf)も参照)では、対応の方向性について以下の様に書かれている。ここでは、知財との関係は薄いので以下を抜粋するに留めるが、現時点で、この様に新たな法規制を作る事はせず各プラットフォームにおける自主ルールに任せるとしているのも妥当だろう。

Ⅳ.問題事案への対応の方向性

〇以上を踏まえ、メタバースにおける問題事案への対応を効果的に推進していくために、今後さらに、プラットフォーマーが、メタバースの特性や、自らのサービスの特性に応じて、効果的な取組を自律的な創意工夫により実施することが必要であると考えられる。その際、次のような取組みを進めていくことが期待される。

1.自由と安全・安心の両立

(略)

<対応の方向性>

①ワールドごとのローカルルールの設定

〇各プラットフォームにおいて、多様なコミュニティによる多様な文化の展開を図っていく上では、利用規約によるプラットフォーム内共通のルールに加え、ワールドごとのローカルルールを設定できるようにしていくことが、有効な方策の1つとなり得ると考えられる。各ワールドに適用されるローカルルールについては、当該ワールドを訪れようとするユーザーに対し、わかりやすく表示することが望ましいと考えられる。

(略)

②子ども・未成年者の安全・安心の確保

〇ワールドごとのローカルルールは、例えば、子どもに相応しくないコンテンツを持込み不可としているワールドが明示的に示されるなど、子どもや未成年者が安心・安全に過ごせるワールドを選択的に訪問できるようにする上でも、意義が大きいものと考えられる。

〇これらに加え、各プラットフォームにおいて、それぞれの特質を踏まえつつ、子ども・未成年の保護の観点からユーザーが遵守すべき事項の明確化など、必要な対応を検討していくことが重要である。今後さらに、メタバースにおける子ども・未成年者の経済活動の取扱いなど、将来的な課題を見据えた議論が、関係者間で積み重ねられることにも期待したい。

2.プラットフォーマーの利用規約等による適切なルール形成と実効性の確保・向上

(略)

<対応の方向性>

③各プラットフォームにおけるコミュニティ基準等の整備

〇ユーザーが遵守すべき事項や、違反者への対応方針について、利用規約本文とは
別に、これと紐づくコミュニティ基準等として、具体的に、わかりやすく示していくことは有効と考えられる。これらの基準整備の事例等について、情報共有を促進していくことが求められる。

④問題発生防止・事後対応のノウハウ共有

〇メタバース事業に新規参入する事業者のために、違反事案への対処など、ルールの実効性確保を図る上で共通に必要となる事項を整理し、ガイドライン等として示していくことが求められる。

〇特に、メタバース内で起こる様々な問題事案について、当該事案のタイプやそれが生じた場合の対応措置について一定の類型化を行い、関係事業者間で事例の集積・共有を図っていくことが有効である。ここでは、例えば、通報の仕組み等をはじめ、問題事案への対応の仕組み・措置について、各プラットフォーマーが、自己のプラットフォームに適した仕組み・措置の導入を検討していけるよう、有効な方策等の情報を整理することが考えられる。

〇さらに、メタバースの事業環境を整える上では、例えば、被害者からの通報を受け被害拡大防止の措置を行うなど、問題事案への対処を適切に行ったプラットフォーマーが、プロバイダ責任制限法に基づき、生じていた問題(権利侵害)に対する損害賠償責任を免責され得ること等について、明確化が図られることが望ましい。
※プロバイダ責任制限法上の送信防止措置に該当するかの検討には、サービスの提供の態様や講じる措置に関する一定の類型化を図り、分析することが有効であると考えられる。

3.被害ユーザー自身による対抗措置や法的請求を可能とするための対応

(略)

<対応の方向性>

⑤発信者情報開示制度の運用の明確化

〇メタバース内における権利侵害事案に関しても、発信者情報開示請求制度を活用した加害者の特定を円滑に行えるよう、サービス提供の態様に応じて、どのような行為が権利の侵害といえるか、また、どのような情報の送信が権利侵害情報の送信に当たるかの検討が求められる。

〇そのためには、メタバース以外の領域で積み重ねられてきた既存の事案に関する多数の裁判例も十分に参考にした上で、サービスの提供の態様やメタバース特有の問題事案に関する事例の収集・蓄積と類型化を図ることが有効であると考えられる。

⑥海外プラットフォーマーに係る国内代表等の明確化

○日本のユーザーが海外のプラットフォーマーに対して法的な請求を行う場合や、日本の捜査当局が海外のプラットフォーマーに対して捜査の協力を求める場合に、これが円滑に行われるために必要な仕組みを設けることが有効であると考えられる。

4.国際的な動向への対応

(略)

<対応の方向性>

⑦国内議論から国際的な議論への接続

〇メタバースにおけるルール形成の在り方等に関する国内議論を進めるに当たり、国際的な議論の動向に対する情報収集の機能を高めるとともに、我が国発メタバースの発展等を期する観点から、それらの議論の成果を国際的なルール形成の中へと積極的に反映していけるよう、国際的なフォーラムへの参画その他のコミットメント体制の強化を図っていくことが必要である。

(2023年2月12日夜の追記:2月10日に第二分科会の第2回も開催され、アバターの肖像等に関する取扱いに関する論点の整理(たたき台)(pdf)が示されたので、同様に方向性の部分を抜粋してここに追記しておく。これも新たな法改正を必要とするものではないが、この論点整理案に書かれている通り、アバターを介するからと言って著作権侵害や誹謗中傷が成立しないなどという事はあり得ず、他の場合と同様の注意が必要なのは無論の事である。以下、追記の抜粋。)

Ⅰ.メタバース外の人物の肖像の無断使用への対応

(略)

課題1-1 実在の人物の肖像の写り込み

(略)

2.対応の方向性

<プラットフォーマー、関係事業者等に向けた対応>
〇メタバース空間の構築の際に付随して写り込んだ・取り込んだ肖像の扱いについて、肖像権・パブリシティ権との関係や、権利処理の要否等に関する考え方、侵害を回避するための方策等の整理を行うとともに、現場がより安心して正しく判断できるよう、メタバースプラットフォーマーや関係事業者等へ向け、ガイドライン等を通じた必要な周知を行っていくことが求められる。

(略)

課題1-2;実在する他者の肖像を模したアバター等の無断作成・無断使用

(略)

2.対応の方向性

<プラットフォーマー、関係事業者、ユーザー等に向けた対応>
〇実在の人物の容ぼうを模したアバター・NPCの無断作成・無断使用により、当該人物の権利を侵害する等の事案を防止するよう、基本的な考え方や、留意すべき事項、必要となる手続き等について整理するとともに、ガイドライン等を通じ、メタバースのプラットフォーマーや、アバター作成等のサービス事業者、ユーザーなどに向け、必要な周知を行っていくことが求められる。

<継続的な把握・検討>
〇さらに、肖像権の侵害等に当たる可能性について、著名人の肖像を用いる場合、パロディとして用いる場合など、より具体的な事案に即した考え方の整理が進められるとともに、本人の承諾なしに使用する場合の法的リスクについて現場が適切に判断できるよう、それらの考え方が示されていくことが望ましい。

(略)

Ⅱ.他者のアバターの肖像等の無断使用その他の権利侵害への対応

(略)

課題2-1;他者のアバターの肖像・デザインの無断使用

①他者のアバターのデザインを盗用したアバターの作成・使用

(略)

2.対応の方向性

<プラットフォーマー等に向けた対応>
〇アバターの肖像の第三者による不適正な利用を防ぐ上で、プラットフォーマー等において特に留意すべき事項や、講じうる対策等について、ガイドライン等を通じ、必要な周知を行っていくことが求められる。

(略)

<ユーザーに向けた対応>
〇自己のアバターのデザインを盗用したアバターの無断作成・無断使用に対し、ユーザーがとり得る対応策等について、ガイドライン等を通じ、必要な周知を行っていくことが必要である。

(略)

<アバターのライセンスモデル等における対応>
〇著作権の移転を受けず、ライセンスによりアバターを使用するユーザーが、デザイン盗用等への対抗策を自ら講じていく上では、ライセンス契約時の利用条件の設定に際しても、これを可能とするような設定としておくことが重要となる。関係団体等が作成するライセンス契約のひな型には、それらの条件設定を可能とするオプションが盛り込まれるとともに、各ひな型の解説書、又はライセンスモデル作成に関する共通的な参照文書(ガイダンス)において、それらの条件設定の意義について適切な説明がなされることが望ましい。

<継続的な把握・検討>
〇さらに、オリジナルのデザインで創作されたアバターの肖像権・パブリシティ権の取扱いについては、関連する裁判例の動向等を注視しつつ、関係者によるさらなる議論が積み重ねられ、その考え方の整理・明確化が図られることが期待される。

②アバターの肖像の無断撮影・公開

(略)

2.対応の方向性

<プラットフォーマー、ユーザー等に向けた対応>
〇実在の人物の容ぼうや創作デザインによるアバターの容ぼうが、スクリーンショットやカメラで撮影された場合においても、他者のアバターの肖像に写しとられた場合(課題1-2、課題2-1①)と同様に、肖像権・パブリシティ権、著作権等との関係をめぐる課題を生じることとなる。それらの課題と合わせ、メタバースのプラットフォーマーやユーザー等が留意すべき事項、有効な対応方策等について、ガイドライン等を通じ、必要な周知を行っていくことが求められる。

課題2ー2 他者のアバターへのなりすまし、他者のアバターののっとり等

(略)

2.対応の方向性

<プラットフォーマー等に向けた対応>
〇アバターによる他者へのなりすまし、他者のアバターののっとり等の問題事案を防ぐ上で、プラットフォーマー等において留意すべき事項や講ずべき方策等について整理し、ガイドライン等を通じ、必要な周知を行っていくことが求められる。

<継続的な把握・検討>
〇さらに、他者のアバターへのなりすまし等をはじめ、様々な問題事例の実情に即し、既存の確立した法理論のみでは十分な救済を図れていないケース等について把握するとともに、それらを踏まえ、アバターをめぐる人格的権利利益の保護のこれからの在り方について、さらなる議論が積み重ねられることが望ましい。

(略)

課題2-3 アバターに対する誹謗中傷等

(略)

2.対応の方向性
<プラットフォーマー等に向けた対応>
〇アバターに向けた誹謗中傷等の問題事案を防ぐ上で、プラットフォーマー等において留意すべき事項、講ずべき方策等について整理し、ガイドライン等を通じ、必要な周知を行っていくことが求められる。

<ユーザー等に向けた対応>
〇アバターに向けた誹謗中傷等に対し、被害者側はどのような対処が可能か、加害者側はどのような法的責任を問われる可能性があるか等の基本的な考え方について、ガイドライン等を通じ、ユーザー等向けた必要な周知を行っていくことが必要である。

<継続的な把握・検討>
〇さらに、アバターのキャラクターや容ぼう等に向けた誹謗中傷等について、名誉毀損や名誉感情侵害がどこまで成立し得るか、どのような場合であれば成立し得るかについて、引き続き裁判例の動向等を注視しつつ、考え方の整理が進められることが望まれる。

Ⅲ.アバターの実演に関する取扱い

(略)

課題3 アバターの実演に係る著作隣接権の権利処理

(略)

2.対応の方向性

<関係事業者、ユーザー等に向けた対応>
〇アバターの実演に係る権利処理が適切に行われるよう、例えば、以下のような事項について、整理ができたものから、関係事業者やユーザー等向けに周知していくことが必要である。
・自分以外のアバターの実演を配信したり、保存したりする等の活動を行う事業者やユーザー等において、特に留意すべき事項、権利侵害の防止等のために講ずべき措置等としてどのようなことがあるか。
・実演家の権利の権利者たるアバター操作者において、特に留意(理解)しておくべき事項等はあるか。

<継続的な把握・検討>
〇さらに、モーションデータの記録に実演家の録画権が及ぶかを含め、アバターの実演等に関する権利の取扱いについては、関係者による議論が積み重ねられ、その法的考え方等が明確化されることを期待したい。

(2023年3月19日の追記:3月16日に上位会議のメタバース上のコンテンツ等をめぐる新たな法的課題への対応に関する官民連携会議の第2回が開かれ(議事次第・資料参照)、各分科会の論点整理案を全てまとめた「論点整理」素案(pdf)が示されているので、ここにリンクを張っておく。)

(2023年4月29日の追記:上のメタバースに関する論点整理案について知財本部が5月7日〆切でパブコメを行っているので(知財本部の意見募集ペーパー(pdf)参照)、念のため知財計画パブコメ(第475回参照)と同じく不正競争防止法改正案による形態模倣規制のデジタル空間への適用に賛同するがそれ以上の法改正には慎重であるべきと意見を出した。)

(2023年6月11日の追記:5月23日に知財本部のHPで最終版の論点整理(pdf)が公開されたので、ここにリンクを張っておく。)

(2)文化庁・著作権分科会・法制度小委員会報告書案に対する提出パブコメ
 文化庁では、1月30日に第9回の法制度小委員会が開かれ、多少注釈などが追加されていると思うが、ほぼ原案通り報告書(pdf)概要(pdf)も参照)がとりまとめられている。

 この小委員会で出された意見募集の結果(pdf)に個人の意見も省略される事なく掲載されており、私の提出意見は前回書いた事を提出意見として整理したものだが、後で参照したくなる事もあるかも知れないと思ったので、念のためここに載せておく。

 今後は、2月7日に開催される予定の上の文化審議会・著作権分科会で(開催案内参照)、答申としてとりまとめられて、著作権法改正案が閣議決定の上国会に提出されるという流れになるだろう。また、他の小委員会の内、国際小委員会の方は1月13日の第3回報告書案(pdf)に基づいて審議経過の報告がされるのだろうが、基本政策小委員会の方はどうするつもりなのか良く分からない。

(2023年2月12日夜の追記:2月7日に文化庁で文化審議会・著作権分科会の第66回が開かれ、「デジタルトランスフォーメーション(DX)時代に対応した著作権制度・政策の在り方について」第一次答申(pdf)が原案通り了承されているので、念のためここにリンクを張っておく。基本政策小委員会については結局審議経過の報告すらなかった様である。)

(以下、文化庁提出パブコメ。)

(1)「簡素で一元的な権利処理方策と対価還元について」について
 本項目で記載されている通り、著作権者等の意思が確認できない著作物等について著作権者等からの申出があるまでの時限的な利用を認める新しい制度を創設する事に賛同する。

 法律の条文レベルではなく政省令又は運用において注意すべき事であろうが、そのDX時代への対応という目的が没却されないよう、また、制度利用の促進を図るため、新制度においては、少なくとも相談・申請から利用許可までの全手続きがネットだけで完結する様にするべきである。

 また、同様に制度利用の促進を図るため、公的な支援や授業目的公衆送信補償金制度の共通目的事業等の活用によりなるべく手数料の低廉化を図るべきである。

 そして、将来的に、利用許諾に関する公的制度が全てネットだけで完結する様に裁定制度も合理化し、裁定制度と新制度の統合を検討して行くべきである。

(2)「立法・行政・司法のデジタル化に対応した著作物等の公衆送信等について」について
 本項目で記載されている通り、立法、行政、民事・家事事件手続き等の目的のために作物等の公衆送信や公の伝達を可能とする事に賛同する。

 民事・家事事件手続等のための対応は民訴法改正の施行に合わせる事もあり得るが、その他の立法・行政目的のための公衆送信等の可能化はそれに引き擦られる事なくなるべく早く施行するべきである。

 また、刑事訴訟の電子化への対応も見越し、この機会に民事手続きのみならず裁判手続き一般のための公衆送信等を認める様にしておいた方が良いと考える。

(3)「損害賠償額の算定方法の見直しについて」について
 本項目で記載されている通り、損害賠償額の算定方法について特許法等同様の見直しを行うことに賛同する。

 損害賠償については、今後も、本報告書案の第26ページに書かれている様に、あくまで既存の填補賠償の枠内で権利者の実効的な救済を図るに留め、その限度を超える莫大な損害賠償によって創作活動を委縮させる事がないよう今後も常に留意して行くべきである。

(4)「研究目的に係る権利制限規定の検討について」について
 本項目において、上記の「簡素で一元的な権利処理方策と対価還元について」において提言されている新制度の導入を待ち、これによっても解決されない支障や新たなニーズがある場合に研究目的の権利制限についてさらに検討を行うとされている方針に賛同しない。

 確かに、研究目的という事では、現行の著作権法の各権利制限によって拾える部分もかなりあるだろうが、この問題はこれらの既存の権利制限の周知により解決されるものではないし、上記の新制度の導入により解決されるものでもない。

 その事は2019年度から2021年度の調査研究の結果によっても明らかであると考えるが、新たな知見を創造する事で文化の発展に寄与するものである研究のためであるにも関わらず、そもそも既存の権利制限に含まれない形の利用もあり得る事、そのために申請等の手続きが必要な事自体が問題なのであって、本来、この様な文化の発展に寄与する事が明らかな目的に対しては、著作権者の利益を不当に害する場合を除き、申請の様な手続きを必要とせずに利用が認められて然るべきである。

 本項目は全面的に書き改め、新制度の導入を待つ事なく、今次の法改正により速やかに欧米主要国並の一般的な研究目的の権利制限を設けるとするべきである。その際、特にアメリカ型の一般フェアユース条項による事が望ましいと考える。

(5)その他
 文化庁は、意見募集の結果について極めて恣意的にまとめた回答を出しただけで、実質的にブルーレイを私的録音録画補償金の対象とする著作権法施行令改正の閣議決定を2022年10月21日に強行した。今まで積み重ねられてきた、判例、保護利用小委員会などの審議会における議論、様々な関係者の意見の全てを愚弄する、この不当な政令改正は到底納得できるものではない。ブルーレイレコーダーとディスクを私的録音録画補償金の対象とする事について今に至るも妥当な根拠は何一つ見出せない。

 以前提出した意見の通り、私は一国民、一個人、一消費者、一利用者・ユーザーとして到底納得の行かない私的録音録画補償金の対象拡大になお断固反対する。

 集まった2406件の意見の全文を速やかに公表するとともに、自身の過ちを認め、政令を元に戻す閣議決定を行う事を私は求める。その上で、中立的な第三者による調査により、前提となっていた旧来の形の私的録音録画自体もはや時代遅れになり少なくなっているという事を示し、全関係者が参加する公開の場で議論し、私的録音録画補償金制度は歴史的役割を終えたものとして廃止するとの結論を出すべきである。

(3)総務省・プラットフォーム事業者による対応の在り方についての意見募集に対する提出パブコメ
 他に、第469回でまとめて取り上げたパブコメの内、総務省のプラットフォームサービスに関する研究会の下の誹謗中傷等の違法・有害情報への対策に関するワーキンググループの12月26日の第1回誹謗中傷等の違法・有害情報に対するプラットフォーム事業者による対応のあり方について(意見募集)(案)(pdf)によりなされていたパブコメは、必ずしも知財に関するものではないが、表現の自由との関係で重要なものであり、私も少し長めの意見を出した。これもいつも書いている事とそれほど違いはないが、念のため合わせてここに載せておく。

 この意見募集用ペーパーは表現の自由に重きを置く視点も網羅しており、特に危険な方向性が出ているとは言えないが、パブコメも終わり、じきに始まるだろうこのワーキンググループでの検討は引き続き注意して行った方が良いだろう。

(以下、総務省提出パブコメ。)

(1)1の1コンテンツモデレーションに関する透明性・アカウンタビリティの確保について
 総論について、去年の「第二次とりまとめ」に対する意見募集で提出した意見のとおりであるが、以下の意見を提出する。

 表現の自由の重要性に鑑み、ユーザの情報モラル・リテラシー向上のための活動及びプラットフォーム事業者の自主的な取組の支援を中心とした施策の推進に賛同する。

 プラットフォーム事業者の透明性・アカウンタビリティ確保のための検討をさらに進めることについても賛同するが、ここでなされるべきことはあくまで個々のユーザに自ら対処するために必要な情報と手段が与えられることであって、それを超える行政の関与はなされるべきでないことに十分留意していただきたい。

 表現の自由及び検閲の禁止の観点から、行政や政治が個々のコンテンツの内容に介入することは断じてあってはならないことである。

(2)1の2プラットフォーム事業者に求められる積極的な役割について
 上で書いた通りであるが、透明性・アカウンタビリティの確保のための方策に関する検討に加えて、プラットフォーム事業者の積極的な役割を検討することには基本的に慎重であるべきである。

 何かしらの強制力を伴う法規制によりプラットフォーム事業者の積極的な役割を義務化する事は、プラットフォーム事業者による行き過ぎた対応を招く恐れがあり、この様な手段によってはかえって表現の自由を危うくするおそれがある事を考慮するべきである。

 原則として、透明性・アカウンタビリティの確保のための取組により、プラットフォーム事業者の自主的な対応を促すべきである。

(3)2.全体の検討を通じて留意すべき事項について
 この2の項目で書かれている各点、被害者の救済、発信者の表現の自由、インターネット及びプラットフォームサービスの特性とその表現の自由との関係、自主的な取組が原則である事について十分に留意し、検討は進められるべきである。

(4)3.透明性・アカウンタビリティの確保方策の在り方について
 この3の項目で書かれている様に、特定の要件を満たすプラットフォーム事業者に対し、コンテンツモデレーションに関する運用方針の策定・公表、運用結果の公表、自己評価の実施・公表、運用方針の改定を促し、申請窓口等透明化や実施又は不実施の判断に係る理由の説明等の一定の措置を求める事について問題はないと考える。

 3の2の各項目、3の4の項目、3の5(1)、(3)の項目、3の6の項目についても同じ意見を提出する。

(5)3の1透明性・アカウンタビリティの確保が求められる事業者について
 この3の1の項目に書かれている様に、透明性・アカウンタビリティの確保は、その負担及び影響力を考えまず大規模なサービス事業者のみに求めるべきである。

(6)3の3プラットフォーム事業者による評価、運用方針の改善について
 上で書いた通り、プラットフォーム事業者による自己評価の実施・公表、運用方針の改定を促す事について問題はないと考えるが、表現の自由に与える影響などの観点から、その評価に対して一定の関与を行う公的機関を設ける事などはするべきではない。あくまで問題のある場合に明確に権限及び義務を有する行政庁の監査を可能とするに留めるべきである。

(7)3の5(2)個別のコンテンツモデレーションの実施又は不実施に関する理由について
 上で書いた通り、実施又は不実施の判断に係る理由の説明等について求める事自体に問題はないと考えるが、アカウントの停止・凍結やアカウントの再作成の制限等については、影響が大きいと考えられる事から、慎重であるべきであり、非常に悪質な場合を除き求められない事を明確化するべきである。

(8)4の1(1)権利侵害情報の流通の網羅的なモニタリングについて
 この4の1の項目で書かれている通り、プラットフォーム事業者に対し権利侵害情報の流通を網羅的にモニタリングする事を法的に義務づける事は、検閲に近い行為を強いる事となり、表現の自由や検閲の禁止の観点から問題が生じ、事業者による過度の情報削除を招く恐れが強く、表現の自由に著しい萎縮効果をもたらす恐れがある事から、決してあってはならない事である。

(9)4の1(2)繰り返し多数の権利侵害情報を投稿するアカウントのモニタリングについて
 上で書いた通り、表現の自由や検閲の禁止等の観点から、プラットフォーム事業者に対し権利侵害情報の流通をモニタリングする事を求めるべきではなく、権利侵害情報の削除等については、原則として被侵害者からの申請によるべきである。ただし、同じアカウントについて申請が繰り返しなされた場合、申請の時点で多数の権利侵害投稿がなされている場合、申請の内容を考慮すると別アカウントの投稿であるが同じ者からの同様の内容の投稿である可能性が高い場合など、非常に悪質な場合についてアカウントの停止・凍結やアカウントの再作成の制限等の対応があり得る事を明確化する事はあって良いと考えるが、これも法規制によるべきではなく、あくまでプラットフォーム事業者の透明性・アカウンタビリティを確保して行く上での自主的な取組の中での明確化に留めるべきである。

 また、プロバイダ責任制限法の解釈の余地はあるが、行政による一方的な拡大解釈は慎むべきである。

(10)4の2(1)削除請求権について
 この4の2(1)の項目で書かれている様に、一般的な投稿の削除を求める権利は、実務上あるいは学説上も明らかではなく、この様な一般的な権利の創設には慎重であるべきであり、個別には違法性がない投稿の削除を可能とする事も非常に問題が大きい事である。判例法理によって既に認められている事を明文化する事自体には反対しないが、基本的に新たな対応が必要な類型が生じているという事はなく、今のところ法改正などは必要なく、判例法理のまとめ及び事業者に対する周知で十分であると考える。

(11)4の2(2)プラットフォーム事業者による権利侵害性の有無の判断の支援について
 この4の2(2)の項目で書かれている様に、プラットフォーム事業者による権利侵害性の有無の判断を支援するための環境を整備する事自体に問題はないと考えるが、下でインターネット・ホットラインセンターなどについて書く事と同様に、新しい天下り機関の創設などは決してされるべき事ではなく、個別の投稿の内容に踏み込む事もあってはならず、基本的に慎重であるべきである。支援をする場合、権限及び義務を有する行政庁からの一般的な支援とするべきである。

 また、民事保全手続よりも簡易・迅速な、削除に特化した裁判外紛争解決手続の検討自体について反対はしないが、これは2021年のプロバイダー責任制限法改正と重なるものであり、その施行からまだほどない事から、まず2021年のプロバイダー責任制限法改正の有効性を確認するべきであり、その結果を踏まえて検討するべきである。

(12)4の2(3)行政庁からの削除要請を受けたプラットフォーム事業者の対応の明確化について
 この4の2(3)の項目で書かれている事について、インターネット・ホットラインセンターは委託先事業者であっても行政庁ではない事が留意されるべきである。相談を受ける事や事業者に自主的な対応を促す事自体に違法性があるとまでは言わないが、この半官半民の機関位置づけの明確化を検討する事自体問題である。この様な位置づけの曖昧な機関は解散されるべきであり、ある投稿について真に権利侵害があるというのであれば、警察・検察による検証可能な明確な法執行によるべきである。ここで書かれている様に、検閲の禁止や表現の自由などの観点を踏まえ、インターネット・ホットラインセンターの要請に応じる事を義務づける事などは、困難であるのは無論の事、そもそもあってはならない事である。

(13)4の3(1)プラットフォーム事業者による削除等の義務付けについて
 この4の3(1)の項目で書かれている様に、過度な削除等による表現の自由への著しい萎縮効果をもたらす恐れがある事に鑑み、投稿の削除等の措置を行うことを公法上義務付けることには、極めて慎重であるべきである。

(14)4の3(2)裁判外の請求への誠実な対応について
 上の項目に書かれている各留意点を十分に考慮し、裁判外の請求への誠実な対応についても、原則として、プラットフォーム事業者の透明性・アカウンタビリティ確保により促すべきである。

(15)5の1検討対象となる情報の範囲について
 この5の1の項目で書かれている様に、表現の自由や検閲の禁止等の基本的な権利に関する観点から、各種情報について、行政庁からの強制力を伴う削除要請等によって対応することには、極めて慎重であるべきなのは無論の事、決してあってはならない事である。

(16)5の2行政の体制や手続
 上及び下で書く通りであるが、この様な検討に乗じて新たな天下り機関を創設する事などあってはならない事である。

(17)5の3相談対応の充実について
 この5の3の項目に書かれている通り、インターネット上の違法・有害情報に関する相談対応の充実を図ることが重要であるが、この様な相談窓口の強化にあたり天下りを前提とする事があってはならない。

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2022年12月29日 (木)

第469回:2022年の終わりに(各知財法改正関係報告書案パブコメ)

 国会も役所も休みに入り、今年のイベントも一通り終わったと思うので、ここで各省庁の知財政策に関する検討状況をまとめておきたいと思う。

(1)文化庁の各小委員会と報告書案パブコメ

 まず、文化庁の文化審議会・著作権分科会は、この12月にも持ち回り開催で、図書館等公衆送信補償金政令案に関する答申がされている。

 著作権分科会の下の各小委員会について、ブルーレイへの私的録音録画補償金の対象拡大パブコメの結果概要が報告された(第467回参照)、対価還元策などを検討している基本政策小委員会では12月21日分野横断権利情報データベースに関する研究会報告書(pdf)の報告がされたり、国際的な著作権保護に関する検討をしている国際小委員会では11月21日文化庁の海外における著作権保護の推進(pdf)の報告などがされているが、これらの小委員会の報告書案はまだ出ていない。

 中でも今年最も数多く開催されていた小委員会は、法制度小委員会で、12月26日報告書案(pdf)概要(pdf))が示され、1月18日〆切でパブコメに掛かっている(文化庁HPの意見募集ページ、電子政府HPの意見募集ページ1参照)。

 この法制度小委員会の報告書案については次回年明けに内容についてもう少し細かく取り上げたいと思っているが、その4つのポイントについて結論だけの抜粋を作ると以下の様になる。

  • 簡素で一元的な権利処理方策と対価還元について(法制小委報告書案第3~16ページ):「著作物等の利用の可否や条件に関する著作権者等の『意思』が確認できない(『意思の表示』がされていない)著作物等について、一定の手続を経て、使用料相当額を支払うことにより、著作権者等からの申出があるまでの間の当該著作物等の時限的な利用を認める新しい制度・・・を創設する」、「文化庁長官による指定等の関与を受けた窓口組織が受付や要件の確認、利用料の算出等の手続を担う」、「時限的な利用の最終的な決定やその取消しは文化庁長官の行政処分による」
  • 立法・行政・司法のデジタル化に対応した著作物等の公衆送信等について(同第17~18ページ):「立法又は行政目的のために内部資料として必要となる著作物等の公衆送信や公の伝達を可能とすることが必要」、「特許審査等の行政手続及び行政庁の行う審判その他裁判に準ずる手続に必要となる著作物等の公衆送信や公の伝達を可能とする必要がある」、「民事訴訟以外の民事・家事事件手続等についても原則として電子化・オンライン化されることに伴い、適正な裁判の実施や裁判を受ける権利の保障の観点から、当該民事・家事事件手続等に必要となる著作物等の公衆送信や公の伝達を可能とする必要がある」
  • 損害賠償額の算定方法の見直しについて(同第19~26ページ):「侵害者の譲渡等数量のうち、著作権者等の販売等の能力を超える、又は著作権者等が販売することができないとする事情があるとして賠償が否定される部分について、侵害者にライセンスしたとみなして、ライセンス料相当額の損害賠償を請求できることとする」、「ライセンス料相当額による損害賠償額の算定に当たり、著作権侵害があったことを前提として交渉した場合に決まるであろう額を考慮できる旨を明記する」
  • 研究目的に係る権利制限規定の検討について(同第27~28ページ):「引き続き著作権法第32条、第38条等をはじめとする著作権制度の普及啓発の実施、令和3年改正による図書館関係の権利制限規定の見直し等の運用状況をフォローするとともに、現在検討を進めている簡素で一元的な権利処理方策と対価還元に係る新しい権利処理方策による対応を行い、これによる課題解消の可能性や、さらにそれらによっても解決されない支障や新たなニーズがある場合に、必要に応じて検討を行うこととする」

(2)特許庁の各小委員会と報告書案パブコメ

 次に、特許庁で、産業構造審議会・知的財産分科会の下、各小委員会が開催されている。

 特許制度小委員会では、12月19日までの検討で示された報告書案の知財活用促進に向けた特許制度の在り方(案)(pdf)が1月20日〆切でパブコメに掛かっている(特許庁HPの意見募集ページ1、電子政府HPの意見募集ページ2参照)。

 商標制度小委員会では、12月23日までの検討で示された報告書案の商標を活用したブランド戦略展開に向けた商標制度の見直しについて(案)(pdf)が1月24日〆切でパブコメに掛かっている(特許庁の意見募集ページ2、電子政府HPの意見募集ページ3参照)。

 意匠制度小委員会では、12月7日までの検討で示された報告書案の新規性喪失の例外適用手続に関する意匠制度の見直しについて(案)(pdf)が1月12日〆切でパブコメに掛かっている(特許庁の意見募集ページ3、電子政府HPの意見募集ページ4参照)。

 ほぼ制度ユーザにしか関係しないので細かな説明は省略するが、特許庁からパブコメに掛かっている各報告書案に含まれている法改正事項の概要を抜粋として作ると以下の様になる。

  • 送達制度の見直し(特許小委報告書案第10~15ページ):「出願人等が出願ソフトを立ち上げた時に、特許庁の受付サーバに発送書類が格納された旨の通知が送付される」という「案1を基本として検討を進めることが適当」、「送達の効力発生までの期間については『10日間』とする」、「公示送達の方法についても、デジタル化を促進する観点から、特許公報への掲載を廃止し、特許庁ホームページに掲載することにより実施する方向で検討を進めることが適当」、「戦争やコロナ禍の影響により現実に国際郵便の引受けが停止され、当該国に対して航空書留郵便等に付する発送ができない状況が長期間継続した場合には、公示送達を実施することができるよう、公示送達の要件を見直す方向で検討を進めることが適当」
  • 書面手続デジタル化(同第16~19ページ):「書面手続デジタル化に向けた関係手続整備を進めることが適当」、「優先権証明書の写しの提出を許容するとともに、オンライン提出を可能とすることが適当」
  • 裁定制度の閲覧制限導入(同第20~21ページ):「裁定関係書類のうち営業秘密が記載された書類は、閲覧等を制限可能とすることが適当」
  • 意匠の新規性喪失の例外適用手続(意匠小委報告書案第5~9ページ):「法定期間(出願から30日)内に提出した最先の公開についての証明書に基づき、それ以後に意匠登録を受ける権利を有する者等の行為に起因して公開された同一又は類似の意匠についても新規性喪失の例外規定の適用を受けられる」という「②の案において、『証明書により証明した意匠の公開時以後に公開された意匠』の要件を『公開時以後』ではなく『公開日以後』とする方向性で意匠の新規性喪失の例外規定の適用手続を緩和することが適当」
  • 他人の氏名を含む商標の登録要件緩和(商標小委報告書案第5~10ページ):「本規定の『他人の氏名』に一定の知名度の要件を設けること、また、無関係な者による悪意の出願等の濫用的な出願の防止のため、出願人側の事情(例えば、出願することに正当な理由があるか等)を考慮する要件を課すことが適当」
  • コンセント制度の導入(同第11~17ページ):「先行登録商標の権利者の同意があってもなお出所混同のおそれがある場合には登録を認めない『留保型コンセント』の導入が適当」、「当事者間における混同防止表示の請求や不正使用取消審判請求の規定を設けることが適当」
  • Madride Filingにより商標の国際登録出願をする際の本国官庁手数料(同第18~19ページ):「本国官庁手数料について、出願人がeFilingを利用して国際登録出願をしようとする場合に限り、他の手数料と一括でスイスフランにより国際事務局へ納付することを可能とするため、商標法について所要の手当をすることが適当」

(3)経産省の不正競争防止小委員会と報告書案パブコメ

 経産省の不正競争防止小委員会では、第463回で取り上げた中間報告の後、外国公務員贈賄に関するワーキンググループによる検討と並行して、各論点の検討が続けられ、その報告書案としてデジタル化に伴うビジネスの多様化を踏まえた不正競争防止法の在り方(案)(pdf)外国公務員贈賄罪に係る規律強化に関する報告書(案)(pdf)が、それぞれ1月19日と1月17日〆切でパブコメに掛かっている(電子政府HPの意見募集ページ5参照)。

 これらの不正競争防止法改正に関する報告書案についてもここで簡単に書くに留めるが、同様にポイントの抜粋により概要を作ると以下の様になる。

  • デジタル時代におけるデザインの保護(形態模倣商品の提供行為)(不競小委報告書案第7~10ページ):「不競法第2条第1項第3号に規定する形態模倣商品の提供行為にも『電気通信回線を通じて提供』する行為を追加することが適切」
  • 限定提供データの規律の見直し(同第11~14ページ):「『秘密として管理されているものを除く」要件(不競法第2 条第 7 項)に関する課題については、『秘密として管理されているものを除く』要件を、『営業秘密を除く』と改める、又は『秘密として管理されているものを除く』要件を削除することが適切」
  • 渉外事案に係る国際裁判管轄及び不正競争防止法の適用範囲に関する規定整備(同第15~17ページ):「国際裁判管轄に関する規定の整備については、渉外的な営業秘密侵害事案に関し、立法措置が可能であれば、日本の裁判所に管轄を認めるとする競合管轄規定を設ける方向で検討を進めることが適切」、「不競法の適用範囲については、国内における営業秘密侵害事案と同様に政策的保護が必要となる渉外的な営業秘密侵害事案に関し、法の適用に関する通則法による準拠法の選択にかかわらず直接に適用される(法の適用に関する通則法よりも優先する)規定を設けることにつき関係省庁とともに引き続き検討した上で、立法措置が可能であれば、当該立法措置の範囲が国際裁判管轄と併せて適切となるよう検討を行うことが適切」
  • 損害賠償額算定規定の見直し(同第18~20ページ):「不競法第5条第1項については、営業秘密に関し『技術上の秘密』に限定されている対象情報を営業秘密全般に拡充し、さらに『物を譲渡』した場合のみを想定している要件をデータや役務を提供している場合にも拡充することが適切」、「特許法と同様、被侵害者の生産、販売及び役務提供能力を超える部分の損害の認定規定を追加することが適切」、「同条第3項については、『使用』以外の行為が含まれる点を明確化するために、不競法第2条第1項各号の不正競争行為が全て対象となるよう規定することが適切」、「特許法と同様、不正競争があったことを前提として交渉した場合に決まるであろう額を考慮できる旨の規定を追加することが適切」
  • 使用等の推定規定の拡充(同第21~26ページ):「不競法第5条の2の対象情報については、対象情報を営業秘密全般へと拡充することが適切」、「対象類型について、正当取得類型(不競法第2条第1項第7号)への拡充については、刑事規律における『領得』行為(不競法第21条第1項第3号)が介在している場合に限り適用対象とする等、営業秘密保有者から営業秘密を示された者への一定の配慮措置を講じることが適切」、「取得時善意無重過失転得類型(不競法第2条第1項第6号及び第9号)への拡充については、不正開示行為等の介在について悪意重過失に転じている場合に限り適用対象とすることを前提とし、その上で、営業秘密が記録された記録媒体等を消去・廃棄せずに保持している場合に限定する等、一定の配慮措置を講じることが適切」、「被告が保持することとなる対象は、①『営業秘密記録媒体等』・『営業秘密が化体された物件』(不競法第21条第1項第3号イ参照)及び、②営業秘密がアップロードされているサーバー等のURLとすることが適切」、「不競法第5条の2の限定提供データへの拡充(限定提供データにも適用可能とすること及びその範囲)については、営業秘密同様、技術上及び営業上の情報を対象とし、不正取得類型(不競法第2条第1項第11号)、取得時悪意転得類型(同項第12号及び第15号)を対象とすることが適切」、「正当取得類型(同項第14号)については、営業秘密と同様に「領得」行為が介在している場合に限り適用対象とする等、一定の配慮措置を講じること、また、取得時善意転得類型(同項第13号及び第16号)については、使用行為が不正競争行為の対象となっていないことから、適用の対象外とすることが適切」
  • 営業秘密及び限定提供データに関するライセンシーの保護制度の創設(同第27~29ページ):「特許法等と同様の制度措置を行うことへの潜在的なニーズは存在するものの、現時点では実際のトラブル事例が顕在化していないことから、実務の動向を注視し、取り得る措置について、関係省庁等と調整しつつ、引き続き検討を継続していく」
  • 商標法のコンセント制度導入を受けた適用除外規定について(第30~32ページ):「商標法へのコンセント制度導入により後行商標が登録され、その後、先行商標又は後行商標が周知又は著名となった場合に、後行商標権者又は先行商標権者が不正の目的でなくその登録商標を商品等表示として使用等する行為を商品等表示に係る不正競争の適用除外とする規定を追加することが適切」、「不競法第19条第2項の規定を参考に、コンセント制度により後行商標が登録され、その後、先行商標又は後行商標が周知又は著名となった場合、自己の商品又は営業との混同を防ぐために適当な表示を付すべきことを請求することができる規定を追加することが適切」
  • 外国公務員贈賄罪に係る規律強化(外国贈賄WG報告書案第4~25ページ):「自然人に対する罰金額の上限を1,000万円~3,000万円、懲役刑の長期を5年超~10年に引き上げる」、「法人に対する罰金額の上限を5億円~10億円に引き上げる」、「刑訴法250条の例外を設けることは適切でないが、仮に懲役刑の長期が10年に引き上げられるならば、その結果として公訴時効期間が7年に延長となり勧告に対応することが可能」、「日本法人の外国人従業員が国外で単独で贈賄を行った場合について、当該外国人従業員を処罰し得る規律を創設し、法人に対する適用管轄を拡大するために、『●条の罪は、日本国内に主たる事務所を有する法人の代表者、代理人、使用人その他の従業者であって、その法人の業務に関し、日本国外において罪を犯した日本国民以外の者にも適用する』などといった規定を創設する方向性が適切」

(4)総務省の各検討会とプラットフォームの誹謗中傷対応に関するパブコメ

 総務省では、第463回で取り上げた2つの報告書案に関し、9月16日にインターネット上の海賊版サイトへのアクセス抑止方策に関する検討会現状とりまとめ(pdf)(総務省HPのリリース1参照)、8月25日にプラットフォームサービスに関する研究会第二次とりまとめ(pdf)(総務省HPのリリース2参照)がそれぞれ取りまとめられてパブコメ結果とともに公表されている。その後、プラットフォームサービスに関する研究会の下に設けられた誹謗中傷等の違法・有害情報への対策に関するワーキンググループの第1回が12月26日に開催され、プラットフォーム事業者による対応の在り方についての意見募集が1月26日〆切で行われている(電子政府HPの意見募集ページ7参照)。このパブコメはそのタイトルが示す通り誹謗中傷対策に関するものであり、今の所国内でそれほど危うい事が検討される気はしないが、表現の自由との関係でこの総務省の検討は今後も注視して行くべきものだろう。

(5)農水省、知財本部その他

 農水省では、例年通り、重要な形質の指定に関し、農業資材審議会・種苗分科会が12月9日に開催されている。これも第463回で触れた事の続きとなるが、種苗法関連では、12月2日に、農水省の海外流出防止に向けた農産物の知的財産管理に関する検討会我が国における育成者権管理機関のあり方について(pdf)がとりまとめられており、その中で育成者権管理機関の設立が提言されている。

 また、これも細かな説明は省略するが、農水省の地理的表示法HP地理的表示保護制度の運用見直し(pdf)に書かれている通り、施行規則(pdf)審査要領(pdf)の改正により、11月1日施行で登録後の義務の簡素化や審査基準の柔軟化などが行われている。

 知財本部では、メタバース上のコンテンツ等をめぐる新たな法的課題への対応に関する官民連携会議という有識者会議が新たに立ち上がっている。今ここでメタバースについて何か政策的に有意な議論ができるかどうか甚だ疑問だが、3つの分科会が作られ、それぞれ、第一分科会で、現実空間と仮想空間を交錯する知財利用、仮想オブジェクトのデザイン等に関する権利の取扱いについて、第二分科会で、アバターの肖像等に関する取扱いについて、第三分科会で、仮想オブジェクトやアバターに対する行為、アバター間の行為等をめぐるルールの形成、規制措置等の取扱いについて検討が行われる予定になっている。

 最後に、経済安全保障法についても書いておくと、内閣官房で経済安全保障推進会議や、内閣府で経済安全保障法制に関する有識者会議が引き続き開催されているが、法律の成立後、新秘密特許(非公開)制度に関する運用の詳細についてこれらの会議で検討された様子はない。

 これで今年も各省庁の報告書案がほぼ出揃い、来年の知財法改正のメニューが大体分かった事になる。想定される法改正の内容自体に特に大きな問題はないが、上でも書いた通り、文化庁の報告書案については回を分けてもう少し詳しい事を書くつもりである。

 文化庁がまた暴走してブルーレイに私的録音録画補償金の対象を拡大する政令改正を強行するなど今年も碌でもない年だった。いつもの口上となるが、政官業に巣食う全ての利権屋に悪い年を、そして、このブログを読んで下さっている方々に心からの感謝を。

(2022年1月22日夜の追記:意見募集ページを見れば分かる事だが、総務省の意見募集は1月27日0時〆切で、27日と書くより26日〆切と書いておいた方が良いと思ったので上の日付を修正した。)

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2022年7月18日 (月)

第463回:総務省、特許庁、経産省、農水省それぞれの知財関係報告書

 7月10日の選挙で自民党が勝ち、本来であればこれで当面自公安定政権となるはずだが、国内外の情勢を見るにつけ、政治的に不安定な状況が続く様に思えてならない。

 それはさておき、この選挙日程に合わせたのかどうか良く分からないが、今年はこのタイミングで各省庁から知財関係の報告書が案も含め多く公表されているので、一通り内容をざっと見ておきたいと思う。ただし、内容としては、いずれも、明確な法改正の方針を示すものというより、継続検討項目の多い中間報告といった位置づけのものばかりである。

(1)総務省・インターネット上の海賊版サイトへのアクセス抑止方策に関する検討会・現状とりまとめ案
 まず、総務省から、インターネット上の海賊版サイトへのアクセス抑止方策に関する検討会で作られた現状取りまとめ案に関する意見募集が8月18日で掛かっている(総務省HPの意見募集ページ1、電子政府HPの意見募集ページ1参照)

 この現状とりまとめ案(pdf)の内容について、7月13日の検討会資料概要(pdf)の方から、今後の取組の方向性の記載を抜き出すと以下の通りである。(下線部は元の資料による。)

≪総論≫
引き続き、海賊版サイトへのアクセスの抑止を図るため、政策メニューに記載された業界をまたぐ関係者間の協議や普及啓発の取組、端末側での警告表示の取組等を継続・改善する必要がある。
・今後、本検討会において定期的にフォローアップを行い、各主体の取組の効果検証を行うことが必要。
表現の自由や通信の秘密の保護、検閲の禁止の規定に留意して進める必要がある。

≪1.ユーザに対する情報モラル及びICTリテラシーの向上のための啓発活動≫
・より多くのユーザが海賊版サイトにアクセスすることを思いとどまるよう、普及啓発を継続する必要がある。その際、例えば違法にアップロードされたサイトを閲覧することが犯罪行為の助長につながるということなども併せて周知することが有効。
・特定サイトのアクセスを防止するだけでなく、著作権侵害を行う海賊版サイト全体へのアクセスを思いとどまらせる観点からの普及啓発が必要

≪2.セキュリティ対策ソフトによるアクセス抑止方策の促進≫
・主にライトユーザがアクセスしようとするサイトが海賊版サイトであると自覚せずにアクセスすることを防ぐ観点から、引き続き、関係者によるリスト作成・共有とセキュリティソフトによる警告表示の取組を行うことが必要。
アクセス抑止機能未導入のセキュリティ対策ソフト事業者への同機能の導入を働きかけることが重要。例えば、有料のセキュリティ対策ソフト事業者に加え、無料のセキュリティ対策ソフト事業者への同機能の導入に向けた働きかけを行うことが求められる。
・セキュリティ対策ソフトによる海賊版サイトへのアクセス時の警告に関するユーザの受容度に関する意識調査や警告表示が
ユーザが海賊版サイトへのアクセスを思いとどまるのに貢献した程度などについて引き続き効果検証を行う必要がある。

≪3.発信者情報開示に関する取組≫
・2022年10月1日に施行される改正プロバイダ責任制限法について、関係機関との連携や周知などを行うことが必要。

≪4.海賊版対策に向けた国際連携の推進≫
ドメインの不正利用への方策を検討していくため、国際的な場(ICANN等)への働きかけを継続して行う必要がある。
・特定のサイトの運営者がドメインホッピングなどを行いインターネット資源を悪用していることや、特定のサイトの運営者の登録情報をレジストラが正確に把握することの必要性の認識共有を図り、ICANNにおける実効的な対策を促すことが重要
・引き続き二国間協議やマルチの国際会合の場などを捉えて協議を行う必要がある。

≪政策メニュー以外の取組≫
・以下に掲げるような、検索結果を通じた新興海賊版サイトへの流入の防止、CDNサービスによる海賊版サイトの設備投資の軽減と急成長への寄与の防止、ドメインなどのインターネット資源が海賊版サイトに悪用されることの防止など、海賊版サイトの運営に関連するエコシステム全体へのアプローチを強化することが求められる。

○広告
・海賊版サイトの運営目的を失わせる観点から、引き続き、関係者によるリスト作成・共有と、業界団体を通じた出稿枠の提供、広告出稿の停止の取組を行う必要がある。
・海賊版サイトに現在も表示され続けている、いわゆるアングラな広告について、海外の出稿事業者への働きかけなどの必要な取組を検討するために、実態把握を行う必要がある。

○CDNサービス
・利用規約違反が明らかになった場合のキャッシュの削除やサービス停止などの仕組みの確実な実施など、CDNサービス事業者による自社サービスが著作権侵害サイトに悪用されることを防止するための取組が着実に図られるように促すことが必要
・海賊版サイトのうち2021年12月の月間アクセス数トップ10のうち9サイトがクラウドフレア社のサービスを利用しているという指摘を踏まえ、クラウドフレア社に対して、自社サービスが海賊版サイトに悪用されることが明らかになった場合のキャッシュの削除やアカウント停止の仕組み、権利侵害を行った者に関する適切な情報開示といった対応を促す必要がある。また、同社による海賊版サイトによる不正利用への対応が不十分であるという指摘を踏まえ、同社は、利用規約に基づく対応が適切に行われているか、例えば、権利者や第三者からの削除要請等の違反申告受付態勢、運用とその結果について、適切な説明を行う必要がある。

○検索サービス
・検索サービスからの流入を抑止する観点から、検索事業者と出版権利者間の協議などにより事前に定められた手続きに従って海賊版サイトの検索結果から非表示にする取組を継続・改善する必要がある。
・検索事業者と出版権利者間の検索結果からの非表示に関する協議を継続するとともに、一定の条件を満たす場合の海賊版サイトのドメインごと検索結果から削除する取組について、特に、特定の海賊版サイトがドメインホッピングをした結果設立される後継サイトや新興サイトへの対応が十分機能しているか、効果検証を継続的に行うことが重要

○その他
・ユーザが海賊版サイトにアクセスするインセンティブを失わせる観点や、海賊版サイトのユーザは潜在的な正規版のユーザであるという観点からも、正規版の流通について一層促すことが有用
・サイトブロッキングは通信の秘密や表現の自由を脅かす可能性があるという指摘も踏まえ、引き続き、表現の自由や通信の秘密の保護、検閲の禁止の規定に十分留意する必要がある。

 この概要の通り、このとりまとめ案は、表現の自由や通信の秘密と検閲の禁止への配慮も明記され、危険な方向性が出ているといった事はないが、今の方向性を堅持する様にとの意見を私も出しておきたいと思っている。

(2)総務省・プラットフォームサービスに関する研究会・第二次とりまとめ案
 このタイミングで、総務省からは、プラットフォームサービスに関する研究会の第二次とりまとめ案も8月3日〆切でパブコメに掛かっているので、知財とは少し観点が異なるが、大きな意味でのネット規制に関係するものとして合わせて紹介しておく(総務省HPの意見募集ページ2、電子政府HPの意見募集ページ2参照)。

 この第二次とりまとめ案(pdf)プラットフォーム検討会によるもので、誹謗中傷や偽情報を含む違法有害情報への対応と、利用者情報の取扱いについて、国内のみならず各国のプラットフォーム規制の動向の調査も含むかなり大部のものである。

 同様に6月30日の研究会資料概要(pdf)から、違法有害情報対策全般に関する今後の取組の方向性の部分を以下に抜き出しておく。(下線部は元の資料による。偽情報対策や利用者情報の取扱いに関する方向性も重要である事に変わりはないが、ここでは省略する。)

≪0.前提となる実態の継続的な把握≫
・違法有害情報対策の前提として、プラットフォーム事業者は、自社サービス上の違法・有害情報の流通に関する実態把握とリスク評価を行うことが必要
・総務省も、相談機関等における相談件数や内容の傾向、目撃経験や被害経験に関するユーザ調査等を通じた継続的なマクロな実態把握が必要。

≪1.ユーザに対する情報モラル及びICTリテラシーの向上のための啓発活≫
・実態把握や分析結果に基づき、産学官民が連携し、引き続きICTリテラシー向上施策が効果的となるよう、青少年に加え大人も含め幅広い対象に対してICTリテラシー向上のための取組を実施することを検討していくことが必要。普及啓発の実施にあたっては、目標の設定と効果分析の実施が重要。
・総務省や各ステークホルダーによるICTリテラシー向上の取組状況を把握し、ベストプラクティスの共有や更なる効果的な啓発を行うことが必要

≪2.プラットフォーム事業者の自主的取組の支援と透明性・アカウンタビリティの向上≫
<プラットフォーム事業者の自主的取組の支援>
・プラットフォーム事業者が自らのサービス上での違法・有害情報の流通状況について実態把握とリスク分析・評価を行うことが必要
・トラステッドフラッガーの仕組みの導入・推進にむけて検討を行うことが望ましい。法務省の人権擁護機関からの削除要請に関し、削除に関する違法性の判断基準・判断方法や個別の事業者における削除実績等について関係者間で共有し、円滑な削除対応を促進することが必要
・プラットフォーム事業者は、一定の短期間の間に大量の誹謗中傷が集まった場合へのアーキテクチャ上の工夫について、既存の機能や取組の検証や新たな対応の検討を行うことが望ましい
<プラットフォーム事業者による取組の透明性・アカウンタビリティの向上と枠組みの必要性>
・プラットフォーム事業者は、投稿の削除等に関して透明性・アカウンタビリティの確保を国際的な議論も踏まえて果たすことが必要。前回ヒアリング状況から一部進展が見られるものの、一部項目において、依然、透明性・アカウンタビリティの確保が十分とは言えない状況であった。

・我が国におけるプラットフォーム事業者による投稿削除等に係る体制確保や運用状況等の透明性・アカウンタビリティ確保に向けて、総務省は、行動規範の策定及び遵守の求めや法的枠組みの導入等の行政からの一定の関与について、速やかに具体化することが必要。
・具体化にあたっては、①リスクベースアプローチ、②リスク分析・評価と結果公表、③適切な対応の実施と効果の公表、④継続的モニタリング、⑤データ提供、といったといった大枠としての共同規制的枠組みの構築を前提に検討を進めることが適当。対応状況の分析・評価を継続的に行うことが必要。

≪3.発信者情報開示に関する取組≫
・2022年10月の法施行に向け、関係事業者及び総務省の間で新制度の具体的な運用に関する協議を進めることが必要
・プラットフォーム事業者・行政側の双方で、発信者情報開示に関する申請や開示件数等について集計・公開することが求められる

≪4.相談対応の充実に向けた連携と体制整備≫
違法有害情報相談センターにおいて、相談機関間の連携と窓口の周知の強化とともに、引き続き着実な相談対応を実施することが必要

 これも特に危険な方向性が出ているといった事はないが、ネットにおける一般的な違法有害情報対策に関するものとしてこの研究会での今後の検討も注意しておいていいだろう。

(3)特許庁・政策推進懇談会・報告書
 特許庁からはこの4月から6月までに開催されていた政策推進懇談会の報告書知財活用促進に向けた知的財産制度の在り方~とりまとめ~(pdf)が6月30日にとりまとめられている。

 その概要は、最後の第72~73ページのまとめに以下のようにまとめられている。

・AI、IoT時代に対応した特許の「実施」定義見直しについては、プログラムに関する発明を特許により適切に保護できるよう、サービスの提供形態、属地主義の観点等を考慮し、現行制度の解釈の限界にも留意しつつ、具体的な法改正の在り方について検討を深める必要がある。
・意匠特有の問題に対応すべく、出願人の負担軽減と第三者の不利益のバランスを考慮しつつ、意匠の新規性喪失の例外適用手続を緩和する方向で法改正の具体的内容について検討を深める必要がある。
・メタバース内の画像の保護に関しては、関係する法令に基づき、模倣行為に対して取り得る方策やその限界についての議論の整理を進め、クリエイターの創作活動に対する萎縮的効果を生じさせないよう十分考慮しつつ、意匠権等による保護の在り方について、中長期的視野で検討を深める必要がある。
・コンセント制度の導入について、需要者の保護の観点から、審査において出所混同のおそれを判断する「留保型コンセント」を前提に、事後的に出所混同を生じた場合の手当も含めて、法改正の具体的内容について検討を深める必要がある。
・他人の氏名を含む商標の登録要件緩和について、当該他人に一定の知名度を要求する方向で法改正の具体的内容について検討を深めるとともに、その場合に生じる論点・課題として、求める知名度の程度、無関係の者による出願の対応等についても検討する必要がある。
・懲罰的損害賠償/利益吐き出し型損害賠償については、今後の国内外の裁判例等を引き続き注視する必要がある。
・過失推定規定における「過失」については、事例の類型化を行い、特許権者と被疑侵害者双方のバランスに留意しつつ、「過失」を推定することが酷といえる場合があるか、諸外国の事例等についてさらに分析を進める必要がある。
・ライセンス促進策については、制度の趣旨を明確にした上で、中小企業・大学等の実務を踏まえ、ライセンス許諾条件や特許料等の軽減策の是非を含め、検討を深める必要がある。
・共有特許の考え方の見直しについて、大学固有の課題に関する知的財産推進計画2022の提言「大学等における共同研究成果の活用促進」に則りつつ、中小企業等も含めた共有特許全体の考え方については、適切な契約が行われるよう、モデル契約書の周知等の取組を続ける必要がある。
・新技術、デジタル化、グローバル化の動きに中小企業等が取り残されることがないよう、特許庁、INPIT及び関係機関等の連携の在り方について検討を深める必要がある。
・一事不再理の考え方については、現行の条文でも裁判所の運用である程度の対応がなされているという意見や、「同一事実・同一証拠」という極めて限局的なケース以外は、再度の無効審判請求が許されているのは一回的解決や行政コストの面から問題があるという意見を踏まえつつ、特許権者側と請求人側のバランスに留意しながら、現行運用の評価も踏まえつつ、法改正の在り方について検討を深める必要がある。
・減免制度の見直しについては、申請者・特許庁双方の手続・事務の簡素化を図ってきた経緯や制度利用者への影響を留意しながら、審査請求料の減免申請の年間の適用件数に上限を設けることを早急に検討する必要がある。
・審判関係料金等の見直しについては、産業界をはじめとするユーザーの皆様の御意見を踏まえ、実費や欧米の料金水準との比較に基づき裁定・判定請求手数料額の見直しの必要性を慎重に検討する必要がある。
・特許庁と出願人との手続を原則オンライン可能とし、手続デジタル化をより一層促進する必要がある。

 明確な方向性が出ている項目はあまりないが、比較的法改正に向けて踏み込んだ記載となっている、海外サーバーや複数事業者による特許侵害に対応するための実施規定の見直し、意匠の新規性喪失の例外適用手続の緩和、商標コンセント制度の導入、他人の氏名を含む商標の登録要件の緩和などを中心としてさらに検討が続けられるのだろう。

(4)経産省・不正競争防止小委員会・中間報告書
 経産省からは産業構造審議会・知的財産分科会・不正競争防止小委員会の中間報告書デジタル社会における不正競争防止法の将来課題に関する中間整理報告(pdf)が5月17日に公表されている。

 これも個別の各論点から検討の方向性の記載を抜粋して概要をまとめておくと以下の様になる。(括弧内のページ数は記載を抜粋したページ数。)

第2章:

≪1.限定提供データに係る規律の制度・運用上の課題の見直し≫
「第一に、制度創設時に措置を見送った事項については、引き続き、実務の動向を注視しつつ継続的に検討を行う。第二に、『秘密として管理されているものを除く』要件に関する課題については、直近の手当てとして『限定提供データに関する指針』の改訂を検討しつつ、本小委員会での意見も踏まえ制度的手当の検討を進める。第三に、『善意取得者保護に係る適用除外規定の善意の判断基準時』に関する課題については、限定提供データの転得者の取引の安全、元の限定提供データ保有者の保護のバランスを踏まえ、制度実装を行っている事業者によるニーズ・個別事案等の状況も踏まえ、適切な制度の在り方について検討を進める。」(p.10)

≪2.立証負担の軽減≫
「引き続き、営業秘密侵害訴訟における立証(証拠収集)の困難性を解決するための制度的手当について検討を行う。使用等の推定規定の拡充について(中略)引き続き、制度拡充の方向性について迅速に検討を進める。(中略)査証制度の導入については、海外での実施の可能性も含め、引き続き中長期的な視点で検討を継続することとする。限定提供データ侵害に係る立証(証拠収集)の困難性を解決する措置については、引き続き実務の動向を注視しつつ、将来、適切なタイミングで検討を行う。」(p.21~22)

≪3.損害賠償額算定規定の見直し≫
「不競法第5条第1項に関する制度的課題については、現行制度では、『技術上の秘密』が侵害された場合に適用場面が限定されているところ、データ侵害の場合にも本項を活用できるよう『営業秘密』全般に拡充を行う方向で検討を進める。また、現行制度では、『物を譲渡』している場合にしか適用できないところ、『データを提供』している場合や『サービス(役務)を提供』している場合等にも拡充を行う方向で検討を進める。不競法第5条第3項に関する制度的課題については、現行制度では、営業秘密等が『使用』されている場合に適用場面が限定されている点について、『使用』に限らず営業秘密等が利用されている場合も適用対象に含むことができるよう制度的手当を実施する方向で検討を進める。特許法等で先行して手当がされている、『権利者の生産・販売能力等を超える部分の損害の認定規定』(特許法第102条第1項改正部分)、『相当使用料額の増額規定』(特許法第102条第4項改正部分)については、不競法の特質を考慮しつつ、同様の制度的手当を行う方向で検討を進める。」(p.28)

≪4.ライセンシーの保護制度≫
「営業秘密や限定提供データを対象とするライセンス契約のライセンシーの保護制度については、その制度整備に肯定的な意見が多く、今後具体的な検討を進める。」(p.32)

≪5.国際裁判管轄・準拠法≫
「今後、企業の訴訟戦略を妨げないとの視点、制度整備による他国法令への影響、他国の法制化動向等を加味しながら、制度整備の是非について継続検討していく。」(p.37)

第3章:

≪1.ブランド・デザイン保護規律に関する課題の検討≫
「デジタル時代における不競法第2条第1項第3号の規律のあり方についても、将来課題の1つとして、今後継続議論を行っていく。」(p.39)

≪2.外国公務員贈賄罪の規律の強化≫
「将来の制度的手当に向けて、本小委員会において継続的に議論を進めることとする。」(p.40)

 これも各論点について引き続き検討されるのだろうが、既に他の知財法改正で導入されている事との関係で、損害賠償額算定規定の見直しやライセンシーの保護制度の導入などの検討が比較的早く進むだろうか。

(5)農水省・海外流出防止に向けた農産物の知的財産管理に関する検討会・中間論点整理
 最後に農水省からは海外流出防止に向けた農産物の知的財産管理に関する検討会中間論点整理(pdf)が7月8日に公表されている。

 この中間論点整理は、海外への流出の防止のため、「育成者権者の意向を踏まえ育成者権の信託や利用権の設定等を受け、専任的に知的財産権の管理、国内外での侵害の監視・対応、海外ライセンスを行うことができる育成者権管理機関を設置すべき」と書いているが、育成者権管理機関の具体的な管理の方法や業務についてはさらに検討な課題であるとしており、具体的にどうするつもりなのかはまだ良く分からない。

(2022年7月24日夜の追記:重複してコピーしていた記載を削除するとともに、報告書の概要について読み易さを考慮して項目名に≪≫をつけたり、元の資料の下線をつけるなどした。)

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2022年6月12日 (日)

第461回:今国会で成立した経済安保法による新秘密特許(特許非公開)制度に関する補足

 今国会でほとんど出来レースの様な審議により経済安保法(正式名称は「経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関する法律」)が成立し、この法律により2年以内に新しい秘密特許(特許非公開)制度が実施される事になった。(衆議院の議案ページ、内閣官房の法律案ページ参照。)

 まず、衆議院内閣委員会の附帯決議から、秘密特許制度に関する部分を以下に抜粋する。

 政府は、本法の施行に当たっては、次の事項に留意し、その運用等について遺漏なきを期すべきである。

(略)

二 特定重要物資を指定する政令及び安定供給確保支援法人の指定に関する主務省令並びに特定社会基盤事業者の指定基準を定める主務省令は、関係事業者、関係事業者の団体その他の関係者の意見を考慮して制定するとともに、特定技術分野を定める政令は、安全保障の確保に関する経済施策、産業技術その他特許出願の非公開に関し知見を有する者の意見を考慮して制定すること。

三 特定重要物資、特定社会基盤事業者及び指定基金の指定並びに特定技術分野の選定は、客観的かつ公平に行うこと。

(略)

十 保全対象発明の選定に当たっては、産業への影響を考慮して対象をできる限り限定的なものとすること。その際、デュアルユース技術については、国費による委託事業の成果である技術や、防衛等の用途で開発された技術、あるいは出願人自身が了解している場合などを念頭に、支障が少ないケースに限定すること。

十一 特許出願の非公開制度の運用に当たっては、特許出願人が手続を円滑に行うことができるよう配慮すること。

十二 本法第八十条に基づく損失の補償に当たっては、特許出願人が過度な不利益を被ることのないよう十分配慮すること。

(略)

 参議院内閣委員会の附帯決議(pdf)からも以下に抜粋する。

 政府は、本法の施行に当たり、次の諸点について適切な措置を講ずるべきである。

(略)

十二 保全対象発明の選定に当たっては、産業への影響を考慮して対象をできる限り限定的なものとすること。その際、デュアルユース技術については、国費による委託事業の成果である技術や、防衛等の用途で開発された技術、あるいは出願人自身が了解している場合などを念頭に、支障がないケースに限定すること。

十三 特許出願の非公開に関する制度の運用は、イノベーションの意欲を削ぐことのないよう関係者の意見を聴いて、慎重に行うこと。

十四 特許出願の非公開に関する制度の運用に当たっては、特許出願人が手続を円滑に行うことができるよう配慮すること。

十五 保全審査を行う機関について、関係省庁及び外部の専門家の知見が十分に活用できるような仕組みを構築するとともに、保全審査に携わる職員の専門性の向上に配意すること。

十六 本法第八十条の規定に基づく損失の補償に当たっては、特許出願人が過度な不利益を被ることのないよう十分配慮すること。

(略)

 これらの附帯決議は、政府有識者会議の時から言われていた事を理念的に繰り返しただけで、具体的にどうするかという点で参考になる事は含まれていない。(政府有識者会議とその提言については第452回参照。)

 衆議院と参議院のそれぞれの内閣委員会(経済産業委員会との合同審査会含む)でも新秘密特許制度の具体的な運用について明らかにされた事は少ないが、その中でも比較的重要だったと思えるのは以下の質疑である。

・3月23日衆議院内閣委員会(議事録):

226 櫻井周
○櫻井委員 あと、ほかにもちょっといろいろな、これは現時点で塞ぎようのない穴かもしれませんけれども、例えば特許出願の中では、新規性の喪失の例外ということで、既に公開したものを特許出願することもできる。しかし、それがもし保全指定を受けるような内容のものだったらどうなるんだろうとか、そういうものを後で非公開にしても意味がないよなとか、ちょっといろいろな課題があるのではなかろうかというふうには思います。
 ただ、そうした事例は、まあ、そんなにたくさんあるわけじゃないよということかもしれませんので、ちょっと次に行かせていただいて、七十八条一項、それから八十条に関連する質問をさせていただきます。
 七十条の保全指定を受けると外国出願が事実上できなくなる、そうしますと、外国で特許を取得できれば得られたであろう利益について補償していただけるのかどうか、この点、端的にお願いします。

227 木村聡
○木村政府参考人 お答え申し上げます。
 特許出願の非公開制度の損失補償につきましては、第八十条の規定によりまして、保全指定を受けたことにより損失を受けた者に対して、通常生ずべき損失を補償することとさせていただいているところでございます。
 このため、国内での損失に限らず、外国で特許権を取得できれば得られたであろう利益につきましても、損失の発生及び保全指定により外国出願が禁止されたことと損失の相当因果関係が仮に認められるのであれば、補償の対象になり得るものと考えているところでございます。
 以上でございます。

228 櫻井周
○櫻井委員 対象になり得るということなんですが、相当関係があるとかといういろいろな限定がついちゃって、立証するのが大変で結果的に補償を受けられないとかになっちゃうと、これはまた出願人にとって相当不利益になってしまいますし、外国で特許ということになると幅が随分出てきそうなので、なかなかこれはまた難しい課題が残っているということを指摘をさせていただきます。
 それから、もう一つ七十八条一項関連で質問ささせていただきます。
 有識者の提言の五十三ページには、外国で出願をするには国内出願後おおむね六か月程度で明細書の翻訳等を発注しなければならないことから、その時点で二次審査、保全審査のことですけれども、の結論が出ていない場合、最終的に保全措置の対象となれば、外国出願が実現せず費用のロスを生じることとなる、こういう指摘があります。
 この費用のロスは、そんな十か月も待っていられないよということで外国出願の準備をして翻訳代とかいろいろかかったこの費用のロスは、補償対象になるんでしょうか。

229 木村聡
○木村政府参考人 お答え申し上げます。
 御指摘のありました費用のロスについてでございます。
 ケース・バイ・ケースになりますので、確たる御答弁を差し上げるというのは困難でございますけれども、仮に通常生ずべき損失として認められる場合には補償の対象となり得ますが、有識者会議でも御提言いただいておりますとおり、こうしたロスを少なくするためにも手続の迅速化に努めていくということが必要であると考えてございます。
 以上でございます。

230 櫻井周
○櫻井委員 いや、これはやはりちゃんと補償してもらいたいなと。
 領収書等、この部分についてははっきりロスの金額は分かるわけですから、是非お願いしたいなというふうに思いますとともに、今おっしゃられたとおり、迅速に保全審査をやりますということなんですが、ただ、特許出願、今は大分解消されておりますが、渋滞していて、審査請求してから二年間ずっとほったらかしみたいなことも過去にはあったわけですよね。今回は、何件対象になるか分からない、またここで渋滞しちゃったら十か月ぎりぎりになっちゃうかもしれない、そういう心配もあるものですから、確認をさせていただきました。
 それから次に、七十九条一項で事前確認というのがございます。
 外国出願をしようとする場合にこの事前確認ができるということなんですが、これは必ず外国出願をしなければいけないのか、また、出願済みの国内出願について事前確認することができるのかどうなのか、これも教えてください。

231 木村聡
○木村政府参考人 お答え申し上げます。
 法案第七十九条の事前確認は、外国出願をしようとする者が確認を求めることができるということを規定させていただいております。
 一方で、事前確認制度におきましては、外国出願の禁止に該当しない場合であっても外国出願をすることを義務づけるということまでは規定しておりません。
 以上でございます。

232 櫻井周
○櫻井委員 それから、この七十九条一項で、弁理士は外国出願をしようとする者の代理をすることはできるんでしょうか。

233 木村聡
○木村政府参考人 お答え申し上げます。
 第七十九条の事前確認制度における確認の求めは、特許に関する特許庁における手続でございます。弁理士は当該手続の代理をすることが可能であると考えているところでございます。
 以上でございます。

234 櫻井周
○櫻井委員 それから、八十条三項で、損失補償の金額の算定なんですが、特許権の侵害訴訟でも損害額の算出をするのは結構難しいわけなんですけれども、今回の場合は、特許になるかどうかも分からない発明について損失を算出するということになりますから、更に難しいということになります。
 これはどうやって計算するのか、また、申請の時期、いつまでに申請してくださいとかいうこともあるのかどうなのか、この点についても教えてください。

235 小林鷹之
○小林国務大臣 お答え申し上げます。
 補償が生じる典型的なケースといたしましては、発明の実施許可を与えず、製品の製造あるいは販売などができなくなるケースが想定されるところであります。
 この場合、特許出願人は、まず、保全対象発明の実施を行うため、実施に関する事業計画などを提示をし、保全対象発明の実施の許可申請をすることとなります。
 また、許可申請を受けた総理大臣は、特許出願人から計画の詳細を聞いて、実施によって保全対象発明の漏えいリスクが高まる場合には不許可とすることとなります。
 ここで保全対象発明の実施が不許可とされれば、その後、特許出願人は、許可申請時の計画を基に補償金額を算出をして、自己の受けた損失の補償を請求することが想定されます。
 このとき、請求を受けた側の内閣総理大臣は、特許出願人から説明を聞くほか、専門家の意見も聞きながら妥当な補償金額を決定する、そういうプロセスとなっております。

・3月25日衆議院内閣委員会(議事録):

169 櫻井周
発言URLを表示
○櫻井委員 立憲民主党の櫻井周です。
 おとといの質疑に続いて、前回通告したものの中からまだ質問できていなかったところもございますし、また、いただいた御答弁の中でちょっと疑問点や不明確なところもあったものですから、そういったところを質問させていただきます。
 まず、特許出願の審査について、つまり六十六条七項について。
 おとといの質疑で、最終的な査定の手前まで審査を進めることが出願人の保護に資するという観点から、出願公開及び最終的な特許査定又は拒絶査定の手続のみを保留し、それ以外の手続は終える、こういう御答弁をいただいております。直前のところまでいくということなんですが、査定の手前まで審査を進めるのなら、特許査定又は拒絶査定をすればいいのではなかろうかと考えるんですが、大臣の御見解をお伺いしたいと思います。
 この質問の背景なんですが、つまり、今回の法案はアメリカの制度を参考にして作られているようにお見受けしますが、例えばドイツでは、保全指定されても特許査定を受けることができるような作りになっております。ドイツのような制度の方が特許出願人の保護に資するのではないのか、こんなふうにも考えます。
 具体的に条文に即して申し上げますと、今回の法案の六十六条七項で特許法四十九条と五十一条を適用除外にしていますが、そうではなくて、六十六条を適用除外にする。六十六条は特許権の設定の登録です。こうすることによって、実施については七十三条で制限されておりますので、この辺は変わりはございません。また、特許法百九十三条の特許公報については特許権が設定登録されなければ発行されませんので、この点も問題はないというふうに考えます。
 ということで、大臣、いかがでしょうか。

170 小林鷹之
○小林国務大臣 お答え申し上げます。
 特許出願人の中には、保全指定中に特許査定の直前まで手続を進め、特許査定の見通しを立てるとともに、指定解除後直ちに特許を受けられる状態にしておきたいと考える方もあり得ると考えます。そのことは、実は有識者会議の提言でも指摘をされているところでございます。
 こうした出願人の要請に応えるため、出願人が実体審査を請求した場合には、これに応じて出願書類の補正のやり取りを行うなど、最終的な査定の手前まで審査を進める道を残し、出願の公開、そして最終的な特許査定又は拒絶査定の手続を留保する制度としたところでございます。

171 櫻井周
○櫻井委員 質問に答えていないんです。そこまでは前回の答弁だったんですよ。その先を聞いているんですよ。
 だから、査定直前までやるんだったら、もう特許査定したらいいじゃないですか、こういう提案を申し上げているんですよ。いかがですか、大臣。

172 木村聡
○木村政府参考人 お答え申し上げます。
 今回の制度でございますけれども、有識者会議の方で様々な御議論を賜ったところでございますが、特許の公開の手続、あと、先ほど大臣からも申し上げましたけれども、最終的な特許査定又は拒絶査定の手続を留保するという、アメリカ型といいますか、そういう手続を採用するということについて御提言をいただきましたので、それに沿った形で制度設計をさせていただいたということでございます。
 以上でございます。

173 櫻井周
○櫻井委員 いや、だから、その先、もう一歩進めたらどうですか。そんな、すんでのところで止めてじらしたりしなくてもいいじゃないですか。その方が出願人の保護につながるんじゃないですかというふうに聞いているんですが、一向にお答えいただけないですよね。
 ちょっと、法案の中身、ちゃんと御理解いただいているんですかね。もう一回答弁をお願いします。

174 木村聡
○木村政府参考人 お答え申し上げます。
 重ねての答弁になりますけれども、有識者会議の提言によりまして、出願の公開と最終的な特許査定又は拒絶査定の手続を留保するということで、特許の査定までは行わない制度とするという御提言に沿って制度設計をさせていただいたということでございます。

175 櫻井周
○櫻井委員 何でこんなことをねちねちと質問させていただいているかと申しますと、これは今日午前中の質疑でも河西委員から質問があって、損失の補償の公平性ということで、ここは担保されないといけませんよね、こういう質問がありました。
 おとといの質疑では、出願人は保全対象発明の実施を行うため、実施に関する実施計画などを提示し、不許可の場合には自己の受けた損失の補償を請求することができる、こういうことで、実施についての補償については御答弁いただいているんですよ。
 でも、河西委員が御指摘されたように、大企業だったら実施設備をいっぱい持っているから、製造設備を持っている、販売網も持っている、だから、いっぱい販売できたはずだから損失も大きいでしょうというふうに言えるわけなんだけれども、中小企業の場合はそうではなくなる、そこに不公平感が出るんじゃないですか、こういう指摘もあったわけですよ。
 ですから、中小企業の場合だったら、むしろライセンス料とかで、もしかしたら稼げる可能性があったかもしれない。でも、特許査定を受けていなかったら、ライセンス料の設定とかできないですよね。ですから、このライセンス料相当分についての損失補償を算出するためにも、やはり特許査定までいった方が出願人の保護につながるんじゃないですか。先ほど、条文の提案を申し上げましたけれども、そうしたところでは問題は起きないじゃないですか、こういう提案をさせていただいているんですが、いかがですか。

176 木村聡
○木村政府参考人 お答え申し上げます。
 中小企業の場合でありましても、実施についての許可を受けていただけないということになりますれば、中小企業の方からの請求に基づいて、しかるべき中身を精査させていただいた上で国として補償させていただく、こういうことでございます。
 以上でございます。

177 櫻井周
○櫻井委員 いや、質問に全く答えていただけていないですよ。
 実施については、この間、おととい答弁いただいた、でも、ライセンス料についてはどうなんですか、こういうふうに質問しているんですよ。ライセンス料については御答弁いただいていないですし、また、特許査定を受けていないんだったら、本来だったら特許査定を受けられるはず、しかも、すんでのところまでいって、特許査定を受けられるんだなと心証を持っている、そういう答弁をいただきましたよね。
 ですけれども、特許査定がなかったら、どうやってライセンス料に相当する損失補償を受けられるのか、こういう課題が残っているじゃないか。特に製造設備を余りたくさん持っていない中小企業の場合、特に大きな不公平感につながるのではなかろうかということなので質問をさせていただいているんです。
 再度の答弁をお願いします。

178 木村聡
○木村政府参考人 お答え申し上げます。
 重ねての答弁になって恐縮でございますけれども、中小企業の場合、工場等が小さくなるという御指摘ございましたが、そういった点につきましても、実施の許可申請について不許可になりますれば、きちんとした形で請求していただくことにより、中身を精査した上で、不許可になった場合の補償をさせていただく、こういうことでございます。
 以上でございます。

・4月26日参議院内閣委員会・経済産業委員会連合審査会(議事録):

077 岩渕友
○岩渕友君 資料一をもう一度見ていただきたいんですけれども、下のところに、日米防衛特許協定の第三条に線を引いています。ここにあるように、防衛目的のための技術が対象となるんですね。秘密指定解除後に公開をされた出願見てみますと、出願人がどういう企業かというと、ロッキード・マーチンだとかレイセオン・カンパニーなど軍事企業が名前を連ねています。今、小林大臣が答弁されたように、双務的ということなので、これからは日本からアメリカなどに秘密指定できるということになります。
 日米防衛特許協定の実績がどうなっているのかということを見ていきたいんですね。
 一九八八年以降、秘密指定解除によって公表された件数は九十九件なんです。資料二を見ていただきたいんですが、これは国際特許分類に基づいて集計をしたものです。石灰であるとかセメント、そして炭素などが一番多くなっているんですけれども、この日米防衛特許協定について、公表された九十九件のうち分類F40番台は何件あるでしょうか。

078 清水幹治
○政府参考人(清水幹治君) お答えいたします。
 委員御指摘の、日米協定に基づきアメリカにおいて秘密保持が解除され日本において公開された特許出願九十九件のうち、国際特許分類がF40番台の出願については、F41、武器が主分類として付与されている出願が八件、F42、弾薬、爆破が主分類として付与されている出願が一件であり、合わせて九件となっております。

079 岩渕友
○岩渕友君 資料二の右上の部分に今答弁いただいたことがまとめてあるんです。
 国際特許分類では、F41が砲ということなので例として大砲なんかが挙げられていると、で、F42が弾薬などの武器だということで、九十九件のうち九件ということですから、純粋な軍事技術は一割にも満たないということなんですね。九割以上が軍民両用技術、いわゆるデュアルユース技術だということなんです。だから、防衛目的だと言いながら、デュアルユース部分が大半だということなんですね。
 有識者会議の提言では、非公開の対象となる発明のイメージということで、核兵器技術及び武器のみに用いられるシングルユース技術のうち我が国の安全保障上極めて機微な発明を基本として選定すべきとしつつ、他方、デュアルユース技術について、これらの技術を広く対象とした場合、産業界の経済活動や当該技術の研究開発を阻害しかねないおそれがあるとして、デュアルユース技術を対象とする場合には、技術分野を絞るとともに、支障がないケースに限定するべきだとしています。
 参議院の参考人質疑で、経団連の常務理事の原一郎参考人が、民間開発の技術が軍事に転用され得るとなると企業が意図しない形で軍事に使われる、デュアルユースは全てだと言われるとビジネスは成り立たない、機微技術が何かを示してほしいと、こういうふうに述べています。
 このデュアルユース技術のうち保全指定される機微技術の判断基準について、大臣、お答えください。

080 小林鷹之
○国務大臣(小林鷹之君) お答え申し上げます。
 まず前提として、米国には、米国との関係なんですけど、米国には以前から特許出願を非公開とする制度がございますが、この法案が創設する我が国の非公開制度とは要件も手続も異なっているんです。したがって、その米国の制度でその秘密保持命令の対象とされる発明と同等の発明が我が国の制度においても必ず保全指定の対象となるというわけではないことは冒頭申し上げたいと思います。
 その上で、今委員からお尋ねのありました保全指定の判断基準についてでございますけれども、この特許出願の非公開制度は、安全保障上機微な発明でございましても特許出願されると一律に公開されてしまうというこの問題に対処をして、機微技術の拡散を防ぐことを目的とするものでございます。一方で、民生分野で幅広く活用されて発展していくことが期待される技術を非公開の対象とすると、我が国の経済活動やイノベーションを抑制して、逆にその先端技術の誕生や発展を阻害することになりかねない、そう考えています。
 したがって、この法案では、保全指定の対象となる発明を、まず公にすることによって外部から行われる行為により国家国民の安全を損なう事態を生ずるおそれの程度、そして発明を非公開とした場合に産業の発達に及ぼす影響などの事情、こうした点の総合考慮によって判断することを条文上明記しているところでございます。

081 岩渕友
○岩渕友君 判断基準の、その具体的にどうなるのかというのが余りよく分からないわけですよね。
 その技術分野絞ると言うんですけれども、この日米防衛特許協定を見ても民生技術に拡大をしてきたのが実態だと。で、結局、対象範囲を拡大していくことになるんじゃないかと思うんですけど、いかがでしょうか。

082 小林鷹之
○国務大臣(小林鷹之君) お答え申し上げます。
 この、今委員御指摘のその保全審査の対象となる技術分野についてですけれども、これも有識者会議の提言で言及されているんですが、先端技術が日進月歩で変わるものであることに鑑み、変化に応じて機動的に定める枠組みとする、そう言及されていて、その必要がございますため、政令で定めることとしております。
 すなわち、この法案上、公にすることにより外部から行われる行為によって国家国民の安全を損なう事態を生ずるおそれが大きい発明が含まれ得る技術の分野を国際特許分類によって定めることを明記しております。これによって、この保全審査の対象となる発明は、公になれば我が国の安全保障が著しく損なわれるおそれがある発明が含まれ得る技術分野の発明に限定されています。さらに、その範囲内で定められる特定技術分野の中で保全指定をした場合に今申し上げた産業の発達に及ぼす影響が大きいと認められるものにあっては、更なる絞りを掛けることもこれ法文上明記しているんです。
 なお、こうして政令で定めるその技術の分野に関する基本的な事項につきましては基本指針の中で定めることとしておりまして、この基本指針というのは有識者の方々の意見を幅広く聞いて定めることとしています。
 したがって、今委員が御懸念されておりますが、対象技術分野が例えば無制約に広がっていくような、そういう御懸念は及ばないと考えております。

083 岩渕友
○岩渕友君 今そういうふうにおっしゃるんですけれども、有識者会議の提言の中では、スモールスタートで運用状況を見極めながら検討するというようなことであったり、検討会合の中でも、小さく産んで大きく育てるということが大事じゃないかと、こういうような発言もあるんですよね。いろいろ絞っていくと言うんですけれども、対象範囲が拡大していくおそれがあるということだと思うんです。
 それで、秘密技術がデュアルユースに拡大するだけじゃなくて、保全指定がどのぐらいの期間になるかということも分からないわけですね。保全対象発明として指定をされると一年以内の保全指定が行われて、継続をする必要があるという場合は一年超えない範囲で期間延長できると、つまり一年更新で期間延長されるわけですよね。
 この期間延長の上限は何年になっているでしょうか。

084 小林鷹之
○国務大臣(小林鷹之君) お答え申し上げます。
 この法案では、保全指定をした場合に、最大一年ごとに保全指定を継続する必要があるか否かの判断するとしております、これは条文七十条に書いてあるんですが。期間延長の回数につきましては、上限は設けておりません。
 ただし、この法案の第七十七条第一項におきまして、保全指定を継続する必要がなくなった場合には内閣総理大臣は保全指定を解除することとなりますため、期間満了前に保全指定を解除することもあり得るところでございます。

085 岩渕友
○岩渕友君 今答弁にあったように、上限は設けられてないんですね。
 アメリカでも同じやり方が取られているということで、資料三を見ていただきたいんですけれども、日米防衛特許協定の例を見てみますと、一九八八年に出願をされた特許が秘密指定解除されたのは二〇〇八年というものもあるわけですね。二十年も秘密指定されていたということになります。日本でも、これ長期にわたって保全指定されたままということがあり得るということですよね。
 それで、指定特許出願人、保全対象発明の内容を特許出願人から示された者その他当該保全対象発明について保全指定がされたことを知るものは、保全対象発明の内容を開示してはならないというふうになっています。
 この開示というのは具体的にどういう行為のことなのか。例えば、学会で発表をするとか雑誌に掲載するとか、研究者同士で情報交換をするだとか、中小企業も含めて技術者と意見交換することなども含まれるのでしょうか。

086 小林鷹之
○国務大臣(小林鷹之君) お答え申し上げます。
 この法案の第七十四条第一項におきまして保全対象発明の開示を原則として禁止する規定がございますが、この開示という文言は、不特定多数の者への公開と特定の者への伝達、この双方を含む概念でございます。
 したがいまして、委員御指摘の学会での発表もここで言う開示に含まれることで、含まれるという理解でよろしいかと思います。

087 岩渕友
○岩渕友君 これ、開示をした場合に、二年以下の懲役若しくは百万円以下の罰金となるわけですよね。非常に重い罰、罪を科せられるということになるわけです。
 今お話があったように、私が紹介したようなことも排除していない、も対象だということなので、最新の技術をやっぱり学んだりすることや研究者同士で情報交換したりすること、議論をする中で新しいアイデアが生まれたりイノベーションの創出につながるんだというふうに思うんですね。そういったものをやっぱり阻害する危険性があるということだと思うんです。
 萩生田大臣に伺うんですが、秘密特許が学術や技術の体系全体にゆがみをもたらして、市民生活を公平で豊かなものとする本来のイノベーションを妨げるものになるのではないかと懸念があるわけです。この秘密特許の導入、やめるべきではないでしょうか。

088 萩生田光一
○国務大臣(萩生田光一君) 小林大臣もこれまで答弁をしてまいりましたが、今般の特許出願の非公開制度は、公にすれば国家及び国民の安全を損なう事態を生じるおそれが大きい発明が記載された特許出願について、安全保障の観点から公開等の手続を留保する制度でございます。これにより機微な技術の拡散を防止することとしたものと承知しています。
 当省としても、制度の設計や運用に当たっては、安全保障の要請と経済活動やイノベーションとの両立を十分に図ることが必要だと認識しています。こうした観点から国家安全保障局とも議論を行ってきたところであり、非公開とした場合に産業の発達に及ぼす影響が大きい技術分野を保全対象、保全審査の対象とする場合には、特にまさに絞りを掛けて、掛けることを法文上明記するなど、限定的に運用するものと承知しています。
 したがって、直ちにイノベーションの阻害になるための制度導入をやめるべきという御指摘は当たらないと考えています。

089 岩渕友
○岩渕友君 今日のやり取りの中では、その具体的な中身よく分からなかったわけですよね。特許法は、発明の保護及び利用を図ることによって、発明を奨励し、もって産業の発達に寄与するという目的持っています。産業の発達を阻害するおそれがあるこの秘密特許の導入はやめるべきだということを求めて、質問を終わります。

・4月26日参議院内閣委員会(議事録):

092 浜田昌良
○浜田昌良君 ありがとうございます。
 ウクライナ情勢でも早期の対応が必要でございますし、この重要技術の研究開発支援についても、本当にしのぎを削っているという大臣の答弁もありましたように、早急の対応が必要でございますので、是非問題意識を共有していただきたいと思います。
 続きまして、この四本柱の特許の非公開の問題についての議論をしたいと思っていますが。
 今回の法案、百条ぐらいの条文があって、原案を見せていただいて、割と幅広い罰則が二つあったんですね。一つが、いわゆる四十八条にあった、いわゆる特定重要物資サプライチェーンの、これを指定するための報告、資料提出のところがあって、これについては既に議論させていただきました。当初は罰則があったんですが、やっぱり比例の原則であったり内外の法律の関係からこれについては罰則を削っていただいたと。
 もう一か所これあるのが、第七十八条の外国出願の禁止なんですね。これが、直罰と言いまして、勧告とか公表とかなくてすぐに罰則が掛かっちゃうんですね、一年以下、五十万円以下の罰則が掛かるんですが、これが、そういう意味では対象がはっきりしていないと、直接罰ですから曖昧な運用はできないと思うんですが、この直接罰の範囲はどういう範囲の発明か、六十六条の条文に沿って政府参考人から御答弁いただきたいと思います。

093 木村聡
○政府参考人(木村聡君) お答えさせていただきます。
 御指摘ございました第七十八条第一項にございます「第六十六条第一項本文に規定する発明」とは、第六十六条第一項本文に規定してございます。条文に沿ってということですので、そのような形でお答えもさせていただきます。
 六十六条の本文でございますが、公にすることにより外部から行われる行為によって国家及び国民の安全を損なう事態が生ずるおそれが大きい発明が含まれ得る技術の分野として国際特許分類又はこれに準じて細分化したものに従い政令で定めるものに属する発明、このうち、その発明が特定技術分野のうち保全指定をした場合に産業の発達に及ぼす影響が大きいと認められる技術の分野として政令で定めるものに属する場合にあっては、政令で定める要件に該当するものに限るというふうに規定をさせていただいているところでございます。
 すなわち、保全審査の対象となります発明につきましては、原則としてまず我が国で出願をしてもらいまして、保全審査により保全指定の要否を判断すべきでありますことから、第一国出願義務の対象範囲は保全審査の対象範囲と同じという形にさせていただいているところでございます。
 以上でございます。

094 浜田昌良
○浜田昌良君 保全審査の対象と同じというのはいいと思うんですけど、これ、条文に政令が三回出てくるんですよね。その辺の規定ぶりがどうなるんだろうかと。それによってその罰則が、直罰に係る関係なんで、前回の委員会で最後に大臣にお聞きしまして、この国家及び国民の安全を損なう事態を生ずるおそれが大きい発明というのは安全保障上極めて機微な発明と同義ですよという御答弁をいただきました。
 これについて、具体的発明事例に基づいて分かりやすく政府参考人に説明していただきたいと思います。また、その発明分野、今ございましたように、ストラスブール議定書の国際特許分類、いわゆるIPC分類ではどのようなレベル、細分類で表現されるのかも併せて答弁いただきたいと思います。

095 木村聡
○政府参考人(木村聡君) お答え申し上げます。
 政令で定めます技術分野の具体的な内容につきましては、法案上、まずは有識者の意見を聞いて定める基本方針におきまして、その基本的な事項を定めるというプロセスを経た上で決めることとさせていただいております。
 したがいまして、現時点で個別の技術分野をお示しすることは難しいところでございますけれども、例えば、我が国に対して用いられれば深刻な被害が避けられない核技術や先進武器技術などの中から、それらに該当する国際特許分類、IPC分類を限定列挙することとなります。
 どの程度の粒度で定めるかにつきましても、同様に、現時点で具体的にお示しすることは困難でございますけれども、例えば、国際特許分類のうち、F41という分類は武器を、F42という分類は弾薬、爆破を表す大きなカテゴリーでありますところ、こうした上位の階層だけで定めますと、対象範囲が広くなり過ぎ、およそ国家及び国民の安全に影響しないような技術分野が多数保全審査や第一国出願義務の対象に取り込まれてしまうということが懸念されます。
 このため、実際にはF41やF42の下層に当たる国際特許分類の中から、安全保障上機微な技術が含まれ得るより詳細な分類を抽出し、対象を絞り込んでいく必要があると考えているところでございます。
 以上でございます。

096 浜田昌良
○浜田昌良君 IPCの特許分類のより詳細なところで限定列挙していただくという答弁がございましたので、それでしっかりと罰則の範囲が分かることを期待しているんですが、ちょっと例を挙げたいと思います。
 二〇〇四年夏に、我が国の電力会社が中心となった研究組合がレーザーウラン濃縮技術について特許庁に特許申請をしていましたが、その技術が、韓国の原子力研究所が極秘にそれを使ったウラン濃縮をやっていたということが発覚をして、その日本の特許の文献であったり、それに基づいた機器が見付かったということが一部報道がありました。この事案についての概要をまず報告いただきたいと思います。

097 木村聡
○政府参考人(木村聡君) お答え申し上げます。
 報道ベースの情報ではございますけれども、IAEAの元事務次長が取材に対して明らかにしたことといたしまして、二〇〇四年にIAEAが他国の極秘ウラン濃縮実験施設を査察した際、日本で開発されたレーザー濃縮技術の特許に関する資料が発見されたということが二〇一五年に新聞で報じられているものと承知しているところでございます。
 以上でございます。

098 浜田昌良
○浜田昌良君 報道ベースによりますと、この研究組合は百八十七件の特許を出願していたそうでございます。
 それでは、このレーザーウラン濃縮技術に関する発明は、先ほどのIPC分類又はこれに準ずる細分化したものに従えばどのように表現されるのか、お答えいただきたいと思います。

099 木村聡
○政府参考人(木村聡君) お答え申し上げます。
 レーザーウラン濃縮技術が特許出願された場合の対応でございますけれども、Bの処理装置及び運輸、そしてその下層のB01の物理的又は化学的方法又は装置一般、そして更に下層のB01Dの分離、更に下層のB01D59の同一化学元素の異なる同位体の分離に順次該当いたしまして、まとめて申し上げますと、B01D59/00と、こういう国際特許分類が付与されるものと考えられます。
 以上でございます。

100 浜田昌良
○浜田昌良君 順次、Bの処理というものから、一番細かいBの01Dの59の/00というもので特定されそうですが、これは、こういうことを政令で書けば、各発明者にとってこの技術はどれだということで、一目瞭然分かるもんなんですかね。

101 木村聡
○政府参考人(木村聡君) お答え申し上げます。
 特許出願人の方に明確に御理解していただけるように、私ども、国際特許分類に従った形で明確に政令で規定させていただきたい、このように考えているところでございます。
 以上でございます。

102 浜田昌良
○浜田昌良君 一応、弁理士の方、また特許庁の審査官に聞くと、これが正確に分からないと特許のいわゆる押さえ方なり事前調査の関係が幅広くなってしまうので、普通は分かるらしいんですね、私は全然分かりませんけれども。それを逆に認識しているということで、罰則の範囲が明確になるとおっしゃっていました。
 ただ、この法律上は、とはいっても疑義が生じる場合があるので、七十九条で事前確認という制度を設けています。つまり、自分の発明がこの罰則の対象なのか、つまり保全対象なのかそうでないのかを確認できるという制度があるんですね。逆に言うと、この事前確認を行わなかったことによる第一国出願義務違反は過失責任を負うことがあるのかどうなのか、これについても答弁願います。

103 木村聡
○政府参考人(木村聡君) お答え申し上げます。
 事実確認を行わなかった、あっ、事前確認を行わなかったことによる過失責任を負わないのかという御趣旨の御質問だと存じます。
 七十九条の事前確認制度は、外国出願をしようとする者は確認を求めることができるというふうに規定しておりますとおり、利用することを義務とはしていないところでございます。したがいまして、これを用いなかったことにより過失責任を問われるものではございませんし、外国出願禁止について過失犯処罰の規定もないところでございます。
 ただし、特定技術分野に掲げられている国際特許分類に該当する可能性を認識しながら、確認することもなく禁止に抵触する外国出願をいたしますれば、一般原則といたしまして行為責任を問われる場合があり得るものと考えられます。
 いずれにいたしましても、特定技術分野を政令で明確に規定し、特許出願人の方にとって予見可能なものにする必要があることは十分認識した上で対応していきたいと考えているところでございます。
 以上でございます。

104 浜田昌良
○浜田昌良君 過失責任は問われないという答弁でございました。
 そういう意味でも、この外国出願の禁止の範囲の明確な規定が必要なわけですが、こういうものを事前確認をしようとすると、一応手数料が書いてあるんですね。一件当たり二万五千円以下と書いていますが、お金が掛かる制度なんですね。
 逆に言うと、こういうものが規制対象かどうかというのを確認する制度は従来からありまして、産業競争力強化法の第七条の規定、つまりグレーゾーン解消制度ってあったわけですよ。これを今回は適用せずに、わざわざこの事前確認制度を設けたんですが、その趣旨は何なんでしょうか。

105 木村聡
○政府参考人(木村聡君) お答え申し上げます。
 本法案第七十九条の第七項で適用を除外しております産業競争力強化法第七条、いわゆるグレーゾーン解消制度は、実施しようとする個別の事業活動について法律上の規制の適用の有無の確認を国に求めることができるものとする制度であると、このように承知しているところでございます。
 これに対しまして、本法案第七十九条は、外国出願をしようとする者が、当該外国出願が第七十八条第一項の禁止の対象となるか否かについて確認できることを定めているところでございます。
 すなわち、この規定によりまして、産業競争力強化法第七条の権利はカバーされている上に、本制度の場合、外国出願禁止の対象となる発明に該当する場合であっても、内閣総理大臣が国家及び国民の安全に影響を及ぼすものでないことが明らかと認めた場合には禁止を解除するという、より相談者の保護に厚い制度となっているところでございます。
 したがいまして、本制度によって十分カバーされる産業競争力強化法第七条をここで重ねて適用する必要はないものと考えたところでございます。
 また、産業競争力強化法第七条を適用した場合には回答の内容を公表しなければならないということになっているわけでございますが、これは、本法案第七十八条第一項の外国出願禁止に係る確認にあっては、発明の内容をさらすことになりかねず、適切ではないと考えているところでございます。このために、本法案第七十九条第七項で産業競争力強化法第七条の適用を除外することとしたところでございます。
 以上でございます。

106 浜田昌良
○浜田昌良君 結論を言いますと、この産業競争力強化法の第七条の規定を使うと、回答そのものを公表しちゃうことになっちゃうんですね。そうすると、せっかくこの保全、特許の秘密、この特許の保全といいますか、出願の非公開をしようとしているのにそのことが無になってしまうということから、この制度に代えて今回の制度が設けられたと理解をいたしました。
 いずれにしましても、とはいっても、この産業競争力強化法第七条のグレーゾーン解消制度は無料なんですが、今回は一件当たり二万五千円掛かるというので、やはり余り幅広くこの規制の対象を規定していくことは適当ではないと思うんですね、負担が掛かりますし。
 とはいっても、やっぱり明確に書かないと、規制ですから、罰則は掛かるわけですから、そういう意味では、この直罰、一年以下、五十万円以下の対象となる国際出願の禁止の、外国出願の禁止の対象となる第六条の特定技術を定める政令の規定ぶりにつきましては、一つ目としては、発明者に疑義が生じない明確性、先ほど限定列挙とありましたIPC分類の、それが求められるとともに、第七十九条の事前確認は有料となることから、真に規制するべきものに限定して、発明者に事前確認の多大な負担を強いないものとすべきと考えますが、大臣の見解を聞いて、私の質問は終わりたいと思います。

107 小林鷹之
○国務大臣(小林鷹之君) 特定技術分野につきましては、保全審査、そして第一国出願義務の対象となる発明の範囲を画するものでございます。この第一国出願義務との関係では、罰則が掛かる範囲を画するものでございますので、その政令を明確に定める必要があるのは当然だと考えています。
 保全指定の対象は、最終的には産業の発達への影響も考慮して第二次審査において絞り込まれますけれども、その前段階にある第一次審査の対象となる特定技術分野を定めるに当たりましても、これが第一国出願義務の範囲を画するものになることを踏まえ、できる限り限定すべきであると考えています。
 今委員から言及いただきました限定、IPC分類を限定列挙することも含めまして、可能な限り、この出願者、発明者の方に多大な負担を強いないような形で運用をしていきたいと考えております。

 第453回で書いた様に、この法案で明確でないと思える部分の1つに外国出願禁止の範囲と事前確認の関係があるが、国会審議における政府答弁から以下の事は分かった。

  • 第一国出願義務の対象範囲は、秘密指定のための保全審査の対象範囲と同じで、政令の特許分類によって決まる。
  • 通常は外国出願について事前確認を行わなくても過失責任を問われる事はない。
  • ただし、政令の特許分類に該当する可能性を認識しながら確認せずに外国出願した場合は別。

 この対象範囲を決める非常に重要な政令はできる限り詳細に限定列挙するとも言っていたが、具体例は何一つ示されず、対象範囲が拡大される恐れが払拭される事はなかった。

 日米協定による日本への秘密特許出願について、1988年以降の公開件数が99件であり、F41の武器が主分類になっているのは8件、F42の弾薬や爆破が主分類になっているのは1件でシングルユースの軍事技術は9件、多くがデュアルユース技術となっている事が明らかになったが、日本の新秘密特許制度でも同じ様に範囲が拡大されて行く事もあり得るのではないかと思える。

 もう1つの大きな論点である秘密指定とその後の補償について、ほとんど新たに分かった事はないのだが、政府の想定は以下の様なものであるらしい。

  • 特許出願人がまず保全対象発明の実施の許可申請をし、申請を受けた総理大臣が実施によって保全対象発明の漏えいリスクが高まる場合には不許可とし、その後、特許出願人は、許可申請時の事業計画を元に補償金額を請求し、請求を受けた内閣総理大臣が妥当な補償金額を決定する。
  • 国内だけでなく、外国で特許を取得できたら得られたであろう利益についても相当因果関係が認められれば補償の対象となり得る。

 しかし、損失の補償は実施の許可不許可だけによるものではない上、特許権の範囲が確定していない中で(そもそもこの制度では特許査定も拒絶査定も保留されるので特許出願の状態を確定する事ができない)、どの様に妥当な補償金額を決められるのか謎としか言い様がない。国会審議でも各国の法制について触れられる事もたまにあったが、第456回第457回で取り上げた米英独仏の欧米主要国でも特許権の範囲の確定なしに補償を決める様な制度を取っている国はないのである。

 上で書いた通り、重要な点ではあるが、外国出願禁止の範囲が全てに及ぶ事はなく、秘密指定の審査対象となる特許分類による指定範囲と同じであり、事前確認をしなかったからと言って過失責任を負わない事が明らかにされた事を除けば、そもそも立法事実も不明の儘なら、具体的な運用の詳細も明確にされない儘、経済安保法は成立してしまった。

 それで違憲無効というつもりもないが、この様に政府だけで決められる政令で可罰範囲が大きく変わる法制というのは刑法の原則に照らして全く問題がないとは言えない様に私は思う。

 そして、政令による秘密指定審査の対象範囲の中から、幾許かの出願が秘密指定を受けたとしても、その根拠も良く分からなければ、出願が特許になるかも決められず、特許権の範囲が確定する事もないので、妥当な補償金額の算定ができずに最後行き詰まるのではないだろうか。

 この新制度の根本的欠陥は政省令によって解消され得るものではないだろうと私は考えているが、残念ながら、法律が成立した以上この新秘密特許制度が2年後までに施行される事はほぼ確実であり、次の問題は具体的な運用の詳細を規定する政省令の検討に移るのだろうとも思うので、まずはその政省令案をできる限り速やかに公開してもらいたいと思う。

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2022年4月17日 (日)

第458回:欧米主要国の秘密特許制度(その3:ドイツとフランス)

 今後の参考として、前々回前回に引き続き、今回はドイツとフランスの秘密特許制度についてまとめておく。

(1)ドイツ
 その秘密特許制度を規定しているのは、ドイツ特許法の以下の第50条から第56条である。(以下、翻訳は全て拙訳。)

§50

(1) Wird ein Patent fur eine Erfindung nachgesucht, die ein Staatsgeheimnis (§93 des Strafgesetzbuches) ist, so ordnet die Prufungsstelle von Amts wegen an, das jede Veroffentlichung unterbleibt. Die zustandige oberste Bundesbehorde ist vor der Anordnung zu horen. Sie kann den Erlass einer Anordnung beantragen.

(2) Die Prufungsstelle hebt von Amts wegen oder auf Antrag der zustandigen obersten Bundesbehorde, des Anmelders oder des Patentinhabers eine Anordnung nach Absatz 1 auf, wenn deren Voraussetzungen entfallen sind. Die Prufungsstelle pruft in jahrlichen Abstanden, ob die Voraussetzungen der Anordnung nach Absatz 1 fortbestehen. Vor der Aufhebung einer Anordnung nach Absatz 1 ist die zustandige oberste Bundesbehorde zu horen.

(3) Die Prufungsstelle gibt den Beteiligten Nachricht, wenn gegen einen Beschluss der Prufungsstelle, durch den ein Antrag auf Erlas einer Anordnung nach Absatz 1 zuruckgewiesen oder eine Anordnung nach Absatz 1 aufgehoben worden ist, innerhalb der Beschwerdefrist (§73 Abs. 2) keine Beschwerde eingegangen ist.

(4) Die Absatze 1 bis 3 sind auf eine Erfindung entsprechend anzuwenden, die von einem fremden Staat aus Verteidigungsgrunden geheimgehalten und der Bundesregierung mit deren Zustimmung unter der Auflage anvertraut wird, die Geheimhaltung zu wahren.

§51

Das Deutsche Patent- und Markenamt hat der zustandigen obersten Bundesbehorde zur Prufung der Frage, ob jede Veroffentlichung gemass §50 Abs. 1 zu unterbleiben hat oder ob eine gemass §50 Abs. 1 ergangene Anordnung aufzuheben ist, Einsicht in die Akten zu gewahren.

§52

(1) Eine Patentanmeldung, die ein Staatsgeheimnis (§93 des Strafgesetzbuches) enthalt, darf ausserhalb des Geltungsbereichs dieses Gesetzes nur eingereicht werden, wenn die zustandige oberste Bundesbehorde hierzu die schriftliche Genehmigung erteilt. Die Genehmigung kann unter Auflagen erteilt werden.

(2) Mit Freiheitsstrafe bis zu funf Jahren oder mit Geldstrafe wird bestraft, wer
1. entgegen Absatz 1 Satz 1 eine Patentanmeldung einreicht oder
2. einer Auflage nach Absatz 1 Satz 2 zuwiderhandelt.

§53

(1) Wird dem Anmelder innerhalb von vier Monaten seit der Anmeldung der Erfindung beim Deutschen Patent- und Markenamt keine Anordnung nach §50 Abs. 1 zugestellt, so konnen der Anmelder und jeder andere, der von der Erfindung Kenntnis hat, sofern sie im Zweifel daruber sind, ob die Geheimhaltung der Erfindung erforderlich ist (§93 des Strafgesetzbuches), davon ausgehen, das die Erfindung nicht der Geheimhaltung bedarf.

(2) Kann die Prufung, ob jede Veroffentlichung gemass §50 Abs. 1 zu unterbleiben hat, nicht innerhalb der in Absatz 1 genannten Frist abgeschlossen werden, so kann das Deutsche Patent- und Markenamt diese Frist durch eine Mitteilung, die dem Anmelder innerhalb der in Absatz 1 genannten Frist zuzustellen ist, um hochstens zwei Monate verlangern.

§54

Ist auf eine Anmeldung, fur die eine Anordnung nach §50 Abs. 1 ergangen ist, ein Patent erteilt worden, so ist das Patent in ein besonderes Register einzutragen. Auf die Einsicht in das besondere Register ist §31 Abs. 5 Satz 1 entsprechend anzuwenden.

§55

(1) Ein Anmelder, Patentinhaber oder sein Rechtsnachfolger, der die Verwertung einer nach den §§1 bis 5 patentfahigen Erfindung fur friedliche Zwecke mit Rucksicht auf eine Anordnung nach §50 Abs. 1 unterlasst, hat wegen des ihm hierdurch entstehenden Vermogensschadens einen Anspruch auf Entschadigung gegen den Bund, wenn und soweit ihm nicht zugemutet werden kann, den Schaden selbst zu tragen. Bei Beurteilung der Zumutbarkeit sind insbesondere die wirtschaftliche Lage des Geschadigten, die Hohe seiner fur die Erfindung oder fur den Erwerb der Rechte an der Erfindung gemachten Aufwendungen, der bei Entstehung der Aufwendungen fur ihn erkennbare Grad der Wahrscheinlichkeit einer Geheimhaltungsbedurftigkeit der Erfindung sowie der Nutzen zu berucksichtigen, der dem Geschadigten aus einer sonstigen Verwertung der Erfindung zufliesst. Der Anspruch kann erst nach der Erteilung des Patents geltend gemacht werden. Die Entschadigung kann nur jeweils nachtraglich und fur Zeitabschnitte, die nicht kurzer als ein Jahr sind, verlangt werden.

(2) Der Anspruch ist bei der zustandigen obersten Bundesbehorde geltend zu machen. Der Rechtsweg vor den ordentlichen Gerichten steht offen.

(3) Eine Entschadigung gemass Absatz 1 wird nur gewahrt, wenn die erste Anmeldung der Erfindung beim Deutschen Patent- und Markenamt eingereicht und die Erfindung nicht schon vor dem Erlass einer Anordnung nach §50 Abs. 1 von einem fremden Staat aus Verteidigungsgrunden geheimgehalten worden ist.

第50条

第1項 国家機密(刑法第93条)である発明に対して特許が求められる場合、審査部は、職権で、公開を保留する事を命令する。権限を有する連邦最高機関の意見が聞かれる。それは命令の発出を要請できる。

第2項 その命令の前提条件がなくなったとき、審査部は、職権で、又は、出願人権限を有する連邦最高機関、出願人又は特許権者の要請により、第1項に基づく命令を取り消す。審査部は1年毎に、第1項に基づく命令の前提条件が継続しているかどうかを審査する。第1項の命令の取り消しの前に、権限を有する連邦最高機関の意見が聞かれる。

第3項 審査部は、第1項に基づく命令の発出の要請を却下するか第1項に基づく命令を取り消す決定に対して不服期間(第73条第2項)(訳注:1月)に不服が申し立てられなかったとき、当事者に通知する。

第4項 第1項から第3項は、外国により防衛上の理由から秘密を保持され、連邦政府に、秘密保持を保障するというその同意とともに委ねられた発明にも準用される。

第51条

ドイツ特許商標庁は、第50条第1項に従い公開を保留するかどうか又は第50条第1項に従い過去の命令を取り消すかどうかの問題の審査について、権限を有する最高連邦機関に書類の閲覧を認める。

第52条

第1項 国家機密(刑法第93条)を含む特許出願は、権限を有する連邦最高機関によりそれについて書面による許可が与えられない限り、本法の管轄地外で提出する事は許されない。許可は条件つきで与えられ得る。

第2項 次の者は5年までの禁固刑又は罰金により罰される
1.第1項第1文に違反し、特許出願を提出したか
2.第1項第2文の条件に違反した者。

第53条

第1項 特許出願人にドイツ特許商標庁への発明の出願から4月の間第50条第1項に基づく命令が送達されない場合、(刑法第93条に基づく)発明の秘密保持が必要かどうかについて疑いを抱く限りにおいて、出願人又は発明について知る他の者は、秘密保持の必要がない事を導き出せる。

第2項 第50条第1項に従い公開を保留するかどうかの審査は第1項に記載の期間で終わらない事があり、その場合ドイツ特許商標庁は、第1項に記載の期間中に出願人に送達される通知により、最長で2月の延長ができる。

第54条

第50条第1項に基づく命令が出された発明に対し特許が付与された場合、特許は特別の登録簿に登録される。特別の登録簿の閲覧について第31条第5項第1文(訳注:秘密保持命令が出されている特許出願の書類の閲覧は極めて特別な場合にのみ許されるとする条項)が準用される。

第55条

第1項 第50条第1項に基づく命令を考慮し、第1条から第5条に基づき特許を受けられる発明の平和目的の利用を止められた出願人、特許権者又はその承継人は、損害を自身で負うべき事が要求されないとき、また、その限りにおいて、それによって自身に生じた財産的損害について、連邦に対する損害補償請求権を有する。

要求の判断において、特に、損害を受けた者の経済的地位、その発明又はその発明に関する権利の入手のために掛かった費用の多寡、費用の発生の際その者に分かる発明並びに利用に対する秘密保持の必要性の蓋然性の程度が考慮される。請求は特許付与後にのみ主張できる。損害補償は後に1年より短くない期間に対してのみ求める事ができる。

第2項 請求は権限を有する連邦最高機関にされる。

第3項 第1項による損害補償は、発明の最初の出願がドイツ特許商標庁に提出され、発明が第50条第1項の命令の発出より前に既に外国によって防衛上の理由により秘密に保持されていなかったときのみ、与えられる。

第56条

(略:権限を有する最高連邦機関を政府が規則で決められる事を規定。)

 この秘密特許制度について、ドイツ特許庁のHPに掲載されている解説(pdf)中に以下の様に書かれている。

Patente und Gebrauchsmuster fur Staatsgeheimnisse

Patent- oder Gebrauchsmusteranmeldungen zum Beispiel aus

- der Wehr- und Rustungstechnologie
- der Kerntechnologie
- der geheimen Nachrichtenubertragung

konnen Staatsgeheimnisse enthalten.

Diese Erfindungen unterliegen dann dem so genannten "Geheimschutz". Infrage kommen hier vor allem Anmeldungen von Unternehmen und privaten wie staatlichen Forschungseinrichtungen.

Geheimhaltungsverfahren

Alle beim DPMA eingehenden Patent- und Gebrauchsmusteranmeldungen aus bestimmten Klassen der Internationalen Patentklassifikation (IPC) werden zunachst dem Buro 99 zugeleitet. Hier werden dann die nicht geheimhaltungsbedurftigen Schutzrechtsanmeldungen in mehreren Schritten "ausgesiebt". Das DPMA arbeitet dabei mit anderen Behorden wie dem Bundesministerium der Verteidigung und dem Bundesministerium fur Wirtschaft und Technologie zusammen.

Ist die Anmeldung geheimhaltungsbedurftig, erlasst das DPMA - nach vorheriger Anhorung des Anmelders - eine Geheimhaltungsanordnung. Dabei uberpruft das DPMA jahrlich, ob die Geheimhaltung der Schutzrechte oder Schutzrechtsanmeldungen weiter fortbestehen muss oder ob die Geheimhaltung aufgehoben werden kann. Kann die Geheimhaltung aufgehoben werden, wird auch eine Offenlegungs- oder Patentschrift veroffentlicht.

...

Haufig gestellte Fragen zum Geheimschutz

Was sind Staatsgeheimnisse?

Staatsgeheimnisse sind Tatsachen, Gegenstande oder Erkenntnisse, die nur einem begrenzten Personenkreis zuganglich sind und vor einer fremden Macht geheim gehalten werden mussen, um die Gefahr eines schweren Nachteils fur die aussere Sicherheit der Bundesrepublik Deutschland abzuwenden (§93 Abs. 1 StGB).

Habe ich ein Staatsgeheimnis erfunden?

Anmeldungen aus folgenden technischen Gebieten konnen vornehmlich Staatsgeheimnisse enthalten:

- Wehr- und Rustungstechnologie z.B. Panzerungen, Sprengstoffe, Munition, Peil- und Messvorrichtungen
- Kernenergietechnologie z.B. Gasultrazentrifugen, Fusionsreaktoren, Plasma-Kerntechnik
- Wert- und Sicherheitsdokumente z.B. Wertpapiere, Banknoten, Ausweise
- Kryptologie z.B. Codier-/Decodiersysteme, Nachrichtentechnik.

Staatsgeheimnisse im Schutzrechtsverfahren gibt es ausschliesslich im Patent- und Gebrauchsmusterwesen. Marken- und Designanmeldungen konnen keine Staatsgeheimnisse enthalten.

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Wer oder was ist das Buro 99?

Das Buro 99 ist die zentrale Stelle des DPMA fur Patent- und Gebrauchsmusterangelegenheiten, bei denen das Geheimhaltungsverfahren fur die Schutzrechte Patente und Gebrauchsmuster lauft bzw. die Geheimhaltungsanordnung vorliegt.

Wie melde ich ein Staatsgeheimnis an?

Fur die Anmeldung sind dieselben Unterlagen wie fur eine "normale" Patent- oder Gebrauchsmusteranmeldung zu verwenden. Wenn konkrete Anhaltspunkte vorliegen, die ein mogliches Staatsgeheimnis erkennen lassen, soll dies bereits durch den Anmelder bei der Anmeldung sowie auf dem Briefkuvert kenntlich gemacht werden. Dieses kenntlich gemachte Kuvert ist dann in ein weiteres nicht gekennzeichnetes Kuvert zu stecken und dem DPMA zuzuleiten.

Der aussere Umschlag darf nur die fur die Zustellung erforderlichen Angaben enthalten. Er darf keine Zusatze, die Ruckschluss auf den Inhalt zulassen oder auf eine Sonderbehandlung der Sendung hindeuten, aufweisen (§21 Abs. 6 der Allgemeinen Verwaltungsvorschrift zum materiellen und organisatorischen Schutz von Verschlusssachen - VSA sowie Anlage 6).

Die Ubersendung an das Europaische Patentamt ist nicht zulassig, da es sich um eine europaische Behorde handelt, die uber deutsche Staatsgeheimnisse keine Kenntnis erlangen darf.

Darf ich elektronisch anmelden?

Auch nach Einfuhrung der elektronischen Schutzrechtsakte besteht fur Staatsgeheimnisse keine Moglichkeit, diese auf gesichertem elektronischem Weg (weder Internet noch Telefax!) dem DPMA zuzuleiten. Anmeldungen mussen daher ebenso wie der dazugehorige Schriftverkehr stets in Papierform eingereicht werden.

国家機密に関する特許及び実用新案

例えば次の特許又は実用新案出願は国家機密を含み得ます。

・防衛及び軍事技術
・核技術
・秘密情報通信

これらの発明はいわゆる「秘密保護」を受けます。ここで企業並びに民間及び国家研究機関の出願が問題となり得ます。

秘密保持手続き

ドイツ特許庁に入って来た全特許及び実用新案出願は、国際特許分類(IPC)の特定の分類により、ビューロー99に運ばれます。そこで秘密保持の必要性のない出願は多段階で「ふるい分けられます」。ドイツ特許庁はそこで国防省及び経済技術省の様な他の機関とともに仕事をします。

出願について秘密保持が必要な場合、ドイツ特許庁は-事前の出願人の意見聴取の後-秘密保持命令を出します。それで、ドイツ特許庁は1年毎に、保護権又は出願の秘密保持がさらに継続されなくてはならないか又は秘密保持が取り消され得るかを審査します。秘密保持が取り消され得ると、公開又は特許公報が公開されます。

(略)

秘密保護について良くある質問

国家機密とは何でしょうか?

国家機密とは、限定的な者の間でのみアクセス可能とされた、ドイツ連邦共和国の対外安全保障に重大な不利益をもたらす危険を防止するため、外国権力に対して秘密に保持されなくてはならない、事実、対象又は知識です(刑法第93条第1項)。

私は国家機密を発明したのでしょうか?

次の技術分野の出願がとりわけ国家機密を含み得ます:
・防衛及び軍事技術、例えば、装甲、爆発物質、弾薬、測定機器
・核技術、例えば、ガス超遠心分離、核融合炉、プラズマ核技術
・有価及びセキュリティ書類、例えば、有価証券、銀行券、証明書
・暗号技術、例えば、暗号化/復号化システム、通信技術。

手続きにおいて国家機密との関係が出て来るのは特許及び実用新案のみです。商標及び意匠出願が国家機密を含む事はありません。

(略)

ビューロー99とは何なのでしょうか?

ビューロー99は、特許及び実用新案についての秘密保持手続きが行われ、場合によって秘密保持手続きを出す、特許及び実用新案の業務のためのドイツ特許庁の中心部署です。

私はどの様に国家機密を出願すれば良いでしょうか?

出願については、それ自体は「通常の」特許又は実用新案出願のための書類を用います。国家機密が含まれ得る事について知らせる事について具体的な根拠があるとき、その事は出願の際に出願人によって封筒においても分かる様にされるべきです。この分かる様にされた封筒を他の印のない封筒に入れ、ドイツ特許庁に送ります。

外側の包みは到達に必要とされる事のみを書く事が許されます。内容が推測できる様な事や送付における特別な取り扱いについてなどの追記は許されません(秘密事項の物理的及び機構的ほぼについての一般行政規定-VSA並びに補足6)。

欧州特許庁への送付は許されていません、それはドイツの国家機密について知る事を求める事が許されていない欧州機関によって取り扱われます。

私は電子的に出願する事ができるでしょうか?

電子的な書類の提出についても、国家機密について可能ではありません、それをセキュリティを確保した電子的手段(インターネットでもファックスでも!)でドイツ特許庁に出す事はできません。出願は、したがって、それに付随する書類のやり取りもまたそうですが、常に紙の形式で提出されなくてはなりません。

 ドイツ特許法の規定では、刑法の国家機密の定義をそのまま引用しているのが特徴と言えば特徴であり、もし特許が秘密保持の対象になれば、一般刑法の規制も受ける事になる。

 秘密保持命令が出されるまでの期間は通常4ヶ月で、最長でも6ヶ月までとされており、1年毎に継続するかどうかが判断される。不服申し立てについても規定されている。

 条文上、ドイツで出されるのは出願が国家機密と判断された場合の秘密保持命令だけだが、国家機密を含むとは到底考えられない出願についてまで一律外国出願禁止が課されているとは読めないのであり、この様な条文の書き方がされている事は重要だろう。

 補償についても、公開こそされないものの求められるのは特許付与後であり、その平和目的利用が止められた場合についてのみ補償するとされ、発明のために請求者に掛かった費用なども考慮するとされている。

 ドイツ特許庁は、国際特許分類(IPC)の特定の分類によって出願をふるい分け、さらに国防省の意見も聞きながら秘密保持命令を出すとしているが、秘密特許に対する統計情報の公開もなく、政府や軍が関与し元から国家機密を含むと分かっていて特別な形で出される出願以外にどれほどこの国際特許分類によるふるい分けによって秘密保持命令が出されているのかは分からない。

 この秘密保持命令とその補償について争われた様なケースは少ないが、昔のドイツ最高裁の判決として、秘密保持命令の取り消しの是非が争われた1991年1月12日の判決1977年2月3日の判決、国家予算による研究開発に基づく秘密特許に対する補償の必要性を否定した1972年5月4日の判決などがある。後者の1972年の判例が今も有効だとすると、政府や軍が関与している場合がほとんどだろう秘密特許に対して補償がまともに認められる事はまずないのではないだろうか。

 さらに、ドイツ特許裁判所の2015年12月15日の判決の様に、2010年の出願に対して秘密保持命令が出されたが、その後特許庁が出願をうっかり公開してしまったために、命令の取り消しが認められたという状況の中で、出願人が元の出願と秘密とされる部分を除いて出した分割出願の統合と特許料の返金を求めたという様なケースがあるのを見ると、今でもドイツの秘密特許制度は運用されていないという事はなさそうだが、その意義は大いに疑わしく思える。

(2)フランス
 フランスでは、その知的財産法の第612-8条から第612-10条に以下の様に規定されている。

Article L612-8

Le ministre charge de la defense est habilite a prendre connaissance aupres de l'Institut national de la propriete industrielle, a titre confidentiel, des demandes de brevet.

Article L612-9

Les inventions faisant l'objet de demandes de brevet ne peuvent etre divulguees et exploitees librement aussi longtemps qu'une autorisation n'a ete accordee a cet effet.

Pendant cette periode, les demandes de brevet ne peuvent etre rendues publiques, aucune copie conforme de la demande de brevet ne peut etre delivree sauf autorisation, et les procedures prevues aux articles L. 612-14, L. 612-15 et au 1° de l'article L. 612-21 ne peuvent etre engagees.

Sous reserve de l'article L. 612-10, l'autorisation prevue au premier alinea du present article peut etre accordee a tout moment. Elle est acquise de plein droit au terme d'un delai de cinq mois a compter du jour du depot de la demande de brevet.

Les autorisations prevues aux premier et deuxieme alineas du present article sont accordees par le directeur de l'Institut national de la propriete industrielle sur avis du ministre charge de la defense.

Article L612-10

Avant le terme du delai prevu au deuxieme alinea de l'article L. 612-9, les interdictions edictees a l'alinea premier dudit article peuvent etre prorogees, sur requisition du ministre charge de la defense, pour une duree d'un an renouvelable. Les interdictions prorogees peuvent etre levees a tout moment, sous la meme condition.

La prorogation des interdictions edictees en vertu du present article ouvre droit a une indemnite au profit du titulaire de la demande de brevet, dans la mesure du prejudice subi. A defaut d'accord amiable, cette indemnite est fixee par le tribunal judiciaire. A tous les degres de juridiction, les debats ont lieu en chambre du conseil.

Une demande de revision de l'indemnite prevue a l'alinea precedent peut etre introduite par le titulaire du brevet a l'expiration du delai d'un an qui suit la date du jugement definitif fixant le montant de l'indemnite.

Le titulaire du brevet doit apporter la preuve que le prejudice qu'il subit est superieur a l'estimation du tribunal.

第612-8条

防衛担当大臣は、特許庁において、秘密として、特許について知る権限を有する。

第612-9条

そのための許可が与えられない限り、特許出願の対象となる発明は開示も自由利用もできない。

この期間の間、特許出願は公開されず、特許出願を写したコピーは許可なく渡されず、第612-14条、第612-15条及び第612-21条の第1号(訳注:検索の結果報告、出願の変更、出願の公開に関する条項)は実行されない。

第612-10条の留保の下、本条の第1段落に規定された許可はいつでも与えられ得る。それは完全なものとして特許出願から5月内に手に入る。

本条の第1段落及び第2段落に規定された許可は、防衛担当大臣の意見を聞いた上で特許庁長官によって与えられる。

第612-10条

第612-9条の第2段落に規定された期間が終わる前に、同条の第1段落に規定される禁止は、防衛担当大臣の要請により、更新可能なものとして1年間され得る。延長された禁止は同じ条件の下でいつでも取り消され得る。

本条による規定の禁止の延長により、その受けた損害に応じ、特許出願の所有者に補償請求権が与えられる。和解的合意が成立しない場合、この補償は裁判所によって決定される。司法の全段階において、訴訟の審理は非公開の場で行われる。

前段落の補償の見直しは、補償の額を決定する確定判決の日から1年の期間が過ぎた後にのみ、特許権者によって持ち出され得る。

特許権者は、受けた損害が裁判所の評価を上回るものである証拠を提出しなければならない。

 上の法律の条文に対応するものとして規則第612-26条から第612-32条でさらに細かな規則が定められており、他にも防衛目的で政府が特許を利用する場合に関する知的財産法第613-19条とそれに対応する規則第613-34条から第613-64条もある。

 対応する罰則は第615-13条に書かれている。

Article L615-13

Sans prejudice, s'il echet, des peines plus graves prevues en matiere d'atteinte a la surete de l'Etat, quiconque a sciemment enfreint une des interdictions portees aux articles L. 612-9 et L. 612-10 est puni d'une amende de 4 500 euros. Si la violation a porte prejudice a la defense nationale, une peine d'emprisonnement de un a cinq ans pourra, en outre, etre prononcee.

第615-13条

それがあり得るときには、国家の安全補償を損なう事項について規定されたより重い罰に影響を与える事なく、第612-9条及び第612-10条に記載された禁止のいずれかに故意に違反した者は、4500ユーロの罰金を科される。その違反が国防に損害をもたらしたとき、1年から5年までの禁固刑がさらに科され得る。

 そして、フランス特許庁がそのHPで、以下の様な注意を書いており、軍事省、装備総局と連名で安全保障に関する事項における知的財産関係者の利用のためのガイド(pdf)も出している。

6 - L'INPI transmet ensuite votre demande pour examen a la Defense nationale

Cette etape est imposee par la loi pour verifier si l'invention ne presente pas un interet pour la nation justifiant que sa divulgation soit empechee ou retardee. C'est rarement le cas. Le ministre de la Defense dispose d'un delai maximal de 5 mois pour decider s'il met ou non le brevet au secret. En regle generale, l'autorisation de divulgation vous est adressee par courrier dans les 4 a 6 semaines suivant votre depot.

Il vous est possible de demander, des le depot, une autorisation exceptionnelle de divulguer et d'exploiter l'invention.

Attention : les demandes susceptibles d'interesser la Defense nationale, typiquement une invention deposee a l'occasion de l'execution d'un marche notifie par le Ministere de la Defense, ou relevant d'un domaine sensible, ou relevant du secret d'un gouvernement etranger doivent etre deposees par voie papier exclusivement et une note d'information doit etre emise a l'attention du Bureau de la Propriete intellectuelle de la Direction Generale de l'Armement :

6.フランス特許庁は次にあなたの出願を国家安全保障に関する審査に移します

この段階は、国家がその開示を止めるか、遅らせるかするべきと判断する内容を発明が提示していないかを確かめるために法律によって課されているものです。該当するケースは稀です。防衛大臣は、出願を秘密とするかどうかを決定するため最長で5月の期間を使います。一般的に、開示の許可は出願後4から6週間で郵便によって送られます。

出願した時から、開示及び発明の利用の例外許可を求める事ができます。

注意:国家の防衛に関わると考えられる出願、典型的には国防省の通知を受けた取引の実施の際に出された出願や、機密となる範囲に関する出願や、外国政府の秘密に関する出願は紙によってのみ提出されるべきで、情報に関する注意書きが装備総局の知的財産課の注意のためにつけられるべきです:

 フランスでは、開示許可(外国出願許可)または秘密保持命令を出すまでに最長5ヶ月を要するとしているが、通常4から6週間とかなり短い期間で開示許可を出している様である。フランス特許庁がどの様に運用しているのかの詳細は不明だが、これほど短い期間で開示許可を出しているという事は、政府や軍が関与している事から特別な形で出されるものを除き、全ての出願について形式的なチェックだけで開示許可を出しているのではないかと思える。そして、フランスで開示許可について何か問題が発生したという話も聞かないのである。

 違反の罰則についても、国防にまで影響が出た場合はともかく、それ以外の場合は罰金のみと書き分けられている事もポイントの1つだろう。

 また、フランス特許庁は秘密保持命令の件数について公開しておらず、特許出願に対する秘密保持命令とその補償について裁判で争われた様なケースも見当たらなかった。

 前々回前回に続き、今回で米英独仏の秘密特許制度について公開情報から分かる事を一通りまとめてみたが、外形的に見る限り、これらの欧米主要国においても、秘密特許制度が国の安全保障に本当に役立っているとは全く思えず、そもそもこの様な不透明かつ役に立つかも疑わしい制度をどうして今の日本で導入しようとしているのか私にはやはり良く分からない。

 そして、仮に似た様な制度を導入するにしても、米英独仏の欧米主要国の制度ですら一様という事はなく、それぞれ出願人に対して利便が図られている点や不利な点などを良く考えて注意深く制度設計を行うべきはずだが、日本政府は各国の制度に対する公開情報の分析も不十分な生煮えの検討の儘、経済安保法案の秘密特許制度(特許非公開制度)に関する条文を極めて拙速に作ったのではないかという疑念が拭い切れない。

 前に書いた通りだが、今の非常に不明確な条文の儘秘密特許制度が成立すると、導入時の混乱と恣意的な運用により、国の安全保障に役立たないのは無論の事、かえって国として本来促進するべき技術分野の研究開発、国内外での特許取得活動に大きな萎縮が発生する恐れがある。今からでも遅くはないので、外国と日本の現状を十分良く見た上で、今一度抜本的に条文レベルで見直しを行うべきであると、私は今もそう思っている。

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