2024年9月29日 (日)

第502回:人工知能(AI)は発明者たり得ないとする2024年6月11日のドイツ最高裁判決

 2024年6月11日に、ドイツ最高裁でもAIは発明者たり得ないとする判決が出されているので、人口知能(AI)と知的財産の関係について今まで紹介して来た国際動向の補足として今回はこの判決について取り上げておきたい。

 これはAIによる発明であるという主張が行われているDABUSを発明者とする特許出願の可否が各国で裁判事件にまでなっているものの1つで、東京地裁判決について取り上げた第497回やアメリカ特許庁のガイダンスについて取り上げた第491回で書いた通り、世界の主要各国で否定されている中、これで同じくドイツでもAIが発明者となれない事が確定した事になる。

 ここで、まず、このドイツ最高裁の判決(ドイツ語)から最初の概要の部分を以下に訳出する。(以下、翻訳はいつも通り拙訳。)

a) Erfinder im Sinne von § 37 Abs. 1 PatG kann nur eine naturliche Person sein. Ein maschinelles, aus Hard- oder Software bestehendes System kann auch dann nicht als Erfinder benannt werden, wenn es uber Funktionen kunstlicher Intelligenz verfugt.

b) Die Benennung einer naturlichen Person als Erfinder ist auch dann moglich und erforderlich, wenn zum Auffinden der beanspruchten technischen Lehre ein System mit kunstlicher Intelligenz eingesetzt worden ist.

c) Die Benennung einer naturlichen Person als Erfinder im dafur vorgesehenen amtlichen Formular genugt nicht den Anforderungen aus § 37 Abs. 1 PatG, wenn zugleich beantragt wird, die Beschreibung um den Hinweis zu erganzen, die Erfindung sei durch eine kunstliche Intelligenz generiert oder geschaffen worden.

d) Die Erganzung einer hinreichend deutlichen Erfinderbenennung um die Angabe, der Erfinder habe eine naher bezeichnete kunstliche Intelligenz zur Generierung der Erfindung veranlasst, ist rechtlich unerheblich und rechtfertigt nicht die Zuruckweisung der Anmeldung nach § 42 Abs. 3 PatG.

a)ドイツ特許法第37条第1項(訳注:特許出願において発明者の名を記載しなくてはならないとする条項)の意味における発明者は自然人のみである。機械的なハードウェアまたはソフトウェアからなるシステムは、その機能として人工知能を有する場合でも、発明者として記載される事はできない。

b)自然人の発明者としての記載は、請求の技術的思想を見出す事に人工知能を備えたシステムが利用された場合でも、可能であり、必要である。

c)そのために定められた書式において自然人を発明者の1人として記載する事は、発明が人工知能により生成されたか作り出されたという注記を明細書において追加する事を同時に求める場合、ドイツ特許法第37条第1項の要件を満たすのに十分でない。

d)十分明確な発明者の記載への、発明者がそこで示された人工知能に発明の生成を促したという記載の追加は法的に取るに足らないものであり、ドイツ特許法第42条第3項(訳注:書式等の要件に違反する特許出願の拒絶に関する条項)による特許出願の拒絶の根拠とならない。

 判決の概要としてはこの部分で書かれている事で十分だと思うが、念のため書いておくと、ドイツ最高裁も、その前のドイツ特許裁判所の結論を維持し、DABUSを発明者とした儘の特許出願が認められる事はなく、最後の予備的請求として求められていた、

S. ,
der die kunstliche Intelligenz DABUS dazu veranlasst hat, die Erfindung zu generieren.

S. 、
この者が人工知能DABUSに発明を生成する事を促した。

という発明者の記載について、そこに自然人の名が書かれているのは明確で、人工知能について書かれている追記に法的な意味はないため許されるとしたのである。

 また、このドイツ最高裁の判決はその理由で、文献や他国の判決などを引用しながら、特許法における発明者は自然人のみと解されるべき事、この様な解釈は発明者がまず特許に関する権利を有する事という事と合致するという事を述べている。そして、発明に関する技術的思想を見出すためにAIが利用された場合でも自然人を発明者とする事が可能である事を述べる中で、発明における人の寄与について以下の様に書いている。

(2) Eine solche Zuordnung setzt keinen Beitrag voraus, dem eigenstandiger erfinderischer Gehalt zukommt.

Nach der standigen Rechtsprechung des Bundesgerichtshofs ist es fur die Beurteilung der Frage, ob ein die Stellung als (Mit-)Erfinder begrundender schopferischer Beitrag vorliegt, nicht erforderlich, dass dieser Beitrag einen eigenstandigen erfinderischen Gehalt aufweist. Auch ist es verfehlt, die einzelnen Merkmale des Anspruchs darauf zu untersuchen, ob sie fur sich genommen im Stand der Technik bekannt sind. Auszuscheiden sind nur solche Beitrage, die den Gesamterfolg nicht beeinflusst haben, also unwesentlich in Bezug auf die Losung sind, ferner solche, die auf Weisung eines Erfinders oder eines Dritten geschaffen wurden (vgl. nur BGH, Urteil vom 4. August 2020 - X ZR 38/19, GRUR 2020, 1186 Rn. 114 - Mitralklappenprothese).

(3) Ausgehend von diesen Grundsatzen genugt fur die Stellung als Erfinder bei einer technischen Lehre, die mit Hilfe eines Systems der kunstlichen Intelligenz aufgefunden wurde, ein menschlicher Beitrag, der den Gesamterfolg wesentlich beeinflusst hat.

Dabei kommt der im Detail umstrittenen Frage, welche Art oder Intensitat ein menschlicher Beitrag aufweisen muss, um eine solche Zuordnung zu rechtfertigen, keine ausschlaggebende Bedeutung zu. Insbesondere bedarf es keiner abschliessenden Festlegung, ob die Stellung als Hersteller, Eigentumer oder Besitzer eines solchen Systems ausreicht oder ob Handlungen mit einem engeren Bezug zu der aufgefundenen technischen Lehre erforderlich sind, etwa spezielle Masnahmen der Programmierung oder des Datentrainings, das Initiieren des Suchvorgangs, der die beanspruchte Lehre zu Tage gefordert hat, die Uberprufung und Auswahl unter mehreren vom System vorgeschlagenen Ergebnissen oder andere Tatigkeiten (vgl. zu diesen Fragen Nagerl/Neuburger/Steinbach, GRUR 2019, 336, 341; Staehelin, GRUR 2022, 1569, 1571; Kollner, Mitt. 2022, 193, 199 ff.; Meitinger, Mitt. 2020, 49, 50; Mes, PatG, 5. Aufl. 2020, § 6 Rn. 10; vgl. ferner Konertz/Schonhof, ZGE 2018, 379, 410; Hetmank/Lauber-Ronsberg, GRUR 2018, 574, 581; Meitinger, Mitt. 2017, 149 ff.; Kim, GRUR Int 2020, 443, 455; Gajeck/Scheibe, RDI 2023, 408, 413 f.).

Unabhangig davon, wie diese Fragen zu beurteilen sind, bleibt es auch beim Einsatz von Systemen mit kunstlicher Intelligenz moglich, solche menschlichen Beitrage zu identifizieren und hieraus durch rechtliche Bewertung die Stellung als Erfinder abzuleiten. Ein System, das ohne jede menschliche Vorbereitung oder Einflussnahme nach technischen Lehren sucht, gibt es nach derzeitigem wissenschaftlichem Erkenntnisstand nicht (Gajeck/Scheibe, RDI 2023, 408, 410; Dornis, GRUR Patent 2023, 14 Rn. 12 f.; Gartner, GRUR 2022, 207; Shemtov, A study on inventorship in inventions involving AI activity, Februar 2019, S. 9 f., abrufbar unter https://beck-link.de/zv4nb).

...

Wie oben dargelegt wurde, steht der Umstand, dass ein System der kunstlichen Intelligenz einen wesentlichen Beitrag zum Auffinden einer technischen Lehre erbracht hat, nicht in Widerspruch zu der Annahme, dass es mindestens eine naturliche Person gibt, die aufgrund des von ihr geleisteten Beitrags als Erfinder anzusehen ist. Vor diesem Hintergrund ist dem Anmelder moglich und zuzumuten, (mindestens) einen Erfinder auch dann zu benennen, wenn aus seiner Sicht ein System der kunstlichen Intelligenz den hauptsachlichen Beitrag geleistet hat.

(2)この様な帰属は独立した発明の形となっている寄与を前提としていない。

確立されているドイツ最高裁の判例において、(共同)発明者の地位の根拠となる創作的寄与があるかという事の判断に対し、この寄与が独立した発明の形を備えている事は必要とされない。請求項の個々の特徴について、それが従来技術から取られたものかどうかを追求する事もない。その寄与が全体的な成功に影響していないか、その解決との関係で本質的でないものである時に、それは除かれ、さらに、ある発明者又は第三者の指示によって作りだされたものである時にもそうである(2020年8月4日のドイツ最高裁人工僧帽弁事件判決参照)。

(3)この原理から、人工知能システムの助けを受けて見出した技術的思想において発明者の地位を認めるには、全体的な成功に影響する人の寄与があれば十分である。

ここで、様々に議論されている論点、人の寄与がどのようなやり方又は大きさを備えていなければならないかという事は、この様な帰属を認める上で、決定的な重要性を持たない。特に、この様なシステムの製造者又は所有者の地位で十分であるかについてや、プログラム又はデータの学習における何か特別な手段、請求の思想を明るみに出す探求プロセスの起動、システムが提案する複数の結果の下での調査及び選択又は他の行動など、見出された技術的思想と緊密な関係を有する行いが必要であるかについて最終的な認定が必要となる事はない(この論点について各文献参照(訳注:上記原文参照))。

これらの論点についてどの様に判断するかとは無関係に、人工知能を有するシステムの利用においても、この様な人の寄与を特定し、そこから法的な評価によって発明者としての地位を導き出す事は変わらず可能である。如何なる人の準備又は影響もなく技術的思想を探求するシステムは、現時点の研究の知見において存在していない(各文献参照(訳注:上記原文参照))。

(略)

上記の通り、人工知能システムが技術的思想を見出す事において重要な寄与をしたという状況は、その者がなした寄与に基づいて発明者と見られるべき自然人が少なくともいるという事を認める事に反するものではない。この様な事に基づき、出願人において、その視点から見て人工知能システムが主要な寄与をなした場合であっても、推定し、(少なくとも)発明者を記載する事は可能である。

 ここで書かれている事は特許法における既存の(共同)発明者の寄与に関する判断のやり方を人工知能を利用した場合にも適用するというものであって、他の国と軌を一にしており、このドイツ判決において際立って何か新しい事が示されているという事はない。

 しかし、今現在のAI技術を考える限り、現実に存在している何らかの技術的課題を解決するために行われる、技術的思想の創作である発明においては、その様な発明を全体として成り立たせる自然人の寄与は必ず存在しており、その自然人が発明者となり得るという考えをはっきり示している点は興味深い。発明に対する寄与を考える時に発明の個々の要素のみに拘泥するのが間違いであるのはその通りであって、人工知能とされる技術が発展しているとしても、なお完全に自律的に発明をする機械が現時点で存在してない以上、この様に、今現在の全ての特許出願において自然人の発明者の存在を導く事が可能と見るのは妥当な事だろう。

 第497回で書いた通り、私自身は、AIを利用した場合の発明について、自然人による創作と言えるほど人が十分寄与した時に特許を受けられるとする現行特許法の解釈による対応で十分だろうと今も考えている。このドイツ最高裁の判決でも言われている様に、現在のAI技術の水準では、実際の発明を対象とする特許出願において人の発明者が全くいない様な場合は考え難く、実務的には出願書類にその者を発明者として書けば良いと思えるのである。

 以前から書いている通りだが、完全に自律的に発明をするAIが本当に現実のものとなったら、その時必要となるのはもはや、AIによる発明を立法により短期間保護すべきかどうかといった些末な議論ではなく、人間の創作の保護を通じたその促進を中心として発展して来た知的財産法全体のあり方に関し、その存否そのものを問う大議論であろうと私は考えている。

 なお、DABUSプロジェクトを主導する出願人のS.ターラー氏が自身(判決上は一応匿名処理がされているが同氏なのは自明だろう)を発明者とする予備的請求をドイツで提出した理由は良く分からないが、AI自体を発明者として認めさせる事、そのための議論を惹起する事を主たる目的として各国に出願をして裁判までしているだろう事を考えると、発明者欄におけるAIを使ったとの追記は法的に取るに足らず実質的に無視できるとドイツ最高裁に言われた事は同氏にとっては不本意なものだったのかも知れない。ただ、特許出願においてこの様に実質的に発明をしたと見られる自然人を発明者として書けば、その後の審査等の手続きは通常通り行われるのであって、今の所実務的にそれで困る事はない筈である。

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2024年5月19日 (日)

第497回:日本においても人口知能(AI)は発明者たり得ない事を確認する2024年5月16日の東京地裁判決

 このブログでは個別の事件の判決を取り上げる事はあまりしていないのだが、先週5月16日に東京地裁が出した人工知能(AI)を用いた特許出願に関する判決は、非常にタイムリーかつ今後のAIと知的財産に関する政策的議論にもある程度の影響を及ぼし得る内容を含んでいると思うので、ここで取り上げておきたいと思う。

 東京地裁の判決(pdf)に事件の経緯が書かれているが、問題となったのはDABUS(ダバス)というAIシステムを発明者としてあげた国際特許出願に対応する日本国内の特許出願であり、特許庁はこれを発明者に自然人が記載されていない事を理由として却下したのに対し、出願人側がその取消しを求めて出訴したものであり、単純明快に「特許法にいう『発明』とは、自然人によるものに限られるかどうか」が争点になっている。

 この争点について、裁判所は判決の「第4 当裁判所の判断」で以下の様に書き、日本においても、発明者は自然人に限られ、AIは発明者たり得ない事を明確に確認している。

1 我が国における「発明者」という概念

 知的財産基本法2条1項は、「知的財産」とは、発明、考案、植物の新品種、意匠、著作物その他の人間の創造的活動により生み出されるもの(発見又は解明がされた自然の法則又は現象であって、産業上の利用可能性があるものを含む。)、商標、商号その他事業活動に用いられる商品又は役務を表示するもの及び営業秘密その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報をいうと規定している。
 上記の規定によれば、同法に規定する「発明」とは、人間の創造的活動により生み出されるものの例示として定義されていることからすると、知的財産基本法は、特許その他の知的財産の創造等に関する基本となる事項として、発明とは、自然人により生み出されるものと規定していると解するのが相当である。
 そして、特許法についてみると、発明者の表示については、同法36条1項2号が、発明者の氏名を記載しなければならない旨規定するのに対し、特許出願人の表示については、同項1号が、特許出願人の氏名又は名称を記載しなければならない旨規定していることからすれば、上記にいう氏名とは、文字どおり、自然人の氏名をいうものであり、上記の規定は、発明者が自然人であることを当然の前提とするものといえる。また、特許法66条は、特許権は設定の登録により発生する旨規定しているところ、同法29条1項は、発明をした者は、その発明について特許を受けることができる旨規定している。そうすると、AIは、法人格を有するものではないから、上記にいう「発明をした者」は、特許を受ける権利の帰属主体にはなり得ないAIではなく、自然人をいうものと解するのが相当である。
 他方、特許法に規定する「発明者」にAIが含まれると解した場合には、AI発明をしたAI又はAI発明のソースコードその他のソフトウェアに関する権利者、AI発明を出力等するハードウェアに関する権利者又はこれを排他的に管理する者その他のAI発明に関係している者のうち、いずれの者を発明者とすべきかという点につき、およそ法令上の根拠を欠くことになる。のみならず、特許法29条2項は、特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が前項各号に掲げる発明に基いて容易に発明をすることができたときは、進歩性を欠くものとして、その発明については特許を受けることができない旨規定する。しかしながら、自然人の創作能力と、今後更に進化するAIの自律的創作能力が、直ちに同一であると判断するのは困難であるから、自然人が想定されていた「当業者」という概念を、直ちにAIにも適用するのは相当ではない。さらに、AIの自律的創作能力と、自然人の創作能力との相違に鑑みると、AI発明に係る権利の存続期間は、AIがもたらす社会経済構造等の変化を踏まえた産業政策上の観点から、現行特許法による存続期間とは異なるものと制度設計する余地も、十分にあり得るものといえる。
 このような観点からすれば、AI発明に係る制度設計は、AIがもたらす社会経済構造等の変化を踏まえ、国民的議論による民主主義的なプロセスに委ねることとし、その他のAI関連制度との調和にも照らし、体系的かつ合理的な仕組みの在り方を立法論として幅広く検討して決めることが、相応しい解決の在り方とみるのが相当である。グローバルな観点からみても、発明概念に係る各国の法制度及び具体的規定の相違はあるものの、各国の特許法にいう「発明者」に直ちにAIが含まれると解するに慎重な国が多いことは、当審提出に係る証拠及び弁論の全趣旨によれば、明らかである。
 これらの事情を総合考慮すれば、特許法に規定する「発明者」は、自然人に限られるものと解するのが相当である。
 したがって、特許法184条の5第1項2号の規定にかかわらず、原告が発明者として「ダバス、本発明を自律的に発明した人工知能」と記載して、発明者の氏名を記載しなかったことにつき、原処分庁が同条の5第2項3号に基づき補正を命じた上、同条の5第3項の規定に基づき本件処分をしたことは、適法であると認めるのが相当である。

 わざわざ知的財産基本法まで持ち出さなくても良かったのではないかと思うが、ここで書かれている特許法の解釈にほとんどつけ加える事はなく、この様に、日本の司法判断でも、発明者は自然人に限られ、AIは発明者たり得ない事が初めて明確に示された事は1つ大きな意味を持つだろう。

 そして、もう1つ、判決の上の部分に加えて最後の部分でも「まずは我が国で立法論としてAI発明に関する検討を行って可及的速やかにその結論を得ることが、AI発明に関する産業政策上の重要性に鑑み、特に期待されているものであることを、最後に改めて付言する」と書かれている通り、裁判所が立法論の期待にまで踏み込んだ付言をしているという事も、今後の政策的議論に微妙な影響を与えて行くのではないかと思える。

 確かに、この様にAIと特許法の関係に関する国民的議論を促す事が間違っているという事はなく、法改正を含む今後の議論を頭から否定するべきでもないだろうが、この判決の、「AIの自律的創作能力」と「自然人の創作能力」を別に観念し、進歩性判断における当業者概念も別に考え、AI発明に期間等の異なる保護を与えるという案は書き過ぎではないかと私は思う。ここで今まで書いて来た事の繰り返しになるが、現時点のAI技術のレベルを考えた時に、AIを利用した場合の発明について、自然人による創作と言えるほど人が十分寄与した時に特許を受けられるとする現行法の解釈による対応で十分であって、創作保護法の面からAI生成物に何らかの保護を与える事については、余計な社会的混乱をもたらすだけではないかと、私自身は極めて懐疑的かつ否定的である。(現行法の解釈については、第495回で取り上げた知財本部の報告書案とその説明参照。)

 現時点のAI技術のレベルから考えて私は非常に懐疑的だが、将来的に技術がどこまで発展するかは分からない。ただ、本当に自然人と同レベルで保護に値する独創性を有する創作がAIによって自発的になされる未来が来るとしたら、その時なされるべきは、AI発明に短期間の保護を与えるべきかどうかといった様な枝葉末節の議論ではなく、人間の創作の保護を通じたその促進を中心として発展して来た知的財産法全体のあり方に関し、その存否そのものを問う大議論だろう。

 最後に、第491回のAIは発明者たり得ないとするアメリカ特許庁のガイダンスの紹介のついでに書いた通りだが、DABUSを用いた国際的な特許出願を巡る状況について補足しておくと、実質的に特許の審査をしていない南アフリカにおける特許登録を唯一の例外として、アメリカ、イギリス、欧州特許庁、ドイツ、オーストラリア、韓国などあらゆるほぼ全ての国又は機関の裁判所レベルで拒絶が支持されているという状況に何ら変わりはない。

 この地裁判決に書かれている事によれば、原告が欧州特許庁の審決の記載の一部を抜き出して自身の主張に使った様だが、欧州特許条約(EPC)の様な日本が加盟していない条約における判断が日本の国内法の解釈に関係しないのは判決の通りである事に加え、その事を措くとしても、2つの対応欧州特許出願に対する2021年12月21日の欧州特許庁の審決1審決2で言われている事は、その要旨又は主請求に対する答えとして以下の様に書かれている通り、あくまで欧州条約における発明者は自然人に限られるという事であり、この審決で欧州特許庁における最高裁に相当する拡大審判廷への質問付託も否定されているので、AI発明が欧州特許庁で特許され得る余地はないと言って良いのである。(以下、いつも通り翻訳は拙訳。)

4.3.1 The main request is not allowable because the designation of the inventor does not comply with Article 81, first sentence, EPC. Under the EPC the designated inventor has to be a person with legal capacity. This is not merely an assumption on which the EPC was drafted. It is the ordinary meaning of the term inventor (see, for instance, Oxford Dictionary of English: "a person who invented a particular process or device or who invents things as an occupation"; Collins Dictionary of the English language: "a person who invents, esp. as a profession").

...

4.3.1 本件における発明者の指定はEPC第81条第一文(訳注:欧州特許出願は発明者を指定しなければならないとする規定)に合致しないから、主請求は認められない。EPCの下で、指定された発明者は法的能力を持つ人である。この事はEPCが起草された時の想定のみによるものではない。これは発明者という用語の通常の意味である(例えば、オックスフォード英語辞典参照:「特定のプロセス又は機器を発明したか、職業として発明する人」;コリンズ英語辞書「発明する人、特に職業として発明する人」)。

(略)

 欧州特許庁の審決は、副請求と反論に対する答えの部分でも、以下の通り、発明の定義のない欧州特許条約において発明のプロセスそのものが問題とならない事から、AIによる発明に関して一部の条文の解釈に議論の余地が多少あり得るとしても、結局、特許を受ける権利の承継はあり得ず、特許は受けられないと明確に述べている。世界の判決で他に拠り所はなかったのだろうが、ここから一部だけを抜き出してAI発明が欧州特許庁で特許され得る考えがあるかの様に敷衍するのは非常に恣意的かつ偏った見方ではないかと思う。

4.4.1 The auxiliary request relies on the argument that Article 81, first sentence, EPC does not apply where the application does not relate to a human-made invention. The Board agrees with this approach. The provisions concerning the designation were drafted to confer specific rights on the inventor. It is arguable that where no human inventor can be identified, then the ratio legis of Article 81, first sentence, EPC does not apply.

Where inventor and applicant differ, however, a statement on the origin of the right to the European patent is necessary under Article 81, second sentence, EPC. This provision remains applicable whether an invention was made by a person or by a device.

4.4.2 According to the statement accompanying the auxiliary request, the appellant has derived the right to the European patent as owner and creator of the machine. This statement does not bring the appellant within the scope of Article 60(1) EPC. Indeed, it does not refer to a legal situation or transaction which would have made him successor in title of an inventor within the meaning of the EPC. For this reason, the auxiliary request does not comply with Article 81, second
sentence, EPC in conjunction with Article 60(1) EPC, and is not allowable.

...

4. 6. 2 Firstly, under Article 52(1) EPC any invention which is novel, industrially applicable and involves an inventive step is patentable. The appellant has argued that the scope of this provision is not limited to human-made inventions. The Board agrees. How the invention was made apparently plays no role in the
European patent system. ... Therefore, it is arguable that AI-generated inventions too are patentable under Article 52(1) EPC. If national courts were to follow this interpretation, the scope of Article 52(1) EPC and Article 60(1) EPC would not be coextensive: there would be inventions patentable under Article 52(1) EPC, for which no right to a patent is provided under Article 60(1) EPC.

...


4.4.1 副請求は、EPC第81条の第一文は出願が人間により作られた発明に関係しない場合に適用されないとする主張に基づいている。審判廷はこのアプローチに同意する。指定に関する規定は特別な権利を発明者に与えるよう起草された。人間の発明者が特定できない場合に、EPC第81条第一文の法の趣旨が適用されないとする事は議論の余地がある。

しかしながら、発明者と出願人が異なる場合、欧州特許を受ける権利の由来に関する文書がEPC第81条第2文により必要とされる。この規定は発明が人間によりなされたものであるか機器によってなされたものであるかのいずれでも適用の余地がある。

4.4.2 副請求に伴う文書によれば、請求人は機械の所有者又は創造者として欧州特許に対する権利をそこから受けたという。この文書は請求人をEPC第60条第1項(訳注:職務発明の場合に各国法に基づき特許を受ける権利を雇用者に承継させる事ができるとする規定)の対象とするものではない。実際、それはEPCの意味における発明者の名において請求人を承継者とする様な法的状況又は取引を述べていない。この理由により、EPC第60条第1項と合わせて考えた時、副請求はEPC第81条第2文と合致するものではなく、認められない。

(略)

4.6.2 第一に、EPC第52条第1項の下で、新規で、産業的利用可能性があり、進歩性を有する発明は特許を受ける事ができる。請求人にはこの規定の範囲は人間によりなされた発明に限定されないと主張する。審判廷は同意する。発明がどの様になされたかは明らかに欧州特許制度の中で何の役割も持たない。(略)したがって、AI生成発明がEPC第52条第1項の下で特許を受けられる事は議論の余地がある。たとえ各国裁判所がこの解釈によったとしても、EPC第52条第1項及びEPC第60条第1項はともに成り立つものではないであろう。つまり、EPC第52条第1項の下で特許を受けられる発明があったとしても、それに対してEPC第60条第1項の下で特許を受ける権利が与えられる事はない。

(略)

 今回の地裁判決を受けてAIと知的財産の関係について様々な観点から日本国内でもさらに議論が深められるのは悪い事ではない。報道によると、今回の東京地裁の判決に対して原告側はさらに控訴を考えている様であり、控訴されたら知財高裁がどの様な判断を示すのかまた注目して行きたいと思っている。

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2024年5月12日 (日)

第496回:特許手続きにおいて人口知能(AI)を利用した場合でも文書の正確性や完全性は人間が保証するべきとするアメリカ特許庁のガイダンス

 今回は前回取り上げた日本政府によるAIと知的財産の関係の整理の特許関連部分、また、第491回で取り上げた人工知能(AI)は発明者たり得ないとするアメリカ特許庁のガイダンスの補足として、最近アメリカ特許庁が出した特許手続きにおけるAI利用に関するガイダンスの紹介をしたいと思う。

 まず、この4月10日のアメリカ特許庁のガイダンス(アメリカ特許庁のリリース1も参照)から、特にⅢ.の特許手続きにおけるAI利用について記載されている部分を以下に訳出する。(いつも通り、翻訳は拙訳である。)

III. Application of the Existing Rules as to the Use of AI, Including Generative AI, Before the USPTO

...

A. The Use of Computer Tools for Document Drafting

For years, computer tools have been ubiquitous in document drafting. Word processing software with features such as spelling and grammar check are commonplace in most industries. More recently, word processing software and other computer tools have begun adopting generative AI features that can develop a written document with much less human involvement. For example, recent tools directed to the IP industry include the ability to draft technical specifications, generate responses to Office actions, write and respond to briefs, and even draft patent claims.

The capabilities of these tools continue to grow, and there is no prohibition against using these computer tools in drafting documents for submission to the USPTO. Nor is there a general obligation to disclose to the USPTO the use of such tools. However, and especially absent such an obligation, applicants, registrants, practitioners, parties to proceedings, and others submitting papers to the USPTO are reminded of the related USPTO policies and duties to the Office and clients (if applicable) when using these computer tools. These policies and duties apply in a variety of exemplary contexts.

1. All Submissions and Correspondence With the USPTO

As explained above, nearly all forms of correspondence with the USPTO must be signed. This includes documents that were drafted entirely by AI tools or drafted with the assistance of AI tools. By presenting to the Office (whether by signing, filing, submitting, or later advocating) any paper, a party (i.e., the person signing, filing, submitting, or later advocating for the paper) certifies under 37 CFR 11.18(b) that all statements to the party's own knowledge are true and that the party performed an inquiry reasonable under the circumstances. In order to obtain the knowledge necessary to make these certifications, the party presenting the paper must have reviewed and verified the paper and its contents.

Accordingly, any paper submitted to the USPTO must be reviewed by the party or parties presenting the paper. Those parties are responsible for the contents therein. Simply relying on the accuracy of an AI tool is not a reasonable inquiry. Therefore, if an AI tool is used in drafting or editing a document, the party must still review its contents and ensure the paper is in accordance with the certifications being made. For example, given the potential for generative AI systems to omit, misstate, or even "hallucinate" or "confabulate" information, the party or parties presenting the paper must ensure that all statements in the paper are true to their own knowledge and made based on information that is believed to be true. Additionally, the party or parties should also perform an inquiry reasonable under the circumstances confirming all facts presented in the paper have or are likely to have evidentiary support and confirming the accuracy of all citations to case law and other references. This review must also ensure that all arguments and legal contentions are warranted by existing law, a nonfrivolous argument for the extension of existing law, or the establishment of new law. For example, if an AI system is used to draft a portion of a response to an examiner Office action, the party should review the response, including checking the accuracy of the citations and ensuring the arguments are legally warranted. Further, practitioners and others involved in a matter before the USPTO may be required to disclose certain known facts to the USPTO under their duty of candor and good faith. For example, in patents and patent applications, all patent claims must have a significant contribution by a human inventor. Thus, if an AI system is used to draft patent claims that are submitted for examination, but an individual listed in 37 CFR 1.56(c) has knowledge that one or more of the claims did not have a significant contribution by a human inventor, that information must be disclosed to the USPTO.

Upon review of the document drafted with the assistance of an AI tool, any errors or omissions in the document must be corrected. Filing a paper with the USPTO that includes erroneous facts, arguments, or authorities would not be in compliance with 37 CFR 11.18(b). Similarly, filing a paper with known material omissions in not accordance with the duty of candor and good faith. Violations of 37 CFR 11.18 could include striking the offending paper, referring the practitioner's conduct to the Director of the Office of Enrollment and Discipline, or terminating the proceedings in the Office. Additionally, practitioners are prohibited under 37 CFR 11.301 from bringing or defending a proceeding, or asserting or controverting an issue therein, unless there is a basis in law or fact for doing so.

While those parties presenting a paper to the USPTO are under a duty to review the information in the paper and correct any errors, there is not presently a general duty to inform the USPTO that an AI tool was used in the drafting of the paper unless specifically requested by the USPTO. However, practitioners must competently represent their clients. That is, they must have the requisite legal, scientific, and technical knowledge to reasonably represent their client.

In addition, under 37 CFR 11.104(a)(2), practitioners must reasonably consult with the client about the means by which their clients' objectives are to be accomplished.

2. Additional Examples in the Patent Context

While there is no per se requirement to notify the USPTO when AI tools are used in the invention creation process or practicing before the USPTO, applicants and practitioners should be mindful of their duty of disclosure. This is, if the use of an AI tool is material to patentability as defined in 37 CFR 1.56(b), the use of such AI tool must be disclosed to the USPTO. For example, as discussed in more detail in the Inventorship Guidance for AI-Assisted Inventions, material information could include evidence that a named inventor did not significantly contribute to the invention because the person's purported contributions were made by an AI system. This could occur where an AI system assists in the drafting of the patent application and introduces alternative embodiments which the inventor(s) did not conceive and applicant seeks to patent. If there is a question as to whether there was at least one named inventor who significantly contributed to a claimed invention developed with the assistance of AI, information regarding the interaction with the AI system (e.g., the inputs/outputs of the AI system) could be material and, if so, should be submitted to the USPTO.

Practitioners are also under a duty to refrain from filing or prosecuting patent claims that are known to be unpatentable. Therefore, in situations where an AI tool is used to draft patent claims, the practitioner is under a duty to modify those claims as needed to present them in patentable form before submitting them to the USPTO. In situations where the specification and/or drawings of the patent application are drafted using AI tools, practitioners need to take extra care to verify the technical accuracy of the documents and compliance with 35 U.S.C. 112. Also, when AI tools are used to produce or draft prophetic examples, appropriate care should be taken to assist the readers in differentiating these examples from actual working examples. This should be done before initial filing with the USPTO because amending the specification and/or drawings after the initial submission may constitute new matter. Care should be taken to ensure that the disclosures of foreign or international patent applications drafted using AI tools, to which the U.S. patent application claims priority, are technically accurate to avoid loss of priority due to the filing of amendments to correct technical errors in the U.S. application.

When AI systems are relied upon to draft or modify claims, such drafts or changes could impact inventorship or patentability (e.g.,35 U.S.C. 112(a)). For example, when AI makes contributions to drafting portions of the specification and/or claims (e.g., introducing alternate embodiments not contemplated by the inventor(s)), it is appropriate to assess whether the contributions made by natural persons rise to the level of inventorship, in accordance with the law and recent USPTO guidance. In particular, each named inventor must have significantly contributed to a claimed invention of the application as described by the Pannu factors. Therefore, practitioners should carefully reevaluate that the appropriate inventors are listed on the patent application. It is particularly important for a practitioner to review applications prepared with the assistance of AI, before filing, to see that information is not incorrectly or incompletely characterized.

AI systems could also be used in the submission of evidence of patentability or unpatentability (e.g., evidence of secondary considerations). Though AI may be used to identify evidence or even draft affidavits, petitions, responses to Office actions, etc., practitioners are required to verify the accuracy of factual assertions, both technical and legal, and ensure that all documents, including those prepared with the assistance of AI, do not introduce inaccurate statements and evidence into the record, either inadvertently or intentionally, or omit information that is material to patentability.

Additionally, AI may be used to automatically populate the USPTO's PTO/SB/08 form (Information Disclosure Statement (IDS) form) with citations for submission to the USPTO, and may be used to collect prior art references in the first place. While AI could be attractive to some patent applicants and practitioners, the unchecked use of AI poses the danger of increasing the number and size of IDS submissions to the USPTO, which could burden the Office with large numbers of cumulative and irrelevant submissions. First, 37 CFR 1.4(d) requires a natural person to personally sign or insert their signature on the IDS. By signing, that person is certifying that they have performed a reasonable inquiry - including not just reviewing the IDS form but reviewing each piece of prior art listed on the form - and determined the paper is compliant with 37 CFR 11.18(b). Regardless of where prior art is found, submitting an IDS without reviewing the contents may be a violation of 37 CFR 11.18(b). After the contents have been reviewed, clearly irrelevant and marginally pertinent cumulative information to the instant proceeding should be removed to avoid violating 37 CFR 11.18 by overburdening the examiner with a large amount of irrelevant information. Including such information in an IDS could be construed as a paper presented for an improper purpose because it could "cause unnecessary delay or needless increase in the cost of any proceeding before the Office." Similarly, third-party preissuance submissions under 37 CFR 1.290 must also be signed by a natural person and, therefore, implicate the certifications under 37 CFR 11.18(b).

The duty of disclosure applies to the individuals identified in 37 CFR 1.56(c). This duty cannot be transferred to another person or a computer system such as an AI tool. Therefore, it is the §1.56(c) individuals who must ensure that all material information is submitted to the USPTO. Therefore, IDSs should also be reviewed to ensure that all material information is disclosed to prevent material information from being unknowingly omitted.

...

Ⅲ.アメリカ特許庁における生成AIを含むAIの使用に関する既存のルールの適用

(略)

A.文書作成のためのコンピューターツールの使用

近年、コンピューターツールは文書作成において至る所で使われている。スペルと文法のチェックの様な機能を持つワープロソフトはほとんどの業界において共通して用いられている。さらに最近、ワープロソフト及びその他のコンピューターツールは人間の関与が遥かに少なくて済む様な生成AI機能を採用し始めている。例えば、知財向けの最近のツールは技術的な明細書を作成する、オフィスアクションに対する応答を作成する、通知に対する文書を書いて応答し、さらには特許クレームを作成するといった能力を含んでいる。

これらのツールの能力は成長し続けており、アメリカ特許庁に対する提出文書作成においてこれらのコンピューターツールの使用は禁じられていない。この様なツールの使用をアメリカ特許庁に開示する一般的な義務もない。しかしながら、特にその様な義務がないとしても、出願人、登録人、実務家、手続きの当事者やその他アメリカ特許庁に文書を提出する者は、これらのコンピューターツールを使用する際、関係するアメリカ特許庁の方針並びに庁及び顧客に対する義務を念頭に置くべきである。この方針及び義務は様々な例となる文脈において適用される。

1.アメリカ特許庁へのあらゆる提出及び通信文書について

上で説明した様に、アメリカ特許庁に対するほぼあらゆる通信文書の書式は署名されなければならない。これはAIツールによって完全に作成されるかAIツールの支援を受けて作成された文書を含む。(署名するか、出願するか、提出するか、後に主張するかのいずれにせよ)ペーパーを庁に提示する事において、当事者(例えば、署名するか、出願するか、提出するか、後に主張するかした者)は、特許等に関する連邦規則第37章第11.18条(b)に基づき、その当事者自身に関するあらゆる記述は真実である事及びその当事者がその状況に応じて合理的な調査を実施した事を認証する。この認証に必要な知識を得るため、そのペーパーを提示する当事者はそのペーパー及びその内容を点検し、確認しなければならない。

したがって、アメリカ特許庁に提出されるあらゆるペーパーはそのペーパーを提示する当事者によって点検されなければならない。この当事者はその内容について責任を負う。あるAIツールの正確性に単に依拠する事は合理的な調査ではない。すなわち、AIツールが文書の作成又は編集に使用される場合、当事者はなおその内容を点検し、そのペーパーになされた認証に合致するものである事を保証しなければならない。例えば、生成AIシステムは書き落としや誤記をしたり、さらには情報において「幻覚」や「作話」を起こしたりする可能性があるのであるから、ペーパーを提示する当事者はそのペーパーにおける全ての記述が自身の知識において真実であり、真実であると信じられる情報に基づき作られたものである事を保証しなければならない。さらに、当事者は状況によりそのペーパーに提示された全ての事実が証拠によりサポートされているか、確からしくそうである事を確証し、判例及びその他の参考の全ての引用の正確性を確証する合理的な調査を実施するべきである。点検は全ての主張及び法的主張は既存の法、既存の法を延長しようとする有意な主張又は新しい法の確立が根拠となっている事を保証するものでなければならない。例えば、AIシステムが審査官のオフィスアクションに対する応答の一部を作成するのに使用される場合、当事者は、引用の正確性をチェックして主張が法的に根拠を有するものである事を保証する事を含め、応答の点検をするべきである。さらに、実務家及びアメリカ特許庁の手続きに関係するその他の者は、その誠実及び善意の義務に基づき、アメリカ特許庁に知っている事実の開示を求められる事がある。例えば、特許及び特許出願において、全ての特許クレームは人間の発明者による有意な寄与を有するものでなければならない。この様に、AIシステムが特許クレームの作成に使用されるが、特許等に関する連邦規則第37章第1.56条(c)に列挙された者がクレームのいずれかが人間による有意な寄与を有さないという知識を有している場合、その情報はアメリカ特許庁に開示されなければならない。

AIツールの支援を受けて作成された文書の点検においては、文書における間違いや書き落としは訂正されなければならない。間違った事実、主張又は根拠を含むペーパーのアメリカ特許庁に対する提出は特許等に関する連邦規則第37章第11.18条(b)に合致しない。同様に、そうと分かる重大な書き落としを含むペーパーの提出は誠実及び善意の義務に合致しない。特許等に関する連邦規則第37章第11.18条の違反は、違反するペーパーの抹消、実務家の行動の登録・矯正部門への付託又は庁における手続きの終了を含み得る。さらに、実務家は、特許等に関する連邦規則第37章第11.301条に基づき、そうする法的基礎又は事実がない限り、手続きをしたり防御をしたり、その中である事項について主張をしたり反論をしたりする事を禁じられる。

ペーパーをアメリカ特許庁に提示するこれらの当事者はそのペーパーにおける情報を点検し、全ての間違いを訂正する義務を負うが、今の所アメリカ特許庁に特に求められない限りAIツールがそのペーパーの作成に使用された事をアメリカ特許庁に知らせる一般的な義務はない。しかしながら、実務家はその権限においてその顧客を代理する。これは、彼らがその顧客を合理的に代理する上で必要な法的、科学的及び技術的な知識を有していなければならないという事である。

さらに、特許等に関する連邦規則第37条第11.104条(a)(2)に基づき、実務家はその顧客の目的を達成するべき手段についてその顧客と合理的な相談をしなければならない。

2.特許の文脈における追加の例

AIツールが発明創作プロセス又はアメリカ特許庁に対する実務で使用された時にアメリカ特許庁に通知する求めそのものはないものの、出願人及び実務家はその開示の義務について留意するべきである。これは、AIツールの使用が特許等に関する連邦規則第37章第1.56条(b)において定義される特許性に関わる重要な事である場合、その様なツールの使用はアメリカ特許庁に開示されなければならない。例えば、AI支援発明に関する発明者性ガイダンスで述べた様に、この事項に関する情報は、主張されているその者の寄与がAIシステムによってなされたものである事から、名前をあげられた発明者が発明に対して有意な寄与をしていないとする証拠を含むものであり得る。この様な事はAIシステムが特許出願の作成に用いられ、発明者が思いつかなかったにも関わらず、出願人が特許を求める場合に起こり得る。AIシステムの支援を受けて開発されたクレームされた発明に対して有意な寄与をした、名前をあげられる発明者が少なくとも一人いるかどうかについて疑問があるようであれば、AIシステムとの相互作用に関する情報(例えば、AIシステムの入力/出力)は事項であり得、その場合、アメリカ特許庁へ提出されるべきである。

実務家には特許を受けられないとわかっている特許クレームを出願したり、その手続を進めたりしない様にする義務もある。すなわち、AIツールが特許クレームの作成に使用された状況において、実務家にはそれをアメリカ特許庁に提出する前に必要に応じて特許可能な形となる様に修正する義務がある。特許出願の明細書及び/又は図面がAIツールを使用して作成された状況において、実務家は文書の技術的な正確性とアメリカ特許法第112条と合致する事を特に注意深く確かめる必要がある。また、AIツールが予言的な例を作り出すか、作成するのに使用される時、その様な例と実際に実施された例とを読者が区別できるのを支援するために特別な注意が払われるべきである。最初の提出より後の明細書及び/又は図面の補正は新規事項となり得るため、それは最初のアメリカ特許庁への出願より前になされるべきである。アメリカ出願において技術的間違いを修正する補正の提出によって優先権が失われる事を避けられるよう、アメリカ特許出願において優先権が主張される、AIツールを使用して作成された外国又は国際特許出願の開示が技術的に正確なものであるかにも注意が払われるべきである。

AIシステムに依拠してクレームの作成又は修正をする時、その様な作成又は変更は発明者性又は特許性に影響を与え得る(例えば、アメリカ特許法第112条(a))。例えば、AIが明細書及び/又はクレームの部分の作成に寄与した時(例えば、発明者によって考えられたものでない代替実施例を追加した時)、法律及び最近のアメリカ特許庁のガイダンスに沿って、自然人によってなされた寄与が発明者性のレベルにまで達しているかどうかを評価するのが適切である。特に、名前をあげられたそれぞれの発明者はパンヌファクターによって書かれる通り出願のクレームされた発明に対して有意な寄与をしていなければならない。したがって、実務家は特許出願において適切な発明者が列挙されている事を注意深く再評価するべきである。出願の前に、特にAIの支援を受けて準備された出願を点検し、情報が不正確に又は不完全に記述されていない事を確かめるのが実務家にとって特に重要である。

AIシステムは特許性又は非特許性の証拠の提出においても使用され得る(例えば、二次的考慮の証拠)。AIは証拠の特定又は宣誓供述書、請願書、オフィスアクションに対する応答等の作成にさえ使用され得るが、実務家は事実の主張の正確性を、技術的及び法的な面の両方において、確認し、不注意によるものであれ意図的なものであれ、AIの支援を受けて準備されたものを含む全ての文書が不正確な記載及び証拠を記録に導入しないものであり、また、特許性に関わる重大な情報を書き落としていない事を保証する事が求められる。

さらに、AIはアメリカ特許庁への提出のためにアメリカ特許庁のPTO/SB/08(情報開示書(IDS)の書式)の引用を自動的に入力するために使用され得、第一に先行技術の参照を収集するために使用され得る。AIはある特許出願人及び実務家にとって魅力的であろうが、AIのチェックなしでの使用は、IDSの数と分量の増加を招き、その大量の重複した出鱈目な提出がアメリカ特許庁の重荷となる恐れがある。第一に、特許等に関する連邦規則第37章第1.4条(d)は自然人が個人としてIDSに署名するか、その署名を挿入する事を求めている。署名する事により、その者が-IDSの書式の点検だけでなくその様式の中で列挙された先行技術の1つ1つを点検を含む-合理的な調査を実施し、そのペーパーが連邦規則第37章第11.18条(b)に合致するものであると判断した事を認証する。どこで先行技術が見つかったかに関わらず、内容を点検せずにIDSを提出する事は特許等に関する連邦規則第37章第11.18条(b)違反となり得る。内容が点検された後、当該事件に僅かに関係する様な重複した情報は、大量の無関係の情報により審査官に過度の負担を与える事により連邦規則第37章第11.18条違反となる事を避けるため、削除されるべきである。その様な情報をIDSに含める事は、「アメリカ特許庁における手続きにおいて不必要な遅延又は無駄な費用の増加をもたらし」得るものであるから、不正な目的でペーパーを提示したものと解釈され得る。同様に、特許等に関する連邦規則第37章第1.290条に基づく第三者の公開前提出も自然人によって署名されなければならず、連邦規則第37章第11.18条(b)の認証を含意する。

特許等に関する連邦規則第37章第1.56条(c)において特定される者に適用される開示の義務は他の者やAIツールの様なコンピューターシステムに移転され得ない。したがって、全ての重要な情報がアメリカ特許庁に提出されている事を保証しなければならないのは第1.56条(c)の者である。したがって、IDSは、重要な情報が知らずに書き落とされる事がないよう全ての重要な情報が開示されている事が点検されて保証されるべきである。

(以下略)

 上の訳出部分からも分かる通り、このガイダンスは、AIは発明者たり得ない事を書いた少し前のガイダンス(第491回参照)と重複する所もあるが、より一般的に特許手続きにおいてAIを利用した場合でも文書の正確性や完全性は人間が保証するべきという注意喚起をするものである。

 すなわち、このガイダンスでは、AIの利用そのものを止めるルールそのものは存在しないとしながらも、アメリカらしく提出文書の正確性や完全性を保証するべき事を署名者の義務や出願人等の善意誠実の義務から導き出し、文書に責任を負うのはあくまで人間であって、AI作成文書をチェックせずに提出した場合、その手続きが有効なものとみなされない可能性があるという事が強調されているのである。そして、少し前のガイダンスの内容の繰り返しとして、発明者性の判断に関わる場合に特に開示が求められる事も書かれている。

 このガイダンスには、優先権主張により他国における出願日を新規性や進歩性の判断の基礎となる優先日とするためには、その他国の出願における正確性が重要であるという事も書かれている。これは日本における特許出願の後アメリカでも同じ内容で出願する事を考える時に問題になり得、この様にアメリカ特許庁が署名や善意誠実に関する義務からAIを利用した場合でも文書の正確性や完全性を人間が保証するべきである事を求め、特に発明者性に関わる場合に強く開示を求めている事は、特許出願の国際性から、他の国でもある程度影響を及ぼし得る。

 確かに、生成AIの利用について明記する事を特許出願の記載要件として、この要件を守っていない事が判明したときには特許出願を拒絶・無効にできる様にするという私の提案(第485回に載せた知財本部パブコメ参照)は少し先走り過ぎたかも知れず、前回取り上げた知財本部の報告書案に書かれている通り、現時点のAI技術のレベルから考えていますぐに国内で法改正が必要というほどではないのはその通りであろうが、例えば、このアメリカ特許庁のガイダンスにかかれている事の国際的な影響についてどう考えるかといった、今後の国際的議論の進展により、特許出願書類における記載や開示について将来的に何らかの形で国際的に整合を図って行く必要が出て来るのではないかとも私は見ている。

 最後に、つい最近4月30日からアメリカ特許庁が特許性の判断に対するAIの影響に関する意見募集を開始しているので(アメリカ特許庁のリリース2も参照)、ここで一緒に紹介しておくが、その質問の概要は以下の様なものである。(以下は上で載せた様な逐語訳と違い、質問部分の私の抄訳であって、対応する英語も省略している。関心のある方は、詳細について是非リンク先をご覧頂きたいと思う。)

A.先行技術に対する影響
1.先行技術は人により作成されたものであるべきか?
2.どの様なAI生成開示が特許性の判断に関係するか?
3.当事者がAI生成物と知っている証拠を提出する場合、その事を知らせるべきか?
4.AI生成開示は非AI生成開示と別に扱われるべきか?(a.それは人の寄与に依存するか、b.AI生成開示が不正確な情報を含み得るという事実は影響するか、c.その他実施可能性や公衆のアクセス可能性などにも影響するか)
5.AI生成先行技術の量がどこまで特許性に対する調査における不当な障害となり得るか?

B.当業者に対する影響
6.「当業者」は自然人であるか?AIツールの利用可能性が当業者のレベルに影響を与えるか?
7.特定の技術分野において共通して使われているAIツールについてどの様にアメリカ特許庁が判断するべきか?
8.当事者におけるAIのツールとしての利用可能性がどの様に影響するか?(a.その技術分野においてある事が良く知られ、共通の知識となっているかどうか、b.当業者がどの様にクレームの用語を理解するか)
9.当事者におけるAIのツールとしての利用可能性がどの様に進歩性の判断に影響するか?(a.検索において利用可能性があるとして、クレームされた発明と類似するかどうか、b.先行技術を変更する理由があるかどうか、c.合理的な成功の期待とともに予想可能な結果をもたらすかどうか、d.進歩性の客観的指標の評価について)
10.AIモデルの訓練に使われる情報が最新のものである場合、その事は例えばそれより前の出願時点で考えられるべき当業者の評価にどの様に影響するか?
11.当事者におけるAIのツールとしての利用可能性がどの様に実施可能性の判断に影響するか?

C.審査ガイダンスの更新や法改正の提案
12.先行技術と当業者についてどの様なアメリカ特許庁のガイダンスがあれば役に立つか?
13.他にあればどの様な形でAIは特許性の判断に影響するか?
14.上の質問に関して有効な対応となる他の国での法律や実務はあるか?
15.アメリカ特許法は改正されるべきか?

 日本でも特許や著作権などの知的財産とAIの関係に関する検討が今後も続けられると思うが、論点はどこの国であっても当然共通するので、これらのガイダンスや意見募集の様なアメリカの動向は当然押さえておくべきものだろう。

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2024年4月28日 (日)

第495回:知財本部・AI時代の知的財産権検討会の中間とりまとめ案(著作権以外の知的財産権と人工知能(AI)の関係について)

 先週4月22日に知財本部でAI時代の知的財産権検討会の第7回が開かれ、中間とりまとめ案が公開された。この後はもう大きな修正は入らないだろうと思うので、このタイミングでその内容を見ておきたいと思う。

 この中間とりまとめ案(pdf)は一応著作権も含むが、著作権に関する部分は実質的に文化庁の著作権分科会・法制度小委員会の報告書「AIと著作権に関する考え方について」をそのまま引いたものとなっているので、ここではその部分は省略し、それ以外の知的財産権と人工知能(AI)の関係について書かれた結論の部分を取り上げる。(文化庁の報告書については第492回参照。)

 著作権以外の知的財産権との関係をまとめているのは「Ⅲ.生成AIと知財をめぐる懸念・リスクへの対応等について」の「2.法的ルール②(著作権法以外の知的財産法との関係)」であり、その「(3)生成AIと意匠法(意匠権)との関係」(第21ページ~)のイで、まず、意匠との関係について以下の様に書かれている。

イ 生成AIに係る各段階における意匠法の適用

 生成AIと意匠権について、現行の制度を踏まえると、以下の帰結や検討課題が考えられる。

(ア)学習段階

 他人の登録意匠またはそれと類似する意匠(以下「登録意匠等」という。)が含まれるデータをAIに学習させる行為(学習段階)については、登録意匠等に係る画像であっても、AI学習用データとしての利用は、「意匠に係る画像」の作成や使用等には当たらず、意匠法2条2項に定める「実施」に該当しないと考えられるため、意匠権の効力が及ぶ行為に該当しないと考えられる。そもそも意匠法は設定登録により一定期間独占的に権利を実施することができる代わりに、登録公報にその内容を掲載し、広く参照されることで更なる意匠の創作を奨励し、産業の発達に寄与することを目的としているため、更なる意匠の創作に向けて登録意匠等をAIに学習させることに意匠権の効力が及ばないことは、当該目的とも整合的である。

(イ)生成・利用段階

 AI生成物に他人の登録意匠等が含まれ、それを利用する行為(生成・利用段階)については、権利侵害の要件として依拠性は不要であり、また、類似性判断について、AI特有の考慮要素は想定し難いため、AI生成物に関する権利侵害の判断は、従来の意匠権侵害の判断と同様であると考えられる。すなわち、登録意匠とAI生成物との比較を行い、物品の用途及び機能の共通性を基準として物品が同一又は類似と評価でき、かつ、取引者・需要者の注意を最も惹きやすい部分において構成態様を共通にしており、形態が同一又は類似と評価できるか否かで判断を行うことになると考えられる。

(ウ)AI生成物の意匠法による保護

 意匠法3条1項1号は「工業上利用することができる意匠の創作をした者は、・・・その意匠について意匠登録を受けることができる。」と規定しており、意匠法6条1項2号は「意匠の創作をした者の氏名及び住所又は居所」を願書に記載することを求めている。意匠法6条1項1号が「出願人」について「氏名又は名称及び住所又は居所」と規定していることと対比すれば、意匠法は、工業上利用することができる意匠を自然人が創作することを前提としていると考えられる。また、意匠法15条2項では特許法33条1項を準用し、意匠登録を受ける権利は移転することができる旨規定されており、出願前であっても権利移転することができる権利能力を有する自然人であることを予定しているものである。
また、裁判例によれば、意匠登録を受ける権利を有する創作者とは、「意匠の創作に実質的に関与した者」をいうとされており、したがって、自然人がAIを道具として用いて意匠の創作に実質的に関与をしたと認められる場合には、AIを使って生成した物であっても保護され得ると考えられる。いかなる場合に「自然人が意匠の創作に実質的に関与」したと言えるかどうかについては、関連の裁判例のほか、上述した著作権法におけるAI生成物の保護に関する議論(具体的には、上記「1.法的ルール①(著作権法との関係)」(3)ウ)が参考になるものと思われる。

(以下略)

 次に、「(4)生成AIと商標法(商標権)との関係」(第26ページ~)のイで、商標との関係について以下の様にまとめられている。

イ 生成AIに係る各段階における商標法の適用

 生成AIと商標権について、現行の制度を踏まえると、以下の帰結が考えられる。

(ア)学習段階

 他人の登録商標またはそれと類似する商標(以下「登録商標等」という。)が含まれるデータをAIに学習させる行為(学習段階)については、登録商標等であっても、AI学習用データとしての利用は、商標権の効力が及ぶ指定商品・役務についての使用に該当しないとして、商標権の効力が及ぶ行為に該当しないと考えられる。

(イ)生成・利用段階

 AI生成物に他人の登録商標等が含まれ、それを利用する行為(生成・利用段階)については、権利侵害の要件として依拠性は不要であり、また、類似性判断について、AI特有の考慮要素は想定し難いため、AI生成物に関する権利侵害の判断は、従来の商標権侵害の判断と同様に、商品・役務の同一・類似性及び商標の同一・類似性により判断を行うことになると考えられる。すなわち、商品・役務の類似性については、それぞれの商品・役務について同一・類似の商標が使用された場合に同一営業主の製造、販売又は提供に係る商品・役務と誤認されるおそれがあるか否かで判断を行い、商標の類似性については、登録商標とAI生成物が同一又は類似の商品・役務に使用された場合に、両者の外観、称呼又は観念等によって需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察し、具体的な取引状況に基づいて、需要者に出所混同のおそれを生ずるか否かで判断を行うことになると考えられる。

(ウ)AI生成物の商標法による保護

 商標法は、商標を使用する者の業務上の信用の維持と需要者の利益の保護を目的としており、自然人の創作物の保護を目的とするものではない。そのため、当該商標が自然人により創作されたものか、AIにより生成されたものかに関わらず、商標法3条及び4条等に規定された拒絶理由に該当しない限り商標登録を受けることができる。したがって、AI生成物であっても商標法で保護され得ると考えられる。

 また、「(5)生成AIと不正競争防止法との関係」(第28ページ~)で、不正競争防止法(不競法)により規制される商品等表示、形態模倣、営業秘密等との関係について以下の様に書かれている。

(5-1)商品等表示規制との関係

(中略)

イ 生成AIに係る各段階における商品等表示規制の適用

 生成AIと不正競争防止法における商品等表示規制について、現行の制度を踏まえると、以下の帰結が考えられる。

(ア)学習段階

 他人の商品等表示が含まれるデータをAIに学習させる行為については、AI学習用データとしての利用は、周知な商品等表示について「混同」を生じさせるものではなく、また、著名な商品等表示を自己の商品・営業の表示として使用する行為ともいえないため、不正競争行為(不正競争防止法2条1項1号及び2号)に該当しないと考えられる。

(イ)生成・利用段階

 AI生成物に他人の商品等表示が含まれ、それを利用する行為(生成・利用段階)については、不正競争の要件として依拠性は不要であり、また、類似性判断について、AI特有の考慮要素は想定し難いため、AI生成物に関する不正競争(不正競争防止法2条1項1号及び同項2号)か否かの判断は、一般的な違法性の判断と同様である。すなわち、他人の周知な商品等表示と同一・類似のものを使用等することにより、他人の商品・営業と混同を生じさせる行為(同項1号)、又は自己の商品等表示として他人の著名な商品等表示と同一・類似のものを使用等する行為(同項2号)か否かにより判断することになると考えられる。

(ウ)AI生成物の不正競争防止法(商品等表示規制)による保護

 不正競争防止法は、商品等表示規制について、「他人の商品等表示として需要者の間に広く認識されているもの」(不正競争防止法2条1項1号)や「他人の著名な商品等表示」(同項2号)と同一又は類似の商品等表示を使用等することを不正競争行為として規定しており、当該商品等表示が自然人により創作されたものか、AIにより生成されたものかを問わない。
 したがって、AI生成物であっても商品等表示として不正競争防止法で保護され得ると考えられる。

(5-2)商品形態模倣品提供規制との関係

(中略)

イ 生成AIに係る各段階における商品形態模倣品提供規制の適用

 生成AIと不正競争防止法における商品形態模倣品提供規制について、現行の制度を踏まえると、以下の帰結や検討課題が考えられる。

(ア)学習段階

 他人の商品の形態が含まれるデータをAIに学習させる行為については、AI学習用データとしての利用は、他人の商品の形態を模倣した商品の譲渡等に該当せず、「使用」は規制の対象外であるため、不正競争行為に該当しないと考えられる。

(イ)生成・利用段階

 AI生成物に他人の商品の形態が含まれ、それを利用する行為(生成・利用段階)については、実質的に同一の形態の商品といえるかどうかの判断において、AI特有の考慮要素は想定し難い。ただし、依拠性については、上述した著作権法の検討を応用できる面も多いとも考えられる。

(ウ)AI生成物の保護

 不正競争防止法は、商品形態模倣品提供規制について、「他人の商品の形態」(不正競争防止法2条1項3号)を模倣した商品を譲渡等することを不正競争行為として規定しており、当該商品の形態が自然人により創作されたものか、AIにより生成されたものかを問わない。
 したがって、AI生成物であっても商品形態として不正競争防止法で保護され得ると考えられる。

(5-3)営業秘密・限定提供データとの関係

(中略)

イ 生成AIに係る各段階における営業秘密・限定提供データ規制の適用

 生成AIと不正競争防止法における営業秘密・限定提供データ規制について、現行の制度を踏まえると、次の帰結や検討課題が考えられる。

(ア)学習段階

 他人の営業秘密や限定提供データが含まれるデータをAIに学習させる行為については、AI学習用データとしての利用であるかどうかに関わらず、不正競争防止法が対象とするデータの保護の必要性は変わらないため、学習段階における営業秘密や限定提供データの収集や使用が不正競争行為に該当するかどうかの判断は、一般的な不正競争行為の判断と同様と考えられる。
 すなわち、営業秘密を含む学習用データの収集手段が正当なものか否か、当該取得に係る営業秘密を含む学習用データを加工し、学習用プログラムに入力する行為が「使用」(営業秘密の本来の目的に沿って行われ、当該営業秘密に基づいて行われる行為)や「開示」(営業秘密を公然と知られたものとすること及び非公知性を失わない状態で営業秘密を特定の者に示すこと)に該当するか否か、技術上の秘密の不正使用行為により生じた物の譲渡等に該当するか否か等によって、不正競争行為該当性を判断することになると考えられる。
 また、限定提供データを含む学習用データについても、上記と同様に限定提供データを含む学習用データの収集手段が正当なものか否か、当該取得に係る限定提供データを含む学習用データを加工し、学習用プログラムに入力する行為が「使用」や「開示」に該当するか否か等によって、不正競争行為該当性を判断することになると考えられる。
いずれについても、判断基準について生成AI特有の問題はないと考えられる。

(中略)

(イ)生成・利用段階

 営業秘密や限定提供データを使用して得られた学習済みモデルや当該モデルの出力(AI生成物)については、学習済みモデルやAI生成物に、元の営業秘密や限定提供データ(なお、それらと実質的に等しいものを含む。)が含まれている場合には、その使用・開示が元の営業秘密・限定提供データの使用・開示に該当し、そうでない場合には該当しないと考えられる。

(中略)

(ウ)AI生成物の保護

 既に述べたとおり、不正競争防止法は、事業者の公正な競争の確保を目的としており、営業秘密・限定提供データ規制との関係で当該情報が自然人により創作されたものか、AIにより生成されたものかを問わない。
 したがって、AI生成物であっても、営業秘密の要件(秘密管理性、有用性、非公知性)や限定提供データの要件(限定提供性、相当蓄積性、電磁的管理性)を満たす限り、不正競争防止法で保護され得ると考えられる。

 そして、「(6)生成AIとその他の権利(肖像権・パブリシティ権)の関係」(第33ページ~)のウで、肖像権・パブリシティ権との関係について以下の様に書かれている。

ウ 生成AIに係る各段階における肖像権及びパブリシティ権の適用

 学習段階、生成・利用段階において、他人の肖像が使用される場合に、それが肖像権を侵害するものと言えるかどうかは、「被撮影者の社会的地位、撮影された被撮影者の活動内容、撮影の場所、撮影の目的、撮影の態様、撮影の必要性等を総合考慮して、被撮影者の上記人格的利益の侵害が社会生活上受忍の限度を超えるものといえるかどうか」という肖像権侵害に関する一般的な判断と同様に考えるべきであり、その判断基準について生成AIに特有の問題はないと考えられる。
 また、学習段階、生成・利用段階において、著名人等の顧客吸引力を有する肖像等が使用される場合があり、それがパブリシティ権を侵害するものと言えるかどうかは、専ら肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とするといえるか否かというパブリシティ権侵害に関する一般的な場合と同様に考えられ、その判断基準について、生成AIに特有の問題はないと考えられる。なお、判例は専ら肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とするといえる場合の例として「①肖像等それ自体を独立して鑑賞の対象となる商品等として使用し、②商品等の差別化を図る目的で肖像等を商品等に付し、③肖像等を商品等の広告として使用するなど、専ら肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とするといえる場合」を挙げている。

 これに加え、特にパブリシティ権等と声の関係について、「5.個別課題」(第50ページ~)の「(2)声の保護」のイで、以下の様に書かれている。

イ 肖像権・パブリシティ権による保護の有無

(ア)肖像権による保護の有無

 肖像権の概要については、既に上記「2.法的ルール②(著作権法以外の知的財産法との関係)」「(6)生成AIとその他の権利(肖像権・パブリシティ権)の関係」において整理したとおりである。
 現在、我が国には、肖像権を明文化した法令は存在しないが、判例は「人は、みだりに自己の容ぼう等を撮影されないということについて法律上保護されるべき人格的利益を有」していると判示し、撮影によって当該人格的利益が侵害され、当該侵害の程度が社会生活上受忍の限度を超える場合には、肖像権の侵害となると判示している。
もっとも、上述のいずれの判例においても「容ぼう等」とは「容ぼう」及び「姿態」であると定義されているところ、これを更に抽象化・一般化して、「容ぼう等」に「声」が含まれると解することは文言上困難と考えられ、「声」が上記判例でいうところの肖像権により保護される可能性は高いとは言えないと考えられる。

(イ)パブリシティ権による保護の有無

 パブリシティ権の概要についても、既に上記2(6)において整理したとおりである。
現在、我が国には、パブリシティ権を明文化した法令は存在しないが、判例は、「人の氏名、肖像等……は、個人の人格の象徴であるから、当該個人は、人格権に由来するものとして、これをみだりに利用されない権利を有すると解される……。そして、肖像等は、商品の販売等を促進する顧客吸引力を有する場合があり、このような顧客吸引力を排他的に利用する権利(以下「パブリシティ権」という。)は、肖像等それ自体の商業的価値に基づくものであるから、上記の人格権に由来する権利の一内容を構成する」と述べて、パブリシティ権を認めている。
 そして、同判決の調査官解説では、パブリシティ権の客体である「肖像等」については、本人の人物識別情報を指し、「声」は「肖像」そのものではないとしても、「肖像等」には、「声」が含まれると明示されている。
 したがって、同判例においてパブリシティ権が及ぶ場合として例示した「①肖像等それ自体を独立して鑑賞の対象となる商品等として使用し、②商品等の差別化を図る目的で肖像等を商品等に付し、③肖像等を商品等の広告として使用するなど、専ら肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とするといえる場合」に該当する場合、すなわち、①声自体を独立して鑑賞の対象となる商品等として使用する場合、②商品等の差別化のために声を商品等に付している場合、③声を商品等の広告として使用している場合には、「声」についてパブリシティ権に基づく保護が可能と考えられる。
 なお、同判例が示したパブリシティ権が及ぶ3つの場合は、あくまで例示にすぎず、パブリシティ権により「声」が保護される場合が、上述した3つの場合に限定されることを示すものではないことには留意する必要がある。パブリシティ権は、顧客吸引力を排他的に利用する権利であるため、具体的な利用態様や状況に鑑み、「専ら肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とするといえる場合」であれば、「声」に対するパブリシティ権による保護は及ぶと考えられる。

 最後に、特許だけは別にして「Ⅳ.AI技術の進展を踏まえた発明の保護の在り方について」(第80ページ~)が立てられ、考え方として以下の様な事が書かれている。

1.AIを利用した発明の取扱いの在り方

(中略)

(2)考え方

 現時点では、AI自身が、人間の関与を離れ、自律的に創作活動を行っている事実は確認できておらず、依然として自然人による発明創作過程で、その支援のためにAIが利用されることが一般的であると考えられる。このような場合については、発明の特徴的部分の完成に創作的に寄与した者を発明者とするこれまでの考え方に従って自然人の発明者を認定すべきと考えられる。すなわち、AIを利用した発明についても、モデルや学習データの選択、学習済みモデルへの入力等において、自然人が関与することが想定されており、そのような関与をした者も含め、発明の特徴的部分の完成に創作的に寄与したと認められる者を発明者と認定すべきと考えられる。
 他方で、今後、AI技術等のさらなる進展により、AIが自律的に発明の特徴的部分を完成させることが可能となった場合の取扱いについては、技術の進展や国際動向等を踏まえながら、引き続き必要に応じた検討を進めることが望ましいと考えられる。
 また、AI自体の権利能力(AI自体が特許を受ける権利や特許権の権利主体になれるか)についても、発明(特許権)に限られる問題ではないところ、国際動向等も踏まえながら、引き続き必要に応じて検討を進めることが望ましいと考えられる。

2.AIの利活用拡大を見据えた進歩性等の特許審査実務上の課題

(中略)

(2)考え方

 現時点では、発明創作過程におけるAIの利活用の影響によりこれまでの特許審査実務の運用を変更すべき事情があるとは認められない。したがって、進歩性の判断に当たっては、幅広い技術分野における発明創作過程でのAIの利活用を含め、技術常識や技術水準を的確に把握した上で、これまでの運用に従い、当該技術常識や技術水準を考慮し、進歩性のレベルを適切に設定して判断を行うべきと考えられる。
 また、実施可能要件及びサポート要件に関しても、AIの利活用を踏まえた技術常識や技術水準把握した上で、これまでの運用に従って判断を行うべきと考えられる。
 なお、例えば、AIを用いた機能・性質の推定等の技術がより発展した場合には、これまでの進歩性や記載要件の考え方ではイノベーションの成果を適切に保護することができなくなる可能性もあるが、そのような場合の発明の保護の在り方については、今後のAI技術等の進展を見据えつつ、必要に応じて適切な発明の保護の在り方を検討すべきと考えられる。
 また、特許審査プロセスにおけるAIの積極的な活用による審査の効率化や質の向上に加え、発明等の創造・保護・活用の各過程におけるAI技術の活用(例えば、特許性の検討等の出願や権利化をサポートするAIサービスの開発・利用等)を通じたイノベーションの創出についても、AI技術の進展の状況を踏まえて検討が必要である(なお、意匠についても同様である)。

 ここで、少し補足をしつつ、上で書かれている事から各知的財産権とAIの関係について主要なポイントとそのまとめの表を私なりに作っておくと、以下の様になる。

・特許権
(1)学習段階:関連記載なし(ただし、通常の特許権侵害と同様で、特許請求の範囲によるものと思われる)
(2)生成・利用段階:関連記載なし(ただし、通常の特許権侵害と同様で、特許請求の範囲によるものと思われる)
(3)AI生成物の保護:自然人の創作が前提、自然人がAIを道具として用いた場合は発明の特徴的部分の完成に創作的に寄与したかどうかによる

・意匠権
(1)学習段階:AI学習に意匠権の効力は及ばない
(2)生成・利用段階:意匠権侵害に依拠性は不要、類似性判断について通常の侵害の場合と同様
(3)AI生成物の保護:自然人の創作が前提、自然人がAIを道具として用いた場合は創作に実質的に関与をしたかどうかによる

・商標権
(1)学習段階:AI学習に商標権の効力は及ばない
(2)生成・利用段階:商標権侵害に依拠性は不要、類似性判断について通常の侵害の場合と同様
(3)AI生成物の保護:AI生成物であっても登録により保護を受ける事は可能

・商品等表示(不正競争防止法)
(1)学習段階:不正競争に該当しない
(2)生成・利用段階:不正競争に依拠性は不要、類似性判断について通常の商品等表示の場合と同様
(3)AI生成物の保護:AI生成物であっても保護を受ける事は可能

・形態模倣(不正競争防止法)
(1)学習段階:不正競争に該当しない
(2)生成・利用段階:不正競争における依拠性について著作権法の検討を応用可、実質的同一性の判断について通常の形態模倣の場合と同様
(3)AI生成物の保護:AI生成物であっても保護を受ける事は可能

・営業秘密(不正競争防止法)
(1)学習段階:学習における営業秘密の取得が不正かどうか等により、通常の営業秘密の判断と同様
(2)生成・利用段階:AI生成物の使用についてそのAI生成物に元の営業秘密が含まれているかどうか等により、通常の営業秘密の判断と同様
(3)AI生成物の保護:AI生成物であっても保護を受ける事は可能

・パブリシティ権(最高裁判例により人格権に由来)
(1)学習段階:通常のパブリシティ権侵害の場合と同様で、声も保護可
(2)生成・利用段階:通常のパブリシティ権侵害の場合と同様で、声も保護可
(3)AI生成物の保護:関連記載なし(ただし、自然人でないAIの生成物に人格権に由来するパブリシティ権がないのは自明だろう)

Aiandip 

 画像の表の方が分かりやすいかと思うが、これは基本的に著作権の場合と同様であって、AIの学習段階における利用において知的財産権が問題になる事はそれほど多くないが、生成・利用段階において、AI生成物であるからと言ってその利用が既存の知的財産権の侵害とならないなどという事はあり得ず、いずれの知的財産権との関係でも、AI生成物が本当に既存の他人の権利と抵触していないか十分注意する必要があるという事である。

 そして、これもほぼ明らかな事と思うが、自然人でないAIの生成物が各法で保護を受けられるかどうかは、それが自然人の創作を保護するための創作保護法か、それとも社会における競争秩序を維持するための競業秩序法あるいは標識保護法であるかというそれぞれの法律の根本原則から来ているものである。

 この中では人格権に由来するパブリシティ権はその性質がかなり異なるが、場合によってパブリシティ権等を考える必要があるのも当然の事であり、パブリシティ権により声が保護され得る事を明記したのは政府として一歩踏み込んだものと思える。

 また、上の表とは別の事として、この中間とりまとめ案は、特許の審査では進歩性、実施可能要件、サポート要件についてこれまでの運用に従ってレベルを適切に設定して判断を行うべきとしており、今現在のAI技術のレベルを考えた時にはこれも妥当なものと言って良いのではないかと思う。

 なお、ここで細かく取り上げる事はしないが、この中間とりまとめ案は、ディープフェイクと知的財産権の関係についても記載しており、Ⅲ.5の「(4)ディープフェイクについての知的財産法の視点からの課題整理」(第60ページ~)のオで、

オ ディープフェイクに関する基本的な考え方

 以上がディープフェイクに対する知的財産法等による対応可否についての概観であるところ、ディープフェイクへの対応に係る海外における法規制動向(ポルノや選挙活動等の特定目的下での規制の動きや、偽情報対応全般を目的とした規制の動き)を踏まえると、ディープフェイクの諸問題は、知的財産権法とは切り離して議論すべき要請が強いと評価できる。
 この点については、意見募集でも、ディープフェイクによる悪用事例は人権侵害であり、知的財産以前の問題であるという意見や、名誉毀損罪、偽計業務妨害罪、詐欺罪などの刑事罰による法的措置の発動を求める意見があったところである。

と、ディープフェイクの諸問題は知的財産権法とは切り離して議論すべきもので、悪質なディープフェイクに対しては名誉毀損罪、偽計業務妨害罪、詐欺罪などの刑事罰の適用が考えられると言っているのも極めて妥当な事である。

 全体として、この中間とりまとめ案は、危うい法改正や規制強化に踏み込む事なく、生成AIについて既存の法律とその運用の整理によって対応可能である事を政府として明確に示したものとして評価できるものである。また、生成AI技術の動向や、考えられる技術や契約による対応、デジタルアーカイブ整備の促進なども含め、AIと知的財産の関係について現時点で可能な限り網羅的に書かれ、一読に値するものとなっていると言って良いだろう。(ほぼこの中間とりまとめ案の内容と同様だが、私自身の生成AIと知的財産に関する考えについては第485回に載せた去年の知財本部提出パブコメ参照。)

 次回は、今回の補足、また、第491回で取り上げたAIは発明者たり得ないとするアメリカ特許庁のガイダンスに続く話として、最近出されたアメリカ特許庁の実務AI利用ガイダンスの事を取り上げたいと思っている。

(2024年5月6日の追記:ついでに文化庁のこの前のAI報告書の内容も一緒にまとめた表も作ったのでここに載せておく。

Aiandip2

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2024年2月25日 (日)

第491回:人工知能(AI)は発明者たり得ないとするアメリカ特許庁のガイダンス

 アメリカ特許庁がこの2月13日に人工知能(AI)は発明者たり得ないとするガイダンスを公表した(アメリカ特許庁のリリースも参照)。

 これは、第476回でアメリカ著作権局のAI生成物の著作権登録を不可とする方針ペーパーについて、また、第483回でAIは著作者たり得ないとするアメリカ地裁の判決などについて取り上げたが、特許の問題としてこれらの動向に対応するものであり、第485回で載せた知財本部のAIパブコメに出した私の意見の特許関連部分について良い補足ともなっていると思うので、今回はこのガイダンスの事を取り上げたいと思う。

 まず、ガイダンスからポイントとなる部分を以下に訳出する。(いつも通り翻訳は拙訳である。)

SUMMARY:

Pursuant to the "Executive Order on the Safe, Secure, and Trustworthy Development and Use of Artificial Intelligence" (October 30, 2023), the United States Patent and Trademark Office (USPTO or Office) is issuing inventorship guidance for inventions assisted by artificial intelligence (AI). The guidance provides clarity for USPTO stakeholders and personnel, including the Central Reexamination Unit and the Patent Trial and Appeal Board (PTAB or Board), on how the USPTO will analyze inventorship issues as AI systems, including generative AI, play a greater role in the innovation process. This guidance explains that while AI-assisted inventions are not categorically unpatentable, the inventorship analysis should focus on human contributions, as patents function to incentivize and reward human ingenuity. Patent protection may be sought for inventions for which a natural person provided a significant contribution to the invention, and the guidance provides procedures for determining the same. Finally, the guidance discusses the impact these procedures have on other aspects of patent practice. The USPTO is seeking public comments on this inventorship guidance for AI-assisted inventions.

I. Background

...

II. Inventors and Joint Inventors Named on U.S. Patents and Patent Applications Must Be Natural Persons

On April 22, 2020, the USPTO issued a pair of decisions denying petitions to name the Device for the Autonomous Bootstrapping of Unified Sentience (DABUS), an AI system, as an inventor on two patent applications. The USPTO's decisions explained that under current U.S. patent laws, inventorship is limited to a natural person(s).[note 6: The decision is available at www.uspto.gov/sites/default/files/documents/16524350_22apr2020.pdf.] The USPTO's decisions were upheld on September 2, 2021, in a decision from the United States District Court for the Eastern District of Virginia.[note 7: Thaler v. Hirshfeld, 558 F.Supp.3d 238 (E.D. Va. 2021).] On appeal, the Federal Circuit affirmed in Thaler v. Vidal (Thaler) the holding "that only a natural person can be an inventor, so AI cannot be."[note 8: Thaler v. Vidal, 43 F.4th 1207, 1213 (Fed. Cir. 2022), cert denied, 143 S. Ct. 1783 (2023).] Specifically, the Federal Circuit stated that 35 U.S.C. 100(f) defines an inventor as "the individual or, if a joint invention, the individuals collectively who invented or discovered the subject matter of the invention." (emphasis in original) The court found that based on Supreme Court precedent, the word "individual," when used in statutes, ordinarily means a human being unless Congress provided some indication that a different meaning was intended.[note 9: Id. at 1211 (citing Mohamad v. Palestinian Auth., 566 U.S. 449, 454 (2012)).] The court further found that there is nothing in the Patent Act to indicate Congress intended a different meaning, and the Patent Act includes other language to support the conclusion that an "individual" in the Patent Act refers to a natural person.[note 10: Id.] The court therefore concluded that an inventor must be a natural person.[note 11: Id.] The court explained, however, that it was not confronted with "the question of whether inventions made by human beings with the assistance of AI are eligible for patent protection."[note 12: Id. at 1213.] (emphasis in original)

...

III. AI-Assisted Inventions Are Not Categorically Unpatentable for Improper Inventorship

...

B. Judicial Interpretation and Policy Considerations

The Supreme Court has indicated that the meaning of "invention" in the Patent Act refers to the inventor's conception.[note 19: Pfaff v. Wells Elecs., Inc., 525 U.S. 55, 60 (1998) ("The primary meaning of the word 'invention' in the Patent Act unquestionably refers to the inventor's conception rather than to a physical embodiment of that idea.").] Similarly, the Federal Circuit has made clear that conception is the touchstone of inventorship.[note 20: Sewall v. Walters, 21 F.3d 411, 415 (Fed. Cir. 1994) ("Determining 'inventorship' is nothing more than determining who conceived the subject matter at issue, whether that subject matter is recited in a claim in an application or in a count in an interference."); see also Ethicon, Inc. v. U.S. Surgical Corp., 135 F.3d 1456, 1460 (Fed. Cir. 1998) ("Because '[c]onception is the touchstone of inventorship,' each joint inventor must generally contribute to the conception of the invention.") (quoting Burroughs Wellcome Co. v. Barr Labs., Inc., 40 F.3d 1223, 1227-28 (Fed. Cir. 1994)).] Conception is often referred to as a mental act or the mental part of invention.[note 21: Univ. of Utah v. Max-Planck-Gesellschaft Zur Forderung Der Wissenschaften E.V., 734 F.3d 1315, 1323 (Fed. Cir. 2013); Fina Oil & Chem. Co. v. Ewen, 123 F.3d 1466, 1474 (Fed. Cir. 1997).] Specifically, "[i]t is 'the formation in the mind of the inventor, of a definite and permanent idea of the complete and operative invention, as it is hereafter to be applied in practice.'"[note 22: Burroughs Wellcome, 40 F.3d at 1228 (citing Hybritech Inc. v. Monoclonal Antibodies, Inc., 802 F.2d 1367, 1376 (Fed. Cir. 1986) (quoting 1 Robinson on Patents 532 (1890)).] Because conception is an act performed in the mind, it has to date been understood as only performed by natural persons. The courts have been unwilling to extend conception to non-natural persons.[note 23: See Univ. of Utah, 734 F.3d at 1323 ("To perform this mental act, inventors must be natural persons and cannot be corporations or sovereigns."); Beech Aircraft Corp. v. EDO Corp., 990 F.2d 1237, 1248 (Fed. Cir. 1993) ("EDO could never have been declared an 'inventor,' as EDO was merely a corporate assignee and only natural persons can be 'inventors.').] Hence, when a natural person invents using an AI system, the conception analysis should focus on the natural person(s).

The patent system is designed to encourage human ingenuity.[note 24: See, e.g., U.S. Const. art. 1, s. 8, cl. 8 ("The Congress shall have Power ... To promote the Progress of Science and useful Arts, by securing for limited Times to Authors and Inventors the exclusive Right to their respective Writings and Discoveries."); Committee Reports on the 1952 Patent Act, S. Rep. No. 1979, 82d Cong., 2d Sess., 5 (1952); H. R. Rep. No. 1923, 82d Cong., 2d Sess., 6 (1952) (Inventions eligible for patenting "include anything under the sun made by man.") (emphasis added)); Graham v. John Deere Co., 383 U.S. 1, 9 (1966) ("The patent monopoly was not designed to secure to the inventor [their] natural right in [their] discoveries. Rather, it was a reward, an inducement, to bring forth new knowledge. The grant of an exclusive right to an invention was the creation of society - at odds with the inherent free nature of disclosed ideas - and was not to be freely given. Only inventions and discoveries which furthered human knowledge, and were new and useful, justified the special inducement of a limited private monopoly."); Diamond v. Chakrabarty, 447 U.S. 303, 309-310 (1980) (Under the Patent Act, a claim is considered patentable subject matter if it is to "a nonnaturally occurring manufacture or composition of matter - a product of human ingenuity having a distinctive name, character and use.") (emphasis added).] From its very inception, patents were intended to incentivize human individuals to invent and thereby promote the progress of science and the useful arts.[note 25: See, e.g., Thaler v. Perlmutter, 2023 WL 5333236 at *4 (D.D.C. 2023) ("At the founding, both copyright and patent were conceived of as forms of property that the government was established to protect, and it was understood that recognizing exclusive rights in that property would further the public good by incentivizing individuals to create and invent. The act of human creation - and how to best encourage human individuals to engage in that creation, and thereby promote science and the useful arts - was thus central to American copyright from its very inception. Non-human actors need no incentivization with the promise of exclusive rights under United States law, and copyright was therefore not designed to reach them.").] Focusing the patentability of AI-assisted inventions on the human contributions supports this policy objective by incentivizing human-centered activities and contributions, and by providing patent protections to inventions with significant human contributions while prohibiting patents on those that are not invented by natural persons. This approach supports the USPTO's goal of helping to ensure our patent system strikes the right balance between protecting and incentivizing AI-assisted inventions and not hindering future human innovation by locking up innovation created without human ingenuity.

IV. Naming Inventors for AI-Assisted Inventions

...

A. Significant Contribution

When evaluating the contributions made by natural persons in the invention creation process, it is important to keep in mind they may apply for a patent jointly, "even though (1) they did not physically work together or at the same time, (2) each did not make the same type or amount of contribution, or (3) each did not make a contribution to the subject matter of every claim of the patent."[note 31: 35 U.S.C. 116(a).] Instead, each inventor must contribute in some significant manner to the invention. In making this determination, the courts have looked to several factors, such that each inventor must: "(1) contribute in some significant manner to the conception or reduction to practice of the invention,[note 32: While these factors do refer to reduction to practice, applicants are reminded that the main inquiry is who conceived of the invention. Reduction to practice, per se, is generally irrelevant to this inquiry. MPEP 2109(II) (citing Fiers v. Revel, 984 F.2d 1164, 1168 (Fed. Cir. 1993)). The mention of reduction to practice in the Pannu factors is an acknowledgement of the simultaneous conception and reduction to practice doctrine used in unpredictable technologies. See, e.g., Amgen, Inc. v. Chugai Pharm. Co., 927 F.2d 1200, 1206 (Fed. Cir. 1991). The Pannu factors are not a basis to conclude that reduction to practice, alone, is sufficient to demonstrate inventorship.] (2) make a contribution to the claimed invention that is not insignificant in quality, when that contribution is measured against the dimension of the full invention, and (3) do more than merely explain to the real inventors well-known concepts and/or the current state of the art" (Pannu factors).[note 33: Pannu, 155 F.3d at 1351.] Courts have found that a failure to meet any one of these factors precludes that person from being named an inventor.[note 34: HIP, Inc. v. Hormel Foods Corp., 66 F.4th 1346, 1353 (Fed. Cir. 2023) (citing Pannu, 155 F.3d at 1351 ("a joint inventor must contribute in a significant manner to the conception or reduction to practice of the invention, make a contribution to the invention that is not insignificant, and do more than explain well-known concepts or the current state of the art")) (emphasis in original).]

...

B. Guiding Principles

Determining whether a natural person's contribution in AI-assisted inventions is significant may be difficult to ascertain, and there is no bright-line test. To assist applicants and USPTO personnel in determining proper inventorship, the USPTO provides the following non-exhaustive list of principles that can help inform the application of the Pannu factors in AI-assisted inventions:

1. A natural person's use of an AI system in creating an AI-assisted invention does not negate the person's contributions as an inventor.[note 53: Cf. Shatterproof Glass Corp. v. Libbey-Owens Ford Co., 758 F.2d 613, 624 (Fed. Cir. 1985) ("An inventor 'may use the services, ideas, and aid of others in the process of perfecting [their] invention without losing [their] right to a patent.'") (quoting Hobbs v. U.S. Atomic Energy Comm., 451 F.2d 849, 864 (5th Cir. 1971)).] The natural person can be listed as the inventor or joint inventor if the natural person contributes significantly to the AI-assisted invention.

2. Merely recognizing a problem or having a general goal or research plan to pursue does not rise to the level of conception.[note 54: Burroughs Wellcome, 40 F.3d at 1228 ("An idea is definite and permanent when the inventor has a specific, settled idea, a particular solution to the problem at hand, not just a general goal or research plan [the inventor] hopes to pursue."); see also Hitzeman, 243 F.3d 1345, 1357-58; In re Verhoef, 888 F.3d 1362, 1366 (Fed. Cir. 2018) (Verhoef's recognition of the problem of connecting the cord of the harness to the dog's toes did not make Verhoef the sole inventor; Lamb's proposed solution to that problem was a significant contribution).] A natural person who only presents a problem to an AI system may not be a proper inventor or joint inventor of an invention identified from the output of the AI system. However, a significant contribution could be shown by the way the person constructs the prompt in view of a specific problem to elicit a particular solution from the AI system.

3. Reducing an invention to practice alone is not a significant contribution that rises to the level of inventorship.[note 55: MPEP 2109 (subsection III).] Therefore, a natural person who merely recognizes and appreciates the output of an AI system as an invention, particularly when the properties and utility of the output are apparent to those of ordinary skill, is not necessarily an inventor.[note 56: See e.g., Solvay S.A. v. Honeywell Intern. Inc., 622 F.3d 1367, 1378-79 (Fed. Cir. 2010) (finding that deriving the invention of another and appreciating what was made did not rise to the level of conception).] However, a person who takes the output of an AI system and makes a significant contribution to the output to create an invention may be a proper inventor. Alternatively, in certain situations, a person who conducts a successful experiment using the AI system's output could demonstrate that the person provided a significant contribution to the invention even if that person is unable to establish conception until the invention has been reduced to practice.[note 57: See MPEP 2138.04 (subsection II); see also Dana-Farber Cancer Inst., Inc. v. Ono Pharm. Co., 964 F.3d 1365, 1373-74 (Fed. Cir. 2020) (Dr. Freeman's identification of the 292 sequences in the BLAST database (an automated search tool for finding similarity between biological sequences) and subsequent immunohistochemistry experiments to identify several types of tumors that express PD-L1 were found sufficient to make him a joint inventor.).]

4. A natural person who develops an essential building block from which the claimed invention is derived may be considered to have provided a significant contribution to the conception of the claimed invention even though the person was not present for or a participant in each activity that led to the conception of the claimed invention.[note 58: Dana-Farber, 964 F.3d at 1372-74 (Drs. Freeman and Wood were found to be joint inventors even though they did not conceive of the claimed invention of using anti-PD-1 antibodies to treat tumors but instead discovered the expression of PD-L1 in human tumors and that PD-1/PD-LI interaction inhibits the immune response.).] In some situations, the natural person(s) who designs, builds, or trains an AI system in view of a specific problem to elicit a particular solution could be an inventor, where the designing, building, or training of the AI system is a significant contribution to the invention created with the AI system.

5. Maintaining "intellectual domination" over an AI system does not, on its own, make a person an inventor of any inventions created through the use of the AI system.[onte 59: Verhoef, 888 F.3d at 1367 (court refused to endorse the "intellectual domination" language and emphasized that the person who conceives of the invention is the inventor).] Therefore, a person simply owning or overseeing an AI system that is used in the creation of an invention, without providing a significant contribution to the conception of the invention, does not make that person an inventor.

V. Patent Practice

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B. Duties Owed to the USPTO

(i) Duty of Disclosure

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The USPTO is not changing or modifying its duty of disclosure. However, applicants and patent owners are reminded of their existing duty of disclosure and its applicability to the inventorship determination. Because improper inventorship is a ground of rejection under 35 U.S.C. 101 and 115,[note 68: MPEP 2157.] parties identified in 37 CFR 1.56(c), 1.555(a), and 42.11(a) have a duty to disclose to the USPTO information that raises a prima facie case of unpatentability due to improper inventorship or that refutes, or is inconsistent with, a position an applicant takes in opposing an inventorship rejection or asserting inventorship. For example, in applications for AI-assisted inventions, this information could include evidence that demonstrates a named inventor did not significantly contribute to the invention because the person's purported contribution(s) was made by an AI system.

...

(ii) Duty of Reasonable Inquiry

...

The USPTO is not changing or modifying its duty of reasonable inquiry. The USPTO has previously provided examples of possible procedures that could help avoid problems with the duty of disclosure.[note 73: See MPEP 2004.] These examples should be carefully considered because they may be helpful in ascertaining what a reasonable inquiry may require. For example, patent practitioners who are preparing and prosecuting an application should inquire about the proper inventorship.[note 74: Id. ("2. It is desirable to ask questions about inventorship. Who is the proper inventor? Are there disputes or possible disputes about inventorship? If there are questions, call them to the attention of the U.S. Patent and Trademark Office.").] Given the ubiquitous nature of AI, this inventorship inquiry could include questions about whether and how AI is being used in the invention creation process. In making inventorship determinations, it is appropriate to assess whether the contributions made by natural persons rise to the level of inventorship as discussed in section IV above.

...

概要:

2023年10月30日の「人工知能の安全、安心、高信頼の開発及び利用に関する大統領令」に従い、アメリカ特許庁(USPTO)は人工知能(AI)により支援された発明に関する発明者性のガイダンスを出す。本ガイダンスは、中央再審査部及び特許審判部(PTAB)を含むUSPTOの関係者及び職員に対し、生成AIを含むAIシステムが発明プロセスにおいてより大きな役割を果たすであろう中、どの様にUSPTOが発明者性の問題を評価するかを明確にするものである。このガイダンスは、AI支援発明は全面的に特許され得ないものではないが、特許の機能が人間の創意工夫にインセンティブを与え、これに報奨を与えるものである以上、発明者性の評価は人間の寄与に焦点をあてるべきである事を説明している。特許保護は自然人が発明に対して有意な寄与をしている発明に対して求める事ができ、本ガイドラインはこの事を決定するための手順を提示している。最後に、本ガイドラインはこの手順が特許実務の他の点に対する影響を議論している。USPTOはこのAI支援発明のための発明者性ガイドラインについてパブリックコメントを求める。

I.背景

(略)

Ⅱ.アメリカ特許及び特許出願に挙げられた発明者及び共同発明者は自然人でなければならない

2020年4月22日、USPTOは、2つの特許出願においてAIシステムである統一科学の自動ブートストラップのための装置(DABUS)を発明者として挙げる事を求める申し立てを却下する2つの決定をした。USPTOの決定は、現在のアメリカ特許法の下で、発明者は自然人に限られる事を説明している。[注6:本決定はhttps://www.uspto.gov/sites/default/files/documents/16524350_22apr2020.pdfで読む事ができる。]USPTOの決定は、2021年9月2日、バージニア州の東部地方裁判所の判決によって支持された。[注7:ターラー対ヒルシュフェルト事件バージニア州東部地裁判決(2021年)。]控訴後、連邦巡回控訴裁はターラー対ヴィダル(ターラー)判決において「自然人のみが発明者たり得、AIはそうたり得ない」という判示を肯定した。[注:ターラー対ヴィダル事件巡回控訴裁判決(2022年)、最高裁上告不受理(2023年)。]特に、巡回控訴裁は、アメリカ特許法第100条(f)は発明者を「発明の対象を発明したか、発見した個人又は、共同発明者の場合、複数の個人」と定義している」(原文における強調)と述べている。裁判所は、最高裁の判例に基づき、別の意味を意図していた事を示す何かを議会が提供していない限り、「個人」とは、条文で用いられる時、通常人間を意味すると判示した。[注9:同上(モハマド対パレスチナ当局事件最高裁判決(2012年)を引用)。]裁判所はさらに、議会が異なる意味を意図していた事を示すものは特許法の中になく、特許法の中の「個人」は自然人を指すものであるという結論を支持する他の記述を特許法は含むと判示した。[注10:同上。]裁判所はそこから発明者は自然人でなければならないと結論づけている。[注11:同上。]しかしながら、裁判所は、「AIの支援を受けて人間がなした発明が特許保護適格性を有しているかどうかという問題」(原文における強調)に取り組んだのではないとも説明している。[注12:同上。]

(略)

Ⅲ.AI支援発明は不適切な発明者性のために全面的に特許され得ないものではない

(略)

B.司法解釈及び政策判断

最高裁判所は、特許法における「発明」の意味は発明者の構想を指すものである事を示している。[注19:パフ対ウェルズ電機事件最高裁判決(1998年)(「特許法における『発明』という語の第一の意味は疑いの余地なくアイデアの物理的具現化より発明者の構想を指す。」)。]同様に、連邦巡回控訴裁は、構想が発明者性の試金石である事を明らかにしている。[注20:セウォール対ウォルターズ事件巡回控訴裁判決(1994年)(「発明者性」を決定する事は誰が問題となる対象を構想したのか、その対象が出願のクレーム又はインターフェアランスのカウントに記載されているかという事を決定する事に他ならない。」);エチコン社対USサージカル社事件巡回控訴裁判決(1998年)(「『構想が発明者性の試金石である』から、各共同発明者は発明の構想に一般的に寄与していなければならない。」)(バロウズ・ウェルカム社対バール研究所事件巡回控訴裁判決(1994年))を引用)も参照。]構想は発明の精神的行為又は精神的な部分を指すものである事も良くある。[注21:ウター大対マックスプランク研究所事件巡回控訴裁判決(2013年);フィナ石油化学社対絵ウェン事件巡回控訴裁判決(1997年)。]特に、「ここで実務に適用されている通り、それは『完全で実行可能な発明の決定的かつ永続的なアイデアの発明者の精神における形成』である。」[注22:バロウズ・ウェルカム事件判決(ハイブリテック社対モノクローナル抗体社事件巡回控訴裁判決(1986年)を引用)(ロビンソン特許法(1980年)を引用)。]構想は精神において実行される行為であるから、今まで自然人のみによって実行されるものと理解されて来た。裁判所は構想を非自然人まで拡張する事を望んで来なかった。[注23:ウター大事件判決(「この精神的行為を実行するため、発明者は自然人でなければならず、会社又は国家ではあり得ない。」);ビーチ・エアクラフト社対EDO社事件巡回控訴裁判決(1993年)(「EDOは譲受人である会社に過ぎず、自然人のみが『発明者』であり得る以上、EDOは『発明者』であると宣言する事はできない。」)。]すなわち、自然人がAIシステムを浸かって発明する時、構想の評価は自然人に焦点があてられるべきである。

特許制度は人間の創意工夫を促進するために設計されている。[注24:例えば、アメリカ憲法第1章第8条第8項(「議会は…限定された期間著作者及び発明者にそれぞれの著述及び発見について排他的権利を保証する事によって、科学及び有用な技芸の発展を促進する権限を有する。」);1952年特許法に関する上下院委員会報告(1952年)(特許可能な発明は「日の下で人によって作られたあらゆるものを含む。」)(強調追加);グラハム対ジョン・ディア社事件最高裁判決(1966年)(「特許の独占は発明者に[その]発見における[その]自然権を保証するために設計されたではない。むしろ、それは新しい知識を生み出すための報奨、誘引であった。発明に対する排他的権利の付与は社会の創作だったのであり-開示されたアイデアの本質的に自由な性質と一致しないものであって-自ずと与えられるものではなかった。人間の知識を前進させるものであって、新規で有用な発明及び発見のみが限定的な私的独占の特別な誘引を正当化した。」);ダイヤモンド対チャクラバーティ事件最高裁判決(1980年)(特許法の下で、それが非自然的に生じた事項の製造又は組成-特徴的な名前、性格及び利用を有する人間の創意工夫の産物に関するものである時にクレームは特許可能な対象であると考えられる。)(強調追加)。]そのそもそもの始まりから、特許は人間である個人に発明するインセンティブを与え、その事により科学及び有用な技芸の発展を推進する事を意図していた。[注25:例えば、ターラー対パールムッター事件コロンビア地裁判決(2023年)参照(「その創設において、著作権及び特許はともに政府が保護を確立する所有権として考え出され、その所有権において排他権を認める事は個人に創作し発明するインセンティブを与える事でさらに公共の利益となる。人の創作の行為-及び、どの様にして人間である個人にその創作に従事する事を最も良く促し、その事によって科学及び有用な技芸を促進するか-はすなわちそのそもそもの始まりからアメリカの著作権の中心である。非人間の行為者はアメリカ合衆国法の下での排他権の約束によるインセンティブを必要とせず、よって、著作権はそれに及ぶ様に設計されたものではない。」)。]AI支援発明の特許性について人間の寄与に焦点をあてる事は、人間中心の活動及び寄与にインセンティブを与える事で、そして、有意な人間の寄与がある発明に特許保護を与えつつ自然人によって発明されたものではないものに特許を禁じる事で、この政策目的を支持するものである。このアプローチは、人の創意工夫なく作り出されたイノベーションを閉じ込める事により、私たちの特許制度がAI支援発明に保護とインセンティブを与える事と将来の人間のイノベーションを妨げない様にする事との間で正しいバランスを取る事を確保する事を助けるというUSPTOの目標を支持するものである。

Ⅳ.AI支援発明における発明者

(略)

A.有意な寄与

発明創作プロセスにおいて複数の自然人によりなされた寄与を評価する時、「(1)彼らが物理的に同時に又は一緒に働かなかったか、(2)それぞれが同じ種類の又は量の寄与をしなかったか、又は(3)それぞれが特許の全てのクレームの対象に寄与をしなかったとしても、」共同で特許を出願する事が可能であるという事を念頭に置く事が重要である。[注31:アメリカ特許法第116条(a)。]その代わり、それぞれの発明者は何かしら有意なやり方で発明に寄与していなければならない。この事を決定するに際し、裁判所は幾つかのファクターを考慮して来たのであり、それぞれの発明者は:「(1)発明の構想又は実施への落とし込みに何かしら有意なやり方で寄与し、[注32:これらのファクターは実施への落とし込みについて言及しているが、主たる問いは誰が発明を構想したかである事に出願人は留意するべきである。実施への落とし込みは、それ自体は一般的にこの問いと無関係である。特許審査マニュアル第2019節(Ⅱ)(ファイアーズ対ルヴェル事件連邦巡回控訴裁判決(1993年)を引用)。パンヌファクターにおける実施への落とし込みの言及は予想不可能な技術において用いられる同時の構想と実施への落とし込みの法理を認めたものである。アムジェン社対中外製薬事件連邦巡回控訴裁判決(1991年)参照。パンヌファクターは実施への落とし込みが、単独で発明者性を示すのに十分である事を結論づける基礎となるものではない。](2)クレームされた発明に対して質において取るに足らないものではない寄与をし、そして、本当の発明者に対して良く知られた概念及び/又は現在の技術水準を説明したに過ぎない以上の事をしなければならない」(パンヌファクター)。[注33:パンヌ事件判決。]裁判所は、これらのファクターのいずれかに合致する事を欠く場合その者は発明者として挙げられないと判示して来た。[注34:HIP社対ホーメルフーズ社事件連邦巡回控訴裁判決(2023年)(パンヌ事件判決を引用(「共同発明者は発明の構想又は実施への落とし込みに有意なやり方で寄与し、発明に対して取るに足らないものではない寄与をし、そして、良く知られた概念及び/又は現在の技術水準を説明した以上の事をしなければならない」))(原文における強調)。]

(略)

B.指導原理

AI支援発明における自然人の寄与が有意なものであるかを決定する事は確かめる事が難しいものであろうし、そこに明確なテストはないであろう。適正に発明者性を決定する上で出願人及びUSPTOの職員を補助するため、USPTOは、AI支援発明に対するパンヌファクターの適用について情報を与える助けとなり得る、例示的なものである以下の原理のリストを提供する。

1.AI支援発明の創作における自然人のAIシステムの利用はその者の発明者としての寄与を否定するものではない。[注53:シャッタープルーフグラス社対リベイ・オウェンス・フォード社事件連邦巡回控訴裁判決(1985年)参照(「発明者は『特許に対する[その]権利を失う事なく[その]発明を完成させるプロセスにおいて他のサービス、アイデア及び助けを利用する事ができる。』」)(ホッブズ対アメリカ原子力エネルギー委員会事件連邦第5巡回控訴裁判決(1971年)を引用)。]自然人がAI支援発明に対して有意に寄与している場合、その自然人は発明者又は共同発明者として列挙され得る。

2.単に課題を認識する事や追求する一般的な目標又は研究計画を持つ事だけで構想のレベルにまで達する事はない。[注54:バロウズ・ウェルカム事件(「発明者が追求する事を望む一般的な目標又は研究計画ではなく、手中の課題に対する特別な解決である特定の決まったアイデアを持った時、アイデアは確定的で永続的なものとなる。」);ヒッツェマン巡回控訴裁判決(2001年);フェアホーフ事件巡回控訴裁判決(2018年)も参照(ハーネスのコードを犬のつま先に繋げるという課題の認識によりフェアホーフが単独の発明者となる事はない。その課題に対してラムの提案した解決は有意な寄与である)。]AIシステムに課題を示しただけの自然人はAIシステムの出力から特定される発明の適切な発明者又は共同発明者ではないであろう。しかしながら、有意な寄与は、特定の課題を考慮してその者がAIシステムから特別な解決を引き出すためにプロンプトを構成する手段によって示され得るであろう。

3.発明の実施への落とし込みだけでは発明者性のレベルに達する有意な寄与とならない。[注55:特許審査マニュアル第2109節(サブセクションⅢ)。]したがって、単にAIシステムの出力を発明として認識し、評価したに過ぎない自然人は、特に出力の特性と有用性が通常の知識を有する者に明らかである時、必ずしも発明者とならない。[注:56:例えば、ソルベイ社対ハネウェル社事件連邦巡回控訴裁判決(2010年)(他者の発明を引き出し、何がなされているかを評価する事は構想のレベルにまで達するものではないと判示)。]しかしながら、AIシステムの出力を取り上げ、その出力に対して発明の創作となる有意な寄与をした者は適正な発明者であり得る。それとは別に、ある状況においては、AIシステムの出力を用いて実験を成功させた者は、発明が実施に落とし込まれるまで構想を確立する事ができなかったとしても、自身が発明に対して有意な寄与をしている事を示し得るであろう。[注57:特許審査マニュアル第2138.04節(サブセクションⅡ);ダナ・ファーバー癌研究所対小野製薬事件巡回控訴裁判決(2020年)(フリーマン博士のBLASTデータベース(生物学的配列の間の類似性を見出すための自動サーチツール)における292配列の特定及びその後のPD-L1を発現させる幾つかの種類の腫瘍を免疫組織化学実験は彼を共同発明者とするのに十分であると認められる。)。]

4.クレームされた発明を作り上げる必要不可欠な構成要素を作り出した自然人は、発明の構想を導く全ての活動に存在または参加していなくとも、クレームされた発明の構想に有意な寄与をしたと考えられるであろう。[注58:ダナ・ファーバー事件判決(フリーマン博士及びウッド博士は、腫瘍の治療のための抗PD-1抗体を使用するという発明を構想したのではなく、人間の腫瘍におけるPD-L1の発現及びPD-1/PD-L1の相互作用が免疫反応を阻害する事を発見したのであるとしても、共同発明者であると認められる。)。]ある状況においては、特定の課題を考慮して特別な解決を引き出すためにAIシステムを設計、構築又は訓練した自然人は、AIシステムの設計、構築又は訓練がそのAIシステムを使って作り出された発明に対する有意な寄与である場合に、発明者であり得るであろう。

5.AIシステムに対する「知的支配」を維持している事は、それ自体では、人をしてそのAIシステムの利用を通じて作り出された発明の発明者とする事はない。[注59:フェアホーフ事件判決(裁判所は「知的支配」という語を支持する事を拒み、発明を構想した者が発明者である事を強調した)。]したがって、発明の創作に用いられたAIシステムを所有又は監督する者は、発明の構想に有意な寄与をしていない場合、発明者とならない。

Ⅴ.特許実務

(略)

B.USPTOに対する義務

(ⅰ)開示の義務

(略)

USPTOは開示の義務を変更又は修正する事はしない。しかしながら、出願人及び特許権者はその既存の開示の義務及びその発明者性に対する適用に注意するべきである。不適正な発明者性はアメリカ特許法第101条及び第115条の下で拒絶の理由となるのであるから、[注68:特許審査マニュアル第2159節。]アメリカ特許規則第1.56条(c)、第1.555条(a)及び第42.11条(a)に規定される当事者は、不適正な発明者性による一応の特許不可のケースを生じさせる情報や、出願人が発明者性の拒絶に反対する又は発明者性を主張する際に取る立場に反論するか、それと合致しない情報をUSPTOに開示する義務を有する。例えば、AI支援発明の出願においては、この情報は、その者により主張される寄与はAIシステムによってなされたものであるから、挙げられた発明者は有意な寄与をしていない事を示す証拠を含み得るであろう。

(略)

(ⅱ)合理的な調査の義務

(略)

USPTOは合理的な調査の義務を変更又は修正する事はしない。USPTOは以前に開示の義務に関する問題を避ける助けとなり得る可能な手続きの例を提供した。[注73:特許審査マニュアル第2004節参照。]これらの例は合理的な調査として求められる事は何かという事を確認する上で助けとなり得るものであるから、注意深く考慮されるべきものである。例えば、出願を準備しその手続きを進める特許の実務家は適切な発明者性に関する調査をするべきである。[注74:同上。(「2.発明者性に関する問題を問う事が望ましい。誰が適正な発明者であるのか?発明者性に関する争い又は潜在的な争いがあるのか?問題がある場合、アメリカ特許商標庁に注意を促す事。」)]AIのどこにでもある性質を考えると、この発明者性の調査はAIが発明の創作プロセスの中で用いられているか及びそれがどの様に用いられているかという問いを含み得るものであろう。発明者性の決定をするにあたり、上の第Ⅳ節で議論したとおり、自然人によってなされた寄与が発明者性のレベルにまで達しているかどうかを評価する事が適切である。

(略)

 上の訳出部分を見てもらえれば大体分かると思うが、このガイダンスは、特に何か新しい事を示しているものではなく、過去の判例などを引用しながら、AIは発明者たり得ず、発明者は自然人に限られ、その際に自然人が発明者となるかどうかはどれほど発明の構想に意味のある寄与したかという事が問われるという(conceptionはあるいは「着想」や「把握」、contributionはあるいは「貢献」と訳しても良かったかと思うが)、現行のアメリカの特許法の極真っ当な解釈、原理原則を示したものである。

 上の引用と重なるが、AIと発明の関係という事では特に重要な、DABUSというシステムを発明者として挙げた特許出願が問題となった事件に関する経緯について以下にリンクつきで概略をまとめておく。

  • 2020年4月22日:発明者は自然人のみに限られる事からDABUSを発明者として挙げる特許出願を却下するアメリカ特許庁の決定(pdf)
  • 2021年9月2日:アメリカ特許庁の判断を支持するバージニア州の東部地方裁判所の判決
  • 2022年8月5日:アメリカ特許庁及び地裁の判断を支持する連邦巡回控訴裁の判決(pdf)
  • 2023年4月24日:アメリカ最高裁による上告不受理

 このDABUS関連の国際的な特許出願の状況についてはWikipediaや人工発明者プロジェクトのHPにもまとめられているが、実質的に特許の審査をしていない南アフリカにおける特許登録を唯一の例外として、欧州特許庁、ドイツ、韓国などでも裁判所レベルで拒絶が支持されている。なお、オーストラリアでは連邦裁判所で2021年7月30日にオーストラリア特許庁の拒絶決定を取り消して事件を差し戻す判決を出すという番狂わせが起こっているが、その後の上訴によって2022年4月13日に同じ連邦裁判所の大法廷で先の判決は取り消され最終的に拒絶が維持されている。

 また、最近、イギリス最高裁でも全く同様にDABUSは発明者たり得ないとする判決を出しているので、ここでついでに以下の通り同様に経緯の概略を紹介しておく。

  • 2019年12月4日:人でないDABUSは発明者たり得ないとするイギリス特許庁の決定(pdf)
  • 2020年9月21日:イギリス特許庁の判断を支持する高等法院の判決
  • 2021年9月21日:イギリス特許庁及び高等法院の判断を支持する控訴院の判決
  • 2023年12月20日:イギリス特許庁及び下級裁判所の判断を支持する最高裁の判決(pdf)

 要するに、アメリカでは(他の主要国でも)、自然人でないAIが発明者となり得ない事は特許庁から裁判所に至るまで一貫した法解釈として支持されている。この事は、自然人に発明の創作に対する保護・インセンティブを与える事によって技術の発展を促進するという特許法の基本原理から導かれる事であって、どの国であれ変わらず通用する事である。

 さらに、このガイダンスでも第483回で取り上げたAIは著作者たり得ないとするアメリカ地裁の判決を引用している事や、このAIガイダンスの事を知らせるアメリカ特許庁長官がそのブログ記事で、同じく第483回で取り上げたアメリカ著作権局のAIに関する意見募集について触れつつ著作権についても同様であると述べている事などからも分かる通り、創作保護法としての特許法、著作権法はともに、保護・インセンティブにより自然人の創作を促し、引いては技術や文化の発展を促す事をそもそもの目的とするのであって、自然人によらず生み出されたものが対象とならない事はこれらの両方に通底する原理に他ならない。現状のAIの技術レベルを考え、AI技術がさらに多少発展したと考えたとしても、この原理が変わる事はないと私は考えている。

 発明を作り出す際に人がAIを利用した場合の発明者について、発明に対する有意な寄与をその人がしたかどうか、共同発明者が発明者となり得るかと同様に考えて良いというのもその通りだろう。この事は日本の文化庁がその報告書案で正しく共同著作者の場合を考えている事にも通じるものである(日本の文化庁のAIと著作権に関する考え方については第488回、この報告書案について私が出した意見は第490回参照)。

 ただし、現状のAI技術では、簡単な指示のみで全特許出願書類を出力する様な事はあまり想定できず、発明の過程における一部の文章作成で生成AIサービスを利用する位で、多くは、人の寄与の有無を考える発明者性の問題ではなく、例えば、生成AIに指示を入力する事により同じ様な出力が得られ、その指示が容易に思いつく場合の様に、進歩性の問題になるのではないかと思えた事、そして、このガイダンスでも触れられているアメリカ特許法の様な一般的な情報開示義務が日本ではない事から、第485回で載せた通り、知財本部のAIパブコメに対し、生成AIの利用について明記する事を特許出願の記載要件として、この要件を守っていない事が判明したときには特許出願を拒絶・無効にできる様にする事を私は提案した。

 日本においても、生成AIを含むAI技術と著作権や特許などの知的財産権に関する問題の整理にはもう少し時間がかかるのではないかと思うが、このアメリカ特許庁のAIガイダンスもこの様な問題に関係する国際動向の1つとして当然押さえておくべきものだろう。

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2023年12月28日 (木)

第488回:2023年の終わりに(文化庁のAIと著作権に関する考え方の素案、新秘密特許(特許非公開)制度に関するQ&A他)

 今年は大きな法改正をしたばかりの所為か、特に年末年始に掛けて知財法改正パブコメがこぞって出されるという状況にはなっていないが、1年の終わりに各省庁の動きについてまとめて取り上げておきたいと思う。

(1)文化庁のAIと著作権に関する考え方の素案
 文化庁では文化審議会・著作権分科会の下で小委員会または部会として、法制度小委員会政策小委員会使用料部会の3つが動いている。

 使用料部会では権利者不明の場合の補償金額の決定などが行われている。まだ関係者ヒアリングの段階だが、私的録音録画補償金問題も含めた対価還元のあり方について議論するらしい政策小委員会の検討についても私は要注意だと思っているが、今年最大の検討事項は法制度小委員会で検討されているAIと著作権の関係の整理と言って間違いないだろう。

 その骨子案について前回取り上げたが、12月20日の法制度小委員会の第5回で、より具体的な内容を含むAIと著作権に関する考え方について(素案)(pdf)が示された。

 長くなるが、この素案の5.から特に重要な部分を以下に抜粋する。

5.各論点について

○ 著作権法の基本的な考え方と技術的な背景を踏まえ、生成AIに関する懸念点について、以下のとおり論点が整理できるのではないか。〔〕内は骨子案の項目との対応関係

(1)学習・開発段階
(中略:「ア 検討の前提」)

イ「情報解析の用に供する場合」と享受目的が併存する場合について〔骨子案:(1)イ、キ〕
(ア)「情報解析の用に供する場合」の位置づけについて
○ 法第30条の4柱書では、「次に掲げる場合その他の当該著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合には」と規定し、その上で、第2号において「情報解析(……)の用に供する場合」を挙げている。

○ そのため、AI学習のために行われるものを含め、情報解析の用に供する場合は、法第30条の4に規定する「当該著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合」に該当すると考えられる。

(イ)非享受目的と享受目的が併存する場合について
○ 他方で、一個の利用行為には複数の目的が併存する場合もあり得るところ、法第30条の4は、「当該著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合には」と規定していることから、この複数の目的の内にひとつでも「享受」の目的が含まれていれば、同条の要件を欠くこととなる。

○ そのため、ある利用行為が、情報解析の用に供する場合等の非享受目的で行われる場合であっても、この非享受目的と併存して、享受目的があると評価される場合は、法第30条の4は適用されない。

○ 生成AIに関して、享受目的が併存すると評価される場合について、具体的には以下のような場合が想定される。
≫ ファインチューニングのうち、意図的に、学習データをそのまま出力させることを目的としたものを行うため、著作物の複製等を行う場合。
(例)いわゆる「過学習」(overfitting)を意図的に行う場合
≫ AI学習のために用いた学習データを出力させる意図は有していないが、既存のデータベースやWeb上に掲載されたデータの全部又は一部を、生成AIを用いて出力させることを目的として、著作物の内容をベクトルに変換したデータベースを作成する等の、著作物の複製等を行う場合。
(例)以下のような検索拡張生成(RAG)のうち、生成に際して著作物の一部を出力させることを目的としたもの(なお、RAGについては後掲(1)ウも参照)
≫ インターネット検索エンジンであって、単語や文章の形で入力された検索クエリをもとにインターネット上の情報を検索し、その結果をもとに文章の形で回答を生成するもの
≫ 企業・団体等が、単語や文章の形で入力された検索クエリをもとに企業・団体等の内部で蓄積されたデータを検索できるシステムを構築し、当該システムが、検索の結果をもとに文章の形で回答を生成するもの

○ これに対して、「学習データをそのまま出力させる意図までは有していないが、少量の学習データを用いて、学習データの影響を強く受けた生成物が出力されるようなファインチューニングを行うため、著作物の複製等を行う場合」に関しては、具体的事案に応じて、学習データの著作物の表現上の本質的特徴を直接感得できる生成物を出力することが目的であると評価される場合は、享受目的が併存すると考えられる。

○ 近時は、特定のクリエイターの作品である著作物のみを学習データとしてファインチューニングを行うことで、当該作品群の影響を強く受けた生成物を生成することを可能とする行為が行われており、このような行為によって特定のクリエイターの、いわゆる「作風」を容易に模倣できてしまうといった点に対する懸念も示されている。このような場合、当該作品群は、表現に至らないアイデアのレベルにおいて、当該クリエイターのいわゆる「作風」を共通して有しているにとどまらず表現のレベルにおいても、当該作品群には、これに共通する表現上の本質的特徴があると評価できる場合もあると考えられることに配意すべきである。

○ なお、生成・利用段階において、AIが学習した著作物に類似した生成物が生成される事例があったとしても、通常、このような事実のみをもって開発・学習段階における享受目的の存在を推認することまではできず、法第30条の4の適用は直ちに否定されるものではないと考えられる。他方で、生成・利用段階において、学習された著作物に類似した生成物の生成が頻発するといった事情は、開発・学習段階における享受目的の存在を推認する上での一要素となり得ると考えられる。

ウ 検索拡張生成(RAG)等について〔骨子案:(1)ウ、(2)コ〕
○ 検索拡張生成(RAG)その他の、生成AIによって著作物を含む対象データを検索し、その結果の要約等を行って回答を生成するもの(以下「RAG等」という。)については、生成に際して既存の著作物の一部を出力するものであることから、その開発のために行う著作物の複製等は、非享受目的の利用行為とはいえず、法第30条の4は適用されないと考えられる。

○ 他方で、RAG等による回答の生成に際して既存の著作物を利用することについては、法第47条の5第1項第1号又は第2号の適用があることが考えられる。ただし、この点に関しては、法第47条の5第1項に基づく既存の著作物の利用は、当該著作物の「利用に供される部分の占める割合、その利用に供される部分の量、その利用に供される際の表示の精度その他の要素に照らし軽微なもの」(軽微利用)に限って認められることに留意する必要がある。RAG等による生成に際して、この「軽微利用」の程度を超えて既存の著作物を利用する場合は、法第47条の5第1項は適用されず、原則として著作権者の許諾を得て利用する必要があると考えられる。

○ また、RAG等のために行うベクトルに変換したデータベースの作成等に伴う、既存の著作物の複製又は公衆送信については、同条第2項に定める準備行為として、権利制限規定の適用を受けることが考えられる。

【著作権者の利益を不当に害することとなる場合について】
エ 著作権者の利益を不当に害することとなる場合の具体例について〔骨子案:(1)エ〕
(ア)法第30条の4ただし書の解釈に関する考え方について
○ 法第30条の4においては、そのただし書において「当該著作物の種類及び用途並びに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。」と規定し、これに該当する場合は同条が適用されないこととされている。

○ この点に関して、本ただし書は、法第30条の4本文に規定する「当該著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合」に該当する場合にその適用可否が問題となるものであることを前提に、その該当性を検討することが必要と考えられる。

○ また、本ただし書への該当性を検討するに当たっては、著作権者の著作物の利用市場と衝突するか、あるいは将来における著作物の潜在的販路を阻害するかという観点から検討することが必要と考えられる。

(イ)アイデア等が類似するにとどまるものが大量に生成されることについて
○ 本ただし書において「当該著作物の」と規定されているように、著作権者の利益を不当に害することとなるか否かは、法第30条の4に基づいて利用される当該著作物について判断されるべきものと考えられる。
(例)AI学習のための学習データとして複製等された著作物

○ 作風や画風といったアイデア等が類似するにとどまり、既存の著作物との類似性が認められない生成物は、これを生成・利用したとしても、既存の著作物との関係で著作権侵害とはならない。また、既存の著作物とアイデア等が類似するが、表現として異なる生成物が市場において取引されたとしても、これによって直ちに当該既存の著作物の取引機会が失われるなど、市場において競合する関係とはならないと考えられる。

○ そのため、著作権法が保護する利益でないアイデア等が類似するにとどまるものが大量に生成されることにより、自らの市場が圧迫されるかもしれないという抽象的なおそれのみでは、「著作権者の利益を不当に害することとなる場合」には該当しないと考えられる。

○ なお、この点に関しては、上記イ(イ)のとおり、特定のクリエイターの作品である著作物のみを学習データとしてファインチューニングを行う場合、当該作品群が、当該クリエイターの作風を共通して有している場合については、これにとどまらず、表現のレベルにおいても、当該作品群には、これに共通する表現上の本質的特徴があると評価できる場合もあると考えられることに配意すべきである。

(中略:「(ウ)情報解析に活用できる形で整理したデータベースの著作物の例について」)

(エ)学習のための複製等を防止する技術的な措置を回避した複製について〔骨子案:(1)コ〕
○ AI学習のための著作物の複製等を防止する技術的な措置としては、現時点において既に広く行われているものが見受けられる。こうした措置をとることについては、著作権法上、特段の制限は設けられておらず、権利者やウェブサイトの管理者の判断によって自由に行うことが可能である。
(例)ウェブサイト内のファイル"robots.txt"への記述によって、AI学習のための複製を行うクローラによるウェブサイト内へのアクセスを制限する措置
(例)ID・パスワード等を用いた認証によって、ウェブサイト内へのアクセスを制限する措置

○ このような技術的な措置は、あるウェブサイト内に掲載されている多数のデータを集積して、情報解析に活用できる形で整理したデータベースの著作物として販売する際に、当該データベースの販売市場との競合を生じさせないために講じられている例がある(データベースの販売に伴う措置、又は販売の準備行為としての措置)。

○ そのため、このような技術的な措置が講じられており、当該ウェブサイト内のデータを含み、情報解析に活用できる形で整理したデータベースの著作物が将来販売される予定があることが推認される場合、この措置を回避して行うAI学習のための複製等は、当該データベースの著作物の将来における潜在的販路を阻害する行為として、通常、法第30条の4ただし書に該当し、同条による権利制限の対象とはならないと考えられる。

○ なお、このような技術的な措置が、著作権法に規定する「技術的保護手段」又は「技術的利用制限手段」に該当するか否かは、現時点において行われている技術的な措置が、従来、「技術的保護手段」又は「技術的利用制限手段」に該当すると考えられてきたものとは異なることから、今後の技術の動向も踏まえ検討すべきものと考えられる。

(オ)海賊版等の権利侵害複製物をAI学習のため複製することについて
○ インターネット上のデータが海賊版等の権利侵害複製物であるか否かは、究極的には当該複製物に係る著作物の著作権者でなければ判断は難しく、AI学習のため学習データの収集を行おうとする者にこの点の判断を求めることは、現実的に難しい場合が多いと考えられる。加えて、権利侵害複製物という場合には、漫画等を原作のまま許諾なく多数アップロードした海賊版サイトに掲載されているようなものから、SNS等において個人のユーザーが投稿する際に、引用等の権利制限規定の要件を満たさなかったもの等まで様々なものが含まれる。

○ このため、AI学習のため、インターネット上において学習データを収集する場合、収集対象のデータに、海賊版等の、著作権を侵害してアップロードされた複製物が含まれている場合もあり得る。

○ 他方で、海賊版により我が国のコンテンツ産業が受ける被害は甚大であり、リーチサイト規制を含めた海賊版対策を進めるべきことは論を待たない。文化庁においては、権利者及び関係機関による海賊版に対する権利行使の促進に向けた環境整備等、引き続き実効的かつ強力に海賊版対策に取り組むことが期待される。

○ AI開発事業者やAIサービス提供事業者においては、学習データの収集を行うに際して、海賊版を掲載しているウェブサイトから学習データを収集することで当該ウェブサイトの運営を行う者に広告収入その他の金銭的利益を生じさせるなど、当該行為が新たな海賊版の増加といった権利侵害を助長するものとならないよう十分配慮した上でこれを行うことが求められる。

○ また、後掲(2)キのとおり、生成・利用段階で既存の著作物の著作権侵害が生じた場合、AI開発事業者又はAIサービス提供事業者も、当該侵害行為の主体として責任を負う場合があり得る。ウェブサイトが海賊版等の権利侵害複製物を掲載していることを知りながら、当該ウェブサイトから学習データの収集を行うといった行為は、厳にこれを慎むべきものであり、仮にこのような行為があった場合は、当該AI開発事業者やAIサービス提供事業者が、これにより開発された生成AIにより生じる著作権侵害について、その関与の程度に照らして、規範的な行為主体として侵害の責任を問われる可能性が高まるものと考えられる(AI開発事業者又はAIサービス提供事業者の行為主体性について、後掲(2)キも参照)。

(中略:【侵害に対する措置について】「オ AI学習に際して著作権侵害が生じた際に、学習を行った事業者が受け得る措置について」、「カ AI学習に際して著作権侵害が生じた際に、権利者による差止請求等が認められ得る範囲について」)

【その他の論点について】
キ AI学習における、法第30条の4に規定する「必要と認められる限度」について〔骨子案:(1)ク〕
○ 法第30条の4では、「その必要と認められる限度において」といえることが、同条に基づく権利制限の要件とされている。

○ この点に関して、大量のデータを必要とする機械学習(深層学習)の性質を踏まえると、AI学習のために複製等を行う著作物の量が大量であることをもって、「必要と認められる限度」を超えると評価されるものではないと考えられる。

ク AI学習を拒絶する著作権者の意思表示について〔骨子案:(1)ケ〕
○ 著作権法上の権利制限規定は、①著作物利用の性質からして著作権が及ぶものとすることが妥当でないもの、②公益上の理由から著作権を制限することが必要と認められるもの、③他の権利との調整のため著作権を制限する必要のあるもの、④社会慣行として行われており著作権を制限しても著作権者の経済的利益を不当に害しないと認められるものなどについて、文化的所産の公正な利用に配慮して、著作権者の許諾なく著作物を利用できることとするものである。

○ このような権利制限規定の立法趣旨からすると、著作権者が反対の意思を示していることそれ自体をもって、権利制限規定の対象から除外されると解釈することは困難である。また、AI学習のための学習データの収集は、クローラ等のプログラムによって機械的に行われる例が多いことからすると、当該プログラムにおいて機械的に判別できない方法による意思表示があることをもって権利制限規定の対象から除外してしまうと、学習データの収集を行う者にとって不測の著作権侵害を生じさせる懸念がある。そのため、こうした意思表示があることのみをもって、法第30条の4ただし書に該当するとは考えられない。

○ 他方で、このようなAI学習を拒絶する著作権者の意思表示が、機械可読な方法で表示されている場合、上記の不測の著作権侵害を生じさせる懸念は低減される。また、このような場合、上記エ(エ)のとおり、AI学習のための著作物の複製等を防止する技術的な措置が講じられており、当該ウェブサイト内のデータを含み、情報解析に活用できる形で整理したデータベースの著作物が将来販売される予定があることが推認される場合、この措置を回避して行うAI学習のための複製等は、当該データベースの著作物の将来における潜在的販路を阻害する行為として、通常、法第30条の4ただし書に該当し、同条による権利制限の対象とはならないと考えられる。

(中略:「ケ 法30条の4以外の権利制限規定の適用について」)

(2)生成・利用段階
(中略:「ア 検討の前提」)

【著作権侵害の有無の考え方について】
イ 著作権侵害の有無の考え方について
○ 従前の裁判例では、ある作品に、既存の著作物との類似性と依拠性の両者が認められる際に、著作権侵害となるとされており、生成AIを利用した場合にこれらが認められる場合については、以下のように考えられる。

(ア)類似性の考え方について〔骨子案:(2)ク〕
○ AI生成物と既存の著作物との類似性の判断については、生成AIをどのように利用したかといった制作過程ではなく、生成物そのものが既存の著作物に類似していると認められるかのみを判断すれば良いものであることから、原則として、人間がAIを使わずに創作したものと同様に考えられる。

(イ)依拠性の考え方について〔骨子案:(2)ア、イ〕
○ 依拠性の判断については、従来の裁判例では、ある作品が、既存の著作物に類似していると認められるときに、当該作品を制作した者が、既存の著作物の表現内容を認識していたことや、同一性の程度の高さなどによりその有無が判断されてきた。特に、人間の創作活動においては、既存の著作物の表現内容を認識しえたことについて、その創作者が既存の著作物に接する機会があったかどうかなどにより推認されてきた。

○ 一方、生成AIの場合、その開発のために利用された著作物を、生成AIの利用者が認識していないが、当該著作物に類似したものが生成される場合も想定され、このような事情は、従来の依拠性の判断に影響しうると考えられる。

○ そこで、従来の人間が創作する場合における依拠性の考え方も踏まえ、生成AIによる生成行為について、依拠性が認められるのはどのような場合か、整理することとする。
① AI利用者が既存の著作物を認識していたと認められる場合
▽ 生成AIをした場合であっても、AI利用者が既存の著作物(その表現内容)を認識しており、生成AIを利用してこれと類似したものを生成させた場合は、依拠性が認められ、AI利用者による著作権侵害が成立すると考えられる。
(例)ImagetoImage(画像を生成AIに指示として入力し、生成物として画像を得る行為)のように、既存の著作物そのものや、その題号などの特定の固有名詞を入力する場合
▽ この点に関して、従来の裁判例においては、被疑侵害者の既存著作物へのアクセス可能性、すなわち既存の著作物に接する機会があったことや、類似性の程度の高さ等の間接事実により、既存の著作物の表現内容を知っていたことが推認されてきた。
▽ このような従来の裁判例を踏まえると、生成AIが利用された場合であっても、権利者としては、被疑侵害者において既存著作物へのアクセス可能性や、既存著作物への高度な類似性があること等を立証すれば、依拠性があると推認されることとなる。
②AI利用者が既存の著作物を認識していなかったが、AI学習用データに当該著作物が含まれる場合
▽ AI利用者が既存の著作物(その表現内容)を認識しておらず、かつ、当該生成AIの開発・学習段階で、当該著作物を学習していなかった場合は、当該生成AIを利用し、当該著作物に類似した生成物が生成されたとしても、これは偶然の一致に過ぎないものとして、依拠性は認められず、著作権侵害は成立しないと考えられる。
▽ 一方、AI利用者が既存の著作物(その表現内容)を認識していなかったが、当該生成AIの開発・学習段階で当該著作物を学習していた場合については、客観的に当該著作物へのアクセスがあったと認められることから、当該生成AIを利用し、当該著作物に類似した生成物が生成された場合は、通常、依拠性があったと認められ、著作権侵害になりうると考えられる。
▽ ただし、このような場合であっても、当該生成AIについて、開発・学習段階において学習に用いられた著作物が、生成・利用段階において生成されないような技術的な措置が講じられているといえること等、当該生成AIが、学習に用いられた著作物をそのまま生成する状態になっていないといえる事情がある場合には、AI利用者において当該事情を反証することにより、依拠性がないと判断される場合はあり得ると考えられる。
▽ なお、生成AIの開発・学習段階で既存の著作物を学習していた場合において、AI利用者が著作権侵害を問われた場合、後掲(2)キのとおり、当該生成AIを開発した事業者においても、著作権侵害の規範的な主体として責任を負う場合があることについては留意が必要である。

ウ 依拠性に関するAI利用者の反証と学習データについて〔骨子案:(2)イ〕
○ 上記の場合は、被疑侵害者の側で依拠性がないことの反証の必要が生じることとなるが、上記のイ②で確認したように、生成AIを利用し生成された生成物が既存の著作物に類似していた場合であって、当該生成AIの開発に当該著作物を用いていた場合は、依拠性が認められる可能性が高いと考えれることから、被疑侵害者の側が依拠性を否定するためには、当該既存著作物が学習データに含まれていないこと等を反証する必要がある。

【侵害に対する措置について】
(中略:「エ 侵害に対する措置について」、「オ 利用行為が行われた場面ごとの判断について」)

カ 差止請求として取り得る措置について〔骨子案:(2)エ〕
○ 生成AIによる生成・利用段階において著作権侵害があった場合、侵害の行為に係る著作物等の権利者は、生成AIを利用し著作権侵害をした者に対して、新たな侵害物の生成及び、すでに生成された侵害物の利用行為に対する差止請求が可能と考えられる。この他、侵害行為による生成物の廃棄の請求は可能と考えられる。

○ また、生成AIの開発事業者に対しては、著作権侵害の予防に必要な措置として、侵害物を生成した生成AIの開発に用いられたデータセットがその後もAI開発に用いられる蓋然性が高い場合には、当該データセットから、当該侵害の行為に係る著作物等の廃棄を請求することは可能と考えられる。

○ また、侵害物を生成した生成AIについて、当該生成AIによる生成によって更なる著作権侵害が生じる蓋然性が高いといえる場合には、生成AIの開発事業者に対して、当該生成AIによる著作権侵害の予防に必要な措置を請求することができると考えられる。

○ この点に関して、侵害の予防に必要な措置としては、当該侵害の行為に係る著作物等の類似物が生成されないよう、例えば、①特定のプロンプト入力については、生成をしないといった措置、あるいは、②当該生成AIの学習に用いられた著作物の類似物を生成しないといった措置等の、生成AIに対する技術的な制限を付す方法などが考えられる。

【侵害行為の責任主体について】
キ 侵害行為の責任主体について〔骨子案:(2)オ〕
○ 従来の裁判例上、著作権侵害の主体としては、物理的に侵害行為を行った者が主体となる場合のほか、一定の場合に、物理的な行為主体以外の者が、規範的な行為主体として著作権侵害の責任を負う場合がある(いわゆる規範的責任論)。

○ そこで、AI生成物の生成・利用が著作権侵害となる場合の侵害の主体の判断に
おいても、物理的な行為主体であるAI利用者のみならず、生成AIの開発や、生成AIを用いたサービス提供を行う事業者が、著作権侵害の行為主体として責任を負う場合があると考えられる。

○ この点に関して、具体的には、以下のように考えられる。
①ある特定の生成AIを用いた場合、侵害物が高頻度で生成される場合は、事業者が侵害主体と評価される可能性が高まるものと考えられる。
②事業者が、生成AIの開発・提供に当たり、当該生成AIが既存の著作物の類似物を生成する可能性を認識しているにも関わらず、当該類似物の生成を抑止する技術的な手段を施していない場合、事業者が侵害主体と評価される可能性が高まるものと考えられる。
③事業者が、生成AIの開発・提供に当たり、当該生成AIが既存の著作物の類似物を生成することを防止する技術的な手段を施している場合、事業者が侵害主体と評価される可能性は低くなるものと考えられる。
④当該生成AIが、事業者により上記の(2)キ③の手段を施されたものであるなど侵害物が高頻度で生成されるようなものでない場合においては、たとえ、AI利用者が既存の著作物の類似物の生成を意図して生成AIにプロンプト入力するなどの指示を行い、侵害物が生成されたとしても、事業者が侵害主体と評価される可能性は低くなるものと考えられる。

(中略:【その他の論点】「ク 生成指示のための生成AIへの著作物の入力について」、「ケ 権利制限規定の適用について」、「コ 学習に用いた著作物等の開示が求められる場合について」)

(3)生成物の著作物性について
(中略:「ア 整理することの意義・実益について」)

イ 生成AIに対する指示の具体性とAI生成物の著作物性との関係について〔骨子案:(3)イ〕
○ 著作権法上の従来の解釈における著作者の認定と同様に考えられ、共同著作物に関する裁判例等に照らせば、生成AIに対する指示が表現に至らないアイデアにとどまるような場合には、当該AI生成物に著作物性は認められないと考えられる。

○ また、AI生成物の著作物性は、個々のAI生成物について個別具体的な事例に応じて判断されるものであり、単なる労力にとどまらず、創作的寄与があるといえるものがどの程度積み重なっているか等を総合的に考慮して判断されるものと考えられる。例として、著作物性の判断するに当たっては、以下の①~④に示すような要素があると考えられる。
①指示・入力(プロンプト等)の分量・内容
▽ AI生成物を生成するに当たって、表現と同程度の詳細な指示は、創作的寄与があると評価される可能性を高めると考えられる。他方で、長大な指示であったとしても表現に至らない指示は、創作的寄与の判断に影響しないと考えられる。
②生成の試行回数
▽ 試行回数が多いこと自体は、創作的寄与の判断に影響しないと考えられる。他方で、①と組み合わせた試行、すなわち生成物を確認し指示・入力を修正しつつ試行を繰り返すといった場合には、著作物性が認められることも考えられる。
③複数の生成物からの選択
▽ 単なる選択行為自体は創作的寄与の判断に影響しないと考えられる。他方で、通常創作性があると考えられる行為であっても、その要素として選択行為があるものもあることから、そうした行為との関係についても考慮する必要がある。
④生成後の加筆・修正
▽ 人間が、創作的表現といえる加筆・修正を加えた部分については、通常、著作物性が認められると考えられる。もっとも、それ以外の部分についての著作物性には影響しないと考えられる。

ウ 著作物性がないものに対する保護〔骨子案:(3)ウ〕
○ 著作物性がないものであったとしても、判例上、その複製や利用が、営業上の利益を侵害するといえるような場合には、民法上の不法行為として損害賠償請求が認められ得ると考えられる。

(4)その他の論点について
○ 学習済みモデルから、学習に用いられたデータを取り除くように、学習に用いられたデータに含まれる著作物の著作権者等が求め得るか否かについては、現状ではその実現可能性に課題があることから、将来的な技術の動向も踏まえて見極める必要がある。

○ また、著作権者等への対価還元という観点からは、法第30条の4の趣旨を踏まえると、AI開発に向けた情報解析の用に供するために著作物を利用することにより、著作権法で保護される著作権者等の利益が通常害されるものではないため、対価還元の手段として、著作権法において補償金制度を導入することは理論的な説明が困難であると考えられる。

○ 他方、コンテンツ創作の好循環の実現を考えた場合に、著作権法の枠内にとどまらない議論として、技術面や考え方の整理等を通じて、市場における対価還元を促進することについても検討が必要であると考えられる。

○ なお、著作物に当たらないものについて著作物であると称して流通させるという行為については、著作物のライセンス契約のような取引の場面においてこれを行った場合、契約上の債務不履行責任を生じさせるほか、取引の相手方を欺いて利用の対価等の財物を交付させた詐欺行為として、民法上の不法行為責任を問われることや、刑法上の詐欺罪に該当する可能性が考えられる。この点に関して、著作権法による保護が適切かどうかなど、著作権との関係については、引き続き議論が必要であると考えられる。

 上は抜粋と言ってもかなり長いので、ここで、私なりの概要を以下に作っておく。

(1)学習・開発段階

  • AI学習のための著作物の利用は原則として著作権法第30条の4の非享受目的利用の権利制限の対象となるが、意図的に、元の学習データの全部または一部をそのまま出力させる事を目的とする様な場合や、特別なファインチューニングによって学習データの元の著作物の表現上の本質的特徴を直接感得できる生成物を出力する事を目的とする様な場合や、機械可読な方法によって複製の禁止が示されている場合に複製をして学習データを作成する様な場合は対象とならない。
  • AIを用いた検索であって結果の一部を表示する様な場合は、著作権法第47条の5の軽微利用目的の権利制限の範囲内で許諾なく可能。
  • 海賊版サイトである事を知りながら、そこから学習データの収集を行って生成AIを開発した様な場合、その生成AIにより生じる著作権侵害について、その関与の程度に照らして、規範的な行為主体として侵害の責任を問われる可能性が高まる。

(2)生成・利用段階

  • AI生成物と既存の著作物との類似性の判断については、原則として、人間がAIを使わずに創作したものと同様。
  • 生成AIを用いた場合でも、AI利用者が既存の著作物を認識しており、既存の著作物の名称の様な特定の固有名詞を入力して出力を生成させるなど、既存の著作物と類似したものを生成させた場合や、利用者が認識していなかったとしても、AI学習用データに当該著作物が含まれ、類似した生成物が得られた場合などは、通常、依拠性が認められ、著作権侵害となり得る。
  • 利用者に対する差し止め等に加え、生成AIによって更なる著作権侵害が生じる蓋然性が高いといえる場合には、生成AIの開発事業者に対して、著作権侵害の予防に必要な措置として、特定のプロンプト入力による生成を禁止する、学習に用いられた著作物の類似物を生成しない措置の様な技術的な制限を求める事も考えられる。
  • その生成AIによって侵害物が高頻度で生成される場合や、既存の著作物の類似物を生成する可能性を認識しているにも関わらず、当該類似物の生成を抑止する技術的な手段を施していない場合などは、事業者が侵害主体と評価される可能性が高まる。

(3)生成物の著作物性

  • 著作権法上の従来の解釈における著作者の認定と同様に考えられ、生成AIに対する指示が表現に至らないアイデアにとどまるような場合には、当該AI生成物に著作物性は認められない。
  • 創作的寄与の判断要素としては、指示・入力(プロンプト等)の分量・内容、生成の試行回数、複数の生成物からの選択、生成後の加筆・修正が考えられる。

(4)その他

  • 今の所、著作権法において補償金制度を導入することは理論的な説明が困難。

 この素案に示されている考え方は現行法の解釈としておよそ妥当と言っていいものだが、細かな点で釘を刺しておきたい所もあるので、さらに来月の最終案を見た上でパブコメで意見を出す事を考えたいと思っている。

 前に書いた事の繰り返しになるが、ここで最も重要な事はAIの問題に絡めて権利者寄り・規制寄りに歪んだ著作権法改正をしようとしている様子が見られない事だろう。

(2)新秘密特許(特許制度)に関するQ&Aと管理ガイドライン
 第486回で取り上げた新秘密特許(特許制度)に関する府省令案について案が取れて12月18日に公布された事に合わせ(特許庁のHP1官報号外第265号参照)、内閣府の特許出願の非公開に関する制度のページ経済安全保障推進法の特許出願の非公開に関する制度のQ&A(pdf)損失の補償に関するQ&A(pdf)特許出願の非公開に関する制度における適正管理措置に関するガイドライン(第1版)(pdf)が公開された。

 これらの内、制度全体に関するQ&Aや適正管理措置に関するガイドラインは法令をそのままなぞって説明しているだけで新しい事が書かれているという事はほぼないので、ここでは、損失の補償に関するQ&Aから、特許出願を秘密とする保全指定を受けた場合の補償について各論として多少なりとも詳細化を試みているQ7~Q17を以下に抜き出しておく。

各論:補償対象・範囲について

Q7.保全指定期間中に、第三者が保全対象発明と同一の発明を国内出願せずに国内で実施している場合において、自身の特許権が留保されているため、特許権に基づく実施許諾料相当額の請求や損害賠償請求ができないことによる損失は補償の対象となりますか。

A7.例えば、第三者と特許権に基づく実施許諾契約を結んでいれば得られたはずであるが得られなかったであろう実施許諾料相当額や、損害賠償請求により得られたはずであるが得られなかったであろう第三者が実施により得た利益相当額について、保全指定を受けたことに起因し、かつ、保全指定を受けたことにより生ずることが社会通念上相当といえる損失であると認められる範囲で、補償の対象となり得ます。
 なお、一般的には、第三者の実施が判明した時点で保全指定の解除が検討される場合が多く、保全指定が解除されれば、特許手続が進み、出願公開されることとなります。その場合、特許法上、出願公開後は、保全対象発明と同一の発明を特許出願せずに国内で実施している第三者に対して、特許権の登録前の行為については、出願公開後、第三者に警告を発すれば、特許権の登録を待って、第三者に対して警告時に遡り補償金を請求することができますし(特許法第65条)、特許権の登録後の行為については、特許権を侵害するものとして、差止めや損害賠償請求ができます(特許法第100条・102条)。

Q8.保全指定期間中に、第三者が保全対象発明と同一の発明に関する特許権を外国で取得してしまい、外国で実施している場合において、外国出願が禁止されているために発生した損失は補償の対象となりますか。

A8.例えば、保全指定を受けなければ、当該国で特許出願をして当該第三者よりも先に特許権を取得していたと推認される場合にあっては、保全指定以後に、当該第三者より差止請求を受けて当該国における製品販売ができなくなったことによる逸失利益や、当該第三者が特許権を保有する状況下で当該国における製品販売を行うに当たり支払わなければならない実施許諾料相当額又は自身が当該国で特許権を取得していれば当該第三者に請求できたはずの実施許諾料相当額等から算定される逸失利益については、保全指定を受けたことに起因し、かつ、保全指定を受けたことにより生ずることが社会通念上相当といえる損失であると認められる範囲で、補償の対象となり得ます。

Q9.特許権に基づき発明の実施をすれば、市場独占や競合品との競争上の優位性により、通常より高い利益率の設定が見込まれるところ、保全対象発明について、実施は許可されたものの、特許権の留保により保全指定期間中における保全対象発明と同一の発明を特許出願せずに実施する第三者の市場参入に対抗できず、保全指定の解除後に当該第三者に対して権利行使をして競合品を排除するまでの間、通常より高い利益率を確保することができませんでした。結果、当初の計画では得られるはずだった利益が減少することになりましたが、この場合における利益の減少分は補償の対象となりますか。

A9.一般的には、第三者の実施が判明した時点で保全指定の解除が検討される場合が多いと考えられますが、競合品を排除するまでの間にかかる状況が生じた際、例えば、第三者が実施している状況下において確保できる利益率に基づく利益と、保全対象発明の実施が独占的であった場合に見込まれる利益率に基づく利益との間に差額が発生する場合には、その差額について、保全指定を受けたことに起因し、かつ、保全指定を受けたことにより生ずることが社会通念上相当といえる損失であると認められる範囲で、補償の対象となり得ます。

Q10.実施の許可で付された条件を満たすために、ブラックボックス化のための設計変更が必要になりました。設計変更により利益に差額が発生したことによる損失は補償の対象となりますか。

A10.設計変更により増加した経費の販売価格への反映状況等も踏まえながら、設計変更した後に得られる利益と、設計変更しなければ得られたであろう利益との間に差額が発生する場合には、その差額について、保全指定を受けたことに起因し、かつ、保全指定を受けたことにより生ずることが社会通念上相当といえる損失であると認められる範囲で、補償の対象となり得ます。

Q11.保全指定前に多額の開発・設備費用を投資して保全対象発明を生み出しましたが、発明の実施の不許可により製品販売をすることができず、あるいは、保全指定により特許権に基づく実施許諾料相当額の請求もできなくなったため、保全指定期間中、当該開発・設備投資費用を回収することができなくなりました。この場合において、保全指定期間中に回収不能となった開発・設備投資費用は補償の対象となりますか。

A11.開発・設備投資は、本来、製品販売や特許権に基づく実施許諾料等で利益をあげることによって回収が図られるものであり、回収できるだけの利益につながるかどうかは、製品の価値やその時々の需要、競合状況等に応じケースバイケースです。したがって、たとえ発明の実施が不許可とされたために、保全指定期間中に製品販売をすることができず、あるいは、保全指定を受けたために特許権に基づく実施許諾料相当額の請求ができなくなったとしても、開発・設備投資の額が直ちに「保全指定を受けたことによる損失」といえるものではありません。
 すなわち、補償の対象は、A2で述べたとおり、あくまで、保全指定を受けずに製造、販売できていた場合に比して失われた利益に係る損失や特許権に基づく実施許諾料相当額等を請求できないことにより失われた利益に係る損失であり、これらの額により開発・設備投資費用の一部又は全部が補償されることとなります。

Q12.競業者による特許出願(先願)が保全指定を受けて出願公開されていなかったため、先願の存在を知らずに偶々同じ技術を開発し、同一の発明を出願して保全指定を受けた場合、自ら(後願者)が当該技術の発明に要した開発・設備投資費用は補償の対象となりますか。

A12.先願が公開されていれば後願者が保全対象発明に費やすことがなかった開発・設備投資費用は、後願者が保全指定を受けたことに起因する損失ではないため、補償の対象とはなりません。
 なお、先願と同じ発明について保全指定を受けた後願者に対しては、以下の要件を満たせば、所定の範囲内において有償の通常実施権が認められます(法第81条)。
・法第66条第7項の規定により出願公開が行われなかったために、保全指定された先願の存在を認識せず、自己の発明が特許法第 29 条の2の規定により特許を受けることができないものであることを知らないで、先願の出願公開前に、日本国内において発明の実施である事業をし、又はその事業の準備をしていること
・自らの特許出願について拒絶査定又は拒絶の審決が確定したこと

Q13.外国出願をすることを前提に保全審査中に翻訳を発注していたところ、保全指定を受けたために、優先日を確保した状態での外国出願が出来なくなりました。この場合における翻訳費用は補償の対象となりますか。

A13.例えば、保全審査が終了するまでに翻訳の発注をせざるを得なかった事情や当該翻訳文の活用状況等を踏まえ、保全指定を受けたことに起因し、かつ、保全指定を受けたことにより生ずることが社会通念上相当といえる損失であると認められる範囲で、補償の対象となり得ます。

Q14.外国出願をすることを前提に保全審査中に外国代理人に手続を依頼していたところ、保全指定を受けたために、優先日を確保した状態での外国出願ができなくなりました。この場合における、外国代理人との手続に係る費用は補償の対象となりますか。

A14.例えば、保全審査が終了するまでに外国代理人に手続を依頼せざるを得なかった事情や手続費用の精算状況等を踏まえ、保全指定を受けたことに起因し、かつ、保全指定を受けたことにより生ずることが社会通念上相当といえる損失であると認められる範囲で、補償の対象となり得ます。

Q15.保全指定を受けたため、指定特許出願人が適正管理措置を講じるために要した経費は補償の対象となりますか。

A15.適正管理措置は、事業者が元来営業秘密等の社内秘の管理のために講じている措置の範囲内で対応できる場合が多いと考えられますが、例えば、事業者が元来講じている情報保全の措置では、適正管理措置には足りず、このために新たに機器の購入等を要した場合には、当該機器の保全対象発明以外への利用状況等も踏まえ、保全指定を受けたことに起因し、かつ、保全指定を受けたことにより生ずることが社会通念上相当といえる損失であると認められる範囲で、これに要した経費が補償の対象となり得ます。

各論:補償条件について

Q16.第三者から得られたであろう特許権に基づく実施許諾料相当額等を補償の対象として請求する場合には、保全指定の解除後に特許権を取得するのを待つ必要がありますか。

A16.保全指定を受けなければ特許権を取得していたであろうと認められれば、保全指定の解除前であっても請求は可能です。
 なお、保全指定期間中であっても、出願公開、特許査定及び拒絶査定以外の特許手続は留保されず(法第66条第7項)、審査請求(特許出願についての出願審査の請求)をして、特許査定の直前まで手続を進めることができるので、このような場合は、特許権を取得していたであろうと認められる確度が高まると考えられます。

各論:その他

Q17.保全指定前の事前意思確認の際に、補償金額を算定してくれますか。

A17.国による補償金額の算定は、損失が発生し、補償の請求を受けた後に行うものなので、国において、保全指定前にあらかじめ算定して提示することは難しいと考えています。

 この補償に関するQ&Aもかなり長く抜粋したが、概要としてまとめると、特許ライセンス料や損害賠償の請求ができない場合、第三者が保全対象発明と同一の発明に関する特許権を外国で取得した場合、第三者が特許出願をせずに同一の発明を実施した場合、保全対象発明のブラックボックス化のために設計変更をした場合、外国出願を準備していた場合などについて、保全指定と相当因果関係が認められる範囲内で逸失利益・損失・経費を補償すると言っているに過ぎない。

 また、保全指定を受けた後でも特許査定の直前まで手続きを進める事ができるといっても、あくまで直前までなので、出願が最終的に特許を受けられるかは制度上分かりようがないのだが、上の回答を見ると、特許権を取得していたであろうと認められる確度が何かしら補償金額の算定に関係して来るのかというさらなる疑問も湧く。

 そして、保全指定を実際に受けるより前に補償金額を示すのは困難という回答も予想通りだが、事前の意思確認の際に示してくれないと出願人としては指定を受けるかどうかの判断に困るのではないかと思え、本当にこの制度がまともに機能するのか甚だ怪しいように思える。

 結局、この新秘密特許制度では、特許権の付与によって権利の存在と範囲が確定する前に秘密とするべき保全指定がされてしまうので、その状態でどうやってどうやって保全指定と逸失利益との間の相当因果関係を示して具体的な額について決定するのか謎としか言い様がないが、これで予定されていたQ&Aなどは一通り出されたと見えるので、政府としてはこの点についてこれ以上説明をする事なく、2024年5月1日の施行まで突っ走るつもりなのだろう。

 もはや後は施行後の運用を見て行くしかないという状況にありながら、この制度ではその運用すら秘密になってしまうのでどうしようもないが、本当にこの制度が必要だったのか、今の形でまともに運用できるのか、私はいまだに大いに疑問に思っている。

(3)その他知財本部等における検討
 前回でも少し書いたが、他の省庁における検討についても取り上げておく。

 まず、知財本部では、かなり急ピッチで開催されているAI時代の知的財産権検討会に加え、知財計画2024に向けた検討を行う構想委員会の下に、コンテンツやクールジャパン戦略関連の検討を行うらしい、コンテンツ戦略ワーキンググループとCreate Japanワーキンググループという2つのワーキンググループが置かれ、12月22日に第1回の合同会議が開催されている。

 AIに関する政府検討という事では、AI戦略会議第7回が12月21日に開かれており、G7での国際指針の取りまとめの後、同じく特に規制的なものとなっているという事はないが、詳細なAI事業者ガイドライン案(pdf)概要(pdf)も参照)が示されている。なお、この新AIガイドライン案は、何故か経産省と総務省でともに会議が非公開とされているので詳細不明だが、経産省の方のAI事業者ガイドライン検討会と総務省の方のAIネットワーク社会推進会議で以前のそれぞれのAIガイドラインに基づき検討されていたものだろう。

 経済産業省・特許庁の産業構造審議会・知的財産分科会については、今年は各小委員会で制度改正の議論がされているという事はなく、不正競争防止小委員会で今回の法改正などを受けた限定提供データに関する指針や秘密情報の保護ハンドブックや外国公務員贈賄防止指針の改訂について、特許の審査基準専門委員会ワーキンググループでAI関連技術に関する事例の追加について、意匠審査基準ワーキンググループ商標審査基準ワーキンググループのそれぞれで今回の法改正などを受けた意匠審査基準の改訂について検討がされている。

 なお、各ガイドラインの改訂案は、内容としては特に問題なく法改正を反映したものなので、ここではその内容を細かく取り上げる事はしないが、丁度今現在、「限定提供データに関する指針(改訂案)」及び「秘密情報の保護ハンドブック(改訂案)」に対する意見募集が1月15日〆切で(電子政府のHP1参照)、「外国公務員贈賄防止指針(改訂案)」に対する意見募集が同じく1月15日〆切で(電子政府のHP2)、「商標審査基準」改訂案に対する意見募集が1月24日〆切で行われているので(電子政府のHP3参照)、ここで念のため紹介しておく。

 総務省では、前回取り上げた誹謗中傷等の違法・有害情報への対策に関するワーキンググループの上位検討会であるプラットフォームサービスに関する研究会も開かれており、12月12日の第51回で、ワーキンググループの報告書を取り込み、偽情報対策と利用者情報の取り扱いに関するモニタリング結果も含め、第三次とりまとめ(案)(pdf)が示されているが、これも特に問題がある内容が含まれているという事はない。なお、この取りまとめ案についても1月17日〆切で意見募集が行われている(電子政府のHP4参照)。

 また、どのように検討事項が切り分けられているのか、何か意味のある結果が出て来るのかいまいち不明だが、最近始まった総務省の有識者会議には、安心・安全なメタバースの実現に関する研究会デジタル空間における情報流通の健全性確保の在り方に関する検討会もある。

 そして、農水省では、新しい政策検討が行われている様子は見られないが、例年通り、地道に農業資材審議会・種苗分科会での種苗法における重要な形質の指定に関する諮問や地理的表示の申請登録などが行われている。

 知財政策に関して、生成AIの発展にともなう著作権法に関する議論と新秘密特許制度の施行準備が進められたという事が大きな動きとしてあり、今年はかなり慌ただしい一年だったと言えるだろう。

 最後に、いつもの口上となるが、政官業に巣食う全ての利権屋に悪い年を、そして、このブログを読んで下さっている方々に心からの感謝を。

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2023年11月12日 (日)

第486回:意見募集中の新秘密特許(特許非公開)制度関係府省令案

 新秘密特許(特許非公開)制度施行前のものとしては最後のものになるのだろうが、11月19日〆切で関係府省令案のパブコメが2つ出ているので、今回はその内容を見ておきたい。

 まず、1つ目の意見募集(電子政府の意見募集ページ1参照)の方の内閣府と経産省の共同府省令案(pdf)様式案1(pdf)も参照)の特許出願人側の手続きに関する主な部分を以下に抜粋する。(経済安全保障法による新秘密特許制度自体については第453回第461回、基本指針については第472回、政令については第480回参照。)

内閣府・経済産業省関係経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関する法律に基づく特許出願の非公開に関する命令

第一条(略:特許庁から内閣総理大臣への送付方法を規定)

(保全審査に付することを求める旨の申出)
第二条 法第六十六条第二項前段の規定による申出(以下この項において単に「申出」という。)は、次に掲げる事項を記載した様式第一による申出書によってしなければならない。
 申出に係る発明の内容及び法第六十五条第一項に規定する明細書等において当該発明が記載されている箇所
 申出の理由

(略:電子情報処理組織を使用して手続きができる事等を規定)

(送付をしない旨の判断をした旨の通知を求める申出)
第三条 法第六十六条第十項の規定による申出は、様式第二による申出書によってしなければならない。

 前項の申出書は、特許出願の日(特許出願が法第六十六条第四項の表の上欄に掲げる特許出願である場合にあっては、同表の上欄に掲げる区分に応じそれぞれ同表の下欄に掲げる日(当該特許出願が同表の上欄に掲げる区分の二以上に該当するときは、その該当する区分に係る同表の下欄に定める日のうち最も遅い日))から同条第一項に規定する政令で定める期間を経過する日までに提出しなければならない。

(略:前条第2~3項の準用等を規定)

第四条(略:第4条で出願の却下の処分の記載事項を規定)

(外国出願の禁止に関する事前確認)
第五条 法第七十九条第一項の規定による確認の求めは、次に掲げる事項を記載した様式第三による申出書によってしなければならない。
 法第七十八条第一項に規定する外国出願(次号及び第三号において単に「外国出願」という。)をしようとする者の氏名又は名称及び住所又は居所
 国若しくは国立研究開発法人(独立行政法人通則法(平成十一年法律第百三号)第二条第三項に規定する国立研究開発法人をいう。以下この号において同じ。)が委託した技術に関する研究及び開発又は国若しくは国立研究開発法人が請け負わせたソフトウェアの開発の成果に係る発明であって、その発明について特許を受ける権利につき産業技術力強化法(平成十二年法律第四十四号)第十七条第一項(国立研究開発法人が委託し又は請け負わせた場合にあっては、同条第二項において準用する同条第一項)の規定により国又は当該国立研究開発法人が譲り受けないこととしたものを記載した外国出願をしようとする場合にあっては、その旨
 国が委託した技術に関する研究及び開発の成果に係る発明であって、その発明について特許を受ける権利につき科学技術・イノベーション創出の活性化に関する法律(平成二十年法律第六十三号)第二十二条(第一号に係る部分に限る。)の規定により国がその一部のみを譲り受けたものを記載した外国出願をしようとする場合にあっては、その旨

 前項の申出書には、法第七十九条第一項の規定による確認の求めに係る発明(次項において単に「発明」という。)の内容を記載した書面及び必要な図面を添付しなければならない。

 前項の書面には、次に掲げる事項を記載しなければならない。
 発明の名称
 図面の簡単な説明
 発明の詳細な説明

 第二項の書面は様式第四により、同項の必要な図面は様式第五により作成しなければならない。

 第二項の書面に記載する事項及び必要な図面に含まれる説明は、英語で記載することができる。

 法第七十九条第六項に規定する手数料の納付は、第一項の申出書に、同条第五項に規定する政令で定める額に相当する収入印紙を貼って提出することによって行うものとする。

第六条(略:出願却下処分の謄本が送達される事を規定)

第七条(略:特許法施行規則の書面手続きに関する規定を準用)

 2つ目の意見募集(内閣府の意見募集ページ2参照)の方の内閣府令案(pdf)様式案2(pdf)も参照)からも特許出願人側の手続きに関する主な部分を以下に抜き出す。

経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関する法律に基づく特許出願の非公開に関する内閣府令

第一条(略:定義について規定)

第二条(略:書面による手続等について規定)

(保全審査における意見の聴取)
第三条 法第六十七条第一項の規定により保全審査をするに当たっては、明細書等に記載されている発明を公にすることにより外部から行われる行為によって国家及び国民の安全を損なう事態を生ずるおそれの程度及び保全指定をした場合に産業の発達に及ぼす影響その他の事情について、特許出願人の意見を聴くものとする。ただし、同条第二項の規定により特許出願人に対して資料の提出又は説明を求めることなく保全指定をする必要がないと判断できる場合は、この限りでない。

(保全対象発明となり得る発明の内容の通知)
第四条 法第六十七条第九項の規定による通知は、保全対象発明となり得る発明の内容及び明細書等において当該発明が記載されている箇所を記載した書面により行うものとする。

(法第六十七条第九項第三号の内閣府令で定める事項)
第五条 法第六十七条第九項第三号の内閣府令で定める事項は、同項第一号又は第二号に規定する事項に変更の予定がある場合における当該変更の内容とする。

(特許出願を維持する場合の手続)
第六条 法第六十七条第十項の規定による書類の提出は、様式第一によりしなければならない。

(保全指定の通知)
第七条 法第七十条第一項の規定による特許出願人及び特許庁長官への通知は、次の各号に掲げる事項を記載した書面により行うものとする。
 保全対象発明の内容及び明細書等において当該保全対象発明が記載されている箇所
 法第七十条第二項の規定により定めた保全指定の期間
 発明共有事業者に関する事項

(保全指定の期間の延長)
第八条 法第七十条第三項後段の規定により保全指定の期間を延長しようとするときは、あらかじめ、指定特許出願人の意見を聴くものとする。

(保全対象発明の実施の許可の申請書の記載事項)
第九条 法第七十三条第二項の内閣府令で定める事項は、次に掲げる事項とする。
 実施をしようとする者の氏名(法人にあっては、その名称及び代表者の氏名)及び住所又は居所
 実施をすることが必要な理由
 実施による保全対象発明に係る情報の漏えいの防止のために講ずる措置

(法第七十五条第一項の内閣府令で定める措置)
第十条 法第七十五条第一項の内閣府令で定める措置は、次に掲げる措置とする。
 組織的な情報管理に関する措置として次に掲げるもの
 保全対象発明に係る情報(発明共有事業者が講ずる措置については、指定特許出願人が取り扱うことを認めた保全対象発明に係る情報に限る。以下この条において「保全対象発明情報」という。)を取り扱う者を適正に管理するとともに、保全対象発明情報の漏えいを防止するための措置の適切な実施を一元的に管理する責任者(以下「保全情報管理責任者」という。)を指名すること。
 保全対象発明情報を取り扱う者の責務及び業務を明確にすること。
 保全指定の期間、保全情報管理責任者及び保全対象発明情報を取り扱う者並びにこれらであった者の氏名、実施の許可の状況その他保全対象発明情報を適正に管理するのに必要な情報を記載した管理簿を整備すること。
 保全対象発明情報を営業秘密(不正競争防止法(平成五年法律第四十七号)第二条第六項に規定する営業秘密をいう。)として取り扱うこと。
 保全対象発明情報の管理に関する措置を適切に講ずるため、保全対象発明情報の適正管理に関する規程の策定及び実施並びにその運用の評価及び改善を行うこと。
 発明共有事業者がホの規程を策定し、又はこれを変更しようとする場合にあっては、あらかじめ、指定特許出願人の確認を受けること。
 保全対象発明情報の漏えいが発生し、又は発生するおそれがある場合における事務処理体制を整備すること。
 保全対象発明情報の漏えいが発生し、又は発生するおそれがあると認めたときは、指定特許出願人にあっては内閣総理大臣に、発明共有事業者にあっては指定特許出願人に、直ちにその旨を報告すること。
 人的な情報管理に関する措置として次に掲げるもの
 保全対象発明情報を取り扱う者の範囲を必要最小限にとどめること。
 保全対象発明情報を取り扱う者を追加しようとするときは、あらかじめ、その者について、保全情報管理責任者に保全対象発明情報を漏えいさせるおそれがあるか否かについての確認を行わせ、そのおそれがあると認められる場合は、保全対象発明情報を取り扱わせないこと。
 保全対象発明情報を取り扱う者に対して、前号ホの規程を遵守させるための措置を講ずること。
 保全情報管理責任者に保全対象発明情報を取り扱う者に対する必要な教育及び訓練を行わせること。
 物理的な情報管理に関する措置として次に掲げるもの
 保全対象発明情報を記録する文書、図画、電磁的記録に係る記録媒体若しくは物件又は当該保全対象発明情報を化体する物件(以下この号において「保全対象発明情報文書等」という。)を取り扱う区域を特定し、その特定された区域(以下この号において「特定区域」という。)への立入りの管理及び制限をするための措置を講ずること。
 保全対象発明情報文書等の保管は、特定区域において適切な保管設備を用いて保全対象発明情報の
漏えいを防止するための措置を講じた上で行うこと。
 新たに保全対象発明情報文書等を複製又は製作しようとするときは、あらかじめ、その理由を示して、保全情報管理責任者の承認を得ることとし、その数は必要最小限にとどめること。
 保全対象発明情報文書等を特定区域から持ち出そうとするときは、あらかじめ、その理由を示して、保全情報管理責任者の承認を得ることとすること。
 保全対象発明情報文書等を廃棄する場合には、復元不可能な手段で行うこと。
 イからホまでに掲げるもののほか、保全対象発明情報文書等の盗難及び紛失を防止するための措置を講ずること。
 技術的な情報管理に関する措置として次に掲げるもの
 電子計算機において保全対象発明情報の処理及び閲覧をすることができる者を限定するための措置
を講ずること。
 保全対象発明情報を取り扱う電子計算機が電気通信回線に接続している場合、不正アクセス行為(不正アクセス行為の禁止等に関する法律(平成十一年法律第百二十八号)第二条第四項に規定する不正アクセス行為をいう。)を防止するための措置を講ずること。
 イ及びロに掲げるもののほか、電子計算機における保全対象発明情報の漏えいを防止するための措置を講ずること。

(発明共有事業者の変更の手続)
第十一条 法第七十六条第一項の規定による承認の申請は、次に掲げる事項を記載した様式第二による申請書によりしなければならない。
 新たに保全対象発明に係る情報の取扱いを認める事業者の氏名(法人にあっては、その名称及び代表
者の氏名)及び住所又は居所
 新たに保全対象発明に係る情報の取扱いを認めることが必要な理由
 新たに保全対象発明に係る情報の取扱いを認める事業者における情報の管理の予定

 法第七十六条第二項の規定による変更の届出は、様式第三による届出書によりしなければならない。

(補償請求書)
第十二条 法第八十条第二項の規定により補償を請求しようとする者は、次の各号に掲げる事項を記載した様式第四による請求書に、当該事項を疎明するに足りる資料を添えて、これを内閣総理大臣に提出しなければならない。
 補償請求額の総額及びその内訳
 補償請求の理由

第十三条(略:立入検査の証明書について規定)

 第480回で書いた通り、秘密とするかどうかの保全審査の対象となる技術分野は政令でかなり絞り込まれていると思うので、影響を受ける特許出願はかなり限定的なものになると思うが、内閣府と経産省の共同府省令案の第5条で規定される様に、外国出願のための事前確認の申出書は発明の内容について実際に出願をするのとほぼ同様の記載が求められる様である。その中で、その内容を英語で記載しても良いとしているのは、外国出願という目的から、出願人側の便宜を考慮したものだろうか。

 また、府令案の方の第10条を見ると、秘密指定を受けた保全対象発明について、特許出願人は、それを営業秘密として取り扱い、情報管理のための管理責任者、管理簿、規程、体制、区域、設備、漏洩防止措置を作り、報告するというかなり重い義務が求められる上、場合により立ち入り検査や改善命令を受ける可能性も出て来る。

 発明を秘密とするべきという保全指定を受けると、特許出願人はこの様な義務を含む各種制約を受ける事になるが、その際の大きな判断材料になるだろう補償請求については、府令案の方の第12条とこれに対応する様式で、「補償請求額の総額及びその内訳」と「補償請求の理由」を書き、当該事項を疎明するに足りる資料を添えて提出するとしているだけで、制度的に特許権の付与により保護範囲が確定される事もあり得ない中、これで本当に妥当な補償金額を決定できるのかは甚だ疑問である。

 上に書いた通り、指定の秘密とするかどうかの保全審査の対象となる技術分野は政令でかなり絞り込まれており、この制度の影響は限定的だろうと思えるので、この府省令案のレベルでどうこう言うつもりはあまりないが、これで施行後に何か指定対象が出て来たとして本当に妥当な補償金額の算定ができるのか、さらには、この制度のそもそもの存在意義からして私がなお疑問に思っている事に変わりはない。

(2024年3月16日の追記:1箇所語記を直した(「指定の秘密」→「秘密」)。)

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2023年6月18日 (日)

第480回:新秘密特許(非公開)制度に関する部分を含む経済安保法政令改正案に対する意見募集の開始

 既に報道などもされているが、先週6月12日に経済安全保障法制に関する有識者会議の第7回が開かれ、そこで示された資料、特許出願の非公開制度の運用開始に向けた検討状況について(pdf)参考資料(pdf)の通り、6月15日から7月14日〆切で新秘密特許(非公開)制度に関する部分を含む経済安保法政令案がパブコメに掛かった。(電子政府のHP参照。)

 この政令改正案(pdf)はその中にも書かれている様に、去年制定の経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関する法律施行令を改正し、以下の様な第3章、第12条から第16条までを追加するものである。

第三章特許出願の非公開

(内閣総理大臣への送付の対象となる発明)
第十二条 法第六十六条第一項の国際特許分類(国際特許分類に関する千九百七十一年三月二十四日のストラスブール協定(以下この項において「協定」という。)第一条に規定する国際特許分類をいう。)又はこれに準じて細分化したものに従い政令で定める技術の分野は、次に掲げる技術の分野とする。
 国際特許分類の項目を表示する協定第四条に規定する記号(以下この項及び次項において「国際特許分類記号」という。)B〇一D五九に該当する技術の分野のうち、ウラン又はプルトニウムに関するもの
 国際特許分類記号B六三B三/一三に該当する技術の分野
 国際特許分類記号B六三C七/二六に該当し、かつ、国際特許分類記号B六三Gに該当する技術の分野
 国際特許分類記号B六三C七/二六に該当し、かつ、国際特許分類記号F四一に該当する技術の分野
 国際特許分類記号B六三C一一/〇〇に該当し、かつ、国際特許分類記号G〇五Dに該当する技術の分野
 国際特許分類記号B六三C一一/四八に該当し、かつ、国際特許分類記号B六三Gに該当する技術の分野
 国際特許分類記号B六三C一一/四八に該当し、かつ、国際特許分類記号F四一に該当する技術の分野
 国際特許分類記号B六三Gに該当し、かつ、国際特許分類記号G〇一S一/七二、G〇一S一/七四、G〇一S一/七六、G〇一S一/七八、G〇一S一/八〇又はG〇一S一/八二に該当する技術の分野
 国際特許分類記号B六三Gに該当し、かつ、国際特許分類記号G〇一S三/八〇、G〇一S三/八〇一、G〇一S三/八〇二、G〇一S三/八〇三、G〇一S三/八〇五、G〇一S三/八〇七、G〇一S三/八〇八、G〇一S三/八〇九、G〇一S三/八二、G〇一S三/八四又はG〇一S三/八六に該当する技術の分野
 国際特許分類記号B六三Gに該当し、かつ、国際特許分類記号G〇一S五/一八、G〇一S五/二〇、G〇一S五/二二、G〇一S五/二四、G〇一S五/二六、G〇一S五/二八又はG〇一S五/三〇に該当する技術の分野
十一 国際特許分類記号B六三Gに該当し、かつ、国際特許分類記号G〇一S七/五二、G〇一S七/五二一、G〇一S七/五二三、G〇一S七/五二四、G〇一S七/五二六、G〇一S七/五二七、G〇一S七/五二九、G〇一S七/五三、G〇一S七/五三一、G〇一S七/五三三、G〇一S七/五三四、G〇一S七/五三六、G〇一S七/五三七、G〇一S七/五三九、G〇一S七/五四、G〇一S七/五六、G〇一S七/五八、G〇一S七/六〇、G〇一S七/六二又はG〇一S七/六四に該当する技術の分野
十二 国際特許分類記号B六三Gに該当し、かつ、国際特許分類記号G〇一S一五に該当する技術の分野
十三 国際特許分類記号B六三G八/〇〇、B六三G八/〇四、B六三G八/〇六、B六三G八/〇八、B六三G八/一〇、B六三G八/一二、B六三G八/一四、B六三G八/一六、B六三G八/一八、B六三G八/二〇、B六三G八/二二、B六三G八/二四、B六三G八/二六、B六三G八/二八、B六三G八/三〇、B六三G八/三二、B六三G八/三三、B六三G八/三四、B六三G八/三八又はB六三G八/三九に該当する技術の分野
十四 国際特許分類記号B六四に該当し、かつ、国際特許分類記号F四一H三/〇〇に該当する技術の分野
十五 国際特許分類記号B六四C三九/〇二に該当し、かつ、国際特許分類記号F四一に該当する技術の分野
十六 国際特許分類記号B六四C三九/〇二に該当し、かつ、国際特許分類記号F四二に該当する技術の分野
十七 国際特許分類記号B六四G一/五八、B六四G一/六二、B六四G一/六四又はB六四G一/六八に該当する技術の分野
十八 国際特許分類記号B六四G三に該当する技術の分野
十九 国際特許分類記号B六四Uに該当し、かつ、国際特許分類記号F四一に該当する技術の分野
二十 国際特許分類記号B六四Uに該当し、かつ、国際特許分類記号F四二に該当する技術の分野
二十一 国際特許分類記号C〇一B五/〇二に該当する技術の分野
二十二 国際特許分類記号C〇六D七に該当する技術の分野
二十三 国際特許分類記号F〇二K七/一四に該当する技術の分野
二十四 国際特許分類記号F〇二K九/〇八、F〇二K九/一〇、F〇二K九/一二、F〇二K九/一四、F〇二K九/一六、F〇二K九/一八、F〇二K九/二〇、F〇二K九/二二、F〇二K九/二四、F〇二K九/二六、F〇二K九/二八、F〇二K九/三〇、F〇二K九/三二、F〇二K九/三四、F〇二K九/三六、F〇二K九/三八又はF〇二K九/四〇に該当する技術の分野
二十五 国際特許分類記号F四一に該当し、かつ、国際特許分類記号G〇一S一/七二、G〇一S一/七四、G〇一S一/七六、G〇一S一/七八、G〇一S一/八〇又はG〇一S一/八二に該当する技術の分野
二十六 国際特許分類記号F四一に該当し、かつ、国際特許分類記号G〇一S三/八〇、G〇一S三/八〇一、G〇一S三/八〇二、G〇一S三/八〇三、G〇一S三/八〇五、G〇一S三/八〇七、G〇一S三/八〇八、G〇一S三/八〇九、G〇一S三/八二、G〇一S三/八四又はG〇一S三/八六に該当する技術の分野
二十七 国際特許分類記号F四一に該当し、かつ、国際特許分類記号G〇一S五/一八、G〇一S五/二〇、G〇一S五/二二、G〇一S五/二四、G〇一S五/二六、G〇一S五/二八又はG〇一S五/三〇に該当する技術の分野
二十八 国際特許分類記号F四一に該当し、かつ、国際特許分類記号G〇一S七/五二、G〇一S七/五二一、G〇一S七/五二三、G〇一S七/五二四、G〇一S七/五二六、G〇一S七/五二七、G〇一S七/五二九、G〇一S七/五三、G〇一S七/五三一、G〇一S七/五三三、G〇一S七/五三四、G〇一S七/五三六、G〇一S七/五三七、G〇一S七/五三九、G〇一S七/五四、G〇一S七/五六、G〇一S七/五八、G〇一S七/六〇、G〇一S七/六二又はG〇一S七/六四に該当する技術の分野
二十九 国際特許分類記号F四一に該当し、かつ、国際特許分類記号G〇一S一五に該当する技術の分野
三十 国際特許分類記号F四一に該当し、かつ、国際特許分類記号G〇五Dに該当する技術の分野
三十一 国際特許分類記号F四一B六に該当する技術の分野
三十二 国際特許分類記号F四一G七に該当する技術の分野
三十三 国際特許分類記号F四一H一一/〇二に該当する技術の分野
三十四 国際特許分類記号F四一H一三に該当する技術の分野
三十五 国際特許分類記号F四二に該当し、かつ、国際特許分類記号G〇五Dに該当する技術の分野
三十六 国際特許分類記号F四二B五/一四五に該当する技術の分野
三十七 国際特許分類記号F四二B一〇に該当する技術の分野
三十八 国際特許分類記号F四二B一二/四六、F四二B一二/四八、F四二B一二/五〇、F四二B一二/五二又はF四二B一二/五四に該当する技術の分野
三十九 国際特許分類記号F四二B一五に該当する技術の分野
四十 国際特許分類記号G〇一J一/〇二、G〇一J一/〇四、G〇一J一/〇六又はG〇一J一/〇八に該当する技術の分野のうち、量子ドット又は超格子に関するもの
四十一 国際特許分類記号G〇六F二一/八六又はG〇六F二一/八七に該当する技術の分野
四十二 国際特許分類記号G二一C一九/三三、G二一C一九/三四、G二一C一九/三六、G二一C一九/三六五、G二一C一九/三七、G二一C一九/三七五、G二一C一九/三八、G二一C一九/四〇、G二一C一九/四二、G二一C一九/四四、G二一C一九/四六、G二一C一九/四八又はG二一C一九/五〇に該当する技術の分野
四十三 国際特許分類記号G二一J一に該当する技術の分野
四十四 国際特許分類記号G二一J三に該当する技術の分野
四十五 国際特許分類記号H〇一L二七/一四、H〇一L二七/一四二、H〇一L二七/一四四、H〇一L二七/一四六又はH〇一L二七/一四八に該当する技術の分野のうち、量子ドット又は超格子に関するもの
四十六 国際特許分類記号H〇一L三一/〇八、H〇一L三一/〇九、H〇一L三一/一〇、H〇一L三一/一〇一、H〇一L三一/一〇二、H〇一L三一/一〇三、H〇一L三一/一〇五、H〇一L三一/一〇七、H〇一L三一/一〇八、H〇一L三一/一〇九、H〇一L三一/一一、H〇一L三一/一一一、H〇一L三一/一一二、H〇一L三一/一一三、H〇一L三一/一一五、H〇一L三一/一一七、H〇一L三一/一一八又はH〇一L三一/一一九に該当する技術の分野のうち、量子ドット又は超格子に関するもの
四十七 国際特許分類記号H〇四K三に該当する技術の分野

法第六十六条第一項の特定技術分野のうち保全指定をした場合に産業の発達に及ぼす影響が大きいと認められる技術の分野として政令で定めるものは、前項第二号、第三号、第五号、第六号、第八号から第十二号まで、第十三号(国際特許分類記号B六三G八/二八、B六三G八/三〇、B六三G八/三二及びB六三G八/三三に係る部分を除く。)、第十七号、第十八号、第二十三号、第二十四号、第四十号、第四十一号及び第四十五号から第四十七号までに掲げる技術の分野(同項第一号、第四号、第七号、第十三号(国際特許分類記号B六三G八/二八、B六三G八/三〇、B六三G八/三二及びB六三G八/三三に係る部分に限る。)、第十四号から第十六号まで、第十九号から第二十二号まで、第二十五号から第三十九号まで及び第四十二号から第四十四号までに掲げる技術の分野に該当する部分を除く。)とする。

法第六十六条第一項の政令で定める要件は、次の各号のいずれかに該当する発明であることとする。
 我が国の防衛又は外国の軍事の用に供するための発明
 国又は国立研究開発法人(独立行政法人通則法第二条第三項に規定する国立研究開発法人をいう。以下この号及び次号において同じ。)による特許出願(国及び国立研究開発法人以外の者と共同でしたものを除く。)に係る発明
 国若しくは国立研究開発法人が委託した技術に関する研究及び開発又は国若しくは国立研究開発法人が請け負わせたソフトウェアの開発の成果に係る発明であって、その発明について特許を受ける権利につき産業技術力強化法(平成十二年法律第四十四号)第十七条第一項(国立研究開発法人が委託し又は請け負わせた場合にあっては、同条第二項において準用する同条第一項)の規定により国又は当該国立研究開発法人が譲り受けないこととしたもの
 国が委託した技術に関する研究及び開発の成果に係る発明であって、その発明について特許を受ける権利につき科学技術・イノベーション創出の活性化に関する法律(平成二十年法律第六十三号)第二十二条(第一号に係る部分に限る。)の規定により国がその一部のみを譲り受けたもの

(内閣総理大臣への送付の期間)
第十三条 法第六十六条第一項の政令で定める期間は、三月とする。

(外国出願の禁止の例外)
第十四条 法第七十八条第一項の政令で定めるものは、次に掲げる特許出願とする。
 防衛目的のためにする特許権及び技術上の知識の交流を容易にするための日本国政府とアメリカ合衆国政府との間の協定第三条の規定により我が国で保全指定(法第七十条第二項に規定する保全指定をいう。)をされた発明を記載した特許出願をアメリカ合衆国においてした場合に類似の取扱いを受けるものとされている場合におけるアメリカ合衆国でされる当該特許出願
 民生用国際宇宙基地のための協力に関するカナダ政府、欧州宇宙機関の加盟国政府、日本国政府、ロシア連邦政府及びアメリカ合衆国政府の間の協定第二十一条3の規定により我が国以外の締約国における特許出願を妨げるために発明の秘密に関する我が国の法律を適用してはならないこととされている場合における当該締約国でされる当該特許出願
 平和的目的のための月その他の天体を含む宇宙空間の探査及び利用における協力のための日本国政府とアメリカ合衆国政府との間の枠組協定第九条Gの規定によりアメリカ合衆国における特許出願を妨げるために発明の秘密に関する我が国の法律を適用してはならないこととされている場合におけるアメリカ合衆国でされる当該特許出願

(外国出願の禁止の期間)
第十五条 法第七十八条第一項の政令で定める期間は、十月とする。

(外国出願の禁止に関する事前確認の手数料)
第十六条 法第七十九条第五項の政令で定める額は、二万五千円とする。

 この政令案の第13条の保全審査のための送付期間の3月、第15条の外国出願禁止期間の10月、第16条の外国出願の禁止に関する事前確認のための2万5千円はそれぞれ経済安保法で定められている上限一杯の期間又は額で特に何か目新しいものではなく、第14条も外国出願の例外として日米防衛特許協定など非常に特殊な条約に基づく場合がある事を規定しているだけなので、この政令案の最大のポイントは秘密指定を行う保全審査の対象となる技術分野を指定している第12条という事になるだろう。(経済安保法の条文については第453回参照、日米防衛特許協定については第450回参照。)

 この政令改正案の第12条第1項の各号は非常に読みづらいので、有識者会議の上の参考資料(pdf)の説明と対応させ、第2項で保全指定された場合に産業の発達に及ぼす影響が大きいとされる号に△、それ以外の号に●をつけ、一覧表にすると、以下の様になる。(下の表では、別の番号である事を示すため、参考資料の方の番号をローマ数字にした。)

●第1号:B01D59でウラン又はプルトニウムに関するもの((xx)ウラン・プルトニウムの同位体分離技術)
△第2号:B63B3/13((xii)潜水船に関する技術)
△第3号:B63C7/26かつB63G((xiv)音波を用いた位置測定等の技術であって潜水船等に関するもの)
●第4号:B63C7/26かつF41((ix)音波を用いた位置測定等の技術であって武器に関するもの)
△第5号:B63C11/00かつG05D((xiii)無人水中航走体等に関する技術)
△第6号:B63C11/48かつB63G((xiv)音波を用いた位置測定等の技術であって潜水船等に関するもの)
●第7号:B63C11/48かつF41((ix)音波を用いた位置測定等の技術であって武器に関するもの)
△第8号:B63GかつG01S1/72からG01S1/82まで((xiv)音波を用いた位置測定等の技術であって潜水船等に関するもの)
△第9号:B63GかつG01S3/80からG01S3/86まで((xiv)音波を用いた位置測定等の技術であって潜水船等に関するもの)
△第10号:B63GかつG01S5/18からG01S5/30まで((xiv)音波を用いた位置測定等の技術であって潜水船等に関するもの)
△第11号:B63GかつG01S7/52からG01S7/64まで((xiv)音波を用いた位置測定等の技術であって潜水船等に関するもの)
△第12号:B63GかつG01S15((ix)音波を用いた位置測定等の技術であって武器に関するもの)
△第13号:B63G8/00からB63G8/39((xii)潜水船に関する技術、(viii)潜水船に配置される攻撃・防護装置に関する技術、(viii)に対応するB63G8/28からB63G8/33は第2項の対象外)
●第14号:B64かつF41H3/00((i)航空機等の偽装・隠ぺい技術)
●第15号:B64C39/02かつF41((ii)武器等に関係する無人航空機・自律制御等の技術)
●第16号:B64C39/02かつF42((ii)武器等に関係する無人航空機・自律制御等の技術)
△第17号:B64G1/58、B64G1/62、B64G1/64又はB64G1/68((xv)宇宙航行体の熱保護、再突入、結合・分離、隕石検知に関する技術)
△第18号:B64G3((xvi)宇宙航行体の観測・追跡技術)
●第19号:B64UかつF41((ii)武器等に関係する無人航空機・自律制御等の技術)
●第20号:B64UかつF42((ii)武器等に関係する無人航空機・自律制御等の技術)
●第21号:C01B5/02((xxii)重水に関する技術)
●第22号:C06D7((xxiv)ガス弾用組成物に関する技術)
△第23号:F02K7/14((x)スクラムジェットエンジン等に関する技術)
△第24号:F02K9/08からF02K9/40まで((xi)固体燃料ロケットエンジンに関する技術)
●第25号:F41かつG01S1/72からG01S1/82まで((ix)音波を用いた位置測定等の技術であって武器に関するもの)
●第26号:F41かつG01S3/80からG01S3/86まで((ix)音波を用いた位置測定等の技術であって武器に関するもの)
●第27号:F41かつG01S5/18からG01S5/30まで((ix)音波を用いた位置測定等の技術であって武器に関するもの)
●第28号:F41かつG01S7/52からG01S7/64まで((ix)音波を用いた位置測定等の技術であって武器に関するもの)
●第29号:F41かつG01S15((ix)音波を用いた位置測定等の技術であって武器に関するもの)
●第30号:F41かつG05D((ii)武器等に関係する無人航空機・自律制御等の技術)
●第31号:F41B6((v)電磁気式ランチャを用いた武器に関する技術)
●第32号:F41G7((iii)誘導武器等に関する技術)
●第33号:F41H11/02((vii)航空機・誘導ミサイルに対する防御技術)
●第34号:F41H13((vi)例えばレーザ兵器、電磁パルス(EMP)弾のような新たな攻撃又は防御技術)
●第35号:F42かつG05D((ii)武器等に関係する無人航空機・自律制御等の技術)
●第36号:F42B5/145((xxv)ガス、粉末等を散布する弾薬等に関する技術)
●第37号:F42B10((iv)発射体・飛翔体の弾道に関する技術)
●第38号:F42B12/46からF42B12/54まで((xxv)ガス、粉末等を散布する弾薬等に関する技術)
●第39号:F42B15((iii)誘導武器等に関する技術)
△第40号:G01J1/02からG01J1/08までで量子ドット又は超格子に関するもの((xvii)量子ドット・超格子構造を有する半導体受光装置等に関する技術)
△第41号:G06F21/86又はG06F21/87((xviii)耐タンパ性ハウジングにより計算機の部品等を保護する技術)
●第42号:G21C19/33からG21C19/50まで((xxi)使用済み核燃料の分解・再処理等に関する技術)
●第43号:G21J1((xxiii)核爆発装置に関する技術)
●第44号:G21J3((xxiii)核爆発装置に関する技術)
△第45号:H01L27/14からH01L27/148までで量子ドット又は超格子に関するもの((xvii)量子ドット・超格子構造を有する半導体受光装置等に関する技術)
△第46号:H01L31/08からH01L31/119までで量子ドット又は超格子に関するもの((xvii)量子ドット・超格子構造を有する半導体受光装置等に関する技術)
△第47号:H04K3((xix)通信妨害等に関する技術)

 さらに、有識者会議の資料でも書かれている通り、F41とF42が武器や弾薬に関する分類という様に、上の表を大まかな技術分野に沿って整理し直すと、以下の様になるだろう。(●と△は上と同じ意味である。)

(1)●核・原子力関連:第1号、第21号、第42号~第44号
(2)●武器弾薬関連:第4号、第7号、第14号~第16号、第19号~第20号、第22号、第25号~第39号
(3)△潜水艦関連:第2号~第3号、第5号~第6号、第8号~第13号
(4)△航空宇宙関連:第17号~第18号、第23号~第24号
(5)△量子ドット・超格子構造を有する半導体受光装置関連ー:第40号、第45号~第46号
(6)△計算機保護・通信妨害関連:第41号、第47号

 この内、(1)核・原子力関連と(2)武器弾薬関連は全て秘密指定するかどうかの保全審査に送られる事になるが、(3)潜水艦関連、(4)航空宇宙関連、(5)量子ドット・超格子構造を有する半導体受光装置関連、(6)計算機保護・通信妨害関連は、デュアルユース技術分野として、政令案第12条第3項各号に書かれている、防衛・軍事技術開発、国の研究開発又は国の委託研究開発という条件にもあてはまる場合に保全審査に送られる事になる。

 私自身はこの新秘密特許(非公開)制度のそもそもの存在意義からしてなお疑問に思っているが、この政令案の技術分野は当初思っていたものよりかなり絞り込まれていると見えるので、ここで細かな技術分野についてどうこう言うつもりはあまりない。ただ、デュアルユース技術分野は、なぜか(3)潜水艦関連に多く集中し、(5)量子ドット・超格子構造を有する半導体受光装置関連と(6)計算機保護・通信妨害関連に非常に唐突感がある。政府内でどの様な検討が行われてこれらの技術分野が選ばれたのかは不明だが、今の防衛省の研究開発方針に合わせたのだろうか。

 次は、上の有識者会議の資料で、審査手続、意思確認時の提出書類、適正管理措置等に関する府省令案が夏頃から秋頃に掛けてパブコメが行われる予定とされている。この府省令案も新秘密特許制度の運用を定める重要なものであり、パブコメに掛かり次第その内容を見たいと思っている。

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2023年3月19日 (日)

第474回:閣議決定された不正競争防止法等改正案の条文

 前回取り上げた著作権法改正案に続いて、今回は閣議決定された不正競争防止法改正案の条文についてである(経産省のHP概要(pdf)要綱(pdf)法律案・理由(pdf)新旧対照条文(pdf)参照条文(pdf)参照)。

 まず、上でリンクを張った不正競争防止法等改正案の概要資料から法改正内容の概要を抜粋する。

(1)デジタル化に伴う事業活動の多様化を踏まえたブランド・デザイン等の保護強化
登録可能な商標の拡充
他人が既に登録している商標と類似する商標は登録できないが、先行商標権者の同意があり出所混同のおそれがない場合には登録可能にする。【商4条等】
※併せて、上記により登録された商標について、不正の目的でなくその商標を使用する行為等を不正競争として扱わないこととする。【不19条】
・自己の名前で事業活動を行う者等がその名前を商標として利用できるよう、氏名を含む商標も、一定の場合には、他人の承諾なく登録可能にする。【商4条】

意匠登録手続の要件緩和【意4条等】
・創作者等が出願前にデザインを複数公開した場合の救済措置を受けるための手続の要件を緩和する。

デジタル空間における模倣行為の防止【不2条】
商品形態の模倣行為について、デジタル空間上でも不正競争行為の対象とし、差止請求権等を行使できるようにする。

営業秘密・限定提供データの保護の強化
・ビッグデータを他社に共有するサービスにおいて、データを秘密管理している場合も含め限定提供データとして保護し、侵害行為の差止め請求等を可能とする。【不2条】
・損害賠償訴訟で被侵害者の生産能力等を超える損害分も使用許諾料相当額として増額請求を可能とするなど、営業秘密等の保護を強化する。【不5条等】
・裁定手続で提出される書類に営業秘密が記載された場合に閲覧制限を可能にする
【特186条、実55条、意63条等】
※裁定:特許発明が長期間実施されていない等の場合に、特許権者の意思に関わらず他者に実施権を認める制度

(2)コロナ禍・デジタル化に対応した知的財産手続等の整備
送達制度の見直し【特191条、工5条等】
・在外者へ査定結果等の書類を郵送できない場合に公表により送付したとみなすとともに、インターネットを通じた送達制度を整備する。

書面手続のデジタル化等のための見直し【特43条、商68条の3、工8条等】
・特許等に関する書面手続のデジタル化や商標の国際登録出願における手数料一括納付等を可能とする。

手数料減免制度の見直し【特195条の2等】
・中小企業の特許に関する手数料の減免について、資力等の制約がある者の発明奨励・産業発達促進という制度趣旨を踏まえ、一部件数制限を設ける。

(3)国際的な事業展開に関する制度整備
外国公務員贈賄に対する罰則の強化・拡充【不21条等】
・OECD外国公務員贈賄防止条約をより高い水準で的確に実施するため、自然人及び法人に対する法定刑を引き上げるとともに、日本企業の外国人従業員による海外での単独贈賄行為も処罰対象とする(両罰規定により、法人の処罰対象も拡大)。

国際的な営業秘密侵害事案における手続の明確化【不19条の2等】
・国外において日本企業の営業秘密の侵害が発生した場合にも日本の裁判所に訴訟を提起でき、日本の不競法を適用することとする。

※不競法については、平成27年改正により追加された同法第35条の規定について同改正において手当てする必要があった規定の適正化を行う。【不35条】

※上記のほか、他法の例にならい、不競法において、法人両罰の有無による罰則規定の整理及び罰則の構成要件に該当する行為を行った時期を明確にする趣旨の規定の改正を行う。【不21条等】

 これらは産業構造審議会・知的財産分科会の各小委員会の報告書をその儘条文化したものであり(経産省の不競小委報告書、特許庁の特許小委報告書意匠小委報告書商標小委報告書参照、その内容については第469回参照)、特に問題があるものではないが、ここでは、中でも今回の法改正のポイントと考えられる、(1)不正競争防止法改正によるデジタル空間上の商品形態模倣規制の導入と損害賠償規定の見直しと、(2)商標法改正による自己の名前を含む商標の登録可能化とコンセント制度の導入について、その条文を見ておきたいと思う。

(1)不正競争防止法改正によるデジタル空間上の商品形態模倣規制の導入と損害賠償規定の見直し
 報道でメタバースにも不正競争防止法の規制を適用するといったご大層な書き方がされているのは間違いとまでは言えないのだが、これは、不正競争防止法の第2条を以下の様に改正し、現行の商品形態模倣規制を電気通信回線を通じた提供まで適用可能とするものであり、それほど大きな影響はないだろうと私は思っている。(下線部が追加部分。以下同じ。)

(定義)
第二条 この法律において「不正競争」とは、次に掲げるものをいう。
一・二(略)
三 他人の商品の形態(当該商品の機能を確保するために不可欠な形態を除く。)を模倣した商品を譲渡し、貸し渡し、譲渡若しくは貸渡しのために展示し、輸出し、又は輸入する輸入し、又は電気通信回線を通じて提供する行為
(第4号以下略)

 この商品形態模倣規制は、現行法の同じ定義規定の第2条の第4項、第5項で、

4 この法律において「商品の形態」とは、需要者が通常の用法に従った使用に際して知覚によって認識することができる商品の外部及び内部の形状並びにその形状に結合した模様、色彩、光沢及び質感をいう。

5 この法律において「模倣する」とは、他人の商品の形態に依拠して、これと実質的に同一の形態の商品を作り出すことをいう。

と、消費者等が通常の使用において知覚可能な商品の形状などの模倣を禁止するものと定義されている事と、上と同様の改正が入る適用除外規定の第19条で、

(適用除外等)
第十九条 第三条から第十五条まで、第二十一条(第二項第七号に係る部分を除く。)及び第二十二条の規定は、次の各号に掲げる不正競争の区分に応じて当該各号に定める行為については、適用しない。
(第1~5号略)
 第二条第一項第三号に掲げる不正競争 次のいずれかに掲げる行為
 日本国内において最初に販売された日から起算して三年を経過した商品について、その商品の形態を模倣した商品を譲渡し、貸し渡し、譲渡若しくは貸渡しのために展示し、輸出し、又は輸入する輸入し、又は電気通信回線を通じて提供する行為
 他人の商品の形態を模倣した商品を譲り受けた者(その譲り受けた時にその商品が他人の商品の形態を模倣した商品であることを知らず、かつ、知らないことにつき重大な過失がない者に限る。)がその商品を譲渡し、貸し渡し、譲渡若しくは貸渡しのために展示し、輸出し、又は輸入する輸入し、又は電気通信回線を通じて提供する行為
(第7号以下略)

と、適用があるのは商品を最初に販売した日から3年という期間に限られる事も合わせて考えられなくてはならないものである。

 現実の新商品の形を真似て仮想空間で売ろうとするといった事又はその逆も考えられない訳ではなく、この様な規制強化も全く意味のないものではないだろうが、第471回で知財本部メタバース検討論点整理案との関係で書いた通り、著作権による保護は現実空間か仮想空間かによらず及ぶ事、仮想空間におけるオブジェクトの利用は完全に自由で何をしても良いなどという事はない事に、より注意が必要だろう。

 また、前回取り上げた著作権法改正案との並びで見ておくと、不正競争防止法改正案の損害賠償推定規定も以下の様に改正され、これで全ての主要な知的財産法で侵害組成物の数量について生産販売能力を超えた部分についてもライセンス料を受け取れる事が明確化される事になる。

(損害の額の推定等)
第五条 第二条第一項第一号から第十六号まで又は第二十二号に掲げる不正競争(同項第四号から第九号までに掲げるものにあっては、技術上の秘密に関するものに限る。)によって営業上の利益を侵害された者(以下この項において「被侵害者」という。)が故意又は過失により自己の営業上の利益を侵害した者(以下この項において「侵害者」という。)に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、その者侵害者がその侵害の行為を組成した物を譲渡したときは、その譲渡した物の数量(物(電磁的記録を含む。以下この項において「譲渡数量」という。)に、被侵害者が同じ。)を譲渡したとき(侵害の行為により生じた物を譲渡したときを含む。)、又はその侵害の行為がなければ販売することができた物の単位数量当たりの利益の額を乗じて得た額を、被侵害者の当該物に係る販売その他の行為を行う能力に応じた額を超えない限度においてにより生じた役務を提供したときは、次に掲げる額の合計額を、被侵害者が受けた損害の額とすることができる。ただし、譲渡数量の全部又は一部に相当する数量を被侵害者が販売することができないとする事情があるときは、当該事情に相当する数量に応じた額を控除するものとする。
 被侵害者がその侵害の行為がなければ販売することができた物又は提供することができた役務の単位数量当たりの利益の額に、侵害者が譲渡した当該物又は提供した当該役務の数量(次号において「譲渡等数量」という。)のうち被侵害者の販売又は提供の能力に応じた数量(同号において「販売等能力相応数量」という。)を超えない部分(その全部又は一部に相当する数量を被侵害者が販売又は提供をすることができないとする事情があるときは、当該事情に相当する数量(同号において「特定数量」という。)を控除した数量)を乗じて得た額
 譲渡等数量のうち販売等能力相応数量を超える数量又は特定数量がある場合におけるこれらの数量に応じた次のイからホまでに掲げる不正競争の区分に応じて当該イからホまでに定める行為に対し受けるべき金銭の額に相当する額(被侵害者が、次のイからホまでに掲げる不正競争の区分に応じて当該イからホまでに定める行為の許諾をし得たと認められない場合を除く。)
 第二条第一項第一号又は第二号に掲げる不正競争当該侵害に係る商品等表示の使用
 第二条第一項第三号に掲げる不正競争当該侵害に係る商品の形態の使用
 第二条第一項第四号から第九号までに掲げる不正競争当該侵害に係る営業秘密の使用
 第二条第一項第十一号から第十六号までに掲げる不正競争当該侵害に係る限定提供データの使用
 第二条第一項第二十二号に掲げる不正競争当該侵害に係る商標の使用

(略)

 裁判所は、第一項第二号イからホまで及び前項各号に定める行為に対し受けるべき金銭の額を認定するに当たっては、営業上の利益を侵害された者が、当該行為の対価について、不正競争があったことを前提として当該不正競争をした者との間で合意をするとしたならば、当該営業上の利益を侵害された者が得ることとなるその対価を考慮することができる。

 前項第三項の規定は、同項に規定する金額を超える損害の賠償の請求を妨げない。この場合において、その営業上の利益を侵害した者に故意又は重大な過失がなかったときは、裁判所は、損害の賠償の額を定めるについて、これを参酌することができる。

(2)商標法改正による自己の名前を含む商標の登録可能化とコンセント制度の導入
 もう1つ良く書かれているのが、商標法改正による自己の名前を含む商標の登録可能化であり、これは、商標の不登録理由を規定する商標法第4条の第1項第8号を以下の様に改正するものである。

(商標登録を受けることができない商標)
第四条 次に掲げる商標については、前条の規定にかかわらず、商標登録を受けることができない。
(略)
 他人の肖像又は若しくは他人の氏名(商標の使用をする商品又は役務の分野において需要者の間に広く認識されている氏名に限る。)若しくは名称若しくは著名な雅号、芸名若しくは筆名若しくはこれらの著名な略称を含む商標(その他人の承諾を得ているものを除く。)又は他人の氏名を含む商標であつて、政令で定める要件に該当しないもの
十九(略)

2・3(略)

 第一項第十一号に該当する商標であつても、その商標登録出願人が、商標登録を受けることについて同号の他人の承諾を得ており、かつ、当該商標の使用をする商品又は役務と同号の他人の登録商標に係る商標権者、専用使用権者又は通常使用権者の業務に係る商品又は役務との間で混同を生ずるおそれがないものについては、同号の規定は、適用しない。

 細かな説明は省略するが、特許庁の商標制度小委員会報告書(pdf)などでも書かれている通り、従来商標法の他人の氏名にはあらゆる他人の氏名が含まれるという解釈で運用されていたため、普通の人の氏名だと商標登録が極めて難しかったという事があったのだが、マツモトキヨシの音商標を登録可とする2021年8月30日の知財高裁判決(判決文(pdf)参照)などを受けて今回の法改正に至ったものである。今後、他人の氏名に対する濫用的な商標登録を防ぐための他人の氏名を含む商標に関する政令に多少注意が必要だろうが、今までの法律とその解釈が厳し過ぎた事を思えば、これは妥当な法改正だろうと思う。

 また、これも細かな説明は省略するが、商標において商標権者の同意があれば類似商標であっても商標登録が可能になるという上の第4条第4項によるコンセント制度の導入も制度的には重要である。

 その他制度ユーザにしか関係しない事も多いが、どれも重要である事に違いはなく、今回のこの法改正は、不正競争防止法を中心としてかなり大きな法改正と言えるものだろう。

 次回は、twitterで少し触れた通り、知財本部で今年の知財計画パブコメが4月7日〆切で始まっているので(知財本部意見募集案内(pdf)参照)、提出次第その内容を載せたいと思っている。

(2023年4月2日夜の追記:条文の誤記を修正した(「この法律において「不正競争」とは、次に掲げるものを第二条この法律において「不正競争」とは、次に掲げるものをいう」→「この法律において「不正競争」とは、次に掲げるものをいう」)。)

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2023年2月12日 (日)

第472回:新秘密特許(非公開)制度基本指針案に対する意見募集の開始

 経済安全保障法に含まれる新秘密特許(非公開)制度について、2月8日の経済安全保障法制に関する有識者会議基本指針案(pdf)概要(pdf)も参照)が示され、電子政府HPの意見募集ページに書かれている通り、この特許出願の非公開に関する基本指針案(pdf)が、3月12日〆切でパブリックコメントに掛かった。

(経済安全保障法における新秘密特許制度の条文や国会審議については、第453回第461回参照。米英独仏の秘密特許制度については、第456回第457回第458回参照。また、経済安全保障有識者会議の資料1(pdf)2(pdf)3(pdf)によると、この基本指針案の検討のために特許出願非公開に関する検討会合が2022年12月20日に非公開で開かれていた様である。)

 これは基本指針の名の通り、今まで議論されていた事を抽象的理念としてまとめているだけであって、追加で具体的な事が明らかになったという事はほぼなく、この基本指針のレベルで言う事は余りない。しかし、これも知財政策に関する重要なパブコメの1つであり、私が特に気になっている、秘密(保全)指定の対象、保全審査の範囲を決める特定技術分野、外国出願の禁止、保全対象となった場合の補償について書かれた部分の抜粋を下に載せておく。

 基本指針案で政令の策定や制度の周知等について書かれているが、上の有識者会議で示された概要(pdf)でも、3月以降、もう一度有識者会議で基本指針案に関するパブリックコメントを踏まえた審議をした上で、基本指針の閣議決定を行い、政省令を策定、制度を周知、Q&A等を作成・公表、2024年春頃に制度運用を開始すると書かれている。去年5月の法律の成立後、施行まで後1年位の今に至るも制度運用の詳細に関する検討の内容が明らかにされないのは残念な事と思うが、この日本の新秘密特許制度に関しては、より具体的な事を定めるこの政省令などの検討が特に重要なものになると私は思っている。

(以下、基本指針案抜粋)

特許法の出願公開の特例に関する措置、同法第三十六条第一項の規定による特許出願に係る明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明に係る情報の適正管理その他公にすることにより外部から行われる行為によって国家及び国民の安全を損なう事態を生ずるおそれが大きい発明に係る情報の流出を防止するための措置に関する基本指針(案)

(略)

第1章 特許出願の非公開に関する基本的な方向に関する事項

第1節 本制度の基本的な考え方

(略)

第2節 非公開の対象となる発明(保全対象発明)の考え方

 本制度による保全指定がされるのは、特許出願に係る明細書等に「公にすることにより外部から行われる行為によって国家及び国民の安全を損なう事態を生ずるおそれが大きい発明」が記載され、かつ、そのおそれの程度及び保全指定をした場合に産業の発達に及ぼす影響その他の事情を考慮し、当該発明に係る情報の保全(当該情報が外部に流出しないようにするための措置)をすることが適当と認められた場合である(法第70条第1項)。すなわち、本法は、機微性の要件(公にすることにより外部から行われる行為によって国家及び国民の安全を損なう事態を生ずるおそれが大きいこと)を満たすことを前提としつつ、その機微性の程度と保全指定をすることによる産業の発達への影響等との総合考慮により、情報の保全をすることが適当と認められた場合に保全指定をするものと定めている。

(1)国家及び国民の安全を損なう事態を生ずるおそれが大きい発明

 本制度で非公開の対象とする「公にすることにより外部から行われる行為によって国家及び国民の安全を損なう事態を生ずるおそれが大きい発明」とは、安全保障上の機微性が極めて高いもの、すなわち、国としての基本的な秩序の平穏あるいは多数の国民の生命や生活を害する手段に用いられるおそれがある技術の発明が該当する。

 これをより具体的にいうと、以下のような類型の技術が想定される。

①我が国の安全保障の在り方に多大な影響を与え得る先端技術

 その新しさゆえ、用いる者や用い方によって、国家及び国民の安全に対する重大な脅威となり得る技術がこれに該当する。例えば、武器のための技術であるか否かを問わず、いわゆるゲーム・チェンジャーと呼ばれる将来の戦闘様相を一変させかねない武器に用いられ得る先端技術や、宇宙・サイバー等の比較的新しい領域における深刻な加害行為に用いられ得る先端技術などが挙げられる。

② 我が国の国民生活や経済活動に甚大な被害を生じさせる手段となり得る技術

 その威力の大きさゆえ、我が国に対して用いられれば深刻な被害を防ぐことが容易でない技術がこれに該当する。例えば、先端技術か否かを問わず、大量破壊兵器への転用が可能な核技術などが挙げられる。

(2)産業の発達に及ぼす影響等の考慮

 前節でも述べたとおり、法第70条第1項は、「公にすることにより外部から行われる行為によって国家及び国民の安全を損なう事態を生ずるおそれが大きい発明」であっても、一律に非公開とはせず、「保全指定をした場合に産業の発達に及ぼす影響その他の事情」を考慮し、適当と認められる場合に限り、保全指定をすることとしている。

 ここでいう「産業の発達に及ぼす影響」の内容としては、前節(2)で述べたように、①特許出願人を含む当該発明の関係者の経済活動に及ぼす影響、②非公開の先願に抵触するリスクに関して第三者の経済活動に及ぼす影響及び③我が国におけるイノベーションに及ぼす影響という3つの観点から総合的に考慮する必要がある。

 特に、今後民生分野の産業や市場に幅広く展開され、発展していくような発明については、保全指定をして発明の内容の開示や実施を制限することが我が国の経済活動やイノベーションへ支障を及ぼしかねないことに十分留意する必要がある。

 なお、法第70条第1項の「その他の事情」としては、例えば、対象となる発明の管理状況等、保全指定の実効性に関わる事情が想定される。すなわち、国家及び国民の安全を損なうおそれが大きく、かつ、産業の発達に及ぼす影響が少ない場合であっても、情報が既に広く知られており、保全の実質的な意義が小さい場合には、保全指定をすることが適当とは認め難い。

第3節 その他の基本的留意事項

(略)

第2章 特定技術分野に関する基本的な事項

第1節 特定技術分野に関する考え方

(1)特定技術分野の位置付け

 「特定技術分野」とは、「公にすることにより外部から行われる行為によって国家及び国民の安全を損なう事態を生ずるおそれが大きい発明が含まれ得る技術の分野として国際特許分類又はこれに準じて細分化したものに従い政令で定めるもの」をいう(法第66条第1項)。

 最終的に保全指定の対象となるのは、特許出願に係る明細書等に記載された個々の具体的発明であるが、それは、前章第2節で述べたとおり、我が国の安全保障上極めて機微な発明を前提にしつつ、産業の発達への影響等も踏まえて選定されることとなる。そこで、そうした条件を満たし得る発明をあらかじめ技術分野という角度から類型化して国際特許分類(IPC=International Patent Classification)の形で示し、特許庁長官が行う第一次審査において定型的な形で審査を可能にさせるとともに、特許出願人の予見性を確保するのが、特定技術分野の役割である。保全指定の対象となる発明を選定するに当たり、年間約30万件に及ぶ特許出願の全てを内閣総理大臣の保全審査に付することとすれば、安全保障上の機微性とは関連しない発明も含め、全ての特許出願に係る特許手続を遅延させることになりかねないことから、法第66条第1項は、まずは特許庁長官において、特定技術分野に該当するものを定型的に選別し、選別されたものだけを内閣総理大臣に送付して保全審査に付すという二段階審査の仕組みを採用している。

 また、法第66条第1項本文によって保全審査に付される発明は、保全指定前における外国出願の禁止(以下「第一国出願義務」という。)の対象となることから(法第78条第1項)、特定技術分野は、第一国出願義務の範囲を絞り込む役割も担っている。

(2)特定技術分野を定める際の基本的な考え方

 特定技術分野を定めるに当たっては、真に保全指定の対象となる発明が含まれ得る領域を選定する必要がある。どのような発明が保全指定の対象となるかについては、前章第2節で述べたとおりであり、そうした発明が含まれ得る技術分野を特定技術分野として選定していくこととなる。すなわち、保全指定の対象が、経済活動やイノベーションへの影響を考慮して選定されることを踏まえて、特定技術分野の選定においても、国家及び国民の安全を損なう事態を生ずるおそれが大きい発明が含まれ得る技術分野であるかという観点だけでなく、経済活動やイノベーションへの影響も考慮する必要がある。

 特定技術分野は、特許出願人に明確な形でなければならず、かつ、特許庁長官による迅速な審査を可能にさせるものでなければならない。これらを踏まえ、法第66条第1項本文において、特定技術分野は国際特許分類又はこれに準じて細分化したものに従い定めることとしている。すなわち、国際特許分類は、国際的に統一された特許分類としてその定義が公表されているものであり、かつ、現行の特許実務上、特許出願が受理されると、まず、記載されている発明に国際特許分類を付与する作業が行われていることから、これを用いて特定技術分野を定めることとしている。

 国際特許分類をどの程度細分化した上で定めるかという点については、広く定めるほど、保全指定の対象となり得ないような発明が多く保全審査に付されるとともに、第一国出願義務の対象となり、多くの特許出願人に影響が及ぶこととなる一方、特定技術分野を詳細に細分化した上で示せば安全保障上の問題が生じ得るため、そのバランスに留意しながら個々の技術分野ごとに検討する必要がある。

(3)「国際特許分類又はこれに準じて細分化したもの」について

 国際特許分類は、安全保障上機微な発明の選別を意図して作られたものではないため、本制度における保全審査の対象となる発明の絞り込みという観点から、必要があれば国際特許分類に準じて細分化して定めることとする。この細分化は、国際特許分類と同様に、具体的で明確なものでなければならず、かつ、明細書等の記載から判断が可能で、特許出願人にとっても該当するか否かを判別できる形で政令において定める必要がある。

(4)特定技術分野の見直し

 先端技術は日進月歩で変わるものであることに鑑み、内閣総理大臣は、関係行政機関とも連携し、状況変化に応じて機動的に特定技術分野の見直しを行う。

第2節 付加要件に関する考え方

 法第66条第1項本文は、内閣総理大臣への送付事由、つまり保全審査に付する事由として、特定技術分野に属する発明という要件に加え、「その発明が特定技術分野のうち保全指定をした場合に産業の発達に及ぼす影響が大きいと認められる技術の分野として政令で定めるものに属する場合にあっては、政令で定める要件に該当するものに限る」という形で、一部の特定技術分野にのみ適用される付加的な要件を規定している。以下、ここでいう「政令で定める要件」を「付加要件」と呼ぶこととする。

 前章第1節で述べたとおり、安全保障上極めて機微な発明について保全指定をし、情報流出の防止に万全を期することは、安全保障を確保する上で重要なことであるが、その一方で、保全指定という措置は、経済活動やイノベーションへの影響を伴うものである。典型例としては、前章第2節(2)で述べたとおり、今後民生分野の産業や市場に幅広く展開され、発展していくような発明を保全指定の対象とすることの弊害が挙げられる。したがって、そのような発明は、仮に保全審査に付されたとしても、産業の発達に及ぼす影響との総合考慮の中で保全指定の対象から除かれることとなるが、そもそも一律に産業に与える弊害が著しく、最終的に保全指定をする余地のない発明のみが含まれる技術分野であれば、初めから特定技術分野として選定するべきではない。

 他方で、宇宙・サイバー等の領域における技術など、民生分野の産業や市場に展開される可能性を含んだ技術の分野であっても、例えば、当初から防衛・軍事の用に供する目的で開発された場合や、国の委託事業において開発された場合など、発明の経緯や研究開発の主体といった技術分野以外の角度からの絞りをかければ、軍事・防衛に特化した技術領域に近づき、あるいは民間の経済活動の制約という要素が一定程度軽減されること等により、保全指定をすべき発明が含まれ得る領域を限定的に抽出できるものもあると考えられる。そこで、技術分野以外の角度からもう一つの絞り込みを付加することにより、その条件を満たす場合に限って適用される特定技術分野を定める途を開くのが、付加要件である。

 すなわち、特定技術分野は、付加要件がないものと、付加要件があるものの2種類に分かれる。

 したがって、付加要件を定めるに当たっては、その条件を加味すれば、安全保障上の機微性が高まり、あるいは産業の発達に及ぼす影響が低下し得るなど、両要素のバランスが変化することで、本来であれば特定技術分野として掲げるのに必ずしも適さない技術分野が、その条件の下であれば特定技術分野として掲げられるようになると言い得る条件を見出して、これを定めることとなる。

 また、付加要件は、一定の特定技術分野に該当する発明について、それが保全審査に付されるか否かのみならず、第一国出願義務の対象となるか否かをも画するものであるから、特許庁にとっても、特許出願人にとっても、該当するか否かを明確に判断できる形で政令を定める必要がある。

第3節 有識者等からの意見聴取

 特定技術分野及び付加要件を政令で定めるに当たっては、行政手続法で求められている意見公募手続を行い、広く関係者の意見・情報を公募するとともに、有識者の意見を適切に参照する。

第3章 保全指定に関する手続に関する事項

第1節 保全審査

(略)

第2節 保全指定の期間の延長と解除

(略)

第4章 その他特許出願の非公開に関し必要な事項

第1節 保全対象発明の実施の制限

(略)

第2節 保全対象発明の開示禁止

(略)

第3節 保全対象発明の適正管理措置

(略)

第4節 発明共有事業者の変更

(略)

第5節 外国出願の禁止

 法第78条第1項は、日本国内でした発明であって公になっていないものが、法第66条第1項本文に規定する発明、すなわち、日本で出願すれば保全審査の対象となる発明である場合について、第一国出願義務を定めており、そのような発明については、外国で特許出願をするより前に、まず日本で特許出願をしなければならない。

 「日本国内でした発明」とは、特許出願人の本店所在地等がどこであるかにかかわらず、発明地が日本国内であることを意味し、複数国にまたがって研究・開発が行われた場合には、発明の完成地が発明地となる。

 「外国出願」とは、外国における特許出願及び特許協力条約(PCT=Patent Cooperation Treaty)に基づく国際出願をいい、政令で定めるものを除くものとされている。「政令で定めるもの」として、例えば、特定の外国政府との間で非公開の特許出願を相互に受け入れ合うことや、特定の条件下でなされた発明について、発明の秘密に関する自国の法律を適用してはならないこととする国際約束が締結されている場合における当該約束に従った当該国への外国出願などが考えられる。

 日本で出願せずに初めから外国で出願しようとする者は、出願書類に記載する発明がこの第一国出願義務の対象となる発明か否か自ら判断する必要があるが、法第79条第1項において、事前に特許庁長官にその確認を求めることができる仕組みが設けられている。さらに、この事前確認制度には、たとえ保全審査の対象となる発明であっても、内閣総理大臣が「国家及び国民の安全に影響を及ぼすものでないことが明らかである」と認めた場合には、禁止の例外として外国出願を許容する仕組みも設けられている。特許庁長官及び内閣総理大臣においては、制度の趣旨を踏まえ、迅速に回答するよう努める必要がある。

第6節 損失の補償

 法第80条第1項は、損失補償の相手を「保全対象発明(保全指定が解除され、又は保全指定の期間が満了したものを含む。)について、法第73条第1項ただし書の規定による許可を受けられなかったこと又は同条第4項の規定によりその許可に条件を付されたことその他保全指定を受けたことにより損失を受けた者」と規定していることから、同項の損失補償を受けられるのは、指定特許出願人又は指定特許出願人であった者である。

 また、補償の範囲については、「通常生ずべき損失を補償する」と規定されており、これは一般的に、相当因果関係がある損失を意味するものである。補償を受けるには、実際に「損失を受けた」ことが必要である。

 補償の対象となり得る損失としては、例えば、実施が不許可とされて保全対象発明を実施できなかったことにより回収できなかった開発・設備投資費用や通常得られるはずであったのに得られなかった利益等が想定される。損失の算定は、発明の内容や不許可とされた発明の実施の態様等によって様々であるが、請求人の予見性を高めるため、補償の対象となり得る損失例について、担当部局において別途Q&A等の形で示すこととする。

 損失補償を受けようとする者は、補償請求の理由や補償請求額の総額及びその内訳、算出根拠等を示し、その損失について補償を受けることの相当性を示す必要がある。例えば、実施の許可の申請時の事業計画等を基に補償を請求することが想定される。このとき、十分な根拠が示されていない損失については、補償の対象とならないこととなる。

 補償の請求を受けた内閣総理大臣が補償金額を算出する際には、その請求について、請求人から説明を受けるなど、十分に意思疎通を図ることが必要である。その上で、専門家の意見も聞きながら、客観性を持って妥当な金額を算出する必要がある。その際、内閣総理大臣は、請求人が過度な不利益を被ることのないよう十分配慮することが必要である。

第7節 政府内における情報の適正管理

(略)

第8節 本制度の周知・広報及び情報提供

 本制度の趣旨や内容、具体的な手続等については、担当部局において、Q&A等の策定を含め、特許出願に携わる関係者に対する十分な周知・広報及び情報提供に努めることとする。

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