2025年12月28日 (日)

第521回:2025年の終わりに(人口知能(AI)本部で決定されたAI基本計画、知財本部の生成AI透明性プリンシプル・コード案に関する意見募集他)

 今年も年末となったので各省庁での政策検討に関するまとめを書いておく。

 まず、新たに作られた人工知能(AI)戦略本部で、年末にかけて急ピッチで検討が行われ、12月19日に開かれた第3回の会合でAI基本計画が決定され、その後に閣議決定がされた。

 このAI基本計画(pdf)概要(pdf)も参照)は、日本政府としてAIの利活用と開発に力を入れるとするもので、規制寄りなことは特に書かれていないが、政府の施策について書かれた第3章の第3節(1)(第11ページ)に具体的取組の項目として、

①技術開発の進展とともに、ディープフェイクなどAIを悪用した問題が顕在化している。これらや国民生活への影響について、AI法第16条に基づく調査研究等を実施し、リスクへの対応等を適切に行う。【◎内閣府、関係省庁】

というものがあり、知的財産との関係については、同じく第3章の第4節(2)(第13ページ)に、

③適切な知的財産の保護と利活用につながる透明性の確保を図るとともに、コンテンツホルダーへの対価還元等の推進や、生成AIによる知的財産権侵害対策に関する相談体制の整備、生成AIと知的財産権に関する分かりやすい情報提供等の取組を進める。【◎内閣府、関係省庁】

④AI利活用により生成された製品・サービスを巡る知的財産権について、その在り方を検討する。【◎内閣府、経済産業省、関係省庁】

というものが含まれている。

 第518回で取り上げた通り、性的ディープフェイクに関する政府の検討について現時点で明確な方向性が出ているという事はないが、上のAI基本計画で書かれている通り、ディープフェイク問題についてはAI法に基づく調査等がさらに行われ、検討が続けられて行く事になるのだろう。

 しかし、この様に昨今の技術の発展で大いに盛り上がりを見せているAIに関する検討を除くと、首相の交代で方向性について多少様子見が行われているのか、その他の知財政策に関してなど全体的に少し停滞気味に見え、現時点で来年の法改正に関するパブコメが行われているという事もない。

 知財本部では、構想委員会が開催されて知財計画2026に向けた検討が開始され、前回私が提出した意見を載せたが、今現在1月7日〆切で知財計画パブコメが行われているという状況である。

 上のAI基本計画の記載と対応するものだろうと思うが、知財本部では10月から12月にAI時代の知的財産権検討会も開かれており、そこでの検討から生成AIの適切な利活用等に向けた知的財産の保護及び透明性に関するプリンシプル・コード(仮称)(案)(pdf)に関する意見募集が1月26日〆切で掛けられている。

 このプリンシプル・コード案は、生成AI事業者に対応が求められる原則として、(1)ウェブサイトで使用モデル・学習データの概要や知的財産保護原則等の情報を公開する事、(2)裁判手続等で権利者から求められた場合に学習データに対象URL等の情報が含まれているかを開示する事、(3)裁判手続等で生成した者から求められた場合に学習データに対象URL等の情報が含まれているかを開示する事、という3つの原則を示すものである。

 このように、そのまま強制力を持つ形ではなく、透明性に関する基本的な原則を示して民間の自主的な取り組みを促す事は悪い事ではない。(さらに検討すると書かれている事項もあり、私もパブコメを出すかどうか考えるが、意見を出すにしてもここに載せるほどの事はないように思っている。)

 AIに関する検討ということでは、特許庁の産業構造審議会・知的財産分科会の下の特許制度小委員会意匠制度小委員会でも生成AIと特許や意匠との関係について検討が続けられているが、今の所結論が出ている様子はない。

 ここで検討内容の詳細について述べる事はしないが、最近11月28日に開かれた第55回の議題で書かれている通り、特許制度小委員会の方では、国境を跨いで行われるインターネットを通じた特許侵害の問題や知的財産の侵害抑止策について、同じく12月15日の第21回の議題の通り、意匠制度小委員会の方では、仮想空間における意匠保護についても議論がされている。なお、ここではリンクを張るだけにするが、他にも特許の審査基準専門委員会ワーキンググループで審査基準の改訂などが議論されている。

 商標制度小委員会は、6月13日に第12回が開かれ、インターネットを通じた侵害、仮想空間における商標保護、生成AIとの関係が議論されている。同じく検討内容の詳細については省略するが、その資料にも書かれている通り、商標法に関する検討ではこれらの論点について現行の商標制度で一定の整理がなされていると言えるという考えでまとまっている様であり、その後商標制度小委員会は開かれていない。

 特許関係だと、内閣府の秘密特許(特許出願非公開)制度に関するホームページで、特許出願の非公開に関する制度における実施状況(2024年度版)(pdf)が公開されており、件数以外の詳細は不明だが、2025年3月までの秘密指定件数は0件と分かる。

 経産省の不正競争防止小委員会は、3月25日の第28回で、営業秘密管理指針の改訂と合わせ、前回までにいただいた御指摘事項等に係る対応について(pdf)という資料で、生成AIと不正競争防止法による保護の関係について、

肖像と声のパブリシティ価値に係る現行不競法における考え方の整理

●現行不競法上、俳優や声優等の肖像や声等の利用に関しては、周知表示混同惹起行為(不競法第2条第1項第1号)、著名表示冒用行為(同項第2号)、誤認惹起行為(同項第20号)、信用毀損行為(同項第21号)において、事案によっては該当し得る。

●ただし、実態として、①肖像や声の周知の程度、②肖像や声の利用形態等の観点により、個別に判断をしていく必要がある。

という現行法で当然あり得る整理を示した後は開催されていない。

 文化庁では、文化審議会・著作権分科会の下で、政策小委員会法制度に関するワーキングチーム使用料部会が開かれている。前の2つでは、DX時代の対価還元策、実演家及びレコード製作者に対するレコード演奏・伝達権の導入の是非、動画や音声を含む今後のデジタル教科書への対応といった事が検討されているが、まだ関係者ヒアリングの段階で明確な方向性が出されているという事はない。使用料部会では、未管理著作物裁定制度の手数料等に関する政令改正や著作権者不明等の場合の利用に係る補償金の額の審議などが行われている。

 総務省では、引き続き、安心・安全なメタバースの実現に関する研究会デジタル空間における情報流通の諸課題への対処に関する検討会とが開かれ、総務省のリリース1にある通り、それぞれ9月に今年の(中間)報告書が取りまとめられているが、特に問題のある内容が含まれているという事はない。今の所そこまでおかしな規制論を仕掛けて来る様には思っていないが、情報流通対処検討会の下に新しく11月から青少年保護ワーキンググループが設けられ青少年保護の観点からの検討も始められている事は若干注意しておいてもいいかも知れない。

 知財とは全く異なる文脈から検討されている事から今まで触れて来なかったのだが、サイトブロッキングとの関係で今現在最も要注意なのは、総務省のオンラインカジノに係るアクセス抑止の在り方に関する検討会だろう。最近の12月22日の第11回の資料の中間論点整理を踏まえた法的課題の検討(pdf)でも、仮にブロッキングを行う場合には法的安定性を確保する観点から何らかの法的担保が必要でより具体的な検討が必要とされており、すぐに結論が出るという事はなさそうだが、オンラインカジノ対策としてのサイトブロッキングの検討は続くと見えるのである。(知財や表現規制とは全く別の文脈に基づく検討であり、よほどの事がない限り私からとやかく言うつもりはないが、どの様な文脈から検討するにしてもサイトブロッキングは無意味であり、オンラインカジノ対策でも他のやり方に注力した方がよほどよいだろうと私は思っている。)

 そして、農水省では、5年毎に作っている農林水産省知的財産戦略2030版(pdf)が6月に公開されている。基本的には今までの検討の延長だと思うが、種苗法の改正検討事項として、優良品種の海外流出・無断栽培の抑止のため、育成者権の存続期間の延長や無許諾の輸出目的保管の刑事罰化を検討するという事が書かれている。優良品種の管理・活用のあり方等に関する検討会が6月の中間報告以降も開催されて検討が続けられているのではないかと思うが、この検討会は非公開のため詳細は不明である。また、農業資材審議会・種苗分科会の方ではいつも通り種苗法の品種登録における重要な形質に関する諮問が行われている。

 最後今年も例年通りの口上で締め括るが、政官業に巣食う全ての利権屋に悪い年を、そして、このブログを読んで下さっている方々に心からの感謝を。

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2025年10月26日 (日)

第518回:AI本部やこども家庭庁の資料の記載と性的ディープフェイクに関する今後の調査

 私が注目している事の1つにAIを巡る政策動向があり、知財とは離れるが、中でも性的ディープフェイク問題について最近話題に上る事が多くなっていると思うので、政府の資料でこの問題についてどの様な事が書かれているのかをここでまとめておく。

 去年までの段階でも、AI法に基づく新AI本部の前の旧AI戦略会議などで多少ディープフェイクについて触れられていた事はあったが(AI法については第510回参照、例えば、知財との関係で知財本部で検討されていた事について第495回参照)、性的ディープフェイクに関する事が政府レベルで取沙汰される様になったのは、より最近の事である。

 まず、こども家庭庁に設けられている検討会の1つ、青少年インターネット利用基本計画や青少年の生成AI利用の一般論などについて議論している、青少年インターネット環境の整備等に関する検討会の下に設置された、インターネットの利用を巡る青少年の保護の在り方に関するワーキンググループが、今年に入ってから、急に性的ディープフェイクの事を取り上げ出し、結果として2025年8月7日に取りまとめられた課題と論点の整理(pdf)の基本的な方針に関する部分の第11ページに以下の項目が入った。(なお、他の部分についても言いたい事が全くない訳ではないが、ここではひとまずおく。)

(青少年被害に対する厳正な対処)
・「現に青少年が直面している新しい課題、例えば、闇バイト、セクスティングを含む性被害、いじめ、誹謗中傷、ヘイト、偽・誤情報、生成AI技術の悪用等への対応については、青少年を守るためしっかりと対策を講ずることが不可欠である。特に、生成AI技術を悪用した児童の性的ディープフェイクについては、関係府省庁が緊密に連携して厳正な取締り、被害者の保護及びサイト管理者等への違法な情報の削除依頼の強化等を講ずる。

 また、その後の課題と論点に関する部分の第17ページで、さらに以下の事も書かれている。

⑥横断的リスクへの対応について(生成AI等)
(課題)
〇生成AIやVR等の先進的技術を利用した問題については、現状の把握ができていないか、現状の把握が出来たとしても、対応ができていない場合が多い。
〇特に、生成AI技術を悪用した児童の性的ディープフェイクについては、「卒アル問題」とも言われているように、誰でも簡単に被害者にも加害者にもなってしまう。また、現実に被害者がいるにも関わらず、規制の実効性が不明瞭である。

(論点)
・例えば、生成AI技術を悪用した実在する児童の性的被害等、ディープフェイクに係るリスクや被害について、政策的なレベルでの認知が不十分である中、状況把握を実施することをどう考えるか。
(◎こども家庭庁、警察庁、文部科学省)

・「人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律案」の附帯決議に対する対応についてどう考えるか。
(人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律案に対する附帯決議)
〇衆議院内閣委員会
四 AI技術を悪用したディープフェイクポルノ、とりわけ児童の画像等を使用したものへの対策については、各種法令の適用による厳正な取締り及び被害者の保護を行うとともに、サイト管理者等への違法な情報の削除依頼を強化すること。また、同対策の実効性を高めるための方策の在り方について検討し、その結果に基づいて必要な措置を講ずること。
〇参議院内閣委員会
五 AI技術を悪用したディープフェイクポルノ、取り分け児童の画像等を使用したものについての対策として、各種法令の適用による厳正な取締り及び被害者の保護を行うとともに、サイト管理者等への違法な情報の削除依頼の強化に加え、被害者による告訴等の負担軽減、被害発生防止に向けた教育啓発等の措置を講ずること。また、対策の実効性を高めるための方策の在り方について検討し、その結果に基づいて必要な対応を図ること。
(◎内閣府、警察庁、こども家庭庁、総務省、法務省、経済産業省)

 ここに明記されている事から見ても、このこども家庭庁の検討はこの衆参の附帯決議を受けたものであり、政府として現時点で考えられることをまとめたものと思われる。加えて、8月7日に開催されたワーキング会合の第8回では生成AIによる青少年のディープフェイクを取り締まろうとする青少年条例に基づく鳥取県の要望書(pdf)も参考資料としてつけられており、この様な地方の動きも影響を与えたのだろう。

 そして、そのすぐ次の日の8月8日には上の検討会の第65回でワーキングの検討結果が報告され、同日設置されたインターネットの利用を巡る青少年の保護の在り方に関する関係府省庁連絡会議でその工程表の作成が開始され、9月29日の関係府省庁連絡会議の第2回で、上の「⑥横断的リスクへの対応について(生成AI等)」に関する調査検討について、2026年7~9月で中間とりまとめ、来年度末の2027年3月にとりまとめという予定が書かれた工程表(pdf)が公表された。

 時間的には若干前後するが、9月12日に開催された新AI本部(正式名称は「人工知能戦略本部」)の第1回AI基本計画の骨子(pdf)とともに公表されたAI法に基づく調査研究等について【報告】(pdf)という資料で、性的なディープフェイクを生成するAIに関する現段階での調査結果の報告として、

・AI技術の進歩により、性的ディープフェイクが容易に生成可能な状況
・関連NPO法人による被害認知件数の増加などを踏まえると、更なる拡大が懸念
・関係省庁と連携し、引き続き実態把握に努めるとともに、必要な対策を検討

という、当たり前と言えば当たり前の方向性が書かれている。

 9月17日には、新AI本部の下、旧AI戦略会議のメンバーを拡大する形で新たに立ち上げられた有識者会議のAI専門調査会(正式名称は「人工知能戦略専門調査会」)の第1回が開かれて同じ資料が紹介されており、10月17日には、各省庁の官僚がメンバーとなっているAI戦略推進会議の第1回が開かれている。知財本部と同様だろうが、AIが絡む問題についてこういったより下位の会議でより詳細な検討がされて行くという事になるのだろう。

 今後、性的ディープフェイク問題について、主にこども家庭庁の検討会で議論が進むのか、それともAI本部中心で議論がなされて行くのか、また、政策の具体的な方向性も不明だが、公明党との連立解消後に日本維新の会とともに発足した高市政権もやはり自民党中心の政権であって、活用との間でバランスを取ろうとする今のAI関連政策について大きな方針変更があるとは考えがたく、また、問題の性質から多くの関係省庁が絡んで来るのは間違いないので、そこまで偏った検討は行われないものと期待している。

 社会問題化していることから見ても、この段階で政府レベルで検討する事自体間違ったこととは思わないが、この様な性的ディープフェイクが(一般的なディープフェイクまで広げて考えてもよいが)、児童ポルノ規制や、一般的な猥褻物規制や、知財法の文脈で検討されるべきものでない事は十分に認識して検討を進めてもらいたいと私は思っている。私は現行のこれらの規制すべてに問題があると思っているが、そのことをひとまずおくとしても、性的ディープフェイクの問題は、児童に限られるものではないし、今現在猥褻と考えられるものを取り締まればよいという話でも、知財権の一種とも考えられているパブリシティ権によって著名性に対するフリーライドを止めればよいという話でもない筈である。

 昔からあったコラージュなどとの比較とともに、生成AI技術の発展によって具体的にどのような問題が新たに生じているのかを正しく把握した上で、性的ディープフェイクと言われるものの頒布や譲渡を広く誹謗中傷や肖像権侵害の様な人格権侵害の類型として位置づけて対策を考えるのはあり得る事と私にも思える。ただし、如何なる政府検討においても過度な規制とならないよう細心の注意が払われなくてはならないのは当然の事であり、この様な問題も含めAI政策に関する動向は十分注視して行くべきだろう。

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2025年6月29日 (日)

第514回:主要政党の2025年参院選公約案比較(知財政策・情報・表現規制関連)

 他の話をする前に、7月3日公示、7月20日投開票で今年も参議院選挙が予定されており、主要政党の公約案も大体出揃ったので、その中でも知財政策・情報・表現規制関連の項目を見ておきたいと思う。ただ、あらかじめ書いておくと、去年の衆院選の時とほぼ同様で、いずれの政党もこれらの政策に関する事で何か目新しい事を書いているという事はない。(2024年10月の衆院選時の公約比較は第503回参照。なお、今まで公示日前後で変わったのを見た事はほぼないが、いずれも公示日以降に公開されるものが正式な公約であり、現時点ではあくまで公約案の比較である。)

<自民党>
◯官民データの利活用を強力に推進する法案の次期通常国会提出、個人情報保護制度のアップデート、「世界一AIフレンドリーな国」の実現、デジタル人材育成等を進め、経済成長と生産性向上を実現します。

◯コンテンツ産業活性化による地方創生に取り組むとともに、放送コンテンツの更なる振興、海外展開拡大に向け、省庁や企業などによる協議会を新設し、「放送コンテンツ産業競争力強化促進プラン(仮称)」を実行します。

◯ネット上の偽・誤情報や誹謗中傷から国民を守るため、SNS等での違法・有害情報について、法令等に基づく規制や削除、対策技術の研究開発など、表現の自由を考慮しつつ、リテラシー向上や相談体制充実も含めた総合的な対策を進めます。

◯マンガ・アニメ・ゲーム等のコンテンツ振興、文化資源の継承・磨き上げ、観光促進、スポーツの産業化により、文化芸術・スポーツへの投資を増やし、地域を活性化します。

<公明党>
◯SNS等を悪用した闇バイトや詐欺広告、偽アカウント対策として、広告主による本人確認書類提出の義務化、プラットフォーム事業者による広告内容の調査・監視体制の強化とともに、違反時の罰則強化を図ります。

(政策集より)
◯AIイノベーションと著作権をはじめ知的財産権の適切な保護との両立を図る「知財エコシステム」の実現に向けて、AIの各事業者や権利者等が行う法・技術・契約の適切な組合せによる対応を図るとともに、俳優や声優等の肖像や声も含め必要な検討を進めます。

◯AIによる偽・誤情報の技術的対策として、自動検知やファクトチェック等「ホワイトなAI技術」とともに、情報コンテンツに発信者情報を付与する「OP(オリジネーター・プロファイル)」等の「発信者の実在性と信頼性を確保する技術」の開発・導入に向けた支援を推進します。特に「OP」については、主要ブラウザの国際標準機能やプラットフォームへの搭載をめざし、官民が連携して推進します。

◯AIの正誤を判定するソフトウエア技術の開発・実装、民間の研究開発の促進、大学や研究機関、ファクトチェック組織への必要な支援及び連携、メディア企業との協力体制の構築、国際連携の強化など総合的な取り組みを進めます。また、インターネット上で正しい情報をどう仕入れるかについて、情報発信者のレイティング(信頼性評価)の取り組みも検討します。

◯ネット上でのフィルターバブル、エコーチェンバーといったAIによる情報偏食や偽・誤情報の拡散は、社会、特に選挙において深刻な悪影響を及ぼしています。この「情報的健康」を損なう問題に対し、ユーザーが多様性や信頼性を重視した情報選択ができるよう、民間プラットフォームによる環境整備を促すガイドラインの策定やビッグテック外交などの対策を検討します。

◯AIのイノベーション促進とリスク対応の両立を目指します。特に、生成AIモデルの透明性・信頼性の確保に向けた研究開発や、大学・研究機関等の緊密な連携を促進することにより、学生を含むAI分野の若手研究者の循環的な交流・育成を促すネットワークの強化に取り組みます。また、あらゆる産業分野でのAI利活用の拡大を図るとともに、AI法に基づき安全で信頼できるAI活用を推進します。

◯知的財産の創出・活用の促進や、我が国の研究開発拠点としての立地競争力の強化に向けて、イノベーションボックス税制の着実な執行と周知・広報に取り組みます。

◯日本を取り巻く経済安全保障の脅威が、厳しさを増す中で、我が国の先端技術や産業を守り抜き、新たな経済成長を実現するため、経済安全保障推進法に盛り込まれた①重要物資の供給体制の強靱化②電力や通信など基幹インフラ設備の安全性等の確保③我が国の先端重要技術の開発支援の強化④特許出願の非公開による機微技術の流出防止――の4つの柱からなる諸施策を着実に実行し、規制による安全保障の確保と自由な経済活動との両立を図りつつ推進します。

◯違法オンラインカジノ対策のため、サイトの開設運営行為やリーチサイトの投稿の禁止、違法性の周知徹底等を盛り込んだ新たな法律を早期に施行するなど、実効性ある対策を推進します。あわせて、刑法など法令に違反する決済代行業者等の取り締まりを強化します。

◯違法オンラインカジノへのさらなる対応に向けて、無料版サイトへのアクセス対策に取り組むとともに、憲法の通信の秘密との関係等を整理しつつ、必要に応じてブロッキングの導入を検討するなど、対策を強化します。

◯インターネット上の誹謗中傷や偽・誤情報を根絶かつ適切に対処するため、SNSなどにおける差別的な書き込み、画像や個人情報を悪用等した人権侵害情報については、相談体制の充実や速やかに削除できるようにするなど、引き続き実効性のある対策に取り組みます。また、ネットトラブル等の発生を未然に防ぐため、子どもから高齢者等までへのネットリテラシーの質を高める取り組みを推進します。

◯文化芸術・スポーツのソフトパワーによる平和交流を進めるため「クリエイター支援基金」を活用して次代を担う次代を見据えてアニメ、ゲーム、映画、舞台、ダンスなどのクリエイターやアーティストの育成や、文化施設の機能強化に取り組みます。クリエイティブ産業・スポーツ産業の戦略的海外展開の促進、国際水準の制作を実現する支援、プラットフォーマー等との契約交渉支援など文化芸術・スポーツによる経済好循環のエコシステムを構築します。

<日本維新の会>
(個別政策集より)
◯218.AI技術の積極的な活用を推進し、政府や自治体、教育現場などさまざまな分野で導入を支援します。また、AI産業戦略を国家戦略として取り組み、基盤モデル開発支援や国際ルール作りに積極的に関与しリードします。

◯220.生成AIの技術開発の速さや適用範囲の広さを踏まえ、これからのAI時代にふさわしい「アジャイル・ガバナンス」をベースにした制度設計を取り入れ、生成AIに関する事業者の自主的取り組みやアカウンタビリティを促します。また、デジタルプラットフォーマーに対しては、その社会的な影響の大きさに鑑み、生成AIに関する各種リスクに対する安全性や透明性を確保するための規律を設けます。

◯221.偽・誤情報の拡散、サイバー攻撃、人権侵害や著作権侵害といった、生成AIが及ぼす重大なリスクに対しては、世界共通の課題として国際的な枠組みの下で議論を主導し、国際連携を強化します。加えて、覇権主義的な国家による、生成AIを使った情報戦やサイバー戦に対しては、わが国の民主主義や基本的人権を守るため、能動的サイバー防御も含めた情報戦対策と必要な法整備に向けた検討を行います。

◯284.表現の自由を最大限尊重し、マンガ・アニメ・ゲーム等の内容に行政が過度に干渉しないコンテンツ産業支援を目指します。MANGAナショナルセンターの設置による作品アーカイブの促進、インバウンドを意識した文化発信やクリエイターの育成支援などを行います。

◯414.表現の自由に十分留意しつつ、民族・国籍を理由としたいわゆる「ヘイトスピーチ(日本・日本人が対象のものを含む)」を許さず、不当な差別のない社会の実現のため、実効的な拡散防止措置を講じます。

◯415.SNSなどにおける誹謗中傷問題について、表現の自由に十分に配慮しつつ、中傷被害者の救済が迅速かつ確実に実施されるよう、国、自治体、事業者といった関係者間の連携強化を促します。また、民事裁判手続きの負担軽減策や、放送事業者による出演者からの相談体制整備など、総合的な被害者支援策を実施します。

<国民民主党>
(政策各論より)
◯ディープフェイク規制法(仮称)の制定
 国際的な連携のもと、技術革新と人権・民主主義のバランスを確保しつつ、AIで生成された偽の画像、映像、音声等のディープフェイク被害から国民を守る実効性ある法制度の早期整備をめざします。また、無断AI学習や見たくない広告が配信される課題について、表現の自由に抵触しない範囲において、受信や利用を拒否するオプトアウト権の検討等、データの自己監督権に関する議論を進めます。

◯知的財産戦略の推進
 特許や著作権等、知的財産を守り積極的に活用するため、国際的な知的財産戦略を推進します。また、國酒をはじめとする日本の食文化やアニメや漫画、デザイン等のコンテンツ(クールジャパン)を海外に積極的に展開し、ソフト分野でも稼ぎ、雇用を増やす産業構造をつくります。

◯災害時のデマ情報対策
 防災アプリ等を活用してできるだけ正しい情報が提示されるようにすることで、災害時においてSNS上で発生するデマ情報への対策に取り組みます。過去の災害でも発生したインプレッション稼ぎのデマ情報に適切に対応できるよう取り組みます。

◯主体的・戦略的な経済外交
 日本の「モノ」「サービス」を海外に広める取組を徹底して行います。特に鉄道や発電所、上下水道等、日本が誇るインフラ設備の輸出も官民共同で行い、日本の産業の振興と世界への貢献を両立させる取組を行います。また、対日投資促進やインバウンド需要拡大をめざし、外国法人との対話力強化や多言語での情報発信強化等に取り組みます。自由貿易協定については、TPP等の経済連携協定の効果を検証し、自由貿易の重要性を踏まえつつ、自動車や農業分野等、日本の国益を守ることを最優先に位置付け、主体的・戦略的な経済外交を推進します。

◯種子の確保
 種子の確保は安全保障の基本です。種子の保存、新品種の育成について国が責任を持って取り組むための法律を作ります。

<立憲民主党>
(主な政策項目より)
◯「ヘイトスピーチ解消法」における取り組みを拡大し、国際人権基準に基づいて、人種などを理由とする差別的言動を禁止する法律の制定など、あらゆる差別撤廃に向けた動きを加速させます。

◯インターネットやSNS上の差別や誹謗中傷、人権侵害等への対策を強化します。

(政策集より)
◯特定秘密保護法については、民意を顧みずに強行採決された経緯にも鑑み、国による情報の恣意的・不適切な秘匿を防止するため、廃止します。廃止されるまでの間は、国民の知る権利を守るため特定秘密保護法を見直し、国会や第三者機関の権限強化も含め行政に対する監視と検証を強化します。具体的には、当該行政機関の恣意性を排除するため、内閣府に設置する第三者機関(情報適正管理委員会)が指定基準を定め、基準非該当の秘密指定を知った秘密取扱者は、委員会への通知義務を負うこととします。

◯個人の情報に関する権利と利益の保護を図るため、個人情報保護法など国内関連法をEU一般データ保護規則(GDPR)など海外の法制度を基準に改正します。自己に関する情報の取り扱いについて自ら決定できる権利(自己情報コントロール権)、本人の意思に基づいて自己の個人データの移動を円滑に行う権利(データポータビリティ権)、個人データが個人の意図しない目的で利用される場合等に当該個人データの削除を求める権利(忘れられる権利)、本人の同意なしに個人データを自動的に分析又は予測されない権利(プロファイリングされない権利)を法律上、明確化します。

◯インターネットのターゲット広告、投資詐欺等に誘導する著名人のなりすまし広告の規制など、個人情報保護や広告審査基準の明確化の促進を強化します。デジタル広告、不正または悪質なレビュー、パーソナルデータのプロファイリングに基づく表示等の課題について、消費者の利益保護の観点から必要な対策を検討します。

◯誹謗中傷やフェイクニュースなど自己実現や民主主義を阻害する有害無益な情報が膨大に流通しています。インターネットやSNS上の差別や誹謗中傷、人権侵害等への対策を強化します。「表現の自由市場」に委ねるだけでは、実質的な保障に資さないことから、個々人が多様な情報にバランスよく触れることで、フェイクニュース等に対して一定の「免疫」(批判的能力)を獲得している状態を実現するため、「情報環境権」を保障し、そうした環境を積極的に作り出します。

◯インターネット・SNSの発達、DXの急速な進展が国民に数多くのメリットをもたらしている反面、個人の意思を離れたデータの収集・分析に起因した「アテンション・エコノミー」「マイクロターゲッティング」「フィルターバブル」「エコーチェンバー」といった問題が生じています。GAFAなどの巨大デジタルプラットフォーム企業に対し、データの利活用とのバランスを図りつつ、「自己情報コントロール権」に基づき、個人情報保護やセキュリティ確保の観点から、適切な規制を行います。

◯AIの発展・利活用に当たっては、規制とイノベーションのバランスが重要です。著作権や個人情報の侵害、誤情報の拡散、監視や差別につながることのないよう、倫理的な考慮や技術的な対策を講じつつ、社会的な規制のルールづくりを行います。イノベーションを育むためにデータサイエンスなどの基礎的なリテラシーとディーセントな価値観を醸成する教育及び人材育成を進め、生産性、効率性、成長率を高めることで豊かな社会づくりを牽引します。

◯先端技術や知的財産権の保護・強化を図ります。

◯文化コンテンツ産業を発展させます。

◯メディアにおける性・暴力表現について、子ども、女性、高齢者、障がい者をはじめとする人の命と尊厳を守る見地から、人々の心理・行動に与える影響について調査を進めるとともに、情報通信等の技術の進展および普及のスピードに対応した対策を推進します。

◯2016年に成立した「ヘイトスピーチ解消法」における取り組みを拡大し、国際人権基準に基づいて、人種・民族・出身などを理由とする差別的言動を禁止する法律の制定など、あらゆる差別撤廃に向けた動きを加速させます。

◯インターネットやSNS上の差別や誹謗中傷、人権侵害等への対策を強化するとともに、インターネットのターゲティング広告に関しては適切な規制を講じ、個人情報保護を強化します。

◯インターネットやSNS上の差別や誹謗中傷、人権侵害等への対策を強化します。政府は侮辱罪を厳罰化しましたが、侮辱罪での現行犯逮捕を完全には否定しないなど、表現の自由が萎縮する懸念が残りました。相手の人格を攻撃する誹謗中傷行為を刑法の対象とするため、「加害目的誹謗等罪」を創設するとともに、プロバイダ責任制限法を改正して発信者情報の開示を幅広く認めることなどを柱とする「インターネット誹謗中傷対策法案」の成立を目指します。

◯知的財産権に関する紛争処理機能を強化することで、特許紛争の早期解決を図り、知財システムの実効性を担保するとともに、新産業やベンチャー企業の創出を支援します。

◯幅広い分野で、知的財産の保護、情報セキュリティ、企業統治などを強化するとともに、通信・デジタル・クリーンエネルギー技術・宇宙などの経済分野に係る国際的なルールの形成を主導し、日本の優位性を確立するための「経済安全保障戦略」を策定し、総合的な国力の増進を図ります

◯映画や音楽、アニメ・漫画・ゲーム等の幅広い分野での振興と助成を推進します。

◯表現の自由を尊重し、二次創作分野などの発展を図る観点から、著作権法改正を含む検討を行います。

◯著作権管理団体の権利者への権利料・使用料の分配については、若手や新人のアーティスト・演者・作家などに配慮し、文化の発展に資するという法の目的に沿うよう著作権管理事業法の改正を検討します。

◯中小企業の知的財産権を活用した技術革新を促進するために、弁理士などを活用した取り組みに対する補助制度を設けるなど、支援の充実化を進めます。

◯特許や著作権など、知的財産を守り積極的に活用するため、国際的な知的財産戦略を推進します。また、日本の食文化やコンテンツを海外に積極的に展開し、ソフト分野でも稼ぎ、雇用を増やす産業構造をつくります。

<れいわ新選組>
◯以下のような売国法を廃止する
(略)
・種苗法改正(登録品種の自家増殖の権利を制限、2020年)
(略)
・TPPなどのISDS条項を持つ自由貿易協定の見直しや再交渉(2016年)
(略)

<共産党>
◯安心して活用できるAIのルールづくりをすすめます
 AI(人工知能)の活用の大前提は、個人情報を保護し、安心と信頼を確保することです。EU(欧州連合)ではAI規制法を制定し、リスクのレベルに応じて使用禁止や厳格な管理を適用しています。

 ――日本版AI規制法を制定して、リスクに応じた厳格な管理を行い、偽情報を排除する仕組みをつくります。

 ――軍用ドローンや無人戦闘機など、AIの軍事・安全保障分野での使用に反対します。

 ――著作権法やデジタルプラットフォーム取引透明化法を改正して、プラットフォーマーやAI事業者に社会的責任を果たさせます。

 ――経済安全保障を名目とした半導体産業への巨額の補助金投入は見直します。

◯食料主権・経済主権を保障する新たな貿易ルールを

 ――WTO協定を見直し、食料主権を保障する貿易ルールの確立をめざします。

 ――TPP、日欧EPA、日米貿易協定、RCEP(地域的包括的経済連携)協定などの貿易協定を抜本的に見直し、各国の多様な農業の共存、食料主権・経済主権の尊重を基本に新しいルールや協定づくりをすすめます。
 
(各分野の政策より)
◯12、女性とジェンダー
(略)
――オンライン上の暴力について、通報と削除の仕組みを強化し、被害者のケアの体制をつくります。
(略)
――児童ポルノは「性の商品化」の中でも最悪のものです。児童ポルノ禁止法(1999年成立。2004年、2014年改正)における児童ポルノの定義を、「児童性虐待・性的搾取記録物」(※「記録物」とはマンガやアニメなどを含むものではありません)と改め、性虐待・性的搾取という重大な人権侵害から、あらゆる子どもを守ることを立法趣旨として明確にし、実効性を高めることを求めます。

 日本は国連機関などから、極端に暴力的な子どもポルノを描いた漫画やアニメ、CG、ビデオ、オンライン・ゲーム等の「主要な制作国となっている」と批判されています。また近年は人工知能(AI)で作成された児童の性的画像が膨大な規模で出回り、子どもの人権・尊厳が著しく傷つけられる事態が広がっています。子ども時代に受けた性的被害は生涯にわたる苦しみと困難をもたらしており、これを無くすために社会は力を尽くさなければなりません。

 「児童ポルノ規制」の名をかりて表現の自由を侵害することは許されません。「表現の自由」やプライバシー権を守りながら、子どもを性虐待・性的搾取の対象とすることを許さない社会にしていかなければなりません。現行法での厳格な取り締まりと同時に、新たなAI技術を使った事態に対応できる規制のあり方について国民的な議論と合意づくりが必要です。
(略)

◯33、米巨大テック企業
(略)
ーー巨大テック企業などのプラットフォーマーに社会的責任を果たさせるよう、デジタルプラットフォーム取引透明化法を改正して、禁止行為を明記し、厳格な罰則規定を作ります。

――プラットフォーマーの優越的地位の濫用を防ぐため、公正取引委員会の活動や体制を強めます。

――EUのデジタルサービス法のようなプラットフォーマーに対する監督、調査、監視、執行する権限を有する独立したデジタル監督官(仮称)を設けます。
(略)
ーーRCEPやTPPなどを見直し、個人情報の国外への持ち出しを禁止します。
(略)

◯34、経済安全保障
(略)
学術や技術開発にゆがみをもたらす秘密特許

 秘密特許も重大です。

 特許は公開が原則の日本でも、秘密特許として扱い、自衛隊の装備品や武器生産の技術援助を受けています。

 専門家からは「恣意的で不透明な特許の非公開制度の存在は、学術や技術の体系全体にゆがみをもたらし、本来のイノベーションを妨げる」との声が上がっています。
(略)
 アメリカの経済安全保障政策=「経済を使った戦争」に追随し、国民の知る権利とプライバシー権を奪う経済安保法と経済秘密保護法はきっぱり廃止すべきです。

◯65、AI
(略)
報道機関、アーティストや作家、作曲家などのクリエーターの権利と利益を守ります

 AIが著作物を無断で利用し、検索結果として示せば、新聞など報道機関の発行物やサイトを見る人が大幅に減り、事業は行き詰まりかねません。日本新聞協会からは、早急に現行の著作権法の改正を求める声が強まっています。報道コンテンツの利用は許諾を得たうえで、正確性を十分確保するなど、AI事業者に責任ある対応を求めます。

 文化・芸術分野でも同様なことがおきかねません。AIによる学習及び生成・利用を無制限に認め、著作者の創作意欲を削ぐようなことがあっては、著作権法の目的に反することになります。

 著作権法を改正しアーティストや作家、作曲家、映画監督、スタッフ、実演家など、クリエーターの権利と利益を守ることも重要です。
(略)

<参政党>
◯人工知能・製造業(自動車など)・サブカルチャーを重点政策「三本の矢」として支援する。
 日本の国際競争力を取り戻し、持続可能な経済成長を実現するためには、国家として重点的に育てる産業の選定と支援が不可欠です。参政党はその中核に、「人工知能(AI)」「製造業(自動車など)」「サブカルチャー」という3つの分野を据え、「勝つ産業」として戦略的に支援していきます。これらはすでに日本が高いポテンシャルを有する分野であり、次世代の成長エンジンとして国際社会における日本の地位を高める力を持っています。
 AI分野では、医療や製造、エネルギーなど多岐にわたる産業での活用が進み、今後のイノベーションの鍵となります。日本の強みである製造業やロボット工学と組み合わせ、世界に先駆けたAIの社会実装を実現するため、官民連携による「AI開発支援ファンド」を創設。スタートアップや研究機関を資金面から支援するとともに、倫理的な利用を前提とした法制度の整備も進めます。
 製造業(自動車など)においては、中小企業の生産性向上と高付加価値化を支援する「次世代モノづくり推進プログラム」を展開。IoTやロボット技術の導入を促し、地域ごとの技術者育成や技術伝承を自治体と連携して推進します。これにより、地方産業の再生と雇用の創出も目指します。
 また、サブカルチャー分野は、日本がすでに世界的影響力を持つ資源です。マンガ・アニメ・ゲームといったコンテンツ産業は、単なる娯楽ではなく、文化外交の有力なツールであり、2022年には約4.7兆円の海外収入を記録しました。参政党はこの分野を基幹産業と位置づけ、知的財産の保護、クリエイターへの正当な報酬、人材育成、国際共同制作などを支援し、文化と経済を両立する産業構造をつくります。

 敢えて言うなら、自民党の世界一AIフレンドリーな国の実現というのは少し言い過ぎではないかと、国民民主党の言うディープフェイク規制に多少注意が必要ではないかと、立憲民主党が引き続き二次創作のための著作権法の改正検討を言っているのは良い事と、共産党が明確にAI規制強化のために著作権法の改正を主張しているのはやはりどうかと思えるが、上で書いた通り、どこの政党もあまり変わり映えはしない。

 いつもの様に私が注目する知財や情報に関する政策が選挙の争点とならないだろう事は残念であるが、細かな政策がどうあれ、今回の選挙でも、昨今の物価高対策や政権与党の今までの経済財政政策などに対する有権者の判断が下される事になるのだろう。

 ただ、各政党が挙げるこれらの様な政策項目を見ても、選挙の結果がどうあれ、今後も、AIとディープフェイクの扱いやネットにおける誹謗中傷対策などが政府与党で議論されて行くだろう事は間違いない。また、このブログで取り上げている事とは少しずれ、今の所政府が慎重な姿勢を崩した様子はないが、違法オンラインカジノ対策の一環として総務省で進められているブロッキング導入の是非に関するの検討も要注意である。

(2025年6月30日夜の追記:日本維新の会の公約案が公開されていたのでリンクを追加し、上で関連項目の抜粋も追加した。)

(2025年7月1日夜の追記:社民党の公約案へのリンクを追加した。)

(2025年7月6日夜の追記:各党から正式版の公約集が公開されているのでここにリンクを張っておく(なお、日本保守党は重点政策がそのまま選挙公約の様なので、重点政策にリンクを張った)。また、合わせて上の記事で「なお、まだの所は公開されたら順次リンクを追加していきたいと思っている。」という括弧書きの文章を改めた。また、目新しい事は特にないが、上の記事を書いた後で公開された自民党の総合政策集と共産党の各分野政策の部分からの抜き書きも下に作っておく。

<自民党>
(総合政策集より)
◯56 中小企業・小規模事業者の知的財産の保護等の強化
 大企業等との取引関係の中で中小企業・小規模事業者が知的財産侵害を受けるケースも存在することに鑑み、中小企業・小規模事業者の知財経営リテラシーの向上等に取り組みます。

◯57 AI/DXに即した産業財産権制度の見直し
 AI/DX時代に即した産業財産権制度を構築するべく、AIを安心して研究開発やビジネスに活用するための合理的なルールや、国際的なデータ利活用に関する発明の保護、仮想空間におけるデザイン保護等の論点について、早期の制度整備を検討します。

◯59 コンテンツ戦略と海賊版対策
 エンタメ・コンテンツ産業は、海外市場規模において5.8兆円となり、鉄鋼業や半導体産業の輸出額にも比肩する、我が国の基幹産業の一つになっており、地方創生に資する高い波及効果を有しています。インバウンド需要などを通じた経済波及効果も高く、我が国のソフトパワーを高める手段としても有効な分野です。
 官民の健全なパートナーシップのもと、エンタメ・コンテンツ産業の活性化に向けて、コンテンツ産業官民協議会を司令塔機能として戦略的な議論を行い、コンテンツ関連施策による一貫的支援と情報発信・支援メニューの一覧化をはかるとともに、クリエイター育成とコンテンツ海外展開による好循環創出のため、クリエイターをめぐる労働環境の改善・収益還元の促進、海外ビジネス展開力の向上、デジタル化に対応した構造改革等について取組みを進めてまいります。
 更に、海賊版に対する対策強化として、国外犯処罰の導入検討も含め、国際執行を強化するとともに、官民一体となって海賊版を撲滅し、正規版流通も含めたエコシステムの実現に取り組みます。

◯60 「クールジャパン戦略」の推進
 海外の人々が良いと思う日本の魅力をマーケットインの考え方に基づき効果的に発信し、インバウンドや輸出の拡大等にもつながるクールジャパン戦略を強化・拡充します。
 コンテンツ、インバウンド、食・食文化の各分野において政策を総動員して取組みを進めてまいります。我が国の強いIP(コンテンツ、多様でおいしい食、様々な地域の自然・伝統など、広義の意味での知的資産)を活用し、新たな技術(Web3やNFT等)も取り入れて「イノベーション」を起こし、多層化・深化した「日本ファン」に対して高い「体験価値」を提供しながら、高い利益をあげて外貨を獲得し、関係者による再投資に回していくという好循環を確立していきます。
 今後も取組みを更に強化することにより、2028年までに30兆円以上、2033年までに50兆円以上とすることを目指します。
 地方創生2.0の推進に向けて、アニメツーリズムやロケ誘致など地域一体となった取組みを加速するため、「クールジャパン戦略会議」において、2033年までに全国約200カ所の拠点を選定し、成功事例の輩出・共有を進めていきます。

◯61 「クールジャパン」関連コンテンツの振興
 世界的に動画配信サービスが普及していく中、アニメやゲームを中心に日本のコンテンツの人気は世界中で非常に高まっています。また、コンテンツ人気がインバウンドにも大きな波及効果をもたらしています。
 製作現場のデジタル化、先進デジタル技術を活用したビジネスの創出、クリエイターやビジネス・プロデューサー等の人材育成、クリエイターをめぐる労働環境の改善・収益還元の促進、エンタメ分野のスタートアップ支援を進め、海外のマーケティング情報の収集・共有化、海外の現地プレイヤーとのマッチング機能の強化を通じて、コンテンツ産業の振興と海外展開を図ります。
 また、国内への大型映像作品のロケ誘致は、作品を通じて日本の魅力を発信するだけにとどまらず、海外の映像製作のノウハウを日本のコンテンツ産業にもたらします。官民関係者による、ロケ撮影ハンドブックのフル活用等を通じて、ロケ誘致の一層の推進を図ります。文化芸術の需要の裾野を拡大し、クリエイターに資金を循環する環境を整備するため、企業・地域によるアートの積極的な活用の促進を図ります。

◯63 放送コンテンツ産業の強化
 日本発のコンテンツの海外市場規模を拡大すべく、放送コンテンツ産業の競争力強化、海外展開の推進に取り組みます。多様な知的財産(IP)創出に向けた企画・開発段階の支援や高品質の放送コンテンツ制作に向けた高機能・先端的な技術(4K・VFX)の活用支援の抜本的強化、高度人材育成や設備の導入・利用を支援するとともに、権利処理の円滑化、日本の放送コンテンツを集約した海外配信の強化・流通円滑化などに官民連携して取り組みます。

◯468 農業分野の知的財産の保護・活用
 農林水産物・食品の国際競争力の強化に向け、優良品種の開発、海外流出の防止と戦略的な海外展開を推進します。育成者権者に代わって、育成者権等の知的財産権を保護・活用する育成者権管理機関の設立を推進し、優良品種の管理の実効性を高めつつ、新品種開発等に投資するサイクルを確立するなど海外からの稼ぎを国内農業に還元する取組みを進めるとともに、育成者権の存続期間の延長など、優良品種を守り、新品種の育成・普及を進めるための法制度の検討を加速します。
 「家畜遺伝資源法」等のもと、我が国固有の財産である和牛を守ります。また、地域ブランド・日本ブランドについて、海外における模倣品対策を強化するとともに、インバウンドを効果的に活用した食関連消費の拡大、海外への魅力訴求を通じた輸出拡大につなげます。

◯585 「世界一AIフレンドリーな日本」の堅持
 競争力強化と安全性確保の観点から、広島AIプロセスの実績をベースに、AIに関する国際的なルールメーキングを主導します。また、先の国会で成立したAI推進法に基づき、政府のAI政策の司令塔機能を強化するとともに、ソフトロー(AI事業者ガイドライン)も組み合わせた国内の制度整備を進め、AIの研究開発・実装がしやすい「世界一AIフレンドリーな日本」を堅持します。更に、我が国におけるAIの開発力強化に向け、民間等の創意工夫に基づく基盤モデルの開発を支援します。

◯592 「世界一AIフレンドリーな日本」の堅持
 競争力強化と安全性確保の観点から、広島AIプロセスの実績をベースに、AIに関する国際的なルールメーキングを主導するとともに、法規制とソフトロー(AI事業者ガイドライン)を組み合わせた国内の制度整備を進め、AIの研究開発・実装がしやすい「世界一AIフレンドリーな日本」を堅持します。また、政府のAI政策の司令塔を強化するとともに、我が国におけるAIの開発力強化に向け、民間等の創意工夫に基づく基盤モデルの開発を支援します。合わせて、AI事業者ガイドラインの適切な執行・周知により、AI開発や利用における信頼性を確保します。

◯672 経済安全保障推進法の着実な実施
 2022年5月に成立した「経済安全保障推進法」の4分野について、制度の着実な実施と不断の見直し、更なる取組みの強化を行います。
 具体的には、サプライチェーン強靱化については、半導体や重要鉱物、抗菌薬、船舶の部品など、国民の生存や経済活動にとって重要な物資について、国内の生産基盤強化や、権益確保や生産プロジェクトの形成、代替品開発等による安定供給確保に向けて、引き続き不断の点検・評価を行い、これまでの措置の効果を踏まえた上で、実効性のある対応を講じます。
 電気、ガス、水道等を対象とした基幹インフラの事前審査制度について、重要設備の導入・維持管理等の委託に関する国による事前審査を着実に実施しつつ、基幹インフラの対象に医療分野を追加することを通じて、基幹インフラ役務の安定的な提供の確保を図ります。
 先端的な重要技術の開発支援については、経済安全保障重要技術育成プログラムの研究開発ビジョンで示された宇宙・航空、海洋、サイバー空間、バイオ等の領域における重要技術について、協議会による伴走支援を引き続き実施するなど、我が国の技術優位性を確保できるよう努めます。
 特許出願の非公開制度については、具体的な保全審査等に際して、出願人との丁寧な意思疎通を行うなど、円滑な制度運用に引き続き万全を期します。

◯830 青少年の健全育成
 青少年健全育成のための社会環境の整備を強化するとともに「青少年健全育成基本法」を制定します。またITの発達等による非行や犯罪から青少年を守るための各種施策を推進します。

◯847 デジタルトランスフォーメーション(DX)時代に対応した著作権制度・政策
 DXの推進は、文化芸術における創作・流通・利用にも大きな影響を与えており、DX時代における社会・市場の変化やテクノロジーの進展に柔軟に対応したコンテンツ創作の好循環を実現する必要があります。そのため、DX時代に対応した簡素で一元的な権利処理方策の着実な実施に加え、コンテンツの利用円滑化とそれに伴う適切な対価の還元について取り組みます。また、著作権侵害に対する実効的な海賊版対策の実施、我が国の正規版コンテンツの海外における流通促進、デジタルプラットフォームサービスに係るいわゆるバリューギャップ等への対応、著作権制度・政策の普及啓発・教育を進め、コンテンツの権利保護を図ります。

◯880 ネット上の誹謗中傷等の対策推進
 SNS等のネット上における偽・誤情報や誹謗中傷等に対応するため、情報流通プラットフォーム対処法や違法情報ガイドラインによる対応、利用者のリテラシー向上や相談体制の充実、偽・誤情報対策技術の研究開発など、表現の自由を最大限考慮しつつ、制度整備を含め、総合的な対策を推進します。また、会社法の外国会社登記の徹底、捜査機関の体制強化などにも取り組みます。

<共産党>
(各分野の政策より)
◯70、文化
(略)
著作者の権利を守り発展させます

 著作権法は、表現の自由を守りながら、著作物の創造や実演に携わる人々を守る法律として、文化の発展に役立ってきました。AI、デジタル化など科学技術が進歩するなかで、著作権者に経済的に不利益が起きています。著作権者を守る立場での法改正を求めます。

――映画の著作権に関しては、映画の著作物はすべて製作会社に権利が移転され、映画監督やスタッフに権利がありません。著作権法を改正し、映画監督やスタッフ、実演家の権利を確立します。

――デジタル化、ネット配信など多様化する二次利用に対しては、著作者や実演家の不利益にならないよう対策を求めます。

――私的録音録画補償金制度は、デジタル録音技術の普及にともない、一部の大企業が協力業務を放棄したことで、事実上機能停止してしまいました。作家・実演家の利益を守るために、私的複製に供される複製機器・機材を提供することによって利益を得ている事業者に応分の負担を求める、実効性のある補償制度の導入をめざします。

――生成AIの「学習」段階については、現行の著作権法では著作者の許諾が不要になっており、無許諾で使用される事例が増加しています。著作権者の権利を守る立場での法改正、AI規制法の制定を求めます。

憲法を生かし、表現の自由を守ります

 芸術は自由であってこそ発展します。憲法で保障された「表現の自由」は、多様な立場や価値観を持った人たちが生活する民主主義社会を支える上で欠くことのできない大切な人権です。しかし、自公政権のもとで、各地の美術館や図書館、公民館などの施設で、創作物の発表を正当な理由なく拒否することが相次いできました。2019年のあいちトリエンナーレでは、政治家の介入を受けて、文化庁が「安全性」を理由に助成金をいったん不交付にしたり、名古屋市が一部負担金の支払いを拒否したりしました。日本芸術文化振興会が映画「宮本から君へ」に対して「公益性」をもちだして助成金を打ち切ったりするなど、「表現の自由」への介入・侵害が相次ぎました。こうした権力からの介入は、自由な創造活動に「忖度」や「萎縮」効果をもたらすことにつながるものであり、司法の場でも厳しく批判されています。

また、文化庁の助成は応募要綱などが行政の考え方に沿って決められ、芸術団体などの意見が十分反映されていません。諸外国では、表現の自由を守るという配慮から、財政的な責任は国が持ちつつ、専門家が中心となった独立した機関が助成を行っています。

日本共産党は、「表現の自由」を守り、文化芸術基本法や憲法の基本的人権の条項をいかした支援を求めます。

――「アームズ・レングス原則」(お金は出しても口は出さない)にもとづいた助成制度を確立し、萎縮や忖度のない自由な創造活動の環境をつくります。

――すべての助成を専門家による審査・採択にゆだねるよう改善します。

――公共施設などでの創作物の発表、展示への脅迫・妨害行為に毅然とした対応を求め、「表現の自由」を保障します。

――「児童ポルノ規制」を名目にしたマンガ・アニメ・ゲームなどへの法的規制の動きに反対します。青少年のゲーム・ネットの利用について、一律の使用時間制限などの法規制に反対します。
(略)

(2025年7月21日の追記:予想通りだが、今回の参議院選の結果、参議院でも自公与党が過半数を割った事により、政権運営はさらに不安定になるだろう。)

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2025年3月23日 (日)

第510回:閣議決定された人工知能(AI)法案

 先月2月14日に「人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律案」(AI法案)が閣議決定され、国会に提出されている。

 この法案は知財とは直接関係するものではないが、今後の日本におけるAI関連政策検討に関して一定の意味を持つものと思うので、ここで取り上げておく。

 その概要としては、内閣府の国会提出法案ページ概要(pdf)に書かれている通り、総理大臣及び国務大臣を構成員とするAI戦略本部を設置し、AI基本計画を作り、国がAIに関する情報収集や情報提供などを行うというものである。

 法律案(pdf)要綱(pdf)も参照)から、特にポイントとなる部分を見て行くと、まず、第2条に人工知能の定義が以下の様に書かれている。

(定義)
第二条 この法律において、「人工知能関連技術」とは、人工的な方法により人間の認知、推論及び判断に係る知的な能力を代替する機能を実現するために必要な技術並びに入力された情報を当該技術を利用して処理し、その結果を出力する機能を実現するための情報処理システムに関する技術をいう。

 ここで、この定義について政府内でどの様な検討が行われたのかは不明だが、「人工知能関連技術」とは、「人工的な方法により人間の認知、推論及び判断に係る知的な能力を代替する機能を実現するために必要な技術」等とされている。この定義はほぼトートロジーと言えなくもないが、「人間の認知、推論及び判断に係る知的な能力を代替する」と、あたかもAIが人間の高度な知的能力を代替するものであるかの様な書き方がされた事には全く首肯できない。

 私は、現時点でAIが人間の知的能力を有すると思わせる様な定義をする事は踏み込み過ぎであろうと、パブコメで書いた意見の通り(第506回の追記参照)、「大量の計算リソースを使う機械学習を用いたものであって利用者側の簡単な指示の入力によって対応する情報の出力が可能なシステム又はサービス」といった、より限定的で人工知能の知的な能力について言及しない形の方が良いとなお思っているが、長期的に大きな意味を持つであろうこの法律上のAI技術の定義について再検討されそうにないと思われるのは非常に残念である。

 この点で、欧州連合(EU)のAI法の第3条第1項でも、

'AI system' means a machine-based system that is designed to operate with varying levels of autonomy and that may exhibit adaptiveness after deployment, and that, for explicit or implicit objectives, infers, from the input it receives, how to generate outputs such as predictions, content, recommendations, or decisions that can influence physical or virtual environments;

「AIシステム」とは、様々な自動化のレベルで動作するよう設計され、配置により適応性を示す事が可能であって、明示の又は暗黙の目的のために、それが受けた入力から、物理的な又は仮想の環境に影響を与え得る、予想、コンテンツ、提案、決定の様な出力をどの様に生成するかを推定する機械に基づくシステムを意味する。

と、比較的細かく、かつ、AIとはあくまで環境に影響を与え得る出力を入力から生成する自動機械に過ぎない事を念頭に置いた定義がされているのである。(EUのAI法の欧州議会可決版については第481回、最終施行版については第500回参照。なお、実質的にはそれほど大きな変更ではないと思うが、第481回で訳出した欧州議会可決版から、配置による適応や入力がある事、出力としてのコンテンツの明記がされるなどの細かな修正が入っているので、最終施行版の定義をここで念のためもう一度訳出した。)

 次に、第3条に基本理念が以下の通り書かれている。

(基本理念)
第三条 人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進は、科学技術・イノベーション基本法第三条に定める科学技術・イノベーション創出の振興に関する方針及びデジタル社会形成基本法第二章に定める基本理念のほか、この条に定める基本理念に基づいて行うものとする。

 人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進は、人工知能関連技術が、その適正かつ効果的な活用によって行政事務及び民間の事業活動の著しい効率化及び高度化並びに新産業の創出をもたらすものとして経済社会の発展の基盤となる技術であるとともに、安全保障の観点からも重要な技術であることに鑑み、我が国において人工知能関連技術の研究開発を行う能力を保持するとともに、人工知能関連技術に関する産業の国際競争力を向上させることを旨として、行うものとする。

 人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進は、人工知能関連技術の基礎研究から国民生活及び経済活動における活用に至るまでの各段階の関係者による取組が相互に密接な関連を有することに鑑み、これらの取組を総合的かつ計画的に推進することを旨として、行うものとする。

 人工知能関連技術の研究開発及び活用は、不正な目的又は不適切な方法で行われた場合には、犯罪への利用、個人情報の漏えい、著作権の侵害その他の国民生活の平穏及び国民の権利利益が害される事態を助長するおそれがあることに鑑み、その適正な実施を図るため、人工知能関連技術の研究開発及び活用の過程の透明性の確保その他の必要な施策が講じられなければならない。

 人工知能関連技術の研究開発及び活用は、我が国及び国際社会の平和と発展に寄与するものとなるよう、国際的協調の下に推進することを旨とし、我が国が人工知能関連技術の研究開発及び活用に関する国際協力において主導的な役割を果たすよう努めるものとする。

 基本理念は、AIを技術としてその開発及び活用を推進して行くとともにそのリスクも考慮するという極当たり前の事が書かれていて、特筆すべき事がある訳ではないが、この第3条の第4項で、著作権の侵害を助長する恐れがある事が書かれているのは少し気をつけておいても良いかも知れない。これは著作権との関係についての懸念の声が強かったという事を反映したものかも知れないが、ここで言おうとしている事は、AIの学習のための著作物の利用だけでただちに著作権侵害になるといった様な事ではなく、AIの出力を利用する場合、既存の著作物に対して依拠性と類似性を満たせば著作権侵害となり得る事に注意が必要というこれまでの整理通りの事だろう。(日本の文化庁によるAIと著作権の関係の整理については第492回参照。)

 また、今の日本の現状から見てこの様な一般的な協力義務で十分だろうが、事業者と国民の責務については第7条と第8条で以下の様に書かれている。

(活用事業者の責務)
第七条 人工知能関連技術を活用した製品又はサービスの開発又は提供をしようとする者その他の人工知能関連技術を事業活動において活用しようとする者(以下「活用事業者」という。)は、基本理念にのっとり、自ら積極的な人工知能関連技術の活用により事業活動の効率化及び高度化並びに新産業の創出に努めるとともに、第四条の規定に基づき国が実施する施策及び第五条の規定に基づき地方公共団体が実施する施策に協力しなければならない。

(国民の責務)
第八条 国民は、基本理念にのっとり、人工知能関連技術に対する理解と関心を深めるとともに、第四条の規定に基づき国が実施する施策及び第五条の規定に基づき地方公共団体が実施する施策に協力するよう努めるものとする。

 国の基本的施策としては、他にも研究開発の推進に関する条項などもあるが、第16条で情報収集や調査研究に基づき、活用事業者等に指導や助言を行うとしている。

(調査研究等)
第十六条 国は、国内外の人工知能関連技術の研究開発及び活用の動向に関する情報の収集、不正な目的又は不適切な方法による人工知能関連技術の研究開発又は活用に伴って国民の権利利益の侵害が生じた事案の分析及びそれに基づく対策の検討その他の人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に資する調査及び研究を行い、その結果に基づいて、研究開発機関、活用事業者その他の者に対する指導、助言、情報の提供その他の必要な措置を講ずるものとする。

 そして、ここがこの法案の最大の眼目とされる所だろうが、第18条で以下の様に総理大臣及び国務大臣を構成員とするAI戦略本部(ここでは省略するがその設置は第19条以下で定められている)でAI基本計画を決定するとしている。

第十八条 政府は、基本理念にのっとり、前章に定める基本的施策を踏まえ、人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する基本的な計画(以下「人工知能基本計画」という。)を定めるものとする。

 人工知能基本計画は、次に掲げる事項について定めるものとする。
 人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する施策についての基本的な方針
 人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関し、政府が総合的かつ計画的に講ずべき施策
 前二号に掲げるもののほか、人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する施策を政府が総合的かつ計画的に推進するために必要な事項

 内閣総理大臣は、人工知能戦略本部の作成した人工知能基本計画の案について閣議の決定を求めるものとする。

 内閣総理大臣は、前項の閣議の決定があったときは、遅滞なく、人工知能基本計画を公表するものとする。

前二項の規定は、人工知能基本計画の変更について準用する。

 私自身は、パブコメで書いた意見の通り(第506回の追記参照)、役所内の部署の統廃合を考えるべきと今でも思っているが、法案に特にその様な事は盛り込まれていないので、やはり役所の焼け太りとなるだろう懸念は拭えない。基本理念にしても、ここの基本計画にしても、現時点で取り立てて問題とするべき規制色が出ているという事がないのは良いが、何にせよ、AIに関する全体的な国の施策という事では、引き続きこのAI戦略本部とその事務局の検討を注視して行く必要があるのだろう。ただし、まず間違いなく知財本部も存続すると思うので、知財との関係については引き続き知財本部で検討されるものと思っている。

 上で書いた通り、定義についてなど多少残念な所はあるが、取り立てて大きな問題があるというものではなく、このAI法案は与野党が対立する様な法案でもないので、昨今の情勢を見るにつけどうなるか良く分からかない所もあるが、国内の政治情勢がよほど大きく荒れる事がなければ国会をじきに通過すると予想している。

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2024年10月14日 (月)

第503回:主要政党の2024年衆院選公約案比較(知財政策・情報・表現規制関連)

 3年ぶりの衆院選が10月15日公示、10月27日投開票の予定で行われる。その公約案が出揃ったので、いつもの様にその中の知財政策・情報・表現規制関連の項目を下に抜き出しておく。(大体どこの党もほぼそのまま同じものを使っているが、正式には公示日以降に公開されるものが選挙公約である。)

<自民党>
◯我が国の脅威となり得るあらゆるリスク・事象を特定した上で、先端半導体、AI、量子、バイオ等の世界経済や秩序をけん引できる先端分野における技術開発に向けた強力な投資、半導体、医薬品、電池、重要鉱物等の重要技術・物資のサプライチェーンの強靱化、経済的威圧への取組み、機微技術の管理やインテリジェンス体制の強化を図ります。

◯自由、民主主義、人権といった価値を守り、有志国と連携して法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を実現しつつ、我が国の生存、独立、繁栄を経済面から確保するために経済安全保障政策を推進します。

◯能動的サイバー防御を導入するなどサイバー安全保障分野における対応能力を欧米主要国と同等以上に向上させます。

◯ネット上の偽・誤情報や誹謗中傷などから国民を守るため、情報流通プラットフォーム対処法による対応、利用者のリテラシー向上や相談体制の充実、対策技術の研究開発など、表現の自由を最大限考慮しつつ、制度整備も含め総合的な対策を推進します。

<国民民主党>
◯防衛産業の育成・強化、能動的サイバー防御の年内法制化

(政策各論より)
◯知的財産戦略の推進

 特許や著作権など、知的財産を守り積極的に活用するため、国際的な知的財産戦略を推進します。また、國酒をはじめとする日本の食文化やアニメや漫画などのコンテンツ(クールジャパン)を海外に積極的に展開し、ソフト分野でも稼ぎ、雇用を増やす産業構造をつくります。

◯能動的サイバー防御

 従来領域(陸、海、空)において不十分であった継戦能力の確保や抗堪性の強化を抜本的に見直して整備するほか、防衛技術の進歩、宇宙・サイバー・電磁波などの新たな領域に対処できるよう専守防衛に徹しつつ防衛力を強化するため、必要な防衛費を増額します。

 サイバー安全保障を確保するために、我が国においても平時の段階からサイバー攻撃者の動向を探り、対処を行う能動的サイバー防御(アクティブ・サイバー・ディフェンス)について、能力整備と実施体制の整備を行うとともに、「サイバー安全保障基本法(仮称)」を年内に制定します。

 情報収集衛星を質・量ともにレベルアップを図るとともに、イギリスのJIC(※Joint Intelligence Committee 合同情報委員会)などを参考にしつつ、日本のインテリジェンス能力を高めます。

 安全保障上の観点から、公共インフラやカーナビ情報等の実情について調査し、所要の対策を講じます。

◯憲法
(略)
 人権分野では、憲法制定時には予測できなかった時代の変化に対応するため、人権保障のアップデートが必要です。特に人工知能とインターネット技術の融合が進む今、国際社会では個人のスコアリングと差別の問題や、国民の投票行動に不当な影響を与えるネット広告の問題などが指摘されています。デジタル時代においても個人の自律的な意思決定を保障し、民主主義の基礎を守っていくため、データ基本権を憲法に位置付けるなど議論を深めます。同性婚の保障や子どもの権利保障などについても検討を進めます。
(略)

<立憲民主党>
◯日本が世界に誇る文化芸術や伝統文化、コンテンツ産業への支援を強化します。

(主な政策項目より)
◯国民の知る権利を守るため特定秘密保護法を見直し、国会や第三者機関の権限強化も含め行政に対する監視と検証を強化します。

◯インターネットのターゲット広告、投資詐欺等に誘導する著名人のなりすまし広告の規
制など、個人情報保護や広告審査基準の明確化の促進を強化します。

◯「ヘイトスピーチ解消法」における取り組みを拡大し、国際人権基準に基づいて、人種などを理由とする差別的言動を禁止する法律の制定など、あらゆる差別撤廃に向けた動きを加速させます。

◯インターネットやSNS上の差別や誹謗中傷、人権侵害等への対策を強化します。

〇文化芸術振興基本法の支援対象に「場」や「担い手」を加えることや、劇場法(劇場、音楽堂等の活性化に関する法律)の支援対象に映画館や小規模音楽会場を加えること等を含めた、さらなる文化芸術振興の在り方を検討します。また、芸術家の地位と権利を守り、生活基盤を支える「芸術家福祉法」を制定します。

(政策集より)
◯特定秘密保護法については、民意を顧みずに強行採決された経緯にも鑑み、国による情報の恣意的・不適切な秘匿を防止するため、廃止します。廃止されるまでの間は、国民の知る権利を守るため特定秘密保護法を見直し、国会や第三者機関の権限強化も含め行政に対する監視と検証を強化します。具体的には、当該行政機関の恣意性を排除するため、内閣府に設置する第三者機関(情報適正管理委員会)が指定基準を定め、基準非該当の秘密指定を知った秘密取扱者は、委員会への通知義務を負うこととします。

◯個人の情報の権利利益の保護を図るため、個人情報保護法など国内関連法をEU一般データ保護規則(GDPR)など海外の法制度を基準に改正します。自己に関する情報の取り扱いについて自ら決定できる権利(自己情報コントロール権)、本人の意思に基づいて自己の個人データの移動を円滑に行う権利(データポータビリティ権)、個人データが個人の意図しない目的で利用される場合等に当該個人データの削除を求める権利(忘れられる権利)、本人の同意なしに個人データを自動的に分析又は予測されない権利(プロファイリングされない権利)を法律上、明確化します。

◯インターネットのターゲット広告、投資詐欺等に誘導する著名人のなりすまし広告の規制など、個人情報保護や広告審査基準の明確化の促進を強化します。デジタル広告、不正または悪質なレビュー、パーソナルデータのプロファイリングに基づく表示等の課題について、消費者の利益保護の観点から必要な対策を検討します。

◯誹謗中傷やフェイクニュースなど自己実現や民主主義を阻害する有害無益な情報が膨大に流通しています。インターネットやSNS上の差別や誹謗中傷、人権侵害等への対策を強化します。「表現の自由市場」に委ねるだけでは、実質的な保障に資さないことから、個々人が多様な情報にバランスよく触れることで、フェイクニュース等に対して一定の「免疫」(批判的能力)を獲得している状態を実現するため、「情報環境権」を保障し、そうした環境を積極的に作り出します。

◯インターネット・SNSの発達、DXの急速な進展が国民に数多くのメリットをもたらしている反面、個人の意思を離れたデータの収集・分析に起因した「アテンション・エコノミー」「マイクロターゲッティング」「フィルターバブル」「エコーチェンバー」といった問題が生じています。GAFAなどの巨大デジタルプラットフォーム企業に対し、データの利活用とのバランスを図りつつ、「自己情報コントロール権」に基づき、個人情報保護やセキュリティ確保の観点から、適切な規制を行います。

◯AIの利活用に当たっては、規制とイノベーションのバランスが重要です。著作権や個人情報の侵害、誤情報の拡散、監視や差別につながることのないよう、倫理的な考慮や技術的な対策を講じつつ、社会的な規制のルール作りを行います。イノベーションを育むためにデータサイエンスなどの基礎的なリテラシーとディーセントな価値観を醸成する教育及び人材育成を進め、生産性、効率性、成長率を高めることで豊かな社会づくりを牽引します。

◯先端技術や知的財産権の保護・強化を図ります。

◯標準、規格、特許の分野での人材育成を強化し、国際標準を主導します。

◯メディアにおける性・暴力表現について、子ども、女性、高齢者、障がい者をはじめとする人の命と尊厳を守る見地から、人々の心理・行動に与える影響について調査を進めるとともに、情報通信等の技術の進展および普及のスピードに対応した対策を推進します。

◯2016年に成立した「ヘイトスピーチ解消法」における取り組みを拡大し、国際人権基準に基づいて、人種・民族・出身などを理由とする差別的言動を禁止する法律の制定など、あらゆる差別撤廃に向けた動きを加速させます。

◯インターネットを利用した人権侵害を許さず、速やかに対応できるように、プロバイダが被害救済のための対応をとることを義務付けるなどの法改正や窓口の創設
を実現します。

◯「能動的サイバー防御」の導入に当たっては、通信事業者からの情報提供の是非や個人の人権にもかかわる重大な問題であり、表現の自由やプライバシーの権利等の侵害につながらないよう、憲法で保障されている「通信の秘密」を遵守します。

◯インターネットやSNS上の差別や誹謗中傷、人権侵害等への対策を強化するとともに、インターネットのターゲティング広告に関しては適切な規制を講じ、個人情報保護を強化します。

◯インターネットやSNS上の差別や誹謗中傷、人権侵害等への対策を強化します。政府は侮辱罪を厳罰化しましたが、侮辱罪での現行犯逮捕を完全には否定しないなど、表現の自由が萎縮する懸念が残りました。相手の人格を攻撃する誹謗中傷行為を刑法の対象とするため、「加害目的誹謗等罪」を創設するとともに、プロバイダ責任制限法を改正して発信者情報の開示を幅広く認めることなどを柱とする「インターネット誹謗中傷対策法案」の成立を目指します。

◯知的財産権に関する紛争処理機能を強化することで、特許紛争の早期解決を図り、知財システムの実効性を担保するとともに、新産業やベンチャー企業の創出を支援します。

◯幅広い分野で、知的財産の保護、情報セキュリティ、企業統治などを強化するとともに、通信・デジタル・クリーンエネルギー技術・宇宙などの経済分野に係る国際的なルールの形成を主導し、日本の優位性を確立するための「経済安全保障戦略」を策定し、総合的な国力の増進を図ります。

◯SNSなどを活用した情報戦など非軍事と軍事行動が同時展開するハイブリッド戦に備え、フェイクニュースへの対応能力等を早急に高めます。また、宇宙・サイバー・AI・データなどの分野でのルール形成において主導的役割を果たしていきます。

◯サイバー攻撃は平時から発生しており、常時パトロールを行う「積極的(能動的)サイバー防御」(アクティブサイバーディフェンス、ACD)が必要とされます。権限などを法的に明確化する必要があれば、国民の権利を最大限に保障しながら、電気通信事業法や不正アクセス禁止法等の改正を視野に入れつつ、サイバー安全保障基本法のような包括的な立法を早急に検討します。また、より強い権限をもった司令塔組織、例えばデジタル庁と統合したサイバー省(仮称)の創設も検討します。同様にインテリジェンスにおいても省庁の垣根を越えた連携を強化します。在外大使館で活動する防衛駐在官を拡充し、情報収集・分析能力を強化するとともに、体制の抜本的強化を行います。

◯映画や音楽、アニメ・漫画・ゲーム等の幅広い分野での振興と助成を推進します。

◯表現の自由を尊重し、二次創作分野などの発展を図る観点から、著作権法改正を含む検討を行います。

◯著作権管理団体の権利者への権利料・使用料の分配については、若手や新人のアーティスト・演者・作家などに配慮し、文化の発展に資するという法の目的に沿うよう著作権管理事業法の改正を検討します。

<共産党>
◯10、女性とジェンダー
(略)
―――オンライン上の暴力について、通報と削除の仕組みを強化し、被害者のケアの体制をつくります。
(略)
―――児童ポルノは「性の商品化」の中でも最悪のものです。児童ポルノ禁止法(1999年成立。2004年、2014年改正)における児童ポルノの定義を、「児童性虐待・性的搾取記録物」(*「記録物」とはマンガやアニメなどを含むものではありません)と改め、性虐待・性的搾取という重大な人権侵害から、あらゆる子どもを守ることを立法趣旨として明確にし、実効性を高めることを求めます。

 日本は国連機関などから、極端に暴力的な子どもポルノを描いた漫画やアニメ、CG、ビデオ、オンライン・ゲーム等の「主要な制作国となっている」と批判されています。人工知能(AI)による膨大な児童ポルノ作成など、新たな問題もひろがっています。ジェンダー平等をすすめ、子どもと女性の人権を守る立場から、幅広い関係者で大いに議論をすすめることが重要だと考えます。「表現の自由」やプライバシー権を守りながら、子どもを性虐待・性的搾取の対象とすることを許さない社会にしていくことが必要であり、議論と合意をつくっていくための自主的な取り組みを促進していくことが求められています。そうした議論を起こしていくことは、「児童ポルノ規制」を名目にした法的規制の動きに抗して「表現の自由」を守り抜くためにも大切であると考えています。
(略)

◯34、GAFA、プラットフォーマー
(略)
―――GAFAなどのプラットフォーマーに社会的責任を果たさせるよう、デジタル・プラットフォーム透明化・公正化法を改正して、禁止行為を明記し、厳格な罰則規定を作ります。

―――プラットフォーマーの優越的地位の乱用を防ぐため、公正取引委員会の活動や体制を強めます。

―――EUのデジタルサービス法のようなプラットフォーマーに対する監督、調査、監視、執行する権限を有する独立したデジタル監督官(仮称)を設けます。
(略)

◯66、AI
(略)
日本版AI規制法を制定して、リスクに応じた厳格な管理を行います
(略)

著作権法を見直し、著作者の権利を守ります

 AIが著作物を無断で学習することを認めている現行の著作権法をめぐっては、法改正せずに、例外的に一部を認めないケースを示す方向の政府に対して、日本新聞協会などからは早急な法改正を求める声が強まっています。

 AI事業者がコンテンツを無断利用し、生成AIによる検索結果として示せば、新聞など報道機関の発行物やサイトを見る人が大幅に減り、事業者は行き詰まりかねません。

 報道コンテンツの利用は許諾を得たうえで、正確性を十分確保するなど、生成AI事業者に責任ある対応を求めます。

 文化・芸術分野でも同様なことがおきかねません。例えばあるアーティストの楽曲を、生成AIに繰り返し学習させ、当該アーティスト風の楽曲を生成して大量に利用・流通させた場合、このアーティストの活動を著しく阻害することになります。生成AIによる開発・学習及び生成・利用を無制限に認め、創作者たる著作者の創作意欲を削ぐようなことがあっては、著作権法の目的に反することになります。

 著作権法を改正しアーティストや作家、作曲家、映画監督、スタッフ、実演家などの権利と利益を守ります。

◯71、文化
(略)
著作者の権利を守り発展させます

 著作権は、表現の自由を守りながら、著作物の創造や実演に携わる人々を守る法律として、文化の発展に役立ってきました。ところが、映画の著作物はすべて製作会社に権利が移転され、映画監督やスタッフに権利がありません。実演家も映像作品の二次利用への権利がありません。国際的には視聴覚的実演に関する北京条約(2012年)が締結され、日本も加入するなど、実演家の権利を認める流れや、映画監督の権利充実をはかろうという流れが強まっています。

―――映画の著作権に関しては、著作権法を改正し、映画監督やスタッフ、実演家の権利を確立します。

―――デジタル化、ネット配信など多様化する二次利用に対しては、著作者や実演家の不利益にならないよう対策を求めます。

―――私的録音録画補償金制度は、デジタル録音技術の普及にともない、一部の大企業が協力業務を放棄したことで、事実上機能停止してしまいました。作家・実演家の利益を守るために、私的複製に供される複製機器・機材を提供することによって利益を得ている事業者に応分の負担を求める、実効性のある補償制度の導入をめざします。

―――生成AIの「学習」段階については、現行の著作権法では著作者の許諾が不要になっており、無許諾で使用される事例が増加しています。著作権者の権利を守る立場での法改正、AI規制法の制定を求めます。

憲法を生かし、表現の自由を守ります

 芸術は自由であってこそ発展します。「表現の自由」は、多様な立場や価値観を持った人たちが生活する民主主義社会を支える上で欠くことのできない大切な人権です。憲法は「表現の自由」を保障していますが、自公政権のもとで、各地の美術館や図書館、公民館などの施設で、創作物の発表を正当な理由なく拒否することが相次いできました。2019年のあいちトリエンナーレでは、政治家の介入を受けて、文化庁が「安全性」を理由に助成金をいったん不交付にしたり、名古屋市が一部負担金の支払いを拒否したりしました。日本芸術文化振興会が映画「宮本から君へ」に対して「公益性」をもちだして助成金を打ち切ったりするなど、「表現の自由」への介入・侵害が相次ぎました。こうした権力からの介入は、自由な創造活動に「忖度」や「萎縮」効果をもたらすことにつながるものであり、司法の場でも厳しく批判されています。

 また、文化庁の助成は応募要綱などが行政の考え方に沿って決められ、芸術団体などの意見が十分反映されていません。諸外国では、表現の自由を守るという配慮から、財政的な責任は国が持ちつつ、専門家が中心となった独立した機関が助成を行っています。

 日本共産党は、「表現の自由」を守り、文化芸術基本法や憲法の基本的人権の条項をいかした支援を求めます。

―――「アームズ・レングス原則」(お金は出しても口は出さない)にもとづいた助成制度を確立し、萎縮や忖度のない自由な創造活動の環境をつくります。

―――すべての助成を専門家による審査・採択にゆだねるよう改善します。

―――公共施設などでの創作物の発表、展示への脅迫・妨害行為に毅然とした対応を求め、「表現の自由」を保障します。

―――「児童ポルノ規制」を名目にしたマンガ・アニメ・ゲームなどへの法的規制の動きに反対します。青少年のゲーム・ネットの利用について、一律の使用時間制限などの法規制に反対します。
(略)

 前回2021年の衆院選時の公約(第446回参照)と比べ、AIや能動的サイバー防御についてなど最近の話題を盛り込んでいるものの、全体としては各党ともさして変わり映えしないものであり、今回も、この様な細かな政策項目に関する事が争点になる事はなく、主として、自民党の裏金問題であったり、今までの政権与党の経済財政政策などに対して有権者の判断が示される事になるのではないかと思える。

 具体的には選挙後の政府検討次第としか言いようがないが、各党の公約を読むと、少なくとも、情報規制という観点で、引き続きAI規制、ネットでの誹謗中傷対策、大手ITプラットフォーマー規制、能動的サイバー防御などが焦点となるだろう事は確実に見て取れる。

(2024年10月16日の追記:各党から正式版の公約集が公開されているので、もう一度改めてここにリンクを張っておく。また、このタイミングで自民党が政策BANK(政権公約に含まれる)と総合政策集2024を追加し、日本維新の会がマニフェスト全文を追加しているので、念のため下に知財・情報・表現規制関連の追加項目の抜粋を作っておくが、格別新しい事が書かれているという事はない。

<自民党>
(政策BANKより)
◯「知的財産推進計画2024」に基づき、イノベーションを創出・促進する知財エコシステムの再構築に向けて、知的財産の創造・保護・活用全般にわたる施策を推進します。また、「新たなクールジャパン戦略」に基づき、コンテンツ産業の国際競争力の強化、インバウンド誘致、農林水産物・食品の輸出、地域の魅力発信等の横断的な取組みを推進します。

◯競争力強化と安全性確保の観点から、広島AIプロセスの実績をベースに、AIに関する国際的な議論を主導するとともに、法規制と、事業者ガイドラインなどのソフトローを組み合わせた国内の制度整備を進めます。また、我が国のAI開発力強化に向けた取組みを進めます。

○青少年健全育成のための社会環境の整備を強化するとともに「青少年健全育成基本法」を制定します。また、ITの発達等による非行や犯罪から青少年を守るための各種施策を推進します。

◯ネット上の偽・誤情報や誹謗中傷などに対応するため、情報流通プラットフォーム対処法の円滑な施行、利用者のリテラシー向上や相談体制の充実、偽・誤情報対策技術の研究開発など、表現の自由を最大限考慮しつつ、制度整備も含め総合的な対策を推進します。

◯表現の自由を最大限考慮しつつ、インターネット上の誹謗中傷や差別、フェイクニュース等への対策を推進するとともに、人権意識向上の啓発活動を強化し、様々な人権問題の解消を図ります。

◯農林水産物・食品の国際競争力の強化に向け、優良品種の海外流出を防止し、戦略的な海外展開を推進するとともに、「家畜遺伝資源法」等のもと、我が国固有の財産である和牛を守ります。また、模倣品対策や地理的表示(GI)の活用等を強化します。

(総合政策集より)
◯コンテンツ戦略と海賊版対策

 コンテンツ産業は、海外売上において約5兆円となり鉄鋼業や半導体産業の輸出額にも比肩する我が国の基幹産業の一つになっており、地方創生に資する高い波及効果を有しています。インバウンド需要などを通じた経済波及効果も高く、我が国のソフトパワーを高める手段としても有効な分野です。官民の健全なパートナーシップのもと、コンテンツ産業の強化に向けて、関係省庁等及びコンテンツ関係者と議論を重ね、クリエイターが安心して持続的に働ける環境の整備や、クリエイターを中心とする海外展開・情報発信、デジタル化、エンタメ分野のスタートアップ支援等に対応したコンテンツ産業の改革等について取組みを進めていきます。

 また、海賊版に対する対策強化として、日本のコンテンツの海賊版が生成AIにより学習されるおそれや、外国での被害も深刻化する中、国外犯処罰の導入検討も含め、国際執行を強化するとともに日本企業による海外プラットフォーム買収等も活用しつつ、海外への正規版の流通を促進します。

◯「クールジャパン戦略」の推進

 海外の人々が良いと思う日本の魅力をマーケットインの考え方に基づき効果的に発信し、インバウンドや輸出の拡大等にもつながるクールジャパン戦略を強化・拡充します。

 コンテンツ、インバウンド、食・食文化の各分野において政策を総動員して取組みを進めてまいります。我が国の強いIP(コンテンツ、多様でおいしい食、様々な地域の自然・伝統など、広義の意味での知的資産)を活用し、新たな技術(Web3やNFT等)も取り入れて「イノベーション」を起こし、多層化・深化した「日本ファン」に対して高い「体験価値」を提供しながら、高い利益をあげて外貨を獲得し、関係者による再投資に回していくという好循環を確立していきます。

 今後も取組みを更に強化することにより、今後5年間で30兆円以上(2028年)、10年間で50兆円以上(2033年)とすることを目指します。

 2025年大阪・関西万博を地域活性化につなげるべく、地域における機運醸成の取組みや、万博と日本各地をつなぐ観光資源の磨き上げや文化創造に向けた支援を行います。海外においても、現地人材の活用等を通じて、在外公館やジャパン・ハウス等の発信・展開拠点を強化します。

◯「クールジャパン」関連コンテンツの振興

 世界的に動画配信サービスが普及していく中、アニメやゲームを中心に日本のコンテンツの人気は世界中で非常に高まっています。また、コンテンツ人気がインバウンドにも大きな波及効果をもたらしています。

 製作現場のデジタル化、先進デジタル技術を活用したビジネスの創出、クリエイターやビジネス・プロデューサー等の、人材育成、エンタメ分野のスタートアップ支援を進め、コンテンツ産業の振興と海外展開を図ります。

 併せて、東京国際映画祭などコンテンツの中心としての日本の魅力を高める取組みや日本のクリエイターの海外発信を進めます。また、国内への大型映像作品のロケ誘致は、作品を通じて日本の魅力を発信するだけにとどまらず、海外の映像製作のノウハウを日本のコンテンツ産業にもたらします。諸外国の制度も参考にしつつ、ロケ誘致の一層の推進を図ります。

 文化芸術の需要の裾野を拡大し、クリエイターに資金を循環する環境を整備するため、企業・地域によるアートの積極的な活用の促進を図ります。

◯持続的なイノベーションの創出に向けたシステム改革

 新たな社会や経済への変革が世界的に進む中、デジタル技術も活用しつつ、未来を先導するイノベーション・エコシステムの維持・強化が不可欠です。このため、企業の事業戦略に深く関わる大型共同研究の集中的マネジメント体制の構築、政策的重要性が高い領域や地域発のイノベーションの創出につながる独自性や新規性のある産学官共創拠点の形成を推進します。更に、スタートアップの創出・成長支援や小中高校生から大学生等までのアントレプレナーシップ教育などを推進します。また、地域発のイノベーション創出に向けて、地域の様々なプレイヤーが事業化に向けたチームとして活動を行い、事業化の成功事例を蓄積する取組みを推進します。

 我が国の人材育成及び学術研究の中心的役割を担う国公私立大学の抜本的改革を確実に進めるとともに、運営費交付金や施設整備費補助金、私学助成などの基盤的経費を拡充します。「研究成果の最大化」を使命とする国立研究開発法人の基盤的経費を充実するとともに、2025年までに大学・研究開発法人などに対する企業の投資額を2014年の水準の3倍とする目標を踏まえ、600兆円経済の実現に向けて科学技術イノベーションの活性化を図り、経済の好循環を実現するため、科学技術・イノベーション創出の活性化に関する法律に基づく研究開発法人による出資業務を推進します。

 更に、研究開発税制や寄附金税制をはじめとするイノベーション促進に向けた税制改革や、革新的な技術シーズの事業化のためのリスクマネー供給などの政策金融の改革、特許などの知的財産の迅速な保護及び円滑な利活用を促進するための知的財産制度の改革、イノベーションの隘路となっている規制や社会制度などの改革や新技術に関する優先的な政府調達の実現、中小企業などに対する産学官連携などを強力に推進します。

 国際標準の獲得を目指す各国の動きが一層活発化していることから、官民協働による戦略的な国際標準化活動を着実に推進します。また、我が国が優れた先端技術を持つ基幹インフラについて、建設から運用、人材養成への寄与までを一体システムとして捉え、官民協働による海外輸出・展開活動を大幅に強化します。

◯経済安全保障推進法の着実な実施

 2022年5月に成立した「経済安全保障推進法」の4分野について、制度の着実な実施と不断の見直し、更なる取組みの強化を行います。

 具体的には、サプライチェーン強靱化については、半導体や抗菌薬など、国民の生存や経済活動にとって重要な物資の安定供給確保に向けて、引き続き不断の点検・評価を行い、これまでの措置の効果を踏まえた上で、実効性のある対応を講じます。

 電気、ガス、水道等を対象とした基幹インフラの事前審査制度については、2024年5月より、重要設備の導入・維持管理等の委託に関して国による事前審査を開始したところであり、これを着実に実施し、基幹インフラ産業の自律性を高め、強靱化を図ります。

 先端的な重要技術の開発支援については、経済安全保障重要技術育成プログラムの研究開発ビジョンで示された重要技術について、協議会による伴走支援を引き続き実施するなど、我が国の技術優位性を確保できるよう努めます。

 特許出願の非公開制度については、具体的な保全審査等に際して、出願人との丁寧な意思疎通を行うなど、円滑な制度運用に引き続き万全を期します。

◯宇宙・サイバー・電磁波領域における体制強化の加速

 宇宙・サイバー・電磁波領域における体制強化に向けた取組みを加速化します。宇宙分野においては、「宇宙基本計画」に基づき、衛星コンステレーションの構築に必要な措置を進めるなど、宇宙の安全保障に関する総合的な取組みを強化します。サイバー分野については、「国家安全保障戦略」を踏まえ、能動的サイバー防御を導入するなど、欧米主要国と同等以上にサイバー安全保障分野での対応能力を向上させます。そのための関連法案を早期に国会提出するとともに、「自衛隊サイバー防衛隊」の体制強化、今年改編された陸自システム通信・サイバー学校をはじめとする部内教育の拡充、高度な知見を有する部外の人材の登用や教育・研究基盤の拡充・強化等を進めます。また、能動的サイバー防御の実施に向けて、不正アクセス禁止法等の現行法令等との関係の整理及びその他の制度的・技術的双方の観点、インテリジェンス部門との連携強化の観点から、早急に検討を行います。電磁波分野については、「電子作戦隊」の拡充やゲーム・チェンジャーとなり得る将来の技術の研究等により、電磁波領域における能力を強化します。

◯能動的サイバー防御導入に向けた体制強化等

 高度なサイバー攻撃から我が国のインフラ機能を保護し、安全保障を確保するための政府と基幹インフラ事業者等の間の情報共有枠組みや、基幹インフラ事業者による政府へのサイバー攻撃の被害等の報告義務づけなどの仕組みを創設します。

 外国政府主体等が関与する高度かつ重大なサイバー攻撃に対処するため、政府が通信情報を収集・分析する必要があります。その際、重大なサイバー攻撃への対処という公共の福祉の観点から必要最小限の通信情報の利用を可能とし、欧米主要国を参考に、サイバー攻撃防止の実効性を確保しつつ、国民の権利との関係が整理された制度とします。

 被害が瞬時かつ広範に拡散するというサイバー攻撃の特性を踏まえ、攻撃の未然防止や被害拡大防止のため、被害発生のおそれを認知し次第、被害防止措置をとれる権限整備を検討します。

 また、重大なサイバー攻撃に対し我が国の持てる能力を最大限活用するため、内閣官房を司令塔として機能させつつ、警察、防衛省・自衛隊が必要に応じ、的確に措置を実施できる制度とします。その際、平素から柔軟に対応できるよう「事態認定方式」ではない新たな自衛隊の行動類型を整備することを検討します。

 サイバーセキュリティ戦略本部の機能を強化することに加え、司令塔組織への権限付与等、政府全体の予算・体制・能力を抜本的に強化します。また、キャリアパスの明示、官民人材交流、国際的な官民枠組みへの参画、国内外の演習への参加などを通じて、サイバー分野における魅力あるキャリアを描ける人材育成・確保策を検討します。

◯デジタルトランスフォーメーション(DX)時代に対応した著作権制度・政策

 DXの推進は、文化芸術における創作・流通・利用にも大きな影響を与えており、DX時代における社会・市場の変化やテクノロジーの進展に柔軟に対応したコンテンツ創作の好循環を実現する必要があります。そのため、DX時代に対応した簡素で一元的な権利処理方策の着実な実施に加え、コンテンツの利用円滑化とそれに伴う適切な対価の還元について取り組みます。また、著作権侵害に対する実効的な海賊版対策の実施、我が国の正規版コンテンツの海外における流通促進、デジタルプラットフォームサービスに係るいわゆるバリューギャップ等への対応、著作権制度・政策の普及啓発・教育方策を進め、コンテンツの権利保護を図ります。

◯ネット上の誹謗中傷等の対策推進

 SNS等のネット上における偽・誤情報や誹謗中傷等に対応するため、情報流通プラットフォーム対処法の円滑な施行、プラットフォーム事業者の積極対応の促進、利用者のリテラシー向上や相談体制の充実、偽・誤情報対策技術の研究開発など、表現の自由を最大限考慮しつつ、制度整備を含め、総合的な対策を推進します。また、会社法の外国会社登記の徹底、捜査機関の体制強化などにも取り組みます。

<日本維新の会>
(マニフェスト全文より)
◯表現の自由に十分留意しつつ、民族・国籍を理由としたいわゆる「ヘイトスピーチ(日本・日本人が対象のものを含む)」を許さず、不当な差別のない社会の実現のため、実効的な拡散防止措置を講じます。

◯SNSなどにおける誹謗中傷問題につき、表現の自由に十分に配慮しつつ、中傷被害者の救済を迅速・確実に図るとともに、誹謗中傷表現の抑止のための国、自治体、事業者の責務を明確にした対策をすすめます。また、民事裁判手続きの負担軽減策や、放送事業者による出演者からの相談体制整備など、総合的な被害者支援策を実施します。

◯特許侵害をした者への制裁が有効に働かずにモラルハザードが起き、抑止できていない現状に鑑み、実効性のない刑事罰は見直し、特許が尊重されるよう法律を整備します。

◯生成AIの技術開発の速さや適用範囲の広さを踏まえ、これからのAI時代にふさわしい「アジャイル・ガバナンス」をベースにした制度設計を取り入れ、生成AIに関する事業者の自主的取組やアカウンタビリティを促します。また、デジタルプラットフォーマーに対しては、その社会的な影響の大きさに鑑み、生成AIに関する各種リスクに対する安全性や透明性を確保するための規律を設けます。

◯偽・誤情報の拡散、サイバー攻撃、人権侵害や著作権侵害といった、生成AIが及ぼす重大なリスクに対しては、世界共通の課題として国際的な枠組みの下で議論を主導し、国際連携を強化します。加えて、覇権主義的な国家による、生成AIを使った情報戦やサイバー戦に対しては、我が国の民主主義や基本的人権を守るため、能動的サイバー防御も含めた情報戦対策と必要な法整備に向けた検討を行います。

◯種苗の開発者の育成者権を守り、種苗の不正な海外流出を防ぐ環境を整備するとともに、積極的に研究開発を行う農家・開発者による新たなビジネスモデルの構築を支援します。また、収穫量増大・生産コスト低減や、有機農業に適した品種の開発にも注力します。

◯表現の自由を最大限尊重し、マンガ・アニメ・ゲームなどの内容に行政が過度に干渉しないコンテンツ産業支援を目指します。MANGAナショナルセンターの設置による作品アーカイブの促進、インバウンドを意識した文化発信やクリエイターの育成支援などを行います。

◯文化的コンテンツ等をデジタルデータとしてブロックチェーン上に記録したいわゆるNFT(非代替性トークン)について、イノベーションを阻害しないルール作りによる市場の拡大支援を行い、日本の強みであるマンガ・アニメ・ゲーム等のコンテンツ産業・アート市場のさらなる発展を後押しします。

(2024年11月10日の追記:10月27日の日本の総選挙では自公の与党が過半数割れをし、11月5日のアメリカ大統領選挙ではトランプ氏が勝利した。この選挙の結果は今後の日米の政策判断に大きな影響を与えて行く事だろう。)

(2025年6月29日の追記:一か所改行が間違って入っていたので直した。)

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2024年7月 7日 (日)

第499回:暗号化技術に対するバックドアの強制の様な技術的検閲は基本的な権利に抵触するものであって認められないとする2024年2月13日の欧州人権裁判決

 2024年2月13日と少し前の事になるが、基本的な権利に基づき暗号化技術に対するバックドアの強制の様な技術的検閲の禁止を述べるという、昨今の世界の動向に照らして非常に重要な内容を含む判決を欧州人権裁判所が出しているので、ここで紹介しておきたいと思う。

 この判決の第36段落で以下の様に書かれている通り、ロシア当局がインターネット通信事業者にあらゆる通信データの蓄積と暗号化通信に対する復号化のための情報すなわちバックドア情報を求める事ができるという法令をロシアが制定した事に対し、欧州人権条約違反として訴えが提起されたというのが事件の概要である。(以下、いつも通り、翻訳は全て拙訳。)

36. The applicant complained about the statutory requirement for ICOs to store the content of all Internet communications and related communications data, and to submit those data to law-enforcement authorities or security services at their request together with information necessary to decrypt electronic messages if they were encrypted. He relied on Article 8 of the Convention, which reads as follows:

"1. Everyone has the right to respect for his private and family life, his home and his correspondence.

2. There shall be no interference by a public authority with the exercise of this right except such as is in accordance with the law and is necessary in a democratic society in the interests of national security, public safety or the economic well-being of the country, for the prevention of disorder or crime, for the protection of health or morals, or for the protection of the rights and freedoms of others."

36.請求人は、インターネット通信事業者(ICO)がインターネットの全通信及び関係する通信データの内容を蓄積し、このデータを法執行当局又はセキュリティサービスに、その請求に応じ、もしそれが暗号化されていた場合には電子的メッセージを復号するために必要な情報とともに引き渡すという法定の求めに対して訴えを提起した。彼は欧州人権条約の第8条に依拠しており、それは以下の様に書かれている:

「1.あらゆる者はその私的な及び家族の生活、その家及び通信を尊重される権利を有する。

2.その法に合致し、国家の安全保障、公衆の安全又は国の経済の健全の利益における、混乱又は犯罪の予防のため、健康又は道徳の保護のため他の権利及び自由を保護するため、社民主主義社会において必要なものである場合を除き、公的な当局によるこの権利の行使への介入はあってはならない。」

 過去の判例を引きながら通信データの蓄積が条約違反であるとしている部分も興味深いが、この欧州人権裁の判決で私が最も重要であると思っているのは、表現の自由なども踏まえ、バックドアの導入を強制して暗号化通信に対する政府のアクセスを可能とする法令は通信の秘密を含むプライバシー保護を規定する欧州人権条約第8条違反と明確に述べている以下の部分である。

(γ) Statutory requirement to decrypt communications

76. Lastly, as regards the requirement to submit to the security services information necessary to decrypt electronic communications if they are encrypted, the Court observes that international bodies have argued that encryption provides strong technical safeguards against unlawful access to the content of communications and has therefore been widely used as a means of protecting the right to respect for private life and for the privacy of correspondence online. In the digital age, technical solutions for securing and protecting the privacy of electronic communications, including measures for encryption, contribute to ensuring the enjoyment of other fundamental rights, such as freedom of expression (see paragraphs 28 and 34 above). Encryption, moreover, appears to help citizens and businesses to defend themselves against abuses of information technologies, such as hacking, identity and personal data theft, fraud and the improper disclosure of confidential information. This should be given due consideration when assessing measures which may weaken encryption.

77. As noted above (see paragraph 57 above), it appears that in order to enable decryption of communications protected by end-to-end encryption, such as communications through Telegram's "secret chats", it would be necessary to weaken encryption for all users. These measures allegedly cannot be limited to specific individuals and would affect everyone indiscriminately, including individuals who pose no threat to a legitimate government interest. Weakening encryption by creating backdoors would apparently make it technically possible to perform routine, general and indiscriminate surveillance of personal electronic communications. Backdoors may also be exploited by criminal networks and would seriously compromise the security of all users' electronic communications. The Court takes note of the dangers of restricting encryption described by many experts in the field (see, in particular, paragraphs 28 and 34 above).

78. The Court accepts that encryption can also be used by criminals, which may complicate criminal investigations (see Yuksel Yalcinkaya v. Turkiye [GC], no. 15669/20, § 312, 26 September 2023). However, it takes note in this connection of the calls for alternative "solutions to decryption without weakening the protective mechanisms, both in legislation and through continuous technical evolution" (see, on the possibilities of alternative methods of investigation, the Joint Statement by Europol and the European Union Agency for Cybersecurity, cited in paragraph 33 above, and paragraph 24 of the Report on the right to privacy in the digital age by the Office of the United Nations High Commissioner for Human Rights, cited in paragraph 28 above; see also the explanation by third-party interveners in paragraph 47 above).

79. The Court concludes that in the present case the ICO's statutory obligation to decrypt end-to-end encrypted communications risks amounting to a requirement that providers of such services weaken the encryption mechanism for all users; it is accordingly not proportionate to the legitimate aims pursued.

(δ) Conclusion

80. The Court concludes from the foregoing that the contested legislation providing for the retention of all Internet communications of all users, the security services' direct access to the data stored without adequate safeguards against abuse and the requirement to decrypt encrypted communications, as applied to end-to-end encrypted communications, cannot be regarded as necessary in a democratic society. In so far as this legislation permits the public authorities to have access, on a generalised basis and without sufficient safeguards, to the content of electronic communications, it impairs the very essence of the right to respect for private life under Article 8 of the Convention. The respondent State has therefore overstepped any acceptable margin of appreciation in this regard.

81. There has accordingly been a violation of Article 8 of the Convention.

(γ)通信の暗号を復号する法定の求め

76.最後に、もし暗号化されている場合に電気通信の暗号を復号するのに必要な情報をセキュリティサービスに提供する求めについてであるが、当裁判所は、暗号化が通信の内容に対する違法なアクセスに対する強い技術的保障を提供し、したがって、私的生活及びオンライン通信のプライバシーに関する権利を保護する手段として広く用いられている事を国際機関が主張している事を把握している。デジタル時代において、暗号化措置を含む電気通信のプライバシーを保証し、保護するための技術的ソリューションは、表現の自由の様な他の基本的な権利の享受の保証に寄与するものである(上記段落28及び34参照)。さらに、暗号化は、市民と企業がハッキング、個人情報詐取、詐欺及び機微情報の不適切な開示の様な情報技術の濫用から自身を守る助けになるものと思われる。この事は暗号化を弱め得る措置を評価する際に当然考慮されるべきものである。

77.上で述べた通り(上記段落57参照)、テレグラムの「秘密チャット」を通じた通信の様なエンド・ツー・エンドの暗号化によって保護される通信の暗号化を可能とするためには、全利用者の暗号化を弱める必要があるであろう。この措置は主張されている様に特定の個人に限定され得るものではなく、政府の正当な利益に何ら脅威をもたらすものではない個人も含め無差別に全ての者に影響する。バックドアを作る事によって暗号化を弱める事は明らかに個人の電気通信の日常的、一般的かつ無差別の監視を技術的に可能とするであろう。バックドアはまた犯罪ネットワークによっても用いられ得るものであり、全利用者の電気通信のセキュリティを著しく危うくするであろう。当裁判所は本分野における多くの専門家によって述べられた暗号化の制限の危険に留意する(特に上記段落28及び34参照)。

78.当裁判所は暗号化は犯罪者によっても暗号化は使われ得るものであり、これは犯罪捜査を複雑化するものであるという事を認める(2023年9月26日、ユクセル・ヤルチンカヤ対トルコ政府事件判決、段落312参照)。しかしながら、この点では代替となる「立法におけるものとともに継続的な技術発展を通じて保護機構を弱める事なく暗号の復号を行うソリューション」の呼び掛けがなされている事に留意する(捜査のための代替手法の可能性について、上記段落33で引用したユーロポール及び欧州連合サイバーセキュリティ庁の共同声明、及び、上記段落28で引用した国際連合人権高等弁務官事務所によるデジタル時代のプライバシー権に関する報告書の段落24参照;上記段落47の第三者参加人による説明も参照)。

79.当裁判所は、本事件においてICOのエンド・ツー・エンド暗号化通信の暗号を復号する法定義務はその様なサービスの提供者が全利用者の暗号化機構を弱める求めに該当する危険があると結論する;したがって、それは追求される正当な目的に対してバランスの取れたものではない。

(δ)結論

80.当裁判所は、前述の事から、全利用者の全インターネット通信の保存、濫用に対する適切な保障のないセキュリティサービスによる蓄積されたデータへの直接アクセス及びエンド・ツー・エンドの暗号化通信に適用される暗号化通信を復号する求めを規定する、訴えの対象である立法は民主主義社会において必要なものと見る事はできないと結論する。公的な当局が、一般的な基礎として十分な保障なく、通信の内容にアクセスする事をこの立法が許す限り、それは欧州人権条約の第8条の私的生活を尊重される権利の実に本質的な部分を侵害する。したがって、相手方の政府はこの点であらゆる受け入れ可能な判断の余地を踏み越えている。

したがって、ここには条約第9条違反がある。

 ウクライナ侵攻の影響でロシアが実質的に欧州人権条約から脱退しているため(欧州人権条約のWikipedia参照)、ロシアに対する直接的な影響はないに等しいが、この判決は欧州人権条約に基づく国際裁判所の判決としてヨーロッパで間接的に大きな意味を持って行くだろうと私は考えている。

 その観点で、この欧州司法裁が関連するものとして2つの国際機関の報告書を取り上げている事も重要である。

 1つは、判決の第28段落で以下の様に引用されている、2022年8月4日の国連人権高等弁務官事務所によるデジタル時代のプライバシー権に関する報告書である。(国連人権高等弁務官事務所の報告書掲載ページ参照。)

28. The Report on the right to privacy in the digital age by the Office of the United Nations High Commissioner for Human Rights, published on 4 August 2022 (A/HRC/51/17), reads as follows, in so far as relevant (footnotes omitted):

"B. Restrictions on encryption

...

21. Encryption is a key enabler of privacy and security online and is essential for safeguarding rights, including the rights to freedom of opinion and expression, freedom of association and peaceful assembly, security, health and non-discrimination. Encryption ensures that people can share information freely, without fear that their information may become known to others, be they State authorities or cybercriminals. Encryption is essential if people are to feel secure in freely exchanging information with others on a range of experiences, thoughts and identities, including sensitive health or financial information, knowledge about gender identities and sexual orientation, artistic expression and information in connection with minority status. In environments of prevalent censorship, encryption enables individuals to maintain a space for holding, expressing and exchanging opinions with others. In specific instances, journalists and human rights defenders cannot do their work without the protection of robust encryption, shielding their sources and sheltering them from the powerful actors under investigation. Encryption provides women, who face particular threats of surveillance, harassment and violence online, an important level of protection against involuntary disclosure of information. In armed conflicts, encrypted messaging is indispensable to ensuring secure communication among civilians. It is notable that in the two months after the beginning of the armed conflict in Ukraine on 24 February 2022, the number of downloads in Ukraine of the encrypted messaging app Signal went up by over 1,000 per cent compared with preceding months.

...

23. In spite of its benefits, Governments sometimes restrict the use of encryption, for example for the protection of national security and combating crime, in particular to detect child sexual abuse material. Restrictions include bans on encrypted communications and criminalization for offering or using encryption tools or mandatory registration and licensing of encryption tools. Similarly, in some instances, encryption providers have been required to ensure that law enforcement or other government agencies have access to all communications upon request, which can effectively amount to a blanket restriction of encryption that could require, or at least encourage, the creation of some sort of back door (a built-in path to bypass encryption, allowing for covert access to data in plain text). Another form of interference with encryption is the requirement that key escrow systems be created and maintained, and all private keys needed to decrypt data be handed over to the Government or a designated third party. The imposition of traceability requirements, according to which providers need to be able to trace any message back to its supposed originator, could also require the weakening of encryption standards. Recently, various States have started imposing or considering general monitoring obligations for providers of digital communications, including those offering encrypted communications services. Such duties could effectively force those providers to abandon strong end-to-end encryption or to identify highly problematic workarounds (see paras. 27-28 below).

24. There is no doubt that widely used encryption capabilities, capabilities that the public has demanded as a response to mass surveillance and cybercrime, create a dilemma for Governments seeking to protect populations, in particular their most vulnerable members, against serious crime and security threats. However, as pointed out by the Special Rapporteur on the promotion and protection of the right to freedom of opinion and expression, regulation of encryption risks undermining human rights. Governments seeking to limit encryption have often failed to show that the restrictions they would impose are necessary to meet a particular legitimate interest, given the availability of various other tools and approaches that provide the information needed for specific law enforcement or other legitimate purposes. Such alternative measures include improved, better-resourced traditional policing, undercover operations, metadata analysis and strengthened international police cooperation.

25. Moreover, the impact of most encryption restrictions on the right to privacy and associated rights are disproportionate, often affecting not only the targeted individuals but the general population. Outright bans by Governments, or the criminalization of encryption in particular, cannot be justified as they would prevent all users within their jurisdictions from having a secure way to communicate. Key escrow systems have significant vulnerabilities, since they depend on the integrity of the storage facility and expose stored keys to cyberattacks. Moreover, mandated back doors in encryption tools create liabilities that go far beyond their usefulness with regard to specific users identified as crime suspects or security threats. They jeopardize the privacy and security of all users and expose them to unlawful interference, not only by States, but also by non-State actors, including criminal networks. Licensing and registration requirements have similar disproportionate effects as they require that encryption software contain exploitable weaknesses. Such adverse effects are not necessarily limited to the jurisdiction imposing the restriction; rather it is likely that back doors, once established in the jurisdiction of one State, will become part of the software used in other parts of the world.

26. ... Since the content of messages, once encrypted, cannot be accessed by anyone except the sender and the recipient, any general monitoring obligation would force service providers to either abandon transport encryption or seek access to messages before they are encrypted ..."

28.2022年8月4日に公表された、国際連合人権高等弁務官事務所によるデジタル時代のプライバシー権に関する報告書には、関係する箇所として、以下の様に書かれている(脚注省略):

「B.暗号化に対する制限

21.暗号化はオンラインのプライバシーとセキュリティを可能とする鍵であり、意見及び表現の自由、結社及び平和的集会の自由、セキュリティ、健康及び差別されない事に関する権利を含む権利を保障するために必須のものである。暗号化は、人々がその情報が国の当局であれ、サイバー犯罪者であれ、他者に知られ得る恐れなく自由に情報を共有する事を保証する。機微な健康や経済的情報、ジェンダーアイデンティティ及び性的指向、芸術的表現及びマイノリティの立場と関係する情報を含む、ある範囲の経験、考え、アイデンティティにおいて他の者と自由に情報を交換する際に人々が安全であると感じるべきであるなら、暗号化は必須である。検閲が蔓延する環境下で、暗号化は個人に他の者と意見を持ち、表し、交換する場を維持する事を可能にする。特別な場合において、ジャーナリスト及び人権保護活動家は捜索を受ける強力な権力者からそのソース及び自身を守る堅牢な暗号化の保護なしにその仕事をする事はできない。暗号化は、オンラインで特定の監視、嫌がらせ及び暴力の脅威に直面する女性に情報の意図しない開示に対して重要なレベルの保護を与える。武力紛争において、暗号化されたメッセージのやりとりは民間人の間での安全なコミュニケーションを保証するために不可欠である。2022年2月24日のウクライナにおける武力紛争の開始後2ヶ月間で暗号化メッセージアプリSignalのダウンロード数はその前の月と比べて1000%以上増えた事は注目すべき事である。

23.その利益にもかかわらず、政府は、例えば国の安全保障及び犯罪対策のため、特に児童の性的虐待マテリアルの検知のために、暗号化の利用を制限する事が間々ある。制限は暗号化通信からの排除及び暗号化ツールの提供又は利用の犯罪化又は暗号化ツールの強制登録又は許諾を含む。同様に、ある場合は、暗号化の提供者は法執行又はその他の政府期間が求めた時あらゆる通信にアクセスできる事を確保する事を求められ、それは効果として、ある種のバックドア(平文のデータへの密かなアクセスを可能とする、暗号化を迂回する組み込み経路)の作成を求めるか、少なくとも推奨する様な、暗号化の包括制限になり得る。暗号化に対する他の形の介入は、キー預託制度が作られ、維持される事を求める事であり、データを復号するために必要なあらゆるプライベートキーが政府又は指定される第三者に渡されるというものである。プロバイダーは想定される元の発信者まであらゆるメッセージを追跡できなければならないとするトレーサビリティ要求もまた暗号化のスタンダードを弱める事を求めるものである。最近、様々な国が暗号化通信サービスの提供者を含むデジタル通信のプロバイダーに一般的な監視義務を課すか、その検討を始めている。この様な義務はこれらのプロバイダーに強いエンド・ツー・エンドの暗号化を捨てるか非常に問題のある次善策を特定する事を効果的に強制し得るものである(下の段落27-28参照)。

24.広く使われている暗号化の能力、大規模な監視及びサイバー犯罪に対応するものとして公衆が求めている能力は、重大な犯罪とセキュリティの脅威に対して大衆を、特にその最も脆弱な構成員を、守ろうとする政府にとってジレンマを作り出している。しかしながら、意見及び表現の自由に関する権利の促進及び保護に関し、特別報告官により指摘されている通り、暗号化の規制は人権の基礎を掘り崩す恐れがある。特別な法執行又はその他の正当な目的に必要な情報を提供する様々な他のツール又はアプローチがある事から、その課そうとする制約が特定の正当な利益に必ず合致するものである事を示すのに暗号化を制限しようとする政府が失敗する事も多い。その様な代替措置は改善され、より良いリソースを与えられた伝統的な警察活動、秘密のオペレーション、メタデータ分析及び強化された国際的警察協力を含む。

25.さらに、ほぼ全ての暗号化の制限のプライバシーに関する権利とそれに付随する権利に対する影響はバランスの取れたものではなく、目標とする個人だけででなく一般大衆にも多く影響する。特に政府による暗号化の全面禁止又は犯罪化は通信する安全な手段を持つ事をその法域内のあらゆる利用者にできなくするものであって正当化され得ない。キー預託制度は蓄積の容易性に依存し、蓄積されたキーをサイバー攻撃に晒すものであるから、重大な脆弱性を持つ。さらに、暗号化における強制バックドアは犯罪被疑者又はセキュリティの脅威として特定される特別な利用者に関する利便性を超える法的責任を作り出す。それは全利用者のプライバシーとセキュリティを脅かし、彼らを政府のみならず犯罪ネットワークを含む政府以外の者による違法な介入に晒す事になる。許諾及び登録を求める事は暗号化ソフトウェアが利用可能な弱さを含む事を求める事であって、同様にその影響はバランスを欠く。この様な悪影響は制約を課す法域に必ずしも閉じない。むしろある国の法域によって一度確立されたバックドアが世界の他の領域で用いられるソフトウエアの一部になると思われる。

26.…一度暗号化されたメッセージの内容は送信者と受信者以外によってアクセスされ得ないものであるから、あらゆる一般的な監視義務はサービスプロバイダーに通信の暗号化を放棄するか暗号化前のメッセージへのアクセスをしようとする事を強いるものである。…」

 もう1つは、第34段落で以下の様に引用されている、2022年7月28日の欧州データ保護委員会及び欧州データ保護監督官の児童の性的虐待を防止するための欧州規制案に対する共同意見である。(欧州データ保護委員会の報告書掲載ページ又は欧州データ保護監督官の報告書掲載ページ参照。)

34. On 28 July 2022 the European Data Protection Board (EDPB) and the European Data Protection Supervisor (EDPS) adopted Joint Opinion 4/2022 on the Proposal for a Regulation of the European Parliament and of the Council laying down rules to prevent and combat child sexual abuse. It provides as follows (footnotes omitted):

"Executive summary

... measures permitting the public authorities to have access on a generalised basis to the content of a communication in order to detect solicitation of children are more likely to affect the essence of the rights guaranteed in Articles 7 and 8 of the Charter ...

The EDPB and EDPS also express doubts regarding the efficiency of blocking measures and consider that requiring providers of internet services to decrypt online communications in order to block those concerning CSAM [child sexual abuse material] would be disproportionate.

Furthermore, the EDPB and EDPS point out that encryption technologies contribute in a fundamental way to the respect for private life and confidentiality of communications, freedom of expression as well as to innovation and the growth of the digital economy, which relies on the high level of trust and confidence that such technologies provide. Recital 26 of the Proposal places not only the choice of detection technologies, but also of the technical measures to protect confidentiality of communications, such as encryption, under a caveat that this technological choice must meet the requirements of the proposed Regulation, i.e., it must enable detection. This supports the notion gained from Articles 8(3) and 10(2) of the Proposal that a provider cannot refuse execution of a detection order based on technical impossibility. The EDPB and EDPS consider that there should be a better balance between the societal need to have secure and private communication channels and to fight their abuse. It should be clearly stated in the Proposal that nothing in the proposed Regulation should be interpreted as prohibiting or weakening encryption ...

4.10 Impact on encryption

96. European data protection authorities have consistently advocated for the widespread availability of strong encryption tools and against any type of backdoors. This is because encryption is important to ensure the enjoyment of all human rights offline and online. Moreover, encryption technologies contribute in a fundamental way both to the respect for private life and confidentiality of communications ...

97. In the context of interpersonal communications, end-to-end encryption ('E2EE') is a crucial tool for ensuring the confidentiality of electronic communications, as it provides strong technical safeguards against access to the content of the communications by anyone other than the sender and the recipient(s), including by the provider. Preventing or discouraging in any way the use of E2EE, imposing on service providers an obligation to process electronic communication data for purposes other than providing their services, or imposing on them an obligation to proactively forward electronic communications to third parties would entail the risk that providers offer less encrypted services in order to better comply with the obligations, thus weakening the role of encryption in general and undermining the respect for the fundamental rights of European citizens. It should be noted that while E2EE is one of the most commonly used security measures in the context of electronic communications, other technical solutions (e.g., the use of other cryptographic schemes) might be or become equally important to secure and protect the confidentiality of digital communications. Thus, their use should not be prevented or discouraged too.

98. The deployment of tools for the interception and analysis of interpersonal electronic communications is fundamentally at odds with E2EE, as the latter aims to technically guarantee that a communication remains confidential between the sender and the receiver ...

100. The impact of degrading or discouraging the use of E2EE, which may result from the Proposal needs to be assessed properly. Each of the techniques for circumventing the privacy preserving nature of E2EE presented in the Impact Assessment Report that accompanied the Proposal would introduce security loopholes. For example, client-side scanning would likely lead to substantial, untargeted access and processing of unencrypted content on end user's devices ... At the same time, server-side scanning, is also fundamentally incompatible with the E2EE paradigm, since the communication channel, encrypted peer-to-peer, would need to be broken, thus leading to the bulk processing of personal data on the servers of the providers.

101. While the Proposal states that it 'leaves to the provider concerned the choice of the technologies to be operated to comply effectively with detection orders and should not be understood as encouraging or discouraging the use of any given technology', the structural incompatibility of some detection orders with E2EE becomes in effect a strong disincentive to use E2EE.

The inability to access and use services using E2EE (which constitute the current state of the art in terms of technical guarantee of confidentiality) could have a chilling effect on freedom of expression and the legitimate private use of electronic communication services ..."

34.欧州データ保護委員会(EDPB)及び欧州データ保護監督官(EDPB)は児童の性的虐待を防止するための規制についての欧州議会及び理事会の規則提案に対し共同意見4/2022を採択した。それには次の様に記載されている(脚注省略)。

「要旨

…公的当局が一般的な基礎に基づき児童の勧誘を検知するために通信の内容にアクセスする事を許す措置は欧州人権条約の第7及び8条において保障される権利の本質に影響を与えると思われる…

EDPB及びEDPSはブロッキング措置の有効性に関する疑義を表明し、CSAM(児童の性的虐待マテリアル)に関するものをブロックするためにオンライン通信を復号する事をインターネットサービスのプロバイダーに求める事はバランスを欠くものであろうと考える。

さらに、EDPB及びEDPSは、暗号化技術は私的生活の尊重及び通信の秘密、表現の自由並びにイノベーション及びその様な技術が提供する高水準の信頼と信用に依拠するデジタル経済の成長に基本的なやり方で寄与するものである事を指摘する。提案の前文26は、検知技術の選択のみなら暗号化等の通信の秘密を保護するための技術的手段の選択は、この技術の選択は提案させる規則の求めに合致しなければならない、すなわち、検知を可能としなければならないという要請を受けるとしている。この事は、プロバイダーは技術的な不可能性に基づく検知命令の実行を拒否できないとする、提案の第8条第3項及び第10条第2項から得られる考えを支持するものである。EDPB及びEDPS安全な私的通信チャネルを持つという社会的な必要性とその濫用に立ち向かうというものとの間でより良いバランスが取られるべきであると考える。提案されている規則における如何なるものも暗号化を禁止又は弱めるものと解釈されてはならないと提案に明記されるべきである。…

4.10 暗号化に与える影響

96.欧州データ保護当局は常に強い暗号化を広く入手可能とする事を唱導しながらあらゆる種類のバックドアに反対して来た。これは、暗号化あらゆる人権のオフライン及びオンラインでの享受を保証するために重要だからである。さらに、暗号化技術は私的生活の尊重及び通信の秘密の両方に基本的なやり方で寄与するものである。…

97.個人間の通信の文脈において、エンド・ツー・エンド暗号化(「E2EE」)は、プロバイダーによるものを含め、送信者と受信者以外の者による通信の内容へのアクセスに対する強力な技術的保障を与えるものであるから、電気通信の秘密を保証する上で極めて重要なツールである。如何なる形にせよ、E2EEの使用を抑止する又は妨げる事、サービスプロバイダーにそのサービスの提供以外の目的のために電気通信データを処理する義務を課す事、又は、それらに事前に電気通信を第三者に渡す義務を課す事は、プロバイダーがより良く義務を果たす事ためにより少なく暗号化サービスを提供する事になり、その様にして一般的に暗号化の役割を弱体化し、欧州市民の基本的な権利に対する尊重を蔑ろにする恐れを必然的にもたらす事であろう。E2EEが電気通信の内容に関して最も一般的に使われているセキュリティ手段の一つである一方、他の技術的解決手段(例えば、他の暗号スキームの使用)もデジタル通信の秘密を守り、保護するために等しく重要なものであり得るか、そうあるであろう事も注意されるべきである。この様に、その使用は抑止されたり、妨げられたりされるべきものではない。

98.個人間の電気通信の傍受及び分析のためのツールの発展とE2EEは、後者が送信者と受信者の間で通信が秘密に保たれる事を技術的に保障する事を目的とするだけ、相反するものである。…

100.提案からもたらされ得る、E2EEの使用が低下させられるか妨げられる事の影響は適切に評価される必要がある。提案に付随する影響評価報告書に示された、E2EEのプライバシーを保つ性質を回避するための技術はいずれもセキュリティに穴を開けるものと思われる。例えば、クライアントサイドのスキャニングは実質的にエンドユーザーの機器における非暗号化コンテンツに対する非ターゲット型のアクセス及び処理に至るであろうものである…同時にサーバーサイドのスキャニングも、ピア・ツー・ピアで暗号化された通信チャネルが破壊される必要があり、その様にしてプロバイダーのサーバーにおける個人データバルクの処理に至るであろうものでって、E2EEプログラムと本質的に合致しないものである。

101.提案には、それは『関係するプロバイダーに検知命令に有効に合致するように実施される技術の選択は委ねられており、既存のいずれの技術の使用も推奨するか妨げるかするものと理解されるべきではない』と記載されているが、E2EEとある検知命令が構造的に合致不可能である事は実際にE2EEを使用する事に対する強いディスインセンティブとなるものである。E2EEを利用するサービスにアクセスし、それを使用する事ができない事は表現の自由及び電気通信サービスの合法的な私的使用に対する萎縮効果をもたらし得る…」

 これらの内、前者でも児童ポルノを理由とした暗号化の制限について言及されており、さらに、後者は今現在ヨーロッパで大きな問題とされている、2022年5月11日に欧州委員会から提案された児童の性的虐待対策のための欧州規則案に反対するものとして特に書かれたものである。欧州人権裁が、児童ポルノを理由としたとしても一般的かつ網羅的な通信の監視のために暗号化通信に対するバックドアの導入を強制するといった技術的検閲は基本的な権利に照らして問題があるとする、これらの国際機関の報告書を引用し、同じ論理を用いた事は、ヨーロッパを中心とする昨今の議論において大きな影響を与えずにはおかないだろう。

 ここで児童の性的虐待対策のための欧州規則案の条文の詳細な分析まではしないが、その英語版Wikipediaにも書かれている通り、2022年5月の欧州委員会による提案以降、主として、暗号化通信も含むあらゆる通信に対して適用され得る、児童ポルノ(性的虐待マテリアル)に関するインターネットサービスプロバイダーの検知義務や政府の検知命令について、あらゆるチャットをコントールする実質的な検閲であるとしてヨーロッパで大きな批判が巻き起こっており、この欧州人権裁の判決はそこに一石を投じたのである。

 この欧州規則案に強く反対している欧州海賊党のパトリック・ブレイヤー欧州議会議員が、そのチャットコントロールに関するページでさらに詳しいタイムラインを書いており、最近の6月20日の記事でも、幸いな事に、今現在案を検討している欧州理事会で1つの立場を決定する事に失敗した事を報告している。(なお、同議員が記事の中で触れている、シュピーゲル誌の記事(ドイツ語)でも、アメリカのフェイスブック等から児童の性的虐待に関するものとして当局に通報がされた大量のチャットの多くは関係のないものであったと言われているという事がある。事実の確認はできないが、通報の数の多さからその通りではないかと思えるものであり、この様な事も当然反対の論拠の1つとなるだろう。)

 ブレイヤー議員のページで今後の検討予定について書かれている事からも分かる通り、この規則の導入を支持している側の各国はまだ完全に諦めたものとは見えないが、今回の欧州人権裁の判決を敷衍すれば、何を理由として如何なる形を取るにせよ、あらゆる通信に対する一般的かつ網羅的な監視を行うために暗号化通信に対するバックドアの導入を強制するといった様な技術的検閲は基本的な権利に抵触するものとして認められる余地はないと言っていいのではないかと私も思う。私としても、欧州規則案が最終的に廃案になる事を、また、自由と民主主義を基本とする国であれば共通して通用するものである今回の欧州人権裁の判決で示された考えが世界に広まる事を願ってやまない。

 また、最後に、この欧州人権裁の判決について取り上げ、協力して欧州規則案に対して反対運動を展開している有名な団体として、欧州デジタルライツ(EDRi)や電子フロンティア財団(EFF)などがあるので(EDRiの欧州人権裁判決に関する記事EDRiの欧州規則案に反対する共同宣言に関する2024年7月1日の記事EFFの欧州人権裁判決に関する記事EFFの欧州規則案に反対する共同宣言に関する2024年7月1日の記事参照)、合わせ紹介しておく。

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2022年6月19日 (日)

第462回:主要政党の2022年参院選公約案比較(知財政策・情報・表現規制関連)

 3年ぶりの参院選が6月22日公示、7月10日投開票と決まり、主要政党の公約案が出揃った。

 今回も、知財政策や情報・表現規制問題は選挙のトピックとなりそうもないが、以下、関連項目・部分を抜き出しておく。

<自民党>
○わが国の生存、独立、繁栄を経済面から確保するために、経済安全保障政策を推進します。「経済安全保障推進法」を着実に実施するとともに、新たな「国家安全保障戦略」に経済安全保障の観点を盛り込みます。

(総合政策集より)
○59コンテンツ戦略と海賊版対策
 コンテンツ分野は、デジタルエコノミーの発展を支える中間財として重要な役割を果たすことから、デジタル時代に適合したコンテンツ産業の進化・発展を促します。デジタルの強みを最大限生かしたコンテンツの流通に資するよう、著作権処理の円滑化に資するよう所要の制度改正や権利情報データベースの構築をはじめとしたIT基盤整備、デジタルアーカイブ社会の実現に向けた取組みを進めます。
 また、海賊版対策、コンテンツ制作に携わる人材育成、コンテンツ制作における取引の適正化や就業環境の改善に取り組みます。その際、ブロックチェーンやフィンガープリント等のデジタル時代の新たな技術を積極的に活用しながら、クリエイターに適切に対価が還元されるコンテンツの管理・流通の仕組み作りを進めます。そのために、メディアコンテンツ中期戦略を、関係者との対話を重ねつつ策定します。

○60「クールジャパン戦略」の推進
 海外の人々が良いと思う日本の魅力をマーケットインの考え方に基づき効果的に発信し、インバウンドや輸出の拡大等にもつながるクールジャパン戦略を強化・拡充します。
 新型コロナによる影響など、クールジャパンを取り巻く環境の変化を踏まえ、コロナの下での安全安心や自然、エコ、SDGsなどの価値観の変化への対応、農産品や日本産酒類など引き続き堅調な輸出の促進、本格的なインバウンド再開に向けた受入れ環境の高付加価値化、オンラインとリアルの体験とのハイブリッドな融合、日本を愛する外国人との積極的な連携、地方の魅力のデジタル実装を通じた世界発信など多様な手法によりコロナ後を見据えたクールジャパンの取組みを更に推進します。
 2025年大阪・関西万博を地域活性化につなげるべく、地域における機運醸成の取組や、万博と日本各地をつなぐ観光資源の磨き上げや文化創造に向けた支援を行います。海外においても、現地人材の活用等を通じて、在外公館やジャパン・ハウス等の発信・展開拠点を強化します。

○61「クールジャパン」関連コンテンツの振興
 コロナ禍の中で、飲食、観光、文化芸術、イベント・エンターテインメント、ナイトタイムエコノミーといったクールジャパン関連分野は引き続き大きな影響を受けています。中小企業・小規模事業者、フリーランスで働く人が多いという就業構造を踏まえつつ、事業継続の支援を行います。
 アニメ、マンガ、映画、ゲーム、放送など海外への発信力が高いコンテンツ産業は、クールジャパンの大きな推進力となっています。製作現場のデジタル化、書面契約の徹底や就業環境を含めた商慣行の改善、人材育成、資金調達の改善を進め、コンテンツ産業の振興と海外展開を図ります。Web3.0時台におけるブロックチェ―ン・NFT、メタバース等の新たな潮流は、世界で愛されるキャラクターや作品などの知的財産を多く有するわが国にとって大きなチャンスであり、Web3.0時代の新たなコンテンツビジネスの環境整備を進めていきます。
 併せて、東京国際映画祭などコンテンツの中心としての日本の魅力を高める取組みを進めます。また、国内への大型映像作品のロケ誘致は、作品を通じて日本の魅力を発信するだけにとどまらず、海外の映像製作のノウハウを日本のコンテンツ産業にもたらします。諸外国の制度も参考にしつつ、ロケ誘致の一層の推進を図ります。
 文化芸術の需要の裾野を拡大し、クリエイターに資金を循環する環境を整備するため、企業・地域によるアートの積極的な活用の促進を図ります。
 更に、錦鯉や盆栽、ロボット、伝統文化や衣食住の生活文化などの新たな人気の高まり、SDGsや環境といった世界的な価値観の変化も取り入れて、日本のブランドイメージを高めていきます。

○113持続的なイノベーション創出に向けた制度改革
 研究開発税制や寄附金税制をはじめとするイノベーション促進に向けた税制改革や、革新的な技術シーズの事業化のためのリスクマネー供給などの政策金融の改革、特許などの知的財産の迅速な保護及び円滑な利活用を促進するための知的財産制度の改革、イノベーションの隘路となっている規制や社会制度などの改革や新技術に関する優先的な政府調達の実現、大学等の研究成果の技術移転、中小企業などに対する産学官連携などを強力に推進します。

○415農業分野の知的財産の保護
「改正種苗法」のもと、種苗の海外流出を防止するとともに、「家畜改良増殖法」と「家畜遺伝資源法」のもと、わが国固有の財産である和牛を守ります。

○627経済安全保障推進法の着実な実施
 経済安全保障推進法の執行体制を早期に整備するため、速やかに内閣府に経済安全保障推進室(仮称)を立ち上げ、足下での施策の実施に必要な所要の体制整備を行うとともに、来年度以降の円滑な執行に向けた予算・定員の確保に万全を期します。
 法律の施行後、速やかに基本方針を策定し、サプライチェーン強靭化及び官民技術協力に関する施策については、先行して可能な限り早期に実施し、主要国の取組みも念頭に置いた支援を行います。基幹インフラ及び特許非公開に関する施策については、関係事業者等との調整など施行に向けた準備を早急に進め、段階的に実施します。

○649国益に即した経済外交の推進
 自由貿易の推進はわが国の通商政策の柱です。多角的貿易体制の強化・改善に向け、日米貿易協定、TPP11協定、地域的な包括的経済連携(RCEP)協定、日EU経済連携協定や日英包括的経済連携協定を着実に実施します。TPP11協定については、参加を希望する国・地域に対して協定の高いレベルや基本的価値を守りつつ、戦略的な観点や国民の理解も踏まえながら一層の拡大を目指します。
 こうした取組みを通じて、各国の利益に資する貿易・投資を更に拡大させ、公正なルールに基づく自由で開かれたインド太平洋地域の経済発展等を実現します。国益確保の観点から、WTO改革、デジタル分野での国際ルール作りを含め、自由で開かれた国際経済社会システムの強化に向け、経済外交を展開します。
 日本企業支援では、情報共有・法的支援体制の強化、輸入規制・風評被害対策等を着実に進め、中小企業を含む日本企業及び地方自治体の海外展開支援を強化します。

○705青少年の健全育成
 青少年健全育成のための社会環境の整備を強化するとともに「青少年健全育成基本法(仮称)」と、家庭をめぐる環境の変化に伴い、家庭教育支援が緊要の課題となっていることから、家庭教育支援に関する施策を総合的に推進するための「家庭教育支援法(仮称)」を制定します。またITの発達等による非行や犯罪から青少年を守るための各種施策を推進します。

○825デジタルトランスフォーメーション(DX)時代に対応した著作権制度・政策
 DXの推進は、文化芸術における創作・流通・利用にも大きな影響を与えており、DX時代における社会・市場の変化やテクノロジーの進展に柔軟に対応したコンテンツ創作の好循環を実現する必要があります。そのため、DX時代に対応した簡素で一元的な権利処理方策や、公的機関・企業等でのデジタル化に対応した基盤の整備等、コンテンツの利用円滑化とそれに伴う適切な対価の還元について取り組みます。また、著作権侵害に対する実効的な海賊版対策の実施、わが国の正規版コンテンツの海外における流通促進、デジタルプラットフォームサービスに係るいわゆるバリューギャップ等への対応、著作権制度・政策の普及啓発・教育方策を進め、コンテンツの権利保護を図ります。

○836ネット上の誹謗中傷等の対策推進
 SNS等のネット上の誹謗中傷やフェイクニュース等に対応するため、改正プロバイダ責任制限法の円滑な施行、刑法の侮辱罪の法定刑見直し、プラットフォーム事業者の積極対応の促進と取組みの透明性の確保、情報リテラシー・モラル教育の拡充、被害者の相談対応・苦情処理の充実強化、会社法の外国会社登記の徹底、捜査機関の体制強化など、表現の自由を最大限考慮しつつ総合的な対策を推進します。

<公明党>
○近年、日本を取り巻く経済安全保障の脅威が、厳しさを増す中で、わが国の先端技術や産業を守り抜き、新たな経済成長を実現するため、成立した経済安全保障推進法に盛り込まれた①重要物資の供給体制の強靱化②電力や通信など基幹インフラ設備の安全性等の確保③わが国の先端技術の開発支援の強化④特許の非公開による機微技術の流出防止――の4つの柱からなる諸施策を着実に実行し、規制による安全保障の確保と自由な経済活動との両立を図りつつ、推進します。また、ウクライナ情勢等の影響も考慮し、施行後も状況に応じた対応や検討を行い、必要な措置を講じていきます。

<日本維新の会>
(政策提言より)
○266. 表現の自由を最大限尊重し、マンガ・アニメ・ゲームなどの内容に行政が過度に干渉しないコンテンツ産業支援を目指します。MANGA ナショナルセンターの設置による作品アーカイブの促進、インバウンドを意識した文化発信やクリエイターの育成支援などを行います。

○346. 表現の自由に十分留意しつつ、民族・国籍を理由としたいわゆる「ヘイトスピーチ(日本・日本人が対象のものを含む)」を許さず、不当な差別のない社会の実現のため、実効的な拡散防止措置を講じます。

○347. SNS などにおける誹謗中傷問題につき、わが党が提案した「インターネット誹謗中傷対策推進法案」を成立させ、表現の自由に十分に配慮しつつ、中傷被害者の救済を迅速・確実に図るとともに、誹謗中傷表現の抑止のための国、自治体、事業者の責務を明確にした対策をすすめます。

<立憲民主党>
○インターネットやSNS条の差別や誹謗中傷、人権侵害等への対策を強化します。

○「共謀罪」については、監視社会をもたらす恐れがあることや、表現の自由、思想・良心の自由を侵害する恐れがあるため、廃止します。

(政策集より)
○国民の知る権利を守るため特定秘密保護法を見直し、国会や第三者機関の権限強化も含め行政に対する監視と検証を強化します。安保法制や共謀罪の違憲部分を廃止します。

○先端技術や知的財産権の保護・強化を図ります。

○個人の情報の権利利益の保護を図るため、個人情報保護法など国内関連法をEU一般データ保護規則(GDPR)など海外の法制度を基準に改正します。自己に関する情報の取り扱いについて自ら決定できる権利(自己情報コントロール権)、本人の意思に基づいて自己の個人データの移動を円滑に行う権利(データポータビリティ権)、個人データが個人の意図しない目的で利用される場合等に当該個人データの削除を求める権利(忘れられる権利)、本人の同意なしに個人データを自動的に分析又は予測されない権利(プロファイリングされない権利)を法律上、明確化します。

○インターネットやSNS上の差別や誹謗中傷への対策を強化します。

○メディアにおける性・暴力表現について、子ども、女性、高齢者、障がい者をはじめとする人の命と尊厳を守る見地から、人々の心理・行動に与える影響について調査を進めるとともに、情報通信等の技術の進展および普及のスピードに対応した対策を推進します。

○インターネットを利用した人権侵害を許さず、速やかに対応できるような法改正、窓口創設を実現します。

○刑法の名誉毀損罪の法定刑の上限は懲役3年となっていますが、現状の人権侵害の深刻な状況に鑑みて、上限の引き上げを検討します。

○不正アクセスによるインターネット上の人権侵害について、プロバイダが被害救済のための対応をとることを義務付けます。

○インターネットやSNS上の差別や誹謗中傷、人権侵害等への対策を強化するとともに、インターネットのターゲット広告等の規制など個人情報保護を強化します。

○インターネット上の誹謗中傷を含む、性別・部落・民族・障がい・国籍、あらゆる差別の解消を目指すとともに、差別を防止し差別に対応するための国内人権機関を設置します。

○インターネットやSNS上の差別や誹謗中傷、人権侵害等への対策を強化します。政府は侮辱罪を厳罰化しましたが、侮辱罪での現行犯逮捕を完全には否定しないなど、表現の自由が萎縮する懸念が残りました。相手の人格を攻撃する誹謗中傷行為を刑法の対象とするため、加害目的誹謗等罪を創設するとともに、プロバイダ責任制限法を改正し発信者情報の開示を幅広く認めることなどを柱とする「インターネット誹謗中傷対策法案」の成立を目指します。

○知的財産権に関する紛争処理機能を強化することで、特許紛争の早期解決を図り知財システムの実効性を担保するとともに、新産業やベンチャー企業の創出を支援します。

○2017年に強行採決された共謀罪については、監視社会をもたらす恐れがあることや、表現の自由、思想・良心の自由その他の日本国憲法の保障する国民の自由と権利を侵害する恐れがある一方、テロ対策としての実効性は認められないことから、廃止します。

○幅広い分野で、知的財産の保護、情報セキュリティ、企業統治などを強化するとともに、通信、デジタル、クリーンエネルギー技術、宇宙などの経済分野に係る国際的なルールの形成を主導し、日本の優位性を確立するための「経済安全保障戦略」を策定し、総合的な国力の増進を図ります。

○表現の自由を尊重し、二次創作分野などの発展を図る観点から、著作権法改正を含む検討を行います。

○著作権管理団体の権利者への権利料・使用料の分配については、若手や新人のアーティスト・演者・作家などに配慮し、文化の発展に資するという法の目的に沿うよう著作権管理事業法の改正を検討します。

○中小企業の知的財産権を活用した技術革新を促進するために、弁理士などを活用した取り組みに対する補助制度を創設します。

○特許や著作権など、知的財産を守り積極的に活用するため、国際的な知的財産戦略を推進します。また、日本の食文化やコンテンツを海外に積極的に展開し、ソフト分野でも稼ぎ、雇用を増やす産業構造をつくります。

<社民党>
○憲法違反の法律である安保法制(戦争法)、秘密保護法、共謀罪法、重要土地調査規制法を廃止します。
(略)

<共産党>
○7、女性とジェンダー
(略)
―――児童ポルノは「性の商品化」の中でも最悪のものです。児童ポルノ禁止法(1999年成立。2004年、2014年改正)における児童ポルノの定義を、「児童性虐待・性的搾取記録物」(*「記録物」とはマンガやアニメなどを含むものではありません)と改め、性虐待・性的搾取という重大な人権侵害から、あらゆる子どもを守ることを立法趣旨として明確にし、実効性を高めることを求めます。

日本は国連機関などから、極端に暴力的な子どもポルノを描いた漫画やアニメ、CG、ビデオ、オンライン・ゲーム等の「主要な制作国となっている」と批判されています。ジェンダー平等をすすめ、子どもと女性の人権を守る立場から、幅広い関係者で大いに議論をすすめることが重要だと考えます。「表現の自由」やプライバシー権を守りながら、子どもを性虐待・性的搾取の対象とすることを許さない社会にしていくことが必要であり、議論と合意をつくっていくための自主的な取り組みを促進していくことが求められています。そうした議論を起こしていくことは、「児童ポルノ規制」を名目にした法的規制の動きに抗して「表現の自由」を守り抜くためにも大切であると考えています。
(略)

○10、女性に対する暴力をなくす
(略)
リベンジポルノ、SNSでの誹謗中傷などオンライン暴力への対策を強化します
(略)
―――オンライン上の暴力について、通報と削除の仕組みを強化し、被害者のケアの体制をつくります。
(略)

○13、子ども・子育て
(略)
・子どもを性虐待・性的搾取からまもる

 18歳未満の子どもを被写体とする児童ポルノは、子どもの人権を侵害する性虐待・性的搾取であり、断じて容認できません。児童ポルノ事犯の被害児童数は、2016年以降、毎年1,000人を超えています(警察庁調べ)。児童ポルノの製造・提供・公開などについて、現行法に基づく厳正な対応が求められます。児童ポルノ禁止法における児童ポルノの定義を「児童性虐待・性的搾取記録物」と改め、重大な人権侵害からあらゆる子どもをまもることを立法趣旨として明確にし、実効性を高めることを求めます。
(略)

○58、学術、科学・技術
(略)
「安全保障技術研究推進制度」を廃止し、大学や公的研究機関の軍事利用をやめさせる―――大学や公的研究機関に対する軍事機関(防衛省や米軍など)からの資金提供や研究協力は、「学問の自由」を脅かすものであり、禁止すべきです。防衛省の「安全保障技術研究推進制度」を廃止し、偵察衛星など宇宙の軍事利用もやめさせます。大学や公的研究機関における研究開発は、非軍事・平和目的に限定し、その成果を暮らしと産業の発展のために広く活用します。軍事機密を理由にした研究成果の公開制限や秘密特許の導入に反対し、宇宙基本法や原子力基本法の「安全保障」条項を削除します。

「経済安全保障推進制度」は廃止し、知的財産権をめぐる問題は外交で解決する―――経済安全保障推進法は、科学技術の軍事研究化を推進し、学問の自由を侵害する恐れがあります。すでに補正予算で2,500億円が計上された経済安全保障重要技術育成プログラムの成果は、防衛省の判断で軍事技術として活用できます。プログラムの参加者に、罰則付きの守秘義務を課します。特許出願非公開制度は、民生技術を軍事技術に吸収し、戦争遂行に動員した戦前の秘密特許制度の復活です。特定技術分野の発明は外国出願禁止ですが、日米防衛特許協定を理由に米国に対してのみ除外しています。軍事特許を日米同盟に役立てる仕組みとなっています。

 中国の覇権主義や組織的なサイバー攻撃、知的財産権をめぐる問題などは、事実に基づき厳しく批判され、外交的に解決されなければなりません。しかし、「平和のとりで」(ユネスコ憲章)であるべき大学や国際交流があってこそ発展する研究までも仮想敵を持って対立に巻き込むことはあってはならないことです。「経済安全保障推進制度」は廃止します。
(略)

○60、文化
(略)
著作者の権利を守り発展させます

 著作権は、表現の自由を守りながら、著作物の創造や実演に携わる人々を守る法律として、文化の発展に役立ってきました。ところが、映画の著作物はすべて製作会社に権利が移転され、映画監督やスタッフに権利がありません。実演家も映像作品の二次利用への権利がありません。国際的には視聴覚的実演に関する北京条約(2012年)が締結され、日本も加入するなど、実演家の権利を認める流れや、映画監督の権利充実をはかろうという流れが強まっています。

―――著作権法を改正し、映画監督やスタッフ、実演家の権利を確立します。デジタル化、ネット配信など多様化する二次利用に対しては、著作者や実演家の不利益にならないよう対策を求めます。

―――私的録音録画補償金制度は、デジタル録音技術の普及にともない、一部の大企業が協力業務を放棄したことで、事実上機能停止してしまいました。作家・実演家の利益を守るために、私的複製に供される複製機器・機材を提供することによって利益を得ている事業者に応分の負担を求める、実効性のある補償制度の導入をめざします。

憲法を生かし、表現の自由を守ります

 芸術は自由であってこそ発展します。「表現の自由」は、多様な立場や価値観を持った人たちが生活する民主主義社会を支える上で欠くことのできない大切な人権です。憲法は「表現の自由」を保障していますが、自公政権のもとで、各地の美術館や図書館、公民館などの施設で、創作物の発表を正当な理由なく拒否することが相次いできました。また、2019年のあいちトリエンナーレでは、政治家の介入を受けて、文化庁が「安全性」を理由に助成金をいったん不交付にしたり、日本芸術文化振興会が映画「宮本から君へ」に対して「公益性」をもちだして助成金を打ち切ったりするなど、「表現の自由」への介入・侵害が相次いでいます。こうした権力からの介入は、自由な創造活動に「忖度」や「萎縮」効果をもたらすことにつながります。

 また、文化庁の助成は応募要綱などが行政の裁量で決められ、芸術団体などの意見が十分反映されていません。諸外国では、表現の自由を守るという配慮から、財政的な責任は国が持ちつつ、専門家が中心となった独立した機関が助成を行っています。

 日本共産党は、文化芸術基本法や憲法の基本的人権の条項を守り生かして、表現の自由を侵す動きに反対します。

―――「アームズ・レングス原則」(お金は出しても口は出さない)にもとづいた助成制度を確立し、萎縮や忖度のない自由な創造活動の環境をつくります。

―――すべての助成を専門家による審査・採択にゆだねるよう改善します。

――公共施設などでの創作物の発表、展示への脅迫・妨害行為に毅然とした対応を求め、「表現の自由」を保障します。

―――「児童ポルノ規制」を名目にしたマンガ・アニメ・ゲームなどへの法的規制の動きに反対します。青少年のゲーム・ネットの利用について、一律の使用時間制限などの法規制に反対します。

○64、共謀罪廃止・盗聴法拡大・刑訴法「改正」問題
もの言う市民を監視し萎縮させる憲法違反の共謀罪は廃止を――特定秘密保護法、戦争法と一体に廃止を求めます
(略)

 ざっと抜き出してみたが、2019年の参院選の時や去年の衆院選の時の公約(第410回第446回参照)と比べてそれほど変化があるわけではない。

 知財に関しては与党の公約はいつもの様にほぼ政府の知財計画の焼き直しであるし、立憲民主党が引き続き、「表現の自由を尊重し、二次創作分野などの発展を図る観点から、著作権法改正を含む検討を行」うと書いている点はポイントが高いが、今の所、立憲民主党でこの議論が深められている様子は余りない。

 そして、今回の選挙でも争点化される事はないだろうが、前回衆院選の公約でかなりの波紋を呼んだ所為か、共産党は「女性とジェンダー」中の児童ポルノに関する記載をかなり表現の自由に配慮したものに改めている。

 去年の衆院選の際の公約案比較の時に書いた通りだが、情報・表現規制問題については、引き続き、インターネットにおける誹謗中傷対策などが中心になるだろうと、また、国際的な視点によるデータに関する権利の検討も注意が必要と思える。

(2022年6月22日の追記:内容に違いはないが、今日、公示日に公開されたものが各党の正式な公約なのでもう一度以下にリンク集を作り直しておく。また上で一箇所誤記があったので合わせて修正した(「週」→「集」)。

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2021年10月17日 (日)

第446回:主要政党の2021年衆院選公約案比較(知財政策・情報・表現規制関連)

 4年ぶりとなるが、10月19日公示、31日投開票の予定で衆院選が行われる予定で、各政党から公約案が公開されている。

 今回は、新型コロナ対応が最大の争点とならざるを得ず、知財政策や情報・表現規制問題は選挙のトピックとなりそうもないが、以下、関連項目・部分を抜き出しておく。

<自民党>
○表現の自由を最大限考慮しつつ、インターネット上の誹謗・中傷やフェイクニュース等への対策を推進するとともに、人権意識向上の啓発活動を強化し、様々な人権問題の解消を図ります。

○自由、民主主義、人権、法の支配等の普遍的価値を守り抜き、国際秩序の安定・強化に貢献するため、「自由で開かれたインド太平洋」の一層の推進等に向け、日米同盟を基軸に、豪、印、ASEAN、欧州、台湾など普遍的価値を共有するパートナーとの連携を強化します。台湾のTPP加盟申請を歓迎し、WHO総会へのオブザーバー参加を応援します。

○権威主義的体制によるデータ独占を阻止するため、自由で信頼あるデータ流通(DFFT)の枠組みを、米欧とともに強力に推進します。

(政策BANKより)
○コロナ後のインバウンドの回復を見据え、ソフトパワーの強化や幅広い日本の魅力発信など、クールジャパンの取組みを進めます。特に、その強力な推進力であるコンテンツについては、制作流通におけるDX推進や構造改革等の競争力強化のための「メディアコンテンツ中期戦略(仮称)」を策定します。

○「改正種苗法」のもと、種苗の海外流出を防止するとともに、「家畜改良増殖法」と「家畜遺伝資源法」のもと、わが国固有の財産である和牛を守ります。

○DFFTルールの具体化において、EUと米国を連結する中核的役割を果たし、国際デジタル秩序の形成を主導します。また、デジタル時代におけるデータの法的権利に係る法整備を検討します。

○安全保障の観点から、わが国の戦略的不可欠性(技術的優越性を含む)と戦略的自律性を支える戦略技術・物資を特定した上で、機微性に応じて、技術情報の管理強化、輸出管理の見直し、特許の非公開制度の導入等を進めていくとともに、投資審査体制の強化、研究環境の健全性・公正性の強化を含め、統合的、包括的な対策を講じます。

○自由、民主主義、人権、法の支配等の普遍的価値を守り抜き、国際秩序の安定・強化に貢献するため、「自由で開かれたインド太平洋」の一層の推進等に向け、日米同盟を基軸に、豪、印、ASEAN、欧州、台湾など普遍的価値を共有するパートナーとの連携を強化します。台湾のTPP加盟申請及びWHO総会のオブザーバー参加を歓迎します。

○表現の自由を最大限考慮しつつ、侮辱罪の厳罰化や削除要請の強化等を通じインターネット上の誹謗・中傷やフェイクニュース等への対策を推進するとともに、人権意識向上の啓発活動を強化し、様々な人権問題の解消を図ります。

○青少年健全育成のための社会環境の整備を強化するとともに「青少年健全育成基本法(仮称)」を制定します。またITの発達等による非行や犯罪から青少年を守るための各種施策を推進します。

<公明党>
(政策集より)
○デジタルデータの取り引きについて、個人情報の保護を図りつつ、諸外国との連携による適正な流通及び活用の枠組みの整備や、国際的なルールづくりなど、安全で安心なデータ流通が円滑に行われるための環境整備を進めます。また企業のグローバル展開を踏まえ、わが国企業の活動を支援するための各種制度の周知、広報等を行います。

○ネットによる誹謗・中傷の根絶のため、SNSや無料アプリ、ゲームなどの特性や、安全なインターネットの使い方を教えるなど、各学校現場での「情報モラル教育」を充実させます。

○インターネット上の誹謗中傷対策として、プラットフォーム事業者による適切かつ迅速な削除やアカウントの停止など自主的取り組みの実効性を高める方策を促進します。また、相談体制の強化や情報モラル教育の充実を図るとともに、侮辱罪の厳罰化を図ります。

○「新たな日常」の早期実現に不可欠であるデジタル化の推進の一環として、国際的なルールづくりを主導します。具体的には、WTOにおける電子商取引のルール交渉をはじめとする、信頼性のある自由なデータ流通(DFFT)を促進するルールづくりの議論を、OECD等の国際機関や産業界等の多様なステークホルダーと共に加速させていきます。

○FTAAP(アジア太平洋自由貿易圏)構想の実現も視野に、TPP11及び日EU・EPA等の着実な実施とともに、TPP11への参加国・地域の拡大に向けた議論を主導します。また、昨年11月に署名されたRCEP協定の早期発効と履行確保に向けて取り組みます。さらに、経済連携協定及び投資協定の交渉を促進し、日本企業の海外進出を後押しします。加えて、アジアを中心とした産業保安体制構築支援等を行うとともに、電子商取引のルールづくりや紛争解決制度改革など、WTO改革を主導します。また、国際経済紛争処理の体制強化にも取り組みます。

○デジタル社会において一人ひとりが自律的な個人として尊重される人権保障のあり方を具体的に検討します。
デジタル社会における個人情報の保護について、憲法上の位置づけを検討するとともに、自分の情報に関する自己決定の確保など、個人情報の取扱いについて定める基本法の制定をめざします。

<日本維新の会>
○表現の自由を最大限尊重し、マンガ・アニメ・ゲームなどの内容に行政が過度に干渉しないコンテンツ産業支援を目指します。MANGA ナショナルセンターの設置による作品アーカイブの促進、インバウンドを意識した文化発信やクリエイターの育成支援などを行います。

○文化的コンテンツ等をデジタルデータとしてブロックチェーン上に記録したいわゆるNFT(非代替性トークン)について、イノベーションを阻害しないルール作りによる市場の拡大支援を行い、日本の強みであるマンガ・アニメ・ゲーム等のコンテンツ産業・アート市場のさらなる発展を後押しします。

○国立国会図書館や国立大学に所蔵されている書籍、貴重図書、資料などのデジタル化を推進し、アーカイブの積極的な活用を図るとともに、デジタルアーカイブを担う人材の育成を行います。

○施設等の箱モノ整備や補助金支給にとどまりがちな文化芸術施策を見直し、文化施設のコンセッション方式やアーツカウンシルの導入を促進するとともに、各種法令の規制緩和を行うなど、芸術家等が自立して活動・発表できる機会を多面的に提供します。

○SNSなどにおける誹謗中傷問題につき、行政による過剰な規制や表現の自由侵害には十分に配慮しつつ、発信者情報開示請求を簡素化するなど司法制度を迅速に活用できる仕組みを整備し、被害者保護と誹謗中傷表現の抑止を図ります。

○EPAを基軸として域内経済連携に積極的に関与し、世界規模での自由貿易の推進、自由主義経済圏の拡大をはかります。

○特にTPP11については、覇権国家である中国の加盟希望については慎重かつ戦略的に対応しつつ、台湾や英国などの参加を積極的に促し、経済連携を深めると同時に経済安全保障の強化を図ります。

<国民民主党>
○憲法
(略)
人権分野では、憲法制定時には予測できなかった時代の変化に対応するため、人権保障のアップデートが必要です。特に人工知能とインターネット技術の融合が進む今、国際社会では個人のスコアリングと差別の問題や、国民の投票行動に不当な影響を与えるネット広告の問題などが指摘されています。デジタル時代においても個人の自律的な意思決定を保障し、民主主義の基礎を守っていくため、データ基本権を憲法に位置づけるなど議論を深めます。同性婚の保障や子どもの権利保障などについても検討を進めます。
(略)

<立憲民主党>
○インターネット上の誹謗中傷を含む、性別・部落・民族・障がい・国籍、あらゆる差別の解消を目指すとともに、差別を防止し、差別に対応するため国内人権機関を設置します。

(政策集より)
○国民の知る権利を守るため特定秘密保護法を見直し、国会や第三者機関の権限強化も含め行政に対する監視と検証を強化します。安保法制や共謀罪の違憲部分を廃止します。

○個人の権利利益の保護を図るため、自己に関する情報の取扱いについて自ら決定できる権利(自己情報コントロール権)、本人の意思に基づいて自己の個人データの移動を円滑に行う権利(データポータビリティ権)、個人データが個人の意図しない目的で利用される場合等に当該個人データの削除を求める権利(忘れられる権利)、本人の同意なしに個人データを自動的に分析又は予測されない権利(プロファイリングされない権利)について法律上、明確化します。

○インターネットやSNS上の差別や誹謗中傷への対策に取り組みます。

○メディアにおける性・暴力表現について、子ども、女性、高齢者、障がい者をはじめとする人の命と尊厳を守る見地から、人々の心理・行動に与える影響について調査を進めるとともに、情報通信等の技術の進展および普及のスピードに対応した対策を推進します。

○インターネットを利用した人権侵害を許さず、速やかに対応できるような法改正、窓口創設を実現します。

○刑法の名誉毀損罪の法定刑の上限は懲役3年となっていますが、現状の人権侵害の深刻な状況に鑑みて、上限の引き上げを検討します。

○2017年に強行採決された共謀罪について、監視社会をもたらす恐れがあることや、表現の自由、思想・良心の自由その他の日本国憲法の保障する国民の自由と権利を侵害する恐れがある一方、テロ対策としての実効性は認められないことから、廃止を求めます。

○表現の自由を尊重し、二次創作分野などの発展を図る観点から、著作権法改正を含む検討を行います。

○著作権管理団体の権利者への権利料・使用料の分配については、若手や新人のアーティスト・演者・作家などに配慮し、文化の発展に資するという法の目的に沿うよう著作権管理事業法の改正を検討します。

<社民党>
(重点政策より)
○漁業法、種苗法改悪に反対。食糧自給率50%に
(略)

○公権力の管理・監視強化から個人情報と権利をまもる
(略)

○安保法制、秘密保護法、共謀罪法、重要土地調査規制法廃止
(略)

<共産党>
○7、女性とジェンダー
(略)
―――児童ポルノは「性の商品化」の中でも最悪のものです。児童ポルノ禁止法(1999年成立。2004年、2014年改正)における児童ポルノの定義を、「児童性虐待・性的搾取描写物」と改め、性虐待・性的搾取という重大な人権侵害から、あらゆる子どもを守ることを立法趣旨として明確にし、実効性を高めることを求めます。

 現行法は、漫画やアニメ、ゲームなどのいわゆる「非実在児童ポルノ」については規制の対象としていませんが、日本は、極端に暴力的な子どもポルノを描いた漫画やアニメ、CG、ビデオ、オンライン・ゲーム等の主要な制作国として国際的にも名指しされており、これらを適切に規制するためのより踏み込んだ対策を国連人権理事会の特別報告者などから勧告されています(2016年)。非実在児童ポルノは、現実・生身の子どもを誰も害していないとしても、子どもを性欲や暴力の対象、はけ口としても良いのだとする誤った社会的観念を広め、子どもの尊厳を傷つけることにつながります。「表現の自由」やプライバシー権を守りながら、子どもを性虐待・性的搾取の対象とすることを許さない社会的な合意をつくっていくために、幅広い関係者と力をあわせて取り組みます。
(略)

○10、女性に対する暴力をなくす
(略)
リベンジポルノ、SNSでの誹謗中傷などオンライン暴力への対策を強化します
(略)
――オンライン上の暴力について、通報と削除の仕組みを強化し、被害者のケアの体制をつくります。
(略)

○60、文化
(略)
著作者の権利を守り発展させます

 著作権は、表現の自由を守りながら、著作物の創造や実演に携わる人々を守る法律として、文化の発展に役立ってきました。ところが、映画の著作物はすべて製作会社に権利が移転され、映画監督やスタッフに権利がありません。実演家も映像作品の二次利用への権利がありません。国際的には視聴覚的実演に関する北京条約(2012年)が締結され、日本も加入するなど、実演家の権利を認める流れや、映画監督の権利充実をはかろうという流れが強まっています。

――著作権法を改正し、映画監督やスタッフ、実演家の権利を確立します。デジタル化、ネット配信など多様化する二次利用に対しては、著作者の不利益にならないよう対策を求めます。

――私的録音録画補償金制度は、デジタル録音技術の普及にともない、一部の大企業が協力業務を放棄したことで、事実上機能停止してしまいました。作家・実演家の利益を守るために、私的複製に供される複製機器・機材を提供することによって利益を得ている事業者に応分の負担を求める、実効性のある補償制度の導入をめざします。

憲法を生かし、表現の自由を守ります

 芸術は自由であってこそ発展します。憲法は「表現の自由」を保障していますが、自公政権のもとで、各地の美術館や図書館、公民館などの施設で、創作物の発表を正当な理由なく拒否することが相次いできました。また、2019年のあいちトリエンナーレでは、政治家の介入を受けて、文化庁が「安全性」を理由に助成金をいったん不交付にしたり、日本芸術文化振興会が映画「宮本から君へ」に対して「公益性」をもちだして助成金を打ち切ったりするなど、「表現の自由」への介入・侵害が相次いでいます。

 文化庁の助成は応募要綱などが行政の裁量で決められ、芸術団体などの意見が十分反映されていません。諸外国では、表現の自由を守るという配慮から、財政的な責任は国が持ちつつ、専門家が中心となった独立した機関が助成を行っています。

 日本共産党は、文化芸術基本法や憲法の基本的人権の条項を守り生かして、表現の自由を侵す動きに反対します。

――「アームズ・レングス原則」(お金は出しても口は出さない)にもとづいた助成制度を確立し、萎縮や忖度のない自由な創造活動の環境をつくります。

――すべての助成を専門家による審査・採択にゆだねるよう改善します。

――「児童ポルノ規制」を名目にしたマンガ・アニメなどへの法的規制の動きに反対します。

○64、共謀罪廃止・盗聴法拡大・刑訴法「改正」問題
もの言う市民を監視し萎縮させる憲法違反の共謀罪は廃止を――特定秘密保護法、戦争法と一体に廃止を求めます
(略)

 2017年の衆院選時の公約(第383回参照)や2019年の参院選時の公約(第410回参照)と比べても、どこの政党も今までの方針をなぞって公約を作っており、あまり新味はない。公約案を見ると、自民党も、総裁が変わったところで、政権運営方針についての変化はほぼないと知れる。

 しかし、ここで、著作権問題に関して、立憲民主党が、「表現の自由を尊重し、二次創作分野などの発展を図る観点から、著作権法改正を含む検討を行」うと言っている点は非常にポイントが高い。

 また、特許について、今の日本で秘密特許制度を作る事に何の意味があるのかはさっぱり分からないが、自民党が、「特許の非公開制度の導入等を進めていく」としている点は少し気をつけておいた方がいいだろう。

 情報・表現規制問題については、今後も、インターネットにおける誹謗中傷対策などが中心になると思うが、国際データ流通に絡み行われるデータに関する権利の検討も注意が必要と思える。

(2021年10月18日夜の追記:見逃していたが、ねとらぼの記事になっている通り、共産党の「女性とジェンダー」の項目に非実在児童ポルノという意味不明の用語とともに何かの社会的合意を作っていくという良く分からない記載が入っていたので、その部分も上で追記した。児童ポルノ規制を名目にしたマンガ・アニメなどへの法的規制の動きに反対という記載もあるので、共産党として全体的な方針が変わったという事はないのではないかと思うが、児童ポルノを理由とした一般的な表現規制の動きが盛り上がっている訳でもないこのタイミングで(実際他党で児童ポルノ規制問題について触れている所はない)、共産党がこの様な記載を追加した理由は不明である。

 共産党の見解としては、児童ポルノ規制を名目にしたマンガ・アニメなどへの法的規制の動きには反対である事に変わりはないが、子供を性虐待・性的搾取の対象とすることを許さないための社会的な合意についての議論を呼びかけたものという事らしい。しかし、なぜこのタイミングでわざわざ謎の記載を追加したのかはやはり良く分からない。)

(2021年10月19日夜の追記:内容は基本的に同じだが、公示日以降の正式版の公約集について、以下、リンクを張っておく。

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2021年3月21日 (日)

第437回:閣議決定されたプロバイダー責任制限法改正案の条文

 今年の知財関連法改正案として、プロバイダー責任制限法改正案、著作権法改正案、特許法等改正案が閣議決定され、国会に提出されているので、その条文について順番に見ていきたいと思う。

 今回は、まず、私が一番問題が大きいと思っているプロバイダー責任制限法改正案の条文についてである。

 この法改正案の主なポイントは、総務省のHP概要(pdf)にも書かれているように、

  • 発信者の特定に必要となる場合のログイン時情報の開示の可能化
  • 発信者に対して行う意見照会において開示に応じない場合の理由もあわせて照会
  • 新たな裁判・非訟手続きによる開示命令、提供命令及び消去禁止命令の創設

という3点である。

 その条文(法律案(pdf)新旧対照条文(pdf)参照、要綱(pdf)も参照)には、第二条の定義条項において、「特定電気通信役務提供者」を「特定電気通信役務(特定電気通信設備を用いて提供する電気通信役務(中略)を提供する者」にし、「侵害情報」や「発信者情報」もここで定義した上で、「開示関係役務提供者」を「第五条第一項に規定する特定電気通信役務提供者及び同条第二項に規定する関連電気通信役務提供者」とするといったテクニカルな改正も含まれているが、ここでは、ポイントとなる部分である通常の発信者情報開示に関する部分と新しい裁判手続きの部分を取り上げる。

 法改正案の通常の発信者情報についての条文は以下の様なものである。(以下、下線部は追加部分。)

第三章 発信者情報の開示請求等

(発信者情報の開示請求
第四条第五条 特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害されたとする者は、次の各号のいずれにも該当するときに限り、当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者(以下「開示関係役務提供者」という。)に対し、当該開示関係役務提供者当該特定電気通信役務提供者が保有する当該権利の侵害に係る発信者情報(氏名、住所その他の侵害情報の発信者の特定に資する情報であって総務省令で定めるものをいう。以下同じ。)ののうち、特定発信者情報(発信者情報であって専ら侵害関連通信に係るものとして総務省令で定めるものをいう。以下この項及び第十五条第二項において同じ。)以外の発信者情報については第一号及び第二号のいずれにも該当するとき、特定発信者情報については次の各号のいずれにも該当するときは、それぞれその開示を請求することができる。
 侵害情報当該開示の請求に係る侵害情報の流通によって当該開示の請求をする者の権利が侵害されたことが明らかであるとき。
 当該発信者情報が当該開示の請求をする者の損害賠償請求権の行使のために必要である場合その他当該発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるとき。
 次のイからハまでのいずれかに該当するとき。
 当該特定電気通信役務提供者が当該権利の侵害に係る特定発信者情報以外の発信者情報を保有していないと認めるとき。
 当該特定電気通信役務提供者が保有する当該権利の侵害に係る特定発信者情報以外の発信者情報が次に掲げる発信者情報以外の発信者情報であって総務省令で定めるもののみであると認めるとき。
(1)当該開示の請求に係る侵害情報の発信者の氏名及び住所
(2)当該権利の侵害に係る他の開示関係役務提供者を特定するために用いることができる発信者情報
 当該開示の請求をする者がこの項の規定により開示を受けた発信者情報(特定発信者情報を除く。)によっては当該開示の請求に係る侵害情報の発信者を特定することができないと認めるとき。

 開示関係役務提供者は、前項の規定による開示の請求を受けたときは、当該開示の請求に係る侵害情報の発信者と連絡することができない場合その他特別の事情がある場合を除き、開示するかどうかについて当該発信者の意見を聴かなければならない。
 特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害されたとする者は、次の各号のいずれにも該当するときは、当該特定電気通信に係る侵害関連通信の用に供される電気通信設備を用いて電気通信役務を提供した者(当該特定電気通信に係る前項に規定する特定電気通信役務提供者である者を除く。以下この項において「関連電気通信役務提供者」という。)に対し、当該関連電気通信役務提供者が保有する当該侵害関連通信に係る発信者情報の開示を請求することができる。
 当該開示の請求に係る侵害情報の流通によって当該開示の請求をする者の権利が侵害されたことが明らかであるとき。
 当該発信者情報が当該開示の請求をする者の損害賠償請求権の行使のために必要である場合その他当該発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるとき。

 第一項の規定により発信者情報の開示を受けた者は、当該発信者情報をみだりに用いて、不当に当該発信者の名誉又は生活の平穏を害する行為をしてはならない。
 前二項に規定する「侵害関連通信」とは、侵害情報の発信者が当該侵害情報の送信に係る特定電気通信役務を利用し、又はその利用を終了するために行った当該特定電気通信役務に係る識別符号(特定電気通信役務提供者が特定電気通信役務の提供に際して当該特定電気通信役務の提供を受けることができる者を他の者と区別して識別するために用いる文字、番号、記号その他の符号をいう。)その他の符号の電気通信による送信であって、当該侵害情報の発信者を特定するために必要な範囲内であるものとして総務省令で定めるものをいう。

 開示関係役務提供者は、第一項の規定による開示の請求に応じないことにより当該開示の請求をした者に生じた損害については、故意又は重大な過失がある場合でなければ、賠償の責めに任じない。ただし、当該開示関係役務提供者が当該開示の請求に係る侵害情報の発信者である場合は、この限りでない。

(開示関係役務提供者の義務等)
第六条 開示関係役務提供者は、前条第一項又は第二項の規定による開示の請求を受けたときは、当該開示の請求に係る侵害情報の発信者と連絡することができない場合その他特別の事情がある場合を除き、当該開示の請求に応じるかどうかについて当該発信者の意見(当該開示の請求に応じるべきでない旨の意見である場合には、その理由を含む。)を聴かなければならない。

 開示関係役務提供者は、発信者情報開示命令を受けたときは、前項の規定による意見の聴取(当該発信者情報開示命令に係るものに限る。)において前条第一項又は第二項の規定による開示の請求に応じるべきでない旨の意見を述べた当該発信者情報開示命令に係る侵害情報の発信者に対し、遅滞なくその旨を通知しなければならない。ただし、当該発信者に対し通知することが困難であるときは、この限りでない。

 開示関係役務提供者は、第十五条第一項(第二号に係る部分に限る。)の規定による命令を受けた他の開示関係役務提供者から当該命令による発信者情報の提供を受けたときは、当該発信者情報を、その保有する発信者情報(当該提供に係る侵害情報に係るものに限る。)を特定する目的以外に使用してはならない。

 開示関係役務提供者は、前条第一項又は第二項の規定による開示の請求に応じないことにより当該開示の請求をした者に生じた損害については、故意又は重大な過失がある場合でなければ、賠償の責めに任じない。ただし、当該開示関係役務提供者が当該開示の請求に係る侵害情報の発信者である場合は、この限りでない。

(発信者情報の開示を受けた者の義務)
第七条 第五条第一項又は第二項の規定により発信者情報の開示を受けた者は、当該発信者情報をみだりに用いて、不当に当該発信者情報に係る発信者の名誉又は生活の平穏を害する行為をしてはならない。

 条文はややこしいが、特定電気通信役務提供者が通常のアクセスプロバイダー又はコンテンツプロバイダーで、関連電気通信役務提供者がその他ログイン時通信に関係するプロバイダーで、合わせて開示関係役務提供者として、ログイン時情報に相当する特定発信者情報とその他発信者情報に分けて、発信者の特定に必要となる場合のログイン時情報の開示の可能化を規定しようとするとこうなるだろうというものである。

 総務省令で特定発信者情報がどの様に規定されるのかが少し気に掛かるが、基本的にその他の発信者情報を有していない場合にのみ特定発信者情報を開示するという条文構成になっているので、この部分について大きな問題はないと思える。開示に応じない場合の理由もあわせて発信者に照会するという事も悪い事ではない。(上の条文は煩雑に過ぎ、今でも私は法改正ではなく解釈・運用と総務省令改正による対応で十分ではなかったかと思っているが。)

 次に、長くなるので途中を少し省略するが、発信者情報開示命令事件に関する裁判手続についての条文は以下の様になっている。

第四章 発信者情報開示命令事件に関する裁判手続

(発信者情報開示命令)
第八条 裁判所は、特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害されたとする者の申立てにより、決定で、当該権利の侵害に係る開示関係役務提供者に対し、第五条第一項又は第二項の規定による請求に基づく発信者情報の開示を命ずることができる。

(日本の裁判所の管轄権)
第九条 裁判所は、発信者情報開示命令の申立てについて、次の各号のいずれかに該当するときは、管轄権を有する。
 人を相手方とする場合において、次のイからハまでのいずれかに該当するとき。
 相手方の住所又は居所が日本国内にあるとき。
 相手方の住所及び居所が日本国内にない場合又はその住所及び居所が知れない場合において、当該相手方が申立て前に日本国内に住所を有していたとき(日本国内に最後に住所を有していた後に外国に住所を有していたときを除く。)。
 大使、公使その他外国に在ってその国の裁判権からの免除を享有する日本人を相手方とするとき。
 法人その他の社団又は財団を相手方とする場合において、次のイ又はロのいずれかに該当するとき。
 相手方の主たる事務所又は営業所が日本国内にあるとき。
 相手方の主たる事務所又は営業所が日本国内にない場合において、次の(1)又は(2)のいずれかに該当するとき。
(1)当該相手方の事務所又は営業所が日本国内にある場合において、申立てが当該事務所又は営業所における業務に関するものであるとき。
(2)当該相手方の事務所若しくは営業所が日本国内にない場合又はその事務所若しくは営業所の所在地が知れない場合において、代表者その他の主たる業務担当者の住所が日本国内にあるとき。
 前二号に掲げるもののほか、日本において事業を行う者(日本において取引を継続してする外国会社(会社法(平成十七年法律第八十六号)第二条第二号に規定する外国会社をいう。)を含む。)を相手方とする場合において、申立てが当該相手方の日本における業務に関するものであるとき。

 前項の規定にかかわらず、当事者は、合意により、いずれの国の裁判所に発信者情報開示命令の申立てをすることができるかについて定めることができる。

(略:第九条第3~7項(合意の形式、特別の事情による却下、管轄権の標準時等))

(管轄)
第十条 発信者情報開示命令の申立ては、次の各号に掲げる場合の区分に応じ、それぞれ当該各号に定める地を管轄する地方裁判所の管轄に属する。
 人を相手方とする場合相手方の住所の所在地(相手方の住所が日本国内にないとき又はその住所が知れないときはその居所の所在地とし、その居所が日本国内にないとき又はその居所が知れないときはその最後の住所の所在地とする。)
 大使、公使その他外国に在ってその国の裁判権からの免除を享有する日本人を相手方とする場合において、この項(前号に係る部分に限る。)の規定により管轄が定まらないとき最高裁判所規則で定める地
 法人その他の社団又は財団を相手方とする場合次のイ又はロに掲げる事務所又は営業所の所在地(当該事務所又は営業所が日本国内にないときは、代表者その他の主たる業務担当者の住所の所在地とする。)
 相手方の主たる事務所又は営業所
 申立てが相手方の事務所又は営業所(イに掲げるものを除く。)における業務に関するものであるときは、当該事務所又は営業所

(略:第十条第2~7項(その他専属管轄等))

(発信者情報開示命令の申立書の写しの送付等)
第十一条 裁判所は、発信者情報開示命令の申立てがあった場合には、当該申立てが不適法であるとき又は当該申立てに理由がないことが明らかなときを除き、当該発信者情報開示命令の申立書の写しを相手方に送付しなければならない。

 非訟事件手続法(平成二十三年法律第五十一号)第四十三条第四項から第六項までの規定は、発信者情報開示命令の申立書の写しを送付することができない場合(当該申立書の写しの送付に必要な費用を予納しない場合を含む。)について準用する。

 裁判所は、発信者情報開示命令の申立てについての決定をする場合には、当事者の陳述を聴かなければならない。ただし、不適法又は理由がないことが明らかであるとして当該申立てを却下する決定をするときは、この限りでない。

(略:第十二条(発信者情報開示命令事件の記録の閲覧等)、第十三条(発信者情報開示命令の申立ての取下げ))

(発信者情報開示命令の申立てについての決定に対する異議の訴え)
第十四条 発信者情報開示命令の申立てについての決定(当該申立てを不適法として却下する決定を除く。)に不服がある当事者は、当該決定の告知を受けた日から一月の不変期間内に、異議の訴えを提起することができる。

(略:第十四条第二~六項(管轄、決定の効力等))

(提供命令)
第十五条 本案の発信者情報開示命令事件が係属する裁判所は、発信者情報開示命令の申立てに係る侵害情報の発信者を特定することができなくなることを防止するため必要があると認めるときは、当該発信者情報開示命令の申立てをした者(以下この項において「申立人」という。)の申立てにより、決定で、当該発信者情報開示命令の申立ての相手方である開示関係役務提供者に対し、次に掲げる事項を命ずることができる。
 当該申立人に対し、次のイ又はロに掲げる場合の区分に応じそれぞれ当該イ又はロに定める事項(イに掲げる場合に該当すると認めるときは、イに定める事項)を書面又は電磁的方法(電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法であって総務省令で定めるものをいう。次号において同じ。)により提供すること。
 当該開示関係役務提供者がその保有する発信者情報(当該発信者情報開示命令の申立てに係るものに限る。以下この項において同じ。)により当該侵害情報に係る他の開示関係役務提供者(当該侵害情報の発信者であると認めるものを除く。ロにおいて同じ。)の氏名又は名称及び住所(以下この項及び第三項において「他の開示関係役務提供者の氏名等情報」という。)の特定をすることができる場合 当該他の開示関係役務提供者の氏名等情報
 当該開示関係役務提供者が当該侵害情報に係る他の開示関係役務提供者を特定するために用いることができる発信者情報として総務省令で定めるものを保有していない場合又は当該開示関係役務提供者がその保有する当該発信者情報によりイに規定する特定をすることができない場合 その旨
 この項の規定による命令(以下この条において「提供命令」といい、前号に係る部分に限る。)により他の開示関係役務提供者の氏名等情報の提供を受けた当該申立人から、当該他の開示関係役務提供者を相手方として当該侵害情報についての発信者情報開示命令の申立てをした旨の書面又は電磁的方法による通知を受けたときは、当該他の開示関係役務提供者に対し、当該開示関係役務提供者が保有する発信者情報を書面又は電磁的方法により提供すること。

 前項(各号列記以外の部分に限る。)に規定する発信者情報開示命令の申立ての相手方が第五条第一項に規定する特定電気通信役務提供者であって、かつ、当該申立てをした者が当該申立てにおいて特定発信者情報を含む発信者情報の開示を請求している場合における前項の規定の適用については、同項第一号イの規定中「に係るもの」とあるのは、次の表の上欄に掲げる場合の区分に応じ、それぞれ同表の下欄に掲げる字句とする。
|当該特定発信者情報の開示の請求について第五条第一項第三号に該当すると認められる場合|に係る第五条第一項に規定する特定発信者情報|
|当該特定発信者情報の開示の請求について第五条第一項第三号に該当すると認められない場合|に係る第五条第一項に規定する特定発信者情報以外の発信者情報|

 次の各号のいずれかに該当するときは、提供命令(提供命令により二以上の他の開示関係役務提供者の氏名等情報の提供を受けた者が、当該他の開示関係役務提供者のうちの一部の者について第一項第二号に規定する通知をしないことにより第二号に該当することとなるときは、当該一部の者に係る部分に限る。)は、その効力を失う。
一 当該提供命令の本案である発信者情報開示命令事件(当該発信者情報開示命令事件についての前条第一項に規定する決定に対して同項に規定する訴えが提起されたときは、その訴訟)が終了したとき。
二 当該提供命令により他の開示関係役務提供者の氏名等情報の提供を受けた者が、当該提供を受けた日から二月以内に、当該提供命令を受けた開示関係役務提供者に対し、第一項第二号に規定する通知をしなかったとき。

 提供命令の申立ては、当該提供命令があった後であっても、その全部又は一部を取り下げることができる。

 提供命令を受けた開示関係役務提供者は、当該提供命令に対し、即時抗告をすることができる。

(消去禁止命令)
第十六条 本案の発信者情報開示命令事件が係属する裁判所は、発信者情報開示命令の申立てに係る侵害情報の発信者を特定することができなくなることを防止するため必要があると認めるときは、当該発信者情報開示命令の申立てをした者の申立てにより、決定で、当該発信者情報開示命令の申立ての相手方である開示関係役務提供者に対し、当該発信者情報開示命令事件(当該発信者情報開示命令事件についての第十四条第一項に規定する決定に対して同項に規定する訴えが提起されたときは、その訴訟)が終了するまでの間、当該開示関係役務提供者が保有する発信者情報(当該発信者情報開示命令の申立てに係るものに限る。)を消去してはならない旨を命ずることができる。

 前項の規定による命令(以下この条において「消去禁止命令」という。)の申立ては、当該消去禁止命令があった後であっても、その全部又は一部を取り下げることができる。

 消去禁止命令を受けた開示関係役務提供者は、当該消去禁止命令に対し、即時抗告をすることができる。

(非訟事件手続法の適用除外)
第十七条 発信者情報開示命令事件に関する裁判手続については、非訟事件手続法第二十二条第一項ただし書、第二十七条及び第四十条の規定は、適用しない。

(最高裁判所規則)
第十八条 この法律に定めるもののほか、発信者情報開示命令事件に関する裁判手続に関し必要な事項は、最高裁判所規則で定める。

 この部分について、この様な条文に至るまで、政府内でどの様な検討がされたのかは不明だが、その点がよほど問題となったのか、裁判管轄に関する事項を第9~10条に書き込んでいる。日本の裁判管轄に関する原則から考えれば当たり前の話だが、申立てが裁判所に取り上げられるのは、基本的に、法人を相手方とする場合であれば、その主たる事務所又は営業所が日本国内にある場合に限られ、かつ、その主たる事務所又は営業所の所在地の地方裁判所に申し立てる必要があるという事である。

 そして、裁判・非訟手続きの原則から考えて、これも当たり前の話だが、相手方を記載して申立てを行う必要があるので(第11条参照、記載しないと却下となる)、コンテンツプロバイダーに対する申立てだけで、その後自動的に良く分からない立場でアクセスプロバイダーが同じ事件に巻き込まれる様な事もない。

 第15条のコンテンツプロバイダーからアクセスプロバイダーへの情報提供命令も、発信者情報開示命令事件が係属する場合であって、他の開示関係役務提供者としてアクセスプロバイダーに関する開示を受けた申立人がアクセスプロバイダーを相手方として発信者情報開示命令の申立てをした場合に裁判所が出す事ができるとされている。

 必要であれば裁判所は裁量によりさらにコンテンツプロバイダーに対する事件とアクセスプロバイダーに対する事件を併合して処理するかも知れないが、開示においてコンテンツプロバイダーとアクセスプロバイダーの両方が関係し、かつ、アクセスプロバイダーに対する発信者情報開示まで必要とされる場合は、今まで同様、両方に対して順次申立てが必要になるのであって、本当に1つの手続きでできる訳ではない。総務省が、法改正の概要(pdf)で、これについて発信者情報開示を1つの手続きで可能とすると言っているのは酷いミスリードである。

 また、第16条の消去禁止命令も現行でも可能なログ保全ための仮処分命令と何が違うのか良く分からない。

 さらに、第17条で、非訟事件手続法の第22条第1項ただし書の弁護士でない者による手続代理、事実の調査等の国庫による立て替え、第40条の検察官の関与の適用は明示的に除外されているので、実質的に通常の訴訟より手続き費用が安く済むといった事もない。

 この新たな裁判手続きにおける発信者の意見の照会や異議の訴え等について、その具体的な運用に関する事が非常に気になるが、これは第18条に書かれている最高裁判所規則に委ねられているという事なのだろう。裁判所が今までの通常の裁判による発信者情報開示事件と比べて偏った運用をする事はないだろうとは思うが、この様な重要な事項が裁判所の規則・裁量・運用に委ねられているという事はあまり良い事とは思えない。

 結局、この法改正案の新しい裁判手続きによる発信者情報開示は、今までの通常の裁判による発信者情報開示とほぼ同様の手続きを原則非公開の非訟手続きとして規定しただけのものであって、手続きの迅速化や合理化に資するものとは到底言い難いものである。この様な法改正が通れば、かえって発信者情報開示に関する手続きの不透明性や複雑性が増し、いたずらに今の状況を混乱させるだけで、発信者の保護はおろか権利侵害の救済にも繋がらないのではないかと私は懸念する。過去のパブコメ(第432回参照)でも書いたが、発信者情報の開示は、通信の秘密といった重要な国民の権利に関するものであるから、原則公開の訴訟手続によらなければならないものである。今後、国会でこの問題の本質にまで踏み込んだ議論がなされる事を私は期待する。

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2020年11月25日 (水)

第432回:総務省・発信者情報開示の在り方に関する研究会最終とりまとめ(案)に対する提出パブコメ

 12月4日〆切でパブコメにかかっている、総務省の発信者情報開示の在り方に関する研究会最終とりまとめ(案)(pdf)に対して意見を出したのでここに載せておく(意見募集について、総務省のHP、電子政府のHP参照)。非訟手続きに基づく新たな裁判手続きの問題については前のパブコメで指摘した事と全く同じ事が当てはまるので、提出パブコメの内容は中間とりまとめ案に出した意見(第428回参照)を最終とりまとめ案の記載に合わせて組み替えたものである。

(以下、提出パブコメ)

<第1章 発信者情報開示に関する検討の背景及び基本的な考え方について>
○3.検討に当たっての基本的な考え方
(該当箇所)第5ページ「3.検討に当たっての基本的な考え方」全体
(御意見)
 ここで、権利侵害に対する救済が必要なのは無論の事とは言え、制度改正が逆に行き過ぎれば、その濫用や悪用によって発信行為・表現が萎縮し、表現の自由の抑圧に繋がる危険性があるということをきちんと認識し、その間でバランスを取る事を基本的な考え方としている事は高く評価できる。この基本的な考え方を通して守るべきであり、以下第3章についての項目で述べる通り、原則非公開とできる新たな非訟手続きに基づく裁判手続きの創設のような、この基本的な考え方に合わない事は不適切なものであって、するべきではない。

<第2章 発信者情報の開示対象の拡大>
○2.ログイン時情報
○2-(1)発信者の同一性
(該当箇所)第8ページ「2-(1)発信者の同一性」全体
(御意見)
 ここで、「権利侵害投稿の通信とログイン時の通信とが、同一の発信者によるものである場合に限り、開示できることとする必要がある」としている点は賛同できるが、アカウントの共有や乗っ取りの場合を一絡げに例外として、「同一のアカウントのログイン時の通信と権利侵害投稿通信は基本的に同一の発信者から行われたものと捉えることができると考えられる」としている事は適切ではない。特にアカウント保持者への嫌がらせのために他の者がアカウントを乗っ取り書き込み等を行う事は十分に考えられるのであって、この様な場合にまでアカウント保持者の情報が開示され第一に責任を負うべきとする事は適切ではない。ログイン時情報の開示においては、「2-(2)開示の対象とすべきログイン時情報の範囲」に書かれている補充性要件に加え、権利侵害投稿の通信とログイン時の通信とが、同一の発信者によるものである場合に限るという条件を明示的に加え、ログイン時の通信の内容等からアカウント保持者以外の書き込みであると判断される場合は開示しない事とするべきである。

○2-(2)開示の対象とすべきログイン時情報の範囲
(該当箇所)第9~11ページ「2-(1)発信者の同一性」全体
(御意見)
 ここで、第9ページに、「侵害投稿時の通信経路を辿って発信者を特定することができない場合に限定すること(補充性要件)が適当」としている事に賛同する。

 そして、上記の「2-(1)発信者の同一性」の項目で書いた通り、この様な補充性要件に加えて、同一の発信者によるものである場合に限るという条件を明示的に加えるべきである。

 その限りにおいて、SMS認証に関する情報を追加しても良いと考えるが、上記の通りの限定がなされない限り、開示の対象は拡大するべきではない。


○2-(3)開示請求を受けるプロバイダの範囲
(該当箇所)第11ページ「2-(3)開示請求を受けるプロバイダの範囲」全体
(御意見)
 ここで、「ログイン時情報等を開示対象とした場合、当該情報に係る権利侵害投稿通信以外の通信(ログイン時の通信やSMS認証に係る通信等)を媒介したアクセスプロバイダや電話会社に対して、侵害投稿通信の発信者かつ権利侵害投稿通信以外の通信の発信者でもある者の住所・氏名の開示を請求することとなるが、当該開示請求を受けるプロバイダは、プロバイダ責任制限法第4条第1項に規定する『開示関係役務提供者』の範囲に含まれない場合もあり得る」と記載され、脚注17に「『開示関係役務提供者』は、プロバイダ責任制限法第4条第1項において『当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者』と規定されている。コンテンツプロバイダが投稿時のログを保有しておらず、発信者が複数の通信経路からログインを行っている場合、実際にどの通信経路から権利侵害投稿を行ったかわからないため、開示請求を受けたアクセスプロバイダが『『当該特定電気通信』の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者』に該当するか不明確となる場合があり得る」と記載されている。

 しかし、ログイン時情報の開示については、権利侵害投稿の通信とログイン時の通信とが同一の発信者によるものである場合に限るといった条件が付加されるべきであるから、ログイン時情報による開示請求を受けるプロバイダーは、プロバイダー責任制限法第4条第1項の、権利の侵害に係る「当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者」と言えるのであって、ログイン時情報等の開示請求で法律上の「開示関係役務提供者」の範囲に含まれない場合もあり得るとする解釈は厳格に過ぎ、この点で法改正は不要であると考える。

 また、コンテンツプロバイダが投稿時のログを保有していない場合であっても、脚注17の様に、投稿より前の複数の通信経路からの複数のログイン時情報を開示対象として想定する事は不適切である。権利侵害投稿の通信とログイン時の通信とが同一の発信者によるものである場合に限るといった条件の付加によって、基本的に投稿直前のログイン時情報のみを開示対象とするべきである。この様な法改正をしたいがためだけの理屈は全く納得の行くものではない。

○3.まとめ
(該当箇所)第11ページ「3.まとめ」全体
(御意見)
 上記の通り、同一の発信者によるものである場合に限るという条件を明示的に加え、省令改正によるログイン時のIPアドレス及びタイムスタンプ等の追加に賛同するが、これは省令改正で十分であり、それに留めるべきである。

<第3章 新たな裁判手続の創設及び特定の通信ログの早期保全>
○1.非訟手続の創設の利点と課題の整理
(該当箇所)第12~14ページ「1.非訟手続の創設の利点と課題の整理」全体
(御意見)
 ここで、第13~14ページに、発信者情報開示のための新しい原則非公開の非訟手続きについて、適法な情報発信を行う発信者の保護が十分に図られなくなり、手続が濫用される恐れが強く、判断の透明性の確保が図られなくなるとの問題が書かれている。

 これは全くその通りであって、この様な事から、引いては表現の自由の保護が十分に図られなくなる事になると考えられる。

 以下でも述べる通り、これは制度設計によっては解消できない極めて本質的な問題であり、この新たな裁判手続きの創設は不適切であって、なされるべきものではないものである。

○2.実体法上の開示請求権と非訟手続の関係について
(該当箇所)第14~17ページ「2.実体法上の開示請求権と非訟手続の関係について」全体
(御意見)
 ここで、現行の発信者情報開示訴訟における課題の整理・検討をなおざりに、一方的に結論ありきで、現行の請求権に「加えて」新たな非訟手続きを創設することが適当としていることは極めて不適切である。

 この点について、第16ページに書かれている、「表現の自由やプライバシーといった発信者の権利利益の保護に鑑み、開示判断については、非訟手続を創設するのではなく、現行法と同様に訴訟手続とする」べきという指摘は極めて妥当なものであって、この指摘の通り非訟手続きを創設するべきではない。

 今回のプロバイダー責任制限法に関する検討は、2011年の「利用者視点を踏まえたICTサービスに係る諸問題に関する研究会」における検討(その「プロバイダ責任制限法検証に関する提言」https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01kiban08_01000037.html参照)及び2015年の「ICT サービス安心・安全研究会」における検討(その報告書「インターネット上の個人情報・利用者情報等の流通への対応について」https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01kiban08_02000184.html参照)以来のものであって、本格的な検討としては2011年の研究会以来のものであると思うが、この研究会の提言の第41ページ(第3の4(8))で、第三者機関の創設等について、「取り扱う対象が通信の秘密といった重要な権利に関連することからすると、発信者情報の開示の当否は、通信の秘密といった重要な国民の権利に関するものであるから、このような実体的な権利を終局的に確定させる判断は(公開の法廷における対審及び判決という)訴訟手続によらなければならないと考えられ」るとしている。この研究会の提言の整理は今なお妥当するものであって、今般の検討においてもこの整理を守るべきである。

 新たな非訟手続きの本質的な問題点については以下でも述べ、この様な手続きはそもそも創設されるべきものではないと考えるが、仮に本とりまとめ案の様に、原則として何かしらの手続きを追加し、異議等により現行同様の訴訟に移行するものとしたら、さらに開示までの段階が増えてさらに手続きが煩雑になる事も考えられるであろう。

○3.新たな裁判手続(非訟手続)について
○3-(1)裁判所による命令の創設(ログの保存に関する取扱いを含む)
(該当箇所)第17~21ページ「3-(1)裁判所による命令の創設(ログの保存に関する取扱いを含む)」全体
(御意見)
 ここで、当事者構造などの問題をなおざりに、①コンテンツプロバイダ及びアクセスプロバイダ等に対する発信者情報の開示命令、②コンテンツプロバイダが保有する発信者情報のアクセスプロバイダへの提供命令、③アクセスプロバイダに対するコンテンツプロバイダから提供された情報を踏まえた発信者情報の消去禁止命令という、3つの命令についての手続きを創設する事が適当としているが、これも全く適切なものではない。

 インターネットの仕組みを考えれば、どうやっても、コンテンツプロバイダーに対する削除要求・情報開示・ログ保全、アクセスプロバイダーに対する情報開示・ログ保全、開示侵害者に対する損害賠償請求等という様に、情報流通経路を逆に辿って行くしかないので、侵害者の情報が被侵害者にあらかじめ分かっている場合や、コンテンツプロバイダーが侵害者の情報を直接保有している様な場合を除き、何をどうやろうが、一足飛びに、前もって分かり得ない後の手続きの当事者を前の手続きに巻き込むべきではなく、非訟手続きによればいいなどという事も無論ない。

 例えば、第18ページに、「具体的な手続の流れとしては、コンテンツプロバイダに対する開示命令のプロセスと、アクセスプロバイダの特定及びログの保全手続(提供命令・消去禁止命令)のプロセスは、同時並行で進められることが想定される。提供命令によりアクセスプロバイダを特定することができた場合、アクセスプロバイダ名の通知を受けた被害者がアクセスプロバイダに対する開示命令の申立てを行った場合には、速やかに当該アクセスプロバイダがコンテンツプロバイダに対する開示命令のプロセスに加わり、コンテンツプロバイダ・アクセスプロバイダが一体として開示命令を受けるという流れが想定される」と書かれているが、具体的にどの様な手続きが想定されるのか全く理解不能である。

 情報流通経路を逆に辿って行かなければならない事を考えれば、コンテンツプロバイダ及びアクセスプロバイダへの開示命令をまとめて出す事は考えられない。そして、発信者情報開示とは、コンテンツプロバイダ、アクセスプロバイダという別のプロバイダがそれぞれ自身が保持するものであって開示するべき情報をそれぞれの責任において開示するという事であって、それ以上でもそれ以下でもないにも関わらず、コンテンツプロバイダからの発信者情報のアクセスプロバイダへの提供によってアクセスプロバイダが手続きに加わりコンテンツプロバイダ・アクセスプロバイダが一体として開示命令を受けるとしている事など全く意味不明である。

 ここで、消去禁止命令、すなわちログの保存命令についても、それぞれの段階で、各プロバイダーに発信者情報消去禁止の仮処分の申立てをするしかない筈であり、新たな裁判手続きとの関係でどうこうという問題では全くない。現行の手続きにおいて、ログ保存に関して、何が問題で、具体的に何をどうするべきかという検討をなおざりにして、新たな裁判手続きの中で消去禁止命令についての手続きを創設するべきとしている事は全く適切な事ではない。

 開示要件については対応する項目で述べるが、第21ページで、さらに「これらの命令の発令要件については、現在の開示要件よりも一定程度緩やかな基準とすることが適当である」としている事など不適切の上塗りと言わざるを得ない。

 念のため、さらに指摘しておくと、第20~21ページに、「裁判所が特定作業を行うと想定した場合、専門委員や裁判所調査官等の活用など様々な方法が考えられるものの、現行法上の制度を活用する場合にはそれらの職員の職責上の制約がある一方、新たな制度を創設する場合には選任や確保を含む体制整備に時間がかかり、案件数の増加や地域特性により、必要とされる人材を確保できない等課題が多いと考えられる。したがって、アクセスプロバイダの特定作業は、コンテンツプロバイダが行うこととすることが適当である」としているが、単に裁判所の能力不足を理由にコンテンツプロバイダに新たな責務を負わせようとしている事も全く不当な事である。もし本当にそれほど裁判所の能力が不足しているとしたならば、現行の発信者情報開示訴訟における判断の妥当性にすら疑義が生じると言わざるを得ないだろう。

○3-(2)新たな手続における当事者構造
(該当箇所)第21~22ページ「3-(2)新たな手続における当事者構造」全体
(御意見)
 関わるプロバイダとしては、コンテンツプロバイダとアクセスプロバイダという複数のプロバイダがいるにも関わらず、ここで、単にプロバイダとだけ書いて、プロバイダが複数いる事をうやむやにしているのは、極めて悪質な言葉のごまかしであり、このごまかしを私は強く非難する。

 上記「3-(1)裁判所による命令の創設(ログの保存に関する取扱いを含む)」の項目についてで書いた通り、インターネットの仕組みを考えれば、どうやっても、コンテンツプロバイダーに対する削除要求・情報開示・ログ保全、アクセスプロバイダーに対する情報開示・ログ保全、開示侵害者に対する損害賠償請求等という様に、情報流通経路を逆に辿って行くしかないので、何をどうやろうが、それぞれコンテンツプロバイダー、アクセスプロバイダー、開示侵害者を順次相手方当事者として当事者構造は作られなければならない。

 さらに書いておくと、権利侵害を受けた者にとって1回の裁判手続きが望ましいのはその通りであろうが、望ましい事すなわち技術的、実務的に可能でああるという事ではない。1回の手続きで、各プロバイダーの情報開示を可能とし、権利回復を可能とするという事は、実質的に当事者不明の匿名裁判手続きを可能とするという事に等しいが、この事については、上で触れた2011年の研究会の提言の第41ページ(第3の4(9))で、匿名訴訟について、「民事訴訟法をはじめとする現行の民事手続法はそのような訴訟制度を前提としておらず、また、当該制度は訴えの提起から判決の効力までといった民事訴訟全般に関連するものであることからすると、当該訴訟制度の創設の是非に関しては、プロバイダ責任制限法においてのみ検討することができる問題ではなく、様々な立場の意見を広く検討し、訴訟制度全体の問題として検討されるべき」とされていた通り、また、中間とりまとめ案の脚注23にも記載されていた通り、法制的に多くの検討すべき課題があるのであって、日本におけるその導入は極めて困難である。

○3-(3)発信者の権利利益の保護
(該当箇所)第22~28ページ「3-(3)発信者の権利利益の保護」全体
(御意見)
 通信の秘密等の国民の基本的な権利に関わるものである事から、このような実体的な権利を終局的に確定させる判断は公開の法廷における対審及び判決という訴訟手続によらなければならないと考えられるのであり、原則非公開とされ、一般的なチェックが効かない非訟手続きによって開示を可能とする事自体、国民の基本的な権利の保護が図られなくなる恐れが極めて強く、この事は発信者の権利利益の保護に関する制度設計で解消されるものではない。

 これは制度設計でどうにかなる話ではないが、念のためさらに書いておくと、例えば、異議申し立てについて、第27ページで、「プロバイダは可能な限り発信者の意向を尊重した上で、個別の事案に応じた総合的な判断により異議申立ての要否を検討することが望ましい」としている事は、プロバイダとはどのプロバイダなのかという事についての記載のごまかしがある事に加え、原則非公開の非訟手続きの中だけでプロバイダの判断により訴訟に移行せずに開示請求を受け入れる事もあり得るとしている点で極めて不適切である。情報は一旦開示されてしまえば、取り返しがつかない性質のものであるという事を十分に踏まえる必要があるのであって、これが国民の基本的な権利に関わるものである事から、この様な新たな非訟手続きは創設されるべきではないものである。

○3-(4)開示要件
(該当箇所)第28~30ページ「3-(4)開示要件」全体
(御意見)
 ここで、第28ページに、「非訟手続の場合、原則として非公開で行われるため、裁判手続の判断に記載される理由の程度によっては、開示可否に関する事例の蓄積や判断の透明性の確保が図られない可能性がある」との指摘が記載されているが、これも本質的な指摘であって、訴訟への移行があり得るから良い、当事者だけで事例を蓄積できるから良いという問題ではなく、制度設計で解消されるものでもなく、原則非公開の非訟手続きを取る限り解消する事はできないものである。

 国民の基本的な権利に関わる事案においては一般にチェック可能な形で判断の透明性が確保されていなければならない。

○3-(5)手続の濫用の防止
(該当箇所)第30~31ページ「3-(5)手続の濫用の防止」全体
(御意見)
 手続きの濫用防止についても、単に当事者間の既判力による蒸し返しの防止が図られれば良いというものではない。一般にチェック可能な形で判断の透明性が確保され、裁判所による判断が公衆に分かる形で蓄積されない限り、濫用の懸念は常にあり得る事であろう。

○3-(6)海外事業者への対応
(該当箇所)第31~32ページ「3-(6)海外事業者への対応」全体
(御意見)
 発信者情報開示に関する諸外国の状況について、以前のパブコメで以下の様に書いた通り、また、発信者情報開示の在り方に関する研究会の第6回でも報告されている通りである。

 アメリカでは仮名(John Doe)裁判とそのディスカバリー手続きにおいて裁判所の強制令状(subpoena)に基づく情報開示が可能であるが、ディスカバリーなどのアメリカの特異な裁判手続きはその負担や濫用についての批判も非常に強いものであって、日本に持ち込むべきではないものである。欧州では、欧州司法裁判所が、2020年7月9日に、知的財産権執行指令の下で違法アップロードが行われたオンラインプラットフォーム運営者に権利者が要求できるのは関係するユーザの住所のみであってメールや電話番号は含まれないとする判決を出した所である事からも分かる様に、欧州全体でも、発信者情報開示については、このレベルでしか統一されておらず、今も基本的に各国法制による部分が多い。イギリスでは、裁判所のNorwich Pharmacal orderによる情報開示が可能であるが、これはそれぞれ情報を持っている者に対して訴えを提起して求めるものであって、1回の非訟手続きで各プロバイダーの情報開示を可能とする様なものではない。ドイツでは上記の欧州司法裁のケースで問題となった著作権法などとは別に2017年のネットワーク執行法(Netzwerkdurchsetzungsgesetz)によって通信メディア法(Telemediengesetz)第14条に扇動や中傷による権利侵害の場合の情報開示が規定されたが、この様なドイツの法制については今なおナチス思想を強力に取り締まっているドイツの特殊事情を考慮する必要がある事に加え、これも、裁判所への訴えにより、必要に応じて各プロバイダーに順次開示請求をする必要があるのであって、1回の非訟手続きで各プロバイダーの情報開示を可能とする様なものではない。フランスでは、2004年のデジタル経済信用法(Loi pour la confiance dans l'economie numerique)第6条等に基づき、仮処分に相当するレフェレ(refere)などにより、発信者情報開示を要求する事ができるが、これも同様に、必要に応じて順次開示請求をする必要があるのであって、1回の非訟手続きで各プロバイダーの情報開示を可能とする様なものではない。

 本とりまとめ案で、民事訴訟に関する2つの条約で申立書の直接送付などが認められていると書かれているが、これらの条約で単に文書を送付しても良いと書かれている事と、それに執行力が伴い海外プロバイダが従うかどうかは別の話である。外国における民事執行は基本的に相互主義であって、日本国内の手続きと同じ文書を一方的に直接送り付ければ良いという様な単純なものではない。非訟手続きによる新たな裁判手続きは、何をどう検討しようが、国際的にも極めて特異かつ異質な制度とならざるを得ないものであり、海外のプロバイダーがこの様な制度に基づく命令などに従う可能性は万に一つもない。

 ここでも、必要なのは、各国の法制に基づく訴え・申し立ての支援や訴状の送達の迅速化など、実効性のある方策の検討である。

 なお、念のため繰り返し書いておくと、7月24日〆切で意見募集がされていた「インターネット上の誹謗中傷への対応の在り方について(案)」にも記載されていた様に、フランスで、憲法裁判所が、2020年6月18日に、オンラインヘイトスピーチ規制法の主要部分を否定している事が典型的に示しているが、欧米においては、プライバシー・個人データ、情報・表現の自由をきちんと保護しようとする動きがある事も注目されてしかるべきである。

○4.まとめ
(該当箇所)第32ページ「4.まとめ」全体
(御意見)
 上記の通り、手続が濫用され、適法な情報発信を行う発信者の保護や表現の自由の確保が十分に図られなくなる恐れが強く、その点で完全にバランスを失しているものであり、国際的にも極めて特異かつ異質な制度とならざるを得ないものである、この非訟手続きによる新たな裁判手続きの創設に反対する。

 今後プロバイダー責任制限法について検討を進める場合には、基本的な考え方に沿い、現行のプロバイダー責任制限法の手続きの拡充や迅速化など実務的に実効性のある検討のみがなされる事を期待する。

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