2024年10月14日 (月)

第503回:主要政党の2024年衆院選公約案比較(知財政策・情報・表現規制関連)

 3年ぶりの衆院選が10月15日公示、10月27日投開票の予定で行われる。その公約案が出揃ったので、いつもの様にその中の知財政策・情報・表現規制関連の項目を下に抜き出しておく。(大体どこの党もほぼそのまま同じものを使っているが、正式には公示日以降に公開されるものが選挙公約である。)

<自民党>
◯我が国の脅威となり得るあらゆるリスク・事象を特定した上で、先端半導体、AI、量子、バイオ等の世界経済や秩序をけん引できる先端分野における技術開発に向けた強力な投資、半導体、医薬品、電池、重要鉱物等の重要技術・物資のサプライチェーンの強靱化、経済的威圧への取組み、機微技術の管理やインテリジェンス体制の強化を図ります。

◯自由、民主主義、人権といった価値を守り、有志国と連携して法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を実現しつつ、我が国の生存、独立、繁栄を経済面から確保するために経済安全保障政策を推進します。

◯能動的サイバー防御を導入するなどサイバー安全保障分野における対応能力を欧米主要国と同等以上に向上させます。

◯ネット上の偽・誤情報や誹謗中傷などから国民を守るため、情報流通プラットフォーム対処法による対応、利用者のリテラシー向上や相談体制の充実、対策技術の研究開発など、表現の自由を最大限考慮しつつ、制度整備も含め総合的な対策を推進します。

<国民民主党>
◯防衛産業の育成・強化、能動的サイバー防御の年内法制化

(政策各論より)
◯知的財産戦略の推進

 特許や著作権など、知的財産を守り積極的に活用するため、国際的な知的財産戦略を推進します。また、國酒をはじめとする日本の食文化やアニメや漫画などのコンテンツ(クールジャパン)を海外に積極的に展開し、ソフト分野でも稼ぎ、雇用を増やす産業構造をつくります。

◯能動的サイバー防御

 従来領域(陸、海、空)において不十分であった継戦能力の確保や抗堪性の強化を抜本的に見直して整備するほか、防衛技術の進歩、宇宙・サイバー・電磁波などの新たな領域に対処できるよう専守防衛に徹しつつ防衛力を強化するため、必要な防衛費を増額します。

 サイバー安全保障を確保するために、我が国においても平時の段階からサイバー攻撃者の動向を探り、対処を行う能動的サイバー防御(アクティブ・サイバー・ディフェンス)について、能力整備と実施体制の整備を行うとともに、「サイバー安全保障基本法(仮称)」を年内に制定します。

 情報収集衛星を質・量ともにレベルアップを図るとともに、イギリスのJIC(※Joint Intelligence Committee 合同情報委員会)などを参考にしつつ、日本のインテリジェンス能力を高めます。

 安全保障上の観点から、公共インフラやカーナビ情報等の実情について調査し、所要の対策を講じます。

◯憲法
(略)
 人権分野では、憲法制定時には予測できなかった時代の変化に対応するため、人権保障のアップデートが必要です。特に人工知能とインターネット技術の融合が進む今、国際社会では個人のスコアリングと差別の問題や、国民の投票行動に不当な影響を与えるネット広告の問題などが指摘されています。デジタル時代においても個人の自律的な意思決定を保障し、民主主義の基礎を守っていくため、データ基本権を憲法に位置付けるなど議論を深めます。同性婚の保障や子どもの権利保障などについても検討を進めます。
(略)

<立憲民主党>
◯日本が世界に誇る文化芸術や伝統文化、コンテンツ産業への支援を強化します。

(主な政策項目より)
◯国民の知る権利を守るため特定秘密保護法を見直し、国会や第三者機関の権限強化も含め行政に対する監視と検証を強化します。

◯インターネットのターゲット広告、投資詐欺等に誘導する著名人のなりすまし広告の規
制など、個人情報保護や広告審査基準の明確化の促進を強化します。

◯「ヘイトスピーチ解消法」における取り組みを拡大し、国際人権基準に基づいて、人種などを理由とする差別的言動を禁止する法律の制定など、あらゆる差別撤廃に向けた動きを加速させます。

◯インターネットやSNS上の差別や誹謗中傷、人権侵害等への対策を強化します。

〇文化芸術振興基本法の支援対象に「場」や「担い手」を加えることや、劇場法(劇場、音楽堂等の活性化に関する法律)の支援対象に映画館や小規模音楽会場を加えること等を含めた、さらなる文化芸術振興の在り方を検討します。また、芸術家の地位と権利を守り、生活基盤を支える「芸術家福祉法」を制定します。

(政策集より)
◯特定秘密保護法については、民意を顧みずに強行採決された経緯にも鑑み、国による情報の恣意的・不適切な秘匿を防止するため、廃止します。廃止されるまでの間は、国民の知る権利を守るため特定秘密保護法を見直し、国会や第三者機関の権限強化も含め行政に対する監視と検証を強化します。具体的には、当該行政機関の恣意性を排除するため、内閣府に設置する第三者機関(情報適正管理委員会)が指定基準を定め、基準非該当の秘密指定を知った秘密取扱者は、委員会への通知義務を負うこととします。

◯個人の情報の権利利益の保護を図るため、個人情報保護法など国内関連法をEU一般データ保護規則(GDPR)など海外の法制度を基準に改正します。自己に関する情報の取り扱いについて自ら決定できる権利(自己情報コントロール権)、本人の意思に基づいて自己の個人データの移動を円滑に行う権利(データポータビリティ権)、個人データが個人の意図しない目的で利用される場合等に当該個人データの削除を求める権利(忘れられる権利)、本人の同意なしに個人データを自動的に分析又は予測されない権利(プロファイリングされない権利)を法律上、明確化します。

◯インターネットのターゲット広告、投資詐欺等に誘導する著名人のなりすまし広告の規制など、個人情報保護や広告審査基準の明確化の促進を強化します。デジタル広告、不正または悪質なレビュー、パーソナルデータのプロファイリングに基づく表示等の課題について、消費者の利益保護の観点から必要な対策を検討します。

◯誹謗中傷やフェイクニュースなど自己実現や民主主義を阻害する有害無益な情報が膨大に流通しています。インターネットやSNS上の差別や誹謗中傷、人権侵害等への対策を強化します。「表現の自由市場」に委ねるだけでは、実質的な保障に資さないことから、個々人が多様な情報にバランスよく触れることで、フェイクニュース等に対して一定の「免疫」(批判的能力)を獲得している状態を実現するため、「情報環境権」を保障し、そうした環境を積極的に作り出します。

◯インターネット・SNSの発達、DXの急速な進展が国民に数多くのメリットをもたらしている反面、個人の意思を離れたデータの収集・分析に起因した「アテンション・エコノミー」「マイクロターゲッティング」「フィルターバブル」「エコーチェンバー」といった問題が生じています。GAFAなどの巨大デジタルプラットフォーム企業に対し、データの利活用とのバランスを図りつつ、「自己情報コントロール権」に基づき、個人情報保護やセキュリティ確保の観点から、適切な規制を行います。

◯AIの利活用に当たっては、規制とイノベーションのバランスが重要です。著作権や個人情報の侵害、誤情報の拡散、監視や差別につながることのないよう、倫理的な考慮や技術的な対策を講じつつ、社会的な規制のルール作りを行います。イノベーションを育むためにデータサイエンスなどの基礎的なリテラシーとディーセントな価値観を醸成する教育及び人材育成を進め、生産性、効率性、成長率を高めることで豊かな社会づくりを牽引します。

◯先端技術や知的財産権の保護・強化を図ります。

◯標準、規格、特許の分野での人材育成を強化し、国際標準を主導します。

◯メディアにおける性・暴力表現について、子ども、女性、高齢者、障がい者をはじめとする人の命と尊厳を守る見地から、人々の心理・行動に与える影響について調査を進めるとともに、情報通信等の技術の進展および普及のスピードに対応した対策を推進します。

◯2016年に成立した「ヘイトスピーチ解消法」における取り組みを拡大し、国際人権基準に基づいて、人種・民族・出身などを理由とする差別的言動を禁止する法律の制定など、あらゆる差別撤廃に向けた動きを加速させます。

◯インターネットを利用した人権侵害を許さず、速やかに対応できるように、プロバイ
ダが被害救済のための対応をとることを義務付けるなどの法改正や窓口の創設
を実現します。

◯「能動的サイバー防御」の導入に当たっては、通信事業者からの情報提供の是非や個人の人権にもかかわる重大な問題であり、表現の自由やプライバシーの権利等の侵害につながらないよう、憲法で保障されている「通信の秘密」を遵守します。

◯インターネットやSNS上の差別や誹謗中傷、人権侵害等への対策を強化するとともに、インターネットのターゲティング広告に関しては適切な規制を講じ、個人情報保護を強化します。

◯インターネットやSNS上の差別や誹謗中傷、人権侵害等への対策を強化します。政府は侮辱罪を厳罰化しましたが、侮辱罪での現行犯逮捕を完全には否定しないなど、表現の自由が萎縮する懸念が残りました。相手の人格を攻撃する誹謗中傷行為を刑法の対象とするため、「加害目的誹謗等罪」を創設するとともに、プロバイダ責任制限法を改正して発信者情報の開示を幅広く認めることなどを柱とする「インターネット誹謗中傷対策法案」の成立を目指します。

◯知的財産権に関する紛争処理機能を強化することで、特許紛争の早期解決を図り、知財システムの実効性を担保するとともに、新産業やベンチャー企業の創出を支援します。

◯幅広い分野で、知的財産の保護、情報セキュリティ、企業統治などを強化するとともに、通信・デジタル・クリーンエネルギー技術・宇宙などの経済分野に係る国際的なルールの形成を主導し、日本の優位性を確立するための「経済安全保障戦略」を策定し、総合的な国力の増進を図ります。

◯SNSなどを活用した情報戦など非軍事と軍事行動が同時展開するハイブリッド戦に備え、フェイクニュースへの対応能力等を早急に高めます。また、宇宙・サイバー・AI・データなどの分野でのルール形成において主導的役割を果たしていきます。

◯サイバー攻撃は平時から発生しており、常時パトロールを行う「積極的(能動的)サイバー防御」(アクティブサイバーディフェンス、ACD)が必要とされます。権限などを法的に明確化する必要があれば、国民の権利を最大限に保障しながら、電気通信事業法や不正アクセス禁止法等の改正を視野に入れつつ、サイバー安全保障基本法のような包括的な立法を早急に検討します。また、より強い権限をもった司令塔組織、例えばデジタル庁と統合したサイバー省(仮称)の創設も検討します。同様にインテリジェンスにおいても省庁の垣根を越えた連携を強化します。在外大使館で活動する防衛駐在官を拡充し、情報収集・分析能力を強化するとともに、体制の抜本的強化を行います。

◯映画や音楽、アニメ・漫画・ゲーム等の幅広い分野での振興と助成を推進します。

◯表現の自由を尊重し、二次創作分野などの発展を図る観点から、著作権法改正を含む検討を行います。

◯著作権管理団体の権利者への権利料・使用料の分配については、若手や新人のアーティスト・演者・作家などに配慮し、文化の発展に資するという法の目的に沿うよう著作権管理事業法の改正を検討します。

<共産党>
◯10、女性とジェンダー
(略)
―――オンライン上の暴力について、通報と削除の仕組みを強化し、被害者のケアの体制をつくります。
(略)
―――児童ポルノは「性の商品化」の中でも最悪のものです。児童ポルノ禁止法(1999年成立。2004年、2014年改正)における児童ポルノの定義を、「児童性虐待・性的搾取記録物」(*「記録物」とはマンガやアニメなどを含むものではありません)と改め、性虐待・性的搾取という重大な人権侵害から、あらゆる子どもを守ることを立法趣旨として明確にし、実効性を高めることを求めます。

 日本は国連機関などから、極端に暴力的な子どもポルノを描いた漫画やアニメ、CG、ビデオ、オンライン・ゲーム等の「主要な制作国となっている」と批判されています。人工知能(AI)による膨大な児童ポルノ作成など、新たな問題もひろがっています。ジェンダー平等をすすめ、子どもと女性の人権を守る立場から、幅広い関係者で大いに議論をすすめることが重要だと考えます。「表現の自由」やプライバシー権を守りながら、子どもを性虐待・性的搾取の対象とすることを許さない社会にしていくことが必要であり、議論と合意をつくっていくための自主的な取り組みを促進していくことが求められています。そうした議論を起こしていくことは、「児童ポルノ規制」を名目にした法的規制の動きに抗して「表現の自由」を守り抜くためにも大切であると考えています。
(略)

◯34、GAFA、プラットフォーマー
(略)
―――GAFAなどのプラットフォーマーに社会的責任を果たさせるよう、デジタル・プラットフォーム透明化・公正化法を改正して、禁止行為を明記し、厳格な罰則規定を作ります。

―――プラットフォーマーの優越的地位の乱用を防ぐため、公正取引委員会の活動や体制を強めます。

―――EUのデジタルサービス法のようなプラットフォーマーに対する監督、調査、監視、執行する権限を有する独立したデジタル監督官(仮称)を設けます。
(略)

◯66、AI
(略)
日本版AI規制法を制定して、リスクに応じた厳格な管理を行います
(略)

著作権法を見直し、著作者の権利を守ります

 AIが著作物を無断で学習することを認めている現行の著作権法をめぐっては、法改正せずに、例外的に一部を認めないケースを示す方向の政府に対して、日本新聞協会などからは早急な法改正を求める声が強まっています。

 AI事業者がコンテンツを無断利用し、生成AIによる検索結果として示せば、新聞など報道機関の発行物やサイトを見る人が大幅に減り、事業者は行き詰まりかねません。

 報道コンテンツの利用は許諾を得たうえで、正確性を十分確保するなど、生成AI事業者に責任ある対応を求めます。

 文化・芸術分野でも同様なことがおきかねません。例えばあるアーティストの楽曲を、生成AIに繰り返し学習させ、当該アーティスト風の楽曲を生成して大量に利用・流通させた場合、このアーティストの活動を著しく阻害することになります。生成 AIによる開発・学習及び生成・利用を無制限に認め、創作者たる著作者の創作意欲を削ぐようなことがあっては、著作権法の目的に反することになります。

 著作権法を改正しアーティストや作家、作曲家、映画監督、スタッフ、実演家などの権利と利益を守ります。

◯71、文化
(略)
著作者の権利を守り発展させます

 著作権は、表現の自由を守りながら、著作物の創造や実演に携わる人々を守る法律として、文化の発展に役立ってきました。ところが、映画の著作物はすべて製作会社に権利が移転され、映画監督やスタッフに権利がありません。実演家も映像作品の二次利用への権利がありません。国際的には視聴覚的実演に関する北京条約(2012年)が締結され、日本も加入するなど、実演家の権利を認める流れや、映画監督の権利充実をはかろうという流れが強まっています。

―――映画の著作権に関しては、著作権法を改正し、映画監督やスタッフ、実演家の権利を確立します。

―――デジタル化、ネット配信など多様化する二次利用に対しては、著作者や実演家の不利益にならないよう対策を求めます。

―――私的録音録画補償金制度は、デジタル録音技術の普及にともない、一部の大企業が協力業務を放棄したことで、事実上機能停止してしまいました。作家・実演家の利益を守るために、私的複製に供される複製機器・機材を提供することによって利益を得ている事業者に応分の負担を求める、実効性のある補償制度の導入をめざします。

―――生成AIの「学習」段階については、現行の著作権法では著作者の許諾が不要になっており、無許諾で使用される事例が増加しています。著作権者の権利を守る立場での法改正、AI規制法の制定を求めます。

憲法を生かし、表現の自由を守ります

 芸術は自由であってこそ発展します。「表現の自由」は、多様な立場や価値観を持った人たちが生活する民主主義社会を支える上で欠くことのできない大切な人権です。憲法は「表現の自由」を保障していますが、自公政権のもとで、各地の美術館や図書館、公民館などの施設で、創作物の発表を正当な理由なく拒否することが相次いできました。2019年のあいちトリエンナーレでは、政治家の介入を受けて、文化庁が「安全性」を理由に助成金をいったん不交付にしたり、名古屋市が一部負担金の支払いを拒否したりしました。日本芸術文化振興会が映画「宮本から君へ」に対して「公益性」をもちだして助成金を打ち切ったりするなど、「表現の自由」への介入・侵害が相次ぎました。こうした権力からの介入は、自由な創造活動に「忖度」や「萎縮」効果をもたらすことにつながるものであり、司法の場でも厳しく批判されています。

 また、文化庁の助成は応募要綱などが行政の考え方に沿って決められ、芸術団体などの意見が十分反映されていません。諸外国では、表現の自由を守るという配慮から、財政的な責任は国が持ちつつ、専門家が中心となった独立した機関が助成を行っています。

 日本共産党は、「表現の自由」を守り、文化芸術基本法や憲法の基本的人権の条項をいかした支援を求めます。

―――「アームズ・レングス原則」(お金は出しても口は出さない)にもとづいた助成制度を確立し、萎縮や忖度のない自由な創造活動の環境をつくります。

―――すべての助成を専門家による審査・採択にゆだねるよう改善します。

―――公共施設などでの創作物の発表、展示への脅迫・妨害行為に毅然とした対応を求め、「表現の自由」を保障します。

―――「児童ポルノ規制」を名目にしたマンガ・アニメ・ゲームなどへの法的規制の動きに反対します。青少年のゲーム・ネットの利用について、一律の使用時間制限などの法規制に反対します。
(略)

 前回2021年の衆院選時の公約(第446回参照)と比べ、AIや能動的サイバー防御についてなど最近の話題を盛り込んでいるものの、全体としては各党ともさして変わり映えしないものであり、今回も、この様な細かな政策項目に関する事が争点になる事はなく、主として、自民党の裏金問題であったり、今までの政権与党の経済財政政策などに対して有権者の判断が示される事になるのではないかと思える。

 具体的には選挙後の政府検討次第としか言いようがないが、各党の公約を読むと、少なくとも、情報規制という観点で、引き続きAI規制、ネットでの誹謗中傷対策、大手ITプラットフォーマー規制、能動的サイバー防御などが焦点となるだろう事は確実に見て取れる。

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2024年7月 7日 (日)

第499回:暗号化技術に対するバックドアの強制の様な技術的検閲は基本的な権利に抵触するものであって認められないとする2024年2月13日の欧州人権裁判決

 2024年2月13日と少し前の事になるが、基本的な権利に基づき暗号化技術に対するバックドアの強制の様な技術的検閲の禁止を述べるという、昨今の世界の動向に照らして非常に重要な内容を含む判決を欧州人権裁判所が出しているので、ここで紹介しておきたいと思う。

 この判決の第36段落で以下の様に書かれている通り、ロシア当局がインターネット通信事業者にあらゆる通信データの蓄積と暗号化通信に対する復号化のための情報すなわちバックドア情報を求める事ができるという法令をロシアが制定した事に対し、欧州人権条約違反として訴えが提起されたというのが事件の概要である。(以下、いつも通り、翻訳は全て拙訳。)

36. The applicant complained about the statutory requirement for ICOs to store the content of all Internet communications and related communications data, and to submit those data to law-enforcement authorities or security services at their request together with information necessary to decrypt electronic messages if they were encrypted. He relied on Article 8 of the Convention, which reads as follows:

"1. Everyone has the right to respect for his private and family life, his home and his correspondence.

2. There shall be no interference by a public authority with the exercise of this right except such as is in accordance with the law and is necessary in a democratic society in the interests of national security, public safety or the economic well-being of the country, for the prevention of disorder or crime, for the protection of health or morals, or for the protection of the rights and freedoms of others."

36.請求人は、インターネット通信事業者(ICO)がインターネットの全通信及び関係する通信データの内容を蓄積し、このデータを法執行当局又はセキュリティサービスに、その請求に応じ、もしそれが暗号化されていた場合には電子的メッセージを復号するために必要な情報とともに引き渡すという法定の求めに対して訴えを提起した。彼は欧州人権条約の第8条に依拠しており、それは以下の様に書かれている:

「1.あらゆる者はその私的な及び家族の生活、その家及び通信を尊重される権利を有する。

2.その法に合致し、国家の安全保障、公衆の安全又は国の経済の健全の利益における、混乱又は犯罪の予防のため、健康又は道徳の保護のため他の権利及び自由を保護するため、社民主主義社会において必要なものである場合を除き、公的な当局によるこの権利の行使への介入はあってはならない。」

 過去の判例を引きながら通信データの蓄積が条約違反であるとしている部分も興味深いが、この欧州人権裁の判決で私が最も重要であると思っているのは、表現の自由なども踏まえ、バックドアの導入を強制して暗号化通信に対する政府のアクセスを可能とする法令は通信の秘密を含むプライバシー保護を規定する欧州人権条約第8条違反と明確に述べている以下の部分である。

(γ) Statutory requirement to decrypt communications

76. Lastly, as regards the requirement to submit to the security services information necessary to decrypt electronic communications if they are encrypted, the Court observes that international bodies have argued that encryption provides strong technical safeguards against unlawful access to the content of communications and has therefore been widely used as a means of protecting the right to respect for private life and for the privacy of correspondence online. In the digital age, technical solutions for securing and protecting the privacy of electronic communications, including measures for encryption, contribute to ensuring the enjoyment of other fundamental rights, such as freedom of expression (see paragraphs 28 and 34 above). Encryption, moreover, appears to help citizens and businesses to defend themselves against abuses of information technologies, such as hacking, identity and personal data theft, fraud and the improper disclosure of confidential information. This should be given due consideration when assessing measures which may weaken encryption.

77. As noted above (see paragraph 57 above), it appears that in order to enable decryption of communications protected by end-to-end encryption, such as communications through Telegram's "secret chats", it would be necessary to weaken encryption for all users. These measures allegedly cannot be limited to specific individuals and would affect everyone indiscriminately, including individuals who pose no threat to a legitimate government interest. Weakening encryption by creating backdoors would apparently make it technically possible to perform routine, general and indiscriminate surveillance of personal electronic communications. Backdoors may also be exploited by criminal networks and would seriously compromise the security of all users' electronic communications. The Court takes note of the dangers of restricting encryption described by many experts in the field (see, in particular, paragraphs 28 and 34 above).

78. The Court accepts that encryption can also be used by criminals, which may complicate criminal investigations (see Yuksel Yalcinkaya v. Turkiye [GC], no. 15669/20, § 312, 26 September 2023). However, it takes note in this connection of the calls for alternative "solutions to decryption without weakening the protective mechanisms, both in legislation and through continuous technical evolution" (see, on the possibilities of alternative methods of investigation, the Joint Statement by Europol and the European Union Agency for Cybersecurity, cited in paragraph 33 above, and paragraph 24 of the Report on the right to privacy in the digital age by the Office of the United Nations High Commissioner for Human Rights, cited in paragraph 28 above; see also the explanation by third-party interveners in paragraph 47 above).

79. The Court concludes that in the present case the ICO's statutory obligation to decrypt end-to-end encrypted communications risks amounting to a requirement that providers of such services weaken the encryption mechanism for all users; it is accordingly not proportionate to the legitimate aims pursued.

(δ) Conclusion

80. The Court concludes from the foregoing that the contested legislation providing for the retention of all Internet communications of all users, the security services' direct access to the data stored without adequate safeguards against abuse and the requirement to decrypt encrypted communications, as applied to end-to-end encrypted communications, cannot be regarded as necessary in a democratic society. In so far as this legislation permits the public authorities to have access, on a generalised basis and without sufficient safeguards, to the content of electronic communications, it impairs the very essence of the right to respect for private life under Article 8 of the Convention. The respondent State has therefore overstepped any acceptable margin of appreciation in this regard.

81. There has accordingly been a violation of Article 8 of the Convention.

(γ)通信の暗号を復号する法定の求め

76.最後に、もし暗号化されている場合に電気通信の暗号を復号するのに必要な情報をセキュリティサービスに提供する求めについてであるが、当裁判所は、暗号化が通信の内容に対する違法なアクセスに対する強い技術的保障を提供し、したがって、私的生活及びオンライン通信のプライバシーに関する権利を保護する手段として広く用いられている事を国際機関が主張している事を把握している。デジタル時代において、暗号化措置を含む電気通信のプライバシーを保証し、保護するための技術的ソリューションは、表現の自由の様な他の基本的な権利の享受の保証に寄与するものである(上記段落28及び34参照)。さらに、暗号化は、市民と企業がハッキング、個人情報詐取、詐欺及び機微情報の不適切な開示の様な情報技術の濫用から自身を守る助けになるものと思われる。この事は暗号化を弱め得る措置を評価する際に当然考慮されるべきものである。

77.上で述べた通り(上記段落57参照)、テレグラムの「秘密チャット」を通じた通信の様なエンド・ツー・エンドの暗号化によって保護される通信の暗号化を可能とするためには、全利用者の暗号化を弱める必要があるであろう。この措置は主張されている様に特定の個人に限定され得るものではなく、政府の正当な利益に何ら脅威をもたらすものではない個人も含め無差別に全ての者に影響する。バックドアを作る事によって暗号化を弱める事は明らかに個人の電気通信の日常的、一般的かつ無差別の監視を技術的に可能とするであろう。バックドアはまた犯罪ネットワークによっても用いられ得るものであり、全利用者の電気通信のセキュリティを著しく危うくするであろう。当裁判所は本分野における多くの専門家によって述べられた暗号化の制限の危険に留意する(特に上記段落28及び34参照)。

78.当裁判所は暗号化は犯罪者によっても暗号化は使われ得るものであり、これは犯罪捜査を複雑化するものであるという事を認める(2023年9月26日、ユクセル・ヤルチンカヤ対トルコ政府事件判決、段落312参照)。しかしながら、この点では代替となる「立法におけるものとともに継続的な技術発展を通じて保護機構を弱める事なく暗号の復号を行うソリューション」の呼び掛けがなされている事に留意する(捜査のための代替手法の可能性について、上記段落33で引用したユーロポール及び欧州連合サイバーセキュリティ庁の共同声明、及び、上記段落28で引用した国際連合人権高等弁務官事務所によるデジタル時代のプライバシー権に関する報告書の段落24参照;上記段落47の第三者参加人による説明も参照)。

79.当裁判所は、本事件においてICOのエンド・ツー・エンド暗号化通信の暗号を復号する法定義務はその様なサービスの提供者が全利用者の暗号化機構を弱める求めに該当する危険があると結論する;したがって、それは追求される正当な目的に対してバランスの取れたものではない。

(δ)結論

80.当裁判所は、前述の事から、全利用者の全インターネット通信の保存、濫用に対する適切な保障のないセキュリティサービスによる蓄積されたデータへの直接アクセス及びエンド・ツー・エンドの暗号化通信に適用される暗号化通信を復号する求めを規定する、訴えの対象である立法は民主主義社会において必要なものと見る事はできないと結論する。公的な当局が、一般的な基礎として十分な保障なく、通信の内容にアクセスする事をこの立法が許す限り、それは欧州人権条約の第8条の私的生活を尊重される権利の実に本質的な部分を侵害する。したがって、相手方の政府はこの点であらゆる受け入れ可能な判断の余地を踏み越えている。

したがって、ここには条約第9条違反がある。

 ウクライナ侵攻の影響でロシアが実質的に欧州人権条約から脱退しているため(欧州人権条約のWikipedia参照)、ロシアに対する直接的な影響はないに等しいが、この判決は欧州人権条約に基づく国際裁判所の判決としてヨーロッパで間接的に大きな意味を持って行くだろうと私は考えている。

 その観点で、この欧州司法裁が関連するものとして2つの国際機関の報告書を取り上げている事も重要である。

 1つは、判決の第28段落で以下の様に引用されている、2022年8月4日の国連人権高等弁務官事務所によるデジタル時代のプライバシー権に関する報告書である。(国連人権高等弁務官事務所の報告書掲載ページ参照。)

28. The Report on the right to privacy in the digital age by the Office of the United Nations High Commissioner for Human Rights, published on 4 August 2022 (A/HRC/51/17), reads as follows, in so far as relevant (footnotes omitted):

"B. Restrictions on encryption

...

21. Encryption is a key enabler of privacy and security online and is essential for safeguarding rights, including the rights to freedom of opinion and expression, freedom of association and peaceful assembly, security, health and non-discrimination. Encryption ensures that people can share information freely, without fear that their information may become known to others, be they State authorities or cybercriminals. Encryption is essential if people are to feel secure in freely exchanging information with others on a range of experiences, thoughts and identities, including sensitive health or financial information, knowledge about gender identities and sexual orientation, artistic expression and information in connection with minority status. In environments of prevalent censorship, encryption enables individuals to maintain a space for holding, expressing and exchanging opinions with others. In specific instances, journalists and human rights defenders cannot do their work without the protection of robust encryption, shielding their sources and sheltering them from the powerful actors under investigation. Encryption provides women, who face particular threats of surveillance, harassment and violence online, an important level of protection against involuntary disclosure of information. In armed conflicts, encrypted messaging is indispensable to ensuring secure communication among civilians. It is notable that in the two months after the beginning of the armed conflict in Ukraine on 24 February 2022, the number of downloads in Ukraine of the encrypted messaging app Signal went up by over 1,000 per cent compared with preceding months.

...

23. In spite of its benefits, Governments sometimes restrict the use of encryption, for example for the protection of national security and combating crime, in particular to detect child sexual abuse material. Restrictions include bans on encrypted communications and criminalization for offering or using encryption tools or mandatory registration and licensing of encryption tools. Similarly, in some instances, encryption providers have been required to ensure that law enforcement or other government agencies have access to all communications upon request, which can effectively amount to a blanket restriction of encryption that could require, or at least encourage, the creation of some sort of back door (a built-in path to bypass encryption, allowing for covert access to data in plain text). Another form of interference with encryption is the requirement that key escrow systems be created and maintained, and all private keys needed to decrypt data be handed over to the Government or a designated third party. The imposition of traceability requirements, according to which providers need to be able to trace any message back to its supposed originator, could also require the weakening of encryption standards. Recently, various States have started imposing or considering general monitoring obligations for providers of digital communications, including those offering encrypted communications services. Such duties could effectively force those providers to abandon strong end-to-end encryption or to identify highly problematic workarounds (see paras. 27-28 below).

24. There is no doubt that widely used encryption capabilities, capabilities that the public has demanded as a response to mass surveillance and cybercrime, create a dilemma for Governments seeking to protect populations, in particular their most vulnerable members, against serious crime and security threats. However, as pointed out by the Special Rapporteur on the promotion and protection of the right to freedom of opinion and expression, regulation of encryption risks undermining human rights. Governments seeking to limit encryption have often failed to show that the restrictions they would impose are necessary to meet a particular legitimate interest, given the availability of various other tools and approaches that provide the information needed for specific law enforcement or other legitimate purposes. Such alternative measures include improved, better-resourced traditional policing, undercover operations, metadata analysis and strengthened international police cooperation.

25. Moreover, the impact of most encryption restrictions on the right to privacy and associated rights are disproportionate, often affecting not only the targeted individuals but the general population. Outright bans by Governments, or the criminalization of encryption in particular, cannot be justified as they would prevent all users within their jurisdictions from having a secure way to communicate. Key escrow systems have significant vulnerabilities, since they depend on the integrity of the storage facility and expose stored keys to cyberattacks. Moreover, mandated back doors in encryption tools create liabilities that go far beyond their usefulness with regard to specific users identified as crime suspects or security threats. They jeopardize the privacy and security of all users and expose them to unlawful interference, not only by States, but also by non-State actors, including criminal networks. Licensing and registration requirements have similar disproportionate effects as they require that encryption software contain exploitable weaknesses. Such adverse effects are not necessarily limited to the jurisdiction imposing the restriction; rather it is likely that back doors, once established in the jurisdiction of one State, will become part of the software used in other parts of the world.

26. ... Since the content of messages, once encrypted, cannot be accessed by anyone except the sender and the recipient, any general monitoring obligation would force service providers to either abandon transport encryption or seek access to messages before they are encrypted ..."

28.2022年8月4日に公表された、国際連合人権高等弁務官事務所によるデジタル時代のプライバシー権に関する報告書には、関係する箇所として、以下の様に書かれている(脚注省略):

「B.暗号化に対する制限

21.暗号化はオンラインのプライバシーとセキュリティを可能とする鍵であり、意見及び表現の自由、結社及び平和的集会の自由、セキュリティ、健康及び差別されない事に関する権利を含む権利を保障するために必須のものである。暗号化は、人々がその情報が国の当局であれ、サイバー犯罪者であれ、他者に知られ得る恐れなく自由に情報を共有する事を保証する。機微な健康や経済的情報、ジェンダーアイデンティティ及び性的指向、芸術的表現及びマイノリティの立場と関係する情報を含む、ある範囲の経験、考え、アイデンティティにおいて他の者と自由に情報を交換する際に人々が安全であると感じるべきであるなら、暗号化は必須である。検閲が蔓延する環境下で、暗号化は個人に他の者と意見を持ち、表し、交換する場を維持する事を可能にする。特別な場合において、ジャーナリスト及び人権保護活動家は捜索を受ける強力な権力者からそのソース及び自身を守る堅牢な暗号化の保護なしにその仕事をする事はできない。暗号化は、オンラインで特定の監視、嫌がらせ及び暴力の脅威に直面する女性に情報の意図しない開示に対して重要なレベルの保護を与える。武力紛争において、暗号化されたメッセージのやりとりは民間人の間での安全なコミュニケーションを保証するために不可欠である。2022年2月24日のウクライナにおける武力紛争の開始後2ヶ月間で暗号化メッセージアプリSignalのダウンロード数はその前の月と比べて1000%以上増えた事は注目すべき事である。

23.その利益にもかかわらず、政府は、例えば国の安全保障及び犯罪対策のため、特に児童の性的虐待マテリアルの検知のために、暗号化の利用を制限する事が間々ある。制限は暗号化通信からの排除及び暗号化ツールの提供又は利用の犯罪化又は暗号化ツールの強制登録又は許諾を含む。同様に、ある場合は、暗号化の提供者は法執行又はその他の政府期間が求めた時あらゆる通信にアクセスできる事を確保する事を求められ、それは効果として、ある種のバックドア(平文のデータへの密かなアクセスを可能とする、暗号化を迂回する組み込み経路)の作成を求めるか、少なくとも推奨する様な、暗号化の包括制限になり得る。暗号化に対する他の形の介入は、キー預託制度が作られ、維持される事を求める事であり、データを復号するために必要なあらゆるプライベートキーが政府又は指定される第三者に渡されるというものである。プロバイダーは想定される元の発信者まであらゆるメッセージを追跡できなければならないとするトレーサビリティ要求もまた暗号化のスタンダードを弱める事を求めるものである。最近、様々な国が暗号化通信サービスの提供者を含むデジタル通信のプロバイダーに一般的な監視義務を課すか、その検討を始めている。この様な義務はこれらのプロバイダーに強いエンド・ツー・エンドの暗号化を捨てるか非常に問題のある次善策を特定する事を効果的に強制し得るものである(下の段落27-28参照)。

24.広く使われている暗号化の能力、大規模な監視及びサイバー犯罪に対応するものとして公衆が求めている能力は、重大な犯罪とセキュリティの脅威に対して大衆を、特にその最も脆弱な構成員を、守ろうとする政府にとってジレンマを作り出している。しかしながら、意見及び表現の自由に関する権利の促進及び保護に関し、特別報告官により指摘されている通り、暗号化の規制は人権の基礎を掘り崩す恐れがある。特別な法執行又はその他の正当な目的に必要な情報を提供する様々な他のツール又はアプローチがある事から、その課そうとする制約が特定の正当な利益に必ず合致するものである事を示すのに暗号化を制限しようとする政府が失敗する事も多い。その様な代替措置は改善され、より良いリソースを与えられた伝統的な警察活動、秘密のオペレーション、メタデータ分析及び強化された国際的警察協力を含む。

25.さらに、ほぼ全ての暗号化の制限のプライバシーに関する権利とそれに付随する権利に対する影響はバランスの取れたものではなく、目標とする個人だけででなく一般大衆にも多く影響する。特に政府による暗号化の全面禁止又は犯罪化は通信する安全な手段を持つ事をその法域内のあらゆる利用者にできなくするものであって正当化され得ない。キー預託制度は蓄積の容易性に依存し、蓄積されたキーをサイバー攻撃に晒すものであるから、重大な脆弱性を持つ。さらに、暗号化における強制バックドアは犯罪被疑者又はセキュリティの脅威として特定される特別な利用者に関する利便性を超える法的責任を作り出す。それは全利用者のプライバシーとセキュリティを脅かし、彼らを政府のみならず犯罪ネットワークを含む政府以外の者による違法な介入に晒す事になる。許諾及び登録を求める事は暗号化ソフトウェアが利用可能な弱さを含む事を求める事であって、同様にその影響はバランスを欠く。この様な悪影響は制約を課す法域に必ずしも閉じない。むしろある国の法域によって一度確立されたバックドアが世界の他の領域で用いられるソフトウエアの一部になると思われる。

26.…一度暗号化されたメッセージの内容は送信者と受信者以外によってアクセスされ得ないものであるから、あらゆる一般的な監視義務はサービスプロバイダーに通信の暗号化を放棄するか暗号化前のメッセージへのアクセスをしようとする事を強いるものである。…」

 もう1つは、第34段落で以下の様に引用されている、2022年7月28日の欧州データ保護委員会及び欧州データ保護監督官の児童の性的虐待を防止するための欧州規制案に対する共同意見である。(欧州データ保護委員会の報告書掲載ページ又は欧州データ保護監督官の報告書掲載ページ参照。)

34. On 28 July 2022 the European Data Protection Board (EDPB) and the European Data Protection Supervisor (EDPS) adopted Joint Opinion 4/2022 on the Proposal for a Regulation of the European Parliament and of the Council laying down rules to prevent and combat child sexual abuse. It provides as follows (footnotes omitted):

"Executive summary

... measures permitting the public authorities to have access on a generalised basis to the content of a communication in order to detect solicitation of children are more likely to affect the essence of the rights guaranteed in Articles 7 and 8 of the Charter ...

The EDPB and EDPS also express doubts regarding the efficiency of blocking measures and consider that requiring providers of internet services to decrypt online communications in order to block those concerning CSAM [child sexual abuse material] would be disproportionate.

Furthermore, the EDPB and EDPS point out that encryption technologies contribute in a fundamental way to the respect for private life and confidentiality of communications, freedom of expression as well as to innovation and the growth of the digital economy, which relies on the high level of trust and confidence that such technologies provide. Recital 26 of the Proposal places not only the choice of detection technologies, but also of the technical measures to protect confidentiality of communications, such as encryption, under a caveat that this technological choice must meet the requirements of the proposed Regulation, i.e., it must enable detection. This supports the notion gained from Articles 8(3) and 10(2) of the Proposal that a provider cannot refuse execution of a detection order based on technical impossibility. The EDPB and EDPS consider that there should be a better balance between the societal need to have secure and private communication channels and to fight their abuse. It should be clearly stated in the Proposal that nothing in the proposed Regulation should be interpreted as prohibiting or weakening encryption ...

4.10 Impact on encryption

96. European data protection authorities have consistently advocated for the widespread availability of strong encryption tools and against any type of backdoors. This is because encryption is important to ensure the enjoyment of all human rights offline and online. Moreover, encryption technologies contribute in a fundamental way both to the respect for private life and confidentiality of communications ...

97. In the context of interpersonal communications, end-to-end encryption ('E2EE') is a crucial tool for ensuring the confidentiality of electronic communications, as it provides strong technical safeguards against access to the content of the communications by anyone other than the sender and the recipient(s), including by the provider. Preventing or discouraging in any way the use of E2EE, imposing on service providers an obligation to process electronic communication data for purposes other than providing their services, or imposing on them an obligation to proactively forward electronic communications to third parties would entail the risk that providers offer less encrypted services in order to better comply with the obligations, thus weakening the role of encryption in general and undermining the respect for the fundamental rights of European citizens. It should be noted that while E2EE is one of the most commonly used security measures in the context of electronic communications, other technical solutions (e.g., the use of other cryptographic schemes) might be or become equally important to secure and protect the confidentiality of digital communications. Thus, their use should not be prevented or discouraged too.

98. The deployment of tools for the interception and analysis of interpersonal electronic communications is fundamentally at odds with E2EE, as the latter aims to technically guarantee that a communication remains confidential between the sender and the receiver ...

100. The impact of degrading or discouraging the use of E2EE, which may result from the Proposal needs to be assessed properly. Each of the techniques for circumventing the privacy preserving nature of E2EE presented in the Impact Assessment Report that accompanied the Proposal would introduce security loopholes. For example, client-side scanning would likely lead to substantial, untargeted access and processing of unencrypted content on end user's devices ... At the same time, server-side scanning, is also fundamentally incompatible with the E2EE paradigm, since the communication channel, encrypted peer-to-peer, would need to be broken, thus leading to the bulk processing of personal data on the servers of the providers.

101. While the Proposal states that it 'leaves to the provider concerned the choice of the technologies to be operated to comply effectively with detection orders and should not be understood as encouraging or discouraging the use of any given technology', the structural incompatibility of some detection orders with E2EE becomes in effect a strong disincentive to use E2EE.

The inability to access and use services using E2EE (which constitute the current state of the art in terms of technical guarantee of confidentiality) could have a chilling effect on freedom of expression and the legitimate private use of electronic communication services ..."

34.欧州データ保護委員会(EDPB)及び欧州データ保護監督官(EDPB)は児童の性的虐待を防止するための規制についての欧州議会及び理事会の規則提案に対し共同意見4/2022を採択した。それには次の様に記載されている(脚注省略)。

「要旨

…公的当局が一般的な基礎に基づき児童の勧誘を検知するために通信の内容にアクセスする事を許す措置は欧州人権条約の第7及び8条において保障される権利の本質に影響を与えると思われる…

EDPB及びEDPSはブロッキング措置の有効性に関する疑義を表明し、CSAM(児童の性的虐待マテリアル)に関するものをブロックするためにオンライン通信を復号する事をインターネットサービスのプロバイダーに求める事はバランスを欠くものであろうと考える。

さらに、EDPB及びEDPSは、暗号化技術は私的生活の尊重及び通信の秘密、表現の自由並びにイノベーション及びその様な技術が提供する高水準の信頼と信用に依拠するデジタル経済の成長に基本的なやり方で寄与するものである事を指摘する。提案の前文26は、検知技術の選択のみなら暗号化等の通信の秘密を保護するための技術的手段の選択は、この技術の選択は提案させる規則の求めに合致しなければならない、すなわち、検知を可能としなければならないという要請を受けるとしている。この事は、プロバイダーは技術的な不可能性に基づく検知命令の実行を拒否できないとする、提案の第8条第3項及び第10条第2項から得られる考えを支持するものである。EDPB及びEDPS安全な私的通信チャネルを持つという社会的な必要性とその濫用に立ち向かうというものとの間でより良いバランスが取られるべきであると考える。提案されている規則における如何なるものも暗号化を禁止又は弱めるものと解釈されてはならないと提案に明記されるべきである。…

4.10 暗号化に与える影響

96.欧州データ保護当局は常に強い暗号化を広く入手可能とする事を唱導しながらあらゆる種類のバックドアに反対して来た。これは、暗号化あらゆる人権のオフライン及びオンラインでの享受を保証するために重要だからである。さらに、暗号化技術は私的生活の尊重及び通信の秘密の両方に基本的なやり方で寄与するものである。…

97.個人間の通信の文脈において、エンド・ツー・エンド暗号化(「E2EE」)は、プロバイダーによるものを含め、送信者と受信者以外の者による通信の内容へのアクセスに対する強力な技術的保障を与えるものであるから、電気通信の秘密を保証する上で極めて重要なツールである。如何なる形にせよ、E2EEの使用を抑止する又は妨げる事、サービスプロバイダーにそのサービスの提供以外の目的のために電気通信データを処理する義務を課す事、又は、それらに事前に電気通信を第三者に渡す義務を課す事は、プロバイダーがより良く義務を果たす事ためにより少なく暗号化サービスを提供する事になり、その様にして一般的に暗号化の役割を弱体化し、欧州市民の基本的な権利に対する尊重を蔑ろにする恐れを必然的にもたらす事であろう。E2EEが電気通信の内容に関して最も一般的に使われているセキュリティ手段の一つである一方、他の技術的解決手段(例えば、他の暗号スキームの使用)もデジタル通信の秘密を守り、保護するために等しく重要なものであり得るか、そうあるであろう事も注意されるべきである。この様に、その使用は抑止されたり、妨げられたりされるべきものではない。

98.個人間の電気通信の傍受及び分析のためのツールの発展とE2EEは、後者が送信者と受信者の間で通信が秘密に保たれる事を技術的に保障する事を目的とするだけ、相反するものである。…

100.提案からもたらされ得る、E2EEの使用が低下させられるか妨げられる事の影響は適切に評価される必要がある。提案に付随する影響評価報告書に示された、E2EEのプライバシーを保つ性質を回避するための技術はいずれもセキュリティに穴を開けるものと思われる。例えば、クライアントサイドのスキャニングは実質的にエンドユーザーの機器における非暗号化コンテンツに対する非ターゲット型のアクセス及び処理に至るであろうものである…同時にサーバーサイドのスキャニングも、ピア・ツー・ピアで暗号化された通信チャネルが破壊される必要があり、その様にしてプロバイダーのサーバーにおける個人データバルクの処理に至るであろうものでって、E2EEプログラムと本質的に合致しないものである。

101.提案には、それは『関係するプロバイダーに検知命令に有効に合致するように実施される技術の選択は委ねられており、既存のいずれの技術の使用も推奨するか妨げるかするものと理解されるべきではない』と記載されているが、E2EEとある検知命令が構造的に合致不可能である事は実際にE2EEを使用する事に対する強いディスインセンティブとなるものである。E2EEを利用するサービスにアクセスし、それを使用する事ができない事は表現の自由及び電気通信サービスの合法的な私的使用に対する萎縮効果をもたらし得る…」

 これらの内、前者でも児童ポルノを理由とした暗号化の制限について言及されており、さらに、後者は今現在ヨーロッパで大きな問題とされている、2022年5月11日に欧州委員会から提案された児童の性的虐待対策のための欧州規則案に反対するものとして特に書かれたものである。欧州人権裁が、児童ポルノを理由としたとしても一般的かつ網羅的な通信の監視のために暗号化通信に対するバックドアの導入を強制するといった技術的検閲は基本的な権利に照らして問題があるとする、これらの国際機関の報告書を引用し、同じ論理を用いた事は、ヨーロッパを中心とする昨今の議論において大きな影響を与えずにはおかないだろう。

 ここで児童の性的虐待対策のための欧州規則案の条文の詳細な分析まではしないが、その英語版Wikipediaにも書かれている通り、2022年5月の欧州委員会による提案以降、主として、暗号化通信も含むあらゆる通信に対して適用され得る、児童ポルノ(性的虐待マテリアル)に関するインターネットサービスプロバイダーの検知義務や政府の検知命令について、あらゆるチャットをコントールする実質的な検閲であるとしてヨーロッパで大きな批判が巻き起こっており、この欧州人権裁の判決はそこに一石を投じたのである。

 この欧州規則案に強く反対している欧州海賊党のパトリック・ブレイヤー欧州議会議員が、そのチャットコントロールに関するページでさらに詳しいタイムラインを書いており、最近の6月20日の記事でも、幸いな事に、今現在案を検討している欧州理事会で1つの立場を決定する事に失敗した事を報告している。(なお、同議員が記事の中で触れている、シュピーゲル誌の記事(ドイツ語)でも、アメリカのフェイスブック等から児童の性的虐待に関するものとして当局に通報がされた大量のチャットの多くは関係のないものであったと言われているという事がある。事実の確認はできないが、通報の数の多さからその通りではないかと思えるものであり、この様な事も当然反対の論拠の1つとなるだろう。)

 ブレイヤー議員のページで今後の検討予定について書かれている事からも分かる通り、この規則の導入を支持している側の各国はまだ完全に諦めたものとは見えないが、今回の欧州人権裁の判決を敷衍すれば、何を理由として如何なる形を取るにせよ、あらゆる通信に対する一般的かつ網羅的な監視を行うために暗号化通信に対するバックドアの導入を強制するといった様な技術的検閲は基本的な権利に抵触するものとして認められる余地はないと言っていいのではないかと私も思う。私としても、欧州規則案が最終的に廃案になる事を、また、自由と民主主義を基本とする国であれば共通して通用するものである今回の欧州人権裁の判決で示された考えが世界に広まる事を願ってやまない。

 また、最後に、この欧州人権裁の判決について取り上げ、協力して欧州規則案に対して反対運動を展開している有名な団体として、欧州デジタルライツ(EDRi)や電子フロンティア財団(EFF)などがあるので(EDRiの欧州人権裁判決に関する記事EDRiの欧州規則案に反対する共同宣言に関する2024年7月1日の記事EFFの欧州人権裁判決に関する記事EFFの欧州規則案に反対する共同宣言に関する2024年7月1日の記事参照)、合わせ紹介しておく。

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2022年6月19日 (日)

第462回:主要政党の2022年参院選公約案比較(知財政策・情報・表現規制関連)

 3年ぶりの参院選が6月22日公示、7月10日投開票と決まり、主要政党の公約案が出揃った。

 今回も、知財政策や情報・表現規制問題は選挙のトピックとなりそうもないが、以下、関連項目・部分を抜き出しておく。

<自民党>
○わが国の生存、独立、繁栄を経済面から確保するために、経済安全保障政策を推進します。「経済安全保障推進法」を着実に実施するとともに、新たな「国家安全保障戦略」に経済安全保障の観点を盛り込みます。

(総合政策集より)
○59コンテンツ戦略と海賊版対策
 コンテンツ分野は、デジタルエコノミーの発展を支える中間財として重要な役割を果たすことから、デジタル時代に適合したコンテンツ産業の進化・発展を促します。デジタルの強みを最大限生かしたコンテンツの流通に資するよう、著作権処理の円滑化に資するよう所要の制度改正や権利情報データベースの構築をはじめとしたIT基盤整備、デジタルアーカイブ社会の実現に向けた取組みを進めます。
 また、海賊版対策、コンテンツ制作に携わる人材育成、コンテンツ制作における取引の適正化や就業環境の改善に取り組みます。その際、ブロックチェーンやフィンガープリント等のデジタル時代の新たな技術を積極的に活用しながら、クリエイターに適切に対価が還元されるコンテンツの管理・流通の仕組み作りを進めます。そのために、メディアコンテンツ中期戦略を、関係者との対話を重ねつつ策定します。

○60「クールジャパン戦略」の推進
 海外の人々が良いと思う日本の魅力をマーケットインの考え方に基づき効果的に発信し、インバウンドや輸出の拡大等にもつながるクールジャパン戦略を強化・拡充します。
 新型コロナによる影響など、クールジャパンを取り巻く環境の変化を踏まえ、コロナの下での安全安心や自然、エコ、SDGsなどの価値観の変化への対応、農産品や日本産酒類など引き続き堅調な輸出の促進、本格的なインバウンド再開に向けた受入れ環境の高付加価値化、オンラインとリアルの体験とのハイブリッドな融合、日本を愛する外国人との積極的な連携、地方の魅力のデジタル実装を通じた世界発信など多様な手法によりコロナ後を見据えたクールジャパンの取組みを更に推進します。
 2025年大阪・関西万博を地域活性化につなげるべく、地域における機運醸成の取組や、万博と日本各地をつなぐ観光資源の磨き上げや文化創造に向けた支援を行います。海外においても、現地人材の活用等を通じて、在外公館やジャパン・ハウス等の発信・展開拠点を強化します。

○61「クールジャパン」関連コンテンツの振興
 コロナ禍の中で、飲食、観光、文化芸術、イベント・エンターテインメント、ナイトタイムエコノミーといったクールジャパン関連分野は引き続き大きな影響を受けています。中小企業・小規模事業者、フリーランスで働く人が多いという就業構造を踏まえつつ、事業継続の支援を行います。
 アニメ、マンガ、映画、ゲーム、放送など海外への発信力が高いコンテンツ産業は、クールジャパンの大きな推進力となっています。製作現場のデジタル化、書面契約の徹底や就業環境を含めた商慣行の改善、人材育成、資金調達の改善を進め、コンテンツ産業の振興と海外展開を図ります。Web3.0時台におけるブロックチェ―ン・NFT、メタバース等の新たな潮流は、世界で愛されるキャラクターや作品などの知的財産を多く有するわが国にとって大きなチャンスであり、Web3.0時代の新たなコンテンツビジネスの環境整備を進めていきます。
 併せて、東京国際映画祭などコンテンツの中心としての日本の魅力を高める取組みを進めます。また、国内への大型映像作品のロケ誘致は、作品を通じて日本の魅力を発信するだけにとどまらず、海外の映像製作のノウハウを日本のコンテンツ産業にもたらします。諸外国の制度も参考にしつつ、ロケ誘致の一層の推進を図ります。
 文化芸術の需要の裾野を拡大し、クリエイターに資金を循環する環境を整備するため、企業・地域によるアートの積極的な活用の促進を図ります。
 更に、錦鯉や盆栽、ロボット、伝統文化や衣食住の生活文化などの新たな人気の高まり、SDGsや環境といった世界的な価値観の変化も取り入れて、日本のブランドイメージを高めていきます。

○113持続的なイノベーション創出に向けた制度改革
 研究開発税制や寄附金税制をはじめとするイノベーション促進に向けた税制改革や、革新的な技術シーズの事業化のためのリスクマネー供給などの政策金融の改革、特許などの知的財産の迅速な保護及び円滑な利活用を促進するための知的財産制度の改革、イノベーションの隘路となっている規制や社会制度などの改革や新技術に関する優先的な政府調達の実現、大学等の研究成果の技術移転、中小企業などに対する産学官連携などを強力に推進します。

○415農業分野の知的財産の保護
「改正種苗法」のもと、種苗の海外流出を防止するとともに、「家畜改良増殖法」と「家畜遺伝資源法」のもと、わが国固有の財産である和牛を守ります。

○627経済安全保障推進法の着実な実施
 経済安全保障推進法の執行体制を早期に整備するため、速やかに内閣府に経済安全保障推進室(仮称)を立ち上げ、足下での施策の実施に必要な所要の体制整備を行うとともに、来年度以降の円滑な執行に向けた予算・定員の確保に万全を期します。
 法律の施行後、速やかに基本方針を策定し、サプライチェーン強靭化及び官民技術協力に関する施策については、先行して可能な限り早期に実施し、主要国の取組みも念頭に置いた支援を行います。基幹インフラ及び特許非公開に関する施策については、関係事業者等との調整など施行に向けた準備を早急に進め、段階的に実施します。

○649国益に即した経済外交の推進
 自由貿易の推進はわが国の通商政策の柱です。多角的貿易体制の強化・改善に向け、日米貿易協定、TPP11協定、地域的な包括的経済連携(RCEP)協定、日EU経済連携協定や日英包括的経済連携協定を着実に実施します。TPP11協定については、参加を希望する国・地域に対して協定の高いレベルや基本的価値を守りつつ、戦略的な観点や国民の理解も踏まえながら一層の拡大を目指します。
 こうした取組みを通じて、各国の利益に資する貿易・投資を更に拡大させ、公正なルールに基づく自由で開かれたインド太平洋地域の経済発展等を実現します。国益確保の観点から、WTO改革、デジタル分野での国際ルール作りを含め、自由で開かれた国際経済社会システムの強化に向け、経済外交を展開します。
 日本企業支援では、情報共有・法的支援体制の強化、輸入規制・風評被害対策等を着実に進め、中小企業を含む日本企業及び地方自治体の海外展開支援を強化します。

○705青少年の健全育成
 青少年健全育成のための社会環境の整備を強化するとともに「青少年健全育成基本法(仮称)」と、家庭をめぐる環境の変化に伴い、家庭教育支援が緊要の課題となっていることから、家庭教育支援に関する施策を総合的に推進するための「家庭教育支援法(仮称)」を制定します。またITの発達等による非行や犯罪から青少年を守るための各種施策を推進します。

○825デジタルトランスフォーメーション(DX)時代に対応した著作権制度・政策
 DXの推進は、文化芸術における創作・流通・利用にも大きな影響を与えており、DX時代における社会・市場の変化やテクノロジーの進展に柔軟に対応したコンテンツ創作の好循環を実現する必要があります。そのため、DX時代に対応した簡素で一元的な権利処理方策や、公的機関・企業等でのデジタル化に対応した基盤の整備等、コンテンツの利用円滑化とそれに伴う適切な対価の還元について取り組みます。また、著作権侵害に対する実効的な海賊版対策の実施、わが国の正規版コンテンツの海外における流通促進、デジタルプラットフォームサービスに係るいわゆるバリューギャップ等への対応、著作権制度・政策の普及啓発・教育方策を進め、コンテンツの権利保護を図ります。

○836ネット上の誹謗中傷等の対策推進
 SNS等のネット上の誹謗中傷やフェイクニュース等に対応するため、改正プロバイダ責任制限法の円滑な施行、刑法の侮辱罪の法定刑見直し、プラットフォーム事業者の積極対応の促進と取組みの透明性の確保、情報リテラシー・モラル教育の拡充、被害者の相談対応・苦情処理の充実強化、会社法の外国会社登記の徹底、捜査機関の体制強化など、表現の自由を最大限考慮しつつ総合的な対策を推進します。

<公明党>
○近年、日本を取り巻く経済安全保障の脅威が、厳しさを増す中で、わが国の先端技術や産業を守り抜き、新たな経済成長を実現するため、成立した経済安全保障推進法に盛り込まれた①重要物資の供給体制の強靱化②電力や通信など基幹インフラ設備の安全性等の確保③わが国の先端技術の開発支援の強化④特許の非公開による機微技術の流出防止――の4つの柱からなる諸施策を着実に実行し、規制による安全保障の確保と自由な経済活動との両立を図りつつ、推進します。また、ウクライナ情勢等の影響も考慮し、施行後も状況に応じた対応や検討を行い、必要な措置を講じていきます。

<日本維新の会>
(政策提言より)
○266. 表現の自由を最大限尊重し、マンガ・アニメ・ゲームなどの内容に行政が過度に干渉しないコンテンツ産業支援を目指します。MANGA ナショナルセンターの設置による作品アーカイブの促進、インバウンドを意識した文化発信やクリエイターの育成支援などを行います。

○346. 表現の自由に十分留意しつつ、民族・国籍を理由としたいわゆる「ヘイトスピーチ(日本・日本人が対象のものを含む)」を許さず、不当な差別のない社会の実現のため、実効的な拡散防止措置を講じます。

○347. SNS などにおける誹謗中傷問題につき、わが党が提案した「インターネット誹謗中傷対策推進法案」を成立させ、表現の自由に十分に配慮しつつ、中傷被害者の救済を迅速・確実に図るとともに、誹謗中傷表現の抑止のための国、自治体、事業者の責務を明確にした対策をすすめます。

<立憲民主党>
○インターネットやSNS条の差別や誹謗中傷、人権侵害等への対策を強化します。

○「共謀罪」については、監視社会をもたらす恐れがあることや、表現の自由、思想・良心の自由を侵害する恐れがあるため、廃止します。

(政策集より)
○国民の知る権利を守るため特定秘密保護法を見直し、国会や第三者機関の権限強化も含め行政に対する監視と検証を強化します。安保法制や共謀罪の違憲部分を廃止します。

○先端技術や知的財産権の保護・強化を図ります。

○個人の情報の権利利益の保護を図るため、個人情報保護法など国内関連法をEU一般データ保護規則(GDPR)など海外の法制度を基準に改正します。自己に関する情報の取り扱いについて自ら決定できる権利(自己情報コントロール権)、本人の意思に基づいて自己の個人データの移動を円滑に行う権利(データポータビリティ権)、個人データが個人の意図しない目的で利用される場合等に当該個人データの削除を求める権利(忘れられる権利)、本人の同意なしに個人データを自動的に分析又は予測されない権利(プロファイリングされない権利)を法律上、明確化します。

○インターネットやSNS上の差別や誹謗中傷への対策を強化します。

○メディアにおける性・暴力表現について、子ども、女性、高齢者、障がい者をはじめとする人の命と尊厳を守る見地から、人々の心理・行動に与える影響について調査を進めるとともに、情報通信等の技術の進展および普及のスピードに対応した対策を推進します。

○インターネットを利用した人権侵害を許さず、速やかに対応できるような法改正、窓口創設を実現します。

○刑法の名誉毀損罪の法定刑の上限は懲役3年となっていますが、現状の人権侵害の深刻な状況に鑑みて、上限の引き上げを検討します。

○不正アクセスによるインターネット上の人権侵害について、プロバイダが被害救済のための対応をとることを義務付けます。

○インターネットやSNS上の差別や誹謗中傷、人権侵害等への対策を強化するとともに、インターネットのターゲット広告等の規制など個人情報保護を強化します。

○インターネット上の誹謗中傷を含む、性別・部落・民族・障がい・国籍、あらゆる差別の解消を目指すとともに、差別を防止し差別に対応するための国内人権機関を設置します。

○インターネットやSNS上の差別や誹謗中傷、人権侵害等への対策を強化します。政府は侮辱罪を厳罰化しましたが、侮辱罪での現行犯逮捕を完全には否定しないなど、表現の自由が萎縮する懸念が残りました。相手の人格を攻撃する誹謗中傷行為を刑法の対象とするため、加害目的誹謗等罪を創設するとともに、プロバイダ責任制限法を改正し発信者情報の開示を幅広く認めることなどを柱とする「インターネット誹謗中傷対策法案」の成立を目指します。

○知的財産権に関する紛争処理機能を強化することで、特許紛争の早期解決を図り知財システムの実効性を担保するとともに、新産業やベンチャー企業の創出を支援します。

○2017年に強行採決された共謀罪については、監視社会をもたらす恐れがあることや、表現の自由、思想・良心の自由その他の日本国憲法の保障する国民の自由と権利を侵害する恐れがある一方、テロ対策としての実効性は認められないことから、廃止します。

○幅広い分野で、知的財産の保護、情報セキュリティ、企業統治などを強化するとともに、通信、デジタル、クリーンエネルギー技術、宇宙などの経済分野に係る国際的なルールの形成を主導し、日本の優位性を確立するための「経済安全保障戦略」を策定し、総合的な国力の増進を図ります。

○表現の自由を尊重し、二次創作分野などの発展を図る観点から、著作権法改正を含む検討を行います。

○著作権管理団体の権利者への権利料・使用料の分配については、若手や新人のアーティスト・演者・作家などに配慮し、文化の発展に資するという法の目的に沿うよう著作権管理事業法の改正を検討します。

○中小企業の知的財産権を活用した技術革新を促進するために、弁理士などを活用した取り組みに対する補助制度を創設します。

○特許や著作権など、知的財産を守り積極的に活用するため、国際的な知的財産戦略を推進します。また、日本の食文化やコンテンツを海外に積極的に展開し、ソフト分野でも稼ぎ、雇用を増やす産業構造をつくります。

<社民党>
○憲法違反の法律である安保法制(戦争法)、秘密保護法、共謀罪法、重要土地調査規制法を廃止します。
(略)

<共産党>
○7、女性とジェンダー
(略)
―――児童ポルノは「性の商品化」の中でも最悪のものです。児童ポルノ禁止法(1999年成立。2004年、2014年改正)における児童ポルノの定義を、「児童性虐待・性的搾取記録物」(*「記録物」とはマンガやアニメなどを含むものではありません)と改め、性虐待・性的搾取という重大な人権侵害から、あらゆる子どもを守ることを立法趣旨として明確にし、実効性を高めることを求めます。

日本は国連機関などから、極端に暴力的な子どもポルノを描いた漫画やアニメ、CG、ビデオ、オンライン・ゲーム等の「主要な制作国となっている」と批判されています。ジェンダー平等をすすめ、子どもと女性の人権を守る立場から、幅広い関係者で大いに議論をすすめることが重要だと考えます。「表現の自由」やプライバシー権を守りながら、子どもを性虐待・性的搾取の対象とすることを許さない社会にしていくことが必要であり、議論と合意をつくっていくための自主的な取り組みを促進していくことが求められています。そうした議論を起こしていくことは、「児童ポルノ規制」を名目にした法的規制の動きに抗して「表現の自由」を守り抜くためにも大切であると考えています。
(略)

○10、女性に対する暴力をなくす
(略)
リベンジポルノ、SNSでの誹謗中傷などオンライン暴力への対策を強化します
(略)
―――オンライン上の暴力について、通報と削除の仕組みを強化し、被害者のケアの体制をつくります。
(略)

○13、子ども・子育て
(略)
・子どもを性虐待・性的搾取からまもる

 18歳未満の子どもを被写体とする児童ポルノは、子どもの人権を侵害する性虐待・性的搾取であり、断じて容認できません。児童ポルノ事犯の被害児童数は、2016年以降、毎年1,000人を超えています(警察庁調べ)。児童ポルノの製造・提供・公開などについて、現行法に基づく厳正な対応が求められます。児童ポルノ禁止法における児童ポルノの定義を「児童性虐待・性的搾取記録物」と改め、重大な人権侵害からあらゆる子どもをまもることを立法趣旨として明確にし、実効性を高めることを求めます。
(略)

○58、学術、科学・技術
(略)
「安全保障技術研究推進制度」を廃止し、大学や公的研究機関の軍事利用をやめさせる―――大学や公的研究機関に対する軍事機関(防衛省や米軍など)からの資金提供や研究協力は、「学問の自由」を脅かすものであり、禁止すべきです。防衛省の「安全保障技術研究推進制度」を廃止し、偵察衛星など宇宙の軍事利用もやめさせます。大学や公的研究機関における研究開発は、非軍事・平和目的に限定し、その成果を暮らしと産業の発展のために広く活用します。軍事機密を理由にした研究成果の公開制限や秘密特許の導入に反対し、宇宙基本法や原子力基本法の「安全保障」条項を削除します。

「経済安全保障推進制度」は廃止し、知的財産権をめぐる問題は外交で解決する―――経済安全保障推進法は、科学技術の軍事研究化を推進し、学問の自由を侵害する恐れがあります。すでに補正予算で2,500億円が計上された経済安全保障重要技術育成プログラムの成果は、防衛省の判断で軍事技術として活用できます。プログラムの参加者に、罰則付きの守秘義務を課します。特許出願非公開制度は、民生技術を軍事技術に吸収し、戦争遂行に動員した戦前の秘密特許制度の復活です。特定技術分野の発明は外国出願禁止ですが、日米防衛特許協定を理由に米国に対してのみ除外しています。軍事特許を日米同盟に役立てる仕組みとなっています。

 中国の覇権主義や組織的なサイバー攻撃、知的財産権をめぐる問題などは、事実に基づき厳しく批判され、外交的に解決されなければなりません。しかし、「平和のとりで」(ユネスコ憲章)であるべき大学や国際交流があってこそ発展する研究までも仮想敵を持って対立に巻き込むことはあってはならないことです。「経済安全保障推進制度」は廃止します。
(略)

○60、文化
(略)
著作者の権利を守り発展させます

 著作権は、表現の自由を守りながら、著作物の創造や実演に携わる人々を守る法律として、文化の発展に役立ってきました。ところが、映画の著作物はすべて製作会社に権利が移転され、映画監督やスタッフに権利がありません。実演家も映像作品の二次利用への権利がありません。国際的には視聴覚的実演に関する北京条約(2012年)が締結され、日本も加入するなど、実演家の権利を認める流れや、映画監督の権利充実をはかろうという流れが強まっています。

―――著作権法を改正し、映画監督やスタッフ、実演家の権利を確立します。デジタル化、ネット配信など多様化する二次利用に対しては、著作者や実演家の不利益にならないよう対策を求めます。

―――私的録音録画補償金制度は、デジタル録音技術の普及にともない、一部の大企業が協力業務を放棄したことで、事実上機能停止してしまいました。作家・実演家の利益を守るために、私的複製に供される複製機器・機材を提供することによって利益を得ている事業者に応分の負担を求める、実効性のある補償制度の導入をめざします。

憲法を生かし、表現の自由を守ります

 芸術は自由であってこそ発展します。「表現の自由」は、多様な立場や価値観を持った人たちが生活する民主主義社会を支える上で欠くことのできない大切な人権です。憲法は「表現の自由」を保障していますが、自公政権のもとで、各地の美術館や図書館、公民館などの施設で、創作物の発表を正当な理由なく拒否することが相次いできました。また、2019年のあいちトリエンナーレでは、政治家の介入を受けて、文化庁が「安全性」を理由に助成金をいったん不交付にしたり、日本芸術文化振興会が映画「宮本から君へ」に対して「公益性」をもちだして助成金を打ち切ったりするなど、「表現の自由」への介入・侵害が相次いでいます。こうした権力からの介入は、自由な創造活動に「忖度」や「萎縮」効果をもたらすことにつながります。

 また、文化庁の助成は応募要綱などが行政の裁量で決められ、芸術団体などの意見が十分反映されていません。諸外国では、表現の自由を守るという配慮から、財政的な責任は国が持ちつつ、専門家が中心となった独立した機関が助成を行っています。

 日本共産党は、文化芸術基本法や憲法の基本的人権の条項を守り生かして、表現の自由を侵す動きに反対します。

―――「アームズ・レングス原則」(お金は出しても口は出さない)にもとづいた助成制度を確立し、萎縮や忖度のない自由な創造活動の環境をつくります。

―――すべての助成を専門家による審査・採択にゆだねるよう改善します。

――公共施設などでの創作物の発表、展示への脅迫・妨害行為に毅然とした対応を求め、「表現の自由」を保障します。

―――「児童ポルノ規制」を名目にしたマンガ・アニメ・ゲームなどへの法的規制の動きに反対します。青少年のゲーム・ネットの利用について、一律の使用時間制限などの法規制に反対します。

○64、共謀罪廃止・盗聴法拡大・刑訴法「改正」問題
もの言う市民を監視し萎縮させる憲法違反の共謀罪は廃止を――特定秘密保護法、戦争法と一体に廃止を求めます
(略)

 ざっと抜き出してみたが、2019年の参院選の時や去年の衆院選の時の公約(第410回第446回参照)と比べてそれほど変化があるわけではない。

 知財に関しては与党の公約はいつもの様にほぼ政府の知財計画の焼き直しであるし、立憲民主党が引き続き、「表現の自由を尊重し、二次創作分野などの発展を図る観点から、著作権法改正を含む検討を行」うと書いている点はポイントが高いが、今の所、立憲民主党でこの議論が深められている様子は余りない。

 そして、今回の選挙でも争点化される事はないだろうが、前回衆院選の公約でかなりの波紋を呼んだ所為か、共産党は「女性とジェンダー」中の児童ポルノに関する記載をかなり表現の自由に配慮したものに改めている。

 去年の衆院選の際の公約案比較の時に書いた通りだが、情報・表現規制問題については、引き続き、インターネットにおける誹謗中傷対策などが中心になるだろうと、また、国際的な視点によるデータに関する権利の検討も注意が必要と思える。

(2022年6月22日の追記:内容に違いはないが、今日、公示日に公開されたものが各党の正式な公約なのでもう一度以下にリンク集を作り直しておく。また上で一箇所誤記があったので合わせて修正した(「週」→「集」)。

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2021年10月17日 (日)

第446回:主要政党の2021年衆院選公約案比較(知財政策・情報・表現規制関連)

 4年ぶりとなるが、10月19日公示、31日投開票の予定で衆院選が行われる予定で、各政党から公約案が公開されている。

 今回は、新型コロナ対応が最大の争点とならざるを得ず、知財政策や情報・表現規制問題は選挙のトピックとなりそうもないが、以下、関連項目・部分を抜き出しておく。

<自民党>
○表現の自由を最大限考慮しつつ、インターネット上の誹謗・中傷やフェイクニュース等への対策を推進するとともに、人権意識向上の啓発活動を強化し、様々な人権問題の解消を図ります。

○自由、民主主義、人権、法の支配等の普遍的価値を守り抜き、国際秩序の安定・強化に貢献するため、「自由で開かれたインド太平洋」の一層の推進等に向け、日米同盟を基軸に、豪、印、ASEAN、欧州、台湾など普遍的価値を共有するパートナーとの連携を強化します。台湾のTPP加盟申請を歓迎し、WHO総会へのオブザーバー参加を応援します。

○権威主義的体制によるデータ独占を阻止するため、自由で信頼あるデータ流通(DFFT)の枠組みを、米欧とともに強力に推進します。

(政策BANKより)
○コロナ後のインバウンドの回復を見据え、ソフトパワーの強化や幅広い日本の魅力発信など、クールジャパンの取組みを進めます。特に、その強力な推進力であるコンテンツについては、制作流通におけるDX推進や構造改革等の競争力強化のための「メディアコンテンツ中期戦略(仮称)」を策定します。

○「改正種苗法」のもと、種苗の海外流出を防止するとともに、「家畜改良増殖法」と「家畜遺伝資源法」のもと、わが国固有の財産である和牛を守ります。

○DFFTルールの具体化において、EUと米国を連結する中核的役割を果たし、国際デジタル秩序の形成を主導します。また、デジタル時代におけるデータの法的権利に係る法整備を検討します。

○安全保障の観点から、わが国の戦略的不可欠性(技術的優越性を含む)と戦略的自律性を支える戦略技術・物資を特定した上で、機微性に応じて、技術情報の管理強化、輸出管理の見直し、特許の非公開制度の導入等を進めていくとともに、投資審査体制の強化、研究環境の健全性・公正性の強化を含め、統合的、包括的な対策を講じます。

○自由、民主主義、人権、法の支配等の普遍的価値を守り抜き、国際秩序の安定・強化に貢献するため、「自由で開かれたインド太平洋」の一層の推進等に向け、日米同盟を基軸に、豪、印、ASEAN、欧州、台湾など普遍的価値を共有するパートナーとの連携を強化します。台湾のTPP加盟申請及びWHO総会のオブザーバー参加を歓迎します。

○表現の自由を最大限考慮しつつ、侮辱罪の厳罰化や削除要請の強化等を通じインターネット上の誹謗・中傷やフェイクニュース等への対策を推進するとともに、人権意識向上の啓発活動を強化し、様々な人権問題の解消を図ります。

○青少年健全育成のための社会環境の整備を強化するとともに「青少年健全育成基本法(仮称)」を制定します。またITの発達等による非行や犯罪から青少年を守るための各種施策を推進します。

<公明党>
(政策集より)
○デジタルデータの取り引きについて、個人情報の保護を図りつつ、諸外国との連携による適正な流通及び活用の枠組みの整備や、国際的なルールづくりなど、安全で安心なデータ流通が円滑に行われるための環境整備を進めます。また企業のグローバル展開を踏まえ、わが国企業の活動を支援するための各種制度の周知、広報等を行います。

○ネットによる誹謗・中傷の根絶のため、SNSや無料アプリ、ゲームなどの特性や、安全なインターネットの使い方を教えるなど、各学校現場での「情報モラル教育」を充実させます。

○インターネット上の誹謗中傷対策として、プラットフォーム事業者による適切かつ迅速な削除やアカウントの停止など自主的取り組みの実効性を高める方策を促進します。また、相談体制の強化や情報モラル教育の充実を図るとともに、侮辱罪の厳罰化を図ります。

○「新たな日常」の早期実現に不可欠であるデジタル化の推進の一環として、国際的なルールづくりを主導します。具体的には、WTOにおける電子商取引のルール交渉をはじめとする、信頼性のある自由なデータ流通(DFFT)を促進するルールづくりの議論を、OECD等の国際機関や産業界等の多様なステークホルダーと共に加速させていきます。

○FTAAP(アジア太平洋自由貿易圏)構想の実現も視野に、TPP11及び日EU・EPA等の着実な実施とともに、TPP11への参加国・地域の拡大に向けた議論を主導します。また、昨年11月に署名されたRCEP協定の早期発効と履行確保に向けて取り組みます。さらに、経済連携協定及び投資協定の交渉を促進し、日本企業の海外進出を後押しします。加えて、アジアを中心とした産業保安体制構築支援等を行うとともに、電子商取引のルールづくりや紛争解決制度改革など、WTO改革を主導します。また、国際経済紛争処理の体制強化にも取り組みます。

○デジタル社会において一人ひとりが自律的な個人として尊重される人権保障のあり方を具体的に検討します。
デジタル社会における個人情報の保護について、憲法上の位置づけを検討するとともに、自分の情報に関する自己決定の確保など、個人情報の取扱いについて定める基本法の制定をめざします。

<日本維新の会>
○表現の自由を最大限尊重し、マンガ・アニメ・ゲームなどの内容に行政が過度に干渉しないコンテンツ産業支援を目指します。MANGA ナショナルセンターの設置による作品アーカイブの促進、インバウンドを意識した文化発信やクリエイターの育成支援などを行います。

○文化的コンテンツ等をデジタルデータとしてブロックチェーン上に記録したいわゆるNFT(非代替性トークン)について、イノベーションを阻害しないルール作りによる市場の拡大支援を行い、日本の強みであるマンガ・アニメ・ゲーム等のコンテンツ産業・アート市場のさらなる発展を後押しします。

○国立国会図書館や国立大学に所蔵されている書籍、貴重図書、資料などのデジタル化を推進し、アーカイブの積極的な活用を図るとともに、デジタルアーカイブを担う人材の育成を行います。

○施設等の箱モノ整備や補助金支給にとどまりがちな文化芸術施策を見直し、文化施設のコンセッション方式やアーツカウンシルの導入を促進するとともに、各種法令の規制緩和を行うなど、芸術家等が自立して活動・発表できる機会を多面的に提供します。

○SNSなどにおける誹謗中傷問題につき、行政による過剰な規制や表現の自由侵害には十分に配慮しつつ、発信者情報開示請求を簡素化するなど司法制度を迅速に活用できる仕組みを整備し、被害者保護と誹謗中傷表現の抑止を図ります。

○EPAを基軸として域内経済連携に積極的に関与し、世界規模での自由貿易の推進、自由主義経済圏の拡大をはかります。

○特にTPP11については、覇権国家である中国の加盟希望については慎重かつ戦略的に対応しつつ、台湾や英国などの参加を積極的に促し、経済連携を深めると同時に経済安全保障の強化を図ります。

<国民民主党>
○憲法
(略)
人権分野では、憲法制定時には予測できなかった時代の変化に対応するため、人権保障のアップデートが必要です。特に人工知能とインターネット技術の融合が進む今、国際社会では個人のスコアリングと差別の問題や、国民の投票行動に不当な影響を与えるネット広告の問題などが指摘されています。デジタル時代においても個人の自律的な意思決定を保障し、民主主義の基礎を守っていくため、データ基本権を憲法に位置づけるなど議論を深めます。同性婚の保障や子どもの権利保障などについても検討を進めます。
(略)

<立憲民主党>
○インターネット上の誹謗中傷を含む、性別・部落・民族・障がい・国籍、あらゆる差別の解消を目指すとともに、差別を防止し、差別に対応するため国内人権機関を設置します。

(政策集より)
○国民の知る権利を守るため特定秘密保護法を見直し、国会や第三者機関の権限強化も含め行政に対する監視と検証を強化します。安保法制や共謀罪の違憲部分を廃止します。

○個人の権利利益の保護を図るため、自己に関する情報の取扱いについて自ら決定できる権利(自己情報コントロール権)、本人の意思に基づいて自己の個人データの移動を円滑に行う権利(データポータビリティ権)、個人データが個人の意図しない目的で利用される場合等に当該個人データの削除を求める権利(忘れられる権利)、本人の同意なしに個人データを自動的に分析又は予測されない権利(プロファイリングされない権利)について法律上、明確化します。

○インターネットやSNS上の差別や誹謗中傷への対策に取り組みます。

○メディアにおける性・暴力表現について、子ども、女性、高齢者、障がい者をはじめとする人の命と尊厳を守る見地から、人々の心理・行動に与える影響について調査を進めるとともに、情報通信等の技術の進展および普及のスピードに対応した対策を推進します。

○インターネットを利用した人権侵害を許さず、速やかに対応できるような法改正、窓口創設を実現します。

○刑法の名誉毀損罪の法定刑の上限は懲役3年となっていますが、現状の人権侵害の深刻な状況に鑑みて、上限の引き上げを検討します。

○2017年に強行採決された共謀罪について、監視社会をもたらす恐れがあることや、表現の自由、思想・良心の自由その他の日本国憲法の保障する国民の自由と権利を侵害する恐れがある一方、テロ対策としての実効性は認められないことから、廃止を求めます。

○表現の自由を尊重し、二次創作分野などの発展を図る観点から、著作権法改正を含む検討を行います。

○著作権管理団体の権利者への権利料・使用料の分配については、若手や新人のアーティスト・演者・作家などに配慮し、文化の発展に資するという法の目的に沿うよう著作権管理事業法の改正を検討します。

<社民党>
(重点政策より)
○漁業法、種苗法改悪に反対。食糧自給率50%に
(略)

○公権力の管理・監視強化から個人情報と権利をまもる
(略)

○安保法制、秘密保護法、共謀罪法、重要土地調査規制法廃止
(略)

<共産党>
○7、女性とジェンダー
(略)
―――児童ポルノは「性の商品化」の中でも最悪のものです。児童ポルノ禁止法(1999年成立。2004年、2014年改正)における児童ポルノの定義を、「児童性虐待・性的搾取描写物」と改め、性虐待・性的搾取という重大な人権侵害から、あらゆる子どもを守ることを立法趣旨として明確にし、実効性を高めることを求めます。

 現行法は、漫画やアニメ、ゲームなどのいわゆる「非実在児童ポルノ」については規制の対象としていませんが、日本は、極端に暴力的な子どもポルノを描いた漫画やアニメ、CG、ビデオ、オンライン・ゲーム等の主要な制作国として国際的にも名指しされており、これらを適切に規制するためのより踏み込んだ対策を国連人権理事会の特別報告者などから勧告されています(2016年)。非実在児童ポルノは、現実・生身の子どもを誰も害していないとしても、子どもを性欲や暴力の対象、はけ口としても良いのだとする誤った社会的観念を広め、子どもの尊厳を傷つけることにつながります。「表現の自由」やプライバシー権を守りながら、子どもを性虐待・性的搾取の対象とすることを許さない社会的な合意をつくっていくために、幅広い関係者と力をあわせて取り組みます。
(略)

○10、女性に対する暴力をなくす
(略)
リベンジポルノ、SNSでの誹謗中傷などオンライン暴力への対策を強化します
(略)
――オンライン上の暴力について、通報と削除の仕組みを強化し、被害者のケアの体制をつくります。
(略)

○60、文化
(略)
著作者の権利を守り発展させます

 著作権は、表現の自由を守りながら、著作物の創造や実演に携わる人々を守る法律として、文化の発展に役立ってきました。ところが、映画の著作物はすべて製作会社に権利が移転され、映画監督やスタッフに権利がありません。実演家も映像作品の二次利用への権利がありません。国際的には視聴覚的実演に関する北京条約(2012年)が締結され、日本も加入するなど、実演家の権利を認める流れや、映画監督の権利充実をはかろうという流れが強まっています。

――著作権法を改正し、映画監督やスタッフ、実演家の権利を確立します。デジタル化、ネット配信など多様化する二次利用に対しては、著作者の不利益にならないよう対策を求めます。

――私的録音録画補償金制度は、デジタル録音技術の普及にともない、一部の大企業が協力業務を放棄したことで、事実上機能停止してしまいました。作家・実演家の利益を守るために、私的複製に供される複製機器・機材を提供することによって利益を得ている事業者に応分の負担を求める、実効性のある補償制度の導入をめざします。

憲法を生かし、表現の自由を守ります

 芸術は自由であってこそ発展します。憲法は「表現の自由」を保障していますが、自公政権のもとで、各地の美術館や図書館、公民館などの施設で、創作物の発表を正当な理由なく拒否することが相次いできました。また、2019年のあいちトリエンナーレでは、政治家の介入を受けて、文化庁が「安全性」を理由に助成金をいったん不交付にしたり、日本芸術文化振興会が映画「宮本から君へ」に対して「公益性」をもちだして助成金を打ち切ったりするなど、「表現の自由」への介入・侵害が相次いでいます。

 文化庁の助成は応募要綱などが行政の裁量で決められ、芸術団体などの意見が十分反映されていません。諸外国では、表現の自由を守るという配慮から、財政的な責任は国が持ちつつ、専門家が中心となった独立した機関が助成を行っています。

 日本共産党は、文化芸術基本法や憲法の基本的人権の条項を守り生かして、表現の自由を侵す動きに反対します。

――「アームズ・レングス原則」(お金は出しても口は出さない)にもとづいた助成制度を確立し、萎縮や忖度のない自由な創造活動の環境をつくります。

――すべての助成を専門家による審査・採択にゆだねるよう改善します。

――「児童ポルノ規制」を名目にしたマンガ・アニメなどへの法的規制の動きに反対します。

○64、共謀罪廃止・盗聴法拡大・刑訴法「改正」問題
もの言う市民を監視し萎縮させる憲法違反の共謀罪は廃止を――特定秘密保護法、戦争法と一体に廃止を求めます
(略)

 2017年の衆院選時の公約(第383回参照)や2019年の参院選時の公約(第410回参照)と比べても、どこの政党も今までの方針をなぞって公約を作っており、あまり新味はない。公約案を見ると、自民党も、総裁が変わったところで、政権運営方針についての変化はほぼないと知れる。

 しかし、ここで、著作権問題に関して、立憲民主党が、「表現の自由を尊重し、二次創作分野などの発展を図る観点から、著作権法改正を含む検討を行」うと言っている点は非常にポイントが高い。

 また、特許について、今の日本で秘密特許制度を作る事に何の意味があるのかはさっぱり分からないが、自民党が、「特許の非公開制度の導入等を進めていく」としている点は少し気をつけておいた方がいいだろう。

 情報・表現規制問題については、今後も、インターネットにおける誹謗中傷対策などが中心になると思うが、国際データ流通に絡み行われるデータに関する権利の検討も注意が必要と思える。

(2021年10月18日夜の追記:見逃していたが、ねとらぼの記事になっている通り、共産党の「女性とジェンダー」の項目に非実在児童ポルノという意味不明の用語とともに何かの社会的合意を作っていくという良く分からない記載が入っていたので、その部分も上で追記した。児童ポルノ規制を名目にしたマンガ・アニメなどへの法的規制の動きに反対という記載もあるので、共産党として全体的な方針が変わったという事はないのではないかと思うが、児童ポルノを理由とした一般的な表現規制の動きが盛り上がっている訳でもないこのタイミングで(実際他党で児童ポルノ規制問題について触れている所はない)、共産党がこの様な記載を追加した理由は不明である。

 共産党の見解としては、児童ポルノ規制を名目にしたマンガ・アニメなどへの法的規制の動きには反対である事に変わりはないが、子供を性虐待・性的搾取の対象とすることを許さないための社会的な合意についての議論を呼びかけたものという事らしい。しかし、なぜこのタイミングでわざわざ謎の記載を追加したのかはやはり良く分からない。)

(2021年10月19日夜の追記:内容は基本的に同じだが、公示日以降の正式版の公約集について、以下、リンクを張っておく。

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2021年3月21日 (日)

第437回:閣議決定されたプロバイダー責任制限法改正案の条文

 今年の知財関連法改正案として、プロバイダー責任制限法改正案、著作権法改正案、特許法等改正案が閣議決定され、国会に提出されているので、その条文について順番に見ていきたいと思う。

 今回は、まず、私が一番問題が大きいと思っているプロバイダー責任制限法改正案の条文についてである。

 この法改正案の主なポイントは、総務省のHP概要(pdf)にも書かれているように、

  • 発信者の特定に必要となる場合のログイン時情報の開示の可能化
  • 発信者に対して行う意見照会において開示に応じない場合の理由もあわせて照会
  • 新たな裁判・非訟手続きによる開示命令、提供命令及び消去禁止命令の創設

という3点である。

 その条文(法律案(pdf)新旧対照条文(pdf)参照、要綱(pdf)も参照)には、第二条の定義条項において、「特定電気通信役務提供者」を「特定電気通信役務(特定電気通信設備を用いて提供する電気通信役務(中略)を提供する者」にし、「侵害情報」や「発信者情報」もここで定義した上で、「開示関係役務提供者」を「第五条第一項に規定する特定電気通信役務提供者及び同条第二項に規定する関連電気通信役務提供者」とするといったテクニカルな改正も含まれているが、ここでは、ポイントとなる部分である通常の発信者情報開示に関する部分と新しい裁判手続きの部分を取り上げる。

 法改正案の通常の発信者情報についての条文は以下の様なものである。(以下、下線部は追加部分。)

第三章 発信者情報の開示請求等

(発信者情報の開示請求
第四条第五条 特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害されたとする者は、次の各号のいずれにも該当するときに限り、当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者(以下「開示関係役務提供者」という。)に対し、当該開示関係役務提供者当該特定電気通信役務提供者が保有する当該権利の侵害に係る発信者情報(氏名、住所その他の侵害情報の発信者の特定に資する情報であって総務省令で定めるものをいう。以下同じ。)ののうち、特定発信者情報(発信者情報であって専ら侵害関連通信に係るものとして総務省令で定めるものをいう。以下この項及び第十五条第二項において同じ。)以外の発信者情報については第一号及び第二号のいずれにも該当するとき、特定発信者情報については次の各号のいずれにも該当するときは、それぞれその開示を請求することができる。
 侵害情報当該開示の請求に係る侵害情報の流通によって当該開示の請求をする者の権利が侵害されたことが明らかであるとき。
 当該発信者情報が当該開示の請求をする者の損害賠償請求権の行使のために必要である場合その他当該発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるとき。
 次のイからハまでのいずれかに該当するとき。
 当該特定電気通信役務提供者が当該権利の侵害に係る特定発信者情報以外の発信者情報を保有していないと認めるとき。
 当該特定電気通信役務提供者が保有する当該権利の侵害に係る特定発信者情報以外の発信者情報が次に掲げる発信者情報以外の発信者情報であって総務省令で定めるもののみであると認めるとき。
(1)当該開示の請求に係る侵害情報の発信者の氏名及び住所
(2)当該権利の侵害に係る他の開示関係役務提供者を特定するために用いることができる発信者情報
 当該開示の請求をする者がこの項の規定により開示を受けた発信者情報(特定発信者情報を除く。)によっては当該開示の請求に係る侵害情報の発信者を特定することができないと認めるとき。

 開示関係役務提供者は、前項の規定による開示の請求を受けたときは、当該開示の請求に係る侵害情報の発信者と連絡することができない場合その他特別の事情がある場合を除き、開示するかどうかについて当該発信者の意見を聴かなければならない。
 特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害されたとする者は、次の各号のいずれにも該当するときは、当該特定電気通信に係る侵害関連通信の用に供される電気通信設備を用いて電気通信役務を提供した者(当該特定電気通信に係る前項に規定する特定電気通信役務提供者である者を除く。以下この項において「関連電気通信役務提供者」という。)に対し、当該関連電気通信役務提供者が保有する当該侵害関連通信に係る発信者情報の開示を請求することができる。
 当該開示の請求に係る侵害情報の流通によって当該開示の請求をする者の権利が侵害されたことが明らかであるとき。
 当該発信者情報が当該開示の請求をする者の損害賠償請求権の行使のために必要である場合その他当該発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるとき。

 第一項の規定により発信者情報の開示を受けた者は、当該発信者情報をみだりに用いて、不当に当該発信者の名誉又は生活の平穏を害する行為をしてはならない。
 前二項に規定する「侵害関連通信」とは、侵害情報の発信者が当該侵害情報の送信に係る特定電気通信役務を利用し、又はその利用を終了するために行った当該特定電気通信役務に係る識別符号(特定電気通信役務提供者が特定電気通信役務の提供に際して当該特定電気通信役務の提供を受けることができる者を他の者と区別して識別するために用いる文字、番号、記号その他の符号をいう。)その他の符号の電気通信による送信であって、当該侵害情報の発信者を特定するために必要な範囲内であるものとして総務省令で定めるものをいう。

 開示関係役務提供者は、第一項の規定による開示の請求に応じないことにより当該開示の請求をした者に生じた損害については、故意又は重大な過失がある場合でなければ、賠償の責めに任じない。ただし、当該開示関係役務提供者が当該開示の請求に係る侵害情報の発信者である場合は、この限りでない。

(開示関係役務提供者の義務等)
第六条 開示関係役務提供者は、前条第一項又は第二項の規定による開示の請求を受けたときは、当該開示の請求に係る侵害情報の発信者と連絡することができない場合その他特別の事情がある場合を除き、当該開示の請求に応じるかどうかについて当該発信者の意見(当該開示の請求に応じるべきでない旨の意見である場合には、その理由を含む。)を聴かなければならない。

 開示関係役務提供者は、発信者情報開示命令を受けたときは、前項の規定による意見の聴取(当該発信者情報開示命令に係るものに限る。)において前条第一項又は第二項の規定による開示の請求に応じるべきでない旨の意見を述べた当該発信者情報開示命令に係る侵害情報の発信者に対し、遅滞なくその旨を通知しなければならない。ただし、当該発信者に対し通知することが困難であるときは、この限りでない。

 開示関係役務提供者は、第十五条第一項(第二号に係る部分に限る。)の規定による命令を受けた他の開示関係役務提供者から当該命令による発信者情報の提供を受けたときは、当該発信者情報を、その保有する発信者情報(当該提供に係る侵害情報に係るものに限る。)を特定する目的以外に使用してはならない。

 開示関係役務提供者は、前条第一項又は第二項の規定による開示の請求に応じないことにより当該開示の請求をした者に生じた損害については、故意又は重大な過失がある場合でなければ、賠償の責めに任じない。ただし、当該開示関係役務提供者が当該開示の請求に係る侵害情報の発信者である場合は、この限りでない。

(発信者情報の開示を受けた者の義務)
第七条 第五条第一項又は第二項の規定により発信者情報の開示を受けた者は、当該発信者情報をみだりに用いて、不当に当該発信者情報に係る発信者の名誉又は生活の平穏を害する行為をしてはならない。

 条文はややこしいが、特定電気通信役務提供者が通常のアクセスプロバイダー又はコンテンツプロバイダーで、関連電気通信役務提供者がその他ログイン時通信に関係するプロバイダーで、合わせて開示関係役務提供者として、ログイン時情報に相当する特定発信者情報とその他発信者情報に分けて、発信者の特定に必要となる場合のログイン時情報の開示の可能化を規定しようとするとこうなるだろうというものである。

 総務省令で特定発信者情報がどの様に規定されるのかが少し気に掛かるが、基本的にその他の発信者情報を有していない場合にのみ特定発信者情報を開示するという条文構成になっているので、この部分について大きな問題はないと思える。開示に応じない場合の理由もあわせて発信者に照会するという事も悪い事ではない。(上の条文は煩雑に過ぎ、今でも私は法改正ではなく解釈・運用と総務省令改正による対応で十分ではなかったかと思っているが。)

 次に、長くなるので途中を少し省略するが、発信者情報開示命令事件に関する裁判手続についての条文は以下の様になっている。

第四章 発信者情報開示命令事件に関する裁判手続

(発信者情報開示命令)
第八条 裁判所は、特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害されたとする者の申立てにより、決定で、当該権利の侵害に係る開示関係役務提供者に対し、第五条第一項又は第二項の規定による請求に基づく発信者情報の開示を命ずることができる。

(日本の裁判所の管轄権)
第九条 裁判所は、発信者情報開示命令の申立てについて、次の各号のいずれかに該当するときは、管轄権を有する。
 人を相手方とする場合において、次のイからハまでのいずれかに該当するとき。
 相手方の住所又は居所が日本国内にあるとき。
 相手方の住所及び居所が日本国内にない場合又はその住所及び居所が知れない場合において、当該相手方が申立て前に日本国内に住所を有していたとき(日本国内に最後に住所を有していた後に外国に住所を有していたときを除く。)。
 大使、公使その他外国に在ってその国の裁判権からの免除を享有する日本人を相手方とするとき。
 法人その他の社団又は財団を相手方とする場合において、次のイ又はロのいずれかに該当するとき。
 相手方の主たる事務所又は営業所が日本国内にあるとき。
 相手方の主たる事務所又は営業所が日本国内にない場合において、次の(1)又は(2)のいずれかに該当するとき。
(1)当該相手方の事務所又は営業所が日本国内にある場合において、申立てが当該事務所又は営業所における業務に関するものであるとき。
(2)当該相手方の事務所若しくは営業所が日本国内にない場合又はその事務所若しくは営業所の所在地が知れない場合において、代表者その他の主たる業務担当者の住所が日本国内にあるとき。
 前二号に掲げるもののほか、日本において事業を行う者(日本において取引を継続してする外国会社(会社法(平成十七年法律第八十六号)第二条第二号に規定する外国会社をいう。)を含む。)を相手方とする場合において、申立てが当該相手方の日本における業務に関するものであるとき。

 前項の規定にかかわらず、当事者は、合意により、いずれの国の裁判所に発信者情報開示命令の申立てをすることができるかについて定めることができる。

(略:第九条第3~7項(合意の形式、特別の事情による却下、管轄権の標準時等))

(管轄)
第十条 発信者情報開示命令の申立ては、次の各号に掲げる場合の区分に応じ、それぞれ当該各号に定める地を管轄する地方裁判所の管轄に属する。
 人を相手方とする場合相手方の住所の所在地(相手方の住所が日本国内にないとき又はその住所が知れないときはその居所の所在地とし、その居所が日本国内にないとき又はその居所が知れないときはその最後の住所の所在地とする。)
 大使、公使その他外国に在ってその国の裁判権からの免除を享有する日本人を相手方とする場合において、この項(前号に係る部分に限る。)の規定により管轄が定まらないとき最高裁判所規則で定める地
 法人その他の社団又は財団を相手方とする場合次のイ又はロに掲げる事務所又は営業所の所在地(当該事務所又は営業所が日本国内にないときは、代表者その他の主たる業務担当者の住所の所在地とする。)
 相手方の主たる事務所又は営業所
 申立てが相手方の事務所又は営業所(イに掲げるものを除く。)における業務に関するものであるときは、当該事務所又は営業所

(略:第十条第2~7項(その他専属管轄等))

(発信者情報開示命令の申立書の写しの送付等)
第十一条 裁判所は、発信者情報開示命令の申立てがあった場合には、当該申立てが不適法であるとき又は当該申立てに理由がないことが明らかなときを除き、当該発信者情報開示命令の申立書の写しを相手方に送付しなければならない。

 非訟事件手続法(平成二十三年法律第五十一号)第四十三条第四項から第六項までの規定は、発信者情報開示命令の申立書の写しを送付することができない場合(当該申立書の写しの送付に必要な費用を予納しない場合を含む。)について準用する。

 裁判所は、発信者情報開示命令の申立てについての決定をする場合には、当事者の陳述を聴かなければならない。ただし、不適法又は理由がないことが明らかであるとして当該申立てを却下する決定をするときは、この限りでない。

(略:第十二条(発信者情報開示命令事件の記録の閲覧等)、第十三条(発信者情報開示命令の申立ての取下げ))

(発信者情報開示命令の申立てについての決定に対する異議の訴え)
第十四条 発信者情報開示命令の申立てについての決定(当該申立てを不適法として却下する決定を除く。)に不服がある当事者は、当該決定の告知を受けた日から一月の不変期間内に、異議の訴えを提起することができる。

(略:第十四条第二~六項(管轄、決定の効力等))

(提供命令)
第十五条 本案の発信者情報開示命令事件が係属する裁判所は、発信者情報開示命令の申立てに係る侵害情報の発信者を特定することができなくなることを防止するため必要があると認めるときは、当該発信者情報開示命令の申立てをした者(以下この項において「申立人」という。)の申立てにより、決定で、当該発信者情報開示命令の申立ての相手方である開示関係役務提供者に対し、次に掲げる事項を命ずることができる。
 当該申立人に対し、次のイ又はロに掲げる場合の区分に応じそれぞれ当該イ又はロに定める事項(イに掲げる場合に該当すると認めるときは、イに定める事項)を書面又は電磁的方法(電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法であって総務省令で定めるものをいう。次号において同じ。)により提供すること。
 当該開示関係役務提供者がその保有する発信者情報(当該発信者情報開示命令の申立てに係るものに限る。以下この項において同じ。)により当該侵害情報に係る他の開示関係役務提供者(当該侵害情報の発信者であると認めるものを除く。ロにおいて同じ。)の氏名又は名称及び住所(以下この項及び第三項において「他の開示関係役務提供者の氏名等情報」という。)の特定をすることができる場合 当該他の開示関係役務提供者の氏名等情報
 当該開示関係役務提供者が当該侵害情報に係る他の開示関係役務提供者を特定するために用いることができる発信者情報として総務省令で定めるものを保有していない場合又は当該開示関係役務提供者がその保有する当該発信者情報によりイに規定する特定をすることができない場合 その旨
 この項の規定による命令(以下この条において「提供命令」といい、前号に係る部分に限る。)により他の開示関係役務提供者の氏名等情報の提供を受けた当該申立人から、当該他の開示関係役務提供者を相手方として当該侵害情報についての発信者情報開示命令の申立てをした旨の書面又は電磁的方法による通知を受けたときは、当該他の開示関係役務提供者に対し、当該開示関係役務提供者が保有する発信者情報を書面又は電磁的方法により提供すること。

 前項(各号列記以外の部分に限る。)に規定する発信者情報開示命令の申立ての相手方が第五条第一項に規定する特定電気通信役務提供者であって、かつ、当該申立てをした者が当該申立てにおいて特定発信者情報を含む発信者情報の開示を請求している場合における前項の規定の適用については、同項第一号イの規定中「に係るもの」とあるのは、次の表の上欄に掲げる場合の区分に応じ、それぞれ同表の下欄に掲げる字句とする。
|当該特定発信者情報の開示の請求について第五条第一項第三号に該当すると認められる場合|に係る第五条第一項に規定する特定発信者情報|
|当該特定発信者情報の開示の請求について第五条第一項第三号に該当すると認められない場合|に係る第五条第一項に規定する特定発信者情報以外の発信者情報|

 次の各号のいずれかに該当するときは、提供命令(提供命令により二以上の他の開示関係役務提供者の氏名等情報の提供を受けた者が、当該他の開示関係役務提供者のうちの一部の者について第一項第二号に規定する通知をしないことにより第二号に該当することとなるときは、当該一部の者に係る部分に限る。)は、その効力を失う。
一 当該提供命令の本案である発信者情報開示命令事件(当該発信者情報開示命令事件についての前条第一項に規定する決定に対して同項に規定する訴えが提起されたときは、その訴訟)が終了したとき。
二 当該提供命令により他の開示関係役務提供者の氏名等情報の提供を受けた者が、当該提供を受けた日から二月以内に、当該提供命令を受けた開示関係役務提供者に対し、第一項第二号に規定する通知をしなかったとき。

 提供命令の申立ては、当該提供命令があった後であっても、その全部又は一部を取り下げることができる。

 提供命令を受けた開示関係役務提供者は、当該提供命令に対し、即時抗告をすることができる。

(消去禁止命令)
第十六条 本案の発信者情報開示命令事件が係属する裁判所は、発信者情報開示命令の申立てに係る侵害情報の発信者を特定することができなくなることを防止するため必要があると認めるときは、当該発信者情報開示命令の申立てをした者の申立てにより、決定で、当該発信者情報開示命令の申立ての相手方である開示関係役務提供者に対し、当該発信者情報開示命令事件(当該発信者情報開示命令事件についての第十四条第一項に規定する決定に対して同項に規定する訴えが提起されたときは、その訴訟)が終了するまでの間、当該開示関係役務提供者が保有する発信者情報(当該発信者情報開示命令の申立てに係るものに限る。)を消去してはならない旨を命ずることができる。

 前項の規定による命令(以下この条において「消去禁止命令」という。)の申立ては、当該消去禁止命令があった後であっても、その全部又は一部を取り下げることができる。

 消去禁止命令を受けた開示関係役務提供者は、当該消去禁止命令に対し、即時抗告をすることができる。

(非訟事件手続法の適用除外)
第十七条 発信者情報開示命令事件に関する裁判手続については、非訟事件手続法第二十二条第一項ただし書、第二十七条及び第四十条の規定は、適用しない。

(最高裁判所規則)
第十八条 この法律に定めるもののほか、発信者情報開示命令事件に関する裁判手続に関し必要な事項は、最高裁判所規則で定める。

 この部分について、この様な条文に至るまで、政府内でどの様な検討がされたのかは不明だが、その点がよほど問題となったのか、裁判管轄に関する事項を第9~10条に書き込んでいる。日本の裁判管轄に関する原則から考えれば当たり前の話だが、申立てが裁判所に取り上げられるのは、基本的に、法人を相手方とする場合であれば、その主たる事務所又は営業所が日本国内にある場合に限られ、かつ、その主たる事務所又は営業所の所在地の地方裁判所に申し立てる必要があるという事である。

 そして、裁判・非訟手続きの原則から考えて、これも当たり前の話だが、相手方を記載して申立てを行う必要があるので(第11条参照、記載しないと却下となる)、コンテンツプロバイダーに対する申立てだけで、その後自動的に良く分からない立場でアクセスプロバイダーが同じ事件に巻き込まれる様な事もない。

 第15条のコンテンツプロバイダーからアクセスプロバイダーへの情報提供命令も、発信者情報開示命令事件が係属する場合であって、他の開示関係役務提供者としてアクセスプロバイダーに関する開示を受けた申立人がアクセスプロバイダーを相手方として発信者情報開示命令の申立てをした場合に裁判所が出す事ができるとされている。

 必要であれば裁判所は裁量によりさらにコンテンツプロバイダーに対する事件とアクセスプロバイダーに対する事件を併合して処理するかも知れないが、開示においてコンテンツプロバイダーとアクセスプロバイダーの両方が関係し、かつ、アクセスプロバイダーに対する発信者情報開示まで必要とされる場合は、今まで同様、両方に対して順次申立てが必要になるのであって、本当に1つの手続きでできる訳ではない。総務省が、法改正の概要(pdf)で、これについて発信者情報開示を1つの手続きで可能とすると言っているのは酷いミスリードである。

 また、第16条の消去禁止命令も現行でも可能なログ保全ための仮処分命令と何が違うのか良く分からない。

 さらに、第17条で、非訟事件手続法の第22条第1項ただし書の弁護士でない者による手続代理、事実の調査等の国庫による立て替え、第40条の検察官の関与の適用は明示的に除外されているので、実質的に通常の訴訟より手続き費用が安く済むといった事もない。

 この新たな裁判手続きにおける発信者の意見の照会や異議の訴え等について、その具体的な運用に関する事が非常に気になるが、これは第18条に書かれている最高裁判所規則に委ねられているという事なのだろう。裁判所が今までの通常の裁判による発信者情報開示事件と比べて偏った運用をする事はないだろうとは思うが、この様な重要な事項が裁判所の規則・裁量・運用に委ねられているという事はあまり良い事とは思えない。

 結局、この法改正案の新しい裁判手続きによる発信者情報開示は、今までの通常の裁判による発信者情報開示とほぼ同様の手続きを原則非公開の非訟手続きとして規定しただけのものであって、手続きの迅速化や合理化に資するものとは到底言い難いものである。この様な法改正が通れば、かえって発信者情報開示に関する手続きの不透明性や複雑性が増し、いたずらに今の状況を混乱させるだけで、発信者の保護はおろか権利侵害の救済にも繋がらないのではないかと私は懸念する。過去のパブコメ(第432回参照)でも書いたが、発信者情報の開示は、通信の秘密といった重要な国民の権利に関するものであるから、原則公開の訴訟手続によらなければならないものである。今後、国会でこの問題の本質にまで踏み込んだ議論がなされる事を私は期待する。

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2020年11月25日 (水)

第432回:総務省・発信者情報開示の在り方に関する研究会最終とりまとめ(案)に対する提出パブコメ

 12月4日〆切でパブコメにかかっている、総務省の発信者情報開示の在り方に関する研究会最終とりまとめ(案)(pdf)に対して意見を出したのでここに載せておく(意見募集について、総務省のHP、電子政府のHP参照)。非訟手続きに基づく新たな裁判手続きの問題については前のパブコメで指摘した事と全く同じ事が当てはまるので、提出パブコメの内容は中間とりまとめ案に出した意見(第428回参照)を最終とりまとめ案の記載に合わせて組み替えたものである。

(以下、提出パブコメ)

<第1章 発信者情報開示に関する検討の背景及び基本的な考え方について>
○3.検討に当たっての基本的な考え方
(該当箇所)第5ページ「3.検討に当たっての基本的な考え方」全体
(御意見)
 ここで、権利侵害に対する救済が必要なのは無論の事とは言え、制度改正が逆に行き過ぎれば、その濫用や悪用によって発信行為・表現が萎縮し、表現の自由の抑圧に繋がる危険性があるということをきちんと認識し、その間でバランスを取る事を基本的な考え方としている事は高く評価できる。この基本的な考え方を通して守るべきであり、以下第3章についての項目で述べる通り、原則非公開とできる新たな非訟手続きに基づく裁判手続きの創設のような、この基本的な考え方に合わない事は不適切なものであって、するべきではない。

<第2章 発信者情報の開示対象の拡大>
○2.ログイン時情報
○2-(1)発信者の同一性
(該当箇所)第8ページ「2-(1)発信者の同一性」全体
(御意見)
 ここで、「権利侵害投稿の通信とログイン時の通信とが、同一の発信者によるものである場合に限り、開示できることとする必要がある」としている点は賛同できるが、アカウントの共有や乗っ取りの場合を一絡げに例外として、「同一のアカウントのログイン時の通信と権利侵害投稿通信は基本的に同一の発信者から行われたものと捉えることができると考えられる」としている事は適切ではない。特にアカウント保持者への嫌がらせのために他の者がアカウントを乗っ取り書き込み等を行う事は十分に考えられるのであって、この様な場合にまでアカウント保持者の情報が開示され第一に責任を負うべきとする事は適切ではない。ログイン時情報の開示においては、「2-(2)開示の対象とすべきログイン時情報の範囲」に書かれている補充性要件に加え、権利侵害投稿の通信とログイン時の通信とが、同一の発信者によるものである場合に限るという条件を明示的に加え、ログイン時の通信の内容等からアカウント保持者以外の書き込みであると判断される場合は開示しない事とするべきである。

○2-(2)開示の対象とすべきログイン時情報の範囲
(該当箇所)第9~11ページ「2-(1)発信者の同一性」全体
(御意見)
 ここで、第9ページに、「侵害投稿時の通信経路を辿って発信者を特定することができない場合に限定すること(補充性要件)が適当」としている事に賛同する。

 そして、上記の「2-(1)発信者の同一性」の項目で書いた通り、この様な補充性要件に加えて、同一の発信者によるものである場合に限るという条件を明示的に加えるべきである。

 その限りにおいて、SMS認証に関する情報を追加しても良いと考えるが、上記の通りの限定がなされない限り、開示の対象は拡大するべきではない。


○2-(3)開示請求を受けるプロバイダの範囲
(該当箇所)第11ページ「2-(3)開示請求を受けるプロバイダの範囲」全体
(御意見)
 ここで、「ログイン時情報等を開示対象とした場合、当該情報に係る権利侵害投稿通信以外の通信(ログイン時の通信やSMS認証に係る通信等)を媒介したアクセスプロバイダや電話会社に対して、侵害投稿通信の発信者かつ権利侵害投稿通信以外の通信の発信者でもある者の住所・氏名の開示を請求することとなるが、当該開示請求を受けるプロバイダは、プロバイダ責任制限法第4条第1項に規定する『開示関係役務提供者』の範囲に含まれない場合もあり得る」と記載され、脚注17に「『開示関係役務提供者』は、プロバイダ責任制限法第4条第1項において『当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者』と規定されている。コンテンツプロバイダが投稿時のログを保有しておらず、発信者が複数の通信経路からログインを行っている場合、実際にどの通信経路から権利侵害投稿を行ったかわからないため、開示請求を受けたアクセスプロバイダが『『当該特定電気通信』の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者』に該当するか不明確となる場合があり得る」と記載されている。

 しかし、ログイン時情報の開示については、権利侵害投稿の通信とログイン時の通信とが同一の発信者によるものである場合に限るといった条件が付加されるべきであるから、ログイン時情報による開示請求を受けるプロバイダーは、プロバイダー責任制限法第4条第1項の、権利の侵害に係る「当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者」と言えるのであって、ログイン時情報等の開示請求で法律上の「開示関係役務提供者」の範囲に含まれない場合もあり得るとする解釈は厳格に過ぎ、この点で法改正は不要であると考える。

 また、コンテンツプロバイダが投稿時のログを保有していない場合であっても、脚注17の様に、投稿より前の複数の通信経路からの複数のログイン時情報を開示対象として想定する事は不適切である。権利侵害投稿の通信とログイン時の通信とが同一の発信者によるものである場合に限るといった条件の付加によって、基本的に投稿直前のログイン時情報のみを開示対象とするべきである。この様な法改正をしたいがためだけの理屈は全く納得の行くものではない。

○3.まとめ
(該当箇所)第11ページ「3.まとめ」全体
(御意見)
 上記の通り、同一の発信者によるものである場合に限るという条件を明示的に加え、省令改正によるログイン時のIPアドレス及びタイムスタンプ等の追加に賛同するが、これは省令改正で十分であり、それに留めるべきである。

<第3章 新たな裁判手続の創設及び特定の通信ログの早期保全>
○1.非訟手続の創設の利点と課題の整理
(該当箇所)第12~14ページ「1.非訟手続の創設の利点と課題の整理」全体
(御意見)
 ここで、第13~14ページに、発信者情報開示のための新しい原則非公開の非訟手続きについて、適法な情報発信を行う発信者の保護が十分に図られなくなり、手続が濫用される恐れが強く、判断の透明性の確保が図られなくなるとの問題が書かれている。

 これは全くその通りであって、この様な事から、引いては表現の自由の保護が十分に図られなくなる事になると考えられる。

 以下でも述べる通り、これは制度設計によっては解消できない極めて本質的な問題であり、この新たな裁判手続きの創設は不適切であって、なされるべきものではないものである。

○2.実体法上の開示請求権と非訟手続の関係について
(該当箇所)第14~17ページ「2.実体法上の開示請求権と非訟手続の関係について」全体
(御意見)
 ここで、現行の発信者情報開示訴訟における課題の整理・検討をなおざりに、一方的に結論ありきで、現行の請求権に「加えて」新たな非訟手続きを創設することが適当としていることは極めて不適切である。

 この点について、第16ページに書かれている、「表現の自由やプライバシーといった発信者の権利利益の保護に鑑み、開示判断については、非訟手続を創設するのではなく、現行法と同様に訴訟手続とする」べきという指摘は極めて妥当なものであって、この指摘の通り非訟手続きを創設するべきではない。

 今回のプロバイダー責任制限法に関する検討は、2011年の「利用者視点を踏まえたICTサービスに係る諸問題に関する研究会」における検討(その「プロバイダ責任制限法検証に関する提言」https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01kiban08_01000037.html参照)及び2015年の「ICT サービス安心・安全研究会」における検討(その報告書「インターネット上の個人情報・利用者情報等の流通への対応について」https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01kiban08_02000184.html参照)以来のものであって、本格的な検討としては2011年の研究会以来のものであると思うが、この研究会の提言の第41ページ(第3の4(8))で、第三者機関の創設等について、「取り扱う対象が通信の秘密といった重要な権利に関連することからすると、発信者情報の開示の当否は、通信の秘密といった重要な国民の権利に関するものであるから、このような実体的な権利を終局的に確定させる判断は(公開の法廷における対審及び判決という)訴訟手続によらなければならないと考えられ」るとしている。この研究会の提言の整理は今なお妥当するものであって、今般の検討においてもこの整理を守るべきである。

 新たな非訟手続きの本質的な問題点については以下でも述べ、この様な手続きはそもそも創設されるべきものではないと考えるが、仮に本とりまとめ案の様に、原則として何かしらの手続きを追加し、異議等により現行同様の訴訟に移行するものとしたら、さらに開示までの段階が増えてさらに手続きが煩雑になる事も考えられるであろう。

○3.新たな裁判手続(非訟手続)について
○3-(1)裁判所による命令の創設(ログの保存に関する取扱いを含む)
(該当箇所)第17~21ページ「3-(1)裁判所による命令の創設(ログの保存に関する取扱いを含む)」全体
(御意見)
 ここで、当事者構造などの問題をなおざりに、①コンテンツプロバイダ及びアクセスプロバイダ等に対する発信者情報の開示命令、②コンテンツプロバイダが保有する発信者情報のアクセスプロバイダへの提供命令、③アクセスプロバイダに対するコンテンツプロバイダから提供された情報を踏まえた発信者情報の消去禁止命令という、3つの命令についての手続きを創設する事が適当としているが、これも全く適切なものではない。

 インターネットの仕組みを考えれば、どうやっても、コンテンツプロバイダーに対する削除要求・情報開示・ログ保全、アクセスプロバイダーに対する情報開示・ログ保全、開示侵害者に対する損害賠償請求等という様に、情報流通経路を逆に辿って行くしかないので、侵害者の情報が被侵害者にあらかじめ分かっている場合や、コンテンツプロバイダーが侵害者の情報を直接保有している様な場合を除き、何をどうやろうが、一足飛びに、前もって分かり得ない後の手続きの当事者を前の手続きに巻き込むべきではなく、非訟手続きによればいいなどという事も無論ない。

 例えば、第18ページに、「具体的な手続の流れとしては、コンテンツプロバイダに対する開示命令のプロセスと、アクセスプロバイダの特定及びログの保全手続(提供命令・消去禁止命令)のプロセスは、同時並行で進められることが想定される。提供命令によりアクセスプロバイダを特定することができた場合、アクセスプロバイダ名の通知を受けた被害者がアクセスプロバイダに対する開示命令の申立てを行った場合には、速やかに当該アクセスプロバイダがコンテンツプロバイダに対する開示命令のプロセスに加わり、コンテンツプロバイダ・アクセスプロバイダが一体として開示命令を受けるという流れが想定される」と書かれているが、具体的にどの様な手続きが想定されるのか全く理解不能である。

 情報流通経路を逆に辿って行かなければならない事を考えれば、コンテンツプロバイダ及びアクセスプロバイダへの開示命令をまとめて出す事は考えられない。そして、発信者情報開示とは、コンテンツプロバイダ、アクセスプロバイダという別のプロバイダがそれぞれ自身が保持するものであって開示するべき情報をそれぞれの責任において開示するという事であって、それ以上でもそれ以下でもないにも関わらず、コンテンツプロバイダからの発信者情報のアクセスプロバイダへの提供によってアクセスプロバイダが手続きに加わりコンテンツプロバイダ・アクセスプロバイダが一体として開示命令を受けるとしている事など全く意味不明である。

 ここで、消去禁止命令、すなわちログの保存命令についても、それぞれの段階で、各プロバイダーに発信者情報消去禁止の仮処分の申立てをするしかない筈であり、新たな裁判手続きとの関係でどうこうという問題では全くない。現行の手続きにおいて、ログ保存に関して、何が問題で、具体的に何をどうするべきかという検討をなおざりにして、新たな裁判手続きの中で消去禁止命令についての手続きを創設するべきとしている事は全く適切な事ではない。

 開示要件については対応する項目で述べるが、第21ページで、さらに「これらの命令の発令要件については、現在の開示要件よりも一定程度緩やかな基準とすることが適当である」としている事など不適切の上塗りと言わざるを得ない。

 念のため、さらに指摘しておくと、第20~21ページに、「裁判所が特定作業を行うと想定した場合、専門委員や裁判所調査官等の活用など様々な方法が考えられるものの、現行法上の制度を活用する場合にはそれらの職員の職責上の制約がある一方、新たな制度を創設する場合には選任や確保を含む体制整備に時間がかかり、案件数の増加や地域特性により、必要とされる人材を確保できない等課題が多いと考えられる。したがって、アクセスプロバイダの特定作業は、コンテンツプロバイダが行うこととすることが適当である」としているが、単に裁判所の能力不足を理由にコンテンツプロバイダに新たな責務を負わせようとしている事も全く不当な事である。もし本当にそれほど裁判所の能力が不足しているとしたならば、現行の発信者情報開示訴訟における判断の妥当性にすら疑義が生じると言わざるを得ないだろう。

○3-(2)新たな手続における当事者構造
(該当箇所)第21~22ページ「3-(2)新たな手続における当事者構造」全体
(御意見)
 関わるプロバイダとしては、コンテンツプロバイダとアクセスプロバイダという複数のプロバイダがいるにも関わらず、ここで、単にプロバイダとだけ書いて、プロバイダが複数いる事をうやむやにしているのは、極めて悪質な言葉のごまかしであり、このごまかしを私は強く非難する。

 上記「3-(1)裁判所による命令の創設(ログの保存に関する取扱いを含む)」の項目についてで書いた通り、インターネットの仕組みを考えれば、どうやっても、コンテンツプロバイダーに対する削除要求・情報開示・ログ保全、アクセスプロバイダーに対する情報開示・ログ保全、開示侵害者に対する損害賠償請求等という様に、情報流通経路を逆に辿って行くしかないので、何をどうやろうが、それぞれコンテンツプロバイダー、アクセスプロバイダー、開示侵害者を順次相手方当事者として当事者構造は作られなければならない。

 さらに書いておくと、権利侵害を受けた者にとって1回の裁判手続きが望ましいのはその通りであろうが、望ましい事すなわち技術的、実務的に可能でああるという事ではない。1回の手続きで、各プロバイダーの情報開示を可能とし、権利回復を可能とするという事は、実質的に当事者不明の匿名裁判手続きを可能とするという事に等しいが、この事については、上で触れた2011年の研究会の提言の第41ページ(第3の4(9))で、匿名訴訟について、「民事訴訟法をはじめとする現行の民事手続法はそのような訴訟制度を前提としておらず、また、当該制度は訴えの提起から判決の効力までといった民事訴訟全般に関連するものであることからすると、当該訴訟制度の創設の是非に関しては、プロバイダ責任制限法においてのみ検討することができる問題ではなく、様々な立場の意見を広く検討し、訴訟制度全体の問題として検討されるべき」とされていた通り、また、中間とりまとめ案の脚注23にも記載されていた通り、法制的に多くの検討すべき課題があるのであって、日本におけるその導入は極めて困難である。

○3-(3)発信者の権利利益の保護
(該当箇所)第22~28ページ「3-(3)発信者の権利利益の保護」全体
(御意見)
 通信の秘密等の国民の基本的な権利に関わるものである事から、このような実体的な権利を終局的に確定させる判断は公開の法廷における対審及び判決という訴訟手続によらなければならないと考えられるのであり、原則非公開とされ、一般的なチェックが効かない非訟手続きによって開示を可能とする事自体、国民の基本的な権利の保護が図られなくなる恐れが極めて強く、この事は発信者の権利利益の保護に関する制度設計で解消されるものではない。

 これは制度設計でどうにかなる話ではないが、念のためさらに書いておくと、例えば、異議申し立てについて、第27ページで、「プロバイダは可能な限り発信者の意向を尊重した上で、個別の事案に応じた総合的な判断により異議申立ての要否を検討することが望ましい」としている事は、プロバイダとはどのプロバイダなのかという事についての記載のごまかしがある事に加え、原則非公開の非訟手続きの中だけでプロバイダの判断により訴訟に移行せずに開示請求を受け入れる事もあり得るとしている点で極めて不適切である。情報は一旦開示されてしまえば、取り返しがつかない性質のものであるという事を十分に踏まえる必要があるのであって、これが国民の基本的な権利に関わるものである事から、この様な新たな非訟手続きは創設されるべきではないものである。

○3-(4)開示要件
(該当箇所)第28~30ページ「3-(4)開示要件」全体
(御意見)
 ここで、第28ページに、「非訟手続の場合、原則として非公開で行われるため、裁判手続の判断に記載される理由の程度によっては、開示可否に関する事例の蓄積や判断の透明性の確保が図られない可能性がある」との指摘が記載されているが、これも本質的な指摘であって、訴訟への移行があり得るから良い、当事者だけで事例を蓄積できるから良いという問題ではなく、制度設計で解消されるものでもなく、原則非公開の非訟手続きを取る限り解消する事はできないものである。

 国民の基本的な権利に関わる事案においては一般にチェック可能な形で判断の透明性が確保されていなければならない。

○3-(5)手続の濫用の防止
(該当箇所)第30~31ページ「3-(5)手続の濫用の防止」全体
(御意見)
 手続きの濫用防止についても、単に当事者間の既判力による蒸し返しの防止が図られれば良いというものではない。一般にチェック可能な形で判断の透明性が確保され、裁判所による判断が公衆に分かる形で蓄積されない限り、濫用の懸念は常にあり得る事であろう。

○3-(6)海外事業者への対応
(該当箇所)第31~32ページ「3-(6)海外事業者への対応」全体
(御意見)
 発信者情報開示に関する諸外国の状況について、以前のパブコメで以下の様に書いた通り、また、発信者情報開示の在り方に関する研究会の第6回でも報告されている通りである。

 アメリカでは仮名(John Doe)裁判とそのディスカバリー手続きにおいて裁判所の強制令状(subpoena)に基づく情報開示が可能であるが、ディスカバリーなどのアメリカの特異な裁判手続きはその負担や濫用についての批判も非常に強いものであって、日本に持ち込むべきではないものである。欧州では、欧州司法裁判所が、2020年7月9日に、知的財産権執行指令の下で違法アップロードが行われたオンラインプラットフォーム運営者に権利者が要求できるのは関係するユーザの住所のみであってメールや電話番号は含まれないとする判決を出した所である事からも分かる様に、欧州全体でも、発信者情報開示については、このレベルでしか統一されておらず、今も基本的に各国法制による部分が多い。イギリスでは、裁判所のNorwich Pharmacal orderによる情報開示が可能であるが、これはそれぞれ情報を持っている者に対して訴えを提起して求めるものであって、1回の非訟手続きで各プロバイダーの情報開示を可能とする様なものではない。ドイツでは上記の欧州司法裁のケースで問題となった著作権法などとは別に2017年のネットワーク執行法(Netzwerkdurchsetzungsgesetz)によって通信メディア法(Telemediengesetz)第14条に扇動や中傷による権利侵害の場合の情報開示が規定されたが、この様なドイツの法制については今なおナチス思想を強力に取り締まっているドイツの特殊事情を考慮する必要がある事に加え、これも、裁判所への訴えにより、必要に応じて各プロバイダーに順次開示請求をする必要があるのであって、1回の非訟手続きで各プロバイダーの情報開示を可能とする様なものではない。フランスでは、2004年のデジタル経済信用法(Loi pour la confiance dans l'economie numerique)第6条等に基づき、仮処分に相当するレフェレ(refere)などにより、発信者情報開示を要求する事ができるが、これも同様に、必要に応じて順次開示請求をする必要があるのであって、1回の非訟手続きで各プロバイダーの情報開示を可能とする様なものではない。

 本とりまとめ案で、民事訴訟に関する2つの条約で申立書の直接送付などが認められていると書かれているが、これらの条約で単に文書を送付しても良いと書かれている事と、それに執行力が伴い海外プロバイダが従うかどうかは別の話である。外国における民事執行は基本的に相互主義であって、日本国内の手続きと同じ文書を一方的に直接送り付ければ良いという様な単純なものではない。非訟手続きによる新たな裁判手続きは、何をどう検討しようが、国際的にも極めて特異かつ異質な制度とならざるを得ないものであり、海外のプロバイダーがこの様な制度に基づく命令などに従う可能性は万に一つもない。

 ここでも、必要なのは、各国の法制に基づく訴え・申し立ての支援や訴状の送達の迅速化など、実効性のある方策の検討である。

 なお、念のため繰り返し書いておくと、7月24日〆切で意見募集がされていた「インターネット上の誹謗中傷への対応の在り方について(案)」にも記載されていた様に、フランスで、憲法裁判所が、2020年6月18日に、オンラインヘイトスピーチ規制法の主要部分を否定している事が典型的に示しているが、欧米においては、プライバシー・個人データ、情報・表現の自由をきちんと保護しようとする動きがある事も注目されてしかるべきである。

○4.まとめ
(該当箇所)第32ページ「4.まとめ」全体
(御意見)
 上記の通り、手続が濫用され、適法な情報発信を行う発信者の保護や表現の自由の確保が十分に図られなくなる恐れが強く、その点で完全にバランスを失しているものであり、国際的にも極めて特異かつ異質な制度とならざるを得ないものである、この非訟手続きによる新たな裁判手続きの創設に反対する。

 今後プロバイダー責任制限法について検討を進める場合には、基本的な考え方に沿い、現行のプロバイダー責任制限法の手続きの拡充や迅速化など実務的に実効性のある検討のみがなされる事を期待する。

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2020年8月 2日 (日)

第428回:総務省・発信者情報開示の在り方に関する研究会中間とりまとめ(案)に対する提出パブコメ

 前回取り上げた、8月14日〆切でパブコメにかかっている、総務省の発信者情報開示の在り方に関する研究会中間とりまとめ(案)に対して意見を提出したので、ここに載せておく。内容は前回書いた事を中間とりまとめ案の項目毎に分けて少し補足の説明を加えたものである。

(以下、提出パブコメ)

<第1章 発信者情報開示に関する検討の背景及び基本的な考え方について>
○3.検討に当たっての基本的な考え方
(該当箇所)第5~6ページ「3.検討に当たっての基本的な考え方」全体
(意見)
 ここで、権利侵害に対する救済が必要なのは無論の事とは言え、制度改正が逆に行き過ぎれば、その濫用や悪用によって発信行為・表現が萎縮し、表現の自由の抑圧に繋がる危険性があるということをきちんと認識し、その間でバランスを取る事を基本的な考え方としている事は高く評価できる。今後の検討においてもこの基本的な考え方を通して守るべきである。以下第2章2.についての項目で述べる通り、原則非公開とできる新たな非訟手続きに基づく裁判手続きの創設のような、この基本的な考え方に合わない検討は不適切なものであって、進めるべきではない。

<第2章 具体的な検討事項>
○1.発信者情報の開示対象の拡大
○1-(2)電話番号
(該当箇所)第8~11ページ「1-(2)電話番号」全体
(意見)
 現状の課題を踏まえ、現行の手続きにおいて、発信者情報の開示対象に電話番号を追加する事は問題なく、省令改正による電話番号の追加に賛同する。

○1-(3)ログイン時情報
(該当箇所)第11~15ページ「1-(3)ログイン時情報」全体
(意見)
 現状の課題を踏まえ、現行の手続きにおいて、権利侵害投稿の通信とログイン時の通信とが同一の発信者によるものである場合に限るといった条件を付加しつつ、発信者情報の開示対象として、投稿時だけでなくログイン時のIPアドレス及びタイムスタンプ(ログイン時情報)も含まれる事を明確化する事は問題なく、省令改正によるログイン時のIPアドレス及びタイムスタンプの追加に賛同する。

 ここで、第15ページに、「ログイン時情報をもとに特定されたアクセスプロバイダに対して、ログイン時の通信の発信者の住所・氏名の開示を請求することとなるが、当該開示請求を受けるプロバイダは、プロバイダ責任制限法第4条第1項に規定する『開示関係役務提供者』の範囲に含まれない場合もあり得ることから、請求の相手方となる『開示関係役務提供者』の範囲を明確化する観点から、必要に応じて、法改正によって対応を図ることを視野に入れ、具体化に向けた整理を進めていくことが適当である」と記載されているが、ログイン時情報の開示については、権利侵害投稿の通信とログイン時の通信とが同一の発信者によるものである場合に限るといった条件が付加されるのであるから、ログイン時情報による開示請求を受けるプロバイダーは、プロバイダー責任制限法第4条第1項の、権利の侵害に係る「当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者」と言えるのであって、ログイン時のIPアドレスとタイムスタンプによる開示請求で法律上の「開示関係役務提供者」の範囲に含まれない場合もあり得るとする解釈は厳格に過ぎ、この点で法改正は不要であると考える。

 また、第15ページには、「後述の新たな裁判手続の創設に関して具体的にどのような仕組みが設けられるのかといった点や、それに伴いログイン時情報に関してどのようなニーズの変化が生じるのかという点も踏まえつつ、その具体化に向けて引き続き検討を深め」とも記載されているが、どの様な手続きによろうと、発信者の特定のために必要となる情報自体に違いが出る訳はなく、この意味不明の記載は削除するべきである。

 上記の通り、省令改正によるログイン時のIPアドレス及びタイムスタンプの追加に賛同するが、これは省令改正で十分であり、それに留めるべきである。

○1-(4)その他の情報
(該当箇所)第15~16ページ「1-(4)その他の情報」全体
(意見)
 現状の課題を踏まえ、現行の手続きにおいて、発信者情報の開示対象に接続先URLを追加する事は問題なく、省令改正による接続先URLの追加に賛同する。また、接続先IPアドレスが現行省令で含まれているという解釈も問題はないと考える。

○2.新たな裁判手続の創設について
○2-(1)新たな裁判手続の必要性
(該当箇所)第16~17ページ「2-(1)新たな裁判手続の必要性」
(意見)
 ここで、一般的に、損害賠償まで、コンテンツプロバイダに対する発信者情報開示、アクセスプロバイダに対する発信者情報開示請求、特定された発信者への損害賠償請求訴訟を行うという、3段階の手続きを経る必要がある事から、裁判所が発信者情報の開示の適否を判断する非訟手続きによる新たな裁判手続きの創設の検討を進める事が適当であるとしているが、これは全く不適切である。

 インターネットの仕組みを考えれば、どうやっても、コンテンツプロバイダーに対する削除要求・情報開示・ログ保全、アクセスプロバイダーに対する情報開示・ログ保全、開示侵害者に対する損害賠償請求等という様に、情報流通経路を逆に辿って行くしかないので、侵害者の情報が被侵害者にあらかじめ分かっている場合や、コンテンツプロバイダーが侵害者の情報を直接保有している様な場合を除き、何をどうやろうが、一足飛びに、前もって分かり得ない後の手続きの当事者を前の手続きに巻き込む事はできず、もしそれができたら、それは不当と言う他ない。非訟手続きによればいいなどという事も無論ない。

 権利侵害を受けた者にとって1回の裁判手続きが望ましいのはその通りであろうが、望ましい事すなわち技術的、実務的に可能であり、検討の余地があるという事ではない。その事をきちんと認識してこの部分の記載は全面的に改め、非訟手続きによる新たな裁判手続きの創設の検討を進める事は適当ではないとするべきである。

○2-(2)新たな裁判手続の制度設計における論点
(該当箇所)第17~21ページ「2-(2)新たな裁判手続の制度設計における論点」全体
(意見)
 上記2-(1)についての項目で述べた通り、この新たな裁判手続きはおよそ実現可能とは思えないが、本当に発信者情報開示のために何かしらの新しい非公開の非訟手続きを定め、一般的なチェックが効かない中で開示要件を緩めたとしたら、第18ページに記載されている様に、適法な情報発信を行う発信者の保護が十分に図られなくなり、手続が濫用される恐れが強く、第21ページに記載されている様に、発信者の保護や表現の自由の確保が十分に図られなくなる恐れが強い。この点でも、この新たな裁判手続きの検討は不適切なものであって、完全にバランスを失しているものである。

 さらに書いておくと、1回の手続きで、各プロバイダーの情報開示を可能とし、権利回復を可能とするという事は、実質的に当事者不明の匿名裁判手続きを可能とするという事に等しいが、この事については脚注23に記載されている通り、法制的に多くの検討すべき課題があるのであって、日本におけるその導入は極めて困難である。

 今回のプロバイダー責任制限法に関する検討は、2011年の「利用者視点を踏まえたICTサービスに係る諸問題に関する研究会」における検討(その「プロバイダ責任制限法検証に関する提言」https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01kiban08_01000037.html参照)及び2015年の「ICT サービス安心・安全研究会」における検討(その報告書「インターネット上の個人情報・利用者情報等の流通への対応について」https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01kiban08_02000184.html参照)以来のものであって、本格的な検討としては2011年の研究会以来のものであると思うが、この研究会の提言の第41ページ(第3の4(8)及び(9))で、第三者機関の創設等について、「取り扱う対象が通信の秘密といった重要な権利に関連することからすると、発信者情報の開示の当否は、通信の秘密といった重要な国民の権利に関するものであるから、このような実体的な権利を終局的に確定させる判断は(公開の法廷における対審及び判決という)訴訟手続によらなければならないと考えられ」る、匿名訴訟について、「民事訴訟法をはじめとする現行の民事手続法はそのような訴訟制度を前提としておらず、また、当該制度は訴えの提起から判決の効力までといった民事訴訟全般に関連するものであることからすると、当該訴訟制度の創設の是非に関しては、プロバイダ責任制限法においてのみ検討することができる問題ではなく、様々な立場の意見を広く検討し、訴訟制度全体の問題として検討されるべき」としている。この研究会の提言の整理は今なお妥当するものであって、今般の検討においてもこの整理を守るべきである。

 発信者情報開示に関する諸外国の状況も、この研究会の提言に記載された2011年当時のものと大きく変わるものではない。アメリカでは仮名(John Doe)裁判とそのディスカバリー手続きにおいて裁判所の強制令状(subpoena)に基づく情報開示が可能であるが、ディスカバリーなどのアメリカの特異な裁判手続きはその負担や濫用についての批判も非常に強いものであって、日本に持ち込むべきではないものである。欧州では、欧州司法裁判所が、2020年7月9日に、知的財産権執行指令の下で違法アップロードが行われたオンラインプラットフォーム運営者に権利者が要求できるのは関係するユーザの住所のみであってメールや電話番号は含まれないとする判決を出した所である事からも分かる様に、欧州全体でも、発信者情報開示については、このレベルでしか統一されておらず、今も基本的に各国法制による部分が多い。イギリスでは、裁判所のNorwich Pharmacal orderによる情報開示が可能であるが、これはそれぞれ情報を持っている者に対して訴えを提起して求めるものであって、1回の非訟手続きで各プロバイダーの情報開示を可能とする様なものではない。ドイツでは上記の欧州司法裁のケースで問題となった著作権法などとは別に2017年のネットワーク執行法(Netzwerkdurchsetzungsgesetz)によって通信メディア法(Telemediengesetz)第14条に扇動や中傷による権利侵害の場合の情報開示が規定されたが、この様なドイツの法制については今なおナチス思想を強力に取り締まっているドイツの特殊事情を考慮する必要がある事に加え、これも、裁判所への訴えにより、必要に応じて各プロバイダーに順次開示請求をする必要があるのであって、1回の非訟手続きで各プロバイダーの情報開示を可能とする様なものではない。フランスでは、2004年のデジタル経済信用法(Loi pour la confiance dans l'economie numerique)第6条等に基づき、仮処分に相当するレフェレ(refere)などにより、発信者情報開示を要求する事ができるが、これも同様に、必要に応じて順次開示請求をする必要があるのであって、1回の非訟手続きで各プロバイダーの情報開示を可能とする様なものではない。

 また、7月24日〆切で意見募集がされていた「インターネット上の誹謗中傷への対応の在り方について(案)」にも記載されていた様に、フランスで、憲法裁判所が、2020年6月18日に、オンラインヘイトスピーチ規制法の主要部分を否定している事が典型的に示しているが、欧米においては、プライバシー・個人データ、情報・表現の自由をきちんと保護しようとする動きがある事も注目されてしかるべきである。

 上記の通り、手続が濫用され、適法な情報発信を行う発信者の保護や表現の自由の確保が十分に図られなくなる恐れが強く、国際的にも極めて特異かつ異質な制度とならざるを得ないものである、この非訟手続きによる新たな裁判手続きの創設に反対する。この部分の記載は全面的に改め、非訟手続きによる新たな裁判手続きの創設の検討を進める事は適当ではないとするべきである。

○3.ログの保存に関する取扱い
(該当箇所)第21~23ページ「3.ログの保存に関する取扱い」全体
(意見)
 ここで、権利侵害か否かが争われている個々の事案に関連する特定のログを迅速に保全できるようにする仕組みの検討について記載されているが、ログの保存についても、それぞれの段階で、各プロバイダーに発信者情報消去禁止の仮処分の申立てをするしかない筈であり、これは新たな仕組みを設けるかどうかという問題でも、上記の通りバランスを欠くものとなるだろう新たな裁判手続きとの関係でどうこうという問題でもない。

 現行の手続きにおいて、ログ保存に関して、何が問題で、具体的に何をどうしようとしているのか、全く理解する事ができないこの部分の記載は全面的に改めるべきであり、ログの保存についても現行の手続きを前提に問題点を洗い直し、その迅速化に資する検討に注力するべきである。

○4.海外事業者への発信者情報開示に関する課題
(該当箇所)第23ページ「4.海外事業者への発信者情報開示に関する課題」全体
(意見)
 上記2-(2)についての項目で述べた通り、非訟手続きによる新たな裁判手続きは、何をどう検討しようが、国際的にも極めて特異かつ異質な制度とならざるを得ないものであり、海外のプロバイダーがこの様な制度に基づく決定や命令に従う可能性は万に一つもない。ここでも、新たな裁判手続の創設に関する記載は削除するべきであり、各国の法制に基づく訴え・申し立ての支援や訴状の送達の迅速化など、実効性のある方策のみを検討するとするべきである。

<第3章 今後の検討の進め方>
(該当箇所)第25~26ページ「第3章 今後の検討の進め方」全体
(意見)
 上記の通り、現行の手続きにおいて、省令改正により、発信者情報の開示対象に電話番号と接続先URLを追加し、条件つきでログイン時のIPアドレス及びタイムスタンプを追加する事に賛同するが、今のところは省令改正よる改善に留めるべきであって、法改正のための法改正としか言いようがなく、濫用の恐れが非常に強く、その点で完全にバランスを失しているものである、非訟手続きに基づく新たな裁判手続きや仕組みの創設に反対する。

 今後の検討においては基本的な考え方に合った、現行のプロバイダー責任制限法の手続きの拡充や迅速化など実務的に実効性のある検討のみがなされる事を期待する。

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2020年7月19日 (日)

第427回:総務省・発信者情報開示の在り方に関する研究会中間とりまとめ(案)に対するパブコメ募集(8月14日〆切)

 Twitterで少し触れたが、総務省から、8月14日〆切で、発信者情報開示の在り方に関する研究会中間とりまとめ(案)(pdf)に対するパブコメ・意見募集がかかっているので、今回はその内容を見て行く。(総務省の意見募集ページ、電子政府のHP参照。)

 この中間とりまとめ案の第2ページにも書かれている通り、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(プロバイダー責任制限法)は2001年に作られたもので、そこで定められている、インターネット上の権利侵害に対するその発信者情報の開示手続きの概要、現状と課題について、第1章、第3~5ページに以下の様に書かれている。

2.発信者情報開示の概要

(1)プロバイダ責任制限法における発信者情報開示制度の概要

 プロバイダ責任制限法は、第4条において、権利侵害情報が匿名で発信された際、被害者(権利を侵害されたと主張する者)が、加害者(発信者)を特定して損害賠償請求等を行うことができるよう、一定の要件を満たす場合には、プロバイダに対し、当該加害者(発信者)の特定に資する情報の開示を請求する権利を定めている。

 具体的には、情報の流通によって自己の権利を侵害されたとする者は、①当該開示の請求をする者の権利が侵害されたことが明らかであるときであって、かつ、②発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるときには、プロバイダに対して発信者情報の開示を請求することができ(第1項)、これを受けたプロバイダは原則として当該発信者の意見を聴取した上で、開示をするかどうかを判断することとされている(第2項)。

 ここにいう発信者情報の範囲については「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律第四条第一項の発信者情報を定める省令」平成14年総務省令第57号。以下「省令」という。)で定めることとされており、現在、発信者の氏名又は名称(省令第1号)、発信者の住所(同第2号)、発信者の電子メールアドレス(同第3号)、侵害情報に係るIPアドレス(同第4号)、携帯電話端末等の利用者識別符号(同第5号)、SIMカード識別番号(同第6号)、タイムスタンプ(侵害情報が送信された年月日及び時刻)(同第7号)が列挙されている。

 なお、発信者情報の開示を受けた者は、発信者情報をみだりに用いてはならないとされ(3項)、また、開示の請求に応じないことにより開示の請求者に生じた損害について、プロバイダは、故意又は重過失がある場合でなければ、損害賠償責任を負わないこととされている(第4項)。

(2)発信者情報開示の実務の現状

 インターネット上で権利侵害投稿が行われた場合、一般的に、コンテンツプロバイダは、発信者の氏名・住所等の情報を保有していないことが多く、被害者が被害救済を図るためには、投稿時のIPアドレスを端緒として、権利侵害投稿の通信経路を辿って発信者を特定する実務が定着している。

 発信者情報開示の場面で、問題となる投稿が権利侵害に該当するか否かの判断が困難なケースなどにおいては、発信者情報が裁判外で開示されないことが多いため、多くの場合、①コンテンツプロバイダへの開示請求、②アクセスプロバイダへの開示請求を経て、発信者を特定した上で、③発信者に対する損害賠償請求等を行うという、3段階の裁判手続が必要になっている。

 具体的には、コンテンツプロバイダに対する開示請求は、仮処分の申立てによることが一般的であり、これにより、発信者の権利侵害投稿の際のIPアドレス及びタイムスタンプが開示される。また、アクセスプロバイダに対する開示請求は、訴訟提起によることが一般的であり、発信者の氏名及び住所が開示される。

(3)現状の発信者情報開示の実務における課題

 現行のプロバイダ責任制限法における発信者情報開示の実務においては、実務関係者等から以下の課題が指摘されている。

ア 発信者を特定できない場面の増加

 近年、投稿時のIPアドレス等を記録・保存していないコンテンツプロバイダの出現により、投稿時のIPアドレスから通信経路を辿ることにより発信者を特定することができない場合があるほか、アクセスプロバイダにおいて特定のIPアドレスを割り振った契約者(発信者)を特定するために接続先IPアドレス等の付加的な情報を必要とする場合があるなど、現行の省令に定められている発信者情報開示の対象のみでは、発信者を特定することが技術的に困難な場面が増加している。

 また、発信者情報開示の場面においては、被害者が投稿後、一定の時間が経ってから権利侵害投稿に気づく場合や、コンテンツプロバイダにおける開示手続に一定の時間がかかるケースでは、アクセスプロバイダが保有するIPアドレスなどのログが請求前に消去されてしまう場合がある等のため、発信者の特定に至らない可能性がある。

イ 発信者特定のための裁判手続の負担

 前述のとおり、権利侵害が明白と思われる場合であっても、実務上、発信者情報がプロバイダから裁判外で(任意に)開示されることはそれほど多くはないことが指摘されている。

 このため、裁判外で開示がなされない場合、発信者の特定のためは、一般的に、①コンテンツプロバイダへの仮処分の申立て、②アクセスプロバイダへの訴訟提起という2回の裁判手続が必要になることから、これらの裁判手続に多くの時間・コストがかかり、救済を求める被害者にとって大きな負担となっている。

 したがって、これらの課題を解決する方策について、以下、具体的な検討を行う。

 前提の理解が必要なのでこの部分を少し長く引いたが、要するに、プロバイダー責任制限法において、SNSの投稿などにおける発信者情報の開示について規定されているが、現状、

  • 他に接続先IPアドレス等が必要とする場合があるなど、現行の情報開示の対象のみでは、発信者を特定することが技術的に困難な場面があること
  • コンテンツプロバイダへの投稿時のIPアドレスの開示を求める仮処分の申立てと、アクセスプロバイダへの開示された投稿時のIPアドレスによる訴訟提起という2回の裁判手続が実際の発信者の情報開示に必要となり、時間とコストがかかること

という2つの課題があることが書かれている。

 さらに、第5~6ページに、

3.検討に当たっての基本的な考え方

 第2章において具体的な論点について検討を行うに当たっては、基本的な考え方として、以下の点について確認しておくことが重要である。

 まず、発信者情報開示請求に係る制度の見直しに当たっては、発信者情報開示請求権によって確保を図ろうとする法益は何か、を確認した上で、その実現のための具体的な方策の在り方について検討を深めることが適当である。

 具体的には、発信者情報開示請求に係る制度の趣旨は、裁判を受ける権利の保障という重要な目的を達成するために、発信者の表現の自由、プライバシー及び通信の秘密を制約する上で、当該制約を必要最小限度のものにとどめる必要性があるという前提を踏まえ、権利侵害を受けたとする者(「被害者」)の救済がいかに円滑に図られるようにするか、という点(被害者救済という法益)と、適法な情報発信を行っている者のプライバシー・通信の秘密をいかに確保するか、という点(表現の自由の確保という法益)の両者の法益を適切に確保することにあると考えられる。

したがって、具体的な制度設計に当たっては、常にこの観点に留意しながら検討を深めることが適当である。

と書かれている。ここで、権利侵害に対する救済が必要なのは無論の事とは言え、制度改正が逆に行き過ぎれば、その濫用や悪用によって発信行為・表現が萎縮し、表現の自由の抑圧に繋がる危険性があるということをきちんと認識し、その間でバランスを取る事を基本的な考え方としている事は高く評価できるだろう。

 その後、この中間まとめ案の第6ページからの第2章以下でプロバイダー責任制限法の改正提案がされているが、その主な内容をまとめると、以下のようになる。

  • 発信者情報の開示対象の拡大として、省令で電話番号を追加(第8~11ページ)
  • 発信者情報の開示対象として、投稿時だけでなくログイン時のIPアドレス及びタイムスタンプ(ログイン時情報)も含まれる事の明確化(第11~15ページ)
  • 発信者情報の開示対象として、接続先IPアドレスが現行省令で含まれているという解釈の提示、接続先URLの省令による追加(第15~16ページ)
  • 裁判所が発信者情報の開示の適否を判断する、非訟手続きによる新たな裁判手続きの創設の検討(第16~21ページ)
  • 権利侵害か否かが争われている個々の事案に関連する特定のログを迅速に保全できるようにする仕組みの検討(第21~23ページ)

そして、最後、第25~26ページに、

第3章 今後の検討の進め方

 インターネット上の情報流通の増加や、情報流通の基盤となるサービスの多様化、それに伴うインターネット上における権利侵害情報の流通の増加を踏まえ、本研究会では、プロバイダ責任制限法における発信者情報開示の在り方に関して、制度及び実務上の主要課題並びに課題解決のための方策についての全体的な方向性を中間とりまとめとして提示した。

 総務省においては、本中間取りまとめを踏まえ、発信者情報の開示対象の追加については、まずは「電話番号」を開示対象に追加するため、迅速に省令の改正を行うことが適当である。併せて、当該省令改正に関して円滑な運用が行われるよう、「電気通信事業における個人情報保護に関するガイドライン」(総務省告示)の解説を改訂することが適当である。

 次に、「ログイン時情報」については、開示対象となるログイン時情報及び請求の相手方となる「開示関係役務提供者」の範囲を明確化する観点から、省令改正ほか、必要に応じて法改正によって対応を図ることも視野に入れて、具体化を進めていくことが適当である。

 また、新たな裁判手続の創設、特定の通信ログの早期保全のための方策等については、本中間とりまとめを踏まえて、今後、被害者の救済の観点のみならず発信者の権利利益の確保の観点にも十分配慮を図りながら、様々な立場からの意見を幅広く聴取して、法改正により新たな裁判手続を創設することについて、創設の可否を含めて、検討を進めていくことが適当である。

 本研究会では、これらの課題に関し、さらに整理が必要な事項について引き続き議論を行い、最終取りまとめにおいて追加的に提言を行う予定としている。

と、今後の進め方について書かれ、この中間とりまとめ案の検討事項の内、省令による、発信者情報の開示対象に電話番号を追加はすぐにもされる予定であり(この部分に書かれていないが、第16ページの脚注21の接続先URLの追加もすぐにされるのだろう)、その他のログイン時情報の取扱い、発信者情報開示のための非訟手続の創設、ログの迅速な保全の仕組みはさらに具体化のための検討を進めて行く予定である事が分かる。

 現状の課題を踏まえ、現行の手続きにおいて、発信者情報の開示対象に電話番号や接続先URLを追加する事は問題ないであろうし、ログイン時情報についても、

  • 「権利侵害投稿の通信とログイン時の通信とが、同一の発信者によるものである場合に限り、開示できることとする必要がある」(第13ページ)
  • 「開示を可能とする情報が際限なく拡大すれば、権利侵害投稿とは関係の薄い他の通信の秘密やプライバシーを侵害するおそれが高まることから、開示が認められる条件や対象の範囲について、一定の限定を付すことが考えられる」、「開示対象の範囲が不明確であるために実務が混乱することのないように、開示対象となるログイン時情報を省令において明確化することが適当である」(第13~15ページ)

と書かれている様に、気をつけるべき点は幾つかあるものの、基本的に、権利侵害投稿の通信とログイン時の通信とが、同一の発信者によるものである場合に限るといった限定を付け加える事で、現行の手続きにおいて、省令改正により、ログイン時のIPアドレスとタイムスタンプを追加する事に大きな問題はないだろう。

 このログイン時情報については、

  • 「ログイン時情報をもとに特定されたアクセスプロバイダに対して、ログイン時の通信の発信者の住所・氏名の開示を請求することとなるが、当該開示請求を受けるプロバイダは、プロバイダ責任制限法第4条第1項に規定する『開示関係役務提供者』の範囲に含まれない場合もあり得ることから、請求の相手方となる『開示関係役務提供者』の範囲を明確化する観点から、必要に応じて、法改正によって対応を図ることを視野に入れ、具体化に向けた整理を進めていくことが適当である」(第15ページ)

とも書かれており、総務省内でプロバイダー責任制限法について何かしら法改正がしたいのかと思えるが、ログイン時のIPアドレスとタイムスタンプによる開示請求で法律上の「開示関係役務提供者」の範囲に含まれない場合もあり得るとする解釈は厳格に過ぎ、この点で法改正は不要だろうと私は考える。(今までも、平成23、27年の省令改正により、ポート番号やSIMカード識別番号などが追加されている(省令と当時の総務省の省令に関する意見募集ページ1参照)。)

 それ以上に、プロバイダー責任制限法について法改正のための法改正をしたい勢力がいるのではないかと思え、かつ、余りにも検討が生煮えで非常に大きな問題を含んでいると思える部分は、何と言っても、新たな裁判手続きの創設と迅速なログ保全の仕組みに関する部分である。

 インターネットの仕組みを考えれば、どうやっても、コンテンツプロバイダーに対する削除要求・情報開示・ログ保全、アクセスプロバイダーに対する情報開示・ログ保全、開示侵害者に対する損害賠償請求等という様に、情報流通経路を順に辿って行くしかないので、コンテンツプロバイダーが侵害者の情報を直接保有している様な場合を除き、何をどうやろうが、一足飛びに、前もって分かり得ない後の手続きの当事者を前の手続きに巻き込む事はできず、もしそれができたら、それは不当と言う他ない。非訟事件手続きによればいいなどという事も無論ない(非訟事件手続法参照)。

 関連して開示対象とすべきログイン時情報の範囲との関係でも、「後述の新たな裁判手続の創設に関して具体的にどのような仕組みが設けられるのかといった点や、それに伴いログイン時情報に関してどのようなニーズの変化が生じるのかという点も踏まえつつ、その具体化に向けて引き続き検討を深め」(第15ページ)などとも書かれているのだが、どの様な手続きによろうと、発信者の特定のために必要となる情報自体に違いが出る訳はなく、これも私にはさっぱり理解できない記載である。

 この新たな裁判手続きについては、具体的な制度設計が全く不明で、およそ実現可能とは思えないのだが、本当に何かしらの新しい非公開の手続きを定め、一般的なチェックが効かない中で開示要件を緩めたとしたら、第18ページの、

他方、訴訟手続に代えて非訟手続とした場合の課題としては、非訟手続においては、原告と被告という対審構造や裁判手続の公開が原則とはされていないこと、既判力がないことなどの特徴があることから、制度設計次第では、

①現行の発信者情報開示訴訟とは異なる当事者構造となることにより、あるいは、発信者側の主張内容が裁判手続に十分に反映されないことにより、適法な情報発信を行う発信者の保護が十分に図られなくなるおそれがあり得ること

②裁判手続の取下げや紛争の蒸し返しが比較的容易であり、また、それが外部から見えにくい等により、手続の濫用の可能性があり得ること

等が挙げられる。

という批判がそのまま該当する状況が現出するだろうと私は思う。(この新たな裁判手続きの案がよほど生煮えの儘ごり押しで通されたのだろう事は、7月10日の第4回研究会で構成員から慎重に検討するべきという意見(pdf)が出されている事からも分かる。)

 ログの保存についても、それぞれの段階で、各プロバイダーに発信者情報消去禁止の仮処分の申立てをするしかない筈で、それを如何に迅速化するかという話ならまだ分からなくもないが、現行の手続きで何が問題で、具体的に何をどうしようとしているのか、この中間まとめ案で、「早期に発信者情報を特定・保全できるようにする仕組みを設けることが考えられる」、「当該仕組みの導入に向けて、法改正を視野に制度設計の具体化に向けた検討を深めていくことが適当である」、「その際、前述の新たな裁判手続との関係にも留意が必要である」(第23ページ)などと書かれているが、私には全く分からない。

 この中間とりまとめ案は、プロバイダー責任制限法の発信者情報開示のあり方の検討にあたっては、片や権利侵害の救済、片やプライバシー・通信の秘密、表現の自由という重要な法益の間できちんとバランスを取る必要があるという事を正しく認識していながら、あたら法改正のために法改正をしたいとばかりに内容空疎な新たな裁判手続きや仕組みといった言葉を無意味に踊らせているものであって、その点で完全にバランスを失しているものである。私は現行のプロバイダー責任制限法の手続きの拡充や迅速化の検討自体はされて然るべきだと思っているが、濫用の懸念の強い非訟手続による新たな裁判手続きの創設に反対するとともに、ログの保存についても現行の手続きを前提に問題点を洗い直す様にするべきとの意見を出すつもりである。

 最後に、合わせ触れておくと、ごっちゃになりやすいが、総務省からは、インターネット上の誹謗中傷への対応の在り方について(案)(pdf)のパブコメも7月24日〆切でかかっている。(総務省の意見募集ページ2、電子政府のHP2参照。)

 こちらのインターネット上の誹謗中傷への対応の在り方について(案)は、発信者情報開示を除く一般的な誹謗中傷対策について記載しているものだが、総論で「対策の実施に当たっては、これまでも官民が連携し、(1)ユーザに対する情報モラル向上のための啓発活動、(2)事業者による取組や事業者団体による知見・ノウハウの共有、(3)国における環境整備、(4)被害者への相談対応、といった枠組によりそれぞれ取組を実施してきたところ、今後も、基本的には同様の枠組を踏襲しつつ、総合的な対策を講じていくことが重要」(第2ページ)と書かれている通り、既存の枠組みに沿って、ユーザに対する情報リテラシー向上のための啓発活動の強化や、プラットフォーム事業者における削除等の対応の強化や透明性の向上の促進などを進めて行くとするもので、特に問題のある事は書かれていない。

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2019年11月17日 (日)

第415回:ダウンロード違法化・犯罪化を含まないスイスの著作権法改正、写り込み等に関する文化庁の権利制限拡充検討、ブロッキング訴訟東京高裁判決

 文化庁でさらに検討が進められるのだろう、前回パブコメを載せたダウンロード違法化・犯罪化の対象拡大の検討には引き続き最大限の注意が必要だと思っているが、この様なインターネット海賊版対策の動きにも関連する幾つかの重要な国内外の動きについてまとめて書いておきたい。

(1)ダウンロード違法化・犯罪化を含まないスイスの著作権法改正
 既にGIGAZINEで記事になっている通り、スイスでもこの9月に最近著作権法改正がその国会を通っている。

 この著作権法改正は、スイス国会の法案審議に関するHPに掲載されている、政府の法案説明資料(ドイツ語)(pdf)フランス語版(pdf))の最初の概要に、

Der Bundesrat will das Urheberrecht modernisieren. Im Zentrum der Gesetzesrevision stehen Massnahmen, mit denen die Internetpiraterie besser bekampft werden kann, ohne dabei die Konsumentinnen und Konsumenten solcher Angebote zu kriminalisieren. Zudem sollen verschiedene gesetzliche Bestimmungen an neuere technologische und rechtliche Entwicklungen angepasst werden, um die Chancen und Herausforderungen der Digitalisierung im Urheberrecht nutzen bzw. meistern zu konnen. Profitieren soll insbesondere die Forschung. Gleichzeitig enthalt die Vorlage eine Reihe weiterer Massnahmen, mit denen zentrale Anliegen der Kulturschaffenden, der Nutzerinnen und Nutzer sowie der Konsumentinnen und Konsumenten erfullt werden. Schliesslich sollen zwei Abkommen der Weltorganisation fur geistiges Eigentum ratifiziert werden.

スイス政府は著作権を現代化したいと考えている。法改正の中心は、消費者がその提供により犯罪者とされる事がないようにしつつ、インターネット海賊行為とより良く戦う手段にある。そこで様々な法規制は著作権においてデジタル化の機会と挑戦を利用若しくは向上できるよう新しい技術的、法的発展に適合されるべきである。特に研究の利便が図られるべきである。同時に法案は文化創造者、利用者並びに消費者の主要な要求を満たす一連の様々な手段を含んでいる。最後に2つの世界知的所有権機関の条約が批准されるべきである。

とある通り、消費者を犯罪者にしないという事を明確にしており、そのためダウンロード違法化・犯罪化は最初から含まれていない。

 この点については、2018年12月13日の法案の最初の国会審議でも、以下の通り、多くの党の議員が賛同している。

Bauer Philippe (RL, NE), pour la commission:
...
Le but de la modification de la loi sur le droit d'auteur est de moderniser notre droit, de l'adapter aux evolutions technologiques, de permettre de lutter contre le piratage sur Internet, tout en essayant de ne pas criminaliser les consommateurs.
...

Merlini Giovanni (RL, TI):
...
Revisionsbedarf ist insoweit gegeben, als es notig ist, die Rechte der Kulturschaffenden und der Kulturwirtschaft zu starken und sie insbesondere vor den illegalen Piraterieangeboten im Internet zu schutzen. Unsere Fraktion teilt zudem das Anliegen des Bundesrates, die Konsumenten rechtswidriger Angebote nicht zu kriminalisieren.
...

Marti Min Li (S, ZH):
...
Umso erstaunlicher und umso bemerkenswerter ist es, dass in einem langjahrigen Prozess an einem runden Tisch mit allen Akteuren ein Kompromiss gefunden werden konnte. Dieser Kompromiss liegt Ihnen hier vor. Dass bei einem Kompromiss nicht alle glucklich sind und dass nicht alle Punkte in allen Fallen fur alle Seiten befriedigend gelost werden konnten, liegt in der Natur der Sache. Dennoch sind wir uberzeugt, dass dieser Kompromiss im Grossen und Ganzen diese sehr schwierige Balance gefunden hat. Fur uns war immer zentral, dass die Kulturschaffenden und Kulturproduzentinnen und -produzenten zu ihren verdienten Einnahmen gelangen konnen, dass aber auch die Konsumentinnen und Konsumenten nicht kriminalisiert werden durfen. Das ist hier gelungen.
...

Gmur-Schonenberger Andrea (C, LU): Es ist an der Zeit, dass das Urheberrechtsgesetz modernisiert und den Herausforderungen der Gegenwart angepasst wird. Die CVP-Fraktion unterstutzt dieses Ziel. Dabei geht es darum, einerseits die Internetpiraterie zu bekampfen, andererseits die Chancen der Digitalisierung besser zu nutzen. Wichtig ist uns, dass die Konsumentinnen und Konsumenten nicht kriminalisiert werden. Auch Netzsperren sind keine vorgesehen, was wir begrussen.
...

Schwander Pirmin (V, SZ):
...
Der rasche Zugang zu Buchern, Filmen und Musik hat dazu gefuhrt, dass auch Internetpiraterie entsteht und dadurch den Urheberinnen und Urhebern Einnahmen entgehen. Deshalb ist es sehr wichtig, dass wir hier Remedur schaffen und die Rechte der Urheberinnen und Urheber starken. Das ist ein Ziel, das hier erreicht werden soll und unseres Erachtens auch erreicht wird. Die Konsumentinnen und Konsumenten ihrerseits wollen attraktive Angebote zu fairen Preisen. Deshalb ist es wichtig, dass wir keine Netzsperren einfuhren und dass wir die Konsumentinnen und Konsumenten auch nicht kriminalisieren. Wir mussen aber darauf schauen, dass die Konsumentinnen und Konsumenten durch diese neue Gesetzgebung nicht doppelt oder mehrfach belastet werden. Das zu diesem Spannungsfeld. Ich glaube, der vorliegende Kompromiss sollte eine Mehrheit finden.
...

Sommaruga Simonetta, Bundesratin: Das Internet hat auch im Bereich Kultur viele Vorteile. Es ermoglicht einen sofortigen, einfachen Zugang zu Kultur. Es reichen oft ein paar Klicks, und schon erhalten wir Zugang zu Buchern, zu Fotografien, Filmen, Musikstucken und naturlich auch zu Buchern, die langst vergriffen sind, oder zu historischen Fotografien. Das alles ist die schone, die positive Seite des Internets.
Die Kehrseite ist, dass viele Angebote illegal sind. Fur die Buchverlage, fur die Filmindustrie, die Plattenfirmen und naturlich auch fur die Kulturschaffenden stellen illegale Angebote ein ernsthaftes Problem dar; erstens naturlich, weil ihnen Einnahmen entgehen, und zweitens, weil ihre Urheberrechte - das sind ja Eigentumsrechte, Rechte am geistigen Eigentum - verletzt werden. Sie sind auch insofern problematisch, als sie die Entstehung von legalen Angeboten erschweren oder sogar verhindern. Der Bundesrat mochte darum effizienter gegen die Internetpiraterie vorgehen, ohne aber dass die Konsumenten kriminalisiert werden.
...

バウアー・フィリップ(自由民主党、ノイエンブルク)、委員会に:
(略)
法改正の目的は私たちの法を現代化し、技術的発展にそれを適応させ、インターネット上の海賊行為と戦う事を可能にする事にありますが、消費者を犯罪者にするつもりは全くありません。
(略)

メルリーニ・ジョヴァンニ(自由民主党、ティチーノ):
(略)
法改正の必要性は、文化創造者と文化経済を強化し、特にインターネットにおける違法な海賊版の提供からそれを守るのに必要な限りにおいて存在しています。私たちの党は、違法な提供について消費者を犯罪者にしないという事において政府の要請と同じ立場に立っています。
(略)

マルティ・ミンリ(社会民主党、チューリッヒ):
(略)
全ての関係者によるラウンドテーブルでの長年に渡る検討において一つの妥協が見つかり得たという事は非常に驚くべき、瞠目すべき事です。この妥協は今皆さんの前にあります。妥協においては皆に都合が良いという事はなく、あらゆる場合におけるあらゆる点について全員が満足する様に解決されている訳でもないという事は当然の事です。ですが、この妥協が全体において多くそのとてもむずかしい均衡を見つけたと私たちは確信しています。文化創造者及び文化製作者が収入を得る事ができる事もそうですが、消費者が犯罪者にされない事も私たちにとっては常に中心的な関心事項でした。ここでそれは上手く行っています。
(略)

グミュール-シェーネンベルガー・アンドレア(キリスト教民主党、ルツェルン):著作権法が現代化され、現在の要請に応える時が来ています。キリスト教民主党はこの目的を支持します。そのため、一方でインターネット海賊行為と戦い、他方でデジタル化の機会をより良く使える様にするべきでしょう。私たちにとって重要な事は消費者が犯罪者とされない事です。インターネットブロッキングが考えられていない事も私たちは喜ばしく思っています。
(略)

シュワンダー・ピルミン(国民党、シュヴィーツ):
(略)
本、映画及び音楽への急激なアクセスによってインタネット海賊行為が生じ、それにより著作権者が収入を逃す事になっていました。したがって、ここで私たちが対策を講じ、著作権者の権利を強化する事はとても重要です。それはここで私たちが達成するべき目的の1つであり、私たちの考えは達成されるでしょう。消費者は、彼らも公正な価格での魅力的な提供を求めています。したがって、私たちがインターネットブロッキングを導入せず、消費者を犯罪者にもしない事が重要です。この新たな法改正によって消費者に2重、多重に負担がかからない様にしなければなりません。それはこの議論の場の仕事です。今のこの妥協は多数の賛同を得ると私は信じています。

ソンマルーガ・シモネッタ、政府連邦参事会:インターネットは文化領域においても多くの利点を有しています。これは文化への即時の簡単なアクセスを可能にしています。数クリックで十分な事も多く、それで私たちはすぐに本、写真、映画、楽曲へのアクセスが手に入ります、もちろん長く絶版になっていた本や歴史的写真にもです。これら全てはインターネットの素晴らしい、肯定的な面です。
反対の面は、多くの提供が違法な事です。出版社にとって、映画産業、レコード会社にとって、もちろん文化創造者にとっても違法提供は深刻な問題です。もちろんまず収入を逃すからですが、第2に、その著作権-財産権、知的財産権です-が侵害されるからです。これはまた適法な提供の発生を困難にする又は抑止してしまうだけ問題です。そのため政府は、消費者が犯罪者にされる事がないようにしつつ、より効果的にインターネット海賊行為に対抗したいと考えました。
(略)

 ドイツなど近くの国でダウンロード違法化・犯罪化が全く上手く行っていない事を見ている所為だろうか、上でリンクを張った政府による法案説明資料にも書かれている通り、2012年から消費者・利用者も入った検討会で著作権法改正についてきちんと議論を積み重ねて来た結果だろうか、現時点でスイスでは政府・国会によってダウンロード違法化・犯罪化は否定されているのである。インターネットブロッキングについての言及もあるが、やはりその導入に否定的である事は注目されていいだろう。

 今まで散々書いてきた事だが、この様なスイスの著作権法改正の例を持ち出すまでもなく、広くダウンロードを違法・犯罪にして消費者・利用者・ユーザーをことごとく侵害者・犯罪者にしたところで良い事が何もないのは日の目を見るより明らかな事である。このごく当たり前の事が日本の政府与党・国会での検討でなかなか通じないのは極めて残念な事と私は常々思っている。

 なお、詳細は省くが、スイス国会における著作権法改正として、最終的に原案通り法改正(pdf)フランス語版(pdf))、北京条約批准(pdf)フランス語版(pdf))、マラケシュ条約批准(pdf)フランス語版(pdf))が通っており、全体として、

  • 写真の著作物の定義の拡充・明確化
  • 視聴覚著作物の送信可能化における著作権管理団体を通じた補償金請求権の法定
  • 孤児著作物規定の全ての著作物への適用拡大とその利用条件の明確化
  • 研究のための例外の創設
  • 図書館等における目録作成のための例外の創設
  • インターネットホスティングサービス提供者のテイクダウン・ステイダウン義務の法定
  • 代表著作権管理団体による拡大集合ライセンス規定の創設
  • 視聴覚的実演に関する北京条約批准
  • 視聴覚障害者等の著作物利用促進のためのマラケシュ条約批准

などの事項が含まれている。

 確かに著作権保護強化の方向である事には違いないので、海賊党がこの法改正に対して国民投票を目指し署名を集めようとしているという報道もあるが(nzz.chの記事(ドイツ語)、rts.chの記事(フランス語))、このスイスの著作権法改正はそこまで一般国民に影響の出るものではなく、反対の国民投票が成功する事はないのではないかと私は見ている。

(2)写り込み等に関する文化庁の権利制限拡充検討
 これもtwitterで少し触れていた点になるが、文化庁の法制・基本問題小委員会で写り込み等に関する権利制限の拡充について検討が進められている。

 一番最近の10月30日の第3回委員会の資料として、写り込みに係る権利制限規定の拡充に関する中間まとめ(案)が出されている。その「3.論点整理」から、現行の著作権法第30条の2に関する主な改正の方向性の部分を以下に抜き出す。

(1)対象行為
(略)
①生放送・生配信の取扱い
 生放送・生配信については、写り込みが生じる場合が多く想定される一方で、録音・録画の方法による場合と比較して権利者に与える不利益が大きいわけではないと考えられることから、対象に含めることが適当である。

②固定方法の拡大(スクリーンショット、模写等)
 写真の撮影・録音・録画以外の固定方法については、①スクリーンショットやプリントスクリーンのように、単に固定技術が相違するに過ぎないものと、②模写やCG化のように、不可避的な写り込みが生じない(著作物を除いて創作することが比較的容易である)という点で性質が異なるものが存在する。
 ①については、スマートフォンやタブレット端末等の急速な普及・発展により、日常生活においてごく一般的に行われるようになっているところ、著作物性のない文章や自らの著作物を保存する際に他人が著作権を有する画像が入り込む場合など、不可避的な写り込みが生じることが想定される一方で、技術の相違によって権利者に与える不利益に特段の差異はないと考えられることから、対象に含めることが適当である。②については、不可避的な写り込みが生じないとしても、被写体を忠実に再現するために著作物の複製等を行う必要がある場合も想定されるところ、写真の撮影等による場合と比較して権利者に与える不利益に特段の差異がない以上、そのような模写等の行為を行う自由を確保することが創作活動の促進・文化の発展等の観点からも望ましいと考えられることから、対象に含めることが適当である。
 なお、写り込みとは若干場面が異なるが、例えば、「自らが著作権を有する著作物が掲載された雑誌の記事を複製する際に、同一ページに掲載された他人の著作物が入り込んでしまう場合」などについても、日常生活等における一般な行為に伴い付随的に他人の著作物が利用される場面であり、写真の撮影等の場合と比較して権利者に与える不利益の程度に特段の差異がないと考えられることから、対象に含めることが適当である。

③条文化に当たっての留意事項
 上記を踏まえ、条文化に当たっては、技術・手法等にかかわらず幅広い行為が対象に含まれるよう、包括的な規定とすることが適当である。ただし、それによって、写り込みが生じ得るものとして想定している場合(様々な事物等をそのまま・忠実に固定・再現したり、伝達する場合)以外が広く対象に含まれてしまうことは適切でないため、適用範囲が過度に絞り込まれることのないよう注意しつつも、適切な表現で対象行為を特定する必要がある。

(2)著作物創作要件
(略)
イ.見直しの方向性
 現行規定の要件は、盗撮行為等に伴う写り込みを権利制限規定の対象から除外するとともに著作物の創作行為を促進する観点からは一定の合理性を有するとも考えられるが、固定カメラでの撮影等の場合にも、不可避的に写り込みが生じる場合が多く想定されるところ、本規定の主たる正当化根拠は、権利者に与える不利益が特段ない又は軽微であるという点にあるため、著作物を創作する場合か否かは必ずしも本質的な要素ではないと考えられる。このため、著作物を創作する場合以外も広く対象に含めることが適当である。
 ただし、単純に「著作物を創作するに当たつて」という要件を削除した場合には、映画の盗撮等の違法行為に伴う写り込みについても適法となり得ることには留意が必要である。この点については、①映画の盗撮等の行為自体が違法とされることをもって足りる(当該行為自体が違法となることで、そのような行為は十分に抑止されており、写り込み部分についてあえて違法とする必要はない)という考え方と、②主たる行為が著作権法上許容されないものであるにもかかわらず、それに伴う写り込みを適法とする必要はない(写り込んだ著作物の著作権者による権利行使が出来なくなるのは不合理である)という考え方の両方があり得る。
 仮に②の考え方を採用する場合には、例えば、端的に、著作権を侵害する行為に伴う写り込みは本規定の対象外とする旨の要件を設定することが考えられるが、本規定の主たる正当化根拠は権利者に与える不利益が特段ない又は軽微であるという点にあるところ、主たる行為が違法であることのみをもって一律に権利制限規定の適用対象外とすることが妥当か否かには一定の疑義もあり、そういった問題意識から①の考え方を支持する意見も複数あった。この点については、ただし書や他の要件の解釈に委ねることによる対応の可否も含め、法整備に当たって、適切な整理・措置がなされることが適当である。

(3)分離困難性・付随性
(略)
イ.見直しの方向性
①両者の関係性及び「分離困難性」の要否
 本規定の正当化根拠については、その著作物の利用を主たる目的としない他の行為に伴い付随的に生じる利用であり、利用が質的又は量的に社会通念上軽微であることが担保されるのであれば、著作権者にとって保護すべきマーケットと競合する可能性が想定しづらい(したがって権利者の利益を不当に害しない)という点に本質があるものと考えられるところ、これを担保する観点からは、「付随性」が重要な要件であると考えられる。 一方で、「分離困難性」については、「付随性」を満たす場合の典型例を示すものではあるが、この要件を課することが、本規定の正当化根拠からして必須のものとは考えられず、「付随性」や「軽微性」等により権利者の利益を不当に害しないことは十分に担保できると考えられる。このため、日常生活等において一般的に行われている行為を広く対象に含める観点から、この要件は削除することが適当である。

②「分離困難性」の削除に伴う要件追加の要否
 単に「分離困難性」の要件の削除のみを行った場合には、例えば、「分離が容易かつ合理的な場合であって、社会通念上、その著作物を利用する必要性・正当性が全く認められないような状況において意図的に写し込むこと」など、その著作物の利用が主目的であるにもかかわらず、それを覆い隠すために本規定を利用するといった濫用的な行為まで可能となってしまうおそれがある。
 このため、適用範囲が過度に絞り込まれることのないよう注意しつつも、例えば、主たる行為を行う上で「正当(又は相当)な範囲内において」などの要件を追加することにより、一定の歯止めをかけることが適当である。

③被写体の中に当該著作物が含まれる場合の取扱い
 本規定の対象として、メインの被写体と付随して取り込まれる著作物が別個のものである場合(事例1)のほか、街の雑踏を撮影する場合のように被写体(雑踏の光景)の中に当該著作物が含まれる場合(事例2)も含めるべきことには異論はないと考えられるが、現行規定のように「写真の撮影等の対象とするAに付随して対象となるB」といった規定ぶりを維持した場合には、事例2が対象に含まれるか否かが不明確となる。
 このため、条文化に当たっては、事例1と事例2を併記することにより、事例2についても対象に含まれることを明確化することが適当である。ただし、その際には、例えば、多数の著作物で構成される集合著作物・結合著作物(個々の著作物は、当該集合著作物・結合著作物の軽微な構成部分となっている)自体をメインの被写体とすることなど想定外の事例が対象に含まれることのないよう、注意する必要がある。

(4)軽微性
イ.見直しの方向性
 軽微な構成部分といえるか否かが上記のような総合的な考慮によるものであることを明確化し、利用者の判断に資するようにするため、法第47条の5第1項の規定(「・・その利用に供される部分の占める割合、その利用に供される部分の量、その利用に供される際の表示の精度その他の要素に照らし軽微なものに限る」)も参考にしつつ、考慮要素を複数明記することが適当である。
 なお、ここでいう「軽微」については、利用行為の態様に応じて客観的に要件該当性が判断される概念であり、当該行為が高い公益性・社会的価値を有することなどが判断に直接影響するものではないことに注意が必要である。

(5)対象支分権
(略)
イ.見直しの方向性
 上記(1)の対象行為の拡大に伴い、「公衆送信(送信可能化を含む)」、「演奏」、「上映」等を広く対象に含める観点から、第2項と同様に、「いずれの方法によるかを問わず、利用することができる」という形で包括的な規定とすることが適当である。

 文化庁の資料はいつも通り長ったらしく分かりにくいが、要するに、現行の写真等における写り込みに関する権利制限規定の対象を、生放送・生配信、スクリーンショット、模写等に拡大し、不要な分離困難性の要件を削除するという事であって、その事自体は写り込みの権利制限の性質から考えて当然の事としか思えず、今更何をと思うが、ここで、著作物創作要件の項目で、「著作物を創作する場合以外も広く対象に含めることが適当である」としながら、「違法行為に伴う写り込みについても適法となり得ることには留意が必要」で、「写り込み部分についてあえて違法とする必要はない」という考え方と「著作権を侵害する行為に伴う写り込みは本規定の対象外とする旨の要件を設定する」という考え方があり、「この点については、ただし書や他の要件の解釈に委ねることによる対応の可否も含め、法整備に当たって、適切な整理・措置がなされることが適当である」と奥歯に物の挟まった様な言い方をしている事には注意しておくべきだろう。

 ダウンロード違法化・犯罪化の対象拡大の問題において違法スクリーンショットの問題がかなり取り上げられたが(私は別にスクリーンショットのみの問題とはカケラも思っていないが)、今までやって来た事を考えても、違法な部分が含まれるスクリーンショット等を軽微な写り込みとして完全に合法化し、この点でわずかながらでも問題の軽減化を図ろうとする考えは文化庁にはない様に見えるのである。

 もう1つ、研究目的に係る権利制限規定の創設に当たっての検討について(案)(pdf)という資料も出されている。研究のための一般的な権利制限など今すぐあって良いものと私は思うが、こちらも、今年度は議論と調査研究で、来年度以降に権利制限規定の制度設計等について検討と極めて見通しが悪い。

 いずれにせよ、文化庁の検討についてはまた中間まとめのパブコメ(文化庁のHP、電子政府のHP参照)などで意見を出したいと思っている。

(3)ブロッキング訴訟東京高裁判決
 最後に、弁護士ドットコムの記事になっているが、10月30日にNTTコミュニケーションズに対するブロッキングに関する訴訟の判決が東京高裁で出された。この記事にも書かれ、また、訴訟を提起した中澤佑一弁護士がそのtwitterで引用している様に、

本件ブロッキングを実施した場合には,第1審被告によりユーザーの全通信内容(アクセス先)の検知行為が実行され,このことが日本国憲法21条2項の通信の秘密の侵害に該当する可能性があることは,第1審原告が指摘するとおりである。児童ポルノ事案のように,被害児童の心に取り返しのつかない大きな傷を与えるという日本国憲法13条の個人の尊厳,幸福追求の権利にかかわる問題と異なり,著作権のように,逸失利益という日本国憲法29条の財産権(財産上の被害)の問題にとどまる本件のような問題は,通信の秘密を制限するには,より慎重な検討が求められるところではある

と、傍論ながら、著作権ブロッキングが通信の秘密の侵害となり得るという判断を裁判所が示した事はかなりの重みを持つものと私も考える。今のところ、総務省の検討結果でも(第412回参照)、インターネット海賊版対策としてブロッキングやアクセス警告方式の導入は困難とされているが、この様な裁判所の判断はブロッキングのみならず同じくユーザーの全通信内容の検知行為が実行されるものであるアクセス警告方式についても当然通用するに違いないのである。

(2019年11月18日夜の追記:幾つか誤記を直し、文章を整えた。)

(2019年11月20日夜の追記:11月30日〆切でかかっている文化庁の中間まとめに対するパブコメについて上でリンクを追加した。)

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2019年7月 3日 (水)

第410回:主要政党の2019年参院選公約案比較(知財政策・情報・表現規制関連)

 明日7月4日公示、7月21日投開票の予定で参議院選挙が行われる。主要政党の公約案が以下の通り出揃っているので、例によってその内容は非常に薄いが、念のため、ここで知財政策・情報・表現規制関連の項目を抜き出しておく。

<自民党>
○23 「イノベーション・エコシステム」の早期確立
 資源大国でもなければ人口大国でもないわが国は、イノベーションを通じて付加価値を創造し続けるエコシステム(生態系)を構築する必要があります。知的資産がイノベーションの源泉であることから、知財立国を基盤としつつも、21世紀型のイノベーションに対応するため、価値をデザインするという認識と発想が必要です。これらを踏まえながら、イノベーションが自律的かつ持続的に生まれ続けていくような環境(いわば生態系)としてのイノベーション・エコシステムの確立と価値デザイン社会の実現を目指します。
 イノベーション・エコシステムの構築には、多様なシーズが次々と生まれ、それをニーズとつなげてマネタイズ(収益化)すること、さらに世界のルール作りを通じて市場を席巻することと、ニーズの変化に対応し機敏かつ柔軟に対応することが重要です。このため、産業界や大学が、危機意識、チャレンジ、デザイン、オープンイノベーションなどの観点から、意識改革と行動変革を起こすことに加え、イノベーション創出のためのプラットフォーム・場づくりや人材の育成などの取組みが必要です。「知的財産推進計画2019」に基づき、尖った才能を持つ人材の育成などの個々の主体の強化とチャレンジを促す取組み、個性・アイデアが出会う場としてのプラットフォームの整備などの個性の融合を通じた新結合を加速する取組み、価値の実現に必要な共感が生まれやすい環境の整備などを進めます。
 知財の創造・保護・活用を国家戦略としてサポートするため、まずは、研究開発の成果物が知的財産権として国内外で迅速かつ安定的に保護されるよう、特許庁の審査体制をさらに整備・強化し、IoT等の新技術や急増する外国語文献への対応、地域の中小企業等を対象とする出張面接審査・テレヒ゛面接審査等の充実を図りつつ、「審査の迅速化・高度化」を進め、別の国においても早期に審査が受けられる環境整備も併せて進めます。
 また、不正競争防止法におけるデータの不正取得の禁止等を踏まえ、法の適切な運用環境を整備するため、ガイドラインの内容や不正競争防止法に関する普及・啓発などの必要な措置を講じます。
 さらに、中小・ベンチャー企業のための知財活用の促進や、地理的表示(GI)や優れた植物品種の登録などの知財活用を通じた「攻めの農林水産業」を進めるとともに、大学等の研究機関が専門的知識と経験を有する知財人材を十分に確保できる支援体制を整備します。
 併せて、イノベーションの中核となる人材を育てるために、企業や大学の経営をデザイン(構想)することのできる人材の育成や、初等中等教育から創造性を育むための知財創造教育の充実に努めます。
 コンテンツ分野においては、デジタルデータの流通が社会を飛躍的に変化させつつあることを踏まえ、デジタルアーカイブジャパンの構築を推進します。関係省庁の司令塔としてCITF(コンテンツ・インテグレーション・タスクフォース(仮称))を新たに設置し、官民の取組みを統合的に推進します。これにより様々なジャンルのコンテンツを連携強化させ、プラットフォーム対応の倍増を図ります。
 また、Society5.0社会の到来を見据え、ブロックチェーンなど、新たな技術を積極的に活用しながら、クリエイターに適切に対価が還元されるコンテンツの管理・流通の仕組み作りを進めます。
 さらに、コンテンツとの連携による地域の魅力発信を推進することで、地域経済の活性化・地方創生を推進します。
 加えて、eスポーツなど成長の兆しの見える新産業の振興、将来性が期待できる先端技術の開発、AI・ロボット・8Kパブリックビューイングなど先端技術の統合実装等、「コンテンツ×テクノロジープロジェクト(仮称)」を推進し、新たな分野での成長を創ります。
 これらと併せ、知的財産推進計画2019に基づき、インターネット上の海賊版被害への総合的かつ実効的な対策など模倣品・海賊版対策を一層強化します。

<立憲民主党>
○公正で透明な行政を実現するために、公文書管理法と情報公開法を強化します。

○安倍政権が成立させた「特定秘密保護法」「共謀罪」「カジノ法」等を廃止します。

<社民党>
○公文書の隠ぺい・改ざん・廃棄を防止するため、公文書管理法を改正するとともに、情報公開を推進します。国民の「知る権利」や報道・取材の自由を侵害する「特定秘密保護法」を即時廃止します。

<共産党>
○52 文化
(略)
著作者の権利を守り発展させます

 著作権は、表現の自由を守りながら、著作物の創造や実演に携わる人々を守る制度として文化の発展に役立ってきました。ところが、映画の著作物はすべて製作会社に権利が移転され、映画監督やスタッフに権利がありません。実演家もいったん固定された映像作品の二次利用への権利がありません。国際的には視聴覚的実演に関する北京条約(2012年)が締結され、日本も加入するなど、実演家の権利を認める流れや、映画監督の権利充実をはかろうという流れが強まっています。

――著作権法を改正し、映画監督やスタッフ、実演家の権利を確立します。

――私的録音録画補償金制度は、デジタル録音録画の普及にともない、一部の大企業が協力義務を放棄したことによって、事実上機能停止してしまいました。作家・実演家の利益をまもるために、私的複製に供される複製機器・機材を提供することによって利益を得ている事業者に応分の負担をもとめる、実効性のある補償制度の導入をめざします。

憲法を生かし、表現の自由を守ります

芸術は自由であってこそ発展します。憲法は「表現の自由」を保障していますが、第2次安倍内閣の発足以降、各地の美術館や図書館、公民館など公の施設で、創作物の発表を正当な理由なく拒否するなど、表現の自由への侵害が相次いでいます。 

日本共産党は、「文化芸術基本法」や憲法の基本的人権の条項をまもり生かして、表現の自由を侵す動きに反対します。「児童ポルノ規制」を名目にしたマンガ・アニメなどへの法的規制の動きに反対します。

 諸外国では、表現の自由を守るという配慮から、財政的な責任は国がもちつつ、専門家が中心となった独立した機関が助成を行っています。文化庁の助成は応募要綱などが行政の裁量で決められ、芸術団体の意見がそこに十分反映されていません。

――すべての助成を専門家による審査・採択にゆだねるよう改善します。
(略)

○55 秘密保護法廃止
国民の目・耳・口をふさぎ、「海外で戦争する国」へと道を開く希代の悪法――秘密保護法の廃止を求めます
(略)

 自民党の総合政策集の中に総合的な海賊版対策について記載されている事に注意しておいてもいいかも知れないが、この記載は知財計画2019の記載をなぞっただけでほとんど何も書いていないに等しく、どの政党も今まで通りで実質的な記載に乏しい。

 この様に、残念ながら、知財政策が主要な争点となる事はやはりないが、今回、私が特に注目しているのは、山田太郎前参議院議員(HPtwitterWiki)が自民党公認で立候補予定という事である。自民党の今までの政策には私は全く賛同できないが、表現の自由を守るという観点で山田太郎氏個人の活躍と政策は世に知られている所であり、氏に再び国会議員になってもらいたいと思っている。

(2019年7月4日夜の追記:内容に特に違いはないが、公示日後の正式版の公約集へのリンクをここに張っておく。

(2019年7月23日夜の追記:山田太郎氏が参議院議員として当選した。氏には与党内での活躍を是非期待する。)

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