2021年3月21日 (日)

第437回:閣議決定されたプロバイダー責任制限法改正案の条文

 今年の知財関連法改正案として、プロバイダー責任制限法改正案、著作権法改正案、特許法等改正案が閣議決定され、国会に提出されているので、その条文について順番に見ていきたいと思う。

 今回は、まず、私が一番問題が大きいと思っているプロバイダー責任制限法改正案の条文についてである。

 この法改正案の主なポイントは、総務省のHP概要(pdf)にも書かれているように、

  • 発信者の特定に必要となる場合のログイン時情報の開示の可能化
  • 発信者に対して行う意見照会において開示に応じない場合の理由もあわせて照会
  • 新たな裁判・非訟手続きによる開示命令、提供命令及び消去禁止命令の創設

という3点である。

 その条文(法律案(pdf)新旧対照条文(pdf)参照、要綱(pdf)も参照)には、第二条の定義条項において、「特定電気通信役務提供者」を「特定電気通信役務(特定電気通信設備を用いて提供する電気通信役務(中略)を提供する者」にし、「侵害情報」や「発信者情報」もここで定義した上で、「開示関係役務提供者」を「第五条第一項に規定する特定電気通信役務提供者及び同条第二項に規定する関連電気通信役務提供者」とするといったテクニカルな改正も含まれているが、ここでは、ポイントとなる部分である通常の発信者情報開示に関する部分と新しい裁判手続きの部分を取り上げる。

 法改正案の通常の発信者情報についての条文は以下の様なものである。(以下、下線部は追加部分。)

第三章 発信者情報の開示請求等

(発信者情報の開示請求
第四条第五条 特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害されたとする者は、次の各号のいずれにも該当するときに限り、当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者(以下「開示関係役務提供者」という。)に対し、当該開示関係役務提供者当該特定電気通信役務提供者が保有する当該権利の侵害に係る発信者情報(氏名、住所その他の侵害情報の発信者の特定に資する情報であって総務省令で定めるものをいう。以下同じ。)ののうち、特定発信者情報(発信者情報であって専ら侵害関連通信に係るものとして総務省令で定めるものをいう。以下この項及び第十五条第二項において同じ。)以外の発信者情報については第一号及び第二号のいずれにも該当するとき、特定発信者情報については次の各号のいずれにも該当するときは、それぞれその開示を請求することができる。
 侵害情報当該開示の請求に係る侵害情報の流通によって当該開示の請求をする者の権利が侵害されたことが明らかであるとき。
 当該発信者情報が当該開示の請求をする者の損害賠償請求権の行使のために必要である場合その他当該発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるとき。
 次のイからハまでのいずれかに該当するとき。
 当該特定電気通信役務提供者が当該権利の侵害に係る特定発信者情報以外の発信者情報を保有していないと認めるとき。
 当該特定電気通信役務提供者が保有する当該権利の侵害に係る特定発信者情報以外の発信者情報が次に掲げる発信者情報以外の発信者情報であって総務省令で定めるもののみであると認めるとき。
(1)当該開示の請求に係る侵害情報の発信者の氏名及び住所
(2)当該権利の侵害に係る他の開示関係役務提供者を特定するために用いることができる発信者情報
 当該開示の請求をする者がこの項の規定により開示を受けた発信者情報(特定発信者情報を除く。)によっては当該開示の請求に係る侵害情報の発信者を特定することができないと認めるとき。

 開示関係役務提供者は、前項の規定による開示の請求を受けたときは、当該開示の請求に係る侵害情報の発信者と連絡することができない場合その他特別の事情がある場合を除き、開示するかどうかについて当該発信者の意見を聴かなければならない。
 特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害されたとする者は、次の各号のいずれにも該当するときは、当該特定電気通信に係る侵害関連通信の用に供される電気通信設備を用いて電気通信役務を提供した者(当該特定電気通信に係る前項に規定する特定電気通信役務提供者である者を除く。以下この項において「関連電気通信役務提供者」という。)に対し、当該関連電気通信役務提供者が保有する当該侵害関連通信に係る発信者情報の開示を請求することができる。
 当該開示の請求に係る侵害情報の流通によって当該開示の請求をする者の権利が侵害されたことが明らかであるとき。
 当該発信者情報が当該開示の請求をする者の損害賠償請求権の行使のために必要である場合その他当該発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるとき。

 第一項の規定により発信者情報の開示を受けた者は、当該発信者情報をみだりに用いて、不当に当該発信者の名誉又は生活の平穏を害する行為をしてはならない。
 前二項に規定する「侵害関連通信」とは、侵害情報の発信者が当該侵害情報の送信に係る特定電気通信役務を利用し、又はその利用を終了するために行った当該特定電気通信役務に係る識別符号(特定電気通信役務提供者が特定電気通信役務の提供に際して当該特定電気通信役務の提供を受けることができる者を他の者と区別して識別するために用いる文字、番号、記号その他の符号をいう。)その他の符号の電気通信による送信であって、当該侵害情報の発信者を特定するために必要な範囲内であるものとして総務省令で定めるものをいう。

 開示関係役務提供者は、第一項の規定による開示の請求に応じないことにより当該開示の請求をした者に生じた損害については、故意又は重大な過失がある場合でなければ、賠償の責めに任じない。ただし、当該開示関係役務提供者が当該開示の請求に係る侵害情報の発信者である場合は、この限りでない。

(開示関係役務提供者の義務等)
第六条 開示関係役務提供者は、前条第一項又は第二項の規定による開示の請求を受けたときは、当該開示の請求に係る侵害情報の発信者と連絡することができない場合その他特別の事情がある場合を除き、当該開示の請求に応じるかどうかについて当該発信者の意見(当該開示の請求に応じるべきでない旨の意見である場合には、その理由を含む。)を聴かなければならない。

 開示関係役務提供者は、発信者情報開示命令を受けたときは、前項の規定による意見の聴取(当該発信者情報開示命令に係るものに限る。)において前条第一項又は第二項の規定による開示の請求に応じるべきでない旨の意見を述べた当該発信者情報開示命令に係る侵害情報の発信者に対し、遅滞なくその旨を通知しなければならない。ただし、当該発信者に対し通知することが困難であるときは、この限りでない。

 開示関係役務提供者は、第十五条第一項(第二号に係る部分に限る。)の規定による命令を受けた他の開示関係役務提供者から当該命令による発信者情報の提供を受けたときは、当該発信者情報を、その保有する発信者情報(当該提供に係る侵害情報に係るものに限る。)を特定する目的以外に使用してはならない。

 開示関係役務提供者は、前条第一項又は第二項の規定による開示の請求に応じないことにより当該開示の請求をした者に生じた損害については、故意又は重大な過失がある場合でなければ、賠償の責めに任じない。ただし、当該開示関係役務提供者が当該開示の請求に係る侵害情報の発信者である場合は、この限りでない。

(発信者情報の開示を受けた者の義務)
第七条 第五条第一項又は第二項の規定により発信者情報の開示を受けた者は、当該発信者情報をみだりに用いて、不当に当該発信者情報に係る発信者の名誉又は生活の平穏を害する行為をしてはならない。

 条文はややこしいが、特定電気通信役務提供者が通常のアクセスプロバイダー又はコンテンツプロバイダーで、関連電気通信役務提供者がその他ログイン時通信に関係するプロバイダーで、合わせて開示関係役務提供者として、ログイン時情報に相当する特定発信者情報とその他発信者情報に分けて、発信者の特定に必要となる場合のログイン時情報の開示の可能化を規定しようとするとこうなるだろうというものである。

 総務省令で特定発信者情報がどの様に規定されるのかが少し気に掛かるが、基本的にその他の発信者情報を有していない場合にのみ特定発信者情報を開示するという条文構成になっているので、この部分について大きな問題はないと思える。開示に応じない場合の理由もあわせて発信者に照会するという事も悪い事ではない。(上の条文は煩雑に過ぎ、今でも私は法改正ではなく解釈・運用と総務省令改正による対応で十分ではなかったかと思っているが。)

 次に、長くなるので途中を少し省略するが、発信者情報開示命令事件に関する裁判手続についての条文は以下の様になっている。

第四章 発信者情報開示命令事件に関する裁判手続

(発信者情報開示命令)
第八条 裁判所は、特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害されたとする者の申立てにより、決定で、当該権利の侵害に係る開示関係役務提供者に対し、第五条第一項又は第二項の規定による請求に基づく発信者情報の開示を命ずることができる。

(日本の裁判所の管轄権)
第九条 裁判所は、発信者情報開示命令の申立てについて、次の各号のいずれかに該当するときは、管轄権を有する。
 人を相手方とする場合において、次のイからハまでのいずれかに該当するとき。
 相手方の住所又は居所が日本国内にあるとき。
 相手方の住所及び居所が日本国内にない場合又はその住所及び居所が知れない場合において、当該相手方が申立て前に日本国内に住所を有していたとき(日本国内に最後に住所を有していた後に外国に住所を有していたときを除く。)。
 大使、公使その他外国に在ってその国の裁判権からの免除を享有する日本人を相手方とするとき。
 法人その他の社団又は財団を相手方とする場合において、次のイ又はロのいずれかに該当するとき。
 相手方の主たる事務所又は営業所が日本国内にあるとき。
 相手方の主たる事務所又は営業所が日本国内にない場合において、次の(1)又は(2)のいずれかに該当するとき。
(1)当該相手方の事務所又は営業所が日本国内にある場合において、申立てが当該事務所又は営業所における業務に関するものであるとき。
(2)当該相手方の事務所若しくは営業所が日本国内にない場合又はその事務所若しくは営業所の所在地が知れない場合において、代表者その他の主たる業務担当者の住所が日本国内にあるとき。
 前二号に掲げるもののほか、日本において事業を行う者(日本において取引を継続してする外国会社(会社法(平成十七年法律第八十六号)第二条第二号に規定する外国会社をいう。)を含む。)を相手方とする場合において、申立てが当該相手方の日本における業務に関するものであるとき。

 前項の規定にかかわらず、当事者は、合意により、いずれの国の裁判所に発信者情報開示命令の申立てをすることができるかについて定めることができる。

(略:第九条第3~7項(合意の形式、特別の事情による却下、管轄権の標準時等))

(管轄)
第十条 発信者情報開示命令の申立ては、次の各号に掲げる場合の区分に応じ、それぞれ当該各号に定める地を管轄する地方裁判所の管轄に属する。
 人を相手方とする場合相手方の住所の所在地(相手方の住所が日本国内にないとき又はその住所が知れないときはその居所の所在地とし、その居所が日本国内にないとき又はその居所が知れないときはその最後の住所の所在地とする。)
 大使、公使その他外国に在ってその国の裁判権からの免除を享有する日本人を相手方とする場合において、この項(前号に係る部分に限る。)の規定により管轄が定まらないとき最高裁判所規則で定める地
 法人その他の社団又は財団を相手方とする場合次のイ又はロに掲げる事務所又は営業所の所在地(当該事務所又は営業所が日本国内にないときは、代表者その他の主たる業務担当者の住所の所在地とする。)
 相手方の主たる事務所又は営業所
 申立てが相手方の事務所又は営業所(イに掲げるものを除く。)における業務に関するものであるときは、当該事務所又は営業所

(略:第十条第2~7項(その他専属管轄等))

(発信者情報開示命令の申立書の写しの送付等)
第十一条 裁判所は、発信者情報開示命令の申立てがあった場合には、当該申立てが不適法であるとき又は当該申立てに理由がないことが明らかなときを除き、当該発信者情報開示命令の申立書の写しを相手方に送付しなければならない。

 非訟事件手続法(平成二十三年法律第五十一号)第四十三条第四項から第六項までの規定は、発信者情報開示命令の申立書の写しを送付することができない場合(当該申立書の写しの送付に必要な費用を予納しない場合を含む。)について準用する。

 裁判所は、発信者情報開示命令の申立てについての決定をする場合には、当事者の陳述を聴かなければならない。ただし、不適法又は理由がないことが明らかであるとして当該申立てを却下する決定をするときは、この限りでない。

(略:第十二条(発信者情報開示命令事件の記録の閲覧等)、第十三条(発信者情報開示命令の申立ての取下げ))

(発信者情報開示命令の申立てについての決定に対する異議の訴え)
第十四条 発信者情報開示命令の申立てについての決定(当該申立てを不適法として却下する決定を除く。)に不服がある当事者は、当該決定の告知を受けた日から一月の不変期間内に、異議の訴えを提起することができる。

(略:第十四条第二~六項(管轄、決定の効力等))

(提供命令)
第十五条 本案の発信者情報開示命令事件が係属する裁判所は、発信者情報開示命令の申立てに係る侵害情報の発信者を特定することができなくなることを防止するため必要があると認めるときは、当該発信者情報開示命令の申立てをした者(以下この項において「申立人」という。)の申立てにより、決定で、当該発信者情報開示命令の申立ての相手方である開示関係役務提供者に対し、次に掲げる事項を命ずることができる。
 当該申立人に対し、次のイ又はロに掲げる場合の区分に応じそれぞれ当該イ又はロに定める事項(イに掲げる場合に該当すると認めるときは、イに定める事項)を書面又は電磁的方法(電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法であって総務省令で定めるものをいう。次号において同じ。)により提供すること。
 当該開示関係役務提供者がその保有する発信者情報(当該発信者情報開示命令の申立てに係るものに限る。以下この項において同じ。)により当該侵害情報に係る他の開示関係役務提供者(当該侵害情報の発信者であると認めるものを除く。ロにおいて同じ。)の氏名又は名称及び住所(以下この項及び第三項において「他の開示関係役務提供者の氏名等情報」という。)の特定をすることができる場合 当該他の開示関係役務提供者の氏名等情報
 当該開示関係役務提供者が当該侵害情報に係る他の開示関係役務提供者を特定するために用いることができる発信者情報として総務省令で定めるものを保有していない場合又は当該開示関係役務提供者がその保有する当該発信者情報によりイに規定する特定をすることができない場合 その旨
 この項の規定による命令(以下この条において「提供命令」といい、前号に係る部分に限る。)により他の開示関係役務提供者の氏名等情報の提供を受けた当該申立人から、当該他の開示関係役務提供者を相手方として当該侵害情報についての発信者情報開示命令の申立てをした旨の書面又は電磁的方法による通知を受けたときは、当該他の開示関係役務提供者に対し、当該開示関係役務提供者が保有する発信者情報を書面又は電磁的方法により提供すること。

 前項(各号列記以外の部分に限る。)に規定する発信者情報開示命令の申立ての相手方が第五条第一項に規定する特定電気通信役務提供者であって、かつ、当該申立てをした者が当該申立てにおいて特定発信者情報を含む発信者情報の開示を請求している場合における前項の規定の適用については、同項第一号イの規定中「に係るもの」とあるのは、次の表の上欄に掲げる場合の区分に応じ、それぞれ同表の下欄に掲げる字句とする。
|当該特定発信者情報の開示の請求について第五条第一項第三号に該当すると認められる場合|に係る第五条第一項に規定する特定発信者情報|
|当該特定発信者情報の開示の請求について第五条第一項第三号に該当すると認められない場合|に係る第五条第一項に規定する特定発信者情報以外の発信者情報|

 次の各号のいずれかに該当するときは、提供命令(提供命令により二以上の他の開示関係役務提供者の氏名等情報の提供を受けた者が、当該他の開示関係役務提供者のうちの一部の者について第一項第二号に規定する通知をしないことにより第二号に該当することとなるときは、当該一部の者に係る部分に限る。)は、その効力を失う。
一 当該提供命令の本案である発信者情報開示命令事件(当該発信者情報開示命令事件についての前条第一項に規定する決定に対して同項に規定する訴えが提起されたときは、その訴訟)が終了したとき。
二 当該提供命令により他の開示関係役務提供者の氏名等情報の提供を受けた者が、当該提供を受けた日から二月以内に、当該提供命令を受けた開示関係役務提供者に対し、第一項第二号に規定する通知をしなかったとき。

 提供命令の申立ては、当該提供命令があった後であっても、その全部又は一部を取り下げることができる。

 提供命令を受けた開示関係役務提供者は、当該提供命令に対し、即時抗告をすることができる。

(消去禁止命令)
第十六条 本案の発信者情報開示命令事件が係属する裁判所は、発信者情報開示命令の申立てに係る侵害情報の発信者を特定することができなくなることを防止するため必要があると認めるときは、当該発信者情報開示命令の申立てをした者の申立てにより、決定で、当該発信者情報開示命令の申立ての相手方である開示関係役務提供者に対し、当該発信者情報開示命令事件(当該発信者情報開示命令事件についての第十四条第一項に規定する決定に対して同項に規定する訴えが提起されたときは、その訴訟)が終了するまでの間、当該開示関係役務提供者が保有する発信者情報(当該発信者情報開示命令の申立てに係るものに限る。)を消去してはならない旨を命ずることができる。

 前項の規定による命令(以下この条において「消去禁止命令」という。)の申立ては、当該消去禁止命令があった後であっても、その全部又は一部を取り下げることができる。

 消去禁止命令を受けた開示関係役務提供者は、当該消去禁止命令に対し、即時抗告をすることができる。

(非訟事件手続法の適用除外)
第十七条 発信者情報開示命令事件に関する裁判手続については、非訟事件手続法第二十二条第一項ただし書、第二十七条及び第四十条の規定は、適用しない。

(最高裁判所規則)
第十八条 この法律に定めるもののほか、発信者情報開示命令事件に関する裁判手続に関し必要な事項は、最高裁判所規則で定める。

 この部分について、この様な条文に至るまで、政府内でどの様な検討がされたのかは不明だが、その点がよほど問題となったのか、裁判管轄に関する事項を第9~10条に書き込んでいる。日本の裁判管轄に関する原則から考えれば当たり前の話だが、申立てが裁判所に取り上げられるのは、基本的に、法人を相手方とする場合であれば、その主たる事務所又は営業所が日本国内にある場合に限られ、かつ、その主たる事務所又は営業所の所在地の地方裁判所に申し立てる必要があるという事である。

 そして、裁判・非訟手続きの原則から考えて、これも当たり前の話だが、相手方を記載して申立てを行う必要があるので(第11条参照、記載しないと却下となる)、コンテンツプロバイダーに対する申立てだけで、その後自動的に良く分からない立場でアクセスプロバイダーが同じ事件に巻き込まれる様な事もない。

 第15条のコンテンツプロバイダーからアクセスプロバイダーへの情報提供命令も、発信者情報開示命令事件が係属する場合であって、他の開示関係役務提供者としてアクセスプロバイダーに関する開示を受けた申立人がアクセスプロバイダーを相手方として発信者情報開示命令の申立てをした場合に裁判所が出す事ができるとされている。

 必要であれば裁判所は裁量によりさらにコンテンツプロバイダーに対する事件とアクセスプロバイダーに対する事件を併合して処理するかも知れないが、開示においてコンテンツプロバイダーとアクセスプロバイダーの両方が関係し、かつ、アクセスプロバイダーに対する発信者情報開示まで必要とされる場合は、今まで同様、両方に対して順次申立てが必要になるのであって、本当に1つの手続きでできる訳ではない。総務省が、法改正の概要(pdf)で、これについて発信者情報開示を1つの手続きで可能とすると言っているのは酷いミスリードである。

 また、第16条の消去禁止命令も現行でも可能なログ保全ための仮処分命令と何が違うのか良く分からない。

 さらに、第17条で、非訟事件手続法の第22条第1項ただし書の弁護士でない者による手続代理、事実の調査等の国庫による立て替え、第40条の検察官の関与の適用は明示的に除外されているので、実質的に通常の訴訟より手続き費用が安く済むといった事もない。

 この新たな裁判手続きにおける発信者の意見の照会や異議の訴え等について、その具体的な運用に関する事が非常に気になるが、これは第18条に書かれている最高裁判所規則に委ねられているという事なのだろう。裁判所が今までの通常の裁判による発信者情報開示事件と比べて偏った運用をする事はないだろうとは思うが、この様な重要な事項が裁判所の規則・裁量・運用に委ねられているという事はあまり良い事とは思えない。

 結局、この法改正案の新しい裁判手続きによる発信者情報開示は、今までの通常の裁判による発信者情報開示とほぼ同様の手続きを原則非公開の非訟手続きとして規定しただけのものであって、手続きの迅速化や合理化に資するものとは到底言い難いものである。この様な法改正が通れば、かえって発信者情報開示に関する手続きの不透明性や複雑性が増し、いたずらに今の状況を混乱させるだけで、発信者の保護はおろか権利侵害の救済にも繋がらないのではないかと私は懸念する。過去のパブコメ(第432回参照)でも書いたが、発信者情報の開示は、通信の秘密といった重要な国民の権利に関するものであるから、原則公開の訴訟手続によらなければならないものである。今後、国会でこの問題の本質にまで踏み込んだ議論がなされる事を私は期待する。

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2020年11月25日 (水)

第432回:総務省・発信者情報開示の在り方に関する研究会最終とりまとめ(案)に対する提出パブコメ

 12月4日〆切でパブコメにかかっている、総務省の発信者情報開示の在り方に関する研究会最終とりまとめ(案)(pdf)に対して意見を出したのでここに載せておく(意見募集について、総務省のHP、電子政府のHP参照)。非訟手続きに基づく新たな裁判手続きの問題については前のパブコメで指摘した事と全く同じ事が当てはまるので、提出パブコメの内容は中間とりまとめ案に出した意見(第428回参照)を最終とりまとめ案の記載に合わせて組み替えたものである。

(以下、提出パブコメ)

<第1章 発信者情報開示に関する検討の背景及び基本的な考え方について>
○3.検討に当たっての基本的な考え方
(該当箇所)第5ページ「3.検討に当たっての基本的な考え方」全体
(御意見)
 ここで、権利侵害に対する救済が必要なのは無論の事とは言え、制度改正が逆に行き過ぎれば、その濫用や悪用によって発信行為・表現が萎縮し、表現の自由の抑圧に繋がる危険性があるということをきちんと認識し、その間でバランスを取る事を基本的な考え方としている事は高く評価できる。この基本的な考え方を通して守るべきであり、以下第3章についての項目で述べる通り、原則非公開とできる新たな非訟手続きに基づく裁判手続きの創設のような、この基本的な考え方に合わない事は不適切なものであって、するべきではない。

<第2章 発信者情報の開示対象の拡大>
○2.ログイン時情報
○2-(1)発信者の同一性
(該当箇所)第8ページ「2-(1)発信者の同一性」全体
(御意見)
 ここで、「権利侵害投稿の通信とログイン時の通信とが、同一の発信者によるものである場合に限り、開示できることとする必要がある」としている点は賛同できるが、アカウントの共有や乗っ取りの場合を一絡げに例外として、「同一のアカウントのログイン時の通信と権利侵害投稿通信は基本的に同一の発信者から行われたものと捉えることができると考えられる」としている事は適切ではない。特にアカウント保持者への嫌がらせのために他の者がアカウントを乗っ取り書き込み等を行う事は十分に考えられるのであって、この様な場合にまでアカウント保持者の情報が開示され第一に責任を負うべきとする事は適切ではない。ログイン時情報の開示においては、「2-(2)開示の対象とすべきログイン時情報の範囲」に書かれている補充性要件に加え、権利侵害投稿の通信とログイン時の通信とが、同一の発信者によるものである場合に限るという条件を明示的に加え、ログイン時の通信の内容等からアカウント保持者以外の書き込みであると判断される場合は開示しない事とするべきである。

○2-(2)開示の対象とすべきログイン時情報の範囲
(該当箇所)第9~11ページ「2-(1)発信者の同一性」全体
(御意見)
 ここで、第9ページに、「侵害投稿時の通信経路を辿って発信者を特定することができない場合に限定すること(補充性要件)が適当」としている事に賛同する。

 そして、上記の「2-(1)発信者の同一性」の項目で書いた通り、この様な補充性要件に加えて、同一の発信者によるものである場合に限るという条件を明示的に加えるべきである。

 その限りにおいて、SMS認証に関する情報を追加しても良いと考えるが、上記の通りの限定がなされない限り、開示の対象は拡大するべきではない。


○2-(3)開示請求を受けるプロバイダの範囲
(該当箇所)第11ページ「2-(3)開示請求を受けるプロバイダの範囲」全体
(御意見)
 ここで、「ログイン時情報等を開示対象とした場合、当該情報に係る権利侵害投稿通信以外の通信(ログイン時の通信やSMS認証に係る通信等)を媒介したアクセスプロバイダや電話会社に対して、侵害投稿通信の発信者かつ権利侵害投稿通信以外の通信の発信者でもある者の住所・氏名の開示を請求することとなるが、当該開示請求を受けるプロバイダは、プロバイダ責任制限法第4条第1項に規定する『開示関係役務提供者』の範囲に含まれない場合もあり得る」と記載され、脚注17に「『開示関係役務提供者』は、プロバイダ責任制限法第4条第1項において『当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者』と規定されている。コンテンツプロバイダが投稿時のログを保有しておらず、発信者が複数の通信経路からログインを行っている場合、実際にどの通信経路から権利侵害投稿を行ったかわからないため、開示請求を受けたアクセスプロバイダが『『当該特定電気通信』の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者』に該当するか不明確となる場合があり得る」と記載されている。

 しかし、ログイン時情報の開示については、権利侵害投稿の通信とログイン時の通信とが同一の発信者によるものである場合に限るといった条件が付加されるべきであるから、ログイン時情報による開示請求を受けるプロバイダーは、プロバイダー責任制限法第4条第1項の、権利の侵害に係る「当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者」と言えるのであって、ログイン時情報等の開示請求で法律上の「開示関係役務提供者」の範囲に含まれない場合もあり得るとする解釈は厳格に過ぎ、この点で法改正は不要であると考える。

 また、コンテンツプロバイダが投稿時のログを保有していない場合であっても、脚注17の様に、投稿より前の複数の通信経路からの複数のログイン時情報を開示対象として想定する事は不適切である。権利侵害投稿の通信とログイン時の通信とが同一の発信者によるものである場合に限るといった条件の付加によって、基本的に投稿直前のログイン時情報のみを開示対象とするべきである。この様な法改正をしたいがためだけの理屈は全く納得の行くものではない。

○3.まとめ
(該当箇所)第11ページ「3.まとめ」全体
(御意見)
 上記の通り、同一の発信者によるものである場合に限るという条件を明示的に加え、省令改正によるログイン時のIPアドレス及びタイムスタンプ等の追加に賛同するが、これは省令改正で十分であり、それに留めるべきである。

<第3章 新たな裁判手続の創設及び特定の通信ログの早期保全>
○1.非訟手続の創設の利点と課題の整理
(該当箇所)第12~14ページ「1.非訟手続の創設の利点と課題の整理」全体
(御意見)
 ここで、第13~14ページに、発信者情報開示のための新しい原則非公開の非訟手続きについて、適法な情報発信を行う発信者の保護が十分に図られなくなり、手続が濫用される恐れが強く、判断の透明性の確保が図られなくなるとの問題が書かれている。

 これは全くその通りであって、この様な事から、引いては表現の自由の保護が十分に図られなくなる事になると考えられる。

 以下でも述べる通り、これは制度設計によっては解消できない極めて本質的な問題であり、この新たな裁判手続きの創設は不適切であって、なされるべきものではないものである。

○2.実体法上の開示請求権と非訟手続の関係について
(該当箇所)第14~17ページ「2.実体法上の開示請求権と非訟手続の関係について」全体
(御意見)
 ここで、現行の発信者情報開示訴訟における課題の整理・検討をなおざりに、一方的に結論ありきで、現行の請求権に「加えて」新たな非訟手続きを創設することが適当としていることは極めて不適切である。

 この点について、第16ページに書かれている、「表現の自由やプライバシーといった発信者の権利利益の保護に鑑み、開示判断については、非訟手続を創設するのではなく、現行法と同様に訴訟手続とする」べきという指摘は極めて妥当なものであって、この指摘の通り非訟手続きを創設するべきではない。

 今回のプロバイダー責任制限法に関する検討は、2011年の「利用者視点を踏まえたICTサービスに係る諸問題に関する研究会」における検討(その「プロバイダ責任制限法検証に関する提言」https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01kiban08_01000037.html参照)及び2015年の「ICT サービス安心・安全研究会」における検討(その報告書「インターネット上の個人情報・利用者情報等の流通への対応について」https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01kiban08_02000184.html参照)以来のものであって、本格的な検討としては2011年の研究会以来のものであると思うが、この研究会の提言の第41ページ(第3の4(8))で、第三者機関の創設等について、「取り扱う対象が通信の秘密といった重要な権利に関連することからすると、発信者情報の開示の当否は、通信の秘密といった重要な国民の権利に関するものであるから、このような実体的な権利を終局的に確定させる判断は(公開の法廷における対審及び判決という)訴訟手続によらなければならないと考えられ」るとしている。この研究会の提言の整理は今なお妥当するものであって、今般の検討においてもこの整理を守るべきである。

 新たな非訟手続きの本質的な問題点については以下でも述べ、この様な手続きはそもそも創設されるべきものではないと考えるが、仮に本とりまとめ案の様に、原則として何かしらの手続きを追加し、異議等により現行同様の訴訟に移行するものとしたら、さらに開示までの段階が増えてさらに手続きが煩雑になる事も考えられるであろう。

○3.新たな裁判手続(非訟手続)について
○3-(1)裁判所による命令の創設(ログの保存に関する取扱いを含む)
(該当箇所)第17~21ページ「3-(1)裁判所による命令の創設(ログの保存に関する取扱いを含む)」全体
(御意見)
 ここで、当事者構造などの問題をなおざりに、①コンテンツプロバイダ及びアクセスプロバイダ等に対する発信者情報の開示命令、②コンテンツプロバイダが保有する発信者情報のアクセスプロバイダへの提供命令、③アクセスプロバイダに対するコンテンツプロバイダから提供された情報を踏まえた発信者情報の消去禁止命令という、3つの命令についての手続きを創設する事が適当としているが、これも全く適切なものではない。

 インターネットの仕組みを考えれば、どうやっても、コンテンツプロバイダーに対する削除要求・情報開示・ログ保全、アクセスプロバイダーに対する情報開示・ログ保全、開示侵害者に対する損害賠償請求等という様に、情報流通経路を逆に辿って行くしかないので、侵害者の情報が被侵害者にあらかじめ分かっている場合や、コンテンツプロバイダーが侵害者の情報を直接保有している様な場合を除き、何をどうやろうが、一足飛びに、前もって分かり得ない後の手続きの当事者を前の手続きに巻き込むべきではなく、非訟手続きによればいいなどという事も無論ない。

 例えば、第18ページに、「具体的な手続の流れとしては、コンテンツプロバイダに対する開示命令のプロセスと、アクセスプロバイダの特定及びログの保全手続(提供命令・消去禁止命令)のプロセスは、同時並行で進められることが想定される。提供命令によりアクセスプロバイダを特定することができた場合、アクセスプロバイダ名の通知を受けた被害者がアクセスプロバイダに対する開示命令の申立てを行った場合には、速やかに当該アクセスプロバイダがコンテンツプロバイダに対する開示命令のプロセスに加わり、コンテンツプロバイダ・アクセスプロバイダが一体として開示命令を受けるという流れが想定される」と書かれているが、具体的にどの様な手続きが想定されるのか全く理解不能である。

 情報流通経路を逆に辿って行かなければならない事を考えれば、コンテンツプロバイダ及びアクセスプロバイダへの開示命令をまとめて出す事は考えられない。そして、発信者情報開示とは、コンテンツプロバイダ、アクセスプロバイダという別のプロバイダがそれぞれ自身が保持するものであって開示するべき情報をそれぞれの責任において開示するという事であって、それ以上でもそれ以下でもないにも関わらず、コンテンツプロバイダからの発信者情報のアクセスプロバイダへの提供によってアクセスプロバイダが手続きに加わりコンテンツプロバイダ・アクセスプロバイダが一体として開示命令を受けるとしている事など全く意味不明である。

 ここで、消去禁止命令、すなわちログの保存命令についても、それぞれの段階で、各プロバイダーに発信者情報消去禁止の仮処分の申立てをするしかない筈であり、新たな裁判手続きとの関係でどうこうという問題では全くない。現行の手続きにおいて、ログ保存に関して、何が問題で、具体的に何をどうするべきかという検討をなおざりにして、新たな裁判手続きの中で消去禁止命令についての手続きを創設するべきとしている事は全く適切な事ではない。

 開示要件については対応する項目で述べるが、第21ページで、さらに「これらの命令の発令要件については、現在の開示要件よりも一定程度緩やかな基準とすることが適当である」としている事など不適切の上塗りと言わざるを得ない。

 念のため、さらに指摘しておくと、第20~21ページに、「裁判所が特定作業を行うと想定した場合、専門委員や裁判所調査官等の活用など様々な方法が考えられるものの、現行法上の制度を活用する場合にはそれらの職員の職責上の制約がある一方、新たな制度を創設する場合には選任や確保を含む体制整備に時間がかかり、案件数の増加や地域特性により、必要とされる人材を確保できない等課題が多いと考えられる。したがって、アクセスプロバイダの特定作業は、コンテンツプロバイダが行うこととすることが適当である」としているが、単に裁判所の能力不足を理由にコンテンツプロバイダに新たな責務を負わせようとしている事も全く不当な事である。もし本当にそれほど裁判所の能力が不足しているとしたならば、現行の発信者情報開示訴訟における判断の妥当性にすら疑義が生じると言わざるを得ないだろう。

○3-(2)新たな手続における当事者構造
(該当箇所)第21~22ページ「3-(2)新たな手続における当事者構造」全体
(御意見)
 関わるプロバイダとしては、コンテンツプロバイダとアクセスプロバイダという複数のプロバイダがいるにも関わらず、ここで、単にプロバイダとだけ書いて、プロバイダが複数いる事をうやむやにしているのは、極めて悪質な言葉のごまかしであり、このごまかしを私は強く非難する。

 上記「3-(1)裁判所による命令の創設(ログの保存に関する取扱いを含む)」の項目についてで書いた通り、インターネットの仕組みを考えれば、どうやっても、コンテンツプロバイダーに対する削除要求・情報開示・ログ保全、アクセスプロバイダーに対する情報開示・ログ保全、開示侵害者に対する損害賠償請求等という様に、情報流通経路を逆に辿って行くしかないので、何をどうやろうが、それぞれコンテンツプロバイダー、アクセスプロバイダー、開示侵害者を順次相手方当事者として当事者構造は作られなければならない。

 さらに書いておくと、権利侵害を受けた者にとって1回の裁判手続きが望ましいのはその通りであろうが、望ましい事すなわち技術的、実務的に可能でああるという事ではない。1回の手続きで、各プロバイダーの情報開示を可能とし、権利回復を可能とするという事は、実質的に当事者不明の匿名裁判手続きを可能とするという事に等しいが、この事については、上で触れた2011年の研究会の提言の第41ページ(第3の4(9))で、匿名訴訟について、「民事訴訟法をはじめとする現行の民事手続法はそのような訴訟制度を前提としておらず、また、当該制度は訴えの提起から判決の効力までといった民事訴訟全般に関連するものであることからすると、当該訴訟制度の創設の是非に関しては、プロバイダ責任制限法においてのみ検討することができる問題ではなく、様々な立場の意見を広く検討し、訴訟制度全体の問題として検討されるべき」とされていた通り、また、中間とりまとめ案の脚注23にも記載されていた通り、法制的に多くの検討すべき課題があるのであって、日本におけるその導入は極めて困難である。

○3-(3)発信者の権利利益の保護
(該当箇所)第22~28ページ「3-(3)発信者の権利利益の保護」全体
(御意見)
 通信の秘密等の国民の基本的な権利に関わるものである事から、このような実体的な権利を終局的に確定させる判断は公開の法廷における対審及び判決という訴訟手続によらなければならないと考えられるのであり、原則非公開とされ、一般的なチェックが効かない非訟手続きによって開示を可能とする事自体、国民の基本的な権利の保護が図られなくなる恐れが極めて強く、この事は発信者の権利利益の保護に関する制度設計で解消されるものではない。

 これは制度設計でどうにかなる話ではないが、念のためさらに書いておくと、例えば、異議申し立てについて、第27ページで、「プロバイダは可能な限り発信者の意向を尊重した上で、個別の事案に応じた総合的な判断により異議申立ての要否を検討することが望ましい」としている事は、プロバイダとはどのプロバイダなのかという事についての記載のごまかしがある事に加え、原則非公開の非訟手続きの中だけでプロバイダの判断により訴訟に移行せずに開示請求を受け入れる事もあり得るとしている点で極めて不適切である。情報は一旦開示されてしまえば、取り返しがつかない性質のものであるという事を十分に踏まえる必要があるのであって、これが国民の基本的な権利に関わるものである事から、この様な新たな非訟手続きは創設されるべきではないものである。

○3-(4)開示要件
(該当箇所)第28~30ページ「3-(4)開示要件」全体
(御意見)
 ここで、第28ページに、「非訟手続の場合、原則として非公開で行われるため、裁判手続の判断に記載される理由の程度によっては、開示可否に関する事例の蓄積や判断の透明性の確保が図られない可能性がある」との指摘が記載されているが、これも本質的な指摘であって、訴訟への移行があり得るから良い、当事者だけで事例を蓄積できるから良いという問題ではなく、制度設計で解消されるものでもなく、原則非公開の非訟手続きを取る限り解消する事はできないものである。

 国民の基本的な権利に関わる事案においては一般にチェック可能な形で判断の透明性が確保されていなければならない。

○3-(5)手続の濫用の防止
(該当箇所)第30~31ページ「3-(5)手続の濫用の防止」全体
(御意見)
 手続きの濫用防止についても、単に当事者間の既判力による蒸し返しの防止が図られれば良いというものではない。一般にチェック可能な形で判断の透明性が確保され、裁判所による判断が公衆に分かる形で蓄積されない限り、濫用の懸念は常にあり得る事であろう。

○3-(6)海外事業者への対応
(該当箇所)第31~32ページ「3-(6)海外事業者への対応」全体
(御意見)
 発信者情報開示に関する諸外国の状況について、以前のパブコメで以下の様に書いた通り、また、発信者情報開示の在り方に関する研究会の第6回でも報告されている通りである。

 アメリカでは仮名(John Doe)裁判とそのディスカバリー手続きにおいて裁判所の強制令状(subpoena)に基づく情報開示が可能であるが、ディスカバリーなどのアメリカの特異な裁判手続きはその負担や濫用についての批判も非常に強いものであって、日本に持ち込むべきではないものである。欧州では、欧州司法裁判所が、2020年7月9日に、知的財産権執行指令の下で違法アップロードが行われたオンラインプラットフォーム運営者に権利者が要求できるのは関係するユーザの住所のみであってメールや電話番号は含まれないとする判決を出した所である事からも分かる様に、欧州全体でも、発信者情報開示については、このレベルでしか統一されておらず、今も基本的に各国法制による部分が多い。イギリスでは、裁判所のNorwich Pharmacal orderによる情報開示が可能であるが、これはそれぞれ情報を持っている者に対して訴えを提起して求めるものであって、1回の非訟手続きで各プロバイダーの情報開示を可能とする様なものではない。ドイツでは上記の欧州司法裁のケースで問題となった著作権法などとは別に2017年のネットワーク執行法(Netzwerkdurchsetzungsgesetz)によって通信メディア法(Telemediengesetz)第14条に扇動や中傷による権利侵害の場合の情報開示が規定されたが、この様なドイツの法制については今なおナチス思想を強力に取り締まっているドイツの特殊事情を考慮する必要がある事に加え、これも、裁判所への訴えにより、必要に応じて各プロバイダーに順次開示請求をする必要があるのであって、1回の非訟手続きで各プロバイダーの情報開示を可能とする様なものではない。フランスでは、2004年のデジタル経済信用法(Loi pour la confiance dans l'economie numerique)第6条等に基づき、仮処分に相当するレフェレ(refere)などにより、発信者情報開示を要求する事ができるが、これも同様に、必要に応じて順次開示請求をする必要があるのであって、1回の非訟手続きで各プロバイダーの情報開示を可能とする様なものではない。

 本とりまとめ案で、民事訴訟に関する2つの条約で申立書の直接送付などが認められていると書かれているが、これらの条約で単に文書を送付しても良いと書かれている事と、それに執行力が伴い海外プロバイダが従うかどうかは別の話である。外国における民事執行は基本的に相互主義であって、日本国内の手続きと同じ文書を一方的に直接送り付ければ良いという様な単純なものではない。非訟手続きによる新たな裁判手続きは、何をどう検討しようが、国際的にも極めて特異かつ異質な制度とならざるを得ないものであり、海外のプロバイダーがこの様な制度に基づく命令などに従う可能性は万に一つもない。

 ここでも、必要なのは、各国の法制に基づく訴え・申し立ての支援や訴状の送達の迅速化など、実効性のある方策の検討である。

 なお、念のため繰り返し書いておくと、7月24日〆切で意見募集がされていた「インターネット上の誹謗中傷への対応の在り方について(案)」にも記載されていた様に、フランスで、憲法裁判所が、2020年6月18日に、オンラインヘイトスピーチ規制法の主要部分を否定している事が典型的に示しているが、欧米においては、プライバシー・個人データ、情報・表現の自由をきちんと保護しようとする動きがある事も注目されてしかるべきである。

○4.まとめ
(該当箇所)第32ページ「4.まとめ」全体
(御意見)
 上記の通り、手続が濫用され、適法な情報発信を行う発信者の保護や表現の自由の確保が十分に図られなくなる恐れが強く、その点で完全にバランスを失しているものであり、国際的にも極めて特異かつ異質な制度とならざるを得ないものである、この非訟手続きによる新たな裁判手続きの創設に反対する。

 今後プロバイダー責任制限法について検討を進める場合には、基本的な考え方に沿い、現行のプロバイダー責任制限法の手続きの拡充や迅速化など実務的に実効性のある検討のみがなされる事を期待する。

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2020年8月 2日 (日)

第428回:総務省・発信者情報開示の在り方に関する研究会中間とりまとめ(案)に対する提出パブコメ

 前回取り上げた、8月14日〆切でパブコメにかかっている、総務省の発信者情報開示の在り方に関する研究会中間とりまとめ(案)に対して意見を提出したので、ここに載せておく。内容は前回書いた事を中間とりまとめ案の項目毎に分けて少し補足の説明を加えたものである。

(以下、提出パブコメ)

<第1章 発信者情報開示に関する検討の背景及び基本的な考え方について>
○3.検討に当たっての基本的な考え方
(該当箇所)第5~6ページ「3.検討に当たっての基本的な考え方」全体
(意見)
 ここで、権利侵害に対する救済が必要なのは無論の事とは言え、制度改正が逆に行き過ぎれば、その濫用や悪用によって発信行為・表現が萎縮し、表現の自由の抑圧に繋がる危険性があるということをきちんと認識し、その間でバランスを取る事を基本的な考え方としている事は高く評価できる。今後の検討においてもこの基本的な考え方を通して守るべきである。以下第2章2.についての項目で述べる通り、原則非公開とできる新たな非訟手続きに基づく裁判手続きの創設のような、この基本的な考え方に合わない検討は不適切なものであって、進めるべきではない。

<第2章 具体的な検討事項>
○1.発信者情報の開示対象の拡大
○1-(2)電話番号
(該当箇所)第8~11ページ「1-(2)電話番号」全体
(意見)
 現状の課題を踏まえ、現行の手続きにおいて、発信者情報の開示対象に電話番号を追加する事は問題なく、省令改正による電話番号の追加に賛同する。

○1-(3)ログイン時情報
(該当箇所)第11~15ページ「1-(3)ログイン時情報」全体
(意見)
 現状の課題を踏まえ、現行の手続きにおいて、権利侵害投稿の通信とログイン時の通信とが同一の発信者によるものである場合に限るといった条件を付加しつつ、発信者情報の開示対象として、投稿時だけでなくログイン時のIPアドレス及びタイムスタンプ(ログイン時情報)も含まれる事を明確化する事は問題なく、省令改正によるログイン時のIPアドレス及びタイムスタンプの追加に賛同する。

 ここで、第15ページに、「ログイン時情報をもとに特定されたアクセスプロバイダに対して、ログイン時の通信の発信者の住所・氏名の開示を請求することとなるが、当該開示請求を受けるプロバイダは、プロバイダ責任制限法第4条第1項に規定する『開示関係役務提供者』の範囲に含まれない場合もあり得ることから、請求の相手方となる『開示関係役務提供者』の範囲を明確化する観点から、必要に応じて、法改正によって対応を図ることを視野に入れ、具体化に向けた整理を進めていくことが適当である」と記載されているが、ログイン時情報の開示については、権利侵害投稿の通信とログイン時の通信とが同一の発信者によるものである場合に限るといった条件が付加されるのであるから、ログイン時情報による開示請求を受けるプロバイダーは、プロバイダー責任制限法第4条第1項の、権利の侵害に係る「当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者」と言えるのであって、ログイン時のIPアドレスとタイムスタンプによる開示請求で法律上の「開示関係役務提供者」の範囲に含まれない場合もあり得るとする解釈は厳格に過ぎ、この点で法改正は不要であると考える。

 また、第15ページには、「後述の新たな裁判手続の創設に関して具体的にどのような仕組みが設けられるのかといった点や、それに伴いログイン時情報に関してどのようなニーズの変化が生じるのかという点も踏まえつつ、その具体化に向けて引き続き検討を深め」とも記載されているが、どの様な手続きによろうと、発信者の特定のために必要となる情報自体に違いが出る訳はなく、この意味不明の記載は削除するべきである。

 上記の通り、省令改正によるログイン時のIPアドレス及びタイムスタンプの追加に賛同するが、これは省令改正で十分であり、それに留めるべきである。

○1-(4)その他の情報
(該当箇所)第15~16ページ「1-(4)その他の情報」全体
(意見)
 現状の課題を踏まえ、現行の手続きにおいて、発信者情報の開示対象に接続先URLを追加する事は問題なく、省令改正による接続先URLの追加に賛同する。また、接続先IPアドレスが現行省令で含まれているという解釈も問題はないと考える。

○2.新たな裁判手続の創設について
○2-(1)新たな裁判手続の必要性
(該当箇所)第16~17ページ「2-(1)新たな裁判手続の必要性」
(意見)
 ここで、一般的に、損害賠償まで、コンテンツプロバイダに対する発信者情報開示、アクセスプロバイダに対する発信者情報開示請求、特定された発信者への損害賠償請求訴訟を行うという、3段階の手続きを経る必要がある事から、裁判所が発信者情報の開示の適否を判断する非訟手続きによる新たな裁判手続きの創設の検討を進める事が適当であるとしているが、これは全く不適切である。

 インターネットの仕組みを考えれば、どうやっても、コンテンツプロバイダーに対する削除要求・情報開示・ログ保全、アクセスプロバイダーに対する情報開示・ログ保全、開示侵害者に対する損害賠償請求等という様に、情報流通経路を逆に辿って行くしかないので、侵害者の情報が被侵害者にあらかじめ分かっている場合や、コンテンツプロバイダーが侵害者の情報を直接保有している様な場合を除き、何をどうやろうが、一足飛びに、前もって分かり得ない後の手続きの当事者を前の手続きに巻き込む事はできず、もしそれができたら、それは不当と言う他ない。非訟手続きによればいいなどという事も無論ない。

 権利侵害を受けた者にとって1回の裁判手続きが望ましいのはその通りであろうが、望ましい事すなわち技術的、実務的に可能であり、検討の余地があるという事ではない。その事をきちんと認識してこの部分の記載は全面的に改め、非訟手続きによる新たな裁判手続きの創設の検討を進める事は適当ではないとするべきである。

○2-(2)新たな裁判手続の制度設計における論点
(該当箇所)第17~21ページ「2-(2)新たな裁判手続の制度設計における論点」全体
(意見)
 上記2-(1)についての項目で述べた通り、この新たな裁判手続きはおよそ実現可能とは思えないが、本当に発信者情報開示のために何かしらの新しい非公開の非訟手続きを定め、一般的なチェックが効かない中で開示要件を緩めたとしたら、第18ページに記載されている様に、適法な情報発信を行う発信者の保護が十分に図られなくなり、手続が濫用される恐れが強く、第21ページに記載されている様に、発信者の保護や表現の自由の確保が十分に図られなくなる恐れが強い。この点でも、この新たな裁判手続きの検討は不適切なものであって、完全にバランスを失しているものである。

 さらに書いておくと、1回の手続きで、各プロバイダーの情報開示を可能とし、権利回復を可能とするという事は、実質的に当事者不明の匿名裁判手続きを可能とするという事に等しいが、この事については脚注23に記載されている通り、法制的に多くの検討すべき課題があるのであって、日本におけるその導入は極めて困難である。

 今回のプロバイダー責任制限法に関する検討は、2011年の「利用者視点を踏まえたICTサービスに係る諸問題に関する研究会」における検討(その「プロバイダ責任制限法検証に関する提言」https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01kiban08_01000037.html参照)及び2015年の「ICT サービス安心・安全研究会」における検討(その報告書「インターネット上の個人情報・利用者情報等の流通への対応について」https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01kiban08_02000184.html参照)以来のものであって、本格的な検討としては2011年の研究会以来のものであると思うが、この研究会の提言の第41ページ(第3の4(8)及び(9))で、第三者機関の創設等について、「取り扱う対象が通信の秘密といった重要な権利に関連することからすると、発信者情報の開示の当否は、通信の秘密といった重要な国民の権利に関するものであるから、このような実体的な権利を終局的に確定させる判断は(公開の法廷における対審及び判決という)訴訟手続によらなければならないと考えられ」る、匿名訴訟について、「民事訴訟法をはじめとする現行の民事手続法はそのような訴訟制度を前提としておらず、また、当該制度は訴えの提起から判決の効力までといった民事訴訟全般に関連するものであることからすると、当該訴訟制度の創設の是非に関しては、プロバイダ責任制限法においてのみ検討することができる問題ではなく、様々な立場の意見を広く検討し、訴訟制度全体の問題として検討されるべき」としている。この研究会の提言の整理は今なお妥当するものであって、今般の検討においてもこの整理を守るべきである。

 発信者情報開示に関する諸外国の状況も、この研究会の提言に記載された2011年当時のものと大きく変わるものではない。アメリカでは仮名(John Doe)裁判とそのディスカバリー手続きにおいて裁判所の強制令状(subpoena)に基づく情報開示が可能であるが、ディスカバリーなどのアメリカの特異な裁判手続きはその負担や濫用についての批判も非常に強いものであって、日本に持ち込むべきではないものである。欧州では、欧州司法裁判所が、2020年7月9日に、知的財産権執行指令の下で違法アップロードが行われたオンラインプラットフォーム運営者に権利者が要求できるのは関係するユーザの住所のみであってメールや電話番号は含まれないとする判決を出した所である事からも分かる様に、欧州全体でも、発信者情報開示については、このレベルでしか統一されておらず、今も基本的に各国法制による部分が多い。イギリスでは、裁判所のNorwich Pharmacal orderによる情報開示が可能であるが、これはそれぞれ情報を持っている者に対して訴えを提起して求めるものであって、1回の非訟手続きで各プロバイダーの情報開示を可能とする様なものではない。ドイツでは上記の欧州司法裁のケースで問題となった著作権法などとは別に2017年のネットワーク執行法(Netzwerkdurchsetzungsgesetz)によって通信メディア法(Telemediengesetz)第14条に扇動や中傷による権利侵害の場合の情報開示が規定されたが、この様なドイツの法制については今なおナチス思想を強力に取り締まっているドイツの特殊事情を考慮する必要がある事に加え、これも、裁判所への訴えにより、必要に応じて各プロバイダーに順次開示請求をする必要があるのであって、1回の非訟手続きで各プロバイダーの情報開示を可能とする様なものではない。フランスでは、2004年のデジタル経済信用法(Loi pour la confiance dans l'economie numerique)第6条等に基づき、仮処分に相当するレフェレ(refere)などにより、発信者情報開示を要求する事ができるが、これも同様に、必要に応じて順次開示請求をする必要があるのであって、1回の非訟手続きで各プロバイダーの情報開示を可能とする様なものではない。

 また、7月24日〆切で意見募集がされていた「インターネット上の誹謗中傷への対応の在り方について(案)」にも記載されていた様に、フランスで、憲法裁判所が、2020年6月18日に、オンラインヘイトスピーチ規制法の主要部分を否定している事が典型的に示しているが、欧米においては、プライバシー・個人データ、情報・表現の自由をきちんと保護しようとする動きがある事も注目されてしかるべきである。

 上記の通り、手続が濫用され、適法な情報発信を行う発信者の保護や表現の自由の確保が十分に図られなくなる恐れが強く、国際的にも極めて特異かつ異質な制度とならざるを得ないものである、この非訟手続きによる新たな裁判手続きの創設に反対する。この部分の記載は全面的に改め、非訟手続きによる新たな裁判手続きの創設の検討を進める事は適当ではないとするべきである。

○3.ログの保存に関する取扱い
(該当箇所)第21~23ページ「3.ログの保存に関する取扱い」全体
(意見)
 ここで、権利侵害か否かが争われている個々の事案に関連する特定のログを迅速に保全できるようにする仕組みの検討について記載されているが、ログの保存についても、それぞれの段階で、各プロバイダーに発信者情報消去禁止の仮処分の申立てをするしかない筈であり、これは新たな仕組みを設けるかどうかという問題でも、上記の通りバランスを欠くものとなるだろう新たな裁判手続きとの関係でどうこうという問題でもない。

 現行の手続きにおいて、ログ保存に関して、何が問題で、具体的に何をどうしようとしているのか、全く理解する事ができないこの部分の記載は全面的に改めるべきであり、ログの保存についても現行の手続きを前提に問題点を洗い直し、その迅速化に資する検討に注力するべきである。

○4.海外事業者への発信者情報開示に関する課題
(該当箇所)第23ページ「4.海外事業者への発信者情報開示に関する課題」全体
(意見)
 上記2-(2)についての項目で述べた通り、非訟手続きによる新たな裁判手続きは、何をどう検討しようが、国際的にも極めて特異かつ異質な制度とならざるを得ないものであり、海外のプロバイダーがこの様な制度に基づく決定や命令に従う可能性は万に一つもない。ここでも、新たな裁判手続の創設に関する記載は削除するべきであり、各国の法制に基づく訴え・申し立ての支援や訴状の送達の迅速化など、実効性のある方策のみを検討するとするべきである。

<第3章 今後の検討の進め方>
(該当箇所)第25~26ページ「第3章 今後の検討の進め方」全体
(意見)
 上記の通り、現行の手続きにおいて、省令改正により、発信者情報の開示対象に電話番号と接続先URLを追加し、条件つきでログイン時のIPアドレス及びタイムスタンプを追加する事に賛同するが、今のところは省令改正よる改善に留めるべきであって、法改正のための法改正としか言いようがなく、濫用の恐れが非常に強く、その点で完全にバランスを失しているものである、非訟手続きに基づく新たな裁判手続きや仕組みの創設に反対する。

 今後の検討においては基本的な考え方に合った、現行のプロバイダー責任制限法の手続きの拡充や迅速化など実務的に実効性のある検討のみがなされる事を期待する。

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2020年7月19日 (日)

第427回:総務省・発信者情報開示の在り方に関する研究会中間とりまとめ(案)に対するパブコメ募集(8月14日〆切)

 Twitterで少し触れたが、総務省から、8月14日〆切で、発信者情報開示の在り方に関する研究会中間とりまとめ(案)(pdf)に対するパブコメ・意見募集がかかっているので、今回はその内容を見て行く。(総務省の意見募集ページ、電子政府のHP参照。)

 この中間とりまとめ案の第2ページにも書かれている通り、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(プロバイダー責任制限法)は2001年に作られたもので、そこで定められている、インターネット上の権利侵害に対するその発信者情報の開示手続きの概要、現状と課題について、第1章、第3~5ページに以下の様に書かれている。

2.発信者情報開示の概要

(1)プロバイダ責任制限法における発信者情報開示制度の概要

 プロバイダ責任制限法は、第4条において、権利侵害情報が匿名で発信された際、被害者(権利を侵害されたと主張する者)が、加害者(発信者)を特定して損害賠償請求等を行うことができるよう、一定の要件を満たす場合には、プロバイダに対し、当該加害者(発信者)の特定に資する情報の開示を請求する権利を定めている。

 具体的には、情報の流通によって自己の権利を侵害されたとする者は、①当該開示の請求をする者の権利が侵害されたことが明らかであるときであって、かつ、②発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるときには、プロバイダに対して発信者情報の開示を請求することができ(第1項)、これを受けたプロバイダは原則として当該発信者の意見を聴取した上で、開示をするかどうかを判断することとされている(第2項)。

 ここにいう発信者情報の範囲については「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律第四条第一項の発信者情報を定める省令」平成14年総務省令第57号。以下「省令」という。)で定めることとされており、現在、発信者の氏名又は名称(省令第1号)、発信者の住所(同第2号)、発信者の電子メールアドレス(同第3号)、侵害情報に係るIPアドレス(同第4号)、携帯電話端末等の利用者識別符号(同第5号)、SIMカード識別番号(同第6号)、タイムスタンプ(侵害情報が送信された年月日及び時刻)(同第7号)が列挙されている。

 なお、発信者情報の開示を受けた者は、発信者情報をみだりに用いてはならないとされ(3項)、また、開示の請求に応じないことにより開示の請求者に生じた損害について、プロバイダは、故意又は重過失がある場合でなければ、損害賠償責任を負わないこととされている(第4項)。

(2)発信者情報開示の実務の現状

 インターネット上で権利侵害投稿が行われた場合、一般的に、コンテンツプロバイダは、発信者の氏名・住所等の情報を保有していないことが多く、被害者が被害救済を図るためには、投稿時のIPアドレスを端緒として、権利侵害投稿の通信経路を辿って発信者を特定する実務が定着している。

 発信者情報開示の場面で、問題となる投稿が権利侵害に該当するか否かの判断が困難なケースなどにおいては、発信者情報が裁判外で開示されないことが多いため、多くの場合、①コンテンツプロバイダへの開示請求、②アクセスプロバイダへの開示請求を経て、発信者を特定した上で、③発信者に対する損害賠償請求等を行うという、3段階の裁判手続が必要になっている。

 具体的には、コンテンツプロバイダに対する開示請求は、仮処分の申立てによることが一般的であり、これにより、発信者の権利侵害投稿の際のIPアドレス及びタイムスタンプが開示される。また、アクセスプロバイダに対する開示請求は、訴訟提起によることが一般的であり、発信者の氏名及び住所が開示される。

(3)現状の発信者情報開示の実務における課題

 現行のプロバイダ責任制限法における発信者情報開示の実務においては、実務関係者等から以下の課題が指摘されている。

ア 発信者を特定できない場面の増加

 近年、投稿時のIPアドレス等を記録・保存していないコンテンツプロバイダの出現により、投稿時のIPアドレスから通信経路を辿ることにより発信者を特定することができない場合があるほか、アクセスプロバイダにおいて特定のIPアドレスを割り振った契約者(発信者)を特定するために接続先IPアドレス等の付加的な情報を必要とする場合があるなど、現行の省令に定められている発信者情報開示の対象のみでは、発信者を特定することが技術的に困難な場面が増加している。

 また、発信者情報開示の場面においては、被害者が投稿後、一定の時間が経ってから権利侵害投稿に気づく場合や、コンテンツプロバイダにおける開示手続に一定の時間がかかるケースでは、アクセスプロバイダが保有するIPアドレスなどのログが請求前に消去されてしまう場合がある等のため、発信者の特定に至らない可能性がある。

イ 発信者特定のための裁判手続の負担

 前述のとおり、権利侵害が明白と思われる場合であっても、実務上、発信者情報がプロバイダから裁判外で(任意に)開示されることはそれほど多くはないことが指摘されている。

 このため、裁判外で開示がなされない場合、発信者の特定のためは、一般的に、①コンテンツプロバイダへの仮処分の申立て、②アクセスプロバイダへの訴訟提起という2回の裁判手続が必要になることから、これらの裁判手続に多くの時間・コストがかかり、救済を求める被害者にとって大きな負担となっている。

 したがって、これらの課題を解決する方策について、以下、具体的な検討を行う。

 前提の理解が必要なのでこの部分を少し長く引いたが、要するに、プロバイダー責任制限法において、SNSの投稿などにおける発信者情報の開示について規定されているが、現状、

  • 他に接続先IPアドレス等が必要とする場合があるなど、現行の情報開示の対象のみでは、発信者を特定することが技術的に困難な場面があること
  • コンテンツプロバイダへの投稿時のIPアドレスの開示を求める仮処分の申立てと、アクセスプロバイダへの開示された投稿時のIPアドレスによる訴訟提起という2回の裁判手続が実際の発信者の情報開示に必要となり、時間とコストがかかること

という2つの課題があることが書かれている。

 さらに、第5~6ページに、

3.検討に当たっての基本的な考え方

 第2章において具体的な論点について検討を行うに当たっては、基本的な考え方として、以下の点について確認しておくことが重要である。

 まず、発信者情報開示請求に係る制度の見直しに当たっては、発信者情報開示請求権によって確保を図ろうとする法益は何か、を確認した上で、その実現のための具体的な方策の在り方について検討を深めることが適当である。

 具体的には、発信者情報開示請求に係る制度の趣旨は、裁判を受ける権利の保障という重要な目的を達成するために、発信者の表現の自由、プライバシー及び通信の秘密を制約する上で、当該制約を必要最小限度のものにとどめる必要性があるという前提を踏まえ、権利侵害を受けたとする者(「被害者」)の救済がいかに円滑に図られるようにするか、という点(被害者救済という法益)と、適法な情報発信を行っている者のプライバシー・通信の秘密をいかに確保するか、という点(表現の自由の確保という法益)の両者の法益を適切に確保することにあると考えられる。

したがって、具体的な制度設計に当たっては、常にこの観点に留意しながら検討を深めることが適当である。

と書かれている。ここで、権利侵害に対する救済が必要なのは無論の事とは言え、制度改正が逆に行き過ぎれば、その濫用や悪用によって発信行為・表現が萎縮し、表現の自由の抑圧に繋がる危険性があるということをきちんと認識し、その間でバランスを取る事を基本的な考え方としている事は高く評価できるだろう。

 その後、この中間まとめ案の第6ページからの第2章以下でプロバイダー責任制限法の改正提案がされているが、その主な内容をまとめると、以下のようになる。

  • 発信者情報の開示対象の拡大として、省令で電話番号を追加(第8~11ページ)
  • 発信者情報の開示対象として、投稿時だけでなくログイン時のIPアドレス及びタイムスタンプ(ログイン時情報)も含まれる事の明確化(第11~15ページ)
  • 発信者情報の開示対象として、接続先IPアドレスが現行省令で含まれているという解釈の提示、接続先URLの省令による追加(第15~16ページ)
  • 裁判所が発信者情報の開示の適否を判断する、非訟手続きによる新たな裁判手続きの創設の検討(第16~21ページ)
  • 権利侵害か否かが争われている個々の事案に関連する特定のログを迅速に保全できるようにする仕組みの検討(第21~23ページ)

そして、最後、第25~26ページに、

第3章 今後の検討の進め方

 インターネット上の情報流通の増加や、情報流通の基盤となるサービスの多様化、それに伴うインターネット上における権利侵害情報の流通の増加を踏まえ、本研究会では、プロバイダ責任制限法における発信者情報開示の在り方に関して、制度及び実務上の主要課題並びに課題解決のための方策についての全体的な方向性を中間とりまとめとして提示した。

 総務省においては、本中間取りまとめを踏まえ、発信者情報の開示対象の追加については、まずは「電話番号」を開示対象に追加するため、迅速に省令の改正を行うことが適当である。併せて、当該省令改正に関して円滑な運用が行われるよう、「電気通信事業における個人情報保護に関するガイドライン」(総務省告示)の解説を改訂することが適当である。

 次に、「ログイン時情報」については、開示対象となるログイン時情報及び請求の相手方となる「開示関係役務提供者」の範囲を明確化する観点から、省令改正ほか、必要に応じて法改正によって対応を図ることも視野に入れて、具体化を進めていくことが適当である。

 また、新たな裁判手続の創設、特定の通信ログの早期保全のための方策等については、本中間とりまとめを踏まえて、今後、被害者の救済の観点のみならず発信者の権利利益の確保の観点にも十分配慮を図りながら、様々な立場からの意見を幅広く聴取して、法改正により新たな裁判手続を創設することについて、創設の可否を含めて、検討を進めていくことが適当である。

 本研究会では、これらの課題に関し、さらに整理が必要な事項について引き続き議論を行い、最終取りまとめにおいて追加的に提言を行う予定としている。

と、今後の進め方について書かれ、この中間とりまとめ案の検討事項の内、省令による、発信者情報の開示対象に電話番号を追加はすぐにもされる予定であり(この部分に書かれていないが、第16ページの脚注21の接続先URLの追加もすぐにされるのだろう)、その他のログイン時情報の取扱い、発信者情報開示のための非訟手続の創設、ログの迅速な保全の仕組みはさらに具体化のための検討を進めて行く予定である事が分かる。

 現状の課題を踏まえ、現行の手続きにおいて、発信者情報の開示対象に電話番号や接続先URLを追加する事は問題ないであろうし、ログイン時情報についても、

  • 「権利侵害投稿の通信とログイン時の通信とが、同一の発信者によるものである場合に限り、開示できることとする必要がある」(第13ページ)
  • 「開示を可能とする情報が際限なく拡大すれば、権利侵害投稿とは関係の薄い他の通信の秘密やプライバシーを侵害するおそれが高まることから、開示が認められる条件や対象の範囲について、一定の限定を付すことが考えられる」、「開示対象の範囲が不明確であるために実務が混乱することのないように、開示対象となるログイン時情報を省令において明確化することが適当である」(第13~15ページ)

と書かれている様に、気をつけるべき点は幾つかあるものの、基本的に、権利侵害投稿の通信とログイン時の通信とが、同一の発信者によるものである場合に限るといった限定を付け加える事で、現行の手続きにおいて、省令改正により、ログイン時のIPアドレスとタイムスタンプを追加する事に大きな問題はないだろう。

 このログイン時情報については、

  • 「ログイン時情報をもとに特定されたアクセスプロバイダに対して、ログイン時の通信の発信者の住所・氏名の開示を請求することとなるが、当該開示請求を受けるプロバイダは、プロバイダ責任制限法第4条第1項に規定する『開示関係役務提供者』の範囲に含まれない場合もあり得ることから、請求の相手方となる『開示関係役務提供者』の範囲を明確化する観点から、必要に応じて、法改正によって対応を図ることを視野に入れ、具体化に向けた整理を進めていくことが適当である」(第15ページ)

とも書かれており、総務省内でプロバイダー責任制限法について何かしら法改正がしたいのかと思えるが、ログイン時のIPアドレスとタイムスタンプによる開示請求で法律上の「開示関係役務提供者」の範囲に含まれない場合もあり得るとする解釈は厳格に過ぎ、この点で法改正は不要だろうと私は考える。(今までも、平成23、27年の省令改正により、ポート番号やSIMカード識別番号などが追加されている(省令と当時の総務省の省令に関する意見募集ページ1参照)。)

 それ以上に、プロバイダー責任制限法について法改正のための法改正をしたい勢力がいるのではないかと思え、かつ、余りにも検討が生煮えで非常に大きな問題を含んでいると思える部分は、何と言っても、新たな裁判手続きの創設と迅速なログ保全の仕組みに関する部分である。

 インターネットの仕組みを考えれば、どうやっても、コンテンツプロバイダーに対する削除要求・情報開示・ログ保全、アクセスプロバイダーに対する情報開示・ログ保全、開示侵害者に対する損害賠償請求等という様に、情報流通経路を順に辿って行くしかないので、コンテンツプロバイダーが侵害者の情報を直接保有している様な場合を除き、何をどうやろうが、一足飛びに、前もって分かり得ない後の手続きの当事者を前の手続きに巻き込む事はできず、もしそれができたら、それは不当と言う他ない。非訟事件手続きによればいいなどという事も無論ない(非訟事件手続法参照)。

 関連して開示対象とすべきログイン時情報の範囲との関係でも、「後述の新たな裁判手続の創設に関して具体的にどのような仕組みが設けられるのかといった点や、それに伴いログイン時情報に関してどのようなニーズの変化が生じるのかという点も踏まえつつ、その具体化に向けて引き続き検討を深め」(第15ページ)などとも書かれているのだが、どの様な手続きによろうと、発信者の特定のために必要となる情報自体に違いが出る訳はなく、これも私にはさっぱり理解できない記載である。

 この新たな裁判手続きについては、具体的な制度設計が全く不明で、およそ実現可能とは思えないのだが、本当に何かしらの新しい非公開の手続きを定め、一般的なチェックが効かない中で開示要件を緩めたとしたら、第18ページの、

他方、訴訟手続に代えて非訟手続とした場合の課題としては、非訟手続においては、原告と被告という対審構造や裁判手続の公開が原則とはされていないこと、既判力がないことなどの特徴があることから、制度設計次第では、

①現行の発信者情報開示訴訟とは異なる当事者構造となることにより、あるいは、発信者側の主張内容が裁判手続に十分に反映されないことにより、適法な情報発信を行う発信者の保護が十分に図られなくなるおそれがあり得ること

②裁判手続の取下げや紛争の蒸し返しが比較的容易であり、また、それが外部から見えにくい等により、手続の濫用の可能性があり得ること

等が挙げられる。

という批判がそのまま該当する状況が現出するだろうと私は思う。(この新たな裁判手続きの案がよほど生煮えの儘ごり押しで通されたのだろう事は、7月10日の第4回研究会で構成員から慎重に検討するべきという意見(pdf)が出されている事からも分かる。)

 ログの保存についても、それぞれの段階で、各プロバイダーに発信者情報消去禁止の仮処分の申立てをするしかない筈で、それを如何に迅速化するかという話ならまだ分からなくもないが、現行の手続きで何が問題で、具体的に何をどうしようとしているのか、この中間まとめ案で、「早期に発信者情報を特定・保全できるようにする仕組みを設けることが考えられる」、「当該仕組みの導入に向けて、法改正を視野に制度設計の具体化に向けた検討を深めていくことが適当である」、「その際、前述の新たな裁判手続との関係にも留意が必要である」(第23ページ)などと書かれているが、私には全く分からない。

 この中間とりまとめ案は、プロバイダー責任制限法の発信者情報開示のあり方の検討にあたっては、片や権利侵害の救済、片やプライバシー・通信の秘密、表現の自由という重要な法益の間できちんとバランスを取る必要があるという事を正しく認識していながら、あたら法改正のために法改正をしたいとばかりに内容空疎な新たな裁判手続きや仕組みといった言葉を無意味に踊らせているものであって、その点で完全にバランスを失しているものである。私は現行のプロバイダー責任制限法の手続きの拡充や迅速化の検討自体はされて然るべきだと思っているが、濫用の懸念の強い非訟手続による新たな裁判手続きの創設に反対するとともに、ログの保存についても現行の手続きを前提に問題点を洗い直す様にするべきとの意見を出すつもりである。

 最後に、合わせ触れておくと、ごっちゃになりやすいが、総務省からは、インターネット上の誹謗中傷への対応の在り方について(案)(pdf)のパブコメも7月24日〆切でかかっている。(総務省の意見募集ページ2、電子政府のHP2参照。)

 こちらのインターネット上の誹謗中傷への対応の在り方について(案)は、発信者情報開示を除く一般的な誹謗中傷対策について記載しているものだが、総論で「対策の実施に当たっては、これまでも官民が連携し、(1)ユーザに対する情報モラル向上のための啓発活動、(2)事業者による取組や事業者団体による知見・ノウハウの共有、(3)国における環境整備、(4)被害者への相談対応、といった枠組によりそれぞれ取組を実施してきたところ、今後も、基本的には同様の枠組を踏襲しつつ、総合的な対策を講じていくことが重要」(第2ページ)と書かれている通り、既存の枠組みに沿って、ユーザに対する情報リテラシー向上のための啓発活動の強化や、プラットフォーム事業者における削除等の対応の強化や透明性の向上の促進などを進めて行くとするもので、特に問題のある事は書かれていない。

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2019年11月17日 (日)

第415回:ダウンロード違法化・犯罪化を含まないスイスの著作権法改正、写り込み等に関する文化庁の権利制限拡充検討、ブロッキング訴訟東京高裁判決

 文化庁でさらに検討が進められるのだろう、前回パブコメを載せたダウンロード違法化・犯罪化の対象拡大の検討には引き続き最大限の注意が必要だと思っているが、この様なインターネット海賊版対策の動きにも関連する幾つかの重要な国内外の動きについてまとめて書いておきたい。

(1)ダウンロード違法化・犯罪化を含まないスイスの著作権法改正
 既にGIGAZINEで記事になっている通り、スイスでもこの9月に最近著作権法改正がその国会を通っている。

 この著作権法改正は、スイス国会の法案審議に関するHPに掲載されている、政府の法案説明資料(ドイツ語)(pdf)フランス語版(pdf))の最初の概要に、

Der Bundesrat will das Urheberrecht modernisieren. Im Zentrum der Gesetzesrevision stehen Massnahmen, mit denen die Internetpiraterie besser bekampft werden kann, ohne dabei die Konsumentinnen und Konsumenten solcher Angebote zu kriminalisieren. Zudem sollen verschiedene gesetzliche Bestimmungen an neuere technologische und rechtliche Entwicklungen angepasst werden, um die Chancen und Herausforderungen der Digitalisierung im Urheberrecht nutzen bzw. meistern zu konnen. Profitieren soll insbesondere die Forschung. Gleichzeitig enthalt die Vorlage eine Reihe weiterer Massnahmen, mit denen zentrale Anliegen der Kulturschaffenden, der Nutzerinnen und Nutzer sowie der Konsumentinnen und Konsumenten erfullt werden. Schliesslich sollen zwei Abkommen der Weltorganisation fur geistiges Eigentum ratifiziert werden.

スイス政府は著作権を現代化したいと考えている。法改正の中心は、消費者がその提供により犯罪者とされる事がないようにしつつ、インターネット海賊行為とより良く戦う手段にある。そこで様々な法規制は著作権においてデジタル化の機会と挑戦を利用若しくは向上できるよう新しい技術的、法的発展に適合されるべきである。特に研究の利便が図られるべきである。同時に法案は文化創造者、利用者並びに消費者の主要な要求を満たす一連の様々な手段を含んでいる。最後に2つの世界知的所有権機関の条約が批准されるべきである。

とある通り、消費者を犯罪者にしないという事を明確にしており、そのためダウンロード違法化・犯罪化は最初から含まれていない。

 この点については、2018年12月13日の法案の最初の国会審議でも、以下の通り、多くの党の議員が賛同している。

Bauer Philippe (RL, NE), pour la commission:
...
Le but de la modification de la loi sur le droit d'auteur est de moderniser notre droit, de l'adapter aux evolutions technologiques, de permettre de lutter contre le piratage sur Internet, tout en essayant de ne pas criminaliser les consommateurs.
...

Merlini Giovanni (RL, TI):
...
Revisionsbedarf ist insoweit gegeben, als es notig ist, die Rechte der Kulturschaffenden und der Kulturwirtschaft zu starken und sie insbesondere vor den illegalen Piraterieangeboten im Internet zu schutzen. Unsere Fraktion teilt zudem das Anliegen des Bundesrates, die Konsumenten rechtswidriger Angebote nicht zu kriminalisieren.
...

Marti Min Li (S, ZH):
...
Umso erstaunlicher und umso bemerkenswerter ist es, dass in einem langjahrigen Prozess an einem runden Tisch mit allen Akteuren ein Kompromiss gefunden werden konnte. Dieser Kompromiss liegt Ihnen hier vor. Dass bei einem Kompromiss nicht alle glucklich sind und dass nicht alle Punkte in allen Fallen fur alle Seiten befriedigend gelost werden konnten, liegt in der Natur der Sache. Dennoch sind wir uberzeugt, dass dieser Kompromiss im Grossen und Ganzen diese sehr schwierige Balance gefunden hat. Fur uns war immer zentral, dass die Kulturschaffenden und Kulturproduzentinnen und -produzenten zu ihren verdienten Einnahmen gelangen konnen, dass aber auch die Konsumentinnen und Konsumenten nicht kriminalisiert werden durfen. Das ist hier gelungen.
...

Gmur-Schonenberger Andrea (C, LU): Es ist an der Zeit, dass das Urheberrechtsgesetz modernisiert und den Herausforderungen der Gegenwart angepasst wird. Die CVP-Fraktion unterstutzt dieses Ziel. Dabei geht es darum, einerseits die Internetpiraterie zu bekampfen, andererseits die Chancen der Digitalisierung besser zu nutzen. Wichtig ist uns, dass die Konsumentinnen und Konsumenten nicht kriminalisiert werden. Auch Netzsperren sind keine vorgesehen, was wir begrussen.
...

Schwander Pirmin (V, SZ):
...
Der rasche Zugang zu Buchern, Filmen und Musik hat dazu gefuhrt, dass auch Internetpiraterie entsteht und dadurch den Urheberinnen und Urhebern Einnahmen entgehen. Deshalb ist es sehr wichtig, dass wir hier Remedur schaffen und die Rechte der Urheberinnen und Urheber starken. Das ist ein Ziel, das hier erreicht werden soll und unseres Erachtens auch erreicht wird. Die Konsumentinnen und Konsumenten ihrerseits wollen attraktive Angebote zu fairen Preisen. Deshalb ist es wichtig, dass wir keine Netzsperren einfuhren und dass wir die Konsumentinnen und Konsumenten auch nicht kriminalisieren. Wir mussen aber darauf schauen, dass die Konsumentinnen und Konsumenten durch diese neue Gesetzgebung nicht doppelt oder mehrfach belastet werden. Das zu diesem Spannungsfeld. Ich glaube, der vorliegende Kompromiss sollte eine Mehrheit finden.
...

Sommaruga Simonetta, Bundesratin: Das Internet hat auch im Bereich Kultur viele Vorteile. Es ermoglicht einen sofortigen, einfachen Zugang zu Kultur. Es reichen oft ein paar Klicks, und schon erhalten wir Zugang zu Buchern, zu Fotografien, Filmen, Musikstucken und naturlich auch zu Buchern, die langst vergriffen sind, oder zu historischen Fotografien. Das alles ist die schone, die positive Seite des Internets.
Die Kehrseite ist, dass viele Angebote illegal sind. Fur die Buchverlage, fur die Filmindustrie, die Plattenfirmen und naturlich auch fur die Kulturschaffenden stellen illegale Angebote ein ernsthaftes Problem dar; erstens naturlich, weil ihnen Einnahmen entgehen, und zweitens, weil ihre Urheberrechte - das sind ja Eigentumsrechte, Rechte am geistigen Eigentum - verletzt werden. Sie sind auch insofern problematisch, als sie die Entstehung von legalen Angeboten erschweren oder sogar verhindern. Der Bundesrat mochte darum effizienter gegen die Internetpiraterie vorgehen, ohne aber dass die Konsumenten kriminalisiert werden.
...

バウアー・フィリップ(自由民主党、ノイエンブルク)、委員会に:
(略)
法改正の目的は私たちの法を現代化し、技術的発展にそれを適応させ、インターネット上の海賊行為と戦う事を可能にする事にありますが、消費者を犯罪者にするつもりは全くありません。
(略)

メルリーニ・ジョヴァンニ(自由民主党、ティチーノ):
(略)
法改正の必要性は、文化創造者と文化経済を強化し、特にインターネットにおける違法な海賊版の提供からそれを守るのに必要な限りにおいて存在しています。私たちの党は、違法な提供について消費者を犯罪者にしないという事において政府の要請と同じ立場に立っています。
(略)

マルティ・ミンリ(社会民主党、チューリッヒ):
(略)
全ての関係者によるラウンドテーブルでの長年に渡る検討において一つの妥協が見つかり得たという事は非常に驚くべき、瞠目すべき事です。この妥協は今皆さんの前にあります。妥協においては皆に都合が良いという事はなく、あらゆる場合におけるあらゆる点について全員が満足する様に解決されている訳でもないという事は当然の事です。ですが、この妥協が全体において多くそのとてもむずかしい均衡を見つけたと私たちは確信しています。文化創造者及び文化製作者が収入を得る事ができる事もそうですが、消費者が犯罪者にされない事も私たちにとっては常に中心的な関心事項でした。ここでそれは上手く行っています。
(略)

グミュール-シェーネンベルガー・アンドレア(キリスト教民主党、ルツェルン):著作権法が現代化され、現在の要請に応える時が来ています。キリスト教民主党はこの目的を支持します。そのため、一方でインターネット海賊行為と戦い、他方でデジタル化の機会をより良く使える様にするべきでしょう。私たちにとって重要な事は消費者が犯罪者とされない事です。インターネットブロッキングが考えられていない事も私たちは喜ばしく思っています。
(略)

シュワンダー・ピルミン(国民党、シュヴィーツ):
(略)
本、映画及び音楽への急激なアクセスによってインタネット海賊行為が生じ、それにより著作権者が収入を逃す事になっていました。したがって、ここで私たちが対策を講じ、著作権者の権利を強化する事はとても重要です。それはここで私たちが達成するべき目的の1つであり、私たちの考えは達成されるでしょう。消費者は、彼らも公正な価格での魅力的な提供を求めています。したがって、私たちがインターネットブロッキングを導入せず、消費者を犯罪者にもしない事が重要です。この新たな法改正によって消費者に2重、多重に負担がかからない様にしなければなりません。それはこの議論の場の仕事です。今のこの妥協は多数の賛同を得ると私は信じています。

ソンマルーガ・シモネッタ、政府連邦参事会:インターネットは文化領域においても多くの利点を有しています。これは文化への即時の簡単なアクセスを可能にしています。数クリックで十分な事も多く、それで私たちはすぐに本、写真、映画、楽曲へのアクセスが手に入ります、もちろん長く絶版になっていた本や歴史的写真にもです。これら全てはインターネットの素晴らしい、肯定的な面です。
反対の面は、多くの提供が違法な事です。出版社にとって、映画産業、レコード会社にとって、もちろん文化創造者にとっても違法提供は深刻な問題です。もちろんまず収入を逃すからですが、第2に、その著作権-財産権、知的財産権です-が侵害されるからです。これはまた適法な提供の発生を困難にする又は抑止してしまうだけ問題です。そのため政府は、消費者が犯罪者にされる事がないようにしつつ、より効果的にインターネット海賊行為に対抗したいと考えました。
(略)

 ドイツなど近くの国でダウンロード違法化・犯罪化が全く上手く行っていない事を見ている所為だろうか、上でリンクを張った政府による法案説明資料にも書かれている通り、2012年から消費者・利用者も入った検討会で著作権法改正についてきちんと議論を積み重ねて来た結果だろうか、現時点でスイスでは政府・国会によってダウンロード違法化・犯罪化は否定されているのである。インターネットブロッキングについての言及もあるが、やはりその導入に否定的である事は注目されていいだろう。

 今まで散々書いてきた事だが、この様なスイスの著作権法改正の例を持ち出すまでもなく、広くダウンロードを違法・犯罪にして消費者・利用者・ユーザーをことごとく侵害者・犯罪者にしたところで良い事が何もないのは日の目を見るより明らかな事である。このごく当たり前の事が日本の政府与党・国会での検討でなかなか通じないのは極めて残念な事と私は常々思っている。

 なお、詳細は省くが、スイス国会における著作権法改正として、最終的に原案通り法改正(pdf)フランス語版(pdf))、北京条約批准(pdf)フランス語版(pdf))、マラケシュ条約批准(pdf)フランス語版(pdf))が通っており、全体として、

  • 写真の著作物の定義の拡充・明確化
  • 視聴覚著作物の送信可能化における著作権管理団体を通じた補償金請求権の法定
  • 孤児著作物規定の全ての著作物への適用拡大とその利用条件の明確化
  • 研究のための例外の創設
  • 図書館等における目録作成のための例外の創設
  • インターネットホスティングサービス提供者のテイクダウン・ステイダウン義務の法定
  • 代表著作権管理団体による拡大集合ライセンス規定の創設
  • 視聴覚的実演に関する北京条約批准
  • 視聴覚障害者等の著作物利用促進のためのマラケシュ条約批准

などの事項が含まれている。

 確かに著作権保護強化の方向である事には違いないので、海賊党がこの法改正に対して国民投票を目指し署名を集めようとしているという報道もあるが(nzz.chの記事(ドイツ語)、rts.chの記事(フランス語))、このスイスの著作権法改正はそこまで一般国民に影響の出るものではなく、反対の国民投票が成功する事はないのではないかと私は見ている。

(2)写り込み等に関する文化庁の権利制限拡充検討
 これもtwitterで少し触れていた点になるが、文化庁の法制・基本問題小委員会で写り込み等に関する権利制限の拡充について検討が進められている。

 一番最近の10月30日の第3回委員会の資料として、写り込みに係る権利制限規定の拡充に関する中間まとめ(案)が出されている。その「3.論点整理」から、現行の著作権法第30条の2に関する主な改正の方向性の部分を以下に抜き出す。

(1)対象行為
(略)
①生放送・生配信の取扱い
 生放送・生配信については、写り込みが生じる場合が多く想定される一方で、録音・録画の方法による場合と比較して権利者に与える不利益が大きいわけではないと考えられることから、対象に含めることが適当である。

②固定方法の拡大(スクリーンショット、模写等)
 写真の撮影・録音・録画以外の固定方法については、①スクリーンショットやプリントスクリーンのように、単に固定技術が相違するに過ぎないものと、②模写やCG化のように、不可避的な写り込みが生じない(著作物を除いて創作することが比較的容易である)という点で性質が異なるものが存在する。
 ①については、スマートフォンやタブレット端末等の急速な普及・発展により、日常生活においてごく一般的に行われるようになっているところ、著作物性のない文章や自らの著作物を保存する際に他人が著作権を有する画像が入り込む場合など、不可避的な写り込みが生じることが想定される一方で、技術の相違によって権利者に与える不利益に特段の差異はないと考えられることから、対象に含めることが適当である。②については、不可避的な写り込みが生じないとしても、被写体を忠実に再現するために著作物の複製等を行う必要がある場合も想定されるところ、写真の撮影等による場合と比較して権利者に与える不利益に特段の差異がない以上、そのような模写等の行為を行う自由を確保することが創作活動の促進・文化の発展等の観点からも望ましいと考えられることから、対象に含めることが適当である。
 なお、写り込みとは若干場面が異なるが、例えば、「自らが著作権を有する著作物が掲載された雑誌の記事を複製する際に、同一ページに掲載された他人の著作物が入り込んでしまう場合」などについても、日常生活等における一般な行為に伴い付随的に他人の著作物が利用される場面であり、写真の撮影等の場合と比較して権利者に与える不利益の程度に特段の差異がないと考えられることから、対象に含めることが適当である。

③条文化に当たっての留意事項
 上記を踏まえ、条文化に当たっては、技術・手法等にかかわらず幅広い行為が対象に含まれるよう、包括的な規定とすることが適当である。ただし、それによって、写り込みが生じ得るものとして想定している場合(様々な事物等をそのまま・忠実に固定・再現したり、伝達する場合)以外が広く対象に含まれてしまうことは適切でないため、適用範囲が過度に絞り込まれることのないよう注意しつつも、適切な表現で対象行為を特定する必要がある。

(2)著作物創作要件
(略)
イ.見直しの方向性
 現行規定の要件は、盗撮行為等に伴う写り込みを権利制限規定の対象から除外するとともに著作物の創作行為を促進する観点からは一定の合理性を有するとも考えられるが、固定カメラでの撮影等の場合にも、不可避的に写り込みが生じる場合が多く想定されるところ、本規定の主たる正当化根拠は、権利者に与える不利益が特段ない又は軽微であるという点にあるため、著作物を創作する場合か否かは必ずしも本質的な要素ではないと考えられる。このため、著作物を創作する場合以外も広く対象に含めることが適当である。
 ただし、単純に「著作物を創作するに当たつて」という要件を削除した場合には、映画の盗撮等の違法行為に伴う写り込みについても適法となり得ることには留意が必要である。この点については、①映画の盗撮等の行為自体が違法とされることをもって足りる(当該行為自体が違法となることで、そのような行為は十分に抑止されており、写り込み部分についてあえて違法とする必要はない)という考え方と、②主たる行為が著作権法上許容されないものであるにもかかわらず、それに伴う写り込みを適法とする必要はない(写り込んだ著作物の著作権者による権利行使が出来なくなるのは不合理である)という考え方の両方があり得る。
 仮に②の考え方を採用する場合には、例えば、端的に、著作権を侵害する行為に伴う写り込みは本規定の対象外とする旨の要件を設定することが考えられるが、本規定の主たる正当化根拠は権利者に与える不利益が特段ない又は軽微であるという点にあるところ、主たる行為が違法であることのみをもって一律に権利制限規定の適用対象外とすることが妥当か否かには一定の疑義もあり、そういった問題意識から①の考え方を支持する意見も複数あった。この点については、ただし書や他の要件の解釈に委ねることによる対応の可否も含め、法整備に当たって、適切な整理・措置がなされることが適当である。

(3)分離困難性・付随性
(略)
イ.見直しの方向性
①両者の関係性及び「分離困難性」の要否
 本規定の正当化根拠については、その著作物の利用を主たる目的としない他の行為に伴い付随的に生じる利用であり、利用が質的又は量的に社会通念上軽微であることが担保されるのであれば、著作権者にとって保護すべきマーケットと競合する可能性が想定しづらい(したがって権利者の利益を不当に害しない)という点に本質があるものと考えられるところ、これを担保する観点からは、「付随性」が重要な要件であると考えられる。 一方で、「分離困難性」については、「付随性」を満たす場合の典型例を示すものではあるが、この要件を課することが、本規定の正当化根拠からして必須のものとは考えられず、「付随性」や「軽微性」等により権利者の利益を不当に害しないことは十分に担保できると考えられる。このため、日常生活等において一般的に行われている行為を広く対象に含める観点から、この要件は削除することが適当である。

②「分離困難性」の削除に伴う要件追加の要否
 単に「分離困難性」の要件の削除のみを行った場合には、例えば、「分離が容易かつ合理的な場合であって、社会通念上、その著作物を利用する必要性・正当性が全く認められないような状況において意図的に写し込むこと」など、その著作物の利用が主目的であるにもかかわらず、それを覆い隠すために本規定を利用するといった濫用的な行為まで可能となってしまうおそれがある。
 このため、適用範囲が過度に絞り込まれることのないよう注意しつつも、例えば、主たる行為を行う上で「正当(又は相当)な範囲内において」などの要件を追加することにより、一定の歯止めをかけることが適当である。

③被写体の中に当該著作物が含まれる場合の取扱い
 本規定の対象として、メインの被写体と付随して取り込まれる著作物が別個のものである場合(事例1)のほか、街の雑踏を撮影する場合のように被写体(雑踏の光景)の中に当該著作物が含まれる場合(事例2)も含めるべきことには異論はないと考えられるが、現行規定のように「写真の撮影等の対象とするAに付随して対象となるB」といった規定ぶりを維持した場合には、事例2が対象に含まれるか否かが不明確となる。
 このため、条文化に当たっては、事例1と事例2を併記することにより、事例2についても対象に含まれることを明確化することが適当である。ただし、その際には、例えば、多数の著作物で構成される集合著作物・結合著作物(個々の著作物は、当該集合著作物・結合著作物の軽微な構成部分となっている)自体をメインの被写体とすることなど想定外の事例が対象に含まれることのないよう、注意する必要がある。

(4)軽微性
イ.見直しの方向性
 軽微な構成部分といえるか否かが上記のような総合的な考慮によるものであることを明確化し、利用者の判断に資するようにするため、法第47条の5第1項の規定(「・・その利用に供される部分の占める割合、その利用に供される部分の量、その利用に供される際の表示の精度その他の要素に照らし軽微なものに限る」)も参考にしつつ、考慮要素を複数明記することが適当である。
 なお、ここでいう「軽微」については、利用行為の態様に応じて客観的に要件該当性が判断される概念であり、当該行為が高い公益性・社会的価値を有することなどが判断に直接影響するものではないことに注意が必要である。

(5)対象支分権
(略)
イ.見直しの方向性
 上記(1)の対象行為の拡大に伴い、「公衆送信(送信可能化を含む)」、「演奏」、「上映」等を広く対象に含める観点から、第2項と同様に、「いずれの方法によるかを問わず、利用することができる」という形で包括的な規定とすることが適当である。

 文化庁の資料はいつも通り長ったらしく分かりにくいが、要するに、現行の写真等における写り込みに関する権利制限規定の対象を、生放送・生配信、スクリーンショット、模写等に拡大し、不要な分離困難性の要件を削除するという事であって、その事自体は写り込みの権利制限の性質から考えて当然の事としか思えず、今更何をと思うが、ここで、著作物創作要件の項目で、「著作物を創作する場合以外も広く対象に含めることが適当である」としながら、「違法行為に伴う写り込みについても適法となり得ることには留意が必要」で、「写り込み部分についてあえて違法とする必要はない」という考え方と「著作権を侵害する行為に伴う写り込みは本規定の対象外とする旨の要件を設定する」という考え方があり、「この点については、ただし書や他の要件の解釈に委ねることによる対応の可否も含め、法整備に当たって、適切な整理・措置がなされることが適当である」と奥歯に物の挟まった様な言い方をしている事には注意しておくべきだろう。

 ダウンロード違法化・犯罪化の対象拡大の問題において違法スクリーンショットの問題がかなり取り上げられたが(私は別にスクリーンショットのみの問題とはカケラも思っていないが)、今までやって来た事を考えても、違法な部分が含まれるスクリーンショット等を軽微な写り込みとして完全に合法化し、この点でわずかながらでも問題の軽減化を図ろうとする考えは文化庁にはない様に見えるのである。

 もう1つ、研究目的に係る権利制限規定の創設に当たっての検討について(案)(pdf)という資料も出されている。研究のための一般的な権利制限など今すぐあって良いものと私は思うが、こちらも、今年度は議論と調査研究で、来年度以降に権利制限規定の制度設計等について検討と極めて見通しが悪い。

 いずれにせよ、文化庁の検討についてはまた中間まとめのパブコメ(文化庁のHP、電子政府のHP参照)などで意見を出したいと思っている。

(3)ブロッキング訴訟東京高裁判決
 最後に、弁護士ドットコムの記事になっているが、10月30日にNTTコミュニケーションズに対するブロッキングに関する訴訟の判決が東京高裁で出された。この記事にも書かれ、また、訴訟を提起した中澤佑一弁護士がそのtwitterで引用している様に、

本件ブロッキングを実施した場合には,第1審被告によりユーザーの全通信内容(アクセス先)の検知行為が実行され,このことが日本国憲法21条2項の通信の秘密の侵害に該当する可能性があることは,第1審原告が指摘するとおりである。児童ポルノ事案のように,被害児童の心に取り返しのつかない大きな傷を与えるという日本国憲法13条の個人の尊厳,幸福追求の権利にかかわる問題と異なり,著作権のように,逸失利益という日本国憲法29条の財産権(財産上の被害)の問題にとどまる本件のような問題は,通信の秘密を制限するには,より慎重な検討が求められるところではある

と、傍論ながら、著作権ブロッキングが通信の秘密の侵害となり得るという判断を裁判所が示した事はかなりの重みを持つものと私も考える。今のところ、総務省の検討結果でも(第412回参照)、インターネット海賊版対策としてブロッキングやアクセス警告方式の導入は困難とされているが、この様な裁判所の判断はブロッキングのみならず同じくユーザーの全通信内容の検知行為が実行されるものであるアクセス警告方式についても当然通用するに違いないのである。

(2019年11月18日夜の追記:幾つか誤記を直し、文章を整えた。)

(2019年11月20日夜の追記:11月30日〆切でかかっている文化庁の中間まとめに対するパブコメについて上でリンクを追加した。)

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2019年7月 3日 (水)

第410回:主要政党の2019年参院選公約案比較(知財政策・情報・表現規制関連)

 明日7月4日公示、7月21日投開票の予定で参議院選挙が行われる。主要政党の公約案が以下の通り出揃っているので、例によってその内容は非常に薄いが、念のため、ここで知財政策・情報・表現規制関連の項目を抜き出しておく。

<自民党>
○23 「イノベーション・エコシステム」の早期確立
 資源大国でもなければ人口大国でもないわが国は、イノベーションを通じて付加価値を創造し続けるエコシステム(生態系)を構築する必要があります。知的資産がイノベーションの源泉であることから、知財立国を基盤としつつも、21世紀型のイノベーションに対応するため、価値をデザインするという認識と発想が必要です。これらを踏まえながら、イノベーションが自律的かつ持続的に生まれ続けていくような環境(いわば生態系)としてのイノベーション・エコシステムの確立と価値デザイン社会の実現を目指します。
 イノベーション・エコシステムの構築には、多様なシーズが次々と生まれ、それをニーズとつなげてマネタイズ(収益化)すること、さらに世界のルール作りを通じて市場を席巻することと、ニーズの変化に対応し機敏かつ柔軟に対応することが重要です。このため、産業界や大学が、危機意識、チャレンジ、デザイン、オープンイノベーションなどの観点から、意識改革と行動変革を起こすことに加え、イノベーション創出のためのプラットフォーム・場づくりや人材の育成などの取組みが必要です。「知的財産推進計画2019」に基づき、尖った才能を持つ人材の育成などの個々の主体の強化とチャレンジを促す取組み、個性・アイデアが出会う場としてのプラットフォームの整備などの個性の融合を通じた新結合を加速する取組み、価値の実現に必要な共感が生まれやすい環境の整備などを進めます。
 知財の創造・保護・活用を国家戦略としてサポートするため、まずは、研究開発の成果物が知的財産権として国内外で迅速かつ安定的に保護されるよう、特許庁の審査体制をさらに整備・強化し、IoT等の新技術や急増する外国語文献への対応、地域の中小企業等を対象とする出張面接審査・テレヒ゛面接審査等の充実を図りつつ、「審査の迅速化・高度化」を進め、別の国においても早期に審査が受けられる環境整備も併せて進めます。
 また、不正競争防止法におけるデータの不正取得の禁止等を踏まえ、法の適切な運用環境を整備するため、ガイドラインの内容や不正競争防止法に関する普及・啓発などの必要な措置を講じます。
 さらに、中小・ベンチャー企業のための知財活用の促進や、地理的表示(GI)や優れた植物品種の登録などの知財活用を通じた「攻めの農林水産業」を進めるとともに、大学等の研究機関が専門的知識と経験を有する知財人材を十分に確保できる支援体制を整備します。
 併せて、イノベーションの中核となる人材を育てるために、企業や大学の経営をデザイン(構想)することのできる人材の育成や、初等中等教育から創造性を育むための知財創造教育の充実に努めます。
 コンテンツ分野においては、デジタルデータの流通が社会を飛躍的に変化させつつあることを踏まえ、デジタルアーカイブジャパンの構築を推進します。関係省庁の司令塔としてCITF(コンテンツ・インテグレーション・タスクフォース(仮称))を新たに設置し、官民の取組みを統合的に推進します。これにより様々なジャンルのコンテンツを連携強化させ、プラットフォーム対応の倍増を図ります。
 また、Society5.0社会の到来を見据え、ブロックチェーンなど、新たな技術を積極的に活用しながら、クリエイターに適切に対価が還元されるコンテンツの管理・流通の仕組み作りを進めます。
 さらに、コンテンツとの連携による地域の魅力発信を推進することで、地域経済の活性化・地方創生を推進します。
 加えて、eスポーツなど成長の兆しの見える新産業の振興、将来性が期待できる先端技術の開発、AI・ロボット・8Kパブリックビューイングなど先端技術の統合実装等、「コンテンツ×テクノロジープロジェクト(仮称)」を推進し、新たな分野での成長を創ります。
 これらと併せ、知的財産推進計画2019に基づき、インターネット上の海賊版被害への総合的かつ実効的な対策など模倣品・海賊版対策を一層強化します。

<立憲民主党>
○公正で透明な行政を実現するために、公文書管理法と情報公開法を強化します。

○安倍政権が成立させた「特定秘密保護法」「共謀罪」「カジノ法」等を廃止します。

<社民党>
○公文書の隠ぺい・改ざん・廃棄を防止するため、公文書管理法を改正するとともに、情報公開を推進します。国民の「知る権利」や報道・取材の自由を侵害する「特定秘密保護法」を即時廃止します。

<共産党>
○52 文化
(略)
著作者の権利を守り発展させます

 著作権は、表現の自由を守りながら、著作物の創造や実演に携わる人々を守る制度として文化の発展に役立ってきました。ところが、映画の著作物はすべて製作会社に権利が移転され、映画監督やスタッフに権利がありません。実演家もいったん固定された映像作品の二次利用への権利がありません。国際的には視聴覚的実演に関する北京条約(2012年)が締結され、日本も加入するなど、実演家の権利を認める流れや、映画監督の権利充実をはかろうという流れが強まっています。

――著作権法を改正し、映画監督やスタッフ、実演家の権利を確立します。

――私的録音録画補償金制度は、デジタル録音録画の普及にともない、一部の大企業が協力義務を放棄したことによって、事実上機能停止してしまいました。作家・実演家の利益をまもるために、私的複製に供される複製機器・機材を提供することによって利益を得ている事業者に応分の負担をもとめる、実効性のある補償制度の導入をめざします。

憲法を生かし、表現の自由を守ります

芸術は自由であってこそ発展します。憲法は「表現の自由」を保障していますが、第2次安倍内閣の発足以降、各地の美術館や図書館、公民館など公の施設で、創作物の発表を正当な理由なく拒否するなど、表現の自由への侵害が相次いでいます。 

日本共産党は、「文化芸術基本法」や憲法の基本的人権の条項をまもり生かして、表現の自由を侵す動きに反対します。「児童ポルノ規制」を名目にしたマンガ・アニメなどへの法的規制の動きに反対します。

 諸外国では、表現の自由を守るという配慮から、財政的な責任は国がもちつつ、専門家が中心となった独立した機関が助成を行っています。文化庁の助成は応募要綱などが行政の裁量で決められ、芸術団体の意見がそこに十分反映されていません。

――すべての助成を専門家による審査・採択にゆだねるよう改善します。
(略)

○55 秘密保護法廃止
国民の目・耳・口をふさぎ、「海外で戦争する国」へと道を開く希代の悪法――秘密保護法の廃止を求めます
(略)

 自民党の総合政策集の中に総合的な海賊版対策について記載されている事に注意しておいてもいいかも知れないが、この記載は知財計画2019の記載をなぞっただけでほとんど何も書いていないに等しく、どの政党も今まで通りで実質的な記載に乏しい。

 この様に、残念ながら、知財政策が主要な争点となる事はやはりないが、今回、私が特に注目しているのは、山田太郎前参議院議員(HPtwitterWiki)が自民党公認で立候補予定という事である。自民党の今までの政策には私は全く賛同できないが、表現の自由を守るという観点で山田太郎氏個人の活躍と政策は世に知られている所であり、氏に再び国会議員になってもらいたいと思っている。

(2019年7月4日夜の追記:内容に特に違いはないが、公示日後の正式版の公約集へのリンクをここに張っておく。

(2019年7月23日夜の追記:山田太郎氏が参議院議員として当選した。氏には与党内での活躍を是非期待する。)

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2017年10月 9日 (月)

第383回:主要政党の2017年衆院選公約案比較(知財政策・情報・表現規制関連)

 明日10月10日公示、22日投開票の予定で衆院選が行われる。今回はいつにもまして争点が良く分からない選挙で、各党とも急ごしらえの感が否めず、内容は極めて薄いが、以下の通り主要政党の公約案が出揃ったので、ここで念のため、その中の知財政策・情報・表現規制関連の項目について比較をしておきたいと思う。

<自民党>
○世界最速・最高品質の審査体制の充実、地方と中小・ベンチャー企業の知財活用促進、知財など無形資産の適切な評価、第4次産業革命を加速する著作権制度の早期実現など知財システムの整備、知財創造教育の充実等の知的財産・標準化戦略を成長の基盤として推進し、世界最高の知財立国を目指します。

○「衣」「食」「住」やコンテンツ(アニメ、ドラマ、音楽、映画など)をはじめ「にほんの魅力」の海外発信・展開や海外来訪者の受入を進めるクールジャパン政策を成長戦略の一貫と位置づけ、支援策、人材の育成・人材ハブの構築、国内外のクールジャパン拠点構築等の振興策を積極的に展開します。

○TPPや日EU・EPAに対する農林漁業者の不安を払拭するため、「総合的なTPP関連政策大綱」を見直し、農林漁業者の経営発展を後押しするとともに、経営安定に万全を期します。マルキン等については、早期の充実を図ります。

<公明党>
○環太平洋パートナーシップ協定(TPP協定)や日EU経済連携協定(EPA)などの新たな自由貿易の拡大を契機として、中小企業の海外展開や農林水産物輸出額1兆円の実現、低炭素技術の市場拡大、インフラの戦略的輸出など海外の潜在需要の獲得に向けた政策を総動員します。合わせて、影響緩和のための対策を講じます。

○日EU経済連携協定(EPA)大枠合意等を踏まえ、「総合的なTPP関連政策大綱」を見直し、畜産クラスター、産地パワーアップなどの万全の対策を検討・実施します。

○アジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)構想の実現も視野に、環太平洋パートナーシップ協定(TPP協定)の早期発効、大枠合意に至った日EU経済連携協定(EPA)の早期の署名・発効をめざすとともに、これらの協定が貿易・投資に及ぼす影響について情報収集・分析を実施します。また、東アジア地域包括的経済連携(RCEP)、日中韓自由貿易協定(FTA)等のメガFTAと呼ばれている貿易・投資に関する協定のルールづくりを積極的に進めます。さらに、投資関連協定の交渉を促進し、日本企業の海外進出を後押しします。加えて、アジアを中心とした産業保安体制構築支援等を行うとともに、国際経済紛争処理案件に対する体制強化に取り組みます。

<立憲民主党>
○政府の情報隠ぺい阻止、特定秘密保護法の廃止、情報公開法改正による行政の透明化

<社民党>
○「一億総監視社会」につながる「共謀罪法」は、直ちに廃止します。「特定秘密保護法」や「通信傍受法(盗聴法)」も即時廃止します。通信傍受の対象事件拡大や司法取引の導入は認めません。

〇言論や報道の自由を侵害するメディア規制の動きに反対します。

○TPP(環太平洋経済連携協定)の枠組みからの即時脱退を強く求めるとともに、米国以外の11か国(TPPイレブン)による安易な合意に反対します。日米2国間のEPA(経済連携協定)やFTA(自由貿易協定)交渉を阻止します。日欧EPAの大枠合意の撤回を求めます。TiSA(新サービス貿易協定)への対策を強化します。

<共産党>
○17、TPP-国会決議違反、自由化交渉中止、食・農・地域経済への打撃、ISDS条項、薬価、食料主権
(略)
TPP11、日欧EPA、日米経済交渉などの自由化交渉を中止し、国民に交渉内容と経過を全面的に明らかにさせる
(略)
安価な薬の供給が減り、薬価が高止まりに――「知的財産」の章では、医薬品の特許などの保護を強化する制度がアメリカと発展途上国の最大の対立点となりました。アメリカはバイオ薬品(抗がん剤やC型肝炎の治療薬など)の特許期間13年を要求、5年にすべきという発展途上国と対立しました。結果は、特許期間は、少なくても8年又は5年+他の措置とされました。あわせて、特許が切れたバイオ医薬品のデータ保護期間の設定、ジェネリック薬(後発医薬品)承認決定に特許権者に特許権を侵害していないかを確認するリンケージ制度を設けることが盛り込まれています。

 これら規定は、規制緩和ではなく製薬大企業のための規制強化であり、ジェネリック薬市場への参入規制を長期化させるものです。日本国内だけでなく、多くの途上国では、患者の命をつなぐ安価な医薬品が切望されていますが、手に入りにくい状況は改善されません。しかも、参加国の政府が薬価決定する際に、「直接影響をうける申請者」が、不服審査を開始することができると規定されており、今後、アメリカの製薬企業などが利害関係者として、日本の医薬品・医療機器の保険扱いの可否や公定価格の決定に影響力を強めることが懸念されます。

○38、文化
 芸術・文化の活動を支え、文化が豊かに発展する社会をめざします
(略)
著作者の権利を守り発展させます

 日本の芸術・文化の発展のうえで各ジャンルの専門家の役割はきわめて重要です。著作権は、表現の自由を守りながら、著作物の創造や実演に携わる人々を守る制度として文化の発展に役立ってきました。ところが、映画の著作物はすべて製作会社に権利が移転され、映画監督やスタッフに権利がありません。実演家もいったん固定された映像作品の二次利用への権利がありません。国際的には視聴覚実演に関する条約が作成されるなど、実演家の権利を認める流れや、映画監督の権利充実をはかろうという流れが強まっています。著作権法を改正し、映画監督やスタッフ、実演家の権利を確立します。

 私的録音録画補償金制度は、デジタル録音録画の普及にともない、一部の大企業が協力義務を放棄したことによって、事実上機能停止してしまいました。作家・実演家の利益をまもるために、私的複製に供される複製機器・機材を提供することによって利益を得ている事業者に応分の負担をもとめる、新たな補償制度の導入をめざします。

憲法を生かし、表現の自由を守ります

 芸術活動は自由であってこそ発展します。憲法は「表現の自由」を保障しています。ところが、第2次安倍内閣の発足以降、各地の美術館や図書館、公民館など公の施設で、創作物の発表を不当な理由で拒否するなど、表現の自由への侵害が相次いでいます。

 2013年12月に成立を強行された特定秘密保護法は、国民の「言論・表現の自由」や「知る権利」を脅かすものであり、「ジャーナリストとその情報源に刑罰を課す危険性にさらしている」(デビット・ケイ国連人権理事会特別報告者)と指摘されています。

今年6月に強行された共謀罪法に対しても、多くの芸術家や芸術団体が、自由な創作活動に委縮をもたらすとして反対の声明を挙げています。国連人権理事会からも「プライバシーに関する権利と表現の自由に過度な制限をされる可能性がある」(ジョセフ・ケナタッチ国連人権理事会特別報告者)との指摘をうけています。憲法違反の特定秘密保護法と共謀罪法の廃止を求めます。

6月に改正された新しい「文化芸術基本法」では、前文に「表現の自由」が明記されました。「文化芸術基本法」や憲法の基本的人権の条項をまもり生かして、表現の自由を侵す動きに反対します。「児童ポルノ規制」を名目にしたマンガ・アニメなどへの法的規制の動きに反対します。

 諸外国では、表現の自由を守るという配慮から、財政的な責任は国がもちつつ、専門家が中心となった独立した機関が助成を行っています。文化庁の助成は応募要綱などが行政の裁量で決められ、芸術団体の意見がそこに十分反映されていません。すべての助成を専門家による審査・採択にゆだねるよう改善します。
(略)

 急に決まった解散総選挙で、野党の再編もあったため、やむを得ないこととは思うが、各党とも去年の参院選の時の公約案(第365回)と比較しても、実質あまり違いが見出だせない状況である。敢えて言うなら、現在の与党である自公はTPP推進項目を残しているとは言え、知財政策の面で大きな意味を持つものの、アメリカ脱退後混迷しているTPPは政策的に前面に押し出されなくっているという違いはあるだろうか。

 今回の解散総選挙の理由はやはり良く分からないままだが、こうなって来るともはや憲法改正への賛成反対を軸に投票せざるを得ないように私は思っている。自民党の公約案では明確に言及されていないが、実質的に表現の自由などの基本的人権の制約・国民からの剥奪を狙っているゴミクズ以下の自民党憲法改正案(自民党のHP参照)の危険性はいくら強調してもしすぎではないし、同じく憲法改正を唱える希望や維新への投票も危険性があると私は見ている。(希望の党の政策パンフレットには憲法に知る権利を明確に定める云々と書かれているが、知る権利は今でも憲法上の表現の自由に含まれているとされているのであり、もし本当に行政の情報公開が必要というなら現行憲法の下で強力に推進すればいいだけのことである。希望の党のこのような知る権利に関する言及は私には目くらましとしか思えない。)

 なお、今回も個人に対する投票という意味はかなり薄い選挙となりそうなので、規制強化慎重反対派元国会議員候補リストは省略する。(リストについて興味のある方は、番外その37に載せた2014年衆院選向けに作ったものを参照頂きたい。)

(2017年10月14日夜の追記:内容に特に違いはないが、各党の公示日後の正式版の公約集へのリンクをここに張っておく。

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2016年6月19日 (日)

第365回:主要政党の2016年参院選公約案比較(知財政策・情報・表現規制関連)

 6月22日公示、7月10日投開票予定の参院選が近づく中、主要政党の選挙向け公約案が以下の通り大体出そろった。

 今回も各党とも内容はかなり薄いのだが、TPP問題を中心に関連事項を抜き出すと以下のようになる。

<自民党>
◯農業など守るべきものは守りつつ、TPPの活用などにより近隣アジアの海外市場をわが国の経済市場に取り込みます。

◯世界最速・最高品質の審査体制の実現や地方創生と中小企業のための知財活用の促進、デジタル時代における著作権制度の整備、知財教育の充実・人材育成、官民協調による国際標準の獲得や認証基盤の整備等の知的財産・標準化戦略を推進し、世界最高の知財立国を目指します。

◯「衣」「食」「住」やコンテンツ(アニメ、ドラマ、音楽、映画等)をはじめ「日本の魅力」の海外発信を進めるクールジャパンを成長戦略の一翼と位置付け、支援策、人材の育成、国内のクールジャパン拠点構築等の振興策を積極的に展開します。

<公明党>
◯アジア太平洋自由貿易圏(FTAAP構想の実現も視野に、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)の早期発効、日中韓自由貿易協定(FTA)や東アジア地域包括的経済連携(RCEP)の交渉に取り組むとともに、日EU経済連携協定(EPA)など貿易ルールづくりを積極的に進めます。また、投資協定等の締結を進め、ODAを活用しつつ、海外でのビジネス環境を改善します。また、G7諸国等と協調しながら為替の安定に努めます。

<おおさか維新の会>
◯TPPに賛成。将来は、アジア太平洋自由貿易圏の実現を目指す

<民進党>
◯今回のTPP合意に反対します
 国会審議を通じて、①農産物重要5項目の聖域が確保されていない、②自動車分野でのメリットも小さい、③このような交渉結果となった経緯・理由に関する情報が明らかになっていない、ことがはっきりしました。そのことから、今回のTPP合意については反対します。

<生活の党>
◯TPPは反対。各国とのFTA(自由貿易協定)等を推進します。

<社民党>
◯特定秘密保護法を即時廃止します。「共謀罪」の新設に反対します。

◯言論や報道の自由を侵害するメディア規制の動きに反対します。

◯農林水産業と地域を破壊し、国民の食の安全を脅かすTPP(環太平洋経済連携協定)参加に断固反対します。「農産物重要5項目」の関税維持を求めた国会決議に違反するTPP協定案の国会での承認を阻止します。全ての交渉経過記録の公開を強く求めます。

<共産党>
◯TPP協定に断固反対、農林水産業、中小企業の振興にとりくみます
(略)

◯言論・表現の自由を守ります。ヘイトスピーチを根絶します
 安倍政権による放送の自由、言論の自由への権力的介入は重大です。高市早苗総務相が、放送内容を「政治的不公平」と判断した場合は放送局の電波を停止できると発言し、それを内閣があげて擁護しているのは大問題です。
 ――放送・報道への政府による権力的な介入に断固反対します。
 ――行政による「政治的公平」を口実にした市民の言論・表現活動や集会への不当な介入を許しません。
 ――秘密保護法を廃止します。
 ――民族差別をあおるヘイトスピーチを根絶します。超党派で成立させた「ヘイトスピーチ解消法」も活用して、政府が断固たる立場にたつことを求めます。

(各分野の政策より)
17、TPP――国会決議違反、食・農・地域経済への打撃、ISD条項、食料主権
(略)
安価な薬の供給が減り、薬価が高止まりに――TPP交渉で、「知的財産」の章で、医薬品の知的財産権の保護を強化する制度がアメリカと発展途上国の対立点となり、アメリカはバイオ薬品(抗がん剤や新薬のC型肝炎の治療薬など)の特許期間13年を要求、5年にすべきという発展途上国と対立しました。その結果、特許期間は、少なくても8年又は5年+他の措置とされました。あわせて、①特許期間の延長、②特許が切れたバイオ医薬品のデータ保護期間の設定、③ジェネリック薬(後発医薬品)承認決定に特許権者に特許権を侵害していないかを確認するリンケージ制度を設けています。

 これら規定は、ジェネリック薬品の市場への参入を長期化させることになり、日本国内だけでなく、多くの途上国では、患者の命をつなぐ安価な医薬品が手に入りにくくなる状況は改善されません。しかも、参加国の政府が薬価決定する際に、「直接影響をうける申請者」が、不服審査を開始することができることが規定されており、今後、アメリカの製薬企業などが利害関係者として、医薬品・医療機器の保険扱いの可否や公定価格の決定に影響力を強めることが懸念されます。

37、文化――助成制度、文化施設、専門家の権利・地位向上、知的財産権
(略)
著作者の権利を守り発展させます

 日本の芸術・文化の発展のうえで各ジャンルの専門家の役割はきわめて重要です。著作権は、表現の自由を守りながら、著作物の創造や実演に携わる人々を守る制度として文化の発展に役立ってきました。ところが、映画の著作物はすべて製作会社に権利が移転され、映画監督やスタッフに権利がありません。実演家もいったん固定された映像作品の二次利用への権利がありません。国際的には視聴覚実演に関する条約が作成されるなど、実演家の権利を認める流れや、映画監督の権利充実をはかろうという流れが強まっています。著作権法を改正し、映画監督やスタッフ、実演家の権利を確立します。

 私的録音録画補償金制度は、デジタル録音録画の普及にともない、一部の大企業が協力義務を放棄したことによって、事実上機能停止してしまいました。作家・実演家の利益をまもるために、私的複製に供される複製機器・機材を提供することによって利益を得ている事業者に応分の負担をもとめる、新たな補償制度の導入をめざします。

TPP協定の承認に反対します

 TPP協定で、著作権の分野では、「保護期間の延長」「非親告罪化」「法定賠償金制度」「アクセスコントロールの回避等」についての措置、「配信音源の2次使用料請求権の付与」があらたに持ち込まれ、著作権法の改正が議論されようとしています。現状では、アーカイブの整備、孤児著作物の増加問題などに手が打たれておらず、またアメリカ型の訴訟・裁判制度の持ち込みに懸念の声も広がっています。専門家や関係団体などの間でも意見が分かれている問題を、外圧をてこに強行するのはゆるされません。TPP協定と関連法案の撤回を求めます。
(略)

憲法を生かし、表現の自由を守ります

 芸術活動は自由であってこそ発展します。憲法は「表現の自由」を保障しています。ところが、第2次安倍内閣の発足以降、各地の美術館や図書館、公民館など公の施設で、創作物の発表を不当な理由で拒否するなど、表現の自由への侵害が相次いでいます。安倍首相のもとに開催される「『日本の美』総合プロジェクト懇談会」のように、特定の価値観を創造活動に押しつける動きもあり、創作活動の委縮も懸念されます。安倍政権による放送の自由、言論の自由への権力的介入もきわめて重大です。憲法の基本的人権の条項をまもり生かして、表現の自由を侵す動きに反対します。「児童ポルノ規制」を名目にしたマンガ・アニメなどへの法的規制の動きに反対します。

 諸外国では、表現の自由を守るという配慮から、財政的な責任は国がもちつつ、専門家が中心となった独立した機関が助成を行っています。文化庁の助成は応募要綱などが行政の裁量で決められ、芸術団体の意見がそこに十分反映されていません。すべての助成を専門家による審査・採択にゆだねるよう改善します。
(略)

 自民党が知財政策について一応触れているが、これは今年の知財計画に書かれているキャッチフレーズをそのままなぞっているだけでほとんど意味はない。中では、これもいつも通りだが、共産党がTPPとの関係で知財の保護強化を問題視しているのはポイントが高い。また、例によって政党として表現の自由の問題を明確に取り上げているのは社民党と共産党である。

 今回の選挙も残念ながら知財問題が大きな争点になることはないだろうが、今までさんざん書いて来ている通り、TPP協定の批准が有害無益な知財保護の強化に直結するのは間違いない。参考に各党の公約からTPP協定に関する賛成反対だけを一覧でまとめると、

<自民>:賛成
<公明>:賛成
<お維>:賛成
<民進>:反対
<生活>:反対
<社民>:反対
<共産>:反対

となり、与野党対立の構図はさらに分かりやすくなった。今回の選挙でも私はTPP協定反対の面から投票先を決めるつもりである。

 また、加えて特に気をつけておきたいのは前回と同じく自民党の公約案が憲法改正を含んでいることである。自民党の実質的に表現の自由などの基本的人権の制約・国民からの剥奪を狙っているゴミクズ以下の憲法改正案(自民党のHP参照)の危険性はいくら強調してもしすぎではない。同じく憲法改正を唱えるおおさか維新の会への投票もかなり危険と思っておくべきだろう。

 なお、前回の参院選では規制強化慎重反対派元国会議員候補リストもつけたのだが、今回は4野党の候補者調整によってほとんどの選挙区で与党か野党かという二者択一の選択になり、個人に対する投票という意味は薄れそうなのでこのリストは省略する。(リストについて興味のある方は、第293回に載せた2013年参院選向けに作ったものや番外その25に載せた2010年参院選向けに作ったものを参照頂きたい。)

(2016年6月26日夜の追記:特に内容に変更はないが、各政党から詳細版を含む正式な公約集が公開されているので、念のため<こころ>と<改革>も合わせ、ここにそのリンクを張っておく。

 なお、新党改革はTPP協定に賛成と見えるが、その公約に「コミケ、二次創作、コスプレ、同人誌など様々な表現を許容し、表現の自由を守ります」という表現規制問題の面から見て非常にポイントが高い記載が入っているのは山田太郎候補の働きかけによるものだろう。)

(2016年7月3日夜の追記:なお、今回の選挙ではこの部分は争点にならないと思うが、表現規制絡みとして、自民党の総合政策集に「青少年健全育成のための社会環境の整備を強化するとともに『青少年健全育成基本法』を制定します。またITの発達等による非行や犯罪から青少年を守るための施策を推進します。」という記載が、民進党の政策集に「メディアにおける性・暴力表現について、人々の心理・行動に与える影響について調査を進めるとともに、バーチャルな分野を含め、技術の進展及び普及のスピードに対応した対策を検討し、推進します。」という記載があるので、念のためここに抜き出しておく。)

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2014年12月 1日 (月)

番外その37:著作権・情報・表現規制問題に関する注目選挙区リスト(2014年衆院選版)

 前回参院選以降の児童ポルノ規制法改正案成立を巡る国会での動きについてざっと最初に書いておくと(前回参院選までの話は第293回参照)、合わせて衆議院に関連請願が4つ(請願情報1参照)、参議院に関連請願が3つ出され(要旨1一覧1要旨2一覧2要旨3一覧3参照)、また、今年の法案審議中(6月4日の衆院法務委の議事録、同17日の参院法務委の議事録参照)、衆議院で漫画などまで含めて規制すべきと強烈な規制強化論を述べ立てたのが自民党の土屋正忠氏であるが、民主党の枝野幸男氏は非常に良くポイントを押さえた議論を展開しており、折衷案をまとめた自民党のふくだ峰之氏や民主党の階猛氏も押さえた良い説明をしていたと思う。また、参議院では、定義の問題に始まり漫画などに対する規制反対の論陣を張って下さったのがみんなの党の山田太郎議員(今は無所属)であり、共産党の仁比聡平議員も反対の立場を取っていた。

 このような今年の児童ポルノ規制法改正案審議のことも考えて、以念のため今回の衆議院選挙についても、各党の公認予定者から著作権・情報・表現規制問題に関する注目選挙区リストを以下に作っておく。(いつも通り規制推進寄りの候補の名前を赤で、慎重・反対寄りの候補の名前を青で示す。2012年版は番外その36参照。元議員候補のやって来たことについては前回衆院選のときに作った番外その34番外その35の関連国会議員リストも参照。)

○茨城3区
・小林きょうこ候補<共産>(twitter
・石井あきら候補<維新>(HPtwitter
葉梨康弘候補<自民>(HPwiki):前々回の児童ポルノ規制法改正案で規制推進を主張

○埼玉5区
枝野幸男候補<民主>(HPwiki):児童ポルノ規制法改正案国会審議での立役者の一人
・山本ゆう子候補<共産>(twitter
・牧原秀樹候補<自民>(HP twitterwiki

○東京11区
・山内金久候補<共産>
・熊木美奈子候補<民主>
下村博文候補<自民>(HPwiki):現文科大臣、ダウンロード犯罪化修正案の提案者の一人

◯東京18区
・ゆうき亮候補<共産>
・菅直人候補<民主>(HPtwitterwiki):元総理大臣
土屋正忠候補<自民>(HPwiki):前回の児童ポルノ規制法改正案で規制推進を強力に主張

○神奈川16区
・池田博英候補<共産>(HP
・後藤祐一候補<民主>(HPwiki
義家弘介候補<自民>(HPtwitterwiki):情報・表現規制問題では有名な規制派の一人

○石川1区
・亀田りょうすけ候補<共産>(HPtwitter
・田中美絵子候補<民主>(HP
馳浩候補<自民>(HPwiki):ダウンロード犯罪化修正案の提案者の一人

◯新潟5区
森ゆうこ候補<生活>(HPtwitterwiki):ダウンロード犯罪化とACTAに反対、関連して質問主意書を提出
・はっとり耕一候補<共産>
・長島忠美候補<自民>(HPtwitterwiki

○奈良2区
中村哲治候補<生活>(HPtwitterwiki):児童ポルノ法規制の強化に慎重
・いずみ信丈候補<共産>
高市早苗候補<自民>(HPwiki):現総務大臣、児童ポルノ法改正自公案の提出者の一人

○山口3区
・藤井たけし候補<共産>
・三浦昇候補<民主>(HP
河村健夫候補<自民>(HPwiki):元文科大臣、ダウンロード犯罪化修正案の提案者の一人

○鹿児島1区
川内博史候補<民主>(HPtwitterwiki):ダウンロード犯罪化に慎重
・山口ひろのぶ候補<共産>
・山之内つよし候補<維新>(HPtwitterwiki
・保岡興治候補<自民>(HPwiki):元法務大臣

 今回の総選挙でも大きく状況が変わるということはないと思うが、それでも自らの意思で国政に票を投じることのできる貴重な機会であり、是非一人でも多くの人に選挙に行ってもらいたいと私も思っている。

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2014年11月30日 (日)

第328回:主要政党の2014年衆院選マニフェスト(政権公約)案比較(知財・情報・表現規制問題関連)

 今度の衆院選も知財政策が選挙の争点になりようがないのは残念だが、主要政党のマニフェスト(政権公約)案が以下の通りほぼ出そろったので、また比較を作っておきたいと思う。(実際には公示日以降に配布されるものが正式版となるが、例によってほとんど違いはないだろう。)

 先に書いておくと、今年新所持罪(性的好奇心目的所持罪)を含む児童ポルノ法の改正案が国会を通った結果、児童ポルノ法改正に関する記載もなくなり、どの政党のマニフェストも知財・情報・表現規制問題に関しては取り立てて見るべきことはあまり書かれていないという状態になっているが、以下、念のため関連部分の記載を見て行く。

(1)知財関連

<自民党>
○職務発明制度の見直しや営業秘密の保護強化、知財人材の育成等の知的財産・標準化戦略を推進し、引き続き世界最高の知財立国を目指すとともに、政府と産業がタッグを組んで、自動運転技術等「日本の強み」がある分野については国際標準の獲得や認証基盤の整備を行う体制を整えます。

○「衣」「食」「住」やコンテンツ(アニメ、ドラマ、音楽等)をはじめ「日本の魅力」の海外発信を進めるとともに、世界の頂点へ挑戦するコンテンツ人材の育成等、クールジャパン戦略を推進します。

<民主党>
◯インフラのパッケージ型輸出、エネルギーの調達先多様化など戦略的な経済外交を推進します。國酒プロジェクト、クールジャパンなどを推進します。

<共産党>
◯34、文化:芸術・文化の活動を支え、文化が豊かに発展する社会をめざします
(略)
・著作者の権利を守ります。文化を支える専門家の地位向上にとりくみます
 日本の芸術・文化の発展のうえで各ジャンルの専門家の役割はきわめて重要です。ところが、その専門家の権利や社会保障がないがしろにされています。こうした状態を改め、著作権者の権利を守ることや、専門家の低収入、社会保障の改善にとりくみます。
 著作権は、表現の自由を守りながら権利者を守る制度として文化の発展に役立ってきました。ところが、映画の著作物はすべて製作会社に権利が移転され、映画監督やスタッフに権利がありません。実演家もいったん固定された映像作品への権利がありません。国際的には視聴覚実演に関する条約が作成されるなど、実演家の権利を認める流れや、映画監督の権利充実をはかろうという流れが強まっています。著作権法を改正し、映画監督やスタッフ、実演家の権利を確立します。
 私的録音録画補償金制度は、デジタル録音録画の普及にともない、一部の大企業が協力義務を放棄したことによって、事実上機能停止してしまいました。作家・実演家の利益をまもるために、私的複製に供される複製機能を提供することによって利益を得ている事業者に応分の負担をもとめる、新たな補償制度の導入をめざします。

 知財政策に関して多少なりとも何か言おうとしているのは、ものの見事に自民党と共産党のみとなった。両党ともほとんど意味のあることは言っていないが、自民党が職務発明制度の見直しや営業秘密の保護強化を明記していることは注意しておいても良いだろう。また、下の(3)で書くが、TPPとの絡みで知財問題に言及しているのは共産党しかないという状況である。(なお、前にも書いたことだが、共産党の私的録音録画補償金制度に関する理解はいまいちである。)

(2)情報・表現規制関連

<自民党>
○「『世界一安全な日本』創造戦略」に基づき、2020年オリンピック・パラリンピック東京大会を見据えて、治安対策や持続可能な民間の安全形成システムの強化を推進します。

○「サイバーセキュリティ基本法」の理念に則り、国民や企業が安心してICTを利活用し、豊かで便利な社会を創るため、総合的なサイバーセキュリティ対策を推進します。

○日本サイバー犯罪対策センターの積極的な運用による有害情報排除、捜査手法の高度化、情報収集体制・警備体制強化等、サイバー犯罪・組織犯罪・テロ対策に万全を期します。

<民主党>
○国会など第三者機関による監視と関与を強化するまで特定秘密保護法の施行は延期します。

○特定秘密保護法:知る権利と報道の自由を確実に守るため、国会等の監視機関の不十分さを是正します。

○人種等を理由とした差別をなくすため、表現の自由を尊重した上で、「ヘイトスピーチ対策法」を制定します。

<維新の党>
○いわゆるヘイトスピーチについて、国連人種差別撤廃委員会からの勧告の趣旨も踏まえつつ、規制のあり方を具体化する。

<共産党>
○38、秘密保護法・共謀罪:国民の目・耳・口をふさぎ、「海外で戦争する国」へと道を開く希代の悪法――秘密保護法の廃止を求めます
(略)

◯44、ヘイトスピーチ:民族差別をあおるヘイトスピーチを許さない
(略)
 日本共産党は、言論・出版の自由や結社の自由、表現の自由など憲法で保障されている基本的人権を全面的に擁護するとともに、それと矛盾・抵触しないような形の法整備のために積極的に対応します。国内外で高まる「社会的包囲でヘイトスピーチ根絶を」の世論と運動を踏まえ、ヘイトスピーチを許さないために、人種差別禁止を明確にした理念法としての特別法の制定をめざします。
(略)

<社民党>
○知る権利や報道の自由、言論・表現の自由を侵す「特定秘密保護法」を廃止します。

○差別や敵意を煽る「ヘイトスピーチ(憎悪表現)」を規制する「人種差別禁止法」を制定します。

 情報・表現規制関連としては、各政党とも基本的に今までのスタンスを踏襲する形で、秘密保護法やヘイトスピーチに対する対応などで違いが出ている。また、マニフェスト案に取り立てて大きな意味のあることが書かれている訳ではないが、自公が今の全体的な情報・表現規制強化の流れを自ら止めることはまずもってないだろう。

 前の衆参選挙のマニフェスト案比較の時にも書いたことで繰り返しになるが(第283回や第293回参照)、ここで最も注意すべきは自民党の政権公約が憲法改正を含んでいることだろう。ここでそのゴミクズ以下の憲法改正案(自民党のHP参照)についてここで事細かに突っ込む気はないが、前にも書いた通り、自民党はこの憲法改正で実質的に表現の自由などの基本的人権の制約・国民からの剥奪を狙っているのである。また、同じく憲法改正をマニフェストに明記している維新の党や次世代の党も憲法改正については自民と同じく危険と言って良いだろう。

(3)TPP関連

<自民党>
○経済連携交渉は、交渉力を駆使して、守るべきは守り、攻めるべきは攻め、特にTPP交渉は、わが党や国会の決議を踏まえ、国益にかなう最善の道を追求します。

<公明党>
○TPP(環太平洋パートナーシップ)協定交渉では、わが国農業の多面的機能や食料自給率の向上など国民生活への影響に配慮しつつ、守るべきものは守り、勝ち取るべきものは勝ち取るとの強い姿勢で臨み、国益の最大化に努めることを求めます。また、TPP交渉と並行して、アジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)構想の実現に向け、日中韓の自由貿易協定(FTA)や東アジア地域包括的経済連携(RDEP)などに主導的に取り組むとともに、日・EU経済連携協定(EPA)などの貿易ルールづくりを積極的に推進します。

<民主党>
○TPPについては、農林水産物の重要5品目などの除外、食の安全の確保、国民皆保険の堅持などの国益を確保するために、脱退も辞さない厳しい姿勢で臨みます。「情報提供促進法」の制定を通じ、経済連携協定交渉の情報公開を進めます。

<維新の党>
○アジア太平洋地域の自由貿易圏構想の実現に向けて、TPP、RCEP、日中韓FTA等、域内経済連携に積極的に関与し、地域の新しいルール作りをリードする。

<次世代の党>
◯国益を踏まえた自由貿易圏の拡大

<共産党>
○12、TPP:TPPへの暴走=「亡国の政治」に反対し、経済主権、食料主権を尊重した互恵・平等の対外経済関係の発展をめざす
(略)
 安価な薬の供給が減り、薬価が高止まりに――アメリカはTPPを通じて知的財産権の保護強化を主張しています。それが通れば、ジェネリック薬(後発医薬品)の供給が遅れ、医薬品価格が高止まりします。アメリカは、既存薬の形や使い方を変えた医薬品を、効果がアップしていなくても"新薬"として特許申請する「エバーグリーニング」とよばれる手法を使い、既存薬の権利独占を図ろうとしています。TPPでこのルールが認められると、ジェネリック薬市場に参入するまでに、今まで以上に長い年月が必要になります。日本国内だけでなく、多くの途上国では、患者の命をつなぐ安価な医薬品が手に入りにくくなるため、多くの国が反対するのは当然です。薬メーカーに一方的に有利なアメリカ流の「知的財産権の保護」は認められません。)
(略)

<生活の党>
○TPPは断固反対
 日本の経済・社会を根底から破壊しかねないTPPには参加せず、各国とのFTA(自由貿易協定)を推進します。

<社民党>
○農林水産業に壊滅的打撃を与えるなど、21分野もの規制緩和で地域経済、国民生活のすみずみに悪影響をもたらし、衆参農林水産委員会決議にも反するTPP(環太平洋経済連携協定)への参加に断固反対します。TPP交渉に関する情報公開を強く要求します。

 ここで、前と変わらないとは言え、共産党がきちんとTPP交渉に関する項目で知財(ジェネリック薬)の問題に触れているのはポイントが高い。また、民主党のスタンスは与党時代のことを考えるとまだ実質推進と考えても良いのではないかと思うが、それでも情報公開を求めるとしている点は多少変化が見られるところだろうか。

 今までのリーク文書がはっきり示している通り、前回同様TPP交渉推進で日本の知財政策が著作権も含めて保護強化に大きく歪む形で振れることになると考えて私は投票するつもりだが、TPP交渉に関して上で抜き出した部分をざっくりとまとめると、

<自民>:推進
<公明>:推進
<民主>:推進+情報公開促進
<維新>:推進
<次世>:推進
<共産>:反対
<生活>:反対
<社民>:反対

となり、今回の衆院選でも相変わらずどうにも選択肢が少ないのが本当に残念である。

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