2024年12月29日 (日)

第506回:2024年の終わりに(文化庁によるブルーレイ私的録音録画補償金額の決定、AI制度研究会中間とりまとめ案とそのパブコメ開始他)

 今年も最後に今まであまり取り上げて来なかった各省庁の動きについてまとめて書いておきたいと思う。

 といっても、最初に書いておくと、今年の選挙の結果を受けて政治情勢がなお流動的となっていることも影響しているのか、各知財法の改正に関して検討が大きく進んでいる様子はない。

 まず、文化庁の文化審議会・著作権分科会では、その下で、政策小委員会法制度に関するワーキングチーム使用料部会が開催され、DX時代における対価還元、海外における権利執行や生成AIに関することなどについて引き続き検討されているが、ここで、この年末にかけて、11月29日の第4回使用料部会、12月17日から20日の持ち回りによる第71回著作権分科会、12月25日文化庁HPで報道発表と、超スピードの非公開審議でブルーレイに関する私的録音録画補償金の額が決定されるという卑劣極まる事が行われた。

 ブルーレイを私的録音録画補償金の対象とする政令改正の閣議決定が2022年10月21日なので(第467回参照)、そこから約2年経っているが、その間、結局パブコメの全結果が公開される事はなく、全関係者が参加する公開の場での議論がされる事もなく、文化庁は、私的録音録画補償金問題に対し、今までの経緯について何ら反省する事なく、公平中立かつ透明であるべき行政としてあるまじき態度で極めて偏頗かつ横暴な決定を積み重ねて来た。

 この様なやり方で納得してブルーレイレコーダーとディスクに対する私的録音録画補償金を支払う者が只の一人もいるとは思えない。私の意見は、前回載せた知財計画パブコメの(2)a)でも簡単にまとめているが、私的録音録画補償金制度は歴史的役割を終えたものとして完全に廃止するべきというものである。前提となっていた旧来の形の私的録音録画自体もはや完全に時代遅れになっているのであって、今の状況を踏まえて本当に公正中立に政策判断をするなら、廃止以外の結論はあり得ないと私は考えている。

 次に、特許庁では、産業構造審議会・知的財産分科会の下で、特許制度小委員会意匠制度小委員会が開催されており、それぞれ、ネットワーク関連発明における国境を跨いだ発明の実施、仮想空間におけるデザイン、生成AIの意匠制度への影響などについて議論がされているが、法改正の詳細について方向性が出ているという事はまだない。

 ここで、11月22日に意匠法条約が採択されているが(特許庁のリリース参照)、12月6日の第16回意匠制度小委員会検討資料(pdf)では、この意匠法条約について次回報告予定とされている。

 なお、知的財産分科会では、経産省で不正競争防止小委員会も開かれている。今の所、不競法改正の検討がされているという事はないが、営業秘密管理指針の改訂について議論されている。

 また、今回何故年末に知財計画パブコメを取ったのかは不明だが、知財本部では、今年も構想委員会などが開催され、知財計画2025の策定に向けた検討が始まっている。

 総務省では、去年から続いて開かれている研究会としてデジタル空間における情報流通の健全性確保の在り方に関する検討会安心・安全なメタバースの実現に関する研究会があり、それぞれ9月10日と10月31日に報告書がとりまとめられている(総務省のリリース1参照)。

 これらの総務省の研究会の報告書は民間の自主的な取組を中心とする基本理念を確認するものであって、その限りにおいて問題はないのだが、総務省では、この10月から新しくデジタル空間における情報流通の諸課題への対処に関する検討会がその下のデジタル広告ワーキンググループとともに開催されており、ここで誹謗中傷やなりすまし広告などに関する課題に対し、制度整備を含むその対処について検討が進められる事になっている。これについて議論そのものを止めるべきとまでは思わないが、今後過度に規制的な制度案が出される様な事がないよう十分注視が必要だろう。

 農水省では今年も農業資材審議会・種苗分科会が開かれ、品種登録における重要な形質の諮問が行われるなどしている。

 最後に、知財とは少し離れるが、政府全体を見ても今年の中心課題の1つと言っても過言でないだろう、生成AIに関する検討について、AI戦略会議AI制度研究会が、年末の12月26日に、以下の様な結論の中間とりまとめ案(pdf)を出している。

III.具体的な制度・施策の方向性

1.全般的な事項

 生成AIのようなAIは汎用性が高く、様々な分野で利用されており、リスクへの対応も様々である。個人情報や著作権の取扱い、偽・誤情報への対処といったリスクへの対応にあたっては、既存法等を中心とする対応が前提であるが、AIについては横断的な対応が必要なケースもあるため、全体を俯瞰する政府の司令塔機能の強化、戦略の策定、また、安全性の向上のため、透明性や適正性の確保等が求められており、必要に応じて制度整備することが適当である。

(1)政府の司令塔機能の強化、戦略の策定
 AIは、利用分野や用途の広がり、汎用型AIの登場等により、研究開発から活用に至るまでの期間が短い場合も存在し、その間の各段階における取組がほぼ同時並行的に行われ得るものである。このため、研究開発から活用に至るまでに介在する多様な主体や過程における取組が互いに密接に関連し、一体的・横断的に行われる必要があり、研究開発から経済社会における活用までの一体的な施策を推進する政府の司令塔機能を強化すべきである。
 AIは、政府・自治体での活用を含め、国民生活の向上のための様々な場面での利用だけでなく、犯罪への悪用の懸念もあるほか、デュアルユース技術の側面も持つため、司令塔機能の強化に際しては、広く関係府省庁が参加する政策推進体制を整備する必要がある。
 また、総合的な施策の推進にあたっては、司令塔が戦略あるいは基本計画(以下「戦略」という。)を策定する必要がある。AIについては、安全・安心の確保がAIの活用の促進、イノベーションの促進、安全保障リスクへの対応、犯罪防止等にとって重要であることから、AIの安全・安心な研究開発、活用の促進等に資する戦略とすべきである。国際的な協調を図りつつ、イノベーションの促進とリスクへの対応の両立を図るために政府全体で取り組むことが必要となる施策を当該戦略に盛り込むべきである。
 上記については、AIの司令塔機能の強化や、司令塔による関係行政機関に対し協力を求めることができる等の権限を明確化するため、法定化すべきである。

(2)安全性の向上等
 AIの安全性を向上させるためには、研究開発から活用までのライフサイクルにおいて、少なくとも透明性や適正性を確保していく必要がある。また、事業者が自主的に取り組む安全性評価や第三者による認証などを活用することも一つの有効な手段となると考えられる。さらに、政府が、進化の著しいAIの技術や利用動向等の実態を調査して情報提供を行うとともに、必要に応じて、関係各主体に対応を求めていくべきである。
 これらの実施にあたっては、事業者を含む関係各主体からの情報共有や協力が必須であることから、官民が協調して取り組むことが必要である。

①AIライフサイクル全体を通じた透明性と適正性の確保
(略)
 適正性の確保にあたっては、広島AIプロセス等の国際的な規範の趣旨を踏まえた指針を政府が整備等し、事業者に対し各種規範等に対する自主的な対応を促していくことが適当である。
 また、透明性の確保を含む適正性の確保については、調査等により政府が事業者の状況等を把握し、その結果を踏まえて既存の法令等に基づく対応を含む必要なサポートを講じるべきである。政府による事業者の状況等の把握や必要なサポートについては、事業者の協力なしでは成り立たないため、国内外の事業者による情報提供等の協力を求められるように、法制度による対応が適当である。
(略)

②国内外の組織が実践する安全性評価と認証に関する戦略的な促進
(略)
 また、国内における制度整備は、国際的な規範を踏まえ、かつ、制度の実効性も考慮し対応すべきである。AIの評価や認証を実施する場合には、利用者や利用目的に従ってレベルを設けることや、一定の安全性を確認するための利用者の負担が軽減する仕組みや評価・認証を実施する機関を認定する仕組みを構築できれば、より効果的で持続可能な制度となると考えられる。ただし、この仕組みを構築する際は、AISIやISO等の活動を前提にしつつ、どのような主体を巻き込み、どのような基準で評価を行っていくのか、詳細な検討が必要である。なお、AI安全性の確保のため、AISIには、関係省庁、関係機関と連携し、調査、分析、整理、情報発信などに引き続き取り組み、司令塔となる組織を支援することが期待される。

③重大インシデント等に関する政府による調査と情報発信
 上述のとおり、AIは近年急速な発展を遂げており、様々なリスクが増大している。このような中、AIのリスクに対処し、政府として適切な施策を実施するためには、技術及び事業活動の双方の側面から時々刻々と変化するAIの開発、提供、利用等に関する実態をまず政府において情報収集・把握し、事業者においてAIが効果的かつ適正に利用されるとともに、広く国民がAIの研究開発や活用の促進に対する理解と関心を深められるよう、企業秘密等に配慮しつつも説明責任を果たせるように、必要な範囲で国民に情報提供することが適当である。
 中でも、多くの国民が日々利用するようなAIモデルについては、政府がサプライチェーン・リスク対策を含むAIの安全性や透明性等に関する情報収集を行う。国民に対して広く情報提供されることで、利用者は安全性の高いAI事業者やそのAIシステムを認識・選択しやすくなる。また、基盤サービス等における AI導入の実態等に関しては、政府による情報収集が重要である。
 また、AIの利用に起因する重大な事故が実際に生じてしまった場合、政府としては、その発生又は拡大の防止を図るとともに、AIを開発・提供する事業者による再発防止策等について注意喚起を行っていく必要がある。すなわち、国内で利用される AIについて、国民の権利利益を侵害するなどの重大な問題が生じた場合、あるいは生じる可能性が高いことが検知された場合において、その原因等に関する事実究明を行い、必要に応じて関係者に対する指導・助言を行い、得られた情報の国民に対する周知を図るべきである。なお、事故が生じているといえるか否かについては、上記の情報収集・把握を通じて政府に蓄積された事例や知見をもとに判断していくことが重要である。
 この調査や情報発信は事業者の協力なしでは成り立たないため、国内外の事業者による情報提供等の協力を求められるように、法制度による対応が適当である。

2.政府による利用等

 我が国における、個人及び企業による AIの利用率は、他国と比較すると著しく低迷している状況である。AIは国民生活や経済活動の発展の基盤として、その利用の重要性が増していくことが見込まれる中、このような状況を放置すれば、我が国の国際競争力が損なわれるおそれがある。このため、まずは政府が率先して AIを利用し、国民による活用を促進することが考えられる。
(略)

3.生命・身体の安全、システミック・リスク、国の安全保障等に関わるもの

 医療機器、自動運転車、基盤サービス等、特に国民生活や社会活動に与える影響が大きい生命・身体の安全やシステミック・リスクに関わるものについては特に注力して対応する必要があると考えられるが、業界毎に各業所管省庁が既存の業法に基づき対応し、また、追加的な対応の必要性の有無を判断するため、AI技術の発展、利用状況について随時業界と対話している状況である。
 現時点においては、引き続き、各業所管省庁が既存の法令あるいはガイドライン等の体系の下で対応すべきであるが、今後、新たなリスクが顕在化し、既存の枠組で対応できない場合には、政府は、関連する枠組の解釈を明確化したうえで、制度の見直しあるいは新たな制度の整備等を含めて検討すべきである。システミック・リスクについては、将来的に、複数の AIシステムが連動する大規模な AIシステム群が社会システムを支える状況となる可能性があり、その際、当該 AIシステム群が予期せぬ挙動をした場合、社会全体に大きな混乱をもたらす可能性があるため、適切に対処することが重要である。
 また、CBRN 等の開発やサイバー攻撃等への AIの利用といった国の安全保障に関わるリスクについては、我が国の安全保障を確保するという観点から、関係省庁において、必要な対応をさらに検討していく必要がある。

 これは、具体的な施策としての内容はほぼないに等しいが、要するに、AIに関する政策検討を行うAI戦略推進本部を法定化するAI推進法案を提案するものである。この中間とりまとめ案が規制的な内容にならなかっただけでもよしとするべきなのかも知れず、全ては今後の検討次第となるが、おそらく同様の形を想定しているだろう知財本部の今の体たらくを見ても、法定化された所でAI本部で本当に戦略的に意味のある政策検討ができるのか、これも役所の焼け太りにしかならないのではないかと思えてならない。

 このAI戦略会議・AI制度研究会の中間とりまとめ案については既に1月23日〆切で意見募集が開始されており(電子政府の意見募集ページ参照)、意見を出すかどうか少し考えたいと思っている。

 それでは今年も同じ口上で締め括りとするが、政官業に巣食う全ての利権屋に悪い年を、そして、このブログを読んで下さっている方々に心からの感謝を。

(2025年1月19日の追記:わざわざ分けるほどでもないと思ったので、ここに追記しておくが、上のAI戦略会議の中間取りまとめ案について以下の様なパブコメを出した。

「AI戦略本部の法定化に反対はしないが、役所の焼け太りとならないよう、役割を終えていると考えられる内閣府及び官房の各種本部と事務局も含めた統廃合を行い、今以上の行政リソースの無駄な投入をしないようにすべきである。
 今後の検討では、国際動向に注意を払い、技術の発展を妨げる過度の規制強化は避けるべきである。問題となるのは、既存の法運用の明確化と周知で対応可能な著作権や特許等の知的財産との関係ではなく、個人のリスクとなる個人を特定・評価するAIの民間・政府利用と、安全保障の懸念である軍事利用である。これらには国内に留まらない国際的議論が必要である。
 立法時に重要となるAIの定義について、私は、大量の計算リソースを使う機械学習を用いたものであって利用者側の簡単な指示の入力によって対応する情報の出力が可能なシステム又はサービスというものを提案するが、この点でも国際的状況を参考にするべきである。」

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2024年12月 8日 (日)

第505回:「知的財産推進計画2025」の策定に向けた意見募集(12月20日〆切)への提出パブコメ

 知財計画パブコメは大体年が明けて春くらいに行われる事が多いが、今回はなぜか非常に早く12月20日〆切で行われている(知財本部「知的財産推進計画2025」の策定に向けた意見募集要項(pdf)、電子政府の意見募集ページ参照)。

 これに対して意見を出したので、いつも通りここに載せておく。ただし、この前3月に意見募集が行われた後、各省庁の政策検討がそれほど進んでいるという事もなく、この間の知財本部のAI検討会の中間とりまとめや新クールジャパン戦略、海賊版対策総合メニューの更新、プロバイダー責任制限法改正の成立などを受けて若干記載を修正しているが、内容としてはほぼ前回と同様である。(知財計画2024等の内容については第498回、前回の提出意見については第493回参照。)

 いつもどこまで意見を取り入れられるかは分からないが、知財政策全般について政府に意見が出せる年一回の機会なので、関心のある方は是非意見の提出を検討する事をお勧めする。

(以下、提出パブコメ)

《要旨》
アメリカ等と比べて遜色の無い範囲で一般フェアユース条項を導入すること、ダウンロード犯罪化・違法化条項の撤廃並びにTPP協定・日欧EPAの見直し及び著作権の保護期間の短縮を求める。有害無益なインターネットにおける今以上の知財保護強化、特に著作権ブロッキングに反対するとともに歴史的役割を終えた私的録音録画補償金の完全廃止を求める。今後真の国民視点に立った知財の規制緩和の検討が進むことを期待する。

《全文》
 最終的に国益になるであろうことを考え、各業界の利権や省益を超えて必要となる政策判断をすることこそ知財本部とその事務局が本当になすべきことのはずであるが、知財計画2024を見ても、このような本当に政策的な決定は全く見られない上、2018年には危険極まる著作権ブロッキングのごり押しの検討まで行われ、2020年には非常に危ういダウンロード違法化・犯罪化の対象範囲の拡大を含む著作権法改正までなされた。知財保護が行きすぎて消費者やユーザーの行動を萎縮させるほどになれば、確実に文化も産業も萎縮するので、知財保護強化が必ず国益につながる訳ではないということを、著作権問題の本質は、ネットにおける既存コンテンツの正規流通が進まないことにあるのではなく、インターネットの登場によって新たに出てきた著作物の公正利用の類型に、今の著作権法が全く対応できておらず、著作物の公正利用まで萎縮させ、文化と産業の発展を阻害していることにあるのだということを知財本部とその事務局には、まずはっきりと認識してもらいたい。特に、最近の知財・情報に関する規制強化の動きは全て間違っていると私は断言する。

 例年通り、規制強化による天下り利権の強化のことしか念頭にない文化庁、総務省、警察庁などの各利権官庁に踊らされるまま、国としての知財政策の決定を怠り、知財政策の迷走の原因を増やすことしかできないようであれば、今年の知財計画を作るまでもなく、知財本部とその事務局には、自ら解散することを検討するべきである。そうでなければ、是非、各利権官庁に轡をはめ、その手綱を取って、知財の規制緩和のイニシアティブを取ってもらいたい。知財本部において今年度、インターネットにおけるこれ以上の知財保護強化はほぼ必ず有害無益かつ危険なものとなるということをきちんと認識し、真の国民視点に立った知財の規制緩和の検討が知財本部でなされることを期待し、本当に決定され、実現されるのであれば、全国民を裨益するであろうこととして、私は以下のことを提案する。

(1)「知的財産推進計画2024」の記載事項について:
a)生成AI・人工知能の様な新技術と著作権の関係に関する検討について
 知財計画2023の第17~18ページに生成AIと著作権との関係の整理について記載されている。

 2024年3月に文化庁の法制度小委員会の報告書として「AIと著作権に関する考え方について」が取りまとめられている。本報告書は、AIと著作権の関係に関し、学習・開発段階と生成・利用段階に分けて考え、学習・開発段階におけるAI事業者によるAI学習のための著作物の利用は、特別な追加学習等によって学習データの元の著作物の創作的表現を直接感得できる生成物を出力する様な場合を別として、原則として著作権法第30条の4の非享受目的利用の権利制限の対象となるとし、生成・利用段階におけるAI利用者によるAI生成物の利用が他者の著作権を侵害するかどうかは、人間がAIを使わずに創作したものと同様にその類似性・依拠性に基づき判断されるとしている。

 本報告書の内容は、現行著作権法の解釈として妥当なものであり、特に、現行の著作権法第30条の4等の適用範囲及びAI生成物の利用が著作権侵害となる場合の明確化のみを行っており、かえって社会的混乱を招き、技術の発展を阻害する恐れの強い、法改正によって新たな規制を行う事や補償金請求権を含め新しい権利を付与する事を提言していない点で高く評価できる。

 著作権侵害とならない生成物を作ろうとする限りにおいて、AIサービスの提供と利用の著作権リスクを相当程度低減している、この今の日本の著作権法のバランスは決して悪くないものである。

 そのため、現時点で余計な社会的混乱を招くだけの権利や補償金などを新たに付与するべきではなく、今後当面の間は、文化庁の本報告書による整理の結果を広く周知するに留めるべきである。

 来年度以降もAIと知的財産権に関する問題について検討を行う事自体に反対はしないが、検討を行う場合は、権利者団体に属している様な権利者のみならず、SNSなどの各種ネットサービスにおいて自分の文章や絵を公表している一般の利用者も創作者、著作権者として関係して来る事、生成AIを含む新技術が人の新しい創作のツールとなって来たという事も見逃されるべきではない。この様な新技術の発展が速い事や国際動向等にも照らし、かえって社会的混乱を招き、技術の発展を阻害する恐れの強い、法改正によって新たな規制を行う事や新しい権利を付与する事には極めて慎重であるべきである事にも変わりはない。また、著作権法がその目的を超えて技術の発展の阻害となってはならないのも当然の事であって、さらに柔軟な対応を求められる事も考えられるため、下で書く通り、アメリカ型の一般フェアユース条項の導入の検討が進められる事を期待する。

 知財計画2025において生成AI・人工知能の様な新技術と著作権の関係に関するさらなる検討について記載する場合には、技術の発展や国際動向等にも留意し、法改正によって新たな規制を行う事や新しい権利を付与する事には慎重である事を基本的な方針として合わせ明記するべきである。

 なお、知財本部や文化庁の検討の場で行われている関係者ヒアリングを見ても、権利者側団体の生成AIに関する主張は単に漠然とした不安を述べ立て確たる根拠なく規制強化と金銭的補償を求めているだけであって到底新たな立法事実たり得ないものばかりである。この様な漠然とした不安については、本素案の整理の通り、現行法によって十分著作権は守られ、その対象である既存の著作物の表現に依拠して類似した生成物による著作権侵害が行われる様になるものではない事を周知する事で十分対応可能である。

 さらに付言しておくと、AIによる偽情報生成・ディープフェイク対策については、主として知的財産との関係で検討されるべきものではない。この点については既存のなりすましの場合などと比較して本当に新たに規制すべき行為類型が生じているのではない事に留意が必要である。この様なディープフェイクは対象となった者に対して害を与えるか自らに不正な利益をもたらすかのために作られ公開されるものであって、そのためにはAI技術を用いて元となった著作物に依拠してそっくりな生成物を得て公開する事が前提となるため、著作権及び著作者人格権の侵害となるのは無論の事、目的に応じて、パブリシティ権の侵害、不正競争防止における信用毀損行為、刑法における名誉毀損や信用毀損等に該当し得る事を周知して行く事で十分と考える。

 このことは、知財本部がまとめた2024年5月のAI時代の知的財産権検討会中間とりまとめで、「ディープフェイクに関する諸問題は、知的財産権法とは切り離して議論すべき要請が強いと評価できる。この点については、意見募集でも、ディープフェイクによる悪用事例は人権侵害であり、知的財産以前の問題であるという意見や、名誉毀損罪、偽計業務妨害罪、詐欺罪などの刑事罰による法的措置の発動を求める意見があったところである。」と書かれている通りであって、この整理は今後も妥当するものである。

b)ダウンロード違法化・犯罪化問題について
 知財計画2024の第25ページにインターネット上の海賊版に対する総合的な対策メニューについて記載されている。2019年10月に作成され、2021年4月及び2024年5月に更新された総合的な対策メニューにはダウンロード違法化・犯罪化について記載されている。

 文化庁の暴走と国会議員の無知によって、2009年の6月12日にダウンロード違法化条項を含む改正著作権法が成立し、2010年の1月1日に施行された。また、日本レコード協会などのロビー活動により、自民党及び公明党が主導する形でダウンロード犯罪化条項がねじ込まれる形で、2012年6月20日に改正著作権法が成立し、2012年10月1日から施行されている。

 そして、2018年12月に意見募集がされた文化庁の法制・基本問題小委員会の中間まとめにおいて、極めて拙速な検討から、このダウンロード違法化・犯罪化の対象範囲を録音録画から著作物全般に拡大するとの方針が示され、その意見募集において極めて多くの懸念が示されたにもかかわらず、文化庁がこの方針を諦めずにダウンロード違法化・犯罪化の対象範囲の拡大を含む著作権法改正案の提出を準備していたところ、批判の高まりを受けて2019年の通常国会提出を断念した。

 その後、文化庁は、2019年10月に侵害コンテンツのダウンロード違法化等に関するパブリックコメントを行い、11月から2020年1月にかけて侵害コンテンツのダウンロード違法化の制度設計等に関する検討会において著作権法改正案を再検討した。しかし、この検討会における議論も法案提出の結論ありきの拙速極まるものであり、国民の声を丁寧に聞くと言いながら、パブリックコメントに寄せられた最も主要な意見が要件によらずダウンロード違法化を行うべきではないというものであるという事を無視し、写り込みに関する権利制限の拡充、民事における原作者の権利の除外及び軽微なものの除外という弥縫策でダウンロード違法化・犯罪化の対象範囲を押し通そうとし、2020年2月には、自民党が文科省に海賊版対策のための著作権法改正に関する申し入れを行い、民事刑事の両方において著作権者の利益を不当に害しないと認められる特別な事情がある場合を除外することを要請した。

 これらの文化庁の議論のまとめ及び自民党の要請を含む形で、2020年6月5日にダウンロード違法化・犯罪化の対象範囲拡大を含む改正著作権法が成立し、2021年1月1日から施行されている。

 この法改正後のダウンロード違法化・犯罪化において、スクリーンショットで違法画像が付随的に入り込む場合や、ストーリー漫画の数コマ、論文の数行、粗いサムネイル画像のダウンロードの場合といった僅かな場合が除かれ、また、著作権者の利益を不当に害しないと認められる特別な事情がある場合を除外する事で、それなりの正当化事由を示せる様な特別な事情がある場合が除かれるが、これは本質的な問題の解消に繋がるものではなく、それでもなお、利用者が通常するであろう多くの場合のカジュアルなスクリーンショット、ダウンロード、デジタルでの保存行為が違法・犯罪となる可能性が出て来、場合によって意味不明の萎縮が発生する恐れがある事に変わりはない。これは、録音録画に関するダウンロード違法化・犯罪化同様、海賊版対策としては何の役にも立たない、百害あって一利ない最低最悪の著作権法改正の一つとなるものである。

 過去のパブコメでも繰り返し書いているが、一人しか行為に絡まないダウンロードにおいて、「事実を知りながら」なる要件は、エスパーでもない限り証明も反証もできない無意味かつ危険な要件であり、技術的・外形的に違法性の区別がつかない以上、このようなダウンロード違法化・犯罪化は法規範としての力すら持ち得ず、罪刑法定主義や情報アクセス権を含む表現の自由などの憲法に規定される国民の基本的な権利の観点からも問題がある。このような法改正によって進むのはダウンロード以外も含め著作権法全体に対するモラルハザードのみであり、今のところ幸いなことに適用例はないが、これを逆にねじ曲げてエンフォースしようとすれば、著作権検閲という日本国として最低最悪の手段に突き進む恐れしかない。

 また、世界的に見ても、アップロードとダウンロードを合わせて行うファイル共有サービスに関する事件を除き、どの国においても単なるダウンロード行為を対象とする民事、刑事の事件は1件もなく、日本における現行の録音録画に関するダウンロード違法化・犯罪化も含め、このような法制が海賊版対策として何の効果も上がっていないことは明白である。また、ダウンロード違法化・犯罪化の対象範囲の拡大は、研究など公正利用として認められるべき目的のダウンロードにも影響する。

 そもそも、ダウンロード違法化の懸念として、このような不合理極まる規制強化・著作権検閲に対する懸念は、過去の文化庁へのパブコメ(文化庁HPhttps://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/chosakuken/hokoku.htmlの意見募集の結果参照。ダウンロード違法化問題において、この8千件以上のパブコメの7割方で示された国民の反対・懸念は完全に無視された。このような非道極まる民意無視は到底許されるものではない)や知財本部へのパブコメ(知財本部のHPhttps://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/keikaku2009.htmlの個人からの意見参照)を見ても分かる通り、法改正前から指摘されていたところであり、このようなさらなる有害無益な規制強化・著作権検閲にしか流れようの無いダウンロード違法化・犯罪化は始めからなされるべきではなかったものである。

 文化庁の暴走と国会議員の無知によって成立したものであり、ネット利用における個人の安心と安全を完全にないがしろにするものであり、その後も本質的な問題の解消に繋がる検討をなおざりに対象範囲の拡大がされたものである、百害あって一利ないダウンロード違法化・犯罪化を規定する著作権法第30条第1項第3及び第4号並びに第119条第3項等を即刻削除し、ダウンロード違法化・犯罪化を完全に撤廃することを速やかに行うべきである。

c)著作権法におけるいわゆる間接侵害・幇助への対応について
 総合的な対策メニューにはリーチサイト規制についても記載されている。

 このリーチサイト規制については、2018年12月に意見募集が行われた文化庁の法制・基本問題小委員会の中間まとめにおいて、著作権侵害コンテンツへのリンク行為に対するみなし侵害規定の追加及び刑事罰付加の方針が示されたが、著作権法改正案の2019年の通常国会提出は見送られ、ダウンロード違法化・犯罪化の対象範囲の拡大と合わせ、このリーチサイト規制を含む改正著作権法が2020年6月5日に成立し、2020年10月1日から施行されている。

 改正著作権法のリーチサイト規制は、親告罪とされた事とプラットフォーマーの原則除外でかなり緩和が図られているとは思うが、この様な法改正の本質的な必要性には疑問がある。

 リーチサイト対策の検討は、著作権法におけるいわゆる間接侵害・幇助への対応をどうするかという問題に帰着する。文化庁の中間まとめを読んでも、権利者団体の一方的かつ曖昧な主張が並べられているだけで、権利者団体側がリーチサイト等に対して改正前の著作権法に基づいてどこまで何をしたのか、その対処に関する定量的かつ論理的な検証は何らされておらず、本当にどのような場合について改正前の著作権法では不十分であったのかはその後もなお不明なままであり、さらに、このような間接侵害あるいは幇助の検討において当然必要とされるはずのセーフハーバーの検討も極めて不十分なままである。

 確かにセーフハーバーを確定するために間接侵害・幇助の明確化はなされるべきであるが、基本的にカラオケ法理や各種ネット録画機事件などで示されたことの全体的な整理以上のことをしてはならない。特に、著作権法に明文の間接侵害一般規定を設けることは絶対にしてはならないことである。現状の整理を超えて、明文の間接侵害一般規定を作った途端、権利者団体や放送局がまず間違いなく山の様に脅しや訴訟を仕掛けて来、今度はこの間接侵害規定の定義やそこからの滲み出しが問題となり、無意味かつ危険な社会的混乱を来すことは目に見えているからである。

 リーチサイト規制については、その本質的な必要性に疑問のある今回の法改正後の運用を注視するとともに、知財計画2025において間接侵害・幇助への今後の対応について記載するのであれば、著作権法の間接侵害・幇助の明確化は、ネット事業・利用の著作権法上のセーフハーバーを確定するために必要十分な限りにおいてのみなされると合わせ明記するべきである。

 このようなリーチサイト問題も含め、ネット上の違法コンテンツ対策、違法ファイル共有対策については、通信の秘密やプライバシー、情報アクセス権等の国民の基本的な権利をきちんと尊重しつつ対策を検討してもらいたい。この点においても、国民の基本的な権利を必ず侵害するものとなり、ネットにおける文化と産業の発展を阻害することにつながる危険な規制強化の検討ではなく、ネットにおける各種問題は情報モラル・リテラシー教育によって解決されるべきものという基本に立ち帰り、現行のプロバイダー責任制限法と削除要請を組み合わせた対策などの、より現実的かつ地道な施策のみに注力して検討を進めるべきである。

d)著作権ブロッキング・アクセス警告方式について
 総合的な対策メニューでは著作権ブロッキングやアクセス警告方式についても言及されている。

 サイトブロッキングについては、知財本部において、2018年4月の緊急対策の決定後、2018年10月まで検討が行われた。

 このようなサイトブロッキングについて、アメリカでは、議会に提出されたサイトブロッキング条項を含むオンライン海賊対策法案(SOPA)や知財保護強化法案(PIPA)が、IT企業やユーザーから検閲であるとして大反対を受け、その審議は止められている。また、世界を見渡しても、ブロッキングを巡ってはどの国であれなお混沌とした状況にあり、いかなる形を取るにせよブロッキングの採用が有効な海賊版対策として世界の主要な流れとなっているとは到底言い難い。

 サイトブロッキングの問題については下でも述べるが、インターネット利用者から見てその妥当性をチェックすることが不可能なサイトブロッキングにおいて、透明性・公平性・中立性を確保することは本質的に完全に不可能である。このようなブロッキングは、憲法に規定されている表現の自由(知る権利・情報アクセスの権利を含む)や検閲の禁止、通信の秘密といった国民の基本的な権利を侵害するものとならざるを得ないものであり、決して導入されるべきでないものである。

 幸いなことに、2018年10月で知財本部におけるブロッキングの検討は止まったが、多くの懸念の声が上げられていたにもかかわらず、ブロッキングありきでごり押しの検討を行ったことについて私は知財本部に猛省を求める。知財計画2025においてブロッキングについて言及するのであれば、2018年の検討の反省の弁とともに今後二度とこのような国民の基本的な権利を踏みにじる検討をしないと固く誓うとしてもらいたい。

 アクセス警告方式についても、通信の監視・介入の点でブロッキングと本質的に違いはなく、その導入は法的にも技術的にも難しいとする、2019年8月の総務省のインターネット上の海賊版サイトへのアクセス抑止方策に関する検討会の報告書の整理を守るべきである。

 その提案からも明確なように、違法コピー対策問題における権利者団体の主張は常に一方的かつ身勝手であり、ネットにおける文化と産業の発展を阻害するばかりか、インターネットの単純なアクセスすら危険なものとする非常識なものばかりである。今後は、このような一方的かつ身勝手な規制強化の動きを規制するため、憲法の「表現の自由」に含まれ、国際人権B規約にも含まれている国民の「知る権利」を、あらゆる公開情報に安全に個人的にアクセスする権利として、通信法に法律レベルで明文で書き込むことを検討するべきである。同じく、憲法に規定されている検閲の禁止及び通信の秘密から、サイトブロッキングのような技術的検閲の禁止を通信法に法律レベルで明文で書き込むことを検討するべきである。

e)プロバイダー責任制限法の改正について、
 総合的な対策メニュー及び知財計画2025の第26~27ページにはプロバイダー責任制限法についても記載されている。

 まず、2021年法改正について、2020年12月に総務省の発信者情報開示の在り方に関する研究会の最終とりまとめが公表された後、改正プロバイダー責任制限法が2021年4月21日に成立し、2022年10月1日から施行されている。

 この改正プロバイダー責任制限法は発信者情報開示のため原則非公開の非訟手続きを新設している。しかし、これは今までの通常の裁判による発信者情報開示とほぼ同様の手続きを非訟手続きとして規定しただけのものであって、かえって発信者情報開示に関する手続きの不透明性や複雑性が増し、いたずらに今の状況を混乱させるだけで、発信者の保護はおろか権利侵害の救済にも繋がらない懸念がある。

 今後もその運用を注視し、やはり混乱等が見られる様であれば、発信者情報の開示は、通信の秘密といった重要な国民の権利に関するものであるから、原則公開の訴訟手続によらなければならないものであるという事を念頭に、この新しい非訟手続きを廃止し、通常の裁判による発信者情報開示の拡充や迅速化の様な真に実効性のある検討を行うべきである。

 その後、2023年の総務省のプラットフォームサービスに関する研究会及びそのワーキンググループにおける検討を経て、プロバイダー責任制限法を情報流通プラットフォーム対処法とする改正案が国会に提出され、2024年5月10日に成立し、今現在その施行を待つ状態にある。

 この2024年法改正について、プロバイダー責任制限法はあらゆるインターネットサービスプロバイダーの責任の制限と裁判手続きを通じた発信者情報の開示をそもそもの目的とするものであるから、大手プラットフォーマーに対する取組の促進は新法による事が望ましかったと考えるが、総務省における検討に基づくこの法改正が、憲法で禁止されている検閲か、表現の自由に関する過度の制約となる恐れの極めて強い、新しい強力な法規制による網羅的な情報の監視や削除の強制に慎重な姿勢を示しつつ、誹謗中傷対策に関し、基本的に自主的な取組として、一週間程度以内に速やかに必要な削除が行われるよう、削除手続きに関する運用の整備とその透明化を一定の規模以上のプラットフォーマーに促すとしている事は賛同できるものである。

 ただし、この法改正の運用についても、継続的に注視し、公表して行くべきである。

(2)その他の知財政策事項について:
a)私的録音録画補償金問題について
 権利者団体等が単なる既得権益の拡大を狙ってiPod等へ対象範囲を拡大を主張している私的録音録画補償金問題についても、補償金のそもそもの意味を問い直すことなく、今の補償金の矛盾を拡大するだけの私的録音録画補償金の対象拡大を絶対にするべきではないにも関わらず、文化庁は、実質的にブルーレイを私的録音録画補償金の対象とする著作権法施行令改正について、2022年8月から9月にかけて意見募集を行い、その後意見募集の結果について極めて恣意的にまとめた回答を出しただけで、この施行令改正の閣議決定を2022年10月21日に強行した。

 文化庁の過去の文化審議会著作権分科会における数年の審議において、補償金のそもそもの意義についての意義が問われたが、文化庁が、天下り先である権利者団体のみにおもねり、この制度に関する根本的な検討を怠った結果、特にアナログチューナー非対応録画機への課金について私的録音録画補償金管理協会と東芝間の訴訟に発展した。ブルーレイ課金・アナログチューナー非搭載録画機への課金について、権利者団体は、ダビング10への移行によってコピーが増え自分たちに被害が出ると大騒ぎをしたが、移行後10年以上経った今現在においても、ダビング10の実施による被害増を証明するに足る具体的な証拠は全く示されておらず、ブルーレイ課金・アナログチューナー非搭載録画機への課金に合理性があるとは到底思えない。わずかに緩和されたとは言え、今なお地上デジタル放送にはダビング10という不当に厳しいコピー制限がかかったままである。こうした実質的に全国民に転嫁されるコストで不当に厳しい制限を課している機器と媒体にさらに補償金を賦課しようとするのは、不当の上塗りである。

 なお、世界的に見ても、メーカーや消費者が納得して補償金を払っているということはカケラも無く、権利者団体がその政治力を不当に行使し、歪んだ「複製=対価」の著作権神授説に基づき、不当に対象を広げ料率を上げようとしているだけというのがあらゆる国における実情である。表向きはどうあれ、大きな家電・PCメーカーを国内に擁しない欧州各国は、私的録音録画補償金制度を、外資から金を還流する手段、つまり、単なる外資規制として使っているに過ぎない。この制度における補償金の対象・料率に関して、具体的かつ妥当な基準はどこの国を見ても無いのであり、この制度は、ほぼ権利者団体の際限の無い不当な要求を招き、莫大な社会的コストの浪費のみにつながっている。機器・媒体を離れ音楽・映像の情報化が進む中、「複製=対価」の著作権神授説と個別の機器・媒体への賦課を基礎とする私的録音録画補償金は、既に時代遅れのものとなりつつあり、その対象範囲と料率のデタラメさが、デジタル録音録画技術の正常な発展を阻害し、デジタル録音録画機器・媒体における正常な競争市場を歪めているという現実は、補償金制度を導入したあらゆる国において、問題として明確に認識されなくてはならないことである。

 今まで積み重ねられてきた、判例、保護利用小委員会などの審議会における議論、様々な関係者の意見の全てを愚弄する、2022年の不当な政令改正は到底納得できるものではない。ブルーレイレコーダーとディスクを私的録音録画補償金の対象とする事について今に至るも妥当な根拠は何一つ見出せない。

 今まで知財本部及び文化庁に提出した意見の通り、私は一国民、一個人、一消費者、一利用者・ユーザーとして到底納得の行かない私的録音録画補償金の対象拡大になお断固反対する。

 この政令改正の意見募集などで知財計画の記載も持ち出されており、知財本部・事務局も絡んでいるとの話も聞かれるが、本当にそうであるならば知財本部・事務局もこの様な不当な政令改正に加担した事を猛省し、その過ちを認め、日本政府として速やかに方針を改めるべきである。

 文化庁に集まった2406件のこの政令改正に関する意見の全文を速やかに公表するとともに、政令を元に戻す閣議決定を行う事を私は求める。その上で、中立的な第三者による調査により、前提となっていた旧来の形の私的録音録画自体もはや時代遅れになり少なくなっているという事を示し、全関係者が参加する公開の場で議論し、私的録音録画補償金制度は歴史的役割を終えたものとして完全に廃止するとの結論を出すべきである。

b)秘密特許制度(経済安保法案の特許非公開関連部分)について
 2022年2月にとりまとめられた経済安全保障法制に関する有識者会議の提言に基づく、秘密特許制度(特許非公開制度)を含む経済安全保障法案が2022年5月11日に国会で可決・成立し、2024年5月1日に施行された。

 秘密とするかどうかの保全審査の対象となる技術分野は政令でかなり絞り込まれており、影響を受ける特許出願はかなり限定的なものになると思うが、この法律により導入されようとしている秘密特許制度は、論文等の研究成果の公表は自由という前提と矛盾を来しており、その根拠となる立法事実があるのか、「公にすることにより外部から行われる行為によって国家及び国民の安全を損なう事態を生ずるおそれが大きい発明」についてまともに判断できるのか、その様なものが今の日本で本当に出願されているのか、出願され得るのか、罰則までつける事が妥当かなど、そもそも大いに疑わしいものである。

 この秘密特許制度の妥当性の検証を可能とするため、今後、その運用について単に件数の様な統計情報だけでなく具体的かつ詳細な情報公開をして行くべきである。

c)環太平洋経済連携協定(TPP)などの経済連携協定(EPA)に関する取組について
 TPP協定については、2015年10月に大筋合意が発表され、文化庁、知財本部の検討を経て、11月にTPP総合対策本部でTPP関連政策大綱が決定され、さらに2016年2月に署名され、3月に関連法案の国会提出がされ、11月の臨時国会で可決・成立し、2017年1月20日に参加国として初めての国内手続きの完了に関する通報が行われた。

 しかし、この国内手続きにおいて、日本政府は、2015年10月に大筋合意の概要のみを公表し、11月のニュージーランド政府からの協定条文の英文公表時も全章概要を示したのみで、その後2ヶ月も経って2016年1月にようやく公式の仮訳を公表するなど、TPP協定の内容精査と政府への意見提出の時間を国民に実質与えない極めて姑息かつ卑劣なやり方を取っていたと言わざるを得ない。

 そして、公開された条文によって今までのリーク文書が全て正しかったことはほぼ証明されており、TPP協定は確かに著作権の保護期間延長、DRM回避規制強化、法定賠償制度、著作権侵害の非親告罪化などを含んでいる。今ですら不当に長い著作権保護期間のこれ以上の延長など本来論外だったものである。

 その後、日本政府は、アメリカ抜きの11カ国でのTPP11協定を推進し、2017年11月に大筋合意が発表され、その中で最もクリティカルな部分である著作権と特許の保護期間延長とDRM規制の強化の部分が凍結さたにもかかわらず、これらの事項を含む国内関連法改正案を2018年3月に国会に提出し(6月に可決・成立)、2018年12月のTPP11協定の発効とともに施行するという戦後最大級の愚行をなした。このようになし崩しで極めて危険な法改正がなされたことを私は一国民として強く非難する。

 2017年12月には、同じく著作権の保護期間延長を含む日EU(欧)EPA交渉も妥結され、2018年2月に発効している。しかし、この日欧EPA交渉もTPP協定同様の姑息かつ卑劣な秘密交渉で決められたものである。その内容についてほとんど何の説明もないままに著作権の保護期間延長のような国益の根幹に関わる点について日本政府は易々と譲歩した。これは完全に国民をバカにしているとしか言いようがない。

 2020年9月に大筋合意され、2021年1月に発効している、同じく著作権の保護期間延長を含む日英EPAについても同様である。

 これらのTPP協定、日欧EPA及び日英EPAについてその内容の見直しを各加盟国に求めること及び著作権の保護期間の短縮について速やかに検討を開始することを私は求める。

 また、TPP交渉や日欧EPA交渉のような国民の生活に多大の影響を及ぼす国際交渉が政府間で極秘裏に行われたことも大問題である。国民一人一人がその是非を判断できるよう、途中経過も含めその交渉に関する情報をすべて速やかに公開するべきである。

d)DRM回避規制について
 経産省と文化庁の主導により無意味にDRM回避規制を強化する不正競争防止法と著作権法の改正案がそれぞれ以前国会を通され、2018年に不正競争防止法がさらに改正され、2020年の改正著作権法にも同様の事項が含まれているが、これらの法改正を是とするに足る立法事実は何一つない。不正競争防止法と著作権法でDRM回避機器等の提供等が規制され、著作権法でコピーコントロールを回避して行う私的複製まで違法とされ、十二分以上に規制がかかっているのであり、これ以上の規制強化は、ユーザーの情報アクセスに対するリスクを不必要に高める危険なものとしかなり得ない。

 特に、DRM回避規制に関しては、有害無益な規制強化の検討ではなく、まず、私的なDRM回避行為自体によって生じる被害は無く、個々の回避行為を一件ずつ捕捉して民事訴訟の対象とすることは困難だったにもかかわらず、文化庁の片寄った見方から一方的に導入されたものである、私的な領域でのコピーコントロール回避規制(著作権法第30条第1項第2号)の撤廃の検討を行うべきである。コンテンツへのアクセスあるいはコピーをコントロールしている技術を私的な領域で回避しただけでは経済的損失は発生し得ず、また、ネットにアップされることによって生じる被害は公衆送信権によって既にカバーされているものであり、その被害とDRM回避やダウンロードとを混同することは絶対に許されない。それ以前に、私法である著作権法が、私的領域に踏み込むということ自体異常なことと言わざるを得ない。何ら立法事実の変化がない中、ドサクサ紛れに通された、先般の不正競争防止法改正によるDRM規制の強化や、以前の著作権法改正で導入されたアクセスコントロール関連規制の追加等について、速やかに元に戻す検討がなされるべきである。

 TPP協定にはDRM回避規制の強化も含まれており、上で書いた通り、これ以上のDRM回避規制の強化がされるべきではなく、この点でも私はTPP協定の見直しを求める。

e)海賊版対策条約(ACTA)について
 ACTAを背景に経産省及び文化庁の主導により無意味にDRM回避規制を強化する不正競争防止法及び著作権法の改正案が以前国会を通され、ACTA自体も国会で批准された。しかし、このようなユーザーの情報アクセスに対するリスクを不必要に高める危険なものとしかなり得ない規制強化条項を含む条約の交渉、署名及び批准は何ら国民的なコンセンサスが得られていない中でなされており、私は一国民としてACTAに反対する。今なおACTAの批准国は日本しかなく、日本は無様に世界に恥を晒し続けている。もはやACTAに何ら意味はなく、日本は他国への働きかけを止めるとともに自ら脱退してその失敗を認めるべきである。

f)一般フェアユース条項の導入について
 2018年に個別の権利制限を拡充する著作権法改正がなされており、これはその限りにおいて評価できるものではあるが、本当の意味で柔軟な一般フェアユース条項を入れるものではない。

 一般フェアユース条項については、一から再検討を行い、ユーザーに対する意義からも、アメリカ等と遜色ない形で一般フェアユース条項を可能な限り早期に導入するべきである。特に、インターネットのように、ほぼ全国民が利用者兼権利者となり得、考えられる利用形態が発散し、個別の規定では公正利用の類型を拾い切れなくなるところでは、フェアユースのような一般規定は保護と利用のバランスを取る上で重要な意義を持つものである。

 今後の検討によっても幾つかの個別の権利制限が追加される可能性があるが、これらはあった方が良いものとは言え、到底一般フェアユース条項と言うに足るものではなく、これでは著作権をめぐる今の混迷状況が変わることはない。

 著作物の公正利用には変形利用もビジネス利用も考えられ、このような利用も含めて著作物の公正利用を促すことが、今後の日本の文化と経済の発展にとって真に重要であることを考えれば、不当にその範囲を不当に狭めるべきでは無く、その範囲はアメリカ等と比べて遜色の無いものとされるべきである。ただし、フェアユースの導入によって、私的複製の範囲が縮小されることはあってはならない。

 また、「まねきTV」事件などの各種判例からも、ユーザー個人のみによって利用されるようなクラウド型サービスまで著作権法上ほぼ違法とされてしまう状況に日本があることは明らかであり、このような状況は著作権法の趣旨に照らして決して妥当なことではない。ユーザーが自ら合法的に入手したコンテンツを私的に楽しむために利用することに著作権法が必要以上に介入することが許されるべきではなく、個々のユーザーが自らのためのもに利用するようなクラウド型サービスにまで不必要に著作権を及ぼし、このような技術的サービスにおけるトランザクションコストを過大に高め、その普及を不当に阻害することに何ら正当性はない。この問題がクラウド型サービス固有の問題でないのはその通りであるが、だからといって法改正の必要性がなくなる訳ではない。著作権法の条文及びその解釈・運用が必要以上に厳格に過ぎクラウド型サービスのような技術の普及が不当に阻害されているという日本の悲惨な現状を多少なりとも緩和するべく、速やかに問題を再整理し、アメリカ等と比べて遜色の無い範囲で一般フェアユース条項を導入し、同時にクラウド型サービスなどについてもすくい上げられるようにするべきである。

 権利を侵害するかしないかは刑事罰がかかるかかからないかの問題でもあり、公正という概念で刑事罰の問題を解決できるのかとする意見もあるようだが、かえって、このような現状の過剰な刑事罰リスクからも、フェアユースは必要なものと私は考える。現在親告罪であることが多少セーフハーバーになっているとはいえ、アニメ画像一枚の利用で別件逮捕されたり、セーフハーバーなしの著作権侵害幇助罪でサーバー管理者が逮捕されたりすることは、著作権法の主旨から考えて本来あってはならないことである。政府にあっては、著作権法の本来の主旨を超えた過剰リスクによって、本来公正として認められるべき事業・利用まで萎縮しているという事態を本当に深刻に受け止め、一刻も早い改善を図ってもらいたい。

 個別の権利制限規定の迅速な追加によって対処するべきとする意見もあるが、文化庁と癒着権利者団体が結託して個別規定すらなかなか入れず、入れたとしても必要以上に厳格な要件が追加されているという惨憺たる現状において、個別規定の追加はこの問題における真の対処たり得ない。およそあらゆる権利制限について、文化庁と権利者団体が結託して、全国民を裨益するだろう新しい権利制限を潰すか、極めて狭く使えないものとして来たからこそ、今一般規定が社会的に求められているのだという、国民と文化の敵である文化庁が全く認識していないだろう事実を、政府・与党は事実としてはっきりと認めるべきである。

g)コピーワンス・ダビング10・B-CAS問題について
 私はコピーワンスにもダビング10にも反対する。そもそも、この問題は、放送局・権利者にとっては、視聴者の利便性を著しく下げることによって、一旦は広告つきながらも無料で放送したコンテンツの市場価格を不当につり上げるものとして機能し、国内の大手メーカーとっては、B-CASカードの貸与と複雑な暗号システムを全てのテレビ・録画機器に必要とすることによって、中小・海外メーカーに対する参入障壁として機能するB-CASシステムの問題を淵源とするのであって、このB-CASシステムと独禁法の関係を検討するということを知財計画2025では明記してもらいたい。検討の上B-CASシステムが独禁法違反とされるなら、速やかにその排除をして頂きたい。また、無料の地上放送において、逆にコピーワンスやダビング10のような視聴者の利便性を著しく下げる厳格なコピー制御が維持されるのであれば、私的録画補償金に存在理由はなく、これを速やかに廃止するべきである。

h)著作権検閲・ストライクポリシーについて
 ファイル共有ソフトを用いて著作権を侵害してファイル等を送信していた者に対して警告メールを送付することなどを中心とする電気通信事業者と権利者団体の連携による著作権侵害対策が警察庁、総務省、文化庁などの規制官庁が絡む形で行われており、警察によってファイル共有ネットワークの監視も行われているが、このような対策は著作権検閲に流れる危険性が極めて高い。

 フランスで導入が検討された、警告メールの送付とネット切断を中心とする、著作権検閲機関型の違法コピー対策である3ストライクポリシーは、2009年6月に、憲法裁判所によって、インターネットのアクセスは、表現の自由に関係する情報アクセスの権利、つまり、最も基本的な権利の1つとしてとらえられるとされ、著作権検閲機関型の3ストライクポリシーは、表現の自由・情報アクセスの権利やプライバシーといった他の基本的な権利をないがしろにするものとして、真っ向から否定されている。ネット切断に裁判所の判断を必須とする形で導入された変形ストライク法も何ら効果を上げることなく、フランスでは今もストライクポリシーについて見直しの検討が行われており、2013年7月にはネット切断の罰が廃止されている。日本においては、このようなフランスにおける政策の迷走を他山の石として、このように表現の自由・情報アクセスの権利やプライバシーといった他の基本的な権利をないがしろにする対策を絶対に導入しないこととするべきであり、警察庁などが絡む形で検討されている違法ファイル共有対策についても、通信の秘密やプライバシー、情報アクセス権等の国民の基本的な権利をきちんと尊重する形で進めることが担保されなくてはならない。

i)著作権法へのセーフハーバー規定の導入について
 動画投稿サイト事業者がJASRACに訴えられた「ブレイクTV」事件や、レンタルサーバー事業者が著作権幇助罪で逮捕され、検察によって姑息にも略式裁判で50万円の罰金を課された「第(3)世界」事件や、1対1の信号転送機器を利用者からほぼ預かるだけのサービスが放送局に訴えられ、最高裁判決で違法とされた「まねきTV」事件等を考えても、今現在、カラオケ法理の適用範囲はますます広く曖昧になり、間接侵害や著作権侵害幇助のリスクが途方もなく拡大し、甚大な萎縮効果・有害無益な社会的大混乱が生じかねないという非常に危険な状態がなお続いている。間接侵害事件や著作権侵害幇助事件においてネット事業者がほぼ直接権利侵害者とみなされてしまうのでは、プロバイダー責任制限法によるセーフハーバーだけでは不十分であり、間接侵害や著作権侵害幇助罪も含め、著作権侵害とならない範囲を著作権法上きちんと確定することは喫緊の課題である。ただし、このセーフハーバーの要件において、標準的な仕組み・技術や違法性の有無の判断を押しつけるような、権利侵害とは無関係の行政機関なり天下り先となるだろう第3者機関なりの関与を必要とすることは、検閲の禁止・表現の自由等の国民の権利の不当な侵害に必ずなるものであり、絶対にあってはならないことである。

 知財計画2025において、プロバイダに対する標準的な著作権侵害技術導入の義務付け等を行わないことを合わせ明記するとともに、間接侵害や刑事罰・著作権侵害幇助も含め著作権法へのセーフハーバー規定の速やかな導入を検討するとしてもらいたい。この点に関しては、逆に、検閲の禁止や表現の自由の観点から技術による著作権検閲の危険性の検討を始めてもらいたい。

j)二次創作規制の緩和について
 2014年8月のクールジャパン提言の第13ページにおいて、「クリエイティビティを阻害している規制についてヒアリングし規制緩和する。コンテンツの発展を阻害する二次創作規制、ストリートパフォーマンスに関する規制など、表現を限定する規制を見直す。」と、二次創作に関する規制緩和を行う事が明確に記載されていた。

 二次創作が日本の文化的創作の原動力の一つになっており、その推進のために現状の規制を緩和する必要がある事は今も妥当する事であって、インターネット上の創作活動も含む日本の文化とそれに基づく産業のさらなる発展の事を考えると、10年以上前のものであるが、上記の提言は今現在も何らその意味を失っていないどころか、さらに重要性を増していると言っても過言ではない。

2024年6月の新たなクールジャパン戦略では残念ながら記載される事はなかったが、その策定に向けた意見募集において書いた通り、知財計画2025において、上記の二次創作規制を緩和するという記載を取り入れつつ、さらに具体的に、二次創作規制の緩和のために必須の権利制限として、風刺やパロディ、パスティーシュのための権利制限を著作権法に導入すると明記し、政府としてこのような規制の緩和を強力に推進することを重ねてきちんと示すべきである。

k)著作権等に関する真の国際動向について国民へ知らされる仕組みの導入及び文化庁ワーキンググループの公開について
 WIPO等の国際機関にも、政府から派遣されている者はいると思われ、著作権等に関する真の国際動向について細かなことまで即座に国民へ知らされる仕組みの導入を是非検討してもらいたい。

 また、2013年からの著作物等の適切な保護と利用・流通に関するワーキングチーム及び2015年からの新たな時代のニーズに的確に対応した制度等の整備に関するワーキングチームの審議は公開とされたが、文化庁はワーキングチームについて公開審議を原則とするにはなお至っていない。上位の審議会と同様今後全てのワーキンググループについて公開審議を原則化するべきである。

l)天下りについて
 以前文部科学省の天下り問題が大きく報道されたが、知財政策においても、天下り利権が各省庁の政策を歪めていることは間違いなく、知財政策の検討と決定の正常化のため、文化庁から著作権関連団体への、総務省から放送通信関連団体・企業への、警察庁からインターネットホットラインセンター他各種協力団体・自主規制団体への天下りの禁止を知財本部において決定して頂きたい。(これらの省庁は特にひどいので特に名前をあげたが、他の省庁も含めて決定してもらえるなら、それに超したことはない。)

(3)その他一般的な情報・ネット・表現規制について:
 知財計画改訂において、一般的な情報・ネット・表現規制に関する項目は削除されているが、常に一方的かつ身勝手な主張を繰り広げる自称良識派団体が、意味不明の理屈から知財とは本来関係のない危険な規制強化の話を知財計画に盛り込むべきと主張をしてくることが十分に考えられるので、ここでその他の危険な一般的な情報・ネット・表現規制強化の動きに対する反対意見も述べる。今後も、本来知財とは無関係の、一般的な情報・ネット・表現規制に関する項目を絶対に知財計画に盛り込むことのないようにしてもらいたい。

a)青少年ネット規制法・出会い系サイト規制法について
 そもそも、青少年ネット規制法は、あらゆる者から反対されながら、有害無益なプライドと利権を優先する一部の議員と官庁の思惑のみで成立したものであり、速やかに廃止が検討されるべきものである。また、出会い系サイト規制法の改正は、警察庁が、どんなコミュニケーションサイトでも人は出会えるという誰にでも分かることを無視し、届け出制の対象としては事実上定義不能の「出会い系サイト事業」を定義可能と偽り、改正法案の閣議決定を行い、法案を国会に提出したものであり、他の重要法案と審議が重なる中、国会においてもその本質的な問題が見過ごされて可決され、成立したものである。憲法上の罪刑法定主義や検閲の禁止にそもそも違反している、この出会い系サイト規制法の改正についても、今後、速やかに元に戻すことが検討されるべきである。

b)児童ポルノ規制・サイトブロッキングについて
 児童ポルノ法規制強化問題・有害サイト規制問題における自称良識派団体の主張は、常に一方的かつ身勝手であり、ネットにおける文化と産業の発展を阻害するばかりか、インターネットの単純なアクセスすら危険なものとする非常識なものばかりである。今後は、このような一方的かつ身勝手な規制強化の動きを規制するため、憲法の「表現の自由」に含まれ、国際人権B規約にも含まれている国民の「知る権利」を、あらゆる公開情報に安全に個人的にアクセスする権利として、通信法に法律レベルで明文で書き込むべきである。同じく、憲法に規定されている検閲の禁止から、技術的な検閲やサイトブロッキングのような技術的検閲の禁止を通信法に法律レベルで明文で書き込むべきである。

 閲覧とダウンロードと取得と所持の区別がつかないインターネットにおいては、例え児童ポルノにせよ、情報の単純所持や取得の規制は有害無益かつ危険なもので、憲法及び条約に規定されている「知る権利」を不当に害するものとなる。「自身の性的好奇心を満たす目的で」、積極的あるいは意図的に画像を得た場合であるなどの限定を加えたところで、エスパーでもない限りこのような積極性を証明することも反証することもできないため、このような情報の単純所持や取得の規制の危険性は回避不能であり、思想の自由や罪刑法定主義にも反する。繰り返し取得としても、インターネットで2回以上他人にダウンロードを行わせること等は技術的に極めて容易であり、取得の回数の限定も、何ら危険性を減らすものではない。

 児童ポルノ規制の推進派は常に、提供による被害と単純所持・取得を混同する狂った論理を主張するが、例えそれが児童ポルノであろうと、情報の単純所持ではいかなる被害も発生し得ない。現行法で、ネット上であるか否かにかかわらず、提供及び提供目的の所持が規制されているのであり、提供によって生じる被害と所持やダウンロード、取得、収集との混同は許され得ない。そもそも、最も根本的なプライバシーに属する個人的な情報所持・情報アクセスに関する情報を他人が知ることは、通信の秘密や情報アクセスの権利、プライバシーの権利等の基本的な権利からあってはならないことである。

 アニメ・漫画・ゲームなどの架空の表現に対する規制対象の拡大も議論されているが、このような対象の拡大は、児童保護という当初の法目的を大きく逸脱する、異常規制に他ならない。アニメ・漫画・ゲームなどの架空の表現において、いくら過激な表現がなされていようと、それが現実の児童被害と関係があるとする客観的な証拠は何一つない。いまだかつて、この点について、単なる不快感に基づいた印象批評と一方的な印象操作調査以上のものを私は見たことはないし、虚構と現実の区別がつかないごく一部の自称良識派の単なる不快感など、言うまでもなく一般的かつ網羅的な表現規制の理由には全くならない。アニメ・漫画・ゲームなどの架空の表現が、今の一般的なモラルに基づいて猥褻だというのなら、猥褻物として取り締まるべき話であって、それ以上の話ではない。どんな法律に基づく権利であれ、権利の侵害は相対的にのみ定まるものであり、実際の被害者の存在しない創作物・表現に対する規制は何をもっても正当化され得ない。民主主義の最重要の基礎である表現の自由や言論の自由、思想の自由等々の最も基本的な精神的自由そのものを危うくすることは絶対に許されない。この点で、2012年6月にスウェーデンで漫画は児童ポルノではないとする最高裁判決が出されたことなども注目されるべきである。

 単純所持規制にせよ、創作物規制にせよ、両方とも1999年当時の児童ポルノ法制定時に喧々囂々の大議論の末に除外された規制であり、規制推進派が何と言おうと、これらの規制を正当化するに足る立法事実の変化はいまだに何一つない。

 既に、警察などが提供するサイト情報に基づき、統計情報のみしか公表しない不透明な中間団体を介し、児童ポルノアドレスリストの作成が行われ、そのリストに基づいて、ブロッキング等が行われているが、いくら中間に団体を介そうと、一般に公表されるのは統計情報に過ぎす、児童ポルノであるか否かの判断情報も含め、アドレスリストに関する具体的な情報は、全て閉じる形で秘密裏に保持されることになるのであり、インターネット利用者から見てそのリストの妥当性をチェックすることは不可能であり、このようなアドレスリストの作成・管理において、透明性・公平性・中立性を確保することは本質的に完全に不可能である。このようなリストに基づくブロッキング等は、自主的な取組という名目でいくら取り繕おうとも、憲法に規定されている表現の自由(知る権利・情報アクセスの権利を含む)や検閲の禁止といった国民の基本的な権利を侵害するものとならざるを得ないのであり、小手先の運用変更などではどうにもならない。

 児童ポルノ規制法に関しては、提供及び提供目的での所持が禁止されているのであるから、本当に必要とされることはこの規制の地道なエンフォースであって有害無益かつ危険極まりない規制強化の検討ではない。DVD販売サイトなどの海外サイトについても、本当に児童ポルノが販売されているのであれば、速やかにその国の警察に通報・協力して対処すべきだけの話であって、それで対処できないとするに足る具体的根拠は全くない。警察自らこのような印象操作で規制強化のマッチポンプを行い、警察法はおろか憲法の精神にすら違背していることについて警察庁は恥を知るべきである。例えそれが何であろうと、情報の単純所持や単なる情報アクセスではいかなる被害も発生し得えないのであり、自主的な取組という名目でいくら取り繕おうとも、憲法に規定されている表現の自由(知る権利・情報アクセスの権利を含む)や検閲の禁止といった国民の基本的な権利を侵害するものとならざるを得ないサイトブロッキングは即刻排除するべきであり、そのためのアドレスリスト作成管理団体として設立された、インターネットコンテンツセーフティ協会は即刻その解散が検討されてしかるべきである。

 なお、民主主義の最重要の基礎である表現の自由に関わる問題において、一方的な見方で国際動向を決めつけることなどあってはならないことであり、欧米においても、情報の単純所持規制やサイトブロッキングの危険性に対する認識はネットを中心に高まって来ていることは決して無視されてはならない。例えば、欧米では既にブロッキングについてその恣意的な運用によって弊害が生じていることや、アメリカにおいても、2009年に連邦最高裁で児童オンライン保護法が違憲として完全に否定され、2011年6月に連邦最高裁でカリフォルニア州のゲーム規制法が違憲として否定されていること、ドイツで児童ポルノサイトブロッキング法は検閲法と批判され、最終的に完全に廃止されたことなども注目されるべきである(https://www.zdnet.de/41558455/bundestag-hebt-zensursula-gesetz-endgueltig-auf/参照)。スイスの2009年の調査でも、2002年に児童ポルノ所持で捕まった者の追跡調査を行っているが、実際に過去に性的虐待を行っていたのは1%、6年間の追跡調査で実際に性的虐待を行ったものも1%に過ぎず、児童ポルノ所持はそれだけでは、性的虐待のリスクファクターとはならないと結論づけており、児童ポルノの単純所持規制・ブロッキングの根拠は完全に否定されているのである(https://bmcpsychiatry.biomedcentral.com/articles/10.1186/1471-244X-9-43参照)。欧州連合において、インターネットへのアクセスを情報の自由に関する基本的な権利として位置づける動きがあることも見逃されてはならない。政府・与党内の検討においては、このような国際動向もきちんと取り上げるべきである。

 そして、単純所持規制に相当し、上で書いた通り問題の大きい性的好奇心目的所持罪を含む児童ポルノの改正法案が国会で2014年6月18日に可決・成立し、同年6月25日に公布され、2015年7月15日に施行された。この問題の大きい性的好奇心目的所持罪を規定する児童ポルノ規制法第7条第1項は即刻削除するべきであり、合わせ、政府・与党においては、児童ポルノを対象とするものにせよ、いかなる種類のものであれ、情報の単純所持・取得規制・ブロッキングは極めて危険な規制であるとの認識を深め、このような規制を絶対に行わないこととして、危険な法改正案が2度と与野党から提出されることが無いようにするべきである。

 さらに、性的好奇心目的所持罪を規定する児童ポルノ規制法第7条第1項を削除するとともに、児童ポルノの単純所持規制・創作物規制といった非人道的な規制を導入している諸国は即刻このような規制を廃止するべきと、そもそも最も根本的なプライバシーに属し、何ら実害を生み得ない個人的な情報所持・情報アクセスに関する情報を他人が知ること自体、通信の秘密や情報アクセスの権利、プライバシーの権利等の国際的かつ一般的に認められている基本的な権利からあってはならないことであると、また、法的拘束力はないが、明らかに表現の自由に抵触する規制を推奨している、2019年9月の児童の権利委員会による児童ポルノ規制に関するガイドラインは全面的に見直すべきであると、日本政府から国際的な場において各国に積極的に働きかけてもらいたい。

 また、様々なところで検討されている有害サイト規制についても、その規制は表現に対する過度広汎な規制で違憲なものとしか言いようがなく、各種有害サイト規制についても私は反対する。

c)東京都青少年健全育成条例他、地方条例の改正による情報規制問題について
 東京都でその青少年健全育成条例の改正が検討され、非実在青少年規制として大騒ぎになったあげく、2010年12月に、当事者・関係者の真摯な各種の意見すら全く聞く耳を持たれず、数々の問題を含む条例案が、都知事・東京都青少年・治安対策本部・自公都議の主導で都議会で通された。通過版の条例改正案も、非実在青少年規制という言葉こそ消えたものの、かえって規制範囲は非実在性犯罪規制とより過度に広汎かつ曖昧なものへと広げられ、有害図書販売に対する実質的な罰則の導入と合わせ、その内容は違憲としか言わざるを得ない内容のものである。また、この東京都の条例改正にも含まれている携帯フィルタリングの実質完全義務化は、青少年ネット規制法の精神にすら反している行き過ぎた規制である。さらに、大阪や京都などでは、児童ポルノに関して、法律を越える範囲で勝手に範囲を規定し、その単純所持等を禁止する、明らかに違憲な条例が通されるなどのデタラメが行われている。

 これらのような明らかな違憲条例の検討・推進は、地方自治体法第245条の5に定められているところの、都道府県の自治事務の処理が法令の規定に違反しているか著しく適正を欠きかつ明らかに公益を害していると認めるに足ると考えられるものであり、総務大臣から各地方自治体に迅速に是正命令を出すべきである。また、当事者・関係者の意見を完全に無視した東京都における検討など、民主主義的プロセスを無視した極めて非道なものとしか言いようがなく、今後の検討においてはきちんと民意が反映されるようにするため、地方自治法の改正検討において、情報公開制度の強化、審議会のメンバー選定・検討過程の透明化、パブコメの義務化、条例の改廃請求・知事・議会のリコールの容易化などの、国の制度と整合的な形での民意をくみ上げるシステムの地方自治に対する法制化の検討を速やかに進めてもらいたい。また、各地方の動きを見ていると、出向した警察官僚が強く関与する形で、各都道府県の青少年問題協議会がデタラメな規制強化騒動の震源となることが多く、今現在のデタラメな規制強化の動きを止めるべく、さらに、中央警察官僚の地方出向・人事交流の完全な取りやめ、地方青少年問題協議会法の廃止、問題の多い地方青少年問題協議会そのものの解散の促進についても速やかに検討を開始するべきである。

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2024年6月 9日 (日)

第498回:知財計画2024の文章の確認、やはり空疎な新クールジャパン戦略他

 この6月4日に、知的財産戦略本部会合が開かれ、知的財産推進計画2024や新クールジャパン戦略が決定されており、その前の5月28日には、インターネット海賊版対策メニューの更新版やAIと知的財産権に関する報告書の最終版が公開されているので、ここで、それぞれの内容について気になる所を見ておきたいと思う。

(1)知財計画2024の文章の確認
 知財計画2024(pdf)知財計画概要(pdf)も参照)について、お題目の部分を全て飛ばして、以下、主に法改正に関わる施策の項目を順次見て行く。(知財計画2023の内容については第479回、私が知財計画向けに出したパブコメについては第493回参照。)

 まず、第8ページで以下のように今年の法改正であるイノベーションボックス税制について触れられている。(この税制については第494回でプロバイダー責任法改正のついでに極簡単に紹介した。)

・2024年度税制改正において措置された、特許権やAI分野のソフトウェアの知財から生じる所得に税制措置を適用するイノベーション拠点税制(イノベーションボックス税制)について、2025年4月の制度開始に向け、手続規定の整備を含めた執行体制の強化を行う。また、事業者が積極的に制度を活用できるよう、制度をわかりやすく解説したガイドラインの策定や制度の周知等を業界団体等とも連携して行うとともに、引き続き、税制の対象範囲については、制度の執行状況や効果を十分に検証した上で、執行可能性等の観点から、状況に応じ、見直しを検討する。(短期・中期)(経済産業省)

・イノベーション拠点税制(イノベーションボックス税制)における対象範囲の見直し検討や類似制度を導入している国における動向調査、知財・無形資産の非財務情報を含めた価値評価の在り方を検討することにより、研究開発成果としての知財・無形資産と企業価値の関連性の認識を促進し、イノベーションマネジメントの高度化につなげる。(短期・中期)(経済産業省)

 去年から今年にかけてのメインの検討項目と言って間違いないだろうAIと知的財産権の関係に関する方向性については、今までの各種検討を受けて引き続き検討するという形で、第17~18ページに以下の様に書かれている。

・生成AIについて、文化庁文化審議会著作権分科会法制度小委員会「AIと著作権に関する考え方について」に基づき、著作権制度等に関し、社会に分かりやすい形での周知啓発を行うとともに、好事例等の収集及び関係者への共有を行いながら、必要に応じた更なる明確化に向けた検討と、検討結果の周知を継続的に行う。(短期・中期)(文化庁)

・生成AIにおける俳優や声優等の肖像や声等の利用・生成に関し、不正競争防止法との関係について、考え方の整理を行い、必要に応じ、見直しの検討を行う。また、他人の肖像や声等の利用・生成に関し、その他の関連法についても、法的考え方の整理を行う。(短期・中期)(経済産業省、文化庁、特許庁、法務省、消費者庁)

・AI時代の知的財産権検討会「中間とりまとめ」等を踏まえ、AI技術の進歩の促進と知的財産権の適切な保護が両立するエコシステムの実現に向けて、各知的財産法とAIの適用関係や各主体に期待される取組例等について周知し、取組を促進する。(短期・中期)(内閣府(知財)、経済産業省、総務省、文化庁)

・生成AI及びこれに関する技術についての共通理解の獲得、AI学習等のための著作物のライセンス等の実施状況、海賊版を掲載したウェブサイトに関する情報の共有など、関係当事者間における適切なコミュニケーションを促進する。(短期・中期)(文化庁、経済産業省)

・2023年度の調査研究結果(「AIを利活用した創作の特許法上の保護の在り方に関する調査研究」)を踏まえつつ、2024年度も引き続き深掘り検討を行う。また、AI関連発明の国際的な議論を促進するために、2023年度に拡充・公表したAI関連発明の特許審査事例を含めた我が国の審査実務を諸外国に情報発信していく。(短期・中期)(特許庁)

・AI技術の進展による意匠分野でのAIの利活用の拡大を踏まえ、創作非容易性等の意匠審査実務上の課題やその他の意匠制度に生じる課題について諸外国の状況も踏まえて整理・検討する。(短期・中期)(特許庁)

 なお、何をしたいのかまでは分からないが、生成AIについては、特許などの産業財産権制度との関係で、以下の様な項目も第32ページにもある。

・生成AI技術の発達や仮想空間における取引の拡大によるビジネスの多様化が進むなど、企業活動におけるDXが進展する中、産業財産権制度にも新たな課題が生じている。また、行政手続の更なる利便性向上が求められている。これらを踏まえて、DX時代にふさわしい産業財産権制度の在り方について検討する。(短期・中期)(特許庁)

 また、今までなぜか全く触れられる事のなかった経済安全保障法に基づく新秘密特許(特許非公開)制度について以下の様な項目が第23ページに入っている。

・2024年5月に施行された経済安全保障推進法に基づく特許出願非公開制度について、損失の補償に関する考え方も含めて、事業者等の制度に対する理解を促進するための持続的な周知・広報及び情報提供に努める。(短期・中期)(内閣府(政策統括官(経済安全保障担当))、特許庁)

 更新版のインターネット海賊版対策メニューの内容については下でもう少し書くが、知財計画2024の海賊版対策関係項目としては、第25~27ページに以下の様なものが並んでいる。

・海賊版対策に係る民間及び関係府省庁の実務者級連絡会議を開催し、最新情報の共有等を図りながら、インターネット上の海賊版に対する総合的な対策メニューに基づく取組を官民一体となって進める。(短期・中期)(内閣府(知財)、警察庁、総務省、法務省、外務省、文化庁、経済産業省)

・海賊版・模倣品を購入しないことはもとより、特に、侵害コンテンツについては、視聴者は無意識にそれを視聴し侵害者に利益をもたらすことから、侵害コンテンツを含む海賊版・模倣品を容認しないということが国民の規範意識に根差すよう、関係省庁・関係機関による啓発活動を推進する。(短期・中期)(警察庁、消費者庁、総務省、財務省、文化庁、農林水産省、特許庁)

・検索サイト事業者における海賊版に係る検索結果表示の削除又は抑制など、海賊版サイトの運営やこれへのアクセスに利用される各種民間事業者のサービスについて必要な対策措置が講じられるよう、それら民間事業者と権利者との協力等の促進、当該民間事業者への働きかけ、権利行使を行う権利者への支援等を行う。(短期・中期)(総務省、文化庁、経済産業省、内閣府(知財))

・日本コンテンツのインターネット上の海賊版に係る被害実態について、継続的な把握を行う(配信先が国外向けか(日本への配信も含む)、専ら当該国内向けか等の類型別での被害額の算出が可能かの検討も含む)。(短期・中期)(内閣府(知財)、経済産業省、外務省、警察庁)

・世界知的所有権機関(WIPO)や二国間協議等の枠組み、国際会議等の場を活用し、海賊版対策の強化に向けた働きかけを行うなど、国際連携の強化を図る。海外海賊版サイトの運営者摘発等に向け、外国公安当局への積極的な働きかけ、国際的な捜査協力等を推進するほか、民間事業者との協力の下、デジタルフォレンジック調査の実施等の取組を進めるなど、国際執行の強化を図る。(短期・中期)(内閣府(知財)、警察庁、総務省、法務省、外務省、文化庁、経済産業省)

・インターネット上の国境を越えた著作権侵害等に対し国内権利者が行う権利行使への支援の取組の充実を図る。(短期・中期)(文化庁)

・インターネット上の違法・有害情報への対応として、削除対応の迅速化や運用状況の透明化を大規模プラットフォーム事業者に義務付けるためのプロバイダ責任制限法の改正(2024年5月)に基づき、省令等の制度整備や、ガイドライン等を通じ、どのような情報を流通させることが法令違反や権利侵害となるかの明確化、及びそれらの適切な運用を図るなど、プラットフォーム事業者に対する実効的な対策を推進する。(短期・中期)(総務省)

・海外の現地の人々に向けて日本のコンテンツを配信する海外の海賊版サイト等の巧妙化・多様化に対応し、在外公館等を通じた現地の言語での周知啓発、海賊版サイト等に関する情報提供のインセンティブ付与等の在り方の検討、海外市場における日本コンテンツの正規版の流通促進などの健全なエコシステムの促進に向けた取組を、官民一体となって推進する。(短期・中期)(内閣府(知財)、総務省、外務省、文化庁、経済産業省)

・CDNサービス事業者における海賊版サイトへのサービス提供の停止など、海賊版サイトの運営に利用される各種民間事業者のサービスについて必要な対策措置が講じられるよう、当該民間事業者への働きかけ等を行う。(短期・中期)(総務省、内閣府(知財)、関係府省)

・越境電子商取引の進展に伴う模倣品・海賊版の流入増加へ対応するため、2022年10月に施行された改正商標法・意匠法・関税法により、海外事業者が郵送等により国内に持ち込む模倣品が税関による取締りの対象となったことを踏まえて、模倣品・海賊版に対する厳正な水際取締りを実施する。加えて、善意の輸入者に不測の損害を与えることがないよう、引き続き、十分な広報等に努める。また、他の知的財産権についても、必要に応じて、検討を行う。(短期・中期)(財務省、特許庁、文化庁)

・海外における日本の農林水産物・食品のブランド産品の模倣品等の流通を防ぐため、外国とのGIの相互保護の枠組みづくり及び海外ECサイトの調査、農林水産物・食品の模倣品疑義情報相談窓口の運用等を通じた不正使用の侵害対策を推進する。(短期・中期)(農林水産省、外務省、特許庁)

 同時に、知財計画2024に向けた意見募集の結果も公表されている。その結果概要(pdf)を見ると、個人の意見は3千件を超えている筈だが、個人からの意見(pdf)では70件程度にまとめられてしまっている。この様な意見募集の結果の公表の仕方はかなり雑であり、恣意的なものとなっているのではないかと思える。時間が掛かるかも知れないが、今後全ての意見が公開される事を期待する。

(2)やはり空疎な新クールジャパン戦略
 同じ日に新たなクールジャパン戦略(pdf)クールジャパン戦略概要(pdf)も参照)も決定されているが、前回の2019年のクールジャパン戦略同様、その内容はやはり極めて空疎と言わざるを得ない。(2019年のクールジャパン戦略については第413回参照。)

 例えば、第18ページで、

◯ コンテンツの海外展開、インバウンド(訪日外国人旅行消費額)、農林水産物等の海外展開、ファッションや化粧品等の海外展開などクールジャパン関連産業において、経済効果として、2033年までに50兆円以上の規模とする。参考として、2028年までに30兆円以上の規模とすることを中間的な目標とする。

 また、第26ページで、

◯ 日本発のコンテンツの海外市場規模を、2033年までに20兆円とすることを目標値として設定する。参考として、2028年までに10兆円の規模とすることを中間的な目標とする。
 併せて、目標値の計測に必要な統計データ等の改善・整備について、検討を行う。
〔参考〕
・(一社)日本経済団体連合会の提言において、2033年に15~20兆円とされている。
【内閣府(知財)、関係府省】

と、海外展開について兆円単位で約5年で倍、約10年でさらに倍という威勢の良い目標数値が踊っているが、そのためにどうするかという点になると、今まで同様、甚だ具体性に乏しい検討項目が並んでいるに過ぎない。ただ、決して前向きな事ではないが、唯一見るべきは、コンテンツ規制に関する事が特に含まれなかった事なのかも知れない。

 政策的な話としては、第30ページに以下の様に書かれている、大手ITプラットフォーマーに対する独占禁止法・競争法の観点からのアプローチが非常に重要になって来るだろうが、日本の政府・与党がこの点を本当にどこまで理解しているかは分からない。

◯ 動画配信サービスに係る調査結果や著作権政策、情報通信政策等の各政策の動向を踏まえながら、公正かつ自由な競争の実現に向けて、海外プラットフォームとの対等な関係が構築されるよう、一方的なルール変更(不利益変更)の有無や透明性の向上に係る取組(視聴者数等のデータの公開)、収益配分、コンテンツの二次利用に係る権利設定等について実態の把握を進める。
【公正取引委員会、文化庁、総務省、内閣府(知財)】

 また、法改正に関するものなどはほぼ今年の知財計画の記載をなぞっているが、第30~31ページの2023年著作権法改正による新裁定制度に関する事はクールジャパン戦略だけに書かれている。(2023年著作権法改正については第473回参照。)

◯ デジタル時代に対応したコンテンツ創作の好循環を促し、クリエイターへの対価還元の拡大等にも資するものとなるよう、改正著作権法に基づく未管理公表著作物等の利用に関する裁定制度の円滑な運用に向けた必要な準備を行う。
 また、制度の施行に合わせて「分野横断権利情報検索システム」が構築・運用されるよう、権利者、利用者をはじめ幅広いステークホルダーの協力を得つつ、各分野のデータベースを保有する団体等との連携、可能な限りデジタルで完結できるシステムの設計・開発等に向けた取組を進める。
【文化庁】

 私がクールジャパン戦略のために出したパブコメは第489回に載せたが、10年前のクールジャパン提言で唯一意味のあった二次創作規制の緩和が再び書かれる事は今回もなかった。一応、第21ページで以下の様な記載が僅かにあるものの、残念ながら、この点についてさらなる検討が行われるまでにはまだ時間が掛かりそうである。(2014年のクールジャパン提言については第319回参照)

 また、近年においては、ユーザーによる二次創作、三次創作、・・・(まとめて「n次創作」という。)が活発に行われるようになり、例えば、Vtuberのファンコミュニティが世界中に形成されているが、n次創作された作品がファンコミュニティ内、コミュニティ間で流通・共有されることに伴い、日本の音楽の海外展開が進展するといったケースが見られる。このような動きは今後さらに広がっていくものと見込まれる。

 クールジャパン戦略に関する意見募集の結果も公表されているので合わせてここにリンクを張っておく。(なお、こちらは3千件以上の個人の意見がそのまま公表されているようだが、PDFファイルが印刷版の画像取り込みになっていて非常に見にくい。)

(3)更新版のインターネット海賊版対策メニュー
 5月28日には、インターネット上の海賊版に対する総合的な対策メニュー及び工程表(更新版)(pdf)も公表されている。

 これは2021年版(pdf)から3年ぶりの改定となり、3年間の著作権法やプロバイダー責任制限法の改正を受けて記載が改められたりしているが、それ以外では、2ページ目のメニューで、

  • 「被害の実態把握」として、「・日本コンテンツのインターネット上の海賊版に係る被害実態の継続的な把握を行う(配信先が国外向けか(日本への配信も含む)、専ら当該国内向けか等の類型別での被害額の算出が可能かの検討も含む)」
  • 「国際連携・執行等の強化」内に、「・海賊版対策情報ポータルサイトや相談窓口を通じた情報収集及び著作権者等の権利行使を促進する」
  • 「海賊版サイトへの広告出稿の抑制」内に、「・海賊版サイトに対する広告出稿の自主的な抑制に関し、権利者等と広告関係団体の合同会議を通じた海賊版サイトリストの共有、広告関係団体の自主的ガイドライン策定・普及の推進を図ることや、広告収入に係る法的整理等の検討を行う」
  • 「CDNサービス等の海賊版サイトへの悪用防止」として、「・権利者と通信事業者の合同会議を通じ、個々の海賊版サイトのリストの共有を図るとともに、著作権侵害コンテンツの流通を容易にするために不正利用されるクラウドフレア社などCDNサービス等について、必要な対策の推進を図る」

という事が新たに書き込まれている。これらはいずれも知財計画に書かれている事と同じで悪い事ではなく、地道に進められるべきものと思うが、同じページに注として、「ブロッキングに係る法制度整備については、他の取組の効果や被害状況等を見ながら検討」と書かれている様に、日本政府として完全にブロッキングを諦めたのではないと見える事には引き続き注意が必要だろう。

(4)AIと知的財産権の関係に関する報告書
 同じく5月28日に、AI時代の知的財産権検討会の中間とりまとめの最終版(pdf)も公表されている。

 内容は4月22日の案とほぼ同じだが(4月22日の案については第495回参照)、5月16日の東京地裁判決を受けて(この地裁判決については前回参照)、第84ページの注81に以下の様な記載が追加された。

 2024年5月16日、AIを発明者として否定する東京地裁判決(令和5年(行ウ)第5001号)が出され、裁判所は「知的財産基本法に規定する「発明」は、人間の創造的活動により生み出されるものの例示として定義されている」と指摘し、特許法には発明者が自然人であることを前提とした規定があると述べ、特許庁の判断は適法と認めた。本結論は、本中間とりまとめの考え方とも軌を一にするものである。
 他方、同判決では、「特許法にいう「発明者」が自然人に限られる旨の前記判断は、上記実務上の懸念までをも直ちに否定するものではない」点、また「我が国で立法論としてAI発明に関する検討を行って可及的速やかにその結論を得ることが、AI発明に関する産業政策上の重要性に鑑み、特に期待されている」とも付言されている。昨今のAIを巡る状況変化は目まぐるしく、今後のAI技術動向や国際動向、ユーザーニーズ、その他情勢を踏まえ、特許法とAIの関係については、特許庁における検討が期待される。

 知財計画に書かれている事と同じだろうが、ここでも書かれている様にAIと特許の関係については特許庁でさらに検討が進められるのだろう。

(5)統合イノベーション戦略とAI戦略会議での検討
 今まで取り上げた事はなかったが、今年はAIとの関係があるので、最後に少し触れておくと、統合イノベーション戦略推進会議での検討を経て、6月4日に、統合イノベーション戦略2024(pdf)イノベーション戦略概要(pdf)も参照)も閣議決定されている。

 その第7ページに、知財計画と同様の知的財産に関する検討と並んで、以下の様な項目が書かれている。

(偽・誤情報への対策)
・生成AIを利用したものを含め、ネット上に流通・拡散する偽・誤情報や、SNS上のなりすまし型偽広告への対応等について、国際的な動向を踏まえつつ、技術・研究開発の推進、ファクトチェックの推進、国際的な連携強化など、制度面も含む総合的な対策を進める。
・ネット上に流通するAI生成コンテンツを判別する技術の開発・実証等や、リテラシー向上等に取り組む。

 そして、少し前後するが、5月22日のAI戦略会議でこの項目に対応する検討が始まっている。

 なぜか日本では知的財産の関係に関する検討が先行していたが、AIについて本当に検討されるべきはここで言われている様に偽情報対策として何が考えられるかという事だろう。AI技術の開発や利用の促進といった観点もあり、それほど規制色の強い方向性が出て来る事は想定していないが、今後具体的に何が検討されて行くのか注意が必要である。

 最後に上で取り上げた事のまとめを書いておくと、知的財産に関する政策検討としては、今年も各省庁で続けられるAIとの関係に関する検討は引き続き最も注目すべきであろうし、海賊版対策に関する検討がそれに続くと思える。また、新クールジャパン戦略が空疎極まるものだったのは残念であり、さらに迷走が続くだろうが、規制的な事が書かれなかっただけでも良いとするべきなのかも知れない。そして、知財とは離れるが、AIに関する政策的検討として要注意なのが、AI戦略会議における偽情報対策としての制度面も含む検討に違いない。

(2014年6月17日の追記:6月22日〆切で図書館等によりメール送信等が可能な対象の追加に関する政令改正案に関するパブコメが募集されている。これに対し、対象が追加される事は良いが、法改正の趣旨を踏まえ、対象範囲を広げてはどうかという意見を出したので、念のため、電子政府の意見募集ページへのリンクをここに張っておく。また、上で気づいた誤記を直した(「合わせt」→「合わせて」)。)

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2024年4月28日 (日)

第495回:知財本部・AI時代の知的財産権検討会の中間とりまとめ案(著作権以外の知的財産権と人工知能(AI)の関係について)

 先週4月22日に知財本部でAI時代の知的財産権検討会の第7回が開かれ、中間とりまとめ案が公開された。この後はもう大きな修正は入らないだろうと思うので、このタイミングでその内容を見ておきたいと思う。

 この中間とりまとめ案(pdf)は一応著作権も含むが、著作権に関する部分は実質的に文化庁の著作権分科会・法制度小委員会の報告書「AIと著作権に関する考え方について」をそのまま引いたものとなっているので、ここではその部分は省略し、それ以外の知的財産権と人工知能(AI)の関係について書かれた結論の部分を取り上げる。(文化庁の報告書については第492回参照。)

 著作権以外の知的財産権との関係をまとめているのは「Ⅲ.生成AIと知財をめぐる懸念・リスクへの対応等について」の「2.法的ルール②(著作権法以外の知的財産法との関係)」であり、その「(3)生成AIと意匠法(意匠権)との関係」(第21ページ~)のイで、まず、意匠との関係について以下の様に書かれている。

イ 生成AIに係る各段階における意匠法の適用

 生成AIと意匠権について、現行の制度を踏まえると、以下の帰結や検討課題が考えられる。

(ア)学習段階

 他人の登録意匠またはそれと類似する意匠(以下「登録意匠等」という。)が含まれるデータをAIに学習させる行為(学習段階)については、登録意匠等に係る画像であっても、AI学習用データとしての利用は、「意匠に係る画像」の作成や使用等には当たらず、意匠法2条2項に定める「実施」に該当しないと考えられるため、意匠権の効力が及ぶ行為に該当しないと考えられる。そもそも意匠法は設定登録により一定期間独占的に権利を実施することができる代わりに、登録公報にその内容を掲載し、広く参照されることで更なる意匠の創作を奨励し、産業の発達に寄与することを目的としているため、更なる意匠の創作に向けて登録意匠等をAIに学習させることに意匠権の効力が及ばないことは、当該目的とも整合的である。

(イ)生成・利用段階

 AI生成物に他人の登録意匠等が含まれ、それを利用する行為(生成・利用段階)については、権利侵害の要件として依拠性は不要であり、また、類似性判断について、AI特有の考慮要素は想定し難いため、AI生成物に関する権利侵害の判断は、従来の意匠権侵害の判断と同様であると考えられる。すなわち、登録意匠とAI生成物との比較を行い、物品の用途及び機能の共通性を基準として物品が同一又は類似と評価でき、かつ、取引者・需要者の注意を最も惹きやすい部分において構成態様を共通にしており、形態が同一又は類似と評価できるか否かで判断を行うことになると考えられる。

(ウ)AI生成物の意匠法による保護

 意匠法3条1項1号は「工業上利用することができる意匠の創作をした者は、・・・その意匠について意匠登録を受けることができる。」と規定しており、意匠法6条1項2号は「意匠の創作をした者の氏名及び住所又は居所」を願書に記載することを求めている。意匠法6条1項1号が「出願人」について「氏名又は名称及び住所又は居所」と規定していることと対比すれば、意匠法は、工業上利用することができる意匠を自然人が創作することを前提としていると考えられる。また、意匠法15条2項では特許法33条1項を準用し、意匠登録を受ける権利は移転することができる旨規定されており、出願前であっても権利移転することができる権利能力を有する自然人であることを予定しているものである。
また、裁判例によれば、意匠登録を受ける権利を有する創作者とは、「意匠の創作に実質的に関与した者」をいうとされており、したがって、自然人がAIを道具として用いて意匠の創作に実質的に関与をしたと認められる場合には、AIを使って生成した物であっても保護され得ると考えられる。いかなる場合に「自然人が意匠の創作に実質的に関与」したと言えるかどうかについては、関連の裁判例のほか、上述した著作権法におけるAI生成物の保護に関する議論(具体的には、上記「1.法的ルール①(著作権法との関係)」(3)ウ)が参考になるものと思われる。

(以下略)

 次に、「(4)生成AIと商標法(商標権)との関係」(第26ページ~)のイで、商標との関係について以下の様にまとめられている。

イ 生成AIに係る各段階における商標法の適用

 生成AIと商標権について、現行の制度を踏まえると、以下の帰結が考えられる。

(ア)学習段階

 他人の登録商標またはそれと類似する商標(以下「登録商標等」という。)が含まれるデータをAIに学習させる行為(学習段階)については、登録商標等であっても、AI学習用データとしての利用は、商標権の効力が及ぶ指定商品・役務についての使用に該当しないとして、商標権の効力が及ぶ行為に該当しないと考えられる。

(イ)生成・利用段階

 AI生成物に他人の登録商標等が含まれ、それを利用する行為(生成・利用段階)については、権利侵害の要件として依拠性は不要であり、また、類似性判断について、AI特有の考慮要素は想定し難いため、AI生成物に関する権利侵害の判断は、従来の商標権侵害の判断と同様に、商品・役務の同一・類似性及び商標の同一・類似性により判断を行うことになると考えられる。すなわち、商品・役務の類似性については、それぞれの商品・役務について同一・類似の商標が使用された場合に同一営業主の製造、販売又は提供に係る商品・役務と誤認されるおそれがあるか否かで判断を行い、商標の類似性については、登録商標とAI生成物が同一又は類似の商品・役務に使用された場合に、両者の外観、称呼又は観念等によって需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察し、具体的な取引状況に基づいて、需要者に出所混同のおそれを生ずるか否かで判断を行うことになると考えられる。

(ウ)AI生成物の商標法による保護

 商標法は、商標を使用する者の業務上の信用の維持と需要者の利益の保護を目的としており、自然人の創作物の保護を目的とするものではない。そのため、当該商標が自然人により創作されたものか、AIにより生成されたものかに関わらず、商標法3条及び4条等に規定された拒絶理由に該当しない限り商標登録を受けることができる。したがって、AI生成物であっても商標法で保護され得ると考えられる。

 また、「(5)生成AIと不正競争防止法との関係」(第28ページ~)で、不正競争防止法(不競法)により規制される商品等表示、形態模倣、営業秘密等との関係について以下の様に書かれている。

(5-1)商品等表示規制との関係

(中略)

イ 生成AIに係る各段階における商品等表示規制の適用

 生成AIと不正競争防止法における商品等表示規制について、現行の制度を踏まえると、以下の帰結が考えられる。

(ア)学習段階

 他人の商品等表示が含まれるデータをAIに学習させる行為については、AI学習用データとしての利用は、周知な商品等表示について「混同」を生じさせるものではなく、また、著名な商品等表示を自己の商品・営業の表示として使用する行為ともいえないため、不正競争行為(不正競争防止法2条1項1号及び2号)に該当しないと考えられる。

(イ)生成・利用段階

 AI生成物に他人の商品等表示が含まれ、それを利用する行為(生成・利用段階)については、不正競争の要件として依拠性は不要であり、また、類似性判断について、AI特有の考慮要素は想定し難いため、AI生成物に関する不正競争(不正競争防止法2条1項1号及び同項2号)か否かの判断は、一般的な違法性の判断と同様である。すなわち、他人の周知な商品等表示と同一・類似のものを使用等することにより、他人の商品・営業と混同を生じさせる行為(同項1号)、又は自己の商品等表示として他人の著名な商品等表示と同一・類似のものを使用等する行為(同項2号)か否かにより判断することになると考えられる。

(ウ)AI生成物の不正競争防止法(商品等表示規制)による保護

 不正競争防止法は、商品等表示規制について、「他人の商品等表示として需要者の間に広く認識されているもの」(不正競争防止法2条1項1号)や「他人の著名な商品等表示」(同項2号)と同一又は類似の商品等表示を使用等することを不正競争行為として規定しており、当該商品等表示が自然人により創作されたものか、AIにより生成されたものかを問わない。
 したがって、AI生成物であっても商品等表示として不正競争防止法で保護され得ると考えられる。

(5-2)商品形態模倣品提供規制との関係

(中略)

イ 生成AIに係る各段階における商品形態模倣品提供規制の適用

 生成AIと不正競争防止法における商品形態模倣品提供規制について、現行の制度を踏まえると、以下の帰結や検討課題が考えられる。

(ア)学習段階

 他人の商品の形態が含まれるデータをAIに学習させる行為については、AI学習用データとしての利用は、他人の商品の形態を模倣した商品の譲渡等に該当せず、「使用」は規制の対象外であるため、不正競争行為に該当しないと考えられる。

(イ)生成・利用段階

 AI生成物に他人の商品の形態が含まれ、それを利用する行為(生成・利用段階)については、実質的に同一の形態の商品といえるかどうかの判断において、AI特有の考慮要素は想定し難い。ただし、依拠性については、上述した著作権法の検討を応用できる面も多いとも考えられる。

(ウ)AI生成物の保護

 不正競争防止法は、商品形態模倣品提供規制について、「他人の商品の形態」(不正競争防止法2条1項3号)を模倣した商品を譲渡等することを不正競争行為として規定しており、当該商品の形態が自然人により創作されたものか、AIにより生成されたものかを問わない。
 したがって、AI生成物であっても商品形態として不正競争防止法で保護され得ると考えられる。

(5-3)営業秘密・限定提供データとの関係

(中略)

イ 生成AIに係る各段階における営業秘密・限定提供データ規制の適用

 生成AIと不正競争防止法における営業秘密・限定提供データ規制について、現行の制度を踏まえると、次の帰結や検討課題が考えられる。

(ア)学習段階

 他人の営業秘密や限定提供データが含まれるデータをAIに学習させる行為については、AI学習用データとしての利用であるかどうかに関わらず、不正競争防止法が対象とするデータの保護の必要性は変わらないため、学習段階における営業秘密や限定提供データの収集や使用が不正競争行為に該当するかどうかの判断は、一般的な不正競争行為の判断と同様と考えられる。
 すなわち、営業秘密を含む学習用データの収集手段が正当なものか否か、当該取得に係る営業秘密を含む学習用データを加工し、学習用プログラムに入力する行為が「使用」(営業秘密の本来の目的に沿って行われ、当該営業秘密に基づいて行われる行為)や「開示」(営業秘密を公然と知られたものとすること及び非公知性を失わない状態で営業秘密を特定の者に示すこと)に該当するか否か、技術上の秘密の不正使用行為により生じた物の譲渡等に該当するか否か等によって、不正競争行為該当性を判断することになると考えられる。
 また、限定提供データを含む学習用データについても、上記と同様に限定提供データを含む学習用データの収集手段が正当なものか否か、当該取得に係る限定提供データを含む学習用データを加工し、学習用プログラムに入力する行為が「使用」や「開示」に該当するか否か等によって、不正競争行為該当性を判断することになると考えられる。
いずれについても、判断基準について生成AI特有の問題はないと考えられる。

(中略)

(イ)生成・利用段階

 営業秘密や限定提供データを使用して得られた学習済みモデルや当該モデルの出力(AI生成物)については、学習済みモデルやAI生成物に、元の営業秘密や限定提供データ(なお、それらと実質的に等しいものを含む。)が含まれている場合には、その使用・開示が元の営業秘密・限定提供データの使用・開示に該当し、そうでない場合には該当しないと考えられる。

(中略)

(ウ)AI生成物の保護

 既に述べたとおり、不正競争防止法は、事業者の公正な競争の確保を目的としており、営業秘密・限定提供データ規制との関係で当該情報が自然人により創作されたものか、AIにより生成されたものかを問わない。
 したがって、AI生成物であっても、営業秘密の要件(秘密管理性、有用性、非公知性)や限定提供データの要件(限定提供性、相当蓄積性、電磁的管理性)を満たす限り、不正競争防止法で保護され得ると考えられる。

 そして、「(6)生成AIとその他の権利(肖像権・パブリシティ権)の関係」(第33ページ~)のウで、肖像権・パブリシティ権との関係について以下の様に書かれている。

ウ 生成AIに係る各段階における肖像権及びパブリシティ権の適用

 学習段階、生成・利用段階において、他人の肖像が使用される場合に、それが肖像権を侵害するものと言えるかどうかは、「被撮影者の社会的地位、撮影された被撮影者の活動内容、撮影の場所、撮影の目的、撮影の態様、撮影の必要性等を総合考慮して、被撮影者の上記人格的利益の侵害が社会生活上受忍の限度を超えるものといえるかどうか」という肖像権侵害に関する一般的な判断と同様に考えるべきであり、その判断基準について生成AIに特有の問題はないと考えられる。
 また、学習段階、生成・利用段階において、著名人等の顧客吸引力を有する肖像等が使用される場合があり、それがパブリシティ権を侵害するものと言えるかどうかは、専ら肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とするといえるか否かというパブリシティ権侵害に関する一般的な場合と同様に考えられ、その判断基準について、生成AIに特有の問題はないと考えられる。なお、判例は専ら肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とするといえる場合の例として「①肖像等それ自体を独立して鑑賞の対象となる商品等として使用し、②商品等の差別化を図る目的で肖像等を商品等に付し、③肖像等を商品等の広告として使用するなど、専ら肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とするといえる場合」を挙げている。

 これに加え、特にパブリシティ権等と声の関係について、「5.個別課題」(第50ページ~)の「(2)声の保護」のイで、以下の様に書かれている。

イ 肖像権・パブリシティ権による保護の有無

(ア)肖像権による保護の有無

 肖像権の概要については、既に上記「2.法的ルール②(著作権法以外の知的財産法との関係)」「(6)生成AIとその他の権利(肖像権・パブリシティ権)の関係」において整理したとおりである。
 現在、我が国には、肖像権を明文化した法令は存在しないが、判例は「人は、みだりに自己の容ぼう等を撮影されないということについて法律上保護されるべき人格的利益を有」していると判示し、撮影によって当該人格的利益が侵害され、当該侵害の程度が社会生活上受忍の限度を超える場合には、肖像権の侵害となると判示している。
もっとも、上述のいずれの判例においても「容ぼう等」とは「容ぼう」及び「姿態」であると定義されているところ、これを更に抽象化・一般化して、「容ぼう等」に「声」が含まれると解することは文言上困難と考えられ、「声」が上記判例でいうところの肖像権により保護される可能性は高いとは言えないと考えられる。

(イ)パブリシティ権による保護の有無

 パブリシティ権の概要についても、既に上記2(6)において整理したとおりである。
現在、我が国には、パブリシティ権を明文化した法令は存在しないが、判例は、「人の氏名、肖像等……は、個人の人格の象徴であるから、当該個人は、人格権に由来するものとして、これをみだりに利用されない権利を有すると解される……。そして、肖像等は、商品の販売等を促進する顧客吸引力を有する場合があり、このような顧客吸引力を排他的に利用する権利(以下「パブリシティ権」という。)は、肖像等それ自体の商業的価値に基づくものであるから、上記の人格権に由来する権利の一内容を構成する」と述べて、パブリシティ権を認めている。
 そして、同判決の調査官解説では、パブリシティ権の客体である「肖像等」については、本人の人物識別情報を指し、「声」は「肖像」そのものではないとしても、「肖像等」には、「声」が含まれると明示されている。
 したがって、同判例においてパブリシティ権が及ぶ場合として例示した「①肖像等それ自体を独立して鑑賞の対象となる商品等として使用し、②商品等の差別化を図る目的で肖像等を商品等に付し、③肖像等を商品等の広告として使用するなど、専ら肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とするといえる場合」に該当する場合、すなわち、①声自体を独立して鑑賞の対象となる商品等として使用する場合、②商品等の差別化のために声を商品等に付している場合、③声を商品等の広告として使用している場合には、「声」についてパブリシティ権に基づく保護が可能と考えられる。
 なお、同判例が示したパブリシティ権が及ぶ3つの場合は、あくまで例示にすぎず、パブリシティ権により「声」が保護される場合が、上述した3つの場合に限定されることを示すものではないことには留意する必要がある。パブリシティ権は、顧客吸引力を排他的に利用する権利であるため、具体的な利用態様や状況に鑑み、「専ら肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とするといえる場合」であれば、「声」に対するパブリシティ権による保護は及ぶと考えられる。

 最後に、特許だけは別にして「Ⅳ.AI技術の進展を踏まえた発明の保護の在り方について」(第80ページ~)が立てられ、考え方として以下の様な事が書かれている。

1.AIを利用した発明の取扱いの在り方

(中略)

(2)考え方

 現時点では、AI自身が、人間の関与を離れ、自律的に創作活動を行っている事実は確認できておらず、依然として自然人による発明創作過程で、その支援のためにAIが利用されることが一般的であると考えられる。このような場合については、発明の特徴的部分の完成に創作的に寄与した者を発明者とするこれまでの考え方に従って自然人の発明者を認定すべきと考えられる。すなわち、AIを利用した発明についても、モデルや学習データの選択、学習済みモデルへの入力等において、自然人が関与することが想定されており、そのような関与をした者も含め、発明の特徴的部分の完成に創作的に寄与したと認められる者を発明者と認定すべきと考えられる。
 他方で、今後、AI技術等のさらなる進展により、AIが自律的に発明の特徴的部分を完成させることが可能となった場合の取扱いについては、技術の進展や国際動向等を踏まえながら、引き続き必要に応じた検討を進めることが望ましいと考えられる。
 また、AI自体の権利能力(AI自体が特許を受ける権利や特許権の権利主体になれるか)についても、発明(特許権)に限られる問題ではないところ、国際動向等も踏まえながら、引き続き必要に応じて検討を進めることが望ましいと考えられる。

2.AIの利活用拡大を見据えた進歩性等の特許審査実務上の課題

(中略)

(2)考え方

 現時点では、発明創作過程におけるAIの利活用の影響によりこれまでの特許審査実務の運用を変更すべき事情があるとは認められない。したがって、進歩性の判断に当たっては、幅広い技術分野における発明創作過程でのAIの利活用を含め、技術常識や技術水準を的確に把握した上で、これまでの運用に従い、当該技術常識や技術水準を考慮し、進歩性のレベルを適切に設定して判断を行うべきと考えられる。
 また、実施可能要件及びサポート要件に関しても、AIの利活用を踏まえた技術常識や技術水準把握した上で、これまでの運用に従って判断を行うべきと考えられる。
 なお、例えば、AIを用いた機能・性質の推定等の技術がより発展した場合には、これまでの進歩性や記載要件の考え方ではイノベーションの成果を適切に保護することができなくなる可能性もあるが、そのような場合の発明の保護の在り方については、今後のAI技術等の進展を見据えつつ、必要に応じて適切な発明の保護の在り方を検討すべきと考えられる。
 また、特許審査プロセスにおけるAIの積極的な活用による審査の効率化や質の向上に加え、発明等の創造・保護・活用の各過程におけるAI技術の活用(例えば、特許性の検討等の出願や権利化をサポートするAIサービスの開発・利用等)を通じたイノベーションの創出についても、AI技術の進展の状況を踏まえて検討が必要である(なお、意匠についても同様である)。

 ここで、少し補足をしつつ、上で書かれている事から各知的財産権とAIの関係について主要なポイントとそのまとめの表を私なりに作っておくと、以下の様になる。

・特許権
(1)学習段階:関連記載なし(ただし、通常の特許権侵害と同様で、特許請求の範囲によるものと思われる)
(2)生成・利用段階:関連記載なし(ただし、通常の特許権侵害と同様で、特許請求の範囲によるものと思われる)
(3)AI生成物の保護:自然人の創作が前提、自然人がAIを道具として用いた場合は発明の特徴的部分の完成に創作的に寄与したかどうかによる

・意匠権
(1)学習段階:AI学習に意匠権の効力は及ばない
(2)生成・利用段階:意匠権侵害に依拠性は不要、類似性判断について通常の侵害の場合と同様
(3)AI生成物の保護:自然人の創作が前提、自然人がAIを道具として用いた場合は創作に実質的に関与をしたかどうかによる

・商標権
(1)学習段階:AI学習に商標権の効力は及ばない
(2)生成・利用段階:商標権侵害に依拠性は不要、類似性判断について通常の侵害の場合と同様
(3)AI生成物の保護:AI生成物であっても登録により保護を受ける事は可能

・商品等表示(不正競争防止法)
(1)学習段階:不正競争に該当しない
(2)生成・利用段階:不正競争に依拠性は不要、類似性判断について通常の商品等表示の場合と同様
(3)AI生成物の保護:AI生成物であっても保護を受ける事は可能

・形態模倣(不正競争防止法)
(1)学習段階:不正競争に該当しない
(2)生成・利用段階:不正競争における依拠性について著作権法の検討を応用可、実質的同一性の判断について通常の形態模倣の場合と同様
(3)AI生成物の保護:AI生成物であっても保護を受ける事は可能

・営業秘密(不正競争防止法)
(1)学習段階:学習における営業秘密の取得が不正かどうか等により、通常の営業秘密の判断と同様
(2)生成・利用段階:AI生成物の使用についてそのAI生成物に元の営業秘密が含まれているかどうか等により、通常の営業秘密の判断と同様
(3)AI生成物の保護:AI生成物であっても保護を受ける事は可能

・パブリシティ権(最高裁判例により人格権に由来)
(1)学習段階:通常のパブリシティ権侵害の場合と同様で、声も保護可
(2)生成・利用段階:通常のパブリシティ権侵害の場合と同様で、声も保護可
(3)AI生成物の保護:関連記載なし(ただし、自然人でないAIの生成物に人格権に由来するパブリシティ権がないのは自明だろう)

Aiandip 

 画像の表の方が分かりやすいかと思うが、これは基本的に著作権の場合と同様であって、AIの学習段階における利用において知的財産権が問題になる事はそれほど多くないが、生成・利用段階において、AI生成物であるからと言ってその利用が既存の知的財産権の侵害とならないなどという事はあり得ず、いずれの知的財産権との関係でも、AI生成物が本当に既存の他人の権利と抵触していないか十分注意する必要があるという事である。

 そして、これもほぼ明らかな事と思うが、自然人でないAIの生成物が各法で保護を受けられるかどうかは、それが自然人の創作を保護するための創作保護法か、それとも社会における競争秩序を維持するための競業秩序法あるいは標識保護法であるかというそれぞれの法律の根本原則から来ているものである。

 この中では人格権に由来するパブリシティ権はその性質がかなり異なるが、場合によってパブリシティ権等を考える必要があるのも当然の事であり、パブリシティ権により声が保護され得る事を明記したのは政府として一歩踏み込んだものと思える。

 また、上の表とは別の事として、この中間とりまとめ案は、特許の審査では進歩性、実施可能要件、サポート要件についてこれまでの運用に従ってレベルを適切に設定して判断を行うべきとしており、今現在のAI技術のレベルを考えた時にはこれも妥当なものと言って良いのではないかと思う。

 なお、ここで細かく取り上げる事はしないが、この中間とりまとめ案は、ディープフェイクと知的財産権の関係についても記載しており、Ⅲ.5の「(4)ディープフェイクについての知的財産法の視点からの課題整理」(第60ページ~)のオで、

オ ディープフェイクに関する基本的な考え方

 以上がディープフェイクに対する知的財産法等による対応可否についての概観であるところ、ディープフェイクへの対応に係る海外における法規制動向(ポルノや選挙活動等の特定目的下での規制の動きや、偽情報対応全般を目的とした規制の動き)を踏まえると、ディープフェイクの諸問題は、知的財産権法とは切り離して議論すべき要請が強いと評価できる。
 この点については、意見募集でも、ディープフェイクによる悪用事例は人権侵害であり、知的財産以前の問題であるという意見や、名誉毀損罪、偽計業務妨害罪、詐欺罪などの刑事罰による法的措置の発動を求める意見があったところである。

と、ディープフェイクの諸問題は知的財産権法とは切り離して議論すべきもので、悪質なディープフェイクに対しては名誉毀損罪、偽計業務妨害罪、詐欺罪などの刑事罰の適用が考えられると言っているのも極めて妥当な事である。

 全体として、この中間とりまとめ案は、危うい法改正や規制強化に踏み込む事なく、生成AIについて既存の法律とその運用の整理によって対応可能である事を政府として明確に示したものとして評価できるものである。また、生成AI技術の動向や、考えられる技術や契約による対応、デジタルアーカイブ整備の促進なども含め、AIと知的財産の関係について現時点で可能な限り網羅的に書かれ、一読に値するものとなっていると言って良いだろう。(ほぼこの中間とりまとめ案の内容と同様だが、私自身の生成AIと知的財産に関する考えについては第485回に載せた去年の知財本部提出パブコメ参照。)

 次回は、今回の補足、また、第491回で取り上げたAIは発明者たり得ないとするアメリカ特許庁のガイダンスに続く話として、最近出されたアメリカ特許庁の実務AI利用ガイダンスの事を取り上げたいと思っている。

(2024年5月6日の追記:ついでに文化庁のこの前のAI報告書の内容も一緒にまとめた表も作ったのでここに載せておく。

Aiandip2

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2024年3月17日 (日)

第493回:「知的財産推進計画2024」の策定に向けた意見募集(3月27日〆切)への提出パブコメ

 今年も3月27日〆切で行われている「知的財産推進計画2024」の策定に向けた意見募集(知財本部意見募集要項(pdf)、電子政府の意見募集ページ参照)に対して意見を出したので、ここに載せておく。

 去年の知財計画の記載に合わせて、AIと著作権の関係整理に関する意見を(1)a)に書き、私的録音録画補償金問題に関する意見を(2)a)に移し、(1)e)でプロバイダー責任制限法について最近の改正案の話を入れ、(2)j)で二次創作規制の緩和について最近のクールジャパン戦略に関する意見募集の話を踏まえて書き直すなどしているが、内容は基本的に今まで出して来たパブコメをまとめたものである。(去年の知財計画2023の記載については第479回参照。)

 どこまで意見を取り入れられるかは分からないが、知財政策全般について政府に意見が出せる年一回の機会なので、関心のある方は是非意見の提出を検討する事をお勧めする。

(以下、提出パブコメ)

《要旨》
アメリカ等と比べて遜色の無い範囲で一般フェアユース条項を導入すること、ダウンロード犯罪化・違法化条項の撤廃並びにTPP協定・日欧EPAの見直し及び著作権の保護期間の短縮を求める。有害無益なインターネットにおける今以上の知財保護強化、特に著作権ブロッキングに反対するとともに歴史的役割を終えた私的録音録画補償金の完全廃止を求める。今後真の国民視点に立った知財の規制緩和の検討が進むことを期待する。

《全文》
 最終的に国益になるであろうことを考え、各業界の利権や省益を超えて必要となる政策判断をすることこそ知財本部とその事務局が本当になすべきことのはずであるが、知財計画2023を見ても、このような本当に政策的な決定は全く見られない上、2018年には危険極まる著作権ブロッキングのごり押しの検討まで行われ、2020年には非常に危ういダウンロード違法化・犯罪化の対象範囲の拡大を含む著作権法改正までなされた。知財保護が行きすぎて消費者やユーザーの行動を萎縮させるほどになれば、確実に文化も産業も萎縮するので、知財保護強化が必ず国益につながる訳ではないということを、著作権問題の本質は、ネットにおける既存コンテンツの正規流通が進まないことにあるのではなく、インターネットの登場によって新たに出てきた著作物の公正利用の類型に、今の著作権法が全く対応できておらず、著作物の公正利用まで萎縮させ、文化と産業の発展を阻害していることにあるのだということを知財本部とその事務局には、まずはっきりと認識してもらいたい。特に、最近の知財・情報に関する規制強化の動きは全て間違っていると私は断言する。

 例年通り、規制強化による天下り利権の強化のことしか念頭にない文化庁、総務省、警察庁などの各利権官庁に踊らされるまま、国としての知財政策の決定を怠り、知財政策の迷走の原因を増やすことしかできないようであれば、今年の知財計画を作るまでもなく、知財本部とその事務局には、自ら解散することを検討するべきである。そうでなければ、是非、各利権官庁に轡をはめ、その手綱を取って、知財の規制緩和のイニシアティブを取ってもらいたい。知財本部において今年度、インターネットにおけるこれ以上の知財保護強化はほぼ必ず有害無益かつ危険なものとなるということをきちんと認識し、真の国民視点に立った知財の規制緩和の検討が知財本部でなされることを期待し、本当に決定され、実現されるのであれば、全国民を裨益するであろうこととして、私は以下のことを提案する。

(1)「知的財産推進計画2023」の記載事項について:
a)生成AI・人工知能の様な新技術と著作権の関係に関する検討について
 知財計画2023の第32ページに生成AIと著作権との関係の整理について記載されている。

 2024年3月に文化庁の法制度小委員会の報告書として「AIと著作権に関する考え方について」が取りまとめられている。本報告書は、AIと著作権の関係に関し、学習・開発段階と生成・利用段階に分けて考え、学習・開発段階におけるAI事業者によるAI学習のための著作物の利用は、特別な追加学習等によって学習データの元の著作物の創作的表現を直接感得できる生成物を出力する様な場合を別として、原則として著作権法第30条の4の非享受目的利用の権利制限の対象となるとし、生成・利用段階におけるAI利用者によるAI生成物の利用が他者の著作権を侵害するかどうかは、人間がAIを使わずに創作したものと同様にその類似性・依拠性に基づき判断されるとしている。

 本報告書の内容は、現行著作権法の解釈として妥当なものであり、特に、現行の著作権法第30条の4等の適用範囲及びAI生成物の利用が著作権侵害となる場合の明確化のみを行っており、かえって社会的混乱を招き、技術の発展を阻害する恐れの強い、法改正によって新たな規制を行う事や補償金請求権を含め新しい権利を付与する事を提言していない点で高く評価できる。

 著作権侵害とならない生成物を作ろうとする限りにおいて、AIサービスの提供と利用の著作権リスクを相当程度低減している、この今の日本の著作権法のバランスは決して悪くないものである。

 そのため、現時点で余計な社会的混乱を招くだけの権利や補償金などを新たに付与するべきではなく、今後当面の間は、文化庁の本報告書による整理の結果を広く周知するに留めるべきである。

 来年度以降もAIと知的財産権に関する問題について検討を行う事自体に反対はしないが、検討を行う場合は、権利者団体に属している様な権利者のみならず、SNSなどの各種ネットサービスにおいて自分の文章や絵を公表している一般の利用者も創作者、著作権者として関係して来る事、生成AIを含む新技術が人の新しい創作のツールとなって来たという事も見逃されるべきではない。この様な新技術の発展が速い事や国際動向等にも照らし、かえって社会的混乱を招き、技術の発展を阻害する恐れの強い、法改正によって新たな規制を行う事や新しい権利を付与する事には極めて慎重であるべきである事にも変わりはない。また、著作権法がその目的を超えて技術の発展の阻害となってはならないのも当然の事であって、さらに柔軟な対応を求められる事も考えられるため、下で書く通り、アメリカ型の一般フェアユース条項の導入の検討が進められる事を期待する。

 知財計画2024において生成AI・人工知能の様な新技術と著作権の関係に関するさらなる検討について記載する場合には、技術の発展や国際動向等にも留意し、法改正によって新たな規制を行う事や新しい権利を付与する事には慎重である事を基本的な方針として合わせ明記するべきである。

 なお、知財本部や文化庁の検討の場で行われている関係者ヒアリングを見ても、権利者側団体の生成AIに関する主張は単に漠然とした不安を述べ立て確たる根拠なく規制強化と金銭的補償を求めているだけであって到底新たな立法事実たり得ないものばかりである。この様な漠然とした不安については、本素案の整理の通り、現行法によって十分著作権は守られ、その対象である既存の著作物の表現に依拠して類似した生成物による著作権侵害が行われる様になるものではない事を周知する事で十分対応可能である。

 さらに付言しておくと、AIによる偽情報生成・ディープフェイク対策については、主として知的財産との関係で検討されるべきものではない。この点については既存のなりすましの場合などと比較して本当に新たに規制すべき行為類型が生じているのではない事に留意が必要である。この様なディープフェイクは対象となった者に対して害を与えるか自らに不正な利益をもたらすかのために作られ公開されるものであって、そのためにはAI技術を用いて元となった著作物に依拠してそっくりな生成物を得て公開する事が前提となるため、著作権及び著作者人格権の侵害となるのは無論の事、目的に応じて、パブリシティ権の侵害、不正競争防止における信用毀損行為、刑法における名誉毀損や信用毀損等に該当し得る事を周知して行く事で十分と考える。

b)ダウンロード違法化・犯罪化問題について
 知財計画2023の第84ページにインターネット上の海賊版に対する総合的な対策メニューについて記載されている。2019年10月に作成され、2021年4月に更新された総合的な対策メニューにはダウンロード違法化・犯罪化の対象範囲の拡大について記載されている。

 文化庁の暴走と国会議員の無知によって、2009年の6月12日にダウンロード違法化条項を含む改正著作権法が成立し、2010年の1月1日に施行された。また、日本レコード協会などのロビー活動により、自民党及び公明党が主導する形でダウンロード犯罪化条項がねじ込まれる形で、2012年6月20日に改正著作権法が成立し、2012年10月1日から施行されている。

 そして、2018年12月に意見募集がされた文化庁の法制・基本問題小委員会の中間まとめにおいて、極めて拙速な検討から、このダウンロード違法化・犯罪化の対象範囲を録音録画から著作物全般に拡大するとの方針が示され、その意見募集において極めて多くの懸念が示されたにもかかわらず、文化庁がこの方針を諦めずにダウンロード違法化・犯罪化の対象範囲の拡大を含む著作権法改正案の提出を準備していたところ、批判の高まりを受けて2019年の通常国会提出を断念した。

 その後、文化庁は、2019年10月に侵害コンテンツのダウンロード違法化等に関するパブリックコメントを行い、11月から2020年1月にかけて侵害コンテンツのダウンロード違法化の制度設計等に関する検討会において著作権法改正案を再検討した。しかし、この検討会における議論も法案提出の結論ありきの拙速極まるものであり、国民の声を丁寧に聞くと言いながら、パブリックコメントに寄せられた最も主要な意見が要件によらずダウンロード違法化を行うべきではないというものであるという事を無視し、写り込みに関する権利制限の拡充、民事における原作者の権利の除外及び軽微なものの除外という弥縫策でダウンロード違法化・犯罪化の対象範囲を押し通そうとし、2020年2月には、自民党が文科省に海賊版対策のための著作権法改正に関する申し入れを行い、民事刑事の両方において著作権者の利益を不当に害しないと認められる特別な事情がある場合を除外することを要請した。

 これらの文化庁の議論のまとめ及び自民党の要請を含む形で、2020年6月5日にダウンロード違法化・犯罪化の対象範囲拡大を含む改正著作権法が成立し、2021年1月1日から施行されている。

 この法改正後のダウンロード違法化・犯罪化において、スクリーンショットで違法画像が付随的に入り込む場合や、ストーリー漫画の数コマ、論文の数行、粗いサムネイル画像のダウンロードの場合といった僅かな場合が除かれ、また、著作権者の利益を不当に害しないと認められる特別な事情がある場合を除外する事で、それなりの正当化事由を示せる様な特別な事情がある場合が除かれるが、これは本質的な問題の解消に繋がるものではなく、それでもなお、利用者が通常するであろう多くの場合のカジュアルなスクリーンショット、ダウンロード、デジタルでの保存行為が違法・犯罪となる可能性が出て来、場合によって意味不明の萎縮が発生する恐れがある事に変わりはない。これは、録音録画に関するダウンロード違法化・犯罪化同様、海賊版対策としては何の役にも立たない、百害あって一利ない最低最悪の著作権法改正の一つとなるものである。

 過去のパブコメでも繰り返し書いているが、一人しか行為に絡まないダウンロードにおいて、「事実を知りながら」なる要件は、エスパーでもない限り証明も反証もできない無意味かつ危険な要件であり、技術的・外形的に違法性の区別がつかない以上、このようなダウンロード違法化・犯罪化は法規範としての力すら持ち得ず、罪刑法定主義や情報アクセス権を含む表現の自由などの憲法に規定される国民の基本的な権利の観点からも問題がある。このような法改正によって進むのはダウンロード以外も含め著作権法全体に対するモラルハザードのみであり、今のところ幸いなことに適用例はないが、これを逆にねじ曲げてエンフォースしようとすれば、著作権検閲という日本国として最低最悪の手段に突き進む恐れしかない。

 また、世界的に見ても、アップロードとダウンロードを合わせて行うファイル共有サービスに関する事件を除き、どの国においても単なるダウンロード行為を対象とする民事、刑事の事件は1件もなく、日本における現行の録音録画に関するダウンロード違法化・犯罪化も含め、このような法制が海賊版対策として何の効果も上がっていないことは明白である。また、ダウンロード違法化・犯罪化の対象範囲の拡大は、研究など公正利用として認められるべき目的のダウンロードにも影響する。

 そもそも、ダウンロード違法化の懸念として、このような不合理極まる規制強化・著作権検閲に対する懸念は、過去の文化庁へのパブコメ(文化庁HPhttps://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/chosakuken/hokoku.htmlの意見募集の結果参照。ダウンロード違法化問題において、この8千件以上のパブコメの7割方で示された国民の反対・懸念は完全に無視された。このような非道極まる民意無視は到底許されるものではない)や知財本部へのパブコメ(知財本部のHPhttps://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/keikaku2009.htmlの個人からの意見参照)を見ても分かる通り、法改正前から指摘されていたところであり、このようなさらなる有害無益な規制強化・著作権検閲にしか流れようの無いダウンロード違法化・犯罪化は始めからなされるべきではなかったものである。

 文化庁の暴走と国会議員の無知によって成立したものであり、ネット利用における個人の安心と安全を完全にないがしろにするものであり、その後も本質的な問題の解消に繋がる検討をなおざりに対象範囲の拡大がされたものである、百害あって一利ないダウンロード違法化・犯罪化を規定する著作権法第30条第1項第3及び第4号並びに第119条第3項等を即刻削除し、ダウンロード違法化・犯罪化を完全に撤廃することを速やかに行うべきである。

c)著作権法におけるいわゆる間接侵害・幇助への対応について
 総合的な対策メニューにはリーチサイト規制についても記載されている。

 このリーチサイト規制については、2018年12月に意見募集が行われた文化庁の法制・基本問題小委員会の中間まとめにおいて、著作権侵害コンテンツへのリンク行為に対するみなし侵害規定の追加及び刑事罰付加の方針が示されたが、著作権法改正案の2019年の通常国会提出は見送られ、ダウンロード違法化・犯罪化の対象範囲の拡大と合わせ、このリーチサイト規制を含む改正著作権法が2020年6月5日に成立し、2020年10月1日から施行されている。

 改正著作権法のリーチサイト規制は、親告罪とされた事とプラットフォーマーの原則除外でかなり緩和が図られているとは思うが、この様な法改正の本質的な必要性には疑問がある。

 リーチサイト対策の検討は、著作権法におけるいわゆる間接侵害・幇助への対応をどうするかという問題に帰着する。文化庁の中間まとめを読んでも、権利者団体の一方的かつ曖昧な主張が並べられているだけで、権利者団体側がリーチサイト等に対して改正前の著作権法に基づいてどこまで何をしたのか、その対処に関する定量的かつ論理的な検証は何らされておらず、本当にどのような場合について改正前の著作権法では不十分であったのかはその後もなお不明なままであり、さらに、このような間接侵害あるいは幇助の検討において当然必要とされるはずのセーフハーバーの検討も極めて不十分なままである。

 確かにセーフハーバーを確定するために間接侵害・幇助の明確化はなされるべきであるが、基本的にカラオケ法理や各種ネット録画機事件などで示されたことの全体的な整理以上のことをしてはならない。特に、著作権法に明文の間接侵害一般規定を設けることは絶対にしてはならないことである。現状の整理を超えて、明文の間接侵害一般規定を作った途端、権利者団体や放送局がまず間違いなく山の様に脅しや訴訟を仕掛けて来、今度はこの間接侵害規定の定義やそこからの滲み出しが問題となり、無意味かつ危険な社会的混乱を来すことは目に見えているからである。

 リーチサイト規制については、その本質的な必要性に疑問のある今回の法改正後の運用を注視するとともに、知財計画2024において間接侵害・幇助への今後の対応について記載するのであれば、著作権法の間接侵害・幇助の明確化は、ネット事業・利用の著作権法上のセーフハーバーを確定するために必要十分な限りにおいてのみなされると合わせ明記するべきである。

 このようなリーチサイト問題も含め、ネット上の違法コンテンツ対策、違法ファイル共有対策については、通信の秘密やプライバシー、情報アクセス権等の国民の基本的な権利をきちんと尊重しつつ対策を検討してもらいたい。この点においても、国民の基本的な権利を必ず侵害するものとなり、ネットにおける文化と産業の発展を阻害することにつながる危険な規制強化の検討ではなく、ネットにおける各種問題は情報モラル・リテラシー教育によって解決されるべきものという基本に立ち帰り、現行のプロバイダー責任制限法と削除要請を組み合わせた対策などの、より現実的かつ地道な施策のみに注力して検討を進めるべきである。

d)著作権ブロッキング・アクセス警告方式について
 総合的な対策メニューには著作権ブロッキングやアクセス警告方式についても言及されている。

 サイトブロッキングについては、知財本部において、2018年4月の緊急対策の決定後、2018年10月まで検討が行われた。

 このようなサイトブロッキングについて、アメリカでは、議会に提出されたサイトブロッキング条項を含むオンライン海賊対策法案(SOPA)や知財保護強化法案(PIPA)が、IT企業やユーザーから検閲であるとして大反対を受け、その審議は止められている。また、世界を見渡しても、ブロッキングを巡ってはどの国であれなお混沌とした状況にあり、いかなる形を取るにせよブロッキングの採用が有効な海賊版対策として世界の主要な流れとなっているとは到底言い難い。

 サイトブロッキングの問題については下でも述べるが、インターネット利用者から見てその妥当性をチェックすることが不可能なサイトブロッキングにおいて、透明性・公平性・中立性を確保することは本質的に完全に不可能である。このようなブロッキングは、憲法に規定されている表現の自由(知る権利・情報アクセスの権利を含む)や検閲の禁止、通信の秘密といった国民の基本的な権利を侵害するものとならざるを得ないものであり、決して導入されるべきでないものである。

 幸いなことに、2018年10月で知財本部におけるブロッキングの検討は止まったが、多くの懸念の声が上げられていたにもかかわらず、ブロッキングありきでごり押しの検討を行ったことについて私は知財本部に猛省を求める。知財計画2024においてブロッキングについて言及するのであれば、2018年の検討の反省の弁とともに今後二度とこのような国民の基本的な権利を踏みにじる検討をしないと固く誓うとしてもらいたい。

 アクセス警告方式についても、通信の監視・介入の点でブロッキングと本質的に違いはなく、その導入は法的にも技術的にも難しいとする、2019年8月の総務省のインターネット上の海賊版サイトへのアクセス抑止方策に関する検討会の報告書の整理を守るべきである。

 その提案からも明確なように、違法コピー対策問題における権利者団体の主張は常に一方的かつ身勝手であり、ネットにおける文化と産業の発展を阻害するばかりか、インターネットの単純なアクセスすら危険なものとする非常識なものばかりである。今後は、このような一方的かつ身勝手な規制強化の動きを規制するため、憲法の「表現の自由」に含まれ、国際人権B規約にも含まれている国民の「知る権利」を、あらゆる公開情報に安全に個人的にアクセスする権利として、通信法に法律レベルで明文で書き込むことを検討するべきである。同じく、憲法に規定されている検閲の禁止及び通信の秘密から、サイトブロッキングのような技術的検閲の禁止を通信法に法律レベルで明文で書き込むことを検討するべきである。

e)プロバイダー責任制限法の改正検討について、
 総合的な対策メニューにはプロバイダー責任制限法の改正検討についても記載されている。

 このプロバイダー責任制限法の改正について、総務省で検討が行われ、2020年12月に発信者情報開示の在り方に関する研究会の最終とりまとめが公表された後、改正プロバイダー責任制限法が2021年4月21日に成立し、2022年10月1日から施行されている。

 この改正プロバイダー責任制限法は発信者情報開示のため原則非公開の非訟手続きを新設している。しかし、これは今までの通常の裁判による発信者情報開示とほぼ同様の手続きを非訟手続きとして規定しただけのものであって、かえって発信者情報開示に関する手続きの不透明性や複雑性が増し、いたずらに今の状況を混乱させるだけで、発信者の保護はおろか権利侵害の救済にも繋がらない懸念がある。

 今後その運用を注視し、やはり混乱等が見られる様であれば、発信者情報の開示は、通信の秘密といった重要な国民の権利に関するものであるから、原則公開の訴訟手続によらなければならないものであるという事を念頭に、この新しい非訟手続きを廃止し、通常の裁判による発信者情報開示の拡充や迅速化の様な真に実効性のある検討を行うべきである。

 その後、2023年の総務省のプラットフォームサービスに関する研究会及びそのワーキンググループにおける検討を経て、現在、プロバイダー責任制限法改正案が国会に提出されている。プロバイダー責任制限法はあらゆるインターネットサービスプロバイダーの責任の制限と裁判手続きを通じた発信者情報の開示をそもそもの目的とするものであるから、大手プラットフォーマーに対する取組の促進は新法による事が望ましかったと考えるが、総務省における検討が、憲法で禁止されている検閲か、表現の自由に関する過度の制約となる恐れの極めて強い、新しい強力な法規制による網羅的な情報の監視や削除の強制に慎重な姿勢を示しつつ、誹謗中傷対策に関し、基本的に自主的な取組として、一週間程度以内に速やかに必要な削除が行われるよう、削除手続きに関する運用の整備とその透明化を一定の規模以上のプラットフォーマーに促すとした事に賛同するとともに、その事を反映した上記のプロバイダー責任制限法改正案の早期成立を期待する。ただし、その法改正後の運用についても、継続的に注視し、公表して行くべきである。

(2)その他の知財政策事項について:
a)私的録音録画補償金問題について
 権利者団体等が単なる既得権益の拡大を狙ってiPod等へ対象範囲を拡大を主張している私的録音録画補償金問題についても、補償金のそもそもの意味を問い直すことなく、今の補償金の矛盾を拡大するだけの私的録音録画補償金の対象拡大を絶対にするべきではないにも関わらず、文化庁は、実質的にブルーレイを私的録音録画補償金の対象とする著作権法施行令改正について、2022年8月から9月にかけて意見募集を行い、その後意見募集の結果について極めて恣意的にまとめた回答を出しただけで、この施行令改正の閣議決定を2022年10月21日に強行した。

 文化庁の過去の文化審議会著作権分科会における数年の審議において、補償金のそもそもの意義についての意義が問われたが、文化庁が、天下り先である権利者団体のみにおもねり、この制度に関する根本的な検討を怠った結果、特にアナログチューナー非対応録画機への課金について私的録音録画補償金管理協会と東芝間の訴訟に発展した。ブルーレイ課金・アナログチューナー非搭載録画機への課金について、権利者団体は、ダビング10への移行によってコピーが増え自分たちに被害が出ると大騒ぎをしたが、移行後10年以上経った今現在においても、ダビング10の実施による被害増を証明するに足る具体的な証拠は全く示されておらず、ブルーレイ課金・アナログチューナー非搭載録画機への課金に合理性があるとは到底思えない。わずかに緩和されたとは言え、今なお地上デジタル放送にはダビング10という不当に厳しいコピー制限がかかったままである。こうした実質的に全国民に転嫁されるコストで不当に厳しい制限を課している機器と媒体にさらに補償金を賦課しようとするのは、不当の上塗りである。

 なお、世界的に見ても、メーカーや消費者が納得して補償金を払っているということはカケラも無く、権利者団体がその政治力を不当に行使し、歪んだ「複製=対価」の著作権神授説に基づき、不当に対象を広げ料率を上げようとしているだけというのがあらゆる国における実情である。表向きはどうあれ、大きな家電・PCメーカーを国内に擁しない欧州各国は、私的録音録画補償金制度を、外資から金を還流する手段、つまり、単なる外資規制として使っているに過ぎない。この制度における補償金の対象・料率に関して、具体的かつ妥当な基準はどこの国を見ても無いのであり、この制度は、ほぼ権利者団体の際限の無い不当な要求を招き、莫大な社会的コストの浪費のみにつながっている。機器・媒体を離れ音楽・映像の情報化が進む中、「複製=対価」の著作権神授説と個別の機器・媒体への賦課を基礎とする私的録音録画補償金は、既に時代遅れのものとなりつつあり、その対象範囲と料率のデタラメさが、デジタル録音録画技術の正常な発展を阻害し、デジタル録音録画機器・媒体における正常な競争市場を歪めているという現実は、補償金制度を導入したあらゆる国において、問題として明確に認識されなくてはならないことである。

 今まで積み重ねられてきた、判例、保護利用小委員会などの審議会における議論、様々な関係者の意見の全てを愚弄する、2022年の不当な政令改正は到底納得できるものではない。ブルーレイレコーダーとディスクを私的録音録画補償金の対象とする事について今に至るも妥当な根拠は何一つ見出せない。

 今まで知財本部及び文化庁に提出した意見の通り、私は一国民、一個人、一消費者、一利用者・ユーザーとして到底納得の行かない私的録音録画補償金の対象拡大になお断固反対する。

 この政令改正の意見募集などで知財計画の記載も持ち出されており、知財本部・事務局も絡んでいるとの話も聞かれるが、本当にそうであるならば知財本部・事務局もこの様な不当な政令改正に加担した事を猛省し、その過ちを認め、日本政府として速やかに方針を改めるべきである。

 文化庁に集まった2406件のこの政令改正に関する意見の全文を速やかに公表するとともに、政令を元に戻す閣議決定を行う事を私は求める。その上で、中立的な第三者による調査により、前提となっていた旧来の形の私的録音録画自体もはや時代遅れになり少なくなっているという事を示し、全関係者が参加する公開の場で議論し、私的録音録画補償金制度は歴史的役割を終えたものとして完全に廃止するとの結論を出すべきである。

b)秘密特許制度(経済安保法案の特許非公開関連部分)について
 2022年2月にとりまとめられた経済安全保障法制に関する有識者会議の提言に基づく、秘密特許制度(特許非公開制度)を含む経済安全保障法案が2022年5月11日に国会で可決・成立し、2024年5月1日の施行を待つ状態にある。

 秘密とするかどうかの保全審査の対象となる技術分野は政令でかなり絞り込まれており、影響を受ける特許出願はかなり限定的なものになると思うが、この法律により導入されようとしている秘密特許制度は、論文等の研究成果の公表は自由という前提と矛盾を来しており、その根拠となる立法事実があるのか、「公にすることにより外部から行われる行為によって国家及び国民の安全を損なう事態を生ずるおそれが大きい発明」についてまともに判断できるのか、その様なものが今の日本で本当に出願されているのか、出願され得るのか、罰則までつける事が妥当かなど、そもそも大いに疑わしいものである。

 この秘密特許制度の妥当性の検証を可能とするため、今後、その運用について単に件数の様な統計情報だけでなく具体的かつ詳細な情報公開をして行くべきである。

c)環太平洋経済連携協定(TPP)などの経済連携協定(EPA)に関する取組について
 TPP協定については、2015年10月に大筋合意が発表され、文化庁、知財本部の検討を経て、11月にTPP総合対策本部でTPP関連政策大綱が決定され、さらに2016年2月に署名され、3月に関連法案の国会提出がされ、11月の臨時国会で可決・成立し、2017年1月20日に参加国として初めての国内手続きの完了に関する通報が行われた。

 しかし、この国内手続きにおいて、日本政府は、2015年10月に大筋合意の概要のみを公表し、11月のニュージーランド政府からの協定条文の英文公表時も全章概要を示したのみで、その後2ヶ月も経って2016年1月にようやく公式の仮訳を公表するなど、TPP協定の内容精査と政府への意見提出の時間を国民に実質与えない極めて姑息かつ卑劣なやり方を取っていたと言わざるを得ない。

 そして、公開された条文によって今までのリーク文書が全て正しかったことはほぼ証明されており、TPP協定は確かに著作権の保護期間延長、DRM回避規制強化、法定賠償制度、著作権侵害の非親告罪化などを含んでいる。今ですら不当に長い著作権保護期間のこれ以上の延長など本来論外だったものである。

 その後、日本政府は、アメリカ抜きの11カ国でのTPP11協定を推進し、2017年11月に大筋合意が発表され、その中で最もクリティカルな部分である著作権と特許の保護期間延長とDRM規制の強化の部分が凍結さたにもかかわらず、これらの事項を含む国内関連法改正案を2018年3月に国会に提出し(6月に可決・成立)、2018年12月のTPP11協定の発効とともに施行するという戦後最大級の愚行をなした。このようになし崩しで極めて危険な法改正がなされたことを私は一国民として強く非難する。

 2017年12月には、同じく著作権の保護期間延長を含む日EU(欧)EPA交渉も妥結され、2018年2月に発効している。しかし、この日欧EPA交渉もTPP協定同様の姑息かつ卑劣な秘密交渉で決められたものである。その内容についてほとんど何の説明もないままに著作権の保護期間延長のような国益の根幹に関わる点について日本政府は易々と譲歩した。これは完全に国民をバカにしているとしか言いようがない。

 2020年9月に大筋合意され、2021年1月に発効している、同じく著作権の保護期間延長を含む日英EPAについても同様である。

 これらのTPP協定、日欧EPA及び日英EPAについてその内容の見直しを各加盟国に求めること及び著作権の保護期間の短縮について速やかに検討を開始することを私は求める。

 また、TPP交渉や日欧EPA交渉のような国民の生活に多大の影響を及ぼす国際交渉が政府間で極秘裏に行われたことも大問題である。国民一人一人がその是非を判断できるよう、途中経過も含めその交渉に関する情報をすべて速やかに公開するべきである。

d)DRM回避規制について
 経産省と文化庁の主導により無意味にDRM回避規制を強化する不正競争防止法と著作権法の改正案がそれぞれ以前国会を通され、2018年に不正競争防止法がさらに改正され、2020年の改正著作権法にも同様の事項が含まれているが、これらの法改正を是とするに足る立法事実は何一つない。不正競争防止法と著作権法でDRM回避機器等の提供等が規制され、著作権法でコピーコントロールを回避して行う私的複製まで違法とされ、十二分以上に規制がかかっているのであり、これ以上の規制強化は、ユーザーの情報アクセスに対するリスクを不必要に高める危険なものとしかなり得ない。

 特に、DRM回避規制に関しては、有害無益な規制強化の検討ではなく、まず、私的なDRM回避行為自体によって生じる被害は無く、個々の回避行為を一件ずつ捕捉して民事訴訟の対象とすることは困難だったにもかかわらず、文化庁の片寄った見方から一方的に導入されたものである、私的な領域でのコピーコントロール回避規制(著作権法第30条第1項第2号)の撤廃の検討を行うべきである。コンテンツへのアクセスあるいはコピーをコントロールしている技術を私的な領域で回避しただけでは経済的損失は発生し得ず、また、ネットにアップされることによって生じる被害は公衆送信権によって既にカバーされているものであり、その被害とDRM回避やダウンロードとを混同することは絶対に許されない。それ以前に、私法である著作権法が、私的領域に踏み込むということ自体異常なことと言わざるを得ない。何ら立法事実の変化がない中、ドサクサ紛れに通された、先般の不正競争防止法改正によるDRM規制の強化や、以前の著作権法改正で導入されたアクセスコントロール関連規制の追加等について、速やかに元に戻す検討がなされるべきである。

 TPP協定にはDRM回避規制の強化も含まれており、上で書いた通り、これ以上のDRM回避規制の強化がされるべきではなく、この点でも私はTPP協定の見直しを求める。

e)海賊版対策条約(ACTA)について
 ACTAを背景に経産省及び文化庁の主導により無意味にDRM回避規制を強化する不正競争防止法及び著作権法の改正案が以前国会を通され、ACTA自体も国会で批准された。しかし、このようなユーザーの情報アクセスに対するリスクを不必要に高める危険なものとしかなり得ない規制強化条項を含む条約の交渉、署名及び批准は何ら国民的なコンセンサスが得られていない中でなされており、私は一国民としてACTAに反対する。今なおACTAの批准国は日本しかなく、日本は無様に世界に恥を晒し続けている。もはやACTAに何ら意味はなく、日本は他国への働きかけを止めるとともに自ら脱退してその失敗を認めるべきである。

f)一般フェアユース条項の導入について
 2018年に個別の権利制限を拡充する著作権法改正がなされており、これはその限りにおいて評価できるものではあるが、本当の意味で柔軟な一般フェアユース条項を入れるものではない。

 一般フェアユース条項については、一から再検討を行い、ユーザーに対する意義からも、アメリカ等と遜色ない形で一般フェアユース条項を可能な限り早期に導入するべきである。特に、インターネットのように、ほぼ全国民が利用者兼権利者となり得、考えられる利用形態が発散し、個別の規定では公正利用の類型を拾い切れなくなるところでは、フェアユースのような一般規定は保護と利用のバランスを取る上で重要な意義を持つものである。

 今後の検討によっても幾つかの個別の権利制限が追加される可能性があるが、これらはあった方が良いものとは言え、到底一般フェアユース条項と言うに足るものではなく、これでは著作権をめぐる今の混迷状況が変わることはない。

 著作物の公正利用には変形利用もビジネス利用も考えられ、このような利用も含めて著作物の公正利用を促すことが、今後の日本の文化と経済の発展にとって真に重要であることを考えれば、不当にその範囲を不当に狭めるべきでは無く、その範囲はアメリカ等と比べて遜色の無いものとされるべきである。ただし、フェアユースの導入によって、私的複製の範囲が縮小されることはあってはならない。

 また、「まねきTV」事件などの各種判例からも、ユーザー個人のみによって利用されるようなクラウド型サービスまで著作権法上ほぼ違法とされてしまう状況に日本があることは明らかであり、このような状況は著作権法の趣旨に照らして決して妥当なことではない。ユーザーが自ら合法的に入手したコンテンツを私的に楽しむために利用することに著作権法が必要以上に介入することが許されるべきではなく、個々のユーザーが自らのためのもに利用するようなクラウド型サービスにまで不必要に著作権を及ぼし、このような技術的サービスにおけるトランザクションコストを過大に高め、その普及を不当に阻害することに何ら正当性はない。この問題がクラウド型サービス固有の問題でないのはその通りであるが、だからといって法改正の必要性がなくなる訳ではない。著作権法の条文及びその解釈・運用が必要以上に厳格に過ぎクラウド型サービスのような技術の普及が不当に阻害されているという日本の悲惨な現状を多少なりとも緩和するべく、速やかに問題を再整理し、アメリカ等と比べて遜色の無い範囲で一般フェアユース条項を導入し、同時にクラウド型サービスなどについてもすくい上げられるようにするべきである。

 権利を侵害するかしないかは刑事罰がかかるかかからないかの問題でもあり、公正という概念で刑事罰の問題を解決できるのかとする意見もあるようだが、かえって、このような現状の過剰な刑事罰リスクからも、フェアユースは必要なものと私は考える。現在親告罪であることが多少セーフハーバーになっているとはいえ、アニメ画像一枚の利用で別件逮捕されたり、セーフハーバーなしの著作権侵害幇助罪でサーバー管理者が逮捕されたりすることは、著作権法の主旨から考えて本来あってはならないことである。政府にあっては、著作権法の本来の主旨を超えた過剰リスクによって、本来公正として認められるべき事業・利用まで萎縮しているという事態を本当に深刻に受け止め、一刻も早い改善を図ってもらいたい。

 個別の権利制限規定の迅速な追加によって対処するべきとする意見もあるが、文化庁と癒着権利者団体が結託して個別規定すらなかなか入れず、入れたとしても必要以上に厳格な要件が追加されているという惨憺たる現状において、個別規定の追加はこの問題における真の対処たり得ない。およそあらゆる権利制限について、文化庁と権利者団体が結託して、全国民を裨益するだろう新しい権利制限を潰すか、極めて狭く使えないものとして来たからこそ、今一般規定が社会的に求められているのだという、国民と文化の敵である文化庁が全く認識していないだろう事実を、政府・与党は事実としてはっきりと認めるべきである。

g)コピーワンス・ダビング10・B-CAS問題について
 私はコピーワンスにもダビング10にも反対する。そもそも、この問題は、放送局・権利者にとっては、視聴者の利便性を著しく下げることによって、一旦は広告つきながらも無料で放送したコンテンツの市場価格を不当につり上げるものとして機能し、国内の大手メーカーとっては、B-CASカードの貸与と複雑な暗号システムを全てのテレビ・録画機器に必要とすることによって、中小・海外メーカーに対する参入障壁として機能するB-CASシステムの問題を淵源とするのであって、このB-CASシステムと独禁法の関係を検討するということを知財計画2024では明記してもらいたい。検討の上B-CASシステムが独禁法違反とされるなら、速やかにその排除をして頂きたい。また、無料の地上放送において、逆にコピーワンスやダビング10のような視聴者の利便性を著しく下げる厳格なコピー制御が維持されるのであれば、私的録画補償金に存在理由はなく、これを速やかに廃止するべきである。

h)著作権検閲・ストライクポリシーについて
 ファイル共有ソフトを用いて著作権を侵害してファイル等を送信していた者に対して警告メールを送付することなどを中心とする電気通信事業者と権利者団体の連携による著作権侵害対策が警察庁、総務省、文化庁などの規制官庁が絡む形で行われており、警察によってファイル共有ネットワークの監視も行われているが、このような対策は著作権検閲に流れる危険性が極めて高い。

 フランスで導入が検討された、警告メールの送付とネット切断を中心とする、著作権検閲機関型の違法コピー対策である3ストライクポリシーは、2009年6月に、憲法裁判所によって、インターネットのアクセスは、表現の自由に関係する情報アクセスの権利、つまり、最も基本的な権利の1つとしてとらえられるとされ、著作権検閲機関型の3ストライクポリシーは、表現の自由・情報アクセスの権利やプライバシーといった他の基本的な権利をないがしろにするものとして、真っ向から否定されている。ネット切断に裁判所の判断を必須とする形で導入された変形ストライク法も何ら効果を上げることなく、フランスでは今もストライクポリシーについて見直しの検討が行われており、2013年7月にはネット切断の罰が廃止されている。日本においては、このようなフランスにおける政策の迷走を他山の石として、このように表現の自由・情報アクセスの権利やプライバシーといった他の基本的な権利をないがしろにする対策を絶対に導入しないこととするべきであり、警察庁などが絡む形で検討されている違法ファイル共有対策についても、通信の秘密やプライバシー、情報アクセス権等の国民の基本的な権利をきちんと尊重する形で進めることが担保されなくてはならない。

i)著作権法へのセーフハーバー規定の導入について
 動画投稿サイト事業者がJASRACに訴えられた「ブレイクTV」事件や、レンタルサーバー事業者が著作権幇助罪で逮捕され、検察によって姑息にも略式裁判で50万円の罰金を課された「第(3)世界」事件や、1対1の信号転送機器を利用者からほぼ預かるだけのサービスが放送局に訴えられ、最高裁判決で違法とされた「まねきTV」事件等を考えても、今現在、カラオケ法理の適用範囲はますます広く曖昧になり、間接侵害や著作権侵害幇助のリスクが途方もなく拡大し、甚大な萎縮効果・有害無益な社会的大混乱が生じかねないという非常に危険な状態がなお続いている。間接侵害事件や著作権侵害幇助事件においてネット事業者がほぼ直接権利侵害者とみなされてしまうのでは、プロバイダー責任制限法によるセーフハーバーだけでは不十分であり、間接侵害や著作権侵害幇助罪も含め、著作権侵害とならない範囲を著作権法上きちんと確定することは喫緊の課題である。ただし、このセーフハーバーの要件において、標準的な仕組み・技術や違法性の有無の判断を押しつけるような、権利侵害とは無関係の行政機関なり天下り先となるだろう第3者機関なりの関与を必要とすることは、検閲の禁止・表現の自由等の国民の権利の不当な侵害に必ずなるものであり、絶対にあってはならないことである。

 知財計画2024において、プロバイダに対する標準的な著作権侵害技術導入の義務付け等を行わないことを合わせ明記するとともに、間接侵害や刑事罰・著作権侵害幇助も含め著作権法へのセーフハーバー規定の速やかな導入を検討するとしてもらいたい。この点に関しては、逆に、検閲の禁止や表現の自由の観点から技術による著作権検閲の危険性の検討を始めてもらいたい。

j)二次創作規制の緩和について
 2014年8月のクールジャパン提言の第13ページにおいて、「クリエイティビティを阻害している規制についてヒアリングし規制緩和する。コンテンツの発展を阻害する二次創作規制、ストリートパフォーマンスに関する規制など、表現を限定する規制を見直す。」と、二次創作に関する規制緩和を行う事が明確に記載されていた。

 二次創作が日本の文化的創作の原動力の一つになっており、その推進のために現状の規制を緩和する必要がある事は今も妥当する事であって、インターネット上の創作活動も含む日本の文化とそれに基づく産業のさらなる発展の事を考えると、10年近く前のものであるが、上記の提言は今現在も何らその意味を失っていないどころか、さらに重要性を増していると言っても過言ではない。

 先の新たなクールジャパン戦略の策定に向けた意見募集において、上記の二次創作規制を緩和するという記載を取り入れつつ、さらに具体的に、二次創作規制の緩和のために必須の権利制限として、風刺やパロディ、パスティーシュのための権利制限を著作権法に導入するとともに、一般フェアユース条項の導入も速やかに検討すると明記するべきであるとの意見を出したが、同じく二次創作規制を緩和するという記載を知財計画2024においてもそのまま取り入れ、政府としてこのような規制の緩和を強力に推進することを重ねてきちんと示すべきである。

k)著作権等に関する真の国際動向について国民へ知らされる仕組みの導入及び文化庁ワーキンググループの公開について
 WIPO等の国際機関にも、政府から派遣されている者はいると思われ、著作権等に関する真の国際動向について細かなことまで即座に国民へ知らされる仕組みの導入を是非検討してもらいたい。

 また、2013年からの著作物等の適切な保護と利用・流通に関するワーキングチーム及び2015年からの新たな時代のニーズに的確に対応した制度等の整備に関するワーキングチームの審議は公開とされたが、文化庁はワーキングチームについて公開審議を原則とするにはなお至っていない。上位の審議会と同様今後全てのワーキンググループについて公開審議を原則化するべきである。

l)天下りについて
 以前文部科学省の天下り問題が大きく報道されたが、知財政策においても、天下り利権が各省庁の政策を歪めていることは間違いなく、知財政策の検討と決定の正常化のため、文化庁から著作権関連団体への、総務省から放送通信関連団体・企業への、警察庁からインターネットホットラインセンター他各種協力団体・自主規制団体への天下りの禁止を知財本部において決定して頂きたい。(これらの省庁は特にひどいので特に名前をあげたが、他の省庁も含めて決定してもらえるなら、それに超したことはない。)

(3)その他一般的な情報・ネット・表現規制について
 知財計画改訂において、一般的な情報・ネット・表現規制に関する項目は削除されているが、常に一方的かつ身勝手な主張を繰り広げる自称良識派団体が、意味不明の理屈から知財とは本来関係のない危険な規制強化の話を知財計画に盛り込むべきと主張をしてくることが十分に考えられるので、ここでその他の危険な一般的な情報・ネット・表現規制強化の動きに対する反対意見も述べる。今後も、本来知財とは無関係の、一般的な情報・ネット・表現規制に関する項目を絶対に知財計画に盛り込むことのないようにしてもらいたい。

a)青少年ネット規制法・出会い系サイト規制法について
 そもそも、青少年ネット規制法は、あらゆる者から反対されながら、有害無益なプライドと利権を優先する一部の議員と官庁の思惑のみで成立したものであり、速やかに廃止が検討されるべきものである。また、出会い系サイト規制法の改正は、警察庁が、どんなコミュニケーションサイトでも人は出会えるという誰にでも分かることを無視し、届け出制の対象としては事実上定義不能の「出会い系サイト事業」を定義可能と偽り、改正法案の閣議決定を行い、法案を国会に提出したものであり、他の重要法案と審議が重なる中、国会においてもその本質的な問題が見過ごされて可決され、成立したものである。憲法上の罪刑法定主義や検閲の禁止にそもそも違反している、この出会い系サイト規制法の改正についても、今後、速やかに元に戻すことが検討されるべきである。

b)児童ポルノ規制・サイトブロッキングについて
 児童ポルノ法規制強化問題・有害サイト規制問題における自称良識派団体の主張は、常に一方的かつ身勝手であり、ネットにおける文化と産業の発展を阻害するばかりか、インターネットの単純なアクセスすら危険なものとする非常識なものばかりである。今後は、このような一方的かつ身勝手な規制強化の動きを規制するため、憲法の「表現の自由」に含まれ、国際人権B規約にも含まれている国民の「知る権利」を、あらゆる公開情報に安全に個人的にアクセスする権利として、通信法に法律レベルで明文で書き込むべきである。同じく、憲法に規定されている検閲の禁止から、技術的な検閲やサイトブロッキングのような技術的検閲の禁止を通信法に法律レベルで明文で書き込むべきである。

 閲覧とダウンロードと取得と所持の区別がつかないインターネットにおいては、例え児童ポルノにせよ、情報の単純所持や取得の規制は有害無益かつ危険なもので、憲法及び条約に規定されている「知る権利」を不当に害するものとなる。「自身の性的好奇心を満たす目的で」、積極的あるいは意図的に画像を得た場合であるなどの限定を加えたところで、エスパーでもない限りこのような積極性を証明することも反証することもできないため、このような情報の単純所持や取得の規制の危険性は回避不能であり、思想の自由や罪刑法定主義にも反する。繰り返し取得としても、インターネットで2回以上他人にダウンロードを行わせること等は技術的に極めて容易であり、取得の回数の限定も、何ら危険性を減らすものではない。

 児童ポルノ規制の推進派は常に、提供による被害と単純所持・取得を混同する狂った論理を主張するが、例えそれが児童ポルノであろうと、情報の単純所持ではいかなる被害も発生し得ない。現行法で、ネット上であるか否かにかかわらず、提供及び提供目的の所持が規制されているのであり、提供によって生じる被害と所持やダウンロード、取得、収集との混同は許され得ない。そもそも、最も根本的なプライバシーに属する個人的な情報所持・情報アクセスに関する情報を他人が知ることは、通信の秘密や情報アクセスの権利、プライバシーの権利等の基本的な権利からあってはならないことである。

 アニメ・漫画・ゲームなどの架空の表現に対する規制対象の拡大も議論されているが、このような対象の拡大は、児童保護という当初の法目的を大きく逸脱する、異常規制に他ならない。アニメ・漫画・ゲームなどの架空の表現において、いくら過激な表現がなされていようと、それが現実の児童被害と関係があるとする客観的な証拠は何一つない。いまだかつて、この点について、単なる不快感に基づいた印象批評と一方的な印象操作調査以上のものを私は見たことはないし、虚構と現実の区別がつかないごく一部の自称良識派の単なる不快感など、言うまでもなく一般的かつ網羅的な表現規制の理由には全くならない。アニメ・漫画・ゲームなどの架空の表現が、今の一般的なモラルに基づいて猥褻だというのなら、猥褻物として取り締まるべき話であって、それ以上の話ではない。どんな法律に基づく権利であれ、権利の侵害は相対的にのみ定まるものであり、実際の被害者の存在しない創作物・表現に対する規制は何をもっても正当化され得ない。民主主義の最重要の基礎である表現の自由や言論の自由、思想の自由等々の最も基本的な精神的自由そのものを危うくすることは絶対に許されない。この点で、2012年6月にスウェーデンで漫画は児童ポルノではないとする最高裁判決が出されたことなども注目されるべきである。

 単純所持規制にせよ、創作物規制にせよ、両方とも1999年当時の児童ポルノ法制定時に喧々囂々の大議論の末に除外された規制であり、規制推進派が何と言おうと、これらの規制を正当化するに足る立法事実の変化はいまだに何一つない。

 既に、警察などが提供するサイト情報に基づき、統計情報のみしか公表しない不透明な中間団体を介し、児童ポルノアドレスリストの作成が行われ、そのリストに基づいて、ブロッキング等が行われているが、いくら中間に団体を介そうと、一般に公表されるのは統計情報に過ぎす、児童ポルノであるか否かの判断情報も含め、アドレスリストに関する具体的な情報は、全て閉じる形で秘密裏に保持されることになるのであり、インターネット利用者から見てそのリストの妥当性をチェックすることは不可能であり、このようなアドレスリストの作成・管理において、透明性・公平性・中立性を確保することは本質的に完全に不可能である。このようなリストに基づくブロッキング等は、自主的な取組という名目でいくら取り繕おうとも、憲法に規定されている表現の自由(知る権利・情報アクセスの権利を含む)や検閲の禁止といった国民の基本的な権利を侵害するものとならざるを得ないのであり、小手先の運用変更などではどうにもならない。

 児童ポルノ規制法に関しては、提供及び提供目的での所持が禁止されているのであるから、本当に必要とされることはこの規制の地道なエンフォースであって有害無益かつ危険極まりない規制強化の検討ではない。DVD販売サイトなどの海外サイトについても、本当に児童ポルノが販売されているのであれば、速やかにその国の警察に通報・協力して対処すべきだけの話であって、それで対処できないとするに足る具体的根拠は全くない。警察自らこのような印象操作で規制強化のマッチポンプを行い、警察法はおろか憲法の精神にすら違背していることについて警察庁は恥を知るべきである。例えそれが何であろうと、情報の単純所持や単なる情報アクセスではいかなる被害も発生し得えないのであり、自主的な取組という名目でいくら取り繕おうとも、憲法に規定されている表現の自由(知る権利・情報アクセスの権利を含む)や検閲の禁止といった国民の基本的な権利を侵害するものとならざるを得ないサイトブロッキングは即刻排除するべきであり、そのためのアドレスリスト作成管理団体として設立された、インターネットコンテンツセーフティ協会は即刻その解散が検討されてしかるべきである。

 なお、民主主義の最重要の基礎である表現の自由に関わる問題において、一方的な見方で国際動向を決めつけることなどあってはならないことであり、欧米においても、情報の単純所持規制やサイトブロッキングの危険性に対する認識はネットを中心に高まって来ていることは決して無視されてはならない。例えば、欧米では既にブロッキングについてその恣意的な運用によって弊害が生じていることや、アメリカにおいても、2009年に連邦最高裁で児童オンライン保護法が違憲として完全に否定され、2011年6月に連邦最高裁でカリフォルニア州のゲーム規制法が違憲として否定されていること、ドイツで児童ポルノサイトブロッキング法は検閲法と批判され、最終的に完全に廃止されたことなども注目されるべきである(https://www.zdnet.de/41558455/bundestag-hebt-zensursula-gesetz-endgueltig-auf/参照)。スイスの2009年の調査でも、2002年に児童ポルノ所持で捕まった者の追跡調査を行っているが、実際に過去に性的虐待を行っていたのは1%、6年間の追跡調査で実際に性的虐待を行ったものも1%に過ぎず、児童ポルノ所持はそれだけでは、性的虐待のリスクファクターとはならないと結論づけており、児童ポルノの単純所持規制・ブロッキングの根拠は完全に否定されているのである(https://bmcpsychiatry.biomedcentral.com/articles/10.1186/1471-244X-9-43参照)。欧州連合において、インターネットへのアクセスを情報の自由に関する基本的な権利として位置づける動きがあることも見逃されてはならない。政府・与党内の検討においては、このような国際動向もきちんと取り上げるべきである。

 そして、単純所持規制に相当し、上で書いた通り問題の大きい性的好奇心目的所持罪を含む児童ポルノの改正法案が国会で2014年6月18日に可決・成立し、同年6月25日に公布され、2015年7月15日に施行された。この問題の大きい性的好奇心目的所持罪を規定する児童ポルノ規制法第7条第1項は即刻削除するべきであり、合わせ、政府・与党においては、児童ポルノを対象とするものにせよ、いかなる種類のものであれ、情報の単純所持・取得規制・ブロッキングは極めて危険な規制であるとの認識を深め、このような規制を絶対に行わないこととして、危険な法改正案が2度と与野党から提出されることが無いようにするべきである。

 さらに、性的好奇心目的所持罪を規定する児童ポルノ規制法第7条第1項を削除するとともに、児童ポルノの単純所持規制・創作物規制といった非人道的な規制を導入している諸国は即刻このような規制を廃止するべきと、そもそも最も根本的なプライバシーに属し、何ら実害を生み得ない個人的な情報所持・情報アクセスに関する情報を他人が知ること自体、通信の秘密や情報アクセスの権利、プライバシーの権利等の国際的かつ一般的に認められている基本的な権利からあってはならないことであると、また、法的拘束力はないが、明らかに表現の自由に抵触する規制を推奨している、2019年9月の児童の権利委員会による児童ポルノ規制に関するガイドラインは全面的に見直すべきであると、日本政府から国際的な場において各国に積極的に働きかけてもらいたい。

 また、様々なところで検討されている有害サイト規制についても、その規制は表現に対する過度広汎な規制で違憲なものとしか言いようがなく、各種有害サイト規制についても私は反対する。

c)東京都青少年健全育成条例他、地方条例の改正による情報規制問題について
 東京都でその青少年健全育成条例の改正が検討され、非実在青少年規制として大騒ぎになったあげく、2010年12月に、当事者・関係者の真摯な各種の意見すら全く聞く耳を持たれず、数々の問題を含む条例案が、都知事・東京都青少年・治安対策本部・自公都議の主導で都議会で通された。通過版の条例改正案も、非実在青少年規制という言葉こそ消えたものの、かえって規制範囲は非実在性犯罪規制とより過度に広汎かつ曖昧なものへと広げられ、有害図書販売に対する実質的な罰則の導入と合わせ、その内容は違憲としか言わざるを得ない内容のものである。また、この東京都の条例改正にも含まれている携帯フィルタリングの実質完全義務化は、青少年ネット規制法の精神にすら反している行き過ぎた規制である。さらに、大阪や京都などでは、児童ポルノに関して、法律を越える範囲で勝手に範囲を規定し、その単純所持等を禁止する、明らかに違憲な条例が通されるなどのデタラメが行われている。

 これらのような明らかな違憲条例の検討・推進は、地方自治体法第245条の5に定められているところの、都道府県の自治事務の処理が法令の規定に違反しているか著しく適正を欠きかつ明らかに公益を害していると認めるに足ると考えられるものであり、総務大臣から各地方自治体に迅速に是正命令を出すべきである。また、当事者・関係者の意見を完全に無視した東京都における検討など、民主主義的プロセスを無視した極めて非道なものとしか言いようがなく、今後の検討においてはきちんと民意が反映されるようにするため、地方自治法の改正検討において、情報公開制度の強化、審議会のメンバー選定・検討過程の透明化、パブコメの義務化、条例の改廃請求・知事・議会のリコールの容易化などの、国の制度と整合的な形での民意をくみ上げるシステムの地方自治に対する法制化の検討を速やかに進めてもらいたい。また、各地方の動きを見ていると、出向した警察官僚が強く関与する形で、各都道府県の青少年問題協議会がデタラメな規制強化騒動の震源となることが多く、今現在のデタラメな規制強化の動きを止めるべく、さらに、中央警察官僚の地方出向・人事交流の完全な取りやめ、地方青少年問題協議会法の廃止、問題の多い地方青少年問題協議会そのものの解散の促進についても速やかに検討を開始するべきである。

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2024年1月21日 (日)

第489回:新たなクールジャパン戦略の策定に向けた意見募集(2月10日〆切)に対する提出パブコメ

 知財本部から2月10日〆切で行われている新たなクールジャパン戦略の策定に向けた意見募集(知財本部HPの意見募集要項(pdf)、電子政府HPの意見募集ページ参照)に対して意見を提出した。

 私の提出意見の内容は、今まで知財計画パブコメやブログでパロディ等に関する権利制限について書いて来た事のまとめであり、特に目新しい事を書いているという事はないが、念のため参考としてここに載せておく。

(国際動向について提出意見の中ではかなり簡単に書いているが、より詳しく知りたい方は、2014年のイギリス著作権法改正について第310回、2019年の欧州新著作権指令について第408回、2019年7月29日の楽曲サンプリングに関する欧州司法裁の判決について第411回、2021年のドイツ著作権法改正について第441回、2022年4月26日の欧州新著作権指令に関する欧州司法裁の判決について第459回、2023年9月14日の楽曲サンプリングに関する質問を再付託するドイツ最高裁の決定について第484回をそれぞれ御覧頂ければと思う。)

 また、つい先週1月15日の文化審議会・著作権分科会・法制度小委員会の第6回において、パブコメ前の最終案であろうAIと著作権に関する考え方についての素案(pdf)見え消し版(pdf)も参照)が示されている。前回取り上げたバージョンから大きな方向性の変更はないので、パブコメに掛かり次第また提出意見を載せる形にするかも知れないが、次回はこの素案について取り上げる予定である。

(2024年1月28日の追記:そういえばリンクを張り忘れていたが、2014年8月のクールジャパン提言については第319回、2019年9月のクールジャパン戦略については第413回をそれぞれ御覧頂ければと思う。)

(以下、提出パブコメ)

《要旨》
 新たにクールジャパン戦略を作成するにあたっては、2014年8月のクールジャパン提言の二次創作規制を緩和するという記載を取り入れつつ、さらに具体的に、二次創作規制の緩和のために必須の権利制限として、風刺やパロディ、パスティーシュのための権利制限を著作権法に導入するとともに、一般フェアユース条項の導入も速やかに検討すると明記するべきである。

《全文》
 2019年9月のクールジャパン戦略で何故かなかったことにされているが、2014年8月のクールジャパン提言の第13ページにおいて、「クリエイティビティを阻害している規制についてヒアリングし規制緩和する。コンテンツの発展を阻害する二次創作規制、ストリートパフォーマンスに関する規制など、表現を限定する規制を見直す。」と、二次創作に関する規制緩和を行う事が明確に記載されていた。

 二次創作が日本の文化的創作の原動力の一つになっており、その推進のために現状の規制を緩和する必要がある事は今も妥当する事であって、インターネット上の創作活動も含む日本の文化とそれに基づく産業のさらなる発展の事を考えると、10年近く前のものであるが、上記の提言は今現在も何らその意味を失っていないどころか、さらに重要性を増していると言っても過言ではない。

 新たにクールジャパン戦略を作成するにあたっては、上記の二次創作規制を緩和するという記載を取り入れつつ、さらに具体的に、二次創作規制の緩和のために必須の権利制限として、風刺やパロディ、パスティーシュのための権利制限を著作権法に導入するとともに、一般フェアユース条項の導入も速やかに検討すると明記し、政府としてこのような創作に関する規制の緩和を強力に推進する方針を明確に示すべきである。

 また、今後の検討にあたっては、以下の様な国際動向も決して見過ごされるべきではない。

 言うまでもない事であろうが、アメリカでは昔からパロディ等に関してフェアユースが認められている。

 欧州レベルで見ても、欧州著作権指令第2001/29号において、第5条第2項(k)としてパロディ等に関する権利制限があり得る権利制限の1つとしてあげられ、欧州新著作権指令第2019/790号において、その前文70で、表現の自由との間で正しいバランスを保つためパロディ等の権利制限は強行的なものであるべき事が謳われ、第17条第7項で、加盟国はオンライン共有サービスの利用者がパロディ等のための権利制限に依拠できる事を確保しなければならないと規定され、2022年4月26日の欧州司法裁の判決でもこの権利制限の意味及び強行規定性は再確認されている。

 欧州主要国という観点で見ると、この様なパロディ等のための権利制限は、フランスには昔から存在しており、イギリスでも2014年の法改正によって導入されており、国際的に厳しい著作権法を有する事で知られたドイツにおいても、国内外における議論の高まりを受け、2021年の著作権法改正により欧州著作権指令と同様のパロディ等のための権利制限が導入されている。

 ここで、ドイツでは、楽曲サンプリングが著作権侵害となるかについて20年近く法廷紛争が続けられている。この事件において、欧州司法裁が、2019年7月29日に、聞いても再認識できない形にされた楽曲断片の利用は著作権侵害にならないとの判断を示していたが、ドイツ最高裁が、最近、2023年9月14日の決定により、欧州司令第2001/29号の第5条第3項(k)がサンプリングを含む包括条項であるのかという質問を再度付託するに至っている。

 欧州司法裁がどの様な判断を示すか次第であるが、この様なドイツの事件の事も考えると、風刺、パロディ、パスティーシュという3つの類型のみをあげる欧州型の権利制限はそれだけでは十分なものでない可能性がある。

 特に、著作物の公正利用には変形利用もビジネス利用も考えられる事、及び、インターネットのように、ほぼ全国民が利用者兼権利者となり得、考えられる利用形態が発散し、個別の規定では公正利用の類型を拾い切れなくなるところでは、フェアユースのような一般規定は保護と利用のバランスを取る上で重要な意義を持つものである事を踏まえ、欧州型のパロディ等に関する権利制限の導入に加え、アメリカ等と遜色ない形で一般フェアユース条項を可能な限り早期に導入するべきであると考える。

 なお、常に一方的かつ身勝手な主張を繰り広げる自称良識派団体が、意味不明の理屈から知財とは本来関係のない危険な規制強化の話を盛り込むべきと主張をしてくることが十分に考えられるが、知財計画同様、新たなクールジャパン戦略においても一般的な情報・ネット・表現規制に関する事が書き込まれる事は断じてあってはならない事である。

 サイトブロッキング、児童ポルノを理由とした単純所持規制や架空の創作物の規制等の一般的な情報・ネット・表現規制は、憲法により保障された基本的な権利である表現の自由、検閲の禁止、通信の秘密等に明らかに抵触し、日本の文化と産業の発展を阻害するばかりか、インターネットの単純なアクセスすら危険なものとするものであって、ひいては民主主義の最重要の基礎である表現の自由を始めとした精神的自由そのものを危うくする非常識かつ危険なものばかりである。

 政府・与党にあっては、日本の民主主義、文化とそれに基づく産業の発展の最重要の基礎は憲法に保障された表現の自由等にある事を十分に認識し、この基礎をより一層守り高めるため、上記の通り新たな表現の創作に関する規制を緩和する事のみに注力するべきである。

(誤記に関する追記)
 提出している途中で気づいたことであるが、上記意見の内、欧州著作権指令第2001/29号について、「第5条第2項(k)」と記載したのは「第5条第3項(k)」の誤記である。そのままでも意味は通じると思うが、可能であれば修正いただきたい。

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2023年12月28日 (木)

第488回:2023年の終わりに(文化庁のAIと著作権に関する考え方の素案、新秘密特許(特許非公開)制度に関するQ&A他)

 今年は大きな法改正をしたばかりの所為か、特に年末年始に掛けて知財法改正パブコメがこぞって出されるという状況にはなっていないが、1年の終わりに各省庁の動きについてまとめて取り上げておきたいと思う。

(1)文化庁のAIと著作権に関する考え方の素案
 文化庁では文化審議会・著作権分科会の下で小委員会または部会として、法制度小委員会政策小委員会使用料部会の3つが動いている。

 使用料部会では権利者不明の場合の補償金額の決定などが行われている。まだ関係者ヒアリングの段階だが、私的録音録画補償金問題も含めた対価還元のあり方について議論するらしい政策小委員会の検討についても私は要注意だと思っているが、今年最大の検討事項は法制度小委員会で検討されているAIと著作権の関係の整理と言って間違いないだろう。

 その骨子案について前回取り上げたが、12月20日の法制度小委員会の第5回で、より具体的な内容を含むAIと著作権に関する考え方について(素案)(pdf)が示された。

 長くなるが、この素案の5.から特に重要な部分を以下に抜粋する。

5.各論点について

○ 著作権法の基本的な考え方と技術的な背景を踏まえ、生成AIに関する懸念点について、以下のとおり論点が整理できるのではないか。〔〕内は骨子案の項目との対応関係

(1)学習・開発段階
(中略:「ア 検討の前提」)

イ「情報解析の用に供する場合」と享受目的が併存する場合について〔骨子案:(1)イ、キ〕
(ア)「情報解析の用に供する場合」の位置づけについて
○ 法第30条の4柱書では、「次に掲げる場合その他の当該著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合には」と規定し、その上で、第2号において「情報解析(……)の用に供する場合」を挙げている。

○ そのため、AI学習のために行われるものを含め、情報解析の用に供する場合は、法第30条の4に規定する「当該著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合」に該当すると考えられる。

(イ)非享受目的と享受目的が併存する場合について
○ 他方で、一個の利用行為には複数の目的が併存する場合もあり得るところ、法第30条の4は、「当該著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合には」と規定していることから、この複数の目的の内にひとつでも「享受」の目的が含まれていれば、同条の要件を欠くこととなる。

○ そのため、ある利用行為が、情報解析の用に供する場合等の非享受目的で行われる場合であっても、この非享受目的と併存して、享受目的があると評価される場合は、法第30条の4は適用されない。

○ 生成AIに関して、享受目的が併存すると評価される場合について、具体的には以下のような場合が想定される。
≫ ファインチューニングのうち、意図的に、学習データをそのまま出力させることを目的としたものを行うため、著作物の複製等を行う場合。
(例)いわゆる「過学習」(overfitting)を意図的に行う場合
≫ AI学習のために用いた学習データを出力させる意図は有していないが、既存のデータベースやWeb上に掲載されたデータの全部又は一部を、生成AIを用いて出力させることを目的として、著作物の内容をベクトルに変換したデータベースを作成する等の、著作物の複製等を行う場合。
(例)以下のような検索拡張生成(RAG)のうち、生成に際して著作物の一部を出力させることを目的としたもの(なお、RAGについては後掲(1)ウも参照)
≫ インターネット検索エンジンであって、単語や文章の形で入力された検索クエリをもとにインターネット上の情報を検索し、その結果をもとに文章の形で回答を生成するもの
≫ 企業・団体等が、単語や文章の形で入力された検索クエリをもとに企業・団体等の内部で蓄積されたデータを検索できるシステムを構築し、当該システムが、検索の結果をもとに文章の形で回答を生成するもの

○ これに対して、「学習データをそのまま出力させる意図までは有していないが、少量の学習データを用いて、学習データの影響を強く受けた生成物が出力されるようなファインチューニングを行うため、著作物の複製等を行う場合」に関しては、具体的事案に応じて、学習データの著作物の表現上の本質的特徴を直接感得できる生成物を出力することが目的であると評価される場合は、享受目的が併存すると考えられる。

○ 近時は、特定のクリエイターの作品である著作物のみを学習データとしてファインチューニングを行うことで、当該作品群の影響を強く受けた生成物を生成することを可能とする行為が行われており、このような行為によって特定のクリエイターの、いわゆる「作風」を容易に模倣できてしまうといった点に対する懸念も示されている。このような場合、当該作品群は、表現に至らないアイデアのレベルにおいて、当該クリエイターのいわゆる「作風」を共通して有しているにとどまらず表現のレベルにおいても、当該作品群には、これに共通する表現上の本質的特徴があると評価できる場合もあると考えられることに配意すべきである。

○ なお、生成・利用段階において、AIが学習した著作物に類似した生成物が生成される事例があったとしても、通常、このような事実のみをもって開発・学習段階における享受目的の存在を推認することまではできず、法第30条の4の適用は直ちに否定されるものではないと考えられる。他方で、生成・利用段階において、学習された著作物に類似した生成物の生成が頻発するといった事情は、開発・学習段階における享受目的の存在を推認する上での一要素となり得ると考えられる。

ウ 検索拡張生成(RAG)等について〔骨子案:(1)ウ、(2)コ〕
○ 検索拡張生成(RAG)その他の、生成AIによって著作物を含む対象データを検索し、その結果の要約等を行って回答を生成するもの(以下「RAG等」という。)については、生成に際して既存の著作物の一部を出力するものであることから、その開発のために行う著作物の複製等は、非享受目的の利用行為とはいえず、法第30条の4は適用されないと考えられる。

○ 他方で、RAG等による回答の生成に際して既存の著作物を利用することについては、法第47条の5第1項第1号又は第2号の適用があることが考えられる。ただし、この点に関しては、法第47条の5第1項に基づく既存の著作物の利用は、当該著作物の「利用に供される部分の占める割合、その利用に供される部分の量、その利用に供される際の表示の精度その他の要素に照らし軽微なもの」(軽微利用)に限って認められることに留意する必要がある。RAG等による生成に際して、この「軽微利用」の程度を超えて既存の著作物を利用する場合は、法第47条の5第1項は適用されず、原則として著作権者の許諾を得て利用する必要があると考えられる。

○ また、RAG等のために行うベクトルに変換したデータベースの作成等に伴う、既存の著作物の複製又は公衆送信については、同条第2項に定める準備行為として、権利制限規定の適用を受けることが考えられる。

【著作権者の利益を不当に害することとなる場合について】
エ 著作権者の利益を不当に害することとなる場合の具体例について〔骨子案:(1)エ〕
(ア)法第30条の4ただし書の解釈に関する考え方について
○ 法第30条の4においては、そのただし書において「当該著作物の種類及び用途並びに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。」と規定し、これに該当する場合は同条が適用されないこととされている。

○ この点に関して、本ただし書は、法第30条の4本文に規定する「当該著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合」に該当する場合にその適用可否が問題となるものであることを前提に、その該当性を検討することが必要と考えられる。

○ また、本ただし書への該当性を検討するに当たっては、著作権者の著作物の利用市場と衝突するか、あるいは将来における著作物の潜在的販路を阻害するかという観点から検討することが必要と考えられる。

(イ)アイデア等が類似するにとどまるものが大量に生成されることについて
○ 本ただし書において「当該著作物の」と規定されているように、著作権者の利益を不当に害することとなるか否かは、法第30条の4に基づいて利用される当該著作物について判断されるべきものと考えられる。
(例)AI学習のための学習データとして複製等された著作物

○ 作風や画風といったアイデア等が類似するにとどまり、既存の著作物との類似性が認められない生成物は、これを生成・利用したとしても、既存の著作物との関係で著作権侵害とはならない。また、既存の著作物とアイデア等が類似するが、表現として異なる生成物が市場において取引されたとしても、これによって直ちに当該既存の著作物の取引機会が失われるなど、市場において競合する関係とはならないと考えられる。

○ そのため、著作権法が保護する利益でないアイデア等が類似するにとどまるものが大量に生成されることにより、自らの市場が圧迫されるかもしれないという抽象的なおそれのみでは、「著作権者の利益を不当に害することとなる場合」には該当しないと考えられる。

○ なお、この点に関しては、上記イ(イ)のとおり、特定のクリエイターの作品である著作物のみを学習データとしてファインチューニングを行う場合、当該作品群が、当該クリエイターの作風を共通して有している場合については、これにとどまらず、表現のレベルにおいても、当該作品群には、これに共通する表現上の本質的特徴があると評価できる場合もあると考えられることに配意すべきである。

(中略:「(ウ)情報解析に活用できる形で整理したデータベースの著作物の例について」)

(エ)学習のための複製等を防止する技術的な措置を回避した複製について〔骨子案:(1)コ〕
○ AI学習のための著作物の複製等を防止する技術的な措置としては、現時点において既に広く行われているものが見受けられる。こうした措置をとることについては、著作権法上、特段の制限は設けられておらず、権利者やウェブサイトの管理者の判断によって自由に行うことが可能である。
(例)ウェブサイト内のファイル"robots.txt"への記述によって、AI学習のための複製を行うクローラによるウェブサイト内へのアクセスを制限する措置
(例)ID・パスワード等を用いた認証によって、ウェブサイト内へのアクセスを制限する措置

○ このような技術的な措置は、あるウェブサイト内に掲載されている多数のデータを集積して、情報解析に活用できる形で整理したデータベースの著作物として販売する際に、当該データベースの販売市場との競合を生じさせないために講じられている例がある(データベースの販売に伴う措置、又は販売の準備行為としての措置)。

○ そのため、このような技術的な措置が講じられており、当該ウェブサイト内のデータを含み、情報解析に活用できる形で整理したデータベースの著作物が将来販売される予定があることが推認される場合、この措置を回避して行うAI学習のための複製等は、当該データベースの著作物の将来における潜在的販路を阻害する行為として、通常、法第30条の4ただし書に該当し、同条による権利制限の対象とはならないと考えられる。

○ なお、このような技術的な措置が、著作権法に規定する「技術的保護手段」又は「技術的利用制限手段」に該当するか否かは、現時点において行われている技術的な措置が、従来、「技術的保護手段」又は「技術的利用制限手段」に該当すると考えられてきたものとは異なることから、今後の技術の動向も踏まえ検討すべきものと考えられる。

(オ)海賊版等の権利侵害複製物をAI学習のため複製することについて
○ インターネット上のデータが海賊版等の権利侵害複製物であるか否かは、究極的には当該複製物に係る著作物の著作権者でなければ判断は難しく、AI学習のため学習データの収集を行おうとする者にこの点の判断を求めることは、現実的に難しい場合が多いと考えられる。加えて、権利侵害複製物という場合には、漫画等を原作のまま許諾なく多数アップロードした海賊版サイトに掲載されているようなものから、SNS等において個人のユーザーが投稿する際に、引用等の権利制限規定の要件を満たさなかったもの等まで様々なものが含まれる。

○ このため、AI学習のため、インターネット上において学習データを収集する場合、収集対象のデータに、海賊版等の、著作権を侵害してアップロードされた複製物が含まれている場合もあり得る。

○ 他方で、海賊版により我が国のコンテンツ産業が受ける被害は甚大であり、リーチサイト規制を含めた海賊版対策を進めるべきことは論を待たない。文化庁においては、権利者及び関係機関による海賊版に対する権利行使の促進に向けた環境整備等、引き続き実効的かつ強力に海賊版対策に取り組むことが期待される。

○ AI開発事業者やAIサービス提供事業者においては、学習データの収集を行うに際して、海賊版を掲載しているウェブサイトから学習データを収集することで当該ウェブサイトの運営を行う者に広告収入その他の金銭的利益を生じさせるなど、当該行為が新たな海賊版の増加といった権利侵害を助長するものとならないよう十分配慮した上でこれを行うことが求められる。

○ また、後掲(2)キのとおり、生成・利用段階で既存の著作物の著作権侵害が生じた場合、AI開発事業者又はAIサービス提供事業者も、当該侵害行為の主体として責任を負う場合があり得る。ウェブサイトが海賊版等の権利侵害複製物を掲載していることを知りながら、当該ウェブサイトから学習データの収集を行うといった行為は、厳にこれを慎むべきものであり、仮にこのような行為があった場合は、当該AI開発事業者やAIサービス提供事業者が、これにより開発された生成AIにより生じる著作権侵害について、その関与の程度に照らして、規範的な行為主体として侵害の責任を問われる可能性が高まるものと考えられる(AI開発事業者又はAIサービス提供事業者の行為主体性について、後掲(2)キも参照)。

(中略:【侵害に対する措置について】「オ AI学習に際して著作権侵害が生じた際に、学習を行った事業者が受け得る措置について」、「カ AI学習に際して著作権侵害が生じた際に、権利者による差止請求等が認められ得る範囲について」)

【その他の論点について】
キ AI学習における、法第30条の4に規定する「必要と認められる限度」について〔骨子案:(1)ク〕
○ 法第30条の4では、「その必要と認められる限度において」といえることが、同条に基づく権利制限の要件とされている。

○ この点に関して、大量のデータを必要とする機械学習(深層学習)の性質を踏まえると、AI学習のために複製等を行う著作物の量が大量であることをもって、「必要と認められる限度」を超えると評価されるものではないと考えられる。

ク AI学習を拒絶する著作権者の意思表示について〔骨子案:(1)ケ〕
○ 著作権法上の権利制限規定は、①著作物利用の性質からして著作権が及ぶものとすることが妥当でないもの、②公益上の理由から著作権を制限することが必要と認められるもの、③他の権利との調整のため著作権を制限する必要のあるもの、④社会慣行として行われており著作権を制限しても著作権者の経済的利益を不当に害しないと認められるものなどについて、文化的所産の公正な利用に配慮して、著作権者の許諾なく著作物を利用できることとするものである。

○ このような権利制限規定の立法趣旨からすると、著作権者が反対の意思を示していることそれ自体をもって、権利制限規定の対象から除外されると解釈することは困難である。また、AI学習のための学習データの収集は、クローラ等のプログラムによって機械的に行われる例が多いことからすると、当該プログラムにおいて機械的に判別できない方法による意思表示があることをもって権利制限規定の対象から除外してしまうと、学習データの収集を行う者にとって不測の著作権侵害を生じさせる懸念がある。そのため、こうした意思表示があることのみをもって、法第30条の4ただし書に該当するとは考えられない。

○ 他方で、このようなAI学習を拒絶する著作権者の意思表示が、機械可読な方法で表示されている場合、上記の不測の著作権侵害を生じさせる懸念は低減される。また、このような場合、上記エ(エ)のとおり、AI学習のための著作物の複製等を防止する技術的な措置が講じられており、当該ウェブサイト内のデータを含み、情報解析に活用できる形で整理したデータベースの著作物が将来販売される予定があることが推認される場合、この措置を回避して行うAI学習のための複製等は、当該データベースの著作物の将来における潜在的販路を阻害する行為として、通常、法第30条の4ただし書に該当し、同条による権利制限の対象とはならないと考えられる。

(中略:「ケ 法30条の4以外の権利制限規定の適用について」)

(2)生成・利用段階
(中略:「ア 検討の前提」)

【著作権侵害の有無の考え方について】
イ 著作権侵害の有無の考え方について
○ 従前の裁判例では、ある作品に、既存の著作物との類似性と依拠性の両者が認められる際に、著作権侵害となるとされており、生成AIを利用した場合にこれらが認められる場合については、以下のように考えられる。

(ア)類似性の考え方について〔骨子案:(2)ク〕
○ AI生成物と既存の著作物との類似性の判断については、生成AIをどのように利用したかといった制作過程ではなく、生成物そのものが既存の著作物に類似していると認められるかのみを判断すれば良いものであることから、原則として、人間がAIを使わずに創作したものと同様に考えられる。

(イ)依拠性の考え方について〔骨子案:(2)ア、イ〕
○ 依拠性の判断については、従来の裁判例では、ある作品が、既存の著作物に類似していると認められるときに、当該作品を制作した者が、既存の著作物の表現内容を認識していたことや、同一性の程度の高さなどによりその有無が判断されてきた。特に、人間の創作活動においては、既存の著作物の表現内容を認識しえたことについて、その創作者が既存の著作物に接する機会があったかどうかなどにより推認されてきた。

○ 一方、生成AIの場合、その開発のために利用された著作物を、生成AIの利用者が認識していないが、当該著作物に類似したものが生成される場合も想定され、このような事情は、従来の依拠性の判断に影響しうると考えられる。

○ そこで、従来の人間が創作する場合における依拠性の考え方も踏まえ、生成AIによる生成行為について、依拠性が認められるのはどのような場合か、整理することとする。
① AI利用者が既存の著作物を認識していたと認められる場合
▽ 生成AIをした場合であっても、AI利用者が既存の著作物(その表現内容)を認識しており、生成AIを利用してこれと類似したものを生成させた場合は、依拠性が認められ、AI利用者による著作権侵害が成立すると考えられる。
(例)ImagetoImage(画像を生成AIに指示として入力し、生成物として画像を得る行為)のように、既存の著作物そのものや、その題号などの特定の固有名詞を入力する場合
▽ この点に関して、従来の裁判例においては、被疑侵害者の既存著作物へのアクセス可能性、すなわち既存の著作物に接する機会があったことや、類似性の程度の高さ等の間接事実により、既存の著作物の表現内容を知っていたことが推認されてきた。
▽ このような従来の裁判例を踏まえると、生成AIが利用された場合であっても、権利者としては、被疑侵害者において既存著作物へのアクセス可能性や、既存著作物への高度な類似性があること等を立証すれば、依拠性があると推認されることとなる。
②AI利用者が既存の著作物を認識していなかったが、AI学習用データに当該著作物が含まれる場合
▽ AI利用者が既存の著作物(その表現内容)を認識しておらず、かつ、当該生成AIの開発・学習段階で、当該著作物を学習していなかった場合は、当該生成AIを利用し、当該著作物に類似した生成物が生成されたとしても、これは偶然の一致に過ぎないものとして、依拠性は認められず、著作権侵害は成立しないと考えられる。
▽ 一方、AI利用者が既存の著作物(その表現内容)を認識していなかったが、当該生成AIの開発・学習段階で当該著作物を学習していた場合については、客観的に当該著作物へのアクセスがあったと認められることから、当該生成AIを利用し、当該著作物に類似した生成物が生成された場合は、通常、依拠性があったと認められ、著作権侵害になりうると考えられる。
▽ ただし、このような場合であっても、当該生成AIについて、開発・学習段階において学習に用いられた著作物が、生成・利用段階において生成されないような技術的な措置が講じられているといえること等、当該生成AIが、学習に用いられた著作物をそのまま生成する状態になっていないといえる事情がある場合には、AI利用者において当該事情を反証することにより、依拠性がないと判断される場合はあり得ると考えられる。
▽ なお、生成AIの開発・学習段階で既存の著作物を学習していた場合において、AI利用者が著作権侵害を問われた場合、後掲(2)キのとおり、当該生成AIを開発した事業者においても、著作権侵害の規範的な主体として責任を負う場合があることについては留意が必要である。

ウ 依拠性に関するAI利用者の反証と学習データについて〔骨子案:(2)イ〕
○ 上記の場合は、被疑侵害者の側で依拠性がないことの反証の必要が生じることとなるが、上記のイ②で確認したように、生成AIを利用し生成された生成物が既存の著作物に類似していた場合であって、当該生成AIの開発に当該著作物を用いていた場合は、依拠性が認められる可能性が高いと考えれることから、被疑侵害者の側が依拠性を否定するためには、当該既存著作物が学習データに含まれていないこと等を反証する必要がある。

【侵害に対する措置について】
(中略:「エ 侵害に対する措置について」、「オ 利用行為が行われた場面ごとの判断について」)

カ 差止請求として取り得る措置について〔骨子案:(2)エ〕
○ 生成AIによる生成・利用段階において著作権侵害があった場合、侵害の行為に係る著作物等の権利者は、生成AIを利用し著作権侵害をした者に対して、新たな侵害物の生成及び、すでに生成された侵害物の利用行為に対する差止請求が可能と考えられる。この他、侵害行為による生成物の廃棄の請求は可能と考えられる。

○ また、生成AIの開発事業者に対しては、著作権侵害の予防に必要な措置として、侵害物を生成した生成AIの開発に用いられたデータセットがその後もAI開発に用いられる蓋然性が高い場合には、当該データセットから、当該侵害の行為に係る著作物等の廃棄を請求することは可能と考えられる。

○ また、侵害物を生成した生成AIについて、当該生成AIによる生成によって更なる著作権侵害が生じる蓋然性が高いといえる場合には、生成AIの開発事業者に対して、当該生成AIによる著作権侵害の予防に必要な措置を請求することができると考えられる。

○ この点に関して、侵害の予防に必要な措置としては、当該侵害の行為に係る著作物等の類似物が生成されないよう、例えば、①特定のプロンプト入力については、生成をしないといった措置、あるいは、②当該生成AIの学習に用いられた著作物の類似物を生成しないといった措置等の、生成AIに対する技術的な制限を付す方法などが考えられる。

【侵害行為の責任主体について】
キ 侵害行為の責任主体について〔骨子案:(2)オ〕
○ 従来の裁判例上、著作権侵害の主体としては、物理的に侵害行為を行った者が主体となる場合のほか、一定の場合に、物理的な行為主体以外の者が、規範的な行為主体として著作権侵害の責任を負う場合がある(いわゆる規範的責任論)。

○ そこで、AI生成物の生成・利用が著作権侵害となる場合の侵害の主体の判断に
おいても、物理的な行為主体であるAI利用者のみならず、生成AIの開発や、生成AIを用いたサービス提供を行う事業者が、著作権侵害の行為主体として責任を負う場合があると考えられる。

○ この点に関して、具体的には、以下のように考えられる。
①ある特定の生成AIを用いた場合、侵害物が高頻度で生成される場合は、事業者が侵害主体と評価される可能性が高まるものと考えられる。
②事業者が、生成AIの開発・提供に当たり、当該生成AIが既存の著作物の類似物を生成する可能性を認識しているにも関わらず、当該類似物の生成を抑止する技術的な手段を施していない場合、事業者が侵害主体と評価される可能性が高まるものと考えられる。
③事業者が、生成AIの開発・提供に当たり、当該生成AIが既存の著作物の類似物を生成することを防止する技術的な手段を施している場合、事業者が侵害主体と評価される可能性は低くなるものと考えられる。
④当該生成AIが、事業者により上記の(2)キ③の手段を施されたものであるなど侵害物が高頻度で生成されるようなものでない場合においては、たとえ、AI利用者が既存の著作物の類似物の生成を意図して生成AIにプロンプト入力するなどの指示を行い、侵害物が生成されたとしても、事業者が侵害主体と評価される可能性は低くなるものと考えられる。

(中略:【その他の論点】「ク 生成指示のための生成AIへの著作物の入力について」、「ケ 権利制限規定の適用について」、「コ 学習に用いた著作物等の開示が求められる場合について」)

(3)生成物の著作物性について
(中略:「ア 整理することの意義・実益について」)

イ 生成AIに対する指示の具体性とAI生成物の著作物性との関係について〔骨子案:(3)イ〕
○ 著作権法上の従来の解釈における著作者の認定と同様に考えられ、共同著作物に関する裁判例等に照らせば、生成AIに対する指示が表現に至らないアイデアにとどまるような場合には、当該AI生成物に著作物性は認められないと考えられる。

○ また、AI生成物の著作物性は、個々のAI生成物について個別具体的な事例に応じて判断されるものであり、単なる労力にとどまらず、創作的寄与があるといえるものがどの程度積み重なっているか等を総合的に考慮して判断されるものと考えられる。例として、著作物性の判断するに当たっては、以下の①~④に示すような要素があると考えられる。
①指示・入力(プロンプト等)の分量・内容
▽ AI生成物を生成するに当たって、表現と同程度の詳細な指示は、創作的寄与があると評価される可能性を高めると考えられる。他方で、長大な指示であったとしても表現に至らない指示は、創作的寄与の判断に影響しないと考えられる。
②生成の試行回数
▽ 試行回数が多いこと自体は、創作的寄与の判断に影響しないと考えられる。他方で、①と組み合わせた試行、すなわち生成物を確認し指示・入力を修正しつつ試行を繰り返すといった場合には、著作物性が認められることも考えられる。
③複数の生成物からの選択
▽ 単なる選択行為自体は創作的寄与の判断に影響しないと考えられる。他方で、通常創作性があると考えられる行為であっても、その要素として選択行為があるものもあることから、そうした行為との関係についても考慮する必要がある。
④生成後の加筆・修正
▽ 人間が、創作的表現といえる加筆・修正を加えた部分については、通常、著作物性が認められると考えられる。もっとも、それ以外の部分についての著作物性には影響しないと考えられる。

ウ 著作物性がないものに対する保護〔骨子案:(3)ウ〕
○ 著作物性がないものであったとしても、判例上、その複製や利用が、営業上の利益を侵害するといえるような場合には、民法上の不法行為として損害賠償請求が認められ得ると考えられる。

(4)その他の論点について
○ 学習済みモデルから、学習に用いられたデータを取り除くように、学習に用いられたデータに含まれる著作物の著作権者等が求め得るか否かについては、現状ではその実現可能性に課題があることから、将来的な技術の動向も踏まえて見極める必要がある。

○ また、著作権者等への対価還元という観点からは、法第30条の4の趣旨を踏まえると、AI開発に向けた情報解析の用に供するために著作物を利用することにより、著作権法で保護される著作権者等の利益が通常害されるものではないため、対価還元の手段として、著作権法において補償金制度を導入することは理論的な説明が困難であると考えられる。

○ 他方、コンテンツ創作の好循環の実現を考えた場合に、著作権法の枠内にとどまらない議論として、技術面や考え方の整理等を通じて、市場における対価還元を促進することについても検討が必要であると考えられる。

○ なお、著作物に当たらないものについて著作物であると称して流通させるという行為については、著作物のライセンス契約のような取引の場面においてこれを行った場合、契約上の債務不履行責任を生じさせるほか、取引の相手方を欺いて利用の対価等の財物を交付させた詐欺行為として、民法上の不法行為責任を問われることや、刑法上の詐欺罪に該当する可能性が考えられる。この点に関して、著作権法による保護が適切かどうかなど、著作権との関係については、引き続き議論が必要であると考えられる。

 上は抜粋と言ってもかなり長いので、ここで、私なりの概要を以下に作っておく。

(1)学習・開発段階

  • AI学習のための著作物の利用は原則として著作権法第30条の4の非享受目的利用の権利制限の対象となるが、意図的に、元の学習データの全部または一部をそのまま出力させる事を目的とする様な場合や、特別なファインチューニングによって学習データの元の著作物の表現上の本質的特徴を直接感得できる生成物を出力する事を目的とする様な場合や、機械可読な方法によって複製の禁止が示されている場合に複製をして学習データを作成する様な場合は対象とならない。
  • AIを用いた検索であって結果の一部を表示する様な場合は、著作権法第47条の5の軽微利用目的の権利制限の範囲内で許諾なく可能。
  • 海賊版サイトである事を知りながら、そこから学習データの収集を行って生成AIを開発した様な場合、その生成AIにより生じる著作権侵害について、その関与の程度に照らして、規範的な行為主体として侵害の責任を問われる可能性が高まる。

(2)生成・利用段階

  • AI生成物と既存の著作物との類似性の判断については、原則として、人間がAIを使わずに創作したものと同様。
  • 生成AIを用いた場合でも、AI利用者が既存の著作物を認識しており、既存の著作物の名称の様な特定の固有名詞を入力して出力を生成させるなど、既存の著作物と類似したものを生成させた場合や、利用者が認識していなかったとしても、AI学習用データに当該著作物が含まれ、類似した生成物が得られた場合などは、通常、依拠性が認められ、著作権侵害となり得る。
  • 利用者に対する差し止め等に加え、生成AIによって更なる著作権侵害が生じる蓋然性が高いといえる場合には、生成AIの開発事業者に対して、著作権侵害の予防に必要な措置として、特定のプロンプト入力による生成を禁止する、学習に用いられた著作物の類似物を生成しない措置の様な技術的な制限を求める事も考えられる。
  • その生成AIによって侵害物が高頻度で生成される場合や、既存の著作物の類似物を生成する可能性を認識しているにも関わらず、当該類似物の生成を抑止する技術的な手段を施していない場合などは、事業者が侵害主体と評価される可能性が高まる。

(3)生成物の著作物性

  • 著作権法上の従来の解釈における著作者の認定と同様に考えられ、生成AIに対する指示が表現に至らないアイデアにとどまるような場合には、当該AI生成物に著作物性は認められない。
  • 創作的寄与の判断要素としては、指示・入力(プロンプト等)の分量・内容、生成の試行回数、複数の生成物からの選択、生成後の加筆・修正が考えられる。

(4)その他

  • 今の所、著作権法において補償金制度を導入することは理論的な説明が困難。

 この素案に示されている考え方は現行法の解釈としておよそ妥当と言っていいものだが、細かな点で釘を刺しておきたい所もあるので、さらに来月の最終案を見た上でパブコメで意見を出す事を考えたいと思っている。

 前に書いた事の繰り返しになるが、ここで最も重要な事はAIの問題に絡めて権利者寄り・規制寄りに歪んだ著作権法改正をしようとしている様子が見られない事だろう。

(2)新秘密特許(特許制度)に関するQ&Aと管理ガイドライン
 第486回で取り上げた新秘密特許(特許制度)に関する府省令案について案が取れて12月18日に公布された事に合わせ(特許庁のHP1官報号外第265号参照)、内閣府の特許出願の非公開に関する制度のページ経済安全保障推進法の特許出願の非公開に関する制度のQ&A(pdf)損失の補償に関するQ&A(pdf)特許出願の非公開に関する制度における適正管理措置に関するガイドライン(第1版)(pdf)が公開された。

 これらの内、制度全体に関するQ&Aや適正管理措置に関するガイドラインは法令をそのままなぞって説明しているだけで新しい事が書かれているという事はほぼないので、ここでは、損失の補償に関するQ&Aから、特許出願を秘密とする保全指定を受けた場合の補償について各論として多少なりとも詳細化を試みているQ7~Q17を以下に抜き出しておく。

各論:補償対象・範囲について

Q7.保全指定期間中に、第三者が保全対象発明と同一の発明を国内出願せずに国内で実施している場合において、自身の特許権が留保されているため、特許権に基づく実施許諾料相当額の請求や損害賠償請求ができないことによる損失は補償の対象となりますか。

A7.例えば、第三者と特許権に基づく実施許諾契約を結んでいれば得られたはずであるが得られなかったであろう実施許諾料相当額や、損害賠償請求により得られたはずであるが得られなかったであろう第三者が実施により得た利益相当額について、保全指定を受けたことに起因し、かつ、保全指定を受けたことにより生ずることが社会通念上相当といえる損失であると認められる範囲で、補償の対象となり得ます。
 なお、一般的には、第三者の実施が判明した時点で保全指定の解除が検討される場合が多く、保全指定が解除されれば、特許手続が進み、出願公開されることとなります。その場合、特許法上、出願公開後は、保全対象発明と同一の発明を特許出願せずに国内で実施している第三者に対して、特許権の登録前の行為については、出願公開後、第三者に警告を発すれば、特許権の登録を待って、第三者に対して警告時に遡り補償金を請求することができますし(特許法第65条)、特許権の登録後の行為については、特許権を侵害するものとして、差止めや損害賠償請求ができます(特許法第100条・102条)。

Q8.保全指定期間中に、第三者が保全対象発明と同一の発明に関する特許権を外国で取得してしまい、外国で実施している場合において、外国出願が禁止されているために発生した損失は補償の対象となりますか。

A8.例えば、保全指定を受けなければ、当該国で特許出願をして当該第三者よりも先に特許権を取得していたと推認される場合にあっては、保全指定以後に、当該第三者より差止請求を受けて当該国における製品販売ができなくなったことによる逸失利益や、当該第三者が特許権を保有する状況下で当該国における製品販売を行うに当たり支払わなければならない実施許諾料相当額又は自身が当該国で特許権を取得していれば当該第三者に請求できたはずの実施許諾料相当額等から算定される逸失利益については、保全指定を受けたことに起因し、かつ、保全指定を受けたことにより生ずることが社会通念上相当といえる損失であると認められる範囲で、補償の対象となり得ます。

Q9.特許権に基づき発明の実施をすれば、市場独占や競合品との競争上の優位性により、通常より高い利益率の設定が見込まれるところ、保全対象発明について、実施は許可されたものの、特許権の留保により保全指定期間中における保全対象発明と同一の発明を特許出願せずに実施する第三者の市場参入に対抗できず、保全指定の解除後に当該第三者に対して権利行使をして競合品を排除するまでの間、通常より高い利益率を確保することができませんでした。結果、当初の計画では得られるはずだった利益が減少することになりましたが、この場合における利益の減少分は補償の対象となりますか。

A9.一般的には、第三者の実施が判明した時点で保全指定の解除が検討される場合が多いと考えられますが、競合品を排除するまでの間にかかる状況が生じた際、例えば、第三者が実施している状況下において確保できる利益率に基づく利益と、保全対象発明の実施が独占的であった場合に見込まれる利益率に基づく利益との間に差額が発生する場合には、その差額について、保全指定を受けたことに起因し、かつ、保全指定を受けたことにより生ずることが社会通念上相当といえる損失であると認められる範囲で、補償の対象となり得ます。

Q10.実施の許可で付された条件を満たすために、ブラックボックス化のための設計変更が必要になりました。設計変更により利益に差額が発生したことによる損失は補償の対象となりますか。

A10.設計変更により増加した経費の販売価格への反映状況等も踏まえながら、設計変更した後に得られる利益と、設計変更しなければ得られたであろう利益との間に差額が発生する場合には、その差額について、保全指定を受けたことに起因し、かつ、保全指定を受けたことにより生ずることが社会通念上相当といえる損失であると認められる範囲で、補償の対象となり得ます。

Q11.保全指定前に多額の開発・設備費用を投資して保全対象発明を生み出しましたが、発明の実施の不許可により製品販売をすることができず、あるいは、保全指定により特許権に基づく実施許諾料相当額の請求もできなくなったため、保全指定期間中、当該開発・設備投資費用を回収することができなくなりました。この場合において、保全指定期間中に回収不能となった開発・設備投資費用は補償の対象となりますか。

A11.開発・設備投資は、本来、製品販売や特許権に基づく実施許諾料等で利益をあげることによって回収が図られるものであり、回収できるだけの利益につながるかどうかは、製品の価値やその時々の需要、競合状況等に応じケースバイケースです。したがって、たとえ発明の実施が不許可とされたために、保全指定期間中に製品販売をすることができず、あるいは、保全指定を受けたために特許権に基づく実施許諾料相当額の請求ができなくなったとしても、開発・設備投資の額が直ちに「保全指定を受けたことによる損失」といえるものではありません。
 すなわち、補償の対象は、A2で述べたとおり、あくまで、保全指定を受けずに製造、販売できていた場合に比して失われた利益に係る損失や特許権に基づく実施許諾料相当額等を請求できないことにより失われた利益に係る損失であり、これらの額により開発・設備投資費用の一部又は全部が補償されることとなります。

Q12.競業者による特許出願(先願)が保全指定を受けて出願公開されていなかったため、先願の存在を知らずに偶々同じ技術を開発し、同一の発明を出願して保全指定を受けた場合、自ら(後願者)が当該技術の発明に要した開発・設備投資費用は補償の対象となりますか。

A12.先願が公開されていれば後願者が保全対象発明に費やすことがなかった開発・設備投資費用は、後願者が保全指定を受けたことに起因する損失ではないため、補償の対象とはなりません。
 なお、先願と同じ発明について保全指定を受けた後願者に対しては、以下の要件を満たせば、所定の範囲内において有償の通常実施権が認められます(法第81条)。
・法第66条第7項の規定により出願公開が行われなかったために、保全指定された先願の存在を認識せず、自己の発明が特許法第 29 条の2の規定により特許を受けることができないものであることを知らないで、先願の出願公開前に、日本国内において発明の実施である事業をし、又はその事業の準備をしていること
・自らの特許出願について拒絶査定又は拒絶の審決が確定したこと

Q13.外国出願をすることを前提に保全審査中に翻訳を発注していたところ、保全指定を受けたために、優先日を確保した状態での外国出願が出来なくなりました。この場合における翻訳費用は補償の対象となりますか。

A13.例えば、保全審査が終了するまでに翻訳の発注をせざるを得なかった事情や当該翻訳文の活用状況等を踏まえ、保全指定を受けたことに起因し、かつ、保全指定を受けたことにより生ずることが社会通念上相当といえる損失であると認められる範囲で、補償の対象となり得ます。

Q14.外国出願をすることを前提に保全審査中に外国代理人に手続を依頼していたところ、保全指定を受けたために、優先日を確保した状態での外国出願ができなくなりました。この場合における、外国代理人との手続に係る費用は補償の対象となりますか。

A14.例えば、保全審査が終了するまでに外国代理人に手続を依頼せざるを得なかった事情や手続費用の精算状況等を踏まえ、保全指定を受けたことに起因し、かつ、保全指定を受けたことにより生ずることが社会通念上相当といえる損失であると認められる範囲で、補償の対象となり得ます。

Q15.保全指定を受けたため、指定特許出願人が適正管理措置を講じるために要した経費は補償の対象となりますか。

A15.適正管理措置は、事業者が元来営業秘密等の社内秘の管理のために講じている措置の範囲内で対応できる場合が多いと考えられますが、例えば、事業者が元来講じている情報保全の措置では、適正管理措置には足りず、このために新たに機器の購入等を要した場合には、当該機器の保全対象発明以外への利用状況等も踏まえ、保全指定を受けたことに起因し、かつ、保全指定を受けたことにより生ずることが社会通念上相当といえる損失であると認められる範囲で、これに要した経費が補償の対象となり得ます。

各論:補償条件について

Q16.第三者から得られたであろう特許権に基づく実施許諾料相当額等を補償の対象として請求する場合には、保全指定の解除後に特許権を取得するのを待つ必要がありますか。

A16.保全指定を受けなければ特許権を取得していたであろうと認められれば、保全指定の解除前であっても請求は可能です。
 なお、保全指定期間中であっても、出願公開、特許査定及び拒絶査定以外の特許手続は留保されず(法第66条第7項)、審査請求(特許出願についての出願審査の請求)をして、特許査定の直前まで手続を進めることができるので、このような場合は、特許権を取得していたであろうと認められる確度が高まると考えられます。

各論:その他

Q17.保全指定前の事前意思確認の際に、補償金額を算定してくれますか。

A17.国による補償金額の算定は、損失が発生し、補償の請求を受けた後に行うものなので、国において、保全指定前にあらかじめ算定して提示することは難しいと考えています。

 この補償に関するQ&Aもかなり長く抜粋したが、概要としてまとめると、特許ライセンス料や損害賠償の請求ができない場合、第三者が保全対象発明と同一の発明に関する特許権を外国で取得した場合、第三者が特許出願をせずに同一の発明を実施した場合、保全対象発明のブラックボックス化のために設計変更をした場合、外国出願を準備していた場合などについて、保全指定と相当因果関係が認められる範囲内で逸失利益・損失・経費を補償すると言っているに過ぎない。

 また、保全指定を受けた後でも特許査定の直前まで手続きを進める事ができるといっても、あくまで直前までなので、出願が最終的に特許を受けられるかは制度上分かりようがないのだが、上の回答を見ると、特許権を取得していたであろうと認められる確度が何かしら補償金額の算定に関係して来るのかというさらなる疑問も湧く。

 そして、保全指定を実際に受けるより前に補償金額を示すのは困難という回答も予想通りだが、事前の意思確認の際に示してくれないと出願人としては指定を受けるかどうかの判断に困るのではないかと思え、本当にこの制度がまともに機能するのか甚だ怪しいように思える。

 結局、この新秘密特許制度では、特許権の付与によって権利の存在と範囲が確定する前に秘密とするべき保全指定がされてしまうので、その状態でどうやってどうやって保全指定と逸失利益との間の相当因果関係を示して具体的な額について決定するのか謎としか言い様がないが、これで予定されていたQ&Aなどは一通り出されたと見えるので、政府としてはこの点についてこれ以上説明をする事なく、2024年5月1日の施行まで突っ走るつもりなのだろう。

 もはや後は施行後の運用を見て行くしかないという状況にありながら、この制度ではその運用すら秘密になってしまうのでどうしようもないが、本当にこの制度が必要だったのか、今の形でまともに運用できるのか、私はいまだに大いに疑問に思っている。

(3)その他知財本部等における検討
 前回でも少し書いたが、他の省庁における検討についても取り上げておく。

 まず、知財本部では、かなり急ピッチで開催されているAI時代の知的財産権検討会に加え、知財計画2024に向けた検討を行う構想委員会の下に、コンテンツやクールジャパン戦略関連の検討を行うらしい、コンテンツ戦略ワーキンググループとCreate Japanワーキンググループという2つのワーキンググループが置かれ、12月22日に第1回の合同会議が開催されている。

 AIに関する政府検討という事では、AI戦略会議第7回が12月21日に開かれており、G7での国際指針の取りまとめの後、同じく特に規制的なものとなっているという事はないが、詳細なAI事業者ガイドライン案(pdf)概要(pdf)も参照)が示されている。なお、この新AIガイドライン案は、何故か経産省と総務省でともに会議が非公開とされているので詳細不明だが、経産省の方のAI事業者ガイドライン検討会と総務省の方のAIネットワーク社会推進会議で以前のそれぞれのAIガイドラインに基づき検討されていたものだろう。

 経済産業省・特許庁の産業構造審議会・知的財産分科会については、今年は各小委員会で制度改正の議論がされているという事はなく、不正競争防止小委員会で今回の法改正などを受けた限定提供データに関する指針や秘密情報の保護ハンドブックや外国公務員贈賄防止指針の改訂について、特許の審査基準専門委員会ワーキンググループでAI関連技術に関する事例の追加について、意匠審査基準ワーキンググループ商標審査基準ワーキンググループのそれぞれで今回の法改正などを受けた意匠審査基準の改訂について検討がされている。

 なお、各ガイドラインの改訂案は、内容としては特に問題なく法改正を反映したものなので、ここではその内容を細かく取り上げる事はしないが、丁度今現在、「限定提供データに関する指針(改訂案)」及び「秘密情報の保護ハンドブック(改訂案)」に対する意見募集が1月15日〆切で(電子政府のHP1参照)、「外国公務員贈賄防止指針(改訂案)」に対する意見募集が同じく1月15日〆切で(電子政府のHP2)、「商標審査基準」改訂案に対する意見募集が1月24日〆切で行われているので(電子政府のHP3参照)、ここで念のため紹介しておく。

 総務省では、前回取り上げた誹謗中傷等の違法・有害情報への対策に関するワーキンググループの上位検討会であるプラットフォームサービスに関する研究会も開かれており、12月12日の第51回で、ワーキンググループの報告書を取り込み、偽情報対策と利用者情報の取り扱いに関するモニタリング結果も含め、第三次とりまとめ(案)(pdf)が示されているが、これも特に問題がある内容が含まれているという事はない。なお、この取りまとめ案についても1月17日〆切で意見募集が行われている(電子政府のHP4参照)。

 また、どのように検討事項が切り分けられているのか、何か意味のある結果が出て来るのかいまいち不明だが、最近始まった総務省の有識者会議には、安心・安全なメタバースの実現に関する研究会デジタル空間における情報流通の健全性確保の在り方に関する検討会もある。

 そして、農水省では、新しい政策検討が行われている様子は見られないが、例年通り、地道に農業資材審議会・種苗分科会での種苗法における重要な形質の指定に関する諮問や地理的表示の申請登録などが行われている。

 知財政策に関して、生成AIの発展にともなう著作権法に関する議論と新秘密特許制度の施行準備が進められたという事が大きな動きとしてあり、今年はかなり慌ただしい一年だったと言えるだろう。

 最後に、いつもの口上となるが、政官業に巣食う全ての利権屋に悪い年を、そして、このブログを読んで下さっている方々に心からの感謝を。

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2023年10月29日 (日)

第485回:知財本部・AI時代における知的財産権に関する意見募集(11月5日〆切)に対する提出パブコメ

 11月5日〆切で掛かっている知財本部のAI時代における知的財産権に関する意見募集(知財本部HPの意見募集要項(pdf)、電子政府HPの意見募集ページ参照)に対して意見を出したので、ここに載せておく。

 特許法など他の知的財産法についても意見募集の対象となっていたので少し意見を追加で書いたが、内容はほぼ今までこのブログで書いて来た事のまとめである。

 日本政府にしては珍しく報告書案として方針がまとまる前のオープンなパブコメであり、AIと知的財産の関係について関心のある方は是非提出を検討する事をお勧めする。

 次回は、そのレベルで何か問題があるという事ではないが、今現在同じくパブコメに掛かっている新秘密特許(特許非公開)制度に関する府省令案について取り上げたいと思っている(電子政府の意見募集ページ2参照)。

(以下、提出パブコメ)

Ⅰ.生成AIと知財をめぐる懸念・リスクへの対応等について
①生成AIと著作権の関係について、どのように考えるか。
【御意見】
 今年の知財計画策定に向けた意見募集の際に出した意見と同じであるが、政府・与党において生成AIと著作権の関係に関する検討を行う事自体に反対はしないが、この検討においては、この様な新技術の発展が速い事や国際動向等にも照らし、かえって社会的混乱を招き、技術の発展を阻害する恐れの強い、法改正によって新たな規制を行う事や新しい権利を付与する事には極めて慎重であるべきである。

【理由・根拠事実】
 最初に、検討において人口知能(AI)という言葉曖昧な儘に使われている懸念がある事を指摘する。私は、1つの案として、「生成AI」とは、大量の計算リソースを使う機械学習を用いたものであって、利用者側の簡単な指示の入力によって対応する文章や画像などの出力が可能なサービスの事を指すものという定義を提案し、これに基づいて以下の意見を述べるが、法的議論をするのであれば、「生成AI」とは何かという定義と範囲を明確にしてからするべきである。

 知財本部又は文化庁の過去の資料において示されている通り、著作権と生成AIの関係について、(1)機械学習における著作物の利用と生成AIサービスの提供というサービス提供側の話と、(2)利用者による入力結果のAI生成物の利用という利用者側の話の2つに分けるという考え方は妥当である。

 そして、(1)機械学習における著作物の利用と生成AIサービスの提供というサービス提供側については、以前の著作権法の改正経緯等から考えて、現行の著作権法第30条の4により、機械学習に利用された元の著作物の表現と異なる生成物の出力を行う事を目的とする通常の生成AIサービスや学習データの提供については権利制限の対象となると考えられる。

 しかし、特定の著作者や著作物の表現と同一又は類似した生成物の出力に専ら利用されている様な場合は別であって、実際に個別の著作権侵害との関係で争いになれば、機械学習の内容、利用の実態、規約の実効性、権利侵害に対して技術的に取り得る手段などを論点として、サービス提供がこの権利制限の対象となるかについて判断される事になると考えられる。

 また、サービス規約によって利用者に何らかの制約を課す事はできるだろうが、それ以上にAIサービス提供者に何か著作権が発生しているという事もない。

 (2)利用者による入力結果のAI生成物の利用については、著作物の創作者は自然人のみであり、創作的表現である著作物の創作に関与した者に著作権があるかどうかは、その者が最終的な表現にどこまで創作的に寄与したかで決まる。今問題となっている、簡単な指示の入力によって文章や画像を出力する生成AIサービスにおいて、その利用者に、出力された生成物の最終的な表現に対する創作的な寄与があり、その結果として著作権があるとは考え難い。その様な利用者は一次創作者たり得ず、無論二次創作者でもあり得ず、生成AIサービスの利用者にも生成物に関する著作権は通常ないと考えられる。

 しかし、この事は、サービス提供者の著作権も利用者の著作権もないと考えられる生成物が他人の著作権の侵害を構成しない事を意味しない。既存の著作物に依拠して類似した表現物を作成して他の者に提供した場合に著作権侵害となり得るのは当たり前の事であって、この事はどの様なツールを使うかに依存しないし、生成AIサービスを利用した場合であっても同じと考えられるべきである。

 すなわち、現行の著作権法第30条の4の非享受目的利用の範囲内で、著作権侵害とならない生成物を出力する事を通常の目的とする限りにおいて、生成AIサービスの提供者による既存の著作物の利用も、利用者のサービス利用も問題なく行えると考えて良いが、サービス提供者にも利用者にも著作権はなく、それぞれ、サービスが専ら著作権侵害となる生成物の出力に利用されていないか、生成物の利用が他人の著作権を侵害しないかについて十分注意する必要があるという事になる。

 著作権侵害とならない生成物を作ろうとする限りにおいて、AIサービスの提供と利用の著作権リスクを相当程度低減している、この今の日本の著作権法のバランスは決して悪くないものである。

 そのため、現時点で余計な社会的混乱を招くだけの権利や補償金などを新たに付与するべきではなく、今後の検討にあたっては、現行の著作権法第30条の4の適用範囲及びAI生成物の利用が著作権侵害となる場合の明確化のみを行い、その結果を広く周知するに留めるべきである。

 最後に、参考として国際動向について簡単に触れておくが、世界的に見ても生成AIと著作権の関係について、日本の現行法に基づいて考えられる整理以上に何らかの統一的な方向性が見えているという事はない。

 欧州連合(EU)の新AI法案は、まだEUの機関の間での協議が残っており、最終的な条文がどうなるかは分からないものである。今の法案中にある学習に利用した著作物の概要の公開義務が残って何年か後に施行されたとしても、各AIサービス提供者がそれぞれ適法にアクセス可能なインターネット上の著作物を用いて機械学習を行っているという程度の事を公開するだけで終わり、大して意味のある結果をもたらす事はないのではないかと思える。このEUの新AI法案の主眼は人の特定などに用いられる高リスクAIの規制、AIによる偽情報作成への対策などにあると言って良いものである。

 また、EUの2019年の新著作権指令のテキスト及びデータマイニングに関する権利制限は、生成AIとの関係で考えた時に、実質的には日本とほぼ同様であって十分に広く、EU域内においても、インターネット上で適法にアクセス可能な著作物を用いる様な通常想定される場合において、生成AIの学習のための著作物の利用が権利侵害にはなるとは考え難い。

 イギリス著作権法のコンピュータ生成著作物に関する規定も持ち出される事があるかも知れないが、今問題になっている生成AIを含むAI技術との関係を考慮して作られた規定ではなく、過去の判例もほとんどなく、今の技術によるAI生成物との関係は明確でない。仮に、その規定により、人の著作者が存在しないと評価されると、元のAIサービスの開発者・提供者が著作権を有する可能性があるが、その場合、AI生成物の生成と利用の両方において比較的高い著作権侵害のリスクが作り出される事になる。

 さらに、イギリス著作権法には、AI学習のために利用できるEUと同レベルの一般目的のテキスト及びデータマイニングに関する権利制限がなく、AIの学習のための著作物の利用そのものが原則違法と考えられ得るという事もある。そのため、イギリス政府は一般目的のテキスト及びデータマイニングの権利制限を導入すると一旦決定した。しかし、著作権団体のロビーによって頓挫し、行動規範に関する検討に移ったが、これは権利制限の代わりになるものではない。

 この様なイギリスの状況は全く褒められたものではなく、参考とするなら反面教師としてでしかない。

 アメリカについては、今現在生成AIと著作権の問題に関係する訴訟が多く提起されているが、今の所人工知能は著作者たり得ないとする判決を2023年8月18日にコロンビア地裁が出しただけで、多くは係属中であり、その動向に良く注意を払うべきである。

 また、アメリカ著作権局の2023年3月16日のAI生成物の著作権登録を不可とする方針ペーパーや、2023年8月30日から行っていた著作権とAIに関する意見募集の内容とその結果についても国際動向の1つとして見ておくべきものと考える。

 なお、文化庁と知財本部で並行して検討をしている事は屋上屋の誹りを免れないものと思うが、これらの検討の場で行われている関係者ヒアリングを見ても、権利者側団体の生成AIに関する主張は単に漠然とした不安を述べ立て確たる根拠なく規制強化と金銭的補償を求めているだけであって到底新たな立法事実たり得ないものばかりである。この様な漠然とした不安については、上記の現行法に基づく明確化の検討を進め、現行法によって十分著作権は守られ、その対象である既存の著作物の表現に依拠して類似した生成物による著作権侵害が行われる様になるものではない事を周知する事で十分対応可能である。今後の検討にあたっては、自然人の創作になる表現を守る事によって文化の発展に寄与する事を目的とするという著作権法の基礎にまで立ち返って真摯な検討がなされる事を期待する。さらに、この様な検討においては、生成AIを含む新技術が人の新しい創作のツールとなって来たという事実も見逃されるべきではなく、また、著作権法がその目的を超えて技術の発展の阻害となってはならないのも当然の事であって、さらに柔軟な対応を求められる事も考えられるため、アメリカ型の一般フェアユース条項の導入の検討が進められる事を期待する。

②生成AIと著作権以外の知的財産法との関係について、どのように考えるか。
【御意見】
 特許法については、下記のⅡで意見を述べる。創作保護法である実用新案法及び意匠法についても下記の特許法と同様の検討が必要と考える。その他の標識保護法である商標法、不正競争防止法、パブリシティ権等との関係については現時点では詳細な検討は不要であると考える。

【理由・根拠事実】
 特許法、実用新案法及び意匠法について、下記Ⅱ参照。

 標識保護法である商標法と不正競争防止法における商品等表示規制について、規制されるのは商標としての使用などである事から、生成AIにおける学習との関係で問題が生じる事はあり得ず、他人の商標等と類似したAI生成物を商標として利用する場合等に権利侵害となり得る事を周知して行く事で十分と考える。

 不正競争防止法における形態模倣規制については、問題となるのは他人の商品の形態の模倣であって、生成AIとの関係で何か問題が生じる事は想定し難い。現時点では、仮に何か必要であるとしても、商品の形態を学習させた生成AIの出力を用いた模倣もこの規制の対象となり得る事を周知して行く事で十分と考える。

 同様に、不正競争防止法における営業秘密及び限定提供データ規制についても、生成AIの学習データが営業秘密又は限定提供データ規制の対象となり得る事を周知して行く事で十分と考える。

 その他パブリシティ権等についても、基本的に人格的な権利として判例によって緩やかに認められているものである事から、現時点で生成AIの学習との関係で問題が生じる事はあり得ず、対象がAI生成物である場合であっても、判例によって認められている通り、他人の肖像等の利用が専ら肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とするといえる場合、パブリシティ権の侵害となり得るという事を周知して行く事で十分と考える。

 すなわち、その他の商標法、不正競争防止法、パブリシティ権等との関係については上記の程度の対応で十分であり、現時点では詳細な検討は不要であると考える。

③生成AIに係る知的財産権のリスク回避等の観点から、技術による対応について、どのように考えるか。
【御意見】
 将来の技術の発展を考慮すると、現時点で、特定の技術による対応を固定的な法令によって強制するべきではない。政府関係者がオブザーバーとして入る事を否定はしないが、基本的に技術による対応について、現実的にどの様な対応を取り得るかは民間の協議に委ねるべきである。

【理由・根拠事実】
 将来の技術の発展を考慮すると、現時点で、特定の技術による対応を固定的な法令によって強制する事は、今後の技術開発を阻害する事になる恐れが強く、決してすべきではない。

 著作権侵害リスクを回避するという事は生成AIサービスの提供者、利用者、権利者の三者にとって共通の利益である事から、基本的に技術による対応について、現実的にどの様な対応を取り得るかは民間の協議に委ねるべきである。

 そこに政府関係者がオブザーバーとして入る事を否定はしないが、そこで重要な事は権利者側の現行法に基づかない無茶な権利侵害や補償金要求の主張を押さえる事であって、事前の権利処理や金銭的補償を必要とする事なく生成AIサービスの提供において著作権侵害リスクの回避のために現実的に取り得る対応は何かという技術の将来を見据えた真面目な検討を強力に推進するべきである。

 その中で、AI生成物であることの表示や指示プロンプトにおけるテイクダウン、自動収集プログラムによる収集の制限などの対応が自ずと出て来ると考える。

 ここで、権利者団体に属している様な権利者のみならず、SNSなどの各種ネットサービスにおいて自分の文章や絵を公表している一般の利用者も創作者、著作権者として関係して来る事にも十分留意が必要である。

④生成AIに関し、クリエイター等への収益還元の在り方について、どのように考えるか。
【御意見】
 上記の①で書いた通り、かえって社会的混乱を招き、技術の発展を阻害する恐れの強い、法改正によって新たな規制を行う事や新しい権利を付与する事には極めて慎重であるべきであって、補償金請求権も決して設けるべきではない。

【理由・根拠事実】
 上記の①で書いた通り、著作権侵害とならない生成物を作ろうとする限りにおいて、AIサービスの提供と利用の著作権リスクを相当程度低減している、この今の日本の著作権法のバランスは決して悪くないものである。

 そのため、現時点で余計な社会的混乱を招くだけの権利や補償金などを新たに付与するべきではなく、今後の検討にあたっては、現行の著作権法第30条の4の適用範囲及びAI生成物の利用が著作権侵害となる場合の明確化のみを行い、その結果を広く周知するに留めるべきである。

⑤AI学習用データセットとしてのデジタルアーカイブ整備について、どのように考えるか。
【御意見】
 国がデジタルアーカイブ整備を行うべきであるのは当然の事であるが、これはAI学習用データセットを提供する事を主たる目的として行われるべきものではなく、国全体の文化的創作物を永続的に保存しAI利用に限らずその再利用を図るという本来の趣旨に沿って継続的に注力して行くべきものである。

【理由・根拠事実】
 上記の意見の通り、国がデジタルアーカイブ整備を行うべきであるのは当然の事であるが、これはAI学習用データセットを提供する事を主たる目的として行われるべきものではなく、国全体の文化的創作物を永続的に保存しAI利用に限らずその再利用を図るという本来の趣旨に沿って継続的に注力して行くべきものである。

 その再利用においては、文章や音声の場合は、単に過去の書籍をスキャンした画像データや音声データが提供される事ではなく、データがテキスト化までされる事が重要であり、画像データの場合も、検索のために画像に関する情報がテキストとして付加される事が重要である。この様なテキスト化などにおいてAI技術の利用が考えられるだろう事、国からデータを提供する場合も、まず著作権切れのものをまとめて提供する事を検討するべきであるという事をここで追記しておく。

⑥ディープフェイクについて、知的財産法の観点から、どのように考えるか。
【御意見】
 上記の②で書いた事と重なるが、ディープフェイクに関し、知的財産法との関係については現時点では詳細な検討は不要であると考える。

【理由・根拠事実】
 ディープフェイクについてもまず定義を明らかにして議論をするべきと考えるが、ここでは、EUの新AI法案の様に、機械学習等に基づくAI技術を用いて本物であるかのように虚偽の言動を示す合成コンテンツを指すと考えて、意見を述べる。

 ディープフェイクによると言っても既存のなりすましの場合などと比較して本当に新たに規制すべき行為類型が生じているのではない事に留意が必要であり、この様なディープフェイクは対象となった者に対して害を与えるか自らに不正な利益をもたらすかのために作られ公開されるものであって、そのためにはAI技術を用いて元となった著作物に依拠してそっくりな生成物を得て公開する事が前提となるため、著作権及び著作者人格権の侵害となるのは無論の事、上記の②でも書いた通り、目的に応じて、パブリシティ権の侵害、不正競争防止における信用毀損行為、刑法における名誉毀損や信用毀損に該当し得る事を周知して行く事で十分と考える。

 すなわち、ディープフェイクに関し、知的財産法との関係については現時点では詳細な検討は不要であると考える。

⑦社会への発信等の在り方について、どのように考えるか。
【御意見】
 現時点で生成AI技術により現行法で対処できない事が発生している事はないと考えるが、著作権法を中心として現行法に基づく整理及びその周知が引き続き必要である。

【理由・根拠事実】
 上で書いた通り、現時点で生成AI技術により現行法で対処できない事が発生している事はないと考えるが、著作権侵害等のリスクを回避するためにも、著作権法を中心として現行法に基づく整理及びその周知が引き続き必要である。その際、著作権法だけでなく知的財産法との関係でどの様な権利侵害リスクがあるのか、回避するためにはどの様にすれば良いかを一般利用者も含め良く分かるように政府内の1つのホームページで継続的に示す事を考えるべきである。

Ⅱ.AI技術の進展を踏まえた発明の保護の在り方について
①AIによる自律的な発明の取扱いの在り方について、どのように考えるか。
【御意見】
 著作権法における創作者と同様、特許法において発明者が自然人である事は当然の事であり、その事について周知を続けて行くべきである。

【理由・根拠事実】
 審査との関係については②で述べるが、生成AIサービスを用いて単に簡単な指示のみで全特許出願書類を出力した様な場合を除き、発明の過程のいずれか又は全てにおける文章作成でAI技術を利用していたとしても、人がそれを見て発明であると認識した時に発明はなされると考えるのが妥当であって、上で書いた通り、著作権法における創作者と同様、特許法において発明者が自然人である事は当然の事であり、その事について周知を続けて行くべきである。

 DABUSと呼ばれるAIシステムを発明者とする国際出願に関する世界各国の訴訟は有名なものと思うが、主要国及び機関の裁判所でAIが発明者となるという最終判断が示された事はなく、上記の方向性は国際動向にもかなったものであると考える。

 この事は同じ創作保護法である実用新案法及び意匠法についてもあてはまる。

②AI利活用拡大を見据えた進歩性等の特許審査実務上の課題について、どのように考えるか。
【御意見】
 進歩性の判断手法そのものが変わるという事はないと考えるが、生成AIに指示を入力する事により同じ様な出力が得られ、その指示が容易に思いつく様な場合も考えられるのであって、その様な場合の審査における判断に資するため、発明の過程及び特許出願書類の作成に生成AIを利用したときにはどの部分でどの様に利用したかを含め生成AIの利用について明記する事を特許出願の記載要件として、この要件を守っていない事が判明したときには特許出願を拒絶・無効にできる様にする事を検討するべきである。

【理由・根拠事実】
 上記の意見の通り、進歩性の判断手法そのものが変わるという事はないと考えるが、生成AIに指示を入力する事により同じ様な出力が得られ、その指示が容易に思いつく様な場合も考えられるのであって、その様な場合の審査における判断に資するため、発明の過程及び特許出願書類の作成に生成AIを利用したときにはどの部分でどの様に利用したかを含め生成AIの利用において明記する事を特許出願の記載要件として、この要件を守っていない事が判明したときには特許出願を拒絶・無効にできる様にする事を検討するべきである。

 この事は同じ創作保護法である実用新案法及び意匠法についてもあてはまる。なお、実用新案法については無審査登録であるため、事後的な技術評価又は無効理由とする事を検討するべきである。

Ⅲ.その他
(上記の他、本意見募集に関わる項目についての御意見や情報提供)
【御意見】
 報告書として方針がまとめられる前に意見募集を行った事は高く評価できるが、本意見募集の質問項目は広範に過ぎ論点が必ずしも明確になっていないものが多く、今後論点をより明確にして行く中でさらにもう一度意見募集を行うことも検討するべきである。

【理由・根拠事実】
 上記の意見の通り、報告書として方針がまとめられる前に意見募集を行った事は高く評価できるが、本意見募集の質問項目は広範に過ぎ論点が必ずしも明確になっていないものが多く、今後論点をより明確にして行く中でさらにもう一度意見募集を行うことも検討するべきである。

 そこで、上で参考として上げた、アメリカ著作権局が2023年8月30日から行っていた著作権とAIに関する意見募集において、かなり詳細な質問項目を作っていた事が参考になるものと考える。

【情報提供】
 上記参照。

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2023年6月11日 (日)

第479回:知財計画2023の文章の確認

 いつも通りの施策項目集である事に変わりはないが、今年も先週6月9日に知的財産戦略本部が開催され、知的財産推進計画2023(pdf)概要(pdf)も参照)が決定されたので、ここで、著作権問題や法改正関連など私が特に関心のある部分を見て行く。(去年の知財計画の文章については第460回、私の提出したパブコメについては第475回参照。)

 まず、今年の知財計画2023の最も重要なトピックだろう、生成AIと知財という論点について、「Ⅱ.基本認識」の「3.AI技術の進展と知的財産活動への影響」の方にも総括的な記載があるが、「Ⅲ.知財戦略の重点10施策」の1つとして、第31ページからの「3.急速に発展する生成AI時代における知財の在り方」で、以下の様に書かれている。

(1)生成AIと著作権

(現状と課題)
 AIと著作権との関係では、従前より、どのようなAI生成物が「著作物」となるのか、著作権侵害の疑いがあるAI生成物が大量に作成されるおそれがないか等についての指摘があった。
 これらの論点については、2016年から2017年にかけ、知的財産戦略本部検証・評価・企画委員会の下に開催された新たな情報財検討委員会の検討においても、検討課題とされた。同委員会が2017年3月に取りまとめた「新たな情報財検討委員会報告書」では、AI生成物の著作物性についての基本的な考え方の整理として、以下の考え方を示している。

・AI生成物を生み出す過程において、学習済みモデルの利用者(以下「利用者」という。)に創作意図があり、同時に、具体的な出力であるAI生成物を得るための創作的寄与があれば、利用者が思想感情を創作的に表現するための「道具」としてAIを使用して当該AI生成物を生み出したものと考えられることから、当該AI生成物には著作物性が認められる。

・利用者の寄与が、創作的寄与が認められないような簡単な指示に留まる場合、当該AI生成物は、AIが自律的に生成した「AI創作物」であると整理され、現行の著作権法上は著作物と認められない。

 その上で、具体的にどのような創作的寄与があれば著作物性を肯定されるかなどのAI生成物の著作物性と創作的寄与の関係については、AIの技術の変化等を注視しつつ、具体的な事例に即して引き続き検討することが適当とされた。また、学習用データとして使われた著作物に類似したAI生成物が出力された場合についてどのように考えるかも議論された。この場合、出力された生成物が著作権侵害と判断されるためには、依拠性と類似性が必要とされると考えられるところ、AIを利用した場合の依拠や責任の考え方について、問題となった具体的事例に即して引き続き検討することが適当とされている。
 なお、同報告書における「具体的に検討を進めることが適当な事項等」の提言を受け、2018年の著作権法改正では、いわゆる柔軟な権利制限規定の1つとして、著作権法第30条の4の規定(著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない利用)が整備され、AIが学習するためのデータの収集・利用等の行為についても、同条第2号の規定に基づき、著作権の権利制限が及ぶこととされた。その際、当該権利制限については、同条ただし書の規定により「著作権者の利益を不当に害することとなる場合」には適用されないことを定めている。AI技術の進展に伴い、この「不当に害することとなる場合」の要件に該当する場合について、指摘がなされるようになっている。
 2017年3月の「新たな情報財検討委員会報告書」から約6年を経過し、生成AIの技術は格段の進歩を遂げた。最近におけるAIツールの一般ユーザーへの急速な普及拡大により、人間による創作と区別がつかないようなAI生成物が大量に生み出されており、クリエイターの創作活動等にも影響が及ぶこととなる懸念も生じている。
 政府のAI戦略会議が2023年5月にまとめた「AIに関する暫定的な論点整理」においても、オリジナルに類似した著作物が生成されるなどの懸念や、著作権侵害事案が大量に発生し、個々の権利者にとって紛争解決対応も困難となるおそれを指摘すると同時に、生成AIの活用により作品制作の効率化が図られる等の例もあるとして、クリエイターの権利の守り方、使い方が重要な論点となるとしている。その上で、今後、専門家も交えて、AI生成物が著作物として認められる場合やその利用が著作権侵害に当たる場合、著作物を学習用データとして利用することが不当に権利者の利益を害する場合の考え方などの論点を整理し、必要な対応を検討すべきであるとしている。
 以上の状況に鑑み、AI生成物の著作物性やAI生成物を利用・公表する際の著作権侵害の可能性、学習用データとしての著作物の適切な利用等をめぐる論点について、生成AIの最新の技術動向、現在の利用状況等を踏まえながら、

・AI生成物が著作物と認められるための利用者の創作的寄与に関する考え方

・学習用データとして用いられた元の著作物と類似するAI生成物が利用される場合の著作権侵害に関する考え方

・AI(学習済みモデル)を作成するために著作物を利用する際の、著作権法第30条の4ただし書に定める「著作権者の利益を不当に害することとなる場合」についての考え方

などの論点を、具体的事例に即して整理し、考え方の明確化を図ることが望まれる。

(施策の方向性)
・生成AIと著作権との関係について、AI技術の進歩の促進とクリエイターの権利保護等の観点に留意しながら、具体的な事例の把握・分析、法的考え方の整理を進め、必要な方策等を検討する。(短期、中期)(内閣府、文部科学省)

(2)AI技術の進展を踏まえた発明の保護の在り方

(現状と課題)
 AI関連発明については、上述の「新たな情報財検討委員会報告書」において、「具体的に検討を進めることが適当な事項等」として「学習済みモデルの適切な保護と利活用促進」及び「AI生成物に関する具体的な事例の継続的な把握」が掲げられており、特許庁では、AI関連技術に関する特許審査事例の公表(2017年3月に5事例公表、2019年1月に10事例追加)等の取組を行ってきた。
 同報告書では、「引き続き検討すべき事項等」として、「AIのプログラムの知財制度上の在り方」及び「AI生成物の知財制度上の在り方」が掲げられた。また、同時期に公表された「AIを活用した創作や3Dプリンティング用データの産業財産権法上の保護の在り方に関する調査研究報告書」では、「現時点では、一部の企業からAIによる自律的な創作を実施しているとの情報も得られているが、特許法で保護するに値するAIによる自律的な創作の存在は確認できていない」、「2020年頃には、AIが自律的な行動計画によって動作するようになると予測されている。さらに、2030年頃になると、更に広い分野で人間に近い能力を発揮できるようになり、例えば、判断や意思決定、創造的活動等といった領域でも代替できる部分が増えると見込まれている」との指摘がされていた。
 これまで、AIは、人間の創作を補助するものに過ぎないと考えられていたが、ChatGPT等の出現により、AIによる自律的創作が実現しつつあるとの指摘もされている。従来、技術的思想の創作過程は、①課題設定、②解決手段候補選択、③実効性評価の3段階からなり、このうちのいずれかに人間が(創作的に)関与していればその人間による創作であると評価するとの考え方が示されていた。このような考え方によれば、解決手段に関する技術的な知見がない者であっても、課題設定さえできれば、ChatGPT等のAIを用いて解決手段を得ることにより(なお、③実効性評価についてもシミュレーション等による自動化が容易に想定できる。)、技術的思想の創作(発明)を生み出すことができるようになると考えられる。
 このように、ChatGPT等の万人が容易に利用可能なAIが出現したことにより、創作過程におけるAIの利活用が拡大することが見込まれ、それによって生まれた発明を含む特許出願が増えることが予想される。そのような発明(例えば、上述の創作過程の①~③の一部において、人間が創作的な関与をせず、AIが自律的に行ったもの)の審査において、創作過程でのAIの利活用をどのように評価するかが問題となるおそれがある。そこで、発明の創作過程におけるAIの利活用が特許審査へ与える影響(例えば以下に述べる進歩性や記載要件等の判断への影響)について検討・整理が必要と考えられる。
 進歩性(特許法第29条第2項)の判断については、どのような技術分野で、どのような形態でのAIの利活用が当業者の知識・能力の範囲内とされるかによって、創作過程でAIを利活用した発明はもちろん、AIを用いていないものについても進歩性の有無が左右されるとの研究もある。また、創作過程におけるAIの利活用を、進歩性の評価においてどのように取り扱うかを明確化することが必要との考えもある。進歩性を特許の要件とするのは、当業者が容易に思い付く発明に排他的権利を与えることは、技術進歩に役立たず、かえってその妨げになるからである。これらの点を考慮して、今後の進歩性の審査に当たっては、急速なAI技術の発展(それによるAI技術の適用分野の拡大や技術常識の変遷等を含む。)の影響も踏まえ、大量に生み出されることが予想されるAIを利活用した発明について、適切に進歩性の判断を行う必要がある。
 また、2022年2月に公表された「近年の判例等を踏まえたAI関連発明の特許審査に関する調査研究報告書」によれば、明細書等において、化合物の機能についてマテリアルズ・インフォマティクスによる予測が示されているに過ぎず、実際にそれを製造して機能を評価した実施例が記載されていない場合には、主要国では記載要件違反となり得る旨が示されている。他方で、AI等を用いた機能予測の精度がさらに高まり、(in-silicoの)予測結果の信頼性が実際の(invitro/in-vivo)実験結果と同程度と認められるようになった場合には、異なる判断が必要となる可能性もある。急速なAI技術の発展の中で、特許審査実務上の影響を整理し、その影響に対応していくに当たって、その審査の在り方は、特許権というインセンティブを付与するに際し、AIを利活用した創作において人間の関与がどの程度あるべきかや、AIの利活用が創作過程の各段階に与える影響等も考慮した進歩性等の判断がどうあるべきかということも含め、特許法の目的である産業の発達への寄与という趣旨に立ち返って再検討される必要がある。
 また、これまで以上に幅広い分野で創作過程におけるAIの利活用が見込まれることを踏まえて、特許庁においては、特にこれまでAI技術の活用が見られなかった分野等も含め、AI関連発明の審査をサポートできるような審査体制を整備する必要がある。
 さらに、これらの点も踏まえながら、AI関連発明の特許審査の迅速性・質を確保するために、AI関連発明の審査事例の更なる整理・公表が望まれる。併せて、我が国で創出されたイノベーションについてグローバルに適切な保護を得られるようにするためには、我が国が主導しての特許審査実務のハーモナイズが期待されるところ、そのための端緒として、まずはケーススタディを通じた各国のAI関連発明の審査実務の情報収集・比較が必要と考えられる。
 なお、発明についても、著作物と同様に、AIが自律的に(人間による創作的な関与を受けずに)創作した場合の取扱いについても、諸外国における取扱いの状況も踏まえて、「新たな情報財検討委員会報告書」公表後の新たな課題の有無等を含めて確認、整理しておくことが必要である。

(施策の方向性)
・創作過程におけるAIの利活用の拡大を見据え、進歩性等の特許審査実務上の課題やAIによる自律的な発明の取扱いに関する課題について諸外国の状況も踏まえて整理・検討する。(短期)(内閣府、経済産業省)

・これまで以上に幅広い分野において、創作過程におけるAIの利活用の拡大が見込まれることを踏まえ、AI関連発明の特許審査事例を拡充し、公表する。また、AI関連発明の効率的かつ高品質な審査を実現するため、AI審査支援チームを強化する。(短期)(経済産業省)

 今回は現状認識の部分も重要と思ったので長めに引用したが、生成AIと著作権の問題に関する施策の方向性としては、要するに、

・生成AIと著作権との関係について、AI技術の進歩の促進とクリエイターの権利保護等の観点に留意しながら、具体的な事例の把握・分析、法的考え方の整理を進め、必要な方策等を検討する。(短期、中期)(内閣府、文部科学省)

というものであって、この様に、現行著作権法に基づく考え方の整理と周知に重点を置いた書き方になっているのは、正しい現状認識に基づく妥当な方向性と私も考える。

 上で引用した部分でも書かれている様に、

  1. 著作権法第30条の4によりAI開発における著作物の利用は許諾なく可能だが、必要と認められる限度を超える場合や著作権者の利益を不当に害することとなる場合は権利制限の対象外となる
  2. 利用者の指示が簡単な指示に留まり、創作的寄与が認められない場合、AI生成物は著作物と認められず、利用者に著作権はなく、また、既存の著作物に対して依拠性と類似性が認められる場合、通常の著作権侵害と同様、AI生成物の提供等は著作権侵害となる

という現行著作権法の基本的な考え方を前提として(この考え方については、第477回又は下のAI戦略チームの関係整理ペーパー参照)、生成AI技術の発展に留意しつつ、特に、

・AI生成物が著作物と認められるための利用者の創作的寄与に関する考え方

・学習用データとして用いられた元の著作物と類似するAI生成物が利用される場合の著作権侵害に関する考え方

・AI(学習済みモデル)を作成するために著作物を利用する際の、著作権法第30条の4ただし書に定める「著作権者の利益を不当に害することとなる場合」についての考え方

という3つの論点について、今後、文化庁を中心にさらに整理が進められるのだろう。

 なお、政府の方向性としては、既に、5月11日の政府のAI戦略チームの第3回で示されたAIと著作権の関係について(pdf)で、同様に現行法の解釈の概要を示しながら、今後の対応として、

・上記の「現状の整理」等について、セミナー等の開催を通じて速やかに普及・啓発

・知的財産法学者・弁護士等を交え、文化庁においてAIの開発やAI生成物の利用に当たっての論点を速やかに整理し、考え方を周知・啓発

・コンテンツ産業など、今後の産業との関係性に関する検討等について

と書かれ、5月26日のAI戦略会議の第2回AIに関する暫定的な論点整理(pdf)の「3.主な論点の整理」の「3-1 リスクへの対応」で、第13ページに、

⑥著作権侵害のリスク
 生成AIがオリジナルに類似した著作物を生成するなどの懸念がある。生成AIの普及によって個々の権利者にとって著作権侵害事案が大量に発生し、紛争解決対応も困難となるおそれもある。一方で、生成AIを利用して映像制作を効率化する例もある。クリエーターの権利の守り方、使い方は重要な論点である。
 政府は、まずは現行の著作権法制度を丁寧に周知すべきである。今後、専門家も交えて、AI生成物が著作物として認められる場合、その利用が著作権侵害に当たる場合や著作物を学習用データとして利用することが不当に権利者の利益を害する場合の考え方などの論点を整理し、必要な対応を検討すべきである。

と書かれていたので、この知財計画は政府としては現状認識まで含めてより詳細に書いたものという事になるだろう。

 また、ここで、AIと特許の問題の詳細に踏み込むつもりはないが、特許法における発明についても同じ事が考えられるのはその通りであって、上では「(2)AI技術の進展を踏まえた発明の保護の在り方」も参考に抜粋した。

 後は今年の知財計画に見るべき所はほとんどないが、「7.デジタル時代のコンテンツ戦略」の「(2)クリエイター主導の促進とクリエイターへの適切な対価還元」で、対価還元について、第72~73ページに以下の様な項目が並んでいる。

・競争政策、デジタルプラットフォーム政策、著作権政策、情報通信政策等の諸政策の動向や、国際的ハーモナイゼーションの観点等を踏まえながら、クリエイター・制作事業者への適切な対価還元や取引の透明性の確保、権利処理・権利保護においてプラットフォームが果たす役割、インターネット上のコンテンツ流通の媒介者である通信関係事業者の役割等をめぐる課題について、各分野の実態把握と課題の整理を進める。(短期、中期)(内閣府、内閣官房、公正取引委員会、経済産業省、総務省、文部科学省)

・クリエイター・制作事業者に適切に対価が還元され、コンテンツの再生産につながるよう、リアルの空間での取組はもとより、デジタル時代に対応した新たな対価還元策について、コンテンツ配信プラットフォームや投稿サイト等における著作物の利用状況(権利侵害を伴う利用実態を含む。)、対価に関する情報の透明性、契約当事者間の関係性、権利保護・権利処理において投稿サイト等が果たすべき役割を踏まえ、関連各分野の実態把握・課題整理の取組と連携しながら、検討を進める。(短期、中期)(文部科学省、内閣官房、内閣府、公正取引委員会、総務省、経済産業省)

・コンテンツ制作者に対してコンテンツ流通取引の場を提供するプラットフォーマーの優位な関係性を考慮し、UGCなどの進展も踏まえたコンテンツ産業の将来的な姿も視野に入れて、欧米の制度も参考にしつつ、インターネット上のコンテンツ流通の媒介者である通信関係事業者の役割の在り方について、関連各分野の実態把握と課題の整理を踏まえて検討し、結論を得た上、必要な措置を講じる。(短期、中期)(総務省、関係省庁)

 ここで、対価還元の検討について、去年のブルーレイに実質的に私的録音録画補償金を賦課する悪辣な政令改正以降、私的複製補償金の対象拡大を諦めたという事は全くなく、確実にどこかで次の動きを仕掛けて来るに違いないと私は思っているが、ここで、プラットフォーマーの役割が強調され、知財計画から私的録音録画補償金に対する明示的な言及はなくなっている。

 同じく、「7.デジタル時代のコンテンツ戦略」の「(3)メタバース・NFT、生成AIなど新技術の潮流への対応」で、第75ページに、

・デジタル空間におけるデザイン保護の一翼を担う措置として、他人の商品の形態を模倣した商品を譲渡等する行為の規律を含む不正競争防止法の改正を踏まえた制度周知及び普及啓発等の必要な措置を講ずる。
(短期、中期)(経済産業省)

と、「(4)コンテンツ創作の好循環を支える著作権制度・政策の改革」で、第77ページに、

・文化庁は、第211回通常国会において成立した著作権法の一部を改正する法律による新たな裁定制度について、デジタル時代に対応したコンテンツ創作の好循環を促し、コンテンツの流通促進や、クリエイターへの対価還元の拡大等にも資するものとなるよう、関係府省庁との連携の下、利用者、権利者をはじめ幅広いステークホルダーの協力により、窓口組織の整備を図り、当該組織による体制構築やサービス内容等の具体化等が円滑に進められるようにするなど、施行に向けた準備と関係者への周知啓発等を行う。
(短期・中期)(文部科学省、内閣府、経済産業省、総務省、デジタル庁)

と、今年の法改正の周知、運用検討に関する項目がある。(著作権法改正、不正競争防止法等改正の内容については、それぞれ、第473回第474回参照。)

 また、「(6)海賊版・模倣品対策の強化」で、第84~85ページに、

・インターネット上の海賊版による被害拡大を防ぐため、インターネット上の海賊版に対する総合的な対策メニュー及び工程表に基づき、関係府省が連携しながら、必要な取組を進めるとともに、被害状況や対策の効果について逐次検証を行い、更なる取組の推進を図る。(短期、中期)(内閣府、警察庁、総務省、法務省、外務省、文部科学省、経済産業省)

・CDNサービス事業者における海賊版サイトへのサービス提供の停止や、検索サイト事業者における海賊版に係る検索結果表示の削除又は抑制など、海賊版サイトの運営やこれへのアクセスに利用される各種民間事業者のサービスについて必要な対策措置が講じられるよう、それら民間事業者と権利者との協力等の促進、当該民間事業者への働きかけ、権利行使を行う権利者への支援等を行う。(短期、中期)(総務省、文部科学省、経済産業省、内閣府)

・海賊版対策に係る課題と適切な対価還元等に係る課題とを合わせて検討することが必要な領域への対応を含めた対応として、競争政策、デジタルプラットフォーム政策、著作権政策、情報通信政策等の諸政策の動向や、国際的ハーモナイゼーションの観点等を踏まえながら、クリエイター・制作事業者への適切な対価還元や取引の透明性の確保、権利処理・権利保護においてプラットフォームが果たす役割、インターネット上のコンテンツ流通の媒介者である通信関係事業者の役割等をめぐる課題について、各分野の実態把握と課題の整理を進める。(短期、中期)(内閣府、内閣官房、公正取引委員会、経済産業省、総務省、文部科学省)【再掲】

・世界知的所有権機関(WIPO)や二国間協議等の枠組み、国際会議等の場を活用し、海賊版対策の強化に向けた働きかけを行うなど、国際連携の強化を図る。海外海賊版サイトの運営者摘発等に向け、外国公安当局への積極的な働きかけ、国際的な捜査協力等を推進するほか、民間事業者との協力の下、デジタルフォレンジック調査の実施等の取組を進めるなど、国際執行の強化を図る。(短期、中期)(内閣府、警察庁、総務省、法務省、外務省、文部科学省、経済産業省)

・インターネット上の国境を越えた著作権侵害等に対し国内権利者が行う権利行使への支援の取組の充実を図る。併せて、第211回通常国会で成立した著作権法の一部を改正する法律における海賊版被害の救済を図るための損害賠償額の算定方法の見直しについて、円滑な施行に向けた準備や周知を行う。(短期、中期)(文部科学省)

・海賊版・模倣品を購入しないことはもとより、特に、侵害コンテンツについては、視聴者は無意識にそれを視聴し侵害者に利益をもたらすことから、侵害コンテンツを含む海賊版・模倣品を容認しないということが国民の規範意識に根差すよう、関係省庁・関係機関による啓発活動を推進する。(短期、中期)(警察庁、消費者庁、総務省、財務省、文部科学省、農林水産省、経済産業省)

・越境電子商取引の進展に伴う模倣品・海賊版の流入増加へ対応するため、2022年10月に施行された改正商標法・意匠法・関税法により、海外事業者が郵送等により国内に持ち込む模倣品が税関による取締りの対象となったことを踏まえて、模倣品・海賊版に対する厳正な水際取締りを実施する。加えて、善意の輸入者に不測の損害を与えることがないよう、引き続き、十分な広報等に努める。また、他の知的財産権についても、必要に応じて、検討を行う。(短期、中期)(財務省、経済産業省、文部科学省)

という、いつもの総合的な対策メニューへの言及を含む海賊版対策に関する項目が並んでいるが、ここも去年同様のクラウド・CDNや検索サービス事業者との連携強化といった地道な取り組みを中心とした記載であり、危険な方向性が出ているといった事は特にない。

 引き続き海賊版対策関連も要注意だとは思うが、やはり、今年の知財問題に関する政府の検討で最も注目すべきは文化庁を中心に進められるのだろう生成AIと著作権に関する論点整理という事になるだろう。

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2023年3月26日 (日)

第475回:「知的財産推進計画2023」の策定に向けた意見募集(4月7日〆切)への提出パブコメ

 今年も4月7日〆切で知財本部から「知的財産推進計画2023」の策定に向けた意見募集(pdf)が行われており、私も意見を出したので、ここに載せておく。(去年の知財計画2022の記載については第460回参照。)

 去年の文化庁によるブルーレイを実質私的録音録画補償金の対象とする政令改正の強行を受けて(1)e)の私的録音録画補償金問題に関する部分を書き改め、各項目で法改正の成立や施行により記載を少し修正した他、記載を変えた所はあまりないが、今年は、最近の生成AIに関する話題の盛り上がりから政府・与党でも検討が行われる事を予想し、(2)a)に、生成AIと著作権の関係に関して検討する場合は、技術の発展や国際動向等にも留意し、法改正によって新たな規制を行う事や新しい権利を付与する事には慎重であるべきとの意見を追加した。

 どこまで意見を取り入れられるかは分からないが、毎年1回の知財政策全般について政府に意見を出せる機会ではあるので、この様な問題に関心のある方は是非意見の提出を検討する事をお勧めする。

(以下、提出パブコメ)

《要旨》
アメリカ等と比べて遜色の無い範囲で一般フェアユース条項を導入すること、ダウンロード犯罪化・違法化条項の撤廃並びにTPP協定・日欧EPAの見直し及び著作権の保護期間の短縮を求める。有害無益なインターネットにおける今以上の知財保護強化、特に著作権ブロッキングに反対するとともに歴史的役割を終えた私的録音録画補償金の完全廃止を求める。今後真の国民視点に立った知財の規制緩和の検討が進むことを期待する。

《全文》
 最終的に国益になるであろうことを考え、各業界の利権や省益を超えて必要となる政策判断をすることこそ知財本部とその事務局が本当になすべきことのはずであるが、知財計画2022を見ても、このような本当に政策的な決定は全く見られない上、2018年には危険極まる著作権ブロッキングのごり押しの検討まで行われ、2020年には非常に危ういダウンロード違法化・犯罪化の対象範囲の拡大を含む著作権法改正までなされた。知財保護が行きすぎて消費者やユーザーの行動を萎縮させるほどになれば、確実に文化も産業も萎縮するので、知財保護強化が必ず国益につながる訳ではないということを、著作権問題の本質は、ネットにおける既存コンテンツの正規流通が進まないことにあるのではなく、インターネットの登場によって新たに出てきた著作物の公正利用の類型に、今の著作権法が全く対応できておらず、著作物の公正利用まで萎縮させ、文化と産業の発展を阻害していることにあるのだということを知財本部とその事務局には、まずはっきりと認識してもらいたい。特に、最近の知財・情報に関する規制強化の動きは全て間違っていると私は断言する。

 例年通り、規制強化による天下り利権の強化のことしか念頭にない文化庁、総務省、警察庁などの各利権官庁に踊らされるまま、国としての知財政策の決定を怠り、知財政策の迷走の原因を増やすことしかできないようであれば、今年の知財計画を作るまでもなく、知財本部とその事務局には、自ら解散することを検討するべきである。そうでなければ、是非、各利権官庁に轡をはめ、その手綱を取って、知財の規制緩和のイニシアティブを取ってもらいたい。知財本部において今年度、インターネットにおけるこれ以上の知財保護強化はほぼ必ず有害無益かつ危険なものとなるということをきちんと認識し、真の国民視点に立った知財の規制緩和の検討が知財本部でなされることを期待し、本当に決定され、実現されるのであれば、全国民を裨益するであろうこととして、私は以下のことを提案する。

(1)「知的財産推進計画2022」の記載事項について:
a)ダウンロード違法化・犯罪化問題について
 知財計画2022の第76ページにインターネット上の海賊版に対する総合的な対策メニューについて記載されている。2019年10月に作成され、2021年4月に更新された総合的な対策メニューにはダウンロード違法化・犯罪化の対象範囲の拡大について記載されている。

 文化庁の暴走と国会議員の無知によって、2009年の6月12日にダウンロード違法化条項を含む改正著作権法が成立し、2010年の1月1日に施行された。また、日本レコード協会などのロビー活動により、自民党及び公明党が主導する形でダウンロード犯罪化条項がねじ込まれる形で、2012年6月20日に改正著作権法が成立し、2012年10月1日から施行されている。

 そして、2018年12月に意見募集がされた文化庁の法制・基本問題小委員会の中間まとめにおいて、極めて拙速な検討から、このダウンロード違法化・犯罪化の対象範囲を録音録画から著作物全般に拡大するとの方針が示され、その意見募集において極めて多くの懸念が示されたにもかかわらず、文化庁がこの方針を諦めずにダウンロード違法化・犯罪化の対象範囲の拡大を含む著作権法改正案の提出を準備していたところ、批判の高まりを受けて2019年の通常国会提出を断念した。

 その後、文化庁は、2019年10月に侵害コンテンツのダウンロード違法化等に関するパブリックコメントを行い、11月から2020年1月にかけて侵害コンテンツのダウンロード違法化の制度設計等に関する検討会において著作権法改正案を再検討した。しかし、この検討会における議論も法案提出の結論ありきの拙速極まるものであり、国民の声を丁寧に聞くと言いながら、パブリックコメントに寄せられた最も主要な意見が要件によらずダウンロード違法化を行うべきではないというものであるという事を無視し、写り込みに関する権利制限の拡充、民事における原作者の権利の除外及び軽微なものの除外という弥縫策でダウンロード違法化・犯罪化の対象範囲を押し通そうとし、2020年2月には、自民党が文科省に海賊版対策のための著作権法改正に関する申し入れを行い、民事刑事の両方において著作権者の利益を不当に害しないと認められる特別な事情がある場合を除外することを要請した。

 これらの文化庁の議論のまとめ及び自民党の要請を含む形で、2020年6月5日にダウンロード違法化・犯罪化の対象範囲拡大を含む改正著作権法が成立し、2021年1月1日から施行されている。

 この法改正後のダウンロード違法化・犯罪化において、スクリーンショットで違法画像が付随的に入り込む場合や、ストーリー漫画の数コマ、論文の数行、粗いサムネイル画像のダウンロードの場合といった僅かな場合が除かれ、また、著作権者の利益を不当に害しないと認められる特別な事情がある場合を除外する事で、それなりの正当化事由を示せる様な特別な事情がある場合が除かれるが、これは本質的な問題の解消に繋がるものではなく、それでもなお、利用者が通常するであろう多くの場合のカジュアルなスクリーンショット、ダウンロード、デジタルでの保存行為が違法・犯罪となる可能性が出て来、場合によって意味不明の萎縮が発生する恐れがある事に変わりはない。これは、録音録画に関するダウンロード違法化・犯罪化同様、海賊版対策としては何の役にも立たない、百害あって一利ない最低最悪の著作権法改正の一つとなるものである。

 過去のパブコメでも繰り返し書いているが、一人しか行為に絡まないダウンロードにおいて、「事実を知りながら」なる要件は、エスパーでもない限り証明も反証もできない無意味かつ危険な要件であり、技術的・外形的に違法性の区別がつかない以上、このようなダウンロード違法化・犯罪化は法規範としての力すら持ち得ず、罪刑法定主義や情報アクセス権を含む表現の自由などの憲法に規定される国民の基本的な権利の観点からも問題がある。このような法改正によって進むのはダウンロード以外も含め著作権法全体に対するモラルハザードのみであり、今のところ幸いなことに適用例はないが、これを逆にねじ曲げてエンフォースしようとすれば、著作権検閲という日本国として最低最悪の手段に突き進む恐れしかない。

 また、世界的に見ても、アップロードとダウンロードを合わせて行うファイル共有サービスに関する事件を除き、どの国においても単なるダウンロード行為を対象とする民事、刑事の事件は1件もなく、日本における現行の録音録画に関するダウンロード違法化・犯罪化も含め、このような法制が海賊版対策として何の効果も上がっていないことは明白である。また、ダウンロード違法化・犯罪化の対象範囲の拡大は、研究など公正利用として認められるべき目的のダウンロードにも影響する。

 そもそも、ダウンロード違法化の懸念として、このような不合理極まる規制強化・著作権検閲に対する懸念は、過去の文化庁へのパブコメ(文化庁HPhttps://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/chosakuken/hokoku.htmlの意見募集の結果参照。ダウンロード違法化問題において、この8千件以上のパブコメの7割方で示された国民の反対・懸念は完全に無視された。このような非道極まる民意無視は到底許されるものではない)や知財本部へのパブコメ(知財本部のHPhttps://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/keikaku2009.htmlの個人からの意見参照)を見ても分かる通り、法改正前から指摘されていたところであり、このようなさらなる有害無益な規制強化・著作権検閲にしか流れようの無いダウンロード違法化・犯罪化は始めからなされるべきではなかったものである。

 文化庁の暴走と国会議員の無知によって成立したものであり、ネット利用における個人の安心と安全を完全にないがしろにするものであり、その後も本質的な問題の解消に繋がる検討をなおざりに対象範囲の拡大がされたものである、百害あって一利ないダウンロード違法化・犯罪化を規定する著作権法第30条第1項第3及び第4号並びに第119条第3項等を即刻削除し、ダウンロード違法化・犯罪化を完全に撤廃することを速やかに行うべきである。

b)著作権法におけるいわゆる間接侵害・幇助への対応について
 総合的な対策メニューにはリーチサイト規制についても記載されている。

 このリーチサイト規制については、2018年12月に意見募集が行われた文化庁の法制・基本問題小委員会の中間まとめにおいて、著作権侵害コンテンツへのリンク行為に対するみなし侵害規定の追加及び刑事罰付加の方針が示されたが、著作権法改正案の2019年の通常国会提出は見送られ、ダウンロード違法化・犯罪化の対象範囲の拡大と合わせ、このリーチサイト規制を含む改正著作権法が2020年6月5日に成立し、2020年10月1日から施行されている。

 改正著作権法のリーチサイト規制は、親告罪とされた事とプラットフォーマーの原則除外でかなり緩和が図られているとは思うが、この様な法改正の本質的な必要性には疑問がある。

 リーチサイト対策の検討は、著作権法におけるいわゆる間接侵害・幇助への対応をどうするかという問題に帰着する。文化庁の中間まとめを読んでも、権利者団体の一方的かつ曖昧な主張が並べられているだけで、権利者団体側がリーチサイト等に対して改正前の著作権法に基づいてどこまで何をしたのか、その対処に関する定量的かつ論理的な検証は何らされておらず、本当にどのような場合について改正前の著作権法では不十分であったのかはその後もなお不明なままであり、さらに、このような間接侵害あるいは幇助の検討において当然必要とされるはずのセーフハーバーの検討も極めて不十分なままである。

 確かにセーフハーバーを確定するために間接侵害・幇助の明確化はなされるべきであるが、基本的にカラオケ法理や各種ネット録画機事件などで示されたことの全体的な整理以上のことをしてはならない。特に、著作権法に明文の間接侵害一般規定を設けることは絶対にしてはならないことである。現状の整理を超えて、明文の間接侵害一般規定を作った途端、権利者団体や放送局がまず間違いなく山の様に脅しや訴訟を仕掛けて来、今度はこの間接侵害規定の定義やそこからの滲み出しが問題となり、無意味かつ危険な社会的混乱を来すことは目に見えているからである。

 リーチサイト規制については、その本質的な必要性に疑問のある今回の法改正後の運用を注視するとともに、知財計画2023において間接侵害・幇助への今後の対応について記載するのであれば、著作権法の間接侵害・幇助の明確化は、ネット事業・利用の著作権法上のセーフハーバーを確定するために必要十分な限りにおいてのみなされると合わせ明記するべきである。

 このようなリーチサイト問題も含め、ネット上の違法コンテンツ対策、違法ファイル共有対策については、通信の秘密やプライバシー、情報アクセス権等の国民の基本的な権利をきちんと尊重しつつ対策を検討してもらいたい。この点においても、国民の基本的な権利を必ず侵害するものとなり、ネットにおける文化と産業の発展を阻害することにつながる危険な規制強化の検討ではなく、ネットにおける各種問題は情報モラル・リテラシー教育によって解決されるべきものという基本に立ち帰り、現行のプロバイダー責任制限法と削除要請を組み合わせた対策などの、より現実的かつ地道な施策のみに注力して検討を進めるべきである。

c)著作権ブロッキング・アクセス警告方式について
 総合的な対策メニューには著作権ブロッキングやアクセス警告方式についても言及されている。

 サイトブロッキングについては、知財本部において、2018年4月の緊急対策の決定後、2018年10月まで検討が行われた。

 このようなサイトブロッキングについて、アメリカでは、議会に提出されたサイトブロッキング条項を含むオンライン海賊対策法案(SOPA)や知財保護強化法案(PIPA)が、IT企業やユーザーから検閲であるとして大反対を受け、その審議は止められている。また、世界を見渡しても、ブロッキングを巡ってはどの国であれなお混沌とした状況にあり、いかなる形を取るにせよブロッキングの採用が有効な海賊版対策として世界の主要な流れとなっているとは到底言い難い。

 サイトブロッキングの問題については下でも述べるが、インターネット利用者から見てその妥当性をチェックすることが不可能なサイトブロッキングにおいて、透明性・公平性・中立性を確保することは本質的に完全に不可能である。このようなブロッキングは、憲法に規定されている表現の自由(知る権利・情報アクセスの権利を含む)や検閲の禁止、通信の秘密といった国民の基本的な権利を侵害するものとならざるを得ないものであり、決して導入されるべきでないものである。

 幸いなことに、2018年10月で知財本部におけるブロッキングの検討は止まったが、多くの懸念の声が上げられていたにもかかわらず、ブロッキングありきでごり押しの検討を行ったことについて私は知財本部に猛省を求める。知財計画2023においてブロッキングについて言及するのであれば、2018年の検討の反省の弁とともに今後二度とこのような国民の基本的な権利を踏みにじる検討をしないと固く誓うとしてもらいたい。

 アクセス警告方式についても、通信の監視・介入の点でブロッキングと本質的に違いはなく、その導入は法的にも技術的にも難しいとする、2019年8月の総務省のインターネット上の海賊版サイトへのアクセス抑止方策に関する検討会の報告書の整理を守るべきである。

 その提案からも明確なように、違法コピー対策問題における権利者団体の主張は常に一方的かつ身勝手であり、ネットにおける文化と産業の発展を阻害するばかりか、インターネットの単純なアクセスすら危険なものとする非常識なものばかりである。今後は、このような一方的かつ身勝手な規制強化の動きを規制するため、憲法の「表現の自由」に含まれ、国際人権B規約にも含まれている国民の「知る権利」を、あらゆる公開情報に安全に個人的にアクセスする権利として、通信法に法律レベルで明文で書き込むことを検討するべきである。同じく、憲法に規定されている検閲の禁止及び通信の秘密から、サイトブロッキングのような技術的検閲の禁止を通信法に法律レベルで明文で書き込むことを検討するべきである。

d)プロバイダー責任制限法の改正検討について、
 総合的な対策メニューにはプロバイダー責任制限法の改正検討についても記載されている。

 このプロバイダー責任制限法の改正について、総務省で検討が行われ、2020年12月に発信者情報開示の在り方に関する研究会の最終とりまとめが公表された後、改正プロバイダー責任制限法が2021年4月21日に成立し、2022年10月1日から施行されている。

 この改正プロバイダー責任制限法は発信者情報開示のため原則非公開の非訟手続きを新設している。しかし、これは今までの通常の裁判による発信者情報開示とほぼ同様の手続きを非訟手続きとして規定しただけのものであって、かえって発信者情報開示に関する手続きの不透明性や複雑性が増し、いたずらに今の状況を混乱させるだけで、発信者の保護はおろか権利侵害の救済にも繋がらない懸念がある。

 今後その運用を注視し、やはり混乱等が見られる様であれば、発信者情報の開示は、通信の秘密といった重要な国民の権利に関するものであるから、原則公開の訴訟手続によらなければならないものであるという事を念頭に、この新しい非訟手続きを廃止し、通常の裁判による発信者情報開示の拡充や迅速化の様な真に実効性のある検討を行うべきである。

e)私的録音録画補償金問題について
 知財計画2022の第71~72ページでは私的録音録画補償金問題についても言及されている。

 権利者団体等が単なる既得権益の拡大を狙ってiPod等へ対象範囲を拡大を主張している私的録音録画補償金問題についても、補償金のそもそもの意味を問い直すことなく、今の補償金の矛盾を拡大するだけの私的録音録画補償金の対象拡大を絶対にするべきではないにも関わらず、文化庁は、実質的にブルーレイを私的録音録画補償金の対象とする著作権法施行令改正について、2022年8月から9月にかけて意見募集を行い、その後意見募集の結果について極めて恣意的にまとめた回答を出しただけで、この施行令改正の閣議決定を2022年10月21日に強行した。

 文化庁の過去の文化審議会著作権分科会における数年の審議において、補償金のそもそもの意義についての意義が問われたが、文化庁が、天下り先である権利者団体のみにおもねり、この制度に関する根本的な検討を怠った結果、特にアナログチューナー非対応録画機への課金について私的録音録画補償金管理協会と東芝間の訴訟に発展した。ブルーレイ課金・アナログチューナー非搭載録画機への課金について、権利者団体は、ダビング10への移行によってコピーが増え自分たちに被害が出ると大騒ぎをしたが、移行後10年以上経った今現在においても、ダビング10の実施による被害増を証明するに足る具体的な証拠は全く示されておらず、ブルーレイ課金・アナログチューナー非搭載録画機への課金に合理性があるとは到底思えない。わずかに緩和されたとは言え、今なお地上デジタル放送にはダビング10という不当に厳しいコピー制限がかかったままである。こうした実質的に全国民に転嫁されるコストで不当に厳しい制限を課している機器と媒体にさらに補償金を賦課しようとするのは、不当の上塗りである。

 なお、世界的に見ても、メーカーや消費者が納得して補償金を払っているということはカケラも無く、権利者団体がその政治力を不当に行使し、歪んだ「複製=対価」の著作権神授説に基づき、不当に対象を広げ料率を上げようとしているだけというのがあらゆる国における実情である。表向きはどうあれ、大きな家電・PCメーカーを国内に擁しない欧州各国は、私的録音録画補償金制度を、外資から金を還流する手段、つまり、単なる外資規制として使っているに過ぎない。この制度における補償金の対象・料率に関して、具体的かつ妥当な基準はどこの国を見ても無いのであり、この制度は、ほぼ権利者団体の際限の無い不当な要求を招き、莫大な社会的コストの浪費のみにつながっている。機器・媒体を離れ音楽・映像の情報化が進む中、「複製=対価」の著作権神授説と個別の機器・媒体への賦課を基礎とする私的録音録画補償金は、既に時代遅れのものとなりつつあり、その対象範囲と料率のデタラメさが、デジタル録音録画技術の正常な発展を阻害し、デジタル録音録画機器・媒体における正常な競争市場を歪めているという現実は、補償金制度を導入したあらゆる国において、問題として明確に認識されなくてはならないことである。

 今まで積み重ねられてきた、判例、保護利用小委員会などの審議会における議論、様々な関係者の意見の全てを愚弄する、2022年の不当な政令改正は到底納得できるものではない。ブルーレイレコーダーとディスクを私的録音録画補償金の対象とする事について今に至るも妥当な根拠は何一つ見出せない。

 今まで知財本部及び文化庁に提出した意見の通り、私は一国民、一個人、一消費者、一利用者・ユーザーとして到底納得の行かない私的録音録画補償金の対象拡大になお断固反対する。

 この政令改正の意見募集などで知財計画の記載も持ち出されており、知財本部・事務局も絡んでいるとの話も聞かれるが、本当にそうであるならば知財本部・事務局もこの様な不当な政令改正に加担した事を猛省し、その過ちを認め、日本政府として速やかに方針を改めるべきである。

 文化庁に集まった2406件のこの政令改正に関する意見の全文を速やかに公表するとともに、政令を元に戻す閣議決定を行う事を私は求める。その上で、中立的な第三者による調査により、前提となっていた旧来の形の私的録音録画自体もはや時代遅れになり少なくなっているという事を示し、全関係者が参加する公開の場で議論し、私的録音録画補償金制度は歴史的役割を終えたものとして完全に廃止するとの結論を出すべきである。

(2)その他の知財政策事項について:
a)生成AI・人工知能の様な新技術と著作権の関係に関する検討について
 機械学習の発展により、かなりの精度で文章や絵などを自動的に計算して生成するいわゆる生成AI・人工知能が話題となっている事から、政府・与党でもこの様な生成AIと著作権の関係について今後検討を行う事が予想される。

 その様な検討自体に反対はしないが、検討する場合は、この様な新技術の発展が速い事や国際動向等にも照らし、かえって社会的混乱を招き、技術の発展を阻害する恐れの強い、法改正によって新たな規制を行う事や新しい権利を付与する事には極めて慎重であるべきである。

 知財計画2023において生成AI・人工知能の様な新技術と著作権の関係に関する検討について記載する場合には、技術の発展や国際動向等にも留意し、法改正によって新たな規制を行う事や新しい権利を付与する事には慎重である事を基本的な方針として合わせ明記するべきである。

 なお、今国会に提出されている、デジタル空間に形態模倣規制を導入する不正競争防止法改正案には賛同するが、メタバースとの関連でも、これ以上の法改正には慎重であるべきである。

b)秘密特許制度(経済安保法案の特許非公開関連部分)について
 2022年2月にとりまとめられた経済安全保障法制に関する有識者会議の提言に基づく、秘密特許制度(特許非公開制度)を含む経済安全保障法案が2022年5月11日に国会で可決・成立し、その施行を待つ状態にある。

 この法律により導入されようとしている秘密特許制度は、論文等の研究成果の公表は自由という前提と矛盾を来しており、その根拠となる立法事実があるのか、「公にすることにより外部から行われる行為によって国家及び国民の安全を損なう事態を生ずるおそれが大きい発明」についてまともに判断できるのか、その様なものが今の日本で本当に出願されているのか、出願され得るのか、罰則までつける事が妥当かなど、そもそも大いに疑わしいものである。

 また、この法律はあらゆる重要事項をほぼ全て政省令に落とす不明確な形で条文化されており、国会審議における政府回答によってもその明確化が完全に図られているとは言い難く、この秘密特許制度が恣意的に運用されると、国の安全保障に役立たないのは無論の事、かえって国として本来促進するべき技術分野の研究開発、国内外での特許取得活動に大きな萎縮が発生する可能性すらある。

 その様な萎縮を発生させないよう、その政省令及び具体的な運用に関する指針を速やかに公表して意見募集を行い、集まった意見を政省令等に反映し、制度開始まで十分な期間を取って周知を行うべきである。

c)オンライン手続きのための権利制限を含む著作権法改正案について
 今国会に、立法・行政においてオンライン手続きを可能とする著作権法改正案と、民事訴訟法による通常の民事訴訟以外の家事事件などのオンライン化に対応する著作権法上の権利制限の拡充を含む関係手続電子化法案が提出されている所であり、これらの権利制限を含む法改正案の早期成立を期待する。

 なお、今回の著作権法改正案には、拡大集中ライセンス制度に類似した新制度の導入も含まれているが、この新制度の運用について、DX時代への対応というその目的を踏まえ、相談・申請から利用許可までの全手続きをネットだけで完結する様にするべきであり、その手数料も公的な支援や授業目的公衆送信補償金制度の共通目的事業等の活用によりなるべく低廉化を図るべきである。

d)環太平洋経済連携協定(TPP)などの経済連携協定(EPA)に関する取組について
 TPP協定については、2015年10月に大筋合意が発表され、文化庁、知財本部の検討を経て、11月にTPP総合対策本部でTPP関連政策大綱が決定され、さらに2016年2月に署名され、3月に関連法案の国会提出がされ、11月の臨時国会で可決・成立し、2017年1月20日に参加国として初めての国内手続きの完了に関する通報が行われた。

 しかし、この国内手続きにおいて、日本政府は、2015年10月に大筋合意の概要のみを公表し、11月のニュージーランド政府からの協定条文の英文公表時も全章概要を示したのみで、その後2ヶ月も経って2016年1月にようやく公式の仮訳を公表するなど、TPP協定の内容精査と政府への意見提出の時間を国民に実質与えない極めて姑息かつ卑劣なやり方を取っていたと言わざるを得ない。

 そして、公開された条文によって今までのリーク文書が全て正しかったことはほぼ証明されており、TPP協定は確かに著作権の保護期間延長、DRM回避規制強化、法定賠償制度、著作権侵害の非親告罪化などを含んでいる。今ですら不当に長い著作権保護期間のこれ以上の延長など本来論外だったものである。

 その後、日本政府は、アメリカ抜きの11カ国でのTPP11協定を推進し、2017年11月に大筋合意が発表され、その中で最もクリティカルな部分である著作権と特許の保護期間延長とDRM規制の強化の部分が凍結さたにもかかわらず、これらの事項を含む国内関連法改正案を2018年3月に国会に提出し(6月に可決・成立)、2018年12月のTPP11協定の発効とともに施行するという戦後最大級の愚行をなした。このようになし崩しで極めて危険な法改正がなされたことを私は一国民として強く非難する。

 2017年12月には、同じく著作権の保護期間延長を含む日EU(欧)EPA交渉も妥結され、2018年2月に発効している。しかし、この日欧EPA交渉もTPP協定同様の姑息かつ卑劣な秘密交渉で決められたものである。その内容についてほとんど何の説明もないままに著作権の保護期間延長のような国益の根幹に関わる点について日本政府は易々と譲歩した。これは完全に国民をバカにしているとしか言いようがない。

 2020年9月に大筋合意され、2021年1月に発効している、同じく著作権の保護期間延長を含む日英EPAについても同様である。

 これらのTPP協定、日欧EPA及び日英EPAについてその内容の見直しを各加盟国に求めること及び著作権の保護期間の短縮について速やかに検討を開始することを私は求める。

 また、TPP交渉や日欧EPA交渉のような国民の生活に多大の影響を及ぼす国際交渉が政府間で極秘裏に行われたことも大問題である。国民一人一人がその是非を判断できるよう、途中経過も含めその交渉に関する情報をすべて速やかに公開するべきである。

e)DRM回避規制について
 経産省と文化庁の主導により無意味にDRM回避規制を強化する不正競争防止法と著作権法の改正案がそれぞれ以前国会を通され、2018年に不正競争防止法がさらに改正され、2020年の改正著作権法にも同様の事項が含まれているが、これらの法改正を是とするに足る立法事実は何一つない。不正競争防止法と著作権法でDRM回避機器等の提供等が規制され、著作権法でコピーコントロールを回避して行う私的複製まで違法とされ、十二分以上に規制がかかっているのであり、これ以上の規制強化は、ユーザーの情報アクセスに対するリスクを不必要に高める危険なものとしかなり得ない。

 特に、DRM回避規制に関しては、有害無益な規制強化の検討ではなく、まず、私的なDRM回避行為自体によって生じる被害は無く、個々の回避行為を一件ずつ捕捉して民事訴訟の対象とすることは困難だったにもかかわらず、文化庁の片寄った見方から一方的に導入されたものである、私的な領域でのコピーコントロール回避規制(著作権法第30条第1項第2号)の撤廃の検討を行うべきである。コンテンツへのアクセスあるいはコピーをコントロールしている技術を私的な領域で回避しただけでは経済的損失は発生し得ず、また、ネットにアップされることによって生じる被害は公衆送信権によって既にカバーされているものであり、その被害とDRM回避やダウンロードとを混同することは絶対に許されない。それ以前に、私法である著作権法が、私的領域に踏み込むということ自体異常なことと言わざるを得ない。何ら立法事実の変化がない中、ドサクサ紛れに通された、先般の不正競争防止法改正によるDRM規制の強化や、以前の著作権法改正で導入されたアクセスコントロール関連規制の追加等について、速やかに元に戻す検討がなされるべきである。

 TPP協定にはDRM回避規制の強化も含まれており、上で書いた通り、これ以上のDRM回避規制の強化がされるべきではなく、この点でも私はTPP協定の見直しを求める。

f)海賊版対策条約(ACTA)について
 ACTAを背景に経産省及び文化庁の主導により無意味にDRM回避規制を強化する不正競争防止法及び著作権法の改正案が以前国会を通され、ACTA自体も国会で批准された。しかし、このようなユーザーの情報アクセスに対するリスクを不必要に高める危険なものとしかなり得ない規制強化条項を含む条約の交渉、署名及び批准は何ら国民的なコンセンサスが得られていない中でなされており、私は一国民としてACTAに反対する。今なおACTAの批准国は日本しかなく、日本は無様に世界に恥を晒し続けている。もはやACTAに何ら意味はなく、日本は他国への働きかけを止めるとともに自ら脱退してその失敗を認めるべきである。

g)一般フェアユース条項の導入について
 2018年に個別の権利制限を拡充する著作権法改正がなされており、これはその限りにおいて評価できるものではあるが、本当の意味で柔軟な一般フェアユース条項を入れるものではない。

 一般フェアユース条項については、一から再検討を行い、ユーザーに対する意義からも、アメリカ等と遜色ない形で一般フェアユース条項を可能な限り早期に導入するべきである。特に、インターネットのように、ほぼ全国民が利用者兼権利者となり得、考えられる利用形態が発散し、個別の規定では公正利用の類型を拾い切れなくなるところでは、フェアユースのような一般規定は保護と利用のバランスを取る上で重要な意義を持つものである。

 今後の検討によっても幾つかの個別の権利制限が追加される可能性があるが、これらはあった方が良いものとは言え、到底一般フェアユース条項と言うに足るものではなく、これでは著作権をめぐる今の混迷状況が変わることはない。

 著作物の公正利用には変形利用もビジネス利用も考えられ、このような利用も含めて著作物の公正利用を促すことが、今後の日本の文化と経済の発展にとって真に重要であることを考えれば、不当にその範囲を不当に狭めるべきでは無く、その範囲はアメリカ等と比べて遜色の無いものとされるべきである。ただし、フェアユースの導入によって、私的複製の範囲が縮小されることはあってはならない。

 また、「まねきTV」事件などの各種判例からも、ユーザー個人のみによって利用されるようなクラウド型サービスまで著作権法上ほぼ違法とされてしまう状況に日本があることは明らかであり、このような状況は著作権法の趣旨に照らして決して妥当なことではない。ユーザーが自ら合法的に入手したコンテンツを私的に楽しむために利用することに著作権法が必要以上に介入することが許されるべきではなく、個々のユーザーが自らのためのもに利用するようなクラウド型サービスにまで不必要に著作権を及ぼし、このような技術的サービスにおけるトランザクションコストを過大に高め、その普及を不当に阻害することに何ら正当性はない。この問題がクラウド型サービス固有の問題でないのはその通りであるが、だからといって法改正の必要性がなくなる訳ではない。著作権法の条文及びその解釈・運用が必要以上に厳格に過ぎクラウド型サービスのような技術の普及が不当に阻害されているという日本の悲惨な現状を多少なりとも緩和するべく、速やかに問題を再整理し、アメリカ等と比べて遜色の無い範囲で一般フェアユース条項を導入し、同時にクラウド型サービスなどについてもすくい上げられるようにするべきである。

 権利を侵害するかしないかは刑事罰がかかるかかからないかの問題でもあり、公正という概念で刑事罰の問題を解決できるのかとする意見もあるようだが、かえって、このような現状の過剰な刑事罰リスクからも、フェアユースは必要なものと私は考える。現在親告罪であることが多少セーフハーバーになっているとはいえ、アニメ画像一枚の利用で別件逮捕されたり、セーフハーバーなしの著作権侵害幇助罪でサーバー管理者が逮捕されたりすることは、著作権法の主旨から考えて本来あってはならないことである。政府にあっては、著作権法の本来の主旨を超えた過剰リスクによって、本来公正として認められるべき事業・利用まで萎縮しているという事態を本当に深刻に受け止め、一刻も早い改善を図ってもらいたい。

 個別の権利制限規定の迅速な追加によって対処するべきとする意見もあるが、文化庁と癒着権利者団体が結託して個別規定すらなかなか入れず、入れたとしても必要以上に厳格な要件が追加されているという惨憺たる現状において、個別規定の追加はこの問題における真の対処たり得ない。およそあらゆる権利制限について、文化庁と権利者団体が結託して、全国民を裨益するだろう新しい権利制限を潰すか、極めて狭く使えないものとして来たからこそ、今一般規定が社会的に求められているのだという、国民と文化の敵である文化庁が全く認識していないだろう事実を、政府・与党は事実としてはっきりと認めるべきである。

h)コピーワンス・ダビング10・B-CAS問題について
 私はコピーワンスにもダビング10にも反対する。そもそも、この問題は、放送局・権利者にとっては、視聴者の利便性を著しく下げることによって、一旦は広告つきながらも無料で放送したコンテンツの市場価格を不当につり上げるものとして機能し、国内の大手メーカーとっては、B-CASカードの貸与と複雑な暗号システムを全てのテレビ・録画機器に必要とすることによって、中小・海外メーカーに対する参入障壁として機能するB-CASシステムの問題を淵源とするのであって、このB-CASシステムと独禁法の関係を検討するということを知財計画2023では明記してもらいたい。検討の上B-CASシステムが独禁法違反とされるなら、速やかにその排除をして頂きたい。また、無料の地上放送において、逆にコピーワンスやダビング10のような視聴者の利便性を著しく下げる厳格なコピー制御が維持されるのであれば、私的録画補償金に存在理由はなく、これを速やかに廃止するべきである。

i)著作権検閲・ストライクポリシーについて
 ファイル共有ソフトを用いて著作権を侵害してファイル等を送信していた者に対して警告メールを送付することなどを中心とする電気通信事業者と権利者団体の連携による著作権侵害対策が警察庁、総務省、文化庁などの規制官庁が絡む形で行われており、警察によってファイル共有ネットワークの監視も行われているが、このような対策は著作権検閲に流れる危険性が極めて高い。

 フランスで導入が検討された、警告メールの送付とネット切断を中心とする、著作権検閲機関型の違法コピー対策である3ストライクポリシーは、2009年6月に、憲法裁判所によって、インターネットのアクセスは、表現の自由に関係する情報アクセスの権利、つまり、最も基本的な権利の1つとしてとらえられるとされ、著作権検閲機関型の3ストライクポリシーは、表現の自由・情報アクセスの権利やプライバシーといった他の基本的な権利をないがしろにするものとして、真っ向から否定されている。ネット切断に裁判所の判断を必須とする形で導入された変形ストライク法も何ら効果を上げることなく、フランスでは今もストライクポリシーについて見直しの検討が行われており、2013年7月にはネット切断の罰が廃止されている。日本においては、このようなフランスにおける政策の迷走を他山の石として、このように表現の自由・情報アクセスの権利やプライバシーといった他の基本的な権利をないがしろにする対策を絶対に導入しないこととするべきであり、警察庁などが絡む形で検討されている違法ファイル共有対策についても、通信の秘密やプライバシー、情報アクセス権等の国民の基本的な権利をきちんと尊重する形で進めることが担保されなくてはならない。

j)著作権法へのセーフハーバー規定の導入について
 動画投稿サイト事業者がJASRACに訴えられた「ブレイクTV」事件や、レンタルサーバー事業者が著作権幇助罪で逮捕され、検察によって姑息にも略式裁判で50万円の罰金を課された「第(3)世界」事件や、1対1の信号転送機器を利用者からほぼ預かるだけのサービスが放送局に訴えられ、最高裁判決で違法とされた「まねきTV」事件等を考えても、今現在、カラオケ法理の適用範囲はますます広く曖昧になり、間接侵害や著作権侵害幇助のリスクが途方もなく拡大し、甚大な萎縮効果・有害無益な社会的大混乱が生じかねないという非常に危険な状態がなお続いている。間接侵害事件や著作権侵害幇助事件においてネット事業者がほぼ直接権利侵害者とみなされてしまうのでは、プロバイダー責任制限法によるセーフハーバーだけでは不十分であり、間接侵害や著作権侵害幇助罪も含め、著作権侵害とならない範囲を著作権法上きちんと確定することは喫緊の課題である。ただし、このセーフハーバーの要件において、標準的な仕組み・技術や違法性の有無の判断を押しつけるような、権利侵害とは無関係の行政機関なり天下り先となるだろう第3者機関なりの関与を必要とすることは、検閲の禁止・表現の自由等の国民の権利の不当な侵害に必ずなるものであり、絶対にあってはならないことである。

 知財計画2023において、プロバイダに対する標準的な著作権侵害技術導入の義務付け等を行わないことを合わせ明記するとともに、間接侵害や刑事罰・著作権侵害幇助も含め著作権法へのセーフハーバー規定の速やかな導入を検討するとしてもらいたい。この点に関しては、逆に、検閲の禁止や表現の自由の観点から技術による著作権検閲の危険性の検討を始めてもらいたい。

k)二次創作規制の緩和について
 2014年8月のクールジャパン提言の第13ページに「クリエイティビティを阻害している規制についてヒアリングし規制緩和する。コンテンツの発展を阻害する二次創作規制、ストリートパフォーマンスに関する規制など、表現を限定する規制を見直す。」と記載されている通り、二次創作は日本の文化的創作の原動力の一つになっており、その推進のために現状の規制を緩和する必要がある。これは知的財産に関わる重要な提言であり、二次創作規制を緩和するという記載を知財計画2023においてもそのまま取り入れ、政府としてこのような規制の緩和を強力に推進することを重ねてきちんと示すべきである。

l)著作権等に関する真の国際動向について国民へ知らされる仕組みの導入及び文化庁ワーキンググループの公開について
 WIPO等の国際機関にも、政府から派遣されている者はいると思われ、著作権等に関する真の国際動向について細かなことまで即座に国民へ知らされる仕組みの導入を是非検討してもらいたい。

 また、2013年からの著作物等の適切な保護と利用・流通に関するワーキングチーム及び2015年からの新たな時代のニーズに的確に対応した制度等の整備に関するワーキングチームの審議は公開とされたが、文化庁はワーキングチームについて公開審議を原則とするにはなお至っていない。上位の審議会と同様今後全てのワーキンググループについて公開審議を原則化するべきである。

m)天下りについて
 以前文部科学省の天下り問題が大きく報道されたが、知財政策においても、天下り利権が各省庁の政策を歪めていることは間違いなく、知財政策の検討と決定の正常化のため、文化庁から著作権関連団体への、総務省から放送通信関連団体・企業への、警察庁からインターネットホットラインセンター他各種協力団体・自主規制団体への天下りの禁止を知財本部において決定して頂きたい。(これらの省庁は特にひどいので特に名前をあげたが、他の省庁も含めて決定してもらえるなら、それに超したことはない。)

(3)その他一般的な情報・ネット・表現規制について
 知財計画改訂において、一般的な情報・ネット・表現規制に関する項目は削除されているが、常に一方的かつ身勝手な主張を繰り広げる自称良識派団体が、意味不明の理屈から知財とは本来関係のない危険な規制強化の話を知財計画に盛り込むべきと主張をしてくることが十分に考えられるので、ここでその他の危険な一般的な情報・ネット・表現規制強化の動きに対する反対意見も述べる。今後も、本来知財とは無関係の、一般的な情報・ネット・表現規制に関する項目を絶対に知財計画に盛り込むことのないようにしてもらいたい。

a)青少年ネット規制法・出会い系サイト規制法について
 そもそも、青少年ネット規制法は、あらゆる者から反対されながら、有害無益なプライドと利権を優先する一部の議員と官庁の思惑のみで成立したものであり、速やかに廃止が検討されるべきものである。また、出会い系サイト規制法の改正は、警察庁が、どんなコミュニケーションサイトでも人は出会えるという誰にでも分かることを無視し、届け出制の対象としては事実上定義不能の「出会い系サイト事業」を定義可能と偽り、改正法案の閣議決定を行い、法案を国会に提出したものであり、他の重要法案と審議が重なる中、国会においてもその本質的な問題が見過ごされて可決され、成立したものである。憲法上の罪刑法定主義や検閲の禁止にそもそも違反している、この出会い系サイト規制法の改正についても、今後、速やかに元に戻すことが検討されるべきである。

b)児童ポルノ規制・サイトブロッキングについて
 児童ポルノ法規制強化問題・有害サイト規制問題における自称良識派団体の主張は、常に一方的かつ身勝手であり、ネットにおける文化と産業の発展を阻害するばかりか、インターネットの単純なアクセスすら危険なものとする非常識なものばかりである。今後は、このような一方的かつ身勝手な規制強化の動きを規制するため、憲法の「表現の自由」に含まれ、国際人権B規約にも含まれている国民の「知る権利」を、あらゆる公開情報に安全に個人的にアクセスする権利として、通信法に法律レベルで明文で書き込むべきである。同じく、憲法に規定されている検閲の禁止から、技術的な検閲やサイトブロッキングのような技術的検閲の禁止を通信法に法律レベルで明文で書き込むべきである。

 閲覧とダウンロードと取得と所持の区別がつかないインターネットにおいては、例え児童ポルノにせよ、情報の単純所持や取得の規制は有害無益かつ危険なもので、憲法及び条約に規定されている「知る権利」を不当に害するものとなる。「自身の性的好奇心を満たす目的で」、積極的あるいは意図的に画像を得た場合であるなどの限定を加えたところで、エスパーでもない限りこのような積極性を証明することも反証することもできないため、このような情報の単純所持や取得の規制の危険性は回避不能であり、思想の自由や罪刑法定主義にも反する。繰り返し取得としても、インターネットで2回以上他人にダウンロードを行わせること等は技術的に極めて容易であり、取得の回数の限定も、何ら危険性を減らすものではない。

 児童ポルノ規制の推進派は常に、提供による被害と単純所持・取得を混同する狂った論理を主張するが、例えそれが児童ポルノであろうと、情報の単純所持ではいかなる被害も発生し得ない。現行法で、ネット上であるか否かにかかわらず、提供及び提供目的の所持が規制されているのであり、提供によって生じる被害と所持やダウンロード、取得、収集との混同は許され得ない。そもそも、最も根本的なプライバシーに属する個人的な情報所持・情報アクセスに関する情報を他人が知ることは、通信の秘密や情報アクセスの権利、プライバシーの権利等の基本的な権利からあってはならないことである。

 アニメ・漫画・ゲームなどの架空の表現に対する規制対象の拡大も議論されているが、このような対象の拡大は、児童保護という当初の法目的を大きく逸脱する、異常規制に他ならない。アニメ・漫画・ゲームなどの架空の表現において、いくら過激な表現がなされていようと、それが現実の児童被害と関係があるとする客観的な証拠は何一つない。いまだかつて、この点について、単なる不快感に基づいた印象批評と一方的な印象操作調査以上のものを私は見たことはないし、虚構と現実の区別がつかないごく一部の自称良識派の単なる不快感など、言うまでもなく一般的かつ網羅的な表現規制の理由には全くならない。アニメ・漫画・ゲームなどの架空の表現が、今の一般的なモラルに基づいて猥褻だというのなら、猥褻物として取り締まるべき話であって、それ以上の話ではない。どんな法律に基づく権利であれ、権利の侵害は相対的にのみ定まるものであり、実際の被害者の存在しない創作物・表現に対する規制は何をもっても正当化され得ない。民主主義の最重要の基礎である表現の自由や言論の自由、思想の自由等々の最も基本的な精神的自由そのものを危うくすることは絶対に許されない。この点で、2012年6月にスウェーデンで漫画は児童ポルノではないとする最高裁判決が出されたことなども注目されるべきである。

 単純所持規制にせよ、創作物規制にせよ、両方とも1999年当時の児童ポルノ法制定時に喧々囂々の大議論の末に除外された規制であり、規制推進派が何と言おうと、これらの規制を正当化するに足る立法事実の変化はいまだに何一つない。

 既に、警察などが提供するサイト情報に基づき、統計情報のみしか公表しない不透明な中間団体を介し、児童ポルノアドレスリストの作成が行われ、そのリストに基づいて、ブロッキング等が行われているが、いくら中間に団体を介そうと、一般に公表されるのは統計情報に過ぎす、児童ポルノであるか否かの判断情報も含め、アドレスリストに関する具体的な情報は、全て閉じる形で秘密裏に保持されることになるのであり、インターネット利用者から見てそのリストの妥当性をチェックすることは不可能であり、このようなアドレスリストの作成・管理において、透明性・公平性・中立性を確保することは本質的に完全に不可能である。このようなリストに基づくブロッキング等は、自主的な取組という名目でいくら取り繕おうとも、憲法に規定されている表現の自由(知る権利・情報アクセスの権利を含む)や検閲の禁止といった国民の基本的な権利を侵害するものとならざるを得ないのであり、小手先の運用変更などではどうにもならない。

 児童ポルノ規制法に関しては、提供及び提供目的での所持が禁止されているのであるから、本当に必要とされることはこの規制の地道なエンフォースであって有害無益かつ危険極まりない規制強化の検討ではない。DVD販売サイトなどの海外サイトについても、本当に児童ポルノが販売されているのであれば、速やかにその国の警察に通報・協力して対処すべきだけの話であって、それで対処できないとするに足る具体的根拠は全くない。警察自らこのような印象操作で規制強化のマッチポンプを行い、警察法はおろか憲法の精神にすら違背していることについて警察庁は恥を知るべきである。例えそれが何であろうと、情報の単純所持や単なる情報アクセスではいかなる被害も発生し得えないのであり、自主的な取組という名目でいくら取り繕おうとも、憲法に規定されている表現の自由(知る権利・情報アクセスの権利を含む)や検閲の禁止といった国民の基本的な権利を侵害するものとならざるを得ないサイトブロッキングは即刻排除するべきであり、そのためのアドレスリスト作成管理団体として設立された、インターネットコンテンツセーフティ協会は即刻その解散が検討されてしかるべきである。

 なお、民主主義の最重要の基礎である表現の自由に関わる問題において、一方的な見方で国際動向を決めつけることなどあってはならないことであり、欧米においても、情報の単純所持規制やサイトブロッキングの危険性に対する認識はネットを中心に高まって来ていることは決して無視されてはならない。例えば、欧米では既にブロッキングについてその恣意的な運用によって弊害が生じていることや、アメリカにおいても、2009年に連邦最高裁で児童オンライン保護法が違憲として完全に否定され、2011年6月に連邦最高裁でカリフォルニア州のゲーム規制法が違憲として否定されていること、ドイツで児童ポルノサイトブロッキング法は検閲法と批判され、最終的に完全に廃止されたことなども注目されるべきである(https://www.zdnet.de/41558455/bundestag-hebt-zensursula-gesetz-endgueltig-auf/参照)。スイスの2009年の調査でも、2002年に児童ポルノ所持で捕まった者の追跡調査を行っているが、実際に過去に性的虐待を行っていたのは1%、6年間の追跡調査で実際に性的虐待を行ったものも1%に過ぎず、児童ポルノ所持はそれだけでは、性的虐待のリスクファクターとはならないと結論づけており、児童ポルノの単純所持規制・ブロッキングの根拠は完全に否定されているのである(https://bmcpsychiatry.biomedcentral.com/articles/10.1186/1471-244X-9-43参照)。欧州連合において、インターネットへのアクセスを情報の自由に関する基本的な権利として位置づける動きがあることも見逃されてはならない。政府・与党内の検討においては、このような国際動向もきちんと取り上げるべきである。

 そして、単純所持規制に相当し、上で書いた通り問題の大きい性的好奇心目的所持罪を含む児童ポルノの改正法案が国会で2014年6月18日に可決・成立し、同年6月25日に公布され、2015年7月15日に施行された。この問題の大きい性的好奇心目的所持罪を規定する児童ポルノ規制法第7条第1項は即刻削除するべきであり、合わせ、政府・与党においては、児童ポルノを対象とするものにせよ、いかなる種類のものであれ、情報の単純所持・取得規制・ブロッキングは極めて危険な規制であるとの認識を深め、このような規制を絶対に行わないこととして、危険な法改正案が2度と与野党から提出されることが無いようにするべきである。

 さらに、性的好奇心目的所持罪を規定する児童ポルノ規制法第7条第1項を削除するとともに、児童ポルノの単純所持規制・創作物規制といった非人道的な規制を導入している諸国は即刻このような規制を廃止するべきと、そもそも最も根本的なプライバシーに属し、何ら実害を生み得ない個人的な情報所持・情報アクセスに関する情報を他人が知ること自体、通信の秘密や情報アクセスの権利、プライバシーの権利等の国際的かつ一般的に認められている基本的な権利からあってはならないことであると、また、法的拘束力はないが、明らかに表現の自由に抵触する規制を推奨している、2019年9月の児童の権利委員会による児童ポルノ規制に関するガイドラインは全面的に見直すべきであると、日本政府から国際的な場において各国に積極的に働きかけてもらいたい。

 また、様々なところで検討されている有害サイト規制についても、その規制は表現に対する過度広汎な規制で違憲なものとしか言いようがなく、各種有害サイト規制についても私は反対する。

c)東京都青少年健全育成条例他、地方条例の改正による情報規制問題について
 東京都でその青少年健全育成条例の改正が検討され、非実在青少年規制として大騒ぎになったあげく、2010年12月に、当事者・関係者の真摯な各種の意見すら全く聞く耳を持たれず、数々の問題を含む条例案が、都知事・東京都青少年・治安対策本部・自公都議の主導で都議会で通された。通過版の条例改正案も、非実在青少年規制という言葉こそ消えたものの、かえって規制範囲は非実在性犯罪規制とより過度に広汎かつ曖昧なものへと広げられ、有害図書販売に対する実質的な罰則の導入と合わせ、その内容は違憲としか言わざるを得ない内容のものである。また、この東京都の条例改正にも含まれている携帯フィルタリングの実質完全義務化は、青少年ネット規制法の精神にすら反している行き過ぎた規制である。さらに、大阪や京都などでは、児童ポルノに関して、法律を越える範囲で勝手に範囲を規定し、その単純所持等を禁止する、明らかに違憲な条例が通されるなどのデタラメが行われている。

 これらのような明らかな違憲条例の検討・推進は、地方自治体法第245条の5に定められているところの、都道府県の自治事務の処理が法令の規定に違反しているか著しく適正を欠きかつ明らかに公益を害していると認めるに足ると考えられるものであり、総務大臣から各地方自治体に迅速に是正命令を出すべきである。また、当事者・関係者の意見を完全に無視した東京都における検討など、民主主義的プロセスを無視した極めて非道なものとしか言いようがなく、今後の検討においてはきちんと民意が反映されるようにするため、地方自治法の改正検討において、情報公開制度の強化、審議会のメンバー選定・検討過程の透明化、パブコメの義務化、条例の改廃請求・知事・議会のリコールの容易化などの、国の制度と整合的な形での民意をくみ上げるシステムの地方自治に対する法制化の検討を速やかに進めてもらいたい。また、各地方の動きを見ていると、出向した警察官僚が強く関与する形で、各都道府県の青少年問題協議会がデタラメな規制強化騒動の震源となることが多く、今現在のデタラメな規制強化の動きを止めるべく、さらに、中央警察官僚の地方出向・人事交流の完全な取りやめ、地方青少年問題協議会法の廃止、問題の多い地方青少年問題協議会そのものの解散の促進についても速やかに検討を開始するべきである。

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