2024年3月17日 (日)

第493回:「知的財産推進計画2024」の策定に向けた意見募集(3月27日〆切)への提出パブコメ

 今年も3月27日〆切で行われている「知的財産推進計画2024」の策定に向けた意見募集(知財本部意見募集要項(pdf)、電子政府の意見募集ページ参照)に対して意見を出したので、ここに載せておく。

 去年の知財計画の記載に合わせて、AIと著作権の関係整理に関する意見を(1)a)に書き、私的録音録画補償金問題に関する意見を(2)a)に移し、(1)e)でプロバイダー責任制限法について最近の改正案の話を入れ、(2)j)で二次創作規制の緩和について最近のクールジャパン戦略に関する意見募集の話を踏まえて書き直すなどしているが、内容は基本的に今まで出して来たパブコメをまとめたものである。(去年の知財計画2023の記載については第479回参照。)

 どこまで意見を取り入れられるかは分からないが、知財政策全般について政府に意見が出せる年一回の機会なので、関心のある方は是非意見の提出を検討する事をお勧めする。

(以下、提出パブコメ)

《要旨》
アメリカ等と比べて遜色の無い範囲で一般フェアユース条項を導入すること、ダウンロード犯罪化・違法化条項の撤廃並びにTPP協定・日欧EPAの見直し及び著作権の保護期間の短縮を求める。有害無益なインターネットにおける今以上の知財保護強化、特に著作権ブロッキングに反対するとともに歴史的役割を終えた私的録音録画補償金の完全廃止を求める。今後真の国民視点に立った知財の規制緩和の検討が進むことを期待する。

《全文》
 最終的に国益になるであろうことを考え、各業界の利権や省益を超えて必要となる政策判断をすることこそ知財本部とその事務局が本当になすべきことのはずであるが、知財計画2023を見ても、このような本当に政策的な決定は全く見られない上、2018年には危険極まる著作権ブロッキングのごり押しの検討まで行われ、2020年には非常に危ういダウンロード違法化・犯罪化の対象範囲の拡大を含む著作権法改正までなされた。知財保護が行きすぎて消費者やユーザーの行動を萎縮させるほどになれば、確実に文化も産業も萎縮するので、知財保護強化が必ず国益につながる訳ではないということを、著作権問題の本質は、ネットにおける既存コンテンツの正規流通が進まないことにあるのではなく、インターネットの登場によって新たに出てきた著作物の公正利用の類型に、今の著作権法が全く対応できておらず、著作物の公正利用まで萎縮させ、文化と産業の発展を阻害していることにあるのだということを知財本部とその事務局には、まずはっきりと認識してもらいたい。特に、最近の知財・情報に関する規制強化の動きは全て間違っていると私は断言する。

 例年通り、規制強化による天下り利権の強化のことしか念頭にない文化庁、総務省、警察庁などの各利権官庁に踊らされるまま、国としての知財政策の決定を怠り、知財政策の迷走の原因を増やすことしかできないようであれば、今年の知財計画を作るまでもなく、知財本部とその事務局には、自ら解散することを検討するべきである。そうでなければ、是非、各利権官庁に轡をはめ、その手綱を取って、知財の規制緩和のイニシアティブを取ってもらいたい。知財本部において今年度、インターネットにおけるこれ以上の知財保護強化はほぼ必ず有害無益かつ危険なものとなるということをきちんと認識し、真の国民視点に立った知財の規制緩和の検討が知財本部でなされることを期待し、本当に決定され、実現されるのであれば、全国民を裨益するであろうこととして、私は以下のことを提案する。

(1)「知的財産推進計画2023」の記載事項について:
a)生成AI・人工知能の様な新技術と著作権の関係に関する検討について
 知財計画2023の第32ページに生成AIと著作権との関係の整理について記載されている。

 2024年3月に文化庁の法制度小委員会の報告書として「AIと著作権に関する考え方について」が取りまとめられている。本報告書は、AIと著作権の関係に関し、学習・開発段階と生成・利用段階に分けて考え、学習・開発段階におけるAI事業者によるAI学習のための著作物の利用は、特別な追加学習等によって学習データの元の著作物の創作的表現を直接感得できる生成物を出力する様な場合を別として、原則として著作権法第30条の4の非享受目的利用の権利制限の対象となるとし、生成・利用段階におけるAI利用者によるAI生成物の利用が他者の著作権を侵害するかどうかは、人間がAIを使わずに創作したものと同様にその類似性・依拠性に基づき判断されるとしている。

 本報告書の内容は、現行著作権法の解釈として妥当なものであり、特に、現行の著作権法第30条の4等の適用範囲及びAI生成物の利用が著作権侵害となる場合の明確化のみを行っており、かえって社会的混乱を招き、技術の発展を阻害する恐れの強い、法改正によって新たな規制を行う事や補償金請求権を含め新しい権利を付与する事を提言していない点で高く評価できる。

 著作権侵害とならない生成物を作ろうとする限りにおいて、AIサービスの提供と利用の著作権リスクを相当程度低減している、この今の日本の著作権法のバランスは決して悪くないものである。

 そのため、現時点で余計な社会的混乱を招くだけの権利や補償金などを新たに付与するべきではなく、今後当面の間は、文化庁の本報告書による整理の結果を広く周知するに留めるべきである。

 来年度以降もAIと知的財産権に関する問題について検討を行う事自体に反対はしないが、検討を行う場合は、権利者団体に属している様な権利者のみならず、SNSなどの各種ネットサービスにおいて自分の文章や絵を公表している一般の利用者も創作者、著作権者として関係して来る事、生成AIを含む新技術が人の新しい創作のツールとなって来たという事も見逃されるべきではない。この様な新技術の発展が速い事や国際動向等にも照らし、かえって社会的混乱を招き、技術の発展を阻害する恐れの強い、法改正によって新たな規制を行う事や新しい権利を付与する事には極めて慎重であるべきである事にも変わりはない。また、著作権法がその目的を超えて技術の発展の阻害となってはならないのも当然の事であって、さらに柔軟な対応を求められる事も考えられるため、下で書く通り、アメリカ型の一般フェアユース条項の導入の検討が進められる事を期待する。

 知財計画2024において生成AI・人工知能の様な新技術と著作権の関係に関するさらなる検討について記載する場合には、技術の発展や国際動向等にも留意し、法改正によって新たな規制を行う事や新しい権利を付与する事には慎重である事を基本的な方針として合わせ明記するべきである。

 なお、知財本部や文化庁の検討の場で行われている関係者ヒアリングを見ても、権利者側団体の生成AIに関する主張は単に漠然とした不安を述べ立て確たる根拠なく規制強化と金銭的補償を求めているだけであって到底新たな立法事実たり得ないものばかりである。この様な漠然とした不安については、本素案の整理の通り、現行法によって十分著作権は守られ、その対象である既存の著作物の表現に依拠して類似した生成物による著作権侵害が行われる様になるものではない事を周知する事で十分対応可能である。

 さらに付言しておくと、AIによる偽情報生成・ディープフェイク対策については、主として知的財産との関係で検討されるべきものではない。この点については既存のなりすましの場合などと比較して本当に新たに規制すべき行為類型が生じているのではない事に留意が必要である。この様なディープフェイクは対象となった者に対して害を与えるか自らに不正な利益をもたらすかのために作られ公開されるものであって、そのためにはAI技術を用いて元となった著作物に依拠してそっくりな生成物を得て公開する事が前提となるため、著作権及び著作者人格権の侵害となるのは無論の事、目的に応じて、パブリシティ権の侵害、不正競争防止における信用毀損行為、刑法における名誉毀損や信用毀損等に該当し得る事を周知して行く事で十分と考える。

b)ダウンロード違法化・犯罪化問題について
 知財計画2023の第84ページにインターネット上の海賊版に対する総合的な対策メニューについて記載されている。2019年10月に作成され、2021年4月に更新された総合的な対策メニューにはダウンロード違法化・犯罪化の対象範囲の拡大について記載されている。

 文化庁の暴走と国会議員の無知によって、2009年の6月12日にダウンロード違法化条項を含む改正著作権法が成立し、2010年の1月1日に施行された。また、日本レコード協会などのロビー活動により、自民党及び公明党が主導する形でダウンロード犯罪化条項がねじ込まれる形で、2012年6月20日に改正著作権法が成立し、2012年10月1日から施行されている。

 そして、2018年12月に意見募集がされた文化庁の法制・基本問題小委員会の中間まとめにおいて、極めて拙速な検討から、このダウンロード違法化・犯罪化の対象範囲を録音録画から著作物全般に拡大するとの方針が示され、その意見募集において極めて多くの懸念が示されたにもかかわらず、文化庁がこの方針を諦めずにダウンロード違法化・犯罪化の対象範囲の拡大を含む著作権法改正案の提出を準備していたところ、批判の高まりを受けて2019年の通常国会提出を断念した。

 その後、文化庁は、2019年10月に侵害コンテンツのダウンロード違法化等に関するパブリックコメントを行い、11月から2020年1月にかけて侵害コンテンツのダウンロード違法化の制度設計等に関する検討会において著作権法改正案を再検討した。しかし、この検討会における議論も法案提出の結論ありきの拙速極まるものであり、国民の声を丁寧に聞くと言いながら、パブリックコメントに寄せられた最も主要な意見が要件によらずダウンロード違法化を行うべきではないというものであるという事を無視し、写り込みに関する権利制限の拡充、民事における原作者の権利の除外及び軽微なものの除外という弥縫策でダウンロード違法化・犯罪化の対象範囲を押し通そうとし、2020年2月には、自民党が文科省に海賊版対策のための著作権法改正に関する申し入れを行い、民事刑事の両方において著作権者の利益を不当に害しないと認められる特別な事情がある場合を除外することを要請した。

 これらの文化庁の議論のまとめ及び自民党の要請を含む形で、2020年6月5日にダウンロード違法化・犯罪化の対象範囲拡大を含む改正著作権法が成立し、2021年1月1日から施行されている。

 この法改正後のダウンロード違法化・犯罪化において、スクリーンショットで違法画像が付随的に入り込む場合や、ストーリー漫画の数コマ、論文の数行、粗いサムネイル画像のダウンロードの場合といった僅かな場合が除かれ、また、著作権者の利益を不当に害しないと認められる特別な事情がある場合を除外する事で、それなりの正当化事由を示せる様な特別な事情がある場合が除かれるが、これは本質的な問題の解消に繋がるものではなく、それでもなお、利用者が通常するであろう多くの場合のカジュアルなスクリーンショット、ダウンロード、デジタルでの保存行為が違法・犯罪となる可能性が出て来、場合によって意味不明の萎縮が発生する恐れがある事に変わりはない。これは、録音録画に関するダウンロード違法化・犯罪化同様、海賊版対策としては何の役にも立たない、百害あって一利ない最低最悪の著作権法改正の一つとなるものである。

 過去のパブコメでも繰り返し書いているが、一人しか行為に絡まないダウンロードにおいて、「事実を知りながら」なる要件は、エスパーでもない限り証明も反証もできない無意味かつ危険な要件であり、技術的・外形的に違法性の区別がつかない以上、このようなダウンロード違法化・犯罪化は法規範としての力すら持ち得ず、罪刑法定主義や情報アクセス権を含む表現の自由などの憲法に規定される国民の基本的な権利の観点からも問題がある。このような法改正によって進むのはダウンロード以外も含め著作権法全体に対するモラルハザードのみであり、今のところ幸いなことに適用例はないが、これを逆にねじ曲げてエンフォースしようとすれば、著作権検閲という日本国として最低最悪の手段に突き進む恐れしかない。

 また、世界的に見ても、アップロードとダウンロードを合わせて行うファイル共有サービスに関する事件を除き、どの国においても単なるダウンロード行為を対象とする民事、刑事の事件は1件もなく、日本における現行の録音録画に関するダウンロード違法化・犯罪化も含め、このような法制が海賊版対策として何の効果も上がっていないことは明白である。また、ダウンロード違法化・犯罪化の対象範囲の拡大は、研究など公正利用として認められるべき目的のダウンロードにも影響する。

 そもそも、ダウンロード違法化の懸念として、このような不合理極まる規制強化・著作権検閲に対する懸念は、過去の文化庁へのパブコメ(文化庁HPhttps://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/chosakuken/hokoku.htmlの意見募集の結果参照。ダウンロード違法化問題において、この8千件以上のパブコメの7割方で示された国民の反対・懸念は完全に無視された。このような非道極まる民意無視は到底許されるものではない)や知財本部へのパブコメ(知財本部のHPhttps://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/keikaku2009.htmlの個人からの意見参照)を見ても分かる通り、法改正前から指摘されていたところであり、このようなさらなる有害無益な規制強化・著作権検閲にしか流れようの無いダウンロード違法化・犯罪化は始めからなされるべきではなかったものである。

 文化庁の暴走と国会議員の無知によって成立したものであり、ネット利用における個人の安心と安全を完全にないがしろにするものであり、その後も本質的な問題の解消に繋がる検討をなおざりに対象範囲の拡大がされたものである、百害あって一利ないダウンロード違法化・犯罪化を規定する著作権法第30条第1項第3及び第4号並びに第119条第3項等を即刻削除し、ダウンロード違法化・犯罪化を完全に撤廃することを速やかに行うべきである。

c)著作権法におけるいわゆる間接侵害・幇助への対応について
 総合的な対策メニューにはリーチサイト規制についても記載されている。

 このリーチサイト規制については、2018年12月に意見募集が行われた文化庁の法制・基本問題小委員会の中間まとめにおいて、著作権侵害コンテンツへのリンク行為に対するみなし侵害規定の追加及び刑事罰付加の方針が示されたが、著作権法改正案の2019年の通常国会提出は見送られ、ダウンロード違法化・犯罪化の対象範囲の拡大と合わせ、このリーチサイト規制を含む改正著作権法が2020年6月5日に成立し、2020年10月1日から施行されている。

 改正著作権法のリーチサイト規制は、親告罪とされた事とプラットフォーマーの原則除外でかなり緩和が図られているとは思うが、この様な法改正の本質的な必要性には疑問がある。

 リーチサイト対策の検討は、著作権法におけるいわゆる間接侵害・幇助への対応をどうするかという問題に帰着する。文化庁の中間まとめを読んでも、権利者団体の一方的かつ曖昧な主張が並べられているだけで、権利者団体側がリーチサイト等に対して改正前の著作権法に基づいてどこまで何をしたのか、その対処に関する定量的かつ論理的な検証は何らされておらず、本当にどのような場合について改正前の著作権法では不十分であったのかはその後もなお不明なままであり、さらに、このような間接侵害あるいは幇助の検討において当然必要とされるはずのセーフハーバーの検討も極めて不十分なままである。

 確かにセーフハーバーを確定するために間接侵害・幇助の明確化はなされるべきであるが、基本的にカラオケ法理や各種ネット録画機事件などで示されたことの全体的な整理以上のことをしてはならない。特に、著作権法に明文の間接侵害一般規定を設けることは絶対にしてはならないことである。現状の整理を超えて、明文の間接侵害一般規定を作った途端、権利者団体や放送局がまず間違いなく山の様に脅しや訴訟を仕掛けて来、今度はこの間接侵害規定の定義やそこからの滲み出しが問題となり、無意味かつ危険な社会的混乱を来すことは目に見えているからである。

 リーチサイト規制については、その本質的な必要性に疑問のある今回の法改正後の運用を注視するとともに、知財計画2024において間接侵害・幇助への今後の対応について記載するのであれば、著作権法の間接侵害・幇助の明確化は、ネット事業・利用の著作権法上のセーフハーバーを確定するために必要十分な限りにおいてのみなされると合わせ明記するべきである。

 このようなリーチサイト問題も含め、ネット上の違法コンテンツ対策、違法ファイル共有対策については、通信の秘密やプライバシー、情報アクセス権等の国民の基本的な権利をきちんと尊重しつつ対策を検討してもらいたい。この点においても、国民の基本的な権利を必ず侵害するものとなり、ネットにおける文化と産業の発展を阻害することにつながる危険な規制強化の検討ではなく、ネットにおける各種問題は情報モラル・リテラシー教育によって解決されるべきものという基本に立ち帰り、現行のプロバイダー責任制限法と削除要請を組み合わせた対策などの、より現実的かつ地道な施策のみに注力して検討を進めるべきである。

d)著作権ブロッキング・アクセス警告方式について
 総合的な対策メニューには著作権ブロッキングやアクセス警告方式についても言及されている。

 サイトブロッキングについては、知財本部において、2018年4月の緊急対策の決定後、2018年10月まで検討が行われた。

 このようなサイトブロッキングについて、アメリカでは、議会に提出されたサイトブロッキング条項を含むオンライン海賊対策法案(SOPA)や知財保護強化法案(PIPA)が、IT企業やユーザーから検閲であるとして大反対を受け、その審議は止められている。また、世界を見渡しても、ブロッキングを巡ってはどの国であれなお混沌とした状況にあり、いかなる形を取るにせよブロッキングの採用が有効な海賊版対策として世界の主要な流れとなっているとは到底言い難い。

 サイトブロッキングの問題については下でも述べるが、インターネット利用者から見てその妥当性をチェックすることが不可能なサイトブロッキングにおいて、透明性・公平性・中立性を確保することは本質的に完全に不可能である。このようなブロッキングは、憲法に規定されている表現の自由(知る権利・情報アクセスの権利を含む)や検閲の禁止、通信の秘密といった国民の基本的な権利を侵害するものとならざるを得ないものであり、決して導入されるべきでないものである。

 幸いなことに、2018年10月で知財本部におけるブロッキングの検討は止まったが、多くの懸念の声が上げられていたにもかかわらず、ブロッキングありきでごり押しの検討を行ったことについて私は知財本部に猛省を求める。知財計画2024においてブロッキングについて言及するのであれば、2018年の検討の反省の弁とともに今後二度とこのような国民の基本的な権利を踏みにじる検討をしないと固く誓うとしてもらいたい。

 アクセス警告方式についても、通信の監視・介入の点でブロッキングと本質的に違いはなく、その導入は法的にも技術的にも難しいとする、2019年8月の総務省のインターネット上の海賊版サイトへのアクセス抑止方策に関する検討会の報告書の整理を守るべきである。

 その提案からも明確なように、違法コピー対策問題における権利者団体の主張は常に一方的かつ身勝手であり、ネットにおける文化と産業の発展を阻害するばかりか、インターネットの単純なアクセスすら危険なものとする非常識なものばかりである。今後は、このような一方的かつ身勝手な規制強化の動きを規制するため、憲法の「表現の自由」に含まれ、国際人権B規約にも含まれている国民の「知る権利」を、あらゆる公開情報に安全に個人的にアクセスする権利として、通信法に法律レベルで明文で書き込むことを検討するべきである。同じく、憲法に規定されている検閲の禁止及び通信の秘密から、サイトブロッキングのような技術的検閲の禁止を通信法に法律レベルで明文で書き込むことを検討するべきである。

e)プロバイダー責任制限法の改正検討について、
 総合的な対策メニューにはプロバイダー責任制限法の改正検討についても記載されている。

 このプロバイダー責任制限法の改正について、総務省で検討が行われ、2020年12月に発信者情報開示の在り方に関する研究会の最終とりまとめが公表された後、改正プロバイダー責任制限法が2021年4月21日に成立し、2022年10月1日から施行されている。

 この改正プロバイダー責任制限法は発信者情報開示のため原則非公開の非訟手続きを新設している。しかし、これは今までの通常の裁判による発信者情報開示とほぼ同様の手続きを非訟手続きとして規定しただけのものであって、かえって発信者情報開示に関する手続きの不透明性や複雑性が増し、いたずらに今の状況を混乱させるだけで、発信者の保護はおろか権利侵害の救済にも繋がらない懸念がある。

 今後その運用を注視し、やはり混乱等が見られる様であれば、発信者情報の開示は、通信の秘密といった重要な国民の権利に関するものであるから、原則公開の訴訟手続によらなければならないものであるという事を念頭に、この新しい非訟手続きを廃止し、通常の裁判による発信者情報開示の拡充や迅速化の様な真に実効性のある検討を行うべきである。

 その後、2023年の総務省のプラットフォームサービスに関する研究会及びそのワーキンググループにおける検討を経て、現在、プロバイダー責任制限法改正案が国会に提出されている。プロバイダー責任制限法はあらゆるインターネットサービスプロバイダーの責任の制限と裁判手続きを通じた発信者情報の開示をそもそもの目的とするものであるから、大手プラットフォーマーに対する取組の促進は新法による事が望ましかったと考えるが、総務省における検討が、憲法で禁止されている検閲か、表現の自由に関する過度の制約となる恐れの極めて強い、新しい強力な法規制による網羅的な情報の監視や削除の強制に慎重な姿勢を示しつつ、誹謗中傷対策に関し、基本的に自主的な取組として、一週間程度以内に速やかに必要な削除が行われるよう、削除手続きに関する運用の整備とその透明化を一定の規模以上のプラットフォーマーに促すとした事に賛同するとともに、その事を反映した上記のプロバイダー責任制限法改正案の早期成立を期待する。ただし、その法改正後の運用についても、継続的に注視し、公表して行くべきである。

(2)その他の知財政策事項について:
a)私的録音録画補償金問題について
 権利者団体等が単なる既得権益の拡大を狙ってiPod等へ対象範囲を拡大を主張している私的録音録画補償金問題についても、補償金のそもそもの意味を問い直すことなく、今の補償金の矛盾を拡大するだけの私的録音録画補償金の対象拡大を絶対にするべきではないにも関わらず、文化庁は、実質的にブルーレイを私的録音録画補償金の対象とする著作権法施行令改正について、2022年8月から9月にかけて意見募集を行い、その後意見募集の結果について極めて恣意的にまとめた回答を出しただけで、この施行令改正の閣議決定を2022年10月21日に強行した。

 文化庁の過去の文化審議会著作権分科会における数年の審議において、補償金のそもそもの意義についての意義が問われたが、文化庁が、天下り先である権利者団体のみにおもねり、この制度に関する根本的な検討を怠った結果、特にアナログチューナー非対応録画機への課金について私的録音録画補償金管理協会と東芝間の訴訟に発展した。ブルーレイ課金・アナログチューナー非搭載録画機への課金について、権利者団体は、ダビング10への移行によってコピーが増え自分たちに被害が出ると大騒ぎをしたが、移行後10年以上経った今現在においても、ダビング10の実施による被害増を証明するに足る具体的な証拠は全く示されておらず、ブルーレイ課金・アナログチューナー非搭載録画機への課金に合理性があるとは到底思えない。わずかに緩和されたとは言え、今なお地上デジタル放送にはダビング10という不当に厳しいコピー制限がかかったままである。こうした実質的に全国民に転嫁されるコストで不当に厳しい制限を課している機器と媒体にさらに補償金を賦課しようとするのは、不当の上塗りである。

 なお、世界的に見ても、メーカーや消費者が納得して補償金を払っているということはカケラも無く、権利者団体がその政治力を不当に行使し、歪んだ「複製=対価」の著作権神授説に基づき、不当に対象を広げ料率を上げようとしているだけというのがあらゆる国における実情である。表向きはどうあれ、大きな家電・PCメーカーを国内に擁しない欧州各国は、私的録音録画補償金制度を、外資から金を還流する手段、つまり、単なる外資規制として使っているに過ぎない。この制度における補償金の対象・料率に関して、具体的かつ妥当な基準はどこの国を見ても無いのであり、この制度は、ほぼ権利者団体の際限の無い不当な要求を招き、莫大な社会的コストの浪費のみにつながっている。機器・媒体を離れ音楽・映像の情報化が進む中、「複製=対価」の著作権神授説と個別の機器・媒体への賦課を基礎とする私的録音録画補償金は、既に時代遅れのものとなりつつあり、その対象範囲と料率のデタラメさが、デジタル録音録画技術の正常な発展を阻害し、デジタル録音録画機器・媒体における正常な競争市場を歪めているという現実は、補償金制度を導入したあらゆる国において、問題として明確に認識されなくてはならないことである。

 今まで積み重ねられてきた、判例、保護利用小委員会などの審議会における議論、様々な関係者の意見の全てを愚弄する、2022年の不当な政令改正は到底納得できるものではない。ブルーレイレコーダーとディスクを私的録音録画補償金の対象とする事について今に至るも妥当な根拠は何一つ見出せない。

 今まで知財本部及び文化庁に提出した意見の通り、私は一国民、一個人、一消費者、一利用者・ユーザーとして到底納得の行かない私的録音録画補償金の対象拡大になお断固反対する。

 この政令改正の意見募集などで知財計画の記載も持ち出されており、知財本部・事務局も絡んでいるとの話も聞かれるが、本当にそうであるならば知財本部・事務局もこの様な不当な政令改正に加担した事を猛省し、その過ちを認め、日本政府として速やかに方針を改めるべきである。

 文化庁に集まった2406件のこの政令改正に関する意見の全文を速やかに公表するとともに、政令を元に戻す閣議決定を行う事を私は求める。その上で、中立的な第三者による調査により、前提となっていた旧来の形の私的録音録画自体もはや時代遅れになり少なくなっているという事を示し、全関係者が参加する公開の場で議論し、私的録音録画補償金制度は歴史的役割を終えたものとして完全に廃止するとの結論を出すべきである。

b)秘密特許制度(経済安保法案の特許非公開関連部分)について
 2022年2月にとりまとめられた経済安全保障法制に関する有識者会議の提言に基づく、秘密特許制度(特許非公開制度)を含む経済安全保障法案が2022年5月11日に国会で可決・成立し、2024年5月1日の施行を待つ状態にある。

 秘密とするかどうかの保全審査の対象となる技術分野は政令でかなり絞り込まれており、影響を受ける特許出願はかなり限定的なものになると思うが、この法律により導入されようとしている秘密特許制度は、論文等の研究成果の公表は自由という前提と矛盾を来しており、その根拠となる立法事実があるのか、「公にすることにより外部から行われる行為によって国家及び国民の安全を損なう事態を生ずるおそれが大きい発明」についてまともに判断できるのか、その様なものが今の日本で本当に出願されているのか、出願され得るのか、罰則までつける事が妥当かなど、そもそも大いに疑わしいものである。

 この秘密特許制度の妥当性の検証を可能とするため、今後、その運用について単に件数の様な統計情報だけでなく具体的かつ詳細な情報公開をして行くべきである。

c)環太平洋経済連携協定(TPP)などの経済連携協定(EPA)に関する取組について
 TPP協定については、2015年10月に大筋合意が発表され、文化庁、知財本部の検討を経て、11月にTPP総合対策本部でTPP関連政策大綱が決定され、さらに2016年2月に署名され、3月に関連法案の国会提出がされ、11月の臨時国会で可決・成立し、2017年1月20日に参加国として初めての国内手続きの完了に関する通報が行われた。

 しかし、この国内手続きにおいて、日本政府は、2015年10月に大筋合意の概要のみを公表し、11月のニュージーランド政府からの協定条文の英文公表時も全章概要を示したのみで、その後2ヶ月も経って2016年1月にようやく公式の仮訳を公表するなど、TPP協定の内容精査と政府への意見提出の時間を国民に実質与えない極めて姑息かつ卑劣なやり方を取っていたと言わざるを得ない。

 そして、公開された条文によって今までのリーク文書が全て正しかったことはほぼ証明されており、TPP協定は確かに著作権の保護期間延長、DRM回避規制強化、法定賠償制度、著作権侵害の非親告罪化などを含んでいる。今ですら不当に長い著作権保護期間のこれ以上の延長など本来論外だったものである。

 その後、日本政府は、アメリカ抜きの11カ国でのTPP11協定を推進し、2017年11月に大筋合意が発表され、その中で最もクリティカルな部分である著作権と特許の保護期間延長とDRM規制の強化の部分が凍結さたにもかかわらず、これらの事項を含む国内関連法改正案を2018年3月に国会に提出し(6月に可決・成立)、2018年12月のTPP11協定の発効とともに施行するという戦後最大級の愚行をなした。このようになし崩しで極めて危険な法改正がなされたことを私は一国民として強く非難する。

 2017年12月には、同じく著作権の保護期間延長を含む日EU(欧)EPA交渉も妥結され、2018年2月に発効している。しかし、この日欧EPA交渉もTPP協定同様の姑息かつ卑劣な秘密交渉で決められたものである。その内容についてほとんど何の説明もないままに著作権の保護期間延長のような国益の根幹に関わる点について日本政府は易々と譲歩した。これは完全に国民をバカにしているとしか言いようがない。

 2020年9月に大筋合意され、2021年1月に発効している、同じく著作権の保護期間延長を含む日英EPAについても同様である。

 これらのTPP協定、日欧EPA及び日英EPAについてその内容の見直しを各加盟国に求めること及び著作権の保護期間の短縮について速やかに検討を開始することを私は求める。

 また、TPP交渉や日欧EPA交渉のような国民の生活に多大の影響を及ぼす国際交渉が政府間で極秘裏に行われたことも大問題である。国民一人一人がその是非を判断できるよう、途中経過も含めその交渉に関する情報をすべて速やかに公開するべきである。

d)DRM回避規制について
 経産省と文化庁の主導により無意味にDRM回避規制を強化する不正競争防止法と著作権法の改正案がそれぞれ以前国会を通され、2018年に不正競争防止法がさらに改正され、2020年の改正著作権法にも同様の事項が含まれているが、これらの法改正を是とするに足る立法事実は何一つない。不正競争防止法と著作権法でDRM回避機器等の提供等が規制され、著作権法でコピーコントロールを回避して行う私的複製まで違法とされ、十二分以上に規制がかかっているのであり、これ以上の規制強化は、ユーザーの情報アクセスに対するリスクを不必要に高める危険なものとしかなり得ない。

 特に、DRM回避規制に関しては、有害無益な規制強化の検討ではなく、まず、私的なDRM回避行為自体によって生じる被害は無く、個々の回避行為を一件ずつ捕捉して民事訴訟の対象とすることは困難だったにもかかわらず、文化庁の片寄った見方から一方的に導入されたものである、私的な領域でのコピーコントロール回避規制(著作権法第30条第1項第2号)の撤廃の検討を行うべきである。コンテンツへのアクセスあるいはコピーをコントロールしている技術を私的な領域で回避しただけでは経済的損失は発生し得ず、また、ネットにアップされることによって生じる被害は公衆送信権によって既にカバーされているものであり、その被害とDRM回避やダウンロードとを混同することは絶対に許されない。それ以前に、私法である著作権法が、私的領域に踏み込むということ自体異常なことと言わざるを得ない。何ら立法事実の変化がない中、ドサクサ紛れに通された、先般の不正競争防止法改正によるDRM規制の強化や、以前の著作権法改正で導入されたアクセスコントロール関連規制の追加等について、速やかに元に戻す検討がなされるべきである。

 TPP協定にはDRM回避規制の強化も含まれており、上で書いた通り、これ以上のDRM回避規制の強化がされるべきではなく、この点でも私はTPP協定の見直しを求める。

e)海賊版対策条約(ACTA)について
 ACTAを背景に経産省及び文化庁の主導により無意味にDRM回避規制を強化する不正競争防止法及び著作権法の改正案が以前国会を通され、ACTA自体も国会で批准された。しかし、このようなユーザーの情報アクセスに対するリスクを不必要に高める危険なものとしかなり得ない規制強化条項を含む条約の交渉、署名及び批准は何ら国民的なコンセンサスが得られていない中でなされており、私は一国民としてACTAに反対する。今なおACTAの批准国は日本しかなく、日本は無様に世界に恥を晒し続けている。もはやACTAに何ら意味はなく、日本は他国への働きかけを止めるとともに自ら脱退してその失敗を認めるべきである。

f)一般フェアユース条項の導入について
 2018年に個別の権利制限を拡充する著作権法改正がなされており、これはその限りにおいて評価できるものではあるが、本当の意味で柔軟な一般フェアユース条項を入れるものではない。

 一般フェアユース条項については、一から再検討を行い、ユーザーに対する意義からも、アメリカ等と遜色ない形で一般フェアユース条項を可能な限り早期に導入するべきである。特に、インターネットのように、ほぼ全国民が利用者兼権利者となり得、考えられる利用形態が発散し、個別の規定では公正利用の類型を拾い切れなくなるところでは、フェアユースのような一般規定は保護と利用のバランスを取る上で重要な意義を持つものである。

 今後の検討によっても幾つかの個別の権利制限が追加される可能性があるが、これらはあった方が良いものとは言え、到底一般フェアユース条項と言うに足るものではなく、これでは著作権をめぐる今の混迷状況が変わることはない。

 著作物の公正利用には変形利用もビジネス利用も考えられ、このような利用も含めて著作物の公正利用を促すことが、今後の日本の文化と経済の発展にとって真に重要であることを考えれば、不当にその範囲を不当に狭めるべきでは無く、その範囲はアメリカ等と比べて遜色の無いものとされるべきである。ただし、フェアユースの導入によって、私的複製の範囲が縮小されることはあってはならない。

 また、「まねきTV」事件などの各種判例からも、ユーザー個人のみによって利用されるようなクラウド型サービスまで著作権法上ほぼ違法とされてしまう状況に日本があることは明らかであり、このような状況は著作権法の趣旨に照らして決して妥当なことではない。ユーザーが自ら合法的に入手したコンテンツを私的に楽しむために利用することに著作権法が必要以上に介入することが許されるべきではなく、個々のユーザーが自らのためのもに利用するようなクラウド型サービスにまで不必要に著作権を及ぼし、このような技術的サービスにおけるトランザクションコストを過大に高め、その普及を不当に阻害することに何ら正当性はない。この問題がクラウド型サービス固有の問題でないのはその通りであるが、だからといって法改正の必要性がなくなる訳ではない。著作権法の条文及びその解釈・運用が必要以上に厳格に過ぎクラウド型サービスのような技術の普及が不当に阻害されているという日本の悲惨な現状を多少なりとも緩和するべく、速やかに問題を再整理し、アメリカ等と比べて遜色の無い範囲で一般フェアユース条項を導入し、同時にクラウド型サービスなどについてもすくい上げられるようにするべきである。

 権利を侵害するかしないかは刑事罰がかかるかかからないかの問題でもあり、公正という概念で刑事罰の問題を解決できるのかとする意見もあるようだが、かえって、このような現状の過剰な刑事罰リスクからも、フェアユースは必要なものと私は考える。現在親告罪であることが多少セーフハーバーになっているとはいえ、アニメ画像一枚の利用で別件逮捕されたり、セーフハーバーなしの著作権侵害幇助罪でサーバー管理者が逮捕されたりすることは、著作権法の主旨から考えて本来あってはならないことである。政府にあっては、著作権法の本来の主旨を超えた過剰リスクによって、本来公正として認められるべき事業・利用まで萎縮しているという事態を本当に深刻に受け止め、一刻も早い改善を図ってもらいたい。

 個別の権利制限規定の迅速な追加によって対処するべきとする意見もあるが、文化庁と癒着権利者団体が結託して個別規定すらなかなか入れず、入れたとしても必要以上に厳格な要件が追加されているという惨憺たる現状において、個別規定の追加はこの問題における真の対処たり得ない。およそあらゆる権利制限について、文化庁と権利者団体が結託して、全国民を裨益するだろう新しい権利制限を潰すか、極めて狭く使えないものとして来たからこそ、今一般規定が社会的に求められているのだという、国民と文化の敵である文化庁が全く認識していないだろう事実を、政府・与党は事実としてはっきりと認めるべきである。

g)コピーワンス・ダビング10・B-CAS問題について
 私はコピーワンスにもダビング10にも反対する。そもそも、この問題は、放送局・権利者にとっては、視聴者の利便性を著しく下げることによって、一旦は広告つきながらも無料で放送したコンテンツの市場価格を不当につり上げるものとして機能し、国内の大手メーカーとっては、B-CASカードの貸与と複雑な暗号システムを全てのテレビ・録画機器に必要とすることによって、中小・海外メーカーに対する参入障壁として機能するB-CASシステムの問題を淵源とするのであって、このB-CASシステムと独禁法の関係を検討するということを知財計画2024では明記してもらいたい。検討の上B-CASシステムが独禁法違反とされるなら、速やかにその排除をして頂きたい。また、無料の地上放送において、逆にコピーワンスやダビング10のような視聴者の利便性を著しく下げる厳格なコピー制御が維持されるのであれば、私的録画補償金に存在理由はなく、これを速やかに廃止するべきである。

h)著作権検閲・ストライクポリシーについて
 ファイル共有ソフトを用いて著作権を侵害してファイル等を送信していた者に対して警告メールを送付することなどを中心とする電気通信事業者と権利者団体の連携による著作権侵害対策が警察庁、総務省、文化庁などの規制官庁が絡む形で行われており、警察によってファイル共有ネットワークの監視も行われているが、このような対策は著作権検閲に流れる危険性が極めて高い。

 フランスで導入が検討された、警告メールの送付とネット切断を中心とする、著作権検閲機関型の違法コピー対策である3ストライクポリシーは、2009年6月に、憲法裁判所によって、インターネットのアクセスは、表現の自由に関係する情報アクセスの権利、つまり、最も基本的な権利の1つとしてとらえられるとされ、著作権検閲機関型の3ストライクポリシーは、表現の自由・情報アクセスの権利やプライバシーといった他の基本的な権利をないがしろにするものとして、真っ向から否定されている。ネット切断に裁判所の判断を必須とする形で導入された変形ストライク法も何ら効果を上げることなく、フランスでは今もストライクポリシーについて見直しの検討が行われており、2013年7月にはネット切断の罰が廃止されている。日本においては、このようなフランスにおける政策の迷走を他山の石として、このように表現の自由・情報アクセスの権利やプライバシーといった他の基本的な権利をないがしろにする対策を絶対に導入しないこととするべきであり、警察庁などが絡む形で検討されている違法ファイル共有対策についても、通信の秘密やプライバシー、情報アクセス権等の国民の基本的な権利をきちんと尊重する形で進めることが担保されなくてはならない。

i)著作権法へのセーフハーバー規定の導入について
 動画投稿サイト事業者がJASRACに訴えられた「ブレイクTV」事件や、レンタルサーバー事業者が著作権幇助罪で逮捕され、検察によって姑息にも略式裁判で50万円の罰金を課された「第(3)世界」事件や、1対1の信号転送機器を利用者からほぼ預かるだけのサービスが放送局に訴えられ、最高裁判決で違法とされた「まねきTV」事件等を考えても、今現在、カラオケ法理の適用範囲はますます広く曖昧になり、間接侵害や著作権侵害幇助のリスクが途方もなく拡大し、甚大な萎縮効果・有害無益な社会的大混乱が生じかねないという非常に危険な状態がなお続いている。間接侵害事件や著作権侵害幇助事件においてネット事業者がほぼ直接権利侵害者とみなされてしまうのでは、プロバイダー責任制限法によるセーフハーバーだけでは不十分であり、間接侵害や著作権侵害幇助罪も含め、著作権侵害とならない範囲を著作権法上きちんと確定することは喫緊の課題である。ただし、このセーフハーバーの要件において、標準的な仕組み・技術や違法性の有無の判断を押しつけるような、権利侵害とは無関係の行政機関なり天下り先となるだろう第3者機関なりの関与を必要とすることは、検閲の禁止・表現の自由等の国民の権利の不当な侵害に必ずなるものであり、絶対にあってはならないことである。

 知財計画2024において、プロバイダに対する標準的な著作権侵害技術導入の義務付け等を行わないことを合わせ明記するとともに、間接侵害や刑事罰・著作権侵害幇助も含め著作権法へのセーフハーバー規定の速やかな導入を検討するとしてもらいたい。この点に関しては、逆に、検閲の禁止や表現の自由の観点から技術による著作権検閲の危険性の検討を始めてもらいたい。

j)二次創作規制の緩和について
 2014年8月のクールジャパン提言の第13ページにおいて、「クリエイティビティを阻害している規制についてヒアリングし規制緩和する。コンテンツの発展を阻害する二次創作規制、ストリートパフォーマンスに関する規制など、表現を限定する規制を見直す。」と、二次創作に関する規制緩和を行う事が明確に記載されていた。

 二次創作が日本の文化的創作の原動力の一つになっており、その推進のために現状の規制を緩和する必要がある事は今も妥当する事であって、インターネット上の創作活動も含む日本の文化とそれに基づく産業のさらなる発展の事を考えると、10年近く前のものであるが、上記の提言は今現在も何らその意味を失っていないどころか、さらに重要性を増していると言っても過言ではない。

 先の新たなクールジャパン戦略の策定に向けた意見募集において、上記の二次創作規制を緩和するという記載を取り入れつつ、さらに具体的に、二次創作規制の緩和のために必須の権利制限として、風刺やパロディ、パスティーシュのための権利制限を著作権法に導入するとともに、一般フェアユース条項の導入も速やかに検討すると明記するべきであるとの意見を出したが、同じく二次創作規制を緩和するという記載を知財計画2024においてもそのまま取り入れ、政府としてこのような規制の緩和を強力に推進することを重ねてきちんと示すべきである。

k)著作権等に関する真の国際動向について国民へ知らされる仕組みの導入及び文化庁ワーキンググループの公開について
 WIPO等の国際機関にも、政府から派遣されている者はいると思われ、著作権等に関する真の国際動向について細かなことまで即座に国民へ知らされる仕組みの導入を是非検討してもらいたい。

 また、2013年からの著作物等の適切な保護と利用・流通に関するワーキングチーム及び2015年からの新たな時代のニーズに的確に対応した制度等の整備に関するワーキングチームの審議は公開とされたが、文化庁はワーキングチームについて公開審議を原則とするにはなお至っていない。上位の審議会と同様今後全てのワーキンググループについて公開審議を原則化するべきである。

l)天下りについて
 以前文部科学省の天下り問題が大きく報道されたが、知財政策においても、天下り利権が各省庁の政策を歪めていることは間違いなく、知財政策の検討と決定の正常化のため、文化庁から著作権関連団体への、総務省から放送通信関連団体・企業への、警察庁からインターネットホットラインセンター他各種協力団体・自主規制団体への天下りの禁止を知財本部において決定して頂きたい。(これらの省庁は特にひどいので特に名前をあげたが、他の省庁も含めて決定してもらえるなら、それに超したことはない。)

(3)その他一般的な情報・ネット・表現規制について
 知財計画改訂において、一般的な情報・ネット・表現規制に関する項目は削除されているが、常に一方的かつ身勝手な主張を繰り広げる自称良識派団体が、意味不明の理屈から知財とは本来関係のない危険な規制強化の話を知財計画に盛り込むべきと主張をしてくることが十分に考えられるので、ここでその他の危険な一般的な情報・ネット・表現規制強化の動きに対する反対意見も述べる。今後も、本来知財とは無関係の、一般的な情報・ネット・表現規制に関する項目を絶対に知財計画に盛り込むことのないようにしてもらいたい。

a)青少年ネット規制法・出会い系サイト規制法について
 そもそも、青少年ネット規制法は、あらゆる者から反対されながら、有害無益なプライドと利権を優先する一部の議員と官庁の思惑のみで成立したものであり、速やかに廃止が検討されるべきものである。また、出会い系サイト規制法の改正は、警察庁が、どんなコミュニケーションサイトでも人は出会えるという誰にでも分かることを無視し、届け出制の対象としては事実上定義不能の「出会い系サイト事業」を定義可能と偽り、改正法案の閣議決定を行い、法案を国会に提出したものであり、他の重要法案と審議が重なる中、国会においてもその本質的な問題が見過ごされて可決され、成立したものである。憲法上の罪刑法定主義や検閲の禁止にそもそも違反している、この出会い系サイト規制法の改正についても、今後、速やかに元に戻すことが検討されるべきである。

b)児童ポルノ規制・サイトブロッキングについて
 児童ポルノ法規制強化問題・有害サイト規制問題における自称良識派団体の主張は、常に一方的かつ身勝手であり、ネットにおける文化と産業の発展を阻害するばかりか、インターネットの単純なアクセスすら危険なものとする非常識なものばかりである。今後は、このような一方的かつ身勝手な規制強化の動きを規制するため、憲法の「表現の自由」に含まれ、国際人権B規約にも含まれている国民の「知る権利」を、あらゆる公開情報に安全に個人的にアクセスする権利として、通信法に法律レベルで明文で書き込むべきである。同じく、憲法に規定されている検閲の禁止から、技術的な検閲やサイトブロッキングのような技術的検閲の禁止を通信法に法律レベルで明文で書き込むべきである。

 閲覧とダウンロードと取得と所持の区別がつかないインターネットにおいては、例え児童ポルノにせよ、情報の単純所持や取得の規制は有害無益かつ危険なもので、憲法及び条約に規定されている「知る権利」を不当に害するものとなる。「自身の性的好奇心を満たす目的で」、積極的あるいは意図的に画像を得た場合であるなどの限定を加えたところで、エスパーでもない限りこのような積極性を証明することも反証することもできないため、このような情報の単純所持や取得の規制の危険性は回避不能であり、思想の自由や罪刑法定主義にも反する。繰り返し取得としても、インターネットで2回以上他人にダウンロードを行わせること等は技術的に極めて容易であり、取得の回数の限定も、何ら危険性を減らすものではない。

 児童ポルノ規制の推進派は常に、提供による被害と単純所持・取得を混同する狂った論理を主張するが、例えそれが児童ポルノであろうと、情報の単純所持ではいかなる被害も発生し得ない。現行法で、ネット上であるか否かにかかわらず、提供及び提供目的の所持が規制されているのであり、提供によって生じる被害と所持やダウンロード、取得、収集との混同は許され得ない。そもそも、最も根本的なプライバシーに属する個人的な情報所持・情報アクセスに関する情報を他人が知ることは、通信の秘密や情報アクセスの権利、プライバシーの権利等の基本的な権利からあってはならないことである。

 アニメ・漫画・ゲームなどの架空の表現に対する規制対象の拡大も議論されているが、このような対象の拡大は、児童保護という当初の法目的を大きく逸脱する、異常規制に他ならない。アニメ・漫画・ゲームなどの架空の表現において、いくら過激な表現がなされていようと、それが現実の児童被害と関係があるとする客観的な証拠は何一つない。いまだかつて、この点について、単なる不快感に基づいた印象批評と一方的な印象操作調査以上のものを私は見たことはないし、虚構と現実の区別がつかないごく一部の自称良識派の単なる不快感など、言うまでもなく一般的かつ網羅的な表現規制の理由には全くならない。アニメ・漫画・ゲームなどの架空の表現が、今の一般的なモラルに基づいて猥褻だというのなら、猥褻物として取り締まるべき話であって、それ以上の話ではない。どんな法律に基づく権利であれ、権利の侵害は相対的にのみ定まるものであり、実際の被害者の存在しない創作物・表現に対する規制は何をもっても正当化され得ない。民主主義の最重要の基礎である表現の自由や言論の自由、思想の自由等々の最も基本的な精神的自由そのものを危うくすることは絶対に許されない。この点で、2012年6月にスウェーデンで漫画は児童ポルノではないとする最高裁判決が出されたことなども注目されるべきである。

 単純所持規制にせよ、創作物規制にせよ、両方とも1999年当時の児童ポルノ法制定時に喧々囂々の大議論の末に除外された規制であり、規制推進派が何と言おうと、これらの規制を正当化するに足る立法事実の変化はいまだに何一つない。

 既に、警察などが提供するサイト情報に基づき、統計情報のみしか公表しない不透明な中間団体を介し、児童ポルノアドレスリストの作成が行われ、そのリストに基づいて、ブロッキング等が行われているが、いくら中間に団体を介そうと、一般に公表されるのは統計情報に過ぎす、児童ポルノであるか否かの判断情報も含め、アドレスリストに関する具体的な情報は、全て閉じる形で秘密裏に保持されることになるのであり、インターネット利用者から見てそのリストの妥当性をチェックすることは不可能であり、このようなアドレスリストの作成・管理において、透明性・公平性・中立性を確保することは本質的に完全に不可能である。このようなリストに基づくブロッキング等は、自主的な取組という名目でいくら取り繕おうとも、憲法に規定されている表現の自由(知る権利・情報アクセスの権利を含む)や検閲の禁止といった国民の基本的な権利を侵害するものとならざるを得ないのであり、小手先の運用変更などではどうにもならない。

 児童ポルノ規制法に関しては、提供及び提供目的での所持が禁止されているのであるから、本当に必要とされることはこの規制の地道なエンフォースであって有害無益かつ危険極まりない規制強化の検討ではない。DVD販売サイトなどの海外サイトについても、本当に児童ポルノが販売されているのであれば、速やかにその国の警察に通報・協力して対処すべきだけの話であって、それで対処できないとするに足る具体的根拠は全くない。警察自らこのような印象操作で規制強化のマッチポンプを行い、警察法はおろか憲法の精神にすら違背していることについて警察庁は恥を知るべきである。例えそれが何であろうと、情報の単純所持や単なる情報アクセスではいかなる被害も発生し得えないのであり、自主的な取組という名目でいくら取り繕おうとも、憲法に規定されている表現の自由(知る権利・情報アクセスの権利を含む)や検閲の禁止といった国民の基本的な権利を侵害するものとならざるを得ないサイトブロッキングは即刻排除するべきであり、そのためのアドレスリスト作成管理団体として設立された、インターネットコンテンツセーフティ協会は即刻その解散が検討されてしかるべきである。

 なお、民主主義の最重要の基礎である表現の自由に関わる問題において、一方的な見方で国際動向を決めつけることなどあってはならないことであり、欧米においても、情報の単純所持規制やサイトブロッキングの危険性に対する認識はネットを中心に高まって来ていることは決して無視されてはならない。例えば、欧米では既にブロッキングについてその恣意的な運用によって弊害が生じていることや、アメリカにおいても、2009年に連邦最高裁で児童オンライン保護法が違憲として完全に否定され、2011年6月に連邦最高裁でカリフォルニア州のゲーム規制法が違憲として否定されていること、ドイツで児童ポルノサイトブロッキング法は検閲法と批判され、最終的に完全に廃止されたことなども注目されるべきである(https://www.zdnet.de/41558455/bundestag-hebt-zensursula-gesetz-endgueltig-auf/参照)。スイスの2009年の調査でも、2002年に児童ポルノ所持で捕まった者の追跡調査を行っているが、実際に過去に性的虐待を行っていたのは1%、6年間の追跡調査で実際に性的虐待を行ったものも1%に過ぎず、児童ポルノ所持はそれだけでは、性的虐待のリスクファクターとはならないと結論づけており、児童ポルノの単純所持規制・ブロッキングの根拠は完全に否定されているのである(https://bmcpsychiatry.biomedcentral.com/articles/10.1186/1471-244X-9-43参照)。欧州連合において、インターネットへのアクセスを情報の自由に関する基本的な権利として位置づける動きがあることも見逃されてはならない。政府・与党内の検討においては、このような国際動向もきちんと取り上げるべきである。

 そして、単純所持規制に相当し、上で書いた通り問題の大きい性的好奇心目的所持罪を含む児童ポルノの改正法案が国会で2014年6月18日に可決・成立し、同年6月25日に公布され、2015年7月15日に施行された。この問題の大きい性的好奇心目的所持罪を規定する児童ポルノ規制法第7条第1項は即刻削除するべきであり、合わせ、政府・与党においては、児童ポルノを対象とするものにせよ、いかなる種類のものであれ、情報の単純所持・取得規制・ブロッキングは極めて危険な規制であるとの認識を深め、このような規制を絶対に行わないこととして、危険な法改正案が2度と与野党から提出されることが無いようにするべきである。

 さらに、性的好奇心目的所持罪を規定する児童ポルノ規制法第7条第1項を削除するとともに、児童ポルノの単純所持規制・創作物規制といった非人道的な規制を導入している諸国は即刻このような規制を廃止するべきと、そもそも最も根本的なプライバシーに属し、何ら実害を生み得ない個人的な情報所持・情報アクセスに関する情報を他人が知ること自体、通信の秘密や情報アクセスの権利、プライバシーの権利等の国際的かつ一般的に認められている基本的な権利からあってはならないことであると、また、法的拘束力はないが、明らかに表現の自由に抵触する規制を推奨している、2019年9月の児童の権利委員会による児童ポルノ規制に関するガイドラインは全面的に見直すべきであると、日本政府から国際的な場において各国に積極的に働きかけてもらいたい。

 また、様々なところで検討されている有害サイト規制についても、その規制は表現に対する過度広汎な規制で違憲なものとしか言いようがなく、各種有害サイト規制についても私は反対する。

c)東京都青少年健全育成条例他、地方条例の改正による情報規制問題について
 東京都でその青少年健全育成条例の改正が検討され、非実在青少年規制として大騒ぎになったあげく、2010年12月に、当事者・関係者の真摯な各種の意見すら全く聞く耳を持たれず、数々の問題を含む条例案が、都知事・東京都青少年・治安対策本部・自公都議の主導で都議会で通された。通過版の条例改正案も、非実在青少年規制という言葉こそ消えたものの、かえって規制範囲は非実在性犯罪規制とより過度に広汎かつ曖昧なものへと広げられ、有害図書販売に対する実質的な罰則の導入と合わせ、その内容は違憲としか言わざるを得ない内容のものである。また、この東京都の条例改正にも含まれている携帯フィルタリングの実質完全義務化は、青少年ネット規制法の精神にすら反している行き過ぎた規制である。さらに、大阪や京都などでは、児童ポルノに関して、法律を越える範囲で勝手に範囲を規定し、その単純所持等を禁止する、明らかに違憲な条例が通されるなどのデタラメが行われている。

 これらのような明らかな違憲条例の検討・推進は、地方自治体法第245条の5に定められているところの、都道府県の自治事務の処理が法令の規定に違反しているか著しく適正を欠きかつ明らかに公益を害していると認めるに足ると考えられるものであり、総務大臣から各地方自治体に迅速に是正命令を出すべきである。また、当事者・関係者の意見を完全に無視した東京都における検討など、民主主義的プロセスを無視した極めて非道なものとしか言いようがなく、今後の検討においてはきちんと民意が反映されるようにするため、地方自治法の改正検討において、情報公開制度の強化、審議会のメンバー選定・検討過程の透明化、パブコメの義務化、条例の改廃請求・知事・議会のリコールの容易化などの、国の制度と整合的な形での民意をくみ上げるシステムの地方自治に対する法制化の検討を速やかに進めてもらいたい。また、各地方の動きを見ていると、出向した警察官僚が強く関与する形で、各都道府県の青少年問題協議会がデタラメな規制強化騒動の震源となることが多く、今現在のデタラメな規制強化の動きを止めるべく、さらに、中央警察官僚の地方出向・人事交流の完全な取りやめ、地方青少年問題協議会法の廃止、問題の多い地方青少年問題協議会そのものの解散の促進についても速やかに検討を開始するべきである。

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2024年1月21日 (日)

第489回:新たなクールジャパン戦略の策定に向けた意見募集(2月10日〆切)に対する提出パブコメ

 知財本部から2月10日〆切で行われている新たなクールジャパン戦略の策定に向けた意見募集(知財本部HPの意見募集要項(pdf)、電子政府HPの意見募集ページ参照)に対して意見を提出した。

 私の提出意見の内容は、今まで知財計画パブコメやブログでパロディ等に関する権利制限について書いて来た事のまとめであり、特に目新しい事を書いているという事はないが、念のため参考としてここに載せておく。

(国際動向について提出意見の中ではかなり簡単に書いているが、より詳しく知りたい方は、2014年のイギリス著作権法改正について第310回、2019年の欧州新著作権指令について第408回、2019年7月29日の楽曲サンプリングに関する欧州司法裁の判決について第411回、2021年のドイツ著作権法改正について第441回、2022年4月26日の欧州新著作権指令に関する欧州司法裁の判決について第459回、2023年9月14日の楽曲サンプリングに関する質問を再付託するドイツ最高裁の決定について第484回をそれぞれ御覧頂ければと思う。)

 また、つい先週1月15日の文化審議会・著作権分科会・法制度小委員会の第6回において、パブコメ前の最終案であろうAIと著作権に関する考え方についての素案(pdf)見え消し版(pdf)も参照)が示されている。前回取り上げたバージョンから大きな方向性の変更はないので、パブコメに掛かり次第また提出意見を載せる形にするかも知れないが、次回はこの素案について取り上げる予定である。

(2024年1月28日の追記:そういえばリンクを張り忘れていたが、2014年8月のクールジャパン提言については第319回、2019年9月のクールジャパン戦略については第413回をそれぞれ御覧頂ければと思う。)

(以下、提出パブコメ)

《要旨》
 新たにクールジャパン戦略を作成するにあたっては、2014年8月のクールジャパン提言の二次創作規制を緩和するという記載を取り入れつつ、さらに具体的に、二次創作規制の緩和のために必須の権利制限として、風刺やパロディ、パスティーシュのための権利制限を著作権法に導入するとともに、一般フェアユース条項の導入も速やかに検討すると明記するべきである。

《全文》
 2019年9月のクールジャパン戦略で何故かなかったことにされているが、2014年8月のクールジャパン提言の第13ページにおいて、「クリエイティビティを阻害している規制についてヒアリングし規制緩和する。コンテンツの発展を阻害する二次創作規制、ストリートパフォーマンスに関する規制など、表現を限定する規制を見直す。」と、二次創作に関する規制緩和を行う事が明確に記載されていた。

 二次創作が日本の文化的創作の原動力の一つになっており、その推進のために現状の規制を緩和する必要がある事は今も妥当する事であって、インターネット上の創作活動も含む日本の文化とそれに基づく産業のさらなる発展の事を考えると、10年近く前のものであるが、上記の提言は今現在も何らその意味を失っていないどころか、さらに重要性を増していると言っても過言ではない。

 新たにクールジャパン戦略を作成するにあたっては、上記の二次創作規制を緩和するという記載を取り入れつつ、さらに具体的に、二次創作規制の緩和のために必須の権利制限として、風刺やパロディ、パスティーシュのための権利制限を著作権法に導入するとともに、一般フェアユース条項の導入も速やかに検討すると明記し、政府としてこのような創作に関する規制の緩和を強力に推進する方針を明確に示すべきである。

 また、今後の検討にあたっては、以下の様な国際動向も決して見過ごされるべきではない。

 言うまでもない事であろうが、アメリカでは昔からパロディ等に関してフェアユースが認められている。

 欧州レベルで見ても、欧州著作権指令第2001/29号において、第5条第2項(k)としてパロディ等に関する権利制限があり得る権利制限の1つとしてあげられ、欧州新著作権指令第2019/790号において、その前文70で、表現の自由との間で正しいバランスを保つためパロディ等の権利制限は強行的なものであるべき事が謳われ、第17条第7項で、加盟国はオンライン共有サービスの利用者がパロディ等のための権利制限に依拠できる事を確保しなければならないと規定され、2022年4月26日の欧州司法裁の判決でもこの権利制限の意味及び強行規定性は再確認されている。

 欧州主要国という観点で見ると、この様なパロディ等のための権利制限は、フランスには昔から存在しており、イギリスでも2014年の法改正によって導入されており、国際的に厳しい著作権法を有する事で知られたドイツにおいても、国内外における議論の高まりを受け、2021年の著作権法改正により欧州著作権指令と同様のパロディ等のための権利制限が導入されている。

 ここで、ドイツでは、楽曲サンプリングが著作権侵害となるかについて20年近く法廷紛争が続けられている。この事件において、欧州司法裁が、2019年7月29日に、聞いても再認識できない形にされた楽曲断片の利用は著作権侵害にならないとの判断を示していたが、ドイツ最高裁が、最近、2023年9月14日の決定により、欧州司令第2001/29号の第5条第3項(k)がサンプリングを含む包括条項であるのかという質問を再度付託するに至っている。

 欧州司法裁がどの様な判断を示すか次第であるが、この様なドイツの事件の事も考えると、風刺、パロディ、パスティーシュという3つの類型のみをあげる欧州型の権利制限はそれだけでは十分なものでない可能性がある。

 特に、著作物の公正利用には変形利用もビジネス利用も考えられる事、及び、インターネットのように、ほぼ全国民が利用者兼権利者となり得、考えられる利用形態が発散し、個別の規定では公正利用の類型を拾い切れなくなるところでは、フェアユースのような一般規定は保護と利用のバランスを取る上で重要な意義を持つものである事を踏まえ、欧州型のパロディ等に関する権利制限の導入に加え、アメリカ等と遜色ない形で一般フェアユース条項を可能な限り早期に導入するべきであると考える。

 なお、常に一方的かつ身勝手な主張を繰り広げる自称良識派団体が、意味不明の理屈から知財とは本来関係のない危険な規制強化の話を盛り込むべきと主張をしてくることが十分に考えられるが、知財計画同様、新たなクールジャパン戦略においても一般的な情報・ネット・表現規制に関する事が書き込まれる事は断じてあってはならない事である。

 サイトブロッキング、児童ポルノを理由とした単純所持規制や架空の創作物の規制等の一般的な情報・ネット・表現規制は、憲法により保障された基本的な権利である表現の自由、検閲の禁止、通信の秘密等に明らかに抵触し、日本の文化と産業の発展を阻害するばかりか、インターネットの単純なアクセスすら危険なものとするものであって、ひいては民主主義の最重要の基礎である表現の自由を始めとした精神的自由そのものを危うくする非常識かつ危険なものばかりである。

 政府・与党にあっては、日本の民主主義、文化とそれに基づく産業の発展の最重要の基礎は憲法に保障された表現の自由等にある事を十分に認識し、この基礎をより一層守り高めるため、上記の通り新たな表現の創作に関する規制を緩和する事のみに注力するべきである。

(誤記に関する追記)
 提出している途中で気づいたことであるが、上記意見の内、欧州著作権指令第2001/29号について、「第5条第2項(k)」と記載したのは「第5条第3項(k)」の誤記である。そのままでも意味は通じると思うが、可能であれば修正いただきたい。

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2023年12月28日 (木)

第488回:2023年の終わりに(文化庁のAIと著作権に関する考え方の素案、新秘密特許(特許非公開)制度に関するQ&A他)

 今年は大きな法改正をしたばかりの所為か、特に年末年始に掛けて知財法改正パブコメがこぞって出されるという状況にはなっていないが、1年の終わりに各省庁の動きについてまとめて取り上げておきたいと思う。

(1)文化庁のAIと著作権に関する考え方の素案
 文化庁では文化審議会・著作権分科会の下で小委員会または部会として、法制度小委員会政策小委員会使用料部会の3つが動いている。

 使用料部会では権利者不明の場合の補償金額の決定などが行われている。まだ関係者ヒアリングの段階だが、私的録音録画補償金問題も含めた対価還元のあり方について議論するらしい政策小委員会の検討についても私は要注意だと思っているが、今年最大の検討事項は法制度小委員会で検討されているAIと著作権の関係の整理と言って間違いないだろう。

 その骨子案について前回取り上げたが、12月20日の法制度小委員会の第5回で、より具体的な内容を含むAIと著作権に関する考え方について(素案)(pdf)が示された。

 長くなるが、この素案の5.から特に重要な部分を以下に抜粋する。

5.各論点について

○ 著作権法の基本的な考え方と技術的な背景を踏まえ、生成AIに関する懸念点について、以下のとおり論点が整理できるのではないか。〔〕内は骨子案の項目との対応関係

(1)学習・開発段階
(中略:「ア 検討の前提」)

イ「情報解析の用に供する場合」と享受目的が併存する場合について〔骨子案:(1)イ、キ〕
(ア)「情報解析の用に供する場合」の位置づけについて
○ 法第30条の4柱書では、「次に掲げる場合その他の当該著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合には」と規定し、その上で、第2号において「情報解析(……)の用に供する場合」を挙げている。

○ そのため、AI学習のために行われるものを含め、情報解析の用に供する場合は、法第30条の4に規定する「当該著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合」に該当すると考えられる。

(イ)非享受目的と享受目的が併存する場合について
○ 他方で、一個の利用行為には複数の目的が併存する場合もあり得るところ、法第30条の4は、「当該著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合には」と規定していることから、この複数の目的の内にひとつでも「享受」の目的が含まれていれば、同条の要件を欠くこととなる。

○ そのため、ある利用行為が、情報解析の用に供する場合等の非享受目的で行われる場合であっても、この非享受目的と併存して、享受目的があると評価される場合は、法第30条の4は適用されない。

○ 生成AIに関して、享受目的が併存すると評価される場合について、具体的には以下のような場合が想定される。
≫ ファインチューニングのうち、意図的に、学習データをそのまま出力させることを目的としたものを行うため、著作物の複製等を行う場合。
(例)いわゆる「過学習」(overfitting)を意図的に行う場合
≫ AI学習のために用いた学習データを出力させる意図は有していないが、既存のデータベースやWeb上に掲載されたデータの全部又は一部を、生成AIを用いて出力させることを目的として、著作物の内容をベクトルに変換したデータベースを作成する等の、著作物の複製等を行う場合。
(例)以下のような検索拡張生成(RAG)のうち、生成に際して著作物の一部を出力させることを目的としたもの(なお、RAGについては後掲(1)ウも参照)
≫ インターネット検索エンジンであって、単語や文章の形で入力された検索クエリをもとにインターネット上の情報を検索し、その結果をもとに文章の形で回答を生成するもの
≫ 企業・団体等が、単語や文章の形で入力された検索クエリをもとに企業・団体等の内部で蓄積されたデータを検索できるシステムを構築し、当該システムが、検索の結果をもとに文章の形で回答を生成するもの

○ これに対して、「学習データをそのまま出力させる意図までは有していないが、少量の学習データを用いて、学習データの影響を強く受けた生成物が出力されるようなファインチューニングを行うため、著作物の複製等を行う場合」に関しては、具体的事案に応じて、学習データの著作物の表現上の本質的特徴を直接感得できる生成物を出力することが目的であると評価される場合は、享受目的が併存すると考えられる。

○ 近時は、特定のクリエイターの作品である著作物のみを学習データとしてファインチューニングを行うことで、当該作品群の影響を強く受けた生成物を生成することを可能とする行為が行われており、このような行為によって特定のクリエイターの、いわゆる「作風」を容易に模倣できてしまうといった点に対する懸念も示されている。このような場合、当該作品群は、表現に至らないアイデアのレベルにおいて、当該クリエイターのいわゆる「作風」を共通して有しているにとどまらず表現のレベルにおいても、当該作品群には、これに共通する表現上の本質的特徴があると評価できる場合もあると考えられることに配意すべきである。

○ なお、生成・利用段階において、AIが学習した著作物に類似した生成物が生成される事例があったとしても、通常、このような事実のみをもって開発・学習段階における享受目的の存在を推認することまではできず、法第30条の4の適用は直ちに否定されるものではないと考えられる。他方で、生成・利用段階において、学習された著作物に類似した生成物の生成が頻発するといった事情は、開発・学習段階における享受目的の存在を推認する上での一要素となり得ると考えられる。

ウ 検索拡張生成(RAG)等について〔骨子案:(1)ウ、(2)コ〕
○ 検索拡張生成(RAG)その他の、生成AIによって著作物を含む対象データを検索し、その結果の要約等を行って回答を生成するもの(以下「RAG等」という。)については、生成に際して既存の著作物の一部を出力するものであることから、その開発のために行う著作物の複製等は、非享受目的の利用行為とはいえず、法第30条の4は適用されないと考えられる。

○ 他方で、RAG等による回答の生成に際して既存の著作物を利用することについては、法第47条の5第1項第1号又は第2号の適用があることが考えられる。ただし、この点に関しては、法第47条の5第1項に基づく既存の著作物の利用は、当該著作物の「利用に供される部分の占める割合、その利用に供される部分の量、その利用に供される際の表示の精度その他の要素に照らし軽微なもの」(軽微利用)に限って認められることに留意する必要がある。RAG等による生成に際して、この「軽微利用」の程度を超えて既存の著作物を利用する場合は、法第47条の5第1項は適用されず、原則として著作権者の許諾を得て利用する必要があると考えられる。

○ また、RAG等のために行うベクトルに変換したデータベースの作成等に伴う、既存の著作物の複製又は公衆送信については、同条第2項に定める準備行為として、権利制限規定の適用を受けることが考えられる。

【著作権者の利益を不当に害することとなる場合について】
エ 著作権者の利益を不当に害することとなる場合の具体例について〔骨子案:(1)エ〕
(ア)法第30条の4ただし書の解釈に関する考え方について
○ 法第30条の4においては、そのただし書において「当該著作物の種類及び用途並びに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。」と規定し、これに該当する場合は同条が適用されないこととされている。

○ この点に関して、本ただし書は、法第30条の4本文に規定する「当該著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合」に該当する場合にその適用可否が問題となるものであることを前提に、その該当性を検討することが必要と考えられる。

○ また、本ただし書への該当性を検討するに当たっては、著作権者の著作物の利用市場と衝突するか、あるいは将来における著作物の潜在的販路を阻害するかという観点から検討することが必要と考えられる。

(イ)アイデア等が類似するにとどまるものが大量に生成されることについて
○ 本ただし書において「当該著作物の」と規定されているように、著作権者の利益を不当に害することとなるか否かは、法第30条の4に基づいて利用される当該著作物について判断されるべきものと考えられる。
(例)AI学習のための学習データとして複製等された著作物

○ 作風や画風といったアイデア等が類似するにとどまり、既存の著作物との類似性が認められない生成物は、これを生成・利用したとしても、既存の著作物との関係で著作権侵害とはならない。また、既存の著作物とアイデア等が類似するが、表現として異なる生成物が市場において取引されたとしても、これによって直ちに当該既存の著作物の取引機会が失われるなど、市場において競合する関係とはならないと考えられる。

○ そのため、著作権法が保護する利益でないアイデア等が類似するにとどまるものが大量に生成されることにより、自らの市場が圧迫されるかもしれないという抽象的なおそれのみでは、「著作権者の利益を不当に害することとなる場合」には該当しないと考えられる。

○ なお、この点に関しては、上記イ(イ)のとおり、特定のクリエイターの作品である著作物のみを学習データとしてファインチューニングを行う場合、当該作品群が、当該クリエイターの作風を共通して有している場合については、これにとどまらず、表現のレベルにおいても、当該作品群には、これに共通する表現上の本質的特徴があると評価できる場合もあると考えられることに配意すべきである。

(中略:「(ウ)情報解析に活用できる形で整理したデータベースの著作物の例について」)

(エ)学習のための複製等を防止する技術的な措置を回避した複製について〔骨子案:(1)コ〕
○ AI学習のための著作物の複製等を防止する技術的な措置としては、現時点において既に広く行われているものが見受けられる。こうした措置をとることについては、著作権法上、特段の制限は設けられておらず、権利者やウェブサイトの管理者の判断によって自由に行うことが可能である。
(例)ウェブサイト内のファイル"robots.txt"への記述によって、AI学習のための複製を行うクローラによるウェブサイト内へのアクセスを制限する措置
(例)ID・パスワード等を用いた認証によって、ウェブサイト内へのアクセスを制限する措置

○ このような技術的な措置は、あるウェブサイト内に掲載されている多数のデータを集積して、情報解析に活用できる形で整理したデータベースの著作物として販売する際に、当該データベースの販売市場との競合を生じさせないために講じられている例がある(データベースの販売に伴う措置、又は販売の準備行為としての措置)。

○ そのため、このような技術的な措置が講じられており、当該ウェブサイト内のデータを含み、情報解析に活用できる形で整理したデータベースの著作物が将来販売される予定があることが推認される場合、この措置を回避して行うAI学習のための複製等は、当該データベースの著作物の将来における潜在的販路を阻害する行為として、通常、法第30条の4ただし書に該当し、同条による権利制限の対象とはならないと考えられる。

○ なお、このような技術的な措置が、著作権法に規定する「技術的保護手段」又は「技術的利用制限手段」に該当するか否かは、現時点において行われている技術的な措置が、従来、「技術的保護手段」又は「技術的利用制限手段」に該当すると考えられてきたものとは異なることから、今後の技術の動向も踏まえ検討すべきものと考えられる。

(オ)海賊版等の権利侵害複製物をAI学習のため複製することについて
○ インターネット上のデータが海賊版等の権利侵害複製物であるか否かは、究極的には当該複製物に係る著作物の著作権者でなければ判断は難しく、AI学習のため学習データの収集を行おうとする者にこの点の判断を求めることは、現実的に難しい場合が多いと考えられる。加えて、権利侵害複製物という場合には、漫画等を原作のまま許諾なく多数アップロードした海賊版サイトに掲載されているようなものから、SNS等において個人のユーザーが投稿する際に、引用等の権利制限規定の要件を満たさなかったもの等まで様々なものが含まれる。

○ このため、AI学習のため、インターネット上において学習データを収集する場合、収集対象のデータに、海賊版等の、著作権を侵害してアップロードされた複製物が含まれている場合もあり得る。

○ 他方で、海賊版により我が国のコンテンツ産業が受ける被害は甚大であり、リーチサイト規制を含めた海賊版対策を進めるべきことは論を待たない。文化庁においては、権利者及び関係機関による海賊版に対する権利行使の促進に向けた環境整備等、引き続き実効的かつ強力に海賊版対策に取り組むことが期待される。

○ AI開発事業者やAIサービス提供事業者においては、学習データの収集を行うに際して、海賊版を掲載しているウェブサイトから学習データを収集することで当該ウェブサイトの運営を行う者に広告収入その他の金銭的利益を生じさせるなど、当該行為が新たな海賊版の増加といった権利侵害を助長するものとならないよう十分配慮した上でこれを行うことが求められる。

○ また、後掲(2)キのとおり、生成・利用段階で既存の著作物の著作権侵害が生じた場合、AI開発事業者又はAIサービス提供事業者も、当該侵害行為の主体として責任を負う場合があり得る。ウェブサイトが海賊版等の権利侵害複製物を掲載していることを知りながら、当該ウェブサイトから学習データの収集を行うといった行為は、厳にこれを慎むべきものであり、仮にこのような行為があった場合は、当該AI開発事業者やAIサービス提供事業者が、これにより開発された生成AIにより生じる著作権侵害について、その関与の程度に照らして、規範的な行為主体として侵害の責任を問われる可能性が高まるものと考えられる(AI開発事業者又はAIサービス提供事業者の行為主体性について、後掲(2)キも参照)。

(中略:【侵害に対する措置について】「オ AI学習に際して著作権侵害が生じた際に、学習を行った事業者が受け得る措置について」、「カ AI学習に際して著作権侵害が生じた際に、権利者による差止請求等が認められ得る範囲について」)

【その他の論点について】
キ AI学習における、法第30条の4に規定する「必要と認められる限度」について〔骨子案:(1)ク〕
○ 法第30条の4では、「その必要と認められる限度において」といえることが、同条に基づく権利制限の要件とされている。

○ この点に関して、大量のデータを必要とする機械学習(深層学習)の性質を踏まえると、AI学習のために複製等を行う著作物の量が大量であることをもって、「必要と認められる限度」を超えると評価されるものではないと考えられる。

ク AI学習を拒絶する著作権者の意思表示について〔骨子案:(1)ケ〕
○ 著作権法上の権利制限規定は、①著作物利用の性質からして著作権が及ぶものとすることが妥当でないもの、②公益上の理由から著作権を制限することが必要と認められるもの、③他の権利との調整のため著作権を制限する必要のあるもの、④社会慣行として行われており著作権を制限しても著作権者の経済的利益を不当に害しないと認められるものなどについて、文化的所産の公正な利用に配慮して、著作権者の許諾なく著作物を利用できることとするものである。

○ このような権利制限規定の立法趣旨からすると、著作権者が反対の意思を示していることそれ自体をもって、権利制限規定の対象から除外されると解釈することは困難である。また、AI学習のための学習データの収集は、クローラ等のプログラムによって機械的に行われる例が多いことからすると、当該プログラムにおいて機械的に判別できない方法による意思表示があることをもって権利制限規定の対象から除外してしまうと、学習データの収集を行う者にとって不測の著作権侵害を生じさせる懸念がある。そのため、こうした意思表示があることのみをもって、法第30条の4ただし書に該当するとは考えられない。

○ 他方で、このようなAI学習を拒絶する著作権者の意思表示が、機械可読な方法で表示されている場合、上記の不測の著作権侵害を生じさせる懸念は低減される。また、このような場合、上記エ(エ)のとおり、AI学習のための著作物の複製等を防止する技術的な措置が講じられており、当該ウェブサイト内のデータを含み、情報解析に活用できる形で整理したデータベースの著作物が将来販売される予定があることが推認される場合、この措置を回避して行うAI学習のための複製等は、当該データベースの著作物の将来における潜在的販路を阻害する行為として、通常、法第30条の4ただし書に該当し、同条による権利制限の対象とはならないと考えられる。

(中略:「ケ 法30条の4以外の権利制限規定の適用について」)

(2)生成・利用段階
(中略:「ア 検討の前提」)

【著作権侵害の有無の考え方について】
イ 著作権侵害の有無の考え方について
○ 従前の裁判例では、ある作品に、既存の著作物との類似性と依拠性の両者が認められる際に、著作権侵害となるとされており、生成AIを利用した場合にこれらが認められる場合については、以下のように考えられる。

(ア)類似性の考え方について〔骨子案:(2)ク〕
○ AI生成物と既存の著作物との類似性の判断については、生成AIをどのように利用したかといった制作過程ではなく、生成物そのものが既存の著作物に類似していると認められるかのみを判断すれば良いものであることから、原則として、人間がAIを使わずに創作したものと同様に考えられる。

(イ)依拠性の考え方について〔骨子案:(2)ア、イ〕
○ 依拠性の判断については、従来の裁判例では、ある作品が、既存の著作物に類似していると認められるときに、当該作品を制作した者が、既存の著作物の表現内容を認識していたことや、同一性の程度の高さなどによりその有無が判断されてきた。特に、人間の創作活動においては、既存の著作物の表現内容を認識しえたことについて、その創作者が既存の著作物に接する機会があったかどうかなどにより推認されてきた。

○ 一方、生成AIの場合、その開発のために利用された著作物を、生成AIの利用者が認識していないが、当該著作物に類似したものが生成される場合も想定され、このような事情は、従来の依拠性の判断に影響しうると考えられる。

○ そこで、従来の人間が創作する場合における依拠性の考え方も踏まえ、生成AIによる生成行為について、依拠性が認められるのはどのような場合か、整理することとする。
① AI利用者が既存の著作物を認識していたと認められる場合
▽ 生成AIをした場合であっても、AI利用者が既存の著作物(その表現内容)を認識しており、生成AIを利用してこれと類似したものを生成させた場合は、依拠性が認められ、AI利用者による著作権侵害が成立すると考えられる。
(例)ImagetoImage(画像を生成AIに指示として入力し、生成物として画像を得る行為)のように、既存の著作物そのものや、その題号などの特定の固有名詞を入力する場合
▽ この点に関して、従来の裁判例においては、被疑侵害者の既存著作物へのアクセス可能性、すなわち既存の著作物に接する機会があったことや、類似性の程度の高さ等の間接事実により、既存の著作物の表現内容を知っていたことが推認されてきた。
▽ このような従来の裁判例を踏まえると、生成AIが利用された場合であっても、権利者としては、被疑侵害者において既存著作物へのアクセス可能性や、既存著作物への高度な類似性があること等を立証すれば、依拠性があると推認されることとなる。
②AI利用者が既存の著作物を認識していなかったが、AI学習用データに当該著作物が含まれる場合
▽ AI利用者が既存の著作物(その表現内容)を認識しておらず、かつ、当該生成AIの開発・学習段階で、当該著作物を学習していなかった場合は、当該生成AIを利用し、当該著作物に類似した生成物が生成されたとしても、これは偶然の一致に過ぎないものとして、依拠性は認められず、著作権侵害は成立しないと考えられる。
▽ 一方、AI利用者が既存の著作物(その表現内容)を認識していなかったが、当該生成AIの開発・学習段階で当該著作物を学習していた場合については、客観的に当該著作物へのアクセスがあったと認められることから、当該生成AIを利用し、当該著作物に類似した生成物が生成された場合は、通常、依拠性があったと認められ、著作権侵害になりうると考えられる。
▽ ただし、このような場合であっても、当該生成AIについて、開発・学習段階において学習に用いられた著作物が、生成・利用段階において生成されないような技術的な措置が講じられているといえること等、当該生成AIが、学習に用いられた著作物をそのまま生成する状態になっていないといえる事情がある場合には、AI利用者において当該事情を反証することにより、依拠性がないと判断される場合はあり得ると考えられる。
▽ なお、生成AIの開発・学習段階で既存の著作物を学習していた場合において、AI利用者が著作権侵害を問われた場合、後掲(2)キのとおり、当該生成AIを開発した事業者においても、著作権侵害の規範的な主体として責任を負う場合があることについては留意が必要である。

ウ 依拠性に関するAI利用者の反証と学習データについて〔骨子案:(2)イ〕
○ 上記の場合は、被疑侵害者の側で依拠性がないことの反証の必要が生じることとなるが、上記のイ②で確認したように、生成AIを利用し生成された生成物が既存の著作物に類似していた場合であって、当該生成AIの開発に当該著作物を用いていた場合は、依拠性が認められる可能性が高いと考えれることから、被疑侵害者の側が依拠性を否定するためには、当該既存著作物が学習データに含まれていないこと等を反証する必要がある。

【侵害に対する措置について】
(中略:「エ 侵害に対する措置について」、「オ 利用行為が行われた場面ごとの判断について」)

カ 差止請求として取り得る措置について〔骨子案:(2)エ〕
○ 生成AIによる生成・利用段階において著作権侵害があった場合、侵害の行為に係る著作物等の権利者は、生成AIを利用し著作権侵害をした者に対して、新たな侵害物の生成及び、すでに生成された侵害物の利用行為に対する差止請求が可能と考えられる。この他、侵害行為による生成物の廃棄の請求は可能と考えられる。

○ また、生成AIの開発事業者に対しては、著作権侵害の予防に必要な措置として、侵害物を生成した生成AIの開発に用いられたデータセットがその後もAI開発に用いられる蓋然性が高い場合には、当該データセットから、当該侵害の行為に係る著作物等の廃棄を請求することは可能と考えられる。

○ また、侵害物を生成した生成AIについて、当該生成AIによる生成によって更なる著作権侵害が生じる蓋然性が高いといえる場合には、生成AIの開発事業者に対して、当該生成AIによる著作権侵害の予防に必要な措置を請求することができると考えられる。

○ この点に関して、侵害の予防に必要な措置としては、当該侵害の行為に係る著作物等の類似物が生成されないよう、例えば、①特定のプロンプト入力については、生成をしないといった措置、あるいは、②当該生成AIの学習に用いられた著作物の類似物を生成しないといった措置等の、生成AIに対する技術的な制限を付す方法などが考えられる。

【侵害行為の責任主体について】
キ 侵害行為の責任主体について〔骨子案:(2)オ〕
○ 従来の裁判例上、著作権侵害の主体としては、物理的に侵害行為を行った者が主体となる場合のほか、一定の場合に、物理的な行為主体以外の者が、規範的な行為主体として著作権侵害の責任を負う場合がある(いわゆる規範的責任論)。

○ そこで、AI生成物の生成・利用が著作権侵害となる場合の侵害の主体の判断に
おいても、物理的な行為主体であるAI利用者のみならず、生成AIの開発や、生成AIを用いたサービス提供を行う事業者が、著作権侵害の行為主体として責任を負う場合があると考えられる。

○ この点に関して、具体的には、以下のように考えられる。
①ある特定の生成AIを用いた場合、侵害物が高頻度で生成される場合は、事業者が侵害主体と評価される可能性が高まるものと考えられる。
②事業者が、生成AIの開発・提供に当たり、当該生成AIが既存の著作物の類似物を生成する可能性を認識しているにも関わらず、当該類似物の生成を抑止する技術的な手段を施していない場合、事業者が侵害主体と評価される可能性が高まるものと考えられる。
③事業者が、生成AIの開発・提供に当たり、当該生成AIが既存の著作物の類似物を生成することを防止する技術的な手段を施している場合、事業者が侵害主体と評価される可能性は低くなるものと考えられる。
④当該生成AIが、事業者により上記の(2)キ③の手段を施されたものであるなど侵害物が高頻度で生成されるようなものでない場合においては、たとえ、AI利用者が既存の著作物の類似物の生成を意図して生成AIにプロンプト入力するなどの指示を行い、侵害物が生成されたとしても、事業者が侵害主体と評価される可能性は低くなるものと考えられる。

(中略:【その他の論点】「ク 生成指示のための生成AIへの著作物の入力について」、「ケ 権利制限規定の適用について」、「コ 学習に用いた著作物等の開示が求められる場合について」)

(3)生成物の著作物性について
(中略:「ア 整理することの意義・実益について」)

イ 生成AIに対する指示の具体性とAI生成物の著作物性との関係について〔骨子案:(3)イ〕
○ 著作権法上の従来の解釈における著作者の認定と同様に考えられ、共同著作物に関する裁判例等に照らせば、生成AIに対する指示が表現に至らないアイデアにとどまるような場合には、当該AI生成物に著作物性は認められないと考えられる。

○ また、AI生成物の著作物性は、個々のAI生成物について個別具体的な事例に応じて判断されるものであり、単なる労力にとどまらず、創作的寄与があるといえるものがどの程度積み重なっているか等を総合的に考慮して判断されるものと考えられる。例として、著作物性の判断するに当たっては、以下の①~④に示すような要素があると考えられる。
①指示・入力(プロンプト等)の分量・内容
▽ AI生成物を生成するに当たって、表現と同程度の詳細な指示は、創作的寄与があると評価される可能性を高めると考えられる。他方で、長大な指示であったとしても表現に至らない指示は、創作的寄与の判断に影響しないと考えられる。
②生成の試行回数
▽ 試行回数が多いこと自体は、創作的寄与の判断に影響しないと考えられる。他方で、①と組み合わせた試行、すなわち生成物を確認し指示・入力を修正しつつ試行を繰り返すといった場合には、著作物性が認められることも考えられる。
③複数の生成物からの選択
▽ 単なる選択行為自体は創作的寄与の判断に影響しないと考えられる。他方で、通常創作性があると考えられる行為であっても、その要素として選択行為があるものもあることから、そうした行為との関係についても考慮する必要がある。
④生成後の加筆・修正
▽ 人間が、創作的表現といえる加筆・修正を加えた部分については、通常、著作物性が認められると考えられる。もっとも、それ以外の部分についての著作物性には影響しないと考えられる。

ウ 著作物性がないものに対する保護〔骨子案:(3)ウ〕
○ 著作物性がないものであったとしても、判例上、その複製や利用が、営業上の利益を侵害するといえるような場合には、民法上の不法行為として損害賠償請求が認められ得ると考えられる。

(4)その他の論点について
○ 学習済みモデルから、学習に用いられたデータを取り除くように、学習に用いられたデータに含まれる著作物の著作権者等が求め得るか否かについては、現状ではその実現可能性に課題があることから、将来的な技術の動向も踏まえて見極める必要がある。

○ また、著作権者等への対価還元という観点からは、法第30条の4の趣旨を踏まえると、AI開発に向けた情報解析の用に供するために著作物を利用することにより、著作権法で保護される著作権者等の利益が通常害されるものではないため、対価還元の手段として、著作権法において補償金制度を導入することは理論的な説明が困難であると考えられる。

○ 他方、コンテンツ創作の好循環の実現を考えた場合に、著作権法の枠内にとどまらない議論として、技術面や考え方の整理等を通じて、市場における対価還元を促進することについても検討が必要であると考えられる。

○ なお、著作物に当たらないものについて著作物であると称して流通させるという行為については、著作物のライセンス契約のような取引の場面においてこれを行った場合、契約上の債務不履行責任を生じさせるほか、取引の相手方を欺いて利用の対価等の財物を交付させた詐欺行為として、民法上の不法行為責任を問われることや、刑法上の詐欺罪に該当する可能性が考えられる。この点に関して、著作権法による保護が適切かどうかなど、著作権との関係については、引き続き議論が必要であると考えられる。

 上は抜粋と言ってもかなり長いので、ここで、私なりの概要を以下に作っておく。

(1)学習・開発段階

  • AI学習のための著作物の利用は原則として著作権法第30条の4の非享受目的利用の権利制限の対象となるが、意図的に、元の学習データの全部または一部をそのまま出力させる事を目的とする様な場合や、特別なファインチューニングによって学習データの元の著作物の表現上の本質的特徴を直接感得できる生成物を出力する事を目的とする様な場合や、機械可読な方法によって複製の禁止が示されている場合に複製をして学習データを作成する様な場合は対象とならない。
  • AIを用いた検索であって結果の一部を表示する様な場合は、著作権法第47条の5の軽微利用目的の権利制限の範囲内で許諾なく可能。
  • 海賊版サイトである事を知りながら、そこから学習データの収集を行って生成AIを開発した様な場合、その生成AIにより生じる著作権侵害について、その関与の程度に照らして、規範的な行為主体として侵害の責任を問われる可能性が高まる。

(2)生成・利用段階

  • AI生成物と既存の著作物との類似性の判断については、原則として、人間がAIを使わずに創作したものと同様。
  • 生成AIを用いた場合でも、AI利用者が既存の著作物を認識しており、既存の著作物の名称の様な特定の固有名詞を入力して出力を生成させるなど、既存の著作物と類似したものを生成させた場合や、利用者が認識していなかったとしても、AI学習用データに当該著作物が含まれ、類似した生成物が得られた場合などは、通常、依拠性が認められ、著作権侵害となり得る。
  • 利用者に対する差し止め等に加え、生成AIによって更なる著作権侵害が生じる蓋然性が高いといえる場合には、生成AIの開発事業者に対して、著作権侵害の予防に必要な措置として、特定のプロンプト入力による生成を禁止する、学習に用いられた著作物の類似物を生成しない措置の様な技術的な制限を求める事も考えられる。
  • その生成AIによって侵害物が高頻度で生成される場合や、既存の著作物の類似物を生成する可能性を認識しているにも関わらず、当該類似物の生成を抑止する技術的な手段を施していない場合などは、事業者が侵害主体と評価される可能性が高まる。

(3)生成物の著作物性

  • 著作権法上の従来の解釈における著作者の認定と同様に考えられ、生成AIに対する指示が表現に至らないアイデアにとどまるような場合には、当該AI生成物に著作物性は認められない。
  • 創作的寄与の判断要素としては、指示・入力(プロンプト等)の分量・内容、生成の試行回数、複数の生成物からの選択、生成後の加筆・修正が考えられる。

(4)その他

  • 今の所、著作権法において補償金制度を導入することは理論的な説明が困難。

 この素案に示されている考え方は現行法の解釈としておよそ妥当と言っていいものだが、細かな点で釘を刺しておきたい所もあるので、さらに来月の最終案を見た上でパブコメで意見を出す事を考えたいと思っている。

 前に書いた事の繰り返しになるが、ここで最も重要な事はAIの問題に絡めて権利者寄り・規制寄りに歪んだ著作権法改正をしようとしている様子が見られない事だろう。

(2)新秘密特許(特許制度)に関するQ&Aと管理ガイドライン
 第486回で取り上げた新秘密特許(特許制度)に関する府省令案について案が取れて12月18日に公布された事に合わせ(特許庁のHP1官報号外第265号参照)、内閣府の特許出願の非公開に関する制度のページ経済安全保障推進法の特許出願の非公開に関する制度のQ&A(pdf)損失の補償に関するQ&A(pdf)特許出願の非公開に関する制度における適正管理措置に関するガイドライン(第1版)(pdf)が公開された。

 これらの内、制度全体に関するQ&Aや適正管理措置に関するガイドラインは法令をそのままなぞって説明しているだけで新しい事が書かれているという事はほぼないので、ここでは、損失の補償に関するQ&Aから、特許出願を秘密とする保全指定を受けた場合の補償について各論として多少なりとも詳細化を試みているQ7~Q17を以下に抜き出しておく。

各論:補償対象・範囲について

Q7.保全指定期間中に、第三者が保全対象発明と同一の発明を国内出願せずに国内で実施している場合において、自身の特許権が留保されているため、特許権に基づく実施許諾料相当額の請求や損害賠償請求ができないことによる損失は補償の対象となりますか。

A7.例えば、第三者と特許権に基づく実施許諾契約を結んでいれば得られたはずであるが得られなかったであろう実施許諾料相当額や、損害賠償請求により得られたはずであるが得られなかったであろう第三者が実施により得た利益相当額について、保全指定を受けたことに起因し、かつ、保全指定を受けたことにより生ずることが社会通念上相当といえる損失であると認められる範囲で、補償の対象となり得ます。
 なお、一般的には、第三者の実施が判明した時点で保全指定の解除が検討される場合が多く、保全指定が解除されれば、特許手続が進み、出願公開されることとなります。その場合、特許法上、出願公開後は、保全対象発明と同一の発明を特許出願せずに国内で実施している第三者に対して、特許権の登録前の行為については、出願公開後、第三者に警告を発すれば、特許権の登録を待って、第三者に対して警告時に遡り補償金を請求することができますし(特許法第65条)、特許権の登録後の行為については、特許権を侵害するものとして、差止めや損害賠償請求ができます(特許法第100条・102条)。

Q8.保全指定期間中に、第三者が保全対象発明と同一の発明に関する特許権を外国で取得してしまい、外国で実施している場合において、外国出願が禁止されているために発生した損失は補償の対象となりますか。

A8.例えば、保全指定を受けなければ、当該国で特許出願をして当該第三者よりも先に特許権を取得していたと推認される場合にあっては、保全指定以後に、当該第三者より差止請求を受けて当該国における製品販売ができなくなったことによる逸失利益や、当該第三者が特許権を保有する状況下で当該国における製品販売を行うに当たり支払わなければならない実施許諾料相当額又は自身が当該国で特許権を取得していれば当該第三者に請求できたはずの実施許諾料相当額等から算定される逸失利益については、保全指定を受けたことに起因し、かつ、保全指定を受けたことにより生ずることが社会通念上相当といえる損失であると認められる範囲で、補償の対象となり得ます。

Q9.特許権に基づき発明の実施をすれば、市場独占や競合品との競争上の優位性により、通常より高い利益率の設定が見込まれるところ、保全対象発明について、実施は許可されたものの、特許権の留保により保全指定期間中における保全対象発明と同一の発明を特許出願せずに実施する第三者の市場参入に対抗できず、保全指定の解除後に当該第三者に対して権利行使をして競合品を排除するまでの間、通常より高い利益率を確保することができませんでした。結果、当初の計画では得られるはずだった利益が減少することになりましたが、この場合における利益の減少分は補償の対象となりますか。

A9.一般的には、第三者の実施が判明した時点で保全指定の解除が検討される場合が多いと考えられますが、競合品を排除するまでの間にかかる状況が生じた際、例えば、第三者が実施している状況下において確保できる利益率に基づく利益と、保全対象発明の実施が独占的であった場合に見込まれる利益率に基づく利益との間に差額が発生する場合には、その差額について、保全指定を受けたことに起因し、かつ、保全指定を受けたことにより生ずることが社会通念上相当といえる損失であると認められる範囲で、補償の対象となり得ます。

Q10.実施の許可で付された条件を満たすために、ブラックボックス化のための設計変更が必要になりました。設計変更により利益に差額が発生したことによる損失は補償の対象となりますか。

A10.設計変更により増加した経費の販売価格への反映状況等も踏まえながら、設計変更した後に得られる利益と、設計変更しなければ得られたであろう利益との間に差額が発生する場合には、その差額について、保全指定を受けたことに起因し、かつ、保全指定を受けたことにより生ずることが社会通念上相当といえる損失であると認められる範囲で、補償の対象となり得ます。

Q11.保全指定前に多額の開発・設備費用を投資して保全対象発明を生み出しましたが、発明の実施の不許可により製品販売をすることができず、あるいは、保全指定により特許権に基づく実施許諾料相当額の請求もできなくなったため、保全指定期間中、当該開発・設備投資費用を回収することができなくなりました。この場合において、保全指定期間中に回収不能となった開発・設備投資費用は補償の対象となりますか。

A11.開発・設備投資は、本来、製品販売や特許権に基づく実施許諾料等で利益をあげることによって回収が図られるものであり、回収できるだけの利益につながるかどうかは、製品の価値やその時々の需要、競合状況等に応じケースバイケースです。したがって、たとえ発明の実施が不許可とされたために、保全指定期間中に製品販売をすることができず、あるいは、保全指定を受けたために特許権に基づく実施許諾料相当額の請求ができなくなったとしても、開発・設備投資の額が直ちに「保全指定を受けたことによる損失」といえるものではありません。
 すなわち、補償の対象は、A2で述べたとおり、あくまで、保全指定を受けずに製造、販売できていた場合に比して失われた利益に係る損失や特許権に基づく実施許諾料相当額等を請求できないことにより失われた利益に係る損失であり、これらの額により開発・設備投資費用の一部又は全部が補償されることとなります。

Q12.競業者による特許出願(先願)が保全指定を受けて出願公開されていなかったため、先願の存在を知らずに偶々同じ技術を開発し、同一の発明を出願して保全指定を受けた場合、自ら(後願者)が当該技術の発明に要した開発・設備投資費用は補償の対象となりますか。

A12.先願が公開されていれば後願者が保全対象発明に費やすことがなかった開発・設備投資費用は、後願者が保全指定を受けたことに起因する損失ではないため、補償の対象とはなりません。
 なお、先願と同じ発明について保全指定を受けた後願者に対しては、以下の要件を満たせば、所定の範囲内において有償の通常実施権が認められます(法第81条)。
・法第66条第7項の規定により出願公開が行われなかったために、保全指定された先願の存在を認識せず、自己の発明が特許法第 29 条の2の規定により特許を受けることができないものであることを知らないで、先願の出願公開前に、日本国内において発明の実施である事業をし、又はその事業の準備をしていること
・自らの特許出願について拒絶査定又は拒絶の審決が確定したこと

Q13.外国出願をすることを前提に保全審査中に翻訳を発注していたところ、保全指定を受けたために、優先日を確保した状態での外国出願が出来なくなりました。この場合における翻訳費用は補償の対象となりますか。

A13.例えば、保全審査が終了するまでに翻訳の発注をせざるを得なかった事情や当該翻訳文の活用状況等を踏まえ、保全指定を受けたことに起因し、かつ、保全指定を受けたことにより生ずることが社会通念上相当といえる損失であると認められる範囲で、補償の対象となり得ます。

Q14.外国出願をすることを前提に保全審査中に外国代理人に手続を依頼していたところ、保全指定を受けたために、優先日を確保した状態での外国出願ができなくなりました。この場合における、外国代理人との手続に係る費用は補償の対象となりますか。

A14.例えば、保全審査が終了するまでに外国代理人に手続を依頼せざるを得なかった事情や手続費用の精算状況等を踏まえ、保全指定を受けたことに起因し、かつ、保全指定を受けたことにより生ずることが社会通念上相当といえる損失であると認められる範囲で、補償の対象となり得ます。

Q15.保全指定を受けたため、指定特許出願人が適正管理措置を講じるために要した経費は補償の対象となりますか。

A15.適正管理措置は、事業者が元来営業秘密等の社内秘の管理のために講じている措置の範囲内で対応できる場合が多いと考えられますが、例えば、事業者が元来講じている情報保全の措置では、適正管理措置には足りず、このために新たに機器の購入等を要した場合には、当該機器の保全対象発明以外への利用状況等も踏まえ、保全指定を受けたことに起因し、かつ、保全指定を受けたことにより生ずることが社会通念上相当といえる損失であると認められる範囲で、これに要した経費が補償の対象となり得ます。

各論:補償条件について

Q16.第三者から得られたであろう特許権に基づく実施許諾料相当額等を補償の対象として請求する場合には、保全指定の解除後に特許権を取得するのを待つ必要がありますか。

A16.保全指定を受けなければ特許権を取得していたであろうと認められれば、保全指定の解除前であっても請求は可能です。
 なお、保全指定期間中であっても、出願公開、特許査定及び拒絶査定以外の特許手続は留保されず(法第66条第7項)、審査請求(特許出願についての出願審査の請求)をして、特許査定の直前まで手続を進めることができるので、このような場合は、特許権を取得していたであろうと認められる確度が高まると考えられます。

各論:その他

Q17.保全指定前の事前意思確認の際に、補償金額を算定してくれますか。

A17.国による補償金額の算定は、損失が発生し、補償の請求を受けた後に行うものなので、国において、保全指定前にあらかじめ算定して提示することは難しいと考えています。

 この補償に関するQ&Aもかなり長く抜粋したが、概要としてまとめると、特許ライセンス料や損害賠償の請求ができない場合、第三者が保全対象発明と同一の発明に関する特許権を外国で取得した場合、第三者が特許出願をせずに同一の発明を実施した場合、保全対象発明のブラックボックス化のために設計変更をした場合、外国出願を準備していた場合などについて、保全指定と相当因果関係が認められる範囲内で逸失利益・損失・経費を補償すると言っているに過ぎない。

 また、保全指定を受けた後でも特許査定の直前まで手続きを進める事ができるといっても、あくまで直前までなので、出願が最終的に特許を受けられるかは制度上分かりようがないのだが、上の回答を見ると、特許権を取得していたであろうと認められる確度が何かしら補償金額の算定に関係して来るのかというさらなる疑問も湧く。

 そして、保全指定を実際に受けるより前に補償金額を示すのは困難という回答も予想通りだが、事前の意思確認の際に示してくれないと出願人としては指定を受けるかどうかの判断に困るのではないかと思え、本当にこの制度がまともに機能するのか甚だ怪しいように思える。

 結局、この新秘密特許制度では、特許権の付与によって権利の存在と範囲が確定する前に秘密とするべき保全指定がされてしまうので、その状態でどうやってどうやって保全指定と逸失利益との間の相当因果関係を示して具体的な額について決定するのか謎としか言い様がないが、これで予定されていたQ&Aなどは一通り出されたと見えるので、政府としてはこの点についてこれ以上説明をする事なく、2024年5月1日の施行まで突っ走るつもりなのだろう。

 もはや後は施行後の運用を見て行くしかないという状況にありながら、この制度ではその運用すら秘密になってしまうのでどうしようもないが、本当にこの制度が必要だったのか、今の形でまともに運用できるのか、私はいまだに大いに疑問に思っている。

(3)その他知財本部等における検討
 前回でも少し書いたが、他の省庁における検討についても取り上げておく。

 まず、知財本部では、かなり急ピッチで開催されているAI時代の知的財産権検討会に加え、知財計画2024に向けた検討を行う構想委員会の下に、コンテンツやクールジャパン戦略関連の検討を行うらしい、コンテンツ戦略ワーキンググループとCreate Japanワーキンググループという2つのワーキンググループが置かれ、12月22日に第1回の合同会議が開催されている。

 AIに関する政府検討という事では、AI戦略会議第7回が12月21日に開かれており、G7での国際指針の取りまとめの後、同じく特に規制的なものとなっているという事はないが、詳細なAI事業者ガイドライン案(pdf)概要(pdf)も参照)が示されている。なお、この新AIガイドライン案は、何故か経産省と総務省でともに会議が非公開とされているので詳細不明だが、経産省の方のAI事業者ガイドライン検討会と総務省の方のAIネットワーク社会推進会議で以前のそれぞれのAIガイドラインに基づき検討されていたものだろう。

 経済産業省・特許庁の産業構造審議会・知的財産分科会については、今年は各小委員会で制度改正の議論がされているという事はなく、不正競争防止小委員会で今回の法改正などを受けた限定提供データに関する指針や秘密情報の保護ハンドブックや外国公務員贈賄防止指針の改訂について、特許の審査基準専門委員会ワーキンググループでAI関連技術に関する事例の追加について、意匠審査基準ワーキンググループ商標審査基準ワーキンググループのそれぞれで今回の法改正などを受けた意匠審査基準の改訂について検討がされている。

 なお、各ガイドラインの改訂案は、内容としては特に問題なく法改正を反映したものなので、ここではその内容を細かく取り上げる事はしないが、丁度今現在、「限定提供データに関する指針(改訂案)」及び「秘密情報の保護ハンドブック(改訂案)」に対する意見募集が1月15日〆切で(電子政府のHP1参照)、「外国公務員贈賄防止指針(改訂案)」に対する意見募集が同じく1月15日〆切で(電子政府のHP2)、「商標審査基準」改訂案に対する意見募集が1月24日〆切で行われているので(電子政府のHP3参照)、ここで念のため紹介しておく。

 総務省では、前回取り上げた誹謗中傷等の違法・有害情報への対策に関するワーキンググループの上位検討会であるプラットフォームサービスに関する研究会も開かれており、12月12日の第51回で、ワーキンググループの報告書を取り込み、偽情報対策と利用者情報の取り扱いに関するモニタリング結果も含め、第三次とりまとめ(案)(pdf)が示されているが、これも特に問題がある内容が含まれているという事はない。なお、この取りまとめ案についても1月17日〆切で意見募集が行われている(電子政府のHP4参照)。

 また、どのように検討事項が切り分けられているのか、何か意味のある結果が出て来るのかいまいち不明だが、最近始まった総務省の有識者会議には、安心・安全なメタバースの実現に関する研究会デジタル空間における情報流通の健全性確保の在り方に関する検討会もある。

 そして、農水省では、新しい政策検討が行われている様子は見られないが、例年通り、地道に農業資材審議会・種苗分科会での種苗法における重要な形質の指定に関する諮問や地理的表示の申請登録などが行われている。

 知財政策に関して、生成AIの発展にともなう著作権法に関する議論と新秘密特許制度の施行準備が進められたという事が大きな動きとしてあり、今年はかなり慌ただしい一年だったと言えるだろう。

 最後に、いつもの口上となるが、政官業に巣食う全ての利権屋に悪い年を、そして、このブログを読んで下さっている方々に心からの感謝を。

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2023年10月29日 (日)

第485回:知財本部・AI時代における知的財産権に関する意見募集(11月5日〆切)に対する提出パブコメ

 11月5日〆切で掛かっている知財本部のAI時代における知的財産権に関する意見募集(知財本部HPの意見募集要項(pdf)、電子政府HPの意見募集ページ参照)に対して意見を出したので、ここに載せておく。

 特許法など他の知的財産法についても意見募集の対象となっていたので少し意見を追加で書いたが、内容はほぼ今までこのブログで書いて来た事のまとめである。

 日本政府にしては珍しく報告書案として方針がまとまる前のオープンなパブコメであり、AIと知的財産の関係について関心のある方は是非提出を検討する事をお勧めする。

 次回は、そのレベルで何か問題があるという事ではないが、今現在同じくパブコメに掛かっている新秘密特許(特許非公開)制度に関する府省令案について取り上げたいと思っている(電子政府の意見募集ページ2参照)。

(以下、提出パブコメ)

Ⅰ.生成AIと知財をめぐる懸念・リスクへの対応等について
①生成AIと著作権の関係について、どのように考えるか。
【御意見】
 今年の知財計画策定に向けた意見募集の際に出した意見と同じであるが、政府・与党において生成AIと著作権の関係に関する検討を行う事自体に反対はしないが、この検討においては、この様な新技術の発展が速い事や国際動向等にも照らし、かえって社会的混乱を招き、技術の発展を阻害する恐れの強い、法改正によって新たな規制を行う事や新しい権利を付与する事には極めて慎重であるべきである。

【理由・根拠事実】
 最初に、検討において人口知能(AI)という言葉曖昧な儘に使われている懸念がある事を指摘する。私は、1つの案として、「生成AI」とは、大量の計算リソースを使う機械学習を用いたものであって、利用者側の簡単な指示の入力によって対応する文章や画像などの出力が可能なサービスの事を指すものという定義を提案し、これに基づいて以下の意見を述べるが、法的議論をするのであれば、「生成AI」とは何かという定義と範囲を明確にしてからするべきである。

 知財本部又は文化庁の過去の資料において示されている通り、著作権と生成AIの関係について、(1)機械学習における著作物の利用と生成AIサービスの提供というサービス提供側の話と、(2)利用者による入力結果のAI生成物の利用という利用者側の話の2つに分けるという考え方は妥当である。

 そして、(1)機械学習における著作物の利用と生成AIサービスの提供というサービス提供側については、以前の著作権法の改正経緯等から考えて、現行の著作権法第30条の4により、機械学習に利用された元の著作物の表現と異なる生成物の出力を行う事を目的とする通常の生成AIサービスや学習データの提供については権利制限の対象となると考えられる。

 しかし、特定の著作者や著作物の表現と同一又は類似した生成物の出力に専ら利用されている様な場合は別であって、実際に個別の著作権侵害との関係で争いになれば、機械学習の内容、利用の実態、規約の実効性、権利侵害に対して技術的に取り得る手段などを論点として、サービス提供がこの権利制限の対象となるかについて判断される事になると考えられる。

 また、サービス規約によって利用者に何らかの制約を課す事はできるだろうが、それ以上にAIサービス提供者に何か著作権が発生しているという事もない。

 (2)利用者による入力結果のAI生成物の利用については、著作物の創作者は自然人のみであり、創作的表現である著作物の創作に関与した者に著作権があるかどうかは、その者が最終的な表現にどこまで創作的に寄与したかで決まる。今問題となっている、簡単な指示の入力によって文章や画像を出力する生成AIサービスにおいて、その利用者に、出力された生成物の最終的な表現に対する創作的な寄与があり、その結果として著作権があるとは考え難い。その様な利用者は一次創作者たり得ず、無論二次創作者でもあり得ず、生成AIサービスの利用者にも生成物に関する著作権は通常ないと考えられる。

 しかし、この事は、サービス提供者の著作権も利用者の著作権もないと考えられる生成物が他人の著作権の侵害を構成しない事を意味しない。既存の著作物に依拠して類似した表現物を作成して他の者に提供した場合に著作権侵害となり得るのは当たり前の事であって、この事はどの様なツールを使うかに依存しないし、生成AIサービスを利用した場合であっても同じと考えられるべきである。

 すなわち、現行の著作権法第30条の4の非享受目的利用の範囲内で、著作権侵害とならない生成物を出力する事を通常の目的とする限りにおいて、生成AIサービスの提供者による既存の著作物の利用も、利用者のサービス利用も問題なく行えると考えて良いが、サービス提供者にも利用者にも著作権はなく、それぞれ、サービスが専ら著作権侵害となる生成物の出力に利用されていないか、生成物の利用が他人の著作権を侵害しないかについて十分注意する必要があるという事になる。

 著作権侵害とならない生成物を作ろうとする限りにおいて、AIサービスの提供と利用の著作権リスクを相当程度低減している、この今の日本の著作権法のバランスは決して悪くないものである。

 そのため、現時点で余計な社会的混乱を招くだけの権利や補償金などを新たに付与するべきではなく、今後の検討にあたっては、現行の著作権法第30条の4の適用範囲及びAI生成物の利用が著作権侵害となる場合の明確化のみを行い、その結果を広く周知するに留めるべきである。

 最後に、参考として国際動向について簡単に触れておくが、世界的に見ても生成AIと著作権の関係について、日本の現行法に基づいて考えられる整理以上に何らかの統一的な方向性が見えているという事はない。

 欧州連合(EU)の新AI法案は、まだEUの機関の間での協議が残っており、最終的な条文がどうなるかは分からないものである。今の法案中にある学習に利用した著作物の概要の公開義務が残って何年か後に施行されたとしても、各AIサービス提供者がそれぞれ適法にアクセス可能なインターネット上の著作物を用いて機械学習を行っているという程度の事を公開するだけで終わり、大して意味のある結果をもたらす事はないのではないかと思える。このEUの新AI法案の主眼は人の特定などに用いられる高リスクAIの規制、AIによる偽情報作成への対策などにあると言って良いものである。

 また、EUの2019年の新著作権指令のテキスト及びデータマイニングに関する権利制限は、生成AIとの関係で考えた時に、実質的には日本とほぼ同様であって十分に広く、EU域内においても、インターネット上で適法にアクセス可能な著作物を用いる様な通常想定される場合において、生成AIの学習のための著作物の利用が権利侵害にはなるとは考え難い。

 イギリス著作権法のコンピュータ生成著作物に関する規定も持ち出される事があるかも知れないが、今問題になっている生成AIを含むAI技術との関係を考慮して作られた規定ではなく、過去の判例もほとんどなく、今の技術によるAI生成物との関係は明確でない。仮に、その規定により、人の著作者が存在しないと評価されると、元のAIサービスの開発者・提供者が著作権を有する可能性があるが、その場合、AI生成物の生成と利用の両方において比較的高い著作権侵害のリスクが作り出される事になる。

 さらに、イギリス著作権法には、AI学習のために利用できるEUと同レベルの一般目的のテキスト及びデータマイニングに関する権利制限がなく、AIの学習のための著作物の利用そのものが原則違法と考えられ得るという事もある。そのため、イギリス政府は一般目的のテキスト及びデータマイニングの権利制限を導入すると一旦決定した。しかし、著作権団体のロビーによって頓挫し、行動規範に関する検討に移ったが、これは権利制限の代わりになるものではない。

 この様なイギリスの状況は全く褒められたものではなく、参考とするなら反面教師としてでしかない。

 アメリカについては、今現在生成AIと著作権の問題に関係する訴訟が多く提起されているが、今の所人工知能は著作者たり得ないとする判決を2023年8月18日にコロンビア地裁が出しただけで、多くは係属中であり、その動向に良く注意を払うべきである。

 また、アメリカ著作権局の2023年3月16日のAI生成物の著作権登録を不可とする方針ペーパーや、2023年8月30日から行っていた著作権とAIに関する意見募集の内容とその結果についても国際動向の1つとして見ておくべきものと考える。

 なお、文化庁と知財本部で並行して検討をしている事は屋上屋の誹りを免れないものと思うが、これらの検討の場で行われている関係者ヒアリングを見ても、権利者側団体の生成AIに関する主張は単に漠然とした不安を述べ立て確たる根拠なく規制強化と金銭的補償を求めているだけであって到底新たな立法事実たり得ないものばかりである。この様な漠然とした不安については、上記の現行法に基づく明確化の検討を進め、現行法によって十分著作権は守られ、その対象である既存の著作物の表現に依拠して類似した生成物による著作権侵害が行われる様になるものではない事を周知する事で十分対応可能である。今後の検討にあたっては、自然人の創作になる表現を守る事によって文化の発展に寄与する事を目的とするという著作権法の基礎にまで立ち返って真摯な検討がなされる事を期待する。さらに、この様な検討においては、生成AIを含む新技術が人の新しい創作のツールとなって来たという事実も見逃されるべきではなく、また、著作権法がその目的を超えて技術の発展の阻害となってはならないのも当然の事であって、さらに柔軟な対応を求められる事も考えられるため、アメリカ型の一般フェアユース条項の導入の検討が進められる事を期待する。

②生成AIと著作権以外の知的財産法との関係について、どのように考えるか。
【御意見】
 特許法については、下記のⅡで意見を述べる。創作保護法である実用新案法及び意匠法についても下記の特許法と同様の検討が必要と考える。その他の標識保護法である商標法、不正競争防止法、パブリシティ権等との関係については現時点では詳細な検討は不要であると考える。

【理由・根拠事実】
 特許法、実用新案法及び意匠法について、下記Ⅱ参照。

 標識保護法である商標法と不正競争防止法における商品等表示規制について、規制されるのは商標としての使用などである事から、生成AIにおける学習との関係で問題が生じる事はあり得ず、他人の商標等と類似したAI生成物を商標として利用する場合等に権利侵害となり得る事を周知して行く事で十分と考える。

 不正競争防止法における形態模倣規制については、問題となるのは他人の商品の形態の模倣であって、生成AIとの関係で何か問題が生じる事は想定し難い。現時点では、仮に何か必要であるとしても、商品の形態を学習させた生成AIの出力を用いた模倣もこの規制の対象となり得る事を周知して行く事で十分と考える。

 同様に、不正競争防止法における営業秘密及び限定提供データ規制についても、生成AIの学習データが営業秘密又は限定提供データ規制の対象となり得る事を周知して行く事で十分と考える。

 その他パブリシティ権等についても、基本的に人格的な権利として判例によって緩やかに認められているものである事から、現時点で生成AIの学習との関係で問題が生じる事はあり得ず、対象がAI生成物である場合であっても、判例によって認められている通り、他人の肖像等の利用が専ら肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とするといえる場合、パブリシティ権の侵害となり得るという事を周知して行く事で十分と考える。

 すなわち、その他の商標法、不正競争防止法、パブリシティ権等との関係については上記の程度の対応で十分であり、現時点では詳細な検討は不要であると考える。

③生成AIに係る知的財産権のリスク回避等の観点から、技術による対応について、どのように考えるか。
【御意見】
 将来の技術の発展を考慮すると、現時点で、特定の技術による対応を固定的な法令によって強制するべきではない。政府関係者がオブザーバーとして入る事を否定はしないが、基本的に技術による対応について、現実的にどの様な対応を取り得るかは民間の協議に委ねるべきである。

【理由・根拠事実】
 将来の技術の発展を考慮すると、現時点で、特定の技術による対応を固定的な法令によって強制する事は、今後の技術開発を阻害する事になる恐れが強く、決してすべきではない。

 著作権侵害リスクを回避するという事は生成AIサービスの提供者、利用者、権利者の三者にとって共通の利益である事から、基本的に技術による対応について、現実的にどの様な対応を取り得るかは民間の協議に委ねるべきである。

 そこに政府関係者がオブザーバーとして入る事を否定はしないが、そこで重要な事は権利者側の現行法に基づかない無茶な権利侵害や補償金要求の主張を押さえる事であって、事前の権利処理や金銭的補償を必要とする事なく生成AIサービスの提供において著作権侵害リスクの回避のために現実的に取り得る対応は何かという技術の将来を見据えた真面目な検討を強力に推進するべきである。

 その中で、AI生成物であることの表示や指示プロンプトにおけるテイクダウン、自動収集プログラムによる収集の制限などの対応が自ずと出て来ると考える。

 ここで、権利者団体に属している様な権利者のみならず、SNSなどの各種ネットサービスにおいて自分の文章や絵を公表している一般の利用者も創作者、著作権者として関係して来る事にも十分留意が必要である。

④生成AIに関し、クリエイター等への収益還元の在り方について、どのように考えるか。
【御意見】
 上記の①で書いた通り、かえって社会的混乱を招き、技術の発展を阻害する恐れの強い、法改正によって新たな規制を行う事や新しい権利を付与する事には極めて慎重であるべきであって、補償金請求権も決して設けるべきではない。

【理由・根拠事実】
 上記の①で書いた通り、著作権侵害とならない生成物を作ろうとする限りにおいて、AIサービスの提供と利用の著作権リスクを相当程度低減している、この今の日本の著作権法のバランスは決して悪くないものである。

 そのため、現時点で余計な社会的混乱を招くだけの権利や補償金などを新たに付与するべきではなく、今後の検討にあたっては、現行の著作権法第30条の4の適用範囲及びAI生成物の利用が著作権侵害となる場合の明確化のみを行い、その結果を広く周知するに留めるべきである。

⑤AI学習用データセットとしてのデジタルアーカイブ整備について、どのように考えるか。
【御意見】
 国がデジタルアーカイブ整備を行うべきであるのは当然の事であるが、これはAI学習用データセットを提供する事を主たる目的として行われるべきものではなく、国全体の文化的創作物を永続的に保存しAI利用に限らずその再利用を図るという本来の趣旨に沿って継続的に注力して行くべきものである。

【理由・根拠事実】
 上記の意見の通り、国がデジタルアーカイブ整備を行うべきであるのは当然の事であるが、これはAI学習用データセットを提供する事を主たる目的として行われるべきものではなく、国全体の文化的創作物を永続的に保存しAI利用に限らずその再利用を図るという本来の趣旨に沿って継続的に注力して行くべきものである。

 その再利用においては、文章や音声の場合は、単に過去の書籍をスキャンした画像データや音声データが提供される事ではなく、データがテキスト化までされる事が重要であり、画像データの場合も、検索のために画像に関する情報がテキストとして付加される事が重要である。この様なテキスト化などにおいてAI技術の利用が考えられるだろう事、国からデータを提供する場合も、まず著作権切れのものをまとめて提供する事を検討するべきであるという事をここで追記しておく。

⑥ディープフェイクについて、知的財産法の観点から、どのように考えるか。
【御意見】
 上記の②で書いた事と重なるが、ディープフェイクに関し、知的財産法との関係については現時点では詳細な検討は不要であると考える。

【理由・根拠事実】
 ディープフェイクについてもまず定義を明らかにして議論をするべきと考えるが、ここでは、EUの新AI法案の様に、機械学習等に基づくAI技術を用いて本物であるかのように虚偽の言動を示す合成コンテンツを指すと考えて、意見を述べる。

 ディープフェイクによると言っても既存のなりすましの場合などと比較して本当に新たに規制すべき行為類型が生じているのではない事に留意が必要であり、この様なディープフェイクは対象となった者に対して害を与えるか自らに不正な利益をもたらすかのために作られ公開されるものであって、そのためにはAI技術を用いて元となった著作物に依拠してそっくりな生成物を得て公開する事が前提となるため、著作権及び著作者人格権の侵害となるのは無論の事、上記の②でも書いた通り、目的に応じて、パブリシティ権の侵害、不正競争防止における信用毀損行為、刑法における名誉毀損や信用毀損に該当し得る事を周知して行く事で十分と考える。

 すなわち、ディープフェイクに関し、知的財産法との関係については現時点では詳細な検討は不要であると考える。

⑦社会への発信等の在り方について、どのように考えるか。
【御意見】
 現時点で生成AI技術により現行法で対処できない事が発生している事はないと考えるが、著作権法を中心として現行法に基づく整理及びその周知が引き続き必要である。

【理由・根拠事実】
 上で書いた通り、現時点で生成AI技術により現行法で対処できない事が発生している事はないと考えるが、著作権侵害等のリスクを回避するためにも、著作権法を中心として現行法に基づく整理及びその周知が引き続き必要である。その際、著作権法だけでなく知的財産法との関係でどの様な権利侵害リスクがあるのか、回避するためにはどの様にすれば良いかを一般利用者も含め良く分かるように政府内の1つのホームページで継続的に示す事を考えるべきである。

Ⅱ.AI技術の進展を踏まえた発明の保護の在り方について
①AIによる自律的な発明の取扱いの在り方について、どのように考えるか。
【御意見】
 著作権法における創作者と同様、特許法において発明者が自然人である事は当然の事であり、その事について周知を続けて行くべきである。

【理由・根拠事実】
 審査との関係については②で述べるが、生成AIサービスを用いて単に簡単な指示のみで全特許出願書類を出力した様な場合を除き、発明の過程のいずれか又は全てにおける文章作成でAI技術を利用していたとしても、人がそれを見て発明であると認識した時に発明はなされると考えるのが妥当であって、上で書いた通り、著作権法における創作者と同様、特許法において発明者が自然人である事は当然の事であり、その事について周知を続けて行くべきである。

 DABUSと呼ばれるAIシステムを発明者とする国際出願に関する世界各国の訴訟は有名なものと思うが、主要国及び機関の裁判所でAIが発明者となるという最終判断が示された事はなく、上記の方向性は国際動向にもかなったものであると考える。

 この事は同じ創作保護法である実用新案法及び意匠法についてもあてはまる。

②AI利活用拡大を見据えた進歩性等の特許審査実務上の課題について、どのように考えるか。
【御意見】
 進歩性の判断手法そのものが変わるという事はないと考えるが、生成AIに指示を入力する事により同じ様な出力が得られ、その指示が容易に思いつく様な場合も考えられるのであって、その様な場合の審査における判断に資するため、発明の過程及び特許出願書類の作成に生成AIを利用したときにはどの部分でどの様に利用したかを含め生成AIの利用について明記する事を特許出願の記載要件として、この要件を守っていない事が判明したときには特許出願を拒絶・無効にできる様にする事を検討するべきである。

【理由・根拠事実】
 上記の意見の通り、進歩性の判断手法そのものが変わるという事はないと考えるが、生成AIに指示を入力する事により同じ様な出力が得られ、その指示が容易に思いつく様な場合も考えられるのであって、その様な場合の審査における判断に資するため、発明の過程及び特許出願書類の作成に生成AIを利用したときにはどの部分でどの様に利用したかを含め生成AIの利用において明記する事を特許出願の記載要件として、この要件を守っていない事が判明したときには特許出願を拒絶・無効にできる様にする事を検討するべきである。

 この事は同じ創作保護法である実用新案法及び意匠法についてもあてはまる。なお、実用新案法については無審査登録であるため、事後的な技術評価又は無効理由とする事を検討するべきである。

Ⅲ.その他
(上記の他、本意見募集に関わる項目についての御意見や情報提供)
【御意見】
 報告書として方針がまとめられる前に意見募集を行った事は高く評価できるが、本意見募集の質問項目は広範に過ぎ論点が必ずしも明確になっていないものが多く、今後論点をより明確にして行く中でさらにもう一度意見募集を行うことも検討するべきである。

【理由・根拠事実】
 上記の意見の通り、報告書として方針がまとめられる前に意見募集を行った事は高く評価できるが、本意見募集の質問項目は広範に過ぎ論点が必ずしも明確になっていないものが多く、今後論点をより明確にして行く中でさらにもう一度意見募集を行うことも検討するべきである。

 そこで、上で参考として上げた、アメリカ著作権局が2023年8月30日から行っていた著作権とAIに関する意見募集において、かなり詳細な質問項目を作っていた事が参考になるものと考える。

【情報提供】
 上記参照。

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2023年6月11日 (日)

第479回:知財計画2023の文章の確認

 いつも通りの施策項目集である事に変わりはないが、今年も先週6月9日に知的財産戦略本部が開催され、知的財産推進計画2023(pdf)概要(pdf)も参照)が決定されたので、ここで、著作権問題や法改正関連など私が特に関心のある部分を見て行く。(去年の知財計画の文章については第460回、私の提出したパブコメについては第475回参照。)

 まず、今年の知財計画2023の最も重要なトピックだろう、生成AIと知財という論点について、「Ⅱ.基本認識」の「3.AI技術の進展と知的財産活動への影響」の方にも総括的な記載があるが、「Ⅲ.知財戦略の重点10施策」の1つとして、第31ページからの「3.急速に発展する生成AI時代における知財の在り方」で、以下の様に書かれている。

(1)生成AIと著作権

(現状と課題)
 AIと著作権との関係では、従前より、どのようなAI生成物が「著作物」となるのか、著作権侵害の疑いがあるAI生成物が大量に作成されるおそれがないか等についての指摘があった。
 これらの論点については、2016年から2017年にかけ、知的財産戦略本部検証・評価・企画委員会の下に開催された新たな情報財検討委員会の検討においても、検討課題とされた。同委員会が2017年3月に取りまとめた「新たな情報財検討委員会報告書」では、AI生成物の著作物性についての基本的な考え方の整理として、以下の考え方を示している。

・AI生成物を生み出す過程において、学習済みモデルの利用者(以下「利用者」という。)に創作意図があり、同時に、具体的な出力であるAI生成物を得るための創作的寄与があれば、利用者が思想感情を創作的に表現するための「道具」としてAIを使用して当該AI生成物を生み出したものと考えられることから、当該AI生成物には著作物性が認められる。

・利用者の寄与が、創作的寄与が認められないような簡単な指示に留まる場合、当該AI生成物は、AIが自律的に生成した「AI創作物」であると整理され、現行の著作権法上は著作物と認められない。

 その上で、具体的にどのような創作的寄与があれば著作物性を肯定されるかなどのAI生成物の著作物性と創作的寄与の関係については、AIの技術の変化等を注視しつつ、具体的な事例に即して引き続き検討することが適当とされた。また、学習用データとして使われた著作物に類似したAI生成物が出力された場合についてどのように考えるかも議論された。この場合、出力された生成物が著作権侵害と判断されるためには、依拠性と類似性が必要とされると考えられるところ、AIを利用した場合の依拠や責任の考え方について、問題となった具体的事例に即して引き続き検討することが適当とされている。
 なお、同報告書における「具体的に検討を進めることが適当な事項等」の提言を受け、2018年の著作権法改正では、いわゆる柔軟な権利制限規定の1つとして、著作権法第30条の4の規定(著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない利用)が整備され、AIが学習するためのデータの収集・利用等の行為についても、同条第2号の規定に基づき、著作権の権利制限が及ぶこととされた。その際、当該権利制限については、同条ただし書の規定により「著作権者の利益を不当に害することとなる場合」には適用されないことを定めている。AI技術の進展に伴い、この「不当に害することとなる場合」の要件に該当する場合について、指摘がなされるようになっている。
 2017年3月の「新たな情報財検討委員会報告書」から約6年を経過し、生成AIの技術は格段の進歩を遂げた。最近におけるAIツールの一般ユーザーへの急速な普及拡大により、人間による創作と区別がつかないようなAI生成物が大量に生み出されており、クリエイターの創作活動等にも影響が及ぶこととなる懸念も生じている。
 政府のAI戦略会議が2023年5月にまとめた「AIに関する暫定的な論点整理」においても、オリジナルに類似した著作物が生成されるなどの懸念や、著作権侵害事案が大量に発生し、個々の権利者にとって紛争解決対応も困難となるおそれを指摘すると同時に、生成AIの活用により作品制作の効率化が図られる等の例もあるとして、クリエイターの権利の守り方、使い方が重要な論点となるとしている。その上で、今後、専門家も交えて、AI生成物が著作物として認められる場合やその利用が著作権侵害に当たる場合、著作物を学習用データとして利用することが不当に権利者の利益を害する場合の考え方などの論点を整理し、必要な対応を検討すべきであるとしている。
 以上の状況に鑑み、AI生成物の著作物性やAI生成物を利用・公表する際の著作権侵害の可能性、学習用データとしての著作物の適切な利用等をめぐる論点について、生成AIの最新の技術動向、現在の利用状況等を踏まえながら、

・AI生成物が著作物と認められるための利用者の創作的寄与に関する考え方

・学習用データとして用いられた元の著作物と類似するAI生成物が利用される場合の著作権侵害に関する考え方

・AI(学習済みモデル)を作成するために著作物を利用する際の、著作権法第30条の4ただし書に定める「著作権者の利益を不当に害することとなる場合」についての考え方

などの論点を、具体的事例に即して整理し、考え方の明確化を図ることが望まれる。

(施策の方向性)
・生成AIと著作権との関係について、AI技術の進歩の促進とクリエイターの権利保護等の観点に留意しながら、具体的な事例の把握・分析、法的考え方の整理を進め、必要な方策等を検討する。(短期、中期)(内閣府、文部科学省)

(2)AI技術の進展を踏まえた発明の保護の在り方

(現状と課題)
 AI関連発明については、上述の「新たな情報財検討委員会報告書」において、「具体的に検討を進めることが適当な事項等」として「学習済みモデルの適切な保護と利活用促進」及び「AI生成物に関する具体的な事例の継続的な把握」が掲げられており、特許庁では、AI関連技術に関する特許審査事例の公表(2017年3月に5事例公表、2019年1月に10事例追加)等の取組を行ってきた。
 同報告書では、「引き続き検討すべき事項等」として、「AIのプログラムの知財制度上の在り方」及び「AI生成物の知財制度上の在り方」が掲げられた。また、同時期に公表された「AIを活用した創作や3Dプリンティング用データの産業財産権法上の保護の在り方に関する調査研究報告書」では、「現時点では、一部の企業からAIによる自律的な創作を実施しているとの情報も得られているが、特許法で保護するに値するAIによる自律的な創作の存在は確認できていない」、「2020年頃には、AIが自律的な行動計画によって動作するようになると予測されている。さらに、2030年頃になると、更に広い分野で人間に近い能力を発揮できるようになり、例えば、判断や意思決定、創造的活動等といった領域でも代替できる部分が増えると見込まれている」との指摘がされていた。
 これまで、AIは、人間の創作を補助するものに過ぎないと考えられていたが、ChatGPT等の出現により、AIによる自律的創作が実現しつつあるとの指摘もされている。従来、技術的思想の創作過程は、①課題設定、②解決手段候補選択、③実効性評価の3段階からなり、このうちのいずれかに人間が(創作的に)関与していればその人間による創作であると評価するとの考え方が示されていた。このような考え方によれば、解決手段に関する技術的な知見がない者であっても、課題設定さえできれば、ChatGPT等のAIを用いて解決手段を得ることにより(なお、③実効性評価についてもシミュレーション等による自動化が容易に想定できる。)、技術的思想の創作(発明)を生み出すことができるようになると考えられる。
 このように、ChatGPT等の万人が容易に利用可能なAIが出現したことにより、創作過程におけるAIの利活用が拡大することが見込まれ、それによって生まれた発明を含む特許出願が増えることが予想される。そのような発明(例えば、上述の創作過程の①~③の一部において、人間が創作的な関与をせず、AIが自律的に行ったもの)の審査において、創作過程でのAIの利活用をどのように評価するかが問題となるおそれがある。そこで、発明の創作過程におけるAIの利活用が特許審査へ与える影響(例えば以下に述べる進歩性や記載要件等の判断への影響)について検討・整理が必要と考えられる。
 進歩性(特許法第29条第2項)の判断については、どのような技術分野で、どのような形態でのAIの利活用が当業者の知識・能力の範囲内とされるかによって、創作過程でAIを利活用した発明はもちろん、AIを用いていないものについても進歩性の有無が左右されるとの研究もある。また、創作過程におけるAIの利活用を、進歩性の評価においてどのように取り扱うかを明確化することが必要との考えもある。進歩性を特許の要件とするのは、当業者が容易に思い付く発明に排他的権利を与えることは、技術進歩に役立たず、かえってその妨げになるからである。これらの点を考慮して、今後の進歩性の審査に当たっては、急速なAI技術の発展(それによるAI技術の適用分野の拡大や技術常識の変遷等を含む。)の影響も踏まえ、大量に生み出されることが予想されるAIを利活用した発明について、適切に進歩性の判断を行う必要がある。
 また、2022年2月に公表された「近年の判例等を踏まえたAI関連発明の特許審査に関する調査研究報告書」によれば、明細書等において、化合物の機能についてマテリアルズ・インフォマティクスによる予測が示されているに過ぎず、実際にそれを製造して機能を評価した実施例が記載されていない場合には、主要国では記載要件違反となり得る旨が示されている。他方で、AI等を用いた機能予測の精度がさらに高まり、(in-silicoの)予測結果の信頼性が実際の(invitro/in-vivo)実験結果と同程度と認められるようになった場合には、異なる判断が必要となる可能性もある。急速なAI技術の発展の中で、特許審査実務上の影響を整理し、その影響に対応していくに当たって、その審査の在り方は、特許権というインセンティブを付与するに際し、AIを利活用した創作において人間の関与がどの程度あるべきかや、AIの利活用が創作過程の各段階に与える影響等も考慮した進歩性等の判断がどうあるべきかということも含め、特許法の目的である産業の発達への寄与という趣旨に立ち返って再検討される必要がある。
 また、これまで以上に幅広い分野で創作過程におけるAIの利活用が見込まれることを踏まえて、特許庁においては、特にこれまでAI技術の活用が見られなかった分野等も含め、AI関連発明の審査をサポートできるような審査体制を整備する必要がある。
 さらに、これらの点も踏まえながら、AI関連発明の特許審査の迅速性・質を確保するために、AI関連発明の審査事例の更なる整理・公表が望まれる。併せて、我が国で創出されたイノベーションについてグローバルに適切な保護を得られるようにするためには、我が国が主導しての特許審査実務のハーモナイズが期待されるところ、そのための端緒として、まずはケーススタディを通じた各国のAI関連発明の審査実務の情報収集・比較が必要と考えられる。
 なお、発明についても、著作物と同様に、AIが自律的に(人間による創作的な関与を受けずに)創作した場合の取扱いについても、諸外国における取扱いの状況も踏まえて、「新たな情報財検討委員会報告書」公表後の新たな課題の有無等を含めて確認、整理しておくことが必要である。

(施策の方向性)
・創作過程におけるAIの利活用の拡大を見据え、進歩性等の特許審査実務上の課題やAIによる自律的な発明の取扱いに関する課題について諸外国の状況も踏まえて整理・検討する。(短期)(内閣府、経済産業省)

・これまで以上に幅広い分野において、創作過程におけるAIの利活用の拡大が見込まれることを踏まえ、AI関連発明の特許審査事例を拡充し、公表する。また、AI関連発明の効率的かつ高品質な審査を実現するため、AI審査支援チームを強化する。(短期)(経済産業省)

 今回は現状認識の部分も重要と思ったので長めに引用したが、生成AIと著作権の問題に関する施策の方向性としては、要するに、

・生成AIと著作権との関係について、AI技術の進歩の促進とクリエイターの権利保護等の観点に留意しながら、具体的な事例の把握・分析、法的考え方の整理を進め、必要な方策等を検討する。(短期、中期)(内閣府、文部科学省)

というものであって、この様に、現行著作権法に基づく考え方の整理と周知に重点を置いた書き方になっているのは、正しい現状認識に基づく妥当な方向性と私も考える。

 上で引用した部分でも書かれている様に、

  1. 著作権法第30条の4によりAI開発における著作物の利用は許諾なく可能だが、必要と認められる限度を超える場合や著作権者の利益を不当に害することとなる場合は権利制限の対象外となる
  2. 利用者の指示が簡単な指示に留まり、創作的寄与が認められない場合、AI生成物は著作物と認められず、利用者に著作権はなく、また、既存の著作物に対して依拠性と類似性が認められる場合、通常の著作権侵害と同様、AI生成物の提供等は著作権侵害となる

という現行著作権法の基本的な考え方を前提として(この考え方については、第477回又は下のAI戦略チームの関係整理ペーパー参照)、生成AI技術の発展に留意しつつ、特に、

・AI生成物が著作物と認められるための利用者の創作的寄与に関する考え方

・学習用データとして用いられた元の著作物と類似するAI生成物が利用される場合の著作権侵害に関する考え方

・AI(学習済みモデル)を作成するために著作物を利用する際の、著作権法第30条の4ただし書に定める「著作権者の利益を不当に害することとなる場合」についての考え方

という3つの論点について、今後、文化庁を中心にさらに整理が進められるのだろう。

 なお、政府の方向性としては、既に、5月11日の政府のAI戦略チームの第3回で示されたAIと著作権の関係について(pdf)で、同様に現行法の解釈の概要を示しながら、今後の対応として、

・上記の「現状の整理」等について、セミナー等の開催を通じて速やかに普及・啓発

・知的財産法学者・弁護士等を交え、文化庁においてAIの開発やAI生成物の利用に当たっての論点を速やかに整理し、考え方を周知・啓発

・コンテンツ産業など、今後の産業との関係性に関する検討等について

と書かれ、5月26日のAI戦略会議の第2回AIに関する暫定的な論点整理(pdf)の「3.主な論点の整理」の「3-1 リスクへの対応」で、第13ページに、

⑥著作権侵害のリスク
 生成AIがオリジナルに類似した著作物を生成するなどの懸念がある。生成AIの普及によって個々の権利者にとって著作権侵害事案が大量に発生し、紛争解決対応も困難となるおそれもある。一方で、生成AIを利用して映像制作を効率化する例もある。クリエーターの権利の守り方、使い方は重要な論点である。
 政府は、まずは現行の著作権法制度を丁寧に周知すべきである。今後、専門家も交えて、AI生成物が著作物として認められる場合、その利用が著作権侵害に当たる場合や著作物を学習用データとして利用することが不当に権利者の利益を害する場合の考え方などの論点を整理し、必要な対応を検討すべきである。

と書かれていたので、この知財計画は政府としては現状認識まで含めてより詳細に書いたものという事になるだろう。

 また、ここで、AIと特許の問題の詳細に踏み込むつもりはないが、特許法における発明についても同じ事が考えられるのはその通りであって、上では「(2)AI技術の進展を踏まえた発明の保護の在り方」も参考に抜粋した。

 後は今年の知財計画に見るべき所はほとんどないが、「7.デジタル時代のコンテンツ戦略」の「(2)クリエイター主導の促進とクリエイターへの適切な対価還元」で、対価還元について、第72~73ページに以下の様な項目が並んでいる。

・競争政策、デジタルプラットフォーム政策、著作権政策、情報通信政策等の諸政策の動向や、国際的ハーモナイゼーションの観点等を踏まえながら、クリエイター・制作事業者への適切な対価還元や取引の透明性の確保、権利処理・権利保護においてプラットフォームが果たす役割、インターネット上のコンテンツ流通の媒介者である通信関係事業者の役割等をめぐる課題について、各分野の実態把握と課題の整理を進める。(短期、中期)(内閣府、内閣官房、公正取引委員会、経済産業省、総務省、文部科学省)

・クリエイター・制作事業者に適切に対価が還元され、コンテンツの再生産につながるよう、リアルの空間での取組はもとより、デジタル時代に対応した新たな対価還元策について、コンテンツ配信プラットフォームや投稿サイト等における著作物の利用状況(権利侵害を伴う利用実態を含む。)、対価に関する情報の透明性、契約当事者間の関係性、権利保護・権利処理において投稿サイト等が果たすべき役割を踏まえ、関連各分野の実態把握・課題整理の取組と連携しながら、検討を進める。(短期、中期)(文部科学省、内閣官房、内閣府、公正取引委員会、総務省、経済産業省)

・コンテンツ制作者に対してコンテンツ流通取引の場を提供するプラットフォーマーの優位な関係性を考慮し、UGCなどの進展も踏まえたコンテンツ産業の将来的な姿も視野に入れて、欧米の制度も参考にしつつ、インターネット上のコンテンツ流通の媒介者である通信関係事業者の役割の在り方について、関連各分野の実態把握と課題の整理を踏まえて検討し、結論を得た上、必要な措置を講じる。(短期、中期)(総務省、関係省庁)

 ここで、対価還元の検討について、去年のブルーレイに実質的に私的録音録画補償金を賦課する悪辣な政令改正以降、私的複製補償金の対象拡大を諦めたという事は全くなく、確実にどこかで次の動きを仕掛けて来るに違いないと私は思っているが、ここで、プラットフォーマーの役割が強調され、知財計画から私的録音録画補償金に対する明示的な言及はなくなっている。

 同じく、「7.デジタル時代のコンテンツ戦略」の「(3)メタバース・NFT、生成AIなど新技術の潮流への対応」で、第75ページに、

・デジタル空間におけるデザイン保護の一翼を担う措置として、他人の商品の形態を模倣した商品を譲渡等する行為の規律を含む不正競争防止法の改正を踏まえた制度周知及び普及啓発等の必要な措置を講ずる。
(短期、中期)(経済産業省)

と、「(4)コンテンツ創作の好循環を支える著作権制度・政策の改革」で、第77ページに、

・文化庁は、第211回通常国会において成立した著作権法の一部を改正する法律による新たな裁定制度について、デジタル時代に対応したコンテンツ創作の好循環を促し、コンテンツの流通促進や、クリエイターへの対価還元の拡大等にも資するものとなるよう、関係府省庁との連携の下、利用者、権利者をはじめ幅広いステークホルダーの協力により、窓口組織の整備を図り、当該組織による体制構築やサービス内容等の具体化等が円滑に進められるようにするなど、施行に向けた準備と関係者への周知啓発等を行う。
(短期・中期)(文部科学省、内閣府、経済産業省、総務省、デジタル庁)

と、今年の法改正の周知、運用検討に関する項目がある。(著作権法改正、不正競争防止法等改正の内容については、それぞれ、第473回第474回参照。)

 また、「(6)海賊版・模倣品対策の強化」で、第84~85ページに、

・インターネット上の海賊版による被害拡大を防ぐため、インターネット上の海賊版に対する総合的な対策メニュー及び工程表に基づき、関係府省が連携しながら、必要な取組を進めるとともに、被害状況や対策の効果について逐次検証を行い、更なる取組の推進を図る。(短期、中期)(内閣府、警察庁、総務省、法務省、外務省、文部科学省、経済産業省)

・CDNサービス事業者における海賊版サイトへのサービス提供の停止や、検索サイト事業者における海賊版に係る検索結果表示の削除又は抑制など、海賊版サイトの運営やこれへのアクセスに利用される各種民間事業者のサービスについて必要な対策措置が講じられるよう、それら民間事業者と権利者との協力等の促進、当該民間事業者への働きかけ、権利行使を行う権利者への支援等を行う。(短期、中期)(総務省、文部科学省、経済産業省、内閣府)

・海賊版対策に係る課題と適切な対価還元等に係る課題とを合わせて検討することが必要な領域への対応を含めた対応として、競争政策、デジタルプラットフォーム政策、著作権政策、情報通信政策等の諸政策の動向や、国際的ハーモナイゼーションの観点等を踏まえながら、クリエイター・制作事業者への適切な対価還元や取引の透明性の確保、権利処理・権利保護においてプラットフォームが果たす役割、インターネット上のコンテンツ流通の媒介者である通信関係事業者の役割等をめぐる課題について、各分野の実態把握と課題の整理を進める。(短期、中期)(内閣府、内閣官房、公正取引委員会、経済産業省、総務省、文部科学省)【再掲】

・世界知的所有権機関(WIPO)や二国間協議等の枠組み、国際会議等の場を活用し、海賊版対策の強化に向けた働きかけを行うなど、国際連携の強化を図る。海外海賊版サイトの運営者摘発等に向け、外国公安当局への積極的な働きかけ、国際的な捜査協力等を推進するほか、民間事業者との協力の下、デジタルフォレンジック調査の実施等の取組を進めるなど、国際執行の強化を図る。(短期、中期)(内閣府、警察庁、総務省、法務省、外務省、文部科学省、経済産業省)

・インターネット上の国境を越えた著作権侵害等に対し国内権利者が行う権利行使への支援の取組の充実を図る。併せて、第211回通常国会で成立した著作権法の一部を改正する法律における海賊版被害の救済を図るための損害賠償額の算定方法の見直しについて、円滑な施行に向けた準備や周知を行う。(短期、中期)(文部科学省)

・海賊版・模倣品を購入しないことはもとより、特に、侵害コンテンツについては、視聴者は無意識にそれを視聴し侵害者に利益をもたらすことから、侵害コンテンツを含む海賊版・模倣品を容認しないということが国民の規範意識に根差すよう、関係省庁・関係機関による啓発活動を推進する。(短期、中期)(警察庁、消費者庁、総務省、財務省、文部科学省、農林水産省、経済産業省)

・越境電子商取引の進展に伴う模倣品・海賊版の流入増加へ対応するため、2022年10月に施行された改正商標法・意匠法・関税法により、海外事業者が郵送等により国内に持ち込む模倣品が税関による取締りの対象となったことを踏まえて、模倣品・海賊版に対する厳正な水際取締りを実施する。加えて、善意の輸入者に不測の損害を与えることがないよう、引き続き、十分な広報等に努める。また、他の知的財産権についても、必要に応じて、検討を行う。(短期、中期)(財務省、経済産業省、文部科学省)

という、いつもの総合的な対策メニューへの言及を含む海賊版対策に関する項目が並んでいるが、ここも去年同様のクラウド・CDNや検索サービス事業者との連携強化といった地道な取り組みを中心とした記載であり、危険な方向性が出ているといった事は特にない。

 引き続き海賊版対策関連も要注意だとは思うが、やはり、今年の知財問題に関する政府の検討で最も注目すべきは文化庁を中心に進められるのだろう生成AIと著作権に関する論点整理という事になるだろう。

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2023年3月26日 (日)

第475回:「知的財産推進計画2023」の策定に向けた意見募集(4月7日〆切)への提出パブコメ

 今年も4月7日〆切で知財本部から「知的財産推進計画2023」の策定に向けた意見募集(pdf)が行われており、私も意見を出したので、ここに載せておく。(去年の知財計画2022の記載については第460回参照。)

 去年の文化庁によるブルーレイを実質私的録音録画補償金の対象とする政令改正の強行を受けて(1)e)の私的録音録画補償金問題に関する部分を書き改め、各項目で法改正の成立や施行により記載を少し修正した他、記載を変えた所はあまりないが、今年は、最近の生成AIに関する話題の盛り上がりから政府・与党でも検討が行われる事を予想し、(2)a)に、生成AIと著作権の関係に関して検討する場合は、技術の発展や国際動向等にも留意し、法改正によって新たな規制を行う事や新しい権利を付与する事には慎重であるべきとの意見を追加した。

 どこまで意見を取り入れられるかは分からないが、毎年1回の知財政策全般について政府に意見を出せる機会ではあるので、この様な問題に関心のある方は是非意見の提出を検討する事をお勧めする。

(以下、提出パブコメ)

《要旨》
アメリカ等と比べて遜色の無い範囲で一般フェアユース条項を導入すること、ダウンロード犯罪化・違法化条項の撤廃並びにTPP協定・日欧EPAの見直し及び著作権の保護期間の短縮を求める。有害無益なインターネットにおける今以上の知財保護強化、特に著作権ブロッキングに反対するとともに歴史的役割を終えた私的録音録画補償金の完全廃止を求める。今後真の国民視点に立った知財の規制緩和の検討が進むことを期待する。

《全文》
 最終的に国益になるであろうことを考え、各業界の利権や省益を超えて必要となる政策判断をすることこそ知財本部とその事務局が本当になすべきことのはずであるが、知財計画2022を見ても、このような本当に政策的な決定は全く見られない上、2018年には危険極まる著作権ブロッキングのごり押しの検討まで行われ、2020年には非常に危ういダウンロード違法化・犯罪化の対象範囲の拡大を含む著作権法改正までなされた。知財保護が行きすぎて消費者やユーザーの行動を萎縮させるほどになれば、確実に文化も産業も萎縮するので、知財保護強化が必ず国益につながる訳ではないということを、著作権問題の本質は、ネットにおける既存コンテンツの正規流通が進まないことにあるのではなく、インターネットの登場によって新たに出てきた著作物の公正利用の類型に、今の著作権法が全く対応できておらず、著作物の公正利用まで萎縮させ、文化と産業の発展を阻害していることにあるのだということを知財本部とその事務局には、まずはっきりと認識してもらいたい。特に、最近の知財・情報に関する規制強化の動きは全て間違っていると私は断言する。

 例年通り、規制強化による天下り利権の強化のことしか念頭にない文化庁、総務省、警察庁などの各利権官庁に踊らされるまま、国としての知財政策の決定を怠り、知財政策の迷走の原因を増やすことしかできないようであれば、今年の知財計画を作るまでもなく、知財本部とその事務局には、自ら解散することを検討するべきである。そうでなければ、是非、各利権官庁に轡をはめ、その手綱を取って、知財の規制緩和のイニシアティブを取ってもらいたい。知財本部において今年度、インターネットにおけるこれ以上の知財保護強化はほぼ必ず有害無益かつ危険なものとなるということをきちんと認識し、真の国民視点に立った知財の規制緩和の検討が知財本部でなされることを期待し、本当に決定され、実現されるのであれば、全国民を裨益するであろうこととして、私は以下のことを提案する。

(1)「知的財産推進計画2022」の記載事項について:
a)ダウンロード違法化・犯罪化問題について
 知財計画2022の第76ページにインターネット上の海賊版に対する総合的な対策メニューについて記載されている。2019年10月に作成され、2021年4月に更新された総合的な対策メニューにはダウンロード違法化・犯罪化の対象範囲の拡大について記載されている。

 文化庁の暴走と国会議員の無知によって、2009年の6月12日にダウンロード違法化条項を含む改正著作権法が成立し、2010年の1月1日に施行された。また、日本レコード協会などのロビー活動により、自民党及び公明党が主導する形でダウンロード犯罪化条項がねじ込まれる形で、2012年6月20日に改正著作権法が成立し、2012年10月1日から施行されている。

 そして、2018年12月に意見募集がされた文化庁の法制・基本問題小委員会の中間まとめにおいて、極めて拙速な検討から、このダウンロード違法化・犯罪化の対象範囲を録音録画から著作物全般に拡大するとの方針が示され、その意見募集において極めて多くの懸念が示されたにもかかわらず、文化庁がこの方針を諦めずにダウンロード違法化・犯罪化の対象範囲の拡大を含む著作権法改正案の提出を準備していたところ、批判の高まりを受けて2019年の通常国会提出を断念した。

 その後、文化庁は、2019年10月に侵害コンテンツのダウンロード違法化等に関するパブリックコメントを行い、11月から2020年1月にかけて侵害コンテンツのダウンロード違法化の制度設計等に関する検討会において著作権法改正案を再検討した。しかし、この検討会における議論も法案提出の結論ありきの拙速極まるものであり、国民の声を丁寧に聞くと言いながら、パブリックコメントに寄せられた最も主要な意見が要件によらずダウンロード違法化を行うべきではないというものであるという事を無視し、写り込みに関する権利制限の拡充、民事における原作者の権利の除外及び軽微なものの除外という弥縫策でダウンロード違法化・犯罪化の対象範囲を押し通そうとし、2020年2月には、自民党が文科省に海賊版対策のための著作権法改正に関する申し入れを行い、民事刑事の両方において著作権者の利益を不当に害しないと認められる特別な事情がある場合を除外することを要請した。

 これらの文化庁の議論のまとめ及び自民党の要請を含む形で、2020年6月5日にダウンロード違法化・犯罪化の対象範囲拡大を含む改正著作権法が成立し、2021年1月1日から施行されている。

 この法改正後のダウンロード違法化・犯罪化において、スクリーンショットで違法画像が付随的に入り込む場合や、ストーリー漫画の数コマ、論文の数行、粗いサムネイル画像のダウンロードの場合といった僅かな場合が除かれ、また、著作権者の利益を不当に害しないと認められる特別な事情がある場合を除外する事で、それなりの正当化事由を示せる様な特別な事情がある場合が除かれるが、これは本質的な問題の解消に繋がるものではなく、それでもなお、利用者が通常するであろう多くの場合のカジュアルなスクリーンショット、ダウンロード、デジタルでの保存行為が違法・犯罪となる可能性が出て来、場合によって意味不明の萎縮が発生する恐れがある事に変わりはない。これは、録音録画に関するダウンロード違法化・犯罪化同様、海賊版対策としては何の役にも立たない、百害あって一利ない最低最悪の著作権法改正の一つとなるものである。

 過去のパブコメでも繰り返し書いているが、一人しか行為に絡まないダウンロードにおいて、「事実を知りながら」なる要件は、エスパーでもない限り証明も反証もできない無意味かつ危険な要件であり、技術的・外形的に違法性の区別がつかない以上、このようなダウンロード違法化・犯罪化は法規範としての力すら持ち得ず、罪刑法定主義や情報アクセス権を含む表現の自由などの憲法に規定される国民の基本的な権利の観点からも問題がある。このような法改正によって進むのはダウンロード以外も含め著作権法全体に対するモラルハザードのみであり、今のところ幸いなことに適用例はないが、これを逆にねじ曲げてエンフォースしようとすれば、著作権検閲という日本国として最低最悪の手段に突き進む恐れしかない。

 また、世界的に見ても、アップロードとダウンロードを合わせて行うファイル共有サービスに関する事件を除き、どの国においても単なるダウンロード行為を対象とする民事、刑事の事件は1件もなく、日本における現行の録音録画に関するダウンロード違法化・犯罪化も含め、このような法制が海賊版対策として何の効果も上がっていないことは明白である。また、ダウンロード違法化・犯罪化の対象範囲の拡大は、研究など公正利用として認められるべき目的のダウンロードにも影響する。

 そもそも、ダウンロード違法化の懸念として、このような不合理極まる規制強化・著作権検閲に対する懸念は、過去の文化庁へのパブコメ(文化庁HPhttps://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/chosakuken/hokoku.htmlの意見募集の結果参照。ダウンロード違法化問題において、この8千件以上のパブコメの7割方で示された国民の反対・懸念は完全に無視された。このような非道極まる民意無視は到底許されるものではない)や知財本部へのパブコメ(知財本部のHPhttps://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/keikaku2009.htmlの個人からの意見参照)を見ても分かる通り、法改正前から指摘されていたところであり、このようなさらなる有害無益な規制強化・著作権検閲にしか流れようの無いダウンロード違法化・犯罪化は始めからなされるべきではなかったものである。

 文化庁の暴走と国会議員の無知によって成立したものであり、ネット利用における個人の安心と安全を完全にないがしろにするものであり、その後も本質的な問題の解消に繋がる検討をなおざりに対象範囲の拡大がされたものである、百害あって一利ないダウンロード違法化・犯罪化を規定する著作権法第30条第1項第3及び第4号並びに第119条第3項等を即刻削除し、ダウンロード違法化・犯罪化を完全に撤廃することを速やかに行うべきである。

b)著作権法におけるいわゆる間接侵害・幇助への対応について
 総合的な対策メニューにはリーチサイト規制についても記載されている。

 このリーチサイト規制については、2018年12月に意見募集が行われた文化庁の法制・基本問題小委員会の中間まとめにおいて、著作権侵害コンテンツへのリンク行為に対するみなし侵害規定の追加及び刑事罰付加の方針が示されたが、著作権法改正案の2019年の通常国会提出は見送られ、ダウンロード違法化・犯罪化の対象範囲の拡大と合わせ、このリーチサイト規制を含む改正著作権法が2020年6月5日に成立し、2020年10月1日から施行されている。

 改正著作権法のリーチサイト規制は、親告罪とされた事とプラットフォーマーの原則除外でかなり緩和が図られているとは思うが、この様な法改正の本質的な必要性には疑問がある。

 リーチサイト対策の検討は、著作権法におけるいわゆる間接侵害・幇助への対応をどうするかという問題に帰着する。文化庁の中間まとめを読んでも、権利者団体の一方的かつ曖昧な主張が並べられているだけで、権利者団体側がリーチサイト等に対して改正前の著作権法に基づいてどこまで何をしたのか、その対処に関する定量的かつ論理的な検証は何らされておらず、本当にどのような場合について改正前の著作権法では不十分であったのかはその後もなお不明なままであり、さらに、このような間接侵害あるいは幇助の検討において当然必要とされるはずのセーフハーバーの検討も極めて不十分なままである。

 確かにセーフハーバーを確定するために間接侵害・幇助の明確化はなされるべきであるが、基本的にカラオケ法理や各種ネット録画機事件などで示されたことの全体的な整理以上のことをしてはならない。特に、著作権法に明文の間接侵害一般規定を設けることは絶対にしてはならないことである。現状の整理を超えて、明文の間接侵害一般規定を作った途端、権利者団体や放送局がまず間違いなく山の様に脅しや訴訟を仕掛けて来、今度はこの間接侵害規定の定義やそこからの滲み出しが問題となり、無意味かつ危険な社会的混乱を来すことは目に見えているからである。

 リーチサイト規制については、その本質的な必要性に疑問のある今回の法改正後の運用を注視するとともに、知財計画2023において間接侵害・幇助への今後の対応について記載するのであれば、著作権法の間接侵害・幇助の明確化は、ネット事業・利用の著作権法上のセーフハーバーを確定するために必要十分な限りにおいてのみなされると合わせ明記するべきである。

 このようなリーチサイト問題も含め、ネット上の違法コンテンツ対策、違法ファイル共有対策については、通信の秘密やプライバシー、情報アクセス権等の国民の基本的な権利をきちんと尊重しつつ対策を検討してもらいたい。この点においても、国民の基本的な権利を必ず侵害するものとなり、ネットにおける文化と産業の発展を阻害することにつながる危険な規制強化の検討ではなく、ネットにおける各種問題は情報モラル・リテラシー教育によって解決されるべきものという基本に立ち帰り、現行のプロバイダー責任制限法と削除要請を組み合わせた対策などの、より現実的かつ地道な施策のみに注力して検討を進めるべきである。

c)著作権ブロッキング・アクセス警告方式について
 総合的な対策メニューには著作権ブロッキングやアクセス警告方式についても言及されている。

 サイトブロッキングについては、知財本部において、2018年4月の緊急対策の決定後、2018年10月まで検討が行われた。

 このようなサイトブロッキングについて、アメリカでは、議会に提出されたサイトブロッキング条項を含むオンライン海賊対策法案(SOPA)や知財保護強化法案(PIPA)が、IT企業やユーザーから検閲であるとして大反対を受け、その審議は止められている。また、世界を見渡しても、ブロッキングを巡ってはどの国であれなお混沌とした状況にあり、いかなる形を取るにせよブロッキングの採用が有効な海賊版対策として世界の主要な流れとなっているとは到底言い難い。

 サイトブロッキングの問題については下でも述べるが、インターネット利用者から見てその妥当性をチェックすることが不可能なサイトブロッキングにおいて、透明性・公平性・中立性を確保することは本質的に完全に不可能である。このようなブロッキングは、憲法に規定されている表現の自由(知る権利・情報アクセスの権利を含む)や検閲の禁止、通信の秘密といった国民の基本的な権利を侵害するものとならざるを得ないものであり、決して導入されるべきでないものである。

 幸いなことに、2018年10月で知財本部におけるブロッキングの検討は止まったが、多くの懸念の声が上げられていたにもかかわらず、ブロッキングありきでごり押しの検討を行ったことについて私は知財本部に猛省を求める。知財計画2023においてブロッキングについて言及するのであれば、2018年の検討の反省の弁とともに今後二度とこのような国民の基本的な権利を踏みにじる検討をしないと固く誓うとしてもらいたい。

 アクセス警告方式についても、通信の監視・介入の点でブロッキングと本質的に違いはなく、その導入は法的にも技術的にも難しいとする、2019年8月の総務省のインターネット上の海賊版サイトへのアクセス抑止方策に関する検討会の報告書の整理を守るべきである。

 その提案からも明確なように、違法コピー対策問題における権利者団体の主張は常に一方的かつ身勝手であり、ネットにおける文化と産業の発展を阻害するばかりか、インターネットの単純なアクセスすら危険なものとする非常識なものばかりである。今後は、このような一方的かつ身勝手な規制強化の動きを規制するため、憲法の「表現の自由」に含まれ、国際人権B規約にも含まれている国民の「知る権利」を、あらゆる公開情報に安全に個人的にアクセスする権利として、通信法に法律レベルで明文で書き込むことを検討するべきである。同じく、憲法に規定されている検閲の禁止及び通信の秘密から、サイトブロッキングのような技術的検閲の禁止を通信法に法律レベルで明文で書き込むことを検討するべきである。

d)プロバイダー責任制限法の改正検討について、
 総合的な対策メニューにはプロバイダー責任制限法の改正検討についても記載されている。

 このプロバイダー責任制限法の改正について、総務省で検討が行われ、2020年12月に発信者情報開示の在り方に関する研究会の最終とりまとめが公表された後、改正プロバイダー責任制限法が2021年4月21日に成立し、2022年10月1日から施行されている。

 この改正プロバイダー責任制限法は発信者情報開示のため原則非公開の非訟手続きを新設している。しかし、これは今までの通常の裁判による発信者情報開示とほぼ同様の手続きを非訟手続きとして規定しただけのものであって、かえって発信者情報開示に関する手続きの不透明性や複雑性が増し、いたずらに今の状況を混乱させるだけで、発信者の保護はおろか権利侵害の救済にも繋がらない懸念がある。

 今後その運用を注視し、やはり混乱等が見られる様であれば、発信者情報の開示は、通信の秘密といった重要な国民の権利に関するものであるから、原則公開の訴訟手続によらなければならないものであるという事を念頭に、この新しい非訟手続きを廃止し、通常の裁判による発信者情報開示の拡充や迅速化の様な真に実効性のある検討を行うべきである。

e)私的録音録画補償金問題について
 知財計画2022の第71~72ページでは私的録音録画補償金問題についても言及されている。

 権利者団体等が単なる既得権益の拡大を狙ってiPod等へ対象範囲を拡大を主張している私的録音録画補償金問題についても、補償金のそもそもの意味を問い直すことなく、今の補償金の矛盾を拡大するだけの私的録音録画補償金の対象拡大を絶対にするべきではないにも関わらず、文化庁は、実質的にブルーレイを私的録音録画補償金の対象とする著作権法施行令改正について、2022年8月から9月にかけて意見募集を行い、その後意見募集の結果について極めて恣意的にまとめた回答を出しただけで、この施行令改正の閣議決定を2022年10月21日に強行した。

 文化庁の過去の文化審議会著作権分科会における数年の審議において、補償金のそもそもの意義についての意義が問われたが、文化庁が、天下り先である権利者団体のみにおもねり、この制度に関する根本的な検討を怠った結果、特にアナログチューナー非対応録画機への課金について私的録音録画補償金管理協会と東芝間の訴訟に発展した。ブルーレイ課金・アナログチューナー非搭載録画機への課金について、権利者団体は、ダビング10への移行によってコピーが増え自分たちに被害が出ると大騒ぎをしたが、移行後10年以上経った今現在においても、ダビング10の実施による被害増を証明するに足る具体的な証拠は全く示されておらず、ブルーレイ課金・アナログチューナー非搭載録画機への課金に合理性があるとは到底思えない。わずかに緩和されたとは言え、今なお地上デジタル放送にはダビング10という不当に厳しいコピー制限がかかったままである。こうした実質的に全国民に転嫁されるコストで不当に厳しい制限を課している機器と媒体にさらに補償金を賦課しようとするのは、不当の上塗りである。

 なお、世界的に見ても、メーカーや消費者が納得して補償金を払っているということはカケラも無く、権利者団体がその政治力を不当に行使し、歪んだ「複製=対価」の著作権神授説に基づき、不当に対象を広げ料率を上げようとしているだけというのがあらゆる国における実情である。表向きはどうあれ、大きな家電・PCメーカーを国内に擁しない欧州各国は、私的録音録画補償金制度を、外資から金を還流する手段、つまり、単なる外資規制として使っているに過ぎない。この制度における補償金の対象・料率に関して、具体的かつ妥当な基準はどこの国を見ても無いのであり、この制度は、ほぼ権利者団体の際限の無い不当な要求を招き、莫大な社会的コストの浪費のみにつながっている。機器・媒体を離れ音楽・映像の情報化が進む中、「複製=対価」の著作権神授説と個別の機器・媒体への賦課を基礎とする私的録音録画補償金は、既に時代遅れのものとなりつつあり、その対象範囲と料率のデタラメさが、デジタル録音録画技術の正常な発展を阻害し、デジタル録音録画機器・媒体における正常な競争市場を歪めているという現実は、補償金制度を導入したあらゆる国において、問題として明確に認識されなくてはならないことである。

 今まで積み重ねられてきた、判例、保護利用小委員会などの審議会における議論、様々な関係者の意見の全てを愚弄する、2022年の不当な政令改正は到底納得できるものではない。ブルーレイレコーダーとディスクを私的録音録画補償金の対象とする事について今に至るも妥当な根拠は何一つ見出せない。

 今まで知財本部及び文化庁に提出した意見の通り、私は一国民、一個人、一消費者、一利用者・ユーザーとして到底納得の行かない私的録音録画補償金の対象拡大になお断固反対する。

 この政令改正の意見募集などで知財計画の記載も持ち出されており、知財本部・事務局も絡んでいるとの話も聞かれるが、本当にそうであるならば知財本部・事務局もこの様な不当な政令改正に加担した事を猛省し、その過ちを認め、日本政府として速やかに方針を改めるべきである。

 文化庁に集まった2406件のこの政令改正に関する意見の全文を速やかに公表するとともに、政令を元に戻す閣議決定を行う事を私は求める。その上で、中立的な第三者による調査により、前提となっていた旧来の形の私的録音録画自体もはや時代遅れになり少なくなっているという事を示し、全関係者が参加する公開の場で議論し、私的録音録画補償金制度は歴史的役割を終えたものとして完全に廃止するとの結論を出すべきである。

(2)その他の知財政策事項について:
a)生成AI・人工知能の様な新技術と著作権の関係に関する検討について
 機械学習の発展により、かなりの精度で文章や絵などを自動的に計算して生成するいわゆる生成AI・人工知能が話題となっている事から、政府・与党でもこの様な生成AIと著作権の関係について今後検討を行う事が予想される。

 その様な検討自体に反対はしないが、検討する場合は、この様な新技術の発展が速い事や国際動向等にも照らし、かえって社会的混乱を招き、技術の発展を阻害する恐れの強い、法改正によって新たな規制を行う事や新しい権利を付与する事には極めて慎重であるべきである。

 知財計画2023において生成AI・人工知能の様な新技術と著作権の関係に関する検討について記載する場合には、技術の発展や国際動向等にも留意し、法改正によって新たな規制を行う事や新しい権利を付与する事には慎重である事を基本的な方針として合わせ明記するべきである。

 なお、今国会に提出されている、デジタル空間に形態模倣規制を導入する不正競争防止法改正案には賛同するが、メタバースとの関連でも、これ以上の法改正には慎重であるべきである。

b)秘密特許制度(経済安保法案の特許非公開関連部分)について
 2022年2月にとりまとめられた経済安全保障法制に関する有識者会議の提言に基づく、秘密特許制度(特許非公開制度)を含む経済安全保障法案が2022年5月11日に国会で可決・成立し、その施行を待つ状態にある。

 この法律により導入されようとしている秘密特許制度は、論文等の研究成果の公表は自由という前提と矛盾を来しており、その根拠となる立法事実があるのか、「公にすることにより外部から行われる行為によって国家及び国民の安全を損なう事態を生ずるおそれが大きい発明」についてまともに判断できるのか、その様なものが今の日本で本当に出願されているのか、出願され得るのか、罰則までつける事が妥当かなど、そもそも大いに疑わしいものである。

 また、この法律はあらゆる重要事項をほぼ全て政省令に落とす不明確な形で条文化されており、国会審議における政府回答によってもその明確化が完全に図られているとは言い難く、この秘密特許制度が恣意的に運用されると、国の安全保障に役立たないのは無論の事、かえって国として本来促進するべき技術分野の研究開発、国内外での特許取得活動に大きな萎縮が発生する可能性すらある。

 その様な萎縮を発生させないよう、その政省令及び具体的な運用に関する指針を速やかに公表して意見募集を行い、集まった意見を政省令等に反映し、制度開始まで十分な期間を取って周知を行うべきである。

c)オンライン手続きのための権利制限を含む著作権法改正案について
 今国会に、立法・行政においてオンライン手続きを可能とする著作権法改正案と、民事訴訟法による通常の民事訴訟以外の家事事件などのオンライン化に対応する著作権法上の権利制限の拡充を含む関係手続電子化法案が提出されている所であり、これらの権利制限を含む法改正案の早期成立を期待する。

 なお、今回の著作権法改正案には、拡大集中ライセンス制度に類似した新制度の導入も含まれているが、この新制度の運用について、DX時代への対応というその目的を踏まえ、相談・申請から利用許可までの全手続きをネットだけで完結する様にするべきであり、その手数料も公的な支援や授業目的公衆送信補償金制度の共通目的事業等の活用によりなるべく低廉化を図るべきである。

d)環太平洋経済連携協定(TPP)などの経済連携協定(EPA)に関する取組について
 TPP協定については、2015年10月に大筋合意が発表され、文化庁、知財本部の検討を経て、11月にTPP総合対策本部でTPP関連政策大綱が決定され、さらに2016年2月に署名され、3月に関連法案の国会提出がされ、11月の臨時国会で可決・成立し、2017年1月20日に参加国として初めての国内手続きの完了に関する通報が行われた。

 しかし、この国内手続きにおいて、日本政府は、2015年10月に大筋合意の概要のみを公表し、11月のニュージーランド政府からの協定条文の英文公表時も全章概要を示したのみで、その後2ヶ月も経って2016年1月にようやく公式の仮訳を公表するなど、TPP協定の内容精査と政府への意見提出の時間を国民に実質与えない極めて姑息かつ卑劣なやり方を取っていたと言わざるを得ない。

 そして、公開された条文によって今までのリーク文書が全て正しかったことはほぼ証明されており、TPP協定は確かに著作権の保護期間延長、DRM回避規制強化、法定賠償制度、著作権侵害の非親告罪化などを含んでいる。今ですら不当に長い著作権保護期間のこれ以上の延長など本来論外だったものである。

 その後、日本政府は、アメリカ抜きの11カ国でのTPP11協定を推進し、2017年11月に大筋合意が発表され、その中で最もクリティカルな部分である著作権と特許の保護期間延長とDRM規制の強化の部分が凍結さたにもかかわらず、これらの事項を含む国内関連法改正案を2018年3月に国会に提出し(6月に可決・成立)、2018年12月のTPP11協定の発効とともに施行するという戦後最大級の愚行をなした。このようになし崩しで極めて危険な法改正がなされたことを私は一国民として強く非難する。

 2017年12月には、同じく著作権の保護期間延長を含む日EU(欧)EPA交渉も妥結され、2018年2月に発効している。しかし、この日欧EPA交渉もTPP協定同様の姑息かつ卑劣な秘密交渉で決められたものである。その内容についてほとんど何の説明もないままに著作権の保護期間延長のような国益の根幹に関わる点について日本政府は易々と譲歩した。これは完全に国民をバカにしているとしか言いようがない。

 2020年9月に大筋合意され、2021年1月に発効している、同じく著作権の保護期間延長を含む日英EPAについても同様である。

 これらのTPP協定、日欧EPA及び日英EPAについてその内容の見直しを各加盟国に求めること及び著作権の保護期間の短縮について速やかに検討を開始することを私は求める。

 また、TPP交渉や日欧EPA交渉のような国民の生活に多大の影響を及ぼす国際交渉が政府間で極秘裏に行われたことも大問題である。国民一人一人がその是非を判断できるよう、途中経過も含めその交渉に関する情報をすべて速やかに公開するべきである。

e)DRM回避規制について
 経産省と文化庁の主導により無意味にDRM回避規制を強化する不正競争防止法と著作権法の改正案がそれぞれ以前国会を通され、2018年に不正競争防止法がさらに改正され、2020年の改正著作権法にも同様の事項が含まれているが、これらの法改正を是とするに足る立法事実は何一つない。不正競争防止法と著作権法でDRM回避機器等の提供等が規制され、著作権法でコピーコントロールを回避して行う私的複製まで違法とされ、十二分以上に規制がかかっているのであり、これ以上の規制強化は、ユーザーの情報アクセスに対するリスクを不必要に高める危険なものとしかなり得ない。

 特に、DRM回避規制に関しては、有害無益な規制強化の検討ではなく、まず、私的なDRM回避行為自体によって生じる被害は無く、個々の回避行為を一件ずつ捕捉して民事訴訟の対象とすることは困難だったにもかかわらず、文化庁の片寄った見方から一方的に導入されたものである、私的な領域でのコピーコントロール回避規制(著作権法第30条第1項第2号)の撤廃の検討を行うべきである。コンテンツへのアクセスあるいはコピーをコントロールしている技術を私的な領域で回避しただけでは経済的損失は発生し得ず、また、ネットにアップされることによって生じる被害は公衆送信権によって既にカバーされているものであり、その被害とDRM回避やダウンロードとを混同することは絶対に許されない。それ以前に、私法である著作権法が、私的領域に踏み込むということ自体異常なことと言わざるを得ない。何ら立法事実の変化がない中、ドサクサ紛れに通された、先般の不正競争防止法改正によるDRM規制の強化や、以前の著作権法改正で導入されたアクセスコントロール関連規制の追加等について、速やかに元に戻す検討がなされるべきである。

 TPP協定にはDRM回避規制の強化も含まれており、上で書いた通り、これ以上のDRM回避規制の強化がされるべきではなく、この点でも私はTPP協定の見直しを求める。

f)海賊版対策条約(ACTA)について
 ACTAを背景に経産省及び文化庁の主導により無意味にDRM回避規制を強化する不正競争防止法及び著作権法の改正案が以前国会を通され、ACTA自体も国会で批准された。しかし、このようなユーザーの情報アクセスに対するリスクを不必要に高める危険なものとしかなり得ない規制強化条項を含む条約の交渉、署名及び批准は何ら国民的なコンセンサスが得られていない中でなされており、私は一国民としてACTAに反対する。今なおACTAの批准国は日本しかなく、日本は無様に世界に恥を晒し続けている。もはやACTAに何ら意味はなく、日本は他国への働きかけを止めるとともに自ら脱退してその失敗を認めるべきである。

g)一般フェアユース条項の導入について
 2018年に個別の権利制限を拡充する著作権法改正がなされており、これはその限りにおいて評価できるものではあるが、本当の意味で柔軟な一般フェアユース条項を入れるものではない。

 一般フェアユース条項については、一から再検討を行い、ユーザーに対する意義からも、アメリカ等と遜色ない形で一般フェアユース条項を可能な限り早期に導入するべきである。特に、インターネットのように、ほぼ全国民が利用者兼権利者となり得、考えられる利用形態が発散し、個別の規定では公正利用の類型を拾い切れなくなるところでは、フェアユースのような一般規定は保護と利用のバランスを取る上で重要な意義を持つものである。

 今後の検討によっても幾つかの個別の権利制限が追加される可能性があるが、これらはあった方が良いものとは言え、到底一般フェアユース条項と言うに足るものではなく、これでは著作権をめぐる今の混迷状況が変わることはない。

 著作物の公正利用には変形利用もビジネス利用も考えられ、このような利用も含めて著作物の公正利用を促すことが、今後の日本の文化と経済の発展にとって真に重要であることを考えれば、不当にその範囲を不当に狭めるべきでは無く、その範囲はアメリカ等と比べて遜色の無いものとされるべきである。ただし、フェアユースの導入によって、私的複製の範囲が縮小されることはあってはならない。

 また、「まねきTV」事件などの各種判例からも、ユーザー個人のみによって利用されるようなクラウド型サービスまで著作権法上ほぼ違法とされてしまう状況に日本があることは明らかであり、このような状況は著作権法の趣旨に照らして決して妥当なことではない。ユーザーが自ら合法的に入手したコンテンツを私的に楽しむために利用することに著作権法が必要以上に介入することが許されるべきではなく、個々のユーザーが自らのためのもに利用するようなクラウド型サービスにまで不必要に著作権を及ぼし、このような技術的サービスにおけるトランザクションコストを過大に高め、その普及を不当に阻害することに何ら正当性はない。この問題がクラウド型サービス固有の問題でないのはその通りであるが、だからといって法改正の必要性がなくなる訳ではない。著作権法の条文及びその解釈・運用が必要以上に厳格に過ぎクラウド型サービスのような技術の普及が不当に阻害されているという日本の悲惨な現状を多少なりとも緩和するべく、速やかに問題を再整理し、アメリカ等と比べて遜色の無い範囲で一般フェアユース条項を導入し、同時にクラウド型サービスなどについてもすくい上げられるようにするべきである。

 権利を侵害するかしないかは刑事罰がかかるかかからないかの問題でもあり、公正という概念で刑事罰の問題を解決できるのかとする意見もあるようだが、かえって、このような現状の過剰な刑事罰リスクからも、フェアユースは必要なものと私は考える。現在親告罪であることが多少セーフハーバーになっているとはいえ、アニメ画像一枚の利用で別件逮捕されたり、セーフハーバーなしの著作権侵害幇助罪でサーバー管理者が逮捕されたりすることは、著作権法の主旨から考えて本来あってはならないことである。政府にあっては、著作権法の本来の主旨を超えた過剰リスクによって、本来公正として認められるべき事業・利用まで萎縮しているという事態を本当に深刻に受け止め、一刻も早い改善を図ってもらいたい。

 個別の権利制限規定の迅速な追加によって対処するべきとする意見もあるが、文化庁と癒着権利者団体が結託して個別規定すらなかなか入れず、入れたとしても必要以上に厳格な要件が追加されているという惨憺たる現状において、個別規定の追加はこの問題における真の対処たり得ない。およそあらゆる権利制限について、文化庁と権利者団体が結託して、全国民を裨益するだろう新しい権利制限を潰すか、極めて狭く使えないものとして来たからこそ、今一般規定が社会的に求められているのだという、国民と文化の敵である文化庁が全く認識していないだろう事実を、政府・与党は事実としてはっきりと認めるべきである。

h)コピーワンス・ダビング10・B-CAS問題について
 私はコピーワンスにもダビング10にも反対する。そもそも、この問題は、放送局・権利者にとっては、視聴者の利便性を著しく下げることによって、一旦は広告つきながらも無料で放送したコンテンツの市場価格を不当につり上げるものとして機能し、国内の大手メーカーとっては、B-CASカードの貸与と複雑な暗号システムを全てのテレビ・録画機器に必要とすることによって、中小・海外メーカーに対する参入障壁として機能するB-CASシステムの問題を淵源とするのであって、このB-CASシステムと独禁法の関係を検討するということを知財計画2023では明記してもらいたい。検討の上B-CASシステムが独禁法違反とされるなら、速やかにその排除をして頂きたい。また、無料の地上放送において、逆にコピーワンスやダビング10のような視聴者の利便性を著しく下げる厳格なコピー制御が維持されるのであれば、私的録画補償金に存在理由はなく、これを速やかに廃止するべきである。

i)著作権検閲・ストライクポリシーについて
 ファイル共有ソフトを用いて著作権を侵害してファイル等を送信していた者に対して警告メールを送付することなどを中心とする電気通信事業者と権利者団体の連携による著作権侵害対策が警察庁、総務省、文化庁などの規制官庁が絡む形で行われており、警察によってファイル共有ネットワークの監視も行われているが、このような対策は著作権検閲に流れる危険性が極めて高い。

 フランスで導入が検討された、警告メールの送付とネット切断を中心とする、著作権検閲機関型の違法コピー対策である3ストライクポリシーは、2009年6月に、憲法裁判所によって、インターネットのアクセスは、表現の自由に関係する情報アクセスの権利、つまり、最も基本的な権利の1つとしてとらえられるとされ、著作権検閲機関型の3ストライクポリシーは、表現の自由・情報アクセスの権利やプライバシーといった他の基本的な権利をないがしろにするものとして、真っ向から否定されている。ネット切断に裁判所の判断を必須とする形で導入された変形ストライク法も何ら効果を上げることなく、フランスでは今もストライクポリシーについて見直しの検討が行われており、2013年7月にはネット切断の罰が廃止されている。日本においては、このようなフランスにおける政策の迷走を他山の石として、このように表現の自由・情報アクセスの権利やプライバシーといった他の基本的な権利をないがしろにする対策を絶対に導入しないこととするべきであり、警察庁などが絡む形で検討されている違法ファイル共有対策についても、通信の秘密やプライバシー、情報アクセス権等の国民の基本的な権利をきちんと尊重する形で進めることが担保されなくてはならない。

j)著作権法へのセーフハーバー規定の導入について
 動画投稿サイト事業者がJASRACに訴えられた「ブレイクTV」事件や、レンタルサーバー事業者が著作権幇助罪で逮捕され、検察によって姑息にも略式裁判で50万円の罰金を課された「第(3)世界」事件や、1対1の信号転送機器を利用者からほぼ預かるだけのサービスが放送局に訴えられ、最高裁判決で違法とされた「まねきTV」事件等を考えても、今現在、カラオケ法理の適用範囲はますます広く曖昧になり、間接侵害や著作権侵害幇助のリスクが途方もなく拡大し、甚大な萎縮効果・有害無益な社会的大混乱が生じかねないという非常に危険な状態がなお続いている。間接侵害事件や著作権侵害幇助事件においてネット事業者がほぼ直接権利侵害者とみなされてしまうのでは、プロバイダー責任制限法によるセーフハーバーだけでは不十分であり、間接侵害や著作権侵害幇助罪も含め、著作権侵害とならない範囲を著作権法上きちんと確定することは喫緊の課題である。ただし、このセーフハーバーの要件において、標準的な仕組み・技術や違法性の有無の判断を押しつけるような、権利侵害とは無関係の行政機関なり天下り先となるだろう第3者機関なりの関与を必要とすることは、検閲の禁止・表現の自由等の国民の権利の不当な侵害に必ずなるものであり、絶対にあってはならないことである。

 知財計画2023において、プロバイダに対する標準的な著作権侵害技術導入の義務付け等を行わないことを合わせ明記するとともに、間接侵害や刑事罰・著作権侵害幇助も含め著作権法へのセーフハーバー規定の速やかな導入を検討するとしてもらいたい。この点に関しては、逆に、検閲の禁止や表現の自由の観点から技術による著作権検閲の危険性の検討を始めてもらいたい。

k)二次創作規制の緩和について
 2014年8月のクールジャパン提言の第13ページに「クリエイティビティを阻害している規制についてヒアリングし規制緩和する。コンテンツの発展を阻害する二次創作規制、ストリートパフォーマンスに関する規制など、表現を限定する規制を見直す。」と記載されている通り、二次創作は日本の文化的創作の原動力の一つになっており、その推進のために現状の規制を緩和する必要がある。これは知的財産に関わる重要な提言であり、二次創作規制を緩和するという記載を知財計画2023においてもそのまま取り入れ、政府としてこのような規制の緩和を強力に推進することを重ねてきちんと示すべきである。

l)著作権等に関する真の国際動向について国民へ知らされる仕組みの導入及び文化庁ワーキンググループの公開について
 WIPO等の国際機関にも、政府から派遣されている者はいると思われ、著作権等に関する真の国際動向について細かなことまで即座に国民へ知らされる仕組みの導入を是非検討してもらいたい。

 また、2013年からの著作物等の適切な保護と利用・流通に関するワーキングチーム及び2015年からの新たな時代のニーズに的確に対応した制度等の整備に関するワーキングチームの審議は公開とされたが、文化庁はワーキングチームについて公開審議を原則とするにはなお至っていない。上位の審議会と同様今後全てのワーキンググループについて公開審議を原則化するべきである。

m)天下りについて
 以前文部科学省の天下り問題が大きく報道されたが、知財政策においても、天下り利権が各省庁の政策を歪めていることは間違いなく、知財政策の検討と決定の正常化のため、文化庁から著作権関連団体への、総務省から放送通信関連団体・企業への、警察庁からインターネットホットラインセンター他各種協力団体・自主規制団体への天下りの禁止を知財本部において決定して頂きたい。(これらの省庁は特にひどいので特に名前をあげたが、他の省庁も含めて決定してもらえるなら、それに超したことはない。)

(3)その他一般的な情報・ネット・表現規制について
 知財計画改訂において、一般的な情報・ネット・表現規制に関する項目は削除されているが、常に一方的かつ身勝手な主張を繰り広げる自称良識派団体が、意味不明の理屈から知財とは本来関係のない危険な規制強化の話を知財計画に盛り込むべきと主張をしてくることが十分に考えられるので、ここでその他の危険な一般的な情報・ネット・表現規制強化の動きに対する反対意見も述べる。今後も、本来知財とは無関係の、一般的な情報・ネット・表現規制に関する項目を絶対に知財計画に盛り込むことのないようにしてもらいたい。

a)青少年ネット規制法・出会い系サイト規制法について
 そもそも、青少年ネット規制法は、あらゆる者から反対されながら、有害無益なプライドと利権を優先する一部の議員と官庁の思惑のみで成立したものであり、速やかに廃止が検討されるべきものである。また、出会い系サイト規制法の改正は、警察庁が、どんなコミュニケーションサイトでも人は出会えるという誰にでも分かることを無視し、届け出制の対象としては事実上定義不能の「出会い系サイト事業」を定義可能と偽り、改正法案の閣議決定を行い、法案を国会に提出したものであり、他の重要法案と審議が重なる中、国会においてもその本質的な問題が見過ごされて可決され、成立したものである。憲法上の罪刑法定主義や検閲の禁止にそもそも違反している、この出会い系サイト規制法の改正についても、今後、速やかに元に戻すことが検討されるべきである。

b)児童ポルノ規制・サイトブロッキングについて
 児童ポルノ法規制強化問題・有害サイト規制問題における自称良識派団体の主張は、常に一方的かつ身勝手であり、ネットにおける文化と産業の発展を阻害するばかりか、インターネットの単純なアクセスすら危険なものとする非常識なものばかりである。今後は、このような一方的かつ身勝手な規制強化の動きを規制するため、憲法の「表現の自由」に含まれ、国際人権B規約にも含まれている国民の「知る権利」を、あらゆる公開情報に安全に個人的にアクセスする権利として、通信法に法律レベルで明文で書き込むべきである。同じく、憲法に規定されている検閲の禁止から、技術的な検閲やサイトブロッキングのような技術的検閲の禁止を通信法に法律レベルで明文で書き込むべきである。

 閲覧とダウンロードと取得と所持の区別がつかないインターネットにおいては、例え児童ポルノにせよ、情報の単純所持や取得の規制は有害無益かつ危険なもので、憲法及び条約に規定されている「知る権利」を不当に害するものとなる。「自身の性的好奇心を満たす目的で」、積極的あるいは意図的に画像を得た場合であるなどの限定を加えたところで、エスパーでもない限りこのような積極性を証明することも反証することもできないため、このような情報の単純所持や取得の規制の危険性は回避不能であり、思想の自由や罪刑法定主義にも反する。繰り返し取得としても、インターネットで2回以上他人にダウンロードを行わせること等は技術的に極めて容易であり、取得の回数の限定も、何ら危険性を減らすものではない。

 児童ポルノ規制の推進派は常に、提供による被害と単純所持・取得を混同する狂った論理を主張するが、例えそれが児童ポルノであろうと、情報の単純所持ではいかなる被害も発生し得ない。現行法で、ネット上であるか否かにかかわらず、提供及び提供目的の所持が規制されているのであり、提供によって生じる被害と所持やダウンロード、取得、収集との混同は許され得ない。そもそも、最も根本的なプライバシーに属する個人的な情報所持・情報アクセスに関する情報を他人が知ることは、通信の秘密や情報アクセスの権利、プライバシーの権利等の基本的な権利からあってはならないことである。

 アニメ・漫画・ゲームなどの架空の表現に対する規制対象の拡大も議論されているが、このような対象の拡大は、児童保護という当初の法目的を大きく逸脱する、異常規制に他ならない。アニメ・漫画・ゲームなどの架空の表現において、いくら過激な表現がなされていようと、それが現実の児童被害と関係があるとする客観的な証拠は何一つない。いまだかつて、この点について、単なる不快感に基づいた印象批評と一方的な印象操作調査以上のものを私は見たことはないし、虚構と現実の区別がつかないごく一部の自称良識派の単なる不快感など、言うまでもなく一般的かつ網羅的な表現規制の理由には全くならない。アニメ・漫画・ゲームなどの架空の表現が、今の一般的なモラルに基づいて猥褻だというのなら、猥褻物として取り締まるべき話であって、それ以上の話ではない。どんな法律に基づく権利であれ、権利の侵害は相対的にのみ定まるものであり、実際の被害者の存在しない創作物・表現に対する規制は何をもっても正当化され得ない。民主主義の最重要の基礎である表現の自由や言論の自由、思想の自由等々の最も基本的な精神的自由そのものを危うくすることは絶対に許されない。この点で、2012年6月にスウェーデンで漫画は児童ポルノではないとする最高裁判決が出されたことなども注目されるべきである。

 単純所持規制にせよ、創作物規制にせよ、両方とも1999年当時の児童ポルノ法制定時に喧々囂々の大議論の末に除外された規制であり、規制推進派が何と言おうと、これらの規制を正当化するに足る立法事実の変化はいまだに何一つない。

 既に、警察などが提供するサイト情報に基づき、統計情報のみしか公表しない不透明な中間団体を介し、児童ポルノアドレスリストの作成が行われ、そのリストに基づいて、ブロッキング等が行われているが、いくら中間に団体を介そうと、一般に公表されるのは統計情報に過ぎす、児童ポルノであるか否かの判断情報も含め、アドレスリストに関する具体的な情報は、全て閉じる形で秘密裏に保持されることになるのであり、インターネット利用者から見てそのリストの妥当性をチェックすることは不可能であり、このようなアドレスリストの作成・管理において、透明性・公平性・中立性を確保することは本質的に完全に不可能である。このようなリストに基づくブロッキング等は、自主的な取組という名目でいくら取り繕おうとも、憲法に規定されている表現の自由(知る権利・情報アクセスの権利を含む)や検閲の禁止といった国民の基本的な権利を侵害するものとならざるを得ないのであり、小手先の運用変更などではどうにもならない。

 児童ポルノ規制法に関しては、提供及び提供目的での所持が禁止されているのであるから、本当に必要とされることはこの規制の地道なエンフォースであって有害無益かつ危険極まりない規制強化の検討ではない。DVD販売サイトなどの海外サイトについても、本当に児童ポルノが販売されているのであれば、速やかにその国の警察に通報・協力して対処すべきだけの話であって、それで対処できないとするに足る具体的根拠は全くない。警察自らこのような印象操作で規制強化のマッチポンプを行い、警察法はおろか憲法の精神にすら違背していることについて警察庁は恥を知るべきである。例えそれが何であろうと、情報の単純所持や単なる情報アクセスではいかなる被害も発生し得えないのであり、自主的な取組という名目でいくら取り繕おうとも、憲法に規定されている表現の自由(知る権利・情報アクセスの権利を含む)や検閲の禁止といった国民の基本的な権利を侵害するものとならざるを得ないサイトブロッキングは即刻排除するべきであり、そのためのアドレスリスト作成管理団体として設立された、インターネットコンテンツセーフティ協会は即刻その解散が検討されてしかるべきである。

 なお、民主主義の最重要の基礎である表現の自由に関わる問題において、一方的な見方で国際動向を決めつけることなどあってはならないことであり、欧米においても、情報の単純所持規制やサイトブロッキングの危険性に対する認識はネットを中心に高まって来ていることは決して無視されてはならない。例えば、欧米では既にブロッキングについてその恣意的な運用によって弊害が生じていることや、アメリカにおいても、2009年に連邦最高裁で児童オンライン保護法が違憲として完全に否定され、2011年6月に連邦最高裁でカリフォルニア州のゲーム規制法が違憲として否定されていること、ドイツで児童ポルノサイトブロッキング法は検閲法と批判され、最終的に完全に廃止されたことなども注目されるべきである(https://www.zdnet.de/41558455/bundestag-hebt-zensursula-gesetz-endgueltig-auf/参照)。スイスの2009年の調査でも、2002年に児童ポルノ所持で捕まった者の追跡調査を行っているが、実際に過去に性的虐待を行っていたのは1%、6年間の追跡調査で実際に性的虐待を行ったものも1%に過ぎず、児童ポルノ所持はそれだけでは、性的虐待のリスクファクターとはならないと結論づけており、児童ポルノの単純所持規制・ブロッキングの根拠は完全に否定されているのである(https://bmcpsychiatry.biomedcentral.com/articles/10.1186/1471-244X-9-43参照)。欧州連合において、インターネットへのアクセスを情報の自由に関する基本的な権利として位置づける動きがあることも見逃されてはならない。政府・与党内の検討においては、このような国際動向もきちんと取り上げるべきである。

 そして、単純所持規制に相当し、上で書いた通り問題の大きい性的好奇心目的所持罪を含む児童ポルノの改正法案が国会で2014年6月18日に可決・成立し、同年6月25日に公布され、2015年7月15日に施行された。この問題の大きい性的好奇心目的所持罪を規定する児童ポルノ規制法第7条第1項は即刻削除するべきであり、合わせ、政府・与党においては、児童ポルノを対象とするものにせよ、いかなる種類のものであれ、情報の単純所持・取得規制・ブロッキングは極めて危険な規制であるとの認識を深め、このような規制を絶対に行わないこととして、危険な法改正案が2度と与野党から提出されることが無いようにするべきである。

 さらに、性的好奇心目的所持罪を規定する児童ポルノ規制法第7条第1項を削除するとともに、児童ポルノの単純所持規制・創作物規制といった非人道的な規制を導入している諸国は即刻このような規制を廃止するべきと、そもそも最も根本的なプライバシーに属し、何ら実害を生み得ない個人的な情報所持・情報アクセスに関する情報を他人が知ること自体、通信の秘密や情報アクセスの権利、プライバシーの権利等の国際的かつ一般的に認められている基本的な権利からあってはならないことであると、また、法的拘束力はないが、明らかに表現の自由に抵触する規制を推奨している、2019年9月の児童の権利委員会による児童ポルノ規制に関するガイドラインは全面的に見直すべきであると、日本政府から国際的な場において各国に積極的に働きかけてもらいたい。

 また、様々なところで検討されている有害サイト規制についても、その規制は表現に対する過度広汎な規制で違憲なものとしか言いようがなく、各種有害サイト規制についても私は反対する。

c)東京都青少年健全育成条例他、地方条例の改正による情報規制問題について
 東京都でその青少年健全育成条例の改正が検討され、非実在青少年規制として大騒ぎになったあげく、2010年12月に、当事者・関係者の真摯な各種の意見すら全く聞く耳を持たれず、数々の問題を含む条例案が、都知事・東京都青少年・治安対策本部・自公都議の主導で都議会で通された。通過版の条例改正案も、非実在青少年規制という言葉こそ消えたものの、かえって規制範囲は非実在性犯罪規制とより過度に広汎かつ曖昧なものへと広げられ、有害図書販売に対する実質的な罰則の導入と合わせ、その内容は違憲としか言わざるを得ない内容のものである。また、この東京都の条例改正にも含まれている携帯フィルタリングの実質完全義務化は、青少年ネット規制法の精神にすら反している行き過ぎた規制である。さらに、大阪や京都などでは、児童ポルノに関して、法律を越える範囲で勝手に範囲を規定し、その単純所持等を禁止する、明らかに違憲な条例が通されるなどのデタラメが行われている。

 これらのような明らかな違憲条例の検討・推進は、地方自治体法第245条の5に定められているところの、都道府県の自治事務の処理が法令の規定に違反しているか著しく適正を欠きかつ明らかに公益を害していると認めるに足ると考えられるものであり、総務大臣から各地方自治体に迅速に是正命令を出すべきである。また、当事者・関係者の意見を完全に無視した東京都における検討など、民主主義的プロセスを無視した極めて非道なものとしか言いようがなく、今後の検討においてはきちんと民意が反映されるようにするため、地方自治法の改正検討において、情報公開制度の強化、審議会のメンバー選定・検討過程の透明化、パブコメの義務化、条例の改廃請求・知事・議会のリコールの容易化などの、国の制度と整合的な形での民意をくみ上げるシステムの地方自治に対する法制化の検討を速やかに進めてもらいたい。また、各地方の動きを見ていると、出向した警察官僚が強く関与する形で、各都道府県の青少年問題協議会がデタラメな規制強化騒動の震源となることが多く、今現在のデタラメな規制強化の動きを止めるべく、さらに、中央警察官僚の地方出向・人事交流の完全な取りやめ、地方青少年問題協議会法の廃止、問題の多い地方青少年問題協議会そのものの解散の促進についても速やかに検討を開始するべきである。

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2023年2月 5日 (日)

第471回:知財本部メタバース検討論点整理案他

 今回は、先週の知財本部のメタバース検討会の論点整理案についてと、合わせて私が出した2つのパブコメを載せておく。

(1)知財本部のメタバース検討会の論点整理案
 知財本部では、新しく設置されたメタバース上のコンテンツ等をめぐる新たな法的課題への対応に関する官民連携会議の下、知財権に関する第一分科会、アバター肖像に関する第二分科会、アバター行為に関する第三分科会がその下に作られ、この1月から2月にかけてかなり急ピッチで検討が進められている。

 第一分科会は1月13日に第1回が、2月1日に第2回が開かれており、この第2回で示された、現実空間と仮想空間を交錯する知財利用、仮想オブジェクトのデザイン等に関する権利の取扱いに関する論点の整理(たたき台)(pdf)は、たたき台とあるのでさらに検討を重ねるつもりなのだろうが、以下の様に、既にある程度の方向性が書かれている。

Ⅰ.仮想空間における知財利用と権利者の権利保護

(略)

課題1-1;現実空間のデザインの仮想空間における模倣、現実空間と仮想空間を横断した実用品デザインの活用

(略)

2.対応の方向性

①意匠法による対応については、クリエイターの創作活動に対する萎縮効果を生じさせる等の懸念もあることから、中長期的課題として慎重に検討することが適当である。

②現実空間の商品のデザインが仮想空間で模倣される事案への対応や、リアルとバーチャル双方で用いる実用品のデザイン保護への対応としては、まずは、不正競争防止法において、ネットワーク上の商品形態模倣行為を規制できるようにしていくことが適当である。

③仮想空間おいてアバターが使用する実用品等のデザインに対し、著作権による保護がどこまで及び得るかについては、応用美術の著作物性等に関する裁判例の一般的な傾向や実務の積み重ねを踏まえ、まずは考え方を整理し、その上で適切に周知を図っていくことが望ましい。

課題1-2;現実空間の標識の仮想空間における無断使用

(略)

2.対応の方向性

①仮想空間における商標の無断使用に対し、権利者側が講じることのできる実務上の対応策や、その際の留意事項等について、適切な周知を図っていくことが望まれる。

②政府においても、現実空間と仮想空間を通じた商品展開に適切に対応するよう、世界知的所有権機関(WIPO)における商品・サービスの国際分類の整備動向等を踏まえつつ、バーチャル版の商品表示に係る運用面の整備を進めることが期待される。

課題1-3;現実環境の外観の仮想空間における再現

(略)

2.対応の方向性

①現実環境の外観を仮想空間に再現しようとする場合の著作権・商標権の処理について、事業者が利用を希望する著作物・商標や利用形態について整理した上で、事業者が許諾の要否を判断する上での判断材料となるよう、現行法上の考え方等を周知していくことが求められる。

②特に、付随対象著作物の利用については、メタバース内では対象物に接近すると大写しになることとの関係や、現実環境の外観をディフォルメを伴って再現する場合の取扱いなどについて、実務や実態を踏まえつつ、まずは考え方を整理し、その上で、適切に周知を図っていくことが望ましい。

Ⅱ.メタバース上の著作物利用等に係る権利処理

(略)

課題2-1;メタバース上のイベント等における著作物のライセンス利用

(略)

2.対応の方向性

①メタバースユーザーによる著作物等の侵害利用の防止や適切な事後対応について、プラットフォーマーに求められる対応や、有効な方策等を整理し、わかりやすく示していくことが求められる。

②著作物の適切な利用について、メタバースユーザーの理解の増進を図るよう、現実空間で著作物を利用する場合との違い等も含め、留意すべき事項や必要となる手続き等について、周知・啓発等の取組を進めていくことが求められる。

③既存の仕組みがメタバースの実態に合わす、利用しづらいなど、メタバース空間内における著作物の利用や、その円滑な権利処理に関し、隘路となっている事項等がある場合において、これに適切に対応できるよう、関係者間の対話・協議の促進が図られることが望ましい。

課題2-2;仮想空間におけるユーザーの創作活動

(略)

2.対応の方向性

①クリエイティブコモンズライセンス等と同様に、メタバース内におけるUGCの利用についても、二次利用を認めるユーザーの意思表示を、当該UGCの利用条件と併せて、簡易にわかりやすく示せるような仕組みが整備され、普及されていくことが望ましい。

②著作権侵害防止化等のためにプラットフォーマーその他の事業者等が留意すべき事項や、UGCの創作活動の活性化を図る上で有効な方策(例えば、二次利用の可否をはじめ、プラットフォーム内におけるUGCの創作・利用に関するルールを利用規約で定めるなど)等について、周知を図っていくことが適当である。

課題2-3;NFT等を活用した仮想オブジェクトの取引

①仮想オブジェクトの「保有」

(略)

2.対応の方向性

①仮想オブジェクトをめぐる権利について、一般的な考え方の整理とともに、どのような法的位置付けの下に、誰が、どのような権利をもつのかを契約上明確化するなど、契約等に当たり特に留意すべき事項等について、ユーザーや事業者等へ周知していくことが求められる。

②将来的に、プラットフォームを超えた相互運用が実現した際には、仮想オブジェクトの取引をめぐるユーザー間のトラブル保護等について、プラットフォームの利用規約のみで対応できない問題等が生じ得ることも考えられることから、それらの問題への可能な対応方策(例えば、複数プラットフォーマーによる共通ルールの整備、複数プラットフォームを横断して利用されるサービスを介した対応措置など)について、相互運用性の実現に向けた国際的な議論の動向にも留意しつつ、検討していくことが必要である。

②NFT等を活用した仮想オブジェクトの二次流通等

(略)

2.検討の方向性

①UGCの利用条件を個々のクリエイター(一次創作者)に設定させるプラットフォームにおいては、その利用条件が二次流通以降の購入者に対し適切に伝わるようにするためにも、創作活動を行うユーザーに対し、例えば、クリエイティブコモンズライセンスやその他の意思表示の仕組みと連携する等により、著作物の利用条件の表示を簡易に行えるサービスを提供していくことが期待される。

②プラットフォームを超えた相互運用が実現した際に、複数プラットフォームを横断して起こる問題にどのように対応するかが課題となることから。相互運用性の実現を目指した民間事業者等による国際的フォーラムにおける議論の動向を適切にフォローするとともに、必要に応じ、我が国からも適切なルールの提案等を行っていく必要がある。

③一次創作者へのロイヤリティについては、プラットフォーム横断的なロイヤリティ収受には限界があること等を含め、クリエイター等に正しく理解されるよう、周知を行っていくことが求められる。

 ここで書かれている事は、要するに、新たな法改正による対応は不正競争防止法の改正により商品形態模倣規制をネットワーク上の仮想オブジェクトにも適用されるようにして行き、他の点については既存の法規制の周知などによるとするものである。

 この不正競争防止法の改正ポイントは、第469回で取り上げた、経産省の不正競争防止小委員会の報告書案で既に書かれていたものであり、想定通りと言えるものである。そして、この知財本部の論点整理案の注釈にも書かれている通り、1月30日に開かれた不正競争防止小委員会の第22回でほぼ原案通りのデジタル化に伴うビジネスの多様化を踏まえた不正競争防止法の在り方(案)(変更履歴有版)(pdf)が示され、とりまとめられている。

(不正競争防止法の改正については、この小委員会の下の外国公務員贈賄に関するワーキンググループも1月26日の第5回でほぼ原案通り外国公務員贈賄罪に係る規律強化に関する報告書(案)(変更履歴有版)(pdf)もとりまとめられている。)

 つまり、今年のメタバースに関する法改正による対応はこの不正競争防止法の改正に留まる事が想定されるが、知財本部のこの論点整理案にも書かれている通り、「著作権による保護は、著作物と認められるものであれば、基本的に、現実空間か仮想空間かの別を問わずに保護が及ぶこととなる」のであって、別に仮想空間におけるオブジェクトの利用は完全に自由で何をしても良いという事ではない事に注意すべきなのは無論の事である。

 この議論は、あくまで応用美術の実用品について著作物性が認められるかどうかについて微妙なケースが存在している事を前提としている。同じく、商標法においてもコンピュータプログラムの様なバーチャルな商品について指定が可能であり、商標権の保護も及び得る。これらの著作権法や商標法における例外・適用除外についても整理して良く周知して行くべきというのもその通りだろう。

 仮想オブジェクトの利用について現時点で契約に委ねるとしているのも妥当であり、ここでNFTについてどうこう言うつもりは全くないが、この論点整理案で以下の様に書かれている事は重要であり、この点の理解はもっと広められて良いと私も思う。

○仮想オブジェクトの「保有者」が持つ権利については、実態として捉えれば、
・当該仮想オブジェクトのデジタルデータにアクセスし、利用することのできる利用権が、その内容となるとともに、
・当該仮想オブジェクトのデザイン等が著作権の対象となる場合には、当該デザイン等を一定の条件内で利用できるライセンス(場合によっては、その著作権自体)が紐付けられている
ものと考えられ、仮想オブジェクトの取引等により、これらの権利が「保有者」に付与されているものと解される。なお、データの利用権は、契約に基づく債権であり、その効力は契約当事者間のみに止まる。

 他2つの分科会について、第二分科会は1月26日に第1回が開かれた所で方向性を含む論点整理案はまだ示されていないが、第三分科会の方は1月30日に第2回が開かれ、その仮想オブジェクトやアバターに対する行為、アバター間の行為をめぐるルール形成、規制措置等に関する論点の整理(たたき台)(pdf)たたき台の構成(pdf)も参照)では、対応の方向性について以下の様に書かれている。ここでは、知財との関係は薄いので以下を抜粋するに留めるが、現時点で、この様に新たな法規制を作る事はせず各プラットフォームにおける自主ルールに任せるとしているのも妥当だろう。

Ⅳ.問題事案への対応の方向性

〇以上を踏まえ、メタバースにおける問題事案への対応を効果的に推進していくために、今後さらに、プラットフォーマーが、メタバースの特性や、自らのサービスの特性に応じて、効果的な取組を自律的な創意工夫により実施することが必要であると考えられる。その際、次のような取組みを進めていくことが期待される。

1.自由と安全・安心の両立

(略)

<対応の方向性>

①ワールドごとのローカルルールの設定

〇各プラットフォームにおいて、多様なコミュニティによる多様な文化の展開を図っていく上では、利用規約によるプラットフォーム内共通のルールに加え、ワールドごとのローカルルールを設定できるようにしていくことが、有効な方策の1つとなり得ると考えられる。各ワールドに適用されるローカルルールについては、当該ワールドを訪れようとするユーザーに対し、わかりやすく表示することが望ましいと考えられる。

(略)

②子ども・未成年者の安全・安心の確保

〇ワールドごとのローカルルールは、例えば、子どもに相応しくないコンテンツを持込み不可としているワールドが明示的に示されるなど、子どもや未成年者が安心・安全に過ごせるワールドを選択的に訪問できるようにする上でも、意義が大きいものと考えられる。

〇これらに加え、各プラットフォームにおいて、それぞれの特質を踏まえつつ、子ども・未成年の保護の観点からユーザーが遵守すべき事項の明確化など、必要な対応を検討していくことが重要である。今後さらに、メタバースにおける子ども・未成年者の経済活動の取扱いなど、将来的な課題を見据えた議論が、関係者間で積み重ねられることにも期待したい。

2.プラットフォーマーの利用規約等による適切なルール形成と実効性の確保・向上

(略)

<対応の方向性>

③各プラットフォームにおけるコミュニティ基準等の整備

〇ユーザーが遵守すべき事項や、違反者への対応方針について、利用規約本文とは
別に、これと紐づくコミュニティ基準等として、具体的に、わかりやすく示していくことは有効と考えられる。これらの基準整備の事例等について、情報共有を促進していくことが求められる。

④問題発生防止・事後対応のノウハウ共有

〇メタバース事業に新規参入する事業者のために、違反事案への対処など、ルールの実効性確保を図る上で共通に必要となる事項を整理し、ガイドライン等として示していくことが求められる。

〇特に、メタバース内で起こる様々な問題事案について、当該事案のタイプやそれが生じた場合の対応措置について一定の類型化を行い、関係事業者間で事例の集積・共有を図っていくことが有効である。ここでは、例えば、通報の仕組み等をはじめ、問題事案への対応の仕組み・措置について、各プラットフォーマーが、自己のプラットフォームに適した仕組み・措置の導入を検討していけるよう、有効な方策等の情報を整理することが考えられる。

〇さらに、メタバースの事業環境を整える上では、例えば、被害者からの通報を受け被害拡大防止の措置を行うなど、問題事案への対処を適切に行ったプラットフォーマーが、プロバイダ責任制限法に基づき、生じていた問題(権利侵害)に対する損害賠償責任を免責され得ること等について、明確化が図られることが望ましい。
※プロバイダ責任制限法上の送信防止措置に該当するかの検討には、サービスの提供の態様や講じる措置に関する一定の類型化を図り、分析することが有効であると考えられる。

3.被害ユーザー自身による対抗措置や法的請求を可能とするための対応

(略)

<対応の方向性>

⑤発信者情報開示制度の運用の明確化

〇メタバース内における権利侵害事案に関しても、発信者情報開示請求制度を活用した加害者の特定を円滑に行えるよう、サービス提供の態様に応じて、どのような行為が権利の侵害といえるか、また、どのような情報の送信が権利侵害情報の送信に当たるかの検討が求められる。

〇そのためには、メタバース以外の領域で積み重ねられてきた既存の事案に関する多数の裁判例も十分に参考にした上で、サービスの提供の態様やメタバース特有の問題事案に関する事例の収集・蓄積と類型化を図ることが有効であると考えられる。

⑥海外プラットフォーマーに係る国内代表等の明確化

○日本のユーザーが海外のプラットフォーマーに対して法的な請求を行う場合や、日本の捜査当局が海外のプラットフォーマーに対して捜査の協力を求める場合に、これが円滑に行われるために必要な仕組みを設けることが有効であると考えられる。

4.国際的な動向への対応

(略)

<対応の方向性>

⑦国内議論から国際的な議論への接続

〇メタバースにおけるルール形成の在り方等に関する国内議論を進めるに当たり、国際的な議論の動向に対する情報収集の機能を高めるとともに、我が国発メタバースの発展等を期する観点から、それらの議論の成果を国際的なルール形成の中へと積極的に反映していけるよう、国際的なフォーラムへの参画その他のコミットメント体制の強化を図っていくことが必要である。

(2023年2月12日夜の追記:2月10日に第二分科会の第2回も開催され、アバターの肖像等に関する取扱いに関する論点の整理(たたき台)(pdf)が示されたので、同様に方向性の部分を抜粋してここに追記しておく。これも新たな法改正を必要とするものではないが、この論点整理案に書かれている通り、アバターを介するからと言って著作権侵害や誹謗中傷が成立しないなどという事はあり得ず、他の場合と同様の注意が必要なのは無論の事である。以下、追記の抜粋。)

Ⅰ.メタバース外の人物の肖像の無断使用への対応

(略)

課題1-1 実在の人物の肖像の写り込み

(略)

2.対応の方向性

<プラットフォーマー、関係事業者等に向けた対応>
〇メタバース空間の構築の際に付随して写り込んだ・取り込んだ肖像の扱いについて、肖像権・パブリシティ権との関係や、権利処理の要否等に関する考え方、侵害を回避するための方策等の整理を行うとともに、現場がより安心して正しく判断できるよう、メタバースプラットフォーマーや関係事業者等へ向け、ガイドライン等を通じた必要な周知を行っていくことが求められる。

(略)

課題1-2;実在する他者の肖像を模したアバター等の無断作成・無断使用

(略)

2.対応の方向性

<プラットフォーマー、関係事業者、ユーザー等に向けた対応>
〇実在の人物の容ぼうを模したアバター・NPCの無断作成・無断使用により、当該人物の権利を侵害する等の事案を防止するよう、基本的な考え方や、留意すべき事項、必要となる手続き等について整理するとともに、ガイドライン等を通じ、メタバースのプラットフォーマーや、アバター作成等のサービス事業者、ユーザーなどに向け、必要な周知を行っていくことが求められる。

<継続的な把握・検討>
〇さらに、肖像権の侵害等に当たる可能性について、著名人の肖像を用いる場合、パロディとして用いる場合など、より具体的な事案に即した考え方の整理が進められるとともに、本人の承諾なしに使用する場合の法的リスクについて現場が適切に判断できるよう、それらの考え方が示されていくことが望ましい。

(略)

Ⅱ.他者のアバターの肖像等の無断使用その他の権利侵害への対応

(略)

課題2-1;他者のアバターの肖像・デザインの無断使用

①他者のアバターのデザインを盗用したアバターの作成・使用

(略)

2.対応の方向性

<プラットフォーマー等に向けた対応>
〇アバターの肖像の第三者による不適正な利用を防ぐ上で、プラットフォーマー等において特に留意すべき事項や、講じうる対策等について、ガイドライン等を通じ、必要な周知を行っていくことが求められる。

(略)

<ユーザーに向けた対応>
〇自己のアバターのデザインを盗用したアバターの無断作成・無断使用に対し、ユーザーがとり得る対応策等について、ガイドライン等を通じ、必要な周知を行っていくことが必要である。

(略)

<アバターのライセンスモデル等における対応>
〇著作権の移転を受けず、ライセンスによりアバターを使用するユーザーが、デザイン盗用等への対抗策を自ら講じていく上では、ライセンス契約時の利用条件の設定に際しても、これを可能とするような設定としておくことが重要となる。関係団体等が作成するライセンス契約のひな型には、それらの条件設定を可能とするオプションが盛り込まれるとともに、各ひな型の解説書、又はライセンスモデル作成に関する共通的な参照文書(ガイダンス)において、それらの条件設定の意義について適切な説明がなされることが望ましい。

<継続的な把握・検討>
〇さらに、オリジナルのデザインで創作されたアバターの肖像権・パブリシティ権の取扱いについては、関連する裁判例の動向等を注視しつつ、関係者によるさらなる議論が積み重ねられ、その考え方の整理・明確化が図られることが期待される。

②アバターの肖像の無断撮影・公開

(略)

2.対応の方向性

<プラットフォーマー、ユーザー等に向けた対応>
〇実在の人物の容ぼうや創作デザインによるアバターの容ぼうが、スクリーンショットやカメラで撮影された場合においても、他者のアバターの肖像に写しとられた場合(課題1-2、課題2-1①)と同様に、肖像権・パブリシティ権、著作権等との関係をめぐる課題を生じることとなる。それらの課題と合わせ、メタバースのプラットフォーマーやユーザー等が留意すべき事項、有効な対応方策等について、ガイドライン等を通じ、必要な周知を行っていくことが求められる。

課題2ー2 他者のアバターへのなりすまし、他者のアバターののっとり等

(略)

2.対応の方向性

<プラットフォーマー等に向けた対応>
〇アバターによる他者へのなりすまし、他者のアバターののっとり等の問題事案を防ぐ上で、プラットフォーマー等において留意すべき事項や講ずべき方策等について整理し、ガイドライン等を通じ、必要な周知を行っていくことが求められる。

<継続的な把握・検討>
〇さらに、他者のアバターへのなりすまし等をはじめ、様々な問題事例の実情に即し、既存の確立した法理論のみでは十分な救済を図れていないケース等について把握するとともに、それらを踏まえ、アバターをめぐる人格的権利利益の保護のこれからの在り方について、さらなる議論が積み重ねられることが望ましい。

(略)

課題2-3 アバターに対する誹謗中傷等

(略)

2.対応の方向性
<プラットフォーマー等に向けた対応>
〇アバターに向けた誹謗中傷等の問題事案を防ぐ上で、プラットフォーマー等において留意すべき事項、講ずべき方策等について整理し、ガイドライン等を通じ、必要な周知を行っていくことが求められる。

<ユーザー等に向けた対応>
〇アバターに向けた誹謗中傷等に対し、被害者側はどのような対処が可能か、加害者側はどのような法的責任を問われる可能性があるか等の基本的な考え方について、ガイドライン等を通じ、ユーザー等向けた必要な周知を行っていくことが必要である。

<継続的な把握・検討>
〇さらに、アバターのキャラクターや容ぼう等に向けた誹謗中傷等について、名誉毀損や名誉感情侵害がどこまで成立し得るか、どのような場合であれば成立し得るかについて、引き続き裁判例の動向等を注視しつつ、考え方の整理が進められることが望まれる。

Ⅲ.アバターの実演に関する取扱い

(略)

課題3 アバターの実演に係る著作隣接権の権利処理

(略)

2.対応の方向性

<関係事業者、ユーザー等に向けた対応>
〇アバターの実演に係る権利処理が適切に行われるよう、例えば、以下のような事項について、整理ができたものから、関係事業者やユーザー等向けに周知していくことが必要である。
・自分以外のアバターの実演を配信したり、保存したりする等の活動を行う事業者やユーザー等において、特に留意すべき事項、権利侵害の防止等のために講ずべき措置等としてどのようなことがあるか。
・実演家の権利の権利者たるアバター操作者において、特に留意(理解)しておくべき事項等はあるか。

<継続的な把握・検討>
〇さらに、モーションデータの記録に実演家の録画権が及ぶかを含め、アバターの実演等に関する権利の取扱いについては、関係者による議論が積み重ねられ、その法的考え方等が明確化されることを期待したい。

(2023年3月19日の追記:3月16日に上位会議のメタバース上のコンテンツ等をめぐる新たな法的課題への対応に関する官民連携会議の第2回が開かれ(議事次第・資料参照)、各分科会の論点整理案を全てまとめた「論点整理」素案(pdf)が示されているので、ここにリンクを張っておく。)

(2023年4月29日の追記:上のメタバースに関する論点整理案について知財本部が5月7日〆切でパブコメを行っているので(知財本部の意見募集ペーパー(pdf)参照)、念のため知財計画パブコメ(第475回参照)と同じく不正競争防止法改正案による形態模倣規制のデジタル空間への適用に賛同するがそれ以上の法改正には慎重であるべきと意見を出した。)

(2023年6月11日の追記:5月23日に知財本部のHPで最終版の論点整理(pdf)が公開されたので、ここにリンクを張っておく。)

(2)文化庁・著作権分科会・法制度小委員会報告書案に対する提出パブコメ
 文化庁では、1月30日に第9回の法制度小委員会が開かれ、多少注釈などが追加されていると思うが、ほぼ原案通り報告書(pdf)概要(pdf)も参照)がとりまとめられている。

 この小委員会で出された意見募集の結果(pdf)に個人の意見も省略される事なく掲載されており、私の提出意見は前回書いた事を提出意見として整理したものだが、後で参照したくなる事もあるかも知れないと思ったので、念のためここに載せておく。

 今後は、2月7日に開催される予定の上の文化審議会・著作権分科会で(開催案内参照)、答申としてとりまとめられて、著作権法改正案が閣議決定の上国会に提出されるという流れになるだろう。また、他の小委員会の内、国際小委員会の方は1月13日の第3回報告書案(pdf)に基づいて審議経過の報告がされるのだろうが、基本政策小委員会の方はどうするつもりなのか良く分からない。

(2023年2月12日夜の追記:2月7日に文化庁で文化審議会・著作権分科会の第66回が開かれ、「デジタルトランスフォーメーション(DX)時代に対応した著作権制度・政策の在り方について」第一次答申(pdf)が原案通り了承されているので、念のためここにリンクを張っておく。基本政策小委員会については結局審議経過の報告すらなかった様である。)

(以下、文化庁提出パブコメ。)

(1)「簡素で一元的な権利処理方策と対価還元について」について
 本項目で記載されている通り、著作権者等の意思が確認できない著作物等について著作権者等からの申出があるまでの時限的な利用を認める新しい制度を創設する事に賛同する。

 法律の条文レベルではなく政省令又は運用において注意すべき事であろうが、そのDX時代への対応という目的が没却されないよう、また、制度利用の促進を図るため、新制度においては、少なくとも相談・申請から利用許可までの全手続きがネットだけで完結する様にするべきである。

 また、同様に制度利用の促進を図るため、公的な支援や授業目的公衆送信補償金制度の共通目的事業等の活用によりなるべく手数料の低廉化を図るべきである。

 そして、将来的に、利用許諾に関する公的制度が全てネットだけで完結する様に裁定制度も合理化し、裁定制度と新制度の統合を検討して行くべきである。

(2)「立法・行政・司法のデジタル化に対応した著作物等の公衆送信等について」について
 本項目で記載されている通り、立法、行政、民事・家事事件手続き等の目的のために作物等の公衆送信や公の伝達を可能とする事に賛同する。

 民事・家事事件手続等のための対応は民訴法改正の施行に合わせる事もあり得るが、その他の立法・行政目的のための公衆送信等の可能化はそれに引き擦られる事なくなるべく早く施行するべきである。

 また、刑事訴訟の電子化への対応も見越し、この機会に民事手続きのみならず裁判手続き一般のための公衆送信等を認める様にしておいた方が良いと考える。

(3)「損害賠償額の算定方法の見直しについて」について
 本項目で記載されている通り、損害賠償額の算定方法について特許法等同様の見直しを行うことに賛同する。

 損害賠償については、今後も、本報告書案の第26ページに書かれている様に、あくまで既存の填補賠償の枠内で権利者の実効的な救済を図るに留め、その限度を超える莫大な損害賠償によって創作活動を委縮させる事がないよう今後も常に留意して行くべきである。

(4)「研究目的に係る権利制限規定の検討について」について
 本項目において、上記の「簡素で一元的な権利処理方策と対価還元について」において提言されている新制度の導入を待ち、これによっても解決されない支障や新たなニーズがある場合に研究目的の権利制限についてさらに検討を行うとされている方針に賛同しない。

 確かに、研究目的という事では、現行の著作権法の各権利制限によって拾える部分もかなりあるだろうが、この問題はこれらの既存の権利制限の周知により解決されるものではないし、上記の新制度の導入により解決されるものでもない。

 その事は2019年度から2021年度の調査研究の結果によっても明らかであると考えるが、新たな知見を創造する事で文化の発展に寄与するものである研究のためであるにも関わらず、そもそも既存の権利制限に含まれない形の利用もあり得る事、そのために申請等の手続きが必要な事自体が問題なのであって、本来、この様な文化の発展に寄与する事が明らかな目的に対しては、著作権者の利益を不当に害する場合を除き、申請の様な手続きを必要とせずに利用が認められて然るべきである。

 本項目は全面的に書き改め、新制度の導入を待つ事なく、今次の法改正により速やかに欧米主要国並の一般的な研究目的の権利制限を設けるとするべきである。その際、特にアメリカ型の一般フェアユース条項による事が望ましいと考える。

(5)その他
 文化庁は、意見募集の結果について極めて恣意的にまとめた回答を出しただけで、実質的にブルーレイを私的録音録画補償金の対象とする著作権法施行令改正の閣議決定を2022年10月21日に強行した。今まで積み重ねられてきた、判例、保護利用小委員会などの審議会における議論、様々な関係者の意見の全てを愚弄する、この不当な政令改正は到底納得できるものではない。ブルーレイレコーダーとディスクを私的録音録画補償金の対象とする事について今に至るも妥当な根拠は何一つ見出せない。

 以前提出した意見の通り、私は一国民、一個人、一消費者、一利用者・ユーザーとして到底納得の行かない私的録音録画補償金の対象拡大になお断固反対する。

 集まった2406件の意見の全文を速やかに公表するとともに、自身の過ちを認め、政令を元に戻す閣議決定を行う事を私は求める。その上で、中立的な第三者による調査により、前提となっていた旧来の形の私的録音録画自体もはや時代遅れになり少なくなっているという事を示し、全関係者が参加する公開の場で議論し、私的録音録画補償金制度は歴史的役割を終えたものとして廃止するとの結論を出すべきである。

(3)総務省・プラットフォーム事業者による対応の在り方についての意見募集に対する提出パブコメ
 他に、第469回でまとめて取り上げたパブコメの内、総務省のプラットフォームサービスに関する研究会の下の誹謗中傷等の違法・有害情報への対策に関するワーキンググループの12月26日の第1回誹謗中傷等の違法・有害情報に対するプラットフォーム事業者による対応のあり方について(意見募集)(案)(pdf)によりなされていたパブコメは、必ずしも知財に関するものではないが、表現の自由との関係で重要なものであり、私も少し長めの意見を出した。これもいつも書いている事とそれほど違いはないが、念のため合わせてここに載せておく。

 この意見募集用ペーパーは表現の自由に重きを置く視点も網羅しており、特に危険な方向性が出ているとは言えないが、パブコメも終わり、じきに始まるだろうこのワーキンググループでの検討は引き続き注意して行った方が良いだろう。

(以下、総務省提出パブコメ。)

(1)1の1コンテンツモデレーションに関する透明性・アカウンタビリティの確保について
 総論について、去年の「第二次とりまとめ」に対する意見募集で提出した意見のとおりであるが、以下の意見を提出する。

 表現の自由の重要性に鑑み、ユーザの情報モラル・リテラシー向上のための活動及びプラットフォーム事業者の自主的な取組の支援を中心とした施策の推進に賛同する。

 プラットフォーム事業者の透明性・アカウンタビリティ確保のための検討をさらに進めることについても賛同するが、ここでなされるべきことはあくまで個々のユーザに自ら対処するために必要な情報と手段が与えられることであって、それを超える行政の関与はなされるべきでないことに十分留意していただきたい。

 表現の自由及び検閲の禁止の観点から、行政や政治が個々のコンテンツの内容に介入することは断じてあってはならないことである。

(2)1の2プラットフォーム事業者に求められる積極的な役割について
 上で書いた通りであるが、透明性・アカウンタビリティの確保のための方策に関する検討に加えて、プラットフォーム事業者の積極的な役割を検討することには基本的に慎重であるべきである。

 何かしらの強制力を伴う法規制によりプラットフォーム事業者の積極的な役割を義務化する事は、プラットフォーム事業者による行き過ぎた対応を招く恐れがあり、この様な手段によってはかえって表現の自由を危うくするおそれがある事を考慮するべきである。

 原則として、透明性・アカウンタビリティの確保のための取組により、プラットフォーム事業者の自主的な対応を促すべきである。

(3)2.全体の検討を通じて留意すべき事項について
 この2の項目で書かれている各点、被害者の救済、発信者の表現の自由、インターネット及びプラットフォームサービスの特性とその表現の自由との関係、自主的な取組が原則である事について十分に留意し、検討は進められるべきである。

(4)3.透明性・アカウンタビリティの確保方策の在り方について
 この3の項目で書かれている様に、特定の要件を満たすプラットフォーム事業者に対し、コンテンツモデレーションに関する運用方針の策定・公表、運用結果の公表、自己評価の実施・公表、運用方針の改定を促し、申請窓口等透明化や実施又は不実施の判断に係る理由の説明等の一定の措置を求める事について問題はないと考える。

 3の2の各項目、3の4の項目、3の5(1)、(3)の項目、3の6の項目についても同じ意見を提出する。

(5)3の1透明性・アカウンタビリティの確保が求められる事業者について
 この3の1の項目に書かれている様に、透明性・アカウンタビリティの確保は、その負担及び影響力を考えまず大規模なサービス事業者のみに求めるべきである。

(6)3の3プラットフォーム事業者による評価、運用方針の改善について
 上で書いた通り、プラットフォーム事業者による自己評価の実施・公表、運用方針の改定を促す事について問題はないと考えるが、表現の自由に与える影響などの観点から、その評価に対して一定の関与を行う公的機関を設ける事などはするべきではない。あくまで問題のある場合に明確に権限及び義務を有する行政庁の監査を可能とするに留めるべきである。

(7)3の5(2)個別のコンテンツモデレーションの実施又は不実施に関する理由について
 上で書いた通り、実施又は不実施の判断に係る理由の説明等について求める事自体に問題はないと考えるが、アカウントの停止・凍結やアカウントの再作成の制限等については、影響が大きいと考えられる事から、慎重であるべきであり、非常に悪質な場合を除き求められない事を明確化するべきである。

(8)4の1(1)権利侵害情報の流通の網羅的なモニタリングについて
 この4の1の項目で書かれている通り、プラットフォーム事業者に対し権利侵害情報の流通を網羅的にモニタリングする事を法的に義務づける事は、検閲に近い行為を強いる事となり、表現の自由や検閲の禁止の観点から問題が生じ、事業者による過度の情報削除を招く恐れが強く、表現の自由に著しい萎縮効果をもたらす恐れがある事から、決してあってはならない事である。

(9)4の1(2)繰り返し多数の権利侵害情報を投稿するアカウントのモニタリングについて
 上で書いた通り、表現の自由や検閲の禁止等の観点から、プラットフォーム事業者に対し権利侵害情報の流通をモニタリングする事を求めるべきではなく、権利侵害情報の削除等については、原則として被侵害者からの申請によるべきである。ただし、同じアカウントについて申請が繰り返しなされた場合、申請の時点で多数の権利侵害投稿がなされている場合、申請の内容を考慮すると別アカウントの投稿であるが同じ者からの同様の内容の投稿である可能性が高い場合など、非常に悪質な場合についてアカウントの停止・凍結やアカウントの再作成の制限等の対応があり得る事を明確化する事はあって良いと考えるが、これも法規制によるべきではなく、あくまでプラットフォーム事業者の透明性・アカウンタビリティを確保して行く上での自主的な取組の中での明確化に留めるべきである。

 また、プロバイダ責任制限法の解釈の余地はあるが、行政による一方的な拡大解釈は慎むべきである。

(10)4の2(1)削除請求権について
 この4の2(1)の項目で書かれている様に、一般的な投稿の削除を求める権利は、実務上あるいは学説上も明らかではなく、この様な一般的な権利の創設には慎重であるべきであり、個別には違法性がない投稿の削除を可能とする事も非常に問題が大きい事である。判例法理によって既に認められている事を明文化する事自体には反対しないが、基本的に新たな対応が必要な類型が生じているという事はなく、今のところ法改正などは必要なく、判例法理のまとめ及び事業者に対する周知で十分であると考える。

(11)4の2(2)プラットフォーム事業者による権利侵害性の有無の判断の支援について
 この4の2(2)の項目で書かれている様に、プラットフォーム事業者による権利侵害性の有無の判断を支援するための環境を整備する事自体に問題はないと考えるが、下でインターネット・ホットラインセンターなどについて書く事と同様に、新しい天下り機関の創設などは決してされるべき事ではなく、個別の投稿の内容に踏み込む事もあってはならず、基本的に慎重であるべきである。支援をする場合、権限及び義務を有する行政庁からの一般的な支援とするべきである。

 また、民事保全手続よりも簡易・迅速な、削除に特化した裁判外紛争解決手続の検討自体について反対はしないが、これは2021年のプロバイダー責任制限法改正と重なるものであり、その施行からまだほどない事から、まず2021年のプロバイダー責任制限法改正の有効性を確認するべきであり、その結果を踏まえて検討するべきである。

(12)4の2(3)行政庁からの削除要請を受けたプラットフォーム事業者の対応の明確化について
 この4の2(3)の項目で書かれている事について、インターネット・ホットラインセンターは委託先事業者であっても行政庁ではない事が留意されるべきである。相談を受ける事や事業者に自主的な対応を促す事自体に違法性があるとまでは言わないが、この半官半民の機関位置づけの明確化を検討する事自体問題である。この様な位置づけの曖昧な機関は解散されるべきであり、ある投稿について真に権利侵害があるというのであれば、警察・検察による検証可能な明確な法執行によるべきである。ここで書かれている様に、検閲の禁止や表現の自由などの観点を踏まえ、インターネット・ホットラインセンターの要請に応じる事を義務づける事などは、困難であるのは無論の事、そもそもあってはならない事である。

(13)4の3(1)プラットフォーム事業者による削除等の義務付けについて
 この4の3(1)の項目で書かれている様に、過度な削除等による表現の自由への著しい萎縮効果をもたらす恐れがある事に鑑み、投稿の削除等の措置を行うことを公法上義務付けることには、極めて慎重であるべきである。

(14)4の3(2)裁判外の請求への誠実な対応について
 上の項目に書かれている各留意点を十分に考慮し、裁判外の請求への誠実な対応についても、原則として、プラットフォーム事業者の透明性・アカウンタビリティ確保により促すべきである。

(15)5の1検討対象となる情報の範囲について
 この5の1の項目で書かれている様に、表現の自由や検閲の禁止等の基本的な権利に関する観点から、各種情報について、行政庁からの強制力を伴う削除要請等によって対応することには、極めて慎重であるべきなのは無論の事、決してあってはならない事である。

(16)5の2行政の体制や手続
 上及び下で書く通りであるが、この様な検討に乗じて新たな天下り機関を創設する事などあってはならない事である。

(17)5の3相談対応の充実について
 この5の3の項目に書かれている通り、インターネット上の違法・有害情報に関する相談対応の充実を図ることが重要であるが、この様な相談窓口の強化にあたり天下りを前提とする事があってはならない。

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2022年12月29日 (木)

第469回:2022年の終わりに(各知財法改正関係報告書案パブコメ)

 国会も役所も休みに入り、今年のイベントも一通り終わったと思うので、ここで各省庁の知財政策に関する検討状況をまとめておきたいと思う。

(1)文化庁の各小委員会と報告書案パブコメ

 まず、文化庁の文化審議会・著作権分科会は、この12月にも持ち回り開催で、図書館等公衆送信補償金政令案に関する答申がされている。

 著作権分科会の下の各小委員会について、ブルーレイへの私的録音録画補償金の対象拡大パブコメの結果概要が報告された(第467回参照)、対価還元策などを検討している基本政策小委員会では12月21日分野横断権利情報データベースに関する研究会報告書(pdf)の報告がされたり、国際的な著作権保護に関する検討をしている国際小委員会では11月21日文化庁の海外における著作権保護の推進(pdf)の報告などがされているが、これらの小委員会の報告書案はまだ出ていない。

 中でも今年最も数多く開催されていた小委員会は、法制度小委員会で、12月26日報告書案(pdf)概要(pdf))が示され、1月18日〆切でパブコメに掛かっている(文化庁HPの意見募集ページ、電子政府HPの意見募集ページ1参照)。

 この法制度小委員会の報告書案については次回年明けに内容についてもう少し細かく取り上げたいと思っているが、その4つのポイントについて結論だけの抜粋を作ると以下の様になる。

  • 簡素で一元的な権利処理方策と対価還元について(法制小委報告書案第3~16ページ):「著作物等の利用の可否や条件に関する著作権者等の『意思』が確認できない(『意思の表示』がされていない)著作物等について、一定の手続を経て、使用料相当額を支払うことにより、著作権者等からの申出があるまでの間の当該著作物等の時限的な利用を認める新しい制度・・・を創設する」、「文化庁長官による指定等の関与を受けた窓口組織が受付や要件の確認、利用料の算出等の手続を担う」、「時限的な利用の最終的な決定やその取消しは文化庁長官の行政処分による」
  • 立法・行政・司法のデジタル化に対応した著作物等の公衆送信等について(同第17~18ページ):「立法又は行政目的のために内部資料として必要となる著作物等の公衆送信や公の伝達を可能とすることが必要」、「特許審査等の行政手続及び行政庁の行う審判その他裁判に準ずる手続に必要となる著作物等の公衆送信や公の伝達を可能とする必要がある」、「民事訴訟以外の民事・家事事件手続等についても原則として電子化・オンライン化されることに伴い、適正な裁判の実施や裁判を受ける権利の保障の観点から、当該民事・家事事件手続等に必要となる著作物等の公衆送信や公の伝達を可能とする必要がある」
  • 損害賠償額の算定方法の見直しについて(同第19~26ページ):「侵害者の譲渡等数量のうち、著作権者等の販売等の能力を超える、又は著作権者等が販売することができないとする事情があるとして賠償が否定される部分について、侵害者にライセンスしたとみなして、ライセンス料相当額の損害賠償を請求できることとする」、「ライセンス料相当額による損害賠償額の算定に当たり、著作権侵害があったことを前提として交渉した場合に決まるであろう額を考慮できる旨を明記する」
  • 研究目的に係る権利制限規定の検討について(同第27~28ページ):「引き続き著作権法第32条、第38条等をはじめとする著作権制度の普及啓発の実施、令和3年改正による図書館関係の権利制限規定の見直し等の運用状況をフォローするとともに、現在検討を進めている簡素で一元的な権利処理方策と対価還元に係る新しい権利処理方策による対応を行い、これによる課題解消の可能性や、さらにそれらによっても解決されない支障や新たなニーズがある場合に、必要に応じて検討を行うこととする」

(2)特許庁の各小委員会と報告書案パブコメ

 次に、特許庁で、産業構造審議会・知的財産分科会の下、各小委員会が開催されている。

 特許制度小委員会では、12月19日までの検討で示された報告書案の知財活用促進に向けた特許制度の在り方(案)(pdf)が1月20日〆切でパブコメに掛かっている(特許庁HPの意見募集ページ1、電子政府HPの意見募集ページ2参照)。

 商標制度小委員会では、12月23日までの検討で示された報告書案の商標を活用したブランド戦略展開に向けた商標制度の見直しについて(案)(pdf)が1月24日〆切でパブコメに掛かっている(特許庁の意見募集ページ2、電子政府HPの意見募集ページ3参照)。

 意匠制度小委員会では、12月7日までの検討で示された報告書案の新規性喪失の例外適用手続に関する意匠制度の見直しについて(案)(pdf)が1月12日〆切でパブコメに掛かっている(特許庁の意見募集ページ3、電子政府HPの意見募集ページ4参照)。

 ほぼ制度ユーザにしか関係しないので細かな説明は省略するが、特許庁からパブコメに掛かっている各報告書案に含まれている法改正事項の概要を抜粋として作ると以下の様になる。

  • 送達制度の見直し(特許小委報告書案第10~15ページ):「出願人等が出願ソフトを立ち上げた時に、特許庁の受付サーバに発送書類が格納された旨の通知が送付される」という「案1を基本として検討を進めることが適当」、「送達の効力発生までの期間については『10日間』とする」、「公示送達の方法についても、デジタル化を促進する観点から、特許公報への掲載を廃止し、特許庁ホームページに掲載することにより実施する方向で検討を進めることが適当」、「戦争やコロナ禍の影響により現実に国際郵便の引受けが停止され、当該国に対して航空書留郵便等に付する発送ができない状況が長期間継続した場合には、公示送達を実施することができるよう、公示送達の要件を見直す方向で検討を進めることが適当」
  • 書面手続デジタル化(同第16~19ページ):「書面手続デジタル化に向けた関係手続整備を進めることが適当」、「優先権証明書の写しの提出を許容するとともに、オンライン提出を可能とすることが適当」
  • 裁定制度の閲覧制限導入(同第20~21ページ):「裁定関係書類のうち営業秘密が記載された書類は、閲覧等を制限可能とすることが適当」
  • 意匠の新規性喪失の例外適用手続(意匠小委報告書案第5~9ページ):「法定期間(出願から30日)内に提出した最先の公開についての証明書に基づき、それ以後に意匠登録を受ける権利を有する者等の行為に起因して公開された同一又は類似の意匠についても新規性喪失の例外規定の適用を受けられる」という「②の案において、『証明書により証明した意匠の公開時以後に公開された意匠』の要件を『公開時以後』ではなく『公開日以後』とする方向性で意匠の新規性喪失の例外規定の適用手続を緩和することが適当」
  • 他人の氏名を含む商標の登録要件緩和(商標小委報告書案第5~10ページ):「本規定の『他人の氏名』に一定の知名度の要件を設けること、また、無関係な者による悪意の出願等の濫用的な出願の防止のため、出願人側の事情(例えば、出願することに正当な理由があるか等)を考慮する要件を課すことが適当」
  • コンセント制度の導入(同第11~17ページ):「先行登録商標の権利者の同意があってもなお出所混同のおそれがある場合には登録を認めない『留保型コンセント』の導入が適当」、「当事者間における混同防止表示の請求や不正使用取消審判請求の規定を設けることが適当」
  • Madride Filingにより商標の国際登録出願をする際の本国官庁手数料(同第18~19ページ):「本国官庁手数料について、出願人がeFilingを利用して国際登録出願をしようとする場合に限り、他の手数料と一括でスイスフランにより国際事務局へ納付することを可能とするため、商標法について所要の手当をすることが適当」

(3)経産省の不正競争防止小委員会と報告書案パブコメ

 経産省の不正競争防止小委員会では、第463回で取り上げた中間報告の後、外国公務員贈賄に関するワーキンググループによる検討と並行して、各論点の検討が続けられ、その報告書案としてデジタル化に伴うビジネスの多様化を踏まえた不正競争防止法の在り方(案)(pdf)外国公務員贈賄罪に係る規律強化に関する報告書(案)(pdf)が、それぞれ1月19日と1月17日〆切でパブコメに掛かっている(電子政府HPの意見募集ページ5参照)。

 これらの不正競争防止法改正に関する報告書案についてもここで簡単に書くに留めるが、同様にポイントの抜粋により概要を作ると以下の様になる。

  • デジタル時代におけるデザインの保護(形態模倣商品の提供行為)(不競小委報告書案第7~10ページ):「不競法第2条第1項第3号に規定する形態模倣商品の提供行為にも『電気通信回線を通じて提供』する行為を追加することが適切」
  • 限定提供データの規律の見直し(同第11~14ページ):「『秘密として管理されているものを除く」要件(不競法第2 条第 7 項)に関する課題については、『秘密として管理されているものを除く』要件を、『営業秘密を除く』と改める、又は『秘密として管理されているものを除く』要件を削除することが適切」
  • 渉外事案に係る国際裁判管轄及び不正競争防止法の適用範囲に関する規定整備(同第15~17ページ):「国際裁判管轄に関する規定の整備については、渉外的な営業秘密侵害事案に関し、立法措置が可能であれば、日本の裁判所に管轄を認めるとする競合管轄規定を設ける方向で検討を進めることが適切」、「不競法の適用範囲については、国内における営業秘密侵害事案と同様に政策的保護が必要となる渉外的な営業秘密侵害事案に関し、法の適用に関する通則法による準拠法の選択にかかわらず直接に適用される(法の適用に関する通則法よりも優先する)規定を設けることにつき関係省庁とともに引き続き検討した上で、立法措置が可能であれば、当該立法措置の範囲が国際裁判管轄と併せて適切となるよう検討を行うことが適切」
  • 損害賠償額算定規定の見直し(同第18~20ページ):「不競法第5条第1項については、営業秘密に関し『技術上の秘密』に限定されている対象情報を営業秘密全般に拡充し、さらに『物を譲渡』した場合のみを想定している要件をデータや役務を提供している場合にも拡充することが適切」、「特許法と同様、被侵害者の生産、販売及び役務提供能力を超える部分の損害の認定規定を追加することが適切」、「同条第3項については、『使用』以外の行為が含まれる点を明確化するために、不競法第2条第1項各号の不正競争行為が全て対象となるよう規定することが適切」、「特許法と同様、不正競争があったことを前提として交渉した場合に決まるであろう額を考慮できる旨の規定を追加することが適切」
  • 使用等の推定規定の拡充(同第21~26ページ):「不競法第5条の2の対象情報については、対象情報を営業秘密全般へと拡充することが適切」、「対象類型について、正当取得類型(不競法第2条第1項第7号)への拡充については、刑事規律における『領得』行為(不競法第21条第1項第3号)が介在している場合に限り適用対象とする等、営業秘密保有者から営業秘密を示された者への一定の配慮措置を講じることが適切」、「取得時善意無重過失転得類型(不競法第2条第1項第6号及び第9号)への拡充については、不正開示行為等の介在について悪意重過失に転じている場合に限り適用対象とすることを前提とし、その上で、営業秘密が記録された記録媒体等を消去・廃棄せずに保持している場合に限定する等、一定の配慮措置を講じることが適切」、「被告が保持することとなる対象は、①『営業秘密記録媒体等』・『営業秘密が化体された物件』(不競法第21条第1項第3号イ参照)及び、②営業秘密がアップロードされているサーバー等のURLとすることが適切」、「不競法第5条の2の限定提供データへの拡充(限定提供データにも適用可能とすること及びその範囲)については、営業秘密同様、技術上及び営業上の情報を対象とし、不正取得類型(不競法第2条第1項第11号)、取得時悪意転得類型(同項第12号及び第15号)を対象とすることが適切」、「正当取得類型(同項第14号)については、営業秘密と同様に「領得」行為が介在している場合に限り適用対象とする等、一定の配慮措置を講じること、また、取得時善意転得類型(同項第13号及び第16号)については、使用行為が不正競争行為の対象となっていないことから、適用の対象外とすることが適切」
  • 営業秘密及び限定提供データに関するライセンシーの保護制度の創設(同第27~29ページ):「特許法等と同様の制度措置を行うことへの潜在的なニーズは存在するものの、現時点では実際のトラブル事例が顕在化していないことから、実務の動向を注視し、取り得る措置について、関係省庁等と調整しつつ、引き続き検討を継続していく」
  • 商標法のコンセント制度導入を受けた適用除外規定について(第30~32ページ):「商標法へのコンセント制度導入により後行商標が登録され、その後、先行商標又は後行商標が周知又は著名となった場合に、後行商標権者又は先行商標権者が不正の目的でなくその登録商標を商品等表示として使用等する行為を商品等表示に係る不正競争の適用除外とする規定を追加することが適切」、「不競法第19条第2項の規定を参考に、コンセント制度により後行商標が登録され、その後、先行商標又は後行商標が周知又は著名となった場合、自己の商品又は営業との混同を防ぐために適当な表示を付すべきことを請求することができる規定を追加することが適切」
  • 外国公務員贈賄罪に係る規律強化(外国贈賄WG報告書案第4~25ページ):「自然人に対する罰金額の上限を1,000万円~3,000万円、懲役刑の長期を5年超~10年に引き上げる」、「法人に対する罰金額の上限を5億円~10億円に引き上げる」、「刑訴法250条の例外を設けることは適切でないが、仮に懲役刑の長期が10年に引き上げられるならば、その結果として公訴時効期間が7年に延長となり勧告に対応することが可能」、「日本法人の外国人従業員が国外で単独で贈賄を行った場合について、当該外国人従業員を処罰し得る規律を創設し、法人に対する適用管轄を拡大するために、『●条の罪は、日本国内に主たる事務所を有する法人の代表者、代理人、使用人その他の従業者であって、その法人の業務に関し、日本国外において罪を犯した日本国民以外の者にも適用する』などといった規定を創設する方向性が適切」

(4)総務省の各検討会とプラットフォームの誹謗中傷対応に関するパブコメ

 総務省では、第463回で取り上げた2つの報告書案に関し、9月16日にインターネット上の海賊版サイトへのアクセス抑止方策に関する検討会現状とりまとめ(pdf)(総務省HPのリリース1参照)、8月25日にプラットフォームサービスに関する研究会第二次とりまとめ(pdf)(総務省HPのリリース2参照)がそれぞれ取りまとめられてパブコメ結果とともに公表されている。その後、プラットフォームサービスに関する研究会の下に設けられた誹謗中傷等の違法・有害情報への対策に関するワーキンググループの第1回が12月26日に開催され、プラットフォーム事業者による対応の在り方についての意見募集が1月26日〆切で行われている(電子政府HPの意見募集ページ7参照)。このパブコメはそのタイトルが示す通り誹謗中傷対策に関するものであり、今の所国内でそれほど危うい事が検討される気はしないが、表現の自由との関係でこの総務省の検討は今後も注視して行くべきものだろう。

(5)農水省、知財本部その他

 農水省では、例年通り、重要な形質の指定に関し、農業資材審議会・種苗分科会が12月9日に開催されている。これも第463回で触れた事の続きとなるが、種苗法関連では、12月2日に、農水省の海外流出防止に向けた農産物の知的財産管理に関する検討会我が国における育成者権管理機関のあり方について(pdf)がとりまとめられており、その中で育成者権管理機関の設立が提言されている。

 また、これも細かな説明は省略するが、農水省の地理的表示法HP地理的表示保護制度の運用見直し(pdf)に書かれている通り、施行規則(pdf)審査要領(pdf)の改正により、11月1日施行で登録後の義務の簡素化や審査基準の柔軟化などが行われている。

 知財本部では、メタバース上のコンテンツ等をめぐる新たな法的課題への対応に関する官民連携会議という有識者会議が新たに立ち上がっている。今ここでメタバースについて何か政策的に有意な議論ができるかどうか甚だ疑問だが、3つの分科会が作られ、それぞれ、第一分科会で、現実空間と仮想空間を交錯する知財利用、仮想オブジェクトのデザイン等に関する権利の取扱いについて、第二分科会で、アバターの肖像等に関する取扱いについて、第三分科会で、仮想オブジェクトやアバターに対する行為、アバター間の行為等をめぐるルールの形成、規制措置等の取扱いについて検討が行われる予定になっている。

 最後に、経済安全保障法についても書いておくと、内閣官房で経済安全保障推進会議や、内閣府で経済安全保障法制に関する有識者会議が引き続き開催されているが、法律の成立後、新秘密特許(非公開)制度に関する運用の詳細についてこれらの会議で検討された様子はない。

 これで今年も各省庁の報告書案がほぼ出揃い、来年の知財法改正のメニューが大体分かった事になる。想定される法改正の内容自体に特に大きな問題はないが、上でも書いた通り、文化庁の報告書案については回を分けてもう少し詳しい事を書くつもりである。

 文化庁がまた暴走してブルーレイに私的録音録画補償金の対象を拡大する政令改正を強行するなど今年も碌でもない年だった。いつもの口上となるが、政官業に巣食う全ての利権屋に悪い年を、そして、このブログを読んで下さっている方々に心からの感謝を。

(2022年1月22日夜の追記:意見募集ページを見れば分かる事だが、総務省の意見募集は1月27日0時〆切で、27日と書くより26日〆切と書いておいた方が良いと思ったので上の日付を修正した。)

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2022年6月 5日 (日)

第460回:知財計画2022の文章の確認

 この6月3日に知的財産戦略本部会合が開かれ、今年の知的財産推進計画2022(pdf)概要(pdf))が決定された。(なお、本部会合での修正はないと思うが、案がついた資料は正式版が公表され次第リンクを入れ替えるつもりである。)

 相変わらず何のために作っているのか良く分からないものではあるのだが、この知財計画は、政策検討項目集として各省庁の知財に関する施策検討を一覧で見るためには便利なので、今年も法改正に関わる項目をざっと見て行きたいと思う。

 まず、第27ページに、

・スタートアップの事業化に向けて大学等の保有する知的財産を最大限活用できる環境を整備するため、大学等と企業との共有特許について、企業が一定期間不実施の場合に、大学等が第三者にライセンスすることが可能となるよう、共有特許の取扱いルールの整備に向け、法改正を含め検討し、2022年内に結論を得る。併せて、大学等と企業の共同研究の成果を大学等が活用しやすくするため、大学等が過度に企業側に知財関連コストを負担させなくても済むよう、大学等の知財関連財源の充実を含め大学等への支援の在り方について検討する。その際、大学等の知財マネジメント能力の向上や知財マネジメント人材を擁する外部組織との連携、インセンティブ設計等についても検討する。(短期)(内閣府、文部科学省、経済産業省)

と、共有特許のライセンスの問題について法改正も含め検討すると書かれている。昔からあるこの共有特許の問題はどちらかと言えば契約に関する問題であって、法改正に結びつくとはあまり思えないのだが、この検討は特許庁で行われるのだろうか。

 第56ページには、

・不正競争防止法における営業秘密・限定提供データに係る規律について、証拠収集手続の強化、管轄・準拠法、ライセンシーの保護などの観点から、時代の要請に応じた適切な制度の在り方を検討するとともに、データ利活用等に取り組む上で前提となる腐敗防止の規律についてあわせて検討を行い、必要な施策を講じる。(短期、中期)(経済産業省)

と、不正競争防止法の検討について書かれているが、これは経済産業省の産業構造審議会・知的財産分科会・不正競争防止小委員会での検討を書いたものだろう。この不正競争防止法小委員会の検討については、5月17日に中間報告も出されているが、それぞれの論点について継続検討となっていて、現時点で大きな方向性が出されているという事はない。また、最近の6月2~6日の小委員会(書面審議)で、外国公務員贈賄に関するワーキンググループの設置が行われている。

 行政が明確な方針もなく単に目新しいだけの流行のキーワードに飛びつき政策検討が振り回されるのは望ましい事ではないと私は常々思っているが、第66、68ページの以下の項目から、メタバースやNFT(Non-Fungible Token:非代替性トークン)、eスポーツについて政府として何か検討を進めるつもりらしい事が見て取れる。

・コンテンツ等をめぐりメタバース等がもたらす新たな法的課題等に対応するよう、有識者等による検討の場を設置し、課題把握や論点整理を行うとともに、関係省庁・民間事業者が一体となって、ソフトローによる対応も含め、必要なルール整備について検討する。(短期、中期)(内閣府、経済産業省、文部科学省、関係省庁)

・コンテンツ分野におけるNFTの活用について、コンテンツホルダーの権利保護や利用者保護等の課題に対応するよう、官民一体となって必要な施策を検討する。(短期、中期)(経済産業省、文部科学省、内閣府)

・eスポーツ産業の健全な発展のため、関連する制度・政策分野における位置づけに関して関係府省において検討を進めるなど、必要な環境整備を図る。
(短期、中期)(経済産業省、関係府省)

 なお、法改正と直接関係する点ではないが、この様な何をしたいのか良く分からない検討より、同じ第66ページの、

・ソーシャルメディアの普及等により、全ての国民が日常的に著作権に関わる状況が生じていることから、SNS等の利用頻度が高い若年層に対する意識啓発・教育に取り組むとともに、著作権に関する普及啓発・教育の更なる充実に向け、適切な利用の事例集の作成や、著作権に関する研修の機会の充実、幅広い年代に対する日常的な著作物等の利活用場面での普及啓発などについて検討する。

といった、SNS利用のための著作権に関する普及啓発の取り組みの方が現時点ではより重要だろうと、インターネットにおける日常的な著作物の利用の中にこそ真に政策的解決を検討すべき今の著作権問題の本質があるだろうと私は思っている。

 第70~71ページで、今回の知財計画の目玉の1つなのだろう、拡大集中ライセンス制度に基づく一元的な権利処理窓口のための著作権法改正に関する項目が以下の様に並んでいる。

・デジタル時代における著作権制度の確立に向けた工程表を作成する。
(短期、中期)(内閣府、デジタル庁、総務省、文部科学省、経済産業省)

・文化庁は、著作物の利用円滑化と権利者への適切な対価還元の両立を図るため、過去コンテンツ、UGC、権利者不明著作物を始め、著作権等管理事業者が集中管理していないものを含めた、膨大かつ多種多様な著作物等について、拡大集中許諾制度等を基に、様々な利用場面を想定した、簡素で一元的な権利処理が可能となるような制度を実現する。その際、内閣府、経済産業省、総務省、デジタル庁の協力を得ながら、デジタル時代のスピードの要請に対応した、デジタルで一元的に完結する手続を目指して、①いわゆる拡大集中許諾制度等を基にした、分野を横断する一元的な窓口組織による新しい権利処理の仕組みの実現、②分野横断権利情報データベースの構築の検討、③集中管理の促進、④現行の著作権者不明等の著作物に係る裁定制度の改善(手続の迅速化・簡素化)、⑤UGC等のデジタルコンテンツの利用促進を実現すべく、具体的な措置を検討し、2023年通常国会に著作権法の改正法案を提出し、所要の措置を講ずる。(短期、中期)(文部科学省、内閣府、経済産業省、総務省、デジタル庁)

・文化庁は、分野横断権利情報データベースについては、内閣府、経済産業省、総務省、デジタル庁の協力を得て、持続的に存続するためのビジネスモデルを検討した上で、ニーズのある全ての分野のデータベースとの接続を行うことに加え、ネットクリエーターやネット配信のみのコンテンツ、集中管理されていない著作物等の既存のデータベースに登録されていないコンテンツの登録が円滑に行われるものにしつつ、ニーズのあるあらゆる分野の著作物等を対象として、権利情報の確認や利用許諾に係る意思表示(利用方法の提示を含む)ができる機能の確立方策について検討し、2022年内に結論を得る。その際、関係府省庁は、府省庁横断的な検討体制の下、各分野のデータベースとの連携に加え、UGCに係るプラットフォーマーが管理するデータベースとの連携についても検討する。さらに、既存のデータベースの充実、権利者情報の統一やフォーマットの標準化、データベースの紐付けに必要なIDやコードに関するルール等を検討し、2023年内に結論を得る。(短期、中期)(文部科学省、経済産業省、内閣府、総務省、デジタル庁)

・分野を横断する一元的な窓口組織又は特定の管理事業者による新しい権利処理の具体的な仕組みを、デジタルで一元的に完結する手続を目指して、検討し、2022年内に結論を得る。その際、著作権者等による①利用許諾の可否とその条件、②オプトアウトなどの意思表示、③利用・対価還元状況の把握及び④個々の許諾手続、並びに⑤データベースに権利情報がなく、集中管理がされておらず、窓口組織による探索等においても著作権者等が不明の場合、意思表示がされておらず、連絡が取れない場合、又は連絡を試みても返答がない場合等における著作者不明等の著作物等に係る拡大集中許諾や裁定制度を含めて検討する。(短期、中期)(文部科学省)

・分野を横断する一元的な窓口組織による新しい権利処理の仕組みを含めた、簡素で一元的な権利処理が可能となるような制度の実現を促進するために、欧米の制度も参考にしつつ、通信関係事業者の協力体制及び役割分担の枠組みについて検討し、2022年内に結論を得る。(短期、中期)(総務省)

 そのすぐ後、第71~72ページに、

・クリエーターに適切に対価が還元され、コンテンツの再生産につながるよう、デジタル時代に対応した新たな対価還元策やクリエーターの支援・育成策等について、コンテンツ配信プラットフォームや投稿サイト等における著作物等の利用状況や権利者の利益保護に関する実態把握も踏まえ、検討を進める。私的録音録画補償金制度については、新たな対価還元策が実現されるまでの過渡的な措置として、私的録音録画の実態等に応じた具体的な対象機器等の特定について、関係省庁による検討の結論を踏まえ、可能な限り早期に必要な措置を構ずる。(短期、中期)(文部科学省、内閣府、総務省、経済産業省)

と、プラットフォームや投稿サイトに関する記載が追加されているが、いつも通り、私的録音録画問題に関する検討の項目もある。

 第74ページには、

・図書館関係の権利制限規定の見直しに関する2021年改正著作権法の公布後2年以内の施行を踏まえ、詳細な運用に関する当事者間協議やガイドラインの作成など、円滑な施行に向けた準備を着実に進める。また、研究目的の権利制限規定の創設については、国内の研究者における著作物の利用実態や利用ニーズなどに関する調査研究の結果も踏まえ、権利者の利益保護に十分に配慮しつつ、必要な検討を進める。
(短期、中期)(文部科学省、国立国会図書館)

という、2021年著作権法改正の施行に向けた検討の項目がある。

 そして、第76~77ページに、以下の通り、海賊版対策に関する項目が並んでいる。

・インターネット上の海賊版による被害拡大を防ぐため、2021年4月に更新したインターネット上の海賊版に対する総合的な対策メニュー及び工程表に基づき、関係府省が連携しながら、必要な取組を進めるとともに、被害状況や対策の効果について逐次検証を行い、更なる取組の推進を図る。(短期、中期)(内閣府、警察庁、総務省、法務省、外務省、文部科学省、経済産業省)

・二国間協議や国際会議等の場を活用し、海賊版対策の強化に向けた働きかけを行うとともに、海外海賊版サイトの運営者摘発等に向け、国際的な捜査協力を推進するほか、民間事業者との協力の下、デジタルフォレンジック調査の実施等の取組を進めるなど、国際連携・国際執行の強化を図る。さらに、国境を超えた著作権侵害等に対し国内権利者が行う権利行使への支援の拡充など、更なる支援策について検討する。(短期、中期)(内閣府、警察庁、総務省、法務省、外務省、文部科学省、経済産業省)

・CDNサービス事業者における海賊版サイトへのサービス提供の停止や、検索サイト事業者における海賊版に係る検索結果表示の削除又は抑制など、海賊版サイトの運営やこれへのアクセスに利用される各種民間事業者のサービスについて必要な対策措置が講じられるよう、それらの民間事業者と権利者との協力等を促進する。(短期、中期)(内閣府、総務省、文部科学省、経済産業省)

・海賊版・模倣品を購入しないことはもとより、特に、侵害コンテンツについては、視聴者は無意識にそれを視聴し侵害者に利益をもたらすことから、侵害コンテンツを含む海賊版・模倣品を容認しないということが国民の規範意識に根差すよう、関係省庁・関係機関による啓発活動を推進する。(短期、中期)(警察庁、消費者庁、総務省、財務省、文部科学省、農林水産省、経済産業省)

・越境電子商取引の進展に伴う模倣品・海賊版の流入増加へ対応するため、個人使用目的を仮装して輸入される模倣品・海賊版を引き続き厳正に取り締まる。また、改正商標法・意匠法・関税法により、海外事業者が郵送等により国内に持ち込む模倣品が税関による取締りの対象となることから、当該改正法の2022年秋までの施行に向けて、善意の輸入者に不測の損害を与えることがないよう十分な広報等に努めるとともに、実効性のある水際取締りを実施できるよう必要な措置を講じる。他の知的財産権についても、必要に応じて、検討を行う。(短期、中期)(財務省、経済産業省、文部科学省)

 海賊版対策としては、2021年商標法等改正の施行に向けた話も含まれているが、インターネット海賊版対策については、引き続き総務省のインターネット上の海賊版サイトへのアクセス抑止方策に関する検討会が中心となって検討をして行くのではないかと思える。その5月31日の検討会で示された、現状とりまとめ骨子(pdf)に書かれている事も、今の所、知財計画の項目の記載の通り、クラウド・CDNや検索サービス事業者との連携強化といった地道な取り組みが中心であって、危険な方向性が出ているといった事はない。

 第83~84ページには、以下の様に、2020年の種苗法改正と家畜遺伝資源法についての項目がある。

・改正種苗法の周知や、税関当局との連携による、海外への育成者権侵害種苗の持ち出し防止を図るとともに、改正種苗法を活用した育成者権者による登録品種の適切な管理を進める。(短期、中期)(農林水産省)

・家畜改良増殖法の一部を改正する法律及び家畜遺伝資源に係る不正競争の防止に関する法律(2020年10月1日施行)に基づき以下の取組を推進する。
(1)家畜遺伝資源に係る不正競争の防止に関する法律の運用に関するガイドライン(2021年3月公表)の徹底を図るとともに、和牛遺伝資源の譲渡の際に締結すべき契約のひな形の普及を通じた契約の促進等により不正競争防止の取組を推進する。
(2)家畜人工授精師等に対する研修会の開催等により、家畜改良増殖法の徹底を図るとともに、2021年度までに実施した全国の家畜人工授精所への立入検査及び法令の遵守状況に係る調査結果等を踏まえ、2022年度中に、立入検査の実施等により法令遵守の徹底を図り、更なる流通管理の適正化を推進する。また、家畜人工授精所からの報告等に伴う都道府県の事務の軽減、情報集約のための全国システムの運用(2021年4月開始)及び機能強化を図り電子化を推進する。(短期、中期)(農林水産省)

 第87ページでは、別に知的財産だけに関する事ではないと思うが、以下の様な仲裁法改正検討や今年の民事訴訟法改正についても触れられている。

・東京虎ノ門の国際仲裁専用施設の更なるICT化を含めたサービス向上を進めるとともに、学生・司法修習生・若手弁護士等の幅広い世代に対する研修の提供等を通した人材育成並びに業界団体別及び国別セミナー等の実施を通した広報・意識啓発等を進める。また、法制度の整備として、最新の国際水準に対応した仲裁法改正及び調停に関する要綱が法制審議会において取りまとめられたことを受けて、早期の法案提出に向けた準備を進める。(短期、中期)(法務省、関係府省)

・知財訴訟の更なる迅速化、効率化を実現するため、民事訴訟において提訴から判決までの手続きを全面的にIT化する民事訴訟法等の一部を改正する法律の施行の準備を進める。(短期、中期)(法務省)

 以上、ざっと見て来たが、これらは今までの法改正の施行や周知に関する項目ばかりで、今後の法改正に関して明確な方向性が示されている点は、拡大集中ライセンス制度に基づく一元的な権利処理窓口のための著作権法改正くらいであるが、これも重要であって実務的に検討すべき事が多いとは言え、検討の方向性として大きな問題があるというものではない。引き続きインターネット海賊版対策について総務省の検討が地道な方向に向かう事を注視して行く必要はあるだろうが、今年の知財計画の内容も去年同様政策的に大した事は何も書かれていないに等しく、危険な事が書かれていないだけましなのかも知れないが、残念ながら、今後も知財政策を巡る迷走は続く事だろう。(私の提出したパブコメについては第455回参照、去年の知財計画の記載については第442回参照。)

 最後に少し書いておくと、今年私が最も気になっていたのは新しい秘密特許制度(特許非公開制度)についてどう書かれるかだったのだが、経済安保法については国際標準化との関係で触れられているだけで、施策項目としても、第46ページに、

・経済安全保障の観点も踏まえて、「標準活用推進タスクフォース」を司令塔として量子技術等の重要分野を新たに幅広く特定し、標準の開発の加速化支援等、国際標準の形成に必要な個別具体的な活動への支援を行う。経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関する法律に基づく官民の協議会においても、個別のプロジェクトの状況等を踏まえ、必要に応じ国際標準化及びその支援方策の検討を図る。また、こうした取組を進めていくにあたり、基本的価値を共有する同志国との連携を強化する。(短期、中期)(内閣府、内閣官房、総務省、外務省、文部科学省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省、国土交通省、環境省)

というものがあるだけである。特許法の原則と実務に大きな影響を与える法改正であるにも関わらず、新しい秘密特許制度の導入についてこの様に全く言及されていない理由は良く分からない。

(2023年3月26日夜の追記:知財計画についてリンクを張り替えるのをすっかり忘れていたが、上で書いた通り正式版にリンクを入れ替えた。)

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2022年3月27日 (日)

第455回:「知的財産推進計画2022」の策定に向けた意見募集(4月4日〆切)への提出パブコメ

 4月4日〆切で知財本部から「知的財産推進計画2022」の策定に向けた意見募集(pdf)が行わている。

 今年もこのパブコメに意見を書いて出したので、ここに載せておく。例年書いているもので、(1)d)としてプロバイダー責任制限法について改正された事を受けて書き直したり、(2)a)、b)として前々回前回で取り上げた秘密特許制度と民訴法改正中の著作権法の権利制限の事を追加したりしているが、その他大きく変更した所はない。(去年の提出パブコメは第436回、知財計画2021の記載については第442回参照。)

 どこまで意見が取り入れられるか分からないが、知財政策全体について意見を出せる年一回の機会なので、この様な問題について関心のある方は是非意見の提出を検討する事をお勧めする。

(以下、提出パブコメ)

《要旨》
アメリカ等と比べて遜色の無い範囲で一般フェアユース条項を導入すること、ダウンロード犯罪化・違法化条項の撤廃並びにTPP協定・日欧EPAの見直し及び著作権の保護期間の短縮を求める。有害無益なインターネットにおける今以上の知財保護強化、特に著作権ブロッキング及び補償金の矛盾を拡大するだけの私的録音録画補償金の対象拡大に反対する。今後真の国民視点に立った知財の規制緩和の検討が進むことを期待する。

《全文》
 最終的に国益になるであろうことを考え、各業界の利権や省益を超えて必要となる政策判断をすることこそ知財本部とその事務局が本当になすべきことのはずであるが、知財計画2021を見ても、このような本当に政策的な決定は全く見られない上、2018年には危険極まる著作権ブロッキングのごり押しの検討まで行われ、2020年には非常に危ういダウンロード違法化・犯罪化の対象範囲の拡大を含む著作権法改正までなされた。知財保護が行きすぎて消費者やユーザーの行動を萎縮させるほどになれば、確実に文化も産業も萎縮するので、知財保護強化が必ず国益につながる訳ではないということを、著作権問題の本質は、ネットにおける既存コンテンツの正規流通が進まないことにあるのではなく、インターネットの登場によって新たに出てきた著作物の公正利用の類型に、今の著作権法が全く対応できておらず、著作物の公正利用まで萎縮させ、文化と産業の発展を阻害していることにあるのだということを知財本部とその事務局には、まずはっきりと認識してもらいたい。特に、最近の知財・情報に関する規制強化の動きは全て間違っていると私は断言する。

 例年通り、規制強化による天下り利権の強化のことしか念頭にない文化庁、総務省、警察庁などの各利権官庁に踊らされるまま、国としての知財政策の決定を怠り、知財政策の迷走の原因を増やすことしかできないようであれば、今年の知財計画を作るまでもなく、知財本部とその事務局には、自ら解散することを検討するべきである。そうでなければ、是非、各利権官庁に轡をはめ、その手綱を取って、知財の規制緩和のイニシアティブを取ってもらいたい。知財本部において今年度、インターネットにおけるこれ以上の知財保護強化はほぼ必ず有害無益かつ危険なものとなるということをきちんと認識し、真の国民視点に立った知財の規制緩和の検討が知財本部でなされることを期待し、本当に決定され、実現されるのであれば、全国民を裨益するであろうこととして、私は以下のことを提案する。

(1)「知的財産推進計画2021」の記載事項について:
a)ダウンロード違法化・犯罪化問題について
 知財計画2021の第56ページにインターネット上の海賊版に対する総合的な対策メニューについて記載されている。2019年10月に作成され、2021年4月に更新された総合的な対策メニューにはダウンロード違法化・犯罪化の対象範囲の拡大について記載されている。

 文化庁の暴走と国会議員の無知によって、2009年の6月12日にダウンロード違法化条項を含む改正著作権法が成立し、2010年の1月1日に施行された。また、日本レコード協会などのロビー活動により、自民党及び公明党が主導する形でダウンロード犯罪化条項がねじ込まれる形で、2012年6月20日に改正著作権法が成立し、2012年10月1日から施行されている。

 そして、2018年12月に意見募集がされた文化庁の法制・基本問題小委員会の中間まとめにおいて、極めて拙速な検討から、このダウンロード違法化・犯罪化の対象範囲を録音録画から著作物全般に拡大するとの方針が示され、その意見募集において極めて多くの懸念が示されたにもかかわらず、文化庁がこの方針を諦めずにダウンロード違法化・犯罪化の対象範囲の拡大を含む著作権法改正案の提出を準備していたところ、批判の高まりを受けて2019年の通常国会提出を断念した。

 その後、文化庁は、2019年10月に侵害コンテンツのダウンロード違法化等に関するパブリックコメントを行い、11月から2020年1月にかけて侵害コンテンツのダウンロード違法化の制度設計等に関する検討会において著作権法改正案を再検討した。しかし、この検討会における議論も法案提出の結論ありきの拙速極まるものであり、国民の声を丁寧に聞くと言いながら、パブリックコメントに寄せられた最も主要な意見が要件によらずダウンロード違法化を行うべきではないというものであるという事を無視し、写り込みに関する権利制限の拡充、民事における原作者の権利の除外及び軽微なものの除外という弥縫策でダウンロード違法化・犯罪化の対象範囲を押し通そうとし、2020年2月には、自民党が文科省に海賊版対策のための著作権法改正に関する申し入れを行い、民事刑事の両方において著作権者の利益を不当に害しないと認められる特別な事情がある場合を除外することを要請した。

 これらの文化庁の議論のまとめ及び自民党の要請を含む形で、2020年6月5日にダウンロード違法化・犯罪化の対象範囲拡大を含む改正著作権法が成立し、2021年1月1日から施行されている。

 この法改正後のダウンロード違法化・犯罪化において、スクリーンショットで違法画像が付随的に入り込む場合や、ストーリー漫画の数コマ、論文の数行、粗いサムネイル画像のダウンロードの場合といった僅かな場合が除かれ、また、著作権者の利益を不当に害しないと認められる特別な事情がある場合を除外する事で、それなりの正当化事由を示せる様な特別な事情がある場合が除かれるが、これは本質的な問題の解消に繋がるものではなく、それでもなお、利用者が通常するであろう多くの場合のカジュアルなスクリーンショット、ダウンロード、デジタルでの保存行為が違法・犯罪となる可能性が出て来、場合によって意味不明の萎縮が発生する恐れがある事に変わりはない。これは、録音録画に関するダウンロード違法化・犯罪化同様、海賊版対策としては何の役にも立たない、百害あって一利ない最低最悪の著作権法改正の一つとなるものである。

 過去のパブコメでも繰り返し書いているが、一人しか行為に絡まないダウンロードにおいて、「事実を知りながら」なる要件は、エスパーでもない限り証明も反証もできない無意味かつ危険な要件であり、技術的・外形的に違法性の区別がつかない以上、このようなダウンロード違法化・犯罪化は法規範としての力すら持ち得ず、罪刑法定主義や情報アクセス権を含む表現の自由などの憲法に規定される国民の基本的な権利の観点からも問題がある。このような法改正によって進むのはダウンロード以外も含め著作権法全体に対するモラルハザードのみであり、今のところ幸いなことに適用例はないが、これを逆にねじ曲げてエンフォースしようとすれば、著作権検閲という日本国として最低最悪の手段に突き進む恐れしかない。

 また、世界的に見ても、アップロードとダウンロードを合わせて行うファイル共有サービスに関する事件を除き、どの国においても単なるダウンロード行為を対象とする民事、刑事の事件は1件もなく、日本における現行の録音録画に関するダウンロード違法化・犯罪化も含め、このような法制が海賊版対策として何の効果も上がっていないことは明白である。また、ダウンロード違法化・犯罪化の対象範囲の拡大は、研究など公正利用として認められるべき目的のダウンロードにも影響する。

 そもそも、ダウンロード違法化の懸念として、このような不合理極まる規制強化・著作権検閲に対する懸念は、過去の文化庁へのパブコメ(文化庁HPhttps://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/chosakuken/hokoku.htmlの意見募集の結果参照。ダウンロード違法化問題において、この8千件以上のパブコメの7割方で示された国民の反対・懸念は完全に無視された。このような非道極まる民意無視は到底許されるものではない)や知財本部へのパブコメ(知財本部のHPhttps://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/keikaku2009.htmlの個人からの意見参照)を見ても分かる通り、法改正前から指摘されていたところであり、このようなさらなる有害無益な規制強化・著作権検閲にしか流れようの無いダウンロード違法化・犯罪化は始めからなされるべきではなかったものである。

 文化庁の暴走と国会議員の無知によって成立したものであり、ネット利用における個人の安心と安全を完全にないがしろにするものであり、その後も本質的な問題の解消に繋がる検討をなおざりに対象範囲の拡大がされたものである、百害あって一利ないダウンロード違法化・犯罪化を規定する著作権法第30条第1項第3及び第4号並びに第119条第3項等を即刻削除し、ダウンロード違法化・犯罪化を完全に撤廃することを速やかに行うべきである。

b)著作権法におけるいわゆる間接侵害・幇助への対応について
 総合的な対策メニューにはリーチサイト規制についても記載されている。

 このリーチサイト規制については、2018年12月に意見募集が行われた文化庁の法制・基本問題小委員会の中間まとめにおいて、著作権侵害コンテンツへのリンク行為に対するみなし侵害規定の追加及び刑事罰付加の方針が示されたが、著作権法改正案の2019年の通常国会提出は見送られ、ダウンロード違法化・犯罪化の対象範囲の拡大と合わせ、このリーチサイト規制を含む改正著作権法が2020年6月5日に成立し、10月1日から施行されている。

 改正著作権法のリーチサイト規制は、親告罪とされた事とプラットフォーマーの原則除外でかなり緩和が図られているとは思うが、この様な法改正の本質的な必要性には疑問がある。

 リーチサイト対策の検討は、著作権法におけるいわゆる間接侵害・幇助への対応をどうするかという問題に帰着する。文化庁の中間まとめを読んでも、権利者団体の一方的かつ曖昧な主張が並べられているだけで、権利者団体側がリーチサイト等に対して改正前の著作権法に基づいてどこまで何をしたのか、その対処に関する定量的かつ論理的な検証は何らされておらず、本当にどのような場合について改正前の著作権法では不十分であったのかはその後もなお不明なままであり、さらに、このような間接侵害あるいは幇助の検討において当然必要とされるはずのセーフハーバーの検討も極めて不十分なままである。

 確かにセーフハーバーを確定するために間接侵害・幇助の明確化はなされるべきであるが、基本的にカラオケ法理や各種ネット録画機事件などで示されたことの全体的な整理以上のことをしてはならない。特に、著作権法に明文の間接侵害一般規定を設けることは絶対にしてはならないことである。現状の整理を超えて、明文の間接侵害一般規定を作った途端、権利者団体や放送局がまず間違いなく山の様に脅しや訴訟を仕掛けて来、今度はこの間接侵害規定の定義やそこからの滲み出しが問題となり、無意味かつ危険な社会的混乱を来すことは目に見えているからである。

 リーチサイト規制については、その本質的な必要性に疑問のある今回の法改正後の運用を注視するとともに、知財計画2022において間接侵害・幇助への今後の対応について記載するのであれば、著作権法の間接侵害・幇助の明確化は、ネット事業・利用の著作権法上のセーフハーバーを確定するために必要十分な限りにおいてのみなされると合わせ明記するべきである。

 このようなリーチサイト問題も含め、ネット上の違法コンテンツ対策、違法ファイル共有対策については、通信の秘密やプライバシー、情報アクセス権等の国民の基本的な権利をきちんと尊重しつつ対策を検討してもらいたい。この点においても、国民の基本的な権利を必ず侵害するものとなり、ネットにおける文化と産業の発展を阻害することにつながる危険な規制強化の検討ではなく、ネットにおける各種問題は情報モラル・リテラシー教育によって解決されるべきものという基本に立ち帰り、現行のプロバイダー責任制限法と削除要請を組み合わせた対策などの、より現実的かつ地道な施策のみに注力して検討を進めるべきである。

c)著作権ブロッキング・アクセス警告方式について
 総合的な対策メニューには著作権ブロッキングやアクセス警告方式についても言及されている。

 サイトブロッキングについては、知財本部において、2018年4月の緊急対策の決定後、10月まで検討が行われた。

 このようなサイトブロッキングについて、アメリカでは、議会に提出されたサイトブロッキング条項を含むオンライン海賊対策法案(SOPA)や知財保護強化法案(PIPA)が、IT企業やユーザーから検閲であるとして大反対を受け、その審議は止められている。また、世界を見渡しても、ブロッキングを巡ってはどの国であれなお混沌とした状況にあり、いかなる形を取るにせよブロッキングの採用が有効な海賊版対策として世界の主要な流れとなっているとは到底言い難い。

 サイトブロッキングの問題については下でも述べるが、インターネット利用者から見てその妥当性をチェックすることが不可能なサイトブロッキングにおいて、透明性・公平性・中立性を確保することは本質的に完全に不可能である。このようなブロッキングは、憲法に規定されている表現の自由(知る権利・情報アクセスの権利を含む)や検閲の禁止、通信の秘密といった国民の基本的な権利を侵害するものとならざるを得ないものであり、決して導入されるべきでないものである。

 幸いなことに、2018年10月で知財本部におけるブロッキングの検討は止まったが、多くの懸念の声が上げられていたにもかかわらず、ブロッキングありきでごり押しの検討を行ったことについて私は知財本部に猛省を求める。知財計画2022においてブロッキングについて言及するのであれば、2018年の検討の反省の弁とともに今後二度とこのような国民の基本的な権利を踏みにじる検討をしないと固く誓うとしてもらいたい。

 アクセス警告方式についても、通信の監視・介入の点でブロッキングと本質的に違いはなく、その導入は法的にも技術的にも難しいとする、2019年8月の総務省のインターネット上の海賊版サイトへのアクセス抑止方策に関する検討会の報告書の整理を守るべきである。

 その提案からも明確なように、違法コピー対策問題における権利者団体の主張は常に一方的かつ身勝手であり、ネットにおける文化と産業の発展を阻害するばかりか、インターネットの単純なアクセスすら危険なものとする非常識なものばかりである。今後は、このような一方的かつ身勝手な規制強化の動きを規制するため、憲法の「表現の自由」に含まれ、国際人権B規約にも含まれている国民の「知る権利」を、あらゆる公開情報に安全に個人的にアクセスする権利として、通信法に法律レベルで明文で書き込むことを検討するべきである。同じく、憲法に規定されている検閲の禁止及び通信の秘密から、サイトブロッキングのような技術的検閲の禁止を通信法に法律レベルで明文で書き込むことを検討するべきである。

d)プロバイダー責任制限法の改正検討について、
 総合的な対策メニューにはプロバイダー責任制限法の改正検討についても記載されている。

 このプロバイダー責任制限法の改正について、総務省で検討が行われ、2020年12月に発信者情報開示の在り方に関する研究会の最終とりまとめが公表された後、改正プロバイダー責任制限法が2021年4月21日に成立し、その施行を待つ状態にある。

 この改正プロバイダー責任制限法は発信者情報開示のため原則非公開の非訟手続きを新設している。しかし、これは今までの通常の裁判による発信者情報開示とほぼ同様の手続きを非訟手続きとして規定しただけのものであって、かえって発信者情報開示に関する手続きの不透明性や複雑性が増し、いたずらに今の状況を混乱させるだけで、発信者の保護はおろか権利侵害の救済にも繋がらない懸念がある。

 今後その運用を注視し、やはり混乱等が見られる様であれば、発信者情報の開示は、通信の秘密といった重要な国民の権利に関するものであるから、原則公開の訴訟手続によらなければならないものであるという事を念頭に、この新しい非訟手続きを廃止し、通常の裁判による発信者情報開示の拡充や迅速化の様な真に実効性のある検討を行うべきである。

e)私的録音録画補償金問題について
 知財計画2021の第54~55ページでは私的録音録画補償金問題についても言及されている。権利者団体等が単なる既得権益の拡大を狙ってiPod等へ対象範囲を拡大を主張している私的録音録画補償金問題についても、補償金のそもそもの意味を問い直すことなく、今の補償金の矛盾を拡大するだけの私的録音録画補償金の対象拡大を絶対にするべきではない。

 文化庁の文化審議会著作権分科会における数年の審議において、補償金のそもそもの意義についての意義が問われたが、文化庁が、天下り先である権利者団体のみにおもねり、この制度に関する根本的な検討を怠った結果、特にアナログチューナー非対応録画機への課金について私的録音録画補償金管理協会と東芝間の訴訟に発展した。ブルーレイ課金・アナログチューナー非搭載録画機への課金について、権利者団体は、ダビング10への移行によってコピーが増え自分たちに被害が出ると大騒ぎをしたが、移行後10年以上経った今現在においても、ダビング10の実施による被害増を証明するに足る具体的な証拠は全く示されておらず、ブルーレイ課金・アナログチューナー非搭載録画機への課金に合理性があるとは到底思えない。わずかに緩和されたとは言え、今なお地上デジタル放送にはダビング10という不当に厳しいコピー制限がかかったままである。こうした実質的に全国民に転嫁されるコストで不当に厳しい制限を課している機器と媒体にさらに補償金を賦課しようとするのは、不当の上塗りである。

 なお、世界的に見ても、メーカーや消費者が納得して補償金を払っているということはカケラも無く、権利者団体がその政治力を不当に行使し、歪んだ「複製=対価」の著作権神授説に基づき、不当に対象を広げ料率を上げようとしているだけというのがあらゆる国における実情である。表向きはどうあれ、大きな家電・PCメーカーを国内に擁しない欧州各国は、私的録音録画補償金制度を、外資から金を還流する手段、つまり、単なる外資規制として使っているに過ぎない。この制度における補償金の対象・料率に関して、具体的かつ妥当な基準はどこの国を見ても無いのであり、この制度は、ほぼ権利者団体の際限の無い不当な要求を招き、莫大な社会的コストの浪費のみにつながっている。機器・媒体を離れ音楽・映像の情報化が進む中、「複製=対価」の著作権神授説と個別の機器・媒体への賦課を基礎とする私的録音録画補償金は、既に時代遅れのものとなりつつあり、その対象範囲と料率のデタラメさが、デジタル録音録画技術の正常な発展を阻害し、デジタル録音録画機器・媒体における正常な競争市場を歪めているという現実は、補償金制度を導入したあらゆる国において、問題として明確に認識されなくてはならないことである。

(2)その他の知財政策事項について:
a)秘密特許制度(経済安保法案の特許非公開関連部分)について
 2022年2月にとりまとめられた経済安全保障法制に関する有識者会議の提言に基づき、秘密特許制度(特許非公開制度)を含む経済安全保障法案が提出され、国会で審議されている。

 この法案により導入されようとしている秘密特許制度は、論文等の研究成果の公表は自由という前提と矛盾を来しており、その根拠となる立法事実があるのか、「公にすることにより外部から行われる行為によって国家及び国民の安全を損なう事態を生ずるおそれが大きい発明」についてまともに判断できるのか、その様なものが今の日本で本当に出願されているのか、出願され得るのか、罰則までつける事が妥当かなど、そもそも大いに疑わしいものである。

法案の条文についても、特許庁による第一次審査の技術分野の範囲、内閣府で行われるのだろう最終的に秘密として指定するかどうかの第二次保全審査の仕方、補償金額の決定の仕方、外国出願の禁止がいつどの様にして解除されるのかなど、あらゆる重要事項をほぼ全て政省令に落とす不明確な形で条文化されており、国会審議における政府回答によってもその明確化が図られているとは言い難い。

 この様に拙速な検討に基づき数多くの問題を含む法改正案により秘密特許制度が成立すると、国の安全保障に役立たないのは無論の事、かえってその恣意的な運用によって、国として本来促進するべき技術分野の研究開発、国内外での特許取得活動に大きな萎縮が発生する可能性すらある。

 この秘密特許制度(特許非公開制度)に関する部分は経済安保法案から全て削除し、政府において今一度その詳細を検討し直し、条文レベルでその明確化を行うべきである。

b)オンライン裁判手続きのための権利制限について
 今国会には、著作権法に新第42条の2としてオンライン民事裁判手続きのための公衆送信等の権利制限を追加する事を含む民事訴訟法等改正案も提出されている所であり、この権利制限を含む民事訴訟法等改正案の早期成立を期待する。

 そして、この法改正に関連し、文化庁の文化審議会・著作権分科会・法制度小委員会の「民事訴訟法の改正に伴う著作権制度に関する論点整理(案)」に対するパブリックコメントでも意見が出されていた通り(電子政府HPの意見募集の結果https://public-comment.e-gov.go.jp/servlet/PcmFileDownload?seqNo=0000230696参照)、手続きのオンライン化は裁判に限った事ではなく、本法改正に加えて、既存の著作権法第42条の拡充などにより裁判以外の行政や立法における手続きも同様の権利制限の対象とする法改正の検討を速やかに開始するべきである。

c)環太平洋経済連携協定(TPP)などの経済連携協定(EPA)に関する取組について
 TPP協定については、2015年10月に大筋合意が発表され、文化庁、知財本部の検討を経て、11月にTPP総合対策本部でTPP関連政策大綱が決定され、さらに2016年2月に署名され、3月に関連法案の国会提出がされ、11月の臨時国会で可決・成立し、2017年1月20日に参加国として初めての国内手続きの完了に関する通報が行われた。

 しかし、この国内手続きにおいて、日本政府は、2015年10月に大筋合意の概要のみを公表し、11月のニュージーランド政府からの協定条文の英文公表時も全章概要を示したのみで、その後2ヶ月も経って2016年1月にようやく公式の仮訳を公表するなど、TPP協定の内容精査と政府への意見提出の時間を国民に実質与えない極めて姑息かつ卑劣なやり方を取っていたと言わざるを得ない。

 そして、公開された条文によって今までのリーク文書が全て正しかったことはほぼ証明されており、TPP協定は確かに著作権の保護期間延長、DRM回避規制強化、法定賠償制度、著作権侵害の非親告罪化などを含んでいる。今ですら不当に長い著作権保護期間のこれ以上の延長など本来論外だったものである。

 その後、日本政府は、アメリカ抜きの11カ国でのTPP11協定を推進し、2017年11月に大筋合意が発表され、その中で最もクリティカルな部分である著作権と特許の保護期間延長とDRM規制の強化の部分が凍結さたにもかかわらず、これらの事項を含む国内関連法改正案を2018年3月に国会に提出し(6月に可決・成立)、2018年12月のTPP11協定の発効とともに施行するという戦後最大級の愚行をなした。このようになし崩しで極めて危険な法改正がなされたことを私は一国民として強く非難する。

 2017年12月には、同じく著作権の保護期間延長を含む日EU(欧)EPA交渉も妥結され、2018年2月に発効している。しかし、この日欧EPA交渉もTPP協定同様の姑息かつ卑劣な秘密交渉で決められたものである。その内容についてほとんど何の説明もないままに著作権の保護期間延長のような国益の根幹に関わる点について日本政府は易々と譲歩した。これは完全に国民をバカにしているとしか言いようがない。

 2020年9月に大筋合意され、2021年1月に発効している、同じく著作権の保護期間延長を含む日英EPAについても同様である。

 これらのTPP協定、日欧EPA及び日英EPAについてその内容の見直しを各加盟国に求めること及び著作権の保護期間の短縮について速やかに検討を開始することを私は求める。

 また、TPP交渉や日欧EPA交渉のような国民の生活に多大の影響を及ぼす国際交渉が政府間で極秘裏に行われたことも大問題である。国民一人一人がその是非を判断できるよう、途中経過も含めその交渉に関する情報をすべて速やかに公開するべきである。

d)DRM回避規制について
 経産省と文化庁の主導により無意味にDRM回避規制を強化する不正競争防止法と著作権法の改正案がそれぞれ以前国会を通され、2018年に不正競争防止法がさらに改正され、2020年の改正著作権法にも同様の事項が含まれているが、これらの法改正を是とするに足る立法事実は何一つない。不正競争防止法と著作権法でDRM回避機器等の提供等が規制され、著作権法でコピーコントロールを回避して行う私的複製まで違法とされ、十二分以上に規制がかかっているのであり、これ以上の規制強化は、ユーザーの情報アクセスに対するリスクを不必要に高める危険なものとしかなり得ない。

 特に、DRM回避規制に関しては、有害無益な規制強化の検討ではなく、まず、私的なDRM回避行為自体によって生じる被害は無く、個々の回避行為を一件ずつ捕捉して民事訴訟の対象とすることは困難だったにもかかわらず、文化庁の片寄った見方から一方的に導入されたものである、私的な領域でのコピーコントロール回避規制(著作権法第30条第1項第2号)の撤廃の検討を行うべきである。コンテンツへのアクセスあるいはコピーをコントロールしている技術を私的な領域で回避しただけでは経済的損失は発生し得ず、また、ネットにアップされることによって生じる被害は公衆送信権によって既にカバーされているものであり、その被害とDRM回避やダウンロードとを混同することは絶対に許されない。それ以前に、私法である著作権法が、私的領域に踏み込むということ自体異常なことと言わざるを得ない。何ら立法事実の変化がない中、ドサクサ紛れに通された、先般の不正競争防止法改正によるDRM規制の強化や、以前の著作権法改正で導入されたアクセスコントロール関連規制の追加等について、速やかに元に戻す検討がなされるべきである。

 TPP協定にはDRM回避規制の強化も含まれており、上で書いた通り、これ以上のDRM回避規制の強化がされるべきではなく、この点でも私はTPP協定の見直しを求める。

e)海賊版対策条約(ACTA)について
 ACTAを背景に経産省及び文化庁の主導により無意味にDRM回避規制を強化する不正競争防止法及び著作権法の改正案が以前国会を通され、ACTA自体も国会で批准された。しかし、このようなユーザーの情報アクセスに対するリスクを不必要に高める危険なものとしかなり得ない規制強化条項を含む条約の交渉、署名及び批准は何ら国民的なコンセンサスが得られていない中でなされており、私は一国民としてACTAに反対する。今なおACTAの批准国は日本しかなく、日本は無様に世界に恥を晒し続けている。もはやACTAに何ら意味はなく、日本は他国への働きかけを止めるとともに自ら脱退してその失敗を認めるべきである。

f)一般フェアユース条項の導入について
 2018年に個別の権利制限を拡充する著作権法改正がなされており、これはその限りにおいて評価できるものではあるが、本当の意味で柔軟な一般フェアユース条項を入れるものではない。

 一般フェアユース条項については、一から再検討を行い、ユーザーに対する意義からも、アメリカ等と遜色ない形で一般フェアユース条項を可能な限り早期に導入するべきである。特に、インターネットのように、ほぼ全国民が利用者兼権利者となり得、考えられる利用形態が発散し、個別の規定では公正利用の類型を拾い切れなくなるところでは、フェアユースのような一般規定は保護と利用のバランスを取る上で重要な意義を持つものである。

 今後の検討によっても幾つかの個別の権利制限が追加される可能性があるが、これらはあった方が良いものとは言え、到底一般フェアユース条項と言うに足るものではなく、これでは著作権をめぐる今の混迷状況が変わることはない。

 著作物の公正利用には変形利用もビジネス利用も考えられ、このような利用も含めて著作物の公正利用を促すことが、今後の日本の文化と経済の発展にとって真に重要であることを考えれば、不当にその範囲を不当に狭めるべきでは無く、その範囲はアメリカ等と比べて遜色の無いものとされるべきである。ただし、フェアユースの導入によって、私的複製の範囲が縮小されることはあってはならない。

 また、「まねきTV」事件などの各種判例からも、ユーザー個人のみによって利用されるようなクラウド型サービスまで著作権法上ほぼ違法とされてしまう状況に日本があることは明らかであり、このような状況は著作権法の趣旨に照らして決して妥当なことではない。ユーザーが自ら合法的に入手したコンテンツを私的に楽しむために利用することに著作権法が必要以上に介入することが許されるべきではなく、個々のユーザーが自らのためのもに利用するようなクラウド型サービスにまで不必要に著作権を及ぼし、このような技術的サービスにおけるトランザクションコストを過大に高め、その普及を不当に阻害することに何ら正当性はない。この問題がクラウド型サービス固有の問題でないのはその通りであるが、だからといって法改正の必要性がなくなる訳ではない。著作権法の条文及びその解釈・運用が必要以上に厳格に過ぎクラウド型サービスのような技術の普及が不当に阻害されているという日本の悲惨な現状を多少なりとも緩和するべく、速やかに問題を再整理し、アメリカ等と比べて遜色の無い範囲で一般フェアユース条項を導入し、同時にクラウド型サービスなどについてもすくい上げられるようにするべきである。

 権利を侵害するかしないかは刑事罰がかかるかかからないかの問題でもあり、公正という概念で刑事罰の問題を解決できるのかとする意見もあるようだが、かえって、このような現状の過剰な刑事罰リスクからも、フェアユースは必要なものと私は考える。現在親告罪であることが多少セーフハーバーになっているとはいえ、アニメ画像一枚の利用で別件逮捕されたり、セーフハーバーなしの著作権侵害幇助罪でサーバー管理者が逮捕されたりすることは、著作権法の主旨から考えて本来あってはならないことである。政府にあっては、著作権法の本来の主旨を超えた過剰リスクによって、本来公正として認められるべき事業・利用まで萎縮しているという事態を本当に深刻に受け止め、一刻も早い改善を図ってもらいたい。

 個別の権利制限規定の迅速な追加によって対処するべきとする意見もあるが、文化庁と癒着権利者団体が結託して個別規定すらなかなか入れず、入れたとしても必要以上に厳格な要件が追加されているという惨憺たる現状において、個別規定の追加はこの問題における真の対処たり得ない。およそあらゆる権利制限について、文化庁と権利者団体が結託して、全国民を裨益するだろう新しい権利制限を潰すか、極めて狭く使えないものとして来たからこそ、今一般規定が社会的に求められているのだという、国民と文化の敵である文化庁が全く認識していないだろう事実を、政府・与党は事実としてはっきりと認めるべきである。

g)コピーワンス・ダビング10・B-CAS問題について
 私はコピーワンスにもダビング10にも反対する。そもそも、この問題は、放送局・権利者にとっては、視聴者の利便性を著しく下げることによって、一旦は広告つきながらも無料で放送したコンテンツの市場価格を不当につり上げるものとして機能し、国内の大手メーカーとっては、B-CASカードの貸与と複雑な暗号システムを全てのテレビ・録画機器に必要とすることによって、中小・海外メーカーに対する参入障壁として機能するB-CASシステムの問題を淵源とするのであって、このB-CASシステムと独禁法の関係を検討するということを知財計画2022では明記してもらいたい。検討の上B-CASシステムが独禁法違反とされるなら、速やかにその排除をして頂きたい。また、無料の地上放送において、逆にコピーワンスやダビング10のような視聴者の利便性を著しく下げる厳格なコピー制御が維持されるのであれば、私的録画補償金に存在理由はなく、これを速やかに廃止するべきである。

h)著作権検閲・ストライクポリシーについて
 ファイル共有ソフトを用いて著作権を侵害してファイル等を送信していた者に対して警告メールを送付することなどを中心とする電気通信事業者と権利者団体の連携による著作権侵害対策が警察庁、総務省、文化庁などの規制官庁が絡む形で行われており、警察によってファイル共有ネットワークの監視も行われているが、このような対策は著作権検閲に流れる危険性が極めて高い。

 フランスで導入が検討された、警告メールの送付とネット切断を中心とする、著作権検閲機関型の違法コピー対策である3ストライクポリシーは、2009年6月に、憲法裁判所によって、インターネットのアクセスは、表現の自由に関係する情報アクセスの権利、つまり、最も基本的な権利の1つとしてとらえられるとされ、著作権検閲機関型の3ストライクポリシーは、表現の自由・情報アクセスの権利やプライバシーといった他の基本的な権利をないがしろにするものとして、真っ向から否定されている。ネット切断に裁判所の判断を必須とする形で導入された変形ストライク法も何ら効果を上げることなく、フランスでは今もストライクポリシーについて見直しの検討が行われており、2013年7月にはネット切断の罰が廃止されている。日本においては、このようなフランスにおける政策の迷走を他山の石として、このように表現の自由・情報アクセスの権利やプライバシーといった他の基本的な権利をないがしろにする対策を絶対に導入しないこととするべきであり、警察庁などが絡む形で検討されている違法ファイル共有対策についても、通信の秘密やプライバシー、情報アクセス権等の国民の基本的な権利をきちんと尊重する形で進めることが担保されなくてはならない。

i)著作権法へのセーフハーバー規定の導入について
 動画投稿サイト事業者がJASRACに訴えられた「ブレイクTV」事件や、レンタルサーバー事業者が著作権幇助罪で逮捕され、検察によって姑息にも略式裁判で50万円の罰金を課された「第(3)世界」事件や、1対1の信号転送機器を利用者からほぼ預かるだけのサービスが放送局に訴えられ、最高裁判決で違法とされた「まねきTV」事件等を考えても、今現在、カラオケ法理の適用範囲はますます広く曖昧になり、間接侵害や著作権侵害幇助のリスクが途方もなく拡大し、甚大な萎縮効果・有害無益な社会的大混乱が生じかねないという非常に危険な状態がなお続いている。間接侵害事件や著作権侵害幇助事件においてネット事業者がほぼ直接権利侵害者とみなされてしまうのでは、プロバイダー責任制限法によるセーフハーバーだけでは不十分であり、間接侵害や著作権侵害幇助罪も含め、著作権侵害とならない範囲を著作権法上きちんと確定することは喫緊の課題である。ただし、このセーフハーバーの要件において、標準的な仕組み・技術や違法性の有無の判断を押しつけるような、権利侵害とは無関係の行政機関なり天下り先となるだろう第3者機関なりの関与を必要とすることは、検閲の禁止・表現の自由等の国民の権利の不当な侵害に必ずなるものであり、絶対にあってはならないことである。

 知財計画2022において、プロバイダに対する標準的な著作権侵害技術導入の義務付け等を行わないことを合わせ明記するとともに、間接侵害や刑事罰・著作権侵害幇助も含め著作権法へのセーフハーバー規定の速やかな導入を検討するとしてもらいたい。この点に関しては、逆に、検閲の禁止や表現の自由の観点から技術による著作権検閲の危険性の検討を始めてもらいたい。

j)二次創作規制の緩和について
 2014年8月のクールジャパン提言の第13ページに「クリエイティビティを阻害している規制についてヒアリングし規制緩和する。コンテンツの発展を阻害する二次創作規制、ストリートパフォーマンスに関する規制など、表現を限定する規制を見直す。」と記載されている通り、二次創作は日本の文化的創作の原動力の一つになっており、その推進のために現状の規制を緩和する必要がある。これは知的財産に関わる重要な提言であり、二次創作規制を緩和するという記載を知財計画2022においてもそのまま取り入れ、政府としてこのような規制の緩和を強力に推進することを重ねてきちんと示すべきである。

 また、コスプレに関する検討が知財本部において行われるとの報道もあったが、コスプレについて問題とされていないのであれば、これは政府におけるルール化の様な検討にそぐわないものであり、現状において問題はないという整理のみするか、又は、必要に応じて二次創作の一種としてその規制緩和の検討のみなされるべきである。

k)著作権等に関する真の国際動向について国民へ知らされる仕組みの導入及び文化庁ワーキンググループの公開について
 WIPO等の国際機関にも、政府から派遣されている者はいると思われ、著作権等に関する真の国際動向について細かなことまで即座に国民へ知らされる仕組みの導入を是非検討してもらいたい。

 また、2013年からの著作物等の適切な保護と利用・流通に関するワーキングチーム及び2015年からの新たな時代のニーズに的確に対応した制度等の整備に関するワーキングチームの審議は公開とされたが、文化庁はワーキングチームについて公開審議を原則とするにはなお至っていない。上位の審議会と同様今後全てのワーキンググループについて公開審議を原則化するべきである。

l)天下りについて
 以前文部科学省の天下り問題が大きく報道されたが、知財政策においても、天下り利権が各省庁の政策を歪めていることは間違いなく、知財政策の検討と決定の正常化のため、文化庁から著作権関連団体への、総務省から放送通信関連団体・企業への、警察庁からインターネットホットラインセンター他各種協力団体・自主規制団体への天下りの禁止を知財本部において決定して頂きたい。(これらの省庁は特にひどいので特に名前をあげたが、他の省庁も含めて決定してもらえるなら、それに超したことはない。)

(3)その他一般的な情報・ネット・表現規制について
 知財計画改訂において、一般的な情報・ネット・表現規制に関する項目は削除されているが、常に一方的かつ身勝手な主張を繰り広げる自称良識派団体が、意味不明の理屈から知財とは本来関係のない危険な規制強化の話を知財計画に盛り込むべきと主張をしてくることが十分に考えられるので、ここでその他の危険な一般的な情報・ネット・表現規制強化の動きに対する反対意見も述べる。今後も、本来知財とは無関係の、一般的な情報・ネット・表現規制に関する項目を絶対に知財計画に盛り込むことのないようにしてもらいたい。

a)青少年ネット規制法・出会い系サイト規制法について
 そもそも、青少年ネット規制法は、あらゆる者から反対されながら、有害無益なプライドと利権を優先する一部の議員と官庁の思惑のみで成立したものであり、速やかに廃止が検討されるべきものである。また、出会い系サイト規制法の改正は、警察庁が、どんなコミュニケーションサイトでも人は出会えるという誰にでも分かることを無視し、届け出制の対象としては事実上定義不能の「出会い系サイト事業」を定義可能と偽り、改正法案の閣議決定を行い、法案を国会に提出したものであり、他の重要法案と審議が重なる中、国会においてもその本質的な問題が見過ごされて可決され、成立したものである。憲法上の罪刑法定主義や検閲の禁止にそもそも違反している、この出会い系サイト規制法の改正についても、今後、速やかに元に戻すことが検討されるべきである。

b)児童ポルノ規制・サイトブロッキングについて
 児童ポルノ法規制強化問題・有害サイト規制問題における自称良識派団体の主張は、常に一方的かつ身勝手であり、ネットにおける文化と産業の発展を阻害するばかりか、インターネットの単純なアクセスすら危険なものとする非常識なものばかりである。今後は、このような一方的かつ身勝手な規制強化の動きを規制するため、憲法の「表現の自由」に含まれ、国際人権B規約にも含まれている国民の「知る権利」を、あらゆる公開情報に安全に個人的にアクセスする権利として、通信法に法律レベルで明文で書き込むべきである。同じく、憲法に規定されている検閲の禁止から、技術的な検閲やサイトブロッキングのような技術的検閲の禁止を通信法に法律レベルで明文で書き込むべきである。

 閲覧とダウンロードと取得と所持の区別がつかないインターネットにおいては、例え児童ポルノにせよ、情報の単純所持や取得の規制は有害無益かつ危険なもので、憲法及び条約に規定されている「知る権利」を不当に害するものとなる。「自身の性的好奇心を満たす目的で」、積極的あるいは意図的に画像を得た場合であるなどの限定を加えたところで、エスパーでもない限りこのような積極性を証明することも反証することもできないため、このような情報の単純所持や取得の規制の危険性は回避不能であり、思想の自由や罪刑法定主義にも反する。繰り返し取得としても、インターネットで2回以上他人にダウンロードを行わせること等は技術的に極めて容易であり、取得の回数の限定も、何ら危険性を減らすものではない。

 児童ポルノ規制の推進派は常に、提供による被害と単純所持・取得を混同する狂った論理を主張するが、例えそれが児童ポルノであろうと、情報の単純所持ではいかなる被害も発生し得ない。現行法で、ネット上であるか否かにかかわらず、提供及び提供目的の所持が規制されているのであり、提供によって生じる被害と所持やダウンロード、取得、収集との混同は許され得ない。そもそも、最も根本的なプライバシーに属する個人的な情報所持・情報アクセスに関する情報を他人が知ることは、通信の秘密や情報アクセスの権利、プライバシーの権利等の基本的な権利からあってはならないことである。

 アニメ・漫画・ゲームなどの架空の表現に対する規制対象の拡大も議論されているが、このような対象の拡大は、児童保護という当初の法目的を大きく逸脱する、異常規制に他ならない。アニメ・漫画・ゲームなどの架空の表現において、いくら過激な表現がなされていようと、それが現実の児童被害と関係があるとする客観的な証拠は何一つない。いまだかつて、この点について、単なる不快感に基づいた印象批評と一方的な印象操作調査以上のものを私は見たことはないし、虚構と現実の区別がつかないごく一部の自称良識派の単なる不快感など、言うまでもなく一般的かつ網羅的な表現規制の理由には全くならない。アニメ・漫画・ゲームなどの架空の表現が、今の一般的なモラルに基づいて猥褻だというのなら、猥褻物として取り締まるべき話であって、それ以上の話ではない。どんな法律に基づく権利であれ、権利の侵害は相対的にのみ定まるものであり、実際の被害者の存在しない創作物・表現に対する規制は何をもっても正当化され得ない。民主主義の最重要の基礎である表現の自由や言論の自由、思想の自由等々の最も基本的な精神的自由そのものを危うくすることは絶対に許されない。この点で、2012年6月にスウェーデンで漫画は児童ポルノではないとする最高裁判決が出されたことなども注目されるべきである。

 単純所持規制にせよ、創作物規制にせよ、両方とも1999年当時の児童ポルノ法制定時に喧々囂々の大議論の末に除外された規制であり、規制推進派が何と言おうと、これらの規制を正当化するに足る立法事実の変化はいまだに何一つない。

 既に、警察などが提供するサイト情報に基づき、統計情報のみしか公表しない不透明な中間団体を介し、児童ポルノアドレスリストの作成が行われ、そのリストに基づいて、ブロッキング等が行われているが、いくら中間に団体を介そうと、一般に公表されるのは統計情報に過ぎす、児童ポルノであるか否かの判断情報も含め、アドレスリストに関する具体的な情報は、全て閉じる形で秘密裏に保持されることになるのであり、インターネット利用者から見てそのリストの妥当性をチェックすることは不可能であり、このようなアドレスリストの作成・管理において、透明性・公平性・中立性を確保することは本質的に完全に不可能である。このようなリストに基づくブロッキング等は、自主的な取組という名目でいくら取り繕おうとも、憲法に規定されている表現の自由(知る権利・情報アクセスの権利を含む)や検閲の禁止といった国民の基本的な権利を侵害するものとならざるを得ないのであり、小手先の運用変更などではどうにもならない。

 児童ポルノ規制法に関しては、提供及び提供目的での所持が禁止されているのであるから、本当に必要とされることはこの規制の地道なエンフォースであって有害無益かつ危険極まりない規制強化の検討ではない。DVD販売サイトなどの海外サイトについても、本当に児童ポルノが販売されているのであれば、速やかにその国の警察に通報・協力して対処すべきだけの話であって、それで対処できないとするに足る具体的根拠は全くない。警察自らこのような印象操作で規制強化のマッチポンプを行い、警察法はおろか憲法の精神にすら違背していることについて警察庁は恥を知るべきである。例えそれが何であろうと、情報の単純所持や単なる情報アクセスではいかなる被害も発生し得えないのであり、自主的な取組という名目でいくら取り繕おうとも、憲法に規定されている表現の自由(知る権利・情報アクセスの権利を含む)や検閲の禁止といった国民の基本的な権利を侵害するものとならざるを得ないサイトブロッキングは即刻排除するべきであり、そのためのアドレスリスト作成管理団体として設立された、インターネットコンテンツセーフティ協会は即刻その解散が検討されてしかるべきである。

 なお、民主主義の最重要の基礎である表現の自由に関わる問題において、一方的な見方で国際動向を決めつけることなどあってはならないことであり、欧米においても、情報の単純所持規制やサイトブロッキングの危険性に対する認識はネットを中心に高まって来ていることは決して無視されてはならない。例えば、欧米では既にブロッキングについてその恣意的な運用によって弊害が生じていることや、アメリカにおいても、2009年に連邦最高裁で児童オンライン保護法が違憲として完全に否定され、2011年6月に連邦最高裁でカリフォルニア州のゲーム規制法が違憲として否定されていること、ドイツで児童ポルノサイトブロッキング法は検閲法と批判され、最終的に完全に廃止されたことなども注目されるべきである(https://www.zdnet.de/41558455/bundestag-hebt-zensursula-gesetz-endgueltig-auf/参照)。スイスの2009年の調査でも、2002年に児童ポルノ所持で捕まった者の追跡調査を行っているが、実際に過去に性的虐待を行っていたのは1%、6年間の追跡調査で実際に性的虐待を行ったものも1%に過ぎず、児童ポルノ所持はそれだけでは、性的虐待のリスクファクターとはならないと結論づけており、児童ポルノの単純所持規制・ブロッキングの根拠は完全に否定されているのである(https://bmcpsychiatry.biomedcentral.com/articles/10.1186/1471-244X-9-43参照)。欧州連合において、インターネットへのアクセスを情報の自由に関する基本的な権利として位置づける動きがあることも見逃されてはならない。政府・与党内の検討においては、このような国際動向もきちんと取り上げるべきである。

 そして、単純所持規制に相当し、上で書いた通り問題の大きい性的好奇心目的所持罪を含む児童ポルノの改正法案が国会で2014年6月18日に可決・成立し、同年6月25日に公布され、2015年7月15日に施行された。この問題の大きい性的好奇心目的所持罪を規定する児童ポルノ規制法第7条第1項は即刻削除するべきであり、合わせ、政府・与党においては、児童ポルノを対象とするものにせよ、いかなる種類のものであれ、情報の単純所持・取得規制・ブロッキングは極めて危険な規制であるとの認識を深め、このような規制を絶対に行わないこととして、危険な法改正案が2度と与野党から提出されることが無いようにするべきである。

 さらに、性的好奇心目的所持罪を規定する児童ポルノ規制法第7条第1項を削除するとともに、児童ポルノの単純所持規制・創作物規制といった非人道的な規制を導入している諸国は即刻このような規制を廃止するべきと、そもそも最も根本的なプライバシーに属し、何ら実害を生み得ない個人的な情報所持・情報アクセスに関する情報を他人が知ること自体、通信の秘密や情報アクセスの権利、プライバシーの権利等の国際的かつ一般的に認められている基本的な権利からあってはならないことであると、また、法的拘束力はないが、明らかに表現の自由に抵触する規制を推奨している、2019年9月の児童の権利委員会による児童ポルノ規制に関するガイドラインは全面的に見直すべきであると、日本政府から国際的な場において各国に積極的に働きかけてもらいたい。

 また、様々なところで検討されている有害サイト規制についても、その規制は表現に対する過度広汎な規制で違憲なものとしか言いようがなく、各種有害サイト規制についても私は反対する。

c)東京都青少年健全育成条例他、地方条例の改正による情報規制問題について
 東京都でその青少年健全育成条例の改正が検討され、非実在青少年規制として大騒ぎになったあげく、2010年12月に、当事者・関係者の真摯な各種の意見すら全く聞く耳を持たれず、数々の問題を含む条例案が、都知事・東京都青少年・治安対策本部・自公都議の主導で都議会で通された。通過版の条例改正案も、非実在青少年規制という言葉こそ消えたものの、かえって規制範囲は非実在性犯罪規制とより過度に広汎かつ曖昧なものへと広げられ、有害図書販売に対する実質的な罰則の導入と合わせ、その内容は違憲としか言わざるを得ない内容のものである。また、この東京都の条例改正にも含まれている携帯フィルタリングの実質完全義務化は、青少年ネット規制法の精神にすら反している行き過ぎた規制である。さらに、大阪や京都などでは、児童ポルノに関して、法律を越える範囲で勝手に範囲を規定し、その単純所持等を禁止する、明らかに違憲な条例が通されるなどのデタラメが行われている。

 これらのような明らかな違憲条例の検討・推進は、地方自治体法第245条の5に定められているところの、都道府県の自治事務の処理が法令の規定に違反しているか著しく適正を欠きかつ明らかに公益を害していると認めるに足ると考えられるものであり、総務大臣から各地方自治体に迅速に是正命令を出すべきである。また、当事者・関係者の意見を完全に無視した東京都における検討など、民主主義的プロセスを無視した極めて非道なものとしか言いようがなく、今後の検討においてはきちんと民意が反映されるようにするため、地方自治法の改正検討において、情報公開制度の強化、審議会のメンバー選定・検討過程の透明化、パブコメの義務化、条例の改廃請求・知事・議会のリコールの容易化などの、国の制度と整合的な形での民意をくみ上げるシステムの地方自治に対する法制化の検討を速やかに進めてもらいたい。また、各地方の動きを見ていると、出向した警察官僚が強く関与する形で、各都道府県の青少年問題協議会がデタラメな規制強化騒動の震源となることが多く、今現在のデタラメな規制強化の動きを止めるべく、さらに、中央警察官僚の地方出向・人事交流の完全な取りやめ、地方青少年問題協議会法の廃止、問題の多い地方青少年問題協議会そのものの解散の促進についても速やかに検討を開始するべきである。

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