2009年7月17日 (金)

第184回:総務省・「『デジタル・コンテンツの流通の促進』及び『コンテンツ競争力強化のための法制度の在り方』」提出パブコメ

 総務省のB-CAS見直しに関する中間答申(pdf)概要(pdf)、正式名称は、「『デジタル・コンテンツの流通の促進』及び『コンテンツ競争力強化のための法制度の在り方』」、8月28日〆切、総務省のリリース、電子政府の該当ページITmediaの記事ITproの記事も参照)へのパブコメも提出したので、ここに載せておく。

(今回の中間答申で、ようやくB-CASシステムそのものの話にまで遡ったが、それでもなお総務省は、放送局・権利者・メーカー3者の談合システムに他ならない、現行のB-CASシステムを維持しようとしている。この話も進んでいるようで進んでいないので、去年提出したパブコメと内容はあまり変わらない。)

 さらに今、内閣官房・IT戦略本部から今「デジタル技術・情報の利活用を阻むような規制・制度・慣行等の重点点検」に関するパブリックコメントの募集が8月6日〆切で行われている(内閣官房のリリース、電子政府の該当ページ提出様式(doc))。およそ常に規制強化ありきでパブコメを行う性根の腐った日本政府において、このように明確に規制緩和を目的とするパブコメの機会は極めて貴重であり、最近の不合理極まるネット・情報規制の動きに憤りを感じている全ての個人・企業・団体に、このパブコメに対して意見を出すことを私はお勧めする。出会い系サイト規制、青少年ネット規制法、フィルタリング、児童ポルノ規制、ブロッキング、ダウンロード違法化、著作権規制、著作権検閲、B-CAS・ダビング10・コピーワンス等全てまとめて、私は意見を書くつもりであり、次回は、このパブコメへの提出意見を載せたいと思っている。

(以下、提出パブコメ)

氏名:兎園(個人・匿名希望)
連絡先:

(ページ)
第3ページ~第31ページ 第1章 コピー制御に係るルールの担保手段(エンフォースメント)の在り方

(意見)
 私は一国民として、デジタル放送におけるコピー制御の問題について、以下の通りの方向性を基本として検討し直すことを強く求める。

1.無料地上波からB-CASシステムを排除し、テレビ・録画機器における参入障壁を取り除き、自由な競争環境を実現すること。
2.あまねく見られることを目的とするべき、基幹放送である無料地上波については、ノンスクランブル・コピー制限なしを基本とすること。
3.これは立法府に求めるべきことではあるが、無料地上波については、ノンスクランブル・コピー制限なしとすることを、総務省が勝手に書き換えられるような省令や政令レベルにではなく、法律に書き込むこと。
4.B-CASに代わる機器への制度的なエンフォースの導入は、B-CASに変わる新たな参入障壁を作り、今の民製談合を官製談合に切り替えることに他ならず、厳に戒められるべきこと。コンテンツの不正な流通に対しては現在の著作権法でも十分対応可能である。

 現行のB-CASシステムと併存させる形でのチップやソフトウェア等の新方式の導入についても、無意味な現行システムの維持コストに加えて新たなシステムの追加で発生するコストまでまとめて消費者に転嫁される可能性が高く、このような弥縫策は、一消費者として全く評価できないものである。

 なお、補償金制度は、私的録音録画によって生じる権利者への経済的不利益を補償するものであって、メーカーなどの利益を不当に権利者に還元するものではない。上記1~4以外の方向性を取り、ダビング10のように不当に厳しいコピー制御が今後も維持され続けるようであれば、録画補償金は廃止しても良いくらいであり、全く議論の余地すらない。上記1~4が実現されたとしても、補償金の対象範囲等は私的な録音録画が権利者にもたらす「実害」に基づいて決められるべきであるということは言うまでもない。

 また、近年総務省が打ち出している放送関連施策には今なお国民本意の視点が全く欠けており、今のままでは地上デジタルへの移行など到底不可能であるとほとんどの国民が思っているであろうことを付言しておく。

(理由)
 去年のパブコメでも書いたことだが、B-CASシステムは談合システムに他ならず、これは、放送局・権利者にとっては、視聴者の利便性を著しく下げることによって、一旦は広告つきながらも無料で放送したコンテンツの市場価格を不当につり上げるものとして機能し、国内の大手メーカーとっては、B-CASカードの貸与と複雑な暗号システムを全てのテレビ・録画機器に必要とすることによって、中小・海外メーカーに対する参入障壁として機能しているのである。

 今年の中間答申で、ようやく無料の地上放送へB-CASシステムとコピーワンス運用の導入を可能とした平成14年6月の省令改正についての記載が加えられた。このように以前、無料の地上放送へのスクランブル・暗号化を禁じる省令が存在していた理由についての記載はやはり無いが、これは、無料地上放送は本来あまねく見られるべきという理念があったことの証左であろう。過去の検討経緯についてよりきちんとした情報開示を行い、このような過去の省令に表れている無料の地上放送の理念についても念頭においた上で再検討が進められなくてはならない。

 本来あまねく見られることを目的としていた無料地上波本来の理念をねじ曲げ、放送局と権利者とメーカーの談合に手を貸したという総務省の過去の行為は見下げ果てたものである。コピーワンス問題、ダビング10問題、B-CAS問題の検討と続く、無料の地上放送のスクランブルとコピー制御に関する政策検討の迷走とそれにより浪費され続けている膨大な社会的コストのことを考えても、このような省令改正の政策的失敗は明らかであり、総務省はこの省令改正を失策と明確に認めるべきである。

 コピー制限なしとすることは認められないとする権利者の主張は、消費者のほとんどが録画機器をタイムシフトにしか使用しておらず、コンテンツを不正に流通させるような悪意のある者は極わずかであるということを念頭においておらず、一消費者として全く納得がいかない。消費者は、無数にコピーするからコピー制限を無くして欲しいと言っているのではなく、わずかしかコピーしないからこそ、その利便性を最大限に高めるために、コピー制限を無くして欲しいと言っているのである。消費者の利便性を下げることによって権利者が不当に自らの利潤を最大化しようとしても、インターネットの登場によって、コンテンツ流通の独占が崩れた今、消費者は不便なコンテンツを選択しないという行動を取るだけのことであり、長い目で見れば、このような主張は自らの首を絞めるものであることを権利者は思い知ることになるであろう。

 昨年運用が開始されたダビング10に関しても、大きな利便性の向上なくして、より複雑かつ高価な機器を消費者が新たに買わされるだけの弥縫策としか言いようがなく、一消費者・一国民として納得できるものでは全くない。さらに、ダビング10機器に関しては、テレビ(チューナー)と録画機器の接続によって、全く異なる動作をする(接続次第で、コピーの回数が9回から突然1回になる)など、公平性の観点からも問題が大きい。

 現在の地上無料放送各局の歪んだビジネスモデルによって、放送の本来あるべき姿までも歪められるべきではない。そもそもあまねく視聴されることを本来目的とする、無料の地上放送においてコピーを制限することは、視聴者から視聴の機会を奪うことに他ならず、このような規制を良しとする談合業界及び行政に未来はない。

 コピー制限技術はクラッカーに対して不断の方式変更で対抗しなければならないが、その方式変更に途方もないコストが発生する無料の地上放送では実質的に不可能である。インターネット上でユーザー間でコピー制限解除に関する情報がやりとりされる現在、もはや無料の地上放送にDRMをかけていること自体が社会的コストの無駄であるとはっきりと認識するべきである。無料の地上放送におけるDRMは本当に縛りたい悪意のユーザーは縛れず、一般ユーザーに不便を強いているだけである。

 本中間答申では、現行のB-CASシステムと併存させる形でチップやソフトウェア等の新方式を導入することが提言されているが、無意味な現行システムの維持コストに加えて新たなシステムの追加で発生するコストまでまとめて消費者に転嫁される可能性が高く、このような弥縫策は、一消費者として全く評価できないものである。さらに言うなら、これらの新方式は、不正機器対策には全くならない上、新たに作られるライセンス発行・管理機関が総務省なりの天下り先となり、新方式の技術開発・設備投資コストに加え、天下りコストまで今の機器に上乗せされかねないものである。

 なお、審議会では、新方式における受信確認メッセージについても議論されているようだが、現行のB-CASシステムのようにまがりなりにも機器と分けられたカードとユーザーの1対1対応を前提とできるならいざ知らず(この現行システムの前提すら極めて危うく、もはや破綻していると見た方が良いだろうが)、全国民をユーザーとして転々流通する機器に完全に組み込まれるチップあるいはソフトウェア方式において、受信確認メッセージの機能を実装することは技術的に不可能である。このように技術的に不可能なことが審議会で今後の検討対象とされること自体、総務省と情報通信審議会のこの問題に対する技術的無知、検討能力の無さを露呈するものである。

 制度的エンフォースメントにしても、正規機器の認定機関が総務省なりの天下り先となり、その天下りコストがさらに今の機器に上乗せされるだけで、しかも不正機器対策には全くならないという最低の愚策である。

 冒頭書いたように、無料の地上放送の理念を歪め、放送局・権利者・国内の大手メーカーの談合を助長している、無料の地上放送にかけられているスクランブル・暗号化こそ問題なのであって、B-CAS類似の無意味なシステムをいくら併存させたところで、積み上げられるムダなコストが全て消費者に転嫁されるだけで何の問題の解決にもならず、同じことが繰り返されるだけだろう。基幹放送である無料地上波については、B-CASシステムを排除し、ノンスクランブル・コピー制限なしを基本とすること以外で、この問題の本質的な解決がもたらされることはない。

 法的にもコスト的にも、どんな形であれ、全国民をユーザーとする無料地上放送に対するコピー制限は維持しきれるものではない。本来立法府に求めるべきことではあるが、このようなバカげたコピー制限に関する過ちを二度と繰り返さないため、無料の地上放送についてはスクランブルもコピー制御もかけないこととする逆規制を、政令や省令ではなく法律のレベルで放送法に入れることを私は一国民として強く求める。

 なお、付言すれば、本来、B-CASやコピーワンス、ダビング10のような談合規制の排除は公正取引委員会の仕事であると思われ、何故総務省及び情報通信審議会が、談合規制の緩和あるいは維持を検討しているのか、一国民として素直に理解に苦しむ。今後、立法府において、行政と規制の在り方のそもそも論に立ち返った検討が進むことを、私は一国民として強く望む。

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2007年12月22日 (土)

番外その6:B-CASカード使用不正録画機器フリーオ(Friio)は取り締まれるか。

 文化庁のダウンロード違法化問題(ITmediaの記事に、文化庁のふざけた資料の全文が公開されている。)については書き足らないのでまだ書くつもりだが、ひとまず書きかけだった放送とDRMに関する話の続きを書いておく。

 フリーオはB-CAS社の認定を受けていない不正機器であるが、B-CASカードを差すことで、地上デジタル放送の暗号を解除し、そこに含まれているコピー制御信号を無視して、暗号のかかっていない状態で放送データ(コンテンツ)をPCに取り込める機器である。(フリーオについては、ITproの記事1記事2などにも分かりやすくまとめられている。これらの記事は私も参考にさせてもらった。B-CASシステムの導入経緯については第6回の総務省へのパブコメを読んでいただければと思う。)

 フリーオは取り締まれるかという質問に対する答えを先に書いておくと、これは社会的にはイエス、私的領域についてはノーであり、この線を動かすことは原理的に不可能であり、道義的にも動かしてはならないというものである。

 まず、このような機器について、第36回で書いた著作権法と不正競争防止法の規定に当てはめてどうかということを考えて行く。

 著作権法についてであるが、B-CASそのものは暗号化を用いて視聴をコントロールしているアクセスコントロールなので、このような不正機器によるDRM回避は厳密に考えて行くと著作権法の対象外となると考えられる。しかし、第36回でも書いたように、DVDのPCによるリッピングと同じく、裁判で実質的にシステム中に含まれているコピーコントロール信号を除去又は改変しているに等しいといった認定をされる可能性も否定できず、フリーオを用いた私的複製について違法かどうかは今のところ著作権法上グレーと言わざるを得ないだろう。
 そして、このような機器が著作権法で言うところの「技術的保護手段」回避機器に該当するかどうかもグレーである以上、最後、著作権法により、このような機器の輸入・国内譲渡・国内販売等について刑事による取り締まりが行われる可能性も否定できない

 不正競争防止法では、「技術的制限手段」にアクセスコントロールが含まれており、暗号解除を行ってているフリーオは明らかに不正競争防止法の対象となる(第2条第1項第10号該当なのか第11号なのかという議論はあろうが、どちらかに該当するのは間違いない。)ので、このような機器の輸入・国内譲渡・国内販売等について、民事による損害賠償請求等が行われる可能性は大いにある。(不正競争防止法では刑事罰の適用はない。)

 トリッキーな法の適用であるが、以前違法チューナーを取り締まる時に電気用品安全法(いわゆる悪名高いPSE法)が使われたこともある(読売新聞の記事参照)ので、国内譲渡や国内販売等について、電気用品安全法により取り締まりが行われる可能性もある

 しかし、どの法律が使われるにせよ、販売行為なり輸入行為を見つけることが可能な、フリーオの国内での取引や、業者による販売目的の輸入は、民事で訴えられるか(警告で終わるかも知れないが)、刑事による取り締まりを受けるかすることになるだろう。(そのため、かなりきわどい商品を取り扱っている店でも手を出すところは少ないのではないかと思われる。なお、台湾の裁判次第となってしまうだろうが、フリーオ生産地と思われる台湾の著作権法にも、DRM回避機器規制は存在しており、台湾における取り締まりの可能性もある。)

 また、フリーオで作成した複製を著作権者に無断でインターネットにアップロードする行為などは、著作権法違反であり、民事で訴えられる可能性も、刑事で取り締まられる可能性もある。

 さらに、第22回でも書いた通り、B-CAS社とユーザー間にはシュリンクラップ契約があるため、この契約違反を問われる可能性もある。つまり、著作権法違反あるいはフリーオの国内での再譲渡・販売等に対する刑事・民事手続きの中で、証拠として出されるだろうB-CASカードの所有者がさらに訴えられる可能性もあるのである。(これに何も知らない善意ユーザーが巻き込まれたら大変なことになるので、特に、第22回で、「B-CASカードを絶対人に譲渡してはいけない、自分の住所と名前を登録したカードを譲渡するなどもってのほかである。オークション等で売ってしまったという人がいたら、即刻B-CAS社に対し紛失の届出を出しておくべきである。」と私は書いた。)

 これだけ書けば既に地上デジタル放送のDRM回避は、既に法律と契約でこれ以上は不可能なまでにがんじがらめになっていることが分かるだろう。少なくともフリーオが一般ユーザーにも容易に入手可能となることは考えられない。

 それでは何が問題なのかというと、結局、このような機器の存在そのものによって、全国民をユーザーとする地上デジタル放送の一律コピー制御の正当化に必要な、平等の原則が崩れてしまったことが問題なのである。しかし、権利者団体等が何と言おうと、各家庭の中にまで入り込んで録画機器を取り締まることは不可能であり、またされるべきでもない。権利は全て相対的なものであり、著作権は、プライバシーや通信の秘密などの他の基本的な権利を無視できるほど強い権利ではない。また、完全に私的領域に閉じる複製によって著作権者への実害が発生する訳もなく、権利者団体がこのような複製について何かを求めること自体間違っている。

 放送局、権利者団体、メーカーといった利権団体と利権構造の中に組み込まれた役所がさらにB-CASの延命を図ることは考えられるが、その対策としては、

  1. B-CASの法制化
  2. B-CASのカード認証の実行
  3. B-CASへの機器認証の導入

くらいしか考えられない。しかし、

  1. そもそも、法律で特定の録画機器のみを正規なものとすることは、B-CASという民間談合を官製談合に変え(予言しておくが、必ずここで総務省が新たな天下り先を作ることをもくろむだろう)、さらに問題を複雑化させるだけであることに加え、上にも書いたようにDRM回避機器の個人的な使用行為そのものの取り締まりは不可能で、かつ道義的に許されて良いことでもなく、
  2. B-CAS社へ登録情報を送っていないユーザーのカードによる視聴を止めることは、あまねく視聴されることを目的とする地上放送で実行するには道義上の問題がある上、大混乱が予想され、コスト的にも実行はほぼ不可能であり、
  3. また、不正機器かどうかを機器で確認可能とすることも、全く新たな機能の追加となり、出荷済みの全機器に対する対応コストを考えると、これもほぼ不可能であり、

これらのB-CAS延命策に現実性はない

 要するに、フリーオの登場によって、地上デジタル放送におけるDRMは、もはや本当に縛りたい悪意のユーザー・消費者を縛れず、完全に善意のユーザー・消費者の利便性のみを不当に縛るものと堕したのであり、このような前提のもとに全ての検討はなされなくてはならない。今後も、権利者団体なりが複製権を絶対不可侵のものであるかのごとく振りかざして、手段は問わないから何としてもユーザーによる私的複製を止めろと馬鹿げた主張を繰り返し、それをダシに総務省なりが天下り先を新たに作ろうとすることは容易に想像がつくのだが、一般国民を無視したこのようなバカげた主張に耳を貸すことはない。全国民をユーザーとする無料の地上デジタル放送におけるDRMは単なる社会的コストの無駄であるとあらゆる者が悟り、ノンスクランブル・コピーフリーへの移行がなされる日が一刻も早く訪れることを私は心から願っている。

 なお、このブログでは既に何度も書いてきたことだが、コピーワンスなり、ダビング10なり、善意のユーザー・消費者の利便性のみを不当に縛るDRMが地上デジタル放送において無理矢理維持され続ける限り、録画補償金の正当性もなく、(地デジのこの混迷状況を見てもなお踏み切るのであれば)アナログ停波に合わせ録画補償金は完全に廃止されてしかるべきである。

(2008年1月10日の追記:無論個人輸入と個人利用に及ぶ話ではないが、フリーオの販売等については、特許権侵害で取り締まられる可能性もあることを書き漏らしていた。なにしろ、地上デジタル放送関連機器についてはパテントプール(日経ビジネスのネット記事参照)が作られて必須特許も明らかになっている上、特許権侵害罪は非親告罪とされてしまっているのである。)

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2007年11月16日 (金)

番外その5:総務省の地上デジタル放送政策年表

 折角、地デジに関することを調べたので、総務省の地上デジタル放送関連の政策について年表形式でまとめておこう。完全なものではないことをお断りしておくが、このようなものもあまり見かけないので、参考になればと思う。

 それにつけても、役人がこのように分厚い報告書を沢山出すのは国民をごまかすためにやっているとしか思われない。どうせ大したことを書いている訳ではないのだから、もっとシンプルに誰にでも分かるようにしろと言いたい。国民を馬鹿にしないで欲しいものだ。

 また、こういう年表を作ると、総務省が、放送局には地上デジタル放送移行の検討の初期段階から支援を手厚くしているのに引き替え、消費者対策は最近になって行き当たりばったりに打ち出していることが分かる。確かに放送局の方が先行投資が必要となるので、ある程度は理解できるが、このやり方はあまりにも消費者を馬鹿にしていないか。

平成 9年 6月 地上デジタル放送懇談会で検討を開始

平成10年10月 地上デジタル放送懇談会報告

平成11年 5月 放送事業者に対する税制・金融上の支援制度の開始(参考1参考2参考3参考4

平成13年 6月 電波法の一部改正
・電波利用料によりアナログ周波数変更(デジタル放送のための既存のUHFチャンネル周波数の変更)対策に電波利用料を当てる。
・この改正電波法の施行日(平成13年7月25日)から10年となる2011年7月24日がアナログ停波の日となる。

平成14年 3月 情報通信審議会一部答申「BSデジタル放送用受信機等が対応可能な権利保護式の技術的条件」
・地上デジタル放送へのB-CASカードシステムの導入を決定
(平成14年6月に、この答申に沿って総務省令「標準テレビジョン放送等のうちデジタル放送に関する標準方式」を改正している。)

      6月 IT戦略本部「e-Japan重点計画2002」
(特に新しいことは書かれていないが念のため)

平成15年 4月 税制・金融上の支援措置の対象設備を拡充

      6月 電波法の一部改正(放送事業者の電波利用料額を見直し)

      7月 IT戦略本部「e-Japan重点計画2003」
・ここでようやく、アナログ放送終了時期等について国民に周知ということを言い始める。

      8月 総務省内に「地上デジタル放送推進本部」を設置

     12月 地上デジタル放送開始(AVWatchの記事

平成16年 6月 IT戦略本部「e-Japan重点計画2004」

      7月 情報通信審議会「地上デジタル放送の利活用の在り方と普及に向けて行政の果たすべき役割」第1次中間答申(プレス概要本文
・公共分野への導入に向けた先行的な実証など

平成17年 2月 IT戦略本部「IT政策パッケージ2005」

     7月 情報通信審議会「地上デジタル放送の利活用の在り方と普及に向けて行政の果たすべき役割」第2次中間答申(プレス概要本文
・「コピーワンス」の見直しの提案
・アナログ受信機への停波告知シールの貼付
・IPマルチキャスト・衛星による再送信の実証など

平成18年 7月 IT戦略本部「e-Japan重点計画2006」

      8月 情報通信審議会「地上デジタル放送の利活用の在り方と普及に向けて行政の果たすべき役割」第3次中間答申(プレス概要本文
・コピーワンスをEPNにすることを提案
・テレビ広告を中心とした周知広報・相談体制の組織化など

平成19年 7月 IT戦略本部「e-Japan重点計画2007」

      8月 情報通信審議会「地上デジタル放送の利活用の在り方と普及に向けて行政の果たすべき役割」第4次中間答申(プレス1(地デジ)概要1本文1プレス2(コピーワンス)概要2本文2
・コピーワンスをダビング10にすることを提案  
・デジタル放送の視聴実態の正確な調査
・難視聴地域対策や低所得世帯向け受信機の購入支援策など

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2007年11月14日 (水)

番外その4:沈みゆく巨大船団、地デジ

 B-CASカードを用いたコピーワンス制限解除機器フリーオ(Friio)に関することが、ネットでほとんど祭り状態で騒がれている。騒がれるのも当然で、B-CASシステムそのものに穴を空けるこのような機器の登場が、日本の今までの地上デジタル放送政策を揺るがす大事件であることは、いくら強調してもしすぎではない。(今は、地上波対応機のみのようだが、3波共用機の登場も容易に予想され、そうなったときは、BSやCSも巻き込んだ大騒ぎになるであろう。)

 B-CASそのものの問題については以前(第18回第22回参照)から書いてきており、繰り返すことはしないが、コピーワンスとB-CASの問題は、地上無料波のデジタル移行そのもの本質に繋がる問題なので、今回は番外として、ユーザーから見た地上デジタル放送の問題点についてまとめておきたいと思う。(なお、B-CAS問題の本当の解決策はB-CASシステムの速やかな排除しかない。B-CASの法制化など決してしてはならない。そのエンフォースの不可能性のよってきたるところは、無料地上波のユーザーが国民全員であることなので、いくら法律で縛ろうとしたところで必ず無理が出てくる。)

 そもそも無責任にテレビでもチューナーでもアンテナでも買い足せばOKと書いてある時点で腹が立つのだが、デジタル放送推進協会(D-pa)のHPに載っている案内によると、地上デジタル放送を見るためにユーザーは以下のことをしなければならない。

・UHFアンテナがない場合、UHFアンテナを買って取り付けること。(工事費込みで2万円~数万円くらいか。)
・アナログテレビしかない場合、デジタルテレビかデジタルチューナーを買うこと。(チューナーで2万円、デジタルテレビでは10万~20万くらいが中心価格帯だろうか。)

 要するに、何故かお役所などの資料では消費者のコストに関することが綺麗にごまかされてきていたのだが、要するに今、地上デジタル放送移行に際し、消費者には最低2万~4万の投資をすることが求められているのだ。

(なお、「地上デジタルテレビ早わかりガイド(別冊)アナログテレビ放送が止まる!どうして?」も、何故人によってとらえ方の変わるメリットばかりを書いて、デメリットを書かないのか理解に苦しむ。素直に国策だから必要なのだと書いてくれた方がよっぽど良い。)

 そして、アナログが停波されること自体はそれなりに浸透してきたのではないかと思うが、かなりの出費が必要となることを考えると、国民の中には地デジに対する出費をためらっている層もかなりいると思われる。実際のところ、アナログ停波まで4年を切ったにもかかわらず、以下のような層がそれぞれどれくらいいるのかがさっぱり分からないのだ。

(1)既にテレビをデジタル対応のものに買い換え、UHFアンテナもあり、地上デジタル放送対応を済ませている層
(2)テレビをデジタル対応のものに買い換えたが、UHFアンテナがなく、地上アナログ放送を見続けている層
(3)テレビを買い換えるつもりはあるが、様子を見ている層
(4)デジタルチューナーで対応するつもりで、様子を見ている層
(5)テレビもチューナも買い足す気はなく、アナログを停波とともにテレビを見るのを止めるつもりの層

 地上デジタルテレビの台数だけで言えば、累計で2600万台を超えたとのことだが、本当にデジタル対応を済ませている(1)の層はどれくらいいるのか。私も含め、実はほとんどの層が、コピーワンスの検討の混乱などを見ながら、地デジ移行は本当に大丈夫かと様子見をしているのではないか
 (3)と(4)の層を安心させ、速やかにデジタル移行を促進することが必要とされているのだろうが、きちんとした統計もなく、総務省からは今のところ本当に実現されるかどうかもよく分からない場当たり的な政策しか提案されていないので、私は以下のような点でどうにも不安にならざるを得ないのだ。

・チューナーで対応するつもりの層をどうするのか。総務省の情報通信審議会でメーカーに5000円にしろと最近答申している(概要ITmediaの記事も参照)が、B-CASという暗号システムを含む機器を5000円に出来るとは素人目にも思えない。総務省には何かアテがあるのか。またここに税金を投入するのか。税金を投入するとしたら、先にチューナーを買った人との不公平感をどうするのか。
 また、上の答申でも、経済的に困窮度が高い者には支援をすることとしているが、どのような層が対象となるのか

・テレビやチューナーは、メーカーさえ十分な数を供給すれば、最後入手に困ることはないかも知れないが、アンテナ工事は作業員が必要である。アンテナ工事の駆け込み需要のことまで考えているのか。(ITproの記事によると、特に東京地区ではUHFアンテナの普及率は5割程度にとどまるらしい。東京での世帯数は600万世帯ぐらいのようなので、実際には集合住宅もあるので何とも言えないが、単純計算だと300万軒のアンテナ工事が必要となる。加えて、オフィス等のテレビのことも考えなければならない。)
 さらに、5000円のチューナーを買わせることすらおかしいと思う層は、アンテナ工事の費用負担に怒りを爆発させるのではないか。それだけの費用を払っても、この層には何のメリットもないのだ。受信機購入の支援はアンテナにも及ぶのかということもある。

使えなくなるアナログテレビはどうするのか。家電リサイクル法でブラウン管テレビはリサイクルされることとなっているが、予想される廃棄台数に対してリサイクル工場のキャパシティが本当に十分にあるのか。不法投棄対策は十分なのか。家電リサイクル法自体もいろいろな問題が指摘されているところである。

 こう考えてくると、どうしても、今後地デジ移行のための混乱は増えこそすれ、減ることはなく、今のままアナログ停波を断行すると、駆け込み対応で混乱した上に、テレビが見られなくなる家庭が多く残るという事態を招くだけではないかと思われて仕方がない。結局地上デジタル放送そのものが見限られることにもなりかねない。(別にテレビを見られなくとも人は死なないが、このような事態を招くことは明らかに放送政策としては間違っているであろう。)

 デジタル放送を推進する立場の人たちには悪いが、混乱を避けるためにはアナログ停波の中止(最低限延期)が私にはどうしても必須と思われる。
 デジタル放送移行で儲けた人たちよ、もう十分に儲けたであろう、そろそろ本当に国民のことを考えてもらえないだろうか。日本の国民は馬鹿ではない。沈む船には鼠も残らない。国民が去った後の放送に一体何が残るというのか。

 今までの混乱と今後予想される混乱の原因はどう考えても、本来最も現実的な判断をするべき政策担当部局(日本の政官業が複雑に絡み合った無責任システムは、誰が政策決定の責任者なのか常に分からなくなるように出来ているのだが、やはりその中心は官僚だろう)が、既得権益(利権)の維持(拡大)と原則論にこだわり、本当の現実を見てこなかった所為であるとしか私には思えない。
 以前から、官製大プロジェクトの問題はつとに指摘されてきたところ(池田信夫氏の記事参照)であるが、その錚々たる歴史の中に地デジの名が刻まれるのは時間の問題であると私には思われる。その足を引っ張ったのは明らかにコピーワンス問題であり、私は、4年と経たないうちに、あらゆる放送に暗号化とコピー制御をかけるという壮大な実験に失敗した国として、日本は世界放送政策史上にその名を残すことになる気がしてならない
 私の予想が誤っているとしたら、それは喜ばしいことである。別に私も余計に不安を煽る気はさらさらないので、時間も限られている中、総務省には是非、上の様な層がそれぞれどれくらいいるかとその将来予想をきちんと調査した上で、現実的な対応をしてもらいたいと思う。

 なお、池田氏の記事にもあるような、いわゆる「日の丸プロジェクト」が、知財政策のみならず、日本の政策を歪めてきたこと、今後も歪めていくであろうことは想像に難くない。折角、最近はインターネットで何でも調べられるようになっているので、番外シリーズとして、地デジのみならず、様々な官製大プロジェクト史についても、自分なりに調べたことをまとめて行きたいとも思っている。

 折角勉強しているので、本当は特許の話なども書きたいのだが、ユーザーから見たときの問題点ということでは、あまりにも著作権の問題が大きので、まだしばらくは著作権の話を中心に書いて行きたいと思う。

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2007年11月10日 (土)

第22回:B-CASシステムという今そこにある危機

 本日、小寺氏のブログの記事「B-CASの問題点が早くも浮上」を読んで私は驚愕した。

 記事に書かれている事実が本当だとすると、そこから導き出される結論はあまりに重いと思うので、この記事をトラックバックとして書かせて頂きたいと思う。(小寺様、勝手なトラックバック失礼致します。もしご迷惑な様でしたら、お手数ですがトラックバックを削除下さい。)

 記事に書いてあることは単純で、要するに、勿論アングラなものであるが、B-CASカードを差し込むとテレビ放送の信号をコピーフリーとして出力してくれる外国製のチューナーが現れたということである。

 そもそも私はこのような機器が作られるとは正直思っていなかった。認識が甘かっただけなのだが、コピーワンスの解除にはより簡便な方法があり、このような、日本国内で、しかもアングラでしか売れない機器のために、わざわざB-CASのような複雑なシステムを解析して不正機器を作る外国メーカーがあるということが私にはどうしても想定できなかったのである。

 問題の大きさについて順を追って説明していくと、まず、記事に書かれている通り、このような機器を販売することは、著作権法あるいは不正競争防止法に原則違反する。そして、このような機器でなされる複製は著作権法の私的複製には当たらないため、このような機器の利用者が個人的にした複製について権利者に訴えられる可能性があることも多分その通りである。(著作権法で規定されている技術的保護手段と、不正競争防止法で規定されている技術的制限手段の違い、それぞれの法律で何が違法とされるのかの違いもどこかでまとめたいと思うが、ここではちょっと置いておく。)

 これだけでもリスキーなのだが、実は、B-CAS社とカードの利用者(テレビを買ってカードのパッケージを破った者)の間に契約が成立してしまっているのである。その契約B-CAS社のホームページでも見ることが出来るがそこに大変なことが書かれているのだ。特に問題となるのは、

第2条 (カードの所有権と使用許諾)
  このカードの所有権は、当社に帰属します
2. お客様は、本契約に基づき、受信機器1台につき、カード1枚を使用することができます。

第11条 (禁止事項等)
  客様は、当社がカードの使用を認めていない受信機(例えばカードが同梱されていない受信機)に、このカードを装着して使用することはできません
(中略)
4. お客様はカードをレンタル、リース、賃貸または譲渡等により、第三者に使用させることはできません。但し、お客様と同一世帯の方に限り、お客様の責任において、このカードを使用させることができます。

  第12条 (契約違反)
  お客様が本契約に違反(例えばカードの複製、変造、翻案等)した場合、当社は本契約を解除し、お客様に対し、そのカードの返却を求めるほか、当社が被った損害の賠償を請求することがあります

 というところである。カードを不正な機器に装着したことによってB-CAS社に発生した損害や、カードを他人に譲渡したことによってB-CAS社に発生した損害は、カードの利用者に請求され得ることになっているのである。放送局とB-CAS社の間にも損害賠償請求契約はあるであろうから、結局これは、不正な機器から派生した違法な複製による損害を全て、不正な機器に差されるカードの利用者(譲渡されたカードなら、元の利用者)が負いかねないということを意味している。このことも考え合わせると、はっきり言って、B-CASカード不正利用機器の利用、あるいはB-CASカードの譲渡は、普通の利用者にとって、あり得ないくらいリスキーな行為である。(さらに、していない人も多いかも知れないが、B-CASカードは原則登録カードで名前や住所などを登録することにもなっている。)

 特に、B-CASカードを不正に利用する機器が出てきた以上、不正な機器に使用されるカードを使用できなくすることも検討されるに違いないが、その場合、全ての地上デジタル放送の視聴者に対して、名前と住所を登録していないカードではテレビが見られなくなることを事前に十分周知した上で、非登録カードの全てを使えなくするという途方もないコストと混乱が予想されることを行わなければならない。(果たしてそんなことが許されるのかということが無論あるが。)このようなことがなされた場合、このコストも損害として、その原因となったカードの利用者(譲渡されたカードなら、元の利用者)が負わされる可能性がある

 はっきり言って、有料放送のセットトップボックスに載せられるべきカード管理システムを無料放送のテレビにそのまま適用したのがそもそも間違いなのだが、このシステムの複雑さから少なくともあと10年くらいはB-CASシステムそのものの安全神話は保たれ、その間にB-CASシステムの問題が広まって行くことで関係者が動き、何とかなるのではないかと私は楽観的に考えていた。しかし、こうなった以上、これは今ここにある危機としか言いようがない。

 少しでも多くの人にこの問題を知ってもらう必要があると思い、巨人の肩に乗るようで恐縮だが、小寺氏の記事にトラックバックで記事を書かせて頂いた。少なくとも、この記事を読んで頂けている人に言っておきたい、B-CASカードを絶対人に譲渡してはいけない、自分の住所と名前を登録したカードを譲渡するなどもってのほかである。オークション等で売ってしまったという人がいたら、即刻B-CAS社に対し紛失の届出を出しておくべきである。

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2007年11月 7日 (水)

第18回:「ダビング10」あるいはDRMの欺瞞

 情報通信審議会で、コピーワンスを緩和し、「ダビング10」にすると決めたという報道がなされてしばらく経ち、その答申に対する意見募集の〆切が過ぎてもうすぐ2ヶ月になろうとしている。
 私自身は、そもそもこのダビング10にすら反対なのだが、これでも良いと大多数の国民が思っているようなら、早期にこの運用を開始すべきであるに違いない。
 だが、総務省は今もってパブコメの結果を公表していない。本来、コピーワンスの緩和は総務省の行政指導でなされるべき筋合いの話ではないが、ある方向性についてパブコメにかけた以上、その結果を早期に公表するとともに、そこに示された本当の民意の実現を図ることが総務省の責務であろう。今もって新たな運用がどうなるのか、その運用の開始がいつかすら不透明なままにしておくのは、放送行政にたずさわるものの姿勢としていかがなものかと思われる。

 権利者団体が公表したところの、ダビング10への緩和すなわち録画補償金維持あるいは拡大という話自体は論外なのだが、このようなコピー制限と私的録音録画補償金問題が関わっているということ自体は正しいので、インターネットと著作権という観点より狭くなってしまうが、ここで、このことについてもう少し書き足しておきたいと思う。

 まず、コピーワンスの説明自体は省くが、情報通信審議会の答申から、ダビング10をかいつまんで説明すると以下のようになるだろう。

 デジタルコピーについて、内蔵HDDから内蔵DVD(メモリーカード)へのコピーという限定つきで、孫コピー不可のDVD(メモリーカード)を10枚作ることが可能となる。
 なお、アナログ経由のデジタルコピーについては、HDDにオリジナルコピーがある限りにおいて、孫コピー不可のDVDを作ることが出来る。(この枚数に限定はないが、デジタルコピーを10回した時点で不可能となる。)

 これに対するユーザーの利便性から見た問題点は以下のようになるだろうか。

合法的に入手したコンテンツを私的に楽しむための複製であるにもかかわらず、複製を制限されることにそもそも納得感がないので、1枚を10枚したところで納得感が得られないことに変わりはない。(枚数にかかわらず、私的複製以外は著作権法違反であることに注意。)
ダビング10はDVD/HDD内蔵型録画機器の内蔵チューナーに直接アンテナを接続した場合のみの動作であり、テレビから普通にデジタル接続した場合コピーワンスのままとなるなど、これは一般ユーザーに理解不能の挙動を示す。デジタルコピーとアナログ経由のコピーの混在下での回数カウントなども、おそらくヘビーユーザー以外の一般ユーザーの理解するところではないだろう。
・内蔵HDDからの直接複製する場合しか10回のカウントは機能しないので、機種及びメーカー依存性が強くなり、機器の接続に幅がなくなる。特に、これを良いことに、日本メーカー各社は自社の録画機からは自社のポータブルレコーダーにしかコンテンツを転送できないようにするであろうから、ユーザーは場合によってはポータブルレコーダーの買い換えまで要求されることになる。
・また、日本の家電メーカーの多くのPCのように、最初からチューナー内蔵のPCであれば最初からダビング10を設計に組み込むことも出来るだろうが、これは汎用PCボードへの実装をまるで考慮しておらず、設計に汎用性がまるでない
・国際的に見ても特異な規格であるため、外国メーカーとの競争になるとは考えがたく、海外と比べて機器の値段が高止まりする可能性が極めて高い

 さらにつづめて言うなら、
10枚という枚数に意味はなく、ダビング10でもユーザーは複製に対して制限を感じる
録画機器が、高価かつ不便で、ユーザーの直感に反する奇怪な動作をするようになる
外国メーカー品(例えばiPod)への容易なコンテンツの転送は、かなりの確率でダビング10録画機器に実装されない
となるだろうか。

 ダビング10におけるユーザーに対する利便性の向上という点では、わずかにアナログ経由のコピーではコピー枚数の制限がないことぐらいがあげられるが、そもそもデジタル化による利便性の向上が問題であるときに、アナログ経由のコピーが推奨されること自体誤りであろう。(それに、この程度のことで良いのであれば、今のデジタル放送録画機でもアナログ経由のコピーにコピー制御信号を乗せないことは簡単にできるので、むしろこのような方策を暫定解とするべきであろう。)

 結局、正規に流通している機器が、このように使い勝手の悪いもののみということでは、技術に詳しいハイレベルなユーザー達は、自力で入手したコピー制限解除機器あるいはソフトでコピーを続けることになろう。(アナログあるいはデジタル経由でコピーワンス制限を解除することが可能なことはそれなりに技術に詳しいユーザーなら知っていることである。)
 そのため、ダビング10にせよ、無料放送におけるコピー制限は、技術的なことに詳しくない一般ユーザーに高価で不便な機器と、高価で不便なコンテンツを買わせることのみを目的としているとしか考えられず、このような方式を私は一ユーザーとして全く受け入れることが出来ないのだ。
(なお、そもそも放送をプロモーションととらえ、そこで全て投資回収する訳ではないコンテンツがあるということも言われているが、そもそもコンテンツの全編をプロモーションのために放送することが私には理解できない。プロモーションというのであれば、きちんと広告という形でプロモーションを行い、コンテンツそのものは別売りとするのが筋であろう。しかし、このようなものが存在していることも事実なので、コンテンツの種類によっては何らかのコピー制限が検討されても良いかも知れないだろうが、原則はコピー制限なしとされるべきであろう。また、ハイビジョン品質で放送することは映像の原盤を流しているに等しいという主張も聞かれるのだが、ハイビジョン品質の放送チャネルにわざと画質を落として標準画質のコンテンツを流すことは簡単にできるのだから、何の言い訳にもならない。)

 要するに、コピー制限技術(良くDRM:Digital Right Management技術と言われるが、法律的に言えば、技術的保護手段あるいは技術的制限手段である)はクラッカーに対して不断の方式(暗号鍵)変更で対抗しなければならないのだが、その方式変更に途方もないコストが発生する放送では実質的に不可能である。インターネット上でユーザー間でコピー制限解除に関する情報がやりとりされる現在、もはや放送にDRMをかけていること自体が社会的コストの無駄と思われて仕方がない。ここに、放送におけるDRMの最大の欺瞞が存在していることに、そろそろ皆が気づいても良いのではなかろうか。放送におけるDRMは本当に縛りたい玄人は縛れず、一般ユーザーに不便を強いているだけなのだ。

 また、B-CASシステムの問題点はB-CASのWikiに詳しいが、ダビング10は、放送におけるコピー制御に関する根幹の問題である以下のような問題を全て温存し、将来への禍根を残す方向性でもある。(EPNも、B-CASシステムを温存するということでは同じである。)

あまねく視聴されることを目的とする無料地上波という基幹放送で、スクランブルをかけ視聴者のアクセス制限をしているということは変わらない。理論的には、B-CASカード番号を使って特定の者のテレビ視聴を不可能にすることすら可能である。しかもその情報は全てB-CAS社という一民間企業の手に委ねられている。
・B-CASシステムの排除以外の付け焼き刃の方策は、B-CASシステムの維持等にかかるコストが必ず消費者に跳ね返り、日本の消費者が知らないままに高価で不便な機器とコンテンツを買わされるという状況に変化をもたらさない
・B-CASシステムとコピーワンスは官がその導入に関与したとはいえ民々規制であるため、総務省の情報通信審議会でコピーワンスの緩和を決める根拠がなく、例え総務省の行政指導によってコピーワンスが緩和されたとしても、そのレベルのコピー制限緩和を関係者が維持しなければならない根拠が何一つない

 したがって、ユーザー・消費者・国民にとって真の選択肢は、B-CASシステムの排除並びに無料地上放送におけるノンスクランブル・コピー制限なしの原則化しかないと私は思っている。さらに、利権団体同士の争いと、それに伴う根拠のない行政の介入によってこれが変えられることを防ぐため、この原則を法律に書き込むべきだとも思っている。(以前存在していた総務省の省令に無料放送でのスクランブルを禁じる条項が大した検討もされないままに総務省に消されてしまったのは、私が情報通信審議会へのパブコメで書いた通りである。)

 ほとんどあらゆる者が普通の機器で自由にコピーが可能な状況を作れば、かえって不正な流通は減るのではないかと思われるが、確かに、インターネット等へのコンテンツの流出の問題も残り、これによって著作権者に不当な負担(私的複製による経済的損失ではない)を強いることになるとも予想されるので、例えば、このようなインターネットにおける不正流通対策に私的録画補償金を使うという選択肢もあるだろう。(このように使うことが私的録音録画補償金のそもそもの趣旨からずれることは私も分かっているのだが、権利者に細かく配分してしまうより、よほど権利者のためにも、社会全体のためにもなるのではないかと思う。)
 すなわち、放送についてノンスクランブル・コピー制限なしの実現が法的に確保されるという条件のもとで、録画補償金を何らかのセーフハーバーつきで維持するということは、ユーザーの選択肢としてあり得るのだが、実際、補償金に関する妥当な算定基準がない中で、権利者団体にセーフハーバーなしで青天井の補償金請求権を認めることはユーザーにとって極めて危険なことでしかなく、今のところ、私は権利者団体の主張にどうしても反対せざるを得ない

 何度も言うようだが、コピーワンスと私的録音録画補償金の問題について、ユーザーが本当に求めるべきことは、私的複製の自由の法的な確保補償金が私的複製を自由にすることの代償であることの法律的な明確化私的複製を自由としたときの権利者に与える経済的影響の妥当な算定基準作りと、権利者団体による際限のない補償金請求を無くすためのユーザーにとってのセーフハーバーの導入であると私は考えている。(コピーワンスやダビング10ほどに私的複製が不自由となる場合は、そもそも補償金をかける必要はないと言わなければならないのは無論のことである。)

 さて、ちょっとまた大きな観点からはずれてしまうのだが、次は、これも文化庁の中間整理パブコメの突っ込みどころであるため、レンタルCDの問題について書こうかと考えている。

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2007年9月13日 (木)

第6回:「~デジタル・コンテンツの流通の促進に向けて~第4次中間答申」に対する意見

 コピーワンスの細かな解説を書いている暇もなくなってしまったので、総務省の第4次中間答申に対する意見募集に対して私が出した意見をここに載せておきたいと思う。

意見書

「~デジタル・コンテンツの流通の促進に向けて~
21世紀におけるインターネット政策の在り方
(平成13 年諮問第3号 第4次中間答申(平成19年8月2日))
地上デジタル放送の利活用の在り方と普及に向けて行政の果たすべき役割
(平成16 年諮問第8号 第4次中間答申(平成19年8月2日))」に関し、下記のとおり意見を提出します。

     記

(ページ)
第1ページ~第53ページ 第1章 デジタル放送におけるコピー制御の在り方

(意見)
 私は一国民として、コピーワンス問題について、現在の方向性を破棄し、以下の通りの方向性を基本として検討し直すことを強く求める。

1.無料地上波からB-CASシステムを排除し、テレビ・録画機器における参入障壁を取り除き、自由な競争環境を実現すること。
2.あまねく見られることを目的とするべき、基幹放送である無料地上波については、スクランブルなし・コピー制御なしを基本とすること。
3.これは立法府に求めるべきことではあるが、無料地上波については、原則スクランブルなし・コピー制御なしとすることを、総務省が勝手に書き換えられるような省令や政令レベルにではなく、法律に書き込むこと。
4.B-CASに代わる機器への法的なエンフォースの導入は、B-CASに変わる新たな参入障壁を作り、今の民製談合を官製談合に切り替えることに他ならず、厳に戒められるべきこと。
コンテンツの不正な流通に対しては現在の著作権法でも十分対応可能である。

 なお、審議会の場等で権利者団体の代表がコピーワンス緩和は補償金拡大を前提にしているかの如き発言を繰り返しているが、上記のような方向性以外であれば、録画補償金は廃止しても良いくらいで、全く議論の余地すらない。上記のような方向性を出したとしても、補償金の対象範囲等は私的な録音録画が権利者にもたらす「実害」に基づいて決められるべきであるということは言うまでもない。
 また、このコピーワンス問題について現在出されている案も含め、近年総務省が打ち出している放送関連施策には国民本意の視点が全く欠けており、今のままでは地上デジタルへの移行など到底不可能であるとほとんどの国民が思っているであろうことを付言しておく。

(理由)
 まず、答申には過去のコピーワンス導入経緯についての説明が故意に省かれているが、総務省は過去の情報通信審議会において、コピーワンスの導入のために無料地上波にB-CASシステムを導入するのが適当という結論(http://www.soumu.go.jp/s-news/2002/020124_1.html「BSデジタル放送用受信機等が対応可能なコンテンツ権利保護方式(素案)についての意見募集の結果」参照。)を出し、平成14年6月に省令改正(http://www.soumu.go.jp/joho_tsusin/policyreports/denpa_kanri/020612_1.html「標準テレビジョン放送等のうちデジタル放送に関する送信の標準方式の一部を改正する省令案について」参照。)まで行って、その導入を推進している。無料の地上放送へのB-CASシステムとコピーワンス運用の導入は、この省令改正によってもたらされたものである。
 このB-CASシステムは談合システムに他ならず、これは、放送局・権利者にとっては、視聴者の利便性を著しく下げることによって、一旦は広告つきながらも無料で放送したコンテンツの市場価格を不当につり上げるものとして機能し、国内の大手メーカーとっては、B-CASカードの貸与と複雑な暗号システムを全てのテレビ・録画機器に必要とすることによって、中小・海外メーカーに対する参入障壁として機能している。
 本来あまねく見られることを目的としていた無料地上波の理念をねじ曲げ、放送局と権利者とメーカーの談合に手を貸したあげく、さらにこれを隠すという総務省の行為は、見下げ果てたものであり、現在の方向性に国民本位の考え方など欠片も見られないことの証左でもある。
 総務省は素直に過去の失策を認めるべきであり、この過去の審議会の詳細な議事録を公開し、この事実を元にした再検討を進めるべきであることは言うまでもない。

 また、放送局がEPNの導入に反対する理由は、全く説得力がない。答申でも様々な困難が考えられると書かれているが、有料放送においては複数のコピー制御がなされている上、大きな混乱が生じているということも聞かない。すなわち、EPNの導入を全く不可とする放送局の主張は全くの出鱈目であり、このような主張は誰が見ても全く取り合うに値しない。そもそもコピーワンスが導入されるまでの間、コピーフリーで放送していた時期もあるくらいである。

 コピー制限なしとすることは認められないとする権利者の主張は、消費者のほとんどが録画機器をタイムシフトにしか使用しておらず、コンテンツを不正に流通させるような悪意のある者は極わずかであるということを念頭においておらず、一消費者として全く納得がいかない。消費者は、無数にコピーするからコピー制限を無くして欲しいと言っているのではなく、わずかしかコピーしないからこそ、その利便性を最大限に高めるために、コピー制限を無くして欲しいといっているのである。消費者の利便性を下げることによってて権利者が不当に自らの利潤を最大化しようとしても、インターネットの登場によって、コンテンツ流通の独占が崩れた今、消費者は不便なコンテンツを選択しないという行動を取るだけのことであり、長い目で見れば、このような主張は自らの首を絞めるものであることを権利者は思い知ることになるであろう。

 さらに、現在示されている単なるコピーの回数の緩和は、大きな利便性の向上なくして、複雑かつ高価な機器を消費者が新たに買わされるだけという、一消費者・一国民として全く受け入れがたい方向性である。
 現在の答申に記載されている方向性のルールが国際標準になる可能性は全くないため、開発費用は国内市場でまかなう他なく、国内の消費者が世界的に見ても高価かつ不便な機器を買わされることになるのは確実である。
 特に、現在の案の機能を実装した録画機器を販売したとしても、テレビ(チューナー)と録画機器の接続によって、全く動作が異なる(接続次第で、コピーの回数が9回から突然1回になる)こととなり、消費者の大きな混乱が予想される上、セットトップボックスを使用せざるを得ない難視聴地域の視聴者のような、録画機器を別に接続せざるを得ない者に対してはコピーワンスが維持されることとなり、根拠のない差別が生じることになる。何故、このような場合にコピーの回数が減るのか、納得の出来る説明は誰にも出来ず、コピーワンスの矛盾を拡大するに過ぎない、このような方向性には、一国民として反対せざるを得ない。

 現在の地上無料放送各局の歪んだビジネスモデルによって、放送の本来あるべき姿までも歪められるべきではない。そもそもあまねく視聴されることを本来目的とするべき、無料の地上放送においてコピーを制限することは、視聴者から視聴の機会を奪うことに他ならず、このような規制を良しとする談合業界及び行政に未来はない

 なお、付言すれば、私が書いたような方向性で検討するとしても、本来、このような談合規制の排除は公正取引委員会の仕事であると思われ、何故総務省及び情報通信審議会が、談合規制の緩和あるいは維持を検討しているのか、一国民として素直に理解に苦しむ。立法府において、行政と規制の在り方のそもそも論に立ち返った検討が進むことを、私は一国民として強く望む。

 意見は以上の通り提出したが、次回は、この内容について、あるいは、この意見中でも少し触れている私的録音録画補償金問題について書いてみたいと考えている。

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