2022年8月14日 (日)

第464回:一般フェアユース条項への移行を含む2021年シンガポール新著作権法他

 他の事について書いている間に少し時間が経ってしまったが、去年2021年の11月21日に、興味深い権利制限条項の改正を含むシンガポールの新著作権法が施行されているので、今回はその内容を簡単に紹介する。

 まず、シンガポール知的財産庁による新著作権法概要説明の通り、この著作権法改正は委託制作について創作者が権利を持つ事をデフォルト化するなどの権利保護強化も含まれているが、そこで権利制限について以下の様に書かれている。

Permitted Uses to Benefit Society

5 Beyond supporting creators and performers, the Act also contains new exceptions to copyright owners' rights, known as "permitted uses", to ensure copyright works are reasonably available for use by the general public.

Use of works for computational data analysis

6 To support research and innovation, copyright works, if lawfully accessed (e.g. without circumventing paywalls), can be used for computational data analysis, such as sentiment analysis, text and data mining, or training machine learning, without having to seek the permission of each copyright owner.

Use of online materials for educational purposes

7 Teachers and students can use freely available online materials for their educational activities, including for home-based learning.

a. The source and date of access must be cited and there must be sufficient acknowledgement of the material (e.g. identification of the author and the title/description of the work).

b. Any digital communication of the materials must be done on the educational institution's internal network or on MOE's Student Learning Space.

c. If the teacher or student is informed that the source they used infringed copyright, they must stop using the material.

社会に裨益する許される利用

5 創作者及び実演家の支援だけでなく、本法律は、著作物が一般公衆による利用のために合理的な形で入手可能とされる事を保証する、「許される利用」として知られる、著作権者の権利に対する新しい例外も含む。

コンピュータによるデータ分析のための著作物の利用

6 調査及びイノベーションを支援するため、著作物は、適法にアクセスされたものであれば(例えば有料の壁の回避をしない様な場合)、それぞれの著作権者の許可を求める事なく、感情分析、テキスト及びデータマイニング又は機械学習のトレーニングの様なコンピュータによるデータ分析のために用いる事ができる。

教育目的のためのオンラインマテリアルの利用

7 教師と学生は、家庭での学習を含む、その教育活動のために自由に入手可能なオンラインマテリアルを利用する事ができる。

a.アクセスのソース及びデータは引用されなければならず、そこでマテリアルが十分に認知される様になっていなければならない(例えば著作物の著作者とタイトル/説明を特定する事)。

b.マテリアルのデジタル通信は教育機関の内部ネットワーク上又は教育省のステューデント・ラーニング・スペースで上でなされなければならない。

c.もし用いているソースが著作権を侵害していると知らされた場合、教師と学生はそのマテリアルの利用を中止しなければならない。

 他の部分も重要だと思うが、この新著作権法(シンガポール政府提供の2021年新著作権法条文参照)で、私が特に興味深いと思っているのは、この著作権法改正が以下の様に実質的にアメリカ型のフェアユースへの移行を含んでいる事である。

Fair use is permitted use
190. -
(1) It is a permitted use of a work to make a fair use of the work.

(2) It is a permitted use of a protected performance to make a fair use of -
(a) the performance; or
(b) a recording of the performance.

Relevant matters in deciding whether use is fair
191. Subject to sections 192, 193 and 194, all relevant matters must be considered in deciding whether a work or a protected performance (including a recording of the performance) is fairly used, including -
(a) the purpose and character of the use, including whether the use is of a commercial nature or is for non-profit educational purposes;
(b) the nature of the work or performance;
(c) the amount and substantiality of the portion used in relation to the whole work or performance; and
(d) the effect of the use upon the potential market for, or value of, the work or performance.

Additional requirement for sufficient acknowledgment where use is for certain purposes
192. -
(1) Where a work or a protected performance (including a recording of the performance) is used for the purpose of reporting news, the use is not fair unless -
(a) the work or performance is sufficiently acknowledged; or
(b) sufficient acknowledgment is impossible for reasons of practicality or otherwise.

(2) Where a work or protected performance (or a recording of the performance) is used for the purpose of criticism or review (whether of that work or performance or another work or performance), the use is not fair unless the work or performance is sufficiently acknowledged.

Deemed fair use where work or recording included in fairly-used work
193. -
(1) This section applies where -
(a) any of the following works is used for the purpose of criticism or review:
(i) a sound recording;
(ii) a film;
(iii) a broadcast;
(iv) a cable programme; and
(b) the use is fair.

(2) A work or a recording of a protected performance that is included in the work mentioned in subsection (1)(a) is deemed to be fairly used (and section 191 does not apply).

(3) To avoid doubt, this section does not limit what would otherwise be a fair use.

Deemed fair use where reasonable portion copied for research or study
194. -
(1) Making a copy of a literary, dramatic or musical work for the purpose of research or study is deemed to be a fair use (and section 191 does not apply) if -
(a) the work is an article in a periodical publication; or
(b) no more than a reasonable portion of the work is copied.

(2) Subsection (1) does not apply to making a copy of an article in a periodical publication if -
(a) another article in that publication is also copied; and
(b) the copied articles deal with different subject matters.

(3) To avoid doubt, this section does not limit what would otherwise be a fair use.

フェアユースは許される利用である
第190条
第1項 著作物の公正利用をする事は許される利用である。

第2項 以下のものの公正利用をする事は許される利用である。
(a)実演;又は
(b)実演のレコーディング。

利用が公正であるかどうかを決定する際に関係する事項
第191条 第192条、第193条及び第194条に関し、著作物又は保護を受ける実演(実演のレコーディングを含む)が公正に利用されたかを決定するにあたり、全ての関係する事項が考慮され、これは以下を含む-
(a)利用が商業的な性質のものか非営利教育目的かどうかを含む、利用の目的及び特性;
(b)著作物又は実演の性質;
(c)著作物又は実演の全体に対する利用された部分の量及び本質性;
(d)著作物又は実演の潜在的な市場又はその価値に対する利用の影響。

利用が特定の目的のためである場合の十分な認知のための追加の要件
第192条
第1項 著作物又は保護を受ける実演(実演のレコーディングを含む)が報道の目的のために利用される場合、以下でない限りその利用は公正ではない-
(a)著作物又は実演が十分に認知される様になっているか;又は
(b)個別の又はその他の理由のために十分な認知が不可能であるか。

第2項 著作物又は保護を受ける実演(実演のレコーディングを含む)が論評又は批評のために利用される場合、著作物又は実演が十分に認知される様になっていない限り、その利用は公正ではない。

著作物又はレコーディングが公正に利用される著作物に含まれる場合のみなしフェアユース
第193条
第1項 本条は以下の場合に適用される-
(a)以下の著作物が論評又は批評の目的で利用される場合であって:
(ⅰ)録音;
(ⅱ)映画;
(ⅲ)放送;
(ⅳ)ケーブル番組;そして
(b)その利用が公正である場合。

第2項 第1項(a)で言及されている著作物に含まれる著作物又は保護を受ける実演のレコーディングは公正に利用されているとみなされる(そして第191条は適用されない)。

第3項 不明確を避けるため、本条がさもなければ公正利用とされるだろう事を制限する事はない。

合理的な部分が研究又は学習のために複製される場合のみなしフェアユース
第194条
第1項 以下の場合の研究又は学習のための文学、劇又は音楽の著作物の複製は公正利用とみなされる(そして第191条は適用されない)-
(a)著作物が定期出版物の記事であるか;又は
(b)著作物の合理的な部分を超える複製がされていないか。

第2項 第1項は以下の場合の定期出版物の記事の複製には適用されない-
(a)その出版物の他の記事も複製され;そして
(b)その複製された記事が他の事項を扱っている場合。

第3項 不明確を避けるため、本条がさもなければフェアユースとされるだろう事を制限する事はない。

 このフェアユースについては、シンガポール知的財産庁の著作権リソースページに載っている2021年著作権法に関するファクトシート(pdf)で、以下の様に説明されている。

5. Strengthening the general "fair use" exception:

Old position (under the Copyright Act 1987)

・One exception to copyright infringement is a general open-ended "fair dealing" exception. This means that a person will not be liable for copyright infringement if their use of a copyright work qualifies as a "fair dealing".

・There are 5 factors to consider:
1) The purpose and character of your use.
2) The nature of the work you are using.
3) The amount and substantiality of the portion of the work you are using, in relation to the whole work.
4) The effect that your use will have on the potential market for, or value of, the work.
5) The possibility of obtaining the work within a reasonable time at an ordinary commercial price.

New position (under the Copyright Act 2021)

・The "fair dealing" exception is made easier to understand and apply:
○The exception is now called "fair use".
○The 5th factor will be removed. This means that it is no longer mandatory for the courts to consider, in every situation, whether there is the possibility of obtaining a work within a reasonable time at an ordinary commercial price. However, this factor can be still be taken into account where relevant.
○The exception will incorporate the other existing specific fair dealing exceptions (and their specific accompanying conditions):
- reporting news;
- criticism or review; and
- research or study.

・If you are a user (including a creator who wants to build on existing works), you can rely on this exception when your intended use does not fall under other specific permitted uses. Ultimately, whether your use qualifies for the exception will depend on the specific facts of your particular circumstance.

5.一般的な「フェアユース」の例外の強化

昔のポジション(1987年著作権法)

・著作権侵害に対する1つの例外は一般的な開かれた「フェアディーリング」の例外である。これは、その著作物の利用が「フェアディーリング」であると評価されるときに、利用者は著作権侵害の責任を負わないという事を意味する。

・そこには考慮すべき5つの要素がある:
1)その利用の目的と特性。
2)利用している著作物の性質。
3)著作物全体に対する、利用している著作物の部分の量と本質性。
4)その利用が与えるだろう著作物の潜在的な市場又はその価値に対する影響。
5)通常の商業的価格で合理的な時間内に著作物を手に入れられる可能性。

新しいポジション(2021年著作権法)

・「フェアディーリング」の例外の理解と適用がし易くなる:
○例外は今度は「フェアユース」と呼ばれる。
○5つ目の要素は削除される。これは、裁判所が、あらゆる状況において、通常の商業的価格で合理的な時間内に著作物を手に入れられる可能性があるかどうかを考慮する事はもはや必須ではない事を意味する。しかしながら、この要素は関係する場合になお考慮に入れる事ができる。
○例外には他の既存の特定のフェアディーリングの例外(及びこれに伴う特定の条件)が統合される:
-報道
-論評又は批評;そして
-研究又は学習。

・あなたが(既存の著作物に基づき作り上げたいと考える創作者を含む)利用者であるとき、考える利用が他の特定の許される利用に該当しない場合に、この例外に依拠する事ができる。最終的には、その利用が例外にあたると評価されるかどうかはその個別の状況の特定の事実による。

 このファクトシートにある通りで、シンガポールは元々イギリス型のフェアディーリングを一般化したフェアディーリング規定を用いていたのだが、今回の法改正でアメリカ型のフェアユースにより一般化を行ったという事である。

 シンガポール政府提供の1987年旧著作権法条文の改正を見て行くと、1987年の時点では研究又は学習のためなど個別の目的とともにフェアディーリングは規定されていたが、2005年1月1日施行の2004年法改正により、個別の目的を外しながら権利制限規定の一般化が行われており、ここで5つ目の考慮要素も追加されている。

 この5つ目の入手容易性に関する考慮要素は、2004年当時の法改正検討における妥協の産物だろうが、アメリカのフェアユース規定の事を考えても、この様な要素は常に考慮されなければならないものではないので、シンガポールの今回の法改正での規定の一般化は妥当なものだろう。

 また、合わせて他にも個別の権利制限の拡充も図っている事もシンガポール著作権法の特徴と言えるだろう。権利制限の一般規定を入れたからと言って、個別の権利制限の意味がなくなる訳ではないのである。

 ついでに、台湾でもこの2022年4月と5月に著作権法改正が通って成立しているので、ここで紹介しておく。

 その1つは、台湾経済省のリリース1(中国語(繁体字))に書かれている通り、特許法などと並びでTPP協定加盟を目指して行われたものであり、日本におけるTPP協定のための著作権法改正を参考にしたのだろう、重大な場合に限り非親告罪化が行われている事など、各国の立法の影響という意味で面白いと思うが、もう1つ、経済部のリリース2(中国語(繁体字))に書かれている通り、リモート授業、電子教科書、図書館におけるデジタル化と電子閲覧のための権利制限の拡充が行われている。(台湾の著作権法の条文については、台湾法務省提供の著作権法条文(中国語(繁体字))参照。)

 台湾も一般フェアユース条項を入れているが(第318回第269回参照)、以前も書いた通り、何でも一般条項に任せれば良いなどという事はなく、その時の状況に合わせて立法により個別の権利制限について拡充を行い明確化を図って行く事もやはり重要なのである。

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2021年9月 5日 (日)

第444回:利用者のフェアディーリングの権利と著作者の権利の間のバランスを言うカナダ最高裁の判決

 この7月30日にカナダ最高裁で著作権に絡み興味深い判決が出されているので、今回はこの判決の事を取り上げたいと思う。

 このヨーク大学対カナダ著作権ライセンシングエージェンシー事件は、主な争点は、ヨーク大学における学生のためのコピーについて、カナダの著作権委員会が承認した料率の契約が強行的なものかどうか(ヨーク大学の同意がなくとも成立し、使用料支払いの義務が発生するか)で、結論として、契約の強行性が否定されたというもので、その事自体カナダの著作権法解釈上大きな意味を持つものだが、私が取り上げたいと思っているのはその部分ではなく、その後の、利用者・ユーザーのフェアディーリングの権利と著作者の権利の間のバランスに関する一般論を述べている部分である。(この判決については、オタワ大学のマイケル・ガイスト教授のブログ記事も参照。)

 ここで、判決から、その部分を訳出すると以下の様になる。(翻訳は拙訳。)

[87] While I therefore agree that the requested Declaration should not be granted, this should not be construed as endorsing the reasoning of the Federal Court and Federal Court of Appeal on the fair dealing issue. There are some significant jurisprudential problems with those aspects of their judgments that warrant comment.

[88] In commenting on those errors, it is important to emphasize that our reasons do not decide the issue of fair dealing, which can only be determined in a factual context. Rather, the objective is to correct some aspects of the reasoning from the courts under review which, respectfully, depart from this Court's jurisprudence. While correcting the errors committed by the Federal Court and Court of Appeal favours the position argued before this Court by York, these reasons address only some of the factors that make up the fair dealing analysis, an analysis that requires consideration of facts and factors not addressed here.

[89] The main problem with their analysis was that they approached the fairness analysis exclusively from the institutional perspective. This error tainted their analysis of several fairness factors. By anchoring the analysis in the institutional nature of the copying and York's purported commercial purpose, the nature of fair dealing as a user's right was overlooked and the fairness assessment was over before it began.

[90] This Court's modern fair dealing doctrine reflects its more general "move away from an earlier, author-centric view which focused on the exclusive right of authors and copyright owners to control how their works were used in the marketplace" (Society of Composers, Authors and Music Publishers of Canada v. Bell Canada, [2012] 2 S.C.R. 326 ("SOCAN"), at para. 9, per Abella J.). The Court is "at the vanguard in interpreting copyright law as a balance between copyright rights and user rights", and its understanding of fair dealing is no exception (Myra J. Tawfik, "The Supreme Court of Canada and the 'Fair Dealing Trilogy': Elaborating a Doctrine of User Rights under Canadian Copyright Law" (2013), 51 Alta. L. Rev. 191, at p. 195). Fair dealing is "[o]ne of the tools employed to achieve the proper balance between protection and access in the Act" (SOCAN, at para. 11).

[91] Accordingly, to understand and apply fair dealing doctrine requires first understanding the copyright balance. Copyright law has public interest goals. The relationship between members of the public and copyrighted works is not merely the "consequence of the author-work relationship" (Carys J. Craig, "Locke, Labour and Limiting the Author's Right: A Warning against a Lockean Approach to Copyright Law" (2002), 28 Queen's L.J. 1, at p. 6). Put differently, the public benefits of our system of copyright are much more than "a fortunate by-product of private entitlement" (pp. 14-15, cited in SOCAN, at para. 9).

[92] Instead, increasing public access to and dissemination of artistic and intellectual works, which enrich society and often provide users with the tools and inspiration to generate works of their own, is a primary goal of copyright. "Excessive control by holders of copyrights and other forms of intellectual property may unduly limit the ability of the public domain to incorporate and embellish creative innovation in the long-term interests of society as a whole" (Theberge v. Galerie d'Art du Petit Champlain inc., [2002] 2 S.C.R. 336, at para. 32, per Binnie J.).

[93] But it is also true that just rewards for copyright creators provide necessary incentives, ensuring that there is a steady flow of creative works injected into the public sphere. As Binnie J. put it, "[i]n crassly economic terms it would be as inefficient to overcompensate artists and authors for the right of reproduction as it would be self-defeating to undercompensate them" (para. 31). A proper balance ensures that creators' rights are recognized, but authorial control is not privileged over the public interest.

[94] Ultimately, owners' rights and the public interest should not conflict with one another. As Professor Tawfik explains, copyright law has long been an "integrated system that encouraged creators to generate knowledge, industry to disseminate it and users to acquire it and, hopefully, reshape it into new knowledge" ("History in the Balance: Copyright and Access to Knowledge", in Geist, From "Radical Extremism" to "Balanced Copyright", 69, at p. 70). Creators' rights and users' rights are mutually supportive of copyright's ends.

[95] In terms of the proper role of fair dealing and other exceptions to copyright in this normative framework, Professor Michael Geist explains that:

The core of fair dealing is fairness - fairness to the copyright owner in setting limits on the use of their work without permission and fairness to users to ensure that fair dealing rights can be exercised without unnecessarily restrictive limitations.

("Fairness Found: How Canada Quietly Shifted from Fair Dealing to Fair Use", in Michael Geist, ed., The Copyright Pentalogy: How the Supreme Court of Canada Shook the Foundations of Canadian Copyright Law (2013), 157, at p. 181)

Or, as Professor Craig puts it:

Fundamentally, copyright policy assumes that the restriction of the public's use of works through the creation of private rights can further the public's interest in the widespread creation and distribution of works. The limits to these private rights, defined by fair dealing and other exceptions - and circumscribed by the boundaries of the public domain - are therefore essential to ensure that the copyright system does not defeat its own ends.

("Locking Out Lawful Users: Fair Dealing and Anti-Circumvention in Bill C-32", in Geist, From "Radical Extremism" to "Balanced Copyright", 177, at p. 179)

[96] The resulting judicial framework for fair dealing was set out in CCH, where McLachlin C.J. set out a two-step test for assessing fair dealing under s. 29 of the Act, which states:

29 Fair dealing for the purpose of research, private study, education, parody or satire does not infringe copyright.

The party invoking fair dealing must prove first that the dealing was for an allowable purpose and, second, that it was fair. Six non-exhaustive factors provide a framework for assessing fairness, which is ultimately a question of fact: the purpose of the dealing; the character of the dealing (which concerns the number of copies made or distributed and whether the copies are retained or destroyed after use); the amount of the dealing (which concerns the proportion of the work dealt with and the importance of that part); alternatives to the dealing; the nature of the work; and the effect of the dealing on the work (para. 53; see also SOCAN, at para. 13; Alberta (Education) v. Canadian Copyright Licensing Agency (Access Copyright), [2012] 2 S.C.R. 345, at para. 12, per Abella J.).

[97] It was common ground in this case that York's teachers make copies for their students for the allowable purpose of education at the first step of the analysis.

[98] But at the second step, where fairness is assessed, the Federal Court and Federal Court of Appeal approached the analysis from an institutional perspective only, leaving out the perspective of the students who use the materials. Both perspectives should be taken into account.

[99] In the educational context, instructors are facilitating the education of each of their individual students who have fair dealing rights (Alberta (Education), at paras. 22-23). However, courts are not required to completely ignore the institutional nature of a university's copying practices and adopt the fiction that copies are only made for individual isolated users. When an institution is defending its copying practices, its aggregate copying is necessarily relevant, for example, to the character of the dealing and the effect of the dealing on the work (see, e.g., CCH, at paras. 55 and 72; SOCAN, at para. 42; Alberta (Education), at paras. 30 and 33).

[100] In this case, as in Alberta (Education), "the key problem is in the way the [trial judge] approached the 'purpose of the dealing' factor" in the fairness analysis (para. 15). In fact, both the Federal Court and the Federal Court of Appeal erred in an almost identical fashion to the Copyright Board in Alberta (Education). There, the issue was whether copies of short excerpts of textbooks and other literary works made by secondary school teachers and provided to students as assigned reading constituted fair dealing for the purpose of "research or private study". The case arose prior to the enactment of the Copyright Modernization Act, S.C. 2012, c. 20, which added "education" as a permissible purpose. The Board found that the copies were for the permissible purpose of research or private study at the first stage of the analysis, but the predominant purpose at the second stage was "instruction", which fell outside of research or private study.

[101] This Court rejected the Board's approach in a passage that is directly apposite to the present appeal:

... fair dealing is a "user's right", and the relevant perspective when considering whether the dealing is for an allowable purpose under the first stage of CCH is that of the user ... . This does not mean, however, that the copier's purpose is irrelevant at the fairness stage. If ... the copier hides behind the shield of the user's allowable purpose in order to engage in a separate purpose that tends to make the dealing unfair, that separate purpose will also be relevant to the fairness analysis.

In the case before us, however, there is no such separate purpose on the part of the teacher. Teachers have no ulterior motive when providing copies to students. ... [T]hey are there to facilitate the students' research and private study. It seems to me to be axiomatic that most students lack the expertise to find or request the materials required for their own research and private study, and rely on the guidance of their teachers. They study what they are told to study, and the teacher's purpose in providing copies is to enable the students to have the material they need for the purpose of studying. [paras. 22-23]


And in SOCAN, the Court similarly explained that the "predominant perspective" when assessing the purpose of the dealing was "that of the ultimate users of the previews" (para. 34).

[102] In other words, contrary to the Federal Court of Appeal's view, in the educational context it is not only the institutional perspective that matters. When teaching staff at a university make copies for their students' education, they are not "hid[ing] behind the shield of the user's allowable purpose in order to engage in a separate purpose that tends to make the dealing unfair".

[103] It was therefore an error for the Court of Appeal, in addressing the purpose of the dealing, to hold that it is only the "institution's perspective that matters" and that York's financial purpose was a "clear indication of unfairness" (paras. 238 and 241). Funds "saved" by proper exercise of the fair dealing right go to the University's core objective of education, not to some ulterior commercial purpose (see Lisa Macklem and Samuel Trosow, "Fair Dealing, Online Teaching and Technological Neutrality: Lessons From the COVID-19 Crisis" (2020), 32 I.P.J. 215, at p. 238). The purpose of copying conducted by university teachers for student use is for the student's education. But in every case, all relevant facts must be taken into account in order to determine the fairness of the dealing.

[104] And the trial judge's criticism of York's Guidelines on the basis that different portions of a single work could be distributed to different students, such that an author's entire work could end up being distributed in the aggregate, is also contradicted by SOCAN, which held that "[s]ince fair dealing is a 'user's' right, the 'amount of the dealing' factor should be assessed based on the individual use, not the amount of the dealing in the aggregate" (para. 41; see also Alberta (Education), at para. 29).

[105] And while it is true that "aggregate dissemination" is "considered under the 'character of the dealing' factor" (SOCAN, at para. 42; see also CCH, at para. 55; Alberta (Education), at para. 29), as this Court cautioned in SOCAN, "large-scale organized dealings" are not "inherently unfair" (para. 43). In SOCAN, where copies could easily be distributed across the internet in large numbers, this Court warned that focussing on the "aggregate" amount of dealing could "lead to disproportionate findings of unfairness when compared with non-digital works" (para. 43). By extension, the character of the dealing factor must be carefully applied in the university context, where dealings conducted by larger universities on behalf of their students could lead to findings of unfairness when compared to smaller universities. This would be discordant with the nature of fair dealing as a user's right.

[106] At the end of the day, the question in a case involving a university's fair dealing practices is whether those practices actualize the students' right to receive course material for educational purposes in a fair manner, consistent with the underlying balance between users' rights and creators' rights in the Act. Since we are not deciding the merits of the fair dealing appeal brought by York, there is no reason to answer the question in this case.

[87]したがって、私は請求されている宣言が与えられることに同意しないが、この事は連邦裁及び連邦控訴裁のフェアディーリングに関する事項に関する理論づけを支持するものと解釈されるべきではない。その判決には注釈を必要とする法解釈上の大きな問題がある。

[88]その間違いに注釈を加えるにあたり、私たちの理論づけは、事実の文脈に基づいて決められるべきフェアディーリングに関する事項を決定するものはないという事を強調しておく事は重要である。むしろ、その目的は下級審の理論づけのある点を正す事にあるのであって、これを尊重して、下級審には当裁判所の法解釈から出発してもらいたい。連邦裁及び連邦控訴裁が犯した間違いを正す事は当裁判所においてヨーク大学が主張した立場に有利なものであるが、この理屈は、ここで扱っていな事実と要素の考慮を必要とする分析である、フェアディーリング分析を構成する要素の幾つかのみに向けられたものである。

[89]下級審の分析における主な問題は、それらが公正さの分析について組織的な観点からのみアプローチしている事である。この間違いは幾つかの公正さの要素についてそれらの分析を損なっている。複製行為の組織的な性質及びヨーク大学の商業的目的の意図にその分析の基礎を置く事によって、利用者の権利としてのフェアディーリングの性質が看過され、公正さの評価が始まる前に終わってしまっている。

[90]当裁判所の現代的なフェアディーリングの法理は、より広く、「著作物が市場においてどの様に使われるかをコントロールする著作者の排他権に焦点を置く、以前の著作権者中心の見方からの決別」を反映している(アベラ・Jによる2012年のカナダ音楽著作権協会対ベルカナダ事件判決(「SOCAN事件判決」)第9段落)。当裁判所は「著作権法を著作権と利用者の権利の間の「バランスとして解釈する先駆者」であり、そのフェアディーリングの理解は例外ではない(ミラ・J・タウフィク、「カナダ最高裁と『フェアディーリング3部作』:カナダ著作権法の下での利用者の権利の法理の精緻化」(2013年)、51 アルバータ・ロー・レビュー 191、第195ページ)。フェアディーリングは「著作権法における保護とアクセスの間の正しいバランスを達成するために用いられるツールの一つである」(SOCAN事件判決、第11段落)。

[91]すなわち、フェアディーリングの法理を理解するにはまず著作権のバランスを理解する事が必要である。著作権法は公益目標を持つ。公衆と著作物の間の関係は単なる「著作者・著作物の関係の結果」ではない(カリス・J・クライグ、「ロック、労働及び著作者の権利の制限:「著作権法へのロック的アプローチに対する警告」(2002年)、28 クイーンズ・ロー・ジャーナル 1、第6ページ)。私たちの著作権制度の公共の利益は「私的権利付与の幸運な副産物」以上のものである(第14-15ページ、SOCAN事件判決第9段落で引用されている)。

[92]代わりに、社会を豊かにし、自身の著作物を作る利用者にツールともにインスピレーションを提供する事もよくある芸術的な知的著作物への増大する公衆のアクセスと普及が、著作権の第一の目標である。「著作権及び他の形の知的財産権の権利者による過度のコントロールは、社会全体の長期的な利益における創造的イノベーションを具体化、美化するパブリック・ドメインの能力を不当に限定し得る」(ビニー・Jによる2002年のテベルジュ対プチシャンプラン芸術ギャラリー社事件判決、第32段落)。

[93]しかし、創作物の流れが継続的に公共空間に注入される事を確保しながらであるが、著作権創作者への正当な報償が必要なインセンティブを提供する事も正しい事である。ビニー・Jが述べている通り、「荒っぽい経済用語で言うなら、複製権について芸術家と著作者を過度に補償しない事が自滅的であるのと同様過度に補償する事も有効ではない」のである(第31段落)。適正なバランスが創作者の権利が認められる事を保証するが、著作権者のコントロールは公益に優越するものではない。

[94]究極的に、権利者の権利と公益は互いに衝突するべきものではない。タウフィク教授が説明している様に、著作権法は長い事「知識を作り出す事を創作者に、それを普及させる事を事業者に、そして、それを入手し、できる事なら新しい知識に改める事を利用者に促す統合システム」であった(「バランスにおける歴史:著作権と知識へのアクセス」、ガイスト、「急進過激主義」から「バランスの取れた著作権」へ、69、第70ページ)。創作者の権利と利用者の権利は互いに著作権の目的を支えるものである。

[95]この規範的な枠組みにおいてフェアディーリング及びその他の著作権の例外に関して、マイケル・ガイスト教授は次の様に説明している:

フェアディーリングの核心は公正さ-その著作物の利用の限界を著作権者に設定する公正さ及びフェアディーリングの権利が不必要な制約なく行使できる事を利用者に保証する公正さである。

(「公正さの発見:どの様にしてカナダはフェアディーリングからフェアユースへと静かに移行したか」、マイケル・ガイスト編、著作権5部作:どの様にしてカナダ最高裁はカナダ著作権法の基礎を揺るがしたか(2013年)、157、第181ページ)

あるいは、クライグ教授は以下の様に述べている:

基本的に、著作権政策は、私的権利の創造を通じた公衆による著作物の利用の制限により、著作物の幅広い創作及び普及において公益が促進され得る事を仮定している。したがって、フェアディーリング及びその他の例外によって規定され-そして、パブリックドメインの境界によって画定され-る、これらの私的権利の制限において、著作権法制がそれ自体の目的を阻害しない事の確保が必要不可欠である。

(「合法利用者の締め出し:C-32法案におけるフェアディーリングと回避対策」、ガイスト、「急進過激主義」から「バランスの取れた著作権」へ、177、第179ページ)

[96]フェアディーリングについてその結果の司法的枠組みは2004年のカナダCCH社対アッパーカナダ法学会判決において設定され、そこでマクラクリン・C・Jは、以下の著作権法第29条のファディーリングを評価するための2ステップのテストを設定した:

第29条 研究、私的学習、教育、パロディ又は風刺の目的のためのフェアディーリングは著作権を侵害しない。

フェアディーリングを主張する当事者が、最初に、そのフェアディーリングが許される目的のためであり、次に、それが公正である事を証明しなければならない。6つの非包括的要素が、究極的には事実問題である公正さを評価するための枠組みを提供する:行為の目的;行為の性格(作られ又は頒布された複製の数及び利用の後にその複製が保持されたか破棄されたかに関係する);行為の量(取り扱われる著作物の割合及びその部分の重要性に関係する);行為の代替手段;著作物の性質;並びに行為の著作物に対する影響(第53段落;アベラ・Jによる2012年のアルバータ(教育)対カナダ著作権ライセンシングエージェンシー(アクセスコピーライト)事件判決、第12段落)。

[97]分析の最初のステップにおいて、ヨーク大学の教師がその学生のため、許される教育目的のためにコピーを作成している事は本ケースにおける共通の基礎である。

[98]しかし、公正さが評価される、第2のステップにおいて、連邦裁及び連邦控訴裁はその分析について組織的な観点からのみアプローチしており、そのマテリアルを利用する学生の観点を置き去りにしている。両方の観点が考慮されるべきである。

[99]教育の文脈において、指導者は、フェアディーリングの権利を持つその個々の学生の教育を助けている(アルバータ(教育)事件判決、第22-23段落)。しかしながら、大学の複製運用の組織的な性質を完全に無視してコピーは個別の利用のためにのみ作られているというフィクションを採用する事が裁判所に求められている訳ではない。ある組織がその複製運用について抗弁する際、その集積的複製行為は、例えば、行為の性格及び著作物に対する行為の影響に関係して来るのである(例えば、CCH事件判決、第55及び72段落;SOCAN事件判決、第42段落;アルバータ(教育)事件判決、第30及び33段落参照)。

[100]本ケースにおいても、アルバータ(教育)事件におけるように、公正さの分析において「中心的な問題は[判事が]『行為の目的』の要素にアプローチするその仕方にある」(第15段落)。実際、連邦裁及び連邦控訴裁はともにアルバータ(教育)事件における著作権委員会に対するのとほぼ同一のやり方で間違っている。そこでは、中等学校教師により作成され、指定読書教材として生徒に提供された教科書及びその他の文学的な著作物の短い抜粋のコピーが「研究又は私的学習」の目的のためのフェアディーリングを構成するかが問題となっていた。このケースは2012年の著作権現代化法の施行より前に提起されたものである。委員会は、分析の第1段階では、そのコピーは許される研究又は私的学習の目的のためのものとしていたが、第2段階において、主な目的は「指導」であり、これは研究又は私的学習ではないとしていた。

[101]当裁判所は委員会のアプローチを本上告にも直接的にあてはまる以下の一節で否定した:

・・・フェアディーリングは「利用者の権利」であり、そのフェアディーリングがCCH事件判決の第1段階における許される許される目的かどうかを検討する際に関係する観点は利用者のものである・・・。この事は、しかしながら、複製者の目的が公正さの段階において無関係である事を意味しない。もし・・・複製者が不公正な行為をなそうとする別の目的に向かおうとするために利用者の許される目的を隠れ蓑とするなら、その別の目的もまたフェアディーリングの分析に関わって来るのである。

私たちの前にあるケースにおいては、しかしながら、教師の側にその様な別の目的はない。教師は生徒へのコピーの提供に際し隠された目的を有していない。・・・彼らはそこで生徒の研究及び私的学習を助けるためにしている。ほとんどの生徒が自らの研究及び私的学習のために必要となるマテリアルを見つけるか求める知見を有しておらず、その教師の指導に頼っている事は私には自明と思える。彼らは学習するよう言われた事を学習し、コピーの提供における教師の目的は生徒の学習の目的のために必要なマテリアルを持てる様にする事にある。[第22-23段落]

そして、SOCAN事件においても、当裁判所は、同様に、行為の目的を取り扱う際の「主な観点」は「試聴の最終的な利用者のもの」であると説明した。

[102]言い換えると、控訴裁の見解に反し、教育の文脈においては重要なのは組織的な観点のみではない。大学における教員が生徒の教育のためにコピーを作成する時、彼らは「不公正な行為をなそうとする別の目的に向かおうとするために利用者の許される目的を隠れ蓑と」していないのである。

[103]したがって、行為の目的を取り扱うにあたり、ただ「組織の観点が重要であり」、ヨーク大学の金銭的な目的が「不公正さを明らかに示している」と判示した事は控訴裁の間違いである(第238及び241段落)。フェアディーリングの権利の適正な行使によって「節約された」資金は大学の教育という中心的な目的に向かうのであり、何かの隠された商業的な目的に向かうのではない(リサ・マクレム及びサミュエル・トロソウ、「フェアディーリングと技術中立性:新型コロナ危機からの教訓」2020年、32 IPジャーナル 215、第238ページ)。大学教師によって学生のために行われる複製行為の目的は学生の教育のためである。しかしそれぞれのケースにおいて、全ての関係する事実が行為の公正さを決定するために考慮に入れられなくてはならない。

[104]そして、1つの著作物の異なる部分が異なる学生に配布され得、その様にして著作者の著作物全体が最終的に集積的に配布され得るという事を基礎とする、ヨーク大学のガイドラインに対する判事の批判は、「フェアディーリングは『利用者の権利』であるから、『行為の量』の要素は集積における行為の量ではなく個々の利用に基づいて評価されるべき」と判示したSOCAN事件判決とも矛盾する(第41段落;アルバータ(教育)事件判決、第29段落も参照)。

[105]そして、当裁判所がSOCAN事件判決において注意した様に、「集積的頒布」が「『行為の性格』の要素において考慮される」事はその通りであるが(SOCAN事件判決、第42段落;CCH事件判決、第55段落;アルバータ(教育)事件判決、第29段落も参照)、「大規模な組織的行為」は「本質的に不公正」なものではない(第43段落)。コピーがインターネットを通じて多数容易に配布され得たSOCAN事件において、当裁判所は、行為の「集積的」量に焦点をあてる事が「非デジタル著作物と比べた時にバランスを欠いた不公正さの認定に繋がり」得る事を警告したのである(第43段落)。その延長で、行為の性格の要素は大学の文脈においては注意深く適用されなくてはならない、大きな大学がその学生の代わりに行う行為が、小さな大学と比べ、不公正さの認定に繋がりかねないのである。これは利用者の権利としてのフェアディーリングの性質と一致しないであろう。

[106]結局、大学のフェアディーリング運用を含むケースにおける問題は、著作権法における利用者の権利と創作者の権利の間の基本的なバランスと合致する形で、その運用が公正なやり方で教育目的のために教材を受け取る生徒の権利を実現しているかである。私たちはヨーク大学によってなされたフェアディーリングについての上告に関する事実について決定できないのであり、本ケースにおけるこの問題に答える理由はない。

 この判決は、そのために必要な事実の認定が十分でないとして、最終的には、本ケースにおいてフェアディーリングが適用されるかどうかについては判断を避けているのだが、フェアディーリングは利用者・ユーザーの権利であり、その利用者の権利と著作者の権利の間のバランスを取らなければならないとしている点で、非常に興味深く私は読んだ。

 カナダのフェアディーリングはイギリス法由来で、2012年に法改正による拡充がなされているが(第298回参照)、上で訳出した部分に良くまとめられている通り、カナダでは、上で引用されている様な教授たちによる学説の展開とも並行して、2004年のCCH事件判決(法学会による会員の研究のための判例報告等のコピーはフェアディーリングであるとされた)を1つのリーディングケースとして、2012年のSOCAN事件判決(音楽のダウンロード販売サイトにおける試聴の提供がフェアディーリングとされた)やアルバータ(教育)事件判決(アルバータ州の学校での教師による教科書の抜粋のコピーがフェアディーリングであるとされた)で、利用者のフェアディーリングの権利と著作者の権利の間のバランスを取る事が必要であるとする法理を確立、発展させて来ており、このケースでもそれを守るべきとしているのである。

(なお、同じ2012年7月12日に、カナダ最高裁は、上の2つの事件以外にも、エンターテイメントソフトウェア協会事件判決リサウンド事件判決ロジャースコミュニケーションズ事件判決という3つの著作権関連事件判決を出していて、上で訳出した部分に出てくるガイスト教授の編著のタイトル中に「5部作」という言葉が出てくるのはそのためである。)

 日本においても著作権の権利制限又は例外のそれぞれについて強行規定であるのか否か(契約によって上書き可能か否か)という議論があるが、あくまで制限又は例外とされており、アメリカでもフェアユースは基本的に抗弁とされている事を思えば、この様に、カナダで、フェアディーリングを明確に利用者・ユーザーの権利と位置づけ、これと権利者の権利の間でバランスを取るべきとしているのは、世界的に見てもかなり先を進んでいると私は思う。

 無論、制限を補償不要の強行規定とした場合でも同じ結論を導く事はできるのだが、著作権の権利制限又は例外をあくまで制限又は例外としていたのでは、法的な判断はどうしても著作権者中心の見方に傾く事になるだろう。かなり昔、2007年の第9回:私的複製の権利(著作権法教科書読み比べ)という記事で少し書いた通り、今現在私的複製の権利制限の中で取り扱われているものも含め、最終的に公正利用一般を利用者の権利として認める様にして行くべきと今でも私は思っているが、この様な議論が日本で展開されるまでにはまだまだ時間がかかりそうである。

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2021年1月31日 (日)

第435回:中国新著作権法の権利制限関係規定

 最近の海外著作権法改正動向の1つとして、去年2020年11月11日に中国全人代常務委を通過して決定により成立し、主席令により公布され、2021年6月1日施行予定の中国の著作権法改正がある。(中国全人代HPの常務委決定(中国語)主席令(中国語)参照。)

 中国の前回の著作権法改正が2010年であるから、これは実に10年ぶりの法改正で、twitterで何度か触れた通り、非常に長い時間を掛けて検討が行われ、法改正案について何度も意見募集が行われるなどしていたものである。(中国全人代HPの司法部副部長法改正案説明(中国語)参照。全体として見るとかなり不透明なので中国の法改正プロセスが良いとは全く思わないが、条文案を明確に示して繰り返し意見募集をしている点だけは是非日本政府にも見習ってもらいたいと思う点である。)

 今回の中国の著作権法の最大のポイントは、5倍までの懲罰的賠償の導入、50万元から500万元への法定賠償額の上限の引き上げと500元という下限の設定といった権利保護強化にあるだろうが(私はこの様な単純な損害賠償額の引き上げの様な保護強化は全く正しいものではないと思っているが)、今回は、この法改正に含まれている権利制限関係の改正部分について特に取り上げたいと思う。

 中国新著作権法(中国全人代HPの条文(中国語)から、今回の法改正に絡む、権利制限関係の条文を抜き出して改正部分が分かる様に翻訳すると、以下の様になる。(下線部が追加部分。以下、翻訳は全て拙訳。)

第二十二条第二十四条 以下の場合における著作物の利用は、著作権者の許可なくでき、対価を支払う事もないが、作者の姓名又は名称、著作物の名称を示さなくてはならず、かつ、著作権者が本法により有するその他の権利を侵害するものであってはならないその著作物の通常の利用に影響を与えてはならず、著作権者の正当な利益を不当に害するものであってはならない

(一)個人の学習、研究又は鑑賞のための、既に公表された他人の著作物の利用;

(二)ある著作物の紹介、評論、ある問題の説明のための、著作物における既に公表された他人の著作物の適切な引用;

(三)時事ニュースの報道のための、新聞、定期刊行物、放送局、テレビ局等の媒体における既に公表された著作物の不可避の再現又は引用;

(四)新聞、定期刊行物、放送局、テレビ局等の媒体による、他の新聞、定期刊行物、放送局、テレビ局等の媒体が既に公表した政治、経済、宗教問題に関する時事的文章の刊行又は放送、ただし、著作者著作権者が刊行、放送の不許可を宣言した場合はその限りでない;

(五)新聞、定期刊行物、放送局、テレビ局等の媒体による、公の集会で公表された演説の刊行又は放送、ただし、著作者が刊行、放送の不許可を宣言した場合はその限りでない;

(六)学校教室における教育又は科学研究のための、既に公表された著作物の翻訳、翻案、編集、放送又は少量の複製、これは教育者又は研究者に利用されるものであり、出版発行はできない;

(七)国家機関の公務執行のための、合理的な範囲内での、既に公表された著作物の利用

(八)図書館、文書館、記念館、博物館、美術館、文化館等の陳列又は版本の保存の必要性のための、その館に収蔵された著作物の複製;

(九)既に公表された著作物の無償での実演、この実演は公衆から費用を取らないものであり、実演者に対価が支払われるものでなく、かつ、営利目的ではないものである

(十)室外の公共の場所に設置又は陳列された芸術著作物の模写、描画、撮影、録画;

(十一)中国公民、法人又はその他組織非法人組織により既に公表されたー中国語ー「国家通用言語」で創作された著作物の中国内出版発行向けの少数民族言語への翻訳;

(十二)既に公表された著作物の点字に変更しての出版。既に公表された著作物の、視聴覚障害者に知覚可能な障害とならない方式にしての提供;

(十三)法律、行政法規の規定によるその他の場合。

 前段の規定は、出版者、実演者、レコード製作者、放送局、テレビ局の権利の制限にも適用される。前段の規定は、著作隣接権の制限にも適用される。

 ここで、言葉の明確化と多少の拡充が図られている事もあるが、追加された3ステップテストの文言だけが掛かる形で、第13号に「法律、行政法規の規定によるその他の場合」と、法改正によらずとも行政法規で権利制限が追加できる様になった事は、今後の中国政府の運用次第で大きな意味を持って来るのではないかと思える。(中国には本当の意味での三権分立はないのでどこまで意味を持つのか分からない所も無論あるが。)

 この第13号は全人代での検討による第2案で入って来たもので、中国全人代HPの憲法及び法律委員会修正説明(中国語)に、

二、改正案第三条は、著作権者及び著作隣接権者の権利行使は権利濫用により著作物の通常の流通に影響を与えてはならないと規定しており;第二十四条は、著作権及び著作隣接権の濫用の法的責任を規定していた。ある常務委委員及び幾つかの地方、部門、単位、専門家及び社会公衆は、ここで、著作権の主要問題は著作権の保護不足であり、今次の法改正は著作権保護の立法方針を堅持するべきであり、著作権の濫用行為については民法典、独占禁止法等の法律の規定を規範とする事ができると提案し;その他に「権利濫用により著作物の通常の流通に影響を与えてはならない」と記載する事は広範に過ぎ、実施における執行業務に好ましいものではなく、この記載及び関連する法的責任の規定を削除する事を建議している。憲法及び法律委員会は検討を経て、この意見を採用する事を建議する。同時に著作権の保護と公共の利益をさらにより良くバランスさせるために、法定の著作権者の許可なく対価の支払いもない合理的利用の範囲を適度に拡大し、改正案の著作権の合理的利用の場合に、「(十三)法律、行政法規の規定によるその他の場合」という最終規定を増やす案を作成する。

と、書かれている通り、元の改正案(案の著作権法条文番号で書くと四条と五十条)に入っていた権利濫用に関する記載、違法所得没収・罰金規定の代わりに入ったものである。

 いくら中国の事とは言え、知的財産権の行使について権利濫用と見られる場合に行政が介入して罰金などを課すのはやり過ぎだと思うので、この様な形になった事はある意味妥当だと思うが、結果的に中国の行政が権利制限について非常に広範な権限を有する事となったため、今後の運用がどうなるかは気になる所である。(中国政府も国際的に知財保護についてどう見られるかという事は気にしている筈なので、そこまで無茶苦茶な事はして来ないのではないかと思うが、場合によってかなり特殊な運用をして来ないとも限らない。)

 また、比較の意味で、第49条として加えられた技術的保護手段に関する詳細規定の後の、以下の第50条の技術的保護手段(DRM)回避に対する明文の制限・例外規定も興味深いものである。

第五十条 以下の場合には技術的措置を回避できる、ただし、他人に技術的措置の回避の技術、装置又は部品の提供はできず、権利者が本法により有するその他の権利を侵害するものであってもならない:

(一)学校教室における教育又は科学研究のための、既に公表された著作物の少量の提供、これは教育者又は研究者により利用されるものであり、かつ、その著作物は通常の経路によって手に入らないものである事;

(二)非営利目的での、既に公表された著作物の、視聴覚障害者に知覚可能な障害とならない方式にしての提供、その著作物は通常の経路によって手に入らないものである事;

(三)国家機関の行政、監察、司法手続きによる公務執行;

(四)計算機及びそのシステム又はネットワークの安全性能テスト

(五)暗号化研究又は計算機ソフトウェアのリバースエンジニアリング研究。

 前段の規定は、著作隣接権の制限にも適用される。

 中国の知財法は中国独自の発展の形を示す様になって来ており、単純な保護強化や行政権限拡大型のアプローチ自体正しい事ではなく、他の国にそのまま適用できる様なものでもないので、この様な法改正が日本に影響を与えるとはあまり思っていないが、中国においても権利行使との間でバランスを取って権利制限の範囲を拡充・拡大するという考えがあるという事は覚えておいても良いのではないかと思う。

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2019年12月29日 (日)

第418回:2019年の終わりに(文化庁第2回検討会のダウンロード違法化・犯罪化対象範囲拡大条文案他)

 もう年末年始に入り、今年も政策に絡むイベントは一通り終わったと思うので、文化庁のダウンロード違法化・犯罪化対象範囲拡大検討会の第2回資料に加えて、あまり触れて来なかった著作権以外の知財政策動向についてまとめて書いておきたいと思う。

 今年の知財政策における最大の論点はダウンロード違法化・犯罪化の対象範囲拡大の検討だろうが、文化庁は、11月27日に第1回の侵害コンテンツのダウンロード違法化の制度設計等に関する検討会を開催した後、12月18日に第2回を開催し(議事次第・資料参照)、次の第3回を年明け早々1月7日に開催するとしており(開催案内参照)、異常なハイペースで検討を進めようとしている。

 第1回の資料について前回書いた通りで、追加で多く書く事もないのだが、第2回の資料1(pdf)では、以下の様な、写り込みの権利制限の拡充と合わせて対象から軽微なものを除く条文案が示されている。(以下では、資料から条文案だけを抜き出し、順序を条文順に改めた。)

(私的使用のための複製)
第三十条 著作権の目的となつている著作物(以下この款において単に「著作物」という。)は、個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること(以下「私的使用」という。)を目的とするときは、次に掲げる場合を除き、その使用する者が複製することができる。
(略)
 著作権を侵害する自動公衆送信(国外で行われる自動公衆送信であつて、国内で行われたとしたならば著作権の侵害となるべきものを含む。次号において同じ。)を受信して行うデジタル方式の録音又は録画(以下この号及び次項において「特定侵害録音録画」という。)を、特定侵害録音録画であることを知りながら行う場合
 著作権を侵害する自動公衆送信を受信して行うデジタル方式の複製(録音及び録画を除く。以下この号において同じ。)(その著作物のうちその複製に供される部分の占める割合、その複製に供される際の表示の精度その他の要素に照らし軽微なものを除く。以下この号及び次項において「特定侵害複製」という。)を、特定侵害複製であることを知りながら行う場合

 前項第三号及び第四号の規定は、特定侵害録音録画又は特定侵害複製であることを重大な過失により知らないで行う場合を含むものと解釈してはならない。

3(略)

(付随対象著作物の利用)
第三十条の二 写真の撮影、録音、録画、放送その他これらと同様に事物の影像又は音を複製し、又は複製を伴うことなく伝達する行為(以下この項において「複製伝達行為」という。)を行うに当たつて、その対象とする事物又は音(以下この項において「複製伝達対象事物等」という。)に付随する事物又は音(複製伝達対象事物等の一部を構成するものとして対象となる事物又は音を含む。以下この項において「付随対象事物等」という。)に係る著作物(複製伝達行為により作成され、又は伝達されるもの(以下この条において「作成伝達物」という。)のうち当該著作物の占める割合、作成伝達物における当該著作物の再製の精度その他の要素に照らし当該作成伝達物における軽微な構成部分となるものに限る。以下この条において「付随対象著作物」という。)は、当該複製伝達行為が営利を目的とするものであるか否かの別、当該付随対象事物等の当該複製伝達対象事物等からの分離の困難性の程度、当該作成伝達物の性質と当該付随対象著作物との関連性の程度その他の要素に照らし正当な範囲内において、当該複製伝達行為に伴つて、いずれの方法によるかを問わず、利用することができる。ただし、当該付随対象著作物の種類及び用途並びに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。

 前項の規定により利用された付随対象著作物は、当該付随対象著作物に係る作成伝達物の利用に伴つて、いずれの方法によるかを問わず、利用することができる。ただし、当該付随対象著作物の種類及び用途並びに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りではない。

第百十九条(略)
(略)
 次の各号のいずれかに該当する者は、二年以下の懲役若しくは二百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
 第三十条第一項に定める私的使用の目的をもつて、録音録画有償著作物等(録音され、又は録画された著作物又は実演等(著作権又は著作隣接権の目的となつているものに限る。)であつて、有償で公衆に提供され、又は提示されているもの(その提供又は提示が著作権又は著作隣接権を侵害しないものに限る。)をいう。)の著作権を侵害する自動公衆送信又は著作隣接権を侵害する送信可能化に係る自動公衆送信(国外で行われる自動公衆送信であつて、国内で行われたとしたならば著作権の侵害となるべきもの又は著作隣接権の侵害となるべき送信可能化に係るものを含む。)を受信して行うデジタル方式の録音又は録画(以下この号及び次項において「有償著作物等特定侵害録音録画」という。)を、自ら有償著作物等特定侵害録音録画であることを知りながら行つて著作権又は著作隣接権を侵害した者
 第三十条第一項に定める私的使用の目的をもつて、著作物(著作権の目的となつているものに限る。以下この号において同じ。)であつて有償で公衆に提供され、又は提示されているもの(その提供又は提示が著作権を侵害しないものに限る。)の著作権(第二十八条に規定する権利を除く。以下この号及び第五項において同じ。)を侵害する自動公衆送信(国外で行われる自動公衆送信であつて、国内で行われたとしたならば著作権の侵害となるべきものを含む。)を受信して行うデジタル方式の複製(録音及び録画を除く。以下この号において同じ。)(その著作物のうちその複製に供される部分の占める割合、その複製に供される際の表示の精度その他の要素に照らし軽微なものを除く。以下この号及び第五項において「有償著作物等特定侵害複製」という。)を、自ら有償著作物等特定侵害複製であることを知りながら行つて著作権を侵害する行為を継続的に又は反復して行つた者

 前項第一号に規定する者には、有償著作物等特定侵害録音録画を、自ら有償著作物等特定侵害録音録画であることを重大な過失により知らないで行つて著作権又は著作隣接権を侵害した者を含むものと解釈してはならない。

 第三項第二号に規定する者には、有償著作物等特定侵害複製を、自ら有償著作物等特定侵害複製であることを重大な過失により知らないで行つて著作権を侵害する行為を継続的に又は反復して行つた者を含むものと解釈してはならない。

 この様な条文案に加えて、資料2(pdf)で、除外される軽微なものの基準は、その著作物全体の分量から見てダウンロードされる分量がごく小部分である場合や、それ自体では鑑賞に堪えないような粗い画像をダウンロードした場合などであるとしている。

 この様な条文案と基準によれば、文化庁が資料3(pdf)で示している通り、スクリーンショットで違法画像が付随的に入り込む場合や、ストーリー漫画の数コマ、論文の数行、粗いサムネイル画像のダウンロードの場合といった僅かな場合は除かれるだろうが、利用者が通常するであろうほとんどあらゆる場合のカジュアルなスクリーンショット、ダウンロード、デジタルでの保存行為が違法・犯罪となる可能性が出て来、意味不明の萎縮が発生するだろう事に変わりはないのであって、文化庁は国民の声・懸念に対し何ら聞く耳を持っていないとしか私には思えない。(ここで常々書いている通り、同じく問題のある現行の映像音楽に関するダウンロード違法化・犯罪化も本来なされるべきでなかったものであると私は考えている。)

 この資料では、さらに「二次創作作品・パロディなどのダウンロードを対象から除外」する場合として、国会提出を断念した条分案の刑事の第119条からだけでなく、民事の第30条についても「第二十八条に規定する権利を除く」という文言を追加する案も出されているが、これも同断であって、第28条に規定される2次著作物の利用に関する原著作者の権利が除外されるに過ぎず、2次創作・パロディのダウンロードが全て対象外となるものではない事は、文化庁が同じく資料3(pdf)で書いている通りである。

 第2回検討会での議論についての弁護士ドットコムの記事などを見ても、文化庁は、この案をほぼ既定路線として、著作権者の利益を不当に害することとなる場合をさらに除くかどうかという枝葉末節に議論を押し込め(追加すればそれなりにましにはなるだろうが、これも問題の本質的な解消には繋がらないものである)、雪辱とばかりに来年の通常国会に向けてダウンロード違法化・犯罪化の対象範囲拡大をごり押しするつもりであると知れるが、前回も書いた通り、本当に国民の声を丁寧に聞くというなら、この様な非常に危険かつ拙速な検討を中止して条文案から対応部分を削除するのみならず、録音録画についての現在のダウンロード違法化・犯罪化そのものの効果を検証し、その廃止・撤廃を速やかに検討するべきと私は思っているが、文化庁にそうする気が全く見られないのは日本の国益と文化にとって極めて不幸な事である。

 また、リーチサイト規制についても、運営行為に対する刑事罰を非親告罪から親告罪に変更すること以外は国会提出断念版の条文案のままにするとしている。これについても、親告罪とする事が一定の歯止めにはなるとは思うが、文化庁が、「公衆を侵害著作物等に殊更に誘導するものであると認められるウェブサイト等」、「主として公衆による侵害著作物等の利用のために用いられるものであると認められるウェブサイト等」といった条文案の定義から、海賊版対策とは無関係のものとして、パブコメで懸念するものの例としてあげられた、引用要件違反のまとめサイト、剽窃論文、ライセンス違反のスライド、GPL違反のソフトウェア、ツイッターの違法アイコン等へのリンク集及びこのリンク集におけるリンクは規制の対象外となるとしているが、これも文化庁の現時点での希望的観測という他なく、これらの例だけを取っても、通常リンク先が剽窃やライセンス違反である事を指摘するためにそう明記して作られるものが多いだろうし、定義から除外されると完全に言えるかどうか疑問である。第414回に載せた提出パブコメの通り、今後の定義の拡大の恐れもあり、脅しや嫌がらせが増え、インターネット利用のリスクが無意味に高まるのではないかと私はやはり懸念している。

 以下、その他の知財法を巡る動きについて書いて行く。

 特許法については、今年の特許法等の改正の後、特許庁で、産業構造審議会・知的財産分科会特許小委員会が開催され、二段階訴訟の話などが検討されているが、次の法改正がどうなるかという意味では特に方針が出ている訳ではない。また、法改正とは関係ないが、審査基準専門委員会ワーキンググループで、進歩性の審査の進め方に関する参考資料の作成の話がされている。

 商標法については、商標制度小委員会で、店舗の外観・内装の商標制度による保護の話が検討され、商標審査基準ワーキンググループでそのための商標審査基準の改訂が検討され、対応する商標法施行規則改正案と商標審査基準の改訂案について1月20日〆切でそれぞれパブリックコメントにかかっている(特許庁HPの意見募集1意見募集2参照)

 意匠法については、意匠審査基準ワーキンググループで、法改正を受けた意匠審査基準の改訂が検討され、その改訂案が1月9日〆切でパブリックコメントにかかっている(特許庁HPの意見募集3参照)。

 農水省では、種苗法について、優良品種の持続的な利用を可能とする植物新品種の保護に関する検討会が開催され、海外流出防止のため、登録品種の販売における国内利用限定や栽培地域限定の条件に反する行為への育成者権の行使を可能とする、自家増殖を含め登録品種の増殖は育成者権者の許諾を必要とするといった内容のとりまとめ(pdf)が出され、農業資材審議会・種苗分科会で報告がされている。また、来年はこの様な種苗法の改正案とともに、家畜遺伝資源保護法案も国会に提出される事になるのだろう、和牛遺伝資源の流通管理に関する検討会で、家畜遺伝資源の保護も検討されている。

 知財本部では、また名前を変えたくなったのか、今年は構想委員会なるものが2回開かれている。今の所およそ内容のない話しかしていないが、じきに募集されるだろう次の知財計画パブコメにもまた意見を出すつもりである。

 最後に少しだけ書いておくと、この12月19日に、ウェブサイトを通じた電子書籍の中古販売は著作権者の許諾を必要とする公衆送信であるとする、欧州司法裁判所の判決が出されている(欧州司法裁のリリース(pdf)も参照)。これは、第332回で取り上げたオランダの控訴審判決の続きの話で、欧州で電子書籍中古販売が合法(電子データに対するデジタル消尽あり)とされるのは難しいのではないかと思っていた通りなのだが、こうした国際動向についても時間がある時にまたまとめて書きたいと思っている。

 今年もこれで最後になるが、政官業に巣食う全ての利権屋に悪い年を、このブログを読んで下さっている方々に心からの感謝を。

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2019年11月17日 (日)

第415回:ダウンロード違法化・犯罪化を含まないスイスの著作権法改正、写り込み等に関する文化庁の権利制限拡充検討、ブロッキング訴訟東京高裁判決

 文化庁でさらに検討が進められるのだろう、前回パブコメを載せたダウンロード違法化・犯罪化の対象拡大の検討には引き続き最大限の注意が必要だと思っているが、この様なインターネット海賊版対策の動きにも関連する幾つかの重要な国内外の動きについてまとめて書いておきたい。

(1)ダウンロード違法化・犯罪化を含まないスイスの著作権法改正
 既にGIGAZINEで記事になっている通り、スイスでもこの9月に最近著作権法改正がその国会を通っている。

 この著作権法改正は、スイス国会の法案審議に関するHPに掲載されている、政府の法案説明資料(ドイツ語)(pdf)フランス語版(pdf))の最初の概要に、

Der Bundesrat will das Urheberrecht modernisieren. Im Zentrum der Gesetzesrevision stehen Massnahmen, mit denen die Internetpiraterie besser bekampft werden kann, ohne dabei die Konsumentinnen und Konsumenten solcher Angebote zu kriminalisieren. Zudem sollen verschiedene gesetzliche Bestimmungen an neuere technologische und rechtliche Entwicklungen angepasst werden, um die Chancen und Herausforderungen der Digitalisierung im Urheberrecht nutzen bzw. meistern zu konnen. Profitieren soll insbesondere die Forschung. Gleichzeitig enthalt die Vorlage eine Reihe weiterer Massnahmen, mit denen zentrale Anliegen der Kulturschaffenden, der Nutzerinnen und Nutzer sowie der Konsumentinnen und Konsumenten erfullt werden. Schliesslich sollen zwei Abkommen der Weltorganisation fur geistiges Eigentum ratifiziert werden.

スイス政府は著作権を現代化したいと考えている。法改正の中心は、消費者がその提供により犯罪者とされる事がないようにしつつ、インターネット海賊行為とより良く戦う手段にある。そこで様々な法規制は著作権においてデジタル化の機会と挑戦を利用若しくは向上できるよう新しい技術的、法的発展に適合されるべきである。特に研究の利便が図られるべきである。同時に法案は文化創造者、利用者並びに消費者の主要な要求を満たす一連の様々な手段を含んでいる。最後に2つの世界知的所有権機関の条約が批准されるべきである。

とある通り、消費者を犯罪者にしないという事を明確にしており、そのためダウンロード違法化・犯罪化は最初から含まれていない。

 この点については、2018年12月13日の法案の最初の国会審議でも、以下の通り、多くの党の議員が賛同している。

Bauer Philippe (RL, NE), pour la commission:
...
Le but de la modification de la loi sur le droit d'auteur est de moderniser notre droit, de l'adapter aux evolutions technologiques, de permettre de lutter contre le piratage sur Internet, tout en essayant de ne pas criminaliser les consommateurs.
...

Merlini Giovanni (RL, TI):
...
Revisionsbedarf ist insoweit gegeben, als es notig ist, die Rechte der Kulturschaffenden und der Kulturwirtschaft zu starken und sie insbesondere vor den illegalen Piraterieangeboten im Internet zu schutzen. Unsere Fraktion teilt zudem das Anliegen des Bundesrates, die Konsumenten rechtswidriger Angebote nicht zu kriminalisieren.
...

Marti Min Li (S, ZH):
...
Umso erstaunlicher und umso bemerkenswerter ist es, dass in einem langjahrigen Prozess an einem runden Tisch mit allen Akteuren ein Kompromiss gefunden werden konnte. Dieser Kompromiss liegt Ihnen hier vor. Dass bei einem Kompromiss nicht alle glucklich sind und dass nicht alle Punkte in allen Fallen fur alle Seiten befriedigend gelost werden konnten, liegt in der Natur der Sache. Dennoch sind wir uberzeugt, dass dieser Kompromiss im Grossen und Ganzen diese sehr schwierige Balance gefunden hat. Fur uns war immer zentral, dass die Kulturschaffenden und Kulturproduzentinnen und -produzenten zu ihren verdienten Einnahmen gelangen konnen, dass aber auch die Konsumentinnen und Konsumenten nicht kriminalisiert werden durfen. Das ist hier gelungen.
...

Gmur-Schonenberger Andrea (C, LU): Es ist an der Zeit, dass das Urheberrechtsgesetz modernisiert und den Herausforderungen der Gegenwart angepasst wird. Die CVP-Fraktion unterstutzt dieses Ziel. Dabei geht es darum, einerseits die Internetpiraterie zu bekampfen, andererseits die Chancen der Digitalisierung besser zu nutzen. Wichtig ist uns, dass die Konsumentinnen und Konsumenten nicht kriminalisiert werden. Auch Netzsperren sind keine vorgesehen, was wir begrussen.
...

Schwander Pirmin (V, SZ):
...
Der rasche Zugang zu Buchern, Filmen und Musik hat dazu gefuhrt, dass auch Internetpiraterie entsteht und dadurch den Urheberinnen und Urhebern Einnahmen entgehen. Deshalb ist es sehr wichtig, dass wir hier Remedur schaffen und die Rechte der Urheberinnen und Urheber starken. Das ist ein Ziel, das hier erreicht werden soll und unseres Erachtens auch erreicht wird. Die Konsumentinnen und Konsumenten ihrerseits wollen attraktive Angebote zu fairen Preisen. Deshalb ist es wichtig, dass wir keine Netzsperren einfuhren und dass wir die Konsumentinnen und Konsumenten auch nicht kriminalisieren. Wir mussen aber darauf schauen, dass die Konsumentinnen und Konsumenten durch diese neue Gesetzgebung nicht doppelt oder mehrfach belastet werden. Das zu diesem Spannungsfeld. Ich glaube, der vorliegende Kompromiss sollte eine Mehrheit finden.
...

Sommaruga Simonetta, Bundesratin: Das Internet hat auch im Bereich Kultur viele Vorteile. Es ermoglicht einen sofortigen, einfachen Zugang zu Kultur. Es reichen oft ein paar Klicks, und schon erhalten wir Zugang zu Buchern, zu Fotografien, Filmen, Musikstucken und naturlich auch zu Buchern, die langst vergriffen sind, oder zu historischen Fotografien. Das alles ist die schone, die positive Seite des Internets.
Die Kehrseite ist, dass viele Angebote illegal sind. Fur die Buchverlage, fur die Filmindustrie, die Plattenfirmen und naturlich auch fur die Kulturschaffenden stellen illegale Angebote ein ernsthaftes Problem dar; erstens naturlich, weil ihnen Einnahmen entgehen, und zweitens, weil ihre Urheberrechte - das sind ja Eigentumsrechte, Rechte am geistigen Eigentum - verletzt werden. Sie sind auch insofern problematisch, als sie die Entstehung von legalen Angeboten erschweren oder sogar verhindern. Der Bundesrat mochte darum effizienter gegen die Internetpiraterie vorgehen, ohne aber dass die Konsumenten kriminalisiert werden.
...

バウアー・フィリップ(自由民主党、ノイエンブルク)、委員会に:
(略)
法改正の目的は私たちの法を現代化し、技術的発展にそれを適応させ、インターネット上の海賊行為と戦う事を可能にする事にありますが、消費者を犯罪者にするつもりは全くありません。
(略)

メルリーニ・ジョヴァンニ(自由民主党、ティチーノ):
(略)
法改正の必要性は、文化創造者と文化経済を強化し、特にインターネットにおける違法な海賊版の提供からそれを守るのに必要な限りにおいて存在しています。私たちの党は、違法な提供について消費者を犯罪者にしないという事において政府の要請と同じ立場に立っています。
(略)

マルティ・ミンリ(社会民主党、チューリッヒ):
(略)
全ての関係者によるラウンドテーブルでの長年に渡る検討において一つの妥協が見つかり得たという事は非常に驚くべき、瞠目すべき事です。この妥協は今皆さんの前にあります。妥協においては皆に都合が良いという事はなく、あらゆる場合におけるあらゆる点について全員が満足する様に解決されている訳でもないという事は当然の事です。ですが、この妥協が全体において多くそのとてもむずかしい均衡を見つけたと私たちは確信しています。文化創造者及び文化製作者が収入を得る事ができる事もそうですが、消費者が犯罪者にされない事も私たちにとっては常に中心的な関心事項でした。ここでそれは上手く行っています。
(略)

グミュール-シェーネンベルガー・アンドレア(キリスト教民主党、ルツェルン):著作権法が現代化され、現在の要請に応える時が来ています。キリスト教民主党はこの目的を支持します。そのため、一方でインターネット海賊行為と戦い、他方でデジタル化の機会をより良く使える様にするべきでしょう。私たちにとって重要な事は消費者が犯罪者とされない事です。インターネットブロッキングが考えられていない事も私たちは喜ばしく思っています。
(略)

シュワンダー・ピルミン(国民党、シュヴィーツ):
(略)
本、映画及び音楽への急激なアクセスによってインタネット海賊行為が生じ、それにより著作権者が収入を逃す事になっていました。したがって、ここで私たちが対策を講じ、著作権者の権利を強化する事はとても重要です。それはここで私たちが達成するべき目的の1つであり、私たちの考えは達成されるでしょう。消費者は、彼らも公正な価格での魅力的な提供を求めています。したがって、私たちがインターネットブロッキングを導入せず、消費者を犯罪者にもしない事が重要です。この新たな法改正によって消費者に2重、多重に負担がかからない様にしなければなりません。それはこの議論の場の仕事です。今のこの妥協は多数の賛同を得ると私は信じています。

ソンマルーガ・シモネッタ、政府連邦参事会:インターネットは文化領域においても多くの利点を有しています。これは文化への即時の簡単なアクセスを可能にしています。数クリックで十分な事も多く、それで私たちはすぐに本、写真、映画、楽曲へのアクセスが手に入ります、もちろん長く絶版になっていた本や歴史的写真にもです。これら全てはインターネットの素晴らしい、肯定的な面です。
反対の面は、多くの提供が違法な事です。出版社にとって、映画産業、レコード会社にとって、もちろん文化創造者にとっても違法提供は深刻な問題です。もちろんまず収入を逃すからですが、第2に、その著作権-財産権、知的財産権です-が侵害されるからです。これはまた適法な提供の発生を困難にする又は抑止してしまうだけ問題です。そのため政府は、消費者が犯罪者にされる事がないようにしつつ、より効果的にインターネット海賊行為に対抗したいと考えました。
(略)

 ドイツなど近くの国でダウンロード違法化・犯罪化が全く上手く行っていない事を見ている所為だろうか、上でリンクを張った政府による法案説明資料にも書かれている通り、2012年から消費者・利用者も入った検討会で著作権法改正についてきちんと議論を積み重ねて来た結果だろうか、現時点でスイスでは政府・国会によってダウンロード違法化・犯罪化は否定されているのである。インターネットブロッキングについての言及もあるが、やはりその導入に否定的である事は注目されていいだろう。

 今まで散々書いてきた事だが、この様なスイスの著作権法改正の例を持ち出すまでもなく、広くダウンロードを違法・犯罪にして消費者・利用者・ユーザーをことごとく侵害者・犯罪者にしたところで良い事が何もないのは日の目を見るより明らかな事である。このごく当たり前の事が日本の政府与党・国会での検討でなかなか通じないのは極めて残念な事と私は常々思っている。

 なお、詳細は省くが、スイス国会における著作権法改正として、最終的に原案通り法改正(pdf)フランス語版(pdf))、北京条約批准(pdf)フランス語版(pdf))、マラケシュ条約批准(pdf)フランス語版(pdf))が通っており、全体として、

  • 写真の著作物の定義の拡充・明確化
  • 視聴覚著作物の送信可能化における著作権管理団体を通じた補償金請求権の法定
  • 孤児著作物規定の全ての著作物への適用拡大とその利用条件の明確化
  • 研究のための例外の創設
  • 図書館等における目録作成のための例外の創設
  • インターネットホスティングサービス提供者のテイクダウン・ステイダウン義務の法定
  • 代表著作権管理団体による拡大集合ライセンス規定の創設
  • 視聴覚的実演に関する北京条約批准
  • 視聴覚障害者等の著作物利用促進のためのマラケシュ条約批准

などの事項が含まれている。

 確かに著作権保護強化の方向である事には違いないので、海賊党がこの法改正に対して国民投票を目指し署名を集めようとしているという報道もあるが(nzz.chの記事(ドイツ語)、rts.chの記事(フランス語))、このスイスの著作権法改正はそこまで一般国民に影響の出るものではなく、反対の国民投票が成功する事はないのではないかと私は見ている。

(2)写り込み等に関する文化庁の権利制限拡充検討
 これもtwitterで少し触れていた点になるが、文化庁の法制・基本問題小委員会で写り込み等に関する権利制限の拡充について検討が進められている。

 一番最近の10月30日の第3回委員会の資料として、写り込みに係る権利制限規定の拡充に関する中間まとめ(案)が出されている。その「3.論点整理」から、現行の著作権法第30条の2に関する主な改正の方向性の部分を以下に抜き出す。

(1)対象行為
(略)
①生放送・生配信の取扱い
 生放送・生配信については、写り込みが生じる場合が多く想定される一方で、録音・録画の方法による場合と比較して権利者に与える不利益が大きいわけではないと考えられることから、対象に含めることが適当である。

②固定方法の拡大(スクリーンショット、模写等)
 写真の撮影・録音・録画以外の固定方法については、①スクリーンショットやプリントスクリーンのように、単に固定技術が相違するに過ぎないものと、②模写やCG化のように、不可避的な写り込みが生じない(著作物を除いて創作することが比較的容易である)という点で性質が異なるものが存在する。
 ①については、スマートフォンやタブレット端末等の急速な普及・発展により、日常生活においてごく一般的に行われるようになっているところ、著作物性のない文章や自らの著作物を保存する際に他人が著作権を有する画像が入り込む場合など、不可避的な写り込みが生じることが想定される一方で、技術の相違によって権利者に与える不利益に特段の差異はないと考えられることから、対象に含めることが適当である。②については、不可避的な写り込みが生じないとしても、被写体を忠実に再現するために著作物の複製等を行う必要がある場合も想定されるところ、写真の撮影等による場合と比較して権利者に与える不利益に特段の差異がない以上、そのような模写等の行為を行う自由を確保することが創作活動の促進・文化の発展等の観点からも望ましいと考えられることから、対象に含めることが適当である。
 なお、写り込みとは若干場面が異なるが、例えば、「自らが著作権を有する著作物が掲載された雑誌の記事を複製する際に、同一ページに掲載された他人の著作物が入り込んでしまう場合」などについても、日常生活等における一般な行為に伴い付随的に他人の著作物が利用される場面であり、写真の撮影等の場合と比較して権利者に与える不利益の程度に特段の差異がないと考えられることから、対象に含めることが適当である。

③条文化に当たっての留意事項
 上記を踏まえ、条文化に当たっては、技術・手法等にかかわらず幅広い行為が対象に含まれるよう、包括的な規定とすることが適当である。ただし、それによって、写り込みが生じ得るものとして想定している場合(様々な事物等をそのまま・忠実に固定・再現したり、伝達する場合)以外が広く対象に含まれてしまうことは適切でないため、適用範囲が過度に絞り込まれることのないよう注意しつつも、適切な表現で対象行為を特定する必要がある。

(2)著作物創作要件
(略)
イ.見直しの方向性
 現行規定の要件は、盗撮行為等に伴う写り込みを権利制限規定の対象から除外するとともに著作物の創作行為を促進する観点からは一定の合理性を有するとも考えられるが、固定カメラでの撮影等の場合にも、不可避的に写り込みが生じる場合が多く想定されるところ、本規定の主たる正当化根拠は、権利者に与える不利益が特段ない又は軽微であるという点にあるため、著作物を創作する場合か否かは必ずしも本質的な要素ではないと考えられる。このため、著作物を創作する場合以外も広く対象に含めることが適当である。
 ただし、単純に「著作物を創作するに当たつて」という要件を削除した場合には、映画の盗撮等の違法行為に伴う写り込みについても適法となり得ることには留意が必要である。この点については、①映画の盗撮等の行為自体が違法とされることをもって足りる(当該行為自体が違法となることで、そのような行為は十分に抑止されており、写り込み部分についてあえて違法とする必要はない)という考え方と、②主たる行為が著作権法上許容されないものであるにもかかわらず、それに伴う写り込みを適法とする必要はない(写り込んだ著作物の著作権者による権利行使が出来なくなるのは不合理である)という考え方の両方があり得る。
 仮に②の考え方を採用する場合には、例えば、端的に、著作権を侵害する行為に伴う写り込みは本規定の対象外とする旨の要件を設定することが考えられるが、本規定の主たる正当化根拠は権利者に与える不利益が特段ない又は軽微であるという点にあるところ、主たる行為が違法であることのみをもって一律に権利制限規定の適用対象外とすることが妥当か否かには一定の疑義もあり、そういった問題意識から①の考え方を支持する意見も複数あった。この点については、ただし書や他の要件の解釈に委ねることによる対応の可否も含め、法整備に当たって、適切な整理・措置がなされることが適当である。

(3)分離困難性・付随性
(略)
イ.見直しの方向性
①両者の関係性及び「分離困難性」の要否
 本規定の正当化根拠については、その著作物の利用を主たる目的としない他の行為に伴い付随的に生じる利用であり、利用が質的又は量的に社会通念上軽微であることが担保されるのであれば、著作権者にとって保護すべきマーケットと競合する可能性が想定しづらい(したがって権利者の利益を不当に害しない)という点に本質があるものと考えられるところ、これを担保する観点からは、「付随性」が重要な要件であると考えられる。 一方で、「分離困難性」については、「付随性」を満たす場合の典型例を示すものではあるが、この要件を課することが、本規定の正当化根拠からして必須のものとは考えられず、「付随性」や「軽微性」等により権利者の利益を不当に害しないことは十分に担保できると考えられる。このため、日常生活等において一般的に行われている行為を広く対象に含める観点から、この要件は削除することが適当である。

②「分離困難性」の削除に伴う要件追加の要否
 単に「分離困難性」の要件の削除のみを行った場合には、例えば、「分離が容易かつ合理的な場合であって、社会通念上、その著作物を利用する必要性・正当性が全く認められないような状況において意図的に写し込むこと」など、その著作物の利用が主目的であるにもかかわらず、それを覆い隠すために本規定を利用するといった濫用的な行為まで可能となってしまうおそれがある。
 このため、適用範囲が過度に絞り込まれることのないよう注意しつつも、例えば、主たる行為を行う上で「正当(又は相当)な範囲内において」などの要件を追加することにより、一定の歯止めをかけることが適当である。

③被写体の中に当該著作物が含まれる場合の取扱い
 本規定の対象として、メインの被写体と付随して取り込まれる著作物が別個のものである場合(事例1)のほか、街の雑踏を撮影する場合のように被写体(雑踏の光景)の中に当該著作物が含まれる場合(事例2)も含めるべきことには異論はないと考えられるが、現行規定のように「写真の撮影等の対象とするAに付随して対象となるB」といった規定ぶりを維持した場合には、事例2が対象に含まれるか否かが不明確となる。
 このため、条文化に当たっては、事例1と事例2を併記することにより、事例2についても対象に含まれることを明確化することが適当である。ただし、その際には、例えば、多数の著作物で構成される集合著作物・結合著作物(個々の著作物は、当該集合著作物・結合著作物の軽微な構成部分となっている)自体をメインの被写体とすることなど想定外の事例が対象に含まれることのないよう、注意する必要がある。

(4)軽微性
イ.見直しの方向性
 軽微な構成部分といえるか否かが上記のような総合的な考慮によるものであることを明確化し、利用者の判断に資するようにするため、法第47条の5第1項の規定(「・・その利用に供される部分の占める割合、その利用に供される部分の量、その利用に供される際の表示の精度その他の要素に照らし軽微なものに限る」)も参考にしつつ、考慮要素を複数明記することが適当である。
 なお、ここでいう「軽微」については、利用行為の態様に応じて客観的に要件該当性が判断される概念であり、当該行為が高い公益性・社会的価値を有することなどが判断に直接影響するものではないことに注意が必要である。

(5)対象支分権
(略)
イ.見直しの方向性
 上記(1)の対象行為の拡大に伴い、「公衆送信(送信可能化を含む)」、「演奏」、「上映」等を広く対象に含める観点から、第2項と同様に、「いずれの方法によるかを問わず、利用することができる」という形で包括的な規定とすることが適当である。

 文化庁の資料はいつも通り長ったらしく分かりにくいが、要するに、現行の写真等における写り込みに関する権利制限規定の対象を、生放送・生配信、スクリーンショット、模写等に拡大し、不要な分離困難性の要件を削除するという事であって、その事自体は写り込みの権利制限の性質から考えて当然の事としか思えず、今更何をと思うが、ここで、著作物創作要件の項目で、「著作物を創作する場合以外も広く対象に含めることが適当である」としながら、「違法行為に伴う写り込みについても適法となり得ることには留意が必要」で、「写り込み部分についてあえて違法とする必要はない」という考え方と「著作権を侵害する行為に伴う写り込みは本規定の対象外とする旨の要件を設定する」という考え方があり、「この点については、ただし書や他の要件の解釈に委ねることによる対応の可否も含め、法整備に当たって、適切な整理・措置がなされることが適当である」と奥歯に物の挟まった様な言い方をしている事には注意しておくべきだろう。

 ダウンロード違法化・犯罪化の対象拡大の問題において違法スクリーンショットの問題がかなり取り上げられたが(私は別にスクリーンショットのみの問題とはカケラも思っていないが)、今までやって来た事を考えても、違法な部分が含まれるスクリーンショット等を軽微な写り込みとして完全に合法化し、この点でわずかながらでも問題の軽減化を図ろうとする考えは文化庁にはない様に見えるのである。

 もう1つ、研究目的に係る権利制限規定の創設に当たっての検討について(案)(pdf)という資料も出されている。研究のための一般的な権利制限など今すぐあって良いものと私は思うが、こちらも、今年度は議論と調査研究で、来年度以降に権利制限規定の制度設計等について検討と極めて見通しが悪い。

 いずれにせよ、文化庁の検討についてはまた中間まとめのパブコメ(文化庁のHP、電子政府のHP参照)などで意見を出したいと思っている。

(3)ブロッキング訴訟東京高裁判決
 最後に、弁護士ドットコムの記事になっているが、10月30日にNTTコミュニケーションズに対するブロッキングに関する訴訟の判決が東京高裁で出された。この記事にも書かれ、また、訴訟を提起した中澤佑一弁護士がそのtwitterで引用している様に、

本件ブロッキングを実施した場合には,第1審被告によりユーザーの全通信内容(アクセス先)の検知行為が実行され,このことが日本国憲法21条2項の通信の秘密の侵害に該当する可能性があることは,第1審原告が指摘するとおりである。児童ポルノ事案のように,被害児童の心に取り返しのつかない大きな傷を与えるという日本国憲法13条の個人の尊厳,幸福追求の権利にかかわる問題と異なり,著作権のように,逸失利益という日本国憲法29条の財産権(財産上の被害)の問題にとどまる本件のような問題は,通信の秘密を制限するには,より慎重な検討が求められるところではある

と、傍論ながら、著作権ブロッキングが通信の秘密の侵害となり得るという判断を裁判所が示した事はかなりの重みを持つものと私も考える。今のところ、総務省の検討結果でも(第412回参照)、インターネット海賊版対策としてブロッキングやアクセス警告方式の導入は困難とされているが、この様な裁判所の判断はブロッキングのみならず同じくユーザーの全通信内容の検知行為が実行されるものであるアクセス警告方式についても当然通用するに違いないのである。

(2019年11月18日夜の追記:幾つか誤記を直し、文章を整えた。)

(2019年11月20日夜の追記:11月30日〆切でかかっている文化庁の中間まとめに対するパブコメについて上でリンクを追加した。)

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2018年9月10日 (月)

第398回:世界のブロッキングを巡る状況の概観

 知財本部でブロッキングに関する検討が異常なほどの急ピッチで継続されており、インターネット上の海賊版対策に関する検討会議は、8月25日に第5回、8月30日に第6回が開かれ、9月13日に第7回が開催される予定となっている(開催案内参照)。

 前回、ドイツの仮処分事件について書いたが、今回はその補足として世界のブロッキングを巡る状況の概観について書いておきたい。ただし、実の所、ブロッキングについては、世界のどの国でも最近それほど大きな動きがあったということはないので、今回の記事は今までの話のまとめに近く新しい情報は含まれていないことをあらかじめお断りしておく。

 ここで、ブロッキングを巡る世界の状況については、上の検討会議の第6回で弁護士の森亮二委員が資料9として提出したブロッキングの法制化に関する疑問(pdf)が、MPAAの話の受け売りで、世界各国でブロッキングが法制化されているかの様な印象操作を含む知財本部の以前の資料について「『世界42カ国』は本当か?」と疑義を呈しているのは正鵠を射ていると言っていい。

 この資料及び知財本部の検討会議で提出されている他の資料なども参照しつつ、以下、世界各国のブロッキングを巡る状況について概観をまとめて行く。

(1)欧州
 ドイツでブロッキングが初めて認容された仮処分事件について前回書いたが、そこでも書いた通り、ブロッキングを巡ってはヨーロッパの状況はなお混沌としていると私は見ている。

 上の森亮二委員の資料で疑義を呈されている知財本部の過去の資料で、欧州でブロッキングを可能とする法制があるとする根拠は、欧州著作権指令(正式名称は「情報社会における著作権及び著作隣接権のある側面の調和に関する2001年5月22日の欧州議会及び理事会の指令第2001/29号」)の第8条第3項だが、これは以下のように書かれているに過ぎない。(以下、翻訳は全て拙訳。)

Article 8 Sanctions and remedies
...
3. Member States shall ensure that rightholders are in a position to apply for an injunction against intermediaries whose services are used by a third party to infringe a copyright or related right.

第8条 罰及び救済
(略)
第3項 加盟国は、著作権又は著作隣接権を侵害するために第三者にそのサービスが使われる仲介者に対する差し止めの申請を権利者に可能とする事を確保しなければならない。

 これは、仲介者への差し止めを可能とすることを規定しているが、これはいわゆる著作権の間接侵害責任のことを言っているだけであり、この部分とブロッキングの可否とは別物と私は理解している。

 大体、解釈は最後欧州司法裁判所で統一されるものの、これはあくまでその具体的な法制化は各国に委ねられる欧州指令である。つまり、欧州各国でこの規定と同程度の間接侵害規定はどこでも法制化されているだろうが、そのこととブロッキングの可否は別の話である。このことは、ドイツの裁判所でブロッキングについて著作権法条の通常の差し止め規定と民法上の一般的な妨害者責任から判断していることからしても分かる事のはずである。

 すなわち、今の所、欧州で著作権侵害を理由としたブロッキングを積極的に可能とするような特別の法制を有している国はなく、他の事情も考慮した上でやむを得ないと司法が判断した場合に間接侵害責任を認めてアクセスプロバイダーにサイトブロッキングを命じている例が幾つかの国であるに過ぎず、それすら成功しているとは言い難いという状況ではないかと私は見ている。(欧州の状況については、オランダのパイレートベイ事件に関する欧州司法裁判所の判決と関連判例を取り上げた第379回も参照。)

 なお、知財本部で今まで取り上げられた欧州の国にはイギリスがある。イギリスの裁判所がブロッキングの根拠としているイギリス著作権法第97A条は、

97A Injunctions against service providers

(1)The High Court (in Scotland, the Court of Session) shall have power to grant an injunction against a service provider, where that service provider has actual knowledge of another person using their service to infringe copyright.

(2)In determining whether a service provider has actual knowledge for the purpose of this section, a court shall take into account all matters which appear to it in the particular circumstances to be relevant and, amongst other things, shall have regard to-
(a)whether a service provider has received a notice through a means of contact made available in accordance with regulation 6(1)(c) of the Electronic Commerce (EC Directive) Regulations 2002 (SI 2002/2013); and

(b)the extent to which any notice includes-
(i)the full name and address of the sender of the notice;
(ii)details of the infringement in question.

(3) In this section "service provider" has the meaning given to it by regulation 2 of the Electronic Commerce (EC Directive) Regulations 2002.

第97A条 サービスプロバイダーに対する差し止め

第1項 高等裁判所(スコットランドにおいては、控訴院)は、サービスプロバイダーが他の者がそのサービスを著作権を侵害する事に使っている事を実際に知った場合、サービスプロバイダーに対する差し止めを認める権限を有する。

第2項 本条の目的のためにサービスプロバイダーが実際に知ったかどうかを決めるにあたり、裁判所は関係する個別の状況においてそこに現れるあらゆる事を考慮に入れなければならず、特に次の事に注意しなければならない-
(a)サービスプロバイダーが、電子商取引(EC指令)規則2002(SI 2002/2013)の規則6(1)(c)に沿って提供する連絡手段を通じて通知を受け取っているかどうか;そして

(b)通知が以下の事をどれだけ含んでいるか-
(ⅰ)通知の送信者の氏名及び住所
(ⅱ)問題となる侵害の詳細

(c)本条において「サービスプロバイダー」は、電子商取引(EC指令)規則2002(SI 2002/2013)の規則2によって与えられる意味である。

というものであるが、読めば分かる通り、これはイギリスで2003年に上の欧州著作権指令に対応する国内法を作ったものであるが、イギリス特有の解釈とはいえ、この規定に基づいてアクセスプロバイダーにブロッキングを命令するのはかなり無理をしていると思わざるを得ない。

 イギリスのことは、上の検討会議の第4回で明治大学の今村准教授が資料1として提出した英国におけるサイトブロッキング法制とその運用状況について(pdf)でも書かれているが、判例法の国であるイギリスの話も非常にややこしく、イギリスのことも含めて欧州の個々の国の著作権事情に関する私の補足はまた別途書きたいと思っている。

(2)アメリカ
 日本政府はどのような政策検討でもいつもアメリカの話を持ち出すが、今回の知財本部の検討会議ではほとんどアメリカの話が出て来ていない。

 森亮二委員がその資料で、今回の知財本部の検討はアメリカで廃案になったSOPAに含まれていた事とほとんど同じではないかと指摘しているのはまさしく慧眼であり、アメリカでは、サイトブロッキング条項を含むオンライン海賊対策法案(SOPA)や知財保護強化法案(PIPA)がIT企業やユーザーから検閲であるとして大反対を受けてその審議が止まり、その後もこの様な法案が復活する気配はないのである。SOPAの話は自分のパブコメでも繰り返し伝えているが、このようにアメリカで著作権サイトブロッキング法案が廃案になったという事実は知財本部での検討にとって都合の悪い事なのだろう。

 2011年から2012年の事でもう皆忘れつつあるのかも知れないが、このブログでの第263回でも当時のホワイトハウスの声明を取り上げるなどしており、当時の騒ぎは相当のものだったと記憶している。(当時の経緯は、SOPAのウィキペディアとPIPAのウィキペディアのそれぞれにもまとめられている。)

(3)その他
 その他の国で何故か知財本部で取り上げられている国はオーストラリアと韓国であるが、知財本部の検討会議の第3回の、慶応大学の奥邨教授提出のオーストラリアにおけるサイトブロッキング制度と我が国著作権法制への示唆(pdf)と、獨協大学の張准教授の韓国における海賊版サイトの接続遮断措置の概要(pdf)に書かれている通り、これらの国でサイトブロッキングのための特別の法制が作られているので、知財本部でわざわざ選んで紹介を各教授に依頼したのではないかという疑念が拭えない。

 確かに、オーストラリアは国外サイト限定の裁判所の判断による司法ブロッキングを法制化しており、韓国は行政命令によるブロッキングを法制化しているが、裏を返せば、オーストラリアと韓国を除けばブロッキングについて特別な法制がある国は他になく、他の国では判例はさらにないと言っていいのだろう。さらに言えば、オーストラリアや韓国でも、本当にブロッキングにより海賊版対策としての効果が上がっているのかは相当疑問である。(繰り返しになるが、ブロッキングにより対象サイトのアクセスが減る事自体は当たり前の事であって、海賊版対策としての効果はそれとは別にきちんと評価されなければならない。)

 知財本部で取り上げられた国を見ると、ブロッキングありきの検討を行うために選んだのではないかという疑念をどうしても抱かざるを得ないが、私の見る限り、ブロッキングを巡っては世界のどの国であれなお混沌とした状況にあり、いかなる形を取るにせよブロッキングの採用が有効な海賊版対策として世界の主要な流れとなっているとは到底言い難いのである。さらに、ネット規制において悪名高い国として常に名があがるイギリスやオーストリア、韓国などはほとんど反面教師にしかならないだろうとも私は考えている。

 知財本部の第6回の事務局資料のブロッキングに係る法制度整備を行う場合の論点について(案)(pdf)中間まとめ骨子(案)(pdf)からも微妙にきな臭さが漂って来るが、今後の会合でブロッキングありきの恣意的なまとめがなされない事を私は心から願っている。

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2016年8月14日 (日)

第367回:東アジア地域包括経済連携協定(RCEP)の2015年10月版知財章リーク条文案

 日本も参加しており、現在進行形で続いている、TPPと並ぶ大規模な国際協定交渉に東アジア地域包括連携協定交渉(RCEP)がある。

 外務省のHPにある通り、RCEPはアセアン・ASEAN諸国と日中韓、オーストラリア、ニュージーランドとインドで交渉されているものであり、交渉開始から3年以上経過し、今現在もベトナムで第14回の交渉会合が開催されているはずだが、TPPと同じく秘密裏に交渉が進められており、その具体的な内容についてはいまだに良く分からないという状況にある。

 TPPに比べると危険性がかなり低いので後回しにしていたのだが、少し前、この4月にkeionline.orgからRCEPの2015年10月15日版知財章条文案がリークされているので、今回はざっとその内容を見ておきたい。

 そのリーク条文案(docx)から各節のタイトルとともに私が気になる部分を抜き出して翻訳をつけると以下のようになる。

[ASN/IN/AU/NZ/KR propose: JP oppose: SECTION 1 GENERAL PROVISIONS AND BASIC PRINCIPLES

...

SECTION 2 COPYRIGHT AND RELATED RIGHTS

...

[ASN/NZ/CN/IN/AU/JP propose; KR oppose: Alt 1: Article 2.3 Circumvention of Effective Technological Control Measures

Each Party shall [ASN propose; JP/AU oppose: endeavour to] provide adequate legal protection and effective legal remedies against the circumvention of effective technological measures that are used by [ASN propose; JP/AU oppose: copyright owners] [JP/AU propose; ASN oppose: authors, performers or producers of phonograms] in connection with the exercise of their [ASN/AU propose; JP oppose: copyright rights] [JP propose; ASN/AU oppose: rights in,] and that restrict acts, in respect of their works, [JP/AU propose; ASN oppose: performances, or phonograms,] which are not authorised by the [ASN/AU propose; JP oppose: copyright owners] [JP propose; ASN/AU oppose: authors, the performers or the producers of phonograms] concerned or permitted by law.]

[KR propose; ASN/AU/NZ/IN/CN oppose: Alt 2 : Protection of Technological Measures

1. Each Party shall provide adequate legal protection against the circumvention of any effective technological measures, which the person concerned carries out in the knowledge, or with reasonable grounds to know, that such person is pursuing that objective.

2. Each Party shall provide adequate legal protection against the manufacture, import, distribution, sale, rental, advertisement for sale or rental, or possession for commercial purposes, of devices, products or components, or the provision of services which:

(a) are promoted, advertised or marketed for the purpose of circumvention of;

(b) have only a limited commercially significant purpose or use other than to circumvent; or

(c) are primarily designed, produced, adapted or performed for the purpose of enabling or facilitating the circumvention of,

any effective technological measures.
...

[KR/AU Propose; ASN/CN/ oppose: Article 2.6 Copyright and Related Rights]

[KR/AU Propose; ASN/IN/CN/NZ oppose: 1. Each Party shall provide that the term of protection of broadcast shall not be less than 50 years after the taking place of a broadcasting, whether this broadcasting is transmitted by wire or over the air, including by cable or satellite.]

...

SECTION 3 TRADEMARKS

Article 3.1 [KR/CN/JP propose; ASN/IN/AU/NZ oppose: Trademarks Protection

1. The Parties shall grant adequate and effective protection to trademark right holders of goods and services.]

[AU/KR/JP/NZ/CN/IN propose; ASN oppose: 2. No Party shall require, as a condition of registration, that trademarks be visually perceptible, nor deny registration of a trademark solely on the grounds that the sign of which it is composed is a sound [JP/NZ/CN/KR/IN oppose: or a scent]. ]

SECTION 4 GEOGRAPHICAL INDICATIONS

...

SECTION 5 PATENTS

...

[JP/KR propose; ASN/IN/AU/NZ/CN oppose: Article 5.13 Patent Term Restoration

1. With respect to the patent which is granted for an invention related to pharmaceutical products, each Party shall, subject to the terms and conditions of its applicable laws and regulations, provide for a compensatory term of protection for any period during which the patented invention cannot be worked due to marketing approval process.]

[2. For the purposes of paragraph 1:

(a) "compensatory term of protection" means an extension of a term of patent protection;

(b) "marketing approval" means approval or any other disposition by the competent authorities that is intended to ensure the safety and, where applicable, efficacy of the pharmaceuticals as provided for in the relevant laws and regulations of each Party; and

(c) the length of the compensatory term of protection shall be equal to the length of extension which the patentee requests, provided that the compensatory term of protection shall not exceed either the length of time during which the patented invention cannot be worked due to marketing approval processes, or a maximum term as provided for in the laws and regulations. Such maximum term shall be at least five years.]

[KR propose: ASN/IN/AU/NZ/CN/JP oppose: 3. Each Party, at the request of the patent owner, shall adjust the term of a patent to compensate for unreasonable delays that occur in granting the patent. For purposes of this subparagraph, an unreasonable delay shall at least include a delay in the issuance of the patent of more than four years from the date of filing of the application in the territory of the Party, or three years after a request for examination of the application, whichever is later. Periods attributable to actions of the patent applicant need not be included in the determination of such delays].]

...

SECTION 6 INDUSTRIAL DESIGNS

...

[ASN/CN propose; AU/IN/JP/KR oppose: Alt 1: SECTION 7 GENETIC RESOURCES, TRADITIONAL KNOWLEDGE (GRTK)
AND FOLKLORE (GRTKF)

...

[JP/KR/NZ propose: SECTION 8 UNFAIR COMPETITION

...

SECTION 9 ENFORCEMENT OF INTELLECTUAL PROPERTY RIGHTS

...

[JP/KR/AU propose: SECTION 9bis ENFORCEMENT - CIVIL REMEDIES]

...

[KR propose; JP/NZ/ASN/IN/AU oppose: Article 9bis.3

In civil judicial proceedings, each Party shall, at least with respect to works, phonograms, and performances protected by copyright or related rights, and in case of trademark counterfeiting, establish or maintain pre-established damages, which shall be available on the election of the right holder. Pre-established damages shall be in an amount sufficient to constitute a deterrent to future infringements and to compensate fully the right holder for the harm caused by the infringement. ]

...

[JP/KR/AU propose; ASN/IN oppose: SECTION 9ter ENFORCEMENT - BORDER MEASURES]

...

[JP/KR/AU Propose ; ASN oppose: SECTION 9quater BORDER MEASURE - CRIMINAL REMEDIES]

...

[JP/KR/AU propose ; ASN oppose: SECTION 9quinquies ENFORCEMENT - IN THE DIGITAL ENVIRONMENT]

...

[ASN/IN/NZ/AU/KR propose: SECTION 10 COOPERATION AND CONSULTATION

...

SECTION 11 TRANSPARENCY

...

[ASN/IN/NZ/CN propose: SECTION 12 [AU oppose : SPECIAL AND DIFFERENTIAL TREATMENT] [AU propose : ADDITIONAL FLEXIBILITIES FOR LDC], TRANSITIONAL PERIOD AND TRANSITIONAL ARRANGEMENTS

...

[JP propose: SECTION 13 PROCEDURAL MATTERS

...

[アセアン/印/豪/ニュージー/韓提案:日反対:第1節 一般規定及び基本原則

(略)

第2節 著作権及び著作隣接権

(略)

[アセアン/ニュージー/中/印/豪/日提案;韓反対;代替1:第2.3条 有効な技術的コントロール手段の回避

各加盟国は、その[アセアン/豪提案;日反対:著作権][日提案;アセアン/豪反対:そこにおける権利]の行使に関連して[アセアン提案;日/豪反対:著作権者][日/豪提案:アセアン反対:著作者、実演家又はレコード製作者]によって用いられ、その著作物、[日/豪提案;アセアン反対:実演又はレコード]に関して、関係するか、法によって認められた[アセアン提案;日/豪反対:著作権者][日/豪提案:アセアン反対:著作者、実演家又はレコード製作者]の許諾を受けない行為を制限する有効な技術的手段の回避に対して適切な法的保護及び有効な法的救済を与えなければならない。]

[韓提案;アセアン/豪/ニュージー/印/中/反対:代替2:技術的手段の保護

第1項 各加盟国は、そうと知ってか、その者にその目的を追求していると知るに足る合理的な理由がある場合に関係者が実施した有効な技術的手段の回避に対して適切な法的保護を与えなければならない。

第2項 各加盟国は、以下の装置、製品又は部品の製造、輸入、頒布、販売、貸与、販売又は貸与のための広告若しくは商業目的での所持、若しくは以下のサービスの提供に対して適切な法的保護を与えなければならない:

それが有効な技術的手段の

(a)回避の目的のために推奨されているか、広告されているか、販売されているか;

(b)回避以外には制限された商業的に重要な目的又は用途しか持たないか;若しくは

(c)回避を可能とするか、容易とする目的のために主として設計されるか、適合されるか、実施されているか。
(略)

[韓/豪提案;アセアン/中反対:第2.6条 著作権及び著作隣接権

[韓/豪提案;アセアン/印/中/ニュージー反対:第1項 各加盟国は、放送の保護期間を、ケーブルや衛星も含め、その放送が有線で伝送されたか、無線で伝送されたかによらず、その放送がなされた時から50年以上とすることを規定しなければならない。]

(略)

第3節 商標

第3.1条[韓/中/日提案;アセアン/印/豪/ニュージー反対:商標の保護

第1項 加盟国は商品とサービスの商標権者に対して適切で有効な保護を与えなければならない。]

[豪/韓/日/ニュージー/中/印提案;アセアン反対:第2項 加盟国は、登録の条件として、商標が視覚的に近く可能であることを求めてはならず、それを構成する標章が音[日/ニュージー/中/韓/印反対:又は匂い]であることのみを理由として商標の登録を拒絶してはならない。]

(略)

第4節 地理的表示

(略)

第5節 特許

(略)

[日/韓提案;アセアン/印/豪/ニュージー/中反対:第5.13条 特許の保護期間の回復

第1項 医薬品に関係する発明に付与された特許に関して、各加盟国は、その適用法規の文言及び条件に従い、特許を受けた発明が販売認可手続きによって実施不可能であった期間について補償する保護期間を与えなければならない。]

第2項 第1項の目的において:

(a)「補償する保護期間」は、特許の保護期間の延長を意味する。

(b)「販売認可」は、各加盟国の関係法規の規定により、医薬品の安全及び、適用される場合は、有効性を保証する権限を有する当局による認可又はその他の処分を意味する。

(c)補償する保護期間の長さは、特許権者が求める延長の長さに等しくなければならない、ただし、補償する保護期間は、販売認可手続きのために特許を受けた発明を実施できなかった期間の長さか、法規において規定される最長期間を超えてはならない。この最長期間は少なくとも5年でなければならない。]

[韓提案:アセアン/印/豪/ニュージー/中/日反対:第3項 各加盟国は、特許権者の求めにより、特許付与において生じた不合理な遅延を補償するための特許の保護期間の調整をしなければならない。本項の目的において、不合理な遅延は、少なくとも、加盟国の領土内で出願日から4年を超えるか、出願審査請求から3年後かのいずれか遅い方の特許の発行における遅延を含まなければならない。特許出願人の行為に起因する期間はこの遅延の決定において含まれる必要はない]。]

(略)

第6節 工業意匠

(略)

[アセアン/中提案;豪/印/日/韓反対:代替1:第7節 遺伝資源、伝統的知識及びフォークロア

(略)

[日/韓/ニュージー提案:第8節 不正競争

(略)

第9節 知的財産権のエンフォースメント

(略)

[日/韓/豪提案:第9節の2 エンフォースメント−民事救済措置

(略)

[韓提案;日/ニュージー/アセアン/印/豪反対:第9の2.3条

民事司法手続きにおいて、各加盟国は、少なくとも著作権又は著作隣接権の保護を受ける作品、レコード及び実演に関し、及び商標権侵害の場合に、権利者の選択により利用可能なあらかじめ定められた損害賠償を確立又は維持しなければならない。あらかじめ定められた損害賠償は、将来の侵害に対する抑止となり、侵害によって生じた損害について権利者に対して完全な補償となるのに十分な量とされなければならない。]

(略)

[日/韓/豪提案;アセアン/印反対:第9節の3 エンフォースメント−国境措置

(略)

[日/韓/豪提案;アセアン反対:第9節の4 国境措置−刑事救済措置

(略)

[日/韓/豪提案;アセアン反対:第9節の5 エンフォースメント−デジタル環境における

(略)

[アセアン/印/ニュージー/豪/韓提案:第10節 協力及び協議

(略)

第11節 透明性

(略)

[アセアン/印/ニュージー/中提案:第12節[豪反対:特別な差異のある取り扱い][豪提案:後発開発途上国に関する追加の柔軟性]、移行期間及び移行に関する取り決め

(略)

[日提案:第13節 手続きに関する事項

(略)

 上で抜き出した部分からも分かる通り、このRCEPにおいてもTPPと同じく、

  • 技術的保護手段回避規制
  • 著作権の保護期間
  • 匂いの商標
  • 特許の保護期間延長
  • 法定損害賠償

といったかなり注意を要する事項について議論がされているが、TPPとは違って日本政府に対して強い圧力をかけられるアメリカが交渉に入っていないためだろう、このリーク条文案を見る限り、2015年10月の時点で日本政府が知財政策上危ないコミットメントをしている様子は特にない。

 RCEPにおける各国の構図は、韓米FTAのために既にアメリカ型の制度を導入しているためだろうが、韓国が最もアメリカ型の強い知財保護を要求し、それに次ぐ形で日本が保護強化を求め、他の多くの国がそれに反対するというものになっており、このような構図が続く限りにおいて、RCEPが日本にとって危ない形でまとまる可能性は低いのではないかと私は踏んでいる。(実際、同じくkeionline.orgからリークされている過去の2014年10月時点の各国知財章提案のリーク(印及びアセアン)を見ると、韓国の提案が著作権保護期間を70年とするなど群を抜いて危険だが、上で訳出した部分に書かれている通り、2015年10月時点の条文案では放送について50年以上とすることしか残っていない。)

 しかし、多様なアジア諸国による協定交渉の割には、上で訳した各節のタイトルからも分かる通り、著作権、商標、特許、意匠、地理的表示、不正競争等々と対象範囲が異常に広く、事項によってはTPPより細かな規定を含み、TPPの国内外での進展具合によって日本政府がRCEPの交渉の中で危うい提案をする可能性も否定できない。(アメリカ次期大統領主要候補であるヒラリー・クリントン氏とドナルド・トランプ氏が2人ともTPPに対して明確に反対の立場を取っていることから、今の形でのTPPは死に体に近いと私は思っているが、日本政府が今なお前のめりの姿勢を崩していないのは不可解と言う他ない。アメリカが再交渉に関して日本における法改正・批准を顧慮することなどほぼないだろうからである。そもそも日本政府がアメリカとの再交渉についてそんな力を持っていたらTPPの条文はご覧の有様になっていないだろう。)

 そのため、このRCEPについても注意しておくに越したことはなく、今のところやはりリーク条文に頼らざるを得ないのは極めて残念なことと言わざるを得ないが、この交渉についてもその透明化、情報公開は必須だろうと私は思っている。

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2016年5月29日 (日)

第364回:フェアユース導入を求めるオーストラリア政府生産性委員会報告書案

 参院選を前に政治的な動きはどんどんきな臭くなって来ているが、時間的にはまだ少し余裕があるように思うので、今回は、著作権国際動向の一つとして、先月に公開されたフェアユース導入をかなり強い調子で求めているオーストラリア政府の独立委員会の一つである生産性委員会の報告書案を取り上げる。

 この報告書案(pdf)の概要で、フェアユースについては以下のように書かれている。(例によって、以下全て翻訳は拙訳。)

A new system of user rights

The limited exceptions to the exclusive rights granted to creators under Australia's copyright law do little to restore the balance.

Exceptions operate as a defence for acts that would otherwise be an infringement of a creator's exclusive rights. At a high level, Australia allows 'fair dealing' in copyright material; time- and format-shifting of copyright material; libraries, archives and other cultural institutions to preserve and disseminate works, particularly in the digital era; and the operation of some technology processes. These exceptions are too narrow and prescriptive, do not reflect the way people actually consume and use content in the digital world, and are insufficiently flexible to account for new legitimate uses of copyright material.

Consistent with the recommendation of the Australian Law Reform Commission in 2013, the Commission is recommending Australia's current exception for fair dealing be replaced with a broader US-style fair use exception. Such an approach would see copyright better target those works where 'free riding' by users would undermine the economic incentives to create and disseminate works. The fair use exception should be open ended and based on a number of fairness factors, which the courts would consider when testing whether a use of copyright material interferes with the normal exploitation of the work. These should include the:
・effect of the use on the market or value of the copyright protected work at the time of the use
・amount, substantiality or proportion of the work used, and the degree of transformation applied to the work
・existing commercial availability of the work
・purpose and character of the use, including whether the use is commercial or private.

One of the key advantages of a fair use over a fair dealing exception is that the law can adapt to new circumstances and technologies. Under a fair dealing exception, legislative change is required to expand the categories of use deemed to be fair. In contrast, under fair use, courts have the latitude to determine if, on the facts, a new use of copyright material is fair.

Not surprisingly, submissions to this inquiry from participants currently benefiting from copyright protection universally argued against the adoption of fair use in Australia. Many participants suggested that by design, fair use is imprecise on the permissible uses of copyright material, and its adoption would create significant legal uncertainty for both rights holders and users. Putting the decision about which uses are fair in the hands of the court system necessitates litigation to determine the scope of infringements. Given the time and cost such court action entails, both rights holders and users might face some, at least initial, uncertainties about the degree of protection afforded to new uses.

In the Commission's view, legal uncertainty is not a compelling reason to eschew a fair use exception in Australia, nor is legal certainty desirable in and of itself. Courts interpret the application of legislative principles to new cases all the time, updating case law when the circumstances warrant doing so.

To reduce uncertainty, the Commission is recommending Australia's fair use exception contain a non-exhaustive list of illustrative uses, which provides strong guidance to rights holders and users. Existing Australian and foreign case law, particularly from the United States where fair use has operated for some time, will provide further guidance on what constitutes fair use.

Participants currently benefiting from copyright protection also argued fair use will significantly reduce the incentive to create and invest in new works, industry profitability and employment. The Commission considers that industry perspectives on the costs are overstated and premised on flawed assumptions. Further, most new works consumed in Australia are sourced from overseas and their creation is unlikely to be responsive to changes in Australia's fair use exceptions. In the Commission's view, enacting a fair use provision would deliver net benefits to Australian consumers, schools, libraries, cultural institutions and the broader community.

利用者の権利に関する新しい制度

オーストラリアの著作権法において創作者に付与される排他権に対する限定的な例外ではほとんどバランスは回復できていない。

例外はそれがない場合に創作者の排他権の侵害となる行為に対する抗弁として機能する。上位のレベルで、オーストラリアは著作物に関し、著作物のタイム又はフォーマットシフト、特にデジタル時代において、図書館、文書館又は他の文化機関が著作物を保存し、普及すること及び幾つかの技術的プロセスの実施といった「フェアディーリング」を認めている。これらの例外は余りにも狭く不自由であり、人々が現在デジタル世界においてコンテンツを消費、利用するやり方を反映しておらず、著作物の新しい正当な利用を担うために十分柔軟なものではない。

2013年のオーストラリア法改正委員会の勧告と同じく、本委員会はオーストラリアの現在のフェアディーリングのための例外はより広いアメリカ型のフェアユースの例外に置き換えられるべきであると勧告する。このようなアプローチにおいて、これらの仕事は著作権のより適切な目標を見据えているのであり、利用者によるフリーライドが著作物の創作と普及の経済的インセンティブを掘り崩しかねないと言われる場合においてもそうである。フェアユースの例外はオープンエンドであるべきであり、著作物のその利用が著作物の通常の利用を害するかどうかを判断するときに裁判所が考慮する、幾つかの公正の要素に基づくべきである。これらは以下を含むべきである:
・利用の時点での著作権の保護を受ける著作物の市場又は価値への利用の影響
・利用される著作物の量、本質性又は比率、及び著作物に適用される改変の程度
・著作物の存在している商業的入手可能性
・利用が商業的か私的かを含め、利用の目的及び性質

フェアディーリングの例外に対するフェアユースの主な利点の一つは、法が新しい状況と技術に適応できることである。フェアでイーリングの例外の下では、公正とされるべき利用のカテゴリーを広げるために法改正が必要とされるのである。対照的に、フェアユースの下では、裁判所が、事実に基づき、著作物の新しい利用が公正かどうかを決定する自由度を持っている。

驚くべきことではないが、本諮問への現在著作権の保護から利益を得ている関係者からの意見は一律オーストラリアにおけるフェアユースの採用に対する反対を主張している。多くの関係者が、設計からフェアユースは著作物の許される利用に関して不正確であり、その採用は著作権者と利用者の双方ともに重大な法的不明確性を作り出すことになると言っている。どの利用が公正かを決定することを裁判所の手に任せることは侵害の範囲を決めるために訴訟を必要とする。そのような訴訟に必要となる時間とコストがあったとしても、少なくとも当初、権利者と利用者の双方ともに、新しい利用に与えられる保護の程度についての不明確性に直面することになるだろうと。

本委員会の見解では、法的不明確性はオーストラリアにおいてファユースの例外を避けるべきやむを得ない理由ではなく、法的明確性もそれ自体において、それ自体で望ましいものではない。裁判所がいつでも新しいケースへの法的原則の適用を解釈し、状況からそうすることが正当化されるとき判例法を更新することになる。

不明確性を減らすため、本委員会は、オーストラリアのフェアユースは権利者と利用者に対する強力な指針を提供する、典型的な利用の非包括リストを含むべきであると勧告する。既存のオーストラリアと外国の判例法、特にフェアユースがかなりの時間実施されているアメリカから、は、それに基づいてフェアユースが構成されるさらなる指針を提供するであろう。

現在著作権の保護から利益を得ている関係者は、新しい著作物の創作と投資、業界の採算性と雇用を大きく減らすだろうとも主張している。本委員会は、コストに関する業界の見方には誇張があり、間違った思い込みを前提としていると考えている。さらに、オーストラリアにおいて消費される新しい著作物のほとんどは外国から来ているものであり、その創作がオーストラリアにおけるフェアユースの例外についての変化に反応するとは思えない。本委員会の見解では、フェアユース規定の施行はオーストラリアの消費者、学校、図書館、文化機関及び社会一般に正味の利益をもたらす。

 この部分でも述べられている通り、オーストラリアでは過去に法改正委員会でも同様のフェアユース導入が提言されており(第308回参照)、オーストラリアの政府委員会がフェアユースを提言するのはこれで2度目ということになる。しかも、今回の提言は、権利者側が良く持ち出す法的不明確性についてもそれ自体ではフェアユースを導入しない理由にならないと切って捨てているなど、生産性委員会という委員会の性質のためもあるだろうが、かなり強い調子のものとなっている。

 オーストラリアでも別に政府の委員会が報告書案を出したからと言ってその通りに法改正がなされるようなことはないと思うが、前にも書いた通り、このような報告書が政府レベルで出されて来ていることは、フェアユースの重要性に関する認識が世界的に広まって来ていることの証左にはなるだろう。

 また、この報告書案の第143ページに以下のような表も載せられているが、この表からだけでもオーストラリアのフェアディーリングが如何に狭く使いづらいか分かろうというものである。
Au_fair_use_table
 今年日本の知財計画でもフェアユース導入に関してかなり踏み込んだ記載が入り、これから検討が進められるのではないかと思うが、過去の結局どうにもならなかった日本版フェアユース導入に関する議論のことを考えても、文化庁と権利者団体によって議論が矮小化され、例によって尻すぼみになるのではないかという気がしてならない。日本の権利制限範囲の利用とフェアユースで認められると考えられる利用の範囲を考えてメリットデメリットを公平中立に考えれば導入した方が良いという以外の結論は出ないと私は思っているが。(無論、個別の権利制限による対応も理論的にはあり得るのは分かっているが、文化庁と権利者団体がスクラムを組んで権利制限をほとんど使えないほど狭くするか潰すのが常態化している中ではそのような個別の権利制限による対応は現実的にあり得ないと言わざるを得ない。)

 また、この報告書案は著作権保護期間が長すぎることについてもかなり強い調子で非難しており、この点も政府レベルの報告書案としては非常に興味深いので、同じく概要から該当部分を以下に抜き出しておく。

Copyright term is excessive and imposes costs

Copyright protects literary, musical, dramatic and artistic works for the duration of the creator's life plus 70 years. Following publication, sound recordings and films are protected for 70 years, television and sound broadcasts for 50 years, and published editions for 25 years. To provide a concrete example, a new work produced in 2016 by a 35 year old author who lives until 85 years will be subject to protection until 2136.

The evidence (and indeed logic) suggests that the duration of copyright protection is far more than is needed. Few, if any, creators are motivated by the promise of financial returns long after death, particularly when the commercial life of most works is less than 5 years.

Overly long copyright terms impose costs on the community. Empirical work focussing on Australia's extension of copyright protection from life plus 50 years to life plus 70 years (a requirement introduced as part of the Australia-United States Free Trade Agreement) estimated that an additional 20 years protection would result in net transfers from Australian consumers to foreign rights holders of around $88 million per year. But these are likely to be a fraction of the full costs of excessive copyright protection. The retrospective application of term extension exacerbates the cost to the community, providing windfall gains to copyright holders with no corresponding benefit.

Other costs are harder to quantify. Long periods of copyright protection, coupled with automatic application and no registration requirements, results in many works being 'orphaned' - protected by copyright but unusable by libraries, archives and consumers because the rights holder cannot be identified. Many other works are also unavailable to consumers once outside of their window of commercial exploitation.

A number of studies have attempted to estimate a duration of protection where the benefits to holders are matched by the costs to users. These studies find that a term of around 25 years enables rights holders to generate revenue comparable to what they would receive in perpetuity (in present value terms), without imposing onerous costs on consumers.

著作権の保護期間は過度に長く、大きなコストがかかっている。

著作権は文学、音楽、劇及び芸術作品を創作者の死後70年まで保護している。公表後、録音と映画は70年、テレビとラジオ放送は50年、出版された版は25年保護される。具体的な例を出すと、35歳の著作者によって2016年に製作された新しい著作物は、その著作者が85歳まで生きるとき、2136年まで保護を受けることになる。

証拠(及び実際的な論理)が、著作権の保護期間は必要とされるより遥かに長いことを示している。特にほとんどの著作物の商業的寿命が5年以下であるとき、いるとしても、数少ない創作者しか死から長い後の経済的利益の約束で意欲を刺激されない。

過度に長い著作権保護期間により社会に対して大きなコストがかかっている。オーストラリアの死後50年から死後70年への著作権保護の延長(オーストラリア・アメリカ自由貿易協定の部分として導入された要件)に注力した、実証研究は、追加の20年の保護は、オーストラリアの消費者から外国の著作権者への年約8800万ドルの正味の移転をもたらしていると評価している。しかし、これは過度に長い著作権保護の全コストの一部と思われる。保護期間の遡及適用が社会へのコストを悪化させ、何ら対応する利益のない儘棚ぼたの利益を著作権者に与えている。

他のコストを評価するのはより難しい。登録不要の自動適用と結びついた長期間の著作権保護から多くの著作物が、著作権によって保護されているが、権利者が特定できないことにより図書館、文書館と消費者によって利用され得ない、「孤児」となることがもたらされている。他の多くの著作物も、その商業的利用の枠から一度外れたら消費者にとって入手不可能となる。

幾つかの研究が、権利者に対する利益と利用者へのコストとを釣り合わせたときの保護期間を評価することを試みて来ている。これらの研究は、約25年の期間で、権利者が永続的に(現在の評価期間において)受け取るものと同等の収入を生じさせることができ、消費者に有害なコストが課されることもないと見ている。

 これも当たり前と言えば当たり前で、私も何度も繰り返し言って来ているが、今の長すぎる保護期間は、その社会的なコストは余りにも重く、ほとんど百害あって一利ないと言い切れるほどのものである。この報告書案が、幾つかの研究、シカゴ大学のランデス氏とポスナー氏の2002年の無限に更新可能な著作権(pdf)という論文やシカゴ大学のポロック氏の2007年の永遠マイナス1日?最適な著作権の理論と実証(pdf)という論文などを引用して、第117ページにあるように、「(所見4.2)最適な著作権保護期間を正確に示すことは難しいが、より合理的に評価するならそれは創作後15年から25年に近くなるだろう;これは死後70年より遥かに短い」としているのは、実にこの上なく妥当なことと私も思う。この報告書案でも別に保護期間の短縮までは言っていないが、ベルヌ条約などが制約になってこのような保護期間の短縮がほとんど実現不可能となっているのは確かに残念でならない。

 この報告書案ではさらに、死後50年から70年への保護期間延長で年8800万ドルという費用の数字を出しているが、本文第114ページの参照先を見るとソースとして使われているのはオーストラリア上院の委員会のために用意された2004年のオーストラリア・アメリカ自由貿易協定:評価(pdf)というレポートであり、また、同じく本文第115ページには同様の義務によりTPP協定に入るためにニュージーランドには年5500万ドルのコストがかかるという数字も出ているが、こちらで使われているのはニュージーランド政府の2009年のニュージーランド経済に対する著作権保護期間延長の影響評価の経済モデル(pdf)というレポートである。日本においてもTPP協定批准にともなう本来保護期間延長において、このような定量的なコストの評価も必要とされるはずだが、文化庁の資料を見ても(第357回参照)、TPP政府本部の資料を見ても、いまだに著作権の保護期間延長に関するコストが政府与党でまともに評価されている様子がないのはふざけるのもいい加減にしろとしか言いようがない。

 この報告書案は600ページにも及ぶ大部なものなので、全ては紹介し切れないものの、最後に、何が書かれているのかそのポイントだけでも見ておくために最初のキーポイントの部分を以下に訳出する。

Key points

・Intellectual property (IP) arrangements need to balance the interests of rights holders with users. IP arrangements should:
- encourage investment in IP that would not otherwise occur
- provide the minimum incentives necessary to encourage that investment
- resist impeding follow-on innovation, competition and access to goods and services.

・Improvements are needed so Australia's copyright and patent arrangements function effectively and efficiently.

・Australia's patent system grants protection too easily, allowing a proliferation of low-quality patents, frustrating the efforts of follow-on innovators, stymieing competition and raising costs to the community. To raise the quality of patents, the Australian Government should:
- increase the degree of invention required to receive a patent, abolish the innovation patent, redesign extensions of term for pharmaceutical patents, limit business method and software patents, and use patent fees more effectively.

・Australia's copyright system has progressively expanded and protects works longer than necessary to encourage creative endeavour, with consumers bearing the cost.
- A new system of user rights, including the introduction of a broad, principles-based fair use exception, is needed to help address this imbalance.
- Better use of digital data and more accessible content are the key to reducing online copyright infringement, rather than increasing enforcement efforts or penalties.

・While Australia's enforcement system works relatively well for large rights holders, reforms can improve outcomes for small- and medium-sized enterprises.
- Recent self-initiated reforms of the Federal Court, with an emphasis on lower costs and informal alternatives, should improve enforcement outcomes and replicate many of the benefits a dedicated IP court would offer.
- Changes to the Federal Circuit Court are one option for improving dispute resolution options for small- and medium-sized enterprises.

・Commercial transactions involving IP rights should be subject to competition law. The current exemption under the Competition and Consumer Act is based on outdated views and should be repealed.

・Improving IP governance arrangements would help promote a coherent and integrated approach to IP policy development and implementation.

・Multilateral and bilateral trade agreements are the primary determinant of Australia's IP arrangements. These agreements substantially constrain domestic IP policy flexibility.
- An overly generous system of IP rights is particularly costly for Australia - a significant net importer of IP, with a growing trade deficit in IP-intensive goods and services.
- The Australian Government should focus its international IP engagement on encouraging more balanced policy arrangements for patents and copyright, and reducing transaction and administrative costs for parties seeking IP rights in multiple jurisdictions.
- Improving the evidence base and analysis that informs international engagement (especially trade agreements with IP provisions) would help the Australian Government avoid entering agreements that run counter to Australia's interest.

キーポイント

・知的財産(知財)に関する采配は権利者と消費者の利益をバランスさせる必要がある。知財に関する采配は以下のようであるべきである。
−さもなくば生じるであろう知財における投資を促進すること
−投資を促進するのに必要な最小インセンティブを提供すること
−後続イノベーション、競争並びに物及びサービスへのアクセスの阻害をしないようなものであること

・オーストラリアの著作権と特許に関する采配は有効で効率的に機能するよう改善が必要である。

・オーストラリアの特許制度は保護を簡単に与えすぎており、低品質の特許の蔓延を許し、後続イノベーターの努力を挫き、競争を阻害し、社会へのコストを増大させている。特許の品質を上げるため、オーストラリア政府は以下のことをするべきである。
−特許を受けるのに必要な発明の程度を上げ、イノベーション特許を廃止し、医薬特許の保護期間延長を再設計し、ビジネス方法及びソフトウェア特許を制限し、特許料をより有効に使用すること。

・オーストラリアの著作権制度は次第に拡大されており、創作意欲を促進するのに必要なもの以上に長く著作物を保護しており、消費者にコストを課している。
−広く、原則に基づくフェアユースの例外の導入も含め、利用者の権利に関する新しい制度がこのアンバランスの対策の一助として必要である。
−デジタルデータのより良い利用とコンテンツへのより良いアクセスこそが、エンフォースメントの努力又は罰を増やすより、オンラインでの著作権侵害を減らすキーである。

・オーストラリアのエンフォースメントシステムは多くの権利者にとって比較的良く機能しているが、改革により中小企業のためにその効果を改善することができる。
−最近の連邦裁判所の自己改革は、より低いコストと非公式な代替手段に力点を置き、エンフォースメントの効果を改善し、専門の知財裁判所が提供するだろう利益の多くを再現するべきである。
−連邦裁判所の変化は中小企業のための紛争解決オプションを改善するための一つのオプションである。

・知財を含む商業取引は競争法に服するべきである。現在の競争及び消費者法における除外は時代遅れの見解に基づいており、撤廃するべきである。

・知財ガバナンスに関する采配の改善が、知財製作の発展と実施への整合の取れた統一的なアプローチの促進の一助となるであろう。

・多国間と二国間の貿易協定がオーストラリアの知財に関する采配の主な決定要因となっている。これらの協定が本質的に国内の知財政策の柔軟性を束縛している。
−知財権の過度に手厚い制度が、知財中心の物とサービスにおける貿易赤字の増大により、知財の大幅な正味の輸入者である、オーストラリアにとって特に負担となっている。
−オーストラリア政府は、その国際的な知財の約束において、特許と著作権のためによりバランスの取れた政策の采配を促し、様々な法域において知財権を求める関係者の取引と管理のコストを減らすことに注力するべきである。
−国際的な約束(特に知財規定を含む貿易協定)に関する情報を与える基礎証拠と分析の改善が、オーストラリア政府がオーストラリアの国益に反する協定に入ることを避ける役に立つであろう。

 今回は紹介を省略するが、この報告書案は特許なども含む包括的なものであり、他の部分もなかなか面白く、関心のある方は是非本文にあたることをお勧めする。(やはり詳細は省略するが、この報告書案が著作権に関して他にも地域分割技術の回避は非侵害とすることや本の並行輸入の制限を撤廃することなどを提案していることからも、かなりラディカルな内容のものとなっていることは分かるだろう。)

 特にこの報告書案のキーポイントの最後の部分は日本にも通じる。上で書いた通り、極めて残念なことながら日本の政府与党においてまともにコスト分析がなされた形跡が見受けられないのだが、日本でもTPP協定に関してきちんと知財も含めてコスト分析をした上で政策判断がなされることを、きちんと分析したら日本にとって国益を損なうものでしかないことが分かるだろうTPP協定は批准せず、そのための法改正もなされないことを私は心から願っている。

 最近出された外国の報告書としてはイギリス知財庁の創作性の保護、イノベーションの支持:知財エンフォースメント2020という報告書もあるのだが、その内容は曖昧すぎてほとんど何の役にも立たないと思えるものなので、ここにリンクを張っておくだけにする。(これは、最終的には残念ながら法改正が取り消されたが、第310回で取り上げた私的複製の例外の拡充につながった、遥かに充実した内容のものだった前のハーグリーヴス報告書と比べるとお粗末極まるものである。)

(2016年5月30日の追記:1カ所誤記を直した(「オーストラリア下院」→「オーストラリア上院」)。また、これも念のため書いておくと、その公開ページに書かれている通り、上で取り上げた報告書はまだ案の段階であり、6月3日まで意見募集がされた後、8月に最終版の報告書が政府に提出される予定となっている。)

(2016年12月28日夜の追記:特に内容に大きな変更はないが、その公開ページに書かれている通り、9月に報告書が政府に提出され、12月に最終版の報告書(pdf)概要(pdf))が公開されたので、念のため、ここにリンクを張っておく。)

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2015年4月19日 (日)

第335回:スペインの著作権法改正(スペイン版グーグル法)

 国内では4月14日に知財本部会合が開かれ、去年通りならじきに今年の知財計画向けのパブコメの募集があると思うが、この間に、書こうと思いながら今まで書いていなかった去年11月4日に成立したスペインの著作権法改正の話を取り上げておく。

 改正法が掲載されているスペイン政府の官報(スペイン語)に書かれている通り、この法改正は、スペイン著作権法(スペイン語)において、主に著作権及び著作隣接権に関する欧州指令第2011/77号や、孤児著作物に関する欧州指令第2012/28号に対応するとともに、第241回で取り上げた2010年10月の欧州司法裁の判決の後2011年11月の勅令(スペイン語)(pdf)で行われていた私的複製補償金の国家予算による支払いの著作権法への組み入れと、グーグルに対する補償金賦課と、ネット規制の強化を含み、合わせて著作権管理団体の運営の透明性を高めることを目指すというかなり盛りだくさんな内容のものである。

 この法改正の内容は孤児著作物と著作権管理団体の運営の透明化に関する部分以外およそロクでもものばかりである。全ての条文を見て行っても良いのだが、孤児著作物についてはドイツやフランスのように特殊なことをしておらず、私的複製補償金問題についてはelpais.comの記事1(スペイン語)に書かれている通り既にスペイン国内でこの法改正に対して憲法訴訟まで提起されている上欧州全体を巻き込んでさらにごたごたが続くのは間違いなく、ネット規制の強化はその実効性が不明であり、他国の著作権管理団体については余りにマニアックな話と思うので、ここでは、既にスペインでグーグルニュースが閉鎖されるという影響を引き起こしており、第295回で取り上げたドイツのグーグル法との比較において興味深いグーグルへの補償金賦課に関する部分を特に訳出する。

 このグーグルに補償金を賦課するために追加されたスペイン著作権法の第32条第2項は以下のようなものである。

Articulo 32. Citas y resenas e ilustracion con fines educativos o de investigacion cientifica.

2. La puesta a disposicion del publico por parte de prestadores de servicios electronicos de agregacion de contenidos de fragmentos no significativos de contenidos, divulgados en publicaciones periodicas o en sitios Web de actualizacion periodica y que tengan una finalidad informativa, de creacion de opinion publica o de entretenimiento, no requerira autorizacion, sin perjuicio del derecho del editor o, en su caso, de otros titulares de derechos a percibir una compensacion equitativa. Este derecho sera irrenunciable y se hara efectivo a traves de las entidades de gestion de los derechos de propiedad intelectual. En cualquier caso, la puesta a disposicion del publico por terceros de cualquier imagen, obra fotografica o mera fotografia divulgada en publicaciones periodicas o en sitios Web de actualizacion periodica estara sujeta a autorizacion.

Sin perjuicio de lo establecido en el parrafo anterior, la puesta a disposicion del publico por parte de prestadores de servicios que faciliten instrumentos de busqueda de palabras aisladas incluidas en los contenidos referidos en el parrafo anterior no estara sujeta a autorizacion ni compensacion equitativa siempre que tal puesta a disposicion del publico se produzca sin finalidad comercial propia y se realice estrictamente circunscrita a lo imprescindible para ofrecer resultados de busqueda en respuesta a consultas previamente formuladas por un usuario al buscador y siempre que la puesta a disposicion del publico incluya un enlace a la pagina de origen de los contenidos.

第32条 引用及び批評並びに教育又は科学研究目的の提示

第2項 情報提示、世論形成又は娯楽の目的で定期刊行物又は定期的に更新されるウェブサイトで公開された内容の重要でない断片の集合の電子サービス提供者による公衆送信可能化は、公正な補償を受けることによって、出版者又は場合により他の権利者の権利が損なわれることがない場合に、許諾なく行うことができる。この権利は放棄することはできず、知的財産権の管理団体を通じて行使される。どのような場合であれ、定期刊行物又は定期的に更新されるウェブサイトで公開されたどのような画像、写真の著作物又は単なる写真の仲介による公衆送信可能化でも許諾の対象となる。

 前段の規定にかかわらず、前段に記載された内容に含まれる個々の語の検索ツールを提供するサービス提供者による公衆送信可能化は、自身の商業的目的でなく、検索利用者によって前に作られる検索キーワードに応答して検索結果を提供するために厳密に必要な限りにおいて実現され、公衆送信可能化が内容の元のページへのリンクを含む場合、許諾の対象にも適正な補償の対象ともならない。

 この法改正の施行日である2015年1月1日より前の2014年12月にグーグルはそのスペイン版のグーグルニュースを閉鎖しており、以来今日に至るまでそれは使えない状態にある。

 2013年のドイツのグーグル法は、第295回で書いた通り、グーグルニュースから排除された出版社側がアクセス数の減少に早々に音を上げ、グーグルとの提携の形を改めるだけに終わり、ほとんど何の意味も持たなかったのであり、このようにドイツでグーグル法が失敗したことはスペインでも知られていただろうにもかかわらず、この法改正でスペイン政府あるいは議会がドイツの二の轍を全力で踏みに行ったのは全く理解に苦しむ。

 結果として多少根比べが続くにしても、このスペインの試みもやはり上手く行かないだろうと、ドイツ同様、ネットの特性を良く考えて作らない限り法改正は失敗することを示す悪例の1つとしかならないだろうと私は見ている。

(なお、上ではざっとしか書かなかったが、スペイン国内では2011年11月の勅令に対しても裁判が提起されており、2014年9月にスペイン最高裁から欧州司法裁へこの国家予算による補償金支払いが欧州指令に照らして妥当か否かの質問付託もされている(elpais.comの記事2(スペイン語)、スペイン裁判所のリリース(スペイン語)参照)。権利者団体が国家予算による補償金の支払いに対してここまで反対する理由は、表向き言っていることがどうあれ、国家予算からの支払いだと金額がどうしても減り、増額要求も難しいということに尽きる。本来きちんと根拠とともに私的複製による権利者への実害の量を示せれば支払われる金額は同じになるはずだが、実のところそんなものはないので、要するに国を相手にするより政治的に弱いメーカーや消費者から巻き上げた方が多く金が取れるということに過ぎない。恐らく主張している当の権利者団体の関係者たちは気づいていないのだろうが、このことだけからでも、如何に私的複製補償金の根拠がそもそもあやふやか分かろうというものだろう。しばらく時間がかかると思うが、私的複製補償金問題について、この裁判も含め、また欧州で何かしらの流れが見えて来たところでまとめて紹介したいと思っている。)

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2015年3月 5日 (木)

第333回:TPP交渉の透明化と著作権の権利制限の拡充を唱える国連の報告

 去年、2014年12月24日に文化的権利分野における特別報告官であるファリーダ・シャヘード氏が国連人権理事会に提出した、著作権政策と科学及び文化への権利に関する報告(doc)が国連人権高等弁務官事務所のホームページで公開されている。この報告は今のところ国内外で大きな反響を呼んでいないようだが、非常に興味深い内容を含んでいるので、今回はこの報告のことを取り上げたい。

 この報告(doc) の要約には、以下のように書かれている。(以下、全て翻訳は拙訳。)

The Special Rapporteur in the field of cultural rights, Farida Shaheed, submits the present report in accordance with Human Rights Council resolution 19/6.

In the present report, the Special Rapporteur examines copyright law and policy from the perspective of the right to science and culture, emphasizing both the need for protection of authorship and expanding opportunities for participation in cultural life.

Recalling that protection of authorship differs from copyright protection, the Special Rapporteur proposes several tools to advance the human rights interests of authors.

The Special Rapporteur also proposes to expand copyright exceptions and limitations to empower new creativity, enhance rewards to authors, increase educational opportunities, preserve space for non-commercial culture and promote inclusion and access to cultural works.

An equally important recommendation is to promote cultural and scientific participation by encouraging the use of open licences, such as those offered by Creative Commons.

 文化的権利分野の特別報告官ファリーダ・シャヘードは、人権理事会決議19/6に沿い、本報告を提出する。

 本報告において、特別報告官は、著作者の権利の保護の必要性と文化的生活への参加の機会の拡大にともに重点を置きつつ、科学及び文化への権利の観点から著作権法及び政策を調査した。

 著作者の権利の保護は著作権の保護とは異なることを思い起こしつつ、特別報告官は、著作者の人権上の利益を高める幾つかのツールを提案する。

 特別報告官は、新たな創作に力を与えるために著作権の例外及び制限を拡大し、著作者への報償を増やし、教育の機会を増大し、非商業的文化の余地を維持し、文化的著作物への参入及びアクセスを推進することも提案する。

 同じく重要な勧告は、クリエイティブコモンズによって提供されているもののようなオープンライセンスの利用の促進により文化的及び科学的参加を推進することである。

 この要約でも十分簡にして要を得ていると思うが、例えば、報告の第19段落で、

19. Considerable concern is expressed today about an apparent democratic deficit in international policymaking on copyright. Of particular concern is the tendency for trade negotiations to be conducted amid great secrecy, with substantial corporate participation but without an equivalent participation of elected officials and other public interest voices. For example, the recent negotiations around the Anti-Counterfeiting Trade Agreement and the Trans-Pacific Partnership have involved a few countries negotiating substantial commitments on copyright policy, without the benefit of public participation and debate. In contrast, treaty negotiations in WIPO forums are characterized by greater openness, participation, and consensus-building. Regardless of the forum, concern is often expressed that powerful parties may use international rule-making to restrict domestic policy options, advancing private interests at the expense of public welfare or human rights.

19.今日、著作権に関する国際的政策決定における民主主義に対する明らかな欠陥について非常に大きな懸念が表明されている。貿易交渉が、実質的に企業が参加しながらも選出議員や他の公衆の利益の代弁者に同等の参加の余地はないまま、ごく秘密裏に進められている傾向について特に懸念がある。例えば、海賊版対策条約(ACTA)や環太平洋連携協定(TPP)を巡る最近の交渉は、公衆の参加や議論による支持をともなうことなく、わずかな交渉国で著作権政策への実質的なコミットメントについての交渉をしている。これに対し、WIPOの場における条約交渉はよりオープンで、より広く参加が行われ、より広い合意形成がされている。場にかかわらず、力のある関係者が、国際的なルール形成を利用して国内政策の幅をなくし、公共の福祉又は人権をないがしろにしながら私的な利益を推し進めているという懸念も良く表明されている。

と、ACTAやTPP交渉の秘密主義を名指しで批判し、第51段落で、

51. The Special Rapporteur received a number of contributions, which expressed the concerns of copyright holders about the threat cultural industries face due to digital piracy enabled by evolving digital technologies. Proposals to address that situation as related to the Internet include website blocking, content filtering and other limits on access to content subject to copyright, as well as the liability imposed on intermediaries for infringing content disseminated by users. In the view of the Special Rapporteur, such measures could result in restrictions that are not compatible with the right to freedom of expression and the right to science and culture. Additional concern is expressed over the deployment of aggressive means of combating digital piracy, including denial of Internet access, high statutory damages or fines and criminal sanctions for non-commercial infringement. There are also issues of piracy unrelated to the Internet. In the Special Rapporteur’s opinion, that important topic requires additional study from a human rights perspective.

51.特別報告官は、発展するデジタル技術によって可能となったデジタル海賊行為のために文化産業が直面する脅威についての権利者の懸念を表明する意見も多く受け取った。インターネットに関係するものとして、この状況に対応する提案は、ウェブサイトブロッキング、コンテンツフィルタリング、著作権の対象となるコンテンツへのアクセスに対するその他の制限並びにユーザーによって拡散される侵害コンテンツについて仲介者に課される責任などを含んでいる。特別報告官の見解では、このような措置は、表現の自由並びに科学及び文化への権利と合致しない制約をもたらすものになり得る。インターネットアクセスの否定、非営利侵害に対する高額の法定賠償又は罰金及び刑罰のような、デジタル海賊行為に対抗するための攻撃的な手段の開発に対してもさらに懸念を表明する。インターネットとは関係ない海賊行為の問題もある。特別報告官の意見では、このような重要なトピックには人権の観点からの研究をさらに必要とする。

と、表現の自由などの観点からブロッキングやストライクポリシーを否定し、第73段落で、

73. A few countries have a more expansive and flexible exception or limitation, commonly referred to as “fair use”. Such provisions authorize courts to adapt copyright law to permit additional unlicensed uses that comply with general standards of fairness to creators and copyright holders. For example, the fair use doctrine in the United States encompasses protection for parody and certain educational uses. It has also been interpreted to permit a search engine to return thumbnail-sized images as part of its search results and to protect technology manufacturers from liability where consumers record a television show to watch later. Most States do not have such broad and flexible exceptions and limitations; instead each specific type of allowable use is listed in the statute. While enumerated provisions may provide greater clarity regarding permitted uses, they may also fail to be sufficiently comprehensive and adaptable to new contexts.

73.わずかな国々が、一般的に「フェアユース」と呼ばれるより幅があり柔軟な例外又は制限を有している。このような規定は、創作者と権利者に対する公平性の一般基準と合致する追加の非ライセンス利用を著作権法において認めることを裁判所に可能とする。例えば、アメリカにおけるフェアユース原理はパロディやある種の教育利用の保護を含んでいる。それはまた、検索エンジンが検索結果の一部としてサムネイルサイズの画像を返すことを許し、消費者がテレビ番組を後で見るために録画することの責任に対して技術メーカーを保護していると解釈されている。それ以外では、許される利用の特別な型がそれぞれ法律に列挙されている。列挙型の規定は、許される利用に関してより大きな明確性を与えるだろうが、十分に包括的ではなく、新たな文脈への順応性がないということもあるだろう。

と、フェアユースの導入を推奨するなど、この報告は非常に良くポイントを突いたものとなっている。

 さらに、多少長くなるが、全体のまとめとして、最後の結論の部分も訳出しておくと以下のようになる。

VI. Conclusion and recommendations

90. The human rights perspective focuses attention on important themes that may be lost when copyright is treated primarily in terms of trade: the social function and human dimension of intellectual property, the public interests at stake, the importance of transparency and public participation in policymaking, the need to design copyright rules to genuinely benefit human authors, the importance of broad diffusion and cultural freedom, the importance of not-for-profit cultural production and innovation, and the special consideration for the impact of copyright law upon marginalised or vulnerable groups.

91. The Special Rapporteur draws the following conclusions and makes the following recommendations.

Ensuring transparency and public participation in law-making

92. International intellectual property instruments, including trade agreements, should be negotiated in a transparent way, permitting public engagement and commentary.

93. National copyright laws and policies should be adopted, reviewed and revised in forums that promote broad engagement, with input from creators and the public at large.

Ensuring the compatibility of copyright laws with human rights

94. International copyright instruments should be subject to human rights impact assessments and contain safeguards for freedom of expression, the right to science and culture, and other human rights.

95. Such instruments should never impede the ability of States to adopt exceptions and limitations that reconcile copyright protection with the right to science and culture or other human rights, based on domestic circumstances.

96. States should complete a human rights impact assessment of their domestic copyright law and policy, utilizing the right to science and culture as a guiding principle.

97. National courts and administrative bodies should interpret national copyright rules consistently with human rights standards, including the right to science and culture.

98. Copyright laws should place no limitations upon the right to science and culture, unless the State can demonstrate that the limitation pursues a legitimate aim, is compatible with the nature of this right and is strictly necessary for the promotion of general welfare in a democratic society (art. 4 of the International Covenant on Economic, Social and Cultural Rights). Standards applicable to restrictions on freedom of expression must also be duly taken into consideration. In all cases, the least restrictive measure shall be adopted.

Protection of the moral and material interests of authors

99. The right to protection of authorship is the right of the human author(s) whose creative vision gave expression to the work. Corporate right holders must not be presumed to speak for the interests of authors. Both professional and amateur creators must be empowered to have a voice and influence over copyright regime design.

100. Merely enacting copyright protection is insufficient to satisfy the human right to protection of authorship. States bear a human rights obligation to ensure that copyright regulations are designed to promote creators' ability to earn a livelihood and to protect their scientific and creative freedom, the integrity of their work and their right to attribution.

101. Given the inequality of legal expertise and bargaining power between artists and their publishers and distributors, States should protect artists from exploitation in the context of copyright licensing and royalty collection. In many contexts, it will be most appropriate to do so through legal protections that may not be waived by contract. Enforceable rights of attribution and integrity, droit de suite, statutory licensing and reversion rights are recommended examples.

102. States should further develop and promote mechanisms for protecting the moral and material interests of creators without unnecessarily limiting public access to creative works, through exceptions and limitations and subsidy of openly licensed works.

103. Copyright law is but one element of protection of authorship. States are encouraged to consider policies on labour practices, social benefits, funding for education and the arts, and cultural tourism from the perspective of that right.

Copyright limitations and exceptions and the "three-step test"

104. States have a positive obligation to provide for a robust and flexible system of copyright exceptions and limitations to honour their human rights obligations. The "three-step test" of international copyright law should be interpreted to encourage the establishment of such a system of exceptions and limitations.

105. States should consider that exceptions and limitations that promote creative freedom and cultural participation are consistent with the right to protection of authorship. Protection of authorship does not imply perfect authorial control over creative works.

106. States should enable allowance for uncompensated use of copyrighted works, in particular in contexts of income disparity, non-profit efforts, or undercapitalized artists, where a requirement of compensation might stifle efforts to create new works or reach new audiences.

107. States should ensure that exceptions and limitations cannot be waived by contract, or unduly impaired by technical measures of protection or online contracts in the digital environment.

108. At the domestic level, judicial or administrative procedures should enable members of the public to request the implementation and expansion of exceptions and limitations to assure their constitutional and human rights.

109. WIPO members should support the adoption of international instruments on copyright exceptions and limitations for libraries and education. The possibility of establishing a core list of minimum required exceptions and limitations incorporating those currently recognized by most States, and/or an international fair use provision, should also be explored.

110. WTO should preserve the exemption of least developed countries from complying with provisions of the TRIPS Agreement until they reach a stage of development where they no longer qualify as least developed countries.

Adopting policies fostering access to science and culture

111. Open access scholarships, open educational resources and public art and artistic expressions are examples of approaches that treat cultural production as a public endeavour for the benefit of all. Those approaches complement the private, for-profit models of production and distribution and have a particularly important role.

112. The products of creative efforts subsidized by governments, intergovernmental organizations or charitable entities, should be made widely accessible. States should redirect financial support from proprietary publishing models to open publishing models.

113. Public and private universities and public research agencies should adopt policies to promote open access to published research, materials and data on an open and equitable basis, especially through the adoption of Creative Commons licences.

Indigenous peoples, minorities and marginalized groups

114. Creativity is not a privilege of an elite segment of society or professional artists, but a universal right. Copyright law and policy must be designed with sensitivity to populations that have special needs or may be overlooked by the marketplace.

115. States should institute measures to ensure that all people enjoy the moral and material interests of their creative expressions and to prevent limitations, such as geography, language, poverty, illiteracy, or disability, from blocking full and equal access to, participation in and contribution to cultural and scientific life.

116. States should ratify the Marrakesh Treaty to Facilitate Access to Published Works for Persons Who Are Blind, Visually Impaired, or Otherwise Print Disabled, and ensure that their copyright laws contain adequate exceptions to facilitate the availability of works in formats accessible to persons with visual impairments and other disabilities, such as deafness.

117. States should adopt measures to ensure the right of indigenous peoples to maintain, control, protect and develop their intellectual property over their cultural heritage, traditional knowledge, and traditional cultural expressions.

118. Further studies should be undertaken to examine what reforms are needed to better enable access to copyrighted materials in all languages, at affordable prices.

The right to science and culture and copyright in the digital environment

119. All stakeholders should devote more focused discussion on how best to protect the moral and material interests of authors in the digital environment, taking care to avoid a potentially disproportionate impact on the rights to freedom of expression and cultural participation.

120. Alternatives to criminal sanctions and blocking of contents and websites for copyright infringement should be envisaged.

Ⅵ.結論及び勧告

90.人権の観点から、著作権が主に貿易の意味でのみ扱われるときに見失われ得る次のような重要なテーマが注目される:知的財産権の社会的機能及び人的側面、危うくなっている公共の利益、政策決定における透明性及び公衆参加の重要性、自然人の著作者を純粋に益するよう著作権の規則を設計する必要性、広い普及と文化的自由の重要性、非営利の文化的製作及び革新の重要性、並びに非主流の又は脆弱な集団に対する著作権法の影響に対する特別の考慮。

91.特別報告官は以下の結論を引き出し、以下の勧告を作成した。

立法における透明性と公衆参加の確保

92.貿易協定を含む、国際的な知的財産権のツールについては、公衆の参加及びコメントを可能としながら、透明な形で交渉されるべきである。

93.国内の著作権法及び政策は、創作者及び広く公衆からの入力を受け、広い参加を促すよう、公開の場で採用され、見直され、改正されるべきである。

著作権と人権の整合性の確保

94.国際的な著作権のツールは、人権に関する影響の評価に従い、表現の自由、科学及び文化への権利及び他の人権に対する人権の保障を含むべきである。

95.このようなツールは、国内の状況に基づき、著作権の保護と科学及び文化への権利又は他の人権とを合致させる例外及び制限を採用する各国の能力を損なうものであってはならない。

96.各国は、科学及び文化への権利を主導的原理としつつ、その国内の著作権法及び政策の人権に対する影響の評価を遂行するべきである。

97.各国の裁判所及び行政機関は、科学及び文化への権利を含め、人権の基準に合致する形でその国の著作権規則を解釈するべきである。

98.著作権法は、その制限が正当な目的を追求するものであって、その権利の性質と合致し、民主的社会における公共の福祉の推進に厳密に必要なものでない限り、科学及び文化への権利の制限を作り出すべきではない(経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約の第4条)。表現の自由の制限に適用される基準もきちんと考慮に入れられなければならない。あらゆる場合において、最も制約的でない手段が採用されるべきである。

著作者の人格的及び財産的利益の保護

99.著作者の保護のための権利は、その創作的構想力が著作物に表現を与えた自然人である著作者の権利である。法人の権利者は著作者の利益について当然に話してはならない。職業的及び非職業的な創作者がともに著作権制度の設計に対して発言力及び影響力を持たなければならない。

100.単に著作権の保護を法制化することは、著作者の権利の保護についての人権を満足させるに不十分である。各国は、著作権の法規が創作者の生計を稼ぐ能力を促進し、その科学的及び文化的自由、その著作物の完全性並びに帰属に関する権利を保護するよう設計されることを確保するよう人権上の義務を負っている。

101.芸術家とその出版社及び頒布者の間に法的な専門の知見及び交渉力の差があることから、各国は、著作権ライセンス及びロイヤリティ徴収の文脈における搾取から芸術家を保護するべきである。多くの文脈において、契約によって回避されることのない法的な保護を通じてそうすることがほぼ適切であろう。帰属と完全性の行使可能な権利、追及権、法定ライセンス及び復帰権は勧められる例である。

102.各国は、例外及び制限並びにオープンライセンス著作物の助成を通じて創作的著作物への公衆のアクセスを不必要に制限することなく創作者の人格的及び財産的利益を保護する仕組みをさらに発展させ、推進するべきである。

103.著作権法はそれでも著作者の権利の保護の一つの要素である。各国は、この権利の観点から、労働実務、社会的便益、教育及び芸術に対する財政支援並びに文化観光政策を検討することを促される。

著作権の制限及び例外並びに「3ステップテスト」

104.各国は、その人権に関する義務を遵守するために著作権の例外及び制限の堅牢で柔軟な法制を規定する積極的な義務を有している。国際著作権法の「3ステップテスト」は、このような例外及び制限の法制の確立が促されるよう解釈されなければならない。

105.各国は、創作の自由及び文化的参加を促進する例外及び制限は著作者を保護する権利と合致するものであることを考慮するべきである。著作者の保護は、創作的著作物への完全な著作者によるコントロールを与えることを意味しない。

106.各国は、特に、補償の要請が新たな著作物を創作するためかさらなる聴衆に届けるための努力を抑圧するであろう、収入の格差、非営利の努力又は資本の不十分な芸術家の文脈において、著作物の非補償利用を認めるようにするべきである。

107.各国は、例外及び制限が契約によって回避されたり、技術的保護手段又はデジタル環境におけるオンラインの契約によって不当に損なわれたりし得ないことを確保するべきである。

108.国内において、司法又は行政手続きにより、公衆の構成員に憲法上の人権を確保するための例外及び制限の実施及び拡大を求めることを可能とするべきである。

109.WIPO加盟国は、図書館及び教育のための著作権の例外及び制限についての国際的ツールの採用を支持するべきである。ほとんどの国によって現在認められているそれを実現するのに最低限必要となる例外及び制限の中核リストを確立すること及び及び/又は国際的なフェアユース規定も検討するべきである。

110.WTOは、それらが後発開発途上国ともはや評価されなくなる発展段階に達するまで、TRIPS協定の規定への順守に対する後発開発途上国への免除を維持するべきである。

科学及び文化へのアクセスを促す政策の採用

111.オープンアクセスの奨学金、オープンな教育資金並びに公共の芸術及び芸術的表現は、文化的な製作を皆の便益のための公共の試みとして扱うアプローチの例である。このようなアプローチは、製作及び頒布の私的な、営利モデルを補完するものであり、特に重要な役割を有している。

112.政府、政府間機関又は慈善団体により補助された創作的な努力による製作物は、広くアクセス可能とされるべきである。各国は、専売出版モデルからオープンな出版モデルへ資金的支持を転換するべきである。

113.公立及び私立の大学及び公的研究機関は、特にクリエイティブコモンズライセンスの採用により、オープンで公正な基礎に基づき、公開された研究、素材及びデータへのオープンなアクセスを推進する方針を採用するべきである。

先住民、少数派及び非主流の集団

114.創作は、社会又は職業芸術家の選ばれた部門の特権ではなく、普遍的な権利である。著作権法及び政策は、特別な必要性を持つか、市場に見過ごされているであろう人々に気を配る形で設計されなければならない。

115.各国は、全ての人々がその創作的表現の人格的及び財産的な利益を享受することを確保し、地理、言語、貧困、識字能力又は障害のような制約から、文化的及び科学的生活への完全かつ平等なアクセス、参加及び貢献を阻害することがないようにする手段を設けるべきである。

116.各国は、視覚障害者又は他の読字障害者による公開著作物へのアクセスを容易にするためのマラケシュ条約を批准し、その著作権法が視覚障害者及び聴覚障害者のような他の障害者にアクセス可能な形式で著作物を入手可能とすることを容易にする適切な例外を含むことを確保するべきである。

117.各国は、その文化的遺産に対するその知的財産権を維持、管理、保護及び発展させるために、先住民の権利を保障する手段を採用するべきである。

118.さらなる研究に取り組み、あらゆる言語において、手頃な価格で、著作権による保護を受ける物へのアクセスをより可能とするのにどのような改革が必要かについて調査するべきである。

科学及び文化への権利並びにデジタル環境における著作権

119.全利害関係者は、表現の自由及び文化的参加に関する権利へのバランスを欠き得る影響を避けるよう注意しながら、デジタル環境において著作者の人格的及び財産的利益を保護する最善の方法についてさらに集中的に議論に注力するべきである。

120.著作権侵害に対する刑事罰並びにコンテンツ及びウェブサイトのブロッキングへの代替案を検討しなければならない。

 国連やユニセフは児童ポルノ規制に関しておよそロクでもないことばかり言っていたりするので、国連だからどうこうと言うつもりはさらさらないのだが、上で訳した部分を見ても分かる通り、著作権政策に絡む国際協定交渉の透明化、著作権侵害を理由としたブロッキングやストライクポリシーの禁止、フェアユース導入を含む権利制限の拡充、法人権利者による不当に大きな政治力行使の抑制、オープンライセンスの推進など、このように非常に良くポイントを突いた提案を含む報告が国連においてされるということは、著作権と表現の自由など他の人権との抵触がかなり先鋭化して来ていることを示すものとは言えるだろう。

 上で書いた通り、この報告は国内外で注目されている様子があまりなく、どれほど影響があるかは未知数であり、国内の関係者がどれほど知っているかも私には良く分からないが、特に今なお極秘裏に進められているTPP交渉の透明化についてなどいくら言っても言い過ぎということはない。TPP交渉について、リーク文書などから見て破綻が最も望ましいと考えていることに変わりはないが、さもなくば速やかに交渉内容を公開するとともに、その内容の検討に広く参加できるようにしてもらいたいと私も強く願っている。

(2015年3月6日夜の追記:翻訳文中の誤記を直すとともに、日本語として少し分かりにくかった箇所の記載を改めた。)

(2015年3月15日夜の追記:infojustice.orgの記事ip-watch.orgの記事に書かれている通り、上で取り上げた報告についてこの3月11日に国連人権理事会で議論がされた(その議論の様子は、録画1で見られる)。twitterでも書いたことだが、この著作権政策に関する報告について議論百出なのは仕方ないし、日本代表としてはそう言うだろうにしても、日本の鈴木光太郎公使が報告に対して批判的なのはもう少しどうにかならないものかと私は思う。なお、録画を見ていてシャヘード氏よりシャヒード氏という方が発音としては正確であることに気づいたが、上の記載はそのままにしておく。)

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