2009年7月10日 (金)

第182回:総務省・「通信・放送の総合的な法体系の在り方」答申案に対する提出パブコメ

 総務省の「通信・放送の総合的な法体系の在り方」答申案(pdf)に対する意見募集(7月21日〆切。総務省のリリース電子政府の該当ページ概要(pdf)意見募集要領(pdf)も参照)に対してパブコメを提出したので、ここに載せておく。

 良いニュースは全く無いが、一緒に少し紹介しておくと、昨日の夜の密室政策談合で、自民・公明・民主の3党の間で、単純所持を原則禁止することで合意したとのニュースがあった(TBSの記事参照)。捜査機関に対する努力規定など何の意味も無い。あの喧々諤々の国会審議は一体何だったのか。所詮与党も民主党も、全て同じ穴のムジナであり、全てどこまで行っても、旧来の談合政治しかできない最低の妥協政党である。唯一この問題を正しく理解して下さっている社民党の保坂議員のブログ記事(その論点整理も非常に良くできているので、是非一読をお勧めする)によると、10日と14日は衆議院法務委員会が開催される予定は無いそうだが、この与野党の政策談合による合意でネットに対する死刑宣告は下ったに等しい。保坂議員には是非引き続き頑張ってもらいたいと思うし、個人的に最後まで諦めるつもりはないが、児童ポルノ規制問題については、最低最悪の状態をさらに下に突き抜け、主として流動的な国会情勢に賭けるしか無いという状況に落ち入りつつある。

 児童ポルノに関しては、リンクを張っただけの少年が児童ポルノ公然陳列幇助で逮捕され、書類送検された(internet watchの記事ITmediaの記事J-CASTの記事参照)。印象操作のための捜査としか思えないが、児童ポルノ規制法に関しては、このように現行法ですら危険極まりない、拡大解釈による恣意的な運用が行われているのである。単純所持規制が付け加わった日には、この現代日本で、あり得ない惨状が現出することだろう。

 また、一連の動きの中で関連してくる事件として、児童ポルノでは無いが、海外での騒動の種になった「レイプレイ」の無修正改造版をファイル共有ネットワーク上に流したことが猥褻物公然陳列に当たるとして、逮捕者が出ている(時事通信のネット記事産経のネット記事京都新聞のネット記事参照)。著作権法違反ならいざ知らず、どこまで行ってもCGに過ぎないものであり、このようなゲームが本当に猥褻物に当たるかどうかすら怪しいだろう。今の警察にとって事件は解決するものでは無く、規制強化のために作るもののようである。このように印象操作のためのあまりも露骨な恣意的な捜査を行う警察など、全く信用に値しない。

 最後に1つだけ海外のニュースを紹介しておくと、「P2Pとかその辺のお話」でも紹介されているように、第181回で取り上げた3ストライク法案の第2案が、フランスの上院を賛成189名、反対142名で通過した(Numeramaの記事AFPの記事PC INpactの記事も参照)。この法案もこれで下院での審議に移るが、上院通過版の法案を見ても、本質的な部分で修正が入った訳では無く、まだまだ揉め続けるだろう。

(7月10日夜の追記:保坂議員のブログ記事によると、児童ポルノ規制問題に関しては、与野党の間にまだ隔たりがあるようである。TBSの記事はかなり飛ばし気味だと分かったが、火の無いところに煙は立たないので、捜査機関に対する無意味な努力義務規定で単純所持規制をごまかして通そうとする危険極まりない折衷案が、与野党の密室政策談合で検討されているのだろう。この問題については、断頭台に首が載った状態が続くことに変わりはない。(?様、ぼるてっかー様、コメント・情報ありがとうございます。)

(7月17日の追記:入れ忘れていたので、タイトルに「総務省・」を追加した。)

 また、今日、MIAUが児童ポルノ法改正に関して声明解説)を出したので(internet watchの記事も参照)、これもリンクを張っておく。この声明も、問題点を良くとらえているものと思う。)

(以下、提出パブコメ)

1.氏名及び連絡先
氏名:兎園(個人)
連絡先:

2.意見要旨
 放送が放送法によって包括的な規制を受けている理由として、有限希少な周波数を占用するものであることもきちんとあげ、インターネットによる通信を、放送とともにコンテンツ規律の対象とする必要性は認められないとする考え方を私は強く支持する。今後の具体的な法制の検討においては、このような考え方を厳格に守り、現在の放送・通信法の対象外にまで不必要な規制が及ぼされることがないよう、くれぐれも慎重に進めてもらいたい。今後、危険な規制強化の検討では無く、現在の放送通信各法における不必要な規制の洗い出しと、特に放送がインターネットにおける情報流通と競争できるようにするための放送規制の緩和といった、真に国民全体を裨益する地道な検討のみが行われることを期待する。

 特に個別の論点として、以下の4点を私は強く求める。
・放送関連四法の集約に合わせ、無料の地上放送についてはスクランブルもコピー制御もかけないこととする逆規制を、政令や省令ではなく法律のレベルに入れること。
・現行の「電気通信事業法」を核とした伝送サービス規律に関わる制度の大括り化を図る際、憲法の「表現の自由」に含まれ、国際人権B規約にも含まれている国民の「知る権利」を、あらゆる公開情報に安全に個人的にアクセスする権利として、法律レベルに明文で書き込むこと。
・同じく、憲法に規定されている検閲の禁止から、技術的な著作権検閲やサイトブロッキングのような技術的検閲の禁止を法律レベルに明文で書き込むこと。
・青少年ネット規制法の廃止及び出会い系サイト規制法の法改正前の形への再改正。

3.意見
(1)第4ページ「(2)民間の創意工夫を生かした新技術導入の促進」について

 この項目において、技術基準について触れられているが、今現在無料の地上放送にコピー制限のための技術基準として導入されているB−CASシステムは談合システムに他ならない。これは、放送局・権利者にとっては、視聴者の利便性を著しく下げることによって、一旦は広告つきながらも無料で放送したコンテンツの市場価格を不当につり上げるものとして機能し、国内の大手メーカーとっては、B−CASカードの貸与と複雑な暗号システムを全てのテレビ・録画機器に必要とすることによって、中小・海外メーカーに対する参入障壁として機能している。情報通信審議会・デジタル・コンテンツの流通の促進等に関する検討委員会において、現行システムと併存させる形でチップやソフトウェア等の新方式を導入することが提言されているが、無意味な現行システムの維持コストに加えて新たなシステムの追加で発生するコストまでまとめて消費者に転嫁される可能性が高いこのような弥縫策は、一消費者として全く評価できないものである。

 総務省は過去の情報通信審議会において、コピーワンスの導入のために無料地上波にB−CASシステムを導入するのが適当という結論を出し、平成14年6月に省令改正(「標準テレビジョン放送等のうちデジタル放送に関する送信の標準方式の一部を改正する省令」)まで行って、その導入を推進している。無料の地上放送へのB−CASシステムの導入をもたらしたこの省令改正を、総務省は失策として認めるべきである。

 技術基準の柔軟性の向上も必要であるが、現在の地上無料放送各局の歪んだビジネスモデルによって、放送の本来あるべき姿までも歪められるべきではない。そもそもあまねく視聴されることを本来目的とする、無料の地上放送において暗号化を施しコピーを制限することは、視聴者から視聴の機会を奪うことに他ならず、このような規制を良しとする談合業界及び行政に未来はない。法的にもコスト的にも、どんな形であれ、全国民をユーザーとする無料地上放送に対するコピー制限は維持しきれるものではない。このようなバカげたコピー制限に関する過ちを二度と繰り返さないため、放送関連四法の集約に合わせ、無料の地上放送についてはスクランブルもコピー制御もかけないこととする逆規制を、政令や省令ではなく法律のレベルに入れることを、私は一国民として強く求める。

(2)第7ページ「(1)伝送サービス規律の再編」について
 ダウンロード違法化問題やプロバイダーにおける違法コピー対策問題における権利者団体の主張、児童ポルノ法規制強化問題・有害サイト規制問題における自称良識派団体の主張は、常に一方的かつ身勝手であり、ネットにおける文化と産業の発展を阻害するばかりか、インターネットの単純なアクセスすら危険なものとする非常識なものばかりである。

 また、児童ポルノに関するネット規制の1つとして検討されているサイトブロッキングについても、総務省なり警察なり天下り先の検閲機関・自主規制団体なりの恣意的な認定により、全国民がアクセスできなくなるサイトを発生させることなど、検閲にしかなりようが無く、絶対にやってはならないことである。例えそれが何であろうと、情報の単純所持や単なる情報アクセスではいかなる被害も発生し得えないのであり、自主的な取組という名目でいくら取り繕おうとも、憲法に規定されている表現の自由(知る権利・情報アクセスの権利を含む)や検閲の禁止といった国民の基本的な権利を侵害するものとならざるを得ないブロッキングもまた導入されてはならないものである。

 このような一方的かつ身勝手な規制強化の動きを規制するため、この項目において書かれている、現行の電気通信事業法を核とした伝送サービス規律に関わる制度の大括り化を図る際には、憲法の「表現の自由」に含まれ、国際人権B規約にも含まれている国民の「知る権利」を、あらゆる公開情報に安全に個人的にアクセスする権利として、法律レベルに明文で書き込むことを検討してもらいたい。同じく、憲法に規定されている検閲の禁止から、技術的な著作権検閲やサイトブロッキングのような技術的検閲の禁止を法律レベルに明文で書き込むことを検討してもらいたい。

(3)第11ページ「(1)メディアサービス(仮称)の範囲」について
 放送が放送法によって包括的な規制を受けている理由として、有限希少な周波数を占用するものであることもきちんとあげ、インターネットによる通信を、放送とともにコンテンツ規律の対象とする必要性は認められないとする考え方を私は強く支持する。今後の具体的な法制の検討においては、この考え方を厳格に守り、現在の放送・通信法の対象外にまで不必要な規制が及ぼされることがないよう、くれぐれも慎重に進めてもらいたい。

 なお、この項目において、プロバイダー責任制限法についても触れられているが、今後、プロバイダの責任の在り方について検討する際には、被侵害者との関係において、刑事罰リスクも含めたプロバイダーの明確なセーフハーバーについて検討してもらいたい。特に、このセーフハーバーの要件において、標準的な仕組み・技術や違法性の有無の判断を押しつけるような、権利侵害とは無関係の行政機関なり天下り先となるだろう第3者機関なりの関与を必要とすることは、検閲の禁止・表現の自由等の国民の権利の不当な侵害に必ずなるものであり、絶対にあってはならないことである。

(4)第17ページ「(4)「オープンメディアコンテンツ」に関する規律」について
 この項目において、青少年ネット規制法、フィルタリングサービスの導入促進及び改善、「e−ネットづくり!」宣言といった官製キャンペーンについて触れられている。

 しかし、そもそも、青少年ネット規制法は、あらゆる者から反対されながら、有害無益なプライドと利権を優先する一部の議員と官庁の思惑のみで成立したものであり、速やかに廃止が検討されるべきものである。なお、付言すれば、出会い系サイト規制法の改正も、警察庁が、どんなコミュニケーションサイトでも人は出会えるという誰にでも分かることを無視し、届け出制の対象としては事実上定義不能の「出会い系サイト事業」を定義可能と偽り、改正法案の閣議決定を行い、法案を国会に提出したものであり、他の重要法案と審議が重なる中、国会においてもその本質的な問題が見過ごされて可決され、成立したものである。憲法上の罪刑法定主義や検閲の禁止にそもそも違反している、今回の出会い系サイト規制法の改正についても、今後、速やかに元に戻すことが検討されるべきである。

 フィルタリングについても、その過去の政策決定の迷走により、総務省は携帯電話サイト事業者に無意味かつ多大なダメージを与えた。この問題については、フィルタリングの存在を知り、かつ、フィルタリングの導入が必要だと思っていて、なお未成年にフィルタリングをかけられないとする親に対して、その理由を聞くか、あるいはフィルタリングをかけている親に対して、そのフィルタリングの問題を聞くかして、きちんと本当の問題点を示してから検討してもらいたい。また、フィルタリングで無意味に利権を作ろうとしている総務省と携帯電話事業者他の今の検討については、完全に白紙に戻されるべきである。携帯フィルタリングについて、ブラックリスト方式ならば、まずブラックリストに載せる基準の明確化から行うべきなので、不当なブラックリスト指定については、携帯電話事業者がそれぞれの基準に照らし合わせて無料で解除する簡便な手続きを備えていればそれで良く、健全サイト認定第3者機関など必要ないはずである。ブラックリスト指定を不当に乱発し、認定機関で不当に審査料をせしめ取り、さらにこの不当にせしめた審査料と、正当な理由もなく流し込まれる税金で天下り役人を飼うのだとしたら、これは官民談合による大不正行為以外の何物でもない。このようなブラックリスト商法の正当化は許されない。

 官製キャンペーンについても、総務省への参加申請・登録の要請や総務省製のロゴマークの販促といった、ニーズを無視したいつもの官製キャンペーンに過ぎず、普通に考えて税金のムダ使いしかならない、「e−ネットづくり!」宣言のような官製キャンペーンに私は反対する。今以上に、規制よりにしかならないだろう官製「自主憲章」やガイドラインなども不要である。

 この点においては、恣意的な運用しか招きようのない危険な規制強化の検討ではなく、ネットにおける各種の問題は情報モラル・リテラシー教育によって解決されるべきものという基本に立ち帰り、地道な教育・啓発に関する施策のみに注力する検討が進むことを期待する。

(5)第19ページ「5.プラットフォーム規律」について
 コンテンツ規律の中に、既存のプラットフォーム規律である有料放送管理事業に係る規律を位置づけること自体に反対するものではないが、放送に関するコンテンツ規律の中に、異質なプラットフォーム規制を混ぜることによって、現在の放送・通信法の対象外にまで不必要な規制が及ぼされることがないよう、くれぐれも注意してもらいたい。

(6)報告書全体について
 放送が放送法によって包括的な規制を受けている理由として、有限希少な周波数を占用するものであることもきちんとあげ、インターネットによる通信を、放送とともにコンテンツ規律の対象とする必要性は認められないとする考え方を私は強く支持する。今後の具体的な法制の検討においては、このような考え方を厳格に守り、現在の放送・通信法の対象外にまで不必要な規制が及ぼされることがないよう、くれぐれも慎重に進めてもらいたい。

 従来、放送が勝手に相当部分を独占して来た情報流通が、インターネットの発展によって崩れてきたということこそ、通信と放送の関係における問題の本質である。今後は、危険な規制強化の検討では無く、現在の放送通信各法における不必要な規制の洗い出しと、特に放送がインターネットにおける情報流通と競争できるようにするための放送規制の緩和といった、真に国民全体を裨益する地道な検討のみが行われることを期待する。

| | コメント (2) | トラックバック (0)

2008年8月12日 (火)

第109回:総務省「デジタル・コンテンツの流通の促進」及び「コンテンツ競争力強化のための法制度の在り方」に対する意見

 デジタル放送に関するコピー制御について書かれている、総務省の「デジタル・コンテンツの流通の促進」及び「コンテンツ競争力強化のための法制度の在り方」(本文概要意見募集要項)に対して、下記のような意見を出したので、念のため、ここにも載せておく。(この話も進んでいるようでほとんど進んでいないので、内容は去年提出したパブコメとほぼ同じである。)

    記

(ページ)
第1ページ~第45ページ 第1章 デジタル放送におけるコピー制御ルールとその担保手段の在り方

(意見)
 私は一国民として、デジタル放送におけるコピー制御の問題について、以下の通りの方向性を基本として検討し直すことを強く求める。

1.無料地上波からB-CASシステムを排除し、テレビ・録画機器における参入障壁を取り除き、自由な競争環境を実現すること。
2.あまねく見られることを目的とするべき、基幹放送である無料地上波については、ノンスクランブル・コピー制限なしを基本とすること。
3.これは立法府に求めるべきことではあるが、無料地上波については、ノンスクランブル・コピー制限なしとすることを、総務省が勝手に書き換えられるような省令や政令レベルにではなく、法律に書き込むこと。
4.B-CASに代わる機器への制度的なエンフォースの導入は、B-CASに変わる新たな参入障壁を作り、今の民製談合を官製談合に切り替えることに他ならず、厳に戒められるべきこと。コンテンツの不正な流通に対しては現在の著作権法でも十分対応可能である。

 なお、審議会の場等で権利者団体の代表が「対価の還元」という前中間答申中の文言をあげつらい、コピーワンス緩和は補償金拡大を前提にしているかの如き発言を繰り返しているが、あくまで、補償金制度は、私的録音録画によって生じる権利者への経済的不利益を補償するものであって、メーカーなどの利益を不当に権利者に還元するものではない。上記1~4以外の方向性を取り、ダビング10のように不当に厳しいコピー制御が今後も維持され続けるようであれば、録画補償金は廃止しても良いくらいであり、全く議論の余地すらない。上記1~4が実現されたとしても、補償金の対象範囲等は私的な録音録画が権利者にもたらす「実害」に基づいて決められるべきであるということは言うまでもない。
 また、近年総務省が打ち出している放送関連施策には国民本意の視点が全く欠けており、今のままでは地上デジタルへの移行など到底不可能であるとほとんどの国民が思っているであろうことを付言しておく。


(理由)
 去年の中間答申と同じく、この中間答申では過去のコピーワンス導入経緯についての説明が故意に省かれているが、総務省は過去の情報通信審議会において、コピーワンスの導入のために無料地上波にB-CASシステムを導入するのが適当という結論(http://www.soumu.go.jp/s-news/2002/020124_1.html「BSデジタル放送用受信機等が対応可能なコンテンツ権利保護方式(素案)についての意見募集の結果」参照。)を出し、平成14年6月に省令改正(http://www.soumu.go.jp/joho_tsusin/policyreports/denpa_kanri/020612_1.html「標準テレビジョン放送等のうちデジタル放送に関する送信の標準方式の一部を改正する省令案について」参照。)まで行って、その導入を推進している。無料の地上放送へのB-CASシステムとコピーワンス運用の導入は、この省令改正によってもたらされたものである。
 このB-CASシステムは談合システムに他ならず、これは、放送局・権利者にとっては、視聴者の利便性を著しく下げることによって、一旦は広告つきながらも無料で放送したコンテンツの市場価格を不当につり上げるものとして機能し、国内の大手メーカーとっては、B-CASカードの貸与と複雑な暗号システムを全てのテレビ・録画機器に必要とすることによって、中小・海外メーカーに対する参入障壁として機能している。
 本来あまねく見られることを目的としていた無料地上波の理念をねじ曲げ、放送局と権利者とメーカーの談合に手を貸したあげく、さらにこれを隠すという総務省の行為は、見下げ果てたものであり、現在の方向性に国民本位の考え方など欠片も見られないことの証左でもある。
 総務省は素直に過去の失策を認めるべきであり、この過去の審議会の詳細な議事録を公開し、この事実を元にした再検討を進めるべきであることは言うまでもない。

 コピー制限なしとすることは認められないとする権利者の主張は、消費者のほとんどが録画機器をタイムシフトにしか使用しておらず、コンテンツを不正に流通させるような悪意のある者は極わずかであるということを念頭においておらず、一消費者として全く納得がいかない。消費者は、無数にコピーするからコピー制限を無くして欲しいと言っているのではなく、わずかしかコピーしないからこそ、その利便性を最大限に高めるために、コピー制限を無くして欲しいと言っているのである。消費者の利便性を下げることによって権利者が不当に自らの利潤を最大化しようとしても、インターネットの登場によって、コンテンツ流通の独占が崩れた今、消費者は不便なコンテンツを選択しないという行動を取るだけのことであり、長い目で見れば、このような主張は自らの首を絞めるものであることを権利者は思い知ることになるであろう。

 最近運用が開始されたダビング10に関しても、補償金の不当な拡大をせずに運用されるのであれば良いが、大きな利便性の向上なくして、より複雑かつ高価な機器を消費者が新たに買わされるだけの弥縫策としか言いようがなく、一消費者・一国民として納得できるものでは全くない。
 さらに、ダビング10機器に関しては、テレビ(チューナー)と録画機器の接続によって、全く異なる動作をする(接続次第で、コピーの回数が9回から突然1回になる)など、公平性の観点からも問題が大きい。

 現在の地上無料放送各局の歪んだビジネスモデルによって、放送の本来あるべき姿までも歪められるべきではない。そもそもあまねく視聴されることを本来目的とする、無料の地上放送においてコピーを制限することは、視聴者から視聴の機会を奪うことに他ならず、このような規制を良しとする談合業界及び行政に未来はない。

 コピー制限技術はクラッカーに対して不断の方式変更で対抗しなければならないが、その方式変更に途方もないコストが発生する無料の地上放送では実質的に不可能である。インターネット上でユーザー間でコピー制限解除に関する情報がやりとりされる現在、もはや放送に無料の地上放送にDRMをかけていること自体が社会的コストの無駄であるとはっきりと認識するべきである。無料の地上放送におけるDRMは本当に縛りたい悪意のユーザーは縛れず、一般ユーザーに不便を強いているだけである。

 制度的エンフォースメントにしても、正規機器の認定機関が総務省なりの天下り先となり、その天下りコストがさらに今の機器に上乗せされるだけで、しかも不正機器対策には全くならないという最低の愚策である。

 法的にもコスト的にも、どんな形であれ、全国民をユーザーとする無料地上放送に対するコピー制限は維持しきれるものではない。本来立法府に求めるべきことではあるが、このようなバカげたコピー制限に関する過ちを二度と繰り返さないため、無料の地上放送についてはスクランブルもコピー制御もかけないこととする逆規制を、政令や省令ではなく法律のレベルで放送法に入れることを私は一国民として強く求める。

 なお、付言すれば、本来、B-CASやコピーワンス、ダビング10のような談合規制の排除は公正取引委員会の仕事であると思われ、何故総務省及び情報通信審議会が、談合規制の緩和あるいは維持を検討しているのか、一国民として素直に理解に苦しむ。今後、立法府において、行政と規制の在り方のそもそも論に立ち返った検討が進むことを、私は一国民として強く望む。

 総務省への提出パブコメは以上だが、特許庁の「イノベーションと知財政策に関する研究会」も報告書(発表資料政策提言報告書プレスリリース)をまとめたようなので、念のためにリンクを張っておく。この研究会については第95回で書いたこともあり、この内容についてはまたどこかで取り上げるかも知れない。

| | コメント (0) | トラックバック (1)

2008年5月23日 (金)

番外その12:ユーザーから見た放送・音楽業界のビジネスモデルに対する疑問

 今回は、番外として、少し毛色を変えて、一ネットユーザーから見た、放送と音楽のビジネスモデルに対する疑問を思いつくままに書き並べてみる。ただ、別に疑問を抱いているからと言って、そのビジネスモデルそのものをどうこうしろというつもりは私にはあまりない。私が問題だと思っているのは、最近の政官が、特定業界と結託して、ビジネスの話と法規制の話をごっちゃにし、規制強化による不当な利権拡大を目論んでいることだけである。

(1)放送
 テレビを漫然と見ている分には単純と思えなくもないのだが、放送のビジネスモデルは、今となっては時代遅れの規制に蝕まれているのではないかというのは、私の本質的な疑問の一つである。

 総務省の放送制度に関する資料(似たような資料を総務省は沢山作っているので、どれでも良かったのだが、これは「携帯端末向けマルチメディア放送サービス等の在り方に関する懇談会」のものである。)を見ても、山ほどの規制の中でビジネスが組み立てられており、さらに、電波放送に関しては総務省から放送局免許を受けることが絶対必要なので、放送業界は、事実上新規参入があり得ないというすごい状態にある。

 しかし、例えば、映像を撮って編集し、動画サイトなりを利用してブログに埋め込む程度のことは個人レベルでも簡単にできるし、このように誰でも世界に向けて放送ライクの映像配信ができるようになっている今の状態で、放送について今の山のような規制を維持する意味は本当に疑わしい。放送規制については、その免許の付与方法や、放送内容に対する規制、マスメディア集中排除原則、県域免許、最近総務省での流用が明るみに出た(朝日のネット記事参照)電波利用料の問題まで疑問が尽きることはない。

 マスメディア集中排除原則なども電波法で特別に定めていることからして疑問であり、最近緩和された(産経のネット記事参照)とは言え、もう全て独禁法にまかせても良いのではないかという気すらする。県域免許や事業参入規制をしたままの、このような緩和の意味もいまいち良く分からないが、護送船団方式の中、破綻寸前の地方局を救うためのセーフティネットくらいにはなるのだろうか。

(それにしても、このマスメディア集中排除原則の緩和は、「放送局に係る表現の自由享有基準」という電波法の下位省令で決まっているのだが、さらに別省令「放送局に係る表現の自由享有基準の認定放送持株会社の子会社に関する特例を定める省令」を追加して、持ち株会社について特例を作るというトリッキーなことをしている。このようにわざと法令をややこしくすることの意味もよく分からない。)

 また、地上放送の収入が広告に大きく依存していることも、ビジネスモデルの歪みを大きくしているだろう。日本の広告費は毎年電通が発表している(Markezineの記事電通の発表資料)が、2兆円をわずかに割ったとは言え、今でもテレビは最大の広告媒体であり、無料の地上放送局のビジネスモデルは、この2兆円を新規参入がない中でいかに山分けするかというところに尽きている。

 個人的な実感としては、もはやネット利用時間の方がテレビの視聴時間より長くなりつつあるのではないかという気がするのだが、ネット広告は全体で6000億円とユーザーの利用実態の変化がまだ十分に反映されていない。そのため、放送局にしてみれば、コンテンツをテレビだけで流して視聴率を稼いだ方が絶対得なはずであり、今現在、ネットに自らコンテンツを流すインセンティブが放送局に働くはずはない。放送番組の2次利用が進まないのに著作権処理が良く言い訳に使われるが、そんなところに本当の理由はないだろう。

 この状況下で、役所で無理矢理放送番組のネット利用ビジネスを推進しようと政策検討をしていることからして理解できないのだが、地デジ移行のことなどを考えても、今後さらにテレビ離れが進むと考えられる中で、ネット利用に異常なほど消極的と見える放送局の態度も理解に苦しむ。ネット広告はこのまま伸びて行くだろうし、放送局は自分で自分の首を絞めているような気がしてならないのだ。

 放送に関しては、NHK問題も疑問だらけである。総務省でBS-NHKのスクランブル化を提案している(毎日のネット記事参照)ようだが、今でこそ多少下火になっているものの、NHK問題もこの程度のことで片付く話とは到底思われない。地上放送のデジタル移行でテレビ離れが進んだらなおさらだろう。ワンセグ携帯だけでテレビを受信する層が増えたりした日には、目も当てられない状態になると思うのだが。

 また、総務省のデジタルコンテンツ委員会の議事録を読んでいても、地上デジタル放送のコピー制御に関して、放送局がその正当化理由に持ち出すリッチコンテンツがどうとか、HD画質がどうとか言う理屈も常に理解出来ない。ほぼ2次利用が考えられないニュースなども含めて番組は全てリッチコンテンツで厳格なコピー制御が必要というのは良く分からないし、画質に関しても、そこまで消費者を信用できないなら、地上デジタル放送でも、どうしてもHD画質での流出を防ぎたいコンテンツについては、コピーフリーとされているアナログと同様にSD画質で番組を流してもらっても私は一向に構わない。SDにHDは流せないが、HDにSDは流せるのだ。

(大体、メディアの主流がSD画質のDVDである中で、無理矢理期限を切って無料放送のHD化を進めていることも、ビジネスモデルの歪みを助長しているように思う。)

 いくらネットや録画機器が今の放送のビジネスモデルに邪魔だからと言って、これらへの規制強化を図っても、インターネットはおろか、録画機器すら無かった頃の本当の放送黄金時代には絶対戻れないだろう。

(2)音楽
 技術の進展によって増えた私的録音録画によって権利者は莫大な経済的不利益を被っているという主張を、文化庁の私的録音録画小委員会で、延々権利者団体代表は繰り返している訳だが、そうは言っても、JASRACの徴収料が全体として今年増収に転じている(ITmediaの記事JASRACの定例記者会見資料参照)ことを思うと、このような主張は実に嘘くさく思えて仕方がない。(逆に不利益が全くないということも証明できないので、本当にこの問題は厄介なのだが。)

 レコード協会の統計を見ると、さらに良く分かるが、音楽業界の中でCD(レコード)の売り上げだけを見れば確かに減っている。しかし、ほぼ音楽著作権を独占しているJASRACの増収の内訳を見てみれば、これは、CDからダウンロード販売などへの移行という、ネット時代にあって、極当たり前のビジネスモデルの転換が起こっているに過ぎないとほぼ分かる。このようなCDの売り上げ減は、私的録音録画問題・著作権問題とは性質を異にするものとしか思えないのだ。

 実演家の収入がどうなっているのかは良く分からないが、彼らも著作隣接権者とは言え、レコード会社のような流通事業者ではないので、やはり収益が大きく減っているということはないのではないかと思う。減っているとしても、私的録音録画の影響より、各利用形態における料率の設定ミスなどの要因の方が遥かに大きいに違いない。

 また、かなり通常のダウンロード販売が増えたとは言え、音楽配信がかなり携帯の着メロと着うたに依存しているのも日本の特徴的なところだろう。世界的にはDRMフリーのダウンロード販売がほぼ潮流となりつつある中、日本の音楽業界が、携帯への配信とDRMにかなりこだわっているのもどうかと思う点である。

 さらに、レンタルCDと私的録音補償金との関係もいまだに釈然としない。私的録音のための料金が暗黙の内に含まれていないとしたら、あのレンタルCDの料金・料率は何なのかという疑問は常にぬぐえない。

 音楽CDについては、多少の変動はあるものの、大体アルバムで3000円といった価格が維持されているのも不思議と言えば不思議な点である。CDを一生懸命作っている方には悪いが、他のコンテンツと比べて、はっきり言ってこの値段では、もはや娯楽としてコストパフォーマンスが良いとは言い難い。業界のビジネスモデルはなかなか変わり難いだろうし、再販制の所為かも知れないが、もう少し価格に弾力性があっても良いのではないかと思う。

 様々な規制が入り乱れている上、情報という無体物を扱い、これを保護する著作権は無形式無登録で発生し、その財産権に関しては完全に契約自由という状態では、コンテンツは、種類毎に、その特性を色濃く反映したビジネスモデルができて当たり前である。それが不可逆の環境変化によってさらに歪んだからといって、その歪みをいくら法律に押しつけようとしたところで、絶対無理が来る。法律は最後の調整手段であり、しかも万能のツールではない。消費者・国民はバカではないのだ。ビジネスの話は最後ビジネスでしか解決されようがないというひどく単純なことを、政官業の3者が皆分かっているようで分かっていないということが、一番不思議でならないことである。

 最後に、ニュースの紹介もしておくと、民主党が、有害サイト対策法と、児童ポルノ改正法の対案骨子をまとめたようである(internet watchの記事朝日のネット記事)。今の児童ポルノの定義の厳格化を行うとしているところは評価できるのだが、「みだりに収集」するなどの行為が処罰の対象というのは実に曖昧であり、やはり与党案と同様の問題を抱えている。有害サイト対策についても、自民党案よりは弱めだが、やはり「著しく・・・する」といった曖昧な表現で情報の有害性が定義できると思っている点は手を焼きそうである。そもそも有害サイト規制などは、その立法の必要性から問われるべきだと思うのだが、今の政官で法規制そのものが目的化しているのは本当にいかがなものかと思う。もう少し考えて、私は民主党にも意見を送るつもりである。

 次回は、他でも結構書かれている話だが、上でも少し書いた再販制のことについて私なりにまとめてみようかと思っている。

(5月23日夜の追記:内容は変えていないが、少し誤記などを直して文章を整えた。他の種類のコンテンツ業界についても調べて何かしら書いてみたいと思っているが、その種類毎に業界のカラーはかなり違うように思う。放送と音楽だけでも全く性質が異なるので、これらも本当なら分けた方が良かったと後で気づいた。)

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2008年5月15日 (木)

第94回:B-CASと独禁法、ダビング10の泥沼の果て

 合意されたのだかされていないのだかよく分からないまま進んでいた時点で、ある程度予想されたことではあったのだが、先日(5月13日)、総務省の情報通信審議会の「デジタル・コンテンツの流通の促進等に関する検討委員会」でダビング10問題が議論され、事実上延期されることが決定された(AV watchの記事ITproの記事マイコミジャーナルの記事参照)。

 不当に厳しいコピー制限の1種としか思われないダビング10に全く期待していないユーザーの一人として、ダビング10など永遠に延期にしてもらっても一向に構わないと思っているくらいだが、そもそも、既得権益となっている民間規制の排除に対して全関係者が拒否権を持っている状態で議論を行ったところで、何も決まらないのは当たり前の話である。

 相変わらずバカの一つ覚えのように、総務省は関係者間で合意をと言っているようだが、このコピーワンス・ダビング10・B-CAS問題において本当に必要とされていることは、公共の利益に反する不当な既得権益・利権・民間規制の排除であって、関係者間の合意ではない。今の体たらくでは、このことが理解され、問題が本当に解決されるまでまだかなり時間がかかるものと思われるが、この問題における最後のピースとして、今回は、B-CASと独禁法の関係について書いておきたいと思う。

 想像するに、B-CASシステムの搭載を必須とする今の放送・録画機器市場への新規参入には、電波産業会(ARIB)なりメーカー団体(JEITA)なりの天下り団体に参加してテラ銭を払って技術情報を手に入れ、国内大手放送局と大手メーカー十数社のみで設立・運営されているB-CAS社という得体の知れない会社とB-CASカード発行のための契約を結び、地上デジタル放送機器関連の特許を牛耳る国内大手メーカーと特許ライセンス契約を結ぶという手間が必要になるものと思われる。これだけのコストに加えて、B-CASというそれなりに複雑な暗号システムの開発・製造にもかなりの初期投資をしなくてはいけないという状況では、行政も含めた日本の複雑怪奇な規格決定プロセスに元から精通し、初期投資もタイミング良く済ませている国内大手メーカーに正規に張り合うことは始めから難しいだろう。

(特許料に関しては、パテントプールができた(AV watchの記事参照)ことで多少透明感・合理性が出たとは言え、それ以外の理解不能の追加参入コストを支払ってまで正規に参入しようとする中小・海外メーカーがどれほどあるだろうか。特に、一ユーザーには知り得べくもないことだが、内実大手放送局と大手メーカーに牛耳られているB-CAS社と他メーカーが結ぶ契約において、不当な参入制限条項がないかというのは気になるところである。コピー制限つきのPC用単体デジタルチューナーすら最近に至るまで長くARIB規格で認められていなかった(AV watchの記事参照)のもどうかと思われる。なお、B-CASの問題点については、そのWikiにも詳しい。)

 とにかく不透明極まるので、具体的な参入コストの算定は不可能に近いが、日本の国内市場において、国内大手メーカー以外の安価なテレビ・録画機器がほとんど出回っていないことを考えても、この参入コストは意外なほど高くついているに違いなく、B-CASは事実上の参入規制・非関税障壁として見事に機能していると思われる。(ITproの記事でフリーオの原価は3000~3500円とされていたことから推しても、B-CASのような無意味な規制さえなければ、それなりに技術力のある海外・中小メーカー製の安価なチューナー・録画機器が早期に市場に出回っていたことだろうし、今の地デジ問題の様相も少しは変わっていたろう。)

 さらに、B-CASによってエンフォースされているコピーワンス規制(実現されたらダビング10規制でも同じである)は、正規の機器における録画の利便性を不当に下げることで、無料放送コンテンツの2次利用物の価格を不当につり上げるものとしても機能しており、ここが、放送局と権利者の既得権益となっている。(ダビング10は、本質的な利便性の向上がない上、発生する追加の開発コストが機器に上乗せされるだけなので、この問題をさらにややこしくするだけである。暗号化はするがコピーは自由のEPNなら、消費者の利便性は向上するかも知れないが、結局B-CASという機器市場での競争阻害要因が取り除かれないため、やはり弊害は残る。なお、今のところ私にはその余力はないが、この分野においてミクロ経済分析をやってみるのも面白いだろう。)

 特に、独占禁止法(正式名称は「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律」)の第2条第5項で、

この法律において「私的独占」とは、事業者が、単独に、又は他の事業者と結合し、若しくは通謀し、その他いかなる方法をもつてするかを問わず、他の事業者の事業活動を排除し、又は支配することにより、公共の利益に反して、一定の取引分野における競争を実質的に制限することをいう。

と定義されている私的独占は当然事業者がしてはならないこととされている(第3条)ものであり、さらに事業者団体レベルでも、第8条第1項の第1号や第3号で、「一定の取引分野における競争を実質的に制限すること」や「一定の事業分野における現在又は将来の事業者の数を制限すること」はしてはならないとされているのである。

 第86回のB-CAS導入経緯で書いた通り、B-CASは、完全に少数の大手放送局と大手メーカーの共謀によって、あまねく視聴されることを目的としている無料の地上放送の公益性を無視して、機器に対する不当な参入規制・コンテンツの不当な値段のつり上げのために導入されたものであり、これはほとんど条文そのままの行為で、どう考えても独禁法上真っ黒としか考えられない。放送局やメーカーがどういう言い逃れでこれを白と考えているのか理解に苦しむほどである。無論、既存の大手メーカー同士・放送局同士の競争は多少はあるだろうが、大手同士の馴れ合いの箱庭競争など、需要者の利益を不当に害する民間規制を正当化するものたり得ないのは無論のこと、放送局やARIBへの天下り利権確保に走った総務省も同じ穴のムジナとして同罪だというだけのことで、総務省の審議会や省令改正によるバックアップも何ら免罪符にならない

 私的独占をバックアップした行政機関を罰する規定が独禁法にないのは残念でならないが、事業者に対しては、公正取引委員会は、第7条の2第2項で規定されている通り、私的独占に対して事業者に課徴金を課すことが可能であり、事業者団体についても、第8条の2で規定されている通り、問題行為の差し止めから、団体の解散という非常に厳しい命令まで出すことが可能である。先日JASRACに公取が立ち入り検査をしたが、ここにも公取の仕事はあるに違いない。本当に問題だったのは、メーカーなのか、放送局なのか、ARIBなどの規格団体なのか、総務省などの役所なのか良く分からないが、皆同じ穴のムジナなので、どこでも叩けばホコリは出てくるだろう。

 B-CASカード利用不正録画機器フリーオの登場によって表向きの名目であるコピー制限のエンフォースすら疑わしくなり、実は権利者・放送局の既得権益たり得なかったものであることが判明しつつあるB-CAS(コピーワンス・ダビング10)に、国としてしがみつき続けるのは、既に国民に見放されつつある地デジの沈没を加速するだけだろう。

 今の状態では、私も、一消費者・一ユーザー・一国民として、地デジを見放すという選択肢以外取りようがないが、国の政策としてそれで良いのかという疑問は尽きない。総務省にせよ、文化庁にせよ、国として何を軸に判断しなければならないかの基準すら示さないまま、ただひたすら自分たちの利権さえ拡大できれば良いとばかりに、自分たちも含め各関係者の既得権益を全て隠蔽したまま、国民不在の議論を審議会で続ける役所の姿勢にも、不信感がつのるだけである。

 文化庁がトチ狂った補償金拡大案で、この地上デジタル放送に関するコピー制限問題をさらに撹乱している訳だが、B-CAS(コピーワンス・ダビング10)という不当規制に加えて、物理的にタイムシフト視聴しか用途が考えられないHDDレコーダーにまで理解不能の狂った論理で不当に補償金の対象とされるという最低最悪の未来を、中途半端な妥協で招くことに対しては、私も、一ユーザー・一消費者・一国民として断固反対する。

(このような規制緩和により、正規の録画機器が多く出回れば、かえって不正コピー自体は減ると思われるので、無料の地上放送をノンスクランブル・コピーフリーにすることが、必ずしも権利者の不利益につながるとは思えないのだが、確かに、このインターネット時代には、違法コピー対策などのために権利者に不当な負担(経済的不利益とイコールではない)が生じているかも知れない。だが、このインターネット時代において著作権のエンフォースに必然的にともなう過大な負担を社会的にどうするかという問題は、機器や媒体に課される補償金を不当に拡大することによって解決されるものではないし、解決されて良い話でもない。なお、私的録音録画補償金に関する話はさんざん他のエントリでも書いてきたので、ここでこれ以上繰り返すことはしないが、ノルウェーのように税金で権利者への補償をしている国があることや、日本で、コンテンツ振興と称して権利者団体他にばらまかれている税金も一種の補償金と考えられることなどは、補償金に関する議論において、もっと注目されても良いと私は考えている。)

 法的にもコスト的にも、どんな形であれ(総務省が天下り先となる機器の認定機関を作る案を出したことも昔あったが、これは、天下りコストがさらに今の機器に上乗せされ、しかもフリーオ対策には全くならないという最低の愚策である)、全国民をユーザーとする無料地上放送に対するコピー制限は維持しきれるものではない。このようなバカげたコピー制限に関する過ちを二度と繰り返さないため、無料の地上放送についてはスクランブルもコピー制御もかけないこととする逆規制を放送法(情報通信法)に入れるべきだとすら私は思っているのだ。 その不当性から見て、無料の地上放送におけるB-CASとこれに基づくコピー制御の排除は時間の問題だろう。いつ到達することになるかは全く読めないが、この無料の地上放送におけるノンスクランブル・コピーフリーの実現こそ、この問題における本当のラスト1マイルである。

 ついでに、直接ユーザーに絡む話ではないが、経済産業省が、企業や大学が大量破壊兵器などの製造につながる恐れのある技術情報の国外持ち出し規制を強化することを考えているという日経のネット記事があったので紹介しておく。重要情報をフロッピーディスクや紙で持ち出したり、電子メールなどで国外に提供したりする場合は、企業などに国に許可を取るよう義務付ける方針らしい。しかし、電源開発(株)への外資ファンドの20%への株買い増しを止めた経産省の対応を見ても、どうにも、今の役所は、個別のビジネスの話と、本当の国益・安全保障の話を混同しているとしか思われず、このような情報規制も重要技術に関する定見もないままに闇雲に導入され、誰にも守れない規制としてムダに官製不況を招くのではないかという懸念を私は強く感じている。

 次回は、ここら辺で少し特許関連の話をまとめて書いておこうかと考えている。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2008年4月24日 (木)

番外その10:地上放送のデジタル移行の経緯

 今回は変則的だが、いくつか大きなニュースがあったので、その紹介から。

 まず、JASRACが公正取引委員会の立ち入り検査を受けたというニュースがあった(日経のネット記事朝日のネット記事読売のネット記事)。今このときに公取の手が入るとは正直意外だったが、確かに、他社・他団体からの楽曲を使っても、びた一文まからない包括許諾契約というのも変なものである。公正透明な契約がなされるよう、業界慣行が是正されるのをここは素直に期待したい。

 また、MIAUなど12の団体と個人、think-filtering.comマイクロソフト・ヤフー・DeNAなどネット大手5社から、それぞれ多少ニュアンスは違うが、青少年ネット規制法に関する反対声明が出された(ITmediaの記事1記事2internet watchの記事)。錚々たるメンバーからこのように反対が続々と出されたのは非常に心強い。

 さて、地上放送のデジタル移行の理由については、池田信夫氏の地上デジタル放送FAQデジタルテレビ放送のWikiにも書かれているが、要するに、日本のアナログハイビジョンを見てこれに脅威を感じたアメリカがこの規格の排除のためにデジタル化を決めたので、これにさらに対抗して、日本が遅れをとるわけには行かないと総務省(当時は郵政省)が地上放送のデジタル化をごり押ししたという事情のようである。

 他にも、いろいろなところで書かれており、これ以上書く必要はあまりないかも知れないが、検索してリンクを辿るのは結構面倒なので、当時の検討会の議事要旨などでネット上で残っているものを、今回は、一通り辿って行きたいと思う。

 調べて行くと、最初に地上放送のデジタル化の方針が打ち出されたのは、1995年3月の郵政省の「マルチメディア時代における放送の在り方に関する懇談会」報告書のようであり、このとき、導入目標は漠然と2000年代前半とされていた。その後、1996年5月の電気通信審議会答申「高度情報通信社会構築に向けた情報通信高度化目標及び推進方策-西暦2000年までの情報通信高度化中期計画-」でも同じ目標をなぞっている。(下の「地上デジタル放送懇談会」の第2回の参考資料による。)

 これが1997年3月に発表された取組みでは、突然地上デジタル放送の開始時期目標が2000年以前と前倒しされ、移行のための地上デジタル放送検討会も開催するとしている。(途中に何があったか良く分からないが、1997年6月の電気通信審議会の答申「情報通信21世紀ビジョン」の資料などからも、1996年に英米が地上放送のデジタル化のための法整備をやっていることが分かるので、このことを知った郵政省がアメリカに負けるなとばかりに何も考えずに前倒しを決めたのではないかと思われる。)

 この検討会は「地上デジタル放送懇談会」として、1997年6月2日から第1回が開始され、第2回(7月16日)第3回(9月22日)第4回(11月5日)第5回(11月19日)第6回(12月19日)第7回(1998年2月20日)第8回(3月4日)第9回(4月22日)第10回(5月28日)第11回(6月17日)中間報告(6月17日、概要)、第12回(9月11日)と12回に渡り検討がなされ、報告(10月16日)報告書(10月26日)と報告書が出され、ここで事実上地上放送のデジタル完全移行の方針が完全に固まっている。

 この検討の中で、例えば、第4回でアンテナなどの問題が既に指摘されており、第12回の議事要旨に資料としてついている意見募集の結果概要の中には、国民にはデジタル化によるデメリットもあるがメリットも非常に多いと知らすべきとする意見も載っているが、最終報告書では、事前に良く周知しておけば買い換えてくれるのではないかとしているだけである。具体的に消費者側でどれだけのコストがかかるのかなどの試算もない。この検討会でユーザー・消費者に対する具体的なデメリット対策が検討されていたとは到底言えず、今の迷走はこのとき既に約束されていたと言って良い。

 また、この報告書には、10年間で212兆円の経済波及効果、約711万人の雇用創出などとどこから出てきたのかよく分からない数字が書かれているが、今にしても思えばデタラメも良いところである。基本的に大したメリットのない地上放送のデジタル移行にかかるコストを消費者に一方的に押し付けようとしても、そうは問屋がおろさないということは、今までの混乱・迷走によっても明確に示されていることである。(それに引き替え、放送事業者のコストに関しては約9300億円というやたらに具体的な数字が記載され、行政として金融・税制上の支援をすると書くなど、放送事業者に対しては甘く、どう考えてもユーザー・消費者・国民を舐めているとしか思えない。ちなみに、この優遇措置は1999年に法制化されている。)

 ただし、この1998年の報告書では、アナログ放送の終了時期として2010年を目安としながらも、受信機の普及世帯率として85%以上、放送地域カバー率100%という条件に沿って見直すとしていたので、この時点では、完全に期限を切ることは考えられていなかった。しかし、何故2011年7月24日という日付けでこれが切られるようになったのかという背景になると、極めて不透明である。

 上の報告書の後、郵政省は、さらに1999年9月から「地上デジタル放送に関する共同検討委員会」なる検討会で、アナ・アナ変換対策(予定の周波数帯を使っているアナログ放送局の周波数帯をどけて、地上デジタル放送のための周波数帯を空けること。1000億とか2000億とか莫大な費用がかかる)費用の問題を検討し、2000年4月にはこれを国費でまかなうべきという結論(日経BPの記事)を出した。

 この地上デジタル放送に関する共同検討委員会の時点でも、アナログ放送の終了を計画的に実施とするくらいで、ここでも厳格に期限を切ることは考えていなかったように見えるが、池田信夫氏のFAQに書かれていることなどによると、結局、このアナ・アナ変換費用を国費でまかなうという方針がガンになったようであり、この方針を押し通そうとする総務省と、民放の私有財産である中継局に国費を投入することは認められないとする財務省との、国民の目に全く見えないやりとりの中で、改正電波法の施行日から10年後(2011年7月24日)をアナログ停波の日とすることと引き換えに、アナ・アナ変換費用に国費を投入するという形で、当時の総務省・財務省間で理解不能のディールが成立したということのようである。日経BPの記事によると、2001年2月の閣議決定前の時点で10年という期限が切られることが確定していたようなので、これは有識者会議も、国会審議も関係ない、完全な官庁間ディールであると思われる。(少なくとも私には、今もって、アナログ停波の期限を切ることで、何故民間事業者への国費投入が認められるのかさっぱり理解できない。いまさら言っても始まらないが、本来なら、どんな条件であれ、このとき国費投入は認められるべきではなかったろう。)

 完全に期限を切らずに、デジタル化をニーズに従って進め、85%なり何なり適当なところまでデジタル受信機の普及が進んだところでアナログを停波するということにしておけば、まだ混乱は少なかったものと思われるのだが、このような経緯を見て行くと、訳の分からないメンツだのプライドだの利権だのを優先し、さらに国民より放送局の顔色ばかりをうかがい、今の迷走の原因を作ったのは、完全に総務省なりの役所であるとしか言いようがない。

 そろそろ、このようなプライドと利権のみによる政策の迷走は終わりにするときだろう。ごまかしをさらにごまかそうとしても、墓穴を掘るだけである。後3年少ししかないのだ、電波法を再改正して、アナログ停波の条件を書き直すことは絶対に必要になるであろうし、早ければ早いほど傷は浅くて済む。

 なお、この後の経緯についても興味があれば、第86回のB-CAS導入経緯番外その5の地上デジタル放送年表もご覧頂ければと思う。

 次回は審議会システムの話か、ニュージーランドの著作権法・ドイツの知財法改正の動きとその内容の紹介のどちらか、早く書けた方がら載せていくつもりである。

(4月27日の追記:アナ・アナ変換対策費用と何故電波法改正が関係あるかというと、この対策費用のために総務省が持ってきた財源の電波利用料は、電波法の第103条の2で用途がばっちり決まっているために、電波法を改正しない限り新しい用途に使うことができないからである(今の電波法の「特定周波数変更対策業務」がこれに当たる)。外からは良く分からないが、これも税金の1種なので、このような用途の追加については相当財務省との間でもめたに違いない。電波利用料のHP歳出歳入状況を見ると、結局、このような電波法改正が通ってしまったおかげで、携帯電話にかけられる税金(年額420円)が半分近くを占める電波利用料財源(平成18年度で660億円)の3分の一近くの200億円近くが民間放送局の中継局に投入されているという、要するに、携帯電話税で民間放送局のアナ・アナ変換対策費用がまかなわれているという異常な事態が今年に至るも続いていることが分かる。(無論放送局も電波利用料を払っている(放送局毎の電波利用料については河野太郎衆議院議員のブログで公開されている)が、全部で30億程度に過ぎない。)この電波利用料という名の携帯電話税は、携帯電話の料金の中にこっそり入っているのだと思うが、その料率の算定基準も含め不透明極まるものである。とにかく電波に関しても、調べれば調べるほど不透明かつ不当で許し難いことがボロボロ出てくる。)

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2008年4月17日 (木)

第86回:無料地上デジタル放送へのB-CASシステム導入経緯

 今回は、無料地上デジタル放送へのB-CASシステムの導入を可能とした平成14年6月の総務省令改正の経緯についてまとめておきたい。

 まず、平成14年6月26日の省令改正まで、地上デジタル放送の技術方式を定める総務省令「標準テレビジョン放送等のうちデジタル放送に関する送信の標準方式」でスクランブルに関する部分は、以下のようなものだった。(赤線強調は私が付けたもの。)

第3条 符号化された映像信号、音声信号及びデータ入力信号並びに関連情報(国内受信者(放送法(昭和25年法律第132号)第52条の4第1項に規定する国内受信者をいう。以下同じ。)が有料放送(同法第52条の4第1項に規定する有料放送をいう。以下同じ。)の役務の提供を受け、又はその対価として放送事業者が料金を徴収するために必要な情報及びその他総務大臣が別に告示する情報をいう。以下同じ。)(以下「符号化信号」という。)は、次の各号により伝送するものとする。

(中略)

第4条 有料放送を行う場合は、次の各号に規定する方式を組み合わせたスクランブル(国内受信者が設置する受信装置によらなければ受信することができないようにするために、信号波を電気的にかくはんすることをいう。以下同じ。)の方式によるものとする

 要するに、当時まで、スクランブルは有料放送の料金徴収を行うためのエンフォース手段としてのみ規定されていたので、有料放送でなければスクランブルはかけられなかったのである。B-CASのようなスクランブル・暗号受信システムを全国民がユーザーである無料の地上放送に適用することは、今でも無料の地上放送の主旨に反していると私は思っているが、このような主旨は、このような省令を見ても昔は認識されていたものと見える。しかし、これがどうして歪んだのかとなるとその経緯は実に不透明極まる。

 これを調べて行くと、何故か、情報通信審議会のサーバー型放送システム委員会という、BS放送とも地上放送とも関係ないサーバー型放送のシステムを検討していた審議会が、BSの料金徴収のエンフォース手段であったB-CASシステムを無料の地上放送に導入することを実質的に決めていたことが分かる。

 詳細は良く分からないが、ネット上に議事概要は残っているので、それを追っていくと、平成13年の6月25日の諮問を受けて、8月7日に第1回が始まり、8月8日にサーバー型放送の技術要件の募集を行うなど地上デジタル放送とは全く関係なくサーバー型放送の技術要件の検討をしているのだが、第2回(9月4日)で、構成員から、「地上デジタル放送の開始が2003年に迫っていることもあり、BSデジタル放送のコンテンツ権利保護方式だけでなく地上デジタル放送のコンテンツ権利保護方式についても先行検討の対象とするべき」という意見が出されて、総務省(事務局)が、「BSデジタル放送のコンテンツ権利保護方式が先行検討されれば、その方式は地上デジタル放送に適用することは可能と考えられる」と受けたあたりから雲行きがおかしくなってくる。

 第3回(10月5日)要求条件のとりまとめ(10月12日)第4回(11月9日)を経て第5回までの間に何があったのか分からないが、第5回(12月14日)で、突然ワーキンググループから、省令改正のための「権利保護方式のうちBSデジタル放送用受信機等が対応可能な方式」について説明がされ、その報告内容を基に情報通信技術分科会に対する委員会報告案及び一部答申案の作成を進めることが問答無用で決まっているのである。

(特に、この第5回の議事概要からは、「画質、音質、解像度の低い低品質なコンテンツは暗号なしで無料で提供し、高品質なコンテンツは暗号化して有料で提供するといったビジネスモデルが実現できるような仕組みが必要ではないか」との意見が構成員より出されているのに対し、回答は「検討したい」とだけで事実上の無視を決め込んでいることが分かる。)

 この報告書は、さらに12月18日から翌年1月8日という嫌がらせのような期間でパブコメにこっそりかけられ、その結果が1月24日に公表されているが、全国民に影響するこの報告書のパブコメは全部で6通という惨憺たる結果であり、ここで事実上、BS有料放送のためのユーザー管理・コピー制御であったB-CASシステムが地上放送に導入されることが決まってしまっている

 この意見募集の結果において、「BSデジタル放送の『1世代のみコピー可』は有料放送のみに限定して欲しい」とする個人の意見に対して、「現在のBSデジタル放送方式においても、そのコンテンツが有料放送であるか否かにかかわらず、『制限無しにコピー可』、『1世代のみコピー可』及び『コピー不可』のいずれかを放送事業者が指定できるようになっています。 素案の方式を実際の放送サービスで利用する場合も、個々のコンテンツに対し上記のいずれを指定するかについては、放送事業者が選択できるようにすべきものと本委員会は考えます」と総務省は回答しているが、今地上放送の全番組が放送局によってコピーワンス運用されていることを思えば、ごまかしの回答としか思われない。(今でも、番組毎にコピー制御を変えることはできるはずであるが、それができないとする放送局の説明には常に説得力がない。電波の希少性から放送事業者には常に談合バイアスがかかるので、このようなスクランブルやコピー制御ができないようにする明確な逆規制こそ、真に必要なものである。)

 そして、第6回(平成14年1月15日)で意見募集の結果の報告がされ、第7回(2月20日)で中間報告書と一部答申の原案が報告され、平成14年3月13日には、「BSデジタル放送用受信機等が対応可能なコンテンツ権利保護方式の技術的条件」という一部答申を情報通信審議会から受けて関係省令の整備を行うと総務省が言う(公表資料)という形で一連のセレモニーが完了している。

 特に、平成14年3月13日のサーバー型放送システム委員会の一つ上の会の情報通信技術分科会(第10回)議事録を読むと、国際的な整合はあるのかという委員の質問に対して、IEEE1394の話やアメリカでも強制規格となってはいないということを持ち出してはぐらかすという救いがたいやりとりがなされている。(無料放送も含め、あらゆる番組をコピーワンスにするという特殊な放送談合が世界のどこかでなされているという話は今もって聞かないし、ダビング10に至っては、その技術的な整合性のなさから、他の国で採用されることは絶対ないと断言できる。)

 さらに、この答申を受けて、平成14年4月17日に、省令の改正案が総務省の別の審議会である電波監理審議会に諮問され、パブコメにかけられ、6月12日にその意見募集の結果が公表され、6月26日の実際の省令改正で、「放送事業者が放送番組に関する権利を保護する受信装置によらなければ受信することができないようにするために必要な情報」も放送信号の中に伝送され得、有料放送の場合だけではなく、「放送番組に関する権利を保護しようとする場合」にも、「放送番組に関する権利を保護する受信装置によらなければ受信することができないようにするため」にスクランブルをかけて良いこととされたのである。(なお、実際にコピーワンス運用が導入されるのは、2004年の4月である。)

 こちらの省令改正案のパブコメ結果に至っては3件しかなく、NHKとメーカーの業界団体のJEITAと読売新聞社の各者が賛意を示すだけという、さらにひどいものである。上の報告書から、一部答申、さらに、このパブコメまで全て「BSデジタル放送用受信機等」と書かれているが、この「等」の中に、実は「地上デジタル放送用受信機」が入るということを当時どれだけの人間が理解していたろうか。このような省令改正が、B-CASという有料放送のためのスクランブル・暗号受信システムを、無料放送も含め全地上放送にまで導入することを目的としていたことをどれだけの国民が理解していたろうか。当時の行政の責任をいまさら言っても始まらないが、このようなやり口はほとんど詐欺に等しい。

(この後は、また地上デジタル放送とは関係なくなるのだが、サーバー型システム委員会はまだ、第8回(4月26日)第9回(6月7日)第10回(7月26日)第11回(8月23日)と続くので、念のためにリンクだけ張っておく。なお、この第10回の議事概要から、平成14年6月26日という改正省令の掲載官報の日付が分かる。)

 この改正省令から、さらに詳細な地上デジタル放送受信機の技術仕様を公益法人の電波産業会(ARIB)が定めている訳だが、第81回で取り上げた衆議院の天下り調査(2007年6月23日号のダイヤモンド記事でも同じである)によると、このARIBという公益法人は、全部で12人(職員9人、理事3人)の天下りポストを擁し、しかも全て常勤というかなり大口の天下り先となっている。

 要するに、このような天下りまで含めて考えると、B-CASシステムを無料の地上放送まで含めて適用することで、コンテンツと機器の双方を不当に高い値段で売りつけることを可能とする規制を全国民に一方的に押しつけ、全国民に転嫁されるそのコスト利権を放送局・メーカー・天下り役人で山分けにしているという官民密室談合の構図が浮かび上がってくるのだが、これは私のひが目ではなかろう。

 このような視聴者の利便性を不当に下げるDRMを含む放送規格と、私的録画補償金との関係も、このときに整理しておくべきだったはずであり、当時整理しなかったという行政の怠慢が今に至るも尾を引いている。コピーワンスにせよ、ダビング10になったにせよ、実質的に全国民に転嫁されるコストで、不当に厳しいコピー制御が課されている今の状態が維持されるなら、さらに私的録画補償金まで課されることは不当の上塗り以外の何物でもないと、今一度繰り返しておく。

 ダビング10も、結局この談合規格を維持しようとする動きから出てきたもので、本質的な解決になるものでは全くない。B-CASカード使用不正録画機器フリーオの登場によって、B-CASシステムとこれを前提にしたコピーワンス・ダビング10という規格は、実質的に死んだのであり、このような無意味な国内談合規格に最後の引導を渡すことこそ、今本当に必要とされていることだと私は考えている。

 コピーワンス問題についても、地上デジタル放送に対する私的録画補償金問題についても、このような経緯の詳細を明らかにした上で議論されなければならないと思うのだが、このような死に体の規格利権にたかるハイエナ規制官庁の総務省と文化庁に見られるのは利権確保・利権拡大のためのごまかしばかりで、誠実な態度は全く見られない。利権官庁の浅ましさにはほとほと呆れるばかりである。

 このB-CAS問題は、地上デジタル放送の根幹に関わる大問題の一つであり、ごまかされて良い問題では決してない。この話もまだまだ終わりは見えない。

 このような各者の行為が、具体的に独禁法のどの条項に引っかかるかという話も近いうちに別途書きたいと思っているが、次回は、また、各国著作権法紹介の話の続きを書くつもりである。

(4月19日の追記:大きなエントリを立てるにはまだ準備が必要なので、追記という形にするが、児童ポルノ法に関しては与党(自民・公明)のプロジェクトチームが単純所持規制を進めるという方針を決めたというニュースがあった(毎日新聞のネット記事日刊スポーツのネット記事)。今度は「性的好奇心を満たす目的」で所持する場合を規制すると言い、「本人が意図せずにパソコンなどに画像が残る場合」を適用対象外とすると言って、要件がころころ変わることからして、この規制が全くナンセンスであることを端的に示しているが、情報の所持は、完全に個人的な行為であるから、どんな要件にしようが、どんな適用除外を設けようが、その要件・適用除外該当性は証明も反証もできないのであり、このような情報所持規制の危険性は回避不能であると私は言い続ける。今、与野党・議員へ手紙を書くことや反対の署名運動をすることも勿論必須と思われるが、小寺氏がその「ネットユーザーに何ができる?」というエントリで述べているように、本当の勝負はそう遠くないと思われる次の選挙である。ネットは武器にもなるし、盾にもなる、草の根の情報共有活動は選挙で威力を発揮することだろう。バカなネット規制推進は票を失う、あるいは、合理的なネット規制反対は票につながるという事例を、次の選挙で作るのだ。

 また、総合科学技術会議からの報告などを受けて、知財本部で、医療技術特許の是非の問題の検討が進めらるようである(IP NEXTの記事日経のネット記事)。これは著作権問題ではないが、この点についても何かしら書けることがあればそのうち書きたいと思っている。)

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2008年3月20日 (木)

番外その8:旧態依然たる総務省に切れる財界

(ココログフリーのメンテナンスの所為か、私のPCで昨日、自分のエントリが自分のPCで正常に表示できないということがあった。私の場合、IEのJAVAスクリプトをオフにすることで表示できたが、同様の症状が出てブログを見られない方がいたかも知れない。ココログには調査してもらえるようお願いはしたが、同様の症状が出た方には大変申し訳なく思う。)

 考えをまとめておきたいことは今山ほどあって困るくらいなのだが、書けた話から載せて行く。

 池田信夫氏のブログで紹介されていたのを機に、私も経団連の放送通信融合に関する提言(「通信・放送融合時代における新たな情報通信法制のあり方」)を読んでみたのだが、確かに、業界同士バッティングすることは書けないだろう経団連という日本の経済界全体を代表する団体にしては驚くほど明確な総務省批判を書いているので、番外として少し触れておきたい。

 この提言は、HPなどについても完全に表現の自由と通信の秘密を認めた上で、基幹放送たる地上放送のみを規制する形で、レイヤー型への転換を行い、規制部門は独立行政委員会にするという完全な規制緩和案で、規制による護送船団方式護持を掲げている放送局と総務省にとってはこの上なく嫌な案だろう

 中でも、コンテンツに関する基本的立場としては、

新たな法制度においては、コンテンツは原則自由で民間の自己規律に委ねることを基本とした上で、規制は必要最小限とすべきである。 また、新たな法制度は、通信・放送あるいは融合分野において、事業としてサービスを提供する者を対象とする事業者法であり、コンテンツ規律のあり方を検討する際にも、一般的なコンテンツの編集・発信主体としての個人や企業は、直接的な規制対象とはすべきではない。したがって、メール、電話等の私信は勿論、ホームページ等は本法制の枠外にあることを明記すべきである。 この点、総務省・研究会の報告書は、私信については、通信の秘密を保障するが、ホームページ等、「不特定の者によって受信されることを目的とする電気通信の送信」を「オープンメディア」と位置付け、規制対象に含めている点は不適当である。 いわゆる「オープンメディア」における違法・有害コンテンツ対策は、事業者以外も対象となりうることから、法体系としての整合性の観点からも、全ての国民が守るべき法律としての一般法である刑法、プロバイダー責任制限法、知財法等の関連法、民間の自主的な取り組み、フィルタリング等の技術的な対応、国際的な連携により総合的に行うべきである。違法・有害コンテンツの排除により、健全なメディア社会を構築していくためには、今後ともその取り組みをいっそう強化していくべきである

とごく当たり前のことが書かれている(赤字強調は私が付けたもの)が、総務省の報告書では、この実に基本的なことすら守られていなかったのである。是非、経団連レベルでも、ここだけは守るように政府に強力に申し入れをしてもらいたいと思う。

 さらに、ここまで言ったのだから、経団連には是非、放送通信の融合に著作権法が巻き込まれないようにするべきという提言を知財本部などにして、総務省批判を完遂してもらいたいと思う。第27回第28回でも触れたように、情報の流通コストの極めて低いインターネットで単なる流通事業者に余計な隣接権を発生させることは百害あって一利ない最低の政策である。HPなどにおける表現の自由と通信の秘密の確保と、インターネット放送に余計な隣接権を発生させないということさえ守ってもらえば、特にユーザーとして、放送法と通信法の法制上の融合に何ら口を挟むべきところはなく、かえって大いにやってもらいたいと思うくらいである。

 しかし、この2点を完全に守ると、これは完全に地上放送局に対する規制緩和、すなわち放送局の利権(権利ではない)の切り下げとなるので、この経団連の提言にもあるように、放送事業者の利害を調整する形で事業者中心の行政を旧態依然として行っている総務省にとっては認め難いことかも知れない。だが、財界にすらここまで見放されたのだ、あのふざけた報告書をこの提言通りに全て書き直すくらいのことを総務省にはやってもらいたいと思う。そうしてさえもらえば、私ももう、第3回第35回のようなパブコメやエントリを書かずに済む。

 放送・電波政策はこのブログの本筋とずれるが、電波政策の本当の問題は、現在、そのの配分において特定業界との癒着を生み出す非効率な裁量行政システムが採用されているということにあるのではないかと思う。この電波という稀少かつ有限な資源を、いかに国民の利益を最大化するように効率的に再分配するシステムを作り出すかということが、今本当に放送・電波政策に問われていることだと私は理解している。

 コンテンツと知財に関して守るべきところさえ守ってもらえば、私としては放送と通信の融合に反対する理由は全くない。それどころか、ここさえ確保されるなら、通信法と放送・電波法の抜本的な見直しの中で、政官業の癒着と腐敗の元となる利権を生み出している裁量行政による電波配分システムという総務省の本丸が切り崩されることを、私は一国民として素直に期待したいと思う。コンテンツ流通促進から始まった放送と通信の融合の話だが、コンテンツ流通と放送通信の融合は実は直接関係しない。この放送通信の融合が成功するかどうかは、ほとんど全て、この裁量行政による電波配分システムという総務省の利権の本丸を切り崩せるかどうかにかかっている。ここを切り崩せない限り、この融合法制も大山鳴動してネズミ一匹、ほとんど何の意味もないものとなるだろうが、逆に、ここさえ切り崩せれば、これもまた確かに全国民を裨益する一大規制緩和となるに違いない。

 最後に、方向性は良く分からないが、オーストラリアも、私的複製の権利制限に関する検討を行っているという記事があったので、念のために記事(PRWebの記事)へのリンクを張っておく。

 また、イスラエルは、アメリカの技術的保護手段(DRM)回避規制導入とノーティスアンドテイクダウン手続き強化の外圧を跳ね返したようである(ars technicaの記事)。記事とイスラエルのアメリカへの回答書によると、イスラエルはこれらの外圧を、DRM回避規制に関しては、イスラエルは関係条約を批准しておらず、コンテンツプロバイダーによるDRMなしのアクセスなどの試みがなされている中、この規制を法制化するのは政治的に不安定であり、ノーティスアンドテイクダウン手続きの強化も権利者による濫用の恐れがあるとして、完全に拒絶したようである。知財・情報の世界でも、アメリカが必ず正義ということはない。例えアメリカが相手だろうと、日本も不当な要求は跳ね返して良いはずである。

 なお、様々なところで発表される個別の突拍子もない意見について一々どうこう言い出すと切りがなくなり、既にいろいろなところで叩かれているので、どうしようかとも思ったが、先日記者会見があった(ITproの記事ITmediaの記事internet watchの記事毎日のネット記事cnetの記事デジタル・コンテンツ法有識者フォーラムのHP(提言資料つき))、「ネット権」創設の提言ほど、その意味不明さにおいて特筆に値するものも珍しい。この提言は、知財権・著作権の本質を全く無視し、映画製作者、放送事業者、レコード事業者のみが、ネットワークにおけるコンテンツ流通をくまなくコントロールするためのネット権を一手に握るという、ユーザー・クリエーターを無視した、今の時代に逆行するメチャクチャなものである。フェアユースのような一般規定についても、ただ闇雲に導入しても意味がない。このような突拍子もない提言がよもや政策として真面目に政府レベルで検討されたりしないこととは思うが、一ユーザーとして、このような提言は全く一顧だに値しないデタラメなものであると一言だけここに書いておく。(何度も繰り返しておくが、このネット時代に、放送事業者やレコード事業者他、流通事業者に強力な独占権を余計に与えることは完全な時代遅れの方策であり、コンテンツ流通をさらに阻害する要因としかなり得ないことである。映画製作者に対する著作権法上の優遇も、このフラット化時代には逆方向に見直されて良い。)

 ベルギー著作権法の紹介の続きなど、マニアックな著作権政策ネタを期待している方がいたら申し訳ないが、次回はもう少し身近な著作権ネタについて書いた上で、次々回には、また表現規制に関するエントリを書きたいと思っている。

| | コメント (2) | トラックバック (1)

2007年12月 8日 (土)

第35回:放送通信融合法制という脅威

 12月6日に総務省から「「通信・放送の総合的な法体系に関する研究会」最終報告書概要)が公表された。

 他のブログでも既に叩かれているのでどうしようかと思ったが、あまりに腹が立ったためここでも叩く。

 概要でも、中間まとめからの変更点として、情報通信ネットワークを用いた「表現の自由」を保障すべきことを明記したと書いており、どうやら総務省の役人も、パブコメの内容から「表現の自由」というキーワードだけは読み取れたようだが、報告書を読むと、この「表現の自由」についてすらキーワード以上のことは何一つ理解していないことが分かる

 他の部分についても、言いたいことは沢山あるのだが、いちいち書いていると切りがないほど報告書は破綻しているので、ここでは、一番問題であると思われるコンテンツ規制のところについてだけ書くことにする。

 この報告書は、規制緩和であるかのように印象操作をしようとして、あまりにあからさまなためにそれに失敗しているのだが、その方向性の要点は、

・私信など特定私人間の通信に関しては通信の秘密が保障されるが、それ以外のホームページなど不特定多数の者によって受信されることを目的とする通信については通信の秘密は保障されない
ホームページなどについても、現行法制に加えて、さらに配慮すべき事項を規定した法律を整備する
コンテンツ削除認定のための半公的機関(当然総務省の天下り先)を作る
現在の地上テレビ放送に対する規律は維持される。
・地上テレビ放送以外のテレビ放送については、放送規制が緩和される。
放送類似のコンテンツ配信サービスについては、緩和された放送規制が適用される

ということである。

 要するに、放送以外は全て規制強化となるのであり、それだけでも全く賛成できないが、そもそも「通信の秘密」を勝手に特定私人間のみに限られるなどと解釈していることは憲法違反も良いところである。

 通信の秘密が保障するものは、通信の内容にとどまらず、発信者・受信者の情報など通信にかかわるあらゆる事実に及ぶのであり、このような通信の秘密が表現の自由の前提ともなっていることは常識で考えてもすぐに分かることである。

 また、総務省の天下り先の半公的機関で、網羅的かつ一般的にコンテンツの内容を審査して削除認定をすることなど、検閲以外の何ものでもなく、やはり検閲の禁止を規定している憲法に明らかに抵触する。(自治体による有害図書指定が合憲とされた最高裁判例自体にも個人的には異論があるが、総務省案は明らかにそんなレベルを超えた一般的かつ網羅的な大検閲機関の創設である。)

 そもそも、ホームページなど不特定多数に公開されるコンテンツに関しては、刑法の適用事例もあり、プロバイダー責任制限法もあり、各事業者がそれぞれの規約等に従ってで削除を行っていて何ら問題が生じていないところである。

 表現の自由を確保するなどといくら書いたところで、通信の秘密もなく、総務省の天下り先の半公的機関によりコンテンツが検閲される中で、どう表現の自由が担保されるのかと、総務省の役人には聞きたいが、連中の知能レベルではその程度のことも理解できないのだろう。

 また、放送に対する規制も、電波の有限稀少性からよって来るところが大きいのであって、社会的影響力のみをもって正当化することは不可能であることを、この報告書は全く認識していない。

 インターネットについて問題をねつ造し、憲法の解釈を勝手にねじ曲げ、国民の精神的自由を侵してまで、天下り利権の確保に走る国賊官僚の姿がここにある。(このような歪んだ放送優遇政策が総務省から出される背景には、総務省の役人の放送局への天下りがあると見て間違いない。少し古いが、坂本衛氏のネット記事には放送局への天下りのことが良くまとめられている。)

 パブコメに出された意見を読んだ上で、このような報告書をまとめて来たということは、国民に対する総務省の宣戦布告といって良い。総務省に良識だの常識だのを期待した私が馬鹿だった。知財政策を超える話ではあるが仕方ない、このブログでもこの問題について引き続き追いかけて行きたいと思うし、国民的な議論になることを期待したい。

 なお、概要でも、将来的課題として、著作権法などを意味もなく「包括的なユビキタスネット法制」にすると言っているが、何をしたいのか理解不能である。総務省の役人の頭には蛆でも湧いているとしか思われない。

| | コメント (0) | トラックバック (1)

2007年11月16日 (金)

番外その5:総務省の地上デジタル放送政策年表

 折角、地デジに関することを調べたので、総務省の地上デジタル放送関連の政策について年表形式でまとめておこう。完全なものではないことをお断りしておくが、このようなものもあまり見かけないので、参考になればと思う。

 それにつけても、役人がこのように分厚い報告書を沢山出すのは国民をごまかすためにやっているとしか思われない。どうせ大したことを書いている訳ではないのだから、もっとシンプルに誰にでも分かるようにしろと言いたい。国民を馬鹿にしないで欲しいものだ。

 また、こういう年表を作ると、総務省が、放送局には地上デジタル放送移行の検討の初期段階から支援を手厚くしているのに引き替え、消費者対策は最近になって行き当たりばったりに打ち出していることが分かる。確かに放送局の方が先行投資が必要となるので、ある程度は理解できるが、このやり方はあまりにも消費者を馬鹿にしていないか。

平成 9年 6月 地上デジタル放送懇談会で検討を開始

平成10年10月 地上デジタル放送懇談会報告

平成11年 5月 放送事業者に対する税制・金融上の支援制度の開始(参考1参考2参考3参考4

平成13年 6月 電波法の一部改正
・電波利用料によりアナログ周波数変更(デジタル放送のための既存のUHFチャンネル周波数の変更)対策に電波利用料を当てる。
・この改正電波法の施行日(平成13年7月25日)から10年となる2011年7月24日がアナログ停波の日となる。

平成14年 3月 情報通信審議会一部答申「BSデジタル放送用受信機等が対応可能な権利保護式の技術的条件」
・地上デジタル放送へのB-CASカードシステムの導入を決定
(平成14年6月に、この答申に沿って総務省令「標準テレビジョン放送等のうちデジタル放送に関する標準方式」を改正している。)

      6月 IT戦略本部「e-Japan重点計画2002」
(特に新しいことは書かれていないが念のため)

平成15年 4月 税制・金融上の支援措置の対象設備を拡充

      6月 電波法の一部改正(放送事業者の電波利用料額を見直し)

      7月 IT戦略本部「e-Japan重点計画2003」
・ここでようやく、アナログ放送終了時期等について国民に周知ということを言い始める。

      8月 総務省内に「地上デジタル放送推進本部」を設置

     12月 地上デジタル放送開始(AVWatchの記事

平成16年 6月 IT戦略本部「e-Japan重点計画2004」

      7月 情報通信審議会「地上デジタル放送の利活用の在り方と普及に向けて行政の果たすべき役割」第1次中間答申(プレス概要本文
・公共分野への導入に向けた先行的な実証など

平成17年 2月 IT戦略本部「IT政策パッケージ2005」

     7月 情報通信審議会「地上デジタル放送の利活用の在り方と普及に向けて行政の果たすべき役割」第2次中間答申(プレス概要本文
・「コピーワンス」の見直しの提案
・アナログ受信機への停波告知シールの貼付
・IPマルチキャスト・衛星による再送信の実証など

平成18年 7月 IT戦略本部「e-Japan重点計画2006」

      8月 情報通信審議会「地上デジタル放送の利活用の在り方と普及に向けて行政の果たすべき役割」第3次中間答申(プレス概要本文
・コピーワンスをEPNにすることを提案
・テレビ広告を中心とした周知広報・相談体制の組織化など

平成19年 7月 IT戦略本部「e-Japan重点計画2007」

      8月 情報通信審議会「地上デジタル放送の利活用の在り方と普及に向けて行政の果たすべき役割」第4次中間答申(プレス1(地デジ)概要1本文1プレス2(コピーワンス)概要2本文2
・コピーワンスをダビング10にすることを提案  
・デジタル放送の視聴実態の正確な調査
・難視聴地域対策や低所得世帯向け受信機の購入支援策など

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2007年8月22日 (水)

第5回:放送に関する著作権問題

 少し時間が空いてしまったが、放送に関する著作権問題の話を書いておこう。

(1)放送法と著作権法における「放送」の定義
 まず、放送法における「放送」の定義については、前回も書いたが、以下のようになっている。
「放送」の定義:公衆によって直接受信されることを目的とする無線通信の送信をいう。
 これが著作権法では、
「放送」の定義:公衆送信のうち、公衆によつて同一の内容の送信が同時に受信されることを目的として行う無線通信の送信をいう。
となる。
 ちなみに、著作権法の公衆送信は、
「公衆送信」の定義:公衆送信 公衆によつて直接受信されることを目的として無線通信又は有線電気通信の送信(中略)を行うことをいう。
である。有線放送についても、それぞれの法律に同様に定義されている。

 読んですぐ分かるように、著作権法においては、放送には内容の同一性と同時性の要件が含まれている。 実際、この定義だけなら考えるとさほどの影響もないように思われるかも知れないが、放送に関することで著作権が問題となる場合、実はこの違いがそもそも問題の根であり、この定義の違いをどうにかしない限り、上っ面の糊塗でいくら当座はごまかしても、もめ事の種になり続けるだろう

 その上っ面の糊塗として、最近ではIPマルチキャスト放送に関する著作権法改正のゴタゴタがあったので、このことについて簡単に紹介しておこう。
 そもそもIPマルチキャスト放送はネット技術を用いた放送の一種であるが、これが放送法では「放送」に該当するにも関わらず、著作権法では該当しないということがゴタゴタの発端である。なぜ、この差でゴタつくかと言うと、著作権法で有線放送に該当すると放送局が放送番組を再送信するときに実演家の許諾が不要になっていたからである。(何故不要だったかというと、条件不利地域における再送信を考慮して優遇措置が取られたということであったらしい。)
 また、なぜIPマルチキャスト放送が「有線放送」でないかと言えば、ネット技術を利用しているので、「同一の内容の送信が同時に受信され」ているとは厳密には言えないかである。
 その結果、IPマルチキャスト放送事業者が著作権法上の不公平について問題にし、2011年の地上デジタル放送への移行を前にデジタル放送の再送信を推進したい総務省の思惑とも合致した結果、昨年の文化審議会法制問題小委員会で委員にすら検討内容がよく理解出来なかったほどのスピード審議によって方向性が出され、同時再送信について、IPマルチキャスト放送についても有線放送についても同等に、実演家は報酬請求権を行使できるものとされた。(本当は、レコード製作者の権利もあるのだが、ここでは省略。)

(著作権法改正前)
有線放送:「有線放送」であって、同時再送信の場合、実演家の許諾は不要
IPマルチキャスト放送:「公衆送信」であって、同時再送信の場合でも、実演家の許諾が必要

(法改正後)
有線放送:有線「放送」のまま。同時再送信の場合、実演家の許諾は不要だが報酬を支払うことが必要
IPマルチキャスト放送:「公衆送信」のまま。同時再送信の場合、実演家の許諾は不要だが報酬を支払うことが必要

 ここで、条文を引くことはしないが、この法改正は、著作権法の放送の定義をいじったのではなく、あくまでIPマルチキャスト放送を公衆送信としたまま、公衆送信であっても、放送番組の同時再送信の場合に限って、実演家の権利を制限したということに注意していただきたい。さらに、有線放送の場合は、無権利だったものが、報酬請求権が与えられているので、権利の切り上げになっていることにも注意していただきたい。
 法制問題小委員会の実演家代表委員は、しきりと、これは権利の切り下げであるため受け入れは困難であるとの意見を述べていたが、最後、有線放送について報酬請求権化することで、表向きはどうあれ、これを結構あっさりと受け入れた。結局、表向きはどうあれ、彼らは実ビジネスがいまだ存在していないIPマルチキャスト放送における権利の引き下げを受け入れることで、実ビジネスの存在している有線放送における権利の引き上げを手に入れたのだ。当然のことながら彼らの収入はアップすることになる。このこと一つとって見ても、権利者団体にあるのは、理念ではなく算盤勘定であることはよく分かるだろう。権利者団体がビジネスを行っている利権団体である以上、この行動を非難することは出来ないが、我々国民はこのような利権団体の表向きの主張に騙されないようにしなければならない。

(2)著作隣接権者としての放送局の問題
 さて、まだ大きな問題として顕在化はしていないが、今後十年、二十年のスパンで政策的話題になりそうなこととして、放送局が隣接権者として著作権法上の権利を持っているということがあげられる。
 すなわち、放送を業として行う放送事業者は、その放送に係る音又は影像を複製する権利、再放送権、送信可能化権などを専有している。なぜか、放送の内容に対する創作行為に関与せずとも、放送局は放送を行うだけで放送番組について複製等の許諾権が手に入る。誰かに違法に複製されたら、本当の創作者である著作権者が権利行使を行えば良いはずであるのにだ。法律制定当時は、単なる流通の保護が文化の発展に多少の寄与することもあったのかも知れないが、流通経路が多様化している今、何故放送を著作権法上優遇しなければならないかの根拠はほぼ無くなっていると言っても差し支えない。
 法律の目的にも入ってしまっており、世界的にも条約の議論などもあるので、この権利を無くすことは不可能に近いが、この問題もじりじりと様々な議論に響いてくるに違いない。(そのうち詳しく書きたいと思うが、レコード製作者の権利についても同じことが言える。)

 今後も様々なことで放送に関する著作権のことが話題になっていくことだろうが、その根本は常に上記の2点から派生していると思ってまず間違いはなかろう。

 さて、今総務省の答申がパブコメにかかっている最中ということもあり、知財そのものではないが、放送関連トピックの一つとして、次回はコピーワンス問題について書こうかと思う。

 そういえば、「通信・放送の総合的な法体系に関する研究会 中間取りまとめ」に対する意見募集の結果が出ていたので、念のためここにもリンクを張っておく。匿名だった私の意見も載っているのには少し感心したが、反映されるかどうかは全く疑わしいのは第1回で書いた通り。個人の意見はほとんど規制反対だったのだが。

| | コメント (0) | トラックバック (1)