2023年3月12日 (日)

第473回:閣議決定された著作権法改正案の条文

 3月10日に、著作権法改正案と不正競争防止法等改正案が閣議決定・国会提出され、公表された(文科省のHPと経産省のHP参照)。この内不競法等改正案は次に回し、今回はまず著作権法改正案(概要(pdf)要綱(pdf)案文・理由(pdf)新旧対照表(pdf)参照、参照条文(pdf)参照)について取り上げる。

 この著作権法改正案の概要については、上のリンク先の概要資料に以下の様に書かれている。

1.著作物等の利用に関する新たな裁定制度の創設等
①利用の可否に係る著作権者等の意思が確認できない著作物等の利用円滑化
・未管理公表著作物等(集中管理がされておらず、利用の可否に係る著作権者等の意思を円滑に確認できる情報が公表されていない著作物等)を利用しようとする者は、著作権者等の意思を確認するための措置をとったにもかかわらず、確認ができない場合には、文化庁長官の裁定を受け、補償金を供託することにより、裁定において定める期間に限り、当該未管理公表著作物等を利用することができることとする。
・文化庁長官は、著作権者等からの請求により、当該裁定を取り消すことで、取消し後は本制度による利用ができないこととし、著作権者等は補償金を受け取ることができることとする。

②窓口組織(民間機関)による新たな制度等の事務の実施による手続の簡素化
・迅速な著作物等利用を可能とするため、新たな裁定制度の申請受付、要件確認及び補償金の額の決定に関する事務の一部について、文化庁長官の登録を受けた窓口組織(民間機関)が行うことができることとする。
・新たな制度及び現行裁定制度の補償金について、文化庁長官の指定を受けた補償金等の管理機関への支払を行うことができることとし、供託手続を不要とする。

2.立法・行政における著作物等の公衆送信等を可能とする措置
①立法又は行政の内部資料についてのクラウド利用等の公衆送信等
・立法又は行政の目的のために内部資料として必要と認められる場合には、必要な限度において、内部資料の利用者間に限って著作物等を公衆送信等できることとする。

②特許審査等の行政手続等のための公衆送信等
・特許審査等の行政手続・行政審判手続※について、デジタル化に対応し、必要と認められる限度において、著作物等を公衆送信等できることとする。
※裁判手続についても、裁判手続のIT化のための各種制度改正に併せて、著作物等を公衆送信等できるよう規定の整備を行う(民訴手続については令和4年民事訴訟法等の一部改正法により措置済み)

3.海賊版被害等の実効的救済を図るための損害賠償額の算定方法の見直し
①侵害品の譲渡等数量に基づく算定に係るライセンス料相当額の認定
・侵害者の売上げ等の数量が、権利者の販売等の能力を超える場合等であっても、ライセンス機会喪失による逸失利益の損害額の認定を可能とする。

②ライセンス料相当額の考慮要素の明確化
・損害額として認定されるライセンス料相当額の算定に当たり、著作権侵害があったことを前提に交渉した場合に決まるであろう額を考慮できる旨を明記する。

 ここに書かれている、(1)拡大集中ライセンス類似の新しい利用許諾制度、(2)立法・行政向けの権利制限の拡充、(3)損害賠償額推定規定の見直しという3つのポイントについて、以下、それぞれに関する主要な条文を順次見て行く。

(1)拡大集中ライセンス類似の新しい利用許諾制度
 今回の著作権法改正の最大のポイントだろう拡大集中ライセンス類似の新しい利用許諾制度については、条文上、以下の様に同じ裁定として整理され、著作権者不明の場合の著作権法第67条の後に、未管理公表著作物の利用に関する第67条の3として追加されている。(下線部が追加部分。以下全てで同じ。)

(著作権者不明等の場合における著作物の利用)
第六十七条 公表された著作物又は相当期間にわたり公衆に提供され、若しくは提示されている事実が明らかである著作物は、著作権者の不明その他の理由により相当な努力を払つてもその著作権者と連絡することができない場合として政令で定める場合(以下この条及び第六十七条の三第二項において「公表著作物等」という。)を利用しようとする者は、次の各号のいずれにも該当するときは、文化庁長官の裁定を受け、かつ、通常の使用料の額に相当するものとして文化庁長官が定める額の補償金を著作権者のために供託して、その裁定に係る利用方法により当該裁定の定めるところにより、当該公表著作物等を利用することができる。
 権利者情報(著作権者の氏名又は名称及び住所又は居所その他著作権者と連絡するために必要な情報をいう。以下この号において同じ。)を取得するための措置として文化庁長官が定めるものをとり、かつ、当該措置により取得した権利者情報その他その保有する全ての権利者情報に基づき著作権者と連絡するための措置をとつたにもかかわらず、著作権者と連絡することができなかつたこと。
 著作者が当該公表著作物等の出版その他の利用を廃絶しようとしていることが明らかでないこと。

 国、地方公共団体その他これらに準ずるものとして政令で定める法人(以下この項及び次条この節において「国等」という。)が前項の規定により著作物公表著作物等を利用しようとするときは、同項の規定にかかわらず、同項の規定による供託を要しない。この場合において、国等が著作権者と連絡をすることができるに至つたときは、同項の規定により文化庁長官が定める額の補償金を著作権者に支払わなければならない。

 第一項の裁定(以下この条及び次条において「裁定」という。)を受けようとする者は、著作物の利用方法その他政令で定める事項裁定に係る著作物の題号、著作者名その他の当該著作物を特定するために必要な情報、当該著作物の利用方法、補償金の額の算定の基礎となるべき事項その他文部科学省令で定める事項を記載した申請書に、著作権者と連絡することができないことを疎明する資料その他政令で定める資料次に掲げる資料を添えて、これを文化庁長官に提出しなければならない。
 当該著作物が公表著作物等であることを疎明する資料
 第一項各号に該当することを疎明する資料
 前二号に掲げるもののほか、文部科学省令で定める資料

 裁定を受けようとする者は、実費を勘案して政令で定める額の手数料を国に納付しなければならない。ただし、当該者が国であるときは、この限りでない。

 裁定においては、次に掲げる事項を定めるものとする。
 当該裁定に係る著作物の利用方法
 前号に掲げるもののほか、文部科学省令で定める事項

 文化庁長官は、裁定をしない処分をするときは、あらかじめ、裁定の申請をした者(次項及び次条第一項において「申請者」という。)にその理由を通知し、弁明及び有利な証拠の提出の機会を与えなければならない。

 文化庁長官は、次の各号に掲げるときは、当該各号に定める事項を申請者に通知しなければならない。
 裁定をしたとき第五項各号に掲げる事項及び当該裁定に係る著作物の利用につき定めた補償金の額
 裁定をしない処分をしたときその旨及びその理由

 文化庁長官は、裁定をしたときは、その旨及び次に掲げる事項をインターネットの利用その他の適切な方法により公表しなければならない。
 当該裁定に係る著作物の題号、著作者名その他の当該著作物を特定するために必要な情報
 第五項第一号に掲げる事項
 前二号に掲げるもののほか、文部科学省令で定める事項

 文化庁長官は、前項の規定による公表に必要と認められる限度において、裁定に係る著作物を利用することができる。

10 第一項の規定により作成した著作物の複製物には、同項の裁定に係る複製物である旨及びその裁定のあつた年月日を表示しなければならない。

(裁定申請中の著作物の利用)
第六十七条の二 前条第一項の裁定(以下この条において単に「裁定」という。)の申請をした者申請者は、当該申請に係る著作物の利用方法を勘案して文化庁長官が定める額の担保金を供託した場合には、裁定又は裁定をしない処分を受けるまでの間(裁定又は裁定をしない処分を受けるまでの間に著作権者と連絡をすることができるに至つたときは、当該連絡をすることができるに至つた時までの間)、当該申請に係る利用方法と同一の方法により、当該申請に係る著作物を利用することができる。ただし、当該著作物の著作者が当該著作物の出版その他の利用を廃絶しようとしていることが明らかであるときは、この限りでない。

(略)

10 文化庁長官は、申請中利用者から裁定の申請を取り下げる旨の申出があつたときは、裁定をしない処分をするものとする。この場合において、前条第六項の規定は、適用しない。

(未管理公表著作物等の利用)
第六十七条の三 未管理公表著作物等を利用しようとする者は、次の各号のいずれにも該当するときは、文化庁長官の裁定を受け、かつ、通常の使用料の額に相当する額を考慮して文化庁長官が定める額の補償金を著作権者のために供託して、当該裁定の定めるところにより、当該未管理公表著作物等を利用することができる。
 当該未管理公表著作物等の利用の可否に係る著作権者の意思を確認するための措置として文化庁長官が定める措置をとつたにもかかわらず、その意思の確認ができなかつたこと。
 著作者が当該未管理公表著作物等の出版その他の利用を廃絶しようとしていることが明らかでないこと。

 前項に規定する未管理公表著作物等とは、公表著作物等のうち、次の各号のいずれにも該当しないものをいう。
 当該公表著作物等に関する著作権について、著作権等管理事業者による管理が行われているもの
 文化庁長官が定める方法により、当該公表著作物等の利用の可否に係る著作権者の意思を円滑に確認するために必要な情報であつて文化庁長官が定めるものの公表がされているもの

 第一項の裁定(以下この条において「裁定」という。)を受けようとする者は、裁定に係る著作物の題号、著作者名その他の当該著作物を特定するために必要な情報、当該著作物の利用方法及び利用期間、補償金の額の算定の基礎となるべき事項その他文部科学省令で定める事項を記載した申請書に、次に掲げる資料を添えて、これを文化庁長官に提出しなければならない。
 当該著作物が未管理公表著作物等であることを疎明する資料
 第一項各号に該当することを疎明する資料
 前二号に掲げるもののほか、文部科学省令で定める資料

 裁定においては、次に掲げる事項を定めるものとする。
 当該裁定に係る著作物の利用方法
 当該裁定に係る著作物を利用することができる期間
 前二号に掲げるもののほか、文部科学省令で定める事項

 前項第二号の期間は、第三項の申請書に記載された利用期間の範囲内かつ三年を限度としなければならない。

 第六十七条第四項及び第六項から第十項までの規定は、裁定について準用する。この場合において、同条第七項第一号中「第五項各号」とあるのは「第六十七条の三第四項各号」と、同条第八項第二号中「第五項第一号」とあるのは「第六十七条の三第四項第一号及び第二号」と読み替えるものとする。

 裁定に係る著作物の著作権者が、当該著作物の著作権の管理を著作権等管理事業者に委託すること、当該著作物の利用に関する協議の求めを受け付けるための連絡先その他の情報を公表することその他の当該著作物の利用に関し当該裁定を受けた者からの協議の求めを受け付けるために必要な措置を講じた場合には、文化庁長官は、当該著作権者の請求により、当該裁定を取り消すことができる。この場合において、文化庁長官は、あらかじめ当該裁定を受けた者にその理由を通知し、弁明及び有利な証拠の提出の機会を与えなければならない。

 文化庁長官は、前項の規定により裁定を取り消したときは、その旨及び次項に規定する取消時補償金相当額その他の文部科学省令で定める事項を当該裁定を受けた者及び前項の著作権者に通知しなければならない。

 前項に規定する場合においては、著作権者は、第一項の補償金を受ける権利に関し同項の規定により供託された補償金の額のうち、当該裁定のあつた日からその取消しの処分のあつた日の前日までの期間に対応する額(以下この条において「取消時補償金相当額」という。)について弁済を受けることができる。

10 第八項に規定する場合においては、第一項の補償金を供託した者は、当該補償金の額のうち、取消時補償金相当額を超える額を取り戻すことができる。

11 国等が第一項の規定により未管理公表著作物等を利用しようとするときは、同項の規定にかかわらず、同項の規定による供託を要しない。この場合において、国等は、著作権者から請求があつたときは、同項の規定により文化庁長官が定める額(第八項に規定する場合にあつては、取消時補償金相当額)の補償金を著作権者に支払わなければならない。

 条項の追加などに伴うテクニカルな条文改正に加え、この裁定制度を運用する機関について、第6章として「裁定による利用に係る指定補償金管理機関及び登録確認機関」、条文番号で第104条の18から47までが追加されており、その全文は省略するが、第104条の20、21や33などで以下の様に裁定に関する一部業務を委任できる事が規定されている。

(指定補償金管理機関の業務)
第百四条の二十 指定補償金管理機関は、次に掲げる業務を行うものとする。
 次条第一項及び第二項の規定により支払われる補償金の受領に関する業務
 次条第三項の規定により読み替えて適用する第六十七条の二第一項及び第五項(これらの規定を第百三条において準用する場合を含む。)の規定により支払われる補償金及び担保金の受領に関する業務
 前二号の規定により受領した補償金及び担保金の管理に関する業務
 次条第三項の規定により読み替えて適用する第六十七条の二第八項(第百三条において準用する場合を含む。)及び次条第四項の規定による著作権者及び著作隣接権者に対する支払に関する業務
 第百四条の二十二第一項に規定する著作物等保護利用円滑化事業に関する業務

(指定補償金管理機関が補償金管理業務を行う場合の補償金及び担保金の取扱い)
第百四条の二十一 第六十七条第二項及び第六十七条の三第十一項(これらの規定を第百三条において準用する場合を含む。)の規定は、指定補償金管理機関が補償金管理業務を行う場合には、適用しない。

 指定補償金管理機関が補償金管理業務を行うときは、第六十七条第一項及び第六十七条の三第一項(これらの規定を第百三条において準用する場合を含む。以下この条において同じ。)の規定により補償金を供託することとされた者は、これらの規定にかかわらず、当該補償金を指定補償金管理機関に支払うものとする。この場合において、第六十七条第七項(第六十七条の三第六項において準用する場合を含む。以下この項において同じ。)並びに第六十七条の三第九項及び第十項の規定(これらの規定を第百三条において準用する場合を含む。以下この項において同じ。)の適用については、第六十七条第七項中「申請者」とあるのは「申請者及び第百四条の十九第五項に規定する指定補償金管理機関(第六十七条の三において「指定補償金管理機関」という。)」と、第六十七条の三第九項中「第一項の補償金を受ける権利に関し同項の規定により供託された」とあるのは「第百四条の二十一第一項及び第二項の規定により指定補償金管理機関に支払われた」と、同条第十項中「供託した」とあるのは「指定補償金管理機関に支払つた」とする。

(第3項以下略)

第百四条の三十三 文化庁長官は、その登録を受けた者(以下この節において「登録確認機関」という。)に、第六十七条の三第一項(第百三条において準用する場合を含む。以下この節において同じ。)の規定による裁定及び補償金の額の決定に係る事務のうち次に掲げるもの(以下この節、第百二十一条の三及び第百二十二条の二第三号において「確認等事務」という。)を行わせることができる。
 当該裁定の申請の受付(第百四条の三十五第二項において「申請受付」という。)に関する事務
 当該裁定の申請に係る著作物等が未管理公表著作物等に該当するか否か及び当該裁定の申請をした者が第六十七条の三第一項第一号に該当するか否かの確認(以下この条及び第百四条の三十五第二項において「要件確認」という。)に関する事務
 第六十七条の三第一項の通常の使用料の額に相当する額の算出(以下この節において「使用料相当額算出」という。)に関する事務

(第2項以下略)

 文化庁は同じ機関を指定、登録する事を考えているのではないかとも思うが、指定補償金管理機関が第67条の権利者不明の裁定の補償金も扱うのに対し、登録確認機関の方が担当する確認業務は第67条の3の新しい未管理公表著作物の裁定のみとなっており、書き方はかなり複雑だが、この前の法制度小委員会報告書の、新制度の申請受付は別の機関で行いながら利用許諾の決定は文化庁が行うという内容を条文化したらこの様になるだろうと思えるものである。(文化庁の文化審議会・著作権分科会・法制度小委員会の報告書の内容については第470回参照。)

 以前書いた通り、この新制度が本当に著作物の利用の円滑化に役立つかどうかは、条文レベルで決まる事ではなく、その政省令、具体的な運用次第となるだろう。

 運用開始までの準備期間としてやむを得ないのだろうが、概要資料にも書かれている通り、この部分の施行は公布から3年以内で多少時間が掛かる事になっている。

(2)立法・行政向けの権利制限の拡充
 次に、今回の権利制限の拡充は、著作権法の立法・行政・司法向けの権利制限を以下の様に改めるものである。

政治上公開の演説等の利用)
第四十条 公開して行われた政治上の演説又は陳述及び裁判手続並びに裁判手続及び行政審判手続(行政庁の行う審判その他裁判に準ずる手続を含む。第四十二条第一をいう。第四十一条の二において同じ。)における公開の陳述は、同一の著作者のものを編集して利用する場合を除き、いずれの方法によるかを問わず、利用することができる。

(略)

(裁判手続等における複製等)
第四十一条の二 著作物は、裁判手続及び行政審判手続のために必要と認められる場合には、その必要と認められる限度において、複製することができる。ただし、当該著作物の種類及び用途並びにその複製の部数及び態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。

 著作物は、特許法(昭和三十四年法律第百二十一号)その他政令で定める法律の規定による行政審判手続であつて、電磁的記録を用いて行い、又は映像若しくは音声の送受信を伴つて行うもののために必要と認められる限度において、公衆送信(自動公衆送信の場合にあつては、送信可能化を含む。以下この項、次条及び第四十二条の二第二項において同じ。)を行い、又は受信装置を用いて公に伝達することができる。ただし、当該著作物の種類及び用途並びにその公衆送信又は伝達の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。

(裁判手続等における複製)(立法又は行政の目的のための内部資料としての複製等)
第四十二条 著作物は、裁判手続のために必要と認められる場合及び立法又は行政の目的のために内部資料として必要と認められる場合には、その必要と認められる限度において、複製する複製し、又は当該内部資料を利用する者との間で公衆送信を行い、若しくは受信装置を用いて公に伝達することができる。ただし、当該著作物の種類及び用途並びにその複製の部数及びその複製、公衆送信又は伝達の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。

 次に掲げる手続のために必要と認められる場合についても、前項と同様とする。
 行政庁の行う特許、意匠若しくは商標に関する審査、実用新案に関する技術的な評価又は国際出願(特許協力条約に基づく国際出願等に関する法律(昭和五十三年法律第三十号)第二条に規定する国際出願をいう。)に関する国際調査若しくは国際予備審査に関する手続
 行政庁の行う品種(種苗法(平成十年法律第八十三号)第二条第二項に規定する品種をいう。)に関する審査又は登録品種(同法第二十条第一項に規定する登録品種をいう。)に関する調査に関する手続
 行政庁の行う特定農林水産物等(特定農林水産物等の名称の保護に関する法律(平成二十六年法律第八十四号)第二条第二項に規定する特定農林水産物等をいう。以下この号において同じ。)についての同法第六条の登録又は外国の特定農林水産物等についての同法第二十三条第一項の指定に関する手続
 行政庁若しくは独立行政法人の行う薬事(医療機器(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(昭和三十五年法律第百四十五号)第二条第四項に規定する医療機器をいう。)及び再生医療等製品(同条第九項に規定する再生医療等製品をいう。)に関する事項を含む。以下この号において同じ。)に関する審査若しくは調査又は行政庁若しくは独立行政法人に対する薬事に関する報告に関する手続
 前各号に掲げるもののほか、これらに類するものとして政令で定める手続

(審査等の手続における複製等)
第四十二条の二 著作物は、次に掲げる手続のために必要と認められる場合には、その必要と認められる限度において、複製することができる。ただし、当該著作物の種類及び用途並びにその複製の部数及び態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。
 行政庁の行う特許、意匠若しくは商標に関する審査、実用新案に関する技術的な評価又は国際出願(特許協力条約に基づく国際出願等に関する法律(昭和五十三年法律第三十号)第二条に規定する国際出願をいう。)に関する国際調査若しくは国際予備審査に関する手続
 行政庁の行う品種(種苗法(平成十年法律第八十三号)第二条第二項に規定する品種をいう。)に関する審査又は登録品種(同法第二十条第一項に規定する登録品種をいう。)に関する調査に関する手続
 行政庁の行う特定農林水産物等(特定農林水産物等の名称の保護に関する法律(平成二十六年法律第八十四号)第二条第二項に規定する特定農林水産物等をいう。以下この号において同じ。)についての同法第六条の登録又は外国の特定農林水産物等についての同法第二十三条第一項の指定に関する手続
 行政庁若しくは独立行政法人の行う薬事(医療機器(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(昭和三十五年法律第百四十五号)第二条第四項に規定する医療機器をいう。)及び再生医療等製品(同条第九項に規定する再生医療等製品をいう。)に関する事項を含む。以下この号において同じ。)に関する審査若しくは調査又は行政庁若しくは独立行政法人に対する薬事に関する報告に関する手続
 前各号に掲げるもののほか、これらに類するものとして政令で定める手続

 著作物は、電磁的記録を用いて行い、又は映像若しくは音声の送受信を伴つて行う前項各号に掲げる手続のために必要と認められる場合には、その必要と認められる限度において、公衆送信を行い、又は受信装置を用いて公に伝達することができる。ただし、当該著作物の種類及び用途並びにその公衆送信又は伝達の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。

第四十二条の二第四十二条の三(略)

第四十二条の三第四十二条の四(略)

 権利制限についてはもう少し一般化による条文の整理ができないのかといつも思うが、ここも条文の記載そのものに問題があるわけではない。概要資料にも2024年1月1日施行予定と書かれており、当たり前の話とは思うが、民事訴訟法改正に引き擦られる事なく早めの施行が予定されているのは良い事である。

(3月19日夜の追記:この今回の著作権法改正案では、民訴法等改正による施行前の著作権法第42条の2(第454回参照)が削られているが、代わりに、3月14日に閣議決定された民事関係手続電子化法案(正式名称は「民事関係手続等における情報通信技術の活用等の推進を図るための関係法律の整備に関する法律案」、法務省のHP法律案要綱(pdf)法律案・理由(pdf)新旧対象条文(pdf)参照)により、上の第41条の2第2項に対してさらに以下の改正が加えられる。

(裁判手続等における複製等)
第四十一条の二
(略)
 著作物は、民事訴訟法(平成八年法律第百九号)その他政令で定める法律の規定による裁判手続及び特許法(昭和三十四年法律第百二十一号)その他政令で定める法律の規定による行政審判手続であつて、電磁的記録を用いて行い、又は映像若しくは音声の送受信を伴つて行うもののために必要と認められる限度において、公衆送信(自動公衆送信の場合にあつては、送信可能化を含む。以下この項、次条及び第四十二条の二第二項において同じ。)を行い、又は受信装置を用いて公に伝達することができる。ただし、当該著作物の種類及び用途並びにその公衆送信又は伝達の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。

 この民事関係手続電子化法案により、民事訴訟法による通常の民事訴訟以外の家事事件なども電子化されるが、その部分は政令に委ねるという形でこの権利制限は整理される事になる。)

(3)損害賠償額推定規定の見直し
 次に、損害賠償額推定規定の見直しは著作権法第114条を以下の様に改正するものである。

(損害の額の推定等)
第百十四条 著作権者等が故意又は過失により自己の著作権、出版権又は著作隣接権を侵害した者(以下この項において「侵害者」という。)に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、その者侵害者がその侵害の行為によつて作成された物(第一号において「侵害作成物」という。)を譲渡し、又はその侵害の行為を組成する公衆送信(自動公衆送信の場合にあつては、送信可能化を含む。同号において「侵害組成公衆送信」という。)を行つたときは、その譲渡した物の数量又はその公衆送信が公衆によつて受信されることにより作成された著作物若しくは実演等の複製物(以下この項において「受信複製物」という。)の数量(以下この項において「譲渡等数量」という。)に、著作権者等がその侵害の行為がなければ販売することができた物(受信複製物を含む。)の単位数量当たりの利益の額を乗じて得た額を、著作権者等の当該物に係る販売その他の行為を行う能力に応じた額を超えない限度において次の各号に掲げる額の合計額を、著作権者等が受けた損害の額とすることができる。ただし、譲渡等数量の全部又は一部に相当する数量を著作権者等が販売することができないとする事情があるときは、当該事情に相当する数量に応じた額を控除するものとする。
 譲渡等数量(侵害者が譲渡した侵害作成物及び侵害者が行つた侵害組成公衆送信を公衆が受信して作成した著作物又は実演等の複製物(以下この号において「侵害受信複製物」という。)の数量をいう。次号において同じ。)のうち販売等相応数量(当該著作権者等が当該侵害作成物又は当該侵害受信複製物を販売するとした場合にその販売のために必要な行為を行う能力に応じた数量をいう。同号において同じ。)を超えない部分(その全部又は一部に相当する数量を当該著作権者等が販売することができないとする事情があるときは、当該事情に相当する数量(同号において「特定数量」という。)を控除した数量)に、著作権者等がその侵害の行為がなければ販売することができた物の単位数量当たりの利益の額を乗じて得た額
 譲渡等数量のうち販売等相応数量を超える数量又は特定数量がある場合(著作権者等が、その著作権、出版権又は著作隣接権の行使をし得たと認められない場合を除く。)におけるこれらの数量に応じた当該著作権、出版権又は著作隣接権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額

(略)

 裁判所は、第一項第二号及び第三項に規定する著作権、出版権又は著作隣接権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額を認定するに当たつては、著作権者等が、自己の著作権、出版権又は著作隣接権の侵害があつたことを前提として当該著作権、出版権又は著作隣接権を侵害した者との間でこれらの権利の行使の対価について合意をするとしたならば、当該著作権者等が得ることとなるその対価を考慮することができる。

(略)

 これも、前の報告書に書かれていた通り、既に特許法の第102条などで書かれている内容を著作権法にも取り入れるもので、特に問題があるものではない。この部分も2024年1月1日施行予定である。

 今回の著作権法改正案は、全体を通して文化庁の前の報告書から想定される内容であって、何か問題のある部分が含まれているという事はない。予想としては、通常通りのスケジュールで審議が進み、今国会で成立する事になるだろう。

(2023年4月15日夜の追記:改行の誤記を1箇所直した。)

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2023年2月 5日 (日)

第471回:知財本部メタバース検討論点整理案他

 今回は、先週の知財本部のメタバース検討会の論点整理案についてと、合わせて私が出した2つのパブコメを載せておく。

(1)知財本部のメタバース検討会の論点整理案
 知財本部では、新しく設置されたメタバース上のコンテンツ等をめぐる新たな法的課題への対応に関する官民連携会議の下、知財権に関する第一分科会、アバター肖像に関する第二分科会、アバター行為に関する第三分科会がその下に作られ、この1月から2月にかけてかなり急ピッチで検討が進められている。

 第一分科会は1月13日に第1回が、2月1日に第2回が開かれており、この第2回で示された、現実空間と仮想空間を交錯する知財利用、仮想オブジェクトのデザイン等に関する権利の取扱いに関する論点の整理(たたき台)(pdf)は、たたき台とあるのでさらに検討を重ねるつもりなのだろうが、以下の様に、既にある程度の方向性が書かれている。

Ⅰ.仮想空間における知財利用と権利者の権利保護

(略)

課題1-1;現実空間のデザインの仮想空間における模倣、現実空間と仮想空間を横断した実用品デザインの活用

(略)

2.対応の方向性

①意匠法による対応については、クリエイターの創作活動に対する萎縮効果を生じさせる等の懸念もあることから、中長期的課題として慎重に検討することが適当である。

②現実空間の商品のデザインが仮想空間で模倣される事案への対応や、リアルとバーチャル双方で用いる実用品のデザイン保護への対応としては、まずは、不正競争防止法において、ネットワーク上の商品形態模倣行為を規制できるようにしていくことが適当である。

③仮想空間おいてアバターが使用する実用品等のデザインに対し、著作権による保護がどこまで及び得るかについては、応用美術の著作物性等に関する裁判例の一般的な傾向や実務の積み重ねを踏まえ、まずは考え方を整理し、その上で適切に周知を図っていくことが望ましい。

課題1-2;現実空間の標識の仮想空間における無断使用

(略)

2.対応の方向性

①仮想空間における商標の無断使用に対し、権利者側が講じることのできる実務上の対応策や、その際の留意事項等について、適切な周知を図っていくことが望まれる。

②政府においても、現実空間と仮想空間を通じた商品展開に適切に対応するよう、世界知的所有権機関(WIPO)における商品・サービスの国際分類の整備動向等を踏まえつつ、バーチャル版の商品表示に係る運用面の整備を進めることが期待される。

課題1-3;現実環境の外観の仮想空間における再現

(略)

2.対応の方向性

①現実環境の外観を仮想空間に再現しようとする場合の著作権・商標権の処理について、事業者が利用を希望する著作物・商標や利用形態について整理した上で、事業者が許諾の要否を判断する上での判断材料となるよう、現行法上の考え方等を周知していくことが求められる。

②特に、付随対象著作物の利用については、メタバース内では対象物に接近すると大写しになることとの関係や、現実環境の外観をディフォルメを伴って再現する場合の取扱いなどについて、実務や実態を踏まえつつ、まずは考え方を整理し、その上で、適切に周知を図っていくことが望ましい。

Ⅱ.メタバース上の著作物利用等に係る権利処理

(略)

課題2-1;メタバース上のイベント等における著作物のライセンス利用

(略)

2.対応の方向性

①メタバースユーザーによる著作物等の侵害利用の防止や適切な事後対応について、プラットフォーマーに求められる対応や、有効な方策等を整理し、わかりやすく示していくことが求められる。

②著作物の適切な利用について、メタバースユーザーの理解の増進を図るよう、現実空間で著作物を利用する場合との違い等も含め、留意すべき事項や必要となる手続き等について、周知・啓発等の取組を進めていくことが求められる。

③既存の仕組みがメタバースの実態に合わす、利用しづらいなど、メタバース空間内における著作物の利用や、その円滑な権利処理に関し、隘路となっている事項等がある場合において、これに適切に対応できるよう、関係者間の対話・協議の促進が図られることが望ましい。

課題2-2;仮想空間におけるユーザーの創作活動

(略)

2.対応の方向性

①クリエイティブコモンズライセンス等と同様に、メタバース内におけるUGCの利用についても、二次利用を認めるユーザーの意思表示を、当該UGCの利用条件と併せて、簡易にわかりやすく示せるような仕組みが整備され、普及されていくことが望ましい。

②著作権侵害防止化等のためにプラットフォーマーその他の事業者等が留意すべき事項や、UGCの創作活動の活性化を図る上で有効な方策(例えば、二次利用の可否をはじめ、プラットフォーム内におけるUGCの創作・利用に関するルールを利用規約で定めるなど)等について、周知を図っていくことが適当である。

課題2-3;NFT等を活用した仮想オブジェクトの取引

①仮想オブジェクトの「保有」

(略)

2.対応の方向性

①仮想オブジェクトをめぐる権利について、一般的な考え方の整理とともに、どのような法的位置付けの下に、誰が、どのような権利をもつのかを契約上明確化するなど、契約等に当たり特に留意すべき事項等について、ユーザーや事業者等へ周知していくことが求められる。

②将来的に、プラットフォームを超えた相互運用が実現した際には、仮想オブジェクトの取引をめぐるユーザー間のトラブル保護等について、プラットフォームの利用規約のみで対応できない問題等が生じ得ることも考えられることから、それらの問題への可能な対応方策(例えば、複数プラットフォーマーによる共通ルールの整備、複数プラットフォームを横断して利用されるサービスを介した対応措置など)について、相互運用性の実現に向けた国際的な議論の動向にも留意しつつ、検討していくことが必要である。

②NFT等を活用した仮想オブジェクトの二次流通等

(略)

2.検討の方向性

①UGCの利用条件を個々のクリエイター(一次創作者)に設定させるプラットフォームにおいては、その利用条件が二次流通以降の購入者に対し適切に伝わるようにするためにも、創作活動を行うユーザーに対し、例えば、クリエイティブコモンズライセンスやその他の意思表示の仕組みと連携する等により、著作物の利用条件の表示を簡易に行えるサービスを提供していくことが期待される。

②プラットフォームを超えた相互運用が実現した際に、複数プラットフォームを横断して起こる問題にどのように対応するかが課題となることから。相互運用性の実現を目指した民間事業者等による国際的フォーラムにおける議論の動向を適切にフォローするとともに、必要に応じ、我が国からも適切なルールの提案等を行っていく必要がある。

③一次創作者へのロイヤリティについては、プラットフォーム横断的なロイヤリティ収受には限界があること等を含め、クリエイター等に正しく理解されるよう、周知を行っていくことが求められる。

 ここで書かれている事は、要するに、新たな法改正による対応は不正競争防止法の改正により商品形態模倣規制をネットワーク上の仮想オブジェクトにも適用されるようにして行き、他の点については既存の法規制の周知などによるとするものである。

 この不正競争防止法の改正ポイントは、第469回で取り上げた、経産省の不正競争防止小委員会の報告書案で既に書かれていたものであり、想定通りと言えるものである。そして、この知財本部の論点整理案の注釈にも書かれている通り、1月30日に開かれた不正競争防止小委員会の第22回でほぼ原案通りのデジタル化に伴うビジネスの多様化を踏まえた不正競争防止法の在り方(案)(変更履歴有版)(pdf)が示され、とりまとめられている。

(不正競争防止法の改正については、この小委員会の下の外国公務員贈賄に関するワーキンググループも1月26日の第5回でほぼ原案通り外国公務員贈賄罪に係る規律強化に関する報告書(案)(変更履歴有版)(pdf)もとりまとめられている。)

 つまり、今年のメタバースに関する法改正による対応はこの不正競争防止法の改正に留まる事が想定されるが、知財本部のこの論点整理案にも書かれている通り、「著作権による保護は、著作物と認められるものであれば、基本的に、現実空間か仮想空間かの別を問わずに保護が及ぶこととなる」のであって、別に仮想空間におけるオブジェクトの利用は完全に自由で何をしても良いという事ではない事に注意すべきなのは無論の事である。

 この議論は、あくまで応用美術の実用品について著作物性が認められるかどうかについて微妙なケースが存在している事を前提としている。同じく、商標法においてもコンピュータプログラムの様なバーチャルな商品について指定が可能であり、商標権の保護も及び得る。これらの著作権法や商標法における例外・適用除外についても整理して良く周知して行くべきというのもその通りだろう。

 仮想オブジェクトの利用について現時点で契約に委ねるとしているのも妥当であり、ここでNFTについてどうこう言うつもりは全くないが、この論点整理案で以下の様に書かれている事は重要であり、この点の理解はもっと広められて良いと私も思う。

○仮想オブジェクトの「保有者」が持つ権利については、実態として捉えれば、
・当該仮想オブジェクトのデジタルデータにアクセスし、利用することのできる利用権が、その内容となるとともに、
・当該仮想オブジェクトのデザイン等が著作権の対象となる場合には、当該デザイン等を一定の条件内で利用できるライセンス(場合によっては、その著作権自体)が紐付けられている
ものと考えられ、仮想オブジェクトの取引等により、これらの権利が「保有者」に付与されているものと解される。なお、データの利用権は、契約に基づく債権であり、その効力は契約当事者間のみに止まる。

 他2つの分科会について、第二分科会は1月26日に第1回が開かれた所で方向性を含む論点整理案はまだ示されていないが、第三分科会の方は1月30日に第2回が開かれ、その仮想オブジェクトやアバターに対する行為、アバター間の行為をめぐるルール形成、規制措置等に関する論点の整理(たたき台)(pdf)たたき台の構成(pdf)も参照)では、対応の方向性について以下の様に書かれている。ここでは、知財との関係は薄いので以下を抜粋するに留めるが、現時点で、この様に新たな法規制を作る事はせず各プラットフォームにおける自主ルールに任せるとしているのも妥当だろう。

Ⅳ.問題事案への対応の方向性

〇以上を踏まえ、メタバースにおける問題事案への対応を効果的に推進していくために、今後さらに、プラットフォーマーが、メタバースの特性や、自らのサービスの特性に応じて、効果的な取組を自律的な創意工夫により実施することが必要であると考えられる。その際、次のような取組みを進めていくことが期待される。

1.自由と安全・安心の両立

(略)

<対応の方向性>

①ワールドごとのローカルルールの設定

〇各プラットフォームにおいて、多様なコミュニティによる多様な文化の展開を図っていく上では、利用規約によるプラットフォーム内共通のルールに加え、ワールドごとのローカルルールを設定できるようにしていくことが、有効な方策の1つとなり得ると考えられる。各ワールドに適用されるローカルルールについては、当該ワールドを訪れようとするユーザーに対し、わかりやすく表示することが望ましいと考えられる。

(略)

②子ども・未成年者の安全・安心の確保

〇ワールドごとのローカルルールは、例えば、子どもに相応しくないコンテンツを持込み不可としているワールドが明示的に示されるなど、子どもや未成年者が安心・安全に過ごせるワールドを選択的に訪問できるようにする上でも、意義が大きいものと考えられる。

〇これらに加え、各プラットフォームにおいて、それぞれの特質を踏まえつつ、子ども・未成年の保護の観点からユーザーが遵守すべき事項の明確化など、必要な対応を検討していくことが重要である。今後さらに、メタバースにおける子ども・未成年者の経済活動の取扱いなど、将来的な課題を見据えた議論が、関係者間で積み重ねられることにも期待したい。

2.プラットフォーマーの利用規約等による適切なルール形成と実効性の確保・向上

(略)

<対応の方向性>

③各プラットフォームにおけるコミュニティ基準等の整備

〇ユーザーが遵守すべき事項や、違反者への対応方針について、利用規約本文とは
別に、これと紐づくコミュニティ基準等として、具体的に、わかりやすく示していくことは有効と考えられる。これらの基準整備の事例等について、情報共有を促進していくことが求められる。

④問題発生防止・事後対応のノウハウ共有

〇メタバース事業に新規参入する事業者のために、違反事案への対処など、ルールの実効性確保を図る上で共通に必要となる事項を整理し、ガイドライン等として示していくことが求められる。

〇特に、メタバース内で起こる様々な問題事案について、当該事案のタイプやそれが生じた場合の対応措置について一定の類型化を行い、関係事業者間で事例の集積・共有を図っていくことが有効である。ここでは、例えば、通報の仕組み等をはじめ、問題事案への対応の仕組み・措置について、各プラットフォーマーが、自己のプラットフォームに適した仕組み・措置の導入を検討していけるよう、有効な方策等の情報を整理することが考えられる。

〇さらに、メタバースの事業環境を整える上では、例えば、被害者からの通報を受け被害拡大防止の措置を行うなど、問題事案への対処を適切に行ったプラットフォーマーが、プロバイダ責任制限法に基づき、生じていた問題(権利侵害)に対する損害賠償責任を免責され得ること等について、明確化が図られることが望ましい。
※プロバイダ責任制限法上の送信防止措置に該当するかの検討には、サービスの提供の態様や講じる措置に関する一定の類型化を図り、分析することが有効であると考えられる。

3.被害ユーザー自身による対抗措置や法的請求を可能とするための対応

(略)

<対応の方向性>

⑤発信者情報開示制度の運用の明確化

〇メタバース内における権利侵害事案に関しても、発信者情報開示請求制度を活用した加害者の特定を円滑に行えるよう、サービス提供の態様に応じて、どのような行為が権利の侵害といえるか、また、どのような情報の送信が権利侵害情報の送信に当たるかの検討が求められる。

〇そのためには、メタバース以外の領域で積み重ねられてきた既存の事案に関する多数の裁判例も十分に参考にした上で、サービスの提供の態様やメタバース特有の問題事案に関する事例の収集・蓄積と類型化を図ることが有効であると考えられる。

⑥海外プラットフォーマーに係る国内代表等の明確化

○日本のユーザーが海外のプラットフォーマーに対して法的な請求を行う場合や、日本の捜査当局が海外のプラットフォーマーに対して捜査の協力を求める場合に、これが円滑に行われるために必要な仕組みを設けることが有効であると考えられる。

4.国際的な動向への対応

(略)

<対応の方向性>

⑦国内議論から国際的な議論への接続

〇メタバースにおけるルール形成の在り方等に関する国内議論を進めるに当たり、国際的な議論の動向に対する情報収集の機能を高めるとともに、我が国発メタバースの発展等を期する観点から、それらの議論の成果を国際的なルール形成の中へと積極的に反映していけるよう、国際的なフォーラムへの参画その他のコミットメント体制の強化を図っていくことが必要である。

(2023年2月12日夜の追記:2月10日に第二分科会の第2回も開催され、アバターの肖像等に関する取扱いに関する論点の整理(たたき台)(pdf)が示されたので、同様に方向性の部分を抜粋してここに追記しておく。これも新たな法改正を必要とするものではないが、この論点整理案に書かれている通り、アバターを介するからと言って著作権侵害や誹謗中傷が成立しないなどという事はあり得ず、他の場合と同様の注意が必要なのは無論の事である。以下、追記の抜粋。)

Ⅰ.メタバース外の人物の肖像の無断使用への対応

(略)

課題1-1 実在の人物の肖像の写り込み

(略)

2.対応の方向性

<プラットフォーマー、関係事業者等に向けた対応>
〇メタバース空間の構築の際に付随して写り込んだ・取り込んだ肖像の扱いについて、肖像権・パブリシティ権との関係や、権利処理の要否等に関する考え方、侵害を回避するための方策等の整理を行うとともに、現場がより安心して正しく判断できるよう、メタバースプラットフォーマーや関係事業者等へ向け、ガイドライン等を通じた必要な周知を行っていくことが求められる。

(略)

課題1-2;実在する他者の肖像を模したアバター等の無断作成・無断使用

(略)

2.対応の方向性

<プラットフォーマー、関係事業者、ユーザー等に向けた対応>
〇実在の人物の容ぼうを模したアバター・NPCの無断作成・無断使用により、当該人物の権利を侵害する等の事案を防止するよう、基本的な考え方や、留意すべき事項、必要となる手続き等について整理するとともに、ガイドライン等を通じ、メタバースのプラットフォーマーや、アバター作成等のサービス事業者、ユーザーなどに向け、必要な周知を行っていくことが求められる。

<継続的な把握・検討>
〇さらに、肖像権の侵害等に当たる可能性について、著名人の肖像を用いる場合、パロディとして用いる場合など、より具体的な事案に即した考え方の整理が進められるとともに、本人の承諾なしに使用する場合の法的リスクについて現場が適切に判断できるよう、それらの考え方が示されていくことが望ましい。

(略)

Ⅱ.他者のアバターの肖像等の無断使用その他の権利侵害への対応

(略)

課題2-1;他者のアバターの肖像・デザインの無断使用

①他者のアバターのデザインを盗用したアバターの作成・使用

(略)

2.対応の方向性

<プラットフォーマー等に向けた対応>
〇アバターの肖像の第三者による不適正な利用を防ぐ上で、プラットフォーマー等において特に留意すべき事項や、講じうる対策等について、ガイドライン等を通じ、必要な周知を行っていくことが求められる。

(略)

<ユーザーに向けた対応>
〇自己のアバターのデザインを盗用したアバターの無断作成・無断使用に対し、ユーザーがとり得る対応策等について、ガイドライン等を通じ、必要な周知を行っていくことが必要である。

(略)

<アバターのライセンスモデル等における対応>
〇著作権の移転を受けず、ライセンスによりアバターを使用するユーザーが、デザイン盗用等への対抗策を自ら講じていく上では、ライセンス契約時の利用条件の設定に際しても、これを可能とするような設定としておくことが重要となる。関係団体等が作成するライセンス契約のひな型には、それらの条件設定を可能とするオプションが盛り込まれるとともに、各ひな型の解説書、又はライセンスモデル作成に関する共通的な参照文書(ガイダンス)において、それらの条件設定の意義について適切な説明がなされることが望ましい。

<継続的な把握・検討>
〇さらに、オリジナルのデザインで創作されたアバターの肖像権・パブリシティ権の取扱いについては、関連する裁判例の動向等を注視しつつ、関係者によるさらなる議論が積み重ねられ、その考え方の整理・明確化が図られることが期待される。

②アバターの肖像の無断撮影・公開

(略)

2.対応の方向性

<プラットフォーマー、ユーザー等に向けた対応>
〇実在の人物の容ぼうや創作デザインによるアバターの容ぼうが、スクリーンショットやカメラで撮影された場合においても、他者のアバターの肖像に写しとられた場合(課題1-2、課題2-1①)と同様に、肖像権・パブリシティ権、著作権等との関係をめぐる課題を生じることとなる。それらの課題と合わせ、メタバースのプラットフォーマーやユーザー等が留意すべき事項、有効な対応方策等について、ガイドライン等を通じ、必要な周知を行っていくことが求められる。

課題2ー2 他者のアバターへのなりすまし、他者のアバターののっとり等

(略)

2.対応の方向性

<プラットフォーマー等に向けた対応>
〇アバターによる他者へのなりすまし、他者のアバターののっとり等の問題事案を防ぐ上で、プラットフォーマー等において留意すべき事項や講ずべき方策等について整理し、ガイドライン等を通じ、必要な周知を行っていくことが求められる。

<継続的な把握・検討>
〇さらに、他者のアバターへのなりすまし等をはじめ、様々な問題事例の実情に即し、既存の確立した法理論のみでは十分な救済を図れていないケース等について把握するとともに、それらを踏まえ、アバターをめぐる人格的権利利益の保護のこれからの在り方について、さらなる議論が積み重ねられることが望ましい。

(略)

課題2-3 アバターに対する誹謗中傷等

(略)

2.対応の方向性
<プラットフォーマー等に向けた対応>
〇アバターに向けた誹謗中傷等の問題事案を防ぐ上で、プラットフォーマー等において留意すべき事項、講ずべき方策等について整理し、ガイドライン等を通じ、必要な周知を行っていくことが求められる。

<ユーザー等に向けた対応>
〇アバターに向けた誹謗中傷等に対し、被害者側はどのような対処が可能か、加害者側はどのような法的責任を問われる可能性があるか等の基本的な考え方について、ガイドライン等を通じ、ユーザー等向けた必要な周知を行っていくことが必要である。

<継続的な把握・検討>
〇さらに、アバターのキャラクターや容ぼう等に向けた誹謗中傷等について、名誉毀損や名誉感情侵害がどこまで成立し得るか、どのような場合であれば成立し得るかについて、引き続き裁判例の動向等を注視しつつ、考え方の整理が進められることが望まれる。

Ⅲ.アバターの実演に関する取扱い

(略)

課題3 アバターの実演に係る著作隣接権の権利処理

(略)

2.対応の方向性

<関係事業者、ユーザー等に向けた対応>
〇アバターの実演に係る権利処理が適切に行われるよう、例えば、以下のような事項について、整理ができたものから、関係事業者やユーザー等向けに周知していくことが必要である。
・自分以外のアバターの実演を配信したり、保存したりする等の活動を行う事業者やユーザー等において、特に留意すべき事項、権利侵害の防止等のために講ずべき措置等としてどのようなことがあるか。
・実演家の権利の権利者たるアバター操作者において、特に留意(理解)しておくべき事項等はあるか。

<継続的な把握・検討>
〇さらに、モーションデータの記録に実演家の録画権が及ぶかを含め、アバターの実演等に関する権利の取扱いについては、関係者による議論が積み重ねられ、その法的考え方等が明確化されることを期待したい。

(2023年3月19日の追記:3月16日に上位会議のメタバース上のコンテンツ等をめぐる新たな法的課題への対応に関する官民連携会議の第2回が開かれ(議事次第・資料参照)、各分科会の論点整理案を全てまとめた「論点整理」素案(pdf)が示されているので、ここにリンクを張っておく。)

(2023年4月29日の追記:上のメタバースに関する論点整理案について知財本部が5月7日〆切でパブコメを行っているので(知財本部の意見募集ペーパー(pdf)参照)、念のため知財計画パブコメ(第475回参照)と同じく不正競争防止法改正案による形態模倣規制のデジタル空間への適用に賛同するがそれ以上の法改正には慎重であるべきと意見を出した。)

(2023年6月11日の追記:5月23日に知財本部のHPで最終版の論点整理(pdf)が公開されたので、ここにリンクを張っておく。)

(2)文化庁・著作権分科会・法制度小委員会報告書案に対する提出パブコメ
 文化庁では、1月30日に第9回の法制度小委員会が開かれ、多少注釈などが追加されていると思うが、ほぼ原案通り報告書(pdf)概要(pdf)も参照)がとりまとめられている。

 この小委員会で出された意見募集の結果(pdf)に個人の意見も省略される事なく掲載されており、私の提出意見は前回書いた事を提出意見として整理したものだが、後で参照したくなる事もあるかも知れないと思ったので、念のためここに載せておく。

 今後は、2月7日に開催される予定の上の文化審議会・著作権分科会で(開催案内参照)、答申としてとりまとめられて、著作権法改正案が閣議決定の上国会に提出されるという流れになるだろう。また、他の小委員会の内、国際小委員会の方は1月13日の第3回報告書案(pdf)に基づいて審議経過の報告がされるのだろうが、基本政策小委員会の方はどうするつもりなのか良く分からない。

(2023年2月12日夜の追記:2月7日に文化庁で文化審議会・著作権分科会の第66回が開かれ、「デジタルトランスフォーメーション(DX)時代に対応した著作権制度・政策の在り方について」第一次答申(pdf)が原案通り了承されているので、念のためここにリンクを張っておく。基本政策小委員会については結局審議経過の報告すらなかった様である。)

(以下、文化庁提出パブコメ。)

(1)「簡素で一元的な権利処理方策と対価還元について」について
 本項目で記載されている通り、著作権者等の意思が確認できない著作物等について著作権者等からの申出があるまでの時限的な利用を認める新しい制度を創設する事に賛同する。

 法律の条文レベルではなく政省令又は運用において注意すべき事であろうが、そのDX時代への対応という目的が没却されないよう、また、制度利用の促進を図るため、新制度においては、少なくとも相談・申請から利用許可までの全手続きがネットだけで完結する様にするべきである。

 また、同様に制度利用の促進を図るため、公的な支援や授業目的公衆送信補償金制度の共通目的事業等の活用によりなるべく手数料の低廉化を図るべきである。

 そして、将来的に、利用許諾に関する公的制度が全てネットだけで完結する様に裁定制度も合理化し、裁定制度と新制度の統合を検討して行くべきである。

(2)「立法・行政・司法のデジタル化に対応した著作物等の公衆送信等について」について
 本項目で記載されている通り、立法、行政、民事・家事事件手続き等の目的のために作物等の公衆送信や公の伝達を可能とする事に賛同する。

 民事・家事事件手続等のための対応は民訴法改正の施行に合わせる事もあり得るが、その他の立法・行政目的のための公衆送信等の可能化はそれに引き擦られる事なくなるべく早く施行するべきである。

 また、刑事訴訟の電子化への対応も見越し、この機会に民事手続きのみならず裁判手続き一般のための公衆送信等を認める様にしておいた方が良いと考える。

(3)「損害賠償額の算定方法の見直しについて」について
 本項目で記載されている通り、損害賠償額の算定方法について特許法等同様の見直しを行うことに賛同する。

 損害賠償については、今後も、本報告書案の第26ページに書かれている様に、あくまで既存の填補賠償の枠内で権利者の実効的な救済を図るに留め、その限度を超える莫大な損害賠償によって創作活動を委縮させる事がないよう今後も常に留意して行くべきである。

(4)「研究目的に係る権利制限規定の検討について」について
 本項目において、上記の「簡素で一元的な権利処理方策と対価還元について」において提言されている新制度の導入を待ち、これによっても解決されない支障や新たなニーズがある場合に研究目的の権利制限についてさらに検討を行うとされている方針に賛同しない。

 確かに、研究目的という事では、現行の著作権法の各権利制限によって拾える部分もかなりあるだろうが、この問題はこれらの既存の権利制限の周知により解決されるものではないし、上記の新制度の導入により解決されるものでもない。

 その事は2019年度から2021年度の調査研究の結果によっても明らかであると考えるが、新たな知見を創造する事で文化の発展に寄与するものである研究のためであるにも関わらず、そもそも既存の権利制限に含まれない形の利用もあり得る事、そのために申請等の手続きが必要な事自体が問題なのであって、本来、この様な文化の発展に寄与する事が明らかな目的に対しては、著作権者の利益を不当に害する場合を除き、申請の様な手続きを必要とせずに利用が認められて然るべきである。

 本項目は全面的に書き改め、新制度の導入を待つ事なく、今次の法改正により速やかに欧米主要国並の一般的な研究目的の権利制限を設けるとするべきである。その際、特にアメリカ型の一般フェアユース条項による事が望ましいと考える。

(5)その他
 文化庁は、意見募集の結果について極めて恣意的にまとめた回答を出しただけで、実質的にブルーレイを私的録音録画補償金の対象とする著作権法施行令改正の閣議決定を2022年10月21日に強行した。今まで積み重ねられてきた、判例、保護利用小委員会などの審議会における議論、様々な関係者の意見の全てを愚弄する、この不当な政令改正は到底納得できるものではない。ブルーレイレコーダーとディスクを私的録音録画補償金の対象とする事について今に至るも妥当な根拠は何一つ見出せない。

 以前提出した意見の通り、私は一国民、一個人、一消費者、一利用者・ユーザーとして到底納得の行かない私的録音録画補償金の対象拡大になお断固反対する。

 集まった2406件の意見の全文を速やかに公表するとともに、自身の過ちを認め、政令を元に戻す閣議決定を行う事を私は求める。その上で、中立的な第三者による調査により、前提となっていた旧来の形の私的録音録画自体もはや時代遅れになり少なくなっているという事を示し、全関係者が参加する公開の場で議論し、私的録音録画補償金制度は歴史的役割を終えたものとして廃止するとの結論を出すべきである。

(3)総務省・プラットフォーム事業者による対応の在り方についての意見募集に対する提出パブコメ
 他に、第469回でまとめて取り上げたパブコメの内、総務省のプラットフォームサービスに関する研究会の下の誹謗中傷等の違法・有害情報への対策に関するワーキンググループの12月26日の第1回誹謗中傷等の違法・有害情報に対するプラットフォーム事業者による対応のあり方について(意見募集)(案)(pdf)によりなされていたパブコメは、必ずしも知財に関するものではないが、表現の自由との関係で重要なものであり、私も少し長めの意見を出した。これもいつも書いている事とそれほど違いはないが、念のため合わせてここに載せておく。

 この意見募集用ペーパーは表現の自由に重きを置く視点も網羅しており、特に危険な方向性が出ているとは言えないが、パブコメも終わり、じきに始まるだろうこのワーキンググループでの検討は引き続き注意して行った方が良いだろう。

(以下、総務省提出パブコメ。)

(1)1の1コンテンツモデレーションに関する透明性・アカウンタビリティの確保について
 総論について、去年の「第二次とりまとめ」に対する意見募集で提出した意見のとおりであるが、以下の意見を提出する。

 表現の自由の重要性に鑑み、ユーザの情報モラル・リテラシー向上のための活動及びプラットフォーム事業者の自主的な取組の支援を中心とした施策の推進に賛同する。

 プラットフォーム事業者の透明性・アカウンタビリティ確保のための検討をさらに進めることについても賛同するが、ここでなされるべきことはあくまで個々のユーザに自ら対処するために必要な情報と手段が与えられることであって、それを超える行政の関与はなされるべきでないことに十分留意していただきたい。

 表現の自由及び検閲の禁止の観点から、行政や政治が個々のコンテンツの内容に介入することは断じてあってはならないことである。

(2)1の2プラットフォーム事業者に求められる積極的な役割について
 上で書いた通りであるが、透明性・アカウンタビリティの確保のための方策に関する検討に加えて、プラットフォーム事業者の積極的な役割を検討することには基本的に慎重であるべきである。

 何かしらの強制力を伴う法規制によりプラットフォーム事業者の積極的な役割を義務化する事は、プラットフォーム事業者による行き過ぎた対応を招く恐れがあり、この様な手段によってはかえって表現の自由を危うくするおそれがある事を考慮するべきである。

 原則として、透明性・アカウンタビリティの確保のための取組により、プラットフォーム事業者の自主的な対応を促すべきである。

(3)2.全体の検討を通じて留意すべき事項について
 この2の項目で書かれている各点、被害者の救済、発信者の表現の自由、インターネット及びプラットフォームサービスの特性とその表現の自由との関係、自主的な取組が原則である事について十分に留意し、検討は進められるべきである。

(4)3.透明性・アカウンタビリティの確保方策の在り方について
 この3の項目で書かれている様に、特定の要件を満たすプラットフォーム事業者に対し、コンテンツモデレーションに関する運用方針の策定・公表、運用結果の公表、自己評価の実施・公表、運用方針の改定を促し、申請窓口等透明化や実施又は不実施の判断に係る理由の説明等の一定の措置を求める事について問題はないと考える。

 3の2の各項目、3の4の項目、3の5(1)、(3)の項目、3の6の項目についても同じ意見を提出する。

(5)3の1透明性・アカウンタビリティの確保が求められる事業者について
 この3の1の項目に書かれている様に、透明性・アカウンタビリティの確保は、その負担及び影響力を考えまず大規模なサービス事業者のみに求めるべきである。

(6)3の3プラットフォーム事業者による評価、運用方針の改善について
 上で書いた通り、プラットフォーム事業者による自己評価の実施・公表、運用方針の改定を促す事について問題はないと考えるが、表現の自由に与える影響などの観点から、その評価に対して一定の関与を行う公的機関を設ける事などはするべきではない。あくまで問題のある場合に明確に権限及び義務を有する行政庁の監査を可能とするに留めるべきである。

(7)3の5(2)個別のコンテンツモデレーションの実施又は不実施に関する理由について
 上で書いた通り、実施又は不実施の判断に係る理由の説明等について求める事自体に問題はないと考えるが、アカウントの停止・凍結やアカウントの再作成の制限等については、影響が大きいと考えられる事から、慎重であるべきであり、非常に悪質な場合を除き求められない事を明確化するべきである。

(8)4の1(1)権利侵害情報の流通の網羅的なモニタリングについて
 この4の1の項目で書かれている通り、プラットフォーム事業者に対し権利侵害情報の流通を網羅的にモニタリングする事を法的に義務づける事は、検閲に近い行為を強いる事となり、表現の自由や検閲の禁止の観点から問題が生じ、事業者による過度の情報削除を招く恐れが強く、表現の自由に著しい萎縮効果をもたらす恐れがある事から、決してあってはならない事である。

(9)4の1(2)繰り返し多数の権利侵害情報を投稿するアカウントのモニタリングについて
 上で書いた通り、表現の自由や検閲の禁止等の観点から、プラットフォーム事業者に対し権利侵害情報の流通をモニタリングする事を求めるべきではなく、権利侵害情報の削除等については、原則として被侵害者からの申請によるべきである。ただし、同じアカウントについて申請が繰り返しなされた場合、申請の時点で多数の権利侵害投稿がなされている場合、申請の内容を考慮すると別アカウントの投稿であるが同じ者からの同様の内容の投稿である可能性が高い場合など、非常に悪質な場合についてアカウントの停止・凍結やアカウントの再作成の制限等の対応があり得る事を明確化する事はあって良いと考えるが、これも法規制によるべきではなく、あくまでプラットフォーム事業者の透明性・アカウンタビリティを確保して行く上での自主的な取組の中での明確化に留めるべきである。

 また、プロバイダ責任制限法の解釈の余地はあるが、行政による一方的な拡大解釈は慎むべきである。

(10)4の2(1)削除請求権について
 この4の2(1)の項目で書かれている様に、一般的な投稿の削除を求める権利は、実務上あるいは学説上も明らかではなく、この様な一般的な権利の創設には慎重であるべきであり、個別には違法性がない投稿の削除を可能とする事も非常に問題が大きい事である。判例法理によって既に認められている事を明文化する事自体には反対しないが、基本的に新たな対応が必要な類型が生じているという事はなく、今のところ法改正などは必要なく、判例法理のまとめ及び事業者に対する周知で十分であると考える。

(11)4の2(2)プラットフォーム事業者による権利侵害性の有無の判断の支援について
 この4の2(2)の項目で書かれている様に、プラットフォーム事業者による権利侵害性の有無の判断を支援するための環境を整備する事自体に問題はないと考えるが、下でインターネット・ホットラインセンターなどについて書く事と同様に、新しい天下り機関の創設などは決してされるべき事ではなく、個別の投稿の内容に踏み込む事もあってはならず、基本的に慎重であるべきである。支援をする場合、権限及び義務を有する行政庁からの一般的な支援とするべきである。

 また、民事保全手続よりも簡易・迅速な、削除に特化した裁判外紛争解決手続の検討自体について反対はしないが、これは2021年のプロバイダー責任制限法改正と重なるものであり、その施行からまだほどない事から、まず2021年のプロバイダー責任制限法改正の有効性を確認するべきであり、その結果を踏まえて検討するべきである。

(12)4の2(3)行政庁からの削除要請を受けたプラットフォーム事業者の対応の明確化について
 この4の2(3)の項目で書かれている事について、インターネット・ホットラインセンターは委託先事業者であっても行政庁ではない事が留意されるべきである。相談を受ける事や事業者に自主的な対応を促す事自体に違法性があるとまでは言わないが、この半官半民の機関位置づけの明確化を検討する事自体問題である。この様な位置づけの曖昧な機関は解散されるべきであり、ある投稿について真に権利侵害があるというのであれば、警察・検察による検証可能な明確な法執行によるべきである。ここで書かれている様に、検閲の禁止や表現の自由などの観点を踏まえ、インターネット・ホットラインセンターの要請に応じる事を義務づける事などは、困難であるのは無論の事、そもそもあってはならない事である。

(13)4の3(1)プラットフォーム事業者による削除等の義務付けについて
 この4の3(1)の項目で書かれている様に、過度な削除等による表現の自由への著しい萎縮効果をもたらす恐れがある事に鑑み、投稿の削除等の措置を行うことを公法上義務付けることには、極めて慎重であるべきである。

(14)4の3(2)裁判外の請求への誠実な対応について
 上の項目に書かれている各留意点を十分に考慮し、裁判外の請求への誠実な対応についても、原則として、プラットフォーム事業者の透明性・アカウンタビリティ確保により促すべきである。

(15)5の1検討対象となる情報の範囲について
 この5の1の項目で書かれている様に、表現の自由や検閲の禁止等の基本的な権利に関する観点から、各種情報について、行政庁からの強制力を伴う削除要請等によって対応することには、極めて慎重であるべきなのは無論の事、決してあってはならない事である。

(16)5の2行政の体制や手続
 上及び下で書く通りであるが、この様な検討に乗じて新たな天下り機関を創設する事などあってはならない事である。

(17)5の3相談対応の充実について
 この5の3の項目に書かれている通り、インターネット上の違法・有害情報に関する相談対応の充実を図ることが重要であるが、この様な相談窓口の強化にあたり天下りを前提とする事があってはならない。

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2023年1月 9日 (月)

第470回:文化庁・著作権分科会・法制度小委員会報告書案パブコメ募集(1月18日〆切)

 概要としては前回書いた通りだが、著作権法改正に絡むものとして、1月18日〆切でパブコメに掛かっている(文化庁HPの意見募集ページ、電子政府HPの意見募集ページ参照)、文化庁の文化審議会・著作権分科会・法制度小委員会の報告書案について、ここでもう少し詳しく書いておきたいと思う。

 この報告書案(pdf)の概要としては、前回作った抜粋を以下に再掲するが、これをさらに要約すると、(1)法改正により拡大集中ライセンス制度に類似した新制度を導入する、(2)法改正により立法、行政又は司法目的の権利制限を拡大し必要な資料の公衆送信や公の伝達を可能とする、(3)法改正により損害賠償の算定方法に関する条項を特許法等と同様のものとする、(4)研究目的の権利制限については法改正せず導入しない、となるだろう。

  • 簡素で一元的な権利処理方策と対価還元について(法制小委報告書案第3~16ページ):「著作物等の利用の可否や条件に関する著作権者等の『意思』が確認できない(『意思の表示』がされていない)著作物等について、一定の手続を経て、使用料相当額を支払うことにより、著作権者等からの申出があるまでの間の当該著作物等の時限的な利用を認める新しい制度・・・を創設する」、「文化庁長官による指定等の関与を受けた窓口組織が受付や要件の確認、利用料の算出等の手続を担う」、「時限的な利用の最終的な決定やその取消しは文化庁長官の行政処分による」
  • 立法・行政・司法のデジタル化に対応した著作物等の公衆送信等について(同第17~18ページ):「立法又は行政目的のために内部資料として必要となる著作物等の公衆送信や公の伝達を可能とすることが必要」、「特許審査等の行政手続及び行政庁の行う審判その他裁判に準ずる手続に必要となる著作物等の公衆送信や公の伝達を可能とする必要がある」、「民事訴訟以外の民事・家事事件手続等についても原則として電子化・オンライン化されることに伴い、適正な裁判の実施や裁判を受ける権利の保障の観点から、当該民事・家事事件手続等に必要となる著作物等の公衆送信や公の伝達を可能とする必要がある」
  • 損害賠償額の算定方法の見直しについて(同第19~26ページ):「侵害者の譲渡等数量のうち、著作権者等の販売等の能力を超える、又は著作権者等が販売することができないとする事情があるとして賠償が否定される部分について、侵害者にライセンスしたとみなして、ライセンス料相当額の損害賠償を請求できることとする」、「ライセンス料相当額による損害賠償額の算定に当たり、著作権侵害があったことを前提として交渉した場合に決まるであろう額を考慮できる旨を明記する」
  • 研究目的に係る権利制限規定の検討について(同第27~28ページ):「引き続き著作権法第32条、第38条等をはじめとする著作権制度の普及啓発の実施、令和3年改正による図書館関係の権利制限規定の見直し等の運用状況をフォローするとともに、現在検討を進めている簡素で一元的な権利処理方策と対価還元に係る新しい権利処理方策による対応を行い、これによる課題解消の可能性や、さらにそれらによっても解決されない支障や新たなニーズがある場合に、必要に応じて検討を行うこととする」

 まず、(1)拡大集中ライセンス制度に類似した新制度の導入については、第3~16ページの「Ⅱ.簡素で一元的な権利処理方策と対価還元について」で書かれているが、一昨年の中間まとめ(pdf)の後も検討が続けられて来たものであり、第5ページから、上で抜き出した事が書かれている制度化の骨子に続いて、具体的な新制度の制度設計イメージとして以下の様な事が書かれている。

(ア)新制度の要件

○次の(Ⅰ)、(Ⅱ)を新制度による著作物の利用を可能とする要件とする。

(Ⅰ)以下に掲げる要件を全て満たすこと。

(ⅰ)公表された著作物又は相当期間にわたり公衆に提供され、若しくは提示されている事実が明らかである著作物であること。(新制度の創設前に創作され、公表された著作物についても新制度の対象とする。)

(ⅱ)以下の判断プロセスによって著作権者等の著作物の利用の可否や条件等に係る「意思」が確認できないこと。
①集中管理されている著作物→新制度の対象外
↓(集中管理されていない)
②利用の可否や条件等が明示されている著作物
(オプトアウトが示されている著作物を含む)→新制度の対象外
↓(明示されていない)
③-1著作権者等に係る情報がない・連絡不能→新制度の対象
③-2著作権者等に係る情報がある場合は連絡を試みて利用の可否や条件を確認
※②の段階で利用の可否等の明示がある場合は個別の連絡をするまでもなく対象外
↓(連絡後)
④-1返答(交渉の意向等を含む)がある→新制度の対象外
④-2一定期間返答がない→新制度の対象

※①~④について、効果が時限的であり申出により利用を止められることを踏まえ、著作物等、公式ウェブサイト、データベース、検索エンジン等を活用したより短期間となる手続とする。
※②について、新制度の対象となる著作物となるか、ならないかの判断にあたって、アウトオブコマースについては、過去に公表された時点で示されている「複製禁止・転載禁止」の記載のみをもって判断すべきではないとの意見があった。過去の時点での利用の可否が示されているものの、現在市場に流通していないなどにより現在の意思が確認できない場合の扱いについては、実態等を踏まえて引き続き今後の検討課題とする。なお、裁定制度の活用を踏まえ、その手続を迅速化・簡素化することによる利用円滑化を図ることとする。

(ⅲ)著作権者等の利益を不当に害したり、著作者の意向に反するといったことが明らかであると認められるときに該当しないこと。
※翻案利用も対象とするが、人格的利益についても一定の配慮がなされるようにする。

(Ⅱ)使用料相当額に当たる利用料を支払うこと。

○なお、(Ⅰ)、(Ⅱ)の手続については、窓口組織による簡素な手続を想定。

(イ)新制度における法的効果

○利用期間の上限内、かつ、著作権者等からの申出があるまでの間の時限的な利用(申出後の一定期間の利用を含む。翻案利用を含む。)を可能とする。

○著作権者等からの申出の機会を確保するため、時限的な利用が決定したときは、その旨、広く公表することとする。

【新制度の流れ】

○利用者が、その利用したい著作物について、利用の可否等の著作権者の「意思」を探索し、上述の(ア)(Ⅰ)の要件に該当することを疎明する資料を窓口組織に提出する。窓口組織においては、その確認や助言が行われる。

○窓口組織において要件の確認、利用料の算出を行い、文化庁長官に資料を送付のうえ、文化庁長官による時限的利用の決定が行われる。この決定に基づく著作物の利用について広く公表を行う。

○利用者は、決定通知と併せて示された利用料を支払うことで、時限的な利用を開始できる。

○著作権者の申出に基づき、窓口組織が本人確認等を行い、利用料の一部が著作権者に支払われる。著作権者はその後、利用者とのライセンス交渉等を経て利用許諾を行うことができる。

○時限的でない利用を望む利用者は、裁定制度に申請し、裁定制度による利用に切り替えることとする。

【図:新制度イメージ】
New_license

(ウ)窓口組織による新制度の事務の実施

○手続の迅速化・簡素化を図りつつ、より適正な手続とするため、文化庁長官による指定等の一定の関与を受けた窓口組織が、新制度の事務を担う。また、裁定制度に係る手続についても、利用者・権利者双方の負担軽減の観点から窓口組織の活用を図る。

・・・

○窓口組織の運営や必要な体制整備等については、著作権に関して知見があり、公益性のある団体などを念頭に体制整備を行う。また、利用者からの手数料収入を充てることに加え、公的な支援や授業目的公衆送信補償金制度の共通目的事業等の活用を検討する。

 管理団体の法定独占が存在せず、著作物の管理がかなりばらばらである日本の現状を考えると、特定の団体に第3者の権利までライセンスさせるいわゆる拡大集中ライセンス制度の導入が難しいだろう事は想定されていたので、これもぎりぎりの妥協の産物という事になるだろう。それにしても、この報告書案に書かれている日本の新制度は、窓口組織により運用されるが、対象となるのは著作権者に関する情報がないが連絡がつかない場合に限られ、文化庁による決定を前提とし、認められるのも事後的に著作権者からの申し出により停止できる時限的利用と、かなりトリッキーかつ限定的なものになっている。

 上で書かれている事と同じだが、第15ページにも書かれている裁定制度との違いの要点を箇条書きにしてまとめると以下の様になる。

○裁定制度(現著作権法第67条以下)
・対象:著作権者不明等の場合(「著作権者の不明その他の理由により相当な努力を払つてもその著作権者と連絡することができない場合として政令で定める場合」)
・効果:時限的でない利用も可

○新制度
・対象:著作物の利用の可否に係る著作権者等の意思が明らかでない(確認できない)場合
・効果:著作権者等からの申出により利用が停止できる時限的な利用のみ

 要するに、裁定制度と対象と効果で違いのある新制度をどうにかひねり出した格好であり、時限的な利用のみしか認められないとは言え、この新制度は著作権の利用許諾の容易化・簡素化を多少なりとも図ろうとするものとは言えるだろう。ただし、それも制度の運用次第である事が注意されなくてはならないだろうし、DX時代への対応というなら、少なくとも相談・申請から利用許可までの全手続きがネットだけで完結する様にしなければ、結局制度の利用が進まないという事になりかねない。

 また、新制度の申請者から手数料を取るなとまでは言えないだろうが、公的な支援や授業目的公衆送信補償金制度の共通目的事業等の活用によりなるべく低廉化を図った方が良いのは無論の事である。

 そして、第15~16ページに書かれている様に、裁定制度の事務の一部を窓口組織に委ね、著作物の利用許諾に関する相談や手続きの窓口を一元化する事も重要である。将来的には、利用許諾に関する公的制度が全てネットだけで完結する様に裁定制度も合理化して両制度の統合を検討して行くべきだろう。

 次に、(2)立法、行政又は司法目的の権利制限の拡大については、第17~18ページの「Ⅲ.立法・行政・司法のデジタル化に対応した著作物等の公衆送信等について」に書かれている。

 この部分で書かれている事は、上の概要でも抜き出した通りだが、現在「複製」しか対象になっていない著作権法第42条の立法・行政・司法における利用のための権利制限(ただし、報告書案にも書かれている通り、また、第454回で取り上げた通り、去年の民訴法等改正により、民事訴訟手続きについて公衆送信のための第42条の2が公布の日から4年以内に施行される予定となっている)について、公衆送信等への拡大を行うとするものであり、遅きに失した感すらあるが、立法・行政・司法のデジタル化の進展を考えれば当然の改正である。

 条文作成のテクニカルな問題となるが、民事訴訟以外の民事・家事事件手続等における電子化・オンライン化への対応はともかく(これは民訴法等改正検討の際に漏れていたという方が正確ではないかと思うが)、他の立法・行政目的、特許審査等や各種審判手続等のための公衆送信等の可能化はそれに引き擦られない様になるべく早く施行するべきだろう。また、将来的に刑事訴訟の電子化も進むだろう事を考え、この機会に裁判手続き一般で必要な場合の公衆送信等を認める様にしておいた方が良いのではないだろうか。

 (3)損害賠償の算定方法の見直しの点が一番マニアックな点だと思うが、第19~26ページの「Ⅳ.損害賠償額の算定方法の見直しについて」で書かれているのは、結論としては、第23ページに以下の通り書かれている様に、現行の著作権法第114条第1項を特許法等に合わせるものである。

○以上を踏まえると、特許法の令和元年改正による見直しは、著作権法においても当てはまるものであり、その見直しの意義・効果もあると考えられることから、著作権法においても、以下のとおり、同様の見直しを行うこととする。

(i)侵害者の譲渡等数量のうち、著作権者等の販売等の能力を超える、又は著作権者等が販売することができないとする事情があるとして賠償が否定される部分について、侵害者にライセンスしたとみなして、ライセンス料相当額の損害賠償を請求できることとする。

(ii)ライセンス料相当額による損害賠償額の算定に当たり、著作権侵害があったことを前提として交渉した場合に決まるであろう額を考慮できる旨を明記する。

 特許法の改正などを踏まえると、これも自然な法改正であって、アメリカにおける法定賠償制度の様に箆棒な損害賠償の算定が可能となるというものではなく、特に問題があるという事はないだろう。

 また、第26ページに、創作活動が委縮しない配慮について以下の様に書かれているが、この様に、損害賠償についてはあくまで既存の填補賠償の枠内で権利者の実効的な救済を図るに留めるべきであり、その限度を超える莫大な損害賠償によって創作活動を委縮させる事がないよう留意する事は常に重要である。

 最後に、私がこの報告書案で最もいまいちだと思う点が、(4)研究目的の権利制限を設けないとした点である。この様な権利制限をなるべく入れたくない文化庁の気持ちが表れているのだろう、第27~28ページの「Ⅴ.研究目的に係る権利制限規定の検討について」は非常に内容の薄いものになっている。

 この中で、著作権法第32条(引用)や第38条(営利を目的としない上演等)などの周知、許諾手続きの問題、今後創設されるだろう上の拡大集中ライセンス類似の新制度に寄せ、この新制度によっても解決されない支障や新たなニーズがある場合に必要に応じて検討を行うこととするとしたのは、新しい権利制限をなるべく入れまいとする文化庁の作文であって全く頂けないものである。

 確かに、研究目的という事では、現行の著作権法の第30条の4(著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない利用)、第32条(引用)、第38条(営利を目的としない上演等)、第47条の5(電子計算機による情報処理及びその結果の提供に付随する軽微利用等)などで拾える部分もかなりあるだろうが、この問題はこれらの既存の権利制限の周知により解決されるものではないし、拡大集中ライセンス制度に類似した制度の導入により解決されるものでもない。

 新たな知見を創造する事で文化の発展に寄与するものである研究のためであるにも関わらず、そもそも既存の権利制限に含まれない形の利用もあり得る事、そのために申請等の手続きが必要な事自体が問題なのであって、本来、この様な文化の発展に寄与する事が明らかな目的に対しては、著作権者の利益を不当に害する場合を除き、申請の様な手続きを必要とせずに利用が認められて然るべきなのである。

 その事は、3年に渡る研究目的の著作物の利用に関する調査研究の2019年度報告書2020年度報告書2021年度報告書から文化庁のいつものためにする誘導を除き虚心坦懐に事実を見れば明らかだろうと思う。アメリカ並の一般フェアユース条項を入れるべきとの考えにも変わりはないが、こまで一足飛びに行かなくとも、欧州各国の様な非営利の研究目的に対する権利制限はすぐにも入れた方が良いものと私は考えている。

 今回の報告書案は、全体としては、利用許諾の容易化のために新制度を導入するとともに、立法、行政又は司法目的の権利制限を拡充するといった内容のであり、その限りにおいて特に大きな問題はないが、ここで書いた事を整理して私は意見を出すつもりである。なお、パブコメの対象ではない事は分かっているが、余りにも大きな問題を含むブルーレイ私的録音録画補償金問題について、今回のパブコメでも合わせて繰り返し意見を書いておきたいとも思っている。

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2022年12月29日 (木)

第469回:2022年の終わりに(各知財法改正関係報告書案パブコメ)

 国会も役所も休みに入り、今年のイベントも一通り終わったと思うので、ここで各省庁の知財政策に関する検討状況をまとめておきたいと思う。

(1)文化庁の各小委員会と報告書案パブコメ

 まず、文化庁の文化審議会・著作権分科会は、この12月にも持ち回り開催で、図書館等公衆送信補償金政令案に関する答申がされている。

 著作権分科会の下の各小委員会について、ブルーレイへの私的録音録画補償金の対象拡大パブコメの結果概要が報告された(第467回参照)、対価還元策などを検討している基本政策小委員会では12月21日分野横断権利情報データベースに関する研究会報告書(pdf)の報告がされたり、国際的な著作権保護に関する検討をしている国際小委員会では11月21日文化庁の海外における著作権保護の推進(pdf)の報告などがされているが、これらの小委員会の報告書案はまだ出ていない。

 中でも今年最も数多く開催されていた小委員会は、法制度小委員会で、12月26日報告書案(pdf)概要(pdf))が示され、1月18日〆切でパブコメに掛かっている(文化庁HPの意見募集ページ、電子政府HPの意見募集ページ1参照)。

 この法制度小委員会の報告書案については次回年明けに内容についてもう少し細かく取り上げたいと思っているが、その4つのポイントについて結論だけの抜粋を作ると以下の様になる。

  • 簡素で一元的な権利処理方策と対価還元について(法制小委報告書案第3~16ページ):「著作物等の利用の可否や条件に関する著作権者等の『意思』が確認できない(『意思の表示』がされていない)著作物等について、一定の手続を経て、使用料相当額を支払うことにより、著作権者等からの申出があるまでの間の当該著作物等の時限的な利用を認める新しい制度・・・を創設する」、「文化庁長官による指定等の関与を受けた窓口組織が受付や要件の確認、利用料の算出等の手続を担う」、「時限的な利用の最終的な決定やその取消しは文化庁長官の行政処分による」
  • 立法・行政・司法のデジタル化に対応した著作物等の公衆送信等について(同第17~18ページ):「立法又は行政目的のために内部資料として必要となる著作物等の公衆送信や公の伝達を可能とすることが必要」、「特許審査等の行政手続及び行政庁の行う審判その他裁判に準ずる手続に必要となる著作物等の公衆送信や公の伝達を可能とする必要がある」、「民事訴訟以外の民事・家事事件手続等についても原則として電子化・オンライン化されることに伴い、適正な裁判の実施や裁判を受ける権利の保障の観点から、当該民事・家事事件手続等に必要となる著作物等の公衆送信や公の伝達を可能とする必要がある」
  • 損害賠償額の算定方法の見直しについて(同第19~26ページ):「侵害者の譲渡等数量のうち、著作権者等の販売等の能力を超える、又は著作権者等が販売することができないとする事情があるとして賠償が否定される部分について、侵害者にライセンスしたとみなして、ライセンス料相当額の損害賠償を請求できることとする」、「ライセンス料相当額による損害賠償額の算定に当たり、著作権侵害があったことを前提として交渉した場合に決まるであろう額を考慮できる旨を明記する」
  • 研究目的に係る権利制限規定の検討について(同第27~28ページ):「引き続き著作権法第32条、第38条等をはじめとする著作権制度の普及啓発の実施、令和3年改正による図書館関係の権利制限規定の見直し等の運用状況をフォローするとともに、現在検討を進めている簡素で一元的な権利処理方策と対価還元に係る新しい権利処理方策による対応を行い、これによる課題解消の可能性や、さらにそれらによっても解決されない支障や新たなニーズがある場合に、必要に応じて検討を行うこととする」

(2)特許庁の各小委員会と報告書案パブコメ

 次に、特許庁で、産業構造審議会・知的財産分科会の下、各小委員会が開催されている。

 特許制度小委員会では、12月19日までの検討で示された報告書案の知財活用促進に向けた特許制度の在り方(案)(pdf)が1月20日〆切でパブコメに掛かっている(特許庁HPの意見募集ページ1、電子政府HPの意見募集ページ2参照)。

 商標制度小委員会では、12月23日までの検討で示された報告書案の商標を活用したブランド戦略展開に向けた商標制度の見直しについて(案)(pdf)が1月24日〆切でパブコメに掛かっている(特許庁の意見募集ページ2、電子政府HPの意見募集ページ3参照)。

 意匠制度小委員会では、12月7日までの検討で示された報告書案の新規性喪失の例外適用手続に関する意匠制度の見直しについて(案)(pdf)が1月12日〆切でパブコメに掛かっている(特許庁の意見募集ページ3、電子政府HPの意見募集ページ4参照)。

 ほぼ制度ユーザにしか関係しないので細かな説明は省略するが、特許庁からパブコメに掛かっている各報告書案に含まれている法改正事項の概要を抜粋として作ると以下の様になる。

  • 送達制度の見直し(特許小委報告書案第10~15ページ):「出願人等が出願ソフトを立ち上げた時に、特許庁の受付サーバに発送書類が格納された旨の通知が送付される」という「案1を基本として検討を進めることが適当」、「送達の効力発生までの期間については『10日間』とする」、「公示送達の方法についても、デジタル化を促進する観点から、特許公報への掲載を廃止し、特許庁ホームページに掲載することにより実施する方向で検討を進めることが適当」、「戦争やコロナ禍の影響により現実に国際郵便の引受けが停止され、当該国に対して航空書留郵便等に付する発送ができない状況が長期間継続した場合には、公示送達を実施することができるよう、公示送達の要件を見直す方向で検討を進めることが適当」
  • 書面手続デジタル化(同第16~19ページ):「書面手続デジタル化に向けた関係手続整備を進めることが適当」、「優先権証明書の写しの提出を許容するとともに、オンライン提出を可能とすることが適当」
  • 裁定制度の閲覧制限導入(同第20~21ページ):「裁定関係書類のうち営業秘密が記載された書類は、閲覧等を制限可能とすることが適当」
  • 意匠の新規性喪失の例外適用手続(意匠小委報告書案第5~9ページ):「法定期間(出願から30日)内に提出した最先の公開についての証明書に基づき、それ以後に意匠登録を受ける権利を有する者等の行為に起因して公開された同一又は類似の意匠についても新規性喪失の例外規定の適用を受けられる」という「②の案において、『証明書により証明した意匠の公開時以後に公開された意匠』の要件を『公開時以後』ではなく『公開日以後』とする方向性で意匠の新規性喪失の例外規定の適用手続を緩和することが適当」
  • 他人の氏名を含む商標の登録要件緩和(商標小委報告書案第5~10ページ):「本規定の『他人の氏名』に一定の知名度の要件を設けること、また、無関係な者による悪意の出願等の濫用的な出願の防止のため、出願人側の事情(例えば、出願することに正当な理由があるか等)を考慮する要件を課すことが適当」
  • コンセント制度の導入(同第11~17ページ):「先行登録商標の権利者の同意があってもなお出所混同のおそれがある場合には登録を認めない『留保型コンセント』の導入が適当」、「当事者間における混同防止表示の請求や不正使用取消審判請求の規定を設けることが適当」
  • Madride Filingにより商標の国際登録出願をする際の本国官庁手数料(同第18~19ページ):「本国官庁手数料について、出願人がeFilingを利用して国際登録出願をしようとする場合に限り、他の手数料と一括でスイスフランにより国際事務局へ納付することを可能とするため、商標法について所要の手当をすることが適当」

(3)経産省の不正競争防止小委員会と報告書案パブコメ

 経産省の不正競争防止小委員会では、第463回で取り上げた中間報告の後、外国公務員贈賄に関するワーキンググループによる検討と並行して、各論点の検討が続けられ、その報告書案としてデジタル化に伴うビジネスの多様化を踏まえた不正競争防止法の在り方(案)(pdf)外国公務員贈賄罪に係る規律強化に関する報告書(案)(pdf)が、それぞれ1月19日と1月17日〆切でパブコメに掛かっている(電子政府HPの意見募集ページ5参照)。

 これらの不正競争防止法改正に関する報告書案についてもここで簡単に書くに留めるが、同様にポイントの抜粋により概要を作ると以下の様になる。

  • デジタル時代におけるデザインの保護(形態模倣商品の提供行為)(不競小委報告書案第7~10ページ):「不競法第2条第1項第3号に規定する形態模倣商品の提供行為にも『電気通信回線を通じて提供』する行為を追加することが適切」
  • 限定提供データの規律の見直し(同第11~14ページ):「『秘密として管理されているものを除く」要件(不競法第2 条第 7 項)に関する課題については、『秘密として管理されているものを除く』要件を、『営業秘密を除く』と改める、又は『秘密として管理されているものを除く』要件を削除することが適切」
  • 渉外事案に係る国際裁判管轄及び不正競争防止法の適用範囲に関する規定整備(同第15~17ページ):「国際裁判管轄に関する規定の整備については、渉外的な営業秘密侵害事案に関し、立法措置が可能であれば、日本の裁判所に管轄を認めるとする競合管轄規定を設ける方向で検討を進めることが適切」、「不競法の適用範囲については、国内における営業秘密侵害事案と同様に政策的保護が必要となる渉外的な営業秘密侵害事案に関し、法の適用に関する通則法による準拠法の選択にかかわらず直接に適用される(法の適用に関する通則法よりも優先する)規定を設けることにつき関係省庁とともに引き続き検討した上で、立法措置が可能であれば、当該立法措置の範囲が国際裁判管轄と併せて適切となるよう検討を行うことが適切」
  • 損害賠償額算定規定の見直し(同第18~20ページ):「不競法第5条第1項については、営業秘密に関し『技術上の秘密』に限定されている対象情報を営業秘密全般に拡充し、さらに『物を譲渡』した場合のみを想定している要件をデータや役務を提供している場合にも拡充することが適切」、「特許法と同様、被侵害者の生産、販売及び役務提供能力を超える部分の損害の認定規定を追加することが適切」、「同条第3項については、『使用』以外の行為が含まれる点を明確化するために、不競法第2条第1項各号の不正競争行為が全て対象となるよう規定することが適切」、「特許法と同様、不正競争があったことを前提として交渉した場合に決まるであろう額を考慮できる旨の規定を追加することが適切」
  • 使用等の推定規定の拡充(同第21~26ページ):「不競法第5条の2の対象情報については、対象情報を営業秘密全般へと拡充することが適切」、「対象類型について、正当取得類型(不競法第2条第1項第7号)への拡充については、刑事規律における『領得』行為(不競法第21条第1項第3号)が介在している場合に限り適用対象とする等、営業秘密保有者から営業秘密を示された者への一定の配慮措置を講じることが適切」、「取得時善意無重過失転得類型(不競法第2条第1項第6号及び第9号)への拡充については、不正開示行為等の介在について悪意重過失に転じている場合に限り適用対象とすることを前提とし、その上で、営業秘密が記録された記録媒体等を消去・廃棄せずに保持している場合に限定する等、一定の配慮措置を講じることが適切」、「被告が保持することとなる対象は、①『営業秘密記録媒体等』・『営業秘密が化体された物件』(不競法第21条第1項第3号イ参照)及び、②営業秘密がアップロードされているサーバー等のURLとすることが適切」、「不競法第5条の2の限定提供データへの拡充(限定提供データにも適用可能とすること及びその範囲)については、営業秘密同様、技術上及び営業上の情報を対象とし、不正取得類型(不競法第2条第1項第11号)、取得時悪意転得類型(同項第12号及び第15号)を対象とすることが適切」、「正当取得類型(同項第14号)については、営業秘密と同様に「領得」行為が介在している場合に限り適用対象とする等、一定の配慮措置を講じること、また、取得時善意転得類型(同項第13号及び第16号)については、使用行為が不正競争行為の対象となっていないことから、適用の対象外とすることが適切」
  • 営業秘密及び限定提供データに関するライセンシーの保護制度の創設(同第27~29ページ):「特許法等と同様の制度措置を行うことへの潜在的なニーズは存在するものの、現時点では実際のトラブル事例が顕在化していないことから、実務の動向を注視し、取り得る措置について、関係省庁等と調整しつつ、引き続き検討を継続していく」
  • 商標法のコンセント制度導入を受けた適用除外規定について(第30~32ページ):「商標法へのコンセント制度導入により後行商標が登録され、その後、先行商標又は後行商標が周知又は著名となった場合に、後行商標権者又は先行商標権者が不正の目的でなくその登録商標を商品等表示として使用等する行為を商品等表示に係る不正競争の適用除外とする規定を追加することが適切」、「不競法第19条第2項の規定を参考に、コンセント制度により後行商標が登録され、その後、先行商標又は後行商標が周知又は著名となった場合、自己の商品又は営業との混同を防ぐために適当な表示を付すべきことを請求することができる規定を追加することが適切」
  • 外国公務員贈賄罪に係る規律強化(外国贈賄WG報告書案第4~25ページ):「自然人に対する罰金額の上限を1,000万円~3,000万円、懲役刑の長期を5年超~10年に引き上げる」、「法人に対する罰金額の上限を5億円~10億円に引き上げる」、「刑訴法250条の例外を設けることは適切でないが、仮に懲役刑の長期が10年に引き上げられるならば、その結果として公訴時効期間が7年に延長となり勧告に対応することが可能」、「日本法人の外国人従業員が国外で単独で贈賄を行った場合について、当該外国人従業員を処罰し得る規律を創設し、法人に対する適用管轄を拡大するために、『●条の罪は、日本国内に主たる事務所を有する法人の代表者、代理人、使用人その他の従業者であって、その法人の業務に関し、日本国外において罪を犯した日本国民以外の者にも適用する』などといった規定を創設する方向性が適切」

(4)総務省の各検討会とプラットフォームの誹謗中傷対応に関するパブコメ

 総務省では、第463回で取り上げた2つの報告書案に関し、9月16日にインターネット上の海賊版サイトへのアクセス抑止方策に関する検討会現状とりまとめ(pdf)(総務省HPのリリース1参照)、8月25日にプラットフォームサービスに関する研究会第二次とりまとめ(pdf)(総務省HPのリリース2参照)がそれぞれ取りまとめられてパブコメ結果とともに公表されている。その後、プラットフォームサービスに関する研究会の下に設けられた誹謗中傷等の違法・有害情報への対策に関するワーキンググループの第1回が12月26日に開催され、プラットフォーム事業者による対応の在り方についての意見募集が1月26日〆切で行われている(電子政府HPの意見募集ページ7参照)。このパブコメはそのタイトルが示す通り誹謗中傷対策に関するものであり、今の所国内でそれほど危うい事が検討される気はしないが、表現の自由との関係でこの総務省の検討は今後も注視して行くべきものだろう。

(5)農水省、知財本部その他

 農水省では、例年通り、重要な形質の指定に関し、農業資材審議会・種苗分科会が12月9日に開催されている。これも第463回で触れた事の続きとなるが、種苗法関連では、12月2日に、農水省の海外流出防止に向けた農産物の知的財産管理に関する検討会我が国における育成者権管理機関のあり方について(pdf)がとりまとめられており、その中で育成者権管理機関の設立が提言されている。

 また、これも細かな説明は省略するが、農水省の地理的表示法HP地理的表示保護制度の運用見直し(pdf)に書かれている通り、施行規則(pdf)審査要領(pdf)の改正により、11月1日施行で登録後の義務の簡素化や審査基準の柔軟化などが行われている。

 知財本部では、メタバース上のコンテンツ等をめぐる新たな法的課題への対応に関する官民連携会議という有識者会議が新たに立ち上がっている。今ここでメタバースについて何か政策的に有意な議論ができるかどうか甚だ疑問だが、3つの分科会が作られ、それぞれ、第一分科会で、現実空間と仮想空間を交錯する知財利用、仮想オブジェクトのデザイン等に関する権利の取扱いについて、第二分科会で、アバターの肖像等に関する取扱いについて、第三分科会で、仮想オブジェクトやアバターに対する行為、アバター間の行為等をめぐるルールの形成、規制措置等の取扱いについて検討が行われる予定になっている。

 最後に、経済安全保障法についても書いておくと、内閣官房で経済安全保障推進会議や、内閣府で経済安全保障法制に関する有識者会議が引き続き開催されているが、法律の成立後、新秘密特許(非公開)制度に関する運用の詳細についてこれらの会議で検討された様子はない。

 これで今年も各省庁の報告書案がほぼ出揃い、来年の知財法改正のメニューが大体分かった事になる。想定される法改正の内容自体に特に大きな問題はないが、上でも書いた通り、文化庁の報告書案については回を分けてもう少し詳しい事を書くつもりである。

 文化庁がまた暴走してブルーレイに私的録音録画補償金の対象を拡大する政令改正を強行するなど今年も碌でもない年だった。いつもの口上となるが、政官業に巣食う全ての利権屋に悪い年を、そして、このブログを読んで下さっている方々に心からの感謝を。

(2022年1月22日夜の追記:意見募集ページを見れば分かる事だが、総務省の意見募集は1月27日0時〆切で、27日と書くより26日〆切と書いておいた方が良いと思ったので上の日付を修正した。)

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2022年10月 9日 (日)

第467回:10月5日の文化庁・基本政策小委員会で出された、ブルーレイへの私的録音録画補償金拡大に関する意見募集の結果概要とそれに対する文化庁の考え方について

 実質的にブルーレイへ私的録音録画補償金の対象を拡大しようとする政令案に関するパブコメの後(パブコメの内容については第465回、私の提出意見は第466回参照)、文化庁は、どこの審議会でも話をしないのはまずいと思ったのか、唐突に、文化審議会・著作権分科会・基本政策小委員会の10月5日に開かれた今年度第1回著作権法施行令の一部を改正する政令案に係るパブリックコメントに対する提出意見の概要と文化庁の考え方(案)(pdf)を出して来た。

 この文化庁の考え方は、やはり今までの経緯や議論を完全に無視し、権利者団体だけにおもねり、勝手かつ乱暴極まる法令・制度・判例解釈を垂れ流している箸にも棒にもかからないものであって、引用するのもバカバカしいが、その中から以下に幾つかピックアップしておく。

意見の概要1
 ブルーレイディスクレコーダーが市場に出てから、前回の対象機器の追加から、平成23年の知的財産高等裁判所の判決が出てから、文化審議会著作権分科会で議論をしていた時から多く時間が経過しているにもかかわらず今回対応することに疑問。

文化庁の考え方1
 私的録音録画補償金制度の在り方に関しては、長年当事者を含めた関係者による議論が継続してきたところです。
 こうした中、知的財産推進計画2020において、新たな対価還元策が実現するまでの過渡的な措置として、私的録音録画の実態等に応じた具体的な対象機器等の特定について、可能な限り早期に必要な措置を講ずることとされました。
 これに関して、令和2年に関係府省庁で共同し、私的目的の録音・録画に係る実態を把握するための調査を実施し、ブルーレイディスクレコーダーについて私的録画の蓋然性の高い実態が確認されました。
 また、著作権の権利者団体においては、本年6月に私的録画に関する補償金の徴収分配を担う管理団体が設立するなど、運用面での準備が進められております。
 こうした経緯から、今回の提案をしたところです。
 なお、私的録音録画補償金制度の対象となる機器の選定に当たっては、当該機器が相当の蓋然性をもって私的録音・録画に供されるであろう販売形態や広告宣伝が行われているものであって、現に私的複製に用いられている実態を確認して判断する必要があります。

意見の概要29
 デジタルテレビ放送の録画については著作権保護技術が導入されており、補償は不要、著作権保護技術の導入コストと補償金の二重負担となるのではないか、今回の措置を行うのであれば著作権保護技術の解除など、複製をより広範に認めるべきではないか。

文化庁の考え方29
 現在、テレビ放送の多くにはダビングの回数を10回までなどとする著作権保護技術が導入されています。これは法律で認められている個人的に又は家庭内等の私的な複製の範囲を超えたコピーを防止するという意義がある一方で、その回数の範囲内であれば自由にコピーを行うことができることに変わりありません。
 私的録音録画補償金制度が、個々の利用行為としては零細な私的複製であっても、社会全体としてはデジタル技術により大量の高品質な録音物・録画物が作成・保存されることで損なわれるクリエイターへの不利益に対して経済的補償を行うものであるという趣旨に鑑みると、別途補償は必要であると考えられます。

意見の概要36
 デジタル放送専用録画機は当時の著作権法施行令の規定に照らして私的録音録画補償金の対象機器に該当しない旨判示した平成23年の知的財産高等裁判所の判決を踏まえて今回規定としようとする機器についても対象とすべきではない。

文化庁の考え方36
 平成23年の知的財産高等裁判所の判決においては、当時の著作権法施行令の規定に照らしてデジタル放送専用録画機が私的録音録画補償金の対象機器に該当するか否か疑義があったことに対し、該当しない旨判示したものです。
 今回の追加指定は、現行制度に定められた要件に基づき、私的録画の蓋然性の高い実態が確認されたブルーレイディスクレコーダーを対象機器とするものであり、当該判決の趣旨を踏まえ、疑義が生じないよう対象機器を明確に規定してまいります。

 上でピックアップした部分だけを見ても分かるだろうが、この文化庁の考え方は、パブコメ募集時の概要紙の碌に根拠にもならない事をほぼその儘繰り返しているだけで、今までの経緯を踏まえて出されたであろう反対・慎重意見に対する回答に全くなっていない。これは、現時点でブルーレイ(BD)レコーダーとディスクを私的録音録画補償金の対象とする事について是とするに足る新しい事実と根拠が一切ない事を自白しているに等しい。

 大体、提出意見の概要のまとめ方からして恣意的と言わざるを得ない。文化庁は、この様な恣意的なまとめと箸にも棒にもかからない回答ではなく、即刻提出された全意見の全文と、各意見に対するきちんとした回答を公表するべきである。この文化庁の考え方は、私の様な個人のみならず、ユーザー団体のMIAUの意見、消費者団体の主婦連の意見、メーカー団体のJEITAの意見(pdf)(JEITAの提出意見は公表された見解とほぼ同一だろうと思う)などに対する意見に対する回答としても極めて不十分かつ不適切なものであって、国民に対する愚弄としか私には見えない。

 また、同じ日に出されたDX時代におけるクリエイターへの適切な対価還元方策に係る今後の検討に向けた論点例(案)(pdf)中の論点例に、

・私的録音録画補償金の対象機器の追加指定について、パブリックコメントにおける国民各層からのご意見を踏まえ、今回の指定に当たって留意すべきことは何か。加えて、「過渡的な措置」との記述を踏まえ、様々な課題が指摘される私的録音録画補償金制度の今後についてどのような方向で考えるか。

と書かれている所を見ると、基本政策小委員会で今後多少検討するつもりなのかも知れないが、この場で今まで私的録音録画補償金問題そのものについて議論された事はなく、著作物等の適切な保護と利用・流通に関する小委員会と比べても、基本政策小委員会の委員構成(pdf)は私的録音録画補償金問題に関する全関係者を含んでおらず、権利者団体よりであって、決して私的録音録画問題の検討の場として相応しいとは思えない。さらに、保護利用小委員会が最後に開催された2020年2月4日審議の経過(pdf)に、

1.クリエーターへの適切な対価還元について

本課題については、知的財産推進計画2019において、今年度は「関係省庁で検討を進め、結論を得て、必要な措置を講じる」とされたことを受け、内閣府、文化庁、経済産業省及び総務省において、現状の認識、補償が必要な私的録音録画の範囲の考え方、コピーコントロール技術との関係に関して、具体的な事実関係等の整理を含め、対価還元の在り方について議論が行われており、意見の隔たりの大きい当事者間での検討を再開する前に、関係府省庁間による議論の整理を確認することが適切であることから、当該整理が整い次第、報告を受け、意見交換を行うこととなった。

と書かれているのだが、この保護利用小委員会への私的録音録画補償金問題に関する報告や意見交換はどうなったのだろうか。その後の著作権分科会の2020年2月10日第55回でもこの通り報告されているのであって、文化庁のやり方は審議会の進め方としても滅茶苦茶である。

 それ以前の問題として、今回のパブコメでも、文化庁の考え方でも、基本政策小委員会の論点例でも、碌な根拠もない儘、多くの関係者の反対・慎重意見に聞く耳を持たず、とにかくBDへの補償金指定拡大の結論ありきでまとめようとしているのがありありと見て取れるが、文化庁のこの極めて偏頗かつ横暴な姿勢は、公平中立かつ透明であるべき行政として不当極まるものとしか言い様がない。

 最近、非常にありがたい事に、日本維新の会の足立康史衆院議員が、9月30日の衆議院経済産業委員会の閉会中審査でタイムリーにこのBDへの私的録音録画補償金の対象拡大について問題提起して下さっている(衆議院インターネット中継又は足立議員のtwitter参照)。西村康稔経済産業大臣や中原裕彦文化庁審議官からは関係者の意見を踏まえ今後調整するというだけであまりはかばかしい答弁は得られなかったが、足立議員の国会での指摘は至極もっともであり、今の制度の矛盾をその儘にBDへ対象拡大をする事は、このインターネット時代にあって、将来に渡って日本国内の産業を歪め大きな禍根を残す事に繋がり得ると私も考える所である。与野党でより広い視野に立ってこの私的録音録画補償金問題が注目される事を私も期待している。

 私の意見は提出パブコメで書いた通りだが(第466回参照)、一国民、一個人、一消費者、一利用者・ユーザーとして到底納得の行かない今の状況でのBDへの私的録音録画補償金の対象拡大に断固反対する。

(2022年10月22日夜の追記:twitterで書いた事をここでも書いておくが、10月21日にブルーレイを私的録音録画補償金の対象とする著作権法施行令の改正について閣議決定がされたという報道があった(日経の記事AV Watchの記事参照)。文化庁はまたパブコメの内容もロクに見ずに結論ありきで著作権法施行令の閣議決定を強行するという行政としてやってはならないことをやった。これは有害無益な争いと大きな禍根を発生させる暴走であり、この政策判断は狂っているとしか私には思えない。 同日に文化庁はパブコメの結果も公表しているが(文化庁のHP、電子政府のHP参照)、上で取り上げた極めて恣意的にまとめた意見概要と回答になっていない回答を出しているだけである。大体2406件のパブコメが集まるというだけでも方針の見直しを図るのに十分だろうが、どこをどうやったらこれだけの件数のパブコメを56点だけの薄っぺらな概要にまとめて閣議決定を強行できるのか、この様なやり方を見るにつけ文化庁の良識はおろか正気も疑わしい。繰り返しになるが、この著作権法施行令改正について今に至るも妥当な根拠は何一つ見出せず、このような不当な政令改正は到底納得できるものではない。

(2022年11月6日夜の追記:これもtwitterで触れた事だが、AV Watchの記事になっている通り、私的録音録画補償金管理協会が補償額・徴収方法は現在未定とする声明を出している。しかし、未定の儘終わる訳がなく、じきに文化庁と著作権団体側は徴収に向けて次の動きを仕掛けて来るだろう。)

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2022年9月11日 (日)

第466回:文化庁によるブルーレイに私的録音録画補償金の対象を拡大する政令改正案に関する意見募集(9月21日〆切)への提出パブコメ

 9月21日〆切でパブコメにかかっている、実質的にブルーレイディスクレコーダーとブルーレイディスクを私的録音録画補償金の対象に追加しようとする政令改正案に対して意見を提出したので、ここに載せておく。(パブコメの内容については、前回、及び、文化庁HPの意見募集ページ、電子政府HPの意見募集ページ参照。)

 このパブコメは私的録音録画補償金問題に関して非常に重大な意味を持つものであり、この問題に関心のある方は是非意見を出す事を私は強く勧める。

(以下、提出パブコメ)

(概要)
 本施行令改正案は、実質的にブルーレイディスク(BD)レコーダー及びBDを私的録音録画補償金の対象に加えようとするものであるが、消費者・ユーザー、メーカーを含む関係者間で全く合意がなされていない中で出されたこの様な改正案に断固反対する。

(意見)
 意見募集の対象である「著作権法施行令の一部を改正する政令案の概要」によると、文化庁は、現行の著作権法施行令の改正により、「アナログ信号をデジタル信号に変換して影像を記録する機能」の「有無にかかわらず、ブルーレイディスクレコーダーが制度の対象機器となるように新たに規定」し、「これに伴い、政令第1条の2第2項に基づき、新たな対象機器による録画に用いられるブルーレイディスクも制度の対象」とし、実質的に今現在補償金の対象外となっているブルーレイディスク(BD)レコーダー及びBDを私的録音録画補償金の対象に加える事を考えていると見られる。

 しかし、メーカー団体のJEITA(電子情報技術産業協会)とユーザー団体のMIAU(インターネットユーザー協会)がそれぞれそのホームページでこの政令改正案に強く反対するとの見解を示している事からも、この様な私的録音録画補償金の対象を拡大する政令改正案に関し、消費者・ユーザー・利用者、メーカーを含む関係者間で全く合意がなされていない事は明らかである。関係者間で全く合意がなされていない中で出されたこの様な改正案に対し、私も一利用者、一ユーザー、一消費者、一個人として断固反対する。

 また、上記政令改正案概要は、あたかも知財計画2022の記載及び2020年の私的録音録画に関する実態調査が根拠となるかの様な印象操作を含む極めて悪質なものである。この様な意見募集のやり方自体行政庁として極めて不適切なものであり、文化庁の猛省を私は求める。

 知財計画の私的録音録画補償金問題に関する記載はその時の検討の場の移り変わりに応じて多少の記載の違いはあるが、実質的に10年以上同様の記載が続いているものであり、「必要な措置を構ずる」と書かれているのみであって、私的録音録画補償金の対象範囲を拡大する本政令改正案の根拠たり得るものでは到底ない。

 同じく2020年11月に公開された私的録音録画に関する実態調査も、知財事務局、経産省、総務省と共同で行われているが、文化庁の委託事業として文化庁主導の偏向がある事に加え、これは単なる実態調査であって、何ら関係省庁間の検討の結論や関係者間の合意を含むものではなく、言うまでもなく私的録音録画補償金の対象範囲を拡大する本政令改正案の根拠たり得ないものである。

 上記の通り、この実態調査自体政令改正案の根拠たり得ない事は言うまでもないが、念のため指摘しておくと、その最大の偏向は、文化庁が自らその政令改正案で自白している通り、HDD内蔵型のBDレコーダーを所有している者への放送番組を録画したかどうかという回答だけを恣意的に抜き出し印象操作に用いている点にある。私はそもそも偏向を含まない様に中立的な第三者による調査を行うべきであると考えるが、この文化庁の実態調査のHDD内蔵型のBDレコーダーに関する部分だけを見ても、その1次調査で、この様な録画機器を所有していないと回答している者が59.2%と既に大多数となっている事が、2次調査で、録画目的は見たい番組を放送時間に見ることができないというタイムシフト目的が81.9%とほぼ全てとなっている事、BDへの録画を過去1年間にしていないという回答が41.3%と最も多くなっている事が見て取れるのであり、また、HDD非内蔵型のBDレコーダーなどについても同様の傾向が見て取れるのである。上記の通り、文化庁による偏向を含む調査はそもそも取るに足らないと私は考えているが、例えこの実態調査によったとしても、見るべきは、テレビ番組の録画自体行われなくなって来ており、行われたとしてもほぼタイムシフト目的であって、BDの様な媒体への録画がおよそ行われなくなっているという傾向であって、調査結果は文化庁が言う様なものでは断じてない。上記の通り、今後さらに検討するのであれば、そもそも偏向を含まない様に中立的な第三者による調査を行うべきであるが、若年層を中心に既に映像に関してもインターネットを通じたストリーミングやダウンロード配信が主流となっている中、旧来の形の私的録音録画自体もはや時代遅れになりつつあるという事を文化庁は良く認識するべきであって、その様な中で制度の矛盾を拡大するだけの私的録音録画補償金の対象範囲の拡大は絶対されてはならないものである。

 さらに言うと、この政令改正案概要は、今までの私的録音録画補償金を巡る経緯について全く記載していない点でも極めて不誠実であり、今までの経緯を全てないがしろにするものである点からも、到底受け入れられないものである。

 私的録音録画補償金制度の見直しに関しては、まず、2002年から2005年の文化審議会著作権分科会の法制問題小委員会での議論に端を発し、さらにそこから2006年から2008年に私的録音録画小委員会での議論を経ても結論は出ないまま、2009年にブルーレイを追加する政令改正を文化庁一方的に行ったために、結果として裁判にまで発展し、2012年に最高裁の上告棄却により2011年の知財高裁判決が確定し、アナログチューナー非搭載録画機器は全て補償金の対象外となったというのが、約20年前から10年前までの経緯である。

 その後、私的録音録画補償金問題については、2015年から2019年にかけて、同じく著作権分科会の著作物等の適切な保護と利用・流通に関する小委員会でも議論されているが、ここでも結論や関係者間の合意がなされたという事はない。

 この著作物等の適切な保護と利用・流通に関する小委員会の議論の後も、関係省庁間及び関係者間で何かしらの協議がされていた様であるが、上記のメーカー団体やユーザ団体が反対する見解を出している事から分かる様に、そこでも何らかの合意がされたという事はない。この様な重要な政策決定に関わる協議が非公開でなされている事自体不適切極まる事であって、文化庁は直ちにこの関係省庁間及び関係者間の協議の内容について詳細を公表するべきである。

 なお、関係者間の合意なく、関係省庁のみで不透明な形で勝手に政策決定をしたという事はないと私は考えているが、もしその様な事があったとしたら、確定した2011年の知財高裁の判決が正しく、

「(略)
 関係者間の協議には妥協が伴うが,反面,妥協ができていない録画態様には,録画補償金制度が適用されることはないということができる。アナログチューナーを搭載しないDVD録画機器の特定機器該当性について,文部科学省は,著作権保護技術の有無は,法30条2項による視聴者の録画補償金の支払に関する要件として規定されていないと認識し,他方で,経済産業省は,著作権保護が技術的に可能ならば,地上デジタル放送の録画機器は法30条2項による補償金支払の対象にならないと認識していることが,平成20年6月の両省共同作成書面で確認され(乙8),これを基に,アナログチューナーを搭載していることを踏まえ,暫定的な措置として,ブルーレイディスク録画機器を政令に追加することが確認された。この政令改正(平成21年5月22日施行の改正著作権法施行令)の際に文化庁次長名で出された関係団体あて通知(平成21年5月22日付け「著作権法施行令等の一部改正について」)においても,「アナログチューナーを搭載していないレコーダー等が出荷される場合,及びアナログ放送が終了する平成23年7月24日以降においては,関係者の意見の相違が顕在化し,私的録画補償金の支払の請求及びその受領に関する製造業者等の協力が十分に得られなくなるおそれがある。両省は,このような現行の補償金制度が有する課題を十分に認識しており,今回の政令の制定に当たっても,今後,関係者の意見の相違が顕在化する場合には,その取扱について検討し,政令の見直しを含む必要な措置を適切に講ずることとしている。」とされた(甲24)。
 この経緯からみると,少なくともアナログチューナーを搭載していないブルーレイディスク録画機器が補償金の対象となるかの大方の合意は,製造業者や経済産業省はもちろんのこと消費者なども含めた関係者間で調っていなかったことが明らかである。遡って,施行令1条2項3号制定時には,製造業者は,アナログチューナーを搭載しているDVD録画機器については,協力義務を負い私的録画補償金の対象となることで妥協したと認めることができるものの,妥協した限度はそこまでである。次の(6)で検討するように,複製権侵害の態様において質的に異なる様相を示すアナログ放送とデジタル放送について,どこまで録画源として私的録画補償金の対象とすべきか否かの明確な議論を経ていなければならないのに,この議論がないまま,アナログチューナーを搭載していないDVD録画機器についてまでの大方の合意が調っていたと認めるのは,特段の事実関係が認められない限り困難である。

(6) 著作権保護技術も含めた総合的検討
 当事者双方は,著作権保護技術の実態が,アナログチューナー非搭載DVD録画機器の施行令1条2項3号該当性に関係するのか否かを論じている。まず,私的複製が容易となっていたことが,録画補償金制度が法定される大きな要因であったことからすると,著作権保護技術の有無・程度が録画補償金の適用範囲を画するに際して政策上大きな背景要素となることは否定することができない。(略)」

と述べている通り、その様な合意なき不当な私的録音録画補償金の対象範囲拡大に関する法的義務は、法令解釈として否定されるべきものである。

 この10年間程度の議論を考慮しても、この知財高裁判決により確定した状況を覆すに足る変化は生じていない。かえって、上でも書いた通り、あらゆる事が示しているのは、既にコンテンツの視聴がインターネットを通じたストリーミングやダウンロード配信が主流となっている中、補償金制度の前提となっていた旧来の形の私的録音録画自体、もはや時代遅れになっており、非常に少なくなっているという事であろう。

 知財本部や文化庁における過去の意見募集で提出した意見の繰り返しとなるが、今も地上デジタル放送にはダビング10という不当に厳しいコピー制限がかかったままであり、こうした実質的に全国民に転嫁されるコストで不当に厳しい制限を課している機器と媒体にさらに補償金を賦課しようとするのは、不当の上塗りであり、BD課金・アナログチューナー非搭載録画機への課金に合理性はない。

 また、これも過去の意見の繰り返しとなるが、世界的に見ても、メーカーや消費者が納得して補償金を払っているということはカケラも無い。表向きはどうあれ、大きな家電・PCメーカーを国内に擁しない欧州各国は、私的録音録画補償金制度を、外資から金を還流する手段、つまり、単なる外資規制として使っているに過ぎない。欧州連合各国では、私的複製補償金に関して欧州司法裁判所まで巻き込んだ終わりの見えない泥沼の法廷闘争が今に至るも延々と続いている。欧米主要国だけを考えても、逆に、補償金制度のない英国や実質的に制度が機能していないアメリカ、カナダにおいて、補償金制度を拡大する動きはない。私的録音録画補償金は、既に時代遅れのものとなりつつあるのであって、その対象範囲と料率のデタラメさが、デジタル録音録画技術の正常な発展を阻害し、デジタル録音録画機器・媒体における正常な競争市場を歪めているという現実は、補償金制度を導入したあらゆる国において、問題として明確に認識されなくてはならないことである。

 悪質な印象操作を含み、今までの経緯をないがしろにし、私的録音録画に関する現状を無視し、関係者間の合意もない中で不透明かつ一方的に不当極まる形でBDレコーダー及びBDへ私的録音録画補償金の対象範囲を拡大しようとするこの政令改正案に私は断固反対する。文化庁はこの様な政令改正案の方針を即刻取り下げるべきである。

 今後さらに検討するのであれば、そもそも偏向を含まない様に中立的な第三者による調査を行うべきであり、その調査で示されるであろう、制度の前提となっていた旧来の形の私的録音録画自体、もはや時代遅れになっており、非常に少なくなっているという事実に基づき、全関係者が参加する公開の場で議論し、私的録音録画補償金制度は歴史的役割を終えたものとして速やかに廃止するとの結論を出すべきである。

 最後に念のため、上の意見の前提兼今後の検討の参考として、過去の意見募集において提出した内容であるが、(1)2007年の私的録音録画小委員会の中間整理に対して私が提出した意見のまとめ、(2)2009年の政令改正の意見募集時に私が提出した意見の抜粋と、(3)知財計画2022に向けて私が提出した意見中の私的録音録画補償金問題関連部分の抜粋を以下に転記しておく。

(1)2007年の私的録音録画小委員会の中間整理に対して提出した意見のまとめ
1.そもそも、著作権法の様な私法が私的領域に踏み込むこと自体がおかしいのであり、私的領域での複製は原則自由かつ無償であることを法文上明確にすること。また、刑事罰の有無に関わらず、外形的に違法性を判別することの出来ない形態の複製をいたずらに違法とすることは社会的混乱を招くのみであり、厳に戒められるべきこと。

2.特に、補償金については、これが私的録音録画を自由にすることの代償であることを法文上明確にすること。すなわち、私的録音録画の自由を制限するDRM(コピーワンスやダビング10ほどに厳しいDRM)がかけられている場合は、補償措置が不要となることを法文上明確にすること。

3.また、タイムシフト、プレースシフト等は、外形的に複製がなされているにせよ、既に一度合法的に入手した著作物を自ら楽しむために移しているに過ぎず、このような態様の複製について補償は不要であることを法文上明確にすること。実質権利者が30条の範囲内での複製を積極的に認めているに等しい、レンタルCDやネット配信、有料放送からの複製もこれに準じ、補償が不要であることを明確にすること。

4.私的録音録画の自由の確保を法文上明確化するとした上で、私的録音録画を自由とすることによって、私的複製の範囲の私的録音録画によってどれほどの実害が著作権者に発生するのかについてのきちんとした調査を行うこと。
 この実害の算定にあたっては、補償の不必要な私的複製の形態や著作権者に損害を与えない私的複製の形態があることも考慮に入れ、私的録音録画の著作権者に与える経済的効果を丁寧に算出すること。単に私的録音録画の量のみを問題とすることなど論外であり、その算定に当たっては入念な検証を行うこと。

5.この算出された実害に基づいて補償金の課金の対象範囲と金額が決められること。特に、その決定にあたっては、コンテンツ産業振興として使われる税金も補償金の一種ととらえられることを念頭に置くこと。この場合でも、将来の権利者団体による際限の無い補償金要求を無くすため、対象範囲と金額が明確に法律レベルで確定されること。あらゆる私的録音録画について無制限の補償金要求権を権利者団体に与えることは、ドイツ等の状況を見ても、社会的混乱を招くのみであり、ユーザー・消費者・国民にとってきちんとセーフハーバーとして機能する範囲・金額の確定を行うこと。
 あるいは、実害が算出できないのであれば、原則にのっとり、私的録音録画補償金制度は廃止されること。

6.集められた補償金は、権利者の分配に使用されることなく、全額違法コピー対策やコンテンツ産業振興などの権利者全体を利する事業へ使用されること。

(2)2009年の政令改正の意見募集時に提出した意見の抜粋
 確かに今はコピーフリーのアナログ放送もあるが、ブルーレイにアナログ放送を録画することはまずもって無いと考えられるため、アナログ放送の存在もブルーレイ課金の根拠としては薄弱であり、そのアナログ放送も2011年には止められる予定となっているのである。

 特に、権利者団体は、ダビング10への移行によってコピーが増え自分たちに被害が出ると大騒ぎをしたが、移行後半年以上経った今現在においても、ダビング10の実施による被害増を証明するに足る具体的な証拠は全く示されておらず、現時点でブルーレイ課金に合理性があるとは私には全く思えない。

 わずかに緩和されたとは言え、今なお地上デジタル放送にはダビング10という不当に厳しいコピー制限がかかったままである。こうした実質的に全国民に転嫁されるコストで不当に厳しい制限を課している機器と媒体にさらに補償金を賦課しようとするのは、不当の上塗りである。

 本施行令改正案は、ブルーレイを私的録音録画補償金の対象に加えようとするものであるが、私的録音録画小委員会で補償金のそもそもの意義が問われた中で、その解決をおざなりにしたまま、このような合理的根拠に乏しい対象拡大をするべきではない。

(3)知財計画2022に向けて提出した意見中の私的録音録画補償金問題関連部分の抜粋
 知財計画2021の第54~55ページでは私的録音録画補償金問題についても言及されている。権利者団体等が単なる既得権益の拡大を狙ってiPod等へ対象範囲を拡大を主張している私的録音録画補償金問題についても、補償金のそもそもの意味を問い直すことなく、今の補償金の矛盾を拡大するだけの私的録音録画補償金の対象拡大を絶対にするべきではない。

 文化庁の文化審議会著作権分科会における数年の審議において、補償金のそもそもの意義についての意義が問われたが、文化庁が、天下り先である権利者団体のみにおもねり、この制度に関する根本的な検討を怠った結果、特にアナログチューナー非対応録画機への課金について私的録音録画補償金管理協会と東芝間の訴訟に発展した。ブルーレイ課金・アナログチューナー非搭載録画機への課金について、権利者団体は、ダビング10への移行によってコピーが増え自分たちに被害が出ると大騒ぎをしたが、移行後10年以上経った今現在においても、ダビング10の実施による被害増を証明するに足る具体的な証拠は全く示されておらず、ブルーレイ課金・アナログチューナー非搭載録画機への課金に合理性があるとは到底思えない。わずかに緩和されたとは言え、今なお地上デジタル放送にはダビング10という不当に厳しいコピー制限がかかったままである。こうした実質的に全国民に転嫁されるコストで不当に厳しい制限を課している機器と媒体にさらに補償金を賦課しようとするのは、不当の上塗りである。

 なお、世界的に見ても、メーカーや消費者が納得して補償金を払っているということはカケラも無く、権利者団体がその政治力を不当に行使し、歪んだ「複製=対価」の著作権神授説に基づき、不当に対象を広げ料率を上げようとしているだけというのがあらゆる国における実情である。表向きはどうあれ、大きな家電・PCメーカーを国内に擁しない欧州各国は、私的録音録画補償金制度を、外資から金を還流する手段、つまり、単なる外資規制として使っているに過ぎない。この制度における補償金の対象・料率に関して、具体的かつ妥当な基準はどこの国を見ても無いのであり、この制度は、ほぼ権利者団体の際限の無い不当な要求を招き、莫大な社会的コストの浪費のみにつながっている。機器・媒体を離れ音楽・映像の情報化が進む中、「複製=対価」の著作権神授説と個別の機器・媒体への賦課を基礎とする私的録音録画補償金は、既に時代遅れのものとなりつつあり、その対象範囲と料率のデタラメさが、デジタル録音録画技術の正常な発展を阻害し、デジタル録音録画機器・媒体における正常な競争市場を歪めているという現実は、補償金制度を導入したあらゆる国において、問題として明確に認識されなくてはならないことである。

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2022年8月28日 (日)

第465回:文化庁による実質的にブルーレイを私的録音録画補償金の対象に追加しようとする政令改正案に関するパブコメの開始(9月21日〆切)

 実質的にブルーレイディスクレコーダーとブルーレイディスクを私的録音録画補償金の対象に追加しようとする政令改正案について、9月21日〆切でパブコメにかかった。(文化庁HPの意見募集ページ、電子政府HPの意見募集ページ参照。)

 このパブコメについては、AV Watch(メーカー団体であるJEITAの反対意見について書いた記事も参照)やBusiness Insideなどで書かれているので、そちらをご覧いただいても十分かと思うが、この極めて唐突かつ乱暴なパブコメについては幾ら書いても書き過ぎという事はないので、ここでも取り上げる事にする。

 電子政府HPの意見募集ページに掲載されている政令案の概要(pdf)は以下の様なものである。

著作権法施行令の一部を改正する政令案の概要

1.趣旨

 著作権法(昭和45年法律第48号)においては、権利者の許諾なく行われる私的使用目的のデジタル方式の録音・録画について、録音・録画を行う者が補償金を支払わなければならないこととする私的録音録画補償金制度が設けられており、同制度の対象となる具体的な機器及び記録媒体については政令で定めることとされている。
 同制度については、知的財産推進計画2022(2022年6月3日知的財産戦略本部)において、「私的録音録画補償金制度については、新たな対価還元策が実現されるまでの過渡的な措置として、私的録音録画の実態等に応じた具体的な対象機器等の特定について、関係省庁による検討の結論を踏まえ、可能な限り早期に必要な措置を構ずる。」とされており、 これに関しては、関係府省庁で共同し、私的目的の録音・録画に係る実態を把握するため調査を実施した。(参考:私的録音録画に関する実態調査の結果概要)
 こうしたことを踏まえ、私的録音録画補償金制度の新たな対象機器として、ブルーレイディスクレコーダーを規定することとする。

2.改正の概要

(1)新たな対象機器の追加

 現行の著作権法施行令(昭和45年政令第335号。以下「政令」という。)第1条第2項においては、著作権法第30条第3項の規定の委任に基づき、制度の対象となる録画機器を各号で規定している。
 これについて、現在、アナログ信号をデジタル信号に変換して影像を記録する機能を有するブルーレイディスクレコーダーは既に規定されているが、こうした機能の有無にかかわらず、ブルーレイディスクレコーダーが制度の対象機器となるように新たに規定することとする。
 なお、これに伴い、政令第1条の2第2項に基づき、新たな対象機器による録画に用いられるブルーレイディスクも制度の対象となる。

(2)経過措置

 改正後の政令の規定は、施行後に購入したブルーレイディスクレコーダー及びブルーレイディスクについて適用することとする。

3.施行期日(予定)

 公布日から起算して30日を経過した日

参考:私的録音録画に関する実態調査の結果概要

 令和2年に関係府省庁(内閣府知的財産推進事務局、総務省、文部科学省、経済産業省)で共同し、私的録音録画の実態調査を委託事業として実施した(※)。その結果によると、調査対象とした機器のうち、ブルーレイディスク(BD)レコーダー(HDD内蔵型)は、過去1年間で保存した記録容量のうちテレビ番組データ(=契約により権利者に対価が還元されていない動画)の占める割合の平均値が52.2%で半分を超える水準であった。また、当該機器については、日常的によく使用する用途として「録画」を選んだ者の割合が約7割、過去1年間に録画をしたことがある者の割合が約9割であった。

※ 私的録音録画に関する実態調査報告書(令和2年11月みずほ情報総研株式会社)
https://www.bunka.go.jp/tokei_hakusho_shuppan/tokeichosa/chosakuken/pdf/92955401_01.pdf

 この政令案改正概要を見て、文化庁が今までの議論や裁判などを一切無視し、極めて唐突かつ乱暴に政令改正案をパブコメにかけて来た事に私も唖然とした。

 上でリンクを張った他の記事でも書かれており、このブログでもずっと取り上げて来ているが、ここで、今までの日本における私的録音録画補償金問題の経緯をざっと年表にまとめておくと、以下の様になる。(なお、制度の経緯については、私的録音録画補償金制度のWikiや今回の政令案に対するJEITAの見解書(pdf)とその概要(pdf)も参照。)

1992年 デジタル私的録音録画について補償金制度を導入する著作権法改正成立(当時の議論は著作権情報センターHPの著作権審議会・第10小委員会(私的録音・録画関係)報告書参照。)

1993年 私的録音補償金協会(SARAH)設立、私的録音補償金の開始(対象指定は政令によるが、当初の対象はMDなど当時のデジタル録音媒体のみ。なお、CD-R(RW)は1998年に政令改正により対象に追加。)

1999年 私的録画補償金協会(SARVH)設立、私的録音補償金の開始(なお、1999年から対象となっていたのはDVHSなどで、DVD-R(RW)は2000年に追加。)

2002年~2005年 私的録音録画補償金制度の見直しについて、文化庁・文化審議会・著作権分科会・法制問題小委員会で議論(当時の議論については、2003年1月16日の第7回著作権分科会で報告された2002年12月の法制問題小委員会の審議経過の概要や2005年12月1日の第10回法制問題小委員会報告書案参照。)

2006年~2008年 私的録音録画補償金制度の見直しについて、文化庁・文化審議会・著作権分科会・私的録音録画小委員会で議論(当時の議論については、私的録音録画小委員会の2007年10月の中間整理(pdf)とその意見募集結果(pdf)(なお、当時の私のパブコメは第19回第20回第21回参照)や2009年1月の著作権分科会報告書(pdf)参照。)

2009年2月 ブルーレイを追加する政令改正案についてパブコメ募集(第152回参照。私の提出したパブコメは第154回参照)

2009年5月 ブルーレイを追加する改正政令施行

2009年11月 私的録画補償金の支払いを求めてSARVHが東芝を提訴

2010年12月 東京地裁による東芝勝訴判決(地裁判決(pdf)参照。)

2011年7月 地上波デジタル放送完全移行(結果的に全ての録画機にダビング10の保護がかかる事となる。)

2011年12月 知財高裁による、アナログチューナー非搭載録画機器は全て補償金の対象外とする東芝全面勝訴判決(高裁判決(pdf)参照。ここで、地デジ移行と合わさり、録画機器は事実上全て補償金の対象外とする司法判断が下された。)

2012年11月 最高裁の上告棄却により知財高裁判決確定

2015年3月 SARVH解散

2015年~2019年 クリエーターへの適切な対価還元について、文化庁・文化審議会・著作権分科会・著作物等の適切な保護と利用・流通に関する小委員会で議論(当時の議論については、2016年2月29日の第43回著作権分科会で報告された保護利用小委員会の平成27年度の審議の経過(pdf)、2017年3月13日の第45回著作権分科会で報告された平成28年度の審議の経過(pdf)、2018年3月5日の第50回著作権分科会で報告された平成29年度の審議の経過(pdf)、2019年2月13日の第53回著作権分科会で報告された平成30年度の審議の経過(pdf)、2020年2月10日の第55回著作権分科会で報告された令和元年度の審議の経過(pdf)など参照。この最後の審議の経過によると、2019年当時、内閣府、文化庁、経済産業省、総務省の間で対価還元の在り方について議論されていたらしいが、ここで関係省庁間でどの様な事が議論されていたのか詳細は不明であり、保護利用小委員会自体2020年2月を最後に開かれていない。)

2019年2月 自民党・知的財産戦略調査会・補償金WGで議論(JEITAの見解書による。議論の内容が公開されていないので詳細は不明だが、結論は出ていないとの事。)

2021年2月~11月 文化庁等とJEITAの間で協議(同じくJEITA見解書による。協議の内容が公開されていないので詳細は不明であり、文化庁とJEITA以外の参加者も不明だが、合意に至っていないとの事。)

2022年6月 SARAHが私的録音録画補償金管理協会と名称変更(SARAHのHPお知らせ参照。)

2022年8月 今回のブルーレイ追加政令改正パブコメ開始

 この経緯を見ても分かる通り、私的録音録画補償金問題を巡ってはこの20年ほぼ同じ議論が繰り返されており、今に至るも関係者間での合意は全く成立していない。

 中でも、文化庁は2009年にもブルーレイを追加しようとして政令改正をした結果、裁判にまでなって結局失敗したのだが、全くその事を忘れたのか、今まさに同じ愚を繰り返そうとしているとしか私には思えない。

 文化庁が以前の司法判断についてどの様に考えて今回の政令改正案を提案するに至ったのかは全く不明だが、確定した高裁判決(pdf)の最後の部分で以下の様に言われている様に、関係者間で合意の取れていない政令改正など無駄な争いを生むだけの有害無益なものである。

 関係者間の協議には妥協が伴うが,反面,妥協ができていない録画態様には,録画補償金制度が適用されることはないということができる。アナログチューナーを搭載しないDVD録画機器の特定機器該当性について,文部科学省は,著作権保護技術の有無は,法30条2項による視聴者の録画補償金の支払に関する要件として規定されていないと認識し,他方で,経済産業省は,著作権保護が技術的に可能ならば,地上デジタル放送の録画機器は法30条2項による補償金支払の対象にならないと認識していることが,平成20年6月の両省共同作成書面で確認され(乙8),これを基に,アナログチューナーを搭載していることを踏まえ,暫定的な措置として,ブルーレイディスク録画機器を政令に追加することが確認された。この政令改正(平成21年5月22日施行の改正著作権法施行令)の際に文化庁次長名で出された関係団体あて通知(平成21年5月22日付け「著作権法施行令等の一部改正について」)においても,「アナログチューナーを搭載していないレコーダー等が出荷される場合,及びアナログ放送が終了する平成23年7月24日以降においては,関係者の意見の相違が顕在化し,私的録画補償金の支払の請求及びその受領に関する製造業者等の協力が十分に得られなくなるおそれがある。両省は,このような現行の補償金制度が有する課題を十分に認識しており,今回の政令の制定に当たっても,今後,関係者の意見の相違が顕在化する場合には,その取扱について検討し,政令の見直しを含む必要な措置を適切に講ずることとしている。」とされた(甲24)。
 この経緯からみると,少なくともアナログチューナーを搭載していないブルーレイディスク録画機器が補償金の対象となるかの大方の合意は,製造業者や経済産業省はもちろんのこと消費者なども含めた関係者間で調っていなかったことが明らかである。遡って,施行令1条2項3号制定時には,製造業者は,アナログチューナーを搭載しているDVD録画機器については,協力義務を負い私的録画補償金の対象となることで妥協したと認めることができるものの,妥協した限度はそこまでである。次の(6)で検討するように,複製権侵害の態様において質的に異なる様相を示すアナログ放送とデジタル放送について,どこまで録画源として私的録画補償金の対象とすべきか否かの明確な議論を経ていなければならないのに,この議論がないまま,アナログチューナーを搭載していないDVD録画機器についてまでの大方の合意が調っていたと認めるのは,特段の事実関係が認められない限り困難である。

(6) 著作権保護技術も含めた総合的検討
 当事者双方は,著作権保護技術の実態が,アナログチューナー非搭載DVD録画機器の施行令1条2項3号該当性に関係するのか否かを論じている。まず,私的複製が容易となっていたことが,録画補償金制度が法定される大きな要因であったことからすると,著作権保護技術の有無・程度が録画補償金の適用範囲を画するに際して政策上大きな背景要素となることは否定することができない。(後略)

 上の意見募集の対象の概要には知財計画2022の記載をもっともらしくあげているが、知財計画の記載は何ら政令改正の根拠になるものではない。私的録音録画補償金に関しては、その時の検討の場の移り変わりに応じて多少の違いはあるものの、ここ10年以上似たような記載が続いているだけである(このブログでは知財計画の文章について毎年見ているが、ここ5年位で言うと、第395回第409回第426回第442回第460回参照。)

 もう1つの私的録音録画に関する実態調査の結果(pdf)もいつものためにする調査でほとんど取るに足らないが、この調査からも見て取れる事は、もはや大多数は録画機器を全く持っておらず、持っていて使っているとしてもせいぜいタイムシフト視聴のためのみという事であって、文化庁の言う様な政令指定の根拠とは到底なり得ない代物である。この調査で年齢分析はあまりされていないのだが、若者になればなるほどテレビ放送をわざわざ録画機器で録画して後で見るなどという行動を取らなくなっているのではないか、既にインターネットを通じたストリーミングやダウンロード配信が主流となっている中、この様な形の私的録音録画自体はもはや時代遅れになりつつあるのではないかというのが実態に対する私の感覚である。

 文化庁はここ最近は割とまともだと思っていたが、それは私の勘違いだった。極めて不透明かつ乱暴な形で政令改正案のパブコメをかけた今回の暴走は決して見過ごす事のできないものである。私も私的録音録画問題に関する今までの経緯を十分に踏まえて反対の意見を出したいと考えている。

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2021年12月29日 (水)

第449回:2021年の終わりに

 今年もあまり取り上げて来なかった話を中心にざっとまとめを書いておきたいと思う。

 まず、文化庁の文化審議会・著作権分科会では、基本政策小委員会で拡大集中ライセンス制度が、法制度小委員会とその下の著作物等のライセンス契約に係る制度の在り方に関するワーキングチームで独占的ライセンスに関する差止請求権付与・対抗制度と裁判手続きの電子化に伴う権利制限への公衆送信等の追加が検討され、国際小委員会も開催されている。

 これらの検討はどれも実務的には重要だが、特に問題がある訳ではないので、ここでは以下内容を簡単に紹介するに留める。

 拡大集中ライセンス制度を含む新しい権利処理の仕組みについては、12月22日の著作権分科会(議事次第・資料参照)で中間まとめ1(pdf)概要(pdf)も参照)が取りまとめられ、「新しい権利処理の仕組みの実現に当たっては、これまでの審議においても意見があったように、法制的課題や国内法制・条約との関係など、詳細な議論が必要(中略)その実現に向けての法制的課題を、引き続き議論すべき」と引き続き検討とされた。

 同じく国際小委員会の検討に対応する中間まとめ2(pdf)もあるが、コンテンツの海外展開に関する現状のまとめだけで法改正に関する事項は含まれていない。

 法制度小委員会の検討については、12月26日まで意見募集がされていた独占的ライセンスの対抗制度及び独占的ライセンシーに対し差止請求権を付与する制度の導入に関する報告書(案)民事訴訟法の改正に伴う著作権制度に関する論点整理(案)とがある(文化庁のHP、電子政府のHP1参照)。前者は「登録対抗制度」により「独占的ライセンスの対抗制度及び独占的ライセンシーに対し差止請求権を付与する制度を導入することが適当」とするもの、後者は「著作権法第42条について、今般の民事裁判手続のオンライン化に対応するため、公衆送信等についても権利制限の対象とすることが必要」とするもので、特に問題はなく、賛同できる内容である。

 次に、特許庁の産業構造審議会・知的財産分科会では、6月28日に知的財産分科会が開催され(議事次第・資料参照)、財政点検小委員会が3回開催されているが、いつも法改正検討をしている各小委員会は開かれていない。

 ワーキンググループとして、唯一、特許制度小委員会の下の審査基準専門委員会ワーキンググループが12月15日に開催され(議事次第・資料参照)、特許の実務にそれなりに大きな影響がある話として、マルチマルチクレーム制限について(pdf)で書かれている通り、「マルチクレーム(2以上のクレームを択一的に引用するクレーム)が、他のマルチクレームの基礎となることを制限する」規則改正が提案されて了承されている。制度ユーザにしか関係しないのでここで詳しい説明はしないが、この規則改正については、1月21日〆切で意見募集も掛かっている(特許庁のHP1、電子政府のHP2参照)。

 なお、実務的な細かな話なので説明を省略するが、特許庁からは、料金値上げに関する政令の公布や(特許庁のHP2HP3参照)、その他細かな意見募集などもされている(特許庁のHP4参照)。

 産業構造審議会・知的財産分科会の不正競争防止小委員会は、12月9日に久しぶりの会合が開催されている(議事次第・資料参照)。その検討事項について(pdf)という資料によると、制度検討としては、「立証負担の軽減手法」、「損害賠償額算定規定の見直し」、「ライセンシー保護制度」、「国際裁判管轄・準拠法」といった論点について議論した上で、3月に中間整理報告書案をまとめるつもりらしいが、既存の他の知財法の検討結果を取り入れるだけならまだしも、これらの多様な論点について、3月までに報告書案を取りまとめられるのかは良く分からない。

 総務省では、インターネット上の海賊版サイトへのアクセス抑止方策に関する検討会が、これも久しぶりに、11月29日に開催されている(議事次第・資料参照)。今の所、初回のヒアリングが終わっただけで、今までの方針を踏襲して地道な取り組みをして行くのではないかと思えるが、来年5~6月頃までの検討について少し注視しておいてもいい様に思う。

 農水省では、4月30日に農林水産省知的財産戦略2025(pdf)がまとめられ、例年通り、農業資材審議会・種苗分科会で重要な形質の指定に関する諮問がされるなどしているが(12月9日の議事次第・資料参照)、特に新しい法改正の検討がされている様子はない。

 知財本部では、プラットフォームにおけるデータ取扱いルールの実装に関する検討会(これは新しくできたデジタル庁のサブワーキンググループになったらしい)と知財投資・活用戦略の有効な開示及びガバナンスに関する検討会が開催されていて、それぞれ、害はないと思うが、わざわざ作る意味がどこにあるのか良く分からないガイドラインの検討を続けている。読む価値はあまりないと思うが、前者に対応するガイドライン案について意見募集がされていたという事があり(電子政府のHP3参照)、後者に対応するガイドラインが今現在パブコメに掛かっている状況である(電子政府のHP4参照)。

 私の見た所、各省庁での検討は以上の通りだが、今までとは少し毛色の違った話として、秘密特許制度の検討がある。これは11月19日に第1回が開催された大臣を構成員とする経済安全保障推進会議の後、内閣官房の経済安全保障法制に関する有識者会議で11月26日から検討が始まったと見えるものである。

 そして、つい昨日、12月28日の第2回経済安全保障法制に関する有識者会議の資料として、12月6日に開かれていた第1回の特許非公開に関する検討会合の資料(pdf)議事要旨(pdf)議事のポイント(pdf)が公表された。

 これらの資料には、

論点①:制度新設の必要性・どのような制度の枠組みとすべきか
論点②:対象にすべき発明のイメージ
論点③:機微発明の選定プロセスの在り方
論点④:機微発明の選定後の手続と漏えい防止措置
論点⑤:外国出願制限の在り方
論点⑥:補償の在り方

という6つの論点が書かれていて、具体的な制度設計はなお不明だが、報道されていた通り、政府が安全保障上重要だと判断した場合に特許を非公開として、公開すれば得られたはずの特許収入を補償金という形で国が拠出する制度を検討している様である。

 外国の制度の形をどうにか真似て日本でも何かしらの秘密特許制度を導入できなくもないだろうが、誰がどの様にある特許を安全保障上重要だと判断するのか、今の日本で果たしてその様な事ができるのか相当疑問であり、よほど注意して制度を作らないと、特許制度全体の予見可能性・安定性を損ない、かえって真に必要な先端技術の国際的な保護ができなくなる懸念もある。

 今の日本の特許制度の考え方からするとかなり異質な制度を導入しようとしていると見えるこの秘密特許制度の検討が、来年の知財政策検討の中で最大の焦点となるのだろう。

 今年もこれで最後になるが、政官業に巣食う全ての利権屋に悪い年を、このブログを読んで下さっている方々に心からの感謝を。

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2021年4月25日 (日)

第439回:閣議決定された著作権法改正案の条文

 想定通りだが、前々回取り上げたプロバイダー責任制限法改正案について、4月8日の参議院総務委員会で残念ながら通り一遍の審議により全会一致で可決、13日の本会議、20日の参議院総務委員会でも可決され、21日の本会議で可決、成立した。また、前回取り上げた特許法等改正案も、4月21日の衆議院経済産業委員会、22日の本会議で可決され、参議院に送られた。(それぞれ、衆議院のインターネット審議中継、参議院のインターネット審議中継参照。)

 今回は、閣議決定され今国会に提出されているもう1つの知財関連法である著作権法改正案についてである。

 まず、文科省のHPで公開されている閣議決定された著作権法改正案の概要(pdf)から主な説明の部分を抜き出すと、

1.図書館関係の権利制限規定の見直し
①国立国会図書館による絶版等資料のインターネット送信
・国立国会図書館が、絶版等資料(※)のデータを、図書館等だけでなく、直接利用者に対しても送信できるようにする。
(※)絶版その他これに準ずる理由により入手困難な資料
②各図書館等による図書館資料のメール送信等
・図書館等が、現行の複写サービスに加え一定の条件(※)の下、調査研究目的で、著作物の一部分をメールなどで送信できるようにする。
(※)正規の電子出版等の市場を阻害しないこと(権利者の利益を不当に害しないこと)、データの流出防止措置を講じることなど

2.放送番組のインターネット同時配信等に係る権利処理の円滑化
 同時配信等(※)について、放送と同様の円滑な権利処理を実現する。
(※)同時配信のほか、追っかけ配信、一定期間の見逃し配信を含む。
<措置の内容>
①放送では許諾なく著作物等を利用できることを定める「権利制限規定」(例:学校教育番組の放送)を、同時配信等に拡充する。
②放送番組での利用を認める契約の際、権利者が別段の意思表示をしていなければ、放送だけでなく、同時配信等での利用も許諾したと推定する「許諾推定規定」を創設する。
③集中管理等が行われておらず許諾を得るのが困難な「レコード(音源)・レコード実演(音源に収録された歌唱・演奏)」について、同時配信等における利用を円滑化する。
⇒事前許諾を不要としつつ、放送事業者が権利者に報酬を支払うことを求める。
④集中管理等が行われておらず許諾を得るのが困難な「映像実演(俳優の演技など)」について、過去の放送番組の同時配信等における利用を円滑化する。
⇒事前許諾を不要としつつ、放送事業者が権利者に報酬を支払うことを求める。
⑤放送に当たって権利者との協議が整わない場合に「文化庁の裁定を受けて著作物等を利用できる制度」を、同時配信等に拡充する。

となる。

 次に、新旧対照条文(pdf)案文・理由(pdf)要綱(pdf)説明資料(pdf)も参照)ではそれぞれ別になっているが、図書館関係の権利制限に関する第31条の条文案をまとめて書くと以下のようになる。(以下、下線部が追加部分。)

(図書館等における複製等)
第三十一条 国立国会図書館及び図書、記録その他の資料を公衆の利用に供することを目的とする図書館その他の施設で政令で定めるもの(以下この項及び第三項この条及び第百四条の十の四第三項において「図書館等」という。)においては、次に掲げる場合には、その営利を目的としない事業として、図書館等の図書、記録の資料(以下この条その他の資料(次項及び第六項において「図書館資料」という。)を用いて著作物を複製することができる。
 図書館等の利用者の求めに応じ、その調査研究の用に供するために、公表された著作物の一部分(発行後相当期間を経過した定期刊行物に掲載された個々の著作物国若しくは地方公共団体の機関、独立行政法人又は地方独立行政法人が一般に周知させることを目的として作成し、その著作の名義の下に公表する広報資料、調査統計資料、報告書その他これらに類する著作物(次項及び次条第二項において「国等の周知目的資料」という。)その他の著作物の全部の複製物の提供が著作権者の利益を不当に害しないと認められる特別な事情があるものとして政令で定めるものにあつては、その全部。第三項において同じ。)の複製物を一人につき一部提供する場合
(略)

 特定図書館等においては、その営利を目的としない事業として、当該特定図書館等の利用者(あらかじめ当該特定図書館等にその氏名及び連絡先その他文部科学省令で定める情報(次項第三号及び第八項第一号において「利用者情報」という。)を登録している者に限る。第四項及び第百四条の十の四第四項において同じ。)の求めに応じ、その調査研究の用に供するために、公表された著作物の一部分(国等の周知目的資料その他の著作物の全部の公衆送信が著作権者の利益を不当に害しないと認められる特別な事情があるものとして政令で定めるものにあつては、その全部)について、次に掲げる行為を行うことができる。ただし、当該著作物の種類(著作権者若しくはその許諾を得た者又は第七十九条の出版権の設定を受けた者若しくはその公衆送信許諾を得た者による当該著作物の公衆送信(放送又は有線放送を除き、自動公衆送信の場合にあつては送信可能化を含む。以下この条において同じ。)の実施状況を含む。第百四条の十の四第四項において同じ。)及び用途並びに当該特定図書館等が行う公衆送信の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。
 図書館資料を用いて次号の公衆送信のために必要な複製を行うこと。
 図書館資料の原本又は複製物を用いて公衆送信を行うこと(当該公衆送信を受信して作成された電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によつては認識することができない方式で作られる記録であつて、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)による著作物の提供又は提示を防止し、又は抑止するための措置として文部科学省令で定める措置を講じて行うものに限る。)。

 前項に規定する特定図書館等とは、図書館等であつて次に掲げる要件を備えるものをいう。
 前項の規定による公衆送信に関する業務を適正に実施するための責任者が置かれていること。
 前項の規定による公衆送信に関する業務に従事する職員に対し、当該業務を適正に実施するための研修を行つていること。
 利用者情報を適切に管理するために必要な措置を講じていること。
 前項の規定による公衆送信のために作成された電磁的記録に係る情報が同項に定める目的以外の目的のために利用されることを防止し、又は抑止するために必要な措置として文部科学省令で定める措置を講じていること。
 前各号に掲げるもののほか、前項の規定による公衆送信に関する業務を適正に実施するために必要な措置として文部科学省令で定める措置を講じていること。

 第二項の規定により公衆送信された著作物を受信した特定図書館等の利用者は、その調査研究の用に供するために必要と認められる限度において、当該著作物を複製することができる。

 第二項の規定により著作物の公衆送信を行う場合には、第三項に規定する特定図書館等を設置する者は、相当な額の補償金を当該著作物の著作権者に支払わなければならない。

 前項各号第一項各号に掲げる場合のほか、国立国会図書館においては、図書館資料の原本を公衆の利用に供することによるその滅失、損傷若しくは汚損を避けるために当該原本に代えて公衆の利用に供するため、又は絶版等資料に係る著作物を次項次項若しくは第八項の規定により自動公衆送信(送信可能化を含む。同項以下この条において同じ。)に用いるため、電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によつては認識することができない方式で作られる記録であつて、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)を作成する場合には、必要と認められる限度において、当該図書館資料に係る著作物を記録媒体に記録することができる。

 国立国会図書館は、絶版等資料に係る著作物について、図書館等又はこれに類する外国の施設で政令で定めるものにおいて公衆に提示することを目的とする場合には、前項の規定により記録媒体に記録された当該著作物の複製物を用いて自動公衆送信を行うことができる。この場合において、当該図書館等においては、その営利を目的としない事業として、当該図書館等の利用者の求めに応じ、その調査研究の用に供するために、自動公衆送信される当該著作物の一部分の複製物を作成し、当該複製物を一人につき一部提供する次に掲げる行為を行うことができる。
 当該図書館等の利用者の求めに応じ、当該利用者が自ら利用するために必要と認められる限度において、自動公衆送信された当該著作物の複製物を作成し、当該複製物を提供すること。
 自動公衆送信された当該著作物を受信装置を用いて公に伝達すること(当該著作物の伝達を受ける者から料金(いずれの名義をもつてするかを問わず、著作物の提供又は提示につき受ける対価をいう。第九項第二号及び第三十八条において同じ。)を受けない場合に限る。)。

 国立国会図書館は、次に掲げる要件を満たすときは、特定絶版等資料に係る著作物について、第六項の規定により記録媒体に記録された当該著作物の複製物を用いて、自動公衆送信(当該自動公衆送信を受信して行う当該著作物のデジタル方式の複製を防止し、又は抑止するための措置として文部科学省令で定める措置を講じて行うものに限る。以下この項及び次項において同じ。)を行うことができる。
 当該自動公衆送信が、当該著作物をあらかじめ国立国会図書館に利用者情報を登録している者(次号において「事前登録者」という。)の用に供することを目的とするものであること。
 当該自動公衆送信を受信しようとする者が当該自動公衆送信を受信する際に事前登録者であることを識別するための措置を講じていること。

 前項の規定による自動公衆送信を受信した者は、次に掲げる行為を行うことができる。
 自動公衆送信された当該著作物を自ら利用するために必要と認められる限度において複製すること。
 次のイ又はロに掲げる場合の区分に応じ、当該イ又はロに定める要件に従つて、自動公衆送信された当該著作物を受信装置を用いて公に伝達すること。
 個人的に又は家庭内において当該著作物が閲覧される場合の表示の大きさと同等のものとして政令で定める大きさ以下の大きさで表示する場合 営利を目的とせず、かつ、当該著作物の伝達を受ける者から料金を受けずに行うこと。
 イに掲げる場合以外の場合 公共の用に供される施設であつて、国、地方公共団体又は一般社団法人若しくは一般財団法人その他の営利を目的としない法人が設置するもののうち、自動公衆送信された著作物の公の伝達を適正に行うために必要な法に関する知識を有する職員が置かれているものにおいて、営利を目的とせず、かつ、当該著作物の伝達を受ける者から料金を受けずに行うこと。

10 第八項の特定絶版等資料とは、第六項の規定により記録媒体に記録された著作物に係る絶版等資料のうち、著作権者若しくはその許諾を得た者又は第七十九条の出版権の設定を受けた者若しくはその複製許諾若しくは公衆送信許諾を得た者の申出を受けて、国立国会図書館の館長が当該申出のあつた日から起算して三月以内に絶版等資料に該当しなくなる蓋然性が高いと認めた資料を除いたものをいう。

11 前項の申出は、国立国会図書館の館長に対し、当該申出に係る絶版等資料が当該申出のあつた日から起算して三月以内に絶版等資料に該当しなくなる蓋然性が高いことを疎明する資料を添えて行うものとする。

 概要に書かれている通りだが、要するに、第31条第2~5項で、著作権者の利益を不当に害しない等の条件を満たす場合に、データの目的外利用を防止する等の措置を講じている特定図書館等が図書館資料を利用者にメール等の手段で送信できる事が書かれており、第6~11項で、国会図書館が絶版等資料を利用者に送信できる事が書かれている。補償金に関する細かな条文案の引用はここではしないが、第5項に書かれている通り、前者の場合には特定図書館等による補償金の支払いもある。

 この内容は文化庁の今年の審議会報告書(パブコメ募集時に書いた第433回参照)に書かれていた通りの図書館関係の権利制限の拡充をほぼそのまま条文化したものであって、細かな事を規定するだろう文部科学省令に少し気をつけておいた方がいいとは思うが、権利制限の拡充の1つとして是非行ってもらいたいと思えるものである。

 また、もう1つのポイントである放送のインターネット再送信の円滑化についても、概要中の説明に書かれている通り、その措置の内容は多岐に渡るが、ここでは、中でも特に主要な部分と言えるだろう定義と許諾推定に関する部分だけ以下に抜き出しておく。

(定義)
第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
九の五(略)
九の六 特定入力型自動公衆送信 放送を受信して同時に、公衆の用に供されている電気通信回線に接続している自動公衆送信装置に情報を入力することにより行う自動公衆送信(当該自動公衆送信のために行う送信可能化を含む。)をいう。
九の七 放送同時配信等 放送番組又は有線放送番組の自動公衆送信(当該自動公衆送信のために行う送信可能化を含む。以下この号において同じ。)のうち、次のイからハまでに掲げる要件を備えるもの(著作権者、出版権者若しくは著作隣接権者(以下「著作権者等」という。)の利益を不当に害するおそれがあるもの又は広く国民が容易に視聴することが困難なものとして文化庁長官が総務大臣と協議して定めるもの及び特定入力型自動公衆送信を除く。)をいう。
 放送番組の放送又は有線放送番組の有線放送が行われた日から一週間以内(当該放送番組又は有線放送番組が同一の名称の下に一定の間隔で連続して放送され、又は有線放送されるものであつてその間隔が一週間を超えるものである場合には、一月以内でその間隔に応じて文化庁長官が定める期間内)に行われるもの(当該放送又は有線放送が行われるより前に行われるものを除く。)であること。
 放送番組又は有線放送番組の内容を変更しないで行われるもの(著作権者等から当該自動公衆送信に係る許諾が得られていない部分を表示しないことその他のやむを得ない事情により変更されたものを除く。)であること。
 当該自動公衆送信を受信して行う放送番組又は有線放送番組のデジタル方式の複製を防止し、又は抑止するための措置として文部科学省令で定めるものが講じられているものであること。
九の八 放送同時配信等事業者 人的関係又は資本関係において文化庁長官が定める密接な関係(以下単に「密接な関係」という。)を有する放送事業者又は有線放送事業者から放送番組又は有線放送番組の供給を受けて放送同時配信等を業として行う事業者をいう。

(著作物の利用の許諾)
第六十三条(略)
(略)
 著作物の放送又は有線放送及び放送同時配信等について許諾(第一項の許諾をいう。以下この項において同じ。)を行うことができる者が、特定放送事業者等(放送事業者又は有線放送事業者のうち、放送同時配信等を業として行い、又はその者と密接な関係を有する放送同時配信等事業者が業として行う放送同時配信等のために放送番組若しくは有線放送番組を供給しており、かつ、その事実を周知するための措置として、文化庁長官が定める方法により、放送同時配信等が行われている放送番組又は有線放送番組の名称、その放送又は有線放送の時間帯その他の放送同時配信等の実施状況に関する情報として文化庁長官が定める情報を公表しているものをいう。以下この項において同じ。)に対し、当該特定放送事業者等の放送番組又は有線放送番組における著作物の利用の許諾を行つた場合には、当該許諾に際して別段の意思表示をした場合を除き、当該許諾には当該著作物の放送同時配信等(当該特定放送事業者等と密接な関係を有する放送同時配信等事業者が当該放送番組又は有線放送番組の供給を受けて行うものを含む。)の許諾を含むものと推定する。

 他の部分も含め、この様な条文自体に問題があるという事はないが、前にも書いた通り、私は、放送のインターネットでの再送信が進まない事は主として著作権法上の権利処理の違いに起因している訳ではないと見ており、この様な許諾推定規定等を入れた所で放送の再送信がすぐに劇的に進むとはあまり思っていないがどうだろうか。無論、技術の進展に伴いインターネットにおける情報発信・伝達は今後も否応なく進んで行くとも思っているが。

 今回の著作権法改正案は、全体を通して見ても、珍しく問題がない所か、図書館関係の権利制限が拡充される点で是非今国会での成立を期待すると書けるものである。

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2020年12月16日 (水)

第433回:文化庁の図書館関係権利制限の拡充に関するパブコメ募集(12月21日〆切)と放送の再配信関係法改正に関するパブコメ募集(1月6日〆切)

 文化庁から12月21日〆切で「図書館関係の権利制限規定の見直し(デジタル・ネットワーク対応)に関する中間まとめ」に対する意見募集(文化庁のHP1、電子政府のHP1参照)と、1月6日〆切で「放送番組のインターネット同時配信等に係る権利処理の円滑化に関する中間まとめ」に関する意見募集(文化庁のHP2、電子政府のHP2参照)がかかっているので、今回はこれらの内容を取り上げる。

(1)「図書館関係の権利制限規定の見直し(デジタル・ネットワーク対応)に関する中間まとめ」に対する意見募集(12月21日〆切)
 やや遅きに失した感はあるが、文化審議会・著作権分科会・法制度小委員会(具体的な検討はその下の図書館関係の権利制限規定の在り方に関するワーキングチームによる)の図書館関係の権利制限規定の見直し(デジタル・ネットワーク対応)に関する中間まとめ(電子政府HP掲載版(pdf))は、図書館関係の権利制限を電子データの送信まで拡充する方針で、歓迎すべき内容となっている。

 まず、この中間まとめの第2ページから始まる「第2章 検討結果」の「第1節 入手困難資料へのアクセスの容易化(法第31条第3項関係)」で、現状、国会図書館による絶版等資料の他の図書館等へのインターネット送信・館内閲覧と利用者への一部分の複製の提供を可能としている著作権法第31条第3項関係の改正について書かれているが、その方向性は第4ページに、

 新型コロナウィルス感染症の流行に伴うニーズの顕在化等を踏まえ、様々な事情により図書館等への物理的なアクセスができない場合にも絶版等資料を円滑に閲覧することができるよう、権利者の利益を不当に害しないことを前提に、国立国会図書館が、一定の条件の下で、絶版等資料のデータを利用者に直接インターネット送信することを可能とすることとする。

と書かれている通りで、国会図書館が絶版等資料のデータを利用者に直接インターネット送信することを可能とするとしているもので、これは利用者の利便性向上の観点から高く評価できるものである。

 制度設計としては、

  • 以下の(ⅰ)~(ⅳ)の視点に基づき議論した結果、まずは、権利者の利益保護を図りつつ、国民の情報アクセスを早急に確保する観点から、「送信対象資料の範囲等について現行の厳格な運用を尊重しつつ、利用者に直接インターネット送信することを可能とし、補償金制度は導入しないこと」とすることで認識が一致した。(第5ページ)
  • 国民の情報アクセス確保の観点から、特定の属性を有する者(例えば、研究者)のみが閲覧できるといった現行の図書館等における閲覧と取扱いを異にした仕組みは望ましくない一方で、権利者の利益保護の観点から、ID・パスワードなどにより閲覧者の管理を行う仕組みを設ける必要があるとの認識で一致した。その場合、ID・パスワードなどの取得・登録時に、利用者に利用規約等への同意を求め、不正な利用を防止することなどが想定される。(第10ページ)
  • ストリーミング(画面上での閲覧)のみを可能とするか、プリントアウトやデータのダウンロード(複製)まで認めるべき否かという点については、様々な意見があったが、①ストリーミングだけでは利便性の観点から問題があること、②紙媒体でのプリントアウトについては、データの不正拡散等の懸念も少ないため、利便性確保のために認めていくべきであることについては認識が一致した。(第10ページ)

と書かれている様に、補償金を取る事はせず、ID・パスワード等を用いた管理により、一部プリントアウトも認められるというものであり、方向性としてはこれも妥当であると私は思う。

 次に、第13ページ以降の「第2節 図書館資料の送信サービスの実施(法第31条第1項第1号関係)」で、国会図書館以外も含む図書館等による資料の一部の複製の提供を可能としている著作権法第31条第1項第1号関係の改正について書かれているが、これも、対応の方向性は、第14ページで、

 図書館等が保有する多様な資料のコピーをデジタル・ネットワーク技術の活用によって簡便に入手できるようにすることは、コロナ禍のような予測困難な事態にも対応し、時間的・地理的制約を超えた国民の「知のアクセス」を向上させ、また、研究環境のデジタル化により持続的な研究活動を促進する上で極めて重要であり、図書館等の公共的奉仕機能を十分に発揮させる観点からも、可能な限り、多様なニーズに応えられる仕組みを構築することが望まれる。

 他方、入手困難資料以外の資料(市場で流通している資料。新刊本を含む。)について、簡便な手続により大量のコピーが電子媒体等で送信されるようになれば、たとえそれが著作物の一部分であっても、正規の電子出版等をはじめとする市場、権利者の利益に大きな影響を与え得ることとなる。

 このため、権利者の利益保護の観点から厳格な要件を設定すること及び補償金請求権を付与することを前提とした上で、図書館等が図書館資料のコピーを利用者にFAXやメール等で送信することを可能とすることとする。その際には、きめ細かな制度設計等を行う必要がある一方で、図書館等において過度な事務的負担が生じない形で、スムーズに運用できる仕組みとすることも重要である。

と書かれている通り、図書館等が利用者に電子データを送信する事を可能とするもので、利用者の利便性向上の観点で評価できるものである。

 こちらの制度設計としては、

  • 具体的な担保の方法について、諸外国においては10%を上限とするなど定量的な定めを設けている例もあるが、権利者の利益を不当に害するか否かは、送信される著作物の種類や性質、正規の電子出版等をはじめとしたサービスの実態、送信される分量など、様々な要素に照らして総合的に判断されるものであることを踏まえると、分量等について一律の基準を設けるよりは、「ただし、・・・に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない」というただし書を設け、実態に即したきめ細かな判断を可能とする方が望ましいものと考えられる。(第15ページ)
  • 利用者のニーズや各図書館等におけるシステム・コスト面での実現可能性等に応じて柔軟に対応することができるよう、FAX、メール、ID・パスワードで管理されたサーバーへのアップロードなど、多様な形態での送信を認めることが望ましい。(第17ページ)
  • 今回、新たにメール送信等を可能とすることに伴って、作成・送信されたデータが目的外で流出・拡散することが懸念されるため、(ア)図書館等においてデータの流出防止のための適切な管理を行うとともに、(イ)データを受信した利用者による不正な拡散を防止するための措置を講ずることが必要である。具体的な措置として、(ア)については、例えば、図書館等においてデータの流出防止に必要な人的・物的管理体制を構築することや、作成したデータが不要となった場合には速やかに破棄すること、(イ)については、例えば、利用者に対して著作権法の規定やデータの利用条件等を明示することや、不正な拡散を技術的に防止する措置を講ずることなどが考えられる。(第17ページ)
  • 法第31条第1項に規定する図書館等であっても、必ずしも全てにおいて送信サービスを実施するニーズがあるわけではなく、また、図書館等によって人的・物的管理体制や技術・システム、財政面等には違いがあり、上記のデータの流出防止措置や後述の補償金制度の運用を含め、全ての図書館等で適切な運用が担保できるとは言いがたいものと考えられる。一方で、国民の情報アクセスを確保する観点からは、特定の種別の図書館等(例:国立国会図書館及び大学図書館)のみを対象とするのは適切ではないと考えられることから、一定の運用上の基準を設定し、法第31条第1項に規定する図書館等のうち当該基準を満たすものに限って送信サービスを実施できるようにすることが適当である。(第18ページ)
  • 上記(1)~(3)の措置によって、正規市場との競合やデータの目的外での流出・拡散などは防止することができるものと考えられるが、図書館等からのメール送信等によって国民が迅速かつ簡易にパソコンやスマートフォンで必要なデータを入手・閲覧することができるようになれば、権利者の利益に大きな影響を与えることが想定される。このため、今回、新たに図書館等によるメール送信等を可能とすることに伴って権利者が受ける不利益を補償するため、補償金請求権を付与することが適当である。(第18ページ)
  • 補償金請求権の対象とする行為について、現在無償となっている「複製」まで含めた場合には、図書館利用者の利便性が著しく低下し、国民の情報アクセスや研究活動等に支障が生じることが懸念されるため、今回新たに権利制限がなされる「公衆送信」のみを対象とすることが適当である。その際、補償金の対象から除外する著作物(例えば、国の広報資料・報告書や入手困難資料)を設けることも考えられる。(第19ページ)
  • 送信サービス利用者による不適切な行為を防止する観点から、図書館等においては、あらかじめ、著作権法の規定やサービスの利用条件等を明示した上で、それに同意した者を登録し、登録した者を対象として送信サービスを実施することとすべきである。(第21ページ)

と、補償金つきで、登録管理により、一定の基準を満たす図書館等によって電子データの利用者への直接送信が可能となるというものであり、これも妥当なものと言えるだろう。

(2)「放送番組のインターネット同時配信等に係る権利処理の円滑化に関する中間まとめ」に関する意見募集(1月6日〆切)
 もう1つのパブコメは、文化審議会・著作権分科会・基本政策小委員会(具体的な検討はその下の放送番組のインターネット同時配信等に係る権利処理の円滑化に関するワーキングチームによる)の放送番組のインターネット同時配信等に係る権利処理の円滑化に関する中間まとめ(pdf)電子政府HP掲載版(pdf))に対するものである。

 この報告書の内容については、基本政策小委員会の12月14日の資料の中の概要(pdf)が比較的分かりやすいと思うので、その第2~3ページの主な記載内容を抜き出すと以下の様になる。

<対象とするサービスの範囲>

○同時配信のほか、追っかけ配信(放送が終了するまでに配信が開始されるもの)、一定期間の見逃し配信を対象とすることを基本とする。

○放送対象地域との関係を問わず、番組内容の一部変更やCMの差替えも認めるなど柔軟な仕組みとする。

<措置内容の一覧>

(1)権利制限規定の同時配信等への拡充【法改正】
・放送では許諾なしに著作物を自由に利用できることとなっている規定を、同時配信等に拡充。

(2)許諾推定規定の創設【法改正】
・放送番組での利用を認める契約の際、権利者が別途の意思表示をしていなければ、放送だけでなく同時配信等での利用も許諾したものと推定。

(3)同時配信等に係るレコード・レコード実演(被アクセス困難者)の報酬請求権化【法改正】
・レコード・レコード実演の同時配信等に関し、集中管理にがされておらず、個別の許諾を得るのに相当な手続コストを要する被アクセス困難者の権利について報酬請求権化。

(4)リピート放送の同時配信等に係る映像実演(被アクセス困難者)の報酬請求権化【法改正】
・リピート放送の同時配信等に関し、映像実演の被アクセス困難者の権利について、法律上、リピート放送の場合と同様、初回契約時に別段の定めがない限り、報酬請求権化。

(5)裁定制度の改善【法改正・政令改正等】
①協議不調の場合の裁定制度:同時配信等に当たっての協議が整わない場合にも活用可能とする。
②権利者不明の場合の裁定制度:民放についても一定の要件の下で補償金の事前供託を免除、「相当な努力」(広告掲載)の要件を緩和、申請手続を電子化、事務処理を迅速化。

 この放送関連の著作権法改正が実質的に一般ユーザに影響する事はほとんどないのではないかと思うので、ここでこれ以上細かな説明をするつもりはないが、一部の権利制限規定の拡充はしたらいいと思うものの(問題となっている権利制限でなぜ放送のみが取り上げられているのか、放送の再送信だけでなくより一般的な他の通信手段にまで広げられないのかといった点について掘り下げた議論がされなかったのは残念という他ないが)、他はほぼ放送事業者側が最初の契約で権利処理すればいいだけではないかと思える事ばかりである。

 これは規制改革絡みで政治的圧力もあっての決着だとは思うが、著作権法における放送と通信の権利処理の違いについては、同じ放送対象地域での同時再送信について実演家とレコード製作者の権利を報酬請求権化した2006年法改正(文化庁の法改正解説ページ参照)くらいから10年以上延々同じ事を議論しているので、今提案されている法改正も何をいまさらという感じが大いにするものである。放送のインターネットでの再送信が進まない事は主として著作権法上の権利処理の違いに起因している訳ではないだろうと私は見ており、今回の報告書で提案されている法改正が通ったからといって放送の再送信がすぐに劇的に進むとは思えないのだがどうだろうか。(無論、その技術の進展に伴い、インターネットにおける情報発信・伝達は今後も否応なく進んでいくだろうとは思うが。)

 今年の年末年始にかけてのこの2つの文化庁著作権パブコメの内、前者の図書館関係の権利制限の拡充に関するパブコメについて、私は賛成の意見を出すつもりでいるが、ほぼそのまま賛成と書くだけの非常に単純な内容のものとなるので、ここに載せるほどの事はないだろう。

(2020年12月20日の追記:1箇所誤記を修正した(「利用者への電子データの送信」→「利用者に電子データを送信する事」)。)

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