2024年3月 3日 (日)

第492回:文化庁の2月29日時点版「AIと著作権に関する考え方について」の文章の確認

 先週2月29日に文化庁で文化審議会・著作権分科会・法制度小委員会の第7回が開かれ、その報告書である「AIと著作権に関する考え方について」が取りまとめられた。

 今後、3月中に上位の著作権分科会で報告がされる予定になっているが、後はほぼ修正が入る事はなく、AIと著作権の問題に関する今年度の検討としてはこれで一区切りという事になるだろう(第7回小委資料の審議の経過等について(案)(pdf)開催実績及び今後の進め方(予定)(pdf)参照)。

 私は第490回で載せた自分の意見で書いた通り、現行の著作権法の明確化のみを行っており、かえって社会的混乱を招き、技術の発展を阻害する恐れの強い、法改正によって新たな規制を行う事や補償金請求権を含め新しい権利を付与する事を提言していない点で私はこの報告書を高く評価しているが、この点で何か本質的な修正が加えられたという事はない。

 しかし、補足の説明などが加えられた点もそれなりにあり、細かな事となるが、以下、特に私がミスリードを含むのではないかと意見を出した所について最終的にどの様な記載となったかをAIと著作権に関する考え方について(素案)令和6年2月29日時点版(見え消し)(pdf)を使って見て行く。(なお、第7回小委資料としては溶け込み版(pdf)も用意されている。)

 まず、第25~26ページ、5.各論点について、(1)開発・学習段階、エ 著作権者の利益を不当に害することとなる場合の具体例について、(イ)アイデア等が類似するにとどまるものが大量に生成されることについての中の記載では以下の様な説明が追加された。(以下、見え消し版に倣い、下線部が追加箇所。)

○ 著作権法が保護する利益でないアイデア等が類似するにとどまるものが大量に生成されることにより、特定のクリエイター又は著作物に対する需要が、AI生成物によって代替されてしまうような事態が生じることは想定しうるものの、当該生成物が学習元著作物の創作的表現と共通しない場合には、著作権法上の「著作権者の利益を不当に害することとなる場合」には該当しないと考えられる。他方で、この点に関しては、本ただし書に規定する「著作権者の利益」と、著作権侵害が生じることによる損害とは必ずしも同一ではなく別個に検討し得るといった見解から、特定のクリエイター又は著作物に対する需要が、AI生成物によって代替されてしまうような事態が生じる場合、「著作権者の利益を不当に害することとなる場合」に該当し得ると考える余地があるとする意見が一定数みられた。また、アイデア等が類似するにとどまるものが大量に生成されること等の事情が、法第30条の4との関係で「著作権者の利益を不当に害することとなる場合」には該当しないとしても、当該生成行為が、故意又は過失によって第三者の営業上の利益や、人格的利益等を侵害するものである場合は、因果関係その他の不法行為責任及び人格権侵害に伴う責任の要件を満たす限りにおいて、当該生成行為を行う者が不法行為責任や人格権侵害に伴う責任を負う場合はあり得ると考えられる(後掲(3)ウも参照)

 後の方の説明の追加は注釈を本文の記載に格上げしたものでこの事を強調しておくのは悪い事ではないが、前の方の追加は、文化庁でも、この意見が著作権法から考えて苦しいものである事を理解して追加したものではないかと思える。

 法制度小委員会でこの様な意見があった事は事実であろうが、この部分の意見の記載が本報告書において最も大きなミスリードを含むものと私はやはり考えている。

 そもそも、ここで問題としているのは、「著作権法が保護する利益でないアイデア等が類似するにとどまるものが大量に生成される」ことである。これは、権利制限の有無に関わらず、著作権侵害による損害との関係が問題になるような場合ではなく、著作権の保護する利益、著作権の保護法益ではないものを著作権によって保護しようとするものであって、法解釈として不適切な意見と言わざるを得ない。

 さらに言っておくと、この意見は、2月29日時点版では、第6ページで追加された、

○ このように、著作権法は、著作物に該当する創作的表現を保護し、思想、学説、作風等のアイデアは保護しない(いわゆる「表現・アイデア二分論」)[注9:我が国が加盟する「著作権に関する世界知的所有権機関条約」第2条においても、「著作権の保護は、表現されたものに及ぶものとし、思想、手続、運用方法又は数学的概念自体に及ぶものではない。」とされている。]。この理由としては、アイデアを著作権法において保護することとした場合、アイデアが共通する表現活動が制限されてしまい表現の自由や学問の自由と抵触し得ること、また、アイデアは保護せず自由に利用できるものとした方が、社会における具体的な作品や情報の豊富化に繋がり、文化の発展という著作権法の目的に資すること等が挙げられる。

という表現・アイデア二分論に関する説明とも矛盾している。

 実例をあげる事まではしないが、別にAIによらずとも、ある著作物に含まれるアイデアが世の中で流行し、他の者がそのアイデアを真似て他の表現、著作物を多く作り出す事は間々ある事である。しかし、そこで何か元の著作権者の利益が不当に害されているとは、心情的にはどうあれ、著作権法的には言うべき事ではないだろう。

 次に、第30ページ、同じく5.(1)エの(オ)海賊版等の権利侵害複製物をAI学習のため複製することについての中の記載では、以下の様な説明が追加された。

○ AI開発事業者やAIサービス提供事業者においては、学習データの収集を行うに際して、海賊版を掲載しているウェブサイトから学習データを収集することで、当該ウェブサイトへのアクセスを容易化したり、当該ウェブサイトの運営を行う者に広告収入その他の金銭的利益を生じさせるなど、当該行為が新たな海賊版の増加といった権利侵害を助長するものとならないよう十分配慮した上でこれを行うことが求められる。この点に関しては、権利者が、これらの事業者等の関係者に対して、海賊版を掲載している既知のウェブサイトに関する情報をあらかじめ適切な範囲で提供することで、事業者においても海賊版を掲載しているウェブサイトを認識し、これを学習データの収集対象から除外する等の取り組みを可能とするなど、海賊版による権利侵害を助長することのない状態が実現されることが望ましい。

 この部分について、ここで技術的に現実的でないウェブサイトの事前確認を求めるものではない事を明確化するべきと私は意見を出した。文化庁としては、そう明記する事まではしたくなかったのではないかと思うが、一応、権利者側から海賊版サイトに対する情報を提供する事が望ましいとは書かれ、その様な情報提供があったものは海賊版サイトと分かるだろうと、裏を返せば、事前に全てのサイトの確認が求められる訳ではない事が暗に読めなくはない記載となっている。

 私は、また、5.(2)生成段階中の依拠性に関する部分について、依拠性の証明においてAI学習用データに依拠元の著作物が含まれる事をまず権利者が主張・立証するべきものである事を明記するべき、AI利用者が学習データに著作物が含まれていない事を主張・立証するの現実的でないといった意見も出した。ここについては、文化庁は、立証とまで言う事は難しいと思ったのか、以下の様に、第38ページのウで、

ウ 依拠性に関するAI利用者の主張・立証と学習データについて

○ 依拠性が推認された場合は、被疑侵害者の側で依拠性がないことの主張・立証の必要が生じることとなるが、上記のイ②で確認したことの反面として、当該生成AIの開発・学習段階で当該既存の著作物を学習に用いていなかった場合、これは、依拠性が認められる可能性を低減させる事情と考えられる。
 そのため、AI生成物と既存の著作物との類似性の高さ等の間接事実により依拠性が推認される場合、被疑侵害者の側が依拠性を否定する上では、当該生成AIの開発に用いられた学習データに当該著作物が含まれていないこと等の事情が、依拠性を否定する間接事実となるため、被疑侵害者の側でこれを主張・立証することが考えられる。

と、立証という記載を削除している。ただし、以下の様に、第41ページのコの追加部分で反証という言葉を使っているのは上のウの記載と異なる事を言おうとしているのではないだろうが、いまいちなものと思える。また、同じコで高度の類似性とは既存の著作物との間の高度の類似性である事が明記された。

コ 学習に用いた著作物等の開示が求められる場合について

○ 生成AIの生成物の侵害の有無の判断に当たって必要な要件である依拠性の有無については、上記イ(イ)のとおり、当該生成AIの開発・学習段階で侵害の行為に係る著作物を学習していた場合には認められると考える。また、上記ウのとおり、AI利用者においては、依拠性に関して、開発・学習段階で侵害の行為に係る著作物を学習していないとの反証を行うことが想定される。

○ このような立証のため、事業者に対し、法第114条の3(書類の提出等)や、民事訴訟法上の文書提出命令(同法第223条第1項)、文書送付嘱託(同法第226条)等に基づき、当該生成AIの開発・学習段階で用いたデータの開示を求めることができる場合もある。もっとも、上記イのとおり、依拠性の立証においてついては、データの開示を求めるまでもなく、既存の著作物との高度の類似性があることなどでも認められ得る。

 私は、5.(3)のイ 生成AIに対する指示の具体性とAI生成物の著作物性との関係についてでも、今のAI技術における生成のランダム性などを考慮して記載の明確化を行うべきとの意見を出したが、この部分の記載における3つの考慮要素、①指示・入力(プロンプト等)の分量・内容、②生成の試行回数、③複数の生成物からの選択に関する記載はそのまま維持された。

 第7回小委資料のパブリックコメントの結果について(pdf)を見ると、、主な意見としては73件の出された法人・団体の意見から多く抜き出されているが、個人の件数は24938件-73件で24865件、約2万5千件となり、これは2007年のダウンロード違法化問題の時の約8千件を超えて、著作権問題に関するパブコメでは過去最多ではないかと、このAIと著作権の問題に関する注目度の高さを窺わせる結果になっている。この個人からの意見も今後全文公開する事を予定しているとの事であり、公開され次第見てみたいと思っている。

 最後に、参考として、第490回で載せた私の作ったこの文化庁報告書の概要を以下に再掲しておくが、この概要レベルで修正が入ったという事はない。

(1)学習・開発段階

  • AI学習のための著作物の利用は原則として著作権法第30条の4の非享受目的利用の権利制限の対象となるが、意図的に、学習データの元の著作物の創作的表現の全部または一部をそのまま出力させる事を目的とする様な場合や、特別な追加学習によって学習データの元の著作物の創作的表現を直接感得できる生成物を出力する事を目的とする様な場合や、機械可読な方法によって複製の禁止が示されている場合に複製をして学習データを作成する様な場合は対象とならない。
  • AIを用いた検索であって結果の一部を表示する様な場合は、著作権法第47条の5の軽微利用目的の権利制限の範囲内で許諾なく可能。
  • 海賊版サイトである事を知りながら、そこから学習データの収集を行って生成AIを開発した様な場合、その事はその生成AIにより生じる著作権侵害における総合的な考慮の一要素となり得、規範的な行為主体として侵害の責任を問われる可能性が高まる。

(2)生成・利用段階

  • AI生成物と既存の著作物との類似性の判断については、原則として、人間がAIを使わずに創作したものと同様。
  • 生成AIを用いた場合でも、AI利用者が既存の著作物を認識しており、既存の著作物の名称の様な特定の固有名詞を入力して出力を生成させるなど、既存の著作物と類似したものを生成させた場合や、利用者が認識していなかったとしても、AI学習用データに当該著作物が含まれ、類似した生成物が得られた場合などは、通常、依拠性が認められ、著作権侵害となり得る。
  • 利用者に対する差し止め等に加え、生成AIによって更なる著作権侵害が生じる蓋然性が高いといえる場合には、生成AIの開発事業者に対して、著作権侵害の予防に必要な措置として、特定のプロンプト入力による生成を禁止する、学習に用いられた著作物の類似物を生成しない措置の様な技術的な制限を求める事も考えられる。
  • その生成AIによって侵害物が高頻度で生成される場合や、既存の著作物の類似物を生成する可能性を認識しているにも関わらず、当該類似物の生成を抑止する技術的な手段を施していない場合などは、事業者が侵害主体と評価される可能性が高まる。

(3)生成物の著作物性

  • 著作権法上の従来の解釈における著作者の認定と同様に考えられ、生成AIに対する指示が表現に至らないアイデアにとどまるような場合には、当該AI生成物に著作物性は認められない。
  • 創作的寄与の判断要素としては、指示・入力(プロンプト等)の分量・内容、生成の試行回数、複数の生成物からの選択が考えられる。

(4)その他

  • 今の所、著作権法において補償金制度を導入することは理論的な説明が困難。

 繰り返しになるが、概要レベルで見ても分かる通り、この報告書は、全体として、かえって社会的混乱を招く様な立法論に踏み込む事なく、現行の著作権法の解釈としてバランスの取れた明確化のみを行っており、高く評価できるものである。今後、ミスリードを含む部分を針小棒大に取り上げる様な事をせず、この報告書の本筋の内容について地道な周知がなされる事を私としても期待している。

(2024年3月24日の追記:明確化のため少し文章を修正した(「元の著作者」→「元の著作権者」、「法律的」→「著作権法的」)。)

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2024年1月28日 (日)

第490回:「AIと著作権に関する考え方について(素案)」に関する意見募集(2月12日〆切)に対する提出パブコメ

 文化審議会・著作権分科会・法制度小委員会で検討されている、AIと著作権に関する考え方の素案についてだが、前々回取り上げた法制小委の第5回12月20日時点版(pdf)の後、法制小委の第6回1月15日時点版(pdf)見え消し版(pdf)も参照)が示され、今現在、2月12日〆切で1月23日時点版(pdf)概要(pdf)も参照)がパブコメに掛かっている(文化庁のHP、電子政府HPの意見募集ページ参照)。

 このパブコメに対しいて私が提出した意見を一番下に載せるが、その前にパブコメ版の素案についてその概要を書いておく。

 12月20日時点版の素案と比較すると、1月15日時点版で、ファインチューニングという用語が追加的な学習と改められてその説明が補足され、著作権の保護対象が著作物の創作的表現であり、被疑侵害物においてその創作的表現が直接感得できる場合に著作権侵害となり得る事が明確化され、検索拡張生成(RAG)、技術的な措置、海賊版サイトからの学習データ収集、AI利用者の認識の有無と著作権侵害の関係、生成後の加筆等の各種記載について説明の補足や整理が図られ、判例等に関する記載や注釈が追加されており、パブコメ対象の1月23日時点版で、さらに細かな記載の修正が加えられているが、いずれも細部に関する記載の補足や明確化の類であって報告書全体の大きな方針に関わる修正ではない。

 そのため、ここでもう一度パブコメ版の素案から長い抜粋を作る事はせず、前々回で作った私の概要を再掲するに留めておく。(一応下の私の概要では素案中の記載の修正などを反映したが、内容は実質的に同じである。また、概要としては上でリンクを張った公式のものでも良いと思う。)

(1)学習・開発段階

  • AI学習のための著作物の利用は原則として著作権法第30条の4の非享受目的利用の権利制限の対象となるが、意図的に、学習データの元の著作物の創作的表現の全部または一部をそのまま出力させる事を目的とする様な場合や、特別な追加学習によって学習データの元の著作物の創作的表現を直接感得できる生成物を出力する事を目的とする様な場合や、機械可読な方法によって複製の禁止が示されている場合に複製をして学習データを作成する様な場合は対象とならない。
  • AIを用いた検索であって結果の一部を表示する様な場合は、著作権法第47条の5の軽微利用目的の権利制限の範囲内で許諾なく可能。
  • 海賊版サイトである事を知りながら、そこから学習データの収集を行って生成AIを開発した様な場合、その事はその生成AIにより生じる著作権侵害における総合的な考慮の一要素となり得、規範的な行為主体として侵害の責任を問われる可能性が高まる。

(2)生成・利用段階

  • AI生成物と既存の著作物との類似性の判断については、原則として、人間がAIを使わずに創作したものと同様。
  • 生成AIを用いた場合でも、AI利用者が既存の著作物を認識しており、既存の著作物の名称の様な特定の固有名詞を入力して出力を生成させるなど、既存の著作物と類似したものを生成させた場合や、利用者が認識していなかったとしても、AI学習用データに当該著作物が含まれ、類似した生成物が得られた場合などは、通常、依拠性が認められ、著作権侵害となり得る。
  • 利用者に対する差し止め等に加え、生成AIによって更なる著作権侵害が生じる蓋然性が高いといえる場合には、生成AIの開発事業者に対して、著作権侵害の予防に必要な措置として、特定のプロンプト入力による生成を禁止する、学習に用いられた著作物の類似物を生成しない措置の様な技術的な制限を求める事も考えられる。
  • その生成AIによって侵害物が高頻度で生成される場合や、既存の著作物の類似物を生成する可能性を認識しているにも関わらず、当該類似物の生成を抑止する技術的な手段を施していない場合などは、事業者が侵害主体と評価される可能性が高まる。

(3)生成物の著作物性

  • 著作権法上の従来の解釈における著作者の認定と同様に考えられ、生成AIに対する指示が表現に至らないアイデアにとどまるような場合には、当該AI生成物に著作物性は認められない。
  • 創作的寄与の判断要素としては、指示・入力(プロンプト等)の分量・内容、生成の試行回数、複数の生成物からの選択が考えられる。

(4)その他

  • 今の所、著作権法において補償金制度を導入することは理論的な説明が困難。

 なお、私が提出した下の意見は、細かな記載の修正提案を除き、知財本部のAIパブコメで出した意見(第485回参照)を今回の素案の内容に合わせて書き直したものである。

 最後に注意として少し触れておくと、特に内容的に問題のあるものではないが、AI関係のパブコメとしては、前々回取り上げたAI事業者ガイドライン案も2月19日〆切でパブコメに掛かっている(電子政府HPの対応意見募集ページ参照)、ただ、これはあくまで総務省と経産省の事業者ガイドラインなので、AIと著作権に関する問題については文化庁の方に意見を出すべきと思う。

(以下、提出パブコメ)

(1)素案全体について
 本素案は、AIと著作権の関係に関し、学習・開発段階と生成・利用段階に分けて考え、学習・開発段階におけるAI事業者によるAI学習のための著作物の利用は、特別な追加学習等によって学習データの元の著作物の創作的表現を直接感得できる生成物を出力する様な場合を別として、原則として著作権法第30条の4の非享受目的利用の権利制限の対象となるとし、生成・利用段階におけるAI利用者によるAI生成物の利用が他者の著作権を侵害するかどうかは、人間がAIを使わずに創作したものと同様にその類似性・依拠性に基づき判断されるとしている。

 この様な整理は現行著作権法の解釈として妥当なものと評価する事ができ、特に、本素案が、現行の著作権法第30条の4等の適用範囲及びAI生成物の利用が著作権侵害となる場合の明確化のみを行っており、かえって社会的混乱を招き、技術の発展を阻害する恐れの強い、法改正によって新たな規制を行う事や補償金請求権を含め新しい権利を付与する事を提言していない事を私は高く評価する。

 著作権侵害とならない生成物を作ろうとする限りにおいて、AIサービスの提供と利用の著作権リスクを相当程度低減している、この今の日本の著作権法のバランスは決して悪くないものである。

 そのため、現時点で余計な社会的混乱を招くだけの権利や補償金などを新たに付与するべきではなく、今後当面の間は、本素案による整理の結果を広く周知するに留めるべきである。

 なお、知財本部や文化庁の検討の場で行われている関係者ヒアリングを見ても、権利者側団体の生成AIに関する主張は単に漠然とした不安を述べ立て確たる根拠なく規制強化と金銭的補償を求めているだけであって到底新たな立法事実たり得ないものばかりである。この様な漠然とした不安については、本素案の整理の通り、現行法によって十分著作権は守られ、その対象である既存の著作物の表現に依拠して類似した生成物による著作権侵害が行われる様になるものではない事を周知する事で十分対応可能である。

 来年度以降より広く著作権に関する問題について検討を行う場合には、権利者団体に属している様な権利者のみならず、SNSなどの各種ネットサービスにおいて自分の文章や絵を公表している一般の利用者も創作者、著作権者として関係して来る事、生成AIを含む新技術が人の新しい創作のツールとなって来たという事も見逃されるべきではない。また、著作権法がその目的を超えて技術の発展の阻害となってはならないのも当然の事であって、さらに柔軟な対応を求められる事も考えられるため、アメリカ型の一般フェアユース条項の導入の検討が進められる事を期待する。

 以上の事を前提として、本素案について、今後広く周知される上でミスリードとなる事がないよう、以下の通り個別の記載の修正を求める。

(2)項目5.(1)エ(イ)について
 本項目において、「著作権法が保護する利益でないアイデア等が類似するにとどまるものが大量に生成されることにより、特定のクリエイター又は著作物に対する需要が、AI生成物によって代替されてしまうような事態が生じることは想定しうるものの、当該生成物が学習元著作物の創作的表現と共通しない場合には、著作権法上の『著作権者の利益を不当に害することとなる場合』には該当しないと考えられる。他方で、この点に関しては、特定のクリエイター又は著作物に対する需要が、AI生成物によって代替されてしまうような事態が生じる場合、『著作権者の利益を不当に害することとなる場合』に該当し得ると考える余地があるとする意見が一定数みられた。」という記載がある。

 この内、「特定のクリエイター又は著作物に対する需要が、AI生成物によって代替されてしまうような事態が生じることは想定しうる」という記載は、ここで問題としている「アイデア等が類似するにとどまるもの」と整合しない。この記載は、「コンテンツ市場における一部の営為がAI生成物によって代替されてしまうような事態が生じることは想定しうる」と修正するべきである。

 また、上記記載の内、「他方で」以下は、パブコメの対象である1月23日時点版で追加されたものであり、その様な意見があった事はその通りであろうが、同様に、著作権の保護する利益ではないものを著作権によって保護しようとするミスリードを含む記載であって、本文中に記載されるのに相応しいものではない。「他方で」以下はすべて削除し、1月15日時点版の形に戻すべきである。この様な意見に対しては注釈20の通り一般的な不法行為責任等があり得る事が分かれば良いと考える。

(3)項目5.(1)エ(オ)について
 本項目は、海賊版等の権利侵害複製物をAI学習のため複製することについて記載したものである。

 ここで書かれている様に、学習データを収集するサイトが海賊版サイトと知っていたかどうかがAI事業者の著作権侵害責任の規範的行為主体性を判断する上で総合的考慮要素の1つとなり得るとしても、インターネット上のウェブサイトは海賊版を含むものであるかどうか通常不明であり、その事前確認は技術的に現実的でない場合が多い。インターネット上のあるウェブサイトが海賊版を含むものである事が事後的に判明したとしても、ウェブサイトが海賊版サイトであるかどうか事前に分からず、そうと知り得る相当な理由があるとも言えない場合は、AI事業者の著作権侵害責任を高める要素となり得ない事を明記し、ここで技術的に現実的でないウェブサイトの事前確認を求めるものではない事を明確化するべきである。

(4)項目5.(2)イ(イ)について
 本項目において、AI利用者が既存の著作物を認識していなかったが、AI学習用データに当該著作物が含まれる場合の事が記載されている。

 この様な場合に通常著作権侵害の判断における依拠性が認められ得るとしても、ここで、AI学習用データに当該著作物が含まれる事はまず権利者が主張・立証するべきものである事を明記するべきである。

 また、現在の技術においては、技術的な措置の有無に関わらず、AI利用者の入力とは全く無関係に又はその意図に反して学習データの元の著作物と類似した出力物が生成される事があり得る。著作権侵害責任の故意又は過失の認定にあたっては、AI利用者がどの様な入力をしたかも考慮要素の1つとなり得る事も明記しておくべきである。

(5)項目5.(2)ウについて
 本項目において、被疑侵害者側が依拠性を否定する上で学習データに当該著作物が含まれていないこと等の事情を主張・立証する事が考えられるという事が記載されている。

 しかし、上記(4)で5.(2)イの項目に対する意見で書いた通り、AI学習用データに当該著作物が含まれる事はまず権利者が主張・立証するべきものであって、その主張・立証が不十分な前にこの様な立証責任の転嫁がされるべきではない上、AI事業者であればともかく、本項目で書かれているAI利用者が学習データに当該著作物が含まれていない事を主張・立証するのは全く現実的でない。

 本項目の記載は全面的に改め、項目名から「依拠性に関するAI利用者の反論について」とした上で、AI学習用データに当該著作物が含まれる事に関する権利者の主張・立証が十分であるかについて反論する事や5.(2)イの項目で書かれている様に外形的に分かる技術的な措置について立証・主張する事がまず考えられ、その上でさらに必要な場合は利用者自身の入力等を考慮して損害賠償責任等について故意又は過失がないと主張・立証する事も考えられると記載するべきである。

 その上で、最後に、裁判等においてAI事業者の参加又は協力が得られるという条件の下で、元の学習データに関する主張・立証をする事が考えられると記載する事はあり得なくはないが、この様な学習データに関する主張・立証は基本的にAI事業者との関係で記載されるべきものである。

(6)項目5.(3)イについて
 本項目において、生成AIに対する指示の具体性とAI生成物の著作物性との関係について、「指示・入力(プロンプト等)の分量・内容」、「生成の試行回数」、「複数の生成物からの選択」という3つの考慮要素があげられている。

 ここでも類推として考えるべきは、確かに共同著作物の場合の様に、ある者が指示を出し別の者が最終的な著作物を作り出したといった場合において、指示を出した者に創作的寄与があったかどうかという事であろうが、その事を考えると上の3つの考慮要素は妥当なものとは言い難い。

 「創作的表現といえるものを具体的に示す詳細な指示は、創作的寄与があると評価される可能性を高めると考えられる」のはその通りであろうが、その後に書かれている通り、「他方で、長大な指示であったとしても、創作的表現に至らないアイデアを示すにとどまる指示は、創作的寄与の判断に影響しない」のであって、第1の要素に「分量」が書かれているのは記載内容と一致していない。

 また、「生成物を確認し指示・入力を修正しつつ試行を繰り返す」事は現状のプロンプト等の入力による生成AI技術において好みの出力を得るために当たり前にされている事であり、AI生成物に機械的なランダム性が加えられている事も多く、同じ入力に対して多数の出力を得た上で利用者が好きなものを選択する事も多い事を考えると、「生成の試行回数」、「複数の生成物からの選択」をAI生成物における著作物性の判断の特別な考慮要素としてあげるのは適切でない。およそあらゆる創作行為は選択に係るものであるが、AI生成物に対してなされる事は、人によって意識的にコントロールされた表現の選択ではなく、通常著作物性が認められないであろう機械的なランダム性を含む複数の生成物からの選択である事に注意すべきである。

 また、本当に判断において考慮されるべき事は人による指示の具体性、すなわち指示と生成物の間の創作的表現としての具体的対応関係、言い換えると創作的表現たり得るものを示す具体的指示に対して考えられる表現の幅である事や、ここで書かれている事はあくまで例示であって閉じたものではない事も明記するべきである。

 本項目における各考慮要素の記載は削除し、「例えば」以下は、「例えば、AI生成物を生成するに当たって、創作的表現といえるものを具体的に示す詳細な指示は、創作的寄与があると評価される可能性を高めると考えられる。他方で、長大な指示であったとしても、創作的表現に至らないアイデアを示すにとどまる指示は、創作的寄与の判断に影響しないと考えられる。試行回数が多いこと自体や単なる選択行為自体は、創作的寄与の判断に影響しないと考えられる。また、指示の具体性の判断においては、指示と生成物の間の創作的表現としての具体的対応関係、言い換えると創作的表現たり得るものを示す具体的指示に対して考えられる表現の幅を考慮する事が考えられるが、考慮されるべきはこれに限られるものではない。」の様に記載を改めるべきである。

(7)その他国際動向について
 最後に、知財本部に出した意見に書いたものと同じであるが、参考として国際動向について簡単に触れておく。

 世界的に見ても生成AIと著作権の関係について、日本の現行法に基づいて考えられる整理以上に何らかの統一的な方向性が見えているという事はない。

 欧州連合(EU)の新AI法案は最終的な条文がどうなっているかまだ分かっていない。今の法案中にある学習に利用した著作物の概要の公開義務が残って何年か後に施行されたとしても、各AIサービス提供者がそれぞれ適法にアクセス可能なインターネット上の著作物を用いて機械学習を行っているという程度の事を公開するだけで終わり、大して意味のある結果をもたらす事はないのではないかと思える。このEUの新AI法案の主眼は人の特定などに用いられる高リスクAIの規制、AIによる偽情報作成への対策などにあると言って良いものである。

 また、EUの2019年の新著作権指令のテキスト及びデータマイニングに関する権利制限は、生成AIとの関係で考えた時に、実質的には日本とほぼ同様であって十分に広く、EU域内においても、インターネット上で適法にアクセス可能な著作物を用いる様な通常想定される場合において、生成AIの学習のための著作物の利用が権利侵害にはなるとは考え難い。

 イギリス著作権法のコンピュータ生成著作物に関する規定も持ち出される事があるかも知れないが、今問題になっている生成AIを含むAI技術との関係を考慮して作られた規定ではなく、過去の判例もほとんどなく、今の技術によるAI生成物との関係は明確でない。仮に、その規定により、人の著作者が存在しないと評価されると、元のAIサービスの開発者・提供者が著作権を有する可能性があるが、その場合、AI生成物の生成と利用の両方において比較的高い著作権侵害のリスクが作り出される事になる。

 さらに、イギリス著作権法には、AI学習のために利用できるEUと同レベルの一般目的のテキスト及びデータマイニングに関する権利制限がなく、AIの学習のための著作物の利用そのものが原則違法と考えられ得るという事もある。そのため、イギリス政府は一般目的のテキスト及びデータマイニングの権利制限を導入すると一旦決定した。しかし、著作権団体のロビーによって頓挫し、行動規範に関する検討に移ったが、これは権利制限の代わりになるものではない。

 この様なイギリスの状況は全く褒められたものではなく、参考とするなら反面教師としてでしかない。

 アメリカについては、今現在生成AIと著作権の問題に関係する訴訟が多く提起されているが、今の所人工知能は著作者たり得ないとする判決を2023年8月18日にコロンビア地裁が出しただけで、多くは係属中であり、その動向に良く注意を払うべきである。

 また、アメリカ著作権局の2023年3月16日のAI生成物の著作権登録を不可とする方針ペーパーや、2023年8月30日から行っていた著作権とAIに関する意見募集の内容とその結果についても国際動向の1つとして見ておくべきものと考える。

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2023年12月28日 (木)

第488回:2023年の終わりに(文化庁のAIと著作権に関する考え方の素案、新秘密特許(特許非公開)制度に関するQ&A他)

 今年は大きな法改正をしたばかりの所為か、特に年末年始に掛けて知財法改正パブコメがこぞって出されるという状況にはなっていないが、1年の終わりに各省庁の動きについてまとめて取り上げておきたいと思う。

(1)文化庁のAIと著作権に関する考え方の素案
 文化庁では文化審議会・著作権分科会の下で小委員会または部会として、法制度小委員会政策小委員会使用料部会の3つが動いている。

 使用料部会では権利者不明の場合の補償金額の決定などが行われている。まだ関係者ヒアリングの段階だが、私的録音録画補償金問題も含めた対価還元のあり方について議論するらしい政策小委員会の検討についても私は要注意だと思っているが、今年最大の検討事項は法制度小委員会で検討されているAIと著作権の関係の整理と言って間違いないだろう。

 その骨子案について前回取り上げたが、12月20日の法制度小委員会の第5回で、より具体的な内容を含むAIと著作権に関する考え方について(素案)(pdf)が示された。

 長くなるが、この素案の5.から特に重要な部分を以下に抜粋する。

5.各論点について

○ 著作権法の基本的な考え方と技術的な背景を踏まえ、生成AIに関する懸念点について、以下のとおり論点が整理できるのではないか。〔〕内は骨子案の項目との対応関係

(1)学習・開発段階
(中略:「ア 検討の前提」)

イ「情報解析の用に供する場合」と享受目的が併存する場合について〔骨子案:(1)イ、キ〕
(ア)「情報解析の用に供する場合」の位置づけについて
○ 法第30条の4柱書では、「次に掲げる場合その他の当該著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合には」と規定し、その上で、第2号において「情報解析(……)の用に供する場合」を挙げている。

○ そのため、AI学習のために行われるものを含め、情報解析の用に供する場合は、法第30条の4に規定する「当該著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合」に該当すると考えられる。

(イ)非享受目的と享受目的が併存する場合について
○ 他方で、一個の利用行為には複数の目的が併存する場合もあり得るところ、法第30条の4は、「当該著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合には」と規定していることから、この複数の目的の内にひとつでも「享受」の目的が含まれていれば、同条の要件を欠くこととなる。

○ そのため、ある利用行為が、情報解析の用に供する場合等の非享受目的で行われる場合であっても、この非享受目的と併存して、享受目的があると評価される場合は、法第30条の4は適用されない。

○ 生成AIに関して、享受目的が併存すると評価される場合について、具体的には以下のような場合が想定される。
≫ ファインチューニングのうち、意図的に、学習データをそのまま出力させることを目的としたものを行うため、著作物の複製等を行う場合。
(例)いわゆる「過学習」(overfitting)を意図的に行う場合
≫ AI学習のために用いた学習データを出力させる意図は有していないが、既存のデータベースやWeb上に掲載されたデータの全部又は一部を、生成AIを用いて出力させることを目的として、著作物の内容をベクトルに変換したデータベースを作成する等の、著作物の複製等を行う場合。
(例)以下のような検索拡張生成(RAG)のうち、生成に際して著作物の一部を出力させることを目的としたもの(なお、RAGについては後掲(1)ウも参照)
≫ インターネット検索エンジンであって、単語や文章の形で入力された検索クエリをもとにインターネット上の情報を検索し、その結果をもとに文章の形で回答を生成するもの
≫ 企業・団体等が、単語や文章の形で入力された検索クエリをもとに企業・団体等の内部で蓄積されたデータを検索できるシステムを構築し、当該システムが、検索の結果をもとに文章の形で回答を生成するもの

○ これに対して、「学習データをそのまま出力させる意図までは有していないが、少量の学習データを用いて、学習データの影響を強く受けた生成物が出力されるようなファインチューニングを行うため、著作物の複製等を行う場合」に関しては、具体的事案に応じて、学習データの著作物の表現上の本質的特徴を直接感得できる生成物を出力することが目的であると評価される場合は、享受目的が併存すると考えられる。

○ 近時は、特定のクリエイターの作品である著作物のみを学習データとしてファインチューニングを行うことで、当該作品群の影響を強く受けた生成物を生成することを可能とする行為が行われており、このような行為によって特定のクリエイターの、いわゆる「作風」を容易に模倣できてしまうといった点に対する懸念も示されている。このような場合、当該作品群は、表現に至らないアイデアのレベルにおいて、当該クリエイターのいわゆる「作風」を共通して有しているにとどまらず表現のレベルにおいても、当該作品群には、これに共通する表現上の本質的特徴があると評価できる場合もあると考えられることに配意すべきである。

○ なお、生成・利用段階において、AIが学習した著作物に類似した生成物が生成される事例があったとしても、通常、このような事実のみをもって開発・学習段階における享受目的の存在を推認することまではできず、法第30条の4の適用は直ちに否定されるものではないと考えられる。他方で、生成・利用段階において、学習された著作物に類似した生成物の生成が頻発するといった事情は、開発・学習段階における享受目的の存在を推認する上での一要素となり得ると考えられる。

ウ 検索拡張生成(RAG)等について〔骨子案:(1)ウ、(2)コ〕
○ 検索拡張生成(RAG)その他の、生成AIによって著作物を含む対象データを検索し、その結果の要約等を行って回答を生成するもの(以下「RAG等」という。)については、生成に際して既存の著作物の一部を出力するものであることから、その開発のために行う著作物の複製等は、非享受目的の利用行為とはいえず、法第30条の4は適用されないと考えられる。

○ 他方で、RAG等による回答の生成に際して既存の著作物を利用することについては、法第47条の5第1項第1号又は第2号の適用があることが考えられる。ただし、この点に関しては、法第47条の5第1項に基づく既存の著作物の利用は、当該著作物の「利用に供される部分の占める割合、その利用に供される部分の量、その利用に供される際の表示の精度その他の要素に照らし軽微なもの」(軽微利用)に限って認められることに留意する必要がある。RAG等による生成に際して、この「軽微利用」の程度を超えて既存の著作物を利用する場合は、法第47条の5第1項は適用されず、原則として著作権者の許諾を得て利用する必要があると考えられる。

○ また、RAG等のために行うベクトルに変換したデータベースの作成等に伴う、既存の著作物の複製又は公衆送信については、同条第2項に定める準備行為として、権利制限規定の適用を受けることが考えられる。

【著作権者の利益を不当に害することとなる場合について】
エ 著作権者の利益を不当に害することとなる場合の具体例について〔骨子案:(1)エ〕
(ア)法第30条の4ただし書の解釈に関する考え方について
○ 法第30条の4においては、そのただし書において「当該著作物の種類及び用途並びに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。」と規定し、これに該当する場合は同条が適用されないこととされている。

○ この点に関して、本ただし書は、法第30条の4本文に規定する「当該著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合」に該当する場合にその適用可否が問題となるものであることを前提に、その該当性を検討することが必要と考えられる。

○ また、本ただし書への該当性を検討するに当たっては、著作権者の著作物の利用市場と衝突するか、あるいは将来における著作物の潜在的販路を阻害するかという観点から検討することが必要と考えられる。

(イ)アイデア等が類似するにとどまるものが大量に生成されることについて
○ 本ただし書において「当該著作物の」と規定されているように、著作権者の利益を不当に害することとなるか否かは、法第30条の4に基づいて利用される当該著作物について判断されるべきものと考えられる。
(例)AI学習のための学習データとして複製等された著作物

○ 作風や画風といったアイデア等が類似するにとどまり、既存の著作物との類似性が認められない生成物は、これを生成・利用したとしても、既存の著作物との関係で著作権侵害とはならない。また、既存の著作物とアイデア等が類似するが、表現として異なる生成物が市場において取引されたとしても、これによって直ちに当該既存の著作物の取引機会が失われるなど、市場において競合する関係とはならないと考えられる。

○ そのため、著作権法が保護する利益でないアイデア等が類似するにとどまるものが大量に生成されることにより、自らの市場が圧迫されるかもしれないという抽象的なおそれのみでは、「著作権者の利益を不当に害することとなる場合」には該当しないと考えられる。

○ なお、この点に関しては、上記イ(イ)のとおり、特定のクリエイターの作品である著作物のみを学習データとしてファインチューニングを行う場合、当該作品群が、当該クリエイターの作風を共通して有している場合については、これにとどまらず、表現のレベルにおいても、当該作品群には、これに共通する表現上の本質的特徴があると評価できる場合もあると考えられることに配意すべきである。

(中略:「(ウ)情報解析に活用できる形で整理したデータベースの著作物の例について」)

(エ)学習のための複製等を防止する技術的な措置を回避した複製について〔骨子案:(1)コ〕
○ AI学習のための著作物の複製等を防止する技術的な措置としては、現時点において既に広く行われているものが見受けられる。こうした措置をとることについては、著作権法上、特段の制限は設けられておらず、権利者やウェブサイトの管理者の判断によって自由に行うことが可能である。
(例)ウェブサイト内のファイル"robots.txt"への記述によって、AI学習のための複製を行うクローラによるウェブサイト内へのアクセスを制限する措置
(例)ID・パスワード等を用いた認証によって、ウェブサイト内へのアクセスを制限する措置

○ このような技術的な措置は、あるウェブサイト内に掲載されている多数のデータを集積して、情報解析に活用できる形で整理したデータベースの著作物として販売する際に、当該データベースの販売市場との競合を生じさせないために講じられている例がある(データベースの販売に伴う措置、又は販売の準備行為としての措置)。

○ そのため、このような技術的な措置が講じられており、当該ウェブサイト内のデータを含み、情報解析に活用できる形で整理したデータベースの著作物が将来販売される予定があることが推認される場合、この措置を回避して行うAI学習のための複製等は、当該データベースの著作物の将来における潜在的販路を阻害する行為として、通常、法第30条の4ただし書に該当し、同条による権利制限の対象とはならないと考えられる。

○ なお、このような技術的な措置が、著作権法に規定する「技術的保護手段」又は「技術的利用制限手段」に該当するか否かは、現時点において行われている技術的な措置が、従来、「技術的保護手段」又は「技術的利用制限手段」に該当すると考えられてきたものとは異なることから、今後の技術の動向も踏まえ検討すべきものと考えられる。

(オ)海賊版等の権利侵害複製物をAI学習のため複製することについて
○ インターネット上のデータが海賊版等の権利侵害複製物であるか否かは、究極的には当該複製物に係る著作物の著作権者でなければ判断は難しく、AI学習のため学習データの収集を行おうとする者にこの点の判断を求めることは、現実的に難しい場合が多いと考えられる。加えて、権利侵害複製物という場合には、漫画等を原作のまま許諾なく多数アップロードした海賊版サイトに掲載されているようなものから、SNS等において個人のユーザーが投稿する際に、引用等の権利制限規定の要件を満たさなかったもの等まで様々なものが含まれる。

○ このため、AI学習のため、インターネット上において学習データを収集する場合、収集対象のデータに、海賊版等の、著作権を侵害してアップロードされた複製物が含まれている場合もあり得る。

○ 他方で、海賊版により我が国のコンテンツ産業が受ける被害は甚大であり、リーチサイト規制を含めた海賊版対策を進めるべきことは論を待たない。文化庁においては、権利者及び関係機関による海賊版に対する権利行使の促進に向けた環境整備等、引き続き実効的かつ強力に海賊版対策に取り組むことが期待される。

○ AI開発事業者やAIサービス提供事業者においては、学習データの収集を行うに際して、海賊版を掲載しているウェブサイトから学習データを収集することで当該ウェブサイトの運営を行う者に広告収入その他の金銭的利益を生じさせるなど、当該行為が新たな海賊版の増加といった権利侵害を助長するものとならないよう十分配慮した上でこれを行うことが求められる。

○ また、後掲(2)キのとおり、生成・利用段階で既存の著作物の著作権侵害が生じた場合、AI開発事業者又はAIサービス提供事業者も、当該侵害行為の主体として責任を負う場合があり得る。ウェブサイトが海賊版等の権利侵害複製物を掲載していることを知りながら、当該ウェブサイトから学習データの収集を行うといった行為は、厳にこれを慎むべきものであり、仮にこのような行為があった場合は、当該AI開発事業者やAIサービス提供事業者が、これにより開発された生成AIにより生じる著作権侵害について、その関与の程度に照らして、規範的な行為主体として侵害の責任を問われる可能性が高まるものと考えられる(AI開発事業者又はAIサービス提供事業者の行為主体性について、後掲(2)キも参照)。

(中略:【侵害に対する措置について】「オ AI学習に際して著作権侵害が生じた際に、学習を行った事業者が受け得る措置について」、「カ AI学習に際して著作権侵害が生じた際に、権利者による差止請求等が認められ得る範囲について」)

【その他の論点について】
キ AI学習における、法第30条の4に規定する「必要と認められる限度」について〔骨子案:(1)ク〕
○ 法第30条の4では、「その必要と認められる限度において」といえることが、同条に基づく権利制限の要件とされている。

○ この点に関して、大量のデータを必要とする機械学習(深層学習)の性質を踏まえると、AI学習のために複製等を行う著作物の量が大量であることをもって、「必要と認められる限度」を超えると評価されるものではないと考えられる。

ク AI学習を拒絶する著作権者の意思表示について〔骨子案:(1)ケ〕
○ 著作権法上の権利制限規定は、①著作物利用の性質からして著作権が及ぶものとすることが妥当でないもの、②公益上の理由から著作権を制限することが必要と認められるもの、③他の権利との調整のため著作権を制限する必要のあるもの、④社会慣行として行われており著作権を制限しても著作権者の経済的利益を不当に害しないと認められるものなどについて、文化的所産の公正な利用に配慮して、著作権者の許諾なく著作物を利用できることとするものである。

○ このような権利制限規定の立法趣旨からすると、著作権者が反対の意思を示していることそれ自体をもって、権利制限規定の対象から除外されると解釈することは困難である。また、AI学習のための学習データの収集は、クローラ等のプログラムによって機械的に行われる例が多いことからすると、当該プログラムにおいて機械的に判別できない方法による意思表示があることをもって権利制限規定の対象から除外してしまうと、学習データの収集を行う者にとって不測の著作権侵害を生じさせる懸念がある。そのため、こうした意思表示があることのみをもって、法第30条の4ただし書に該当するとは考えられない。

○ 他方で、このようなAI学習を拒絶する著作権者の意思表示が、機械可読な方法で表示されている場合、上記の不測の著作権侵害を生じさせる懸念は低減される。また、このような場合、上記エ(エ)のとおり、AI学習のための著作物の複製等を防止する技術的な措置が講じられており、当該ウェブサイト内のデータを含み、情報解析に活用できる形で整理したデータベースの著作物が将来販売される予定があることが推認される場合、この措置を回避して行うAI学習のための複製等は、当該データベースの著作物の将来における潜在的販路を阻害する行為として、通常、法第30条の4ただし書に該当し、同条による権利制限の対象とはならないと考えられる。

(中略:「ケ 法30条の4以外の権利制限規定の適用について」)

(2)生成・利用段階
(中略:「ア 検討の前提」)

【著作権侵害の有無の考え方について】
イ 著作権侵害の有無の考え方について
○ 従前の裁判例では、ある作品に、既存の著作物との類似性と依拠性の両者が認められる際に、著作権侵害となるとされており、生成AIを利用した場合にこれらが認められる場合については、以下のように考えられる。

(ア)類似性の考え方について〔骨子案:(2)ク〕
○ AI生成物と既存の著作物との類似性の判断については、生成AIをどのように利用したかといった制作過程ではなく、生成物そのものが既存の著作物に類似していると認められるかのみを判断すれば良いものであることから、原則として、人間がAIを使わずに創作したものと同様に考えられる。

(イ)依拠性の考え方について〔骨子案:(2)ア、イ〕
○ 依拠性の判断については、従来の裁判例では、ある作品が、既存の著作物に類似していると認められるときに、当該作品を制作した者が、既存の著作物の表現内容を認識していたことや、同一性の程度の高さなどによりその有無が判断されてきた。特に、人間の創作活動においては、既存の著作物の表現内容を認識しえたことについて、その創作者が既存の著作物に接する機会があったかどうかなどにより推認されてきた。

○ 一方、生成AIの場合、その開発のために利用された著作物を、生成AIの利用者が認識していないが、当該著作物に類似したものが生成される場合も想定され、このような事情は、従来の依拠性の判断に影響しうると考えられる。

○ そこで、従来の人間が創作する場合における依拠性の考え方も踏まえ、生成AIによる生成行為について、依拠性が認められるのはどのような場合か、整理することとする。
① AI利用者が既存の著作物を認識していたと認められる場合
▽ 生成AIをした場合であっても、AI利用者が既存の著作物(その表現内容)を認識しており、生成AIを利用してこれと類似したものを生成させた場合は、依拠性が認められ、AI利用者による著作権侵害が成立すると考えられる。
(例)ImagetoImage(画像を生成AIに指示として入力し、生成物として画像を得る行為)のように、既存の著作物そのものや、その題号などの特定の固有名詞を入力する場合
▽ この点に関して、従来の裁判例においては、被疑侵害者の既存著作物へのアクセス可能性、すなわち既存の著作物に接する機会があったことや、類似性の程度の高さ等の間接事実により、既存の著作物の表現内容を知っていたことが推認されてきた。
▽ このような従来の裁判例を踏まえると、生成AIが利用された場合であっても、権利者としては、被疑侵害者において既存著作物へのアクセス可能性や、既存著作物への高度な類似性があること等を立証すれば、依拠性があると推認されることとなる。
②AI利用者が既存の著作物を認識していなかったが、AI学習用データに当該著作物が含まれる場合
▽ AI利用者が既存の著作物(その表現内容)を認識しておらず、かつ、当該生成AIの開発・学習段階で、当該著作物を学習していなかった場合は、当該生成AIを利用し、当該著作物に類似した生成物が生成されたとしても、これは偶然の一致に過ぎないものとして、依拠性は認められず、著作権侵害は成立しないと考えられる。
▽ 一方、AI利用者が既存の著作物(その表現内容)を認識していなかったが、当該生成AIの開発・学習段階で当該著作物を学習していた場合については、客観的に当該著作物へのアクセスがあったと認められることから、当該生成AIを利用し、当該著作物に類似した生成物が生成された場合は、通常、依拠性があったと認められ、著作権侵害になりうると考えられる。
▽ ただし、このような場合であっても、当該生成AIについて、開発・学習段階において学習に用いられた著作物が、生成・利用段階において生成されないような技術的な措置が講じられているといえること等、当該生成AIが、学習に用いられた著作物をそのまま生成する状態になっていないといえる事情がある場合には、AI利用者において当該事情を反証することにより、依拠性がないと判断される場合はあり得ると考えられる。
▽ なお、生成AIの開発・学習段階で既存の著作物を学習していた場合において、AI利用者が著作権侵害を問われた場合、後掲(2)キのとおり、当該生成AIを開発した事業者においても、著作権侵害の規範的な主体として責任を負う場合があることについては留意が必要である。

ウ 依拠性に関するAI利用者の反証と学習データについて〔骨子案:(2)イ〕
○ 上記の場合は、被疑侵害者の側で依拠性がないことの反証の必要が生じることとなるが、上記のイ②で確認したように、生成AIを利用し生成された生成物が既存の著作物に類似していた場合であって、当該生成AIの開発に当該著作物を用いていた場合は、依拠性が認められる可能性が高いと考えれることから、被疑侵害者の側が依拠性を否定するためには、当該既存著作物が学習データに含まれていないこと等を反証する必要がある。

【侵害に対する措置について】
(中略:「エ 侵害に対する措置について」、「オ 利用行為が行われた場面ごとの判断について」)

カ 差止請求として取り得る措置について〔骨子案:(2)エ〕
○ 生成AIによる生成・利用段階において著作権侵害があった場合、侵害の行為に係る著作物等の権利者は、生成AIを利用し著作権侵害をした者に対して、新たな侵害物の生成及び、すでに生成された侵害物の利用行為に対する差止請求が可能と考えられる。この他、侵害行為による生成物の廃棄の請求は可能と考えられる。

○ また、生成AIの開発事業者に対しては、著作権侵害の予防に必要な措置として、侵害物を生成した生成AIの開発に用いられたデータセットがその後もAI開発に用いられる蓋然性が高い場合には、当該データセットから、当該侵害の行為に係る著作物等の廃棄を請求することは可能と考えられる。

○ また、侵害物を生成した生成AIについて、当該生成AIによる生成によって更なる著作権侵害が生じる蓋然性が高いといえる場合には、生成AIの開発事業者に対して、当該生成AIによる著作権侵害の予防に必要な措置を請求することができると考えられる。

○ この点に関して、侵害の予防に必要な措置としては、当該侵害の行為に係る著作物等の類似物が生成されないよう、例えば、①特定のプロンプト入力については、生成をしないといった措置、あるいは、②当該生成AIの学習に用いられた著作物の類似物を生成しないといった措置等の、生成AIに対する技術的な制限を付す方法などが考えられる。

【侵害行為の責任主体について】
キ 侵害行為の責任主体について〔骨子案:(2)オ〕
○ 従来の裁判例上、著作権侵害の主体としては、物理的に侵害行為を行った者が主体となる場合のほか、一定の場合に、物理的な行為主体以外の者が、規範的な行為主体として著作権侵害の責任を負う場合がある(いわゆる規範的責任論)。

○ そこで、AI生成物の生成・利用が著作権侵害となる場合の侵害の主体の判断に
おいても、物理的な行為主体であるAI利用者のみならず、生成AIの開発や、生成AIを用いたサービス提供を行う事業者が、著作権侵害の行為主体として責任を負う場合があると考えられる。

○ この点に関して、具体的には、以下のように考えられる。
①ある特定の生成AIを用いた場合、侵害物が高頻度で生成される場合は、事業者が侵害主体と評価される可能性が高まるものと考えられる。
②事業者が、生成AIの開発・提供に当たり、当該生成AIが既存の著作物の類似物を生成する可能性を認識しているにも関わらず、当該類似物の生成を抑止する技術的な手段を施していない場合、事業者が侵害主体と評価される可能性が高まるものと考えられる。
③事業者が、生成AIの開発・提供に当たり、当該生成AIが既存の著作物の類似物を生成することを防止する技術的な手段を施している場合、事業者が侵害主体と評価される可能性は低くなるものと考えられる。
④当該生成AIが、事業者により上記の(2)キ③の手段を施されたものであるなど侵害物が高頻度で生成されるようなものでない場合においては、たとえ、AI利用者が既存の著作物の類似物の生成を意図して生成AIにプロンプト入力するなどの指示を行い、侵害物が生成されたとしても、事業者が侵害主体と評価される可能性は低くなるものと考えられる。

(中略:【その他の論点】「ク 生成指示のための生成AIへの著作物の入力について」、「ケ 権利制限規定の適用について」、「コ 学習に用いた著作物等の開示が求められる場合について」)

(3)生成物の著作物性について
(中略:「ア 整理することの意義・実益について」)

イ 生成AIに対する指示の具体性とAI生成物の著作物性との関係について〔骨子案:(3)イ〕
○ 著作権法上の従来の解釈における著作者の認定と同様に考えられ、共同著作物に関する裁判例等に照らせば、生成AIに対する指示が表現に至らないアイデアにとどまるような場合には、当該AI生成物に著作物性は認められないと考えられる。

○ また、AI生成物の著作物性は、個々のAI生成物について個別具体的な事例に応じて判断されるものであり、単なる労力にとどまらず、創作的寄与があるといえるものがどの程度積み重なっているか等を総合的に考慮して判断されるものと考えられる。例として、著作物性の判断するに当たっては、以下の①~④に示すような要素があると考えられる。
①指示・入力(プロンプト等)の分量・内容
▽ AI生成物を生成するに当たって、表現と同程度の詳細な指示は、創作的寄与があると評価される可能性を高めると考えられる。他方で、長大な指示であったとしても表現に至らない指示は、創作的寄与の判断に影響しないと考えられる。
②生成の試行回数
▽ 試行回数が多いこと自体は、創作的寄与の判断に影響しないと考えられる。他方で、①と組み合わせた試行、すなわち生成物を確認し指示・入力を修正しつつ試行を繰り返すといった場合には、著作物性が認められることも考えられる。
③複数の生成物からの選択
▽ 単なる選択行為自体は創作的寄与の判断に影響しないと考えられる。他方で、通常創作性があると考えられる行為であっても、その要素として選択行為があるものもあることから、そうした行為との関係についても考慮する必要がある。
④生成後の加筆・修正
▽ 人間が、創作的表現といえる加筆・修正を加えた部分については、通常、著作物性が認められると考えられる。もっとも、それ以外の部分についての著作物性には影響しないと考えられる。

ウ 著作物性がないものに対する保護〔骨子案:(3)ウ〕
○ 著作物性がないものであったとしても、判例上、その複製や利用が、営業上の利益を侵害するといえるような場合には、民法上の不法行為として損害賠償請求が認められ得ると考えられる。

(4)その他の論点について
○ 学習済みモデルから、学習に用いられたデータを取り除くように、学習に用いられたデータに含まれる著作物の著作権者等が求め得るか否かについては、現状ではその実現可能性に課題があることから、将来的な技術の動向も踏まえて見極める必要がある。

○ また、著作権者等への対価還元という観点からは、法第30条の4の趣旨を踏まえると、AI開発に向けた情報解析の用に供するために著作物を利用することにより、著作権法で保護される著作権者等の利益が通常害されるものではないため、対価還元の手段として、著作権法において補償金制度を導入することは理論的な説明が困難であると考えられる。

○ 他方、コンテンツ創作の好循環の実現を考えた場合に、著作権法の枠内にとどまらない議論として、技術面や考え方の整理等を通じて、市場における対価還元を促進することについても検討が必要であると考えられる。

○ なお、著作物に当たらないものについて著作物であると称して流通させるという行為については、著作物のライセンス契約のような取引の場面においてこれを行った場合、契約上の債務不履行責任を生じさせるほか、取引の相手方を欺いて利用の対価等の財物を交付させた詐欺行為として、民法上の不法行為責任を問われることや、刑法上の詐欺罪に該当する可能性が考えられる。この点に関して、著作権法による保護が適切かどうかなど、著作権との関係については、引き続き議論が必要であると考えられる。

 上は抜粋と言ってもかなり長いので、ここで、私なりの概要を以下に作っておく。

(1)学習・開発段階

  • AI学習のための著作物の利用は原則として著作権法第30条の4の非享受目的利用の権利制限の対象となるが、意図的に、元の学習データの全部または一部をそのまま出力させる事を目的とする様な場合や、特別なファインチューニングによって学習データの元の著作物の表現上の本質的特徴を直接感得できる生成物を出力する事を目的とする様な場合や、機械可読な方法によって複製の禁止が示されている場合に複製をして学習データを作成する様な場合は対象とならない。
  • AIを用いた検索であって結果の一部を表示する様な場合は、著作権法第47条の5の軽微利用目的の権利制限の範囲内で許諾なく可能。
  • 海賊版サイトである事を知りながら、そこから学習データの収集を行って生成AIを開発した様な場合、その生成AIにより生じる著作権侵害について、その関与の程度に照らして、規範的な行為主体として侵害の責任を問われる可能性が高まる。

(2)生成・利用段階

  • AI生成物と既存の著作物との類似性の判断については、原則として、人間がAIを使わずに創作したものと同様。
  • 生成AIを用いた場合でも、AI利用者が既存の著作物を認識しており、既存の著作物の名称の様な特定の固有名詞を入力して出力を生成させるなど、既存の著作物と類似したものを生成させた場合や、利用者が認識していなかったとしても、AI学習用データに当該著作物が含まれ、類似した生成物が得られた場合などは、通常、依拠性が認められ、著作権侵害となり得る。
  • 利用者に対する差し止め等に加え、生成AIによって更なる著作権侵害が生じる蓋然性が高いといえる場合には、生成AIの開発事業者に対して、著作権侵害の予防に必要な措置として、特定のプロンプト入力による生成を禁止する、学習に用いられた著作物の類似物を生成しない措置の様な技術的な制限を求める事も考えられる。
  • その生成AIによって侵害物が高頻度で生成される場合や、既存の著作物の類似物を生成する可能性を認識しているにも関わらず、当該類似物の生成を抑止する技術的な手段を施していない場合などは、事業者が侵害主体と評価される可能性が高まる。

(3)生成物の著作物性

  • 著作権法上の従来の解釈における著作者の認定と同様に考えられ、生成AIに対する指示が表現に至らないアイデアにとどまるような場合には、当該AI生成物に著作物性は認められない。
  • 創作的寄与の判断要素としては、指示・入力(プロンプト等)の分量・内容、生成の試行回数、複数の生成物からの選択、生成後の加筆・修正が考えられる。

(4)その他

  • 今の所、著作権法において補償金制度を導入することは理論的な説明が困難。

 この素案に示されている考え方は現行法の解釈としておよそ妥当と言っていいものだが、細かな点で釘を刺しておきたい所もあるので、さらに来月の最終案を見た上でパブコメで意見を出す事を考えたいと思っている。

 前に書いた事の繰り返しになるが、ここで最も重要な事はAIの問題に絡めて権利者寄り・規制寄りに歪んだ著作権法改正をしようとしている様子が見られない事だろう。

(2)新秘密特許(特許制度)に関するQ&Aと管理ガイドライン
 第486回で取り上げた新秘密特許(特許制度)に関する府省令案について案が取れて12月18日に公布された事に合わせ(特許庁のHP1官報号外第265号参照)、内閣府の特許出願の非公開に関する制度のページ経済安全保障推進法の特許出願の非公開に関する制度のQ&A(pdf)損失の補償に関するQ&A(pdf)特許出願の非公開に関する制度における適正管理措置に関するガイドライン(第1版)(pdf)が公開された。

 これらの内、制度全体に関するQ&Aや適正管理措置に関するガイドラインは法令をそのままなぞって説明しているだけで新しい事が書かれているという事はほぼないので、ここでは、損失の補償に関するQ&Aから、特許出願を秘密とする保全指定を受けた場合の補償について各論として多少なりとも詳細化を試みているQ7~Q17を以下に抜き出しておく。

各論:補償対象・範囲について

Q7.保全指定期間中に、第三者が保全対象発明と同一の発明を国内出願せずに国内で実施している場合において、自身の特許権が留保されているため、特許権に基づく実施許諾料相当額の請求や損害賠償請求ができないことによる損失は補償の対象となりますか。

A7.例えば、第三者と特許権に基づく実施許諾契約を結んでいれば得られたはずであるが得られなかったであろう実施許諾料相当額や、損害賠償請求により得られたはずであるが得られなかったであろう第三者が実施により得た利益相当額について、保全指定を受けたことに起因し、かつ、保全指定を受けたことにより生ずることが社会通念上相当といえる損失であると認められる範囲で、補償の対象となり得ます。
 なお、一般的には、第三者の実施が判明した時点で保全指定の解除が検討される場合が多く、保全指定が解除されれば、特許手続が進み、出願公開されることとなります。その場合、特許法上、出願公開後は、保全対象発明と同一の発明を特許出願せずに国内で実施している第三者に対して、特許権の登録前の行為については、出願公開後、第三者に警告を発すれば、特許権の登録を待って、第三者に対して警告時に遡り補償金を請求することができますし(特許法第65条)、特許権の登録後の行為については、特許権を侵害するものとして、差止めや損害賠償請求ができます(特許法第100条・102条)。

Q8.保全指定期間中に、第三者が保全対象発明と同一の発明に関する特許権を外国で取得してしまい、外国で実施している場合において、外国出願が禁止されているために発生した損失は補償の対象となりますか。

A8.例えば、保全指定を受けなければ、当該国で特許出願をして当該第三者よりも先に特許権を取得していたと推認される場合にあっては、保全指定以後に、当該第三者より差止請求を受けて当該国における製品販売ができなくなったことによる逸失利益や、当該第三者が特許権を保有する状況下で当該国における製品販売を行うに当たり支払わなければならない実施許諾料相当額又は自身が当該国で特許権を取得していれば当該第三者に請求できたはずの実施許諾料相当額等から算定される逸失利益については、保全指定を受けたことに起因し、かつ、保全指定を受けたことにより生ずることが社会通念上相当といえる損失であると認められる範囲で、補償の対象となり得ます。

Q9.特許権に基づき発明の実施をすれば、市場独占や競合品との競争上の優位性により、通常より高い利益率の設定が見込まれるところ、保全対象発明について、実施は許可されたものの、特許権の留保により保全指定期間中における保全対象発明と同一の発明を特許出願せずに実施する第三者の市場参入に対抗できず、保全指定の解除後に当該第三者に対して権利行使をして競合品を排除するまでの間、通常より高い利益率を確保することができませんでした。結果、当初の計画では得られるはずだった利益が減少することになりましたが、この場合における利益の減少分は補償の対象となりますか。

A9.一般的には、第三者の実施が判明した時点で保全指定の解除が検討される場合が多いと考えられますが、競合品を排除するまでの間にかかる状況が生じた際、例えば、第三者が実施している状況下において確保できる利益率に基づく利益と、保全対象発明の実施が独占的であった場合に見込まれる利益率に基づく利益との間に差額が発生する場合には、その差額について、保全指定を受けたことに起因し、かつ、保全指定を受けたことにより生ずることが社会通念上相当といえる損失であると認められる範囲で、補償の対象となり得ます。

Q10.実施の許可で付された条件を満たすために、ブラックボックス化のための設計変更が必要になりました。設計変更により利益に差額が発生したことによる損失は補償の対象となりますか。

A10.設計変更により増加した経費の販売価格への反映状況等も踏まえながら、設計変更した後に得られる利益と、設計変更しなければ得られたであろう利益との間に差額が発生する場合には、その差額について、保全指定を受けたことに起因し、かつ、保全指定を受けたことにより生ずることが社会通念上相当といえる損失であると認められる範囲で、補償の対象となり得ます。

Q11.保全指定前に多額の開発・設備費用を投資して保全対象発明を生み出しましたが、発明の実施の不許可により製品販売をすることができず、あるいは、保全指定により特許権に基づく実施許諾料相当額の請求もできなくなったため、保全指定期間中、当該開発・設備投資費用を回収することができなくなりました。この場合において、保全指定期間中に回収不能となった開発・設備投資費用は補償の対象となりますか。

A11.開発・設備投資は、本来、製品販売や特許権に基づく実施許諾料等で利益をあげることによって回収が図られるものであり、回収できるだけの利益につながるかどうかは、製品の価値やその時々の需要、競合状況等に応じケースバイケースです。したがって、たとえ発明の実施が不許可とされたために、保全指定期間中に製品販売をすることができず、あるいは、保全指定を受けたために特許権に基づく実施許諾料相当額の請求ができなくなったとしても、開発・設備投資の額が直ちに「保全指定を受けたことによる損失」といえるものではありません。
 すなわち、補償の対象は、A2で述べたとおり、あくまで、保全指定を受けずに製造、販売できていた場合に比して失われた利益に係る損失や特許権に基づく実施許諾料相当額等を請求できないことにより失われた利益に係る損失であり、これらの額により開発・設備投資費用の一部又は全部が補償されることとなります。

Q12.競業者による特許出願(先願)が保全指定を受けて出願公開されていなかったため、先願の存在を知らずに偶々同じ技術を開発し、同一の発明を出願して保全指定を受けた場合、自ら(後願者)が当該技術の発明に要した開発・設備投資費用は補償の対象となりますか。

A12.先願が公開されていれば後願者が保全対象発明に費やすことがなかった開発・設備投資費用は、後願者が保全指定を受けたことに起因する損失ではないため、補償の対象とはなりません。
 なお、先願と同じ発明について保全指定を受けた後願者に対しては、以下の要件を満たせば、所定の範囲内において有償の通常実施権が認められます(法第81条)。
・法第66条第7項の規定により出願公開が行われなかったために、保全指定された先願の存在を認識せず、自己の発明が特許法第 29 条の2の規定により特許を受けることができないものであることを知らないで、先願の出願公開前に、日本国内において発明の実施である事業をし、又はその事業の準備をしていること
・自らの特許出願について拒絶査定又は拒絶の審決が確定したこと

Q13.外国出願をすることを前提に保全審査中に翻訳を発注していたところ、保全指定を受けたために、優先日を確保した状態での外国出願が出来なくなりました。この場合における翻訳費用は補償の対象となりますか。

A13.例えば、保全審査が終了するまでに翻訳の発注をせざるを得なかった事情や当該翻訳文の活用状況等を踏まえ、保全指定を受けたことに起因し、かつ、保全指定を受けたことにより生ずることが社会通念上相当といえる損失であると認められる範囲で、補償の対象となり得ます。

Q14.外国出願をすることを前提に保全審査中に外国代理人に手続を依頼していたところ、保全指定を受けたために、優先日を確保した状態での外国出願ができなくなりました。この場合における、外国代理人との手続に係る費用は補償の対象となりますか。

A14.例えば、保全審査が終了するまでに外国代理人に手続を依頼せざるを得なかった事情や手続費用の精算状況等を踏まえ、保全指定を受けたことに起因し、かつ、保全指定を受けたことにより生ずることが社会通念上相当といえる損失であると認められる範囲で、補償の対象となり得ます。

Q15.保全指定を受けたため、指定特許出願人が適正管理措置を講じるために要した経費は補償の対象となりますか。

A15.適正管理措置は、事業者が元来営業秘密等の社内秘の管理のために講じている措置の範囲内で対応できる場合が多いと考えられますが、例えば、事業者が元来講じている情報保全の措置では、適正管理措置には足りず、このために新たに機器の購入等を要した場合には、当該機器の保全対象発明以外への利用状況等も踏まえ、保全指定を受けたことに起因し、かつ、保全指定を受けたことにより生ずることが社会通念上相当といえる損失であると認められる範囲で、これに要した経費が補償の対象となり得ます。

各論:補償条件について

Q16.第三者から得られたであろう特許権に基づく実施許諾料相当額等を補償の対象として請求する場合には、保全指定の解除後に特許権を取得するのを待つ必要がありますか。

A16.保全指定を受けなければ特許権を取得していたであろうと認められれば、保全指定の解除前であっても請求は可能です。
 なお、保全指定期間中であっても、出願公開、特許査定及び拒絶査定以外の特許手続は留保されず(法第66条第7項)、審査請求(特許出願についての出願審査の請求)をして、特許査定の直前まで手続を進めることができるので、このような場合は、特許権を取得していたであろうと認められる確度が高まると考えられます。

各論:その他

Q17.保全指定前の事前意思確認の際に、補償金額を算定してくれますか。

A17.国による補償金額の算定は、損失が発生し、補償の請求を受けた後に行うものなので、国において、保全指定前にあらかじめ算定して提示することは難しいと考えています。

 この補償に関するQ&Aもかなり長く抜粋したが、概要としてまとめると、特許ライセンス料や損害賠償の請求ができない場合、第三者が保全対象発明と同一の発明に関する特許権を外国で取得した場合、第三者が特許出願をせずに同一の発明を実施した場合、保全対象発明のブラックボックス化のために設計変更をした場合、外国出願を準備していた場合などについて、保全指定と相当因果関係が認められる範囲内で逸失利益・損失・経費を補償すると言っているに過ぎない。

 また、保全指定を受けた後でも特許査定の直前まで手続きを進める事ができるといっても、あくまで直前までなので、出願が最終的に特許を受けられるかは制度上分かりようがないのだが、上の回答を見ると、特許権を取得していたであろうと認められる確度が何かしら補償金額の算定に関係して来るのかというさらなる疑問も湧く。

 そして、保全指定を実際に受けるより前に補償金額を示すのは困難という回答も予想通りだが、事前の意思確認の際に示してくれないと出願人としては指定を受けるかどうかの判断に困るのではないかと思え、本当にこの制度がまともに機能するのか甚だ怪しいように思える。

 結局、この新秘密特許制度では、特許権の付与によって権利の存在と範囲が確定する前に秘密とするべき保全指定がされてしまうので、その状態でどうやってどうやって保全指定と逸失利益との間の相当因果関係を示して具体的な額について決定するのか謎としか言い様がないが、これで予定されていたQ&Aなどは一通り出されたと見えるので、政府としてはこの点についてこれ以上説明をする事なく、2024年5月1日の施行まで突っ走るつもりなのだろう。

 もはや後は施行後の運用を見て行くしかないという状況にありながら、この制度ではその運用すら秘密になってしまうのでどうしようもないが、本当にこの制度が必要だったのか、今の形でまともに運用できるのか、私はいまだに大いに疑問に思っている。

(3)その他知財本部等における検討
 前回でも少し書いたが、他の省庁における検討についても取り上げておく。

 まず、知財本部では、かなり急ピッチで開催されているAI時代の知的財産権検討会に加え、知財計画2024に向けた検討を行う構想委員会の下に、コンテンツやクールジャパン戦略関連の検討を行うらしい、コンテンツ戦略ワーキンググループとCreate Japanワーキンググループという2つのワーキンググループが置かれ、12月22日に第1回の合同会議が開催されている。

 AIに関する政府検討という事では、AI戦略会議第7回が12月21日に開かれており、G7での国際指針の取りまとめの後、同じく特に規制的なものとなっているという事はないが、詳細なAI事業者ガイドライン案(pdf)概要(pdf)も参照)が示されている。なお、この新AIガイドライン案は、何故か経産省と総務省でともに会議が非公開とされているので詳細不明だが、経産省の方のAI事業者ガイドライン検討会と総務省の方のAIネットワーク社会推進会議で以前のそれぞれのAIガイドラインに基づき検討されていたものだろう。

 経済産業省・特許庁の産業構造審議会・知的財産分科会については、今年は各小委員会で制度改正の議論がされているという事はなく、不正競争防止小委員会で今回の法改正などを受けた限定提供データに関する指針や秘密情報の保護ハンドブックや外国公務員贈賄防止指針の改訂について、特許の審査基準専門委員会ワーキンググループでAI関連技術に関する事例の追加について、意匠審査基準ワーキンググループ商標審査基準ワーキンググループのそれぞれで今回の法改正などを受けた意匠審査基準の改訂について検討がされている。

 なお、各ガイドラインの改訂案は、内容としては特に問題なく法改正を反映したものなので、ここではその内容を細かく取り上げる事はしないが、丁度今現在、「限定提供データに関する指針(改訂案)」及び「秘密情報の保護ハンドブック(改訂案)」に対する意見募集が1月15日〆切で(電子政府のHP1参照)、「外国公務員贈賄防止指針(改訂案)」に対する意見募集が同じく1月15日〆切で(電子政府のHP2)、「商標審査基準」改訂案に対する意見募集が1月24日〆切で行われているので(電子政府のHP3参照)、ここで念のため紹介しておく。

 総務省では、前回取り上げた誹謗中傷等の違法・有害情報への対策に関するワーキンググループの上位検討会であるプラットフォームサービスに関する研究会も開かれており、12月12日の第51回で、ワーキンググループの報告書を取り込み、偽情報対策と利用者情報の取り扱いに関するモニタリング結果も含め、第三次とりまとめ(案)(pdf)が示されているが、これも特に問題がある内容が含まれているという事はない。なお、この取りまとめ案についても1月17日〆切で意見募集が行われている(電子政府のHP4参照)。

 また、どのように検討事項が切り分けられているのか、何か意味のある結果が出て来るのかいまいち不明だが、最近始まった総務省の有識者会議には、安心・安全なメタバースの実現に関する研究会デジタル空間における情報流通の健全性確保の在り方に関する検討会もある。

 そして、農水省では、新しい政策検討が行われている様子は見られないが、例年通り、地道に農業資材審議会・種苗分科会での種苗法における重要な形質の指定に関する諮問や地理的表示の申請登録などが行われている。

 知財政策に関して、生成AIの発展にともなう著作権法に関する議論と新秘密特許制度の施行準備が進められたという事が大きな動きとしてあり、今年はかなり慌ただしい一年だったと言えるだろう。

 最後に、いつもの口上となるが、政官業に巣食う全ての利権屋に悪い年を、そして、このブログを読んで下さっている方々に心からの感謝を。

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2023年12月10日 (日)

第487回:文化庁のAIと著作権に関する考え方の骨子案と総務省のインターネット上の誹謗中傷対策とりまとめ案

 今回は私が注目している2つの政府検討の動向について取り上げる。

(1)文化庁のAIと著作権に関する考え方の骨子案
 文化庁では、11月20日に、文化審議会・著作権分科会・法制度小委員会の第4回が開かれ、AIと著作権に関する考え方について(骨子案)(pdf)が示された。

 まだ具体的な検討結果が記載されているということはないが、この骨子案の「5.各論点について」で、以下の様に多くの論点があげられており、AIと著作権の問題に関して現時点で考えられる論点についてかなり網羅的な検討を行おうとしている事が分かる。

(1)学習・開発段階
【前提の確認】
ア 法第30条の4の要件については、技術革新により大量の情報を収集し利用することが可能となる中で、イノベーション創出等の促進に資するものとして、著作物の市場に大きな影響を与えないものについて個々の許諾を不要とすることが、平成30年改正の趣旨としてあったことを踏まえて解釈すべきものと考えてよいか。

【「非享受目的」に該当する場合について】
イ AI学習のために行われるものを含め、情報解析の用に供する場合は、非享受目的であると考えてよいのではないか。また、ある利用行為に、非享受目的と併存して、享受目的があるといえるのはどのような場合か。例えば、以下の場合についてどのように考えるか。
①ファインチューニングのうち、意図的に、学習データをそのまま出力させることを目的としたものを行うため、著作物の複製等を行う場合。
②学習データをそのまま出力させる意図までは有していないが、少量の学習データを用いて、学習データの影響を強く受けた生成物が出力されるようなファインチューニングを行うため、著作物の複製等を行う場合。
③AI学習のために用いた学習データを出力させる意図は有していないが、既存のデータベースやWeb上に掲載されたデータの全部又は一部を、生成AIを用いて出力させることを目的として、著作物の内容をベクトルに変換したデータベースを作成する等の、著作物の複製等を行う場合。
ウ 検索拡張生成(RAG)等の、生成AIによって検索結果の要約等を行い回答を生成するものについては、法第30条の4の適用の余地はあるか。あるいは同条以外の規定(法第47条の5等)が適用され得ると考えるべきか。

【著作権者の利益を不当に害することとなる場合について】
エ 法第30条の4ただし書「当該著作物の種類及び用途並びに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合」について、どのような場合が該当すると考えられるか。以下の点についてはどのように考えるか。
①本ただし書は、同条本文の非享受目的に該当することを前提としてその適用可否が検討されるものであることを踏まえると、既に示している情報解析用のデータベースの著作物の例以外に、ただし書に該当するものとして現状考えられるものはあるか。また、例えば、必ずしも侵害物に当たらないものが大量に出回ることで、自らの著作物の市場が圧迫されることによる著作権者への不利益が生じることは、「著作権者の利益を不当に害する場合」に該当し得るか。
②本ただし書に該当する例としては、情報解析用のデータベースの著作物が販売されている場合に、これを情報解析用途で複製等する場合を示しているが、これについて、より具体的には、どのようなものを、どのような態様で利用する場合が該当するか(例えば、オンラインで提供されているデータ等については、どのような場合が該当し得るか)。
③学習のための複製を防止する技術的な措置が講じられているにも関わらず、これを回避して著作物をAI学習のため複製することは、本ただし書に該当するか。
④海賊版のような権利侵害複製物をAI学習のため複製することは、本ただし書に該当するか。

【侵害に対する措置について】
オ 享受目的が併存する、又はただし書に該当する等の理由で法第30条の4が適用されず、他の権利制限規定も適用されないことにより、AI学習のための複製が著作権侵害となった場合、AI学習のための複製を行った事業者が受けうる措置はどのようなものが考えられるか。故意又は過失の有無によって、受けうる措置(刑事罰、損害賠償、差止め)はどのように異なるか。
カ 学習のための複製が著作権侵害となる場合、権利者による差止請求はどの範囲で認められるか。以下の点についてはどのように考えるか。
①将来のAI学習に用いられる学習用データセットからの当該著作物の除去の請求は、法第112条第2項に基づき認められ得ると考えてよいか。
②作成された学習済みモデルは、通常、学習に用いられた著作物の複製物(「侵害の行為によって作成された物」等)に当たらず、又は必要性が認められず、廃棄請求(法第112条第2項)は原則として認められないと考えてよいか。他方で、当該学習済みモデルの性質(学習データをそのまま出力させることを目的としたものであるか等)によっては、「侵害の行為によって作成された物」等に該当し、例外的に、学習済みモデルの廃棄請求が認められる場合もあり得るか。

【その他の論点】
キ 生成・利用段階において、AIが学習した著作物に類似・依拠した生成物が生成されたとしても、学習・開発段階での法第30条の4の適用が直ちに否定されるものではなく、あくまで、享受目的の併存の有無等、同条の要件に基づいて判断すべきものと考えてよいか。
ク AI学習の場合、法第30条の4の規定にある「必要と認められる限度において」との要件をどのように考えるか。大量のデータを必要とする機械学習(深層学習)の性質を踏まえると、AI学習のために複製等を行う著作物の量が大量であることのみをもって、「必要と認められる限度」を超えるものではないと考えてよいか。
ケ 学習されたくないという著作権者の意思表示をどのようにとらえるか。当該意思表示が機械可読な方法で示されているか否かといった事情は考え方に影響するか。
コ 学習のための複製を防止する技術的な措置をとることは、著作権法上妨げられないと考えてよいか。また、こうした措置と、著作権法上の技術的保護手段との関係については、現状で取ることが可能な技術的な措置の内容も考慮しつつ、現段階において、どのように考えることが可能か。
サ 法第30条の4の適用がない場合であっても、他の権利制限規定(私的使用目的の複製、学校その他の教育機関における複製等)が適用される場合は、学習・開発段階において、許諾なく著作物を利用できると考えてよいか。適用され得る権利制限規定はどのようなものが考えられるか。

(2)生成・利用段階
【依拠性の考え方について】
ア AI生成物が既存の著作物に類似していた時に、生成AIの利用の態様(プロンプトで既存の著作物や特定の固有名詞を入力する場合など)によって、依拠性はどのように判断されるのか。例えば、以下のような場合はどのように考えられるか。
①AI利用者が既存の著作物(その表現内容)を認識しており、生成AIを利用してこれと創作的表現が共通したものを生成させた場合(例えば、AI利用者がImage to Image (i2i)で既存著作物を生成AIに入力し、これと創作的表現が共通したものを生成させた場合)。
②生成AIが既存の著作物に類似したものを生成したが、AI利用者が既存の著作物(その表現内容)を知らなかった場合(当該AIが当該既存の著作物を学習に用いていたか否かはどのように影響するか。当該AIが既存の著作物をそのまま生成するような状態になっていたか否かはどのように影響するか。)。
イ 依拠性の有無は従来の裁判例上、どのような事実に基づき、どのような過程で判断されているか。権利者はどの程度の立証負担を負っているか。

【侵害に対する措置について】
ウ AI利用者が既存の著作物を知らなかったが、著作権侵害が認められたという場合、侵害に関する故意又は過失の有無はどのように判断されるか。また、故意又は過失の有無によって、受けうる措置(刑事罰、損害賠償、差止め)はどのように異なるか。
エ 生成AIによる生成・利用段階において著作権侵害があった場合、権利者による差止請求等はどの範囲で認められ得るか。生成・利用行為に対する直接の差止請求のほか、例えば、AIサービス提供事業者に対する、侵害物の新たな生成を防止する措置の請求(法第112条第2項に基づく侵害の予防に必要な措置の請求)は認められ得るか。

【侵害行為の責任主体について】
オ 事業者はどのような場合に侵害の主体となりうるか。生成AIによる生成・利用段階において、以下のような要素は著作権侵害の責任主体(AI利用者か、AI開発事業者又はAIサービス提供事業者か)の考え方に影響するか。
①侵害物がどの程度の確率・頻度で生成され得るか
②プロンプトで既存の著作物や特定の固有名詞を入力する場合など、どのような場合に侵害物が生成されるか
③事業者が侵害物の生成を抑止するための技術的な手段を施しているか(特に、侵害物が生成される可能性を事業者が認識している場合はどうか)

【その他の論点】
カ 生成指示のため生成AIに著作物を入力(複製等)する行為について、法第30条の4の適用はどのように考えられるか。
キ 法第30条の4の適用がない場合であっても、他の権利制限規定(私的使用目的の複製、検討過程における利用、学校その他の教育機関における複製等)が適用される場合は、生成・利用段階において、許諾なく著作物を利用できると考えてよいか。適用され得る権利制限規定はどのようなものが考えられるか。
ク 類似性の判断に関して、AI生成物について人間が制作した物と異なる考え方をとるべき要素はあるか。
ケ 事業者が有しているデータ(学習用データとして用いた著作物の内容等)は、依拠性の立証に際して、どのような場面で、どの程度必要となるか。また、事業者に対してデータの開示を求める法的根拠はどのようなものが考えられるか。
コ 検索拡張生成(RAG)等の、生成AIによって検索結果の要約等を行い、回答を生成するものについては、法第30条の4の適用の余地はあるか。あるいは同条以外の規定(法第47条の5等)が適用され得ると考えるべきか。【再掲・(1)ウ】

(3)生成物の著作物性について
ア AI生成物の著作物性について整理することの意義・実益はどのようなものがあるか。AI生成物を利用する際、著作物性の有無はどの程度問題となるか。
イ 生成の際に、生成AIに対してどの程度具体的な指示を与えれば、生成物に著作物性が認められるのか。以下のような要素は著作物性の有無に関して、生成物のどの範囲に、どの程度影響するか。他に影響が考えられる要素はあるか。
①指示・入力(プロンプト等)の分量・内容
②生成の試行回数
③複数の生成物からの選択
④生成後の加筆・修正
ウ 著作物性がないものについて、不法行為(民法)による保護はどのような範囲・程度で及ぶか。

(4)その他の論点について
ア 学習済みモデルから、学習に用いられたデータを取り除くよう権利者が求めうるか否かについては、現状ではその実現可能性に課題があることから、将来的な技術の動向を見極める必要があるのではないか。
イ 対価還元の手段として補償金制度を創設することについてどのように考えるか。法第30条の4の趣旨を踏まえると、AI開発に向けた情報解析の用に供するために著作物を利用することについては、これにより著作権法で保護される著作権者の利益が害されるものではないため、著作権法において補償金制度を導入することの理論的な説明が困難ではないか。
ウ コンテンツ創作の好循環の実現を考えると、著作権法の枠内にとどまらない議論として、対価還元についても検討が必要ではないか。
エ 著作物に当たらないものについて著作物であると称して流通させるという行為について、著作権との関係をどのように考えるか。著作権法による保護が適切か。

 同じ日の資料の中にある今後の予定(pdf)によれば、12月と1月にもそれぞれ委員会を開催して検討し、さらに1月中旬から2月上旬でパブリックコメントを実施する予定の様だが、これだけの論点について後2回の委員会で議論を尽くせるのかどうかは良く分からない。

 ここで、最も重要な事は、今の所、文化庁でAIの問題に絡めて権利者寄り・規制寄りに歪んだ著作権法改正をしようとしている様子が見られない事であるが、この文化庁の法制度小委員会における議論は今の著作権法の法解釈・運用に大きな影響を持つものであり、その報告書がバランスを欠いたものとならないよう今後も注視が必要なのは間違いないだろう。

 その他のAIに関する政府の動向についても合わせて少し紹介しておくと、屋上屋の感はどうにも否めないが、AI戦略会議に加え、知財本部のAI時代の知的財産権検討会も引き続き急ピッチで開催されている。そして、内容は各国で共通する事をまとめたらそうなるだろうというもので特に規制寄りになっているという事はないが、10月30日のG7首脳声明(外務省のリリース1参照)、12月1日のG7デジタル・技術大臣会合(総務省のリリース参照)、12月6日のG7首脳会合(外務省のリリース2参照)により、G7各国の間でAIに関する国際指針の合意がなされている。

 また、欧州連合(EU)に関して、12月9日に、第481回で取り上げたAI法案について欧州理事会と欧州議会の間で合意に達したとの発表もあり(欧州議会のリリース、欧州委員会のリリース参照)、詳細が分かり次第、最終的な条文がどうなったかについて紹介したいと思っている。

(2)総務省のインターネット上の誹謗中傷対策とりまとめ案
 総務省では、11月28日に、プラットフォームサービスに関する研究会・誹謗中傷等の違法・有害情報への対策に関するワーキンググループの第12回が開かれ、とりまとめ(案)(pdf)が示された。

 このワーキンググループは、第469回で書いた様に、総務省のプラットフォームサービスに関する研究会の下に設けられ、特にインターネット上の誹謗中傷対策について検討している有識者会議であるが、この研究会のページにも書かれている通り、日本にしては珍しく、去年12月から今年の8月まで計3回ものパブコメを行った上で、最終的な取りまとめの案が示されたものである。

 少し長くなるが、このとりまとめ案から、ポイントとなる下線が引かれた部分を中心に方向性を示す主な部分の抜粋を作ると以下の様になる。(下線は原文の通りである。)

Ⅰ.誹謗中傷等の違法・有害情報への対策に関するワーキンググループの開催
(略)

Ⅱ.本WGの検討の背景
(略)
 このため、誹謗中傷等の情報の流通による被害の発生の低減や早期回復を可能とするためには、事業者による判断が可能な情報であれば、裁判上の法的な手続と比較して簡易・迅速な対応が期待できるという観点からも、プラットフォーム事業者の利用規約に基づく自主的な削除が迅速かつ適切に行われるようにすることが必要である。
(略)

Ⅲ.プラットフォーム事業者の対応の迅速化に係る規律
(略)
 このような課題に対し、プラットフォーム事業者の誹謗中傷等を含む情報の流通の低減に係る責務を踏まえ、法制上の手当てを含め、プラットフォーム事業者に対して以下の具体的措置を求めることが適当である。

1.措置申請窓口の明示
(略)
 このため、プラットフォーム事業者に、削除申請の窓口や手続の整備を求めることが適当である。その際、被害者等が削除の申請等を行うに当たって、日本語で受け付けられるようにすること(申請等の理由を十分に説明できるようにすることを含む。)や、申請等の窓口の所在を明確かつ分かりやすく示すこと等、申請方法が申請者に過重な負担を課するものとならないようにすることが適当である。

2.受付に係る通知
(略)
 このようなことから、プラットフォーム事業者が申請等を受けた場合には、申請者に対して受付通知を行うことが適当である。その際、「4. 申請の処理に関する期間の定め」において、原則として一定の期間内に対応が求められることを踏まえ、プラットフォーム事業者が当該申請等を受け付けた日時が申請者に対して明らかとなるようにすることが適当である。

3.運用体制の整備
 プラットフォーム事業者における削除の実施に係る運用体制について、日本の文化・社会的背景を踏まえた対応がなされるよう整備を求めるべきとの指摘がある。これを踏まえて、プラットフォーム事業者は、自身が提供するサービスの特性を踏まえつつ、我が国の文化・社会的背景に明るい人材を配置することが適当である。
他方、運用体制については法律において詳細を定めるべきではなく、各事業者の自主的な判断に任せるべきとの意見もある。こうした意見に鑑みれば、プラットフォーム事業者の自主性や負担に配慮し、前述の人材配置は、日本の文化・社会的背景を踏まえた対応がなされるために必要最低限のもののみを求めることが適当である。

4.申請の処理に関する期間の定め
(略)
 このため、基本的には、プラットフォーム事業者に対し、一定の期間内に、削除した事実又はしなかった事実及びその理由の通知を求めることが適当である。その際、事業者による的確な判断の機会を損なわないよう、発信者に対して意見等の照会を行う場合や専門的な検討を行う場合、その他やむを得ない理由がある場合には、一定の期間内に検討中である旨及びその理由を通知した上で、一定の期間を超えての検討を認めることが適当である。なお、以下「5.判断結果及び理由に係る通知」のとおり、プラットフォーム事業者が一定の期間を超えた検討の後に判断を行った際にも、申請者に対して対応結果を通知し、削除が行われなかった場合にはその理由をあわせて説明することが適当である。
 「一定の期間」の具体的な日数については、アンケート結果によれば、プラットフォーム事業者による不対応が一週間より長い期間続いた場合に許容できないとする人の割合が8割超に上ること、誹謗中傷等の権利侵害について事業者が認識した事案においては実務上一週間程度での削除が合理的であると考えられること、等を踏まえれば、一週間程度とすることが適当である。ただし、刻々と変化する情報通信の技術状況に鑑みれば、期間を定めるに当たっては、一定の余裕を持った期間設定が行われることが適当である。

5.判断結果及び理由に係る通知
(略)
 このようなことから、プラットフォーム事業者が判断を行った場合には、申請者に対して対応結果を通知し、削除を行わなかった場合にはその理由をあわせて説明することが適当である。その際、申請件数が膨大となり得ることも踏まえ、過去に同一の申請が行われていた場合等の正当な理由がある場合には、判断結果及び理由の通知を求めないことが適当である。

6.対象範囲
(1)対象とする事業者
 「Ⅲ.プラットフォーム事業者の対応の迅速化に係る規律」の対象とする事業者の範囲については、違法・有害情報が流通した場合の被害の大きさ(拡散の速度や到達する範囲、被害回復の困難さ等)、事業者の経済的活動(特に新興サービスや中小サービスに生じる経済的負担の問題)や表現の自由に与える影響、削除の社会への影響等を踏まえ、権利侵害情報の流通が生じやすい不特定者間の交流を目的とするサービスのうち、一定規模以上のものに対象を限定することが適当である。
 定性的な要件については、権利侵害情報の流通の生じやすさから、不特定者間の交流を目的とすることに加えて、他のサービスに付随して提供されるサービスではないことも考慮することが適当である。
 規模については、サービスによっては必ずしも利用者登録を要しないことを踏まえて、アクティブユーザ数や投稿数といった複数の指標を並列的に用いて捕捉することが適当である。このような指標の具体的なデータの取得に当たっては、第一次的には事業者から直接報告を求めることが適当である。しかしながら、事業者からの報告が望めない場合等においては、他の情報を基に数値を推計することが適当である。
 また、内外無差別の原則を徹底する観点から、エンフォースメントも含め、海外事業者に対しても国内事業者と等しく規律が適用されるようにすることが適当である。

(2) 対象とする情報
(略)
 これらを踏まえ、「Ⅲ. プラットフォーム事業者の対応の迅速化に係る規律」については、その対象となる情報の範囲を誹謗中傷等の権利侵害情報に限定することが適当である。

Ⅳ.プラットフォーム事業者の運用状況の透明化に係る規律
 「Ⅲ.プラットフォーム事業者の対応の迅速化に係る規律」と同様に、「Ⅳ.プラットフォーム事業者の運用状況の透明化に係る規律」についても、プラットフォーム事業者の誹謗中傷等を含む情報の流通の低減に係る責務を踏まえ、法制上の手当てを含め、プラットフォーム事業者に対して以下の具体的措置を求めることが適当である。

1.削除指針
(略)
 このため、利用者にとっての透明性、実効性の観点から、削除等の基準について、海外事業者、国内事業者を問わず、投稿の削除等に関する判断基準や手続に関する「削除指針」を策定し、公表させることが適当である。また、新しい指針や改訂した指針の運用開始に当たっては、事前に一定の周知期間を設けることが適当である。
 「削除指針」の策定、公表に当たっては、日本語で、利用者にとって、明確かつ分かりやすい表現が用いられるようにするとともに、日本語の投稿に適切に対応できるものとすることが適当である。また、プラットフォーム事業者が自ら探知した場合や特定の者からの申出があった場合等、削除等の対象となった情報をプラットフォーム事業者が認知するに至る端緒の別に応じて、できる限り具体的に、投稿の削除等に関する判断基準や手続が記載されていることが適当である。
 その際、削除指針をあまりに詳細に定め公表することにより、悪意ある投稿者によって、削除指針を参考に削除等の対象となることを避けながら投稿するという悪用が行われうるという指摘がある。これを踏まえ、過度に詳細な記載までは求めないことが適当である。ただし、個人情報の保護等に配慮した上で、実際に削除指針に基づき行われた削除等の具体例を公表することで、利用者に対する透明性を確保することが適当である。

2.発信者に対する説明
 プラットフォーム事業者が投稿の削除等を講ずるとき、対象となる情報の発信者に対して、投稿の削除等を講じた事実及びその理由を説明することが、異議申立ての機会の確保等の観点から重要との指摘がある。
 このため、プラットフォーム事業者が投稿の削除等を講ずるときには、対象となる情報の発信者に対して、投稿の削除等を講じた事実及びその理由を説明することが適当である。理由の粒度については、削除指針におけるどの条項等に抵触したことを理由に削除等の措置が講じられたのか、削除指針との関係を明らかにすることが適当である。また、過去に同一の発信者に対して同様の通知等の措置を講じていた場合や、被害者の二次的被害を惹起する蓋然性が高い場合等の正当な理由がある場合には、発信者に対する説明を求めないことが適当である。

3.運用状況の公表
(略)
 このため、プラットフォーム事業者の説明責任を確保する観点から、諸外国の取組も踏まえつつ、事業者の取組や削除指針に基づく削除等の状況、を含む運用状況の公表を求めることが適当である。
 公表の対象とする事項については、上記の「Ⅲ.プラットフォーム事業者の対応の迅速化に係る規律」並びに「Ⅳ.プラットフォーム事業者の運用状況の透明化に係る規律」のうち「1.削除指針」及び「2.発信者に対する説明」が利用者にとって重要性が高い事項について一定の措置を求めていることを踏まえ、これらの運用状況の公表を求めることが適当である。

4.運用結果に対する評価
(略)

5.取組状況の共有
(略)

6.対象範囲
(1)対象とする事業者
 「Ⅳ.プラットフォーム事業者の運用状況の透明化に係る規律」についても、上記「Ⅲ. プラットフォーム事業者の対応の迅速化に係る規律」の「6.(1)対象とする事業者」における整理が妥当することから、その対象事業者の範囲は「Ⅲ.プラットフォーム事業者の対応の迅速化に係る規律」と同じ範囲に限定することが適当である。

(2) 対象とする情報
 本WGでは誹謗中傷等を念頭に議論が進められてきたことを踏まえれば、「Ⅳ.プラットフォーム事業者の運用状況の透明化に係る規律」の対象となる情報の範囲には、誹謗中傷等の権利侵害情報を含めることが適当である。
 加えて、利用者のサービス選択や利用に当たっての安定性及び予見性を確保する観点からは、情報の種類如何に関わらず、プラットフォーム事業者が削除等の措置を行う対象となる情報について、プラットフォーム事業者の措置内容を明らかにすることが適当である。
 以上を踏まえて、「Ⅳ.プラットフォーム事業者の運用状況の透明化に係る規律」において対象とする情報の範囲については、削除等の対象となる全ての情報とすることが適当である。

Ⅴ. プラットフォーム事業者に関するその他の規律
1.個別の違法・有害情報に関する罰則付の削除義務
 違法・有害情報の流通の低減のために、プラットフォーム事業者に対して、大量に流通する全ての情報について、包括的・一般的に監視をさせ、個別の違法・有害情報について削除等の措置を講じなかったことを理由に、罰則等を適用することを前提とする削除義務を設けることも考えられる。
 しかしながら、このような個別の情報に関する罰則付の削除義務を課すことは、この義務を背景として、罰則を適用されることを回避しようとするプラットフォーム事業者によって、実際には違法・有害情報ではない疑わしい情報が全て削除されるなど、投稿の過度な削除等が行われるおそれがあることや、行政がプラットフォーム事業者に対して検閲に近い行為を強いることとなり、利用者の表現の自由に対する制約をもたらすおそれがあること等から、慎重であるべきである。

2.個別の違法・有害情報に関する公的機関等からの削除要請
 現状、法務省の人権擁護機関や警察庁の委託事業であるインターネット・ホットラインセンター等の公的機関等から、プラットフォーム事業者に対して、違法・有害情報の削除要請が行われており、また、かかる要請を受けたプラットフォーム事業者は、自らが定めるポリシーの条項への該当性や違法性の判断に基づき投稿の削除等の対応を行っており、これには一定の実効性が認められると考えられる。
 しかしながら、この要請に応じて自動的・機械的に削除することをプラットフォーム事業者に義務付けることについては、公的機関等からの要請があれば内容を確認せず削除されることにより、利用者の表現の自由を実質的に制約するおそれがあるため、慎重であるべきである。
 なお、プラットフォーム事業者が、法的な位置付けを伴わない自主的な取組として、通報に実績のある機関からの違法・有害情報の削除要請や通報を優先的に審査する手続等を設け、公的機関等からの要請をこの手続の中で取り扱うことは考えられる。その場合でも、違法・有害情報に関する公的機関等からの削除要請に関しては、その要請に強制力は伴わないとしても、事後的に要請の適正性を検証可能とするために、公的機関等及びプラットフォーム事業者双方においてその透明性を確保することが求められる。

3.違法情報の流通の監視
(1)違法情報の流通の網羅的な監視
 プラットフォーム事業者に対し、違法情報の流通に関する網羅的な監視を法的に義務付けることは、違法情報の流通の低減を図る上で有効とも考えられる。
 しかしながら、行政がプラットフォーム事業者に対して検閲に近い行為を強いることとなり、また、事業者によっては、実際には違法情報ではない疑わしい情報も全て削除するなど、投稿の過度な削除等が行われ、利用者の表現の自由に対する実質的な制約をもたらすおそれがあるため、慎重であるべきである。

(2)繰り返し多数の違法情報を投稿するアカウントの監視
 インターネット上の権利侵害は、スポット的な投稿によってなされるケースも多い一方で、そのような投稿を繰り返し行う者によってなされているケースも多く、違法情報の流通の低減のために有効との指摘がある。
 しかしながら、プラットフォーム事業者に対し、特定のアカウントを監視するよう法的に義務付けることは、「(1)違法情報の流通の網羅的な監視」と同様の懸念があるため、慎重であるべきである。

(3) 繰り返し多数の違法情報を投稿するアカウントの停止・凍結等
 繰り返し多数の違法情報を投稿するアカウントへの対応として、アカウントの停止・凍結等を行うことを法的に義務付けることも考えられるが、このような義務付けは、ひとたびアカウントの停止・凍結等が行われると将来にわたって表現の機会が奪われる表現の事前抑制の性質を有しているため、慎重であるべきである。

4.権利侵害情報に係る送信防止措置請求権の明文化
 人格権を侵害する投稿の削除を求める権利は、判例法理によって認められているため、一定の要件の下で、権利侵害情報の送信防止措置を請求する権利を明文化することも考えられる。
 当該権利の明文化によるメリットとしては、①被害者が削除を請求できると広く認知され、請求により救済される被害者が増えること、②特に海外事業者に対して、削除請求に応じる義務の存在が明確化され、対応の促進が図られること、③人格権以外の権利利益(例:営業上の利益)が違法に侵害された場合であっても請求が可能であることが明確化されることが指摘されている。
 一方で、デメリットとして、①裁判例によれば、特定電気通信役務提供者が送信防止措置の作為義務を負う要件は、被侵害利益やサービス提供の態様などにより異なるため、請求権を明文化するとしても抽象的な規定とならざるを得ず、期待される効果は生じないのではないか、②安易な削除請求の乱発を招き、表現の自由に影響を与えるのではないか、③安易な削除請求の乱発の結果、削除請求の裁判の実務に混乱が生じるのではないか、④著作権法第112条や不正競争防止法第3条などの個別法における差止請求の規定との整合性に課題があるのではないかといった点が指摘されている。
 なお、かかるメリット及びデメリットを示した上で実施したアンケートによれば、法律での明文化に対する考え方として、全体の半数弱(47.7%)は「メリット・デメリットがそれぞれに複数あることから、慎重な議論が必要である」との回答であった。
 上記メリット及びデメリット並びにアンケート結果を踏まえて、権利侵害情報の送信防止措置を請求する権利を明文化することについては、引き続き慎重に議論を行うことが適当である。

5.権利侵害性の有無の判断の支援
(1)権利侵害性の有無の判断を伴わない削除(いわゆるノーティスアンドテイクダウン)
 プラットフォーム事業者において権利侵害性の有無の判断が困難であることを理由に、外形的な判断基準を満たしている場合、例えば、プラットフォーム事業者において、被害を受けたとする者から申請があった場合には、原則として一旦削除する、いわゆるノーティスアンドテイクダウンを導入することが考えられる。
 しかしながら、既に、プロバイダ責任制限法3条2項2号の規定により発信者から7日以内に返答がないという外形的な基準で、権利侵害性の有無の判断にかかわらず、責任を負うことなく送信防止措置を実施できることや、内容にかかわらない自動的な削除が表現の自由に与える影響等を踏まえれば、ノーティスアンドテイクダウンの導入については、慎重であるべきである。

(2)プラットフォーム事業者を支援する第三者機関
 プラットフォーム事業者の判断を支援するため、公平中立な立場からの削除要請を行う機関やプラットフォーム事業者が違法性の判断に迷った場合にその判断を支援するような第三者機関を法的に整備することが考えられる。
 これらの機関が法的拘束力や強制力を持つ要請を行うとした場合、これらの機関は慎重な判断を行うことが想定されることや、その判断については最終的に裁判上争うことが保障されていることを踏まえれば、必ずしも、裁判手続(仮処分命令申立事件)と比べて迅速になるとも言いがたいこと等から、上述のような第三者機関を法的に整備することについては、慎重であるべきである。

(3)裁判外紛争解決手続(ADR)
 裁判外紛争解決手続(ADR)については、憲法上保障される裁判を受ける権利との関係や、裁判所以外の判断には従わない事業者も存在することも踏まえれば、実効性や有効性が乏しいこと等から、ADRを法的に整備することについては、慎重であるべきである。

6.その他
(略)

 要するに、このとりまとめ案のポイントは、憲法で禁止されている検閲か、表現の自由に関する過度の制約となる恐れの極めて強い、新しい強力な法規制による網羅的な情報の監視や削除の強制には慎重であるべきとしている事にあると言っていいだろう。「法制上の手当てを含め、プラットフォーム事業者に対して以下の具体的措置を求める」とも書いているので、これを受けて、何かしら法律を作るか法改正をするつもりなのかも知れないが、基本的には、誹謗中傷に対する自主的な取組として、一週間程度以内に速やかに必要な削除が行われるよう、削除手続に関する運用の整備とその透明化を一定の規模以上のプラットフォーマーに促すとしているのである。

 これは当然の結論だとは思うが、誹謗中傷対策に関し、このとりまとめ案が、この様に憲法で保障されている表現の自由や検閲の禁止を十分に考慮し、基本的に自主的な取組として、削除に関する運用の整備と透明化をプラットフォーマーに促すとした事を私は高く評価する。

 今後、この取りまとめを受けて、総務省がどの様に動くのかを引き続き見て行きたいと私は思っている。

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2023年3月12日 (日)

第473回:閣議決定された著作権法改正案の条文

 3月10日に、著作権法改正案と不正競争防止法等改正案が閣議決定・国会提出され、公表された(文科省のHPと経産省のHP参照)。この内不競法等改正案は次に回し、今回はまず著作権法改正案(概要(pdf)要綱(pdf)案文・理由(pdf)新旧対照表(pdf)参照、参照条文(pdf)参照)について取り上げる。

 この著作権法改正案の概要については、上のリンク先の概要資料に以下の様に書かれている。

1.著作物等の利用に関する新たな裁定制度の創設等
①利用の可否に係る著作権者等の意思が確認できない著作物等の利用円滑化
・未管理公表著作物等(集中管理がされておらず、利用の可否に係る著作権者等の意思を円滑に確認できる情報が公表されていない著作物等)を利用しようとする者は、著作権者等の意思を確認するための措置をとったにもかかわらず、確認ができない場合には、文化庁長官の裁定を受け、補償金を供託することにより、裁定において定める期間に限り、当該未管理公表著作物等を利用することができることとする。
・文化庁長官は、著作権者等からの請求により、当該裁定を取り消すことで、取消し後は本制度による利用ができないこととし、著作権者等は補償金を受け取ることができることとする。

②窓口組織(民間機関)による新たな制度等の事務の実施による手続の簡素化
・迅速な著作物等利用を可能とするため、新たな裁定制度の申請受付、要件確認及び補償金の額の決定に関する事務の一部について、文化庁長官の登録を受けた窓口組織(民間機関)が行うことができることとする。
・新たな制度及び現行裁定制度の補償金について、文化庁長官の指定を受けた補償金等の管理機関への支払を行うことができることとし、供託手続を不要とする。

2.立法・行政における著作物等の公衆送信等を可能とする措置
①立法又は行政の内部資料についてのクラウド利用等の公衆送信等
・立法又は行政の目的のために内部資料として必要と認められる場合には、必要な限度において、内部資料の利用者間に限って著作物等を公衆送信等できることとする。

②特許審査等の行政手続等のための公衆送信等
・特許審査等の行政手続・行政審判手続※について、デジタル化に対応し、必要と認められる限度において、著作物等を公衆送信等できることとする。
※裁判手続についても、裁判手続のIT化のための各種制度改正に併せて、著作物等を公衆送信等できるよう規定の整備を行う(民訴手続については令和4年民事訴訟法等の一部改正法により措置済み)

3.海賊版被害等の実効的救済を図るための損害賠償額の算定方法の見直し
①侵害品の譲渡等数量に基づく算定に係るライセンス料相当額の認定
・侵害者の売上げ等の数量が、権利者の販売等の能力を超える場合等であっても、ライセンス機会喪失による逸失利益の損害額の認定を可能とする。

②ライセンス料相当額の考慮要素の明確化
・損害額として認定されるライセンス料相当額の算定に当たり、著作権侵害があったことを前提に交渉した場合に決まるであろう額を考慮できる旨を明記する。

 ここに書かれている、(1)拡大集中ライセンス類似の新しい利用許諾制度、(2)立法・行政向けの権利制限の拡充、(3)損害賠償額推定規定の見直しという3つのポイントについて、以下、それぞれに関する主要な条文を順次見て行く。

(1)拡大集中ライセンス類似の新しい利用許諾制度
 今回の著作権法改正の最大のポイントだろう拡大集中ライセンス類似の新しい利用許諾制度については、条文上、以下の様に同じ裁定として整理され、著作権者不明の場合の著作権法第67条の後に、未管理公表著作物の利用に関する第67条の3として追加されている。(下線部が追加部分。以下全てで同じ。)

(著作権者不明等の場合における著作物の利用)
第六十七条 公表された著作物又は相当期間にわたり公衆に提供され、若しくは提示されている事実が明らかである著作物は、著作権者の不明その他の理由により相当な努力を払つてもその著作権者と連絡することができない場合として政令で定める場合(以下この条及び第六十七条の三第二項において「公表著作物等」という。)を利用しようとする者は、次の各号のいずれにも該当するときは、文化庁長官の裁定を受け、かつ、通常の使用料の額に相当するものとして文化庁長官が定める額の補償金を著作権者のために供託して、その裁定に係る利用方法により当該裁定の定めるところにより、当該公表著作物等を利用することができる。
 権利者情報(著作権者の氏名又は名称及び住所又は居所その他著作権者と連絡するために必要な情報をいう。以下この号において同じ。)を取得するための措置として文化庁長官が定めるものをとり、かつ、当該措置により取得した権利者情報その他その保有する全ての権利者情報に基づき著作権者と連絡するための措置をとつたにもかかわらず、著作権者と連絡することができなかつたこと。
 著作者が当該公表著作物等の出版その他の利用を廃絶しようとしていることが明らかでないこと。

 国、地方公共団体その他これらに準ずるものとして政令で定める法人(以下この項及び次条この節において「国等」という。)が前項の規定により著作物公表著作物等を利用しようとするときは、同項の規定にかかわらず、同項の規定による供託を要しない。この場合において、国等が著作権者と連絡をすることができるに至つたときは、同項の規定により文化庁長官が定める額の補償金を著作権者に支払わなければならない。

 第一項の裁定(以下この条及び次条において「裁定」という。)を受けようとする者は、著作物の利用方法その他政令で定める事項裁定に係る著作物の題号、著作者名その他の当該著作物を特定するために必要な情報、当該著作物の利用方法、補償金の額の算定の基礎となるべき事項その他文部科学省令で定める事項を記載した申請書に、著作権者と連絡することができないことを疎明する資料その他政令で定める資料次に掲げる資料を添えて、これを文化庁長官に提出しなければならない。
 当該著作物が公表著作物等であることを疎明する資料
 第一項各号に該当することを疎明する資料
 前二号に掲げるもののほか、文部科学省令で定める資料

 裁定を受けようとする者は、実費を勘案して政令で定める額の手数料を国に納付しなければならない。ただし、当該者が国であるときは、この限りでない。

 裁定においては、次に掲げる事項を定めるものとする。
 当該裁定に係る著作物の利用方法
 前号に掲げるもののほか、文部科学省令で定める事項

 文化庁長官は、裁定をしない処分をするときは、あらかじめ、裁定の申請をした者(次項及び次条第一項において「申請者」という。)にその理由を通知し、弁明及び有利な証拠の提出の機会を与えなければならない。

 文化庁長官は、次の各号に掲げるときは、当該各号に定める事項を申請者に通知しなければならない。
 裁定をしたとき第五項各号に掲げる事項及び当該裁定に係る著作物の利用につき定めた補償金の額
 裁定をしない処分をしたときその旨及びその理由

 文化庁長官は、裁定をしたときは、その旨及び次に掲げる事項をインターネットの利用その他の適切な方法により公表しなければならない。
 当該裁定に係る著作物の題号、著作者名その他の当該著作物を特定するために必要な情報
 第五項第一号に掲げる事項
 前二号に掲げるもののほか、文部科学省令で定める事項

 文化庁長官は、前項の規定による公表に必要と認められる限度において、裁定に係る著作物を利用することができる。

10 第一項の規定により作成した著作物の複製物には、同項の裁定に係る複製物である旨及びその裁定のあつた年月日を表示しなければならない。

(裁定申請中の著作物の利用)
第六十七条の二 前条第一項の裁定(以下この条において単に「裁定」という。)の申請をした者申請者は、当該申請に係る著作物の利用方法を勘案して文化庁長官が定める額の担保金を供託した場合には、裁定又は裁定をしない処分を受けるまでの間(裁定又は裁定をしない処分を受けるまでの間に著作権者と連絡をすることができるに至つたときは、当該連絡をすることができるに至つた時までの間)、当該申請に係る利用方法と同一の方法により、当該申請に係る著作物を利用することができる。ただし、当該著作物の著作者が当該著作物の出版その他の利用を廃絶しようとしていることが明らかであるときは、この限りでない。

(略)

10 文化庁長官は、申請中利用者から裁定の申請を取り下げる旨の申出があつたときは、裁定をしない処分をするものとする。この場合において、前条第六項の規定は、適用しない。

(未管理公表著作物等の利用)
第六十七条の三 未管理公表著作物等を利用しようとする者は、次の各号のいずれにも該当するときは、文化庁長官の裁定を受け、かつ、通常の使用料の額に相当する額を考慮して文化庁長官が定める額の補償金を著作権者のために供託して、当該裁定の定めるところにより、当該未管理公表著作物等を利用することができる。
 当該未管理公表著作物等の利用の可否に係る著作権者の意思を確認するための措置として文化庁長官が定める措置をとつたにもかかわらず、その意思の確認ができなかつたこと。
 著作者が当該未管理公表著作物等の出版その他の利用を廃絶しようとしていることが明らかでないこと。

 前項に規定する未管理公表著作物等とは、公表著作物等のうち、次の各号のいずれにも該当しないものをいう。
 当該公表著作物等に関する著作権について、著作権等管理事業者による管理が行われているもの
 文化庁長官が定める方法により、当該公表著作物等の利用の可否に係る著作権者の意思を円滑に確認するために必要な情報であつて文化庁長官が定めるものの公表がされているもの

 第一項の裁定(以下この条において「裁定」という。)を受けようとする者は、裁定に係る著作物の題号、著作者名その他の当該著作物を特定するために必要な情報、当該著作物の利用方法及び利用期間、補償金の額の算定の基礎となるべき事項その他文部科学省令で定める事項を記載した申請書に、次に掲げる資料を添えて、これを文化庁長官に提出しなければならない。
 当該著作物が未管理公表著作物等であることを疎明する資料
 第一項各号に該当することを疎明する資料
 前二号に掲げるもののほか、文部科学省令で定める資料

 裁定においては、次に掲げる事項を定めるものとする。
 当該裁定に係る著作物の利用方法
 当該裁定に係る著作物を利用することができる期間
 前二号に掲げるもののほか、文部科学省令で定める事項

 前項第二号の期間は、第三項の申請書に記載された利用期間の範囲内かつ三年を限度としなければならない。

 第六十七条第四項及び第六項から第十項までの規定は、裁定について準用する。この場合において、同条第七項第一号中「第五項各号」とあるのは「第六十七条の三第四項各号」と、同条第八項第二号中「第五項第一号」とあるのは「第六十七条の三第四項第一号及び第二号」と読み替えるものとする。

 裁定に係る著作物の著作権者が、当該著作物の著作権の管理を著作権等管理事業者に委託すること、当該著作物の利用に関する協議の求めを受け付けるための連絡先その他の情報を公表することその他の当該著作物の利用に関し当該裁定を受けた者からの協議の求めを受け付けるために必要な措置を講じた場合には、文化庁長官は、当該著作権者の請求により、当該裁定を取り消すことができる。この場合において、文化庁長官は、あらかじめ当該裁定を受けた者にその理由を通知し、弁明及び有利な証拠の提出の機会を与えなければならない。

 文化庁長官は、前項の規定により裁定を取り消したときは、その旨及び次項に規定する取消時補償金相当額その他の文部科学省令で定める事項を当該裁定を受けた者及び前項の著作権者に通知しなければならない。

 前項に規定する場合においては、著作権者は、第一項の補償金を受ける権利に関し同項の規定により供託された補償金の額のうち、当該裁定のあつた日からその取消しの処分のあつた日の前日までの期間に対応する額(以下この条において「取消時補償金相当額」という。)について弁済を受けることができる。

10 第八項に規定する場合においては、第一項の補償金を供託した者は、当該補償金の額のうち、取消時補償金相当額を超える額を取り戻すことができる。

11 国等が第一項の規定により未管理公表著作物等を利用しようとするときは、同項の規定にかかわらず、同項の規定による供託を要しない。この場合において、国等は、著作権者から請求があつたときは、同項の規定により文化庁長官が定める額(第八項に規定する場合にあつては、取消時補償金相当額)の補償金を著作権者に支払わなければならない。

 条項の追加などに伴うテクニカルな条文改正に加え、この裁定制度を運用する機関について、第6章として「裁定による利用に係る指定補償金管理機関及び登録確認機関」、条文番号で第104条の18から47までが追加されており、その全文は省略するが、第104条の20、21や33などで以下の様に裁定に関する一部業務を委任できる事が規定されている。

(指定補償金管理機関の業務)
第百四条の二十 指定補償金管理機関は、次に掲げる業務を行うものとする。
 次条第一項及び第二項の規定により支払われる補償金の受領に関する業務
 次条第三項の規定により読み替えて適用する第六十七条の二第一項及び第五項(これらの規定を第百三条において準用する場合を含む。)の規定により支払われる補償金及び担保金の受領に関する業務
 前二号の規定により受領した補償金及び担保金の管理に関する業務
 次条第三項の規定により読み替えて適用する第六十七条の二第八項(第百三条において準用する場合を含む。)及び次条第四項の規定による著作権者及び著作隣接権者に対する支払に関する業務
 第百四条の二十二第一項に規定する著作物等保護利用円滑化事業に関する業務

(指定補償金管理機関が補償金管理業務を行う場合の補償金及び担保金の取扱い)
第百四条の二十一 第六十七条第二項及び第六十七条の三第十一項(これらの規定を第百三条において準用する場合を含む。)の規定は、指定補償金管理機関が補償金管理業務を行う場合には、適用しない。

 指定補償金管理機関が補償金管理業務を行うときは、第六十七条第一項及び第六十七条の三第一項(これらの規定を第百三条において準用する場合を含む。以下この条において同じ。)の規定により補償金を供託することとされた者は、これらの規定にかかわらず、当該補償金を指定補償金管理機関に支払うものとする。この場合において、第六十七条第七項(第六十七条の三第六項において準用する場合を含む。以下この項において同じ。)並びに第六十七条の三第九項及び第十項の規定(これらの規定を第百三条において準用する場合を含む。以下この項において同じ。)の適用については、第六十七条第七項中「申請者」とあるのは「申請者及び第百四条の十九第五項に規定する指定補償金管理機関(第六十七条の三において「指定補償金管理機関」という。)」と、第六十七条の三第九項中「第一項の補償金を受ける権利に関し同項の規定により供託された」とあるのは「第百四条の二十一第一項及び第二項の規定により指定補償金管理機関に支払われた」と、同条第十項中「供託した」とあるのは「指定補償金管理機関に支払つた」とする。

(第3項以下略)

第百四条の三十三 文化庁長官は、その登録を受けた者(以下この節において「登録確認機関」という。)に、第六十七条の三第一項(第百三条において準用する場合を含む。以下この節において同じ。)の規定による裁定及び補償金の額の決定に係る事務のうち次に掲げるもの(以下この節、第百二十一条の三及び第百二十二条の二第三号において「確認等事務」という。)を行わせることができる。
 当該裁定の申請の受付(第百四条の三十五第二項において「申請受付」という。)に関する事務
 当該裁定の申請に係る著作物等が未管理公表著作物等に該当するか否か及び当該裁定の申請をした者が第六十七条の三第一項第一号に該当するか否かの確認(以下この条及び第百四条の三十五第二項において「要件確認」という。)に関する事務
 第六十七条の三第一項の通常の使用料の額に相当する額の算出(以下この節において「使用料相当額算出」という。)に関する事務

(第2項以下略)

 文化庁は同じ機関を指定、登録する事を考えているのではないかとも思うが、指定補償金管理機関が第67条の権利者不明の裁定の補償金も扱うのに対し、登録確認機関の方が担当する確認業務は第67条の3の新しい未管理公表著作物の裁定のみとなっており、書き方はかなり複雑だが、この前の法制度小委員会報告書の、新制度の申請受付は別の機関で行いながら利用許諾の決定は文化庁が行うという内容を条文化したらこの様になるだろうと思えるものである。(文化庁の文化審議会・著作権分科会・法制度小委員会の報告書の内容については第470回参照。)

 以前書いた通り、この新制度が本当に著作物の利用の円滑化に役立つかどうかは、条文レベルで決まる事ではなく、その政省令、具体的な運用次第となるだろう。

 運用開始までの準備期間としてやむを得ないのだろうが、概要資料にも書かれている通り、この部分の施行は公布から3年以内で多少時間が掛かる事になっている。

(2)立法・行政向けの権利制限の拡充
 次に、今回の権利制限の拡充は、著作権法の立法・行政・司法向けの権利制限を以下の様に改めるものである。

政治上公開の演説等の利用)
第四十条 公開して行われた政治上の演説又は陳述及び裁判手続並びに裁判手続及び行政審判手続(行政庁の行う審判その他裁判に準ずる手続を含む。第四十二条第一をいう。第四十一条の二において同じ。)における公開の陳述は、同一の著作者のものを編集して利用する場合を除き、いずれの方法によるかを問わず、利用することができる。

(略)

(裁判手続等における複製等)
第四十一条の二 著作物は、裁判手続及び行政審判手続のために必要と認められる場合には、その必要と認められる限度において、複製することができる。ただし、当該著作物の種類及び用途並びにその複製の部数及び態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。

 著作物は、特許法(昭和三十四年法律第百二十一号)その他政令で定める法律の規定による行政審判手続であつて、電磁的記録を用いて行い、又は映像若しくは音声の送受信を伴つて行うもののために必要と認められる限度において、公衆送信(自動公衆送信の場合にあつては、送信可能化を含む。以下この項、次条及び第四十二条の二第二項において同じ。)を行い、又は受信装置を用いて公に伝達することができる。ただし、当該著作物の種類及び用途並びにその公衆送信又は伝達の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。

(裁判手続等における複製)(立法又は行政の目的のための内部資料としての複製等)
第四十二条 著作物は、裁判手続のために必要と認められる場合及び立法又は行政の目的のために内部資料として必要と認められる場合には、その必要と認められる限度において、複製する複製し、又は当該内部資料を利用する者との間で公衆送信を行い、若しくは受信装置を用いて公に伝達することができる。ただし、当該著作物の種類及び用途並びにその複製の部数及びその複製、公衆送信又は伝達の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。

 次に掲げる手続のために必要と認められる場合についても、前項と同様とする。
 行政庁の行う特許、意匠若しくは商標に関する審査、実用新案に関する技術的な評価又は国際出願(特許協力条約に基づく国際出願等に関する法律(昭和五十三年法律第三十号)第二条に規定する国際出願をいう。)に関する国際調査若しくは国際予備審査に関する手続
 行政庁の行う品種(種苗法(平成十年法律第八十三号)第二条第二項に規定する品種をいう。)に関する審査又は登録品種(同法第二十条第一項に規定する登録品種をいう。)に関する調査に関する手続
 行政庁の行う特定農林水産物等(特定農林水産物等の名称の保護に関する法律(平成二十六年法律第八十四号)第二条第二項に規定する特定農林水産物等をいう。以下この号において同じ。)についての同法第六条の登録又は外国の特定農林水産物等についての同法第二十三条第一項の指定に関する手続
 行政庁若しくは独立行政法人の行う薬事(医療機器(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(昭和三十五年法律第百四十五号)第二条第四項に規定する医療機器をいう。)及び再生医療等製品(同条第九項に規定する再生医療等製品をいう。)に関する事項を含む。以下この号において同じ。)に関する審査若しくは調査又は行政庁若しくは独立行政法人に対する薬事に関する報告に関する手続
 前各号に掲げるもののほか、これらに類するものとして政令で定める手続

(審査等の手続における複製等)
第四十二条の二 著作物は、次に掲げる手続のために必要と認められる場合には、その必要と認められる限度において、複製することができる。ただし、当該著作物の種類及び用途並びにその複製の部数及び態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。
 行政庁の行う特許、意匠若しくは商標に関する審査、実用新案に関する技術的な評価又は国際出願(特許協力条約に基づく国際出願等に関する法律(昭和五十三年法律第三十号)第二条に規定する国際出願をいう。)に関する国際調査若しくは国際予備審査に関する手続
 行政庁の行う品種(種苗法(平成十年法律第八十三号)第二条第二項に規定する品種をいう。)に関する審査又は登録品種(同法第二十条第一項に規定する登録品種をいう。)に関する調査に関する手続
 行政庁の行う特定農林水産物等(特定農林水産物等の名称の保護に関する法律(平成二十六年法律第八十四号)第二条第二項に規定する特定農林水産物等をいう。以下この号において同じ。)についての同法第六条の登録又は外国の特定農林水産物等についての同法第二十三条第一項の指定に関する手続
 行政庁若しくは独立行政法人の行う薬事(医療機器(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(昭和三十五年法律第百四十五号)第二条第四項に規定する医療機器をいう。)及び再生医療等製品(同条第九項に規定する再生医療等製品をいう。)に関する事項を含む。以下この号において同じ。)に関する審査若しくは調査又は行政庁若しくは独立行政法人に対する薬事に関する報告に関する手続
 前各号に掲げるもののほか、これらに類するものとして政令で定める手続

 著作物は、電磁的記録を用いて行い、又は映像若しくは音声の送受信を伴つて行う前項各号に掲げる手続のために必要と認められる場合には、その必要と認められる限度において、公衆送信を行い、又は受信装置を用いて公に伝達することができる。ただし、当該著作物の種類及び用途並びにその公衆送信又は伝達の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。

第四十二条の二第四十二条の三(略)

第四十二条の三第四十二条の四(略)

 権利制限についてはもう少し一般化による条文の整理ができないのかといつも思うが、ここも条文の記載そのものに問題があるわけではない。概要資料にも2024年1月1日施行予定と書かれており、当たり前の話とは思うが、民事訴訟法改正に引き擦られる事なく早めの施行が予定されているのは良い事である。

(3月19日夜の追記:この今回の著作権法改正案では、民訴法等改正による施行前の著作権法第42条の2(第454回参照)が削られているが、代わりに、3月14日に閣議決定された民事関係手続電子化法案(正式名称は「民事関係手続等における情報通信技術の活用等の推進を図るための関係法律の整備に関する法律案」、法務省のHP法律案要綱(pdf)法律案・理由(pdf)新旧対象条文(pdf)参照)により、上の第41条の2第2項に対してさらに以下の改正が加えられる。

(裁判手続等における複製等)
第四十一条の二
(略)
 著作物は、民事訴訟法(平成八年法律第百九号)その他政令で定める法律の規定による裁判手続及び特許法(昭和三十四年法律第百二十一号)その他政令で定める法律の規定による行政審判手続であつて、電磁的記録を用いて行い、又は映像若しくは音声の送受信を伴つて行うもののために必要と認められる限度において、公衆送信(自動公衆送信の場合にあつては、送信可能化を含む。以下この項、次条及び第四十二条の二第二項において同じ。)を行い、又は受信装置を用いて公に伝達することができる。ただし、当該著作物の種類及び用途並びにその公衆送信又は伝達の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。

 この民事関係手続電子化法案により、民事訴訟法による通常の民事訴訟以外の家事事件なども電子化されるが、その部分は政令に委ねるという形でこの権利制限は整理される事になる。)

(3)損害賠償額推定規定の見直し
 次に、損害賠償額推定規定の見直しは著作権法第114条を以下の様に改正するものである。

(損害の額の推定等)
第百十四条 著作権者等が故意又は過失により自己の著作権、出版権又は著作隣接権を侵害した者(以下この項において「侵害者」という。)に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、その者侵害者がその侵害の行為によつて作成された物(第一号において「侵害作成物」という。)を譲渡し、又はその侵害の行為を組成する公衆送信(自動公衆送信の場合にあつては、送信可能化を含む。同号において「侵害組成公衆送信」という。)を行つたときは、その譲渡した物の数量又はその公衆送信が公衆によつて受信されることにより作成された著作物若しくは実演等の複製物(以下この項において「受信複製物」という。)の数量(以下この項において「譲渡等数量」という。)に、著作権者等がその侵害の行為がなければ販売することができた物(受信複製物を含む。)の単位数量当たりの利益の額を乗じて得た額を、著作権者等の当該物に係る販売その他の行為を行う能力に応じた額を超えない限度において次の各号に掲げる額の合計額を、著作権者等が受けた損害の額とすることができる。ただし、譲渡等数量の全部又は一部に相当する数量を著作権者等が販売することができないとする事情があるときは、当該事情に相当する数量に応じた額を控除するものとする。
 譲渡等数量(侵害者が譲渡した侵害作成物及び侵害者が行つた侵害組成公衆送信を公衆が受信して作成した著作物又は実演等の複製物(以下この号において「侵害受信複製物」という。)の数量をいう。次号において同じ。)のうち販売等相応数量(当該著作権者等が当該侵害作成物又は当該侵害受信複製物を販売するとした場合にその販売のために必要な行為を行う能力に応じた数量をいう。同号において同じ。)を超えない部分(その全部又は一部に相当する数量を当該著作権者等が販売することができないとする事情があるときは、当該事情に相当する数量(同号において「特定数量」という。)を控除した数量)に、著作権者等がその侵害の行為がなければ販売することができた物の単位数量当たりの利益の額を乗じて得た額
 譲渡等数量のうち販売等相応数量を超える数量又は特定数量がある場合(著作権者等が、その著作権、出版権又は著作隣接権の行使をし得たと認められない場合を除く。)におけるこれらの数量に応じた当該著作権、出版権又は著作隣接権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額

(略)

 裁判所は、第一項第二号及び第三項に規定する著作権、出版権又は著作隣接権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額を認定するに当たつては、著作権者等が、自己の著作権、出版権又は著作隣接権の侵害があつたことを前提として当該著作権、出版権又は著作隣接権を侵害した者との間でこれらの権利の行使の対価について合意をするとしたならば、当該著作権者等が得ることとなるその対価を考慮することができる。

(略)

 これも、前の報告書に書かれていた通り、既に特許法の第102条などで書かれている内容を著作権法にも取り入れるもので、特に問題があるものではない。この部分も2024年1月1日施行予定である。

 今回の著作権法改正案は、全体を通して文化庁の前の報告書から想定される内容であって、何か問題のある部分が含まれているという事はない。予想としては、通常通りのスケジュールで審議が進み、今国会で成立する事になるだろう。

(2023年4月15日夜の追記:改行の誤記を1箇所直した。)

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2023年2月 5日 (日)

第471回:知財本部メタバース検討論点整理案他

 今回は、先週の知財本部のメタバース検討会の論点整理案についてと、合わせて私が出した2つのパブコメを載せておく。

(1)知財本部のメタバース検討会の論点整理案
 知財本部では、新しく設置されたメタバース上のコンテンツ等をめぐる新たな法的課題への対応に関する官民連携会議の下、知財権に関する第一分科会、アバター肖像に関する第二分科会、アバター行為に関する第三分科会がその下に作られ、この1月から2月にかけてかなり急ピッチで検討が進められている。

 第一分科会は1月13日に第1回が、2月1日に第2回が開かれており、この第2回で示された、現実空間と仮想空間を交錯する知財利用、仮想オブジェクトのデザイン等に関する権利の取扱いに関する論点の整理(たたき台)(pdf)は、たたき台とあるのでさらに検討を重ねるつもりなのだろうが、以下の様に、既にある程度の方向性が書かれている。

Ⅰ.仮想空間における知財利用と権利者の権利保護

(略)

課題1-1;現実空間のデザインの仮想空間における模倣、現実空間と仮想空間を横断した実用品デザインの活用

(略)

2.対応の方向性

①意匠法による対応については、クリエイターの創作活動に対する萎縮効果を生じさせる等の懸念もあることから、中長期的課題として慎重に検討することが適当である。

②現実空間の商品のデザインが仮想空間で模倣される事案への対応や、リアルとバーチャル双方で用いる実用品のデザイン保護への対応としては、まずは、不正競争防止法において、ネットワーク上の商品形態模倣行為を規制できるようにしていくことが適当である。

③仮想空間おいてアバターが使用する実用品等のデザインに対し、著作権による保護がどこまで及び得るかについては、応用美術の著作物性等に関する裁判例の一般的な傾向や実務の積み重ねを踏まえ、まずは考え方を整理し、その上で適切に周知を図っていくことが望ましい。

課題1-2;現実空間の標識の仮想空間における無断使用

(略)

2.対応の方向性

①仮想空間における商標の無断使用に対し、権利者側が講じることのできる実務上の対応策や、その際の留意事項等について、適切な周知を図っていくことが望まれる。

②政府においても、現実空間と仮想空間を通じた商品展開に適切に対応するよう、世界知的所有権機関(WIPO)における商品・サービスの国際分類の整備動向等を踏まえつつ、バーチャル版の商品表示に係る運用面の整備を進めることが期待される。

課題1-3;現実環境の外観の仮想空間における再現

(略)

2.対応の方向性

①現実環境の外観を仮想空間に再現しようとする場合の著作権・商標権の処理について、事業者が利用を希望する著作物・商標や利用形態について整理した上で、事業者が許諾の要否を判断する上での判断材料となるよう、現行法上の考え方等を周知していくことが求められる。

②特に、付随対象著作物の利用については、メタバース内では対象物に接近すると大写しになることとの関係や、現実環境の外観をディフォルメを伴って再現する場合の取扱いなどについて、実務や実態を踏まえつつ、まずは考え方を整理し、その上で、適切に周知を図っていくことが望ましい。

Ⅱ.メタバース上の著作物利用等に係る権利処理

(略)

課題2-1;メタバース上のイベント等における著作物のライセンス利用

(略)

2.対応の方向性

①メタバースユーザーによる著作物等の侵害利用の防止や適切な事後対応について、プラットフォーマーに求められる対応や、有効な方策等を整理し、わかりやすく示していくことが求められる。

②著作物の適切な利用について、メタバースユーザーの理解の増進を図るよう、現実空間で著作物を利用する場合との違い等も含め、留意すべき事項や必要となる手続き等について、周知・啓発等の取組を進めていくことが求められる。

③既存の仕組みがメタバースの実態に合わす、利用しづらいなど、メタバース空間内における著作物の利用や、その円滑な権利処理に関し、隘路となっている事項等がある場合において、これに適切に対応できるよう、関係者間の対話・協議の促進が図られることが望ましい。

課題2-2;仮想空間におけるユーザーの創作活動

(略)

2.対応の方向性

①クリエイティブコモンズライセンス等と同様に、メタバース内におけるUGCの利用についても、二次利用を認めるユーザーの意思表示を、当該UGCの利用条件と併せて、簡易にわかりやすく示せるような仕組みが整備され、普及されていくことが望ましい。

②著作権侵害防止化等のためにプラットフォーマーその他の事業者等が留意すべき事項や、UGCの創作活動の活性化を図る上で有効な方策(例えば、二次利用の可否をはじめ、プラットフォーム内におけるUGCの創作・利用に関するルールを利用規約で定めるなど)等について、周知を図っていくことが適当である。

課題2-3;NFT等を活用した仮想オブジェクトの取引

①仮想オブジェクトの「保有」

(略)

2.対応の方向性

①仮想オブジェクトをめぐる権利について、一般的な考え方の整理とともに、どのような法的位置付けの下に、誰が、どのような権利をもつのかを契約上明確化するなど、契約等に当たり特に留意すべき事項等について、ユーザーや事業者等へ周知していくことが求められる。

②将来的に、プラットフォームを超えた相互運用が実現した際には、仮想オブジェクトの取引をめぐるユーザー間のトラブル保護等について、プラットフォームの利用規約のみで対応できない問題等が生じ得ることも考えられることから、それらの問題への可能な対応方策(例えば、複数プラットフォーマーによる共通ルールの整備、複数プラットフォームを横断して利用されるサービスを介した対応措置など)について、相互運用性の実現に向けた国際的な議論の動向にも留意しつつ、検討していくことが必要である。

②NFT等を活用した仮想オブジェクトの二次流通等

(略)

2.検討の方向性

①UGCの利用条件を個々のクリエイター(一次創作者)に設定させるプラットフォームにおいては、その利用条件が二次流通以降の購入者に対し適切に伝わるようにするためにも、創作活動を行うユーザーに対し、例えば、クリエイティブコモンズライセンスやその他の意思表示の仕組みと連携する等により、著作物の利用条件の表示を簡易に行えるサービスを提供していくことが期待される。

②プラットフォームを超えた相互運用が実現した際に、複数プラットフォームを横断して起こる問題にどのように対応するかが課題となることから。相互運用性の実現を目指した民間事業者等による国際的フォーラムにおける議論の動向を適切にフォローするとともに、必要に応じ、我が国からも適切なルールの提案等を行っていく必要がある。

③一次創作者へのロイヤリティについては、プラットフォーム横断的なロイヤリティ収受には限界があること等を含め、クリエイター等に正しく理解されるよう、周知を行っていくことが求められる。

 ここで書かれている事は、要するに、新たな法改正による対応は不正競争防止法の改正により商品形態模倣規制をネットワーク上の仮想オブジェクトにも適用されるようにして行き、他の点については既存の法規制の周知などによるとするものである。

 この不正競争防止法の改正ポイントは、第469回で取り上げた、経産省の不正競争防止小委員会の報告書案で既に書かれていたものであり、想定通りと言えるものである。そして、この知財本部の論点整理案の注釈にも書かれている通り、1月30日に開かれた不正競争防止小委員会の第22回でほぼ原案通りのデジタル化に伴うビジネスの多様化を踏まえた不正競争防止法の在り方(案)(変更履歴有版)(pdf)が示され、とりまとめられている。

(不正競争防止法の改正については、この小委員会の下の外国公務員贈賄に関するワーキンググループも1月26日の第5回でほぼ原案通り外国公務員贈賄罪に係る規律強化に関する報告書(案)(変更履歴有版)(pdf)もとりまとめられている。)

 つまり、今年のメタバースに関する法改正による対応はこの不正競争防止法の改正に留まる事が想定されるが、知財本部のこの論点整理案にも書かれている通り、「著作権による保護は、著作物と認められるものであれば、基本的に、現実空間か仮想空間かの別を問わずに保護が及ぶこととなる」のであって、別に仮想空間におけるオブジェクトの利用は完全に自由で何をしても良いという事ではない事に注意すべきなのは無論の事である。

 この議論は、あくまで応用美術の実用品について著作物性が認められるかどうかについて微妙なケースが存在している事を前提としている。同じく、商標法においてもコンピュータプログラムの様なバーチャルな商品について指定が可能であり、商標権の保護も及び得る。これらの著作権法や商標法における例外・適用除外についても整理して良く周知して行くべきというのもその通りだろう。

 仮想オブジェクトの利用について現時点で契約に委ねるとしているのも妥当であり、ここでNFTについてどうこう言うつもりは全くないが、この論点整理案で以下の様に書かれている事は重要であり、この点の理解はもっと広められて良いと私も思う。

○仮想オブジェクトの「保有者」が持つ権利については、実態として捉えれば、
・当該仮想オブジェクトのデジタルデータにアクセスし、利用することのできる利用権が、その内容となるとともに、
・当該仮想オブジェクトのデザイン等が著作権の対象となる場合には、当該デザイン等を一定の条件内で利用できるライセンス(場合によっては、その著作権自体)が紐付けられている
ものと考えられ、仮想オブジェクトの取引等により、これらの権利が「保有者」に付与されているものと解される。なお、データの利用権は、契約に基づく債権であり、その効力は契約当事者間のみに止まる。

 他2つの分科会について、第二分科会は1月26日に第1回が開かれた所で方向性を含む論点整理案はまだ示されていないが、第三分科会の方は1月30日に第2回が開かれ、その仮想オブジェクトやアバターに対する行為、アバター間の行為をめぐるルール形成、規制措置等に関する論点の整理(たたき台)(pdf)たたき台の構成(pdf)も参照)では、対応の方向性について以下の様に書かれている。ここでは、知財との関係は薄いので以下を抜粋するに留めるが、現時点で、この様に新たな法規制を作る事はせず各プラットフォームにおける自主ルールに任せるとしているのも妥当だろう。

Ⅳ.問題事案への対応の方向性

〇以上を踏まえ、メタバースにおける問題事案への対応を効果的に推進していくために、今後さらに、プラットフォーマーが、メタバースの特性や、自らのサービスの特性に応じて、効果的な取組を自律的な創意工夫により実施することが必要であると考えられる。その際、次のような取組みを進めていくことが期待される。

1.自由と安全・安心の両立

(略)

<対応の方向性>

①ワールドごとのローカルルールの設定

〇各プラットフォームにおいて、多様なコミュニティによる多様な文化の展開を図っていく上では、利用規約によるプラットフォーム内共通のルールに加え、ワールドごとのローカルルールを設定できるようにしていくことが、有効な方策の1つとなり得ると考えられる。各ワールドに適用されるローカルルールについては、当該ワールドを訪れようとするユーザーに対し、わかりやすく表示することが望ましいと考えられる。

(略)

②子ども・未成年者の安全・安心の確保

〇ワールドごとのローカルルールは、例えば、子どもに相応しくないコンテンツを持込み不可としているワールドが明示的に示されるなど、子どもや未成年者が安心・安全に過ごせるワールドを選択的に訪問できるようにする上でも、意義が大きいものと考えられる。

〇これらに加え、各プラットフォームにおいて、それぞれの特質を踏まえつつ、子ども・未成年の保護の観点からユーザーが遵守すべき事項の明確化など、必要な対応を検討していくことが重要である。今後さらに、メタバースにおける子ども・未成年者の経済活動の取扱いなど、将来的な課題を見据えた議論が、関係者間で積み重ねられることにも期待したい。

2.プラットフォーマーの利用規約等による適切なルール形成と実効性の確保・向上

(略)

<対応の方向性>

③各プラットフォームにおけるコミュニティ基準等の整備

〇ユーザーが遵守すべき事項や、違反者への対応方針について、利用規約本文とは
別に、これと紐づくコミュニティ基準等として、具体的に、わかりやすく示していくことは有効と考えられる。これらの基準整備の事例等について、情報共有を促進していくことが求められる。

④問題発生防止・事後対応のノウハウ共有

〇メタバース事業に新規参入する事業者のために、違反事案への対処など、ルールの実効性確保を図る上で共通に必要となる事項を整理し、ガイドライン等として示していくことが求められる。

〇特に、メタバース内で起こる様々な問題事案について、当該事案のタイプやそれが生じた場合の対応措置について一定の類型化を行い、関係事業者間で事例の集積・共有を図っていくことが有効である。ここでは、例えば、通報の仕組み等をはじめ、問題事案への対応の仕組み・措置について、各プラットフォーマーが、自己のプラットフォームに適した仕組み・措置の導入を検討していけるよう、有効な方策等の情報を整理することが考えられる。

〇さらに、メタバースの事業環境を整える上では、例えば、被害者からの通報を受け被害拡大防止の措置を行うなど、問題事案への対処を適切に行ったプラットフォーマーが、プロバイダ責任制限法に基づき、生じていた問題(権利侵害)に対する損害賠償責任を免責され得ること等について、明確化が図られることが望ましい。
※プロバイダ責任制限法上の送信防止措置に該当するかの検討には、サービスの提供の態様や講じる措置に関する一定の類型化を図り、分析することが有効であると考えられる。

3.被害ユーザー自身による対抗措置や法的請求を可能とするための対応

(略)

<対応の方向性>

⑤発信者情報開示制度の運用の明確化

〇メタバース内における権利侵害事案に関しても、発信者情報開示請求制度を活用した加害者の特定を円滑に行えるよう、サービス提供の態様に応じて、どのような行為が権利の侵害といえるか、また、どのような情報の送信が権利侵害情報の送信に当たるかの検討が求められる。

〇そのためには、メタバース以外の領域で積み重ねられてきた既存の事案に関する多数の裁判例も十分に参考にした上で、サービスの提供の態様やメタバース特有の問題事案に関する事例の収集・蓄積と類型化を図ることが有効であると考えられる。

⑥海外プラットフォーマーに係る国内代表等の明確化

○日本のユーザーが海外のプラットフォーマーに対して法的な請求を行う場合や、日本の捜査当局が海外のプラットフォーマーに対して捜査の協力を求める場合に、これが円滑に行われるために必要な仕組みを設けることが有効であると考えられる。

4.国際的な動向への対応

(略)

<対応の方向性>

⑦国内議論から国際的な議論への接続

〇メタバースにおけるルール形成の在り方等に関する国内議論を進めるに当たり、国際的な議論の動向に対する情報収集の機能を高めるとともに、我が国発メタバースの発展等を期する観点から、それらの議論の成果を国際的なルール形成の中へと積極的に反映していけるよう、国際的なフォーラムへの参画その他のコミットメント体制の強化を図っていくことが必要である。

(2023年2月12日夜の追記:2月10日に第二分科会の第2回も開催され、アバターの肖像等に関する取扱いに関する論点の整理(たたき台)(pdf)が示されたので、同様に方向性の部分を抜粋してここに追記しておく。これも新たな法改正を必要とするものではないが、この論点整理案に書かれている通り、アバターを介するからと言って著作権侵害や誹謗中傷が成立しないなどという事はあり得ず、他の場合と同様の注意が必要なのは無論の事である。以下、追記の抜粋。)

Ⅰ.メタバース外の人物の肖像の無断使用への対応

(略)

課題1-1 実在の人物の肖像の写り込み

(略)

2.対応の方向性

<プラットフォーマー、関係事業者等に向けた対応>
〇メタバース空間の構築の際に付随して写り込んだ・取り込んだ肖像の扱いについて、肖像権・パブリシティ権との関係や、権利処理の要否等に関する考え方、侵害を回避するための方策等の整理を行うとともに、現場がより安心して正しく判断できるよう、メタバースプラットフォーマーや関係事業者等へ向け、ガイドライン等を通じた必要な周知を行っていくことが求められる。

(略)

課題1-2;実在する他者の肖像を模したアバター等の無断作成・無断使用

(略)

2.対応の方向性

<プラットフォーマー、関係事業者、ユーザー等に向けた対応>
〇実在の人物の容ぼうを模したアバター・NPCの無断作成・無断使用により、当該人物の権利を侵害する等の事案を防止するよう、基本的な考え方や、留意すべき事項、必要となる手続き等について整理するとともに、ガイドライン等を通じ、メタバースのプラットフォーマーや、アバター作成等のサービス事業者、ユーザーなどに向け、必要な周知を行っていくことが求められる。

<継続的な把握・検討>
〇さらに、肖像権の侵害等に当たる可能性について、著名人の肖像を用いる場合、パロディとして用いる場合など、より具体的な事案に即した考え方の整理が進められるとともに、本人の承諾なしに使用する場合の法的リスクについて現場が適切に判断できるよう、それらの考え方が示されていくことが望ましい。

(略)

Ⅱ.他者のアバターの肖像等の無断使用その他の権利侵害への対応

(略)

課題2-1;他者のアバターの肖像・デザインの無断使用

①他者のアバターのデザインを盗用したアバターの作成・使用

(略)

2.対応の方向性

<プラットフォーマー等に向けた対応>
〇アバターの肖像の第三者による不適正な利用を防ぐ上で、プラットフォーマー等において特に留意すべき事項や、講じうる対策等について、ガイドライン等を通じ、必要な周知を行っていくことが求められる。

(略)

<ユーザーに向けた対応>
〇自己のアバターのデザインを盗用したアバターの無断作成・無断使用に対し、ユーザーがとり得る対応策等について、ガイドライン等を通じ、必要な周知を行っていくことが必要である。

(略)

<アバターのライセンスモデル等における対応>
〇著作権の移転を受けず、ライセンスによりアバターを使用するユーザーが、デザイン盗用等への対抗策を自ら講じていく上では、ライセンス契約時の利用条件の設定に際しても、これを可能とするような設定としておくことが重要となる。関係団体等が作成するライセンス契約のひな型には、それらの条件設定を可能とするオプションが盛り込まれるとともに、各ひな型の解説書、又はライセンスモデル作成に関する共通的な参照文書(ガイダンス)において、それらの条件設定の意義について適切な説明がなされることが望ましい。

<継続的な把握・検討>
〇さらに、オリジナルのデザインで創作されたアバターの肖像権・パブリシティ権の取扱いについては、関連する裁判例の動向等を注視しつつ、関係者によるさらなる議論が積み重ねられ、その考え方の整理・明確化が図られることが期待される。

②アバターの肖像の無断撮影・公開

(略)

2.対応の方向性

<プラットフォーマー、ユーザー等に向けた対応>
〇実在の人物の容ぼうや創作デザインによるアバターの容ぼうが、スクリーンショットやカメラで撮影された場合においても、他者のアバターの肖像に写しとられた場合(課題1-2、課題2-1①)と同様に、肖像権・パブリシティ権、著作権等との関係をめぐる課題を生じることとなる。それらの課題と合わせ、メタバースのプラットフォーマーやユーザー等が留意すべき事項、有効な対応方策等について、ガイドライン等を通じ、必要な周知を行っていくことが求められる。

課題2ー2 他者のアバターへのなりすまし、他者のアバターののっとり等

(略)

2.対応の方向性

<プラットフォーマー等に向けた対応>
〇アバターによる他者へのなりすまし、他者のアバターののっとり等の問題事案を防ぐ上で、プラットフォーマー等において留意すべき事項や講ずべき方策等について整理し、ガイドライン等を通じ、必要な周知を行っていくことが求められる。

<継続的な把握・検討>
〇さらに、他者のアバターへのなりすまし等をはじめ、様々な問題事例の実情に即し、既存の確立した法理論のみでは十分な救済を図れていないケース等について把握するとともに、それらを踏まえ、アバターをめぐる人格的権利利益の保護のこれからの在り方について、さらなる議論が積み重ねられることが望ましい。

(略)

課題2-3 アバターに対する誹謗中傷等

(略)

2.対応の方向性
<プラットフォーマー等に向けた対応>
〇アバターに向けた誹謗中傷等の問題事案を防ぐ上で、プラットフォーマー等において留意すべき事項、講ずべき方策等について整理し、ガイドライン等を通じ、必要な周知を行っていくことが求められる。

<ユーザー等に向けた対応>
〇アバターに向けた誹謗中傷等に対し、被害者側はどのような対処が可能か、加害者側はどのような法的責任を問われる可能性があるか等の基本的な考え方について、ガイドライン等を通じ、ユーザー等向けた必要な周知を行っていくことが必要である。

<継続的な把握・検討>
〇さらに、アバターのキャラクターや容ぼう等に向けた誹謗中傷等について、名誉毀損や名誉感情侵害がどこまで成立し得るか、どのような場合であれば成立し得るかについて、引き続き裁判例の動向等を注視しつつ、考え方の整理が進められることが望まれる。

Ⅲ.アバターの実演に関する取扱い

(略)

課題3 アバターの実演に係る著作隣接権の権利処理

(略)

2.対応の方向性

<関係事業者、ユーザー等に向けた対応>
〇アバターの実演に係る権利処理が適切に行われるよう、例えば、以下のような事項について、整理ができたものから、関係事業者やユーザー等向けに周知していくことが必要である。
・自分以外のアバターの実演を配信したり、保存したりする等の活動を行う事業者やユーザー等において、特に留意すべき事項、権利侵害の防止等のために講ずべき措置等としてどのようなことがあるか。
・実演家の権利の権利者たるアバター操作者において、特に留意(理解)しておくべき事項等はあるか。

<継続的な把握・検討>
〇さらに、モーションデータの記録に実演家の録画権が及ぶかを含め、アバターの実演等に関する権利の取扱いについては、関係者による議論が積み重ねられ、その法的考え方等が明確化されることを期待したい。

(2023年3月19日の追記:3月16日に上位会議のメタバース上のコンテンツ等をめぐる新たな法的課題への対応に関する官民連携会議の第2回が開かれ(議事次第・資料参照)、各分科会の論点整理案を全てまとめた「論点整理」素案(pdf)が示されているので、ここにリンクを張っておく。)

(2023年4月29日の追記:上のメタバースに関する論点整理案について知財本部が5月7日〆切でパブコメを行っているので(知財本部の意見募集ペーパー(pdf)参照)、念のため知財計画パブコメ(第475回参照)と同じく不正競争防止法改正案による形態模倣規制のデジタル空間への適用に賛同するがそれ以上の法改正には慎重であるべきと意見を出した。)

(2023年6月11日の追記:5月23日に知財本部のHPで最終版の論点整理(pdf)が公開されたので、ここにリンクを張っておく。)

(2)文化庁・著作権分科会・法制度小委員会報告書案に対する提出パブコメ
 文化庁では、1月30日に第9回の法制度小委員会が開かれ、多少注釈などが追加されていると思うが、ほぼ原案通り報告書(pdf)概要(pdf)も参照)がとりまとめられている。

 この小委員会で出された意見募集の結果(pdf)に個人の意見も省略される事なく掲載されており、私の提出意見は前回書いた事を提出意見として整理したものだが、後で参照したくなる事もあるかも知れないと思ったので、念のためここに載せておく。

 今後は、2月7日に開催される予定の上の文化審議会・著作権分科会で(開催案内参照)、答申としてとりまとめられて、著作権法改正案が閣議決定の上国会に提出されるという流れになるだろう。また、他の小委員会の内、国際小委員会の方は1月13日の第3回報告書案(pdf)に基づいて審議経過の報告がされるのだろうが、基本政策小委員会の方はどうするつもりなのか良く分からない。

(2023年2月12日夜の追記:2月7日に文化庁で文化審議会・著作権分科会の第66回が開かれ、「デジタルトランスフォーメーション(DX)時代に対応した著作権制度・政策の在り方について」第一次答申(pdf)が原案通り了承されているので、念のためここにリンクを張っておく。基本政策小委員会については結局審議経過の報告すらなかった様である。)

(以下、文化庁提出パブコメ。)

(1)「簡素で一元的な権利処理方策と対価還元について」について
 本項目で記載されている通り、著作権者等の意思が確認できない著作物等について著作権者等からの申出があるまでの時限的な利用を認める新しい制度を創設する事に賛同する。

 法律の条文レベルではなく政省令又は運用において注意すべき事であろうが、そのDX時代への対応という目的が没却されないよう、また、制度利用の促進を図るため、新制度においては、少なくとも相談・申請から利用許可までの全手続きがネットだけで完結する様にするべきである。

 また、同様に制度利用の促進を図るため、公的な支援や授業目的公衆送信補償金制度の共通目的事業等の活用によりなるべく手数料の低廉化を図るべきである。

 そして、将来的に、利用許諾に関する公的制度が全てネットだけで完結する様に裁定制度も合理化し、裁定制度と新制度の統合を検討して行くべきである。

(2)「立法・行政・司法のデジタル化に対応した著作物等の公衆送信等について」について
 本項目で記載されている通り、立法、行政、民事・家事事件手続き等の目的のために作物等の公衆送信や公の伝達を可能とする事に賛同する。

 民事・家事事件手続等のための対応は民訴法改正の施行に合わせる事もあり得るが、その他の立法・行政目的のための公衆送信等の可能化はそれに引き擦られる事なくなるべく早く施行するべきである。

 また、刑事訴訟の電子化への対応も見越し、この機会に民事手続きのみならず裁判手続き一般のための公衆送信等を認める様にしておいた方が良いと考える。

(3)「損害賠償額の算定方法の見直しについて」について
 本項目で記載されている通り、損害賠償額の算定方法について特許法等同様の見直しを行うことに賛同する。

 損害賠償については、今後も、本報告書案の第26ページに書かれている様に、あくまで既存の填補賠償の枠内で権利者の実効的な救済を図るに留め、その限度を超える莫大な損害賠償によって創作活動を委縮させる事がないよう今後も常に留意して行くべきである。

(4)「研究目的に係る権利制限規定の検討について」について
 本項目において、上記の「簡素で一元的な権利処理方策と対価還元について」において提言されている新制度の導入を待ち、これによっても解決されない支障や新たなニーズがある場合に研究目的の権利制限についてさらに検討を行うとされている方針に賛同しない。

 確かに、研究目的という事では、現行の著作権法の各権利制限によって拾える部分もかなりあるだろうが、この問題はこれらの既存の権利制限の周知により解決されるものではないし、上記の新制度の導入により解決されるものでもない。

 その事は2019年度から2021年度の調査研究の結果によっても明らかであると考えるが、新たな知見を創造する事で文化の発展に寄与するものである研究のためであるにも関わらず、そもそも既存の権利制限に含まれない形の利用もあり得る事、そのために申請等の手続きが必要な事自体が問題なのであって、本来、この様な文化の発展に寄与する事が明らかな目的に対しては、著作権者の利益を不当に害する場合を除き、申請の様な手続きを必要とせずに利用が認められて然るべきである。

 本項目は全面的に書き改め、新制度の導入を待つ事なく、今次の法改正により速やかに欧米主要国並の一般的な研究目的の権利制限を設けるとするべきである。その際、特にアメリカ型の一般フェアユース条項による事が望ましいと考える。

(5)その他
 文化庁は、意見募集の結果について極めて恣意的にまとめた回答を出しただけで、実質的にブルーレイを私的録音録画補償金の対象とする著作権法施行令改正の閣議決定を2022年10月21日に強行した。今まで積み重ねられてきた、判例、保護利用小委員会などの審議会における議論、様々な関係者の意見の全てを愚弄する、この不当な政令改正は到底納得できるものではない。ブルーレイレコーダーとディスクを私的録音録画補償金の対象とする事について今に至るも妥当な根拠は何一つ見出せない。

 以前提出した意見の通り、私は一国民、一個人、一消費者、一利用者・ユーザーとして到底納得の行かない私的録音録画補償金の対象拡大になお断固反対する。

 集まった2406件の意見の全文を速やかに公表するとともに、自身の過ちを認め、政令を元に戻す閣議決定を行う事を私は求める。その上で、中立的な第三者による調査により、前提となっていた旧来の形の私的録音録画自体もはや時代遅れになり少なくなっているという事を示し、全関係者が参加する公開の場で議論し、私的録音録画補償金制度は歴史的役割を終えたものとして廃止するとの結論を出すべきである。

(3)総務省・プラットフォーム事業者による対応の在り方についての意見募集に対する提出パブコメ
 他に、第469回でまとめて取り上げたパブコメの内、総務省のプラットフォームサービスに関する研究会の下の誹謗中傷等の違法・有害情報への対策に関するワーキンググループの12月26日の第1回誹謗中傷等の違法・有害情報に対するプラットフォーム事業者による対応のあり方について(意見募集)(案)(pdf)によりなされていたパブコメは、必ずしも知財に関するものではないが、表現の自由との関係で重要なものであり、私も少し長めの意見を出した。これもいつも書いている事とそれほど違いはないが、念のため合わせてここに載せておく。

 この意見募集用ペーパーは表現の自由に重きを置く視点も網羅しており、特に危険な方向性が出ているとは言えないが、パブコメも終わり、じきに始まるだろうこのワーキンググループでの検討は引き続き注意して行った方が良いだろう。

(以下、総務省提出パブコメ。)

(1)1の1コンテンツモデレーションに関する透明性・アカウンタビリティの確保について
 総論について、去年の「第二次とりまとめ」に対する意見募集で提出した意見のとおりであるが、以下の意見を提出する。

 表現の自由の重要性に鑑み、ユーザの情報モラル・リテラシー向上のための活動及びプラットフォーム事業者の自主的な取組の支援を中心とした施策の推進に賛同する。

 プラットフォーム事業者の透明性・アカウンタビリティ確保のための検討をさらに進めることについても賛同するが、ここでなされるべきことはあくまで個々のユーザに自ら対処するために必要な情報と手段が与えられることであって、それを超える行政の関与はなされるべきでないことに十分留意していただきたい。

 表現の自由及び検閲の禁止の観点から、行政や政治が個々のコンテンツの内容に介入することは断じてあってはならないことである。

(2)1の2プラットフォーム事業者に求められる積極的な役割について
 上で書いた通りであるが、透明性・アカウンタビリティの確保のための方策に関する検討に加えて、プラットフォーム事業者の積極的な役割を検討することには基本的に慎重であるべきである。

 何かしらの強制力を伴う法規制によりプラットフォーム事業者の積極的な役割を義務化する事は、プラットフォーム事業者による行き過ぎた対応を招く恐れがあり、この様な手段によってはかえって表現の自由を危うくするおそれがある事を考慮するべきである。

 原則として、透明性・アカウンタビリティの確保のための取組により、プラットフォーム事業者の自主的な対応を促すべきである。

(3)2.全体の検討を通じて留意すべき事項について
 この2の項目で書かれている各点、被害者の救済、発信者の表現の自由、インターネット及びプラットフォームサービスの特性とその表現の自由との関係、自主的な取組が原則である事について十分に留意し、検討は進められるべきである。

(4)3.透明性・アカウンタビリティの確保方策の在り方について
 この3の項目で書かれている様に、特定の要件を満たすプラットフォーム事業者に対し、コンテンツモデレーションに関する運用方針の策定・公表、運用結果の公表、自己評価の実施・公表、運用方針の改定を促し、申請窓口等透明化や実施又は不実施の判断に係る理由の説明等の一定の措置を求める事について問題はないと考える。

 3の2の各項目、3の4の項目、3の5(1)、(3)の項目、3の6の項目についても同じ意見を提出する。

(5)3の1透明性・アカウンタビリティの確保が求められる事業者について
 この3の1の項目に書かれている様に、透明性・アカウンタビリティの確保は、その負担及び影響力を考えまず大規模なサービス事業者のみに求めるべきである。

(6)3の3プラットフォーム事業者による評価、運用方針の改善について
 上で書いた通り、プラットフォーム事業者による自己評価の実施・公表、運用方針の改定を促す事について問題はないと考えるが、表現の自由に与える影響などの観点から、その評価に対して一定の関与を行う公的機関を設ける事などはするべきではない。あくまで問題のある場合に明確に権限及び義務を有する行政庁の監査を可能とするに留めるべきである。

(7)3の5(2)個別のコンテンツモデレーションの実施又は不実施に関する理由について
 上で書いた通り、実施又は不実施の判断に係る理由の説明等について求める事自体に問題はないと考えるが、アカウントの停止・凍結やアカウントの再作成の制限等については、影響が大きいと考えられる事から、慎重であるべきであり、非常に悪質な場合を除き求められない事を明確化するべきである。

(8)4の1(1)権利侵害情報の流通の網羅的なモニタリングについて
 この4の1の項目で書かれている通り、プラットフォーム事業者に対し権利侵害情報の流通を網羅的にモニタリングする事を法的に義務づける事は、検閲に近い行為を強いる事となり、表現の自由や検閲の禁止の観点から問題が生じ、事業者による過度の情報削除を招く恐れが強く、表現の自由に著しい萎縮効果をもたらす恐れがある事から、決してあってはならない事である。

(9)4の1(2)繰り返し多数の権利侵害情報を投稿するアカウントのモニタリングについて
 上で書いた通り、表現の自由や検閲の禁止等の観点から、プラットフォーム事業者に対し権利侵害情報の流通をモニタリングする事を求めるべきではなく、権利侵害情報の削除等については、原則として被侵害者からの申請によるべきである。ただし、同じアカウントについて申請が繰り返しなされた場合、申請の時点で多数の権利侵害投稿がなされている場合、申請の内容を考慮すると別アカウントの投稿であるが同じ者からの同様の内容の投稿である可能性が高い場合など、非常に悪質な場合についてアカウントの停止・凍結やアカウントの再作成の制限等の対応があり得る事を明確化する事はあって良いと考えるが、これも法規制によるべきではなく、あくまでプラットフォーム事業者の透明性・アカウンタビリティを確保して行く上での自主的な取組の中での明確化に留めるべきである。

 また、プロバイダ責任制限法の解釈の余地はあるが、行政による一方的な拡大解釈は慎むべきである。

(10)4の2(1)削除請求権について
 この4の2(1)の項目で書かれている様に、一般的な投稿の削除を求める権利は、実務上あるいは学説上も明らかではなく、この様な一般的な権利の創設には慎重であるべきであり、個別には違法性がない投稿の削除を可能とする事も非常に問題が大きい事である。判例法理によって既に認められている事を明文化する事自体には反対しないが、基本的に新たな対応が必要な類型が生じているという事はなく、今のところ法改正などは必要なく、判例法理のまとめ及び事業者に対する周知で十分であると考える。

(11)4の2(2)プラットフォーム事業者による権利侵害性の有無の判断の支援について
 この4の2(2)の項目で書かれている様に、プラットフォーム事業者による権利侵害性の有無の判断を支援するための環境を整備する事自体に問題はないと考えるが、下でインターネット・ホットラインセンターなどについて書く事と同様に、新しい天下り機関の創設などは決してされるべき事ではなく、個別の投稿の内容に踏み込む事もあってはならず、基本的に慎重であるべきである。支援をする場合、権限及び義務を有する行政庁からの一般的な支援とするべきである。

 また、民事保全手続よりも簡易・迅速な、削除に特化した裁判外紛争解決手続の検討自体について反対はしないが、これは2021年のプロバイダー責任制限法改正と重なるものであり、その施行からまだほどない事から、まず2021年のプロバイダー責任制限法改正の有効性を確認するべきであり、その結果を踏まえて検討するべきである。

(12)4の2(3)行政庁からの削除要請を受けたプラットフォーム事業者の対応の明確化について
 この4の2(3)の項目で書かれている事について、インターネット・ホットラインセンターは委託先事業者であっても行政庁ではない事が留意されるべきである。相談を受ける事や事業者に自主的な対応を促す事自体に違法性があるとまでは言わないが、この半官半民の機関位置づけの明確化を検討する事自体問題である。この様な位置づけの曖昧な機関は解散されるべきであり、ある投稿について真に権利侵害があるというのであれば、警察・検察による検証可能な明確な法執行によるべきである。ここで書かれている様に、検閲の禁止や表現の自由などの観点を踏まえ、インターネット・ホットラインセンターの要請に応じる事を義務づける事などは、困難であるのは無論の事、そもそもあってはならない事である。

(13)4の3(1)プラットフォーム事業者による削除等の義務付けについて
 この4の3(1)の項目で書かれている様に、過度な削除等による表現の自由への著しい萎縮効果をもたらす恐れがある事に鑑み、投稿の削除等の措置を行うことを公法上義務付けることには、極めて慎重であるべきである。

(14)4の3(2)裁判外の請求への誠実な対応について
 上の項目に書かれている各留意点を十分に考慮し、裁判外の請求への誠実な対応についても、原則として、プラットフォーム事業者の透明性・アカウンタビリティ確保により促すべきである。

(15)5の1検討対象となる情報の範囲について
 この5の1の項目で書かれている様に、表現の自由や検閲の禁止等の基本的な権利に関する観点から、各種情報について、行政庁からの強制力を伴う削除要請等によって対応することには、極めて慎重であるべきなのは無論の事、決してあってはならない事である。

(16)5の2行政の体制や手続
 上及び下で書く通りであるが、この様な検討に乗じて新たな天下り機関を創設する事などあってはならない事である。

(17)5の3相談対応の充実について
 この5の3の項目に書かれている通り、インターネット上の違法・有害情報に関する相談対応の充実を図ることが重要であるが、この様な相談窓口の強化にあたり天下りを前提とする事があってはならない。

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2023年1月 9日 (月)

第470回:文化庁・著作権分科会・法制度小委員会報告書案パブコメ募集(1月18日〆切)

 概要としては前回書いた通りだが、著作権法改正に絡むものとして、1月18日〆切でパブコメに掛かっている(文化庁HPの意見募集ページ、電子政府HPの意見募集ページ参照)、文化庁の文化審議会・著作権分科会・法制度小委員会の報告書案について、ここでもう少し詳しく書いておきたいと思う。

 この報告書案(pdf)の概要としては、前回作った抜粋を以下に再掲するが、これをさらに要約すると、(1)法改正により拡大集中ライセンス制度に類似した新制度を導入する、(2)法改正により立法、行政又は司法目的の権利制限を拡大し必要な資料の公衆送信や公の伝達を可能とする、(3)法改正により損害賠償の算定方法に関する条項を特許法等と同様のものとする、(4)研究目的の権利制限については法改正せず導入しない、となるだろう。

  • 簡素で一元的な権利処理方策と対価還元について(法制小委報告書案第3~16ページ):「著作物等の利用の可否や条件に関する著作権者等の『意思』が確認できない(『意思の表示』がされていない)著作物等について、一定の手続を経て、使用料相当額を支払うことにより、著作権者等からの申出があるまでの間の当該著作物等の時限的な利用を認める新しい制度・・・を創設する」、「文化庁長官による指定等の関与を受けた窓口組織が受付や要件の確認、利用料の算出等の手続を担う」、「時限的な利用の最終的な決定やその取消しは文化庁長官の行政処分による」
  • 立法・行政・司法のデジタル化に対応した著作物等の公衆送信等について(同第17~18ページ):「立法又は行政目的のために内部資料として必要となる著作物等の公衆送信や公の伝達を可能とすることが必要」、「特許審査等の行政手続及び行政庁の行う審判その他裁判に準ずる手続に必要となる著作物等の公衆送信や公の伝達を可能とする必要がある」、「民事訴訟以外の民事・家事事件手続等についても原則として電子化・オンライン化されることに伴い、適正な裁判の実施や裁判を受ける権利の保障の観点から、当該民事・家事事件手続等に必要となる著作物等の公衆送信や公の伝達を可能とする必要がある」
  • 損害賠償額の算定方法の見直しについて(同第19~26ページ):「侵害者の譲渡等数量のうち、著作権者等の販売等の能力を超える、又は著作権者等が販売することができないとする事情があるとして賠償が否定される部分について、侵害者にライセンスしたとみなして、ライセンス料相当額の損害賠償を請求できることとする」、「ライセンス料相当額による損害賠償額の算定に当たり、著作権侵害があったことを前提として交渉した場合に決まるであろう額を考慮できる旨を明記する」
  • 研究目的に係る権利制限規定の検討について(同第27~28ページ):「引き続き著作権法第32条、第38条等をはじめとする著作権制度の普及啓発の実施、令和3年改正による図書館関係の権利制限規定の見直し等の運用状況をフォローするとともに、現在検討を進めている簡素で一元的な権利処理方策と対価還元に係る新しい権利処理方策による対応を行い、これによる課題解消の可能性や、さらにそれらによっても解決されない支障や新たなニーズがある場合に、必要に応じて検討を行うこととする」

 まず、(1)拡大集中ライセンス制度に類似した新制度の導入については、第3~16ページの「Ⅱ.簡素で一元的な権利処理方策と対価還元について」で書かれているが、一昨年の中間まとめ(pdf)の後も検討が続けられて来たものであり、第5ページから、上で抜き出した事が書かれている制度化の骨子に続いて、具体的な新制度の制度設計イメージとして以下の様な事が書かれている。

(ア)新制度の要件

○次の(Ⅰ)、(Ⅱ)を新制度による著作物の利用を可能とする要件とする。

(Ⅰ)以下に掲げる要件を全て満たすこと。

(ⅰ)公表された著作物又は相当期間にわたり公衆に提供され、若しくは提示されている事実が明らかである著作物であること。(新制度の創設前に創作され、公表された著作物についても新制度の対象とする。)

(ⅱ)以下の判断プロセスによって著作権者等の著作物の利用の可否や条件等に係る「意思」が確認できないこと。
①集中管理されている著作物→新制度の対象外
↓(集中管理されていない)
②利用の可否や条件等が明示されている著作物
(オプトアウトが示されている著作物を含む)→新制度の対象外
↓(明示されていない)
③-1著作権者等に係る情報がない・連絡不能→新制度の対象
③-2著作権者等に係る情報がある場合は連絡を試みて利用の可否や条件を確認
※②の段階で利用の可否等の明示がある場合は個別の連絡をするまでもなく対象外
↓(連絡後)
④-1返答(交渉の意向等を含む)がある→新制度の対象外
④-2一定期間返答がない→新制度の対象

※①~④について、効果が時限的であり申出により利用を止められることを踏まえ、著作物等、公式ウェブサイト、データベース、検索エンジン等を活用したより短期間となる手続とする。
※②について、新制度の対象となる著作物となるか、ならないかの判断にあたって、アウトオブコマースについては、過去に公表された時点で示されている「複製禁止・転載禁止」の記載のみをもって判断すべきではないとの意見があった。過去の時点での利用の可否が示されているものの、現在市場に流通していないなどにより現在の意思が確認できない場合の扱いについては、実態等を踏まえて引き続き今後の検討課題とする。なお、裁定制度の活用を踏まえ、その手続を迅速化・簡素化することによる利用円滑化を図ることとする。

(ⅲ)著作権者等の利益を不当に害したり、著作者の意向に反するといったことが明らかであると認められるときに該当しないこと。
※翻案利用も対象とするが、人格的利益についても一定の配慮がなされるようにする。

(Ⅱ)使用料相当額に当たる利用料を支払うこと。

○なお、(Ⅰ)、(Ⅱ)の手続については、窓口組織による簡素な手続を想定。

(イ)新制度における法的効果

○利用期間の上限内、かつ、著作権者等からの申出があるまでの間の時限的な利用(申出後の一定期間の利用を含む。翻案利用を含む。)を可能とする。

○著作権者等からの申出の機会を確保するため、時限的な利用が決定したときは、その旨、広く公表することとする。

【新制度の流れ】

○利用者が、その利用したい著作物について、利用の可否等の著作権者の「意思」を探索し、上述の(ア)(Ⅰ)の要件に該当することを疎明する資料を窓口組織に提出する。窓口組織においては、その確認や助言が行われる。

○窓口組織において要件の確認、利用料の算出を行い、文化庁長官に資料を送付のうえ、文化庁長官による時限的利用の決定が行われる。この決定に基づく著作物の利用について広く公表を行う。

○利用者は、決定通知と併せて示された利用料を支払うことで、時限的な利用を開始できる。

○著作権者の申出に基づき、窓口組織が本人確認等を行い、利用料の一部が著作権者に支払われる。著作権者はその後、利用者とのライセンス交渉等を経て利用許諾を行うことができる。

○時限的でない利用を望む利用者は、裁定制度に申請し、裁定制度による利用に切り替えることとする。

【図:新制度イメージ】
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(ウ)窓口組織による新制度の事務の実施

○手続の迅速化・簡素化を図りつつ、より適正な手続とするため、文化庁長官による指定等の一定の関与を受けた窓口組織が、新制度の事務を担う。また、裁定制度に係る手続についても、利用者・権利者双方の負担軽減の観点から窓口組織の活用を図る。

・・・

○窓口組織の運営や必要な体制整備等については、著作権に関して知見があり、公益性のある団体などを念頭に体制整備を行う。また、利用者からの手数料収入を充てることに加え、公的な支援や授業目的公衆送信補償金制度の共通目的事業等の活用を検討する。

 管理団体の法定独占が存在せず、著作物の管理がかなりばらばらである日本の現状を考えると、特定の団体に第3者の権利までライセンスさせるいわゆる拡大集中ライセンス制度の導入が難しいだろう事は想定されていたので、これもぎりぎりの妥協の産物という事になるだろう。それにしても、この報告書案に書かれている日本の新制度は、窓口組織により運用されるが、対象となるのは著作権者に関する情報がないが連絡がつかない場合に限られ、文化庁による決定を前提とし、認められるのも事後的に著作権者からの申し出により停止できる時限的利用と、かなりトリッキーかつ限定的なものになっている。

 上で書かれている事と同じだが、第15ページにも書かれている裁定制度との違いの要点を箇条書きにしてまとめると以下の様になる。

○裁定制度(現著作権法第67条以下)
・対象:著作権者不明等の場合(「著作権者の不明その他の理由により相当な努力を払つてもその著作権者と連絡することができない場合として政令で定める場合」)
・効果:時限的でない利用も可

○新制度
・対象:著作物の利用の可否に係る著作権者等の意思が明らかでない(確認できない)場合
・効果:著作権者等からの申出により利用が停止できる時限的な利用のみ

 要するに、裁定制度と対象と効果で違いのある新制度をどうにかひねり出した格好であり、時限的な利用のみしか認められないとは言え、この新制度は著作権の利用許諾の容易化・簡素化を多少なりとも図ろうとするものとは言えるだろう。ただし、それも制度の運用次第である事が注意されなくてはならないだろうし、DX時代への対応というなら、少なくとも相談・申請から利用許可までの全手続きがネットだけで完結する様にしなければ、結局制度の利用が進まないという事になりかねない。

 また、新制度の申請者から手数料を取るなとまでは言えないだろうが、公的な支援や授業目的公衆送信補償金制度の共通目的事業等の活用によりなるべく低廉化を図った方が良いのは無論の事である。

 そして、第15~16ページに書かれている様に、裁定制度の事務の一部を窓口組織に委ね、著作物の利用許諾に関する相談や手続きの窓口を一元化する事も重要である。将来的には、利用許諾に関する公的制度が全てネットだけで完結する様に裁定制度も合理化して両制度の統合を検討して行くべきだろう。

 次に、(2)立法、行政又は司法目的の権利制限の拡大については、第17~18ページの「Ⅲ.立法・行政・司法のデジタル化に対応した著作物等の公衆送信等について」に書かれている。

 この部分で書かれている事は、上の概要でも抜き出した通りだが、現在「複製」しか対象になっていない著作権法第42条の立法・行政・司法における利用のための権利制限(ただし、報告書案にも書かれている通り、また、第454回で取り上げた通り、去年の民訴法等改正により、民事訴訟手続きについて公衆送信のための第42条の2が公布の日から4年以内に施行される予定となっている)について、公衆送信等への拡大を行うとするものであり、遅きに失した感すらあるが、立法・行政・司法のデジタル化の進展を考えれば当然の改正である。

 条文作成のテクニカルな問題となるが、民事訴訟以外の民事・家事事件手続等における電子化・オンライン化への対応はともかく(これは民訴法等改正検討の際に漏れていたという方が正確ではないかと思うが)、他の立法・行政目的、特許審査等や各種審判手続等のための公衆送信等の可能化はそれに引き擦られない様になるべく早く施行するべきだろう。また、将来的に刑事訴訟の電子化も進むだろう事を考え、この機会に裁判手続き一般で必要な場合の公衆送信等を認める様にしておいた方が良いのではないだろうか。

 (3)損害賠償の算定方法の見直しの点が一番マニアックな点だと思うが、第19~26ページの「Ⅳ.損害賠償額の算定方法の見直しについて」で書かれているのは、結論としては、第23ページに以下の通り書かれている様に、現行の著作権法第114条第1項を特許法等に合わせるものである。

○以上を踏まえると、特許法の令和元年改正による見直しは、著作権法においても当てはまるものであり、その見直しの意義・効果もあると考えられることから、著作権法においても、以下のとおり、同様の見直しを行うこととする。

(i)侵害者の譲渡等数量のうち、著作権者等の販売等の能力を超える、又は著作権者等が販売することができないとする事情があるとして賠償が否定される部分について、侵害者にライセンスしたとみなして、ライセンス料相当額の損害賠償を請求できることとする。

(ii)ライセンス料相当額による損害賠償額の算定に当たり、著作権侵害があったことを前提として交渉した場合に決まるであろう額を考慮できる旨を明記する。

 特許法の改正などを踏まえると、これも自然な法改正であって、アメリカにおける法定賠償制度の様に箆棒な損害賠償の算定が可能となるというものではなく、特に問題があるという事はないだろう。

 また、第26ページに、創作活動が委縮しない配慮について以下の様に書かれているが、この様に、損害賠償についてはあくまで既存の填補賠償の枠内で権利者の実効的な救済を図るに留めるべきであり、その限度を超える莫大な損害賠償によって創作活動を委縮させる事がないよう留意する事は常に重要である。

 最後に、私がこの報告書案で最もいまいちだと思う点が、(4)研究目的の権利制限を設けないとした点である。この様な権利制限をなるべく入れたくない文化庁の気持ちが表れているのだろう、第27~28ページの「Ⅴ.研究目的に係る権利制限規定の検討について」は非常に内容の薄いものになっている。

 この中で、著作権法第32条(引用)や第38条(営利を目的としない上演等)などの周知、許諾手続きの問題、今後創設されるだろう上の拡大集中ライセンス類似の新制度に寄せ、この新制度によっても解決されない支障や新たなニーズがある場合に必要に応じて検討を行うこととするとしたのは、新しい権利制限をなるべく入れまいとする文化庁の作文であって全く頂けないものである。

 確かに、研究目的という事では、現行の著作権法の第30条の4(著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない利用)、第32条(引用)、第38条(営利を目的としない上演等)、第47条の5(電子計算機による情報処理及びその結果の提供に付随する軽微利用等)などで拾える部分もかなりあるだろうが、この問題はこれらの既存の権利制限の周知により解決されるものではないし、拡大集中ライセンス制度に類似した制度の導入により解決されるものでもない。

 新たな知見を創造する事で文化の発展に寄与するものである研究のためであるにも関わらず、そもそも既存の権利制限に含まれない形の利用もあり得る事、そのために申請等の手続きが必要な事自体が問題なのであって、本来、この様な文化の発展に寄与する事が明らかな目的に対しては、著作権者の利益を不当に害する場合を除き、申請の様な手続きを必要とせずに利用が認められて然るべきなのである。

 その事は、3年に渡る研究目的の著作物の利用に関する調査研究の2019年度報告書2020年度報告書2021年度報告書から文化庁のいつものためにする誘導を除き虚心坦懐に事実を見れば明らかだろうと思う。アメリカ並の一般フェアユース条項を入れるべきとの考えにも変わりはないが、こまで一足飛びに行かなくとも、欧州各国の様な非営利の研究目的に対する権利制限はすぐにも入れた方が良いものと私は考えている。

 今回の報告書案は、全体としては、利用許諾の容易化のために新制度を導入するとともに、立法、行政又は司法目的の権利制限を拡充するといった内容のであり、その限りにおいて特に大きな問題はないが、ここで書いた事を整理して私は意見を出すつもりである。なお、パブコメの対象ではない事は分かっているが、余りにも大きな問題を含むブルーレイ私的録音録画補償金問題について、今回のパブコメでも合わせて繰り返し意見を書いておきたいとも思っている。

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2022年12月29日 (木)

第469回:2022年の終わりに(各知財法改正関係報告書案パブコメ)

 国会も役所も休みに入り、今年のイベントも一通り終わったと思うので、ここで各省庁の知財政策に関する検討状況をまとめておきたいと思う。

(1)文化庁の各小委員会と報告書案パブコメ

 まず、文化庁の文化審議会・著作権分科会は、この12月にも持ち回り開催で、図書館等公衆送信補償金政令案に関する答申がされている。

 著作権分科会の下の各小委員会について、ブルーレイへの私的録音録画補償金の対象拡大パブコメの結果概要が報告された(第467回参照)、対価還元策などを検討している基本政策小委員会では12月21日分野横断権利情報データベースに関する研究会報告書(pdf)の報告がされたり、国際的な著作権保護に関する検討をしている国際小委員会では11月21日文化庁の海外における著作権保護の推進(pdf)の報告などがされているが、これらの小委員会の報告書案はまだ出ていない。

 中でも今年最も数多く開催されていた小委員会は、法制度小委員会で、12月26日報告書案(pdf)概要(pdf))が示され、1月18日〆切でパブコメに掛かっている(文化庁HPの意見募集ページ、電子政府HPの意見募集ページ1参照)。

 この法制度小委員会の報告書案については次回年明けに内容についてもう少し細かく取り上げたいと思っているが、その4つのポイントについて結論だけの抜粋を作ると以下の様になる。

  • 簡素で一元的な権利処理方策と対価還元について(法制小委報告書案第3~16ページ):「著作物等の利用の可否や条件に関する著作権者等の『意思』が確認できない(『意思の表示』がされていない)著作物等について、一定の手続を経て、使用料相当額を支払うことにより、著作権者等からの申出があるまでの間の当該著作物等の時限的な利用を認める新しい制度・・・を創設する」、「文化庁長官による指定等の関与を受けた窓口組織が受付や要件の確認、利用料の算出等の手続を担う」、「時限的な利用の最終的な決定やその取消しは文化庁長官の行政処分による」
  • 立法・行政・司法のデジタル化に対応した著作物等の公衆送信等について(同第17~18ページ):「立法又は行政目的のために内部資料として必要となる著作物等の公衆送信や公の伝達を可能とすることが必要」、「特許審査等の行政手続及び行政庁の行う審判その他裁判に準ずる手続に必要となる著作物等の公衆送信や公の伝達を可能とする必要がある」、「民事訴訟以外の民事・家事事件手続等についても原則として電子化・オンライン化されることに伴い、適正な裁判の実施や裁判を受ける権利の保障の観点から、当該民事・家事事件手続等に必要となる著作物等の公衆送信や公の伝達を可能とする必要がある」
  • 損害賠償額の算定方法の見直しについて(同第19~26ページ):「侵害者の譲渡等数量のうち、著作権者等の販売等の能力を超える、又は著作権者等が販売することができないとする事情があるとして賠償が否定される部分について、侵害者にライセンスしたとみなして、ライセンス料相当額の損害賠償を請求できることとする」、「ライセンス料相当額による損害賠償額の算定に当たり、著作権侵害があったことを前提として交渉した場合に決まるであろう額を考慮できる旨を明記する」
  • 研究目的に係る権利制限規定の検討について(同第27~28ページ):「引き続き著作権法第32条、第38条等をはじめとする著作権制度の普及啓発の実施、令和3年改正による図書館関係の権利制限規定の見直し等の運用状況をフォローするとともに、現在検討を進めている簡素で一元的な権利処理方策と対価還元に係る新しい権利処理方策による対応を行い、これによる課題解消の可能性や、さらにそれらによっても解決されない支障や新たなニーズがある場合に、必要に応じて検討を行うこととする」

(2)特許庁の各小委員会と報告書案パブコメ

 次に、特許庁で、産業構造審議会・知的財産分科会の下、各小委員会が開催されている。

 特許制度小委員会では、12月19日までの検討で示された報告書案の知財活用促進に向けた特許制度の在り方(案)(pdf)が1月20日〆切でパブコメに掛かっている(特許庁HPの意見募集ページ1、電子政府HPの意見募集ページ2参照)。

 商標制度小委員会では、12月23日までの検討で示された報告書案の商標を活用したブランド戦略展開に向けた商標制度の見直しについて(案)(pdf)が1月24日〆切でパブコメに掛かっている(特許庁の意見募集ページ2、電子政府HPの意見募集ページ3参照)。

 意匠制度小委員会では、12月7日までの検討で示された報告書案の新規性喪失の例外適用手続に関する意匠制度の見直しについて(案)(pdf)が1月12日〆切でパブコメに掛かっている(特許庁の意見募集ページ3、電子政府HPの意見募集ページ4参照)。

 ほぼ制度ユーザにしか関係しないので細かな説明は省略するが、特許庁からパブコメに掛かっている各報告書案に含まれている法改正事項の概要を抜粋として作ると以下の様になる。

  • 送達制度の見直し(特許小委報告書案第10~15ページ):「出願人等が出願ソフトを立ち上げた時に、特許庁の受付サーバに発送書類が格納された旨の通知が送付される」という「案1を基本として検討を進めることが適当」、「送達の効力発生までの期間については『10日間』とする」、「公示送達の方法についても、デジタル化を促進する観点から、特許公報への掲載を廃止し、特許庁ホームページに掲載することにより実施する方向で検討を進めることが適当」、「戦争やコロナ禍の影響により現実に国際郵便の引受けが停止され、当該国に対して航空書留郵便等に付する発送ができない状況が長期間継続した場合には、公示送達を実施することができるよう、公示送達の要件を見直す方向で検討を進めることが適当」
  • 書面手続デジタル化(同第16~19ページ):「書面手続デジタル化に向けた関係手続整備を進めることが適当」、「優先権証明書の写しの提出を許容するとともに、オンライン提出を可能とすることが適当」
  • 裁定制度の閲覧制限導入(同第20~21ページ):「裁定関係書類のうち営業秘密が記載された書類は、閲覧等を制限可能とすることが適当」
  • 意匠の新規性喪失の例外適用手続(意匠小委報告書案第5~9ページ):「法定期間(出願から30日)内に提出した最先の公開についての証明書に基づき、それ以後に意匠登録を受ける権利を有する者等の行為に起因して公開された同一又は類似の意匠についても新規性喪失の例外規定の適用を受けられる」という「②の案において、『証明書により証明した意匠の公開時以後に公開された意匠』の要件を『公開時以後』ではなく『公開日以後』とする方向性で意匠の新規性喪失の例外規定の適用手続を緩和することが適当」
  • 他人の氏名を含む商標の登録要件緩和(商標小委報告書案第5~10ページ):「本規定の『他人の氏名』に一定の知名度の要件を設けること、また、無関係な者による悪意の出願等の濫用的な出願の防止のため、出願人側の事情(例えば、出願することに正当な理由があるか等)を考慮する要件を課すことが適当」
  • コンセント制度の導入(同第11~17ページ):「先行登録商標の権利者の同意があってもなお出所混同のおそれがある場合には登録を認めない『留保型コンセント』の導入が適当」、「当事者間における混同防止表示の請求や不正使用取消審判請求の規定を設けることが適当」
  • Madride Filingにより商標の国際登録出願をする際の本国官庁手数料(同第18~19ページ):「本国官庁手数料について、出願人がeFilingを利用して国際登録出願をしようとする場合に限り、他の手数料と一括でスイスフランにより国際事務局へ納付することを可能とするため、商標法について所要の手当をすることが適当」

(3)経産省の不正競争防止小委員会と報告書案パブコメ

 経産省の不正競争防止小委員会では、第463回で取り上げた中間報告の後、外国公務員贈賄に関するワーキンググループによる検討と並行して、各論点の検討が続けられ、その報告書案としてデジタル化に伴うビジネスの多様化を踏まえた不正競争防止法の在り方(案)(pdf)外国公務員贈賄罪に係る規律強化に関する報告書(案)(pdf)が、それぞれ1月19日と1月17日〆切でパブコメに掛かっている(電子政府HPの意見募集ページ5参照)。

 これらの不正競争防止法改正に関する報告書案についてもここで簡単に書くに留めるが、同様にポイントの抜粋により概要を作ると以下の様になる。

  • デジタル時代におけるデザインの保護(形態模倣商品の提供行為)(不競小委報告書案第7~10ページ):「不競法第2条第1項第3号に規定する形態模倣商品の提供行為にも『電気通信回線を通じて提供』する行為を追加することが適切」
  • 限定提供データの規律の見直し(同第11~14ページ):「『秘密として管理されているものを除く」要件(不競法第2 条第 7 項)に関する課題については、『秘密として管理されているものを除く』要件を、『営業秘密を除く』と改める、又は『秘密として管理されているものを除く』要件を削除することが適切」
  • 渉外事案に係る国際裁判管轄及び不正競争防止法の適用範囲に関する規定整備(同第15~17ページ):「国際裁判管轄に関する規定の整備については、渉外的な営業秘密侵害事案に関し、立法措置が可能であれば、日本の裁判所に管轄を認めるとする競合管轄規定を設ける方向で検討を進めることが適切」、「不競法の適用範囲については、国内における営業秘密侵害事案と同様に政策的保護が必要となる渉外的な営業秘密侵害事案に関し、法の適用に関する通則法による準拠法の選択にかかわらず直接に適用される(法の適用に関する通則法よりも優先する)規定を設けることにつき関係省庁とともに引き続き検討した上で、立法措置が可能であれば、当該立法措置の範囲が国際裁判管轄と併せて適切となるよう検討を行うことが適切」
  • 損害賠償額算定規定の見直し(同第18~20ページ):「不競法第5条第1項については、営業秘密に関し『技術上の秘密』に限定されている対象情報を営業秘密全般に拡充し、さらに『物を譲渡』した場合のみを想定している要件をデータや役務を提供している場合にも拡充することが適切」、「特許法と同様、被侵害者の生産、販売及び役務提供能力を超える部分の損害の認定規定を追加することが適切」、「同条第3項については、『使用』以外の行為が含まれる点を明確化するために、不競法第2条第1項各号の不正競争行為が全て対象となるよう規定することが適切」、「特許法と同様、不正競争があったことを前提として交渉した場合に決まるであろう額を考慮できる旨の規定を追加することが適切」
  • 使用等の推定規定の拡充(同第21~26ページ):「不競法第5条の2の対象情報については、対象情報を営業秘密全般へと拡充することが適切」、「対象類型について、正当取得類型(不競法第2条第1項第7号)への拡充については、刑事規律における『領得』行為(不競法第21条第1項第3号)が介在している場合に限り適用対象とする等、営業秘密保有者から営業秘密を示された者への一定の配慮措置を講じることが適切」、「取得時善意無重過失転得類型(不競法第2条第1項第6号及び第9号)への拡充については、不正開示行為等の介在について悪意重過失に転じている場合に限り適用対象とすることを前提とし、その上で、営業秘密が記録された記録媒体等を消去・廃棄せずに保持している場合に限定する等、一定の配慮措置を講じることが適切」、「被告が保持することとなる対象は、①『営業秘密記録媒体等』・『営業秘密が化体された物件』(不競法第21条第1項第3号イ参照)及び、②営業秘密がアップロードされているサーバー等のURLとすることが適切」、「不競法第5条の2の限定提供データへの拡充(限定提供データにも適用可能とすること及びその範囲)については、営業秘密同様、技術上及び営業上の情報を対象とし、不正取得類型(不競法第2条第1項第11号)、取得時悪意転得類型(同項第12号及び第15号)を対象とすることが適切」、「正当取得類型(同項第14号)については、営業秘密と同様に「領得」行為が介在している場合に限り適用対象とする等、一定の配慮措置を講じること、また、取得時善意転得類型(同項第13号及び第16号)については、使用行為が不正競争行為の対象となっていないことから、適用の対象外とすることが適切」
  • 営業秘密及び限定提供データに関するライセンシーの保護制度の創設(同第27~29ページ):「特許法等と同様の制度措置を行うことへの潜在的なニーズは存在するものの、現時点では実際のトラブル事例が顕在化していないことから、実務の動向を注視し、取り得る措置について、関係省庁等と調整しつつ、引き続き検討を継続していく」
  • 商標法のコンセント制度導入を受けた適用除外規定について(第30~32ページ):「商標法へのコンセント制度導入により後行商標が登録され、その後、先行商標又は後行商標が周知又は著名となった場合に、後行商標権者又は先行商標権者が不正の目的でなくその登録商標を商品等表示として使用等する行為を商品等表示に係る不正競争の適用除外とする規定を追加することが適切」、「不競法第19条第2項の規定を参考に、コンセント制度により後行商標が登録され、その後、先行商標又は後行商標が周知又は著名となった場合、自己の商品又は営業との混同を防ぐために適当な表示を付すべきことを請求することができる規定を追加することが適切」
  • 外国公務員贈賄罪に係る規律強化(外国贈賄WG報告書案第4~25ページ):「自然人に対する罰金額の上限を1,000万円~3,000万円、懲役刑の長期を5年超~10年に引き上げる」、「法人に対する罰金額の上限を5億円~10億円に引き上げる」、「刑訴法250条の例外を設けることは適切でないが、仮に懲役刑の長期が10年に引き上げられるならば、その結果として公訴時効期間が7年に延長となり勧告に対応することが可能」、「日本法人の外国人従業員が国外で単独で贈賄を行った場合について、当該外国人従業員を処罰し得る規律を創設し、法人に対する適用管轄を拡大するために、『●条の罪は、日本国内に主たる事務所を有する法人の代表者、代理人、使用人その他の従業者であって、その法人の業務に関し、日本国外において罪を犯した日本国民以外の者にも適用する』などといった規定を創設する方向性が適切」

(4)総務省の各検討会とプラットフォームの誹謗中傷対応に関するパブコメ

 総務省では、第463回で取り上げた2つの報告書案に関し、9月16日にインターネット上の海賊版サイトへのアクセス抑止方策に関する検討会現状とりまとめ(pdf)(総務省HPのリリース1参照)、8月25日にプラットフォームサービスに関する研究会第二次とりまとめ(pdf)(総務省HPのリリース2参照)がそれぞれ取りまとめられてパブコメ結果とともに公表されている。その後、プラットフォームサービスに関する研究会の下に設けられた誹謗中傷等の違法・有害情報への対策に関するワーキンググループの第1回が12月26日に開催され、プラットフォーム事業者による対応の在り方についての意見募集が1月26日〆切で行われている(電子政府HPの意見募集ページ7参照)。このパブコメはそのタイトルが示す通り誹謗中傷対策に関するものであり、今の所国内でそれほど危うい事が検討される気はしないが、表現の自由との関係でこの総務省の検討は今後も注視して行くべきものだろう。

(5)農水省、知財本部その他

 農水省では、例年通り、重要な形質の指定に関し、農業資材審議会・種苗分科会が12月9日に開催されている。これも第463回で触れた事の続きとなるが、種苗法関連では、12月2日に、農水省の海外流出防止に向けた農産物の知的財産管理に関する検討会我が国における育成者権管理機関のあり方について(pdf)がとりまとめられており、その中で育成者権管理機関の設立が提言されている。

 また、これも細かな説明は省略するが、農水省の地理的表示法HP地理的表示保護制度の運用見直し(pdf)に書かれている通り、施行規則(pdf)審査要領(pdf)の改正により、11月1日施行で登録後の義務の簡素化や審査基準の柔軟化などが行われている。

 知財本部では、メタバース上のコンテンツ等をめぐる新たな法的課題への対応に関する官民連携会議という有識者会議が新たに立ち上がっている。今ここでメタバースについて何か政策的に有意な議論ができるかどうか甚だ疑問だが、3つの分科会が作られ、それぞれ、第一分科会で、現実空間と仮想空間を交錯する知財利用、仮想オブジェクトのデザイン等に関する権利の取扱いについて、第二分科会で、アバターの肖像等に関する取扱いについて、第三分科会で、仮想オブジェクトやアバターに対する行為、アバター間の行為等をめぐるルールの形成、規制措置等の取扱いについて検討が行われる予定になっている。

 最後に、経済安全保障法についても書いておくと、内閣官房で経済安全保障推進会議や、内閣府で経済安全保障法制に関する有識者会議が引き続き開催されているが、法律の成立後、新秘密特許(非公開)制度に関する運用の詳細についてこれらの会議で検討された様子はない。

 これで今年も各省庁の報告書案がほぼ出揃い、来年の知財法改正のメニューが大体分かった事になる。想定される法改正の内容自体に特に大きな問題はないが、上でも書いた通り、文化庁の報告書案については回を分けてもう少し詳しい事を書くつもりである。

 文化庁がまた暴走してブルーレイに私的録音録画補償金の対象を拡大する政令改正を強行するなど今年も碌でもない年だった。いつもの口上となるが、政官業に巣食う全ての利権屋に悪い年を、そして、このブログを読んで下さっている方々に心からの感謝を。

(2022年1月22日夜の追記:意見募集ページを見れば分かる事だが、総務省の意見募集は1月27日0時〆切で、27日と書くより26日〆切と書いておいた方が良いと思ったので上の日付を修正した。)

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2022年10月 9日 (日)

第467回:10月5日の文化庁・基本政策小委員会で出された、ブルーレイへの私的録音録画補償金拡大に関する意見募集の結果概要とそれに対する文化庁の考え方について

 実質的にブルーレイへ私的録音録画補償金の対象を拡大しようとする政令案に関するパブコメの後(パブコメの内容については第465回、私の提出意見は第466回参照)、文化庁は、どこの審議会でも話をしないのはまずいと思ったのか、唐突に、文化審議会・著作権分科会・基本政策小委員会の10月5日に開かれた今年度第1回著作権法施行令の一部を改正する政令案に係るパブリックコメントに対する提出意見の概要と文化庁の考え方(案)(pdf)を出して来た。

 この文化庁の考え方は、やはり今までの経緯や議論を完全に無視し、権利者団体だけにおもねり、勝手かつ乱暴極まる法令・制度・判例解釈を垂れ流している箸にも棒にもかからないものであって、引用するのもバカバカしいが、その中から以下に幾つかピックアップしておく。

意見の概要1
 ブルーレイディスクレコーダーが市場に出てから、前回の対象機器の追加から、平成23年の知的財産高等裁判所の判決が出てから、文化審議会著作権分科会で議論をしていた時から多く時間が経過しているにもかかわらず今回対応することに疑問。

文化庁の考え方1
 私的録音録画補償金制度の在り方に関しては、長年当事者を含めた関係者による議論が継続してきたところです。
 こうした中、知的財産推進計画2020において、新たな対価還元策が実現するまでの過渡的な措置として、私的録音録画の実態等に応じた具体的な対象機器等の特定について、可能な限り早期に必要な措置を講ずることとされました。
 これに関して、令和2年に関係府省庁で共同し、私的目的の録音・録画に係る実態を把握するための調査を実施し、ブルーレイディスクレコーダーについて私的録画の蓋然性の高い実態が確認されました。
 また、著作権の権利者団体においては、本年6月に私的録画に関する補償金の徴収分配を担う管理団体が設立するなど、運用面での準備が進められております。
 こうした経緯から、今回の提案をしたところです。
 なお、私的録音録画補償金制度の対象となる機器の選定に当たっては、当該機器が相当の蓋然性をもって私的録音・録画に供されるであろう販売形態や広告宣伝が行われているものであって、現に私的複製に用いられている実態を確認して判断する必要があります。

意見の概要29
 デジタルテレビ放送の録画については著作権保護技術が導入されており、補償は不要、著作権保護技術の導入コストと補償金の二重負担となるのではないか、今回の措置を行うのであれば著作権保護技術の解除など、複製をより広範に認めるべきではないか。

文化庁の考え方29
 現在、テレビ放送の多くにはダビングの回数を10回までなどとする著作権保護技術が導入されています。これは法律で認められている個人的に又は家庭内等の私的な複製の範囲を超えたコピーを防止するという意義がある一方で、その回数の範囲内であれば自由にコピーを行うことができることに変わりありません。
 私的録音録画補償金制度が、個々の利用行為としては零細な私的複製であっても、社会全体としてはデジタル技術により大量の高品質な録音物・録画物が作成・保存されることで損なわれるクリエイターへの不利益に対して経済的補償を行うものであるという趣旨に鑑みると、別途補償は必要であると考えられます。

意見の概要36
 デジタル放送専用録画機は当時の著作権法施行令の規定に照らして私的録音録画補償金の対象機器に該当しない旨判示した平成23年の知的財産高等裁判所の判決を踏まえて今回規定としようとする機器についても対象とすべきではない。

文化庁の考え方36
 平成23年の知的財産高等裁判所の判決においては、当時の著作権法施行令の規定に照らしてデジタル放送専用録画機が私的録音録画補償金の対象機器に該当するか否か疑義があったことに対し、該当しない旨判示したものです。
 今回の追加指定は、現行制度に定められた要件に基づき、私的録画の蓋然性の高い実態が確認されたブルーレイディスクレコーダーを対象機器とするものであり、当該判決の趣旨を踏まえ、疑義が生じないよう対象機器を明確に規定してまいります。

 上でピックアップした部分だけを見ても分かるだろうが、この文化庁の考え方は、パブコメ募集時の概要紙の碌に根拠にもならない事をほぼその儘繰り返しているだけで、今までの経緯を踏まえて出されたであろう反対・慎重意見に対する回答に全くなっていない。これは、現時点でブルーレイ(BD)レコーダーとディスクを私的録音録画補償金の対象とする事について是とするに足る新しい事実と根拠が一切ない事を自白しているに等しい。

 大体、提出意見の概要のまとめ方からして恣意的と言わざるを得ない。文化庁は、この様な恣意的なまとめと箸にも棒にもかからない回答ではなく、即刻提出された全意見の全文と、各意見に対するきちんとした回答を公表するべきである。この文化庁の考え方は、私の様な個人のみならず、ユーザー団体のMIAUの意見、消費者団体の主婦連の意見、メーカー団体のJEITAの意見(pdf)(JEITAの提出意見は公表された見解とほぼ同一だろうと思う)などに対する意見に対する回答としても極めて不十分かつ不適切なものであって、国民に対する愚弄としか私には見えない。

 また、同じ日に出されたDX時代におけるクリエイターへの適切な対価還元方策に係る今後の検討に向けた論点例(案)(pdf)中の論点例に、

・私的録音録画補償金の対象機器の追加指定について、パブリックコメントにおける国民各層からのご意見を踏まえ、今回の指定に当たって留意すべきことは何か。加えて、「過渡的な措置」との記述を踏まえ、様々な課題が指摘される私的録音録画補償金制度の今後についてどのような方向で考えるか。

と書かれている所を見ると、基本政策小委員会で今後多少検討するつもりなのかも知れないが、この場で今まで私的録音録画補償金問題そのものについて議論された事はなく、著作物等の適切な保護と利用・流通に関する小委員会と比べても、基本政策小委員会の委員構成(pdf)は私的録音録画補償金問題に関する全関係者を含んでおらず、権利者団体よりであって、決して私的録音録画問題の検討の場として相応しいとは思えない。さらに、保護利用小委員会が最後に開催された2020年2月4日審議の経過(pdf)に、

1.クリエーターへの適切な対価還元について

本課題については、知的財産推進計画2019において、今年度は「関係省庁で検討を進め、結論を得て、必要な措置を講じる」とされたことを受け、内閣府、文化庁、経済産業省及び総務省において、現状の認識、補償が必要な私的録音録画の範囲の考え方、コピーコントロール技術との関係に関して、具体的な事実関係等の整理を含め、対価還元の在り方について議論が行われており、意見の隔たりの大きい当事者間での検討を再開する前に、関係府省庁間による議論の整理を確認することが適切であることから、当該整理が整い次第、報告を受け、意見交換を行うこととなった。

と書かれているのだが、この保護利用小委員会への私的録音録画補償金問題に関する報告や意見交換はどうなったのだろうか。その後の著作権分科会の2020年2月10日第55回でもこの通り報告されているのであって、文化庁のやり方は審議会の進め方としても滅茶苦茶である。

 それ以前の問題として、今回のパブコメでも、文化庁の考え方でも、基本政策小委員会の論点例でも、碌な根拠もない儘、多くの関係者の反対・慎重意見に聞く耳を持たず、とにかくBDへの補償金指定拡大の結論ありきでまとめようとしているのがありありと見て取れるが、文化庁のこの極めて偏頗かつ横暴な姿勢は、公平中立かつ透明であるべき行政として不当極まるものとしか言い様がない。

 最近、非常にありがたい事に、日本維新の会の足立康史衆院議員が、9月30日の衆議院経済産業委員会の閉会中審査でタイムリーにこのBDへの私的録音録画補償金の対象拡大について問題提起して下さっている(衆議院インターネット中継又は足立議員のtwitter参照)。西村康稔経済産業大臣や中原裕彦文化庁審議官からは関係者の意見を踏まえ今後調整するというだけであまりはかばかしい答弁は得られなかったが、足立議員の国会での指摘は至極もっともであり、今の制度の矛盾をその儘にBDへ対象拡大をする事は、このインターネット時代にあって、将来に渡って日本国内の産業を歪め大きな禍根を残す事に繋がり得ると私も考える所である。与野党でより広い視野に立ってこの私的録音録画補償金問題が注目される事を私も期待している。

 私の意見は提出パブコメで書いた通りだが(第466回参照)、一国民、一個人、一消費者、一利用者・ユーザーとして到底納得の行かない今の状況でのBDへの私的録音録画補償金の対象拡大に断固反対する。

(2022年10月22日夜の追記:twitterで書いた事をここでも書いておくが、10月21日にブルーレイを私的録音録画補償金の対象とする著作権法施行令の改正について閣議決定がされたという報道があった(日経の記事AV Watchの記事参照)。文化庁はまたパブコメの内容もロクに見ずに結論ありきで著作権法施行令の閣議決定を強行するという行政としてやってはならないことをやった。これは有害無益な争いと大きな禍根を発生させる暴走であり、この政策判断は狂っているとしか私には思えない。 同日に文化庁はパブコメの結果も公表しているが(文化庁のHP、電子政府のHP参照)、上で取り上げた極めて恣意的にまとめた意見概要と回答になっていない回答を出しているだけである。大体2406件のパブコメが集まるというだけでも方針の見直しを図るのに十分だろうが、どこをどうやったらこれだけの件数のパブコメを56点だけの薄っぺらな概要にまとめて閣議決定を強行できるのか、この様なやり方を見るにつけ文化庁の良識はおろか正気も疑わしい。繰り返しになるが、この著作権法施行令改正について今に至るも妥当な根拠は何一つ見出せず、このような不当な政令改正は到底納得できるものではない。

(2022年11月6日夜の追記:これもtwitterで触れた事だが、AV Watchの記事になっている通り、私的録音録画補償金管理協会が補償額・徴収方法は現在未定とする声明を出している。しかし、未定の儘終わる訳がなく、じきに文化庁と著作権団体側は徴収に向けて次の動きを仕掛けて来るだろう。)

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2022年9月11日 (日)

第466回:文化庁によるブルーレイに私的録音録画補償金の対象を拡大する政令改正案に関する意見募集(9月21日〆切)への提出パブコメ

 9月21日〆切でパブコメにかかっている、実質的にブルーレイディスクレコーダーとブルーレイディスクを私的録音録画補償金の対象に追加しようとする政令改正案に対して意見を提出したので、ここに載せておく。(パブコメの内容については、前回、及び、文化庁HPの意見募集ページ、電子政府HPの意見募集ページ参照。)

 このパブコメは私的録音録画補償金問題に関して非常に重大な意味を持つものであり、この問題に関心のある方は是非意見を出す事を私は強く勧める。

(以下、提出パブコメ)

(概要)
 本施行令改正案は、実質的にブルーレイディスク(BD)レコーダー及びBDを私的録音録画補償金の対象に加えようとするものであるが、消費者・ユーザー、メーカーを含む関係者間で全く合意がなされていない中で出されたこの様な改正案に断固反対する。

(意見)
 意見募集の対象である「著作権法施行令の一部を改正する政令案の概要」によると、文化庁は、現行の著作権法施行令の改正により、「アナログ信号をデジタル信号に変換して影像を記録する機能」の「有無にかかわらず、ブルーレイディスクレコーダーが制度の対象機器となるように新たに規定」し、「これに伴い、政令第1条の2第2項に基づき、新たな対象機器による録画に用いられるブルーレイディスクも制度の対象」とし、実質的に今現在補償金の対象外となっているブルーレイディスク(BD)レコーダー及びBDを私的録音録画補償金の対象に加える事を考えていると見られる。

 しかし、メーカー団体のJEITA(電子情報技術産業協会)とユーザー団体のMIAU(インターネットユーザー協会)がそれぞれそのホームページでこの政令改正案に強く反対するとの見解を示している事からも、この様な私的録音録画補償金の対象を拡大する政令改正案に関し、消費者・ユーザー・利用者、メーカーを含む関係者間で全く合意がなされていない事は明らかである。関係者間で全く合意がなされていない中で出されたこの様な改正案に対し、私も一利用者、一ユーザー、一消費者、一個人として断固反対する。

 また、上記政令改正案概要は、あたかも知財計画2022の記載及び2020年の私的録音録画に関する実態調査が根拠となるかの様な印象操作を含む極めて悪質なものである。この様な意見募集のやり方自体行政庁として極めて不適切なものであり、文化庁の猛省を私は求める。

 知財計画の私的録音録画補償金問題に関する記載はその時の検討の場の移り変わりに応じて多少の記載の違いはあるが、実質的に10年以上同様の記載が続いているものであり、「必要な措置を構ずる」と書かれているのみであって、私的録音録画補償金の対象範囲を拡大する本政令改正案の根拠たり得るものでは到底ない。

 同じく2020年11月に公開された私的録音録画に関する実態調査も、知財事務局、経産省、総務省と共同で行われているが、文化庁の委託事業として文化庁主導の偏向がある事に加え、これは単なる実態調査であって、何ら関係省庁間の検討の結論や関係者間の合意を含むものではなく、言うまでもなく私的録音録画補償金の対象範囲を拡大する本政令改正案の根拠たり得ないものである。

 上記の通り、この実態調査自体政令改正案の根拠たり得ない事は言うまでもないが、念のため指摘しておくと、その最大の偏向は、文化庁が自らその政令改正案で自白している通り、HDD内蔵型のBDレコーダーを所有している者への放送番組を録画したかどうかという回答だけを恣意的に抜き出し印象操作に用いている点にある。私はそもそも偏向を含まない様に中立的な第三者による調査を行うべきであると考えるが、この文化庁の実態調査のHDD内蔵型のBDレコーダーに関する部分だけを見ても、その1次調査で、この様な録画機器を所有していないと回答している者が59.2%と既に大多数となっている事が、2次調査で、録画目的は見たい番組を放送時間に見ることができないというタイムシフト目的が81.9%とほぼ全てとなっている事、BDへの録画を過去1年間にしていないという回答が41.3%と最も多くなっている事が見て取れるのであり、また、HDD非内蔵型のBDレコーダーなどについても同様の傾向が見て取れるのである。上記の通り、文化庁による偏向を含む調査はそもそも取るに足らないと私は考えているが、例えこの実態調査によったとしても、見るべきは、テレビ番組の録画自体行われなくなって来ており、行われたとしてもほぼタイムシフト目的であって、BDの様な媒体への録画がおよそ行われなくなっているという傾向であって、調査結果は文化庁が言う様なものでは断じてない。上記の通り、今後さらに検討するのであれば、そもそも偏向を含まない様に中立的な第三者による調査を行うべきであるが、若年層を中心に既に映像に関してもインターネットを通じたストリーミングやダウンロード配信が主流となっている中、旧来の形の私的録音録画自体もはや時代遅れになりつつあるという事を文化庁は良く認識するべきであって、その様な中で制度の矛盾を拡大するだけの私的録音録画補償金の対象範囲の拡大は絶対されてはならないものである。

 さらに言うと、この政令改正案概要は、今までの私的録音録画補償金を巡る経緯について全く記載していない点でも極めて不誠実であり、今までの経緯を全てないがしろにするものである点からも、到底受け入れられないものである。

 私的録音録画補償金制度の見直しに関しては、まず、2002年から2005年の文化審議会著作権分科会の法制問題小委員会での議論に端を発し、さらにそこから2006年から2008年に私的録音録画小委員会での議論を経ても結論は出ないまま、2009年にブルーレイを追加する政令改正を文化庁一方的に行ったために、結果として裁判にまで発展し、2012年に最高裁の上告棄却により2011年の知財高裁判決が確定し、アナログチューナー非搭載録画機器は全て補償金の対象外となったというのが、約20年前から10年前までの経緯である。

 その後、私的録音録画補償金問題については、2015年から2019年にかけて、同じく著作権分科会の著作物等の適切な保護と利用・流通に関する小委員会でも議論されているが、ここでも結論や関係者間の合意がなされたという事はない。

 この著作物等の適切な保護と利用・流通に関する小委員会の議論の後も、関係省庁間及び関係者間で何かしらの協議がされていた様であるが、上記のメーカー団体やユーザ団体が反対する見解を出している事から分かる様に、そこでも何らかの合意がされたという事はない。この様な重要な政策決定に関わる協議が非公開でなされている事自体不適切極まる事であって、文化庁は直ちにこの関係省庁間及び関係者間の協議の内容について詳細を公表するべきである。

 なお、関係者間の合意なく、関係省庁のみで不透明な形で勝手に政策決定をしたという事はないと私は考えているが、もしその様な事があったとしたら、確定した2011年の知財高裁の判決が正しく、

「(略)
 関係者間の協議には妥協が伴うが,反面,妥協ができていない録画態様には,録画補償金制度が適用されることはないということができる。アナログチューナーを搭載しないDVD録画機器の特定機器該当性について,文部科学省は,著作権保護技術の有無は,法30条2項による視聴者の録画補償金の支払に関する要件として規定されていないと認識し,他方で,経済産業省は,著作権保護が技術的に可能ならば,地上デジタル放送の録画機器は法30条2項による補償金支払の対象にならないと認識していることが,平成20年6月の両省共同作成書面で確認され(乙8),これを基に,アナログチューナーを搭載していることを踏まえ,暫定的な措置として,ブルーレイディスク録画機器を政令に追加することが確認された。この政令改正(平成21年5月22日施行の改正著作権法施行令)の際に文化庁次長名で出された関係団体あて通知(平成21年5月22日付け「著作権法施行令等の一部改正について」)においても,「アナログチューナーを搭載していないレコーダー等が出荷される場合,及びアナログ放送が終了する平成23年7月24日以降においては,関係者の意見の相違が顕在化し,私的録画補償金の支払の請求及びその受領に関する製造業者等の協力が十分に得られなくなるおそれがある。両省は,このような現行の補償金制度が有する課題を十分に認識しており,今回の政令の制定に当たっても,今後,関係者の意見の相違が顕在化する場合には,その取扱について検討し,政令の見直しを含む必要な措置を適切に講ずることとしている。」とされた(甲24)。
 この経緯からみると,少なくともアナログチューナーを搭載していないブルーレイディスク録画機器が補償金の対象となるかの大方の合意は,製造業者や経済産業省はもちろんのこと消費者なども含めた関係者間で調っていなかったことが明らかである。遡って,施行令1条2項3号制定時には,製造業者は,アナログチューナーを搭載しているDVD録画機器については,協力義務を負い私的録画補償金の対象となることで妥協したと認めることができるものの,妥協した限度はそこまでである。次の(6)で検討するように,複製権侵害の態様において質的に異なる様相を示すアナログ放送とデジタル放送について,どこまで録画源として私的録画補償金の対象とすべきか否かの明確な議論を経ていなければならないのに,この議論がないまま,アナログチューナーを搭載していないDVD録画機器についてまでの大方の合意が調っていたと認めるのは,特段の事実関係が認められない限り困難である。

(6) 著作権保護技術も含めた総合的検討
 当事者双方は,著作権保護技術の実態が,アナログチューナー非搭載DVD録画機器の施行令1条2項3号該当性に関係するのか否かを論じている。まず,私的複製が容易となっていたことが,録画補償金制度が法定される大きな要因であったことからすると,著作権保護技術の有無・程度が録画補償金の適用範囲を画するに際して政策上大きな背景要素となることは否定することができない。(略)」

と述べている通り、その様な合意なき不当な私的録音録画補償金の対象範囲拡大に関する法的義務は、法令解釈として否定されるべきものである。

 この10年間程度の議論を考慮しても、この知財高裁判決により確定した状況を覆すに足る変化は生じていない。かえって、上でも書いた通り、あらゆる事が示しているのは、既にコンテンツの視聴がインターネットを通じたストリーミングやダウンロード配信が主流となっている中、補償金制度の前提となっていた旧来の形の私的録音録画自体、もはや時代遅れになっており、非常に少なくなっているという事であろう。

 知財本部や文化庁における過去の意見募集で提出した意見の繰り返しとなるが、今も地上デジタル放送にはダビング10という不当に厳しいコピー制限がかかったままであり、こうした実質的に全国民に転嫁されるコストで不当に厳しい制限を課している機器と媒体にさらに補償金を賦課しようとするのは、不当の上塗りであり、BD課金・アナログチューナー非搭載録画機への課金に合理性はない。

 また、これも過去の意見の繰り返しとなるが、世界的に見ても、メーカーや消費者が納得して補償金を払っているということはカケラも無い。表向きはどうあれ、大きな家電・PCメーカーを国内に擁しない欧州各国は、私的録音録画補償金制度を、外資から金を還流する手段、つまり、単なる外資規制として使っているに過ぎない。欧州連合各国では、私的複製補償金に関して欧州司法裁判所まで巻き込んだ終わりの見えない泥沼の法廷闘争が今に至るも延々と続いている。欧米主要国だけを考えても、逆に、補償金制度のない英国や実質的に制度が機能していないアメリカ、カナダにおいて、補償金制度を拡大する動きはない。私的録音録画補償金は、既に時代遅れのものとなりつつあるのであって、その対象範囲と料率のデタラメさが、デジタル録音録画技術の正常な発展を阻害し、デジタル録音録画機器・媒体における正常な競争市場を歪めているという現実は、補償金制度を導入したあらゆる国において、問題として明確に認識されなくてはならないことである。

 悪質な印象操作を含み、今までの経緯をないがしろにし、私的録音録画に関する現状を無視し、関係者間の合意もない中で不透明かつ一方的に不当極まる形でBDレコーダー及びBDへ私的録音録画補償金の対象範囲を拡大しようとするこの政令改正案に私は断固反対する。文化庁はこの様な政令改正案の方針を即刻取り下げるべきである。

 今後さらに検討するのであれば、そもそも偏向を含まない様に中立的な第三者による調査を行うべきであり、その調査で示されるであろう、制度の前提となっていた旧来の形の私的録音録画自体、もはや時代遅れになっており、非常に少なくなっているという事実に基づき、全関係者が参加する公開の場で議論し、私的録音録画補償金制度は歴史的役割を終えたものとして速やかに廃止するとの結論を出すべきである。

 最後に念のため、上の意見の前提兼今後の検討の参考として、過去の意見募集において提出した内容であるが、(1)2007年の私的録音録画小委員会の中間整理に対して私が提出した意見のまとめ、(2)2009年の政令改正の意見募集時に私が提出した意見の抜粋と、(3)知財計画2022に向けて私が提出した意見中の私的録音録画補償金問題関連部分の抜粋を以下に転記しておく。

(1)2007年の私的録音録画小委員会の中間整理に対して提出した意見のまとめ
1.そもそも、著作権法の様な私法が私的領域に踏み込むこと自体がおかしいのであり、私的領域での複製は原則自由かつ無償であることを法文上明確にすること。また、刑事罰の有無に関わらず、外形的に違法性を判別することの出来ない形態の複製をいたずらに違法とすることは社会的混乱を招くのみであり、厳に戒められるべきこと。

2.特に、補償金については、これが私的録音録画を自由にすることの代償であることを法文上明確にすること。すなわち、私的録音録画の自由を制限するDRM(コピーワンスやダビング10ほどに厳しいDRM)がかけられている場合は、補償措置が不要となることを法文上明確にすること。

3.また、タイムシフト、プレースシフト等は、外形的に複製がなされているにせよ、既に一度合法的に入手した著作物を自ら楽しむために移しているに過ぎず、このような態様の複製について補償は不要であることを法文上明確にすること。実質権利者が30条の範囲内での複製を積極的に認めているに等しい、レンタルCDやネット配信、有料放送からの複製もこれに準じ、補償が不要であることを明確にすること。

4.私的録音録画の自由の確保を法文上明確化するとした上で、私的録音録画を自由とすることによって、私的複製の範囲の私的録音録画によってどれほどの実害が著作権者に発生するのかについてのきちんとした調査を行うこと。
 この実害の算定にあたっては、補償の不必要な私的複製の形態や著作権者に損害を与えない私的複製の形態があることも考慮に入れ、私的録音録画の著作権者に与える経済的効果を丁寧に算出すること。単に私的録音録画の量のみを問題とすることなど論外であり、その算定に当たっては入念な検証を行うこと。

5.この算出された実害に基づいて補償金の課金の対象範囲と金額が決められること。特に、その決定にあたっては、コンテンツ産業振興として使われる税金も補償金の一種ととらえられることを念頭に置くこと。この場合でも、将来の権利者団体による際限の無い補償金要求を無くすため、対象範囲と金額が明確に法律レベルで確定されること。あらゆる私的録音録画について無制限の補償金要求権を権利者団体に与えることは、ドイツ等の状況を見ても、社会的混乱を招くのみであり、ユーザー・消費者・国民にとってきちんとセーフハーバーとして機能する範囲・金額の確定を行うこと。
 あるいは、実害が算出できないのであれば、原則にのっとり、私的録音録画補償金制度は廃止されること。

6.集められた補償金は、権利者の分配に使用されることなく、全額違法コピー対策やコンテンツ産業振興などの権利者全体を利する事業へ使用されること。

(2)2009年の政令改正の意見募集時に提出した意見の抜粋
 確かに今はコピーフリーのアナログ放送もあるが、ブルーレイにアナログ放送を録画することはまずもって無いと考えられるため、アナログ放送の存在もブルーレイ課金の根拠としては薄弱であり、そのアナログ放送も2011年には止められる予定となっているのである。

 特に、権利者団体は、ダビング10への移行によってコピーが増え自分たちに被害が出ると大騒ぎをしたが、移行後半年以上経った今現在においても、ダビング10の実施による被害増を証明するに足る具体的な証拠は全く示されておらず、現時点でブルーレイ課金に合理性があるとは私には全く思えない。

 わずかに緩和されたとは言え、今なお地上デジタル放送にはダビング10という不当に厳しいコピー制限がかかったままである。こうした実質的に全国民に転嫁されるコストで不当に厳しい制限を課している機器と媒体にさらに補償金を賦課しようとするのは、不当の上塗りである。

 本施行令改正案は、ブルーレイを私的録音録画補償金の対象に加えようとするものであるが、私的録音録画小委員会で補償金のそもそもの意義が問われた中で、その解決をおざなりにしたまま、このような合理的根拠に乏しい対象拡大をするべきではない。

(3)知財計画2022に向けて提出した意見中の私的録音録画補償金問題関連部分の抜粋
 知財計画2021の第54~55ページでは私的録音録画補償金問題についても言及されている。権利者団体等が単なる既得権益の拡大を狙ってiPod等へ対象範囲を拡大を主張している私的録音録画補償金問題についても、補償金のそもそもの意味を問い直すことなく、今の補償金の矛盾を拡大するだけの私的録音録画補償金の対象拡大を絶対にするべきではない。

 文化庁の文化審議会著作権分科会における数年の審議において、補償金のそもそもの意義についての意義が問われたが、文化庁が、天下り先である権利者団体のみにおもねり、この制度に関する根本的な検討を怠った結果、特にアナログチューナー非対応録画機への課金について私的録音録画補償金管理協会と東芝間の訴訟に発展した。ブルーレイ課金・アナログチューナー非搭載録画機への課金について、権利者団体は、ダビング10への移行によってコピーが増え自分たちに被害が出ると大騒ぎをしたが、移行後10年以上経った今現在においても、ダビング10の実施による被害増を証明するに足る具体的な証拠は全く示されておらず、ブルーレイ課金・アナログチューナー非搭載録画機への課金に合理性があるとは到底思えない。わずかに緩和されたとは言え、今なお地上デジタル放送にはダビング10という不当に厳しいコピー制限がかかったままである。こうした実質的に全国民に転嫁されるコストで不当に厳しい制限を課している機器と媒体にさらに補償金を賦課しようとするのは、不当の上塗りである。

 なお、世界的に見ても、メーカーや消費者が納得して補償金を払っているということはカケラも無く、権利者団体がその政治力を不当に行使し、歪んだ「複製=対価」の著作権神授説に基づき、不当に対象を広げ料率を上げようとしているだけというのがあらゆる国における実情である。表向きはどうあれ、大きな家電・PCメーカーを国内に擁しない欧州各国は、私的録音録画補償金制度を、外資から金を還流する手段、つまり、単なる外資規制として使っているに過ぎない。この制度における補償金の対象・料率に関して、具体的かつ妥当な基準はどこの国を見ても無いのであり、この制度は、ほぼ権利者団体の際限の無い不当な要求を招き、莫大な社会的コストの浪費のみにつながっている。機器・媒体を離れ音楽・映像の情報化が進む中、「複製=対価」の著作権神授説と個別の機器・媒体への賦課を基礎とする私的録音録画補償金は、既に時代遅れのものとなりつつあり、その対象範囲と料率のデタラメさが、デジタル録音録画技術の正常な発展を阻害し、デジタル録音録画機器・媒体における正常な競争市場を歪めているという現実は、補償金制度を導入したあらゆる国において、問題として明確に認識されなくてはならないことである。

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