2008年5月23日 (金)

番外その12:ユーザーから見た放送・音楽業界のビジネスモデルに対する疑問

 今回は、番外として、少し毛色を変えて、一ネットユーザーから見た、放送と音楽のビジネスモデルに対する疑問を思いつくままに書き並べてみる。ただ、別に疑問を抱いているからと言って、そのビジネスモデルそのものをどうこうしろというつもりは私にはあまりない。私が問題だと思っているのは、最近の政官が、特定業界と結託して、ビジネスの話と法規制の話をごっちゃにし、規制強化による不当な利権拡大を目論んでいることだけである。

(1)放送
 テレビを漫然と見ている分には単純と思えなくもないのだが、放送のビジネスモデルは、今となっては時代遅れの規制に蝕まれているのではないかというのは、私の本質的な疑問の一つである。

 総務省の放送制度に関する資料(似たような資料を総務省は沢山作っているので、どれでも良かったのだが、これは「携帯端末向けマルチメディア放送サービス等の在り方に関する懇談会」のものである。)を見ても、山ほどの規制の中でビジネスが組み立てられており、さらに、電波放送に関しては総務省から放送局免許を受けることが絶対必要なので、放送業界は、事実上新規参入があり得ないというすごい状態にある。

 しかし、例えば、映像を撮って編集し、動画サイトなりを利用してブログに埋め込む程度のことは個人レベルでも簡単にできるし、このように誰でも世界に向けて放送ライクの映像配信ができるようになっている今の状態で、放送について今の山のような規制を維持する意味は本当に疑わしい。放送規制については、その免許の付与方法や、放送内容に対する規制、マスメディア集中排除原則、県域免許、最近総務省での流用が明るみに出た(朝日のネット記事参照)電波利用料の問題まで疑問が尽きることはない。

 マスメディア集中排除原則なども電波法で特別に定めていることからして疑問であり、最近緩和された(産経のネット記事参照)とは言え、もう全て独禁法にまかせても良いのではないかという気すらする。県域免許や事業参入規制をしたままの、このような緩和の意味もいまいち良く分からないが、護送船団方式の中、破綻寸前の地方局を救うためのセーフティネットくらいにはなるのだろうか。

(それにしても、このマスメディア集中排除原則の緩和は、「放送局に係る表現の自由享有基準」という電波法の下位省令で決まっているのだが、さらに別省令「放送局に係る表現の自由享有基準の認定放送持株会社の子会社に関する特例を定める省令」を追加して、持ち株会社について特例を作るというトリッキーなことをしている。このようにわざと法令をややこしくすることの意味もよく分からない。)

 また、地上放送の収入が広告に大きく依存していることも、ビジネスモデルの歪みを大きくしているだろう。日本の広告費は毎年電通が発表している(Markezineの記事電通の発表資料)が、2兆円をわずかに割ったとは言え、今でもテレビは最大の広告媒体であり、無料の地上放送局のビジネスモデルは、この2兆円を新規参入がない中でいかに山分けするかというところに尽きている。

 個人的な実感としては、もはやネット利用時間の方がテレビの視聴時間より長くなりつつあるのではないかという気がするのだが、ネット広告は全体で6000億円とユーザーの利用実態の変化がまだ十分に反映されていない。そのため、放送局にしてみれば、コンテンツをテレビだけで流して視聴率を稼いだ方が絶対得なはずであり、今現在、ネットに自らコンテンツを流すインセンティブが放送局に働くはずはない。放送番組の2次利用が進まないのに著作権処理が良く言い訳に使われるが、そんなところに本当の理由はないだろう。

 この状況下で、役所で無理矢理放送番組のネット利用ビジネスを推進しようと政策検討をしていることからして理解できないのだが、地デジ移行のことなどを考えても、今後さらにテレビ離れが進むと考えられる中で、ネット利用に異常なほど消極的と見える放送局の態度も理解に苦しむ。ネット広告はこのまま伸びて行くだろうし、放送局は自分で自分の首を絞めているような気がしてならないのだ。

 放送に関しては、NHK問題も疑問だらけである。総務省でBS-NHKのスクランブル化を提案している(毎日のネット記事参照)ようだが、今でこそ多少下火になっているものの、NHK問題もこの程度のことで片付く話とは到底思われない。地上放送のデジタル移行でテレビ離れが進んだらなおさらだろう。ワンセグ携帯だけでテレビを受信する層が増えたりした日には、目も当てられない状態になると思うのだが。

 また、総務省のデジタルコンテンツ委員会の議事録を読んでいても、地上デジタル放送のコピー制御に関して、放送局がその正当化理由に持ち出すリッチコンテンツがどうとか、HD画質がどうとか言う理屈も常に理解出来ない。ほぼ2次利用が考えられないニュースなども含めて番組は全てリッチコンテンツで厳格なコピー制御が必要というのは良く分からないし、画質に関しても、そこまで消費者を信用できないなら、地上デジタル放送でも、どうしてもHD画質での流出を防ぎたいコンテンツについては、コピーフリーとされているアナログと同様にSD画質で番組を流してもらっても私は一向に構わない。SDにHDは流せないが、HDにSDは流せるのだ。

(大体、メディアの主流がSD画質のDVDである中で、無理矢理期限を切って無料放送のHD化を進めていることも、ビジネスモデルの歪みを助長しているように思う。)

 いくらネットや録画機器が今の放送のビジネスモデルに邪魔だからと言って、これらへの規制強化を図っても、インターネットはおろか、録画機器すら無かった頃の本当の放送黄金時代には絶対戻れないだろう。

(2)音楽
 技術の進展によって増えた私的録音録画によって権利者は莫大な経済的不利益を被っているという主張を、文化庁の私的録音録画小委員会で、延々権利者団体代表は繰り返している訳だが、そうは言っても、JASRACの徴収料が全体として今年増収に転じている(ITmediaの記事JASRACの定例記者会見資料参照)ことを思うと、このような主張は実に嘘くさく思えて仕方がない。(逆に不利益が全くないということも証明できないので、本当にこの問題は厄介なのだが。)

 レコード協会の統計を見ると、さらに良く分かるが、音楽業界の中でCD(レコード)の売り上げだけを見れば確かに減っている。しかし、ほぼ音楽著作権を独占しているJASRACの増収の内訳を見てみれば、これは、CDからダウンロード販売などへの移行という、ネット時代にあって、極当たり前のビジネスモデルの転換が起こっているに過ぎないとほぼ分かる。このようなCDの売り上げ減は、私的録音録画問題・著作権問題とは性質を異にするものとしか思えないのだ。

 実演家の収入がどうなっているのかは良く分からないが、彼らも著作隣接権者とは言え、レコード会社のような流通事業者ではないので、やはり収益が大きく減っているということはないのではないかと思う。減っているとしても、私的録音録画の影響より、各利用形態における料率の設定ミスなどの要因の方が遥かに大きいに違いない。

 また、かなり通常のダウンロード販売が増えたとは言え、音楽配信がかなり携帯の着メロと着うたに依存しているのも日本の特徴的なところだろう。世界的にはDRMフリーのダウンロード販売がほぼ潮流となりつつある中、日本の音楽業界が、携帯への配信とDRMにかなりこだわっているのもどうかと思う点である。

 さらに、レンタルCDと私的録音補償金との関係もいまだに釈然としない。私的録音のための料金が暗黙の内に含まれていないとしたら、あのレンタルCDの料金・料率は何なのかという疑問は常にぬぐえない。

 音楽CDについては、多少の変動はあるものの、大体アルバムで3000円といった価格が維持されているのも不思議と言えば不思議な点である。CDを一生懸命作っている方には悪いが、他のコンテンツと比べて、はっきり言ってこの値段では、もはや娯楽としてコストパフォーマンスが良いとは言い難い。業界のビジネスモデルはなかなか変わり難いだろうし、再販制の所為かも知れないが、もう少し価格に弾力性があっても良いのではないかと思う。

 様々な規制が入り乱れている上、情報という無体物を扱い、これを保護する著作権は無形式無登録で発生し、その財産権に関しては完全に契約自由という状態では、コンテンツは、種類毎に、その特性を色濃く反映したビジネスモデルができて当たり前である。それが不可逆の環境変化によってさらに歪んだからといって、その歪みをいくら法律に押しつけようとしたところで、絶対無理が来る。法律は最後の調整手段であり、しかも万能のツールではない。消費者・国民はバカではないのだ。ビジネスの話は最後ビジネスでしか解決されようがないというひどく単純なことを、政官業の3者が皆分かっているようで分かっていないということが、一番不思議でならないことである。

 最後に、ニュースの紹介もしておくと、民主党が、有害サイト対策法と、児童ポルノ改正法の対案骨子をまとめたようである(internet watchの記事朝日のネット記事)。今の児童ポルノの定義の厳格化を行うとしているところは評価できるのだが、「みだりに収集」するなどの行為が処罰の対象というのは実に曖昧であり、やはり与党案と同様の問題を抱えている。有害サイト対策についても、自民党案よりは弱めだが、やはり「著しく・・・する」といった曖昧な表現で情報の有害性が定義できると思っている点は手を焼きそうである。そもそも有害サイト規制などは、その立法の必要性から問われるべきだと思うのだが、今の政官で法規制そのものが目的化しているのは本当にいかがなものかと思う。もう少し考えて、私は民主党にも意見を送るつもりである。

 次回は、他でも結構書かれている話だが、上でも少し書いた再販制のことについて私なりにまとめてみようかと思っている。

(5月23日夜の追記:内容は変えていないが、少し誤記などを直して文章を整えた。他の種類のコンテンツ業界についても調べて何かしら書いてみたいと思っているが、その種類毎に業界のカラーはかなり違うように思う。放送と音楽だけでも全く性質が異なるので、これらも本当なら分けた方が良かったと後で気づいた。)

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