第525回:フェアユースの判断に影響を与える法改正はするべきではないとするアメリカ政府の議会に対する人口知能(AI)に関する法的枠組みの検討提案
今回は世界における人口知能(AI)と著作権の問題に関する動向の1つとして、最近3月20日にアメリカ政府が出した、議会に対する法的枠組みの検討提案を取り上げる。
このアメリカ政府から出された人口知能に関する国家政策フレームワーク(pdf)(アメリカ大統領府のリリースも参照)は、報道でも言われている通り、各州で既に立法されているか、検討されている各種AI規制に対する牽制を主たる目的とするのはまず間違いない。
これは、日本と違い、アメリカが連邦制であって、各州の州法も法律として通用するが、抵触する連邦法がある場合は、連邦法が優先し、州法は無効となるという専占(preemption)の法理がある事に基づく。今の所、アメリカ議会でのAIに関する立法検討に時間が掛かり、もしかしたら連邦法の制定がなされない可能性すらあるが、現政権としては、先んじてこのような提案をする事で各州のAI規制に対して牽制を掛けようとしたのだろう。
アメリカは連邦制もあれば、三権分立を制度的に強く守ってもいるので、この様な政府による一方的な宣言で、各州の州法が無効になるなどといった事もなければ、その儘立法がされるという事も、裁判所がその通り従うという事もないが、この提案は今のアメリカ政府のAIに関する考え方を知る上で重要なものと言って良く、ここで、提案の中でも知的財産と表現の自由に関する部分を見ておきたい。
まず、関連するⅢ.とⅣ.には以下の様に書かれている。(以下、翻訳はいつも通り拙訳。)
III. Respecting Intellectual Property Rights and Supporting Creators
American creators, publishers, and innovators should be protected from AI-generated outputs that infringe their protected content, without undermining lawful innovation and free expression.
- Although the Administration believes that training of AI models on copyrighted material does not violate copyright laws, it acknowledges arguments to the contrary exist and therefore supports allowing the Courts to resolve this issue. Similarly, Congress should not take any actions that would impact the judiciary’s resolution of whether training on copyrighted material constitutes fair use.
- Congress should consider enabling licensing frameworks or collective rights systems for rights holders to collectively negotiate compensation from AI providers, without incurring antitrust liability. Any such legislation, however, should not address when or whether such licensing is required.
- Congress should consider establishing a federal framework protecting individuals from the unauthorized distribution or commercial use of AI-generated digital replicas of their voice, likeness, or other identifiable attributes, while providing clear exceptions for parody, satire, news reporting, and other expressive works protected by the First Amendment. Congress should prevent persons from abusing such a framework to stifle free speech online.
- Congress should continue to carefully monitor the development of copyright precedents and enforcement in the courts and evaluate whether, due to novel AI considerations, additional action beyond that proposed here is needed to fill potential gaps or provide additional protections for content creators.
IV. Preventing Censorship and Protecting Free Speech
The federal government must defend free speech and First Amendment protections, while preventing AI systems from being used to silence or censor lawful political expression or dissent.
- Congress should prevent the United States government from coercing technology providers, including AI providers, to ban, compel, or alter content based on partisan or ideological agendas.
- Congress should provide an effective means for Americans to seek redress from the Federal Government for agency efforts to censor expression on AI platforms or dictate the information provided by an AI platform.
Ⅲ.知的財産権を保護し、創作者を支持する事
アメリカの創作者、出版者及び革新者は、適法なイノベーション及び自由な表現を損ねる事なく、その保護を受けるコンテンツを侵害するAI生成出力物から保護されるべきである。
・著作権保護マテリアルによるAIモデルの学習は著作権法に違反するものではないと行政は考えているが、反対の主張がある事も認め、そのため、裁判所にこの事の解決を任せる事を支持する。同様に、議会も、著作権保護マテリアルによる学習がフェアユースに該当するかどうかに関する司法の解決に影響を与えるだろうどの様な行動も取るべきではない。
・議会は、独占禁止法上の責任を生じさせる事なく、権利者が集合的にAIプロバイダーから補償を受けるためのライセンシングの枠組みを可能とする事又は集合的権利の制度を検討するべきである。しかしながら、その様な立法のいずれも、その様なライセンシングがどの様な時に必要とされるか又はそれが必要か否かに関するものであるべきではない。
・議会は、アメリカ憲法修正第1条によって保護されるパロディ、風刺、報道及びその他の表現物のための明確な例外を規定しつつ、その声、肖像又はその他の特定可能な属性のAI生成レプリカの無許諾の頒布又は商業利用から個人を守る連邦の枠組みを確立する事を検討するべきである。
・議会は、裁判所における著作権判例及び執行の発展を注視し、新規AI検討によって、ここで提案されている事を超える追加の行動が、潜在的な隙間を埋めるか、コンテンツ創作者のための追加的な保護を提供するために必要かどうかの評価を続けるべきである。
Ⅳ.検閲を防止し、自由な言論を保護する事
連邦政府は、AIシステムが適法の政治的表現又は反対意見の封殺又は検閲に使われるのを防止しつつ、自由な言論及びアメリカ憲法修正第1条の保護を守らなくてはならない。
・議会は、アメリカ合衆国政府がAIプロバイダーを含む技術のプロバイダーが党派又はイデオロギー的事項に基づきコンテンツの排除、強制又は修正を強要する事を防止するべきである。
・議会は、AIプラットフォームにおける表現を検閲しようとする又はAIプラットフォームが提供する情報を独裁しようとする組織的な動きに対して連邦政府からの救済を求めようとするアメリカ人に有効な手段を提供するべきである。
アメリカの現政権の中で誰が考えたものか不明だが、このAIに関する政府提案は、知的財産と表現の自由に関する部分だけを見ても、実に簡にして要を得た良いものである。すなわち、これは、
- AI出力物の利用は著作権侵害たり得るが、著作物を用いたAI学習はフェアユースに該当すると考えられ、このフェアユースの判断に影響を与える様な法改正はするべきではない事
- パロディ、風刺、報道等のための表現の自由を確保しつつ、個人を特定する事が可能な声や肖像等のAI生成レプリカの第三者による利用から個人を守るべき事
- AIシステムによる政治的表現・言論の検閲を防止するべき事
という、知財と表現の自由に関するAI規制の論点で最も重要なポイントとなるだろう3つの事を実に端的に述べている興味深いものであって、本当にこの方針に沿ってアメリカで立法がなされる様であれば全面的に賛同できるものとなるのだろうと私にも思える。
ただし、上でも書いた通り、アメリカでの政府提案は何ら具体的な法的拘束力を持つものではなく、その通り立法がなされるかどうか不明であって、現時点では各州に対する牽制を主たる目的とするものだろう事には注意が必要である。しかし、たとえそうであったとしても、これは、アメリカにおける今後のAI規制検討に影響を与えるだろうアメリカの現政権の考え方を示すものとしてで重要なものでああり、上で書いた様に知的財産と表現の自由の観点でも非常に興味深いものに違いない。
最後に、ついでに書いておくと、今回の提案は法的拘束力がないものには違いないのだが、アメリカの今のトランプ政権のSNS利用や、アメリカの大手AIサービスの有様などを見ても、ここで示された内容を守っているとは思えないのは残念極まる点である。AI技術の研究開発はなおアメリカ中心なので、個人の権利保護の観点から本当に重要となるポイントをアメリカの政府と産業界で自主的にきちんと守ろうとしていれば、世界的に余計な規制論を巻き起こす事はないだろうにと思えて仕方ない。
さて、今回はアメリカ政府の提案を取り上げたが、イギリスではAIのための著作権の権利制限の提案が後退するといった事や、幾つかの国で重要な判決が出されているなど、AI、知財を巡っては世界的には他の動きもあり、順次取り上げて行きたいと思っている。
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