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2026年1月12日 (月)

第522回:実演家等に対するレコード演奏・伝達権の導入と動画や音声を含むデジタル教科書のための権利制限の拡充を含む文化庁の政策小委員会報告書素案

 前回書いた通り、この年末年始に主要な知財法の改正を含むパブコメは行われないのではないかと思っていたが、文化庁の文化審議会・著作権分科会の下の政策小委員会法制度に関するワーキングチーム合同会議が1月9日に開催されて報告書素案が取りまとめられ、この素案が1月28日〆切でパブコメに掛かったので(文化庁の意見募集ページ、電子政府の意見募集ページ参照)、ここでその内容を紹介しておく。

 ただし、パブコメの対象となっている政策小委員会報告書(素案)(pdf)に著作権法の改正事項が含まれるといっても、実演家等に対してレコード演奏・伝達権を導入するという事と、動画や音声を含むデジタル教科書のために権利制限を拡充するという事であって、一般ユーザーへの直接的な影響はほぼないと言って良い。

 まず、前者の実演家等に対するレコード演奏・伝達権の導入は、報告書素案の第7~11ページのⅡ.2.の「(2)基本的な考え方」と「(3)導入する場合の法制度のイメージ」に以下の様に書かれている通り、今まで著作権者に認められていた商業用レコードの公衆への再生や伝達の利用許諾権に加え、著作隣接権者である実演家とレコード制作者にも2次利用料請求権を付与するというものである。

(2)基本的な考え方

○「レコード演奏・伝達権」は、本来、商業用レコードが個人等の限られた範囲内の利用を前提として提供されるものであり、これを公に聴かせて利益を得ることは想定されていないところ、このような公衆に対する利用という利用行為に対し、実演家等への利益還元の手段を付加的に提供するものと考えられる。

○現状では我が国に「レコード演奏・伝達権」が導入されていないため、実演家等も音楽の創造・伝達に寄与した者であるが著作権者と同様に対価を得ることができないという著作権者との間の不均衡や、商業用レコードを公に利用することによって利用者が得ている利益の一部が実演家等に還元されていないという利用者との間の不均衡、海外での利用から実演家等が対価を得ることができないという状況が生じている。

○現行法の制定時には諸外国の状況、国内における影響や商業用レコードの利用状況等を踏まえて法制化が見送られたものの、2.(1)に記載のように国際的な制度の普及や国内における商業用レコードの利用の広がり、日本の音楽の海外展開等の状況の変化を踏まえれば、我が国も国際的な制度との調和を図り、実演家等への対価還元を一層促進する観点から、「レコード演奏・伝達権」を創設することが望ましい。

○「レコード演奏・伝達権」の創設により、我が国の実演家等が他国の実演家等と同じように対価を得ることが可能となり、我が国の音楽産業及び実演家等を取り巻く環境の変化も踏まえれば、海外展開の促進・インセンティブに繋がることや、得られた収益を次世代のアーティスト等の育成・支援の原資とすることが期待される。

○一方で、「「レコード演奏・伝達権」の創設により、国内の利用者には新たな負担が生じることになる。このことがかえって商業用レコードの利用の妨げとなり、音楽や他の活動の展開を萎縮させたり、過度な負担を生じさせたりすることのないよう、権利者側においては、各利用者の懸念や不安等に向き合い、適切な配慮を講じていくことが重要となる。

○また、徴収には権利者・利用者双方にコストが生じることから、権利者側においては、デジタル化時代に即した可能な限り簡便で効率的な仕組みを構築していくことが重要であるとともに、各利用者によって利用できる手法や置かれた状況が異なることから、画一的な徴収・支払いの仕組みではなく、それぞれの状況等を踏まえた仕組みを検討・構築することが重要であり、そうした仕組みを構築することを前提に、実際の徴収を開始すべきである。

○加えて、徴収を担う指定団体(後述)においては、各権利者に公正・公平な分配がなされるよう、正確な分配の基礎となるデータの収集等に努めるとともに、適切な運営を行う必要がある。

(3)導入する場合の法制度のイメージ

○「レコード演奏・伝達権」を導入する場合の法制度の内容については、法制度に関するワーキングチームでの検討を踏まえ、以下のように考えられる。

(権利の主体・内容)

①ローマ条約及びWPPTの関連規定や著作権に関する現行法の規定、2.(1)(2)を踏まえ、「レコード演奏・伝達権」について実演家及びレコード製作者を権利の主体と
し、

・商業用レコードを直接に利用し公衆が音を聴くことができるようにする者(例えば、CDやダウンロードした配信音源等を再生機器で公に再生して聴かせる者)、すなわち、商業用レコードの公の再生を行う者や、

・商業用レコードを間接に利用し公衆が音を聴くことができるようにする者(例えば、放送等されるCDや自動公衆送信される配信音源等を受信装置を用いて公に伝達し聴かせる者)、すなわち、商業用レコードの公の伝達を行う者から、

当該商業用レコードに係る実演家等が二次使用料を受けることができるとする権利を創設する。

具体的には、以下の権利を創設する。

・商業用レコードに録音されている実演の再生又は伝達に関する実演家の二次使用料を受ける権利

・商業用レコードに係る音の再生又は伝達に関するレコード製作者の二次使用料を受ける権利

②二次使用料請求権とする点について、仮に「レコード演奏・伝達権」を許諾権とする場合、商業用レコードの利用には基本的に著作物の利用が含まれ著作権者の許諾権も働くことから、その著作権に重畳して著作物等の伝達を担う者である実演家等の許諾権も働くと権利処理が複雑化し、かえって著作物の公衆への伝達を阻害するおそれがあると考えられる。また、本権利は、商業用レコードが本来予定している範囲を超えてその利用効果が及んでいると考えられるレコードの二次的利用に関するものと国際的に捉えられており、ローマ条約及びWPPT並びに主要な諸外国において報酬請求権とされ、商業用レコードを用いた放送・有線放送に係る二次使用料を受ける権利が我が国においても既に措置されていることから、二次使用料請求権とする。

③保護期間については著作隣接権の期間と同一とする。

④著作権者の演奏権及び公の伝達権について、非営利・無料の演奏や非営利・無料の放送等の伝達に係る法第38条第1項及び同条第3項等の権利制限規定があり、その趣旨や社会的影響を踏まえ、「レコード演奏・伝達権」についてもこれと同様に権利の対象外とする。

(権利行使の方法)

⑤「レコード演奏・伝達権」は、実演・レコードが利用された個々の実演家等に二次使用料請求権を発生させるものとなるが、個々の実演家等が個々の利用者に対し権利行使することや、個々の利用者が支払う相手方である実演家等を逐一確認して支払いを行うことは、そのコスト等に鑑み現実的に困難である。こうした観点から、放送二次使用料については、二次使用料請求権を一つの包括的権利のように集中的に行使させることで権利処理の円滑化を図ることを可能とするため指定団体制が採用されている(法第95条第5項及び第97条第3項)。「レコード演奏・伝達権」についても同様に権利処理の円滑化を図る観点から指定団体制を採用し、文化庁長官が指定する実演家の団体があるときは、当該指定団体によってのみ実演家の当該権利の行使を可能とし、レコード製作者についても同様とする。

⑥団体指定の要件や指定団体と権利者の関係、文化庁長官による監督の仕組みについては、放送二次使用料に係る指定団体制(法第95条)と同様の仕組みとする。

(以下略)

 後者の動画や音声を含むデジタル教科書のための権利制限の拡充は、報告書素案の第16~17ページのⅢ.の「2.検討結果」に以下の様に書かれている通り、現行著作権法第33条の2でデジタル教科書への掲載や利用に関する権利制限は紙の教科書と同一の内容についてのみ認められるとされているのを、紙の教科書に同様に掲載され得ない動画や音声をデジタル教科書が含む場合にも対応できる様に拡充するというものである。

2.検討結果

○教科用図書は、児童生徒に国民として必要な基礎的・基本的な教育内容の履修を保障する重要な役割を果たしており、学校教育の主たる教材としての使用義務や文部科学大臣による検定等の制度があるところ、現行の著作権制度における教科用図書に係る権利制限規定については、教科用図書のそうした役割や高い公共性から、教育の目的上最も適切な著作物を利用することができるようにする必要があるとの考えに基づくものであると説明されている。この基本的な考え方は、今後のデジタル教科書の在り方を踏まえても引き続き維持されるものと考えられる。

○このため、著作権制度における教科用図書等に係る権利制限規定について、今後のデジタル教科書の在り方に対応した次のような見直しが必要となる。

・動画や音声を含む今後のデジタル教科書に対応するため、デジタル教科書に係る著作隣接権の制限について実演、レコードの利用についても対象とすること。

・今後のデジタル教科書に係る検定・採択・無償給与等に際して生じることとなる、複製、公衆送信等の複数の利用行為についても、権利制限の対象とすること。

・デジタル教科書に掲載する著作物等の種類や用途、その利用の態様や状況等も考慮した補償金を、デジタル教科書に著作物等を掲載する者が著作権者等に支払わなければならないこととすること。

・現行の教科用図書に係る権利制限において著作者への通知が義務付けられているように、引き続き著作者人格権を尊重しつつ、法第20条第2項の同一性保持権については引き続き権利制限の対象外となることを前提に、学校教育の目的上やむを得ないと認められる改変等のみについて適用除外とすること。

 私自身は、著作隣接権は、創作者に類する実演家の権利以外、レコード製作者の権利についても、放送事業者の権利についても、歴史的な役割を終えたものとして全面的廃止も含めて検討をした方がいいと思っているが、今現在の著作隣接権の構成を前提とした時に、実演家のみにレコード演奏・伝達権を認めるべきとも言い難く、前者については消極的ながら賛成と言わざるを得ないと考えている。

 いつも言っている通り、権利制限を作る場合に常に狭く使いづらいものとして来た文化庁の弊害がまた出ているとは思うが、デジタル教科書のための権利制限が紙と同一の場合に限るというのは今のデジタル化の流れから見てナンセンスと言って良く、後者はできる限り速やかに対応すべきものだろう。

 上で書いた通り、これらの法改正事項のいずれも、一般ユーザーへの直接的な影響はほぼないと言って良いものであり、私も意見を提出するかも知れないが、簡単に賛成と言うだけで、ここに載せておくほどのものにはならないと思っている。

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