第521回:2025年の終わりに(人口知能(AI)本部で決定されたAI基本計画、知財本部の生成AI透明性プリンシプル・コード案に関する意見募集他)
今年も年末となったので各省庁での政策検討に関するまとめを書いておく。
まず、新たに作られた人工知能(AI)戦略本部で、年末にかけて急ピッチで検討が行われ、12月19日に開かれた第3回の会合でAI基本計画が決定され、その後に閣議決定がされた。
このAI基本計画(pdf)(概要(pdf)も参照)は、日本政府としてAIの利活用と開発に力を入れるとするもので、規制寄りなことは特に書かれていないが、政府の施策について書かれた第3章の第3節(1)(第11ページ)に具体的取組の項目として、
①技術開発の進展とともに、ディープフェイクなどAIを悪用した問題が顕在化している。これらや国民生活への影響について、AI法第16条に基づく調査研究等を実施し、リスクへの対応等を適切に行う。【◎内閣府、関係省庁】
というものがあり、知的財産との関係については、同じく第3章の第4節(2)(第13ページ)に、
③適切な知的財産の保護と利活用につながる透明性の確保を図るとともに、コンテンツホルダーへの対価還元等の推進や、生成AIによる知的財産権侵害対策に関する相談体制の整備、生成AIと知的財産権に関する分かりやすい情報提供等の取組を進める。【◎内閣府、関係省庁】
④AI利活用により生成された製品・サービスを巡る知的財産権について、その在り方を検討する。【◎内閣府、経済産業省、関係省庁】
というものが含まれている。
第518回で取り上げた通り、性的ディープフェイクに関する政府の検討について現時点で明確な方向性が出ているという事はないが、上のAI基本計画で書かれている通り、ディープフェイク問題についてはAI法に基づく調査等がさらに行われ、検討が続けられて行く事になるのだろう。
しかし、この様に昨今の技術の発展で大いに盛り上がりを見せているAIに関する検討を除くと、首相の交代で方向性について多少様子見が行われているのか、その他の知財政策に関してなど全体的に少し停滞気味に見え、現時点で来年の法改正に関するパブコメが行われているという事もない。
知財本部では、構想委員会が開催されて知財計画2026に向けた検討が開始され、前回私が提出した意見を載せたが、今現在1月7日〆切で知財計画パブコメが行われているという状況である。
上のAI基本計画の記載と対応するものだろうと思うが、知財本部では10月から12月にAI時代の知的財産権検討会も開かれており、そこでの検討から生成AIの適切な利活用等に向けた知的財産の保護及び透明性に関するプリンシプル・コード(仮称)(案)(pdf)に関する意見募集が1月26日〆切で掛けられている。
このプリンシプル・コード案は、生成AI事業者に対応が求められる原則として、(1)ウェブサイトで使用モデル・学習データの概要や知的財産保護原則等の情報を公開する事、(2)裁判手続等で権利者から求められた場合に学習データに対象URL等の情報が含まれているかを開示する事、(3)裁判手続等で生成した者から求められた場合に学習データに対象URL等の情報が含まれているかを開示する事、という3つの原則を示すものである。
このように、そのまま強制力を持つ形ではなく、透明性に関する基本的な原則を示して民間の自主的な取り組みを促す事は悪い事ではない。(さらに検討すると書かれている事項もあり、私もパブコメを出すかどうか考えるが、意見を出すにしてもここに載せるほどの事はないように思っている。)
AIに関する検討ということでは、特許庁の産業構造審議会・知的財産分科会の下の特許制度小委員会、意匠制度小委員会でも生成AIと特許や意匠との関係について検討が続けられているが、今の所結論が出ている様子はない。
ここで検討内容の詳細について述べる事はしないが、最近11月28日に開かれた第55回の議題で書かれている通り、特許制度小委員会の方では、国境を跨いで行われるインターネットを通じた特許侵害の問題や知的財産の侵害抑止策について、同じく12月15日の第21回の議題の通り、意匠制度小委員会の方では、仮想空間における意匠保護についても議論がされている。なお、ここではリンクを張るだけにするが、他にも特許の審査基準専門委員会ワーキンググループで審査基準の改訂などが議論されている。
商標制度小委員会は、6月13日に第12回が開かれ、インターネットを通じた侵害、仮想空間における商標保護、生成AIとの関係が議論されている。同じく検討内容の詳細については省略するが、その資料にも書かれている通り、商標法に関する検討ではこれらの論点について現行の商標制度で一定の整理がなされていると言えるという考えでまとまっている様であり、その後商標制度小委員会は開かれていない。
特許関係だと、内閣府の秘密特許(特許出願非公開)制度に関するホームページで、特許出願の非公開に関する制度における実施状況(2024年度版)(pdf)が公開されており、件数以外の詳細は不明だが、2025年3月までの秘密指定件数は0件と分かる。
経産省の不正競争防止小委員会は、3月25日の第28回で、営業秘密管理指針の改訂と合わせ、前回までにいただいた御指摘事項等に係る対応について(pdf)という資料で、生成AIと不正競争防止法による保護の関係について、
肖像と声のパブリシティ価値に係る現行不競法における考え方の整理
●現行不競法上、俳優や声優等の肖像や声等の利用に関しては、周知表示混同惹起行為(不競法第2条第1項第1号)、著名表示冒用行為(同項第2号)、誤認惹起行為(同項第20号)、信用毀損行為(同項第21号)において、事案によっては該当し得る。
●ただし、実態として、①肖像や声の周知の程度、②肖像や声の利用形態等の観点により、個別に判断をしていく必要がある。
という現行法で当然あり得る整理を示した後は開催されていない。
文化庁では、文化審議会・著作権分科会の下で、政策小委員会、法制度に関するワーキングチーム、使用料部会が開かれている。前の2つでは、DX時代の対価還元策、実演家及びレコード製作者に対するレコード演奏・伝達権の導入の是非、動画や音声を含む今後のデジタル教科書への対応といった事が検討されているが、まだ関係者ヒアリングの段階で明確な方向性が出されているという事はない。使用料部会では、未管理著作物裁定制度の手数料等に関する政令改正や著作権者不明等の場合の利用に係る補償金の額の審議などが行われている。
総務省では、引き続き、安心・安全なメタバースの実現に関する研究会とデジタル空間における情報流通の諸課題への対処に関する検討会とが開かれ、総務省のリリース1、2にある通り、それぞれ9月に今年の(中間)報告書が取りまとめられているが、特に問題のある内容が含まれているという事はない。今の所そこまでおかしな規制論を仕掛けて来る様には思っていないが、情報流通対処検討会の下に新しく11月から青少年保護ワーキンググループが設けられ青少年保護の観点からの検討も始められている事は若干注意しておいてもいいかも知れない。
知財とは全く異なる文脈から検討されている事から今まで触れて来なかったのだが、サイトブロッキングとの関係で今現在最も要注意なのは、総務省のオンラインカジノに係るアクセス抑止の在り方に関する検討会だろう。最近の12月22日の第11回の資料の中間論点整理を踏まえた法的課題の検討(pdf)でも、仮にブロッキングを行う場合には法的安定性を確保する観点から何らかの法的担保が必要でより具体的な検討が必要とされており、すぐに結論が出るという事はなさそうだが、オンラインカジノ対策としてのサイトブロッキングの検討は続くと見えるのである。(知財や表現規制とは全く別の文脈に基づく検討であり、よほどの事がない限り私からとやかく言うつもりはないが、どの様な文脈から検討するにしてもサイトブロッキングは無意味であり、オンラインカジノ対策でも他のやり方に注力した方がよほどよいだろうと私は思っている。)
そして、農水省では、5年毎に作っている農林水産省知的財産戦略の2030版(pdf)が6月に公開されている。基本的には今までの検討の延長だと思うが、種苗法の改正検討事項として、優良品種の海外流出・無断栽培の抑止のため、育成者権の存続期間の延長や無許諾の輸出目的保管の刑事罰化を検討するという事が書かれている。優良品種の管理・活用のあり方等に関する検討会が6月の中間報告以降も開催されて検討が続けられているのではないかと思うが、この検討会は非公開のため詳細は不明である。また、農業資材審議会・種苗分科会の方ではいつも通り種苗法の品種登録における重要な形質に関する諮問が行われている。
最後今年も例年通りの口上で締め括るが、政官業に巣食う全ての利権屋に悪い年を、そして、このブログを読んで下さっている方々に心からの感謝を。
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