第494回:閣議決定されたプロバイダー責任制限法改正条文案
今年はしばらくぶりに主要知財法の改正案はなく、これもどちらかと言えば誹謗中傷対策から来ているものだが、プロバイダー責任制限法の改正案が閣議決定され、国会提出されているので、今回は関連法の1つとしてその条文案を見ておく。
この法改正案の概要としては、総務省の国会提出法案ページの概要(pdf)の通り(下線部と太字は元と同様)、
大規模プラットフォーム事業者※1に対して、以下の措置を義務づける。
※1 迅速化及び透明化を図る必要性が特に高い者として、権利侵害が発生するおそれが少なくない一定規模以上等の者。(1)対応の迅速化(権利侵害情報)
〇削除申出窓口・手続の整備・公表
〇削除申出への対応体制の整備(十分な知識経験を有する者の選任等)
〇削除申出に対する判断・通知(原則、一定期間内)(2)運用状況の透明化
〇削除基準の策定・公表(運用状況の公表を含む)
〇削除した場合、発信者への通知上記規律を加えるため、法律※2の題名を「特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律」に改める。
※2 特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(プロバイダ等の免責要件の明確化、発信者情報開示請求を規定)施行期日:公布の日から起算して1年を超えない範囲内において政令で定める日
というものであり、定義に関するテクニカルな改正もあるが、ここでは法律案(pdf)(または新旧対照条文(pdf)参照)から上記の改正のポイントに対応するものとして追加される第5章と第6章を以下に抜粋する。
第五章 大規模特定電気通信役務提供者の義務
(大規模特定電気通信役務提供者の指定)
第二十条 総務大臣は、次の各号のいずれにも該当する特定電気通信役務であって、その利用に係る特定電気通信による情報の流通について侵害情報送信防止措置の実施手続の迅速化及び送信防止措置の実施状況の透明化を図る必要性が特に高いと認められるもの(以下「大規模特定電気通信役務」という。)を提供する特定電気通信役務提供者を、大規模特定電気通信役務提供者として指定することができる。
一 当該特定電気通信役務が次のいずれかに該当すること。
イ 当該特定電気通信役務を利用して一月間に発信者となった者(日本国外にあると推定される者を除く。ロにおいて同じ。)及びこれに準ずる者として総務省令で定める者の数の総務省令で定める期間における平均(以下この条及び第二十四条第二項において「平均月間発信者数」という。)が特定電気通信役務の種類に応じて総務省令で定める数を超えること。
ロ 当該特定電気通信役務を利用して一月間に発信者となった者の延べ数の総務省令で定める期間における平均(以下この条及び第二十四条第二項において「平均月間延べ発信者数」という。)が特定電気通信役務の種類に応じて総務省令で定める数を超えること。
二 当該特定電気通信役務の一般的な性質に照らして侵害情報送信防止措置(侵害情報の不特定の者に対する送信を防止するために必要な限度において行われるものに限る。以下同じ。)を講ずることが技術的に可能であること。
三 当該特定電気通信役務が、その利用に係る特定電気通信による情報の流通によって権利の侵害が発生するおそれの少ない特定電気通信役務として総務省令で定めるもの以外のものであること。2 総務大臣は、大規模特定電気通信役務提供者について前項の規定による指定の理由がなくなったと認めるときは、遅滞なく、その指定を解除しなければならない。
3 総務大臣は、第一項の規定による指定及び前項の規定による指定の解除に必要な限度において、総務省令で定めるところにより、特定電気通信役務提供者に対し、その提供する特定電気通信役務の平均月間発信者数及び平均月間延べ発信者数を報告させることができる。
4 総務大臣は、前項の規定による報告の徴収によっては特定電気通信役務提供者の提供する特定電気通信役務の平均月間発信者数又は平均月間延べ発信者数を把握することが困難であると認めるときは、当該平均月間発信者数又は平均月間延べ発信者数を総務省令で定める合理的な方法により推計して、第一項の規定による指定及び第二項の規定による指定の解除を行うことができる。
(大規模特定電気通信役務提供者による届出)
第二十一条 大規模特定電気通信役務提供者は、前条第一項の規定による指定を受けた日から三月以内に、総務省令で定めるところにより、次に掲げる事項を総務大臣に届け出なければならない。
一 氏名又は名称及び住所並びに法人にあっては、その代表者の氏名
二 外国の法人若しくは団体又は外国に住所を有する個人にあっては、国内における代表者又は国内における代理人の氏名又は名称及び国内の住所
三 前二号に掲げる事項のほか、総務省令で定める事項2 大規模特定電気通信役務提供者は、前項各号に掲げる事項に変更があったときは、遅滞なく、その旨を総務大臣に届け出なければならない。
(被侵害者からの申出を受け付ける方法の公表)
第二十二条 大規模特定電気通信役務提供者(前条第一項の規定による届出をした者に限る。以下同じ。)は、総務省令で定めるところにより、その提供する大規模特定電気通信役務を利用して行われる特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害されたとする者(次条において「被侵害者」という。)が侵害情報等を示して当該大規模特定電気通信役務提供者に対し侵害情報送信防止措置を講ずるよう申出を行うための方法を定め、これを公表しなければならない。2 前項の方法は、次の各号のいずれにも適合するものでなければならない。
一 電子情報処理組織を使用する方法による申出を行うことができるものであること。
二 申出を行おうとする者に過重な負担を課するものでないこと。
三 当該大規模特定電気通信役務提供者が申出を受けた日時が当該申出を行った者(第二十五条において「申出者」という。)に明らかとなるものであること。(侵害情報に係る調査の実施)
第二十三条 大規模特定電気通信役務提供者は、被侵害者から前条第一項の方法に従って侵害情報送信防止措置を講ずるよう申出があったときは、当該申出に係る侵害情報の流通によって当該被侵害者の権利が不当に侵害されているかどうかについて、遅滞なく必要な調査を行わなければならない。(侵害情報調査専門員)
第二十四条 大規模特定電気通信役務提供者は、前条の調査のうち専門的な知識経験を必要とするものを適正に行わせるため、特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害への対処に関して十分な知識経験を有する者のうちから、侵害情報調査専門員(以下この条及び次条第二項第二号において「専門員」という。)を選任しなければならない。2 大規模特定電気通信役務提供者の専門員の数は、当該大規模特定電気通信役務提供者の提供する大規模特定電気通信役務の平均月間発信者数又は平均月間延べ発信者数及び種別に応じて総務省令で定める数(当該大規模特定電気通信役務提供者が複数の大規模特定電気通信役務を提供している場合にあっては、それぞれの大規模特定電気通信役務の平均月間発信者数又は平均月間延べ発信者数及び種別に応じて総務省令で定める数を合算した数)以上でなければならない。
3 大規模特定電気通信役務提供者は、専門員を選任したときは、総務省令で定めるところにより、遅滞なく、その旨及び総務省令で定める事項を総務大臣に届け出なければならない。これらを変更したときも、同様とする。
(申出者に対する通知)
第二十五条 大規模特定電気通信役務提供者は、第二十三条の申出があったときは、同条の調査の結果に基づき侵害情報送信防止措置を講ずるかどうかを判断し、当該申出を受けた日から十四日以内の総務省令で定める期間内に、次の各号に掲げる区分に応じ、当該各号に定める事項を申出者に通知しなければならない。ただし、申出者から過去に同一の内容の申出が行われていたときその他の通知しないことについて正当な理由があるときは、この限りでない。
一 当該申出に応じて侵害情報送信防止措置を講じたとき その旨
二 当該申出に応じた侵害情報送信防止措置を講じなかったとき その旨及びその理由2 前項本文の規定にかかわらず、大規模特定電気通信役務提供者は、次の各号のいずれかに該当するときは、第二十三条の調査の結果に基づき侵害情報送信防止措置を講ずるかどうかを判断した後、遅滞なく、同項各号に掲げる区分に応じ、当該各号に定める事項を申出者に通知すれば足りる。この場合においては、同項の総務省令で定める期間内に、次の各号のいずれに該当するか(第三号に該当する場合にあっては、その旨及びやむを得ない理由の内容)を申出者に通知しなければならない。
一 第二十三条の調査のため侵害情報の発信者の意見を聴くこととしたとき。
二 第二十三条の調査を専門員に行わせることとしたとき。
三 前二号に掲げる場合のほか、やむを得ない理由があるとき。(送信防止措置の実施に関する基準等の公表)
第二十六条 大規模特定電気通信役務提供者は、その提供する大規模特定電気通信役務を利用して行われる特定電気通信による情報の流通については、次の各号のいずれかに該当する場合のほか、自ら定め、公表している基準に従う場合に限り、送信防止措置を講ずることができる。この場合において、当該基準は、当該送信防止措置を講ずる日の総務省令で定める一定の期間前までに公表されていなければならない。
一 当該大規模特定電気通信役務提供者が送信防止措置を講じようとする情報の発信者であるとき。
二 他人の権利を不当に侵害する情報の送信を防止する義務がある場合その他送信防止措置を講ずる法令上の義務(努力義務を除く。)がある場合において、当該義務に基づき送信防止措置を講ずるとき。
三 緊急の必要により送信防止措置を講ずる場合であって、当該送信防止措置を講ずる情報の種類が、通常予測することができないものであるため、当該基準における送信防止措置の対象として明示されていないとき。2 大規模特定電気通信役務提供者は、前項の基準を定めるに当たっては、当該基準の内容が次の各号のいずれにも適合したものとなるよう努めなければならない。
一 送信防止措置の対象となる情報の種類が、当該大規模特定電気通信役務提供者が当該情報の流通を知ることとなった原因の別に応じて、できる限り具体的に定められていること。
二 役務提供停止措置を講ずることがある場合においては、役務提供停止措置の実施に関する基準ができる限り具体的に定められていること。
三 発信者その他の関係者が容易に理解することのできる表現を用いて記載されていること。
四 送信防止措置の実施に関する努力義務を定める法令との整合性に配慮されていること。3 大規模特定電気通信役務提供者は、第一項第三号に該当することを理由に送信防止措置を講じたときは、速やかに、当該送信防止措置を講じた情報の種類が送信防止措置の対象となることが明らかになるよう同項の基準を変更しなければならない。
4 第一項の基準を公表している大規模特定電気通信役務提供者は、おおむね一年に一回、当該基準に従って送信防止措置を講じた情報の事例のうち発信者その他の関係者に参考となるべきものを情報の種類ごとに整理した資料を作成し、公表するよう努めなければならない。
(発信者に対する通知等の措置)
第二十七条 大規模特定電気通信役務提供者は、その提供する大規模特定電気通信役務を利用して行われる特定電気通信による情報の流通について送信防止措置を講じたときは、次の各号のいずれかに該当する場合を除き、遅滞なく、その旨及びその理由を当該送信防止措置により送信を防止された情報の発信者に通知し、又は当該情報の発信者が容易に知り得る状態に置く措置(第二号及び次条第三号において「通知等の措置」という。)を講じなければならない。この場合において、当該送信防止措置が前条第一項の基準に従って講じられたものであるときは、当該理由において、当該送信防止措置と当該基準との関係を明らかにしなければならない。
一 当該大規模特定電気通信役務提供者が送信防止措置を講じた情報の発信者であるとき。
二 過去に同一の発信者に対して同様の情報の送信を同様の理由により防止したことについて通知等の措置を講じていたときその他の通知等の措置を講じないことについて正当な理由があるとき。(措置の実施状況等の公表)
第二十八条 大規模特定電気通信役務提供者は、毎年一回、総務省令で定めるところにより、次に掲げる事項を公表しなければならない。
一 第二十三条の申出の受付の状況
二 第二十五条の規定による通知の実施状況
三 前条の規定による通知等の措置の実施状況
四 前三号に掲げる事項のほか、大規模特定電気通信役務提供者がこの章の規定に基づき講ずべき措置の実施状況を明らかにするために必要な事項として総務省令で定める事項(報告の徴収)
第二十九条 総務大臣は、第二十二条、第二十四条、第二十五条、第二十六条第一項若しくは第三項、第二十七条又は前条の規定の施行に必要な限度において、大規模特定電気通信役務提供者に対し、その業務に関し報告をさせることができる。(勧告及び命令)
第三十条 総務大臣は、大規模特定電気通信役務提供者が第二十二条、第二十四条、第二十五条、第二十六条第一項若しくは第三項、第二十七条又は第二十八条の規定に違反していると認めるときは、当該大規模特定電気通信役務提供者に対し、その違反を是正するために必要な措置を講ずべきことを勧告することができる。2 総務大臣は、前項の規定による勧告を受けた大規模特定電気通信役務提供者が、正当な理由がなく当該勧告に係る措置を講じなかったときは、当該大規模特定電気通信役務提供者に対し、当該勧告に係る措置を講ずべきことを命ずることができる。
(略:第31~34条、書類の送達や電子情報処理組織の使用に関する規定)
第六章 罰則
第三十五条 第三十条第二項の規定による命令に違反した場合には、当該違反行為をした者は、一年以下の拘禁刑又は百万円以下の罰金に処する。
第三十六条 次の各号のいずれかに該当する場合には、当該違反行為をした者は、五十万円以下の罰金に処する。
一 第二十一条の規定による届出をせず、又は虚偽の届出をしたとき。
二 第二十九条の規定による報告をせず、又は虚偽の報告をしたとき。第三十七条 法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関し、次の各号に掲げる規定の違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人に対して当該各号に定める罰金刑を、その人に対して各本条の罰金刑を科する。
一 第三十五条又は前条第一号 一億円以下の罰金刑
二 前条第二号 同条の罰金刑第三十八条 次の各号のいずれかに該当する者は、三十万円以下の過料に処する。
一 正当な理由がなく、第二十条第三項の規定による報告をせず、又は虚偽の報告をした者
二 第二十四条第三項の規定による届出をせず、又は虚偽の届出をした者
この条文案の内容としては概要の通りだが、その第20条で総務大臣が省令で定められる規模以上の者を大規模特定電気通信役務提供者として指定できるとした上で、指定を受けた者に対し、第21条で氏名・住所等の届出、第22条で被侵害者からの侵害情報送信防止措置のための申出を受け付ける方法の公表、第23条で申出を受けた後の調査、第24条で侵害情報調査専門員の選任、第25条で調査結果に基づく申出者への通知、第26条で侵害情報送信防止措置の実施に関する基準の公表、第27条で発信者に対する通知、第28条で措置の実施状況の公表に関する義務をそれぞれ規定するものである。
また、その第29条で総務大臣は大規模特定電気通信役務提供者にその義務に関する報告をさせる事ができるとし、また、第30条第1項で総務大臣は義務違反に対する是正勧告、同条第2項で是正勧告に従わないときの措置命令を出す事ができるとしている。
そして、罰則がついているのは第30条第2項の是正勧告に従わないときの措置命令に違反した場合、第21条の氏名・住所等の届出や第29条の義務に関する報告、第20条第3項の大規模特定電気通信役務提供者の指定のために必要な平均月間発信者数に関する届出と第24条第3項の侵害情報調査専門員に関する届出について届出や報告をしないか虚偽の届出や報告をした場合場合である。
要するに、このプロバイダー責任制限法の改正案は、基本的に一定の規模以上のプラットフォーマーによる取組に関する一般的な報告と届出の義務に対する違反のみに罰則を設けており、あくまでその自主的な取組として、一週間程度以内に速やかに必要な削除が行われるよう、削除手続きに関する運用の整備とその透明化を促すものとなっている。
前回載せた知財計画パブコメでも少し書いたが、私自身は、プロバイダー責任制限法はあらゆるインターネットサービスプロバイダーの責任の制限と裁判手続きを通じた発信者情報の開示をそもそもの目的とするものであるから、大手プラットフォーマーに対する取組の促進は新法による事が望ましかったと思っているが、上の様に、総務省が憲法で禁止されている検閲か、表現の自由に関する過度の制約となる恐れの極めて強い、新しい強力な法規制による網羅的な情報の監視や削除の強制に慎重な姿勢を示しつつ、誹謗中傷対策に関し、このプロバイダー責任制限法改正案を基本的に自主的な取組を促すものとした事は賛同できるものと考えている。
ただし、以前の法改正同様、この法改正についても成立したらその後の運用について注視が必要であるのは無論の事であって、今後、違憲なものとならざるを得ないこれ以上に強力な法規制が導入されないよう見て行く必要もあるだろう。
後は一般ユーザに関係する事はほぼないので、最後に簡単に触れるだけにしておくが、知財関連という事では、既にこの3月28日に参議院でも可決され成立している税制関連法改正により、所謂イノベーションボックス税制が来年度から7年間の時限措置だが導入される事になる。これは、「新たな事業の創出及び産業への投資を促進するための産業競争力強化法等の一部を改正する法律案」の閣議決定に関する経産省のリリースにある通り、産業競争力強化法改正案に含まれる知的財産の活用状況等の調査規定を根拠として、財務省の国会提出法案提出ページの「所得税法等の一部を改正する法律案」の概要(pdf)にある通り、国内で自ら研究開発した特許権等から生ずる一定の所得について30%の所得控除をするものであり、租税特別措置法改正案(法律案全体(pdf)、対応新旧対象条文(pdf)または法律案要綱(pdf)参照)の第59条の3に非常に細かく条件が定められている。
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