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2024年1月28日 (日)

第490回:「AIと著作権に関する考え方について(素案)」に関する意見募集(2月12日〆切)に対する提出パブコメ

 文化審議会・著作権分科会・法制度小委員会で検討されている、AIと著作権に関する考え方の素案についてだが、前々回取り上げた法制小委の第5回12月20日時点版(pdf)の後、法制小委の第6回1月15日時点版(pdf)見え消し版(pdf)も参照)が示され、今現在、2月12日〆切で1月23日時点版(pdf)概要(pdf)も参照)がパブコメに掛かっている(文化庁のHP、電子政府HPの意見募集ページ参照)。

 このパブコメに対しいて私が提出した意見を一番下に載せるが、その前にパブコメ版の素案についてその概要を書いておく。

 12月20日時点版の素案と比較すると、1月15日時点版で、ファインチューニングという用語が追加的な学習と改められてその説明が補足され、著作権の保護対象が著作物の創作的表現であり、被疑侵害物においてその創作的表現が直接感得できる場合に著作権侵害となり得る事が明確化され、検索拡張生成(RAG)、技術的な措置、海賊版サイトからの学習データ収集、AI利用者の認識の有無と著作権侵害の関係、生成後の加筆等の各種記載について説明の補足や整理が図られ、判例等に関する記載や注釈が追加されており、パブコメ対象の1月23日時点版で、さらに細かな記載の修正が加えられているが、いずれも細部に関する記載の補足や明確化の類であって報告書全体の大きな方針に関わる修正ではない。

 そのため、ここでもう一度パブコメ版の素案から長い抜粋を作る事はせず、前々回で作った私の概要を再掲するに留めておく。(一応下の私の概要では素案中の記載の修正などを反映したが、内容は実質的に同じである。また、概要としては上でリンクを張った公式のものでも良いと思う。)

(1)学習・開発段階

  • AI学習のための著作物の利用は原則として著作権法第30条の4の非享受目的利用の権利制限の対象となるが、意図的に、学習データの元の著作物の創作的表現の全部または一部をそのまま出力させる事を目的とする様な場合や、特別な追加学習によって学習データの元の著作物の創作的表現を直接感得できる生成物を出力する事を目的とする様な場合や、機械可読な方法によって複製の禁止が示されている場合に複製をして学習データを作成する様な場合は対象とならない。
  • AIを用いた検索であって結果の一部を表示する様な場合は、著作権法第47条の5の軽微利用目的の権利制限の範囲内で許諾なく可能。
  • 海賊版サイトである事を知りながら、そこから学習データの収集を行って生成AIを開発した様な場合、その事はその生成AIにより生じる著作権侵害における総合的な考慮の一要素となり得、規範的な行為主体として侵害の責任を問われる可能性が高まる。

(2)生成・利用段階

  • AI生成物と既存の著作物との類似性の判断については、原則として、人間がAIを使わずに創作したものと同様。
  • 生成AIを用いた場合でも、AI利用者が既存の著作物を認識しており、既存の著作物の名称の様な特定の固有名詞を入力して出力を生成させるなど、既存の著作物と類似したものを生成させた場合や、利用者が認識していなかったとしても、AI学習用データに当該著作物が含まれ、類似した生成物が得られた場合などは、通常、依拠性が認められ、著作権侵害となり得る。
  • 利用者に対する差し止め等に加え、生成AIによって更なる著作権侵害が生じる蓋然性が高いといえる場合には、生成AIの開発事業者に対して、著作権侵害の予防に必要な措置として、特定のプロンプト入力による生成を禁止する、学習に用いられた著作物の類似物を生成しない措置の様な技術的な制限を求める事も考えられる。
  • その生成AIによって侵害物が高頻度で生成される場合や、既存の著作物の類似物を生成する可能性を認識しているにも関わらず、当該類似物の生成を抑止する技術的な手段を施していない場合などは、事業者が侵害主体と評価される可能性が高まる。

(3)生成物の著作物性

  • 著作権法上の従来の解釈における著作者の認定と同様に考えられ、生成AIに対する指示が表現に至らないアイデアにとどまるような場合には、当該AI生成物に著作物性は認められない。
  • 創作的寄与の判断要素としては、指示・入力(プロンプト等)の分量・内容、生成の試行回数、複数の生成物からの選択が考えられる。

(4)その他

  • 今の所、著作権法において補償金制度を導入することは理論的な説明が困難。

 なお、私が提出した下の意見は、細かな記載の修正提案を除き、知財本部のAIパブコメで出した意見(第485回参照)を今回の素案の内容に合わせて書き直したものである。

 最後に注意として少し触れておくと、特に内容的に問題のあるものではないが、AI関係のパブコメとしては、前々回取り上げたAI事業者ガイドライン案も2月19日〆切でパブコメに掛かっている(電子政府HPの対応意見募集ページ参照)、ただ、これはあくまで総務省と経産省の事業者ガイドラインなので、AIと著作権に関する問題については文化庁の方に意見を出すべきと思う。

(以下、提出パブコメ)

(1)素案全体について
 本素案は、AIと著作権の関係に関し、学習・開発段階と生成・利用段階に分けて考え、学習・開発段階におけるAI事業者によるAI学習のための著作物の利用は、特別な追加学習等によって学習データの元の著作物の創作的表現を直接感得できる生成物を出力する様な場合を別として、原則として著作権法第30条の4の非享受目的利用の権利制限の対象となるとし、生成・利用段階におけるAI利用者によるAI生成物の利用が他者の著作権を侵害するかどうかは、人間がAIを使わずに創作したものと同様にその類似性・依拠性に基づき判断されるとしている。

 この様な整理は現行著作権法の解釈として妥当なものと評価する事ができ、特に、本素案が、現行の著作権法第30条の4等の適用範囲及びAI生成物の利用が著作権侵害となる場合の明確化のみを行っており、かえって社会的混乱を招き、技術の発展を阻害する恐れの強い、法改正によって新たな規制を行う事や補償金請求権を含め新しい権利を付与する事を提言していない事を私は高く評価する。

 著作権侵害とならない生成物を作ろうとする限りにおいて、AIサービスの提供と利用の著作権リスクを相当程度低減している、この今の日本の著作権法のバランスは決して悪くないものである。

 そのため、現時点で余計な社会的混乱を招くだけの権利や補償金などを新たに付与するべきではなく、今後当面の間は、本素案による整理の結果を広く周知するに留めるべきである。

 なお、知財本部や文化庁の検討の場で行われている関係者ヒアリングを見ても、権利者側団体の生成AIに関する主張は単に漠然とした不安を述べ立て確たる根拠なく規制強化と金銭的補償を求めているだけであって到底新たな立法事実たり得ないものばかりである。この様な漠然とした不安については、本素案の整理の通り、現行法によって十分著作権は守られ、その対象である既存の著作物の表現に依拠して類似した生成物による著作権侵害が行われる様になるものではない事を周知する事で十分対応可能である。

 来年度以降より広く著作権に関する問題について検討を行う場合には、権利者団体に属している様な権利者のみならず、SNSなどの各種ネットサービスにおいて自分の文章や絵を公表している一般の利用者も創作者、著作権者として関係して来る事、生成AIを含む新技術が人の新しい創作のツールとなって来たという事も見逃されるべきではない。また、著作権法がその目的を超えて技術の発展の阻害となってはならないのも当然の事であって、さらに柔軟な対応を求められる事も考えられるため、アメリカ型の一般フェアユース条項の導入の検討が進められる事を期待する。

 以上の事を前提として、本素案について、今後広く周知される上でミスリードとなる事がないよう、以下の通り個別の記載の修正を求める。

(2)項目5.(1)エ(イ)について
 本項目において、「著作権法が保護する利益でないアイデア等が類似するにとどまるものが大量に生成されることにより、特定のクリエイター又は著作物に対する需要が、AI生成物によって代替されてしまうような事態が生じることは想定しうるものの、当該生成物が学習元著作物の創作的表現と共通しない場合には、著作権法上の『著作権者の利益を不当に害することとなる場合』には該当しないと考えられる。他方で、この点に関しては、特定のクリエイター又は著作物に対する需要が、AI生成物によって代替されてしまうような事態が生じる場合、『著作権者の利益を不当に害することとなる場合』に該当し得ると考える余地があるとする意見が一定数みられた。」という記載がある。

 この内、「特定のクリエイター又は著作物に対する需要が、AI生成物によって代替されてしまうような事態が生じることは想定しうる」という記載は、ここで問題としている「アイデア等が類似するにとどまるもの」と整合しない。この記載は、「コンテンツ市場における一部の営為がAI生成物によって代替されてしまうような事態が生じることは想定しうる」と修正するべきである。

 また、上記記載の内、「他方で」以下は、パブコメの対象である1月23日時点版で追加されたものであり、その様な意見があった事はその通りであろうが、同様に、著作権の保護する利益ではないものを著作権によって保護しようとするミスリードを含む記載であって、本文中に記載されるのに相応しいものではない。「他方で」以下はすべて削除し、1月15日時点版の形に戻すべきである。この様な意見に対しては注釈20の通り一般的な不法行為責任等があり得る事が分かれば良いと考える。

(3)項目5.(1)エ(オ)について
 本項目は、海賊版等の権利侵害複製物をAI学習のため複製することについて記載したものである。

 ここで書かれている様に、学習データを収集するサイトが海賊版サイトと知っていたかどうかがAI事業者の著作権侵害責任の規範的行為主体性を判断する上で総合的考慮要素の1つとなり得るとしても、インターネット上のウェブサイトは海賊版を含むものであるかどうか通常不明であり、その事前確認は技術的に現実的でない場合が多い。インターネット上のあるウェブサイトが海賊版を含むものである事が事後的に判明したとしても、ウェブサイトが海賊版サイトであるかどうか事前に分からず、そうと知り得る相当な理由があるとも言えない場合は、AI事業者の著作権侵害責任を高める要素となり得ない事を明記し、ここで技術的に現実的でないウェブサイトの事前確認を求めるものではない事を明確化するべきである。

(4)項目5.(2)イ(イ)について
 本項目において、AI利用者が既存の著作物を認識していなかったが、AI学習用データに当該著作物が含まれる場合の事が記載されている。

 この様な場合に通常著作権侵害の判断における依拠性が認められ得るとしても、ここで、AI学習用データに当該著作物が含まれる事はまず権利者が主張・立証するべきものである事を明記するべきである。

 また、現在の技術においては、技術的な措置の有無に関わらず、AI利用者の入力とは全く無関係に又はその意図に反して学習データの元の著作物と類似した出力物が生成される事があり得る。著作権侵害責任の故意又は過失の認定にあたっては、AI利用者がどの様な入力をしたかも考慮要素の1つとなり得る事も明記しておくべきである。

(5)項目5.(2)ウについて
 本項目において、被疑侵害者側が依拠性を否定する上で学習データに当該著作物が含まれていないこと等の事情を主張・立証する事が考えられるという事が記載されている。

 しかし、上記(4)で5.(2)イの項目に対する意見で書いた通り、AI学習用データに当該著作物が含まれる事はまず権利者が主張・立証するべきものであって、その主張・立証が不十分な前にこの様な立証責任の転嫁がされるべきではない上、AI事業者であればともかく、本項目で書かれているAI利用者が学習データに当該著作物が含まれていない事を主張・立証するのは全く現実的でない。

 本項目の記載は全面的に改め、項目名から「依拠性に関するAI利用者の反論について」とした上で、AI学習用データに当該著作物が含まれる事に関する権利者の主張・立証が十分であるかについて反論する事や5.(2)イの項目で書かれている様に外形的に分かる技術的な措置について立証・主張する事がまず考えられ、その上でさらに必要な場合は利用者自身の入力等を考慮して損害賠償責任等について故意又は過失がないと主張・立証する事も考えられると記載するべきである。

 その上で、最後に、裁判等においてAI事業者の参加又は協力が得られるという条件の下で、元の学習データに関する主張・立証をする事が考えられると記載する事はあり得なくはないが、この様な学習データに関する主張・立証は基本的にAI事業者との関係で記載されるべきものである。

(6)項目5.(3)イについて
 本項目において、生成AIに対する指示の具体性とAI生成物の著作物性との関係について、「指示・入力(プロンプト等)の分量・内容」、「生成の試行回数」、「複数の生成物からの選択」という3つの考慮要素があげられている。

 ここでも類推として考えるべきは、確かに共同著作物の場合の様に、ある者が指示を出し別の者が最終的な著作物を作り出したといった場合において、指示を出した者に創作的寄与があったかどうかという事であろうが、その事を考えると上の3つの考慮要素は妥当なものとは言い難い。

 「創作的表現といえるものを具体的に示す詳細な指示は、創作的寄与があると評価される可能性を高めると考えられる」のはその通りであろうが、その後に書かれている通り、「他方で、長大な指示であったとしても、創作的表現に至らないアイデアを示すにとどまる指示は、創作的寄与の判断に影響しない」のであって、第1の要素に「分量」が書かれているのは記載内容と一致していない。

 また、「生成物を確認し指示・入力を修正しつつ試行を繰り返す」事は現状のプロンプト等の入力による生成AI技術において好みの出力を得るために当たり前にされている事であり、AI生成物に機械的なランダム性が加えられている事も多く、同じ入力に対して多数の出力を得た上で利用者が好きなものを選択する事も多い事を考えると、「生成の試行回数」、「複数の生成物からの選択」をAI生成物における著作物性の判断の特別な考慮要素としてあげるのは適切でない。およそあらゆる創作行為は選択に係るものであるが、AI生成物に対してなされる事は、人によって意識的にコントロールされた表現の選択ではなく、通常著作物性が認められないであろう機械的なランダム性を含む複数の生成物からの選択である事に注意すべきである。

 また、本当に判断において考慮されるべき事は人による指示の具体性、すなわち指示と生成物の間の創作的表現としての具体的対応関係、言い換えると創作的表現たり得るものを示す具体的指示に対して考えられる表現の幅である事や、ここで書かれている事はあくまで例示であって閉じたものではない事も明記するべきである。

 本項目における各考慮要素の記載は削除し、「例えば」以下は、「例えば、AI生成物を生成するに当たって、創作的表現といえるものを具体的に示す詳細な指示は、創作的寄与があると評価される可能性を高めると考えられる。他方で、長大な指示であったとしても、創作的表現に至らないアイデアを示すにとどまる指示は、創作的寄与の判断に影響しないと考えられる。試行回数が多いこと自体や単なる選択行為自体は、創作的寄与の判断に影響しないと考えられる。また、指示の具体性の判断においては、指示と生成物の間の創作的表現としての具体的対応関係、言い換えると創作的表現たり得るものを示す具体的指示に対して考えられる表現の幅を考慮する事が考えられるが、考慮されるべきはこれに限られるものではない。」の様に記載を改めるべきである。

(7)その他国際動向について
 最後に、知財本部に出した意見に書いたものと同じであるが、参考として国際動向について簡単に触れておく。

 世界的に見ても生成AIと著作権の関係について、日本の現行法に基づいて考えられる整理以上に何らかの統一的な方向性が見えているという事はない。

 欧州連合(EU)の新AI法案は最終的な条文がどうなっているかまだ分かっていない。今の法案中にある学習に利用した著作物の概要の公開義務が残って何年か後に施行されたとしても、各AIサービス提供者がそれぞれ適法にアクセス可能なインターネット上の著作物を用いて機械学習を行っているという程度の事を公開するだけで終わり、大して意味のある結果をもたらす事はないのではないかと思える。このEUの新AI法案の主眼は人の特定などに用いられる高リスクAIの規制、AIによる偽情報作成への対策などにあると言って良いものである。

 また、EUの2019年の新著作権指令のテキスト及びデータマイニングに関する権利制限は、生成AIとの関係で考えた時に、実質的には日本とほぼ同様であって十分に広く、EU域内においても、インターネット上で適法にアクセス可能な著作物を用いる様な通常想定される場合において、生成AIの学習のための著作物の利用が権利侵害にはなるとは考え難い。

 イギリス著作権法のコンピュータ生成著作物に関する規定も持ち出される事があるかも知れないが、今問題になっている生成AIを含むAI技術との関係を考慮して作られた規定ではなく、過去の判例もほとんどなく、今の技術によるAI生成物との関係は明確でない。仮に、その規定により、人の著作者が存在しないと評価されると、元のAIサービスの開発者・提供者が著作権を有する可能性があるが、その場合、AI生成物の生成と利用の両方において比較的高い著作権侵害のリスクが作り出される事になる。

 さらに、イギリス著作権法には、AI学習のために利用できるEUと同レベルの一般目的のテキスト及びデータマイニングに関する権利制限がなく、AIの学習のための著作物の利用そのものが原則違法と考えられ得るという事もある。そのため、イギリス政府は一般目的のテキスト及びデータマイニングの権利制限を導入すると一旦決定した。しかし、著作権団体のロビーによって頓挫し、行動規範に関する検討に移ったが、これは権利制限の代わりになるものではない。

 この様なイギリスの状況は全く褒められたものではなく、参考とするなら反面教師としてでしかない。

 アメリカについては、今現在生成AIと著作権の問題に関係する訴訟が多く提起されているが、今の所人工知能は著作者たり得ないとする判決を2023年8月18日にコロンビア地裁が出しただけで、多くは係属中であり、その動向に良く注意を払うべきである。

 また、アメリカ著作権局の2023年3月16日のAI生成物の著作権登録を不可とする方針ペーパーや、2023年8月30日から行っていた著作権とAIに関する意見募集の内容とその結果についても国際動向の1つとして見ておくべきものと考える。

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