第489回:新たなクールジャパン戦略の策定に向けた意見募集(2月10日〆切)に対する提出パブコメ
知財本部から2月10日〆切で行われている新たなクールジャパン戦略の策定に向けた意見募集(知財本部HPの意見募集要項(pdf)、電子政府HPの意見募集ページ参照)に対して意見を提出した。
私の提出意見の内容は、今まで知財計画パブコメやブログでパロディ等に関する権利制限について書いて来た事のまとめであり、特に目新しい事を書いているという事はないが、念のため参考としてここに載せておく。
(国際動向について提出意見の中ではかなり簡単に書いているが、より詳しく知りたい方は、2014年のイギリス著作権法改正について第310回、2019年の欧州新著作権指令について第408回、2019年7月29日の楽曲サンプリングに関する欧州司法裁の判決について第411回、2021年のドイツ著作権法改正について第441回、2022年4月26日の欧州新著作権指令に関する欧州司法裁の判決について第459回、2023年9月14日の楽曲サンプリングに関する質問を再付託するドイツ最高裁の決定について第484回をそれぞれ御覧頂ければと思う。)
また、つい先週1月15日の文化審議会・著作権分科会・法制度小委員会の第6回において、パブコメ前の最終案であろうAIと著作権に関する考え方についての素案(pdf)(見え消し版(pdf)も参照)が示されている。前回取り上げたバージョンから大きな方向性の変更はないので、パブコメに掛かり次第また提出意見を載せる形にするかも知れないが、次回はこの素案について取り上げる予定である。
(2024年1月28日の追記:そういえばリンクを張り忘れていたが、2014年8月のクールジャパン提言については第319回、2019年9月のクールジャパン戦略については第413回をそれぞれ御覧頂ければと思う。)
(以下、提出パブコメ)
《要旨》
新たにクールジャパン戦略を作成するにあたっては、2014年8月のクールジャパン提言の二次創作規制を緩和するという記載を取り入れつつ、さらに具体的に、二次創作規制の緩和のために必須の権利制限として、風刺やパロディ、パスティーシュのための権利制限を著作権法に導入するとともに、一般フェアユース条項の導入も速やかに検討すると明記するべきである。
《全文》
2019年9月のクールジャパン戦略で何故かなかったことにされているが、2014年8月のクールジャパン提言の第13ページにおいて、「クリエイティビティを阻害している規制についてヒアリングし規制緩和する。コンテンツの発展を阻害する二次創作規制、ストリートパフォーマンスに関する規制など、表現を限定する規制を見直す。」と、二次創作に関する規制緩和を行う事が明確に記載されていた。
二次創作が日本の文化的創作の原動力の一つになっており、その推進のために現状の規制を緩和する必要がある事は今も妥当する事であって、インターネット上の創作活動も含む日本の文化とそれに基づく産業のさらなる発展の事を考えると、10年近く前のものであるが、上記の提言は今現在も何らその意味を失っていないどころか、さらに重要性を増していると言っても過言ではない。
新たにクールジャパン戦略を作成するにあたっては、上記の二次創作規制を緩和するという記載を取り入れつつ、さらに具体的に、二次創作規制の緩和のために必須の権利制限として、風刺やパロディ、パスティーシュのための権利制限を著作権法に導入するとともに、一般フェアユース条項の導入も速やかに検討すると明記し、政府としてこのような創作に関する規制の緩和を強力に推進する方針を明確に示すべきである。
また、今後の検討にあたっては、以下の様な国際動向も決して見過ごされるべきではない。
言うまでもない事であろうが、アメリカでは昔からパロディ等に関してフェアユースが認められている。
欧州レベルで見ても、欧州著作権指令第2001/29号において、第5条第2項(k)としてパロディ等に関する権利制限があり得る権利制限の1つとしてあげられ、欧州新著作権指令第2019/790号において、その前文70で、表現の自由との間で正しいバランスを保つためパロディ等の権利制限は強行的なものであるべき事が謳われ、第17条第7項で、加盟国はオンライン共有サービスの利用者がパロディ等のための権利制限に依拠できる事を確保しなければならないと規定され、2022年4月26日の欧州司法裁の判決でもこの権利制限の意味及び強行規定性は再確認されている。
欧州主要国という観点で見ると、この様なパロディ等のための権利制限は、フランスには昔から存在しており、イギリスでも2014年の法改正によって導入されており、国際的に厳しい著作権法を有する事で知られたドイツにおいても、国内外における議論の高まりを受け、2021年の著作権法改正により欧州著作権指令と同様のパロディ等のための権利制限が導入されている。
ここで、ドイツでは、楽曲サンプリングが著作権侵害となるかについて20年近く法廷紛争が続けられている。この事件において、欧州司法裁が、2019年7月29日に、聞いても再認識できない形にされた楽曲断片の利用は著作権侵害にならないとの判断を示していたが、ドイツ最高裁が、最近、2023年9月14日の決定により、欧州司令第2001/29号の第5条第3項(k)がサンプリングを含む包括条項であるのかという質問を再度付託するに至っている。
欧州司法裁がどの様な判断を示すか次第であるが、この様なドイツの事件の事も考えると、風刺、パロディ、パスティーシュという3つの類型のみをあげる欧州型の権利制限はそれだけでは十分なものでない可能性がある。
特に、著作物の公正利用には変形利用もビジネス利用も考えられる事、及び、インターネットのように、ほぼ全国民が利用者兼権利者となり得、考えられる利用形態が発散し、個別の規定では公正利用の類型を拾い切れなくなるところでは、フェアユースのような一般規定は保護と利用のバランスを取る上で重要な意義を持つものである事を踏まえ、欧州型のパロディ等に関する権利制限の導入に加え、アメリカ等と遜色ない形で一般フェアユース条項を可能な限り早期に導入するべきであると考える。
なお、常に一方的かつ身勝手な主張を繰り広げる自称良識派団体が、意味不明の理屈から知財とは本来関係のない危険な規制強化の話を盛り込むべきと主張をしてくることが十分に考えられるが、知財計画同様、新たなクールジャパン戦略においても一般的な情報・ネット・表現規制に関する事が書き込まれる事は断じてあってはならない事である。
サイトブロッキング、児童ポルノを理由とした単純所持規制や架空の創作物の規制等の一般的な情報・ネット・表現規制は、憲法により保障された基本的な権利である表現の自由、検閲の禁止、通信の秘密等に明らかに抵触し、日本の文化と産業の発展を阻害するばかりか、インターネットの単純なアクセスすら危険なものとするものであって、ひいては民主主義の最重要の基礎である表現の自由を始めとした精神的自由そのものを危うくする非常識かつ危険なものばかりである。
政府・与党にあっては、日本の民主主義、文化とそれに基づく産業の発展の最重要の基礎は憲法に保障された表現の自由等にある事を十分に認識し、この基礎をより一層守り高めるため、上記の通り新たな表現の創作に関する規制を緩和する事のみに注力するべきである。
(誤記に関する追記)
提出している途中で気づいたことであるが、上記意見の内、欧州著作権指令第2001/29号について、「第5条第2項(k)」と記載したのは「第5条第3項(k)」の誤記である。そのままでも意味は通じると思うが、可能であれば修正いただきたい。
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