第486回:意見募集中の新秘密特許(特許非公開)制度関係府省令案
新秘密特許(特許非公開)制度施行前のものとしては最後のものになるのだろうが、11月19日〆切で関係府省令案のパブコメが2つ出ているので、今回はその内容を見ておきたい。
まず、1つ目の意見募集(電子政府の意見募集ページ1参照)の方の内閣府と経産省の共同府省令案(pdf)(様式案1(pdf)も参照)の特許出願人側の手続きに関する主な部分を以下に抜粋する。(経済安全保障法による新秘密特許制度自体については第453回や第461回、基本指針については第472回、政令については第480回参照。)
内閣府・経済産業省関係経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関する法律に基づく特許出願の非公開に関する命令
第一条(略:特許庁から内閣総理大臣への送付方法を規定)
(保全審査に付することを求める旨の申出)
第二条 法第六十六条第二項前段の規定による申出(以下この項において単に「申出」という。)は、次に掲げる事項を記載した様式第一による申出書によってしなければならない。
一 申出に係る発明の内容及び法第六十五条第一項に規定する明細書等において当該発明が記載されている箇所
二 申出の理由2~4(略:電子情報処理組織を使用して手続きができる事等を規定)
(送付をしない旨の判断をした旨の通知を求める申出)
第三条 法第六十六条第十項の規定による申出は、様式第二による申出書によってしなければならない。2 前項の申出書は、特許出願の日(特許出願が法第六十六条第四項の表の上欄に掲げる特許出願である場合にあっては、同表の上欄に掲げる区分に応じそれぞれ同表の下欄に掲げる日(当該特許出願が同表の上欄に掲げる区分の二以上に該当するときは、その該当する区分に係る同表の下欄に定める日のうち最も遅い日))から同条第一項に規定する政令で定める期間を経過する日までに提出しなければならない。
3~4(略:前条第2~3項の準用等を規定)
第四条(略:第4条で出願の却下の処分の記載事項を規定)
(外国出願の禁止に関する事前確認)
第五条 法第七十九条第一項の規定による確認の求めは、次に掲げる事項を記載した様式第三による申出書によってしなければならない。
一 法第七十八条第一項に規定する外国出願(次号及び第三号において単に「外国出願」という。)をしようとする者の氏名又は名称及び住所又は居所
二 国若しくは国立研究開発法人(独立行政法人通則法(平成十一年法律第百三号)第二条第三項に規定する国立研究開発法人をいう。以下この号において同じ。)が委託した技術に関する研究及び開発又は国若しくは国立研究開発法人が請け負わせたソフトウェアの開発の成果に係る発明であって、その発明について特許を受ける権利につき産業技術力強化法(平成十二年法律第四十四号)第十七条第一項(国立研究開発法人が委託し又は請け負わせた場合にあっては、同条第二項において準用する同条第一項)の規定により国又は当該国立研究開発法人が譲り受けないこととしたものを記載した外国出願をしようとする場合にあっては、その旨
三 国が委託した技術に関する研究及び開発の成果に係る発明であって、その発明について特許を受ける権利につき科学技術・イノベーション創出の活性化に関する法律(平成二十年法律第六十三号)第二十二条(第一号に係る部分に限る。)の規定により国がその一部のみを譲り受けたものを記載した外国出願をしようとする場合にあっては、その旨2 前項の申出書には、法第七十九条第一項の規定による確認の求めに係る発明(次項において単に「発明」という。)の内容を記載した書面及び必要な図面を添付しなければならない。
3 前項の書面には、次に掲げる事項を記載しなければならない。
一 発明の名称
二 図面の簡単な説明
三 発明の詳細な説明4 第二項の書面は様式第四により、同項の必要な図面は様式第五により作成しなければならない。
5 第二項の書面に記載する事項及び必要な図面に含まれる説明は、英語で記載することができる。
6 法第七十九条第六項に規定する手数料の納付は、第一項の申出書に、同条第五項に規定する政令で定める額に相当する収入印紙を貼って提出することによって行うものとする。
第六条(略:出願却下処分の謄本が送達される事を規定)
第七条(略:特許法施行規則の書面手続きに関する規定を準用)
2つ目の意見募集(内閣府の意見募集ページ2参照)の方の内閣府令案(pdf)(様式案2(pdf)も参照)からも特許出願人側の手続きに関する主な部分を以下に抜き出す。
経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関する法律に基づく特許出願の非公開に関する内閣府令
第一条(略:定義について規定)
第二条(略:書面による手続等について規定)
(保全審査における意見の聴取)
第三条 法第六十七条第一項の規定により保全審査をするに当たっては、明細書等に記載されている発明を公にすることにより外部から行われる行為によって国家及び国民の安全を損なう事態を生ずるおそれの程度及び保全指定をした場合に産業の発達に及ぼす影響その他の事情について、特許出願人の意見を聴くものとする。ただし、同条第二項の規定により特許出願人に対して資料の提出又は説明を求めることなく保全指定をする必要がないと判断できる場合は、この限りでない。(保全対象発明となり得る発明の内容の通知)
第四条 法第六十七条第九項の規定による通知は、保全対象発明となり得る発明の内容及び明細書等において当該発明が記載されている箇所を記載した書面により行うものとする。(法第六十七条第九項第三号の内閣府令で定める事項)
第五条 法第六十七条第九項第三号の内閣府令で定める事項は、同項第一号又は第二号に規定する事項に変更の予定がある場合における当該変更の内容とする。(特許出願を維持する場合の手続)
第六条 法第六十七条第十項の規定による書類の提出は、様式第一によりしなければならない。(保全指定の通知)
第七条 法第七十条第一項の規定による特許出願人及び特許庁長官への通知は、次の各号に掲げる事項を記載した書面により行うものとする。
一 保全対象発明の内容及び明細書等において当該保全対象発明が記載されている箇所
二 法第七十条第二項の規定により定めた保全指定の期間
三 発明共有事業者に関する事項(保全指定の期間の延長)
第八条 法第七十条第三項後段の規定により保全指定の期間を延長しようとするときは、あらかじめ、指定特許出願人の意見を聴くものとする。(保全対象発明の実施の許可の申請書の記載事項)
第九条 法第七十三条第二項の内閣府令で定める事項は、次に掲げる事項とする。
一 実施をしようとする者の氏名(法人にあっては、その名称及び代表者の氏名)及び住所又は居所
二 実施をすることが必要な理由
三 実施による保全対象発明に係る情報の漏えいの防止のために講ずる措置(法第七十五条第一項の内閣府令で定める措置)
第十条 法第七十五条第一項の内閣府令で定める措置は、次に掲げる措置とする。
一 組織的な情報管理に関する措置として次に掲げるもの
イ 保全対象発明に係る情報(発明共有事業者が講ずる措置については、指定特許出願人が取り扱うことを認めた保全対象発明に係る情報に限る。以下この条において「保全対象発明情報」という。)を取り扱う者を適正に管理するとともに、保全対象発明情報の漏えいを防止するための措置の適切な実施を一元的に管理する責任者(以下「保全情報管理責任者」という。)を指名すること。
ロ 保全対象発明情報を取り扱う者の責務及び業務を明確にすること。
ハ 保全指定の期間、保全情報管理責任者及び保全対象発明情報を取り扱う者並びにこれらであった者の氏名、実施の許可の状況その他保全対象発明情報を適正に管理するのに必要な情報を記載した管理簿を整備すること。
ニ 保全対象発明情報を営業秘密(不正競争防止法(平成五年法律第四十七号)第二条第六項に規定する営業秘密をいう。)として取り扱うこと。
ホ 保全対象発明情報の管理に関する措置を適切に講ずるため、保全対象発明情報の適正管理に関する規程の策定及び実施並びにその運用の評価及び改善を行うこと。
ヘ 発明共有事業者がホの規程を策定し、又はこれを変更しようとする場合にあっては、あらかじめ、指定特許出願人の確認を受けること。
ト 保全対象発明情報の漏えいが発生し、又は発生するおそれがある場合における事務処理体制を整備すること。
チ 保全対象発明情報の漏えいが発生し、又は発生するおそれがあると認めたときは、指定特許出願人にあっては内閣総理大臣に、発明共有事業者にあっては指定特許出願人に、直ちにその旨を報告すること。
二 人的な情報管理に関する措置として次に掲げるもの
イ 保全対象発明情報を取り扱う者の範囲を必要最小限にとどめること。
ロ 保全対象発明情報を取り扱う者を追加しようとするときは、あらかじめ、その者について、保全情報管理責任者に保全対象発明情報を漏えいさせるおそれがあるか否かについての確認を行わせ、そのおそれがあると認められる場合は、保全対象発明情報を取り扱わせないこと。
ハ 保全対象発明情報を取り扱う者に対して、前号ホの規程を遵守させるための措置を講ずること。
ニ 保全情報管理責任者に保全対象発明情報を取り扱う者に対する必要な教育及び訓練を行わせること。
三 物理的な情報管理に関する措置として次に掲げるもの
イ 保全対象発明情報を記録する文書、図画、電磁的記録に係る記録媒体若しくは物件又は当該保全対象発明情報を化体する物件(以下この号において「保全対象発明情報文書等」という。)を取り扱う区域を特定し、その特定された区域(以下この号において「特定区域」という。)への立入りの管理及び制限をするための措置を講ずること。
ロ 保全対象発明情報文書等の保管は、特定区域において適切な保管設備を用いて保全対象発明情報の
漏えいを防止するための措置を講じた上で行うこと。
ハ 新たに保全対象発明情報文書等を複製又は製作しようとするときは、あらかじめ、その理由を示して、保全情報管理責任者の承認を得ることとし、その数は必要最小限にとどめること。
ニ 保全対象発明情報文書等を特定区域から持ち出そうとするときは、あらかじめ、その理由を示して、保全情報管理責任者の承認を得ることとすること。
ホ 保全対象発明情報文書等を廃棄する場合には、復元不可能な手段で行うこと。
ヘ イからホまでに掲げるもののほか、保全対象発明情報文書等の盗難及び紛失を防止するための措置を講ずること。
四 技術的な情報管理に関する措置として次に掲げるもの
イ 電子計算機において保全対象発明情報の処理及び閲覧をすることができる者を限定するための措置
を講ずること。
ロ 保全対象発明情報を取り扱う電子計算機が電気通信回線に接続している場合、不正アクセス行為(不正アクセス行為の禁止等に関する法律(平成十一年法律第百二十八号)第二条第四項に規定する不正アクセス行為をいう。)を防止するための措置を講ずること。
ハ イ及びロに掲げるもののほか、電子計算機における保全対象発明情報の漏えいを防止するための措置を講ずること。(発明共有事業者の変更の手続)
第十一条 法第七十六条第一項の規定による承認の申請は、次に掲げる事項を記載した様式第二による申請書によりしなければならない。
一 新たに保全対象発明に係る情報の取扱いを認める事業者の氏名(法人にあっては、その名称及び代表
者の氏名)及び住所又は居所
二 新たに保全対象発明に係る情報の取扱いを認めることが必要な理由
三 新たに保全対象発明に係る情報の取扱いを認める事業者における情報の管理の予定2 法第七十六条第二項の規定による変更の届出は、様式第三による届出書によりしなければならない。
(補償請求書)
第十二条 法第八十条第二項の規定により補償を請求しようとする者は、次の各号に掲げる事項を記載した様式第四による請求書に、当該事項を疎明するに足りる資料を添えて、これを内閣総理大臣に提出しなければならない。
一 補償請求額の総額及びその内訳
二 補償請求の理由第十三条(略:立入検査の証明書について規定)
第480回で書いた通り、秘密とするかどうかの保全審査の対象となる技術分野は政令でかなり絞り込まれていると思うので、影響を受ける特許出願はかなり限定的なものになると思うが、内閣府と経産省の共同府省令案の第5条で規定される様に、外国出願のための事前確認の申出書は発明の内容について実際に出願をするのとほぼ同様の記載が求められる様である。その中で、その内容を英語で記載しても良いとしているのは、外国出願という目的から、出願人側の便宜を考慮したものだろうか。
また、府令案の方の第10条を見ると、秘密指定を受けた保全対象発明について、特許出願人は、それを営業秘密として取り扱い、情報管理のための管理責任者、管理簿、規程、体制、区域、設備、漏洩防止措置を作り、報告するというかなり重い義務が求められる上、場合により立ち入り検査や改善命令を受ける可能性も出て来る。
発明を秘密とするべきという保全指定を受けると、特許出願人はこの様な義務を含む各種制約を受ける事になるが、その際の大きな判断材料になるだろう補償請求については、府令案の方の第12条とこれに対応する様式で、「補償請求額の総額及びその内訳」と「補償請求の理由」を書き、当該事項を疎明するに足りる資料を添えて提出するとしているだけで、制度的に特許権の付与により保護範囲が確定される事もあり得ない中、これで本当に妥当な補償金額を決定できるのかは甚だ疑問である。
上に書いた通り、指定の秘密とするかどうかの保全審査の対象となる技術分野は政令でかなり絞り込まれており、この制度の影響は限定的だろうと思えるので、この府省令案のレベルでどうこう言うつもりはあまりないが、これで施行後に何か指定対象が出て来たとして本当に妥当な補償金額の算定ができるのか、さらには、この制度のそもそもの存在意義からして私がなお疑問に思っている事に変わりはない。
(2024年3月16日の追記:1箇所語記を直した(「指定の秘密」→「秘密」)。)
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