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2023年10月29日 (日)

第485回:知財本部・AI時代における知的財産権に関する意見募集(11月5日〆切)に対する提出パブコメ

 11月5日〆切で掛かっている知財本部のAI時代における知的財産権に関する意見募集(知財本部HPの意見募集要項(pdf)、電子政府HPの意見募集ページ参照)に対して意見を出したので、ここに載せておく。

 特許法など他の知的財産法についても意見募集の対象となっていたので少し意見を追加で書いたが、内容はほぼ今までこのブログで書いて来た事のまとめである。

 日本政府にしては珍しく報告書案として方針がまとまる前のオープンなパブコメであり、AIと知的財産の関係について関心のある方は是非提出を検討する事をお勧めする。

 次回は、そのレベルで何か問題があるという事ではないが、今現在同じくパブコメに掛かっている新秘密特許(特許非公開)制度に関する府省令案について取り上げたいと思っている(電子政府の意見募集ページ2参照)。

(以下、提出パブコメ)

Ⅰ.生成AIと知財をめぐる懸念・リスクへの対応等について
①生成AIと著作権の関係について、どのように考えるか。
【御意見】
 今年の知財計画策定に向けた意見募集の際に出した意見と同じであるが、政府・与党において生成AIと著作権の関係に関する検討を行う事自体に反対はしないが、この検討においては、この様な新技術の発展が速い事や国際動向等にも照らし、かえって社会的混乱を招き、技術の発展を阻害する恐れの強い、法改正によって新たな規制を行う事や新しい権利を付与する事には極めて慎重であるべきである。

【理由・根拠事実】
 最初に、検討において人口知能(AI)という言葉曖昧な儘に使われている懸念がある事を指摘する。私は、1つの案として、「生成AI」とは、大量の計算リソースを使う機械学習を用いたものであって、利用者側の簡単な指示の入力によって対応する文章や画像などの出力が可能なサービスの事を指すものという定義を提案し、これに基づいて以下の意見を述べるが、法的議論をするのであれば、「生成AI」とは何かという定義と範囲を明確にしてからするべきである。

 知財本部又は文化庁の過去の資料において示されている通り、著作権と生成AIの関係について、(1)機械学習における著作物の利用と生成AIサービスの提供というサービス提供側の話と、(2)利用者による入力結果のAI生成物の利用という利用者側の話の2つに分けるという考え方は妥当である。

 そして、(1)機械学習における著作物の利用と生成AIサービスの提供というサービス提供側については、以前の著作権法の改正経緯等から考えて、現行の著作権法第30条の4により、機械学習に利用された元の著作物の表現と異なる生成物の出力を行う事を目的とする通常の生成AIサービスや学習データの提供については権利制限の対象となると考えられる。

 しかし、特定の著作者や著作物の表現と同一又は類似した生成物の出力に専ら利用されている様な場合は別であって、実際に個別の著作権侵害との関係で争いになれば、機械学習の内容、利用の実態、規約の実効性、権利侵害に対して技術的に取り得る手段などを論点として、サービス提供がこの権利制限の対象となるかについて判断される事になると考えられる。

 また、サービス規約によって利用者に何らかの制約を課す事はできるだろうが、それ以上にAIサービス提供者に何か著作権が発生しているという事もない。

 (2)利用者による入力結果のAI生成物の利用については、著作物の創作者は自然人のみであり、創作的表現である著作物の創作に関与した者に著作権があるかどうかは、その者が最終的な表現にどこまで創作的に寄与したかで決まる。今問題となっている、簡単な指示の入力によって文章や画像を出力する生成AIサービスにおいて、その利用者に、出力された生成物の最終的な表現に対する創作的な寄与があり、その結果として著作権があるとは考え難い。その様な利用者は一次創作者たり得ず、無論二次創作者でもあり得ず、生成AIサービスの利用者にも生成物に関する著作権は通常ないと考えられる。

 しかし、この事は、サービス提供者の著作権も利用者の著作権もないと考えられる生成物が他人の著作権の侵害を構成しない事を意味しない。既存の著作物に依拠して類似した表現物を作成して他の者に提供した場合に著作権侵害となり得るのは当たり前の事であって、この事はどの様なツールを使うかに依存しないし、生成AIサービスを利用した場合であっても同じと考えられるべきである。

 すなわち、現行の著作権法第30条の4の非享受目的利用の範囲内で、著作権侵害とならない生成物を出力する事を通常の目的とする限りにおいて、生成AIサービスの提供者による既存の著作物の利用も、利用者のサービス利用も問題なく行えると考えて良いが、サービス提供者にも利用者にも著作権はなく、それぞれ、サービスが専ら著作権侵害となる生成物の出力に利用されていないか、生成物の利用が他人の著作権を侵害しないかについて十分注意する必要があるという事になる。

 著作権侵害とならない生成物を作ろうとする限りにおいて、AIサービスの提供と利用の著作権リスクを相当程度低減している、この今の日本の著作権法のバランスは決して悪くないものである。

 そのため、現時点で余計な社会的混乱を招くだけの権利や補償金などを新たに付与するべきではなく、今後の検討にあたっては、現行の著作権法第30条の4の適用範囲及びAI生成物の利用が著作権侵害となる場合の明確化のみを行い、その結果を広く周知するに留めるべきである。

 最後に、参考として国際動向について簡単に触れておくが、世界的に見ても生成AIと著作権の関係について、日本の現行法に基づいて考えられる整理以上に何らかの統一的な方向性が見えているという事はない。

 欧州連合(EU)の新AI法案は、まだEUの機関の間での協議が残っており、最終的な条文がどうなるかは分からないものである。今の法案中にある学習に利用した著作物の概要の公開義務が残って何年か後に施行されたとしても、各AIサービス提供者がそれぞれ適法にアクセス可能なインターネット上の著作物を用いて機械学習を行っているという程度の事を公開するだけで終わり、大して意味のある結果をもたらす事はないのではないかと思える。このEUの新AI法案の主眼は人の特定などに用いられる高リスクAIの規制、AIによる偽情報作成への対策などにあると言って良いものである。

 また、EUの2019年の新著作権指令のテキスト及びデータマイニングに関する権利制限は、生成AIとの関係で考えた時に、実質的には日本とほぼ同様であって十分に広く、EU域内においても、インターネット上で適法にアクセス可能な著作物を用いる様な通常想定される場合において、生成AIの学習のための著作物の利用が権利侵害にはなるとは考え難い。

 イギリス著作権法のコンピュータ生成著作物に関する規定も持ち出される事があるかも知れないが、今問題になっている生成AIを含むAI技術との関係を考慮して作られた規定ではなく、過去の判例もほとんどなく、今の技術によるAI生成物との関係は明確でない。仮に、その規定により、人の著作者が存在しないと評価されると、元のAIサービスの開発者・提供者が著作権を有する可能性があるが、その場合、AI生成物の生成と利用の両方において比較的高い著作権侵害のリスクが作り出される事になる。

 さらに、イギリス著作権法には、AI学習のために利用できるEUと同レベルの一般目的のテキスト及びデータマイニングに関する権利制限がなく、AIの学習のための著作物の利用そのものが原則違法と考えられ得るという事もある。そのため、イギリス政府は一般目的のテキスト及びデータマイニングの権利制限を導入すると一旦決定した。しかし、著作権団体のロビーによって頓挫し、行動規範に関する検討に移ったが、これは権利制限の代わりになるものではない。

 この様なイギリスの状況は全く褒められたものではなく、参考とするなら反面教師としてでしかない。

 アメリカについては、今現在生成AIと著作権の問題に関係する訴訟が多く提起されているが、今の所人工知能は著作者たり得ないとする判決を2023年8月18日にコロンビア地裁が出しただけで、多くは係属中であり、その動向に良く注意を払うべきである。

 また、アメリカ著作権局の2023年3月16日のAI生成物の著作権登録を不可とする方針ペーパーや、2023年8月30日から行っていた著作権とAIに関する意見募集の内容とその結果についても国際動向の1つとして見ておくべきものと考える。

 なお、文化庁と知財本部で並行して検討をしている事は屋上屋の誹りを免れないものと思うが、これらの検討の場で行われている関係者ヒアリングを見ても、権利者側団体の生成AIに関する主張は単に漠然とした不安を述べ立て確たる根拠なく規制強化と金銭的補償を求めているだけであって到底新たな立法事実たり得ないものばかりである。この様な漠然とした不安については、上記の現行法に基づく明確化の検討を進め、現行法によって十分著作権は守られ、その対象である既存の著作物の表現に依拠して類似した生成物による著作権侵害が行われる様になるものではない事を周知する事で十分対応可能である。今後の検討にあたっては、自然人の創作になる表現を守る事によって文化の発展に寄与する事を目的とするという著作権法の基礎にまで立ち返って真摯な検討がなされる事を期待する。さらに、この様な検討においては、生成AIを含む新技術が人の新しい創作のツールとなって来たという事実も見逃されるべきではなく、また、著作権法がその目的を超えて技術の発展の阻害となってはならないのも当然の事であって、さらに柔軟な対応を求められる事も考えられるため、アメリカ型の一般フェアユース条項の導入の検討が進められる事を期待する。

②生成AIと著作権以外の知的財産法との関係について、どのように考えるか。
【御意見】
 特許法については、下記のⅡで意見を述べる。創作保護法である実用新案法及び意匠法についても下記の特許法と同様の検討が必要と考える。その他の標識保護法である商標法、不正競争防止法、パブリシティ権等との関係については現時点では詳細な検討は不要であると考える。

【理由・根拠事実】
 特許法、実用新案法及び意匠法について、下記Ⅱ参照。

 標識保護法である商標法と不正競争防止法における商品等表示規制について、規制されるのは商標としての使用などである事から、生成AIにおける学習との関係で問題が生じる事はあり得ず、他人の商標等と類似したAI生成物を商標として利用する場合等に権利侵害となり得る事を周知して行く事で十分と考える。

 不正競争防止法における形態模倣規制については、問題となるのは他人の商品の形態の模倣であって、生成AIとの関係で何か問題が生じる事は想定し難い。現時点では、仮に何か必要であるとしても、商品の形態を学習させた生成AIの出力を用いた模倣もこの規制の対象となり得る事を周知して行く事で十分と考える。

 同様に、不正競争防止法における営業秘密及び限定提供データ規制についても、生成AIの学習データが営業秘密又は限定提供データ規制の対象となり得る事を周知して行く事で十分と考える。

 その他パブリシティ権等についても、基本的に人格的な権利として判例によって緩やかに認められているものである事から、現時点で生成AIの学習との関係で問題が生じる事はあり得ず、対象がAI生成物である場合であっても、判例によって認められている通り、他人の肖像等の利用が専ら肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とするといえる場合、パブリシティ権の侵害となり得るという事を周知して行く事で十分と考える。

 すなわち、その他の商標法、不正競争防止法、パブリシティ権等との関係については上記の程度の対応で十分であり、現時点では詳細な検討は不要であると考える。

③生成AIに係る知的財産権のリスク回避等の観点から、技術による対応について、どのように考えるか。
【御意見】
 将来の技術の発展を考慮すると、現時点で、特定の技術による対応を固定的な法令によって強制するべきではない。政府関係者がオブザーバーとして入る事を否定はしないが、基本的に技術による対応について、現実的にどの様な対応を取り得るかは民間の協議に委ねるべきである。

【理由・根拠事実】
 将来の技術の発展を考慮すると、現時点で、特定の技術による対応を固定的な法令によって強制する事は、今後の技術開発を阻害する事になる恐れが強く、決してすべきではない。

 著作権侵害リスクを回避するという事は生成AIサービスの提供者、利用者、権利者の三者にとって共通の利益である事から、基本的に技術による対応について、現実的にどの様な対応を取り得るかは民間の協議に委ねるべきである。

 そこに政府関係者がオブザーバーとして入る事を否定はしないが、そこで重要な事は権利者側の現行法に基づかない無茶な権利侵害や補償金要求の主張を押さえる事であって、事前の権利処理や金銭的補償を必要とする事なく生成AIサービスの提供において著作権侵害リスクの回避のために現実的に取り得る対応は何かという技術の将来を見据えた真面目な検討を強力に推進するべきである。

 その中で、AI生成物であることの表示や指示プロンプトにおけるテイクダウン、自動収集プログラムによる収集の制限などの対応が自ずと出て来ると考える。

 ここで、権利者団体に属している様な権利者のみならず、SNSなどの各種ネットサービスにおいて自分の文章や絵を公表している一般の利用者も創作者、著作権者として関係して来る事にも十分留意が必要である。

④生成AIに関し、クリエイター等への収益還元の在り方について、どのように考えるか。
【御意見】
 上記の①で書いた通り、かえって社会的混乱を招き、技術の発展を阻害する恐れの強い、法改正によって新たな規制を行う事や新しい権利を付与する事には極めて慎重であるべきであって、補償金請求権も決して設けるべきではない。

【理由・根拠事実】
 上記の①で書いた通り、著作権侵害とならない生成物を作ろうとする限りにおいて、AIサービスの提供と利用の著作権リスクを相当程度低減している、この今の日本の著作権法のバランスは決して悪くないものである。

 そのため、現時点で余計な社会的混乱を招くだけの権利や補償金などを新たに付与するべきではなく、今後の検討にあたっては、現行の著作権法第30条の4の適用範囲及びAI生成物の利用が著作権侵害となる場合の明確化のみを行い、その結果を広く周知するに留めるべきである。

⑤AI学習用データセットとしてのデジタルアーカイブ整備について、どのように考えるか。
【御意見】
 国がデジタルアーカイブ整備を行うべきであるのは当然の事であるが、これはAI学習用データセットを提供する事を主たる目的として行われるべきものではなく、国全体の文化的創作物を永続的に保存しAI利用に限らずその再利用を図るという本来の趣旨に沿って継続的に注力して行くべきものである。

【理由・根拠事実】
 上記の意見の通り、国がデジタルアーカイブ整備を行うべきであるのは当然の事であるが、これはAI学習用データセットを提供する事を主たる目的として行われるべきものではなく、国全体の文化的創作物を永続的に保存しAI利用に限らずその再利用を図るという本来の趣旨に沿って継続的に注力して行くべきものである。

 その再利用においては、文章や音声の場合は、単に過去の書籍をスキャンした画像データや音声データが提供される事ではなく、データがテキスト化までされる事が重要であり、画像データの場合も、検索のために画像に関する情報がテキストとして付加される事が重要である。この様なテキスト化などにおいてAI技術の利用が考えられるだろう事、国からデータを提供する場合も、まず著作権切れのものをまとめて提供する事を検討するべきであるという事をここで追記しておく。

⑥ディープフェイクについて、知的財産法の観点から、どのように考えるか。
【御意見】
 上記の②で書いた事と重なるが、ディープフェイクに関し、知的財産法との関係については現時点では詳細な検討は不要であると考える。

【理由・根拠事実】
 ディープフェイクについてもまず定義を明らかにして議論をするべきと考えるが、ここでは、EUの新AI法案の様に、機械学習等に基づくAI技術を用いて本物であるかのように虚偽の言動を示す合成コンテンツを指すと考えて、意見を述べる。

 ディープフェイクによると言っても既存のなりすましの場合などと比較して本当に新たに規制すべき行為類型が生じているのではない事に留意が必要であり、この様なディープフェイクは対象となった者に対して害を与えるか自らに不正な利益をもたらすかのために作られ公開されるものであって、そのためにはAI技術を用いて元となった著作物に依拠してそっくりな生成物を得て公開する事が前提となるため、著作権及び著作者人格権の侵害となるのは無論の事、上記の②でも書いた通り、目的に応じて、パブリシティ権の侵害、不正競争防止における信用毀損行為、刑法における名誉毀損や信用毀損に該当し得る事を周知して行く事で十分と考える。

 すなわち、ディープフェイクに関し、知的財産法との関係については現時点では詳細な検討は不要であると考える。

⑦社会への発信等の在り方について、どのように考えるか。
【御意見】
 現時点で生成AI技術により現行法で対処できない事が発生している事はないと考えるが、著作権法を中心として現行法に基づく整理及びその周知が引き続き必要である。

【理由・根拠事実】
 上で書いた通り、現時点で生成AI技術により現行法で対処できない事が発生している事はないと考えるが、著作権侵害等のリスクを回避するためにも、著作権法を中心として現行法に基づく整理及びその周知が引き続き必要である。その際、著作権法だけでなく知的財産法との関係でどの様な権利侵害リスクがあるのか、回避するためにはどの様にすれば良いかを一般利用者も含め良く分かるように政府内の1つのホームページで継続的に示す事を考えるべきである。

Ⅱ.AI技術の進展を踏まえた発明の保護の在り方について
①AIによる自律的な発明の取扱いの在り方について、どのように考えるか。
【御意見】
 著作権法における創作者と同様、特許法において発明者が自然人である事は当然の事であり、その事について周知を続けて行くべきである。

【理由・根拠事実】
 審査との関係については②で述べるが、生成AIサービスを用いて単に簡単な指示のみで全特許出願書類を出力した様な場合を除き、発明の過程のいずれか又は全てにおける文章作成でAI技術を利用していたとしても、人がそれを見て発明であると認識した時に発明はなされると考えるのが妥当であって、上で書いた通り、著作権法における創作者と同様、特許法において発明者が自然人である事は当然の事であり、その事について周知を続けて行くべきである。

 DABUSと呼ばれるAIシステムを発明者とする国際出願に関する世界各国の訴訟は有名なものと思うが、主要国及び機関の裁判所でAIが発明者となるという最終判断が示された事はなく、上記の方向性は国際動向にもかなったものであると考える。

 この事は同じ創作保護法である実用新案法及び意匠法についてもあてはまる。

②AI利活用拡大を見据えた進歩性等の特許審査実務上の課題について、どのように考えるか。
【御意見】
 進歩性の判断手法そのものが変わるという事はないと考えるが、生成AIに指示を入力する事により同じ様な出力が得られ、その指示が容易に思いつく様な場合も考えられるのであって、その様な場合の審査における判断に資するため、発明の過程及び特許出願書類の作成に生成AIを利用したときにはどの部分でどの様に利用したかを含め生成AIの利用について明記する事を特許出願の記載要件として、この要件を守っていない事が判明したときには特許出願を拒絶・無効にできる様にする事を検討するべきである。

【理由・根拠事実】
 上記の意見の通り、進歩性の判断手法そのものが変わるという事はないと考えるが、生成AIに指示を入力する事により同じ様な出力が得られ、その指示が容易に思いつく様な場合も考えられるのであって、その様な場合の審査における判断に資するため、発明の過程及び特許出願書類の作成に生成AIを利用したときにはどの部分でどの様に利用したかを含め生成AIの利用において明記する事を特許出願の記載要件として、この要件を守っていない事が判明したときには特許出願を拒絶・無効にできる様にする事を検討するべきである。

 この事は同じ創作保護法である実用新案法及び意匠法についてもあてはまる。なお、実用新案法については無審査登録であるため、事後的な技術評価又は無効理由とする事を検討するべきである。

Ⅲ.その他
(上記の他、本意見募集に関わる項目についての御意見や情報提供)
【御意見】
 報告書として方針がまとめられる前に意見募集を行った事は高く評価できるが、本意見募集の質問項目は広範に過ぎ論点が必ずしも明確になっていないものが多く、今後論点をより明確にして行く中でさらにもう一度意見募集を行うことも検討するべきである。

【理由・根拠事実】
 上記の意見の通り、報告書として方針がまとめられる前に意見募集を行った事は高く評価できるが、本意見募集の質問項目は広範に過ぎ論点が必ずしも明確になっていないものが多く、今後論点をより明確にして行く中でさらにもう一度意見募集を行うことも検討するべきである。

 そこで、上で参考として上げた、アメリカ著作権局が2023年8月30日から行っていた著作権とAIに関する意見募集において、かなり詳細な質問項目を作っていた事が参考になるものと考える。

【情報提供】
 上記参照。

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2023年10月 1日 (日)

第484回:パロディやパスティーシュのための権利制限について欧州司法裁に再び質問を付託する2023年9月14日のドイツ最高裁の決定

 前に第429回で2020年4月30日のドイツ最高裁楽曲サンプリング事件判決を取り上げたが、この事件が高裁に差し戻された後、再び上告され、この9月14日に、ドイツ最高裁が、2021年に導入された新しいパロディやパスティーシュのための権利制限について、欧州司法裁に、元となった欧州司令の解釈を訊ねる質問を再び付託する決定をした。

 過去の経緯として、この事件における2016年5月31日のドイツ憲法裁の判決について第366回、2017年6月1日のドイツ最高裁の最初の質問付託決定について第381回、対応する2019年7月29日の欧州司法裁の判決について第411回を御覧いただければと思うが、最初の地裁判決から、憲法裁、最高裁、欧州司法裁の間を行き来しながら、この事件では実に20年近く延々楽曲サンプリングが著作権侵害となるかが争われている。

 再質問付託決定に関するドイツ最高裁のリリース(ドイツ語)から、今回の決定に関する部分を訳出すると以下の様になる。(いつも通り以下の翻訳はすべて拙訳。)

Der Bundesgerichtshof hat das Verfahren nunmehr erneut ausgesetzt und dem Gerichtshof der Europaischen Union Fragen zur Auslegung der Richtlinie 2001/29/EG des Europaischen Parlaments und des Rates vom 22. Mai 2001 zur Harmonisierung bestimmter Aspekte des Urheberrechts und der verwandten Schutzrechte in der Informationsgesellschaft vorgelegt.

Die Revision hat Erfolg, wenn das Berufungsgericht zu Unrecht angenommen hat, dass die von den Klagern geltend gemachten Anspruche ab dem 7. Juni 2021 ausgeschlossen sind, weil die Ubernahme der Rhythmussequenz aus dem Titel "Metall auf Metall" im Wege des Sampling eine nach § 51a Satz 1 UrhG in der ab dem 7. Juni 2021 geltenden Fassung zulassige Nutzung zum Zwecke des Pastiches ist, so dass keine Verletzung der von den Klagern geltend gemachten Leistungsschutzrechte als Tontragerhersteller oder ausubende Kunstler sowie des Urheberrechts des Klagers zu 1 vorliegt. Hierauf kommt es im Streitfall an, weil das Musikstuck "Nur mir" die Voraussetzungen einer Karikatur oder Parodie des Musikstucks "Metall auf Metall" mangels Ausdrucks von Humor oder einer Verspottung nicht erfullt (dazu BGHZ 225, 222 [juris Rn. 63] - Metall auf Metall IV).

Nach Ansicht des Bundesgerichtshofs stellt sich zunachst die Frage, ob die Schrankenregelung der Nutzung zum Zwecke von Pastiches im Sinne des Art. 5 Abs. 3 Buchst. k der Richtlinie 2001/29/EG ein Auffangtatbestand jedenfalls fur eine kunstlerische Auseinandersetzung mit einem vorbestehenden Werk oder sonstigen Bezugsgegenstand einschlieslich des Sampling ist und ob fur den Begriff des Pastiches einschrankende Kriterien wie das Erfordernis von Humor, Stilnachahmung oder Hommage gelten. Die Pastiche-Schranke konnte als allgemeine Schranke fur die Kunstfreiheit zu verstehen sein, die deshalb notwendig ist, weil der Kunstfreiheit allein durch die immanente Begrenzung des Schutzbereichs der Verwertungsrechte auf eine Nutzung der Werke und Leistungen in wiedererkennbarer Form (vgl. EuGH, GRUR 2019, 929 [juris Rn. 31] - Pelham u.a.) und die ubrigen Schrankenregelungen wie insbesondere Parodie, Karikatur und Zitat nicht in allen Fallen der gebotene Raum gegeben werden kann. Die hier in Rede stehende Technik des "Elektronischen Kopierens von Audiofragmenten" (Sampling), bei der ein Nutzer einem Tontrager ein Audiofragment entnimmt und dieses zur Schaffung eines neuen Werks nutzt, ist eine kunstlerische Ausdrucksform, die unter die durch Art. 13 EU-Grundrechtecharta geschutzte Freiheit der Kunst fallt (EuGH, GRUR 2019, 929 [juris Rn. 35] - Pelham u.a.; zu Art. 5 Abs. 3 Satz 1 GG vgl. BVerfGE 142, 74 [juris Rn. 89]). Die Rechte der Urheber, Tontragerhersteller und ausubenden Kunstler gemass Art. 2 und 3 der Richtlinie 2001/29/EG geniessen den Schutz des geistigen Eigentums gemass Art. 17 Abs. 2 EU-Grundrechtecharta. Dem Ziel des angemessenen Ausgleichs von Rechten und Interessen tragt der in Art. 5 Abs. 5 der Richtlinie 2001/29/EG vorgesehene "Drei-Stufen-Test" Rechnung, dessen Voraussetzungen nach den Feststellungen des Berufungsgerichts erfullt sind.

Sodann stellt sich nach Ansicht des Bundesgerichtshofs die weitere Frage, ob die Nutzung "zum Zwecke" eines Pastiches im Sinne des Art. 5 Abs. 3 Buchst. k der Richtlinie 2001/29/EG die Feststellung einer Absicht des Nutzers erfordert, einen urheberrechtlichen Schutzgegenstand zum Zwecke eines Pastiches zu nutzen oder ob die Erkennbarkeit des Charakters als Pastiche fur denjenigen genugt, dem der in Bezug genommene urheberrechtliche Schutzgegenstand bekannt ist und der das fur die Wahrnehmung des Pastiches erforderliche intellektuelle Verstandnis besitzt.

ドイツ最高裁判所は手続をここで今一度中断し、情報社会における著作権及び著作隣接権の特定の側面の調和に関する2001年5月22日の欧州議会及び理事会の欧州司令第2001/29号の解釈についての質問を欧州司法裁判所に付託した。

控訴裁判所が、サンプリングの手法によるタイトル「Metall auf Metall」からの一連の音の取り入れは、2021年6月7日から施行されている形での著作権法第51条第1項により許されるパスティーシュの目的のための利用であり、原告の主張するレコード製作者又は実演家としての隣接権並びに原告の著作権を侵害しないから、原告が主張する請求を2021年6月7日以降は除外した事は不当であるという事に限り、上告は認められる。楽曲「Nur mir」は、ユーモア又は風刺の印象を欠き、カリカチュア又はパロディーの前提を満たさない事から、本事件はそこが問題となる(2020年4月30日の「Metall auf Metall IV」事件ドイツ最高裁判決、段落63参照)。

次に、ドイツ最高裁判所の見地から、欧州司令第2001/29号の第5条第3項(k)の意味におけるパスティーシュの目的のための利用の権利制限規定は、既存の著作物との芸術的対抗又はサンプリングを含むその他の参照対象についてあらゆる場合を含む包括条項であるのか及びパスティーシュの概念に対してユーモア、模写又はオマージュの要件の様な制限的な基準は適用されるのかという質問がされる。著作物と保護対象を再認識可能な形(2019年7月29日の「Pelham」事件欧州司法裁判決、段落31参照)での利用のための利用権の保護範囲の内在的な制限によって、及び、あらゆる場合ではないが、特にパロディー、カリカチュア及び引用の様なその他の権利制限規定によってのみ、芸術の自由に必要な領域が与えられ得る事から、必須のものであるパスティーシュの権利制限は、芸術の自由のための一般的な権利制限であると理解され得るものである。ここで議論になている技巧の「楽曲断片の電子的複製」(サンプリング)は、利用者がレコードから楽曲断片を取り出しこれを新しい著作物の創作に利用するものであり、欧州連合基本権憲章第13条により保護される芸術の自由に該当する芸術的表現形式である(2019年7月29日の「Pelham」事件欧州司法裁判決、段落35;基本法第5条第3項第1文について2016年5月31日のドイツ憲法裁判決、段落89参照)。著作者、レコード製作者及び実演家の権利は欧州州司令第2001/29号の第2及び3条により欧州連合基本権憲第17条第2項の知的財産権としての保護を享受する。権利と利益の適切なバランスの目的のため、欧州司令第2001/29号の第5条第5項に規定された「3ステップテスト」が考慮されるが、その条件は控訴裁判所の認定により満たされる。

そして、ドイツ最高裁判所の見地から、欧州司令第2001/29号の第5条第3項(k)の意味におけるパスティーシュの「目的のための」利用は、著作権保護の対象をパスティーシュに利用するという利用者の意図の認定を必要とするのか、それとも、参照される著作権保護の対象が分かり、パスティーシュの知覚に必要な知的理解を有する者にとってパスティーシュとして認識が可能である事で十分であるのかという質問もされる。

 上のリリースの通りだが、ドイツ最高裁の決定(ドイツ語)から欧州司法裁への2つの付託質問も念のため以下に訳出しておく。

1. Ist die Schrankenregelung der Nutzung zum Zwecke von Pastiches im Sinne des Art. 5 Abs. 3 Buchst. k der Richtlinie 2001/29/EG ein Auffangtatbestand jedenfalls fur eine kunstlerische Auseinandersetzung mit einem vorbestehenden Werk oder sonstigen Bezugsgegenstand einschliesslich des Sampling? Gelten fur den Begriff des Pastiche einschrankende Kriterien wie das Erfordernis von Humor, Stilnachahmung oder Hommage?

2. Erfordert die Nutzung "zum Zwecke" eines Pastiche im Sinne des Art. 5 Abs. 3 Buchst. k der Richtlinie 2001/29/EG die Feststellung einer Absicht des Nutzers, einen urheberrechtlichen Schutzgegenstand zum Zwecke eines Pastiche zu nutzen oder genugt die Erkennbarkeit des Charakters als Pastiche fur denjenigen, dem der in Bezug genommene urheberrechtliche Schutzgegenstand bekannt ist und der das fur die Wahrnehmung des Pastiche erforderliche intellektuelle Verstandnis besitzt?

1.欧州司令第2001/29号の第5条第3項(k)の意味におけるパスティーシュの目的のための利用の権利制限規定は、既存の著作物との芸術的対抗又はサンプリングを含むその他の参照対象についてあらゆる場合を含む包括条項であるのか?パスティーシュの概念に対してユーモア、模写又はオマージュの要件の様な制限的な基準は適用されるのか?

2.欧州司令第2001/29号の第5条第3項(k)の意味におけるパスティーシュの「目的のための」利用は、著作権保護の対象をパスティーシュに利用するという利用者の意図の認定を必要とするのか、それとも、参照される著作権保護の対象が分かり、パスティーシュの知覚に必要な知的理解を有する者にとってパスティーシュとして認識が可能である事で十分であるのか?

 第429回で取り上げた2020年4月30日のドイツ最高裁判決の後、この事件に対し、2022年4月28日のハンブルク高裁判決(ドイツ語)が、ある程度の長さの一連の音の新しい楽曲に取り入れる事は旧ドイツ著作権法第24条第1項の自由利用であり得るとしながら、特別な音のエフェクトを含む一連の音は第24条第2項項で自由利用が認められるメロディーではないとして著作権侵害と損害賠償を認めた事自体私はいかがなものかと思っているが、その事は上告の対象外とされたので、ここではひとまずおく事にする。

 結果として、この楽曲サンプリング事件で法解釈の論点として残されたのが、2021年6月7日以降に適用される新ドイツ著作権法第51a条のパロディやパスティーシュのための権利制限、特にパスティーシュとの関係という事になり、ドイツ最高裁は新たに上の2つの質問を欧州司法裁に付託したのである。(2021年ドイツ著作権法改正で導入されたパロディ等の権利制限については第441回参照。)

 この質問に対して欧州司法裁がどの様な判断を示すのかは分からないが、ここで問題となっているパロディ、カリカチュア及びパスティーシュのための権利制限は、表現の自由を保障するためにも、サンプリングの様なものも含むようできる限り包括的なものであるべきと、また、立証の困難な主観的要件のみによるべきではないと私は思っており、そう解釈される事を期待している。

 日本でも権利制限に関する検討はなかなか進まないが、この様にヨーロッパでも導入が進むパロディ等のための権利制限は、可能な限り包括的なものとして日本でも速やかに導入して然るべきものであると私は常に考えている。それ以上に一般フェアユース条項の導入ができるならそれに越したことはないとも考えているが。

 いずれにせよ、表現の自由との関係で、この長く続く事件において欧州司法裁が次に示すだろう判断がヨーロッパにおける権利制限について大きな意味を持つ事は間違いなく、その判決が出されたら、またここで紹介したいと思っている。

(2024年1月21日の追記:幾つか誤記を直した(「新し」→「新しい」、「第3条第3項(k)」→「第5条第3項(k)」)。)

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