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2023年3月19日 (日)

第474回:閣議決定された不正競争防止法等改正案の条文

 前回取り上げた著作権法改正案に続いて、今回は閣議決定された不正競争防止法改正案の条文についてである(経産省のHP概要(pdf)要綱(pdf)法律案・理由(pdf)新旧対照条文(pdf)参照条文(pdf)参照)。

 まず、上でリンクを張った不正競争防止法等改正案の概要資料から法改正内容の概要を抜粋する。

(1)デジタル化に伴う事業活動の多様化を踏まえたブランド・デザイン等の保護強化
登録可能な商標の拡充
他人が既に登録している商標と類似する商標は登録できないが、先行商標権者の同意があり出所混同のおそれがない場合には登録可能にする。【商4条等】
※併せて、上記により登録された商標について、不正の目的でなくその商標を使用する行為等を不正競争として扱わないこととする。【不19条】
・自己の名前で事業活動を行う者等がその名前を商標として利用できるよう、氏名を含む商標も、一定の場合には、他人の承諾なく登録可能にする。【商4条】

意匠登録手続の要件緩和【意4条等】
・創作者等が出願前にデザインを複数公開した場合の救済措置を受けるための手続の要件を緩和する。

デジタル空間における模倣行為の防止【不2条】
商品形態の模倣行為について、デジタル空間上でも不正競争行為の対象とし、差止請求権等を行使できるようにする。

営業秘密・限定提供データの保護の強化
・ビッグデータを他社に共有するサービスにおいて、データを秘密管理している場合も含め限定提供データとして保護し、侵害行為の差止め請求等を可能とする。【不2条】
・損害賠償訴訟で被侵害者の生産能力等を超える損害分も使用許諾料相当額として増額請求を可能とするなど、営業秘密等の保護を強化する。【不5条等】
・裁定手続で提出される書類に営業秘密が記載された場合に閲覧制限を可能にする
【特186条、実55条、意63条等】
※裁定:特許発明が長期間実施されていない等の場合に、特許権者の意思に関わらず他者に実施権を認める制度

(2)コロナ禍・デジタル化に対応した知的財産手続等の整備
送達制度の見直し【特191条、工5条等】
・在外者へ査定結果等の書類を郵送できない場合に公表により送付したとみなすとともに、インターネットを通じた送達制度を整備する。

書面手続のデジタル化等のための見直し【特43条、商68条の3、工8条等】
・特許等に関する書面手続のデジタル化や商標の国際登録出願における手数料一括納付等を可能とする。

手数料減免制度の見直し【特195条の2等】
・中小企業の特許に関する手数料の減免について、資力等の制約がある者の発明奨励・産業発達促進という制度趣旨を踏まえ、一部件数制限を設ける。

(3)国際的な事業展開に関する制度整備
外国公務員贈賄に対する罰則の強化・拡充【不21条等】
・OECD外国公務員贈賄防止条約をより高い水準で的確に実施するため、自然人及び法人に対する法定刑を引き上げるとともに、日本企業の外国人従業員による海外での単独贈賄行為も処罰対象とする(両罰規定により、法人の処罰対象も拡大)。

国際的な営業秘密侵害事案における手続の明確化【不19条の2等】
・国外において日本企業の営業秘密の侵害が発生した場合にも日本の裁判所に訴訟を提起でき、日本の不競法を適用することとする。

※不競法については、平成27年改正により追加された同法第35条の規定について同改正において手当てする必要があった規定の適正化を行う。【不35条】

※上記のほか、他法の例にならい、不競法において、法人両罰の有無による罰則規定の整理及び罰則の構成要件に該当する行為を行った時期を明確にする趣旨の規定の改正を行う。【不21条等】

 これらは産業構造審議会・知的財産分科会の各小委員会の報告書をその儘条文化したものであり(経産省の不競小委報告書、特許庁の特許小委報告書意匠小委報告書商標小委報告書参照、その内容については第469回参照)、特に問題があるものではないが、ここでは、中でも今回の法改正のポイントと考えられる、(1)不正競争防止法改正によるデジタル空間上の商品形態模倣規制の導入と損害賠償規定の見直しと、(2)商標法改正による自己の名前を含む商標の登録可能化とコンセント制度の導入について、その条文を見ておきたいと思う。

(1)不正競争防止法改正によるデジタル空間上の商品形態模倣規制の導入と損害賠償規定の見直し
 報道でメタバースにも不正競争防止法の規制を適用するといったご大層な書き方がされているのは間違いとまでは言えないのだが、これは、不正競争防止法の第2条を以下の様に改正し、現行の商品形態模倣規制を電気通信回線を通じた提供まで適用可能とするものであり、それほど大きな影響はないだろうと私は思っている。(下線部が追加部分。以下同じ。)

(定義)
第二条 この法律において「不正競争」とは、次に掲げるものをいう。
一・二(略)
三 他人の商品の形態(当該商品の機能を確保するために不可欠な形態を除く。)を模倣した商品を譲渡し、貸し渡し、譲渡若しくは貸渡しのために展示し、輸出し、又は輸入する輸入し、又は電気通信回線を通じて提供する行為
(第4号以下略)

 この商品形態模倣規制は、現行法の同じ定義規定の第2条の第4項、第5項で、

4 この法律において「商品の形態」とは、需要者が通常の用法に従った使用に際して知覚によって認識することができる商品の外部及び内部の形状並びにその形状に結合した模様、色彩、光沢及び質感をいう。

5 この法律において「模倣する」とは、他人の商品の形態に依拠して、これと実質的に同一の形態の商品を作り出すことをいう。

と、消費者等が通常の使用において知覚可能な商品の形状などの模倣を禁止するものと定義されている事と、上と同様の改正が入る適用除外規定の第19条で、

(適用除外等)
第十九条 第三条から第十五条まで、第二十一条(第二項第七号に係る部分を除く。)及び第二十二条の規定は、次の各号に掲げる不正競争の区分に応じて当該各号に定める行為については、適用しない。
(第1~5号略)
 第二条第一項第三号に掲げる不正競争 次のいずれかに掲げる行為
 日本国内において最初に販売された日から起算して三年を経過した商品について、その商品の形態を模倣した商品を譲渡し、貸し渡し、譲渡若しくは貸渡しのために展示し、輸出し、又は輸入する輸入し、又は電気通信回線を通じて提供する行為
 他人の商品の形態を模倣した商品を譲り受けた者(その譲り受けた時にその商品が他人の商品の形態を模倣した商品であることを知らず、かつ、知らないことにつき重大な過失がない者に限る。)がその商品を譲渡し、貸し渡し、譲渡若しくは貸渡しのために展示し、輸出し、又は輸入する輸入し、又は電気通信回線を通じて提供する行為
(第7号以下略)

と、適用があるのは商品を最初に販売した日から3年という期間に限られる事も合わせて考えられなくてはならないものである。

 現実の新商品の形を真似て仮想空間で売ろうとするといった事又はその逆も考えられない訳ではなく、この様な規制強化も全く意味のないものではないだろうが、第471回で知財本部メタバース検討論点整理案との関係で書いた通り、著作権による保護は現実空間か仮想空間かによらず及ぶ事、仮想空間におけるオブジェクトの利用は完全に自由で何をしても良いなどという事はない事に、より注意が必要だろう。

 また、前回取り上げた著作権法改正案との並びで見ておくと、不正競争防止法改正案の損害賠償推定規定も以下の様に改正され、これで全ての主要な知的財産法で侵害組成物の数量について生産販売能力を超えた部分についてもライセンス料を受け取れる事が明確化される事になる。

(損害の額の推定等)
第五条 第二条第一項第一号から第十六号まで又は第二十二号に掲げる不正競争(同項第四号から第九号までに掲げるものにあっては、技術上の秘密に関するものに限る。)によって営業上の利益を侵害された者(以下この項において「被侵害者」という。)が故意又は過失により自己の営業上の利益を侵害した者(以下この項において「侵害者」という。)に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、その者侵害者がその侵害の行為を組成した物を譲渡したときは、その譲渡した物の数量(物(電磁的記録を含む。以下この項において「譲渡数量」という。)に、被侵害者が同じ。)を譲渡したとき(侵害の行為により生じた物を譲渡したときを含む。)、又はその侵害の行為がなければ販売することができた物の単位数量当たりの利益の額を乗じて得た額を、被侵害者の当該物に係る販売その他の行為を行う能力に応じた額を超えない限度においてにより生じた役務を提供したときは、次に掲げる額の合計額を、被侵害者が受けた損害の額とすることができる。ただし、譲渡数量の全部又は一部に相当する数量を被侵害者が販売することができないとする事情があるときは、当該事情に相当する数量に応じた額を控除するものとする。
 被侵害者がその侵害の行為がなければ販売することができた物又は提供することができた役務の単位数量当たりの利益の額に、侵害者が譲渡した当該物又は提供した当該役務の数量(次号において「譲渡等数量」という。)のうち被侵害者の販売又は提供の能力に応じた数量(同号において「販売等能力相応数量」という。)を超えない部分(その全部又は一部に相当する数量を被侵害者が販売又は提供をすることができないとする事情があるときは、当該事情に相当する数量(同号において「特定数量」という。)を控除した数量)を乗じて得た額
 譲渡等数量のうち販売等能力相応数量を超える数量又は特定数量がある場合におけるこれらの数量に応じた次のイからホまでに掲げる不正競争の区分に応じて当該イからホまでに定める行為に対し受けるべき金銭の額に相当する額(被侵害者が、次のイからホまでに掲げる不正競争の区分に応じて当該イからホまでに定める行為の許諾をし得たと認められない場合を除く。)
 第二条第一項第一号又は第二号に掲げる不正競争当該侵害に係る商品等表示の使用
 第二条第一項第三号に掲げる不正競争当該侵害に係る商品の形態の使用
 第二条第一項第四号から第九号までに掲げる不正競争当該侵害に係る営業秘密の使用
 第二条第一項第十一号から第十六号までに掲げる不正競争当該侵害に係る限定提供データの使用
 第二条第一項第二十二号に掲げる不正競争当該侵害に係る商標の使用

(略)

 裁判所は、第一項第二号イからホまで及び前項各号に定める行為に対し受けるべき金銭の額を認定するに当たっては、営業上の利益を侵害された者が、当該行為の対価について、不正競争があったことを前提として当該不正競争をした者との間で合意をするとしたならば、当該営業上の利益を侵害された者が得ることとなるその対価を考慮することができる。

 前項第三項の規定は、同項に規定する金額を超える損害の賠償の請求を妨げない。この場合において、その営業上の利益を侵害した者に故意又は重大な過失がなかったときは、裁判所は、損害の賠償の額を定めるについて、これを参酌することができる。

(2)商標法改正による自己の名前を含む商標の登録可能化とコンセント制度の導入
 もう1つ良く書かれているのが、商標法改正による自己の名前を含む商標の登録可能化であり、これは、商標の不登録理由を規定する商標法第4条の第1項第8号を以下の様に改正するものである。

(商標登録を受けることができない商標)
第四条 次に掲げる商標については、前条の規定にかかわらず、商標登録を受けることができない。
(略)
 他人の肖像又は若しくは他人の氏名(商標の使用をする商品又は役務の分野において需要者の間に広く認識されている氏名に限る。)若しくは名称若しくは著名な雅号、芸名若しくは筆名若しくはこれらの著名な略称を含む商標(その他人の承諾を得ているものを除く。)又は他人の氏名を含む商標であつて、政令で定める要件に該当しないもの
十九(略)

2・3(略)

 第一項第十一号に該当する商標であつても、その商標登録出願人が、商標登録を受けることについて同号の他人の承諾を得ており、かつ、当該商標の使用をする商品又は役務と同号の他人の登録商標に係る商標権者、専用使用権者又は通常使用権者の業務に係る商品又は役務との間で混同を生ずるおそれがないものについては、同号の規定は、適用しない。

 細かな説明は省略するが、特許庁の商標制度小委員会報告書(pdf)などでも書かれている通り、従来商標法の他人の氏名にはあらゆる他人の氏名が含まれるという解釈で運用されていたため、普通の人の氏名だと商標登録が極めて難しかったという事があったのだが、マツモトキヨシの音商標を登録可とする2021年8月30日の知財高裁判決(判決文(pdf)参照)などを受けて今回の法改正に至ったものである。今後、他人の氏名に対する濫用的な商標登録を防ぐための他人の氏名を含む商標に関する政令に多少注意が必要だろうが、今までの法律とその解釈が厳し過ぎた事を思えば、これは妥当な法改正だろうと思う。

 また、これも細かな説明は省略するが、商標において商標権者の同意があれば類似商標であっても商標登録が可能になるという上の第4条第4項によるコンセント制度の導入も制度的には重要である。

 その他制度ユーザにしか関係しない事も多いが、どれも重要である事に違いはなく、今回のこの法改正は、不正競争防止法を中心としてかなり大きな法改正と言えるものだろう。

 次回は、twitterで少し触れた通り、知財本部で今年の知財計画パブコメが4月7日〆切で始まっているので(知財本部意見募集案内(pdf)参照)、提出次第その内容を載せたいと思っている。

(2023年4月2日夜の追記:条文の誤記を修正した(「この法律において「不正競争」とは、次に掲げるものを第二条この法律において「不正競争」とは、次に掲げるものをいう」→「この法律において「不正競争」とは、次に掲げるものをいう」)。)

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