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2023年3月26日 (日)

第475回:「知的財産推進計画2023」の策定に向けた意見募集(4月7日〆切)への提出パブコメ

 今年も4月7日〆切で知財本部から「知的財産推進計画2023」の策定に向けた意見募集(pdf)が行われており、私も意見を出したので、ここに載せておく。(去年の知財計画2022の記載については第460回参照。)

 去年の文化庁によるブルーレイを実質私的録音録画補償金の対象とする政令改正の強行を受けて(1)e)の私的録音録画補償金問題に関する部分を書き改め、各項目で法改正の成立や施行により記載を少し修正した他、記載を変えた所はあまりないが、今年は、最近の生成AIに関する話題の盛り上がりから政府・与党でも検討が行われる事を予想し、(2)a)に、生成AIと著作権の関係に関して検討する場合は、技術の発展や国際動向等にも留意し、法改正によって新たな規制を行う事や新しい権利を付与する事には慎重であるべきとの意見を追加した。

 どこまで意見を取り入れられるかは分からないが、毎年1回の知財政策全般について政府に意見を出せる機会ではあるので、この様な問題に関心のある方は是非意見の提出を検討する事をお勧めする。

(以下、提出パブコメ)

《要旨》
アメリカ等と比べて遜色の無い範囲で一般フェアユース条項を導入すること、ダウンロード犯罪化・違法化条項の撤廃並びにTPP協定・日欧EPAの見直し及び著作権の保護期間の短縮を求める。有害無益なインターネットにおける今以上の知財保護強化、特に著作権ブロッキングに反対するとともに歴史的役割を終えた私的録音録画補償金の完全廃止を求める。今後真の国民視点に立った知財の規制緩和の検討が進むことを期待する。

《全文》
 最終的に国益になるであろうことを考え、各業界の利権や省益を超えて必要となる政策判断をすることこそ知財本部とその事務局が本当になすべきことのはずであるが、知財計画2022を見ても、このような本当に政策的な決定は全く見られない上、2018年には危険極まる著作権ブロッキングのごり押しの検討まで行われ、2020年には非常に危ういダウンロード違法化・犯罪化の対象範囲の拡大を含む著作権法改正までなされた。知財保護が行きすぎて消費者やユーザーの行動を萎縮させるほどになれば、確実に文化も産業も萎縮するので、知財保護強化が必ず国益につながる訳ではないということを、著作権問題の本質は、ネットにおける既存コンテンツの正規流通が進まないことにあるのではなく、インターネットの登場によって新たに出てきた著作物の公正利用の類型に、今の著作権法が全く対応できておらず、著作物の公正利用まで萎縮させ、文化と産業の発展を阻害していることにあるのだということを知財本部とその事務局には、まずはっきりと認識してもらいたい。特に、最近の知財・情報に関する規制強化の動きは全て間違っていると私は断言する。

 例年通り、規制強化による天下り利権の強化のことしか念頭にない文化庁、総務省、警察庁などの各利権官庁に踊らされるまま、国としての知財政策の決定を怠り、知財政策の迷走の原因を増やすことしかできないようであれば、今年の知財計画を作るまでもなく、知財本部とその事務局には、自ら解散することを検討するべきである。そうでなければ、是非、各利権官庁に轡をはめ、その手綱を取って、知財の規制緩和のイニシアティブを取ってもらいたい。知財本部において今年度、インターネットにおけるこれ以上の知財保護強化はほぼ必ず有害無益かつ危険なものとなるということをきちんと認識し、真の国民視点に立った知財の規制緩和の検討が知財本部でなされることを期待し、本当に決定され、実現されるのであれば、全国民を裨益するであろうこととして、私は以下のことを提案する。

(1)「知的財産推進計画2022」の記載事項について:
a)ダウンロード違法化・犯罪化問題について
 知財計画2022の第76ページにインターネット上の海賊版に対する総合的な対策メニューについて記載されている。2019年10月に作成され、2021年4月に更新された総合的な対策メニューにはダウンロード違法化・犯罪化の対象範囲の拡大について記載されている。

 文化庁の暴走と国会議員の無知によって、2009年の6月12日にダウンロード違法化条項を含む改正著作権法が成立し、2010年の1月1日に施行された。また、日本レコード協会などのロビー活動により、自民党及び公明党が主導する形でダウンロード犯罪化条項がねじ込まれる形で、2012年6月20日に改正著作権法が成立し、2012年10月1日から施行されている。

 そして、2018年12月に意見募集がされた文化庁の法制・基本問題小委員会の中間まとめにおいて、極めて拙速な検討から、このダウンロード違法化・犯罪化の対象範囲を録音録画から著作物全般に拡大するとの方針が示され、その意見募集において極めて多くの懸念が示されたにもかかわらず、文化庁がこの方針を諦めずにダウンロード違法化・犯罪化の対象範囲の拡大を含む著作権法改正案の提出を準備していたところ、批判の高まりを受けて2019年の通常国会提出を断念した。

 その後、文化庁は、2019年10月に侵害コンテンツのダウンロード違法化等に関するパブリックコメントを行い、11月から2020年1月にかけて侵害コンテンツのダウンロード違法化の制度設計等に関する検討会において著作権法改正案を再検討した。しかし、この検討会における議論も法案提出の結論ありきの拙速極まるものであり、国民の声を丁寧に聞くと言いながら、パブリックコメントに寄せられた最も主要な意見が要件によらずダウンロード違法化を行うべきではないというものであるという事を無視し、写り込みに関する権利制限の拡充、民事における原作者の権利の除外及び軽微なものの除外という弥縫策でダウンロード違法化・犯罪化の対象範囲を押し通そうとし、2020年2月には、自民党が文科省に海賊版対策のための著作権法改正に関する申し入れを行い、民事刑事の両方において著作権者の利益を不当に害しないと認められる特別な事情がある場合を除外することを要請した。

 これらの文化庁の議論のまとめ及び自民党の要請を含む形で、2020年6月5日にダウンロード違法化・犯罪化の対象範囲拡大を含む改正著作権法が成立し、2021年1月1日から施行されている。

 この法改正後のダウンロード違法化・犯罪化において、スクリーンショットで違法画像が付随的に入り込む場合や、ストーリー漫画の数コマ、論文の数行、粗いサムネイル画像のダウンロードの場合といった僅かな場合が除かれ、また、著作権者の利益を不当に害しないと認められる特別な事情がある場合を除外する事で、それなりの正当化事由を示せる様な特別な事情がある場合が除かれるが、これは本質的な問題の解消に繋がるものではなく、それでもなお、利用者が通常するであろう多くの場合のカジュアルなスクリーンショット、ダウンロード、デジタルでの保存行為が違法・犯罪となる可能性が出て来、場合によって意味不明の萎縮が発生する恐れがある事に変わりはない。これは、録音録画に関するダウンロード違法化・犯罪化同様、海賊版対策としては何の役にも立たない、百害あって一利ない最低最悪の著作権法改正の一つとなるものである。

 過去のパブコメでも繰り返し書いているが、一人しか行為に絡まないダウンロードにおいて、「事実を知りながら」なる要件は、エスパーでもない限り証明も反証もできない無意味かつ危険な要件であり、技術的・外形的に違法性の区別がつかない以上、このようなダウンロード違法化・犯罪化は法規範としての力すら持ち得ず、罪刑法定主義や情報アクセス権を含む表現の自由などの憲法に規定される国民の基本的な権利の観点からも問題がある。このような法改正によって進むのはダウンロード以外も含め著作権法全体に対するモラルハザードのみであり、今のところ幸いなことに適用例はないが、これを逆にねじ曲げてエンフォースしようとすれば、著作権検閲という日本国として最低最悪の手段に突き進む恐れしかない。

 また、世界的に見ても、アップロードとダウンロードを合わせて行うファイル共有サービスに関する事件を除き、どの国においても単なるダウンロード行為を対象とする民事、刑事の事件は1件もなく、日本における現行の録音録画に関するダウンロード違法化・犯罪化も含め、このような法制が海賊版対策として何の効果も上がっていないことは明白である。また、ダウンロード違法化・犯罪化の対象範囲の拡大は、研究など公正利用として認められるべき目的のダウンロードにも影響する。

 そもそも、ダウンロード違法化の懸念として、このような不合理極まる規制強化・著作権検閲に対する懸念は、過去の文化庁へのパブコメ(文化庁HPhttps://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/chosakuken/hokoku.htmlの意見募集の結果参照。ダウンロード違法化問題において、この8千件以上のパブコメの7割方で示された国民の反対・懸念は完全に無視された。このような非道極まる民意無視は到底許されるものではない)や知財本部へのパブコメ(知財本部のHPhttps://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/keikaku2009.htmlの個人からの意見参照)を見ても分かる通り、法改正前から指摘されていたところであり、このようなさらなる有害無益な規制強化・著作権検閲にしか流れようの無いダウンロード違法化・犯罪化は始めからなされるべきではなかったものである。

 文化庁の暴走と国会議員の無知によって成立したものであり、ネット利用における個人の安心と安全を完全にないがしろにするものであり、その後も本質的な問題の解消に繋がる検討をなおざりに対象範囲の拡大がされたものである、百害あって一利ないダウンロード違法化・犯罪化を規定する著作権法第30条第1項第3及び第4号並びに第119条第3項等を即刻削除し、ダウンロード違法化・犯罪化を完全に撤廃することを速やかに行うべきである。

b)著作権法におけるいわゆる間接侵害・幇助への対応について
 総合的な対策メニューにはリーチサイト規制についても記載されている。

 このリーチサイト規制については、2018年12月に意見募集が行われた文化庁の法制・基本問題小委員会の中間まとめにおいて、著作権侵害コンテンツへのリンク行為に対するみなし侵害規定の追加及び刑事罰付加の方針が示されたが、著作権法改正案の2019年の通常国会提出は見送られ、ダウンロード違法化・犯罪化の対象範囲の拡大と合わせ、このリーチサイト規制を含む改正著作権法が2020年6月5日に成立し、2020年10月1日から施行されている。

 改正著作権法のリーチサイト規制は、親告罪とされた事とプラットフォーマーの原則除外でかなり緩和が図られているとは思うが、この様な法改正の本質的な必要性には疑問がある。

 リーチサイト対策の検討は、著作権法におけるいわゆる間接侵害・幇助への対応をどうするかという問題に帰着する。文化庁の中間まとめを読んでも、権利者団体の一方的かつ曖昧な主張が並べられているだけで、権利者団体側がリーチサイト等に対して改正前の著作権法に基づいてどこまで何をしたのか、その対処に関する定量的かつ論理的な検証は何らされておらず、本当にどのような場合について改正前の著作権法では不十分であったのかはその後もなお不明なままであり、さらに、このような間接侵害あるいは幇助の検討において当然必要とされるはずのセーフハーバーの検討も極めて不十分なままである。

 確かにセーフハーバーを確定するために間接侵害・幇助の明確化はなされるべきであるが、基本的にカラオケ法理や各種ネット録画機事件などで示されたことの全体的な整理以上のことをしてはならない。特に、著作権法に明文の間接侵害一般規定を設けることは絶対にしてはならないことである。現状の整理を超えて、明文の間接侵害一般規定を作った途端、権利者団体や放送局がまず間違いなく山の様に脅しや訴訟を仕掛けて来、今度はこの間接侵害規定の定義やそこからの滲み出しが問題となり、無意味かつ危険な社会的混乱を来すことは目に見えているからである。

 リーチサイト規制については、その本質的な必要性に疑問のある今回の法改正後の運用を注視するとともに、知財計画2023において間接侵害・幇助への今後の対応について記載するのであれば、著作権法の間接侵害・幇助の明確化は、ネット事業・利用の著作権法上のセーフハーバーを確定するために必要十分な限りにおいてのみなされると合わせ明記するべきである。

 このようなリーチサイト問題も含め、ネット上の違法コンテンツ対策、違法ファイル共有対策については、通信の秘密やプライバシー、情報アクセス権等の国民の基本的な権利をきちんと尊重しつつ対策を検討してもらいたい。この点においても、国民の基本的な権利を必ず侵害するものとなり、ネットにおける文化と産業の発展を阻害することにつながる危険な規制強化の検討ではなく、ネットにおける各種問題は情報モラル・リテラシー教育によって解決されるべきものという基本に立ち帰り、現行のプロバイダー責任制限法と削除要請を組み合わせた対策などの、より現実的かつ地道な施策のみに注力して検討を進めるべきである。

c)著作権ブロッキング・アクセス警告方式について
 総合的な対策メニューには著作権ブロッキングやアクセス警告方式についても言及されている。

 サイトブロッキングについては、知財本部において、2018年4月の緊急対策の決定後、2018年10月まで検討が行われた。

 このようなサイトブロッキングについて、アメリカでは、議会に提出されたサイトブロッキング条項を含むオンライン海賊対策法案(SOPA)や知財保護強化法案(PIPA)が、IT企業やユーザーから検閲であるとして大反対を受け、その審議は止められている。また、世界を見渡しても、ブロッキングを巡ってはどの国であれなお混沌とした状況にあり、いかなる形を取るにせよブロッキングの採用が有効な海賊版対策として世界の主要な流れとなっているとは到底言い難い。

 サイトブロッキングの問題については下でも述べるが、インターネット利用者から見てその妥当性をチェックすることが不可能なサイトブロッキングにおいて、透明性・公平性・中立性を確保することは本質的に完全に不可能である。このようなブロッキングは、憲法に規定されている表現の自由(知る権利・情報アクセスの権利を含む)や検閲の禁止、通信の秘密といった国民の基本的な権利を侵害するものとならざるを得ないものであり、決して導入されるべきでないものである。

 幸いなことに、2018年10月で知財本部におけるブロッキングの検討は止まったが、多くの懸念の声が上げられていたにもかかわらず、ブロッキングありきでごり押しの検討を行ったことについて私は知財本部に猛省を求める。知財計画2023においてブロッキングについて言及するのであれば、2018年の検討の反省の弁とともに今後二度とこのような国民の基本的な権利を踏みにじる検討をしないと固く誓うとしてもらいたい。

 アクセス警告方式についても、通信の監視・介入の点でブロッキングと本質的に違いはなく、その導入は法的にも技術的にも難しいとする、2019年8月の総務省のインターネット上の海賊版サイトへのアクセス抑止方策に関する検討会の報告書の整理を守るべきである。

 その提案からも明確なように、違法コピー対策問題における権利者団体の主張は常に一方的かつ身勝手であり、ネットにおける文化と産業の発展を阻害するばかりか、インターネットの単純なアクセスすら危険なものとする非常識なものばかりである。今後は、このような一方的かつ身勝手な規制強化の動きを規制するため、憲法の「表現の自由」に含まれ、国際人権B規約にも含まれている国民の「知る権利」を、あらゆる公開情報に安全に個人的にアクセスする権利として、通信法に法律レベルで明文で書き込むことを検討するべきである。同じく、憲法に規定されている検閲の禁止及び通信の秘密から、サイトブロッキングのような技術的検閲の禁止を通信法に法律レベルで明文で書き込むことを検討するべきである。

d)プロバイダー責任制限法の改正検討について、
 総合的な対策メニューにはプロバイダー責任制限法の改正検討についても記載されている。

 このプロバイダー責任制限法の改正について、総務省で検討が行われ、2020年12月に発信者情報開示の在り方に関する研究会の最終とりまとめが公表された後、改正プロバイダー責任制限法が2021年4月21日に成立し、2022年10月1日から施行されている。

 この改正プロバイダー責任制限法は発信者情報開示のため原則非公開の非訟手続きを新設している。しかし、これは今までの通常の裁判による発信者情報開示とほぼ同様の手続きを非訟手続きとして規定しただけのものであって、かえって発信者情報開示に関する手続きの不透明性や複雑性が増し、いたずらに今の状況を混乱させるだけで、発信者の保護はおろか権利侵害の救済にも繋がらない懸念がある。

 今後その運用を注視し、やはり混乱等が見られる様であれば、発信者情報の開示は、通信の秘密といった重要な国民の権利に関するものであるから、原則公開の訴訟手続によらなければならないものであるという事を念頭に、この新しい非訟手続きを廃止し、通常の裁判による発信者情報開示の拡充や迅速化の様な真に実効性のある検討を行うべきである。

e)私的録音録画補償金問題について
 知財計画2022の第71~72ページでは私的録音録画補償金問題についても言及されている。

 権利者団体等が単なる既得権益の拡大を狙ってiPod等へ対象範囲を拡大を主張している私的録音録画補償金問題についても、補償金のそもそもの意味を問い直すことなく、今の補償金の矛盾を拡大するだけの私的録音録画補償金の対象拡大を絶対にするべきではないにも関わらず、文化庁は、実質的にブルーレイを私的録音録画補償金の対象とする著作権法施行令改正について、2022年8月から9月にかけて意見募集を行い、その後意見募集の結果について極めて恣意的にまとめた回答を出しただけで、この施行令改正の閣議決定を2022年10月21日に強行した。

 文化庁の過去の文化審議会著作権分科会における数年の審議において、補償金のそもそもの意義についての意義が問われたが、文化庁が、天下り先である権利者団体のみにおもねり、この制度に関する根本的な検討を怠った結果、特にアナログチューナー非対応録画機への課金について私的録音録画補償金管理協会と東芝間の訴訟に発展した。ブルーレイ課金・アナログチューナー非搭載録画機への課金について、権利者団体は、ダビング10への移行によってコピーが増え自分たちに被害が出ると大騒ぎをしたが、移行後10年以上経った今現在においても、ダビング10の実施による被害増を証明するに足る具体的な証拠は全く示されておらず、ブルーレイ課金・アナログチューナー非搭載録画機への課金に合理性があるとは到底思えない。わずかに緩和されたとは言え、今なお地上デジタル放送にはダビング10という不当に厳しいコピー制限がかかったままである。こうした実質的に全国民に転嫁されるコストで不当に厳しい制限を課している機器と媒体にさらに補償金を賦課しようとするのは、不当の上塗りである。

 なお、世界的に見ても、メーカーや消費者が納得して補償金を払っているということはカケラも無く、権利者団体がその政治力を不当に行使し、歪んだ「複製=対価」の著作権神授説に基づき、不当に対象を広げ料率を上げようとしているだけというのがあらゆる国における実情である。表向きはどうあれ、大きな家電・PCメーカーを国内に擁しない欧州各国は、私的録音録画補償金制度を、外資から金を還流する手段、つまり、単なる外資規制として使っているに過ぎない。この制度における補償金の対象・料率に関して、具体的かつ妥当な基準はどこの国を見ても無いのであり、この制度は、ほぼ権利者団体の際限の無い不当な要求を招き、莫大な社会的コストの浪費のみにつながっている。機器・媒体を離れ音楽・映像の情報化が進む中、「複製=対価」の著作権神授説と個別の機器・媒体への賦課を基礎とする私的録音録画補償金は、既に時代遅れのものとなりつつあり、その対象範囲と料率のデタラメさが、デジタル録音録画技術の正常な発展を阻害し、デジタル録音録画機器・媒体における正常な競争市場を歪めているという現実は、補償金制度を導入したあらゆる国において、問題として明確に認識されなくてはならないことである。

 今まで積み重ねられてきた、判例、保護利用小委員会などの審議会における議論、様々な関係者の意見の全てを愚弄する、2022年の不当な政令改正は到底納得できるものではない。ブルーレイレコーダーとディスクを私的録音録画補償金の対象とする事について今に至るも妥当な根拠は何一つ見出せない。

 今まで知財本部及び文化庁に提出した意見の通り、私は一国民、一個人、一消費者、一利用者・ユーザーとして到底納得の行かない私的録音録画補償金の対象拡大になお断固反対する。

 この政令改正の意見募集などで知財計画の記載も持ち出されており、知財本部・事務局も絡んでいるとの話も聞かれるが、本当にそうであるならば知財本部・事務局もこの様な不当な政令改正に加担した事を猛省し、その過ちを認め、日本政府として速やかに方針を改めるべきである。

 文化庁に集まった2406件のこの政令改正に関する意見の全文を速やかに公表するとともに、政令を元に戻す閣議決定を行う事を私は求める。その上で、中立的な第三者による調査により、前提となっていた旧来の形の私的録音録画自体もはや時代遅れになり少なくなっているという事を示し、全関係者が参加する公開の場で議論し、私的録音録画補償金制度は歴史的役割を終えたものとして完全に廃止するとの結論を出すべきである。

(2)その他の知財政策事項について:
a)生成AI・人工知能の様な新技術と著作権の関係に関する検討について
 機械学習の発展により、かなりの精度で文章や絵などを自動的に計算して生成するいわゆる生成AI・人工知能が話題となっている事から、政府・与党でもこの様な生成AIと著作権の関係について今後検討を行う事が予想される。

 その様な検討自体に反対はしないが、検討する場合は、この様な新技術の発展が速い事や国際動向等にも照らし、かえって社会的混乱を招き、技術の発展を阻害する恐れの強い、法改正によって新たな規制を行う事や新しい権利を付与する事には極めて慎重であるべきである。

 知財計画2023において生成AI・人工知能の様な新技術と著作権の関係に関する検討について記載する場合には、技術の発展や国際動向等にも留意し、法改正によって新たな規制を行う事や新しい権利を付与する事には慎重である事を基本的な方針として合わせ明記するべきである。

 なお、今国会に提出されている、デジタル空間に形態模倣規制を導入する不正競争防止法改正案には賛同するが、メタバースとの関連でも、これ以上の法改正には慎重であるべきである。

b)秘密特許制度(経済安保法案の特許非公開関連部分)について
 2022年2月にとりまとめられた経済安全保障法制に関する有識者会議の提言に基づく、秘密特許制度(特許非公開制度)を含む経済安全保障法案が2022年5月11日に国会で可決・成立し、その施行を待つ状態にある。

 この法律により導入されようとしている秘密特許制度は、論文等の研究成果の公表は自由という前提と矛盾を来しており、その根拠となる立法事実があるのか、「公にすることにより外部から行われる行為によって国家及び国民の安全を損なう事態を生ずるおそれが大きい発明」についてまともに判断できるのか、その様なものが今の日本で本当に出願されているのか、出願され得るのか、罰則までつける事が妥当かなど、そもそも大いに疑わしいものである。

 また、この法律はあらゆる重要事項をほぼ全て政省令に落とす不明確な形で条文化されており、国会審議における政府回答によってもその明確化が完全に図られているとは言い難く、この秘密特許制度が恣意的に運用されると、国の安全保障に役立たないのは無論の事、かえって国として本来促進するべき技術分野の研究開発、国内外での特許取得活動に大きな萎縮が発生する可能性すらある。

 その様な萎縮を発生させないよう、その政省令及び具体的な運用に関する指針を速やかに公表して意見募集を行い、集まった意見を政省令等に反映し、制度開始まで十分な期間を取って周知を行うべきである。

c)オンライン手続きのための権利制限を含む著作権法改正案について
 今国会に、立法・行政においてオンライン手続きを可能とする著作権法改正案と、民事訴訟法による通常の民事訴訟以外の家事事件などのオンライン化に対応する著作権法上の権利制限の拡充を含む関係手続電子化法案が提出されている所であり、これらの権利制限を含む法改正案の早期成立を期待する。

 なお、今回の著作権法改正案には、拡大集中ライセンス制度に類似した新制度の導入も含まれているが、この新制度の運用について、DX時代への対応というその目的を踏まえ、相談・申請から利用許可までの全手続きをネットだけで完結する様にするべきであり、その手数料も公的な支援や授業目的公衆送信補償金制度の共通目的事業等の活用によりなるべく低廉化を図るべきである。

d)環太平洋経済連携協定(TPP)などの経済連携協定(EPA)に関する取組について
 TPP協定については、2015年10月に大筋合意が発表され、文化庁、知財本部の検討を経て、11月にTPP総合対策本部でTPP関連政策大綱が決定され、さらに2016年2月に署名され、3月に関連法案の国会提出がされ、11月の臨時国会で可決・成立し、2017年1月20日に参加国として初めての国内手続きの完了に関する通報が行われた。

 しかし、この国内手続きにおいて、日本政府は、2015年10月に大筋合意の概要のみを公表し、11月のニュージーランド政府からの協定条文の英文公表時も全章概要を示したのみで、その後2ヶ月も経って2016年1月にようやく公式の仮訳を公表するなど、TPP協定の内容精査と政府への意見提出の時間を国民に実質与えない極めて姑息かつ卑劣なやり方を取っていたと言わざるを得ない。

 そして、公開された条文によって今までのリーク文書が全て正しかったことはほぼ証明されており、TPP協定は確かに著作権の保護期間延長、DRM回避規制強化、法定賠償制度、著作権侵害の非親告罪化などを含んでいる。今ですら不当に長い著作権保護期間のこれ以上の延長など本来論外だったものである。

 その後、日本政府は、アメリカ抜きの11カ国でのTPP11協定を推進し、2017年11月に大筋合意が発表され、その中で最もクリティカルな部分である著作権と特許の保護期間延長とDRM規制の強化の部分が凍結さたにもかかわらず、これらの事項を含む国内関連法改正案を2018年3月に国会に提出し(6月に可決・成立)、2018年12月のTPP11協定の発効とともに施行するという戦後最大級の愚行をなした。このようになし崩しで極めて危険な法改正がなされたことを私は一国民として強く非難する。

 2017年12月には、同じく著作権の保護期間延長を含む日EU(欧)EPA交渉も妥結され、2018年2月に発効している。しかし、この日欧EPA交渉もTPP協定同様の姑息かつ卑劣な秘密交渉で決められたものである。その内容についてほとんど何の説明もないままに著作権の保護期間延長のような国益の根幹に関わる点について日本政府は易々と譲歩した。これは完全に国民をバカにしているとしか言いようがない。

 2020年9月に大筋合意され、2021年1月に発効している、同じく著作権の保護期間延長を含む日英EPAについても同様である。

 これらのTPP協定、日欧EPA及び日英EPAについてその内容の見直しを各加盟国に求めること及び著作権の保護期間の短縮について速やかに検討を開始することを私は求める。

 また、TPP交渉や日欧EPA交渉のような国民の生活に多大の影響を及ぼす国際交渉が政府間で極秘裏に行われたことも大問題である。国民一人一人がその是非を判断できるよう、途中経過も含めその交渉に関する情報をすべて速やかに公開するべきである。

e)DRM回避規制について
 経産省と文化庁の主導により無意味にDRM回避規制を強化する不正競争防止法と著作権法の改正案がそれぞれ以前国会を通され、2018年に不正競争防止法がさらに改正され、2020年の改正著作権法にも同様の事項が含まれているが、これらの法改正を是とするに足る立法事実は何一つない。不正競争防止法と著作権法でDRM回避機器等の提供等が規制され、著作権法でコピーコントロールを回避して行う私的複製まで違法とされ、十二分以上に規制がかかっているのであり、これ以上の規制強化は、ユーザーの情報アクセスに対するリスクを不必要に高める危険なものとしかなり得ない。

 特に、DRM回避規制に関しては、有害無益な規制強化の検討ではなく、まず、私的なDRM回避行為自体によって生じる被害は無く、個々の回避行為を一件ずつ捕捉して民事訴訟の対象とすることは困難だったにもかかわらず、文化庁の片寄った見方から一方的に導入されたものである、私的な領域でのコピーコントロール回避規制(著作権法第30条第1項第2号)の撤廃の検討を行うべきである。コンテンツへのアクセスあるいはコピーをコントロールしている技術を私的な領域で回避しただけでは経済的損失は発生し得ず、また、ネットにアップされることによって生じる被害は公衆送信権によって既にカバーされているものであり、その被害とDRM回避やダウンロードとを混同することは絶対に許されない。それ以前に、私法である著作権法が、私的領域に踏み込むということ自体異常なことと言わざるを得ない。何ら立法事実の変化がない中、ドサクサ紛れに通された、先般の不正競争防止法改正によるDRM規制の強化や、以前の著作権法改正で導入されたアクセスコントロール関連規制の追加等について、速やかに元に戻す検討がなされるべきである。

 TPP協定にはDRM回避規制の強化も含まれており、上で書いた通り、これ以上のDRM回避規制の強化がされるべきではなく、この点でも私はTPP協定の見直しを求める。

f)海賊版対策条約(ACTA)について
 ACTAを背景に経産省及び文化庁の主導により無意味にDRM回避規制を強化する不正競争防止法及び著作権法の改正案が以前国会を通され、ACTA自体も国会で批准された。しかし、このようなユーザーの情報アクセスに対するリスクを不必要に高める危険なものとしかなり得ない規制強化条項を含む条約の交渉、署名及び批准は何ら国民的なコンセンサスが得られていない中でなされており、私は一国民としてACTAに反対する。今なおACTAの批准国は日本しかなく、日本は無様に世界に恥を晒し続けている。もはやACTAに何ら意味はなく、日本は他国への働きかけを止めるとともに自ら脱退してその失敗を認めるべきである。

g)一般フェアユース条項の導入について
 2018年に個別の権利制限を拡充する著作権法改正がなされており、これはその限りにおいて評価できるものではあるが、本当の意味で柔軟な一般フェアユース条項を入れるものではない。

 一般フェアユース条項については、一から再検討を行い、ユーザーに対する意義からも、アメリカ等と遜色ない形で一般フェアユース条項を可能な限り早期に導入するべきである。特に、インターネットのように、ほぼ全国民が利用者兼権利者となり得、考えられる利用形態が発散し、個別の規定では公正利用の類型を拾い切れなくなるところでは、フェアユースのような一般規定は保護と利用のバランスを取る上で重要な意義を持つものである。

 今後の検討によっても幾つかの個別の権利制限が追加される可能性があるが、これらはあった方が良いものとは言え、到底一般フェアユース条項と言うに足るものではなく、これでは著作権をめぐる今の混迷状況が変わることはない。

 著作物の公正利用には変形利用もビジネス利用も考えられ、このような利用も含めて著作物の公正利用を促すことが、今後の日本の文化と経済の発展にとって真に重要であることを考えれば、不当にその範囲を不当に狭めるべきでは無く、その範囲はアメリカ等と比べて遜色の無いものとされるべきである。ただし、フェアユースの導入によって、私的複製の範囲が縮小されることはあってはならない。

 また、「まねきTV」事件などの各種判例からも、ユーザー個人のみによって利用されるようなクラウド型サービスまで著作権法上ほぼ違法とされてしまう状況に日本があることは明らかであり、このような状況は著作権法の趣旨に照らして決して妥当なことではない。ユーザーが自ら合法的に入手したコンテンツを私的に楽しむために利用することに著作権法が必要以上に介入することが許されるべきではなく、個々のユーザーが自らのためのもに利用するようなクラウド型サービスにまで不必要に著作権を及ぼし、このような技術的サービスにおけるトランザクションコストを過大に高め、その普及を不当に阻害することに何ら正当性はない。この問題がクラウド型サービス固有の問題でないのはその通りであるが、だからといって法改正の必要性がなくなる訳ではない。著作権法の条文及びその解釈・運用が必要以上に厳格に過ぎクラウド型サービスのような技術の普及が不当に阻害されているという日本の悲惨な現状を多少なりとも緩和するべく、速やかに問題を再整理し、アメリカ等と比べて遜色の無い範囲で一般フェアユース条項を導入し、同時にクラウド型サービスなどについてもすくい上げられるようにするべきである。

 権利を侵害するかしないかは刑事罰がかかるかかからないかの問題でもあり、公正という概念で刑事罰の問題を解決できるのかとする意見もあるようだが、かえって、このような現状の過剰な刑事罰リスクからも、フェアユースは必要なものと私は考える。現在親告罪であることが多少セーフハーバーになっているとはいえ、アニメ画像一枚の利用で別件逮捕されたり、セーフハーバーなしの著作権侵害幇助罪でサーバー管理者が逮捕されたりすることは、著作権法の主旨から考えて本来あってはならないことである。政府にあっては、著作権法の本来の主旨を超えた過剰リスクによって、本来公正として認められるべき事業・利用まで萎縮しているという事態を本当に深刻に受け止め、一刻も早い改善を図ってもらいたい。

 個別の権利制限規定の迅速な追加によって対処するべきとする意見もあるが、文化庁と癒着権利者団体が結託して個別規定すらなかなか入れず、入れたとしても必要以上に厳格な要件が追加されているという惨憺たる現状において、個別規定の追加はこの問題における真の対処たり得ない。およそあらゆる権利制限について、文化庁と権利者団体が結託して、全国民を裨益するだろう新しい権利制限を潰すか、極めて狭く使えないものとして来たからこそ、今一般規定が社会的に求められているのだという、国民と文化の敵である文化庁が全く認識していないだろう事実を、政府・与党は事実としてはっきりと認めるべきである。

h)コピーワンス・ダビング10・B-CAS問題について
 私はコピーワンスにもダビング10にも反対する。そもそも、この問題は、放送局・権利者にとっては、視聴者の利便性を著しく下げることによって、一旦は広告つきながらも無料で放送したコンテンツの市場価格を不当につり上げるものとして機能し、国内の大手メーカーとっては、B-CASカードの貸与と複雑な暗号システムを全てのテレビ・録画機器に必要とすることによって、中小・海外メーカーに対する参入障壁として機能するB-CASシステムの問題を淵源とするのであって、このB-CASシステムと独禁法の関係を検討するということを知財計画2023では明記してもらいたい。検討の上B-CASシステムが独禁法違反とされるなら、速やかにその排除をして頂きたい。また、無料の地上放送において、逆にコピーワンスやダビング10のような視聴者の利便性を著しく下げる厳格なコピー制御が維持されるのであれば、私的録画補償金に存在理由はなく、これを速やかに廃止するべきである。

i)著作権検閲・ストライクポリシーについて
 ファイル共有ソフトを用いて著作権を侵害してファイル等を送信していた者に対して警告メールを送付することなどを中心とする電気通信事業者と権利者団体の連携による著作権侵害対策が警察庁、総務省、文化庁などの規制官庁が絡む形で行われており、警察によってファイル共有ネットワークの監視も行われているが、このような対策は著作権検閲に流れる危険性が極めて高い。

 フランスで導入が検討された、警告メールの送付とネット切断を中心とする、著作権検閲機関型の違法コピー対策である3ストライクポリシーは、2009年6月に、憲法裁判所によって、インターネットのアクセスは、表現の自由に関係する情報アクセスの権利、つまり、最も基本的な権利の1つとしてとらえられるとされ、著作権検閲機関型の3ストライクポリシーは、表現の自由・情報アクセスの権利やプライバシーといった他の基本的な権利をないがしろにするものとして、真っ向から否定されている。ネット切断に裁判所の判断を必須とする形で導入された変形ストライク法も何ら効果を上げることなく、フランスでは今もストライクポリシーについて見直しの検討が行われており、2013年7月にはネット切断の罰が廃止されている。日本においては、このようなフランスにおける政策の迷走を他山の石として、このように表現の自由・情報アクセスの権利やプライバシーといった他の基本的な権利をないがしろにする対策を絶対に導入しないこととするべきであり、警察庁などが絡む形で検討されている違法ファイル共有対策についても、通信の秘密やプライバシー、情報アクセス権等の国民の基本的な権利をきちんと尊重する形で進めることが担保されなくてはならない。

j)著作権法へのセーフハーバー規定の導入について
 動画投稿サイト事業者がJASRACに訴えられた「ブレイクTV」事件や、レンタルサーバー事業者が著作権幇助罪で逮捕され、検察によって姑息にも略式裁判で50万円の罰金を課された「第(3)世界」事件や、1対1の信号転送機器を利用者からほぼ預かるだけのサービスが放送局に訴えられ、最高裁判決で違法とされた「まねきTV」事件等を考えても、今現在、カラオケ法理の適用範囲はますます広く曖昧になり、間接侵害や著作権侵害幇助のリスクが途方もなく拡大し、甚大な萎縮効果・有害無益な社会的大混乱が生じかねないという非常に危険な状態がなお続いている。間接侵害事件や著作権侵害幇助事件においてネット事業者がほぼ直接権利侵害者とみなされてしまうのでは、プロバイダー責任制限法によるセーフハーバーだけでは不十分であり、間接侵害や著作権侵害幇助罪も含め、著作権侵害とならない範囲を著作権法上きちんと確定することは喫緊の課題である。ただし、このセーフハーバーの要件において、標準的な仕組み・技術や違法性の有無の判断を押しつけるような、権利侵害とは無関係の行政機関なり天下り先となるだろう第3者機関なりの関与を必要とすることは、検閲の禁止・表現の自由等の国民の権利の不当な侵害に必ずなるものであり、絶対にあってはならないことである。

 知財計画2023において、プロバイダに対する標準的な著作権侵害技術導入の義務付け等を行わないことを合わせ明記するとともに、間接侵害や刑事罰・著作権侵害幇助も含め著作権法へのセーフハーバー規定の速やかな導入を検討するとしてもらいたい。この点に関しては、逆に、検閲の禁止や表現の自由の観点から技術による著作権検閲の危険性の検討を始めてもらいたい。

k)二次創作規制の緩和について
 2014年8月のクールジャパン提言の第13ページに「クリエイティビティを阻害している規制についてヒアリングし規制緩和する。コンテンツの発展を阻害する二次創作規制、ストリートパフォーマンスに関する規制など、表現を限定する規制を見直す。」と記載されている通り、二次創作は日本の文化的創作の原動力の一つになっており、その推進のために現状の規制を緩和する必要がある。これは知的財産に関わる重要な提言であり、二次創作規制を緩和するという記載を知財計画2023においてもそのまま取り入れ、政府としてこのような規制の緩和を強力に推進することを重ねてきちんと示すべきである。

l)著作権等に関する真の国際動向について国民へ知らされる仕組みの導入及び文化庁ワーキンググループの公開について
 WIPO等の国際機関にも、政府から派遣されている者はいると思われ、著作権等に関する真の国際動向について細かなことまで即座に国民へ知らされる仕組みの導入を是非検討してもらいたい。

 また、2013年からの著作物等の適切な保護と利用・流通に関するワーキングチーム及び2015年からの新たな時代のニーズに的確に対応した制度等の整備に関するワーキングチームの審議は公開とされたが、文化庁はワーキングチームについて公開審議を原則とするにはなお至っていない。上位の審議会と同様今後全てのワーキンググループについて公開審議を原則化するべきである。

m)天下りについて
 以前文部科学省の天下り問題が大きく報道されたが、知財政策においても、天下り利権が各省庁の政策を歪めていることは間違いなく、知財政策の検討と決定の正常化のため、文化庁から著作権関連団体への、総務省から放送通信関連団体・企業への、警察庁からインターネットホットラインセンター他各種協力団体・自主規制団体への天下りの禁止を知財本部において決定して頂きたい。(これらの省庁は特にひどいので特に名前をあげたが、他の省庁も含めて決定してもらえるなら、それに超したことはない。)

(3)その他一般的な情報・ネット・表現規制について
 知財計画改訂において、一般的な情報・ネット・表現規制に関する項目は削除されているが、常に一方的かつ身勝手な主張を繰り広げる自称良識派団体が、意味不明の理屈から知財とは本来関係のない危険な規制強化の話を知財計画に盛り込むべきと主張をしてくることが十分に考えられるので、ここでその他の危険な一般的な情報・ネット・表現規制強化の動きに対する反対意見も述べる。今後も、本来知財とは無関係の、一般的な情報・ネット・表現規制に関する項目を絶対に知財計画に盛り込むことのないようにしてもらいたい。

a)青少年ネット規制法・出会い系サイト規制法について
 そもそも、青少年ネット規制法は、あらゆる者から反対されながら、有害無益なプライドと利権を優先する一部の議員と官庁の思惑のみで成立したものであり、速やかに廃止が検討されるべきものである。また、出会い系サイト規制法の改正は、警察庁が、どんなコミュニケーションサイトでも人は出会えるという誰にでも分かることを無視し、届け出制の対象としては事実上定義不能の「出会い系サイト事業」を定義可能と偽り、改正法案の閣議決定を行い、法案を国会に提出したものであり、他の重要法案と審議が重なる中、国会においてもその本質的な問題が見過ごされて可決され、成立したものである。憲法上の罪刑法定主義や検閲の禁止にそもそも違反している、この出会い系サイト規制法の改正についても、今後、速やかに元に戻すことが検討されるべきである。

b)児童ポルノ規制・サイトブロッキングについて
 児童ポルノ法規制強化問題・有害サイト規制問題における自称良識派団体の主張は、常に一方的かつ身勝手であり、ネットにおける文化と産業の発展を阻害するばかりか、インターネットの単純なアクセスすら危険なものとする非常識なものばかりである。今後は、このような一方的かつ身勝手な規制強化の動きを規制するため、憲法の「表現の自由」に含まれ、国際人権B規約にも含まれている国民の「知る権利」を、あらゆる公開情報に安全に個人的にアクセスする権利として、通信法に法律レベルで明文で書き込むべきである。同じく、憲法に規定されている検閲の禁止から、技術的な検閲やサイトブロッキングのような技術的検閲の禁止を通信法に法律レベルで明文で書き込むべきである。

 閲覧とダウンロードと取得と所持の区別がつかないインターネットにおいては、例え児童ポルノにせよ、情報の単純所持や取得の規制は有害無益かつ危険なもので、憲法及び条約に規定されている「知る権利」を不当に害するものとなる。「自身の性的好奇心を満たす目的で」、積極的あるいは意図的に画像を得た場合であるなどの限定を加えたところで、エスパーでもない限りこのような積極性を証明することも反証することもできないため、このような情報の単純所持や取得の規制の危険性は回避不能であり、思想の自由や罪刑法定主義にも反する。繰り返し取得としても、インターネットで2回以上他人にダウンロードを行わせること等は技術的に極めて容易であり、取得の回数の限定も、何ら危険性を減らすものではない。

 児童ポルノ規制の推進派は常に、提供による被害と単純所持・取得を混同する狂った論理を主張するが、例えそれが児童ポルノであろうと、情報の単純所持ではいかなる被害も発生し得ない。現行法で、ネット上であるか否かにかかわらず、提供及び提供目的の所持が規制されているのであり、提供によって生じる被害と所持やダウンロード、取得、収集との混同は許され得ない。そもそも、最も根本的なプライバシーに属する個人的な情報所持・情報アクセスに関する情報を他人が知ることは、通信の秘密や情報アクセスの権利、プライバシーの権利等の基本的な権利からあってはならないことである。

 アニメ・漫画・ゲームなどの架空の表現に対する規制対象の拡大も議論されているが、このような対象の拡大は、児童保護という当初の法目的を大きく逸脱する、異常規制に他ならない。アニメ・漫画・ゲームなどの架空の表現において、いくら過激な表現がなされていようと、それが現実の児童被害と関係があるとする客観的な証拠は何一つない。いまだかつて、この点について、単なる不快感に基づいた印象批評と一方的な印象操作調査以上のものを私は見たことはないし、虚構と現実の区別がつかないごく一部の自称良識派の単なる不快感など、言うまでもなく一般的かつ網羅的な表現規制の理由には全くならない。アニメ・漫画・ゲームなどの架空の表現が、今の一般的なモラルに基づいて猥褻だというのなら、猥褻物として取り締まるべき話であって、それ以上の話ではない。どんな法律に基づく権利であれ、権利の侵害は相対的にのみ定まるものであり、実際の被害者の存在しない創作物・表現に対する規制は何をもっても正当化され得ない。民主主義の最重要の基礎である表現の自由や言論の自由、思想の自由等々の最も基本的な精神的自由そのものを危うくすることは絶対に許されない。この点で、2012年6月にスウェーデンで漫画は児童ポルノではないとする最高裁判決が出されたことなども注目されるべきである。

 単純所持規制にせよ、創作物規制にせよ、両方とも1999年当時の児童ポルノ法制定時に喧々囂々の大議論の末に除外された規制であり、規制推進派が何と言おうと、これらの規制を正当化するに足る立法事実の変化はいまだに何一つない。

 既に、警察などが提供するサイト情報に基づき、統計情報のみしか公表しない不透明な中間団体を介し、児童ポルノアドレスリストの作成が行われ、そのリストに基づいて、ブロッキング等が行われているが、いくら中間に団体を介そうと、一般に公表されるのは統計情報に過ぎす、児童ポルノであるか否かの判断情報も含め、アドレスリストに関する具体的な情報は、全て閉じる形で秘密裏に保持されることになるのであり、インターネット利用者から見てそのリストの妥当性をチェックすることは不可能であり、このようなアドレスリストの作成・管理において、透明性・公平性・中立性を確保することは本質的に完全に不可能である。このようなリストに基づくブロッキング等は、自主的な取組という名目でいくら取り繕おうとも、憲法に規定されている表現の自由(知る権利・情報アクセスの権利を含む)や検閲の禁止といった国民の基本的な権利を侵害するものとならざるを得ないのであり、小手先の運用変更などではどうにもならない。

 児童ポルノ規制法に関しては、提供及び提供目的での所持が禁止されているのであるから、本当に必要とされることはこの規制の地道なエンフォースであって有害無益かつ危険極まりない規制強化の検討ではない。DVD販売サイトなどの海外サイトについても、本当に児童ポルノが販売されているのであれば、速やかにその国の警察に通報・協力して対処すべきだけの話であって、それで対処できないとするに足る具体的根拠は全くない。警察自らこのような印象操作で規制強化のマッチポンプを行い、警察法はおろか憲法の精神にすら違背していることについて警察庁は恥を知るべきである。例えそれが何であろうと、情報の単純所持や単なる情報アクセスではいかなる被害も発生し得えないのであり、自主的な取組という名目でいくら取り繕おうとも、憲法に規定されている表現の自由(知る権利・情報アクセスの権利を含む)や検閲の禁止といった国民の基本的な権利を侵害するものとならざるを得ないサイトブロッキングは即刻排除するべきであり、そのためのアドレスリスト作成管理団体として設立された、インターネットコンテンツセーフティ協会は即刻その解散が検討されてしかるべきである。

 なお、民主主義の最重要の基礎である表現の自由に関わる問題において、一方的な見方で国際動向を決めつけることなどあってはならないことであり、欧米においても、情報の単純所持規制やサイトブロッキングの危険性に対する認識はネットを中心に高まって来ていることは決して無視されてはならない。例えば、欧米では既にブロッキングについてその恣意的な運用によって弊害が生じていることや、アメリカにおいても、2009年に連邦最高裁で児童オンライン保護法が違憲として完全に否定され、2011年6月に連邦最高裁でカリフォルニア州のゲーム規制法が違憲として否定されていること、ドイツで児童ポルノサイトブロッキング法は検閲法と批判され、最終的に完全に廃止されたことなども注目されるべきである(https://www.zdnet.de/41558455/bundestag-hebt-zensursula-gesetz-endgueltig-auf/参照)。スイスの2009年の調査でも、2002年に児童ポルノ所持で捕まった者の追跡調査を行っているが、実際に過去に性的虐待を行っていたのは1%、6年間の追跡調査で実際に性的虐待を行ったものも1%に過ぎず、児童ポルノ所持はそれだけでは、性的虐待のリスクファクターとはならないと結論づけており、児童ポルノの単純所持規制・ブロッキングの根拠は完全に否定されているのである(https://bmcpsychiatry.biomedcentral.com/articles/10.1186/1471-244X-9-43参照)。欧州連合において、インターネットへのアクセスを情報の自由に関する基本的な権利として位置づける動きがあることも見逃されてはならない。政府・与党内の検討においては、このような国際動向もきちんと取り上げるべきである。

 そして、単純所持規制に相当し、上で書いた通り問題の大きい性的好奇心目的所持罪を含む児童ポルノの改正法案が国会で2014年6月18日に可決・成立し、同年6月25日に公布され、2015年7月15日に施行された。この問題の大きい性的好奇心目的所持罪を規定する児童ポルノ規制法第7条第1項は即刻削除するべきであり、合わせ、政府・与党においては、児童ポルノを対象とするものにせよ、いかなる種類のものであれ、情報の単純所持・取得規制・ブロッキングは極めて危険な規制であるとの認識を深め、このような規制を絶対に行わないこととして、危険な法改正案が2度と与野党から提出されることが無いようにするべきである。

 さらに、性的好奇心目的所持罪を規定する児童ポルノ規制法第7条第1項を削除するとともに、児童ポルノの単純所持規制・創作物規制といった非人道的な規制を導入している諸国は即刻このような規制を廃止するべきと、そもそも最も根本的なプライバシーに属し、何ら実害を生み得ない個人的な情報所持・情報アクセスに関する情報を他人が知ること自体、通信の秘密や情報アクセスの権利、プライバシーの権利等の国際的かつ一般的に認められている基本的な権利からあってはならないことであると、また、法的拘束力はないが、明らかに表現の自由に抵触する規制を推奨している、2019年9月の児童の権利委員会による児童ポルノ規制に関するガイドラインは全面的に見直すべきであると、日本政府から国際的な場において各国に積極的に働きかけてもらいたい。

 また、様々なところで検討されている有害サイト規制についても、その規制は表現に対する過度広汎な規制で違憲なものとしか言いようがなく、各種有害サイト規制についても私は反対する。

c)東京都青少年健全育成条例他、地方条例の改正による情報規制問題について
 東京都でその青少年健全育成条例の改正が検討され、非実在青少年規制として大騒ぎになったあげく、2010年12月に、当事者・関係者の真摯な各種の意見すら全く聞く耳を持たれず、数々の問題を含む条例案が、都知事・東京都青少年・治安対策本部・自公都議の主導で都議会で通された。通過版の条例改正案も、非実在青少年規制という言葉こそ消えたものの、かえって規制範囲は非実在性犯罪規制とより過度に広汎かつ曖昧なものへと広げられ、有害図書販売に対する実質的な罰則の導入と合わせ、その内容は違憲としか言わざるを得ない内容のものである。また、この東京都の条例改正にも含まれている携帯フィルタリングの実質完全義務化は、青少年ネット規制法の精神にすら反している行き過ぎた規制である。さらに、大阪や京都などでは、児童ポルノに関して、法律を越える範囲で勝手に範囲を規定し、その単純所持等を禁止する、明らかに違憲な条例が通されるなどのデタラメが行われている。

 これらのような明らかな違憲条例の検討・推進は、地方自治体法第245条の5に定められているところの、都道府県の自治事務の処理が法令の規定に違反しているか著しく適正を欠きかつ明らかに公益を害していると認めるに足ると考えられるものであり、総務大臣から各地方自治体に迅速に是正命令を出すべきである。また、当事者・関係者の意見を完全に無視した東京都における検討など、民主主義的プロセスを無視した極めて非道なものとしか言いようがなく、今後の検討においてはきちんと民意が反映されるようにするため、地方自治法の改正検討において、情報公開制度の強化、審議会のメンバー選定・検討過程の透明化、パブコメの義務化、条例の改廃請求・知事・議会のリコールの容易化などの、国の制度と整合的な形での民意をくみ上げるシステムの地方自治に対する法制化の検討を速やかに進めてもらいたい。また、各地方の動きを見ていると、出向した警察官僚が強く関与する形で、各都道府県の青少年問題協議会がデタラメな規制強化騒動の震源となることが多く、今現在のデタラメな規制強化の動きを止めるべく、さらに、中央警察官僚の地方出向・人事交流の完全な取りやめ、地方青少年問題協議会法の廃止、問題の多い地方青少年問題協議会そのものの解散の促進についても速やかに検討を開始するべきである。

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2023年3月19日 (日)

第474回:閣議決定された不正競争防止法等改正案の条文

 前回取り上げた著作権法改正案に続いて、今回は閣議決定された不正競争防止法改正案の条文についてである(経産省のHP概要(pdf)要綱(pdf)法律案・理由(pdf)新旧対照条文(pdf)参照条文(pdf)参照)。

 まず、上でリンクを張った不正競争防止法等改正案の概要資料から法改正内容の概要を抜粋する。

(1)デジタル化に伴う事業活動の多様化を踏まえたブランド・デザイン等の保護強化
登録可能な商標の拡充
他人が既に登録している商標と類似する商標は登録できないが、先行商標権者の同意があり出所混同のおそれがない場合には登録可能にする。【商4条等】
※併せて、上記により登録された商標について、不正の目的でなくその商標を使用する行為等を不正競争として扱わないこととする。【不19条】
・自己の名前で事業活動を行う者等がその名前を商標として利用できるよう、氏名を含む商標も、一定の場合には、他人の承諾なく登録可能にする。【商4条】

意匠登録手続の要件緩和【意4条等】
・創作者等が出願前にデザインを複数公開した場合の救済措置を受けるための手続の要件を緩和する。

デジタル空間における模倣行為の防止【不2条】
商品形態の模倣行為について、デジタル空間上でも不正競争行為の対象とし、差止請求権等を行使できるようにする。

営業秘密・限定提供データの保護の強化
・ビッグデータを他社に共有するサービスにおいて、データを秘密管理している場合も含め限定提供データとして保護し、侵害行為の差止め請求等を可能とする。【不2条】
・損害賠償訴訟で被侵害者の生産能力等を超える損害分も使用許諾料相当額として増額請求を可能とするなど、営業秘密等の保護を強化する。【不5条等】
・裁定手続で提出される書類に営業秘密が記載された場合に閲覧制限を可能にする
【特186条、実55条、意63条等】
※裁定:特許発明が長期間実施されていない等の場合に、特許権者の意思に関わらず他者に実施権を認める制度

(2)コロナ禍・デジタル化に対応した知的財産手続等の整備
送達制度の見直し【特191条、工5条等】
・在外者へ査定結果等の書類を郵送できない場合に公表により送付したとみなすとともに、インターネットを通じた送達制度を整備する。

書面手続のデジタル化等のための見直し【特43条、商68条の3、工8条等】
・特許等に関する書面手続のデジタル化や商標の国際登録出願における手数料一括納付等を可能とする。

手数料減免制度の見直し【特195条の2等】
・中小企業の特許に関する手数料の減免について、資力等の制約がある者の発明奨励・産業発達促進という制度趣旨を踏まえ、一部件数制限を設ける。

(3)国際的な事業展開に関する制度整備
外国公務員贈賄に対する罰則の強化・拡充【不21条等】
・OECD外国公務員贈賄防止条約をより高い水準で的確に実施するため、自然人及び法人に対する法定刑を引き上げるとともに、日本企業の外国人従業員による海外での単独贈賄行為も処罰対象とする(両罰規定により、法人の処罰対象も拡大)。

国際的な営業秘密侵害事案における手続の明確化【不19条の2等】
・国外において日本企業の営業秘密の侵害が発生した場合にも日本の裁判所に訴訟を提起でき、日本の不競法を適用することとする。

※不競法については、平成27年改正により追加された同法第35条の規定について同改正において手当てする必要があった規定の適正化を行う。【不35条】

※上記のほか、他法の例にならい、不競法において、法人両罰の有無による罰則規定の整理及び罰則の構成要件に該当する行為を行った時期を明確にする趣旨の規定の改正を行う。【不21条等】

 これらは産業構造審議会・知的財産分科会の各小委員会の報告書をその儘条文化したものであり(経産省の不競小委報告書、特許庁の特許小委報告書意匠小委報告書商標小委報告書参照、その内容については第469回参照)、特に問題があるものではないが、ここでは、中でも今回の法改正のポイントと考えられる、(1)不正競争防止法改正によるデジタル空間上の商品形態模倣規制の導入と損害賠償規定の見直しと、(2)商標法改正による自己の名前を含む商標の登録可能化とコンセント制度の導入について、その条文を見ておきたいと思う。

(1)不正競争防止法改正によるデジタル空間上の商品形態模倣規制の導入と損害賠償規定の見直し
 報道でメタバースにも不正競争防止法の規制を適用するといったご大層な書き方がされているのは間違いとまでは言えないのだが、これは、不正競争防止法の第2条を以下の様に改正し、現行の商品形態模倣規制を電気通信回線を通じた提供まで適用可能とするものであり、それほど大きな影響はないだろうと私は思っている。(下線部が追加部分。以下同じ。)

(定義)
第二条 この法律において「不正競争」とは、次に掲げるものをいう。
一・二(略)
三 他人の商品の形態(当該商品の機能を確保するために不可欠な形態を除く。)を模倣した商品を譲渡し、貸し渡し、譲渡若しくは貸渡しのために展示し、輸出し、又は輸入する輸入し、又は電気通信回線を通じて提供する行為
(第4号以下略)

 この商品形態模倣規制は、現行法の同じ定義規定の第2条の第4項、第5項で、

4 この法律において「商品の形態」とは、需要者が通常の用法に従った使用に際して知覚によって認識することができる商品の外部及び内部の形状並びにその形状に結合した模様、色彩、光沢及び質感をいう。

5 この法律において「模倣する」とは、他人の商品の形態に依拠して、これと実質的に同一の形態の商品を作り出すことをいう。

と、消費者等が通常の使用において知覚可能な商品の形状などの模倣を禁止するものと定義されている事と、上と同様の改正が入る適用除外規定の第19条で、

(適用除外等)
第十九条 第三条から第十五条まで、第二十一条(第二項第七号に係る部分を除く。)及び第二十二条の規定は、次の各号に掲げる不正競争の区分に応じて当該各号に定める行為については、適用しない。
(第1~5号略)
 第二条第一項第三号に掲げる不正競争 次のいずれかに掲げる行為
 日本国内において最初に販売された日から起算して三年を経過した商品について、その商品の形態を模倣した商品を譲渡し、貸し渡し、譲渡若しくは貸渡しのために展示し、輸出し、又は輸入する輸入し、又は電気通信回線を通じて提供する行為
 他人の商品の形態を模倣した商品を譲り受けた者(その譲り受けた時にその商品が他人の商品の形態を模倣した商品であることを知らず、かつ、知らないことにつき重大な過失がない者に限る。)がその商品を譲渡し、貸し渡し、譲渡若しくは貸渡しのために展示し、輸出し、又は輸入する輸入し、又は電気通信回線を通じて提供する行為
(第7号以下略)

と、適用があるのは商品を最初に販売した日から3年という期間に限られる事も合わせて考えられなくてはならないものである。

 現実の新商品の形を真似て仮想空間で売ろうとするといった事又はその逆も考えられない訳ではなく、この様な規制強化も全く意味のないものではないだろうが、第471回で知財本部メタバース検討論点整理案との関係で書いた通り、著作権による保護は現実空間か仮想空間かによらず及ぶ事、仮想空間におけるオブジェクトの利用は完全に自由で何をしても良いなどという事はない事に、より注意が必要だろう。

 また、前回取り上げた著作権法改正案との並びで見ておくと、不正競争防止法改正案の損害賠償推定規定も以下の様に改正され、これで全ての主要な知的財産法で侵害組成物の数量について生産販売能力を超えた部分についてもライセンス料を受け取れる事が明確化される事になる。

(損害の額の推定等)
第五条 第二条第一項第一号から第十六号まで又は第二十二号に掲げる不正競争(同項第四号から第九号までに掲げるものにあっては、技術上の秘密に関するものに限る。)によって営業上の利益を侵害された者(以下この項において「被侵害者」という。)が故意又は過失により自己の営業上の利益を侵害した者(以下この項において「侵害者」という。)に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、その者侵害者がその侵害の行為を組成した物を譲渡したときは、その譲渡した物の数量(物(電磁的記録を含む。以下この項において「譲渡数量」という。)に、被侵害者が同じ。)を譲渡したとき(侵害の行為により生じた物を譲渡したときを含む。)、又はその侵害の行為がなければ販売することができた物の単位数量当たりの利益の額を乗じて得た額を、被侵害者の当該物に係る販売その他の行為を行う能力に応じた額を超えない限度においてにより生じた役務を提供したときは、次に掲げる額の合計額を、被侵害者が受けた損害の額とすることができる。ただし、譲渡数量の全部又は一部に相当する数量を被侵害者が販売することができないとする事情があるときは、当該事情に相当する数量に応じた額を控除するものとする。
 被侵害者がその侵害の行為がなければ販売することができた物又は提供することができた役務の単位数量当たりの利益の額に、侵害者が譲渡した当該物又は提供した当該役務の数量(次号において「譲渡等数量」という。)のうち被侵害者の販売又は提供の能力に応じた数量(同号において「販売等能力相応数量」という。)を超えない部分(その全部又は一部に相当する数量を被侵害者が販売又は提供をすることができないとする事情があるときは、当該事情に相当する数量(同号において「特定数量」という。)を控除した数量)を乗じて得た額
 譲渡等数量のうち販売等能力相応数量を超える数量又は特定数量がある場合におけるこれらの数量に応じた次のイからホまでに掲げる不正競争の区分に応じて当該イからホまでに定める行為に対し受けるべき金銭の額に相当する額(被侵害者が、次のイからホまでに掲げる不正競争の区分に応じて当該イからホまでに定める行為の許諾をし得たと認められない場合を除く。)
 第二条第一項第一号又は第二号に掲げる不正競争当該侵害に係る商品等表示の使用
 第二条第一項第三号に掲げる不正競争当該侵害に係る商品の形態の使用
 第二条第一項第四号から第九号までに掲げる不正競争当該侵害に係る営業秘密の使用
 第二条第一項第十一号から第十六号までに掲げる不正競争当該侵害に係る限定提供データの使用
 第二条第一項第二十二号に掲げる不正競争当該侵害に係る商標の使用

(略)

 裁判所は、第一項第二号イからホまで及び前項各号に定める行為に対し受けるべき金銭の額を認定するに当たっては、営業上の利益を侵害された者が、当該行為の対価について、不正競争があったことを前提として当該不正競争をした者との間で合意をするとしたならば、当該営業上の利益を侵害された者が得ることとなるその対価を考慮することができる。

 前項第三項の規定は、同項に規定する金額を超える損害の賠償の請求を妨げない。この場合において、その営業上の利益を侵害した者に故意又は重大な過失がなかったときは、裁判所は、損害の賠償の額を定めるについて、これを参酌することができる。

(2)商標法改正による自己の名前を含む商標の登録可能化とコンセント制度の導入
 もう1つ良く書かれているのが、商標法改正による自己の名前を含む商標の登録可能化であり、これは、商標の不登録理由を規定する商標法第4条の第1項第8号を以下の様に改正するものである。

(商標登録を受けることができない商標)
第四条 次に掲げる商標については、前条の規定にかかわらず、商標登録を受けることができない。
(略)
 他人の肖像又は若しくは他人の氏名(商標の使用をする商品又は役務の分野において需要者の間に広く認識されている氏名に限る。)若しくは名称若しくは著名な雅号、芸名若しくは筆名若しくはこれらの著名な略称を含む商標(その他人の承諾を得ているものを除く。)又は他人の氏名を含む商標であつて、政令で定める要件に該当しないもの
十九(略)

2・3(略)

 第一項第十一号に該当する商標であつても、その商標登録出願人が、商標登録を受けることについて同号の他人の承諾を得ており、かつ、当該商標の使用をする商品又は役務と同号の他人の登録商標に係る商標権者、専用使用権者又は通常使用権者の業務に係る商品又は役務との間で混同を生ずるおそれがないものについては、同号の規定は、適用しない。

 細かな説明は省略するが、特許庁の商標制度小委員会報告書(pdf)などでも書かれている通り、従来商標法の他人の氏名にはあらゆる他人の氏名が含まれるという解釈で運用されていたため、普通の人の氏名だと商標登録が極めて難しかったという事があったのだが、マツモトキヨシの音商標を登録可とする2021年8月30日の知財高裁判決(判決文(pdf)参照)などを受けて今回の法改正に至ったものである。今後、他人の氏名に対する濫用的な商標登録を防ぐための他人の氏名を含む商標に関する政令に多少注意が必要だろうが、今までの法律とその解釈が厳し過ぎた事を思えば、これは妥当な法改正だろうと思う。

 また、これも細かな説明は省略するが、商標において商標権者の同意があれば類似商標であっても商標登録が可能になるという上の第4条第4項によるコンセント制度の導入も制度的には重要である。

 その他制度ユーザにしか関係しない事も多いが、どれも重要である事に違いはなく、今回のこの法改正は、不正競争防止法を中心としてかなり大きな法改正と言えるものだろう。

 次回は、twitterで少し触れた通り、知財本部で今年の知財計画パブコメが4月7日〆切で始まっているので(知財本部意見募集案内(pdf)参照)、提出次第その内容を載せたいと思っている。

(2023年4月2日夜の追記:条文の誤記を修正した(「この法律において「不正競争」とは、次に掲げるものを第二条この法律において「不正競争」とは、次に掲げるものをいう」→「この法律において「不正競争」とは、次に掲げるものをいう」)。)

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2023年3月12日 (日)

第473回:閣議決定された著作権法改正案の条文

 3月10日に、著作権法改正案と不正競争防止法等改正案が閣議決定・国会提出され、公表された(文科省のHPと経産省のHP参照)。この内不競法等改正案は次に回し、今回はまず著作権法改正案(概要(pdf)要綱(pdf)案文・理由(pdf)新旧対照表(pdf)参照、参照条文(pdf)参照)について取り上げる。

 この著作権法改正案の概要については、上のリンク先の概要資料に以下の様に書かれている。

1.著作物等の利用に関する新たな裁定制度の創設等
①利用の可否に係る著作権者等の意思が確認できない著作物等の利用円滑化
・未管理公表著作物等(集中管理がされておらず、利用の可否に係る著作権者等の意思を円滑に確認できる情報が公表されていない著作物等)を利用しようとする者は、著作権者等の意思を確認するための措置をとったにもかかわらず、確認ができない場合には、文化庁長官の裁定を受け、補償金を供託することにより、裁定において定める期間に限り、当該未管理公表著作物等を利用することができることとする。
・文化庁長官は、著作権者等からの請求により、当該裁定を取り消すことで、取消し後は本制度による利用ができないこととし、著作権者等は補償金を受け取ることができることとする。

②窓口組織(民間機関)による新たな制度等の事務の実施による手続の簡素化
・迅速な著作物等利用を可能とするため、新たな裁定制度の申請受付、要件確認及び補償金の額の決定に関する事務の一部について、文化庁長官の登録を受けた窓口組織(民間機関)が行うことができることとする。
・新たな制度及び現行裁定制度の補償金について、文化庁長官の指定を受けた補償金等の管理機関への支払を行うことができることとし、供託手続を不要とする。

2.立法・行政における著作物等の公衆送信等を可能とする措置
①立法又は行政の内部資料についてのクラウド利用等の公衆送信等
・立法又は行政の目的のために内部資料として必要と認められる場合には、必要な限度において、内部資料の利用者間に限って著作物等を公衆送信等できることとする。

②特許審査等の行政手続等のための公衆送信等
・特許審査等の行政手続・行政審判手続※について、デジタル化に対応し、必要と認められる限度において、著作物等を公衆送信等できることとする。
※裁判手続についても、裁判手続のIT化のための各種制度改正に併せて、著作物等を公衆送信等できるよう規定の整備を行う(民訴手続については令和4年民事訴訟法等の一部改正法により措置済み)

3.海賊版被害等の実効的救済を図るための損害賠償額の算定方法の見直し
①侵害品の譲渡等数量に基づく算定に係るライセンス料相当額の認定
・侵害者の売上げ等の数量が、権利者の販売等の能力を超える場合等であっても、ライセンス機会喪失による逸失利益の損害額の認定を可能とする。

②ライセンス料相当額の考慮要素の明確化
・損害額として認定されるライセンス料相当額の算定に当たり、著作権侵害があったことを前提に交渉した場合に決まるであろう額を考慮できる旨を明記する。

 ここに書かれている、(1)拡大集中ライセンス類似の新しい利用許諾制度、(2)立法・行政向けの権利制限の拡充、(3)損害賠償額推定規定の見直しという3つのポイントについて、以下、それぞれに関する主要な条文を順次見て行く。

(1)拡大集中ライセンス類似の新しい利用許諾制度
 今回の著作権法改正の最大のポイントだろう拡大集中ライセンス類似の新しい利用許諾制度については、条文上、以下の様に同じ裁定として整理され、著作権者不明の場合の著作権法第67条の後に、未管理公表著作物の利用に関する第67条の3として追加されている。(下線部が追加部分。以下全てで同じ。)

(著作権者不明等の場合における著作物の利用)
第六十七条 公表された著作物又は相当期間にわたり公衆に提供され、若しくは提示されている事実が明らかである著作物は、著作権者の不明その他の理由により相当な努力を払つてもその著作権者と連絡することができない場合として政令で定める場合(以下この条及び第六十七条の三第二項において「公表著作物等」という。)を利用しようとする者は、次の各号のいずれにも該当するときは、文化庁長官の裁定を受け、かつ、通常の使用料の額に相当するものとして文化庁長官が定める額の補償金を著作権者のために供託して、その裁定に係る利用方法により当該裁定の定めるところにより、当該公表著作物等を利用することができる。
 権利者情報(著作権者の氏名又は名称及び住所又は居所その他著作権者と連絡するために必要な情報をいう。以下この号において同じ。)を取得するための措置として文化庁長官が定めるものをとり、かつ、当該措置により取得した権利者情報その他その保有する全ての権利者情報に基づき著作権者と連絡するための措置をとつたにもかかわらず、著作権者と連絡することができなかつたこと。
 著作者が当該公表著作物等の出版その他の利用を廃絶しようとしていることが明らかでないこと。

 国、地方公共団体その他これらに準ずるものとして政令で定める法人(以下この項及び次条この節において「国等」という。)が前項の規定により著作物公表著作物等を利用しようとするときは、同項の規定にかかわらず、同項の規定による供託を要しない。この場合において、国等が著作権者と連絡をすることができるに至つたときは、同項の規定により文化庁長官が定める額の補償金を著作権者に支払わなければならない。

 第一項の裁定(以下この条及び次条において「裁定」という。)を受けようとする者は、著作物の利用方法その他政令で定める事項裁定に係る著作物の題号、著作者名その他の当該著作物を特定するために必要な情報、当該著作物の利用方法、補償金の額の算定の基礎となるべき事項その他文部科学省令で定める事項を記載した申請書に、著作権者と連絡することができないことを疎明する資料その他政令で定める資料次に掲げる資料を添えて、これを文化庁長官に提出しなければならない。
 当該著作物が公表著作物等であることを疎明する資料
 第一項各号に該当することを疎明する資料
 前二号に掲げるもののほか、文部科学省令で定める資料

 裁定を受けようとする者は、実費を勘案して政令で定める額の手数料を国に納付しなければならない。ただし、当該者が国であるときは、この限りでない。

 裁定においては、次に掲げる事項を定めるものとする。
 当該裁定に係る著作物の利用方法
 前号に掲げるもののほか、文部科学省令で定める事項

 文化庁長官は、裁定をしない処分をするときは、あらかじめ、裁定の申請をした者(次項及び次条第一項において「申請者」という。)にその理由を通知し、弁明及び有利な証拠の提出の機会を与えなければならない。

 文化庁長官は、次の各号に掲げるときは、当該各号に定める事項を申請者に通知しなければならない。
 裁定をしたとき第五項各号に掲げる事項及び当該裁定に係る著作物の利用につき定めた補償金の額
 裁定をしない処分をしたときその旨及びその理由

 文化庁長官は、裁定をしたときは、その旨及び次に掲げる事項をインターネットの利用その他の適切な方法により公表しなければならない。
 当該裁定に係る著作物の題号、著作者名その他の当該著作物を特定するために必要な情報
 第五項第一号に掲げる事項
 前二号に掲げるもののほか、文部科学省令で定める事項

 文化庁長官は、前項の規定による公表に必要と認められる限度において、裁定に係る著作物を利用することができる。

10 第一項の規定により作成した著作物の複製物には、同項の裁定に係る複製物である旨及びその裁定のあつた年月日を表示しなければならない。

(裁定申請中の著作物の利用)
第六十七条の二 前条第一項の裁定(以下この条において単に「裁定」という。)の申請をした者申請者は、当該申請に係る著作物の利用方法を勘案して文化庁長官が定める額の担保金を供託した場合には、裁定又は裁定をしない処分を受けるまでの間(裁定又は裁定をしない処分を受けるまでの間に著作権者と連絡をすることができるに至つたときは、当該連絡をすることができるに至つた時までの間)、当該申請に係る利用方法と同一の方法により、当該申請に係る著作物を利用することができる。ただし、当該著作物の著作者が当該著作物の出版その他の利用を廃絶しようとしていることが明らかであるときは、この限りでない。

(略)

10 文化庁長官は、申請中利用者から裁定の申請を取り下げる旨の申出があつたときは、裁定をしない処分をするものとする。この場合において、前条第六項の規定は、適用しない。

(未管理公表著作物等の利用)
第六十七条の三 未管理公表著作物等を利用しようとする者は、次の各号のいずれにも該当するときは、文化庁長官の裁定を受け、かつ、通常の使用料の額に相当する額を考慮して文化庁長官が定める額の補償金を著作権者のために供託して、当該裁定の定めるところにより、当該未管理公表著作物等を利用することができる。
 当該未管理公表著作物等の利用の可否に係る著作権者の意思を確認するための措置として文化庁長官が定める措置をとつたにもかかわらず、その意思の確認ができなかつたこと。
 著作者が当該未管理公表著作物等の出版その他の利用を廃絶しようとしていることが明らかでないこと。

 前項に規定する未管理公表著作物等とは、公表著作物等のうち、次の各号のいずれにも該当しないものをいう。
 当該公表著作物等に関する著作権について、著作権等管理事業者による管理が行われているもの
 文化庁長官が定める方法により、当該公表著作物等の利用の可否に係る著作権者の意思を円滑に確認するために必要な情報であつて文化庁長官が定めるものの公表がされているもの

 第一項の裁定(以下この条において「裁定」という。)を受けようとする者は、裁定に係る著作物の題号、著作者名その他の当該著作物を特定するために必要な情報、当該著作物の利用方法及び利用期間、補償金の額の算定の基礎となるべき事項その他文部科学省令で定める事項を記載した申請書に、次に掲げる資料を添えて、これを文化庁長官に提出しなければならない。
 当該著作物が未管理公表著作物等であることを疎明する資料
 第一項各号に該当することを疎明する資料
 前二号に掲げるもののほか、文部科学省令で定める資料

 裁定においては、次に掲げる事項を定めるものとする。
 当該裁定に係る著作物の利用方法
 当該裁定に係る著作物を利用することができる期間
 前二号に掲げるもののほか、文部科学省令で定める事項

 前項第二号の期間は、第三項の申請書に記載された利用期間の範囲内かつ三年を限度としなければならない。

 第六十七条第四項及び第六項から第十項までの規定は、裁定について準用する。この場合において、同条第七項第一号中「第五項各号」とあるのは「第六十七条の三第四項各号」と、同条第八項第二号中「第五項第一号」とあるのは「第六十七条の三第四項第一号及び第二号」と読み替えるものとする。

 裁定に係る著作物の著作権者が、当該著作物の著作権の管理を著作権等管理事業者に委託すること、当該著作物の利用に関する協議の求めを受け付けるための連絡先その他の情報を公表することその他の当該著作物の利用に関し当該裁定を受けた者からの協議の求めを受け付けるために必要な措置を講じた場合には、文化庁長官は、当該著作権者の請求により、当該裁定を取り消すことができる。この場合において、文化庁長官は、あらかじめ当該裁定を受けた者にその理由を通知し、弁明及び有利な証拠の提出の機会を与えなければならない。

 文化庁長官は、前項の規定により裁定を取り消したときは、その旨及び次項に規定する取消時補償金相当額その他の文部科学省令で定める事項を当該裁定を受けた者及び前項の著作権者に通知しなければならない。

 前項に規定する場合においては、著作権者は、第一項の補償金を受ける権利に関し同項の規定により供託された補償金の額のうち、当該裁定のあつた日からその取消しの処分のあつた日の前日までの期間に対応する額(以下この条において「取消時補償金相当額」という。)について弁済を受けることができる。

10 第八項に規定する場合においては、第一項の補償金を供託した者は、当該補償金の額のうち、取消時補償金相当額を超える額を取り戻すことができる。

11 国等が第一項の規定により未管理公表著作物等を利用しようとするときは、同項の規定にかかわらず、同項の規定による供託を要しない。この場合において、国等は、著作権者から請求があつたときは、同項の規定により文化庁長官が定める額(第八項に規定する場合にあつては、取消時補償金相当額)の補償金を著作権者に支払わなければならない。

 条項の追加などに伴うテクニカルな条文改正に加え、この裁定制度を運用する機関について、第6章として「裁定による利用に係る指定補償金管理機関及び登録確認機関」、条文番号で第104条の18から47までが追加されており、その全文は省略するが、第104条の20、21や33などで以下の様に裁定に関する一部業務を委任できる事が規定されている。

(指定補償金管理機関の業務)
第百四条の二十 指定補償金管理機関は、次に掲げる業務を行うものとする。
 次条第一項及び第二項の規定により支払われる補償金の受領に関する業務
 次条第三項の規定により読み替えて適用する第六十七条の二第一項及び第五項(これらの規定を第百三条において準用する場合を含む。)の規定により支払われる補償金及び担保金の受領に関する業務
 前二号の規定により受領した補償金及び担保金の管理に関する業務
 次条第三項の規定により読み替えて適用する第六十七条の二第八項(第百三条において準用する場合を含む。)及び次条第四項の規定による著作権者及び著作隣接権者に対する支払に関する業務
 第百四条の二十二第一項に規定する著作物等保護利用円滑化事業に関する業務

(指定補償金管理機関が補償金管理業務を行う場合の補償金及び担保金の取扱い)
第百四条の二十一 第六十七条第二項及び第六十七条の三第十一項(これらの規定を第百三条において準用する場合を含む。)の規定は、指定補償金管理機関が補償金管理業務を行う場合には、適用しない。

 指定補償金管理機関が補償金管理業務を行うときは、第六十七条第一項及び第六十七条の三第一項(これらの規定を第百三条において準用する場合を含む。以下この条において同じ。)の規定により補償金を供託することとされた者は、これらの規定にかかわらず、当該補償金を指定補償金管理機関に支払うものとする。この場合において、第六十七条第七項(第六十七条の三第六項において準用する場合を含む。以下この項において同じ。)並びに第六十七条の三第九項及び第十項の規定(これらの規定を第百三条において準用する場合を含む。以下この項において同じ。)の適用については、第六十七条第七項中「申請者」とあるのは「申請者及び第百四条の十九第五項に規定する指定補償金管理機関(第六十七条の三において「指定補償金管理機関」という。)」と、第六十七条の三第九項中「第一項の補償金を受ける権利に関し同項の規定により供託された」とあるのは「第百四条の二十一第一項及び第二項の規定により指定補償金管理機関に支払われた」と、同条第十項中「供託した」とあるのは「指定補償金管理機関に支払つた」とする。

(第3項以下略)

第百四条の三十三 文化庁長官は、その登録を受けた者(以下この節において「登録確認機関」という。)に、第六十七条の三第一項(第百三条において準用する場合を含む。以下この節において同じ。)の規定による裁定及び補償金の額の決定に係る事務のうち次に掲げるもの(以下この節、第百二十一条の三及び第百二十二条の二第三号において「確認等事務」という。)を行わせることができる。
 当該裁定の申請の受付(第百四条の三十五第二項において「申請受付」という。)に関する事務
 当該裁定の申請に係る著作物等が未管理公表著作物等に該当するか否か及び当該裁定の申請をした者が第六十七条の三第一項第一号に該当するか否かの確認(以下この条及び第百四条の三十五第二項において「要件確認」という。)に関する事務
 第六十七条の三第一項の通常の使用料の額に相当する額の算出(以下この節において「使用料相当額算出」という。)に関する事務

(第2項以下略)

 文化庁は同じ機関を指定、登録する事を考えているのではないかとも思うが、指定補償金管理機関が第67条の権利者不明の裁定の補償金も扱うのに対し、登録確認機関の方が担当する確認業務は第67条の3の新しい未管理公表著作物の裁定のみとなっており、書き方はかなり複雑だが、この前の法制度小委員会報告書の、新制度の申請受付は別の機関で行いながら利用許諾の決定は文化庁が行うという内容を条文化したらこの様になるだろうと思えるものである。(文化庁の文化審議会・著作権分科会・法制度小委員会の報告書の内容については第470回参照。)

 以前書いた通り、この新制度が本当に著作物の利用の円滑化に役立つかどうかは、条文レベルで決まる事ではなく、その政省令、具体的な運用次第となるだろう。

 運用開始までの準備期間としてやむを得ないのだろうが、概要資料にも書かれている通り、この部分の施行は公布から3年以内で多少時間が掛かる事になっている。

(2)立法・行政向けの権利制限の拡充
 次に、今回の権利制限の拡充は、著作権法の立法・行政・司法向けの権利制限を以下の様に改めるものである。

政治上公開の演説等の利用)
第四十条 公開して行われた政治上の演説又は陳述及び裁判手続並びに裁判手続及び行政審判手続(行政庁の行う審判その他裁判に準ずる手続を含む。第四十二条第一をいう。第四十一条の二において同じ。)における公開の陳述は、同一の著作者のものを編集して利用する場合を除き、いずれの方法によるかを問わず、利用することができる。

(略)

(裁判手続等における複製等)
第四十一条の二 著作物は、裁判手続及び行政審判手続のために必要と認められる場合には、その必要と認められる限度において、複製することができる。ただし、当該著作物の種類及び用途並びにその複製の部数及び態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。

 著作物は、特許法(昭和三十四年法律第百二十一号)その他政令で定める法律の規定による行政審判手続であつて、電磁的記録を用いて行い、又は映像若しくは音声の送受信を伴つて行うもののために必要と認められる限度において、公衆送信(自動公衆送信の場合にあつては、送信可能化を含む。以下この項、次条及び第四十二条の二第二項において同じ。)を行い、又は受信装置を用いて公に伝達することができる。ただし、当該著作物の種類及び用途並びにその公衆送信又は伝達の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。

(裁判手続等における複製)(立法又は行政の目的のための内部資料としての複製等)
第四十二条 著作物は、裁判手続のために必要と認められる場合及び立法又は行政の目的のために内部資料として必要と認められる場合には、その必要と認められる限度において、複製する複製し、又は当該内部資料を利用する者との間で公衆送信を行い、若しくは受信装置を用いて公に伝達することができる。ただし、当該著作物の種類及び用途並びにその複製の部数及びその複製、公衆送信又は伝達の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。

 次に掲げる手続のために必要と認められる場合についても、前項と同様とする。
 行政庁の行う特許、意匠若しくは商標に関する審査、実用新案に関する技術的な評価又は国際出願(特許協力条約に基づく国際出願等に関する法律(昭和五十三年法律第三十号)第二条に規定する国際出願をいう。)に関する国際調査若しくは国際予備審査に関する手続
 行政庁の行う品種(種苗法(平成十年法律第八十三号)第二条第二項に規定する品種をいう。)に関する審査又は登録品種(同法第二十条第一項に規定する登録品種をいう。)に関する調査に関する手続
 行政庁の行う特定農林水産物等(特定農林水産物等の名称の保護に関する法律(平成二十六年法律第八十四号)第二条第二項に規定する特定農林水産物等をいう。以下この号において同じ。)についての同法第六条の登録又は外国の特定農林水産物等についての同法第二十三条第一項の指定に関する手続
 行政庁若しくは独立行政法人の行う薬事(医療機器(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(昭和三十五年法律第百四十五号)第二条第四項に規定する医療機器をいう。)及び再生医療等製品(同条第九項に規定する再生医療等製品をいう。)に関する事項を含む。以下この号において同じ。)に関する審査若しくは調査又は行政庁若しくは独立行政法人に対する薬事に関する報告に関する手続
 前各号に掲げるもののほか、これらに類するものとして政令で定める手続

(審査等の手続における複製等)
第四十二条の二 著作物は、次に掲げる手続のために必要と認められる場合には、その必要と認められる限度において、複製することができる。ただし、当該著作物の種類及び用途並びにその複製の部数及び態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。
 行政庁の行う特許、意匠若しくは商標に関する審査、実用新案に関する技術的な評価又は国際出願(特許協力条約に基づく国際出願等に関する法律(昭和五十三年法律第三十号)第二条に規定する国際出願をいう。)に関する国際調査若しくは国際予備審査に関する手続
 行政庁の行う品種(種苗法(平成十年法律第八十三号)第二条第二項に規定する品種をいう。)に関する審査又は登録品種(同法第二十条第一項に規定する登録品種をいう。)に関する調査に関する手続
 行政庁の行う特定農林水産物等(特定農林水産物等の名称の保護に関する法律(平成二十六年法律第八十四号)第二条第二項に規定する特定農林水産物等をいう。以下この号において同じ。)についての同法第六条の登録又は外国の特定農林水産物等についての同法第二十三条第一項の指定に関する手続
 行政庁若しくは独立行政法人の行う薬事(医療機器(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(昭和三十五年法律第百四十五号)第二条第四項に規定する医療機器をいう。)及び再生医療等製品(同条第九項に規定する再生医療等製品をいう。)に関する事項を含む。以下この号において同じ。)に関する審査若しくは調査又は行政庁若しくは独立行政法人に対する薬事に関する報告に関する手続
 前各号に掲げるもののほか、これらに類するものとして政令で定める手続

 著作物は、電磁的記録を用いて行い、又は映像若しくは音声の送受信を伴つて行う前項各号に掲げる手続のために必要と認められる場合には、その必要と認められる限度において、公衆送信を行い、又は受信装置を用いて公に伝達することができる。ただし、当該著作物の種類及び用途並びにその公衆送信又は伝達の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。

第四十二条の二第四十二条の三(略)

第四十二条の三第四十二条の四(略)

 権利制限についてはもう少し一般化による条文の整理ができないのかといつも思うが、ここも条文の記載そのものに問題があるわけではない。概要資料にも2024年1月1日施行予定と書かれており、当たり前の話とは思うが、民事訴訟法改正に引き擦られる事なく早めの施行が予定されているのは良い事である。

(3月19日夜の追記:この今回の著作権法改正案では、民訴法等改正による施行前の著作権法第42条の2(第454回参照)が削られているが、代わりに、3月14日に閣議決定された民事関係手続電子化法案(正式名称は「民事関係手続等における情報通信技術の活用等の推進を図るための関係法律の整備に関する法律案」、法務省のHP法律案要綱(pdf)法律案・理由(pdf)新旧対象条文(pdf)参照)により、上の第41条の2第2項に対してさらに以下の改正が加えられる。

(裁判手続等における複製等)
第四十一条の二
(略)
 著作物は、民事訴訟法(平成八年法律第百九号)その他政令で定める法律の規定による裁判手続及び特許法(昭和三十四年法律第百二十一号)その他政令で定める法律の規定による行政審判手続であつて、電磁的記録を用いて行い、又は映像若しくは音声の送受信を伴つて行うもののために必要と認められる限度において、公衆送信(自動公衆送信の場合にあつては、送信可能化を含む。以下この項、次条及び第四十二条の二第二項において同じ。)を行い、又は受信装置を用いて公に伝達することができる。ただし、当該著作物の種類及び用途並びにその公衆送信又は伝達の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。

 この民事関係手続電子化法案により、民事訴訟法による通常の民事訴訟以外の家事事件なども電子化されるが、その部分は政令に委ねるという形でこの権利制限は整理される事になる。)

(3)損害賠償額推定規定の見直し
 次に、損害賠償額推定規定の見直しは著作権法第114条を以下の様に改正するものである。

(損害の額の推定等)
第百十四条 著作権者等が故意又は過失により自己の著作権、出版権又は著作隣接権を侵害した者(以下この項において「侵害者」という。)に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、その者侵害者がその侵害の行為によつて作成された物(第一号において「侵害作成物」という。)を譲渡し、又はその侵害の行為を組成する公衆送信(自動公衆送信の場合にあつては、送信可能化を含む。同号において「侵害組成公衆送信」という。)を行つたときは、その譲渡した物の数量又はその公衆送信が公衆によつて受信されることにより作成された著作物若しくは実演等の複製物(以下この項において「受信複製物」という。)の数量(以下この項において「譲渡等数量」という。)に、著作権者等がその侵害の行為がなければ販売することができた物(受信複製物を含む。)の単位数量当たりの利益の額を乗じて得た額を、著作権者等の当該物に係る販売その他の行為を行う能力に応じた額を超えない限度において次の各号に掲げる額の合計額を、著作権者等が受けた損害の額とすることができる。ただし、譲渡等数量の全部又は一部に相当する数量を著作権者等が販売することができないとする事情があるときは、当該事情に相当する数量に応じた額を控除するものとする。
 譲渡等数量(侵害者が譲渡した侵害作成物及び侵害者が行つた侵害組成公衆送信を公衆が受信して作成した著作物又は実演等の複製物(以下この号において「侵害受信複製物」という。)の数量をいう。次号において同じ。)のうち販売等相応数量(当該著作権者等が当該侵害作成物又は当該侵害受信複製物を販売するとした場合にその販売のために必要な行為を行う能力に応じた数量をいう。同号において同じ。)を超えない部分(その全部又は一部に相当する数量を当該著作権者等が販売することができないとする事情があるときは、当該事情に相当する数量(同号において「特定数量」という。)を控除した数量)に、著作権者等がその侵害の行為がなければ販売することができた物の単位数量当たりの利益の額を乗じて得た額
 譲渡等数量のうち販売等相応数量を超える数量又は特定数量がある場合(著作権者等が、その著作権、出版権又は著作隣接権の行使をし得たと認められない場合を除く。)におけるこれらの数量に応じた当該著作権、出版権又は著作隣接権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額

(略)

 裁判所は、第一項第二号及び第三項に規定する著作権、出版権又は著作隣接権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額を認定するに当たつては、著作権者等が、自己の著作権、出版権又は著作隣接権の侵害があつたことを前提として当該著作権、出版権又は著作隣接権を侵害した者との間でこれらの権利の行使の対価について合意をするとしたならば、当該著作権者等が得ることとなるその対価を考慮することができる。

(略)

 これも、前の報告書に書かれていた通り、既に特許法の第102条などで書かれている内容を著作権法にも取り入れるもので、特に問題があるものではない。この部分も2024年1月1日施行予定である。

 今回の著作権法改正案は、全体を通して文化庁の前の報告書から想定される内容であって、何か問題のある部分が含まれているという事はない。予想としては、通常通りのスケジュールで審議が進み、今国会で成立する事になるだろう。

(2023年4月15日夜の追記:改行の誤記を1箇所直した。)

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