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2023年2月12日 (日)

第472回:新秘密特許(非公開)制度基本指針案に対する意見募集の開始

 経済安全保障法に含まれる新秘密特許(非公開)制度について、2月8日の経済安全保障法制に関する有識者会議基本指針案(pdf)概要(pdf)も参照)が示され、電子政府HPの意見募集ページに書かれている通り、この特許出願の非公開に関する基本指針案(pdf)が、3月12日〆切でパブリックコメントに掛かった。

(経済安全保障法における新秘密特許制度の条文や国会審議については、第453回第461回参照。米英独仏の秘密特許制度については、第456回第457回第458回参照。また、経済安全保障有識者会議の資料1(pdf)2(pdf)3(pdf)によると、この基本指針案の検討のために特許出願非公開に関する検討会合が2022年12月20日に非公開で開かれていた様である。)

 これは基本指針の名の通り、今まで議論されていた事を抽象的理念としてまとめているだけであって、追加で具体的な事が明らかになったという事はほぼなく、この基本指針のレベルで言う事は余りない。しかし、これも知財政策に関する重要なパブコメの1つであり、私が特に気になっている、秘密(保全)指定の対象、保全審査の範囲を決める特定技術分野、外国出願の禁止、保全対象となった場合の補償について書かれた部分の抜粋を下に載せておく。

 基本指針案で政令の策定や制度の周知等について書かれているが、上の有識者会議で示された概要(pdf)でも、3月以降、もう一度有識者会議で基本指針案に関するパブリックコメントを踏まえた審議をした上で、基本指針の閣議決定を行い、政省令を策定、制度を周知、Q&A等を作成・公表、2024年春頃に制度運用を開始すると書かれている。去年5月の法律の成立後、施行まで後1年位の今に至るも制度運用の詳細に関する検討の内容が明らかにされないのは残念な事と思うが、この日本の新秘密特許制度に関しては、より具体的な事を定めるこの政省令などの検討が特に重要なものになると私は思っている。

(以下、基本指針案抜粋)

特許法の出願公開の特例に関する措置、同法第三十六条第一項の規定による特許出願に係る明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明に係る情報の適正管理その他公にすることにより外部から行われる行為によって国家及び国民の安全を損なう事態を生ずるおそれが大きい発明に係る情報の流出を防止するための措置に関する基本指針(案)

(略)

第1章 特許出願の非公開に関する基本的な方向に関する事項

第1節 本制度の基本的な考え方

(略)

第2節 非公開の対象となる発明(保全対象発明)の考え方

 本制度による保全指定がされるのは、特許出願に係る明細書等に「公にすることにより外部から行われる行為によって国家及び国民の安全を損なう事態を生ずるおそれが大きい発明」が記載され、かつ、そのおそれの程度及び保全指定をした場合に産業の発達に及ぼす影響その他の事情を考慮し、当該発明に係る情報の保全(当該情報が外部に流出しないようにするための措置)をすることが適当と認められた場合である(法第70条第1項)。すなわち、本法は、機微性の要件(公にすることにより外部から行われる行為によって国家及び国民の安全を損なう事態を生ずるおそれが大きいこと)を満たすことを前提としつつ、その機微性の程度と保全指定をすることによる産業の発達への影響等との総合考慮により、情報の保全をすることが適当と認められた場合に保全指定をするものと定めている。

(1)国家及び国民の安全を損なう事態を生ずるおそれが大きい発明

 本制度で非公開の対象とする「公にすることにより外部から行われる行為によって国家及び国民の安全を損なう事態を生ずるおそれが大きい発明」とは、安全保障上の機微性が極めて高いもの、すなわち、国としての基本的な秩序の平穏あるいは多数の国民の生命や生活を害する手段に用いられるおそれがある技術の発明が該当する。

 これをより具体的にいうと、以下のような類型の技術が想定される。

①我が国の安全保障の在り方に多大な影響を与え得る先端技術

 その新しさゆえ、用いる者や用い方によって、国家及び国民の安全に対する重大な脅威となり得る技術がこれに該当する。例えば、武器のための技術であるか否かを問わず、いわゆるゲーム・チェンジャーと呼ばれる将来の戦闘様相を一変させかねない武器に用いられ得る先端技術や、宇宙・サイバー等の比較的新しい領域における深刻な加害行為に用いられ得る先端技術などが挙げられる。

② 我が国の国民生活や経済活動に甚大な被害を生じさせる手段となり得る技術

 その威力の大きさゆえ、我が国に対して用いられれば深刻な被害を防ぐことが容易でない技術がこれに該当する。例えば、先端技術か否かを問わず、大量破壊兵器への転用が可能な核技術などが挙げられる。

(2)産業の発達に及ぼす影響等の考慮

 前節でも述べたとおり、法第70条第1項は、「公にすることにより外部から行われる行為によって国家及び国民の安全を損なう事態を生ずるおそれが大きい発明」であっても、一律に非公開とはせず、「保全指定をした場合に産業の発達に及ぼす影響その他の事情」を考慮し、適当と認められる場合に限り、保全指定をすることとしている。

 ここでいう「産業の発達に及ぼす影響」の内容としては、前節(2)で述べたように、①特許出願人を含む当該発明の関係者の経済活動に及ぼす影響、②非公開の先願に抵触するリスクに関して第三者の経済活動に及ぼす影響及び③我が国におけるイノベーションに及ぼす影響という3つの観点から総合的に考慮する必要がある。

 特に、今後民生分野の産業や市場に幅広く展開され、発展していくような発明については、保全指定をして発明の内容の開示や実施を制限することが我が国の経済活動やイノベーションへ支障を及ぼしかねないことに十分留意する必要がある。

 なお、法第70条第1項の「その他の事情」としては、例えば、対象となる発明の管理状況等、保全指定の実効性に関わる事情が想定される。すなわち、国家及び国民の安全を損なうおそれが大きく、かつ、産業の発達に及ぼす影響が少ない場合であっても、情報が既に広く知られており、保全の実質的な意義が小さい場合には、保全指定をすることが適当とは認め難い。

第3節 その他の基本的留意事項

(略)

第2章 特定技術分野に関する基本的な事項

第1節 特定技術分野に関する考え方

(1)特定技術分野の位置付け

 「特定技術分野」とは、「公にすることにより外部から行われる行為によって国家及び国民の安全を損なう事態を生ずるおそれが大きい発明が含まれ得る技術の分野として国際特許分類又はこれに準じて細分化したものに従い政令で定めるもの」をいう(法第66条第1項)。

 最終的に保全指定の対象となるのは、特許出願に係る明細書等に記載された個々の具体的発明であるが、それは、前章第2節で述べたとおり、我が国の安全保障上極めて機微な発明を前提にしつつ、産業の発達への影響等も踏まえて選定されることとなる。そこで、そうした条件を満たし得る発明をあらかじめ技術分野という角度から類型化して国際特許分類(IPC=International Patent Classification)の形で示し、特許庁長官が行う第一次審査において定型的な形で審査を可能にさせるとともに、特許出願人の予見性を確保するのが、特定技術分野の役割である。保全指定の対象となる発明を選定するに当たり、年間約30万件に及ぶ特許出願の全てを内閣総理大臣の保全審査に付することとすれば、安全保障上の機微性とは関連しない発明も含め、全ての特許出願に係る特許手続を遅延させることになりかねないことから、法第66条第1項は、まずは特許庁長官において、特定技術分野に該当するものを定型的に選別し、選別されたものだけを内閣総理大臣に送付して保全審査に付すという二段階審査の仕組みを採用している。

 また、法第66条第1項本文によって保全審査に付される発明は、保全指定前における外国出願の禁止(以下「第一国出願義務」という。)の対象となることから(法第78条第1項)、特定技術分野は、第一国出願義務の範囲を絞り込む役割も担っている。

(2)特定技術分野を定める際の基本的な考え方

 特定技術分野を定めるに当たっては、真に保全指定の対象となる発明が含まれ得る領域を選定する必要がある。どのような発明が保全指定の対象となるかについては、前章第2節で述べたとおりであり、そうした発明が含まれ得る技術分野を特定技術分野として選定していくこととなる。すなわち、保全指定の対象が、経済活動やイノベーションへの影響を考慮して選定されることを踏まえて、特定技術分野の選定においても、国家及び国民の安全を損なう事態を生ずるおそれが大きい発明が含まれ得る技術分野であるかという観点だけでなく、経済活動やイノベーションへの影響も考慮する必要がある。

 特定技術分野は、特許出願人に明確な形でなければならず、かつ、特許庁長官による迅速な審査を可能にさせるものでなければならない。これらを踏まえ、法第66条第1項本文において、特定技術分野は国際特許分類又はこれに準じて細分化したものに従い定めることとしている。すなわち、国際特許分類は、国際的に統一された特許分類としてその定義が公表されているものであり、かつ、現行の特許実務上、特許出願が受理されると、まず、記載されている発明に国際特許分類を付与する作業が行われていることから、これを用いて特定技術分野を定めることとしている。

 国際特許分類をどの程度細分化した上で定めるかという点については、広く定めるほど、保全指定の対象となり得ないような発明が多く保全審査に付されるとともに、第一国出願義務の対象となり、多くの特許出願人に影響が及ぶこととなる一方、特定技術分野を詳細に細分化した上で示せば安全保障上の問題が生じ得るため、そのバランスに留意しながら個々の技術分野ごとに検討する必要がある。

(3)「国際特許分類又はこれに準じて細分化したもの」について

 国際特許分類は、安全保障上機微な発明の選別を意図して作られたものではないため、本制度における保全審査の対象となる発明の絞り込みという観点から、必要があれば国際特許分類に準じて細分化して定めることとする。この細分化は、国際特許分類と同様に、具体的で明確なものでなければならず、かつ、明細書等の記載から判断が可能で、特許出願人にとっても該当するか否かを判別できる形で政令において定める必要がある。

(4)特定技術分野の見直し

 先端技術は日進月歩で変わるものであることに鑑み、内閣総理大臣は、関係行政機関とも連携し、状況変化に応じて機動的に特定技術分野の見直しを行う。

第2節 付加要件に関する考え方

 法第66条第1項本文は、内閣総理大臣への送付事由、つまり保全審査に付する事由として、特定技術分野に属する発明という要件に加え、「その発明が特定技術分野のうち保全指定をした場合に産業の発達に及ぼす影響が大きいと認められる技術の分野として政令で定めるものに属する場合にあっては、政令で定める要件に該当するものに限る」という形で、一部の特定技術分野にのみ適用される付加的な要件を規定している。以下、ここでいう「政令で定める要件」を「付加要件」と呼ぶこととする。

 前章第1節で述べたとおり、安全保障上極めて機微な発明について保全指定をし、情報流出の防止に万全を期することは、安全保障を確保する上で重要なことであるが、その一方で、保全指定という措置は、経済活動やイノベーションへの影響を伴うものである。典型例としては、前章第2節(2)で述べたとおり、今後民生分野の産業や市場に幅広く展開され、発展していくような発明を保全指定の対象とすることの弊害が挙げられる。したがって、そのような発明は、仮に保全審査に付されたとしても、産業の発達に及ぼす影響との総合考慮の中で保全指定の対象から除かれることとなるが、そもそも一律に産業に与える弊害が著しく、最終的に保全指定をする余地のない発明のみが含まれる技術分野であれば、初めから特定技術分野として選定するべきではない。

 他方で、宇宙・サイバー等の領域における技術など、民生分野の産業や市場に展開される可能性を含んだ技術の分野であっても、例えば、当初から防衛・軍事の用に供する目的で開発された場合や、国の委託事業において開発された場合など、発明の経緯や研究開発の主体といった技術分野以外の角度からの絞りをかければ、軍事・防衛に特化した技術領域に近づき、あるいは民間の経済活動の制約という要素が一定程度軽減されること等により、保全指定をすべき発明が含まれ得る領域を限定的に抽出できるものもあると考えられる。そこで、技術分野以外の角度からもう一つの絞り込みを付加することにより、その条件を満たす場合に限って適用される特定技術分野を定める途を開くのが、付加要件である。

 すなわち、特定技術分野は、付加要件がないものと、付加要件があるものの2種類に分かれる。

 したがって、付加要件を定めるに当たっては、その条件を加味すれば、安全保障上の機微性が高まり、あるいは産業の発達に及ぼす影響が低下し得るなど、両要素のバランスが変化することで、本来であれば特定技術分野として掲げるのに必ずしも適さない技術分野が、その条件の下であれば特定技術分野として掲げられるようになると言い得る条件を見出して、これを定めることとなる。

 また、付加要件は、一定の特定技術分野に該当する発明について、それが保全審査に付されるか否かのみならず、第一国出願義務の対象となるか否かをも画するものであるから、特許庁にとっても、特許出願人にとっても、該当するか否かを明確に判断できる形で政令を定める必要がある。

第3節 有識者等からの意見聴取

 特定技術分野及び付加要件を政令で定めるに当たっては、行政手続法で求められている意見公募手続を行い、広く関係者の意見・情報を公募するとともに、有識者の意見を適切に参照する。

第3章 保全指定に関する手続に関する事項

第1節 保全審査

(略)

第2節 保全指定の期間の延長と解除

(略)

第4章 その他特許出願の非公開に関し必要な事項

第1節 保全対象発明の実施の制限

(略)

第2節 保全対象発明の開示禁止

(略)

第3節 保全対象発明の適正管理措置

(略)

第4節 発明共有事業者の変更

(略)

第5節 外国出願の禁止

 法第78条第1項は、日本国内でした発明であって公になっていないものが、法第66条第1項本文に規定する発明、すなわち、日本で出願すれば保全審査の対象となる発明である場合について、第一国出願義務を定めており、そのような発明については、外国で特許出願をするより前に、まず日本で特許出願をしなければならない。

 「日本国内でした発明」とは、特許出願人の本店所在地等がどこであるかにかかわらず、発明地が日本国内であることを意味し、複数国にまたがって研究・開発が行われた場合には、発明の完成地が発明地となる。

 「外国出願」とは、外国における特許出願及び特許協力条約(PCT=Patent Cooperation Treaty)に基づく国際出願をいい、政令で定めるものを除くものとされている。「政令で定めるもの」として、例えば、特定の外国政府との間で非公開の特許出願を相互に受け入れ合うことや、特定の条件下でなされた発明について、発明の秘密に関する自国の法律を適用してはならないこととする国際約束が締結されている場合における当該約束に従った当該国への外国出願などが考えられる。

 日本で出願せずに初めから外国で出願しようとする者は、出願書類に記載する発明がこの第一国出願義務の対象となる発明か否か自ら判断する必要があるが、法第79条第1項において、事前に特許庁長官にその確認を求めることができる仕組みが設けられている。さらに、この事前確認制度には、たとえ保全審査の対象となる発明であっても、内閣総理大臣が「国家及び国民の安全に影響を及ぼすものでないことが明らかである」と認めた場合には、禁止の例外として外国出願を許容する仕組みも設けられている。特許庁長官及び内閣総理大臣においては、制度の趣旨を踏まえ、迅速に回答するよう努める必要がある。

第6節 損失の補償

 法第80条第1項は、損失補償の相手を「保全対象発明(保全指定が解除され、又は保全指定の期間が満了したものを含む。)について、法第73条第1項ただし書の規定による許可を受けられなかったこと又は同条第4項の規定によりその許可に条件を付されたことその他保全指定を受けたことにより損失を受けた者」と規定していることから、同項の損失補償を受けられるのは、指定特許出願人又は指定特許出願人であった者である。

 また、補償の範囲については、「通常生ずべき損失を補償する」と規定されており、これは一般的に、相当因果関係がある損失を意味するものである。補償を受けるには、実際に「損失を受けた」ことが必要である。

 補償の対象となり得る損失としては、例えば、実施が不許可とされて保全対象発明を実施できなかったことにより回収できなかった開発・設備投資費用や通常得られるはずであったのに得られなかった利益等が想定される。損失の算定は、発明の内容や不許可とされた発明の実施の態様等によって様々であるが、請求人の予見性を高めるため、補償の対象となり得る損失例について、担当部局において別途Q&A等の形で示すこととする。

 損失補償を受けようとする者は、補償請求の理由や補償請求額の総額及びその内訳、算出根拠等を示し、その損失について補償を受けることの相当性を示す必要がある。例えば、実施の許可の申請時の事業計画等を基に補償を請求することが想定される。このとき、十分な根拠が示されていない損失については、補償の対象とならないこととなる。

 補償の請求を受けた内閣総理大臣が補償金額を算出する際には、その請求について、請求人から説明を受けるなど、十分に意思疎通を図ることが必要である。その上で、専門家の意見も聞きながら、客観性を持って妥当な金額を算出する必要がある。その際、内閣総理大臣は、請求人が過度な不利益を被ることのないよう十分配慮することが必要である。

第7節 政府内における情報の適正管理

(略)

第8節 本制度の周知・広報及び情報提供

 本制度の趣旨や内容、具体的な手続等については、担当部局において、Q&A等の策定を含め、特許出願に携わる関係者に対する十分な周知・広報及び情報提供に努めることとする。

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