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2023年1月 9日 (月)

第470回:文化庁・著作権分科会・法制度小委員会報告書案パブコメ募集(1月18日〆切)

 概要としては前回書いた通りだが、著作権法改正に絡むものとして、1月18日〆切でパブコメに掛かっている(文化庁HPの意見募集ページ、電子政府HPの意見募集ページ参照)、文化庁の文化審議会・著作権分科会・法制度小委員会の報告書案について、ここでもう少し詳しく書いておきたいと思う。

 この報告書案(pdf)の概要としては、前回作った抜粋を以下に再掲するが、これをさらに要約すると、(1)法改正により拡大集中ライセンス制度に類似した新制度を導入する、(2)法改正により立法、行政又は司法目的の権利制限を拡大し必要な資料の公衆送信や公の伝達を可能とする、(3)法改正により損害賠償の算定方法に関する条項を特許法等と同様のものとする、(4)研究目的の権利制限については法改正せず導入しない、となるだろう。

  • 簡素で一元的な権利処理方策と対価還元について(法制小委報告書案第3~16ページ):「著作物等の利用の可否や条件に関する著作権者等の『意思』が確認できない(『意思の表示』がされていない)著作物等について、一定の手続を経て、使用料相当額を支払うことにより、著作権者等からの申出があるまでの間の当該著作物等の時限的な利用を認める新しい制度・・・を創設する」、「文化庁長官による指定等の関与を受けた窓口組織が受付や要件の確認、利用料の算出等の手続を担う」、「時限的な利用の最終的な決定やその取消しは文化庁長官の行政処分による」
  • 立法・行政・司法のデジタル化に対応した著作物等の公衆送信等について(同第17~18ページ):「立法又は行政目的のために内部資料として必要となる著作物等の公衆送信や公の伝達を可能とすることが必要」、「特許審査等の行政手続及び行政庁の行う審判その他裁判に準ずる手続に必要となる著作物等の公衆送信や公の伝達を可能とする必要がある」、「民事訴訟以外の民事・家事事件手続等についても原則として電子化・オンライン化されることに伴い、適正な裁判の実施や裁判を受ける権利の保障の観点から、当該民事・家事事件手続等に必要となる著作物等の公衆送信や公の伝達を可能とする必要がある」
  • 損害賠償額の算定方法の見直しについて(同第19~26ページ):「侵害者の譲渡等数量のうち、著作権者等の販売等の能力を超える、又は著作権者等が販売することができないとする事情があるとして賠償が否定される部分について、侵害者にライセンスしたとみなして、ライセンス料相当額の損害賠償を請求できることとする」、「ライセンス料相当額による損害賠償額の算定に当たり、著作権侵害があったことを前提として交渉した場合に決まるであろう額を考慮できる旨を明記する」
  • 研究目的に係る権利制限規定の検討について(同第27~28ページ):「引き続き著作権法第32条、第38条等をはじめとする著作権制度の普及啓発の実施、令和3年改正による図書館関係の権利制限規定の見直し等の運用状況をフォローするとともに、現在検討を進めている簡素で一元的な権利処理方策と対価還元に係る新しい権利処理方策による対応を行い、これによる課題解消の可能性や、さらにそれらによっても解決されない支障や新たなニーズがある場合に、必要に応じて検討を行うこととする」

 まず、(1)拡大集中ライセンス制度に類似した新制度の導入については、第3~16ページの「Ⅱ.簡素で一元的な権利処理方策と対価還元について」で書かれているが、一昨年の中間まとめ(pdf)の後も検討が続けられて来たものであり、第5ページから、上で抜き出した事が書かれている制度化の骨子に続いて、具体的な新制度の制度設計イメージとして以下の様な事が書かれている。

(ア)新制度の要件

○次の(Ⅰ)、(Ⅱ)を新制度による著作物の利用を可能とする要件とする。

(Ⅰ)以下に掲げる要件を全て満たすこと。

(ⅰ)公表された著作物又は相当期間にわたり公衆に提供され、若しくは提示されている事実が明らかである著作物であること。(新制度の創設前に創作され、公表された著作物についても新制度の対象とする。)

(ⅱ)以下の判断プロセスによって著作権者等の著作物の利用の可否や条件等に係る「意思」が確認できないこと。
①集中管理されている著作物→新制度の対象外
↓(集中管理されていない)
②利用の可否や条件等が明示されている著作物
(オプトアウトが示されている著作物を含む)→新制度の対象外
↓(明示されていない)
③-1著作権者等に係る情報がない・連絡不能→新制度の対象
③-2著作権者等に係る情報がある場合は連絡を試みて利用の可否や条件を確認
※②の段階で利用の可否等の明示がある場合は個別の連絡をするまでもなく対象外
↓(連絡後)
④-1返答(交渉の意向等を含む)がある→新制度の対象外
④-2一定期間返答がない→新制度の対象

※①~④について、効果が時限的であり申出により利用を止められることを踏まえ、著作物等、公式ウェブサイト、データベース、検索エンジン等を活用したより短期間となる手続とする。
※②について、新制度の対象となる著作物となるか、ならないかの判断にあたって、アウトオブコマースについては、過去に公表された時点で示されている「複製禁止・転載禁止」の記載のみをもって判断すべきではないとの意見があった。過去の時点での利用の可否が示されているものの、現在市場に流通していないなどにより現在の意思が確認できない場合の扱いについては、実態等を踏まえて引き続き今後の検討課題とする。なお、裁定制度の活用を踏まえ、その手続を迅速化・簡素化することによる利用円滑化を図ることとする。

(ⅲ)著作権者等の利益を不当に害したり、著作者の意向に反するといったことが明らかであると認められるときに該当しないこと。
※翻案利用も対象とするが、人格的利益についても一定の配慮がなされるようにする。

(Ⅱ)使用料相当額に当たる利用料を支払うこと。

○なお、(Ⅰ)、(Ⅱ)の手続については、窓口組織による簡素な手続を想定。

(イ)新制度における法的効果

○利用期間の上限内、かつ、著作権者等からの申出があるまでの間の時限的な利用(申出後の一定期間の利用を含む。翻案利用を含む。)を可能とする。

○著作権者等からの申出の機会を確保するため、時限的な利用が決定したときは、その旨、広く公表することとする。

【新制度の流れ】

○利用者が、その利用したい著作物について、利用の可否等の著作権者の「意思」を探索し、上述の(ア)(Ⅰ)の要件に該当することを疎明する資料を窓口組織に提出する。窓口組織においては、その確認や助言が行われる。

○窓口組織において要件の確認、利用料の算出を行い、文化庁長官に資料を送付のうえ、文化庁長官による時限的利用の決定が行われる。この決定に基づく著作物の利用について広く公表を行う。

○利用者は、決定通知と併せて示された利用料を支払うことで、時限的な利用を開始できる。

○著作権者の申出に基づき、窓口組織が本人確認等を行い、利用料の一部が著作権者に支払われる。著作権者はその後、利用者とのライセンス交渉等を経て利用許諾を行うことができる。

○時限的でない利用を望む利用者は、裁定制度に申請し、裁定制度による利用に切り替えることとする。

【図:新制度イメージ】
New_license

(ウ)窓口組織による新制度の事務の実施

○手続の迅速化・簡素化を図りつつ、より適正な手続とするため、文化庁長官による指定等の一定の関与を受けた窓口組織が、新制度の事務を担う。また、裁定制度に係る手続についても、利用者・権利者双方の負担軽減の観点から窓口組織の活用を図る。

・・・

○窓口組織の運営や必要な体制整備等については、著作権に関して知見があり、公益性のある団体などを念頭に体制整備を行う。また、利用者からの手数料収入を充てることに加え、公的な支援や授業目的公衆送信補償金制度の共通目的事業等の活用を検討する。

 管理団体の法定独占が存在せず、著作物の管理がかなりばらばらである日本の現状を考えると、特定の団体に第3者の権利までライセンスさせるいわゆる拡大集中ライセンス制度の導入が難しいだろう事は想定されていたので、これもぎりぎりの妥協の産物という事になるだろう。それにしても、この報告書案に書かれている日本の新制度は、窓口組織により運用されるが、対象となるのは著作権者に関する情報がないが連絡がつかない場合に限られ、文化庁による決定を前提とし、認められるのも事後的に著作権者からの申し出により停止できる時限的利用と、かなりトリッキーかつ限定的なものになっている。

 上で書かれている事と同じだが、第15ページにも書かれている裁定制度との違いの要点を箇条書きにしてまとめると以下の様になる。

○裁定制度(現著作権法第67条以下)
・対象:著作権者不明等の場合(「著作権者の不明その他の理由により相当な努力を払つてもその著作権者と連絡することができない場合として政令で定める場合」)
・効果:時限的でない利用も可

○新制度
・対象:著作物の利用の可否に係る著作権者等の意思が明らかでない(確認できない)場合
・効果:著作権者等からの申出により利用が停止できる時限的な利用のみ

 要するに、裁定制度と対象と効果で違いのある新制度をどうにかひねり出した格好であり、時限的な利用のみしか認められないとは言え、この新制度は著作権の利用許諾の容易化・簡素化を多少なりとも図ろうとするものとは言えるだろう。ただし、それも制度の運用次第である事が注意されなくてはならないだろうし、DX時代への対応というなら、少なくとも相談・申請から利用許可までの全手続きがネットだけで完結する様にしなければ、結局制度の利用が進まないという事になりかねない。

 また、新制度の申請者から手数料を取るなとまでは言えないだろうが、公的な支援や授業目的公衆送信補償金制度の共通目的事業等の活用によりなるべく低廉化を図った方が良いのは無論の事である。

 そして、第15~16ページに書かれている様に、裁定制度の事務の一部を窓口組織に委ね、著作物の利用許諾に関する相談や手続きの窓口を一元化する事も重要である。将来的には、利用許諾に関する公的制度が全てネットだけで完結する様に裁定制度も合理化して両制度の統合を検討して行くべきだろう。

 次に、(2)立法、行政又は司法目的の権利制限の拡大については、第17~18ページの「Ⅲ.立法・行政・司法のデジタル化に対応した著作物等の公衆送信等について」に書かれている。

 この部分で書かれている事は、上の概要でも抜き出した通りだが、現在「複製」しか対象になっていない著作権法第42条の立法・行政・司法における利用のための権利制限(ただし、報告書案にも書かれている通り、また、第454回で取り上げた通り、去年の民訴法等改正により、民事訴訟手続きについて公衆送信のための第42条の2が公布の日から4年以内に施行される予定となっている)について、公衆送信等への拡大を行うとするものであり、遅きに失した感すらあるが、立法・行政・司法のデジタル化の進展を考えれば当然の改正である。

 条文作成のテクニカルな問題となるが、民事訴訟以外の民事・家事事件手続等における電子化・オンライン化への対応はともかく(これは民訴法等改正検討の際に漏れていたという方が正確ではないかと思うが)、他の立法・行政目的、特許審査等や各種審判手続等のための公衆送信等の可能化はそれに引き擦られない様になるべく早く施行するべきだろう。また、将来的に刑事訴訟の電子化も進むだろう事を考え、この機会に裁判手続き一般で必要な場合の公衆送信等を認める様にしておいた方が良いのではないだろうか。

 (3)損害賠償の算定方法の見直しの点が一番マニアックな点だと思うが、第19~26ページの「Ⅳ.損害賠償額の算定方法の見直しについて」で書かれているのは、結論としては、第23ページに以下の通り書かれている様に、現行の著作権法第114条第1項を特許法等に合わせるものである。

○以上を踏まえると、特許法の令和元年改正による見直しは、著作権法においても当てはまるものであり、その見直しの意義・効果もあると考えられることから、著作権法においても、以下のとおり、同様の見直しを行うこととする。

(i)侵害者の譲渡等数量のうち、著作権者等の販売等の能力を超える、又は著作権者等が販売することができないとする事情があるとして賠償が否定される部分について、侵害者にライセンスしたとみなして、ライセンス料相当額の損害賠償を請求できることとする。

(ii)ライセンス料相当額による損害賠償額の算定に当たり、著作権侵害があったことを前提として交渉した場合に決まるであろう額を考慮できる旨を明記する。

 特許法の改正などを踏まえると、これも自然な法改正であって、アメリカにおける法定賠償制度の様に箆棒な損害賠償の算定が可能となるというものではなく、特に問題があるという事はないだろう。

 また、第26ページに、創作活動が委縮しない配慮について以下の様に書かれているが、この様に、損害賠償についてはあくまで既存の填補賠償の枠内で権利者の実効的な救済を図るに留めるべきであり、その限度を超える莫大な損害賠償によって創作活動を委縮させる事がないよう留意する事は常に重要である。

 最後に、私がこの報告書案で最もいまいちだと思う点が、(4)研究目的の権利制限を設けないとした点である。この様な権利制限をなるべく入れたくない文化庁の気持ちが表れているのだろう、第27~28ページの「Ⅴ.研究目的に係る権利制限規定の検討について」は非常に内容の薄いものになっている。

 この中で、著作権法第32条(引用)や第38条(営利を目的としない上演等)などの周知、許諾手続きの問題、今後創設されるだろう上の拡大集中ライセンス類似の新制度に寄せ、この新制度によっても解決されない支障や新たなニーズがある場合に必要に応じて検討を行うこととするとしたのは、新しい権利制限をなるべく入れまいとする文化庁の作文であって全く頂けないものである。

 確かに、研究目的という事では、現行の著作権法の第30条の4(著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない利用)、第32条(引用)、第38条(営利を目的としない上演等)、第47条の5(電子計算機による情報処理及びその結果の提供に付随する軽微利用等)などで拾える部分もかなりあるだろうが、この問題はこれらの既存の権利制限の周知により解決されるものではないし、拡大集中ライセンス制度に類似した制度の導入により解決されるものでもない。

 新たな知見を創造する事で文化の発展に寄与するものである研究のためであるにも関わらず、そもそも既存の権利制限に含まれない形の利用もあり得る事、そのために申請等の手続きが必要な事自体が問題なのであって、本来、この様な文化の発展に寄与する事が明らかな目的に対しては、著作権者の利益を不当に害する場合を除き、申請の様な手続きを必要とせずに利用が認められて然るべきなのである。

 その事は、3年に渡る研究目的の著作物の利用に関する調査研究の2019年度報告書2020年度報告書2021年度報告書から文化庁のいつものためにする誘導を除き虚心坦懐に事実を見れば明らかだろうと思う。アメリカ並の一般フェアユース条項を入れるべきとの考えにも変わりはないが、こまで一足飛びに行かなくとも、欧州各国の様な非営利の研究目的に対する権利制限はすぐにも入れた方が良いものと私は考えている。

 今回の報告書案は、全体としては、利用許諾の容易化のために新制度を導入するとともに、立法、行政又は司法目的の権利制限を拡充するといった内容のであり、その限りにおいて特に大きな問題はないが、ここで書いた事を整理して私は意見を出すつもりである。なお、パブコメの対象ではない事は分かっているが、余りにも大きな問題を含むブルーレイ私的録音録画補償金問題について、今回のパブコメでも合わせて繰り返し意見を書いておきたいとも思っている。

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