第469回:2022年の終わりに(各知財法改正関係報告書案パブコメ)
国会も役所も休みに入り、今年のイベントも一通り終わったと思うので、ここで各省庁の知財政策に関する検討状況をまとめておきたいと思う。
(1)文化庁の各小委員会と報告書案パブコメ
まず、文化庁の文化審議会・著作権分科会は、この12月にも持ち回り開催で、図書館等公衆送信補償金政令案に関する答申がされている。
著作権分科会の下の各小委員会について、ブルーレイへの私的録音録画補償金の対象拡大パブコメの結果概要が報告された(第467回参照)、対価還元策などを検討している基本政策小委員会では12月21日に分野横断権利情報データベースに関する研究会報告書(pdf)の報告がされたり、国際的な著作権保護に関する検討をしている国際小委員会では11月21日に文化庁の海外における著作権保護の推進(pdf)の報告などがされているが、これらの小委員会の報告書案はまだ出ていない。
中でも今年最も数多く開催されていた小委員会は、法制度小委員会で、12月26日に報告書案(pdf)(概要(pdf))が示され、1月18日〆切でパブコメに掛かっている(文化庁HPの意見募集ページ、電子政府HPの意見募集ページ1参照)。
この法制度小委員会の報告書案については次回年明けに内容についてもう少し細かく取り上げたいと思っているが、その4つのポイントについて結論だけの抜粋を作ると以下の様になる。
- 簡素で一元的な権利処理方策と対価還元について(法制小委報告書案第3~16ページ):「著作物等の利用の可否や条件に関する著作権者等の『意思』が確認できない(『意思の表示』がされていない)著作物等について、一定の手続を経て、使用料相当額を支払うことにより、著作権者等からの申出があるまでの間の当該著作物等の時限的な利用を認める新しい制度・・・を創設する」、「文化庁長官による指定等の関与を受けた窓口組織が受付や要件の確認、利用料の算出等の手続を担う」、「時限的な利用の最終的な決定やその取消しは文化庁長官の行政処分による」
- 立法・行政・司法のデジタル化に対応した著作物等の公衆送信等について(同第17~18ページ):「立法又は行政目的のために内部資料として必要となる著作物等の公衆送信や公の伝達を可能とすることが必要」、「特許審査等の行政手続及び行政庁の行う審判その他裁判に準ずる手続に必要となる著作物等の公衆送信や公の伝達を可能とする必要がある」、「民事訴訟以外の民事・家事事件手続等についても原則として電子化・オンライン化されることに伴い、適正な裁判の実施や裁判を受ける権利の保障の観点から、当該民事・家事事件手続等に必要となる著作物等の公衆送信や公の伝達を可能とする必要がある」
- 損害賠償額の算定方法の見直しについて(同第19~26ページ):「侵害者の譲渡等数量のうち、著作権者等の販売等の能力を超える、又は著作権者等が販売することができないとする事情があるとして賠償が否定される部分について、侵害者にライセンスしたとみなして、ライセンス料相当額の損害賠償を請求できることとする」、「ライセンス料相当額による損害賠償額の算定に当たり、著作権侵害があったことを前提として交渉した場合に決まるであろう額を考慮できる旨を明記する」
- 研究目的に係る権利制限規定の検討について(同第27~28ページ):「引き続き著作権法第32条、第38条等をはじめとする著作権制度の普及啓発の実施、令和3年改正による図書館関係の権利制限規定の見直し等の運用状況をフォローするとともに、現在検討を進めている簡素で一元的な権利処理方策と対価還元に係る新しい権利処理方策による対応を行い、これによる課題解消の可能性や、さらにそれらによっても解決されない支障や新たなニーズがある場合に、必要に応じて検討を行うこととする」
(2)特許庁の各小委員会と報告書案パブコメ
次に、特許庁で、産業構造審議会・知的財産分科会の下、各小委員会が開催されている。
特許制度小委員会では、12月19日までの検討で示された報告書案の知財活用促進に向けた特許制度の在り方(案)(pdf)が1月20日〆切でパブコメに掛かっている(特許庁HPの意見募集ページ1、電子政府HPの意見募集ページ2参照)。
商標制度小委員会では、12月23日までの検討で示された報告書案の商標を活用したブランド戦略展開に向けた商標制度の見直しについて(案)(pdf)が1月24日〆切でパブコメに掛かっている(特許庁の意見募集ページ2、電子政府HPの意見募集ページ3参照)。
意匠制度小委員会では、12月7日までの検討で示された報告書案の新規性喪失の例外適用手続に関する意匠制度の見直しについて(案)(pdf)が1月12日〆切でパブコメに掛かっている(特許庁の意見募集ページ3、電子政府HPの意見募集ページ4参照)。
ほぼ制度ユーザにしか関係しないので細かな説明は省略するが、特許庁からパブコメに掛かっている各報告書案に含まれている法改正事項の概要を抜粋として作ると以下の様になる。
- 送達制度の見直し(特許小委報告書案第10~15ページ):「出願人等が出願ソフトを立ち上げた時に、特許庁の受付サーバに発送書類が格納された旨の通知が送付される」という「案1を基本として検討を進めることが適当」、「送達の効力発生までの期間については『10日間』とする」、「公示送達の方法についても、デジタル化を促進する観点から、特許公報への掲載を廃止し、特許庁ホームページに掲載することにより実施する方向で検討を進めることが適当」、「戦争やコロナ禍の影響により現実に国際郵便の引受けが停止され、当該国に対して航空書留郵便等に付する発送ができない状況が長期間継続した場合には、公示送達を実施することができるよう、公示送達の要件を見直す方向で検討を進めることが適当」
- 書面手続デジタル化(同第16~19ページ):「書面手続デジタル化に向けた関係手続整備を進めることが適当」、「優先権証明書の写しの提出を許容するとともに、オンライン提出を可能とすることが適当」
- 裁定制度の閲覧制限導入(同第20~21ページ):「裁定関係書類のうち営業秘密が記載された書類は、閲覧等を制限可能とすることが適当」
- 意匠の新規性喪失の例外適用手続(意匠小委報告書案第5~9ページ):「法定期間(出願から30日)内に提出した最先の公開についての証明書に基づき、それ以後に意匠登録を受ける権利を有する者等の行為に起因して公開された同一又は類似の意匠についても新規性喪失の例外規定の適用を受けられる」という「②の案において、『証明書により証明した意匠の公開時以後に公開された意匠』の要件を『公開時以後』ではなく『公開日以後』とする方向性で意匠の新規性喪失の例外規定の適用手続を緩和することが適当」
- 他人の氏名を含む商標の登録要件緩和(商標小委報告書案第5~10ページ):「本規定の『他人の氏名』に一定の知名度の要件を設けること、また、無関係な者による悪意の出願等の濫用的な出願の防止のため、出願人側の事情(例えば、出願することに正当な理由があるか等)を考慮する要件を課すことが適当」
- コンセント制度の導入(同第11~17ページ):「先行登録商標の権利者の同意があってもなお出所混同のおそれがある場合には登録を認めない『留保型コンセント』の導入が適当」、「当事者間における混同防止表示の請求や不正使用取消審判請求の規定を設けることが適当」
- Madride Filingにより商標の国際登録出願をする際の本国官庁手数料(同第18~19ページ):「本国官庁手数料について、出願人がeFilingを利用して国際登録出願をしようとする場合に限り、他の手数料と一括でスイスフランにより国際事務局へ納付することを可能とするため、商標法について所要の手当をすることが適当」
(3)経産省の不正競争防止小委員会と報告書案パブコメ
経産省の不正競争防止小委員会では、第463回で取り上げた中間報告の後、外国公務員贈賄に関するワーキンググループによる検討と並行して、各論点の検討が続けられ、その報告書案としてデジタル化に伴うビジネスの多様化を踏まえた不正競争防止法の在り方(案)(pdf)と外国公務員贈賄罪に係る規律強化に関する報告書(案)(pdf)が、それぞれ1月19日と1月17日〆切でパブコメに掛かっている(電子政府HPの意見募集ページ5、6参照)。
これらの不正競争防止法改正に関する報告書案についてもここで簡単に書くに留めるが、同様にポイントの抜粋により概要を作ると以下の様になる。
- デジタル時代におけるデザインの保護(形態模倣商品の提供行為)(不競小委報告書案第7~10ページ):「不競法第2条第1項第3号に規定する形態模倣商品の提供行為にも『電気通信回線を通じて提供』する行為を追加することが適切」
- 限定提供データの規律の見直し(同第11~14ページ):「『秘密として管理されているものを除く」要件(不競法第2 条第 7 項)に関する課題については、『秘密として管理されているものを除く』要件を、『営業秘密を除く』と改める、又は『秘密として管理されているものを除く』要件を削除することが適切」
- 渉外事案に係る国際裁判管轄及び不正競争防止法の適用範囲に関する規定整備(同第15~17ページ):「国際裁判管轄に関する規定の整備については、渉外的な営業秘密侵害事案に関し、立法措置が可能であれば、日本の裁判所に管轄を認めるとする競合管轄規定を設ける方向で検討を進めることが適切」、「不競法の適用範囲については、国内における営業秘密侵害事案と同様に政策的保護が必要となる渉外的な営業秘密侵害事案に関し、法の適用に関する通則法による準拠法の選択にかかわらず直接に適用される(法の適用に関する通則法よりも優先する)規定を設けることにつき関係省庁とともに引き続き検討した上で、立法措置が可能であれば、当該立法措置の範囲が国際裁判管轄と併せて適切となるよう検討を行うことが適切」
- 損害賠償額算定規定の見直し(同第18~20ページ):「不競法第5条第1項については、営業秘密に関し『技術上の秘密』に限定されている対象情報を営業秘密全般に拡充し、さらに『物を譲渡』した場合のみを想定している要件をデータや役務を提供している場合にも拡充することが適切」、「特許法と同様、被侵害者の生産、販売及び役務提供能力を超える部分の損害の認定規定を追加することが適切」、「同条第3項については、『使用』以外の行為が含まれる点を明確化するために、不競法第2条第1項各号の不正競争行為が全て対象となるよう規定することが適切」、「特許法と同様、不正競争があったことを前提として交渉した場合に決まるであろう額を考慮できる旨の規定を追加することが適切」
- 使用等の推定規定の拡充(同第21~26ページ):「不競法第5条の2の対象情報については、対象情報を営業秘密全般へと拡充することが適切」、「対象類型について、正当取得類型(不競法第2条第1項第7号)への拡充については、刑事規律における『領得』行為(不競法第21条第1項第3号)が介在している場合に限り適用対象とする等、営業秘密保有者から営業秘密を示された者への一定の配慮措置を講じることが適切」、「取得時善意無重過失転得類型(不競法第2条第1項第6号及び第9号)への拡充については、不正開示行為等の介在について悪意重過失に転じている場合に限り適用対象とすることを前提とし、その上で、営業秘密が記録された記録媒体等を消去・廃棄せずに保持している場合に限定する等、一定の配慮措置を講じることが適切」、「被告が保持することとなる対象は、①『営業秘密記録媒体等』・『営業秘密が化体された物件』(不競法第21条第1項第3号イ参照)及び、②営業秘密がアップロードされているサーバー等のURLとすることが適切」、「不競法第5条の2の限定提供データへの拡充(限定提供データにも適用可能とすること及びその範囲)については、営業秘密同様、技術上及び営業上の情報を対象とし、不正取得類型(不競法第2条第1項第11号)、取得時悪意転得類型(同項第12号及び第15号)を対象とすることが適切」、「正当取得類型(同項第14号)については、営業秘密と同様に「領得」行為が介在している場合に限り適用対象とする等、一定の配慮措置を講じること、また、取得時善意転得類型(同項第13号及び第16号)については、使用行為が不正競争行為の対象となっていないことから、適用の対象外とすることが適切」
- 営業秘密及び限定提供データに関するライセンシーの保護制度の創設(同第27~29ページ):「特許法等と同様の制度措置を行うことへの潜在的なニーズは存在するものの、現時点では実際のトラブル事例が顕在化していないことから、実務の動向を注視し、取り得る措置について、関係省庁等と調整しつつ、引き続き検討を継続していく」
- 商標法のコンセント制度導入を受けた適用除外規定について(第30~32ページ):「商標法へのコンセント制度導入により後行商標が登録され、その後、先行商標又は後行商標が周知又は著名となった場合に、後行商標権者又は先行商標権者が不正の目的でなくその登録商標を商品等表示として使用等する行為を商品等表示に係る不正競争の適用除外とする規定を追加することが適切」、「不競法第19条第2項の規定を参考に、コンセント制度により後行商標が登録され、その後、先行商標又は後行商標が周知又は著名となった場合、自己の商品又は営業との混同を防ぐために適当な表示を付すべきことを請求することができる規定を追加することが適切」
- 外国公務員贈賄罪に係る規律強化(外国贈賄WG報告書案第4~25ページ):「自然人に対する罰金額の上限を1,000万円~3,000万円、懲役刑の長期を5年超~10年に引き上げる」、「法人に対する罰金額の上限を5億円~10億円に引き上げる」、「刑訴法250条の例外を設けることは適切でないが、仮に懲役刑の長期が10年に引き上げられるならば、その結果として公訴時効期間が7年に延長となり勧告に対応することが可能」、「日本法人の外国人従業員が国外で単独で贈賄を行った場合について、当該外国人従業員を処罰し得る規律を創設し、法人に対する適用管轄を拡大するために、『●条の罪は、日本国内に主たる事務所を有する法人の代表者、代理人、使用人その他の従業者であって、その法人の業務に関し、日本国外において罪を犯した日本国民以外の者にも適用する』などといった規定を創設する方向性が適切」
(4)総務省の各検討会とプラットフォームの誹謗中傷対応に関するパブコメ
総務省では、第463回で取り上げた2つの報告書案に関し、9月16日にインターネット上の海賊版サイトへのアクセス抑止方策に関する検討会の現状とりまとめ(pdf)(総務省HPのリリース1参照)、8月25日にプラットフォームサービスに関する研究会の第二次とりまとめ(pdf)(総務省HPのリリース2参照)がそれぞれ取りまとめられてパブコメ結果とともに公表されている。その後、プラットフォームサービスに関する研究会の下に設けられた誹謗中傷等の違法・有害情報への対策に関するワーキンググループの第1回が12月26日に開催され、プラットフォーム事業者による対応の在り方についての意見募集が1月26日〆切で行われている(電子政府HPの意見募集ページ7参照)。このパブコメはそのタイトルが示す通り誹謗中傷対策に関するものであり、今の所国内でそれほど危うい事が検討される気はしないが、表現の自由との関係でこの総務省の検討は今後も注視して行くべきものだろう。
(5)農水省、知財本部その他
農水省では、例年通り、重要な形質の指定に関し、農業資材審議会・種苗分科会が12月9日に開催されている。これも第463回で触れた事の続きとなるが、種苗法関連では、12月2日に、農水省の海外流出防止に向けた農産物の知的財産管理に関する検討会の我が国における育成者権管理機関のあり方について(pdf)がとりまとめられており、その中で育成者権管理機関の設立が提言されている。
また、これも細かな説明は省略するが、農水省の地理的表示法HPの地理的表示保護制度の運用見直し(pdf)に書かれている通り、施行規則(pdf)と審査要領(pdf)の改正により、11月1日施行で登録後の義務の簡素化や審査基準の柔軟化などが行われている。
知財本部では、メタバース上のコンテンツ等をめぐる新たな法的課題への対応に関する官民連携会議という有識者会議が新たに立ち上がっている。今ここでメタバースについて何か政策的に有意な議論ができるかどうか甚だ疑問だが、3つの分科会が作られ、それぞれ、第一分科会で、現実空間と仮想空間を交錯する知財利用、仮想オブジェクトのデザイン等に関する権利の取扱いについて、第二分科会で、アバターの肖像等に関する取扱いについて、第三分科会で、仮想オブジェクトやアバターに対する行為、アバター間の行為等をめぐるルールの形成、規制措置等の取扱いについて検討が行われる予定になっている。
最後に、経済安全保障法についても書いておくと、内閣官房で経済安全保障推進会議や、内閣府で経済安全保障法制に関する有識者会議が引き続き開催されているが、法律の成立後、新秘密特許(非公開)制度に関する運用の詳細についてこれらの会議で検討された様子はない。
これで今年も各省庁の報告書案がほぼ出揃い、来年の知財法改正のメニューが大体分かった事になる。想定される法改正の内容自体に特に大きな問題はないが、上でも書いた通り、文化庁の報告書案については回を分けてもう少し詳しい事を書くつもりである。
文化庁がまた暴走してブルーレイに私的録音録画補償金の対象を拡大する政令改正を強行するなど今年も碌でもない年だった。いつもの口上となるが、政官業に巣食う全ての利権屋に悪い年を、そして、このブログを読んで下さっている方々に心からの感謝を。
(2022年1月22日夜の追記:意見募集ページを見れば分かる事だが、総務省の意見募集は1月27日0時〆切で、27日と書くより26日〆切と書いておいた方が良いと思ったので上の日付を修正した。)
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