第467回:10月5日の文化庁・基本政策小委員会で出された、ブルーレイへの私的録音録画補償金拡大に関する意見募集の結果概要とそれに対する文化庁の考え方について
実質的にブルーレイへ私的録音録画補償金の対象を拡大しようとする政令案に関するパブコメの後(パブコメの内容については第465回、私の提出意見は第466回参照)、文化庁は、どこの審議会でも話をしないのはまずいと思ったのか、唐突に、文化審議会・著作権分科会・基本政策小委員会の10月5日に開かれた今年度第1回で著作権法施行令の一部を改正する政令案に係るパブリックコメントに対する提出意見の概要と文化庁の考え方(案)(pdf)を出して来た。
この文化庁の考え方は、やはり今までの経緯や議論を完全に無視し、権利者団体だけにおもねり、勝手かつ乱暴極まる法令・制度・判例解釈を垂れ流している箸にも棒にもかからないものであって、引用するのもバカバカしいが、その中から以下に幾つかピックアップしておく。
○意見の概要1:
ブルーレイディスクレコーダーが市場に出てから、前回の対象機器の追加から、平成23年の知的財産高等裁判所の判決が出てから、文化審議会著作権分科会で議論をしていた時から多く時間が経過しているにもかかわらず今回対応することに疑問。文化庁の考え方1:
私的録音録画補償金制度の在り方に関しては、長年当事者を含めた関係者による議論が継続してきたところです。
こうした中、知的財産推進計画2020において、新たな対価還元策が実現するまでの過渡的な措置として、私的録音録画の実態等に応じた具体的な対象機器等の特定について、可能な限り早期に必要な措置を講ずることとされました。
これに関して、令和2年に関係府省庁で共同し、私的目的の録音・録画に係る実態を把握するための調査を実施し、ブルーレイディスクレコーダーについて私的録画の蓋然性の高い実態が確認されました。
また、著作権の権利者団体においては、本年6月に私的録画に関する補償金の徴収分配を担う管理団体が設立するなど、運用面での準備が進められております。
こうした経緯から、今回の提案をしたところです。
なお、私的録音録画補償金制度の対象となる機器の選定に当たっては、当該機器が相当の蓋然性をもって私的録音・録画に供されるであろう販売形態や広告宣伝が行われているものであって、現に私的複製に用いられている実態を確認して判断する必要があります。○意見の概要29:
デジタルテレビ放送の録画については著作権保護技術が導入されており、補償は不要、著作権保護技術の導入コストと補償金の二重負担となるのではないか、今回の措置を行うのであれば著作権保護技術の解除など、複製をより広範に認めるべきではないか。文化庁の考え方29:
現在、テレビ放送の多くにはダビングの回数を10回までなどとする著作権保護技術が導入されています。これは法律で認められている個人的に又は家庭内等の私的な複製の範囲を超えたコピーを防止するという意義がある一方で、その回数の範囲内であれば自由にコピーを行うことができることに変わりありません。
私的録音録画補償金制度が、個々の利用行為としては零細な私的複製であっても、社会全体としてはデジタル技術により大量の高品質な録音物・録画物が作成・保存されることで損なわれるクリエイターへの不利益に対して経済的補償を行うものであるという趣旨に鑑みると、別途補償は必要であると考えられます。○意見の概要36:
デジタル放送専用録画機は当時の著作権法施行令の規定に照らして私的録音録画補償金の対象機器に該当しない旨判示した平成23年の知的財産高等裁判所の判決を踏まえて今回規定としようとする機器についても対象とすべきではない。文化庁の考え方36:
平成23年の知的財産高等裁判所の判決においては、当時の著作権法施行令の規定に照らしてデジタル放送専用録画機が私的録音録画補償金の対象機器に該当するか否か疑義があったことに対し、該当しない旨判示したものです。
今回の追加指定は、現行制度に定められた要件に基づき、私的録画の蓋然性の高い実態が確認されたブルーレイディスクレコーダーを対象機器とするものであり、当該判決の趣旨を踏まえ、疑義が生じないよう対象機器を明確に規定してまいります。
上でピックアップした部分だけを見ても分かるだろうが、この文化庁の考え方は、パブコメ募集時の概要紙の碌に根拠にもならない事をほぼその儘繰り返しているだけで、今までの経緯を踏まえて出されたであろう反対・慎重意見に対する回答に全くなっていない。これは、現時点でブルーレイ(BD)レコーダーとディスクを私的録音録画補償金の対象とする事について是とするに足る新しい事実と根拠が一切ない事を自白しているに等しい。
大体、提出意見の概要のまとめ方からして恣意的と言わざるを得ない。文化庁は、この様な恣意的なまとめと箸にも棒にもかからない回答ではなく、即刻提出された全意見の全文と、各意見に対するきちんとした回答を公表するべきである。この文化庁の考え方は、私の様な個人のみならず、ユーザー団体のMIAUの意見、消費者団体の主婦連の意見、メーカー団体のJEITAの意見(pdf)(JEITAの提出意見は公表された見解とほぼ同一だろうと思う)などに対する意見に対する回答としても極めて不十分かつ不適切なものであって、国民に対する愚弄としか私には見えない。
また、同じ日に出されたDX時代におけるクリエイターへの適切な対価還元方策に係る今後の検討に向けた論点例(案)(pdf)中の論点例に、
・私的録音録画補償金の対象機器の追加指定について、パブリックコメントにおける国民各層からのご意見を踏まえ、今回の指定に当たって留意すべきことは何か。加えて、「過渡的な措置」との記述を踏まえ、様々な課題が指摘される私的録音録画補償金制度の今後についてどのような方向で考えるか。
と書かれている所を見ると、基本政策小委員会で今後多少検討するつもりなのかも知れないが、この場で今まで私的録音録画補償金問題そのものについて議論された事はなく、著作物等の適切な保護と利用・流通に関する小委員会と比べても、基本政策小委員会の委員構成(pdf)は私的録音録画補償金問題に関する全関係者を含んでおらず、権利者団体よりであって、決して私的録音録画問題の検討の場として相応しいとは思えない。さらに、保護利用小委員会が最後に開催された2020年2月4日の審議の経過(pdf)に、
1.クリエーターへの適切な対価還元について
本課題については、知的財産推進計画2019において、今年度は「関係省庁で検討を進め、結論を得て、必要な措置を講じる」とされたことを受け、内閣府、文化庁、経済産業省及び総務省において、現状の認識、補償が必要な私的録音録画の範囲の考え方、コピーコントロール技術との関係に関して、具体的な事実関係等の整理を含め、対価還元の在り方について議論が行われており、意見の隔たりの大きい当事者間での検討を再開する前に、関係府省庁間による議論の整理を確認することが適切であることから、当該整理が整い次第、報告を受け、意見交換を行うこととなった。
と書かれているのだが、この保護利用小委員会への私的録音録画補償金問題に関する報告や意見交換はどうなったのだろうか。その後の著作権分科会の2020年2月10日第55回でもこの通り報告されているのであって、文化庁のやり方は審議会の進め方としても滅茶苦茶である。
それ以前の問題として、今回のパブコメでも、文化庁の考え方でも、基本政策小委員会の論点例でも、碌な根拠もない儘、多くの関係者の反対・慎重意見に聞く耳を持たず、とにかくBDへの補償金指定拡大の結論ありきでまとめようとしているのがありありと見て取れるが、文化庁のこの極めて偏頗かつ横暴な姿勢は、公平中立かつ透明であるべき行政として不当極まるものとしか言い様がない。
最近、非常にありがたい事に、日本維新の会の足立康史衆院議員が、9月30日の衆議院経済産業委員会の閉会中審査でタイムリーにこのBDへの私的録音録画補償金の対象拡大について問題提起して下さっている(衆議院インターネット中継又は足立議員のtwitter参照)。西村康稔経済産業大臣や中原裕彦文化庁審議官からは関係者の意見を踏まえ今後調整するというだけであまりはかばかしい答弁は得られなかったが、足立議員の国会での指摘は至極もっともであり、今の制度の矛盾をその儘にBDへ対象拡大をする事は、このインターネット時代にあって、将来に渡って日本国内の産業を歪め大きな禍根を残す事に繋がり得ると私も考える所である。与野党でより広い視野に立ってこの私的録音録画補償金問題が注目される事を私も期待している。
私の意見は提出パブコメで書いた通りだが(第466回参照)、一国民、一個人、一消費者、一利用者・ユーザーとして到底納得の行かない今の状況でのBDへの私的録音録画補償金の対象拡大に断固反対する。
(2022年10月22日夜の追記:twitterで書いた事をここでも書いておくが、10月21日にブルーレイを私的録音録画補償金の対象とする著作権法施行令の改正について閣議決定がされたという報道があった(日経の記事、AV Watchの記事参照)。文化庁はまたパブコメの内容もロクに見ずに結論ありきで著作権法施行令の閣議決定を強行するという行政としてやってはならないことをやった。これは有害無益な争いと大きな禍根を発生させる暴走であり、この政策判断は狂っているとしか私には思えない。 同日に文化庁はパブコメの結果も公表しているが(文化庁のHP、電子政府のHP参照)、上で取り上げた極めて恣意的にまとめた意見概要と回答になっていない回答を出しているだけである。大体2406件のパブコメが集まるというだけでも方針の見直しを図るのに十分だろうが、どこをどうやったらこれだけの件数のパブコメを56点だけの薄っぺらな概要にまとめて閣議決定を強行できるのか、この様なやり方を見るにつけ文化庁の良識はおろか正気も疑わしい。繰り返しになるが、この著作権法施行令改正について今に至るも妥当な根拠は何一つ見出せず、このような不当な政令改正は到底納得できるものではない。)
(2022年11月6日夜の追記:これもtwitterで触れた事だが、AV Watchの記事になっている通り、私的録音録画補償金管理協会が補償額・徴収方法は現在未定とする声明を出している。しかし、未定の儘終わる訳がなく、じきに文化庁と著作権団体側は徴収に向けて次の動きを仕掛けて来るだろう。)
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