第465回:文化庁による実質的にブルーレイを私的録音録画補償金の対象に追加しようとする政令改正案に関するパブコメの開始(9月21日〆切)
実質的にブルーレイディスクレコーダーとブルーレイディスクを私的録音録画補償金の対象に追加しようとする政令改正案について、9月21日〆切でパブコメにかかった。(文化庁HPの意見募集ページ、電子政府HPの意見募集ページ参照。)
このパブコメについては、AV Watch(メーカー団体であるJEITAの反対意見について書いた記事も参照)やBusiness Insideなどで書かれているので、そちらをご覧いただいても十分かと思うが、この極めて唐突かつ乱暴なパブコメについては幾ら書いても書き過ぎという事はないので、ここでも取り上げる事にする。
電子政府HPの意見募集ページに掲載されている政令案の概要(pdf)は以下の様なものである。
著作権法施行令の一部を改正する政令案の概要
1.趣旨
著作権法(昭和45年法律第48号)においては、権利者の許諾なく行われる私的使用目的のデジタル方式の録音・録画について、録音・録画を行う者が補償金を支払わなければならないこととする私的録音録画補償金制度が設けられており、同制度の対象となる具体的な機器及び記録媒体については政令で定めることとされている。
同制度については、知的財産推進計画2022(2022年6月3日知的財産戦略本部)において、「私的録音録画補償金制度については、新たな対価還元策が実現されるまでの過渡的な措置として、私的録音録画の実態等に応じた具体的な対象機器等の特定について、関係省庁による検討の結論を踏まえ、可能な限り早期に必要な措置を構ずる。」とされており、 これに関しては、関係府省庁で共同し、私的目的の録音・録画に係る実態を把握するため調査を実施した。(参考:私的録音録画に関する実態調査の結果概要)
こうしたことを踏まえ、私的録音録画補償金制度の新たな対象機器として、ブルーレイディスクレコーダーを規定することとする。2.改正の概要
(1)新たな対象機器の追加
現行の著作権法施行令(昭和45年政令第335号。以下「政令」という。)第1条第2項においては、著作権法第30条第3項の規定の委任に基づき、制度の対象となる録画機器を各号で規定している。
これについて、現在、アナログ信号をデジタル信号に変換して影像を記録する機能を有するブルーレイディスクレコーダーは既に規定されているが、こうした機能の有無にかかわらず、ブルーレイディスクレコーダーが制度の対象機器となるように新たに規定することとする。
なお、これに伴い、政令第1条の2第2項に基づき、新たな対象機器による録画に用いられるブルーレイディスクも制度の対象となる。(2)経過措置
改正後の政令の規定は、施行後に購入したブルーレイディスクレコーダー及びブルーレイディスクについて適用することとする。
3.施行期日(予定)
公布日から起算して30日を経過した日
参考:私的録音録画に関する実態調査の結果概要
令和2年に関係府省庁(内閣府知的財産推進事務局、総務省、文部科学省、経済産業省)で共同し、私的録音録画の実態調査を委託事業として実施した(※)。その結果によると、調査対象とした機器のうち、ブルーレイディスク(BD)レコーダー(HDD内蔵型)は、過去1年間で保存した記録容量のうちテレビ番組データ(=契約により権利者に対価が還元されていない動画)の占める割合の平均値が52.2%で半分を超える水準であった。また、当該機器については、日常的によく使用する用途として「録画」を選んだ者の割合が約7割、過去1年間に録画をしたことがある者の割合が約9割であった。
※ 私的録音録画に関する実態調査報告書(令和2年11月みずほ情報総研株式会社)
https://www.bunka.go.jp/tokei_hakusho_shuppan/tokeichosa/chosakuken/pdf/92955401_01.pdf
この政令案改正概要を見て、文化庁が今までの議論や裁判などを一切無視し、極めて唐突かつ乱暴に政令改正案をパブコメにかけて来た事に私も唖然とした。
上でリンクを張った他の記事でも書かれており、このブログでもずっと取り上げて来ているが、ここで、今までの日本における私的録音録画補償金問題の経緯をざっと年表にまとめておくと、以下の様になる。(なお、制度の経緯については、私的録音録画補償金制度のWikiや今回の政令案に対するJEITAの見解書(pdf)とその概要(pdf)も参照。)
1992年 デジタル私的録音録画について補償金制度を導入する著作権法改正成立(当時の議論は著作権情報センターHPの著作権審議会・第10小委員会(私的録音・録画関係)報告書参照。)
1993年 私的録音補償金協会(SARAH)設立、私的録音補償金の開始(対象指定は政令によるが、当初の対象はMDなど当時のデジタル録音媒体のみ。なお、CD-R(RW)は1998年に政令改正により対象に追加。)
1999年 私的録画補償金協会(SARVH)設立、私的録音補償金の開始(なお、1999年から対象となっていたのはDVHSなどで、DVD-R(RW)は2000年に追加。)
2002年~2005年 私的録音録画補償金制度の見直しについて、文化庁・文化審議会・著作権分科会・法制問題小委員会で議論(当時の議論については、2003年1月16日の第7回著作権分科会で報告された2002年12月の法制問題小委員会の審議経過の概要や2005年12月1日の第10回法制問題小委員会の報告書案参照。)
2006年~2008年 私的録音録画補償金制度の見直しについて、文化庁・文化審議会・著作権分科会・私的録音録画小委員会で議論(当時の議論については、私的録音録画小委員会の2007年10月の中間整理(pdf)とその意見募集結果(pdf)(なお、当時の私のパブコメは第19回、第20回、第21回参照)や2009年1月の著作権分科会報告書(pdf)参照。)
2009年2月 ブルーレイを追加する政令改正案についてパブコメ募集(第152回参照。私の提出したパブコメは第154回参照)
2009年5月 ブルーレイを追加する改正政令施行
2009年11月 私的録画補償金の支払いを求めてSARVHが東芝を提訴
2010年12月 東京地裁による東芝勝訴判決(地裁判決(pdf)参照。)
2011年7月 地上波デジタル放送完全移行(結果的に全ての録画機にダビング10の保護がかかる事となる。)
2011年12月 知財高裁による、アナログチューナー非搭載録画機器は全て補償金の対象外とする東芝全面勝訴判決(高裁判決(pdf)参照。ここで、地デジ移行と合わさり、録画機器は事実上全て補償金の対象外とする司法判断が下された。)
2012年11月 最高裁の上告棄却により知財高裁判決確定
2015年3月 SARVH解散
2015年~2019年 クリエーターへの適切な対価還元について、文化庁・文化審議会・著作権分科会・著作物等の適切な保護と利用・流通に関する小委員会で議論(当時の議論については、2016年2月29日の第43回著作権分科会で報告された保護利用小委員会の平成27年度の審議の経過(pdf)、2017年3月13日の第45回著作権分科会で報告された平成28年度の審議の経過(pdf)、2018年3月5日の第50回著作権分科会で報告された平成29年度の審議の経過(pdf)、2019年2月13日の第53回著作権分科会で報告された平成30年度の審議の経過(pdf)、2020年2月10日の第55回著作権分科会で報告された令和元年度の審議の経過(pdf)など参照。この最後の審議の経過によると、2019年当時、内閣府、文化庁、経済産業省、総務省の間で対価還元の在り方について議論されていたらしいが、ここで関係省庁間でどの様な事が議論されていたのか詳細は不明であり、保護利用小委員会自体2020年2月を最後に開かれていない。)
2019年2月 自民党・知的財産戦略調査会・補償金WGで議論(JEITAの見解書による。議論の内容が公開されていないので詳細は不明だが、結論は出ていないとの事。)
2021年2月~11月 文化庁等とJEITAの間で協議(同じくJEITA見解書による。協議の内容が公開されていないので詳細は不明であり、文化庁とJEITA以外の参加者も不明だが、合意に至っていないとの事。)
2022年6月 SARAHが私的録音録画補償金管理協会と名称変更(SARAHのHPのお知らせ参照。)
2022年8月 今回のブルーレイ追加政令改正パブコメ開始
この経緯を見ても分かる通り、私的録音録画補償金問題を巡ってはこの20年ほぼ同じ議論が繰り返されており、今に至るも関係者間での合意は全く成立していない。
中でも、文化庁は2009年にもブルーレイを追加しようとして政令改正をした結果、裁判にまでなって結局失敗したのだが、全くその事を忘れたのか、今まさに同じ愚を繰り返そうとしているとしか私には思えない。
文化庁が以前の司法判断についてどの様に考えて今回の政令改正案を提案するに至ったのかは全く不明だが、確定した高裁判決(pdf)の最後の部分で以下の様に言われている様に、関係者間で合意の取れていない政令改正など無駄な争いを生むだけの有害無益なものである。
関係者間の協議には妥協が伴うが,反面,妥協ができていない録画態様には,録画補償金制度が適用されることはないということができる。アナログチューナーを搭載しないDVD録画機器の特定機器該当性について,文部科学省は,著作権保護技術の有無は,法30条2項による視聴者の録画補償金の支払に関する要件として規定されていないと認識し,他方で,経済産業省は,著作権保護が技術的に可能ならば,地上デジタル放送の録画機器は法30条2項による補償金支払の対象にならないと認識していることが,平成20年6月の両省共同作成書面で確認され(乙8),これを基に,アナログチューナーを搭載していることを踏まえ,暫定的な措置として,ブルーレイディスク録画機器を政令に追加することが確認された。この政令改正(平成21年5月22日施行の改正著作権法施行令)の際に文化庁次長名で出された関係団体あて通知(平成21年5月22日付け「著作権法施行令等の一部改正について」)においても,「アナログチューナーを搭載していないレコーダー等が出荷される場合,及びアナログ放送が終了する平成23年7月24日以降においては,関係者の意見の相違が顕在化し,私的録画補償金の支払の請求及びその受領に関する製造業者等の協力が十分に得られなくなるおそれがある。両省は,このような現行の補償金制度が有する課題を十分に認識しており,今回の政令の制定に当たっても,今後,関係者の意見の相違が顕在化する場合には,その取扱について検討し,政令の見直しを含む必要な措置を適切に講ずることとしている。」とされた(甲24)。
この経緯からみると,少なくともアナログチューナーを搭載していないブルーレイディスク録画機器が補償金の対象となるかの大方の合意は,製造業者や経済産業省はもちろんのこと消費者なども含めた関係者間で調っていなかったことが明らかである。遡って,施行令1条2項3号制定時には,製造業者は,アナログチューナーを搭載しているDVD録画機器については,協力義務を負い私的録画補償金の対象となることで妥協したと認めることができるものの,妥協した限度はそこまでである。次の(6)で検討するように,複製権侵害の態様において質的に異なる様相を示すアナログ放送とデジタル放送について,どこまで録画源として私的録画補償金の対象とすべきか否かの明確な議論を経ていなければならないのに,この議論がないまま,アナログチューナーを搭載していないDVD録画機器についてまでの大方の合意が調っていたと認めるのは,特段の事実関係が認められない限り困難である。(6) 著作権保護技術も含めた総合的検討
当事者双方は,著作権保護技術の実態が,アナログチューナー非搭載DVD録画機器の施行令1条2項3号該当性に関係するのか否かを論じている。まず,私的複製が容易となっていたことが,録画補償金制度が法定される大きな要因であったことからすると,著作権保護技術の有無・程度が録画補償金の適用範囲を画するに際して政策上大きな背景要素となることは否定することができない。(後略)
上の意見募集の対象の概要には知財計画2022の記載をもっともらしくあげているが、知財計画の記載は何ら政令改正の根拠になるものではない。私的録音録画補償金に関しては、その時の検討の場の移り変わりに応じて多少の違いはあるものの、ここ10年以上似たような記載が続いているだけである(このブログでは知財計画の文章について毎年見ているが、ここ5年位で言うと、第395回、第409回、第426回、第442回、第460回参照。)
もう1つの私的録音録画に関する実態調査の結果(pdf)もいつものためにする調査でほとんど取るに足らないが、この調査からも見て取れる事は、もはや大多数は録画機器を全く持っておらず、持っていて使っているとしてもせいぜいタイムシフト視聴のためのみという事であって、文化庁の言う様な政令指定の根拠とは到底なり得ない代物である。この調査で年齢分析はあまりされていないのだが、若者になればなるほどテレビ放送をわざわざ録画機器で録画して後で見るなどという行動を取らなくなっているのではないか、既にインターネットを通じたストリーミングやダウンロード配信が主流となっている中、この様な形の私的録音録画自体はもはや時代遅れになりつつあるのではないかというのが実態に対する私の感覚である。
文化庁はここ最近は割とまともだと思っていたが、それは私の勘違いだった。極めて不透明かつ乱暴な形で政令改正案のパブコメをかけた今回の暴走は決して見過ごす事のできないものである。私も私的録音録画問題に関する今までの経緯を十分に踏まえて反対の意見を出したいと考えている。
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