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2022年8月28日 (日)

第465回:文化庁による実質的にブルーレイを私的録音録画補償金の対象に追加しようとする政令改正案に関するパブコメの開始(9月21日〆切)

 実質的にブルーレイディスクレコーダーとブルーレイディスクを私的録音録画補償金の対象に追加しようとする政令改正案について、9月21日〆切でパブコメにかかった。(文化庁HPの意見募集ページ、電子政府HPの意見募集ページ参照。)

 このパブコメについては、AV Watch(メーカー団体であるJEITAの反対意見について書いた記事も参照)やBusiness Insideなどで書かれているので、そちらをご覧いただいても十分かと思うが、この極めて唐突かつ乱暴なパブコメについては幾ら書いても書き過ぎという事はないので、ここでも取り上げる事にする。

 電子政府HPの意見募集ページに掲載されている政令案の概要(pdf)は以下の様なものである。

著作権法施行令の一部を改正する政令案の概要

1.趣旨

 著作権法(昭和45年法律第48号)においては、権利者の許諾なく行われる私的使用目的のデジタル方式の録音・録画について、録音・録画を行う者が補償金を支払わなければならないこととする私的録音録画補償金制度が設けられており、同制度の対象となる具体的な機器及び記録媒体については政令で定めることとされている。
 同制度については、知的財産推進計画2022(2022年6月3日知的財産戦略本部)において、「私的録音録画補償金制度については、新たな対価還元策が実現されるまでの過渡的な措置として、私的録音録画の実態等に応じた具体的な対象機器等の特定について、関係省庁による検討の結論を踏まえ、可能な限り早期に必要な措置を構ずる。」とされており、 これに関しては、関係府省庁で共同し、私的目的の録音・録画に係る実態を把握するため調査を実施した。(参考:私的録音録画に関する実態調査の結果概要)
 こうしたことを踏まえ、私的録音録画補償金制度の新たな対象機器として、ブルーレイディスクレコーダーを規定することとする。

2.改正の概要

(1)新たな対象機器の追加

 現行の著作権法施行令(昭和45年政令第335号。以下「政令」という。)第1条第2項においては、著作権法第30条第3項の規定の委任に基づき、制度の対象となる録画機器を各号で規定している。
 これについて、現在、アナログ信号をデジタル信号に変換して影像を記録する機能を有するブルーレイディスクレコーダーは既に規定されているが、こうした機能の有無にかかわらず、ブルーレイディスクレコーダーが制度の対象機器となるように新たに規定することとする。
 なお、これに伴い、政令第1条の2第2項に基づき、新たな対象機器による録画に用いられるブルーレイディスクも制度の対象となる。

(2)経過措置

 改正後の政令の規定は、施行後に購入したブルーレイディスクレコーダー及びブルーレイディスクについて適用することとする。

3.施行期日(予定)

 公布日から起算して30日を経過した日

参考:私的録音録画に関する実態調査の結果概要

 令和2年に関係府省庁(内閣府知的財産推進事務局、総務省、文部科学省、経済産業省)で共同し、私的録音録画の実態調査を委託事業として実施した(※)。その結果によると、調査対象とした機器のうち、ブルーレイディスク(BD)レコーダー(HDD内蔵型)は、過去1年間で保存した記録容量のうちテレビ番組データ(=契約により権利者に対価が還元されていない動画)の占める割合の平均値が52.2%で半分を超える水準であった。また、当該機器については、日常的によく使用する用途として「録画」を選んだ者の割合が約7割、過去1年間に録画をしたことがある者の割合が約9割であった。

※ 私的録音録画に関する実態調査報告書(令和2年11月みずほ情報総研株式会社)
https://www.bunka.go.jp/tokei_hakusho_shuppan/tokeichosa/chosakuken/pdf/92955401_01.pdf

 この政令案改正概要を見て、文化庁が今までの議論や裁判などを一切無視し、極めて唐突かつ乱暴に政令改正案をパブコメにかけて来た事に私も唖然とした。

 上でリンクを張った他の記事でも書かれており、このブログでもずっと取り上げて来ているが、ここで、今までの日本における私的録音録画補償金問題の経緯をざっと年表にまとめておくと、以下の様になる。(なお、制度の経緯については、私的録音録画補償金制度のWikiや今回の政令案に対するJEITAの見解書(pdf)とその概要(pdf)も参照。)

1992年 デジタル私的録音録画について補償金制度を導入する著作権法改正成立(当時の議論は著作権情報センターHPの著作権審議会・第10小委員会(私的録音・録画関係)報告書参照。)

1993年 私的録音補償金協会(SARAH)設立、私的録音補償金の開始(対象指定は政令によるが、当初の対象はMDなど当時のデジタル録音媒体のみ。なお、CD-R(RW)は1998年に政令改正により対象に追加。)

1999年 私的録画補償金協会(SARVH)設立、私的録音補償金の開始(なお、1999年から対象となっていたのはDVHSなどで、DVD-R(RW)は2000年に追加。)

2002年~2005年 私的録音録画補償金制度の見直しについて、文化庁・文化審議会・著作権分科会・法制問題小委員会で議論(当時の議論については、2003年1月16日の第7回著作権分科会で報告された2002年12月の法制問題小委員会の審議経過の概要や2005年12月1日の第10回法制問題小委員会報告書案参照。)

2006年~2008年 私的録音録画補償金制度の見直しについて、文化庁・文化審議会・著作権分科会・私的録音録画小委員会で議論(当時の議論については、私的録音録画小委員会の2007年10月の中間整理(pdf)とその意見募集結果(pdf)(なお、当時の私のパブコメは第19回第20回第21回参照)や2009年1月の著作権分科会報告書(pdf)参照。)

2009年2月 ブルーレイを追加する政令改正案についてパブコメ募集(第152回参照。私の提出したパブコメは第154回参照)

2009年5月 ブルーレイを追加する改正政令施行

2009年11月 私的録画補償金の支払いを求めてSARVHが東芝を提訴

2010年12月 東京地裁による東芝勝訴判決(地裁判決(pdf)参照。)

2011年7月 地上波デジタル放送完全移行(結果的に全ての録画機にダビング10の保護がかかる事となる。)

2011年12月 知財高裁による、アナログチューナー非搭載録画機器は全て補償金の対象外とする東芝全面勝訴判決(高裁判決(pdf)参照。ここで、地デジ移行と合わさり、録画機器は事実上全て補償金の対象外とする司法判断が下された。)

2012年11月 最高裁の上告棄却により知財高裁判決確定

2015年3月 SARVH解散

2015年~2019年 クリエーターへの適切な対価還元について、文化庁・文化審議会・著作権分科会・著作物等の適切な保護と利用・流通に関する小委員会で議論(当時の議論については、2016年2月29日の第43回著作権分科会で報告された保護利用小委員会の平成27年度の審議の経過(pdf)、2017年3月13日の第45回著作権分科会で報告された平成28年度の審議の経過(pdf)、2018年3月5日の第50回著作権分科会で報告された平成29年度の審議の経過(pdf)、2019年2月13日の第53回著作権分科会で報告された平成30年度の審議の経過(pdf)、2020年2月10日の第55回著作権分科会で報告された令和元年度の審議の経過(pdf)など参照。この最後の審議の経過によると、2019年当時、内閣府、文化庁、経済産業省、総務省の間で対価還元の在り方について議論されていたらしいが、ここで関係省庁間でどの様な事が議論されていたのか詳細は不明であり、保護利用小委員会自体2020年2月を最後に開かれていない。)

2019年2月 自民党・知的財産戦略調査会・補償金WGで議論(JEITAの見解書による。議論の内容が公開されていないので詳細は不明だが、結論は出ていないとの事。)

2021年2月~11月 文化庁等とJEITAの間で協議(同じくJEITA見解書による。協議の内容が公開されていないので詳細は不明であり、文化庁とJEITA以外の参加者も不明だが、合意に至っていないとの事。)

2022年6月 SARAHが私的録音録画補償金管理協会と名称変更(SARAHのHPお知らせ参照。)

2022年8月 今回のブルーレイ追加政令改正パブコメ開始

 この経緯を見ても分かる通り、私的録音録画補償金問題を巡ってはこの20年ほぼ同じ議論が繰り返されており、今に至るも関係者間での合意は全く成立していない。

 中でも、文化庁は2009年にもブルーレイを追加しようとして政令改正をした結果、裁判にまでなって結局失敗したのだが、全くその事を忘れたのか、今まさに同じ愚を繰り返そうとしているとしか私には思えない。

 文化庁が以前の司法判断についてどの様に考えて今回の政令改正案を提案するに至ったのかは全く不明だが、確定した高裁判決(pdf)の最後の部分で以下の様に言われている様に、関係者間で合意の取れていない政令改正など無駄な争いを生むだけの有害無益なものである。

 関係者間の協議には妥協が伴うが,反面,妥協ができていない録画態様には,録画補償金制度が適用されることはないということができる。アナログチューナーを搭載しないDVD録画機器の特定機器該当性について,文部科学省は,著作権保護技術の有無は,法30条2項による視聴者の録画補償金の支払に関する要件として規定されていないと認識し,他方で,経済産業省は,著作権保護が技術的に可能ならば,地上デジタル放送の録画機器は法30条2項による補償金支払の対象にならないと認識していることが,平成20年6月の両省共同作成書面で確認され(乙8),これを基に,アナログチューナーを搭載していることを踏まえ,暫定的な措置として,ブルーレイディスク録画機器を政令に追加することが確認された。この政令改正(平成21年5月22日施行の改正著作権法施行令)の際に文化庁次長名で出された関係団体あて通知(平成21年5月22日付け「著作権法施行令等の一部改正について」)においても,「アナログチューナーを搭載していないレコーダー等が出荷される場合,及びアナログ放送が終了する平成23年7月24日以降においては,関係者の意見の相違が顕在化し,私的録画補償金の支払の請求及びその受領に関する製造業者等の協力が十分に得られなくなるおそれがある。両省は,このような現行の補償金制度が有する課題を十分に認識しており,今回の政令の制定に当たっても,今後,関係者の意見の相違が顕在化する場合には,その取扱について検討し,政令の見直しを含む必要な措置を適切に講ずることとしている。」とされた(甲24)。
 この経緯からみると,少なくともアナログチューナーを搭載していないブルーレイディスク録画機器が補償金の対象となるかの大方の合意は,製造業者や経済産業省はもちろんのこと消費者なども含めた関係者間で調っていなかったことが明らかである。遡って,施行令1条2項3号制定時には,製造業者は,アナログチューナーを搭載しているDVD録画機器については,協力義務を負い私的録画補償金の対象となることで妥協したと認めることができるものの,妥協した限度はそこまでである。次の(6)で検討するように,複製権侵害の態様において質的に異なる様相を示すアナログ放送とデジタル放送について,どこまで録画源として私的録画補償金の対象とすべきか否かの明確な議論を経ていなければならないのに,この議論がないまま,アナログチューナーを搭載していないDVD録画機器についてまでの大方の合意が調っていたと認めるのは,特段の事実関係が認められない限り困難である。

(6) 著作権保護技術も含めた総合的検討
 当事者双方は,著作権保護技術の実態が,アナログチューナー非搭載DVD録画機器の施行令1条2項3号該当性に関係するのか否かを論じている。まず,私的複製が容易となっていたことが,録画補償金制度が法定される大きな要因であったことからすると,著作権保護技術の有無・程度が録画補償金の適用範囲を画するに際して政策上大きな背景要素となることは否定することができない。(後略)

 上の意見募集の対象の概要には知財計画2022の記載をもっともらしくあげているが、知財計画の記載は何ら政令改正の根拠になるものではない。私的録音録画補償金に関しては、その時の検討の場の移り変わりに応じて多少の違いはあるものの、ここ10年以上似たような記載が続いているだけである(このブログでは知財計画の文章について毎年見ているが、ここ5年位で言うと、第395回第409回第426回第442回第460回参照。)

 もう1つの私的録音録画に関する実態調査の結果(pdf)もいつものためにする調査でほとんど取るに足らないが、この調査からも見て取れる事は、もはや大多数は録画機器を全く持っておらず、持っていて使っているとしてもせいぜいタイムシフト視聴のためのみという事であって、文化庁の言う様な政令指定の根拠とは到底なり得ない代物である。この調査で年齢分析はあまりされていないのだが、若者になればなるほどテレビ放送をわざわざ録画機器で録画して後で見るなどという行動を取らなくなっているのではないか、既にインターネットを通じたストリーミングやダウンロード配信が主流となっている中、この様な形の私的録音録画自体はもはや時代遅れになりつつあるのではないかというのが実態に対する私の感覚である。

 文化庁はここ最近は割とまともだと思っていたが、それは私の勘違いだった。極めて不透明かつ乱暴な形で政令改正案のパブコメをかけた今回の暴走は決して見過ごす事のできないものである。私も私的録音録画問題に関する今までの経緯を十分に踏まえて反対の意見を出したいと考えている。

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2022年8月14日 (日)

第464回:一般フェアユース条項への移行を含む2021年シンガポール新著作権法他

 他の事について書いている間に少し時間が経ってしまったが、去年2021年の11月21日に、興味深い権利制限条項の改正を含むシンガポールの新著作権法が施行されているので、今回はその内容を簡単に紹介する。

 まず、シンガポール知的財産庁による新著作権法概要説明の通り、この著作権法改正は委託制作について創作者が権利を持つ事をデフォルト化するなどの権利保護強化も含まれているが、そこで権利制限について以下の様に書かれている。

Permitted Uses to Benefit Society

5 Beyond supporting creators and performers, the Act also contains new exceptions to copyright owners' rights, known as "permitted uses", to ensure copyright works are reasonably available for use by the general public.

Use of works for computational data analysis

6 To support research and innovation, copyright works, if lawfully accessed (e.g. without circumventing paywalls), can be used for computational data analysis, such as sentiment analysis, text and data mining, or training machine learning, without having to seek the permission of each copyright owner.

Use of online materials for educational purposes

7 Teachers and students can use freely available online materials for their educational activities, including for home-based learning.

a. The source and date of access must be cited and there must be sufficient acknowledgement of the material (e.g. identification of the author and the title/description of the work).

b. Any digital communication of the materials must be done on the educational institution's internal network or on MOE's Student Learning Space.

c. If the teacher or student is informed that the source they used infringed copyright, they must stop using the material.

社会に裨益する許される利用

5 創作者及び実演家の支援だけでなく、本法律は、著作物が一般公衆による利用のために合理的な形で入手可能とされる事を保証する、「許される利用」として知られる、著作権者の権利に対する新しい例外も含む。

コンピュータによるデータ分析のための著作物の利用

6 調査及びイノベーションを支援するため、著作物は、適法にアクセスされたものであれば(例えば有料の壁の回避をしない様な場合)、それぞれの著作権者の許可を求める事なく、感情分析、テキスト及びデータマイニング又は機械学習のトレーニングの様なコンピュータによるデータ分析のために用いる事ができる。

教育目的のためのオンラインマテリアルの利用

7 教師と学生は、家庭での学習を含む、その教育活動のために自由に入手可能なオンラインマテリアルを利用する事ができる。

a.アクセスのソース及びデータは引用されなければならず、そこでマテリアルが十分に認知される様になっていなければならない(例えば著作物の著作者とタイトル/説明を特定する事)。

b.マテリアルのデジタル通信は教育機関の内部ネットワーク上又は教育省のステューデント・ラーニング・スペースで上でなされなければならない。

c.もし用いているソースが著作権を侵害していると知らされた場合、教師と学生はそのマテリアルの利用を中止しなければならない。

 他の部分も重要だと思うが、この新著作権法(シンガポール政府提供の2021年新著作権法条文参照)で、私が特に興味深いと思っているのは、この著作権法改正が以下の様に実質的にアメリカ型のフェアユースへの移行を含んでいる事である。

Fair use is permitted use
190. -
(1) It is a permitted use of a work to make a fair use of the work.

(2) It is a permitted use of a protected performance to make a fair use of -
(a) the performance; or
(b) a recording of the performance.

Relevant matters in deciding whether use is fair
191. Subject to sections 192, 193 and 194, all relevant matters must be considered in deciding whether a work or a protected performance (including a recording of the performance) is fairly used, including -
(a) the purpose and character of the use, including whether the use is of a commercial nature or is for non-profit educational purposes;
(b) the nature of the work or performance;
(c) the amount and substantiality of the portion used in relation to the whole work or performance; and
(d) the effect of the use upon the potential market for, or value of, the work or performance.

Additional requirement for sufficient acknowledgment where use is for certain purposes
192. -
(1) Where a work or a protected performance (including a recording of the performance) is used for the purpose of reporting news, the use is not fair unless -
(a) the work or performance is sufficiently acknowledged; or
(b) sufficient acknowledgment is impossible for reasons of practicality or otherwise.

(2) Where a work or protected performance (or a recording of the performance) is used for the purpose of criticism or review (whether of that work or performance or another work or performance), the use is not fair unless the work or performance is sufficiently acknowledged.

Deemed fair use where work or recording included in fairly-used work
193. -
(1) This section applies where -
(a) any of the following works is used for the purpose of criticism or review:
(i) a sound recording;
(ii) a film;
(iii) a broadcast;
(iv) a cable programme; and
(b) the use is fair.

(2) A work or a recording of a protected performance that is included in the work mentioned in subsection (1)(a) is deemed to be fairly used (and section 191 does not apply).

(3) To avoid doubt, this section does not limit what would otherwise be a fair use.

Deemed fair use where reasonable portion copied for research or study
194. -
(1) Making a copy of a literary, dramatic or musical work for the purpose of research or study is deemed to be a fair use (and section 191 does not apply) if -
(a) the work is an article in a periodical publication; or
(b) no more than a reasonable portion of the work is copied.

(2) Subsection (1) does not apply to making a copy of an article in a periodical publication if -
(a) another article in that publication is also copied; and
(b) the copied articles deal with different subject matters.

(3) To avoid doubt, this section does not limit what would otherwise be a fair use.

フェアユースは許される利用である
第190条
第1項 著作物の公正利用をする事は許される利用である。

第2項 以下のものの公正利用をする事は許される利用である。
(a)実演;又は
(b)実演のレコーディング。

利用が公正であるかどうかを決定する際に関係する事項
第191条 第192条、第193条及び第194条に関し、著作物又は保護を受ける実演(実演のレコーディングを含む)が公正に利用されたかを決定するにあたり、全ての関係する事項が考慮され、これは以下を含む-
(a)利用が商業的な性質のものか非営利教育目的かどうかを含む、利用の目的及び特性;
(b)著作物又は実演の性質;
(c)著作物又は実演の全体に対する利用された部分の量及び本質性;
(d)著作物又は実演の潜在的な市場又はその価値に対する利用の影響。

利用が特定の目的のためである場合の十分な認知のための追加の要件
第192条
第1項 著作物又は保護を受ける実演(実演のレコーディングを含む)が報道の目的のために利用される場合、以下でない限りその利用は公正ではない-
(a)著作物又は実演が十分に認知される様になっているか;又は
(b)個別の又はその他の理由のために十分な認知が不可能であるか。

第2項 著作物又は保護を受ける実演(実演のレコーディングを含む)が論評又は批評のために利用される場合、著作物又は実演が十分に認知される様になっていない限り、その利用は公正ではない。

著作物又はレコーディングが公正に利用される著作物に含まれる場合のみなしフェアユース
第193条
第1項 本条は以下の場合に適用される-
(a)以下の著作物が論評又は批評の目的で利用される場合であって:
(ⅰ)録音;
(ⅱ)映画;
(ⅲ)放送;
(ⅳ)ケーブル番組;そして
(b)その利用が公正である場合。

第2項 第1項(a)で言及されている著作物に含まれる著作物又は保護を受ける実演のレコーディングは公正に利用されているとみなされる(そして第191条は適用されない)。

第3項 不明確を避けるため、本条がさもなければ公正利用とされるだろう事を制限する事はない。

合理的な部分が研究又は学習のために複製される場合のみなしフェアユース
第194条
第1項 以下の場合の研究又は学習のための文学、劇又は音楽の著作物の複製は公正利用とみなされる(そして第191条は適用されない)-
(a)著作物が定期出版物の記事であるか;又は
(b)著作物の合理的な部分を超える複製がされていないか。

第2項 第1項は以下の場合の定期出版物の記事の複製には適用されない-
(a)その出版物の他の記事も複製され;そして
(b)その複製された記事が他の事項を扱っている場合。

第3項 不明確を避けるため、本条がさもなければフェアユースとされるだろう事を制限する事はない。

 このフェアユースについては、シンガポール知的財産庁の著作権リソースページに載っている2021年著作権法に関するファクトシート(pdf)で、以下の様に説明されている。

5. Strengthening the general "fair use" exception:

Old position (under the Copyright Act 1987)

・One exception to copyright infringement is a general open-ended "fair dealing" exception. This means that a person will not be liable for copyright infringement if their use of a copyright work qualifies as a "fair dealing".

・There are 5 factors to consider:
1) The purpose and character of your use.
2) The nature of the work you are using.
3) The amount and substantiality of the portion of the work you are using, in relation to the whole work.
4) The effect that your use will have on the potential market for, or value of, the work.
5) The possibility of obtaining the work within a reasonable time at an ordinary commercial price.

New position (under the Copyright Act 2021)

・The "fair dealing" exception is made easier to understand and apply:
○The exception is now called "fair use".
○The 5th factor will be removed. This means that it is no longer mandatory for the courts to consider, in every situation, whether there is the possibility of obtaining a work within a reasonable time at an ordinary commercial price. However, this factor can be still be taken into account where relevant.
○The exception will incorporate the other existing specific fair dealing exceptions (and their specific accompanying conditions):
- reporting news;
- criticism or review; and
- research or study.

・If you are a user (including a creator who wants to build on existing works), you can rely on this exception when your intended use does not fall under other specific permitted uses. Ultimately, whether your use qualifies for the exception will depend on the specific facts of your particular circumstance.

5.一般的な「フェアユース」の例外の強化

昔のポジション(1987年著作権法)

・著作権侵害に対する1つの例外は一般的な開かれた「フェアディーリング」の例外である。これは、その著作物の利用が「フェアディーリング」であると評価されるときに、利用者は著作権侵害の責任を負わないという事を意味する。

・そこには考慮すべき5つの要素がある:
1)その利用の目的と特性。
2)利用している著作物の性質。
3)著作物全体に対する、利用している著作物の部分の量と本質性。
4)その利用が与えるだろう著作物の潜在的な市場又はその価値に対する影響。
5)通常の商業的価格で合理的な時間内に著作物を手に入れられる可能性。

新しいポジション(2021年著作権法)

・「フェアディーリング」の例外の理解と適用がし易くなる:
○例外は今度は「フェアユース」と呼ばれる。
○5つ目の要素は削除される。これは、裁判所が、あらゆる状況において、通常の商業的価格で合理的な時間内に著作物を手に入れられる可能性があるかどうかを考慮する事はもはや必須ではない事を意味する。しかしながら、この要素は関係する場合になお考慮に入れる事ができる。
○例外には他の既存の特定のフェアディーリングの例外(及びこれに伴う特定の条件)が統合される:
-報道
-論評又は批評;そして
-研究又は学習。

・あなたが(既存の著作物に基づき作り上げたいと考える創作者を含む)利用者であるとき、考える利用が他の特定の許される利用に該当しない場合に、この例外に依拠する事ができる。最終的には、その利用が例外にあたると評価されるかどうかはその個別の状況の特定の事実による。

 このファクトシートにある通りで、シンガポールは元々イギリス型のフェアディーリングを一般化したフェアディーリング規定を用いていたのだが、今回の法改正でアメリカ型のフェアユースにより一般化を行ったという事である。

 シンガポール政府提供の1987年旧著作権法条文の改正を見て行くと、1987年の時点では研究又は学習のためなど個別の目的とともにフェアディーリングは規定されていたが、2005年1月1日施行の2004年法改正により、個別の目的を外しながら権利制限規定の一般化が行われており、ここで5つ目の考慮要素も追加されている。

 この5つ目の入手容易性に関する考慮要素は、2004年当時の法改正検討における妥協の産物だろうが、アメリカのフェアユース規定の事を考えても、この様な要素は常に考慮されなければならないものではないので、シンガポールの今回の法改正での規定の一般化は妥当なものだろう。

 また、合わせて他にも個別の権利制限の拡充も図っている事もシンガポール著作権法の特徴と言えるだろう。権利制限の一般規定を入れたからと言って、個別の権利制限の意味がなくなる訳ではないのである。

 ついでに、台湾でもこの2022年4月と5月に著作権法改正が通って成立しているので、ここで紹介しておく。

 その1つは、台湾経済省のリリース1(中国語(繁体字))に書かれている通り、特許法などと並びでTPP協定加盟を目指して行われたものであり、日本におけるTPP協定のための著作権法改正を参考にしたのだろう、重大な場合に限り非親告罪化が行われている事など、各国の立法の影響という意味で面白いと思うが、もう1つ、経済部のリリース2(中国語(繁体字))に書かれている通り、リモート授業、電子教科書、図書館におけるデジタル化と電子閲覧のための権利制限の拡充が行われている。(台湾の著作権法の条文については、台湾法務省提供の著作権法条文(中国語(繁体字))参照。)

 台湾も一般フェアユース条項を入れているが(第318回第269回参照)、以前も書いた通り、何でも一般条項に任せれば良いなどという事はなく、その時の状況に合わせて立法により個別の権利制限について拡充を行い明確化を図って行く事もやはり重要なのである。

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