第461回:今国会で成立した経済安保法による新秘密特許(特許非公開)制度に関する補足
今国会でほとんど出来レースの様な審議により経済安保法(正式名称は「経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関する法律」)が成立し、この法律により2年以内に新しい秘密特許(特許非公開)制度が実施される事になった。(衆議院の議案ページ、内閣官房の法律案ページ参照。)
まず、衆議院内閣委員会の附帯決議から、秘密特許制度に関する部分を以下に抜粋する。
政府は、本法の施行に当たっては、次の事項に留意し、その運用等について遺漏なきを期すべきである。
(略)
二 特定重要物資を指定する政令及び安定供給確保支援法人の指定に関する主務省令並びに特定社会基盤事業者の指定基準を定める主務省令は、関係事業者、関係事業者の団体その他の関係者の意見を考慮して制定するとともに、特定技術分野を定める政令は、安全保障の確保に関する経済施策、産業技術その他特許出願の非公開に関し知見を有する者の意見を考慮して制定すること。
三 特定重要物資、特定社会基盤事業者及び指定基金の指定並びに特定技術分野の選定は、客観的かつ公平に行うこと。
(略)
十 保全対象発明の選定に当たっては、産業への影響を考慮して対象をできる限り限定的なものとすること。その際、デュアルユース技術については、国費による委託事業の成果である技術や、防衛等の用途で開発された技術、あるいは出願人自身が了解している場合などを念頭に、支障が少ないケースに限定すること。
十一 特許出願の非公開制度の運用に当たっては、特許出願人が手続を円滑に行うことができるよう配慮すること。
十二 本法第八十条に基づく損失の補償に当たっては、特許出願人が過度な不利益を被ることのないよう十分配慮すること。
(略)
参議院内閣委員会の附帯決議(pdf)からも以下に抜粋する。
政府は、本法の施行に当たり、次の諸点について適切な措置を講ずるべきである。
(略)
十二 保全対象発明の選定に当たっては、産業への影響を考慮して対象をできる限り限定的なものとすること。その際、デュアルユース技術については、国費による委託事業の成果である技術や、防衛等の用途で開発された技術、あるいは出願人自身が了解している場合などを念頭に、支障がないケースに限定すること。
十三 特許出願の非公開に関する制度の運用は、イノベーションの意欲を削ぐことのないよう関係者の意見を聴いて、慎重に行うこと。
十四 特許出願の非公開に関する制度の運用に当たっては、特許出願人が手続を円滑に行うことができるよう配慮すること。
十五 保全審査を行う機関について、関係省庁及び外部の専門家の知見が十分に活用できるような仕組みを構築するとともに、保全審査に携わる職員の専門性の向上に配意すること。
十六 本法第八十条の規定に基づく損失の補償に当たっては、特許出願人が過度な不利益を被ることのないよう十分配慮すること。
(略)
これらの附帯決議は、政府有識者会議の時から言われていた事を理念的に繰り返しただけで、具体的にどうするかという点で参考になる事は含まれていない。(政府有識者会議とその提言については第452回参照。)
衆議院と参議院のそれぞれの内閣委員会(経済産業委員会との合同審査会含む)でも新秘密特許制度の具体的な運用について明らかにされた事は少ないが、その中でも比較的重要だったと思えるのは以下の質疑である。
・3月23日衆議院内閣委員会(議事録):
226 櫻井周
○櫻井委員 あと、ほかにもちょっといろいろな、これは現時点で塞ぎようのない穴かもしれませんけれども、例えば特許出願の中では、新規性の喪失の例外ということで、既に公開したものを特許出願することもできる。しかし、それがもし保全指定を受けるような内容のものだったらどうなるんだろうとか、そういうものを後で非公開にしても意味がないよなとか、ちょっといろいろな課題があるのではなかろうかというふうには思います。
ただ、そうした事例は、まあ、そんなにたくさんあるわけじゃないよということかもしれませんので、ちょっと次に行かせていただいて、七十八条一項、それから八十条に関連する質問をさせていただきます。
七十条の保全指定を受けると外国出願が事実上できなくなる、そうしますと、外国で特許を取得できれば得られたであろう利益について補償していただけるのかどうか、この点、端的にお願いします。227 木村聡
○木村政府参考人 お答え申し上げます。
特許出願の非公開制度の損失補償につきましては、第八十条の規定によりまして、保全指定を受けたことにより損失を受けた者に対して、通常生ずべき損失を補償することとさせていただいているところでございます。
このため、国内での損失に限らず、外国で特許権を取得できれば得られたであろう利益につきましても、損失の発生及び保全指定により外国出願が禁止されたことと損失の相当因果関係が仮に認められるのであれば、補償の対象になり得るものと考えているところでございます。
以上でございます。228 櫻井周
○櫻井委員 対象になり得るということなんですが、相当関係があるとかといういろいろな限定がついちゃって、立証するのが大変で結果的に補償を受けられないとかになっちゃうと、これはまた出願人にとって相当不利益になってしまいますし、外国で特許ということになると幅が随分出てきそうなので、なかなかこれはまた難しい課題が残っているということを指摘をさせていただきます。
それから、もう一つ七十八条一項関連で質問ささせていただきます。
有識者の提言の五十三ページには、外国で出願をするには国内出願後おおむね六か月程度で明細書の翻訳等を発注しなければならないことから、その時点で二次審査、保全審査のことですけれども、の結論が出ていない場合、最終的に保全措置の対象となれば、外国出願が実現せず費用のロスを生じることとなる、こういう指摘があります。
この費用のロスは、そんな十か月も待っていられないよということで外国出願の準備をして翻訳代とかいろいろかかったこの費用のロスは、補償対象になるんでしょうか。229 木村聡
○木村政府参考人 お答え申し上げます。
御指摘のありました費用のロスについてでございます。
ケース・バイ・ケースになりますので、確たる御答弁を差し上げるというのは困難でございますけれども、仮に通常生ずべき損失として認められる場合には補償の対象となり得ますが、有識者会議でも御提言いただいておりますとおり、こうしたロスを少なくするためにも手続の迅速化に努めていくということが必要であると考えてございます。
以上でございます。230 櫻井周
○櫻井委員 いや、これはやはりちゃんと補償してもらいたいなと。
領収書等、この部分についてははっきりロスの金額は分かるわけですから、是非お願いしたいなというふうに思いますとともに、今おっしゃられたとおり、迅速に保全審査をやりますということなんですが、ただ、特許出願、今は大分解消されておりますが、渋滞していて、審査請求してから二年間ずっとほったらかしみたいなことも過去にはあったわけですよね。今回は、何件対象になるか分からない、またここで渋滞しちゃったら十か月ぎりぎりになっちゃうかもしれない、そういう心配もあるものですから、確認をさせていただきました。
それから次に、七十九条一項で事前確認というのがございます。
外国出願をしようとする場合にこの事前確認ができるということなんですが、これは必ず外国出願をしなければいけないのか、また、出願済みの国内出願について事前確認することができるのかどうなのか、これも教えてください。231 木村聡
○木村政府参考人 お答え申し上げます。
法案第七十九条の事前確認は、外国出願をしようとする者が確認を求めることができるということを規定させていただいております。
一方で、事前確認制度におきましては、外国出願の禁止に該当しない場合であっても外国出願をすることを義務づけるということまでは規定しておりません。
以上でございます。232 櫻井周
○櫻井委員 それから、この七十九条一項で、弁理士は外国出願をしようとする者の代理をすることはできるんでしょうか。233 木村聡
○木村政府参考人 お答え申し上げます。
第七十九条の事前確認制度における確認の求めは、特許に関する特許庁における手続でございます。弁理士は当該手続の代理をすることが可能であると考えているところでございます。
以上でございます。234 櫻井周
○櫻井委員 それから、八十条三項で、損失補償の金額の算定なんですが、特許権の侵害訴訟でも損害額の算出をするのは結構難しいわけなんですけれども、今回の場合は、特許になるかどうかも分からない発明について損失を算出するということになりますから、更に難しいということになります。
これはどうやって計算するのか、また、申請の時期、いつまでに申請してくださいとかいうこともあるのかどうなのか、この点についても教えてください。235 小林鷹之
○小林国務大臣 お答え申し上げます。
補償が生じる典型的なケースといたしましては、発明の実施許可を与えず、製品の製造あるいは販売などができなくなるケースが想定されるところであります。
この場合、特許出願人は、まず、保全対象発明の実施を行うため、実施に関する事業計画などを提示をし、保全対象発明の実施の許可申請をすることとなります。
また、許可申請を受けた総理大臣は、特許出願人から計画の詳細を聞いて、実施によって保全対象発明の漏えいリスクが高まる場合には不許可とすることとなります。
ここで保全対象発明の実施が不許可とされれば、その後、特許出願人は、許可申請時の計画を基に補償金額を算出をして、自己の受けた損失の補償を請求することが想定されます。
このとき、請求を受けた側の内閣総理大臣は、特許出願人から説明を聞くほか、専門家の意見も聞きながら妥当な補償金額を決定する、そういうプロセスとなっております。
・3月25日衆議院内閣委員会(議事録):
169 櫻井周
発言URLを表示
○櫻井委員 立憲民主党の櫻井周です。
おとといの質疑に続いて、前回通告したものの中からまだ質問できていなかったところもございますし、また、いただいた御答弁の中でちょっと疑問点や不明確なところもあったものですから、そういったところを質問させていただきます。
まず、特許出願の審査について、つまり六十六条七項について。
おとといの質疑で、最終的な査定の手前まで審査を進めることが出願人の保護に資するという観点から、出願公開及び最終的な特許査定又は拒絶査定の手続のみを保留し、それ以外の手続は終える、こういう御答弁をいただいております。直前のところまでいくということなんですが、査定の手前まで審査を進めるのなら、特許査定又は拒絶査定をすればいいのではなかろうかと考えるんですが、大臣の御見解をお伺いしたいと思います。
この質問の背景なんですが、つまり、今回の法案はアメリカの制度を参考にして作られているようにお見受けしますが、例えばドイツでは、保全指定されても特許査定を受けることができるような作りになっております。ドイツのような制度の方が特許出願人の保護に資するのではないのか、こんなふうにも考えます。
具体的に条文に即して申し上げますと、今回の法案の六十六条七項で特許法四十九条と五十一条を適用除外にしていますが、そうではなくて、六十六条を適用除外にする。六十六条は特許権の設定の登録です。こうすることによって、実施については七十三条で制限されておりますので、この辺は変わりはございません。また、特許法百九十三条の特許公報については特許権が設定登録されなければ発行されませんので、この点も問題はないというふうに考えます。
ということで、大臣、いかがでしょうか。170 小林鷹之
○小林国務大臣 お答え申し上げます。
特許出願人の中には、保全指定中に特許査定の直前まで手続を進め、特許査定の見通しを立てるとともに、指定解除後直ちに特許を受けられる状態にしておきたいと考える方もあり得ると考えます。そのことは、実は有識者会議の提言でも指摘をされているところでございます。
こうした出願人の要請に応えるため、出願人が実体審査を請求した場合には、これに応じて出願書類の補正のやり取りを行うなど、最終的な査定の手前まで審査を進める道を残し、出願の公開、そして最終的な特許査定又は拒絶査定の手続を留保する制度としたところでございます。171 櫻井周
○櫻井委員 質問に答えていないんです。そこまでは前回の答弁だったんですよ。その先を聞いているんですよ。
だから、査定直前までやるんだったら、もう特許査定したらいいじゃないですか、こういう提案を申し上げているんですよ。いかがですか、大臣。172 木村聡
○木村政府参考人 お答え申し上げます。
今回の制度でございますけれども、有識者会議の方で様々な御議論を賜ったところでございますが、特許の公開の手続、あと、先ほど大臣からも申し上げましたけれども、最終的な特許査定又は拒絶査定の手続を留保するという、アメリカ型といいますか、そういう手続を採用するということについて御提言をいただきましたので、それに沿った形で制度設計をさせていただいたということでございます。
以上でございます。173 櫻井周
○櫻井委員 いや、だから、その先、もう一歩進めたらどうですか。そんな、すんでのところで止めてじらしたりしなくてもいいじゃないですか。その方が出願人の保護につながるんじゃないですかというふうに聞いているんですが、一向にお答えいただけないですよね。
ちょっと、法案の中身、ちゃんと御理解いただいているんですかね。もう一回答弁をお願いします。174 木村聡
○木村政府参考人 お答え申し上げます。
重ねての答弁になりますけれども、有識者会議の提言によりまして、出願の公開と最終的な特許査定又は拒絶査定の手続を留保するということで、特許の査定までは行わない制度とするという御提言に沿って制度設計をさせていただいたということでございます。175 櫻井周
○櫻井委員 何でこんなことをねちねちと質問させていただいているかと申しますと、これは今日午前中の質疑でも河西委員から質問があって、損失の補償の公平性ということで、ここは担保されないといけませんよね、こういう質問がありました。
おとといの質疑では、出願人は保全対象発明の実施を行うため、実施に関する実施計画などを提示し、不許可の場合には自己の受けた損失の補償を請求することができる、こういうことで、実施についての補償については御答弁いただいているんですよ。
でも、河西委員が御指摘されたように、大企業だったら実施設備をいっぱい持っているから、製造設備を持っている、販売網も持っている、だから、いっぱい販売できたはずだから損失も大きいでしょうというふうに言えるわけなんだけれども、中小企業の場合はそうではなくなる、そこに不公平感が出るんじゃないですか、こういう指摘もあったわけですよ。
ですから、中小企業の場合だったら、むしろライセンス料とかで、もしかしたら稼げる可能性があったかもしれない。でも、特許査定を受けていなかったら、ライセンス料の設定とかできないですよね。ですから、このライセンス料相当分についての損失補償を算出するためにも、やはり特許査定までいった方が出願人の保護につながるんじゃないですか。先ほど、条文の提案を申し上げましたけれども、そうしたところでは問題は起きないじゃないですか、こういう提案をさせていただいているんですが、いかがですか。176 木村聡
○木村政府参考人 お答え申し上げます。
中小企業の場合でありましても、実施についての許可を受けていただけないということになりますれば、中小企業の方からの請求に基づいて、しかるべき中身を精査させていただいた上で国として補償させていただく、こういうことでございます。
以上でございます。177 櫻井周
○櫻井委員 いや、質問に全く答えていただけていないですよ。
実施については、この間、おととい答弁いただいた、でも、ライセンス料についてはどうなんですか、こういうふうに質問しているんですよ。ライセンス料については御答弁いただいていないですし、また、特許査定を受けていないんだったら、本来だったら特許査定を受けられるはず、しかも、すんでのところまでいって、特許査定を受けられるんだなと心証を持っている、そういう答弁をいただきましたよね。
ですけれども、特許査定がなかったら、どうやってライセンス料に相当する損失補償を受けられるのか、こういう課題が残っているじゃないか。特に製造設備を余りたくさん持っていない中小企業の場合、特に大きな不公平感につながるのではなかろうかということなので質問をさせていただいているんです。
再度の答弁をお願いします。178 木村聡
○木村政府参考人 お答え申し上げます。
重ねての答弁になって恐縮でございますけれども、中小企業の場合、工場等が小さくなるという御指摘ございましたが、そういった点につきましても、実施の許可申請について不許可になりますれば、きちんとした形で請求していただくことにより、中身を精査した上で、不許可になった場合の補償をさせていただく、こういうことでございます。
以上でございます。
・4月26日参議院内閣委員会・経済産業委員会連合審査会(議事録):
077 岩渕友
○岩渕友君 資料一をもう一度見ていただきたいんですけれども、下のところに、日米防衛特許協定の第三条に線を引いています。ここにあるように、防衛目的のための技術が対象となるんですね。秘密指定解除後に公開をされた出願見てみますと、出願人がどういう企業かというと、ロッキード・マーチンだとかレイセオン・カンパニーなど軍事企業が名前を連ねています。今、小林大臣が答弁されたように、双務的ということなので、これからは日本からアメリカなどに秘密指定できるということになります。
日米防衛特許協定の実績がどうなっているのかということを見ていきたいんですね。
一九八八年以降、秘密指定解除によって公表された件数は九十九件なんです。資料二を見ていただきたいんですが、これは国際特許分類に基づいて集計をしたものです。石灰であるとかセメント、そして炭素などが一番多くなっているんですけれども、この日米防衛特許協定について、公表された九十九件のうち分類F40番台は何件あるでしょうか。078 清水幹治
○政府参考人(清水幹治君) お答えいたします。
委員御指摘の、日米協定に基づきアメリカにおいて秘密保持が解除され日本において公開された特許出願九十九件のうち、国際特許分類がF40番台の出願については、F41、武器が主分類として付与されている出願が八件、F42、弾薬、爆破が主分類として付与されている出願が一件であり、合わせて九件となっております。079 岩渕友
○岩渕友君 資料二の右上の部分に今答弁いただいたことがまとめてあるんです。
国際特許分類では、F41が砲ということなので例として大砲なんかが挙げられていると、で、F42が弾薬などの武器だということで、九十九件のうち九件ということですから、純粋な軍事技術は一割にも満たないということなんですね。九割以上が軍民両用技術、いわゆるデュアルユース技術だということなんです。だから、防衛目的だと言いながら、デュアルユース部分が大半だということなんですね。
有識者会議の提言では、非公開の対象となる発明のイメージということで、核兵器技術及び武器のみに用いられるシングルユース技術のうち我が国の安全保障上極めて機微な発明を基本として選定すべきとしつつ、他方、デュアルユース技術について、これらの技術を広く対象とした場合、産業界の経済活動や当該技術の研究開発を阻害しかねないおそれがあるとして、デュアルユース技術を対象とする場合には、技術分野を絞るとともに、支障がないケースに限定するべきだとしています。
参議院の参考人質疑で、経団連の常務理事の原一郎参考人が、民間開発の技術が軍事に転用され得るとなると企業が意図しない形で軍事に使われる、デュアルユースは全てだと言われるとビジネスは成り立たない、機微技術が何かを示してほしいと、こういうふうに述べています。
このデュアルユース技術のうち保全指定される機微技術の判断基準について、大臣、お答えください。080 小林鷹之
○国務大臣(小林鷹之君) お答え申し上げます。
まず前提として、米国には、米国との関係なんですけど、米国には以前から特許出願を非公開とする制度がございますが、この法案が創設する我が国の非公開制度とは要件も手続も異なっているんです。したがって、その米国の制度でその秘密保持命令の対象とされる発明と同等の発明が我が国の制度においても必ず保全指定の対象となるというわけではないことは冒頭申し上げたいと思います。
その上で、今委員からお尋ねのありました保全指定の判断基準についてでございますけれども、この特許出願の非公開制度は、安全保障上機微な発明でございましても特許出願されると一律に公開されてしまうというこの問題に対処をして、機微技術の拡散を防ぐことを目的とするものでございます。一方で、民生分野で幅広く活用されて発展していくことが期待される技術を非公開の対象とすると、我が国の経済活動やイノベーションを抑制して、逆にその先端技術の誕生や発展を阻害することになりかねない、そう考えています。
したがって、この法案では、保全指定の対象となる発明を、まず公にすることによって外部から行われる行為により国家国民の安全を損なう事態を生ずるおそれの程度、そして発明を非公開とした場合に産業の発達に及ぼす影響などの事情、こうした点の総合考慮によって判断することを条文上明記しているところでございます。081 岩渕友
○岩渕友君 判断基準の、その具体的にどうなるのかというのが余りよく分からないわけですよね。
その技術分野絞ると言うんですけれども、この日米防衛特許協定を見ても民生技術に拡大をしてきたのが実態だと。で、結局、対象範囲を拡大していくことになるんじゃないかと思うんですけど、いかがでしょうか。082 小林鷹之
○国務大臣(小林鷹之君) お答え申し上げます。
この、今委員御指摘のその保全審査の対象となる技術分野についてですけれども、これも有識者会議の提言で言及されているんですが、先端技術が日進月歩で変わるものであることに鑑み、変化に応じて機動的に定める枠組みとする、そう言及されていて、その必要がございますため、政令で定めることとしております。
すなわち、この法案上、公にすることにより外部から行われる行為によって国家国民の安全を損なう事態を生ずるおそれが大きい発明が含まれ得る技術の分野を国際特許分類によって定めることを明記しております。これによって、この保全審査の対象となる発明は、公になれば我が国の安全保障が著しく損なわれるおそれがある発明が含まれ得る技術分野の発明に限定されています。さらに、その範囲内で定められる特定技術分野の中で保全指定をした場合に今申し上げた産業の発達に及ぼす影響が大きいと認められるものにあっては、更なる絞りを掛けることもこれ法文上明記しているんです。
なお、こうして政令で定めるその技術の分野に関する基本的な事項につきましては基本指針の中で定めることとしておりまして、この基本指針というのは有識者の方々の意見を幅広く聞いて定めることとしています。
したがって、今委員が御懸念されておりますが、対象技術分野が例えば無制約に広がっていくような、そういう御懸念は及ばないと考えております。083 岩渕友
○岩渕友君 今そういうふうにおっしゃるんですけれども、有識者会議の提言の中では、スモールスタートで運用状況を見極めながら検討するというようなことであったり、検討会合の中でも、小さく産んで大きく育てるということが大事じゃないかと、こういうような発言もあるんですよね。いろいろ絞っていくと言うんですけれども、対象範囲が拡大していくおそれがあるということだと思うんです。
それで、秘密技術がデュアルユースに拡大するだけじゃなくて、保全指定がどのぐらいの期間になるかということも分からないわけですね。保全対象発明として指定をされると一年以内の保全指定が行われて、継続をする必要があるという場合は一年超えない範囲で期間延長できると、つまり一年更新で期間延長されるわけですよね。
この期間延長の上限は何年になっているでしょうか。084 小林鷹之
○国務大臣(小林鷹之君) お答え申し上げます。
この法案では、保全指定をした場合に、最大一年ごとに保全指定を継続する必要があるか否かの判断するとしております、これは条文七十条に書いてあるんですが。期間延長の回数につきましては、上限は設けておりません。
ただし、この法案の第七十七条第一項におきまして、保全指定を継続する必要がなくなった場合には内閣総理大臣は保全指定を解除することとなりますため、期間満了前に保全指定を解除することもあり得るところでございます。085 岩渕友
○岩渕友君 今答弁にあったように、上限は設けられてないんですね。
アメリカでも同じやり方が取られているということで、資料三を見ていただきたいんですけれども、日米防衛特許協定の例を見てみますと、一九八八年に出願をされた特許が秘密指定解除されたのは二〇〇八年というものもあるわけですね。二十年も秘密指定されていたということになります。日本でも、これ長期にわたって保全指定されたままということがあり得るということですよね。
それで、指定特許出願人、保全対象発明の内容を特許出願人から示された者その他当該保全対象発明について保全指定がされたことを知るものは、保全対象発明の内容を開示してはならないというふうになっています。
この開示というのは具体的にどういう行為のことなのか。例えば、学会で発表をするとか雑誌に掲載するとか、研究者同士で情報交換をするだとか、中小企業も含めて技術者と意見交換することなども含まれるのでしょうか。086 小林鷹之
○国務大臣(小林鷹之君) お答え申し上げます。
この法案の第七十四条第一項におきまして保全対象発明の開示を原則として禁止する規定がございますが、この開示という文言は、不特定多数の者への公開と特定の者への伝達、この双方を含む概念でございます。
したがいまして、委員御指摘の学会での発表もここで言う開示に含まれることで、含まれるという理解でよろしいかと思います。087 岩渕友
○岩渕友君 これ、開示をした場合に、二年以下の懲役若しくは百万円以下の罰金となるわけですよね。非常に重い罰、罪を科せられるということになるわけです。
今お話があったように、私が紹介したようなことも排除していない、も対象だということなので、最新の技術をやっぱり学んだりすることや研究者同士で情報交換したりすること、議論をする中で新しいアイデアが生まれたりイノベーションの創出につながるんだというふうに思うんですね。そういったものをやっぱり阻害する危険性があるということだと思うんです。
萩生田大臣に伺うんですが、秘密特許が学術や技術の体系全体にゆがみをもたらして、市民生活を公平で豊かなものとする本来のイノベーションを妨げるものになるのではないかと懸念があるわけです。この秘密特許の導入、やめるべきではないでしょうか。088 萩生田光一
○国務大臣(萩生田光一君) 小林大臣もこれまで答弁をしてまいりましたが、今般の特許出願の非公開制度は、公にすれば国家及び国民の安全を損なう事態を生じるおそれが大きい発明が記載された特許出願について、安全保障の観点から公開等の手続を留保する制度でございます。これにより機微な技術の拡散を防止することとしたものと承知しています。
当省としても、制度の設計や運用に当たっては、安全保障の要請と経済活動やイノベーションとの両立を十分に図ることが必要だと認識しています。こうした観点から国家安全保障局とも議論を行ってきたところであり、非公開とした場合に産業の発達に及ぼす影響が大きい技術分野を保全対象、保全審査の対象とする場合には、特にまさに絞りを掛けて、掛けることを法文上明記するなど、限定的に運用するものと承知しています。
したがって、直ちにイノベーションの阻害になるための制度導入をやめるべきという御指摘は当たらないと考えています。089 岩渕友
○岩渕友君 今日のやり取りの中では、その具体的な中身よく分からなかったわけですよね。特許法は、発明の保護及び利用を図ることによって、発明を奨励し、もって産業の発達に寄与するという目的持っています。産業の発達を阻害するおそれがあるこの秘密特許の導入はやめるべきだということを求めて、質問を終わります。
・4月26日参議院内閣委員会(議事録):
092 浜田昌良
○浜田昌良君 ありがとうございます。
ウクライナ情勢でも早期の対応が必要でございますし、この重要技術の研究開発支援についても、本当にしのぎを削っているという大臣の答弁もありましたように、早急の対応が必要でございますので、是非問題意識を共有していただきたいと思います。
続きまして、この四本柱の特許の非公開の問題についての議論をしたいと思っていますが。
今回の法案、百条ぐらいの条文があって、原案を見せていただいて、割と幅広い罰則が二つあったんですね。一つが、いわゆる四十八条にあった、いわゆる特定重要物資サプライチェーンの、これを指定するための報告、資料提出のところがあって、これについては既に議論させていただきました。当初は罰則があったんですが、やっぱり比例の原則であったり内外の法律の関係からこれについては罰則を削っていただいたと。
もう一か所これあるのが、第七十八条の外国出願の禁止なんですね。これが、直罰と言いまして、勧告とか公表とかなくてすぐに罰則が掛かっちゃうんですね、一年以下、五十万円以下の罰則が掛かるんですが、これが、そういう意味では対象がはっきりしていないと、直接罰ですから曖昧な運用はできないと思うんですが、この直接罰の範囲はどういう範囲の発明か、六十六条の条文に沿って政府参考人から御答弁いただきたいと思います。093 木村聡
○政府参考人(木村聡君) お答えさせていただきます。
御指摘ございました第七十八条第一項にございます「第六十六条第一項本文に規定する発明」とは、第六十六条第一項本文に規定してございます。条文に沿ってということですので、そのような形でお答えもさせていただきます。
六十六条の本文でございますが、公にすることにより外部から行われる行為によって国家及び国民の安全を損なう事態が生ずるおそれが大きい発明が含まれ得る技術の分野として国際特許分類又はこれに準じて細分化したものに従い政令で定めるものに属する発明、このうち、その発明が特定技術分野のうち保全指定をした場合に産業の発達に及ぼす影響が大きいと認められる技術の分野として政令で定めるものに属する場合にあっては、政令で定める要件に該当するものに限るというふうに規定をさせていただいているところでございます。
すなわち、保全審査の対象となります発明につきましては、原則としてまず我が国で出願をしてもらいまして、保全審査により保全指定の要否を判断すべきでありますことから、第一国出願義務の対象範囲は保全審査の対象範囲と同じという形にさせていただいているところでございます。
以上でございます。094 浜田昌良
○浜田昌良君 保全審査の対象と同じというのはいいと思うんですけど、これ、条文に政令が三回出てくるんですよね。その辺の規定ぶりがどうなるんだろうかと。それによってその罰則が、直罰に係る関係なんで、前回の委員会で最後に大臣にお聞きしまして、この国家及び国民の安全を損なう事態を生ずるおそれが大きい発明というのは安全保障上極めて機微な発明と同義ですよという御答弁をいただきました。
これについて、具体的発明事例に基づいて分かりやすく政府参考人に説明していただきたいと思います。また、その発明分野、今ございましたように、ストラスブール議定書の国際特許分類、いわゆるIPC分類ではどのようなレベル、細分類で表現されるのかも併せて答弁いただきたいと思います。095 木村聡
○政府参考人(木村聡君) お答え申し上げます。
政令で定めます技術分野の具体的な内容につきましては、法案上、まずは有識者の意見を聞いて定める基本方針におきまして、その基本的な事項を定めるというプロセスを経た上で決めることとさせていただいております。
したがいまして、現時点で個別の技術分野をお示しすることは難しいところでございますけれども、例えば、我が国に対して用いられれば深刻な被害が避けられない核技術や先進武器技術などの中から、それらに該当する国際特許分類、IPC分類を限定列挙することとなります。
どの程度の粒度で定めるかにつきましても、同様に、現時点で具体的にお示しすることは困難でございますけれども、例えば、国際特許分類のうち、F41という分類は武器を、F42という分類は弾薬、爆破を表す大きなカテゴリーでありますところ、こうした上位の階層だけで定めますと、対象範囲が広くなり過ぎ、およそ国家及び国民の安全に影響しないような技術分野が多数保全審査や第一国出願義務の対象に取り込まれてしまうということが懸念されます。
このため、実際にはF41やF42の下層に当たる国際特許分類の中から、安全保障上機微な技術が含まれ得るより詳細な分類を抽出し、対象を絞り込んでいく必要があると考えているところでございます。
以上でございます。096 浜田昌良
○浜田昌良君 IPCの特許分類のより詳細なところで限定列挙していただくという答弁がございましたので、それでしっかりと罰則の範囲が分かることを期待しているんですが、ちょっと例を挙げたいと思います。
二〇〇四年夏に、我が国の電力会社が中心となった研究組合がレーザーウラン濃縮技術について特許庁に特許申請をしていましたが、その技術が、韓国の原子力研究所が極秘にそれを使ったウラン濃縮をやっていたということが発覚をして、その日本の特許の文献であったり、それに基づいた機器が見付かったということが一部報道がありました。この事案についての概要をまず報告いただきたいと思います。097 木村聡
○政府参考人(木村聡君) お答え申し上げます。
報道ベースの情報ではございますけれども、IAEAの元事務次長が取材に対して明らかにしたことといたしまして、二〇〇四年にIAEAが他国の極秘ウラン濃縮実験施設を査察した際、日本で開発されたレーザー濃縮技術の特許に関する資料が発見されたということが二〇一五年に新聞で報じられているものと承知しているところでございます。
以上でございます。098 浜田昌良
○浜田昌良君 報道ベースによりますと、この研究組合は百八十七件の特許を出願していたそうでございます。
それでは、このレーザーウラン濃縮技術に関する発明は、先ほどのIPC分類又はこれに準ずる細分化したものに従えばどのように表現されるのか、お答えいただきたいと思います。099 木村聡
○政府参考人(木村聡君) お答え申し上げます。
レーザーウラン濃縮技術が特許出願された場合の対応でございますけれども、Bの処理装置及び運輸、そしてその下層のB01の物理的又は化学的方法又は装置一般、そして更に下層のB01Dの分離、更に下層のB01D59の同一化学元素の異なる同位体の分離に順次該当いたしまして、まとめて申し上げますと、B01D59/00と、こういう国際特許分類が付与されるものと考えられます。
以上でございます。100 浜田昌良
○浜田昌良君 順次、Bの処理というものから、一番細かいBの01Dの59の/00というもので特定されそうですが、これは、こういうことを政令で書けば、各発明者にとってこの技術はどれだということで、一目瞭然分かるもんなんですかね。101 木村聡
○政府参考人(木村聡君) お答え申し上げます。
特許出願人の方に明確に御理解していただけるように、私ども、国際特許分類に従った形で明確に政令で規定させていただきたい、このように考えているところでございます。
以上でございます。102 浜田昌良
○浜田昌良君 一応、弁理士の方、また特許庁の審査官に聞くと、これが正確に分からないと特許のいわゆる押さえ方なり事前調査の関係が幅広くなってしまうので、普通は分かるらしいんですね、私は全然分かりませんけれども。それを逆に認識しているということで、罰則の範囲が明確になるとおっしゃっていました。
ただ、この法律上は、とはいっても疑義が生じる場合があるので、七十九条で事前確認という制度を設けています。つまり、自分の発明がこの罰則の対象なのか、つまり保全対象なのかそうでないのかを確認できるという制度があるんですね。逆に言うと、この事前確認を行わなかったことによる第一国出願義務違反は過失責任を負うことがあるのかどうなのか、これについても答弁願います。103 木村聡
○政府参考人(木村聡君) お答え申し上げます。
事実確認を行わなかった、あっ、事前確認を行わなかったことによる過失責任を負わないのかという御趣旨の御質問だと存じます。
七十九条の事前確認制度は、外国出願をしようとする者は確認を求めることができるというふうに規定しておりますとおり、利用することを義務とはしていないところでございます。したがいまして、これを用いなかったことにより過失責任を問われるものではございませんし、外国出願禁止について過失犯処罰の規定もないところでございます。
ただし、特定技術分野に掲げられている国際特許分類に該当する可能性を認識しながら、確認することもなく禁止に抵触する外国出願をいたしますれば、一般原則といたしまして行為責任を問われる場合があり得るものと考えられます。
いずれにいたしましても、特定技術分野を政令で明確に規定し、特許出願人の方にとって予見可能なものにする必要があることは十分認識した上で対応していきたいと考えているところでございます。
以上でございます。104 浜田昌良
○浜田昌良君 過失責任は問われないという答弁でございました。
そういう意味でも、この外国出願の禁止の範囲の明確な規定が必要なわけですが、こういうものを事前確認をしようとすると、一応手数料が書いてあるんですね。一件当たり二万五千円以下と書いていますが、お金が掛かる制度なんですね。
逆に言うと、こういうものが規制対象かどうかというのを確認する制度は従来からありまして、産業競争力強化法の第七条の規定、つまりグレーゾーン解消制度ってあったわけですよ。これを今回は適用せずに、わざわざこの事前確認制度を設けたんですが、その趣旨は何なんでしょうか。105 木村聡
○政府参考人(木村聡君) お答え申し上げます。
本法案第七十九条の第七項で適用を除外しております産業競争力強化法第七条、いわゆるグレーゾーン解消制度は、実施しようとする個別の事業活動について法律上の規制の適用の有無の確認を国に求めることができるものとする制度であると、このように承知しているところでございます。
これに対しまして、本法案第七十九条は、外国出願をしようとする者が、当該外国出願が第七十八条第一項の禁止の対象となるか否かについて確認できることを定めているところでございます。
すなわち、この規定によりまして、産業競争力強化法第七条の権利はカバーされている上に、本制度の場合、外国出願禁止の対象となる発明に該当する場合であっても、内閣総理大臣が国家及び国民の安全に影響を及ぼすものでないことが明らかと認めた場合には禁止を解除するという、より相談者の保護に厚い制度となっているところでございます。
したがいまして、本制度によって十分カバーされる産業競争力強化法第七条をここで重ねて適用する必要はないものと考えたところでございます。
また、産業競争力強化法第七条を適用した場合には回答の内容を公表しなければならないということになっているわけでございますが、これは、本法案第七十八条第一項の外国出願禁止に係る確認にあっては、発明の内容をさらすことになりかねず、適切ではないと考えているところでございます。このために、本法案第七十九条第七項で産業競争力強化法第七条の適用を除外することとしたところでございます。
以上でございます。106 浜田昌良
○浜田昌良君 結論を言いますと、この産業競争力強化法の第七条の規定を使うと、回答そのものを公表しちゃうことになっちゃうんですね。そうすると、せっかくこの保全、特許の秘密、この特許の保全といいますか、出願の非公開をしようとしているのにそのことが無になってしまうということから、この制度に代えて今回の制度が設けられたと理解をいたしました。
いずれにしましても、とはいっても、この産業競争力強化法第七条のグレーゾーン解消制度は無料なんですが、今回は一件当たり二万五千円掛かるというので、やはり余り幅広くこの規制の対象を規定していくことは適当ではないと思うんですね、負担が掛かりますし。
とはいっても、やっぱり明確に書かないと、規制ですから、罰則は掛かるわけですから、そういう意味では、この直罰、一年以下、五十万円以下の対象となる国際出願の禁止の、外国出願の禁止の対象となる第六条の特定技術を定める政令の規定ぶりにつきましては、一つ目としては、発明者に疑義が生じない明確性、先ほど限定列挙とありましたIPC分類の、それが求められるとともに、第七十九条の事前確認は有料となることから、真に規制するべきものに限定して、発明者に事前確認の多大な負担を強いないものとすべきと考えますが、大臣の見解を聞いて、私の質問は終わりたいと思います。107 小林鷹之
○国務大臣(小林鷹之君) 特定技術分野につきましては、保全審査、そして第一国出願義務の対象となる発明の範囲を画するものでございます。この第一国出願義務との関係では、罰則が掛かる範囲を画するものでございますので、その政令を明確に定める必要があるのは当然だと考えています。
保全指定の対象は、最終的には産業の発達への影響も考慮して第二次審査において絞り込まれますけれども、その前段階にある第一次審査の対象となる特定技術分野を定めるに当たりましても、これが第一国出願義務の範囲を画するものになることを踏まえ、できる限り限定すべきであると考えています。
今委員から言及いただきました限定、IPC分類を限定列挙することも含めまして、可能な限り、この出願者、発明者の方に多大な負担を強いないような形で運用をしていきたいと考えております。
第453回で書いた様に、この法案で明確でないと思える部分の1つに外国出願禁止の範囲と事前確認の関係があるが、国会審議における政府答弁から以下の事は分かった。
- 第一国出願義務の対象範囲は、秘密指定のための保全審査の対象範囲と同じで、政令の特許分類によって決まる。
- 通常は外国出願について事前確認を行わなくても過失責任を問われる事はない。
- ただし、政令の特許分類に該当する可能性を認識しながら確認せずに外国出願した場合は別。
この対象範囲を決める非常に重要な政令はできる限り詳細に限定列挙するとも言っていたが、具体例は何一つ示されず、対象範囲が拡大される恐れが払拭される事はなかった。
日米協定による日本への秘密特許出願について、1988年以降の公開件数が99件であり、F41の武器が主分類になっているのは8件、F42の弾薬や爆破が主分類になっているのは1件でシングルユースの軍事技術は9件、多くがデュアルユース技術となっている事が明らかになったが、日本の新秘密特許制度でも同じ様に範囲が拡大されて行く事もあり得るのではないかと思える。
もう1つの大きな論点である秘密指定とその後の補償について、ほとんど新たに分かった事はないのだが、政府の想定は以下の様なものであるらしい。
- 特許出願人がまず保全対象発明の実施の許可申請をし、申請を受けた総理大臣が実施によって保全対象発明の漏えいリスクが高まる場合には不許可とし、その後、特許出願人は、許可申請時の事業計画を元に補償金額を請求し、請求を受けた内閣総理大臣が妥当な補償金額を決定する。
- 国内だけでなく、外国で特許を取得できたら得られたであろう利益についても相当因果関係が認められれば補償の対象となり得る。
しかし、損失の補償は実施の許可不許可だけによるものではない上、特許権の範囲が確定していない中で(そもそもこの制度では特許査定も拒絶査定も保留されるので特許出願の状態を確定する事ができない)、どの様に妥当な補償金額を決められるのか謎としか言い様がない。国会審議でも各国の法制について触れられる事もたまにあったが、第456回と第457回で取り上げた米英独仏の欧米主要国でも特許権の範囲の確定なしに補償を決める様な制度を取っている国はないのである。
上で書いた通り、重要な点ではあるが、外国出願禁止の範囲が全てに及ぶ事はなく、秘密指定の審査対象となる特許分類による指定範囲と同じであり、事前確認をしなかったからと言って過失責任を負わない事が明らかにされた事を除けば、そもそも立法事実も不明の儘なら、具体的な運用の詳細も明確にされない儘、経済安保法は成立してしまった。
それで違憲無効というつもりもないが、この様に政府だけで決められる政令で可罰範囲が大きく変わる法制というのは刑法の原則に照らして全く問題がないとは言えない様に私は思う。
そして、政令による秘密指定審査の対象範囲の中から、幾許かの出願が秘密指定を受けたとしても、その根拠も良く分からなければ、出願が特許になるかも決められず、特許権の範囲が確定する事もないので、妥当な補償金額の算定ができずに最後行き詰まるのではないだろうか。
この新制度の根本的欠陥は政省令によって解消され得るものではないだろうと私は考えているが、残念ながら、法律が成立した以上この新秘密特許制度が2年後までに施行される事はほぼ確実であり、次の問題は具体的な運用の詳細を規定する政省令の検討に移るのだろうとも思うので、まずはその政省令案をできる限り速やかに公開してもらいたいと思う。
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