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2022年6月19日 (日)

第462回:主要政党の2022年参院選公約案比較(知財政策・情報・表現規制関連)

 3年ぶりの参院選が6月22日公示、7月10日投開票と決まり、主要政党の公約案が出揃った。

 今回も、知財政策や情報・表現規制問題は選挙のトピックとなりそうもないが、以下、関連項目・部分を抜き出しておく。

<自民党>
○わが国の生存、独立、繁栄を経済面から確保するために、経済安全保障政策を推進します。「経済安全保障推進法」を着実に実施するとともに、新たな「国家安全保障戦略」に経済安全保障の観点を盛り込みます。

(総合政策集より)
○59コンテンツ戦略と海賊版対策
 コンテンツ分野は、デジタルエコノミーの発展を支える中間財として重要な役割を果たすことから、デジタル時代に適合したコンテンツ産業の進化・発展を促します。デジタルの強みを最大限生かしたコンテンツの流通に資するよう、著作権処理の円滑化に資するよう所要の制度改正や権利情報データベースの構築をはじめとしたIT基盤整備、デジタルアーカイブ社会の実現に向けた取組みを進めます。
 また、海賊版対策、コンテンツ制作に携わる人材育成、コンテンツ制作における取引の適正化や就業環境の改善に取り組みます。その際、ブロックチェーンやフィンガープリント等のデジタル時代の新たな技術を積極的に活用しながら、クリエイターに適切に対価が還元されるコンテンツの管理・流通の仕組み作りを進めます。そのために、メディアコンテンツ中期戦略を、関係者との対話を重ねつつ策定します。

○60「クールジャパン戦略」の推進
 海外の人々が良いと思う日本の魅力をマーケットインの考え方に基づき効果的に発信し、インバウンドや輸出の拡大等にもつながるクールジャパン戦略を強化・拡充します。
 新型コロナによる影響など、クールジャパンを取り巻く環境の変化を踏まえ、コロナの下での安全安心や自然、エコ、SDGsなどの価値観の変化への対応、農産品や日本産酒類など引き続き堅調な輸出の促進、本格的なインバウンド再開に向けた受入れ環境の高付加価値化、オンラインとリアルの体験とのハイブリッドな融合、日本を愛する外国人との積極的な連携、地方の魅力のデジタル実装を通じた世界発信など多様な手法によりコロナ後を見据えたクールジャパンの取組みを更に推進します。
 2025年大阪・関西万博を地域活性化につなげるべく、地域における機運醸成の取組や、万博と日本各地をつなぐ観光資源の磨き上げや文化創造に向けた支援を行います。海外においても、現地人材の活用等を通じて、在外公館やジャパン・ハウス等の発信・展開拠点を強化します。

○61「クールジャパン」関連コンテンツの振興
 コロナ禍の中で、飲食、観光、文化芸術、イベント・エンターテインメント、ナイトタイムエコノミーといったクールジャパン関連分野は引き続き大きな影響を受けています。中小企業・小規模事業者、フリーランスで働く人が多いという就業構造を踏まえつつ、事業継続の支援を行います。
 アニメ、マンガ、映画、ゲーム、放送など海外への発信力が高いコンテンツ産業は、クールジャパンの大きな推進力となっています。製作現場のデジタル化、書面契約の徹底や就業環境を含めた商慣行の改善、人材育成、資金調達の改善を進め、コンテンツ産業の振興と海外展開を図ります。Web3.0時台におけるブロックチェ―ン・NFT、メタバース等の新たな潮流は、世界で愛されるキャラクターや作品などの知的財産を多く有するわが国にとって大きなチャンスであり、Web3.0時代の新たなコンテンツビジネスの環境整備を進めていきます。
 併せて、東京国際映画祭などコンテンツの中心としての日本の魅力を高める取組みを進めます。また、国内への大型映像作品のロケ誘致は、作品を通じて日本の魅力を発信するだけにとどまらず、海外の映像製作のノウハウを日本のコンテンツ産業にもたらします。諸外国の制度も参考にしつつ、ロケ誘致の一層の推進を図ります。
 文化芸術の需要の裾野を拡大し、クリエイターに資金を循環する環境を整備するため、企業・地域によるアートの積極的な活用の促進を図ります。
 更に、錦鯉や盆栽、ロボット、伝統文化や衣食住の生活文化などの新たな人気の高まり、SDGsや環境といった世界的な価値観の変化も取り入れて、日本のブランドイメージを高めていきます。

○113持続的なイノベーション創出に向けた制度改革
 研究開発税制や寄附金税制をはじめとするイノベーション促進に向けた税制改革や、革新的な技術シーズの事業化のためのリスクマネー供給などの政策金融の改革、特許などの知的財産の迅速な保護及び円滑な利活用を促進するための知的財産制度の改革、イノベーションの隘路となっている規制や社会制度などの改革や新技術に関する優先的な政府調達の実現、大学等の研究成果の技術移転、中小企業などに対する産学官連携などを強力に推進します。

○415農業分野の知的財産の保護
「改正種苗法」のもと、種苗の海外流出を防止するとともに、「家畜改良増殖法」と「家畜遺伝資源法」のもと、わが国固有の財産である和牛を守ります。

○627経済安全保障推進法の着実な実施
 経済安全保障推進法の執行体制を早期に整備するため、速やかに内閣府に経済安全保障推進室(仮称)を立ち上げ、足下での施策の実施に必要な所要の体制整備を行うとともに、来年度以降の円滑な執行に向けた予算・定員の確保に万全を期します。
 法律の施行後、速やかに基本方針を策定し、サプライチェーン強靭化及び官民技術協力に関する施策については、先行して可能な限り早期に実施し、主要国の取組みも念頭に置いた支援を行います。基幹インフラ及び特許非公開に関する施策については、関係事業者等との調整など施行に向けた準備を早急に進め、段階的に実施します。

○649国益に即した経済外交の推進
 自由貿易の推進はわが国の通商政策の柱です。多角的貿易体制の強化・改善に向け、日米貿易協定、TPP11協定、地域的な包括的経済連携(RCEP)協定、日EU経済連携協定や日英包括的経済連携協定を着実に実施します。TPP11協定については、参加を希望する国・地域に対して協定の高いレベルや基本的価値を守りつつ、戦略的な観点や国民の理解も踏まえながら一層の拡大を目指します。
 こうした取組みを通じて、各国の利益に資する貿易・投資を更に拡大させ、公正なルールに基づく自由で開かれたインド太平洋地域の経済発展等を実現します。国益確保の観点から、WTO改革、デジタル分野での国際ルール作りを含め、自由で開かれた国際経済社会システムの強化に向け、経済外交を展開します。
 日本企業支援では、情報共有・法的支援体制の強化、輸入規制・風評被害対策等を着実に進め、中小企業を含む日本企業及び地方自治体の海外展開支援を強化します。

○705青少年の健全育成
 青少年健全育成のための社会環境の整備を強化するとともに「青少年健全育成基本法(仮称)」と、家庭をめぐる環境の変化に伴い、家庭教育支援が緊要の課題となっていることから、家庭教育支援に関する施策を総合的に推進するための「家庭教育支援法(仮称)」を制定します。またITの発達等による非行や犯罪から青少年を守るための各種施策を推進します。

○825デジタルトランスフォーメーション(DX)時代に対応した著作権制度・政策
 DXの推進は、文化芸術における創作・流通・利用にも大きな影響を与えており、DX時代における社会・市場の変化やテクノロジーの進展に柔軟に対応したコンテンツ創作の好循環を実現する必要があります。そのため、DX時代に対応した簡素で一元的な権利処理方策や、公的機関・企業等でのデジタル化に対応した基盤の整備等、コンテンツの利用円滑化とそれに伴う適切な対価の還元について取り組みます。また、著作権侵害に対する実効的な海賊版対策の実施、わが国の正規版コンテンツの海外における流通促進、デジタルプラットフォームサービスに係るいわゆるバリューギャップ等への対応、著作権制度・政策の普及啓発・教育方策を進め、コンテンツの権利保護を図ります。

○836ネット上の誹謗中傷等の対策推進
 SNS等のネット上の誹謗中傷やフェイクニュース等に対応するため、改正プロバイダ責任制限法の円滑な施行、刑法の侮辱罪の法定刑見直し、プラットフォーム事業者の積極対応の促進と取組みの透明性の確保、情報リテラシー・モラル教育の拡充、被害者の相談対応・苦情処理の充実強化、会社法の外国会社登記の徹底、捜査機関の体制強化など、表現の自由を最大限考慮しつつ総合的な対策を推進します。

<公明党>
○近年、日本を取り巻く経済安全保障の脅威が、厳しさを増す中で、わが国の先端技術や産業を守り抜き、新たな経済成長を実現するため、成立した経済安全保障推進法に盛り込まれた①重要物資の供給体制の強靱化②電力や通信など基幹インフラ設備の安全性等の確保③わが国の先端技術の開発支援の強化④特許の非公開による機微技術の流出防止――の4つの柱からなる諸施策を着実に実行し、規制による安全保障の確保と自由な経済活動との両立を図りつつ、推進します。また、ウクライナ情勢等の影響も考慮し、施行後も状況に応じた対応や検討を行い、必要な措置を講じていきます。

<日本維新の会>
(政策提言より)
○266. 表現の自由を最大限尊重し、マンガ・アニメ・ゲームなどの内容に行政が過度に干渉しないコンテンツ産業支援を目指します。MANGA ナショナルセンターの設置による作品アーカイブの促進、インバウンドを意識した文化発信やクリエイターの育成支援などを行います。

○346. 表現の自由に十分留意しつつ、民族・国籍を理由としたいわゆる「ヘイトスピーチ(日本・日本人が対象のものを含む)」を許さず、不当な差別のない社会の実現のため、実効的な拡散防止措置を講じます。

○347. SNS などにおける誹謗中傷問題につき、わが党が提案した「インターネット誹謗中傷対策推進法案」を成立させ、表現の自由に十分に配慮しつつ、中傷被害者の救済を迅速・確実に図るとともに、誹謗中傷表現の抑止のための国、自治体、事業者の責務を明確にした対策をすすめます。

<立憲民主党>
○インターネットやSNS条の差別や誹謗中傷、人権侵害等への対策を強化します。

○「共謀罪」については、監視社会をもたらす恐れがあることや、表現の自由、思想・良心の自由を侵害する恐れがあるため、廃止します。

(政策集より)
○国民の知る権利を守るため特定秘密保護法を見直し、国会や第三者機関の権限強化も含め行政に対する監視と検証を強化します。安保法制や共謀罪の違憲部分を廃止します。

○先端技術や知的財産権の保護・強化を図ります。

○個人の情報の権利利益の保護を図るため、個人情報保護法など国内関連法をEU一般データ保護規則(GDPR)など海外の法制度を基準に改正します。自己に関する情報の取り扱いについて自ら決定できる権利(自己情報コントロール権)、本人の意思に基づいて自己の個人データの移動を円滑に行う権利(データポータビリティ権)、個人データが個人の意図しない目的で利用される場合等に当該個人データの削除を求める権利(忘れられる権利)、本人の同意なしに個人データを自動的に分析又は予測されない権利(プロファイリングされない権利)を法律上、明確化します。

○インターネットやSNS上の差別や誹謗中傷への対策を強化します。

○メディアにおける性・暴力表現について、子ども、女性、高齢者、障がい者をはじめとする人の命と尊厳を守る見地から、人々の心理・行動に与える影響について調査を進めるとともに、情報通信等の技術の進展および普及のスピードに対応した対策を推進します。

○インターネットを利用した人権侵害を許さず、速やかに対応できるような法改正、窓口創設を実現します。

○刑法の名誉毀損罪の法定刑の上限は懲役3年となっていますが、現状の人権侵害の深刻な状況に鑑みて、上限の引き上げを検討します。

○不正アクセスによるインターネット上の人権侵害について、プロバイダが被害救済のための対応をとることを義務付けます。

○インターネットやSNS上の差別や誹謗中傷、人権侵害等への対策を強化するとともに、インターネットのターゲット広告等の規制など個人情報保護を強化します。

○インターネット上の誹謗中傷を含む、性別・部落・民族・障がい・国籍、あらゆる差別の解消を目指すとともに、差別を防止し差別に対応するための国内人権機関を設置します。

○インターネットやSNS上の差別や誹謗中傷、人権侵害等への対策を強化します。政府は侮辱罪を厳罰化しましたが、侮辱罪での現行犯逮捕を完全には否定しないなど、表現の自由が萎縮する懸念が残りました。相手の人格を攻撃する誹謗中傷行為を刑法の対象とするため、加害目的誹謗等罪を創設するとともに、プロバイダ責任制限法を改正し発信者情報の開示を幅広く認めることなどを柱とする「インターネット誹謗中傷対策法案」の成立を目指します。

○知的財産権に関する紛争処理機能を強化することで、特許紛争の早期解決を図り知財システムの実効性を担保するとともに、新産業やベンチャー企業の創出を支援します。

○2017年に強行採決された共謀罪については、監視社会をもたらす恐れがあることや、表現の自由、思想・良心の自由その他の日本国憲法の保障する国民の自由と権利を侵害する恐れがある一方、テロ対策としての実効性は認められないことから、廃止します。

○幅広い分野で、知的財産の保護、情報セキュリティ、企業統治などを強化するとともに、通信、デジタル、クリーンエネルギー技術、宇宙などの経済分野に係る国際的なルールの形成を主導し、日本の優位性を確立するための「経済安全保障戦略」を策定し、総合的な国力の増進を図ります。

○表現の自由を尊重し、二次創作分野などの発展を図る観点から、著作権法改正を含む検討を行います。

○著作権管理団体の権利者への権利料・使用料の分配については、若手や新人のアーティスト・演者・作家などに配慮し、文化の発展に資するという法の目的に沿うよう著作権管理事業法の改正を検討します。

○中小企業の知的財産権を活用した技術革新を促進するために、弁理士などを活用した取り組みに対する補助制度を創設します。

○特許や著作権など、知的財産を守り積極的に活用するため、国際的な知的財産戦略を推進します。また、日本の食文化やコンテンツを海外に積極的に展開し、ソフト分野でも稼ぎ、雇用を増やす産業構造をつくります。

<社民党>
○憲法違反の法律である安保法制(戦争法)、秘密保護法、共謀罪法、重要土地調査規制法を廃止します。
(略)

<共産党>
○7、女性とジェンダー
(略)
―――児童ポルノは「性の商品化」の中でも最悪のものです。児童ポルノ禁止法(1999年成立。2004年、2014年改正)における児童ポルノの定義を、「児童性虐待・性的搾取記録物」(*「記録物」とはマンガやアニメなどを含むものではありません)と改め、性虐待・性的搾取という重大な人権侵害から、あらゆる子どもを守ることを立法趣旨として明確にし、実効性を高めることを求めます。

日本は国連機関などから、極端に暴力的な子どもポルノを描いた漫画やアニメ、CG、ビデオ、オンライン・ゲーム等の「主要な制作国となっている」と批判されています。ジェンダー平等をすすめ、子どもと女性の人権を守る立場から、幅広い関係者で大いに議論をすすめることが重要だと考えます。「表現の自由」やプライバシー権を守りながら、子どもを性虐待・性的搾取の対象とすることを許さない社会にしていくことが必要であり、議論と合意をつくっていくための自主的な取り組みを促進していくことが求められています。そうした議論を起こしていくことは、「児童ポルノ規制」を名目にした法的規制の動きに抗して「表現の自由」を守り抜くためにも大切であると考えています。
(略)

○10、女性に対する暴力をなくす
(略)
リベンジポルノ、SNSでの誹謗中傷などオンライン暴力への対策を強化します
(略)
―――オンライン上の暴力について、通報と削除の仕組みを強化し、被害者のケアの体制をつくります。
(略)

○13、子ども・子育て
(略)
・子どもを性虐待・性的搾取からまもる

 18歳未満の子どもを被写体とする児童ポルノは、子どもの人権を侵害する性虐待・性的搾取であり、断じて容認できません。児童ポルノ事犯の被害児童数は、2016年以降、毎年1,000人を超えています(警察庁調べ)。児童ポルノの製造・提供・公開などについて、現行法に基づく厳正な対応が求められます。児童ポルノ禁止法における児童ポルノの定義を「児童性虐待・性的搾取記録物」と改め、重大な人権侵害からあらゆる子どもをまもることを立法趣旨として明確にし、実効性を高めることを求めます。
(略)

○58、学術、科学・技術
(略)
「安全保障技術研究推進制度」を廃止し、大学や公的研究機関の軍事利用をやめさせる―――大学や公的研究機関に対する軍事機関(防衛省や米軍など)からの資金提供や研究協力は、「学問の自由」を脅かすものであり、禁止すべきです。防衛省の「安全保障技術研究推進制度」を廃止し、偵察衛星など宇宙の軍事利用もやめさせます。大学や公的研究機関における研究開発は、非軍事・平和目的に限定し、その成果を暮らしと産業の発展のために広く活用します。軍事機密を理由にした研究成果の公開制限や秘密特許の導入に反対し、宇宙基本法や原子力基本法の「安全保障」条項を削除します。

「経済安全保障推進制度」は廃止し、知的財産権をめぐる問題は外交で解決する―――経済安全保障推進法は、科学技術の軍事研究化を推進し、学問の自由を侵害する恐れがあります。すでに補正予算で2,500億円が計上された経済安全保障重要技術育成プログラムの成果は、防衛省の判断で軍事技術として活用できます。プログラムの参加者に、罰則付きの守秘義務を課します。特許出願非公開制度は、民生技術を軍事技術に吸収し、戦争遂行に動員した戦前の秘密特許制度の復活です。特定技術分野の発明は外国出願禁止ですが、日米防衛特許協定を理由に米国に対してのみ除外しています。軍事特許を日米同盟に役立てる仕組みとなっています。

 中国の覇権主義や組織的なサイバー攻撃、知的財産権をめぐる問題などは、事実に基づき厳しく批判され、外交的に解決されなければなりません。しかし、「平和のとりで」(ユネスコ憲章)であるべき大学や国際交流があってこそ発展する研究までも仮想敵を持って対立に巻き込むことはあってはならないことです。「経済安全保障推進制度」は廃止します。
(略)

○60、文化
(略)
著作者の権利を守り発展させます

 著作権は、表現の自由を守りながら、著作物の創造や実演に携わる人々を守る法律として、文化の発展に役立ってきました。ところが、映画の著作物はすべて製作会社に権利が移転され、映画監督やスタッフに権利がありません。実演家も映像作品の二次利用への権利がありません。国際的には視聴覚的実演に関する北京条約(2012年)が締結され、日本も加入するなど、実演家の権利を認める流れや、映画監督の権利充実をはかろうという流れが強まっています。

―――著作権法を改正し、映画監督やスタッフ、実演家の権利を確立します。デジタル化、ネット配信など多様化する二次利用に対しては、著作者や実演家の不利益にならないよう対策を求めます。

―――私的録音録画補償金制度は、デジタル録音技術の普及にともない、一部の大企業が協力業務を放棄したことで、事実上機能停止してしまいました。作家・実演家の利益を守るために、私的複製に供される複製機器・機材を提供することによって利益を得ている事業者に応分の負担を求める、実効性のある補償制度の導入をめざします。

憲法を生かし、表現の自由を守ります

 芸術は自由であってこそ発展します。「表現の自由」は、多様な立場や価値観を持った人たちが生活する民主主義社会を支える上で欠くことのできない大切な人権です。憲法は「表現の自由」を保障していますが、自公政権のもとで、各地の美術館や図書館、公民館などの施設で、創作物の発表を正当な理由なく拒否することが相次いできました。また、2019年のあいちトリエンナーレでは、政治家の介入を受けて、文化庁が「安全性」を理由に助成金をいったん不交付にしたり、日本芸術文化振興会が映画「宮本から君へ」に対して「公益性」をもちだして助成金を打ち切ったりするなど、「表現の自由」への介入・侵害が相次いでいます。こうした権力からの介入は、自由な創造活動に「忖度」や「萎縮」効果をもたらすことにつながります。

 また、文化庁の助成は応募要綱などが行政の裁量で決められ、芸術団体などの意見が十分反映されていません。諸外国では、表現の自由を守るという配慮から、財政的な責任は国が持ちつつ、専門家が中心となった独立した機関が助成を行っています。

 日本共産党は、文化芸術基本法や憲法の基本的人権の条項を守り生かして、表現の自由を侵す動きに反対します。

―――「アームズ・レングス原則」(お金は出しても口は出さない)にもとづいた助成制度を確立し、萎縮や忖度のない自由な創造活動の環境をつくります。

―――すべての助成を専門家による審査・採択にゆだねるよう改善します。

――公共施設などでの創作物の発表、展示への脅迫・妨害行為に毅然とした対応を求め、「表現の自由」を保障します。

―――「児童ポルノ規制」を名目にしたマンガ・アニメ・ゲームなどへの法的規制の動きに反対します。青少年のゲーム・ネットの利用について、一律の使用時間制限などの法規制に反対します。

○64、共謀罪廃止・盗聴法拡大・刑訴法「改正」問題
もの言う市民を監視し萎縮させる憲法違反の共謀罪は廃止を――特定秘密保護法、戦争法と一体に廃止を求めます
(略)

 ざっと抜き出してみたが、2019年の参院選の時や去年の衆院選の時の公約(第410回第446回参照)と比べてそれほど変化があるわけではない。

 知財に関しては与党の公約はいつもの様にほぼ政府の知財計画の焼き直しであるし、立憲民主党が引き続き、「表現の自由を尊重し、二次創作分野などの発展を図る観点から、著作権法改正を含む検討を行」うと書いている点はポイントが高いが、今の所、立憲民主党でこの議論が深められている様子は余りない。

 そして、今回の選挙でも争点化される事はないだろうが、前回衆院選の公約でかなりの波紋を呼んだ所為か、共産党は「女性とジェンダー」中の児童ポルノに関する記載をかなり表現の自由に配慮したものに改めている。

 去年の衆院選の際の公約案比較の時に書いた通りだが、情報・表現規制問題については、引き続き、インターネットにおける誹謗中傷対策などが中心になるだろうと、また、国際的な視点によるデータに関する権利の検討も注意が必要と思える。

(2022年6月22日の追記:内容に違いはないが、今日、公示日に公開されたものが各党の正式な公約なのでもう一度以下にリンク集を作り直しておく。また上で一箇所誤記があったので合わせて修正した(「週」→「集」)。

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2022年6月12日 (日)

第461回:今国会で成立した経済安保法による新秘密特許(特許非公開)制度に関する補足

 今国会でほとんど出来レースの様な審議により経済安保法(正式名称は「経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関する法律」)が成立し、この法律により2年以内に新しい秘密特許(特許非公開)制度が実施される事になった。(衆議院の議案ページ、内閣官房の法律案ページ参照。)

 まず、衆議院内閣委員会の附帯決議から、秘密特許制度に関する部分を以下に抜粋する。

 政府は、本法の施行に当たっては、次の事項に留意し、その運用等について遺漏なきを期すべきである。

(略)

二 特定重要物資を指定する政令及び安定供給確保支援法人の指定に関する主務省令並びに特定社会基盤事業者の指定基準を定める主務省令は、関係事業者、関係事業者の団体その他の関係者の意見を考慮して制定するとともに、特定技術分野を定める政令は、安全保障の確保に関する経済施策、産業技術その他特許出願の非公開に関し知見を有する者の意見を考慮して制定すること。

三 特定重要物資、特定社会基盤事業者及び指定基金の指定並びに特定技術分野の選定は、客観的かつ公平に行うこと。

(略)

十 保全対象発明の選定に当たっては、産業への影響を考慮して対象をできる限り限定的なものとすること。その際、デュアルユース技術については、国費による委託事業の成果である技術や、防衛等の用途で開発された技術、あるいは出願人自身が了解している場合などを念頭に、支障が少ないケースに限定すること。

十一 特許出願の非公開制度の運用に当たっては、特許出願人が手続を円滑に行うことができるよう配慮すること。

十二 本法第八十条に基づく損失の補償に当たっては、特許出願人が過度な不利益を被ることのないよう十分配慮すること。

(略)

 参議院内閣委員会の附帯決議(pdf)からも以下に抜粋する。

 政府は、本法の施行に当たり、次の諸点について適切な措置を講ずるべきである。

(略)

十二 保全対象発明の選定に当たっては、産業への影響を考慮して対象をできる限り限定的なものとすること。その際、デュアルユース技術については、国費による委託事業の成果である技術や、防衛等の用途で開発された技術、あるいは出願人自身が了解している場合などを念頭に、支障がないケースに限定すること。

十三 特許出願の非公開に関する制度の運用は、イノベーションの意欲を削ぐことのないよう関係者の意見を聴いて、慎重に行うこと。

十四 特許出願の非公開に関する制度の運用に当たっては、特許出願人が手続を円滑に行うことができるよう配慮すること。

十五 保全審査を行う機関について、関係省庁及び外部の専門家の知見が十分に活用できるような仕組みを構築するとともに、保全審査に携わる職員の専門性の向上に配意すること。

十六 本法第八十条の規定に基づく損失の補償に当たっては、特許出願人が過度な不利益を被ることのないよう十分配慮すること。

(略)

 これらの附帯決議は、政府有識者会議の時から言われていた事を理念的に繰り返しただけで、具体的にどうするかという点で参考になる事は含まれていない。(政府有識者会議とその提言については第452回参照。)

 衆議院と参議院のそれぞれの内閣委員会(経済産業委員会との合同審査会含む)でも新秘密特許制度の具体的な運用について明らかにされた事は少ないが、その中でも比較的重要だったと思えるのは以下の質疑である。

・3月23日衆議院内閣委員会(議事録):

226 櫻井周
○櫻井委員 あと、ほかにもちょっといろいろな、これは現時点で塞ぎようのない穴かもしれませんけれども、例えば特許出願の中では、新規性の喪失の例外ということで、既に公開したものを特許出願することもできる。しかし、それがもし保全指定を受けるような内容のものだったらどうなるんだろうとか、そういうものを後で非公開にしても意味がないよなとか、ちょっといろいろな課題があるのではなかろうかというふうには思います。
 ただ、そうした事例は、まあ、そんなにたくさんあるわけじゃないよということかもしれませんので、ちょっと次に行かせていただいて、七十八条一項、それから八十条に関連する質問をさせていただきます。
 七十条の保全指定を受けると外国出願が事実上できなくなる、そうしますと、外国で特許を取得できれば得られたであろう利益について補償していただけるのかどうか、この点、端的にお願いします。

227 木村聡
○木村政府参考人 お答え申し上げます。
 特許出願の非公開制度の損失補償につきましては、第八十条の規定によりまして、保全指定を受けたことにより損失を受けた者に対して、通常生ずべき損失を補償することとさせていただいているところでございます。
 このため、国内での損失に限らず、外国で特許権を取得できれば得られたであろう利益につきましても、損失の発生及び保全指定により外国出願が禁止されたことと損失の相当因果関係が仮に認められるのであれば、補償の対象になり得るものと考えているところでございます。
 以上でございます。

228 櫻井周
○櫻井委員 対象になり得るということなんですが、相当関係があるとかといういろいろな限定がついちゃって、立証するのが大変で結果的に補償を受けられないとかになっちゃうと、これはまた出願人にとって相当不利益になってしまいますし、外国で特許ということになると幅が随分出てきそうなので、なかなかこれはまた難しい課題が残っているということを指摘をさせていただきます。
 それから、もう一つ七十八条一項関連で質問ささせていただきます。
 有識者の提言の五十三ページには、外国で出願をするには国内出願後おおむね六か月程度で明細書の翻訳等を発注しなければならないことから、その時点で二次審査、保全審査のことですけれども、の結論が出ていない場合、最終的に保全措置の対象となれば、外国出願が実現せず費用のロスを生じることとなる、こういう指摘があります。
 この費用のロスは、そんな十か月も待っていられないよということで外国出願の準備をして翻訳代とかいろいろかかったこの費用のロスは、補償対象になるんでしょうか。

229 木村聡
○木村政府参考人 お答え申し上げます。
 御指摘のありました費用のロスについてでございます。
 ケース・バイ・ケースになりますので、確たる御答弁を差し上げるというのは困難でございますけれども、仮に通常生ずべき損失として認められる場合には補償の対象となり得ますが、有識者会議でも御提言いただいておりますとおり、こうしたロスを少なくするためにも手続の迅速化に努めていくということが必要であると考えてございます。
 以上でございます。

230 櫻井周
○櫻井委員 いや、これはやはりちゃんと補償してもらいたいなと。
 領収書等、この部分についてははっきりロスの金額は分かるわけですから、是非お願いしたいなというふうに思いますとともに、今おっしゃられたとおり、迅速に保全審査をやりますということなんですが、ただ、特許出願、今は大分解消されておりますが、渋滞していて、審査請求してから二年間ずっとほったらかしみたいなことも過去にはあったわけですよね。今回は、何件対象になるか分からない、またここで渋滞しちゃったら十か月ぎりぎりになっちゃうかもしれない、そういう心配もあるものですから、確認をさせていただきました。
 それから次に、七十九条一項で事前確認というのがございます。
 外国出願をしようとする場合にこの事前確認ができるということなんですが、これは必ず外国出願をしなければいけないのか、また、出願済みの国内出願について事前確認することができるのかどうなのか、これも教えてください。

231 木村聡
○木村政府参考人 お答え申し上げます。
 法案第七十九条の事前確認は、外国出願をしようとする者が確認を求めることができるということを規定させていただいております。
 一方で、事前確認制度におきましては、外国出願の禁止に該当しない場合であっても外国出願をすることを義務づけるということまでは規定しておりません。
 以上でございます。

232 櫻井周
○櫻井委員 それから、この七十九条一項で、弁理士は外国出願をしようとする者の代理をすることはできるんでしょうか。

233 木村聡
○木村政府参考人 お答え申し上げます。
 第七十九条の事前確認制度における確認の求めは、特許に関する特許庁における手続でございます。弁理士は当該手続の代理をすることが可能であると考えているところでございます。
 以上でございます。

234 櫻井周
○櫻井委員 それから、八十条三項で、損失補償の金額の算定なんですが、特許権の侵害訴訟でも損害額の算出をするのは結構難しいわけなんですけれども、今回の場合は、特許になるかどうかも分からない発明について損失を算出するということになりますから、更に難しいということになります。
 これはどうやって計算するのか、また、申請の時期、いつまでに申請してくださいとかいうこともあるのかどうなのか、この点についても教えてください。

235 小林鷹之
○小林国務大臣 お答え申し上げます。
 補償が生じる典型的なケースといたしましては、発明の実施許可を与えず、製品の製造あるいは販売などができなくなるケースが想定されるところであります。
 この場合、特許出願人は、まず、保全対象発明の実施を行うため、実施に関する事業計画などを提示をし、保全対象発明の実施の許可申請をすることとなります。
 また、許可申請を受けた総理大臣は、特許出願人から計画の詳細を聞いて、実施によって保全対象発明の漏えいリスクが高まる場合には不許可とすることとなります。
 ここで保全対象発明の実施が不許可とされれば、その後、特許出願人は、許可申請時の計画を基に補償金額を算出をして、自己の受けた損失の補償を請求することが想定されます。
 このとき、請求を受けた側の内閣総理大臣は、特許出願人から説明を聞くほか、専門家の意見も聞きながら妥当な補償金額を決定する、そういうプロセスとなっております。

・3月25日衆議院内閣委員会(議事録):

169 櫻井周
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○櫻井委員 立憲民主党の櫻井周です。
 おとといの質疑に続いて、前回通告したものの中からまだ質問できていなかったところもございますし、また、いただいた御答弁の中でちょっと疑問点や不明確なところもあったものですから、そういったところを質問させていただきます。
 まず、特許出願の審査について、つまり六十六条七項について。
 おとといの質疑で、最終的な査定の手前まで審査を進めることが出願人の保護に資するという観点から、出願公開及び最終的な特許査定又は拒絶査定の手続のみを保留し、それ以外の手続は終える、こういう御答弁をいただいております。直前のところまでいくということなんですが、査定の手前まで審査を進めるのなら、特許査定又は拒絶査定をすればいいのではなかろうかと考えるんですが、大臣の御見解をお伺いしたいと思います。
 この質問の背景なんですが、つまり、今回の法案はアメリカの制度を参考にして作られているようにお見受けしますが、例えばドイツでは、保全指定されても特許査定を受けることができるような作りになっております。ドイツのような制度の方が特許出願人の保護に資するのではないのか、こんなふうにも考えます。
 具体的に条文に即して申し上げますと、今回の法案の六十六条七項で特許法四十九条と五十一条を適用除外にしていますが、そうではなくて、六十六条を適用除外にする。六十六条は特許権の設定の登録です。こうすることによって、実施については七十三条で制限されておりますので、この辺は変わりはございません。また、特許法百九十三条の特許公報については特許権が設定登録されなければ発行されませんので、この点も問題はないというふうに考えます。
 ということで、大臣、いかがでしょうか。

170 小林鷹之
○小林国務大臣 お答え申し上げます。
 特許出願人の中には、保全指定中に特許査定の直前まで手続を進め、特許査定の見通しを立てるとともに、指定解除後直ちに特許を受けられる状態にしておきたいと考える方もあり得ると考えます。そのことは、実は有識者会議の提言でも指摘をされているところでございます。
 こうした出願人の要請に応えるため、出願人が実体審査を請求した場合には、これに応じて出願書類の補正のやり取りを行うなど、最終的な査定の手前まで審査を進める道を残し、出願の公開、そして最終的な特許査定又は拒絶査定の手続を留保する制度としたところでございます。

171 櫻井周
○櫻井委員 質問に答えていないんです。そこまでは前回の答弁だったんですよ。その先を聞いているんですよ。
 だから、査定直前までやるんだったら、もう特許査定したらいいじゃないですか、こういう提案を申し上げているんですよ。いかがですか、大臣。

172 木村聡
○木村政府参考人 お答え申し上げます。
 今回の制度でございますけれども、有識者会議の方で様々な御議論を賜ったところでございますが、特許の公開の手続、あと、先ほど大臣からも申し上げましたけれども、最終的な特許査定又は拒絶査定の手続を留保するという、アメリカ型といいますか、そういう手続を採用するということについて御提言をいただきましたので、それに沿った形で制度設計をさせていただいたということでございます。
 以上でございます。

173 櫻井周
○櫻井委員 いや、だから、その先、もう一歩進めたらどうですか。そんな、すんでのところで止めてじらしたりしなくてもいいじゃないですか。その方が出願人の保護につながるんじゃないですかというふうに聞いているんですが、一向にお答えいただけないですよね。
 ちょっと、法案の中身、ちゃんと御理解いただいているんですかね。もう一回答弁をお願いします。

174 木村聡
○木村政府参考人 お答え申し上げます。
 重ねての答弁になりますけれども、有識者会議の提言によりまして、出願の公開と最終的な特許査定又は拒絶査定の手続を留保するということで、特許の査定までは行わない制度とするという御提言に沿って制度設計をさせていただいたということでございます。

175 櫻井周
○櫻井委員 何でこんなことをねちねちと質問させていただいているかと申しますと、これは今日午前中の質疑でも河西委員から質問があって、損失の補償の公平性ということで、ここは担保されないといけませんよね、こういう質問がありました。
 おとといの質疑では、出願人は保全対象発明の実施を行うため、実施に関する実施計画などを提示し、不許可の場合には自己の受けた損失の補償を請求することができる、こういうことで、実施についての補償については御答弁いただいているんですよ。
 でも、河西委員が御指摘されたように、大企業だったら実施設備をいっぱい持っているから、製造設備を持っている、販売網も持っている、だから、いっぱい販売できたはずだから損失も大きいでしょうというふうに言えるわけなんだけれども、中小企業の場合はそうではなくなる、そこに不公平感が出るんじゃないですか、こういう指摘もあったわけですよ。
 ですから、中小企業の場合だったら、むしろライセンス料とかで、もしかしたら稼げる可能性があったかもしれない。でも、特許査定を受けていなかったら、ライセンス料の設定とかできないですよね。ですから、このライセンス料相当分についての損失補償を算出するためにも、やはり特許査定までいった方が出願人の保護につながるんじゃないですか。先ほど、条文の提案を申し上げましたけれども、そうしたところでは問題は起きないじゃないですか、こういう提案をさせていただいているんですが、いかがですか。

176 木村聡
○木村政府参考人 お答え申し上げます。
 中小企業の場合でありましても、実施についての許可を受けていただけないということになりますれば、中小企業の方からの請求に基づいて、しかるべき中身を精査させていただいた上で国として補償させていただく、こういうことでございます。
 以上でございます。

177 櫻井周
○櫻井委員 いや、質問に全く答えていただけていないですよ。
 実施については、この間、おととい答弁いただいた、でも、ライセンス料についてはどうなんですか、こういうふうに質問しているんですよ。ライセンス料については御答弁いただいていないですし、また、特許査定を受けていないんだったら、本来だったら特許査定を受けられるはず、しかも、すんでのところまでいって、特許査定を受けられるんだなと心証を持っている、そういう答弁をいただきましたよね。
 ですけれども、特許査定がなかったら、どうやってライセンス料に相当する損失補償を受けられるのか、こういう課題が残っているじゃないか。特に製造設備を余りたくさん持っていない中小企業の場合、特に大きな不公平感につながるのではなかろうかということなので質問をさせていただいているんです。
 再度の答弁をお願いします。

178 木村聡
○木村政府参考人 お答え申し上げます。
 重ねての答弁になって恐縮でございますけれども、中小企業の場合、工場等が小さくなるという御指摘ございましたが、そういった点につきましても、実施の許可申請について不許可になりますれば、きちんとした形で請求していただくことにより、中身を精査した上で、不許可になった場合の補償をさせていただく、こういうことでございます。
 以上でございます。

・4月26日参議院内閣委員会・経済産業委員会連合審査会(議事録):

077 岩渕友
○岩渕友君 資料一をもう一度見ていただきたいんですけれども、下のところに、日米防衛特許協定の第三条に線を引いています。ここにあるように、防衛目的のための技術が対象となるんですね。秘密指定解除後に公開をされた出願見てみますと、出願人がどういう企業かというと、ロッキード・マーチンだとかレイセオン・カンパニーなど軍事企業が名前を連ねています。今、小林大臣が答弁されたように、双務的ということなので、これからは日本からアメリカなどに秘密指定できるということになります。
 日米防衛特許協定の実績がどうなっているのかということを見ていきたいんですね。
 一九八八年以降、秘密指定解除によって公表された件数は九十九件なんです。資料二を見ていただきたいんですが、これは国際特許分類に基づいて集計をしたものです。石灰であるとかセメント、そして炭素などが一番多くなっているんですけれども、この日米防衛特許協定について、公表された九十九件のうち分類F40番台は何件あるでしょうか。

078 清水幹治
○政府参考人(清水幹治君) お答えいたします。
 委員御指摘の、日米協定に基づきアメリカにおいて秘密保持が解除され日本において公開された特許出願九十九件のうち、国際特許分類がF40番台の出願については、F41、武器が主分類として付与されている出願が八件、F42、弾薬、爆破が主分類として付与されている出願が一件であり、合わせて九件となっております。

079 岩渕友
○岩渕友君 資料二の右上の部分に今答弁いただいたことがまとめてあるんです。
 国際特許分類では、F41が砲ということなので例として大砲なんかが挙げられていると、で、F42が弾薬などの武器だということで、九十九件のうち九件ということですから、純粋な軍事技術は一割にも満たないということなんですね。九割以上が軍民両用技術、いわゆるデュアルユース技術だということなんです。だから、防衛目的だと言いながら、デュアルユース部分が大半だということなんですね。
 有識者会議の提言では、非公開の対象となる発明のイメージということで、核兵器技術及び武器のみに用いられるシングルユース技術のうち我が国の安全保障上極めて機微な発明を基本として選定すべきとしつつ、他方、デュアルユース技術について、これらの技術を広く対象とした場合、産業界の経済活動や当該技術の研究開発を阻害しかねないおそれがあるとして、デュアルユース技術を対象とする場合には、技術分野を絞るとともに、支障がないケースに限定するべきだとしています。
 参議院の参考人質疑で、経団連の常務理事の原一郎参考人が、民間開発の技術が軍事に転用され得るとなると企業が意図しない形で軍事に使われる、デュアルユースは全てだと言われるとビジネスは成り立たない、機微技術が何かを示してほしいと、こういうふうに述べています。
 このデュアルユース技術のうち保全指定される機微技術の判断基準について、大臣、お答えください。

080 小林鷹之
○国務大臣(小林鷹之君) お答え申し上げます。
 まず前提として、米国には、米国との関係なんですけど、米国には以前から特許出願を非公開とする制度がございますが、この法案が創設する我が国の非公開制度とは要件も手続も異なっているんです。したがって、その米国の制度でその秘密保持命令の対象とされる発明と同等の発明が我が国の制度においても必ず保全指定の対象となるというわけではないことは冒頭申し上げたいと思います。
 その上で、今委員からお尋ねのありました保全指定の判断基準についてでございますけれども、この特許出願の非公開制度は、安全保障上機微な発明でございましても特許出願されると一律に公開されてしまうというこの問題に対処をして、機微技術の拡散を防ぐことを目的とするものでございます。一方で、民生分野で幅広く活用されて発展していくことが期待される技術を非公開の対象とすると、我が国の経済活動やイノベーションを抑制して、逆にその先端技術の誕生や発展を阻害することになりかねない、そう考えています。
 したがって、この法案では、保全指定の対象となる発明を、まず公にすることによって外部から行われる行為により国家国民の安全を損なう事態を生ずるおそれの程度、そして発明を非公開とした場合に産業の発達に及ぼす影響などの事情、こうした点の総合考慮によって判断することを条文上明記しているところでございます。

081 岩渕友
○岩渕友君 判断基準の、その具体的にどうなるのかというのが余りよく分からないわけですよね。
 その技術分野絞ると言うんですけれども、この日米防衛特許協定を見ても民生技術に拡大をしてきたのが実態だと。で、結局、対象範囲を拡大していくことになるんじゃないかと思うんですけど、いかがでしょうか。

082 小林鷹之
○国務大臣(小林鷹之君) お答え申し上げます。
 この、今委員御指摘のその保全審査の対象となる技術分野についてですけれども、これも有識者会議の提言で言及されているんですが、先端技術が日進月歩で変わるものであることに鑑み、変化に応じて機動的に定める枠組みとする、そう言及されていて、その必要がございますため、政令で定めることとしております。
 すなわち、この法案上、公にすることにより外部から行われる行為によって国家国民の安全を損なう事態を生ずるおそれが大きい発明が含まれ得る技術の分野を国際特許分類によって定めることを明記しております。これによって、この保全審査の対象となる発明は、公になれば我が国の安全保障が著しく損なわれるおそれがある発明が含まれ得る技術分野の発明に限定されています。さらに、その範囲内で定められる特定技術分野の中で保全指定をした場合に今申し上げた産業の発達に及ぼす影響が大きいと認められるものにあっては、更なる絞りを掛けることもこれ法文上明記しているんです。
 なお、こうして政令で定めるその技術の分野に関する基本的な事項につきましては基本指針の中で定めることとしておりまして、この基本指針というのは有識者の方々の意見を幅広く聞いて定めることとしています。
 したがって、今委員が御懸念されておりますが、対象技術分野が例えば無制約に広がっていくような、そういう御懸念は及ばないと考えております。

083 岩渕友
○岩渕友君 今そういうふうにおっしゃるんですけれども、有識者会議の提言の中では、スモールスタートで運用状況を見極めながら検討するというようなことであったり、検討会合の中でも、小さく産んで大きく育てるということが大事じゃないかと、こういうような発言もあるんですよね。いろいろ絞っていくと言うんですけれども、対象範囲が拡大していくおそれがあるということだと思うんです。
 それで、秘密技術がデュアルユースに拡大するだけじゃなくて、保全指定がどのぐらいの期間になるかということも分からないわけですね。保全対象発明として指定をされると一年以内の保全指定が行われて、継続をする必要があるという場合は一年超えない範囲で期間延長できると、つまり一年更新で期間延長されるわけですよね。
 この期間延長の上限は何年になっているでしょうか。

084 小林鷹之
○国務大臣(小林鷹之君) お答え申し上げます。
 この法案では、保全指定をした場合に、最大一年ごとに保全指定を継続する必要があるか否かの判断するとしております、これは条文七十条に書いてあるんですが。期間延長の回数につきましては、上限は設けておりません。
 ただし、この法案の第七十七条第一項におきまして、保全指定を継続する必要がなくなった場合には内閣総理大臣は保全指定を解除することとなりますため、期間満了前に保全指定を解除することもあり得るところでございます。

085 岩渕友
○岩渕友君 今答弁にあったように、上限は設けられてないんですね。
 アメリカでも同じやり方が取られているということで、資料三を見ていただきたいんですけれども、日米防衛特許協定の例を見てみますと、一九八八年に出願をされた特許が秘密指定解除されたのは二〇〇八年というものもあるわけですね。二十年も秘密指定されていたということになります。日本でも、これ長期にわたって保全指定されたままということがあり得るということですよね。
 それで、指定特許出願人、保全対象発明の内容を特許出願人から示された者その他当該保全対象発明について保全指定がされたことを知るものは、保全対象発明の内容を開示してはならないというふうになっています。
 この開示というのは具体的にどういう行為のことなのか。例えば、学会で発表をするとか雑誌に掲載するとか、研究者同士で情報交換をするだとか、中小企業も含めて技術者と意見交換することなども含まれるのでしょうか。

086 小林鷹之
○国務大臣(小林鷹之君) お答え申し上げます。
 この法案の第七十四条第一項におきまして保全対象発明の開示を原則として禁止する規定がございますが、この開示という文言は、不特定多数の者への公開と特定の者への伝達、この双方を含む概念でございます。
 したがいまして、委員御指摘の学会での発表もここで言う開示に含まれることで、含まれるという理解でよろしいかと思います。

087 岩渕友
○岩渕友君 これ、開示をした場合に、二年以下の懲役若しくは百万円以下の罰金となるわけですよね。非常に重い罰、罪を科せられるということになるわけです。
 今お話があったように、私が紹介したようなことも排除していない、も対象だということなので、最新の技術をやっぱり学んだりすることや研究者同士で情報交換したりすること、議論をする中で新しいアイデアが生まれたりイノベーションの創出につながるんだというふうに思うんですね。そういったものをやっぱり阻害する危険性があるということだと思うんです。
 萩生田大臣に伺うんですが、秘密特許が学術や技術の体系全体にゆがみをもたらして、市民生活を公平で豊かなものとする本来のイノベーションを妨げるものになるのではないかと懸念があるわけです。この秘密特許の導入、やめるべきではないでしょうか。

088 萩生田光一
○国務大臣(萩生田光一君) 小林大臣もこれまで答弁をしてまいりましたが、今般の特許出願の非公開制度は、公にすれば国家及び国民の安全を損なう事態を生じるおそれが大きい発明が記載された特許出願について、安全保障の観点から公開等の手続を留保する制度でございます。これにより機微な技術の拡散を防止することとしたものと承知しています。
 当省としても、制度の設計や運用に当たっては、安全保障の要請と経済活動やイノベーションとの両立を十分に図ることが必要だと認識しています。こうした観点から国家安全保障局とも議論を行ってきたところであり、非公開とした場合に産業の発達に及ぼす影響が大きい技術分野を保全対象、保全審査の対象とする場合には、特にまさに絞りを掛けて、掛けることを法文上明記するなど、限定的に運用するものと承知しています。
 したがって、直ちにイノベーションの阻害になるための制度導入をやめるべきという御指摘は当たらないと考えています。

089 岩渕友
○岩渕友君 今日のやり取りの中では、その具体的な中身よく分からなかったわけですよね。特許法は、発明の保護及び利用を図ることによって、発明を奨励し、もって産業の発達に寄与するという目的持っています。産業の発達を阻害するおそれがあるこの秘密特許の導入はやめるべきだということを求めて、質問を終わります。

・4月26日参議院内閣委員会(議事録):

092 浜田昌良
○浜田昌良君 ありがとうございます。
 ウクライナ情勢でも早期の対応が必要でございますし、この重要技術の研究開発支援についても、本当にしのぎを削っているという大臣の答弁もありましたように、早急の対応が必要でございますので、是非問題意識を共有していただきたいと思います。
 続きまして、この四本柱の特許の非公開の問題についての議論をしたいと思っていますが。
 今回の法案、百条ぐらいの条文があって、原案を見せていただいて、割と幅広い罰則が二つあったんですね。一つが、いわゆる四十八条にあった、いわゆる特定重要物資サプライチェーンの、これを指定するための報告、資料提出のところがあって、これについては既に議論させていただきました。当初は罰則があったんですが、やっぱり比例の原則であったり内外の法律の関係からこれについては罰則を削っていただいたと。
 もう一か所これあるのが、第七十八条の外国出願の禁止なんですね。これが、直罰と言いまして、勧告とか公表とかなくてすぐに罰則が掛かっちゃうんですね、一年以下、五十万円以下の罰則が掛かるんですが、これが、そういう意味では対象がはっきりしていないと、直接罰ですから曖昧な運用はできないと思うんですが、この直接罰の範囲はどういう範囲の発明か、六十六条の条文に沿って政府参考人から御答弁いただきたいと思います。

093 木村聡
○政府参考人(木村聡君) お答えさせていただきます。
 御指摘ございました第七十八条第一項にございます「第六十六条第一項本文に規定する発明」とは、第六十六条第一項本文に規定してございます。条文に沿ってということですので、そのような形でお答えもさせていただきます。
 六十六条の本文でございますが、公にすることにより外部から行われる行為によって国家及び国民の安全を損なう事態が生ずるおそれが大きい発明が含まれ得る技術の分野として国際特許分類又はこれに準じて細分化したものに従い政令で定めるものに属する発明、このうち、その発明が特定技術分野のうち保全指定をした場合に産業の発達に及ぼす影響が大きいと認められる技術の分野として政令で定めるものに属する場合にあっては、政令で定める要件に該当するものに限るというふうに規定をさせていただいているところでございます。
 すなわち、保全審査の対象となります発明につきましては、原則としてまず我が国で出願をしてもらいまして、保全審査により保全指定の要否を判断すべきでありますことから、第一国出願義務の対象範囲は保全審査の対象範囲と同じという形にさせていただいているところでございます。
 以上でございます。

094 浜田昌良
○浜田昌良君 保全審査の対象と同じというのはいいと思うんですけど、これ、条文に政令が三回出てくるんですよね。その辺の規定ぶりがどうなるんだろうかと。それによってその罰則が、直罰に係る関係なんで、前回の委員会で最後に大臣にお聞きしまして、この国家及び国民の安全を損なう事態を生ずるおそれが大きい発明というのは安全保障上極めて機微な発明と同義ですよという御答弁をいただきました。
 これについて、具体的発明事例に基づいて分かりやすく政府参考人に説明していただきたいと思います。また、その発明分野、今ございましたように、ストラスブール議定書の国際特許分類、いわゆるIPC分類ではどのようなレベル、細分類で表現されるのかも併せて答弁いただきたいと思います。

095 木村聡
○政府参考人(木村聡君) お答え申し上げます。
 政令で定めます技術分野の具体的な内容につきましては、法案上、まずは有識者の意見を聞いて定める基本方針におきまして、その基本的な事項を定めるというプロセスを経た上で決めることとさせていただいております。
 したがいまして、現時点で個別の技術分野をお示しすることは難しいところでございますけれども、例えば、我が国に対して用いられれば深刻な被害が避けられない核技術や先進武器技術などの中から、それらに該当する国際特許分類、IPC分類を限定列挙することとなります。
 どの程度の粒度で定めるかにつきましても、同様に、現時点で具体的にお示しすることは困難でございますけれども、例えば、国際特許分類のうち、F41という分類は武器を、F42という分類は弾薬、爆破を表す大きなカテゴリーでありますところ、こうした上位の階層だけで定めますと、対象範囲が広くなり過ぎ、およそ国家及び国民の安全に影響しないような技術分野が多数保全審査や第一国出願義務の対象に取り込まれてしまうということが懸念されます。
 このため、実際にはF41やF42の下層に当たる国際特許分類の中から、安全保障上機微な技術が含まれ得るより詳細な分類を抽出し、対象を絞り込んでいく必要があると考えているところでございます。
 以上でございます。

096 浜田昌良
○浜田昌良君 IPCの特許分類のより詳細なところで限定列挙していただくという答弁がございましたので、それでしっかりと罰則の範囲が分かることを期待しているんですが、ちょっと例を挙げたいと思います。
 二〇〇四年夏に、我が国の電力会社が中心となった研究組合がレーザーウラン濃縮技術について特許庁に特許申請をしていましたが、その技術が、韓国の原子力研究所が極秘にそれを使ったウラン濃縮をやっていたということが発覚をして、その日本の特許の文献であったり、それに基づいた機器が見付かったということが一部報道がありました。この事案についての概要をまず報告いただきたいと思います。

097 木村聡
○政府参考人(木村聡君) お答え申し上げます。
 報道ベースの情報ではございますけれども、IAEAの元事務次長が取材に対して明らかにしたことといたしまして、二〇〇四年にIAEAが他国の極秘ウラン濃縮実験施設を査察した際、日本で開発されたレーザー濃縮技術の特許に関する資料が発見されたということが二〇一五年に新聞で報じられているものと承知しているところでございます。
 以上でございます。

098 浜田昌良
○浜田昌良君 報道ベースによりますと、この研究組合は百八十七件の特許を出願していたそうでございます。
 それでは、このレーザーウラン濃縮技術に関する発明は、先ほどのIPC分類又はこれに準ずる細分化したものに従えばどのように表現されるのか、お答えいただきたいと思います。

099 木村聡
○政府参考人(木村聡君) お答え申し上げます。
 レーザーウラン濃縮技術が特許出願された場合の対応でございますけれども、Bの処理装置及び運輸、そしてその下層のB01の物理的又は化学的方法又は装置一般、そして更に下層のB01Dの分離、更に下層のB01D59の同一化学元素の異なる同位体の分離に順次該当いたしまして、まとめて申し上げますと、B01D59/00と、こういう国際特許分類が付与されるものと考えられます。
 以上でございます。

100 浜田昌良
○浜田昌良君 順次、Bの処理というものから、一番細かいBの01Dの59の/00というもので特定されそうですが、これは、こういうことを政令で書けば、各発明者にとってこの技術はどれだということで、一目瞭然分かるもんなんですかね。

101 木村聡
○政府参考人(木村聡君) お答え申し上げます。
 特許出願人の方に明確に御理解していただけるように、私ども、国際特許分類に従った形で明確に政令で規定させていただきたい、このように考えているところでございます。
 以上でございます。

102 浜田昌良
○浜田昌良君 一応、弁理士の方、また特許庁の審査官に聞くと、これが正確に分からないと特許のいわゆる押さえ方なり事前調査の関係が幅広くなってしまうので、普通は分かるらしいんですね、私は全然分かりませんけれども。それを逆に認識しているということで、罰則の範囲が明確になるとおっしゃっていました。
 ただ、この法律上は、とはいっても疑義が生じる場合があるので、七十九条で事前確認という制度を設けています。つまり、自分の発明がこの罰則の対象なのか、つまり保全対象なのかそうでないのかを確認できるという制度があるんですね。逆に言うと、この事前確認を行わなかったことによる第一国出願義務違反は過失責任を負うことがあるのかどうなのか、これについても答弁願います。

103 木村聡
○政府参考人(木村聡君) お答え申し上げます。
 事実確認を行わなかった、あっ、事前確認を行わなかったことによる過失責任を負わないのかという御趣旨の御質問だと存じます。
 七十九条の事前確認制度は、外国出願をしようとする者は確認を求めることができるというふうに規定しておりますとおり、利用することを義務とはしていないところでございます。したがいまして、これを用いなかったことにより過失責任を問われるものではございませんし、外国出願禁止について過失犯処罰の規定もないところでございます。
 ただし、特定技術分野に掲げられている国際特許分類に該当する可能性を認識しながら、確認することもなく禁止に抵触する外国出願をいたしますれば、一般原則といたしまして行為責任を問われる場合があり得るものと考えられます。
 いずれにいたしましても、特定技術分野を政令で明確に規定し、特許出願人の方にとって予見可能なものにする必要があることは十分認識した上で対応していきたいと考えているところでございます。
 以上でございます。

104 浜田昌良
○浜田昌良君 過失責任は問われないという答弁でございました。
 そういう意味でも、この外国出願の禁止の範囲の明確な規定が必要なわけですが、こういうものを事前確認をしようとすると、一応手数料が書いてあるんですね。一件当たり二万五千円以下と書いていますが、お金が掛かる制度なんですね。
 逆に言うと、こういうものが規制対象かどうかというのを確認する制度は従来からありまして、産業競争力強化法の第七条の規定、つまりグレーゾーン解消制度ってあったわけですよ。これを今回は適用せずに、わざわざこの事前確認制度を設けたんですが、その趣旨は何なんでしょうか。

105 木村聡
○政府参考人(木村聡君) お答え申し上げます。
 本法案第七十九条の第七項で適用を除外しております産業競争力強化法第七条、いわゆるグレーゾーン解消制度は、実施しようとする個別の事業活動について法律上の規制の適用の有無の確認を国に求めることができるものとする制度であると、このように承知しているところでございます。
 これに対しまして、本法案第七十九条は、外国出願をしようとする者が、当該外国出願が第七十八条第一項の禁止の対象となるか否かについて確認できることを定めているところでございます。
 すなわち、この規定によりまして、産業競争力強化法第七条の権利はカバーされている上に、本制度の場合、外国出願禁止の対象となる発明に該当する場合であっても、内閣総理大臣が国家及び国民の安全に影響を及ぼすものでないことが明らかと認めた場合には禁止を解除するという、より相談者の保護に厚い制度となっているところでございます。
 したがいまして、本制度によって十分カバーされる産業競争力強化法第七条をここで重ねて適用する必要はないものと考えたところでございます。
 また、産業競争力強化法第七条を適用した場合には回答の内容を公表しなければならないということになっているわけでございますが、これは、本法案第七十八条第一項の外国出願禁止に係る確認にあっては、発明の内容をさらすことになりかねず、適切ではないと考えているところでございます。このために、本法案第七十九条第七項で産業競争力強化法第七条の適用を除外することとしたところでございます。
 以上でございます。

106 浜田昌良
○浜田昌良君 結論を言いますと、この産業競争力強化法の第七条の規定を使うと、回答そのものを公表しちゃうことになっちゃうんですね。そうすると、せっかくこの保全、特許の秘密、この特許の保全といいますか、出願の非公開をしようとしているのにそのことが無になってしまうということから、この制度に代えて今回の制度が設けられたと理解をいたしました。
 いずれにしましても、とはいっても、この産業競争力強化法第七条のグレーゾーン解消制度は無料なんですが、今回は一件当たり二万五千円掛かるというので、やはり余り幅広くこの規制の対象を規定していくことは適当ではないと思うんですね、負担が掛かりますし。
 とはいっても、やっぱり明確に書かないと、規制ですから、罰則は掛かるわけですから、そういう意味では、この直罰、一年以下、五十万円以下の対象となる国際出願の禁止の、外国出願の禁止の対象となる第六条の特定技術を定める政令の規定ぶりにつきましては、一つ目としては、発明者に疑義が生じない明確性、先ほど限定列挙とありましたIPC分類の、それが求められるとともに、第七十九条の事前確認は有料となることから、真に規制するべきものに限定して、発明者に事前確認の多大な負担を強いないものとすべきと考えますが、大臣の見解を聞いて、私の質問は終わりたいと思います。

107 小林鷹之
○国務大臣(小林鷹之君) 特定技術分野につきましては、保全審査、そして第一国出願義務の対象となる発明の範囲を画するものでございます。この第一国出願義務との関係では、罰則が掛かる範囲を画するものでございますので、その政令を明確に定める必要があるのは当然だと考えています。
 保全指定の対象は、最終的には産業の発達への影響も考慮して第二次審査において絞り込まれますけれども、その前段階にある第一次審査の対象となる特定技術分野を定めるに当たりましても、これが第一国出願義務の範囲を画するものになることを踏まえ、できる限り限定すべきであると考えています。
 今委員から言及いただきました限定、IPC分類を限定列挙することも含めまして、可能な限り、この出願者、発明者の方に多大な負担を強いないような形で運用をしていきたいと考えております。

 第453回で書いた様に、この法案で明確でないと思える部分の1つに外国出願禁止の範囲と事前確認の関係があるが、国会審議における政府答弁から以下の事は分かった。

  • 第一国出願義務の対象範囲は、秘密指定のための保全審査の対象範囲と同じで、政令の特許分類によって決まる。
  • 通常は外国出願について事前確認を行わなくても過失責任を問われる事はない。
  • ただし、政令の特許分類に該当する可能性を認識しながら確認せずに外国出願した場合は別。

 この対象範囲を決める非常に重要な政令はできる限り詳細に限定列挙するとも言っていたが、具体例は何一つ示されず、対象範囲が拡大される恐れが払拭される事はなかった。

 日米協定による日本への秘密特許出願について、1988年以降の公開件数が99件であり、F41の武器が主分類になっているのは8件、F42の弾薬や爆破が主分類になっているのは1件でシングルユースの軍事技術は9件、多くがデュアルユース技術となっている事が明らかになったが、日本の新秘密特許制度でも同じ様に範囲が拡大されて行く事もあり得るのではないかと思える。

 もう1つの大きな論点である秘密指定とその後の補償について、ほとんど新たに分かった事はないのだが、政府の想定は以下の様なものであるらしい。

  • 特許出願人がまず保全対象発明の実施の許可申請をし、申請を受けた総理大臣が実施によって保全対象発明の漏えいリスクが高まる場合には不許可とし、その後、特許出願人は、許可申請時の事業計画を元に補償金額を請求し、請求を受けた内閣総理大臣が妥当な補償金額を決定する。
  • 国内だけでなく、外国で特許を取得できたら得られたであろう利益についても相当因果関係が認められれば補償の対象となり得る。

 しかし、損失の補償は実施の許可不許可だけによるものではない上、特許権の範囲が確定していない中で(そもそもこの制度では特許査定も拒絶査定も保留されるので特許出願の状態を確定する事ができない)、どの様に妥当な補償金額を決められるのか謎としか言い様がない。国会審議でも各国の法制について触れられる事もたまにあったが、第456回第457回で取り上げた米英独仏の欧米主要国でも特許権の範囲の確定なしに補償を決める様な制度を取っている国はないのである。

 上で書いた通り、重要な点ではあるが、外国出願禁止の範囲が全てに及ぶ事はなく、秘密指定の審査対象となる特許分類による指定範囲と同じであり、事前確認をしなかったからと言って過失責任を負わない事が明らかにされた事を除けば、そもそも立法事実も不明の儘なら、具体的な運用の詳細も明確にされない儘、経済安保法は成立してしまった。

 それで違憲無効というつもりもないが、この様に政府だけで決められる政令で可罰範囲が大きく変わる法制というのは刑法の原則に照らして全く問題がないとは言えない様に私は思う。

 そして、政令による秘密指定審査の対象範囲の中から、幾許かの出願が秘密指定を受けたとしても、その根拠も良く分からなければ、出願が特許になるかも決められず、特許権の範囲が確定する事もないので、妥当な補償金額の算定ができずに最後行き詰まるのではないだろうか。

 この新制度の根本的欠陥は政省令によって解消され得るものではないだろうと私は考えているが、残念ながら、法律が成立した以上この新秘密特許制度が2年後までに施行される事はほぼ確実であり、次の問題は具体的な運用の詳細を規定する政省令の検討に移るのだろうとも思うので、まずはその政省令案をできる限り速やかに公開してもらいたいと思う。

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2022年6月 5日 (日)

第460回:知財計画2022の文章の確認

 この6月3日に知的財産戦略本部会合が開かれ、今年の知的財産推進計画2022(pdf)概要(pdf))が決定された。(なお、本部会合での修正はないと思うが、案がついた資料は正式版が公表され次第リンクを入れ替えるつもりである。)

 相変わらず何のために作っているのか良く分からないものではあるのだが、この知財計画は、政策検討項目集として各省庁の知財に関する施策検討を一覧で見るためには便利なので、今年も法改正に関わる項目をざっと見て行きたいと思う。

 まず、第27ページに、

・スタートアップの事業化に向けて大学等の保有する知的財産を最大限活用できる環境を整備するため、大学等と企業との共有特許について、企業が一定期間不実施の場合に、大学等が第三者にライセンスすることが可能となるよう、共有特許の取扱いルールの整備に向け、法改正を含め検討し、2022年内に結論を得る。併せて、大学等と企業の共同研究の成果を大学等が活用しやすくするため、大学等が過度に企業側に知財関連コストを負担させなくても済むよう、大学等の知財関連財源の充実を含め大学等への支援の在り方について検討する。その際、大学等の知財マネジメント能力の向上や知財マネジメント人材を擁する外部組織との連携、インセンティブ設計等についても検討する。(短期)(内閣府、文部科学省、経済産業省)

と、共有特許のライセンスの問題について法改正も含め検討すると書かれている。昔からあるこの共有特許の問題はどちらかと言えば契約に関する問題であって、法改正に結びつくとはあまり思えないのだが、この検討は特許庁で行われるのだろうか。

 第56ページには、

・不正競争防止法における営業秘密・限定提供データに係る規律について、証拠収集手続の強化、管轄・準拠法、ライセンシーの保護などの観点から、時代の要請に応じた適切な制度の在り方を検討するとともに、データ利活用等に取り組む上で前提となる腐敗防止の規律についてあわせて検討を行い、必要な施策を講じる。(短期、中期)(経済産業省)

と、不正競争防止法の検討について書かれているが、これは経済産業省の産業構造審議会・知的財産分科会・不正競争防止小委員会での検討を書いたものだろう。この不正競争防止法小委員会の検討については、5月17日に中間報告も出されているが、それぞれの論点について継続検討となっていて、現時点で大きな方向性が出されているという事はない。また、最近の6月2~6日の小委員会(書面審議)で、外国公務員贈賄に関するワーキンググループの設置が行われている。

 行政が明確な方針もなく単に目新しいだけの流行のキーワードに飛びつき政策検討が振り回されるのは望ましい事ではないと私は常々思っているが、第66、68ページの以下の項目から、メタバースやNFT(Non-Fungible Token:非代替性トークン)、eスポーツについて政府として何か検討を進めるつもりらしい事が見て取れる。

・コンテンツ等をめぐりメタバース等がもたらす新たな法的課題等に対応するよう、有識者等による検討の場を設置し、課題把握や論点整理を行うとともに、関係省庁・民間事業者が一体となって、ソフトローによる対応も含め、必要なルール整備について検討する。(短期、中期)(内閣府、経済産業省、文部科学省、関係省庁)

・コンテンツ分野におけるNFTの活用について、コンテンツホルダーの権利保護や利用者保護等の課題に対応するよう、官民一体となって必要な施策を検討する。(短期、中期)(経済産業省、文部科学省、内閣府)

・eスポーツ産業の健全な発展のため、関連する制度・政策分野における位置づけに関して関係府省において検討を進めるなど、必要な環境整備を図る。
(短期、中期)(経済産業省、関係府省)

 なお、法改正と直接関係する点ではないが、この様な何をしたいのか良く分からない検討より、同じ第66ページの、

・ソーシャルメディアの普及等により、全ての国民が日常的に著作権に関わる状況が生じていることから、SNS等の利用頻度が高い若年層に対する意識啓発・教育に取り組むとともに、著作権に関する普及啓発・教育の更なる充実に向け、適切な利用の事例集の作成や、著作権に関する研修の機会の充実、幅広い年代に対する日常的な著作物等の利活用場面での普及啓発などについて検討する。

といった、SNS利用のための著作権に関する普及啓発の取り組みの方が現時点ではより重要だろうと、インターネットにおける日常的な著作物の利用の中にこそ真に政策的解決を検討すべき今の著作権問題の本質があるだろうと私は思っている。

 第70~71ページで、今回の知財計画の目玉の1つなのだろう、拡大集中ライセンス制度に基づく一元的な権利処理窓口のための著作権法改正に関する項目が以下の様に並んでいる。

・デジタル時代における著作権制度の確立に向けた工程表を作成する。
(短期、中期)(内閣府、デジタル庁、総務省、文部科学省、経済産業省)

・文化庁は、著作物の利用円滑化と権利者への適切な対価還元の両立を図るため、過去コンテンツ、UGC、権利者不明著作物を始め、著作権等管理事業者が集中管理していないものを含めた、膨大かつ多種多様な著作物等について、拡大集中許諾制度等を基に、様々な利用場面を想定した、簡素で一元的な権利処理が可能となるような制度を実現する。その際、内閣府、経済産業省、総務省、デジタル庁の協力を得ながら、デジタル時代のスピードの要請に対応した、デジタルで一元的に完結する手続を目指して、①いわゆる拡大集中許諾制度等を基にした、分野を横断する一元的な窓口組織による新しい権利処理の仕組みの実現、②分野横断権利情報データベースの構築の検討、③集中管理の促進、④現行の著作権者不明等の著作物に係る裁定制度の改善(手続の迅速化・簡素化)、⑤UGC等のデジタルコンテンツの利用促進を実現すべく、具体的な措置を検討し、2023年通常国会に著作権法の改正法案を提出し、所要の措置を講ずる。(短期、中期)(文部科学省、内閣府、経済産業省、総務省、デジタル庁)

・文化庁は、分野横断権利情報データベースについては、内閣府、経済産業省、総務省、デジタル庁の協力を得て、持続的に存続するためのビジネスモデルを検討した上で、ニーズのある全ての分野のデータベースとの接続を行うことに加え、ネットクリエーターやネット配信のみのコンテンツ、集中管理されていない著作物等の既存のデータベースに登録されていないコンテンツの登録が円滑に行われるものにしつつ、ニーズのあるあらゆる分野の著作物等を対象として、権利情報の確認や利用許諾に係る意思表示(利用方法の提示を含む)ができる機能の確立方策について検討し、2022年内に結論を得る。その際、関係府省庁は、府省庁横断的な検討体制の下、各分野のデータベースとの連携に加え、UGCに係るプラットフォーマーが管理するデータベースとの連携についても検討する。さらに、既存のデータベースの充実、権利者情報の統一やフォーマットの標準化、データベースの紐付けに必要なIDやコードに関するルール等を検討し、2023年内に結論を得る。(短期、中期)(文部科学省、経済産業省、内閣府、総務省、デジタル庁)

・分野を横断する一元的な窓口組織又は特定の管理事業者による新しい権利処理の具体的な仕組みを、デジタルで一元的に完結する手続を目指して、検討し、2022年内に結論を得る。その際、著作権者等による①利用許諾の可否とその条件、②オプトアウトなどの意思表示、③利用・対価還元状況の把握及び④個々の許諾手続、並びに⑤データベースに権利情報がなく、集中管理がされておらず、窓口組織による探索等においても著作権者等が不明の場合、意思表示がされておらず、連絡が取れない場合、又は連絡を試みても返答がない場合等における著作者不明等の著作物等に係る拡大集中許諾や裁定制度を含めて検討する。(短期、中期)(文部科学省)

・分野を横断する一元的な窓口組織による新しい権利処理の仕組みを含めた、簡素で一元的な権利処理が可能となるような制度の実現を促進するために、欧米の制度も参考にしつつ、通信関係事業者の協力体制及び役割分担の枠組みについて検討し、2022年内に結論を得る。(短期、中期)(総務省)

 そのすぐ後、第71~72ページに、

・クリエーターに適切に対価が還元され、コンテンツの再生産につながるよう、デジタル時代に対応した新たな対価還元策やクリエーターの支援・育成策等について、コンテンツ配信プラットフォームや投稿サイト等における著作物等の利用状況や権利者の利益保護に関する実態把握も踏まえ、検討を進める。私的録音録画補償金制度については、新たな対価還元策が実現されるまでの過渡的な措置として、私的録音録画の実態等に応じた具体的な対象機器等の特定について、関係省庁による検討の結論を踏まえ、可能な限り早期に必要な措置を構ずる。(短期、中期)(文部科学省、内閣府、総務省、経済産業省)

と、プラットフォームや投稿サイトに関する記載が追加されているが、いつも通り、私的録音録画問題に関する検討の項目もある。

 第74ページには、

・図書館関係の権利制限規定の見直しに関する2021年改正著作権法の公布後2年以内の施行を踏まえ、詳細な運用に関する当事者間協議やガイドラインの作成など、円滑な施行に向けた準備を着実に進める。また、研究目的の権利制限規定の創設については、国内の研究者における著作物の利用実態や利用ニーズなどに関する調査研究の結果も踏まえ、権利者の利益保護に十分に配慮しつつ、必要な検討を進める。
(短期、中期)(文部科学省、国立国会図書館)

という、2021年著作権法改正の施行に向けた検討の項目がある。

 そして、第76~77ページに、以下の通り、海賊版対策に関する項目が並んでいる。

・インターネット上の海賊版による被害拡大を防ぐため、2021年4月に更新したインターネット上の海賊版に対する総合的な対策メニュー及び工程表に基づき、関係府省が連携しながら、必要な取組を進めるとともに、被害状況や対策の効果について逐次検証を行い、更なる取組の推進を図る。(短期、中期)(内閣府、警察庁、総務省、法務省、外務省、文部科学省、経済産業省)

・二国間協議や国際会議等の場を活用し、海賊版対策の強化に向けた働きかけを行うとともに、海外海賊版サイトの運営者摘発等に向け、国際的な捜査協力を推進するほか、民間事業者との協力の下、デジタルフォレンジック調査の実施等の取組を進めるなど、国際連携・国際執行の強化を図る。さらに、国境を超えた著作権侵害等に対し国内権利者が行う権利行使への支援の拡充など、更なる支援策について検討する。(短期、中期)(内閣府、警察庁、総務省、法務省、外務省、文部科学省、経済産業省)

・CDNサービス事業者における海賊版サイトへのサービス提供の停止や、検索サイト事業者における海賊版に係る検索結果表示の削除又は抑制など、海賊版サイトの運営やこれへのアクセスに利用される各種民間事業者のサービスについて必要な対策措置が講じられるよう、それらの民間事業者と権利者との協力等を促進する。(短期、中期)(内閣府、総務省、文部科学省、経済産業省)

・海賊版・模倣品を購入しないことはもとより、特に、侵害コンテンツについては、視聴者は無意識にそれを視聴し侵害者に利益をもたらすことから、侵害コンテンツを含む海賊版・模倣品を容認しないということが国民の規範意識に根差すよう、関係省庁・関係機関による啓発活動を推進する。(短期、中期)(警察庁、消費者庁、総務省、財務省、文部科学省、農林水産省、経済産業省)

・越境電子商取引の進展に伴う模倣品・海賊版の流入増加へ対応するため、個人使用目的を仮装して輸入される模倣品・海賊版を引き続き厳正に取り締まる。また、改正商標法・意匠法・関税法により、海外事業者が郵送等により国内に持ち込む模倣品が税関による取締りの対象となることから、当該改正法の2022年秋までの施行に向けて、善意の輸入者に不測の損害を与えることがないよう十分な広報等に努めるとともに、実効性のある水際取締りを実施できるよう必要な措置を講じる。他の知的財産権についても、必要に応じて、検討を行う。(短期、中期)(財務省、経済産業省、文部科学省)

 海賊版対策としては、2021年商標法等改正の施行に向けた話も含まれているが、インターネット海賊版対策については、引き続き総務省のインターネット上の海賊版サイトへのアクセス抑止方策に関する検討会が中心となって検討をして行くのではないかと思える。その5月31日の検討会で示された、現状とりまとめ骨子(pdf)に書かれている事も、今の所、知財計画の項目の記載の通り、クラウド・CDNや検索サービス事業者との連携強化といった地道な取り組みが中心であって、危険な方向性が出ているといった事はない。

 第83~84ページには、以下の様に、2020年の種苗法改正と家畜遺伝資源法についての項目がある。

・改正種苗法の周知や、税関当局との連携による、海外への育成者権侵害種苗の持ち出し防止を図るとともに、改正種苗法を活用した育成者権者による登録品種の適切な管理を進める。(短期、中期)(農林水産省)

・家畜改良増殖法の一部を改正する法律及び家畜遺伝資源に係る不正競争の防止に関する法律(2020年10月1日施行)に基づき以下の取組を推進する。
(1)家畜遺伝資源に係る不正競争の防止に関する法律の運用に関するガイドライン(2021年3月公表)の徹底を図るとともに、和牛遺伝資源の譲渡の際に締結すべき契約のひな形の普及を通じた契約の促進等により不正競争防止の取組を推進する。
(2)家畜人工授精師等に対する研修会の開催等により、家畜改良増殖法の徹底を図るとともに、2021年度までに実施した全国の家畜人工授精所への立入検査及び法令の遵守状況に係る調査結果等を踏まえ、2022年度中に、立入検査の実施等により法令遵守の徹底を図り、更なる流通管理の適正化を推進する。また、家畜人工授精所からの報告等に伴う都道府県の事務の軽減、情報集約のための全国システムの運用(2021年4月開始)及び機能強化を図り電子化を推進する。(短期、中期)(農林水産省)

 第87ページでは、別に知的財産だけに関する事ではないと思うが、以下の様な仲裁法改正検討や今年の民事訴訟法改正についても触れられている。

・東京虎ノ門の国際仲裁専用施設の更なるICT化を含めたサービス向上を進めるとともに、学生・司法修習生・若手弁護士等の幅広い世代に対する研修の提供等を通した人材育成並びに業界団体別及び国別セミナー等の実施を通した広報・意識啓発等を進める。また、法制度の整備として、最新の国際水準に対応した仲裁法改正及び調停に関する要綱が法制審議会において取りまとめられたことを受けて、早期の法案提出に向けた準備を進める。(短期、中期)(法務省、関係府省)

・知財訴訟の更なる迅速化、効率化を実現するため、民事訴訟において提訴から判決までの手続きを全面的にIT化する民事訴訟法等の一部を改正する法律の施行の準備を進める。(短期、中期)(法務省)

 以上、ざっと見て来たが、これらは今までの法改正の施行や周知に関する項目ばかりで、今後の法改正に関して明確な方向性が示されている点は、拡大集中ライセンス制度に基づく一元的な権利処理窓口のための著作権法改正くらいであるが、これも重要であって実務的に検討すべき事が多いとは言え、検討の方向性として大きな問題があるというものではない。引き続きインターネット海賊版対策について総務省の検討が地道な方向に向かう事を注視して行く必要はあるだろうが、今年の知財計画の内容も去年同様政策的に大した事は何も書かれていないに等しく、危険な事が書かれていないだけましなのかも知れないが、残念ながら、今後も知財政策を巡る迷走は続く事だろう。(私の提出したパブコメについては第455回参照、去年の知財計画の記載については第442回参照。)

 最後に少し書いておくと、今年私が最も気になっていたのは新しい秘密特許制度(特許非公開制度)についてどう書かれるかだったのだが、経済安保法については国際標準化との関係で触れられているだけで、施策項目としても、第46ページに、

・経済安全保障の観点も踏まえて、「標準活用推進タスクフォース」を司令塔として量子技術等の重要分野を新たに幅広く特定し、標準の開発の加速化支援等、国際標準の形成に必要な個別具体的な活動への支援を行う。経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関する法律に基づく官民の協議会においても、個別のプロジェクトの状況等を踏まえ、必要に応じ国際標準化及びその支援方策の検討を図る。また、こうした取組を進めていくにあたり、基本的価値を共有する同志国との連携を強化する。(短期、中期)(内閣府、内閣官房、総務省、外務省、文部科学省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省、国土交通省、環境省)

というものがあるだけである。特許法の原則と実務に大きな影響を与える法改正であるにも関わらず、新しい秘密特許制度の導入についてこの様に全く言及されていない理由は良く分からない。

(2023年3月26日夜の追記:知財計画についてリンクを張り替えるのをすっかり忘れていたが、上で書いた通り正式版にリンクを入れ替えた。)

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