第454回:民訴法等改正案に含まれる著作権法の権利制限の拡充(オンライン裁判手続きのための公衆送信等の可能化)等
先週3月17日に本会議で新秘密特許制度を含む経済安保法案が審議入りし、3月19日の内閣委員会でその趣旨説明がされたところで(衆議院のインターネット審議中継参照)、知財政策上もその審議が最も注視すべきものと思っている。
新秘密特許制度の様に問題のある話ではないが(経済安保法案の特許非公開部分に関する問題については前回参照)、それ以外に、民訴法等改正案にも、裁判手続きのための公衆送信等を可能化する権利制限の拡充などの知財法の改正が含まれているので、ここで、簡単に取り上げておきたい。
この民事訴訟法等の一部を改正する法律案(法務省の提出法案ページ参照)は、法務省の法制審議会の民事訴訟法(IT化関係)部会で検討され、取りまとめられた民事訴訟法(IT化関係)等の改正に関する要綱案(pdf)を受けて、3月8日に閣議決定され、国会に提出されたもので、当事者に住所氏名を秘密にできる様にする事と合わせて、インターネットを利用したオンラインでの裁判手続きを可能とする大改正で、民事訴訟法だけでなく他の多くの法律の改正を含んでいる。
民事訴訟のオンライン化自体の説明はここではおくが、そのための法改正との関係で、3月20日の文化庁の文化審議会・著作権分科会(議事・配布資料参照)でも報告されている、法制度小委員会の民事訴訟法の改正に伴う著作権制度に関する論点整理(pdf)で書かれている権利制限の拡充がどの様に条文化されるのかが気になっていた。
そして、このオンライン裁判手続きのための権利制限は、この民訴法等改正案(法律案要綱(pdf)、法律案・理由(pdf)、新旧対照条文(pdf)参照)に以下の新規追加条文の形で入っている。
(裁判手続における公衆送信等)
第四十二条の二 著作物は、民事訴訟法(平成八年法律第百九号。他の法律において準用し、又はその例による場合を含む。)の規定により電磁的記録を用いて行い、又は映像若しくは音声の送受信を伴つて行う裁判手続のために必要と認められる限度において、公衆送信(自動公衆送信の場合にあつては、送信可能化を含む。)を行い、又は受信装置を用いて公に伝達することができる。ただし、当該著作物の種類及び用途並びに当該公衆送信又は伝達の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。
この様に、裁判手続等における複製のための既存の第42条と並べて、新規に第42条の2としてオンライン民事裁判手続きのために公衆送信等の権利制限を作る事自体に反対などという事はなく、早期に成立する事を私も期待している。
ただ、この様に要請を受けた事について必要最小限の部分に限って条文を新規に追加して行く今の著作権法改正のやり方については常に疑問に思っている。今回の第42条の2は当然追加するべきものだが、立法論として、一般的なフェアユース条項の導入の検討や、そこまで一足飛びに行かずとも、裁判以外の行政や立法における手続きへの適用の可能性も考慮し、第42条自体の拡充がなされても良かったのではないかと思う。この点は今後の検討に期待したい所である。
後は条文案の引用まではしないが、特許法などの各知財関連法でも裁判手続きを規定していたり準用している部分でオンライン化に対応する条文の改正が入っている。
文化庁の著作権分科会が著作権法改正が適当としている事項としては、独占的ライセンスの対抗制度及び独占的ライセンシーに対し差止請求権を付与する制度の導入がある(3月20日の文化庁の文化審議会・著作権分科会の独占的ライセンスの対抗制度及び独占的ライセンシーに対し差止請求権を付与する制度の導入に関する報告書(案)(pdf)とその概要(pdf)参照)。民訴法等改正法案とは別に著作権法改正案の閣議決定、国会提出があれば、その条文も見ておきたいと思っているが、今年は一旦持ち越しで来年になる可能性が高いのではないかと私は見ている。
最後に、ついでに少しだけ紹介しておくと、同じく3月8日に閣議決定された法務省の提出法案には、刑法等の一部を改正する法律案と刑法等の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整理等に関する法律案もある(まだ法務省の提出法案ページに載っていないので、衆議院の議案ページの提出時法律案1、提出時法律案2参照)。これは、法務省の法制審議会の少年法・刑事法(少年年齢・犯罪者処遇関係)部会と刑事法(侮辱罪の法定刑関係)部会のそれぞれの検討に対応する2020年10月29日の答申1(pdf)と2021年10月21日の答申2(pdf)を受けたもので、侮辱罪の法定刑の引き上げに加えて、刑法だけでなくあらゆる法律の懲役と禁錮を一本化して拘禁刑にするという大改正であり、知財法の刑事罰規定も漏れなく拘禁刑に改められる事になる。(ここで一般刑法の話まで取り上げるつもりはないが、刑法第231条の侮辱罪の法定刑を1年以下の拘禁刑まであり得るとして公訴時効を3年にする事は、今後の運用を良く見て行く必要があるだろうが、インターネットにおける誹謗中傷対策として一定の意味を持つだろうと思っている。)
特許庁の産業構造審議会・知的財産分科会の特許法等改正に対応する各制度小委員会は今年になってからも余り開催されていない様なので、他に各知財法独自の改正はおそらくないのだろう。上で書いた通り、特に問題のない民訴法や刑法の改正に伴うものはあるが、今年、知財政策上最も注意すべきは間違いなく秘密特許制度を含む経済安保法案の審議だと私は考えている。
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