第453回:秘密特許法案条文(経済安保法案特許非公開関連部分)
2月25日に経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関する法律案が閣議決定され、国会に提出された(内閣官房のHPの概要(pdf)、要綱(pdf)、法律案・理由(pdf)、新旧対照表(pdf)、参照条文(pdf)参照)。
まず、長くなるが、秘密特許制度(特許非公開制度)秘密特許制度を規定している第5章第65条以降の主要な部分を以下に抜粋する。
第五章 特許出願の非公開
(特許出願非公開基本指針)
第六十五条 政府は、基本方針に基づき、特許法(昭和三十四年法律第百二十一号)の出願公開の特例に関する措置、同法第三十六条第一項の規定による特許出願に係る明細書、特許請求の範囲又は図面(以下この章において「明細書等」という。)に記載された発明に係る情報の適正管理その他公にすることにより外部から行われる行為によって国家及び国民の安全を損なう事態を生ずるおそれが大きい発明に係る情報の流出を防止するための措置(以下この条において「特許出願の非公開」という。)に関する基本指針(以下この条において「特許出願非公開基本指針」という。)を定めるものとする。2 特許出願非公開基本指針においては、次に掲げる事項を定めるものとする。
一 特許出願の非公開に関する基本的な方向に関する事項
二 次条第一項の規定に基づき政令で定める技術の分野に関する基本的な事項
三 保全指定(第七十条第二項に規定する保全指定をいう。次条第一項及び第六十七条において同じ。)に関する手続に関する事項
四 前三号に掲げるもののほか、特許出願の非公開に関し必要な事項3~6(略:特許出願非公開基本指針が閣議決定される事等)
(内閣総理大臣への送付)
第六十六条 特許庁長官は、特許出願を受けた場合において、その明細書等に、公にすることにより外部から行われる行為によって国家及び国民の安全を損なう事態を生ずるおそれが大きい発明が含まれ得る技術の分野として国際特許分類(国際特許分類に関する千九百七十一年三月二十四日のストラスブール協定第一条に規定する国際特許分類をいう。)又はこれに準じて細分化したものに従い政令で定めるもの(以下この項において「特定技術分野」という。)に属する発明(その発明が特定技術分野のうち保全指定をした場合に産業の発達に及ぼす影響が大きいと認められる技術の分野として政令で定めるものに属する場合にあっては、政令で定める要件に該当するものに限る。)が記載されているときは、当該特許出願の日から三月を超えない範囲内において政令で定める期間を経過する日までに、内閣府令・経済産業省令で定めるところにより、当該特許出願に係る書類を内閣総理大臣に送付するものとする。ただし、当該発明がその発明に関する技術の水準若しくは特徴又はその公開の状況に照らし、保全審査(次条第一項に規定する保全審査をいう。次項において同じ。)に付する必要がないことが明らかであると認めるときは、これを送付しないことができる。2 特許出願人から、特許出願とともに、その明細書等に記載した発明が公にされることにより国家及び国民の安全を損なう事態を生ずるおそれが大きいものであるとして、内閣府令・経済産業省令で定めるところにより、保全審査に付することを求める旨の申出があったときも、前項と同様とする。過去にその申出をしたことにより保全審査に付され、次条第九項の規定による通知を受けたことがある者又はその者から特許を受ける権利を承継した者が当該通知に係る発明を明細書等に記載した特許出願をしたと認められるときも、同様とする。
3 特許庁長官は、第一項本文又は前項の規定による送付をしたときは、その送付をした旨を特許出願人に通知するものとする。
4~5(略:外国語書面出願の様な特殊な出願の場合に関する読み替え規定等)
6 特許庁長官は、第一項本文又は第二項の規定による送付をするかどうかを判断するため必要があると認めるときは、特許出願人に対し、資料の提出及び説明を求めることができる。
7 特許庁長官が第一項本文若しくは第二項の規定による送付をする場合に該当しないと判断し、若しくは当該送付がされずに第一項本文に規定する期間が経過するまでの間又は内閣総理大臣が第七十一条若しくは第七十七条第二項の規定による通知をするまでの間は、特許法第四十九条、第五十一条及び第六十四条第一項の規定は、適用しない。
8~11(略:内閣総理大臣への書類送付後の出願の放棄や却下の場合の取扱い等)
(内閣総理大臣による保全審査)
第六十七条 内閣総理大臣は、前条第一項本文又は第二項の規定により特許出願に係る書類の送付を受けたときは、内閣府令で定めるところにより、当該特許出願に係る明細書等に公にすることにより外部から行われる行為によって国家及び国民の安全を損なう事態を生ずるおそれが大きい発明が記載され、かつ、そのおそれの程度及び保全指定をした場合に産業の発達に及ぼす影響その他の事情を考慮し、当該発明に係る情報の保全(当該情報が外部に流出しないようにするための措置をいう。第七十条第一項において同じ。)をすることが適当と認められるかどうかについての審査(以下この章において「保全審査」という。)をするものとする。2 内閣総理大臣は、保全審査のため必要があると認めるときは、特許出願人その他の関係者に対し、資料の提出及び説明を求めることができる。
3~8(略:国の機関や専門的知識を有する者に協力を求める事ができる事等)
9 内閣総理大臣は、保全指定をしようとする場合には、特許出願人に対し、内閣府令で定めるところにより、第七十条第一項に規定する保全対象発明となり得る発明の内容を通知するとともに、特許出願を維持する場合には次に掲げる事項について記載した書類を提出するよう求めなければならない。
一 当該通知に係る発明に係る情報管理状況
二 特許出願人以外に当該通知に係る発明に係る情報の取扱いを認めた事業者がある場合にあっては、当該事業者
三 前二号に掲げるもののほか、内閣府令で定める事項10 特許出願人は、特許出願を維持する場合には、前項の規定による通知を受けた日から十四日以内に、内閣府令で定めるところにより、同項に規定する書類を内閣総理大臣に提出しなければならない。
11 内閣総理大臣は、前項の規定により提出された書類の記載内容が相当でないと認めるときは、特許出願人に対し、相当の期間を定めて、その補正を求めることができる。
(保全審査中の発明公開の禁止)
第六十八条 特許出願人は、前条第九項の規定による通知を受けた場合は、第七十条第一項又は第七十一条の規定による通知を受けるまでの間は、当該前条第九項の規定による通知に係る発明の内容を公開してはならない。ただし、特許出願を放棄し、若しくは取り下げ、又は特許出願が却下されたときは、この限りでない。(保全審査の打切り)
第六十九条 内閣総理大臣は、特許出願人が第六十七条第十項に規定する期間内に同条第九項に規定する書類を提出せず、若しくは同条第十一項の規定により定められた期間内に同項の規定による補正を行わなかったとき、前条の規定に違反したと認めるとき、又は不当な目的でみだりに第六十六条第二項前段の規定による申出をしたと認めるときは、保全審査を打ち切ることができる。2 内閣総理大臣は、前項の規定により保全審査を打ち切るときは、あらかじめ、特許出願人に対し、その理由を通知し、相当の期間を指定して、弁明を記載した書面を提出する機会を与えなければならない。
3 内閣総理大臣は、第一項の規定により保全審査を打ち切ったときは、その旨を特許庁長官に通知するものとする。
4 特許庁長官は、前項の規定による通知を受けたときは、特許出願を却下するものとする。
(保全指定)
第七十条 内閣総理大臣は、保全審査の結果、第六十七条第一項に規定する明細書等に公にすることにより外部から行われる行為によって国家及び国民の安全を損なう事態を生ずるおそれが大きい発明が記載され、かつ、そのおそれの程度及び指定をした場合に産業の発達に及ぼす影響その他の事情を考慮し、当該発明に係る情報の保全をすることが適当と認めたときは、内閣府令で定めるところにより、当該発明を保全対象発明として指定し、特許出願人及び特許庁長官に通知するものとする。2 内閣総理大臣は、前項の規定による指定(以下この章及び第八十八条において「保全指定」という。)をするときは、当該保全指定の日から起算して一年を超えない範囲内においてその保全指定の期間を定めるものとする。
3 内閣総理大臣は、保全指定の期間(この項の規定により保全指定の期間を延長した場合には、当該延長後の期間。以下この章において同じ。)が満了する日までに、保全指定を継続する必要があるかどうかを判断しなければならない。この場合において、継続する必要があると認めるときは、内閣府令で定めるところにより、一年を超えない範囲内において保全指定の期間を延長することができる。
4(略:延長審査の場合の保全審査準用規定)
5 内閣総理大臣は、第三項後段の規定による延長をしたときは、その旨を第一項の規定による通知を受けた特許出願人(通知後に特許を受ける権利の移転があったときは、その承継人。以下この章において「指定特許出願人」という。)及び特許庁長官に通知するものとする。
(保全指定をしない場合の通知)
第七十一条 内閣総理大臣は、保全審査の結果、保全指定をする必要がないと認めたときは、その旨を特許出願人及び特許庁長官に通知するものとする。(特許出願の取下げ等の制限)
第七十二条 指定特許出願人は、第七十七条第二項の規定による通知を受けるまでの間は、特許出願を放棄し、又は取り下げることができない。2 指定特許出願人は、第七十七条第二項の規定による通知を受けるまでの間は、実用新案法(昭和三十四年法律第百二十三号)第十条第一項及び意匠法(昭和三十四年法律第百二十五号)第十三条第一項の規定にかかわらず、特許出願を実用新案登録出願又は意匠登録出願に変更することができない。
(保全対象発明の実施の制限)
第七十三条 指定特許出願人及び保全対象発明の内容を特許出願人から示された者その他保全対象発明の内容を職務上知り得た者であって当該保全対象発明について保全指定がされたことを知るものは、当該保全対象発明の実施(特許法第二条第三項に規定する実施をいう。以下この章及び第九十二条第一項第六号において同じ。)をしてはならない。ただし、指定特許出願人が当該実施について内閣総理大臣の許可を受けた場合は、この限りでない。2 前項ただし書の規定による許可を受けようとする指定特許出願人は、許可を受けようとする実施の内容その他内閣府令で定める事項を記載した申請書を内閣総理大臣に提出しなければならない。
3 内閣総理大臣は、第一項ただし書の規定による許可の申請に係る実施により同項本文に規定する者以外の者が保全対象発明の内容を知るおそれがないと認めるときその他保全対象発明に係る情報の漏えいの防止の観点から内閣総理大臣が適当と認めるときは、同項ただし書の規定による許可をするものとする。
4 第一項ただし書の規定による許可には、保全対象発明に係る情報の漏えいの防止のために必要な条件を付することができる。
5(略:許可審査の場合の保全審査準用規定)
6 内閣総理大臣は、指定特許出願人が第一項の規定又は第四項の規定により許可に付された条件に違反して保全対象発明の実施をしたと認める場合であって、特許出願が却下されることが相当と認めるときは、その旨を特許庁長官及び指定特許出願人に通知するものとする。指定特許出願人が第七十五条第一項に規定する措置を十分に講じていなかったことにより、指定特許出願人以外の者が第一項の規定又は第四項の規定により許可に付された条件に違反して保全対象発明の実施をした場合も、同様とする。
7 内閣総理大臣は、前項の規定による通知をするときは、あらかじめ、指定特許出願人に対し、その理由を通知し、相当の期間を指定して、弁明を記載した書面を提出する機会を与えなければならない。
8 特許庁長官は、第六項の規定による通知を受けた場合には、第七十七条第二項の規定による通知を待って、特許出願を却下するものとする。
(保全対象発明の開示禁止)
第七十四条 指定特許出願人及び保全対象発明の内容を特許出願人から示された者その他保全対象発明の内容を職務上知り得た者であって当該保全対象発明について保全指定がされたことを知るものは、正当な理由がある場合を除き、保全対象発明の内容を開示してはならない。2 内閣総理大臣は、指定特許出願人が前項の規定に違反して保全対象発明の内容を開示したと認める場合であって、特許出願が却下されることが相当と認めるときは、その旨を特許庁長官及び指定特許出願人に通知するものとする。指定特許出願人が次条第一項に規定する措置を十分に講じていなかったことにより、指定特許出願人以外の者が前項の規定に違反して保全対象発明の内容を開示した場合も、同様とする。
3 前条第七項及び第八項の規定は、前項の規定による通知について準用する。
(保全対象発明の適正管理措置)
第七十五条(略)(発明共有事業者の変更)
第七十六条(略)(外国出願の禁止)
第七十八条 何人も、日本国内でした発明であって公になっていないものが、第六十六条第一項本文に規定する発明であるときは、次条第四項の規定により、公にすることにより外部から行われる行為によって国家及び国民の安全に影響を及ぼすものでないことが明らかである旨の回答を受けた場合を除き、当該発明を記載した外国出願(外国における特許出願及び千九百七十年六月十九日にワシントンで作成された特許協力条約に基づく国際出願をいい、政令で定めるものを除く。以下この章及び第九十四条第一項において同じ。)をしてはならない。ただし、我が国において明細書等に当該発明を記載した特許出願をした場合であって、当該特許出願の日から十月を超えない範囲内において政令で定める期間を経過したとき(第七十条第一項の規定による通知を受けたとき及び当該期間を経過する前に当該特許出願が却下され、又は当該特許出願を放棄し、若しくは取り下げたときを除く。)、第六十六条第一項本文に規定する期間内に同条第三項の規定による通知が発せられなかったとき(当該期間を経過する前に当該特許出願が却下され、又は当該特許出願を放棄し、若しくは取り下げたときを除く。)及び同条第十項、第七十一条又は前条第二項の規定による通知を受けたときにおける当該特許出願に係る明細書等に記載された発明については、この限りでない。2 指定特許出願人に対する前項の規定の適用については、同項中「第六十六条第一項本文に規定する発明」とあるのは、「第六十六条第一項本文に規定する発明(第七十条第一項の規定による通知を受けた特許出願に係る明細書等に記載された発明にあっては、保全対象発明)」とする。
3(略:外国語書面出願の様な特殊な出願の場合に関する読み替え規定)
4 特許庁長官は、特許法第百八十四条の三第一項の規定により特許出願とみなされる国際出願を受けた場合において、当該特許出願に係る明細書等に第六十六条第一項本文に規定する発明が記載されているときは、その旨を内閣総理大臣に通知するものとする。
5 内閣総理大臣は、特許庁長官が第六十六条第三項の規定による通知をした特許出願人(通知後に特許を受ける権利の移転があったときは、その承継人を含む。)が第一項の規定に違反して外国出願をしたと認める場合又は前項の規定による通知に係る国際出願が第一項の規定に違反するものであると認める場合であって、当該特許出願が却下されることが相当と認めるときは、その旨を特許庁長官及び特許出願人に通知するものとする。
6 第七十三条第七項の規定は、前項の規定による通知について準用する。
7 特許庁長官は、第五項の規定による通知を受けたときは、特許出願を却下するものとする。ただし、その特許出願が保全指定がされたものである場合にあっては、前条第二項の規定による通知を待って、特許出願を却下するものとする。
(外国出願の禁止に関する事前確認)
第七十九条 第六十六条第一項本文に規定する発明に該当し得る発明を記載した外国出願をしようとする者は、我が国において明細書等に当該発明を記載した特許出願をしていない場合に限り、内閣府令・経済産業省令で定めるところにより、特許庁長官に対し、その外国出願が前条第一項の規定により禁止されるものかどうかについて、確認を求めることができる。2 特許庁長官は、前項の規定による求めを受けた場合において、当該求めに係る発明が第六十六条第一項本文に規定する発明に該当しないときは、遅滞なく、その旨を当該求めをした者に回答するものとする。
3 特許庁長官は、第一項の規定による求めを受けた場合において、当該求めに係る発明が第六十六条第一項本文に規定する発明に該当するときは、遅滞なく、内閣総理大臣に対し、公にすることにより外部から行われる行為によって国家及び国民の安全に影響を及ぼすものでないことが明らかかどうかにつき確認を求めるものとする。この場合において、当該確認を求められた内閣総理大臣は、遅滞なく、特許庁長官に回答するものとする。
4 特許庁長官は、前項の規定により回答を受けたときは、遅滞なく、第一項の規定による求めをした者に対し、当該求めに係る発明が第六十六条第一項本文に規定する発明に該当する旨及び当該回答の内容を回答するものとする。
5 第一項の規定により確認を求めようとする者は、手数料として、一件につき二万五千円を超えない範囲内で政令で定める額を国に納付しなければならない。
6 前項の規定による手数料の納付は、内閣府令・経済産業省令で定めるところにより、収入印紙をもってしなければならない。ただし、内閣府令・経済産業省令で定める場合には、内閣府令・経済産業省令で定めるところにより、現金をもって納めることができる。
7 前条第一項の規定の適用の有無については、産業競争力強化法(平成二十五年法律第九十八号)第七条の規定は、適用しない。
(損失の補償)
第八十条 国は、保全対象発明(保全指定が解除され、又は保全指定の期間が満了したものを含む。)について、第七十三条第一項ただし書の規定による許可を受けられなかったこと又は同条第四項の規定によりその許可に条件を付されたことその他保全指定を受けたことにより損失を受けた者に対して、通常生ずべき損失を補償する。2 前項の規定による補償を受けようとする者は、内閣府令で定めるところにより、内閣総理大臣にこれを請求しなければならない。
3 内閣総理大臣は、前項の規定による請求があったときは、補償すべき金額を決定し、これを当該請求者に通知しなければならない。
4(略:補償金額の決定における保全審査準用規定)
5 第三項の規定による決定に不服がある者は、その通知を受けた日から六月以内に訴えをもって補償すべき金額の増額を請求することができる。
6 前項の訴えにおいては、国を被告とする。
(後願者の通常実施権)
第八十一条(略)(特許法等の特例)
第八十二条
1~4(略:国内優先権主張出願の取扱いや存続期間の延長など)5 特許庁長官は、実用新案法第五条第一項の規定による実用新案登録出願を受けた場合において、当該実用新案登録出願に係る明細書、実用新案登録請求の範囲又は図面に保全対象発明が記載されているときは、同法第十四条第二項の規定にかかわらず、その保全指定が解除され、又は保全指定の期間が満了するまで、同項の規定による実用新案権の設定の登録をしてはならない。
(勧告及び改善命令)
第八十三条 内閣総理大臣は、指定特許出願人又は発明共有事業者が第七十五条の規定に違反した場合にお いて保全対象発明に係る情報の漏えいを防ぐため必要があると認めるときは、当該者に対し、同条第一項 に規定する措置をとるべき旨を勧告することができる。2 内閣総理大臣は、前項の規定による勧告を受けた者が正当な理由がなくてその勧告に係る措置をとらなかったときは、当該者に対し、その勧告に係る措置をとるべきことを命ずることができる。
3 内閣総理大臣は、前二項の規定にかかわらず、指定特許出願人又は発明共有事業者が第七十五条の規定に違反した場合において保全対象発明の漏えいのおそれが切迫していると認めるときは、当該者に対し、同条第一項に規定する措置をとるべきことを命ずることができる。
(報告徴収及び立入検査)
第八十四条 内閣総理大臣は、この章の規定の施行に必要な限度において、指定特許出願人及び発明共有事業者に対し、保全対象発明の取扱いに関し、必要な報告若しくは資料の提出を求め、又はその職員に、当該者の事務所その他必要な場所に立ち入り、保全対象発明の取扱いに関し質問させ、若しくは帳簿、書類その他の物件を検査させることができる。2 前項の規定により立入検査をする職員は、その身分を示す証明書を携帯し、関係人の請求があったときは、これを提示しなければならない。
3 第一項の規定による立入検査の権限は、犯罪捜査のために認められたものと解釈してはならない。
(送達)
第八十五条 この章に規定する手続に関し、送達をすべき書類は、内閣府令・経済産業省令で定める。2 特許法第百九十条から第百九十二条までの規定は、前項の送達について準用する。
第六章 雑則(略)
第七章 罰則
第九十二条 次の各号のいずれかに該当する場合には、当該違反行為をした者は、二年以下の懲役若しくは百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
一~三(略)
四 第五十二条第十項(第五十四条第二項及び第五十五条第三項において準用する場合を含む。)又は第八十三条第二項若しくは第三項の規定による命令に違反したとき。
五(略)
六 第七十三条第一項の規定又は同条第四項の規定により許可に付された条件に違反して保全対象発明の実施をしたとき。
七 偽りその他不正の手段により第七十三条第一項ただし書の規定による許可又は第七十六条第一項の規定による承認を受けたとき。
八 第七十四条第一項の規定に違反して保全対象発明の内容を開示したとき。2 前項第六号及び第八号の罪の未遂は、罰する。
3 第一項第六号及び第八号の罪は、日本国外においてこれらの号の罪を犯した者にも適用する。
第九十三条(略)
第九十四条 第七十八条第一項の規定に違反して外国出願をしたとき(第九十二条第一項第八号に該当するときを除く。)は、当該違反行為をした者は、一年以下の懲役若しくは五十万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
2 前項の罪は、日本国外において同項の罪を犯した者にも適用する。
第九十五条 次の各号のいずれかに該当する者は、一年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
一(略)
二 第六十七条第八項(第七十条第四項、第七十三条第五項、第七十七条第三項及び第八十条第四項において準用する場合を含む。)の規定に違反して秘密を漏らし、又は盗用した者(第九十二条第一項第六号又は第八号に該当する違反行為をした者を除く。)2 前項第二号の罪は、日本国外において同号の罪を犯した者にも適用する。
第九十六条 次の各号のいずれかに該当する場合には、当該違反行為をした者は、三十万円以下の罰金に処する。
一~四(略)
五 第四十八条第五項から第七項まで、第五十八条第二項又は第八十四条第一項の規定による報告若しくは資料の提出をせず、若しくは虚偽の報告をし、若しくは虚偽の資料を提出し、又は当該職員の質問に対して答弁をせず、若しくは虚偽の答弁をし、若しくは検査を拒み、妨げ、若しくは忌避したとき。
六~七(略)第九十七条~第九十八条(略)
この秘密特許法案(経済安保法案特許非公開関連部分)は、政府有識者会議の提言をほぼそのままに、そのポイントとなる事項を全て政省令に落として条文化しているものであり、残念ながら、法案レベルでも制度の本質的な疑問や懸念に関する点が明らかになる事はなかった。(提言については前回参照。)
この法案の第66条第1項で、特許庁による技術分野該当性の第一次審査の規定について、「特許出願を受けた場合において、その明細書等に、公にすることにより外部から行われる行為によって国家及び国民の安全を損なう事態を生ずるおそれが大きい発明が含まれ得る技術の分野として国際特許分類・・・又はこれに準じて細分化したものに従い政令で定めるもの」(特定技術分野)に属する発明が記載されているとき、「特許出願の日から三月を超えない範囲内において政令で定める期間を経過する日までに」、「当該特許出願に係る書類を内閣総理大臣に送付」するとされている。しかし、技術分野の指定が特許分類によるとされているだけでそれ以外の事は全て政令に落とされており、何が対象となるのか分からない。これは法律として十分な限定になっているとは言い難く、戦前の様に時の政府の恣意的な運用によって秘密特許の対象範囲が拡大されていく恐れもなしとしない。(戦前の制度については第450回参照。)
この第1項の括弧内の「その発明が特定技術分野のうち保全指定をした場合に産業の発達に及ぼす影響が大きいと認められる技術の分野として政令で定めるものに属する場合にあっては、政令で定める要件に該当するものに限る」という条件がデュアルユース技術に相当するものなのだろうが、これも全て政令で決めるとしており、同じく対象範囲の限定として非常に危ういものである。
第2項で、特許出願人の申し出がある場合も書かれているが、これも府省令で定めるところによりとされているだけで、具体的に何が対象となるのか不明である。
第3項で、特許庁長官が特定技術分野の出願を内閣総理大臣に送付をしたときに、その送付をした旨を特許出願人に通知する事が規定されている。
第67条第1項で、内閣府に新設されるのだろう審査部署における、秘密として指定するかどうかの第二次審査である保全審査において、「内閣府令で定めるところにより、当該特許出願に係る明細書等に公にすることにより外部から行われる行為によって国家及び国民の安全を損なう事態を生ずるおそれが大きい発明が記載され、かつ、そのおそれの程度及び保全指定をした場合に産業の発達に及ぼす影響その他の事情を考慮」すると書かれているが、具体的にどの様に審査が行われるのかやはり良く分からない儘である。
第9項で、秘密指定(保全指定)をしようとする場合には、特許出願人に対し、保全対象発明となり得る発明の内容を通知するとともに、情報管理状況等を記載した書類の提出を求めるとしており、第10項で、この書類は14日以内に提出する必要があるとされている。しかし、この通知にはなぜその発明が公開されると国家及び国民の安全を損なう事態を生ずるおそれが大きいのかという理由や補償の目安が記載されるとはされておらず、これでは出願人にとって保全指定が妥当かどうか、その後どの様に対応するべきか判断できないだろう。
そして、この通知に応答しないと、第69条に書かれている様に、弁明書の提出の機会は与えられた後に保全審査は打ち切られ、その旨が特許庁に通知され、特許庁により特許出願が却下される事になる。
第69条の保全審査と第70条の保全指定の関係もあまり明確でないが、第67条で求められる書類が提出された後に保全指定の判断がされるという事になるのだろう。
そして、第71条により、第一次審査の結果と異なり、秘密指定をするかどうかの第二次審査である保全審査では、保全しない事についても特許出願人に通知される事となる。
最終的な秘密指定の効果として、第73条で保全対象発明の実施が制限される事が、第74条で保全対象発明の開示が禁止される事が書かれている。
外国出願の禁止について、第78条に書かれているが、第66条第1項本文に依存する形で、「何人も、日本国内でした発明であって公になっていないものが、第六十六条第一項本文に規定する発明であるときは、次条第四項の規定により、公にすることにより外部から行われる行為によって国家及び国民の安全に影響を及ぼすものでないことが明らかである旨の回答を受けた場合を除き、当該発明を記載した外国出願・・・をしてはならない」と書かれており、また、この規定では、どこまで出願人自身で判断して良いのか、どこまで第79条の事前相談を必要とするのか曖昧である。
同第78条同第1項中に、「ただし、我が国において明細書等に当該発明を記載した特許出願をした場合であって、当該特許出願の日から十月を超えない範囲内において政令で定める期間を経過したとき・・・第六十六条第一項本文に規定する期間内に同条第三項の規定による通知が発せられなかったとき・・・及び同条第十項、第七十一条又は前条第二項の規定による通知を受けたときにおける当該特許出願に係る明細書等に記載された発明については、この限りでない」というただし書きもある。しかし、これも、いつまでに外国出願が可能となるかという期間が「特許出願の日から十月を超えない範囲内において政令で定める期間」とやはり政令規定になっていて10か月というかなりの長期間になる事も想定される上、「第六十六条第一項本文に規定する期間内に同条第三項の規定による通知が発せられなかったとき」という場合も含まれているが、特許庁の第一次審査で通知が発せられなかった事が出願人にどの様にして分かるのか不明である。
第5項には、第一次審査の通知を受けた後に第一項の規定に違反して外国出願をしたときには特許出願が却下される事があり得る事が書かれている。
第80条に損失の補償について書かれているが、これも保全指定を受けた後に内閣総理大臣に請求する事は分かるものの、補償すべき金額はどの様に決定されるのか、増額の訴えもできるとされているが、保全対象となった特許出願についての裁判をどうするのか良く分からない。
秘密特許関連の罰則についても一覧でまとめておくと、以下の様になるだろう。
○1年以下の懲役又は100万円以下の罰金(第92条、併科、未遂、国外犯あり):
・第83条第2項、第3項の保全対象発明の適正管理措置に関する命令違反(第1項第4号)
・第73条第1項、第4項の許可条件に違反する保全対象発明の実施(同第6号)
・不正の手段により第73条第1項の保全対象発明の実施許可、第76条第1項の他事業者の情報取扱い承認を受けたとき(第7号)
・第74条第1項違反の保全対象発明の内容の開示(同第8号)○1年以下の懲役又は50万円以下の罰金(第94条、併科、国外犯あり):
・第78条第1項の規定に違反して外国出願をしたとき(第1項)○1年以下の懲役又は50万円以下の罰金(第95条、国外犯あり):
・第67条第8項(準用の場合を含む)の保全審査において開示を受けた者等の情報漏洩、盗用禁止違反(第1項第2号)○30万円以下の罰金(第96条):
・第84条第1項の規定による保全対象発明の取扱いに関する報告拒否等(第5号)
これらの罰則の内、他は保全指定を受けた場合に科され得るもので、その場合における罰則として本当に適切かも疑問だが、外国出願禁止違反に対する罰則が最終的な秘密指定が出される前にも科される可能性がある事は特に注意する必要がある。
第78条の外国出願禁止は、上で書いた通り、どこまで出願人自身で自身の発明が特定技術分野に属するか否かについて判断して良いのか、どこまで第79条の事前相談を必要とするのか曖昧であり、特許庁で出願から3か月以内になされる第一次審査で通知が発せられなかった事が出願人にどの様にして分かるのかも不明である(通知があった場合は第二次保全審査に入る事が分かるが)事を考えると、第94条の罰則には大きな問題がある。
さらに念のため書いておくと、この法案は特許法を全く改正せずに新しい法律によって特許制度の運用に手を入れる形を取っているので、保全対象となった出願や分割された後の出願の特許審査が具体的にどの様に進められるのかも分からない。
長くなったので、ここで、上で書いた事の概要を以下箇条書きでまとめておく。
- 特許庁による第一次審査の技術分野の範囲について何が対象となるのか法律として分からず、今後政府によって恣意的に対象範囲が拡大されていく恐れもなしとしない。
- 特許出願人の申し出がある場合についても、具体的に何が対象となるのか不明である。
- 内閣府で行われるのだろう、最終的に秘密として指定するかどうかの第二次保全審査についても、具体的にどの様に審査が行われるのか良く分からない。
- 秘密指定をしようとする場合の通知に、なぜその発明が公開されると国家及び国民の安全を損なう事態を生ずるおそれが大きいのかという理由や補償の目安が記載されるとはされておらず、出願人にとって指定が妥当かどうか、その後どの様に対応するべきか判断できない。
- 外国出願の禁止について、どこまで出願人が自身の発明について特定技術分野に属するか否かを判断して良いのか、どこまで事前相談を必要とするのか曖昧であり、外国出願が可能となるまでの期間が10か月というかなりの長期間になる事も想定される上に、特許庁で出願から3か月以内になされる第一次審査で通知が発せられなかった事が出願人にどの様にして分かるのかも不明であり、その罰則にも大きな問題がある。
- 保全指定を受けた後に内閣総理大臣に請求する補償について、補償すべき金額はどの様に決定されるのか、増額の訴えに関する裁判をどうするのか良く分からない。
- 保全指定を受けた場合に科され得る罰則が本当に適切かも疑問である。
- 保全対象となった出願や分割された後の出願の特許審査が具体的にどの様に進められるのかも分からない。
後は前回書いた事の繰り返しとなるが、論文等の研究成果の公表は自由という前提と矛盾を来しているこの秘密特許制度の導入について、その根拠となる立法事実があるのか、「公にすることにより外部から行われる行為によって国家及び国民の安全を損なう事態を生ずるおそれが大きい発明」についてまともに判断できるのか、その様なものが今の日本で本当に出願されているのか、出願され得るのか、そもそも大いに疑わしいと私は思っている。
この様に数多くの問題を含んだ条文により秘密特許制度が成立すると、国の安全保障に役立たないのは無論の事、かえってその恣意的な運用によって、国として本来促進するべき技術分野の研究開発、国内外での特許取得活動に大きな萎縮が発生する可能性すらあるだろう。
この法案は他にも多くの問題を含んでいるのではないかと思うが、大体、この様なポイントとなる事項を全て政省令に落として条文化している乱暴かつ雑な法案は、法律としての体をなしていないと言って良い。今後の国会審議において、その本質的な問題まで踏み込み、条文レベルで抜本的な明確化をしてもらいたいと私は思う。それが不可能だというなら秘密特許に関する部分は全て削除してもいい位である。
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