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2021年12月29日 (水)

第449回:2021年の終わりに

 今年もあまり取り上げて来なかった話を中心にざっとまとめを書いておきたいと思う。

 まず、文化庁の文化審議会・著作権分科会では、基本政策小委員会で拡大集中ライセンス制度が、法制度小委員会とその下の著作物等のライセンス契約に係る制度の在り方に関するワーキングチームで独占的ライセンスに関する差止請求権付与・対抗制度と裁判手続きの電子化に伴う権利制限への公衆送信等の追加が検討され、国際小委員会も開催されている。

 これらの検討はどれも実務的には重要だが、特に問題がある訳ではないので、ここでは以下内容を簡単に紹介するに留める。

 拡大集中ライセンス制度を含む新しい権利処理の仕組みについては、12月22日の著作権分科会(議事次第・資料参照)で中間まとめ1(pdf)概要(pdf)も参照)が取りまとめられ、「新しい権利処理の仕組みの実現に当たっては、これまでの審議においても意見があったように、法制的課題や国内法制・条約との関係など、詳細な議論が必要(中略)その実現に向けての法制的課題を、引き続き議論すべき」と引き続き検討とされた。

 同じく国際小委員会の検討に対応する中間まとめ2(pdf)もあるが、コンテンツの海外展開に関する現状のまとめだけで法改正に関する事項は含まれていない。

 法制度小委員会の検討については、12月26日まで意見募集がされていた独占的ライセンスの対抗制度及び独占的ライセンシーに対し差止請求権を付与する制度の導入に関する報告書(案)民事訴訟法の改正に伴う著作権制度に関する論点整理(案)とがある(文化庁のHP、電子政府のHP1参照)。前者は「登録対抗制度」により「独占的ライセンスの対抗制度及び独占的ライセンシーに対し差止請求権を付与する制度を導入することが適当」とするもの、後者は「著作権法第42条について、今般の民事裁判手続のオンライン化に対応するため、公衆送信等についても権利制限の対象とすることが必要」とするもので、特に問題はなく、賛同できる内容である。

 次に、特許庁の産業構造審議会・知的財産分科会では、6月28日に知的財産分科会が開催され(議事次第・資料参照)、財政点検小委員会が3回開催されているが、いつも法改正検討をしている各小委員会は開かれていない。

 ワーキンググループとして、唯一、特許制度小委員会の下の審査基準専門委員会ワーキンググループが12月15日に開催され(議事次第・資料参照)、特許の実務にそれなりに大きな影響がある話として、マルチマルチクレーム制限について(pdf)で書かれている通り、「マルチクレーム(2以上のクレームを択一的に引用するクレーム)が、他のマルチクレームの基礎となることを制限する」規則改正が提案されて了承されている。制度ユーザにしか関係しないのでここで詳しい説明はしないが、この規則改正については、1月21日〆切で意見募集も掛かっている(特許庁のHP1、電子政府のHP2参照)。

 なお、実務的な細かな話なので説明を省略するが、特許庁からは、料金値上げに関する政令の公布や(特許庁のHP2HP3参照)、その他細かな意見募集などもされている(特許庁のHP4参照)。

 産業構造審議会・知的財産分科会の不正競争防止小委員会は、12月9日に久しぶりの会合が開催されている(議事次第・資料参照)。その検討事項について(pdf)という資料によると、制度検討としては、「立証負担の軽減手法」、「損害賠償額算定規定の見直し」、「ライセンシー保護制度」、「国際裁判管轄・準拠法」といった論点について議論した上で、3月に中間整理報告書案をまとめるつもりらしいが、既存の他の知財法の検討結果を取り入れるだけならまだしも、これらの多様な論点について、3月までに報告書案を取りまとめられるのかは良く分からない。

 総務省では、インターネット上の海賊版サイトへのアクセス抑止方策に関する検討会が、これも久しぶりに、11月29日に開催されている(議事次第・資料参照)。今の所、初回のヒアリングが終わっただけで、今までの方針を踏襲して地道な取り組みをして行くのではないかと思えるが、来年5~6月頃までの検討について少し注視しておいてもいい様に思う。

 農水省では、4月30日に農林水産省知的財産戦略2025(pdf)がまとめられ、例年通り、農業資材審議会・種苗分科会で重要な形質の指定に関する諮問がされるなどしているが(12月9日の議事次第・資料参照)、特に新しい法改正の検討がされている様子はない。

 知財本部では、プラットフォームにおけるデータ取扱いルールの実装に関する検討会(これは新しくできたデジタル庁のサブワーキンググループになったらしい)と知財投資・活用戦略の有効な開示及びガバナンスに関する検討会が開催されていて、それぞれ、害はないと思うが、わざわざ作る意味がどこにあるのか良く分からないガイドラインの検討を続けている。読む価値はあまりないと思うが、前者に対応するガイドライン案について意見募集がされていたという事があり(電子政府のHP3参照)、後者に対応するガイドラインが今現在パブコメに掛かっている状況である(電子政府のHP4参照)。

 私の見た所、各省庁での検討は以上の通りだが、今までとは少し毛色の違った話として、秘密特許制度の検討がある。これは11月19日に第1回が開催された大臣を構成員とする経済安全保障推進会議の後、内閣官房の経済安全保障法制に関する有識者会議で11月26日から検討が始まったと見えるものである。

 そして、つい昨日、12月28日の第2回経済安全保障法制に関する有識者会議の資料として、12月6日に開かれていた第1回の特許非公開に関する検討会合の資料(pdf)議事要旨(pdf)議事のポイント(pdf)が公表された。

 これらの資料には、

論点①:制度新設の必要性・どのような制度の枠組みとすべきか
論点②:対象にすべき発明のイメージ
論点③:機微発明の選定プロセスの在り方
論点④:機微発明の選定後の手続と漏えい防止措置
論点⑤:外国出願制限の在り方
論点⑥:補償の在り方

という6つの論点が書かれていて、具体的な制度設計はなお不明だが、報道されていた通り、政府が安全保障上重要だと判断した場合に特許を非公開として、公開すれば得られたはずの特許収入を補償金という形で国が拠出する制度を検討している様である。

 外国の制度の形をどうにか真似て日本でも何かしらの秘密特許制度を導入できなくもないだろうが、誰がどの様にある特許を安全保障上重要だと判断するのか、今の日本で果たしてその様な事ができるのか相当疑問であり、よほど注意して制度を作らないと、特許制度全体の予見可能性・安定性を損ない、かえって真に必要な先端技術の国際的な保護ができなくなる懸念もある。

 今の日本の特許制度の考え方からするとかなり異質な制度を導入しようとしていると見えるこの秘密特許制度の検討が、来年の知財政策検討の中で最大の焦点となるのだろう。

 今年もこれで最後になるが、政官業に巣食う全ての利権屋に悪い年を、このブログを読んで下さっている方々に心からの感謝を。

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