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2021年12月29日 (水)

第449回:2021年の終わりに

 今年もあまり取り上げて来なかった話を中心にざっとまとめを書いておきたいと思う。

 まず、文化庁の文化審議会・著作権分科会では、基本政策小委員会で拡大集中ライセンス制度が、法制度小委員会とその下の著作物等のライセンス契約に係る制度の在り方に関するワーキングチームで独占的ライセンスに関する差止請求権付与・対抗制度と裁判手続きの電子化に伴う権利制限への公衆送信等の追加が検討され、国際小委員会も開催されている。

 これらの検討はどれも実務的には重要だが、特に問題がある訳ではないので、ここでは以下内容を簡単に紹介するに留める。

 拡大集中ライセンス制度を含む新しい権利処理の仕組みについては、12月22日の著作権分科会(議事次第・資料参照)で中間まとめ1(pdf)概要(pdf)も参照)が取りまとめられ、「新しい権利処理の仕組みの実現に当たっては、これまでの審議においても意見があったように、法制的課題や国内法制・条約との関係など、詳細な議論が必要(中略)その実現に向けての法制的課題を、引き続き議論すべき」と引き続き検討とされた。

 同じく国際小委員会の検討に対応する中間まとめ2(pdf)もあるが、コンテンツの海外展開に関する現状のまとめだけで法改正に関する事項は含まれていない。

 法制度小委員会の検討については、12月26日まで意見募集がされていた独占的ライセンスの対抗制度及び独占的ライセンシーに対し差止請求権を付与する制度の導入に関する報告書(案)民事訴訟法の改正に伴う著作権制度に関する論点整理(案)とがある(文化庁のHP、電子政府のHP1参照)。前者は「登録対抗制度」により「独占的ライセンスの対抗制度及び独占的ライセンシーに対し差止請求権を付与する制度を導入することが適当」とするもの、後者は「著作権法第42条について、今般の民事裁判手続のオンライン化に対応するため、公衆送信等についても権利制限の対象とすることが必要」とするもので、特に問題はなく、賛同できる内容である。

 次に、特許庁の産業構造審議会・知的財産分科会では、6月28日に知的財産分科会が開催され(議事次第・資料参照)、財政点検小委員会が3回開催されているが、いつも法改正検討をしている各小委員会は開かれていない。

 ワーキンググループとして、唯一、特許制度小委員会の下の審査基準専門委員会ワーキンググループが12月15日に開催され(議事次第・資料参照)、特許の実務にそれなりに大きな影響がある話として、マルチマルチクレーム制限について(pdf)で書かれている通り、「マルチクレーム(2以上のクレームを択一的に引用するクレーム)が、他のマルチクレームの基礎となることを制限する」規則改正が提案されて了承されている。制度ユーザにしか関係しないのでここで詳しい説明はしないが、この規則改正については、1月21日〆切で意見募集も掛かっている(特許庁のHP1、電子政府のHP2参照)。

 なお、実務的な細かな話なので説明を省略するが、特許庁からは、料金値上げに関する政令の公布や(特許庁のHP2HP3参照)、その他細かな意見募集などもされている(特許庁のHP4参照)。

 産業構造審議会・知的財産分科会の不正競争防止小委員会は、12月9日に久しぶりの会合が開催されている(議事次第・資料参照)。その検討事項について(pdf)という資料によると、制度検討としては、「立証負担の軽減手法」、「損害賠償額算定規定の見直し」、「ライセンシー保護制度」、「国際裁判管轄・準拠法」といった論点について議論した上で、3月に中間整理報告書案をまとめるつもりらしいが、既存の他の知財法の検討結果を取り入れるだけならまだしも、これらの多様な論点について、3月までに報告書案を取りまとめられるのかは良く分からない。

 総務省では、インターネット上の海賊版サイトへのアクセス抑止方策に関する検討会が、これも久しぶりに、11月29日に開催されている(議事次第・資料参照)。今の所、初回のヒアリングが終わっただけで、今までの方針を踏襲して地道な取り組みをして行くのではないかと思えるが、来年5~6月頃までの検討について少し注視しておいてもいい様に思う。

 農水省では、4月30日に農林水産省知的財産戦略2025(pdf)がまとめられ、例年通り、農業資材審議会・種苗分科会で重要な形質の指定に関する諮問がされるなどしているが(12月9日の議事次第・資料参照)、特に新しい法改正の検討がされている様子はない。

 知財本部では、プラットフォームにおけるデータ取扱いルールの実装に関する検討会(これは新しくできたデジタル庁のサブワーキンググループになったらしい)と知財投資・活用戦略の有効な開示及びガバナンスに関する検討会が開催されていて、それぞれ、害はないと思うが、わざわざ作る意味がどこにあるのか良く分からないガイドラインの検討を続けている。読む価値はあまりないと思うが、前者に対応するガイドライン案について意見募集がされていたという事があり(電子政府のHP3参照)、後者に対応するガイドラインが今現在パブコメに掛かっている状況である(電子政府のHP4参照)。

 私の見た所、各省庁での検討は以上の通りだが、今までとは少し毛色の違った話として、秘密特許制度の検討がある。これは11月19日に第1回が開催された大臣を構成員とする経済安全保障推進会議の後、内閣官房の経済安全保障法制に関する有識者会議で11月26日から検討が始まったと見えるものである。

 そして、つい昨日、12月28日の第2回経済安全保障法制に関する有識者会議の資料として、12月6日に開かれていた第1回の特許非公開に関する検討会合の資料(pdf)議事要旨(pdf)議事のポイント(pdf)が公表された。

 これらの資料には、

論点①:制度新設の必要性・どのような制度の枠組みとすべきか
論点②:対象にすべき発明のイメージ
論点③:機微発明の選定プロセスの在り方
論点④:機微発明の選定後の手続と漏えい防止措置
論点⑤:外国出願制限の在り方
論点⑥:補償の在り方

という6つの論点が書かれていて、具体的な制度設計はなお不明だが、報道されていた通り、政府が安全保障上重要だと判断した場合に特許を非公開として、公開すれば得られたはずの特許収入を補償金という形で国が拠出する制度を検討している様である。

 外国の制度の形をどうにか真似て日本でも何かしらの秘密特許制度を導入できなくもないだろうが、誰がどの様にある特許を安全保障上重要だと判断するのか、今の日本で果たしてその様な事ができるのか相当疑問であり、よほど注意して制度を作らないと、特許制度全体の予見可能性・安定性を損ない、かえって真に必要な先端技術の国際的な保護ができなくなる懸念もある。

 今の日本の特許制度の考え方からするとかなり異質な制度を導入しようとしていると見えるこの秘密特許制度の検討が、来年の知財政策検討の中で最大の焦点となるのだろう。

 今年もこれで最後になるが、政官業に巣食う全ての利権屋に悪い年を、このブログを読んで下さっている方々に心からの感謝を。

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2021年12月12日 (日)

第448回:技術と著作権の問題に関する国際動向2つ(DRM回避の例外を拡張するアメリカ著作権規則改正とエラー修正のためのプログラムの逆コンパイルは可能とする欧州司法裁の判決)

 今回は最近少し話題になっていた技術と著作権の問題に関する国際動向を2つ紹介したいと思う。

(1)DRM回避の例外を拡張するアメリカ著作権規則改正
 1つは、今までここではあまり取り上げて来なかったが、アメリカ議会図書館とその下にある著作権局によって3年毎に行われており、今回8回目になる、アメリカの技術的保護手段(DRM)回避規制の例外に関する2021年10月28日の規則改正についてである。(アメリカ著作権局のHP参照)

 このDRM回避規制の例外に関する規則改正は、1998年のアメリカのデジタルミレニアム著作権法改正(DMCA)における政治的妥協の産物として生まれたものだが、これにより現在アメリカでフェアユースと絡み技術と著作権の問題についてどの様な議論がされているかを知る事ができる。

 アメリカ著作権局の勧告(pdf)もあるが、最終版規則(pdf)にまとめられている勧告要約の規則改正の結論部分だけを抜き出して行くと以下の様になる。(以下、翻訳は拙訳。また、訳注の修正条項は2018年版規則(pdf)と比較して書いた。)

B. New or Expanded Designations of Classes

Based upon the record in this proceeding regarding proposed expansions to existing exemptions or newly proposed exemptions, the Register recommends that the Librarian determine that the following classes of works be exempt from the prohibition against circumvention of technological measures set forth in section 1201(a)(1):

1. Proposed Class 1: Audiovisual Works - Criticism and Comment

... the Register recommended expanding the exemption to permit employees of colleges and universities to circumvent at the direction of a faculty member for the purpose of teaching a course, and also to cover similar uses by both faculty and employees acting at the direction of faculty members of accredited nonprofit educational institutions for the purposes of offering MOOCs. ...

2. Proposed Class 3: Audiovisual Works - Accessibility

... the Register concluded that expanding the exemption to faculty and staff with disabilities, allowing reuse of previously remediated material, and permitting proactive remediation are likely fair uses because they are directed towards adding captions or audio descriptions in compliance with disability law, the same purpose found fair in the Register's 2018 Recommendation. ...

3. Proposed Class 5: Audiovisual Works - Preservation and Replacement

... the Register concluded that it was likely to be a fair use for qualifying institutions to copy motion pictures from discs that are damaged or deteriorating if the motion pictures on those discs are not reasonably available in the marketplace for purchase or streaming. ...

4. Proposed Classes 7(a): Motion Pictures and 7(b): Literary Works - Text and Data Mining

... the Register found that the prohibition on circumvention adversely affects researchers' ability to conduct TDM research projects, which are likely to be noninfringing with the addition of several limitations. ...

5. Proposed Class 8: Literary Works - Accessibility

... the Register concluded that without the proposed modifications, print-disabled individuals would be adversely affected in their ability to engage in the proposed noninfringing uses. ...

6. Proposed Class 9: Literary Works - Medical Device Data

... the Register concluded that accessing medical data outputs likely qualifies as a fair use and that expanding the exemption to include non-implanted medical devices and non-passive monitoring would not alter the fair use analysis. ...

7. Proposed Class 10: Computer Programs - Unlocking

... the Register concluded that proponents established that unlocking is likely to be a fair use regardless of the type of device involved. ...

8. Proposed Class 11: Computer Programs - Jailbreaking

... The Register concluded that jailbreaking video streaming devices likely constitutes a fair use. ... the Register concluded that jailbreaking routers and other networking devices is likely to qualify as a fair use. ...

9. Proposed Class 12: Computer Programs - Repair

... the Register recommended expanding the existing exemption for diagnosis, maintenance, and repair of certain categories of devices to cover any software-enabled device that is primarily designed for use by consumers. For video game consoles, the Register concluded that an exemption is warranted solely for the repair of optical drives. ... the Register recommended that the exemption for land vehicles be expanded to cover marine vessels and to remove the condition requiring compliance with other laws. ... the Register recommended a new exemption allowing circumvention of TPMs restricting access to firmware and related data files on medical devices and systems for the purposes of diagnosis, maintenance, and repair.

10. Proposed Class 13: Computer Programs - Security Research

... Regarding the specific limitations, the Register recommended removing the condition that circumvention not violate 'otherlaws' and instead clarifying that the exemption does not provide a safe harbor from liability under other laws. ...

11. Proposed Class 14(a): Computer Programs and 14(b) Video Games - Preservation

... the Register concluded that off-premises access to software as described in the proposal is likely to be noninfringing, with the limitation that the work be accessible to only one user at a time and for a limited time. ... The Register therefore recommends that the Librarian amend the exemption for Class 14(a) to address the eligibility requirements for libraries, archives, and museums, but not to remove the premises limitation. The Register recommends removing the premises limitation in the exemption for Class 14(a).

12. Proposed Class 15: Computer Programs - 3D Printing

... the Register concluded that changing the word "feedstock" to "material" is not a substantive change, and found that the removal of the term "microchip-reliant" does not alter the fair use analysis because the expansion is directed at the same uses the Office previously concluded were fair.

13. Proposed Class 16: Computer Programs - Copyright License Investigation

... the Register recommended adopting an exemption with several limitations. ...


14. Proposed Class 17: All Works - Accessibility Uses

... Proponents did, however, provide evidence to support an exemption to enable individuals with disabilities to use alternate input devices to play video games.

B.新しい又は拡張されるクラスの指定

既存の例外の拡張又は新しい例外に関するこの手続きの記録に基づき、著作権局は、議会図書館が次の著作物のクラスはアメリカ著作権法第1201条(a)に規定された技術的保護手段の回避の禁止から除かれると決定する事を勧告する:

1.提案クラス1:視聴覚著作物-批評及び注釈

(略)著作権局は、例外を拡張し、大学の職員が講義を行う目的のために教員の指導により回避するのを認める事並びに大規模オンライン公開講義の目的のために認定非営利教育機関の教員及び教員の指導により行動する職員による同様の利用もカバーする事を勧告した。(略)

(訳注:著作権規則第201.40条(b)(1)に職員等に関する記載を追加する事に対応。)

2.提案類型3:視聴覚著作物-アクセシビリティ

(略)著作権局は、障害を持つ職員に例外を拡張し、前に修正されたマテリアルを再利用する事を許し、事前修正を認める事はフェアユースであろうと結論づけた、それらは障害法、著作権局の2018年の勧告の中にある同じ目的に合致するキャプション又は音声説明を追加する事に向けられているからである。(略)

(訳注:著作権規則第201.40条(b)(2)に職員や再利用に関する記載を追加する事に対応。)

3.提案クラス5:視聴覚著作物-保存と置換

(略)著作権局は、ディスクの動画が市場において合理的に購入か配信によって入手できない場合に、資格を有する機関が損傷した又は劣化しているディスクからその動画をコピーする事はフェアユースであろうと結論づけた。(略)

(訳注:著作権規則第201.40条(b)(3)として図書館等における保存に関する条項を追加する事に対応。)

4.提案クラス7(a):動画及び7(b)文章の著作物-テキスト及びデータマイニング

(略)著作権局は、回避の禁止は研究者のテキスト及びデータマイニングを実行する能力に悪影響を与えていると判断した、これらは幾つかの限定の付加により非侵害とされるであろうものである。(略)

(訳注:著作権規則第201.40条(b)(4)、(5)として研究目的のテキスト及びデータマイニングに関する条項を追加する事に対応。)

5.提案クラス8:文章の著作物-アクセシビリティ

(略)著作権局は、提案されている修正がなければ、視覚障害者は提案されている非侵害利用をする能力に悪影響を受けるであろうと結論づけた。(略)

(訳注:著作権規則第201.40条(b)(6)として読み上げ非対応の場合のDRM回避に関する条項を追加する事に対応。)

6.提案クラス9:文章の著作物-医療機器データ

(略)著作権局は、医療データ出力へのアクセスはフェアユースと考えられるであろうと、そして、例外が非インプラント型医療機器及び非受動モニタリングを含む様にする事はそのフェアユース分析を変えるものではないと結論づけた。(略)

(訳注:著作権規則第201.40条(b)(7)として医療機器データに関する条項を追加する事に対応。)

7.提案クラス10:コンピュータプログラム-ロック解除

(略)著作権局は、支持者たちはロック解除は関係する無線機器の種類によらずフェアユースであろう事を十分に示したと結論づけた。(略)

(訳注:著作権規則第201.40条(b)(8)において無線アクセスプログラムの回避の対象を種類の例示によらず無線機器一般に拡張する事に対応。)

8.提案クラス11:コンピュータプログラム-ジェイルブレイク

(略)著作権局は、ビデオストリーミングのジェイルブレイクはフェアユースとなるだろうと結論づけた。(略)著作権局は、ルータ及び他のネットワーク機器のジェイルブレイクはフェアユースとなるだろうと結論づけた。(略)

(訳注:著作権規則第201.40条(b)(10)においてスマートテレビにインターネット動画配信が含まれる記載を追加し、(12)にルータ及び他のネットワーク機器における回避に関する条項を追加する事に対応。)

9.提案クラス12:コンピュータプログラム-修理

(略)著作権局は、あるカテゴリーの機器の診断、維持及び修理のための既存の例外が主として消費者による利用のために設計されたあらゆるソフトウェア実行機器を含む様に拡張する事を勧告した。ビデオゲーム機器については、著作権局は、例外は光学機器の修理のためにのみ保証されると結論づけた。(略)著作権局は、車両向けの例外が船舶も含む様に拡張され、他の法律との合致を求める条件を削除する事を勧告した。(略)著作権局は、診断、維持及び修理のために医療機器及びシステムにおけるファームウエア及び関係するデータへのアクセスを制限する技術的保護手段の回避を認める新たな例外を勧告した。

(訳注:著作権規則第201.40条(b)(13)において船舶に関する記載を追加し、(14)に消費者利用機器の修理等一般に関する条項を追加し、(15)に医療機器の修理等に関する条項を追加する事に対応。)

10.提案クラス11:コンピュータプログラム-セキュリティ研究

(略)特定の限定に関して、著作権局は、回避が「他の法律」に違反しないとする条件を削除し、その代わりに、回避は他の法律による責任からのセーフハーバーを提供しないと明確化する事を勧告した。(略)

(訳注:著作権規則第201.40条(b)(16)における他の法律に関する記載の変更に対応。)

11.提案クラス14(a):コンピュータプログラム及び14(b)ビデオゲーム-保存

(略)著作権局は、提案に記載されている施設外からのソフトウェアへのアクセスは、著作物が限定的な時間内である時に1人のユーザのみにアクセス可能とされるという限定つきで、非侵害であろうと結論づけた。(略)著作権局は、よって、議会図書館が、図書館、文書館及び美術館のための資格要件に向けられたクラス14(b)(訳注:原文では14(a)と書かれているが誤記と思われる)のための例外を改正する事を勧告するが、施設に関する制限を削除する事は勧告しない。著作権局は、クラス14(a)のための例外における施設に関する制限の削除を勧告する。

(訳注:著作権規則第201.40条(b)(17)のビデオゲームに関する条項において図書館等の資格に関する記載を修正し、(18)のその他プログラムに関する条項において施設外アクセスに関する記載を追加する事に対応。)

12.提案クラス15:コンピュータプログラム-3Dプリンティング

(略)著作権局は、「原料」という語を「マテリアル」と変える事は実質的な変更ではないと結論づけ、その拡張は著作権局が以前フェアであると結論づけたものと同じ利用に向けられたものであるから、「マイクロチップ依拠」の用語の除去はフェアユース分析を変えないと判断した。

(訳注:著作権規則第201.40条(b)(19)における記載の変更に対応。)

13.提案クラス16:コンピュータプログラム-著作権ライセンス調査

(略)著作権局は、幾つかの限定つきで例外を取り入れる事を勧告した。(略)

(訳注:著作権規則第201.40条(b)(20)として著作権侵害調査に関する条項を追加する事に対応。)

14.提案クラス17:全著作物-アクセシビリティ利用

(略)支持者たちは、しかしながら、障害者がビデオゲームを遊ぶために他の入力機器を利用する事を可能とする例外を支持する証拠を提供した。

(訳注:著作権規則第201.40条(b)(21)としてビデオゲームの障害者利用に関する条項を追加する事に対応。)

 アメリカ著作権法の第1201条とアメリカ著作権規則の第201.40条に書かれている様に、この例外は、著作権法第1201条(a)の回避行為自体に対する規制に対する例外で、(b)の回避機器等の公衆提供規制に対する例外ではない事に注意して読む必要があるが、この規則改正は、利用者側と権利者側の対立をそのまま反映して公正利用・フェアユースを基準にして非常に細かな規定が追加されて行く様になっている。

 DRM回避行為一般を規制した上でその例外を規定して行くとこの様な細かなものにならざるを得ないだろうが、政治的な妥協の産物とは言え、アメリカでは裁判によるフェアユースに関する判断もある中、この様なやり方はあまり上手いものとは私には思えない。

 日本はどうかと言えば、回避行為自体については、著作権法第30条第1項第2号でで技術的保護手段(コピーコントロール)を回避した私的複製と、第113条第6項で技術的利用手段(アクセスコントロール)の回避が規制されており、特に後者において「技術的利用制限手段に係る研究又は技術の開発の目的上正当な範囲内で行われる場合その他著作権者等の利益を不当に害しない場合を除き」と比較的広い解釈を許す形で例外が規定されている状況である。(なお、不正競争防止法では技術的制限手段(コピーコントロール及びアクセスコントロール)の回避行為自体に対する規制はない。私はこの様なDRM回避規制自体が問題だと思っているが、ここではひとまずおく。)

 そのため、このアメリカの規則の各条文との直接的な比較において日本の法制に何か大きな問題があると言うつもりはないが、上の抜粋だけを見ても、アメリカにおいても技術との関係でファユースであろうと問題になっている利用類型について日本とほぼ違いはない事がない事が分かるのではないだろうか。

(2)エラー修正のためのプログラムの逆コンパイルは可能とする欧州司法裁判所の判決
 もう1つは、プログラムのエラーを修正するための逆コンパイルは欧州指令上可能と判断された、2021年10月6日の欧州司法裁判所の判決(フランス語)である。

 これは、ベルギーのトップシステム社が公共機関ルスロールに自社のプラットフォームを用いたアプリケーションを開発して提供していたが、このアプリケーションに関する問題の解決が上手く行かず、両者の間で紛争になり、ルスロールがプログラムを逆コンパイルして自らエラーの修正をしようとした所、トップシステム社が著作権侵害で訴え、ベルギーの裁判所が欧州指令に関する解釈を付託したという事件である。(現在有効な欧州プログラム保護指令第2009/24号でも関連規定の変更はないが、この事件で取り上げられているのはベルギー法の元となった第91/250号の方である。)

 判決の理由からそのポイント部分を訳出すると以下の様になる。

48 En revanche, il ne saurait etre deduit ni du libelle de l'article 6 de la directive 91/250, lu en combinaison avec les considerants 19 et 20 de celle-ci, ni de l'economie de cet article que le legislateur de l'Union aurait eu l'intention d'exclure toute possibilite de proceder a la reproduction du code d'un programme d'ordinateur et a la traduction de la forme de ce code en dehors du cas dans lequel celles-ci sont accomplies dans le but d'obtenir les informations necessaires a l'interoperabilite d'un programme d'ordinateur cree de facon independante avec d'autres programmes.

49 A cet egard, il importe de relever que, tandis que l'article 6 de la directive 91/250 concerne les actes necessaires pour assurer l'interoperabilite de programmes crees independamment, l'article 5, paragraphe 1, de celle-ci vise a permettre a l'acquereur legitime d'un programme d'utiliser ce dernier d'une maniere conforme a sa destination. Ces deux dispositions ont par consequent des finalites differentes.

50 En deuxieme lieu, comme l'a fait observer, en substance, M. l'avocat general au point 59 de ses conclusions, cette analyse est corroboree par les travaux preparatoires de la directive 91/250, desquels il ressort que l'insertion, dans la proposition initiale de la Commission europeenne, de l'actuel article 6 de cette directive visait a regir, de maniere specifique, la question de l'interoperabilite des programmes crees par des auteurs independants, sans prejudice des dispositions destinees a permettre a l'acquereur legitime du programme une utilisation normale de ce dernier.

51 En troisieme lieu, une interpretation de l'article 6 de la directive 91/250 dans le sens suggere par Top System aurait pour consequence de porter atteinte a l'effet utile de la faculte expressement accordee a l'acquereur legitime d'un programme par le legislateur de l'Union, a l'article 5, paragraphe 1, de la directive 91/250, de proceder a la correction des erreurs empechant une utilisation du programme conformement a sa destination.

52 En effet, ainsi que l'a souligne M. l'avocat general au point 79 de ses conclusions, la correction des erreurs affectant le fonctionnement d'un programme d'ordinateur implique, dans la plupart des cas, et notamment lorsque la correction a operer consiste a desactiver une fonction qui affecte le bon fonctionnement de l'application dont fait partie ce programme, de disposer du code source ou, a defaut, du quasi-code source dudit programme.

53 Eu egard aux considerations qui precedent, il y a lieu de repondre a la premiere question posee que l'article 5, paragraphe 1, de la directive 91/250 doit etre interprete en ce sens que l'acquereur legitime d'un programme d'ordinateur est en droit de proceder a la decompilation de tout ou partie de celui-ci afin de corriger des erreurs affectant le fonctionnement de ce programme, y compris quand la correction consiste a desactiver une fonction qui affecte le bon fonctionnement de l'application dont fait partie ledit programme.

48 しかしながら、欧州指令第91/250号の考慮19及び20とともに読んだ時、その第6条の文言からも、この条項の経済からも、他のプログラムとは独立な形で作られたプログラムの相互運用性に必要な情報を得るために実行される場合以外のコンピュータプログラムコードの複製及びこのコードの形式の翻案を実行するあらゆる可能性を除外する意図が欧州連合の立法にあったとは読み取れない。

49 この点で、欧州指令第91/250号の第6条が独立に作られたプログラムの相互運用性を確保するために必要な行為に関するものである一方で、同指令の第5条第1項がプログラムの合法入手者にそれをその目的に合致する目的で利用する事を認めている事が持ち出されて然るべきである。これらの2つの規定は、よって、異なる目的を持っている。

50 第2に、実質的に、法務官氏がその結論のポイント59で指摘している様に、この分析は欧州指令第91/250号の立法過程によって裏づけられており、そこから、欧州委員会の初期提案における、この指令の第6条の挿入は、特定のやり方で、独立の創作者によって作られたプログラムの相互運用性の問題に対応する事を目的としたのであり、プログラムの合法入手者にその通常の利用を認める事を目的とする規定に影響しないという事が言えるのである。

51 第3に、トップシステムにより示唆された意味での欧州指令第91/250号の第6条の解釈は、結果として、欧州指令第91/250号の第5条第1項により、欧州連合の立法によってプログラムの合法入手者に明確に与えられた、その目的に合致する形でのプログラムの利用を阻害するエラーの修正を行う能力を実質的に害する事となるであろう。

52 実際、法務官氏がその結論のポイント79で強調している様に、コンピュータプログラムの動作に影響するエラーの修正は、多くの場合、そして、特に実行すべき修正がそのプログラムの部分をなすアプリケーションの正常な動作に影響する機能を無効化する事にある場合において、そのプログラムのソースコード又は、それがなければ、準ソースコードを用いる事が求められる。

53 以上の考慮から、最初の質問に対して、欧州指令第91/250号の第5条第1項は、コンピュータプログラムの合法入手者にはそのプログラムの動作に影響するエラーを修正するためのその全体又は一部の逆コンパイルを実行する権利があり、そこにはその修正がそのプログラムの部分をなすアプリケーションの正常な動作に影響する機能を無効化する場合が含まれると答える事に理由がある。

 独立プログラムの相互運用性の確保のために逆コンパイルを認める条文の存在から、別の条文には逆コンパイルは含まれておらず認められないとする事は行き過ぎた反対解釈であり、このエラー修正のための逆コンパイルは可能とするこの欧州司法裁の判決は当然のものではないかと私は思う。

 日本の場合、著作権法第47条の3と第47条第6項第1号でプログラムの所有者は自ら実行するために必要な限度において複製、翻案ができるとされているので、日本で同様のケースが問題になるとはあまり思えないが、技術と著作権の問題について海外ではこの様な事まで争われているという例の1つとしてここで紹介しておく。

 日本でも海外でも、権利者側は常に提供後まで著作物を技術的にコントロールしようとして来るが、利用者側に公正利用の正当な理由がある場合、それは著作権の目的を超えた不当なコントロールとして認められるべきではないのである。

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