第442回:知財計画2021の文章の確認
7月13日に知財本部で知財計画2021(pdf)(概要(pdf))が決定された。
今年も、その中では無意味にキーワードばかりが踊っていて、政策や戦略というほどのものは何一つ書かれていないと言って差し支えない代物だが、各省庁でどの様な検討が行われているかという事を知るには便利な検討項目集ではあるので、以下、法改正に絡む項目を拾って行く。(私の提出したパブコメは第436回、去年の知財計画の内容については第426回参照。)
まず、著作権問題に絡み、第52ページに以下の様な項目がある。
・デジタル時代における著作権制度の確立に向けた工程表を作成する。(短期、中期)(内閣府、総務省、文部科学省、経済産業省)
・文化庁は、デジタル技術の進展・普及に伴うコンテンツ市場をめぐる構造変化を踏まえ、著作物の利用円滑化と権利者への適切な対価還元の両立を図るため、過去コンテンツ、UGC、権利者不明著作物を始め、著作権等管理事業者が集中管理していないものを含めた、膨大かつ多種多様な著作物等について、拡大集中許諾制度等を基に、様々な利用場面を想定した、簡素で一元的な権利処理が可能となるような制度の実現を図る。その際、内閣府(知的財産戦略推進事務局)、経済産業省、総務省の協力を得ながら、文化審議会において、クリエーター等の権利者や利用者、事業者等から合意を得つつ2021年中に検討・結論を得、2022年度に所要の措置を講ずる。(短期、中期)(文部科学省、内閣府、総務省、経済産業省)
また、第53ページで、
・同時配信等の権利処理の円滑化に関する著作権法改正について、関係者の意向を十分に踏まえつつ、ガイドラインの作成等の円滑な施行に向けた準備を着実に進める。(短期)(総務省、文部科学省)
と、今年の同時配信等のための著作権法改正の事が言及され、第54~55ページで、
・クリエーターに適切に対価が還元され、コンテンツの再生産につながるよう、デジタル時代における新たな対価還元策やクリエーターの支援・育成策等について検討を進めるとともに、私的録音録画補償金制度については、新たな対価還元策が実現されるまでの過渡的な措置として、私的録音録画の実態等に応じた具体的な対象機器等の特定について、結論を得て、可能な限り早期に必要な措置を構ずる。(短期、中期)(文部科学省、内閣府、総務省、経済産業省)
と、いつもの様に私的録音録画補償金制度に関する検討についても触れられている。
そして、海賊版対策として、第56ページに、
・インターネット上の海賊版による被害拡大を防ぐため、2021年4月に更新したインターネット上の海賊版に対する総合的な対策メニュー及び工程表に基づき、関係府省が連携しながら、被害状況や対策の効果を検証しつつ、必要な取組を進める。(短期、中期)(内閣府、警察庁、総務省、法務省、外務省、文部科学省、経済産業省)
・模倣品・海賊版の購入や、無意識に侵害コンテンツを視聴することは、侵害者に利益をもたらすことから、侵害コンテンツを含む模倣品・海賊版を容認しないということが国民の規範意識に根差すよう、オンラインで著作権を学ぶことが出来るコンテンツを利用した効果的な普及啓発など、各省庁、関係機関による啓発活動を推進する。(短期、中期)(警察庁、消費者庁、財務省、文部科学省、農林水産省、経済産業省)
・越境電子商取引の進展に伴う模倣品・海賊版の流入増加へ対応するため、個人使用目的を仮装して輸入される模倣品・海賊版を引き続き厳正に取り締まる。また、商標法・意匠法において、海外事業者が模倣品を郵送等により国内に持ち込む行為を商標権等の侵害と位置付ける改正案が国会で成立し、公布されたことから、その施行と同時に、当該侵害に係る物品に対して実効性のある水際取締りを実施できるよう、関税法等の改正を含めて検討の上、必要な措置を講じる。他の知的財産権についても、必要に応じて、検討を行う。(短期、中期)(財務省、経済産業省、文部科学省)
という様に、2021年版のインターネット海賊版対策メニュー及び工程表(pdf)に関する項目などがあり、今年の商標法・意匠法改正に関する項目も一緒に並んでいる。
第58ページには、
・図書館関係の権利制限規定の見直しに関する著作権法改正を踏まえ、詳細な運用に関する当事者間協議やガイドラインの作成など、円滑な施行に向けた準備を着実に進める。また、研究目的の権利制限規定の創設については、国内の研究者における著作物の利用実態や利用ニーズなどを更に詳細に把握するため、調査研究を実施し、その結果も踏まえ、権利者の利益保護に十分に配慮しつつ、検討を進める。(短期、中期)(文部科学省、国立国会図書館)
という、今年の図書館関係の権利制限の拡充に関する著作権法改正についての項目もある。
最後に、第65~66ページに、以下の様な種苗法改正等の農水関連の各種法改正に関する項目がある。
・改正種苗法の周知や、税関当局との連携による、海外への育成者権侵害種苗の持ち出し防止を図るとともに、登録品種の許諾方法の簡素化・利用条件の明確化、包括的な許諾等のモデル構築に向けた検討を進める。(短期、中期)(農林水産省)
・改正種苗法に即した品種登録審査の高度化のため、日本の品種登録審査基準の国際基準への調和を進める。また、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構種苗管理センターが行う品種の特性調査について、国際的に調和した栽培試験の推進を図るとともに、果樹の栽培試験、現地調査、病害虫抵抗性等の調査の実施体制を整備する。さらに、品種登録審査への遺伝子情報の活用に関する国際的な技術開発状況を踏まえ、日本においても効率的な品種登録審査が実施できるよう調査する。(短期、中期)(農林水産省)
・家畜遺伝資源に係る不正競争の防止に関する法律の周知とともに、同法に基づく和牛遺伝資源の譲渡の際に締結すべき契約のひな形の普及等による不正競争防止の取組を推進する。(短期、中期)(農林水産省)
・改正家畜改良増殖法の周知とともに、同法に基づく家畜人工授精所からの報告等に伴う都道府県の事務の軽減、情報集約のための全国システムの構築・運用に加え、全国の家畜人工授精所における流通管理の確認・指導等のための定期的な立入検査を実施する。(短期、中期)(農林水産省)
この様に、ざっと一通り見たところで、既に成立している法改正に関する事項を除くと、新たな法改正の検討事項として明確に言及されているのは、著作権の拡大集中許諾制度のみと、今年の知財計画の内容はいつにもまして薄い。
ダウンロード違法化・犯罪化の対象範囲拡大のための著作権法改正が通されて施行されたばかりで、アクセス警告やブロッキングについても、今のところセキュリティ対策ソフトにおけるアクセス抑止機能の導入等の促進が中心の様であり、即座に危険な規制強化の検討が動きそうな様子はないが、今年も引き続き最も注意すべきは、海賊版対策に関する検討という事になるのだろう。
全てを通して見ても、政策的に意味のある事はほとんど書かれておらず、この様な知財計画を作る事自体コストの無駄でしかないだろう。いつも通りの事とは言え、知財政策を巡る迷走が止む事が全くなさそうなのは非常に残念な事である。
(なお、同じく意味のある事はほとんど何も書かれていないが、今年の知財計画の第75ページから始まる、「7.クールジャパン戦略の再構築」という御大層なタイトルの部分でコスプレに関する検討の事が書かれるかと思ったが、明示の言及は含まれていない。そのため、コスプレについては、どこかで検討するのかも知れないが、変な規制強化の検討がされる可能性は低いと見ていいのではないかと私は思う。)
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