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2021年6月26日 (土)

第441回:可決・成立したドイツ著作権法改正におけるパロディに関する権利制限の条文の変遷

 第439回で取り上げた著作権法改正案が5月25日の参議院文教委員会で全会一致で可決され、5月26日の本会議で可決・成立した。この間に、第430回で紹介した、パロディに関する権利制限を含むドイツ著作権法改正案(正式名称は「デジタル統一市場の要請に著作権法を適応するための著作権法改正案」)が、5月20日にドイツ連邦議会で可決され、5月28日にドイツ連邦参議院でも異議が出される事はなく成立し、6月4日に公布されているので、ここで、その条文の変遷について少し書いておきたいと思う。(以下、参考リンクは全てドイツ語。ドイツ連邦議会のリリース1、ドイツ連邦参議院のリリース1、ドイツ法務省の法改正に関するリリース、ドイツの法改正掲載官報(pdf)参照。)

 ここで、パロディに関する権利制限の条文は、2021年2月のドイツ政府の閣議決定・法案提出時(ドイツ法務省の著作権法改正案の閣議決定に関するリリース提出時著作権法改正案(pdf)参照)に(以下、翻訳は全て拙訳)、

§51a Karikatur, Parodie und Pastiche

Zulassig ist die Vervielfaltigung, die Verbreitung und die offentliche Wiedergabe eines veroffentlichten Werkes zum Zweck der Karikatur, der Parodie und des Pastiches, sofern die Nutzung in ihrem Umfang durch den besonderen Zweck gerechtfertigt ist. Die Befugnis nach Satz1 umfasst die Nutzung einer Abbildung oder sonstigen Vervielfaltigung des genutzten Werkes, auch wenn diese selbst durch ein Urheberrecht oder ein verwandtes Schutzrecht geschutzt ist.

第51a条 風刺、パロディ及びパスティーシュ

 風刺、パロディ及びパスティーシュの目的のための公開された著作物の複製、頒布及び公衆送信は、その利用がその範囲において特別な目的によって正当化される限りにおいて、許される。第1文の権限は、それ自体が著作権又は著作隣接権によって保護されない場合でも、利用著作物の模写又はその他の複製の利用にも及ぶ。

と、妙な限定が追加されていたのだが(下線部が検討案と比較した時の追加部分)、最終的に、第430回で取り上げた、法案提出前の去年の検討案の形で可決・成立している(法改正として見た時にはこの部分が全部追加)。

§51a Karikatur, Parodie und Pastiche

Zulassig ist die Vervielfaltigung, die Verbreitung und die offentliche Wiedergabe eines veroffentlichten Werkes zum Zweck der Karikatur, der Parodie und des Pastiches. Die Befugnis nach Satz 1 umfasst die Nutzung einer Abbildung oder sonstigen Vervielfaltigung des genutzten Werkes, auch wenn diese selbst durch ein Urheberrecht oder ein verwandtes Schutzrecht geschutzt ist.

第51a条 風刺、パロディ及びパスティーシュ

 風刺、パロディ及びパスティーシュの目的のための公開された著作物の複製、頒布及び公衆送信は許される。第1文の権限は、それ自体が著作権又は著作隣接権によって保護されない場合でも、利用著作物の模写又はその他の複製の利用にも及ぶ。

 パロディの権利制限について権利者団体などから反対があったため、ドイツ政府としては多少限定を加える事を考えたのだろうが、ドイツ連邦議会の法務委員会の報告書1(pdf)に、

Zu Nummer 15 (§51a UrhG-E - Karikatur, Parodie und Pastiche)

Mit der Streichung des Satzteiles "sofern die Nutzung in ihrem Umfang durch den besonderen Zweck gerechtfertigt ist" reagiert der Ausschuss auf Bedenken, dass die Regelung gegen die Massgaben des Unionsrechts verstosen konnte, denn Artikel 5 Absatz 3 Buchstabe k InfoSoc-RL (also die europarechtliche gesetzliche Erlaubnis "fur die Nutzung zum Zwecke von Karikaturen, Parodien oder Pastiches") enthalt keine entsprechende Formulierung. Dessen ungeachtet muss sich der Umfang gesetzlich erlaubter Nutzungen stets im Rahmen dessen bewegen, was zur Erreichung des jeweiligen Zweckes gerechtfertigt ist. Die ausdruckliche Hervorhebung dieses allgemeinen Grundsatzes ist daher nicht erforderlich.

15番について(著作権法改正案第51a条 風刺、パロディ及びパスティーシュ)

「その利用がその範囲において特別な目的によって正当化される限りにおいて」という部分の文章の削除により、この規則が欧州連合法の基準に抵触し得るという考えに対処する、すなわち、情報社会指令第5条第3項k(「風刺、パロディまたはパスティーシュのため」の欧州における法的許可である)はその様な定式化を含んでいない。それぞれの目的の達成において何が正当化されるかに関わらず、法的に許される利用の範囲は常にその余地の中で展開されなければならないものである。ここでのこの一般的な原則の明示の強調は必要ない。

と書かれている様に、変な限定解釈を生みかねない部分を削除した事は正しい判断と私も思う。

 第430回でも書いた通り、この著作権法改正には、テキスト及びデータマイニングに関する権利制限の導入や時事記事保護法の条文の新欧州著作権指令への適応、サービスプロバイダー著作権責任法(正式名称は「オンラインコンテンツ部分のサービスプロバイダーの著作権法上の責任に関する法律」)も含まれている。2021年8月1日に施行されるサービスプロバイダー著作権責任法の部分を除き、他の部分は6月7日施行で、はに施行されているが、これも運用次第であって、今後もその運用を見て行くべきだろう。

 前にも書いた通り、今回の著作権法改正に含まれる時事記事保護法の条文ほぼ新欧州著作権指令への条文合わせと詳細化で、これでドイツにおけるグーグルニュースを巡る状況が大きく変わるとはあまり思えないのだが、法改正があると何かとざわつくのは東西を問わず人間の性の様で、この問題を巡って欧州全体でまたしばらく期間混沌とした状況が続くのだろうとも思っている。(ある程度全体的に状況の推移が見えて来た所でまた紹介したいと思っているが、最近、ドイツで、例えば、フェースブックが出版社から無料利用の許可を得たり(heise.deの記事参照)、時事出版社協会が対応戦略の検討を呼びかけたり(rsw.beck.deの記事参照)、連邦カルテル庁がグーグルニュースショーケースについて調査を開始したり(ドイツ連邦カルテル庁のリリース参照)といった事が話題になっている。)

 そして、今回のドイツの著作権法改正で最も喧々諤々議論されたのは、新欧州著作権指令の第17条に対応するためのサービスプロバイダー著作権責任法についてだが、基本的にほぼ閣議決定時の形で通っている。これも余計な混乱を招くだけなのではないかと私は見ているが、このサービスプロバイダー著作権責任法についてはそれだけでかなり長くなると思うので回を分けて書きたいと思う。

 最後に、ドイツでは、特許法改正も、6月10日ドイツ連邦議会、6月25日にドイツ連邦参議院を通って成立いるので(ドイツ連邦議会のリリース2、ドイツ連邦参議院のリリース2参照、すぐに署名・公布されると思うが現在未公布)、ついでに少し紹介しておく。

 この特許法改正で一番議論になっていたのは、特許権侵害の差し止めを規定するドイツ特許法第139条第1項に対する改正で、これは、2020年10月の閣議決定・法案提出時の特許法改正案(pdf)で(ドイツ法務省の特許法改正案閣議決定に関するリリース参照)、

§139
(1) Wer entgegen den §§9 bis 13 eine patentierte Erfindung benutzt, kann von dem Verletzten bei Wiederholungsgefahr auf Unterlassung in Anspruch genommen werden. Der Anspruch besteht auch dann, wenn eine Zuwiderhandlung erstmalig droht. Der Anspruch ist ausgeschlossen, soweit die Inanspruchnahme aufgrund der besonderen Umstande des Einzelfalls fur den Verletzer oder Dritte zu einer unverhaltnismassigen, durch das Ausschliesdlichkeitsrecht nicht gerechtfertigten Harte fuhren wurde. In diesem Fall kann der Verletzte einen Ausgleich in Geld verlangen, soweit dies angemessen erscheint. Der Schadensersatzanspruch nach Absatz 2 bleibt hiervon unberuhrt.

第139条
第1項 第9から13条に対して特許を受けた発明を利用した者は、再度行う恐れがある場合に侵害を受けた者から差し止めの請求を受け得る。請求は、侵害行為が最初に行われる恐れがある場合においても生じ得る。この請求は、その要求が個別のケースの特別な事情により侵害者又は第三者にバランスを欠いた、排他的権利によって正当化されない過酷な事をもたらす場合には除かれる。この場合に、侵害を受けた者は、それが適正と見られる限りにおいて、金銭による補償を求める事ができる。第2項に基づく損害賠償請求がこれにより影響を受ける事はない。

という形で、差し止めの制限の明文化が行われようとしていたのだが(下線部が法改正案の追加部分)、ドイツ連邦議会で(ドイツ連邦議会の法務委員会の報告書2(pdf)参照)、

§139
(1) Wer entgegen den §§9 bis 13 eine patentierte Erfindung benutzt, kann von dem Verletzten bei Wiederholungsgefahr auf Unterlassung in Anspruch genommen werden. Der Anspruch besteht auch dann, wenn eine Zuwiderhandlung erstmalig droht. Der Anspruch ist ausgeschlossen, soweit die Inanspruchnahme aufgrund der besonderen Umstande des Einzelfalls und der Gebote von Treu und Glauben fur den Verletzer oder Dritte zu einer unverhaltnismassigen, durch das Ausschliesslichkeitsrecht nicht gerechtfertigten Harte fuhren wurde. In diesem Fall kann der Verletzte einenist dem Verletzten ein angemessener Ausgleich in Geld verlangen, soweit dies angemessen erscheintzu gewahren. Der Schadensersatzanspruch nach Absatz 2 bleibt hiervon unberuhrt.

第139条
第1項 第9から13条に対して特許を受けた発明を利用した者は、再度行う恐れがある場合に侵害を受けた者から差し止めの請求を受け得る。請求は、侵害行為が最初に行われる恐れがある場合においても生じ得る。この請求は、その要求が個別のケースの特別な事情及び信義則により侵害者又は第三者にバランスを欠いた、排他的権利によって正当化されない過酷な事をもたらす場合には除かれる。この場合に、侵害を受けた者は、それが適正と見られる限りにおいて、には、適正な金銭による補償を求める事ができるが与えられる。第2項に基づく損害賠償請求がこれにより影響を受ける事はない。」

と、特許権者向けにより慎重を期した記載となった(下線部がさらなる追加部分)。ドイツのこの法改正も判例の明文化であって、すぐに大きな影響が出て来るとは思えないが、特許権の差し止めの制限はまだ世界的に様々な議論がある所なので、ドイツでもなお今しばらく判例の積み重ねを待っても良かったのではないかと思えるものである。

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