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2021年4月25日 (日)

第439回:閣議決定された著作権法改正案の条文

 想定通りだが、前々回取り上げたプロバイダー責任制限法改正案について、4月8日の参議院総務委員会で残念ながら通り一遍の審議により全会一致で可決、13日の本会議、20日の参議院総務委員会でも可決され、21日の本会議で可決、成立した。また、前回取り上げた特許法等改正案も、4月21日の衆議院経済産業委員会、22日の本会議で可決され、参議院に送られた。(それぞれ、衆議院のインターネット審議中継、参議院のインターネット審議中継参照。)

 今回は、閣議決定され今国会に提出されているもう1つの知財関連法である著作権法改正案についてである。

 まず、文科省のHPで公開されている閣議決定された著作権法改正案の概要(pdf)から主な説明の部分を抜き出すと、

1.図書館関係の権利制限規定の見直し
①国立国会図書館による絶版等資料のインターネット送信
・国立国会図書館が、絶版等資料(※)のデータを、図書館等だけでなく、直接利用者に対しても送信できるようにする。
(※)絶版その他これに準ずる理由により入手困難な資料
②各図書館等による図書館資料のメール送信等
・図書館等が、現行の複写サービスに加え一定の条件(※)の下、調査研究目的で、著作物の一部分をメールなどで送信できるようにする。
(※)正規の電子出版等の市場を阻害しないこと(権利者の利益を不当に害しないこと)、データの流出防止措置を講じることなど

2.放送番組のインターネット同時配信等に係る権利処理の円滑化
 同時配信等(※)について、放送と同様の円滑な権利処理を実現する。
(※)同時配信のほか、追っかけ配信、一定期間の見逃し配信を含む。
<措置の内容>
①放送では許諾なく著作物等を利用できることを定める「権利制限規定」(例:学校教育番組の放送)を、同時配信等に拡充する。
②放送番組での利用を認める契約の際、権利者が別段の意思表示をしていなければ、放送だけでなく、同時配信等での利用も許諾したと推定する「許諾推定規定」を創設する。
③集中管理等が行われておらず許諾を得るのが困難な「レコード(音源)・レコード実演(音源に収録された歌唱・演奏)」について、同時配信等における利用を円滑化する。
⇒事前許諾を不要としつつ、放送事業者が権利者に報酬を支払うことを求める。
④集中管理等が行われておらず許諾を得るのが困難な「映像実演(俳優の演技など)」について、過去の放送番組の同時配信等における利用を円滑化する。
⇒事前許諾を不要としつつ、放送事業者が権利者に報酬を支払うことを求める。
⑤放送に当たって権利者との協議が整わない場合に「文化庁の裁定を受けて著作物等を利用できる制度」を、同時配信等に拡充する。

となる。

 次に、新旧対照条文(pdf)案文・理由(pdf)要綱(pdf)説明資料(pdf)も参照)ではそれぞれ別になっているが、図書館関係の権利制限に関する第31条の条文案をまとめて書くと以下のようになる。(以下、下線部が追加部分。)

(図書館等における複製等)
第三十一条 国立国会図書館及び図書、記録その他の資料を公衆の利用に供することを目的とする図書館その他の施設で政令で定めるもの(以下この項及び第三項この条及び第百四条の十の四第三項において「図書館等」という。)においては、次に掲げる場合には、その営利を目的としない事業として、図書館等の図書、記録の資料(以下この条その他の資料(次項及び第六項において「図書館資料」という。)を用いて著作物を複製することができる。
 図書館等の利用者の求めに応じ、その調査研究の用に供するために、公表された著作物の一部分(発行後相当期間を経過した定期刊行物に掲載された個々の著作物国若しくは地方公共団体の機関、独立行政法人又は地方独立行政法人が一般に周知させることを目的として作成し、その著作の名義の下に公表する広報資料、調査統計資料、報告書その他これらに類する著作物(次項及び次条第二項において「国等の周知目的資料」という。)その他の著作物の全部の複製物の提供が著作権者の利益を不当に害しないと認められる特別な事情があるものとして政令で定めるものにあつては、その全部。第三項において同じ。)の複製物を一人につき一部提供する場合
(略)

 特定図書館等においては、その営利を目的としない事業として、当該特定図書館等の利用者(あらかじめ当該特定図書館等にその氏名及び連絡先その他文部科学省令で定める情報(次項第三号及び第八項第一号において「利用者情報」という。)を登録している者に限る。第四項及び第百四条の十の四第四項において同じ。)の求めに応じ、その調査研究の用に供するために、公表された著作物の一部分(国等の周知目的資料その他の著作物の全部の公衆送信が著作権者の利益を不当に害しないと認められる特別な事情があるものとして政令で定めるものにあつては、その全部)について、次に掲げる行為を行うことができる。ただし、当該著作物の種類(著作権者若しくはその許諾を得た者又は第七十九条の出版権の設定を受けた者若しくはその公衆送信許諾を得た者による当該著作物の公衆送信(放送又は有線放送を除き、自動公衆送信の場合にあつては送信可能化を含む。以下この条において同じ。)の実施状況を含む。第百四条の十の四第四項において同じ。)及び用途並びに当該特定図書館等が行う公衆送信の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。
 図書館資料を用いて次号の公衆送信のために必要な複製を行うこと。
 図書館資料の原本又は複製物を用いて公衆送信を行うこと(当該公衆送信を受信して作成された電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によつては認識することができない方式で作られる記録であつて、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)による著作物の提供又は提示を防止し、又は抑止するための措置として文部科学省令で定める措置を講じて行うものに限る。)。

 前項に規定する特定図書館等とは、図書館等であつて次に掲げる要件を備えるものをいう。
 前項の規定による公衆送信に関する業務を適正に実施するための責任者が置かれていること。
 前項の規定による公衆送信に関する業務に従事する職員に対し、当該業務を適正に実施するための研修を行つていること。
 利用者情報を適切に管理するために必要な措置を講じていること。
 前項の規定による公衆送信のために作成された電磁的記録に係る情報が同項に定める目的以外の目的のために利用されることを防止し、又は抑止するために必要な措置として文部科学省令で定める措置を講じていること。
 前各号に掲げるもののほか、前項の規定による公衆送信に関する業務を適正に実施するために必要な措置として文部科学省令で定める措置を講じていること。

 第二項の規定により公衆送信された著作物を受信した特定図書館等の利用者は、その調査研究の用に供するために必要と認められる限度において、当該著作物を複製することができる。

 第二項の規定により著作物の公衆送信を行う場合には、第三項に規定する特定図書館等を設置する者は、相当な額の補償金を当該著作物の著作権者に支払わなければならない。

 前項各号第一項各号に掲げる場合のほか、国立国会図書館においては、図書館資料の原本を公衆の利用に供することによるその滅失、損傷若しくは汚損を避けるために当該原本に代えて公衆の利用に供するため、又は絶版等資料に係る著作物を次項次項若しくは第八項の規定により自動公衆送信(送信可能化を含む。同項以下この条において同じ。)に用いるため、電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によつては認識することができない方式で作られる記録であつて、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)を作成する場合には、必要と認められる限度において、当該図書館資料に係る著作物を記録媒体に記録することができる。

 国立国会図書館は、絶版等資料に係る著作物について、図書館等又はこれに類する外国の施設で政令で定めるものにおいて公衆に提示することを目的とする場合には、前項の規定により記録媒体に記録された当該著作物の複製物を用いて自動公衆送信を行うことができる。この場合において、当該図書館等においては、その営利を目的としない事業として、当該図書館等の利用者の求めに応じ、その調査研究の用に供するために、自動公衆送信される当該著作物の一部分の複製物を作成し、当該複製物を一人につき一部提供する次に掲げる行為を行うことができる。
 当該図書館等の利用者の求めに応じ、当該利用者が自ら利用するために必要と認められる限度において、自動公衆送信された当該著作物の複製物を作成し、当該複製物を提供すること。
 自動公衆送信された当該著作物を受信装置を用いて公に伝達すること(当該著作物の伝達を受ける者から料金(いずれの名義をもつてするかを問わず、著作物の提供又は提示につき受ける対価をいう。第九項第二号及び第三十八条において同じ。)を受けない場合に限る。)。

 国立国会図書館は、次に掲げる要件を満たすときは、特定絶版等資料に係る著作物について、第六項の規定により記録媒体に記録された当該著作物の複製物を用いて、自動公衆送信(当該自動公衆送信を受信して行う当該著作物のデジタル方式の複製を防止し、又は抑止するための措置として文部科学省令で定める措置を講じて行うものに限る。以下この項及び次項において同じ。)を行うことができる。
 当該自動公衆送信が、当該著作物をあらかじめ国立国会図書館に利用者情報を登録している者(次号において「事前登録者」という。)の用に供することを目的とするものであること。
 当該自動公衆送信を受信しようとする者が当該自動公衆送信を受信する際に事前登録者であることを識別するための措置を講じていること。

 前項の規定による自動公衆送信を受信した者は、次に掲げる行為を行うことができる。
 自動公衆送信された当該著作物を自ら利用するために必要と認められる限度において複製すること。
 次のイ又はロに掲げる場合の区分に応じ、当該イ又はロに定める要件に従つて、自動公衆送信された当該著作物を受信装置を用いて公に伝達すること。
 個人的に又は家庭内において当該著作物が閲覧される場合の表示の大きさと同等のものとして政令で定める大きさ以下の大きさで表示する場合 営利を目的とせず、かつ、当該著作物の伝達を受ける者から料金を受けずに行うこと。
 イに掲げる場合以外の場合 公共の用に供される施設であつて、国、地方公共団体又は一般社団法人若しくは一般財団法人その他の営利を目的としない法人が設置するもののうち、自動公衆送信された著作物の公の伝達を適正に行うために必要な法に関する知識を有する職員が置かれているものにおいて、営利を目的とせず、かつ、当該著作物の伝達を受ける者から料金を受けずに行うこと。

10 第八項の特定絶版等資料とは、第六項の規定により記録媒体に記録された著作物に係る絶版等資料のうち、著作権者若しくはその許諾を得た者又は第七十九条の出版権の設定を受けた者若しくはその複製許諾若しくは公衆送信許諾を得た者の申出を受けて、国立国会図書館の館長が当該申出のあつた日から起算して三月以内に絶版等資料に該当しなくなる蓋然性が高いと認めた資料を除いたものをいう。

11 前項の申出は、国立国会図書館の館長に対し、当該申出に係る絶版等資料が当該申出のあつた日から起算して三月以内に絶版等資料に該当しなくなる蓋然性が高いことを疎明する資料を添えて行うものとする。

 概要に書かれている通りだが、要するに、第31条第2~5項で、著作権者の利益を不当に害しない等の条件を満たす場合に、データの目的外利用を防止する等の措置を講じている特定図書館等が図書館資料を利用者にメール等の手段で送信できる事が書かれており、第6~11項で、国会図書館が絶版等資料を利用者に送信できる事が書かれている。補償金に関する細かな条文案の引用はここではしないが、第5項に書かれている通り、前者の場合には特定図書館等による補償金の支払いもある。

 この内容は文化庁の今年の審議会報告書(パブコメ募集時に書いた第433回参照)に書かれていた通りの図書館関係の権利制限の拡充をほぼそのまま条文化したものであって、細かな事を規定するだろう文部科学省令に少し気をつけておいた方がいいとは思うが、権利制限の拡充の1つとして是非行ってもらいたいと思えるものである。

 また、もう1つのポイントである放送のインターネット再送信の円滑化についても、概要中の説明に書かれている通り、その措置の内容は多岐に渡るが、ここでは、中でも特に主要な部分と言えるだろう定義と許諾推定に関する部分だけ以下に抜き出しておく。

(定義)
第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
九の五(略)
九の六 特定入力型自動公衆送信 放送を受信して同時に、公衆の用に供されている電気通信回線に接続している自動公衆送信装置に情報を入力することにより行う自動公衆送信(当該自動公衆送信のために行う送信可能化を含む。)をいう。
九の七 放送同時配信等 放送番組又は有線放送番組の自動公衆送信(当該自動公衆送信のために行う送信可能化を含む。以下この号において同じ。)のうち、次のイからハまでに掲げる要件を備えるもの(著作権者、出版権者若しくは著作隣接権者(以下「著作権者等」という。)の利益を不当に害するおそれがあるもの又は広く国民が容易に視聴することが困難なものとして文化庁長官が総務大臣と協議して定めるもの及び特定入力型自動公衆送信を除く。)をいう。
 放送番組の放送又は有線放送番組の有線放送が行われた日から一週間以内(当該放送番組又は有線放送番組が同一の名称の下に一定の間隔で連続して放送され、又は有線放送されるものであつてその間隔が一週間を超えるものである場合には、一月以内でその間隔に応じて文化庁長官が定める期間内)に行われるもの(当該放送又は有線放送が行われるより前に行われるものを除く。)であること。
 放送番組又は有線放送番組の内容を変更しないで行われるもの(著作権者等から当該自動公衆送信に係る許諾が得られていない部分を表示しないことその他のやむを得ない事情により変更されたものを除く。)であること。
 当該自動公衆送信を受信して行う放送番組又は有線放送番組のデジタル方式の複製を防止し、又は抑止するための措置として文部科学省令で定めるものが講じられているものであること。
九の八 放送同時配信等事業者 人的関係又は資本関係において文化庁長官が定める密接な関係(以下単に「密接な関係」という。)を有する放送事業者又は有線放送事業者から放送番組又は有線放送番組の供給を受けて放送同時配信等を業として行う事業者をいう。

(著作物の利用の許諾)
第六十三条(略)
(略)
 著作物の放送又は有線放送及び放送同時配信等について許諾(第一項の許諾をいう。以下この項において同じ。)を行うことができる者が、特定放送事業者等(放送事業者又は有線放送事業者のうち、放送同時配信等を業として行い、又はその者と密接な関係を有する放送同時配信等事業者が業として行う放送同時配信等のために放送番組若しくは有線放送番組を供給しており、かつ、その事実を周知するための措置として、文化庁長官が定める方法により、放送同時配信等が行われている放送番組又は有線放送番組の名称、その放送又は有線放送の時間帯その他の放送同時配信等の実施状況に関する情報として文化庁長官が定める情報を公表しているものをいう。以下この項において同じ。)に対し、当該特定放送事業者等の放送番組又は有線放送番組における著作物の利用の許諾を行つた場合には、当該許諾に際して別段の意思表示をした場合を除き、当該許諾には当該著作物の放送同時配信等(当該特定放送事業者等と密接な関係を有する放送同時配信等事業者が当該放送番組又は有線放送番組の供給を受けて行うものを含む。)の許諾を含むものと推定する。

 他の部分も含め、この様な条文自体に問題があるという事はないが、前にも書いた通り、私は、放送のインターネットでの再送信が進まない事は主として著作権法上の権利処理の違いに起因している訳ではないと見ており、この様な許諾推定規定等を入れた所で放送の再送信がすぐに劇的に進むとはあまり思っていないがどうだろうか。無論、技術の進展に伴いインターネットにおける情報発信・伝達は今後も否応なく進んで行くとも思っているが。

 今回の著作権法改正案は、全体を通して見ても、珍しく問題がない所か、図書館関係の権利制限が拡充される点で是非今国会での成立を期待すると書けるものである。

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