第438回:閣議決定された特許法等改正案の概要
前回取り上げたプロバイダー責任制限法改正案について、この4月8日に衆議院の総務委員会で、残念ながら通り一遍の審議で可決された(衆議院のインターネット審議中継参照)。これで衆議院本会議でじきに可決されて参議院に送られる事になるだろう。
そして、4月10日に衆議院の経済産業委員会で特許法等改正案について趣旨説明がされ審議に入ったので、今回は、その内容をざっと見ておきたいと思う。
まず、経産省のHPで公開されている法案の概要(参考資料)(pdf)(概要(pdf)、要綱(pdf)も参照)から項目だけ抜き出すと以下の様になる。
- 審判口頭審理のオンライン化【特・実・意・商】
- 印紙予納の廃止・料金支払方法の拡充【工】
- 意匠・商標国際出願手続のデジタル化【意・商】
- 災害等の理由による手続期間徒過後の割増料金免除【特・実・意・商】
- 海外からの模倣品流入への規制強化【意・商】
- 訂正審判等における通常実施権者の承諾要件見直し【特・実・意】
- 特許権等の権利回復要件の緩和【特・実・意・商】
- 特許権侵害訴訟における第三者意見募集制度の導入【特・実・弁】
- 特許料等の料金体系見直し【特・実・意・商・国】
- 弁理士制度の見直し【弁】
前の特許庁の特許制度小委員会等の報告書をほぼそのままなぞっており(特許庁の各審議会報告書については第434回参照)、制度ユーザにしか関係ない話ばかりなので、ここでは細かな説明を省略するが、海外からの模倣品流入への規制強化についての条文案だけ見ておくと(新旧対照条文(pdf)、法律案(pdf)参照。以下下線部が追加部分)、
意匠法
(定義等)
第二条(略)
2 この法律で意匠について「実施」とは、次に掲げる行為をいう。
一 意匠に係る物品の製造、使用、譲渡、貸渡し、輸出若しくは輸入(外国にある者が外国から日本国内に他人をして持ち込ませる行為を含む。以下同じ。)又は譲渡若しくは貸渡しの申出(譲渡又は貸渡しのための展示を含む。以下同じ。)をする行為
二・三(略)商標法
(定義等)
第二条(略)
2~6(略)
7 この法律において、輸入する行為には、外国にある者が外国から日本国内に他人をして持ち込ませる行為が含まれるものとする。
と、定義に書き込む形になっている。意匠法と商標法の両方の条文案で括弧に入れるか別の項に入れるかの違いはあるが、同じく定義で「輸入する行為には、外国にある者が外国から日本国内に他人をして持ち込ませる行為」が「輸入」に含まれるとしている。
この様な条文で、法改正案の概要に書かれている様に「増大する個人使用目的の模倣品輸入に対応し、海外事業者が模倣品を郵送等により国内に持ち込む行為を商標権等の侵害として位置付け」、海外事業者への直接又は間接の模倣品の注文と受け取りを規制する事自体にそれほど問題はないだろうが、これも実際の運用次第という事になるだろう。
次回は、今年の国会に掛かっているもう一つの知財関連法、著作権法改正案について取り上げるつもりである。
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