第434回:2020年の終わりに
今年は新型コロナウィルスの感染拡大が知財政策にも影響を与えるという類を見ない年だったと思うが、例によって、この年末に今まであまり取り上げて来なかった主に著作権関連以外の話をまとめて書いておきたいと思う。
まず、特許法について、特許庁から、産業構造審議会・知的財産分科会・特許制度小委員会の報告書「ウィズコロナ/ポストコロナ時代における特許制度の在り方(案)」(pdf)が1月25日〆切でパブコメにかかっている(特許庁のHP1、電子政府のHP1参照)。ほぼ制度ユーザにしか関係しないので詳細は省略するが、この報告書案に含まれている法改正事項は、特許侵害訴訟における第三者意見募集制度(アミカス・ブリーフ制度)の導入、訂正審判等における通常実施権者の許諾の不要化、審判の口頭審理のオンライン化、災害の発生等権利者の責めに帰することができない理由による期間途過の場合の割増特許料等の免除、権利回復の判断基準の故意でない基準への緩和及びその場合の回復手数料の賦課である。
商標法について、商標制度小委員会の報告書「ウィズコロナ/ポストコロナ時代における商標制度の在り方について(案)」(pdf)が1月18日〆切でパブコメにかかっている(特許庁のHP2、電子政府のHP2参照)。こちらの報告書案に含まれている主な法改正事項は、商標と意匠について海外の事業者を侵害主体として海外から国内に模倣品を直接送付する場合を新たに権利侵害とする事である。
弁理士法について、弁理士制度小委員会の報告書「弁理士制度の見直しの方向性について(案)」(pdf)も1月21日〆切でパブコメにかかっており(特許庁のHP3、電子政府のHP3参照)、農林水産知財や第三者意見提出の相談業務等を弁理士法に規定する事や一人法人制度の導入などについて書かれている。
特許庁では、それぞれの委員会の下のワーキンググループ、審査基準専門委員会ワーキンググループで特許関連の審査基準の修正が、意匠審査基準ワーキンググループで意匠関連の審査基準の修正が議論されているが、今年はさらに基本問題小委員会という委員会も立ち上げられている。
この基本問題小委員会について、委員会ホームページで書かれている通り、「ウィズコロナ/ポストコロナ時代における産業財産権行政の在り方 とりまとめ骨子(案)」(pdf)が公表され、1月13日目途で意見募集がされている様だが、この骨子案を見てもどうにも漠然としていて今後具体的に何をどうして行くつもりなのかまだ良く分からない状況である。
なお、経産省で、6月3日に不正競争防止章委員会も開かれているが(経産省のHP参照)、最近の取り組みの紹介のみで、不正競争防止法関連ですぐに法改正が提出されそうな様子はない。
次に、総務省からは、12月22日に発信者情報開示の在り方に関する研究会の「最終とりまとめ」(pdf)が公表され(総務省のHP1参照)、12月25日に「インターネット上の海賊版対策に係る総務省の政策メニュー」(pdf)が公表されている(総務省のHP2参照)。後者でのセキュリティ対策ソフトにおけるアクセス抑止は、多少注意すべき点はあるだろうが、事業者と協力が可能であればして良い事と思うが、前者の最終とりまとめでは、結局新たな裁判手続きについて最後までほぼ修正される事なく導入すべきとされてしまった。総務省としてはこのまま法改正案を提出するつもりなのだろうが、この発信者情報開示に関する新たな裁判手続きがまともに機能するのか、かえって危ない制度となりはしないか、今なお私は大きな懸念を抱いている。
農水省関連では、この12月に種苗法改正が成立している(農水省のHP1参照、このブログでは第422回で取り上げた)が、他に大きな動きはない。なお、知財本部の知財戦略と別に出す意味が良く分からないが、2020年5月に「農林水産省知的財産戦略2020」(pdf)(農水省のHP2参照)なるものも公表されている。
最後に、知財本部では、構想委員会の下で価値デザイン経営ワーキンググループやコンテンツ小委員会、デジタル時代における著作権制度・関連政策の在り方検討タスクフォースといった検討会が開かれている。知財本部のこれらの検討会の内容はほとんど意味不明としか言いようがないが、またじきに知財計画2021に向けたパブコメが開始されたら意見を出すつもりである。
来年1月1日からダウンロード違法化・犯罪化の対象範囲の拡大が施行されるなど、今年も良い年をと言う気にはあまりならないが、別に私は諦めるつもりもない。今年もこれで最後になるが、政官業に巣食う全ての利権屋に悪い年を、このブログを読んで下さっている方々に心からの感謝を。
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