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2020年12月16日 (水)

第433回:文化庁の図書館関係権利制限の拡充に関するパブコメ募集(12月21日〆切)と放送の再配信関係法改正に関するパブコメ募集(1月6日〆切)

 文化庁から12月21日〆切で「図書館関係の権利制限規定の見直し(デジタル・ネットワーク対応)に関する中間まとめ」に対する意見募集(文化庁のHP1、電子政府のHP1参照)と、1月6日〆切で「放送番組のインターネット同時配信等に係る権利処理の円滑化に関する中間まとめ」に関する意見募集(文化庁のHP2、電子政府のHP2参照)がかかっているので、今回はこれらの内容を取り上げる。

(1)「図書館関係の権利制限規定の見直し(デジタル・ネットワーク対応)に関する中間まとめ」に対する意見募集(12月21日〆切)
 やや遅きに失した感はあるが、文化審議会・著作権分科会・法制度小委員会(具体的な検討はその下の図書館関係の権利制限規定の在り方に関するワーキングチームによる)の図書館関係の権利制限規定の見直し(デジタル・ネットワーク対応)に関する中間まとめ(電子政府HP掲載版(pdf))は、図書館関係の権利制限を電子データの送信まで拡充する方針で、歓迎すべき内容となっている。

 まず、この中間まとめの第2ページから始まる「第2章 検討結果」の「第1節 入手困難資料へのアクセスの容易化(法第31条第3項関係)」で、現状、国会図書館による絶版等資料の他の図書館等へのインターネット送信・館内閲覧と利用者への一部分の複製の提供を可能としている著作権法第31条第3項関係の改正について書かれているが、その方向性は第4ページに、

 新型コロナウィルス感染症の流行に伴うニーズの顕在化等を踏まえ、様々な事情により図書館等への物理的なアクセスができない場合にも絶版等資料を円滑に閲覧することができるよう、権利者の利益を不当に害しないことを前提に、国立国会図書館が、一定の条件の下で、絶版等資料のデータを利用者に直接インターネット送信することを可能とすることとする。

と書かれている通りで、国会図書館が絶版等資料のデータを利用者に直接インターネット送信することを可能とするとしているもので、これは利用者の利便性向上の観点から高く評価できるものである。

 制度設計としては、

  • 以下の(ⅰ)~(ⅳ)の視点に基づき議論した結果、まずは、権利者の利益保護を図りつつ、国民の情報アクセスを早急に確保する観点から、「送信対象資料の範囲等について現行の厳格な運用を尊重しつつ、利用者に直接インターネット送信することを可能とし、補償金制度は導入しないこと」とすることで認識が一致した。(第5ページ)
  • 国民の情報アクセス確保の観点から、特定の属性を有する者(例えば、研究者)のみが閲覧できるといった現行の図書館等における閲覧と取扱いを異にした仕組みは望ましくない一方で、権利者の利益保護の観点から、ID・パスワードなどにより閲覧者の管理を行う仕組みを設ける必要があるとの認識で一致した。その場合、ID・パスワードなどの取得・登録時に、利用者に利用規約等への同意を求め、不正な利用を防止することなどが想定される。(第10ページ)
  • ストリーミング(画面上での閲覧)のみを可能とするか、プリントアウトやデータのダウンロード(複製)まで認めるべき否かという点については、様々な意見があったが、①ストリーミングだけでは利便性の観点から問題があること、②紙媒体でのプリントアウトについては、データの不正拡散等の懸念も少ないため、利便性確保のために認めていくべきであることについては認識が一致した。(第10ページ)

と書かれている様に、補償金を取る事はせず、ID・パスワード等を用いた管理により、一部プリントアウトも認められるというものであり、方向性としてはこれも妥当であると私は思う。

 次に、第13ページ以降の「第2節 図書館資料の送信サービスの実施(法第31条第1項第1号関係)」で、国会図書館以外も含む図書館等による資料の一部の複製の提供を可能としている著作権法第31条第1項第1号関係の改正について書かれているが、これも、対応の方向性は、第14ページで、

 図書館等が保有する多様な資料のコピーをデジタル・ネットワーク技術の活用によって簡便に入手できるようにすることは、コロナ禍のような予測困難な事態にも対応し、時間的・地理的制約を超えた国民の「知のアクセス」を向上させ、また、研究環境のデジタル化により持続的な研究活動を促進する上で極めて重要であり、図書館等の公共的奉仕機能を十分に発揮させる観点からも、可能な限り、多様なニーズに応えられる仕組みを構築することが望まれる。

 他方、入手困難資料以外の資料(市場で流通している資料。新刊本を含む。)について、簡便な手続により大量のコピーが電子媒体等で送信されるようになれば、たとえそれが著作物の一部分であっても、正規の電子出版等をはじめとする市場、権利者の利益に大きな影響を与え得ることとなる。

 このため、権利者の利益保護の観点から厳格な要件を設定すること及び補償金請求権を付与することを前提とした上で、図書館等が図書館資料のコピーを利用者にFAXやメール等で送信することを可能とすることとする。その際には、きめ細かな制度設計等を行う必要がある一方で、図書館等において過度な事務的負担が生じない形で、スムーズに運用できる仕組みとすることも重要である。

と書かれている通り、図書館等が利用者に電子データを送信する事を可能とするもので、利用者の利便性向上の観点で評価できるものである。

 こちらの制度設計としては、

  • 具体的な担保の方法について、諸外国においては10%を上限とするなど定量的な定めを設けている例もあるが、権利者の利益を不当に害するか否かは、送信される著作物の種類や性質、正規の電子出版等をはじめとしたサービスの実態、送信される分量など、様々な要素に照らして総合的に判断されるものであることを踏まえると、分量等について一律の基準を設けるよりは、「ただし、・・・に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない」というただし書を設け、実態に即したきめ細かな判断を可能とする方が望ましいものと考えられる。(第15ページ)
  • 利用者のニーズや各図書館等におけるシステム・コスト面での実現可能性等に応じて柔軟に対応することができるよう、FAX、メール、ID・パスワードで管理されたサーバーへのアップロードなど、多様な形態での送信を認めることが望ましい。(第17ページ)
  • 今回、新たにメール送信等を可能とすることに伴って、作成・送信されたデータが目的外で流出・拡散することが懸念されるため、(ア)図書館等においてデータの流出防止のための適切な管理を行うとともに、(イ)データを受信した利用者による不正な拡散を防止するための措置を講ずることが必要である。具体的な措置として、(ア)については、例えば、図書館等においてデータの流出防止に必要な人的・物的管理体制を構築することや、作成したデータが不要となった場合には速やかに破棄すること、(イ)については、例えば、利用者に対して著作権法の規定やデータの利用条件等を明示することや、不正な拡散を技術的に防止する措置を講ずることなどが考えられる。(第17ページ)
  • 法第31条第1項に規定する図書館等であっても、必ずしも全てにおいて送信サービスを実施するニーズがあるわけではなく、また、図書館等によって人的・物的管理体制や技術・システム、財政面等には違いがあり、上記のデータの流出防止措置や後述の補償金制度の運用を含め、全ての図書館等で適切な運用が担保できるとは言いがたいものと考えられる。一方で、国民の情報アクセスを確保する観点からは、特定の種別の図書館等(例:国立国会図書館及び大学図書館)のみを対象とするのは適切ではないと考えられることから、一定の運用上の基準を設定し、法第31条第1項に規定する図書館等のうち当該基準を満たすものに限って送信サービスを実施できるようにすることが適当である。(第18ページ)
  • 上記(1)~(3)の措置によって、正規市場との競合やデータの目的外での流出・拡散などは防止することができるものと考えられるが、図書館等からのメール送信等によって国民が迅速かつ簡易にパソコンやスマートフォンで必要なデータを入手・閲覧することができるようになれば、権利者の利益に大きな影響を与えることが想定される。このため、今回、新たに図書館等によるメール送信等を可能とすることに伴って権利者が受ける不利益を補償するため、補償金請求権を付与することが適当である。(第18ページ)
  • 補償金請求権の対象とする行為について、現在無償となっている「複製」まで含めた場合には、図書館利用者の利便性が著しく低下し、国民の情報アクセスや研究活動等に支障が生じることが懸念されるため、今回新たに権利制限がなされる「公衆送信」のみを対象とすることが適当である。その際、補償金の対象から除外する著作物(例えば、国の広報資料・報告書や入手困難資料)を設けることも考えられる。(第19ページ)
  • 送信サービス利用者による不適切な行為を防止する観点から、図書館等においては、あらかじめ、著作権法の規定やサービスの利用条件等を明示した上で、それに同意した者を登録し、登録した者を対象として送信サービスを実施することとすべきである。(第21ページ)

と、補償金つきで、登録管理により、一定の基準を満たす図書館等によって電子データの利用者への直接送信が可能となるというものであり、これも妥当なものと言えるだろう。

(2)「放送番組のインターネット同時配信等に係る権利処理の円滑化に関する中間まとめ」に関する意見募集(1月6日〆切)
 もう1つのパブコメは、文化審議会・著作権分科会・基本政策小委員会(具体的な検討はその下の放送番組のインターネット同時配信等に係る権利処理の円滑化に関するワーキングチームによる)の放送番組のインターネット同時配信等に係る権利処理の円滑化に関する中間まとめ(pdf)電子政府HP掲載版(pdf))に対するものである。

 この報告書の内容については、基本政策小委員会の12月14日の資料の中の概要(pdf)が比較的分かりやすいと思うので、その第2~3ページの主な記載内容を抜き出すと以下の様になる。

<対象とするサービスの範囲>

○同時配信のほか、追っかけ配信(放送が終了するまでに配信が開始されるもの)、一定期間の見逃し配信を対象とすることを基本とする。

○放送対象地域との関係を問わず、番組内容の一部変更やCMの差替えも認めるなど柔軟な仕組みとする。

<措置内容の一覧>

(1)権利制限規定の同時配信等への拡充【法改正】
・放送では許諾なしに著作物を自由に利用できることとなっている規定を、同時配信等に拡充。

(2)許諾推定規定の創設【法改正】
・放送番組での利用を認める契約の際、権利者が別途の意思表示をしていなければ、放送だけでなく同時配信等での利用も許諾したものと推定。

(3)同時配信等に係るレコード・レコード実演(被アクセス困難者)の報酬請求権化【法改正】
・レコード・レコード実演の同時配信等に関し、集中管理にがされておらず、個別の許諾を得るのに相当な手続コストを要する被アクセス困難者の権利について報酬請求権化。

(4)リピート放送の同時配信等に係る映像実演(被アクセス困難者)の報酬請求権化【法改正】
・リピート放送の同時配信等に関し、映像実演の被アクセス困難者の権利について、法律上、リピート放送の場合と同様、初回契約時に別段の定めがない限り、報酬請求権化。

(5)裁定制度の改善【法改正・政令改正等】
①協議不調の場合の裁定制度:同時配信等に当たっての協議が整わない場合にも活用可能とする。
②権利者不明の場合の裁定制度:民放についても一定の要件の下で補償金の事前供託を免除、「相当な努力」(広告掲載)の要件を緩和、申請手続を電子化、事務処理を迅速化。

 この放送関連の著作権法改正が実質的に一般ユーザに影響する事はほとんどないのではないかと思うので、ここでこれ以上細かな説明をするつもりはないが、一部の権利制限規定の拡充はしたらいいと思うものの(問題となっている権利制限でなぜ放送のみが取り上げられているのか、放送の再送信だけでなくより一般的な他の通信手段にまで広げられないのかといった点について掘り下げた議論がされなかったのは残念という他ないが)、他はほぼ放送事業者側が最初の契約で権利処理すればいいだけではないかと思える事ばかりである。

 これは規制改革絡みで政治的圧力もあっての決着だとは思うが、著作権法における放送と通信の権利処理の違いについては、同じ放送対象地域での同時再送信について実演家とレコード製作者の権利を報酬請求権化した2006年法改正(文化庁の法改正解説ページ参照)くらいから10年以上延々同じ事を議論しているので、今提案されている法改正も何をいまさらという感じが大いにするものである。放送のインターネットでの再送信が進まない事は主として著作権法上の権利処理の違いに起因している訳ではないだろうと私は見ており、今回の報告書で提案されている法改正が通ったからといって放送の再送信がすぐに劇的に進むとは思えないのだがどうだろうか。(無論、その技術の進展に伴い、インターネットにおける情報発信・伝達は今後も否応なく進んでいくだろうとは思うが。)

 今年の年末年始にかけてのこの2つの文化庁著作権パブコメの内、前者の図書館関係の権利制限の拡充に関するパブコメについて、私は賛成の意見を出すつもりでいるが、ほぼそのまま賛成と書くだけの非常に単純な内容のものとなるので、ここに載せるほどの事はないだろう。

(2020年12月20日の追記:1箇所誤記を修正した(「利用者への電子データの送信」→「利用者に電子データを送信する事」)。)

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