第430回:パロディに関する権利制限を含むドイツ著作権法改正案
最近の動きとして、ドイツ政府から、2つの著作権法改正案が公開されている。1つは、2020年1月のデジタル統一市場の要請に著作権法を適応させるための第1法改正案(ドイツ法務省のHP1参照)で、もう1つが、2020年6月の第2法改正案(HP2参照)である。
両方とも主として2019年の新欧州著作権指令(第408回参照)に対応するためのものであり、前者の第1法改正案(pdf)はテキスト及びデータマイニングの権利制限と時事記事保護法(第295回参照)の条文の新欧州著作権指令への適応(ただし、ほぼ新欧州著作権指令への条文合わせと詳細化で、これでドイツにおけるグーグルニュースを巡る状況が大きく変わるとは思えない)等が含まれ、重要なものには違いないが、ここでは、前回紹介した判例との関係で興味深い、パロディの権利制限を含む後者の第2法改正案(pdf)を取り上げる。
この第2法改正案は以下の様なパロディに関する権利制限を導入しようとしている。(以下、翻訳は全て拙訳。)
§51a Karikatur, Parodie und Pastiche
Zulassig ist die Vervielfaltigung, die Verbreitung und die offentliche Wiedergabe eines veroffentlichten Werkes zum Zweck der Karikatur, der Parodie und des Pastiches. Die Befugnis nach Satz 1 umfasst die Nutzung einer Abbildung oder sonstigen Vervielfaltigung des genutzten Werkes, auch wenn diese selbst durch ein Urheberrecht oder ein verwandtes Schutzrecht geschutzt ist.
第51a条 風刺、パロディ及びパスティーシュ
風刺、パロディ及びパスティーシュの目的のための公開された著作物の複製、頒布及び公衆送信は許される。第1文の権限は、それ自体が著作権又は著作隣接権によって保護されない場合でも、利用著作物の模写又はその他の複製の利用にも及ぶ。
法改正案の説明として、第62ページに、パロディに関する権利制限の導入提案について、以下の様に書かれている。
Zu Nummer 12 (§51a UrhG-E - Karikatur, Parodie und Pastiche)
Mit dem neuen §51a UrhG-E regelt das deutsche Urheberrecht erstmals eine ausdruckliche gesetzliche Erlaubnis zum Zweck der Karikatur, der Parodie und des Pastiches. Grundlage hierfur ist Artikel 5 Absatz 3 Buchstabe k InfoSoc-RL, der eine fakultative Schrankenregelung zugunsten dieser anlehnenden Nutzungsformen enthalt. Im deutschen Recht existierte eine solche ausdruckliche Schranke bislang nicht. Nutzungen zum Zwecke der Karikatur und Parodie wurden bislang unter den Tatbestand der freien Benutzung nach §24 UrhG a.F. subsumiert.
Anlass fur diese Rechtsanderung ist zum einen, dass der EuGH in der Rechtssache Pelham ("Metall auf Metall") am 29. Juli 2019 (C-476/17, Rn. 56 ff., ECLI:EU:C:2019:624) entschieden hat, dass die Bestimmung des §24 UrhG a.F. mit dem abschliessenden Schrankenkatalog des Artikels 5 InfoSoc-RL nicht vereinbar sei. Zweifelsfrei waren und sind aber Karikaturen und Parodien in bestimmten Fallen urheberrechtlich zulassig. Eine Ausnahme zugunsten des Pastiches gab es im deutschen Recht auch unter §24 UrhG a.F. nach Auffassung des BGH bislang nicht (Urteil vom 30. April 2020, I ZR 115/16 - Metall auf Metall IV). Diese komplexe Rechtslage lost § 51a UrhG-E nunmehr auf.
Daruber hinaus verlangt Artikel 17 Absatz 7 Unterabsatz 2 Buchstabe b DSM-RL, dass sich Nutzerinnen und Nutzer von Upload-Plattformen auf Erlaubnisse zum Zwecke von Karikaturen, Parodien oder Pastiches berufen konnen mussen (siehe auch §5 Nummer 2 Urh-DaG-E). Die Mitgliedstaaten der Europaischen Union sind insoweit also zur Umsetzung verpflichtet. Auch deshalb ist es nunmehr geboten, diese gesetzlichen Erlaubnisse ausdrucklich und damit anwenderfreundlich in das UrhG zu ubernehmen.
Die Auseinandersetzung mit vorbestehenden schopferischen Leistungen, die Aufnahme von Anregungen und die gegenseitige Inspiration gehoren zum Wesen geistig-schopferischer Tatigkeit und sind ihrerseits wiederum Grundlage fur weiteres kreatives Schaffen. Zugleich ist es erforderlich, gesetzliche Bestimmungen im aktuellen sozialen Kontext zu interpretieren. Karikaturen und Parodien sind fester Bestandteil der europaischen Kultur, ebenso - wenngleich weniger prominent - der Pastiche. Aufgabe des §51a UrhG-E ist es zum einen, "klassische" Nutzungen rechtlich abzusichern, etwa die politische Karikatur in Pressemedien, eine Parodie in einer satirischen Fernsehsendung oder einen literarischen Pastiche. Zugleich konnen auch moderne Formen transformativer Nutzung urheberrechtlich geschutzter Inhalte insbesondere im digitalen Umfeld unter die Begriffe der Karikatur, Parodie oder des Pastiches gefasst werden. Artikel 17 Absatz 7 Unterabsatz 2 und ErwG 70 DSM-RL erwahnen in diesem Kontext ausdrucklich "nutzergenerierte Inhalte" (User Generated Content - UGC).
...
第12項について(著作権法改正案第51a条-風刺、パロディ及びパスティーシュ)
新第51aによりドイツ著作権法は初めて風刺、パロディ及びパスティーシュの目的のための法的許可を明文で規定する事になる。その基礎は、その中の利用形式向けの任意の権利制限規則を含む、欧州情報社会著作権指令第5条第2項kである。ドイツ法には今までこの様な明文の権利制限規定は存在しなかった。風刺、パロディ及びパスティーシュの目的のための利用は今まで元の第24条の自由利用の要件の下で判断されていた。
この法改正の契機として、1つは、欧州司法裁が2019年7月19日のPelham(「Metal auf Metal」)事件判決において、著作権法の元の第24条の規定は欧州情報社会著作権指令第5条の限定的権利制限カタログに合致しないと判断した事がある。しかし、疑いの余地なく、風刺及びパロディは特定のケースで著作権法上許されていたし、許されている。パスティーシュ向けの例外は、ドイツ法において著作権法の元の第24条の下においても、ドイツ最高裁の判断によれば(2020年4月30日の判決、「Metal auf Metal Ⅳ」事件)、今までなかった事になる。この複雑な法的状況はここで著作権法改正案第51a条により解決される。
また、新欧州著作権指令第17条第7項第2文bは、アップロード・プラットフォームの利用者に風刺、パロディ又はパスティースの目的のための利用が許されなくてはならない事を求めている(著作権・サービスプロバイダー法案第5条第2項も参照)。欧州連合の加盟国はその限りにおいてその実施の義務がある。そのためにも、ここで、この法的許可を明文で適用しやすい様に著作権法に取り入れる事が求められている。
前に存在する創造的成果との対峙、刺激の取り入れ及び相互の示唆は、精神的・創造能力の本質に属するものであり、またさらなる創造的創作のための基礎となるものである。法的規定を現在の社会の文脈において解釈する事も同時に必要である。風刺及びパロディ-より目立たないかも知れないが-並びにパスティーシュは、欧州の文化の確固たる要素である。著作権法改正案第51a条の目的として、1つは、報道メディアにおける政治的風刺、風刺テレビ番組におけるパロディ又は文学的パスティーシュ(文体模写)の様な「古典的」利用を法的に守る事がある。同時に、特にデジタル環境における著作権法の保護を受けるコンテンツの変形利用の現代的な形式は、風刺、パロディ又はパスティーシュの概念で包括され得るという事もある。新欧州著作権指令第17条第7項第2文b及び前文70はこの文脈において明文で「利用者作成コンテンツ」(ユーザ・ジェネレイテッド・コンテンツ-UGC)に言及している。
(略)
この説明を読むと、新欧州著作権指令を国内法に取り込まなければならないという事情もあるが、去年の欧州司法裁の判決(第411回参照)や、それを受けたこの2020年4月のドイツ最高裁の判決(第429回参照)で、サンプリングに関して、表現の自由に重きを置き、自由利用に関するドイツ著作権法第24条には限界があり、今までのドイツの著作権法に関する考え方とかなり異なる判断が示された事もかなり影響を与えている事が分かる。
上でパロディの権利制限の条文案の方を先に翻訳したが、この第2法改正案では、今の第24条は廃止され、その前の翻案・変形利用について原則として著作権者の承諾を求めていた第23条も、以下の様に改正される事になる。
§23 Einwilligungsbedurftige Bearbeitungen und Umgestaltungen
(1) Bearbeitungen oder andere Umgestaltungen eines Werkes, die keinen hinreichenden Abstand zum verwendeten Werk wahren, durfen nur mit Einwilligung des Urhebers veroffentlicht oder verwertet werden. Bei Werken der Musik ist der hinreichende Abstand nicht gewahrt, wenn eine Melodie erkennbar einem Werk entnommen und einem neuen Werk zugrunde gelegt wird.
(2) Handelt es sich um
1. die Verfilmung eines Werkes,
2. die Ausfuhrung von Planen und Entwurfen eines Werkes der bildenden Kunste,
3. den Nachbau eines Werkes der Baukunst oder
4. die Bearbeitung oder Umgestaltung eines Datenbankwerkes,
so bedarf bereits das Herstellen der Bearbeitung oder Umgestaltung der Einwilligung des Urhebers....
第23条 承諾を必要とする翻案及び変形
第1項 利用著作物から十分離れていない、著作物の翻案又はその他の変形は、著作権者の承諾とともにのみ公開又は利用する事が許される。音楽の著作物においては、メロディが認識可能な様に著作物から取り出され、新しい著作物の基礎として置かれた場合には、十分離れていないものである。
第2項 次に関し、
1.著作物の映画化、
2.造形芸術の著作物の図面又は模型からの制作、
3.建築芸術の著作物の再建、
4.データベースの著作物の翻案又は変形、
翻案又は変形の作成はなお著作者の承諾を必要とする。(略:第3項で、他の権利制限条項における技術的な条件のみによる変更には適用されない事を規定)
音楽の著作物についての認識可能性の要件とサンプリングの関係は今後の判例による判断に委ねられている所もあるのだろうが、この第2法改正案が国会を通れば、ドイツでも著作権法上パロディ等についてかなり柔軟な判断がされる様になるだろう。
合わせて少し触れておくと、上の翻訳部分でも出て来た、著作権・サービスプロバイダー法案は、オンラインコンテンツ部分のサービスプロバイダーの著作権法上の責任に関する法律案というもので、同じ第2法改正案に含まれている。
この著作権・サービスプロバイダー法案は新欧州著作権指令の第17条に対応するためのものだが、その第5条で、引用や風刺、パロディ等の法定の権利制限による利用が機械的にチェック不可能な利用として許されると規定しているだけでなく、その第6条で、20秒までの動画、20秒までの音声、1000文字までの文章、250キロバイトまでの画像の非商用利用が機械的にチェック可能な利用として許されると規定するなど、法律でかなり細かく条件まで決めようとしており、非常にドイツらしいと言えばドイツらしい法案になっている。
(なお、ここでは説明を省略するが、この第2法改正案は著作権管理団体による集合ライセンスのための法改正なども含まれている。)
上でもリンクを張った法案が公開されているドイツ法務省のホームページ(HP1、HP2)に山の様に関係者から提出された意見書が掲載されている事からも分かるように、この新欧州著作権指令に対応するための法改正案はドイツでも賛否両論が噴出している状態で、今の条文案のまま提出され、国会を通って成立する所まで行くかは何とも分からないが、新欧州著作権指令の国内法移行期限が迫る中、法改正が見送られるとも思えず、ある程度原型を保って法改正は成立するのではないかと私は見ている。
ドイツの動きをそっくり取り入れるべきなどというつもりは私には毛頭ないが、文化の発展、新たな創作は過去の創作の積み重ねに基づいてのみ成り立つものである事、風刺やパロディが文化の重要な要素である事、風刺やパロディの持つ意味が全利用者が創作者・発信者たり得るインターネットの普及によってより重みを増している事は洋の東西を問わない事であろうし、日本でもパロディに関する権利制限を導入して、著作権法による規制を緩和した方が良いと私は常に考えている。
(2021年6月23日の追記:順序を間違えていた事に気づいたので、原文と翻訳の記載箇所を入れ替えた。)
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