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2020年7月19日 (日)

第427回:総務省・発信者情報開示の在り方に関する研究会中間とりまとめ(案)に対するパブコメ募集(8月14日〆切)

 Twitterで少し触れたが、総務省から、8月14日〆切で、発信者情報開示の在り方に関する研究会中間とりまとめ(案)(pdf)に対するパブコメ・意見募集がかかっているので、今回はその内容を見て行く。(総務省の意見募集ページ、電子政府のHP参照。)

 この中間とりまとめ案の第2ページにも書かれている通り、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(プロバイダー責任制限法)は2001年に作られたもので、そこで定められている、インターネット上の権利侵害に対するその発信者情報の開示手続きの概要、現状と課題について、第1章、第3~5ページに以下の様に書かれている。

2.発信者情報開示の概要

(1)プロバイダ責任制限法における発信者情報開示制度の概要

 プロバイダ責任制限法は、第4条において、権利侵害情報が匿名で発信された際、被害者(権利を侵害されたと主張する者)が、加害者(発信者)を特定して損害賠償請求等を行うことができるよう、一定の要件を満たす場合には、プロバイダに対し、当該加害者(発信者)の特定に資する情報の開示を請求する権利を定めている。

 具体的には、情報の流通によって自己の権利を侵害されたとする者は、①当該開示の請求をする者の権利が侵害されたことが明らかであるときであって、かつ、②発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるときには、プロバイダに対して発信者情報の開示を請求することができ(第1項)、これを受けたプロバイダは原則として当該発信者の意見を聴取した上で、開示をするかどうかを判断することとされている(第2項)。

 ここにいう発信者情報の範囲については「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律第四条第一項の発信者情報を定める省令」平成14年総務省令第57号。以下「省令」という。)で定めることとされており、現在、発信者の氏名又は名称(省令第1号)、発信者の住所(同第2号)、発信者の電子メールアドレス(同第3号)、侵害情報に係るIPアドレス(同第4号)、携帯電話端末等の利用者識別符号(同第5号)、SIMカード識別番号(同第6号)、タイムスタンプ(侵害情報が送信された年月日及び時刻)(同第7号)が列挙されている。

 なお、発信者情報の開示を受けた者は、発信者情報をみだりに用いてはならないとされ(3項)、また、開示の請求に応じないことにより開示の請求者に生じた損害について、プロバイダは、故意又は重過失がある場合でなければ、損害賠償責任を負わないこととされている(第4項)。

(2)発信者情報開示の実務の現状

 インターネット上で権利侵害投稿が行われた場合、一般的に、コンテンツプロバイダは、発信者の氏名・住所等の情報を保有していないことが多く、被害者が被害救済を図るためには、投稿時のIPアドレスを端緒として、権利侵害投稿の通信経路を辿って発信者を特定する実務が定着している。

 発信者情報開示の場面で、問題となる投稿が権利侵害に該当するか否かの判断が困難なケースなどにおいては、発信者情報が裁判外で開示されないことが多いため、多くの場合、①コンテンツプロバイダへの開示請求、②アクセスプロバイダへの開示請求を経て、発信者を特定した上で、③発信者に対する損害賠償請求等を行うという、3段階の裁判手続が必要になっている。

 具体的には、コンテンツプロバイダに対する開示請求は、仮処分の申立てによることが一般的であり、これにより、発信者の権利侵害投稿の際のIPアドレス及びタイムスタンプが開示される。また、アクセスプロバイダに対する開示請求は、訴訟提起によることが一般的であり、発信者の氏名及び住所が開示される。

(3)現状の発信者情報開示の実務における課題

 現行のプロバイダ責任制限法における発信者情報開示の実務においては、実務関係者等から以下の課題が指摘されている。

ア 発信者を特定できない場面の増加

 近年、投稿時のIPアドレス等を記録・保存していないコンテンツプロバイダの出現により、投稿時のIPアドレスから通信経路を辿ることにより発信者を特定することができない場合があるほか、アクセスプロバイダにおいて特定のIPアドレスを割り振った契約者(発信者)を特定するために接続先IPアドレス等の付加的な情報を必要とする場合があるなど、現行の省令に定められている発信者情報開示の対象のみでは、発信者を特定することが技術的に困難な場面が増加している。

 また、発信者情報開示の場面においては、被害者が投稿後、一定の時間が経ってから権利侵害投稿に気づく場合や、コンテンツプロバイダにおける開示手続に一定の時間がかかるケースでは、アクセスプロバイダが保有するIPアドレスなどのログが請求前に消去されてしまう場合がある等のため、発信者の特定に至らない可能性がある。

イ 発信者特定のための裁判手続の負担

 前述のとおり、権利侵害が明白と思われる場合であっても、実務上、発信者情報がプロバイダから裁判外で(任意に)開示されることはそれほど多くはないことが指摘されている。

 このため、裁判外で開示がなされない場合、発信者の特定のためは、一般的に、①コンテンツプロバイダへの仮処分の申立て、②アクセスプロバイダへの訴訟提起という2回の裁判手続が必要になることから、これらの裁判手続に多くの時間・コストがかかり、救済を求める被害者にとって大きな負担となっている。

 したがって、これらの課題を解決する方策について、以下、具体的な検討を行う。

 前提の理解が必要なのでこの部分を少し長く引いたが、要するに、プロバイダー責任制限法において、SNSの投稿などにおける発信者情報の開示について規定されているが、現状、

  • 他に接続先IPアドレス等が必要とする場合があるなど、現行の情報開示の対象のみでは、発信者を特定することが技術的に困難な場面があること
  • コンテンツプロバイダへの投稿時のIPアドレスの開示を求める仮処分の申立てと、アクセスプロバイダへの開示された投稿時のIPアドレスによる訴訟提起という2回の裁判手続が実際の発信者の情報開示に必要となり、時間とコストがかかること

という2つの課題があることが書かれている。

 さらに、第5~6ページに、

3.検討に当たっての基本的な考え方

 第2章において具体的な論点について検討を行うに当たっては、基本的な考え方として、以下の点について確認しておくことが重要である。

 まず、発信者情報開示請求に係る制度の見直しに当たっては、発信者情報開示請求権によって確保を図ろうとする法益は何か、を確認した上で、その実現のための具体的な方策の在り方について検討を深めることが適当である。

 具体的には、発信者情報開示請求に係る制度の趣旨は、裁判を受ける権利の保障という重要な目的を達成するために、発信者の表現の自由、プライバシー及び通信の秘密を制約する上で、当該制約を必要最小限度のものにとどめる必要性があるという前提を踏まえ、権利侵害を受けたとする者(「被害者」)の救済がいかに円滑に図られるようにするか、という点(被害者救済という法益)と、適法な情報発信を行っている者のプライバシー・通信の秘密をいかに確保するか、という点(表現の自由の確保という法益)の両者の法益を適切に確保することにあると考えられる。

したがって、具体的な制度設計に当たっては、常にこの観点に留意しながら検討を深めることが適当である。

と書かれている。ここで、権利侵害に対する救済が必要なのは無論の事とは言え、制度改正が逆に行き過ぎれば、その濫用や悪用によって発信行為・表現が萎縮し、表現の自由の抑圧に繋がる危険性があるということをきちんと認識し、その間でバランスを取る事を基本的な考え方としている事は高く評価できるだろう。

 その後、この中間まとめ案の第6ページからの第2章以下でプロバイダー責任制限法の改正提案がされているが、その主な内容をまとめると、以下のようになる。

  • 発信者情報の開示対象の拡大として、省令で電話番号を追加(第8~11ページ)
  • 発信者情報の開示対象として、投稿時だけでなくログイン時のIPアドレス及びタイムスタンプ(ログイン時情報)も含まれる事の明確化(第11~15ページ)
  • 発信者情報の開示対象として、接続先IPアドレスが現行省令で含まれているという解釈の提示、接続先URLの省令による追加(第15~16ページ)
  • 裁判所が発信者情報の開示の適否を判断する、非訟手続きによる新たな裁判手続きの創設の検討(第16~21ページ)
  • 権利侵害か否かが争われている個々の事案に関連する特定のログを迅速に保全できるようにする仕組みの検討(第21~23ページ)

そして、最後、第25~26ページに、

第3章 今後の検討の進め方

 インターネット上の情報流通の増加や、情報流通の基盤となるサービスの多様化、それに伴うインターネット上における権利侵害情報の流通の増加を踏まえ、本研究会では、プロバイダ責任制限法における発信者情報開示の在り方に関して、制度及び実務上の主要課題並びに課題解決のための方策についての全体的な方向性を中間とりまとめとして提示した。

 総務省においては、本中間取りまとめを踏まえ、発信者情報の開示対象の追加については、まずは「電話番号」を開示対象に追加するため、迅速に省令の改正を行うことが適当である。併せて、当該省令改正に関して円滑な運用が行われるよう、「電気通信事業における個人情報保護に関するガイドライン」(総務省告示)の解説を改訂することが適当である。

 次に、「ログイン時情報」については、開示対象となるログイン時情報及び請求の相手方となる「開示関係役務提供者」の範囲を明確化する観点から、省令改正ほか、必要に応じて法改正によって対応を図ることも視野に入れて、具体化を進めていくことが適当である。

 また、新たな裁判手続の創設、特定の通信ログの早期保全のための方策等については、本中間とりまとめを踏まえて、今後、被害者の救済の観点のみならず発信者の権利利益の確保の観点にも十分配慮を図りながら、様々な立場からの意見を幅広く聴取して、法改正により新たな裁判手続を創設することについて、創設の可否を含めて、検討を進めていくことが適当である。

 本研究会では、これらの課題に関し、さらに整理が必要な事項について引き続き議論を行い、最終取りまとめにおいて追加的に提言を行う予定としている。

と、今後の進め方について書かれ、この中間とりまとめ案の検討事項の内、省令による、発信者情報の開示対象に電話番号を追加はすぐにもされる予定であり(この部分に書かれていないが、第16ページの脚注21の接続先URLの追加もすぐにされるのだろう)、その他のログイン時情報の取扱い、発信者情報開示のための非訟手続の創設、ログの迅速な保全の仕組みはさらに具体化のための検討を進めて行く予定である事が分かる。

 現状の課題を踏まえ、現行の手続きにおいて、発信者情報の開示対象に電話番号や接続先URLを追加する事は問題ないであろうし、ログイン時情報についても、

  • 「権利侵害投稿の通信とログイン時の通信とが、同一の発信者によるものである場合に限り、開示できることとする必要がある」(第13ページ)
  • 「開示を可能とする情報が際限なく拡大すれば、権利侵害投稿とは関係の薄い他の通信の秘密やプライバシーを侵害するおそれが高まることから、開示が認められる条件や対象の範囲について、一定の限定を付すことが考えられる」、「開示対象の範囲が不明確であるために実務が混乱することのないように、開示対象となるログイン時情報を省令において明確化することが適当である」(第13~15ページ)

と書かれている様に、気をつけるべき点は幾つかあるものの、基本的に、権利侵害投稿の通信とログイン時の通信とが、同一の発信者によるものである場合に限るといった限定を付け加える事で、現行の手続きにおいて、省令改正により、ログイン時のIPアドレスとタイムスタンプを追加する事に大きな問題はないだろう。

 このログイン時情報については、

  • 「ログイン時情報をもとに特定されたアクセスプロバイダに対して、ログイン時の通信の発信者の住所・氏名の開示を請求することとなるが、当該開示請求を受けるプロバイダは、プロバイダ責任制限法第4条第1項に規定する『開示関係役務提供者』の範囲に含まれない場合もあり得ることから、請求の相手方となる『開示関係役務提供者』の範囲を明確化する観点から、必要に応じて、法改正によって対応を図ることを視野に入れ、具体化に向けた整理を進めていくことが適当である」(第15ページ)

とも書かれており、総務省内でプロバイダー責任制限法について何かしら法改正がしたいのかと思えるが、ログイン時のIPアドレスとタイムスタンプによる開示請求で法律上の「開示関係役務提供者」の範囲に含まれない場合もあり得るとする解釈は厳格に過ぎ、この点で法改正は不要だろうと私は考える。(今までも、平成23、27年の省令改正により、ポート番号やSIMカード識別番号などが追加されている(省令と当時の総務省の省令に関する意見募集ページ1参照)。)

 それ以上に、プロバイダー責任制限法について法改正のための法改正をしたい勢力がいるのではないかと思え、かつ、余りにも検討が生煮えで非常に大きな問題を含んでいると思える部分は、何と言っても、新たな裁判手続きの創設と迅速なログ保全の仕組みに関する部分である。

 インターネットの仕組みを考えれば、どうやっても、コンテンツプロバイダーに対する削除要求・情報開示・ログ保全、アクセスプロバイダーに対する情報開示・ログ保全、開示侵害者に対する損害賠償請求等という様に、情報流通経路を順に辿って行くしかないので、コンテンツプロバイダーが侵害者の情報を直接保有している様な場合を除き、何をどうやろうが、一足飛びに、前もって分かり得ない後の手続きの当事者を前の手続きに巻き込む事はできず、もしそれができたら、それは不当と言う他ない。非訟事件手続きによればいいなどという事も無論ない(非訟事件手続法参照)。

 関連して開示対象とすべきログイン時情報の範囲との関係でも、「後述の新たな裁判手続の創設に関して具体的にどのような仕組みが設けられるのかといった点や、それに伴いログイン時情報に関してどのようなニーズの変化が生じるのかという点も踏まえつつ、その具体化に向けて引き続き検討を深め」(第15ページ)などとも書かれているのだが、どの様な手続きによろうと、発信者の特定のために必要となる情報自体に違いが出る訳はなく、これも私にはさっぱり理解できない記載である。

 この新たな裁判手続きについては、具体的な制度設計が全く不明で、およそ実現可能とは思えないのだが、本当に何かしらの新しい非公開の手続きを定め、一般的なチェックが効かない中で開示要件を緩めたとしたら、第18ページの、

他方、訴訟手続に代えて非訟手続とした場合の課題としては、非訟手続においては、原告と被告という対審構造や裁判手続の公開が原則とはされていないこと、既判力がないことなどの特徴があることから、制度設計次第では、

①現行の発信者情報開示訴訟とは異なる当事者構造となることにより、あるいは、発信者側の主張内容が裁判手続に十分に反映されないことにより、適法な情報発信を行う発信者の保護が十分に図られなくなるおそれがあり得ること

②裁判手続の取下げや紛争の蒸し返しが比較的容易であり、また、それが外部から見えにくい等により、手続の濫用の可能性があり得ること

等が挙げられる。

という批判がそのまま該当する状況が現出するだろうと私は思う。(この新たな裁判手続きの案がよほど生煮えの儘ごり押しで通されたのだろう事は、7月10日の第4回研究会で構成員から慎重に検討するべきという意見(pdf)が出されている事からも分かる。)

 ログの保存についても、それぞれの段階で、各プロバイダーに発信者情報消去禁止の仮処分の申立てをするしかない筈で、それを如何に迅速化するかという話ならまだ分からなくもないが、現行の手続きで何が問題で、具体的に何をどうしようとしているのか、この中間まとめ案で、「早期に発信者情報を特定・保全できるようにする仕組みを設けることが考えられる」、「当該仕組みの導入に向けて、法改正を視野に制度設計の具体化に向けた検討を深めていくことが適当である」、「その際、前述の新たな裁判手続との関係にも留意が必要である」(第23ページ)などと書かれているが、私には全く分からない。

 この中間とりまとめ案は、プロバイダー責任制限法の発信者情報開示のあり方の検討にあたっては、片や権利侵害の救済、片やプライバシー・通信の秘密、表現の自由という重要な法益の間できちんとバランスを取る必要があるという事を正しく認識していながら、あたら法改正のために法改正をしたいとばかりに内容空疎な新たな裁判手続きや仕組みといった言葉を無意味に踊らせているものであって、その点で完全にバランスを失しているものである。私は現行のプロバイダー責任制限法の手続きの拡充や迅速化の検討自体はされて然るべきだと思っているが、濫用の懸念の強い非訟手続による新たな裁判手続きの創設に反対するとともに、ログの保存についても現行の手続きを前提に問題点を洗い直す様にするべきとの意見を出すつもりである。

 最後に、合わせ触れておくと、ごっちゃになりやすいが、総務省からは、インターネット上の誹謗中傷への対応の在り方について(案)(pdf)のパブコメも7月24日〆切でかかっている。(総務省の意見募集ページ2、電子政府のHP2参照。)

 こちらのインターネット上の誹謗中傷への対応の在り方について(案)は、発信者情報開示を除く一般的な誹謗中傷対策について記載しているものだが、総論で「対策の実施に当たっては、これまでも官民が連携し、(1)ユーザに対する情報モラル向上のための啓発活動、(2)事業者による取組や事業者団体による知見・ノウハウの共有、(3)国における環境整備、(4)被害者への相談対応、といった枠組によりそれぞれ取組を実施してきたところ、今後も、基本的には同様の枠組を踏襲しつつ、総合的な対策を講じていくことが重要」(第2ページ)と書かれている通り、既存の枠組みに沿って、ユーザに対する情報リテラシー向上のための啓発活動の強化や、プラットフォーム事業者における削除等の対応の強化や透明性の向上の促進などを進めて行くとするもので、特に問題のある事は書かれていない。

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