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2020年6月21日 (日)

第426回:知財計画2020の文章の確認

 知財関連法改正の中では種苗法改正案の審議が先送りになったものの、非常に残念な事ながら、著作権法改正案はそのまま可決・成立し、6月17日に国会が閉幕した。今回の著作権法改正の中に含まれるダウンロード違法化・犯罪化の対象範囲拡大については、じきにその影響が明らかになる事だろう。

 話としては前後するが、5月27日に、知財本部で、知的財産推進計画2020(pdf)概要(pdf))が決定されているので、今回はその内容を見ておきたいと思う。

 この知財計画は、毎年作る意味が良く分からない施策項目集だが、今年は新型コロナの話と混ざり合って、いつにも増して意味不明の内容になっているので、以下では、読んでいて頭が痛くなってくる意味不明のお題目が並んだ部分を全て無視して、法改正事項を中心に見ていく。

 まず、第21~22ページには、

・種苗法改正により、優良品種の海外への流出防止や国内における栽培地域の限定が可能となる予定であることから、新品種を活用した産地づくりが各地域で円滑に進められるよう、育成者権のライセンシング手法について調査し、都道府県等の育成者権者や生産者団体への情報提供を推進する。また、登録品種の利用に関する簡易な許諾方法や許諾料の徴収方法について、海外の事例も含めて情報発信を行うとともに、侵害対策の実効性を高めるための措置についても検討を行う。(短期・中期)(農林水産省)

・種苗法に基づく品種登録審査において、(国研)農業・食品産業技術総合研究機構種苗管理センターが行う品種の特性に関する調査が、育成者権者の立証等にも活用されるよう調査の充実を図る。また、海外の品種登録当局の審査における我が国の審査結果活用の促進を通じ、わが国で育成された品種の海外における育成者権の取得を促進させるため、我が国の品種登録審査基準の国際基準への調和を進め、品種登録審査の高度化を図る。(短期・中期)(農林水産省)

・畜産関係者による長年の改良の努力により付加価値の高まった和牛遺伝資源については、令和2年4月に成立した家畜改良増殖法の一部を改正する法律及び家畜遺伝資源に係る不正競争の防止に関する法律により、その流通管理の徹底を図るとともに、知的財産としての価値を保護することに加えて、我が国の貴重な財産である和牛遺伝資源は事業者自らが守るという意識の醸成に向けた取組の充実を図り、これらの取組により不正な海外流出を防止する。(短期・中期)(農林水産省)

と、種苗法改正と家畜遺伝資源保護法の話が出て来ている。家畜遺伝資源保護法は成立しているが、上でも書いた通り、種苗法改正は先送りになっている。(それぞれの法改正の内容は第422回参照。)

 第27ページには、

・AI・IoT技術の進展に伴い、様々なビジネスモデルが登場し、新たな紛争処理や権利保護のニーズ等が高まり、さらに、オープンイノベーションの進展によりスタートアップ等の役割が高まっている。このような状況を踏まえて、AI・IoT技術の時代にふさわしい、紛争解決機能の強化を含む特許制度の在り方を検討し、必要な施策を講じる。(短期・中期)(経済産業省)

と書かれ、特許庁の特許制度小委員会ででの紛争処理、訴訟に関する法改正の検討について書かれている。(6月16日の小委員会の資料として、AI・IoT技術の時代にふさわしい特許制度の在り方―中間とりまとめ―(案)(pdf)が出されているが、今のところ特に大きな法改正の方向性が出ているという事はない。)

 最後に、第63~64ページに、

・デジタル時代におけるコンテンツの流通・活用の促進に向けて、新たなビジネスの創出や著作物に関する権利処理及び利益分配の在り方、市場に流通していないコンテンツへのアクセスの容易化等をはじめ、実態に応じた著作権制度を含めた関連政策の在り方について、関係者の意見や適切な権利者の利益保護の観点にも十分に留意しつつ検討を行い、2020年内に、知的財産戦略本部の下に設置された検討体を中心に、具体的な課題と検討の方向性を整理する。その後、関係府省において速やかに検討を行い、必要な措置を講ずる。(短期、中期)(内閣府、文部科学省、経済産業省)

・同時配信等に係る著作隣接権の取扱いなど制度改正を含めた権利処理の円滑化について、関係者の意向を十分に踏まえつつ、運用面の改善を着実に進めるとともに、制度の在り方について、具体的な検討を行い、一定の結論を得て、本年度内の法案の国会提出を含め、必要な見直しを順次行う。(短期・中期)(総務省、文部科学省)

・クリエイターに適切に対価が還元され、コンテンツの再生産につながるよう、デジタル時代における新たな対価還元策やクリエイターの支援・育成策等について検討を進めるとともに、私的録音録画補償金制度については、新たな対価還元策が実現されるまでの過渡的な措置として、私的録音録画の実態等に応じた具体的な対象機器等の特定について、関係府省の合意を前提に文部科学省を中心に検討を進め、2020年内に結論を得て、2020年度内の可能な限り早期に必要な措置を講ずる。(短期、中期)(文部科学省、内閣府、総務省、経済産業省)

と、第65~66ページに、

・インターネット上の海賊版による被害拡大を防ぐため、インターネット上の海賊版に対する総合的な対策メニュー及び工程表に基づき、関係府省が連携しながら、必要な取組を進める。その際、各取組の進捗・検討状況に応じて総合的な対策メニュー及び工程表を更新し、被害状況や対策の効果を検証しつつ行う。(短期、中期)(内閣府、警察庁、総務省、法務省、文部科学省、経済産業省)

・インターネット上の海賊版の提供者を特定しやすくし、民事上の責任追及に資するよう、プロバイダ責任制限法における発信者情報開示の対象となる発信者情報の見直しについて検討を行うことに加え、発信者情報の円滑な開示のための情報開示・裁判手続の方策について、国外サーバ等が用いられている場合の訴状の送達等の現状を踏まえ、必要な検討を行う。(短期、中期)(総務省、法務省)

・模倣品・海賊版を購入しないことはもとより、特に、侵害コンテンツについては、視聴者は無意識にそれを視聴し侵害者に利益をもたらすことから、侵害コンテンツを含む模倣品・海賊版を容認しないということが国民の規範意識に根差すよう、各省庁、関係機関が一体となった啓発活動を推進する。(短期、中期)(警察庁、消費者庁、財務省、文部科学省、農林水産省、経済産業省)

・越境電子商取引の進展に伴う模倣品・海賊版の流入増加へ対応するため、個人使用目的を仮装して輸入される模倣品・海賊版を引き続き厳正に取り締まるとともに、特に増加が顕著な模倣品の個人使用目的の輸入については、権利者等の被害状況等及び諸外国における制度整備を含めた運用状況を踏まえ、具体的な対応の方向性について引き続き検討する。(短期)(財務省、経済産業省)

・関連の法制度整備の状況も踏まえつつ、子供の頃から他人の創作行為を尊重し、著作権等を保護するための知識と意識をより一層醸成するため、インターネットを利用して誰もが学べるオンライン学習コンテンツをはじめ著作権教育に資する教材等の開発や、ポータルサイトなどを通じた様々な資料・情報の周知、教職員等を対象とした研修の充実など、効果的な普及啓発を行う。(短期、中期)(文部科学省)

と、第68ページに、

・絶版等により入手困難な資料をはじめ、図書館等が保有する資料へのアクセスを容易化するため、図書館等に関する権利制限規定をデジタル化・ネットワーク化に対応したものとすることについて、研究目的の権利制限規定の創設と併せて、権利者の利益保護に十分に配慮しつつ、検討を進め、結論を得て、必要な措置を講ずる。(短期、中期)(文部科学省)

と書かれているのが、著作権法、海賊版対策に関する項目である。

 私的録音録画補償金問題について少し踏み込んだ記載になっていることも気になるが、さらに、第65ページの前段で、

2019年10月、知的財産戦略本部検証・評価・企画委員会及び構想委員会における検討を経て、関係府省庁は「インターネット上の海賊版に対する総合的な対策メニュー及び工程表」を公表した。当該対策メニューは、関係府省庁や関係者が幅広く連携しながら、段階的・総合的に対策を実施していくことを内容としたものである。著作権教育・意識啓発、国際連携・国際執行の強化、検索サイト対策、海賊版サイトへの広告出稿の抑制など、できることから直ちに実施するものとして第1段階に位置付けられた対策については、着実に取組が進められている。また、第2段階に位置付けられた対策のうち「リーチサイト対策」及び「著作権を侵害する静止画(書籍)のダウンロード違法化」については、第201回通常国会(令和2年通常国会)に提出された著作権法改正法案の内容に含まれている。第3段階の対策としてブロッキングが位置付けられており、他の取組の効果や被害状況等を見ながら検討することとしている。本年度においても、諸外国における対策の状況等も踏まえつつ、必要に応じて総合的な対策メニュー及び工程表を更新し、実効性のある取組を強化する必要がある。

と書かれている事から、日本政府は、ダウンロード違法化・犯罪化の対象範囲拡大によってインターネット利用者の情報アクセスに関するリスクを無意味に高めただけでは飽き足らず、危険な著作権ブロッキングの導入もまだ諦めていないと知れるのであり、中でも、海賊版対策に関する取組の推進検討には特に要注意だろう。

 また、プロバイダー責任制限法の改正検討自体はなされていいものと思うが、行き過ぎれば、発信者情報開示の濫用による発信行為・表現の萎縮が発生し得るので、総務省の発信者情報開示の在り方に関する研究会での検討も注意をしておいた方がいいに違いない。

 今までコロナ対策としてほぼ唯一意味のあった著作権政策である、オンライン教育著作物利用補償金制度の早期施行(第423回参照)について、第14ページで、

・多様な学びのニーズへの対応等を可能とするオンライン教育を促進するため、とりわけ授業の過程においてインターネット等により学生等に著作物を送信することについて、改正著作権法(授業目的公衆送信補償金制度)の今年度における緊急的かつ特例的な運用を円滑に進めるとともに、来年度からの本格実施に向けて、関係者と連携しつつ、著作権制度の正しい理解が得られるよう教育現場に対する周知等を行うことに加え、補償金負担の軽減のための必要な支援について検討する。

と触れられているが、これも、本来文化の発展に寄与することを目的とする著作権法が、かえって情報アクセスを阻害し、教育や研究やその他の文化活動の妨げになってしまっている事を浮き彫りにする一つの例だろう。本当にコロナ対策でというのであれば、著作権法において、非常時における情報アクセスをどの様に考えるか、非常時に個々の権利はどこまで守られるべきか、さらには文化芸術部門に対する非常時のサポートはどうあるべきかといった事こそ検討されるべきだろうに、知財計画で単なる思いつきとしか思えない行き当りばったりの項目ばかりが並んでいるのは本当にうんざりさせられる。極めて残念な事ながら、今年も、また当分ずっと知財政策の迷走が止まる事はないのだろう。

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