第425回:ダウンロード違法化・犯罪化の対象範囲拡大を含む著作権法改正案の可決・成立
残念ながら、先週6月5日の参議院本会議で、ダウンロード違法化・犯罪化の対象範囲拡大を含む著作権法改正案が可決され、成立した(参議院のインターネット審議中継参照)。
今までの国会審議の経緯は、前回の追記等で書いて来たが、もう一度まとめて書いておくと、衆議院の文部科学委員会で5月20日に実質審議開始(衆議院HPの会議録1参照)、5月22日に委員会可決(会議録2参照)、5月26日の衆議院本会議で可決、参議院へ送付、参議院の文教科学委員会で6月2日に実質審議開始、6月4日に委員会可決(それぞれ参議院のインターネット審議中継参照)、6月5日に参議院本会議で可決・成立と、政府と与野党の間で完全に根回しが済んでいたのだろう、出来レースのスピード審議による可決・成立だった。
衆参の委員会で条文の解釈に関する質疑もあったが、用意されていたシナリオ通りなのではないかと思える、教科書的な受け答えに終始した。中でも防弾ホスティングや中継サーバー、サイバーロッカー型のサイトなどの存在が持ち出されていたが、いずれもアップロードの取り締まりが本当に困難な理由やダウンロード違法化・犯罪化の対象範囲を拡大する理由になるものではなく、また、侵害である事を知りながらといった主観要件の立証に関しても、ダウンロードについて警告を受けてなお継続する場合という現実的にあり得ないケースが持ち出されるばかりで、問題の本質にまで踏み込んだ議論がされる事はほぼなかった。(著作権法改正案の条文については第421回、私の考える懸念については前回の私家版Q&Aも参照。)
また、衆参でそれぞれ、以下のような附帯決議もつけられた(衆議院HPの附帯決議参照、参議院の附帯決議も全く同一である)。
著作権法及びプログラムの著作物に係る登録の特例に関する法律の一部を改正する法律案に対する附帯決議
政府及び関係者は、本法の施行にあたっては、次の事項について特段の配慮をすべきである。
一 海賊版サイトの形態は多種多様であり、本法の措置では対応ができないストリーミング形式を採用している海賊版サイト等も存在することを踏まえ、本法による規制にとどまらず、今後ともあらゆる手段を通じて海賊版対策の徹底に向けた取組を政府一丸となって行うこと。
二 侵害コンテンツの違法アップロードについては、アップロードを行う者が海外サーバーを利用する事例や、我が国の捜査協力等の要請に対して非協力的な国が存在することも踏まえ、迅速かつ円滑な捜査・摘発に向けて、政府は海外の捜査機関や通信業者等とのさらなる連携強化を促進し、実効性のある違法アップロード対策の実現に努めること。
三 政府は、海賊版対策を講じるための専門的知見、人的資源、資金等が不十分な中小企業等を支援するため、海賊版対策の構築に係る専門的知見の提供や経費の補助等の様々な支援策を講じるよう努めること。
四 本法による侵害コンテンツのダウンロード違法化に係る措置が国民の正当な情報収集等の萎縮をもたらさないよう多くの要件が設けられ複雑な制度設計になっていることを踏まえ、本法附則による国民への普及啓発及び未成年者への教育を行うにあたっては、分かりやすいガイドライン等を作成するとともに、インターネット上や学校現場等の様々な場面での普及啓発・教育に万全を期すこと。
五 政府は、関係者による議論の状況等を踏まえつつ、演奏権等の要件としての公衆に直接見せ又は聞かせる目的の範囲について、必要に応じて社会通念や妥当性の観点から検討するとともに、その結果に基づいて必要な見直しを行うよう努めること。
六 デジタル化・ネットワーク化の進展にともない、従来は受信者であった国民が同時に発信者にもなる時代が到来し、著作物の利用・流通形態の多様化が今後さらに進行すことが想定されることに鑑み、政府は、権利の保護と著作物の円滑な利用の促進とのバランスに十分留意しつつ、時代に即した著作権法制となるよう、そのあり方について不断の検証を行うこと。
この附帯決議に書かれている、違法アップロード対策の強化と支援は当然の事と思うが、この事について今まで政府においてどこまで具体的かつ実効性のある形で進められて来たのか、進んでいないとしたら、それはなぜかという事こそ法改正以前にまず明らかにされるべきだったろう。
そして、幾つか細かな要件を追加しながら、ダウンロード違法化・犯罪化の範囲を映像音楽だけから全著作物に大きく拡大する、この複雑怪奇な条文について、来年1月1日の施行に向け、文化庁は今までの解説に毛の生えた程度の要領を得ないガイドラインを作って来るに違いない。本当にその条文、ガイドラインに従って行動する事を求められたら、国民の正当な情報収集にかなりの萎縮が発生するだろうと、漫画についてもそうだが、漫画以外の一般的な著作物についてより大きな悪影響が出るだろうとも思うが、皆今まで通りインターネットで情報アクセスやダウンロードを続けるよう、訳も分からず萎縮しないことを私は願う。また、この様な法改正によって今後増える事が想定される詐欺にも注意してもらいたいとも思う。
今国会で、新型コロナウィルス対策など他の大問題が重なる中、昨年世論の高まりを受けて提出を見送られ極めて慎重な審議が求められるはずのこの著作権法改正案が、あまり注目が集まらない儘、可決・成立してしまったことは非常に残念な事と言わざるを得ない。参議院の委員会審議でも話に出ていた通り、海賊版対策として最も有効なのは違法アップロード対策とともに適正な正規版の流通を進めることであって、全著作物のダウンロードを違法化・犯罪化して海賊版をなんとかしたいなどというのがそもそも間違いである。今までの映像音楽についても、この著作権法改正で拡大して対象とされる他の著作物についても、ダウンロード違法化・犯罪化は要件の如何に関わらず間違った法制であるという私の考えに変わりはなく、私はこれからもその撤廃・廃止を求め続ける考えである。
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