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2020年5月18日 (月)

第424回:ダウンロード違法化・犯罪化の対象範囲拡大を含む著作権法改正案に関する私家版Q&A

 先週5月15日に、衆議院の文部科学委員会で著作権法改正案の趣旨説明がされ、参考人招致をする事が決まったので(衆議院公報参照)、今後の審議がどうなるかまだ分からないが、早ければ今週にも衆議院でダウンロード違法化・犯罪化の対象範囲の拡大を含む著作権法改正案の実質審議がされるかも知れないという状況である。

 今の新型コロナウィルスに伴う緊急事態宣言も出されている中で、その本質的な問題に踏み込む事なく政府与党間の通り一遍の審議で可決される様な事があれば、これも火事場泥棒と言っていいものである。

 今まで言って来た事の繰り返しとなるが、今回は、著作権法改正案の審議が近いと考えられる事を踏まえ、文化庁のHPで公開されている、余りにもお粗末な回答の並ぶ侵害コンテンツのダウンロード違法化に関するQ&A(基本的な考え方)(pdf)から、私の考えるQ&Aを私家版として作り、ダウンロード違法化・犯罪化の本質的な問題がどこにあるのかをより明らかに示しておければと思う。(著作権法改正案の条文については第421回参照。)

(2020年5月20日夜の追記:以下のQ&Aで1箇所誤記を直した(問9の答えで「1.」を削除)。また、今日5月20日から衆議院の文部科学委員会で著作権法改正案の実質審議が始まった(衆議院のインターネット中継参照)。今日のところは参考人質疑だけで採決はなかったが、案の定議論はあまり深まっていない。このまま行くと金曜5月22日の次回委員会で可決される恐れも強いが、私はこのダウンロード違法化・犯罪化の対象範囲拡大を含む著作権法改正案の可決に反対する。)

(2020年5月22日夜の追記:極めて残念な事ながら、今日の衆議院文部科学委員会で十分な審議も反対もなく著作権法改正案が可決された(衆議院のインターネット審議中継参照)。以前から、アップロードの取り締まりが難しい理由として防弾ホスティングや中継サーバーの事が持ち出される事が多いが、いずれもアップロードの取り締まりが本当に困難な理由にはなるものではなく、その程度の事で難しいとするなら、なおさら取り締まりがさらに困難なダウンロードの違法化・犯罪化を拡大する理由にはならないだろう。また、以下の様な附帯決議も役に立つとは思えず、複雑怪奇なダウンロード違法化・犯罪化の条文についてわかりやすいガイドラインができるとも思えないが、本当にその条文に従って行動する事を求められたら、国民の正当な情報収集にかなりの萎縮が発生するのは間違いないだろう。)

(2020年5月31日夜の追記:著作権法改正案は5月26日の衆議院本会議で可決されて参議院に送られ、5月28日の参議院文教委員会で趣旨説明と参考人招致が決定された。6月2日には参議院文教委員会での実質審議が始まり、今週中にはこの委員会で可決される恐れも強いが、私はこのダウンロード違法化・犯罪化の対象範囲拡大を含む著作権法改正案に変わらず反対である。)

(2020年6月2日夜の追記:今日の参議院文教委員会での参考人質疑は衆議院よりは噛み合っていたとは思うが、やはり教科書的な受け答えに終始した(参議院のインターネット審議中継参照)。サイバーロッカー型のサイトは昔からあったので、その仕組みは特別なものではなく、それでダウンロード違法化・犯罪化の対象範囲の拡大が正当化されるということなどない。侵害である事を知りながらといった主観要件の立証に関して、ダウンロードについて警告を受けてなお継続する場合というが、現実的にあり得ないケースである。この複雑怪奇な条文に基づき抑止効果はあるが情報収集の萎縮は発生しないというのも説明として不合理極まる。今週木曜かと思う次回の委員会で可決される可能性が高いが、私がダウンロード違法化・犯罪化自体に反対である事に変わりはない。)

(2020年6月7日夜の追記:5月22日の追記中に記載した附帯決議は次の第425回の本文に移した。また、以下のQ&Aでもう1箇所誤記を直した(問23の答えで「1.」を削除)。)

(以下、私家版Q&A)

【総論】

問1 既に違法となっているアップロード行為を厳格に取り締まれば良く、ダウンロードを行うユーザーまで規制する必要はないのではないか。

(答)
1.その通りです。現行法上も違法アップロード行為については、諸外国と比べても厳格な法定刑(10年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金又はその併科)が定められており、アップロード者に対する権利行使や摘発は随時行われています。現行法で不十分な場合として本当にどの様な場合があるのかは何ら示されていません。

2.アップロード者が特定できないのはエンフォースメントの問題であって、ダウンロードの問題ではありません。国際条約もあり、著作権法はほとんどどの国にもありますから、海外にいることで免責されるなどという事もありません。

問2 漫画村のようなストリーミング型の海賊版サイトには効果がないため、ダウンロードを違法化しても意味がないのではないか。

(答)
1.ストリーミング型の海賊版サイトに対してダウンロード違法化はそもそも意味がありません。これは現行法における音楽映像に関するダウンロード違法化・犯罪化がストリーミング型の海賊版サイトに対して意味がないのと同じです。

2.ダウンロード型の海賊版サイトも存在しているでしょうが、現行法における音楽映像に関するダウンロード違法化・犯罪化に海賊版対策としての効果は実質的になかったと考えられる事からも、効果はないものと考えられます。

3.また、本法案におけるリーチサイト規制でストリーミング型のサイトも対象としている事はダウンロード違法化・犯罪化の問題と直接関係はありません。

4.海賊版サイトの収入源を絶つための「広告出稿の抑制」などの方がよほど効果的であって、無意味な法改正よりこの様な対策にこそ注力すべきと考えます。

5.なお、法改正にあたり、漫画村事件に対する評価・分析も極めて不十分と言わざるを得ません。

問3 ユーザーが侵害コンテンツをそうと知りながらダウンロードしたかどうかは、外部からは確認できず、権利行使・摘発は不可能であるため、ダウンロードを違法化しても意味がないのではないか。違法化による効果は見込めるのか。

(答)
1.その通りです。ダウンロード違法化・犯罪化に海賊版対策としての効果は全く見込めません。この権利行使・摘発が実質不可能であるという点こそがダウンロード違法化・犯罪化問題における最も本質的な問題と言えます。現行法の音楽映像に関するダウンロード違法化・犯罪化もいまだに権利行使や摘発された例はありません。

2.現行法の音楽映像に関するダウンロード違法化・犯罪化の権利行使・摘発例がない事を考えても、自ら違法ダウンロードを行っている旨をSNSなどで誇示している場合や、違法アップロードに関する捜査・訴訟等の過程でダウンロードの事実が確認された場合というのはおよそ現実的にあり得る事とは思えません。仮に今後あったとしても、侵害である事を知りながらといった主観的要件の証明またはその反証はいずれも不可能です。

3.政府の調査で、ある行為が違法になっても続けるかと聞けば多くの者はしないと答えるに決まっているので、文化庁の過去の調査はこの点ではほとんど役に立ちません。ダウンロード違法化・犯罪化が海賊版対策になったという因果関係を定量的に示した調査はいまだかつてなく、音楽映像について違法ダウンロードが減ったというのも、適法の音楽映像サービスが充実して来た事の帰結と考える方が妥当です。

4.たとえ法規定の外形上ダウンロード違法化・犯罪化がされている様に見える国でも、ダウンロードとアップロードを同時に行うP2Pファイル共有に関する例を除き、単なるダウンロードに対して権利行使や摘発がされた例は1つもなく、どこの国でもダウンロード違法化・犯罪化が海賊版対策として効果を上げているなどという事は全くありません。諸外国で例があるかの様な主張は文化庁の印象操作に過ぎません。

問4 侵害コンテンツのダウンロードを行った場合、いきなり訴訟を起こされたり、逮捕されたりするのか。

(答)
 現状でも、著作権者が問題視しておらず、いわば黙認されているものとして、いわゆる「寛容的な利用」とされるものもあります。通常の権利者は、警告などをする事なく、いきなり訴訟を起こしたり、告発したりする事はあまり想定できません。しかし、違法ダウンロードに限った話ではありませんが、この様な法改正によって訴訟や逮捕などを持ち出して脅すネット上の詐欺が増える可能性はあるでしょう。

問5 昨年提出を検討していた法案から、どのような修正を行ったのか。

(答)
1.昨年提出を検討していた法案からの修正点は、ダウンロード違法化・犯罪化の対象範囲の拡大について、①スクリーンショットを行う際の写り込みの例外規定の追加、②軽微なものの除外、③二次創作・パロディにおける原著作者の権利の除外、④著作権者の利益を不当に害しないと認められる特別な事情がある場合の除外です。以下で詳述しますが、この除外によって問題の多少の緩和は図られているものの、これらは本質的な問題を解消するものではありません。

2.なお、リーチサイト運営者等に対する刑事罰については、親告罪とされました。

【違法化による影響・対象範囲】

問6 インターネット上での情報収集等が萎縮するのではないか。

(答)
1.音楽映像に関するダウンロード違法化・犯罪化同様、権利行使や摘発は実質不可能であるため、最終的には規制は無意味となり、萎縮がなくなる可能性もあり、あるいは、この法改正の複雑怪奇な条文が通常のインターネット利用者に理解されず、そもそも萎縮が発生しない可能性もありますが、問5の除外によって救われる範囲は非常に限定的であり、通常の利用者が本当にこの法改正の範囲を正しく理解して行動しようとすると、相当の萎縮が発生するだろうと思います。

2.以下でさらに述べますが、問5で除外されると書いた、①スクリーンショットを行う際の写り込みは一部に付随的に違法なコンテンツが含まれる場合に限られ、②軽微なものも例えばストーリー漫画の1コマ~数コマ程度という非常に軽微な場合に限られ、③二次創作・パロディについても原著作者の権利が除かれているに過ぎず、④著作権者の利益を不当に害しないと認められる特別な事情がある場合もそれなりに正当化事由が示せる場合に限られるので、これでは、利用者が通常するであろう多くの場合のカジュアルなスクリーンショット、ダウンロード、デジタルでの保存行為が違法・犯罪となる可能性が出て来ます。

問7 スクリーンショットができなくなるのか。

(答)
1.適法にアップロードされたコンテンツのスクリーンショットは当然適法ですが、拡大される写り込みに関する権利制限によって適法となり得るのはその一部に付随的に違法なコンテンツが含まれる場合のスクリーンショットに限られます。

2.その他通常の場合としていろいろと考えられる、SNSの投稿を保存する際に違法にアップロードされた画像がかなり大きく入り込んでしまった場合や、違法にアップロードされた記事のスクリーンショットなどは違法とされる可能性があるでしょう。

問8 漫画家・研究者等が行う創作・研究活動や、企業が行うビジネスにも悪影響が及ぶのではないか。

(答)
1.漫画家・研究者等や企業が業務として行うダウンロードは、私的使用目的の複製ではなく、もともと違法であって、この法改正とは直接関係しないというのはその通りですが、これもそのまま四角四面に著作権法を適用しようとすると相当の悪影響が生じる例の1つでしょう。

2.漫画家・研究者等が行う創作・研究活動における複製についても私的複製と苦しい言い訳をせざるを得ないところにも大きな問題があるのですが、この点について文化庁がまともに検討を進める気があるとは思えないのは残念です。

問9 論文に引用するために、インターネット上のコンテンツをダウンロードすることもできなくなるのか。

(答)
 この改正はその他の権利制限を制約するものではなく、引用のための利用(著作権法第32条)などは、従来通り著作権者の許諾なく行うことができます。引用のために必要かつ合理的と認められる限度で違法にアップロードされた著作物を論文等に引用する目的でダウンロードすることも許容されます。

問10 漫画だけを対象にすれば良いのではないか。

(答)
 この法改正案には、海賊版による想定被害や海賊版対策としての実効性のなさとは無関係に、権利者団体からの一方的な言い分により、ダウンロード違法化・犯罪化の全著作物への対象範囲の拡大が入っています。

問11 海賊版サイトからのダウンロードだけを違法化すれば良いのではないか。

(答)
 この法改正案では、海賊版による想定被害や海賊版対策としての実効性のなさとは無関係に、権利者団体からの一方的な言い分により、海賊版サイトへの限定は外されています。

問12 侵害コンテンツを見ただけで違法となってしまうのか。

(答)
1.問2でストリーミングについて書いた通り、著作権侵害コンテンツの単なる視聴・閲覧が違法とされるものではありません。

2.なお、視聴・閲覧に伴うキャッシュやプログレッシブ・ダウンロードは、別途、著作権法第47条の4第1項の規定により適法となります。

問13 メールで著作権侵害コンテンツのファイルを送り付けられた場合にそれを保存すると違法となってしまうのか。

(答)
 メール送信は自動公衆送信に該当せず、メールで著作権侵害コンテンツのファイルを送り付けられた場合にそれを保存しても違法とはなりませんが、問4で書いた通り、リンクをメールで送信し、違法にダウンロードしたと訴訟や逮捕などを持ち出して脅すネット上の詐欺が増える可能性はあるでしょう。

【主観要件】

問14 インターネット上のコンテンツは、適法にアップロードされたか、違法にアップロードされたかの判別が困難な場合も多いのではないか。実際には違法にアップロードされたものであるが、適法にアップロードされたもの(例:適法に引用されたもの)だと勘違いしてダウンロードした場合は、どうなるか。

(答)
1.アップロードが適法か違法か分からない場合や、アップロードが適法だと誤解した場合などは、ダウンロードは違法とならないでしょうが、インターネット上のコンテンツは、適法にアップロードされたか、違法にアップロードされたかの判別が困難な場合がほとんどでしょう。主観要件は立証も反証も実質不可能と見るべきです。

2.なお、出版社は適法サイトにABJマークというマークを表示するという取り組みを進めるとしていますが、マークがないサイトの違法性を示すものたり得ません。残念ながら、音楽映像のエルマーク同様、利用者がほとんど気に留める事はなく、そのうち忘れ去られるのではないかと思います。

問15 違法なアップロードだと知っていたということは、誰がどのように判断するのか。ユーザーが違法だと知らなかったことを証明することは困難ではないか。

(答)
 その通りです。ダウンロードに対するユーザーの法的責任を追及するためには、ユーザーが、違法にアップロードされたことが確実であると知りながらダウンロードを行ったことを立証する必要がありますが、実質これは不可能です。権利者がダウンロードユーザーをどう特定して警告するのかという事1つを取っても、権利者から警告された後もユーザーが侵害コンテンツのダウンロードを継続している場合など、現実的にはあり得ないでしょう。

【除外規定】

<二次創作・パロディ>

問16 そもそも二次創作・パロディを創作・アップロードする行為は違法なのか。

(答)
1.二次創作・パロディについては、黙示の許諾などにより、適法となる場合があるとの見解があり、また多くの場合で黙認されている事もあるでしょう。(注:文化庁の答えでは、引用の類推適用も入っているが、二次創作・パロディに引用を類推適用するのは難しいのではないかと私は思う。)

2.二次創作・パロディの文化的創造性と価値から特別の権利制限規定を作ってもいいのではないかと思いますが、残念ながら、今のところこの点について文化庁がまともに検討を進める気配はありません。

問17 ①二次創作・パロディを二次創作者自身が共有サイトなどにアップロードしている場合、それをダウンロードする行為は違法となるのか。また、②二次創作・パロディを更に第三者が違法にアップロードしている場合、その二次創作・パロディの海賊版をダウンロードする行為は違法となるのか。

(答)
1.問の①のような場合には、ダウンロードは違法となり得ません。一方で、この法改正案では原著作者の権利が除かれているに過ぎないため、問の②のような場合には、二次創作者の権利の侵害として違法となり得ます。さらに、翻訳はこの除外から除外されているため、二次創作であっても翻訳とされるものは、①の場合の様に、翻訳者自身がサイトにアップロードしていても、そのダウンロードは違法となり得ます。

2.上記の1.の内容をダウンロード違法化・犯罪化の対象からの二次創作・パロディの除外というのはミスリードと言わざるを得ず、通常の利用者が正しく理解できるとも思えません。

<軽微なもの>

問18 軽微なものとは具体的にどのようなものを指すのか。

(答)
1.軽微なものとは、典型的には、数十頁で構成される漫画の1コマ~数コマ、長文で構成される論文や新聞記事の数行など、その著作物全体の分量から見て、ダウンロードされる分量がごく小さい場合とされています。

2.このほか、画質が低く、鑑賞に堪えないような粗い画像をダウンロードした場合も軽微なものとされるようです。

3.しかし、それ以外の場合の漫画の数コマ以上、論文や新聞記事の数行以上のダウンロード、通常の画質の画像のダウンロードは軽微なものとはされないので、広く一般的になされるコンテンツのダウンロードでほとんどの場合は軽微なものとはされないと考えられます。


問19 実際には軽微ではないものを軽微なものと勘違いしてダウンロードした場合は、どうなるのか。

(答)
 軽微なものと勘違いしてダウンロードした場合は違法とはならないのだろうと思いますが、この様な解釈は法改正案の条文に基づかないので確実にそうとは断言できません。

<特別な事情がある場合>

問20 著作権者の利益を不当に害しないと認められる特別な事情がある場合を除くと規定することとしたのはなぜか。具体的にどのような場合がこれに該当するのか。

(答)
1.著作権者の利益を不当に害しないと認められる特別な事情がある場合を除くと規定することとしたのは、以前の法改正見送りの経緯から、最終的に政府と与党の間で取られた妥協案に過ぎません。(注:第419回参照。)

2.この要件に該当するか否かは、(ア)著作物の種類・経済的価値などを踏まえた保護の必要性の程度、(イ)ダウンロードの目的・必要性などを含めた態様、という2つの要素によって判断され、典型的には、①詐欺集団の作成した詐欺マニュアル(著作物)が、被害者救済団体によって告発サイトに無断掲載(違法アップロード)されている場合に、それを自分や家族を守る目的でダウンロードすること、②無料で提供されている論文(著作物)の相当部分が、他の研究者のウェブサイトに批判ととともに無断転載(引用の要件は満たしていない=違法アップロード)されている場合に、それを全体として保存すること、③有名タレントのSNSに、おすすめイベントを紹介するためにそのポスター(著作物)が無断掲載(違法アップロード)されている場合に、そのSNS投稿を保存することなどが、これに該当するとされていますが、この様に利用者がそれなりに正当化事由を示せる場合は非常に限られるでしょう。

3.また、ダウンロード違法化・犯罪化の実効性の問題はありますが、本当に訴訟等に巻き込まれた場合には、ユーザー側がこの特別な事情を立証する必要があるとされている事もさらに問題をややこしくするだけでしょう。

4.なお、刑事罰の場合は、検察が不当に害しないと認められる特別な事情がないことを立証する必要があるとされるようですが、この様にある事情がないとするアクロバティックな立証を検察に求められるのか甚だ疑問です。

問21 著作権者の利益を不当に害しないと認められる特別な事情がある場合に該当することをユーザーが立証するのは困難ではないか。

(答)
1.ダウンロード違法化・犯罪化の実効性の問題はありますが、本当に訴訟に巻き込まれた場合には、ダウンロードの際に正当性についてほぼ意識する事はないであろう通常の利用者からすると、それなりに正当化事由を示すのは非常に困難な場合がほとんどと考えられます。

2.ダウンロードについて、その正当性の証拠まで残しながら行う事を求めるのは、利用者にとってほとんど不可能な過度の負担であって、本当にその様な事を求めるとするならば、相当の萎縮が発生すると考えられます。

【刑事罰】

問22 刑事罰まで科す必要はあるのか。音楽映像についても摘発事例はないところ、刑事罰を科す意味はどこにあるのか。

(答)
1.現行法の音楽映像に関するダウンロード犯罪化の摘発例がない事を考えても、ダウンロードについて刑事罰を課す意味はありません。萎縮効果が大きくなり得るだけかえって有害です。

2.政府の調査で、ある行為が犯罪になっても続けるかと聞けば多くの者はしないと答えるに決まっているので、文化庁の過去の調査はこの点ではほとんど役に立ちません。ダウンロード違法化・犯罪化が海賊版対策になったという因果関係を定量的に示した調査はいまだかつてなく、音楽映像について違法ダウンロードが減ったというのも、適法の音楽映像サービスが充実して来た事の帰結と考える方が妥当です。

問23 警察による捜査権の濫用を招くのではないか。

(答)
 現行法の音楽映像に関するダウンロード犯罪化の摘発例がないので、ただちに捜査権の濫用を招くとは言えませんが、昨今のウィルス罪に関する無茶な摘発例などを見ても、今後、誤認逮捕や別件逮捕、無茶な刑事訴追を誘発する恐れは拭い切れません。

問24 著作権等侵害罪はTPP整備法により一部非親告罪化されているが、今回もそれが適用されるのか。

(答)
 ダウンロード犯罪化は親告罪となっています。

問25 正規版が有償で提供されているか否かは、ダウンロードするユーザーには分からない場合もあるが、その場合でも、刑事罰を科される可能性があるのか。

(答)
 正規版が有償で提供されているか否かが分からずにダウンロードした場合や、正規版が無償で提供されているものと勘違いしてダウンロードした場合は、刑事罰の対象とはならないと思われますが、ダウンロード犯罪化について、無茶な刑事訴追を誘発する恐れは拭い切れません。

【その他】

問26 今回の改正に伴って、音楽映像の違法ダウンロードについては、要件を変更しないのか。

(答)
 パブリックコメントは数を見るものではありませんが、パブリックコメントで多くの者が現行法の音楽映像のダウンロード違法化・犯罪化にそもそも反対の意見を出していた事を思えば、音楽映像に関するダウンロード違法化・犯罪化そのものの廃止・撤廃の検討もされるべきものだったと思いますが、この様な検討が真面目にされる事はなく、一方的に音楽映像のダウンロード違法化・犯罪化条項は維持するとされました。(注:パブリックコメントの結果については第417回参照。)

問27 附則に規定された「違法アップロード対策の充実」として、何を行っていくのか。

(答)
 今のところ、ダウンロード違法化・犯罪化の対象範囲の拡大を除けば、ブロッキングやアクセス警告方式などの危険な取り組みは止まっていますが、今後も危険な検討が続く可能性が強く、要注意です。

問28(追加) この法改正は不要不急ではないか。

(答)
 ダウンロード違法化・犯罪化の対象範囲拡大は世論の高まりを受けて昨年提出を見送られたもので、極めて慎重な審議が求められるのであって、不要不急のものと言わざるを得ず、また、その本質的な問題に踏み込む事なく政府与党間の通り一遍の審議で可決される様な事があってはならないものです。他の部分についても全く問題なしとしませんが、本国会で急ぎ可決しようとするのであれば、少なくともダウンロード違法化・犯罪化の対象範囲拡大の関連条項は全て削除するべきと考えます。

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コメント

こんにちわ。
もう知っておられると思いますが、福井健策氏が参考人として呼ばれたみたいですね。

兎園さんもツイッターで言われておられたようにこれに関して言えば、まず法案の良し悪し以前の問題であり、コロナ禍対策を最優先にすべき時期にも関わらず、検察法改正と同じでこのコロナ禍の裏で通そうとしているだけ余計に性質が悪く、悪質な火事場泥棒的行為と言うのは同意です。

そして法律自体にもご指摘の通り、DL違法化拡大やリーチサイト規制等の問題点も非常に多い法案ですし、それをまともな審議もせず、そのまま通そうとすることも非常に問題でしょう。
何よりオンライン授業と抱き合わせで通そうとする可能性もあるのも問題です。

ただでさえ文化庁即ち文科省はこのコロナ禍で学生支援等必要な事を指摘されるまで全く手を付けておらず、そのやっと決まりかけている支給額すら少なく学費を全然賄いきれないと言われていますし、このコロナ禍を利用して9月入学まで推し進めようとしている点も問題であると考えます。

文科省に限った事ではありませんが、特に官僚や国会議員はこのコロナ禍の経済的衛生的側面の危機感が欠如している様にしか思えませんね。

それではご意見失礼しました。

投稿: 匿名 | 2020年5月20日 (水) 15時53分

こんにちわ。
判ってはいましたがこのコロナのタイミングであの著作権法が可決されたのは最悪としか言いようがないですよね。
予想通りとは言え、野党も野党で出来レースをしたのも失望しておりますが、当時懸念していたオタク界隈の人達が急にダンマリになって、可決された途端言い訳をしだしている点も失望しています。

それは兎も角としてもこちらの記事にてコロナよりも海賊版の方が深刻だと言っている件についてはここまで世間的な空気が読めないのだなこの人達と実感させられています。

漫画に甚大被害、海賊版サイト対策進むも不安拭えず
https://www.sankei.com/economy/news/200605/ecn2006050019-n1.html

普通に考えれば致死的な事象なパンデミックであるコロナの方が余程世間的には問題なのですが、この人達がこの様な発言をしている以上、世間がまるで見えていないのは事実であると考えます。

流石にこの様な事になり、経緯も経緯ですし、タイミング的にも最悪であるのも事実であるのと今回の件は表現の自由や言論の自由の観点でもダブスタとしか言いようがないので、今後山田太郎議員やその周辺の人達に不利な周りになる可能性も普通にあると思ったりしています。

平時なら兎も角、政府は緊急事態は終わったと考えているようですが、実際は今だ緊急事態と言っても良いのは事実ですし、コロナに対する問題も山積みの中でこれを優先した事は後々確実にオタク界隈や漫画家や議員に不利に働く事に繋がると考えます。

個人的には山田太郎議員はこうなった以上、もう投票する事はないでしょうし、与野党共にこんな感じなので、今後どこに投票すべきだろうなと考えさせられてしまいますね。
この問題判ってはいましたが与野党共に当てにならない事が実証されたと思っています。

しかしフェミニストはフェミニストで未だ性的搾取だの言い、ネット規制や表現規制に熱心なようですし、漫画家やオタクは力を持った途端、この様な規制を推進して情報の受け手側の規制をかけようとしてきますし、右も左も関係なく、自身の権利は主張する癖に他人の権利は抑圧したい人ばかりなのだなと実感させられてしまいます。

昨今の投票率の低さはそれこそ右も左も規制を推進する政党ばかりで世間も辟易しているのもあるのだろうなとそれこそ参院選の山田太郎議員の結果を見ても思ったりもしています。
またどの道当人達がどう言おうと世間的には裏切りには変わりはないので今後評価を落とす事になると思ったりしています。

それではご意見失礼しました。

投稿: 匿名 | 2020年6月 6日 (土) 06時35分

次のエントリにまとめて書きましたが、その通りで、新型コロナなどの大きな問題が重なる中、あまり注目を集める事のない儘、この著作権改正案が可決・成立してしまったのは非常に残念な事ですね。

まずは皆萎縮しないことを願いますが、この様な法制が問題であるという私の考えに変わりはありませんし、私はそう主張して行きます。

この法改正の政治的な影響もこれから分かる事でしょう。

投稿: 兎園 | 2020年6月 7日 (日) 22時33分

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