第423回:2018年著作権法改正のオンライン教育著作物利用補償金制度の早期施行(4月28日施行・2020年度無償)
既に報道もされているが、文化庁のHPに掲載されている通り、2018年著作権改正のオンライン教育著作物利用補償金制度がこの4月28日に施行される事となった。
ここではあまり教育に関する著作権問題を大きく取り上げる事はして来なかったが、2018年著作権法改正には、以下の第35条に改正が入り、補償金を支払う事で授業のための著作物の複製のみならず公衆送信まで可能とされた。(法改正全体の内容については第389回参照。)
(学校その他の教育機関における複製等)
第三十五条 学校その他の教育機関(営利を目的として設置されているものを除く。)において教育を担任する者及び授業を受ける者は、その授業の過程における使用利用に供することを目的とする場合には、必要その必要と認められる限度において、公表された著作物を複製する複製し、若しくは公衆送信(自動公衆送信の場合にあつては、送信可能化を含む。以下この条において同じ。)を行い、又は公表された著作物であつて公衆送信されるものを受信装置を用いて公に伝達することができる。ただし、当該著作物の種類及び用途並びにその複製の部数及び当該複製の部数及び当該複製、公衆送信又は伝達の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。2 前項の規定により公衆送信を行う場合には、同項の教育機関を設置する者は、相当な額の補償金を著作権者に支払わなければならない。
23 公表された著作物については、前項前項の規定は、公表された著作物について、第一項の教育機関における授業の過程において、当該授業を直接受ける者に対して当該著作物をその原作品若しくは複製物を提供し、若しくは提示して利用する場合又は当該著作物を第三十八条第一項の規定により上演し、演奏し、上映し、若しくは口述して利用する場合にはにおいて、当該授業が行われる場所以外の場所において当該授業を同時に受ける者に対して公衆送信(自動公衆送信の場合にあつては、送信可能化を含む。)を行うことができるを行うときには、適用しない。ただし、当該著作物の種類及び用途並びに当該公衆送信の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。
この条文の施行日は元々公布の日(2018年5月25日)から3年を超えない日とされていたので、まだ1年くらい準備期間があったものだが、新型コロナ感染症対策として教育のオンライン化が取沙汰される中での早期施行となり、そのため共通目的事業の支出割合を2割とする省令のパブコメも4月1日から4月10日までの短期間でかかっていた(文化庁のパブコメページ、電子政府のHP参照)。
ここではその条文を全て引用する事はしないが、改正著作権法において、第5章第2節、第104条の11から第104条の17までに、授業目的公衆送信補償金とその管理団体の指定や共通目的事業への支出などが規定されており、そして、この指定管理団体は全国で1つとされていて、構成員としてはいつもの著作権団体がずらりと並ぶ授業目的公衆送信補償金等管理協会(SARTRAS)が2019年2月15日に指定されている(文化庁の指定についてのページ参照)。
文化庁の法改正ページで額の認可に関する審査基準等(pdf)も公開されているが、文化庁の要請(文化庁の配慮願いについてのページ参照)も受けての事だろう、この4月6日にSARTRASが、そのHPで公表している通り、2020年度に限り補償金を無償として認可申請をするとしている。
まだ文化審議会への諮問と文化庁長官の認可というプロセスもあるが、教育目的でも補償金を無償とするのは極めて異例とはいえ、この非常時に審議会において異が唱えられるとも思えず、4月28日の施行までにそのまま認可されるのではないかと思う。
そうすると、まず間違いなく、4月28日から2021年3月31日までの間、著作権者の利益を不当に害しない限りという限定は無論つくが、営利目的以外の教育機関で授業のために基本的に無償で著作物をオンラインで公衆送信できるということになるだろう。
私は前々回も書いた通り、ダウンロード違法化・犯罪化の対象範囲の拡大を含む著作権法改正案に反対しているし、文化庁はおよそ碌でもない事ばかりしているとの考えが変わる事はないが、今回このオンライン教育目的補償金制度を予定より早く施行し、1年弱限定とはいえ著作物の無償でのオンライン教育利用を可能とした事は非常時における著作権政策として良い仕事をしたと評価できる。無論、いつも通り、教育政策としてはオンライン教育のためのインフラが大して整っていなかったり、文化政策としては文化芸術部門に対する非常時のサポートが不十分だったりといった問題も大いにあるので、全体として評価できるかというと正直疑問ではあるのだが。
(2020年4月28日夜の追記:文化庁から、文化審議会著作権分科会が開催され、2020年度はオンライン教育補償金を無償とする認可が4月24日にされたというリリースがあったので、ここにリンクを張っておく。なお、文化庁のQ&A(pdf)にも書かれている通り、この無償利用は2020年度に限られ、無償と言っても教育機関からSARTRASに届け出をすることとされているので、利用について完全に手続きなしで無償とするものではないことに注意しておいた方がいいだろう。また、上で一箇所SARTRASをSASTRASと書き間違えていたのに気づいたので合わせ直した。)
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