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2019年12月15日 (日)

第417回:文化庁検討会のダウンロード違法化・犯罪化の対象範囲拡大に関するパブリックコメント・アンケート調査結果概要

 11月27日に侵害コンテンツのダウンロード違法化の制度設計等に関する検討会の第1回が開催されたばかりだが、12月18日に第2回が開催される予定であり(開催案内参照)、去年国会提出を断念させられた遺恨からか、文化庁はかなり速いペースでダウンロード違法化・犯罪化の対象範囲拡大の検討を進めようとしている。この第2回の前に、今回は、文化庁のHPで公開されている第1回の資料の内容を見ておきたい。

 その資料2-1の出版広報センター説明資料(pdf)と資料2-2の関係団体調査結果整理資料(pdf)は、相変わらず、

  • 被害額の算定根拠が不明
  • 市場調査の数字から見ると、市場はより長期間で順当に伸びている中、電子コミックとその他電子書籍ともにその伸び率にはかなりの変動があり、他にも影響を与えた要素はあるだろうに、整合性やより深い分析の事をまるで考えずに別のコミック電子書店調査を使って一部の対前年月比のみのグラフを作って海賊版サイトの影響を煽る
  • 漫画村の様な本当に悪質な海賊版サイトに対して権利者側が現行法で本当にどの様に対処して来たのか、どうして現行著作権法の規制では不十分とするのかの根拠が不明
  • あらゆる著作物の種類について発生している事象をきちんと分析した上でそれぞれの特性も考慮して著作権法として横断的に必要とされる事は何かという検討が必要であるにも関わらず、各団体のいい加減な被害の主張のつまみ食いに終始
  • ダウンロード違法化・犯罪化の対象範囲拡大がこの様なインターネットにおける著作権侵害への有効な対策になる根拠がまるで不明

と、突っ込みどころ満載である。

 これらはいつもの著作権団体ロビー資料に過ぎず、これで法改正をと言われても鼻白むだけのものだが、資料3-1として「侵害コンテンツのダウンロード違法化等に関するパブリックコメント」の結果について(全体像)(pdf)、資料3-2として「侵害コンテンツのダウンロード違法化等に関するパブリックコメント」の結果概要(個人:「(別紙)質問事項及び回答様式」)(pdf)、資料3-3として「侵害コンテンツのダウンロード違法化等に関するパブリックコメント」の結果概要(個人:「意見提出フォーム」)(pdf)、資料3-4として「侵害コンテンツのダウンロード違法化等に関するパブリックコメント」の結果概要(団体等)(pdf)も公開されている。

 団体の意見はそれぞれの立ち位置から予想通り賛否両論に分かれているが、個人の意見が4386件と2007年のダウンロード違法化パブコメ(文化庁の過去のパブコメ結果参照)以来の数字となっているのは、この問題に対する関心の高さを示すものだろう。

 個人の意見について概要だけではなく全体の詳細データを出してもらいたいと思うが、文化庁としてはダウンロード違法化・犯罪化の対象範囲拡大の結論ありきで何が何でも細かな追加要件の議論に持ち込みたいのだろう、個人のパブコメ結果概要において最も基本的な質問回答の部分について件数のみをあげてグラフを作らないところに作為が見え隠れしているので、ここでそれを作っておくと以下のようになる。(なお、今回のパブコメでは別紙による入力を求めていたはずだが、意見提出フォームも公開してしまっていたのは文化庁の単なるミスだろう。)

Pub2019_result_graph
Pub2019_result_graph2

 この様に「どちらかといえば反対」も含め反対意見が圧倒的であり、最も主要な意見が要件によらずダウンロード違法化を行うべきではないというものである事を考えれば、本当に国民の声を丁寧に聞くというなら、ダウンロード違法化・犯罪化の対象拡大の検討の完全な中止のみならず、録音録画についての現在のダウンロード違法化・犯罪化そのものの廃止・撤廃の提案も視野に入って来なければならない筈だが、資料5の侵害コンテンツのダウンロード違法化に係る制度設計等の検討に当たっての基本方針(案)(pdf)、資料6の侵害コンテンツのダウンロード違法化等に係る制度設計・論点(案)(pdf)や資料7の侵害コンテンツのダウンロード違法化に関する主な事例の取扱い(案)(pdf)を見ると、文化庁は、姑息にも国民の声を捻じ曲げ、現行の著作権法におけるダウンロード違法化・犯罪化を一方的に是認して、今の写り込みの権利制限の拡充による違法な部分を含むスクリーンショットの適法化とその延長線上にある一部分の軽微な利用の除外という弥縫策でダウンロード違法化・犯罪化の対象拡大を押し通そうとしていると分かる。

 この弥縫策によって確かに問題の軽減を多少図れるかも知れないが、前回載せたもう一つの写り込みに関する権利制限拡充についてのパブコメで書いた通り、その様な僅かな軽減すら要件次第であって(スクリーンショットに問題を矮小化する事は厳に慎むべき事だが、さらに念のため言っておくと、今の文化庁案では通常考えられるスクリーンショットが全て適法化される訳でもない)、これらはダウンロード違法化・犯罪化の本質的な問題の解消には到底繋がらないものである。これらが回答を恣意的に誘導しながら列挙した懸念の一部にしか対応していない事は文化庁自身認めている上、他の懸念や指摘に対する回答をきちんと示していないあたり、そのやり口はいつも通り不誠実極まるものと言わざるを得ない。文化庁の案には他の要件の検討についても書かれているが、パブコメ等で何度も書いている通り、それぞれ多少の問題の緩和になるかも知れないが、他のものも含めて追加の要件をどうしようがダウンロード違法化・犯罪化の本質的な問題が解消する事はないと私は確信している。

 他にも資料5として侵害コンテンツのダウンロード違法化に関するアンケート調査の結果(pdf)という資料も出されている。これもいつものためにする文化庁調査で有意な情報が取れるものではほぼないが、

  • 「違法にアップロードされた漫画・書籍・雑誌・論文・プログラム・イラスト・画像等を,それが違法にアップロードされたことが確実だと知りながら,個人が楽しむ目的でダウンロードすることは現行の著作権法に違反する行為でしょうか(※)現行の著作権法上は,『2.違反しない』が正しい回答」という質問に対して「1.違反する」という回答が79.7%となっていて、
  • 侵害コンテンツのダウンロード経験の有無についてありと答えた場合その多くは漫画の二次創作かスクリーンショットであり、
  • 最初の違法性の認識の回答との関係がどうなっているのか不明だがダウンロード違法化・犯罪化の対象範囲が拡大されたら違法行為を止めると答えた者が7割程度

と、文化庁と権利者団体が法改正についてどう考えてどう周知しようが、一般の人々は自分なりに著作権法を理解してそれに沿って意味不明の萎縮が発生するだろうという事だけは言える。わざとだろうが、ここで現行の録音録画に関するダウンロード違法化・犯罪化に関する調査・評価を省いているのもタチが悪い。

 今まで他でも使われていた参考資料1の文化庁当初案の概要・条文等について(pdf)と参考資料3のインターネット上の海賊版に対する総合的な対策メニュー及び工程表について(pdf)の他に参考資料2として侵害コンテンツのダウンロードに関する主要国の著作権法制について(pdf)というものもある。ここで「外務省を通じて各国大使館等に調査訓令を発して得られた回答に,事務局で一部必要な情報を追記して作成したもの」という注で外務省に責任転嫁するのもどうかと思うが、ドイツとフランスについて民事・刑事両方の適用事例ありとし、アメリカ、韓国、台湾について侵害コンテンツのダウンロードについてフェアユース該当性が否定された事例が存在するとしているのはかなり悪質な印象操作を含んでいる。ドイツにおいてもアップロードとダウンロードを同時に行うファイル共有におけるダウンロード行為以外の単なるダウンロードに適用した事例はなく、フランスにおいてもファイル共有に対する3ストライクポリシーの適用事例であって、米韓台でも同様にファイル共有に対する適用事例であるからである。明確にダウンロード違法化・犯罪化をしたとする国自体決して多くないと思うが、何度も書いてきている通り、私の知る限り単なるダウンロードに対する適用事例は世界中見渡しても皆無であって、フランスやドイツでもダウンロード違法化・犯罪化や3ストライクポリシーの法改正によって混乱こそすれ海賊版対策として有益な効果は何一つもたらされていないのである。

 資料1の開催要綱(pdf)の別紙構成員名簿を見ても、一応そこまで偏ったメンバーにはなっていない様に見えるが、文化庁の資料と同じHPに載っている第1回の議事録を見ても追加の要件に関する細かな議論にほぼ終始しており、ダウンロード違法化・犯罪化とリーチサイトの問題について拙速な検討がされないかと非常に心配である。

(2019年12月16日夜の追記:文章は変えていないが、アンケート調査に関する記載を箇条書きにした。)

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