第415回:ダウンロード違法化・犯罪化を含まないスイスの著作権法改正、写り込み等に関する文化庁の権利制限拡充検討、ブロッキング訴訟東京高裁判決
文化庁でさらに検討が進められるのだろう、前回パブコメを載せたダウンロード違法化・犯罪化の対象拡大の検討には引き続き最大限の注意が必要だと思っているが、この様なインターネット海賊版対策の動きにも関連する幾つかの重要な国内外の動きについてまとめて書いておきたい。
(1)ダウンロード違法化・犯罪化を含まないスイスの著作権法改正
既にGIGAZINEで記事になっている通り、スイスでもこの9月に最近著作権法改正がその国会を通っている。
この著作権法改正は、スイス国会の法案審議に関するHPに掲載されている、政府の法案説明資料(ドイツ語)(pdf)(フランス語版(pdf))の最初の概要に、
Der Bundesrat will das Urheberrecht modernisieren. Im Zentrum der Gesetzesrevision stehen Massnahmen, mit denen die Internetpiraterie besser bekampft werden kann, ohne dabei die Konsumentinnen und Konsumenten solcher Angebote zu kriminalisieren. Zudem sollen verschiedene gesetzliche Bestimmungen an neuere technologische und rechtliche Entwicklungen angepasst werden, um die Chancen und Herausforderungen der Digitalisierung im Urheberrecht nutzen bzw. meistern zu konnen. Profitieren soll insbesondere die Forschung. Gleichzeitig enthalt die Vorlage eine Reihe weiterer Massnahmen, mit denen zentrale Anliegen der Kulturschaffenden, der Nutzerinnen und Nutzer sowie der Konsumentinnen und Konsumenten erfullt werden. Schliesslich sollen zwei Abkommen der Weltorganisation fur geistiges Eigentum ratifiziert werden.
スイス政府は著作権を現代化したいと考えている。法改正の中心は、消費者がその提供により犯罪者とされる事がないようにしつつ、インターネット海賊行為とより良く戦う手段にある。そこで様々な法規制は著作権においてデジタル化の機会と挑戦を利用若しくは向上できるよう新しい技術的、法的発展に適合されるべきである。特に研究の利便が図られるべきである。同時に法案は文化創造者、利用者並びに消費者の主要な要求を満たす一連の様々な手段を含んでいる。最後に2つの世界知的所有権機関の条約が批准されるべきである。
とある通り、消費者を犯罪者にしないという事を明確にしており、そのためダウンロード違法化・犯罪化は最初から含まれていない。
この点については、2018年12月13日の法案の最初の国会審議でも、以下の通り、多くの党の議員が賛同している。
Bauer Philippe (RL, NE), pour la commission:
...
Le but de la modification de la loi sur le droit d'auteur est de moderniser notre droit, de l'adapter aux evolutions technologiques, de permettre de lutter contre le piratage sur Internet, tout en essayant de ne pas criminaliser les consommateurs.
...Merlini Giovanni (RL, TI):
...
Revisionsbedarf ist insoweit gegeben, als es notig ist, die Rechte der Kulturschaffenden und der Kulturwirtschaft zu starken und sie insbesondere vor den illegalen Piraterieangeboten im Internet zu schutzen. Unsere Fraktion teilt zudem das Anliegen des Bundesrates, die Konsumenten rechtswidriger Angebote nicht zu kriminalisieren.
...Marti Min Li (S, ZH):
...
Umso erstaunlicher und umso bemerkenswerter ist es, dass in einem langjahrigen Prozess an einem runden Tisch mit allen Akteuren ein Kompromiss gefunden werden konnte. Dieser Kompromiss liegt Ihnen hier vor. Dass bei einem Kompromiss nicht alle glucklich sind und dass nicht alle Punkte in allen Fallen fur alle Seiten befriedigend gelost werden konnten, liegt in der Natur der Sache. Dennoch sind wir uberzeugt, dass dieser Kompromiss im Grossen und Ganzen diese sehr schwierige Balance gefunden hat. Fur uns war immer zentral, dass die Kulturschaffenden und Kulturproduzentinnen und -produzenten zu ihren verdienten Einnahmen gelangen konnen, dass aber auch die Konsumentinnen und Konsumenten nicht kriminalisiert werden durfen. Das ist hier gelungen.
...Gmur-Schonenberger Andrea (C, LU): Es ist an der Zeit, dass das Urheberrechtsgesetz modernisiert und den Herausforderungen der Gegenwart angepasst wird. Die CVP-Fraktion unterstutzt dieses Ziel. Dabei geht es darum, einerseits die Internetpiraterie zu bekampfen, andererseits die Chancen der Digitalisierung besser zu nutzen. Wichtig ist uns, dass die Konsumentinnen und Konsumenten nicht kriminalisiert werden. Auch Netzsperren sind keine vorgesehen, was wir begrussen.
...Schwander Pirmin (V, SZ):
...
Der rasche Zugang zu Buchern, Filmen und Musik hat dazu gefuhrt, dass auch Internetpiraterie entsteht und dadurch den Urheberinnen und Urhebern Einnahmen entgehen. Deshalb ist es sehr wichtig, dass wir hier Remedur schaffen und die Rechte der Urheberinnen und Urheber starken. Das ist ein Ziel, das hier erreicht werden soll und unseres Erachtens auch erreicht wird. Die Konsumentinnen und Konsumenten ihrerseits wollen attraktive Angebote zu fairen Preisen. Deshalb ist es wichtig, dass wir keine Netzsperren einfuhren und dass wir die Konsumentinnen und Konsumenten auch nicht kriminalisieren. Wir mussen aber darauf schauen, dass die Konsumentinnen und Konsumenten durch diese neue Gesetzgebung nicht doppelt oder mehrfach belastet werden. Das zu diesem Spannungsfeld. Ich glaube, der vorliegende Kompromiss sollte eine Mehrheit finden.
...Sommaruga Simonetta, Bundesratin: Das Internet hat auch im Bereich Kultur viele Vorteile. Es ermoglicht einen sofortigen, einfachen Zugang zu Kultur. Es reichen oft ein paar Klicks, und schon erhalten wir Zugang zu Buchern, zu Fotografien, Filmen, Musikstucken und naturlich auch zu Buchern, die langst vergriffen sind, oder zu historischen Fotografien. Das alles ist die schone, die positive Seite des Internets.
Die Kehrseite ist, dass viele Angebote illegal sind. Fur die Buchverlage, fur die Filmindustrie, die Plattenfirmen und naturlich auch fur die Kulturschaffenden stellen illegale Angebote ein ernsthaftes Problem dar; erstens naturlich, weil ihnen Einnahmen entgehen, und zweitens, weil ihre Urheberrechte - das sind ja Eigentumsrechte, Rechte am geistigen Eigentum - verletzt werden. Sie sind auch insofern problematisch, als sie die Entstehung von legalen Angeboten erschweren oder sogar verhindern. Der Bundesrat mochte darum effizienter gegen die Internetpiraterie vorgehen, ohne aber dass die Konsumenten kriminalisiert werden.
...バウアー・フィリップ(自由民主党、ノイエンブルク)、委員会に:
(略)
法改正の目的は私たちの法を現代化し、技術的発展にそれを適応させ、インターネット上の海賊行為と戦う事を可能にする事にありますが、消費者を犯罪者にするつもりは全くありません。
(略)メルリーニ・ジョヴァンニ(自由民主党、ティチーノ):
(略)
法改正の必要性は、文化創造者と文化経済を強化し、特にインターネットにおける違法な海賊版の提供からそれを守るのに必要な限りにおいて存在しています。私たちの党は、違法な提供について消費者を犯罪者にしないという事において政府の要請と同じ立場に立っています。
(略)マルティ・ミンリ(社会民主党、チューリッヒ):
(略)
全ての関係者によるラウンドテーブルでの長年に渡る検討において一つの妥協が見つかり得たという事は非常に驚くべき、瞠目すべき事です。この妥協は今皆さんの前にあります。妥協においては皆に都合が良いという事はなく、あらゆる場合におけるあらゆる点について全員が満足する様に解決されている訳でもないという事は当然の事です。ですが、この妥協が全体において多くそのとてもむずかしい均衡を見つけたと私たちは確信しています。文化創造者及び文化製作者が収入を得る事ができる事もそうですが、消費者が犯罪者にされない事も私たちにとっては常に中心的な関心事項でした。ここでそれは上手く行っています。
(略)グミュール-シェーネンベルガー・アンドレア(キリスト教民主党、ルツェルン):著作権法が現代化され、現在の要請に応える時が来ています。キリスト教民主党はこの目的を支持します。そのため、一方でインターネット海賊行為と戦い、他方でデジタル化の機会をより良く使える様にするべきでしょう。私たちにとって重要な事は消費者が犯罪者とされない事です。インターネットブロッキングが考えられていない事も私たちは喜ばしく思っています。
(略)シュワンダー・ピルミン(国民党、シュヴィーツ):
(略)
本、映画及び音楽への急激なアクセスによってインタネット海賊行為が生じ、それにより著作権者が収入を逃す事になっていました。したがって、ここで私たちが対策を講じ、著作権者の権利を強化する事はとても重要です。それはここで私たちが達成するべき目的の1つであり、私たちの考えは達成されるでしょう。消費者は、彼らも公正な価格での魅力的な提供を求めています。したがって、私たちがインターネットブロッキングを導入せず、消費者を犯罪者にもしない事が重要です。この新たな法改正によって消費者に2重、多重に負担がかからない様にしなければなりません。それはこの議論の場の仕事です。今のこの妥協は多数の賛同を得ると私は信じています。ソンマルーガ・シモネッタ、政府連邦参事会:インターネットは文化領域においても多くの利点を有しています。これは文化への即時の簡単なアクセスを可能にしています。数クリックで十分な事も多く、それで私たちはすぐに本、写真、映画、楽曲へのアクセスが手に入ります、もちろん長く絶版になっていた本や歴史的写真にもです。これら全てはインターネットの素晴らしい、肯定的な面です。
反対の面は、多くの提供が違法な事です。出版社にとって、映画産業、レコード会社にとって、もちろん文化創造者にとっても違法提供は深刻な問題です。もちろんまず収入を逃すからですが、第2に、その著作権-財産権、知的財産権です-が侵害されるからです。これはまた適法な提供の発生を困難にする又は抑止してしまうだけ問題です。そのため政府は、消費者が犯罪者にされる事がないようにしつつ、より効果的にインターネット海賊行為に対抗したいと考えました。
(略)
ドイツなど近くの国でダウンロード違法化・犯罪化が全く上手く行っていない事を見ている所為だろうか、上でリンクを張った政府による法案説明資料にも書かれている通り、2012年から消費者・利用者も入った検討会で著作権法改正についてきちんと議論を積み重ねて来た結果だろうか、現時点でスイスでは政府・国会によってダウンロード違法化・犯罪化は否定されているのである。インターネットブロッキングについての言及もあるが、やはりその導入に否定的である事は注目されていいだろう。
今まで散々書いてきた事だが、この様なスイスの著作権法改正の例を持ち出すまでもなく、広くダウンロードを違法・犯罪にして消費者・利用者・ユーザーをことごとく侵害者・犯罪者にしたところで良い事が何もないのは日の目を見るより明らかな事である。このごく当たり前の事が日本の政府与党・国会での検討でなかなか通じないのは極めて残念な事と私は常々思っている。
なお、詳細は省くが、スイス国会における著作権法改正として、最終的に原案通り法改正(pdf)(フランス語版(pdf))、北京条約批准(pdf)(フランス語版(pdf))、マラケシュ条約批准(pdf)(フランス語版(pdf))が通っており、全体として、
- 写真の著作物の定義の拡充・明確化
- 視聴覚著作物の送信可能化における著作権管理団体を通じた補償金請求権の法定
- 孤児著作物規定の全ての著作物への適用拡大とその利用条件の明確化
- 研究のための例外の創設
- 図書館等における目録作成のための例外の創設
- インターネットホスティングサービス提供者のテイクダウン・ステイダウン義務の法定
- 代表著作権管理団体による拡大集合ライセンス規定の創設
- 視聴覚的実演に関する北京条約批准
- 視聴覚障害者等の著作物利用促進のためのマラケシュ条約批准
などの事項が含まれている。
確かに著作権保護強化の方向である事には違いないので、海賊党がこの法改正に対して国民投票を目指し署名を集めようとしているという報道もあるが(nzz.chの記事(ドイツ語)、rts.chの記事(フランス語))、このスイスの著作権法改正はそこまで一般国民に影響の出るものではなく、反対の国民投票が成功する事はないのではないかと私は見ている。
(2)写り込み等に関する文化庁の権利制限拡充検討
これもtwitterで少し触れていた点になるが、文化庁の法制・基本問題小委員会で写り込み等に関する権利制限の拡充について検討が進められている。
一番最近の10月30日の第3回委員会の資料として、写り込みに係る権利制限規定の拡充に関する中間まとめ(案)が出されている。その「3.論点整理」から、現行の著作権法第30条の2に関する主な改正の方向性の部分を以下に抜き出す。
(1)対象行為
(略)
①生放送・生配信の取扱い
生放送・生配信については、写り込みが生じる場合が多く想定される一方で、録音・録画の方法による場合と比較して権利者に与える不利益が大きいわけではないと考えられることから、対象に含めることが適当である。②固定方法の拡大(スクリーンショット、模写等)
写真の撮影・録音・録画以外の固定方法については、①スクリーンショットやプリントスクリーンのように、単に固定技術が相違するに過ぎないものと、②模写やCG化のように、不可避的な写り込みが生じない(著作物を除いて創作することが比較的容易である)という点で性質が異なるものが存在する。
①については、スマートフォンやタブレット端末等の急速な普及・発展により、日常生活においてごく一般的に行われるようになっているところ、著作物性のない文章や自らの著作物を保存する際に他人が著作権を有する画像が入り込む場合など、不可避的な写り込みが生じることが想定される一方で、技術の相違によって権利者に与える不利益に特段の差異はないと考えられることから、対象に含めることが適当である。②については、不可避的な写り込みが生じないとしても、被写体を忠実に再現するために著作物の複製等を行う必要がある場合も想定されるところ、写真の撮影等による場合と比較して権利者に与える不利益に特段の差異がない以上、そのような模写等の行為を行う自由を確保することが創作活動の促進・文化の発展等の観点からも望ましいと考えられることから、対象に含めることが適当である。
なお、写り込みとは若干場面が異なるが、例えば、「自らが著作権を有する著作物が掲載された雑誌の記事を複製する際に、同一ページに掲載された他人の著作物が入り込んでしまう場合」などについても、日常生活等における一般な行為に伴い付随的に他人の著作物が利用される場面であり、写真の撮影等の場合と比較して権利者に与える不利益の程度に特段の差異がないと考えられることから、対象に含めることが適当である。③条文化に当たっての留意事項
上記を踏まえ、条文化に当たっては、技術・手法等にかかわらず幅広い行為が対象に含まれるよう、包括的な規定とすることが適当である。ただし、それによって、写り込みが生じ得るものとして想定している場合(様々な事物等をそのまま・忠実に固定・再現したり、伝達する場合)以外が広く対象に含まれてしまうことは適切でないため、適用範囲が過度に絞り込まれることのないよう注意しつつも、適切な表現で対象行為を特定する必要がある。(2)著作物創作要件
(略)
イ.見直しの方向性
現行規定の要件は、盗撮行為等に伴う写り込みを権利制限規定の対象から除外するとともに著作物の創作行為を促進する観点からは一定の合理性を有するとも考えられるが、固定カメラでの撮影等の場合にも、不可避的に写り込みが生じる場合が多く想定されるところ、本規定の主たる正当化根拠は、権利者に与える不利益が特段ない又は軽微であるという点にあるため、著作物を創作する場合か否かは必ずしも本質的な要素ではないと考えられる。このため、著作物を創作する場合以外も広く対象に含めることが適当である。
ただし、単純に「著作物を創作するに当たつて」という要件を削除した場合には、映画の盗撮等の違法行為に伴う写り込みについても適法となり得ることには留意が必要である。この点については、①映画の盗撮等の行為自体が違法とされることをもって足りる(当該行為自体が違法となることで、そのような行為は十分に抑止されており、写り込み部分についてあえて違法とする必要はない)という考え方と、②主たる行為が著作権法上許容されないものであるにもかかわらず、それに伴う写り込みを適法とする必要はない(写り込んだ著作物の著作権者による権利行使が出来なくなるのは不合理である)という考え方の両方があり得る。
仮に②の考え方を採用する場合には、例えば、端的に、著作権を侵害する行為に伴う写り込みは本規定の対象外とする旨の要件を設定することが考えられるが、本規定の主たる正当化根拠は権利者に与える不利益が特段ない又は軽微であるという点にあるところ、主たる行為が違法であることのみをもって一律に権利制限規定の適用対象外とすることが妥当か否かには一定の疑義もあり、そういった問題意識から①の考え方を支持する意見も複数あった。この点については、ただし書や他の要件の解釈に委ねることによる対応の可否も含め、法整備に当たって、適切な整理・措置がなされることが適当である。(3)分離困難性・付随性
(略)
イ.見直しの方向性
①両者の関係性及び「分離困難性」の要否
本規定の正当化根拠については、その著作物の利用を主たる目的としない他の行為に伴い付随的に生じる利用であり、利用が質的又は量的に社会通念上軽微であることが担保されるのであれば、著作権者にとって保護すべきマーケットと競合する可能性が想定しづらい(したがって権利者の利益を不当に害しない)という点に本質があるものと考えられるところ、これを担保する観点からは、「付随性」が重要な要件であると考えられる。 一方で、「分離困難性」については、「付随性」を満たす場合の典型例を示すものではあるが、この要件を課することが、本規定の正当化根拠からして必須のものとは考えられず、「付随性」や「軽微性」等により権利者の利益を不当に害しないことは十分に担保できると考えられる。このため、日常生活等において一般的に行われている行為を広く対象に含める観点から、この要件は削除することが適当である。②「分離困難性」の削除に伴う要件追加の要否
単に「分離困難性」の要件の削除のみを行った場合には、例えば、「分離が容易かつ合理的な場合であって、社会通念上、その著作物を利用する必要性・正当性が全く認められないような状況において意図的に写し込むこと」など、その著作物の利用が主目的であるにもかかわらず、それを覆い隠すために本規定を利用するといった濫用的な行為まで可能となってしまうおそれがある。
このため、適用範囲が過度に絞り込まれることのないよう注意しつつも、例えば、主たる行為を行う上で「正当(又は相当)な範囲内において」などの要件を追加することにより、一定の歯止めをかけることが適当である。③被写体の中に当該著作物が含まれる場合の取扱い
本規定の対象として、メインの被写体と付随して取り込まれる著作物が別個のものである場合(事例1)のほか、街の雑踏を撮影する場合のように被写体(雑踏の光景)の中に当該著作物が含まれる場合(事例2)も含めるべきことには異論はないと考えられるが、現行規定のように「写真の撮影等の対象とするAに付随して対象となるB」といった規定ぶりを維持した場合には、事例2が対象に含まれるか否かが不明確となる。
このため、条文化に当たっては、事例1と事例2を併記することにより、事例2についても対象に含まれることを明確化することが適当である。ただし、その際には、例えば、多数の著作物で構成される集合著作物・結合著作物(個々の著作物は、当該集合著作物・結合著作物の軽微な構成部分となっている)自体をメインの被写体とすることなど想定外の事例が対象に含まれることのないよう、注意する必要がある。(4)軽微性
イ.見直しの方向性
軽微な構成部分といえるか否かが上記のような総合的な考慮によるものであることを明確化し、利用者の判断に資するようにするため、法第47条の5第1項の規定(「・・その利用に供される部分の占める割合、その利用に供される部分の量、その利用に供される際の表示の精度その他の要素に照らし軽微なものに限る」)も参考にしつつ、考慮要素を複数明記することが適当である。
なお、ここでいう「軽微」については、利用行為の態様に応じて客観的に要件該当性が判断される概念であり、当該行為が高い公益性・社会的価値を有することなどが判断に直接影響するものではないことに注意が必要である。(5)対象支分権
(略)
イ.見直しの方向性
上記(1)の対象行為の拡大に伴い、「公衆送信(送信可能化を含む)」、「演奏」、「上映」等を広く対象に含める観点から、第2項と同様に、「いずれの方法によるかを問わず、利用することができる」という形で包括的な規定とすることが適当である。
文化庁の資料はいつも通り長ったらしく分かりにくいが、要するに、現行の写真等における写り込みに関する権利制限規定の対象を、生放送・生配信、スクリーンショット、模写等に拡大し、不要な分離困難性の要件を削除するという事であって、その事自体は写り込みの権利制限の性質から考えて当然の事としか思えず、今更何をと思うが、ここで、著作物創作要件の項目で、「著作物を創作する場合以外も広く対象に含めることが適当である」としながら、「違法行為に伴う写り込みについても適法となり得ることには留意が必要」で、「写り込み部分についてあえて違法とする必要はない」という考え方と「著作権を侵害する行為に伴う写り込みは本規定の対象外とする旨の要件を設定する」という考え方があり、「この点については、ただし書や他の要件の解釈に委ねることによる対応の可否も含め、法整備に当たって、適切な整理・措置がなされることが適当である」と奥歯に物の挟まった様な言い方をしている事には注意しておくべきだろう。
ダウンロード違法化・犯罪化の対象拡大の問題において違法スクリーンショットの問題がかなり取り上げられたが(私は別にスクリーンショットのみの問題とはカケラも思っていないが)、今までやって来た事を考えても、違法な部分が含まれるスクリーンショット等を軽微な写り込みとして完全に合法化し、この点でわずかながらでも問題の軽減化を図ろうとする考えは文化庁にはない様に見えるのである。
もう1つ、研究目的に係る権利制限規定の創設に当たっての検討について(案)(pdf)という資料も出されている。研究のための一般的な権利制限など今すぐあって良いものと私は思うが、こちらも、今年度は議論と調査研究で、来年度以降に権利制限規定の制度設計等について検討と極めて見通しが悪い。
いずれにせよ、文化庁の検討についてはまた中間まとめのパブコメ(文化庁のHP、電子政府のHP参照)などで意見を出したいと思っている。
(3)ブロッキング訴訟東京高裁判決
最後に、弁護士ドットコムの記事になっているが、10月30日にNTTコミュニケーションズに対するブロッキングに関する訴訟の判決が東京高裁で出された。この記事にも書かれ、また、訴訟を提起した中澤佑一弁護士がそのtwitterで引用している様に、
本件ブロッキングを実施した場合には,第1審被告によりユーザーの全通信内容(アクセス先)の検知行為が実行され,このことが日本国憲法21条2項の通信の秘密の侵害に該当する可能性があることは,第1審原告が指摘するとおりである。児童ポルノ事案のように,被害児童の心に取り返しのつかない大きな傷を与えるという日本国憲法13条の個人の尊厳,幸福追求の権利にかかわる問題と異なり,著作権のように,逸失利益という日本国憲法29条の財産権(財産上の被害)の問題にとどまる本件のような問題は,通信の秘密を制限するには,より慎重な検討が求められるところではある
と、傍論ながら、著作権ブロッキングが通信の秘密の侵害となり得るという判断を裁判所が示した事はかなりの重みを持つものと私も考える。今のところ、総務省の検討結果でも(第412回参照)、インターネット海賊版対策としてブロッキングやアクセス警告方式の導入は困難とされているが、この様な裁判所の判断はブロッキングのみならず同じくユーザーの全通信内容の検知行為が実行されるものであるアクセス警告方式についても当然通用するに違いないのである。
(2019年11月18日夜の追記:幾つか誤記を直し、文章を整えた。)
(2019年11月20日夜の追記:11月30日〆切でかかっている文化庁の中間まとめに対するパブコメについて上でリンクを追加した。)
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