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2019年9月18日 (水)

第413回:空疎な新クールジャパン戦略他

 今月3日に知財本部クールジャパン戦略(pdf)なるものが取りまとめられて公開されているが、戦略と呼べるような事はおよそ何一つ書かれておらず、いつもの知財計画にもまして徹頭徹尾ほとんど空疎な意味不明の駄文を垂れ流しているに過ぎない。「5.施策の方向性」の最後「(5)知的財産の活用を後押しする取組」(第28~29ページ)で

 CJは、日本 全体のブランディング戦略といえるという面で、知的財産保護の仕組みとも密接に関係しているが、それを構成する個々のコンテンツも知的財産制度と深く関係する。コンテンツにおいて高度な技術が重要であれば特許や営業秘密に関連し、デザインは意匠権、マークやネーミングは商標権、音楽、映像等は著作権に関するものも多い。これらのコンテンツの中には、他者が模倣できるものも多くあり、日本国内のみならず、外国においても適切に知的財産権により保護しておかないと、もともと日本において生み出されたコンテンツが、外国で他者に無断で使用されても、有効な対策を講じることができない事態に陥ってしまう可能性がある。適切な知的財産の保護がなければ、経済的な損失にとどまらず、そこに質の低いものが紛れ込むことで、権利者のビジネス基盤やコンテンツ自体の価値を損なう可能性がある。
 近年のマンガ・アニメなどで問題となっている海賊版による被害は、漫画家やアニメーターの著作物が、悪質な違法行為によって配信・共有化されることにより、漫画家やアニメーターなどの権利が著しく損なわれ、コンテンツビジネスの基盤を崩壊させかねないことを示している。その他 、昨今、和牛遺伝資源を不法に国外に流出させようとする事案が発生し、国内の畜産農家による改良努力の結果高まった和牛のブランド価値が棄損しかねない危険性が高まっており、和牛遺伝資源についても適正な流通管理等に向けて検討を行っていく必要がある。このように、CJを持続させる観点から、不当に価値を棄損したり、あるいは存続自体を危うくさせたりするような行為に対しては、知的財産制度を中心に多様な観点から総合的に対策を講じていく必要がある。
 実効性のある保護の仕組みと同時に、CJコンテンツがさらなる発想との融合によって進化し続け、さらに大きな価値を生み出す潜在性があることにも焦点を当てる必要があり、適正な利用を円滑にすることによってCJを発展させていくための仕掛けも同時に検討する。

と、知的財産制度に関する検討についても記載されているが、具体的な内容としては何も書かれていないに等しい。

 政府の報告書で間々見かける様にここで悪い方向性が書かれてないだけでも良しとしなければならないのかもしれないが、5年前のクールジャパン提言ではっきりと書かれていた二次創作規制の緩和の事がすっかり忘れ去られているのは非常に残念な事である(第319回参照)。

 日本政府が日本の文化と経済の発展のために本当に必要な事を全く理解していないのであろう事は今までの十年来の政策検討を見ても分かるのだが、私としては、二次創作が日本の文化的創作の原動力の一つになっており、その推進のために現状の規制を緩和する必要があるとこれからも言い続けて行くつもりである。

 後は、つい先週9月12日に欧州司法裁判所が興味深い判決を2つ出しているので、その概要を紹介しておきたいと思う。

 1つは、そのリリース(pdf)にある通り、ドイツのベルリン地裁からの質問付託に対して、インターネット検索エンジンに出版社の許可なく新聞や雑誌の抜粋の利用を禁止する法律は欧州委員会への通知なしに適用できないとするものであり、判決(ドイツ語)の結論部分を訳出すると以下の様になる。

Art. 1 Nr. 11 der Richtlinie 98/34/EG des Europaischen Parlaments und des Rates vom 22. Juni 1998 uber ein Informationsverfahren auf dem Gebiet der Normen und technischen Vorschriften und der Vorschriften fur die Dienste der Informationsgesellschaft in der durch die Richtlinie 98/48/EG des Europaischen Parlaments und des Rates vom 20. Juli 1998 geanderten Fassung ist dahin auszulegen, dass eine nationale Regelung wie die im Ausgangsverfahren in Rede stehende, die es ausschlieslich gewerblichen Betreibern von Suchmaschinen und gewerblichen Anbietern von Diensten, die Inhalte entsprechend aufbereiten, verbietet, Presseerzeugnisse oder Teile hiervon (ausgenommen einzelne Worter und kleinste Textausschnitte) offentlich zuganglich zu machen, im Sinne dieser Bestimmung eine "technische Vorschrift" darstellt, deren Entwurf der Europaischen Kommission gemass Art. 8 Abs. 1 Unterabs. 1 der Richtlinie 98/34 in der durch die Richtlinie 98/48 geanderten Fassung vorab zu ubermitteln ist.

1998年7月20日の欧州議会及び理事会の指令第98/48号によって変更された形の情報社会のサービスに対する規則及び技術的な規定の範囲についての情報手続きに関する1998年6月22日の欧州議会及び理事会の指令第98/34号の第1条第11号は、本国内裁判手続きにおいて持ち出されている様な、関係するコンテンツを選別する、検索エンジンの商業的運営者及びサービスの提供者のみに対して、時事記事又はその部分(抜き出された幾つかの語及び小さな文章の抜粋)を公衆提供可能化する事を禁止する国内規則は、指令の意味において「技術的な規定」に該当し、欧州指令第98/48号によって変更された形の欧州指令第98/34号の第8条第1項第1文に従い欧州委員会に通知されなければならない。

 第408回でも書いた通り、ドイツでは時事記事保護法の導入によって現状グーグルニュースがオプトアウトからオプトインになっただけに終わっているのだが、ドイツの文章著作権管理団体VGWortは諦めずにグーグルに対して訴訟を起こし、ベルリン地裁から欧州司法裁判所へ質問付託がされ、上の様な結論が出されるに至ったのである。

 この判決で持ち出されている欧州指令第98/34号第98/48号(改正されて今は欧州指令第2015/1535号になっている)は、本来技術標準について事前通知義務を課しているもので、著作権法に当てはめるには無理がある様にも思うが、ドイツの著作権法改正が検索エンジンを余りにも狙い撃ちにし過ぎていたので、条文上当てはまるとされた。この欧州司法裁判所の判決の結果、ドイツの著作権法改正は適用不能となるので、現時点ではグーグルの勝利という事になるが、この判決も受けて、第408回で書いた通り、今後欧州でのこの様な著作権法改正、関連訴訟はさらに複雑化、長期化するのではないかと私は見ている。

 もう1つは、そのリリース(pdf)にある通り、その実用的な目的を超え特定の美的効果が生じているという理由のみをもってデザインに著作権保護が与えられる事はないとするものである。

 こちらは、ジーンズやTシャツに関する争いについてポルトガル最高裁から質問付託がされていたものだが、同じく判決(ポルトガル語)から結論部分を訳しておくと以下の様になる。

O artigo 2.°, alinea a), da Diretiva 2001/29/CE do Parlamento Europeu e do Conselho, de 22 de maio de 2001, relativa a harmonizacao de certos aspetos do direito de autor e dos direitos conexos na sociedade da informacao, deve ser interpretado no sentido de que se opoe a que uma legislacao nacional confira protecao, ao abrigo do direito de autor, a modelos como os modelos de vestuario em causa no processo principal, pelo facto de, extravasando o fim utilitario que servem, gerarem um efeito visual proprio e marcante do ponto de vista estetico.

著作権及び著作隣接権のある側面の調和に関する2001年5月22日の欧州議会及び理事会の指令第2001/29号の第2条a)は、その実用的な目的を超えて、美的な観点から見て固有の特徴的な視覚効果を生じるという事実から、本事件において問題となっている衣服モデルの様なモデルに、著作権の保護として国内法が保護を与える事を禁じる意味を持つと解釈される。

 実用品がどこまで著作権保護の対象となるかは日本でも悩ましい問題だが、著作権の保護強化に傾きがちな欧州においても何でもかんでも著作権で超長期間の保護を与えればいいという話ではあり得ず、欧州司法裁がその前段で、

53 A este respeito, ha que salientar que, por um lado, como decorre do sentido habitual do termo <<estetica>>, o efeito estetico suscetivel de ser produzido por um modelo e o resultado da sensacao intrinsecamente subjetiva de beleza vivida por cada pessoa que olha para esse modelo. Por conseguinte, esse efeito de natureza subjetiva nao permite, em si mesmo, caracterizar a existencia de um objeto identificavel com suficiente precisao e objetividade, na acecao da jurisprudencia mencionada nos n.os 32 a 34 do presente acordao.

54 Por outro lado, e efetivamente verdade que consideracoes de ordem estetica fazem parte da atividade criativa. Contudo, nao se pode deixar de reconhecer que a circunstancia de um modelo gerar um efeito estetico nao permite, por si so, determinar se esse modelo constitui uma criacao intelectual que reflete a liberdade de escolha e a personalidade do seu autor, preenchendo, assim, a exigencia de originalidade evocada nos n.os 30 e 31 do presente acordao.

53 これに関して、一方、「美的」という用語の通常の意味から、モデルから生じ得る美的な効果は、このモデルを見た各個人が感じた美の本質的に主観的な感覚の結果である。つまり、この主観的な自然の効果は、それ自体で本判決の第32から34段落で言及した判例の意味において十分に正確かつ客観的に特定されるものの存在を特徴づけるものではない。

54 また、他方、美的な秩序の考慮が創作活動の一部であるのも確かである。しかしながら、それでもモデルが美的な効果を生じているという状況は、それ自体でそのモデルが選択の自由とその著作者の人格を反映した知的創造であり、それで本判決の第30及び31段落で持ち出した創作性を満たす事を決定づけるものではない。

と書いている通り、著作権の保護の対象となる著作物であるためには、単に美的といった印象だけでは不十分であって、著作者の人格を反映した創作性が必要としている事は著作権の保護について一定の線引きをしようとするものと評価できるのではないかと私は思っている。

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コメント

こんばんわ。
日本漫画家協会の声明の後すぐに文化庁がDL違法化拡大のパブリックコメントを来週から募集する事を言い出したようです。
しかも前回の案を少し改良して出す腹積もりらしいです。

海賊版対策で意見公募へ通常国会で著作権法改正目指す
https://this.kiji.is/550301839510733921
日本漫画家協会と出版広報センターが海賊版対策に関する共同声明を発表
https://www.nihonmangakakyokai.or.jp/?tbl=information&id=8145

やはり凍結は選挙対策って事がこれによりも判りますね。
正直呆れを通り越して怒りしか湧きません。
こう言うのをある意味ではカルテルと呼んでも差し支えなさそうですね。

今回の一件でどうなるかにより山田太郎氏の評価も決まると言っても差し支えはないと思います。
これでどんな形であれDL違法化に賛同すれば、彼の今までの評価は一転して地に落ちるだろうと思いますね。

今回本当失望と怒りでいっぱいです。
ただでさえ国連の件があるのにもかかわらず、日本漫画家協会はそちらに対しては何もせず、海賊版対策と称した裁判ばかりをして、挙句この様な国民の言論を弾圧し、海賊版対策にも役に立たない改悪とも言える改正案に加担しようとしているのですから、本当に怒りが収まりません。
彼等に対してはもう失望しました。
今後彼等が困る事態になっても私はもう表現の自由の為に動く事はないと思います。

それではご意見失礼しました。

投稿: 匿名 | 2019年9月28日 (土) 00時05分

選挙後に再び著作権法改正案の再提出を目論んで来るだろう事自体は想定されていた事だろうと思います。
日本漫画家協会が範囲を限定すれば賛成としているのも以前と違うスタンスではないので協会としてはやむを得ないものかと思います。
https://www.nihonmangakakyokai.or.jp/?tbl=information&id=7718
この様な意見は私自身のものとは全く異なりますが。
また、私も山田太郎議員の動きには注目しています。

投稿: 兎園 | 2019年9月28日 (土) 22時04分

>日本漫画家協会が範囲を限定すれば賛成としているのも以前と違うスタンスではないので協会としてはやむを得ないものかと思います。

こちらの方は知っています。
そもそもあの人達、世間での反対が大きくなり、風当たりが強くなって、自分達にも向かいそうだからこそ、土壇場で慎重とか言い出しただけですしね。
そもそも元々DL違法化拡大やブロッキングにすら、反対や慎重所か当初は大賛成していましたから。
それに児童ポルノ禁止法や都条例の頃からあの人達まともに動いた事ありませんから。

確かに選挙の応援が終われば、用済みとばかりに文化庁と手を組み、裁判で十分と分かったにも関わらずに著作権改正に推進する事にも腹を立てないわけではないですが、今回失望の原因はそこではなく、この人たち漫画家は単に自分達の利益以外どうでも良いと言う事がこの一件で良く判ったからです。

国連の件では一切動かなかったのは、国連の件は表現の自由にも大問題であるにもかかわらず、ガイドラインの方では、自分達に直接的な被害がない事から動かなかったのだなと思います。
これを見ても彼等の表現の自由云々と言うものに対する信用性が揺らぎます。

そしてそれに加えて、今まででも確かに表現の自由の問題で動かなかったのはいつもの事ですが、今回は与党と手を組んだ途端、裁判の法整備の方を指摘されているにもかかわらず、この様なこのような国民の言論の自由や知る権利等を奪う法規制である著作権改正に賛同するのはまさに自身の利益しか考えていない証拠です。

これ等の事から彼等の言う表現の自由は単に自身の利益を守る為の薄っぺらいものなのだろうと今回認識させられました。

それとどうせ今回も裏を引いているのはブロッキングでどうこう言っていたK氏のあの会社かなと思ったりしています。

それでは失礼致します。

投稿: 匿名 | 2019年10月 2日 (水) 13時31分

こんにちわ。
いつもコメントをしてすいません。

【第369回】どうする!どうなる?僕らの年金と著作権法改正【山田太郎のさんちゃんねる】
https://www.youtube.com/watch?v=6dds5P1KKKE&feature=youtu.be

こちらの方をみていましたが、先週までで2415件、今週は鈍化してしまって64件で合計2479件みたいです。
5000件、最低3000件は欲しいみたいですね。

それでは失礼しました。

投稿: 匿名 | 2019年10月17日 (木) 16時54分

私もダウンロード違法化等について意見を提出しました。パブコメは必ずしも数ではないのですが、多くの人の意見が集まった方がいいだろうと私も思います。

投稿: 兎園 | 2019年10月20日 (日) 22時27分

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