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2019年8月18日 (日)

第412回:インターネット海賊版対策としてアクセス警告方式の導入は法的にも技術的にも難しいとする総務省の報告書

 8月8日に総務省からインターネット上の海賊版サイトへのアクセス抑止方策に関する検討会報告書(pdf)が公表された(総務省のリリース参照)。この報告書は、インターネット海賊版対策としてアクセス警告方式の導入は現時点で法的にも技術的にも難しいという極めて妥当な結論を出しているものであるが、今後の政府検討の前提となると思うので、ざっとその内容を見ておく。

 この報告書では、第2ページ以下の第1章で、今までの経緯、出版広報センターからのヒアリング内容と、インターネットの特性やユーザーの意見も踏まえた検討を行うべきといった前置きを書いた後、第7ページ以下の「第2章 ネットワーク側におけるアクセス抑止方策(アクセス警告方式)」でアクセス警告方式の是非を取り上げている。

 まず、第2章の「4.アクセス警告方式の実施の前提となる法的整理」(第9ページ~)で、法的整理、通信の秘密との関係について書いているが、ここで、アクセス警告方式の様な通信の侵害となる方式の実施には原則として明確な個別の同意が必要であるとしながら、例外的に包括同意が許される条件を考えると「ISPが海賊版サイトへのアクセスを警告することを目的として、ユーザのアクセス先を検知し、警告画面を表示することについて、『一般的・類型的に見て、通常のユーザであれば承諾すると想定し得る』か否かが問題となる」(第11~12ページ)が、この様な方式の実施に対して慎重又は否定的なアンケート調査及びパブリックコメントの結果から、「現時点でのユーザの意識・意向を踏まえると、アクセス警告方式の実施について、『一般的・類型的に見て、通常のユーザであれば承諾すると想定し得る』とはいえないと考えられる。したがって、ISPは、ユーザから個別具体的かつ明確な同意を取得する場合にはアクセス警告方式を実施することは可能であるが、現状では、契約約款等による包括同意を有効な同意とみることは困難と考えられる。また、この点は、ダウンロード行為が違法とされる場合であっても同様に考えられる。」(第13ページ)というごく真っ当な結論を出している。

 次に、「5.アクセス警告方式の導入及び実施のための技術的な課題及びコスト」(第13ページ~)で、技術的な課題についても書いているが、ここで、

  • (a)DNS+プロキシ方式:ユーザが海賊版サイトにアクセスしようとした場合にDNSサーバ上で当該アクセスを検知し、アクセス先を海賊版サイトから警告画面を表示するサイトに書き換え、別のサーバ(プロキシサーバ)に誘導して警告画面を表示する手法
  • (b)プロキシ方式:ISPにおいて新たに用意するプロキシサーバを経由してユーザよるwebサイトへのアクセスを提供し、同サーバにおいて警告画面の表示や本来のコンテンツの表示の切替え等を行う手法
  • (c)DPI方式:ISPの管理するネットワークにパケットの中身を解析する機能(DPI装置)を実装する手法

の全てについて、技術的な課題及びコストの問題があり、さらに、海賊版サイトが暗号化通信に対応している場合、電子証明書のエラーから警告画面表示ができないが、「このような証明書エラーの問題を回避し、警告画面を表示させるためには、ISPが保有する警告画面表示用のサーバの証明書を『信頼できるルート証明書』としてユーザのブラウザに追加してもらう方法が考えられるが、そのような方法はセキュリティリテラシーの観点から適切ではなく、現実的な対応策ではないと考えられる。」としているのは当然の帰結である。

 この第2章の結論は、「7.アクセス警告方式に係る今後の検討課題」(第20~21ページ)で、次の通り、個別同意を前提とした試行的実施や技術の進展に伴うコストの将来的な低下などの記載に多少の未練が見られるものの、上で抜き出した部分をそのままなぞる形で書かれている。

 以上の検討を踏まえると、アクセス警告方式は、警告画面を表示させることで、多くのユーザが海賊版サイトにアクセスすることを思いとどまるものと見込まれることから、海賊版対策として一定の効果があると考えられるものの、アクセス警告方式の実施に係る法的整理に関しては、現時点でのユーザの意識や意向を前提とすると、ユーザから個別具体的かつ明確な同意を取得すればアクセス警告方式を実施することは可能である。しかし、現状では、契約約款等による包括同意によってユーザの有効な同意があるとの法的整理を行うことは困難である。また、ダウンロード行為が違法とされたと想定した場合についても、ユーザの意識や意向に大きな違いは見られないことから、同様の整理になるものと考えられる。
 また、アクセス警告方式を実現するための技術的な仕組みや関連機器・システムのコストの面でも、現状では、様々な課題があることが示された。しかしながら、例えば、既に関連機器やシステムを保有しているISPなどもあることから、個別同意を前提としたアクセス警告方式の試行的実施などの技術検証を進めていくほか、インターネットを取り巻く技術の進展は目まぐるしく、また、それに伴って、関連機器・システムのコストも将来的に低下していくことも考えられることから、今後とも海賊版の被害状況や総合的対策メニュー案に示された各施策の取組状況も踏まえつつ、引き続きユーザの意識や意向、技術動向・コスト動向などアクセス警告方式をめぐる状況把握に努めていくことが適当である。
 なお、前述のとおり、アクセス警告方式には海賊版対策として一定の効果が見込まれると考えられるところ、カジュアル・ユーザによる海賊版サイトへのアクセスを防ぐことによって著作権者の被害拡大を防止する仕組みは、ネットワーク側におけるアクセス抑止方策であるアクセス警告方式に限られず、端末側においてアクセス警告方式類似の対策の実装を図ることも可能である。したがって、アクセス警告方式に関する課題については、上記のとおり、引き続き技術検証や状況把握等に努めていく一方で、現状では、後述のとおり端末側でアクセス警告方式類似の方策をすでに実施しており、ネットワーク側ではなく、端末側においてアクセス警告方式類似の対策の実装を図ることがより即時性が高い方策であると考えられることから、上記ネットワーク側におけるアクセス抑止方策への対応と併せて、端末側におけるアクセス抑止方策を着実に促進していくことが適当である。
 意見募集においても、ネットワーク側よりも、端末側において実装を図る方が効率的又は本来のネットワークのあるべき姿に相応しい等の意見も多く寄せられたところであり、こうした声も踏まえて、次章では、端末側におけるアクセス抑止方策について検討を行う。

 報告書の端末側のフィルタリングによる対策について記載している部分は、ブロッキングやアクセス警告方式ほどの問題がある訳ではないので、ここでは省略するが、総務省は8月9日に青少年の安心・安全なインターネット利用環境整備に関するタスクフォース青少年のフィルタリング利用促進のための課題及び対策(pdf)も公表している(総務省のリリース参照)。

 随所にアクセス警告方式に対する未練が見られる点で全く難点がないとまでは言い切れないものの、アクセス警告方式の導入は法的にも技術的にも難しいとするこの総務省の報告書の結論は極めて妥当なものと思うし、パブコメを出したことも無駄ではなかったと思うが(私の提出パブコメは第407回参照)、これでインターネット上の海賊版対策に関する検討が大きな問題なく進められるとは行かないのではないかと私は危惧している。7月26日には、知財本部で検証・評価・企画委員会の第1回が開催され(議事次第・資料参照)、その場でブロッキング導入のための議論再開を求める意見が出されたとの報道もあった(時事通信のネット記事参照)。ダウンロード違法化の対象範囲拡大についてはまだ議題に上っていないようだが、8月9日には文化庁の文化審議会・著作権分科会・法制・基本問題小委員会の第1回も開催されている(議事次第・資料参照)。ブロッキングやアクセス警告についてもそうだが、国会提出が見送られた著作権法改正案(その内容については第406回参照)も巻き込んで、知財本部、文化庁、総務省など各官庁、与党・国会議員への権利者側のロビー活動が止む事はないだろうし、以前と同様ごり押しで秘密裏にロクでもない検討が進められる可能性はなお高く、これからも危ない状況が続くと私は見ている。

 サイトブロッキングにしても、アクセス警告方式にしても、総務省の報告書の最後(第34~35ページ)に参考として、

 サイトブロッキングに関しては、本検討会会合における構成員等からの意見として、例えば、「意見意見募集の結果を見ると、通信の秘密の侵害に対して強い懸募集の結果を見ると、通信の秘密の侵害に対して強い懸念が持たれているということを非常に強く感じる。ブロッキングを可能にする法律を作るにせよ、アクセス警告方式を可能にする包括同意の整理をするにせよ、いずれにしても、簡単にできることではないという指摘が多かったので、これらの点を今後の海賊版サイト対策全体を考える上でもこれらの点を今後の海賊版サイト対策全体を考える上でも心掛ける心掛けるべきべき」、「意見募集において、海賊版対策パッケージ全体として、通信の秘密を侵害する形で進めるべきではないという意見がはっきりと出てきており、アクセス警告方式のみならず、ブロッキングについても反対の意見が多いことにの意見が多いことに留意すべき」といったコメントがあった。

と書かれているコメントの通りであって、これらの様なユーザー・利用者の基本的な権利を侵害するものとならざるを得ない非道なネット検閲の検討より先になすべき事が山の様にあると思うが、今までの日本の政策動向を見るにつけ、政府・与党がその様な地道な取り組みのみを進めようとしないのは本当に残念でならない。

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