第410回:主要政党の2019年参院選公約案比較(知財政策・情報・表現規制関連)
明日7月4日公示、7月21日投開票の予定で参議院選挙が行われる。主要政党の公約案が以下の通り出揃っているので、例によってその内容は非常に薄いが、念のため、ここで知財政策・情報・表現規制関連の項目を抜き出しておく。
- 自民党・政策パンフレット(pdf)、総合政策集(pdf)
- 公明党・マニフェスト(pdf)
- 日本維新の会・マニフェスト概要版(pdf)、詳細版(pdf)
- 立憲民主党・ビジョン(pdf)
- 国民民主党・新しい答え(pdf)
- 社民党・政策(pdf)
- 日本共産党・公約
<自民党>
○23 「イノベーション・エコシステム」の早期確立
資源大国でもなければ人口大国でもないわが国は、イノベーションを通じて付加価値を創造し続けるエコシステム(生態系)を構築する必要があります。知的資産がイノベーションの源泉であることから、知財立国を基盤としつつも、21世紀型のイノベーションに対応するため、価値をデザインするという認識と発想が必要です。これらを踏まえながら、イノベーションが自律的かつ持続的に生まれ続けていくような環境(いわば生態系)としてのイノベーション・エコシステムの確立と価値デザイン社会の実現を目指します。
イノベーション・エコシステムの構築には、多様なシーズが次々と生まれ、それをニーズとつなげてマネタイズ(収益化)すること、さらに世界のルール作りを通じて市場を席巻することと、ニーズの変化に対応し機敏かつ柔軟に対応することが重要です。このため、産業界や大学が、危機意識、チャレンジ、デザイン、オープンイノベーションなどの観点から、意識改革と行動変革を起こすことに加え、イノベーション創出のためのプラットフォーム・場づくりや人材の育成などの取組みが必要です。「知的財産推進計画2019」に基づき、尖った才能を持つ人材の育成などの個々の主体の強化とチャレンジを促す取組み、個性・アイデアが出会う場としてのプラットフォームの整備などの個性の融合を通じた新結合を加速する取組み、価値の実現に必要な共感が生まれやすい環境の整備などを進めます。
知財の創造・保護・活用を国家戦略としてサポートするため、まずは、研究開発の成果物が知的財産権として国内外で迅速かつ安定的に保護されるよう、特許庁の審査体制をさらに整備・強化し、IoT等の新技術や急増する外国語文献への対応、地域の中小企業等を対象とする出張面接審査・テレヒ゛面接審査等の充実を図りつつ、「審査の迅速化・高度化」を進め、別の国においても早期に審査が受けられる環境整備も併せて進めます。
また、不正競争防止法におけるデータの不正取得の禁止等を踏まえ、法の適切な運用環境を整備するため、ガイドラインの内容や不正競争防止法に関する普及・啓発などの必要な措置を講じます。
さらに、中小・ベンチャー企業のための知財活用の促進や、地理的表示(GI)や優れた植物品種の登録などの知財活用を通じた「攻めの農林水産業」を進めるとともに、大学等の研究機関が専門的知識と経験を有する知財人材を十分に確保できる支援体制を整備します。
併せて、イノベーションの中核となる人材を育てるために、企業や大学の経営をデザイン(構想)することのできる人材の育成や、初等中等教育から創造性を育むための知財創造教育の充実に努めます。
コンテンツ分野においては、デジタルデータの流通が社会を飛躍的に変化させつつあることを踏まえ、デジタルアーカイブジャパンの構築を推進します。関係省庁の司令塔としてCITF(コンテンツ・インテグレーション・タスクフォース(仮称))を新たに設置し、官民の取組みを統合的に推進します。これにより様々なジャンルのコンテンツを連携強化させ、プラットフォーム対応の倍増を図ります。
また、Society5.0社会の到来を見据え、ブロックチェーンなど、新たな技術を積極的に活用しながら、クリエイターに適切に対価が還元されるコンテンツの管理・流通の仕組み作りを進めます。
さらに、コンテンツとの連携による地域の魅力発信を推進することで、地域経済の活性化・地方創生を推進します。
加えて、eスポーツなど成長の兆しの見える新産業の振興、将来性が期待できる先端技術の開発、AI・ロボット・8Kパブリックビューイングなど先端技術の統合実装等、「コンテンツ×テクノロジープロジェクト(仮称)」を推進し、新たな分野での成長を創ります。
これらと併せ、知的財産推進計画2019に基づき、インターネット上の海賊版被害への総合的かつ実効的な対策など模倣品・海賊版対策を一層強化します。<立憲民主党>
○公正で透明な行政を実現するために、公文書管理法と情報公開法を強化します。○安倍政権が成立させた「特定秘密保護法」「共謀罪」「カジノ法」等を廃止します。
<社民党>
○公文書の隠ぺい・改ざん・廃棄を防止するため、公文書管理法を改正するとともに、情報公開を推進します。国民の「知る権利」や報道・取材の自由を侵害する「特定秘密保護法」を即時廃止します。<共産党>
○52 文化
(略)
著作者の権利を守り発展させます著作権は、表現の自由を守りながら、著作物の創造や実演に携わる人々を守る制度として文化の発展に役立ってきました。ところが、映画の著作物はすべて製作会社に権利が移転され、映画監督やスタッフに権利がありません。実演家もいったん固定された映像作品の二次利用への権利がありません。国際的には視聴覚的実演に関する北京条約(2012年)が締結され、日本も加入するなど、実演家の権利を認める流れや、映画監督の権利充実をはかろうという流れが強まっています。
――著作権法を改正し、映画監督やスタッフ、実演家の権利を確立します。
――私的録音録画補償金制度は、デジタル録音録画の普及にともない、一部の大企業が協力義務を放棄したことによって、事実上機能停止してしまいました。作家・実演家の利益をまもるために、私的複製に供される複製機器・機材を提供することによって利益を得ている事業者に応分の負担をもとめる、実効性のある補償制度の導入をめざします。
憲法を生かし、表現の自由を守ります
芸術は自由であってこそ発展します。憲法は「表現の自由」を保障していますが、第2次安倍内閣の発足以降、各地の美術館や図書館、公民館など公の施設で、創作物の発表を正当な理由なく拒否するなど、表現の自由への侵害が相次いでいます。
日本共産党は、「文化芸術基本法」や憲法の基本的人権の条項をまもり生かして、表現の自由を侵す動きに反対します。「児童ポルノ規制」を名目にしたマンガ・アニメなどへの法的規制の動きに反対します。
諸外国では、表現の自由を守るという配慮から、財政的な責任は国がもちつつ、専門家が中心となった独立した機関が助成を行っています。文化庁の助成は応募要綱などが行政の裁量で決められ、芸術団体の意見がそこに十分反映されていません。
――すべての助成を専門家による審査・採択にゆだねるよう改善します。
(略)○55 秘密保護法廃止
国民の目・耳・口をふさぎ、「海外で戦争する国」へと道を開く希代の悪法――秘密保護法の廃止を求めます
(略)
自民党の総合政策集の中に総合的な海賊版対策について記載されている事に注意しておいてもいいかも知れないが、この記載は知財計画2019の記載をなぞっただけでほとんど何も書いていないに等しく、どの政党も今まで通りで実質的な記載に乏しい。
この様に、残念ながら、知財政策が主要な争点となる事はやはりないが、今回、私が特に注目しているのは、山田太郎前参議院議員(HP、twitter、Wiki)が自民党公認で立候補予定という事である。自民党の今までの政策には私は全く賛同できないが、表現の自由を守るという観点で山田太郎氏個人の活躍と政策は世に知られている所であり、氏に再び国会議員になってもらいたいと思っている。
(2019年7月4日夜の追記:内容に特に違いはないが、公示日後の正式版の公約集へのリンクをここに張っておく。
- 自民党・選挙公約(pdf)、総合政策集(pdf)
- 公明党・マニフェスト(pdf)
- 日本維新の会・マニフェスト概要版(pdf)、詳細版(pdf)
- 立憲民主党・ビジョン(pdf)
- 国民民主党・新しい答え(pdf)
- 社民党・選挙公約(pdf)
- 日本共産党・公約
)
(2019年7月23日夜の追記:山田太郎氏が参議院議員として当選した。氏には与党内での活躍を是非期待する。)
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